《原著》あたらしい眼科33(8):1222?1225,2016cペルーシド角膜変性に対してトーリック眼内レンズを挿入し乱視の軽減を得た1例佐藤陽平*1徳岡覚*1林麻衣子*1丸山耕一*2田尻健介*3清水一弘*3池田恒彦*3*1北摂総合病院眼科*2視生会丸山眼科医院*3大阪医科大学眼科学教室ACaseofReducedAstigmatismafterToricIntraocularLensImplantationtoTreatPellucidMarginalCornealDegenerationYoheiSato1),SatoruTokuoka1),MaikoHayashi1),KouichiMaruyama2),KensukeTajiri3),KazuhiroShimizu3)andTsunehikoIkeda3)1)DepartmentofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital,2)MaruyamaOphthalmologicalClinic,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege背景:ペルーシド角膜変性に対してトーリック眼内レンズ(IOL)を挿入し,術後乱視が軽減し,良好な視力を得た1例を報告する.症例:59歳,男性.初診時,視力は左眼0.02(0.05×sph?1.0(cyl?4.0DAx100°)と高度の乱視を認め,後?下白内障を認めた.ビデオケラトグラフィーでは,両眼に角膜下方に三日月状の急峻化を認め,ペルーシド角膜変性と考えられた.トーリックIOLを挿入することで乱視の軽減が期待できると考え,左眼超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行した.眼球へ3時9時マーク法でマーキングし,トーリックIOLをマーキング通りに?内固定し手術を終了した.術後視力は左眼0.15(1.0×sph?0.75D(cyl?2.0DAx105°)と視力と乱視の改善を認めた.考按:本症例はペルーシド角膜変性のパターンを示していたが,角膜下方の菲薄化,突出が軽度であり,倒乱視成分をトーリックIOLで軽減できたと考えた.角膜不正乱視を伴う症例でも適応を慎重に検討し,トーリックIOLを挿入し乱視を軽減できる可能性があると思われた.Background:Wereportacaseinwhichimplantationofatoricintraocularlens(IOL)totreatpellucidcornealmarginaldegenerationresultedinreducedpostoperativeastigmatismandgoodvisualacuity(VA).Case:Thisstudyinvolveda59-year-oldmaleinwhominitialexaminationatourdepartmentrevealedthatVAinhislefteyehaddecreasedto0.02diopters(D)(0.05×S?1.0(C?4.0DAx100°)duetoahighdegreeofastigmatismandposteriorsubcapsularcataract.Theresultsofvideokeratographyexaminationindicatedcrescent-shapedsteepeninginthelowerpartofthecorneainbotheyes,resultinginthediagnosisofpellucidmarginalcornealdegeneration(PMCD).Toreducetheastigmatisminthelefteye,weperformedphacoemulsificationaspirationandtoricIOLimplantation.Onthebasisofcornealsurfacemarkingviathe“3-o’clock-9-o’clockmethod,”thetoricIOLwasinsertedintothecapsularbag.WeobservedthatthepostoperativeVAofthelefteyewas0.15D(1.0×S?0.75D(C?2.0DAx105°)andthatVAandastigmatismhadimproved.Conclusion:AlthoughthispatientshowedthecharacteristicpatternofPMCD,withmoderatethinningandprojectionofthelowerpartofthecornea,wetheorizethatthetoricIOLimplantationreducedtheagainst-the-ruleastigmatismcomponent.Evenincaseswithirregularastigmatism,itmaybepossibletoreduceastigmatismviatoricIOLimplantationaftercarefullyconsideringindications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1222?1225,2016〕Keywords:ペルーシド角膜変性,トーリック眼内レンズ,角膜不正乱視.pellucidcornealmarginaldegeneration,toricintraocularlens,astigmatism.