特集●全身疾患と眼:これがホットなトピックス!あたらしい眼科33(7):941〜946,2016再発性多発軟骨炎RelapsingPolychondritis田中理恵*蕪城俊克*はじめに再発性多発軟骨炎(relapsingpolychondritis)は,全身の軟骨組織に特異的に,再発性の炎症をきたす比較的まれな難治性疾患である.1923年にJaksch-Wartenhorstがpolychondropathiaとして初めて報告し,1960年にPearsonが現在の名称を提唱した.眼症状を約半数に認め,強膜炎,上強膜炎,結膜炎,ぶどう膜炎が多く報告されている.強膜炎の統計では,関節リウマチや抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎などについで原因疾患として頻度が多い.合併する全身症状によっては生命予後不良であり,見逃してはならない疾患である.本稿では,再発性多発軟骨炎の概要,検査所見,診断,治療について述べる.I再発性多発軟骨炎の概要1.疫学欧米での頻度は,人口10万人に対し0.35とまれである.日本における患者数は400~500人と推定されている.さまざまな年齢で発症するが,発症年齢のピークは40~50代で,性差はないとの報告が多い1〜3).2.原因原因はいまのところ判明していないが,ほかの自己免疫疾患の合併が多いこと,全身性の軟骨組織に対する疾患であること,ステロイドが有効であることより,自己免疫性疾患と考えられている.患者の33%に軟骨中のTypeIIコラーゲンに対する抗体を認め,病勢と相関することが報告されている4).また,軟骨成分matrilin-1に対する免疫応答も認められ,これが自己抗原である可能性も考えられている5).3.臨床症状間欠的,進行性に軟骨の炎症をきたす.炎症は全身のすべての軟骨で起こりうる.過去の報告による臨床症状の出現頻度を示す(表1).a.耳介軟骨炎初発症状は耳介の疼痛,発赤が多い(図1).患者の80~90%にみられる1,2,6).さらには変形をきたし,カリフラワー様になることがある.耳介が崩壊すると外耳道閉塞をきたし,伝音声難聴となることがある.b.非びらん性の炎症性多発関節炎耳介軟骨炎についで多く,40~80%の患者にみられる1,2,6).一時的で自然軽快する,移動性,非破壊性の関節炎である.c.鼻軟骨炎鼻の痛みと圧痛を伴い発症する.鼻出血,鼻閉,鼻汁などを伴う.炎症の遷延・再発により変形をきたし,鞍鼻(あんび)を呈することがある.d.眼病変眼病変は50~65%の患者にみられ1~3,6,7),強膜炎(図2),上強膜炎,結膜炎,ぶどう膜炎が中心であるが(表2),視神経乳頭炎を伴い,重症化することもある.強膜炎の原因疾患としては,関節リウマチ,ANCA関連血管炎などについで多く,強膜炎患者の約2~4%を占める(表3)8~10).再発性多発軟骨炎に伴う強膜炎は,他の自己免疫疾患に伴う強膜炎と比較して,両眼性が多く,壊死性強膜炎を起こしやすく(23%),再発が多く,視力低下をきたしやすい,と報告されている7).e.喉頭・気道病変約50%の患者に気管・気管支軟骨への病変進行がみられる1,2,6).症状は,嗄声,失声,喘鳴,乾性咳嗽,息切れなどである.初期は炎症により気道粘膜が腫脹し,気道狭窄をきたす.その後,線維化により瘢痕化し,進行すると気道軟骨が破壊され,気道が虚脱する(図3).肺炎や気管支炎を繰り返す原因となる.これらの呼吸器合併症は死亡の原因となる2).このため,速やかに気道病変を診断することが重要である.f.前庭・蝸牛機能障害内耳軟骨や聴覚神経,前庭神経を栄養する血管に炎症が起こると,感音性難聴や耳鳴り,めまいをきたす.g.心血管障害心血管障害は気道病変につぐ死亡の原因である.進行性の弁輪の拡張により,大動脈弁閉鎖不全症や僧房弁閉鎖不全症などが起こる.冠動脈の炎症により,心外膜炎,ブロック,心筋梗塞などが起こることもある.h.皮膚病変特有の皮疹はなく,非特異的な皮膚症状を呈する.アフタ性潰瘍,紫斑,丘疹,結節,血栓性静脈炎などを認める.i.神経障害少数ではあるが,中枢神経症状を認めることがある.頭痛,けいれん,脳梗塞,脳出血,脳炎,髄膜炎などが起こる.j.腎臓病変まれだが,生命予後不良な病変である.腎生検でメサンギウム細胞の増殖を認めることが多い.k.全身症状全身倦怠感,発熱,体重減少などの全身症状が発症時や再燃時にみられる.l.関連疾患再発性多発軟骨炎患者の約1/3に他の自己免疫疾患を合併する.全身性血管炎の合併がもっとも多い(13%).II検査所見1.血液検査所見特異的な所見に乏しいが,炎症状態に応じて血沈亢進,CRP上昇がみられる.正球性正色素性貧血を呈することもある.33%が抗TypeIIコラーゲン抗体陽性4),22~66%が抗核抗体陽性,約16%がリウマチ因子陽性,24%でANCA陽性である11).2.画像所見生命予後に直結する気道病変,心血管病変の評価に,画像検査は重要である.胸部CTでは,気管,気管支内腔の狭窄と気道壁の肥厚,ときに気道壁の石灰化(図4)を認める.また,ダイナミックCTによる気管気管支軟化症の所見(呼気時の気道狭窄を認める)が重要である.気管支鏡では狭窄,浮腫,発赤などの所見がみられる.気管支内エコーも有用である.呼吸機能検査は,下気道病変が進行すると異常となり,スクリーニング検査として行う.心血管病変の鑑別のため,定期的に心エコー検査を行う.骨シンチグラフィーでは,炎症軟骨に99mTc-MDPが取り込まれるのが確認できる.3.病理組織学的検査軟骨内に炎症細胞が浸潤し(図5),軟骨細胞は減少し,軟骨は次第に破壊され,基質のグリコサミノグリカンが変性し,弾性線維,膠原線維も変性・断裂する.