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写真:中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)

2013年11月30日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦354.中心性漿液性脈絡網膜症竹田一徳京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学(CSC)済生会滋賀県病院眼科②①③図2図1のシェーマ①:漿液性網膜.離②:黄白色斑(フィブリン沈着)③:多数の黄白色点状沈着物図1中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)黄斑部に限局性の漿液性網膜.離,黄白色斑(フィブリン沈着)を認める.多数の黄白色点状沈着物もみられる.図3フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)中心窩上方のフィブリン沈着部に一致して造影早期(左写真,0分50秒)には漿液性網膜.離内に点状蛍光漏出点がみられ,経時的に徐々に拡大している(右写真,10分53秒).図4光干渉断層計像(OCT)水平断中心窩を含む網膜.離を認める.網膜.離がある程度遷延すると視細胞外節が延長し,.離網膜外面に高反射組織がみられる(矢頭).(65)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315570910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図5OCT深部強調画像(EDIOCT)EDIOCTでは脈絡膜と強膜の境界が描出され(矢頭),脈絡膜肥厚が認められる.中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschori-oretinopathy:CSC)は脈絡膜血管の透過性亢進が生じ,二次的に網膜色素上皮が障害されることでバリア機能が破綻し,脈絡膜側から網膜下へ漏出が起こり漿液性網膜.離を生じる疾患である1).検眼鏡的には,黄斑部に限局した境界明瞭な円板状漿液性網膜.離,蛍光漏出点に一致した黄白色斑,ときに小型の網膜色素上皮.離を認める.遷延例では網膜下や網膜色素上皮上に黄白色点状沈着物(プレチピテートやyellowdepositとも呼ばれる)や(図1,2),下方周辺部に網膜色素上皮萎縮(atrophictract)がみられることもある.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)は,造影早期に網膜色素上皮レベルから1.数カ所の点状蛍光漏出がみられ,徐々に噴煙状に拡散もしくはしみ状に円形に拡大する(図3).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)は病態評価や他疾患との鑑別に有用で,脈絡膜血管の循環障害により造影初期には脈絡膜の充盈遅延,中期からは脈絡膜血管の拡張・透過性亢進を認める.この脈絡膜所見はFAで異常所見がみられない部位や無症状の僚眼にも認めることがあり,また再発は脈絡膜血管病変部位から起こりやすい2).光干渉断層計(OCT)では網膜下液の貯留を認める..離期間が長くなると,網膜色素上皮細胞で視細胞外節の貪食が行われず視細胞外節延長が起こり,これが.離網膜下や網膜色素上皮上に突出した高反射所見として認められる3)(図4).2008年にSpaideら4)が市販のOCT装置で脈絡膜を観察する深部強調画像(EDIOCT)を報告し(図5),CSCでは中心窩下の脈絡膜肥厚を認めることが明らかとなった.治療は一般的にFAでの漏出点への網膜光凝固を行うが,漏出部位が中心窩下にある症例やびまん性漏出を示す症例では光線力学的療法(PDT)が有効である.網膜光凝固後の脈絡膜厚は変化がみられないが,PDT後(ベルテポルフィン半量PDT)は肥厚した脈絡膜が改善した報告5)があり,長期経過において再発を抑制する効果が期待されている.文献1)GuyerDR,YannuzziLA,SlakterJSetal:Digitalindocyaninegreenvideoangiographyofcentralserouschorioretinopathy.ArchOphthalmol112:1057-1062,19942)IidaT,KishiS,HagimuraNetal:Persistentandbilateralchoroidalvascularabnormalitiesincentralserouschorioretinopathy.Retina19:508-512,19993)MatsumotoH,KishiS,OtaniTetal:Elongationofphotoreceptoroutersegmentincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol145:162-168,20084)SpaideRF,KoizumiH,PozzoniMC:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol146:496-500,20085)飯田知弘:黄斑疾患の病態画像診断による形態と機能解析.日眼会誌115:238-275,20111558(00)あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013

頭蓋内疾患と緑内障

2013年11月30日 土曜日

特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1547.1555,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1547.1555,2013【各論】頭蓋内疾患と緑内障CentralNervousSystemDisordersasGlaucomaMimickers中馬秀樹*はじめにとする視神経疾患である.中枢性疾患も,視野欠損を特緑内障は,視神経乳頭の垂直C/D比の増大を典型と徴とする.したがって,緑内障に間違われやすい臨床状する視神経乳頭の変化,神経線維束欠損(nervefiber況が現れる.もちろんこれらは治療や緊急性が異なり,layerdefect:NFLD),それに一致した視野欠損を特徴眼科医としては区別して診断できることが必要である.図1症例1の視神経乳頭(a:上段)および,視野(b:下段)(文献4より)*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(55)1547 中毒性緑内障視神経低遺伝性圧迫性形成などの先天性ビタミン欠乏性虚血性図2網膜神経線維束の流れの分布とNFLDの型および好発する視神経疾患(文献5より)まとめて述べるよりも本誌の目的に沿うために,今回は実際筆者が経験した症例を順次紹介したい.症例呈示1.症例1最初の症例は,45歳,男性.視力両眼1.2.前眼部に異常なし.職場からの転落事故で頭部外傷をうけ,その治療中に真菌性眼内炎を発症し,治療にて改善した症例である.加療中に一過性の高眼圧をきたし,図1に示すように視神経乳頭陥凹の拡大と視野欠損を呈していた.そのため,眼圧下降後も正常眼圧緑内障として点眼加療されていた.しかしこの視野は,緑内障には非典型的である.視神経疾患では,ある程度疾患特異的なNFLDの型が存在する.そこで,基礎知識として,網膜神経線維束の分布と,NFLDの型と,好発する視神経疾患を図2に示す.緑内障は,神経線維束欠損型の視野欠損を示す代表的疾患である.つまり,弓状で,水平経線を境界とする1).一方,中枢性,ここでは視交叉以降の病変を意味するが,網膜の中心窩を通る垂直経線よりも鼻側からの線維は視交叉で交差し,耳側の線維は交差せずに外側膝状体へと至り,そこでシナプスを形成して後頭葉視皮質へと至る(図3a).したがって,視交叉での障害は両耳側半1548あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013図3a神経線維の視交叉,視索,外側膝状体,それ以降が障害されたときの視野欠損(文献5より)同名半盲両耳側半盲視交叉外側膝状体視放線視皮質視索鼻側網膜耳側網膜耳側網膜OpticnervedefectOpticnerveRIGITLEFT図3b症例1の頭部CT脳挫傷(赤丸)がみられる.(文献4より)盲を呈し,視交叉以降での障害は同名半盲を呈する.その際,注目すべきは,必ず垂直経線で境界されるという点である2).ここで症例の視野をもう一度見てみると,垂直経線を境界とする視野欠損を呈しており,しかも同名性である(図1b).これは,中枢性の視野欠損の特徴である.原則として水平経線を境界とする(図2),緑内障の特徴とは異なっている.この症例の視野欠損は,緑内障によるものではなく,外傷性の脳挫傷による視野欠損で,視放線の先端部が障害されたことによるものであった(図3b).この症例のように生理的に陥凹の大きな視神経乳頭もあり,視野欠損があったからといって安易に緑内障と診断してはならない.緑内障では,乳頭のneuroretinalrimが欠損しており,乳頭所見と視野が一致して水平経線で境界されていなければならない1).(56) 図4緑内障に似た圧迫性視神経症(文献6より)また,もう一度図2に注目していただきたいが,同様理由は,似た視野欠損を呈することに加え,陥凹拡大をに神経線維欠損型の視野欠損を示すものに,圧迫性視神形成してくるからである3).その鑑別は,緑内障では初経症がある.これも緑内障に間違われやすい視神経疾患期には視機能の低下を自覚せず,よほどの左右差がないの代表である3).代表例を図4に示す.間違われやすい限りrelativeafferentpupillarydefect(RAPD)が陰性(57)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131549 下垂体腫瘍視交叉下垂体腫瘍視交叉図5症例2a(上段):症例2の最初に測定された視野.b(下段):頭部MRI.腫瘍と視交叉は接していない.であり,リムの色がオレンジを保つ.一方,圧迫性視神経症は視機能の低下を自覚し,初期からRAPDが陽性となり,リムの色が蒼白化するのが特徴である.これらは治療や管理がまったく異なり,また,圧迫性視神経症は治療が早いほど予後がよいため,正確で迅速な診断が大切である.2.症例2つぎの症例は,下垂体腫瘍で視野検査依頼のあった76歳の症例である.視力は両眼1.2.前眼部に異常なし.眼底写真と最初に測定された視野を図5,6に示す.視野検査では垂直経線で境界されており,あたかも中枢性の視野変化のようである.しかし,MRI(磁気共鳴画像)で見てみると,腫瘍と視交叉は接していない(図5b).眼底(図6a)を見ると,下方のリムが欠損しており,緑内障が疑われる.そこで,その情報を提示した後の視野が図6bである.状況にもよるが,視能訓練士は眼底の情報が不十分な状態で検査をすることがあり,その際,下垂体腫瘍の情報はあるわけであるから,垂直経線を念頭において検査する.したがって緑内障で視野欠損があれば,図5aのような視野欠損になりうる.大切なことは,眼科医がMRIを含めきちんとチェックして結果の整合性を確かめなくてはならない.脳外科医であればこの視野をみて下垂体腫瘍による視野欠損と判断し,手術適応とするかもしれない.また,この症例に手術が施行された場合,手術により視野欠損が修飾されることがあり,一方,緑内障は長期の進行性の視野欠損をきたす疾患であるから,後の視野進行の評価がむずかしくなる可1550あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(58) 図6症例2の視神経乳頭(a:上段)および,情報を得た後に測定された視野(b:下段)能性も考えられる.したがって,初診時に正確な視野検査をしておくことは重要である.3.症例3つぎの症例は,上半分が見えないとして受診した63歳の症例である.視力は両眼1.2.前眼部に異常なし.視野検査を図7aに供覧する.視野だけを見ると,水平経線で境界されており,緑内障様である.しかし,視神経乳頭(図7b)を観察するとC/D比の拡大は呈しておらず,上方の水平視野に対応する下方のリムの欠損がみられない.したがって,この症例は緑内障と考えにくい.本症例は,左後頭葉の脳梗塞の既往が以前にあり(図8),今回右の後頭葉の脳梗塞が起こったために水平性の視野欠損を呈したものである(図9).中枢疾患は原則として垂直経線を境界とする視野欠損となるが,このように後頭葉病変では両側に起こると緑内障類似の視野欠損をきたすこともある.何度も繰り返すが,緑内障では,視神経乳頭所見と視野が一致していなければならず,確認が必要である.4.症例4つぎの症例は,67歳の女性である.2002年,検診で視野異常を指摘され,近医眼科を受診して緑内障と診断され,点眼を処方された.2009年12月に眼圧上昇がみられ,合剤へ点眼変更された.しかし,眼が痛く,再診し,点状表層角膜症を指摘された.セカンドオピニオン目的で2010年5月自己受診した.1990年に髄膜腫の手術既往がある.視力は両眼1.0.眼圧は両眼14mmHg.RAPDは陰性.両眼とも点状表層角膜症であった.眼底写真,視野,opticalcoherencetomograph(OCT)を図10に示す.確かに眼底写真ではC/D比の拡大を認め,OCTで神経線維の欠損があり,神経線維(59)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131551 図7症例3の視野(a:上段)および,視神経乳頭(b:下段)(文献4より)図8症例3の頭部MRI両側性の脳梗塞を認める.(文献4より)束欠損型の視野欠損のように見える.疾患である.特にNFLDは,以前は,よほど熟達したここで注意が必要である.緑内障は,視神経乳頭の垂人でなければ見えなかった微細なものがOCTの出現に直C/D比の増大を典型とする視神経乳頭の変化,より誰でも可視化できるようになった.しかし一方,視NFLD,それに一致した視野欠損,を特徴とする視神経交叉以降も,外側膝状体までは網膜神経節細胞からの神1552あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(60) 図9症例3の過去の視野から両側性の脳梗塞により自覚したときの視野変化(文献4より)右経線維(軸索)であるため,ここに障害が起こると,逆行性にNLFに萎縮が生じることは知っておくべきである.しかも,この,逆行性のNFLの萎縮も,OCTを用いることにより,容易に可視化できるようになった.神経線維の視交叉,視索,外側膝状体までの走行と,それぞれが障害されたときの視野欠損を含む臨床的特徴と網膜神経線維の流れを図11,12に示す.図11に示したように,視交叉では,両眼の中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維(交叉線維)が障害される.中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まる(図12a)ため,視交叉病変では乳頭を横切る視神経萎縮とNFLDが観察される(図12b).一方,視索では,対側眼の中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維(交叉線維)と,同側眼の中心窩を通る垂直経線より耳側の神経線維(非交叉線維)が障害される.中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まり,耳側の神経線維は視神経乳頭の上下に集まるため,視索病変では,対側眼では乳頭を横左図10症例4の視神経乳頭とOCT(a:上段)および,視野(b:下段)(文献5より)(61)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131553 視野RAPD視神経萎縮視神経単眼性++視交叉両耳側-+視索同名++外側膝状体同名-+より後方同名--同名半盲両耳側半盲視交叉外側膝状体視放線視皮質視索OpticnervedefectOpticnerveTemporalretinaTemporalretinaNasalretinaRIGITLEFTPrimaryvisualcortex図11神経線維の視交叉,視索,外側膝状体,それ以降が障害されたときの臨床的特徴(文献5より)切る視神経萎縮とNFLDが観察され,同側眼では乳頭の上下にNFLDが観察される(図12c).ここでまた症例に戻ってみると,視野欠損(図10b)の形は,同名性の変化に見えないだろうか?また,緑内障の視野欠損は,頂点がMariotte盲点に向かうのに対し,本症例では視野欠損の頂点が中心に向かっている.これは中枢性の視野欠損の特徴である.診療録を調べてみると,髄膜腫は側脳室三角部,前脈絡叢動脈栄養であったことと,髄膜腫の手術後に視野欠損を自覚したということであった.そこで図11,12cを見てみよう.外側膝状体障害のパターンに一致しているのがわかるであろう.つまり,この視野欠損は,外側膝状体障害に特徴的な水平区画性同名半盲で,RAPDが陰性,病変の対側眼では乳頭を横切るNFLD,同側眼では乳頭の上下にNFLDが観察されるパターンと,すべて一致している.当時のGoldmann視野と比較しても,進行しておらず(図13),この視野変化は緑内障でなく,以前の視野欠損の残存と考え,点眼を中止,角膜病変,痛みは1554あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013abc図12障害部位別の視神経萎縮のパターン(文献5より)a:網膜神経線維の流れの分布.中心窩を通る垂直経線より耳側の神経線維は視神経乳頭の上下に集まり,一方,中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まる.b:視交叉病変での視神経萎縮とNFLD.中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まるため,視交叉病変では乳頭を横切る視神経萎縮とNFLDとなる.c:視索,外側膝状体での視神経萎縮とNFLD.視索と外側膝状体病変では,対側眼の中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維(交叉線維)と,同側眼の中心窩を通る垂直経線より耳側の神経線維(非交叉線維)が障害される.中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まり,耳側の神経線維は視神経乳頭の上下に集まるため,視索病変では,対側眼では乳頭を横切る視神経萎縮とNFLDが観察され,同側眼では乳頭の上下にNFLDが観察される.消失し,経過観察している.このような症例は,OCTでNFLDが容易に観察できるようになったため,逆に緑内障と診断しがちであるが,機器の発達とともに神経眼科的な確かな知識も必要になってくることを示していると考える.(62) 左右図13髄膜腫術直後のGoldmann視野と現在の視野比較しても,進行していない.(文献5より)おわりにいかがだったであろうか?生理的乳頭陥凹の拡大のある視放線障害症例,乳頭陥凹の拡大のある圧迫性視神経症症例,視交叉障害と間違われかけた緑内障症例,緑内障性視野欠損に似た両側後頭葉梗塞症例,緑内障性視野欠損に加え,OCTにても緑内障性神経線維束欠損に似た形を呈した外側膝状体障害症例を紹介した.大切なことは,視神経乳頭のリムの欠損部位や程度と視野欠損が合致するか,また,OCTの発達により,外側膝状体までの障害であれば逆行性の神経線維萎縮が表現されることと,そのパターンを知って,常に1例1例,確認することが大切であろう.文献1)PaneA,BurdonM,MillerNR:Blurredvisionorfieldloss.TheNeuro-ophthalmologySurvivalGuide.p27-112,Mosby,Elsevier,20072)中馬秀樹:【視野】視路疾患と視野病巣診断のための視路の解剖.眼科プラクティス15:180-187,20073)Bianchi-MarzoliS,RizzoJFIII,BrancatoR:Quantitativeanalysisofopticdisccuppingincompressingopticneuropathy.Ophthalmology102:436-440,19954)中馬秀樹:緑内障セミナー緑内障に間違われやすい中枢性疾患.あたらしい眼科29:1647-1648,20125)中馬秀樹:つけよう!神経眼科力OCTの神経眼科への応用.臨眼65:604-614,20116)中馬秀樹:緑内障セミナー緑内障に間違われやすい視神経疾患.あたらしい眼科29:1517-1518,2012(63)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131555

