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プロスタグランジン点眼薬に対する副作用出現あるいはノンレスポンダー症例のゲル化チモロール点眼薬への変更

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):827.830,2012cプロスタグランジン点眼薬に対する副作用出現あるいはノンレスポンダー症例のゲル化チモロール点眼薬への変更井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第2講座EffectofSwitchingfromProstaglandinEyedropstoGel-formingTimololSolutioninProstaglandinNon-respondersorThosewithAdverseReactionsKenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineプロスタグランジン(PG)点眼薬でノンレスポンダーや眼局所副作用が出現した症例をゲル化チモロール点眼薬へ変更した際の眼圧下降効果と副作用を検討した.PG点眼薬を単剤で使用し,ノンレスポンダーあるいは眼局所副作用のために継続困難であった原発開放隅角緑内障や高眼圧症患者21例21眼を対象とした.PG点眼薬を中止し,熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更した.変更時と変更1,3カ月後の眼圧を比較した.副作用出現例では副作用症状を調査した.眼圧は変更前後で変化なかった.ノンレスポンダー症例(8例)で10%以上の眼圧下降を変更1カ月後37.5%,3カ月後25.0%で示した.副作用出現例(13例)での副作用症状は全例で改善あるいは消失した.PG点眼薬によるノンレスポンダーや副作用出現症例を熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更することで,約30%の症例で眼圧下降が得られ,副作用が改善し,有用である.Weinvestigatedtheeffectandsafetyofthermosettinggeltimololsolution.Subjectscomprised21patients(21eyes)diagnosedwithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension,whowereusingprostaglandineyedropmonotherapyandwerenon-respondersorsufferedadversereactions.Prostaglandineyedropswerediscontinuedandthermosettinggeltimololsolutionwasinitiated.Comparisonofintraocularpressure(IOP)beforeandat1and3monthsafterswitchingrevealednodifferencesinIOPbetweenbeforeandaftertheswitch.Intheprostaglandinnon-responders(8cases),IOPdecreaseofover10%wasobservedin37.5%at1monthaftertheswitchandin25.0%at3months.Inthecasesthathadsufferedadversereactionstoprostaglandin(13cases),theadversereactionseitherimprovedordisappearedinall13cases.Inpatientstakingprostaglandineyedropswhowereeithernon-respondersorhadadversereactions,aftertheyswitchedfromprostaglandintothermosettinggeltimololsolution,IOPdecreasewasseeninabout30%andadversereactionsimproved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):827.830,2012〕Keywords:熱応答ゲル化チモロール点眼薬,プロスタグランジン点眼薬,ノンレスポンダー,眼局所副作用,変更.thermo-settinggeltimololsolution,prostaglandineyedrops,non-responder,adversereaction,switch.はじめに緑内障治療の最終目標は残存視野の維持である.そのために高いエビデンスが得られている唯一の治療が眼圧下降である1).眼圧下降のための第一選択は通常点眼薬治療である.そのなかでも強力な眼圧下降作用2)と全身性副作用の少なさと1日1回点眼の利便性からプロスタグランジン(PG)点眼薬が第一選択薬として用いられることが多い3).しかしPG点眼薬の問題点として,ノンレスポンダーの存在4.7)やPG点眼薬に特有の眼局所副作用(眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着,睫毛延長,睫毛剛毛化,上眼瞼溝深化)の出現8.19)があげられる.PG点眼薬によるノンレスポンダーや眼局所副作用出現例では,PG点眼薬を中止し,他の点眼薬に変更せざるをえない8.12).その際に1日1回点眼の利便性を考慮するとゲル化チモロール点眼薬が最適であると考えられる.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(105)827 今回,PG点眼薬によるノンレスポンダーや眼局所副作用出現例に対して,熱応答ゲル化チモロール点眼薬(リズモンRTG,わかもと製薬)に変更した際の眼圧下降効果と安全性を検討した.I対象および方法2010年3月から2011年4月の間に井上眼科病院に通院中の患者で,PG点眼薬(1日1回夜点眼)を単剤使用中で,ノンレスポンダーあるいは眼局所副作用が出現し,PG点眼薬が継続困難となった緑内障や高眼圧症の連続した患者21例21眼を対象とした.男性5例,女性16例,年齢66.0±10.1歳(平均値±標準偏差)であった.緑内障病型は正常眼圧緑内障14例,原発開放隅角緑内障6例,高眼圧症1例であった.ノンレスポンダー症例は8例,副作用出現症例は13例であった.前投薬(PG点眼薬)は,ノンレスポンダー症例ではトラボプロスト点眼薬3例(37.5%),タフルプロスト点眼薬3例(37.5%),ラタノプロスト点眼薬2例(25.0%),副作用出現症例ではビマトプロスト点眼薬7例(53.8%),トラボプロスト点眼薬4例(30.8%),タフルプロスト点眼薬1例(7.7%),防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬(ラタノプロストPF)1例(7.7%)であった.ノンレスポンダーの判定は,PG点眼薬を単剤で2カ月間以上使用し,眼圧下降率が10%未満の症例とした.副作用出現症例の副作用は表1に示す.副作用出現の判定は患者からの申し出とした.出現症例では午前6例,午後7例であった.ノンレスポンダー症例では眼圧測定時間別(午前と午後)に眼圧下降率を比較した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果全症例(21例)での眼圧は変更時16.5±3.7mmHg,変更1カ月後15.6±3.2mmHg,変更3カ月後16.2±3.7mmHgで変更前後に有意差はなかった(図1).ノンレスポンダー症例(8例)での眼圧はベースライン(無治療時)18.3±2.7mmHg,PG点眼薬使用中18.2±2.9mmHg,変更時18.5±2.9mmHg,変更1カ月後17.3±3.6mmHg,変更3カ月後18.0±2.1mmHgですべての時点で有意差はなかった(図2).眼圧下降率は,変更1カ月後は10%以上が3例(37.5%)10%未満が5例(62.5%),変更3カ月後は10%以上が2例(,)(25.0%),10%未満が6例(75.0%)であった(図3).眼圧が10%以上上昇した症例はなかった.眼圧測定時間別に検討すると眼圧下降率は午前群1.4±12.2%,午後群1.7±11.6%で同等であった(p=0.9718).副作用出現症例(13例)での眼圧は変更時15.2±3.7mmHg,変更1カ月後14.5±2.5mmHg,変更3カ月後15.0±3.7mmHgで変更前後に有意差PG点眼薬を中止し,washout期間なしで熱応答ゲル化チ25.0(ANOVA).副作用出現例では副作用症状の経過を観察した.眼圧測定は症例ごとにほぼ同時刻に行った.眼圧測定時0.0NS変更時変更1カ月後変更3カ月後間はノンレスポンダー症例では午前3例,午後5例,副作用図1全症例での変更前後の眼圧(ANOVA,NS:notsignificant)表1副作用症例の内訳モロール点眼薬(1日1回朝点眼)に変更した.眼圧を変更眼圧(mmHg)20.0時と変更1,3カ月後にGoldmann圧平式眼圧計で測定し,15.0比較した(ANOVA:analysisofvariance).ノンレスポン10.0ダー症例では眼圧下降率を算出した.ノンレスポンダー症例と副作用出現症例に分けて変更前後の眼圧を比較した5.0ベースラインPG製剤使用熱応答ゲル化チモロールに変更25.020.015.010.05.00.0眼圧(mmHg)NS副作用前投薬上眼瞼溝深化5例ビマトプロスト点眼薬3例トラボプロスト点眼薬2例結膜充血3例ビマトプロスト点眼薬3例ビマトプロスト点眼薬1例眼瞼色素沈着3例トラボプロスト点眼薬1例タフルプロスト点眼薬1例眼痛1例ビマトプロスト点眼薬異物感1例ビマトプロスト点眼薬ベースPG使用時変更時変更変更ライン平均1カ月後3カ月後霧視1例ラタノプロスト点眼薬図2ノンレスポンダー症例での変更前後の眼圧(ANOVA,視力低下1例トラボプロスト点眼薬NS:notsignificant)828あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(106) 変更1カ月後変更3カ月後10%以上,3例,37.5%10%未満,5例,62.5%10%以上,2例,25.0%10%未満,6例,75.0%図3ノンレスポンダー症例での変更後の眼圧下降率はなかった.しかし,眼圧が10%以上上昇した症例が2例あり,これらの前投薬はトラボプロスト点眼薬であった.出現した副作用は変更後に13例全例で自覚的には改善あるいは消失した.他覚的評価が可能であった症例のうち結膜充血は消失,眼瞼色素沈着,上眼瞼溝深化は改善していた.視力低下は変更前後で矯正視力に変化はなかったが,自覚的には元に戻ったと感じていた.III考按PG点眼薬にはノンレスポンダーが存在し,ラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーの頻度は8%4),8.6.26.3%5),10%6),14.3.20.9%7)と報告されている.