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タブレット型PCの眼科領域での応用 18.眼科医療におけるポータブル記録機器としての活用

2013年11月30日 土曜日

シリーズ⑱シリーズ⑱タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第18章眼科医療におけるポータブル記録機器としての活用■スマートフォンの記録機器としての意義第18章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているスマートフォンの“iPhone5S(米国AppleInc)”やポータブルマルチメディアプレイヤー“iPodtouch(米国AppleInc)”のiOSバージョン7.0.2です.この章ではこれらデバイスの記録機器としての活用法とその意義について,実際に利用した医師の声とともに紹介していきます.■私のスマートフォン活用法「前眼部撮影編」近年,スマートフォンやタブレット型のPCの内科領域でのベットサイドケアや在宅医療における有用性に関する検討が多く報告されています.眼科領域においてもスマートフォンを用いた撮影機器としての利用が報告され1),国内ではスマートフォンを用いた蛍光眼底撮影が検討されています(周藤ら:網膜硝子体学会2012).私はスマートフォンを臨床業務へ導入することで,導入前には不可能であった多くの所見を記録し,医療スタッフ間で共有することが可能になりました.本章では実際の活用法を紹介したいと思います.①標準カメラアプリの活用スマートフォンの背面カメラを細隙灯の接眼レンズに簡易的に固定することで,前眼部の動画撮影を行うことが可能です(図1).背面カメラの解像度および感度の向上に伴い,とても明るく解像度の高い動画の撮影が可能となり,撮影後にスクリーンショット機能(iPhoneではホームボタンとスリープボタンの同時押し)を用いることで静止画像として所見を保存することが可能です.また,同じ無線LAN環境にタブレット型PCが存在すれば,クラウドサービスを介してシームレスにタブレット型PCのアルバム内にスマートフォンで撮影した画像が表示されるため患者説明に利用することが可能となります(図2).図1スマートフォンの背面カメラを細隙灯の接眼レンズの前方に簡易的に固定して,前眼部所見を撮影している様子図2患者説明用にスマートフォンで前眼部所見を動画撮影してスクリーンショットで静止画とした後発白内障の所見(89)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315810910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図3スマートフォンの背面カメラを利用した動画撮影モードにおいて背面ライトを点灯させて,20Dのレンズ越しに撮影された眼底所見スマートフォンを臨床業務に導入した若手の医師たちの声には,つぎのようなものがあります.「上級医に相談する際に,撮影機器のない外勤先で担当した症例でも動画を見せて相談できるのでとても安心です.」「上級医が診察する際にスマートフォンで撮影してもらい,上級医が実際に見ている所見を共有することができるので,とても勉強になります.」スマートフォンを記録機器として利用することで,施設間での記録機器の差にかかわらず所見の撮影や保存を行えることは,若手の医師にとって安心して診療を行う上でとても重要なことだといえます.また,私が実際に活用しているiPhone5sでは,標準機能として撮影動画に対してスローモーションエフェクトを適応することが可能であり,今後,涙液動態などを評価するのにも利用できる可能性があると考えています.②背面ライトの活用スマートフォンの背面カメラにおける動画撮影モードでは,背面カメラの横のフラッシュ撮影用のライトを常時点灯することが可能です.ライトを点灯した状態で動画撮影を行えば,非接触型倒像鏡用の20Dレンズなどと組み合わせることで眼底所見の診察および撮影が可能です(図3).また,前眼部撮影と同様にスクリーンショットで静止画像としたうえで,適切なサイズに画像をトリミングすることで簡易的なパノラマ眼底撮影を行うことも可能です.実際に眼底撮影にスマートフォンを用いた医師の声にはつぎのようなものがあります.「これまで記録のむずかしかったNICUの子供の眼底所見を画像として記録できるため,若い先生を教育するときにも利用できてとても助かります.」「虐待を疑われる児童の眼底を診察する際に,簡単かつ経時的に記録を画像で残せるのでとても安心です.」おもにベッドサイドで行われる小児の眼底診察の所見を,簡単に動画や静止画で記録できることはとても重要だと考えられます.③スマートフォンによる記録機器導入の意義スマートフォンによる前眼部所見や眼底所見の撮影および記録は,ポータブルの細隙灯と20Dレンズなどがあれば場所を問わず行うことが可能です.このことは,今後,眼科領域での在宅医療やベットサイド診療において,極めて大きな意味をもつと考えられます.スマートフォンなどのデバイスが記録機器として活用されることで,眼科医療の世界がより安全で快適なものになると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/文献1)BarsamA,AllanBD:Excimerlaserrefractivesurgeryversusphakicintraoculsrlensesforthecorrectionofmoderatetohighmyopia.JCataractRefractSurg36:12401241,20101582あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(90)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 126.ロケット花火による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)

2013年11月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載126126ロケット花火による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●ロケット花火による眼外傷の特徴近年,ロケット花火による眼外傷の報告がわが国で散見される1).大半は花火が引火しないと勘違いして花火の筒を覗き込んだ時に発射され,眼を直撃するために生じる鈍的外傷である.多くの症例で瞬間的に閉瞼するため,角膜の著明な熱傷をきたしたとする報告は少ないが,眼瞼浮腫,虹彩離断,外傷性白内障,硝子体出血,網膜振盪症,脈絡膜破裂などの重篤な症状を引き起こす.筆者らも過去に3例のロケット花火による眼外傷に対して手術を施行した経験がある2,3).そのうち1例を提示する.●症例の概要症例は46歳,男性.ロケット花火が至近距離で左眼を直撃し,左眼に眼瞼腫張,結膜浮腫,虹彩断裂(図1),虹彩炎,硝子体出血を生じた.保存的加療を行ったが,硝子体混濁の遷延化と外傷性白内障の進行を認めたため,受傷8カ月後に硝子体切除術,水晶体切除術,虹彩整復術を施行した.黄斑部に網脈絡膜萎縮を残したため,矯正視力は0.08に留まった(図2)3).●ロケット花火による眼外傷に対する硝子体手術前述したように,基本的にはロケット花火が至近距離で眼を直撃する鈍的外傷の要素が強い.自験例を含めて多くの症例では前眼部だけでなく,眼底後極部にも著明な傷害をきたし,外力が強く作用した場合には脈絡膜破裂を伴う.脈絡膜破裂がなくても,黄斑部の脈絡膜毛細血管板の障害をきたして網脈絡膜萎縮を残すことが多く,視力予後は概して不良である.硝子体手術は硝子体出血や混濁が遷延する場合に適応となるが,症例は比較的若年者が多いため,人工的後部硝子体.離作製がやや(87)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1受傷時の細隙灯顕微鏡所見眼瞼腫脹,結膜下出血,角膜浮腫に加えて,広範な虹彩断裂を認める.図2硝子体手術後の眼底所見A:鈍的外傷によると考えられる黄斑部の網脈絡膜萎縮を認める.B:フルオレセイン蛍光眼底写真では後極部の網脈絡膜萎縮部位に一致してwindowdefectによる過蛍光を認める.C:インドシアニングリーン蛍光眼底写真では脈絡膜毛細血管板の傷害と考えられる低蛍光を認める.ABCむずかしい.文献1)中野さおり,伊比健児,熊野良子ほか:ロケット花火による眼外傷の1例.眼紀54:363-366,20032)渡辺彰英,池田恒彦,小泉閑ほか:ロケット花火による眼外傷の2例.眼科手術12:543-546,19993)河原彩,南政宏,今村裕ほか:歯科用30G針による虹彩離断の整復術を施行した花火外傷の1例.眼科手術17:271274,2004あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131579

眼科医のための先端医療 155.点眼と視機能:毎回の点眼が見え方に与える影響は?