強度近視眼の視神経障害

2013年11月30日 土曜日

特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1539~1545,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1539~1545,2013【各論】強度近視眼の視神経障害OpticNerveDamageinPathologicMyopia大野京子*はじめに近視眼と緑内障との関連はわが国を中心に報告されている1~5).Iwaseら6)は多治見スタディにおいて,近視の有無は眼圧や年齢とともに原発開放隅角緑内障(POAG)の有意な危険因子であったと報告した.軽度近視のオッズ比は1.85で,強度近視のオッズ比は2.60であった.Marcusら4)は,13の疫学研究(対象総数48,161名)のメタ解析研究を行い,うち11の研究の解析結果では,緑内障発症における近視のオッズ比は1.92であった.そのうち軽度近視(.3Dまで)のオッズ比は1.65であり,強度近視のオッズ比は2.46であった.Xuら3)はTheBeijingEyeStudyに参加した40歳以上の中国人4,319名において,視神経乳頭および視野検査の両方が緑内障性変化を呈する症例は,正視(.0.5~+2D)では1.0%であったのに対し,弱度近視(<..05~.3.0D)では2.2%,中等度近視(<.6~.8D)では2.4%で,高度近視(<.6~.8D)では6.5%と有意に高頻度であったとした.またわが国における研究から明らかになったように,強度近視眼の緑内障では,乳頭黄斑間の神経線維が障害されやすいこと5,7),異所性や多発性など通常の緑内障と異なるパターンの網膜神経線維層欠損を呈する8)などの特徴もある.このように近視眼に緑内障が多く,近視の存在が緑内障発症の危険因子となるということは明らかである.しかし,非常に強度の近視眼で果たしてそうであるかは完全には明らかになっていない.その根本にあるのは,強度近視眼において緑内障の有無を的確に診断することのむずかしさであると思われる.I強度近視眼における緑内障診断のむずかしさ強度近視眼では眼軸延長や後部強膜ぶどう腫の形成などにより,視神経乳頭に機械的伸展がかかり,視神経乳頭がしばしば変形する(図1).このように変形した乳頭では緑内障性乳頭変化の有無を判断することがむずかしく,またなかには極度の傾斜のために検眼鏡的に乳頭そのものを観察できない症例が存在する.強度近視眼の視神経乳頭の形状はBlachら9)により5つのタイプに分類されており(図2),彼らは5番目の形状が強度近視眼の緑内障に多くみられるとした.しかし臨床上はこのどれにも合致しないタイプも多くみられる.Meloら10)は緑内障を伴う強度近視眼(屈折度<.5D)と緑内障を伴わない強度近視眼において,OCT(光干渉断層計),SLO(走査レーザー検眼鏡)を用いた乳頭陥凹比の計測,およびOCTによる乳頭周囲の網膜神経線維層厚の測定を行った.しかしいずれの値も両群間に有意差はなく,強度近視眼の緑内障においては,非強度近視眼の緑内障の診断に有用であるこれらの検査は有用性に乏しいとしており,病的近視眼における的確な緑内障の診断はなかなかむずかしいと思われる.強度近視眼の網膜神経線維層はもともと菲薄化しており11),この点*KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕大野京子:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(47)1539 図1病的近視眼の視神経乳頭の変形左:視神経乳頭の機械的伸展により,円形もしくは楕円形から逸脱した変形を示す.右:視神経乳頭の極度の傾斜により,乳頭自体の観察が困難である.乳頭下方にintrachoroidalcavitationを伴う.12345図2強度近視眼の視神経乳頭形状の5つのタイプ(文献9から許可を得て引用)1:正常乳頭陥凹,2:乳頭傾斜により耳側rimがなだらかに傾斜しているタイプ,3:全体的に浅く広い陥凹でrimがなだらかなタイプ,4:全体的に浅く広い陥凹でrimが急激に欠損しているタイプで,強度近視の緑内障に多いタイプ,5:深い乳頭陥凹.典型的な緑内障にみられるタイプ.から判断をむずかしくしている.しかしShojiら12)は強度近視眼における緑内障の判断に種々のOCTのパラメータ(GCC:ganglioncellcomplex,網膜神経線維層厚,乳頭形状)が有用であったと報告している.なかでもGCCが最も有用なパラメータであった.II強度近視眼における視野障害乳頭の変形を伴うような病的近視眼は緑内障のスタディから除外されていることが多い.非常に強度の近視眼における緑内障の頻度を調べた報告としては,Xuら3)は,BeijingEyeStudyに参加した中国人4,319名のうち,屈折度数.8D未満の強度近視眼は122眼にみられ,この122眼における‘opticdiscglaucoma’(視神経乳頭所見が緑内障性変化を示すもの)が10眼(8.2%)にみられ,視野所見と乳頭所見がともに緑内障性であったのは7眼(5.7%)であったとした.122眼の強度近視眼の屈折度や眼軸長の詳細は記載されていないが,最も強い近視度数は.20.9Dであったと書かれているので,かなり強い近視が含まれていたと考えられる.筆者ら13)は,屈折度.8D未満または眼軸長26.5mm以上の病的近視眼308名492眼(絶対暗点をきたすような萎縮病変や黄斑部新生血管を合併しない,軽度びまん性病変まで1540あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(48) の症例)を5年以上経過観察し,Goldmann視野検査でV-4イソプターが10%以上欠損したものを有意な視野変化と定義して解析した.その結果,経過観察中に13.2%が近視性黄斑部および周辺部網膜病変で説明できない視野障害を生じた.視野障害はしばしば非典型的であり,鼻側視野欠損に加えて耳側視野欠損も合併した‘ひょうたん型視野’も多くみられるといった特徴があった(図3).特にCurtin14)のtypeVIIまたはTypeIXぶどう腫(図4)のような乳頭耳側に強膜のカーブの変形がある症例で視野障害の頻度が高いこともわかった13).以上から,病的近視眼では視神経障害によると思われる視野欠損は決して稀ではないことがわかる.Akagiら15)は強度近視眼の乳頭周囲をswept-sourceOCTでスキャンし,typeIXぶどう腫にみられるよう図3強度近視にみられる,ひょうたん型視野(文献13から許可を得て引用)図4ぶどう腫内に凸凹がみられるタイプ強度近視眼ではtypeVII(左)およびtypeIX(右)ぶどう腫を有する眼に視野障害が多くみられる(文献14から許可を得て引用).な乳頭耳側の強膜の突出の角度が急であるほど網膜神経線維が薄く,視野障害が高度であると報告している.III強度近視の視神経イメージングから得られた知見1.視神経周囲くも膜下腔の拡大病的近視眼では視神経周囲のコーヌスを通してその後方にあるくも膜下腔を観察することが可能である16,17).強度近視眼では,くも膜下腔は眼球に近いほうを基底部とする三角状の低反射として観察され(図5),くも膜下腔が拡大していた.Cscan画像では,視神経乳頭周囲のコーヌス内の広範囲に太いarachnoidtrabeculaeを含むくも膜下腔が観察される.強膜篩状板内面とくも膜下腔の最短距離は252.4±110.9μm,くも膜下腔上の強膜厚の最短値は190.6±51.2μであり,くも膜下腔上の強膜はきわめて菲薄化している.さらに極端な症例では,硝子体腔とくも膜下腔が直接交通している症例もある.直接交通しているような症例では,強膜篩状板と乳頭周囲強膜との連続性は完全に断たれているため,眼圧変化に対し,きわめて脆弱であると推察される.さらに,硝子体とくも膜下腔の交通により,両者の液成分が変化する可能性も考えられる.Jonasら18)は,強度近視眼を組織学的に検討し,強度近視眼の視神経周囲ではくも膜下腔が拡張し,くも膜下腔上の強膜が著しく菲薄化していること,乳頭周囲の網膜は神経線維しかなく,神経線維図5視神経周囲くも膜下腔のOCT所見(文献17から許可を得て引用)くも膜下腔は眼球に近いほうが広い逆三角形状を呈する.くも膜下腔の中には太いarachnoidtrabeculaeがみられる.強膜は視神経に向かって食い込む形で(矢印)その後内側では軟膜に(赤矢頭),外側では硬膜に(青矢頭)移行する.(49)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131541 層が直に強膜の上にのっていることなどを報告している.これらの組織学的所見はOCTでみられた筆者らの所見と非常によく似ている.2.後天的pit形成病的近視眼では視神経乳頭内もしくはコーヌス内にpit様の裂隙がみられる19)(図6).198眼の強度近視眼を調べたところ,32眼(16.2%)にpitが認められ,うち1/3は乳頭pit,残り2/3はコーヌスpitであった.乳頭pitは主として乳頭面積が大きい巨大乳頭様の症例において,乳頭の上極もしくは下極に生じ,深いものでは1mm以上もの深さに達する.一方,コーヌスpitはほとんどの症例でCurtin分類14)のtypeIXぶどう腫を合併する眼に生じ,乳頭耳側のridgeの斜面に生じていた.乳頭pitの形成においては,乳頭の上下極は強膜篩状板が薄く,また網目構造が脆弱な部位であり,そのために視神経乳頭が機械的に伸展された場合に最も破綻しやすい部位であるため,pitが好発するのではないかと考えられる.また,conuspitの場合には,必ずtypeIXぶどう腫における乳頭耳側ridgeの内側の斜面に生じる.耳側ridgeの内側の斜面はもともと強膜が硬膜と軟膜に分かれた後のため,強膜が菲薄化しており,眼軸延長に際し,最も伸展されやすく,この部位の強膜に生じた強膜分離がpitに発展すると推察される.また,そのほかのタイプとして,球後の短後毛様動脈がconus内で眼球に刺入するような症例では,conusの拡大とともに刺入部位が拡大し,それがconuspitに発展する症例もある.いずれのタイプにおいても,pit部位では必ずpit上を走行する網膜神経線維の連続性が破綻しており,その線維走行に一致した視野欠損がみられ,病的近視眼における視野障害の原因として後天的pitが重要であることが推察される.緑内障眼においても乳頭pit類似の所見がOCTを用いて局所の篩状板欠損であることが報告20)されており,乳頭pitと類似性があるのかもしれない.3.Intrachoroidalcavitation(ICC)Freundら21)は,病的近視眼の乳頭下方にしばしば三日月状のオレンジ色病変がみられることを報告し,OCTでこの病変が網膜色素上皮.離であると報告し,peripapillarydetachmentofpathologicmyopia(PDPM)として報告した.筆者らは,PDPMは強度近視眼の約5%にみられ,本病変があると70%に緑内障様視野障害を合併することを報告した22).その後,Toranzoら23)は,より高解像度のOCTを用いて,本病変が色素上皮.離ではなく,脈絡膜内の洞様構造であることを明らかにし,intrachoroidalcavitation(ICC)とよんだ.Spaideと筆者らの共同研究24)では,ICCの部位では強膜のカーブが眼球後方に変位していること,さらにICCと乳頭の境界領域に沿って網膜内層の欠損がみられることをEDI(enhanceddepthimaging)-OCTとswept-sourceOCTを用いて明らかにした.後天的pitと同様に,ICCにおいても,境界部位における網膜内層の連続性の途絶により,当該の神経線維走行に一致図6視神経乳頭ピット眼底写真(左)では明瞭でないが,OCTから再構築した画像では乳頭の上鼻側と上方に2つのピットがみられる(中,矢印および矢頭).上鼻側のピットはOCT画像で篩状板を超えて1mm以上の深さがある(右,矢印).1542あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(50) 図7Zinn.Haller動脈輪の観察ICG赤外蛍光眼底造影(右上)では複数の血管が動脈輪を構成している.OCT(下)では動脈輪を構成している血管の断面(左下,矢印)と,そこから視神経に向かう枝(右下,矢頭)がみえる(文献26から許可を得て引用).図8Zinn.Haller動脈輪の変形(文献26から許可を得て引用)コーヌス内に動脈輪を観察できる(左,矢頭).ICG赤外蛍光眼底造影(右)では動脈輪が視神経から最も離れた部位に一致して短後毛様動脈の刺入部位がある(矢印).(51)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131543 する視野欠損を示す.通常のICCは乳頭下方に生じるが,ときに乳頭耳側を中心にICCが生じることがある.耳側にICCが生じると乳頭耳側に網膜の欠損を生じるために,乳頭-黄斑線維の連続性が途絶し,中心暗点もしくは傍中心暗点の原因となる.強度近視眼の視神経周囲では予想以上にさまざまな組織で断裂が生じており,これらの構造破綻が視野障害に関与する可能性が示唆される.4.Zinn.Haller動脈輪の離解強度近視眼ではコーヌス部位を通して,強膜内またはその後方に位置するZinn-Haller動脈輪をICG(インドシアニングリーン)蛍光眼底造影などにより観察できる25,26).SpectralisによるICG造影とOCTの同時撮影では強膜内に位置するZinn-Haller動脈輪を明瞭に観察できる(図7).強度近視眼ではしばしばZinn-Haller動脈輪が円形ではなく,横長菱形であり(図8),乳頭から最も離れた部位が短後毛様動脈の刺入部位に一致している.つまり乳頭周囲の機械的伸展に伴い,短後毛様動脈刺入部位が乳頭から離解し,それに伴って引きずられる形でZinn-Haller動脈輪も離解すると考えられる.そしてこのような離解により視神経の循環障害も惹起される可能性があると推察される.おわりに強度近視眼に多くみられる視神経障害の病態解明は新たな画像診断機器の進歩を背景に進みつつある.視神経や網膜神経線維の変化だけでなく,Usuiら27)は,強度近視眼で緑内障を合併している症例では有意に脈絡膜が菲薄化していたと報告しており興味深い.病的近視の視神経障害の病態は多様であり,それぞれに関与する因子も異なると推察される.今後病態解明がさらに進歩し,治療法に結びつくことが期待される.文献1)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-angleglaucomainaJapanesepopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20062)ChangRT,SinghK:Myopiaandglaucoma:diagnosticandtherapeuticchallenges.CurrOpinOphthalmol24:96-101,20133)XuL,WangY,WangSetal:HighmyopiaandglaucomasusceptibilitytheBeijingEyeStudy.Ophthalmology114:216-220,20074)MarcusMW,deVriesMM,MontolioFGetal:Myopiaasariskfactorforopen-angleglaucoma:asystematicreviewandmeta-analysis.Ophthalmology118:19891994,20115)MayamaC,SuzukiY,AraieMetal:Myopiaandadvanced-stageopen-angleglaucoma.Ophthalmology109:2072-2077,20026)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20047)KimuraY,HangaiM,MorookaSetal:Retinalnervefiberlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglaucoma.InvestOphthalmolVisSci53:6472-6478,20128)ChiharaE,SawadaA:Atypicalnervefiberlayerdefectsinhighmyopeswithhigh-tensionglaucoma.ArchOphthalmol108:228-232,19909)BlachRK,JayB:Theglaucomatousdiscindegenerativemyopia.TransOphthalmolSocUK85:161-168,196510)MeloGB,LiberaRD,BarbosaASetal:Comparisonofopticdiskandretinalnervefiberlayerthicknessinnonglaucomatousandglaucomatouspatientswithhighmyopia.AmJOphthalmol142:858-860,200611)VernonSA,RotchfordAP,NegiAetal:PeripapillaryretinalnervefibrelayerthicknessinhighlymyopicCaucasiansasmeasuredbyStratusopticalcoherencetomography.BrJOphthalmol92:1076-1080,200812)ShojiT,SatoH,IshidaMetal:Assessmentofglaucomatouschangesinsubjectswithhighmyopiausingspectraldomainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:1098-1102,201113)Ohno-MatsuiK,ShimadaN,YasuzumiKetal:Longtermdevelopmentofsignificantvisualfielddefectsinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol152:256-265e1,201114)CurtinBJ:Theposteriorstaphylomaofpathologicmyopia.TransAmOphthalmolSoc75:67-86,197715)AkagiT,HangaiM,KimuraYetal:Peripapillaryscleraldeformationandretinalnervefiberdamageinhighmyopiaassessedwithswept-sourceopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol155:927-936,201316)ParkSC,DeMoraesCG,TengCCetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofdeepopticnervecomplexstructuresinglaucoma.Ophthalmology119:3-9,201217)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Imagingtheretrobulbarsubarachnoidspacearoundtheopticnervebyswept-sourceopticalcoherencetomographyineyeswithpathologicmyopia.InvestOphthalmolVisSci52:9644-9650,20111544あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(52) 18)JonasJB,JonasSB,JonasRAetal:Histologyofthepara-papillaryregioninhighmyopia.AmJOphthalmol152:1021-1029,201119)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Acquiredopticnerveandperipapillarypitsinpathologicmyopia.Ophthalmology119:1685-1692,201220)KiumehrS,ParkSC,SyrilDetal:Invivoevaluationoffocallaminacribrosadefectsinglaucoma.ArchOphthalmol130:552-559,201221)FreundKB,CiardellaAP,YannuzziLAetal:Peripapillarydetachmentinpathologicmyopia.ArchOphthalmol121:197-204,200322)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,YoshidaTetal:Characteristicsofperipapillarydetachmentinpathologicmyopia.ArchOphthalmol124:46-52,200623)ToranzoJ,CohenSY,ErginayAetal:Peripapillaryintrachoroidalcavitationinmyopia.AmJOphthalmol140:731-732,200524)SpaideRF,AkibaM,Ohno-MatsuiK:Evaluationofperipapillaryintrachoroidalcavitationwithsweptsourceandenhanceddepthimagingopticalcoherencetomography.Retina32:1037-1044,201225)ParkKH,TomitaG,OndaEetal:Invivodetectionofperineuralcirculararterialanastomosis(circleofZinnHaller)inapatientwithlargeperipapillarychorioretinalatrophy.AmJOphthalmol122:905-907,199626)Ohno-MatsuiK,KasaharaK,MoriyamaM:DetectionofZinn-Hallerarterialringinhighlymyopiceyesbysimultaneousindocyaninegreenangiographyandopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol155:920-926,201327)UsuiS,IkunoY,MikiAetal:Evaluationofthechoroidalthicknessusinghigh-penetrationopticalcoherencetomographywithlongwavelengthinhighlymyopicnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol153:10-16,2012(53)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131545

