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糖尿病網膜症・黄斑浮腫悪化のリスク因子

2015年3月31日 火曜日

特集●糖尿病網膜症2015年あたらしい眼科32(3):321.325,2015特集●糖尿病網膜症2015年あたらしい眼科32(3):321.325,2015糖尿病網膜症・黄斑浮腫悪化のリスク因子RiskFactorsforDiabeticRetinopathyandDiabeticMacularEdema安田美穂*はじめに糖尿病網膜症は先進国において失明や視力低下の主原因である.全世界にはおよそ9,300万人の糖尿病網膜症患者がおり,そのうち1,700万人は増殖型の糖尿病網膜症であると推定されている1).近年糖尿病の増加とともに患者数が増加することが予想され,ますます重要な問題となっている.糖尿病網膜症および糖尿病黄斑浮腫の危険因子を明らかにすることは疾患の進行を予防し,失明や視力低下を防ぐうえで重要である.糖尿病網膜症,黄斑浮腫の危険因子として以下の因子が報告されている.修飾可能な因子として,高血糖,高血圧,脂質異常症,肥満などが,修飾不可能な因子として,人種,罹病期間,妊娠などが多くの論文で一致して報告されているものである(表1)2).I糖尿病網膜症・黄斑浮腫のリスク因子1.高血糖糖尿病網膜症および糖尿病黄斑浮腫のもっとも重要なリスク因子の一つが血糖コントロールである.糖尿病網膜症に関する大規模臨床研究であるUnitedKingdomProspectiveDiabetesStudyとDiabetesControlandComplicationsTrialのどちらにおいても,ヘモグロビンA1c(HbA1c)を7%以下に抑える厳しい血糖コントロールがI型糖尿病,II型糖尿病のどちらにおいても糖尿病網膜症の進行を予防するという強いエビデンスが示されている3).DiabetesControlandComplications表1糖尿病網膜症と黄斑浮腫の危険因子リスク因子網膜症黄斑浮腫修飾可能な因子高血糖++++++高血圧++++脂質異常症++++肥満++修飾不可能な因子罹病期間++++妊娠+++++++++強いリスク因子,++中等度のリスク因子,+弱いリスク因子(DingJ,WongT.CurrentEpidemiologyofDiabeticretinopathyanddiabeticmacularedema.CurrDiabRep12:346-354,2012より改変)Trialにおいては,通常治療群と比較し厳密な血糖コントロール群では,網膜症の発症が76%減少し,単純型網膜症から増殖型への進行が54%減少したと報告されている4).さらに黄斑浮腫の発症も厳密な血糖コントロール群では,46%減少したことが示されている.このように血糖値を低く抑えることは従来と変わらず,糖尿病網膜症および糖尿病黄斑浮腫の発症や進行予防には非常に重要であることがわかる.アメリカ糖尿病学会(AmericanDiabetesAssociation:ADS)の2008年の糖尿病診療におけるガイドラインにおいても,糖尿病の血糖コントロールの指標としてHbA1c7.0%未満が推奨されている.また,わが国における糖尿病網膜症の疫学研究の一つ*MihoYasuda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕安田美穂:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(11)321 である久山町研究では,1998年に住民健診を受けた福岡県久山町在住の40.79歳の住民のうち,網膜症の既発症者37名を除いた糖尿病者177名を9年間追跡し,網膜症の発症率と発症にかかわる危険因子を調査している(追跡率79.3%)(図1).9年間の網膜症の累積発症率は男性が18.0%,女性が4.2%で男性に多い傾向を認め,発症に関係する危険因子を検討すると,糖尿病罹病期間とHbA1cが網膜症発症の有意な危険因子であった(表2).HbA1cの値が上昇するほど網膜症発症のリス福岡市久山町1960年2011年久山町6,500人8,400人福岡市65万人145万人図1久山町研究クが有意に増加し,HbA1c6.0%以下をオッズ比1.0とすると,HbA1c6.0%以上7.0%未満ではオッズ比2.4(95%信頼区間0.5.11.7),HbA1c7.0%以上から8.0%未満でそのリスクは有意に増加しオッズ比6.8(95%信頼区間1.2.40.5)となり,8.0%以上ではオッズ比15.5(95%信頼区間2.8.85.7)とリスクが大きく増加した(表3,図2).この結果から,日本人においても長期にわたり網膜症の発症を予防するためには,HbA1cを7.0%以下に抑える必要があり,HbA1cが8.0%を超える場合は,網膜症発症のリスクが大きく増加するため密な診療が必要であることがわかる.2.高血圧高血圧は,多くの疫学調査や臨床研究で網膜症や黄斑浮腫のリスク因子であると報告されている.アメリカでの糖尿病網膜症の大規模疫学研究であるWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathyでは,収縮期血圧が10mmHg上昇すると,単純型網膜症の発症リスクが約10%増加し,増殖型網膜症と黄斑浮腫の発症リスクが約15%増加すると報告している5).さらに,大規模臨床研究であるUnitedKingdomProspectiveDiabetesStudyにおいても,糖尿病で高血圧を有する患者に厳しい血圧コントロールを行うと,網膜症の進行を34%抑制し,視力低下を47%抑えることができたと報告している3).しかし,これらの抑制効果は長期にわたる継続した血圧コントロールを行わなければ得ることができないため,継続した血圧コントロールを推奨してい表2糖尿病網膜症発症の危険因子(久山町1998.2007年)危険因子年齢,性調整多変量調整OR(95%CI)OR(95%CI)糖尿病罹病期間(年)1.15**(1.11.1.19)1.10*(1.06.1.15)HbA1c(%)2.40**(1.90.3.04)1.90**(1.46.2.47)高血圧1.21(0.62.2.36)BMI(kg/m2)0.97(0.88.1.07)総コレステロール(mmol/l)1.08(0.76.1.53)HDLコレステロール(mmol/l)0.20(0.03.1.20)中性脂肪(g/l)0.81(0.54.1.20)喫煙0.90(0.38.2.11)飲酒0.92(0.44.1.91)OR:オッズ比,CI:信頼区間,**p<0.01,*p<0.05.322あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(12) 16.3*7.2*1.0<6.06.0~7.08.0.7.0~8.02.416.3*7.2*1.0<6.06.0~7.08.0.7.0~8.02.4表3糖尿病網膜症発症とHbA1cとの関連(久山町1998.2007年)HbA1c(%)(ベースライン時)人数9年発症率(%)性・年齢調整オッズ比(95%信頼区間)p値<6.0595.11.006.0.7.03411.82.4(0.48.11.7)0.297.0.8.01225.07.2(1.15.40.5)0.038.0≦1145.516.3(2.81.85.7)0.002ORper1%increase1.61(1.04.2.50)0.03く必要があるとしている.久山町研究では,高血圧の有20無と網膜症発症には有意な関連はみられなかった(表152).一般住民を対象とした疫学調査では対象者が限定されており,疾患の発症者数が少ないと十分な結果が出なオッズ比105いことがあるため,日本人での高血圧と網膜症との関連を論じるには,わが国での複数の疫学調査の結果をまとめたメタスタディなどを行い,さらに検討する必要があると思われる.3.脂質異常症脂質異常は網膜症に何らかの関与をしていると思われが,疫学調査や臨床研究の結果は一致していない.たとえば,インドの疫学研究であるChennaiUrbanRuralEpidemiologyStudyでは,総コレステロールは網膜症の独立した有意なリスク因子だと報告しているが6),シンガポールの疫学研究であるSingaporeMalayEyeStudyでは,逆に総コレステロールは網膜症の予防因子であると報告している7).また,大規模臨床研究であるDiabetesControlandComplicationsTrialでは,総コレステロールと網膜症との関連はなく,中性脂肪の増加とHDLコレステロールの減少が網膜症の程度と関連していると報告している.一方,黄斑浮腫は血漿脂質と有意な関連があるという報告が多く,脂質異常症の薬であるフィノフィブラート系の薬を内服すると糖尿病黄斑浮腫の頻度が31%減少したという報告もあり,総コレステロールや中性脂肪などの血漿脂質は糖尿病黄斑浮腫発症の有意なリスク因子であると考えられる.4.肥満肥満と網膜症および黄斑浮腫に関する疫学調査や臨床(13)0HbA1c(%)年齢,性別,罹病期間で調整,*p<0.05図2HbA1cレベル別にみた網膜症発症のオッズ比(1998.2007年追跡調査)研究の結果も一致していない.肥満が網膜症や黄斑浮腫のリスク因子となっているという報告もあれば,関連がないという報告もある.たとえば,スウェーデンの糖尿病の若年者を対象とした疫学研究では,肥満の指標であるbodymassindex(BMI)やwaisthipratio(WHR)の増加は網膜症のリスクであり,とくに1型糖尿病では,BMIの増加やWHRの増加といった肥満の因子があると網膜症の発症が増加するという報告がある一方で8),theWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathyでは,肥満と網膜症の発症や進行には関連がないという結果を報告している9).久山町研究では,BMIと網膜症発症には有意な関連はみられなかった(表2).日本人はもともとBMIが低い集団であり,欧米の結果をそのまま日本人にはあてはめるには注意が必要である.5.糖尿病罹病期間BarbadosEyeStudy(40歳以上,黒人)では9年間の追跡調査の結果,糖尿病罹病期間は網膜症発症の独立した危険因子であり,罹病期間5年未満と比較して5.あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015323 表4糖尿病網膜症発症と糖尿病罹病期間との関連(久山町1998.2007年)糖尿病罹病期間(年)(ベースライン時)人数9年発症率(%)性・年齢調整オッズ比(95%信頼区間)p値<5718.51.005.101414.31.6(0.31.10.1)0.5210≦3122.63.8(1.14.13.9)0.03オッズ比3.8*431.621.010<55~1010<糖尿病罹病期間年齢,性別,HbA1cで調整,*p<0.05(年)図3糖尿病罹病期間別にみた網膜症発症のオッズ比(1998.2007年追跡調査)10年では多変量調整後,網膜症発症のリスクが約2倍に増加したと報告している.糖尿病罹病期間は持続的な高血糖暴露のマーカーと考えられ,持続的な高血糖による網膜症発症のリスクを反映していると思われる.わが国でも久山町研究における9年間追跡調査の結果,糖尿病の罹病期間が長くなるほど,網膜症発症のリスクが有意に増加した.糖尿病の罹病期間5年未満をオッズ比1.0とすると,罹病期間5年以上10年未満でオッズ比は1.2(95%信頼区間0.3.10.1),糖尿病の罹病期間が10年以上になると有意に網膜症発症のリスクが増加し,そのオッズ比は4.0(95%信頼区間1.1.13.9)であった.この結果から罹病期間が10年以上になると網膜症発症のリスクが有意に増加するため,罹病期間10年以上の糖尿病者では定期的な眼底検査を行うなど,網膜症発症には十分注意する必要がある(表4,図3).6.妊娠妊娠中は網膜症も黄斑浮腫も進行することが知られている.とくに1型糖尿病ではその傾向が強くみられる.妊娠後期や分娩後は血液動態の変化などにより,網膜症324あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015や黄斑浮腫が急速に進行する場合があるので,注意が必要である.しかし,この変化は一時的なものであり,theDiabetesControlandComplicationsTrialでは,長期追跡調査では妊娠の有無は,網膜症の発症や進行の程度に差がなかったと報告している10).おわりにわが国においては欧米のような大規模な疫学研究や臨床研究による糖尿病網膜症の長期追跡研究のデータが少なく,欧米での研究を参考とするには人種や生活習慣が異なるため,そのまま結果をあてはめるには注意が必要である.糖尿病網膜症,黄斑浮腫の効率的な発症予防,進展予防のためにも,欧米で行われているような大規模な疫学研究および臨床研究をわが国でも行っていくことが必要であると思われる.文献1)YauJWY,RogersSL,KawasakiRetal:Globalprevalenceandmajorriskfactorsofdiabeticretinopathy.DiabetesCare35:556-564,20122)DingJ,WongTY:Currentepidemiologyofdiabeticretinopathyanddiabeticmacularedema.CurrDiabRep12:346-354,20123)MohamedQ,GilliesMC,WongTY:Managementofdiabeticretinopathy:asystematicreview.JAMA298:902916,20074)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsininsulin-dependentdiabetesmellitus.NEnglJMed329:977-986,19935)KleinR,KnudtsonMD,LeeKEetal:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetionpathy:XXIIthetwenty-five-yearprogressionofretinopathyinpersonswithtype1diabetes.Ophthalmology115:1859-1868,20086)RemaM,SrivastavaBK,AnihtaBetal:Associationof(14) あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015325(15)26:349-354,20039)KleinR,KleinBE,MossSE:Isobesityrelatedtomicro-vascularandmacrovascularcomlicationsindiabetes?TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy.ArchInternMed157:650-656,199710)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Effectofpregnancyonmicrovascularcomplica-tionsintheDiabetesControlandComplicationsTrial.Dia-betesCare23:1084-1091,2000serumlipidswithdiabeticretinopathyinurbanSouthIndians-theChennaiUrbanRuralEpidemiologyStudy(CURES)EyeStudy-2.DiabetMed23:1029-1036,20067)WongTY,CheungN,TayWTetal:Prevalenceandriskfactorsfordiabeticretinopathy:theSingaporeMalayEyeStudy.Ophthalmology115:1869-1875,20088)HenricssonM,NystromL,BlohmeG:Theincidenceofretinopathy10yearsafterdiagnosisinyoungadultpeoplewithdiabetes:resultsfromthenationwidepopulation-basedDiabetesIncidenceStudyinSweden.DiabetesCare

