‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

梅毒

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):953〜956,2016梅毒OcularSyphilis岩橋千春*大黒伸行**I病因梅毒はスピロヘータの一種であるトレポネーマパリダム(Treponemapallidum:TP)による性感染症である.おもに性行為により感染する後天梅毒と,母体から胎児に感染する先天梅毒に分けられる.II疫学わが国では感染症法の5類感染症に分類されており,診断後7日以内に保健所の届け出る必要がある全数報告対象疾患である.1800年代は世界中に広く分布していたが,1943年にMahoneyらがペニシリンによる治療に成功して以来,梅毒患者は激減した.しかしながら,2010年以降,わが国の患者数は増加傾向に転じており,東京都と大阪府,そしてその周辺の地域からの報告がとくに多い.2013年度の梅毒患者数は1,228人,2014年度は1,671人,2015年度は2,698人,2016年1~3月で796人(昨年同時期の2.0倍)となっている.5歳ごとの年齢分布では,男性では40~44歳に多く(男性報告全体の16%),女性は20~24歳(女性報告全体の31%)に多い.また,最近の傾向として,HIVウイルスとの重複感染者が多いことがあげられる.アメリカでは梅毒感染者のうち20~70%がHIVにも感染しているとの報告がある1).III症状1.全身所見感染後,約3週間の潜伏期間をおいて発症し,典型例では以下のような臨床経過をとる.a.第1期病原体の侵入部位に初期硬結を生じる.やがてこの硬結の中心が自潰し無痛性の硬性下疳となり,さらに鼠径部のリンパ節腫張が出現する.感染後約3週間前後でTPに対するIgM抗体,ついでIgG抗体が産生されるため,これらの第1期病変は通常発症後2~3週間で自然消退し,いったん無症状となる.b.第2期感染後,約3カ月以降になって,TPが血行性に全身に播種されると,皮膚や粘膜の発疹が出現し,さらに臓器梅毒の症状を呈する.全身の淡紅色斑(バラ疹)や暗赤色丘疹,手掌や足底の鱗屑を伴う紅斑(梅毒性乾癬),扁平コンジローマ,脱毛,髄膜炎,発熱などをきたす.後述する眼病変も第2期以降にみられる.皮膚や粘膜病変は無治療でも数週間~数カ月で自然消退して潜伏梅毒に移行するが,感染後1年頃までは再燃する場合もある.c.第3期感染後3年以上を経過してゴム腫(深在性の肉芽腫病変)や結節性梅毒疹を生じる.d.第4期感染後10年以上を経過して,大動脈炎,大動脈瘤,脊髄癆などの心血管梅毒,神経梅毒を発症する.現在ではきわめてまれな病態である.2.眼所見眼病変は第2期,第3期梅毒として発症し,外眼部,内眼部ともに多彩,多所性の病変がみられる.2009年に行われたわが国のぶどう膜炎の全国調査では,梅毒性ぶどう膜炎は全ぶどう膜炎の0.4%を占めると報告されている2).a.前眼部通常,急性で両側性の虹彩毛様体炎が多い.典型例では肉芽腫性ぶどう膜炎を呈するが,非肉芽腫性のこともしばしばある.また,炎症の程度もさまざまで,軽症の虹彩炎から前房蓄膿,フィブリン析出を伴う強い虹彩炎を認めることもあり,ステロイド薬には反応しないことが多い.ステロイド抵抗性の虹彩炎では梅毒感染を鑑別に入れる必要がある.b.後眼部TPは血行性に眼内に侵入し,網膜,脈絡膜に病変をつくる.前眼部と同様,後眼部の所見もさまざまな形をとる.視神経乳頭周囲ないし後極部に網脈絡膜炎(図1~4)が起こる.網膜浮腫,乳頭浮腫,血管炎,硝子体混濁を伴い,時間とともに病巣は癒合拡大する.治癒期には萎縮巣となり,瘢痕化,色素沈着をきたす.ごま塩眼底(pepper-and-saltfundus)が典型的な所見である.また,視神経炎(図5,6)を伴い,盲点の拡大や中心および傍中心暗点などの視野障害を呈し,最終的には視神経萎縮の所見となることもある.黄斑病変としては,中心性漿液性脈絡網膜症のような漿液性剝離や,囊胞状黄斑浮腫がみられることがある.3.その他結膜炎,角膜実質炎,上強膜炎,強膜炎,涙腺炎,瞳孔異常(ArgyllRobertson瞳孔など),眼瞼下垂,眼振などを呈することもある.IV眼病変の鑑別診断梅毒による眼所見には特異な病像はなく,臨床所見のみから診断することはほぼ不可能である.他疾患では説明のつかない網脈絡膜萎縮や視神経炎,視神経萎縮,瞳孔異常,ステロイド抵抗性の虹彩炎をみたら,梅毒の関与を考えて,血清学的検査を奨める.梅毒が陽性であれば患者に説明のうえ,HIV検査も行うことが望ましい.鑑別を要する疾患としては,中心性漿液性脈絡網膜症,原田病,Behçet病,サルコイドーシス,トキソプラズマ,トキソカラ,結核,真菌感染などがあげられる.V血清学的診断梅毒血清反応を用いる方法が一般的であり,カルジオリピン抗原に対する抗体価を測定するガラス板法(serologictestforsyphilis;STS法)とTP特異抗原を用いるTreponemapallidumhemagglutination(TPHA)法の組み合わせで検査する.必要に応じて,fluorescenttreponemalantibody-absorption(FTA-ABS)法も行う.診断は次の4通りとなる.・STS(−)TPHA(−):非梅毒か極早期の梅毒である.FTA-ABSIgMが陽性であれば早期梅毒と診断する.STS,TPHAともに陽性になるのは感染後およそ4週間である.・STS(+)TPHA(+):梅毒である.両者とも高値の場合(STS法で16倍以上,TPHA法で1,280倍以上)には活動性梅毒で治療が必要である.・STS(−)TPHA(+):陳旧性梅毒あるいは十分治療された梅毒であり,治療は不要である.・STS(+)TPHA(−):生物学的偽陽性反応.妊娠,ウイルス感染,細菌性肺炎,マラリア,ライム病などのスピロヘータ感染症でみられる.VI治療全身加療を行う感染症内科と連携して,神経梅毒に準じた治療を行う.初期にはペニシリン大量療法として注射用ベンジルペニシリンカリウム2,400万単位/日を投与し,維持期にはベンジルペニシリンベンザチン120万単位(3g)の内服を行う.ペニシリンアレルギーの場合にはドキシサイクリン,ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系製剤,エリスロマイシンなどのマクロライド系薬剤を用いる.プレドニン内服併用については統一した見解はないが,炎症が強い場合には併用が望ましい.治療によりTPが破壊されて大量のサイトカインが放出されることにより,治療開始24時間以内にJarish-Herxheimer(ヤーリッシュ・ルクスハイマー)現象とよばれる症状が出現することがある.発熱,全身倦怠感,悪心・嘔吐,頭痛,筋肉痛,梅毒疹増悪,白血球増多などがみられるが安静により軽快するとされている.ペニシリンアレルギーとの鑑別が重要である.前眼部の炎症が強い症例では,全身への治療に加え,ステロイド点眼による消炎,散瞳薬による瞳孔管理を行う.VII予後発症早期から治療をした場合の視力予後はおおむね良好である.診断の遅れ,黄斑部の網脈絡膜病変が視力不良と関係しているとの報告3,4)があり,そのほかの感染症同様,病早期の的確な診断と十分な治療が重要である.また,髄液検査異常を合併する症例やHIVとの重複感染例が多く,感染症内科との連携が不可欠である.文献1)LeeSY,ChengV,RodgerDetal:Clinicalandlaboratorycharacteristicsofocularsyphilis:anewfaceintheeraofHIVco-infection.JOphthalmicInflammInfect5:26,20152)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20123)BollemeijerJG,WieringaWG,MissottenTOetal:Clinicalmanifestationsandoutcomeofsyphiliticuveitis.InvestOphthalmolVisSci57:404-411,20164)MoradiA,SalekS,DanielEetal:Clinicalfeaturesandincidenceratesofocularcomplicationsinpatientswithocularsyphilis.AmJOphthalmol159:334-343,2015図1症例(36歳,男性)数カ月前からの視力低下がある.びまん性の硝子体混濁を認める.矯正視力は0.1であった.図2図1の症例の蛍光眼底造影検査所見顆粒状の過蛍光,および網膜血管からの漏出がみられる.図3図1の症例の光干渉断層計写真Ellipsoidzoneの消失と網膜色素上皮の不整を認める.図4図1の症例の治療後の光干渉断層計写真Ellipsoidzoneの回復を認める.視力も0.8まで回復した.図5症例(33歳,男性)輪状の硬性白斑を認める.図6図5の症例の蛍光眼底造影検査所見視神経乳頭の過蛍光と黄斑周囲における蛍光色素漏出を認める.*ChiharuIwahashi:住友病院眼科**NobuyukiOhguro:JCHO大阪病院眼科〔別刷請求先〕岩橋千春:〒530-0005大阪市北区中之島5-3-20住友病院眼科0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(27)953954あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(28)(29)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016955956あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(30

