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配合剤(プロスタグランジン関連薬+β遮断薬)

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):473.477,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):473.477,2012配合剤(プロスタグランジン関連薬+b遮断薬)FixedCombinations(ProstaglandinAnalog/b-blocker)安樂礼子*富田剛司*はじめに現在国内外で使用可能なプロスタグランジン関連薬(以下,PG製剤)とb遮断薬の合剤は,0.5%チモロールと0.005%ラタノプロストの合剤ザラカムR,0.5%チモロールと0.004%トラボプロストの合剤デュオトラバR,0.5%チモロールと0.03%ビマトプロストの合剤ガンフォートR(GanfortR,国内では未販売)の3剤で,いずれも点眼回数は1日1回である.わが国では2010年からザラカムRとデュオトラバRが販売可能になり,1日1回という利便性と強力な眼圧下降効果から緑内障薬物療法におけるその役割が期待されている.I配合剤の使い方現在多数の緑内障治療薬が認可されているが,薬物療法の原則は必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ることである.緑内障診療ガイドライン1)に述べられているように,配合剤は緑内障治療の第一選択薬にはならないが,多剤併用時には副作用の増加やアドヒアランスの低下につながることもあり,アドヒアランス向上のため配合点眼薬の使用も考慮すべきとなっている.具体的な使い方としては,①PG製剤の単剤療法をしている患者で,さらなる眼圧下降を得るために,b遮断薬との併用療法ではなく配合剤を使用する場合,②PG製剤を含む2剤併用療法している患者で,さらなる眼圧下降を得るために点眼を追加する際,点眼数を増やさないためにPG製剤とb遮断薬の配合剤を使用する場合,③PG製剤を含む2剤あるいは多剤併用療法している患者に,点眼数を減らしアドヒアランスを向上させる目的で配合剤を使用する場合,などがあげられる.II配合剤の眼圧下降効果PG製剤あるいはb遮断薬の単剤療法からPG製剤とb遮断薬の配合剤に切り替えた場合の眼圧下降効果は,配合剤のほうが優れていることは数多くの論文で報告されている.それでは,PG製剤とb遮断薬の併用療法と,PG製剤とb遮断薬の配合剤とでは,どちらが優れた眼圧下降効果を示すのであろうか.表1は,単剤併用療法と,配合剤との眼圧下降効果について比較したおもな論文をまとめたものである.配合剤ではb遮断薬を1回しか点眼しないため,PG製剤1日1回とb遮断薬を1日2回点眼している併用療法と比べたら眼圧下降効果が劣るはずであるが,単剤併用療法が配合剤に比べて眼圧下降効果が優れていたと報告している論文は少なく,多くが同等の効果あるいは非劣性であったと報告されている.これはアドヒアランスの向上が関係していると思われ,特に,ランダム化比較試験ではなく,併用療法から配合剤に切り替えて眼圧下降効果を比較した論文ではその傾向が強い.しかし,Webersら2)がPG製剤とb遮断薬の併用療法あるいは配合剤に関連する29の論文をメタアナリシスした結果では,単剤併用療法のほうが配合剤よりも眼圧下降効果が高かったと報告されており,個々の研究で有意差がで*AyakoAnraku&GojiTomita:東邦大学医療センター大橋病院眼科〔別刷請求先〕安樂礼子:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(39)473 表1配合剤と単剤併用療法との比較(眼圧下降率)報告研究デザインn配合剤単剤併用結果DiestelhorstらBrJOphthalmol,2004ランダム化比較試験1900.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール2回/日0.005%ラタノプロスト夜1回単剤併用療法のほうが,眼圧下降効果が高かったDiestelhorstらOphthalmology,2006ランダム化比較試験5020.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール2回/日0.005%ラタノプロスト夜1回配合剤は単剤併用療法と比べて非劣勢ZhaoらBMCOphthalmol,2011ランダム化比較試験2500.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール朝1回0.005%ラタノプロスト夜1回眼圧下降率は同等InoueらJOculPharmacolTher,2011併用療法から配合剤へ切り替え1620.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール*0.005%ラタノプロスト夜1回配合剤に切り替え後も眼圧は不変PacellaらEurRevMedPharmacolSci,2010併用療法から配合剤へ切り替え200.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤1回/日0.5%チモロール2回/日0.005%ラタノプロスト夜1回配合剤に切り替え後,さらに眼圧が下がるKanstasらJOculPharmacolTher,2004併用療法から配合剤へ切り替え330.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤1回/日0.5%チモロール*0.005%ラタノプロスト夜1回配合剤に切り替え後も眼圧は不変SchumanらAmJOphthalmol,2005ランダム化比較試験4030.004%トラボプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール朝1回0.004%トラボプロスト夜1回眼圧下降率は同等HughesらJGlaucoma,2005ランダム化比較試験3160.004%トラボプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール朝1回0.004%トラボプロスト夜1回配合剤は単剤併用療法と比べて非劣勢HommerらEurJOphthalmol,2007ランダム化比較試験4450.03%/ビマトプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール2回/日0.004%ビマトプロスト夜1回配合剤は単剤併用療法と比べて非劣勢*点眼回数の記載なし.なかったのは検定力不足だった可能性もある.III配合剤の合併症配合剤は点眼される防腐剤量が減少するため,結膜充血,角膜上皮障害などの軽減が期待される.表2は,単剤併用療法と配合剤とで結膜充血などの副作用出現率を比較したおもな論文をまとめたものである.配合剤のほうが単剤併用療法より結膜充血の出現率が低かった報告が多い.Vinuesa-Silvaら3)はザラカムRと他の治療法(単剤併用療法またはPG製剤の単剤療法)とを比較した8つの論文をメタアナリシスした結果,ザラカムRは充血の頻度が他の治療法より有意に低かったと報告している.IV配合剤同士の比較表3には,わが国で使用可能なザラカムRとデュオト474あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012ラバRを比較した論文をまとめた.2剤とも同等の眼圧下降効果を示したことが報告されているが,デュオトラバRのほうがザラカムRより24時間の眼圧下降率は優れていたとの報告もある4).炭酸脱水酵素阻害薬であるドルゾラミドと0.5%チモロールの合剤であるコソプトRとの比較では,ザラカムRとデュオトラバRいずれも,コソプトRと同等またはやや高い眼圧下降率を認めたと報告されている5.7).表4にはガンフォートRとザラカムRあるいはデュオトラバRを比較した論文をまとめた.ザラカムRとガンフォートRを比較した論文では,ガンフォートRのほうがやや高い眼圧下降率を認めたとの報告が多い.1カ月のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバR,ガンフォートRの3剤についてランダム化比較試験した論文8)では,ザラカムRとガンフォートRが,デュオトラバRより眼圧下降効果が良好だったと報告されている(40) 表2配合剤と単剤併用療法との比較(副作用の出現率)報告研究デザインn配合剤単剤併用結果DiestelhorstらOphthalmology,2006ランダム化比較試験5020.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール2回/日0.005%ラタノプロスト夜1回眼合併症の発現率は配合剤のほうが少なかった単剤併用療法:20.1%配合剤:11.8%(p=0.01)ZhaoらBMCOphthalmol,2011ランダム化比較試験2500.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール朝1回0.005%ラタノプロスト夜1回結膜充血単剤併用療法:4.8%配合剤:7.2%SchumanらAmJOphthalmol,2005ランダム化比較試験4030.004%トラボプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール朝1回0.004%トラボプロスト夜1回結膜充血単剤併用療法:23.4%配合剤:14.3%HughesらJGlaucoma,2005ランダム化比較試験3160.004%トラボプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール朝1回0.004%トラボプロスト夜1回結膜充血単剤併用療法:13.5%配合剤:12.4%HommerらEurJOphthalmol,2007ランダム化比較試験4450.03%/ビマトプロスト0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール2回/日0.004%ビマトプロスト夜1回結膜充血単剤併用療法:25.6%配合剤:19.3%表3ザラカムRとデュオトラバRの比較報告研究デザインn結果PachimkulらJMedAssocThai,20112.4週間のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバR,チモロール(2回点眼)の3グループに分けランダム化比較試験59ザラカムRとデュオトラバRは同等の眼圧下降率で,両点眼とも24時間の眼圧下効率はチモロール2回点眼より良好であった.KonstasらEye(Lond),20106週間のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバRの2点眼についてランダム化比較試験40ザラカムRとデュオトラバRは同等の眼圧下降率.24時間の眼圧下降率ではデュオトラバRがザラカムRより良好.副作用の出現率では有意差なし.TopouzisらEurJOphthalmol,20075.28日間のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバRの2点眼についてランダム化比較試験408ザラカムRとデュオトラバRは同等の眼圧下降率.朝9時の眼圧下降率はデュオトラバRがザラカムRより良好.結膜充血の頻度はデュオトラバRのほうが高かったが(15%vs.2.5%),充血の程度の差は小さかった.DenisらClinDrugInvestig,2008ザラカムR,またはデュオトラバRにて加療中の患者の治療前治療後の眼圧を後ろ向きに研究316デュオトラバRはザラカムRより午前中の眼圧下降率が良好であった.PfeifferらClinOphthalmol,2009単剤,配合剤,または併用療法にて十分な眼圧下降を得られていない患者にデュオトラバRに切り替え474単剤療法から切り替えた患者では5.9mmHg,ザラカムRから切り替えた患者では(n=47)4.4mmHgのさらなる眼圧下降を認めた.が,ガンフォートRからデュオトラバRへの切り替えで,さらなる眼圧下降を認めたとの論文もあり9),PG製剤はその効果に個人差があることが知られており10),単純な比較はむずかしいと思われる.V朝点眼か夜点眼かPG製剤単剤療法では日内変動幅が小さいとされる夜点眼が一般的であるが,b遮断薬は房水産生を抑制する(41)という働きから夜間より日中の点眼のほうがよいと考えられ,PG製剤とb遮断薬の配合剤では朝点眼,夜点眼のどちらがいいのか迷うところである.配合剤,あるいは単剤併用療法にて朝点眼と夜点眼とを比較した論文を表5にまとめた.基本的には朝点眼も夜点眼も良好な眼圧下降効果を認めるが,夜点眼のほうが日内変動幅は小さく,日中の眼圧下降効果が高いという報告もある11.13).これはPG製剤の効果を反映していあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012475 表4ガンフォートRとザラカムRまたはデュオトラバRの比較報告研究デザインn結果RigolletらClinOphthalmol,20091カ月のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバR,ガンフォートRの3点眼についてランダム化比較試験128ザラカムRとガンフォートRがデュオトラバRより眼圧下降が良好.ザラカムRはガンフォートRより充血が軽度.CentofantiらEurJOphthalmol,2009PG単剤療法で十分な眼圧下降が得られなかった患者を対象に,ザラカムRとガンフォートRの2点眼についてランダム化比較試験82ザラカムRとガンフォートR両点眼とも有意な眼圧下降が得られたが,眼圧下降率はガンフォートRのほうが良好.MartinezらEye(Lond),20096週間のチモロール点眼後にザラカムRからガンフォートRにランダムに分配し眼圧下降率を比較54眼圧下降率は,その差はわずかではあるがザラカムRよりガンフォートRのほうが良好.MartinezらCurrMedResOpin,2007PG単剤療法で十分な眼圧下降が得られなかった患者を対象に,ザラカムRとガンフォートRをランダム化比較試験36ザラカムRとガンフォートR両点眼とも有意に眼圧下降が得られたが,眼圧下降率はガンフォートRのほうが良好.CentofantiらAmJOphthalmol,2010ラタノプロストとチモロールの配合剤または併用療法で十分な眼圧下降を得られなかった患者を対象とし,ガンフォートRとデュオトラバRの2点眼についてランダム化比較試験89ガンフォートR,デュオトラバRともに,さらなる眼圧下降を認める.ScherzerらAdvTher,2011ガンフォートR点眼,または0.03%/ビマトプロストと0.5%チモロールの併用療法からデュオトラバRに切り替え105ガンフォートRからデュオトラバRに切り替え後,さらなる眼圧下降を認める.表5朝点眼と夜点眼の比較報告研究デザインn結果KonstasらAmJOphthalmol,20020.5%チモロールを1日2回点眼したときの眼圧下降率と,0.005%ラタノプロストと0.5%チモロールを各朝1回または各夜1回点眼したときの眼圧下降率とを比較36朝点眼も夜点眼もチモロール1日2回点眼に比較して有意な眼圧下降率を認め,朝点眼と夜点眼の比較では,朝点眼はより夜間の,夜点眼はより日中の眼圧を下げる傾向が認められ,24時間の日内変動幅は夜間点眼のほうが小さかった.(夜点眼:3.6mmHgvs.朝点眼:4.3mmHg,p=0.02)TakmazらEurJOphthalmol,20080.005%ラタノプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回点眼したときと夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較60朝点眼も夜点眼もベースラインと比較して有意な眼圧下降率を認めるが,夜点眼のほうが,24時間の日内変動幅が小さかった.KonstasらActaOphthalmol,20090.004%トラボプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回点眼したときと夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較32朝点眼も夜点眼もベースラインと比較して有意な眼圧下降率を認めるが,24時間の日内変動幅は夜点眼のほうが小さかった.(夜点眼:3.8mmHgvs.朝点眼:5.1mmHg,p=0.0002)DenisらEurJOphthalmol,20060.004%トラボプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回点眼したときと夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較92朝点眼も夜点眼もベースラインと比較して同等の眼圧下降率を認めた.PopovicSuicらCollAntropol,20100.004%トラボプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回点眼したときと夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較79朝点眼も夜点眼もベースラインと比較して同等の眼圧下降率を認めた.KonstasらBrJOphthalmol,20100.004%ビマトプロスト1日1回単剤療法と,0.004%ビマトプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回または夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較60配合剤の朝点眼も夜点眼も0.004%ビマトプロスト単剤療法に比較して有意な眼圧下降率を認め,24時間眼圧下降率が30%以上認めた眼数は夜点眼で72%,朝点眼で65%であった.ると思われる.おわりに緑内障の薬物療法において第一選択薬としてPG製剤が多く使用されている現在,PG製剤とb遮断薬の合剤476あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012は,今後ますますその役割が重要になってくると思われる.単剤併用療法と比べるとその眼圧下降効果はやや劣る可能性があるが,点眼回数を軽減できアドヒアランスの改善が期待できること,また,点眼される防腐剤量の減少による角膜上皮障害軽減が期待され,臨床上におけ(42) るその利用価値は高い.ただ,PG単剤と違ってb遮断薬を配合していることと,わが国では原則として第一選択薬としては認められていないことに留意すべきである.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20122)WebersCA,BeckersHJ,ZeegersMPetal:Theintraocularpressure-loweringeffectofprostaglandinanalogscombinedwithtopicalbeta-blockertherapy:asystematicreviewandmeta-analysis.Ophthalmology117:20672074.e1-e6,20103)Vinuesa-SilvaJM,Vinuesa-SilvaI,Pinazo-DuranMDetal:Developmentofconjunctivalhyperemiawiththeuseofafixedcombinationoflatanoprost/timolol:systematicreviewandmeta-analysisofclinicaltrials.ArchSocEspOftalmol84:199-207,20094)KonstasAG,MikropoulosDG,EmbeslidisTAetal:24-hIntraocularpressurecontrolwithevening-dosedtravoprost/timolol,comparedwithlatanoprost/timolol,fixedcombinationsinexfoliativeglaucoma.Eye(Lond)24:1606-1613,20105)ShinDH,FeldmanRM,SheuWPetal:Efficacyandsafetyofthefixedcombinationslatanoprost/timololversusdorzolamide/timololinpatientswithelevatedintraocularpressure.Ophthalmology111:276-282,20046)CvenkelB,StewartJA,NelsonLAetal:Dorzolamide/timololfixedcombinationversuslatanoprost/timololfixedcombinationinpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.CurrEyeRes33:163-168,20087)TeusMA,MigliorS,LaganovskaGetal:Efficacyandsafetyoftravoprost/timololvsdorzolamide/timololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol3:629-636,20098)RigolletJP,OndateguiJA,PastoAetal:Randomizedtrialcomparingthreefixedcombinationsofprostaglandins/prostamidewithtimololmaleate.ClinOphthalmol5:187-191,20119)ScherzerML,LiehneovaI,NegreteFJetal:Travoprost0.004%/timolol0.5%fixedcombinationinpatientstransitioningfromfixedorunfixedbimatoprost0.03%/timolol0.5%.AdvTher28:661-670,201110)相原一:〔緑内障診療グレーゾーンを越えて〕治療編薬物療法プロスタグランジン関連薬の特徴と相違点.臨眼63(増刊号):238-246,200911)KonstasAG,NakosE,TersisIetal:Acomparisonofonce-dailymorningvseveningdosingofconcomitantlatanoprost/timolol.AmJOphthalmol133:753-757,200212)TakmazT,AsikS,KurkcuogluPetal:Comparisonofintraocularpressureloweringeffectofoncedailymorningvseveningdosingoflatanoprost/timololmaleatecombination.EurJOphthalmol18:60-65,200813)KonstasAG,TsironiS,VakalisANetal:Intraocularpressurecontrolover24hoursusingtravoprostandtimololfixedcombinationadministeredinthemorningoreveninginprimaryopen-angleandexfoliativeglaucoma.ActaOphthalmol87:71-76,2009(43)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012477

炭酸脱水酵素阻害薬(内服含む:配合剤含まず)