糖尿病と糖尿病網膜症の疫学

2015年3月31日 火曜日

特集●糖尿病網膜症2015年あたらしい眼科32(3):313~319,2015特集●糖尿病網膜症2015年あたらしい眼科32(3):313~319,2015糖尿病と糖尿病網膜症の疫学ClinicalEpidemiologyofDiabetesandDiabeticRetinopathy曽根博仁*川崎良**山下英俊**I世界とわが国の糖尿病患者数世界の糖尿病人口は爆発的に増え続けている.国際糖尿病連合(InternationalDiabetesFederation:IDF)によると,2014年の患者数は3億8,670万人に達し,これは20~79歳の成人の8.3%にあたる.そして今後20年間でさらにその1.5倍に増加すると見積もられている.「先進国のぜいたく病」というイメージが強いが,実は患者の8割近くは発展途上国に居住している.国別患者数では,第1位中国(9,629万人),第2位インド(6,685万人),第3位米国(2,578万人)と続き,日本は第10位に位置している.平成24年の国民栄養健康調査では,ほぼ糖尿病と考えて良い「糖尿病が強く疑われる者(=HbA1c値6.5%以上かすでに治療を受けている者)」は約950万人で,20歳以上の成人男性の15.2%,女性の8.7%を占める.同時にいわゆる予備軍と呼ばれる「糖尿病の可能性が否定できない者(=HbA1c値6.0~6.4%の者)」も約1,100万人存在し,これは成人男性の12.1%,女性の13.1%を占める.「糖尿病が強く疑われる者」は5年前の890万人から増加し続けているが,「糖尿病の可能性が否定できない者」は5年前の1,320万人から約200万人減少した.この減少の理由として,特定健診が奏効した可能性も指摘されているが,国民全体が高齢化したため,若年者の割合が高い予備軍の数が減少した可能性も否定できず,楽観はできない.II未診断,未受診,受診中断の問題糖尿病に関する莫大な患者数と並ぶ世界的課題は,患者のほぼ半数が糖尿病と診断されていない(未診断糖尿病,undiagnoseddiabetes)ことである.さらに糖尿病であることを知りながら受診しない者や,いったん通院を開始しても受診を中断してしまう患者も多く,国民栄養健康調査(平成24年)では,糖尿病患者のうち実際に通院中の者は65%に過ぎない.治療管理が行われていない,未診断,未受診,治療中断の糖尿病患者において,網膜症を含む合併症の進展リスクがきわめて高いことは言うまでもない.実際に現在でも,視力低下を主訴に眼科を受診した際に初めて糖尿病と診断される例は,頻度は減ってきたものの皆無ではない.III糖尿病のスクリーニングと発症予測網膜症を含む糖尿病合併症は健康寿命と国民医療費に莫大な悪影響を及ぼしている.糖尿病診療現場の医療者が忘れがちな視点であるが,糖尿病合併症を防ぐ最良の方法は糖尿病そのものを予防することである.初期には無症状の糖尿病を早期診断するためには,検診やスクリーニングのシステムを充実させ,さらに発症リスクの高い対象者を選別して早期に生活習慣教育による介入を集中的に行うことが重要である.幸いわが国では健康診断や人間ドックが発達し,血糖*HirohitoSone:新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科**RyoKawasaki&HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕曽根博仁:〒951-8510新潟市中央区旭町通1番町757新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(3)313 314あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(4)値やHbA1c値も広く測定されている.また,観察疫学研究により2型糖尿病発症のリスク因子もかなり明らかになってきた.人間ドック受診者データベースの検査指標や背景因子を用いた筆者らの検討でも,日本人の糖尿病発症予測やスクリーニングに活用できるさまざまなエビデンスが得られている.たとえば検診で広く測定されている空腹時血糖値とHbA1c値の両方を組み合わせるだけで,2型糖尿病の発症予測能は飛躍的に向上する.わが国の予備軍に相当する米国の「前糖尿病状態(pre-diabetes)」の基準範囲として用いられるHbA1c軽度高値(5.7~6.4%)と空腹時血糖値異常(100~125mg/dl)について,その片方または両方を満たす者のその後5年間の発症率を,いずれの基準も満たさない人と比較した.その結果,いずれでも片方のみ満たす人は約6倍,両方を満たす人は約32倍も発症率が高かった(図1)1).現在,空腹時血糖値とHbA1c値の両方を含めた日本人に最適化された発症予図1日本人検診受診者を空腹時血糖とHbA1cの組み合わせにより分類した際の,各群のその後5年間の糖尿病累積発症率(カプラン・マイヤー解析)(文献1より引用)0.50.40.30.20.10.02,5002,0001,5001,0005000HbA1c値と空腹時血糖値による分類HbA1c5.7~6.4%かつ空腹時血糖値100~125mg/dlHbA1c5.6%以下かつ空腹時血糖値100~125mg/dlHbA1c5.7~6.4%かつ空腹時血糖値99mg/dl以下HbA1c5.6%以下かつ空腹時血糖値99mg/dl以下累積糖尿病発症率開始時からの日数60%50%40%30%20%10%0%12111098765432113■前糖尿病状態患者■糖尿病患者有病率TOPICSDiabetesScreeningScore(point)4%0%12%12%0.2%0.2%21%23%28%36%41%45%50%53%53%57%0.5%1%1%3%4%6%8%10%15%17%図2スクリーニングスコアの点数と未診断糖尿病または前糖尿病状態米国における糖尿病予備軍に相当:HbA1c5.7~6.4%と空腹時血糖値100~125mg/dlのいずれか,または両方を満たす可能性.TOPICSDiabetesScreeningScore:年齢40~49歳(3点)or50~59歳(4点)or≧60歳(5点)+男性(2点)+糖尿病家族歴(2点)+現在の喫煙習慣(1点)+BMI23~24kg/m2(1点),25~29kg/m2(2点)or≧30kg/m2(4点)+高血圧(収縮期血圧≧140mmHgand/or拡張期血圧≧90mmHgまたは治療歴あり)(2点)(文献3より引用)標や背景因子を用いた筆者らの検討でも,日本人の糖尿病発症予測やスクリーニングに活用できるさまざまなエビデンスが得られている.たとえば検診で広く測定されている空腹時血糖値とHbA1c値の両方を組み合わせるだけで,2型糖尿病の発症予測能は飛躍的に向上する.わが国の予備軍に相当する米国の「前糖尿病状態(pre-diabetes)」の基準範囲として用いられるHbA1c軽度高値(5.7~6.4%)と空腹時血糖値異常(100~125mg/dl)について,その片方または両方を満たす者のその後5年間の発症率を,いずれの基準も満たさない人と比較した.その結果,いずれでHbA1c値と空腹時血糖値による分類HbA1c5.7~6.4%かつ空腹時血糖値100~125mg/dlHbA1c5.6%以下かつ空腹時血糖値100~125mg/dlHbA1c5.7~6.4%かつ空腹時血糖値99mg/dl以下HbA1c5.6%以下かつ空腹時血糖値99mg/dl以下0.30.20.10.0開始時からの日数05001,0001,5002,0002,500累積糖尿病発症率図1日本人検診受診者を空腹時血糖とHbA1cの組み合わせにより分類した際の,各群のその後5年間の糖も片方のみ満たす人は約6倍,両方を満たす人は約32尿病累積発症率(カプラン・マイヤー解析)倍も発症率が高かった(図1)1).現在,空腹時血糖値と(文献1より引用)HbA1c値の両方を含めた日本人に最適化された発症予60%12111098765432113■前糖尿病状態患者■糖尿病患者4%0%12%12%0.2%0.2%21%23%28%36%41%45%50%53%53%57%0.5%1%1%3%4%6%8%10%15%17%有病率50%40%30%20%10%0%TOPICSDiabetesScreeningScore(point)図2スクリーニングスコアの点数と未診断糖尿病または前糖尿病状態米国における糖尿病予備軍に相当:HbA1c5.7~6.4%と空腹時血糖値100~125mg/dlのいずれか,または両方を満たす可能性.TOPICSDiabetesScreeningScore:年齢40~49歳(3点)or50~59歳(4点)or≧60歳(5点)+男性(2点)+糖尿病家族歴(2点)+現在の喫煙習慣(1点)+BMI23~24kg/m2(1点),25~29kg/m2(2点)or≧30kg/m2(4点)+高血圧(収縮期血圧≧140mmHgand/or拡張期血圧≧90mmHgまたは治療歴あり)(2点)(文献3より引用)314あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(4) あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015315(5)V網膜症の有病率と発症率わが国で年間約3,000人とも言われてきた成人新規失明の原因である糖尿病網膜症は,治療の進歩により首位の座を緑内障に譲ったものの,いまだに成人失明の主要原因であることに変わりはない.世界の前向き研究35本の2万3千人分のデータをプールした解析によると,糖尿病患者の34.6%に何らかの網膜症が存在し,6.96%に増殖性網膜症が,6.81%に糖尿病性黄斑浮腫がみられた.後2者のいずれかまたは両方をもつ視力低下の恐れの強い患者は全患者の10.2%であり,世界的には約2,800万人になると推計されている8).前向き研究で発症率や進展増悪率を調べた研究は多くないが,わが国のJDCSでは,網膜症の新規発症は1,000人あたり年間38.3件みられ,すでに単純網膜症のある患者のさらなる進展増悪は1,000人あたり年間21.1件みられている9).VI血糖コントロールの意義網膜症の発症と増悪には,血糖レベルの影響がとりわけ強いことが知られている.わが国の2型糖尿病患者約2,000人を前向きに追跡してきたJDCSでは,開始時に網膜症がなかった患者のうち,HbA1c(NGSP値,以下同)9.4%以上の患者では,その後8年間にほぼ半数が網膜症を発症しており,一方HbA1c7.4%未満の患者であっても,その約1割が網膜症を発症していた9)(図3).スプライン解析の結果(図4)からも,網膜症を完全に予防するためには,HbA1c値でほぼ正常に近い厳格なレベルの血糖コントロールを要することが推測される9).近年,おもに大血管合併症(動脈硬化合併症)予防の観点からは,治療強化に伴う低血糖を避けることの重要性が明らかにされている.しかし,このことは血糖コントロールを以前より甘くしてよいという意味ではなく,とくに網膜症や腎症を含む細小血管合併症予防のためには,血糖コントロールがもっとも重要な対策であることを改めて認識すべきであろう.測スコアも作成している2).また,糖尿病未診断者において,①年齢,②性別,③家族歴の有無,④喫煙の有無,⑤BMI(bodymassindex),⑥高血圧の有無により,糖尿病あるいは前糖尿病状態である確率はどの程度かを示すスクリーニングスコアも完成しており(図2)3),眼科など内科以外の初診患者において,採血検査を行うべきかどうかの判断に役立つ簡易スクリーニング法としても用いることができる.IV日本人糖尿病患者データの必要性わが国の糖尿病の95%以上を占める2型糖尿病およびその合併症の発症には,多因子遺伝と生活習慣の両者が深く関与する.たとえば欧米の糖尿病患者の7~8割は心血管合併症で死亡するのに対し4),その割合はわが国では2割程度であり,わが国の糖尿病患者の3分の1は癌で死亡する5).したがって,同じ2型糖尿病合併症であっても,欧米の疫学データをわが国の治療対策に流用するのは無理があり,日本人患者の大規模データに基づくエビデンスが必要である.網膜症についても,その有病率が南アジア人やアフリカ人,ラテンアメリカ人などで高いという人種差がみられているほか6),シンガポールの研究では,同じアジア系ですら民族(マレー系,中国系,インド系)による有病率の大きな違いが指摘されている7).近年わが国でも,全国59カ所の大学病院や基幹病院の専門医が協力して実施してきたJapanDiabetesCom-plicationsStudy(JDCS)や,その高齢者版の姉妹研究であるJ-EDIT(主任研究者:東京都健康長寿医療センター井藤英喜先生,荒木厚先生)などを始めとする大規模臨床研究から,日本人患者の合併症や治療の実態に関するエビデンスが築かれつつある.さらに,大規模臨床研究から得られたリスク因子に基づき,個別患者における合併症発症率の予測も可能になっており,疫学データが糖尿病の個別医療に貢献できる時代になってきた.以下に,上記のJDCSやJ-EDITを中心とした日本人2型糖尿病患者の網膜症の疫学を中心にメタアナリシスなども合わせて概説する. 316あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(6)比較して,網膜症の発症リスクが有意に低下していた10)(図5).この関係は他の関連因子の影響を補正しても維持され,果物の関連成分ではビタミンC摂取量と有意に関連していた.果物の過食は当然,血糖コントロール増悪(前述のとおり,これはもっとも強い網膜症の発症,VII果物摂取と糖尿病網膜症食事との関係ではJDCSにおいて,適量の果物摂取が網膜症予防的に作用する可能性が示されている.もともとわが国は欧米と比較して,1人当たりの果物摂取量が少ないが,1日250g程度(=大きさにもよるが,バナナ2本分,またはミカン3個分,またはリンゴ1個分程度)を摂取している患者は,ほとんど摂取しない患者と0.50.40.30.20.10876543210網膜症発症率網膜症進展増悪率経過年数0.50.40.30.20.10876543210経過年数図3JDCSの日本人2型糖尿病患者における網膜症の発症(a)ならびに進展増悪(b)における開始時HbA1c(NGSP)の影響点線>9.4%,実線7.4~9.3%,破線<7.4%)(カプラン・マイヤー解析).(文献6より引用)121110987610.80.60.40.20図4網膜症の発症リスクとHbA1c(NGSP)値との関係のスプライン解析網膜症発症率経過年数Q1Q2Q3Q40.50.40.30.20.10876543210図5JDCSの日本人2型糖尿病患者における果物摂取量と網膜症発症率との関係1日あたりの果物摂取重量により,対象者を四分位に分けた際の各群の網膜症発症率を示す(各群の摂取量平均値は,少ない群からQ1,Q2,Q3,Q4でそれぞれ,1日23g,83g,141g,253g).別に行われたCox多変量回帰分析でも,この4群では,果物摂取量が多いほうが網膜症発症率が低いという有意な傾向が認められた.(文献7より引用)0.50.40.30.20.10876543210網膜症発症率網膜症進展増悪率経過年数0.50.40.30.20.10876543210経過年数図3JDCSの日本人2型糖尿病患者における網膜症の発症(a)ならびに進展増悪(b)における開始時HbA1c(NGSP)の影響点線>9.4%,実線7.4~9.3%,破線<7.4%)(カプラン・マイヤー解析).(文献6より引用)121110987610.80.60.40.20図4網膜症の発症リスクとHbA1c(NGSP)値との関係のスプライン解析網膜症発症率経過年数Q1Q2Q3Q40.50.40.30.20.10876543210図5JDCSの日本人2型糖尿病患者における果物摂取量と網膜症発症率との関係1日あたりの果物摂取重量により,対象者を四分位に分けた際の各群の網膜症発症率を示す(各群の摂取量平均値は,少ない群からQ1,Q2,Q3,Q4でそれぞれ,1日23g,83g,141g,253g).別に行われたCox多変量回帰分析でも,この4群では,果物摂取量が多いほうが網膜症発症率が低いという有意な傾向が認められた.(文献7より引用) 図6JDCSとJ.EDITのデータに基づいて開発された糖尿病合併症リスクエンジン(JJリスクエンジン)(http://www.med.niigata-u.ac.jp/emh/jjre.htmlより利用可能) 318あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(8)性も一層明らかになっている.文献1)HeianzaY,HaraS,AraseYetal:HbA1c5.7-6.4%andimpairedfastingplasmaglucosefordiagnosisofprediabe-tesandriskofprogressiontodiabetesinJapan(TOPICS3):alongitudinalcohortstudy.Lancet378:147-155,20112)HeianzaY,AraseY,HsiehSDetal:Developmentofanewscoringsystemforpredictingthe5yearincidenceoftype2diabetesinJapan:theToranomonHospitalHealthManagementCenterStudy6(TOPICS6).Diabetologia55:3213-3223,20123)HeianzaY,AraseY,SaitoKetal:Developmentofascreeningscoreforundiagnoseddiabetesanditsapplica-tioninestimatingabsoluteriskoffuturetype2diabetesinJapan:ToranomonHospitalHealthManagementCen-terStudy10(TOPICS10).JClinEndocrinolMetab98:1051-1060,20134)2011NationalDiabetesFactSheet,NationalCenterforChronicDiseasePreventionandHealthPromotion,US(http://www.cdc.gov/diabetes/pubs/pdf/ndfs_2011.pdf)5)HottaN,NakamuraJ,IwamotoYetal:CausesofdeathinJapanesediabetics:Aquestionnairesurveyof18,385diabeticsovera10-yearperiod.JDiabetesInvestig22:66-76,20106)SivaprasadS,GuptaB,Crosby-NwaobiRetal:Preva-lenceofdiabeticretinopathyinvariousethnicgroups:aworldwideperspective.SurvOphthalmol57:347-370,20127)ChiangPP,LamoureuxEL,CheungCYetal:Racialdifferencesintheprevalenceofdiabetesbutnotdiabeticretinopathyinamulti-ethnicAsianpopulation.InvestOphthalmolVisSci52:7586-7592,20118)YauJW,RogersSL,KawasakiRetal:Meta-AnalysisforEyeDisease(META-EYE)StudyGroup.Globalpreva-lenceandmajorriskfactorsofdiabeticretinopathy.Diabe-tesCare35:556-564,20129)KawasakiR,TanakaS,TanakaSetal:JapanDiabetesComplicationsStudyGroup.IncidenceandprogressionofdiabeticretinopathyinJapaneseadultswithtype2diabe-tes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesCompli-cationsStudy(JDCS).Diabetologia54:2288-2294,201110)TanakaS,YoshimuraY,KawasakiRetal:JapanDiabe-tesComplicationsStudyGroup.Fruitintakeandincidentdiabeticretinopathywithtype2diabetes.Epidemiology24:204-211,201311)MoriyaT,TanakaS,KawasakiRetal:Diabeticretinopa-thyandmicroalbuminuriacanpredictmacroalbuminuriaandrenalfunctiondeclineinJapanesetype2diabeticpatients:JapanDiabetesComplicationsStudy.DiabetesCare36:2803-2809,2013IX網膜症と大血管合併症との関連網膜症の存在が顕性腎症のリスク評価に役立つことを述べたが,眼底所見は大血管合併症のリスク予測にも有用であった.すなわち,開始時に軽症~中等症の網膜症を有していた場合,他関連因子の影響を補正しても冠動脈疾患と脳卒中のリスクはいずれも1.69倍に上昇していた12).さらに興味深いことに,網膜出血/毛細血管瘤などのごく初期の病変は脳卒中と冠動脈性心疾患双方の,綿花様白斑の存在は脳卒中の,それぞれ有意なリスク上昇と結びついていた.このようなエビデンスからも,糖尿病患者の予後を改善するためには,眼科医と内科医の連携の重要であることが改めて示されている.X個別症例における網膜症を含む合併症の発症予測大規模臨床研究や疫学研究の結果は集団全体の平均や傾向を示すものなので,個別診療には直接役立たないと思われがちである.しかし,そのような研究で解明された各合併症のリスク因子を統合すれば,各患者個人の状態や条件による将来の合併症発症確率を計算することが可能になる.JDCSとJ-EDITの統合データベースから開発された糖尿病合併症リスクエンジンは,パソコン上で患者の条件や検査値を入力すれば,今後5~10年以内の,網膜症を含む各合併症別の発症確率を即座に算出できる13)(図6).このリスクエンジンは,ホームページ上で公開されており(http://www.med.niigata-u.ac.jp/emh/jjre.html),日本人2型糖尿病患者の診療個別化に役立つものと期待される.おわりに近年わが国の2型糖尿病患者の合併症に関する臨床疫学データが徐々に明らかになってきており,網膜症を含む糖尿病合併症の予測や治療に役立てられるようになってきた.日本と欧米の2型糖尿病患者では合併症に多くの違いがみられるため,日本人糖尿病患者に最適化された糖尿病治療のためには,日本人のエビデンスをさらに充実する必要がある.また,眼科と内科との連携の重要網膜症の存在が顕性腎症のリスク評価に役立つことを述べたが,眼底所見は大血管合併症のリスク予測にも有用であった.すなわち,開始時に軽症~中等症の網膜症を有していた場合,他関連因子の影響を補正しても冠動脈疾患と脳卒中のリスクはいずれも1.69倍に上昇していた12).さらに興味深いことに,網膜出血/毛細血管瘤などのごく初期の病変は脳卒中と冠動脈性心疾患双方の,綿花様白斑の存在は脳卒中の,それぞれ有意なリスク上昇と結びついていた.このようなエビデンスからも,糖尿病患者の予後を改善するためには,眼科医と内科医の連携の重要であることが改めて示されている.X個別症例における網膜症を含む合併症の発症予測大規模臨床研究や疫学研究の結果は集団全体の平均や傾向を示すものなので,個別診療には直接役立たないと思われがちである.しかし,そのような研究で解明された各合併症のリスク因子を統合すれば,各患者個人の状態や条件による将来の合併症発症確率を計算することが可能になる.JDCSとJ-EDITの統合データベースから開発された糖尿病合併症リスクエンジンは,パソコン上で患者の条件や検査値を入力すれば,今後5~10年以内の,網膜症を含む各合併症別の発症確率を即座に算出できる13)(図6).このリスクエンジンは,ホームページ上で公開されており(http://www.med.niigata-u.ac.jp/emh/jjre.html),日本人2型糖尿病患者の診療個別化に役立つものと期待される.おわりに近年わが国の2型糖尿病患者の合併症に関する臨床疫学データが徐々に明らかになってきており,網膜症を含む糖尿病合併症の予測や治療に役立てられるようになってきた.日本と欧米の2型糖尿病患者では合併症に多くの違いがみられるため,日本人糖尿病患者に最適化された糖尿病治療のためには,日本人のエビデンスをさらに充実する必要がある.また,眼科と内科との連携の重要性も一層明らかになっている.文献1)HeianzaY,HaraS,AraseYetal:HbA1c5.7-6.4%andimpairedfastingplasmaglucosefordiagnosisofprediabetesandriskofprogressiontodiabetesinJapan(TOPICS3):alongitudinalcohortstudy.Lancet378:147-155,20112)HeianzaY,AraseY,HsiehSDetal:Developmentofanewscoringsystemforpredictingthe5yearincidenceoftype2diabetesinJapan:theToranomonHospitalHealthManagementCenterStudy6(TOPICS6).Diabetologia55:3213-3223,20123)HeianzaY,AraseY,SaitoKetal:Developmentofascreeningscoreforundiagnoseddiabetesanditsapplicationinestimatingabsoluteriskoffuturetype2diabetesinJapan:ToranomonHospitalHealthManagementCenterStudy10(TOPICS10).JClinEndocrinolMetab98:1051-1060,20134)2011NationalDiabetesFactSheet,NationalCenterforChronicDiseasePreventionandHealthPromotion,US(http://www.cdc.gov/diabetes/pubs/pdf/ndfs_2011.pdf)5)HottaN,NakamuraJ,IwamotoYetal:CausesofdeathinJapanesediabetics:Aquestionnairesurveyof18,385diabeticsovera10-yearperiod.JDiabetesInvestig22:66-76,20106)SivaprasadS,GuptaB,Crosby-NwaobiRetal:Prevalenceofdiabeticretinopathyinvariousethnicgroups:aworldwideperspective.SurvOphthalmol57:347-370,20127)ChiangPP,LamoureuxEL,CheungCYetal:Racialdifferencesintheprevalenceofdiabetesbutnotdiabeticretinopathyinamulti-ethnicAsianpopulation.InvestOphthalmolVisSci52:7586-7592,20118)YauJW,RogersSL,KawasakiRetal:Meta-AnalysisforEyeDisease(META-EYE)StudyGroup.Globalprevalenceandmajorriskfactorsofdiabeticretinopathy.DiabetesCare35:556-564,20129)KawasakiR,TanakaS,TanakaSetal:JapanDiabetesComplicationsStudyGroup.IncidenceandprogressionofdiabeticretinopathyinJapaneseadultswithtype2diabetes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesComplicationsStudy(JDCS).Diabetologia54:2288-2294,201110)TanakaS,YoshimuraY,KawasakiRetal:JapanDiabetesComplicationsStudyGroup.Fruitintakeandincidentdiabeticretinopathywithtype2diabetes.Epidemiology24:204-211,201311)MoriyaT,TanakaS,KawasakiRetal:DiabeticretinopathyandmicroalbuminuriacanpredictmacroalbuminuriaandrenalfunctiondeclineinJapanesetype2diabeticpatients:JapanDiabetesComplicationsStudy.DiabetesCare36:2803-2809,2013318あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(8) あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015319(9)12)KawasakiR,TanakaS,TanakaSetal:fortheJapanDia-betesComplicationsStudyGroup.Riskofcardiovasculardiseasesisincreasedevenwithmilddiabeticretinopa-thy:TheJapanDiabetesComplicationsStudy.Ophthal-mology120:574-582,201313)TanakaS,TanakaS,IimuroSetal:fortheJapanDiabe-tesComplicationsStudyGroup;theJapaneseElderlyDia-betesInterventionTrialGroup.Predictingmacro-andmicrovascularcomplicationsintype2diabetes:TheJapanDiabetesComplicationsStudy/theJapaneseElderlyDiabetesInterventionTrialriskengine.DiabetesCare36:1193-1199,2013

序説:糖尿病網膜症2015年

2015年3月31日 火曜日

●序説あたらしい眼科32(3):311.312,2015●序説あたらしい眼科32(3):311.312,2015糖尿病網膜症2015年DiabeticRetinopathy:UptoDateInformation2015山下英俊*小椋祐一郎**国民栄養調査(厚生労働省)によると糖尿病患者数は急激に増加しており,最新の調査では950万人の多数にのぼると推計されている.糖尿病患者数の増加にともなって糖尿病網膜症合併患者数も増加している.糖尿病患者の約35%が網膜症を合併しているとのメタアナリシスの報告もあり,糖尿病網膜症患者数は世界で約9,000万人以上と推計される.日本でも身体障害者手帳のデータをもとに推計すると,糖尿病網膜症は後天性失明および視力低下の原因として緑内障についで第2位であり,視力障害原因の約5分の1を占める.厚労省が中心となり,「健康日本21」という施策を推進しているが,その目的は平均寿命のみでなく健康寿命を延ばすことである.この目標を達成するためにも,失明を抑制するだけではでなく,糖尿病網膜症による視力低下,視力障害増加を抑制する戦略での研究の推進が必要である.本特集は,上記のような目的を達成するために,現在,糖尿病網膜症・黄斑浮腫の医学はどのような状態にあるのかをまとめ,今後の発展の方向を考える基盤としたいという趣旨で企画された.疫学,病態研究,治療の最先端のそれぞれの分野のエキスパートにご寄稿いただき,読み応えのある特集となっている.疫学の分野では,内科の立場から日本人を対象とした大規模疫学研究の成果をもとに曽根博仁教授(共著:川崎良先生,山下英俊)が日本における糖尿病網膜症の現状を解析しておられ,安田美穂先生には眼科の立場から糖尿病網膜症・黄斑浮腫悪化のリスク因子解析の最先端の情報を解説いただいている.これらの研究が次に続く病態研究へとつながっていく.安藤亮先生,野田航介先生には糖尿病網膜症・黄斑浮腫の分子病態について,血管の分子細胞生物学の手法を用いて最新の情報を現在の治療に結びつけて解説いただいている.長岡泰司先生には眼循環という新しい着眼点から,糖尿病網膜症・黄斑浮腫の病態の研究成果とそれをもとに新しい治療薬開発の戦略を解説いただいている.治療については,内科,眼科それぞれの立場から最新の情報を解説していただいた.荒木栄一先生,木下博之先生には内科の立場から糖尿病の治療と合併症の概念について解説いただいた.言うまでもないが,糖尿病の合併症という位置づけである網膜症・黄斑浮腫の治療の基本は全身管理であり,いろいろな治療薬が開発されている現状を,お2人の先生にはわかりやすく解説していただいている.病態の理解が進み,治療方法が進歩し,それが病態解明を推進するという臨床医学でもっとも大切なサイク*HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座**YuichiroOgura:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(1)311 312あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(2)ルが,糖尿病診療分野では推進されていることがわかる.同じことが,眼科における糖尿病網膜症・黄斑浮腫の病態の研究成果とそれをもとに新しい治療法が開発されている近年の著しい進歩でも理解できる.これらの最新の研究の成果について,野崎実穂先生には抗VEGF薬の効果,後藤早紀子には全身治療薬とステロイド眼局所治療,森實祐基先生には硝子体手術について解説いただいた.本特集は,2014年8月号の特集「網膜血管疾患アップデート」で解説できなかった糖尿病網膜症・黄斑浮腫の疫学研究,病態研究と治療戦略についての解説を企画したものであり,2014年8月号と合わせて読んでいただければ糖尿病網膜症・黄斑浮腫医学の広がりを理解していただけると考える.