2013年11月30日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第155回◆眼科医のための先端医療山下英俊点眼と視機能:毎回の点眼が見え方に与える影響は?高静花(大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室)はじめに点眼薬は眼科治療においてなくてはならないものであり,それぞれのエビデンスある治療効果を眼科医も患者も期待しています.一般に周術期あるいは感染症治療などでは,点眼薬は一定期間のみ使われますが,ドライアイや緑内障などの慢性疾患においては,点眼薬は1日に数回,毎日,長年にわたって用いるものです.そうなると,「疾患を治し(悪化させず),良好な見え方を保つ長期効果」だけでなく,毎回の点眼による「見え方」への影響も気になるところです.ドライアイにおける点眼と見え方ドライアイにおいて点眼治療は,自覚症状の軽減,涙液安定性の改善,角結膜上皮障害の改善,および眼表面の保護という目的で行われます.ひとたび点眼薬を目に入れると涙液安定性が一時的にもたらされて視機能の向上が得られるようなイメージがありますが,逆に涙液量の増加,分布の不均一により一時的な霧視を自覚するイメージもあります.また,点眼薬そのものの性状による影響も考えられます.点眼が視機能に及ぼす影響については,角膜トポグラファー,コントラスト感度の測定,波面センサーなどを用いて客観的な評価を行うことが可能であり,正常眼やドライアイにおいて1回の点眼が視機能に及ぼす影響を調べたものはこれまでにもさまざまな報告がなされています.ドライアイの重症度,用いた点眼薬,測定のタイミングなどがみな異なるため一律に比較するのはむずかしいのですが,1回の点眼で視機能の改善がみられるという一方で,点眼前後では変わらない,あるいはむしろ悪化するといわれており,結果はさまざまです.ドライアイ点眼が高次収差,散乱に及ぼす影響今現在,日本でドライアイ治療として用いられている(83)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYもののなかで,0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼は粘度が著明に高く,また懸濁液であるレバミピド点眼は濁度が著明に高く,実際にそれらを点眼したときに「見えにくさ」を訴えることは日常外来でも経験されます1.4).一般に,眼の光学的特性の影響を与えるものとしては収差,散乱,回折,反射があげられますが,眼表面,角膜疾患において光学的に大きく影響しうるものは,前者2つ,すなわち不正乱視による収差(高次収差)と混濁による散乱があげられます.筆者らは,各種ドライアイ点眼が高次収差および前方散乱に及ぼす影響の定量評価を行いました5).高次収差は従来の視力検査では検出できない不正乱視,また前方散乱は眼内に入る光の散乱を数値として表したものです.ドライアイのない正常眼においては,0.3%ヒアルロン酸ナトリウムの点眼直後に著明に高次収差が増加しましたが,点眼5分後には点眼前の状態に戻りました.ジクアホソルナトリウム点眼,レバミピド点眼の点眼直後でも点眼前に比べると高次収差は増加しましたが,高次収差の変化量は0.3%ヒアルロン酸ナトリウムが他の2剤に比べて有意に大きくなっていました(図1).また,レバミピド点眼の点眼直後では著明に前方散乱が増加しましたが,他の薬剤では点眼による前方散乱の変化は認められませんでした(図2).レバミピドは懸濁液で白濁しており,これが涙液と混ざって眼表面上に存在すると前方散乱が引き起こされ,その結果,視機能の低下が起きたと考えられます.一方,0.3%ヒアルロン酸ナトリ眼球高次収差(μm)0.3%ヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウムレバミピド防腐剤無添加人工涙液0.400.350.300.250.200.150.100.050.00p<0.001p=0.036p=0.003p<0.001p<0.001p<0.001点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後時間図1点眼後の眼球高次収差の変化の経過縦軸は眼球高次収差,横軸は時間を示す.0.3%ヒアルロン酸ナトリウムの点眼直後で著明な増加が認めるが,5分後には点眼前の値に回復している.(文献5より改変)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131575 0.3%ヒアルロン酸ナトリウム1.61.41.21.00.80.60.4ジクアホソルナトリウムレバミピド防腐剤無添加人工涙液p<0.001p<0.001p<0.001p<0.001Straylightlog[s]点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後時間図2点眼後の前方散乱の変化の経過縦軸は前方散乱の指標であるStraylight,横軸は時間を示す.レバミピドの点眼直後で著明な増加が認めるが,5分後には点眼前の値に回復している.(文献5より改変)ウムはほかの点眼薬に比べると粘度が40倍程度高く,点眼後,一時的に涙液層の分布が不均一になることにより高次収差が増大したと考えられます.このことより,少なくとも正常眼では,ドライアイ点眼はいずれも異なるメカニズムで一過性に視機能に影響を与えると考えられます.しかし,涙液動態の異なるドライアイでは,また違った結果が得られるのかもしれません.緑内障点眼が高次収差,散乱に及ぼす影響多数ある緑内障点眼薬のなかでも,ゲル化点眼は粘度が著明に高く,また懸濁液であるブリンゾラミド点眼は濁度が著明に高く,いずれも点眼後の「見えにくさ」を訴えることは日常外来でも経験されます.これらの視機能低下についても,コントラスト感度,高次収差,後方散乱の測定を行い定量評価を行った研究が知られています6).両点眼薬とも点眼2分後のコントラスト感度の低下,点眼2分,5分後における高次収差の増加がみられ,またブリンゾラミドのみ2分後に後方散乱が有意に増加すると報告されています.おわりに高次収差,散乱の測定によって定量的に評価できた「点眼による見えにくさ」は,点眼がqualityofvision(QOV)に与える影響を表しますが,生涯にわたって点眼治療が必要な患者にとっては,qualityoflife(QOL)の一部にあたるといえるでしょう.点眼を処方するときに,その薬剤の主たる治療効果はもちろん最優先ですが,慢性の眼科疾患においては毎回の点眼がQOV,QOLにも影響をもたらすという視点をもってもいいのかもしれません.文献1)RidderWH3rd,LaMotteJ,HallJQJretal:Contrastsensitivityandtearlayeraberrometryindryeyepatients.OptomVisSci86:1059-1068,20092)BergerJS,HeadKR,SalmonTO:Comparisonoftwoartificialtearformulationsusingaberrometry.ClinExpOptom92:206-211,20093)IshiokaM,KatoN,TakanoYetal:Thequantitativedetectionofblurringofvisionaftereyedropinstillationusingafunctionalvisualacuitysystem.ActaOphthalmol87:574-575,20094)KohS,InoueY,SugimotoTetal:Effectofrebamipideophthalmicsuspensiononopticalqualityintheshortbreak-uptimetypeofdryeye.Cornea32:1219-1223,20135)KohS,MaedaN,IkedaCetal:Effectofinstillationofeyedropsfordryeyeonopticalquality.InvestOphthalmolVisSci54:4927-4933,20136)HiraokaT,DaitoM,OkamotoFetal:Contrastsensitivityandopticalqualityoftheeyeafterinstillationoftimololmaleategel-formingsolutionandbrinzolamideophthalmicsuspension.Ophthalmology117:2080-2087,2010■「点眼と視機能:毎回の点眼が見え方に与える影響は?」を読んで■過去20年間にわたり,眼科臨床における多くの症判定されるには,自覚症状の改善という主観的評価状が定量化されてきました.現在,抗血管内皮増殖因と,客観的な改善という評価が揃うことが不可欠で子(VEGF)薬が,網膜疾患の治療を一変させつつあす.以前から,視力という主観的な評価は可能でしります.この薬が,眼科臨床に導入されるプロセスにた.しかし,従来の眼底像や蛍光眼底検査というファは,光干渉断層計(OCT)による網膜厚の「定量化」ジーな評価では,再現性の高い客観的評価は不可能でが大きな役割を果たしました.一般に,治療が有効とした.ところが,抗VEGF薬の臨床評価計画が立て1576あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(84) られたのとほぼ時を同じくしてOCTが臨床に導入さのように,再現性の高い定量化が可能になると,点眼れたために,抗VEGF薬の効果を客観的に評価する後の目のかすみというファジーな症状が,客観的現象ことが可能になったのです.OCTがなければ,抗として描出されます.そうなれば,問題点の把握も容VEGF薬の認可はずっと時間がかかったといわれる易になりますし,その解決も可能となります.のはそのためです.つまり,OCTによる「定量化」抗VEGF薬が臨床に導入されて,治療法が一変しが新しい眼科治療学の領域を開拓したことになったのたと先ほど書きましたが,現在はつぎの段階に移ってです.きています.抗VEGF薬が広く使われるようになる今回,高先生が解説された点眼後の視機能の「定量と,その効果の差がわかってきて,遺伝子の問題,さ化」は,上記を想起させる研究です.点眼後しばらくらなる病型の問題,免疫学の問題など,学問としても目がかすむというのは,ある意味当たり前のことです大きく広がりつつあります.点眼後の視機能の定量化が,患者さんの身になれば,笑ってすまされる問題でも,新たな学問の領域を広げる大きな可能性をもったはありません.しかし,患者さんの主観的判断では,研究です.具体的に点眼薬のどの因子によって引き起こされるか鹿児島大学眼科坂本泰二は解析不可能であり,解決法も期待できません.今回☆☆☆(85)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131577

