特集●斜視診断の基本あたらしい眼科33(12):1681?1686,2016(部分)調節性内斜視AccommodativeEsotropia(PartialAccommodativeEsotropia)鈴木由美*山田昌和*はじめに調節性内斜視は,1~3歳くらいで発症することが多いため,生後半年以内に発症する乳児内斜視に比し,視覚感受性期間初期に眼位が正位であった可能性が高く,おおまかな立体視を獲得し眼位も良好に保たれる予後良好な疾患との印象がある.しかし,1歳以前発症の調節性内斜視(早期発症調節性内斜視)や,調節性内斜視と診断された後に退行し,部分調節性内斜視へ移行する症例もあり,調節性内斜視の両眼視機能を含めた予後は,必ずしも良好なものばかりではない.本稿では,小児の内斜視の50%以上をなし,調節反射の活性化に伴う輻湊偏位と定義される調節性内斜視について,以下,屈折性調節性内斜視(refractiveaccommodativeesotropia),非屈折性調節性内斜視(nonrefractiveaccommodativeesotropia),部分調節性内斜視(または代償不全調節性内斜視,partiallyordecompensatedaccommodativeesotropia)の三つに分類し,概説する(図1).I屈折性調節性内斜視(純調節性,定型的,遠視性,または正常AC?A比型内斜視)1.病因未矯正の遠視があると明視するために調節が必要となり,調節性輻湊が過剰に働くことで,眼位が内方偏位となる.十分な融像力があれば,内斜位を保つことができるが,融像性開散が弱い,または網膜正常対応が発達していないなど両眼視機能の未発達があると内斜視になる.2.臨床症状遠視矯正のための眼鏡を装用すると,遠見および近見眼位ともに斜視が消失する内斜視である.発症年齢は,明視するようになる1~3歳の間が多いが,早期発症例もあり,生後4カ月~8歳頃である.発症初期は間欠的な内方偏位を認め,徐々に恒常性内斜視に移行することもある(図2a,b).また,当初屈折異常弱視と診断され,調節や視力の発達に伴って徐々に屈折性調節性内斜視に移行する例もある.遠視の分布は,中等度遠視が多いが,調節麻痺下の屈折検査にて+1.50~+9.0D前後まで幅広い.遠視の度数に左右差があり,強い遠視眼のほうが内斜することで弱視を合併していることがあり注意を要する.3.診断と治療顕性および間欠的な内斜視を認めた場合,まずは,散瞳下で器質的な眼疾患の除外をすることが大切である.そして,内斜視の場合は,原則としてアトロピン点眼下で調節麻痺下屈折検査を行う.ただし,アトロピン点眼薬処方前に,心疾患の有無などの既往を確認し,アトロピンによる副作用(結膜充血,顔面紅潮,発熱,頻脈,中毒症状としては,幻覚,痙攣など)を説明のうえ,自宅にて次回受診の1週間前から,「朝夕に1日2回,7日間点眼」をするように,患児の家族に説明をする.AmericanAcademyofOphthalmologyより推奨される屈折矯正のガイドライン(PreferredPracticePatternREsotropiaandExotropia)1)では,内斜視があり,遠視が1歳未満は+2.5D,1~2歳は+2.0D,2~3歳は+1.5D以上ある場合には,眼鏡を処方すべきとしている.筆者らは,内斜視が認められる場合1歳未満の低年齢においても,+2.0D以上であれば,まず眼鏡を処方している.この他覚的屈折値に基づいて,遠視を減らすことなく完全矯正することが基本である.他覚的屈折値の測定方法として,検影法を原則とし,手持ち式オートレフラクトメーターが使用でき,また台に顎を載せることができる年齢であれば,オートレフラクトメーターを使用し確認することができる.遠視性不同視である場合も,両眼遠視度を減らさずに処方し,両眼完全屈折矯正する.乳幼児では+5Dを超える不同視でも軸性であるので,眼鏡による矯正が適している.治療用眼鏡の処方にあたっては,9歳未満の小児の弱視および斜視治療用眼鏡やコンタクトレンズの作製費用が健康保険の適用となっていることを,患児家族に説明するとよい.患者自己負担割合以外の額が療養費として償還払い扱いで給付される(日本眼科医会ホームページを参照2)).完全矯正眼鏡処方後,1~2カ月以内に,眼鏡装用の状態,装用時間などを確認し,眼位の改善の有無を確認する.眼鏡定着後,早期に眼位が正位あるいは内斜位に改善する場合もあるが,少なくとも眼鏡定着3カ月後までは,屈折性調節性内斜視または部分調節性内斜視であるかを慎重に判断すべきである.処方後すぐに,終日装用ができない児も多いため,おおむね処方後6カ月は経過をみて診断する.