投稿欄:視能訓練士育成と視能矯正学研究の現況

2015年2月28日 土曜日

投稿欄あたらしい眼科32(2):299.304,2015c投稿欄あたらしい眼科32(2):299.304,2015c視能訓練士育成と視能矯正学研究の現況大庭紀雄*松井康樹***平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻**平成医療専門学院視能訓練学科はじめに視能訓練士(certifiedorthoptist,CO)は,眼科専門医のパートナーとして医療水準の維持向上に欠かすことができない専門職である.黎明期から発展期にかけての歩みはいくつかの論評や解説にゆずり1.4),視能訓練士養成と視能矯正学(orthoptics)研究の現況を紹介する.I視能訓練士養成施設1971年制定の「視能訓練士法」を受けて国立小児病院(東京),国立大阪病院(大阪)に併設された養成施設は2001年,2009年に閉校された.2014年4月現在の養成施設はいずれも民営で,文部科学省管轄10校,厚生労働省管轄19校の合計29校である(図1).医療福祉学部,医療衛生学部,医療技術学部,保健科学部,健康医療学部,保健福祉学科,視機能療法学科,視能訓練学科,医療貢献学科,視覚機能学専攻,視機能療法専攻といった名称を用いて,視覚機能の評価,改善,維持,管理を重点課題とした教育プログラムを提供,修了時には視能訓練士国家試験の受験資格が得られる.II教育修了に要する年限をみると,もっとも多いのは3年課程で図1視能訓練士養成施設16校(専門学校15,短期大学1)である.4年課程11校(大学9,専門学校2)が続く.変則的課程に夜間4年制,週末祝日(1年),夜間(2年),通信教育(2年)がある.授業カリキュラムの編成,教育科目の大枠は各学校で共通教育課程は,2002年4月改正され2004年4月から施行するが,授業科目名,学習目標,シラバスなど細部は各学校されている省令に准じている.国家試験受験資格を得るために任されている.筆者らが勤務する平成医療短期大学の場合の要件は,3年課程では基礎分野14単位,専門基礎分野29を例示すると,基礎分野では生物学,情報科学,人間工学,単位,専門分野50単位,合計93単位の取得である.4年課人間関係論,日本語文章表現,英語などを学ぶ.英語では視程では一般教養科目学習のための1年が加わる.修了年限1能矯正や眼科関連の専門用語を重点的に教授する.専門基礎年過程などやや変則的な場合は,短期大学(または大学)で分野と専門分野は,視覚解剖学2単位,視覚生理学2単位,所定の単位を取得していることが入学資格となっており,該生理光学(幾何光学,眼光学,屈折光学)3単位,眼疾病学2当する基礎分野と専門基礎分野の一部が免除されて67単位単位,神経眼科学1単位,眼薬理学1単位といった講義主体が修了要件になっている5).の科目,視機能検査学4単位,視機能矯正学2単位,視機能〔別刷請求先〕大庭紀雄:〒501-1131岐阜市黒野180平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(127)299 訓練学5単位,視機能療法実験研究1単位,医療情報学1単位など演習と実技習得を併用した科目を含む.ちなみに,1単位は90分15回の授業で構成される.こうした学内での講義や演習に加えて,14単位(1単位45時間,総計630時間)の臨地実習と称する臨床実習を視能訓練士常勤の医療機関に委託している.また,国家試験対策としての課外授業を適宜実施している.こうしてみてくると,現行の医学部学生が受ける眼科学の講義時間や実習時間を大幅に上回っていることがわかる.視機能および視覚に関する専門知識と検査手技は,一般の医師や看護師が太刀打ちできるものではないことに留意したい.眼科専門医と比べると,眼科専門医志向の臨床研修においては診療手技,事例検討による知識の獲得は膨大になるが,系統的,網羅的に臨床知識総論や各論を学ぶ機会は多くはないであろう.視能訓練士は,生理光学(屈折矯正),両眼視機能(斜視,弱視の検査と処置),神経眼科学(眼球運動検査)といった日常診療で一定のシェアを占める分野の知識と実践力において際立っていることを認識しておきたい.このことは,眼科専門医試験と視能訓練士国家試験における出題内容を比べてみれば一目瞭然であろう.視能訓練士養成施設における専任教員の組織の規模は主として学生定員に依存する.大学の場合は常勤教員6.12名を擁し,教授,准教授,専任講師,助教をそれぞれ数名ずつ図2全国視能訓練士学校協会が発行する広報文書(転載許可を得て抜粋して引用)配置している.いわば大講座である.地位だけでみると,一名の教授が運営する多くの医学部眼科とは大違いである.これら教員のバックグラウンドは,視能訓練士が過半を占め,MD,PhD,MSが加わる.MDなどの担当が望ましい授業科目には外来講師を委嘱している施設が多い.専門学校における専任教員数も学生数や修学年限によるがおおむね大学に准じている.III新規視能訓練士,就業状況,将来予測1971年制定の「視能訓練士法」に準じて厚生労働省による国家試験が運用されている.近年においては,毎年1回,2月下旬に150題(一般問題130,臨床問題20)による筆記試験があり,3月下旬合否発表される.2014年2月実施第44回試験の成績は,受験者数953名.合格者数863名(合格率90.6%)である.2000年以来の合格率は,第40回と第43回を除いて90%以上を維持している.日本視能訓練士協会の2010年度実態調査(視能訓練士有資格者へのアンケート.回答2,101人)によると,男性10.8%,女性89.1%である(男性の比率は5年ごとに2.3%ずつ増加している).就業率は90.8%,就業先カテゴリーは診療所(19床以下)38.5%,国公立病院24.3%,私立病院(20床以上)20.0%,大学病院12.9%,視能訓練士養成施設2.9%である(図2).就業形態はフルタイム74.5%,パートタイム16.3%である5).視能訓練士の雇用は安定しているようである.全国視能訓練士学校協会の広報資料(2014年)は,つぎのように書いている.「眼科医の数は約14,000人,視能訓練士の有資格者は12,000人程度.眼科医1名につき2.3人の視能訓練士が必要ですが,ぜんぜん足りません」(図2).現行の新規免許取得者数(受験資格者数×0.9),退職者数(有資格者数×0.05)が続くとみなして有資格者の将来を見積もると,2020年には15,000人,2030年には30,000人を超える.需給関係には多種多様の予測困難な要因が絡み合うから,こうした数値は修正が必要になるだろう.ただし,少子高齢化の進行とともに需要の地域差が発生するにちがいない.眼科専門医のそれと同様に,視能訓練士の全国レベルの配置計画,欠員,新規採用などの情報の共有,マッチング制度の導入といったことを企画して人的資源を有効に利活用することが大切になるだろう.IV学術団体1.日本視能訓練士協会,全国視能訓練士学校協会視能訓練士を会員とする日本視能訓練士協会(JapaneseAssociationofCertifiedOrthoptists:JACO)は,「視能訓練士の学術技能の研鑽並びに人格資質の陶治に努め,視能矯正学の発展を促進し,もって国民医療の普及・向上を図り,300あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(128) 健康の維持発展に寄与する(定款第1章第3条)」ことを目的として1971年発足,1988年に社団法人に認可され,2012年には公益社団法人に移行した.理事会は視能訓練士で構成されている.協会の各種制度や委員会のなかで特筆すべきは,「臨地実習施設指導者等養成講習会」,「視能訓練士需給計画委員会」に加えて「専任教員等養成委員会」,「視能訓練士専任教員認定制度」を設けて教員の標準化を目指していることである5).日本視能訓練士協会とは独立した団体に,視能訓練士養成校を会員とした全国視能訓練士学校協会(JapanAssociationofTrainingInstitutionsforOrthoptists)がある.2.国外の学術団体1930年代に英国で誕生したorthopticsは第2次世界大戦の前後に世界各国で普及の歩を進めた.MaddoxrodやMaddoxdoubleprismなどで著名な眼科医ErnestEdmundMaddox(1860-1933)の13人子女の長女で父親の薫陶をうけたMissMaryMaddoxは,thefirstorthoptistとしてRoyalWestminsterOphthalmicHospitalに世界初のorthopticclinicを開設し,診療のかたわら後進を指導した6).斜視学の泰斗KeithLyle,網膜異常対応のEricPemberton,MissMaddox門下のMissSheilaMayouらが尽力,MissMaddoxを会長としてBritishOrthopticSociety(BOS)が結成され.1937年7月CentralLondonOphthalmicHospitalにおいて50数人のcertifiedorthoptist(CO)が参集して呱々の声をあげた.BOSは英国眼科医会の支援を受けながらCOだけで運営されている(図3).第2次世界大戦後に順調に発展したBOSは2003年,IrishOrthopticSocietyと合併してBritishandIrishOrthopticSocietyになった.このとき,正規会員は1,471人(前年から24人増),就業状況は69%がフルタイム,未就業7%,新規就業4%,海外2%であると情報開示している7).米国では1940年,AmericanAssociationofCertifiedOrthoptists(AACO)の前身AmericanAssociationofOrthopticTechniciansが結成された.AACO創立時の会員は168人(男性5)であった.草創期から現在までAmericanOrthopticCouncil(AOC)によって運営され,AmericanOphthalmologySociety,SectionofOphthalmology,AmericanAcademyofOphthalmology,AmericanCollegeofSurgeonsの関係4団体代表眼科医各3名に加えてAACO代表視能訓練士4名で構成された理事会によって運営されている.草創期の理事リストにはScobee,Lancaster,Burian,Costenbader,Cooper,Swanらの名前がある(図3).視能訓練士の職能団体が各国で出揃った1974年,BOSが主唱してInternationalOrthopticAssociation(IOA)がロンドンにおいて結成された.発足時の参加国はAustralia,(129)Brazil,Canada,Italy,France,Netherlands,Switzerland,UnitedKingdom,USA,WestGermanyであり,まもなくSouthAfrica(1977),Japan(1980),Sweden(1980),Belgium(1989),Portugal(1994)が加わった.現在のIOAは国際間情報交換の主要課題としてlow-vision,neuroorthoptics,orthopticeducation,visionsurgeryを取り上げ,newsletterの他に年2回TheInternationalJournalofOrthopticPracticeを刊行,researchroundup,bookreview,clinicalpractice,professionalconcernなどを掲載している.4年ごとに国際学術集会InternationalOrthopticCongress(IOC)を開催している.第8回会議は1995年に京都で開催された.なお,第9回会議でSakukoFukaiは“Aneworthoptics-trendinthe21stcentury”でBurianLecture(特別講演)を行い,第8回会議でTomoeHayakawaは“Visualinformationinnormalandamblyopicsubjects”によってIOAResearchAwardを授与された.また,毎年6月の第1月曜日をWorldOrthopticDayとしてorthopticsのpromotionを勧めている8).V学術雑誌視能矯正学の専門学術誌に目を転じると,英国,米国,フランス,日本,オーストラリア,オランダ,カナダなどで定期刊行されている.BOJ結成から2年後の1939年の創刊で最も長い歴史を誇るBritishOrthopticJournal(BOJ)は,2012年に創刊75周年を迎えた.その第1巻第1号の巻頭言President’sLetterで初代BOS会長Maddoxは,揺籃期のorthopticsへの多くの眼科医の支援,とりわけJaval,Worthの貢献に謝意を表している(図3).編集長はMayouで,編集委員はすべてCOである.創刊号の原著論文16篇の寄稿はCO12篇,MD4篇によるもので,眼の発生学で著名なIdaMannも寄稿している.BOJの創刊は第2次世界大戦突入時であり,戦争中は休刊を余儀なくされて第2巻は5年後の1944年に出版されている.最近の編集委員はCO9名,MD6名,PhD4名である.米国では1951年,AmericanOrthopticJournal(AOJ)がAmericalAssociationofCertifiedOrthoptistsの公式機関誌として発行されている.創刊時の編集長はHermanBurian,最初の5年間はTransactionsofAmericanAcademyofOphthalmologyandOtolaryngology(現在Ophthalmology)の附録として配布された.第1巻第1号には,創刊記念記事の他にWallterB.Lancaster“surgicaltreatmentofoculardeviationsasanimportantfactorinorthoptics”,ElizabethA.Bennet“orthopticevaluationofhyperphoria”,DavidM.Freeman“constantexotropia”といった古典的論文が掲載されている(図3).最近のAOJは編集長以下MD11名,CO6名の編集委員に抄録委員として11名のCOが加わっあたらしい眼科Vol.32,No.2,2015301 図3視能矯正学専門雑誌A:BritishOrthopticJournal創刊号(1939),第55巻(1998)のタイトルページ.第1巻第1号の目次と会長MissMaddoxの巻頭言.B:AmericanOrthopticJournal創刊号(1951),第63巻(2013)のタイトルページ.創刊時のAmericanOrthopticCouncil(1951),創刊記念記事.て年1回刊行されている.学会原著の他にScobee記念論文,CertifiedOrthoptists(日本視能訓練士協会会報)が創刊されPrattJohnson記念論文が掲載されている9).た.第1巻第1号には創刊記念記事の他に3件の解説記事が日本では1972年,JournalofJapaneseAssociationof掲載されている.第5巻まで半年刊で発行され,1977年に302あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(130) 図4日本視能訓練士協会発行のJournalofJapaneseAssociationofCertifiedOrthoptist創刊号,JapaneseOrthopticJournal,JACONewsJapaneseOrthopticJournal(JOJ,日本視能訓練士協会誌)と改題されて年刊で現在に至っている.主として視能矯正学会のproceedings(総説,講演原著)であり,大多数が視能訓練士によるものである.この機関誌とは別に,(社)日本視能訓練士協会ニュース(JACONews)が半年刊で発行されている(図4).国の内外で刊行される視能矯正学専門誌のハードコピーを眼科医が目にすることはほとんどないが,ネット時代の電子情報にアクセスすることが容易になった.AOJの書誌事項(一部は抄録)はPubMed(Medline)およびAOJwebsite9)に収録されている.JOJはopenfreejournalとしてwebsite10)にアップされ,創刊以来のすべてのデータファイルをいつでも自由に読み取ることができる.VI学術研究「視能訓練士法」は,視能訓練士を「.....両眼視機能に障害のある者に対する両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査を行うことを業とする者を言う(第2条)」,IOAは,「弱視,斜視,両眼視機能異常の検査や訓練は,眼科医の下で専従するCOから受けるのがベストである」としている.わが国における視能訓練士の担当領域は,(131)視能矯正学本来の視能矯正分野にとどまることなく眼科診療にかかわる臨床検査全般に広がってきた.丸尾は新しい用語「視能学」を提案し,「両眼視機能を中心とする諸機能に関する学問と定義するのが妥当である」と概念規定している2).視能訓練士が活躍すべきフィールドは従前からの視能矯正学,視能検査学,視能訓練学などを包括した分野であり,弱視・斜視・両眼視機能の検査と訓練はいうまでもなく,臨床眼光学(屈折矯正),一般視機能検査,眼部画像検査,神経眼科検査(眼位異常,眼球運動異常)をカバーするとしてよいであろう.こうした視能学分野に関連する諸課題の研究動向を展望する近道は,上記の専門学術誌発表論文を調査することである.まず,「日本視能訓練士協会誌」の総索引集(第1巻.第25巻総目次)11)から,一般原著論文(n=422)を整理すると,斜視,弱視,両眼視,一般視機能(視力・視野・色覚,眼光学),屈折矯正(眼鏡,コンタクトレンズ)を主題とした論文が多く,合わせて8割を占める.同様に,第26巻(1998年).第42巻(2013年)までの一般論文(n=362)を整理して25巻までと比べると,斜視,弱視,両眼視は相対的シェアを減じ,神経眼科(麻痺性斜視,心因性視覚障害など)特殊検査(OCT検査,神経画像検査など),健診(三歳児健(,)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015303 図5日本視能訓練士協会誌(JapaneseJournalofOrthoptics:JOJ),AmericanOrthopticJournal(AOJ)に掲載された一般論文の主題分野別シェア診),発達障害(ロービジョン,読字困難など)などが相対的に大きく伸びた(図5).すなわち,神経眼科や画像診断など検査業務の拡充,小児の心因性視覚障害やロービジョンや読字困難症(dyslexia)などの新しい課題への関心が高まってきた.米国の研究動向を調べるためにAOJ掲載論文(n=800)の主題を整理した(図5).斜視,弱視,視機能一般検査のシェアが圧倒的に大きく,神経眼科を加えると9割を占める.一方,屈折矯正(眼鏡,コンタクトレンズ),OCT検査など特殊検査,健診,ロービジョンを主題とした論文はきわめて少ない.すなわち,JOJと比べると,AOJにおいてはorthopticsに直結した分野および隣接領域の神経眼科が圧倒的であり,屈折矯正や特殊検査(neuroimaging)を主題とした研究は例外的である.日本と米国における差異は,optometrist,radiologistといった専門職種の役割分担を反映すると考えられる.BOJの掲載論文もAOJと同じ傾向であり,英国においてもoptometristという専門職種の役割が屈折矯正の分野で大きいことを物語っている.コメント医療従事者の職種は,医師,歯科医師,薬剤師,看護師,助産師,放射線技師,臨床検査技師といった“師”が付く資格,理学療法士,作業療法士,救命救急士,言語聴覚士といった“士”が付く資格と多種多様であるが,比較的古い歴史をもちながら視能訓練士の知名度は今ひとつ低いといわれている.日本視能訓練士協会は最近もパンフレットを発行してpromotionに努めている(図2).視能訓練士の需給の将来予測については今後大きな問題になると思われる.視能訓練士が担当すべき研究について言及すると,視能訓304あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015練士でなければできない独自の課題をみつけて研究を展開すべきであろう.視能矯正学に固有の研究主題はもとよりのこと,脳と眼の境界領域に広げていくことが要請されるであろう.研究環境の整備が大切であり,6養成校において設立されている大学院の教育と研究を充実させることが大切である.修士あるいは博士の学位をもった視能訓練士が輩出して,高度専門職業人として当該分野の教育と研究を主導することが期待される.なお,わが国で定着したORTという略称は海外で使用されることはなく,国際的に通じる略称はCOである12).文献1)弓削経一:我国の視能訓練士の生立ち.日視会誌6:1-6,19772)丸尾敏夫:視能学の黎明と盛衰.日視会誌36:15-20,20073)丸尾敏夫:眼科診療と視能訓練士.日眼会誌110:613614,20064)深井小久子:21世紀に求められる視能矯正学教育.日視会誌30:45-50,20015)臼井千恵:視能訓練士の現状と展望.2011年5月.http://www.jaco.or.jp/pdf/jaco.pdf6)Roper-HallG:Historicalvignette:ErnestEdmundMaddox(1860-1933):Mastersurgeon,inventor,andinvestigator.AmOrthoptJ59:103-110,20097)http://www.britishorthopticsociety.co.uk8)http://internationalorthoptics.org/aboutorthoptics.html9)http://www.aoj.org/10)日視会誌website.https@www.jstage.jst.go.jp/)11)日視会誌第1巻.第25巻総目次.199812)大庭紀雄:「視能訓練士」とORT.日眼会誌110:319,2006(132)

看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護のあり方

2015年2月28日 土曜日

294あたらしい眼科Vol.5102,22,No.3(00)294(122)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):294.298,2015cはじめに糖尿病が強く疑われている成人男女が約950万人に上ることが,厚生労働省の「2012年国民健康・栄養調査結果の推進」で明らかになった1).また,糖尿病が強く疑われる者のうち,現在治療を受けている者の割合は,男性65.9%,女性64.3%であり,未治療の糖尿病患者は少なくない.糖尿病は自覚症状がなく進行し,自覚症状が現れるころには多様な合併症が出現しているため,入院中は全身状態の観察がより求められる.今回,重度な糖尿病網膜症にて,突然硝子体出血を起こし西葛西・井上眼科病院(以下,当院)に救急搬送され,硝子体手術を受け,手術後は経過良好であったが,退院日の早朝に脳出血を発症した症例を経験した.本症例を患者の心理面と看護展開の看護の視点を重ね合わせながら振り返ることにより,看護上問題の多い糖尿病網膜症患者〔別刷請求先〕篠田歩:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:AyumiShinoda,NishikasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護のあり方篠田歩*1兼子登志子*1井出明美*1酒井美智子*1武田美知子*1大音清香*2土田覚*1堀貞夫*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院ViewsonNursingDiabeticRetinopathyPatientsWhoImposeGreaterCareBurdenAyumishinoda1),ToshikoKaneko1),AkemiIde1),MichikoSakai1),MichikoTakeda1),KiyokaOhne2),SatoruTuchida1),SadaoHori1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital目的:両眼の硝子体出血に対して硝子体手術施行後10日目に脳出血を発症し,総合病院へ搬送した増殖糖尿病網膜症患者の1例を看護の観点から検討し報告する.症例:53歳,男性.25歳時に2型糖尿病と診断されたが治療は中断を繰り返し,眼科治療も中断を繰り返した.53歳時に両眼の硝子体出血をきたし手術目的で西葛西・井上眼科病院へ入院した.患者は入院当初苛立ちが強かったが,術後見えるようになると徐々にコミュニケーションが図れるようになった.バイタル値・治療管理は問題なかったが急変した.退院日の早朝,異常呼吸がみられ,冷汗あり,呼びかけに反応なく当直医に報告,脳外科病院に搬送し,脳出血と診断された.結論:糖尿病の合併症をもつ患者がいる眼科病棟では,視機能の変化のみならず,患者の背景や病識の理解度を把握し,合併症の症状が悪化したり,新たに出現するおそれがあるため全身状態の観察が重要である.そのため,状態を把握できる糖尿病チェックシートを作成し,チーム医療による全身状態の観察と情報共有をして個々の患者支援を実施する必要がある.Purpose:Toreportacaseofproliferativediabeticretinopathythatreceivedvitrectomyandsufferedfromcerebralhemorrhage10dayspostsurgery,andtodiscussadequatenursingcareataprivateeyehospital.CaseReport:A53-year-oldmalehadbeendiagnosedastype2diabetesattheageof25,buthadnotreceivedappro-priatemedicalcarefromtheinternist.Hewasreferredtoourhospitalfortreatmentofvitreousbleedingduetoproliferativediabeticretinopathyinbotheyes.Thesurgerywassuccessful;best-correctedvisualacuityof0.3wasachievedinbotheyes.Duringhospitalization,hehadnotshownabnormalvitalsignsunderpropermonitoringbynurses,havingHbA1Cvalueof7.0%andFBSof135mg/dl.However,hesufferedcerebralhemorrhagewithhyper-tensionof202/95mmHgatpostsurgeryday10,whendischargehadbeenscheduled.Conclusions:Nursesshouldtakeadequatecarenotonlyofvisualfunction,butalsoofthepatient’sgeneralcondition,withunderstandingofdiabetesmellitusandotherunderliningdiseases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):294.298,2015〕Keywords:糖尿病網膜症患者の看護,視機能障害の心理,糖尿病患者のチェックシート.nursingofthediabetesretinopathy,psychologyofthevisualdisorder,diabeticchecksheet.(00)294(122)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):294.298,2015cはじめに糖尿病が強く疑われている成人男女が約950万人に上ることが,厚生労働省の「2012年国民健康・栄養調査結果の推進」で明らかになった1).また,糖尿病が強く疑われる者のうち,現在治療を受けている者の割合は,男性65.9%,女性64.3%であり,未治療の糖尿病患者は少なくない.糖尿病は自覚症状がなく進行し,自覚症状が現れるころには多様な合併症が出現しているため,入院中は全身状態の観察がより求められる.今回,重度な糖尿病網膜症にて,突然硝子体出血を起こし西葛西・井上眼科病院(以下,当院)に救急搬送され,硝子体手術を受け,手術後は経過良好であったが,退院日の早朝に脳出血を発症した症例を経験した.本症例を患者の心理面と看護展開の看護の視点を重ね合わせながら振り返ることにより,看護上問題の多い糖尿病網膜症患者〔別刷請求先〕篠田歩:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:AyumiShinoda,NishikasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護のあり方篠田歩*1兼子登志子*1井出明美*1酒井美智子*1武田美知子*1大音清香*2土田覚*1堀貞夫*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院ViewsonNursingDiabeticRetinopathyPatientsWhoImposeGreaterCareBurdenAyumishinoda1),ToshikoKaneko1),AkemiIde1),MichikoSakai1),MichikoTakeda1),KiyokaOhne2),SatoruTuchida1),SadaoHori1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital目的:両眼の硝子体出血に対して硝子体手術施行後10日目に脳出血を発症し,総合病院へ搬送した増殖糖尿病網膜症患者の1例を看護の観点から検討し報告する.症例:53歳,男性.25歳時に2型糖尿病と診断されたが治療は中断を繰り返し,眼科治療も中断を繰り返した.53歳時に両眼の硝子体出血をきたし手術目的で西葛西・井上眼科病院へ入院した.患者は入院当初苛立ちが強かったが,術後見えるようになると徐々にコミュニケーションが図れるようになった.バイタル値・治療管理は問題なかったが急変した.退院日の早朝,異常呼吸がみられ,冷汗あり,呼びかけに反応なく当直医に報告,脳外科病院に搬送し,脳出血と診断された.結論:糖尿病の合併症をもつ患者がいる眼科病棟では,視機能の変化のみならず,患者の背景や病識の理解度を把握し,合併症の症状が悪化したり,新たに出現するおそれがあるため全身状態の観察が重要である.そのため,状態を把握できる糖尿病チェックシートを作成し,チーム医療による全身状態の観察と情報共有をして個々の患者支援を実施する必要がある.Purpose:Toreportacaseofproliferativediabeticretinopathythatreceivedvitrectomyandsufferedfromcerebralhemorrhage10dayspostsurgery,andtodiscussadequatenursingcareataprivateeyehospital.CaseReport:A53-year-oldmalehadbeendiagnosedastype2diabetesattheageof25,buthadnotreceivedappro-priatemedicalcarefromtheinternist.Hewasreferredtoourhospitalfortreatmentofvitreousbleedingduetoproliferativediabeticretinopathyinbotheyes.Thesurgerywassuccessful;best-correctedvisualacuityof0.3wasachievedinbotheyes.Duringhospitalization,hehadnotshownabnormalvitalsignsunderpropermonitoringbynurses,havingHbA1Cvalueof7.0%andFBSof135mg/dl.However,hesufferedcerebralhemorrhagewithhyper-tensionof202/95mmHgatpostsurgeryday10,whendischargehadbeenscheduled.Conclusions:Nursesshouldtakeadequatecarenotonlyofvisualfunction,butalsoofthepatient’sgeneralcondition,withunderstandingofdiabetesmellitusandotherunderliningdiseases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):294.298,2015〕Keywords:糖尿病網膜症患者の看護,視機能障害の心理,糖尿病患者のチェックシート.nursingofthediabetesretinopathy,psychologyofthevisualdisorder,diabeticchecksheet. の看護のあり方について検討し,糖尿病網膜症患者の糖尿病チェックシート作成まで至ったので報告する.I症例患者:53歳,男性.主訴:両眼が見えないために生活ができない.現病歴:41歳時に糖尿病網膜症の治療目的で当院を紹介受診した.視力は右眼0.09(1.0),左眼0.09(0.7)でレーザー光凝固術を受け,8カ月間は通院したが,その後中断した.3年経過した後に右眼硝子体出血のため受診し,46歳までは通院した.その後7年間通院を中断していたが,53歳時(2012年4月)に左眼が見えなくなり受診した.両眼硝子体出血を繰り返し,3カ月後,突然の両眼視力低下を自覚して救急車で来院し,両眼硝子体出血を認め手術目的で入院となった.既往歴:25歳時に2型糖尿病を指摘された.他病院内科に糖尿病コントロール目的の入退院を繰り返し,35歳時にインスリン療法を開始した.32歳時に高血圧に対して内服治療を開始した.43歳時に大腸癌のため人工肛門を造設し,49歳時より左下腿蜂窩織炎を繰り返した.51歳時に週3回の血液透析を導入し抗凝固薬も内服していた.うっ血性心不全,アルコール性肝炎,高度肥満症の治療も受けていた.キーパーソン:無.緊急時は会社の同僚が連絡先となっている(未婚,独居.両親は死亡,妹は関西に在住するが疎遠).職業:会社役員.入院時所見:視力は右眼0.01(n.c.),左眼0.01(n.c.),眼圧は右眼16mmHg,左眼13mmHg.前眼部は両眼虹彩まで新生血管を認め,眼底は両眼硝子体出血のため透見できなかった.入院時血圧168/93mmHg,脈拍84回/分,体温35.8℃,体重94.4kg,空腹時血糖135mg/dl.入院時採血データにてHb(ヘモグロビン)A1C値が7.0%であった.II入院経過と看護展開入院経過と看護展開を3場面に分け,看護展開は表にしてSOAPでまとめて記していく.<入院当日から左眼手術まで>(表1)本症例では,緊急入院のため持参薬はなく,同僚が持参した.当院では持参薬は初め薬剤師が内服薬の内容と内服方法を確認する.その後,看護師に情報が提供され看護師管理か患者管理か判断を行うことにしている.患者は残薬が多く,自宅で内服管理ができていたか不明であった.両眼が見えないため生活ができないと訴えがあり,まず内服は看護師管理とした.人工肛門(以下,ストマ)のパウチ交換はどの程度の手伝いが必要か質問すると「わからない!」と強い口調で答え(123)た.その後,インスリンやストマのパウチ交換など介助を要する援助に関しては根気よく聞き出すことで,患者は口を開き手順を説明した.それ以外の話題はなく,会話は続かなかった.ストマのパウチ交換時は全裸になって行うなど患者独自のスタイルがあり,手順を間違えると声を荒げて看護師を怒鳴っていた.インスリン注射時では,針が少ししか入っていないためしっかり針を入れるように指導すると,「見えないんだから」と強い口調で話した.空腹時はとくに苛立ち,「腹が空いているんだよ」と怒鳴りながら,かきこむように摂取した.血液透析は3回/週行っていた.入院3日後,左眼硝子体手術を行った.<左眼手術翌日から3日間>(表2)左眼手術後,視力は0.04(0.3)まで回復した.食事を配膳し,インスリンを打つ準備を促すと「お願いします」と返事があった.退院後は一人で行うため,今からインスリン注射は自分で行うよう説明した.患者は無言でインスリンの単位合わせを音で行い,促すと単位確認させてくれた.刺入まで時間がかかり,看護師が手を添えると払いのけ,「そういうのが一番恐いんだ」と声を荒げ,その後ゆっくり刺入し「入っているか」と看護師に確認していた.左眼の手術後退院予定であったが,本人の強い希望により右眼の手術を行った.<左眼手術後8日目(右眼術後1日目)から退院まで>(表3)インスリンの単位を見やすくするため拡大鏡を提供した.「こんなのあるんだ.見えるよ」と話し,拡大鏡を使用し始めた.血糖測定にて訪室した際,自分でインスリンを準備していた.拡大鏡で単位は見やすくなったのか問うと,「見やすくなった」とぼそっと返答があり,拡大鏡使用後インスリン注射は自立できた.「明後日退院ですね」と声掛けすると,「ここの料理はおいしいね.ずっと入院していたいよ.ここで働きたいな」と穏やかに会話した.退院日の早朝,看護師が巡回時,患者が鼾をしているが呼名反応がない状態を発見し,当直医の指示にて救急搬送された.そのときの血圧は202/95mmHgだった.搬送先の脳外科病院で脳出血と診断された.III考按1.視機能の障害と患者の心理面患者の見えないという障害は,食事療法,内服・インスリン管理,透析の継続,人工肛門の管理,蜂窩織炎の治療など,見えていなければ全身状態の管理が行えず死に直結する生命危機の障害であった.患者は独居であり,キーパーソンが近くにおらず,看護師の援助が必要であった.入院当日から手術までの時期は威圧的な言動と苛立ちが強く,非協力的で看護師の援助を受け入れずコミュニケーションをとるのもあたらしい眼科Vol.32,No.2,2015295 表1入院時の看護展開S(主観情報)O(客観情報)A(アセスメント)P(計画)「まったく見えない」顔色優れず.不安な表情で口数少ない.診察室へは車椅子で,トイレまでは伝え歩きで行く.食事はメニュー説明し時間をかけて自力摂取.視機能の障害によりセルフケア能力が低下している.日常生活行動に介助が必要.看護目標1見えている部分を自覚でき,自分で行えることは行うことができる.「うるさい」日常生活状況を確認するため尋ねると声を荒げ,その後口を閉ざす.両眼が突然見えなくなり,心の整理がつかず,不安が生じているためコミュニケーションがとれない.看護目標2不安が軽減され,思いを表現できコミュニケーションがとれるようになる.「朝はインスリンをやっていたが夜はやってない.夜は付き合いだってあるんだ」会社の同僚が自宅から持参薬を持ってくる.インスリンが48本(期限切れのインスリンが28本含む)・残薬の合わない大量の内服薬が入っている.視機能が障害される以前から内服・インスリン管理ができていない.透析が導入されて,蜂窩織炎も生じていることから三大合併症も進行しており,全身状態が悪いと考えられる.現在の治療状況を確認し,全身状態を管理する必要がある.看護目標3治療が理解でき,指示どおり管理を行うことで,合併症の悪化なく過ごせる.表2左眼手術後の看護展開S(主観情報)O(客観情報)A(アセスメント)P(計画)「見えるよ」「ごはんがおいしいね」「はい!でもインスリンは無理です」「内服薬が見えない」・食事,移動,清潔ケア自立.・左眼視力0.04(0.3)・食事時,穏やかに話す.・「一人で歩けるでしょう」と医師の声掛けに左記発言.・食後薬を取ろうとせず,手のひらを出して待っている.視力改善し,食事を味わうことができている.見守り,支援を行い,自立できることは行ってもらう.看護目標1を修正する.看護目標1見え方を確認し,できる範囲で日常生活行動を自己にて行える.表3退院日決定後の看護展開S(主観情報)O(客観情報)A(アセスメント)P(計画)「手術してよかった.覚悟を決めて手術したかいがあったよ」右眼視力0.02(0.3)左眼視力0.02(0.3)配薬箱を提供し,内服は自己管理となる.両眼手術が終わり精神的に落ち着いている.退院後独居,インスリン療法は安全性が高い自己管理方法が必要.看護目標1をプラン修正する.看護目標1退院後,一人でインスリン・内服管理ができ,術後の注意点も理解できる.困難であった.これは,患者が見えなくなったことで,一人で行えたことが行えなくなり,生命危機を感じ強度の不安に陥ったことで危機に至り,コミュニケーション能力や思考が阻害されていたからと考える.小島2)は,『危機とは,不安の強度の状態で,喪失に対する脅威,あるいは喪失という困難に直面してそれに対処するには自分のレパートリー(知識や経験などのたくわえ)が不十分で,そのストレスを処理するのにすぐに使える方法をもっていないときに体験するものである.』と述べている.このことから,キーパーソンのいない突然の視機能の障害では患者の心理面を理解した危機回避の看護が必要であると感じた.そのため眼科単科病院は精神科や臨床心理士との協力を得て患者の心理面をサポートできる体制を整えるのが今後の課題である.不安の危機回避として,「症状の緩和」があり,今回の患者では視力の回復が症状の緩和に値した.患者は見えるようになると食事を味わい,看護師の存在を意識し援助を受け入れ,コミュニケーションがとりやすく穏やかに会話をするようになった.このことから,見えるという機能は安全を確保する生活情報を得るだけでなく心のゆとりも得ていると感じた.看護師は患者に恐怖心や苦手意識を抱きながらも,患者が手術により見えるようになるまで,常に変わらない態度で患者に寄り添い,患者の感情をすべて受(124) 糖尿病網膜症・入院時チェックシート入院時の関わりから緊急度の高い情報整理チェックⅠ~Ⅳに当てはまる番号に○を記入してください。チェックⅠ入院時の患者情報1.血圧が高い血圧()内服□有□無2.血糖が高い血糖()内服・インスリン□有□無3.HbA1cが高い数値(%、採血日/)4.低血糖を起こしやすい頻度(回/月)5.インスリンの単位を自己判断で調整している6.診療情報提供書を持参していない7.理解力□有□無8.内服管理ができていない□抗血栓薬のみ休薬指示であったが、持参薬を全て中止していた(前より中止中)□その他()9.10.障害の部位を記入チェックⅡ社会資源1.障害者手帳(級)□有□無2.糖尿病手帳□有□無※上記1~3が一つでも当てはまる場合※上記1~10が一つでも当てはまる場合担当医にすみやかに報告する□術後の管理に注意が必要です。再度、術後感染・急変のリスク説明をお願いします。(説明対象者はチェックⅢ参照)≪術後管理への注意必要≫【より術後管理への注意が必要】用紙NO2へ糖尿病網膜症チェックリスト用紙活用⇒プライマリー導入備考欄チェックⅢ特に注意すべき既往1.高血圧2.脳血管疾患3.心疾患4.腎障害透析□有□無シャント□右□左5.呼吸疾患6.パーキンソン7.認知症8.精神疾患()9.チェックⅣご本人と家族の状況1.一人暮しキーパーソン□有□無2.家族と同居カンファレンス実施時期:□入院時□15:30リーダー+メンバー+責任者(最低3人以上)1.観察項目・看護項目2.糖尿病指導□必要□不要医師の指示内容キーパーソン□夫□妻□子□その他□説明は家人と一緒が好ましい図1当院における糖尿病網膜症・入院時チェックシートけ止めていた.そのうえで,失明に対する不安の危機回避でていたいよ.ここで働きたいな」という患者の言葉から,看ある「基本的欲求の充足」「環境整備」を行い,安楽をもた護師は患者の入院生活に安楽を提供できたと考える.らせるよう日常生活援助を行った.退院前,「ずっと入院し(125)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015297 2.看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護患者は持参薬の残薬が合わず,また28本の期限切れのインスリンを所持していた.さらに血液透析が導入され,左下腿には蜂窩織炎を伴っていることから,糖尿病の自己管理ができていなかったことが疑われる.今回両眼の視機能障害のため緊急入院となり,内科医の指示に沿った治療を再開することとなった.看護師は入院当初から「現在の治療状況を確認し,全身状態を管理する必要がある」と患者の全身管理・全身観察に関した看護問題から看護目標3をあげ,看護展開を行っていた.だが,患者の視機能の回復具合と退院日が近づいていくにつれ,看護目標3は評価されず,看護目標1の患者への自立支援・ロービジョンケアを中心に看護展開がされている.しかし,この症例では自立支援やロービジョンケアの介入の他に,看護目標3の全身観察の看護が常に求められていたと考える.この看護意識が薄れた要因として,突然見えなくなり危機を感じて混乱していたが,視機能の回復により穏やかになっていった患者の姿に看護師が注目していたため,糖尿病の管理を自己判断で行っていた,病気に関する認識の低い患者に対しての看護展開が疎かになっていたことが考えられる.そのため糖尿病合併症を併発している患者について,糖尿病チェックシートを作成し,視機能障害に対する看護だけでなく常に全身観察の重要性を意識して取り組んでいく必要がある.そこで,糖尿病の治療内容だけであった当院のチェックシートに入院時の患者情報,社会資源,既往歴,本人と家族の状況などを盛り込んで,どのスタッフにも糖尿病患者の管理状態を把握できるようにした.当院は眼科単科病院であるため救急科がなく,急変が起きた場合は提携している救急病院に患者を搬送して対応している.よって,患者の異常にいち早く気付ける観察力・アセスメント能力が看護師に求められる.今後,このチェックシートが看護にどう活用されるか評価が必要である.IV結論本事例では,糖尿病の三大合併症を有し,硝子体出血により失明するのではないかという強度の不安から,緊急入院時点ではコミュニケーションがむずかしかった.術後,視力は改善傾向にあったが,糖尿病合併症の併発から視機能以外の合併症が悪化した.入院中,ロービジョンケアや自立支援を中心に看護展開を優先して行っていた.また,スタッフにより,病気に関する認識の低い患者の全身状態の観察に差があったことがわかった.糖尿病の合併症をもつ患者がいる眼科病棟では,視機能の変化のみならず,合併症の症状の悪化や新たに出現するおそれがあるため,患者の背景や病識の理解度を把握し全身状態の観察が重要である.そのため,状態を把握できる糖尿病チェックシートを作成し,チーム医療による全身状態の観察と情報共有をして個々の患者支援を実施する必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:平成24年「国民健康・栄養調査」の結果.2013http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000032074.html2)小島操子:看護における危機理論・危機介入.p6,金芳堂,20133)稲垣喜三:術前・術中・術後における麻酔のアセスメント丸わかりレクチャー.OPEnursing27:689,2012***(126)

