雲井弥生連載⑩二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに外側膝状体はヒトやサルでは6層構造をとっている.内側2層の神経細胞は大型,外側4層の神経細胞は小型である.これが何を意味するかは長らく謎であった.1970年代に入り,神経節細胞が電気生理学的あるいは形態学的特徴でいくつかに分類できることがわかり,それが解明への突破口となる1).視覚伝導路と外側膝状体視覚の流れについて考える.図1では前方の十字の中心○を両眼で固視する人の頭を上から見ている.○は両眼中心窩に映る(Fr・Fl).固視点の左の点●は中心窩の右側に映る(R・L).視覚情報は下記のように進む.・右眼中心窩耳側の●情報→視交叉を同側に進む→右外側膝状体2,3,5層→右後頭葉第一次視覚野(以下,V1)へ・左眼中心窩鼻側の●情報→視交叉を反対側に進む→右外側膝状体1,4,5層→右V1へV1の後極には,右眼中心窩の情報○と左眼中心窩の情報○が隣り合うように到達する.右眼の情報●と左眼の情報●は網膜での位置関係を保つようにその前方に到達する.図1右は外側膝状体の拡大図である.9章で網膜神経節細胞が3種類に分類できること,なかでも2種類は対称的な特徴をもつことを述べた.細胞体や受容野が大きく情報伝達の速いPa細胞,細胞体も受容野も小さく情報伝達の遅いPb細胞である.大型のPaは外側膝状体後頭葉第一次視覚野(V1)図1外側膝状体と情報の分離外側膝状体では,右眼・左眼からの情報,神経節細胞のPaとPbから抽出した情報が,それぞれ異なる層に伝達され,分離される.大型のPaは動きの情報を大細胞層1,2層に,小型のPbは形の情報を小細胞層3~6層に伝える.前者をmagnocellular系(M系)とよび,後者をparvocellular系(P系)とよぶ.6層構造は,種類の異なる情報を正しい相手に伝えられるよう機能している.(93)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173990910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2背側経路と腹側経路背側経路を→で示す.物体の動きや方向,光のちらつきなどの情報はPa,V1-3,V5/MTを経て後頭頂葉へと向かう.三次元での位置や動きの把握に必要であり,Whereの経路ともよばれる.腹側経路を.で示す.物の形や輪郭・色の情報はPb,V1,V2,V4を経て下側頭葉へ向かう.何が見えるかをとらえWhatの経路ともよばれる.の大細胞層である1,2層に,小型のPbは小細胞層である3~6層に,網膜から運んできた種類の異なる情報を伝える.すなわちPaは物の動きや光のちらつきの情報を大細胞層へ,Pbは物の形や輪郭の情報を小細胞層へ伝達する.これにより,右眼と左眼,PaとPbの情報が外側膝状体の異なる層へと分離される.6層構造は,陸上のリレー競技のコース分けのように,種類の異なる情報のバトンを正しい相手に渡せるように機能している.前者を大型細胞を介して伝えられる経路としてmagnocellular系(M系),後者を小型細胞の経路としてparvocellular系(P系)とよぶ.ここからV1に進む際には,さらに異なる層へ進む.1~6層の層間に微小細胞層(K層:koniocellular層)があり,網膜K細胞から情報を受ける.一部の細胞は青色情報に関与するとされる.またM系に関与するものもある.まだ解明されていないことが多く,研究の進展が期待される2).背側経路と腹側経路視覚に関係する脳の部位は30以上とされる.なかでも重要な役割を担うV1~5についておおよその位置を図2に示す.脳を左側から見ている.Vはvisualarea表1視覚情報処理の2つの経路の頭文字である.V1は後頭葉第一次視覚野,V2はV1の周辺に位置する.V3,V4は機能によって細区分されるが,実験方法や種によって差があり,議論が分かれるため詳細には触れない.V5はMT(middletemporalarea)ともよばれる.最初にこの部位について報告した研究者の用語MTがよく使われる.①背側経路(dorsalstream):Paから始まる情報の流れを→で示す.・Pa→外側膝状体の1,2層→V1→V2→V3→V5/MT→後頭頂葉(PPcortex:postparietalcortex)三次元空間での位置や動きをとらえるのに必要な経路である.ほぼM系の情報を伝える.②腹側経路(ventralstream):Pb細胞からの情報の流れを.で示す.・Pb.外側膝状体の3~6層.V1.V2.V4.下側頭葉(ITcortex:inferotemporalcortex)物の形や輪郭,色をとらえるのに必要な経路である.V1でK系情報が合流し,P系に一部M・K系情報を合せもつ.表1に背側経路と腹側経路の特徴を対比させる.脳のある部位では網膜からの情報は並列処理され,別の部位では2つが合流して情報統合や相互補完がなされ,効率良く処理される形になっている.これらの発見は視覚情報処理のやり方を明らかにしただけでなく,脳の研究全体に大きな示唆を与えた.文献1)福田淳・佐藤宏道:外側膝状体における情報処理.脳と視覚─何をどう見るか.p114-134,共立出版,20022)CasagrandeV,IchidaJ:ProcessingintheLateralGenicu-lateNucleus(LGN).Adler’sPhysiologyoftheEye11thed(editedbyKaufmanPL,AlmA),p574-585,Elsevier,2011400あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(94)