具体的には,遠視矯正により斜視角が遠見・近見眼位ともに10プリズムジオプトリー(prismdiopter,以下Δ)以上減少した場合,調節要因があると考え,残余内斜視が10Δ未満になれば,部分調節性内斜視ではなく,屈折性調節性内斜視と診断する(図2c).屈折性調節性内斜視と診断した後は,就学前は眼位を優先し,前述のとおり完全矯正眼鏡を基本とするが,就学後は,学校生活可能な十分な矯正視力が必要となるため,完全矯正度数で視力が下がるようであれば,眼位は内斜位になる範囲で遠視の度数を落とす試みも必要になることがある.多くは,成人まで眼位矯正のための眼鏡が必要なことが多く3),原則眼鏡による屈折矯正をすべきと考えるが,思春期以降は整容的に眼鏡に抵抗を感じることも多く,矯正方法をコンタクトレンズにする症例も少なくない.4.予後屈折性調節性内斜視のうち,融像幅が広く両眼視機能が良好な症例は,眼鏡矯正にて眼位を良好に保つことができる.そのため,6カ月ごとに,調節麻痺下屈折検査,眼位検査,両眼視機能検査を行いながら,成長に応じて瞳孔間距離を確認し,適宜眼鏡を再処方する.しかし,比較的良好な両眼視機能を有すると思われていた屈折性調節性内斜視であるが,近年,中心窩立体視を有する両眼固視可能な群(bifixation)は24%であり,周辺融像している片眼固視(monofixation)群は76%であったとする報告もなされている4,5).中心窩立体視を有さない屈折性調節性内斜視は,経過観察中に眼鏡矯正のみでは眼位を保つことができず,再度内斜視または外斜視に移行する可能性があるとされる.経過中に再度内斜視が認められた場合は,再び調節麻痺下屈折検査を施行し,眼鏡が適切でなければ,再処方すべきであるが,それでも残余内斜視を認めることがあり,これは部分調節性内斜視への退行(deterioration)と考え,部分調節性内斜視の治療を開始する.II非屈折性調節性内斜視(高AC?A型または非定型的調節性内斜視)1.病因AC/A比が高いために生じる内斜視,つまり単位調節量に対する調節性輻湊が大きいので,近見眼位が内寄せとなり,運動性融像が不十分であると非屈折性調節性内斜視が顕性化すると考えられている.2.臨床症状と診断非屈折性とあるように,正視,近視,遠視のどのような屈折状態でも生じるが,中等度遠視がもっとも多い.AC/A比が高く,近見斜視角が遠見斜視角より10Δ以上大きければ,非屈折性調節性内斜視と診断される.AC/A比を測定できない乳幼児においては,完全矯正眼鏡下で近方の調節目標を固視させた場合,内寄せが過剰であれば,非屈折性調節性内斜視を疑う.また,完全矯正眼鏡度数に+3.0D加入することで,近見斜視角も遠見斜視角とほぼ同じになる場合も,非屈折性調節性内斜視を疑い対応すべきである.純粋に高AC/Aだけの症例は非常に少なく,実際は屈折性調節性内斜視に高AC/Aを伴った症例や,後述する部分調節性内斜視に高AC/Aを伴った症例が多い.3.治療近見に顕性の内斜視があると,近方作業時常に片眼抑制の状態にあり,両眼視は望めないことになるため,非屈折性調節性内斜視と診断した場合,積極的に二重焦点眼鏡の処方を検討する.前述の屈折性調節性内斜視の完全矯正眼鏡処方時同様に,まずはアトロピン点眼による調節麻痺下屈折検査にて遠視があれば完全矯正し,遠見眼位が正位もしくは内斜位を保てるかを確認する.つぎに+2.0~+3.0Dの凸レンズを近見に付加し,近見眼位が内斜位に持ち込めるもっとも弱い度数を遠用度数に追加して処方する.初回の二重焦点眼鏡であれば,近用面積の広い「エグゼクティブタイプ」の二重焦点レンズのデザイン(図3)を勧め,近用部および遠用部の使い方を児の家族に説明する.また,処方箋備考欄に,二重焦点のレンズデザインを記載するとよい.また,小学校高学年頃(思春期早期頃)より,「エグゼクティブタイプ」のデザインは,レンズ中央に切り替えの線が入るため,整容面で嫌がる傾向がみられる.その場合は,累進屈折力レンズに変更し,近見眼位を内斜位に保つように,適宜対応していく(図4).非屈折性調節性内斜視に対する手術は,二重焦点眼鏡を装用できない症例にAC/A比の正常化を狙って施される.Faden手術(posteriorfixation)6),また最近ではFaden手術に代わって,後方の強膜通糸を行わなくてよいpulleyposteriorfixationが報告されている7).4.予後純粋に高AC/Aだけの症例は非常に少なく,屈折性調節性内斜視や部分調節性内斜視に高AC/Aを伴った症例がほとんどである.したがって,予後は,合併する内斜視の状態によると考える.III部分調節性内斜視(または代償不全調節性内斜視)(図5)1.病因8)大きく二つのタイプに分けられる.