糖尿病網膜症患者に多職種が連携して心理的ケアを 実施した1事例

2015年2月28日 土曜日

290あたらしい眼科Vol.5102,22,No.3(00)290(118)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):290.293,2015cはじめに厚生労働省の「平成19年国民健康・栄養調査報告」によれば,「糖尿病が強く疑われる人」は約890万人(平成14年調査より150万人増),「糖尿病の可能性を否定できない人」は約1,320万人(同440万人増)と推定されており1),日本人の糖尿病患者数は増加を続けている.また,合併症がない場合でも糖尿病という事実は精神的に大きな負荷となり,心理的危機をもたらす2).糖尿病網膜症(網膜症)は視覚障害〔別刷請求先〕荻嶋優:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YuOgishima,NishikasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN糖尿病網膜症患者に多職種が連携して心理的ケアを実施した1事例荻嶋優*1黒田有里*1吉崎美香*1猪又麻美子*2佐野英子*1堀貞夫*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院PsychologicalCareofDiabeticRetinopathyPatientInvolvingMultidisciplinaryCooperationYuOgishima1),YuriKuroda1),MikaYoshizaki1),MamikoInomata2),EikoSano1),SadaoHori1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital目的:糖尿病網膜症の患者が解決困難な心理的問題を医師とコメディカルが連携して援助し,患者のqualityoflife(QOL)が向上した1例を報告する.症例:43歳,男性.30歳頃から糖尿病で内科治療を行っていた.眼科治療歴はなく40歳時に糖尿病網膜症にて西葛西・井上眼科病院を初診した.増殖網膜症による視力低下で不安が強く,看護師が心理面のケアを行った.経済的な問題に対して医療相談担当者が高額医療費制度を説明した.制度の利用により治療が継続可能となった.硝子体手術と同時にシリコーンオイルが注入され,携帯電話の画面が見えず不安が増した.視能訓練士が補助具の選定を行い,読字が可能となった.医師を中心に看護師,医療相談担当者,視能訓練士が心理面,経済面,視覚のケアを継続したことで,患者の不安は軽減した.結論:多職種が専門分野で患者に携わり支援内容を共有することで,患者に必要な情報の適時的確な提供が可能となった.Purpose:Toreportthecaseofapatientwhosufferedfromdiabeticretinopathywithseverevisualimpair-mentandpsychologicalproblems,whichwereresolvedwiththecooperationofophthalmologistandco-medicalstaff.Case:A43-year-oldmalewithdiabetesmellituswhohadbeentreatedfor3yearsbyaninternistvisitedourclinicwithcomplaintofbilateralvisualloss.Hewasnervous,withfearofblindnessfromproliferativediabeticretinopathyandeconomicproblemsrelatingtosurgicaltreatment.Withtheassistanceofanurseandamedicalconsultant,hispsychologicalproblemswereresolvedbeforetreatmentinvolvingvitrectomyinbotheyes.Botheyeswereinjectedwithsiliconeoil;best-correctedvisualacuitywaspreservedat0.6intherighteyeand0.1intheleft.Postsurgery,hehadaproblemofnearvisionfromhyperopiaduetosiliconeoiltamponade.Theorthoptistofferedopticalaidsforreadinglettersonamobilephone,whichsatisfiedthepatientinregardtocommunicationwithhisfamily.Consequently,cooperationamongophthalmologist,orthoptist,nurseandmedicalconsultantcom-prisedgoodcareforthepatient’spsychological,economicalandvisualproblems.Conclusion:Cooperationbymul-tiplespecialistscangeneratetimelyandaccurateadvicetoeyediseasepatientswhofearblindnessandsurgicaltreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):290.293,2015〕Keywords:糖尿病網膜症,心理的な問題,多職種の連携,適時的確な情報提供.diabeticretinopathy,psychologi-calproblems,cooperationbymultiplespecialists,timelyandaccurateadvice.(00)290(118)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):290.293,2015cはじめに厚生労働省の「平成19年国民健康・栄養調査報告」によれば,「糖尿病が強く疑われる人」は約890万人(平成14年調査より150万人増),「糖尿病の可能性を否定できない人」は約1,320万人(同440万人増)と推定されており1),日本人の糖尿病患者数は増加を続けている.また,合併症がない場合でも糖尿病という事実は精神的に大きな負荷となり,心理的危機をもたらす2).糖尿病網膜症(網膜症)は視覚障害〔別刷請求先〕荻嶋優:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YuOgishima,NishikasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN糖尿病網膜症患者に多職種が連携して心理的ケアを実施した1事例荻嶋優*1黒田有里*1吉崎美香*1猪又麻美子*2佐野英子*1堀貞夫*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院PsychologicalCareofDiabeticRetinopathyPatientInvolvingMultidisciplinaryCooperationYuOgishima1),YuriKuroda1),MikaYoshizaki1),MamikoInomata2),EikoSano1),SadaoHori1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital目的:糖尿病網膜症の患者が解決困難な心理的問題を医師とコメディカルが連携して援助し,患者のqualityoflife(QOL)が向上した1例を報告する.症例:43歳,男性.30歳頃から糖尿病で内科治療を行っていた.眼科治療歴はなく40歳時に糖尿病網膜症にて西葛西・井上眼科病院を初診した.増殖網膜症による視力低下で不安が強く,看護師が心理面のケアを行った.経済的な問題に対して医療相談担当者が高額医療費制度を説明した.制度の利用により治療が継続可能となった.硝子体手術と同時にシリコーンオイルが注入され,携帯電話の画面が見えず不安が増した.視能訓練士が補助具の選定を行い,読字が可能となった.医師を中心に看護師,医療相談担当者,視能訓練士が心理面,経済面,視覚のケアを継続したことで,患者の不安は軽減した.結論:多職種が専門分野で患者に携わり支援内容を共有することで,患者に必要な情報の適時的確な提供が可能となった.Purpose:Toreportthecaseofapatientwhosufferedfromdiabeticretinopathywithseverevisualimpair-mentandpsychologicalproblems,whichwereresolvedwiththecooperationofophthalmologistandco-medicalstaff.Case:A43-year-oldmalewithdiabetesmellituswhohadbeentreatedfor3yearsbyaninternistvisitedourclinicwithcomplaintofbilateralvisualloss.Hewasnervous,withfearofblindnessfromproliferativediabeticretinopathyandeconomicproblemsrelatingtosurgicaltreatment.Withtheassistanceofanurseandamedicalconsultant,hispsychologicalproblemswereresolvedbeforetreatmentinvolvingvitrectomyinbotheyes.Botheyeswereinjectedwithsiliconeoil;best-correctedvisualacuitywaspreservedat0.6intherighteyeand0.1intheleft.Postsurgery,hehadaproblemofnearvisionfromhyperopiaduetosiliconeoiltamponade.Theorthoptistofferedopticalaidsforreadinglettersonamobilephone,whichsatisfiedthepatientinregardtocommunicationwithhisfamily.Consequently,cooperationamongophthalmologist,orthoptist,nurseandmedicalconsultantcom-prisedgoodcareforthepatient’spsychological,economicalandvisualproblems.Conclusion:Cooperationbymul-tiplespecialistscangeneratetimelyandaccurateadvicetoeyediseasepatientswhofearblindnessandsurgicaltreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):290.293,2015〕Keywords:糖尿病網膜症,心理的な問題,多職種の連携,適時的確な情報提供.diabeticretinopathy,psychologi-calproblems,cooperationbymultiplespecialists,timelyandaccurateadvice. あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015291(119)を引き起こすさまざまな眼疾患のなかでも,視力の変化が激しい疾患の一つ3)である.急激な視力低下をきたした場合,日常生活に大きな影響を与えるだけでなく,心理的な負荷も多大なものになる.糖尿病患者は網膜症を治療していく途中で,見えなくなることやそれまでと同じ生活が送れなくなることなどに強い不安を抱くことが多く,治療と並行して心理面を中心としたケアが不可欠である.今回,治療過程において発生した解決困難なさまざまな問題を,医師とコメディカル(看護師,医療相談担当者,視能訓練士)が連携して援助したことによって患者のqualityoflife(QOL)が向上した1例を経験したので報告する.I症例患者:40歳,男性.主訴:視力低下,飛蚊症.家族歴:父親が糖尿病.視覚障害があったとのことだった.眼科現病歴:2010年6月から両眼に黒い出血のようなものが見え,近医を受診した.増殖網膜症で硝子体手術を含む治療は困難と診断された.精査および治療目的で西葛西・井上眼科病院(以下,当院)を受診した.内科現病歴:30歳頃,糖尿病の治療を開始した.一時期,血糖降下剤を内服していたが,自己判断で中断した.38歳時,下肢蜂窩織炎を発症した際に血糖値が500mg/dl台であることが判明し,インスリン治療を開始した.インスリン1日2回・自己血糖測定を実施した.その他に高血圧,動脈硬化症,腎症を合併していた.初診時所見:視力は,右眼0.15(0.5×.1.50D),左眼0.08(0.4×.1.50D(cyl.0.50DAx5°),眼圧は,右眼17mmHg,左眼20mmHgであった.中間透光体には異常を認めず,眼底は両眼ともに多数の網膜新生血管と増殖組織がみられ,増殖網膜症(福田分類にてB5)であった.光干渉断層計(OCT)では,両眼に増殖組織による網膜の牽引と浮腫を認めた(図1).網膜症に対してレーザー光凝固術は未治療,蛍光眼底造影検査は未施行であった.II経過1.治療開始初期の不安に対するケア当院初診時には,前医での説明から前向きな治療はできないという絶望感や,父親と同様に視覚的な症状が進行することへの不安などがあった.また,レーザー光凝固術や蛍光眼底造影検査を受けること自体にも不安があった.これらの不安を看護師が傾聴し,さらに治療と検査の詳細については補足説明を行った.残った不安には,再度医師が必要性や方法を説明し理解が得られた.看護師は,患者がこれ以降の検査・診察を安寧に受けられるよう,携わる職員間で情報を共有した.必要と思われる際図1初診時の眼底写真と光干渉断層計(OCT)画像多数の網膜新生血管と増殖組織を認める.OCTでは,増殖組織による網膜の牽引と浮腫を認める.(福田分類B5)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015291(119)を引き起こすさまざまな眼疾患のなかでも,視力の変化が激しい疾患の一つ3)である.急激な視力低下をきたした場合,日常生活に大きな影響を与えるだけでなく,心理的な負荷も多大なものになる.糖尿病患者は網膜症を治療していく途中で,見えなくなることやそれまでと同じ生活が送れなくなることなどに強い不安を抱くことが多く,治療と並行して心理面を中心としたケアが不可欠である.今回,治療過程において発生した解決困難なさまざまな問題を,医師とコメディカル(看護師,医療相談担当者,視能訓練士)が連携して援助したことによって患者のqualityoflife(QOL)が向上した1例を経験したので報告する.I症例患者:40歳,男性.主訴:視力低下,飛蚊症.家族歴:父親が糖尿病.視覚障害があったとのことだった.眼科現病歴:2010年6月から両眼に黒い出血のようなものが見え,近医を受診した.増殖網膜症で硝子体手術を含む治療は困難と診断された.精査および治療目的で西葛西・井上眼科病院(以下,当院)を受診した.内科現病歴:30歳頃,糖尿病の治療を開始した.一時期,血糖降下剤を内服していたが,自己判断で中断した.38歳時,下肢蜂窩織炎を発症した際に血糖値が500mg/dl台であることが判明し,インスリン治療を開始した.インスリン1日2回・自己血糖測定を実施した.その他に高血圧,動脈硬化症,腎症を合併していた.初診時所見:視力は,右眼0.15(0.5×.1.50D),左眼0.08(0.4×.1.50D(cyl.0.50DAx5°),眼圧は,右眼17mmHg,左眼20mmHgであった.中間透光体には異常を認めず,眼底は両眼ともに多数の網膜新生血管と増殖組織がみられ,増殖網膜症(福田分類にてB5)であった.光干渉断層計(OCT)では,両眼に増殖組織による網膜の牽引と浮腫を認めた(図1).網膜症に対してレーザー光凝固術は未治療,蛍光眼底造影検査は未施行であった.II経過1.治療開始初期の不安に対するケア当院初診時には,前医での説明から前向きな治療はできないという絶望感や,父親と同様に視覚的な症状が進行することへの不安などがあった.また,レーザー光凝固術や蛍光眼底造影検査を受けること自体にも不安があった.これらの不安を看護師が傾聴し,さらに治療と検査の詳細については補足説明を行った.残った不安には,再度医師が必要性や方法を説明し理解が得られた.看護師は,患者がこれ以降の検査・診察を安寧に受けられるよう,携わる職員間で情報を共有した.必要と思われる際図1初診時の眼底写真と光干渉断層計(OCT)画像多数の網膜新生血管と増殖組織を認める.OCTでは,増殖組織による網膜の牽引と浮腫を認める.(福田分類B5) 表1入院中の手術および屈折変化(1)右眼左眼入院1日目0.1(0.3×.1.50D)0.1(0.5×.1.25D(cyl.1.00DAx180°)入院2日目硝子体手術+シリコーンオイル注入─入院6日目0.02(0.2×+5.50D(cyl.1.50DAx50°)0.1(0.3×.2.00D(cyl.1.00DAx170°)入院9日目─硝子体手術+シリコーンオイル注入入院15日目0.1(0.2×+5.50D(cyl.1.00DAx20°)0.05(0.1×+5.00D)眼鏡処方度数+5.50D(cyl.1.00DAx20°+5.00D表2入院中の手術および屈折変化(2)右眼左眼入院1日目0.02(0.6×+5.50D)0.01(0.15×+6.00D(cyl.1.50DAx150°)入院2日目シリコーンオイル抜去─入院7日目0.08(0.4×.3.50D)0.1(0.3×+6.00D(cyl.1.50DAx150°)入院9日目─シリコーンオイル抜去入院14日目0.1(0.3×.3.00D)0.08(0.2×.5.00D)入院15日目0.06(0.4×.3.50D)0.06(0.2×.4.00D)眼鏡処方度数.3.50D.4.00Dには検査や診察に同席し,不安の軽減を図ることとした.硝子体手術までに外来で計5回のレーザー光凝固術を実施したが,治療後には必ず看護師のところへ立ち寄り,不安な点や気持ちを訴えたため,その都度傾聴した.繰り返し対話を行うことで,糖尿病の治療の重要性を理解し,網膜症治療へ前向きに取り組む傾向がみられた.2.治療費に関する心配についてのケア患者の通院にかかる交通費は往復5,000円であった.患者は自営業で家具職人をしており,視力低下により就業困難な状態であったため,収入面での不安があった.網膜症の状態から,レーザー光凝固術は数回行う必要があり,治療方針を説明する際,医師は通院のしやすさと交通費に配慮し,レーザー光凝固術は近医でも施行可能であると説明した.患者は当院での施行を希望したため,医師の指示により,医療相談担当者から高額療養費制度についての説明をした.話をすると制度の利用により経済的な問題は解決することがわかり,「すごく気が楽になった」と笑顔がみられた.通院治療を継続し,予定どおりレーザー光凝固術を実施した.3.自宅での療養に関するケア患者に日常生活の聞き取りをしてみると,自己管理に不十分な点がみられた.内科から受けた説明や指導内容を理解もしくは実施していないと判断し,当院においても看護師がフットケアやインスリン注射を含めた指導を実施した.今後,視機能が低下しても自宅で療養を行えるよう,妻を同席させた.フットケアは爪の切り方や観察ポイントをイラスト入りの用紙を用いて説明した.インスリン注射は正しい手順で行っていなかったため,衛生的に正しく注射ができるようになることを目標に内科の指導を補足した.入院による硝子体手術が予定されていたため,指導内容は外来看護師と病棟看護師で共有した.4.手術後および入院期間のケア上記のケアを行ったのちに,入院2日目に右眼増殖網膜症に対し硝子体手術を施行し,シリコーンオイルを注入した.入院9日目には左眼の手術を施行し,両眼に屈折の変化が生じ遠視化した(表1).入院中,術前は遠方の家族との連絡に携帯電話のメール機能を使い,仕事に関する指示などを伝えていた.術後は遠視化のため携帯電話の画面が見えなくなり,視覚の急な変化と連絡が取れなくなってしまったことから,焦りと不安が増した.この変化に対し,患者は看護師に不安を訴えた.そして光学的補助具(拡大鏡)の選定を希望した.看護師が視能訓練士に相談し,視能訓練士から医師へ報告した.医師の指示のもと光学的補助具を選定し,貸し出しを行った.病室で拡大鏡(エッシェンバッハブラックルーペR)3.5倍(10D75×50mm)と4倍(16D70mmf)と検眼枠に検眼用レンズを挿入した仮眼鏡をともに使用することで,携帯電話の画面や測定した血糖値を見ることができた.しばらく使用してみると,「携帯電話の画面とボタンが同時に見えない」,「携帯電話画面以外の物もよく見たい」といった不都合や希望が生じたので,再検査をして補助具を変更した.術後の両眼遠視化については,退院後の生活に必要である眼鏡を退院前日に処方した.入院中に使用していた拡大鏡を貸出し,退院後に自宅で5日間試用した.つぎの来院日にクリップ式の拡大鏡(エッシェンバッハラボ・クリップR両眼用)3倍と比較し,日常生活と就業時の使いやすさや満足度を確認したうえでク(120) リップ式の拡大鏡を購入した.硝子体手術から約3カ月後,注入したシリコーンオイルを抜去した.手術後は,両眼とも遠視から近視に大きく変化したため,それまでより裸眼で近方が見やすくなったが,遠方は見えにくくなった.しばらくは屈折度の変化が予測されるが,これまでの眼鏡は使用できないため退院時に新しい眼鏡を装用して帰りたいと強い希望があり,眼鏡処方を行った(表2).装用感は良く,満足していた.術後の定期受診の際,眼鏡の装用感や屈折度の変化に合わせて,眼鏡を再作製した.III考按糖尿病と診断された患者のうち,網膜症の合併症があるのは1割で,そのうち治療を受けている人は7割である.過去のデータからは増加しており1),通院しているにもかかわらず,血糖コントロールがうまくいかないなどの問題から視覚障害をきたす場合も多い.QOLの低下が生じることにより,日常生活の援助や精神的なケアが必要となる.何より糖尿病自体の進行予防が可能になるよう,患者個人に合わせたケアも求められる4).また,受けたケアが患者の満足するものになるかどうかは,患者と医療従事者の信頼関係に大きく左右される.今回の症例は,当院受診当初は治療に望みをもっておらず,常に悲観的であった.しかし,患者自身が感情を発信する場を確立し,医師と看護師が傾聴した結果,患者に安心して治療を受けられる心理的基盤が完成した.かかわるスタッフへの信頼があったからこそ,自身の「不自由」や「不便」を訴え,それを受けて多職種で援助ができた.治療の継続において,経済的な問題は必然的に発生する.網膜症による視覚障害者の場合,合併症による全身状態が原因で就業が困難になり,再就職はきわめて困難な場合が多い5).経済的な面からも,仕事が継続できるような支援が必要で,必要に応じ早い段階からの介入を行う.現在の仕事を継続するという観点からも,ロービジョンケアや視覚障害に対する援助は,患者が必要とした時期に迅速に開始することが望ましい6).「見えなくなった」,「できなくなった」という不自由や不安を放置することで精神的に追い詰められるため,ケアの導入時期も大きなポイントである.本人へのケア以外に,患者を傍らでサポートする周囲の家族や関係者への情報提供も重要である.負ってしまった視覚障害により「読み書き」ができなくなるとQOLの低下が生じる.しかし,見えないことでインスリン注射や血糖値の自己チェックなど,糖尿病自体の管理が困難になると,腎症,神経障害や心筋梗塞などの合併症発症の危険度が増す.周囲の者に病態や管理上の注意点を早期から伝え,患者本人を適切に支えることで,全身疾患である糖尿病の正しい確実な管理が可能となる.網膜症の患者に限らず,患者一人ひとりの心理的ケアを進めていくには,専門職のチームによる総合的なケアが求められる7).とくに中途視覚障害者への援助は,ニーズを正確に把握し,それに対する情報提供をすることで患者のQOL向上をもたらす8).看護師,医療相談担当者,視能訓練士のほか,薬剤師や栄養士などを含めた多職種が専門分野で患者に携わり,その内容をチームとして共有することで,患者に必要な情報だけでなく,患者がそのときに必要としている情報を適時的確に提供することが可能となる.自ら発信ができない患者にも同様の支援を行うために,すべてのコメディカルが,患者の不安や問題点を診察や検査など在院中の様子から見出し,適切な声掛けと傾聴を行えるようにすることが今後の課題である.IV結論医師とコメディカルが連携を取り,医師の指示のもと心理的,経済的,視覚に関するケアをそれぞれ看護師,医療相談担当者,視能訓練士が継続して行ったことで,患者の満足が得られる適切な情報提供ができた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省健康局:平成19年国民健康・栄養調査報告2)石井均:糖尿病網膜症患者の心理と治療.眼紀47:22-27,19963)中村桂子:糖尿病によるロービジョン患者のものの見え方,見えにくさの評価.看護技術48:34-40,20024)諸橋由美子,杉田和枝,百田初栄ほか:視覚障害をもつ糖尿病患者への援助.眼紀48:36-40,19975)山田幸男,平沢由平,大石正夫ほか:中途視覚障害者のリハビリテーション第8報─視覚障害者の就労─.眼紀54:16-20,20036)山田幸男,大石正夫,土屋淳之:糖尿病のロービジョンケア─その実践と課題─.看護技術48:24-27,20027)荒井三樹:糖尿病網膜症による視力低下患者の自立支援─リハビリテーション─.眼紀56:311-315,20058)田中恵津子:眼科臨床における中途視覚障害者に対する対応.日視会誌31:83-88,2002***(121)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015293