正常と緑内障性視神経症の鑑別診断

2013年11月30日 土曜日

特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1533~1538,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1533~1538,2013【各論】正常と緑内障性視神経症の鑑別診断DifferentialDiagnosisofGlaucomatousOpticNeuropathyCasesfromNormalSubjects福地健郎*栂野哲哉*はじめに緑内障性視神経症(GON)の診断は眼底の視神経乳頭および網膜所見と視野所見の組み合わせによって行われる.一般的に眼底所見は視野所見に先行する.GONの最も特徴的な臨床所見は視神経乳頭およびその周囲の眼底所見である.まず眼底所見によってGONが診断されるというシステムは現時点でも変わることはない.画像解析装置が一般臨床の場に広く普及し,GONの診断,管理の様式が変わりつつあるが,個体差や方法上の限界があり,あくまで補助的なものであることを認識することが必要である.Iどこまでが正常で,どこからが緑内障か?Weinrebら1)はGONの連続的な過程をglaucomacontinuumとして示した.まったくの正常眼に,アポトーシスの加速によって次第に網膜神経節細胞死が生じ,GONが発症する.次第に網膜神経線維層の変化が生ずるが,この時点ではまだ疾患としては認識できない(Undetectabledisease).網膜神経線維層の変化が進行してきてようやく疾患として認識され(Asymptomaticdisease),視野欠損が検出されると視機能障害として捉えることができる(Visualimpairment).視野障害は軽症から重症へと移行し,最終的には失明に至る.GONが発症しても潜在し,長時間をかけてゆっくりと顕性化,しかし着実に機能障害へと進行していくという疾患の特徴を見事に模式的に捉えている.現時点に至っても,私たちはGONの発症を正確に捉えることはできない.まったくの正常で,まったくGONがないと判定することは不可能である.従来,視野障害検出以前のGONの判定は定性的判定が主であった.それに対してHRT(HeidelbergRetinaTomographR)やGDx(GDxNerveFiberAnalyzerR),さらには近年の光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)などの画像解析装置を併用した判定は,機能変化に先行する形態変化を捉える能力を着実に向上させた.つまり,GlaucomacontinuumのUndetectablediseaseとAsymptomaticdiseaseの境界はゆっくりと,しかし確実に前者の側に移動しつつある.II眼底所見によるGONの鑑別GONの診断,つまり正常との鑑別に関しては,現在であっても乳頭所見の知識と理解,緑内障性変化を判別する能力が重要である.最近ではOCTによる画像解析装置による診断がポピュラーとなっているが,やはり欠点と限界があり「自らの眼で眼底所見を読む」能力なくして緑内障の診断に近づくことはできない.基本に立ち返ることが必要である.1.定性的判定2)a.視神経乳頭の形状視神経乳頭は一般的には縦長の楕円を示す.サイズに関して直径は平均で1.5~1.9mm,面積は1.67~2.94*TakeoFukuchi&TetsuyaTogano:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(41)1533 mm2と報告されている.しかし,サイズや形状に関して著しく個体差が大きく,乳頭面積で0.90~6.28mm2もの差が認められたとの報告がある.b.視神経乳頭陥凹の形状正常眼の視神経乳頭陥凹はやや横長で,その位置はやや上方に偏位している.陥凹の観察には立体観察が適しているが,平面で観察する場合には血管の屈曲点で判定する.緑内障眼において陥凹拡大に伴ってみられる所見として,露出血管(baredvessel),網膜中心動静脈の鼻側偏位,ラミナドットサインなどがある.c.視神経乳頭辺縁部(リム)の形状陥凹縁と乳頭縁の間を片縁部(リム)とよび,視神経線維が走行している.正常眼でリムの最も厚いのは下方で,ついで上方,鼻側,耳側の順である.緑内障性変化を生じた乳頭では多くの場合陥凹は上下いずれか,もしくは両方向に拡大し,それに伴って上下耳側のリムに進行性の菲薄化を生ずる.さらに進行すると陥凹とリムの境界がより鮮明化し,ノッチングとよばれる.そのような場合を通過する血管はその走行が銃剣状に屈曲しbayonetingとよばれる.d.視神経乳頭出血乳頭出血は健常者ではきわめて稀(0~0.21%)で,緑内障による変化を生じた乳頭に特異性の高い所見である.他の病型に比較して正常眼圧緑内障で頻度が高いという報告3)や,乳頭出血のみられる眼では視野障害進行の割合が高いとの報告4)があり,臨床的に重要な所見である.乳頭出血はノッチングや神経線維層欠損(NFLD)の存在部位に一致して出現しやすく,乳頭出血を発見したらその近傍のNFLDやノッチングの有無について詳細に観察する必要がある.e.傍乳頭網脈絡膜萎縮緑内障眼の乳頭周囲にはしばしば網脈絡膜萎縮像がみられ,傍乳頭網脈絡膜萎縮(PPA)とよばれる.PPAは検眼鏡的に色素の濃淡が混在するzoneaと乳頭近傍の脈絡膜・強膜が透見されるzonebに分けられる.PPAは非緑内障眼に比較して緑内障眼でより高頻度で,有意に大きい5).PPAの面積は視野障害の程度と有意に相関する,原発開放隅角緑内障(POAG)群に対して正常眼圧緑内障(NTG)群でzonebの面積が大きい,PPAの存在部位と視野欠損部とに有意な相関を認めた,乳頭部血流とPPAの面積に相関があるなどの報告がみられる.f.網膜神経線維層欠損(NFLD)乳頭周辺網膜を観察すると網膜神経線維層に限局性の束状の欠損が観察されNFLDとよばれる.Hoytら6)が緑内障におけるNFLDが緑内障診断に重要な決め手になると指摘して以降,さまざまな検証がされてきた.最も早期に認められる緑内障性眼底変化の一つで,視野障害検出や乳頭変化に先行して認められ,早期診断において重要である.NFLDの部位と範囲に一致した陥凹拡大,ノッチングの形成は,局所性の視神経障害の存在を意味し,視野障害の範囲や程度の推測など,GONの診断上,重要な眼底所見である.2.定量的判定2)a.C.D比とR.D比(図1)陥凹の最大垂直径と最大垂直視神経乳頭径の比を垂直C/D比とよび,同じく水平方向のものを水平C/D比とよぶ.緑内障性変化の有無を判定するには垂直C/D比がより有用である.正常眼の垂直C/D比は多くの場合,0.3以内であり,0.7を超えるものは全体の1~2%であA:C/D比B:R/D比垂直乳頭径(D)垂直陥凹径(C)乳頭径(D)リム幅(R)図1乳頭の量的判定におけるC.D比とR.D比表1量的判定による緑内障診断基準垂直C/D比上or下極R/D比両眼垂直C/D比の差NFLD対応する視野異常あり0.7以上0.1以下0.2以上あり乳頭所見から判定*0.9以上0.05以下0.3以上緑内障疑い0.7~0.9未満0.05~0.10.2~0.3未満あり*正常視野もしくは明確に緑内障が否定される場合を除く.1534あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(42) る.また,一般に左右眼で対称的である.一方,リム部の幅とそこに対応して乳頭中心を通る乳頭径との比をR/D比とよぶ.b.視神経乳頭の量的判定による緑内障診断日本緑内障学会による緑内障診療ガイドライン第3版では,垂直C/D比とR/D比の判定結果をもとに,Fosterらが提唱する診断基準を参考に作成された緑内障診断基準が示されている.そのサマリーを表1に示した.最終的な診断は,質的,量的所見を組み合わせて総合的に判断される.IIIOCTを併用したGONの判定眼底所見による鑑別において乳頭所見,特にNFLDの所見が重要であることは述べた.視神経乳頭はGONによる臨床的に最も特徴的な所見で,診断と発見の機会として最も重要である.しかし,乳頭所見というのはサイズを含めて,個体差が大きく,たとえば近視の影響を受け乳頭が傾斜している症例も多い.GONは網膜神経節細胞とその軸索が障害され消失する疾患である.乳頭は組織学的に複雑で,GONで乳頭陥凹拡大には篩状板の後方への弯曲など視神経線維の消失以外の要素が含まれる.したがって,その乳頭陥凹拡大の量的変化による診断や進行判定には限界と問題がある.一方,網膜神経線維層の組織構造はシンプルで,結果的に“厚さ”というパラメータでみた場合,個体差が少なく,正常範囲(正常値)を設定して,それぞれの測定値を正常値と比較するという方法により適している.これがGDxやOCT(光干渉断層計)による網膜神経線維層の判定が緑内障の診断に有効な理由である.一方,黄斑部付近のGONによる影響はQOL(qualityoflife)を考えた場合に,重要な意味を持っている.スペクトラルドメインOCTによるより高速で高画質な画像取得によって,網膜神経節細胞複合体厚(網膜神経節細胞層+網膜神経線維層+内網状層),さらには網膜神経節細胞層厚を測定AB図2PreperimetricGONの診断いずれの症例も眼圧は正常範囲で,視野検査上,明らかな緑内障性変化は認められなかった.OCTによる観察では症例1(A)は異常が検出されなかったのに対して,症例2(B)では乳頭上下に網膜神経線維層の菲薄化が認められた.症例1は今のところ正常範囲,症例2はGON(+)と判定される.(43)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131535 図3OCTで正常だがGON(+)の症例左眼ポスナーシュロスマン症候群の一例である.OCTによる観察では両眼とも12分割グリッド表示で正常範囲であるものの,TSNITマップを比較すると左眼耳側上下の神経線維層厚が右眼に比べて菲薄化している(矢印).左眼はすでにGON(+)と考えられる.することが可能となった.黄斑部付近には視野障害がまったく検出されないにもかかわらず,OCT上で黄斑部付近にすでに広範囲な異常の検出される症例もまれではなく,視機能予後を考慮した場合,有力な情報を提供してくれる可能性がある.図2は乳頭陥凹拡大の2症例である.いずれも眼圧は正常範囲で,視野検査上,異常は検出されない.また,眼底にも明瞭なNFLDは検出されない.OCTで傍乳頭網膜神経線維層厚を観察すると,症例1は正常範囲なのに対して,症例2では上下に菲薄化が検出された.症例→図4OCTで異常だがGON(-)の症例この症例では正常眼に比べて上下の最も厚いピークがやや耳側にずれている(矢印).強度近視眼では上下網膜最厚部が耳側にシフトすることがあり,実際には正常範囲にもかかわらず神経線維の走行の違いから,OCT上で異常と判定されることがある.1536あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(44) 2ではすでに明瞭なGON(+)と判定される.GONの存在を従来よりも早く検出できる可能性があり,今後,治療や管理の方法に生かされていくことが期待できる.IVOCTを併用したGON診断の問題点OCTには利点だけでなく,限界も欠点もあり,安易にOCTの結果のみで緑内障と診断することは避けるべきである.上記した乳頭や網膜神経線維層の所見を含む眼底所見とOCT所見,さらには視野所見の相同性を確認して総合的に診断することが必要である.1.OCTで正常だがGON(+)の症例図3の症例は47歳の女性で,36歳時に左眼ポスナーシュロスマン(Posner-Schlossman)症候群と診断され,しばしば発作を繰り返し,加療を続けてきた.その後,サイトメガロウイルスによる虹彩毛様体炎と診断された.乳頭陥凹はやはり左眼で拡大しているが,視野検査上は両眼とも異常は検出されない.OCTによる観察では両眼とも12分割グリッド表示で正常範囲であるものの,TSNIT(TemporalSuperiorNasalInteriorTemporal)マップを比較すると左眼上下耳側の神経線維層図5OCTはあくまで正常データとの比較この症例では視野所見に比較して,黄斑部の神経線維層厚,網膜神経節細胞複合体厚の所見が軽度である.右上の黄斑部のスキャン像を見るとこの症例は黄斑前膜を伴っている.すでに網膜の形態そのものが変化しており,OCTによるGONの判定は不可能である.(45)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131537 厚が右眼に比べて菲薄化していることがわかる.すでにGON(+)と考えられる.従来の「乳頭陥凹の左右差はGONを疑わせる」という定性的な判定とOCT所見を合わせて判断することが必要な一例である.2.OCTで異常だがGON(-)の症例図4の症例は53歳,男性で,検診で乳頭陥凹拡大を指摘され精査を勧められた.眼圧は正常範囲で視野検査でも異常所見はみられなかった..8Dの強度近視眼である.OCTで下方の網膜神経線維層菲薄化を疑わせる所見が得られた.この症例では正常眼に比べて上下の最も厚いピークがややずれている.強度近視眼では上下網膜最厚部が耳側にシフトすることがあり,神経線維の走行の違いからOCT上,異常と判定されることがある.その他にもさまざまなOCTによるアーチファクトや検出限界がある.神経線維層厚,GCCのいずれの判定においてもあくまで正常データと比較をしているにすぎない.たとえば黄斑前線維症を伴っているような症例では,すでに網膜の形態そのものが変化しており,GCCの判定は不可能である(図5).やはり正確な診断のためには眼科医による乳頭所見の定性的判定とOCT所見を正しく組み合わせて判定することが必須である.V今後の展開今後,技術の進歩によりさらに詳細に,さらに別なポイントで形態変化を捉えることができるようになってくる可能性がある.たとえば補償光学網膜イメージングカメラ(trxTM1,imagineeyeR)では視細胞のカウントが可能である.現在のOCTによる網膜神経線維層の観察も単に厚みで神経線維の数を代用しているにすぎない.網膜神経節細胞の数と分布,また網膜神経線維の数と形態をさらにマイクロのレベルで観察することが可能となれば,GlaucomacontinuumのUndetectablediseaseの境界はさらに前進することが期待される.私たちがGONをより詳細に全体像を理解することによって,さらに個々の条件に適した治療と管理の方法が提案できると考えられる.今後の展開に期待したい.文献1)WeinrebRN,FriedmanDS,FechtnerRDetal:Riskassessmentinthemanagementofpatientswithocularhypertension.AmJOphthalmol138:458-467,20042)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン,第3版,20123)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemorrhageinlow-tensionglaucoma.Ophthalmology93:853857,19864)IshidaK,YamamotoT,SugiyamaKetal:Diskhemorrhageisasignificantnegativeprognosticfactorinnor-mal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol129:707-714,20005)JonasJB,FernandezMC,NaumannGO:Glaucomatousparapapillaryatrophy.Occurrenceandcorrelations.ArchOphthalmol110:214-222,19926)HoytWF:Theearliestobservabledefectinglaucoma?Lancet25:692-964,19721538あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(46)