はじめに2009年に乱視矯正を目的としたトーリック眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の登場により乱視眼であっても白内障手術後良好な視力を期待できるようになった.しかしその適応はおもに正乱視であり,不正乱視に対する適応は慎重に検討する必要があるとされている.今回筆者らはペルーシド角膜変性に対してトーリックIOLを挿入し,術後乱視が軽減し良好な視力を得た1例を経験したので報告する.I症例患者:59歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:脳梗塞(56歳),コンタクトレンズ使用歴なし.現病歴:平成22年10月頃より左眼の視力低下を自覚し,近医受診.後?下白内障を認め,手術目的に11月20日当科紹介受診となった.初診時眼科所見:視力は右眼0.03(0.7p×cyl?6.0DAx90°),左眼0.02(0.06×sph?1.0D(cyl?4.0DAx100°)と両眼に高度の乱視を認めた.ケラトメータ値は右眼K142.0K248.0Ax169°,左眼K143.0K247.0Ax10°,眼圧は右眼13mmHg,左眼13mmHgであった.細隙灯顕微鏡にて,左眼に後?下白内障を認め(図1),軽度の下方角膜周辺部の菲薄化を認めた.眼底に著変は認めなかった.眼軸長はAモードにて測定し,右眼23.86mm,左眼23.79mm,角膜内皮細胞は右眼2,510/mm2,左眼2,624/mm2であった.術前検査:ビデオケラトグラフィーによるカラーコードマップ(図2a)では,両眼に角膜中央に縦に寒色の蝶ネクタイ,下方周辺部に三日月状の急峻化を認め,ペルーシド角膜変性と考えられた.2年前の受診時に撮影したカラーコードマップ(図2b)と比較しても不正乱視は進行を認めなかった.本症例では角膜不正乱視があるが,2年間不正乱視の進行はなく,角膜下方の菲薄化が比較的軽度であり倒乱視に近い状態であったため,トーリックIOLを挿入することで乱視の軽減が期待できると考えた.レンズパワーは自覚屈折値,ケラトメータ値,眼軸長をもとに算出した.Web上のトーリックカリキュレーターを用いて,眼内レンズの固定位置を9°と決定した(図3).治療経過:平成22年12月17日左眼超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行した.眼球へのマーキングは基準点マーカーを用い,3時9時マーク法1)で行った.切開位置は20°,耳側より経結膜強角膜一面切開で施行した.トーリックIOL(SN6AT5,+21.0D)をマーキングどおりに?内固定し手術を終了した(図4).術後経過:術後視力は0.15(1.0×sph?0.75D(C-2.0DAx105°),ケラトメータ値K143.25K246.75Ax8°,レフ値sph:0.00cyl面?2.0であり自覚的検査,他覚的検査ともに乱視の改善を認めた.術前,術後を比較すると,自覚屈折,裸眼視力,矯正視力のいずれも改善していた(表1).II考按トーリックIOLは,白内障手術の適応患者に対して,乱視矯正によってより良好な視力が望める場合に使用するとされている.乱視の種類は直乱視,倒乱視,斜乱視であっても適応とされているが,円錐角膜,翼状片,角膜移植後などは角膜不正乱視を伴っていることが多いため適応は慎重にすべきとされている2,3).ペルーシド角膜変性は,下方周辺角膜が非炎症性に菲薄化し,突出することにより角膜形状異常が生じる疾患である.女性より男性に多く,片眼性も両眼性もある.原因は不明だが,円錐角膜などの合併例,円錐角膜の家族歴などから,円錐角膜の類縁疾患と考えられている4?8).典型例では細隙灯顕微鏡にて下方角膜周辺部に水平に細長い帯状の菲薄部が存在し,菲薄部と角膜中央の間に角膜がもっとも突出する部位を認め,突出部が視軸の下方にあることから高度の倒乱視傾向を示す.フォトケラトスコープでは,中央のリングは卵型の不正倒乱視を示し,ビデオケラトグラフィーによるカラーコードマップでは角膜中央に縦に寒色の蝶ネクタイ状,下方に三日月状の急峻化を認める4,5).治療はおもに対症療法であり,軽症例では角膜不正乱視に対してハードコンタクトレンズを処方する.重症例では角膜移植が必要となるが,病変部が偏心しているため円錐角膜より手術の難易度が高いとされている5).角膜菲薄化疾患であり,laserinsitukeratomileusis(LASIK)は,術後角膜拡張症の発症リスクが高く,禁忌とされている.最近では角膜クロスリンキングの有用性が報告されている6,8,9).近年,海外では,ペルーシド角膜変性や円錐角膜に対してトーリックIOLを挿入した症例も報告されている10?12).またわが国では,有水晶体トーリック眼内レンズ(PhakicTORICIOL)を挿入し良好な視力を得た症例も報告されている13,14).