●連載173緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也173.緑内障における生活不自由度朝岡亮東京大学医学部附属病院眼科緑内障患者において,機械学習法(ランダムフォレスト法など)を用いて視力と視野の各測定点の感度を総合的に勘案することが,visionrelatedqualityoflife(VRQoL)を正確に推定するために有用であった.また,日常生活の各タスクに視野のどの部位が重要であるかについても解析を行った.●緑内障におけるVisionrelatedqualityoflife解析緑内障患者治療の根源的な目標は患者のvisionrelatedqualityoflife(VRQoL)保持であることは論を待たず,視力や視野から正しくVRQoLを推測することは,重要である.過去のさまざまな研究で,重要な視野部位はタスクによって異なると報告されている.これまではVRQoLと視機能のパラメータの関係は,各視機能パラメータ(視野各測定点の感度など)ごとに別個に解析されているが,視野の測定点同士や,中心視野と視力1)は密接に関連していることは明らかであり,視野や視力からVRQoLを予測,解析する際には,本来単におのおのの関係を別々に調べるべきではない.そこで筆者らは機械学習法を用いて視力と全測定点の感度を総合的に勘案し,VRQoLを予測することが有用ではないかと考え,検証を行った2,3).とくにランダムフォレスト(RF)法はブートストラップリサンプリングを行うことで多数の決定木を作成するもので,最も精度の良い機械学習法の一つとして知られている.●方法164例の緑内障患者にSumiらの質問票を用いてVRQoLの聞き取りを行い,この結果と30-2視野(HFA)の各測定点のtotaldeviation(TD)値と,視力および年齢との関係を解析した.まず最初に,良い眼の視力,悪い眼の視力,両眼視野(integratedvisualfield:IVF)4)のmeandeviation(IVFMD)のおのおのを別個に用い,leave-one-out交差検証法により,各VRQoL予測スコアと予測誤差を計算し,rootmeansquarederror(RMSE)を算出した.つぎに,種々の機械学習法(RF法,SVM:サポートベクターマシン法,Boost:グラ(73)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYディエントブースティング法)を用いて各測定点のTD値と,視力および年齢を同時に解釈し,同様にleaveone-out交差検証法により,各VRQoL予測時のRMSEを算出した.比較のため,各測定点のTD値と,視力および年齢を用いたstepwiseAIC変数選択法(線形回帰法)によるRMSEを計算した.●予測誤差図1と表1はタスクごとのRMSEを示す.いずれにおいても,視力やIVFMDを一つずつ用いたり,線形回帰法で各測定点のTD値と視力および年齢を組み合わせて解釈したりするよりも,機械学習法を用いて予測したほうがVRQoL予測の際のRMSEは小さくなった.RMSE43210VA(worse)VA(better)IVFMDVAsandMDLinearAICRandomForestSVMBoostLinearmodelsMachinelearningalgorithmsGeneralVRQoLscorerange;0to14points2.683.152.422.353.201.991.992.21図1種々の方法によるvisionrelatedqualityoflife(totalscore)予測の予測誤差予測誤差はleave-one-out交差検証法を用いてrootmeanofthesquaredpredictionerror(RMSE)として求めた.VA(worse):悪い眼の視力,VA(better):良い眼の視力,IVFMD:integratedvisualfield(両眼視野)のmeandeviation,VAsandMD:両眼の視力とIVFMD(重回帰分析),LinearAIC:stepwiseAIC変数選択法(線形回帰法),RF:RandomForests法,SVM:supportvectormachine法,Boosting:GradientBoosting法あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141639表1種々の方法によるvisionrelatedqualityoflife(lettersandsentences,walking,goingout,dining)予測の予測誤差lettersandsentencesrankwalkingRMSErankgoingoutRMSErankdiningRMSErankVF(worse)1.0260.3960.4360.406VA(better)1.1470.4670.5380.437IVFMD0.9440.3440.4250.385VAsandMD0.9230.3440.3940.384AIC1.3180.5080.5070.528RF0.8510.3020.3210.332SVM0.9550.3330.3730.353Boosting0.8620.2910.3320.321予測誤差はleave-one-out交差検証法を用いてrootmeanofthesquaredpredictionerror(RMSE)として求めた.VA(worse):悪い眼の視力,VA(better):良い眼の視力,IVFMD:integratedvisualfield(両眼視野)のmeandeviation,VAsandMD:両眼の視力とIVFMD(重回帰分析),LinearAIC:stepwiseAIC変数選択法(線形回帰法),RF:RandomForests法,SVM:supportvectormachine法,Boosting:GradientBoosting法とくにRF法ではその弱学習器(内部構造)である決定木において,各パラメータが同時に使用されたりされなかったりするため,相互に関連したパラメータを総合的に使用するのに向いており,この結果が反映されたものと考えられる.●視野部位つぎに,各VRQoLにどの視野部位が重要であるかを検証した.検証の際にはRF内部の決定木おのおので,各パラメータを変化させ,その影響の多寡を観察した.各活動,総合スコアともに,良い眼の視力が最も重要であった.悪い眼の視力は3番目(lettersandsentences,goingout,diningの各活動および総合スコア)ないし16番目(walking)に重要であった.各視野測定点の重要度は図2の通りであるが,各活動とも水平線沿いに広く分布した部位に加え,各々に特異的な部位(lettersandsentences:左上下方,walking:下方とくに左側,goingout:上方,dining:広く分布)が重要であった2).●おわりに本稿では機械学習法を用いたVRQoLの予測の正確な推定方法と,さらに,その中身を詳細に解析することで特定された重要な視野部位について紹介した.本稿の内容以外にも,近年アンケート結果の解釈にはさまざまな進歩がみられる.たとえばアンケート結果の解釈の際には単純な算数和を用いるのでなく,Rasch法を用いて解釈することが推奨されており,実際筆者らの検証でもその有用性が明らかとなっている5).今後はこれらの点を1640あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014図2種々のVisionrelatedqualityoflifeに重要な視野検査点視野検査点はRandomForests法の中の,各々の決定木のパラメータを任意に動かし,その予測結果に対する影響を比較することによって同定された.a.lettersandsentencesb.walkingc.goingoutd.dininge.totalscore1102026110202611020261102026110202630degrees30degrees30degrees30degrees網羅した一層の研究の発展が期待されるところである.文献1)AsaokaR:Therelationshipbetweenvisualacuityandcentralvisualfieldsensitivityinadvancedglaucoma.BrJOphthalmol97:1355-1356,20132)MurataH,HirasawaH,AoyamaYetal:Identifyingareasofthevisualfieldimportantforqualityoflifeinpatientswithglaucoma.PLoSOne8:e58695,20133)HirasawaH,MurataH,Mayamaetal:Evaluationofvariousmachinelearningmethodstopredictvision-relatedqualityoflifefromvisualfielddataandvisualacuityinpatientswithglaucoma.BrJOphthalmol98:1230-1235,20144)AsaokaR,CrabbDP,YamashitaTetal:Patientshavetwoeyes!:binocularversusbettereyevisualfieldindices.InvestOphthalmolVisSci52:7007-7011,20115)HirasawaH,MurataH,MayamaCetal:ValidatingtheSumiqualityoflifequestionnairewithraschanalysis.InvestOphthalmolVisSci55:5776-5782,2014(74)