元々,非調節性内斜視があり,これに遠視による屈折性調節性内斜視が加わったと考えられるタイプ(混合型),つまり乳児内斜視に屈折性調節性内斜視が合併した型と,当初は屈折性調節性内斜視であったが,内斜視(残余斜視角)が残る状態へ移行(退行)したタイプ(退行型)がある.2.臨床症状と診断発症年齢は,前述の屈折性調節性内斜視と同様である.診断は,調節麻痺薬による他覚的屈折検査にて完全矯正眼鏡を処方し,遠見および近見眼位ともに各々の裸眼の眼位よりも10Δ以上斜視角が減るが(つまり調節要因を認める),終日眼鏡装用定着後3カ月経過しても,遠見および近見眼位において,ともに10Δ以上の斜視が残っている内斜視を部分調節性内斜視と診断する.ただし,実際は,完全矯正眼鏡処方後1~2カ月以内に眼鏡装用の状態,装用時間などを確認し,眼位の改善の有無を診る.このときに残余内斜視を認める場合は,潜伏遠視残存の可能性も考え,再度アトロピン点眼薬による調節麻痺下屈折検査を(可能であれば,前回よりアトロピン点眼薬の濃度を上げて)施行し,必要があれば眼鏡度数を上げて再処方し,再び1~2カ月後に眼位を確認し,診断する.下斜筋過動症や交代性上斜位を合併しやすいのも,部分調節性内斜視の特徴である.また,内斜眼が斜視弱視になる可能性が高いため注意を要する.3.治療部分調節性内斜視の治療の原則は,「完全矯正眼鏡下で残余する内斜視を矯正すること」である.治療方法は,おもに下記の二つがあげられる.a.プリズムによる光学的治療プリズムの偏光作用を利用し,光学的な正位を狙うことで,両眼中心窩に左右眼同時に,画像を投影して両眼視機能の発達を促すことを目的とする.具体的には,singleprismcovertestを施行し,この値を完全矯正テスト眼鏡に入れて(prismadaptationtest:PAT)正位を保つことができるΔ度数を求める.安定して正位を確認できるΔであれば処方し,患児の完全矯正眼鏡に膜プリズムを貼付する.視力の左右差がなければ,両眼に同じΔ度数を振り分けて処方し,貼付する.しかし,片眼が弱視眼および内斜しやすい場合,あえてΔ度数に差をつけて処方し,弱視治療目的および内斜眼を固視しやすくする意味をもたせる(図6a).b.手術治療小児の残余内斜視に対しては,原則,両眼内直筋後転術が行われる.ただし,残余斜視角が小さい場合は,片眼の内直筋後転術で対応する場合もある.また,15歳以上および成人については,片眼の水平前後転術を行うこともある.手術斜視角(手術によって治す狙いの斜視角)の量定については,裸眼と眼鏡装用下の各々の近見斜視角の平均値を手術斜視角とする9)など,さまざまな考え方があるが,筆者らは,前述の通りプリズム療法を行い,1~2カ月以内に再検査し5Δレンズを基底内方に置き,徐々に残余斜視角が漸減するようであれば手術をせずにプリズム療法を継続し,一方,膜プリズム処方後4~6カ月残余斜視角が漸減しない(膜プリズムを減らすことができない)症例においては,処方した膜プリズムの斜視角を参考に,手術加療を行っている(図6b).4.予後部分調節性内斜視の眼位,両眼視機能獲得の予後は,発症年齢や斜視未矯正期間などの因子に影響されるとの報告がある10,11).また,Fawcettら12)は,内斜視の立体視感受性期間について,乳児内斜視では2歳頃まで,1歳以降に発症した調節性内斜視では7歳くらいまで続くと報告している.したがって,部分調節性内斜視のなかで,早期発症で非調節性内斜視があり,屈折性調節性内斜視が加わったと考えられるタイプ(混合型)は,乳児内斜視に近いタイプと考えられ,発症が早いほど,最終両眼視機能は不良と考えられる.おわりに調節性内斜視の診断の基本は,十分な調節麻痺下において屈折検査を行い,眼鏡処方が必要な屈折値であれば,両眼完全矯正眼鏡を処方し,慎重に視力,眼位,両眼視を含めた視機能評価を行うことである.そして,遠視を眼鏡により完全矯正しても,非調節性の残余内斜視が安定して確認される場合は,可及的早期に手術を予定すべきである.文献1)AmericanAcademyofOphthalmology:PreferredpracticePatternREsotropiaandExotropia.SanFrancisco,20122)https://www.gankaikai.or.jp/members/(閲覧には,日本眼科医会の会員番号とパスワードが必要)3)MohneyBG,LilleyCC,Green-SimmsAEetal:Thelongtermfollow-upofaccommodativeesotropiainapopulation-basedcohortofchildren.Ophthalmology118:581-585,20114)WilsonME,BluesteinEC,ParksMM:Binocularityinaccommodativeesotropia.JPeditarOrhthalmolStrabismus30:233-236,19935)佐藤美保:調節性内斜視.