しかし,ノンレスポンダーの定義は各報告で異なり,outflowpressureが0以下5),眼圧下降率10%未満4,6,7)などとされている.PG点眼薬のノンレスポンダー症例に対しては点眼薬を変更する必要がある.PG点眼薬のノンレスポンダー症例に対してPG点眼薬を中止してb遮断点眼薬に変更した際の眼圧下降効果は,現在のところラタノプロスト点眼薬に対する症例の報告しかない8.10).中元ら8)は,ラタノプロスト点眼薬を8週間投与し,眼圧下降率が10%未満の正常眼圧緑内障7例7眼を2%カルテオロール点眼薬に変更し8週間投与した.眼圧はラタノプロスト点眼薬治療時14.7±2.2mmHgとカルテオロール点眼薬治療時15.4±3.2mmHgで変化なかった.7眼中2眼(29%)で眼圧が下降したが,無治療時に対する眼圧下降率は0.4±10.4%,眼圧下降率が10%以上となった症例は1眼(14.3%)であった.菅野ら9)は,ラタノプロスト点眼薬を投与し,1カ月後,2カ月後の眼圧下降率が10%未満の原発開放隅角緑内障あるいは正常眼圧緑内障10例をレボブノロール点眼薬に変更し3カ月間投与した.眼圧は変更1カ月後16.2±2.9mmHg,2カ月後15.8±3.2mmHg,3カ月後15.2±4.1mmHgで,無治療時(19.1±5.0mmHg)やラタノプロスト点眼2カ月後(19.2±4.2mmHg)に比べて有意に下降した.正常眼圧緑内障9例では,無治療時と比べて変更3カ月後に7例(77.8%)が眼圧下降率10%以上になった.一方,比嘉ら10)は,眼圧下降率には言及していない(107)が,ラタノプロスト点眼薬で眼圧下降効果が不十分であった2例を熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更したところ眼圧が下降したと報告した.今回はPG点眼薬のノンレスポンダー症例に対してPG点眼薬を中止して,熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更した.この際にPG点眼薬を中止して他のPG点眼薬に変更する方法も考えられる.熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更した理由として,他のPG点眼薬に対してもノンレスポンダーの可能性があること,1日1回点眼の利便性を有するからである.眼圧は変更前後で変化なかった.眼圧下降率が10%以上となった症例は,変更1カ月後37.5%,3カ月後25.0%で,カルテオロール点眼薬へ変更した報告8)よりは良好であったが,レボブノロール点眼薬9)へ変更した報告よりは不良であった.その理由として,過去の報告8.10)ではPG点眼薬のうちラタノプロスト点眼薬によるノンレスポンダー症例のみを対象としているために今回と結果が異なった可能性が考えられる.眼圧の評価として眼圧の日内変動あるいは点眼時間を考慮する必要がある.PG点眼薬は夜点眼のため午後群ではトラフ値に近い値,熱応答ゲル化チモロール点眼薬は朝点眼のため午前群ではピーク値に近い値であった可能性が考えられる.眼圧測定時間別に検討すると眼圧下降率は午前群と午後群で同等であった.眼圧の評価をより詳細に行うためには眼圧日内変動を測定しなければならないが,今回はそこまで行うことができなかった.眼瞼色素沈着,眼瞼部多毛,睫毛延長,睫毛剛毛化などの副作用が出現したためにラタノプロスト点眼薬を中止し,他の点眼薬へ変更したことで副作用が改善したと報告されている11,12).泉ら11)は,眼瞼色素沈着,眼瞼部多毛,睫毛延長,睫毛剛毛化が出現した21例35眼に対してラタノプロスト点眼薬を中止してウノプロストン点眼薬に変更し,6カ月間経過観察した.変更6カ月後の写真判定で眼瞼色素沈着は29%,眼瞼部多毛は43%,睫毛延長は44%,睫毛剛毛化は44%で改善した.自覚的には眼瞼色素沈着は71%,眼瞼部多毛は92%,睫毛延長は44%,睫毛剛毛化は44%で気にならなくなった.久我ら12)は,眼瞼色素沈着または眼瞼部多毛が出現した12例21眼に対してラタノプロスト点眼薬を中止してウノプロストン点眼薬に変更し,6カ月間以上経過観察した.写真判定で眼瞼色素沈着は68.4%,眼瞼部多毛は76.9%で改善した.自覚的には眼瞼色素沈着は90.9%,眼瞼部多毛は71.4%で改善した.今回のPG点眼薬で副作用が出現した13例では熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更したところ,全例で副作用が自覚的,他覚的に改善あるいは消失した.この結果から,熱応答ゲル化チモロール点眼薬はPG点眼薬よりも眼局所に対しての安全性が高いと考えられる.さらに同じPG点眼薬であるウノプロストン点眼薬に変更する11,12)よりも熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更するほうが副作用の観点からは有用である可能性が示唆される.あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012829 しかし,副作用出現症例では熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更後に10%以上の眼圧上昇例が2例(前投薬トラボプロスト点眼薬)あり,それらの副作用は上眼瞼溝深化,視力低下各1例であった.上眼瞼溝深化に対してPG点眼薬を中止し,他のPG点眼薬,配合点眼薬へ変更,あるいはレーザー治療を行うことで上眼瞼溝深化が改善あるいは消失したと報告されている13.19).今回他のPG点眼薬へ変更する選択肢も考えたが,b遮断点眼薬へ変更することで副作用に対するPG点眼薬の影響をより少なくできると考えた.眼圧上昇のリスクを考えるとb遮断点眼薬よりも他のPG点眼薬へ変更したほうがよいかもしれない.副作用出現症例では熱応答ゲル化チモロール点眼薬へ変更した際に平均眼圧に変化はなかった.PG点眼薬のほうがb遮断点眼薬に比べて眼圧下降効果は強力2)であるが,この乖離の原因として今回の症例中に副作用が出現したためにアドヒアランスが低下した,あるいはPG点眼薬のノンレスポンダー症例が潜んでいた可能性が考えられる.今回PG点眼薬のノンレスポンダーや副作用出現症例を熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更したところ,ノンレスポンダー症例の約30%で眼圧が下降し,副作用は全例で自覚的に改善したが,約15%の症例で眼圧が10%以上上昇した.PG点眼薬のノンレスポンダーや副作用出現症例に対してPG点眼薬を中止して熱応答ゲル化チモロール点眼薬へ変更することはおおむね有用であるが,眼圧が上昇する症例もあり注意深い経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,20093)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査2009─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,20114)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20035)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:ラタノプロストのNon-responderの検討.あたらしい眼科19:779-781,20026)SusannaRJr,GiampaniJJr,BorgesASetal:Adouble-masked,randomizedclinicaltrialcomparinglatanoprostwithunoprostoneinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology108:259-263,20017)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,20058)中元兼二,安田典子:正常眼圧緑内障のラタノプロスト・ノンレスポンダーにおけるカルテオロールの変更治療薬および併用治療薬としての有用性.臨眼64:61-65,20109)菅野誠,山下英俊:ラタノプロストのノンレスポンダーに対するレボブノロールの投与.臨眼60:1025-1028,200610)比嘉弘文,名城知子,上條由美ほか:チモロール熱応答型ゲル点眼液の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科24:103-106,200711)泉雅子,井上賢治,若倉雅登ほか:ラタノプロストからウノプロストンへの変更による眼瞼と睫毛の変化.臨眼60:837-841,200612)久我紘子,宮内修,藤本尚也ほか:ラタノプロストの副作用発現例のウノプロストンへの切り換えにおける有効性と安全性.臨眼58:1187-1191,200413)AydinS,L..kl.gilL,Tek.enYKetal:Recoveryoforbitalfatpadprolapsusanddeepeningofthelidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy:2casereportsandreviewoftheliterature.CutanOculToxico29:212-216,201014)YamJCS,YuenNSY,ChanCWN:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200915)JayaprakasamA,Ghazi-NouriS:Periorbitalfatatrophy-anunfamiliarsideeffectofprostaglandinanalogues.Orbit29:357-359,201016)FilippopoulosT,PaulaJS,TorunNetal:Periorbitalchangesassociatewithtopicalbimatoprost.OphthalPlastReconstrSurg24:302-307,200817)PeplinskiLS,SmithKA:Deepeningoflidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.OptomVisSci81:574-577,200418)YangHK,ParkKH,KimTWetal:Deepeningofeyelidsuperiorsulcusduringtopicaltravoprosttreatment.JpnJOphthalmol53:176-179,200919)渡邊逸郎,圓尾浩久,渡邊一郎:トラボプロスト点眼によって上眼瞼陥凹をきたした1例.臨眼65:679-682,2011***830あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(108)

スペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼圧緑内障篩状板の画像解析

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):823.826,2012cスペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼圧緑内障篩状板の画像解析小川一郎今井一美慈光会小川眼科ImagingofLaminaCribrosainNormalTensionGlaucomaUsingSpectralDomainOpticalCoherenceTomographyIchiroOgawaandKazumiImaiJikokaiOgawaEyeClinic正常眼圧緑内障(NTG)の発症頻度はきわめて高いにもかかわらず,眼痛などを訴えないためか剖検例はきわめてまれである.しかし,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の進歩により,随時NTGの視神経乳頭陥凹の形状および篩状板の画像所見が容易に観察記録できるようになった.通常OCTによる網膜黄斑部解析はvitreousmodeで行われているが,今回使用された3D-OCT(トプコン社1000-MarkII)のchoroidalmodeにより,より深層の篩状板を含む緑内障性乳頭陥凹の形状および篩状板を明瞭に画像解析ができるようになった.対象は正常人(50.79歳)35眼,NTG各期45眼.原発開放隅角緑内障(POAG)各期14眼につき画像解析を行い,トプコン社3D-OCTのcaliperで篩状板の厚さの計測を行った.NTGでは乳頭陥凹は進行の時期に伴い,主としてバケツ型,ないし深皿型で深くなる.しかし,篩状板表面および裏面は進行期でもほとんどの症例で下方へ向かい弯曲せず,比較的平坦で,かなりの厚さを保っているものが多い.従来明らかでなかったNTGの視神経乳頭陥凹の形状,篩状板の病態を非侵襲的に随時明瞭に示し,経過観察記録と病因解明に有用であると考えられた.Pathologicalcasesofnormaltensionglaucoma(NTG)areextremelyrare,despitenumerousclinicalcases.Now,however,wecanobserveimagesofopticdiscexcavationandlaminacribrosainNTGbythechoroidalmodeof3D-OCT(TopconCo.1000-MarkII;ScanSpeed27,000)atanytime.Incasescomprising35eyesofnormalpersons(50.79yearsofage),45NTGeyesand14primaryopenangleglaucoma(POAG)eyes,2.3eyesofeachstage,opticdiscexcavationformwasobservedtobemainlybucketordeepplate.Laminacribrosawasnotcurveddownward,butremainedrelativelyflatandmaintainedrelativethicknesseveninprogressedstage.Laminacribrosathicknesswasmeasuredusingcalipers.3D-OCTwasveryusefulforclearimagingofopticnerveexcavation,includinglaminacribrosa,andforobservingthecourseandpathologyofNTGcasesatanytime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):823.826,2012〕Keywords:スペクトラルドメイン光干渉断層計,正常眼圧緑内障,視神経乳頭陥凹,篩状板,caliper計測.3DOCT,normaltensionglaucoma,excavationofopticdisc,laminacribrosa,caliper.はじめに原発開放隅角緑内障(POAG)の剖検所見はすでにきわめて数多くの報告が行われている.しかし,正常眼圧緑内障(NTG)の発症頻度は高いにもかかわらず,わが国のみならず,欧米でも眼痛などがないためか,眼球摘出が行われる機会はほとんどなく,したがって剖検例もきわめてまれで電子顕微鏡所見を含む報告はIwataらによる1例のみである1).しかし,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の進歩によりNTGの各時期における視神経乳頭陥凹の形状および篩状板の画像所見が容易に観察記録できるようになった.〔別刷請求先〕小川一郎:〒957-0056新発田市大栄町1-8-1慈光会小川眼科Reprintrequests:IchiroOgawa,M.D.,OgawaEyeClinic,1-8-1Daiei-cho,Shibata-shi957-0056,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)823 I対象および方法通常,光干渉断層計(OCT)による網膜黄斑部画像解析は硝子体側に最も感度のよいvitreousmodeで行われているが,今回使用された3D-OCT(トプコン社1000-MarkII,ScanSpeed27,000)はより深部の強膜側に感度を合わせたchoroidalmodeで緑内障性視神経乳頭陥凹の画像解析を行い,陥凹の明らかな形状のみならず,篩状板の形状および厚さの計測も可能となった.なお,黄斑部の画像は認められやすくするため通常1:2に拡大しているが,視神経乳頭陥凹の画像はなるべく実測値比に近づけるため1:1の拡大にしてある.中間透光体の混濁,強度近視などが軽度で,さらにNTGでは篩状板が下方への弯曲がほとんどないので横径,縦径とも比較的明瞭に視認できる.採択率はNTGでは45眼/53眼(85%).POAGでは初期からすでに下方への弯曲が激しく始まり,篩状板も薄くなり測定部位には迷うこともあったが,ほとんど中央部で測定した.採択率15眼/20眼(75%).通常協同研究者と2名で行い,明らかに異なった結果が出た場合は症例から除外した.症例は正常人(50.79歳)35眼,各期のNTG45眼,POAG14眼の視力,眼圧,屈折+3.0..6.0D,Humphrey30-2(SitaStandard)による視野測定を行った.なお,乳頭陥凹の深さはmeancupdepth〔HRT(HeidelbergRtinaTomograph)II〕の数値を使用した.篩状板厚の測定はトプコン社の3D-OCTのcaliperで計測した.II結果1.正常人における視認率,視神経乳頭陥凹の平均の深さ,篩状板の厚さ正常人で50.79歳の症例21例35眼(+2.0..6.0D)の採択率は比較的良好で太い血管が篩状板の中央を貫通し,計測に障害を及ぼす確率は5%以下であった.視神経乳頭の3D-OCTによる画像所見の陥凹の篩状板までの深さはmeancupdepth(mm)(HRTII)などのレーザー測定値を利用した.陥凹の平均の深さは229.3±53.6μm.画像上で測定した35眼の篩状板の平均の厚さは269.21±47.30μm.2.3D.OCTによるPOAG,NTG症例の画像所見図1は64歳,男性.左眼POAG初期で視力は0.06(1.0),MD(meandeviation):.0.85dB.初診時の眼圧は24.2mmHg.ラタノプロスト1日1回点眼により1カ月後17.1図164歳,男性の左眼POAG初期(MD:.0.85dB)視神経乳頭の横断面,縦断面ともにほぼ同一弯曲で深く,篩状板は幾分薄い.表面の細孔はほぼ明瞭である.824あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(102) 図279歳,女性の左眼NTG中期(MD:.12.1dB)視神経乳頭陥凹は円筒状で深さは横断面,縦断面とも比較的経度,篩状板も水平状で比較的薄い,表面の細孔は明瞭に多数認められる.図388歳,男性の右眼NTG末期(MD:.24.5dB)横断面,縦断面ともに深いが,篩状板は比較的平坦で,厚さもかなり保たれている.イソプロピルウノプロストン単独点眼により10年以上右眼も視力1.0で,求心性視野狭窄10.0°を保ち進行を示していない.篩状板表面は萎縮が認められ,細孔ははっきりしないところが多い.(103)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012825 400300200100-5-10-15-20-250500:NTG:POAG:45眼回帰直線:14眼回帰直線篩状板厚(μm)400300200100-5-10-15-20-250500:NTG:POAG:45眼回帰直線:14眼回帰直線篩状板厚(μm)-30Meandeviation(dB)図4Meandeviationと篩状板厚との相関―NTGとPOAGの比較―mmHg.視神経乳頭陥凹は横断面,縦断面ともに初期にかかわらず凹弯はすでに深く(575μm),篩状板は比較的薄くなっている(283μm).表面の細孔はほぼ明瞭.ラタノプロスト8年点眼後,トラボプロスト1年点眼中でほぼ進行を認めない(図1).図2は79歳,女性.左眼NTG中期で,MD:.12.1dB.視神経乳頭陥凹は円筒状で,陥凹はかなり深い(328μm)が,篩状板は水平で比較的厚い(271μm).視力はVS=0.8,眼圧は12.1mmHg→9.2mmHg.ラタノプロスト10年点眼で進行を認めない(図2).図3は88歳,男性.右眼NTG末期で,MD:.24.5dB.視神経乳頭陥凹は横断面,縦断面ともに凹型できわめて深い(549μm)が,篩状板はかなり厚さを保っている(319μm).イソプロピルウノプロストン単独10年点眼によりVD=1.0,右眼眼圧は13mmHg→9mmHg,中心視野10°を保ちその間10年にわたり進行を認めていない(図3).3.篩状板の厚さとMDとの相関NTG45眼とPOAG14眼に関して篩状板厚(LCT)とMD値との相関についてPearsonの相関係数で検討した.その結果,POAGでは視野狭窄の進行に伴い,篩状板の厚みは視野狭窄とともに薄くなるが,計数の変化の有意差は認められなかった.一方,NTGでは視野が進行してもばらつきがあり,有意差は認められなかった(図4).4.篩状板内の細管篩状板の細管が真っすぐ立ち上り枝分かれせず,乳頭面上に盃形に約6.7倍以上に拡大し開孔している所見が認められることがある.OCTの機能は日進月歩で改善しつつあるので,近い将来にはさらに詳細な病変を捉え得る可能性もあると考えられる.III考按“はじめに”の項にも述べたごとく,NTGの視神経乳頭に826あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012おける病理組織について述べた文献はきわめてまれである.福地ら2)は特徴的所見として,1)貧弱な篩状板ビームとその著しい変形,2)視神経乳頭全域での著明な軸索の腫脹と脱落,空洞化変性,3)明瞭な傍乳頭萎縮(PPA)とその部に一致した軸索腫脹などをあげている.そして筆者らによる3D-OCT検査では篩状板の空洞化などの組織学的変化は認められなかった.なお,Inoueら3)は3D-OCT(18,700AS/second)で高眼圧性POAGの30例52眼について篩状板を画像解析した.その厚さの平均値は190.5±52.7μm(range80.5.329.0).そして篩状板の厚さは視野障害と有意の相関を示したことを述べた.また,Parkら4)はNTG眼では篩状板は薄く,特に乳頭出血を伴う場合には薄くなることを認めた.筆者らはPOAGではPearson相関係数で視野狭窄の進行に伴い,篩状板の厚さが薄くなると予想され,その傾向はあったが,有意差は認められなかった.NTGも視野狭窄が進行しても篩状板は下方へ弯曲することなく,いずれもかなりの厚さを保っていて,菲薄化については有意な相関は認められなかった.以上の所見から明らかなごとく,筆者らは結果として3D-OCTによりNTGについてはいまだ文献上記載がみられなかった事実としてほとんどの症例で篩状板は視野進行例でも下方へ弯曲せず,flatでかなりの厚さを保っていることを認めた.ただ,今回の症例のうちでも10年を超える長期間ウノプロストンやプロスタグランジン系点眼をしている症例もあり,この長期点眼薬がNTGの乳頭陥凹,篩状板にいかなる変化をきたしているのかについては今後の検討に俟ちたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwataK,FukuchiT,KurosawaA:Thehistopathologyoftheopticnerveinlow-tensionglaucoma.GlaucomaUpdateIV.p120-124,Springer-Verlag,Berlin,Heidelberg,19912)福地健郎,上田潤,阿部春樹:正常眼圧緑内障眼の視神経乳頭における病理組織変化.臨眼57:9-15,20033)InoueR,HangaiM,KoteraYetal:Three-dimensionalhigh-speedopticalcoherencetomographyimagingoflaminacibrosainglaucoma.Ophthalmology116:214-222,20094)ParkHY,JeonSH,ParkCK:Enhanceddepthimagingdefectslaminacribrosathicknessdifferencesinnormaltensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmology119:10-20,2012(104)

