世界のドライアイの考え方の比較ComparisonofConceptsofDryEyeDiseasearoundtheWorld猪俣武範*はじめにドライアイはこの20年で疾患が概念化され,その研究は大きく進歩した.しかし,ドライアイは,その原因の複雑性から診断基準は未だに世界で統一されていない.ドライアイは今後も増加すると考えられており,早急にドライアイの定義と診断基準を世界共通とすることが望まれる.本稿では,ドライアイの定義と診断基準のグローバル化に向けて,欧米,わが国,そしてアジアにおけるドライアイの定義,診断基準,考え方の紹介とその相違点について解説する.Iドライアイの診断基準のグローバル化に向けてドライアイの概念は1903年にDr.Schirmerが涙液欠乏症を提唱したことにより始まる1).ドライアイの定義は,1995年にわが国ではドライアイ研究会2)が,米国ではNationalEyeInstitute(NEI)のDr.Lempが中心となってドライアイの定義,分類,診断基準が定められた3).その後約10年が経過し,2004年にはDryEyeWorkshop(DEWS)が結成され,世界中のドライアイ研究者により,ドライアイの定義,診断基準のみならず,検査,疫学調査,基礎研究,治療の各分野にわたる広い範囲で検討が行われた4).しかし,DEWSにおけるドライアイの定義,診断基準は未だ世界でコンセンサスを得るには至っておらず,各国で独自の診断基準に則ってドライアイ診療が行われているとともに,現在もドライアイ研究会,DEWS,AsiaDryEyeSociety(ADES)が中心となってドライアイの定義,診断基準の見直しを行っている.2016年11月にはドライアイ研究会からドライアイの新基準が発表され5),日中韓が中心となったADESでも日本の定義,診断基準に則った形で新基準が作成された6).DEWSの新しいレポートDEWSIIも2017年に発表される予定であり,ドライアイの定義や診断基準のグローバル化がさらに進むことが期待される.ドライアイの診断基準を世界で統一することがむずかしい要因として,非ドライアイ眼とドライアイを二分する明確なカットオフ値が存在せず,個々の検査方法の感度,特異度は十分でなく,再現性にも問題があることから,診断基準を明確に定めることがむずかしい点があげられる.さらに,ドライアイは多因子疾患といわれ,年齢,性別,ホルモン,コンタクトレンズの使用や気温,湿度などの環境要因も疾患の発現の程度に複雑に影響するため7),ドライアイの診断にはさまざまな検査結果を組み合わせる必要があることから,その診断基準は複雑化してしまう.しかし,ドライアイは世界で10億人以上が罹患するもっとも一般的な眼疾患であり,未だにドライアイの診断に至らず,QOL(qualityoflife)の低下を余儀なくされている人が多く存在する.また,高齢化社会,スマートフォンやパーソナルコンピューターの長時間使用によるVDT症候群(visualdisplayterminalsyndrome),*TakenoriInomata:順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科〔別刷請求先〕猪俣武範:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(65)371表1欧米におけるドライアイの定義の変遷定義NEI(1995)ドライアイは涙液分泌不全と蒸発亢進による涙液層の異常と,眼表面上皮障害を呈する眼不快感を有する疾患である.DEWS(2007)ドライアイは,不快感,視機能障害,涙液層の不安定性を有し,眼表面に障害を与える可能性のある涙液および眼表面の多因子疾患である.ドライアイは,涙液層の浸透圧上昇と眼表面の炎症を伴う.AAO(2013)ドライアイは涙液産生の低下,蒸発亢進,涙液層の障害を起こす疾患で,眼不快感の視機能異常,眼表面疾患を伴う.NEI:NationalEyeInstitute,DEWS:DryEyeWorkshop,AAO:AmericanAcademyofOphthalmology.欧米では,ドライアイのコアメカニズムは涙液の浸透圧上昇と眼表面の炎症が重視されている.ドライアイ涙液減少型蒸発亢進型ドライアイ(ATDDE)ドライアイ(EDE)Sjogren症候群内因性外因性非Sjogren症候群マイボーム腺ビタミンA欠乏機能不全閉眼不全点眼薬の毒性瞬目不全コンタクトレンズ薬剤の影響アレルギーなどの眼表面疾患図1病因学的分類欧米ではドライアイの原因やメカニズムによって疾患をATDDEかEDEという形で分け,重症度に応じて段階的に治療を行う考え方が普及している.(Thede.nitionandclassi.cationofdryeyedisease:reportoftheDe.nitionandClassi.cationSubcommitteeoftheInternationalDryEyeWorkShop(2007).OculSurf5:75-92,2007より改変引用)=表2ドライアイの重症度による分類(DEWS2007)重症度レベル1234違和感(重症度/頻度)軽度/ストレス環境下でまれに起こる中等度/慢性重症/頻回に重症/常に視覚症状なし/軽度眼精疲労気になる/生活を軽度制限気になる/慢性的に日常生活を制限常に/日常生活を制限結膜充血なし.