増殖糖尿病網膜症を発症し手術治療を行ったPrader-Willi症候群の2症例

2015年2月28日 土曜日

286あたらしい眼科Vol.5102,22,No.3(00)286(114)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):286.289,2015cはじめにPrader-Willi症候群(PWS)は,15番染色体長腕の異常に起因し,新生児の筋緊張低下,哺乳障害,幼児期からの過食による高度肥満,精神発達遅滞,外性器発育不全を特徴とする疾患である1,2).眼科領域では,斜視,弱視,屈折異常,脈絡膜の低色素,白内障などの合併症が報告されている3.5)が,成人例では,糖尿病網膜症の合併が問題となる.本症の発生頻度は約1.2万人に1人といわれている1,2)が,眼科医がPWSをもつ症例に遭遇する機会は少なく6.9),増殖糖尿病網膜症(PDR)まで至った報告や,治療の報告は少ない.〔別刷請求先〕嶋千絵子:〒573-1010大阪府枚方市新町2-5-1関西医科大学付属枚方病院眼科学教室Reprintrequests:ChiekoShima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUnivercity,2-5-1Shinmachi,HirakataCity,Osaka573-1010,JAPAN増殖糖尿病網膜症を発症し手術治療を行ったPrader-Willi症候群の2症例嶋千絵子山田晴彦石黒利充有澤章子吉川匡宣城信雄髙橋寛二関西医科大学眼科学教室TwoCasesofPrader-WilliSyndromewithProliferativeDiabeticRetinopathyTreatedbyVitrectomyChiekoShima,HaruhikoYamada,ToshimitsuIshiguro,AkikoArisawa,TadanobuYoshikawa,NobuoJoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity増殖糖尿病網膜症を発症し手術治療を行ったPrader-Willi症候群(PWS)の2症例を報告する.症例1は29歳,女性.2009年10月に右下腿蜂窩織炎の加療時に糖尿病を指摘され,当院眼科を初診した.矯正視力は右眼0.15,左眼0.15で,右眼は単純糖尿病網膜症,左眼は増殖糖尿病網膜症であった.左眼は汎網膜光凝固(PRP)後,2010年4月に全身麻酔下で硝子体・白内障手術を施行.その後右眼の網膜症も進行したため2012年3月全身麻酔下で右眼の同手術を施行した.術後矯正視力は右眼0.04,左眼0.06となった.症例2は40歳,男性.右眼の視力低下のために2009年9月に当院眼科を初診.矯正視力は右眼0.02,左眼0.8で,右眼は増殖糖尿病網膜症,左眼は前増殖糖尿病網膜症を認めた.両眼にPRPを行い,同年11月に局所麻酔下で右眼の硝子体・白内障手術を施行.翌年左眼に硝子体出血を生じ,12月に同手術を施行した.矯正視力は右眼0.3,左眼0.2となった.PWSは精神発達遅滞を伴い,若くして網膜症が進行するため,早期発見,早期治療に努めるべきである.Wereport2casesofPrader-Willisyndrome(PWS)withproliferativediabeticretinopathytreatedbyvitrecto-my.Case1,a29-year-oldfemale,wasdiagnosedasdiabetesmellitus,withsimplediabeticretinopathyinherrighteye(OD)andproliferativediabeticretinopathy(PDR)onherlefteye(OS).TheOSwastreatedbyvitrectomyundergeneralanesthesiaafterpanretinalphotocoagulation(PRP).TheODdevelopedPDR,andwastreatedbythesameoperationastheOS.Finalvisualacuitywas0.04ODand0.06OS.Case2,a40-year-oldmale,presentedwithvisuallossintheOD.PDRwasidentifiedintheOD,prePDRintheOS.AfterbilateraltreatmentforPRP,theODunderwentvitrectomyunderlocalanesthesia.VitreoushemorrhagelateroccurredintheOS,andwastreatedbythesameoperationasfortheOD.Finalvisualacuitywas0.3ODand0.2OS.Becauseofthementalretardation,patientswithPWSneedearlydetectionandtreatmentofdiabeticretinopathy,whichcouldeasilydeveloptoPDRinyouth.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):286.289,2015〕Keywords:Prader-Willi症候群,増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,糖尿病,精神発達遅延.Prader-Willisyn-drome,proliferativediabeticretinopathy,vitrectomy,diabetesmellitus,mentalretardation.(00)286(114)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):286.289,2015cはじめにPrader-Willi症候群(PWS)は,15番染色体長腕の異常に起因し,新生児の筋緊張低下,哺乳障害,幼児期からの過食による高度肥満,精神発達遅滞,外性器発育不全を特徴とする疾患である1,2).眼科領域では,斜視,弱視,屈折異常,脈絡膜の低色素,白内障などの合併症が報告されている3.5)が,成人例では,糖尿病網膜症の合併が問題となる.本症の発生頻度は約1.2万人に1人といわれている1,2)が,眼科医がPWSをもつ症例に遭遇する機会は少なく6.9),増殖糖尿病網膜症(PDR)まで至った報告や,治療の報告は少ない.〔別刷請求先〕嶋千絵子:〒573-1010大阪府枚方市新町2-5-1関西医科大学付属枚方病院眼科学教室Reprintrequests:ChiekoShima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUnivercity,2-5-1Shinmachi,HirakataCity,Osaka573-1010,JAPAN増殖糖尿病網膜症を発症し手術治療を行ったPrader-Willi症候群の2症例嶋千絵子山田晴彦石黒利充有澤章子吉川匡宣城信雄髙橋寛二関西医科大学眼科学教室TwoCasesofPrader-WilliSyndromewithProliferativeDiabeticRetinopathyTreatedbyVitrectomyChiekoShima,HaruhikoYamada,ToshimitsuIshiguro,AkikoArisawa,TadanobuYoshikawa,NobuoJoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity増殖糖尿病網膜症を発症し手術治療を行ったPrader-Willi症候群(PWS)の2症例を報告する.症例1は29歳,女性.2009年10月に右下腿蜂窩織炎の加療時に糖尿病を指摘され,当院眼科を初診した.矯正視力は右眼0.15,左眼0.15で,右眼は単純糖尿病網膜症,左眼は増殖糖尿病網膜症であった.左眼は汎網膜光凝固(PRP)後,2010年4月に全身麻酔下で硝子体・白内障手術を施行.その後右眼の網膜症も進行したため2012年3月全身麻酔下で右眼の同手術を施行した.術後矯正視力は右眼0.04,左眼0.06となった.症例2は40歳,男性.右眼の視力低下のために2009年9月に当院眼科を初診.矯正視力は右眼0.02,左眼0.8で,右眼は増殖糖尿病網膜症,左眼は前増殖糖尿病網膜症を認めた.両眼にPRPを行い,同年11月に局所麻酔下で右眼の硝子体・白内障手術を施行.翌年左眼に硝子体出血を生じ,12月に同手術を施行した.矯正視力は右眼0.3,左眼0.2となった.PWSは精神発達遅滞を伴い,若くして網膜症が進行するため,早期発見,早期治療に努めるべきである.Wereport2casesofPrader-Willisyndrome(PWS)withproliferativediabeticretinopathytreatedbyvitrecto-my.Case1,a29-year-oldfemale,wasdiagnosedasdiabetesmellitus,withsimplediabeticretinopathyinherrighteye(OD)andproliferativediabeticretinopathy(PDR)onherlefteye(OS).TheOSwastreatedbyvitrectomyundergeneralanesthesiaafterpanretinalphotocoagulation(PRP).TheODdevelopedPDR,andwastreatedbythesameoperationastheOS.Finalvisualacuitywas0.04ODand0.06OS.Case2,a40-year-oldmale,presentedwithvisuallossintheOD.PDRwasidentifiedintheOD,prePDRintheOS.AfterbilateraltreatmentforPRP,theODunderwentvitrectomyunderlocalanesthesia.VitreoushemorrhagelateroccurredintheOS,andwastreatedbythesameoperationasfortheOD.Finalvisualacuitywas0.3ODand0.2OS.Becauseofthementalretardation,patientswithPWSneedearlydetectionandtreatmentofdiabeticretinopathy,whichcouldeasilydeveloptoPDRinyouth.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):286.289,2015〕Keywords:Prader-Willi症候群,増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,糖尿病,精神発達遅延.Prader-Willisyn-drome,proliferativediabeticretinopathy,vitrectomy,diabetesmellitus,mentalretardation. あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015287(115)今回筆者らは,両眼の硝子体手術を要したPWSの2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕29歳,女性.主訴:左眼視力低下.現病歴:仮死産で出生.その後精神発達遅滞を認め,15歳で斜視手術時にPWSが疑われていた.2009年29歳時に右下腿蜂窩織炎のため他院へ入院中に,Hb(ヘモグロビン)A1C(JDS値,以下同様):14%と高値で初めて糖尿病(DM)を指摘された.2009年11月,血糖コントロールのために当院内科へ紹介.眼底精査目的に当科紹介となった.既往歴:2型DM,高血圧(HT),高脂血症,精神発達遅滞,斜視手術(詳細不明),扁桃腺摘出術があった.初診時所見:視力はVD=0.05(0.15×cyl.2.0DAx100°),VS=0.05(0.15×cyl.1.75DAx70°).眼圧は両眼ともに12mmHgであった.眼底は右眼には網膜点状出血が散在しており単純糖尿病網膜症,左眼は網膜新生血管と硝子体出血を認め,PDRの状態であった(図1:A-1,2).全身所見としては,身長149cm,体重68kg(bodymassindex:BMIは30.63),染色体検査で15番染色体長腕q11-q13の欠失を認めた.PWSとして,①筋緊張低下,②性腺発育不全(21歳に生理開始,頻度は1.2回/年),③精神発達遅滞,④肥満,⑤2型DM(HbA1C7.3%,腎症I期,食事療法困難)という特徴が認められた.臨床経過:糖尿病網膜症の進行に著明な左右差があるために,頸部エコー検査を行ったが,異常所見は認めなかった.内科で血糖コントロールを行いながら,ただちに左眼に汎網膜光凝固術を開始した.光凝固術中に厚い増殖膜と硝子体出血を生じたため2010年4月,全身麻酔下に左眼の水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行した.術後施行したフルオレセイン蛍光造影検査(FA)で右眼の無灌流領域が広範になり,乳頭新生血管が出現してPDRへ進行していたため(図1:B-1,2),2010年11月から右眼にも汎網膜光凝固術を施行した.2011年12月には右眼にも硝子体出血を生じたため,2012年3月に全身麻酔下で右図1症例1A-1:初診時眼底所見.右眼)網膜点状出血が散在左眼)アーケード血管に沿った新生血管.A-2:初診時フルオレセイン蛍光造影検査(FA)所見.右眼)無灌流領域をわずかに認める.左眼)広範な無灌流領域,乳頭上新生血管.B-1:左眼術後眼底所見.右眼)乳頭上新生血管が出現.左眼)新生血管は消失.B-2:左眼術後FA所見.右眼)乳頭上新生血管が出現.左眼)新生血管は消失.C-1:最終受診時眼底所見.両眼)漏出を伴う新生血管は消失.C-2:最終受診時FA所見.両眼)漏出を伴う新生血管は消失.A-1A-2B-1B-2C-1C-2あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015287(115)今回筆者らは,両眼の硝子体手術を要したPWSの2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕29歳,女性.主訴:左眼視力低下.現病歴:仮死産で出生.その後精神発達遅滞を認め,15歳で斜視手術時にPWSが疑われていた.2009年29歳時に右下腿蜂窩織炎のため他院へ入院中に,Hb(ヘモグロビン)A1C(JDS値,以下同様):14%と高値で初めて糖尿病(DM)を指摘された.2009年11月,血糖コントロールのために当院内科へ紹介.眼底精査目的に当科紹介となった.既往歴:2型DM,高血圧(HT),高脂血症,精神発達遅滞,斜視手術(詳細不明),扁桃腺摘出術があった.初診時所見:視力はVD=0.05(0.15×cyl.2.0DAx100°),VS=0.05(0.15×cyl.1.75DAx70°).眼圧は両眼ともに12mmHgであった.眼底は右眼には網膜点状出血が散在しており単純糖尿病網膜症,左眼は網膜新生血管と硝子体出血を認め,PDRの状態であった(図1:A-1,2).全身所見としては,身長149cm,体重68kg(bodymassindex:BMIは30.63),染色体検査で15番染色体長腕q11-q13の欠失を認めた.PWSとして,①筋緊張低下,②性腺発育不全(21歳に生理開始,頻度は1.2回/年),③精神発達遅滞,④肥満,⑤2型DM(HbA1C7.3%,腎症I期,食事療法困難)という特徴が認められた.臨床経過:糖尿病網膜症の進行に著明な左右差があるために,頸部エコー検査を行ったが,異常所見は認めなかった.内科で血糖コントロールを行いながら,ただちに左眼に汎網膜光凝固術を開始した.光凝固術中に厚い増殖膜と硝子体出血を生じたため2010年4月,全身麻酔下に左眼の水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行した.術後施行したフルオレセイン蛍光造影検査(FA)で右眼の無灌流領域が広範になり,乳頭新生血管が出現してPDRへ進行していたため(図1:B-1,2),2010年11月から右眼にも汎網膜光凝固術を施行した.2011年12月には右眼にも硝子体出血を生じたため,2012年3月に全身麻酔下で右図1症例1A-1:初診時眼底所見.右眼)網膜点状出血が散在左眼)アーケード血管に沿った新生血管.A-2:初診時フルオレセイン蛍光造影検査(FA)所見.右眼)無灌流領域をわずかに認める.左眼)広範な無灌流領域,乳頭上新生血管.B-1:左眼術後眼底所見.右眼)乳頭上新生血管が出現.左眼)新生血管は消失.B-2:左眼術後FA所見.右眼)乳頭上新生血管が出現.左眼)新生血管は消失.C-1:最終受診時眼底所見.両眼)漏出を伴う新生血管は消失.C-2:最終受診時FA所見.両眼)漏出を伴う新生血管は消失.A-1A-2B-1B-2C-1C-2 288あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(116)眼の水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行した.術中・術後の合併症もみられず,経過は良好であったがDMについての治療のコンプライアンスは不良であった.HbA1Cは7.8%で経過し,眼底は安定して増殖停止網膜症となった.2013年5月最終受診時の矯正視力は右眼(0.04),左眼(0.06)である(図1:C-1,2).〔症例2〕40歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:仮死産で出生.精神発達遅滞を認めていたが,5歳時に停留精巣精査加療目的で入院した際に,PWSと診断された.26歳でDMを指摘されるも治療の中断が多く,入退院を繰り返し,HbA1Cは12.14%で経過していた.2年前の近医眼科の初診時には糖尿病網膜症を認めなかったが,眼科通院を2年間中断した.1カ月前から右眼視力低下を自覚したために近医を受診し,右眼の硝子体出血と両眼のPDRを認め,2009年9月当科を紹介受診した.既往歴:DM,高脂血症があった.初診時所見:視力はVD=0.02(0.02×sph+3.0D),VS=0.4(0.8×sph.0.75D(cyl.2.0DAx75°).眼圧は右眼10mmHg,左眼12mmHg.眼底は右眼には硝子体出血と増殖膜を認めPDR,左眼は網膜しみ状出血が散在しており,FAで広範な無灌流領域を認めたため(図2:D-1,2),前増殖糖尿病網膜症と診断した.全身所見としては,身長153cm,体重92kg(BMI:39.8)で,アーモンド様眼裂の顔貌があった.染色体検査で15番染色体長腕(q11-q13)の欠失を認めた.PWSとして,①精腺機能低下,②精神発達遅滞,③肥満,④2型DM(HbA1C:11.8%,腎症IIIb期,食事療法困難)の特徴がそれぞれ認められた.臨床経過:右眼の硝子体手術を行うために,まず内科にて血糖コントロールを行い,同時に左眼の汎網膜光凝固術を開始した.2009年11月,局所麻酔下で右眼の水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行.左眼の光凝固は十分に入り,右眼の光凝固は術中・術後合わせて合計2,156発施行した(図2:E-1,2).ところが2010年6月,右眼に血管新生緑内障を発症し,右眼の眼圧は40mmHgに上昇した.ただちに光凝固を追加して経過を観察したところ,眼圧は点眼や内服なしで15mmHgに下降し安定した.2010年10月,左眼に硝子体出血を生じたため,同年12月局所麻酔下で左眼の水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行.以後,インスリン療法を行って血糖コントロールは良好となり,HbA1Cは5.6%で安定した.2013年5月最終診察時,矯正視力は右眼(0.3),左眼(0.2)で眼底は安定している.II考察従来,PWSの生命予後は悪く,肥満によるDM,心不全,無呼吸などのために25.30歳を超えて生存することはまれであった2).ところが近年,診断技術の向上と内科治療の進歩により,従来よりも寿命が長くなり10),糖尿病の罹患期間が延びた結果,PDRを合併する症例の割合が高くなることが予測される.PWSに特徴的な過食が誘因となった2型DMの合併頻度図2症例2D-1:初診時眼底所見.右眼)硝子体出血と増殖膜が一部みられた.左眼)網膜のしみ状出血が散在.D-2:初診時FA所見.右眼)硝子体出血と新生血管を認める.左眼)広範な無灌流領域を認める.E-1:右眼術後眼底所見.右眼)硝子体出血は残存していた.E-2:右眼術後FA所見.両眼)無灌流領域が残存しており,両眼に光凝固を追加した.D1D2E2E1(116)眼の水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行した.術中・術後の合併症もみられず,経過は良好であったがDMについての治療のコンプライアンスは不良であった.HbA1Cは7.8%で経過し,眼底は安定して増殖停止網膜症となった.2013年5月最終受診時の矯正視力は右眼(0.04),左眼(0.06)である(図1:C-1,2).〔症例2〕40歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:仮死産で出生.精神発達遅滞を認めていたが,5歳時に停留精巣精査加療目的で入院した際に,PWSと診断された.26歳でDMを指摘されるも治療の中断が多く,入退院を繰り返し,HbA1Cは12.14%で経過していた.2年前の近医眼科の初診時には糖尿病網膜症を認めなかったが,眼科通院を2年間中断した.1カ月前から右眼視力低下を自覚したために近医を受診し,右眼の硝子体出血と両眼のPDRを認め,2009年9月当科を紹介受診した.既往歴:DM,高脂血症があった.初診時所見:視力はVD=0.02(0.02×sph+3.0D),VS=0.4(0.8×sph.0.75D(cyl.2.0DAx75°).眼圧は右眼10mmHg,左眼12mmHg.眼底は右眼には硝子体出血と増殖膜を認めPDR,左眼は網膜しみ状出血が散在しており,FAで広範な無灌流領域を認めたため(図2:D-1,2),前増殖糖尿病網膜症と診断した.全身所見としては,身長153cm,体重92kg(BMI:39.8)で,アーモンド様眼裂の顔貌があった.染色体検査で15番染色体長腕(q11-q13)の欠失を認めた.PWSとして,①精腺機能低下,②精神発達遅滞,③肥満,④2型DM(HbA1C:11.8%,腎症IIIb期,食事療法困難)の特徴がそれぞれ認められた.臨床経過:右眼の硝子体手術を行うために,まず内科にて血糖コントロールを行い,同時に左眼の汎網膜光凝固術を開始した.2009年11月,局所麻酔下で右眼の水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行.左眼の光凝固は十分に入り,右眼の光凝固は術中・術後合わせて合計2,156発施行した(図2:E-1,2).ところが2010年6月,右眼に血管新生緑内障を発症し,右眼の眼圧は40mmHgに上昇した.ただちに光凝固を追加して経過を観察したところ,眼圧は点眼や内服なしで15mmHgに下降し安定した.2010年10月,左眼に硝子体出血を生じたため,同年12月局所麻酔下で左眼の水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行.以後,インスリン療法を行って血糖コントロールは良好となり,HbA1Cは5.6%で安定した.2013年5月最終診察時,矯正視力は右眼(0.3),左眼(0.2)で眼底は安定している.II考察従来,PWSの生命予後は悪く,肥満によるDM,心不全,無呼吸などのために25.30歳を超えて生存することはまれであった2).ところが近年,診断技術の向上と内科治療の進歩により,従来よりも寿命が長くなり10),糖尿病の罹患期間が延びた結果,PDRを合併する症例の割合が高くなることが予測される.PWSに特徴的な過食が誘因となった2型DMの合併頻度図2症例2D-1:初診時眼底所見.右眼)硝子体出血と増殖膜が一部みられた.左眼)網膜のしみ状出血が散在.D-2:初診時FA所見.右眼)硝子体出血と新生血管を認める.左眼)広範な無灌流領域を認める.E-1:右眼術後眼底所見.右眼)硝子体出血は残存していた.E-2:右眼術後FA所見.両眼)無灌流領域が残存しており,両眼に光凝固を追加した.D1D2E2E1 は7.75%と報告によって差がみられる1,11).その理由の一つはPWSに特徴的な過食にあると考えられている.また,PWS患者では精神発達遅滞や行動異常により,食事,運動,投薬という糖尿病血糖コントロールすべての治療法に対してのコンプライアンス不良から血糖コントロールは不良となる1,10).このような全身的な条件に加えて本人が視覚障害の症状を訴えることが少ないこと,眼科検査や治療に協力を得にくいことから,糖尿病網膜症の発見は必然的に遅れることになる.その結果,若年であってもPDRにまで進行していることがある6.9,12).今回筆者らが報告した症例においても,症例1は29歳で初めて糖尿病と診断を受け,そのときすでに左眼はPDRとなっていた.症例2も26歳で初めてDMを指摘されたが治療を中断することが多く,眼科通院も2年間完全に途絶えたため,初診時には両眼ともに網膜症を認めなかったが,再診時の右眼はPDRとなっていた.眼科治療においては,精神発達遅滞と高度の肥満のために長時間の仰臥位が困難で局所麻酔下の硝子体手術や術後の腹臥位安静,通常の方法での光凝固が困難であったという報告がある12).全身麻酔においても,短頸,小顎症などのため挿管困難や呼吸器合併症を引き起こすリスクが高い13,14).PDRに進展し,手術治療が必要となった場合,全身麻酔は身体への負担が大きくリスクが高いため,局所麻酔による治療の可能性も検討したうえで,内科や麻酔科との緊密な連携をとって手術に臨む必要がある.症例1は,検査や治療には協力的であったため,光凝固治療は外来通院中に局所点眼麻酔のみで通常どおり施行できたが,硝子体手術に要する約1時間を仰臥位安静にすることは困難であると判断した.そのため2度にわたる硝子体手術はいずれも全身麻酔にて施行した.症例2は,診察や光凝固の際に十分な協力が得られたために,硝子体手術も局所麻酔で可能と判断し,早期に硝子体手術を行うことができた.また,両症例ともに若年であったが,完全な硝子体郭清のために両眼の水晶体摘出を併用した.最終受診時の矯正視力は,症例1は右眼(0.04),左眼(0.06),症例2は右眼(0.3),左眼(0.2)であった.両者の視力予後の差は,2症例ともに網膜症の進行はそれほど大きな差がなかったことから,手術が施行できた時期が症例1では遅くなってしまったことと関連があると思われた.最終的な予後改善のためには適切な時期での手術加療が大きく影響する場合がある.症例1では糖尿病自体の発見も遅く,全身麻酔が必要であったことなど,症例2と比較して精神面で不安定であったため,速やかな加療を行いにくかった点があった.硝子体手術を要するような進行したPDRがある場合,全身麻酔を要する症例であればなおさら,担当科と連携をとって早期に手術可否の判断を行い,治療にあたる必要があると思われた.今回筆者らは両眼の硝子体手術を要するPDRを発症した(117)PWSの2例を報告した.治療によって2例とも失明を免れることはできたが,PWSは生存期間が延長してきており,PDR,ひいては失明のリスクが高まると思われる.そのため眼症状の有無にかかわらず早期から眼科を受診してもらうなどの啓発と網膜症の早期発見・早期治療に努めるべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)永井敏郎:Prader-Willi症候群の自然歴.日小児会誌103:2-5,19992)山崎健太郎,新川詔夫:Prader-Willi症候群(PWS).日本臨床別冊領域別症候群シリーズ36骨格筋症候群(下巻).日本臨床社,p481-483,20013)HeredRW,RogersS,BiglanAW:OphthalmologicfeaturesofPrader-Willlisyndrome.JPediatrOphthalmolStrabismus25:145-150,19884)WangX,NoroseK,SegawaK:OcularfindinginapatientwithPrader-Willisyndrome.JpnJOphthalmol39:284289,19955)BassaliR,HoffmanWH,Tuck-MullerCMetal:Hyperlipidemia,insulin-dependentdiabetesmellitus,andrapidlyprogressivediabeticretinopathyandnephropathyinPrader-Willisyndromewithdel(15)(q11-q13).AmJGenet71:267-270,19976)渡部恵,山本香織,堀貞夫ほか:硝子体手術を施行したPrader-Willi症候群の1例.日眼会誌110:473-476,20067)板垣加奈子,斉藤昌晃,飯田知弘ほか:増殖糖尿病網膜症に至ったPrader-Willi症候群の2例.あたらしい眼科25:409-412,20088)坂本真季,坂本英久,石橋達朗ほか:糖尿病網膜症に対して観血的治療を施行したPrader-Willi症候群の1例.臨眼62:597-602,20089)堀秀行,佐藤幸裕,中島基弘:両眼局所麻酔で増殖糖尿病網膜症に対する早期硝子体手術が施行できたPrader-Willi症候群の1例.日眼会誌116:114-118,201210)堀川玲子,田中敏章:Prader-Williと糖尿病.内分泌糖尿病15:528-536,200211)児玉浩子,志賀勝秋:二次性糖尿病.小児内科34:15911595,200212)中泉敦子,清水一弘,池田恒彦ほか:Prader-Willi症候群による糖尿病網膜症に対して双眼倒像鏡用網膜光凝固術を施行した1例.眼紀58:544-548,200713)川人伸次,北畑洋,神山有史:術中気管支痙攣を起こしたPrader-Willi症候群患者の麻酔管理.麻酔44:16751679,199514)高橋晋一郎,中根正樹,村川雅洋:Prader-Willi症候群患者の麻酔経験─拘束性換気障害を呈した成人例─.日臨麻会誌22:300-302,2002あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015289