後期臨床研修医日記 17.千葉大学医学部眼科学教室

2012年6月30日 土曜日

●シリーズ⑰後期臨床研修医日記千葉大学医学部眼科学教室新沢知広千葉大学医学部附属病院眼科では現在3名の後期研修医が研修に励んでいます.山本修一教授をはじめ,各専門の先生方の指導のもと,多忙ながらも充実した日々を送っています.女性医師の多いイメージの眼科ではありますが,今年の後期研修医は男子3人です.お互い神経を使わず自由にできるところは気持の面で楽でとても良いと感じています.簡単にではありますが,3人を代表して研修医生活を紹介させていただきたいと思います.眼科は朝の診察からずいぶん朝早くからやるんだね~と入院した患者さんはきまって驚く,患者さんで満ちた朝の診察室.毎日ここからスタートです.8時から患者さんは朝食,私たちは朝のカンファレンス(月水金)もしくは手術(火木)となるため,それまでに担当患者さんの診察を終える必要があります.当院では一人の患者さんに対し,基本的には外来・病棟ともに同じドクターが担当することになっています.後期研修医はオーベンの先生や術者の先生とともに患者さんを担当します.術後の患者さんの眼底は見づらく,ガスなんて入っていればもう全然,ガス越しに眼底なんか見えるのか,という感じでしたが,人間とは慣れるものですね.徐々に見えるようになってきました.所見はまだまだですが….朝のカンファレンス・教授回診月水金の朝8時より,朝のカンファレンスと教授回診が行われます.術前患者さんのプレゼンと術後患者さんの報告が主になります.何言ってるかわかんねえよ!という心の声が聞こえてこないように(たまに本当に聞こえてくる?),限られた時間のなかで,ポイントをついたプレゼンが要求されます.(95)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY▲後期研修医(左から林田,新沢,三田村.外来にて)外来朝の診察・回診が終わると,もう一仕事した感じがして疲れが襲ってくるのですが,ほっと一息,ではなく外来が始まります.後期研修医は6カ月の研修期間を過ぎると,一般外来の初診とその患者さんの再診を受け持つことになります.初期研修医の選択科目として眼科研修を行っていると,その分外来に出るタイミングが早くなります.僕は7カ月選択研修を行っていたため,4月から外来に出ることになりました.外来はチーフの先生,専門外来の先生とともに診ていくことになります.散瞳時間,種々の検査,時間によっては食事などを考えて診察だけでなく,患者さんのマネジメントが必要であり,これが狂うと外来は大惨事になりかねません.診療時間内にすべての患者さんの診察を終えるのにもう必死です.手術月火木曜日は手術日です.研修医3人の担当する曜日が分かれており,週に1日ないし2日が手術日になります.手術は3列同時に行っており,自分の担当患者さんあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012817 ▲FAカンファレンス風景(写真手前側に写っていない先生方多数)の助手や,各部屋の状況をみながら助手・外回り・器械出し(夜勤帯では)を行います.またもちろん,自分執刀の手術もあります.当院では後期研修医1年目の目標に白内障手術の完投があります.上級医の先生方が簡単そうにやっていることが,できません.目の前の眼が思い描いている光景に,なりません.助手側からの顕微鏡に慣れているため,なぜか術者側の顕微鏡のほうが見にくい?なんて….まだまだ修行が足りません.カンファレンス・勉強会全体では,毎週月曜日夜に行われるFAカンファレンス,第一水曜日夜に行われる緑内障カンファレンス,第2,4週月曜日朝に行われる抄読会などがあります.FAカンファレンスでは,FA・IAを施行した症例の検討,またFAに限らず,症例報告や難症例の検討などを行っています.緑内障カンファレンスでは,検討症例を持ちよりディスカッションなど.抄読会は,2~3カ月に1回自分の発表の順番がまわってきます.この会はすべて英語で行われます.自分の読んだ論文を英語でプレゼンし,ディスカッションも英語で行うことになります.皆普通に英語でディスカッションできるのが,僕には非常に不思議な思いです.病棟業務眼科という科の特性なのでしょうが,日中はどうしても外来や手術がありますので,入院患者さんの診療は朝と夜になります.患者さんからすると,朝食前と夕食後の診察になるので,入院すると患者さんは,朝早くから818あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012▲上級医指導のもと,豚眼で練習する筆者夜遅くまで大変~とだいたい僕らの体を心配してくれます.ん,もしかして,僕が不健康そうに見えるだけなのでしょうか?術前の眼底スケッチをしたり,オーダーを出したり,手術予定を組んだり,外来の残務をしたり,調べ物をしたり,学会発表の準備をしたりと夜が更けていきます.もうこれは明日にしよう,と心からの声と薄れゆく意識と戦い,だいたい負けます(笑).後回しにするともっと面倒な事態になることが多いので,なるべく早く片付けるようにはしているつもりですが,この紹介記事も締め切りギリギリに書いている現実からするとやはり負けているのでしょう.当直・待機・土日平日夜と土日は月3~4回程度,当直と待機があります.上級医の先生が待機についてくれているので困ったことがあったら,深夜に心苦しくも相談です.土日には決まった業務はありませんが,担当患者さんが入院していることがほとんどですので診察を行います.おわりに当院での研修生活について簡単ですが,紹介させていただきました.当科は,千葉大学だけでなく,他大学出身の先生も多く,医局全体の雰囲気はとてもよく働きやすい環境だと思います.病棟や外来スタッフともとても仲良くやっており,飲み会や医局旅行などのイベントはとても面白いです.だいたい後でびっくりするような写真が出てきますが….千葉市という人口100万人都市にありながら,房総(96) 半島の地域医療の拠点でもある当院では,さまざまな疾患を経験することができます.その分ハードな毎日ではありますが,幅広い疾患に対応できるようになるため,研修医としてはとてもよい環境であると思います.未熟な点を痛感する毎日ですが,一人前の眼科医になれるよう日々努力していきたいと思います.〈プロフィール〉新沢知広(にいざわともひろ)平成21年弘前大学医学部医学科卒業,同年より千葉大学医学部附属病院(B1プログラム)で初期研修医(平成21年度千葉労災病院,平成22年度千葉大学附属病院),平成23年度千葉大学医学部眼科学教室入局後期研修医.千葉大学医学部学生に対して,また他大学の学生や研修医が見学に来るときなどにアピールする点は,①まず大学に入るべし,②眼科に入るべし,③プラス,千葉はGoodの3点です.①②では他大学の眼科に入局されてしまうかもしれないし,大学以外でも眼科以外でも,専門を決めるのは恋愛と同様に運命的な相性(タイミング)なので,今回の3人の入局にどれだけ影響があったかわかりません.最初から決まっていたかもしれません.ここは外人部隊で母校出身者は少ないけど,風に吹かれて同じ船に乗って新世界に航海しています.①他の施設から大学へのベクトル(流れ)はないか指導医からのメッセージら,リストラのない医師が30年以上仕事を続けるなら大学からスタートしたほうが選択肢が多い.先のことはわからない.②眼は小宇宙.小さいけど緻密に無限大.オペ中に観る世界は美しい世界.サージカル苦手になってもメディカルで活かせる.サブスペシャリティーは沢山ある.③千葉県は対人口比では眼科医がものすごく少ない.都心に近いのに自然が豊富で温暖,海も綺麗,大きな空港にも近い,ディズニーランドもある.よく遊びよく学ぼう.(千葉大学医学部附属病院眼科・講師菅原岳史)☆☆☆(97)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012819

My boom 5.

2012年6月30日 土曜日

監修=大橋裕一連載⑤MyboomMyboom第5回「植木麻理」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑤MyboomMyboom第5回「植木麻理」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介植木麻理(うえき・まり)大阪医科大学眼科私は平成3年(年がバレます)に大阪医科大学を卒業後,当時,東郁郎教授が主宰されていた眼科学教室に入局しました.研修医のころから手術が大好きで時間があれば手術室で上の先生の手術を見ていました.平成11年に池田恒彦教授が就任され,翌年から池田網膜硝子体学校の1期生となり,網膜硝子体手術に朝から夜までどっぷりと浸かり,その中で血管新生緑内障を担当するようになりました.現在は続発緑内障を中心に緑内障手術にいそしむ日々を送っています.前回の加瀬諭先生から引き継いだものの,仕事,子育て,ちょっとだけ嫁仕事と毎日,走りまわっていてmyboomなんて考えたこともなかったため,「はて?私のmyboomって??」と考え込んでしまいました.そこでmyboomとは日々,大切に思いこだわっていることと勝手に解釈し,書かせていただくことにします.臨床でのmyboom最も興味をもっているのが血管新生緑内障の手術治療です.難治といわれる血管新生緑内障にあの手この手で立ち向かいます.以前は「打倒!!血管新生緑内障」と思っていましたが,ここ数年で考えが少し変わりました.以前は敵を倒そうとやっきになり,とにかく眼を助けるために徹底的に網膜光凝固,硝子体手術をして鋸状縁まで焼き尽くし,ときには毛様体扁平部も焼いて,それでもだめなら緑内障手術としていました.しかし,眼(93)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYを助けるために行ったはずなのに結果は落ち着いても著しい視野狭窄となってしまうことも多く,患者さんに「やっぱり見えへんなあ」と言われてしまうこともしばしばでした.そこで最近では打倒するのではなく,手なずけるようにすると方向転換しました.もちろん,まずは可能なかぎりの光凝固ですが,同時に抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体やトリアムシノロンというアメを与えて網膜症の状態を手なずけ,おとなしくさせます.そして点眼で眼圧がコントロールできない場合には濾過手術をします.3年前からチューブ手術をはじめ,現在までに17例18眼にチューブ手術を行いました(うち15例15眼が経毛様体扁平部挿入型)が15例15眼は点眼治療なしに21mmHg以下にコントロールされ,点眼治療を追加すれば現在,全例が21mmHg以下となっています.何度,濾過手術を行っても眼圧コントロールがつかなかった患者さんでもコントロール可能となり,もう少し早く始めていればあの人も助けられたかもしれないと何人かの患者さんの顔が目に浮かびます.緑内障手術の適応も早まり,結果としてよりよい視力,視野が残せるようになってきました.より良い視機能が残せるように日々精進したいと思っています.研究でのmyboom研究はおもに臨床研究を行っています.Myboomというより趣味に近いのですが過去のカルテを見ながら長期のデータを集めるのが大好きです.仕事が終わってから医局で独り言をいいながらバックグラウンド,視力,眼圧,視野,イベントなどをexcelに打ち込んでいきます.こだわりは時間がかかりますが一人で黙々とすること.一人ですべてのデータをとっていると何人目かである特徴に気が付きます.次にそこに着目してデータを取り直してみるということを繰り返します.そうすると見あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012815 えなかった何かが見えてくることがあり,ワクワクします.データを取っているうちに違うデータがあればもっと面白い結果が出そうだと思いつき,次の研究のアイデアになることもあります.また,自分が手術をした症例については経過記録を残すようにしています.良かった症例,悪かった症例のインパクトが強く,記憶しているだけでは自分の治療を正しい評価ができないため,3年ごとにすべての症例の成績を出して治療の正当性を評価し,次の治療にフィードバックします.最近は四十の手習いで眼病理を勉強し始めました.週に1度,病理学教室に伺い,眼科の過去に診断された組織を診て自分の知識をつけているだけですが,将来的に臨床につながる検討ができるようになれればいいなと思っています.プライベートのmyboom私を知っておられる先生からは「ほんまか!」と聞こえてきそうですが,趣味は自己流の料理と編み物です.料理はストレスの解消法です.忙しければ忙しいほど現実から逃避するためか,凝ったものを作りたくなります.中華料理なら「チャラララ,ランランランラ.ン.」,イタリア料理なら「オソ.レミ.オ..」と歌い,昔あったテレビ番組「料理の鉄人」の真似をして「今,鉄人がエビを投入しました!」と一人実況しながら作ります.子供と2人で食べるだけなのにキャンドルを灯し,テーブルセッティングにもこだわります.また,平日は子供とゆっくり時間を過ごすことができないため,日曜日は朝から何か一緒に作る日としており,先週はうどん,今週はパンでした.来週はケーキにでもしましょうか!編み物は大きなものは時間もかかり,あまり作りませんが冬には帽子やマフラー,夏にはベストなど小物は毎年作っています.子供が幼稚園のころは毎年のバザーに必ずお母さんの手作り作品を出さなければならず,「縫いぐるみ」ならぬ編みぐるみやガマグチ財布を編んで,何とか乗り切っていました.編み物はいいかげんな性格の私にぴったり!編んでいって小さければ編み足して大きくすることもできます〔写真1〕今まで一番のヒット作.子供の帽子を編んでみましたが試しにかぶらせたところ,アフロヘアーのカツラのようでした.でも大丈夫.耳をつければクマさん帽子に早変わりしました.し,出来上がりが気に入らなければちょっとした工夫でイメージを変えることができます.写真1は今まで一番のヒット作で,子供も気に入り1歳から3歳まで毎冬,かぶってくれました.周りにも大評判でお友達から注文がきたほどです.街中で見知らぬ人に「かわいい!」と頭を撫でられることもしばしばありました.でも調子に乗って次の年につくったアンパンマン帽子やドラえもんマフラーは「いやっ」と1回で却下されお蔵入りになりました.小学生になるとなかなか注文がうるさくなってきており,今年はワンピース,ポケモンキャラのベストもしくは帽子にチャレンジしたいと思っています.次回のプレゼンターは名古屋市立大学の安川力先生です.安川先生は精力的な仕事ぶりとギャップのある天然ほんわかキャラで一緒にいる周りの人を癒してくれます.私も会うたびにいつも元気をもらっています.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆816あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(94)