後天性視神経疾患と緑内障

2013年11月30日 土曜日

特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1525.1531,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1525.1531,2013【各論】後天性視神経疾患と緑内障HowtoDifferentiateGlaucomafromOtherAcquiredOpticNeuropathies田口朗*はじめに正常眼圧緑内障と鑑別が必要な後天性視神経疾患として,虚血性視神経症,視神経炎,Leber遺伝性視神経症や優性遺伝性視神経萎縮の遺伝性視神経症,エタンブトール視神経症を取り上げ,各々の特徴と鑑別のポイントを解説する.後天性視神経疾患には,発症年齢,発症様式,経過,視野障害パターンにそれぞれ特徴があるため,それらを認識しておくことが緑内障との鑑別上有用で,視神経乳頭所見だけに偏らない診断を心掛ける必要がある.視神経乳頭所見においては,単に陥凹の大きさだけでなく,以下の2点が緑内障との鑑別上重要であることを強調したい.<Neuralrim褪色の有無>緑内障では残存するrimの色調は正常であるが,非緑内障性視神経萎縮ではrimも褪色しcup<pallorとなる.<Notchsignの有無>後天性視神経疾患による乳頭陥凹はnotchを形成せず均一な陥凹拡大を呈することが多い.一方で,篩状板孔の拡大(laminardots)は緑内障/非緑内障性視神経萎縮のどちらにも認められ,鑑別診断上は特に有用な所見ではないと考えられている1).I虚血性視神経症虚血性視神経症は,その成因から非動脈炎性と動脈炎性の2つに分類され,病態・視機能予後がきわめて異なるため,その違いを明確に認識する必要がある.1.非動脈炎性虚血性視神経症非動脈炎性虚血性視神経症は,小さな視神経乳頭において,循環不全(低灌流)が生じることで発症する.視神経へ供給する血管の灌流圧は起床前に最も低くなることから「朝起きたら突然見えにくくなった」と訴えることが多い.水平半盲を呈することが多いが,中心暗点や,網膜神経線維束欠損型を呈することもある.急性期には乳頭浮腫を生じ(図1a),乳頭縁に線状出血を伴うこともある.その後乳頭は褪色し平坦(図1b)もしくは皿状の陥凹を伴った視神経萎縮に至ることが多く,緑内障様の乳頭陥凹を呈することは比較的稀である.元々乳頭径が小さいため,神経線維が萎縮しても肉眼的に陥凹として捉えにくいこと,虚血が低灌流による循環不全に基づくため組織障害が比較的軽度であることが要因と考えられている2).ただし,正常眼圧緑内障でも乳頭縁の線状出血を繰り返しながら網膜神経線維束欠損が拡大していく病態を呈することがあることから,典型的な非動脈炎性虚血性視神経症ではないとしても,乳頭部での虚血・循環障害と緑内障性視神経症に密接な関係があることは忘れてはならない.2.動脈炎性虚血性視神経症動脈炎性虚血性視神経症は,巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)を背景に視神経を栄養する動脈の炎症性閉塞によって発症するきわめて予後不良な疾患である.高齢者に多く,発熱,体重減少,咀嚼痛などを伴って発症する.*HogaraTaguchi:大阪赤十字病院眼科〔別刷請求先〕田口朗:〒543-8555大阪市天王寺区筆ヶ崎町5-30大阪赤十字病院眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(33)1525 図1症例:58歳,男性a(上):非動脈炎性虚血性視神経症による視神経乳頭浮腫.蒼白浮腫と乳頭下縁に線状(火焔状)出血を認める.b(下):発症から約6週間後,平坦な視神経萎縮を認める.早急にステロイド大量療法を行わなければ,両眼に発症し両眼失明に至る危険の高い,眼科救急疾患の一つである.血沈やCRP(C反応性蛋白)の亢進が早期診断に有用であるが,確定診断は側頭動脈生検に基づく.急性期には乳頭浮腫を呈することが多い.非動脈炎性と異なり小さい乳頭にかかわらず発症すること,血管閉塞(特に視神経乳頭篩状板後方を還流する短後毛様動脈の閉塞)による組織障害が強く乳頭のグリア組織にも障害が及ぶため2),萎縮期(平均3.4カ月後)にはグリア組織の瘢痕収縮により篩状板が後方に牽引されることも相まって,緑内障末期に類似した,rimの喪失を伴った大きく深い乳頭陥凹に至ることが多い(図2).萎縮期の視神経乳頭だけを診た場合,緑内障末期との鑑別は困難であ1526あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013図2症例:78歳,男性動脈炎性虚血性視神経症の萎縮期,Rimの消失を伴った大きな視神経乳頭陥凹を認める.わずかに残っているかと思われる鼻側から上方のrimも蒼白化している.なお萎縮完成後網膜.離手術(シリコーンオイルタンポナーデ)を施行され乳頭陥凹上縁にシリコーンオイル小胞が認められる.図3症例:70歳,男性典型的な緑内障性乳頭陥凹.乳頭周囲に脈絡膜萎縮を認める.わずかに残った上方のrimは褪色していない.る.鑑別のポイントは,高齢者(75歳以上が多く,60歳以下での発症はきわめて稀)に急性発症する視神経症である点で,「ある日急に見えなくなった」経験があるか否か確認することが最重要である.卒中型の神経障害であるため急性期に視覚障害が完成し,慢性に進行する経過をとらないことも,緑内障との鑑別に有用である.また緑内障性視神経乳頭陥凹によく認められる乳頭周囲脈絡膜萎縮(図3)が認められないことが多く,鑑別の一助になる.(34) II視神経炎典型的な視神経炎は,若年.中年に,比較的急性に生じる視力低下で発症する.65歳以上での初発はきわめて稀である.発症から2週間程度視力低下が進み,以降は徐々に改善してくることが多い.視野は中心暗点を呈することが多いが,水平半盲や,網膜神経線維束欠損型を呈することもある.球後痛(特に眼球運動にて増悪する)を伴うことが多い.乳頭所見は典型的には乳頭浮腫(図4a)を呈するが,約6週間後には平坦な視神経萎縮(図4b)に移行することが多く,緑内障性視神経萎縮を呈することは稀である.一方,以前より,一部の視神経炎では,視機能予後が不良でステロイドパルス治療にも反応が乏しい症例が認められていたが,近年それらの症例に共通する自己抗体(抗アクアポリン4抗体)の存在が同定され3),抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎と認識されるようになった.アクアポリン4は中枢神経組織の水チャンネルに関与する蛋白で,球後視神経と視交叉に多く分布しており,アストロサイトの足突起表面に発現している.抗体が結合することにより補体が活性化し,炎症に伴う血管原性浮腫が遷延化し,病巣が広汎化する.抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴は,中年から高齢の女性に多く,ステロイドパルス治療に反応が乏しいか無効で,図4症例:44歳,女性a(左):視神経炎による乳頭浮腫.視神経乳頭境界が不明瞭で,乳頭周囲の神経線維層が混濁して血管の隠蔽現象が認められる.b(右):視神経炎発症から6週間後,平坦な視神経萎縮を認める.図5症例:39歳,女性a(左):抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎発症時の眼底写真.視神経乳頭には明らかな異常を認めない.b(右):発症から5年後.全周にrim蒼白を伴った深い視神経乳頭陥凹を認める.(35)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131527 再発や反対眼の発症を繰り返しやすい.また四肢麻痺や排尿障害などの脊髄症状を合併しやすい.血液検査では抗核抗体や抗SS-A/B抗体が陽性になることがあり,他の免疫異常の合併も疑われる.病理学的には,通常の視神経炎では脱随が主体であるのに対し,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎では軸索の変性や壊死が認められる.これは,強い浮腫が広汎に遷延化した結果,視束管内で圧迫や虚血性変化が生じたか,血管炎を合併した結果であると考えられている.通常の視神経炎が随鞘に対する細胞性免疫であるのに対し,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎では抗体による液性免疫が主体なので,ステロイドパルス治療だけでなく,血漿交換が必要になることが多い.また視神経炎で初発しても,後に重篤な脊髄症状を併発することがあるので,長期にわたる免疫抑a.1a.2bcd図6症例:14歳,男性a:Leber遺伝性視神経症急性期.両眼の視神経乳頭発赤と血管アーケード沿いの網膜神経線維層の混濁腫脹を認める.b:左眼視神経乳頭の拡大写真.c:蛍光眼底造影(左眼)では視神経乳頭周囲の毛細血管拡張を認める.d:萎縮期(発症1年後,左眼)には皿状.漏斗状の乳頭陥凹と篩状板孔の拡大を伴った視神経萎縮を認める.漏斗状ゆえにrimでの血管のbayonetingは明らかではない.1528あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(36) 制治療が必要になることが多い.以上のことから,視神経炎が疑われる症例においては,常に鑑別に留意しなければならない疾患として注目されている.図5に抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎発症時と初発から5年後の視神経萎縮像を示す.全周でrimの菲薄化を伴う深い陥凹を呈し,篩状板孔の拡大や血管のbayonetingも伴っているため,一見すると緑内障性視神経乳頭陥凹とよく類似している.抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎後の視神経萎縮では緑内障様視神経乳頭陥凹を呈することが多い印象があり,血管炎や虚血性変化を併発していることと関連しているのかもしれない.乳頭所見上の鑑別ポイントは,rimも褪色している点である.また,臨床経過上の鑑別ポイントは急性発症,進行性であり,多くの場合病初期から著しい中心視力低下を伴う点である.III遺伝性視神経症1.Leber遺伝性視神経症ミトコンドリア遺伝子異常による遺伝性視神経症で,男性が80.90%を占め,15歳から40歳くらいの間に発症することが多い.片眼の比較的急性な無痛性中心視力障害で発症し,数週から数カ月のうちに反対眼にも発症し,最終的には両眼とも(0.1)以下に低下する.確定診断はミトコンドリア遺伝子の点突然変異の証明であり,11778,14484,3761番塩基の点突然変異が知られている.これらの異常による呼吸鎖の障害により,網膜神経節細胞でのATP(アデノシン三リン酸)産生が枯渇することによって発症する.ミトコンドリアは卵子からのみ受け取られるため,母系遺伝形式をとるが,保因者がすべて発症するわけではなく,外的因子の影響(飲酒・喫煙・外傷など)も知られており,家族歴からの診断は容易ではない.急性期の眼底所見の特徴として,視神経乳頭の発赤・腫脹,視神経乳頭周囲の毛細血管拡張,血管アーケード沿いの網膜神経線維の混濁・腫脹を認める(図6a,b,c)が,時間とともに消失し,萎縮期には皿状.漏斗状の視神経乳頭陥凹を呈する(図6d).急性期は視神経炎との鑑別が,急性期の特徴的な眼底所見が消失してしまった後は心因性視力障害や緑内障との鑑別が必要になってくる4).Leber遺伝性視神経症は乳頭黄斑線維の障害なので,中心暗点と中心視力低下を伴うが周辺視野は保たれること,慢性進行性の経過をとらないこと,(乳頭陥凹があったとしても)耳側rimの蒼白化を伴うこと,が緑内障との鑑別上重要なポイントである.2.優性遺伝性視神経萎縮優性遺伝性視神経症は,網膜神経節細胞の変性をきたす遺伝性視神経症で,1万.1万2千人に1人の頻度でみられる.10歳前後で発症し,両眼対称性に中心視力が障害されることが多い.OPA1遺伝子の異常が指摘図7症例:12歳,女性優性遺伝性視神経萎縮.両眼の視神経乳頭耳側に楔形の小陥凹を伴った萎縮と乳頭黄斑線維の菲薄化を認める.(37)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131529 され,網膜神経節細胞のエネルギー産生に異常をきたし発症すると考えられている.常染色体優性であるが,家族内でも障害の程度にばらつきがあり,家族歴が必ずしも明確ではないこともある.視力障害の程度は(0.1)以下から(1.0)程度までばらつきがある.視野は中心暗点を呈することが多い.視神経乳頭所見の特徴は,両眼性に乳頭耳側が分節状に蒼白に萎縮することで,同部に一致して楔形の陥凹を呈する5)こともある(図7).Leber遺伝性視神経症と同様に乳頭黄斑線維の障害なので,中心暗点と中心視力低下を伴うが周辺視野は保たれること,(乳頭陥凹があったとしても)耳側rimの蒼白化が主体であること,10歳前後に両眼対称性に発症し慢性進行性の経過をとらないこと,が緑内障との鑑別上重要なポイントである.IVエタンブトール視神経症抗結核薬であるエタンブトールによる中毒性視神経症は,エタンブトール内服患者の約3%に発症し,服用開始から1年以内に発症することが多い.発症には個人差が大きく,総投与量との相関は証明されていないが,むしろ体重当りの投与量と関係があり,15mg/kg以下の投与量で発症することは稀である.腎機能が低下してい図8症例:76歳,女性a(上段):エタンブトール視神経症のGoldmann動的量的視野検査.両耳側半盲様の暗点を認める.b(下段):両眼視神経乳頭の耳側蒼白化と右眼乳頭下方に線状出血を認めた.1530あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(38) る症例では発症リスクが高まる.両眼進行性の視力低下,色覚異常,中心フリッカー値低下,中心暗点がよく知られているが,両耳側半盲を呈することも多いので注意が必要である.視神経症の発症にはエタンブトールの亜鉛に対するキレート作用が関与していると考えられているが,成人脳では視交叉は亜鉛含有量が少ない部位であるため,視交叉が障害され耳側半盲を呈しやすいと考えられている.図8に76歳女性症例を提示する.徐々に進行する両眼視力低下で近医を受診し,視野検査にて両耳側半盲様の視野を呈したため(図8a),MRI(磁気共鳴画像)検査を受けるも視交叉近傍病変は検出されなかった.両眼視神経乳頭耳側に萎縮を認め右眼乳頭下方には線状出血を認めた(図8b)ことから,緑内障と診断され当科に紹介されてきた.初診時の矯正視力は右眼(0.1),左眼(0.4)であった.2週間後には両眼とも(0.05)に低下した.半年前に発熱あり内科に1カ月入院したとの病歴があり,内科医に問い合わせたところエタンブトール500mg/日内服が確認された.内服中止およびビタミンB12,B6内服にて2カ月後に視野障害は消失し視力は両眼(1.2)に改善した.慢性進行性に両眼視野障害が進行し,眼底に視神経萎縮が認められ,かつ頭蓋内病変が否定された場合,経過から,消去法的に緑内障と診断されがちである.特に近視性乳頭変化を伴う場合は中心視力も障害されるタイプの正常眼圧緑内障と診断され対応に苦慮することがある.鑑別は,何よりもエタンブトール視神経症を念頭に置いた病歴聴取を行うことに尽きる.両耳側半盲様の視野障害に加え中心視力が低下してきた場合は,視交叉近傍病変を画像診断で否定したうえで,エタンブトール視神経症を疑うよう心掛けたい.おわりに近年の眼底イメージングの進歩と普及は著しく,緑内障性視神経萎縮と後天性視神経症との鑑別を命題とした多くの研究結果が報告されている6.10).しかし現時点では特異度100%のパラメータはなく,視力や視野障害パターンや経過などの臨床所見を総合して判断することが正確な診断には必要不可欠である11).特に後天性視神経疾患との鑑別には,各々の臨床的特徴を認識したうえで,視神経乳頭所見だけに偏らない診断を心掛ける必要があることを強調したい.文献1)TrobeJD,GlaserJS,CassadyJetal:Nonglaucomatousexcavationoftheopticdisc.ArchOphthalmol98:10461050,19802)HayrehSS,JonasJB:Opticdiscmorphologyafterarteriticanteriorischemicopticneuropathy.Ophthalmology108:1586-1594,20013)LennonVA,KryzerTJ,PittockSJetal:IgGmarkerofoptic-spinalmultiplesclerosisbindstotheaquaporin-4waterchannel.JExpMed202:473-477,20054)MashimaY,KimuraI,YamamotoYetal:OpticdiscexcavationintheatrophicstageofLeber’shereditaryopticneuropathy:comparisonwithnormaltensionglaucoma.GrafesArchClinExpOphthalmol241:75-80,20035)FournierAV,DamjiKF,EpsteinDLetal:Discexcavationindominantopticatrophydifferentiationfromnormaltensionglaucoma.Ophthalmology108:1595-1602,20016)Danesh-MeyerH,SavinoPJ,SpaethGLetal:ComparisonofarteritisandnonarteriticanteriorischemicopticneuropathieswiththeHeidelbergretinatomography.Ophthalmology112:1104-1112,20057)SaitoH,TomidokoroA,SugimotoEetal:Opticdisctomographyandperipapillaryretinalnervefiberlayerthicknessinnonarteriticischemicopticneuropathyandopen-angleglaucoma.Ophthalmology113:1340-1344,20068)Nagai-KusuharaA,NakamuraM,KanamoriAetal:EvaluationofopticnerveheadconfigurationinvarioustypesofopticneuropathywithHeidelbergRetinaTomography.Eye22:1154-1160,20089)RebolledaG,NovalS,ContrerasIetal:Opticdisccuppingafteropticneuritisevaluatedwithopticcoherencetomography.Eye23:890-894,200910)Danesh-MeyerHV,BolandMV,SavinoPJetal:Opticdiscmorphologyinopen-angleglaucomacomparedwithanteriorischemicopticneuropathies.InvestOphthalmolVisSci51:2003-2010,201011)O’NeillEC,Danesh-MeyerHV,KongGXetal:Opticdiscevaluationinopticneuropathies:theopticdiscassessmentproject.Ophthalmology118:964-970,2011(39)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131531

