特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1533~1538,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1533~1538,2013【各論】正常と緑内障性視神経症の鑑別診断DifferentialDiagnosisofGlaucomatousOpticNeuropathyCasesfromNormalSubjects福地健郎*栂野哲哉*はじめに緑内障性視神経症(GON)の診断は眼底の視神経乳頭および網膜所見と視野所見の組み合わせによって行われる.一般的に眼底所見は視野所見に先行する.GONの最も特徴的な臨床所見は視神経乳頭およびその周囲の眼底所見である.まず眼底所見によってGONが診断されるというシステムは現時点でも変わることはない.画像解析装置が一般臨床の場に広く普及し,GONの診断,管理の様式が変わりつつあるが,個体差や方法上の限界があり,あくまで補助的なものであることを認識することが必要である.Iどこまでが正常で,どこからが緑内障か?Weinrebら1)はGONの連続的な過程をglaucomacontinuumとして示した.まったくの正常眼に,アポトーシスの加速によって次第に網膜神経節細胞死が生じ,GONが発症する.次第に網膜神経線維層の変化が生ずるが,この時点ではまだ疾患としては認識できない(Undetectabledisease).網膜神経線維層の変化が進行してきてようやく疾患として認識され(Asymptomaticdisease),視野欠損が検出されると視機能障害として捉えることができる(Visualimpairment).視野障害は軽症から重症へと移行し,最終的には失明に至る.GONが発症しても潜在し,長時間をかけてゆっくりと顕性化,しかし着実に機能障害へと進行していくという疾患の特徴を見事に模式的に捉えている.現時点に至っても,私たちはGONの発症を正確に捉えることはできない.まったくの正常で,まったくGONがないと判定することは不可能である.従来,視野障害検出以前のGONの判定は定性的判定が主であった.それに対してHRT(HeidelbergRetinaTomographR)やGDx(GDxNerveFiberAnalyzerR),さらには近年の光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)などの画像解析装置を併用した判定は,機能変化に先行する形態変化を捉える能力を着実に向上させた.つまり,GlaucomacontinuumのUndetectablediseaseとAsymptomaticdiseaseの境界はゆっくりと,しかし確実に前者の側に移動しつつある.II眼底所見によるGONの鑑別GONの診断,つまり正常との鑑別に関しては,現在であっても乳頭所見の知識と理解,緑内障性変化を判別する能力が重要である.最近ではOCTによる画像解析装置による診断がポピュラーとなっているが,やはり欠点と限界があり「自らの眼で眼底所見を読む」能力なくして緑内障の診断に近づくことはできない.基本に立ち返ることが必要である.1.定性的判定2)a.視神経乳頭の形状視神経乳頭は一般的には縦長の楕円を示す.サイズに関して直径は平均で1.5~1.9mm,面積は1.67~2.94*TakeoFukuchi&TetsuyaTogano:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(41)1533mm2と報告されている.しかし,サイズや形状に関して著しく個体差が大きく,乳頭面積で0.90~6.28mm2もの差が認められたとの報告がある.b.視神経乳頭陥凹の形状正常眼の視神経乳頭陥凹はやや横長で,その位置はやや上方に偏位している.陥凹の観察には立体観察が適しているが,平面で観察する場合には血管の屈曲点で判定する.緑内障眼において陥凹拡大に伴ってみられる所見として,露出血管(baredvessel),網膜中心動静脈の鼻側偏位,ラミナドットサインなどがある.c.視神経乳頭辺縁部(リム)の形状陥凹縁と乳頭縁の間を片縁部(リム)とよび,視神経線維が走行している.正常眼でリムの最も厚いのは下方で,ついで上方,鼻側,耳側の順である.緑内障性変化を生じた乳頭では多くの場合陥凹は上下いずれか,もしくは両方向に拡大し,それに伴って上下耳側のリムに進行性の菲薄化を生ずる.さらに進行すると陥凹とリムの境界がより鮮明化し,ノッチングとよばれる.そのような場合を通過する血管はその走行が銃剣状に屈曲しbayonetingとよばれる.d.視神経乳頭出血乳頭出血は健常者ではきわめて稀(0~0.21%)で,緑内障による変化を生じた乳頭に特異性の高い所見である.他の病型に比較して正常眼圧緑内障で頻度が高いという報告3)や,乳頭出血のみられる眼では視野障害進行の割合が高いとの報告4)があり,臨床的に重要な所見である.乳頭出血はノッチングや神経線維層欠損(NFLD)の存在部位に一致して出現しやすく,乳頭出血を発見したらその近傍のNFLDやノッチングの有無について詳細に観察する必要がある.e.