眼研究こぼれ話 30.結び ご愛読を感謝して

2012年6月30日 土曜日

眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話●連載(最終回)桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長結びご愛読を感謝してだらだらと,勝手なことを書いているうちに,ついに100回を超してしまった(編集部注:本誌では全108編のうち30編を収載).このあたりで一応おしまいにしようと思う.長い間,読んでいただいた皆さまにお礼を申し上げたいと思う.この拙稿は発送の都度,東北大学の福士博士に目を通していただき,変な当て字などは大部分消していただいたはずだが,ずいぶんと読みにくいばかりでなく,幼稚な表現を重ねて,失礼を続けたことをおわびしなければならない.不均一な漢字の分布は,私が辞典を引くのを怠ったためであり,お許しを願いたい.また,数編にわたり,独りよがりな,専門的記述を長々とつづったこともおわびしたい.連載については,愛媛大学眼科,坂上教授のご親切な紹介をいただき,大変恐縮した.編集に当たった谷口氏,愚弟,寛吏には,特にお礼を述べたい.多数の方々からお教えや,おしかりを受けたことに対してもお礼を申し上げる.残念ながら一つ一つご返事を出せなかったことをおわびしたい.私の研究室では,昨日まで書いたようなたわいない話が毎日,こぼれ落ちている.これを読んでいただいた方々に,眼とはどんなものかという,アウトラインでもわかっていただけて,また,眼科学が医学の重要な部門を占めていることを認識していただけたら,本当に幸いである.以上は比較的幸運にめぐまれた一病理学徒が,眼の研究に取り組んだ話であって,うまく行ったことばかりを書きつらねたきらいがある.医学研究の実際はこんなにうまくばかりいくものではない.私にとっても,他の多数の学者と同様,思ったように進(91)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY▲東北大学福士博士.眼科学の権威であるばかりでなくレンズの生化学,糖尿病の研究などでも第一人者である.アメリカ留学は二度目,東南アジア方面でも活躍されている.まない場合の方が多い.せっかくあげた成績も,努力の甲斐もなく,応用のもっていく場所のない場合もある.今日も,同僚の一人が,網膜変性の遺伝因子を持っているラットを繁殖させるため,1年間をムダに費やしたこと,そうして,最初の実験目的が薄れてしまったことを相談して来た.このようなことが起こるのが,研究室の日常でもある.われわれが学者ぶった顔をして,何か,ごそごそやっている向こう側には,研究成果を本当に待っている病人たちがいる.いつも期待に間に合わないのである.私たちはそのことを念頭において,常にイライラもしている.その期待に沿うためには,だれかが休みなく腰をあげ,手をぬらしていなければならない.学究的な医学者はなにも大学とか研究所だけにいるのではない.自己犠牲に徹した医者がたくさん,人助けを業と心得て働いている.悪徳医者とか,医学系大学の不正入学がセンセイショナルに報道される一方に,お役に立っている医者が,もっともっとたくさんいることを知っていただきたい.このシリーズでは,ボストンとワシントンの特別あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012813 眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話に恵まれた環境にいる人々のことを主として書き続た医学者の数人の方々から,医学の光明の面を久方けたけれども,医学には国境は全くなく,日進月歩ぶりに読んでうれしいと,言って来られた.私の役の発達には,数知れないほどの日本の医学者の参与目が終わったような気がする.がある.種々の不利な条件に打ち勝って,日本の医(おわり)学界は,世界水準の上位に属していることも,どう(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)か認めていただきたい.私の拙稿を読んでくださっ☆☆☆年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2012Vol.29月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2012Vol.25■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療/Myboom他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他http://www.medical-aoi.co.jpお申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544814あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(92)

現場発,病院と患者のためのシステム 5.ノンストップのための条件

2012年6月30日 土曜日

連載⑤現場発,病院と患者のためのシステム連載⑤現場発,病院と患者のためのシステム優れた機能をもったシステムでもダウンしたら終わりです.航空管制システムや新幹線の制御システムのダウンは生死にかかわり,原子炉制御のシステムダウンは,生死のみならず,その地域でノンストップのための条件*杉浦和史生活できるかどうかにさえかかわってきます.システムに頼っている度合いが強ければ強いほど,医療情報システムに限らず,システムが止まってしまう要因は大きく分けて5つあります.電源断/ハードウェア障害/ソフトウェア障害/アプリケーション不具合/操作ミスです.これら5つの要因と対策につき,説明します.ダウンした際のダメージは大きくなります.どうすれば問題なく稼働し続けられるか..電源断電源の供給が止まると,コンピュータ本体のみならず,周辺機器がすべて動かなくなり,システムは機能しなくなってしまいます.これに備えてバッテリーで電源供給するのが普通ですが,間違って理解されている場合があります.それは,電源の供給が止まっても,バッテリーを使ってシステムを稼働し続けられると考えていることです.モバイル環境で使うことが多いノートパソコンは,バッテリー駆動で何時間も動くよう省電力設計になっているものがありますが,システムの心臓部ともいえるサーバーは,電力消費量が多く,バッテリーだけで長時間動かし続けるには限界があります.サーバー用のバッテリーは,電源供給が止まったら,データの保全性(Integrity)を確保したうえで,安全に停止するための時間稼ぎをする手段と考えたほうが無難です.サーバーだけではなく,周辺機器にも安全に停止させる間,電源を供給してやらなければなりません.安全に停止させれば,電源の問題が解決すると支障なく再開することができます..ハードウェア障害コンピュータを構成する部品の中で故障が発生するのは,おもにハードディスク(HDD)です.これは常に高速で回転し,一般的に振動に弱く,正常に動くための温湿度条件も設定されています.HDDには,アプリケーションやデータが記録されているので,故障するとシステムは運転を続けられなくなります.以前に比べ,耐故障性が高まっていますが,それでも0にはなりません.万が一に備えてバックアップをとっておかなければなり(89)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYませんが,バックアップは,できるだけ離れた場所に置く必要があります.それは,近くに置いておくと,地震,津波,火災,落雷などで一緒に使えなくなってしまうからです.東日本大震災の際の原発事故は,緊急炉心冷却用のバックアップ電源が同じ建屋にあり,大津波で一挙にやられてしまいましたが,同じ理屈です.当院では,本院と分院の両方に同じ環境をつくり,相互にバックアップするようにしています.さらに,CPUはじめ,すべての部品,機構を二重化して耐故障性を高めたFT(Faulttolerant)と呼ばれるサーバーを用い,可能な限り正常な稼働が続けられるよう考えています.ハードウェア障害対策で見逃しがちなことがありますが,それは予備機の扱いです.業務が止まってしまうクリティカルな機器の場合には,あらかじめ同じ機種を用意し,万が一に備えます.しかし,最近の機械は信頼性が高く,なかなか故障せず,予備機の出番がありません.出番がないまま置いておくと,ラベルプリンタなど,可動部分をもつ機器の場合,ローラ部分がくっついていて動かないという事態が起きる可能性があります.これはスペアタイヤを積んでいても,空気が少なくなっていて使えなかったということと似ています.予備機のまましまっておくのではなく,定期的に入れ替えて使うことを勧めます..ソフトウェア障害OS,データベース,通信などシステムのインフラとなるソフトウェア群に障害が発生すると,システムは止まります.もちろん,製品の性格上,十分な品質テスト*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012811 医事会計検査外来図1現場スタッフによるテストをしてから出荷されるので,滅多なことではトラブルは発生しない信頼性をもっていることになっています.しかし,0にはなりません.リリースされたばかりの製品,新機能はできるだけ使わないというのが当院の方針ですが,それは机上ではテストしきれず,現場で使って初めて発生する不具合というものがあり,これらが吸収され,安定性が増すまで様子をみるということです.一般的に,バージョン3が無難だといわれます.バージョン1は品質が安定せず,機能が揃っていない,バージョンアップ2はそれらを吸収し,皆さんが使い込み,バージョン3で比較的安心して使える状態になり,バージョン4以降は,余分な機能がつき重たくなる.この評価は,今までの経験からも同感できる見方です.付和雷同にブームに迎合せず,ベンダ(システム開発会社)の甘言に乗らない,これもポイントではないかと思います..アプリケーション不具合これは,現場の業務と作業実態を,BPRしたうえで整理整頓し,どれだけシステムに反映できたかという仕様の完成度と,それを確実にプログラミングする技術,仕様通りに動作するかのテストに依存します.もの作りに起因する技術的なものはベンダに任せるしかありませんが,ユーザー(病院)側でも積極的に参加できるものがあります.仕様の作成,それにレビューとテストです.これをベンダ任せにせず自前で行うことにより,稼働中に起きる不具合が減り,システムが止まり,業務が止まる危険を減らすことができます.簡単にいえば,“このケースでは,この操作をしたら,こうなるはず”ということができているかどうかです.ベンダの技術者に業務の内容を伝え,彼らにやってもらう方法では,伝えきれなかったり,ベンダが理解しきれないことにより,不具合が作り込まれてしまうことを防ぐことができます.病院側スタッフがテストすれば,日頃処理してい812あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012ることができるかをチェックするだけなので,比較的容易に,実務に即したチェックができます.ベンダには難しいことでしょう.当院には,2002年7月に稼働を始めた予約業務を主体とするリソースマネジメントシステムM-Magicがありますが,稼働以来,約10年間,ノーダウンを続けています.これは,現場のスタッフが,イレギュラーな場合も含め,稼働前に実際に使うシーンを想定して機能をチェックするなかで,品質を向上させたことが一因ではないかと考えています.現在開発中の院内総合電子化計画Hayabusaでも,もちろん,現場がテストし,品質と実用性を高めています(図1)..操作ミス本来,操作ミスによってシステムダウンになることは考えられないことです.仮にあるとすれば,それはテストの段階ではじかれているはずであり,万が一,操作ミスをしてもシステムダウンを引き起こすような仕様にはなっていないはずです.しかし,起きてしまうことがあります.簡単にいえば仕様の不備,テストの疎漏です.これを防ぐには,デザインレビュー,テスト方法のレビューが必須ですが,この工程を疎かにした開発をすると,その可能性が高くなります.Wordで文書を作り,“保存しなくてもいいですか”に対し,“はい”を応答してしまい,ファイルを失った経験をした方も多いと思います.メッセージの内容を確認せず,惰性でEnterキーを押してしまい,デフォルトになっている選択肢が選択され,その結果思わぬ事態になることがあります.デフォルトはフェールセーフ(できるだけ悪くならない選択)を基本としなければなりませんが,操作ミスによる思わぬ事態にならないかは,デザインレビューでたたき出しておかなければならないことです.(90)