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):467.472,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):467.472,2012炭酸脱水酵素阻害薬(内服含む;配合剤含まず)CarbonicAnhydraseInhibitorforGlaucomaTreatment澤口昭一*はじめに炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)は毛様体上皮の炭酸脱水酵素を阻害し,房水産生を抑制し眼圧下降に働く薬剤である.1949年にFriedenwaldが毛様体上皮での炭酸脱水酵素活性が房水産生に必要不可欠であることを突き止めた.1954年にはこのFriedenwaldの弟子であるBeckerが経口CAIの眼圧下降効果について報告した1).以降,アセタゾラミド,メタゾラミド,ジクロフェナミドなどが臨床の場で使用されてきた(図1).経口CAIの眼圧下降効果は非常にシャープで,持続時間も6時間以上であり,1990年代半ばまで広く臨床の場で使用された.しかしながら,経口CAIは眼圧下降効果に優れていたものの全身への副作用として四肢しびれ感,全身倦怠感,胃腸症状NNOCH3NNOHHCH3CNHCCSNCH3CNHCCSNHHOSOOSOアセタゾラミドメタゾラミドOCIHCISNHOOHSNHOジクロフェナミド図1経口CAIの化学構造式や代謝性アシドーシス,尿路結石,造血細胞抑制による貧血などの重篤な副作用があり(表1),長期投与には向かない欠点があった.長年にわたりCAIの点眼薬の臨床への登場が待ち望まれていたが,ついに1995年に米国で,さらに1999年にわが国においてもドルゾラミドが,ついでブリンゾラミドが臨床の場に登場し,広く普及し現在に至っている.本稿ではその作用機序,眼圧下降効果,さらに日常臨床でどのように用いられているかを含めて解説する.ICAIの作用機序CAIによる眼圧下降機序は,毛様体無色素上皮に高濃度に存在する炭酸脱水酵素(CA)の阻害による房水産表1経口CAIの副作用一覧血液貧血,白血球減少,血小板減少,骨髄機能低下代謝異常代謝性アシドーシス,血清カリウム低下,高尿酸血症皮膚皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群),中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)消化器食欲不振,胃腸障害,悪心・嘔吐,下痢精神神経系手指・口唇などのしびれ感,四肢の知覚異常,めまい,頭痛,眠気,うつ状態,精神錯乱,見当識障害眼一過性近視腎・尿路系腎・尿路結石,多尿,頻尿,腎不全その他倦怠感(山崎芳夫:内服炭酸脱水酵素阻害薬.眼科診療プラクティス70巻,p65,文光堂,2001より)*ShoichiSawaguchi:琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(33)467 O250H3CSSSO3NH2H310.5%0.5%0.2%2%1%28312933:ピーク■:トラフ2827262320251822171717ラタノプロストトラボプロストビマトプロスト40眼圧下降率(%・HCl30NHCH2CH3Hドルゾラミド2010NHHH3CSOSOSNH2チモロールベタキソロールブリンゾラミドドルゾラミドブリモニジンH3COOOブリンゾラミド図2点眼CAIの化学構造式生抑制である.CAには多くのisoenzyme(サブタイプ)があり,少なくとも7つ以上のサブタイプが同定され,特に房水産生に重要な毛様体無色素上皮にはCAII型が細胞質に,IV型が細胞膜に分布していることが明らかにされた.経口CAIはCAのサブタイプに対する特異性はなく,これらのすべてのCAを抑制し房水産生を減少させる.CAIによってCAの酵素反応を完全に阻害すると房水産生はおよそ40%が抑制され,強力な眼圧下降効果作用を示す.多くの点眼CAIの候補が臨床応用に向けて研究されてきたが,眼内移行の問題,CA抑制効果や持続時間などの問題があったため,点眼CAIが臨床応用されるまでに多くの年月が費やされた.1990年代に入り米国Merck社のドルゾラミド塩酸塩(MK507,以下ドルゾラミド)が眼内移行の問題をクリアし,また,特に毛様体無色素上皮に分布するCAIIへの選択性が高いことから,優れた眼圧下降効果と長時間の作用持続が証明されついに臨床応用に至った(図2).ブリンゾラミドも同様にCAIIの特異的な阻害薬で,眼内への移行を図るために懸濁液となっており,ドルゾラミドと同様の眼圧下降効果と持続時間を有しており臨床応用された(図2).II眼圧下降効果経口のアセタゾラミドはすでに述べたようにすべてのCAのサブタイプを抑制するため眼圧下降効果はCAIのなかでは最も強いといえる.点眼CAIのドルゾラミ468あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012図3メタ解析に基づく緑内障治療薬の眼圧下降効果(率)の比較各薬剤のピークおよびトラフにおける眼圧下降率を比較検討した.眼圧下降率は単剤ではPG製剤全体>0.5%チモロール>0.5%ベタキソロール,ブリモニジン>点眼CAIの順であった.ドはわが国では0.5%と1%が臨床に用いられている.欧米では2%が主流であるが,わが国において実施された濃度比較試験の臨床試験において0.5%,1%,2%の濃度では眼圧下降効果はほぼ同等である一方,充血や刺激感が2%で有意に多かったため,至適濃度は0.5%と1%になった経緯がある2).一方,欧米では0.7%と2%の比較試験では2%のほうがより有効であったとの報告があった3).眼圧下降効果に関しては0.5%ドルゾラミド3回点眼は0.25%チモロール2回点眼とほぼ同等であった.また,1%ドルゾラミド3回点眼の長期効果ではb遮断薬でみられる長期的な使用による効果の減弱は認められていない.メタ解析4)では単剤で用いた場合2%ドルゾラミドの眼圧下降効果はピークで約22%,1%ブリンゾラミドは17%と報告されている.これらの効果はプロスタグランジン製剤(PG製剤)の30%,0.5%チモロールの27%にやや劣るものの,0.5%ベタキサロール,あるいは今後市販が予定されているブリモニジンとほぼ同程度である(図3).ドルゾラミドとブリンゾラミドの眼圧下降効果の比較についてはすでに上述のメタ解析で説明したが,日常臨床で使用頻度の多いパターンであるPG製剤との併用では1日眼圧への効果はほぼ同等であることが報告されている(図4)5).(34) 日中(9:00~18:00)夜間(21:00~9:00)ドルゾラミド2回図4日中と夜間における点眼CAIのラタノプロストへの追加効果0(n=20)長期ラタノプロスト使用患者(20名)に1%ドル-10ゾラミド2回点眼と3回点眼,さらに1%ブリンゾラミド2回点眼を追加し眼圧下降率を日中(9:-2000.18:00)と夜間(21:00.9:00)で比較検討した.各群とも有意な眼圧下降率を認めたが,-303群間で有意差を認めなかった.(文献5より)-40-50(%)III使用方法と対象経口CAIの代表であるアセタゾラミド(ダイアモックスR)は250mg/1錠を6.12時間ごとに0.5.1錠内服させる.低カリウム血症を予防するためにカリウム製剤を併用する.また,腎機能に障害がある場合のカリウム製剤の補給は注意が必要であり,このような症例では内科医との連携を図る必要がある.CAIの点眼は眼圧下降効果,使用感などの問題から基本的にはファーストラインで用いられることは少ない.現在ファーストラインで使用されている薬剤としてはPG製剤,ゲル化b遮断薬が中心となっており,CAIの点眼はこれらの薬物に追加併用するセカンドラインあるいはサードラインの薬剤となっている.しかしながら,PG製剤の美容的な問題,b遮断薬の全身への副作用を考慮した場合,少数例ながら点眼CAIをファーストラインとして使用する場合もある.点眼CAIのPG製剤への追加効果あるいはb遮断薬への追加効果が多数報告されており,PG製剤とb遮断薬の2剤併用者への3剤目としての有効性も確認されている.注意すべき点は追加で使用する場合の原則として効果が若干減弱するということである.経口CAIはすでに述べた副作用の問題から長期投与には向かない.しかしながら,緑内障薬物治療で点眼CAIを含む3.4剤を併用した場合に生じる角結膜障害の際には点眼CAIを含む点眼薬を一時的に中止し,経口CAIに変更することも臨床上有効である.また,内眼手術後の一過性の高眼圧に対しても短期間のCAI内服ブリンゾラミドドルゾラミドドルゾラミドブリンゾラミドドルゾラミド2回3回2回2回3回(n=20)(n=17)(n=20)(n=20)(n=17)NSNS(平均±SD)を用いることもある.点眼CAIと経口CAIの両者の併用は相加的な効果がないことがこれまでの報告で明らかにされている.経口CAIと点眼CAIの眼圧下降効果については臨床経験,あるいはいくつかの報告から経口CAIが優れていると考えられるが,点眼CAIが優れているとの報告もある.IV使用感と副作用経口CAIの副作用についてはすでに述べたように重篤であり,多くの症例で長期の服用に耐えられない(表1).特に尿管結石,胃部不快感,四肢のしびれ感は長期の内服を阻害する代表的な症状である.また,頻度は少ないものの再生不良性貧血,顆粒球減少症,血小板減少などの骨髄機能障害やSteven-Johnson症候群,催奇形性なども報告されている.2種類ある点眼CAIのうち,ドルゾラミドはpHが5.5.5.9と酸性に傾いており,副作用としては点眼時の一過性の刺激感,一過性の霧視,刺激に伴う涙流などの局所的な副作用が多く報告されている.また,ブリンゾラミドはpH7.5であり刺激感,異物感はドルゾラミドに比べ少ないものの,眼内移行を良くするために白色の懸濁液となっており,このためほぼ全例に霧視が出現する.その持続時間は数秒からときに10数分に至ることもある.日本ではドルゾラミドが1%点眼であることもあり,刺激感は海外の報告に比べ一般に軽度であることが多いようである.ブリンゾラミドは海外と同じ濃度であり,霧視感はほぼ同程度と考えられる.ファーストラ(35)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012469 数秒症が多い(9/20)もののおおむね軽度にとどまっ(n=4,軽度)1分数分た.一方,ブリンゾラミドでは刺激感は少ない10分が,多くの症例でかすみ感があり(12/20),10異物感刺激感1分分以上持続する症例も観察された.(n=2,軽度)1分(文献5より)30秒(n=2,重度)5分ブリンゾラミド数秒5~6秒1分かすみ感1分(n=12)(n=10,軽度)1分1~2分2~3分3~4分10分20分051015インのPG製剤を使用中の緑内障患者に2種類の点眼CAIを交互に使用したところ5),ブリンゾラミドでは明らかに霧視が,またドルゾラミドでは刺激感が副作用として有意に多く,それぞれ処方する場合はこの点に関して十分に説明する必要がある(図5).炭酸脱水酵素は角膜内皮にも存在しており,角膜内皮障害のあるiridocornealendothelialsyndrome(ICE症候群)や全層角膜移植後の続発緑内障などで角膜内皮障害が存在する症例では注意が必要である.実際,全層角膜移植後の高眼圧に本剤を使用して水疱性角膜症に悪化した症例が報告された.臨床使用経験a.CAI内服症例:女性,81歳.診断:左眼水晶体落屑緑内障.1995年より両眼の原発開放隅角緑内障(POAG)で薬470あたらしい眼科Vol.29,No.4,201220(分)物治療開始.2005年,左眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ),線維柱帯切除術,2006年,右眼PEA+IOL施行.その後,PG製剤とb遮断薬の併用による点眼でコントロールされていた.2010年春より眼圧上昇(右眼<左眼),夏より両眼にPG製剤,ゲル化b遮断薬,ブリンゾラミド,2%ピロカルピン点眼で経過観察していたが,左眼のいっそうの眼圧上昇を認め,秋に左眼に選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)施行するも眼圧コントロールは次第に不良となり,また視野の急激な悪化を認めたため,手術目的に紹介された.2010年12月中旬に当科初診時,右眼眼圧20mmHg,左眼眼圧26mmHg,左眼瞳孔縁に水晶体落屑物質が観察された.12月末に再来時,右眼眼圧20mmHg,左眼眼圧は36mmHgと急激に上昇.年末年始の手術を希望せず,ブリンゾラミド中止し,ダイアモックスR3T,アスパラKR3T(3×)を処方し,2011年1月初め,右(36)刺激感(n=8,すべて軽度)異物感(n=1,軽度)5~6秒30秒1分図5ドルゾラミドとブリンゾラミドの使用感,5101520(分)副作用の出現頻度かすみ感(n=3,軽度)0数秒1~2秒2~3秒10~20秒20秒30秒1~2分2~3分ドルゾラミド数秒ドルゾラミドでは点眼による刺激感,異物感の発 眼眼圧18mmHg,左眼眼圧24mmHgとなり,1月中旬に線維柱帯切除術(マイトマイシンC併用)施行.経過良好にて1月末に退院,外来通院となる.コメント:手術までの短期間のCAI内服.経口CAIは本症例では明らかに点眼CAIより有効であった.b.点眼CAIファーストライン症例:28歳,女性.診断:高眼圧と大乳頭陥凹.2006年より,近医で上記診断されPG製剤で点眼加療していた.Humphrey視野計(HFA)検査で異常は出現していない.2008年,睫毛が伸びてきたこと,妊娠する可能性があることで心配しセカンドオピニオンを求めて当科受診.小児喘息の既往があった.眼圧は両眼とも15mmHg前後でコントロールされていた.PG点眼を中止しCAI点眼を処方したところ,眼圧は20mmHgと上昇した.光干渉断層撮影(OCT)では神経線維層厚はすべて正常範囲であった.経過中妊娠し,妊娠がわかった時点で速やかに点眼を中止し,来院したところ眼圧は22mmHgでその後経過中22.25mmHgで推移した.出産後CAI点眼再開し,眼圧は20mmHg前後でコントロールされている.OCTによる神経線維層厚や視野には異常は出現していない.コメント:若い女性で妊娠の可能性があること,美容的な意味があること,喘息の既往があることからCAI点眼をファーストラインとした症例.眼圧のいっそうの上昇,OCT所見の悪化や異常が出現したら眼圧下降効果に優れているPG製剤へ戻す.c.点眼CAIセカンドライン症例:32歳,男性.診断:右眼初期,左眼中期POAG.2008年,POAGで当科紹介受診.眼圧は無治療で右眼22mmHg,左眼26mmHgであった.小児喘息の既往あり.PG製剤点眼で眼圧は右眼15mmHg前後,左眼18mmHg前後に低下,一方で,左眼眼圧は常に2.3mmHg,右眼眼圧より高い傾向であった.その後6カ月ごとにHFA視野を測定.3年後,計8回の視野検査の結果,トレンド分析で左眼MD(平均偏差)スロープが.0.8dB/年の悪化を認めた.右眼は.0.3dB/年であった.小児喘息の既往があったため,左眼に点眼CAI(37)を追加した.眼圧は両眼とも15mmHg前後でコントロールされ,その後2回施行したHFA視野検査ではMDスロープに若干の改善を認めた.コメント:PG使用中の患者で喘息や心疾患の既往がある場合,あるいは高齢者で心肺機能が低下している場合などでセカンドラインにb遮断薬の使用が困難あるいは不可能な場合には,点眼CAIを追加する.d.点眼CAIサードライン症例:56歳,女性.診断:中期POAG,強度近視.2001年より強度近視(両眼とも.8.0ジオプトリー),両眼とも中期のPOAGで当科初診.初診時眼圧は無治療で両眼とも21mmHgであった.視神経乳頭は両眼とも乳頭陥凹の著しい拡大と,辺縁リムの狭少化,乳頭はやや蒼白であった.その後,PG製剤の副作用を嫌い,ゲル化b遮断薬の単剤で眼圧は18mmHg前後であった.その2年後にb遮断薬の効果が次第に減弱したため,2005年よりPG製剤に変更した.眼圧は16mmHg前後となった.視野の進行悪化があり,2006年よりゲル化b遮断薬の追加を行った.その後も6カ月ごとに視野検査を行ったところ,次第に右眼の視野の進行悪化が明らかとなり,2007年より,両眼に点眼CAIを追加した.眼圧はその後両眼とも15mmHg前後で推移し,視野の進行悪化はペースダウンし,MDスロープは両眼とも.0.5dB/年前後となった.コメント:中期以降で明らかに進行性のPOAG(含むNTG)や初診時から進行したPOAG(含むNTG)では可能な限りの薬物治療での眼圧下降を試みる.本症例のように年齢的にも長期の経過観察が必要な場合は,可能な限りの点眼治療を早期から始める必要がある.追記:合剤が市販されてからは,PG+合剤か合剤+CAIのパターンも増えてきている.文献1)BeckerB:Decreaseinintraocularpressureinmanbyacarbonicanhydraseinhibitor,Diamox.AmJOphthalmol37:13-15,19542)KitazawaY,AzumaI,IwataKetal:Dorzolamide,atopicalcarbonicanhydraseinhibitor:atwo-weekdoseあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012471 responsestudyinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma3:275-279,19943)StrahlmanE,TippingR,VogelR:TheDorzolamideDose-ResponseStudyGroup:Asix-weekdose-responsestudyoftheocularhypotensiveeffectsofdorzolamidewithone-yearextension.AmJOphthalmol122:183-194,4)vanderValkR,WebersCAB,SchoutenJSAGetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs.Ametaanalysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20055)NakamuraY,IshikawaS,NakamuraYetal:24-hoursintraocularpressureinglaucomapatientsrandomizedtoreceivedorzolamideorbrinzolamideincombinationwithlatanoprost.ClinOphthalmol3:395-400,2009472あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(38)