IgG4関連眼疾患

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):947〜952,2016IgG4関連眼疾患IgG4-relatedOphthalmicDisease高比良雅之*IIgG4関連疾患という疾患概念のはじまりIgG4(immunoglobulinG4)関連疾患とは,血清IgG4の上昇を伴って全身のさまざまな臓器や器官に,腫瘤,腫大,肥厚性病変がみられる病態である.その疾患概念は21世紀に誕生した.すなわち2001年にHamanoらは,すでに疾患概念として存在していた自己免疫性膵炎の症例群において,血清IgG4が上昇していることを見いだした1).それから3年を経てYamamotoらは,Mikulicz病においても血清IgG4が上昇していることを報告した2).Mikulicz病とは涙腺と唾液腺の対称性腫脹をきたす病態であり,Mikuliczによる最初の報告は1892年に遡る.しかし,1953年にMorganとCastlemanがMikulicz病はSjögren症候群の一亜形に過ぎないと提唱して以降,少なくとも欧米においてはMikulicz病という疾患概念は一時消滅することになる.その後,両疾患の違いを明瞭に指摘したのは,涙腺病理におけるアポトーシスの差を報告した2000年のTsubotaらの研究である.そして,先述のように2004年にMikulicz病がIgG4関連であることが判明し2),その後のIgG4関連疾患の概念へと繋がった.IIIgG4と全身の諸病変ヒトIgGは4つのサブクラス(IgG1~IgG4)に分けられ,そのうちIgG4は正常ではもっとも量が少なく,総IgGの4%未満である.当初IgGサブクラスの測定は保険適用外であったが,2010年4月より血清IgG4測定が保険適用となった.IgG4はほかのサブクラスと異なり補体結合能を欠くとされる.IgG4関連疾患の病因は不明であるが,現時点では血清IgG4上昇や組織でのIgG4陽性細胞浸潤は,病態の結果であるとする考え方が主流である.IgG4関連疾患の病変は全身のさまざまな臓器や器官にわたる(図1,2).頭頚部においては,涙腺,唾液腺の腫脹をきたたすMikulicz病が代表的である.IgG4関連唾液腺炎の病理は涙腺のそれに類似し,その鑑別疾患としては,リンパ腫,サルコイドーシス,木村病などがあげられる.また近年では,IgG4関連鼻副鼻腔炎の報告も増加している.その他のIgG4関連疾患とされる頭頚部病変としては下垂体炎,硬膜炎,甲状腺炎などが報告されているが,これらでは概して病理検体が得にくく,今後の症例の蓄積が待たれる.体幹におけるIgG4関連疾患の罹患臓器としては,膵,肺,腎,大動脈などが代表的である.自己免疫性膵炎はIgG4関連疾患の代表的な病変であり,とくに膵癌との鑑別が重要である.IgG4関連呼吸器疾患(図2)の画像所見は多彩であり,他臓器に病変がない場合には肺生検が必要である.腎臓もIgG4関連疾患の主要な標的臓器であり,腎実質,腎盂,尿管の病変を総称してIgG4関連腎臓病とよばれる.IgG4関連の後腹膜線維症と称される病態のなかには大動脈周囲病変(図2)が含まれ,腹部から腸骨動脈領域や胸部大動脈弓部が好発部位とされる.IgG4関連疾患は全身のリンパ節を侵すことがあり,とくに重要な鑑別疾患はCastleman病である.IgG4関連皮膚病変では,丘疹,結節,腫瘤を形成することが多く,頭頚部領域に好発するとされる.III眼領域の病変:IgG4関連眼疾患眼領域におけるIgG4関連疾患の最初の報告は,先述のように2004年のYamamotoらによるIgG4関連Mikulicz病の報告2)であった.Mikulicz病では対称性に涙腺と唾液腺が腫大する(図3a,b).ただし,涙腺腫大が片側にのみ偏り,Mikulicz病とはいえないIgG4関連涙腺炎も存在する.IgG4関連涙腺炎の病理では,涙腺に濾胞構造を伴ったリンパ形質細胞浸潤がみられ,線維化を伴う場合もある(図3c).IgG4染色陽性形質細胞はおもに濾胞構造の周囲や涙腺の間隙にみられる(図3d).IgG4関連疾患の眼領域の病変は,しばしば涙腺以外にもみられる.Sogabeら3)はIgG4関連眼疾患65症例の画像を解析し,眼窩病変で頻度の高いものとして,涙腺病変(88%),三叉神経病変(39%),外眼筋腫脹(24%)をあげた.三叉神経腫大の検出にはMRIの冠状断像が有用で,眼窩下神経(三叉神経第2枝)あるいは眼窩上神経(三叉神経第1枝)の腫大がみられる(図4a).ただし,三叉神経の麻痺による知覚障害を伴うことはまれである.同様に頻度の高い眼窩病変には外眼筋腫大(図4b)があるが,眼球運動障害,複視,斜視の併発は概して少なく,この点で甲状腺眼症とは病態が異なる.頻度の高い涙腺,三叉神経,外眼筋の3病変については,2015年に公表されたIgG4関連眼疾患の診断基準(後述)にも明記された(表1).より頻度は低いが,眼窩の静脈周囲(図4c)や視神経周囲(図4d)にも腫瘤がみられることがある.そのほかのまれな眼領域のIgG4染色陽性の病変として,強膜など眼球内に及ぶものや,涙道病変の症例報告が散見される.とくに視神経症周囲に病変がみられる場合には,視力・視野障害を呈する視神経症(IgG4関連視神経症)をきたす可能性がある(図5).目下,IgG4関連視神経症の頻度は不明であるが,Sogabeら3)はIgG4関連眼疾患65症例のうち6例に視神経症がみられたとし,また自験例でも,連続する41症例のIgG4関連眼疾患のうち4例に視神経症がみられた.これらから,IgG4関連眼疾患において視神経症をきたす頻度はおよそ1割程度ではないかと推察される.ここで特筆すべきは,IgG4関連視神経症が緑内障と誤診される可能性である.図5に提示した症例も長年にわたり緑内障として加療されていた.しかし,眼圧が10mmHg前後で安定していた経過や,視野欠損のパターン(図5d)からは,緑内障ではなく視神経症が疑われた.果たして血清IgG4は2,090mg/dlと著しく高く,MRIにて視神経周囲腫瘤に加えて,IgG4関連眼疾患の3主徴がみられ(図5a,b),涙腺生検によりIgG4関連涙腺炎と病理診断された(図5c).また,全身にも多発病変がみられ(図2),IgG4関連疾患としてプレドニゾロン内服漸減療法(表2参照)が開始された.ステロイド内服治療により視機能はある程度改善したが,視力低下や視野障害は残存した.ステロイド全身投与による視力・視野の改善には病悩期間も関与すると思われ,やはり速やかなステロイド治療の導入が望まれる.IgG4関連視神経症ではしばしば高眼圧をきたすので,その初期には緑内障として管理される可能性も高く,注意が必要である.IVIgG4関連眼疾患の病理診断と鑑別診断IgG関連疾患の発見から10年を経て,その診断基準に関する2つの論文が報告された.一つは日本から報告された「IgG4関連疾患の包括的診断基準」であり,すなわち,すべての臓器におけるIgG関連疾患を包括的に診断する基準である4).そこでは浸潤細胞の少ない膵などの臓器の基準をも広く満たすように,病理診断におけるIgG4陽性細胞数は強拡大視野内10個以上と甘く設定されている.もう一つの論文は2012年に公表されたConsensusStatementonthePathologyofIgG4-RD5)である.そこでは臓器ごとの陽性細胞数が設定され,眼窩病変のIgG4陽性細胞数の基準は強拡大視野内100個以上とされた.しかし,実際の症例に照らし合わせるとその条件は厳しく,新たにわが国から2015年に公表されたIgG4関連眼疾患の診断基準6)ではIgG4陽性細胞数は強拡大視野内50個以上とする基準が採用されている.IgG4関連眼疾患において鑑別すべきもっとも重要な疾患はリンパ腫,なかでもMALT(mucosa-associatedlymphoidtissue)リンパ腫である.眼窩MALTリンパ腫の症例では通常,血清IgG4値は低く,病理でもIgG4染色は陰性であることが多い.しかし,眼領域ではときにIgG4関連疾患を背景にMALTリンパ腫が発症することが知られているので,両者の鑑別は重要である.したがって,病理検査の際には同時にIgH遺伝子再構成やフローサイトメトリーの補助診断を行うべきである.2013年の日本の18施設における多施設調査7)によると,病理診断された眼窩リンパ増殖性疾患1,014症例の内訳は,MALTリンパ腫404症例(39.8%),その他のリンパ腫156症例(15.4%),IgG4に関連のない眼窩炎症191症例(18.8%),IgG4関連眼疾患が219症例(21.6%),IgG4染色陽性MALTリンパ腫44症例(4.3%)であった(図6).つまりIgG4染色陽性となる病変は眼窩リンパ増殖性疾患のおよそ4分の1を占めた.同調査によればIgG4関連眼疾患の発症数に性差はなく,年齢の中央値は62歳で,また20歳未満の症例はなかった(図7).ちなみに,眼領域以外の肺,膵,腎,大動脈などのIgG4関連疾患病変は,男性に有意に多いことが知られている.VIgG4関連眼疾患の治療IgG4関連眼疾患の治療に際して,もっとも重要な事項はリンパ腫との鑑別である.先述のようにリンパ腫がIgG4関連眼疾患に併発することがあり,ひとたびリンパ腫と診断されれば,IgG4関連疾患の治療とは異なり,放射線照射や化学療法を主体とした治療となる.IgG4関連疾患の治療の基本はステロイドの全身投与であり,正木らのプロトコル(表2)8)に準じて,プレドニゾロン内服の漸減療法を行う.眼領域の病変において,この標準的なプロトコルで問題となるのは,軽症例と重症例である.症状が眼瞼腫脹(涙腺腫大)に限られ血清IgG4値も低めといった軽症例においては,ステロイド内服の投与期間の短縮,または涙腺切除といった眼窩局所の治療も考慮されるべきであろう.一方で重症例とは視神経症による視力や視野の障害をきたような症例であり,ステロイド大量点滴療法の適応ともなる.IgG4関連視神経症のステロイド治療に対する反応は概して良好であるが,当然ながら重症度や病悩期間によっては改善にも限界があるので,早期の治療導入が望ましい.また,ステロイド治療によっても再燃を繰り返すような症例では,アザチオプリンなどの免疫抑制薬や抗CD20抗体療法(リツキシマブ)の有効性も報告されている.ただし,目下,日本ではリツキシマブのIgG4関連疾患への保険適用はなく,重症例に対する治療の選択肢の一つとしての適用の拡大が望まれる.文献1)HamanoH,KawaS,HoriuchiAetal:HighserumIgG4concentrationsinpatientswithsclerosingpancreatitis.NEnglJMed344:732-738,20012)YamamotoM,OharaM,SuzukiCetal:ElevatedIgG4concentrationsinserumofpatientswithMikulicz’sdisease.ScandJRheumatol33:432-433,20043)SogabeY,OhshimaK,AzumiAetal:LocationandfrequencyoflesionsinpatientswithIgG4-relatedophthalmicdiseases.GraefesArchClinExpOphthalmol252:531-538,20144)UmeharaH,OkazakiK,MasakiYetal:ComprehensivediagnosticcriteriaforIgG4-relateddisease(IgG4-RD),2011.ModRheumatol22:21-30,20125)DeshpandeV,ZenY,ChanJKetal:ConsensusstatementonthepathologyofIgG4-relateddisease.ModPathol25:1181-1192,20126)GotoH,TakahiraM,AzumiA;JapaneseStudyGroupforIgG4-RelatedOphthalmicDisease:DiagnosticcriteriaforIgG4-relatedophthalmicdisease.JpnJOphthalmol59:1-7,20157)JapanesestudygroupofIgG4-relatedophthalmicdisease:AprevalencestudyofIgG4-relatedophthalmicdiseaseinJapan.JpnJOphthalmol57:573-579,20138)MasakiY,KuroseN,UmeharaH:IgG4-relateddisease:anovellymphoproliferativedisorderdiscoveredandestablishedinJapaninthe21stcentury.JClinExpHematop51:13-20,2011涙腺炎(Mikulicz病)眼疾患鼻副鼻腔炎唾液腺炎(Mikulicz病)肝,胆道病変自己免疫性膵炎皮膚病変リンパ節病変図1IgG4関連疾患の代表的な病変肥厚性髄膜炎下垂体炎甲状腺炎呼吸器疾患大動脈炎腎臓病後腹膜線維症前立腺炎図2CTにて多発病変がみられたIgG4関連疾患の1症例視神経症(図5参照)で紹介された67歳,男性.血清IgG4は2,090mg/dlと著しく上昇し,涙腺,外眼筋,視神経周囲などの眼窩病変(a)に加えて,下垂体,肺(b),縦隔リンパ節,胃前庭部(c,),肝右葉(c,⇨),腹部大動脈(d),後腹膜に病変が多発していた.図3IgG4関連涙腺炎(Mikulicz病)66歳,男性(血清IgG4=575mg/dl).両側の涙腺腫大(a),唾液腺腫大(b)がみられた.涙腺生検による病理では,腺周囲にリンパ形質細胞浸潤がみられ(c),多くの形質細胞はIgG4染色陽性であった(d).表1IgG4関連眼疾患の診断基準(文献6を参照)1)画像検査で涙腺腫大,三叉神経腫大,外眼筋腫大のほか,さまざまな眼組織に腫瘤,腫大,肥厚性病変がみられる.2)病理組織学的に著明なリンパ球と形質細胞の浸潤がみられ,ときに線維化がみられる.しばしば胚中心がみられる.IgG4染色陽性の形質細胞がみられ,その基準はIgG4(+)/IgG(+)細胞比が40%以上,またはIgG4陽性細胞数が強拡大視野内に50個以上,を満たすものとする.3)血清学的に高IgG4血症を認める(>135mg/dl).診断上記の1),2),3)すべてを満たした場合を確定診断群(definite),1)と2)のみを満たした場合を準診断群(probable),1)と3)のみを満たした場合を疑診群(possible)とする.鑑別疾患Sjögren症候群,リンパ腫,サルコイドーシス,Wegener肉芽腫症,甲状腺眼症,特発性眼窩炎症,細菌・真菌感染による涙腺炎や眼窩蜂窩織炎注意MALTリンパ腫はIgG4陽性細胞を含むことがあり,慎重に鑑別する必要がある.図4IgG4関連眼疾患の諸病変a:54歳,男性にみられた両眼窩下神経腫大(⇨)と涙腺腫大.b:45歳,男性にみられた右外眼筋(内・下直筋)と涙腺腫大.c:54歳,男性にみられた両側上眼静脈周囲の腫瘤(⇨)と涙腺腫大.d:44歳,男性にみられた右視神経周囲の腫瘤.この症例では視神経症はなかった.図5IgG4関連視神経症(図2と同一症例)67歳,男性に両側の涙腺腫大(a),三叉神経腫大(b),外眼筋腫大(b),視神経周囲腫瘤(a,b)がみられ,涙腺生検によりIgG4関連涙腺炎と診断された(c).両視力低下,視野障害(d:右Humphrey視野24-2プログラム)がみられ,視神経症と診断された.IgG4陽性MALTリンパ腫44(4.3%)IgG4関連眼窩炎症219(21.6%)非IgG4眼窩炎症191(18.8%)MALTリンパ腫404(39.8%)156(15.4%)他のリンパ腫図6眼窩リンパ増殖性疾患1,014症例の内訳(文献7より改変引用)表2IgG4関連疾患に対する標準的なステロイド治療プロトコル(文献8を参照)初回投与プレドニゾロン内服0.6mg/kg/日分3漸減2週間ごとに10%ずつ維持量10mg/日,最低3カ月その後の維持投与量は主治医の判断多くの症例では5~10mg/日の維持量が必要図7IgG4関連眼疾患(219例)の年齢分布(文献7より改変引用)*MasayukiTakahira:金沢大学医薬保健学域医学類眼科学〔別刷請求先〕高比良雅之:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健学域医学類眼科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(21)947948あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(22)(23)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016949950あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(24)(25)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016951952あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(26)

