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ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1147.1151,2012cウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果中嶋英雄浦島博樹竹治康広篠原久司大塚製薬株式会社赤穂研究所TherapeuticEffectofRebamipideOphthalmicSuspensiononCornealandConjunctivalDamageinMucin-removedRabbitEyeModelHideoNakashima,HirokiUrashima,YasuhiroTakejiandHisashiShinoharaAkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.ウサギの眼表面ムチン被覆障害モデルにおける眼表面の障害に対するレバミピド点眼液の効果について検討した.本モデルに1%レバミピド点眼液または基剤を1日6回,2週間点眼した後,電子顕微鏡により角結膜表面微細構造を観察するとともに,コムギ胚芽レクチンを用いた酵素免疫法で角結膜のムチン様糖蛋白質を定量した.また,ドライアイ観察装置を用いて涙液安定性についても評価した.レバミピド点眼液は角結膜表面の微絨毛/微ひだを修復し,また,角結膜のムチン様糖蛋白質を有意に回復させた.さらに,涙液層におけるドライスポットの出現を抑制したことから,涙液安定性の改善が示唆された.レバミピド点眼液は角結膜表面の微細構造の修復作用と角結膜ムチンの増加作用により,涙液層を安定化させたと考えられた.Thisstudyinvestigatedtheeffectofrebamipideophthalmicsuspensiononcornealandconjunctivaldamageinthemucin-removedrabbiteyemodel.Rebamipideophthalmicsuspension(1%)orvehicleonlywastopicallyappliedtothesubjecteyes6timesdailyfor2weeks.Thefinestructureofthecornealandconjunctivalsurfacewasexaminedusingtransmissionandscanningelectronmicroscopy.Cornealandconjunctivalmucinsweremeasuredbyenzyme-linkedlectinassaywithwheatgermagglutinin.Tearfilmstabilitywasevaluatedusinganophthalmoscopefordryeye.Rebamipideophthalmicsuspensionstimulatedrecoveryofmicrovilli/microplicaeonthecornealandconjunctivalsurfaceandsignificantlyincreasedcornealandconjunctivalmucinsinmucin-removedrabbiteyes.Inaddition,rebamipideophthalmicsuspensionsuppressedtheappearanceofdryspots,whichsuggestsimprovedtearfilmstability.Theseresultssuggestthatrebamipideophthalmicsuspensionincreasescornealandconjunctivalmucinsandinducesrecoveryofthefinestructureoftheocularsurface,therebyimprovingtearfilmstability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1147.1151,2012〕Keywords:レバミピド,ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデル,N-アセチルシステイン,微絨毛/微ひだ,ムチン様糖蛋白質,涙液安定性.rebamipide,mucin-removedrabbiteyemodel,N-acetylcysteine,microvilli/microplicae,mucinlikeglycoprotein,tearfilmstability.はじめにドライアイはさまざまな要因による涙液および眼表面上皮における慢性疾患である.その病態の成立には涙液と角結膜上皮の悪循環,およびその悪循環をひき起こすリスクファクターが関与し,その結果として生じる涙液安定性の低下はドライアイのコアメカニズムの一つであると捉えられている1).涙液は油層と水/ムチン層からなり,眼表面のムチンは角結膜表面の親水性を高め,角膜表面での安定な涙液層の形成に寄与するとされる.ドライアイでは涙液および眼表面のムチンが減少すると報告されており2,3),ドライアイの治療において眼表面のムチンを増加させることの重要性が指摘されている.角結膜表面に発達している微絨毛/微ひだはその先端〔別刷請求先〕中嶋英雄:〒678-0207兵庫県赤穂市西浜北町1122-73大塚製薬株式会社赤穂研究所Reprintrequests:HideoNakashima,AkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,1122-73Nishihamakita-cho,Ako-shi,Hyogo678-0207,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(121)1147 に膜結合型ムチンが局在するとされ4),ドライアイにおいては微絨毛/微ひだが減少・不整化していること5.7)や,微絨毛/微ひだの減少に依存して涙液安定性が低下することが報告されている8).新規ドライアイ治療薬であるレバミピド点眼液は,N-アセチルシステインを点眼することにより眼表面のムチンを除去したウサギ(眼表面ムチン被覆障害モデル)の角結膜においてムチン様物質を増加させ,ローズベンガル染色スコアを改善させることがこれまでに報告されている9).今回,ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの角結膜表面微細構造,角結膜のムチン様糖蛋白質および涙液安定性について検討するとともに,レバミピド点眼液の効果について検討した.I実験方法1.眼表面ムチン被覆障害モデルの作製およびレバミピド点眼液の投与雌性NZW(NewZealandWhite)ウサギ(北山ラベス)に,10%N-アセチルシステイン溶液(和光純薬,溶媒:生理食塩液)を1日6回点眼し,眼表面ムチン被覆障害モデルを作製した.N-アセチルシステイン処置翌日より1%レバミピド点眼液または基剤を1回50μL,1日6回,両眼に2週間点眼した.なお,本研究は「大塚製薬株式会社動物実験指針」を遵守して実施した.2.角結膜表面微細構造の観察はじめに,N-アセチルシステイン処置後,非点眼で3日,1週間および2週間経過後の角膜表面微細構造について検討し,つぎに,N-アセチルシステイン処置翌日から,レバミピド点眼液または基剤を2週間点眼した後の角膜および結膜表面の微細構造について検討した.ペントバルビタールナトリウム注射液(共立製薬)の静脈内投与によりウサギを安楽殺し,中央部角膜および上部球結膜を採取した.2%パラフォルムアルデヒドと2%グルタルアルデヒドの混合液に続いて2%四酸化オスミウムにより固定した後,樹脂包埋し,超薄切片を作製した.酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛による二重染色とカーボン蒸着を行った後,透過型電子顕微鏡(TEM;JEM-1200EX,日本電子)で観察した.また,同様に固定した角膜に,真空乾燥,オスミウムコーティングを施し,走査型電子顕微鏡(SEM;S-800S,日立)で観察した.3.角結膜におけるムチン様糖蛋白質の測定角膜上皮細胞は機械的.離により,上部球結膜組織は直径10mmに打ち抜き採取した.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)/10%Dulbecco’sPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液に30℃で一昼夜インキュベートして可溶化した後,カラム(SepharoseCL-4B,Bio-Lad)を用いてゲル濾過し,ボイドボリュームに溶出した高分子蛋白質を含む溶液をムチン様糖蛋白質サンプルとした.サンプルまたは検量線用のウシ顎下1148あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012腺ムチン(和光純薬)を96穴マイクロプレートに入れ,一晩乾燥させて固相化した.ペルオキシダーゼ標識コムギ胚芽レクチン(ホーネンコーポレーション)と37℃で1時間,続いてo-dianisidine(Sigma)と37℃で1時間反応させた後,マイクロプレートリーダー(MolecularDevices)にて405nmの吸光度を測定した.4.涙液安定性の評価N-アセチルシステイン処置後点眼開始前および2週間後にドライアイ観察装置DR-1R(興和)を用いて涙液層におけるドライスポットの出現を評価した.ウサギに強制瞬目を3回施した後,角膜中央部表面をDR-1Rで観察し,倍率12倍で写真撮影した.5.統計解析角膜および結膜のムチン様糖蛋白質に関してSAS(SASInstituteJapan)を用いて5%を有意水準として解析した.正常眼とN-アセチルシステイン処置眼(基剤),およびNアセチルシステイン処置眼の基剤と1%レバミピド点眼液について対応のないt検定(両側)を実施した.II結果1.角結膜表面の微絨毛.微ひだに対する作用正常眼の角膜表面は多くの微絨毛/微ひだを有していたのに対し,N-アセチルシステイン処置3日後では微絨毛/微ひだが消失し,1週間および2週間後においても微絨毛/微ひだの再形成は認められなかった(図1).N-アセチルシステイン処置後に1%レバミピド点眼液または基剤を2週間投与した角膜表面をTEMで観察したところ,1%レバミピド点眼液群では基剤群と比較して多くの微絨毛/微ひだが認められた(図2a,b).また,SEMによる観察においても,1%レバミピド点眼液群の角膜表面には基剤群と比較して微絨毛/微ひだが密に認められた(図2c,d).結膜に関しても,1%レバミピド点眼液群は基剤群と比較して発達した微絨毛/微ひだが認められた(図3).2.角結膜におけるムチン様糖蛋白質に対する作用レバミピド点眼液の角膜におけるムチン様糖蛋白質に対する作用を検討した結果を図4aに示す.N-アセチルシステイン処置2週間後の角膜ムチン様糖蛋白質は正常眼と比較して有意に低値を示したのに対し(p<0.01),1%レバミピド点眼液は減少した角膜ムチン様糖蛋白質を有意に増加させた(p<0.01).結膜に対する結果を図4bに示す.角膜同様,N-アセチルシステイン処置により結膜ムチン様糖蛋白質は有意に減少し(p<0.01),1%レバミピド点眼液は減少した結膜ムチン様糖蛋白質を有意に増加させた(p<0.01).3.涙液安定性に対する作用正常眼では均一な涙液層が広がっていた(図5a)のに対し,N-アセチルシステイン処置翌日からドライスポットが(122) ..μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ..図3N.アセチルシステイン処置による結膜表面微細構造の障害に対する1%レバミピド点眼液の効果a:正常,b:基剤投与2週間後,c:1%レバミピド点眼液投与2週間後.図1N.アセチルシステイン処置による角膜表面微細構造の変化a:正常,b:処置3日後,c:同1週間後,d:同2週間後...μ….μ….μ….μ..図2N.アセチルシステイン処置による角膜表面微細構造の障害に対する1%レバミピド点眼液の効果a,c:基剤投与2週間後(a:TEM像,c:SEM像).b,d:1%レバミピド点眼液投与2週間後(b:TEM像,d:SEM像).(123)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121149 4,000**##4,0003,0003,000**##ムチン様糖蛋白質量(ng)ムチン様糖蛋白質量(ng)2,0002,0001,0001,00000正常基剤1%レバミピド点眼液N-アセチルシステイン処置図4角膜および結膜のムチン様糖蛋白質量に対する1%レバミピド点眼液の作用a:角膜,b:結膜.各値は10例の平均値±標準誤差を示す.**p<0.01,##p<0.01,対応のないt検定(両側).正常基剤1%レバミピド点眼液N-アセチルシステイン処置図5N.アセチルシステイン処置後の涙液安定性に対する1%レバミピド点眼液の効果a:正常,b:N-アセチルシステイン処置翌日(薬剤投与前)c:基剤投与2週間後,d:1%レバミピド点眼液投与2週間後図中の矢印はドライスポットを示す..(,)出現し,涙液安定性の低下が示唆された(図5b).1%レバミピド点眼液群で観察されたドライスポットは基剤群と比較して軽微であり(図5c,d),レバミピド点眼液による涙液層の安定化が示唆された.III考按ドライアイでは涙液と角結膜上皮の悪循環が生じており,特に,眼表面ムチンの減少や角結膜表面微細構造の障害により生じる涙液安定性の低下はドライアイの発症・増悪におけるコアメカニズムの一つであると考えられている1).実際に,ムチン溶液を点眼することにより角膜上皮障害が改善されることがドライアイ患者10)やモデル動物11)で報告されている.また,結膜上皮の微絨毛/微ひだ構造の不整化がSjogren症候群6)や移植片対宿主病7)によるドライアイ,非Sjogren症候群のドライアイ患者5,8)において報告されている.今回,ウサギの眼表面ムチン被覆障害モデルにおいて,角結膜表面の微絨毛/微ひだの消失,角膜および結膜におけるムチン様糖蛋白質の減少および涙液安定性の低下が認められたことから,本モデルはドライアイの特徴を有するモデルであることが示唆された.さらに,本モデルに対するレバミピド点眼液の作用を検討したところ,レバミピド点眼液は角結膜表面の微絨毛/微ひだを修復させることが明らかとなった.また,ムチンが高分子であることを考慮してゲル濾過により高分子の蛋白質のみを抽出し,ムチン特有の糖鎖と結合することが知られているレクチンを用いてムチン様物質を定量した結果,レバミピド点眼液は角膜および結膜のムチン様糖蛋白質を増加させることが明らかとなり,眼表面のムチンを増加させる作用が示唆された.さらに,レバミピド点眼液は涙液安定性の指標となるドライスポットの出現を抑制したことから,涙液層を安定化させる作用をもつことが示唆された.以上のことから,レバミピド点眼液はドライアイ患者においても角結膜表面の微細構造を修復するとともに,眼表面にムチンを供給することで角結膜上皮表面の親水性を高め,安定な涙液層を形成させることが予想され,臨床の場においてもドライアイ治療薬として有用であると考えられた.1150あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(124) 文献1)横井則彦:ドライアイ.あたらしい眼科25:291-296,20082)NakamuraY,YokoiN,TokushigeHetal:Sialicacidinhumantearfluiddecreasesindryeye.JpnJOphthalmol48:519-523,20043)CorralesRM,NarayananS,FernandezI:Ocularmucingeneexpressionlevelsasbiomarkersforthediagnosisofdryeyesyndrome.InvestOphthalmolVisSci52:83638369,20114)GipsonIK:Distributionofmucinsattheocularsurface.ExpEyeRes783:79-88,20045)RivasL,ToledanoA,AlvarezMIetal:Ultrastructuralstudyoftheconjunctivainpatientswithkeratoconjunctivitissiccanotassociatedwithsystemicdisorders.EurJOphthalmol8:131-136,19986)KoufakisDI,KarabatsasCH,SakkasLIetal:ConjunctivalsurfacechangesinpatientswithSjogren’ssyndrome:atransmissionelectronmicroscopystudy.InvestOphthalmolVisSci47:541-544,20067)TatematsuY,OgawaY,ShimmuraSetal:MucosalmicrovilliindryeyepatientswithchronicGVHD.BoneMarrowTransplant47:416-425,20128)CennamoGL,DelPreteA,ForteRetal:Impressioncytologywithscanningelectronmicroscopy:anewmethodinthestudyofconjunctivalmicrovilli.Eye(Lond)22:138-143,20089)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,200410)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,200211)ShigemitsuT,ShimizuY,MajimaY:Effectsofmucinophthalmicsolutiononepithelialwoundhealinginrabbitcornea.OphthalmicRes29:61-66,1996***(125)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121151