プロスタグランジン関連薬・β遮断薬系のジェネリック

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):457.466,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):457.466,2012プロスタグランジン関連薬・b遮断薬系のジェネリックGenericDrugsforGlaucomaTreatment─ProstaglandinsandBeta-blockers岩瀬愛子*I後発医薬品(ジェネリック)とその評価について後発医薬品(以下,後発品)は,先発医薬品(以下,先発品)と有効成分が同一であり,かつ用法・用量が同一であるものをいい,先発品の特許が切れると承認申請可能であるため,それ以降発売され始める.後発品は,従来からもあったが最近になって,医療費増加を阻止するため,政策的に後発品の使用が推奨されていることで使用者が増加している.平成24年4月の診療報酬改定においては,「後発品が存在する医薬品について,薬価基準に収載されている品名に代えて,一般的名称に剤形及び分量を付加した記載の処方箋を交付すること」が奨励されている(「一般名処方加算」の算定).ジェネリック医薬品とは,「医薬品の一般名」のことであり,一般名処方の場合は,患者は,先発品からすべての後発品までのなかから選択する自由がある.この政策が成功すれば,今後,今まで以上に後発品の普及が進むものと思われる.ここで注意がいるのは,米国では後発品は,主成分・添加物ともに先発品と同一であることが求められているが,日本では,主成分だけが同一であれば後発品として許可され,まだ米国のような評価体制は確立していないことである.米国では,FDA(米国食品医薬品局)が承認医薬品と治療同等性評価のランキングを公表しており(オレンジブック)評価環境が整備されているので,安全性・有効性についての情報が得られることの意味は大きい.日本では,先発品の承認申請時に必要であるさまざまなデータは,後発品には不必要とされ,「規格および試験方法」「安定性(加速試験)」「吸収,分布,代謝,排泄に関する資料(生物学的同等性)」のみの提出が義務づけられている1)(表1).現状では,わが国の承認方法により「同等である」と判断されても,長期使用における「臨床効果」や「安全性」についての情報が不十分である.後発品にのみ使用されていて,先発品での証明が得られていない「添加物」(表2)2)についての情報がないことは,特に緑内障治療などのように,長期連用する場合に影響は大きいと考える.後発品の承認のための3項目のうちの一つである「生物学的同等性の評価」については,通常の薬物では血液を採取し,AUCt(血中濃度時間曲線下面積)およびCmax(最高血中濃度)を評価パラメータとして,バイオアベイラビリティ(未変化体または活性代謝物が体循環血中に入る速度と量または作用部位に到達する速度と量)を比較するとされる.この評価のガイドラインは,平成9年12月22日の医薬審第487号,平成12年2月14日医薬審第64号,第67号,平成13年5月31日医薬審第786号,平成18年11月24日薬食審査発第1124004号,そして平成24年2月29日付けの各「生物学的同等性試験ガイドライン」3)で示されてきたものの,点眼薬については平成18年11月24日薬食審査発第1124004の「局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性ガイドライン」4)に従うという記載の*AikoIwase:たじみ岩瀬眼科〔別刷請求先〕岩瀬愛子:〒507-0033多治見市本町3-101-1クリスタルプラザ多治見4Fたじみ岩瀬眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(23)457 表1先発品と後発品の承認申請に必要な書類の違い添付資料先発医薬品後発医薬品起源または発見の経緯および外国における使用状況などに関する資料起源または発見の経緯外国における使用状況特性および他の医薬品との比較検討など〇〇〇×××製造方法ならびに規格および試験方法に関する資料構造決定および物理的化学的性質など製造方法規格および試験方法〇〇〇××〇安定性に関する資料長期保存試験苛酷試験加速試験〇〇〇△×〇薬理作用に関する資料効力を裏付ける試験副次的薬理・安全性薬理その他の薬理〇〇△×××吸収,分布,代謝,排泄に関する資料吸収分布代謝排泄生物学的同等性その他の薬物動態〇〇〇〇×△××××〇×急性毒性,亜急性毒性,慢性毒性,催奇形性,その他の毒性に関する資料単回投与毒性反復投与毒性遺伝毒性がん原性生殖発生毒性局所刺激性その他の毒性〇〇〇△〇△△×××××××臨床試験の先生に関する資料臨床試験成績〇×表2添加剤と機能添加剤機能等張化剤緩衝剤防腐剤可溶化剤安定化剤懸濁化剤増粘剤浸透圧調整pH・緩衝力防腐力溶解化学的安定性物理的安定性結膜.内滞留性みであり,点眼薬独自の評価方法は,今のところ確立されていない(平成24年2月現在).したがって,各社の解釈がまちまちになっている.点眼薬は眼局所作用を評価すべきであり,血中・尿中物質の測定は,治療効果の指標にならないため,(1)薬力学的試験,(2)臨床試験による治療学的同等性の証明をすることになる.これらのガイドラインが出る以前は,すべて動物を対象とした薬458あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(H17.3.31薬食発0331013別表1,2より)理学的試験法により評価されていたが,これらのガイドラインでは,すべてヒトを対象にした試験が要求されている.また,「動物試験がヒトの生物学的同等性の結果との相関があり,かつ製剤間のバイオアベイラビリティの差を識別しやすい場合に,ヒトの試験の代替となり得ること」と記載されている.通常はヒトでの臨床検査で単回投与後の経過時間別の眼圧値(mmHg)の統計検定を行い,標準製剤と試験製剤を比較する指標の90%信頼区間が先発品の0.70.1.43の範囲に入っていることをもって同等と評価されている.動物を使用した場合は,同様に眼圧の時系列に得られた値の統計検定が実施されている.動物実験においては,ヒトではできない「房水中の薬物濃度測定」が可能であり,薬物動態学的評価が可能である.(24) IIプロスタグランジン関連薬の後発品(ジェネリック)プロスト系点眼薬のうち,後発品があるのはラタノプロストのみで23種類(平成24年2月時点)あり,主成分のラタノプロストは同じであるが,添加物はそれぞれ異なる4).併売品もあり,生物学的同等性試験が重複している(同じデータを使用している)ものがある.先発品のキサラタンRと同様の冷暗所保存(2.8℃)の貯蔵法温度のものは,先発品と同様の添加物を用いた結果であり,扱いやすい室温保存(1.30℃)を可能にしたものは,違った添加物によりそれを実現している.特に,先発品では塩化ベンザルコニウム(BAC)濃度は,主成分(0.005%)より濃い濃度(0.02%)のBACを含んでいる.このBACは,点眼薬を長期に無菌性を維持して使用するための防腐剤として添加されており,0.01.0.001%の濃度で広い抗菌力を有している5).また,ラタノプロストが油性であることから,水溶性の点眼液においては,界面活性剤として薬物の眼内移行を補助するといわれ,点眼薬におけるBACはおもに点眼後,角膜内移行,前房内移行し,眼内への拡散移行にあたって眼内動的薬理学的な意味もあるといわれる.ジェネリックのなかには,点眼瓶の改良で,BACFreeのものもあるので,BAC濃度が異なるこれらの後発品の臨床効果が,10.20人の正常人への使用による臨床効果判定による同等性検定でいいのかどうかが不明である.また,添加物の長期連用によるアレルギーや安全性の問題の解答もないため,今後使用した結果を待つしかない.後発品のメリットは先発品より薬価が安くなることである.薬価は2年ごとに見直され,先発品も安くなっていく.一方,薬局では「後発医薬品調剤体制加算」が加わり,今回,処方施設側にも,「一般名処方加算」が加わるので,処方の仕方によっては,差額があまり発生しないこともありうる.眼科医として「一般名処方」をして,後発品を患者に選択させるからには,薬の安全性評価・臨床評価・長期連用で起こる事象についての情報,表3ラタノプロスト点眼薬比較(2010年5月添付文書より)ベンザルリン酸水素リン酸品名販売貯蔵法コニウム二水素塩化塩ナトリウムナトリウムキサラタンRファイザー2.8℃vvvラタノプロスト点眼液0.005%「センジュ」R千寿・武田2.8℃vvvラタノプロスト点眼液0.005%「わかもと」Rわかもと製薬2.8℃vvvラタノプロスト点眼液0.005%「キッセイ」Rキッセイ2.8℃vvvラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」R日本点眼薬研究所2.8℃ラタノプロスト点眼液0.005%「NP」Rわかもと製薬ラタノプロスト点眼液0.005%「トーワ」R東和薬品2.8℃vvvラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」R日東メディック2.8℃vvvラタノプロスト点眼液0.005%「三和」R三和化学室温vvvラタノプロスト点眼液0.005%「マイラン」Rマイラン室温vvvラタノプロスト点眼液0.005%「ケミファ」R日本ケミファ室温vvvラタノプロスト点眼液0.005%「TOA」R東和薬品・日東メディック・ニプロファーマ室温vvvラタノプロスト点眼液0.005%「タカタ」R高田室温vvvラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」R日医工室温vvvラタノプロスト点眼液0.005%「科研」R科研製薬室温vvvラタノプロスト点眼液0.005%「NS」R日新製薬・山形室温vvvラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」R沢井製薬室温vラタノプロスト点眼液0.005%「TS」Rテイカ製薬・アルフレッサファーマ室温vラタノプロスト点眼液0.005%「コーワ」R興和・興和創薬室温vラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」R日本点眼薬研究所2.8℃ラタノプロスト点眼液0.005%「KRM」Rキョーリンリメディオ2.8℃vvvラタノプロスト点眼液0.005%「AA」Rあすか製薬・武田・バイオテックベイ2.8℃vvvラタノプロスト点眼液0.005%「イセイ」Rイセイ2.8℃vvvラタノプロスト点眼液0.005%「アメル」R共和薬品2.8℃vvv(25)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012459 (表3つづき)塩化エデト酸トロメタポリオキシ安息香酸ポリソル品名ホウ酸エチレンナトリウムナトリウムモールヒマシ油ナトリウムベート80キサラタンRvラタノプロスト点眼液0.005%「センジュ」Rvラタノプロスト点眼液0.005%「わかもと」Rvvラタノプロスト点眼液0.005%「キッセイ」RvvラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」Rvvvvラタノプロスト点眼液0.005%「NP」Rvvvラタノプロスト点眼液0.005%「トーワ」Rvvラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」Rvvラタノプロスト点眼液0.005%「三和」Rvvvラタノプロスト点眼液0.005%「マイラン」Rvvvラタノプロスト点眼液0.005%「ケミファ」Rvvvラタノプロスト点眼液0.005%「TOA」Rvvvラタノプロスト点眼液0.005%「タカタ」Rvvvラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」Rvvvラタノプロスト点眼液0.005%「科研」Rラタノプロスト点眼液0.005%「NS」Rラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」Rvvラタノプロスト点眼液0.005%「TS」Rvvラタノプロスト点眼液0.005%「コーワ」Rvvラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」Rvvvvvラタノプロスト点眼液0.005%「KRM」Rvvラタノプロスト点眼液0.005%「AA」Rvラタノプロスト点眼液0.005%「イセイ」Rvラタノプロスト点眼液0.005%「アメル」Rvv品名モノステアリン酸ポリエチレングリコールステアリン酸ポリオキシル40クエン酸D-マンニトールグリセリンヒプロメロースホウ砂プロピレングルコールキサラタンRラタノプロスト点眼液0.005%「センジュ」Rラタノプロスト点眼液0.005%「わかもと」Rラタノプロスト点眼液0.005%「キッセイ」RラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」Rラタノプロスト点眼液0.005%「NP」Rラタノプロスト点眼液0.005%「トーワ」Rラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」Rラタノプロスト点眼液0.005%「三和」Rラタノプロスト点眼液0.005%「マイラン」Rラタノプロスト点眼液0.005%「ケミファ」Rラタノプロスト点眼液0.005%「TOA」Rラタノプロスト点眼液0.005%「タカタ」Rラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」Rラタノプロスト点眼液0.005%「科研」Rラタノプロスト点眼液0.005%「NS」Rラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」Rラタノプロスト点眼液0.005%「TS」Rラタノプロスト点眼液0.005%「コーワ」Rラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」Rラタノプロスト点眼液0.005%「KRM」Rラタノプロスト点眼液0.005%「AA」Rラタノプロスト点眼液0.005%「イセイ」Rラタノプロスト点眼液0.005%「アメル」Rvvvvvvvvvvvvvvvvvv460あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(26) 経済効果のすべてについて知識をもち,患者にも情報公ている.開したいと思っても,現状では十分な体制ができていなラタノプロスト点眼液についての情報を,先行品も含い.先行して使用してきている先発品か,ほぼ同じものめて表3に示す.また,写真掲載許可をとれたものの製を選択し,他の商品の評価を待つべきかと私的には思っ剤写真を図1に示す.ラタノプロストの後発品においBACFree製剤先発品センジュわかもとキッセイ日東メディックわかもと(NP)日点PFキサラタンR東亜ファイザーニッテンテイカサワイ三和KRM科研日新ラタノプロスト点眼液0.005%図1ラタノプロストの先発品と後発品(ジェネリック)掲載許可を得たもののみの写真.後発品には同じ製品の併売もあり,取扱う会社が発売以降ですでに変更されたものがある.わかもとは,一般名のあとに会社名表記ありと「NP」表記の2種.BACFree先発品テイカサワイ大洋日点日点レスキュラR2012.4.1からテバ参天・アールテックウエノイソプロピルウノプロストン点眼液0.12%図2イソプロピルウノプロストンの先発品と後発品(ジェネリック)大洋薬品は,2012年4月以降「テバ」に移行.(27)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012461 て,同一薬の多数社の併売もあり,発売後短期間での取扱い会社の変更がある.これも,後発品の特徴である.プロストン系点眼薬である,イソプロピルウノプロストン(レスキュラR)の後発品は4社5種類があるが,このうち1社は取扱い会社名が2012年4月から変更になる(図2).IIIb遮断薬系の後発品(ジェネリック)最初に登場したチモロールマレイン酸塩(チモプトールR)は1981年の発売であり,1990年から後発品が販売されている.この頃の後発品の販売名称は,先発品を類推できる名前ばかりではなく,先発品とはまったく異なる名前もつけることができた.チモプトールRの後発品であるリズモンR,ファルチモR,チアブートRや,カルテオロール塩酸塩(ミケランR)の後発品であるリエントンR,ブロキレートR,メルカトアR(現時点では販売中止)などの例である.しかし,平成17年9月22日付薬食審査発第0922001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」6)より,当該通知発出以降に申請される後発品については,原則として,含有する有効成分に係る「一般的名称」を基本として,濃度と会社名をつける形になった.さらに,平成先発品チモプトールR参天・MSDリズモン0.25%・0.5%(わかもと)チモレート0.25%・0.5%(日点)チモロールT0.25%・0.5%(東亜・日東メディック)BACFreeファルチモ0.25%・0.5%(キョーリン)チモロール0.25%・0.5%(テイカ)チアブート0.25%・0.5%(日新)チモレートPF0.25%・0.5%(日点)図3チモロールマレイン酸塩の先発品と後発品(ジェネリック)チモプトールXER(参天・MSD),リズモンRTG(わかもと・キッセイ)は,チモロールマレイン酸塩製剤の先発品であり,まだ後発品は出ていないため写真掲載せず.462あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(28) 23年12月27日付GE薬協会発第100号にあるように平成24年より,今後3年にわたって一般的名称に切り替えるための薬事法の製造販売承認(販売名変更代替新規)申請がされることになった.特に類似名による処方に危険があるもの,出荷量が多くシェアの高い後発品,医療関係者から一般名への変更要望の多いものとされている7)ので,今後,従来の点眼薬名が変更されてくると思われる.現時点でのb遮断薬関連の後発品を,先発品とともに図3.7に示す.なお,1900年代の後発品では,原則,生物学的同等性検定には動物が使用されてお先発品ブロキレート1%・2%(日点)ミケランR大塚・千寿BACFreeBACFreeカルテオロールT1%・2%リエントン1%・2%カルテオロール1%・2%ブロキレートPF1%・2%(東亜・日東メディック)(キョーリン)(わかもと)(日点)図4カルテオロール塩酸塩の先発品と後発品(ジェネリック)ミケランRLAは,先発品のみのため写真掲載せず.BACFreeBACFree先発品ハイパジールR,興和ニプラノールR,テイカニプラジロール0.25%サワイ日東メディック東亜日点わかもとニプラジロールPF0.25%日点図5ニプラジロールの先発品と後発品(ジェネリック)先発品2社は商品名が異なる.後発品は一般名表記で統一.(29)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012463 表4.1国内で使用可能な緑内障治療薬ー先発品発売年一般名(有効成分)薬品名販売196719811984198819901992199419971998199920012002200320052007200820092010ピロカルピンチモロールマレイン酸塩カルテオロール塩酸塩ジピベフリンベタキソロール塩酸塩イソプロピルウノプロストンチモロールマレイン酸塩ラタノプロストドルソラミドニプラジロールニプラジロールチモロールマレイン酸塩チモロールマレイン酸塩塩酸レボブノロールブナゾシンブリンゾラミドカルテオロール塩酸塩トラボプロストタフルプロストビマトプロストラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤ラタノプロスト・ドルゾラミド配合剤トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤サンピロRチモプトールR点眼液0.25/0.5%ミケランR点眼液1%/2%ピバレフリンR0.04%/0.1%ベトプティックR点眼液0.5%レスキュラR点眼液0.12%キサラタンR点眼液0.005%トルソプトR点眼液0.5%/1%ハイパジールコーワR点眼液0.25%ニプラノールR点眼液0.25%チモプトールXER点眼液0.25%/0.5%リズモンTGR点眼液0.25%/0.5%ミロルR点眼液0.5%デタントールR0.01%点眼液エイゾプトR懸濁性点眼液1%ミケランLAR点眼液1%/2%トラバタンズR点眼液0.004%タプロスR点眼駅0.0015%ルミガンR点眼液0.03%ザラカムRコソプトRデュオトラバR参天製薬万有製薬(MSD),参天製薬大塚製薬,千寿製薬参天製薬日本アルコンアールテックウエノファイザー万有製薬(MSD)興和,興和創薬テイカ製薬万有製薬,参天製薬わかもと製薬,キッセイ薬品工業杏林製薬,科研製薬参天製薬日本アルコン大塚製薬,千寿製薬日本アルコン参天製薬千寿製薬,武田薬品工業ファイザーMSD,参天製薬日本アルコン2012アルファガン(予定)アイファガンR千寿製薬464あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(30) 表4.2国内で使用可能な緑内障治療薬ー後発品発売年一般名(有効成分)薬品名販売196719811984198819901992199419971998199920012002200320052007200820092010チモロールマレイン酸塩チモロールR点眼液0.25%/0.5%「TS」チモロールマレイン酸塩チモレートR点眼液0.25%/0.5%チモロールマレイン酸塩リズモンR点眼液0.25%/0.5%チモロールマレイン酸塩ファルチモR点眼液0.25%/0.5%チモロールマレイン酸塩チアブートR点眼液0.25%/0.5%カルテオロール塩酸塩リエントンR点眼液1%/2%カルテオロール塩酸塩カルテオロールR点眼液T1%/2%カルテオロール塩酸塩ブロキレートR点眼液1%/2%チモロールマレイン酸塩チモロールR点眼液T0.25%/0.5%ベタキソロール塩酸塩ベタキールR0.5%点眼液ベタキソロール塩酸塩ベタキソンR点眼液0.5%カルテオロール塩酸塩ブロキレートRPF点眼液1%/2%<ジェネリック医薬品販売名は一般的名称を基本とする通達>ニプラジロールニプラジロールR点眼液0.25%ニプラジロールニプラジロールRPF点眼液0.25%ニプラジロールニプラジロール点眼液0.25%「わかもと」Rチモロールマレイン酸塩チモレートRPF点眼液0.5%R塩酸レボブノロールレボブノロール塩酸塩点眼液0.5%「ニッテン」Rカルテオロール塩酸塩カルテオロール塩酸塩点眼液1%/2%「わかもと」Rイソプロピルウノプロストンイソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「テイカ」Rイソプロピルウノプロストンイソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「タイヨー」Rイソプロピルウノプロストンイソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」Rイソプロピルウノプロストンイソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「日点」RイソプロピルウノプロストンイソプロピルウノプロストンPF点眼液0.12%「日点」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「センジュ」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「わかもと」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「キッセイ」RラタノプロストラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「NP」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「トーワ」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「TS」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「科研」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「三和」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「マイラン」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「ケミファ」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「TOA」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「タカタ」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「NS」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「コーワ」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「KRM」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「AA」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「イセイ」Rラタノプロストラタノプロスト点眼液0.005%「アメル」R塩酸レボブノロールレボブノロール塩酸塩PF点眼液0.5%「日点」Rテイカ製薬日本点眼薬研究所わかもと製薬キョーリンリメディオ日新製薬キョーリンリメディオ日東メディック・東亜日本点眼薬研究所日東メディック・東亜日東メディック・メディサ新薬日本点眼薬研究所日本点眼薬研究所日東メディック/東亜,わかもと製薬沢井製薬,日本点眼薬研究所日本点眼薬研究所わかもと製薬(NP容器)日本点眼薬研究所日本点眼薬研究所わかもと製薬(NP容器)テイカ製薬大洋薬品沢井製薬日本点眼薬研究所日本点眼薬研究所千寿製薬・武田薬品工業わかもと製薬キッセイ薬品工業日本点眼薬研究所わかもと製薬東和薬品日東メディックテイカ製薬・アルフレッサファーマ科研製薬三和化学マイラン日本ケミファ東和薬品・日東メディック・ニプロファーマ高田日医工日新製薬・山形沢井製薬興和・興和創薬日本点眼薬研究所キョーリンリメディオあすか製薬・武田・バイオテックベイイセイ共和薬品日本点眼薬研究所2012(31)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012465 先発品ベトプティックR・ベトプティックエスR日本アルコンベタキソンRベタキールRベタキールR日点日東メディックサワイ東亜図6ベタキソロールの先発品と後発品(ジェネリック)後発品のうち同名なのは,併売同一薬.り,眼圧の時系列の有意差検定とともに,房水中薬物濃度を測定したものも多く,薬力学的評価と薬物動態学的評価が揃っているものが多い.さらに,先発品とともに歴史の長い後発品となっており臨床評価も定まってきていると考えられる.なお,容器の改善によりBACFreeの製剤も出てきており(PF製剤,NP容器製剤など),これは後発品扱いであるが,製剤の異なる1回点眼薬は,先発品扱いである(チモプトールXER,リズモンTGR,ミケランLARなど)(図3.7).国内での先発品に対しての後発品の発売時期などを一覧とする(表4-1,2).IV今後の展望今後,後発品(ジェネリック医薬品)については,米国のように評価方法の確立が必要であり,「日本ジェネ先発品レボブノロールR日点ミロルR日点科研図7レボブノールの先発品と後発品(ジェネリック)後発品は1社からのみ.リック医薬品学会」による「生物学的同等性データ」などを学会誌に公開している方法などは有益である.成分については,先発品と同じ成分であることを後発品の義務とすれば,後発品は,先発品の臨床上の有効性,安全性を引き継いだまま薬価が安くなることになる.特に,短期に使用する薬ではなく,緑内障においては,長期にわたる治療期間になるため,薬価が安くなるのは望ましいことではあるが,臨床効果が表れるのも長期使用後になるので,後発品に変更した場合は,先発品による経過観察以上の注意深い検査が必要と考えられる.文献1)薬食発0331013別表1,2,20052)河嶋洋一:点眼薬の処方設計.眼科診療プラクティス42,p76-79,文光堂,19993)薬食審査発0229第10号「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン等の一部改正について,20124)各点眼薬添付文書及びインタビューフォーム5)新家眞:眼科学大系,第3章B,p28-42,中山書店,19936)薬食審査発第0922001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」,20077)GE薬協会発第100号,2010466あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(32)