最終的に破壊された軟骨基質は線維結合組織に置換される.石灰化が観察されることもある.III診断再発性多発軟骨炎に特異的な検査所見はない.臨床所見,補助的な血液検査,画像検査,軟骨病変の生検結果をもとに総合的に診断する.診断基準としては,McAdamらの診断基準(表4)1),Damianiらの診断基準(表5)12)などがある.どちらも臨床所見の有無を中心としたものであるため,生検により軟骨炎を確認することが診断上重要である.IV鑑別疾患眼科的に鑑別が必要な疾患を述べる.強膜炎の鑑別疾患としては,関節リウマチ,Wegener肉芽腫症(granulomatosiswithpolyangitis)などのANCA関連血管炎,Cogan症候群,その他の自己免疫疾患があげられる.なかでも,Wegener肉芽腫症は鼻軟骨炎や鞍鼻をきたすことがあり,鑑別が必要である.MPO-ANCAやPR3-ANCAなどの自己抗体の有無が鑑別のポイントとなるが,再発性多発軟骨炎にもANCA陽性例が存在し,また血管炎の合併例もあるので注意が必要である.Cogan症候群はまれな疾患ではあるが,炎症性眼症状と前庭蝸牛障害を伴い,この点で再発性多発軟骨炎と鑑別が必要である.膠原病内科医,耳鼻科医と連携をとって診断を行うことが重要である.V治療1.内科的治療膠原病内科医と連携して治療にあたる.a.軽症例炎症が軽度で,耳介軟骨,鼻軟骨に限局している場合,関節炎のみの場合は,非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalanti-inflamatorydrugs:NSAIDs)が使われる.効果不十分であれば,少量の経口ステロイドを追加する.b.中等症例炎症が強く,臓器障害がみられる場合や,血管炎合併例では,経口ステロイドを用いる.プレドニゾロン30~60mg/日を初期量として,以後漸減する.減量のスピードが速いと再燃を起こす場合があり,注意が必要である.c.重症例炎症が強く,気道閉塞や重篤な機能障害,生命予後にかかわる場合は,ステロイドパルス療法を行う.d.ステロイド抵抗例ステロイド減量で炎症が再燃する場合やステロイド単剤で効果が不十分な場合には,免疫抑制薬の併用が行われる.また,ステロイド単剤では呼吸器症状の進行は阻止できないため,呼吸器症状がある場合は,早期より免疫抑制薬の使用を検討する6).免疫抑制薬としては,メソトレキセート(リウマトレックス®),シクロスポリン(ネオーラル®),シクロホスファミド(エンドキサン®)などが使われる.近年では,生物学的製剤(TNF阻害薬であるインフリキシマブやアダリムマブ,IL-1受容体拮抗薬であるアナキンラ,T細胞活性化阻害薬であるアバタセプトなど)が有効であったとの報告が増えているが,現在のところ日本では保険適用外である.2.眼局所治療強膜炎に対し,リンデロン点眼を中心とした治療を行う.ステロイドレスポンダーに注意する.前述の内科的治療と並行して行う.3.合併症に対する治療急性の気道閉塞時には緊急気管切開を要する場合がある.気道狭窄や虚脱に際してはステント留置や気管形成術が行われる.心血管病変に対して外科的治療が必要になる場合がある.心臓弁置換術や動脈瘤に対してステントや人工血管形成術が行われる.おわりに再発性多発軟骨炎はまれな疾患であるが,強膜炎,上強膜炎の鑑別疾患の一つとして忘れてはならない.眼科医の立場からも耳介軟骨炎や鼻軟骨炎,関節炎,呼吸器症状,難聴・めまい・耳鳴りなどの問診が重要である.気道病変や心血管病変は生命予後にかかわるため,再発性多発軟骨炎を疑う場合は,速やかに膠原病内科や耳鼻咽喉科にコンサルトが必要である.文献1)McAdamLP,O’HanlanMA,BluestoneRetal:Relapsingpolychondritis:prospectivestudyof23patientsandareviewoftheliterature.Medicine(Baltimore)55:193-215,19762)MichetCJJr,McKennaCH,LuthraHSetal:Relapsingpolychondritis.Survivalandpredictiveroleofearlydiseasemanifestations.AnnInternMed104:74-78,19863)IsaakBL,LiesegangTJ,MichetCJJr:Ocularandsystemicfindingsinrelapsingpolychondritis.Ophthalmology93:681-689,19864)FoidartJM,AbeS,MartinGRetal:AntibodiestotypeIIcollageninrelapsingpolychondritis.NEnglJMed299:1203-1207,19785)HanssonAS,HeinegardD,PietteJCetal:Theoccurrenceofautoantibodiestomatrilin1reflectsatissuespecificresponsetocartilageoftherespiratorytractinpatientswithrelapsingpolychondritis.ArthritisRheum44:2402-2412,20016)OkaH,YamanoY,ShimizuJetal:Alarge-scalesurveyofpatientswithrelapsingpolychondritisinJapan.InflammationandRegeneration34:149-156,20147)Sainz-de-la-MazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