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特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1517.1523,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1517.1523,2013【各論】先天性視神経疾患と緑内障CongenitalOpticDiscAbnormalitiesandGlaucoma澤田明*はじめに先天性視神経疾患には,視神経乳頭無形成,視神経乳頭低形成,朝顔症候群,視神経乳頭欠損,視神経乳頭小窩,傾斜乳頭,有髄神経線維,視神経乳頭ドルーゼンなどさまざま存在するが,さらに常染色体優性視神経萎縮やLeber病に代表される明らかな遺伝性視神経疾患をも包括しており多岐にわたる.先天性視神経疾患の頻度として(小児が対象),視神経乳頭低形成(47%),視神経乳頭欠損(31.4%),朝顔症候群(11.8%),有髄神経線維(9.8%)の順で,韓国から報告されている1).臨床的には,1)視神経乳頭サイズの異常,2)傾斜乳頭など視神経乳頭の形態異常,3)Bergmeister乳頭遺残など視神経乳頭上の組織異常,に分けて考えると整理しやすい2).これら先天性視神経疾患のなかには,しばしば緑内障性視神経萎縮と誤診され加療をされている症例が少なくない.しかしながら,これら2者を明瞭に区別して診断することは必ずしも容易でないことも事実である.わが国における多治見スタディの調査結果3,4)では,緑内障有病率は40歳以上の5.0%,疑い例を含めると12.5%と報告されている.さらに広義の原発開放隅角緑内障(3.9%)のうち,眼圧が21mmHgを超える症例はわずか7.7%しか存在しない.したがって,40歳以上の緑内障患者の10人に9人は正常眼圧緑内障ということになる.わが国における緑内障診断にあまり眼圧測定値が参考にならないこと,また正常眼圧緑内障にはunilateral症例が多く存在することなどが,先天性視神経疾患と緑内障性視神経萎縮,特に正常眼圧緑内障との鑑別を困難にしている要因の一つに挙げられる.本稿では,特に緑内障と誤診されやすい先天性視神経疾患について述べる.I視神経低形成(opticnervehypoplasia)視神経低形成は,臨床的に遭遇することが最も多い先天性視神経乳頭異常であり,乳頭全体の低形成と部分的な低形成とがある.部分的低形成には,上方,下方,鼻側が存在することが知られている.片眼性より両眼性の症例が多いとされる.視神経の軸索数は準正常(subnormal)である.その多くは原因不明の散発例であるが,全身的疾患(中枢神経系異常や内分泌異常)と関連する場合があり,頭部MRI(磁気共鳴画像)などの精査は必要である.視神経は通常小さい.その指標として,視神経乳頭中心と黄斑部の距離(disc-maculardistance:DM)と乳頭径(discdiameter,乳頭縦径+横径を2で割った値:DD)の比(DM/DD)は,眼底写真上などで視神経乳頭サイズを計測可能な手法として広く用いられている.乳頭縦径は,横径よりも約9%長いと報告されている.図1にその対比を示す.Aが比較的大きな視神経乳頭であり,DM/DD比は1.9と算出される.一方,Bの症例ではDM/DD比は4.8と算出される.この値は,正常値は2.4.3.0であり,3.0を超えると小乳頭であるとされる.DM/DD比は,視力レベルと関連したとする報告もある5).*AkiraSawada:岐阜大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤田明:〒501-1194岐阜市柳戸1の1岐阜大学医学部眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(25)1517 DMDDDM/DD:1.9ADMDDDM/DD:4.8BDMDDDM/DD:1.9ADMDDDM/DD:4.8B図1比較的大きい乳頭(A)と小乳頭(B)の症例大きい乳頭(A)ではDM/DD比1.9,小乳頭(B)ではDM/DD比4.8と算出される.図2視神経乳頭全体の低形成を示す症例62歳,女性.視神経乳頭は小さく(DM/DD比=3.7),周囲全体に色素沈着を伴うhalo(doubleringsign)を認める.矯正視力は1.5と良好.傍中心の比較暗点を認める.1518あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(26) 図3視神経乳頭部分低形成を示す症例(1)34歳,女性.矯正視力は両眼1.5と良好.右眼には視神経乳頭上方にdoubleringsignを認める.視野にてMariotte盲点から連なる下方視野欠損を認める.OCT上,右眼は上方.鼻側.下方に幅広く網膜神経線維層欠損を認める.左眼には上方.鼻側の網膜神経線維層欠損を認める.また,色素沈着を伴う黄色調のhaloで囲まれる,いわゆるdoubleringsignを認める(図2).Doubleringsignの外周は,強膜と篩状板の境界であり,内周まで篩状板を超えて色素上皮が存在している.視力は,正常から光覚弁(.)の症例までさまざまである.視神経低形成と類似した用語として,乳頭低形成(opticdischypoplasia)があり,両者合併することもあるが,病態の本質により使い分けることは重要である.II上方視神経部分低形成(superiorsegmentalopticnervehypoplasia:SSOH)1977年にPetersenら6)により報告された,視神経部分低形成のなかで最も多く,視力良好なタイプである.Yamamotoら7)は,わが国での頻度は0.3%と報告している.家系内で発症することもあり8),やや女性に多く認められる6,7,9).また,1型糖尿病を有する母親との関連性も指摘されている6,9).発症機序は,一次網膜神経節細胞の発達異常によるもの,網膜神経節細胞の過剰なapoptosisによるものが考えられている.その眼底所見の特徴として1)視神経乳頭部の血管分岐部の上方偏位,2)視神経乳頭上部のhalo,3)視神経乳頭部のrim蒼白,4)視神経乳頭上部のNFLD(nervefiberlayerdefect:網膜神経線維層欠損)が挙げられる9)が,これら4徴候が揃って認められる症例は多くはない.視野は,Mariotte盲点より連なる下方から耳側視野障害を特徴とするが,症例によりさまざまであり,上方視野障害,鼻側視野障害なども認めることがある.ま(27)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131519 図4視神経乳頭部分低形成を示す症例(2)50歳,女性.視神経乳頭上方から鼻側にdoubleringsignを認める.矯正視力は1.5と良好.視野にてMariotte盲点から連なる下方視野欠損および上耳側視野欠損を認める.OCT上,上方.鼻側.下方に幅広く網膜神経線維層欠損を認める.15年ほど経過観察しているが,視野欠損は進行していない.図5視神経乳頭部分低形成に正常眼圧緑内障を合併した症例75歳,男性.当初は鼻上側の視神経乳頭部分低形成と診断し無治療で経過観察していた.数年後,6-7時の網膜神経線維層欠損がはっきりしてきたため(対応して上方傍中心暗点を認める),現在正常眼圧緑内障合併症例として加療している.た,必ずしもHumphrey中心プログラム30-2で捉えらを示す.視神経乳頭所見からは,上側あるいは鼻側に限れないものもあり,症例によってはGoldmann動的視局している低形成と判断される症例においても,直像鏡野検査を施行し,視野障害の程度を把握する必要がああるいはOCTによりNFLDが思った以上に広範囲にる.及んでいることが認識可能である.図3.5に当院で経過観察している視神経部分低形成視神経部分低形成と緑内障が合併したとする報告は散1520あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(28) 見される10.12).しかしながら,その頻度が高いか否かについては不明であるが,藤本12)は,自験例のSSOH30例のうち,6例(20%)が緑内障を合併したと報告している.したがって,注意深い経過観察は必要であると考える.III傾斜乳頭(tilteddisc)傾斜乳頭(図6)は,日常診療でよく診る視神経乳頭の解剖学的異常であり,その頻度は0.4.3.5%と報告されている13).正常眼においては,視神経が眼球に進入する角度はほぼ垂直であるのに対し,傾斜乳頭眼においては,進入角度が傾斜の程度により強くなってくる.胎生期の眼裂閉鎖不全が原因で生じるとされている.傾斜乳頭の定義は曖昧さを有するが,1)視神経乳頭表面の高さの違いによって生じる傾斜,2)視神経乳頭の冠状軸に対する回旋(rotation),という2つのcomponentを区別して考えたほうが理解はしやすい.傾斜乳頭を示す症例では,近視および乱視の頻度は高く,その形状は,卵型あるいはD型を呈する.傾斜乳頭において,時に視野欠損を認めることがある.視野欠損はどこの象限にも生じることがあるが,その33.3%は上耳側に生じ,ついで上方(25%)と続く14).しかしながら,垂直経線は超えない.この視野欠損には屈折異常が関わっているため,検査の折に矯正は必要だが,適切な矯正下でも網膜感度の低下を認めることがある.また,網膜外方偏位(ectasia)が生じている部位における視神経アクソンあるいは光受容体の密度の減少が,視野障害に関わっているとも考えられている13).一方,傾斜乳頭のなかで,傾斜乳頭症候群(図7)と呼称される症候群が存在する.1882年Fuchs15)により報告された症候群であり,視神経上耳側の隆起,網膜血管がいったん鼻側に向かった後反転して耳側に向かう走図6傾斜乳頭と正常眼圧緑内障の合併症例71歳,女性.D型の傾斜乳頭.鼻下側にコーヌスを認める.乳頭逆位(situsinvertus)は認めない.下方.耳下方に網膜神経線維層欠損を認める.上方に視野欠損を認める.15年以上経過観察しており,視野進行は緩徐である.(29)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131521 図7傾斜乳頭症候群(単純糖尿病網膜症合併)48歳,女性.視神経乳頭は約30°に逆時計方向に回旋しており,鼻下側にコーヌスを認める.乳頭逆位(situsinvertus)を認める.行異常(乳頭逆位:situsinversus),乳頭下鼻側のコーヌス,下鼻側の網膜色素上皮および脈絡膜の菲薄化(ectasia)を特徴とする.ただ,傾斜乳頭症候群のすべてが下鼻側への回旋を呈するわけではなく(65%は下鼻側への回旋),また乳頭逆位は80%,乳頭下鼻側のコーヌスは88%,網膜偏位は72.90%に認めたと報告されている16).上耳側の視野障害を生じるが,同様に垂直経線は超えない.傾斜乳頭症候群における視野欠損は,鼻下側の近視性眼底変化に起因する.しかしながら,正常人と比較した場合,すべての象限において網膜感度の低下が生じているとする報告もある17).傾斜乳頭に緑内障が合併しやすいかどうかについては不明である.傾斜乳頭も緑内障も近視である頻度が高く,乳頭周囲網脈絡膜萎縮(parapapillaryatrophy:PPA)も共通してよく認められる.視野障害が,緑内障あるいは傾斜乳頭に起因するかを明確に区別することはむずかしい.やはり基本に立ち戻り,視神経乳頭rim(特にlowerおよびupperのrimedge)のnotchingや,周囲のNFLDを丹念に観察する,ならびに眼圧値,角膜厚など基本的な臨床所見を重ね合わせて判断する必要がある.さらに視野欠損進行の有無を経過観察したうえで最終的に判断する.1522あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013おわりに先天性視神経疾患と緑内障による視神経障害の分離あるいは同定は,緑内障を専門とする眼科医でもむずかしい.原因の一つとして,先天性視神経疾患も緑内障にしても,診断の系統化の遅れがあるように感じる.それにもかかわらず,臨床的には相対する患者にある程度の指針を示すことは必要とされる.断片的にはやはりOCT(光干渉断層計)などの利用も宜しいかとは思うが,前置レンズなどを用い視神経乳頭rimの菲薄化や褪せた色調を立体的かつ直に観察し,NFLDとの統合性を丹念に検証することが重要である.また同時に定期的に視野検査およびOCTを施行し,初期診断の正当性を検討していく必要がある.文献1)KimMR,ParkSE,OhSY:Clinicalfeatureanalysisofcongenitalopticnerveabnormalities.JpnJOphthalmol50:250-255,20062)GolnikKC:Congenitalopticnerveanomalies.CurrOpinOphthalmol9:18-26,19983)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal;TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety.Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20044)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal;TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety.TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20055)BorchertM,McCullochD,RotherCetal:Clinicalassessment,opticdiskmeasurements,andvisual-evokedpotentialinopticnervehypoplasia.AmJOphthalmol120:605612,19956)PetersenRA,WaltonDS:Opticnervehypoplasiawithgoodvisualacuityandvisualfielddefects:astudyofchildrenofdiabeticmothers.ArchOphthalmol95:254258,19777)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProjectparticipants.JpnJOphthalmol48:578-583,20048)高田祥平,新田耕治,棚橋俊郎ほか:Superiorsegmentaloptichypoplasiaを含む視神経低形成の2家系.日眼会誌113:664-671,20099)KimRY,HoytWF,LessellSetal:Superiorsegmentaloptichypoplasia.Asignofmaternaldiabetes.ArchOphthalmol107:1312-1315,198910)OhguroI,OhguroH:Acaseofsuperiorsegmentaloptic(30) hypoplasiaaccompaniedbyaglaucomatousopticneuropathy.ClinOphthalmol2:475-478,200811)YamazakiY,HayamizuF:Superiorsegmentalopticnervehypoplasiaaccompaniedbyprogressivenormal-tensionglaucoma.ClinOphthalmol6:1713-1716,201212)藤本尚也:視神経低形成と緑内障との鑑別と合併.神眼24:426-432,200713)WitmerMT,MargoCE,DruckerM:Tiltedopticdisks.SurvOphthalmol55:403-428,201014)VongphanitJ,MitchellP,WangJJ:Populationprevalenceoftiltedopticdisksandtherelationshipofthissigntorefractiveerror.AmJOphthalmol133:679-685,200215)FuchsE:BeitragezudenangeborenAnomaliendesSehnerven.ArchOphthalmol28:139-169,188216)GurluVP,AlimgilML,BenianO:Topographicalanalysisofthevisualfieldintilteddisksyndrome.Retina22:366368,200217)RiiseD:Thenasalfundusectasia.ActaOphthalmol(Suppl)126:3-108,1975(31)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131523