新しい治療と検査シリーズ 211.アイシャンプー

2013年11月30日 土曜日

新しい治療と検査シリーズ211.アイシャンプープレゼンテーション:川島素子慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:戸田郁子南青山アイクリニック.バックグラウンド【マイボーム腺機能不全とリッドハイジーン】マイボーム腺(瞼板腺)は,上下の眼瞼縁に数十個の開口部をもつ脂腺である.マイボーム腺から分泌される脂質は,眼瞼縁や涙液最表層に分布して,涙液蒸発の抑制,涙液安定性の維持,眼瞼縁における涙液の皮膚への流出の抑制などの役割を果たしていると考えられている.このマイボーム腺の機能異常をきたした状態が「マイボーム腺機能不全」であり,比較的高頻度にみられる疾患である(表1)1).マイボーム腺機能不全の症状は,充血,乾燥感,異物感,灼熱感,掻痒感や一時的な霧視など多様で,眼表面の所見が軽度でも,訴えは強く頑固であることが多い.マイボーム腺に細菌が感染した結果,変性した脂質は,非常に刺激性の強いものになる.マイボーム腺機能不全や眼瞼炎の治療のひとつとして,「リッドハイジーン」が有効である2).これは,マイボーム腺脂質の排出,固形化した脂質や角化組織の除去,および菌量の減少を目的とした治療方法である.従来,希釈したベビーシャンプーを綿棒につけてマイボーム腺開口部を清拭するという方法が薦められてきたが,表1マイボーム腺機能不全の定義と分類【マイボーム腺機能不全の定義】さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う.【分類】2.分泌減少型①原発性(閉塞性,萎縮性,先天性)②続発性(アトピー,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,トラコーマ,などに続発する)2.分泌増加型①原発性②続発性(眼感染症,脂漏性皮膚炎などに続発する)(マイボーム腺機能不全の定義と診断基準:あたらしい眼科27:627631,2010)場合によっては病的なマイボーム腺部位をベビーシャンプーで清拭することはマイボーム腺および涙液層にかえって異常をきたすことがあること,含有成分により眼に刺激症状を与える可能性があり,またベビーシャンプーを薄めて綿棒につけるという操作はコンプライアンスが悪いこともあると報告されており,いくつか問題点もあった3,4)..新しい治療法【アイシャンプー】(図1)ここ最近の化粧の流行の影響により,眼の大きさを強調するテクニックとして,睫毛エクステンションや睫毛パーマを施行したり,まぶたの際の粘膜にアイラインを塗ったりする化粧法を行う女性が増えてきた.この弊害として,アイメイク製品によりマイボーム腺の開口部を塞いだり,通常のメイク落としではメイクが完全に落としづらく,あるいはエクステンションの効果を長持ちさせるためにメイク落としをおろそかにしたりする結果,図1アイシャンプー1,260円60mlhttp://eyeshampoo.com/index.html(81)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315730910-1810/13/\100/頁/JCOPY 眼瞼縁に化粧が残ったり不潔になったりして,眼瞼炎やマイボーム腺機能不全に陥るといった症例もみられるようになっていた.一方で,洗浄力の強いメイク落としは目に刺激があるという欠点もあったため,アイメイク専用のメイク落としで落としきれなかったメイクを目に優しく洗浄する後づかい製品として開発されたのがアイシャンプーである.アイシャンプーは,当初の開発コンセプトであるアイメイク落としの2度使い用としてだけではなく,洗浄力が弱いものの低刺激で使用しやすいことから,既存のベビーシャンプーを使用したリッドハイジーンの欠点をカバーでき,マイボーム腺機能不全患者に対するリッドハイジーンでの使用としても魅力がある..使用方法(実際のやり方)1.通常のクレンジングを行う(女性の場合).2.アイシャンプーを10円玉大ほど手またはコットンに取り,目元にやさしく伸ばす.アイメイクや汚れがひどいときは,綿棒にアイシャンプーを数滴つけて,眼瞼縁を洗浄した後,水でよくすすぐ.3.1日1回から2回程度行う..本方法の良い点アイシャンプーは,目に刺激が少ない弱アルカリ性,浸透圧で設計しているため,目にしみない.マイボーム腺機能不全は慢性疾患であり,また完治が得られにくいので,治療が長期にわたるため患者に根気よく治療を続けてもらう必要があり,抵抗なく「歯磨きのように毎日目を洗うという」習慣をつけるためにも使用感の良さは重要な利点である.また,本来の洗浄機能に加えて,目元の炎症を整える抗炎症・抗菌作用を併せもつ低刺激高性能クレンジング料とうたっているので,そのあたりの効果も期待できるかもしれない.文献1)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20102)川島素子:ドライアイ基本講座基本手技シリーズ「リッドハイジーン─患者さんへの教育・説明を含めて─」FrontiersinDryEye7:56-61,20123)WittpennJR,EyeScrub:Simplifyingthemanagementofblepharitis.JOphthalmicNursTechnol14:25-28,19954)KeyJE:Acomparativestudyofeyelidcleaningregimensinchronicblepharitis.CLAOJ22:209-212,1996.本治療薬に対するコメント.マイボーム腺機能不全(MGD)は「眼の不快感」の海外では眼瞼専用のシャンプーは何種類か販売され主要な原因のひとつと考えられており,多くの場合,ているが,わが国においては,浸透圧やpHなどを涙蒸発型ドライアイを合併している.その治療方法は,液と同等にした「しみない」眼瞼専用シャンプーはなリッドハイジーン,温罨法,ドライアイ点眼,油性点く,当アイシャンプーは初めての製品としてリッドハ眼,眼軟膏,抗生薬内服,サプリメント(オメガ3),イジーンに対する有用性が期待される.しかし,洗浄マイボーム腺閉塞部の機械的圧出,などがあるが,中力は強くないことと,MGDに対する効果についてはでもリッドハイジーン習慣は慢性疾患である本症の治科学的データが未だないため,今後の臨床研究が待た療の基本である.れるところである.☆☆☆1574あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(82)

