特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1569.1575,2014特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1569.1575,2014カラーコンタクトレンズが抱えている問題ProblemsAssociatedwithColoredContactLenses植田喜一*はじめにカラーコンタクトレンズ(カラーCL)は当初,整容を目的として開発されて医学的に有用なものと考えられたが,美容(おしゃれ)を目的としたものが市場に出回るようになった.特に近視・遠視・乱視などの屈折異常の矯正を目的としない非視力補正用(度なし)の未承認カラーCLが若い女性を中心に広がり始めた.透明なCLであろうとカラーCLであろうと非視力補正用(度なし)CLは,以前は雑貨品として捉えられ,経済産業省の管轄であったが,平成21年(2009年)2月4日の「薬事法施行令の一部を改正する政令」で,非視力補正用(度なし)CLは高度医療管理機器に指定されたので,おしゃれを目的とした度なしカラーCLも薬事法で規制されることになった.移行措置後の平成23年2月4日以降は,厚生労働省に承認されたCLのみ販売が許可されることになり,現在では数多くの製品が承認を受けている1.3).この政令によってカラーCLの眼障害は激減するものと期待したが,現実には10代,20代の若い女性を中心としたおしゃれ用カラーCLの使用を希望する者が急増し,眼障害は増加している.日本コンタクトレンズ学会は2012年7月1日.9月30日の3カ月間にカラーCLによる眼障害調査を行って395例の報告があったが,そのおもな原因として使用者のコンプライアンス不良とカラーCL自体の問題が挙げられた4).使用者のコンプライアンスについては,眼科医による処方や定期検査を受けていない,使用方法やレンズケアが不適であるなどが,一方,カラーCL自体については,素材の低酸素透過性,フィッティング不良,着色方法などが問題視された.2013年3月7日に記者発表を行ってこれらの内容を報告した.日本コンタクトレンズ学会は日本眼科医会,国民生活センターとの共同研究でカラーCLの品質,カラーCLの眼への影響,カラーCL使用者の実態について調べた.その内容は2014年5月22日に発表されたが,カラーCLの素材,規格(サイズ,ベースカーブ,厚み)や着色状態が角結膜に影響を及ぼしている可能性があることに加えて,眼障害をきたしていないカラーCL使用者においてもコンプライアンスが悪いことが明らかになった5).さらに,2014年9月18日に日本眼科医会と日本眼科学会も国民に対する啓発を目的として「カラコンで若者の眼が危ない.不適切な使用は重大な障害が生じるおそれが.」という記者発表を行った.こうした発表によって社会的にもカラーCLについての関心が高まっている.そこで,カラーCLが抱えている問題を概説する.IカラーCL自体の問題カラーCLに関連する問題を述べるにあたって,①視力補正用(度あり)CLと非視力補正用(度なし)CL,②承認されたCLと未承認CL,③透明なCLとカラーCLのそれぞれの違いを明確にする必要がある1.3).*KiichiUeda:ウエダ眼科〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(3)1569表1カラーCLの種類例.アルファコーポレーション(テクノメディカル、メリーサイトが承継)371商品目(55承認)医療機器センターホームページ2010年10月5日~2014年6月12日単回使用非視力補正用色付CL承認番号16桁(一連番号とサブ番号)新承認番号は、承認した年、厚生大臣承認か知事承認かの別、承認の種類(国産か輸入かの別)、当該年における承認一連番号、およびサブ番号の組み合わせとする。