タブレット型PCの眼科領域での応用 1.なぜ今,眼科医療においてタブレット型PCが大切なのか

2012年6月30日 土曜日

シリーズ①シリーズ①タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第1章なぜ今,眼科医療においてタブレット型PCが大切なのか私は臨床で眼科医をする傍らで医療の現場を離れ,視覚障害者の生活をより快適なものにすることを理念とした情報サイトの運営と啓発活動をしている三宅琢と言います.具体的な活動としては私が代表を務めるGiftHandsなどを通して視覚障害者や児童,盲学校職員,視能訓練士などを対象にタブレット型PCの活用法を紹介する啓発セミナーを行っています.Giftは贈り物や才能を,Handsはそれらをつなぐ手を意味し,多くの視覚障害者の意見や想いを吸い上げ,社会に還元することを目標としています.眼科医療におけるタブレット型PCの活用法,体験インタビューで得た実際のニーズとその対応方法などを,体験者の声を交えて紹介していきたいと思います.連載にあたって第1章ではなぜ今,眼科医療の分野においてタブレット型PCが重要であるかを社会背景やタブレット型PCの臨床導入の現状を踏まえて説明していこうと思います.近年,携帯性に優れた,タブレット型の多機能電子端末が広く普及してきています.なかでもApple社製の9.7インチマルチタッチスクリーンを搭載したタブレット型PCであるiPadR(AppleInc.)はキーボードやマウス操作を必要としないタッチパネル式の多機能電子端末で,2本の指のみの操作で表示画像の拡大や縮小ができ,簡便かつ瞬時に表示サイズの変更が可能で操作性に非常に優れています.また,9.7インチの大きい表示画面を有し持ち運びが簡単にできるため,ベッドサイドでの検査結果の説明や画像閲覧に使用でき,ベッドサイドケア,介護,看護と医療の現場でも多方面での応用がすでに報告されています1.5).また,手術室では透明で無菌のカバー越しにも簡単に操作が可能であるため,3D再構築画像と術中所見とのリアルタイムな比較を行っている施設もあり,その活用法の可能性は日々広がり続けています.(87)眼科領域においても,ここ数年で学会の抄録集がアプリケーションソフトとしてダウンロードができるようになり,演題の検索や学会中の演題進行状況の把握などが非常に簡便かつ的確になってきています.しかし,内科や一般外科領域の医療現場への導入の状況と比較すると,眼科医にとっての電子タブレットの活用は個人レベルにとどまり,おもな活用方法はスケジュール管理やメールの確認などまだ限定的であり,あまり重用視はされていません.しかしここ数年で登場した,後継機種にはタブレットの前面および背面に2つのカメラを搭載したこと,表示画面の解像度やコントラストが向上したこと,音声入力や読み上げ機能などを追加したことにより,その活用法の可能性は眼科領域においても急速な広がりをみせています.私は内科系研修医としての2年間初期研修のなかで,医療に関する2つの基本的な姿勢を学びました.1つ目は,治療の本質は患者のなかにあり,患者教育こそが最も時間を割くべき医療行為であるという姿勢です.医療現場では「医療者の指示に患者がどの程度従うか」というコンプライアンスの概念がこれまで重用視されてきましたが,ここ数年で「患者自身の治療への積極的な参加」というアドヒアランスの概念が重要であり治療成功の鍵であるという考えが一般的になってきました.眼科領域において治療の主体である点眼行為が,患者のアドヒアランスに大きく影響されることは言うまでもなく,まさしく治療の中心は患者にあると言えます.また,古くより患者の心理的な作用を利用した偽薬(プラセボ)効果は有名ですが,患者の多くが不定愁訴を認め,自覚症状の改善が重要な要素である眼科医療において,点眼行為という一種の儀式に対するアドヒアランスの効果は計り知れません.私は3年前から外来での患者説明の際にタブレット型PCを使用しています.解剖や病態生理,前眼部や眼底写真を患者と一緒に閲覧し病状や手術術式などを説明すあたらしい眼科Vol.29,No.6,20128090910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図1取り込んだ製剤見本の画像を拡大表示る際,患者の視力に適した画像の拡大や明るさの調節などが即座に可能で,患者の視機能に合ったオーダーメイドな説明ができます(図1).患者や家族からも「実際に手に持って説明を聞ける.」,「診察室が暗くても画面が明るく,図が大きいから非常に見やすく理解しやすい.」などのコメントがあり,以前より短い時間でより満足度の高い良好な患者-医師関係を構築することができるようになりました.紙ベースでの資料では不可能であった新しい説明方法で,何より起動から画像提示までが数秒以内に行えること,患者や家族がタブレットを直接操作して任意に拡大や縮小を行うことで,より高い水準の病態理解が得られ,アドヒアランスは格段に向上します.個人的に説明などに使用する範囲であれば,そうした際に使用する解剖図などは日本眼科学会のホームページ(http://www.nichigan.or.jp/public/disease.jsp)などからも簡単に入手することができます.2つ目は,患者の言葉は教科書であり,患者の内なる声に常に耳を傾ける姿勢の大切さを学びました.3分診療という言葉にもあるように,実際の臨床の現場は時間との戦いであり,事実上眼科医療における診療時間とは,おもにスリットランプでの診察や眼底の診察に要する時間を意味し,患者との対話に要する時間は非常に短いと日々感じてきました.また,今後の電子カルテ化に伴い医師の視線はPCの画面とキーボードの入力に奪われることは必至であり,患者の想いと医師の理解の乖離は広がる方向にあります.タブレット型PCによる説明を導入し,良好な患者医師関係が構築されるようになった結果,診察時間は大幅に短縮しました.患者は診察室に入ってくるなり真実の言葉を話し出します.今までは気を使って言えなかった本音の言葉,それは真の治療効果を私に教えてくれま810あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012す.デジタルな存在であるタブレット型PCを上手に利用することで,逆に患者と医師の心の距離は近づいたと言えるのではないでしょうか.今後このシリーズで扱っていく電子タブレットのさまざまな活用方法を知ることは,最終的には患者の幸福はもちろん,言葉の食い違いなどから始まる諸問題から医師自身の身を守る手段としても非常に有用であると思います.そして何より,その存在を知ることによって,多くの治療法を失ったロービジョン患者の瞳に光を戻すことができると私は信じています.【追記】原則的に私が現在,GiftHandsや実際に外来で扱っている電子タブレットは,すでに医療現場に導入例のあるiPadRとiPhoneR(AppleInc.)の最新機種である“新しいiPadR(AppleInc.)”と“iPhone4SR(AppleInc.)”です(2012年4月30日現在).なお,本文中の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページでの問い合わせのページよりいつでも受け付ていますので,連絡いただけたら幸いです.GiftHands:http://www.gifthands.jp/文献1)吉田茂:【現場の要求とモニタ選定】最新技術展望iOSデバイスが有する診療補助機能としての可能性を説く.新医療38:100-103,20112)杉本真樹:【ICTが医療・福祉施設環境を変える】医療クラウドとスマートモバイルデバイスによる個別化医療福祉ICTOsiriX-iPadと医領解放構想.病院設備53:48-50,20113)網木学:【医療を変えるiPhone/iPad】導入事例手術室でのiPad活用看護教育を中心に.看護学雑誌74:30-34,20104)富田博信:iPadは医療のなにを変えるのか臨床での有用性と新表示デバイスAquariusSystemを使用したシャント3D-CTAngio活用におけるiPadの臨床使用例透析室でのシャント3D-CTAngio配信システム.新医療38:145149,20115)杉本真樹,森田圭紀,松岡雄一郎ほか:【ロボット手術と最新の内視鏡外科手術】ロボット手術,NOTESにおける実時間的手術ナビゲーション.SurgeryFrontier17:234-243,2010<プロフィール>三宅琢(みやけ・たく)平成17年東京医科大学卒業平成17年東京医科大学八王子医療センターにて初期研修平成19年東京医科大学眼科大学院平成24年東京医科大学眼科兼任助教平成24年東京医科大学眼科大学院卒業平成24年永田眼科クリニック平成24年GiftHands代表http://www.gifthands.jp/(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 109.裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術時のバックル併用の是非(初級編)