私の緑内障薬チョイス 6.キサラタン®

2013年11月30日 土曜日

連載⑥私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑥私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也6.キサラタンR石田恭子岐阜大学大学院医学系研究科眼科学最初に使い出す点眼薬で,充血が強い,しみるなどの副作用が出た場合,患者は薬を中断してしまう可能性がある.最初の導入点眼に失敗しないためにも,眼圧下降効果の強さ,副作用の少なさ,アドヒアランスを重視して,プロスタグランジン製剤のうち,もっともバランスのとれたキサラタンを筆者は第一選択とすることが多い.第一選択薬のプロスタグランジン製剤トラフピークプラセボベタキソロールチモロールラタノプロストトラボプロストビマトプロストブリモニジンブリンゾラミド3530眼圧下降率(%)外来で緑内障と診断した患者に対して眼圧下降薬を投与する場合,筆者は①眼圧下降効果が高いこと,②副作用が少ないこと,③アドヒアランスを上げること,を重視して薬物を選択している.25201510501.眼圧下降効果緑内障視神経症の進行を遅延または緩徐にするための唯一確実な方法は眼圧下降であり,メタアナリシス(図1)1)のデータから考慮すると,眼圧がもっとも高いピーク時においても,また眼圧がもっとも低いトラフ時においても,プロスト系プロスタグランジン製剤がもっとも眼圧下降効果が高く,ついでb遮断薬,a2刺激薬,炭酸脱水酵素阻害薬の順となる.2.副作用眼圧下降効果がいかに高くとも,副作用が強い薬の処方は医師としてためらわれる.とくに高齢患者が多い緑内障では,呼吸器や循環器に影響を与えうる薬の使用は慎重にならざるをえない.一方,プロスタグランジン製剤,炭酸脱水酵素阻害薬の副作用はおもに局所に限られるため比較的選択しやすい.3.アドヒアランス医師がどのように良い薬を処方しても,患者が実際に使用してくれなければ意味がない.慢性疾患である緑内障では,アドヒアランスができるだけ上がるように医師として配慮が必要である.アドヒアランスに影響を与える因子としては,①年齢(若い人のほうがアドヒアランスは悪い),②重症度(緑内障疑いや初期のほうがアドヒアランスは悪い),③知識レベル(高いほうがアドヒアランスは良い),④点眼回数と点眼本数(少ないほうがアドヒアランスは良い)などがある.緑内障や点眼の重要性について患者に説明し,患者の知識レベルを上げ(77)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1各点眼薬の眼圧下降効果の比較ランダム化比較試験データ(6,953人)のメタ解析では,ピーク時(赤),トラフ時(青)ともに橙枠のようにプロスト系プロスタグランジン製剤の眼圧下降効果が高い.(文献1より改変)ることと,できるだけ点眼本数と回数が少なくなる薬を処方することが肝要である.以上のように,眼圧下降効果に優れ,全身の副作用が少なく,アドヒアランスの面からも点眼回数が1日1回のプロスト系プロスタグランジン製剤を第一選択薬と考える.キサラタンRプロスタグランジン関連薬には,1日2回点眼が必要なプロストン系のレスキュラと,1日1回点眼のプロスト系のキサラタン,トラバタンズ,タプロス,ルミガンがある(図2)が,効果,特徴,副作用はそれぞれ異なる.以下はプロスト系薬剤について述べる.眼圧下降効果についてはキサラタン,トラバタンズ,タプロスが同本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131569 HOOOTravoprostHOOOTravoprostPGF2aisopropylesterOOHOCF3OHOOHHOOHIsopropylUnoprostoneTafluprostHOHOOOOHHOOOOOFF図3トラバタンズ点眼による充血例図4ルミガン点眼による右眼上眼瞼溝深化症例右眼のみルミガン点眼を行った症例で,黒印のように右眼に上眼瞼溝深化を認める.等で,ルミガンは同等かやや強い.充血(図3)頻度はキサラタンがもっとも少なく,トラバタンズ,タプロスと続き,ルミガンがもっとも多い.上眼瞼溝深化(眼窩脂肪組織の萎縮)(図4)は,キサラタンがもっとも少なく,タプロス,トラバタンズ,ルミガンの順で起こりやすい.点眼液のpHはしみるなど点眼時不快感とつながることがある.ルミガン(pH6.9.7.5),キサラタン(pH6.5.6.9)と比較し,トラバタンズはpH5.7,タプ1570あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013LatanoprostHOOO図2プロスタグランジン関連薬の構造式と点眼ボトHOOHルプロスタグランジン関連薬には,プロストン系のレスキュラと,プBimatoprostロスト系のキサラタン,トラバタンズ,タHONHプロス,ルミガンがあOる.HOOHロスはpH5.7.6.3でやや酸性である.患者は初めて緑内障と診断され,最初に使い出す点眼薬で,充血が強い,しみるなどの副作用が出た場合,薬を中断してしまう可能性がある.最初の導入点眼に失敗しないためにも,もっともバランスのとれたキサラタンを筆者は第一選択とする.ただし,ドライアイなど角膜障害が起きやすい患者には塩化ベンザルコニウムを含まないトラバタンズを,正常眼圧緑内障の中でもベースライン眼圧が非常に低く血流障害の可能性がある症例にはタプロスを処方する.また,各々のプロスタグランジン製剤に対して十分眼圧下降効果がみられない症例,いわゆるノンレスポンダーが存在することはよく知られている.そのため,いったん点眼を開始しても,眼圧下降が不十分な症例にはアドヒアランスを確認し,プロスタグランジン製剤のなかで(たとえばキサラタンからルミガンへなどのように)スイッチングを行う.一度プロスタグランジン製剤を使用し始めると,より充血が起こりやすいほかのプロスタグランジン薬に変えても患者が認容できることが多い.文献1)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,2005(78)