例20900BZZ01234000年大臣種類一連番号サブ番号承認番号商品目22200BZX00842000ワンデーアイ22200BZX00842A01ミセマスカラー22200BZX00842A02コイワナワンデー22200BZX00842A03ハニートラップワンデー22200BZX00842A04ビーハートビーワンデー22200BZX00842A05ベビークイーンワンデー22200BZX00842A06トゥインクルビーワンデー22200BZX00842A07ガンリキクイーンワン22200BZX00842A08トゥインクルカラーワンデー22200BZX00842A09フラッシュレーベル1製品の状況が把握しにくい100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%090%80%70%60%50%40%30%20%10%0%108641No.23579161514121117常用レンズ1日使い捨て2週間交換1カ月交換2週間~1年図1カラーCLによる眼障害(文献5より引用)銘柄番号に○:SCL分類が「グループI」で,着色部分がまぶた側.銘柄番号に◎:SCL分類が「グループI」で,着色部分が角膜側.一方,カラーCLにはシリコーンハイドロゲル素材はまだ使用されていない.このようにSCLの素材の開発は,酸素の透過性を高めるということが重要なポイントであった.現在,透明なSCLについては低含水性のHEMA素材のものはほとんど処方されなくなったが,カラーCLではこの素材が主流を占めているので,時代に逆行しているといって表2SCLの酸素透過率(HoldenandMertz,1984)終日装用角膜浮腫を生じない24.1連続装用睡眠中に生じた角膜浮腫が開瞼後ただちに消失する34.3裸眼の8時間睡眠後と同じレベルの角膜浮腫になる(4.0%)87.0Dk/L:×10.9(cm2/sec)・(mLO2/mL×mmHg)も過言ではない.HEMA素材は着色しやすいことに加えて,安価であるため台湾や韓国で多くの銘柄が製造されている.さらに,カラーCLは色素を混入させるので,厚みが増すことがあるという問題もある.角膜への酸素供給量は主としてSCLの酸素透過係数(Dk)と厚み(L)によって決定される.酸素透過係数の値が高いほど,厚みが薄いほど角膜への酸素供給量は高まるので,従来のHEMAを主体としたSCLの酸素透過率(Dk/L)を高くするためにはいかに含水率を高くするか,いかに薄くするかということが目標であった.酸素不足を生じないためにはSCLがどのくらい酸素を透過しなければならないという目安としては,終日装用では酸素透過率が少なくとも24.1以上が必要だと考えられている6)(表2).国民生活センターが提示した17銘柄のうち,この24.1以上を満たしていないものが多い表3カラーCLの性状区分No.分類構成モノマー含水率(%)Dk値中心厚(mm)Dk/L製造元所在国1IHEMA,EGDMA38.6未公表表示なし未公表台湾2IHEMA,EGDMA38.69.50.0910.6台湾3I2-HEMA,EGDMA38120.0524.0台湾1日4IV2-HEMAおよびMAA58280.0833.3米国アイルランド使い捨て5IHEMA,EGDMA388.0表示なし未公表台湾6II改良ポリビニルアルコール69.4260.126ドイツ,米国シンガポール7I2-HEMA,MAA,EGDMA38未公表0.06(度数の指定なし)未公表台湾8II2-HEMA,NVP59220.0924.4アイルランド2週間9IHEMA,EGDMA38.6未公表表示なし未公表台湾交換10IV2-HEMAおよびMAA58280.0833.3アイルランド11I2-HEMA,EGDMA38.5未公表表示なし未公表韓国1カ月交換12IHEMA(2-HEMA),EGDMA38未公表表示なし未公表韓国14I2-HEMA,EGDMA38.5未公表0.05.0.12(度数の指定なし)未公表韓国15IHEMA,EGDMA38未公表0.07.0.14(度数の指定なし)未公表韓国16I2-HEMAおよびEGDMA388.0表示なし未公表韓国2週間.1年交換17I2-HEMA(HEMA),EGDMA(EDMA)38.5未公表表示なし未公表台湾HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート.EGDMA:エチレングリコールジメタクリラート.MAA:メタクリル酸.NVP:N-ビニルピロリドン.酸素透過係数(Dk):×10.11(cm2/sec)・(mLO2/mL×mmHg)酸素透過率(Dk/L):×10.9(cm2/sec)・(mLO2/mL×mmHg)1572あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(6)①着色部分がレンズ最表面に確認された銘柄の例表面断面②着色部分がレンズ最表面に確認されなかった銘柄の例表面断面図2カラーCLの表面の電子顕微鏡写真(文献5より引用)1574あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(8)ターネット・通信販売・雑貨店で購入,カラーCLを使用しているという者が,定期検査を受けていないことがわかった6).