再発性多発軟骨炎

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):941〜946,2016再発性多発軟骨炎RelapsingPolychondritis田中理恵*蕪城俊克*はじめに再発性多発軟骨炎(relapsingpolychondritis)は,全身の軟骨組織に特異的に,再発性の炎症をきたす比較的まれな難治性疾患である.1923年にJaksch-Wartenhorstがpolychondropathiaとして初めて報告し,1960年にPearsonが現在の名称を提唱した.眼症状を約半数に認め,強膜炎,上強膜炎,結膜炎,ぶどう膜炎が多く報告されている.強膜炎の統計では,関節リウマチや抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎などについで原因疾患として頻度が多い.合併する全身症状によっては生命予後不良であり,見逃してはならない疾患である.本稿では,再発性多発軟骨炎の概要,検査所見,診断,治療について述べる.I再発性多発軟骨炎の概要1.疫学欧米での頻度は,人口10万人に対し0.35とまれである.日本における患者数は400~500人と推定されている.さまざまな年齢で発症するが,発症年齢のピークは40~50代で,性差はないとの報告が多い1〜3).2.原因原因はいまのところ判明していないが,ほかの自己免疫疾患の合併が多いこと,全身性の軟骨組織に対する疾患であること,ステロイドが有効であることより,自己免疫性疾患と考えられている.患者の33%に軟骨中のTypeIIコラーゲンに対する抗体を認め,病勢と相関することが報告されている4).また,軟骨成分matrilin-1に対する免疫応答も認められ,これが自己抗原である可能性も考えられている5).3.臨床症状間欠的,進行性に軟骨の炎症をきたす.炎症は全身のすべての軟骨で起こりうる.過去の報告による臨床症状の出現頻度を示す(表1).a.耳介軟骨炎初発症状は耳介の疼痛,発赤が多い(図1).患者の80~90%にみられる1,2,6).さらには変形をきたし,カリフラワー様になることがある.耳介が崩壊すると外耳道閉塞をきたし,伝音声難聴となることがある.b.非びらん性の炎症性多発関節炎耳介軟骨炎についで多く,40~80%の患者にみられる1,2,6).一時的で自然軽快する,移動性,非破壊性の関節炎である.c.鼻軟骨炎鼻の痛みと圧痛を伴い発症する.鼻出血,鼻閉,鼻汁などを伴う.炎症の遷延・再発により変形をきたし,鞍鼻(あんび)を呈することがある.d.眼病変眼病変は50~65%の患者にみられ1~3,6,7),強膜炎(図2),上強膜炎,結膜炎,ぶどう膜炎が中心であるが(表2),視神経乳頭炎を伴い,重症化することもある.強膜炎の原因疾患としては,関節リウマチ,ANCA関連血管炎などについで多く,強膜炎患者の約2~4%を占める(表3)8~10).再発性多発軟骨炎に伴う強膜炎は,他の自己免疫疾患に伴う強膜炎と比較して,両眼性が多く,壊死性強膜炎を起こしやすく(23%),再発が多く,視力低下をきたしやすい,と報告されている7).e.喉頭・気道病変約50%の患者に気管・気管支軟骨への病変進行がみられる1,2,6).症状は,嗄声,失声,喘鳴,乾性咳嗽,息切れなどである.初期は炎症により気道粘膜が腫脹し,気道狭窄をきたす.その後,線維化により瘢痕化し,進行すると気道軟骨が破壊され,気道が虚脱する(図3).肺炎や気管支炎を繰り返す原因となる.これらの呼吸器合併症は死亡の原因となる2).このため,速やかに気道病変を診断することが重要である.f.前庭・蝸牛機能障害内耳軟骨や聴覚神経,前庭神経を栄養する血管に炎症が起こると,感音性難聴や耳鳴り,めまいをきたす.g.心血管障害心血管障害は気道病変につぐ死亡の原因である.進行性の弁輪の拡張により,大動脈弁閉鎖不全症や僧房弁閉鎖不全症などが起こる.冠動脈の炎症により,心外膜炎,ブロック,心筋梗塞などが起こることもある.h.皮膚病変特有の皮疹はなく,非特異的な皮膚症状を呈する.アフタ性潰瘍,紫斑,丘疹,結節,血栓性静脈炎などを認める.i.神経障害少数ではあるが,中枢神経症状を認めることがある.頭痛,けいれん,脳梗塞,脳出血,脳炎,髄膜炎などが起こる.j.腎臓病変まれだが,生命予後不良な病変である.腎生検でメサンギウム細胞の増殖を認めることが多い.k.全身症状全身倦怠感,発熱,体重減少などの全身症状が発症時や再燃時にみられる.l.関連疾患再発性多発軟骨炎患者の約1/3に他の自己免疫疾患を合併する.全身性血管炎の合併がもっとも多い(13%).II検査所見1.血液検査所見特異的な所見に乏しいが,炎症状態に応じて血沈亢進,CRP上昇がみられる.正球性正色素性貧血を呈することもある.33%が抗TypeIIコラーゲン抗体陽性4),22~66%が抗核抗体陽性,約16%がリウマチ因子陽性,24%でANCA陽性である11).2.画像所見生命予後に直結する気道病変,心血管病変の評価に,画像検査は重要である.胸部CTでは,気管,気管支内腔の狭窄と気道壁の肥厚,ときに気道壁の石灰化(図4)を認める.また,ダイナミックCTによる気管気管支軟化症の所見(呼気時の気道狭窄を認める)が重要である.気管支鏡では狭窄,浮腫,発赤などの所見がみられる.気管支内エコーも有用である.呼吸機能検査は,下気道病変が進行すると異常となり,スクリーニング検査として行う.心血管病変の鑑別のため,定期的に心エコー検査を行う.骨シンチグラフィーでは,炎症軟骨に99mTc-MDPが取り込まれるのが確認できる.3.病理組織学的検査軟骨内に炎症細胞が浸潤し(図5),軟骨細胞は減少し,軟骨は次第に破壊され,基質のグリコサミノグリカンが変性し,弾性線維,膠原線維も変性・断裂する.最終的に破壊された軟骨基質は線維結合組織に置換される.石灰化が観察されることもある.III診断再発性多発軟骨炎に特異的な検査所見はない.臨床所見,補助的な血液検査,画像検査,軟骨病変の生検結果をもとに総合的に診断する.診断基準としては,McAdamらの診断基準(表4)1),Damianiらの診断基準(表5)12)などがある.どちらも臨床所見の有無を中心としたものであるため,生検により軟骨炎を確認することが診断上重要である.IV鑑別疾患眼科的に鑑別が必要な疾患を述べる.強膜炎の鑑別疾患としては,関節リウマチ,Wegener肉芽腫症(granulomatosiswithpolyangitis)などのANCA関連血管炎,Cogan症候群,その他の自己免疫疾患があげられる.なかでも,Wegener肉芽腫症は鼻軟骨炎や鞍鼻をきたすことがあり,鑑別が必要である.MPO-ANCAやPR3-ANCAなどの自己抗体の有無が鑑別のポイントとなるが,再発性多発軟骨炎にもANCA陽性例が存在し,また血管炎の合併例もあるので注意が必要である.Cogan症候群はまれな疾患ではあるが,炎症性眼症状と前庭蝸牛障害を伴い,この点で再発性多発軟骨炎と鑑別が必要である.膠原病内科医,耳鼻科医と連携をとって診断を行うことが重要である.V治療1.内科的治療膠原病内科医と連携して治療にあたる.a.軽症例炎症が軽度で,耳介軟骨,鼻軟骨に限局している場合,関節炎のみの場合は,非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalanti-inflamatorydrugs:NSAIDs)が使われる.効果不十分であれば,少量の経口ステロイドを追加する.b.中等症例炎症が強く,臓器障害がみられる場合や,血管炎合併例では,経口ステロイドを用いる.プレドニゾロン30~60mg/日を初期量として,以後漸減する.減量のスピードが速いと再燃を起こす場合があり,注意が必要である.c.重症例炎症が強く,気道閉塞や重篤な機能障害,生命予後にかかわる場合は,ステロイドパルス療法を行う.d.ステロイド抵抗例ステロイド減量で炎症が再燃する場合やステロイド単剤で効果が不十分な場合には,免疫抑制薬の併用が行われる.また,ステロイド単剤では呼吸器症状の進行は阻止できないため,呼吸器症状がある場合は,早期より免疫抑制薬の使用を検討する6).免疫抑制薬としては,メソトレキセート(リウマトレックス®),シクロスポリン(ネオーラル®),シクロホスファミド(エンドキサン®)などが使われる.近年では,生物学的製剤(TNF阻害薬であるインフリキシマブやアダリムマブ,IL-1受容体拮抗薬であるアナキンラ,T細胞活性化阻害薬であるアバタセプトなど)が有効であったとの報告が増えているが,現在のところ日本では保険適用外である.2.眼局所治療強膜炎に対し,リンデロン点眼を中心とした治療を行う.ステロイドレスポンダーに注意する.前述の内科的治療と並行して行う.3.合併症に対する治療急性の気道閉塞時には緊急気管切開を要する場合がある.気道狭窄や虚脱に際してはステント留置や気管形成術が行われる.心血管病変に対して外科的治療が必要になる場合がある.心臓弁置換術や動脈瘤に対してステントや人工血管形成術が行われる.おわりに再発性多発軟骨炎はまれな疾患であるが,強膜炎,上強膜炎の鑑別疾患の一つとして忘れてはならない.眼科医の立場からも耳介軟骨炎や鼻軟骨炎,関節炎,呼吸器症状,難聴・めまい・耳鳴りなどの問診が重要である.気道病変や心血管病変は生命予後にかかわるため,再発性多発軟骨炎を疑う場合は,速やかに膠原病内科や耳鼻咽喉科にコンサルトが必要である.文献1)McAdamLP,O’HanlanMA,BluestoneRetal:Relapsingpolychondritis:prospectivestudyof23patientsandareviewoftheliterature.Medicine(Baltimore)55:193-215,19762)MichetCJJr,McKennaCH,LuthraHSetal:Relapsingpolychondritis.Survivalandpredictiveroleofearlydiseasemanifestations.AnnInternMed104:74-78,19863)IsaakBL,LiesegangTJ,MichetCJJr:Ocularandsystemicfindingsinrelapsingpolychondritis.Ophthalmology93:681-689,19864)FoidartJM,AbeS,MartinGRetal:AntibodiestotypeIIcollageninrelapsingpolychondritis.NEnglJMed299:1203-1207,19785)HanssonAS,HeinegardD,PietteJCetal:Theoccurrenceofautoantibodiestomatrilin1reflectsatissuespecificresponsetocartilageoftherespiratorytractinpatientswithrelapsingpolychondritis.ArthritisRheum44:2402-2412,20016)OkaH,YamanoY,ShimizuJetal:Alarge-scalesurveyofpatientswithrelapsingpolychondritisinJapan.InflammationandRegeneration34:149-156,20147)Sainz-de-la-MazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:Scleritisassociatedwithrelapsingpolychondritis.BrJOphthalmol,2016〔Epubaheadofprint〕8)SainzdelaMazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:Clinicalcharacteristicsofalargecohortofpatientswithscleritisandepiscleritis.Ophthalmology119:43-50,20129)WieringaWG,WieringaJE,tenDam-vanLoonNHetal:Visualoutcome,treatmentresults,andprognosticfactorsinpatientswithscleritis.Ophthalmology120:379-386,201310)KeinoH,WatanabeT,TakiWetal:ClinicalfeaturesandvisualoutcomesofJapanesepatientswithscleritis.BrJOphthalmol11:1459-1463,201011)PapoT,PietteJC,LeThiHuongDetal:Antineutrophilcytoplasmicantibodiesinpolychondritis.AnnRheumDis52:384-385,199312)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis-reportoftencases.Laryngoscope89:929-946,1979表1臨床所見の頻度McAdamLP,1976年1)(n=159)MichetCJ,1986年2)(n=112)OkaH,2014年6)(n=239)初期(%)全経過(%)初期(%)全経過(%)初期(%)全経過(%)耳介軟骨炎2688.639855778関節炎2381.136526.239鼻軟骨炎1372.424542.139眼病変1465.419519.246喉頭・気道病変1455.926481750蝸牛障害645.99303.827前庭障害413心血管障害─23.906─7.1皮膚病変─16.5728─13神経系────2.99.6腎障害─────6.7図1右耳介に生じた耳介軟骨炎耳介上部から中部にかけて発赤と腫脹を認める.図2再発性多発軟骨炎によるびまん性強膜炎強膜充血を全周性に認める.表2眼症状の頻度IsaakBL,1986年3)(n=112)OkaH,2014年6)(n=239)初期(%)全経過(%)全経過(%)強膜炎5.412.526上強膜炎13.434.8結膜炎─14.315ぶどう膜炎0.98.011視神経炎0.94.5─表3強膜炎の原因疾患Sainz-de-la-MazaM,2012年8)(n=500)WieringaWG,2013年9)(n=104)KeinoH,2010年10)(n=83)1位関節リウマチ(6.4%)関節リウマチ(13.5%)関節リウマチ(9.6%)2位HLA-B27関連ぶどう膜炎(4.8%)Wegener肉芽腫症(6.7%)再発性多発軟骨炎自己免疫性甲状腺炎(3.6%)3位Wegener肉芽腫症(2.8%)炎症性腸疾患(2.9%)強直性脊椎炎SLEWegener肉芽腫症ANCA関連血管炎(1.2%)4位再発性多発軟骨炎炎症性腸疾患に伴う関節炎(2.2%)再発性多発軟骨炎Behçet病(1.9%)図3再発性多発軟骨炎患者の胸部CT像(呼気時)左主気管支がピンホール状に狭窄している(→).図4再発性多発軟骨炎患者の胸部CT像気管壁に石灰化を認める().表4McAdamらの診断基準(1976年)1)1.両側性耳介軟骨炎2.非びらん性,血清陰性,炎症性多関節炎3.鼻軟骨炎4.眼炎症5.気道軟骨炎6.蝸牛あるいは前庭機能障害6項目のうち3項目以上が陽性.図5病理組織像(気管軟骨)軟骨周囲の炎症細胞浸潤と周囲の結合組織の増生を認める.図4再発性多発軟骨炎患者の胸部CT像気管壁に石灰化を認める().表4McAdamらの診断基準(1976年)1)1.両側性耳介軟骨炎2.非びらん性,血清陰性,炎症性多関節炎3.鼻軟骨炎4.眼炎症5.気道軟骨炎6.蝸牛あるいは前庭機能障害6項目のうち3項目以上が陽性.表5Damianiらの診断基準(1979年)12)1.McAdamらの診断基準で3項目以上が陽性2.McAdamらの診断基準で1項目以上が陽性で,確定的な病理組織所見3.軟骨炎が解剖学的に離れた2カ所以上で認められ,ステロイド/ダブソン治療に反応して改善する場合*RieTanaka&*ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕田中理恵:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(15)941942あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(16)(17)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016943944あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(18)(19)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016945946あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(20)