抗VEGF治療:ラニビズマブ(ルセンティス®)の維持期の治療計画

2013年11月30日 土曜日

●連載⑱抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二8.ラニビズマブ(ルセンティスR)の山本亜希子岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科学教室維持期の治療計画滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対するラニビズマブ(ルセンティスR)治療の有効性が広く知られるようになった.しかし,すべての症例にまったく同じ治療方針が良いという訳ではない.視力改善・維持のためには維持期の綿密な診察とそれぞれの症例に対する個別化治療が必要である.本稿では筆者らの経験に基づいたラニビズマブ治療の維持期の考えについて述べる.はじめに算すると約7文字の改善が得られた4).1年目の平均投ラニビズマブが認可されてから滲出型加齢黄斑変性与回数は6.0回,2年目は3.5回であった.1年目の投(age-relatedmaculardegeneration:AMD)への有効性与回数はPrONTO試験に比べやや多いものの,2年目が報告されているが漫然と使用していただけでは皆がその投与回数は少なくなっており,筆者らの経験から初めのような結果を得られるわけではなく,維持期の治療計にドライな状態を作ることが視力維持にも重要であり,画が非常に大切である.本稿では,ラニビズマブ治療の再発の頻度も減らすことができるのではないかと考えて維持期におけるもっとも重要なポイントを紹介したい.いる.3回投与を終えた時点で滲出が残存していても,再投与基準反応不十分な症例として投与を中断するのではなく,投与後の反応が得られている間は,10回以上の投与が必ラニビズマブの毎月投与で有意な視力改善が得られる要であっても継続することが良いと考える.という報告がなされているが,それは患者,医療従事者また,視力の変化は再投与に考慮するも客観性のあるの両側に大きな負担になり現実的にはむずかしい場合がOCT所見をより重視すべきである.たとえば,わずか多い.そこで必要時に投与する(prorenata:PRN)とな滲出がまだ残存している場合,前回診察と比べ視力低いう考えに基づいたPrONTO試験が行われた1).この下をきたしていないことが多く,視力低下がないから悪研究では毎月投与より少ない回数で,1年目は9.3文字,化していないとするのは病態の把握としては不十分であ2年目も11.1文字の視力改善がみられた.これは,毎月る.滲出変化が再発すると少し遅れて視力が悪化してく投与を行ったANCHOR試験2)とほぼ同等の成績である.ることが多く,さらに一度下がった視力はなかなか改善しかし,この研究の再投与基準を見直してみると,5文しない.そのため視力低下をきたす前に投与をすること字以上の視力低下かつ光干渉断層検査(OCT)で黄斑内が視力維持にとって大切なポイントでなかろうかと考えに滲出液を認めた場合,網膜厚が100μm以上の増加とる.いう基準が設けられていた.このため,滲出が残存して毎月診察の重要性と投与のタイミングいるにもかかわらず投与しない場合があり,活動性を抑えるのに不十分であった可能性が指摘されていた.そこどのような症例で投与回数が多く,どのような症例でで最近の臨床試験の場合,たとえばHARBOR試験3)で投与回数が少ないのか,まだ明確な答えはない.筆者らは,スペクトラルドメインOCTで滲出液など病変の活の経験では,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)に動性が認められる場合は,視力低下がなくとも投与するおいてクラシック成分が多いものや病変サイズが小さい基準となっており,網膜厚の数値の設定もされていない.症例では治療回数が少ないという結果が得られている杏林アイセンターでは,以前より視力にかかわらず滲が,治療開始時点で予後が予測できない場合が多い.そ出性変化の残存がみられた場合に再投与している.2年のため少なくとも最終治療から1年間は毎月の診察が必間の経過観察を終えた治療歴のない48例の治療成績で要であろうと考える.そのようにすることで再発のタイはlogMAR0.35から0.21と改善しており,文字数に換ミングや治療効果の現れ方などが大体つかめるようにな(75)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315670910-1810/13/\100/頁/JCOPY り,治療計画を立てるのに役立つ.とくに網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)の症例でよくみられるが,早いステージでは最初に数回投与すると反応は非常に良いが.その後頻繁に再発することがある.そのため治療の反応が良くてもある程度の期間は毎月診察し,再発に対する再投与のタイミングを逃さないようにすべきである.毎月投与をしていても,投与のタイミングがずれていたのであれば,有効な治療ができているとはいえない.SUSTAIN試験5)のサブ解析においても,投与間隔が延長するにつれて視力改善が得られなくなるという結果が示されており,治療のタイミングを逃さないことがこの治療においては非常に大切である.筆者らも患者が治療を迷っている2週間の間に広範囲に出血が広がり,不可逆的な視力低下をきたした症例を経験している(図1,2)最善を尽くしても効果が得られにくい場合があるが,医療体制によりタイミングを逃すということはできるだけさけたい.治療効果が得られにくい場合に,その薬剤への反応が不良であったと判断する前に,投与のタイミングはずれていなかったのか確認してみることも必要であろう.おわりにラニビズマブ治療が可能となり,視力改善あるいは維持できる症例が増えたことは事実である.しかし,治療1568あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013図1眼底写真とOCT画像74歳,男性.前医では(1.0)であったが,当院受診時すでに視力は(0.7)まで低下していた.OCTでは網膜色素上皮.離の周囲に網膜下液が貯留している.治療開始を勧めるも自覚症状に乏しいとのことで決断ができなかった.図2眼底写真とOCT画像2週間後に来院した際には網膜下出血が出現し,網膜色素上皮.離も拡大しており,視力は(0.5)まで低下した.自覚症状も明らかとなり,その後ラニビズマブ治療を開始するも治療後も視力は(0.5)に止まった.をする側が治療方針をしっかり立てなければ,同じ薬剤を使用していたとしても患者の視力予後を変えてしまう可能性がある.一人でも多くの患者のQOLを保つために,どのような治療方針がその方にはベストであるかを考えながら治療に当たることが必要でなかろうか.文献1)LalwaniGA,RosenfeldPJ,FungAEetal:Avariabledosingregimenwithintravitrealranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Year2ofthePrONTOStudy.AmJOphthalmol148:43-58,20092)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal:ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresultsoftheANCHORstudy.Ophthalmology116:57-65.e5,20093)BusbeeBG,HoAC,BrownDMetal:TheHARBORstudygroup:Twelve-monthefficacyandsafetyof0.5mgor2.0mgranibizumabinpatientswithsubfovealneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology120:1046-1056,20134)YamamotoA,OkadaAA,SugitaniAetal:Two-yearoutcomesofprorenataranibizumabmonotherapyforexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.ClinOphthalmol7:757-763,20135)HolzFG,AmoakuW,DonateJetal:OnbehalfoftheSUSTAINStudyGroup.Safetyandefficacyofaflexibledosingregimenofranibizumabinneovascularage-relatedmaculardegeneration:theSUSTAINstudy.Ophthalmology118:663-671,2011(76)

