考える手術⑰監修松井良諭・奥村直毅視機能を考えた網膜前膜手術杉浦好美筑波大学医学医療系眼科網膜前膜(ERM)は黄斑前膜ともいい,特発性と続発性がある.前者は加齢による後部硝子体.離後に確認されることが多く,後者は網膜裂孔や裂孔原性網膜.離に伴うもの,ぶどう膜炎などの炎症性疾患に伴うものなどがある.ERMを発見したら,まず後者の可能性を考え,その原因疾患がないかを観察する必要がある.近年OCTの普及に伴い,ERMを日常診療でみる機会が非常に増えており,ERMに対する手術の機会も増え,適切な手術適応やタイミングの見きわめが術者に求められている.以前は視力とOCTによる網膜構造の変化から手変視は術後徐々に改善するが,完全には消失しない.また,不等像視(左右の眼で見た物の大きさが異なること)の存在も忘れてはならない.不等像視は変視と異なり,両眼視機能といわれる高度な視機能である.人間は両眼で生活しているので,両眼視機能である不等像視のほうがむしろ気になるという人もいる.これらの視機能評価をしたうえで手術適応を決める必要がある.また,内境界膜(ILM).離についても近年活発に議論されている.ILM.離を行うと術後のERM再発の予防になりうるが,緑内障眼では術後の網膜感度への影響が報告されている.ILM.離については要不要を熟慮する必要がある.ERM.離時にILMを温存するためには,ERMによって網膜に深い皺が形成されているところから.離を開始するとILMを温存しやすい.ILMを温存する場合も.離する場合も,ERM.離後にもう一度染色液で染めて確認するdoublestaining法が有用である.聞き手:網膜前膜(epiretinalmembrane:ERM)の変が一つの目安になると思います.変視は手術加療によ視や不等像視は手術でよくならないのでしょうか?手り,1~2年の経過で徐々に改善する傾向にあります.術前に患者にどのように説明したらいいですか?しかし,完全にゼロにはならないことが多いので,その杉浦:既報ではM-CHARTS(イナミ)のスコアで0.2°旨を術前によく説明しておく必要があります.以上になると変視を自覚し,0.5°以上になるとQOLにERMの不等像視は通常より大きく見えてしまう大視影響するといわれています.したがって,0.5°という値症がほとんどです.私たちはNewAniseikoniaTest(は(81)あたらしい眼科Vol.40,No.5,20236590910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術んだや)という視標を用いて検査をしています.一般的には1~3%の不等像視で違和感を感じ,3~5%で両眼視ができなくなり,5%以上になると融像が困難になって複視が生じるといわれています.個人差はありますが,不等像視は手術加療であまりよくならないと報告されており,進行してから手術をしても良好な視機能を得られない可能性があります.視力や光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)所見だけで判断するのではなく,変視や不等像視といった視機能も評価し,手術適応を決めることが重要だと考えています.聞き手:緑内障の人のERM手術で気をつけることはありますか?杉浦:膜.離のきっかけを作る際に注意が必要です.一般的に耳側縫線や視野の妨げにならない下方から始めるのがよいといわれています.また,視神経乳頭-黄斑間を避けることも大切だと思います.緑内障眼の場合は術前の視野検査や網膜感度の結果を参考にし,すでに暗点(網膜感度のないところ)になっている部位から始めるのがよいと思います.暗点ではないけれど網膜感度が低下している部位は避けましょう.緑内障眼の場合,内境界膜(internallimitingmem-brane:ILM).離についても配慮が必要です.ERM手術の際に行うILM.離は,ERMの再発予防に効果があるといわれています.しかし近年,ILM.離を行った眼の術後網膜度低下の報告が散見されます.不必要なILM.離は避けたほうがよさそうです.OCTのen-face画像で見たときに網膜の皺の幅が広いところ,OCTのBスキャン画像で深い皺が形成されているところから.離を開始すると,ILMを温存しやすいです(図1).また,ILMを.離する場合も温存する場合も,ERM.離後に再度染色液で染色して確認するdoublestaining法が有用です.聞き手:網膜.離にERMを合併しているときは,どのように対処したらよいでしょうか?杉浦:網膜.離の術後にERMが増悪することもありますので,可能なら網膜.離の手術の際,同時にERMを処理したほうがよいと考えます.しかし,黄斑.離をしている眼でERMを.離すると,網膜に余計な牽引がかかってしまいます.網膜の牽引は術後の変視や不等像視などに影響を与える可能性があるため,極力避けたいところです.そのため,液体パーフルオロカーボン(per.uorocarbonliquid:PFCL)を使用し,.離網膜を安定化させて手術をするのも方法の一つです.PFCLはアーケード血管を超えるくらいの十分量を注入し,PFCL下でERMを.離します.その際,周辺から視神経乳頭に向かう方向で.離すると網膜に牽引がかかりやすくなります(動画②前半).乳頭から周辺部に向かう方向で.離したほうがよいと思います(動画②後半).en-face画像Bスキャン画像図1OCTでの網膜皺の観察660あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(82)