臨眼紀3:40-42,20106)MillicentM,PeterseimW,BuckleyEG:Medialrectusfadenoperationforesotropiaonlyatnearfixation.JAAPOS1:129-133,19977)WabulemboG,DemerJL:Long-termoutcomeofmedialrectusrecessionandpulleyposteriorfixationinesotropiawithhighAC/Aratio.Strabismus20:115-120,20128)VonNoorden,GK,CamposE:Partiallyaccommodativeesotropia.BinocularVisionandOcularMotility:Theoryandmanagementofstrabisumus.6rded.p319-320,Mosby,StLouis,20029)WrightKW,Bruce-LyleL:Augmentedsurgeryforesotropiaassociatedwithhighthypermetropia.JPediatrOphthalmolStrabismus30:167-170,199310)IordanousY,MaoA,MakarI:Preoperativefactorsaffectingstereopsisaftersurgicalalignmentofacquiredpartiallyaccommodativeesotropia.Strabismus23:151-158,201511)FawcettSL,BirchEE:Riskfactorsforabnormalbinocularvisionaftersuccessfulalignmentofaccommodativeesotropia.JAAPOS7:256-262,200312)FawcettSL,WangYZ,BirchEE:Thecriticalperiodforsusceptibilityofhumanstereopsis.InvestOphthalmolVis46:521-525,2005*YumiSuzuki&*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕鈴木由美:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(3)16811682あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(4)図1調節性内斜視診断のためのフローチャート※1:1歳未満は+2.5D,1~2歳は+2.0D,2~3歳は+1.5D以上の遠視がある場合1).図2屈折性調節性内斜視の眼位写真屈折性調節性内斜視は,乳児内斜視と異なり,調節目標を注視時と非注視時では,内方偏位が変動することがある(間欠的な内方偏位を呈する).a:非注視時で,内方偏位が目立たない.b:注視時,左眼)内方偏位が顕著.c:完全矯正下で正位を確認できる.(5)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161683図3二重焦点眼鏡(エグゼクティブタイプ)a:眼鏡非装用時.b:レンズ上方にて,遠方視し,眼位は正位である.レンズ中央に,レンズの切り替え線がみえる.c:+3.0D加入されたレンズ下方で,近方視し眼位は正位である.図4二重焦点眼鏡(累進屈折力レンズ)a:左眼内斜視.b:レンズ上方で遠方視し,眼位は正位.c:レンズ上方で,近方視すると左眼内斜視の残存を認める.d:レンズ下方で,近方視することで,眼位は良好である.1684あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(6)図5部分調節性内斜視a:眼鏡非装用時.角膜反射が左眼瞳孔縁と角膜縁の中間に認められる.b:完全矯正眼鏡装用時.角膜反射は,瞳孔縁にあり,眼鏡により内方偏位が軽減している.図6部分調節性内斜視の残余斜視角に対する治療後a:膜プリズムを貼付した眼鏡下眼位.プリズムの偏光作用により光学的正位を確認できる.b:残余斜視角に対して両眼内直筋後転術後.(7)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201616851686あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(8)