あたらしい眼科29(11):1535.1537,2012わたしの工夫とテクニックあたらしい眼科29(11):1535.1537,2012わたしの工夫とテクニックMyDesignandTechnique涙.鼻腔吻合術鼻外法における安全な骨窓作製が可能な骨膜.離子SafeBoneOstiumCreationinExternal-Dacryocystorhinostomy,要約今回作製した両端の骨膜.離子は,一方は平型で上顎骨の骨膜.離に,もう一方はL字型で骨窓作製に特化した形状になっており,涙.窩の縫合線に差し込み小窩をあけることができる.涙.鼻腔吻合術鼻外法の骨窓作製の一方法として,この器具とロンジャーを組み合わせれば,ソノペットやドリルなどの電動器具を使わなくても手術が可能である.また,上顎骨裏側の鼻粘膜を損傷せずに骨窓を作製できるという利点がある.キーワード:涙.鼻腔吻合術鼻外法,骨窓,骨膜.離子,ロンジャー.はじめに涙.鼻腔吻合術(DCR)鼻外法は,DCRを行う術者であるならば,必ず習得しておいてほしい術式である1,2).骨窓の作製時に,ソノペットやドリルなどの電動器具を使わなくても可能なオーソドックスな方法として,骨ノミの使用がある2,3).しかし,ノミは先端が鋭いために,上顎骨内側に存在する鼻粘膜を損傷する危険性がある4).今回,筆者が作製したのは,安全に骨窓を開けることのできる骨膜.離子である.その開発経緯と使用経験につき述べる.I開発の経緯DCR鼻外法は,特殊で高価な電動器具がなくても完遂できる手術である2).ソノペットやドリルなどを使用するのは,骨窓形成の部分であり,ここを手動で行うことにすれば,高価な電動器具を購入する必要はない.今回開発したのは,先端が鈍なL字型をした骨膜.離子である.着想の発端は,筆者がシンガポール留学中に経験したDCR手術である.乱暴にペアンの先で涙骨を穿破する方UsingNewSurgicalRaspatorium中内一揚*全長:17cm図1全長約17cmの中内式骨膜.離子の全貌(M-2018)(上)と,骨窓作製時に特化したL字型形状の先端(左下)および平型骨膜.離子の形状(右下)法5)もあるが,注目したのが骨窓形成時に,Traquair’speriostealelevatorという両端がL字型になった骨膜.離子を使って手術を行う方法である6).この器具を使うことで,鼻粘膜を損傷せずに骨窓を開ける「とっかかり」を得ることができる.この.離子はSpeedwaySurgicalCo.(India)が販売しているが,日本には代理店がなく購入がむずかしい.そのため,筆者はこの.離子を改良し,先端形状をさらに骨窓作製用に特化し,もう一方の先端は平型の骨膜.離子とした(図1).II対象平成22年4月から平成24年3月の2年間に当院にてDCR鼻外法を施行した12例14眼に,この骨膜.離子を用いて手術を施行した.*KazuakiNakauchi:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕中内一揚:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(85)1535b図4CT所見a:術前,b:術後.右上顎骨,涙骨が大きく欠損している(白丸).今回の方法で作製した骨窓である.b図4CT所見a:術前,b:術後.右上顎骨,涙骨が大きく欠損している(白丸).今回の方法で作製した骨窓である.III手術方法全例,全身麻酔下で行った.1%リドカイン塩酸塩・アドレナリン注射液〔(1%キシロカインR注射液「1%」エピレナミンR(1:100,000)含有〕を注射して5分後,内眼角内側1cmの点より約30°外下方に向かう長さ2cmの直線皮膚切開を真皮に至る深さで行った.皮下の眼輪筋を先端が鈍な剪刀で.離し,眼角動脈を傷害しないように注意しながら,骨膜を露出する.骨膜を涙.窩に沿って約2cm切開する.今回開発した骨膜.離子の平型端を使用して骨膜を.離する(図2a).4-0ナイロン糸を使用して,腸丸0番針で骨膜から皮膚に通糸して通常6糸で牽引・展開する.涙.を持ち上げながら,涙.窩にL字型端を差し込み,涙骨-上顎骨の縫合線を探し出す.そこに先端を差し入れて,同時に裏側にある鼻粘膜を押し下げるようにする.このあと,縫合線周囲の薄い骨を押しつぶす感じで穿破する(図abc図2各種器具の使用方法a:平型骨膜.離子の使用方法.骨と骨膜の間に先端を差し入れて上顎骨涙.稜の骨膜を浮かせている.b:L字型骨膜.離子の使用方法.縫合線に先端を差し入れて,その部分を押し破るようにする.固い場合はてこのように使用する.上顎骨裏側の鼻粘膜を傷害しないようにエッジは鈍になっている.c:ロンジャーの使用方法.bで開けた小孔にロンジャーの先端を差し込み,上顎骨を削り取る.1536あたらしい眼科Vol.29,No.11,20122b).もう少し固い場合は,テコの原理で破砕する.直径約5mmの穴が開けば,そこに彫骨器(BoneRongeurForceps:以下,ロンジャー)を差し込み骨窓を拡大する(図2c).ロンジャーの大きさは,骨の厚みに応じて変える(当科ではKatenaProduct社製を使用,図3).骨窓を約7mm×10mmに広げ,ささくれた骨梁をきれいにすれば作業は終了である.あとは型どおり鼻粘膜と涙.とをH型に切開して粘膜同士を結び前弁・後弁を作製する.粘膜腔の確保のために,シリコーンヌンチャクチューブ(NST)を挿入する.最後に骨膜を縫合し,皮膚縫合をして手術を終了する.IV結果14例中13例で,今回開発したL字型骨膜.離で骨窓を開けることができた(成功率93%).ただし,1例では,涙骨図3ロンジャーの全貌(KatenaK7-1801)握ると先端が縮むように設計されている.a(86)および上顎骨が厚く,縫合線に先端を差し込むことができなかった.