β遮断薬

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):451.455,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):451.455,2012b遮断薬b-Blocker望月英毅*木内良明*はじめにb遮断薬の臨床使用は1960年代に循環器領域で使用され始めたプロプラノロールが始まりである.ほどなくb遮断薬は経口,静注,点眼で眼圧を下降させることが示され,1978年にチモロールが抗緑内障点眼薬として登場した.わが国でのチモロールの発売は1981年で,それ以前にはピロカルピン,エピネフリン,アセタゾラミドなど副作用の多い薬しかなかった緑内障治療には画期的なことであった.続いてわが国で開発されたカルテオロールが1984年に発売され,1994年にはベタキソロールが,1999年にもわが国で開発されたニプラジロールが発売になった.レボブノロールの発売は2001年であるが,欧米では1985年から使われてきた薬剤である.チモロールの登場以来,b遮断薬は長く緑内障に対する第一選択薬として使用されてきたものの,現在では眼圧下降作用により優れ,全身的副作用の少ないプロスタグランジン製剤にその地位を完全に譲っている.しかし,b遮断薬は緑内障病型によらず,かつプロスタグランジン製剤についで良好な眼圧下降を示すため,依然として緑内障薬物療法では重要な位置を占め続けている.ただし,循環器系,呼吸器系など全身的副作用がある点は使用するうえで注意しなければならない.本稿では,b遮断薬一般の解説をした後,現在使用可能な5種類のb遮断薬(表1)について特徴を述べる.I作用機序b遮断薬による眼圧下降作用については不明な点もあり,セロトニン受容体など,b受容体以外の受容体の関与を指摘する報告もある1).しかし,一般的にはb遮断薬によるb受容体の抑制作用によると考えられている.眼内で房水産生にあずかる毛様体無色素上皮にはb2優位にb受容体が存在する.b遮断薬はこの受容体を抑制し,房水産生をおよそ30.50%低下させることにより,眼圧下降作用を示す.房水流出路には作用しない.表1b遮断薬点眼の比較薬剤名チモロールカルテオロールベタキソロールニプラジロールレボブノロール受容体選択性b非選択性b1選択性a1遮断,b非選択性ISA.+…濃度0.25%,0.5%1%,2%0.5%0.25%0.5%商品名チモプトールRチモプトールRXEリズモンRTGミケランRミケランRLAベトプティックRベトプティックRエスハイパジールRミロルRISA:内因性交感神経刺激作用.*HidekiMochizuki&YoshiakiKiuchi:広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕望月英毅:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(17)451 II効果点眼前と比べておおむね20%程度の眼圧下降を示す.チモロールの眼圧下降作用は点眼後30分ないし1時間後にあらわれ,2時間で最大の効果を示し,24時間程度持続する.b遮断薬にはメラニン親和性があり,虹彩色素にb遮断薬が結合する2).このため,長期にわたって点眼を継続した場合には薬のウォッシュアウト期間に2.4週が必要とされている.1.日内変動b遮断薬は,昼間は眼圧下降作用を示すが,夜間は効果が減弱する3)(図1).夜間は交感神経の活動性が低下し,房水産生はおよそ50%低下しているためである.夜間の眼圧も座位で計測した場合では効果を示すが,夜間就寝時の眼圧は仰臥位のままで計測した場合(これをhabitualIOPという)では効果を示さなかった4).1日1回点眼の場合は朝の点眼が推奨される.点眼されたb遮断薬は涙道を通って鼻粘膜の毛細血管から吸収され,全身に移行する.このため片眼トライアルを行うと反対眼の眼圧も低下する5).また,反対眼に濾過手術が行ってある場合,反対眼の房水産生も抑制され,その結果ブレブの縮小瘢痕化を進めてしまう可能性があるが,臨床上意味がある効果かどうかは確認されていない.18:治療前:治療後161412**********100101316192213710測定時刻(時)図1ゲル基剤チモロール治療群の治療前後の眼圧日内変動ゲル基剤チモロール治療群の眼圧は,治療後大方の測定時刻で有意に下降していたが,22時と3時では有意な下降がなかった(平均値±標準誤差,n=22).*:p<0.05,**:p<0.01.(文献3より)452あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012眼圧(mmHg)2.Long.termdriftb遮断薬を長期に点眼していると一部の症例では,数カ月から1年でその眼圧下降作用が徐々に減弱する.これをlong-termdriftという.b遮断薬の休薬と交感神経刺激薬(ジピベフリンなど)の投与によって回復するとされている.Long-termdriftはb遮断薬を使用するうえでの注意点としてよく知られた概念で,どの教科書にも記載されている.しかし,二重盲検でプラセボ群と比較してチモロール点眼群でlong-termdriftがあるとはいえなかったとする報告があり6),筆者はいわゆる“timololholiday”(チモロールの休薬)は積極的には行っていない.III副作用1.眼局所角膜上皮障害ベタキソロールには局所麻酔作用(膜安定化作用)があり角膜知覚低下が生じる.このため,反射性涙液分泌の低下による角膜上皮障害が生じうる.その他のb遮断薬点眼には膜安定化作用はない.防腐剤として添加されている塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)は界面活性剤の一種で殺菌作用を有する.保存可能期間の延長,薬物の角膜透過性亢進,主剤の可溶化といったメリットがある.一方で細胞に対して非特異的に毒性をもつので,当然角膜上皮細胞に対しても毒性がある.長期の投与では結膜杯細胞の数も減少する7).b遮断薬点眼液中に含まれるBAC濃度を表2に示した.各製薬会社が示す頻度では1%前後で何らかの角膜上皮障害を生じるとされている.しかし,緑内障の点眼治療は長期にわたることが多く,多剤併用となることも多い.このような場合は角膜上皮障害が発症しやすくなる.また,糖尿病合併例でも発症しやすい.実地臨床で表2b遮断薬点眼液に含まれる塩化ベンザルコニウム濃度0.01%ベトプティックR,ベトプティックRエス0.005%チモプトールR,ミケランR,ミケランRLA0.004%ミロルR0.002%ハイパジールR0.001%リズモンRTGチモプトールRXEは0.012%臭化ベンゾドデシニウムを含む.(18) 表3b遮断薬の禁忌と慎重投与気管支喘息,またはその既往歴のある患者,気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者禁忌コントロール不十分な心不全,洞性徐脈†,房室ブロック(II,III度)†,心原性ショックのある患者†妊娠または妊娠している可能性のある婦人(ベタキソロールのみ)‡うっ血性心不全のある患者慎重投与コントロール不十分な糖尿病患者糖尿病性ケトアシドーシスおよび代謝性アシドーシスのある患者添付書から抜粋,改変.†ベタキソロールでは禁忌ではなく慎重投与である.‡動物実験の結果から禁忌となっている.の印象では頻度は明らかに1%より高い.b遮断薬単剤使用でも10%以上の患者で角膜上皮障害がみられたとの報告もある8).緑内障点眼加療中の患者では眼圧計測時に使用するフルオレセインで,あわせて角膜上皮を診ることを習慣づけておきたい.2.全身全身的副作用はb遮断薬の欠点である.表3に禁忌と慎重投与を示した.これはb1およびb2受容体の作用に基づいている(表4).点眼後の涙.部圧迫は血中チモロール濃度を40%減少させる9)ので,全身的副作用のリスクを低下させる観点から意味がある.何らかのリスクがある患者にb遮断薬を処方する場合,処方後最初の点眼は帰宅後ではなく,外来の待合室でしてもらって,点眼後の全身的な自覚症状がないことを確認してから帰宅させるのも,重大な全身的合併症を防止する点から有効であろう.a.心血管系主としてb1遮断作用による.点眼であってもb遮断薬の使用は心拍数と血圧の低下を生じるので注意が必要である.しかし,心疾患の既往があれば自動的にb遮断薬点眼が禁忌となるわけではない.近年,多くの大規模臨床試験により,b遮断薬〔ISA(内因性交換神経刺激作用)なし〕が心不全患者,冠動脈疾患患者の予後を改善することがエビデンスとして確立した.b遮断薬は循環器科領域では重要な治療薬なのである.心不全のある患者にb遮断薬を使用したい場合には,循環器専門医に問い合わせればよい.b.呼吸器系b2遮断作用により,気管支平滑筋を収縮させるため,喘息発作を誘発あるいは増悪させうる.喘息患者にb表4b1およびb2受容体のおもな作用b1受容体心収縮力増大,心拍数増加b2受容体気管支平滑筋の弛緩,子宮平滑筋の弛緩,血管平滑筋の弛緩遮断薬点眼を使用した場合,死亡の症例報告もあるため禁忌である.同様の作用機序から,添付文書では「重篤なCOPD(慢性閉塞性肺疾患)のある患者」を禁忌としている.一方で近年,b遮断薬がCOPD患者の生命予後を改善する,という言わば通説に反する報告が集積されつつある10).b1選択性遮断薬はCOPD患者に処方される場合もあるようである.しかし,b遮断薬点眼の血清濃度の推移が内服の場合と同様なのか,といった問題もあるため,COPD患者へ処方したい場合にはやはり呼吸器科医に相談する必要がある.c.コントロール不良の糖尿病とアシドーシスコントロール不良の糖尿病患者ではb遮断薬によって動悸,頻脈などの低血糖時の交感神経症状が自覚されにくくなり,いきなり低血糖の意識障害をきたす可能性があるとされる.また,糖尿病性ケトアシドーシスおよび代謝性アシドーシスのある患者では,アシドーシスによる心筋収縮力の抑制を増強するおそれがあるとされている.IV各薬剤緑内障治療で確固たるエビデンスがあるのは眼圧下降だけである.眼圧下降効果はベタキソロールがやや弱く,その他は同等である.わが国で多い正常眼圧緑内障(NTG)は眼圧以外の要素があるものと考えられており,その代表格が視神経の血流である.しかし,残念ながら(19)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012453 血流改善が臨床的に有用である(たとえば視野の進行を抑制した)というはっきりしたエビデンスは今のところまだない.1.チモロール非選択性b遮断薬である.1日2回点眼である.緑内障治療薬のスタンダードであり,緑内障治療薬はチモロールの眼圧下降作用と比べてどうなのか,がまず検討される.ゲル化剤を用いた持続型点眼液は1日1回の点眼で,従来型の1日2回点眼と同等の眼圧下降作用がある11).チモプトールRXEは涙液中のナトリウムイオンと反応してゲル化する.リズモンRTGは点眼後の体温による温度上昇でゲル化する.両者で使用感が異なる.比較すると,チモプトールRXEではべたつき感や霧視を,リズモンRTGではしみる感じを訴える患者がより多いようである12).眼圧下降作用に差はない.リズモンRTGが高温により点眼容器内でゲル化してしまった場合には,点眼前に冷蔵庫などで冷却する必要がある.ゲル化製剤の特性として,点眼後数分間霧視やべたつき感が持続することを患者に説明しておく必要がある.他の点眼を併用している場合は,ゲル化製剤を最後に点眼するよう指導する.血清チモロール濃度は従来型のチモロールよりチモプトールRXEで低く13),心拍数の減少も従来型よりチモプトールRXEのほうが軽かったとの報告がある14)ことから,循環器系の副作用はゲル化剤のほうが少ないと思われる.しかし,呼吸器系副作用については軽減されるかどうかは不明である.2.カルテオロール非選択性b遮断薬である.ISAをもつことが特徴である.ISA(+)のb遮断薬は,b遮断薬であるからb受容体を競合阻害するが,受容体結合時に受容体を弱く刺激する作用がある.この作用により,過度のb遮断作用が起こらず,全身的副作用を軽減するとされる.ISA(+)のb遮断薬は血管拡張作用があるとされ,カルテオロールも血流改善作用があるとの報告が多い.従来型のミケランRは1日2回点眼である.ミケランRLAはアルギン酸が添加された持続型点眼液で,眼表面での滞留性が良く,1日1回点眼である.ゲル化剤より粘度454あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012が低いため点眼直後の霧視やべたつき感が少なく使いやすい.眼圧下降作用はチモロールと同等である.点眼後の血清濃度がミケランRLAでは従来型よりも低いことが報告されており15),全身的副作用の軽減が期待できる.3.ベタキソロール特徴はb1選択性であることである.1日2回点眼である.ベタキソロールは房水中ではチモロールと比べて高濃度であるため毛様体にはb2受容体遮断にも作用するが,血中濃度はチモロールよりも低いため全身的にはb1選択性が高まるのであろう,との報告がある16).眼圧下降作用はチモロールよりも弱い.ベトプティックエスRは懸濁液であるため点眼直後の霧視の訴えがあるが,ベトプティックRの眼刺激症状(点眼時のしみる感じ)が緩和され使いやすくなった.一般的にはb1選択性であるため,呼吸器系への影響が少ない.チモロールからベタキソロールへの点眼変更による呼吸機能改善の報告がある.しかし,b1選択性ではあるものの,呼吸器系への影響は完全にないわけではなく,ベタキソロール点眼による喘息の悪化例がある.ベタキソロールはb2遮断による血管平滑筋の収縮が少ないことに加え,カルシウムチャンネル阻害作用をもつ.視神経乳頭血流改善はこれらの作用によるものと考えられている.チモロールと比較してベタキソロールのほうが視野障害の進行をよく抑制したとの報告17)は,この血流改善作用による可能性がある.4.ニプラジロールb遮断作用とa1遮断作用をもつこと,NO(一酸化窒素)供給薬として働く,という二つの特徴がある.0.25%ニプラジロールの眼圧下降作用は0.5%チモロールと同等である.b遮断作用自体はチモロールの半分くらいである18)が,a1遮断作用によるuveoscleraloutflow(ぶどう膜強膜流出路)の増加と合わせて,チモロールと同等の眼圧下降作用を示すと考えられている.b遮断作用が弱く,濃度も低いので,全身的副作用の軽減が期待される.ニプラジロールは視神経乳頭血流を増加させると報告(20) されている.これはNOおよびa1遮断作用による血管拡張作用によるものと考えられる.また,ニプラジロールは,NTG患者に対する視野障害の進行をチモロールと同等に抑制することが示されている19).5.レボブノロールb遮断作用と弱いa1遮断作用をもつ.0.5%レボブノロールの眼圧下降作用は0.5%チモロールと同等である.血流改善作用があり,これはa1遮断による血管拡張と考えられる.もう一つの特徴は,1日1回点眼であることである.これは,b遮断作用が失われていない代謝物が長時間虹彩や毛様体にとどまるため,眼圧下降作用がチモロールよりも持続的であるからである.ゲル化剤ではないので,点眼直後の霧視やべたつき感はない.1日1回点眼で効果不十分の場合,劇的な効果増強は望めないものの1日2回点眼を試してもよい.ただし,二重盲検のクロスオーバー試験20)では1日2回点眼の眼圧下降作用は,点眼開始後14日目までは1日1回より優れていたが,点眼開始後28日目には差が検出されなかった.効果判定は眼内での濃度が安定するまで,4週間以上の点眼期間を要する.文献1)OsborneNN,ChidlowG:Dobeta-adrenoceptorsandserotonin5-HT1Areceptorshavesimilarfunctionsinthecontrolofintraocularpressureintherabbit?Ophthalmologica210:308-314,19962)KiuchiY,TerakawaN,NakataTetal:Bindingaffinityofbunazosin,dorzolamide,andtimololtosyntheticmelanin.JpnJOphthalmol48:34-36,20043)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,20044)LiuJH,KripkeDF,WeinrebRN:Comparisonofthenocturnaleffectsofonce-dailytimololandlatanoprostonintraocularpressure.AmJOphthalmol138:389-395,20045)PiltzJ,GrossR,ShinDHetal:Contralateraleffectoftopicalbeta-adrenergicantagonistsininitialone-eyedtrialsintheocularhypertensiontreatmentstudy.AmJOphthalmol130:441-453,20006)BengtssonB,HeijlA:Lackoflong-termdriftintimolol’seffectivenessinpatientswithocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci42:2839-2842,20017)SmithDL,SkutaGL,KincaidMCetal:TheeffectsofglaucomamedicationsonTenon’scapsuleandconjunctivaintherabbit.OphthalmicSurg22:336-340,19918)高橋奈美子,籏福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤或いは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,19999)PassoMS,PalmerEA,VanBuskirkEM:Plasmatimololinglaucomapatients.Ophthalmology91:1361-1363,198410)RuttenFH,ZuithoffNP,HakEetal:Beta-blockersmayreducemortalityandriskofexacerbationsinpatientswithchronicobstructivepulmonarydisease.ArchInternMed170:880-887,201011)村瀬広美,谷口徹,山本哲也ほか:ゲル化剤添加チモロール点眼液と従来のチモロール点眼液との比較.あたらしい眼科18:381-383,200112)須田生英子,福地健郎,原浩昭ほか:ゲル化剤添加チモロール点眼液2剤の比較.眼臨95:783,200113)DicksteinK,AarslandT:Comparisonoftheeffectsofaqueousandgellanophthalmictimololonpeakexerciseperformanceinmiddle-agedmen.AmJOphthalmol121:367-371,199614)SheddenA,LaurenceJ,TippingR;Timoptic-XE0.5%StudyGroup:Efficacyandtolerabilityoftimololmaleateophthalmicgel-formingsolutionversustimololophthalmicsolutioninadultswithopen-angleglaucomaorocularhypertension:asix-month,double-masked,multicenterstudy.ClinTher23:440-450,200115)RenardP,KovalskiJL,CochereauIetal:Comparisonofcarteololplasmaticlevelsafterrepeatedinstillationsoflong-actingandregularformulationsofcarteolol2%inglaucomapatients.GraefesArchClinExpOphthalmol243:1221-1227,200516)VuoriML,KailaT,IisaloEetal:Concentrationsandantagonistactivityoftopicallyappliedbetaxololinaqueoushumour.ActaOphthalmol71:677-681,199317)MessmerC,FlammerJ,StumpfigD:Influenceofbetaxololandtimololonthevisualfieldsofpatientswithglaucoma.AmJOphthalmol112:678-681,199118)小森誠一,西尾健一,飯野礼久ほか:KT-210(Nipradilol点眼液)の家兎における眼圧下降作用.眼臨90:14681472,199619)AraieM,ShiratoS,YamazakiYetal;Nipradilol-TimololStudyGroup:Visualfieldlossinpatientswithnormal-tensionglaucomaundertopicalnipradilolortimolol:subgroupandsubfieldanalysesofthenipradilol-timololstudy.JpnJOphthalmol54:278-285,201020)DerickRJ,RobinAL,TielschJetal:Once-dailyversustwice-dailylevobunolol(0.5%)therapy.Acrossoverstudy.Ophthalmology99:424-429,1992(21)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012455