視神経乳頭と視野以外の所見からみた緑内障性視神経症の鑑別

2013年11月30日 土曜日

特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1511.1516,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1511.1516,2013【総論】視神経乳頭と視野以外の所見からみた緑内障性視神経症の鑑別DifferentialDiagnosisofGlaucomatousOpticNeuropathyUsingVariousMethods大久保真司*はじめに緑内障診療ガイドライン第3版1)に,「緑内障は,視神経乳頭と視野に特徴的変化を有し」と定義されており,緑内障診断において視神経乳頭所見と視野の対応をみることが基本である.さらに緑内障診療ガイドライン第3版には,「視神経所見と視野所見に不一致のある場合,視神経乳頭の色調が陥凹の程度に比して蒼白な場合などのときには,視野,視神経の再検査のうえ,頭蓋内病変などの検索を行うことも考慮すべきである」と記載されており,視神経所見と視野所見に不一致のある場合は必ず他の眼疾患や頭蓋内疾患の除外が必要である.多治見スタディでは,40歳以上の日本人における緑内障の有病率は推定5.0%とされており,緑内障は珍しい疾患ではないので,他疾患と緑内障が合併している症例もそう珍しくないと思われる.他疾患のある症例に緑内障性視神経症が合併しているかどうかを判断することは度々困難なこともあると思われる.視神経乳頭所見および視野以外の所見からみた緑内障性視神経症の鑑別診断の手法について,頭蓋内疾患の除外を目的としたmagneticresonanceimaging(MRI),眼底には検眼鏡的に明らかな異常がみられないような網膜疾患の鑑別を可能にする多局所網膜電図および光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),そして忘れてはならない問診の重要性に関して総論的にまとめてみたい.I頭部MRI頭部の画像診断といえば,computedtomography(CT)とMRIが挙げられるが,緑内障性視神経症の鑑別および評価を行うのであれば,軟部組織の描出に優れ,質的な判断が可能なMRIが最も有用と思われる.緑内障性視神経症の鑑別という観点では,MRIのオーダーの際に,脂肪抑制を併用した冠状断も撮影する,可能であれば造影を併用することが重要である.1.視神経を評価するなら脂肪抑制緑内障性視神経症の鑑別をするためには,視神経の評価が中心となると思われる.視神経は高信号を呈する眼窩脂肪に取り囲まれているため,通常のT1強調画像とT2強調画像では視神経の炎症や異常をうまく描出できない.そのため,視神経を評価する際には脂肪抑制が必須と思われる.脂肪抑制法には現在多数の方法が用いられているが,代表的なものには,縦緩和の差を利用するshortTIinversionrecovery(STIR)法と,共鳴周波数差を利用する化学シフト選択的脂肪抑制法(CHEmicalshiftSelectiveImagingSequence:CHESS法)がある.STIR法は,組織ごとの縦緩和時間の違いを利用して,反転時間を脂肪が0になるタイミングで計測する手法である.STIR法は,磁場の不均一性に強いという特徴を有するため,磁場が不均一になりがちな副鼻腔が周囲に存在する眼窩部には非常に有用な方法である3).そのた*ShinjiOhkubo:金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科学)〔別刷請求先〕大久保真司:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科学)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(19)1511 ABAB図1症例1(34歳,女性):左眼視神経炎A:脂肪抑制(CHESS法)併用ガドリニウム造影T1強調画像(水平段).左眼窩部は脂肪が抑制され,左眼視神経が造影されている(白丸).右眼窩部の脂肪は副鼻腔の磁場が不均一のため脂肪が抑制されておらず脂肪が高信号であり,視神経の異常の判定は困難である(赤丸).B:脂肪抑制(CHESS法)併用T2強調画像(冠状断).左眼窩部は脂肪が抑制され,左眼視神経が高信号を呈している(白丸).右眼窩部の脂肪は抑制されておらず脂肪が高信号である(赤丸).め,眼科領域で特に用いられている.しかし,STIR法では,ガドリニウム造影と併用することができないという欠点がある.一方,物質ごとの共鳴周波数の違いを利用して励起周波数を脂肪に合わせた飽和パルスを用いて,脂肪組織を選択的に抑制するCHESS法はすべてのシーケンス法で併用可能であり,ガドリニウム造影と併用することができる3).しかし,磁場の高い均一性が必要であるため,副鼻腔が周囲に存在する眼窩部において脂肪がうまく抑制できないことがある(図1).2.できる限り造影剤併用正常眼圧緑内障と間違われやすい頭蓋内疾患の代表として,髄膜腫が挙げられる4).髄膜腫は,脳実質と等信号輝度であるため造影剤を併用しないと見逃す危険性があるが,脂肪抑制を併用したT1強調画像に造影剤を用いると著しく造影され腫瘍は明瞭になる4)(図2).そこで,腎障害などの禁忌がなければ,造影剤を併用することが望ましい.3.冠状断は必須視神経を評価する際には,視神経の断面が観察できる1512あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013冠状断も撮影し,形状や信号輝度を左右で比較することは必須である.IIMRIでの緑内障性視神経症の評価と視神経乳頭形成異常との鑑別中尾4.6)は,STIR法では視神経内に炎症や脱髄を有する特発性視神経炎,多発性硬化症,一部の鼻性視神経症,外傷性視神経症,浸潤性視神経症で病変部分が高信号となり,診断や病態の把握に有用であることを述べているが,さらに緑内障患者の視神経をSTIR法で評価し,緑内障性の視野異常と視神経乳頭陥凹を有するものでは,視神経が異常高信号を呈することを報告している.さらに,Gapless法を用いて視神経を連続切片に検討し,初期から中期の視野異常例では第1スライスから高信号輝度が得られ,その信号輝度比は前方で高く,後方に向かうにつれ次第に低下する,いわゆる上行性視神経萎縮の病態を示し,進行した末期の視野異常例では視神経の全長にわたって高信号輝度を呈することを示し,緑内障におけるMRIの有用性を報告している.さらに,視野異常を有する視神経乳頭形成異常症例をSTIR法で評価すると,基本的に視神経のどのスライスも等信号で,異(20) ABA:右眼Humphrey24-2SITAstandardのプリントアウト.上下に弓状の緑内障性視野障害のようにもみえる感度低下がある.B:右眼底写真.視神経乳頭に緑内障性変化はみられない.C:脂肪抑制(CHESS法)併用T2強調画像(水平断).右眼視神経およびその周囲が高信号を呈している(赤矢印).右眼視神経に異常があることがわかる.D:T1強調画像(単純)(冠状段),およびE:ガドリニウム造影T1強調画像(Dとほぼ同じ断面).腫瘍はガドリニウムに造影され脳実質とコントラストが明瞭になっているが(赤矢印),単純撮影において腫瘍(白矢印)は脳実質と等信号輝度のため腫瘍を見逃がす可能性がある.この腫瘍が右眼視神経を圧迫していた.CDE図2症例2(63歳,女性):鞍結節髄膜腫による右眼視神経圧迫半年前から右眼の見にくさを自覚し,受診.初診時右眼視力は0.4(1.2×+2.5D).中心フリッカー値は右眼25Hz,左眼37Hz.(21)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131513 図3症例3(39歳,男性):両眼の視神経乳頭形成異常〔上方視神経部分低形成:superiorsegmentalopticnervehypoplasia(SSOH)〕左眼右眼のSTIR画像(冠状断)両眼窩部は脂肪が抑制されている.視神経(赤矢印)の信号輝度は両眼ともに等信号を呈している.ACBD図4図4症例4(42歳,女性):右眼急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)コンタクトレンズ作製時に右眼軽度視力障害および視野障害を指摘された.初診時視力は0.03(0.8×.7.0D).A:右眼Humphrey24-2SITAstandardのプリントアウト.耳側に軽度の感度低下がみられる(赤点線丸).B:右眼底写真.視野障害を説明しうる眼底の異常はみられない.C:多局所網膜電図.左眼は正常であるが,右眼は視野障害に一致した振幅の低下がみられる(赤点線丸).また,右眼の視力障害に対応するように,中心の振幅も低下している.D:右眼光干渉断層計.視野欠損に一致したIS/OSlineの不鮮明化(赤矢印)と網膜外顆粒層の菲薄化(赤点線矢印)がみられる.1514あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(22) 常信号がみられず,緑内障との鑑別に有用である(図3).視神経乳頭形成異常症例ではしばしば緑内障の合併の有無を評価することが困難であるが,STIR法で緑内障の合併の有無も鑑別可能であると報告している.III眼底に明らかな異常がない網膜疾患の鑑別における多局所網膜電図とOCT通常の眼底病変であれば,視野障害に対応する眼底病変が認められるために視野障害の原因の鑑別は容易である.しかし,眼底に明らかな異常がないにもかかわらず視野障害をきたす網膜疾患として急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)がある(図4).AZOORの診断には多局所網膜電図およA図5症例5(25歳,男性):左眼のcottonwoolspots後に生じた網膜神経線維層欠損A:2005年の眼底写真.静脈が拡張蛇行し,眼底出血およびcottonwoolspots(白矢印)がみられる.B:2009年の無赤色眼底写真.Cottonwoolspotsのあった場所に網膜神経線維層欠損が生じている(赤矢印).C:Humphrey視野.網膜神経線維層欠損に対応した下方の視野障害がみられる.(23)びOCTが有用である.AZOORは若年女性の片眼あるいは両眼に発症し,急性の耳側または中心視野欠損をきたす疾患である7)が,視野障害をきたす疾患として鑑別が必要なことがある.緑内障は,網膜視細胞の異常ではなく,網膜神経節細胞の異常であるため,網膜神経節細胞の機能を反映しているとされるPhotopicnegativeresponse(PhNR)以外の網膜電図には通常異常はみられない.AZOORでは,多局所網膜電図で視野欠損部に一致して振幅が低下している(図4C).OCTでは,視野異常に対応する部位のいわゆるIS/OSline(最近ではこのラインは視細胞内節の一部であるエリプソイドであるとの考えもある:用語解説)の減弱および外顆粒層の菲薄化BCあたらしい眼科Vol.30,No.11,20131515 がみられる(図4D).IV既往歴の確認を中心とした問診の重要性陳旧性の網膜分枝動静脈閉塞症でも網膜神経線維層欠損のみられることがあり,近辺の網膜血管の狭小化,拡張蛇行や新生血管や出血に注意する必要がある.しかし,軟性白斑(cottonwoolspots)後に生じる網膜神経線維層欠損はさらに注意が必要である(図5).虚血をきたすような疾患がないか,あるいは既往がないかを確認する必要がある.過去に軟性白斑が生じたことがわかっていれば,診断に困らないが軟性白斑が消失してしまった後では,網膜神経線維層欠損が視神経乳頭につながる場合もあり8),極早期の緑内障と鑑別が困難なことがある.その際は,視神経乳頭の変化を再評価し,慎重な診断が必要である.おわりに緑内障診断の基本が視神経乳頭所見を中心とした眼底所見と視野との対応であるが,その対応に疑問を抱いたり,陥凹の程度の割に視神経乳頭の色調が蒼白である場合は,脂肪抑制を併用した頭部MRIを施行する必要がある.MRIは,緑内障と視神経乳頭形成異常の鑑別や,視神経乳頭形成異常眼への緑内障の合併の有無も評価可能になってきている.AZOORなどの視野異常をきたす網膜疾患にはOCTや多局所網膜電図なども有用である.また,緑内障自体は稀な疾患ではないので緑内障眼にAZOORなどが合併することもあり,緑内障経過観察中に急な視野の悪化がみられたときは,緑内障以外の疾患の合併の可能性を考えて診療にあたる必要がある.また,さまざまな検査も重要であるが,症状の問診や過去の既往などをきちんと聞くことで,診断につながることもある.最後に,現状ではすべての緑内障患者にMRIなどを行うのは現実的ではない.緑内障以外の疾患の関与を疑うためには,緑内障性視神経症および緑内障性視野障害■用語解説■IS/OSline:IS/OSとは視細胞内節外節接合部(junctionbetweentheinnerandoutersegmentofthephotoreceptors)の略である.OCTの外境界膜の外側にある高反射のラインは,視細胞の内節と外節の境界である1)と考えられ,IS/OSlineとよばれ広く用いられてきた.しかし,最近ではそのlineは実は視細胞の内節と外節の境界ではなく,内節のエリプソイドに一致する2)と報告され,そのように考えられてきている.本稿では,従来から広く用いられているIS/OSlineとして記載した.1)DrexlerW,SattmannH,HermannBetal:Enhancedvisualizationofmacularpathologywiththeuseofultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol121:695-706,20032)SpaideRF,CurcioCA:Anatomicalcorrelatestothebandsseenintheouterretinabyopticalcoherencetomography:literaturereviewandmodel.Retina31:1609-1619,2011を正しく評価することが最も重要である.文献1)阿部春樹,相原一,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドライン(第3版),日眼会誌116:3-46,20122)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20043)橋本雅人:眼窩MRI脂肪抑制撮影法の選択と適応.眼科プラクティス5.これならわかる神経眼科(根木昭編),p131,分光堂,20054)中尾雄三:緑内障と間違われやすい視神経病変─神経眼科医からのアプローチ─.日本の眼科76:1169-1174,20055)中尾雄三:視神経疾患の画像診断─撮像法の工夫と臨床応用.臨眼61:1624-1633,20076)中尾雄三:視神経乳頭形成異常(不全)と正常眼圧緑内障─MRI画像からの考察─.神眼24:397-404,20077)GassJDM:Acutezonaloccultouterretinopathy.JClinNeuro-Ophthalmol13:79-97,19938)KohJW,ParkKH,KimMSetal:Localizedretinalnervefiberlayerdefectsassociatedwithcottonwoolspots.JpnJOphthalmol54:296-299,20101516あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(24)