2012年6月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載109109裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術時のバックル併用の是非(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●裂孔原性網膜.離に対する術式の変遷硝子体手術の進歩に伴い,従来は強膜バックリング手術で治療していた裂孔原性網膜.離に対して,初回から硝子体手術のみで網膜を復位させる術者が増加の一途をたどっている.それに加えて近年の小切開硝子体手術の普及やワイドビューイングシステムなどの観察系の進歩により,バックル手術を併施しない傾向もますます顕著になっている.しかし,硝子体手術が第一選択と考えられるような裂孔原性網膜.離もすべての症例が硝子体手術のみで確実な復位が得られるかというと,やや疑問が残る.●硝子体手術後の周辺部残存硝子体牽引と再.離一般に,中高年者に多い網膜格子状変性巣縁の弁状裂孔が原因で発症する胞状の網膜.離は,硝子体手術の適応と考える術者が多い.硝子体手術を選択した場合,網膜格子状変性巣の後縁までは容易に人工的後部硝子体.離を作製できるが,変性巣の周辺側の硝子体を完全に切除するのは結構むずかしい.スモールゲージ硝子体カッターを周辺側の硝子体と網膜の間に上手く挿入することで,周辺部の人工的後部硝子体.離を比較的容易に作製できる症例もあるが,面状の網膜硝子体癒着をきたしている症例では双手法を用いないと硝子体を網膜から.離できないことも多い(図1).特に網膜格子状変性巣が全周性に広範囲に認められる症例ではその傾向が強い.最近普及している高速回転の硝子体カッターでは,残存硝子体量を少なくすることはできるが,vitreousshavingのみで硝子体の牽引が完全になくなるわけではない.●残存硝子体牽引に対するバックルの有用性周辺部に硝子体が残存した場合には,眼内光凝固や経強膜冷凍凝固などの凝固操作により硝子体牽引を上回るだけの癒着力を得ておくことが必須となり,しばしば残存硝子体牽引が打ち勝って再.離をきたすことがある図1網膜格子状変性巣周辺での人工的後部硝子体.離作製広範な網膜格子状変性巣を有する症例では,網膜格子状変性巣より周辺側の硝子体は面状に網膜と癒着しており,双手法による硝子体切除が必要となることが多い.図2残存硝子体牽引による再.離多くの硝子体術者は,この部分をvitreousshavingに留め,残存硝子体をできるだけ薄くして,あとは眼内光凝固の癒着力によって網膜を復位させているが,しばしば残存硝子体牽引力が光凝固の癒着力を上回って再.離をきたす.図3バックル併用の意義バックル設置により残存硝子体牽引を相殺し,再.離のリスクを軽減できる.(図2).筆者はこのように残存牽引が強いと予測される症例(すなわち周辺部の硝子体が十分に処理できなかった症例)では,迷わずバックルを設置している(図3).通常は#240シリコーンバンドによる周辺部輪状締結術を施行することが多いが,もちろん部分バックルでもよい.バックルの設置部位としては,硝子体牽引が残存している裂孔の周辺側を確実にバックル上にのせるようにする.バックル併用硝子体手術では,屈折が術後に変化するので,眼内レンズは二次的に挿入するようにしている.最近,バックルを置かないことにこだわり過ぎて再.離をきたし紹介されてくる症例を時々みかけるようになった.初回硝子体手術時に必要最小限のバックルを設置する侵襲と再手術を施行する侵襲では,当然後者のほうが大きいはずである.(85)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20128070910-1810/12/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 138.iPS細胞の眼科への応用

2012年6月30日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第138回◆眼科医のための先端医療山下英俊iPS細胞の眼科への応用平見恭彦(先端医療センター病院眼科)iPS細胞とは2006年に京都大学の山中伸弥教授らは,皮膚の細胞にレトロウイルスを用いて遺伝子を導入することにより胚性幹細胞(embryonicstemcell:ES細胞)と同様の細胞ができることを報告1)し,アップル社のiMacRやiPodRといったヒット商品の名前をもじって人工多能性幹細胞(inducedpluripotentstemcell:iPS細胞)と命名しました.ES細胞やiPS細胞は,培養により無限に増殖させることができるうえ,培養条件を変化させることでさまざまな組織あるいは臓器の細胞に分化させることができる多能性幹細胞といわれるもので,特にiPS細胞は,血液や皮膚,毛髪などの細胞から,本人と同一の遺伝子をもったクローン細胞を作製し,若返った組織や臓器を作ることができる可能性があることから,再生医療,移植医療への応用が期待されています.網膜細胞をつくるiPS細胞が未分化の分裂状態を保つためにはフィーダー細胞といわれる足場となる細胞の上に培養し,培地にLIF(leukemiainhibitoryfactor)といわれる未分化維持のための因子を加える必要があり,それらを除去するとiPS細胞はいろいろな細胞へ分化していきます.培地の組成を変化させ,分化誘導因子を加えることで神経や筋肉,血球など特定の組織への分化をコントロールすることができ,網膜色素上皮細胞(retinalpigmentepitheliumcell:RPE細胞)はヒトES細胞,iPS細胞から分化開始後約30日で出現しますが,網膜視細胞の出現には約120日以上が必要になります2,3).RPE細胞では分化が進むと肉眼でも確認できる茶色の色素をもつ細胞集団(コロニー)ができるため,コロニーを周囲の細胞から分離して,分化したRPE細胞だけを増殖させることが可能で,さらに単層のシート状に培養して回収することができます.細胞を移植する際に分化していない未分化な細胞が混入すると,腫瘍化する(81)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1iPS細胞を用いた細胞移植治療のモデル自己細胞の代わりにiPS細胞バンクから細胞を調達すれば,遺伝性疾患の治療が可能で,治療期間やコストの圧縮にもつながると考えられる.可能性があるため,治療に必要な分化した細胞の選別が容易であるということは臨床に応用するうえでの利点となります.一方,視細胞の場合は他の細胞と混在しているうえ,肉眼での識別はできず,蛍光標識による染色を行わないと検出できなかったため,細胞を作製した後に,純化して取り出す方法が課題となっていました.しかし最近,マウスのES細胞から三次元的に層構造をもった網膜を作製する方法4)が報告され,この技術がヒトの幹細胞にも応用されれば,視細胞の移植にも大きく前進する可能性が開けてくることと思われます.眼科領域での臨床応用に向けて網膜細胞は作製することができるようになりましたが,臨床で移植に用いるためには安全性などのさまざまなハードルを越える必要があります.レトロウイルスにより導入された遺伝子が再活性化することによって移植細胞が腫瘍化することや,細胞の培養過程で使用される培地や成長因子にはマウスやウシなど他動物種由来のものがあるために,移植細胞が拒絶されることが懸念されていましたが,これらの問題に対しては,プラスミドを用いた遺伝子導入法5)や,分化誘導に合成あるいは抽出蛋白ではなく低分子化合物を用いた方法6),さらに培地の組成についても詳細に分析して人体に有害な影響を生じない細胞の製造工程の検討が進められています.また,作製したRPE細胞を免疫不全マウスに移植して腫瘍が生じないことを確認する試験も進められています.網膜は他の臓器に比べて治療に必要とされる細胞の数が少ないことと,移植細胞源として他者の細胞を使うのあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012803 がむずかしいことから,早くからES細胞やiPS細胞を使った移植治療のターゲットとして考えられていました.2012年1月には,世界初のES細胞による網膜疾患治療として,米国AdvancedCellTechnology社により,ES細胞から作ったRPE細胞を用いて,Stargardt病と萎縮性加齢黄斑変性(AMD)の患者に対する細胞移植治療を行ったことが発表されました7).Stargardt病はRPEの変性により視細胞変性がひき起こされる疾患で,遺伝子異常が原因であるため,自己由来のiPS細胞でなくES細胞を用いる必要がありますが,長期にわたって拒絶反応が起こらないかどうかなど,今後の経過が注目されると思います.滲出型AMDに対しては現在,抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬や光線力学的療法による脈絡膜新生血管(CNV)の抑制が治療として効果をあげていますが,黄斑部網膜下の線維性瘢痕や網膜の萎縮,変性をきたした場合には視力の改善は得られません.滲出型AMDに対する手術治療としては,CNVの抜去や黄斑移動術が行われてきており,海外では周辺部網膜を.離して自己RPE-脈絡膜シートを採取し,黄斑部へ移植する手術も行われています.CNVの抜去術を行った症例では病巣を除去した後の網脈絡膜萎縮により視力の改善は困難であり,黄斑移動術や自己RPE-脈絡膜シート移植術では黄斑部網膜下が健常なRPEでカバーされるようになることで視力改善が得られる症例もありますが,手術侵襲が大きくなるために重篤な手術合併症を発生する率が高いことが欠点でした.iPS細胞から作製したRPE細胞シートを用いることにより,CNVの除去に加えて健常なRPE細胞シートを移植することによってバリア機能を回復し,視細胞を保護することができれば,網膜の機能再生治療として視力の改善も得られる可能性があると考えられます.一方で,生体外で培養された細胞シートを眼内へ挿入し,網膜下へ移植する手術はこれまでに前例がなく,新しい手術手技および手術器具が必要になります.細胞をバラバラの状態で注入するのと異なり,細胞シートの移植手術では視細胞側とBruch膜側の極性がある単層の薄くて柔らかいRPE細胞シートを,硝子体手術と同様の強膜創から眼内へ挿入し,人工的網膜.離を作製し網膜切開部から極性を保った状態で移植するという手技が想定されます.強膜創や網膜切開を最小限にするため,細胞シートを細長い短冊状にして注入する方法と,より大きい細胞シートを円筒状に丸めて眼内~網膜下へ挿入し,展開して接着させる方法について現在検討を進めています.理化学研究所とジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC),先端医療センターの共同研究グループでは,滲出型AMDを対象にしたiPS細胞由来のRPE細胞シートを用いた細胞移植治療を臨床研究として2013年度に開始できるよう準備を進めており,当初は既存の治療では難治の症例に対して行う予定ですので,視力の大幅な改善は期待できないと思われますが,治療の安全性が確認され,将来的に治療の適応が拡大することにより,症例によっては視力向上も期待できる治療になることが期待されます.文献1)TakahashiK,YamanakaS:Inductionofpluripotentstemcellsfrommouseembryonicandadultfibroblastculturesbydefinedfactors.Cell126:663-676,20062)OsakadaF,IkedaH,MandaiMetal:Towardthegenerationofrodandconephotoreceptorsfrommouse,monkeyandhumanembryonicstemcells.NatBiotechnol26:215224,20083)HiramiY,OsakadaF,TakahashiKetal:Generationofretinalcellsfrommouseandhumaninducedpluripotentstemcells.NeurosciLett458:126-131,20094)EirakuM,TakataN,IshibashiHetal:Self-organizingoptic-cupmorphogenesisinthree-dimensionalculture.Nature472:51-56,20115)OkitaK,NakagawaM,HyenjongHetal:Generationofmouseinducedpluripotentstemcellswithoutviralvectors.Science322:949-953,20086)OsakadaF,JinZB,HiramiYetal:Invitrodifferentiationofretinalcellsfromhumanpluripotentstemcellsbysmall-moleculeinduction.JCellSci122:3169-3179,20097)SchwartzSD,HubschmanJP,HeilwellGetal:Embryonicstemcelltrialsformaculardegeneration:apreliminaryreport.Lancet379:713-720,2012■「iPS細胞の眼科への応用」を読んで■今回はiPS細胞を用いた再生医療についての解説でん,きっとあると思いますが,最先端のことをわかりす.再生医学のなかでも最も注目を集めているプロやすく解説していただいたことで,その実態と今後のジェクトの一つですから,名前を聞いたことは皆さ展望をきちんと理解できると考えます.滲出型加齢黄804あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(82) 斑変性の治療への応用が2013年に予定されているこめられます.これについて十分に検討されていることとがわかり,現実感をもってその成果に期待することがわかります.また,効果についても,今後の長期的ができます.なかなか治療の困難な疾患だけに大きなな戦略のなかで見きわめていく必要が述べられていま期待が集まっています.また,iPS細胞の臨床応用のす.まずは,安全性,そして有効性というこの手順をなかでも眼科疾患が先頭グループにいて研究を牽引しきちんと踏んでいらっしゃることがわかります.先端ていることはわれわれ眼科医として大変誇らしい気分医療というとこれまで治せなかった病態を治療するのにもなります.高橋政代先生をリーダーとした平見恭であり,大きな期待が社会から寄せられます.われわ彦先生の研究グループのますますの発展が期待されまれは眼科医療のプロフェッショナルとして,iPS細胞す.を用いた再生医療の有効性を長いスパンでみていく,最先端医療を導入する際に大変大切なことも平見先そして,臨床応用が可能になった日には眼科全体とし生の今回の総説のなかには書かれています.まず,究てきちんと評価していくscientificな姿勢が求められ極の安全性への配慮です.医療である以上,日常の医ると考えます.今後の正しい軌道での発展に日本の眼療でも必ずリスクはついて回りますが,先端医療で皆科の実力が問われているのかもしれません.さんが注目しているだけに高いレベルでの安全性が求山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012805