プロスタグランジン関連薬

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):443.450,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):443.450,2012プロスタグランジン関連薬ProstaglandinAnalogs相原一*はじめにプロスタグランジン(PG)関連薬のうち,薬品名にプロストと名の付くプロスト系とよばれる系統は,現在第一選択薬の眼圧下降薬となっているが,その歴史は他の薬剤と比べて浅く,1980年代から眼薬理作用が検討されてきた物質である.プロスト系PG関連薬は,病型を選ばず最大の眼圧下降効果が得られること,終日の眼圧下降効果,それに伴う日内変動抑制効果,併用薬を選ばないこと,局所のみで全身的副作用がないこと,1回点眼であること,といった特徴がある.これらの特徴は緑内障治療に重要な,点眼に対する患者のアドヒアランスを向上させる条件を満たしており,点眼眼圧下降治療での第一選択薬となっている.現在,世界的には,ウノプロストン(レスキュラR,参天製薬)を含めると,4種のプロスト系ラタノプロスト(キサラタンR,ファイザー),トラボプロスト(トラバタンズR,日本アルコン),ビマトプロスト(ルミガンR,千寿製薬),タフルプロスト(タプロスR,参天製薬),合計5種類のPG関連薬が存在する.さらに2011年にはキサラタンRのジェネリック製品が23種類も発売されたが,本稿では,先発のキサラタンRに限って,5種類のPG関連薬について解説する.IPG関連薬とは?PGは本来,全身に広く分布し多種多様な生理活性をもつ局所ホルモンの一群をなす脂質の総称である.主と種類生体内機能受容体PGF2a陣痛誘発,黄体退縮,眼圧下降FPEP1PGE2発熱,疼痛,血管透過性亢進EP2EP3EP4PGI2血小板形成抑制,血栓形成阻害IPPGD2睡眠誘発,気管支収縮DPTXA2血小板形成促進,血栓形成促進TPプロスタ眼圧下降プロスタマイド受容体ラタノプロスト酸トラボプロスト酸タフルプロスト酸ビマトプロスト酸ビマトプロストマイドF2a=FP+FPsplicevariant図1プロスタグランジン関連物質の受容体とその生体内機能FP受容体が眼圧下降に重要である.プロスト系PG関連薬は酸型がFP受容体に,ビマトプロストはそのままプロスタマイド受容体に結合する.して生体内機能を有するPGは図1の4群であり,それぞれ特異的な受容体が存在する.そのうち緑内障眼圧下降薬としてのPG関連薬はPGF2aを基本骨格とし,そのカルボキシル基末端にイソプロピル基がエステル結合したPGF2aイソプロピルエステルから開発されたものである.そのためPG関連薬とよぶ.受容体はFP受容体である.現在,開発順にウノプロストン,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストの5種類のPG関連薬が存在する(図2)が,後述のように,ウノプロストンだけがPGF2aイソプロピルエステルの基本骨格はあるものの,代謝された構造をもつためプロストン系とし,一方,他の4種はPGF2aをよ*MakotoAihara:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕相原一:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能講座眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(9)443 製品名一般名濃度開発国投与回数眼圧下降副作用充血,眼瞼色素沈着,睫毛の伸長・増加防腐剤作用点ルミガンRタプロスRタフルプロスト0.03%0.0015%米国日本1日1回1日1回レスキュラRキサラタンRトラバタンズRウノプロストンラタノプロストトラボプロストビマトプロスト0.12%0.005%0.004%日本米国米国1日2回1日1回1日1回++++++++++++++++++BAKBAKsofZiaR(イオン緩衝系防腐剤)BAKBAKFP受容体Maxi-KチャンネルFP受容体FP受容体FP受容体プロスタマイドFP受容体FP受容体プロストン系プロスト系図2緑内障治療PG関連薬一覧(ジェネリック製品を除く)ウノプロストンはプロストン系,他の4剤はプロスト系として分類すると違いがわかりやすい.り安定化させた構造をしており,名前もプロストがついているため,まとめてプロスト系とよぶと理解しやすい.IIプロドラッグ製剤5種類の薬剤はすべてプロドラッグ製剤である.PGは本来末端のカルボキシル基は酸になっていて受容体に結合するが,図3にあるように点眼製剤はビマトプロストを除きイソプロピルエステル型となっており,角膜を通過する際にエステラーゼにより結合が切れて酸となり,眼内で受容体に作用する.ビマトプロストだけが,エチルアミド型となっておりアミダーゼにより結合が切られ酸となる.こうしたプロドラッグ製剤は,眼外での不必要な薬理活性を減らすことで副作用を軽減する役割をもっているため,製剤として好ましいと考えられる.IIIプロストン系とプロスト系の相違図3にあるように,プロストン系であるウノプロストンだけが15位の水酸基が酸化されているため代謝型PG関連薬ともよばれている.この15位の水酸基は基本骨格であるPGF2aの受容体FPへの結合に重要であ444あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012る.そのため,invitroの結合実験ではウノプロストンはFP受容体への結合親和性が低い.プロスト系薬剤は炭素鎖15位の水酸基を保存したまま,修飾が施された薬剤であるが,国産のタフルプロストは水酸基をフッ素で置換することにより薬剤の安定性を高めた構造になっている.IVPG関連薬のプロスタノイド受容体結合能PG関連薬は酸になると受容体結合能が向上し,プロスタノイド受容体に結合するが,図4にあるようにウノプロストンはどの受容体にも結合能が劣る.プロスト系はいずれもFP受容体に最も結合するが,EP3受容体にも結合能を有する.もっともFP選択性が高いのはタフルプロストである.エチルアミド型のビマトプロストは酸型では他のイソプロピルエステル型プロスト系と同様なプロスタノイド受容体結合パターンを示すが,酸にならない状態でもFP受容体とFPのスプライスバリアントの複合体に直接結合することが最近報告されており1),他のプロスト系PG関連薬と異なる結合活性をもつプロスタマイド(プロスト系のアミド型という意味)と位置づける研究者もいる.(10) PGF2aイソプピルエステルHOHOOHOOラタノプロストHOHOOHOOesteraseイソプロピルウノプロストンHOHOOOOesteraseesteraseCF3HOHOOOHOOトラボプロストタフルプロストesteraseHOHOOFOOFamidaseHOHOOHONHビマトプロストPGF2aイソプピルエステルHOHOOHOOラタノプロストHOHOOHOOesteraseイソプロピルウノプロストンHOHOOOOesteraseesteraseCF3HOHOOOHOOトラボプロストタフルプロストesteraseHOHOOFOOFamidaseHOHOOHONHビマトプロストプロストン系プロスト系図3PG関連薬の構造式LatanoprostacidTravoprostacidFPFPReferences10-110-410-710-10EP1EP3DPTPEP2IPEP2IP(1)JOculPharmacolTher.2001,17(5):433(2)SurvOphthalmol.2001,45:S337(3)JPET.2003,305(2):72(4)JOculPharmacolTher.2003,19(6):501(5)NipponYakurigakuZasshi.2000,115(5):28010-110-410-710-10EP1EP3DPTPから改変EP4EP4UnoprostoneacidBimatoprostacidTafluprostacidFPFP10-110-410-710-10EP1EP3DPTPFPIPEP2IPEP2IPEP210-110-410-710-10EP1EP3DPTP10-110-410-710-10EP1EP3DPTPEP4EP4EP4図4PG関連薬のプロスタノイド受容体親和性プロスト系は基本的にFP受容体に対する特異性が高いが,他のEP受容体にも親和性がある.これは論文の組み合わせでの概略図であり,直接5剤を比較したデータではないので注意.(11)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012445 VPG関連薬の眼圧下降作用機序FP受容体欠損マウスを用いた点眼試験では,5種類のPG関連薬の眼圧下降効果がまったく消失したことにより,これらの眼圧下降作用にはFP受容体が必須であることが判明した2)(図5).ビマトプロストはそれ自身がプロスタマイド受容体に結合するということが示唆されていたが,プロスタマイド受容体は実はFP受容体蛋Wildtype&FPKOmouse夜間点眼3時間後*:p<0.01WTFPKOWTFPKOWTFPKOWTFPKOWTFPKO-100102030眼圧下降率(%)*****ラタノトラボビマトタフルウノプロストプロストプロストプロストプロストン図5FP受容体欠損マウスにおけるPG系薬剤の眼圧下降作用野生型マウスとFP受容体欠損マウスにPG関連薬を点眼3時間後の眼圧下降率をみるとFP受容体欠損マウスではまったく眼圧が下がらないことが判明した.……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………図6PG関連薬のFP受容体を介した眼圧下降作用毛様体のFP受容体からのシグナルでぶどう膜強膜路の房水流出抵抗が減少することが知られているが詳細は不明である.線維柱帯での作用も否定できない.白とFP受容体の産生過程でのスプライスバリアントであることが判明したため,結局はPG関連薬の結合には,すべて遺伝子としてFP遺伝子が必須であるということで決着している(図1).ウノプロストンはFP受容体以外にもMaxi-Kチャンネルを活性化させるという報告があるが,これが眼圧下降効果と関係があるかは不明である.房水動態からみたPG関連薬のおもな眼圧下降作用はぶどう膜強膜路の流出改善作用である.生化学的にはFP受容体を刺激すると,細胞内カルシウムが上昇しさまざまな細胞内シグナルが伝達されることがわかっているが,残念ながら眼圧下降につながる詳細な機序は不明である.唯一PG関連薬により細胞外マトリックスを分解するマトリックスメタロプロテアーゼの活性が上昇し,細胞外マトリックスを分解させる方向に傾き組織内の房水流出抵抗が低下するという説があるが,明確なinvivoでの証明はされていない.このような生化学的組織変化は少なくとも数日を要するため,PG関連薬による長期的に持続する眼圧下降効果を説明するには良い仮説であるが,投与後数時間でも眼圧下降することは説明できず,長年の課題である.ちなみにFP受容体は毛様体以外に線維柱帯にも発現しているため,房水流出抵抗を下げる短期的な機序が存在する可能性がある(図6).VIプロスト系とプロストン系の眼圧下降効果の特徴と相違プロスト系薬剤はプロストン系より眼圧下降効果が強い.理由としては,ウノプロストンは上記のようにプロスタノイド受容体結合能が弱いためと考えられる.薬剤の浸透率,受容体結合活性にもよるが,プロストン系はいずれもかなり濃度が低い.ただし,製剤濃度と眼圧下降効果や副作用の出現率は直接濃度とは関係ない.プロスト系の眼圧下降効果は,海外の原発開放隅角緑内障(POAG),高眼圧症(OH)で約25%であり,日本の正常眼圧緑内障(NTG)でも約20%の眼圧下降効果が得られ,最も眼圧下降効果が強い.ウノプロストンは2回点眼で濃度も高いが眼圧下降効果は劣る.国産のタフルプロスト以外は,すでに海外で長年使用されており,表1446あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(12) 表1メタアナリシスによるPG関連薬眼圧下降効果比較文献著者誌名年ラタノプロスト=トラボプロスト=ビマトプロスト27vanderValkOphthalmology2005ラタノプロスト=トラボプロスト<ビマトプロスト42HolmstromSCurrMedResOpin2005ラタノプロスト=トラボプロスト=ビマトプロスト12LiNRClinExpOphthalmol2006ラタノプロスト<トラボプロスト=ビマトプロスト9DenisPCurrMedResOpin2007ラタノプロスト=トラボプロスト<ビマトプロスト8AptelFJGlaucoma2008ラタノプロスト=トラボプロスト=ビマトプロスト24BeanGWSurvOphthalmol2008過去の眼圧下降論文からのメタアナリシスの結果ではややビマトプロストの眼圧下降傾向が強いがほぼ同等であると考えられる.:ベースライン:チモロールPOAG,OHn=20:ドルゾラミド眼圧(mmHg)25232119171513:ラタノプロストに示すような多くのメタアナリシスではラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストがほぼ同様な眼圧下降効果を示すが,若干ビマトプロストの眼圧下降効果が強いようである3,4).ただ日本のNTGでの眼圧下降効果に差があるかは不明である.タフルプロストは海外データが少ないが,少なくともキサラタンRに非劣勢である.国内でのプロスト系薬剤の眼圧下降効果の比較も,15182124030609これまでの海外のデータを合わせて考えても,プロスト系4種の平均眼圧下降効果はほぼ同等であることが予想される.プロスト系薬剤は1日1回点眼にもかかわらず眼圧下降効果が持続し,昼夜を問わず眼圧下降効果に優れる薬剤である.たとえば,図7のb遮断薬のように日中の:ベースライン:ラタノプロスト:トラボプロスト:ビマトプロスト24時間図7PG関連薬の眼圧日内変動抑制効果ドルゾラミド,チモロール,ラタノプロスト点眼時の眼圧日内変動をベースライン眼圧変動とともに示す.ラタノプロスト・ドルゾラミドは1日を通して眼圧下降効果があるが,チモロールは日中に強く下降,夜間の下降は弱いことがわかる.(文献5より)45POAG&OH>21mmHg(n=44)4035平均眼圧下降率(%)3025202220眼圧(mmHg)181514105126912時間151821030ラタノプロストトラボプロストビマトプロスト眼圧下降と日内変動(座位)平均眼圧下降率の比較図8プロスト系薬剤の眼圧日内変動抑制効果と眼圧下降率の個人差プロスト系薬剤3剤とも十分日内変動抑制効果があることがわかる.また,平均的には25%前後の眼圧下降効果を各薬剤で示すが個体差がある.(文献6より)16(13)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012447 眼圧下降効果が強く夜間の眼圧下降効果に劣る薬剤と比べ,昼夜間とも均等に眼圧を下げることが示されている5).また,図8左のような日内変動を示すPOAGの患者の眼圧は,PG関連薬により著明に抑制され日内変動が減少することが示されており6),外来受診時の日中しか眼圧測定するすべがないわれわれには安心して点眼を勧められる.また,4種の薬剤の眼圧下降効果は,お互いきわめて似た骨格であるにもかかわらず,同一眼でも眼圧下降効果が変わることが知られている.すべての薬剤と同様,薬理作用には個人差があることを知っておくことが重要である.VIIPG関連薬の副作用PG関連薬の副作用は,全身的副作用はないが,局所では結膜充血,メラニン色素の増加に関係する,すなわち虹彩色素沈着,睫毛の伸張・増加,眼瞼色素沈着が顕著である.また最近,上眼瞼溝深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)も報告が目立ってきている.PG関連薬のなかでウノプロストンの副作用は,プロスト系4種と比べて少ないことは間違いない.プロスト系4種のなかでは,ラタノプロストよりトラボプロスト,さらにビマトプロストのほうがより副作用が強いと海外で報100告されている.これらの副作用は,局所的に把握できる点で,b遮断薬などの全身的副作用を有する薬剤より処方しやすい.VIIIPG関連薬による充血充血は,特に点眼開始時に強く,継続投与で徐々に減少することは間違いないので,早期にPG関連薬に対しての治療から脱落させないためにも初回処方時に,必ず充血することと,点眼しているうちに目立たなくなる旨の患者指導が重要である.メタアナリシスの報告では,ラタノプロストよりトラボプロスト,ビマトプロストのほうが充血が強いことが知られている7)(図9).IXPG関連薬による色素関連副作用個人差が強いが睫毛の伸長・増加は特異的副作用である.睫毛についての副作用は逆に受け入れが良い場合もある.この副作用が強いビマトプロストは,睫毛増強剤として美容外科で使用されている.眼瞼色素沈着の副作用は,患者指導が重要であり,夜点眼といっても風呂や化粧落としの前に点眼させ,洗顔することでかなり防ぐことができる.夜点眼という指導のもと,就寝直前にさしてそのまま寝る場合や,点眼後よく拭くことで逆にすり込んでいる場合もしばしば遭遇するので,高度な色素100充血の発生頻度(%):ビマトプロスト:ラタノプロスト75755050252500123456789210111261.Netland2001,2.Parrish2003,3.Parmaksiz2006,4.Chen2006,5.Garcia-Feijoo2006,6.Konstas2007,7.Dubiner2001,8.Gandorfi2001,9.Noecker2003,10.Walters2004,11.Konstas2005,12.Dirks2006図9PG関連薬による充血の発生頻度:メタアナリシスラタノプロストより,トラボプロストさらにビマトプロストのほうが充血の発生頻度が高い.(文献7より):トラボプロスト:トラボプロスト:トラボプロスト:ラタノプロスト:ラタノプロスト:ラタノプロスト448あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(14) 切り替え前1カ月後3カ月後6カ月後図10ラタノプロストからビマトプロストに切り替え後発生したDUESの症例キサラタンRを1年以上点眼している女性で,ルミガンRに切り替えたところDUESが発生した.しかし,この患者はDUESを自覚しているが,中止は希望していない.沈着がみられる場合には十分な点眼指導のもとコミュニケーションを取る必要がある.日本人での虹彩色素沈着は目立たないため問題とされない場合が多い.XPG関連薬と炎症ラタノプロスト導入のころ,黄斑浮腫の発生や増強という副作用が報告されていたが,白内障術中破.などの血液房水柵が破綻した例であり,現在ではあまり危惧されていないが,可能性はあるため特に侵襲の強い手術後の使用では留意したい.高眼圧眼で長年使用されているが,明らかなPG関連薬による炎症増強の報告はまったくなく,血液房水柵の破綻は認められない.ぶどう膜炎などがある場合でも積極的に使用されているのが現状である.XIPG関連薬とDUESDUESは2004年頃よりビマトプロスト点眼患者での症例報告が相次ぎ,いまやPG関連薬の共通副作用として知られるようになった.元来PGF2aは脂肪産生抑制効果があると報告があり,FP受容体刺激が強いPG関連薬としても同様な効果を有するために起こる副作用と考えられ,眼窩脂肪組織量が減少することが報告されている8,9).筆者らの報告ではラタノプロスト投与患者に対して,プロスペクティブに無作為にラタノプロスト継続群とビマトプロスト切り替え群に分けて半年経過を追い,DUES発症を写真で評価したところ,6割の患者にDUESがみられたが,実際に軽症例も多く特に患者が気にしなければあえて中止やラタノプロストに変更する必要はないと考える10).顔の印象の好みが人それぞれであるのと同様に,DUESを気に入る患者もいれば否定(15)的な患者も存在する.おそらくラタノプロストでも存在する副作用であるが,長期間かけて起こる現象であり,少なくともきちんとした報告はない.トラボプロストでもタフルプロストでも起こることは知られているが,きちんとした前向き試験での頻度は不明である.おわりに以上のようにPG関連薬はその眼圧下降効果から緑内障薬物治療のうえで欠くべからざる薬剤となっているが,局所副作用も多いので,外来では十分に点眼指導あるいは副作用についての指導が重要である.常にリスク,ベネフィットのバランスを考えながら処方することが重要である.■用語解説■スプライスバリアント:遺伝子が蛋白質に翻訳される過程でRNA前駆体中のイントロンを除去し,前後のエキソンを再結合する反応がスプライシングである.最終的に,残るエキソンには多様性があり,さまざまな成熟mRNAが生産される.その多様なmRNAをスプライシングバリアントとよぶ.それぞれ活性の異なる蛋白質を生産することもある.文献1)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,20082)OtaT,AiharaM,NarumiyaSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonIOPinprostanoidFP-receptordeficientmice.InvestOphthalmolVisSci46:4159-4163,20053)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012449 prostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20084)BeanGW,CamrasCB:Commerciallyavailableprostaglandinanalogsforthereductionofintraocularpressure:similaritiesanddifferences.SurvOphthalmol53(Suppl1):S69-S84,20085)OrzalesiN,RossettiL,InvernizziTetal:Effectoftimolol,latanoprost,anddorzolamideoncircadianIOPinglaucomaorocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci41:2566-2573,20006)OrzalesiN,RossettiL,BottoliAetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncircadianintraocularpressureinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology113:239-246,20067)HonrubiaF,Garcia-SanchezJ,PoloVetal:Conjunctivalhyperaemiawiththeuseoflatanoprostversusotherprostaglandinanaloguesinpatientswithocularhypertensionorglaucoma:ameta-analysisofrandomisedclinicaltrials.BrJOphthalmol93:316-321,20098)ParkJ,ChoHK,MoonJI:Changestouppereyelidorbitalfatfromuseoftopicalbimatoprost,travoprost,andlatanoprost.JpnJOphthalmol55:22-27,20119)JayaprakasamA,Ghazi-NouriS:Periorbitalfatatrophy─anunfamiliarsideeffectofprostaglandinanalogues.Orbit29:357-359,201010)AiharaM,ShiratoS,SakataR:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.JpnJOphthalmol55:600-604,2012450あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(16)