この場合は,骨ノミ(永島医科器械株式会社製)を使用して手術を完遂することができた.また,DCRの成功率であるが,術後2週間でNSTを自己抜去してしまった1例を除き,流涙は改善した(成功率93%).今回の方法でDCR手術を施行した症例の術前・術後のCT(コンピュータ断層撮影)写真を示す(図4).術後には右上顎骨に大きめの骨窓が作製されているのが確認できる.V考按DCR鼻外法は鼻内法が内視鏡などの機器を必要とするのに対し,ほとんど電気機器を使用しなくても手術が可能な方法である.しかし,骨窓作製の手技に関しては1975年発刊の手術書にもドリル(エアトーム)が載っていることもあり7),かなり以前より電気機器による掘削が行われていたことがわかる.大事なことは上顎骨の裏側にある鼻粘膜を穿破しないようにすることである2).最近になり超音波式骨掘削機(ソノペット,日本ストライカー社製)の使用が,術野の確保および,粘膜保護に有効であると報告された8).しかし,この機械は高価で,使用頻度を考えると眼科で購入するのはむずかしい.今回,筆者が開発したのは,シンガポールにて経験した手術法6)からヒントを得て作製した骨膜.離子である(図1).なお,もともとの器具はTraquair’speriostealelevatorといい,両端がやや長さを変えたL字型になっているが,骨窓作製においてはどちらが使いやすいという区別はなかった.そのため,筆者は片端をL字型とし,さらに丸みと厚みを加えて,鼻粘膜を保護しかつ縫合線を穿破しやすいようにし,またもう一端を小型の平型骨膜.離子として,涙.稜付近の骨膜.離に使用できるようにした.現在イナミより中内氏式骨膜.離子として発売されている(M-2018).この.離子とロンジャーがあれば,骨窓が作製可能である.当科で使用しているロンジャーは,KatenaProduct社のK7-1801.3であり,下から上にかじり取るタイプのものである(図3).この形状は好みに応じて使い分けてよいと考える.今回作製した骨膜.離子は,DCR鼻外法の骨窓作製時に使用する特別な器具である.この器具が皆様のお役に立てればと考えている.追記:本稿の内容は,第1回日本涙道・涙液学会(2012)で発表した.文献1)中村泰久:涙.鼻腔吻合術.眼科診療プラクティス80,p66-69,文光堂,20022)上岡康雄:涙.・鼻涙管閉塞の標準的治療(涙.鼻腔吻合術:DCR鼻外法).眼科手術24:160-166,20113)宮崎千歌:涙.鼻腔吻合術(DCR).眼科マイクロサージェリー第6版,p123-128,エルゼビアジャパン,20104)佐々木次壽,加納晃:ホルミウムYAGレーザーを用いた涙.鼻腔吻合術鼻外法の経験.眼科40:103-107,19985)TseDT,HuiJI:Dacryocystorhinostomy.ColorAtlasofOculoplasticSurgery2ndedition,p257-270,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,20116)WongTY:Oculoplasticandorbitaldisease.TheOphthalmologyExaminationsReview2nd,p345-387,WorldScientific,20117)三井幸彦:涙.鼻腔吻合術.眼科手術の手ほどき(第三版),p62-66,金原出版,19758)Siviak-CallcottJA,LindvergJV,PatelS:Ultrasonicboneremovalwiththesonopetomni.ArchOphthalmol123:1595-1597,2005SUMMARYSafeBoneOstiumCreationinExternal-Dacryocystorhinostomy,UsingNewSurgicalRaspatoriumKazuakiNakauchiDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineWehavedevelopedanewraspatoriumforexternal-dacryocystorhinostomy(DCR).Thisinstrumenthastwofunctionalends,oneofwhichisasquarehead;theotherisL-shaped.Thesquareheadisusedasaperiosteumscraperoverthemaxilla;theL-shapedheadisspecializedforbreakingthesuturelinebetweenlacrimalboneandmaxillaboneatthelacrimalfossa.Withthehelpofrongeurforceps,abigboneostiumismadewithoutdamagetothenasalmucosa.ElectricaldevicessuchasSonopetorbonedrillarenotneeded.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1535.1537,2012〕Keywords:external-dacryocystorhinostomy(DCR),boneostium,raspatorium,rongeur.Reprintrequests:KazuakiNakauchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPAN(87)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121537