国民生活センターが10代,20代を対象に行ったカラーCL使用者のアンケート調査でも,入手・購入先はインターネット,通信販売が39.2%と最も多く,特に10代では45.6%を占めていた.カラーCLを購入する際,眼科を受診したことがないが43.5%(10代では52.6%)だった.カラーCL使用者の23.7%が最近の1年間に眼の調子が悪くなったことがあると回答したが,そのうちの49.4%が眼科を受診していなかった.この他にも決められた期間内にカラーCLを交換しない(必ず決められた期間に交換するが52.5%),夜寝るときにカラーCLをはずさないで寝てしまうことがある,友人・家族などから使用済のレンズをもらっている(借りている),透明なSCLとカラーCLを2枚重ねしているなどの誤った使用をしている者もいた.カラーCLをきちんとこすり洗いしない(使用するたびにこすり洗いしているが47.0%),消毒しない(使用するたびに消毒しているが62.7%),レンズケースを定期的に交換しないなどの誤ったケアをしている人も多数いた5).このようにカラーCLの使用者はコンプライアンスが悪いことから,いつ眼障害が起こってもおかしくない状況である.III行政への対応透明なCLであろうとカラーCLであろうと,薬事法下にある高度管理医療機器のCLが眼科医による検査や指導を受けずに購入できることは問題である1.3).眼科を受診すれば,カラーCLのメリット・デメリットの説明,カラーCLの取り扱いやレンズケアの説明,定期検査の必要性についての説明を受けることができる.安全なCLを選択してもらって,フィッティングをチェックしてもらえるので,眼科への受診は必須といえる.しかしながら,インターネットの広告を見ると,CLの購入にあたっては処方せん不要とうたっているものがあるので,CLの購入にあたっては眼科医の処方に基づくという行政の指導が求められる.インターネット販売や通信販売ではなく,対面販売を義務付けるよう厚生労働省に要望しても,規制緩和の流れのなか,実現するのは困難じるといった内容や透明SCLに比してカラーCLでは細菌が付着しやすいなど,カラーCLの色素に関する多くの発表があった.IIカラーCL使用者のコンプライアンス日本コンタクトレンズ学会が2012年7月.9月に実施したカラーCLの眼障害調査では,15.19歳の若い年代(10代の未成年)の比率が40.5%と高く,インターネット・通信販売,雑貨店,大型ディスカウントショップでの購入が81.0%で,それと関連して80.5%の患者が購入の際に眼科を受診していないということが報告された4).素材が確認された127例のうちFDA(米国食品医薬品局)のグループI(低含水率・非イオン性)が97例と低含水率のレンズが多く,度ありカラーCLを使用している人が41.0%,度なしカラーCLが43.3%と,単におしゃれを目的とした度なしカラーCLを使用している人が多いこともわかった4).CLによる眼障害を生じた患者はコンプライアンス不良だが,カラーCLによる眼障害を生じた患者はさらに悪く,高度管理医療機器として認識していない,眼科医による処方・定期検査をほとんど受けていない,使用期限・装用期間・取り扱い・レンズケアについて不適切である,といったことも明らかになった.日本眼科医会が2013年の11月に行ったCLによる眼障害調査によると,CLの種類別ではSCLが87%で,その内訳は1日使い捨てSCLが16.4%,2週間交換SCLが43.1%,度ありカラーCLが13.7%,度なしカラーCLが5.0%であった.度ありと度なしを加えると18.7%と以前に比べ増加していた.眼科医の処方を受けなかったが16.1%で,2010年は8.5%,2011年は13.1%,2012年は14.0%と増加していた.インターネット販売で購入したが14.2%で,2010年は7.3%,2011年は11.9%,2012年は12.7%と増加していた.定期検査を受けなかったが33.6%で,2010年は29.0%,2011年は29.1%,2012年は37.3%で,昨年ほど高くはなかったが,以前に比べると増加傾向にあった.