本症例は,術前のカラーコードマップで,ペルーシド角膜変性のパターンを示していたが,角膜下方周辺部の菲薄化,突出が比較的軽度であり,倒乱視成分をトーリックIOLで矯正することで,より乱視が軽減し,より良好な視力が得られたと考えられた.ただし,本症例は59歳であり,ペルーシド角膜変性の進行の恐れが少なく,また2年間角膜不正乱視の進行が認められないことを確認しているが,より若年の症例で角膜不正乱視が進行する可能性がある場合は,トーリックIOLの適応には慎重であるべきと思われる.本症例手術施行時に使用できたトーリックIOLはアクリソフRIQTORIC(SN6AT3?SN6AT5)のみで円柱度数が角膜平面換算で最大2.06D(SN6AT5)であったが,現在はより乱視矯正効果の高い度数の強いモデル(SN6AT6?SN6AT9:2.50D?4.0D)が使用可能であり,本症例のように不正乱視があっても正乱視成分の矯正が期待できる症例では,さらに乱視が軽減できる可能性があると思われる.角膜不正乱視がある症例であっても術前にビデオケラトグラフィーを施行し,慎重に適応を検討したうえで,本症例のように,トーリックIOLで乱視の軽減を得,より良好な視力を獲得することができる可能性があると思われた.文献1)鳥居秀成,根岸一乃:さまざまな軸マーキング法と手術手技.眼科手術24:277-285,20112)小川智一郎,柴琢也:現在使用可能なトーリック眼内レンズの仕組み,適応.眼科手術24:272-276,20113)ビッセン宮島弘子:トーリック眼内レンズ.南山堂,20104)津村朋子,前田直之,渡辺仁ほか:ペルーシド角膜変性症の臨床所見の特徴.眼紀49:922-925,19985)真鍋禮三,木下茂,大橋裕一ほか:角膜クリニック第2版,医学書院,20036)許斐健二,島﨑潤:円錐角膜疾患総論.あたらしい眼科27:419-425,20107)SridharMS,MaheshS,BansalAKetal:Pellucidmarginalcornealdegeneration.Ophthalmology111:1102-1107,20048)JinabhaiA,RadhakrishnanH,O’DonnellC:Pellucidcornealmarginaldegeneration:Areview.ContLensAnteriorEye34:56-63,20119)SpadeaL:CornealcollagencrosslinkingwithriboflavinandUVAirradiationinpellucidmarginaldegeneration.JRefractSurg26:375-377,201010)JaimesM,Xacur-GarciaF,Alvarez-MelloniDetal:Refractivelensexchangewithtoricintraocularlensesinkeratoconus.JRefractSurg27:658-664,201111)LuckJ:Customizedultra-high-powertoricintraocularlensimplantationforpellucidmarginaldegenerationandcataract.JCataractRefractSurg36:1235-1238,201012)KamiyaK,ShimizuK,HikitaFetal:Posteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationforhighmyopicastigmatismineyeswithpellucidmarginaldegeneration.JCataractRefractSurg36:164-166,201013)中村友昭:特殊例へのPhakicIOLの応用.IOL&RS22:312-316,200814)神谷和孝:特殊症例への応用.IOL&RS24:29-33,2010〔別刷請求先〕佐藤陽平:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:YoheiSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,TakatsukiCity,Osaka569-8686,JAPAN(141)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161223図1細隙灯顕微鏡所見左眼に後?下白内障を認める.図2ビデオケラトグラフィーによるカラーコードマップa:平成22年11月20日,b:平成20年1月24日.約2年経過しても不正乱視の進行は認めていない.図3本症例のトーリックカリキュレーターの出力結果図4術翌日の前眼部写真軽度の角膜下方の菲薄化を認める.表1術前後の自覚屈折,裸眼視力,矯正視力,ケラトメータ値の比較1224あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(142)143)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161225