軽度なし.軽度+/./+++結膜上皮障害なし.軽度さまざま中等度重症角膜上皮障害(重症度/場所)なし.軽度さまざま中央部重症の点状角膜症角膜/涙液の所見なし.軽度軽度のdebris,TMHの減少糸状角膜炎,粘液凝集,debrisの増加糸状角膜炎,粘液凝集,debrisの増加,角膜潰瘍眼瞼/マイボーム腺(MGDの有無)MGDがしばしばあるMGDがしばしばあるMGDがよくある睫毛乱性,角化,眼球癒着BUT(秒)さまざま≦10≦5すぐにSchirmer試験(mm/5分)さまざま≦10≦5≦2欧米ではドライアイの重症度は頻度と症状や所見の強さによって4段階に分類されている.(文献4より改変引用)予備段階:ドライアイの診断Step1:重症ドライアイの初期診断基準OSDI≧33,CFSOxfordscale≧3か?YesNoシナリオAシナリオBシナリオC重症ドライアイOSDI<33OSDI≧33OSDI≧33CFS≧3CFS=2CFS≦1Step2:追加検査シナリオAシナリオBシナリオC追加検査で,追加検査で,追加検査で,一つ以上の陽一つ以上の1つ以上の性もしくは角陽性陽性とBUT膜知覚の低下<3秒重症ドライアイ図2重症ドライアイの診断のためのアルゴリズム(ODISSEY)重症ドライアイは自覚症状と所見の乖離がみられる場合があるため,ODISSEYEuropeanConsensusGroupは重症ドライアイ診断のための2段階のアルゴリズムを作成した.OSDI:OcularSurfaceDiseaseIndex,追加検査は表3を参照.(文献4より改変引用)表3ODISSEYの追加検査妥当性のある検査Schirmer試験<3◯◯◯重症のMGDもしくは眼瞼縁炎◯◯◯結膜上皮障害◯◯◯視機能の低下◯◯NA糸状角膜炎◯◯◯眼瞼痙攣◯◯◯高浸透圧>328mOsm/l◯◯◯インプレッションサイトロジー≧Grade3◯◯◯角膜知覚◯NANA補助診断BUT<3秒◯◯NA治療抵抗性◯◯◯収差◯◯◯共焦点レーザー顕微鏡◯◯◯炎症性マーカー(HLA-DR,MMP9などのサイトカイン,蛋白質)◯◯◯ODISSEYによる重症ドライアイの診断アルゴリズムのステップ2における追加診断項目.(文献15より改変引用)表4日本におけるドライアイの診断基準の変化①自覚症状◯◯◯②涙液検査(BUT)◯×◯③角結膜上皮検査◯◯×旧ドライアイ診断(2006)確定疑い疑いドライアイ研究会によるドライアイの新基準では,自覚症状と涙液層破壊時間(BUT<5秒)でドライアイが診断可能となった.表5韓国におけるドライアイの重症度分類(2014年)症状眼表面症状ときどきしばしばいつも日常生活が制限される視覚症状ときどきしばしばいつも日常生活が制限される所見*染色スコア**<GradeIGradeIIGradeIIIGradeIVBUT変動6.10秒1.5秒0秒Schirmer試験I法変動5.10mm2.5mm<2mm*結膜充血,眼瞼の異常,涙液層の異常が眼表面に含まれる.しかし,これらの徴候は疾患の重症度の判定には用いない.**Oxfordsystem韓国の診断基準(2014年)は,ドライアイの診断と重症度を組み合わせたもので,少なくとも一つの自覚症状と検査所見が陽性の場合にドライアイと診断する.(文献23より改変引用)表6涙液層破壊時間計測の方法(ADES2016)1.マイクロピペットもしくは試験紙によるフルオレセイン染色(2ul以下)2.3回まばたきをする3.開瞼の持続によって角膜上にダークスポットが最初に出現するまでの時間をストップウォッチで測定4.3回測定し,その平均を用いる5.<5秒を異常値とする(5秒以上は診断基準を満たさない)2016年のADESによるドライアイの新診断基準では,涙液層破壊時間(BUT)の標準的な計測方法が明記された.表7DEWSと日本およびADESのドライアイの定義および診断基準の比較定義診断基準DEWS(2007)ドライアイは,不快感,視機能障害,涙液層の不安定性を有し,眼表面に障害を与える可能性のある涙液および眼表面の多因子疾患である.ドライアイは,涙液層の浸透圧上昇と眼表面の炎症を付随する明確な診断基準はなし・自覚症状・涙液浸透圧(≧316MOSm/l)・TearFilmFunctionIndex(<40)・炎症・BUT(<10秒)・角結膜上皮障害(>3)・Schirmer試験(≦5mm/5min)日本およびADES(2016)ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある・自覚症状(OSDI,DEQSなどの質問紙票)・BUTの低下(<5秒)欧米(DEWS)と日本,AsiaDryEyeSociety(ADES)におけるドライアイの定義をみると,前半の部分はほとんど同じであるが,後半の内容が異なる.表8各国における涙液層破壊時間(BUT)とSchirmer試験I法のカットオフ値の比較BUT(秒)Schirmer試験I法(mm)米国(AAO)<10秒<10mm日本(2006)(2016)≦5秒<5秒≦5mmN/A韓国(2014)5<ドライアイ疑い≦10秒ドライアイ≦5秒5<ドライアイ疑い≦10mmドライアイ≦5mmDEWS(2007)<10秒<5mmADES(2016)<5秒N/A涙液層破壊時間(BUT)やSchirmer試験といったドライアイの検査項目の異常値(カットオフ値)の世界的な標準値はまだ定まっていない.’–