緑内障:急性緑内障発作眼に対する白内障手術のコツ

2013年11月30日 土曜日

●連載161緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也161.急性緑内障発作眼に対する新明康弘北海道大学大学院医学研究科眼科学分野白内障手術のコツ閉塞隅角による急性緑内障発作に対して白内障手術を選択する場合,術前眼圧が高ければ,あらかじめ硝子体切除を行い,眼圧を正常化する.さらに視認性を改善するため前.染色を行う.急性緑内障発作眼ではZinn小帯脆弱がある場合が多く,術後の前.収縮も起こりやすい.術中に悪性緑内障が発症する可能性も念頭におくべきである.薬物療法で解除できない閉塞隅角による急性緑内障発作に対しては,隅角を閉塞させる原因の大半は膨化もしくは前方に移動した水晶体なので,水晶体を摘出するのがもっとも根本的な治療である1).しかし,急性緑内障発作眼の白内障手術では,いくつかのポイントを踏まえて手術に臨まなければ,たとえ白内障手術に十分習熟した術者でも,思わぬ落とし穴にはまることになる.●注意すべきポイント急性緑内障発作眼で,白内障手術手技をむずかしくしている要素をそれぞれ示す(表1).とくに急性緑内障発作眼の白内障手術では視認性の悪いなか,術中に後.が上がってきやすいことを意識するべきである.●手術の工夫(私はこうしている)1.毛様体扁平部にポートを作製する術前の眼圧が40mmHg以上あるような症例では,まず硝子体カッターを入れて硝子体を切除する2).眼圧は高いので切除中に灌流の必要はなく,1ポートでよく,筆者は25ゲージ(G)のトロッカールを使っている.ただし最初に硝子体を切除しすぎると,白内障手術時に水晶体が沈み込み,フェイコに苦労することになるので,表1急性緑内障発作眼の白内障手術をむずかしくするポイント!1.角膜浮腫によって前房内の視認性が悪い2.角膜内皮細胞が減少している3.前房深度が浅い4.Zinn小帯の脆弱があることが多い5.硝子体圧が上昇している6.悪性緑内障が発症することがあるあまり眼圧を下げすぎてもいけない.硝子体切除中は,指で眼球に触れて眼圧を確認する(図1).このポートは後述するように,術中の悪性緑内障発症時にも役に立つ.2.前.染色する前房穿刺や硝子体を取るなどして眼圧を下げると角膜上皮浮腫は急速に引き,眼内の視認性は改善してくるが,発作から時間が経ったものでは浮腫が引きにくい.その場合は前.染色を行うと連続環状.切開(continouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)を行ううえで助けになる.ただし,Zinn小帯の脆弱がある場合,染色液が硝子体側に回ることも起こり得る.そのため,前.染色を行うときには,トレパンブルーやインドシアニングリーンではなく,網膜毒性がないブリリアントブルーG図1緑内障発作眼の白内障手術術前の眼圧は60mmHgを超えており,角膜上皮浮腫がある.白内障手術に先立ち25ゲージのトロッカールを設置する.硝子体カッターを眼内に入れ,先端を見ながら,指で眼球に触れて眼圧を確認し,硝子体切除を行って眼圧を正常化する.(73)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315650910-1810/13/\100/頁/JCOPY を使うほうが安全である.3.角膜内皮保護前房形成に粘弾性物質を使用する際には,ヒーロンVRなど,ビスコアダプティブ型のものを選択したほうが,前房深度が得られやすく,内皮保護の効果も期待できる.術前に角膜浮腫のため内皮計測ができない症例では,すでに内皮数の減少が起きているという前提で手術に臨むことになる.緊急避難的な手術ではあるが,あらかじめ手術後の水疱性角膜症の発症リスクについては十分に説明しておく必要がある.4.核処理の工夫膨化するような水晶体は,核も固い症例が多い.核の処理ではD&Cを行うよりもフェイコチョップのほうが,Zinn小帯にかかる負担が少ない点で有利である.CCCはやや大きめにしたほうが核片を脱臼させやすく,処理中にZinn小帯にかかる力が少なくてすむ.Zinn小帯が脆弱な症例では,核の分割後にバックと核片の間に適宜,粘弾性物質を入れてやると,吸引中にバックが寄ってくることをある程度防ぐことができる.症例によっては水晶体.拡張リングも有効である3).筆者は,それでもフェイコが不可能なくらい水晶体がグラグラしている症例は,.内摘出(intracapsularcataractextraction:ICCE)へコンバートしており,その際には耳側に11mmの強角膜創を作り直して,鼻側と耳側に通糸してIOL縫着を行っている.5.将来の緑内障手術に備える万が一,白内障手術後にも眼圧が下がらない場合には,緑内障手術も追加しなければならない.なるべく将来の濾過手術のために上方結膜は温存したい.そこで白内障手術は強角膜切開で行うよりも角膜切開で行うようにしている.あえて強角膜切開を行うなら,せめて耳側で行うべきである.6.悪性緑内障への対処水晶体の処理が終わり,後.が上がってくるときに,まれに灌流液が硝子体側に回って前房が消失することがある.前房形成に粘弾性物質を入れても,すべて逆流するような場合には,最初に作った毛様体扁平部の1ポートから硝子体カッターを入れて,再び硝子体を切除して圧を下げてやるとよい.さらに前方の硝子体を処理するなら,IOLを入れた後のほうがカッターによる破.の危険が少ない.灌流は角膜のサイドポートから行ってよい.7.術後前.収縮の予防Zinn小帯脆弱例では,IOL挿入後にCCCがゆがんだ円になっていたり,最初に作製した位置から偏位していることがある4).この場合,術後3カ月くらいの間,急速に前.収縮が生じて,ときには前.が閉鎖してしまう症例もある.発作による角膜内皮の減少を考えると,できれば術後にYAGレーザーによる前.切開は行いたくない.そのため,CCCに前述の所見があれば,IOL挿入後,前.に減張切開を4カ所程度入れている.●予後急性緑内障発作眼を白内障手術後に検査すると,高眼圧の時期が長く続いたと思われる症例でも比較的視力や視野が保たれていることがある.一方で,瞳孔麻痺はほとんどの症例で回復しない.虹彩組織は高眼圧による虚血に対して脆弱な組織と考えられ,術後数カ月で萎縮が進む.●まとめこのように緑内障発作眼に対する白内障手術は,技術的にむずかしい部分も多く,さまざまな術中合併症も生じやすい.しかし,正確な白内障手術手技を行い,合併症に対する知識をもっていれば,十分安全に行えるものと考えている.文献1)高井祐輔,佐藤里奈,久保田綾恵ほか:急性原発閉塞隅角緑内障に対する超音波乳化吸引術と虹彩切開術との比較.あたらしい眼科30:397-400,20132)家木良彰,田中康裕:急性緑内障発作に対するcorevitrectomy併用超音波白内障手術成績.臨床眼科60:335-339,20063)稲村幹夫,徳田芳浩:【眼内レンズ手術:難症例への対処法】Zinn小帯断裂例,水晶体亜脱臼・脱臼例.あたらしい眼科29:163-168,20124)HwangYH,KimYY,KirtiKatal:Capsulewrinklingduringcapsulorhexisinpatientswithprimaryangle-closureglaucomaandcataract.JpnJOphthalmol54:401406,20101566あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(74)

