ドライアイとアレルギー性結膜疾患DryEyeandAllergicConjunctivalDiseases庄司純*はじめにアレルギー性結膜疾患とドライアイの関係は,長年にわたり議論が続けられている課題である.どちらの疾患もある種の免疫学的異常を背景として発症してくる炎症性疾患という側面をもつが,その病態においてオーバーラップする部分があるかどうかは未だに不明である.また,非感染性結膜炎の代表である両疾患では,自覚症状,他覚所見,臨床検査などによる臨床データと眼局所の病態解析とにより,両疾患の類似点や相違点が明らかになりつつある.アレルギー性結膜疾患は,即時型アレルギー反応を主要病態とする結膜の炎症性疾患であり,アレルギー性結膜炎,春季カタル,アトピー性角結膜炎,巨大乳頭結膜炎などの病型が含まれる1).一方,わが国(2016年)でのドライアイの定義2)は,「様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」とされている.両者の定義を満たす場合に,アレルギー性結膜疾患とドライアイが併発していることになるが,実際の臨床の場では治療を抗アレルギー薬中心で行うのか,ドライアイ治療を優先するのかなど,臨床的にむずかしい課題に直面する.ここでは,アレルギー性結膜疾患患者の自覚症状,他覚所見および涙液検査や眼表面検査のデータから,アレルギー性結膜疾患に併発するドライアイについて既報を中心に解説する.Iアレルギー性結膜疾患の自覚症状とドライアイアレルギー性結膜疾患における重要な自覚症状としては,「眼掻痒感」「異物感」「充血」「流涙」「眼脂」があげられているが3,4),「眼乾燥感」や「眼灼熱感」などの訴えもみられる5)(表1).とくに眼乾燥感は,流涙がみられる季節性アレルギー性結膜炎症例や軽症~中等症の通年性アレルギー性結膜炎症例でみられることがあり,結膜充血を伴う眼表面のアレルギー炎症によって出現する症状である.これらのアレルギー性結膜疾患の自覚症状は,ドライアイの眼不快感を示す自覚症状とオーバーラップするものが多い.しかし,両疾患とも結膜炎であるという視点では,結膜炎による非特異的な自覚症状と考えることもできる.したがって,アレルギー性結膜炎に合併するドライアイ患者を診断するための自覚症状については,今後の検討課題である.一方,ドライアイの自覚症状からアレルギー性結膜炎の合併を検討した報告がある.Dermerらは,問診票を使ってドライアイ症状を有する被験者75名の涙液をSchirmer試験紙で採取し,涙液中の総IgE値を測定するとともに,環境因子についても調査した.その結果,涙液中に総IgEが検出された被験者は全体の76%であり,17.3%で高値を示していたと報告している6).また,この報告では,涙液中総IgE値が高値を示した症例では,ペットや喫煙など屋内の環境因子との関係が有意に*JunShoji:庄司眼科医院,日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(11)293表1アレルギー性結膜疾患における代表的な自覚症状と出現頻度SAC(84例)PAC(52例)AKC(41例)VKC(38例)GPC(8例)総計(223例)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)眼.痒感充血眼異物感流涙眼灼熱感眼疲労感乾燥感眼脂76(90.5)67(79.8)44(52.4)47(56.0)10(11.9)29(34.5)33(39.3)41(48.8)41(78.8)41(78.8)27(51.9)18(34.6)4(7.7)24(46.2)26(50.0)30(57.7)32(78.0)30(73.2)20(48.8)21(51.2)3(7.3)15(36.6)13(31.7)24(58.5)27(71.1)29(76.3)29(76.3)24(63.2)10(26.3)12(31.6)12(31.6)30(78.9)6(75.0)6(75.0)6(75.0)5(62.5)3(37.5)1(12.5)4(50.0)1(12.5)182(81.6)173(77.6)126(56.5)115(51.6)30(13.5)81(36.3)88(39.5)126(56.5)SAC:seasonalallergicconjunctivitis,PAC:perennialallergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjunctivitis,VKC:vernalkera-toconjunctivitis,GPC:giantpapillaryconjunctivitis(文献5より引用)ab*40*703560MUC5ACmRNA相対発現量302520151010500鎮静期活動期鎮静期活動期図1慢性アレルギー性結膜炎患者における重症度別眼表面SPDEFmRNAおよびMUC5AC発現量の比較活動期の慢性アレルギー性結膜炎患者では,鎮静期の患者と比較して,有意に眼表面CSPDEFmRNAおよびCMUC5AC発現量が低値を示した.