腎移植または血液透析導入を契機に糖尿病黄斑浮腫が改善した5 症例

2015年2月28日 土曜日

《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):279.285,2015c腎移植または血液透析導入を契機に糖尿病黄斑浮腫が改善した5症例石羽澤明弘*1,2長岡泰司*1横田陽匡*1高橋淳士*1南喜郎*2吉田晃敏*1*1旭川医科大学眼科学教室*2名寄市立総合病院眼科FiveCasesofImprovementinDiabeticMacularEdemaafterRenalTransplantationorCommencementofHemodialysisAkihiroIshibazawa1,2),TaijiNagaoka1),HarumasaYokota1),AtsushiTakahashi1),YoshiroMinami2)andAkitoshiYoshida1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,NayoroCityGeneralHospital目的:糖尿病性腎症による末期腎不全を合併した糖尿病黄斑浮腫(DME)が,腎移植または血液透析の導入で改善した5症例を経験したので報告する.症例:腎移植となった症例は43歳,男性.DMEに両眼トリアムシノロンTenon.下注(STTA),左眼bevacizumab硝子体注(IVB)施行したが著効せず,中心窩網膜厚(CMT)は右眼464μm,左眼394μm,小数視力は右眼(0.2),左眼(0.5)であった.生体腎移植が施行され,全身の溢水状態は改善し,体重は20kg減少した.腎移植3カ月後,CMTは右眼275μm,左眼285μmに減少し,視力は両眼(0.8)へ改善した.血液透析が導入された4例(平均年齢62.8歳)では,5眼でDMEを認めた..胞様黄斑浮腫(CME),漿液性網膜.離(SRD)をそれぞれ4眼で認めた.2眼でSTTA施行,1眼でIVB施行されたが,著効は示さず,透析導入前の平均CMTは550.8μmであった.透析導入後,平均4.6カ月で全例にDMEの改善が認められ,CME,SRDも全例で消失した.透析導入後の平均CMTは298.6μmであった.結論:腎移植や血液透析による全身溢水状態の改善が,DMEの改善にも繋がることが示唆された.Purpose:Toreport5casesofspontaneousimprovementindiabeticmacularedema(DME)afterrenaltransplantation(RT)orcommencementofhemodialysis(HD).Cases:A43-year-oldmalewithend-stagediabeticnephropathyhadDMEbilaterally.Evenaftersomeconventionalophthalmologicaltreatments,theDMEremained.AfterRT,however,theDMEwascompletelyimprovedbilaterally.Fiveeyesintheremaining4patientswithESKDalsohadDME;themeancentralmacularthickness(CMT)was550.8μmbeforeHD.AftercommencementofHD,theDMEeyeswereimprovedinallcases,andthemeanCMTwasdecreasedto298.6μm.Conclusion:ThesefindingssuggestthattheremovalofasystemicoverflowofbodilyfluidbymeansofRTorHDiscorrelatedtotheimprovementofDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):279.285,2015〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,糖尿病網膜症,糖尿病性腎症,腎移植,血液透析.diabeticmacularedema,diabeticretinopathy,diabeticnephropathy,renaltransplantation,hemodialysis.はじめに糖尿病網膜症のいずれの病期からも発症しうる糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は,糖尿病による視力低下の重要な要因となっている.DMEの治療に関して,古典的な網膜光凝固のみならず,ステロイド薬や血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)に対する抗体療法など,薬物療法が近年試みられているが1),日常臨床において,これらの治療に抵抗するDME症例が数多く存在する.また一方で,血液透析(以下,透析)や腎移植により,眼局所の治療をせずともDMEが改善する症例があることも報告されている2.4).糖尿病性腎症による末期腎不全(end-stagekidneydisease:ESKD)は,溢水による全身浮〔別刷請求先〕石羽澤明弘:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1丁目1-1旭川医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkihiroIshibazawa,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversity,2-1-1-1MidorigaokaHigashi,AsahikawaHokkaido078-8150,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(107)279 腫をきたすため,ESKDに合併したDMEの病態には,眼局所の内外血液網膜関門の破綻のみならず,腎機能障害による全身溢水が影響している可能性がある.実際に腎症悪化による体重増減に並行するDMEの変化も報告されている5).しかし,近年の抗VEGF療法など眼局所療法に抵抗するDMEにおいて,透析や腎移植により改善する症例が存在することを,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて形態的かつ定量的に示した報告は,検索しえた範囲では見当たらない.今回筆者らは,腎移植または透析の導入により顕著に改善し,かつ経時的にOCTにより定量できたDMEの5症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕43歳,男性(腎移植著効).2007年7月,両眼の増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)にて旭川医科大学眼科(以下,当科)で汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)施行後,両眼ともに硝子体出血(vitreoushemorrhage:VH)を繰り返していた.VH消退後もDMEは残存し,OCT(RTVue-100R,Optovue社)で測定した中心窩網膜厚(centralmacularthickness:CMT)は右眼650μm,左眼629μm,小数視力(以下,視力)は右眼(0.2),左眼(0.3)であった.2008年7月左眼,9月右眼にトリアムシノロンTenon.下注(subtenontriamcinoloneacetonide:STTA),12月左眼にベバシズマブ硝子体注(intravitrealbevacizumab:IVB)を行い,短期的な効果は得たが,すぐに再発した(図1A).2009年7月,CMTは右眼553μm,左眼534μm,視力は右眼(0.4),左眼(0.2),糖尿病性腎症による低蛋白血症(血清アルブミン値2.4.2.9mg/dl)から,全身浮腫の悪化のため入院し,利尿剤投与などが行われた.両眼のCMTは減少傾向を示すも,.胞様黄斑浮腫(cysticmacularedema:CME)は残存し,2011年1月,CMTは右眼464μm,左眼394μm,視力は右眼(0.2),左眼(0.5)であった(図1A,B).推定糸球体濾過量(estimatedglomerularfiltrationrate:eGFR)は9.0mL/分/1.73m2とESKDのため,同年2月,伯父を臓器提供者とした生体腎移植が行われた.3カ月後,eGFRは46.3mL/分/1.73m2へと改善,血清アルブミン値は4.9mg/dlと低蛋白血症も解消され,溢水の改善から体重は20kg減少した.CMTは右眼275μm,左眼285μmと著明に減少し,CMEは消失,中心窩陥凹も認められた(図1C).視力は両眼ともに(0.8)まで改善した.〔症例2〕72歳,男性(頻回再発後,透析導入).2008年,近医にて両眼の白内障手術,その後PRPが施行された.左眼の遷延するDMEのため,2011年3月に当科へ紹介となった.左眼にびまん性のDMEを認め,CMTは647μm,視力は(0.08)であった.同年4月,7月にIVBを280あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015実施し,9月にSTTAを1回行った.一時的な改善を得たが再発を繰り返し,2012年4月,左眼CMTは649μm,視力は(0.09)であった(図2A,B).eGFRは7.7mL/分/1.73m2とESKDであり,2012年6月に透析導入となった.3カ月後,左眼のCMTは273μmと著明に減少し,中心窩陥凹も認めた(図2C).しかし,視力の改善は(0.3)に留まった.〔症例3〕57歳,男性(硝子体手術後,透析導入).2004年,右眼白内障手術を近医にて施行された.2011年1月,両眼の視力低下を主訴に近医を受診し,両眼のPDRのため当科へ紹介となった.PRP後,右眼にびまん性のDMEを認め,CMTは498μm,視力は(0.9)であった.STTA後,2012年5月にVHが出現した.VHが消退しないため,同年9月に右眼硝子体手術を行った.術後,CMEを認め,CMTは510μm,視力は(0.4)であった(図3A,B).eGFRは6.8mL/分/1.73m2とESKDの進行があり,同年10月に透析導入となった.透析導入後,徐々に黄斑浮腫は改善し,4カ月で右眼CMTは296μm,視力は(1.0)まで改善した(図3C).〔症例4〕54歳,男性(白内障術後,透析導入).2008年2月,両眼のPDRにて当科でPRPを行い,中心窩近傍の毛細血管瘤に局所網膜光凝固も施行した.2009年2月に両眼の白内障手術後,DMEが悪化した.両眼ともに著明なCMEを認め,CMTは右眼529μm,左眼530μm,視力は右眼(0.2),左眼(0.4)であった(図4A,B).eGFRは12.5mL/分/1.73m2とESKDであり,同年7月に透析導入となった.6カ月後,CMTは右眼241μm,左眼291μmへ減少,視力は右眼(0.3),左眼(0.5)となり,logMAR視力換算で1段階程度の改善があった(図4C).〔症例5〕69歳,男性(透析導入のみ).2012年12月,両眼PDRに対するPRP後の遷延するDMEのため当科に紹介となった.左眼に著明な漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)を認め,CMTは521μm,視力は(0.8)であった(図5A,B).2013年2月,eGFRは8.8mL/分/1.73m2とESKDのため,眼科的治療を行う前に透析導入となった.1カ月後,SRDは減少し,CMTは390μm,視力は(1.0)へ改善した(図5C).4カ月後にはSRDは消失した(図5D).また,中心窩下脈絡膜厚(subfovealchoroidalthickness:SCT)は,透析前395μm(図5B)であったが,透析導入後のSCTは1カ月,4カ月でそれぞれ,342μm(図5C),340μm(図5D)と減少した.症例のまとめを表1に示す.透析が導入された4例(平均年齢62.8歳)では,5眼でDMEを認めた.CME,SRDをそれぞれ4眼に認めた.2眼にSTTA施行,1眼にIVB施行されたが,著効は示さず,透析導入前の平均CMTは550.8μmであった.透析導入後,平均4.6カ月で全例に(108) L:STTAR:STTAL:IVB全身浮腫悪化で入院加療腎移植右眼:左眼:800700600500400300200中心窩網膜厚(μm)2008年07月2008年11月2009年03月2009年07月2009年11月2010年03月2010年07月2010年11月2011年03月2011年07月L:STTAR:STTAL:IVB全身浮腫悪化で入院加療腎移植右眼:左眼:800700600500400300200中心窩網膜厚(μm)2008年07月2008年11月2009年03月2009年07月2009年11月2010年03月2010年07月2010年11月2011年03月2011年07月A:中心窩網膜厚の経過右眼左眼右眼左眼B:腎移植前C:腎移植後(6カ月)図1症例1の中心窩網膜厚(CMT)の経過(A),腎移植前(B)と後(C)の眼底写真(上段),フルオレセイン蛍光造影写真(FA:後期像,中段),光干渉断層計像(OCT:水平断,下段)A:トリアムシノロンTenon.下注(STTA),ベバシズマブ硝子体注(IVB)により,一時的に改善はするが,浮腫の再発が認められた.全身浮腫悪化による入院,利尿剤投与後,中心窩網膜厚(CMT)は減少傾向を認めたが,浮腫は残存した.B:腎移植前のFAでは蜂巣状の高度な蛍光貯留を認め,OCTでは.胞様黄斑浮腫(CME)を呈している.CMTは右眼464μm,左眼394μm,視力は右眼(0.2),左眼(0.5)であった.C:腎移植から6カ月後,FAでの蛍光漏出は明らかに減少し,OCTではCMEが消失,中心窩陥凹も認めた.CMTは右眼275μm,左眼285μmで,視力は両眼ともに(0.8)まで改善した.DMEの消失が認められた.透析導入後の平均CMTはII考按298.6μm(p<0.01)と有意に改善していた(pairedt-test).糖尿病性腎症によるESKDのため透析導入となる患者は,(109)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015281 IVB①IVB②STTAHD導入中心窩網膜厚(左眼)(μm)800700600500400300200100011年03月11年05月11年07月11年09月12年03月12年01月12年05月12年07月12年09月11年11月IVB①IVB②STTAHD導入中心窩網膜厚(左眼)(μm)800700600500400300200100011年03月11年05月11年07月11年09月12年03月12年01月12年05月12年07月12年09月11年11月A:中心窩網膜厚の経過(左眼)B:透析導入前(OCT:水平断)C:透析導入後(3カ月)図2症例2(左眼)の中心窩網膜厚(CMT)の経過(A)と透析導入前(B)後(C)のOCT像(水平断)A:ベバシズマブ硝子体注(IVB),トリアムシノロンTenon.下注(STTA)により,一時的に改善はするが,浮腫の再発が認められた.B:透析導入前,CMEを呈し,CMTは649μm,視力は(0.09).C:透析導入3カ月後,CMEは消失,CMTは273μm,視力は(0.3)へ改善.B:透析導入前(OCT:水平断)A:透析導入前(右眼)C:透析導入後(4カ月)図3症例3(右眼)の眼底写真(A),透析導入前(B)後(C)のOCT像(水平断)A,B:硝子体手術後,CMEを認め,CMTは510μm,視力は(0.4).C:透析導入4カ月後,CMEは消失,CMTは296μm,視力は(1.0)まで改善.そのほとんどが糖尿病網膜症を有し,その50%以上が最重は透析導入となったDME患者11例22眼において,DME症型のPDRである6).しかし,透析療法が開始継続されるの鎮静化までの期間を眼底写真,蛍光眼底造影(fluoresceinことにより,1.2年で網膜症は非活動型の「燃え尽き網膜fundusangiography:FA)で判定し,DMEの軽減まで平均症」に至ることが多いと報告されている7).一方,DMEへ6.5カ月,消失までは平均14.7カ月の時間を要したと報告しの透析療法の効果を示した研究は意外にも少ない.市川ら2)た.今回,筆者らは透析および腎移植に伴うDMEの改善を282あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(110) 右眼左眼A:透析導入前(眼底写真)B:透析導入前(OCT:水平断)C:透析導入後(6カ月)図4症例4の眼底写真(A),透析導入前(B)後(C)のOCT像(水平断)A,B:白内障術後,CMEを認め,CMTは右眼529μm,左眼530μm,視力は右眼(0.2),左眼(0.4).C:透析導入6カ月後,CMTは右眼241μm,左眼291μmへ減少,視力は右眼(0.3),左眼(0.5)へ改善.395μmB:透析導入前342μmA:透析導入前(左眼)C:透析導入後(1カ月後)340μmD:透析導入後(4カ月後)図5症例5(左眼)の眼底写真(A),透析導入前(B)後(C,D)のOCT像(水平断)A,B:透析導入前,著明な漿液性網膜.離(SRD)を認めた.CMTは521μm,視力は(0.8)であった.中心窩下脈絡膜厚(SCT)は395μmであった.C:透析導入1カ月後,SRDは減少し,CMTは390μm,視力は(1.0)と改善.SCTは342μmへ減少.D:透析導入4カ月後,SRDは消失した.SCTは340μm.(111)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015283 表1症例のまとめ腎移植前腎移植後腎移植症例年齢性別eGFRR/LDMEtypeCMESRDPRPfocalPCSTTAIVB硝子体手術白内障手術CMT小数視力CMT小数視力改善までの期間症例143男9Ldiffuse+.+.+…4640.22750.83Rdiffuse+.+.++..3940.52850.83透析導入前透析導入後透析導入症例年齢性別eGFRR/LDMEtypeCMESRDPRPfocalPCSTTAIVB硝子体手術白内障手術CMT小数視力CMT小数視力改善までの期間症例272男7.7Ldiffuse+.+.++..6490.092750.33症例357男6.8Ldiffuse+++.+.++5100.429614症例453男12.5Rfocal++++…+5440.22410.36Lfocal++++…+5300.42910.56症例569男8.8Ldiffuse.++…..5210.839014平均値62.88.95550.8298.64.6(歳)(mL/分/1.73m2)(μm)(μm)(カ月)eGFR:推定糸球体濾過量(mL/分/1.73m2),diffuse:びまん性DME,focal:局所性(毛細血管瘤からの漏出による)DME,CME:.胞様黄斑浮腫,SRD:漿液性網膜.離,PRP:汎網膜光凝固,focalPC:毛細血管瘤への局所光凝固,STTA:トリアムシノロンTenon.下注,IVB:ベバシズマブ硝子体注,CMT:中心窩網膜厚(μm).OCTで経過観察し,透析導入後平均4.6カ月で浮腫の消失を確認し,CMTは平均550.8→298.6μmと有意に改善した.筆者らは透析導入後にFAを施行しておらず,血管からの漏出が消失したかどうかは定かではないが,今回OCTで観察されたDMEの消失までの期間は,市川らが報告した期間よりは短い.これは,びまん性漏出が完全に消失する前に形態が先行して正常化することを示唆しているのかもしれない.一方,症例1は,透析ではなく,腎移植による腎機能の本質的改善により,体液貯留が改善され(体重は20kg減少)眼科的局所治療なしで,DMEが消失し,視力回復に至った.(,)清水ら4)は腎移植を受けた糖尿病網膜症患者20例40眼を検討し,DMEの改善は6眼中3眼であったと報告した.この報告はOCTが導入される以前のものであり,定量的な浮腫の評価は困難であったと考えられるが,腎移植後の網膜症の予後は良好であり,視力向上例が多いと結論づけている.本症例においても,腎移植によって低蛋白血症が改善されたことにより,血漿膠質浸透圧の低下も改善され,網膜内余剰水分が除水された結果,DMEの改善に至ったと考えられる.腎機能低下に伴う溢水とDMEの関連性を強く示唆する症例と考えられた.近年,DMEの眼科的加療として,抗VEGF療法やステロイド療法が注目され,おもに眼所見(OCT所見)と治療効果については幾多の検討がなされている8).一方で,これらの治療に抵抗性を示す症例の全身状態,とくに腎機能について言及した報告は,検索しえた範囲では見当たらない.IVBやSTTAにても頻回再発をきたしていた症例2では,IVB,STTAともに一過性には効果を示すため,DMEの病態にVEGFを含めた慢性炎症が関与することに議論の余地はない.しかし,透析導入により3カ月でDMEは速やかに改善したことから,繰り返す再発の一因として,腎機能障害による全身溢水の影響があった可能性があると考えた.体重の増減に伴うDMEの増減を認めた症例も報告されており5),本症例においても体液管理の重要性が示唆され,眼科医も全身状態を十分把握し,透析導入時期を含めた内科との連携が必要であると考えられた.手術後も残存したDMEへの透析導入例(症例3,4)においては,硝子体手術による緩徐な改善効果9)や,手術侵襲による一過性の増悪からの自然回復も考えられる.柳ら10)は,硝子体手術後,透析導入により,速やかに軽快したDMEを報告しており,症例3と同様の経過をたどっている.症例4は白内障手術後のDMEの急性増悪であり,STTAなども有効であった可能性がある.しかし,眼局所治療せず,透析導入後に浮腫の消失を認めた.網膜硝子体,そして脈絡膜における炎症と透析療法の関係性は明らかではないが,術後に残存するDMEの改善にも透析導入が有効な症例があると考(112) えられた.さらに,透析導入のみでDMEが改善した症例5では,脈絡膜厚の変化も同時に観察可能であった.本症例では透析導入前に比較し,透析導入後1カ月,4カ月ではSCTは約50μm減少していた.近年,Ulasら11)は,非糖尿病性の透析患者において,単回の透析により,脈絡膜厚は透析後減少することを報告している.糖尿病患者において,透析導入前後の脈絡膜厚の変化をみた文献は筆者らの調べた限り見当たらないが,本症例では,ESKDによる全身溢水により,脈絡膜にも溢水をきたし,脈絡膜厚の増加が観察されたと考えられる.さらに脈絡膜側から漏出した水分や網膜色素上皮の排泄不全が黄斑部のSRDの発生に関与し,透析導入後,脈絡膜の溢水の解消に伴い,脈絡膜厚も減少し,SRDも消失したと推測される.他の症例では画像の質的問題から透析導入前後の脈絡膜厚を評価するのは困難であり,すべての症例で同様の機序を推定することはできないが,透析導入となった5眼中4眼が経過中SRD(+)であった.かねてより,糖尿病による血管障害は脈絡膜にも及んでいることが報告されており12),ESKDによる全身溢水は網膜血管のみならず脈絡膜も介し,上記のようなSRDの形成に関与した可能性があると考えた.腎機能と脈絡膜厚,DMEの関連性については,今後十分な症例数での検討が必要である.これらの5症例を通して,腎移植や透析導入による全身溢水の改善が,DMEの改善にも繋がることが示唆された.今後は,脈絡膜厚測定による脈絡膜の溢水改善や,低蛋白血症の改善に伴ってDMEが改善していく時間経過を,より多数例で前向きに検討していきたいと考えている.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)志村雅彦:総説糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,20132)市川一夫,蟹江佳穂子,吉田則彦ほか:糖尿病黄斑浮腫と透析療法.眼紀55:258-264,20043)TokuyamaT,IkedaT,SatoK:Effectsofhaemodialysisondiabeticmacularleakage.BrJOphthalmol84:13971400,20004)清水えりか,船津英陽,堀貞夫ほか:腎移植を受けた糖尿病患者の糖尿病網膜症.眼紀48:149-152,19975)宮部靖子,三澤和史,種田紳二ほか:糖尿病腎症悪化による体重増減に並行して糖尿病黄斑浮腫の増減をみた症例.眼紀58:361-368,20076)竹田宗泰,鬼原彰,相沢芙束ほか:糖尿病性網膜症に対する透析療法の影響.眼科31:849-854,19897)徳山孝展,池田誠宏,石川浩子ほか:血液透析症例における糖尿病網膜症.あたらしい眼科11:1069-1072,19948)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20139)HarbourJW,SmiddyWE,FlynnHWJretal:Vitrectomyfordiabeticmacularedemaassociatedwithathickenedandtautposteriorhyaloidalmembrance.AmJOphthalmol121:405-413,199610)柳昌秀,石田由美,今田昌輝ほか:硝子体手術後透析導入により軽快した糖尿病黄斑浮腫の1例.眼臨98:31-33,200411)UlasF,DoganU,KelesAetal:Evaluationofchoroidalandretinalthicknessmeasurementsusingopticalcoherencetomographyinnon-diabetichaemodialysispatients.IntOphthalmol33:533-539,201312)HidayatAA,FineBS:Diabeticchoroidopathy.Lightandelectronmicroscopicobservationsofsevencases.Ophthalmology92:512-522,1985***(113)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015285