正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1141.1145,2012c正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果阪元明日香七條優子山下直子中村雅胤参天製薬株式会社眼科研究開発センターCombinedEffectofDiquafosolTetrasodiumandPurifiedSodiumHyaluronateOphthalmicSolutionsonTearFluidVolumeinNormalRabbitsAsukaSakamoto,YukoTakaoka-Shichijo,NaokoYamashitaandMasatsuguNakamuraOphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響について,涙液メニスカス面積値を指標に評価した.涙液メニスカス面積測定法では,眼表面へのフルオレセイン溶液添加量に比例して,涙液メニスカス面積値は増加した.0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の点眼2および5分後において,シルメル試験紙を用いて涙液貯留量を1分間測定した場合(局所麻酔下測定),Schirmer値の増加が認められなかったが,涙液メニスカス面積測定法では,涙液メニスカス面積値が人工涙液点眼に比して有意に増加した.また,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用群の涙液メニスカス面積値は,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液単独群あるいは3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液との併用群に比して有意に高値を示した.さらに3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液を先に点眼したほうが0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を先に点眼するよりも涙液メニスカス面積値は高値を示したが,2剤目点眼30分後においてはどちらも同程度であった.以上の結果より,涙液メニスカス面積測定法において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用により涙液貯留量の持続的増加作用が認められた.Thisstudyevaluatedthecombinedeffectofdiquafosoltetrasodiumandpurifiedsodiumhyaluronateophthalmicsolutionsontearfluidvolumeinnormalrabbits,usingthetearmeniscusarea.Thevolumeofexternalfluoresceininstilledtotheocularsurfacewascorrelatedwiththetearmeniscusarea.Theefficacyof0.1%sodiumhyaluronatecouldnotbedetectedbytheSchirmermeasuringstripfor1min,butthetearmeniscusareaof0.1%sodiumhyaluronatewasgreaterthanthatofartificialtearsat2and5minafterinstillation.Thecombinedeffectof3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiummonotherapyorcombinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumandartificialtearsat5and30minafterasecondinstillation.Furthermore,thecombinedefficacyof0.1%sodiumhyaluronateafter3%diquafosoltetrasodiuminstillationonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiumafter0.1%sodiumhyaluronateinstillation.However,bothwerealmostequalintearmeniscusareaat30minaftersecondinstillation.Combinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateseemstocauseretentionofmoretearfluidontheocularsurface,andforalongertime,than3%diquafosoltetrasodiummonotherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1141.1145,2012〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,精製ヒアルロン酸ナトリウム,涙液貯留量,涙液メニスカス面積,正常ウサギ.diquafosoltetrasodium,purifiedsodiumhyaluronate,tearfluidvolume,tearmeniscusarea,normalrabbits.〔別刷請求先〕阪元明日香:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社眼科研究開発センターReprintrequests:AsukaSakamoto,OphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma-shi,Nara630-0101,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)1141 はじめにドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層(油層・水層およびムチン層)構造が崩れ,各涙液層の役割が正常に機能せず,異常をきたしている.したがって,その治療には,眼表面における涙液を質的・量的に正常化させることが望まれる1,2).現在,国内でドライアイ治療に使用されている薬剤には,ジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液がある.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に結合し,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,水分およびムチンの分泌促進作用を示す3,4).一方,精製ヒアルロン酸ナトリウムは,数十万からなる高分子多糖類であり,その分子内に水分を保持できる特性をもつことにより保水作用を示す5).両剤はともに,眼表面の涙液貯留量を増大させる作用を示すものの,それらの作用機序が異なるため,ドライアイ治療において,両剤の併用による効果(相加あるいは相乗作用)が期待できる.涙液の貯留量を測定する方法として,臨床では綿糸法が古くから汎用されている.綿糸法は,簡便な方法で被験者の負担が軽度ではあるものの,微量の涙液の変化も測定値に反映される難点がある.またSchirmerテストは,おもに涙液分泌量を測定する方法であり,その侵襲性と涙液の質,特に粘稠性により値が左右される懸念がある.近年では,涙液メニスカス高をフルオレセイン溶液を用いて観察する方法6,7),メニスコメトリーによる涙液メニスカス曲率半径の測定8),あるいは最近では,opticalcoherencetomographyシステムによるメニスカス面積の測定9)などが開発されている.これらはより侵襲性が低く,涙液の質に影響されない測定方法として確立されている.動物実験においても,Murakamiら10)は,正常ネコのメニスカス面積の測定を実施し,ジクアホソルナトリウムの涙液貯留量の増加作用を報告している.本研究では,正常ウサギでの涙液メニスカス面積値を測定する新たな方法を確立し,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響を検討した.I実験方法1.点眼液3%ジクアホソルナトリウム(3%ジクアホソル)点眼液として,ジクアスR点眼液3%(参天製薬),0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(0.1%ヒアルロン酸)点眼液として,ヒアレインR点眼液0.1%(参天製薬),人工涙液として,ソフトサンティア(参天製薬)を用いた.2.実験動物雄性日本白色ウサギは北山ラベスより購入し,1週間馴化飼育した後,65匹を試験に使用した.本研究は,「動物実験1142あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.涙液メニスカス面積測定法ウサギの下眼瞼涙液メニスカス上に生理食塩水に溶解した0.1%フルオレセイン溶液3μLを添加し,マクロレンズ(AFMICRONIKKOR105mm,ニコン)を接続したデジタルカメラ(FUJIXDS-560,富士フィルム)にブルーフィルター(BPB45,富士フィルム)を付けて,涙液メニスカスを含む眼の全体像を正面から撮影した.得られた画像から画像解析ソフト(WinROOF,三谷商事)を用いて涙液メニスカスの面積を算出した.ただし,本測定値の妥当性を評価する目的で実施した眼表面への添加量と涙液メニスカス面積値の相関性を確認する試験では,15匹29眼に0.1%フルオレセイン溶液を3,10,20,30,40および50μL添加した.フルオレセイン溶液の添加量は,正常ウサギの結膜.における涙液貯留量が30.50μLという報告11)を考慮して,最大量を50μLに設定した.また,各種点眼液の涙液メニスカス面積値への影響を検討する際には,点眼液を50μL点眼した前後で涙液メニスカス面積値を算出し,その差(Δ涙液メニスカス面積値)を点眼液の薬効として評価した.Schirmer値との比較検討では15匹30眼,単剤点眼と併用点眼の比較検討では17匹34眼,併用点眼における点眼順序の検討では18匹36眼を使用した.同一個体を複数回使用する場合は,一定期間を空けて使用した.測定時に半眼,閉目など,結果に影響を与えると思われる所見が認められた眼は除外した.なお,併用点眼の点眼間隔は,基本的に臨床での点眼間隔を考慮して5分間とした.また,ウサギはヒトに比べて涙液排出率が低く,瞬目回数も著しく少ないため12),点眼間隔を短くすると1剤目の点眼液量が眼表面に十分残ったまま,2剤目を点眼することになり,両剤とも溢出し,薬効を適切に評価できない可能性も考慮した.測定時間については,3%ジクアホソル単剤の予備的検討として,点眼2,5,10,15,30および60分後のΔ涙液メニスカス面積値を測定したところ,点眼10分後に最大値を示した.したがって,3%ジクアホソル点眼10分後を含む測定時間を設定した.すなわち,3%ジクアホソルを1剤目としてのみ使用した試験では,2剤目点眼5分後,1剤目および2剤目に使用した試験では,2剤目点眼5および10分後を含めて測定した.4.シルメル試験紙による涙液貯留量測定法15匹30眼にベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬)を10μL点眼し,眼表面を局所麻酔した.局所麻酔3分後に各種点眼液を50μL点眼し,点眼2および5分後に,ウサギの下眼瞼にシルメル試験紙(昭和薬品化工)の折り目5mm部分を1分間挿入し,ろ紙が濡れた長さ(Schirmer値)を指標として涙液貯留量を測定した.なお,点眼液の点眼前後の(116) Schirmer値を測定し,その差(ΔSchirmer値)を点眼液の薬効として評価した.5.統計解析生物実験データ統計解析システムEXSUS(シーエーシー)を用いて,5%を有意水準として解析した.各測定時間での2群間の解析はF検定後,Studentのt検定(等分散)あるいはAspin-Welchのt検定(不等分散)を行った.各測定時間における3群以上の解析はTukeyの多群比較検定を行った.II結果1.正常ウサギを用いた涙液メニスカス面積測定法の妥当性涙液メニスカス面積測定法にて得られた値(Δ涙液メニスカス面積値)の妥当性を評価する目的で,ウサギの眼表面に3.50μLの0.1%フルオレセイン溶液を添加した際のΔ涙液メニスカス面積値を算出し,添加量とΔ涙液メニスカス面積値の相関性について検討した.図1に示すように,両者間には正比例の関係式(y=0.9504x+0.5113)が成り立ち,重相関係数(0.9078)も良好であった.また,3μLフルオレセイン溶液の添加は,Δ涙液メニスカス面積値にほとんど影響を及ぼさなかった.したがって,涙液メニスカス面積測定法を用いた涙液貯留量の測定には,3μLフルオレセイン溶液を用いることにした.つぎに,0.1%ヒアルロン酸の涙液貯留量に対する効果をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した.ΔSchirmer値は,対照に用いた人工涙液群では点眼2分後に最大値を示し,その後減少するのに対し,0.1%ヒアルロン酸群では,点眼2分後においてSchirmer値の増加作用は認められず,人工涙液群に比して有意に低値を示した(図2a).