緑内障薬物の選び方,組み合わせ方の基本

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):437.442,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):437.442,2012緑内障薬物の選び方,組み合わせ方の基本HowtoChooseAppropriateGlaucomaMedication山本哲也*はじめに緑内障の薬物数は近年急速に増加した.本稿執筆時点(2012年4月)で使用可能な緑内障点眼薬には,プロスタグランジン関連薬,交感神経b(ab)遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,副交感神経刺激薬,交感神経刺激薬,交感神経a1遮断薬の計6つのカテゴリーに属する薬物がある.近い将来,交感神経a2刺激薬や現在臨床試験中のその他の新規薬物が使用可能となると思われる.また,配合点眼薬という新しいカテゴリーの薬剤〔プロスタグランジン関連薬と交感神経b遮断薬(ザラカムR,デュオトラバR),交感神経b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(コソプトR)〕も利用できる(図1).このため,すべての薬物に精通することは緑内障専門家ですらむずかしくなりつつある.ここでは,緑内障治療薬選択の基本戦略に関して述べてみたい(表1).主として眼圧下降薬で治療がほぼ完結する原発開放隅角緑内障などの開放隅角緑内障を念頭に置いて記述する.わかりやすさを優先し,文中の薬物名は一般名でなく,商品名を用いる.I投薬以前に考える.すること1.緑内障病型を考えること緑内障の病型や眼圧上昇機序によって,基本的な治療法が異なる.原発開放隅角緑内障(広義)や落屑緑内障は眼圧下降の基本原則はほぼ同一である.薬物による眼圧下降を第プロスタグランジン配合剤b遮断薬関連薬副交感神経刺激薬配合剤炭酸脱水酵素a1遮断薬阻害薬交感神経刺激薬図12012年4月現在で使用可能な緑内障薬物カテゴリー表1緑内障治療薬選択の際考慮すること1.薬物治療とレーザー治療/手術療法の予後比較眼圧下降作用副作用・合併症薬物アドヒアランス視機能予後(副作用・合併症も含めて考える)2.患者側の要因日常生活(職業,家庭環境,介護者の有無など)緑内障と緑内障治療に対する理解度年齢(余命)全身疾患の有無3.緑内障の状態視機能の現状と進行の程度視機能萎縮の程度眼圧緑内障治療歴4.緑内障以外の眼疾患白内障,偽(無)水晶体眼,網膜疾患,角膜疾患(上皮,内皮),ぶどう膜炎など*TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕山本哲也:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(3)437 一選択とし,レーザー治療や手術は薬物で不十分なときに適応とする.原発閉塞隅角症や原発閉塞隅角緑内障では相対的瞳孔ブロックの解消が優先され,薬物治療は瞳孔ブロック解消までのつなぎといわゆる残余緑内障の治療に用いられる.ぶどう膜炎による続発緑内障では,活動性炎症による線維柱帯機能の低下,炎症による線維柱帯の器質的変化,周辺虹彩前癒着による房水流出の低下,瞳孔ブロックによる閉塞隅角など,いくつかの眼圧上昇要因(機序)が絡んでいる.当該患者における眼圧上昇機序を明確にすることが必要である.活動性のぶどう膜炎による場合には,眼圧下降治療と並行して消炎治療が重要な柱となる.血管新生緑内障では,基礎疾患の治療,レーザー凝固,抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬による隅角新生血管の治療を,眼圧下降治療とともに行う.早発型発達緑内障(先天緑内障)では,トラベクロトミーやゴニオトミーによる手術治療を優先し,薬物はそれを補完するものと考える.2.緑内障(視神経変化)の重症度を考えること視神経所見,視野所見などから緑内障性視神経症の重症度を把握することが,どの程度眼圧を下げるべきかを考えるうえできわめて重要である.重症度判定法は一般的な緑内障の診断学として詳細は別に譲る1).薬物治療をどの程度強力に行うかは視神経乳頭および網膜神経線維層の異常程度,視野異常の程度から考えることになる.高度の視野障害(図2)や視神経障害(図3)を有する症例では強力な眼圧下降を要する.3.無治療時眼圧を把握すること治療開始前(無治療時)眼圧の把握はとても重要である.病状によっては無治療時眼圧の把握が困難なことがあるが,可能な限りきちんとしておく必要がある.紹介状の眼圧値や患者から聴き取った眼圧は薬物使用の有無の情報とともにわかりやすく記録し常に参照できるようにしておくとよい.正常眼圧緑内障や眼圧の低めの原発開放隅角緑内障では,できるかぎり,無治療時に複数の438あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012右図2高度の視野障害例(Humphrey視野計中心10-2プログラム)図3高度の視神経障害の一例時刻の眼圧を測定しておくのがよい.同じ意味ですべての症例で可能な範囲で複数回の無治療時眼圧を測定しておくことが勧められる.状況によっては一時的に投薬を中止して無治療時眼圧測定を行うことも意味がある.4.眼圧をどこまで下げたらよいか考えること病状が把握でき,無治療時眼圧を知ったところで,さてどこまで眼圧を下げようかと考える.現在では「目標眼圧」という概念が重要であるとされている2).目標眼圧は,緑内障がある眼圧を保つと安定するということと,その眼圧値は病期などにより異なるという前提か(4) ら,経験的に決められている.無治療眼圧値,緑内障進行程度,患者の年齢・余命,家族歴,その他の危険因子などを考慮することになる.無治療眼圧値は低いほど目標眼圧を低くする.進行例ほど目標眼圧を低くする.患者が若いほど目標眼圧を低くする.循環不全をきたす疾患や糖尿病を有する症例では目標眼圧を低くしたほうがよい.一般的には,緑内障病期が進むほど低い値にするとした,初期例19mmHg以下,中期例16mmHg以下,後期例14mmHg以下3)の眼圧値や,無治療時眼圧を基準として20%あるいは30%の眼圧下降4,5)とする眼圧下降率が目標眼圧として推奨されている.しかしながら,各症例あるいは眼によって安定する眼圧値は異なり,また個別に決めることはできないので,一定期間の経過観察を経たのちには,その間の眼圧と視野所見などから最初に設定された目標眼圧の妥当性の検証が必要である.II実際に処方する順序目標眼圧を大まかに決めたら,薬物を1薬物ずつ追加して,目標眼圧の達成程度を見きわめる.これは日本緑内障学会制定の緑内障診療ガイドライン2)にもはっきりと記載されている(図4).生理的な眼圧変動があるため1回の眼圧測定で眼圧下降効果の良否を決めることは可多剤併用(配合点眼薬投与を含む)(-)(+)(-)(+)目標眼圧達成単剤(単薬)投与薬剤変更レーザー治療・手術治療薬物継続薬剤変更目標眼圧達成図4緑内障診療ガイドライン第3版(日本緑内障学会,2012改訂)による薬物治療の進め方1薬物から始めて,1薬物ずつ追加しながら,目標眼圧の達成を確認していくことが原則である.能な限り避ける.緑内障薬物の種類がいくら増えても薬物選択法の基本原則は変わらない.眼圧下降効果,副作用,使いやすさを総合的に判断して決めていく.個々の症例により反応は当然異なる.したがって試行錯誤を余儀なくされるのである.しかしながら,各薬物の基本的な眼圧下降効果,副作用,使用法,使い心地は十分に知られているので,禁忌のない限り,ある幅のなかで一定の選択順が存在することもまた事実である.私見に過ぎるかもしれないが,筆者の選択の基準を箇条書きで示したい.1.禁忌疾患の確認をしておく.過去の投薬歴,あるいは患者の申告による不都合な薬物の洗い出し.b遮断薬関連で,喘息,心疾患の確認,血圧脈拍測定.プロスタグランジン関連薬関係で重症ぶどう膜炎の既往.複数回の内眼手術歴のある症例での角膜内皮細胞検査,など.2.最初の処方はプロスタグランジン製剤.具体的には,キサラタンR,タプロスR,トラバタンズRのいずれか.ルミガンRは奥の手として最初は投与せず.例外:①プロスタグランジンで副作用の強く出た既往のある症例では他のプロスタグランジンを含めて最初は避ける.②眼圧の高い症例は複数の薬物で開始することもある.具体的には,視神経の正常あるいは正常に近い症例で約35mmHg以上,視神経の変化の明らかな症例で約30mmHg以上くらいか.高度の視神経障害だけの理由で最初から複数薬物を使うことは避ける.③中等度以上の眼内炎症のある症例(術後症例も含む).3.副作用を恐れてプロスタグランジン製剤を最初から使わないということは,明らかな副作用出現例を除いてしない.プロスタグランジン製剤の局所副作用は,ほとんどが可逆性あるいは気にならない程度のものであり,局所副作用の出現をみたのちでも対応可能である.したがって最初は眼圧下降作用の強弱を重視する.4.プロスタグランジン製剤を用いて,眼圧下降が得られたが,充血や角膜びらんが生じたときは,別のプロスタグランジン製剤を使用してみる.5.プロスタグランジン製剤を用いて眼圧下降が不十分のときは,禁忌疾患の確認ののち,b遮断薬を追加する.通常は,単剤2薬を併用し,併用効果を確かめる.(5)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012439 図5緑内障点眼薬の副作用としての偽眼類天疱瘡配合剤を用いてもよいが相加的な眼圧下降の有無の確認をする.薬物の追加によっても眼圧下降の得られない場合には,追加した薬物を止め,ほかの薬物を探る.最後の一文はどの薬物についても当てはまる.6.配合剤を用いる際には,2成分のそれぞれによる眼圧下降作用の有無を確認する.それが不明な場合は単味の薬物を用いる.7.b遮断薬の副作用は全身的なもののほうが重大なので,禁忌疾患の確認は初回のみでなく,折に触れて行うのがよい.さらにb遮断薬の長期投与により,偽眼類天疱瘡(図5)が生じることがまれにある.軽度から中等度の結膜充血,下方結膜.の短縮/前方移動,瞼球癒着などにときどき注意を払う.8.プロスタグランジン製剤+b遮断薬で眼圧下降が不十分なときは,プロスタグランジン製剤をルミガンRに変更するか点眼用炭酸脱水酵素阻害薬の追加投与を行う.どちらがよいかは症例による.9.ルミガンRの使用前には結膜充血(図6)と上眼瞼溝深化(図7)の副作用について知らせておくこと.ただ,この薬物による眼圧下降を優先しなければいけない状況にあることも忘れずに.10.点眼用炭酸脱水酵素阻害薬まで用いている状況でさらに眼圧を下降させたいとき,ピバレフリンR,サンピロR,炭酸脱水酵素阻害薬内服(ダイアモックスR)などの選択肢がある.どれも一部の症例で十分な効果の440あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012図6緑内障点眼薬の副作用:結膜充血図7緑内障点眼薬の副作用:上眼瞼溝深化得られることがあるので,試しに用いてみる.それで患者も医師も満足できればあえて手術などの他の手段をとる必要はない.11.ただし,この時期の症例はいつでも手術に移行できるように,診察ごとに眼の状況を説明しておく.加えて,以下のことも.1.具合の良い症例では必要以上に別の薬を試さない.2.同じカテゴリーの薬物を複数使わない.炭酸脱水酵素阻害薬内服時には点眼用炭酸脱水酵素阻害薬は中止する.3.複数の濃度の製剤がある場合,従来は低濃度製剤からの使用が原則であったが,現時点ではそれに従わず高濃度製剤を最初から使うことが多い.ただし,ピバレフリンRは0.04%,サンピロRは1%を標準とする.(6) 図8視神経乳頭出血(8時)を生じた緑内障性視神経症4.乳頭出血を有する症例(図8)ではそうでない症例に比べて強力な眼圧下降を図る.乳頭出血は最近あるいは近々の視野進行を強く示唆する所見なので.5.後発薬には塩化ベンザルコニウムフリーなどの利点を有する製剤もあるが,積極的には勧めていない.理由は科学的データが公表されていないためである.患者の希望により処方するときには,必ず,薬剤名を知るようにし,また,その製剤による眼圧下降と副作用について症例ごとに確認するようにしている.6.レスキュラRは従来から大過なく使っている患者以外に新規に処方する機会は少ない.しかしながら,内眼手術直後に眼圧の高い症例で有用なことがある.III副作用への対応緑内障治療薬に副作用(表2,3)はつきものであり,うまく付き合いながら,治療を進めなくてはならない.副作用といっても重症度はいろいろであり,また,頻度もいろいろ.1回の点眼で出ることもあれば,何年か使用してから出現するものもある.筆者の基本的な考え方を箇条書きで示す.1.上述のとおり,問診他で防げる副作用は多い.喘息,肺気腫,心臓病,アレルギーなどの問診を忘れないこと.2.多くの副作用は事前に可能性を知らせておくだけで患者の許容度が上がるのできちんと説明しておく.結(7)表2緑内障点眼薬のおもな局所副作用プロスタグランジン関連薬角膜びらん,虹彩色素異常,睫毛伸長,眼瞼色素沈着,黄斑浮腫,結膜充血,上眼瞼溝深化b遮断薬角膜びらん,結膜充血炭酸脱水酵素阻害薬角膜内皮障害交感神経刺激薬結膜充血,濾胞形成,眉毛部痛,眼痛,黄斑症,散瞳副交感神経刺激薬縮瞳,調節性近視,眼瞼炎,血管透過性亢進,浅前房,網膜.離表3緑内障治療薬のおもな全身副作用b遮断薬徐脈,血圧下降,気管支痙攣,抑うつ,不安神経症交感神経刺激薬血圧上昇,頻脈副交感神経作動薬下痢,嘔吐,気管支痙攣,子宮筋収縮内服用炭酸脱水酵素阻害薬しびれ感,胃腸障害,頻尿,尿路結石,低カリウム血症,顆粒球減少,血小板減少,薬疹,性欲減退,抑うつ,体重減少膜充血,虹彩色素異常,睫毛伸長,眼瞼色素沈着,上眼瞼溝深化などは軽度のものはしばしば経験されるが,その多くは患者に受け入れてもらえる.3.逆に事前に知らせていないと,たとえば軽度の結膜充血程度のほとんど問題のない副作用であっても,患者に不信感を抱かれたり,転院されたりする原因となる.4.副作用があり,薬物によると推定されるときはその場で患者に知らせる.因果関係のはっきりしないものはその旨を知らせる.そのうえで,対応について伝える.あいまいな言い方をするのはよろしくない.副作用が生じた状況でも薬剤の継続使用が望ましい場合には,その方針を伝えるとともに,患者の意見を求め,同意の得られないときは薬物を変更する.5.結膜充血や角膜びらんなど,薬物の変更で対応可能な副作用では薬物の変更をまず試みる.塩化ベンザルコニウム含有薬物で角膜上皮障害が生じた場合には,非含有の薬物に変更する.6.結膜充血や角膜びらんなどに対して角膜保護薬なあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012441 どを処方することはできるだけ避ける.それでなくとも点眼薬の数は多く,アドヒアランスの向上に資さないと考えるため.7.b遮断薬使用例では,ときどき,下眼瞼を下方に引き,結膜.の位置を確認しておく.偽眼類天疱瘡の確認のためである.おわりに緑内障に対する薬物治療の「基本のキ」について私見を交えて述べた.薬物の数がいくら増えても基本は変わらない.より適した薬物を患者に合わせて選択するだけのことである.文献1)北澤克明,白土城照,新家眞ほか:緑内障.医学書院,20042)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:5-46,20123)岩田和雄:低眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,19924)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19985)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,2002442あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(8)