関節リウマチ

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):933〜940,2016関節リウマチRheumatoidArthritis中尾久美子*I関節リウマチの概要関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は関節炎を主徴とする慢性炎症性疾患であり,肺など多臓器にも病変が波及しうる全身性疾患である.日本におけるRA患者数はおよそ70万人で有病率は0.6〜1.0%,男女比は1:3〜5,好発年齢は40〜60歳1)である.免疫機能亢進を基盤とする慢性炎症性自己免疫疾患であるが,明確な病因は不明である.遺伝的要因と環境的要因が発症に関与していると考えられている.典型的には手の指や足の指などの小さい関節に左右対称性に関節炎が生じ,関節痛や関節腫脹を訴える.膝などの大きな関節が侵されることも少なくない.朝のこわばりも特徴的である.関節炎が遷延すると関節破壊と軟骨破壊が生じ,最終的には関節変形に至る.関節症状以外にも,血管炎に由来する多彩な症状がでることもある.既存のRAに血管炎をはじめとする関節外症状を認め,難治性もしくは重篤な臨床病態を伴う場合,悪性関節リウマチと定義される.II関節リウマチの診断1.診断基準これまで診断に用いられていた1987年改訂の米国リウマチ学会(AmericanCollegeofRheumatology:ACR)のRA分類基準は特異性が高いが,骨破壊が出現する以前の早期RAの診断は困難で,感度は50%以下であった.そこで早期RAを的確に診断し,可能な限りRAにおける骨破壊を抑制することを目的として2010年にACRおよび欧州リウマチ学会(EuropeanLeagueAgainstRheumatism:EULAR)が合同で新しい分類基準を発表した(表1)2).この基準では,少なくとも1つ以上の関節で腫れを伴う炎症(滑膜炎)がみられ,その原因としてRA以外の病気が認められない場合に,①症状がある関節の数,②リウマトイド因子または抗シトルリン化ペプチド抗体,③CRPまたは赤沈,④症状が続いている期間の4項目についてのそれぞれの点数を合計し,6点以上であればRAと診断する.ただし,RA以外の病気でも合計6点以上になることがあるため,点数をつける前に除外診断を確実に行うことが重要である.2.血清学的検査a.リウマトイド因子(rheumatoidfactor:RF)RFはIgGのFc部分に対するIgMクラスの自己抗体である.RA患者の70~80%で陽性となり,RAの診断上重要な検査所見である.しかし,RA以外の膠原病,慢性肝疾患,慢性感染症などの疾患でも陽性となるため,診断的特異性は低い.健常人にも数%の陽性者があり,高齢者ほど陽性率は上昇する.また,RAの発症早期にはRF陽性率は50%にすぎず,RFの早期診断的意義は低い.RF陽性RAは,陰性RAに比べて関節炎がより高度で,関節破壊の進行が早いことが報告されており,RFはRAの長期的経過や予後を判断するうえで有用である.b.抗シトルリン化ペプチド(cycliccitrullinatedpeptide:CCP)抗体RAに特異的に検出される自己抗体である.RFと比較すると感度は同等かやや高く(60~80%),特異度は非常に高い(95%).RAの発症初期から検出される.RA発症前から検出されることも報告されている.抗CCP抗体はRAの関節破壊進行と相関するという報告が多く,RFとともに関節破壊進行の危険因子と考えられている.3.画像診断関節超音波検査,磁気共鳴画像(MRI)検査は早期診断および臨床経過の評価のうえで有用である.とくに造影MRIは滑膜炎・腱滑膜炎の検出感度に優れ,骨髄浮腫の所見と併せてRAの早期診断に有用である.関節超音波法は,ベッドサイドで簡単に関節の評価が可能で,炎症を起こしている滑膜の血流をドップラ法で評価することにより,関節滑膜の質的な評価ができる.III関節リウマチの治療治療の中心となるのは薬物療法で,関節の機能を維持するためのリハビリテーション療法や,機能を回復させるための手術療法を,症状や病期の進行度にあわせて行う.薬物療法には非ステロイド系抗炎症薬,抗リウマチ薬,生物学的製剤,ステロイドがあり,この4種類の薬剤をどの時点でどのように投与するかについて,日本リウマチ学会は「関節リウマチ診療ガイドライン2014」で治療アルゴリズム(図1)を示している3).抗リウマチ薬のメトトレキサート(MTX)はアンカードラッグであり,患者がRAと診断された場合,MTXが禁忌でなければまずMTXを使うことが推奨されている.1.関節リウマチ診療ガイドライン2014日本リウマチ学会がGRADE(GradingofRecommendationsAssessment,DevelopmentandEvaluation)法を用いて作成し,2014年10月に発刊したガイドラインである3).本ガイドラインでは,治療目標を“臨床症状の改善のみならず,関節破壊の抑制を介して長期予後の改善,とくに身体機能障害の防止と生命予後の改善をめざす”としている.経済的な側面も含め総合的に患者とリウマチ専門医の協働的意思決定に基づく治療選択を行い,関節炎をできるだけ速やかに鎮静化させて寛解に導入し,寛解を長期間維持すること,合併病態を適切に管理すること,適切な外科的処置も検討すること,最新の医療情報の習得につとめることなどが治療方針として列挙されている.2.活動性の評価治療効果を判定するため,RAの疾患活動性を評価する方法としてDAS28(DiseaseActivityScore28),SDAI(simplifieddiseaseactivityindex),CDAI(ClinicalDiseaseActivityIndex)などが利用されている.それぞれ,四肢28関節の圧痛関節数,腫脹関節数,赤沈値やCRP,患者や医師の全般改善度(10cmスケールでの評価)により計算され,高活動性,中等度活動性,低活動性,寛解の4つに分類評価される.IV関節リウマチの眼病変RAの眼病変は27~39%の患者にみられ4,5),ドライアイ,角膜潰瘍,上強膜炎,強膜炎などが主な眼病変である.両眼性が多い.眼病変は罹病期間の長いRAや重症のRAに併発することが多く,重症になりやすい.また,抗CCP抗体と眼病変に有意な関連があることも報告されている5).頻度は少ないが,強膜炎や角膜潰瘍は難治で重大な視機能障害をきたす場合もあるので,リウマチ専門医と連携して治療する必要がある.白内障手術などの眼科手術を契機に強膜炎や角膜潰瘍が発症・再燃することがあるため,手術前後には免疫抑制治療を強化し,慎重な経過観察が必要である.1.ドライアイもっとも頻度の高いRAの眼病変で,RA患者の15~70%に起こる4~7).疑いまで含めると92%にドライアイがみられたという報告もある8).涙液減少による角結膜上皮障害により,眼精疲労,羞明,異物感,眼球乾燥,充血,眼痛など多彩な症状を訴える.これらの自覚症状に加え,Schirmer試験や涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)検査により涙液の異常がみられ,フルオレセイン染色やローズベンガル染色で角結膜上皮障害が確認されれば,ドライアイの診断確定となる.涙液分泌能の異常だけでなく,唾液腺または涙腺の病理検査,唾液分泌能の検査,自己抗体の検査のうち1項目以上で異常がみられ,続発性Sjögren症候群と診断される症例も10~24%ある8,9).治療:涙液を補給するため人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼液,ジクアホソルナトリウム点眼液,レバミピド点眼液を点眼する.また,重度例では抗炎症作用や炎症細胞の浸潤抑制を目的としたステロイド点眼も効果がある.点眼薬による効果が不十分な場合には涙点プラグを挿入や外科的涙点閉鎖を行う.2.角膜病変角膜病変として硬化性角膜炎,周辺部角膜潰瘍,傍中心部角膜潰瘍があり,RAの1~3%にみられる4~6).免疫複合体の角膜輪部や結膜への沈着によるIII型アレルギー反応により,組織破壊をきたすと考えられている.a.硬化性角膜炎強膜炎に引き続き,血管侵入を伴って角膜浸潤が角膜周辺部から中央部に向かって進行する炎症性角膜疾患である.強膜炎に隣接して角膜実質混濁・腫脹,角膜浸潤がみられ,浸潤は角膜輪部と平行に弧状を呈する.症状が進行し角膜浸潤が高度になった場合,角膜実質が融解し菲薄化に至ることもある10).治療:ステロイドの点眼および内服で治療する.進行の早い症例では免疫抑制薬の点眼,内服も考慮する.b.角膜潰瘍・周辺部角膜潰瘍:Mooren潰瘍に類似する.潰瘍は角膜輪部に沿って円弧状に,また角膜中央に向かって進展し,潰瘍の先端に角膜浸潤を認める.通常両眼性で,強膜炎,ドライアイを伴うことが多い.しばしば再発して角膜穿孔に至る(図2a~c).・傍中心部角膜潰瘍:角膜中央付近に潰瘍を生ずることがある.初期は自覚症状に乏しく疼痛も少ない.RAの重症例に多く,血管侵入や炎症所見がないにもかかわらず急速に角膜が菲薄化して穿孔に至る(図2d).治療:治療はステロイド点眼が主体であり,二次感染予防のため抗菌点眼薬を併用する.ドライアイを伴っていることが多いので,人工涙液点眼,涙点プラグの挿入も必要に応じて行う.重症例では免疫抑制薬や生物学的製剤(抗TNF-a抗体など)の全身投与が必要になることがある.また,抗原および浸潤細胞の除去を目的として,潰瘍に隣接する結膜を切除する治療法も有効である.角膜穿孔をきたした場合は,保存的治療として治療用ソフトコンタクトレンズの装用や眼圧下降薬の投与を行い,穿孔創が大きく保存的治療でも前房が保たれない場合は外科的治療として結膜被覆,羊膜被覆,層状角膜移植,全層角膜移植などを行う.3.上強膜炎・強膜炎上強膜炎はRAの0.2~3.7%に,強膜炎はRA患者の0.2~6.3%にみられる4~7,11).約半数が両眼性である11).角膜病変と同様,III型アレルギー反応が病態の基本で,免疫複合体が強膜血管に沈着し,補体系活性化により炎症細胞浸潤が誘導され,強膜血管炎が発生すると考えられている.a.上強膜炎結膜血管と浅在性上強膜毛細血管の充血がみられる状態で,強膜浮腫はなく,自覚症状としては軽度の異物感を訴える程度で強い眼痛はない.びまん性と可動性の結節性小隆起を伴う結節性とがある.治療:ステロイド点眼で治療する.b.強膜炎結膜や浅在性上強膜血管叢とともに深在性上強膜毛細血管叢が充血して強膜浮腫を生じ,強膜はサーモンピンクから紫がかった色調を呈する.通常,激しい眼痛を訴え,睡眠や食欲が妨げられることもある.角膜病変や軽度の虹彩炎を伴うことがあり,羞明や流涙を生じることもある.炎症の部位により前部強膜炎と後部強膜炎に分類され,前部強膜炎は炎症の形状により,びまん性,結節性,壊死性に分けられる.・びまん性強膜炎:強膜血管がびまん性に拡張して,やや暗赤色の強い充血を呈する(図3a).・結節性強膜炎:可動性のない,硬い結節がみられる強膜炎で,結節は輪部付近の強膜にみられることが多い(図3b).びまん性や結節性の前部ぶどう膜炎では,再燃を繰り返すとその部位の強膜が菲薄化して眼球内のぶどう膜炎が透見されるようになり,強膜が青黒くなることがあるが,強膜穿孔はほとんど起こさない.・壊死性強膜炎:壊死性強膜炎は,炎症を伴う壊死性強膜炎と伴わない強膜軟化症に分類される.炎症を伴う壊死性強膜炎では充血と疼痛を訴え,充血部位に囲まれた黄白色の強膜および結膜の虚血部位が認められる(図3c).強膜軟化症は充血や疼痛などの症状がないにもかかわらず,突然強膜に壊死病巣がみられるもので,初期には充血の少ない虚血性の黄白色結節形成がみられる.いずれも虚血部は強膜が菲薄化し,進行するとぶどう膜が黒く透見され,強膜穿孔を起こしやすい(図3d).治療が困難で視力予後不良となる場合が多い.・後部強膜炎:前部強膜炎を伴う場合が多い.眼の奥の痛みや眼球運動痛があり,超音波検査やCT,MRIで眼球後壁の肥厚や球後組織の浮腫がみられる.超音波検査ではTenon囊の浮腫を示すecho-lucentareaが視神経周囲でみられるとTサインとよばれる.強膜の炎症の波及により滲出性網膜剝離,乳頭腫脹,脈絡膜皺襞,網膜血管炎を合併することがあり,それらによる視力低下をきたすことがある(図4).治療:びまん性や結節性前部強膜炎ではまずステロイド点眼治療を行う.ステロイド点眼に反応しない場合は,トリアムシノロンアセトニドの結膜下注射を追加する.炎症部位に接して少量(0.05~0.1ml)結膜下注射し,効果不十分なら注射を追加する.眼圧上昇に注意する.ステロイド局所治療が効果不十分の場合,シクロスポリン点眼の併用も考慮する.局所治療に反応しない場合や,壊死性強膜炎や後部強膜炎ではステロイド全身投与を行う.通常,プレドニゾロン内服を0.5~1.0mg/kg/日から開始し,重症例ではステロイドパルス療法を行う.ステロイド減量で再発する場合やステロイド内服しても効果が不十分な場合は免疫抑制薬(シクロスポリンやメトトレキサート)の併用が必要となる.難治性強膜炎に対して抗TNF-a抗体や抗CD20抗体などの生物学的製剤の有効性が報告されており,免疫抑制薬治療に抵抗する難治症例では適応を検討する必要がある.薬物治療が奏効せずに強膜軟化が進行あるいは強膜穿孔した場合は,健常部も含めた軟化病巣切除と保存強膜や保存角膜による被覆術を行う.4.眼底病変眼底病変は稀であるが,網膜血管炎が0.5~4.4%にみられ,血管炎によると考えられる網膜綿花状白斑,網膜動脈閉塞症,網膜静脈閉塞症,虚血性視神経症などが報告されている7,12~16).また,検眼鏡的に所見がなくても,フルオレセイン蛍光眼底造影検査をすると18%に網膜血管炎がみられる17).RA患者の網膜静脈径は拡大しており,網膜血管径が拡大している症例では心疾患を合併する率が高いという報告や,RA患者の脈絡膜は健常人に比べて厚く,脈絡膜厚はRFと相関しているという報告があり,網膜静脈径や脈絡膜厚が全身的な血管炎の指標になる可能性が示唆されている18~20).5.抗TNFa抗体と眼病変抗TNFa抗体はRAの治療に用いられる薬剤であり,また強膜炎やぶどう膜炎の治療にも有用であることが報告されているが,抗TNFa抗体の一つであるエタネルセプトにより強膜炎やぶどう膜炎,眼筋炎を発症することが報告されている21,22).エタネルセプトで治療中のRAに強膜炎がみられた場合はエタネルセプトの副作用の可能性を考えて他の抗TNFa抗体に変更することを検討する必要がある.文献1)YamanakaH,SugiyamaN,InoueEetal:EstimatesoftheprevalenceofandcurrenttreatmentpracticesforrheumatoidarthritisinJapanusingreimbursementdatafromhealthinsurancesocietiesandtheIORRAcohort(I).ModRheumatol24:33-40,20142)AletahaD,NeogiT,SilmanAJetal:2010rheumatoidarthritisclassificationcriteria:anAmericanCollegeofRheumatology/EuropeanLeagueAgainstRheumatismcollaborativeinitiative.AnnRheumDis69:1580-1588,20103)日本リウマチ学会:関節リウマチ診療ガイドライン2014.メディカルレビュー社,東京,20144)ZlatanovićG,VeselinovićD,CekićSetal:Ocularmanifestationofrheumatoidarthritis-differentformsandfrequency.BosnJBasicMedSci10:323-327,20105)VigneshAP,SrinivasanR:Ocularmanifestationsofrheumatoidarthritisandtheircorrelationwithanti-cycliccitrullinatedpeptideantibodies.ClinOphthalmol9:393-397,20156)ArtifoniM,RothschildPR,BrézinAetal:Ocularinflammatorydiseasesassociatedwithrheumatoidarthritis.NatRevRheumatol10:108-116,20147)MatsuoT,KonoR,MatsuoNetal:Incidenceofocularcomplicationsinrheumatoidarthritisandtherelationofkeratoconjunctivitissiccawithitssystemicactivity.ScandJRheumatol26:113-116,19978)FujitaM,IgarashiT,KuraiTetal:Correlationbetweendryeyeandrheumatoidarthritisactivity.AmJOphthalmol140:808-813,20059)AnteroDC,ParraAG,MiyazakiFHetal:SecondarySjögren’ssyndromeanddiseaseactivityofrheumatoidarthriti.RevAssocMedBras57:319-322,201110)松本雄介:硬化性角膜炎.前眼部アトラス(大鹿哲郎編)眼科プラクティス18,p254,光文堂,200711)AkpekEK,ThorneJE,QaziFAetal:Evaluationofpatientswithscleritisforsystemicdisease.Ophtahlmology111:501-506,200412)MatsuoT,KoyamaT,MorimotoNetal:Retinalvasculitisasacomplicationofrheumatoidarthritis.Ophthalmologica201:196-200,199013)MartinMF,ScottDG,GilbertCetal:Retinalvasculitisinrheumatoidarthritis.BrMedJ(ClinResEd)282:1745-1746,198114)MatsuoT:Multipleocclusiveretinalarteritisinbotheyesofapatientwithrheumatoidarthritis.JpnJOphthalmol45:662-664,200115)PericS,CerovskiB,PericP:Anteriorischaemicopticneuropathyinpatientwithrheumatoidarthritis–casereport.CollAntropol25Suppl:67-70,200116)CromptonJL,IyerP,BeggMW:Vasculitisandischaemicopticneuropathyassociatedwithrheumatoidarthritis.AustJOphthalmol8:219-239,198017)GiordanoN,D’EttoreM,BiasiGetal:Retinalvasculitisinrheumatoidarthritis:anangiographicstudy.ClinExpRheumatol8:121-125,199018)VanDoornumS,StricklandG,KawasakiRetal:Retinalvascularcaliberisalteredinpatientswithrheumatoidarthritis:abiomarkerofdiseaseactivityandcardiovascularrisk?Rheumatology50:939-943,201119)MoiJH,HodgsonLA,WicksIPetal:Suppressionofinflammatorydiseaseactivityinrheumatoidarthritisisassociatedwithimprovementsinretinalmicrovascularhealth.Rheumatology(Oxford)55:248-251,201620)TetikogluM,TemizturkF,SagdikHMetal:Evaluationofthechoroid,fovea,andretinalnervefiberlayerinpatientswithrheumatoidarthritis.OculImmunolInflamm30:1-5,201521)TabanM,DuppsWJ,MandellBatal:Etanercept(enbrel)-associatedinflammatoryeyedisease:casereportandreviewoftheliterature.OculImmunolInflamm14:145-50,200622)Gaujoux-VialaC,GiampietroC,GaujouxTetal:Scleritis:aparadoxicaleffectofetanercept?Etanercept-associatedinflammatoryeyedisease.JRheumatol39:233-239,2012表12010ACR⊘EULAR関節リウマチ分類基準以下の2項目を満たす患者を対象とする1)少なくとも1カ所の活動性臨床的滑膜炎(関節腫脹)を有する2)上記の関節腫脹をよりよく説明できるRA以外の疾患が存在しないRA分類基準(A~Dのカテゴリーの合計点が10点中6点以上の場合にRA確実例と分類する)スコアA腫脹関節数1個の中~大関節02~10個の中~大関節11~3個の小関節24~10個の小関節311関節以上(少なくとも1個の小関節を含む)5B血清学的所見(リウマトイド因子または抗CCP抗体)RF,抗CCP抗体いずれも陰性0RF,抗CCP抗体いずれか低値陽性(≦基準値の3倍)2RF,抗CCP抗体いずれか高値陽性(>基準値の3倍)3C急性期反応(CRPまたはESR)CRPもESRも正常0CRP,ESRいずれかの上昇1D臨床症状の持続期間6週間未満06週間以上1ACR/EULAR:米国リウマチ学会/ヨーロッパリウマチ学会(文献2より改変引用)PhaseⅠPhaseⅡPhaseⅢ関節リウマチと診断短期間のみ少量のステロイドを追加してよいPhaseⅡへ進む治療目標を6カ月以内に達成継続±NoNoYesPhaseⅠが効果不十分または副作用で継続できず生物学的製剤を追加投与TNF阻害薬トシリズマブアバタセプト次の従来型抗リウマチ薬を選択する(1剤または複数)(ステロイドの併用可能)治療目標を6カ月以内に達成PhaseⅢへ進む継続予後不良因子ありRF/抗CCP抗体陽性高疾患活動性早期の関節破壊予後不良因子がないPhaseIIが効果不十分または副作用で継続できず生物学的製剤を変更する1st→2nd→3rd…治療目標を6カ月以内に達成治療目標を6カ月以内に達成トファシチニブ(±抗リウマチ薬)継続生物学的製剤+従来型抗リウマチ薬YesNoYesNo他の生物学的製剤+従来型抗リウマチ薬±YesYesNoMTXが禁忌ではないMTXが禁忌MTXを開始する効果不十分の場合は従来型抗リウマチ薬を併用する従来型抗リウマチ薬を開始する効果不十分の場合は他の従来型抗リウマチ薬を併用する他の生物学的製剤+従来型抗リウマチ薬図1関節リウマチ診療ガイドライン2014治療アルゴリズム(文献3より改変引用)図2関節リウマチの角膜潰瘍a:周辺部角膜潰瘍.b:強膜炎を伴う周辺部角膜潰瘍.充血が強い部分に接して角膜潰瘍と角膜浸潤がみられる.c:周辺部角膜潰瘍の穿孔.虹彩が嵌頓している.d:傍中心部角膜潰瘍.穿孔して虹彩が嵌頓している.図3関節リウマチの前部強膜炎a:びまん性前部強膜炎.b:結節性前部強膜炎.可動性のない隆起病変がみられる.c:壊死性強膜炎.10時方向輪部強膜に白色の虚血部がみられ,広い範囲に周辺部角膜潰瘍を伴っている.d:壊死性強膜炎後に強膜が菲薄化し,ぶどう膜が透けてみえる.図4関節リウマチの後部強膜炎a:前部強膜炎を伴っており,充血が球後へ続いている.b:上方に脈絡膜皺襞と滲出性網膜剝離がみられる.c:超音波検査で眼球後壁の肥厚がみられ,球後組織の浮腫がecho-lucentareaとして観察される.*KumikoNakao:鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系〔別刷請求先〕中尾久美子:〒890-8544鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(7)933934あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(8)(9)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016935936あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(10)(11)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016937938あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(12)(13)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016939940あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(14)