一方,Δ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群および0.1%ヒアルロン酸群のいずれも点眼2分後に最大値を示し,その後減少した.また,0.1%ヒアルロン酸群の点眼2および5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群に比して有意に高値を示した(図2b).2.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果について検討した.図3に示す群構成で,1剤目点眼5分後(図3a,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.図3aにΔ涙液メニスカス面積値,図3bに2剤目点眼5分後の代表的な涙液メニスカス像を示す.3%ジクアホソルのΔ涙液メニスカス面積値(mm2)60y=0.9504x+0.511350r2=0.907840302010001020304050フルオレセイン溶液添加量(μL)図1正常ウサギにおけるフルオレセイン溶液添加量とΔ涙液メニスカス面積値との関係点眼5分後に2剤目として人工涙液を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群と同程度であった.一方,2剤目として0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比して有意に高値を示し,持続的な効果が認められた.3.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の点眼順序が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果に2剤の点眼順序が影響するか検討した結果を各値は,4あるいは5例の平均値±標準誤差を示す.3.0025:AT:0.1%HA*涙液メニスカス面積値(mm2)Δa4.03.02.01.00.0-1.0025:AT:0.1%HA**#bΔSchirmer値(mm)2.01.00.0-1.0-2.0点眼後の時間(分)点眼後の時間(分)図2人工涙液(AT)および0.1%ヒアルロン酸(HA)のSchirmer値(a)および涙液メニスカス面積値(b)に及ぼす影響各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01,AT群との比較(Studentのt検定).#:p<0.05,AT群との比較(Aspin-Welchのt検定).(117)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121143 a2015a:各値は,8例の平均値±標準誤差を示す.Δ涙液メニスカス面積値(mm2)Δ涙液メニスカス面積値(mm2)10:3%ジクアホソル:3%ジクアホソル+0.1%HA:3%ジクアホソル+AT500**##**:p<0.01,3%ジクアホソル+AT群との比較(Tukeyの多重比較検定).##:p<0.01,3%ジクアホソル群との比較**(Tukeyの多重比較検定).5##b:2剤目点眼5分後の涙液メニスカスのフルオレセイン染色像を示す.2剤目点眼後の時間(分)b3%ジクアホソル3%ジクアホソル+AT3%ジクアホソル+0.1%HA30201510503010502剤目点眼後の時間(分)**:3%ジクアホソル+0.1%HA:0.1%HA+3%ジクアホソル図33%ジクアホソル,3%ジクアホソルと人工涙液(AT)あるいは0.1%ヒアルロン酸(HA)の併用の涙液メニスカス面積値に及ぼす影響―Δ涙液メニスカス面積値(a),涙液メニスカス像(b)―III考按図43%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸(HA)の点眼順序が涙液メニスカス面積値に及ぼす影響本研究では,ウサギの涙液貯留量に対する各種点眼液の影響を涙液メニスカス面積値で評価した.まず,図1のとおりフルオレセイン溶液の添加量とΔ涙液メニスカス面積値間に正の相関性があることを確認した.つぎに,0.1%ヒアルロン酸および人工涙液が涙液貯留量に及ぼす影響をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した(図2).涙液メニスカス面積法では,0.1%ヒアルロン酸は人工涙液に比して点眼5分後まで有意に高値を示しており,ヒトの涙液メニスカス曲率半径を指標とした結果6)と類各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,0.1%HA+3%ジクアホソル群との比較(Studentのt検定).図4に示す.1剤目点眼5分後(図4,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5,10および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.3%ジクアホソルの点眼5分後に0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,0.1%ヒアルロン酸の点眼5分後に3%ジクアホソルを併用した群に比して有意に高値を示した.1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最高値に達したが,1剤目に3%ジクアホソル,2剤目に0.1%ヒアルロン酸を点眼した群のそれよりは低値であった.2剤目点眼30分後では,どちらの群も同程度のΔ涙液メニスカス面積値を示した.1144あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012似していた.なお,今回シルメル試験紙による涙液貯留量測定法で0.1%ヒアルロン酸の効果が認められなかったのは,ヒアルロン酸の粘稠性がシルメル試験紙の吸収速度を減速させたためと推測している.涙液メニスカス面積測定法は,シルメル試験紙による涙液貯留量測定法に比べて結果の解析に時間を要するものの,無麻酔下で非侵襲的に涙液貯留量を測定できるだけでなく,粘稠性など涙液の質に影響されないこともメリットとしてあげられる.以上より,涙液メニスカス面積値を指標とした涙液貯留量の評価法の妥当性を確認した.続いて,図3aのとおり3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用群では,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比べてΔ涙液メニスカス面積値が有意に増加し,涙液貯留量に対する併用効果が認められた.また,図4において3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼にお(118) ける点眼順序の影響を検討したところ,3%ジクアホソルを先に点眼したほうがΔ涙液メニスカス面積値の最大値は大きいことが明らかになった.しかし,2剤目点眼30分後において,Δ涙液メニスカス面積値に点眼順序の違いは認められず,持続効果に点眼順序は影響しないと考えられた.図3bで認められる併用効果を,そのままヒトに置き換えると,流涙さらに霧視などの副作用が懸念される.しかし,ヒトはウサギに比べて涙液の排出率が高い12)ため,臨床では流涙に至らない可能性もある.したがって,涙液貯留量に対する併用効果と併用使用による副作用については,今後さらに臨床検討も必要と思われる.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果の機序の一つとして,ジクアホソルの涙液分泌促進作用3)とヒアルロン酸の保水作用5)により,ジクアホソルにより分泌された涙液をヒアルロン酸が保持していることが推察される.さらに,ヒアルロン酸にはムチンとの相互作用による粘度上昇作用があることも報告されている13).したがって,ジクアホソルのムチン分泌促進作用4,14)により眼表面に分泌されたムチンにヒアルロン酸が相互作用し,ヒアルロン酸自身がもつ保水作用を持続させている可能性も考えられる.また,図4に示すように0.1%ヒアルロン酸を先に点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最大値を示したが,3%ジクアホソルを先に点眼した場合に比べて低値であった.これは,先に点眼した0.1%ヒアルロン酸が眼表面に滞留している15)ため,3%ジクアホソルが細胞に作用しにくく,涙液分泌促進作用が十分に発揮されていない可能性も考えられる.一方で,3%ジクアホソルの単剤点眼と比べて,1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを併用点眼すると眼表面の涙液貯留量を持続できる可能性も考えられ,ヒアルロン酸がジクアホソルの眼表面との接触時間を延長させているのかもしれない.併用効果の詳細な機序については,さらなる検討が必要と思われる.また,併用点眼の場合,前述した霧視に加えて,点眼液に含まれる塩化ベンザルコニウムの眼表面への曝露量が増加する可能性が懸念される.角膜上皮障害に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の影響をラットのドライアイモデルで検討した結果16)では,上皮障害の改善に対して併用効果が認められ,併用点眼による塩化ベンザルコニウムの明らかな影響は認められていないが,臨床上の併用点眼においては注意が必要と思われる.涙液メニスカス面積測定法は,侵襲性が低く,粘稠性など涙液の質に影響されないため,涙液貯留量をより正確に測定する方法として有用であることが明らかとなった.また,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸を併用することにより,3%ジクアホソルの単剤点眼に比して,涙液貯留量の持続的(119)増加作用を示す可能性が示唆され,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用は,ドライアイ治療において有用な治療法として期待される.文献1)横井則彦:ドライアイのEBM.臨眼55:72-85,20012)本田理恵,ムラトドール:ドライアイ治療Overview.あたらしい眼科22:329-336,20053)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,20114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20115)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,19936)GoldingTR,BruceAS,MainstoneJC:Relationshipbetweentear-meniscusparametersandtear-filmbreakup.Cornea16:649-661,19977)KawaiM,YamadaM,KawashimaMetal:Quantitativeevaluationoftearmeniscusheightfromfluoresceinphotographs.Cornea26:403-406,20078)YokoiN,KomuroA:Non-invasivemethodsofassessingthetearfilm.ExpEyeRes78:399-407,20049)WangJ,AquavellaJ,PalakuruJetal:Relationshipsbetweencentraltearfilmthicknessandtearmeniscioftheupperandlowereyelids.InvestOphthalmolVisSci47:4349-4355,200610)MurakamiT,FujitaH,FujiharaTetal:Novelnoninvasivesensitivedeterminationoftearvolumechangesinnormalcats.OphthalmicRes34:371-374,200211)ChanPK,HayesAW:Principlesandmethodsforacutetoxicityandeyeirritancy.PrinciplesandMethodsofToxicology,secondedition,p169-220,RavenPress,NewYork,198912)LeeVH,RobinsonJR:Review:Topicaloculardrugdelivery:Recentdevelopmentsandfuturechallenges.JOculPharmacol2:67-108,198613)川原めぐみ,平井慎一郎,坂本佳代子ほか:ヒアルロン酸点眼液の角膜球面不正指数を指標としたウサギ涙液層安定化作用.あたらしい眼科21:1561-1564,200414)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,200215)MochizukiH,YamadaM,HatoSetal:Fluorophotometricmeasurementoftheprecornealresidencetimeoftopicallyappliedhyaluronicacid.BrJOphthalmol92:108-111,200816)堂田敦義,中村雅胤:ドライアイモデルラットに対するジクアホソルナトリウム点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果.あたらしい眼科28:1477-1481,2011あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121145