屈折矯正手術:多焦点眼内レンズ挿入眼への追加屈折矯正手術

2013年11月30日 土曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載162大橋裕一坪田一男162.多焦点眼内レンズ挿入眼への渥美一成セントラルアイクリニック追加屈折矯正手術多焦点眼内レンズ挿入眼362眼中,残余屈折異常に対して追加屈折矯正手術を施行した52眼について検討した.手術方法はi-LASIK:41眼,amoilsPRK:10眼である.追加屈折矯正手術をした多焦点眼内レンズは,ReZoom:7眼,ReSTOR:24眼,TecnisMulti:20眼,Lentis:1眼である.術後の裸眼視力および患者満足度とも,術前より良好であった.追加屈折矯正手術が前提であれば,多焦点眼内レンズ挿入術は有用な手術であると思われた.●目的多焦点眼内レンズ挿入眼の残余屈折異常に対する追加屈折矯正術の有用性について検討した.●方法対象は術後3カ月以上経過した多焦点眼内レンズ眼230名362眼(ReZoom[NXG1]:33名43眼,ReSTOR:75名137眼,TecnisMulti:93名118眼,LentisMplus:22名37眼,iSii:7名7眼)のうち,裸眼視力不良のため追加屈折矯正手術を希望した51眼である.追加屈折矯正手術方法は,wavescanで測定し,イントラレースでフラップを作製し,STARS4-IRで照射したi-LASIK(41眼)と,電動ブラシで角膜上皮を除去し,STARS4-IRで実質を切除したamoilsPRK(10眼)である.Wavwfront使用は回折型44眼のうち37眼,conventionalは屈折型全例7眼および回折型7眼の計14眼,LASIK後の多焦点挿入眼のリフティング後の切除が4眼である.検査方法は遠方近方裸眼視力,遠方矯正視力,遠方矯正下近方視力,等価球面度数,乱視度数,患者満足度(術後3カ月)を検討した.●結果多焦点前の等価球面度数は.5.0±5.5D(+9..19D),乱視は.1.1±0.8D(+1.5..4.6D),IOL度数が6D未満で術後近視が残ることがあらかじめわかっていた症例は9眼(18%),1D以上の乱視は30眼(59%),(71)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYLASIK後の多焦点4眼(8%),逆に乱視1D以内,IOL度数6D以上は15眼(29%)であった.追加屈折矯正前の視機能は等価球面度数.0.24±1.1D(.4.6.+1.5),乱視度数.1.3±0.71D(.0.25..3.5),裸眼遠方視力0.46±0.30(0.05.1.6),裸眼遠方矯正視力1.43±0.03(0.8.2.0),裸眼近方視力0.9±0.13(0.8.1.0),裸眼遠方矯正近方視力1.0±0(1.0)であった.追加屈折矯正後の視機能(6カ月)は等価球面度数.0.17±0.35D(p<0.001),乱視度数.0.23±0.21D(p<0.001),裸眼遠方視力1.2±0.24,裸眼遠方矯正視力1.5±0.2,裸眼近方視力0.9±0.13,裸眼遠方矯正近方視力1.0±0であった.追加矯正術後の遠方近方裸眼視力経過は術翌日より術前より良好で3カ月でプラトーに達した(図1).追加矯正術後矯正視力は術翌日より良好であった.i-LASIKとamoilsPRKでは遠方裸眼視力は術後1週までの視力でPRKが有意に悪かった.近方は1カ月近く有意に低かったが,裸眼視力それ以外では差を認めなかった(図2,3).IOLタイプによる差は遠方,近方裸眼視力とも有意差を認めなかった(図4,5).Lentisは1眼のみ,iSiiは再手術はないため,図は省いた.表1の患者満足度アンケートを追加屈折矯正術前後に施行し,術前21.9±3.5.術後35.4±2.1(p<0.0001)と有意に上昇した.●結論および考察多焦点前の角膜乱視1D未満,IOL度数が6D以上の範囲であれば,追加屈折矯正は4.4%と非常に少なかっあたらしい眼科Vol.30,No.11,20131563 0.10.40.71.01.3視力■遠方裸眼視力0.81.01.11.21.21.2■近方裸眼視力0.60.80.80.90.90.91D1W1M3M6M1Y0.10.40.71.01.3視力■遠方裸眼視力0.81.01.11.21.21.2■近方裸眼視力0.60.80.80.90.90.91D1W1M3M6M1Y■LASIK■PRK※p<0.0010.10.40.71.01.3裸眼視力0.760.971.031.171.201.240.650.831.131.181.261.061D1W1M3M6M1Y※※術後経過図1多焦点後追加屈折矯正術後の全症例裸眼視力経過※※※※p<0.0010.10.40.71.0視力0.620.770.850.890.940.920.470.620.670.920.830.831D1W1M3M6M1Y■LASIK■PRK術後経過図3追加屈折矯正術式別の裸眼近方視力経過0.10.40.71.01.3視力術後経過■NXGI0.60.70.80.90.80.7■ReSTOR0.50.70.80.90.90.9■TM0.70.80.90.91.01.01D1W1M3M6M1Y図5眼内レンズ別追加屈折矯正術後の裸眼近方視力経過た.一方,追加屈折矯正手術の87%で,多焦点前に眼内レンズの度数が6D未満(10眼)あるいは角膜乱視が1D以上(36眼)であった.多焦点IOL挿入後の追加屈折矯正術後の裸眼遠方近方視力は術翌日より有意に上昇した.また患者満足度も1564あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013術後期間図2追加屈折矯正術式別の裸眼遠方視力経過術後経過0.10.40.71.01.3視力0.81.21.01.21.31.30.70.91.11.11.21.20.70.91.01.21.21.11D1W1M3M6M1Y■NXGI■ReSTOR■TM図4眼内レンズ別追加屈折矯正術後の裸眼遠方視力経過表1多焦点眼内レンズ満足度アンケート1.眼鏡を掛けずに遠くのものが見えますか?2.眼鏡を掛けずに読書や,近くのものをみたりするのに不便がないですか?3.日常生活において遠方眼鏡使用頻度はどのくらいですか?4.日常生活において近方眼鏡使用頻度はどのくらいですか?5.夜間の見え方は満足ですか?6.夜間のハロー・グレアは気になりますか?7.この手術をしてよかったと思いますか?8.この手術を他の人にも勧めたいと思いますか?5段階評価満足度低い<1,2,3,4,5<満足度高い有意に上昇した.術後の視力経過は手術方法,挿入IOLの差もなく非常に良好であり,乱視が強くても術後の追加屈折矯正手術を施行すれば多焦点眼内レンズ挿入は可能であった.多焦点術後に追加屈折矯正をする前提であれば,角膜乱視1D以上あるいは多焦点術後に近視が残る症例であっても切除可能な角膜厚があれば問題ないと思われた.(72)

眼内レンズ:0.25%ポビドンヨード術中洗浄による感染症予防

2013年11月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎327.0.25%ポビドンヨード術中洗浄による感染症予防島田宏之駿河台日本大学病院眼科10%ポビドンヨードを生理食塩水で40倍希釈して調製した0.25%ポビドンヨードを用い,術中に眼表面を繰り返し洗浄する感染症予防法を紹介する.生理食塩水による洗浄効果と,ポビドンヨードの殺菌効果を加えた洗浄法である.耐性菌の心配がなく,殺菌に要する時間が短く,有効性と安全性が確認された方法である.白内障手術では眼表面液を介して眼内に細菌が迷入しやすい.眼内炎予防のためには,眼表面の常在細菌の「減菌化」から,一歩進んで「一時的な無菌化」に努めることが必要である.ポビドンヨードの眼内組織に安全で殺菌効果の高い濃度は0.05.0.5%(20.200倍希釈)であり,この中央値0.25%(40倍希釈)を使用する1).開瞼器を設置した後,0.25%ポビドンヨードで術野を洗浄し,30秒待ってから手術を開始する(図1).手術中は,20秒に一度,結膜.にヨードを溜めるように洗浄する.超音波乳化吸引時に角膜上にヨードを滴下すると,ヨードは直ちに結膜.に移行するため視認性の妨げにはならない(図2).自動滴下装置で数秒ごとに角膜にヨード滴下すると,稀に角膜上皮障害が生じるため0.125%(80倍希釈)を用いる.乳化吸引後に前房内に注入した粘弾性物質は創から結膜上に脱出している(図3).眼内レンズをインジェクターで前房に挿入する際,粘弾性物質は前房にpushbackされる(図4).術野のヨード洗浄によって,前部硝子体バリヤーの破壊や後.破損に伴って細菌が硝子体に迷入するリスクを減らすことができる.ヨード洗浄しても前房への細菌迷入をゼロにはできないため,眼内レンズ挿入後には十分な前房洗浄を行う.手術終了時には,ヨード洗浄した状態で手術を終了する.10%ポビドンヨードを希釈する際には,生理食塩水,灌流液を用いる.精製水(蒸留水)で希釈すると,低浸透圧による角膜上皮障害が生じるので用いてはならない.ヨードは希釈すると安定性が低下し,殺菌効果も徐々に減弱するので,室温で使用する際には半日に1度作製したほうが望ましい.生理食塩水のボトルに10%ヨード原液を注入して,先端に洗浄ノズルを付けて用いると便利で,殺菌効果の減弱も少ない(図5).調製した溶液は,使用時にボトルから手術台の容器に適量を移し,そこからシリンジで必要量を採取して用いる(図6).2%ポリビニールアルコール・ヨード(PA・ヨード)の8倍希釈液は,10%ポビドンヨードの40倍希釈液と同じヨウ素濃度であり,同等の殺菌効果を示す.PA・図1手術開始図2超音波乳化吸引(69)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315610910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図3結膜上への粘弾性物質脱出(矢印)図4粘弾性物質の前房へのpushbuck図50.25%ポビドンヨード調製ヨード液は眼表面洗浄には問題ないと考える.しかし,眼内に迷入した際の角膜内皮細胞や網膜障害についての研究は行われていないため,使用に際しては注意が必要である.図60.25%ポビドンヨード使用文献1)ShimadaH,AraiS,NakashizukaHetal:Reductionofanteriorchambercontaminationrateaftercataractsurgerybyintraoperativeirrigationwith0.25%povidoneiodine.AmJOphthalmol151:11-17,2011