(文献C12より改変引用)C100SPDEFmRNA相対発現量1010.11101001,000臨床スコア(点)図2慢性アレルギー性結膜疾患患者における臨床スコアと眼表面SPDEFmRNA発現量との関係SPDEFmRNA発現量と臨床スコア(5-5-5方式重症度観察スケール)との間に有意な負の相関がみられる.Cr=.0.484,Cp=0.049(文献C12より改変引用)SPDEFmRNA相対発現量・涙液採取:Schirmer試験紙・涙液検体:緩衝液で溶出・測定:ELLA法標識アルカリホスファターゼレクチン(WGA)ムチン(MUC5AC)抗MUC5ACモノクローナル抗体図3涙液中MUC5ACの測定涙液はCSchirmer試験紙で採取し,緩衝液で涙液を溶出したものを涙液検体とする.涙液検体をCenzyme-linkedClectinCassay(ELLA)法で測定して,涙液中CMUC5AC濃度を算出する.ELLA法は,ムチンを抗ムチンコア蛋白抗体とアルカリフォスファターゼ標識レクチンとでサンドイッチして測定する方法である.C–涙液中MUC5AC値(mg/ml)200150100500020406080100年齢(歳)図4涙液中MUC5AC-WGA値健常者では,年齢とともに涙液中CMUC5ACが減少傾向を示した(直線).Steel-Dwass法**:p<0.01NSNS:notsigni.cantNS****NSNS160140120100806040MUC5AC-UAE-1(mg/ml)250200150100500ControlドライアイACMUC5AC-WGAMUC5AC-UEA-1図5涙液MUC5AC値涙液中CMUC5ACをCELLA法で測定する場合,シアル酸と反応する小麦胚芽レクチン(WGA)を使って測定する場合とフコースと反応するハリエニシダレクチン(UAE-1)を使って測定する場合とでは,測定結果が異なる.コア蛋白が同じでも,糖鎖の構成が異なるムチンが存在し,ムチンにはさまざまなバリエーションが存在することがわかる.AC:アレルギー性結膜炎,WGA:小麦胚芽レクチン,UEA-1:ハリエニシダレクチン.ControlドライアイACMUC5AC-WGA(mg/ml)ビロード状乳頭増殖角膜老人環様混濁点状表層角膜炎図6アトピー性角結膜炎症例42歳,男性.重症のアトピー性角結膜炎を発症しており,他覚所見では乳頭増殖,角膜老人環様混濁および点状表層角膜炎がみられた.涙液中CMUC5AC-WGA量は右眼C2Cmg/ml,左眼C3Cmg/mlと低値を示した.短縮型ドライアイが発症すると考えられる.C2.涙液の生化学検査眼表面疾患において診断,重症度判定および治療効果判定が行える眼表面検査は,血液検査に代わる臨床検査として実用化が待望されている.涙液は眼表面の病態を反映する物質が検出可能な検体であることから,涙液検査は臨床応用可能な眼表面検査の一つとして有望視されている.涙液中の何を測定すれば臨床応用可能であるのかは,今後の課題である.これまでに,アレルギー性結膜疾患とドライアイの涙液中では,個々の疾患で病態や病状を反映する物質が検討されてきた.そのなかで,両者に共通して報告がある物質は,Th1サイトカイン(IFN-c,IL-12),Th2サイトカイン(IL-4,IL-5),炎症性サイトカイン(IL-1Ca,IL-1Cb),その他の炎症関連物質(NGF,IL-6,CXCL8,MMP-9,NGF)のC11項目である19).その一方で,疾患特異性が高い物質は,診断価値が高いとして注目されている.アレルギー性結膜疾患では好酸球炎症を特徴とすることから,好酸球関連因子であるCeosinophilCcationicCprotein20),eotaxin-221),およびヒスタミンCH4受容体22)がバイオマーカーとしても有用であることが報告されている.また,ドライアイではCMMP-9が診断に有用とされ,諸外国ではCIn.ammaDry23)をはじめとしてさまざまなCMMP-9検査キットが使用されている.おわりにアレルギー性結膜疾患とドライアイは,どちらも非感染性眼表面疾患の代表的疾患である.両疾患の病態解明は,近年の研究により飛躍的に向上したが,まだまだ未解決な問題を多く含んでいる.両疾患に生じる特異的病態を解き明かすことが,今後のアレルギー診療やドライアイ診療をスキルアップする確実な道筋ではないかと考えられる.本稿を終えるにあたり,診療および研究のご指導をいただいている日本大学医学部視覚科学系眼科学分野主任教授山上聡先生に深謝いたします.