:Scleritisassociatedwithrelapsingpolychondritis.BrJOphthalmol,2016〔Epubaheadofprint〕8)SainzdelaMazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:Clinicalcharacteristicsofalargecohortofpatientswithscleritisandepiscleritis.Ophthalmology119:43-50,20129)WieringaWG,WieringaJE,tenDam-vanLoonNHetal:Visualoutcome,treatmentresults,andprognosticfactorsinpatientswithscleritis.Ophthalmology120:379-386,201310)KeinoH,WatanabeT,TakiWetal:ClinicalfeaturesandvisualoutcomesofJapanesepatientswithscleritis.BrJOphthalmol11:1459-1463,201011)PapoT,PietteJC,LeThiHuongDetal:Antineutrophilcytoplasmicantibodiesinpolychondritis.AnnRheumDis52:384-385,199312)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis-reportoftencases.Laryngoscope89:929-946,1979表1臨床所見の頻度McAdamLP,1976年1)(n=159)MichetCJ,1986年2)(n=112)OkaH,2014年6)(n=239)初期(%)全経過(%)初期(%)全経過(%)初期(%)全経過(%)耳介軟骨炎2688.639855778関節炎2381.136526.239鼻軟骨炎1372.424542.139眼病変1465.419519.246喉頭・気道病変1455.926481750蝸牛障害645.99303.827前庭障害413心血管障害─23.906─7.1皮膚病変─16.5728─13神経系────2.99.6腎障害─────6.7図1右耳介に生じた耳介軟骨炎耳介上部から中部にかけて発赤と腫脹を認める.図2再発性多発軟骨炎によるびまん性強膜炎強膜充血を全周性に認める.表2眼症状の頻度IsaakBL,1986年3)(n=112)OkaH,2014年6)(n=239)初期(%)全経過(%)全経過(%)強膜炎5.412.526上強膜炎13.434.8結膜炎─14.315ぶどう膜炎0.98.011視神経炎0.94.5─表3強膜炎の原因疾患Sainz-de-la-MazaM,2012年8)(n=500)WieringaWG,2013年9)(n=104)KeinoH,2010年10)(n=83)1位関節リウマチ(6.4%)関節リウマチ(13.5%)関節リウマチ(9.6%)2位HLA-B27関連ぶどう膜炎(4.8%)Wegener肉芽腫症(6.7%)再発性多発軟骨炎自己免疫性甲状腺炎(3.6%)3位Wegener肉芽腫症(2.8%)炎症性腸疾患(2.9%)強直性脊椎炎SLEWegener肉芽腫症ANCA関連血管炎(1.2%)4位再発性多発軟骨炎炎症性腸疾患に伴う関節炎(2.2%)再発性多発軟骨炎Behçet病(1.9%)図3再発性多発軟骨炎患者の胸部CT像(呼気時)左主気管支がピンホール状に狭窄している(→).図4再発性多発軟骨炎患者の胸部CT像気管壁に石灰化を認める().表4McAdamらの診断基準(1976年)1)1.両側性耳介軟骨炎2.非びらん性,血清陰性,炎症性多関節炎3.鼻軟骨炎4.眼炎症5.気道軟骨炎6.蝸牛あるいは前庭機能障害6項目のうち3項目以上が陽性.図5病理組織像(気管軟骨)軟骨周囲の炎症細胞浸潤と周囲の結合組織の増生を認める.図4再発性多発軟骨炎患者の胸部CT像気管壁に石灰化を認める().表4McAdamらの診断基準(1976年)1)1.両側性耳介軟骨炎2.非びらん性,血清陰性,炎症性多関節炎3.鼻軟骨炎4.眼炎症5.気道軟骨炎6.蝸牛あるいは前庭機能障害6項目のうち3項目以上が陽性.表5Damianiらの診断基準(1979年)12)1.McAdamらの診断基準で3項目以上が陽性2.McAdamらの診断基準で1項目以上が陽性で,確定的な病理組織所見3.軟骨炎が解剖学的に離れた2カ所以上で認められ,ステロイド/ダブソン治療に反応して改善する場合*RieTanaka&*ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕田中理恵:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(15)941942あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(16)(17)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016943944あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(18)(19)あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016945946あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(20)