傍乳頭網脈絡膜萎縮緑内障眼の乳頭周囲にはしばしば網脈絡膜萎縮像がみられ,傍乳頭網脈絡膜萎縮(PPA)とよばれる.PPAは検眼鏡的に色素の濃淡が混在するzoneaと乳頭近傍の脈絡膜・強膜が透見されるzonebに分けられる.PPAは非緑内障眼に比較して緑内障眼でより高頻度で,有意に大きい5).PPAの面積は視野障害の程度と有意に相関する,原発開放隅角緑内障(POAG)群に対して正常眼圧緑内障(NTG)群でzonebの面積が大きい,PPAの存在部位と視野欠損部とに有意な相関を認めた,乳頭部血流とPPAの面積に相関があるなどの報告がみられる.f.網膜神経線維層欠損(NFLD)乳頭周辺網膜を観察すると網膜神経線維層に限局性の束状の欠損が観察されNFLDとよばれる.Hoytら6)が緑内障におけるNFLDが緑内障診断に重要な決め手になると指摘して以降,さまざまな検証がされてきた.最も早期に認められる緑内障性眼底変化の一つで,視野障害検出や乳頭変化に先行して認められ,早期診断において重要である.NFLDの部位と範囲に一致した陥凹拡大,ノッチングの形成は,局所性の視神経障害の存在を意味し,視野障害の範囲や程度の推測など,GONの診断上,重要な眼底所見である.2.定量的判定2)a.C.D比とR.D比(図1)陥凹の最大垂直径と最大垂直視神経乳頭径の比を垂直C/D比とよび,同じく水平方向のものを水平C/D比とよぶ.緑内障性変化の有無を判定するには垂直C/D比がより有用である.正常眼の垂直C/D比は多くの場合,0.3以内であり,0.7を超えるものは全体の1~2%であA:C/D比B:R/D比垂直乳頭径(D)垂直陥凹径(C)乳頭径(D)リム幅(R)図1乳頭の量的判定におけるC.D比とR.D比表1量的判定による緑内障診断基準垂直C/D比上or下極R/D比両眼垂直C/D比の差NFLD対応する視野異常あり0.7以上0.1以下0.2以上あり乳頭所見から判定*0.9以上0.05以下0.3以上緑内障疑い0.7~0.9未満0.05~0.10.2~0.3未満あり*正常視野もしくは明確に緑内障が否定される場合を除く.1534あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(42)る.また,一般に左右眼で対称的である.一方,リム部の幅とそこに対応して乳頭中心を通る乳頭径との比をR/D比とよぶ.b.視神経乳頭の量的判定による緑内障診断日本緑内障学会による緑内障診療ガイドライン第3版では,垂直C/D比とR/D比の判定結果をもとに,Fosterらが提唱する診断基準を参考に作成された緑内障診断基準が示されている.そのサマリーを表1に示した.最終的な診断は,質的,量的所見を組み合わせて総合的に判断される.IIIOCTを併用したGONの判定眼底所見による鑑別において乳頭所見,特にNFLDの所見が重要であることは述べた.視神経乳頭はGONによる臨床的に最も特徴的な所見で,診断と発見の機会として最も重要である.しかし,乳頭所見というのはサイズを含めて,個体差が大きく,たとえば近視の影響を受け乳頭が傾斜している症例も多い.GONは網膜神経節細胞とその軸索が障害され消失する疾患である.乳頭は組織学的に複雑で,GONで乳頭陥凹拡大には篩状板の後方への弯曲など視神経線維の消失以外の要素が含まれる.したがって,その乳頭陥凹拡大の量的変化による診断や進行判定には限界と問題がある.一方,網膜神経線維層の組織構造はシンプルで,結果的に“厚さ”というパラメータでみた場合,個体差が少なく,正常範囲(正常値)を設定して,それぞれの測定値を正常値と比較するという方法により適している.これがGDxやOCT(光干渉断層計)による網膜神経線維層の判定が緑内障の診断に有効な理由である.一方,黄斑部付近のGONによる影響はQOL(qualityoflife)を考えた場合に,重要な意味を持っている.スペクトラルドメインOCTによるより高速で高画質な画像取得によって,網膜神経節細胞複合体厚(網膜神経節細胞層+網膜神経線維層+内網状層),さらには網膜神経節細胞層厚を測定AB図2PreperimetricGONの診断いずれの症例も眼圧は正常範囲で,視野検査上,明らかな緑内障性変化は認められなかった.OCTによる観察では症例1(A)は異常が検出されなかったのに対して,症例2(B)では乳頭上下に網膜神経線維層の菲薄化が認められた.症例1は今のところ正常範囲,症例2はGON(+)と判定される.(43)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131535図3OCTで正常だがGON(+)の症例左眼ポスナーシュロスマン症候群の一例である.OCTによる観察では両眼とも12分割グリッド表示で正常範囲であるものの,TSNITマップを比較すると左眼耳側上下の神経線維層厚が右眼に比べて菲薄化している(矢印).左眼はすでにGON(+)と考えられる.することが可能となった.黄斑部付近には視野障害がまったく検出されないにもかかわらず,OCT上で黄斑部付近にすでに広範囲な異常の検出される症例もまれではなく,視機能予後を考慮した場合,有力な情報を提供してくれる可能性がある.図2は乳頭陥凹拡大の2症例である.いずれも眼圧は正常範囲で,視野検査上,異常は検出されない.また,眼底にも明瞭なNFLDは検出されない.OCTで傍乳頭網膜神経線維層厚を観察すると,症例1は正常範囲なのに対して,症例2では上下に菲薄化が検出された.症例→図4OCTで異常だがGON(-)の症例この症例では正常眼に比べて上下の最も厚いピークがやや耳側にずれている(矢印).