HLA-B27関連ぶどう膜炎と脊椎関節炎

2016年7月31日 日曜日

特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):929〜932,2016HLA-B27関連ぶどう膜炎と脊椎関節炎HLA-B27-associatedUveitisandSpondyloarthritis酒井勉*IHLA遺伝子群多様性と疾患との関連Humanleukocyteantigen(HLA)はT細胞受容体に対して抗原ペプチドを提示する分子であり,免疫疾患をはじめとして,多数の疾患の感受性に関連する.HLAB27は,急性前部ぶどう膜炎,強直性脊椎炎,反応性関節炎(Reiter症候群)との強い関連で知られている.1.HLA-B27関連ぶどう膜炎a.HLA-B27関連ぶどう膜炎とはHLA-B27関連ぶどう膜炎は一般的に急性の前眼部炎症が主体であるため,HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎(acuteanterioruveitis:AAU)と称される.全身疾患が関連する場合とそうでない場合があり,おもな全身疾患として強直性脊椎炎,反応性関節炎(Reiter症候群),潰瘍性大腸炎,乾癬がある.b.疫学・頻度発症率は,人種により異なる.欧米では前部ぶどう膜炎の18~32%が,アジアでは6~13%がHLA-B27関連AAUであると報告されている1).日本人ではHLAB27陽性者は少なく,中国・韓国人と比較してHLAB27関連AAUの発症率は低いと考えられている.c.男女比・発症年齢男性に多く,女性の1.5~2.5倍みられる.発症年齢は20~40歳に多い.d.症状HLA-B27関連AAUの臨床的特徴として,急性発症,片眼性,非肉芽腫性,フィブリン析出,前房蓄膿,高頻度の再発があげられる.全身疾患と関連することも多く,最初の徴候が眼症状の可能性もあり,内科医へのコンサルトも含め,慎重な経過観察を要する.眼合併症としてよくみられるのは,虹彩後癒着,高眼圧,後囊下白内障,続発緑内障であり,慢性前部ぶどう膜炎へ移行する場合もある.後眼部にびまん性硝子体炎や囊胞様黄斑浮腫(図1)がみられることがあり,重篤な視力障害をきたす場合もある1).e.診断・検査血液検査で,CRPや血沈の上昇がみられることが多い.リウマトイド因子や抗核抗体は陰性である.HLAB27の有無をみるためHLA遺伝子型の検査を行うが,保険収載はされていない.f.治療HLA-B27関連AAUの治療は,ステロイド薬と散瞳薬点眼の併用治療が中心である.難治性の場合や後眼部病変を併発した場合には,トリアムシノロンアセトニドの後部Tenon囊下注射(図2)やステロイド薬の全身投与が有効である.一方,欧米では,TNF(tumornecrosisfactor)阻害薬であるインフリキシマブ(レミケード®)やアダリムマブ(ヒュミラ®)が使用され.本疾患に対する治療効果が高いことが示されている1,2).とくに全身疾患と関連する場合には,眼外症状にも著効することから,メリットが大きいと考えられる.g.予後虹彩後癒着,炎症の再燃,慢性前部ぶどう膜炎への移行,ステロイド薬温存,ステロイド薬局所注射歴,男性は視力低下の危険因子である1,2).しかし,一般的には視力予後がよい.2.強直性脊椎炎a.強直性脊椎炎とは強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis)は,脊椎や仙腸関節,股関節や肩の関節などに炎症を起こす脊椎関節炎の代表的な疾患である.病因は明らかではないが,HLA-B27との関連性が指摘されている.b.疫学・頻度発症率は,人種により異なることが知られている.一般的に白人では0.5%,日本人ではその10分の1以下であると考えられている3).HLA-B27との関連性が指摘されているが,日本人ではHLA-B27陽性者は少なく,強直性脊椎炎も欧米に比べてまれである.一方で,中国人・韓国人には日本人と比較してHLA-B27陽性者が多く,発症率も高いことが知られている.c.男女比・発症年齢海外では90%以上の症例でHLA-B27が陽性であることが知られている.発症年齢は10~35歳に多く,45歳以上で発症することは比較的まれである.男性に多いが,女性にもみられる.d.症状本疾患では,腰痛や臀部の痛みが主症状であることが多いが,痛みは急でなく徐々に進行する.適度な運動をすると痛みが楽になり,動かさないでいると悪くなるのが特徴で,夜間や朝方に強い痛みが起こる.また,症状に波があるのも特徴で,激痛が数日続きその後は痛みがほとんどなくなることもある.また,腱が骨につく付着部に炎症が起こることがある.脊椎や関節以外では,急性前部ぶどう膜炎(図3)が約3分の1にみられる.全身的には,初期には体重減少,疲労感,発熱などがみられる.e.診断・検査強直性脊椎炎は改訂ニューヨーク診断基準を用いて診断する(表1).血液検査で,CRPや血沈の上昇がみられることが多い.リウマトイド因子や抗核抗体は陰性である.HLA-B27の有無をみるためHLA遺伝子型の検査を行うが,保険収載はされていない.画像検査として,脊椎や仙腸関節のX線の検査を行う.f.治療強直性脊椎炎の治療は,従来,薬物療法と運動・理学療法が中心であった.薬物療法は,痛みに対しては非ステロイド性抗炎症薬が,局所の炎症に対してはステロイド薬の局所注射薬が用いられる.一方,わが国では,2010年にTNF阻害薬であるインフリキシマブ(レミケード®)とアダリムマブ(ヒュミラ®)が強直性脊椎炎に対して保険適用となった.本疾患に対する治療効果は高く,ほとんどの症例で痛みの改善効果が認められた.筆者らの施設でも,TNF阻害療法施行ガイドライン(2010年10月改訂版,表2)4)に則り,急性前部ぶどう膜炎を併発した強直性脊椎炎に対してインフリキシマブを使用した経験があるが,強直性脊椎炎の痛みとぶどう膜炎に著効し,QOLの著しい向上を得ることができた.薬剤の副作用として,感染症には十分留意しなければいけないが,内科医との緊密な連携かつ定期的なモニタリングを継続することで,長期的に疾患活動性のコントロールが可能となると考えられている.g.予後数年以上かけて徐々に脊椎の強直が起こり,背骨の動きが制限される.3.反応性関節炎(Reiter症候群)a.反応性関節炎とは関節以外の部位の細菌感染症後に起こる関節炎.以前はReiter症候群とよばれていた.発症に関与する細菌として,クラミジア菌,サルモネラ菌,赤痢菌,エルシニア菌,カンピロバクターなどが知られている.b.疫学・頻度欧米白人での発症頻度は,人口10万人当たり年間4~6人と推定されている.しかし,わが国のHLA-B27陽性者は1%以下で,欧米白人の7~14%に比べてはるかに低いので,反応性関節炎の頻度も欧米と比べてはるかに少ないと考えられている.c.男女比・発症年齢発症年齢は20歳前後に圧倒的に多いが,小児から80歳まであらゆる年齢層に発症する.性差は5~6:1で圧倒的に男性に多い.d.症状脊椎関節炎,無菌性尿道炎,結膜炎の三主徴を特徴とする.・脊椎関節炎:関節炎は細菌感染後,2~4週後に発症する.関節炎は膝・足関節などの下肢の関節に多く認められ,単関節あるいは少関節炎にしか起こらない.仙腸関節炎では腰部から臀部にかけて軽度の痛みがみられる.腱付着部炎は足底腱膜起始部,アキレス腱付着部に好発し,強い痛みを伴う.・非淋菌性尿道炎:排尿時痛と粘性膿性分泌物を伴う.・結膜炎:結膜の発赤と充血がみられる.e.診断・検査確立した診断基準はなく,細菌感染2~4週後に発症する一過性の脊椎関節炎でHLA-B27陽性率が高いことから診断する.特異的な検査所見はなく,血清リウマトイド因子,抗核抗体は陰性である.HLA-B27は60~80%で陽性になる.活動性を反映して炎症反応(赤沈,CRP)は亢進する.f.治療多くが自然に軽快するが,通常は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を用いる.ただし症状が遷延化する例には,サラゾスルファピリジンやメトトレキサートなどの抗リウマチ薬を用いることがある.上記の治療で改善しない場合はTNF阻害薬が有効である.g.予後一過性で自然に治癒ずるが,約20%の症例では遷延化・慢性化する脊椎関節炎に移行することが報告されている3).文献1)ChangJH,McCluskeyPJ,WakefieldD:AcuteanterioruveitisandHLA-B27.SurveyofOphthalmology50:364-388,20052)LohAR,AcharyaNR:IncidenceratesandriskfactorsforocularcomplicationsandvisionlossinHLA-B27-associateduveitis.AmJOphthalmol150:534-542.e2,2013)BraunJ,SieperJ:Ankylosingspondylitis.Lancet369:1379-1390,2004)日本リウマチ学会ホームページ図1HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎に併発した黄斑浮腫光干渉断層計で囊胞様黄斑浮腫と漿液性網膜剝離がみられた.図2トリアムシノロンアセトニドTenon囊下注射前後の光干渉断層計所見トリアムシノロンアセトニドTenon囊下注射後,囊胞様黄斑浮腫と漿液性網膜剝離の消退がみられた.図3強直性脊椎炎に合併した急性前部ぶどう膜炎表1改訂ニューヨーク診断基準I.臨床症状1.腰背部の疼痛,こわばり(3カ月以上持続),運動により改善し,安静により軽快しない2.腰椎の可動域制限(前後屈および側屈)3.胸郭の拡張制限II.仙腸関節のX線所見両側2度以上,または片側3度以上の仙腸関節炎所見0度正常1度疑い(骨縁の不鮮明化)2度軽度(小さな限局性の骨びらん,硬化,関節裂隙は正常)3度明かな変化(骨びらん・硬化の進展と関節裂隙の拡大,狭小化または部分的な強直)4度関節裂隙全体の強直III.診断基準1.確実例臨床症状のうちの1項目以上+X線所見2.疑い例a)臨床症状3項目b)臨床症状なし+X線所見表2TNF阻害療法対象患者改訂ニューヨーク診断基準によって強直性脊椎炎の確実例と診断され,NSAID通常量を3カ月以上継続して使用してもコントロール不良の強直性脊椎炎患者.コントロール不良の目安として,以下を満たす者.・BASDAI(BathAnkylosingSpondylitisDiseaseActivityIndex)スコア2)が4以上忍容性に問題があり,NSAIDsが使用できない場合も使用を考慮する.さらに日和見感染症の危険性が低い患者として以下の3項目も満たすことが望ましい.・末梢血白血球数4,000/mm3以上・末梢血リンパ球数1,000/mm3以上・血中b-D-グルカン陰性*BASDAI(BathAnkylosingSpondylitisDiseaseActivityIndex)スコア以下のA)~F)についてVAS(10cmスケール)により評価し,以下の計算式で算出した値(0~10)とする.BASDAI=0.2(A+B+C+D+0.5(E+F))A)疲労感の程度B)頚部や背部~腰部または臀部の疼痛の程度C)上記B以外の関節の疼痛・腫脹の程度D)触れたり押したりしたときに感じる疼痛の程度E)朝のこわばりの程度F)朝のこわばりの継続時間(0~120分)(TNF阻害療法施行ガイドラインより)*TsutomuSakai:東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕酒井勉:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(3)929930あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(4)(5)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016931932あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(6)

序説:全身疾患と眼:これがホットなトピックス!

2016年7月31日 日曜日

●序説あたらしい眼科33(7):927〜928,2016全身疾患と眼:これがホットなトピックス!SystemicDiseaseandtheEye:HotTopics大黒伸行*岡田アナベルあやめ**もし先生方のお手元に「眼科研修医ガイドライン(平成27年度版)」がありましたらご覧いただきたいのですが,そこには数多くの全身疾患が記載されております.また,表1に示しますように,眼炎症疾患だけでも多くの全身疾患がその原因となっております.加えて,平成29年度から施行されます新専門医制度では,眼科医も全身管理の講習受講が必須となっており,眼科医も全身疾患に関する知識が求められる時代となってまいりました.一方,眼科学発展の歴史を振り返りますと,医療機器の進歩,手術装置・手技の発展,診断学の進歩(これには基礎医学の発展による病態認識の深まりが重要な役割を果たしております),病態の解明とそれに基づく新しい薬物治療の開発,これらの要素が組み合わさり進歩してきたことがわかります.しかし,その時代時代でスポットライトが照らす要素が異なっていることも事実です.少し前まで眼科学の進歩の中心は手術装置・手技の発達でしたが,近年では,新しい薬物治療や画像診断機器の進歩が中心となってきております.分子標的診断や画像診断の進歩と同時に,新しい生物製剤が次々と開発され,炎症性疾患や黄斑疾患に対する診療が近年急速に発展・変化しております.同時に,これら生物製剤を使いこなすには感染症に関する知識も必要です.このように,とくに眼炎症性疾患や網膜疾患を日常診療している医師は,常に最新情報を取り込む必要があります.そこで,これら最近の変化のなかでもとくに注目すべきホットなトピックスを,本特集でご紹介したいと思います.本特集でとりあげる疾患は,リウマチ関連疾患,結核や梅毒というような過去の疾患と思われていた感染症および最近また増加傾向にあるといわれているAIDS,IgG4関連疾患や癌関連疾患のような最近その病態が明らかとなってきた疾患,薬物による眼毒性の最新知見です.どれもややマイナーな疾患であると思われがちですが,それでも上手にマネージしないと,患者にとっては重大な視機能低下あるいはQOL低下が生じる可能性があります.この領域を専門とする先生方に各疾患の概念,最新の内科的な診断および治療を紹介していただき,次に眼における病態や治療について概説していただきます.炎症性眼疾患を専門としない眼科医の先生方にとっても,免疫疾患や感染症における内科的な知識をアップデートする良い機会だと思いますので,ぜひご一読ください.文献1)OhguroN,SonodaK-H,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,2012表12009年日本眼炎症学会疫学調査結果1)サルコイドーシス407例(10.7%)原田病267例(7.0%)急性前部ぶどう膜炎250例(6.6%)強膜炎235例(6.2%)ヘルペス性虹彩炎159例(4.2%)Behçet病149例(3.9%)細菌性眼内炎95例(2.5%)仮面症候群95例(2.5%)Posner-Schlossman症候群69例(1.8%)網膜血管炎61例(1.6%)糖尿病虹彩炎54例(1.4%)結核性ぶどう膜炎54例(1.4%)急性網膜壊死53例(1.4%)トキソプラズマ症48例(1.3%)一過性多発性白点症候群40例(1.1%)真菌性眼内炎39例(1.0%)サイトメガロウイルス網膜炎37例(1.0%)ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)-I関連ぶどう膜炎29例(0.7%)炎症性腸疾患に関連したぶどう膜炎28例(0.7%)多発性後部網膜色素上皮症28例(0.7%)他の全身疾患に合併したぶどう膜炎27例(0.7%)周辺部ぶどう膜炎26例(0.7%)多発性脈絡膜炎23例(0.7%)Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎21例(0.7%)その他223例(7.0%)分類不能1,191例(38.9%)計3,060例(100%)(文献1より一部改変)*NobuyukiOhguro:JCHO大阪病院眼科**AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(1)927928あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(2)

3D Visual Function Trainer-ORTe を用いた上斜筋麻痺患者の9方向眼位検査

2016年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(6):915.919,2016c3DVisualFunctionTrainer-ORTeを用いた上斜筋麻痺患者の9方向眼位検査保科美希*1石川均*2後関利明*1半田知也*2佐藤司*1清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学Nine-directionDeviationExaminationofSuperiorObliqueParalysisUsingthe3DVisualFunctionTrainer-ORTeMikiHoshina1),HitoshiIshikawa2),ToshiakiGoseki1),TomoyaHanda2),TsukasaSato1)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,2)OrthopticsandVisualScience,DepartmentofRehabilitation,SchoolofAlliedHealthSciencesKitasatoUniversity目的:上斜筋麻痺患者における9方向眼位測定において,3DVisualFunctionTrainer-ORTeと大型弱視鏡の眼位測定値と測定時間を比較検討した.対象および方法:対象は上斜筋麻痺と診断された8例(男性7例,女性1例,平均年齢43.8±28.6歳)である.9方向眼位測定(中心より15°)は3DVisualFunctionTrainer-ORTe(ORTe:ジャパンフォーカス社),大型弱視鏡(ClementClarke社)を用い,測定値と測定時間を比較検討した.ORTeの9方向眼位検査距離は25cm,大型弱視鏡は光学的遠見である.結果:水平偏位量は,ORTeは大型弱視鏡と比較し外方偏位となり(p<0.01),回旋偏位量は各方向によってばらつくものの大きく測定される傾向にあったが,垂直偏位量に有意差は認められなかった.上斜筋麻痺患者の9方向眼位測定時間はORTeでは平均5.2分,大型弱視鏡では17.5分であり,有意にORTeのほうが短時間であった(p<0.01).結論:ORTeは検査距離の違いによる特徴を考慮すれば,簡便かつ迅速に測定でき,臨床における上斜筋麻痺患者の検査,診断に有用な機器である.Purpose:Comparisonbetweennine-directiondeviationandmeasurementtimeobtainedusinga3DVisualFunctionTrainer-ORTe(ORTe)andamajoramblyoscopeinpatientswithsuperiorobliqueparalysis.Subjectsandmethods:Thisstudywasconductedin8patientswithsuperiorobliqueparalysis.Nine-directiondeviationvalues(15degreesfromcenter)andmeasurementtimeweredeterminedusingbothdevices.Results:Inhorizontaldeviation,exodeviationwiththeORTewasgreaterthanwiththemajoramblyoscope(p<0.01).MeanvaluesofexcycloductionwerealsogreaterwiththeORTethanwiththemajoramblyoscope,inmostdirections.However,verticaldeviationdidnotdiffersignificantlybetweenthetwo.Measurementtime(minutes)withtheORTe/amblyoscopewas5.2/17.5,respectively.Conclusion:TheORTehassomedisadvantagesintermsofmeasurementvalues,butenablesquickandeasyexaminations.TheORTecanthereforebedeemedpotentiallyusefulinclinicalapplication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):915.919,2016〕Keywords:3DVisualFunctionTrainer-ORTe,上斜筋麻痺,9方向眼位,回旋偏位,大型弱視鏡.3DVisualFunctionTrainer-ORTe,superiorobliqueparalysis,nine-direction,cyclodeviation,majoramblyoscope.はじめに上斜筋麻痺は上下斜視の原因としてもっとも多い疾患であり,おもに麻痺眼の内下転制限,外方回旋偏位を生じる1).臨床的診断として,Parksのthree-steptestやBielschowsky頭部傾斜試験,眼位写真,Hesschart,大型弱視鏡,doubleMaddoxrodtest,眼底写真が診断の助けとなる2).外方回旋偏位は通常の交代プリズム遮閉試験のみでは検出されにくく,Hesschartでも下転制限のように検出されやすいため,上斜筋麻痺の診断は困難である場合が多い3).そのため大型弱視鏡の併用が有用とされている.〔別刷請求先〕保科美希:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:MikiHoshina,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,1-15-1,Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(155)915 大型弱視鏡は回旋偏位やわずかな上下偏位の定量が可能であり,異なった検者でも安定した結果が得られやすい.一方で,測定可能年齢には限界があり,測定には熟練を要する4).また,9方向眼位測定は検者が鏡筒を各方向に動かし測定,結果の記録を行うため,長時間の検査となり,患者への負担は無視できない.近年,複数の視機能検査・訓練を1台で行える3DVisualFunctionTrainer-ORTe(ORTe:ジャパンフォーカス社)が開発された.なかでも9方向眼位測定プロクラム(3DVFTHESS)は明室での測定が可能で,簡単なマウス操作により表1対象症例症例年齢麻痺眼A.P.C.T.正面眼位(Δ)*N:近見F:遠見150左眼N:8X’8LH’F:6LH(T)25左眼N:4E’5LH(T)’F:5LH(T)359左眼N:5LHT’F:2E5LHT420左眼N:4X’2LH’F:4X4LH(T)578右眼N:18XT’6RHT’F:6XT4RHT644左眼N:14XT’18LHT’F:25LHT714右眼N:18XT’18RHT’F:8X20RHT869左眼N:6X’10LHT’F:10LHT*X:外斜位,XT:外斜視,E:内斜位,H:上斜位,HT:上斜視.()は間欠性を示す.ab短時間で測定でき,検者の主観が入らず熟練度に左右されない利点を有する5).ORTeは検査結果の自動解析・保存が可能で臨床的な有用性が高いが,大型弱視鏡など従来機器と測定条件が異なるため,互換性など検証が必要である.今回,筆者らは3DVisualFunctionTrainer-ORTeと大型弱視鏡を用いて上斜筋麻痺患者における9方向眼位の測定値と測定時間を比較検討したので報告する.I対象および方法対象は北里大学病院を受診し上斜筋麻痺と診断された8例であり,年齢,性別,麻痺眼の詳細は表1に示す.全例,矯正視力(1.0)以上で軽度白内障以外の器質的疾患のないものとした.9方向眼位(中心より15°)をORTe,大型弱視鏡で測定し,測定値と測定時間を比較検討した.ORTeは専用フルハイビジョン3Dモニタおよび円偏光眼鏡により両眼分離され,明室下の簡単なマウス操作で9方向眼位測定の測定を行う(図1).固視点は第一眼位のみ検者が呈示し,被検者が固視眼視標(丸の中心)と検査眼視標(矢印の頂点)が重なったところで,マウスをクリックすることで水平,垂直偏位量が測定される.その後マウスホイールを動かし,矢印の線と格子状の線が平行となったところでもう一度クリックすることで回旋偏位量が測定される.自動的に結果が記録され,測定結果の印刷,保存が可能である.図13DVisualFunctionTrainer-ORTe(ORTe:ジャパンフォーカス社)a:ORTeの外観.偏光眼鏡を装用し,すべてマウス操作で測定を行う.b:測定結果.水平,垂直偏位が線で結ばれ,回旋偏位が棒の傾きで示され,下段には測定値が表示される.図は症例No.2の結果を示す.916あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(156) 大型弱視鏡は,被検者が鏡筒を動かし,固視眼視標(枠)と検査眼視標(十字)を一致させる.その後垂直,回旋偏位量を定量するため検者がノブを動かす.測定結果は検者が用紙に記録し,その後電子カルテに入力する.2機種間の測定条件の違いについては表2に示した.検討項目は各眼,各方向測定における平均測定値(水平,垂直,回旋)と測定時間,結果記載完了時間をORTeと大型弱視鏡間で比較検討した.なお測定時間は検査開始から検査終了までの時間,記載完了時間は,検査開始から検査結果の記載が完了するまでの時間とした.統計解析にはWilcoxonの順位和検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした.105II結果上斜筋麻痺患者の9方向眼位検査測定におけるORTeと表2ORTeと大型弱視鏡の比較ORTe大型弱視鏡操作検査距離矯正方法検査視標両眼分離被検者25cm近見矯正矢印と丸円偏光眼鏡検者光学的遠見完全屈折矯正十字と丸鏡筒ORTe麻痺眼■大型弱視鏡麻痺眼■ORTe健眼■大型弱視鏡健眼図2平均測定値:水平偏位量─ORTeと大型弱視鏡の比較全方向ORTeのほうが有意に外方偏位となった(*p<0.05,Wilcoxonsigned-ranktest)結果は平均±標準偏差で表示.下方(マイナス)は外方偏位,上方(プラス)は内方偏位を示す.外上転上転内上転外転正面内転外下転下転内下転偏位量(°)0-5-10-15ORTe麻痺眼■大型弱視鏡麻痺眼12■ORTe健眼■大型弱視鏡健眼10偏位量(°)86420外上転上転内上転外転正面内転外下転下転内下転図3平均測定値:垂直偏位量麻痺眼,健眼ともに全方向において有意な差は認められなかった(p>0.05,Wilcoxonsigned-ranktest).(157)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016917 ORTe麻痺眼■大型弱視鏡麻痺眼■ORTe健眼■大型弱視鏡健眼********12*108642偏位量(°)0外上転上転内上転外転正面内転外下転下転内下転図4平均測定値:回旋偏位量ORTeのほうが有意に外方回旋となる方向もあった(*p<0.05,Wilcoxonsigned-ranktest)が,一定の規則は認められなかった.結果は平均±標準偏差で表示.ORTe■大型弱視鏡051015202530時間(min)**則は認められなかった.ORTe,大型弱視鏡それぞれ,測定時間は平均5.2分,17.5分,結果記載完了時間は平均6.8分,21.4分であり,どちらも有意にORTeのほうが短時間であった(p<0.01)(図5).III考按本検討において,水平偏位量は全方向で,麻痺眼,健眼ともにORTeのほうが有意に外方偏位となった.これらの結5.2±2.517.4±3.06.7±2.521.5±2.5測定時間記載完了時間図5平均測定時間測定時間,参照時間はORTeのほうが有意に短時間であった(*p<0.05,Wilcoxonsigned-ranktest).結果は平均±標準偏差で表示.大型弱視鏡の水平・垂直・回旋偏位の平均測定値を図2~4に示す.水平偏位量についてORTeは大型弱視鏡と比較し9方向すべてにおいて有意に外方偏位を示し(p<0.01),健眼固視(測定眼:麻痺眼)では全方向平均で9.2°大型弱視鏡より外方偏位の値となった.一方,垂直偏位量はORTeと大型弱視鏡の測定結果に有意な差は認められなかった.麻痺眼固視(測定眼:健眼)においても同様の結果を示した.回旋偏位量はORTeのほうが全体的に大きな値となった.健眼固視(測定眼:麻痺眼)では上転,外転,正面,外下転,下転,内下転で有意差を認め(p<0.05),麻痺眼固視(測定眼:非麻痺眼)では内上転,外転,正面方向で有意差を認めた(p<0.05).しかし,9方向でバラつきがあり,一定の規918あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016果はORTeとLeesscreen(HESS)を比較すると外斜位の被検者はORTeではより外斜傾向が強く出る6)との報告と一致した.同様に交代プリズム遮閉試験において遠見と近見の測定結果を比較すると,近見検査のほうが,融像性輻湊,調節性輻湊が加わり外方偏位となる7)との報告もあり,本検討も距離の違いにより外方偏位に測定された可能性が示唆された.垂直偏位量に関して遠藤らは,ORTeとLeesscreen(HESS)を比較し,有意差はみられなかった6)と報告しており,本検討でも同様の結果となった.一方で回旋偏位量についての報告は少ない.本検討ではORTeは大型弱視鏡と比較しバラつきはあるものの回旋偏位量が大きく測定される傾向であった.この原因として,一つは,測定方法の違いが考えられた.大型弱視鏡は検者が回旋ノブを操作し,定量するのに対し,ORTeは被検者がマウスホイールを操作し,測定値が記録される.全被検者に同様の操作説明は行っているが,被検者のマウスホイールの動かし方の違いが結果に影響した可能性が考えられた.また,一般(158) 的に上斜筋,下斜筋は外転位になるとそれぞれ内方,外方回旋作用が強くなることが知られている8).しかし,今回は上斜筋麻痺患者を対象としているため,外転位での内方回旋作用が働かず相対的に外方回旋作用が強くなる.今回,ORTeの水平偏位測定結果は全方向外方偏位であったため,外方回旋が誘発されORTeの回旋偏位量が増加した可能性が考えられた.しかし本検討は,症例数が少ないため,個々の測定結果のばらつきが解析に影響している可能性や,先天,後天上斜筋麻痺を含んでいるため,前者と後者で融像域による測定結果への影響についての検討が今後の課題である.測定,記載完了時間に関しては,ORTeは測定と同時に検査を記録し,印刷が可能であるため,結果の入力の必要がない.一方,大型弱視鏡は各方向での測定結果を検査員が記録用紙に記載し,その後電子カルテに入力を行うため,さらに時間に差が生まれたものと考えられる.結論として,ORTeは検査距離の違いによる特徴を考慮すれば,簡便かつ迅速に測定でき,臨床における上斜筋麻痺患者の検査・診断に有用な機器である.文献1)丸尾敏夫,久保田伸枝,深井小久子:視能学.p349,355,文光堂,20052)佐伯美和,佐藤美穂:上斜筋麻痺.OCULISTA25:75-83,20153)松本富美子:視能訓練士としての神経眼科における役割.神眼30:158-164,20134)丹治弘子:大型弱視鏡.日視会誌28:73-79,20005)半田知也:日本発の次世代両眼視機能検査・訓練装置─3DVisualFunctionTrainer-ORTe-─.眼臨紀8:332-337,20156)後関利明,半田知也,遠藤高生ほか:3Dビジュアルファンクショントレイナー.神眼31:364-369,20147)河口充,松岡久美子,池田結佳ほか:健常者の眼位.眼臨紀3:185-192,20108)RobinsonDA:Aquantitativeanalysisofextraocularmusclecooperationandsquint.InvestOphthalmol14:801-825,1975***(159)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016919