糖尿病症例の眼底スクリーニング ─無散瞳デジタル眼底カメラでの検討─

2015年2月28日 土曜日

274あたらしい眼科Vol.5102,22,No.3(00)274(102)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):274.278,2015c〔別刷請求先〕反保宏信:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:HironobuTampo,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN糖尿病症例の眼底スクリーニング─無散瞳デジタル眼底カメラでの検討─反保宏信*1大河原百合子*1高橋秀徳*1牧野伸二*1佐藤幸裕*2*1自治医科大学眼科学講座*2自治医科大学糖尿病センターFundusScreeninginDiabetics─AnalysisUsingNonmydriaticDigitalFundusCamera─HironobuTampo1),YurikoOkawara1),HidenoriTakahashi1),ShinjiMakino1)andYukihiroSato2)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityDiabeticCenter目的:無散瞳デジタル眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングの有用性と限界を検討した.方法:画角45°のカメラで,1眼につき1,2,4方向のカラー撮影を行った糖尿病症例492例894眼を後ろ向きに調査した.1,2,4方向の順に,網膜症なし,単純,前増殖,増殖網膜症に病期診断して比較した.結果:病期診断の一致率は,1と2方向93.1%,2と4方向98.7%,1と4方向91.7%で,2と4方向の一致率が有意に高率であった.不一致例を具体的に検討すると,4方向での単純網膜症を網膜症なし,前増殖網膜症を単純網膜症としたものが,2方向に比較し1方向で有意に高率であった.結論:1方向は2方向に比較して網膜症の見逃しや,より軽症に判定する比率が有意に高く,病期診断には適さないと考えた.一方,2方向は4方向と非常に高い一致率を示し有用だが,非常に低頻度ながら見逃しや,軽症に判定する可能性がある.Purpose:Toevaluatetheefficacyandlimitationsoffundusscreeningindiabetics,usinganon-mydriaticfun-duscamera.Methods:Weretrospectivelystudied894eyesof492casesthathadundergone1-field,2-fieldand4-fieldcolorfundusphotographyusinga45°fieldanglenon-mydriaticfunduscamera.Classificationintono,simple,preproliferativeandproliferativeretinopathywasinitiallyperformedusing1-field,then2-fieldandfinally4-fieldcolorfundusphotographs.Results:Agreementonretinopathystagesbetween1-fieldand2-fieldphotographswas93.1%.Agreementsbetween2-fieldand4-field,andbetween1-fieldand4-fieldphotographswere98.7%and91.7%,respectively.Agreementbetween2-fieldand4-fieldphotographswassignificantlyhigherthanthosebetweentheothergroups.Somecases,althoughjudgedtohavesimpleretinopathyonthebasisof4-fieldphotographs,werecategorizedintotheno-retinopathygrouponthebasisof1-fieldand2-fieldphotographs.Also,somecaseswerediagnosedashavingsimpleretinopathyonthebasisof1-fieldand2-fieldphotographs,butwerejudgedtobeinthepreproliferativestageonthebasisof4-fieldphotographs.Suchdisagreementwassignificantlyhigherfor1-fieldphotographsthanfor2-field.Conclusion:Weconcludethat1-fieldphotographsarenotsufficientforgrad-ingretinopathystages,sincetheoverlookingofretinopathyand/ortheunderestimationofretinopathyseverityweresignificantlymorefrequentwith1-fieldphotographsthanwith2-field.Incontrast,sinceretinopathystagesjudgedusing2-fieldand4-fieldphotographswereinverygoodagreement,itisappropriatetojudgeretinopathystagesusing2-fieldphotographs.However,thelimitationsof2-fieldphotographsshouldbetakenintoaccount,asthereisaslightriskofoverlookingretinopathyand/orunderestimatingitsseverity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):274.278,2015〕Keywords:眼底スクリーニング,糖尿病症例,無散瞳眼底カメラ,糖尿病網膜症,カラー眼底写真.fundusscreening,diabeticcases,non-mydriaticfunduscamera,diabeticretinopathy,colorfundusphotography.(00)274(102)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):274.278,2015c〔別刷請求先〕反保宏信:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:HironobuTampo,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN糖尿病症例の眼底スクリーニング─無散瞳デジタル眼底カメラでの検討─反保宏信*1大河原百合子*1高橋秀徳*1牧野伸二*1佐藤幸裕*2*1自治医科大学眼科学講座*2自治医科大学糖尿病センターFundusScreeninginDiabetics─AnalysisUsingNonmydriaticDigitalFundusCamera─HironobuTampo1),YurikoOkawara1),HidenoriTakahashi1),ShinjiMakino1)andYukihiroSato2)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityDiabeticCenter目的:無散瞳デジタル眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングの有用性と限界を検討した.方法:画角45°のカメラで,1眼につき1,2,4方向のカラー撮影を行った糖尿病症例492例894眼を後ろ向きに調査した.1,2,4方向の順に,網膜症なし,単純,前増殖,増殖網膜症に病期診断して比較した.結果:病期診断の一致率は,1と2方向93.1%,2と4方向98.7%,1と4方向91.7%で,2と4方向の一致率が有意に高率であった.不一致例を具体的に検討すると,4方向での単純網膜症を網膜症なし,前増殖網膜症を単純網膜症としたものが,2方向に比較し1方向で有意に高率であった.結論:1方向は2方向に比較して網膜症の見逃しや,より軽症に判定する比率が有意に高く,病期診断には適さないと考えた.一方,2方向は4方向と非常に高い一致率を示し有用だが,非常に低頻度ながら見逃しや,軽症に判定する可能性がある.Purpose:Toevaluatetheefficacyandlimitationsoffundusscreeningindiabetics,usinganon-mydriaticfun-duscamera.Methods:Weretrospectivelystudied894eyesof492casesthathadundergone1-field,2-fieldand4-fieldcolorfundusphotographyusinga45°fieldanglenon-mydriaticfunduscamera.Classificationintono,simple,preproliferativeandproliferativeretinopathywasinitiallyperformedusing1-field,then2-fieldandfinally4-fieldcolorfundusphotographs.Results:Agreementonretinopathystagesbetween1-fieldand2-fieldphotographswas93.1%.Agreementsbetween2-fieldand4-field,andbetween1-fieldand4-fieldphotographswere98.7%and91.7%,respectively.Agreementbetween2-fieldand4-fieldphotographswassignificantlyhigherthanthosebetweentheothergroups.Somecases,althoughjudgedtohavesimpleretinopathyonthebasisof4-fieldphotographs,werecategorizedintotheno-retinopathygrouponthebasisof1-fieldand2-fieldphotographs.Also,somecaseswerediagnosedashavingsimpleretinopathyonthebasisof1-fieldand2-fieldphotographs,butwerejudgedtobeinthepreproliferativestageonthebasisof4-fieldphotographs.Suchdisagreementwassignificantlyhigherfor1-fieldphotographsthanfor2-field.Conclusion:Weconcludethat1-fieldphotographsarenotsufficientforgrad-ingretinopathystages,sincetheoverlookingofretinopathyand/ortheunderestimationofretinopathyseverityweresignificantlymorefrequentwith1-fieldphotographsthanwith2-field.Incontrast,sinceretinopathystagesjudgedusing2-fieldand4-fieldphotographswereinverygoodagreement,itisappropriatetojudgeretinopathystagesusing2-fieldphotographs.However,thelimitationsof2-fieldphotographsshouldbetakenintoaccount,asthereisaslightriskofoverlookingretinopathyand/orunderestimatingitsseverity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):274.278,2015〕Keywords:眼底スクリーニング,糖尿病症例,無散瞳眼底カメラ,糖尿病網膜症,カラー眼底写真.fundusscreening,diabeticcases,non-mydriaticfunduscamera,diabeticretinopathy,colorfundusphotography. はじめに眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングは,糖尿病網膜症(以下,網膜症)の有病率などを調査する疫学研究1.6),網膜症治療に関する無作為化比較試験7,8),網膜症の早期発見プログラム9)などさまざまな目的に用いられている.また,その実施方法も無散瞳1,2)と散瞳3.9),1.7方向撮影1.9)など多彩である(表1).筆者らは,網膜症を有する症例において,画角50°の眼底カメラを用いて行った散瞳下での4方向と9方向カラー眼底撮影の判定結果を,9方向の蛍光眼底造影の結果との対比を含めて検討し,4方向と9方向カラー撮影の病期診断はほぼ一致しており,4方向カラー撮影で十分との結果をすでに報告した10).今回は,糖尿病症例における無散瞳眼底カメラでの1,2,4方向カラー撮影の判定結果を比較し,病期診断における有用性と限界を検討した.I対象および方法対象は,自治医科大学附属病院・内分泌代謝科へ通院中の糖尿病症例で,当院の生理機能検査部において,2012年3月から2012年9月に網膜症のスクリーニング目的で,無散瞳眼底カメラによるカラー眼底撮影(以下,カラー撮影)を受けた糖尿病症例を後ろ向きに調査し,除外項目に合致しないと判定された492例894眼である.男性264例479眼,女性228例415眼,年齢は19.89歳,平均55.7±14.5歳(平均±標準偏差)であった.カラー撮影は,画角45°の無散瞳デジタル眼底カメラ(NIDEK社製AFC-230)を用い,日本糖尿病眼学会が報告した方法11)に準じて1眼につき4方向の撮影を臨床検査技師が行い,画像はハードディスクに保存された.今回の研究にあたって,ハードディスクに保存されていたそれぞれの画像はファイリングソフトを用いて2方向,4方向カラー写真として合成された(図1).判定は1名の眼底疾患専門医(YS)が行ったが,同一症例の画像を照らし合わせず,①全症例の1方向カラー画像(以下,1方向カラー),②全症例の2方向カラー合成画像(以下,2方向カラー),③全症例の4方向カラー合成画像(以下,4方向カラー)の順に準暗室においてモニター上で行い,網膜症なし(NDR),単純網膜症(SDR),前増殖網膜症(PPDR),増殖網膜症(PDR)に病期分類した.つぎに,同一症例の1,2,4方向カラーを同一モニター上に順次呼び出して比較検討した.除外項目は,①網膜光凝固が施行されているもの,②鮮明な画像が得られなかったもの,③完全な合成画像が得られなかったもの,④網膜静脈閉塞症などの糖尿病網膜症以外の眼底疾患を合併したものとした.網膜症の病期は改変Davis分類12)に基づいて判定した(表2).3個以内の小軟性白斑を認めるが,静脈の数珠状拡張や網膜内細小血管異常(IRMA)がない場合はSDRとした.IRMAの判定は異常に拡張した網膜毛細血管とした.静脈の数珠状拡張とIRMAは,EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)の基準写真8)を参考にして,各所見の下限の写真を設定した(図2).なお,本研究は自治医科大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て行われた.II結果1.撮影条件別の病期の頻度判定された病期の頻度は894眼中,1方向ではNDRが627眼(70.1%),SDR203眼(22.7%),PPDR59眼(6.6%),PDRが5眼(0.6%),2方向ではNDRが585眼(65%),SDR231眼(25.8%),PPDR66眼(7.4%),PDR12眼(1.3%),4方向ではNDRが577眼(64.5%),SDR237眼(26.5表1目的別の撮影方法疫学研究舟形町スタディ(日本)1)画角45°・無散瞳・1方向TheMulti-ethnicStudyofAtherosclerosis(米国)2)画角45°・無散瞳・2方向TheSingaporeMalayEyeStudy(シンガポール)3)画角45°・散瞳・2方向TheLiverpooldiabeticeyestudy(英国)4)画角45°・散瞳・3方向TheBlueMountainsEyeStudy(オーストラリア)5)画角30°・散瞳・5方向†WESDR*(米国)6)画角30°・散瞳・7方向立体無作為化比較試験UKPDS(英国)**7)画角30°・散瞳・4方向††ETDRS(米国)¶8)画角30°・散瞳・7方向立体網膜症早期発見プログラムUKNSC¶¶diabeticeyescreeningprogurame9)画角45°・散瞳・2方向†:黄斑部,視神経のみ立体.††:黄斑部のみ立体.*:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy.**:UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy.¶:EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy.¶¶:TheUKNationalScreeningCommittee.(103)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015275 276あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(104)%),PPDR66眼(7.4%),PDR14眼(1.6%)であった.病期の頻度に3群間で有意差はなかった(P=0.12,mxnc2検定,図3).2.病期診断の一致率つぎに病期診断の一致率を検討した.1方向と2方向の一致率は894眼中832眼(93.1%),2方向と4方向は894眼中882眼(98.7%),1方向と4方向は894眼中820眼(91.7%)で,3群間に有意差があり(P<0.001,mxnc2検定),2方向と4方向の一致率が有意に高率であった(P<0.017,Bonferroni法).1方向と4方向,2方向と4方向の不一致例を具体的に検討すると,4方向でSDRと判定されたものをNDRとしたものが1方向で894眼中50眼(5.6%),2方向で894眼中8眼(0.9%)あり,1方向で有意に高率であった(P<0.001,c2検定).同様にPPDRをSDRとしたものが1方向で15眼(1.7%),2方向で2眼(0.2%)あり,やはり1方向で有意に高率であった(P<0.01,Fisherの直接確率計算法).一方,PDRをPPDRやSDRとしたものが1方向で9眼(1.0%,PPDRと判定8眼,SDRと判定1眼),2方向で2眼(0.2%,PPDRと判定2眼)あったが,有意差はなかった(P=0.07,Fisherの直接確率計算法).3.不一致例の提示①4方向でSDRと判定されたものを,1方向と2方向でNDRと判定した症例:1方向と2方向では写らない上方網膜に出血を認めたため,1方向と2方向ではNDR,4方向ではSDRと判定された(図4a).②2方向と4方向でPPDRを,1方向でSDRとした症例:1方向では写らない乳頭上方に軟性白斑を認め,1方向ではSDR,2方向と4方向ではPPDRと判定された(図4b).③2方向と4方向でPDRを,1方向でSDRとした症例:1方向の範囲内にはSDR所見のみ認められたが,1方向では写らない鼻側網膜部分に新生血管を認めたため,1方向ではSDR,2方向と4方向ではPDRと判定された(図4c).III考按筆者らが所属する自治医科大学では,卒業生に9年間の地域医療が義務づけられており,勤務地には眼科医不在な地域が多い.2011年に報告されたアンケート調査13)によれば,糖尿病などによる眼底変化が診断可能と回答した卒業生は約15%と低率である.このため,無散瞳眼底カメラで撮影された画像を用いた遠隔医療による診療支援が可能であるかの予備調査として今回の検討を行った.網膜症を有する症例における散瞳下での4方向と9方向カラー撮影の判定結果を比較検討し,4方向カラー撮影で十分との結論を得たこと10)はすでに述べた.今回の検討では,図1同一眼(左眼)のカラー眼底写真a:1方向カラー眼底写真,b:2方向カラー眼底写真(合成),c:4方向カラー眼底写真(合成).acb(104)%),PPDR66眼(7.4%),PDR14眼(1.6%)であった.病期の頻度に3群間で有意差はなかった(P=0.12,mxnc2検定,図3).2.病期診断の一致率つぎに病期診断の一致率を検討した.1方向と2方向の一致率は894眼中832眼(93.1%),2方向と4方向は894眼中882眼(98.7%),1方向と4方向は894眼中820眼(91.7%)で,3群間に有意差があり(P<0.001,mxnc2検定),2方向と4方向の一致率が有意に高率であった(P<0.017,Bonferroni法).1方向と4方向,2方向と4方向の不一致例を具体的に検討すると,4方向でSDRと判定されたものをNDRとしたものが1方向で894眼中50眼(5.6%),2方向で894眼中8眼(0.9%)あり,1方向で有意に高率であった(P<0.001,c2検定).同様にPPDRをSDRとしたものが1方向で15眼(1.7%),2方向で2眼(0.2%)あり,やはり1方向で有意に高率であった(P<0.01,Fisherの直接確率計算法).一方,PDRをPPDRやSDRとしたものが1方向で9眼(1.0%,PPDRと判定8眼,SDRと判定1眼),2方向で2眼(0.2%,PPDRと判定2眼)あったが,有意差はなかった(P=0.07,Fisherの直接確率計算法).3.不一致例の提示①4方向でSDRと判定されたものを,1方向と2方向でNDRと判定した症例:1方向と2方向では写らない上方網膜に出血を認めたため,1方向と2方向ではNDR,4方向ではSDRと判定された(図4a).②2方向と4方向でPPDRを,1方向でSDRとした症例:1方向では写らない乳頭上方に軟性白斑を認め,1方向ではSDR,2方向と4方向ではPPDRと判定された(図4b).③2方向と4方向でPDRを,1方向でSDRとした症例:1方向の範囲内にはSDR所見のみ認められたが,1方向では写らない鼻側網膜部分に新生血管を認めたため,1方向ではSDR,2方向と4方向ではPDRと判定された(図4c).III考按筆者らが所属する自治医科大学では,卒業生に9年間の地域医療が義務づけられており,勤務地には眼科医不在な地域が多い.2011年に報告されたアンケート調査13)によれば,糖尿病などによる眼底変化が診断可能と回答した卒業生は約15%と低率である.このため,無散瞳眼底カメラで撮影された画像を用いた遠隔医療による診療支援が可能であるかの予備調査として今回の検討を行った.網膜症を有する症例における散瞳下での4方向と9方向カラー撮影の判定結果を比較検討し,4方向カラー撮影で十分との結論を得たこと10)はすでに述べた.今回の検討では,図1同一眼(左眼)のカラー眼底写真a:1方向カラー眼底写真,b:2方向カラー眼底写真(合成),c:4方向カラー眼底写真(合成).acb 表2改変Davis分類11)を基にした今回の病期判定基準単純網膜症:毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,網膜浮腫,3個以内の小軟性白斑前増殖網膜症:軟性白斑,静脈の数珠状拡張,網膜内細小血管異常増殖網膜症:新生血管,網膜前・硝子体出血,線維血管性増殖膜,牽引性網膜.離100%90%80%70%■:増殖網膜症60%■:前増殖網膜症50%■:単純網膜症40%■:網膜症なし30%20%10%図2下限とした症例のカラー眼底写真0%1方向2方向4方向a:静脈の数珠状拡張(矢印),b:網膜内細小血管異常(矢印).図3撮影条件別の病期の頻度3群間で有意差はなかった(P=0.12,mxnc2検定).ababc図4病期判定が不一致であった症例の4方向カラー眼底写真(合成)2方向は青丸+黄丸,1方向は青丸で示す.a:4方向でSDRを,1方向と2方向でNDRとした症例(矢印:出血).b:2方向と4方向でPPDRを,1方向でSDRとした症例(矢印:軟性白斑).c:2方向と4方向でPDRを,1方向でSDRとした症例(矢印:新生血管).画角45°の無散瞳4方向カラーを,1方向および2方向カラーと比較した.その理由は,4方向カラー撮影では両眼で平均15分を要したためである(未発表データ).また,画角200°の無散瞳1方向撮影で眼底の80%以上の領域をカバーする超広角カラー撮影は,ETDRSの画角30°の散瞳・7方向立体カラー撮影と同等の結果をより短時間で得られるとの報告14)もあるが,地域診療所には高価な装置であるため,従来の画角45°の無散瞳デジタル眼底カメラで検討した.糖尿病網膜症スクリーニングでの画角45°・無散瞳1方向カラーは,大規模な住民ベース研究である舟形町研究1)に用いられている.無散瞳1,3方向と散瞳7方向カラーを比較した報告15)では,網膜症の有無は1方向でも判定可能だが,病期診断には3方向が必要と結論づけられており,1方向は簡便な方法だが病期診断には限界があると思われる.一方,画角45°・無散瞳2方向カラーは,米国のTheMulti-ethnicStudyofAtherosclerosis2)に用いられており,網膜症の有無と病期の判定が行われている.無散瞳2方向と散瞳7方向カラーを比較した報告は検索しえた範囲では見当たらない.EURODIABIDDMComplicationsStudyでは画角45°・散瞳2方向と画角30°・散瞳7方向カラーで網膜症の病期診断が比較され,高い判定一致率が得られ,散瞳2方向カラーは大規模な疫学調査に有用と結論づけられている16).今回,画角45°・無散瞳1,2,4方向カラーで比較したが,(105)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015277 1方向は2方向に比較して網膜症の見逃しや,PPDRをSDRと判定する比率が有意に高く,病期診断には適さないと考えた.一方,2方向は4方向と非常に高い一致率を示し,無散瞳眼底カメラで撮影された画像を用いた遠隔医療による診療支援に応用する際に,より短時間で撮影可能な2方向でも実施できる可能性が示されたと考えた.ただし,4方向でSDRと判定されたものを2方向でNDRとしたものが0.9%,同様にPPDRをSDR,PDRをPPDRとしたものが各0.2%あり,非常に低頻度ながら網膜症の見逃しや,より軽症に判定する可能性があることを十分に認識しておく必要がある.また,これらの結果から,眼底カメラで撮影された画像を遠隔医療による診療支援に用いる場合は,改変Davis分類や新福田分類の単純網膜症に止め,それ以上の病期が疑われる場合は,たとえ通院に困難を伴っても,眼科医の診察を求める必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)川崎良:糖尿病網膜症─舟形町スタディ.日本の眼科79:1697-1701,20082)WongTY,KleinR,IslamAetal:Diabeticretinopathyinamulti-ethniccohortintheUnitedStates.AmJOphthalmol141:446-455,20063)FoongAW,SawSM,LooJLetal:Rationaleandmethodologyforapopulation-basedstudyofeyediseasesinMalaypeople:TheSingaporeMalayeyestudy(SiMES).OphthalmicEpidemiol14:25-35,20074)HardingSP,BroadbentDM,NeohCetal:Sensitivityandspecificityofphotographyanddirectophthalmoscopyonscreeningforsightthreateningeyedisease:theLiverpoolDiabeticEyeStudy.BMJ311:1131-1135,19955)MitchellP,SmithW,WangJJetal:PrevalenceofdiabeticretinopathyinanoldercommunityTheBlueMountainEyeStudy.Ophthalmology105:406-411,19986)KleinR,KundtsonMD,LeeKEetal:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathyXXII:Thetwenty-five-yearprogressionofretinopathyinpersonswithtype1diabetes.Ophthalmology115:1859-1868,20087)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Tightbloodpressurecontrolandriskofmacrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS38.BMJ317:703-713,19988)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Gradingdiabeticretinopathyfromstereoscopiccolorfundusphotographs─anextensionoftheModifiedAirlieHouseClassification:ETDRSreportnumber10.Ophthalmology98:786-806,19919)GillowJT,MuirgrayJA:Thenationalscreeningcommitteereviewofdiabeticretinopathyscreening.Eye15:1-2,200110)反保宏信,大河原百合子,高橋秀徳ほか:糖尿病患者の眼底スクリーニング─散瞳4方向と9方向カラー撮影の比較─.あたらしい眼科30:1461-1465,201311)日本糖尿病眼学会糖尿病網膜症判定基準作成小委員会:薬物治療などに関する糖尿病網膜症判定基準.日本の眼科71:21-28,200012)船津英陽:糖尿病網膜症の分類について教えてください.網膜・硝子体Q&A(小椋祐一郎,山下英俊・編).あたらしい眼科19(臨増):35-37,200213)神田健史,梶井英治,桃井眞里子:自治医大からの地域医療に対する提言─自治医大の実績から見えてくる地域医療に求められる医師像.日本医事新報4573:29-33,201114)SilvaPS,CavalleranoJD,SunJKetal:Nonmydriaticultrawidefieldretinalimagingcomparedwithdilatedstandard7-field35-mmphotographyandretinalspecialistexaminationforevaluationofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol154:549-559,201215)VujosevicS,BenettiE,MassignanFetal:Screeningfordiabeticretinopathy:1and3nonmydriatic45-degreedigitalfundusphotographsvs7standardEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyfield.AmJOphthalmol148:111-118,200916)AldingtonSJ,KohnerEM,MeuerSetal:Methodologyforretinalphotographyandassessmentofdiabeticretinopathy:theEURODIABIDDMComplicationsStudy.Diabetologia38:437-444,1995***(106)