緑内障治療薬配合剤の単回点眼による健常者視神経乳頭血流に及ぼす影響

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1136.1140,2012c緑内障治療薬配合剤の単回点眼による健常者視神経乳頭血流に及ぼす影響笠原正行*1,3庄司信行*1,2森田哲也*3平澤一法*1清水公也*1,3*1北里大学大学院医療系研究科眼科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3北里大学医学部眼科学教室InfluenceofSingle-doseInstillationofAnti-glaucomaFixedCombinationsonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersMasayukiKasahara1,3),NobuyukiShoji1,2),TetsuyaMorita3),KazunoriHirasawa1)andKimiyaShimizu1,3)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity,2)DepartmentofRehabilitationOrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:ラタノプロスト/チモロール配合剤(LTFC),ドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)の視神経乳頭血流への影響の検討.対象および方法:健常者11名(平均27.0±1.6歳)の片眼にDTFC(D群),僚眼に人工涙液を,被験者が決めて1回1滴のみ点眼し,1,2,4,8時間後に眼圧,眼灌流圧,血圧,脈拍,視神経乳頭血流〔MBR(meanblurrate)値:レーザースペックル法〕を測定した.1週間休薬後,同じ対象の片眼にLTFC(L群),僚眼に人工涙液を点眼し同様の測定を行った.結果:L群,D群ともに点眼1時間後より眼圧は下降(各p<0.01).眼灌流圧,血圧,脈拍に変化はなかった.MBR値はL群では2時間後,4時間後に103.4%,D群では4時間後に104.1%と有意に増加した(各p<0.05).部位別には耳側と上方で増加した.結語:眼圧下降とは関係なく,配合剤単回点眼で視神経乳頭血流は一時的に増加した.Purpose:Toevaluatetheinfluencesoflatanoprost/timololfixedcombination(LTFC)eyedropsanddorzolamide/timololfixedcombination(DTFC)eyedropsonopticnerveheadbloodflowinhealthyvolunteers.SubjectsandMethods:Subjectscomprised11eyesof11healthyvolunteers(meanage:27.0±1.6years).First,meanblurrate(MBR)wasmeasuredontheopticnervehead,andineachof4sectors,beforeandat1,2,4and8hoursafterinstillationoftheeyedrops,asrandomlyselectedbytheexamineesthemselves:DTFCinoneeye(Dgroup)andartificialtearsinthefelloweye(D-congroup).Intraocularpressure(IOP),ocularperfusionpressure(OPP),systemicbloodpressure(BP)andpulserate(PR)werealsomeasured,atthesametime.Second,thesameparametersweremeasuredinthesamemannerafterinstillationoftheeyedrops,alsorandomlyselected:LTFCinoneeye(Lgroup)andartificialtearsinthefelloweye(L-congroup),regardlessofwhicheyehadreceivedtheearliereye-drops.Results:IOPshowedasignificantdecreaseat1hourafterinstillationofLTFCorDTFC,andmaintainedlowerlevels(p<0.01).TherewerenochangesinOPP,BPorPRafterinstillationofeacheyedrop.MBRofopticnerveheadincreasedsignificantlyat2and4hours(103.4%,p<0.05)afterLTFCinstillation,andat4hours(104.1%,p<0.05)afterDTFCinstillation.Conclusion:Opticnerveheadbloodflowinyoungnormaleyesincreasedtemporarilyandsignificantlyaftersingle-doseinstillationofLTFCorDTFC,regardlessofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1136.1140,2012〕Keywords:レーザースペックルフローグラフィ(LSFG),視神経乳頭血流,眼圧,ラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合剤,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合剤.laserspeckleflowgraphy(LSFG),bloodflowintheopticnervehead,intraocularpressure,latanoprost-timololmaleatecombination,dorzolamidehydrochloridetimololmaleatecombination.〔別刷請求先〕笠原正行:〒252-0375相模原市南区北里1丁目15番地1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasayukiKasahara,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPAN113611361136あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(110)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY はじめに現在,緑内障性視神経障害の進行抑制のためには眼圧下降療法が行われているが,眼圧が十分に下がっていても視野障害が進行する症例も散見され,緑内障の進行には視神経乳頭の血流障害の関与が指摘されている1.2).一方,抗緑内障点眼薬のなかには,眼圧下降効果だけでなく血流増加作用を有するものもあるのではないかと,さまざまな報告がなされている.抗緑内障点眼薬が眼血流へ及ぼす影響としては,プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬のそれぞれにおいて,血流増加効果があるとする報告3.6)と血流は変わらないとする報告7.9)が存在し,今のところ一定の見解を得ていない.血流増加効果があるとする報告の増加のメカニズムとしては,血管拡張作用や,眼灌流圧の自動調節能の低下などさまざまであるが,眼圧下降に伴い,眼灌流圧が上昇し,血流が増加するといった報告も多く見受けられる.結局,眼圧下降の結果として血流の増加が生じているのであれば,その点眼薬に血流の増加作用があると果たして言って良いのか疑問である.そこで今回,筆者らは,新しい点眼薬に血流を増加させる作用があるのかどうか,それが眼圧の下降と相関しているのかどうかを検討するために,ラタノプロスト/チモロール配合剤(LTFC)とドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)を点眼し,点眼前後における視神経乳頭血流の変化,ならびに関連因子について検討した.点眼による眼圧下降と血流増加作用の関連性を検討した.I対象および方法対象は全身疾患および軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常者11名(男性5名,女性6名),平均年齢は27.0±1.6歳(25.30歳)である.方法は,検者にわからないようにして,被験者自身に無作為に片眼にDTFC(D群),僚眼にプラセボとして人工涙液(D-con群)をそれぞれ1回点眼してもらい,両眼の眼圧,全身血圧,脈拍,視神経乳頭血流を,それぞれ,点眼直前(午前9時),点眼1時間後,2時間後,4時間後,8時間後に測定した.その後,1週間のwashout期間を設けた後,同一の対象に,1回目の点眼と関係なく,無作為に片眼にLTFC(L群),僚眼にプラセボとして人工涙液(L-con群)を点眼してもらい,1回目と同様の時刻と方法で測定を行った.眼圧測定はGoldmann圧平式眼圧計を用い,血圧,脈拍測定は自動血圧計(日本コーリン社)を用いた.血流測定にはレーザースペックルフローグラフィ(LSFG-NAVITM,ソフトケア社)を用い,無散瞳下で行った.瞬目をしない状態で6秒間測定し,それを3回繰り返し,LSFGAnalyzer(version3.020.0)を用いて乳頭の血流マップを作成した.乳頭微小循環の評価のため,作成された血流マップから,血流パラメータMBR(meanblurrate)を算出した.MBRは,楕円ラバーバンドを用いて乳頭領域を決定した後,LFSGAnalyzerに装備されている血管抽出機能を用い,乳頭内の大血管のMBRを除外して,乳頭全体,乳頭上側,乳頭鼻側,乳頭耳側,乳頭下側の各部位での3回測定の平均値を算出した.しかし,MBRは個体間でばらつきがあり,もともと絶対値ではなく相対値である.日内変動もみられることから,これらを加味し,以下の計算式7)を用いて,視神経乳頭の相対的血流量の変化を算出した.(各時間の点眼眼MBR/点眼眼の点眼前MBR)/(各時間の対照眼MBR/対照眼の点眼前MBR)×100(%).平均血圧を拡張期血圧+1/3×(収縮期血圧.拡張期血圧),眼灌流圧を2/3×平均血圧.眼圧として算出した.すべての測定は同一検者が行い,眼圧,平均血圧,脈拍,眼灌流圧,MBRに基づく相対的視神経乳頭血流量に関して,点眼前後の変化を比較検討した.眼圧に関しては,L群とL-con群,D群とD-con群間での眼圧下降の相違についても比較検討した.統計学的検討はANOVA(analysisofvariance),Dunnett検定を用いて行い,危険率5%未満を統計学的有意とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,被験者には本研究の主旨を口頭により十分説明し同意を得て行った.II結果眼圧は,L群,D群ともに点眼1時間後,2時間後,4時間後,8時間後で点眼前に比し有意に下降した.点眼前との眼圧差(mmHg:1時間後,2時間後,4時間後,8時間後)はL群で(3.6,4.6,4.9,4.6),D群で(3,4.5,4.4,4.4)で,各時間帯においてL群,D群間に有意差は認めなかった.点眼後,すべての時間帯において,L群とL-con群ではL群が,D群とD-con群ではD群が有意に眼圧の下降を認めた(mmHg)*151005*****************■:L群□:L-con群●:D群○:D-con群点眼前1248点眼前1248(hr)図1眼圧の推移L群とL-con群,D群とD-con群の点眼前後での眼圧の推移を表した.平均値±標準偏差(n=11)の片側表示とした.点眼前の眼圧値と点眼後の各測定点での眼圧値を比較した.*:p<0.05,**:p<0.01,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(111)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121137 (%)**100*■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図2視神経乳頭全体の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭全体の血流変化を表した.血流変化は(各時間の点眼眼MBR/点眼眼の点眼前MBR)/(各時間の対照眼MBR/対照眼の点眼前MBR)×100(%)で視神経乳頭の相対的血流量の変化を算出し評価した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.*:p<0.05,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(%)100■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図4視神経乳頭下側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭下側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(%)**100■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図6視神経乳頭上側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭上側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.*:p<0.05,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).1138あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(%)100■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図3視神経乳頭鼻側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭鼻側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).*(%)100*■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図5視神経乳頭耳側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭耳側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.*:p<0.05,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(図1).血流は,L群では乳頭全体で点眼2時間後,4時間後に103.4%,乳頭上側で点眼2時間後に104.9%,点眼4時間後に104.3%,乳頭耳側で点眼4時間後に104.4%と有意に増加した(図2.4).D群では乳頭全体で点眼4時間後に104.1%,乳頭耳側で点眼4時間後に107.6%と有意に増加した(図2,4).L群,D群ともに乳頭鼻側,乳頭下側では点眼前後で有意な変化は認めなかった(図5,6).平均血圧,脈拍,眼灌流圧は両群ともに点眼前後で有意な変化は認めなかった(図7,8).III考按抗緑内障点眼薬が眼血流を増加させる機序としては,プロスタグランジン関連薬に関しては不明な点も多いものの,一般的にはプロスタグランジンF2aが有する血管拡張作用によるものが指摘されている3,10).炭酸脱水酵素阻害薬に関して(112) (mmHg)100L群D群(rate/min)10050500◆:平均血圧◇:脈拍数▲:平均血圧△:脈拍数0直前1248直前1248(hr)図7平均血圧,脈拍数L群とD群の点眼前後での平均血圧,脈拍数の推移を表した.点眼前の眼圧値と点眼後の各測定点での眼圧値を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の片側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).は,毛様体無色素上皮細胞においてcarbonicanhydraseII型活性を阻害することによる,組織内CO2濃度の上昇に伴う血管拡張作用によるものが指摘されている5,6).b遮断薬に関しては,単独では眼血流に影響を与えないとする報告が多い8,11)が,眼圧下降に伴う眼灌流圧の上昇により血流が増加するとする報告もある4).プロスタグランジン関連薬,炭酸脱水酵素阻害薬においても同様に,眼圧下降に伴う眼灌流圧の上昇により血流が増加するとする報告が多くみられる3,5,6).今回の検討では,LTFCの点眼2時間後,4時間後に乳頭全体,上側,耳側で,DTFCの点眼4時間後に乳頭全体,耳側で一時的に点眼前に比し有意に血流が増加した.しかし,眼圧は点眼1時間後(測定始点)から8時間後(測定終点)まで有意に下降しており,眼灌流圧に関しては点眼前後で有意な変化がなかったことから,LTFC,DTFC点眼後の血流増加は,眼灌流圧の上昇が主たる原因とは考えにくい結果となった.しかしながら,両剤点眼後,眼圧が有意に下降している時間帯に,一時的とはいえ血流増加が重なって生じているため,点眼による乳頭微小循環の増加が少なからず眼灌流圧の変化の影響を受けている可能性も否定できず,今後詳細な検討が必要であると考えられた.これまでに本検討と同様にLTFC点眼とDTFC点眼の血流に及ぼす影響の報告としては,Martinezら12)の開放隅角緑内障患者32例を対象に1カ月間点眼を持続させカラードップラーを用いて行った球後血流に及ぼす影響の報告がある.DTFC点眼群では有意に眼動脈,後毛様動脈ともに血流速度が増加したとしており,LTFC点眼群では血流速度を減少させたとしている.本検討においては,両群ともに血流の増加を認めたが,単回点眼で正常眼を対象としており,血流評価方法や症例数の相違も結果に関与している可能性が考えられた.乳頭部位別での血流増加に関しては,これまでにDTFC点眼やLTFC点眼に関する報告はなく,タフルプロスト単剤投与により耳側,上側が増加したとする報告13)や,チモロール単剤にドルゾラミ(mmHg)直前1(hr)248直前12486030010402050■:L群□:L-con群●:D群○:D-con群図8眼灌流圧L群とL-con群,D群とD-con群の点眼前後での眼灌流圧の推移を表した.点眼前の眼圧値と点眼後の各測定点での眼圧値を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の片側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).ド単剤を併用した際に耳上側が増加したとの報告14)が存在する.これは健常眼が有する乳頭微小循環の部位別の相違が関与するものと考えられる15).本検討においてもL群では上側の血流は増加し,D群では有意な変化を認めなかったものの,他の部位に比べて上側は血流が増加傾向(p=0.093)にあったことから,今回の結果はこれまでの報告と大きな矛盾はないと考えられた.なお,筆者らは,個体差や日内変動の影響を減らすために,方法の項で述べたように対照眼の変動値を用いて補正を試みる方法を用いた.しかし,配合点眼薬は,片眼に点眼しても僚眼の眼圧に影響を及ぼす可能性の高いチモロールを含んでいるため,厳密な意味では,血流の検討でも僚眼を対照眼にすることは適当ではないかもしれない.そのため,両眼ともに対照液を点眼したり,日を変えて何度か日内変動を測定するなどの工夫が必要かもしれない.しかし,日内変動の再現性の問題もあり,筆者らは同一日時での日内変動を考慮することを重視して,僚眼の変動値で補正するような計算式を用いた.今後,b遮断薬を含む配合点眼薬の血流への効果を検討する場合,対照眼の設定に関してはさらなる検討が必要と考えられた今回の検討結果から,LTFC,DTFCのいずれの点眼も,眼圧下降とは関係なく視神経乳頭血流は一時的に増加した.しかし,本検討は対象数が11名と少ないことや,単回点眼での検討であるため,今後,循環の改善を目的にこれらの配合剤を用いる意義があるかどうか,症例数を増やし,点眼を持続した状態での長期的な検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(113)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121139 文献1)MincklerDS,SpaethGL:Opticnervedamageinglaucoma.SurvOphthalmol26:128-148,19812)LeveneRZ:Lowtensionglaucoma:Acriticalreviewandnewmaterial.SurvOphthalmol24:621-664,19803)KimuraT,YoshidaY,TodaN:Mechanismsofrelaxationinducedbyprostaglandinsinisolatedcanineuterinearteries.AmJObstetGynecol167:1409-1416,19924)GrunwaldJE:Effectoftopicaltimololmaleateontheretinalcirculationofhumaneyeswithocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci31:521-526,19905)GalassiF,SodiA,RenieriGetal:Effectsoftimololanddorzolamideonretrobulbarhemodynamicsinpatientswithnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmologica216:123-128,20026)HarrisA,ArendO,ArendSetal:Effectsoftopicaldorzolamideonretinalandretrobulbarhemodynamics.ActaOphthalmolScand74:569-572,19967)今野伸介,田川博,大塚賢二ほか:ラタノプロスト点眼の正常人視神経乳頭および脈絡膜-網膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科21:695-698,20048)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,19979)SampaolesiJ,TosiJ,DarchukVetal:Antiglaucomatousdrugseffectsonopticnerveheadflow:design,baselineandpreliminaryreport.IntOphthalmol23:359-367,200110)StjernschantzJ,SelenG,AstinMetal:Microvasculareffectsofselectiveprostaglandinanaloguesintheeyewithspecialreferencetolatanoprostandglaucomatreatment.ProgRetinEyeRes19:459-496,200011)富所敦男:1.緑内障.V疾患と眼循環,NEWMOOK眼科(大野重昭,吉田晃敏,水流忠彦編集主幹,張野正誉,桐生純一,玉置泰裕編),7巻,p164-172,金原出版,200412)MartinezA,SanchezM:Retrobulbarhaemodynamiceffectsofthelatanoprost/timololandthedorzolamide/timololfixedcombinationsinnewlydiagnosedglaucomapatients.IntJClinPract61:815-825,200713)八百枝潔,白柏基宏,阿部春樹:健常眼におけるタフルプロスト点眼前後の視神経乳頭微小循環.臨眼64:455458,201014)大黒幾代,片井麻貴,田中祥恵ほか:併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用.あたらしい眼科28:868-873,201115)BoehmAG,PillunatLE,KoellerUetal:Regionaldistributionofopticnerveheadbloodflow.GraefesArchClinExpOphthalmol237:484-488,1999***1140あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(114)