強度近視眼では上下網膜最厚部が耳側にシフトすることがあり,実際には正常範囲にもかかわらず神経線維の走行の違いから,OCT上で異常と判定されることがある.1536あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(44)2ではすでに明瞭なGON(+)と判定される.GONの存在を従来よりも早く検出できる可能性があり,今後,治療や管理の方法に生かされていくことが期待できる.IVOCTを併用したGON診断の問題点OCTには利点だけでなく,限界も欠点もあり,安易にOCTの結果のみで緑内障と診断することは避けるべきである.上記した乳頭や網膜神経線維層の所見を含む眼底所見とOCT所見,さらには視野所見の相同性を確認して総合的に診断することが必要である.1.OCTで正常だがGON(+)の症例図3の症例は47歳の女性で,36歳時に左眼ポスナーシュロスマン(Posner-Schlossman)症候群と診断され,しばしば発作を繰り返し,加療を続けてきた.その後,サイトメガロウイルスによる虹彩毛様体炎と診断された.乳頭陥凹はやはり左眼で拡大しているが,視野検査上は両眼とも異常は検出されない.OCTによる観察では両眼とも12分割グリッド表示で正常範囲であるものの,TSNIT(TemporalSuperiorNasalInteriorTemporal)マップを比較すると左眼上下耳側の神経線維層図5OCTはあくまで正常データとの比較この症例では視野所見に比較して,黄斑部の神経線維層厚,網膜神経節細胞複合体厚の所見が軽度である.右上の黄斑部のスキャン像を見るとこの症例は黄斑前膜を伴っている.すでに網膜の形態そのものが変化しており,OCTによるGONの判定は不可能である.(45)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131537厚が右眼に比べて菲薄化していることがわかる.すでにGON(+)と考えられる.従来の「乳頭陥凹の左右差はGONを疑わせる」という定性的な判定とOCT所見を合わせて判断することが必要な一例である.2.OCTで異常だがGON(-)の症例図4の症例は53歳,男性で,検診で乳頭陥凹拡大を指摘され精査を勧められた.眼圧は正常範囲で視野検査でも異常所見はみられなかった..8Dの強度近視眼である.OCTで下方の網膜神経線維層菲薄化を疑わせる所見が得られた.この症例では正常眼に比べて上下の最も厚いピークがややずれている.強度近視眼では上下網膜最厚部が耳側にシフトすることがあり,神経線維の走行の違いからOCT上,異常と判定されることがある.その他にもさまざまなOCTによるアーチファクトや検出限界がある.神経線維層厚,GCCのいずれの判定においてもあくまで正常データと比較をしているにすぎない.たとえば黄斑前線維症を伴っているような症例では,すでに網膜の形態そのものが変化しており,GCCの判定は不可能である(図5).やはり正確な診断のためには眼科医による乳頭所見の定性的判定とOCT所見を正しく組み合わせて判定することが必須である.V今後の展開今後,技術の進歩によりさらに詳細に,さらに別なポイントで形態変化を捉えることができるようになってくる可能性がある.たとえば補償光学網膜イメージングカメラ(trxTM1,imagineeyeR)では視細胞のカウントが可能である.現在のOCTによる網膜神経線維層の観察も単に厚みで神経線維の数を代用しているにすぎない.網膜神経節細胞の数と分布,また網膜神経線維の数と形態をさらにマイクロのレベルで観察することが可能となれば,GlaucomacontinuumのUndetectablediseaseの境界はさらに前進することが期待される.私たちがGONをより詳細に全体像を理解することによって,さらに個々の条件に適した治療と管理の方法が提案できると考えられる.今後の展開に期待したい.文献1)WeinrebRN,FriedmanDS,FechtnerRDetal:Riskassessmentinthemanagementofpatientswithocularhypertension.AmJOphthalmol138:458-467,20042)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン,第3版,20123)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemorrhageinlow-tensionglaucoma.Ophthalmology93:853857,19864)IshidaK,YamamotoT,SugiyamaKetal:Diskhemorrhageisasignificantnegativeprognosticfactorinnor-mal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol129:707-714,20005)JonasJB,FernandezMC,NaumannGO:Glaucomatousparapapillaryatrophy.Occurrenceandcorrelations.ArchOphthalmol110:214-222,19926)HoytWF:Theearliestobservabledefectinglaucoma?Lancet25:692-964,19721538あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(46)