視野からみた緑内障性視神経症の鑑別診断

2013年11月30日 土曜日

特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1503.1510,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1503.1510,2013【総論】視野からみた緑内障性視神経症の鑑別診断DiagnosingGlaucomatousOpticNeuropathyfromtheVisualField中野匡*はじめに緑内障は単一検査で確定診断に至る有効な判定法が確立されていないため,常に視野障害と,それに対応する視神経障害との整合性を慎重に検証する必要性がある.なかでも正常眼圧緑内障は,除外診断が決め手となり最終判断に至るグレーゾーンの症例も数多く,類似した眼底・視野所見を呈する他疾患を確実に見分けることが重要となる.本項では緑内障の特徴的な視野欠損が,どのようなものかを整理しつつ,視野検査から一見緑内障と間違える可能性がある他疾患と,その相違点や鑑別の限界について解説する.I緑内障性視野障害とはなにか?緑内障診療ガイドラインでは緑内障の定義として,「視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」と記載されている1).それでは緑内障に特徴的な視野とは,具体的にどのような視野障害を意味するのであろうか.緑内障は網膜神経節細胞とそれに連なる網膜神経線維層が最初に障害される疾患とされている.そのため視野も神経線維の走行に沿った障害を受け,確定診断にあた耳側縫線傍中心部孤立暗点半視野部分弓状欠損半視野完全弓状欠損上方弓状線維束放射状線維束乳頭黄斑線維束下方弓状線維束図1網膜神経線維走行(右眼)上下弓状欠損鼻側階段耳側楔状欠損図2緑内障の視野障害パターン(右眼)*TadashiNakano:東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕中野匡:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(11)1503 っては検眼的,もしくはOCTなどの三次元眼底画像解析装置で検出された網膜神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)の領域と,実際の視野検査の結果に整合性(つじつま)が合うことが重要となる.網膜神経線維層の走行は,弓状神経線維束,乳頭黄斑線維束,耳側の放射状線維束の3つの領域に分類され,さらに弓状神経線維束は耳側縫線により上下に分かれ,その境界線を越えることはない(図1).通常,緑内障では視神経乳頭篩状板の上下極付近から障害されることが多く,視野障害もそれに対応する弓状神経線維束から障害されやすい.定型的な視野障害(図2)では,傍中心部の孤立暗点から始まり,部分的な弓状暗点から耳側縫線までつながる完全型へと推移する.一般に上下半視野の障害は進行に差があるため,鼻側階段を呈することが多く,進行すると鼻側穿破となる.さらに上下の弓状暗点が癒合し,やがて中心視野と耳側島状視野(周辺視野)に分断されていく.強度近視眼では乳頭黄斑線維束の領域,もしくはそれに迫る中心視野が障害されることがあるが,耳側の放射状神経線維は緑内障で単独に障害されることは少なく,一部の非典型的な症例に限定される2).通常視野障害パターンから緑内障の病型を推察することは困難であるが,正常眼圧緑内障では固視点近傍の急峻な視野障害3,4)や下方の視野障害5)が多いとされている.さらに原発閉塞隅角緑内障などの一部の症例では,びまん性で全体的な視野沈下を生じることがある.II緑内障との鑑別に注意が必要な他疾患日常の外来診療では,白内障などの中間透光体の影響で眼底所見が不明瞭な症例や,強度近視眼などでNFLDが判別しづらい豹紋状眼底,視野障害の予想が困難な視神経形状などにしばしば遭遇する.このような視神経所見との整合性に苦慮する症例では,視野障害パターンを拠り所として緑内障を診断せざるを得なくなり,鑑別に注意が必要な疾患がある.左眼視野(24-2閾値検査)グレースケールパターン偏差発症時の眼底写真視野検査時の眼底写真図3陳旧性の網膜血管微小梗塞(左眼)66歳,女性.眼底所見で明瞭なNFLD様所見があり,視野も相応する視野欠損が確認された.発症時の眼底所見がないと緑内障との鑑別はむずかしく,NFLDに連続する乳頭辺縁部の狭小化の有無が診断に有効と思われる6).1504あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(12) 視野(30-2SITAStandard)グレースケールパターン偏差眼底写真Goldmann視野図4加齢黄斑変性症(右眼)71歳,男性.Goldmann視野は中心暗点であることを明確に示すが,自動視野検査だと,傍中心暗点タイプの緑内障様所見にもみえる.この症例では中心窩閾値は24dBと明らかに低下していた.視野(30-2閾値検査)Goldmann視野グレースケールパターン偏差図5視神経炎(左眼)45歳,女性.突然の視力障害(矯正視力0.5)を自覚し,上方の水平半盲を認めた.視神経炎は虚血性視神経症に比べて,なだらかな水平半盲を呈すことが多いとされる.(13)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131505 症例162歳,女性(右眼)症例268歳,女性(右眼)症例347歳,女性(両眼)3027292930272725302422282530273129313031図6下垂体腺腫における視野障害両耳側半盲の検出は,両耳側半盲性暗点,沈下が視認しやすいGoldmann視野が有効であるが,自動視野計で評価する際は垂直経線をはさんで連続する感度閾値の左右差(低下)に注意する.1506あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(14) 1.網脈絡膜循環障害陳旧性の網膜静脈分枝閉塞症や糖尿病などによる網膜の微小梗塞では注意する必要がある.発症時に自覚症状がないと診断の手掛かりが乏しく,緑内障との鑑別が困難となる(図3).2.網膜変性疾患加齢黄斑変性症などの黄斑部疾患は,ほとんどの症例が眼底所見で鑑別がつくが,視野検査は緑内障様の傍中心部視野障害を示すことがあり注意が必要である.通常黄斑部疾患は早期緑内障と異なり,視力が低下して中心窩閾値も落ちる(図4).また,強度近視眼などで後極部の網脈絡膜萎縮が強い症例では,対応する部位の視野沈下や屈折暗点と緑内障との鑑別に注意する必要がある.3.神経眼科疾患神経眼科疾患と緑内障との鑑別は,自動視野計の診断が主体となる今日の緑内障診療で特に注意が必要である.なかでも水平半盲性視野を呈した虚血性視神経症や視神経炎は緑内障類似の視野障害を呈すことが多く7,8)(図5),また,両耳側半盲を呈する視交叉病変でも鑑別がむずかしい症例がある(図6).自動視野計での鑑別に限界があり,Goldmann視野検査(Goldmannperimetry:GP)の診断的意義は非常に大きいといえる.さらに先天性の視野障害を呈する視神経低形成では,耳側に楔上の視野欠損を生じる場合は比較的鑑別が容易である視野(30-2SITAStandard)グレースケールパターン偏差眼底写真Goldmann視野図7視神経低形成の視野障害(左眼)(15)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131507 中心30°内の視野障害中心60°内の視野障害(30-2SITAStandard)(D1スタンダード)図8視神経低形成(SSOH)の視野障害(左眼)74歳,男性.周辺60°の検査プログラムによって,30°の測定範囲で把握できなかった下方の楔状視野欠損を確認できた.視野(30-2SITAStandard)頭部CT検査グレースケールパターン偏差Goldmann視野検査1カ月後に矯正視力は(0.9)に低下した図9鼻性視神経症(左眼)60歳,女性.NTGとして経過観察中であったが,定期検査1カ月後に急激な視力低下を自覚して来院した.RAPD陽性で,頭部CT検査にて篩骨洞のmucoceleによる圧迫性視神経症と診断された(既往歴として35年前に蓄膿手術歴があった).Goldmann視野で急峻な傍中心暗点を認めた.自動視野検査(グレースケール)でびまん性の視野沈下を認めたが詳細は不明であった.1508あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(16) が(図7),SSOH(superiorsegmentaloptichypoplasia)は診断に迷う可能性があり,その際は周辺視野の測定が診断に有効となる(図8).III緑内障と他疾患との合併緑内障の経過観察中に他疾患を併発する症例もあるため,視野検査の際は進行評価のみでなく,それ以外の視野障害が隠れていないかにも注意する必要がある.評価に当たっては,患者の訴えが大切で特に急激な視野,視力低下の訴えは要注意といえる(図9).おわりに近年,緑内障性視野障害の確定診断,進行評価といえば,自動視野計が中心で,明らかにGoldmann視野を視野サマリー(30-2SITAStandard)最新検査左眼右眼頭蓋内出血(+)初回検査図10緑内障治療中に発症した右下1.4同名半盲78歳,男性.POAG,患者の自覚症状はまったくなかったが,初診後5年目に左後頭葉出血を併発した.(17)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131509 測定する機会が減った印象を受ける.定量的で精度の高い評価が可能となった反面,以前であれば鑑別が比較的容易であった他疾患を見落とす可能性が増えた.特に除外診断が大変重要な正常眼圧緑内障では注意が必要で,視神経所見と視野との整合性に少しでも疑問がもたれた際は,要注意といえる.ときには自動視野計の周辺視野プログラムやGoldmann視野を測定し,視野を俯瞰的にみることが大切であろう.また,緑内障の発見は,今後長きにわたる経過観察が始まることを意味している.緑内障が確定し治療観察中の症例であっても,解析ソフトによる定量的な進行評価のみでなく,視野サマリーなどを用いた時系列の定性的な評価は有効で(図10),先入観にとらわれず常に他疾患の鑑別,合併を意識する真摯な姿勢も大切であろう.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン,第3版.日眼会誌116:5-46,20122)古野史郎:近視と緑内障.日眼会誌84:142-151,19803)CaprioliJ,SpaethGL:Comparisonofvisualfielddefectsinthelow-tensionglaucomaswiththoseinhigh-tensionglaucoma.AmJOphtalmol97:730-737,19844)HitchingsRA,AndersonSA:Acomparativestudyofvisualfielddefectsseeninpatientswithlow-tensionglaucomaandchronicsimpleglaucoma.BrJOphthalmol67:818-821,19835)AraieMetal:Comparisonofvisualfielddefectsbetweennormal-tensionandprimaryopen-angleglaucomainthelatestageofthedisease.Graefe’sArchClinExpOpthalmol233:610-616,19956)PedersonJE,AndersonDR:Themodeofprogressivedisccuppinginocularhypertensionandglaucoma.ArchOphthalmol98:490-495,19807)BeckRW,TrobeJD,OpticNeuritisStudyGroup:Whatwehavelearnedfromtheopticneuritistreatmenttrial.Ophthalmol102:1504-1508,19958)Feldon,SE:Computerisedexpertsystemforevaluationofautomatedvisualfieldsfromtheischemicopticneuropathydecompressiontrial:methods,baselinefields,andsix-monthlongitudinalfollow-up.TransAmOpthalmolSoc102:269-303,20041510あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(18)