正常眼圧緑内障に対するトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果の検討

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1131.1135,2012c正常眼圧緑内障に対するトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果の検討田邉祐資*1,2菅野誠*2山下英俊*2*1山形県立中央病院眼科*2山形大学医学部眼科学講座IntraocularPressure-loweringEffectofTravoprost,TafluprostandBimatoprostinNormalTensionGlaucomaYusukeTanabe1,2),MakotoKanno2)andHidetoshiYamashita2)1)DepartmentofOphthalmology,YamagataPrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversityFacultyofMedicine正常眼圧緑内障(NTG)に対するトラボプロスト(TRV),タフルプロスト(TAF),ビマトプロスト(BIM)の眼圧下降効果について検討を行った.新規にTRV,TAF,BIMを単剤投与されたNTG患者114例114眼を対象とした.投与の内訳はTRV49眼,TAF38眼,BIM27眼であった.投与1,3カ月後の眼圧下降率はTRV群で16.4%,18.9%,TAF群で17.0%,15.7%,BIM群で19.8%,16.0%であった.すべての薬剤で投与1,3カ月後の有意な眼圧下降効果が認められた(p<0.05,Wilcoxon符号付順位検定).また,投与1,3カ月後の眼圧下降率について3剤の差を比較したところ有意差は認められなかった(p≧0.05,analysisofvariance).NTGに対するTRV,TAF,BIMの眼圧下降効果は短期的に同等であった.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-reductioneffectoftravoprost,tafluprostandbimatoprostinnormaltensionglaucoma(NTG).Subjectsofthisstudycomprised114patients(114eyes)newlytreatedwithtravoprost(49eyes),tafluprost(38eyes)orbimatoprost(27eyes).IOPreductionratesat1and3monthsaftertreatmentwere16.4%and18.9%,17.0%and15.7%,and19.8%and16.0%inpatientstreatedwithtravoprost,tafluprostandbimatoprost,respectively.Comparedwithpre-treatmentIOP,alldrugssignificantlyreducedIOP.TherewerenosignificantdifferencesinIOPreductionratesamongtravoprost,tafluprostandbimatoprostat1and3monthsaftertreatment.Intheshortterm,therewerenosignificantdifferencesinIOPreductioneffectoftravoprost,tafluprostorbimatoprostinNTGpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1131.1135,2012〕Keywords:正常眼圧緑内障,眼圧,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト.normaltensionglaucoma,intraocularpressure,travoprost,tafluprost,bimatoprost.はじめに現在,緑内障性視野障害の進行を抑制するエビデンスのある治療方法は眼圧下降のみである.プロスト系プロスタグランジン関連薬は1日1回の点眼で強力な眼圧下降効果が得られ,副作用の少なさからも緑内障薬物治療の第一選択と考えられている.以前,日本で使用可能なプロスト系プロスタグランジン関連薬はラタノプロストのみであったが,2007年にトラボプロスト点眼薬,2008年にタフルプロスト点眼薬,2009年にビマトプロスト点眼薬が発売され選択肢が広がった.国内外でプロスト系プロスタグランジン関連薬の眼圧下降効果について比較した論文が報告されている.これらの報告からプロスト系プロスタグランジン関連薬の眼圧下降効果はラタノプロスト≒トラボプロスト≒タフルプロスト≦ビマトプロストの傾向にあると考えられる1.5).しかしながら,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは15mmHg以上の緑内障患者に対して治験を行っており,純粋〔別刷請求先〕田邉祐資:〒990-2292山形市大字青柳1800番地山形県立中央病院眼科Reprintrequests:YusukeTanabe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YamagataPrefecturalCentralHospital,1800Aoyagi,Yamagata-shi,Yamagata990-2292,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(105)1131 に正常眼圧緑内障患者を対象とした眼圧下降効果の報告は少ない.多治見スタディの結果からもわが国では正常眼圧緑内障患者の割合が全緑内障の6割を占めており6),新しいプロスト系プロスタグランジン関連薬の正常眼圧緑内障患者に対する眼圧下降効果について検討することは重要と考えられる.また,正常眼圧緑内障患者を対象としてトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果について比較検討した報告はない.そこで今回トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストを単剤で投与された正常眼圧緑内障患者の短期の眼圧下降効果についてレトロスペクティブに検討を行った.I対象および方法山形県立中央病院通院中の患者で,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストを新規に投与された正常眼圧緑内障患者114例114眼を対象とした.Humphrey自動視野計のSITAstandard30-2プログラムを用いて視野測定を行い,MD(meandeviation)値が低いほうの眼に対し投与を行った.内訳はトラボプロストが49例49眼,タフルプロストが38例38眼,ビマトプロストが27例27眼であった.Goldmann圧平眼圧計を用いて症例ごとにほぼ同じ時間帯で眼圧測定を行った.無治療時眼圧の3回の平均値をベースライン眼圧とし,ベースライン眼圧>15mmHgを高眼圧群,ベースライン眼圧≦15mmHgを低眼圧群と定義した.全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群において各点眼群の年齢,男女比,ベースライン眼圧について比較を行ったが有意差は認められなかった(表1).Humphrey視野計で視野障害が重度な眼に対しトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストのいずれかを片眼投与し,投与1カ月後,3カ月後に眼圧測定を行った.ベースライン眼圧と投与1カ月後眼圧,3カ月後眼圧をWilcoxson符号付順位検定で比較した.投与1カ月後,3カ月後の眼圧下降率を算出し,analysisofvarianceで3剤間の眼圧下降率について比較を行った.なお,上記の比較は全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群おいてそれぞれ検討を行った.II結果各点眼群の全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群の眼圧の推移について表2に示した.トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストいずれの薬剤も,投与1カ月後,3カ月後の眼圧はベースライン眼圧よりも有意に下降していた.この結果は全体,高眼圧群,低眼圧群のすべてにおいて認められた.各点眼群の全体,高眼圧群,低眼圧群の投与1カ月後,3カ月後の眼圧下降率を表3に示した.全体,高眼圧群,低眼圧群いずれの検討においてもトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降率に有意差は認められなかった.各点眼群の全体,高眼圧群,低眼圧群における投与3カ月後の眼圧下降率の内訳を10%未満,10%以上20%未満,20%以上30%未満,30%以上の4つに分類し,表4に示した.眼圧下降率が10%未満の眼圧下降効果不良例はトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストそれぞれにおいて,全体で24.5%,21.1%,37.0%,高眼圧群で25.9%,7.7%,33.3%,低眼圧群で22.7%,28.0%,40.0%であった.一方,20%以上の眼圧下降効果が得られた割合はトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストそれぞれにおいて,全体で表1患者背景全体(高眼圧群+低眼圧群)症例数(眼)平均年齢(歳)男性(%)ベースライン眼圧(mmHg)高眼圧群症例数(眼)平均年齢(歳)男性(%)ベースライン眼圧(mmHg)低眼圧群症例数(眼)平均年齢(歳)男性(%)ベースライン眼圧(mmHg)トラボプロスト4968.2±12.957.115.7±2.52766.6±13.366.717.6±1.62270.2±12.345.513.4±1.1タフルプロスト3871.6±9.363.214.5±2.71370.2±10.876.917.4±1.52572.3±8.656.013.0±1.7ビマトプロスト2772.8±9.955.614.9±2.61266.1±8.158.317.3±1.11578.2±7.753.312.9±1.3p値0.170.790.080.610.600.870.060.760.451132あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(106) 表2眼圧の推移トラボプロストタフルプロストビマトプロストベースライン15.7±2.514.5±2.714.9±2.6全体投与1カ月後13.1±2.512.0±3.011.9±2.5投与3カ月後13.1±2.612.1±2.512.4±2.5ベースライン17.6±1.717.4±1.517.4±1.1高眼圧群投与1カ月後14.4±2.114.0±2.613.9±1.6投与3カ月後14.6±2.314.0±1.713.9±2.5ベースライン13.4±1.113.0±1.712.9±1.3低眼圧群投与1カ月後11.5±1.910.9±2.710.3±1.8投与3カ月後11.2±1.411.1±2.311.1±1.6(単位:mmHg)表3眼圧下降率の推移トラボプロストタフルプロストビマトプロスト投与1カ月後16.4±11.217.0±17.219.8±10.3全体投与3カ月後18.9±15.415.7±13.616.0±14.1投与1カ月後17.7±10.719.4±14.919.7±8.9高眼圧群投与3カ月後17.1±10.819.7±7.319.6±11.1投与1カ月後14.7±11.815.8±18.519.9±11.6低眼圧群投与3カ月後21.1±19.713.6±15.713.1±13.1(単位:%)表4投与3カ月後の眼圧下降率の内訳10%未満10%以上20%未満20%以上30%未満30%以上全体24.534.724.516.3トラボプロスト高眼圧群25.937.022.214.8低眼圧群22.731.827.318.2全体21.134.234.210.5タフルプロスト高眼圧群7.738.546.27.7低眼圧群28.032.028.012.0全体37.025.918.518.5ビマトプロスト高眼圧群33.316.716.733.3低眼圧群40.033.320.06.740.8%,44.7%,37.0%,高眼圧群で37.0%,53.9%,50.0%,低眼圧群で45.5%,40.0%,26.7%であった.III考察今回の筆者らの検討では投与3カ月後の全体(高眼圧群+低眼圧群)における眼圧下降率はトラボプロストが18.9%,タフルプロストが15.7%,ビマトプロストが16.0%であった.国内外で報告されている正常眼圧緑内障に対するプロスト系プロスタグランジン関連薬の眼圧下降率を表5にまとめた.ラタノプロストを用いた検討では,岩田らが約16%7)の眼圧下降率であったと報告している.トラボプロストを用いた検討ではSuhらが18.3%8),溝口らが14.7%9),長島ら(107)(単位:%)が18.4%10)の眼圧下降率が得られたと報告しており,筆者らの結果とほぼ同等であった.タフルプロストを用いた検討では溝口らが20.0%の眼圧下降率9)と報告しており,筆者らの結果と近似していた.過去の報告および今回の結果から,正常眼圧緑内障に対する眼圧下降作用はラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの薬剤間では大きな差はなく,約15.20%の眼圧下降率が得られることがわかった.さらに筆者らは,投与前眼圧>15mmHgの高眼圧群と投与前眼圧≦15mmHgの低眼圧群に分けて,それぞれの眼圧下降率についても検討を行った.投与3カ月後の眼圧下降率は高眼圧群ではトラボプロストが17.1%,タフルプロストあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121133 表5正常眼圧緑内障を対象としたプロスタグランジン製剤の眼圧下降率の比較発表年薬剤眼数観察期間(月)投与前眼圧(mmHg)眼圧下降率(%)岩田ら7)2003ラタノプロスト463約16Suhetal8)2009トラボプロスト221214.818.3溝口ら9)2009タフルプロストトラボプロスト215.715.320.014.7長島ら10)2010トラボプロスト66616.518.4トラボプロスト4915.718.9本研究2011タフルプロスト38314.515.7ビマトプロスト2714.916.0が19.7%,ビマトプロストが19.6%,低眼圧群ではトラボプロストが21.1%,タフルプロストが13.6%,ビマトプロストが13.1%であった.統計学的に全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群のすべてにおいて,3つの薬剤間で眼圧下降率に差は認められなかった.トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果を直接比較した報告は過去にないが,原発開放隅角緑内障,高眼圧症を対象とした海外のメタアナライシス1,2)ではビマトプロスト≧ラタノプロスト≒トラボプロスト,国内の報告3,5)ではラタノプロスト≒トラボプロスト≒タフルプロストと報告されている.正常眼圧緑内障を対象とした筆者らの結果は過去の原発開放隅角緑内障,高眼圧症を対象とした報告とほぼ同様の結果であった.CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy11,12)やEarlyManifestGlaucomaTrial13)の結果から正常眼圧緑内障の目標とされる眼圧下降率は無治療時から20.30%以上とされている.今回の検討では,眼圧下降率20%以上の達成率は,全体(高眼圧群+低眼圧群)としてはどの薬剤でも約40%と薬剤間で大きな差はみられなかった.しかしながら,高眼圧群と低眼圧群に分けた検討では薬剤間で異なる傾向がみられた.高眼圧群では,タフルプロストとビマトプロストが約半数の症例で20%以上の眼圧下降率を達成しているのに対し,トラボプロストは4割に達しなかった.低眼圧群では,トラボプロストとタフルプロストが約4割の症例で20%以上の眼圧下降率を達成しているのに対し,ビマトプロストでは3割に満たない達成率であった.一方,眼圧下降率10%未満の効果不良例は全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群のすべてにおいて,ビマトプロストが他の2剤よりも頻度が多い傾向がみられた.ビマトプロストが他の2剤に比べ効果不良例が多い理由は不明であるが,ビマトプロストは他のプロスト系プロスタグランジン関連薬と作用機序が異なるとの報告14)もある.この作用機序の違いがビマトプロストの効果不良例の多さに関連している可能性があると考えられた.1134あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012本研究の問題点としては,投与症例が薬剤によって異なり,同一症例における薬剤の比較ではない(クロスオーバー試験ではない)点があげられる.薬剤の効果を比較するには,クロスオーバー試験をすることが望ましいが,クロスオーバー試験は臨床上現実的ではない面もある.また,今回はわずか3カ月間の眼圧下降効果についての検討であり,長期間の眼圧下降効果については再評価する必要性があると考えられる.今回筆者らは正常眼圧緑内障患者に対するトラボプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液の短期における眼圧下降効果について検討を行ったが,その効果は薬剤間で大きな差はなくほぼ同等であった.今後は,これら3剤の副作用についても検討をする予定である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科27:383-386,20104)木村健一,長谷川謙介,寺井和都:3種のプロスタグランジン製剤の眼圧下降効果の比較検討.あたらしい眼科28:441-443,20115)白木幸彦,山口泰考,梅基光良ほか:DynamicContourTonometerを用いたラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降率の比較.あたらしい眼科27:1269-1272,20106)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimi(108) Study.Ophthalmology111:1641-1648,20047)岩田慎子,遠藤要子,斉藤秀典ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科20:709-711,20038)SuhMH,ParkKH,KimDM:Effectoftravoprostonintraocularpressureduring12monthsoftreatmentfornormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol53:18-23,20099)溝口尚則,尾崎峯生,嵩義則ほか:正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼液とトラボプロスト点眼液の眼圧下降効果と安全性についての検討.日本緑内障学会抄録集20:96,200910)長島佐知子,井上賢治,塩川美奈子ほか:正常眼圧緑内障におけるトラボプロスト点眼液の効果.臨眼64:911-914,201011)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,199812)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,199813)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,200214)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,2008***(109)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121135

緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey 視野計の視野指標との相関

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1127.1130,2012c緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey視野計の視野指標との相関加藤紗矢香*1浅川賢*2庄司信行*1,2森田哲也*1永野幸一*1山口純*1清水公也*1*1北里大学医学部眼科学教室*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学CorrelationbetweenOpticDiscParametersObtainedUsingStereoFundusImagingandVisualFieldIndexofHumphreyFieldAnalyzerinGlaucomatousEyesSayakaKato1),KenAsakawa2),NobuyukiShoji1,2),TetsuyaMorita1),KouichiNagano1),JunYamaguchi1)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityNonmydWX(Kowa社製)を用いた立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータ(discパラメータ)とHumphrey視野計による視野指標との相関を検討した.対象は緑内障患者58例58眼(平均年齢61歳)である.病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.NonmydWXにて眼底写真撮影後,discの外縁と陥凹(cup)の範囲を立体視下で決定し,discパラメータを得た.また,HumphreyFieldAnalyzerにて得られた視野障害の程度を,Hodapp-Anderson-Parrish分類を用いて早期,中期,後期に分類し,病期別にdiscパラメータとmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関を求めた.結果,PSD値はすべてのパラメータで相関がみられなかったが,MD値およびTD値は中期および後期においてdiscパラメータと相関し,特に垂直C/D(cup/disc)比,rimarea,areaR/D(rim/disc)比,上下rim幅が視野障害を反映していた.NonmydWXは,視神経乳頭の記録だけでなく形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.Weevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersobtainedusinganewlydevelopedfundusstereoscopiccamera(NonmydWX;KowaOptimed,Inc.)andthevisualfieldindexoftheHumphreyFieldAnalyzer.Thisstudyexamined58glaucomatouseyes(58glaucomapatients;meanage:61years),comprising30eyeswithprimaryopenangleglaucomaand28eyeswithnormaltensionglaucoma.Afterphotographing,theexaminer,usingpolarizedfilters,stereoscopicallyobservedtheopticdiscoutlinedisplayedonamonitor;thediscdiagnosticparameterswerethenobtained.Weclassifiedtheglaucomainto3stages(early,moderate,andsevere),usingtheHodapp-Anderson-Parrishscale,andevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersandmeandeviation(MD),patternstandarddeviation(PSD)andtotaldeviation(TD),respectively.MDandTDshowedhighormoderatecorrelationinmoderateandsevereglaucomatousstages,whilePSDshowednocorrelationinanystage.Particularlygoodcorrelationwasseenonlywithverticalcup-to-discratio,rimarea,arearim-to-discratio,upperrimwidthandlowerrimwidth.OurresultsindicatethatNonmydWXisusefulnotonlyfordiscrecords,butalsofordiscquantitativeanalysisinglaucomaclinicalpractice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1127.1130,2012〕Keywords:立体眼底写真,視神経乳頭,パラメータ,緑内障.stereofundusimaging,opticdisc,parameter,glaucoma.〔別刷請求先〕加藤紗矢香:〒252-0329相模原市南区北里1丁目15番地1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SayakaKato,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0329,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)1127 はじめに緑内障の構造変化と機能変化の関係は,網膜神経節細胞が30.50%障害されないと視野異常を生じず,視神経の変化は視野異常よりも先行する1).したがって,現在の視野検査という機能障害評価法のみでは,緑内障の検出が遅れるという問題点がある.すなわち,緑内障の診断や経過観察には,視神経乳頭(以下,disc)や神経線維層の変化が重要であり,その詳細な観察や形状を記録することが重要である.近年では光干渉断層計(OCT)や共焦点走査型レーザー検眼鏡(HRT)などの画像解析装置の進歩とともに視神経乳頭形状解析の自動化が進んでおり,解析ソフトも多数開発されている2,3).しかし,測定機器の再現性や検者間での測定誤差,緑内障検出力など,画像解析装置による解析より,緑内障専門医による眼底写真の読影のほうが有用であるといわれている4).緑内障診療における視神経乳頭形状変化の観察で最も重要となるものにcupの拡大や辺縁部(以下,rim)幅の減少があるが,これらは眼底が立体的であることから,より正確な形状の観察には平面画像ではなく立体画像を使用する必要がある.わが国における緑内障診療ガイドラインにおいても眼底写真による乳頭形状の観察は立体眼底写真の使用を推奨されている5).その一方で立体画像は定性的な解析は可能でも,定量的な解析は困難であり,主観的な解釈が中心になるという欠点があった.これに対し,近年開発された新しい立体眼底カメラであるNonmydWX(Kowa社製,名古屋)は,無散瞳にて同一光学系による2方向の光路から左右視差画像の同時撮影が可能であり,乳頭形状パラメータが定量的に解析可能である.今回,NonmydWXを用いた立体眼底写真によるdiscの解析パラメータとHumphrey視野計(HFA)のmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関から解析パラメータの有用性を検討した.I対象および方法北里大学病院緑内障専門外来を受診した緑内障患者58例58眼(男性29眼,女性29眼)を対象とした.年齢は33.表2症例の背景早期中期後期症例数10例10眼12例12眼36例36眼年齢(歳)等価球面値(D)MD(dB)PSD(dB)上半視野TD値66±14.0.88±2.94.1.17±0.584.61±2.78.2.33±1.2659±10.3.29±3.97.3.20±0.897.28±3.07.3.28±2.2861±15.2.82±3.12.15.62±7.3312.42±3.05.16.16±8.54下半視野TD値.2.78±1.97.4.76±2.69.14.26±9.26MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation,TD:totaldeviation.80歳(61±14歳)であり,病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.HFA30-2SITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)standardprogramにて得られた視野障害の程度を,HodappAnderson-Parrish分類(表1)を用いて早期,中期,後期に分類した(表2)..6Dを超える強度近視,固視不良20%以上,偽陽性15%以上,偽陰性33%以上の症例は対象に含めなかった.研究の主旨に関して十分な説明を行い,承諾を得た後に以下の測定を行った.眼底写真の撮影にはNonmydWXを用いた.NonmydWXは,1ショットで視神経乳頭の同時立体撮影ができ,偏光眼鏡を用いることで立体眼底観察が可能な眼底カメラである.また,視差が一定で眼底の形状変化を経時的に把握でき,長期にわたる経過観察に有用である.眼底写真撮影後,得られた両眼視差の付いた左右眼2枚の画像を1枚に重ね合わせ,付属の偏光眼鏡装用下にて解析を行った.まず画面に表示されたdiscの外縁をコンピュータのマウスでプロットし,その後,血管の屈曲を基準としてcupの外縁をプロットした.この操作により,discとcupの範囲が決定され,これをもとに視神経乳頭解析パラメータ(以下,discパラメータ)が算出される.これらのプロットは1人の検者(SK)が行った.なお,本機器の再現性や検者間の一致性に関してはあらかじめ確認している6).得られたdiscパラメータとMD値,PSD値との相関を早期,中期,表1Hodapp.Anderson.Parrish分類(C-30-2の場合)早期*中期後期**MD.6dB以上.12dB未満PD確率プロット中心5°以内の感度<5%18点未満かつ<1%10点未満・<15dBがない早期の基準を1つ以上越え,後期の基準を満たさない<5%38点以上または<1%20点以上・0dBが1点以上・<15dBが上下にあるMD:meandeviation,PD:patterndeviation.*早期は3つすべての基準を満たしたものを定義する.**後期は1つ以上基準を満たしたものを定義する.1128あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(102) 後期の病期別に求めた.TD値は上半視野,下半視野に分けて,部位別に比較が可能なため,discパラメータの中の上下rim幅の値との相関を,それぞれ検討した.相関はPearson積率相関係数にて解析し,有意水準は5%未満とした.II結果HFAのMD値とdiscパラメータは,早期ではいずれも有意な相関がみられなかった.中期では垂直C/D(cup/disc)表3MD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.020.95.0.680.01.0.500.01上側rim幅0.300.400.620.030.430.01下側rim幅.0.260.470.640.030.430.01Cuparea.0.070.84.0.060.860.030.87Discarea.0.220.550.410.190.190.27Rimarea.0.290.410.620.030.350.04AreaC/D比0.370.29.0.610.04.0.310.06AreaR/D比.0.370.290.620.030.310.06Cupvolume0.080.83.0.270.400.160.36Discvolume.0.010.97.0.020.940.320.06Rimvolume.0.250.49.0.050.870.300.08CupdepthAve0.140.70.0.300.350.060.74Cupdepthmax.0.020.96.0.280.38.0.040.81Discdepth.0.360.31.0.270.40.0.150.40表4PSD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.330.350.340.280.100.57上側rim幅.0.520.12.0.230.46.0.050.77下側rim幅0.100.78.0.330.29.0.190.27Cuparea.0.130.720.310.32.0.040.80Discarea0.080.840.010.96.0.120.47Rimarea0.210.56.0.220.48.0.180.28AreaC/D比.0.490.150.340.290.050.76AreaR/D比0.490.15.0.340.27.0.050.76Cupvolume0.120.740.210.500.020.93Discvolume0.280.43.0.030.930.090.61Rimvolume0.340.330.060.850.050.77Cupdepthave0.070.840.150.640.070.67Cupdepthmax0.350.320.120.700.120.49Discdepth0.200.580.080.800.000.98表5上下rim幅とTD値との相関早期中期後期rp値rp値rp値下側rim幅-上半視野上側rim幅-下半視野0.460.060.190.860.670.490.020.130.550.410.0010.01(103)比(r=.0.68,p=0.01),上側rim幅(r=0.62,p=0.03),下側rim幅(r=0.64,p=0.03)rimarea(r=0.62,p=0.03),areaC/D比(r=.0.61,p=0.04(,)),areaR/D(rim/disc)比(r=0.62,p=0.03)との間に有意な相関があり,後期では垂直C/D比(r=.0.50,p=0.01),上側rim幅(r=0.43,p=0.01),下側rim幅(r=0.43,p=0.01),rimarea(r=0.35,p=0.04)にて有意な相関がみられた(表3).PSD値ではいずれの病期別でもすべてのdiscパラメータにおいて相関はみられなかった(表4).上下rim幅と上下半視野のTD値との相関では,中期の下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.67,p=0.02),後期は上側rim幅と下半視野のTD値(r=0.41,p=0.01),下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.55,p=0.001)に有意な相関が得られた(表5).III考按本研究ではNonmydWXのdiscパラメータとHFAのMD値,PSD値,TD値との相関を早期,中期,後期の病期別に求めることで,discパラメータの有用性を検討した.その結果,得られたdiscパラメータは早期では相関せず,中期,後期において相関した.本機器における検者内の再現性については,volumeのパラメータが他と比べてやや低いとされている.検者間の一致性については,検者が正確なdiscとcupの定義を把握していることが前提であるが,cupが浅い症例や早期の症例などでは経験に依存するとされている6).しかし,本研究の結果は,得られたdiscパラメータの再現性の問題よりは緑内障の病態によるものと考えられる.すなわち,緑内障はHFAにて視野異常が検出された場合,約40%の神経線維が消失されており,早期は視野変化よりも構造変化が先行する1,7)といわれており,今回の結果でも乳頭形状と視野異常の程度とは必ずしも対応していなかったと考えられる.一方,中期,後期においてはdiscパラメータと視野は相関した.現在使用されている眼底画像解析装置として,HRTやOCTなどがあげられ,それぞれのパラメータとHFAのMD値との相関を検討した報告をみると,Saitoら8)によればHRTIIのrimareaとR/D比において,Danesh-Meyerらの報告9)ではrimarea,rimvolume,RNFL(retinalnervefiberlayer)cross-sectionalarea,垂直C/D比,meanRNFLthickness,areaC/D比,areaR/D比において,さらに,柳川らの報告10)ではcuparea,rimarea,cupvolume,rimvolume,areaC/D比,linearC/D比,meancupdepth,cupshapemeasure,meanRNFLthickness,RNFLcrosssectionalareaにおいて相関がみられていた.OCTはKangら11)がdeviationscoreと有意な相関を示していたと報告している.本機器に類似した立体眼底カメラではrimarea,R/D比,垂直C/D比にて有意な相関を示したと報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121129 いる8).これらの既報を踏まえると,垂直C/D比,rimarea,areaR/D比が本結果と一致しており,NonmydWXによる立体画像解析では,これらのdiscパラメータが視野障害を反映していると考えられる.さらに,本機器では従来機器にはない上側rim幅と下側rim幅のパラメータが備わっており,上下rim幅を部位別に評価するため,上半視野,下半視野に分けたTD値と上下rim幅の値との相関をそれぞれ検討すると,中期の下側rim幅と上半視野のTD値,後期は上下ともに有意な相関が得られた.中期において上半視野のみ相関がみられたのは,網膜神経線維層厚は下方が薄い12)という形態的な差異があるためではないかと考えられる.そのため本装置で採用された上下rim幅は視野障害を反映するパラメータになりうる可能性が考えられる.一方で上記HRTの報告8.10)と比較すると,NonmydWXでは相関したdiscパラメータが少なかったが,これは両機器の撮影原理の違いとともに,cupの定義が異なることも一つの要因と考えられた.すなわち,立体眼底カメラではdiscとcupを検者が偏光眼鏡装用下で三次元的に決定するが,HRTではdiscのcontourlineを決定すると,そのcontourlineの平均値から50μm下方に基準面が自動的に作成され,その基準面の下方がcupとして決定される.検者がcupも決めるNonmydWXのほうが,従来の緑内障診療におけるcupの解釈(すなわち血管の屈曲に基づく判断)に近く,緑内障診断能力が画像解析装置より緑内障専門医による眼底写真の読影が有用である4)ことを踏まえると,立体眼底カメラであるNonmydWXは緑内障診療において有用な診断補助装置であると考えられる.さらに本研究において筆者らは,NonmydWXを用いてdiscパラメータと視野指標との相関を検討した.中期および後期においてdiscと視野のパラメータが相関し,特に垂直C/D比,rimarea,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映していた.Tsutsumiら13)によると40歳以上の非緑内障群に対して大規模スタディを行った結果,垂直C/D比とR/D比によって緑内障性視野異常の早期変化を捉えられる可能性があると報告している.緑内障ガイドラインによれば,緑内障性変化を生じた視神経乳頭では,discの上側,下側あるいは両側でrimの進行性の菲薄化が生じ,視野障害をきたすとされている.このことからも本検討では垂直C/D比,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映しており,これらは早期の構造変化を反映するパラメータになりうると考えられる.したがってNonmydWXは,視神経乳頭の記録のみならず形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.1130あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HarwerthRS,Carter-DawsonL,ShenFetal:Ganglioncelllossesunderlyingvisualfielddefectsfromexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci40:2242-2250,19992)KimHG,HeoH,ParkSW:Comparisonofscanninglaserpolarimetryandopticalcoherencetomographyinpreperimetricglaucoma.OptomVisSci88:124-129,20113)IesterM,MikelbergFS,DranceSM:TheeffectofopticdiscsizeondiagnosticprecisionwiththeHeidelbergretinatomograph.Ophthalmology104:545-548,19974)VessaniRM,MoritzR,BatisLetal:Comparisonofquantitativeimagingdevicesandsubjectiveopticnerveheadassessmentbygeneralophthalmologiststodifferentiatenormalfromglaucomatouseyes.JGlaucoma18:253261,20095)緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:5-46,20126)AsakawaK,KatoS,ShojiNetal:Evaluationofopticnerveheadusinganewlydevelopedstereoretinalimagingtechniquebyglaucomaspecialistandnon-expertcertifiedorthoptist.JGlaucoma,inpress7)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol15:453464,19898)SaitoH,TsutsumiT,IwaseAetal:CorrelationofdiscmorphologyquantifiedonstereophotographstoresultsbyHeidelbergRetinaTomographII,GDxvariablecornealcompensation,andvisualfieldtests.Ophthalmology117:282-289,20109)Danesh-MeyerHV,KuJY,PapchenkoTLetal:Regionalcorrelationofstructureandfunctioninglaucoma,usingtheDiscDamageLikelihoodScale,HeidelbergRetinaTomograph,andvisualfields.Ophthalmology113:603611,200610)柳川英里子,井上賢治,中井義幸ほか:開放隅角緑内障の視神経乳頭形状の画像解析的検討.あたらしい眼科22:239-243,200511)KangSY,SungKR,NaJHetal:ComparisonbetweendeviationmapalgorithmandperipapillaryretinalnervefiberlayermeasurementsusingcirrusHD-OCTinthedetectionoflocalizedglaucomatousvisualfielddefects.JGlaucoma21:372-378,201212)HarrisA,IshiiY,ChungHSetal:Bloodflowperunitretinalnervefibertissuevolumeislowerinthehumaninferiorretina.BrJOphthalmol87:184-188,200313)TsutsumiT,TomidokoroA,AraieMetal:Planimetricallydeterminedverticalcup/discandrimwidth/discdiameterratiosandrelatedfactors.InvestOphthalmolVisSci53:1332-1340,2012(104)