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン⑥

2013年11月30日 土曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②6本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.オートレフケラトメーターの測定時に気をつけるべきことを教えてください.講師梶田雅義梶田眼科オートレフラクトメーター(オートレフ)は誰が操作しても同じデータが得られるというものではない.筆者の経験では同一被検眼を測定しても,測定者が異なると1.50D程度の差が生じることがある.なぜ,このような差が生じるかというと,被検眼は生体であり,屈折値は調節によって常に揺れ動いているためである.オートレフで極力適切なデータを取得するためには,つぎのような注意が必要である.1.装置の設定購入したばかりのオートレフは,測定時間を短縮するためのクイック測定モードに設定されていることが多い.この設定では,1回雲霧機構が作動した後に数回の屈折値を測定して終了するため,雲霧が十分に機能しない可能性がある.測定に少し時間を要するが,通常測定モードに設定することが大切である.この測定モードでは,1回雲霧が作動した後に1回だけ測定を行い,これを数回繰り返して測定を終了する.測定値がばらつけば調節の介入が強く,適切な屈折値が測定されていないという判断もできる.2.測定時に心がけること①提示視標の真ん中を見るように指示する装置の覗き窓の奥に見える視標の真ん中を見るように指示することが大切である.固視標の真ん中を見ることによって,視線方向の屈折値を測定できる.自覚的屈折検査に必要なのは視線方向の屈折値である.②眼瞼や睫毛が測定系を遮らない測定系を遮る物があると測定光が屈折して,測定エ(67)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1オートレフラクトメーターのモニター画面瞳孔の中央に見える光のリングがマイヤーリングである.ラーを生じ,正しい測定結果が得られない.③マイヤーリングに乱れがない角膜に映し出されたマイヤーリングを観察しながら測定し,マイヤーリングに不整が確認されたときのデータは採用しない(図1).④オートトラッキングを頼らない最近のオートレフではオートトラッキングやオートスタート機能が装備されているが,オートトラッキングに頼って測定すると正しいデータが得られないことがある.オートトラッキングが作動しないように検者が正しくトラッキングすることが大切である.⑤瞳孔の動きを観察するオートレフの雲霧機構が作動すると,瞳孔は一瞬小さくなる.その後,速やかに散瞳したときに測定されたデータは信頼度が高い.調節緊張が介入する場合にはスムーズに散瞳しない.縮瞳したままの状態で測定されたデータは信頼できない.このような注意を払って数回測定した結果にバラツキがない場合には,測定結果の信頼度は高いと考えてよい.あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131559 最近,メガネ・コンタクトレンズ(CL)で近視過矯正の症例が多いと聞きます.過矯正をつくらないためには,どのようなことに気をつけたらよいでしょうか.近視過矯正を見つけた場合,どのように対処したらよいでしょうか.講師梶田雅義梶田眼科屈折は調節の一部分を取り出した値である.屈折値は常に揺れ動いているので,正確に測定することが困難である.また,調節は自律神経に支配されており,遠くへのピント合わせは交感神経が,近くへのピント合わせは副交感神経が担当している.そして,どこを見るともなくボーッと見ているときには,調節安静位と呼ばれている1.0Dくらい調節した状態にある(図2).したがって,片眼で行う矯正視力測定では,調節安静位の屈折値を求めている可能性が高い.両眼同時雲霧法では測定時に距離感が失われないため,遠方への調節が働き,自覚遠点屈折値を測定できる可能性が高くなる.1.両眼同時雲霧の手法①自覚的屈折検査で得られた円柱レンズを検眼枠に装入する.②自覚的屈折検査で得られた球面度数におよそ+3.00Dを加えた検眼レンズを両眼に装入する.③両眼視での視力値を確認しながら,レンズ交換法で両眼を同時に検眼レンズ度数を0.5Dずつマイナス側に換える.④両眼視での矯正視力値が0.5.0.7程度に達した時点で,左右眼を交互に遮蔽し,左右眼のバランスを調整する.この際,最初は見やすいと答えた方の検眼レンズ度数をプラス側に変えてバランスを取る.それでも同じほうの眼が見やすいと答えたときには,つぎからは見づらいほうの眼の矯正を.0.25D調節安静位自覚遠点他覚遠点他覚近点自覚近点遠点自覚的調節域調節リード調節ラグ負の調節正の調節(交感神経支配)(副交感神経支配)(他覚的調節域)図2屈折と調節の名称とイメージ完全な調節麻痺下での屈折値は遠点である.ピントが合う最も遠い距離が自覚遠点,最も近い距離が自覚近点である.他覚的に検出できる最も低い屈折値は他覚遠点屈折値で,最も高い屈折値は他覚近点屈折値である.空白視野では調節安静位にある.他覚屈折値と自覚屈折値の遠方へのずれは調節リード(調節の進み),近方へのずれは調節ラグ(調節の遅れ)と呼ばれる.加えて調整する.0.25Dの差で,左右眼の見え方のバランスが反転する場合には,日常視で利き目と考えられる方の眼が見やすい状態を採用する.⑤左右眼のバランスを調整した後は,両眼同時に.0.25Dずつレンズ交換法を継続して,両眼視の状態で最良視力が得られる最弱屈折値を求める.この値が眼鏡レンズで快適な矯正度数になる.⑥コンタクトレンズの処方では頂点間距離補正と涙液レンズ効果を考慮して眼鏡レンズで快適な矯正度数をコンタクトレンズの度数に換算する.2.過矯正を見つけたらどうするか過矯正に慣れ親しんだ眼は,適正矯正度数を提供しても,最初は十分な視力が得られず,不満が生じる.不快を感じない程度に徐々に度数を下げる必要がある.この場合,両眼の度数を同時に下げると矯正視力に不満が生じることがあるので,モノビジョン矯正を取り入れて,まず非利き目の度数を下げると,視力不足に対する不満が生じることなく,矯正度数を低下させることができる.もちろん,モノビジョン矯正であることをしっかり伝えておくことが大切である.1560あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(00)