細胞性急性リンパ性白血病治療中に発症したPosterior Reversible Encephalopathy Syndrome の1例

2016年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(6):909.914,2016c細胞性急性リンパ性白血病治療中に発症したPosteriorReversibleEncephalopathySyndromeの1例鈴木貴英武居敦英宮川由起子上林功樹取出藍岩竹彰横山利幸順天堂大学医学部附属練馬病院眼科ACaseofPosteriorReversibleEncephalopathySyndromewithT-CellAcuteLymphoblasticLeukemiaTakahideSuzuki,AtsuhideTakesue,YukikoMiyagawa,KokiKanbayashi,AiToride,AkiraIwatakeandToshiyukiYokoyamaDepartmentofOpthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital目的:T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)治療中に発症した可逆性後頭葉白質脳症(PRES)症例の報告.症例:T-ALL治療中の34歳,男性が朝からの急激な視力障害で受診した.視力は右眼矯正1.0,左眼矯正0.7,対光反射と中心フリッカー値の低下を認めたが,前眼部,中間透光体,眼底は異常なかった.頭部MRIではFLAIR(fluidattenuatedinversionrecovery)画像およびADC(apparentdiffusioncoefficient)MAPで両側前頭葉および両側後頭葉に高信号域を認め,血管原性浮腫が疑われた.また,当日朝から160/90mmHgの血圧上昇を認めていた.経過からPRESと診断し,当時の使用薬剤を中止し,降圧薬を内服投与したところ,加療から9日目に両眼矯正視力1.2と視力障害が改善され,1カ月後の頭部MRIでは高信号域の消失が認められた.結論:化学療法中の視力障害では,視力低下をきたす基礎疾患があっても,PRESを念頭に置いて検査・加療を行う必要がある.Purpose:Toreportacaseofposteriorreversibleencephalopathysyndrome(PRES)withT-cellacutelymphoblasticleukemia(T-ALL).Case:A-34-year-oldmalereferredtouscomplainingofsuddenvisualloss.Hiscorrectedvisualacuitywas1.0righteyeand0.7left.Lightreflexandcentralflickerfusionflequencywerediminished.Therewerenoocularabnormalfindings.Magneticresonanceimaging(MRI)ofthebrainshowedhyperintensityinthebioccipitalandbifrontalregions.MRIshowedhigh-intensityregioninapparentdiffusioncoefficient(ADC)MAPandfluidattenuatedinversionrecovery(FLAIR)images,suggestingvasogenicoedema.Bloodpressurewas160/90mmHgatthattime.ThosefindingsledtothediagnosisofPRES.Afterstoppingchemotherapyandtreatinghypertension,visualacuityimprovedwithin9days;hyperintensitiesonMRIimprovedin1month.Conclusion:WeshouldassumePRESforvisuallossduringchemotherapyevenifthepatienthasabasicdiseasecausingvisualloss.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):909.914,2016〕Keywords:可逆性後頭葉白質脳症,T細胞性急性リンパ性白血病,メトトレキセート,高血圧,化学療法.posteriorreversibleencephalopathysyndrome,T-cellacutelymphoblasticleukemia,methotrexate,hypertension,chemotherapy.はじめに可逆性後頭葉白質脳症(posteriorreversibleencephalopathysyndrome:PRES)は,頭痛を伴う症候群の一つで,RPLS(reversibleposteriorleukoencephalopathysyndrome)と同義で用いられることもある.1996年にHincheyらが,高血圧性脳症や子癇,免疫抑制剤の使用を原因として可逆性の臨床所見を呈した15症例をもとにして提唱した疾患概念である1).おもには急激な血圧上昇に続く血管透過性亢進や血管内皮細胞障害に起因する血管原性浮腫を呈すると考えられている.症状は頭痛,意識障害,痙攣,麻痺,視〔別刷請求先〕鈴木貴英:〒177-8521東京都練馬区高野台3-1-10順天堂大学医学部附属練馬病院眼科Reprintrequests:TakahideSuzuki,M.D.,DepartmentofOpthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital,3-1-10Takanodai,Nerima-ku,Tokyo177-8521,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(149)909 力・視野障害などが知られている.好発部位は頭頂後頭葉を中心に,前頭葉,側頭葉,視床,小脳,脳幹,基底核で,MRI検査で高信号域として描出される.一般的には可逆性の脳症であるが,非可逆性変化へと至る場合もあり,Grelatらは腰椎穿刺後に右片麻痺,意識障害,皮質盲,痙攣症状を呈するPRESを発症し,右片麻痺が後遺症として残存したPRESの症例を報告している2).また,皮質盲など視機能異常の原因となるため,眼科領域でも重要な疾患である.PRESには高血圧性以外にも,各種免疫疾患性,薬剤性などが知られており,これらの場合,血圧管理,痙攣管理,原因薬剤の中止などが治療となる.適切な治療により数日のうちに症状が軽快するとの報告3,4)が多い.今回,T細胞性急性リンパ性白血病(T-cellacutelymphoblasticleukemia:T-ALL)に対する化学療法中にPRESを発症したと考えられる1例を経験したので報告する.I症例患者:34歳,男性.主訴:視力障害.現病歴:2013年6月に頸部リンパ節腫脹から悪性リンパ腫を疑われ,8月に咽頭部腫瘤の生検にて,T-ALLと診断された.髄液細胞診では陰性であったものの,腰椎造影MRI所見ではL5/S1レベルに神経根に沿った多発する濃染が認められT-ALLの坐骨神経根浸潤が疑われた.9月より寛解導入療法を開始し,12月10日より地固め療法3クール目としビンクリスチン(2mg/日),アドリアマイシン(49mg/日)およびメトトレキサートの大量静注(90mg/日)とメトトレキサートの髄注(15mg/日)で加療されていた(表表1治療経過中の化学療法9月10月11月12月寛解導入地固め①地固め②地固め③VCR○○○DNR○CPA○HDAra-C○VP-16○DEX○○HDMTX○ITMTX○○○○ADR○VCR:vincristine,DNR:daunorubicin,CPA:cyclophosphamide,HDAra-C:highdosecytarabine,VP-16:etoposide,DEX:dexamethasone,HDMTX:highdosemethotrexate,ADR:adriamycin,ITMTX:intrathecalmethotrexate.PRES発症時には,12月10日より地固め療法3クール目としてvincristine,adriamycin,methotrexateの3剤が投与されていた.1).同年12月25日朝から両眼の急激な視力低下を自覚したため,同日当院当科初診となった.既往歴:特記なし.初診時所見:12月25日初診時の視力は右眼(1.0×sph.4.75D(cyl-0.50DAx175°),左眼(0.7×sph.3.75D(cyl-1.25DAx180°).眼位,眼球運動,眼圧は正常.頭痛および眼痛なし.前眼部から眼底にかけても異常所見を認めなかった.対光反射は正常からやや減弱していた.中心フリッカー値は右眼21-27Hz,左眼23-31Hzと両眼とも軽度低下が認められた.同日の頭部MRIではT1造影画像(図1)で両側後頭葉中心に小さな結節性増強効果を認め,fluidattenuatedinversionrecovery(FLAIR)画像(図2)では両側前頭葉,両側後頭葉に高信号域を認めた.Apparentdiffusioncoefficient(ADC)MAP画像においても高信号域を認めたため,血管原性浮腫であると考えられた.また,同日朝は160/90mmHgと血圧の上昇を認めていた.経過:初診時の頭部MRI検査結果および髄液検査結果から,ウイルス性脳炎,ALLの両眼視神経への浸潤,脳梗塞,炎症性/脱髄性疾患は否定的であると考えられた.ALLの髄膜播種の可能性は否定できないものの,抗癌剤などによる薬剤性PRESが原因である可能性がもっとも高いと判断し,地固め療法3クール目を中止とした.同日よりデキサメタゾン内服(20mg/日),グリセオール静注(400mg/日)およびアムロジピン内服(5mg/日)による加療を開始した.診療時間外の診察依頼で視能訓練士が不在であったため,Goldmann動的視野検査および蛍光眼底造影検査は翌日の施行とした.翌26日再診時は,眼底所見(図3)および光干渉断層計,蛍光眼底造影検査では異常所見は認めなかった(図4,5)が,両眼視力は指数弁(矯正不能)に,中心フリッカー値は右眼7-15Hz,左眼15-25Hzに低下しており,Goldmann動的視野検査は測定できなかった(図6).28日の頭部MRI検査結果では,FLAIR画像(図7)およびADCMAP(図8)で両側後頭葉,両側前頭葉の高信号域の拡大を認め,ALLの両眼視神経への浸潤は認められなかった.翌年1月6日,再診時視力は右眼(1.2×sph.4.75D(cyl.0.50DAx175°),左眼(1.2×sph.3.75D(cyl.1.25DAx180°)へ,中心フリッカー値は右眼35Hz,左眼33Hzへと改善を認めた.1月29日の頭部MRI検査結果では,T1造影において両側後頭葉の結節性増強効果の消失,およびFLAIR画像において両側前頭葉,両側後頭葉の高信号域の消失が認められた.以後,1年間以上,正常視機能を維持している.910あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(150) 図112月25日T1造影MRI画像図212月25日FLAIR画像頭部MRIではT1造影画像で両側後頭葉中心に小さFLAIR画像では両側前頭葉,両側後頭葉に高信号域な結節性増強効果を認めた.を認めた.図312月26日眼底写真視力,中心フリッカー値の著明な低下を認め,GPは測定不能であったが,眼底,OCT,FAGでは異常所見は認めなかった.図412月26日OCT所見(151)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016911 図512月26日FAG所見図612月26日Goldmann動的視野検査所見図712月28日FLAIR画像図812月28日ADCmap画像頭部FLAIR画像において両側後頭葉,両側前頭葉の頭部ADCmap画像において両側後頭葉,両側前頭高信号域の拡大を認めた.葉の高信号域の拡大を認めた.912あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(152) II考按今回の症例では,初診時の両眼視力低下の原因として,PRESのほかにも脳梗塞,ALLの両眼視神経への浸潤,ウイルス性脳炎,その他炎症性/脱髄性疾患,ALLの髄膜播種などが鑑別疾患にあげられたが,初診時の頭部MRI検査結果より,両側後頭葉白質の血管原性浮腫,すなわちPRESであると考えられた.MRIで画像診断する際,脳梗塞との鑑別が重要となる.両者ともT1造影画像およびFLAIR画像で高信号となる.一方でADCMAPにおいては,血管原性浮腫を呈するPRESは高信号となるが,細胞毒性浮腫である脳梗塞は低信号を呈する.本症例においては,MRI初診時のT1造影画像,FLAIR画像,ADCMAP画像にてPRESの好発部位である両側の前頭葉および後頭葉に高信号域を呈していたことから,脳梗塞は否定的と考えられた.また,両側の視神経所見は正常であり,ALLの両眼視神経への浸潤も否定的であった.髄液検査においては,検査数値に有意な異常値はなく,HSV,VZV,HHVも陰性であり,細胞診でも腫瘍細胞は検出されなかったため,ウイルス性脳炎および炎症性/脱髄性疾患は否定的と考えられた.経過中使用していた化学療法は表1のとおりであり,PRESの原因薬剤としては,12月10日より地固め療法3クール目として投与されていたビンクリスチン,アドリアマイシン,メトトレキサートの3剤いずれの可能性も考えられた.ただし,今回のPRES発症以前には,メトトレキサート大量投与48時間後の血中濃度が3.0×10.6mol/lと,投与48時間後の血中危険濃度とされる1.0×10.6mol/lを超える濃度で検出されているため,今回のPRESがメトトレキサートの大量投与に起因したものだと推測するには蓋然性がある.メトトレキサートの主たる副作用は,薬剤添付文書によると,ショック,アナフィラキシー,骨髄抑制,肝・腎不全などがあげられるが,頻度不明ながら,白質脳症含む脳症との記載もある.個別の症例に関しては,B細胞リンパ腫の患者に対しメトトレキサートの髄膜内注射後に発症したPRESの報告5)や,同じくB細胞リンパ腫に対しメトトレキサート大量静脈注射後に発症したPRESの報告6)があるが,本症例においても,メトトレキサートの髄注と大量静注の併用が行われていた.本症例では両眼視力低下発症時に投与していた3剤の迅速な中止と対症療法により軽快が得られているが,3剤同時の投与中止のため,原因薬剤の断定には至らなかった.一方で,本症例においては,過去に腰椎MRI画像よりALLの髄膜播種が疑われており,今回の視力低下出現においても髄膜播種が原因の一つとして考えられたため,PRESによる視力低下と髄膜播種による視力低下の鑑別も必要であ(153)った.しかし,両眼視力低下の発症が急性であったことは,過去の報告2)と一致し,PRESによる視力低下を疑う一助となった.また,過去の報告7)では,PRESの好発部位は前頭葉(78.9%)および後頭葉(98.7%)であり,今回の症例の初診時MRI所見において両側前頭葉かつ両側後頭葉の高信号域が認められたこと,そして原因薬剤の中止と対症療法で症状の軽快が得られたことは,PRESによる両眼視力低下を示唆する.PRESの病態ついてはいまだ議論されており,血圧が脳血流の自動調節能の閾値を超えて上昇するときにBBB(bloodbrainbarrier)が破綻し血管原性浮腫を生じるとするbreakthrough説の他にも,脳血管攣縮に伴う脳虚血により神経症候が出現するとするvasospasm説がある.両説はこれまで対立的に論じられてきたが,現在は両説が混在した病態,すなわち,内因性・外因性の要因がBBBを傷害し,さらに脳血管攣縮による虚血がそれに拍車をかけるという病態が指摘されている3).本症例においては,初診時の朝に160/90mmHgと血圧の上昇を認めていた.過去の報告8)では,PRES発症時の血圧について,120症例のうち86%にあたる97症例で,軽度高血圧とされる140/90mmHg以上の急性の血圧上昇を認めていたとされており,本症例においても血圧上昇が病態に関与していた可能性は否定できない.本症例での初診時の血圧上昇については薬剤起因性の可能性もあるが,両眼視力低下が発症した当時,ALL病状の進行による全身の疼痛の自覚もあったため,疼痛に伴う血圧上昇の可能性もある.今回のPRESにおいて,高血圧の治療と原因薬剤の使用中止で軽快に至った点から,PRESの原因としては,一過性の高血圧と,抗癌剤の使用の両方が考えられた.化学療法中の視力障害ではPRESを念頭において診断治療する必要があると考えられる.文献1)HincheyJ,ChavesC,AppignaniBetal:Areversibleposteriorleukoencephalopathysyndrome.NEnglJMed334:494-500,19962)GrelatM,DebauxJB,SautreauxJL:Posteriorreversibleenchepalopathysyndromeafterdepletivelumbarpuncture.JMedCaseReports8:261,20143)HobsonEV,CravenI,BlankSC:Posteriorreversibleencephalopathysyndrome:atrulytreatableneurologicillness.PeriDialInt32:590-594,20124)ItoY,KawaiM,YasudaT:Don’tforgetreversibleposteriorleukoencephalopathysundorome(RPLS)/posteriorreversibleencephalopathysyndrome(PRES).JJpnSocIntensiveCareMed15:480-484,20085)GulerT,CakmakOY,ToprakSKetal:Intrathecalmethotrexate-inducedposteriorreversibleencephalopathysynあたらしい眼科Vol.33,No.6,2016913 drome(PRES).TurkJHematol31:109-110,2014sibleencephalopathysyndrome:incidenceofatypical6)PapayannidisC,VolpatoF,IacobucciIetal:Posteriorregionsofinvolvementandimagingfindings.AmJRoentreversibleencephalopathysyndromeinaB-cellacutegenol189:904-912,2007lymphoblasticleukemiayoungadultpatienttreatedwith8)FugateJE,ClaassenDO,CloftHJetal:Posteriorreversapediatric-likechemotherapeuticschedule.HematolRepibleencephalopathysyndrome:associatedclinicaland6:5565,2014radiologicalfindings.MayoClinProc85:427-432,20107)McKinneyAM,ShortJ,TruwitCLetal:Posteriorrever***914あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(154)