序説:わかりやすい緑内障薬物のお話

2012年4月30日 月曜日

●序説あたらしい眼科29(4):435.436,2012●序説あたらしい眼科29(4):435.436,2012わかりやすい緑内障薬物のお話GuidelinesforUnderstandingCurrentlyAvailableGlaucomaMedications岩瀬愛子*山本哲也**緑内障の薬物治療薬は,ここ数年,その種類がとみに多くなった.緑内障専門医の立場で言うと各患者に合わせたきめの細かい治療が可能となり,大変にありがたいことと感じている.従来であれば手術に至るような緑内障患者が薬物で管理可能となるという事例も出てきている.一方で,実地医家の先生方などから「薬が多すぎて,どの症例にどのように使えばいいのかよく理解できない」といった戸惑いの声があると仄聞する.各薬物については探すとどこかに載っているがまとまって読めるものがなかなかないという話も聞く.こうしたことが本誌編集委員会で話題となり,それならばと,本特集が企画されることとなった.本特集では,多くの緑内障薬物の基本的事項を緑内障専門医に平易に解説いただくことを目標とした.正しく処方するためには,薬物ごとに眼圧下降作用機序や眼圧下降効果の強さなどの基本的な知識から始まり,副作用,使用上の注意点・禁忌など詳細な知識をもって配慮しなければならない項目は多数ある.単独の薬剤だけではなく,多剤併用の場合の注意点は組み合わせが増えればそれだけ多くなる.さらに,近年,使用可能になった薬剤のなかには,複数の薬物の合剤(配合薬)もあれば,今までの薬物を先発医薬品とした後発(ジェネリック)医薬品もある.これらについて経験豊富な専門家の先生方に執筆をお願いした.まず,単剤(単薬)として,プロスタグランジン関連薬について相原一先生(東京大学),b遮断薬については望月英毅先生と木内良明先生(広島大学),炭酸脱水酵素阻害薬については澤口昭一先生(琉球大学),ピロカルピン,デタントール,ジピベフリン,ブリモニジンについては川瀬和秀先生(岐阜大学)にそれぞれお願いした.配合点眼薬は日本では2010年以降使用されているが,緑内障臨床で一定の評価を得ている.配合点眼薬は重要なので二つに分け,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の配合点眼薬について安樂礼子先生と富田剛司先生(東邦大学大橋医療センター)に,炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の配合点眼薬については中谷雄介先生と大久保真司先生(金沢大学)にお願いした.また,後発医薬品に関して眼科医の評価は分かれてはいるが,現代の薬物治療を語るうえで避けて通れない問題であるので,岩瀬が担当し,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の後発医薬品に関して客観的に記述することとした.山本は総論として緑内障薬物の選び方と組み合わせ方の基本について解説した.さて,緑内障薬物の基本は本誌特集でほぼカバーされていると思うが,より広い立場で緑内障治療について考えてみたい.今年,日本緑内障学会の出している緑内障診療ガイドラインが再度改訂された(第3版)(日眼会誌2012年1月号参照).2006年*AikoIwase:たじみ岩瀬眼科**TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(1)435 の改訂以来6年ぶりである.この緑内障診療ガイドラインには連綿として流れる思想がある.それは,緑内障の治療の目的は患者の視機能の維持にとどまらず,個々の患者のqualityoflife(QOL)の維持を目指すというものである.しかし,QOLと一言で言われるけれども,患者の眼の状態,全身疾患,臨床背景,日常生活,仕事,趣味,希望を含めたQOLを考えるとき,社会的・経済的負担や疾患の予後への不安などいくつもの要素を含めて個々の患者に合わせて考えなければならない.それは表面的には面倒のように思えるかもしれない.けれども,そうしたことに配慮することにこそ主治医としての責任が存在するのである.また,われわれ緑内障専門医はそこに使命を達成することの喜びを見出しているのである.長期に生涯にわたって薬物治療をする緑内障という疾患の特性により,薬物選択のさじ加減で患者のQOLが大きく変わる可能性がある.現在多数の薬物が使用可能な状況はその意味から歓迎されるべきことであり,そのことゆえに本特集が意味をもっているのだと自負している.執筆者のご努力により,緑内障薬物の基本的事項は本誌特集でほぼ網羅されている.読者諸氏におかれては編者・執筆者の意図をお汲み取りいただき,緑内障治療薬の基礎知識を正しく習得されたい.また,そこにとどまらず,緑内障治療戦略についてより広く知識と経験を重ねていただくことを編者として強く希望している.なぜなら,われわれは緑内障を治療しているのではなくヒトを治療しているのだから.436あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(2)

汎用性点眼抗菌薬の小児における臨床評価基準

2012年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科29(3):425.429,2012c汎用性点眼抗菌薬の小児における臨床評価基準宮永嘉隆*1西田輝夫*2大野重昭*3*1西葛西・井上眼科病院*2山口大学*3北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学講座ClinicalEvaluationCriteriaforGeneralPurposeAntibacterialEyedropsforChildrenYoshitakaMiyanaga1),TeruoNishida2)andShigeakiOhno3)1)NishiKasaiInouyeEyeHospital,2)YamaguchiUniversity,3)DepartmentofOcularInflammationandImmunology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:トスフロキサシントシル酸塩水和物0.3%点眼液の製造販売後調査で集積した外眼部細菌感染症症例を用い,小児臨床評価基準について検討した.方法:「汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準」(あたらしい眼科15:1735-1737,1998)をもとに新生児,乳児,幼児,学童の所見・症状の合計スコアを成人と比較した.小児臨床評価基準は,所見・症状の観察項目,効果判定の係数について検討し,細菌学的効果を指標として検証した.結果:新生児,乳児,幼児の点眼開始日スコアは成人の48.8.64.8%であった.小児臨床評価基準は,他覚所見を観察項目とし,新生児,乳児では判定時スコアが点眼開始日スコアの係数:1/2以下,幼児では係数:1/3以下になった場合を改善とした.結論:小児臨床評価基準は,製造販売後における小児の臨床評価に適用でき,今後の点眼抗菌薬の調査に示唆を与えるものと考えられた.Purpose:Toestablishpediatricclinicalevaluationcriteriaforbacterialexternaleyeinfectionsinpost-marketingsurveillanceoftosufloxacintosilatehydrate0.3%eyedrops.Method:Totalscoresforobjectivefindingsandsymptomsbasedon“Evaluationcriteriainpost-marketingsurveillanceofgeneralantibiotics”(JournaloftheEye15:1735-1737,1998)amongneonate,infant,youngchildandschool-agechildwerecomparedtothoseofadults.Assessmentcriteriaforchildrenwereinvestigatedinregardtoobservationitemsaswellasthecoefficientsofdeterminationofeffects,thecoefficientsbeingdefinedusingbacteriologicaleffectsasindicators.Results:Totalscoresforneonate,infantandyoungchildatstartofinstillationrangedfrom48.8%to64.8%ofthoseforadults.Theinvestigationitemsincludedonlyobjectiveparametersfortheagecategoriesofneonate,infantandyoungchild.Wejudgedimprovementtobeadecreaseintotalscore,fromstartofinstillationto≦1/2forneonateandinfant,and≦1/3foryoungchild.Conclusion:Thepediatricclinicalevaluationcriteriadevelopedherecanbeappliedtochildreninpost-marketingsurveillance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):425.429,2012〕Keywords:トスフロキサシン(TFLX),点眼液,評価基準,小児,製造販売後調査.tosufloxacintosilate,eyedrops,evaluationcriteria,children,post-marketingsurveillance.はじめに医療用医薬品は,製造販売後において治験時と比較して背景の異なるさまざまな患者に使用される.したがって,当該医薬品の使用実態下における有効性および安全性を確認する製造販売後調査は重要な位置付けにある.一方,製造販売後調査は多地域の施設において専門,非専門を問わず実施されるため,客観的な評価を行う臨床評価基準が必要である.点眼抗菌薬の製造販売後調査における臨床評価基準は,他覚所見および自覚症状の推移をもとに金子らにより作成された「汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準」1)(以下,従来の臨床評価基準,表1)が報告されている.トスフロキサシントシル酸塩水和物0.3%点眼液(以下,TFLX点眼液)は,小児症例に対する治験を実施し2,3),小児への適用を取得したわが国初の点眼抗菌薬である.今回,筆者らはTFLX点眼液の承認後に実施された製造販売後調査における小児の所見・症状の推移などをもとに,新たに小児〔別刷請求先〕宮永嘉隆:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YoshitakaMiyanaga,M.D.,NishiKasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(137)425 表1汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における臨床評価基準他覚所見:結膜充血,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流,その他観察項目の他覚所見自覚症状:眼脂,流涙,異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感,その他の自覚症状症状のスコア化各観察項目を3点,2点,1点,0.5点,0点の5段階で評価する観察時期点眼開始時および点眼後14(±2)日症状スコアの推移に基づく判定改善:14(±2)日以内に合計スコアが1/4以下になった場合改善せず:14(±2)日で合計スコアが1/4以下にならない場合○日で改善せず:14(±2)日の症状観察結果はないが,それまでの観察実施日の合計スコアが1/4以下にならない場合症状の軽重による係数の補正点眼開始時の合計スコアが5点以上10点未満では,14(±2)日以内の合計スコアが1/3.5以下,点眼開始時の合計スコアが10点以上では,14(±2)日以内の合計スコアが1/3以下で改善とする疾患による留意事項涙膿炎では,経過中に示した「流涙」の最低スコアを合計スコアから減点する(金子ら1),「汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準」を一部改変)表2原因菌のGroup分類の臨床評価の基準(以下,小児臨床評価基準)を作成したので報告する.I小児と成人の各種背景の比較1.対象および方法a.対象症例2006年10月から2009年9月にわたり実施したTFLX点眼液の製造販売後調査「低頻度臨床分離株の集積とTFLX点眼液の有効性と安全性の確認」および「新生児の細菌性外眼部感染症に対するTFLX点眼液の有効性と安全性の検討」4)において収集した症例のうち,所定の観察時期に所見・症状のスコア化を実施した742例(小児318例,成人424例)を対象症例とした.なお,小児は新生児(生後4週未満)49例,乳児(生後4週.1歳未満)82例,幼児(1.6歳未満)166例,学童(6.15歳未満)21例に区分した.b.細菌検査および細菌学的効果点眼開始日および判定日(小児では点眼7日後±2日以内,成人では点眼14日後±2日以内)に病巣部,眼脂などの分泌物の細菌検査を実施し,原因菌を特定した.なお,原因菌は検出された菌のうち,表2に示すグループ分類において最上位のグループに属する菌を採用した.細菌学的効果は,点眼開始時の検出菌が判定日に検出されなかった場合を消失とした.c.所見・症状スコア観察項目は,従来の評価基準1)をもとに,他覚所見としてGroupIStaphylococcusaureusStreptococcuspyogenes(GroupA)StreptococcuspneumoniaeEnterococcussp.Citrobactersp.Enterobactersp.Escherichiasp.Proteussp.Morganellasp.SerratiamarcescensOtherEnterobacteriaceaeNeisseriagonorrhoeaeOtherNeisseriaOtherMoraxellaAcinetobactersp.Achromobactersp.Haemophilussp.PseudomonasaeruginosaOtherPseudomonassp.GroupIIStreptococcusagalactiae(GroupB)StreptococcusGroupCOtherStreptococcus(GroupD,G;nongrouped;viridans)Branhamella(Moraxella)catarrhalisGroupIIIStaphylococcusepidermidisOthercoagulasenegativeStaphylococcusMicrococcussp.Bacillussp.Corynebacteriumsp.(diphtheroids)Propionibacteriumacnes結膜充血,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流,その他の他覚所見,自覚症状として眼脂,流涙,異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感,その他の自覚症状とし見・症状を程度に応じ,.(0点:なし),±(0.5点:ごくた.観察時期は点眼開始日および判定日(小児では点眼7日軽度またはごく少量),+(1点:軽度または少量),2+(2後±2日以内,成人では点眼14日後±2日以内)とし,各所点:中等度または中等量),3+(3点:強度または多量)の5426あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(138) 表3年齢別の細菌学的効果年齢例数消失例数消失率(%)新生児201575.0乳児403587.5幼児907987.8学童111090.9成人30725482.7判定日に細菌検査を実施した症例を対象とした.段階でスコア化しその平均値を求めた.d.統計解析Fisherの直接確率法を用い,有意水準は両側5%とした.2.結果a.細菌学的効果年齢別の細菌学的効果を表3に示す.新生児の菌消失率は他の年齢と比べやや低かったが,すべての年齢で有意差を認めなかった(p=0.552).b.所見・症状スコア年齢別の所見・症状スコアを表4に示す.点眼開始日の合計スコアは新生児,乳児では成人の約50%,幼児では成人の約65%であり,学童では成人と同程度であった.項目別では,自覚症状の異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感は新生児で認められず,乳児では掻痒感をわずかに認めたのみであった.また,幼児のこれらの項目のスコアは成人と比べ低かった.一方,判定日の合計スコアは,新生児,乳児,学童では成人と同程度であり,幼児では成人の50%以下であった.II小児臨床評価基準の作成と検証1.小児臨床評価基準案の作成前述のとおり,点眼開始日の合計スコアは新生児,乳児,幼児で成人との差が大きかったことから,従来の臨床評価基準の観察項目,判定方法を改変し,新生児,乳児,幼児を対象とした小児臨床評価基準の作成を試みた.観察項目は,他覚所見のみとした.すなわち,異物感,眼痛,羞明,霧視,掻痒感を観察項目から削除し,さらに眼脂,流涙を他覚所見の観察項目とした.判定方法は,従来の臨床評価基準と同様に判定日の合計スコアが点眼開始日の合計スコアの『係数』以下になった場合を改善とする案1,点眼開始日の合計スコアを『係数』倍した後,従来の臨床評価基準で評価する案2について検討した.係数は,点眼開始日の合計スコアの差から,案1では係数を1/2,1/2.5,1/3,案2では係数を1.5,2と幅を持たせた.すなわち,案1は,点眼開始日の合計スコア3.56(新生児)が,係数1/2,1/2.5,1/3である1.78,1.42,1.19以下になった場合を改善とし,案2は点眼開始日の合計スコア3.56の1.5倍,2倍である5.34,7.12とし,従来の臨床評価基準で評価するものである.妥当性は,それぞれの改善率が細菌学的効果と同程度であることを指標とした.なお,案1,案2ともに従来の臨床評価基準よりも緩和されるため,疾患による留意を行わなかった.さらに,案1では症状の軽重による係数の補正を行わな表4所見・症状スコア開始時判定時観察項目新生児乳児幼児学童成人新生児乳児幼児学童成人他覚所見自覚症状結膜充血0.930.791.211.451.420.180.160.140.330.22眼瞼発赤0.110.310.410.930.590.010.050.030.120.08眼瞼腫脹0.120.170.300.740.440.030.0300.120.05角膜浮腫0.010.010.010.020.080000.020.01角膜浸潤0.010.010.010.100.0900000.01涙.膿汁逆流0.140.250.030.050.080.040.090.0100.03その他0.1300.0400.040.0200.0200.004小計1.461.542.003.292.740.290.340.190.600.40眼脂1.701.611.601.431.620.490.370.140.310.27流涙0.400.640.370.450.790.160.260.020.020.17異物感000.270.670.80000.010.070.11眼痛000.200.950.61000.010.070.05羞明000.060.070.21000.00300.03霧視000.060.050.22000.00300.03掻痒感00.020.170.380.3200.010.010.100.04その他0000000000小計2.102.272.734.004.570.650.630.200.570.70合計スコア3.563.814.737.297.300.940.980.391.171.10(139)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012427 表5小児臨床評価基準案による改善率小児臨床評価基準案係数新生児改善率乳児幼児1/2%(例数)83.7(41/49)82.9(68/82)97.0(161/166)案1*11/2.5%(例数)73.5(36/49)73.2(60/82)94.0(156/166)1/3%(例数)65.3(32/49)70.7(58/82)91.6(152/166)案2*21.52%(例数)73.5(36/49)73.2(62/82)94.0(156/166)%(例数)83.7(41/49)90.2(74/82)97.0(161/166)*1判定日スコアが点眼開始日スコアの『係数』以下で改善とする.*2点眼開始日スコアを『係数』倍し,成人評価基準で評価する.かった.2.小児臨床評価基準案の評価小児臨床評価基準の案1,案2における改善率を表5に示す.案1の改善率は案2より低い傾向が認められたが,案1の新生児,乳児の係数1/2としたときの改善率83.7%,82.9%,幼児の係数1/3としたときの改善率91.6%は,細菌学的効果に近似した結果が得られた.以上より,小児の細菌性外眼部感染症に対するTFLX点眼液の製造販売後調査における臨床評価基準を表6のとおり定めた.III考按小児への適用を取得する薬剤が近年増加しているが,治験時の症例数が十分ではない場合も多いため,製造販売後に小児に対する有効性や安全性を改めて確認することは重要である.一方,製造販売後調査において小児を対象とした臨床評価基準の公表は少なく,点眼抗菌薬においても成人臨床評価基準が公表されているのみである.TFLX点眼液の製造販売後調査の結果は,他のフルオロキノロン系抗菌薬で小児を対象とした製造販売後調査の結果5,6)と比較して,疾患構成等が近似したものであり偏りがないと考えられたので,小児臨床評価基準の作成に使用した.従来の臨床評価基準は,他覚所見・自覚症状の観察項目をスコア化しその合計スコアより評価を行うことから,各年齢におけるスコアの違いを検討した.その結果,新生児,乳児,幼児で点眼開始日の合計スコアに大きな差が認められたが,学童の点眼開始日の合計スコアは成人と同程度であった.そこで,新生児,乳児,幼児を対象とした小児臨床評価基準の作成を試みた.観察項目は,点眼開始日の各スコアに基づき検討した.新生児,乳児では発語の関係から自覚症状を訴えることがなく,幼児も自ら症状を明確に表現することが困難であると考えられたため,自覚症状を観察項目から削除した.さらに成人では自覚症状としている眼脂,流涙は,担当医師の確認が可能であることから他覚所見項目とした.すなわち,新生児,乳児では,生体防御系の成熟度の違いに加え眼脂や流涙の自発的な除去が困難であり,生理的眼脂と病的眼脂の区別が容易でない7)ため,他覚所見として評価することを考えた.また,自発的な除去が困難であることが影響し,新生児,乳児では判定日に眼脂,流涙スコアが残り,幼児の合計スコアと比較して高い結果となることがわかったが,小児臨床評価基準の係数を,新生児,乳児では1/2,幼児では1/3に変更することで改善率に与える影響を吸収できる結果となった.小児を対象としたTFLX点眼液の臨床試験2,3)では,治験時の臨床評価ガイドラインに基づき,「推定起因菌が4日目に消失し,かつ臨床症状のスコア合計が8日目に1/4以下になったもの」を著効,「推定起因菌が4日目に消失し,かつ臨床症状のスコア合計が8日目に1/2以下になったもの」および「推定起因菌が消失しなくても,8日目までに臨床症状のスコア合計が1/3以下になったもの」を有効と判定しており,今回作成した小児臨床評価基準は治験時の基準とほぼ整合がとれたものとなった.以上,今回作成した小児臨床評価基準は,小児を対象とし表6小児臨床評価基準【新生児,乳児,幼児】観察項目他覚所見:結膜充血,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流,眼脂,流涙,その他の他覚所見観察時期点眼開始時および点眼後7日(±2日)症状スコアの推移に基づく判定改善:7日±2日以内に合計スコアが1/2(幼児は1/3)以下になった場合改善せず:7日±2日以内に合計スコアが1/2(幼児は1/3)以下にならない場合○日で改善せず:14(±2)日の症状観察結果はないが,それまでの観察実施日の合計スコアが1/2(幼児は1/3)以下にならない場合【学童】成人臨床評価基準を適用する428あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(140) た製造販売後調査の臨床評価に十分適用できるものである.今後は小児を対象とした製造販売後調査における活用を広め,問題点などについてさらに検討していきたいと考える.謝辞:本研究に多大なご指導,ご協力を賜りました故北野周作先生に厚く御礼申し上げます.本論文の要旨は第47回日本眼感染症学会にて発表した.文献1)金子行子,内田幸男,北野周作ほか:汎用性抗生物質等点眼薬の市販後調査における評価基準.あたらしい眼科15:1735-1737,19982)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対照非遮蔽他施設共同試験.あたらしい眼科23(別巻):118-129,20063)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児細菌性結膜炎患者に対する有効性の成人細菌性結膜炎患者との比較検討.あたらしい眼科23(別巻):130-140,20064)宮永嘉隆,東範行,大野重昭:新生児の外眼部細菌感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性と安全性の検討.臨眼65:1043-1049,20115)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児に対する調査)─.あたらしい眼科26:1429-1434,20096)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児および乳児に対する調査)─.あたらしい眼科24:975-980,20077)亀井裕子:主訴からみた眼科疾患の診断と治療(18.眼脂).眼科45:1665-1671,2003***(141)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012429