定期検査を受けている群と受けていない群で層別集計を行って,両群の眼障害の割合について他の項目と比較検討したところ,10代,女性,眼科医の処方を受けていない,インあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141575(9)な状況であるが,眼科による処方せんに基づいてCLを販売するという内容の法律が発出されることを望む.厚生労働省は,近年のおしゃれ用カラーCLの一般化,インターネット販売をはじめとする販売方法の多様化に鑑み,局長通知「CLの販売時における取扱いについて」(平成24年7月18日)を発出し,販売時に使用者に適切な情報を提供などが行われるよう,関係者に依頼した.その後,CL販売の取扱いについての再通知(平成24年7月18日)を発出した.「販売時に購入者に対し,医療機関への受診状況を確認し,受診した医療機関の名称を記録・保存すること,販売時に,購入者が医療機関を受診していない場合は,CLによる健康被害などについての情報を提供し,医療機関を受診するよう推奨すること」とあり,販売店にCLの購入を求めた者に対して,医療機関を受診するよう勧めることを促している.また「購入者より眼障害の相談があった場合は,必要に応じ,購入前に受診した医療機関に対し,発生した健康被害の内容等に係る情報を提供するよう努めること」とあり,トラブルが生じた場合には医療機関に情報を提供することも促しているが,国民生活センターが公表したアンケート調査の結果では,カラーCLを購入する際に眼科を受診したことがない者が半数近くいたことに加えて,販売店で眼科を受診しているかの確認がなかったことや,眼科の受診を勧められなかったという回答が少なからずあった5)ことから,この通知の内容が努力目標ではなく実行されることを望む.おわりにカラーCLが透明なCLに比して,短時間の装用で眼障害を起こしやすい傾向があり,この原因としてカラーCLの素材や規格(サイズ,ベースカーブ,厚み)や着色方法が関係している可能性があることから,メーカーに対してこれらを変更するなどして安全性の高い製品の開発を求めたい5).さらに,眼科医がカラーCLを処方しやすいように,各製品の詳しい情報とトライアルレンズの提供も求めたい.一方,行政に対してはカラーCLの承認基準が現行でよいかを見直す必要があるので対応を望む3).厚生労働省は,国民生活センターの発表5)を受けて,「CLの適用使用に関する情報提供等の徹底について(再周知)」(平成26年10月10日)を発出した.この通知には,「未成年者を中心にまだ十分な情報提供が行われているとは言い難い状況にあるとの国民生活センター通知を踏まえ,特に未成年者へのカラーコンタクトレンズの販売の際は,適正な使用方法について十分な説明を行うとともに,購入時における医療機関への受診勧奨を徹底すること等の注意喚起をお願いいたします.」とある.カラーCL使用者の多くは10代,20代だが,こうした若い人達への啓発をどうするかが問題である.マスコミから多くの情報を広く流してもらうことを期待して,日本眼科医会,日本眼科学会,日本コンタクトレンズ学会も記者発表を行っているが,テレビや新聞,雑誌をあまり見ない人達に正しい情報が伝わりにくいので,家庭では家族から,学校では養護教諭などから話をしてもらうことも重要で,校医をしている眼科医の積極的な活動を期待する.文献1)渡邉潔,植田喜一,宇津見義一ほか:未承認のカラーコンタクトレンズ.日コレ誌54:7-22,20122)植田喜一:カラーコンタクトレンズの功罪.眼科56:369-378,20143)植田喜一:カラーコンタクトレンズに関する行政的側面.日本の眼科85:5-10,20144)渡邉潔,植田喜一,佐渡一成ほか:カラーコンタクトレンズ装用にかかわる眼障害調査報告.日コレ誌56:1-10,20145)国民生活センター:カラーコンタクトレンズの安全性─カラコンの使用で目に障害も.─http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20140522_1.html#gyokai201408086)コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成25年度).日本の眼科84:173-183,2014