緑内障様視野変化を生じた高血圧性網膜症の1例

2016年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(6):903.908,2016c緑内障様視野変化を生じた高血圧性網膜症の1例砂田貴子森脇光康三宅絵奈大阪市立十三市民病院眼科ACaseofHypertensiveRetinopathywithGlaucoma-LikeVisualFieldDefectTakakoSunada,MitsuyasuMoriwakiandEnaMiyakeDepartmentofOphthalmology,OsakaCityJusoHospital緑内障様視野変化を生じる疾患はさまざま報告されており,眼底に特徴的な変化がみられない場合には診断に苦慮することがある.今回,緑内障様視野変化を生じた高血圧性網膜症の1例を経験したので報告する.症例は49歳,女性.主訴は右眼視力低下.高血圧で入院中に眼科紹介受診.初診時の右眼視力は(0.6).眼底は細動脈の狭細化を認め,白斑・網膜出血を多数認めた.フルオレセイン蛍光造影眼底検査では範囲の狭い無血管領域を認め,後期では視神経乳頭・乳頭周囲から漏出による過蛍光を認めた.右眼視神経乳頭の耳下側に蒼白化を認め,光干渉断層計で網膜内層の菲薄化を認めたため,視野検査を施行したところ緑内障様視野変化がみられた.今回の症例では,蛍光眼底造影検査から虚血性視神経症に類似した病態が生じ,緑内障様視野変化を惹起したものと考えた.眼底所見の消失した高血圧性網膜症でも緑内障様視野変化がみられるため,診断には注意が必要と考えた.Variousretinaldiseasesandopticnervediseasesarereportedascausingglaucoma-likevisualfielddefect.Wereportacaseofhypertensiveretinopathywithglaucoma-likevisualfielddefect.A49-year-oldfemale,whohadprogressivelossofvisioninherrighteye,consultedusduringherhypertensiontreatment.Thebest-correctedvisualacuityinherrighteyewas0.6.Narrowingofarterioles,withretinalexudatesandretinalhemorrhages,wasobservedinbotheyes.Fluoresceinangiographyshowedanonperfusionareainbotheyesandleakageoffluorescencefromtheopticdiscintherighteyeinthelate-stageoftheangiogram.Therightopticdischadbecomepaler,withthinningoftheretinainnerlayerinopticalcoherencetomography,atthelowerhalfareaintherighteye.Examinationrevealedaglaucoma-likevisualfielddefectintherighteye.Inthiscase,fluorescenceangiogramfindingsrevealedaconditionsimilartoanteriorischemicopticneuropathyintherighteye;thiswasthecauseoftheglaucoma-likevisualfielddefect.Cautionisrequiredinviewofthefactthathypertensiveretinopathycanbecomeacauseofglaucoma-likevisualfielddefect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):903.908,2016〕Keywords:緑内障様視野変化,高血圧性網膜症,Humphrey視野計,虚血性視神経症.glaucoma-likevisualfielddefect,hypertensiveretinopathy,Humphreyvisualfieldanalyzer,ischemicopticneuropathy.はじめに緑内障様視野変化を生じる網膜疾患・視神経疾患はさまざま報告されている1).網膜虚血性疾患では,病初期には眼底に網膜出血や軟性白斑,網膜浮腫などの特徴的な変化がみられるため,診断に苦慮することは少ない.しかし,病初期を過ぎた網膜虚血性疾患では,特徴的な変化が消失していたりなどして診断に困難をきたしたり,視神経疾患では緑内障類似の乳頭変化がみられることがあり,診断に苦慮することもある.今回,筆者らは高血圧性網膜症の経過中に視野検査を施行したところ,緑内障様変化を認めた1例を経験したので報告する.I症例患者:49歳,女性.初診:2013年11月15日.主訴:右眼視力低下.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2013年10月中旬からの嘔吐と食欲低下の精査目〔別刷請求先〕砂田貴子:〒532-0034大阪市淀川区野中北2-12-27大阪市立十三市民病院眼科Reprintrequests:TakakoSunada,DepartmentofOphthalmology,OsakaCityJusoHospital,2-12-27Nonakakita,Yodogawa-ku,Osaka532-0034,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(143)903 的にて,11月5日に近医より当院消化器内科に紹介された.11月7日,上部消化管内視鏡検査施行前の血圧が230/149mmHgと高値であり,検査後も血圧が降下せず当日入院となった.入院時の頭部コンピュータ断層像(computedtomography:CT)で高血圧性脳症を認め内科に転科となった.その後,入院前からの右眼視力低下を主訴に11月15日に当科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.05(矯正0.6),左眼0.05(矯正1.0).眼圧は右眼14mmHg,左眼14mmHg.中心フリッカ値は右眼20Hz,左眼30Hz.前眼部・中間透光体に異常を認めなかった.眼底には両眼とも細動脈の狭細化を認めた.また,軟性白斑,網膜出血,ならびに硬性白斑を多数認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)の早期像では,両眼とも軟性白斑に一致した低蛍光を認め,右眼黄斑部上方血管アーケード内に範囲の狭い無血管領域を,左眼黄斑部上方血管アーケード内に広めの無血管領域を認めた.後期像では,右眼視神経乳頭の耳側ならびに左眼視神経乳頭の鼻側や視神経乳頭周囲の無血管領域に接する血管からの蛍光色素漏出による過蛍光を認めた.また,網膜静脈の壁染色も認めた(図1).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では,右眼の黄斑部に,また左眼の黄斑部から下方にかけて漿液性網膜.離を認めた.また左眼では上方無血管領域に一致する上方網膜の内層の菲薄化を認めた(図2).経過:入院後から降圧薬の持続点滴を開始し,血圧が安定したところで内服薬に移行となった.その後,血圧は安定し2013年11月27日に退院となった.2014年1月14日の眼科再診時には,両眼底の白斑・網膜出血は減少していたが,右眼の視力は初診時とほぼ変化はみられなかった.3月25日には両眼底の白斑・出血はほぼ消失しており,右眼の矯正視力は1.2と改善した.2014年8月6日の眼底検査では硬性白斑がわずかに残存するのみとなっており,右眼の視神経乳頭の耳下側に蒼白化がみられたが視神経乳頭陥凹は認めなかった.FAの早期像では色素沈着に伴う斑状の低蛍光を認めたが,無血管領域は変わりなかった.後期像では明らかな蛍光漏出は認めなかった(図3).黄斑部のOCTでは両眼ともに漿液性網膜.離は消失していたが,右眼の下方と左眼の上方の網膜内層の菲薄化を認めたが,外層に関しては変化を認めなかった(図4).また,視神経乳頭周囲のOCTでは右眼の耳側全体と左眼の視神経乳頭耳側上下の神経線維束の菲薄化がみられた(図5).そのため感度低下がないか視野検査を施行した.その結果,右眼のHumphrey視野計では上方の広範な感度低下ならびに下鼻側の感度低下を,Goldmann視野計(Goldmannperimeter:GP)では固視点上下に深い暗点を認めた.左眼のHumphrey視野計では固視点下方に感度低下,GPで比較暗点を認めた(図6).その後は定期的904あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016に視野検査,視力検査を行い経過観察をしているが,視力低下や視野障害の進行はみられなかった.II考按視野障害で緑内障と鑑別が必要な疾患としては,網脈絡膜循環障害(網膜静脈分枝閉塞症,糖尿病など)2)や網膜変性疾患(加齢黄斑変性,強度近視など),神経眼科疾患(虚血性視神経症,視神経炎,視交叉病変など)3,4)などがあげられている.従来より緑内障性の視野障害は進行性であるが,網脈絡膜疾患や視神経疾患の視野障害は急性期を過ぎれば進行しない場合が多い.また,網脈絡膜循環障害では急性期には眼底検査で所見が得られ,循環障害が生じた部位に対応した視野障害がみられる.しかし,視神経乳頭の循環障害では,前部虚血性視神経症のように水平性の視野障害や緑内障に類似した視野障害が認められ,緑内障との鑑別が重要となる.網脈絡膜循環障害の一つである高血圧性網膜症では,網膜動脈の攣縮による出血や虚血のため当該部位に視野変化が生じる.また,脈絡膜循環障害によっても視野欠損はみられ,脈絡膜動脈の攣縮,虚血が生じた部位には網膜外層の障害に伴う視野障害を生じる.今回の症例では,右眼のOCTで下方の網膜外層に構造上の変化はみられず,同部位の脈絡膜の障害による視野障害は否定的であると考えられる.また,発症初期に撮影したFA上,右眼黄斑部上方の狭い無血管領域ならびに左眼黄斑部上方の広い無血管領域が各々右眼下方の感度低下ならびに左眼下方の感度低下に該当する可能性がある.しかし,右眼上方の広範な感度低下に一致した無血管領域は認めなかった.しかし初診時のFAで,早期の右眼視神経乳頭の耳下側に低蛍光がみられ,右眼視神経乳頭耳側からの色素漏出を後期に認めた.このFA上の所見から,今回の症例においては病初期に虚血性視神経症に類似した病態が生じていたものと考えられた.また,経過とともに右眼視神経乳頭下耳側に蒼白化がみられたものの乳頭陥凹がみられなかったことも,右眼視神経乳頭に前部虚血性視神経症に類似した病態が生じていたためと考えられた.以上の病初期のFAより,今回の右眼の緑内障様の視野変化は,網膜循環障害ならびに脈絡膜・網膜中心動脈・軟膜動脈から循環を受けている視神経の循環障害により生じたものと考えた.以前は,非動脈炎性の虚血性視神経症ではGPで下方の水平半盲を呈することが多いとされていた5).しかし,その後のHumphrey視野計による検討では上もしくは下のどちらか一方に限局した半視野欠損はまれで,上下の弓状神経線維束欠損がもっとも多かったと報告されている6).今回の症例の右眼の視野障害も右眼の上下の神経線維束欠損に伴う障害および右眼の黄斑上方の無血管領域の影響が混在している可能性が考えられた.また,Humphrey視野計とOCTを比較(144) 図1初診時の眼底写真上段:初診時眼底写真.細動脈の狭細化,軟性白斑,網膜出血,ならびに硬性白斑を多数認めた.中段:FA早期像.軟性白斑に一致した低蛍光と無血管領域を認めた.下段:FA後期像.視神経乳頭・視神経乳頭周囲や無血管領域に接する血管からの漏出による過蛍光と網膜静脈の壁染色を認めた.図2初診時OCT右眼の黄斑部と左眼の黄斑部から下方にかけて漿液性網膜.離を認めた.また,左眼の上方網膜の内層の菲薄化を認めた.(145)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016905 図32014年8月6日再診時の眼底写真上段:再診時眼底写真.硬性白斑がわずかに残存するのみとなっており,右眼の視神経乳頭の耳下側に蒼白化がみられたが,視神経乳頭陥凹は認めなかった.中段:FA早期像.色素沈着に伴う斑状の低蛍光を認めたが,無血管領域ははっきりとは造影されなかった.下段:FA後期像.明らかな蛍光漏出は認めなかった.図42014年7月8日再診時OCT両眼ともに漿液性網膜.離は消失していたが,右眼の下方と左眼の上方の網膜内層の菲薄化を認めたが,網膜外層に関しては変化を認めなかった.906あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(146) 図52014年8月6日再診時OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚右眼の耳側全体と左眼の視神経乳頭耳側上下線維層厚の菲薄化がみられた.した報告では非動脈性虚血性視神経症では視野検査上欠損の認められない乳頭の区域ですでにOCT上神経線維束欠損が生じており,Humphrey視野計で捉えうる以上に障害が広がっていることが示唆されている7).筆者らの症例でも右眼はOCT上耳側全体の神経線維束の菲薄化を認めており,視野障害で捉えうるよりも広範囲の神経線維が障害されていた.これらのことより,今回の症例では右眼の視神経乳頭の循環障害が視野障害の主たる原因である可能性が考えられた.この症例おいては経過中の視野障害の進行はみられず,OCT上も神経線維層の菲薄化の変化は認めていない.しかし,病初期の眼底所見やFA所見がなければ,今回の症例の視野変化を緑内障性ではないと理解するまでには難渋した可能性も考えられた.眼底所見の消失した高血圧性網膜症でも,虚血性視神経症に類似した緑内障様視野変化がみられる可能性があるため,診断には注意が必要と考えた.(147)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016907 図6視野検査上段:Humphrey30-2視野.右眼では上方の広範な感度低下ならびに下鼻側の感度低下を認め,左眼では固視点下方に感度低下を認めた.下段:GP.右眼では固視点上下に深い暗点を認め,左眼では比較暗点を認めた.文献1)目加田篤:視野障害で緑内障と鑑別が必要な疾患.あたらしい眼科25(増刊号):96-99,20082)KohJW,ParkKH,KimMSetal:Localizedretinalnervefiberlayerdefectsassociatedwithcottonwoolspots.JpnJOphthalmol54:296-299,20103)田口朗:後天性視神経疾患と緑内障.あたらしい眼科30:1525-1531,20134)BeckRW,TrobeJD,OpticNeuritisStudyGroup:WhatwehavelearnedfromtheOpticNeuritisTreatmentTrial.Ophthalmology102:1504-1508,19955)宮崎茂雄:虚血性視神経症の臨床.日本医事新報4279:66-70,20066)FeldonSE:ComputerizedexpertsystemforevaluationofautomatedvisualfieldsfromtheIschemicOpticNeuropathyDecompressionTrial:methods,baselinefields,andsix-monthlongitudinalfollow-up.TransAmOphthalmolSoc102:269-303,20047)Deleon-OrtegaJ,CarrollKE,ArthurSNetal:Correlationsbetweenretinalnervefiberlayerandvisualfieldineyeswithnonarteriticanteriorischemicopticneuropathy.AmJOphthalmol143:288-294,2007***908あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(148)