後期臨床研修医日記 18.久留米大学医学部眼科学講座

2012年8月31日 金曜日

●シリーズ⑱後期臨床研修医日記久留米大学医学部眼科学講座佛坂扶美久留米大学医学部眼科学講座の平成23年度の新入局員は3名で,未熟ながらも3人で力を合わせつつ頑張っています.指導体制私たち新入局員にはオーベン,チューベンという指導医が付きます.オーベンは医務経歴8.10年目の先生で手術や外来など第一線で活躍されています.術後管理や,手術手技をはじめとしたさまざまなことを指導してくださいます.チューベンは3.5年目の先生で,病棟や外来で一番身近に指導をしてくださいます.何でも相談でき,何かあったときはどんなに忙しくても嫌な顔一つせず対応してくれる,とても頼りになる存在です.わからないことがあれば自分のオーベン,チューベンに相談することが多いのですが,いつでも各分野の専門の先生たちから熱い指導をしていただける,とても恵まれた環境にいます.時折,仕事が終わった後「オーベン会」なる飲み会が開催され,仕事のことだけでなく,私生活のことも相談し合える素晴らしい指導体制となっています.朝の診察外来ならびに手術は8時半から開始となっており,病棟医はこの時間に合わせて担当患者さんの診察を終わらせなければなりません.毎週木曜日は7時半から術前回診があり,さらに朝は早いです.眠い目をこすりながら患者さんを起こしての診察もしばしば….病棟のスリット台は常にフル稼働しており,8時から患者さんの食事の配膳が始まってしまいますので,1分1秒を争いながらあわただしく朝の時間が過ぎていきます.外来朝の病棟診察が終わったら,外来での業務が始まりま(93)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY▲同期と一緒に(左から石橋,筆者,青木)す.新入局員の仕事はおもに午前中は検査や陪席,午後には初診患者さんや院内紹介の診察の手伝いをします.はじめのころは視力検査一つにしてもモタモタしてしまい,手伝っているのか邪魔しているのかわからないといった感じでしたが,今では各種処置や造影検査などさまざまなことを任されるようになりました.午後の初診では大学病院ならではの多様かつ重症な症例をみることができ,新しい発見の毎日です.何かわからないことがあっても,緑内障,前眼部,ぶどう膜,外眼部,網膜硝子体,黄斑部,神経眼科などのさまざまな専門の先生や,視能訓練士(ORT)さんがすぐそばにおり,いつでも質問できその場で解決できますので,教育環境に大変恵まれていると感じます.手術手術日は金曜日を除く月.木曜日となっていますが,緊急手術も多いため,平日はほぼ毎日手術が詰まっている状況です.基本的には自分の担当患者さんの手術に入ります.おもに助手として術野に水かけをするのですが,慣れないうちはこれがむずかしく,気づいたら術野あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121119 の周りが水浸しなんてことも多々ありました.徐々に慣れ,最近では術者のつぎの行動を読み,手術が円滑に進むように配慮できるようになってきました(時折気を利かせすぎてかえって邪魔をすることもありますが…).助手として上達すると,糸きり,縫合など手技をさせていただくこともあります.また,緊急で時間外の手術が入った場合は自分達で器械だしを行います.器具の名前が多すぎて最初は右往左往するばかりでしたが,手術の流れを読み,つぎに何をするかを考えるトレーニングにもなります.助手や器械だしに入ることで,誰よりも手術を一番近くで見ることができ,日々とても勉強になっています.カンファランス大学病院の醍醐味として,カンファランスが充実していることがあげられます.月曜日は術前カンファランスがあり,入院前の患者さんの術式検討などを行います.プレゼンテーションは新入局員を中心とした若手医師の仕事で,要点を簡潔にかつ正確にまとめてプレゼンする訓練ができます.初めのころは何を発表していいかわからず,しどろもどろなプレゼンでしたが,先生方のご指導のおかげで少しずつ上達できました.また,木曜日の夕方には画像カンファランスがあります.HRA2(HeidelbergRetinaAngiography2)の画像や前眼部のフォトスリット写真を見ながら今後の方針を決定したり,珍しい症例を共有したりします.ここでたくさんの画像を見ておくことが,診断技術の向上や治療方針を的確に決めることにつながっていきます.学会発表大学病院勤務の1年の間には学会発表をする機会も与えられます.もちろん私たちにとっては初めての学会発表なので,論文検索から,カルテの収集,統計の計算などなど,やることがありすぎて右も左もわかりません.通常業務が終わってからの作業なので,夜中まで居残りすることもしばしば.そんななか,指導医が一つひとつやり方を教えてくださいます.県外で学会発表がある際も,指導医の先生方は会場で発表を見守ってくださり,▲朝のカンファレンス発表する私たちとしてはとても心強く,そして発表後の打ち上げはまた格別です.豚眼実習ほぼ毎週のようにウェットラボの機会があり,白内障手術から硝子体手術までシミュレーションすることができます.実際に自分で手術器具を使い手術をシミュレーションすることで,手術の助手の際にも細かいところまで観察できるようになりました.おわりに眼科に入局してそろそろ1年が経とうとしています.ときどき失敗もありますが,それも含めて新しい発見の毎日です.各分野の専門の先生方や,視能訓練士さん,看護師さん,皆さんに支えられながら,少しずつ成長することができました.早く一人前になり真のチームの一員になれるよう,これからも力を合わせて頑張っていこうと思います.〈プロフィール〉佛坂扶美(ほとけざかふみ)平成21年久留米大学医学部卒業.沖縄県浦添総合病院にて初期臨床研修.平成23年4月より久留米大学医学部眼科学講座後期研修医.1120あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(94) 後期研修医として眼科に入局してきた先生方を見ていると,初期研修で内科,外科,救急救命などを回ってきているため,病院のシステムや全身疾患への対応などはすぐにできるようで心強いです.大学を卒業していきなり眼科へ入局した時代では,そういったことについては,皆あたふたしたものでした.しかし,眼科の診断・検査・治療の進歩により情報量が膨大となり,覚えないといけないことや,修得しないといけないことが多く,今の研修医は大変だと思います.いつの時代でも,駆け出しは忙しいですが,その時代によって修得するものが違ってきています.ただそのため,診療技術の修得については中途半端になってしまうことが懸念されます.細隙灯顕微鏡と眼底鏡を使いこなすにはかなり時間がかかりますが,必ず徹底的に修得して欲しいと思います.やはり両者は眼科診療の基本であるからです.(久留米大学医学部眼科学講座・教授山川良治)教授からのメッセージ☆☆☆(95)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121121

My boom 7.

2012年8月31日 金曜日

監修=大橋裕一連載⑦MyboomMyboom第7回「木村英也」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑦MyboomMyboom第7回「木村英也」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介木村英也(きむら・ひでや)医療法人社団誠明会永田眼科私は昭和62年に鳥取大学医学部を卒業して,同年に京都大学眼科に入局しました.平成2年に大学院に入学し,おもにドラッグデリバリーシステムに関する研究を行いました.平成6年にはロサンゼルスのドヘニー眼研究所でRyan教授の下,加齢黄斑変性と増殖硝子体網膜症の研究を行いました.帰国後はおもに網膜硝子体疾患に関する臨床に力を入れておりましたが,平成11年から3年間,名古屋市立大学眼科で緑内障診療にも携わり,平成14年から現在の永田眼科で副院長として,おもに網膜硝子体疾患の治療を行っております.臨床のmyboom最近の硝子体手術の進歩は著しく,小切開硝子体手術,広角観察システム,可視化剤などの発展で硝子体手術環境がかなり整ってきたように思います.私も良いものはどんどん積極的に取り入れる方針でやっております.平成14年にdeJuanが25ゲージの小切開硝子体手術システムを報告し,私も翌年の平成15年から同じシステムを使用し始めました.平成19年からは広角観察システムであるBIOMを取り入れました.慣れるまでは大変でしたが,現在では広角観察システムなしでは手術できなくなりました.現在はLumera700とResightの組み合わせです.トリアムシノロンアセトニドの硝子体手術への応用は非常に画期的で硝子体手術を(91)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY大きく変えた出来事だと思います.可視化するまではかなりの硝子体を取り残していたことがわかりました.硝子体の立体的構造がわかり,病態の理解が深まったと思います.しかしながら,こんなに硝子体手術の環境が整ってきたのに裂孔原性網膜.離の初回復位率が100%にいかないのは,まだまだ修行が足りないということです.今後27ゲージシステムにもチャレンジしていきたいと思っています.趣味のmyboom1―ランニングBilly’sBootCampが流行ったとき,私も毎日隊長に叱咤激励されながら頑張っておりました.1年以上続けましたが,モニターを見ながらの運動のためテレビを子供たちに占拠されてしまうとできなくなることから,もっと簡単に運動できる方法はないかと考えて,手っ取り早いランニングを3年前から始めました.朝4時半起床で5km走るようにしていますが,前日寝るのが遅かったり,朝起きられなかったりして走れない日もあります.せっかくランニングしているので,マラソンにも挑戦しようと思い,まず10km走に参加しました.昨年には奈良マラソンでついにフルマラソンに挑戦しました(写真1).マラソン1カ月前の練習中にランナーズニーを発症し,結局膝の痛みを鎮痛剤で抑えながらのランニングでした.奈良マラソンは高低差が70m以上あり,過酷な山岳コースです.30km過ぎの上り坂で膝が悲鳴を上げて,走れなくなりました.その後何とか復活して,目標のサブ4(4時間切)から大きく遅れましたが,4時間40分で完走できました.マラソンの記録は練習で走った距離に反映されます.マラソンに出るためは最低でも月に150km走ったほうが良いそうです.良い記録を出すためには練習で長く走るしかないようです.LSD(LongSlowDistance)が非常に重要でゆっくりあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121117 〔写真1〕初めてのフルマラソン(奈良マラソン)でのゴール20km以上の長距離を走る練習を繰り返し行うことが大事のようです.初マラソンはランナーズニーのため明らかに練習不足の状態で臨みましたので,ランナーズニー克服のために現在膝に優しいランニングフォームを研究中です.またフルマラソンに挑戦すべく走っております.趣味のmyboom2―薪集め5年前に自宅を新築する際に妻が薪ストーブをつけたいと言ったときは猛反対をしましたが,今では私のほうが薪ストーブの虜になってしまいました.寒い冬に凍てついた体を芯から温めてくれる薪ストーブの有難さはそれを経験したことのある人でないとわからないと思います.揺らぐ炎を見ながらお酒を楽しむのが冬の私の至福なときの過ごし方です.ストーブの炎も1/fゆらぎでヒーリング効果があります.しかしながら,この至福な時間を過ごすためには毎年薪集めという過酷な肉体労働をしなければなりません.薪ストーブに使用する薪はクヌギやナラに代表される広葉樹が適していて,約1年間乾燥してから使用します.1シーズンに3トン以上の薪を使用します.薪はホームセンターやインターネットでも購入可能ですが,まともに買っていたら大変な金額になります.いかにお金をかけずに薪集めをするかが問題1118あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012〔写真2〕自宅での薪割りです.あらゆるところにアンテナを立てて,少ないチャンスを逃さないようにすることが大切です.運転するときも木が切り倒されている場所があれば立ち寄り,頂けるかどうか確認します.先日も住宅造成地の横を通った際にクヌギが倒れているのを見つけ,現場監督に交渉して大量の木を確保することができました.現場でチェンソーを使って玉切りにして,それを自宅に持ち帰り斧で薪割りをします(写真2).生木は水分を多く含んでいるため非常に重く,それを運ぶのはかなり重労働です.「弘法筆を選ばず」とは言いますが,手術と同じで道具はやはり大事です.現在チェンソーはスウェーデンのハスクバーナー社製のもの,斧はドイツのスチール社製のものを使用しています.チェンソーの切れ味を維持するためには目立てが重要で,目立て専用のグラインダーも購入して毎回手入れをしています.木を収集するためには山の中の悪路を走れる専用の車が必要で,とうとう4駆の軽ワンボックスカーを中古で購入して,薪収集に励んでおります.次回のプレゼンターは岩手県の後藤恭孝先生(岩手医科大学)です.後藤先生は以前に緑内障を勉強しに永田眼科に来られ,一緒に働いた仲間です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(92)