視神経形態からみた緑内障性視神経症の鑑別診断

2013年11月30日 土曜日

特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1495~1502,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1495~1502,2013【総論】視神経形態からみた緑内障性視神経症の鑑別診断DiagnosingGlaucomatousOpticNeuropathyfromtheOpticNerveHead廣岡一行*はじめに緑内障の診断は,視神経の構造変化を検出することが第一であるので,正常視神経乳頭を熟知する必要がある.緑内障性視神経症は表1に挙げるような特徴的な変化を,視神経乳頭とその近傍および網膜神経線維に認める(図1).しかし,これらの所見は緑内障に特異的な変化ではなく,他の視神経症にもみられるため,緑内障,なかでも眼圧および隅角や前眼部に異常を認めない正常眼圧緑内障(NTG)との鑑別に注意を必要とすることがある.緑内障性視神経症と鑑別が必要な疾患として,視神経疾患では虚血性視神経症,Leber病,視神経炎などが,網膜疾患では網膜動脈閉塞症,網膜静脈閉塞症などが挙げられる.本稿では眼底検査,画像解析の視点から緑内障性視神経症と鑑別すべき視神経疾患,眼底疾患について症例を提示しながら概説する.I生理的陥凹拡大乳頭陥凹拡大・リムの菲薄化を認めるもののうち,緑内障と紛らわしいものとして,巨大乳頭であるために相対的な乳頭陥凹拡大を呈する症例がある(図2).視神経乳頭の大きさは約0.8~6mm2までと個人差が大きく,大きな視神経乳頭では生理的陥凹は大きく,小さな乳頭では陥凹が明瞭でない場合が多い.生理的陥凹拡大では,一見緑内障のようにみえるが,視野に異常はみられない.緑内障の初期では垂直の陥凹のほうが大きくなっていくという原則とは異なり,リムは全周に同じように表1緑内障性視神経症に特徴的所見C/D(陥凹乳頭)比が0.7より大きい左右のC/D比の差が0.2より大きい露出血管主幹網膜血管の乳頭鼻側への偏移ラミナドットサインリムがISNTの法則に従わないノッチング網膜神経線維層欠損乳頭出血傍乳頭網脈絡膜萎縮保たれている.また網膜神経線維層欠損も認めない.正常乳頭の陥凹の大きさは乳頭径に比例するため,緑内障性か否かを診断する際には,乳頭の大きさを念頭におきながら評価することが重要である.乳頭径の目安としてDM/DD(乳頭中心と中心窩間距離/乳頭径)比がある.通常この比は2.4~3.0の間であるとされるので,それより小さい場合は大乳頭,大きい場合は小乳頭であると言える.II上方視神経低形成上方視神経低形成(superiorsegmentaloptichypoplasia:SSOH)は先天性の乳頭形態異常である.SSOHは①網膜中心動脈の上鼻側変位,②上鼻側の網膜神経線維層の菲薄化,③上方乳頭周囲の強膜のハロー,④上方視神経乳頭の蒼白,が特徴とされる(図3a).視神経乳頭の上方が欠損することにより,乳頭陥凹が上方*KazuyukiHirooka:香川大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕廣岡一行:〒761-0793香川県木田郡三木町大字池戸1750-1香川大学医学部眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)1495 abc図1右眼緑内障a:眼底写真.耳下側に網膜神経線維層欠損がみられる(矢印).対応するリムも菲薄化している.b:Humphrey視野.眼底写真の網膜神経線維層欠損の部位に対応した,上方の感度低下がみられる.c:OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚測定結果.眼底写真と対応する6時から7時の位置で正常眼データベースと比較し菲薄化がみられる(矢印).DMDD↑図2a→図2b1496あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(4) に拡大しているように観察され,緑内障と診断される場合がある.図3aは陥凹が上鼻側に拡大しており,上鼻側のリムの狭小化があり血管も急峻に屈曲している.Goldmann視野計で,網膜神経線維層欠損部と対応した部位に外部イソプターが著明に障害され,緑内障に比べてより周囲に流れた視野欠損を示すことが多い(図3b).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,網膜神経線維層の菲薄部位の同定の検出に優れており(図3c),またNTGとの鑑別における有用性も報告されている1).40歳以上の日本人におけるSSOHabc図3上方視神経低形成a:眼底写真.上方の広範な網膜神経線維層欠損と上鼻側のリムの菲薄化,網膜中心動脈の上鼻側変位を認める.b:Goldmann視野計.外部イソプターが著明に障害されている.c:上方11,12,1時の部位の乳頭周囲網膜神経線維層厚の菲薄化を認める(矢印).OCTによる本検査は網膜神経線維層厚の菲薄化の範囲を容易に同定できる.の有病率は0.3%と報告されており,決して稀な疾患ではない2).部分低形成は上方だけでなく,下方や鼻側低形成を呈する症例もあるので,注意深い乳頭の形状観察が必要である.III視神経炎抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎は再発を繰り返し,ステロイドパルス治療を行っても視機能回復率は不良で失明率が高い.視野異常の75%は中心暗点であるが,25%に両耳側半盲,非協調性同名半盲,水平半盲←図2巨大乳頭a:眼底写真.DM/DD(乳頭中心と中心窩間距離/乳頭径)比が2.2と乳頭径が比較的大きいために相対的な乳頭陥凹拡大を呈している.b:Humphrey視野.異常を認めない.(5)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131497 図4抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎a(上左):発症4年後の左眼眼底写真.上方のリムの蒼白化を認める.b(上右):OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚測定結果.リムの蒼白部と一致した部位の網膜神経線維層厚の菲薄化を認める(矢印).c(下):HumphreyとGoldmann視野計.水平半盲様視野障害を認める.がみられる3).のがわかる(図5b,c).急性期は自覚症状や眼底所見か図4aは抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の眼底写ら診断は容易であるが,慢性期になると視神経乳頭の色真であるが,上方のリムが蒼白しているのがわかる.調にだけとらわれてしまうと診断を誤る可能性がある.OCTではリムの蒼白している部位に一致して乳頭周囲通常緑内障性視神経症では乳頭蒼白部よりも乳頭陥凹が網膜神経線維層厚の菲薄化を認める(図4b).大きいが,視神経萎縮では乳頭陥凹よりも乳頭蒼白部が図5は右眼の視神経炎(多発性硬化症)である.急性大きくなり,リムが蒼白となるため,リムの色調は緑内期には乳頭は腫脹・発赤を認めるが(図5a),慢性期に障性視神経症と鑑別するうえで重要なポイントである.なるとリムは健眼である左眼に比べてやや蒼白しているリムの蒼白化は94%で緑内障以外の視神経萎縮に特異1498あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(6) aabc図5視神経炎a:急性期の右眼眼底写真.b:発症1年後の右眼眼底写真.c:健眼である左眼眼底写真.的であるが,局所あるいはびまん性のリムの途絶は87%で緑内障に特異的であると報告されている4).またOCTによる乳頭周囲網膜神経線維層厚は,視神経炎の(7)発症直後は厚くなるが,発症後3~6カ月で網膜神経線維層厚は最も薄くなり,以後持続する.IV網膜動脈分枝閉塞症網膜動脈分枝閉塞症の発症直後では,自覚症状や眼底所見から診断は容易であるが,発症から数カ月経つと,網膜内層と視神経の萎縮を残して落ち着くので,そのときに初めて診察をすると,緑内障との鑑別が問題となる場合がある.図6a,bは正常眼圧緑内障疑いにて近医を定期的に受診していたが,視野障害を自覚するようになったため,精査目的で当院紹介受診となった43歳,女性の眼底写真とHumphrey視野計(SITAStandard30-2)の結果である.乳頭陥凹の拡大は認めるものの,リムは比較的均一に全周保たれている.眼底には明らかな網膜神経線維層欠損を認めず,またOCTでも乳頭周囲網膜神経線維層厚の菲薄化は認めない(図6c).Humphrey視野計(30-2)では左眼の固視点下側に暗点があるようだがはっきりしないため(図6b),中心視野10°以内で再度検査を施行した.本症例では眼底との対比をわかりやすくするため眼底視野計を用いて検査を行ったところ感度が低下している部を認め(図6d),その箇所に一致してGCA(GanglionCellAnalysis:網膜神経節細胞層+内網状層)は薄くなっている(図6e).一見するとごく早期の緑内障かと思われるが,GCAで上方と耳上側の厚みのみが他の部位に比べ極端に薄いことに気付く.Heidelberg社のSpectralisで網膜感度が低下している部の断面をみてみると網膜神経節細胞のみならず,網膜内層全体が障害されており(図6f),網膜動脈分枝閉塞症による視野障害と考えられる.この症例のように緑内障かどうか診断に迷ったときは,網膜感度の低下している部の断面をOCTで観察することにより,どの細胞層が障害されているのかがわかり,診断の一助となることがある.V網膜静脈分枝閉塞症網膜静脈分枝閉塞症も網膜動脈分枝閉塞症と同様発症直後は眼底所見から診断は比較的容易であるが,陳旧化すると視神経乳頭近傍での網膜静脈分枝閉塞症では,そあたらしい眼科Vol.30,No.11,20131499 →→ab←ca:眼底写真.b:Humphrey視野所見.c:OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚測定結果.d:眼底視野計.網膜感度の低下を認める(赤丸).e:OCTのGCAプログラム.f:Spectralisによる観察.網膜感度が低下している箇所に一致して網膜内層の障害がみられる(赤丸).図6陳旧性網膜動脈分枝閉塞症の部位にはリムの蒼白化と網膜神経線維層欠損が生じる場合があり,緑内障のようにみえる場合がある.しかし,図7でもわかるように散瞳下で眼底検査を行うと治療後の瘢痕や白鞘化した血管が観察される.逆に言うと,こういった症例では視神経乳頭とその近傍のみの診察では,緑内障と誤って診断してしまう可能性がある.網膜静脈閉塞症と緑内障との関連については,高血圧や糖尿病といった共通の背景による影響や血管系の制御調節機構の異常が網膜血管病変と緑内障の両者の病態に関わっている可能性が示唆されており,両疾患には共通した全身の危険因子や病態が存在する可能性が考えられる.したがって,陳旧性の網膜静脈閉塞症は緑内障の鑑別を要するが,一方で両者が合併した症例も存在することを念頭に置く必要がある.おわりに詳細な病歴の聴取(たとえば突然の視野異常や急激な視力低下といった自覚症状)は緑内障性視神経症とその類似疾患を鑑別するうえで大切である.視神経乳頭が近視性変化や低形成などを伴っている場→図7陳旧性網膜静脈分枝閉塞症a:眼底写真.網膜神経線維層欠損(矢印)を認める.b:OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚測定結果.眼底写真と同部位に網膜神経線維層の菲薄化を認める.1500あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(8) ↑d→e→f図6のつづき↑図7a→図7b(9)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131501 合,1回の診察で緑内障性視神経症を鑑別することはむずかしい.眼底写真や画像解析装置で記録を残しておくことが大切である.画像解析装置では,視神経乳頭や網膜神経線維層厚を定量的かつ客観的に評価することが可能であるが,視神経乳頭の形態や網膜神経線維層厚には個人差があり,そのため正常眼と緑内障眼の間で測定された数値の重複がみられる.視野結果と眼底所見,さらに画像解析装置で得られた結果に矛盾がないかどうかを検証することが大切である.また一度の診察で診断を下す必要はなく,経過をみていくことも大切であり,疑わしい症例では視野や乳頭所見に変化がみられた時点で再度検討することが望ましい.経過観察中に急速な視野障害の進行を認める場合にはMRI(磁気共鳴画像)で頭蓋内病変を確認することも大切である.1つの疾患にさらに緑内障が合併していることも当然ありうることなので,鑑別診断した疾患にさらに緑内障を合併しているのではないかと疑ってみることも必要である.■用語解説■ISNTの法則:通常リムの一番広い部分は乳頭下方(inferior)であり,ついで上方乳頭(superior),鼻側乳頭(nasal)の順で薄くなり,一番薄いのは耳側乳頭部分(temporal)である.文献1)YamadaM,OhkuboS,HigashideTetal:Differentiationbyimagingofsuperiorsegmentalopticalhypoplasiaandnormal-tensionglaucomawithinferiorvisualfielddefectsonly.JpnJOphthalmol57:25-33,20132)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProjectparticipants.JpnJOphthalmol48:578-583,20043)中尾雄三,山本肇,有村英子ほか:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴.神経眼科25:327-342,20084)TrobeJD,GlaserJS,CassadyJetal:Nonglaucomatousexcavationoftheopticdiscs.ArchOphthalmol98:10461050,19801502あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(10)

序説:緑内障性視神経症の鑑別診断

2013年11月30日 土曜日

●序説あたらしい眼科30(11):1493.1494,2013●序説あたらしい眼科30(11):1493.1494,2013緑内障性視神経症の鑑別診断DifferentialDiagnosisofGlaucomatousOpticNeuropathy廣岡一行*緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患であると定義される.緑内障診断において,視神経乳頭や網膜神経線維層の変化の検出はきわめて重要である.ところが,視神経乳頭に変化が生じたり,網膜神経線維層厚が薄くなる疾患は緑内障だけでない.特に正常眼圧緑内障は,眼圧および前眼部や隅角は正常範囲内にあるため,他の視神経症との鑑別には注意を要することがある.緑内障は視神経乳頭,神経線維の障害部位と視野異常が一致することが原則である.緑内障性視神経症は,0.7以上のC/D(乳頭陥凹/乳頭径)比,乳頭上血管の屈曲,乳頭周囲網脈絡膜萎縮,視神経乳頭の陥凹の形態(部分拡大や皿状化),乳頭出血の存在などの特徴をもつ.しかし,これらの所見は緑内障に特異的でなく,他の視神経症にもみられることがある.「視神経乳頭所見の異常+視野異常=緑内障」という先入観をもたずに十分な検査を行い,総合的に診断する必要がある.検眼鏡や補助レンズを用いた細隙灯顕微鏡による眼底検査や眼底写真撮影により視神経乳頭や網膜神経線維層の変化を検出してきたが,近年では画像検査機器の進歩によりそれらの変化が定量的にかつ客観的に評価できるようになった.しかし,画像検査機器によって得られた結果の判定には,医師が眼底所見や視野結果などとともに総合的に判断することが必要であり,画像検査機器に頼り切った診察は慎むようでありたい.日常診療では緑内障性視神経症,あるいは他の視神経症を疑った場合,視野検査を施行するのが一般的である.視野検査をした後,あらためて眼底所見と視野を対応させてみることが重要である.そして視神経乳頭や網膜神経線維の障害部位と視野との整合性において,乖離がみられた場合には,CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの画像診断によって頭蓋内病変の有無を確認することが大切である.頭蓋内疾患があるにもかかわらず一旦,視野異常を緑内障によるものと判断されてしまうと,頭蓋内病変の発見が遅れてしまうことになり患者のQOL(qualityoflife)やQOV(qualityofvision)を損ねる結果になりかねない.視神経乳頭の形状はさまざまであるため,時にその形状に惑わされて乳頭陥凹を評価する際に過小評価や過大評価をし,判断を誤らせてしまうことがある.日本人には近視が多いが,近視眼では緑内障罹患リスクが高いことが明らかになっている.そして困ったことに強度近視眼の視神経乳頭は傾斜,回転,乳頭周囲網脈絡膜萎縮,浅い陥凹などの変形が多いため評価がむずかしい.強度近視による視野異常であれば進行することはないであろうと思ってい*KazuyukiHirooka:香川大学医学部眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(1)1493 たが,強度近視眼で40歳以降に後部ぶどう腫を形成し,その結果視神経乳頭がさらに変形をきたし視野障害が進行する症例があることも報告されている.近視眼では視神経乳頭の評価でさえむずかしい症例もあるが,そのうえ視野障害の進行が緑内障によるものなのか,病的近視化に伴う視神経乳頭の変化によって生じたものなのか鑑別がむずかしい症例も存在する.緑内障は視神経乳頭や視野の情報,他の視神経症との鑑別の結果ようやく診断に至る疾患である.正確な診断を誤り,不用意な治療を行ってしまうと,その人のQOLやQOVにまで影響を及ぼしてしまうことになる.多治見スタディの結果40歳以上の緑内障の有病率が5.0%であることが明らかになり,総計すると400万人の推定患者数になる.またわが国の視覚障害原因の第1位が緑内障であることから視神経乳頭や網膜神経線維層の評価は日常診療のなかでも重要な位置を占めるようになった.そのため,診察時に疑心暗鬼になり,少しでも視神経乳頭に変化がみられると緑内障と考えたり,光干渉断層計(OCT)で黄斑部や乳頭周囲網膜神経線維層厚の菲薄化が認められると緑内障のためと考えたりするなど臨床現場に混乱が生じているように見受けられる.そこで,今回緑内障性視神経症とそれと紛らわしい視神経形態を示す諸疾患との鑑別をテーマとした特集を企画した.まず総論では視神経の形態,視野,眼圧や隅角などの所見からみた緑内障性視神経症の鑑別診断をまとめた.そして各論では先天性・後天性視神経疾患と緑内障の鑑別,正常と緑内障視神経乳頭の鑑別,強度近視眼と緑内障,さらに頭蓋内疾患と緑内障の鑑別をテーマとして取り上げ,図を多用することによりビジュアルにわかりやすくするよう工夫した.今回の企画が今後の日常診療のお役にたてば望外の喜びである.1494あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(2)