Rubinstein-Taybi 症候群に伴う発達緑内障に線維柱帯切開術が奏効した1例

2016年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(6):899.902,2016cRubinstein-Taybi症候群に伴う発達緑内障に線維柱帯切開術が奏効した1例山田哉子*1小嶌祥太*2中島正之*3植木麻理*2杉山哲也*2柴田真帆*2小林崇俊*2荻原享*4池田恒彦*2*1八尾徳洲会総合病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室*3中島眼科クリニック4)大阪医科大学小児科学教室ACaseofDevelopmentalGlaucomawithRubinstein-TaybiSyndromeSuccessfullyTreatedbyTrabeculotomyKanakoYamada1),ShotaKojima2),MasayukiNakajima3),MariUeki2),TetsuyaSugiyama2),MahoShibata2),TakatoshiKobayashi2),RyoHagihara4)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,3)NakajimaEyeClinic,4)DepartmentofPediatrics,OsakaMedicalCollege目的:Rubinstein-Taybi症候群(Rubinstein-Taybisyndrome:RTS)に発達緑内障を合併し,線維柱帯切開術が奏効した1例を経験したので報告する.症例:生後1カ月,男児.在胎37週,2,200gで出生.全身的に多毛で幅広い母指を呈し小児科にてRTSと診断,眼合併症の検索のため眼科紹介となる.初診時,角膜横径は両眼11.5mm,両眼に角膜浮腫,左眼に角膜部分混濁を認めた.眼圧は右眼21.31mmHg,左眼34.41mmHg,視神経乳頭の陥凹乳頭比は右眼0.5,左眼0.7であった.RTSに伴う発達緑内障と診断し,生後40日目に両眼の線維柱帯切開術を施行した.眼圧は術後7日目には右眼8mmHg,左眼13mmHgとなった.術後約6年2カ月を経過し,現在も眼圧コントロール良好である.結論:特徴的な身体所見からRTSが疑われる児は,発達緑内障および前眼部形成異常の合併を疑って眼科的検査を行うことが重要だと考えられた.Purpose:ToreportacaseofdevelopmentalglaucomawithRubinstein-Taybisyndrome(RTS)thatwassuccessfullytreatedbytrabeculotomy.Case:A1-month-oldmalewaspresentedatourdepartmentforinvestigationofRTS-relatedeyeabnormalities.Hehadgeneralhypertrichosis,broadthumbs,andwasdiagnosedwithRTSinthepediatricsdepartment.Atfirstvisit,bothcorneaswereedematousandfocalopacitywasseeninthelefteye.Thehorizontaldiameterofeachcorneawas11.5mm.Intraocularpressure(IOP)was21-31mmHgOD/34-41mmHgOS;cup-to-discratiooftheopticdiscwas0.5OD/0.7OS.WediagnoseddevelopmentalglaucomawithRTSandperformedtrabeculotomyonbotheyesat40dayspost-delivery.Undergeneralanesthesia,IOPwas24mmHgOD/22mmHgOS,yetitgraduallydecreasedto8mmHgOD/13mmHgOSat7dayspostoperatively,remainingcontrolledfor6yearsand2monthsthereafter.Conclusion:ItisimportanttoinvestigateRTS-suspectedinfantsforassociateddevelopmentalglaucomaanddysgenesisoftheanteriorocularsegment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):899.902,2016〕Keywords:Rubinstein-Taybi症候群,発達緑内障,線維柱帯切開術,前眼部形成異常.Rubinstein-Taybisyndrome,developmentalglaucoma,trabeculotomy,dysgenesisofanteriorocularsegment.はじめに角解離,長い睫毛,後方へ回旋した耳介,つきでた鼻翼や下Rubinstein-Taybi症候群(Rubinstein-Taybisyndrome:唇),精神運動発達遅滞を3徴とする先天異常症候群で,わRTS)は1963年にRubinsteinとTaybiが報告1)した,幅広が国では発症率が12万5千出生に1例とまれな疾患であい母指と第一趾,特徴的顔貌(小頭,瞼裂の下方傾斜,内眼る2).責任遺伝子は16番染色体のCBP(CREB-bindingpro〔別刷請求先〕山田哉子:〒581-0011大阪府八尾市若草町1番17号八尾徳洲会総合病院眼科Reprintrequests:KanakoYamada,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusacho,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(139)899 tein)遺伝子と判明しているが3),検出率は高くなく臨床的診断が重視され,とくに幅広い母指はほぼ全例にみられる2,4,5).眼科的に鼻涙管閉塞,外斜視,発達緑内障,先天性白内障,網脈絡膜コロボーマといった種々の合併症が報告されている6).今回発達緑内障を合併し線維柱帯切開術を施行した1症例を経験したので報告する.I症例患者:生後1カ月,男児.主訴:眼科的スクリーニングの依頼.既往歴:中腸軸捻転症,動脈管開存症.家族歴:母親は36歳,父親は36歳の第2子.第1子は正常出生.血族結婚ではなく,特記すべきことはなし.現病歴:在胎37週3日,骨盤位のため帝王切開にて平成21年8月19日に2,200gで出生.生後7日目に中腸軸捻転症のため開腹整復術を施行した.全身的に体毛が多く,幅広い母指を有し,小児科でRubinstein-Taybi症候群と臨床的に診断された.染色体は検査の結果,正常であった.眼合併症の検索のため9月15日眼科紹介となった.初診時所見:外見は逆蒙古様顔貌,内眼角解離,弓状の眉を有し,全身的に多毛であった(図1).手足の母指は幅広くばち状であった(図2).角膜は右眼:縦径11mm×横径11mm,左眼:縦径10.5mm×横径11mm,両眼浮腫状で左眼に部分混濁を認めた(図3).啼泣のため眼圧測定値は変動を認め,右眼21.31mmHg,左眼34.41mmHg(覚醒下,トノペン)であった.前房は清明で深く,虹彩および水晶体に明らかな異常は認めなかった.眼底検査では,視神経乳頭の陥凹対乳頭比(C/D比)は右眼0.5,左眼0.7と左眼が優位に陥凹が拡大していた(図4)が,その他の異常は認めなかった.超音波生体顕微鏡では虹彩は平坦化しており,強膜岬より後方で隅角に付着していると考えられた.経過:術前は非鎮静下の測定であり眼圧測定値の変動が大きかったが,いずれの測定でも高眼圧で推移した(表1).9月29日(生後40日目)の全身麻酔下での術前眼圧は右眼24mmHg,左眼22mmHg(Perkins圧平眼圧計)であった.高眼圧,角膜径の拡大および視神経乳頭所見から発達緑内障と診断,両眼の線維柱帯切開術を同日施行した.線維柱帯切開術は一重強膜弁で12時方向から切開を行った.Schlemm管は後方への偏位を認めず,解剖学的にほぼ正常位置に同定され(図5),13mmのトラベクロトーム挿入の際に軽度抵抗を認めた.線維柱帯切開時に前房出血を認めたが軽度であった.術翌日は左眼優位に前房出血を認め,眼圧は右眼20mmHg,左眼25mmHgであったが,術後2日目には前房出血は消失しており,眼圧も徐々に下降した(表2).術後7日目には右眼8mmHg,左眼13mmHgとなり,以後眼圧はコ900あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016ントロールは良好であった.手術11カ月後には両眼とも角膜浮腫は消失し,左眼の角膜部分混濁も軽減しており,眼圧は右眼9mmHg,左眼10mmHg,C/D比は右眼0.5,左眼0.5と左眼で陥凹が縮小していた(図4).術後4年2カ月で眼圧は右眼14mmHg,左眼16mmHgで,角膜は右眼:縦径12mm×横径12mm,左眼:縦径12mm×横径11.5mmであった.平成27年11月(6歳3カ月)現在で眼圧は右眼8mmHg,左眼13mmHgで,左眼の角膜部分混濁は軽度であるが残存している.発達指数(developmentalquotient:DQ)は35以下で重度知的障害があるが,TellerAcuityCardsTM(9.6cy/cm,検査距離:55cm)による指差しで視力検査を行い,VD=(0.33×sph+2.5D(cyl.0.75DAx180°),VS=0.33(矯正不能)であった.右眼遠視性乱視のため眼鏡を装用しており,軽度の間欠性外斜視を認めている.涙道通水検査を施行したが,両眼とも異常なく,鼻涙管閉塞は合併していない.II考按今回,筆者らはRTSに発達緑内障を合併した1症例を経験した.RTSに発達緑内障を合併する割合は2.4%程度と報告6)があるが,過去の症例報告7.12)では,本例のように生後1年以内の早発型発達緑内障の報告が多い.流涙,角膜混濁,角膜径の左右差に気づき発達緑内障が発見された症例5,7.9)では線維柱帯切開術,隅角切開術,緑内障点眼で加療されている.隅角の形成異常が軽度とされる遅発型発達緑内障も報告されている13).一方で,前眼部形成異常が強く前部ぶどう腫による眼球突出が進行し,生後半年以内に眼球摘出に至った症例の報告もあり11,12),RTSに合併する隅角および前眼部形成異常の重症度には幅があると考えられる.RTSに伴う緑内障は緑内障診療ガイドライン14)では他の先天異常を伴う発達緑内障に分類され,胎生期の神経堤細胞遊走不全にもとづく隅角形成異常が原因と考えられている15,16).神経堤細胞は胎生5.7週に前眼部の角膜内皮,実質,虹彩実質,隅角線維柱帯へと遊走し分化するため,神経堤細胞の遊走不全の場合,角膜,虹彩,隅角の異常を複数認める可能性がある15.17).神経堤細胞の遊走不全に起因する発達緑内障は他にPeters奇形,強膜化角膜,無虹彩症,Axenfeld-Rieger症候群があげられる.過去の報告でもRTSの眼合併症としてPerters奇形,強膜化角膜,前部ぶどう腫を認めた症例が複数報告されており10,11),RTSの症例の診察では緑内障だけでなく,これらの前眼部形成異常の合併を念頭に考える必要がある.一般に前眼部形成異常が強い発達緑内障は隅角の異常も強く出現し,線維柱帯切開術の有効性は低くなると報告されて(140) 図1顔貌と背部所見顔貌:逆蒙古様顔貌,内眼角解離,弓状の眉が特徴的であった.背部:全身的に多毛であった.図3前眼部所見両眼とも角膜は浮腫状で,左眼に部分混濁が認められた(.).図5術中所見一重強膜弁,Schlemm管(.)は解剖学的に正常位置に存在してた.いる17).今回の症例では左眼の下方に角膜部分混濁を認めており,眼圧の下降とともに軽快傾向であったが,現在も残存しており,軽度の前眼部形成異常を伴った可能性がある.なお,発生学的にSchlemm管は中胚葉由来で前眼部と発生が図2手足手足の母指は幅広くばち状であった(矢印).C/D比:0.5C/D比:0.7C/D比:0.5C/D比:0.5図4視神経乳頭上段:術前.左眼優位に視神経乳頭陥凹が拡大していた.下段:術後.左眼視神経乳頭陥凹は縮小傾向だった.表1術前眼圧測定日9/179/189/29(手術日)右眼(mmHg)21.3128.4424左眼(mmHg)34.4121.2522測定方法覚醒トノペン覚醒トノペン全身麻酔下Perkins異なるため,隅角,前眼部に形成異常がある症例でもSchlemm管の低形成はまれで線維柱帯切開術の際にSchlemm管の同定は比較的容易との報告が散見され16,17),今回の症例でもSchlemm管の同定に苦慮することはなかった.本症例で線維柱帯切開術が有効であった理由として,早期に眼圧上昇が発見され,角膜混濁や角膜径拡大が進行しないうちに手術を施行できたこと,および本症例では前眼部の形成異常が軽度であったことが考えられる.RTSに合併した発達緑内障に線維柱帯切開術が有効であ(141)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016901 表2術後眼圧測定日術後1日術後2日術後3日術後1週間術後1カ月術後3カ月術後11カ月術後4年2カ月術後6年2カ月右眼(mmHg)20176810109148左眼(mmHg)252216131412101613測定方法鎮静Perkins左眼優位に前房出血鎮静Perkins両眼の前房出血消失鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静Perkins鎮静時は体重に応じて,トリクロホスホナトリウムシロップ,抱水クロラール座薬,ミダゾラムを適宜使用した.術前,術後とも眼圧下降薬は使用していない.った1症例について報告した.RTSに合併する発達緑内障の早期発見のために,特徴的な身体所見からRTSが疑われる児は生後より発達緑内障および前眼部形成異常の合併を疑って眼科的検査を行うことが重要だと考えられた.文献:1)RubinsteinJH,TaybiH:Broadthumbsandtoesandfacialabnormalities.Apossiblementalretardationsyndrome.AmJDisChild105:588-608,19632)黒澤健司:Rubinstein-Taybi症候群.小児科診療72:82,20093)PetrijF,GilesRH,DauwerseHGetal:Rubinstein-TaybisyndromecausedbymutationsinthetranscriptionalcoactivatorCBP.Nature376:348-351,19954)塚原正人,辻野久美子:Rubinstein-Taybi症候群.小児内科35:230-231,20035)神原諒子,山田貴之,足立徹ほか:発達緑内障と鼻涙管閉塞を伴ったRubinstein-Taybi症候群の2例.眼科手術26:299-302,20136)GenderenMM,KindsGF,RiemslagCCetal:OcularfeaturesinRubinstein-Taybisyndrome:investigationof24patientsandreviewoftheliterature.BrJOphthalmol84:1177-1184,20007)林みゑ子,北沢克明:先天緑内障を伴ったRubinsteinTaybi症候群の1例.臨眼37:843-846,19838)山口慶子,原敏:先天性緑内障を合併したRubinsteinTaybi症候群.臨眼45:678-679,19919)佐野秀一,箕田健生,小島孚允:先天緑内障を合併したRubinstein-Taybi症候群の1例.臨眼46:694-695,199210)森田由香,岡本史樹,高松俊行ほか:1眼にコロボーマ,他眼にanteriorcleavagesyndromeを伴うRubinstein-Taybi症候群の1例.眼臨94:946-950,200011)松島千景,後藤浩,毛塚潤ほか:SclerocorneaとPeters奇形を合併したRubinstein-Taybi症候群の1例.あたらしい眼科18:105-108,200112)北澤憲孝,川目裕,若林真澄ほか:眼球摘出に至ったRubinstein-Taybi症候群に伴う眼球形成不全.眼臨紀3:378-380,201013)立花敦子,高島弘至,吉岡郁恵ほか:Rubinstein-Taybi症候群に発達緑内障遅発型を合併した1例.眼科53:117121,201114)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,201215)尾関年則,佐野雅洋,森宏明ほか:神経堤細胞遊走不全と前眼部形成異常.臨眼45:1419-1423,199116)稲谷大:発達緑内障の病態と神経堤細胞の分化遊走.FrontiersinGlaucoma8:184-186,200717)野崎実穂,水野晋一,尾関年則ほか:前眼部形成異常を合併した先天緑内障に対する線維柱帯切開術.臨眼54:331334,2000***902あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(142)