現場発,病院と患者のためのシステム 7.系統だった院内システムの整備

2012年8月31日 金曜日

連載⑦現場発,病院と患者のためのシステム連載⑦現場発,病院と患者のためのシステム杉浦和史*系統だった院内システムの整備.システム整備計画昔,ISA(informationsystemarchitecture)というシ気がついた機能,思いついた使い方,魅力的な新製品,新技術の出現など,動機はさまざまですが,システム整備方針がないまま,機能単体でシステムを導入してしまうことがあります.どこかの成功事例をみて,CSF(成功要因)が当てはまるのかを調べず,“ウチも”ということで導入を決めてしまうこともあります.いずれも費用対効果に問題を残すシステム整備となるでしょう.これを防ぐには?ステムを整備する際の座右の銘的な規範があり,システムを開発したり,導入する際,この規範に照らし,是非を検討しました.時代は変わり,ISAをもっている企業がどれだけあるかわかりませんが,ブームに乗せられたり,付和雷同で十分な検討をしないまま導入してしまい,かけた費用と時間に見合う効果が得られないという事例は後を絶ちません.そもそも,医療機関には,効果算定をする習慣がないかも知れません.巨額の電子カルテ導入補助金があった頃,特需とばかり売り込んだベンダの甘言に乗せられた医療機関が多くありました.使い勝手の悪さに閉口しつつも,一旦導入してしまうと後戻りできず,不承不承使っているうちに慣れてしまったとか,使えるところだけ使っているという声を耳にします.前者は本質的な問題は残ったままになり,後者は費用対効果の点で問題があります.ここで改めて,システム整備規範(ISA)というものを見直す必要がありそうです.面倒そうですが,そうでもありません.図1に示す院内業務のどこまでをシステム化するのかの全体像を描き,それに沿って順次整備し,ブームや新製品,新技術に無定見に乗らない(乗せられない)ことです.ある業務を処理する素晴らしいシステムがあっても,関連する他の業務を処理するシステムが同じ水準で仕上がっていなければバランスが取れず,意味がありません.高性能スポーツカーがあっても道路が未舗装では,その性能を発揮しようがなく,むしろ危険ですが,それと同じです.システムは,テレビや冷蔵庫のように買ってきてコンセントにつなぎ,スイッチを入れれば使えるというものではなく,効果を発揮する環境が必要です.また,個別に最適な単発システムの集合は,全体的に(89)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYみると最適化されたシステムとはなり得ないことも考慮すべきでしょう.設計コンセプトが一緒でないものを寄せ集めても,スムーズな機能,情報の連携ができないどころか,機能,情報の重複が発生し,設備も二重になってしまいます.有限予算,有限時間の制限の中であることを考慮し,経営の視点で評価する必要があるのではないかと思われます.以上述べてきたことに加えるとすれば,個人クリニックと,複数の医師がいる病院という,規模,体制の違いもシステム整備では考慮すべきことといえます.前者はスキルフルで進取の精神に富んだ一人の医師が,すべてを仕切ることができるのに対し,後者は複数の医師のみならず,看護師,検査員,医事会計課員,薬剤師,栄養士など,職種,性格,経験,人生観の違う多くの医療従事者がいて,一筋縄ではいきません.成功事例として個人クリニックが取り上げられる場合がありますが,その延長線で規模の大きな病院でも適用できると考えたら,検査診察手術病棟受付外来給食事務薬局治験研究図1多くの業務から成り立っている医事会計*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121115 表1基本リテラシRリテラシ内容1Hearing聞き出す能力忌憚のない意見,要望,疑問を漏れなく引き出せる能力.ヒアリング以降の作業の品質,成果物の完成度が左右される重要な能力.特に,当たり前だと思っていわないことを聞き出せるかどうかは大きなポイントです.2Documentation文章で表現する能力聞いたこと,決まったこと,意見,意志を文章で表現する能力.簡潔,正確,素早く書けることが要求されます.“読みたい”と思わせる表現力,見やすい体裁にするセンスが要求されます.“ドキュメントは人がいないプレゼンテーション”と考え,そばにいて補足説明しなくても,伝えたいことが誤解なく伝わるかどうかを気にした文章が書ける能力が要求されます.3Presentationわかりやすく説明する能力相手が専門家か非専門家か,また,経験の度合い,関心の深浅など,状況に応じて臨機応変に話し方や説明する切り口を変えられる能力とセンスが必要.プレゼンしながら相手の反応,理解度を観察し,“誤解のない理解”を得られているかをチェックしながら説明する気遣いが求められます.4Negotiation利害を調整する能力要求を聞き出していると,関連部署間で矛盾する要望が出てくることはよくあります.このとき,各部署の事情に配慮しつつも“個々の最適化の寄せ集めは,全体の最適化にならない”ことを説明し,納得してもらう調整能力が要求されます.確固たるポリシーが必要になります.間違いなく失敗するでしょう.その逆も同じです.理由は?CSF(成功要因)が違うからです..整備計画に盛り込むべきスタッフの教育人材ではなく,人財という当て字をする文をみかけることがあります.人は財産ということですが,システム化に伴ってこれを担う人を育てる教育が必要になってきます.システム化を担うとは,技術的なことや,プログラミングなどの物作りではなく,システム化する業務を整理整頓する能力です.技術は変化が激しく,かつ裾野は広く深く,例外はあるものの,医療従事者が業務の合間に片手間で取り組んで一人前になれるものではないと考えたほうが無難です.現状の業務を分析し,無理無駄を廃し,あるべき姿に照らして整理整頓した新たな業務フローを作る人材を育てるには,どのような教育をすればよいのでしょう.宮田眼科病院では,プロジェクトメンバーに対し,表1に示す基本リテラシ教育を行っています.作業報告,仕様書作成,およびデザインレビュー(仕様の是非を検討するミーティング)をとおして的確な表現,議論の仕方を,OJT(実務をとおして習得する)で身につけるようにしています..整備計画に盛り込むべき雰囲気の醸成システムが効果をあげるために必要な院内の有形無形な環境が整っているか否かに無関係に,鶴の一声で導入するのは論外ですが,一部の関係者だけが盛り上がっているだけで,大多数は冷めている,あるいは第三者的な1116あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012姿勢でいる状況下で,システムを導入する例は珍しくありません.全員がそれぞれの立場,役割の中で,知恵と力を合わせて作り上げたものであるという意識が芽生えていないと,雰囲気の盛り上がりは稼働直後がピークで,時間の経過と共に落ち,効果も期待できなくなります.病院のシステムは,ルールに従って機械的(自動的)に動く生産ラインの制御システムとは違い,システムから提供される情報を使って動くのは,機械ではなく人間なので,意識が下がってくると,そうなってしまいます.予約業務をシステムに乗せ,来院時間の平滑化が進み,待ち時間が軽減され,患者,スタッフ双方が楽になったと実感していても,次第におざなりになり,やがて有名無実になってしまった例があります.おかしな予約の取り方であることを示す警告表示,確認メッセージを無視するようになり,当面の問題を切り抜けるために,予約システムの主旨に反する裏技までを考え出すに至り,予約制が崩壊してしまいました.この結果,予約が予約になっていないとクレームが出てくることになりました.みんなで作り上げたシステムであり,うまく利用して待ち時間軽減に役立ち,患者満足度を向上させ,ひいてはスタッフの負荷の偏在を平滑化し,軽減しようという開発当初の意気込みが薄れ,コンセプトが忘れ去られてくると,その場しのぎの解決を繰り返すことになり,こうなってしまいます.システムが効果を発揮し続けるためには,いかにしてよい雰囲気を作り上げるのか,また,その状態を保つかにつき,腐心すべきです.ポイントは簡単,初心忘れるべからず.(90)

タブレット型PCの眼科領域での応用 3.眼科医としてタブレット型PCを臨床でどう使うか-その2-

2012年8月31日 金曜日

シリーズ③シリーズ③タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第3章眼科医としてタブレット型PCを臨床でどう使うか─その2─■画像閲覧端末としてのタブレット型PC第3章では実際の臨床業務において,どのようにタブレット型PCを活用するか,またなぜ眼科領域において有用であるかを,私の実践例とGiftHandsの活動を通して得たさまざまな“気づき”を踏まえて紹介していこうと思います.第2章でも書きましたが,タブレット型PCのおもな使い方のポイントはつぎの2点に集約されます.まず,第2章で紹介した必要な情報にきわめて迅速にアクセス可能な情報端末である点,そして患者の視機能に合わせたオーダーメイドな設定を非常に簡単な操作で選択できる点です.今回は,後半の最適な情報や画像閲覧機器としてのタブレット型PCの利点を紹介しようと思います.GiftHandsの活動のなかで,視覚障害者向けのタブレット型PC活用セミナーを実施した結果,目の不自由な方々の生の声を聞き,その思いを知ることができました(図1).それは眼科医として医療のみを行っていた頃には,知ることのできなかった多くの“気づき”です.ここからは私が知ることのできたさまざまな“気づき”を中心に,実際の臨床導入の事例も交えてその利点を紹介していきます.■私の実践活用法「患者説明編」一つめの“気づき”は“見えると見たい”,“読めると読みたい”は違うということです.患者にとって単純に見える大きさで書かれた説明文を見せられても,“見たい”や“読みたい”というレベルまで,意識は向上しません.“見る”ための要素には文字の大きさや書体,太さやコントラスト,色調や明るさなどの複合的な要素が含まれますが,これらをすべて考慮したオールマイティーな患者説明用の資料は存在しないのが現状です.(87)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1GiftHands主催のタブレット型PC体験セミナーの様子それは患者の最適な視認環境は個々の視機能により多種多様であり,視力や視野などの検査結果から単純に設定することは不可能なためです.たとえば,一般的に視力の低下した患者ではコントラストの高い黒背景で白抜きの文字,書体は明朝体よりもゴシック体がいいと考えがちですが,実際にタブレット型PCで書体や色を変化させて体験してもらうと,色と書体だけに関しても最適条件は個々の患者でさまざまです.当然のことですが情報を提供する側ではなく,提供される側である患者側が最も見やすい書体や背景色を選択することで,初めて“読める”は“読みたい”へと変化するのです.タブレット型PCに取り込まれたデジタルな文字情報は,それらの設定を瞬時に患者の最適な状態に変化させることが可能です.二つ目の“気づき”として,“使える”と“使いたい”は違うということです.タブレット型PC(iPadRの場合)では,たとえばホームボタンをトリプルクリック(3回押し)した際のアクセシビリティ(視覚や聴覚などの補助)機能を,音声読み上げやコントラスト反転などの任意の機能に割り当てることが可能なことがあげられまあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121113 す.これまでにもPCの画面の色を反転させる機能は存在していましたが,その設定を変更する操作が煩雑であるが故に,多くの方がずっと反転したままでPCなどデジタルデバイスの操作を行っている姿をよく目にしました.この反転機能が発動した状態では画面上の画像がすべて反転してしまうため,写真はネガの状態となってしまい本来の色調を残すことは不可能でした.しかし,たとえばホームボタンのトリプルクリックを白黒反転の機能を割り当てることで,文章を読んでもらう間は白黒を反転し,その後に解剖図などを説明する際はすぐに反転を解除するというような使い方ができます.瞬時に白黒反転に切り替えられることは,患者にとっても説明する側の医療者にとっても非常に重要なポイントであり,“使いたい”という想いが生まれるきっかけとなるのです.■私の実践活用法「情報を手に取る」その他の活用法の具体例としてタブレット型PCで表示された画像は拡大したい部位を1本の指でダブルタップ(2回叩く)するか,2本の指で広げるように触ることで瞬時に必要とされる拡大率まで画像や文字を拡大することができます.ここで重要なのは操作が非常に容易であるため,患者自身がタブレット型PCを手に取り任意の大きさまで,本人が操作して拡大ができるということです.これまでのあらかじめ文字や図表の拡大された紙ベースの用紙による説明や,医者の机上に置かれたPCの画面を使っての説明などとは,患者はまったく違った印象を受けます.まさに情報を手に取るように,見える大きさや明るさで見ることができて,患者の病態の理解や治療法の選択への自己決定の意思が生まれやすくなるため,アドヒアランスは格段に向上します.私は,眼瞼の状態を説明する際に,あらかじめ代表的な細隙灯顕微鏡所見の画像をタブレット型PCに保存しておき,患者自身に見える大きさまで拡大してもらって,病態生理の理解をしてもらう補助に使ったりしています.また,患者本人の細隙灯顕微鏡所見の画像を次回の診察時に患者とともに供覧することで,多くの患者が自分の眼瞼の状態に興味を示すようになり,治療への積極性が向上します(図2).最後にとっておきの活用法を一つ紹介します.外来でつぎのような台詞を,眼科医のみなさんであれば,よく1114あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012図2自身の眼瞼所見を拡大して閲覧している様子耳にするのではないでしょうか.「赤いキャップの目薬が欲しいです….」しかし,視機能の下がった患者が意図する赤色のキャップの点眼薬を同定する作業は,非常に時間と労力を要するうえに非効率的です.ところが,タブレット型PCにあらかじめ処方頻度の高い点眼薬の製剤見本の写真を入れておき,それを拡大して提示すると,患者の言葉はつぎのように変化します.「今日はこの目薬を3本ください.」これまでに費やしてきた無駄な時間を,患者の背景や生き方への質問の時間に置き換えることで,患者との心の距離はぐっと近づくはずです.なお,点眼薬の製剤見本のPDFは日本眼科学会のホームページ(http://www.nichigan.or.jp/index.jsp)にログインすることで入手することができます.必要な画像だけをスクリーンショットで取り込めば,患者とのコミュニケーションの質は格段に向上すると考えられます.タブレット型PCを臨床に導入することで,日々の診療がより快適で患者のアドヒアランスの向上につながると私は信じています.なお,私が現在GiftHandsの活動や実際に外来で扱っている電子タブレットは,“新しいiPadR(AppleInc.)”と“iPhone4SR(AppleInc.)”です(2012年6月30日現在).本文中の内容やセミナー,アプリなどに関する問い合わせはGiftHandsのホームページでお問い合わせいただけると助かります.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 111.硝子体手術後晩期に生じる黄斑円孔(中級編)

2012年8月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載111111硝子体手術後晩期に生じる黄斑円孔(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに特発性黄斑円孔は,硝子体皮質前ポケット後壁の硝子体皮質による牽引で生じるとされており,硝子体手術後眼に黄斑円孔が生じることはまれである.近年,トリアムシノロンアセトニド(TA)を用いて硝子体を可視化する手技が用いられるようになってからは,黄斑部の硝子体皮質をより確実に除去できるようになったため,黄斑上膜や黄斑円孔が硝子体手術後に生じることはさらに少なくなっていると考えられる.しかし筆者らは,硝子体手術後晩期に黄斑円孔を生じた症例を2例経験している1).●硝子体手術後に生じる黄斑円孔筆者らが経験した2例は,裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術後晩期に黄斑円孔を生じたものである.硝子体手術後に生じた黄斑円孔の報告は過去に散見され,その原因として,中心窩周囲に再増殖が生じ,黄斑部に新たに接線方向の牽引が加わったことが共通して述べられている.以前の硝子体手術ではTAによる硝子体の可視化は行われておらず,初回手術時に黄斑部に残存した硝子体皮質が再増殖の一因となっていた可能性がある.しかし,今回の2例は,初回手術時にTAを使用して確実に黄斑部硝子体皮質を除去したにもかかわらず黄斑円孔が発症した.原因としては,以下のようなことが考えられる.1)2例とも初回手術時すでに網膜.離が黄斑部に及んでおり,術後網膜が復位した後も中心窩網膜が菲薄化していた(図1).2)再手術時に,黄斑円孔周囲の内境界膜が肥厚し,薄い黄斑上膜と一体となっている所見を認め,この膜様組織の接線方向の牽引が黄斑円孔発症の誘因となった(図2).●再手術時の注意点硝子体はすでに切除してあるので,黄斑部の薄い黄斑(85)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1初回硝子体手術前の眼底写真上方の大きな弁状裂孔を原因とする胞状の網膜.離を認める.黄斑.離も生じている.図2網膜.離術後8カ月のOCT所見黄斑上膜により接線方向の牽引が生じているのがわかる.矯正視力0.2.図3術中所見内境界膜はかなり肥厚しており病的な状態となっている.内境界膜と連続する黄斑上膜を.離している.上膜と肥厚した内境界膜の確実な除去が手術のポイントとなる.今回は2例ともインドシアニングリーン塗布後に黄斑部には染色されない部分が認められ,薄い黄斑上膜が生じているものと考えられた.内境界膜も病的に肥厚しており,内境界膜.離を行いながらそれに連続する薄い黄斑上膜を.離した(図3).今回の2例とも再手術後に黄斑円孔は閉鎖し,矯正視力0.5に改善していることから,このような症例に対しては積極的に手術を考慮してもよいと考えられる.文献1)鈴木浩之,石崎英介,吉田朋代ほか:網膜.離に対する硝子体手術後晩期に発症した黄斑円孔の2例.眼臨紀5:341-345,2012あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121111