眼科単科病院を受診する糖尿病患者実態調査

2015年2月28日 土曜日

《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):269.273,2015c眼科単科病院を受診する糖尿病患者実態調査吉崎美香*1中井剛*1栗原恭子*1安田万佐子*1大須賀敦子*1藤谷欣也*1荒井桂子*1大音清香*2井上賢治*2堀貞夫*1*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院QuestionnaireSurveyonPatientAwarenessofDiabeticRetinopathyConductedatanEyeHospitalMikayoshizaki1),TakeshiNakai1),KyokoKurihara1),MasakoYasuda1),AtsukoOosuga1),KinyaFujitani1),KeikoArai1),KiyokaOhne2),KenjiInoue2)andSadaoHori1)1)NishikasaiInoueEyeHospital2)InoueEyeHospital目的:眼科単科病院において糖尿病患者の失明予防対策として患者の実態調査を行い,コメディカルがチーム医療に貢献できることは何かを検討した.対象および方法:2012年9月.2013年3月までの半年間に当院を受診し,同意の得られた糖尿病患者847名に22項目について看護師によるアンケートの聞き取り調査を行い,医師による眼底検査で診断された網膜症病期と比較した.この調査は井上眼科病院倫理委員会の承認を得て実施した.結果:6年以上の糖尿病歴をもつ人が74.3%と多く,96.3%が内科に定期的に通院し,1年以上中断した患者は比較的少なく,眼科に定期的に通院している患者は86.1%と内科通院に比べて低かった.眼合併症の詳しい知識をもつ患者は全体の24.4%と少なかった.自分の網膜症レベルを知っていると回答した患者は131名(15.5%)でほとんどの人が知らなかった.医師の眼底所見による網膜症病期分類は,網膜症なし36.4%,単純網膜症31.9%,増殖前網膜症5.9%,増殖網膜症25.4%であった.自分の網膜症レベルを知っていると回答した患者は131名のうち,正確に回答できた患者は84名(64.1%)であった.結論:糖尿病網膜症に関する知識をもつこと,自分の眼の病状を知ることが糖尿病網膜症による失明を予防するのに重要であるが,眼科単科病院では大学病院と比較して糖尿病に関する知識・認識ともに低かった.糖尿病網膜症の早期発見には,眼科医・内科医の連携が必要であり,患者の診療放置・中断をいかに防ぐかが大切である.眼科コメディカルとして,患者教育の介入,糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳の普及への働きかけが重要である.Purpose:Toinvestigatehowco-medicalstaffinterveneinteamtherapyfordiabeticpatientsbyassessingeachpatient’slevelofawarenessandunderstandingofdiabeticretinopathy(DR)throughanoralquestionnairesurveyinordertopreventblindness.SubjectsandMethods:Anoralquestionnairesurveywasconductedof847consecutivediabeticpatientswhovisitedoureyehospitalbetweenSeptember2012andMarch2013.Thesurveyconsistedofquestionson22itemsthatwereansweredbyeachpatientdirectlytonursesorclinicalassistants.Anophthalmologistexaminedbothfundiofeachpatientbyuseofanophthalmoscope,andtheretinopathystagewasthenjudgedonthemoresevereeye.Results:Mostofthepatientshadsufferedfromdiabetesforalongperiodoftime,and96.3%periodicallyvisitinganinternistwithrarelymorethan1yearbetweenvisits.Incontrast,86.1%periodicallyvisitedanophthalmologist.Lessthan24.4%ofthepatientsrespondedknowledgeablyastomeaningofDR,andalittlemorethanhalf(56.2%)ofthepatientshadreceivedDR-relatedinformationfromtheirdoctors.ThenumberofpatientswhoansweredtoknowtheirDRstagewas131(15.5%),andmostpatientsdidnotknowtheseverityoftheirDR.TheDRstageasassessedbyophthalmoscopywasasfollows:noDR:36.4%;simpleDR:31.9%;pre-proliferativeDR:5.9%;andproliferativeDR:25.4%.TheratioofpatientswhoexactlyknewtheirDRstagewas84of131patients(64.1%).Conclusion:InordertopreventblindnesscausedbyDR,itiscriticalforthepatientstounderstandDRandtheirownstageofthedisease.However,thepatientssurveyedinoureyehospitalwerefoundtobelessknowledgeableaboutDRandtheirrespectivestageofthediseasethanthosesurveyedatotheruniversity-affiliatedhospitals.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):269.273,2015〕〔別刷請求先〕吉崎美香:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5丁目4.9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:MikaYoshizaki,NishikasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(97)269 Keywords:糖尿病網膜症,知識,実態調査,患者教育,失明予防.diabeticretinopathy,awareness,questionnairesurvey,education,blindness.はじめに糖尿病網膜症(以下,網膜症)の発症・進展予防には眼科・内科の連携と,患者自身の定期的な受診・病識が必要であると考えられる.地域密着型眼科単科の中核病院である西葛西・井上眼科病院(以下,当院)では,糖尿病の患者も多く,緊急を要する場合,内科での糖尿病のコントロール状況が把握できない状況下でも手術をしなくてはいけない場合がある.このような状況のなか,眼底検査をして初めて糖尿病と判明する患者や,術前検査で糖尿病が見つかる患者もおり,治療に当たり予期しない全身合併症を発症する場合もある.そこで筆者ら看護師・視能訓練士・薬剤師・管理栄養士は,コメディカルとしてチーム医療に貢献することを目的とし,その準備として,当院を受診する糖尿病患者のアンケートによる実態調査を実施したので報告する.I対象および方法対象:2012年9月10日.2013年3月9日までの半年間に当院を受診した糖尿病患者でアンケート調査の同意を得ることのできた847名(男性508名,女性339名)で,平均年齢は65.5±20.5(平均±標準偏差)歳.方法:看護師による聞き取りアンケート調査結果と,医師の眼底検査による網膜症病期診断を比較した.調査は井上眼科病院倫理委員会の承認を得て実施した.調査項目:眼合併症に対する質問11項目と内科の治療に関する11項目(図1).各質問項目を患者に聞き,回答欄に看護師が○を付け,後に集計を行った.西葛西・井上眼科病院糖尿病患者実態調査平成年月日記載者()ID氏名年齢男・女職業担当医家族構成(独居・同居)(初診・再診)I.糖尿病による眼の合併症に関する質問1.当院を最初に受診されたきっかけ(動機)は何ですか?2.糖尿病で診てもらっている内科の医師から「糖尿病と眼の病気」についての説明を聞いたことがありますか?3.糖尿病が原因で眼が悪くなる事を知っていましたか?4.「知っていた」と答えた方は,糖尿病から眼が悪くなることをどのようにして知りましたか?5.糖尿病と診断されてからこれまでに眼の検査や治療を受けたことがありますか?6.「受けたことがある」と答えた方は,眼の検査や治療を受けたきっかけは何ですか?7.「受けたことがある」と答えた方は,眼の検査や治療を受けたのは糖尿病と分かってからどの位ですか?8.糖尿病網膜症は,無網膜症・単純網膜症・増殖前網膜症・増殖網膜症に分かれますが,現在どの段階か知っていますか?9.糖尿病が原因で眼が悪くなることに対して,不安や心配がありますか?10.今後,糖尿病が原因で眼が悪くならないようにするにはどのような事をしたらよいと思いますか?11.当院で合併症について相談できる場があれば利用したいと思いますか?II.糖尿病治療に関する質問12.糖尿病又は血糖値が高いといわれてどの位になりますか?13.糖尿病の治療を1年以上の間放置してしまった事はありますか?14.今まで糖尿病が原因で入院した事がありますか?15.糖尿病手帳を診察の時に持っていきますか?16.内科の定期検診はどのようにしていますか?17.食事療法と運動療法についてお聞きします1)食事療法をしていますか?2)運動療法をしていますか?18.今までに栄養指導を受けたことがありますか?19.当院でも栄養指導を実施しています.希望しますか?20.薬物療法を行っていますか?21.「はい」の方は医師の指示通りに行えていると思いますか?22.ご自分の血糖コントロールはできていると思いますか?図1アンケート用紙270あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(98) II結果1.眼合併症に関する質問1)当院を受診した動機では,内科医や眼科医からの紹介の患者が45.3%,視機能低下の自覚があったが28.5%,合併症が心配だから8.1%がおもな理由であった(表1).2)糖尿病と眼合併症の関連については,糖尿病から眼が悪くなることを知らない・詳しくは知らないとの回答が75.6%と,ほとんどの患者が糖尿病合併症についての知識がなかった(表2).詳しく知っていたと回答した患者がどのようにして悪くなることを知ったのか?に対しては,内科や眼科の主治医からや糖尿病教室に参加したとの回答が56.3%であった(表3).3)糖尿病と診断されてからこれまでに眼科の検査や手術を受けたことがあり,現在も通院を継続している患者は86.1%,眼科の検査を受けたことがなかった患者は7.9%みられた(表4).4)糖尿病と診断されてから眼の検査を受けるまでの期間は,1年以内28.3%,6年以上経過してから受診したのは35.7%で,眼科を受診し初めて糖尿病と判明した患者は6.0%みられた(表5).2.内科の治療に関する質問1)糖尿病罹病期間では,6年以上の人がほとんどで74.3表1当院を受診したきっかけは何ですか?内科からの紹介157人18.5%眼科からの紹介22726.8見えにくいと感じたから24128.5糖尿病合併症が心配698.1健康診断で異常を指摘435.1その他11013.0表3「詳しく知っていた」と回答した207人に対して:糖尿病から眼が悪くなることをどのようにして知りましたか?(複数回答)内科医から聞いた93人39.4%眼科医から聞いた3213.6糖尿病教室に参加した83.4メディアで知った7029.7友人・知人から聞いた145.9家族から聞いた104.2その他93.8%,そのなかでも11.20年くらいの人がもっとも多かった(表6).2)内科の通院に関しては,96.3%は定期的に通院していて,79.7%の患者は糖尿病の治療を中断したことがなかった(表7,8).3.眼底検査の所見今回の対象者847名の眼底検査による病期分類は,網膜症なし36.4%,単純網膜症31.9%,増殖前網膜症5.9%,増殖網膜症25.4%であった(表9).自分の網膜症レベルを知っていると回答した患者は131名15.5%であった.知っていると回答した患者の詳細は,網膜症なし61.1%,単純網膜症13.4%,増殖前網膜症6.1%,増殖網膜症19.8%であった.これらの患者の医師による眼底所見では,網膜症なし42.7%,単純網膜症26.7%,増殖前網膜症6.1%,増殖網膜症24.4%であった(表10,11).このうち網膜症がないと回答した患者80人の眼底検査の病期は,網膜症なし67.5%,単純網膜症25.0%,増殖前網膜症2.5%,増殖網膜症5.0%であった(表12).また,自分の病期を知らない患者は716名で,網膜症の病期分類は847名の全体の分布とほぼ同じであった(表13).また,糖尿病手帳(糖尿病連携手帳・糖尿病眼手帳含む)を持っていた患者は全体の56.3%で,診察時に手帳を持参していたのは全体の43.0%であった(表14,15).表2糖尿病が原因で眼が悪くなることを知っていましたか?詳しく知っていた207人24.4%知っていたが詳しくは知らない54964.8知らない9110.7表4糖尿病と診断されてからこれまでに眼の検査や治療を受けたことがありますか?受けたことがあり現在も通院中729人86.1%受けたことはあるが現在通院していない516.0受けたことがない677.9表5眼の検査や治療を「受けたことがある」と回答した患者に対して:検査や治療を受けたのは糖尿病とわかってどのくらいですか?糖尿病ではない41人5.3%糖尿病かどうかまだわからない283.61年以内22128.32.5年くらい16220.86.10年くらい15620.011.20年くらい8410.821年以上384.9眼科受診してわかった476.0覚えていない3(99)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015271 表6糖尿病または血糖値が高いといわれてどのくらいになりますか?糖尿病ではない・まだわからない4人0.5%1年以内435.12.5年くらい17120.26.10年くらい19422.911.20年くらい27132.021年以上16419.4表8糖尿病の治療を1年以上放置したことがありますか?ない675人79.7%ある17220.3表10糖尿病網膜症は無網膜症・単純網膜症・増殖前網膜症・増殖網膜症に分かれますがどの段階か知っていますか?知っている131人15.5%知らない71684.5表12網膜症がないと回答した患者80名の所見網膜症レベル医師の所見網膜症なし単純網膜症増殖前網膜症増殖網膜症54人202467.5%25.02.55.0表14糖尿病手帳を持っていますか?持っている477人56.3%持っていない37043.7III考按中村ら6)の報告では,東京女子医科大学糖尿病センターの内科(以下,大学病院)を受診した糖尿病患者の実態調査で,糖尿病罹病期間は,11.20年が32.2%,6.10年26.2%,2.5年19.2%と述べている.眼科単科の地域病院である当院を受診した患者の罹病期間も11.20年32.0%,6.10年22.9%,2.5年20.2%とほぼ同等の割合であった.眼合併症に対する知識としては,大学病院では「詳しく知っている」と回答した患者は54.4%に対して,当院の患者は24.4%,「詳しく知らない・または知らない」患者は大学病院では15.7%に対し,当院の患者では75.6%と大学病院の内科・眼科の連携の取れている病院を受診する患者と眼科単科の中核病院を受診する患者には眼合併症に対する知識に差がみられた.272あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015表7内科の定期検診はどのようにしていますか?症状がなくても通院816人96.3%都合がつけば通院80.9症状があれば受診151.8症状があっても受診しない10その他70.8表9アンケート調査を実施した847名に対する医師による眼底所見網膜症なし308人36.4%単純網膜症27031.9増殖前網膜症505.9増殖網膜症21525.4不明40.5表11網膜症レベルを知っていると回答した患者131名の所見網膜症レベル患者の申告医師の所見網膜症なし80人61.1%56人42.7%単純網膜症1713.43526.7増殖前網膜症86.186.1増殖網膜症2619.83224.4表13自分の網膜症レベルを知らないと回答した716名の医師による眼底所見網膜症なし252人35.2%単純網膜症23532.8増殖前網膜症425.9増殖網膜症18325.6不明40.6表15糖尿病手帳を持っている患者が診察時持参するか持参する364人76.3%持参しない11323.7また,眼科受診理由として「内科の主治医に勧められた」が,大学病院では66.4%,当院では18.5%,「眼の具合が悪いから」が大学病院では13.9%,当院では28.5%,「眼が悪くなることを知ったから(合併症が心配だから)」が大学病院では8.7%,当院では8.1%,「検診で異常を指摘された」が大学病院では2.8%,当院では5.1%,眼科からの紹介が当院では26.8%にみられた.内科・眼科併設の大学病院と,眼科単科の地域病院を受診する患者の動機には大きな違いがみられた.大学病院の糖尿病専門医のいる内科を受診した患者は,内科医より眼科受診を勧められており,眼合併症に対する教育もきちんとされているが,当院を受診する患者は,眼科から(100) の紹介患者が26.8%を占めており,眼科を受診し初めて糖尿病と判明した患者が6.0%みられることから,定期的に健康診断を受けていないか,糖尿病専門医にかかっていない,また内科医より眼科への通院の必要性の説明を受けていないか,聞いていても受診しない患者が多いのではないかと推測される.眼科通院歴に関しては,大学病院では「眼科受診歴があり現在も通院している」が61.8%,当院では86.1%,「通院歴があるが現在は通院していない」が大学病院では33.1%,当院では6.0%,「眼科受診したことがない」が大学病院では4.5%,当院では7.9%であった.当院を受診する患者は,大学病院の患者に比べ眼科に定期的に通院してはいるが,内科受診に関しては96.3%の患者が内科に定期的に通院しており,79.7%の患者が内科通院を1年以上中断したことがなかった結果と比較すると,当院の患者は眼科に定期的に通院しているのは86.1%と眼科通院に対する認識が内科通院に比べて低いと思われた.これは,内科は薬の処方があり,治療をしなくてはいけないという患者の認識があるが,眼科は自覚症状がなければ,自分は大丈夫という思いがあるのではないか,また網膜症の詳しい知識がないのではないかと推測される.眼科通院に対する必要性の教育が重要と思われる.また,当院の患者の眼科的知識としては,網膜症レベルを正確に知っている患者は少なく,自分には網膜症がないと思っている患者の32.5%に網膜症がみられ,眼底所見と患者の認識に差がみられた.認識の違いから今後,診察の放置・中断の原因につながる可能性が危惧される結果であった.また,糖尿病手帳を持っている患者は56.3%と少なく,そのうち23.7%の患者は診察時に手帳を持参していないことがわかった.手帳を診察時に持参していたのは全体の43.0%しかいなかった.大学病院の内科・眼科併設の糖尿病専門病院と眼科単科の地域病院を比較してみると,糖尿病に関する知識,認識ともに低い印象を受ける結果であった.これは,専門病院の内科できちんとした糖尿病教育を受けた大学病院の患者と,糖尿病専門医に受診していない場合もある当院の患者とでは,糖尿病に関する患者教育に違いがあるのではないかと推測される.今後治療・診察の放置中断を予防し,患者の糖尿病による眼合併症の認識を高める意味からも,コメディカルによる内科・眼科との連携の必要性や,糖尿病手帳の普及による患者教育の働きかけが重要と考える.コメディカルが協力し,糖尿病眼手帳の普及,糖尿病眼手帳を活用し,医師と協力し網膜症についての教育・定期的な眼科受診の必要性の説明などを実施していく予定である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)若江美千子,福島夕子,大塚博美ほか:眼科外来に通院する糖尿病患者の認識調査.眼紀51:302-307,20002)菅原岳史,金子能人:岩手糖尿病合併症研究会のトライアル2.眼紀55:197-201,20043)小林厚子,岡部順子,鈴木久美子:内科糖尿病外来患者の眼科受診実態調査.日本糖尿病眼学会誌8:83-85,20034)船津英陽,宮川高一,福田敏雄ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20055)中泉知子,善本三和子,加藤聡:患者の意識改革を目指す糖尿病教育の方向性について─患者アンケート調査から─.あたらしい眼科28:113-117,20116)中村新子,船津英陽,清水えりかほか:内科外来通院の糖尿病患者における意識調査.日眼会誌107:88-93,2003***(101)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015273