文献1)日本眼科アレルギー学会診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C125:741-785,C20212)島﨑潤,橫井則彦,渡辺仁ほか;ドライアイ研究会:日本のドライアイの定義と診断基準の改定(2016年版).あたらしい眼科34:309-313,C20173)中川やよい,内尾英一,岡本茂樹ほか:アレルギー性結膜炎患者の求める診断・治療ニーズについて─インターネット患者アンケート全国調査C2009年度報告.新薬と臨床C58:2086-2098,C20094)深川和己:アレルギー性結膜疾患患者に対する治療実態および治療ニーズ調査-人口構成比に基づくインターネット全国調査.アレルギー免疫15:1554-1564,C20085)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総CIgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,C20126)DermerH,TheotokaD,LeeJCetal:TotaltearIgElev-elsCcorrelateCwithCallergicCandCirritatingCenvironmentalCexposuresCinCindividualsCwithCdryCeye.CJCClinCMedC8:C1627,C20197)SwamynathanCSK,CWellsA:ConjunctivalCgobletcells:CocularCsurfaceCfunctions,CdisordersCthatCa.ectCthem,CandCtheCpotentialCforCtheirCregeneration.COculCSurfC18:19-26,C20208)KunertCKS,CKeane-MyersCAM,CSpurr-MichaudCSCetal:CAlterationingobletcellnumbersandmucingeneexpres-sionCinCaCmouseCmodelCofCallergicCconjunctivitis.CInvestCOphthalmolVisSciC42:2483-2489,C20019)DogruM,Asano-KatoN,TanakaMetal:OcularsurfaceandCMUC5ACCalterationCinCatopicCpatientsCwithCcornealCshieldulcer.CurrEyeResC30:897-908,C200510)DogruCM,COkadaCN,CAsano-KatoCNCetal:AlterationsCofCtheCocularCsurfaceCepithelialCmucinsC1,C2,C4CandCtheCtearCfunctionsinpatientswithatopickeratoconjunctivitis.ClinExpAllergy36:1556-1565,C200611)DogruCM,CMatsumotoCY,COkadaCNCetal:AlterationsCofCtheCocularCsurfaceCepithelialCMUC16CandCgobletCcellCMUC5ACCinCpatientsCwithCatopicCkeratoconjunctivitis.CAllergyC63:1324-1334,C200812)HorinakaCM,CShojiCJ,CTomiokaCACetal:AlterationsCinCmucin-associatedgeneexpressionontheocularsurfaceinactiveCandCstableCstagesCofCatopicCandCvernalCkeratocon-junctivitis.JOphthalmol31:9914786,C202113)DarttDA,MasliS:ConjunctivalepithelialandgobletcellfunctionCinCchronicCin.ammationCandCocularCallergicCin.ammation.CCurrCOpinCAllergyCClinCImmunolC14:464-470,C201414)LobefaloCL,CAntonioCED,CColangeloCLCetal:DryCeyeCinallergicconjunctivitis:roleofin.ammatoryin.ltrate.CIntJImmunopatholPharmacol12:133-137,C199915)SuzukiCS,CGotoCE,CDogruCMCetal:TearC.lmClipidClayerC(17)あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023C299-