新しい治療と検査シリーズ 207.Topography-Guided Conductive Keratoplasty(TGCK)

2012年6月30日 土曜日

新しい治療と検査シリーズ207.Topography.GuidedConductiveKeratoplasty(TGCK)プレゼンテーション:加藤直子防衛医科大学校眼科学講座コメント:稗田牧京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学.バックグラウンドConductivekeratoplasty(CK)は,Refractec社製theViewPointCKSystemを用いて角膜に電極を刺入し,そこから発生させたラジオ波を利用して角膜を熱収縮させる方法である.もともとは遠視と老視の治療を目的として開発された方法であり,それぞれ2002年と2004年に米国食品医薬品局の承認を得て,実際のヒトの屈折矯正に用いられ始めていた1).筆者らはCKを用いて円錐角膜眼の角膜形状の整復を行う方法を考案し,Topography-guidedconductivekeratoplasty(TGCK)とよんでいる2)..新しい治療法(原理)角膜実質のコラーゲンは58~76℃の温度で収縮する.しかし,79℃以上の高温になると,逆に伸縮性を失い変性し,やがてケラトサイトが活性化されコラーゲン新生が起こり瘢痕が形成される.CKでは,角膜に刺入した電極から発生したラジオ波が角膜実質の中を電導する際に生じる抵抗が熱に変換され,電極周囲の実質の温度が58~76℃になる.これを利用し,電極の周囲の角膜のコラーゲンを比較的深い層まで均一に円柱形に近い形状で収縮を起こさせる仕組みである3).直径7~8mmの円周上にCKを行った場合は,隣り合うCKの間の距離が短縮し,収縮リングができ,円の内部の曲率半径は小さくなる.一方,CKを行う円の直径を3~5mm程度に小さくすると,対角線上のCKの間の距離も短縮するため,円の内部の曲率半径は小さくなる.この原理を利用して,円錐角膜眼に行うTGCKでは狭い範囲にCKを行い,さらに個々の角膜の形状に合わせて突出箇所に多くのCKを行うことで対称性を改善させる(図1)..実際のやり方CKの電極を角膜に垂直に刺入し,ラジオ波を発生させる.角膜形状を参照しながら,3~5mmの円周上にまず何箇所かCKを施し,適宜ケラトリングを用いて角膜形状を確認しながら角膜の対称性が確保されるよう図1TGCK施行前の角膜形状と施行後のスリット所見下方の突出部分に多くTGCKを施行することで対称性を改善させる.(文献2のFigure1より転載)(79)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20128010910-1810/12/\100/頁/JCOPY に,突出部分に多くCKを追加する.TGCKを行っただけでは矯正効果は術後1カ月を過ぎると急速に弱まり,術後3カ月ごろには角膜はほとんど施術前に近い形に戻ってしまう.そこで,TGCK後には早期に角膜クロスリンキング4)を行い,形状を固定する必要がある.TGCKを行う症例は,角膜厚が450μm以上であり,角膜実質に混濁や瘢痕がない症例を選ぶ必要がある.TGCKは角膜実質に収縮を起こす術式であるので,瘢痕のある角膜では効果が期待しにくい.また,角膜が薄い症例には電極が角膜を穿孔する危険性が高く,もともと適応でないうえ,その後の角膜クロスリンキングが不可能であるため,長期にわたる効果が期待できない..本方法の良い点TGCKが角膜を整復する力は非常に強く,AmslerKrumeich分類で3度以上の強度の円錐角膜でも裸眼視力と矯正視力を向上させることができる.一方で,まだ症例数が少なく長期的データも不足しているため慎重な適応決定が求められる.しかし,角膜移植を検討している患者に移植の前に施行する方法としては非常に有用と考える.文献1)McDonaldMB,DavidorfJ,MaloneyRKetal:Conductivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehyperopia:1-yearresultsonthefirst54eyes.Ophthalmology109:637-649,20022)KatoN,TodaI,KawakitaTetal:Topography-guidedconductivekeratoplasty;Treatmentforadvancedkeratoconus.AmJOphthalmol150:481-489,20103)BerjanoEJ,NavarroE,RiberaVetal:Radiofrequencyheatingofthecornea:Anengineeringreviewofelectrodesandapplicators.TheOpenBiomedicalEngineeringJ1:71-76,20074)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboflavin/ultraviolet-ainducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkeratoconus.AmJOphthalmol135:620-627,2003.本方法に対するコメント.長い間,円錐角膜の治療はハードコンタクトレンズTGCKはクロスリンキングで効果の安定が得られると角膜移植しかなく,進行した円錐角膜患者は視機能ようになったが,症例を選べば角膜移植以上の矯正視が低い状態での生活を余儀なくされている.TGCK力が確実に得られる手術であろうか?40年前に生は角膜熱形成とクロスリンキングを組み合わせて,こまれた角膜熱形成術はそのプライマリアウトカムであれまで角膜移植になっていた症例の何割かを移植しなる視機能(コンタクトレンズ装用後矯正視力)が角膜くてもよくできる治療という位置づけらしい.移植に劣るという点も見逃すことはできない.このこ故糸井素一先生らが開発された「円錐角膜に対するとを克服する何らかの方法論が開発されれば,ある一角膜熱形成術」の問題点は,「効果の不安定性」と定数の円錐角膜には確実に熱形成が行われることにな「角膜混濁が発生しうる」ことであったという.るものと思われる.☆☆☆802あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(80)