眼球鉄錆症による続発緑内障の1例

2012年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科29(3):419.423,2012c眼球鉄錆症による続発緑内障の1例野口三太朗*1渡邉亮*2布施昇男*2馬場耕一*3阿部圭子*4山田孝彦*5高橋秀肇*1中澤徹*2*1石巻赤十字病院眼科*2東北大学医学部眼科学教室*3東北大学医学部視覚先端医療学寄附講座*4東北大学医学部病理形態学分野*5山田孝彦眼科ACaseofSecondaryGlaucomaCausedbyOcularSiderosisSantaroNoguchi1),RyoWatanabe2),NobuoFuse2),KoichiBaba3),KeikoAbe4),TakahikoYamada5),HidetoshiTakahashi1)andToruNakazawa2)1)DepartmentofOphthalmology,IshinomakiRedCrossHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversitySchoolofMedicine,3)AdvancedOphthalmicMedicine,TohokuUniversitySchoolofMedicine,4)UniversityschoolofMedicine,5)YamadaTakahikoEyeHospitalDepartmentofHistopathology,Tohoku目的:眼内鉄片異物による眼球鉄錆症により続発緑内障を発症したが,線維柱帯切除術により,眼圧を下降させた1例を報告する.症例:56歳,男性.受傷9カ月後に硝子体混濁,白内障を発症したため白内障手術,硝子体手術を施行したところ,硝子体中には異物が浮遊していた.受傷2年5カ月後より眼圧の上昇を認めたため,線維柱帯切除術を施行した.摘出異物は電子線元素状態分析装置を用いて非破壊的性状解析を行い,線維柱帯は病理組織検査を行った.結果:線維柱帯切除術後,眼圧は下降し特に合併症は認められなかった.また,病理検査にてベルリン青陽性の組織球を認め,摘出異物は7.88.78.8μgの酸化鉄であることが判明した.結論:微量鉄片異物により眼球鉄錆症を発症した症例に対しては,線維柱帯切除術により十分な眼圧下降が得られることが示唆された.Purpose:Acaseofsecondaryglaucomaisreported,whichdevelopedascomplicationofsiderosisduetointraocularironforeignbody.Trabeculectomynormalizedtheintraocularpressure(IOP).Case:Thepatient,a56-year-oldmale,developedvitreousopacityandcataractafter9months,undergoingvitrectomyandphacoemulsification.Afineforeignbodywasfoundfloatinginthevitreousgel.After29monthstheIOPhadbeenraised,trabeculectomywasperformed.TheremovedforeignbodywaselementallyanalyzedviaElectronProbeMicroAnalysis;trabecularmeshworkandiriswereanalyzedbypathologicalmethods.Findings:TrabeculectomynormalizedtheIOPandtherewerenocomplications.Berlinbluestainrevealednumeroushistiocytes,includingsiderosome,inthetrabecularmeshwork.Theforeignbodywasfoundtocomprise7.88.78.8μgoxidizediron.Conclusion:Aslightamountofintraocularironcausedtheocularsiderosis,andtrabeculectomyareeffectiveinrecucingIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):419.423,2012〕Keywords:眼球鉄錆症,眼内鉄片異物,眼外傷,濾過手術,続発緑内障.ocularsiderosis,intraocularironforeignbody,oculartrauma,filteringoperation,secondaryglaucoma.はじめに長期間鉄片異物が眼内に停留すると,眼球鉄錆症をきたすことは古くから知られている.角膜混濁,虹彩異色,白内障,硝子体混濁,網膜変性,網膜.離,緑内障などを発症し,視力予後は不良とされている1.3).また,鉄錆症末期に起こるとされる緑内障は,治療に抵抗し予後は不良といわれている4).また,眼球鉄錆症に対して,摘出微量鉄片を電子顕微鏡にて詳細に形状解析,元素解析,質量解析を行った眼球鉄錆症の報告は少ない.今回筆者らは,受傷約2年後にて眼球鉄錆症による虹彩異色症,続発緑内障を発症し線維柱帯切除術を施行した症例を経験し,また摘出微量鉄片に対し,電子顕微鏡を用いた解析を行ったので報告する.〔別刷請求先〕野口三太朗:〒986-8522石巻市蛇田字西道下71番地石巻赤十字病院眼科Reprintrequests:SantaroNoguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,IshinomakiRedCrossHospital,71Nishimichishita,Hebita-aza,Ishinomaki-shi986-8522,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(131)419 I症例患者:56歳,男性.初診:2008年4月24日.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2005年8月23日,釘の破片が左眼に飛入し近医眼科を受診した.角膜中心下方に角膜穿孔創と思われる瘢痕を認めるも,診察上異物はなく特記すべき所見もなかった(図1).眼窩部X線写真撮影などにて異物は確認されず,レボフロキサシン点眼にて経過観察を行った.2006年4月28日,左眼に徐々に視力低下を認めるも,その他眼痛などの自覚症状を認めなかった.左眼は前眼部清明であったが,白内障の進行,硝子体混濁を認めた.視力は左眼(0.6),眼圧は右眼8mmHg,左眼11mmHg.網膜電図を施行するも,特記すべき所見はなかった.2006年5月9日,左眼硝子体混図1受傷時の前眼部写真角膜中央部下方に角膜穿孔創を認める.濁,白内障に対し水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,経毛様体扁平部硝子体切除術を施行した.術中,水晶体前面の線維化や強膜充血が著明であったが角膜穿孔部位は閉鎖していた.5時方向の虹彩根部後方の硝子体中に小異物があり,硝子体カッターにて吸引除去した.異物は網膜には到達しておらず,眼内レンズは.内に固定した.術後合併症はなく経過良好であったが,2007年12月頃より左眼虹彩異色症が明らかとなった.自覚症状はなく経過観察していたが,2008年1月22日,左眼の眼圧が53mmHgまで上昇し,1%ドルゾラミド点眼,ラタノプロスト点眼,チモロールマレイン酸塩点眼,アセタゾラミド内服を開始したところ,翌日には13mmHgまで下降した.その後眼圧経過は良好であったが,2008年3月21日,左眼の眼圧は58mmHgまで上昇した.グリセオール点滴にて左眼の眼圧は20.30mmHg台に下降したため,週2回のグリセオール点滴施行にて経過観察するも眼圧コントロール不良のため,2008年4月24日東北大学病院眼科紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.4(1.2×sph+1.0D(cyl.2.25DAx90°),左眼0.3(0.6×sph+0.75D(cyl.1.75DAx90°),眼圧は右眼10mmHg,左眼35mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で左眼の角膜の6時方向に穿孔創,角膜上皮浮腫を認めた.また,虹彩変色と萎縮を認め(図2),散瞳不良と対光反射の消失を認めた.眼底は透見困難であったが視神経乳頭陥凹拡大を認めた.また,隅角所見は軽度色素沈着を認め図2当院来院時の前眼部写真虹彩脱色素を認める.図3当院初診時のHumphrey視野検査下方に視野欠損を認める.上部暗点は上眼瞼によるもの.420あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(132) 図4当院初診時の網膜電図検査a波,b波は左右差なし.左眼に軽度律動様小波の低下を認める.**AB図5病理組織標本A:HE染色.線維柱帯の硝子様変性を認める.*はSchlemm管.B:ベルリン青染色.ベルリン青染色に陽性組織球を認める(矢印).*はSchlemm管.るも閉塞していなかった.Humphrey視野検査を施行した結果,緑内障性視野変化を認め(図3),網膜電図検査では律動様小波の低下を認めたが,a,b波の低下は認めなかった(図4).手術:眼球内鉄片異物による続発緑内障の疑いにて,2008年5月20日,線維柱帯切除術を施行し,線維柱帯,虹(133)拡大拡大→先傍線:1mmAB図6摘出異物重量測定摘出異物サイズ(対角線)はA:0.43×0.35(mm),B:0.45×0.35(mm).彩異色部を含む切除虹彩を病理検査に提出した.また,採取した眼内異物も性状分析した.術後経過:術後経過は良好で眼圧の上昇もなかった.網膜変性などの所見も認めなかった.病理組織検査結果:虹彩ではベルリン青染色に対して陽性を呈する顆粒状物質を貪食した組織球が多数観察された.線維柱帯では硝子様変性を伴う線維性組織が主体であり,ベルリン青染色に対して陽性を呈する顆粒状物質を貪食した組織球が観察された(図5).眼内異物解析:電子線元素状態分析装置〔ElectronProbeMicroAnalysis:EPMA,JXA-8200EPMA;JEOL(日本電子)製〕を用いて摘出異物の性状解析を行った.異物粒子は2つあり,粒子サイズは平均0.44×0.35mmであった(図5).重量は2粒子合計で7.88.78.8μgであることがわかった.また,走査型電子顕微鏡にて異物表面は腐食し凹凸がみられ,成分は酸化鉄であることが確認できた(図6).II考察眼内異物による眼合併症として,まず異物飛入による機械的な障害により,強角膜穿孔,白内障,水晶体脱臼,硝子体混濁,網膜出血,網膜裂孔が起こる.また,異物による感染症,飛入したものが鉄,銅などであれば金属のイオン化による影響として眼球鉄錆症や眼球銅症などが発症する可能性がある.眼内異物の性状とその構成成分を確認することは合併症の原因究明,経過予測には非常に重要である.今回筆者らが分析に用いた装置はEPMAである.加速した電子線を物質に照射(電子線による励起)する際に生じる,特性X線のスペクトルに注目して,電子線が照射されている微小領域(おおよそ1μm3)における構成元素の検出および同定と,各構成元素の比率(濃度)を分析する装置であり,固体の試料あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012421 ABAB図7摘出異物元素分析A:走査型電子顕微鏡写真.B:元素分析にてFe(鉄)とO(酸素)が主成分.をほぼ非破壊で分析することが可能である.今回の異物に対して筆者らは,粒子の大きさの測定,電子顕微鏡写真観察,元素分析,重量測定を行った.極微量の眼内異物を非破壊的に鉄であることが確認でき,今回の一連の眼症が眼球鉄錆症であることが証明できた.一般的に眼内異物に対してコンピュータ断層撮影法(computedtomography:CT)が最も鋭敏な検出法といわれるが,最小検出能は鉄片なら直径0.2mm,長さ2.0mmとされる5).画像診断で異物が検出されない場合でも,続発緑内障に進行した報告はあり,本症例ではCT検査まで施行されておらず,眼内鉄片は見落とされた形となった.0.4mmの大きさであるためCTを施行したとしても確認できなかった可能性は高い.眼内に飛入する眼内異物は極微量のことが多く,見落とされ長期経過することも多い.実験的には0.01ngという微量の鉄でも眼球鉄錆症を起こすとの報告6)があり,臨床例では鉄含有量38.9ngの異物に対する鉄錆症の報告がある7).眼球鉄錆症を起こすような症例では異物標本は眼内にて腐食し脆くなっているため,一般的に性状解析は困難なことが多い.本症例でも異物標本は腐食が激しく,資料がごく微量であるために重量測定も不可能かと思われた.しかし,EPMAを用いることで7.88.78.8μgという微量異物の性状解析を行うことができた.また,元素分析にてFe(鉄)とO(酸素)が主成分であることより異物は酸化鉄であることが確認できた.Mass%が69.8%であり通常mass%が100%に至らない理由として,試料への電子線のダメージ,試料表面の凹凸,汚れまたは酸化,密度が低いなどさまざまな原因があるが,今回のケースは特に試料表面が平滑ではないので69.8%となったと考えられる.眼球鉄錆症では,網膜電図にて全般的に振幅の減弱,または早期には一時的な増加を示すことが知られ8.10),視機能の回復が期待されるのは網膜電図にてb波の振幅が健眼の50%までの時期であるとされている11).本症例では鉄片異物は422あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012各構成元素の比率ElementMass(%)C10.100O12.483Na3.850P1.428S2.544Cl1.712K1.760Ca1.320Fe34.615Total69.812網膜には到達せずに硝子体内に留まったために急激な網膜変性の著明な進行を伴わず,b波が低下することもなく経過していたと考えられる.併発白内障については,水晶体上皮細胞に鉄イオンが沈着,水晶体上皮細胞が変性し水晶体の透明性維持能の低下を起こすとされ12),本症例では直接的な水晶体の損傷はなかったが,鉄イオンに曝露され受傷約1年後に白内障を発症したと考えられた.眼球鉄錆症における続発緑内障は晩期に合併することが多く,受傷後18カ月から19年の間に起こり,刺激性,炎症性変化がないため何ら治療されずに放置されていた症例ほど続発緑内障を生じやすい1).臨床的特徴は慢性の経過をたどり,隅角は開放性でかつ房水産生量が低下しており,経過は原発開放隅角緑内障に類似するとされる.線維柱帯,Schlemm管を覆う内皮細胞の細胞質内に鉄イオンがフェリチンとしてびまん性に蓄積し,細胞の変性崩壊をきたし,内皮細胞の機能が傷害され過剰の細胞外要素を蓄積し発症する13,14).本症例においては受傷されてから異物の摘出までに9カ月かかり,緑内障発症までに2年弱の期間がある.鉄イオンが房水流に乗り前房内にまで充満し,併発白内障,硝子体混濁を発症,手術により異物は除去されたが,残存する鉄イオンが十分に除去されずフェリチンとして隅角内皮細胞に蓄積し,2年の経過を経て続発緑内障の発症に至ったと考えられる.また,病理検査にて線維柱帯に硝子化を伴っていることが確認され,これによる眼圧上昇が考えられた.眼球鉄錆症の治療としてはまずは眼内異物の摘出である.続発緑内障を併発した段階では摘出だけでは眼圧降下は得られることは少ない.また,3価鉄イオンに強い親和力をもち早期眼球鉄錆症に有効とされているデフェロキサミンやエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraaceticacid:EDTA)などのキレート剤の投与も,この段階では効果は期待できない15).一般に,薬剤では眼圧のコントロールはつかず,最終的に観血的手術が必要となってくる例がほとんどである.過去,眼球鉄錆症の報告は多数あるが,線維柱帯切開(134) 術のみで眼圧コントロールのついた症例は少なく,線維柱帯切除術にまで至った例が多い.フェリチンの沈着が線維柱組織のみでなくSchlemm管にまで及んでいることが原因と考えられ,眼球鉄錆症の続発緑内障の観血的手術療法は線維柱帯切除術が第一選択ではないかと考える.今回,2年間の経過を経て続発緑内障の発症にまで至った眼球鉄錆症に対し,EPMAを用いて眼内異物の性状解析を行った.極微量の鉄片にても眼球鉄錆症を発症し,鉄片除去後も続発緑内障の発症する可能性があり,降圧には線維柱帯切除術が第一選択である可能性が示唆された.文献1)Duke-ElderS,PerkinsES:SystemofOphthalmology.Vol.14,p525-534,HenryKimpton,London,19722)GerkowiczK,ProstM,WawrzyniakM:Experimentalocularsiderosisafterextrabulbaradministrationofiron.BrJOphthalmol69:149-153,19853)TawaraA:Transformationandcytotoxicityofironinsiderosisbulbi.InvestOphthalmolVisSci27:226-236,19864)三木耕一郎,竹内正光,出口順子ほか:眼球鉄症の検討.臨眼42:520-524,19885)土屋美津保,柳田隆,高比良雅之ほか:眼内異物によってひき起こされた続発緑内障の1例.臨眼45:956-957,19916)MasciulliL,AndesonDR,CharlesS:Experimentalocularsiderosisinthesquirrelmonkey.AmJOphthalmol74:638-661,19727)神田智,上原雅美,前田英美ほか:前房内に自然排出した眼内異物の症例.臨眼46:183-186,19928)SievingPA,FishimanGA,AlexanderKRetal:Earlyreceptorpotentialmeasurementsinhumanocularsiderosis.ArchOphthalmol101:1716-1720,19839)AlgvereP:Clinicalstudiesontheoscillatorypotentialsofthehumanelectroretinogramwithspecialreferencetothescotopicb-wave.ActaOphthalmol(Copenh)46:9931024,196810)渡辺郁緒,三宅養三:ERG,EOGの臨床.p122-125,医学書院,198411)中内美智子エリーゼ,柿栖米次,安達恵美子:半年間経過観察をみた眼内鉄片異物症例のERG変化.臨眼83:762764,198912)八木良友,松本康宏,城月祐高ほか:眼球鉄錆症にみられた白内障の1例.あたらしい眼科11:959-962,199413)田原昭彦,猪俣孟:眼鉄錆症における前房隅角の微細構造.眼紀33:703-712,198214)保谷卓男,宮崎守人,瀬川雄三ほか:金ならびに鉄の培養人線維柱組織に及ぼす影響.あたらしい眼科11:647-651,199415)内野充,平田肇:眼球鉄錆症の治療.眼紀36:103109,1978***(135)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012423

ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果

2012年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科29(3):415.418,2012cラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果南野桂三*1安藤彰*1松岡雅人*1松山加耶子*1畔満喜*1武田信彦*1高木智恵子*1,2桑原敦子*1西村哲哉*1*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2コープおおさか病院眼科ChangesinIntraocularPressureafterSwitchingfromLatanoprosttoTravoprostinPatientswithGlaucomaandOcularHypertensionKeizoMinamino1),AkiraAndo1),MasatoMatsuoka1),KayakoMatsuyama1),MakiKuro1),NobuhikoTakeda1),ChiekoTakagi1,2),AtsukoKuwahara1)andTetsuyaNishimura1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,CoopOsakaHospital目的:ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果を,切り替え前の眼圧値を15mmHg以上の群(A群)と15mmHg未満の群(B群)の2つに分け比較検討した.対象および方法:ラタノプロストを3カ月以上単独投与されている高眼圧症,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障症例71例115眼を対象とした.眼圧下降効果は,切り替え前3回の平均眼圧値と切り替え後1,3,6カ月の眼圧値を比較した.結果:切り替え前の全体の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え後の平均眼圧は1カ月,3カ月,6カ月では,14.2±3.1mmHg,13.9±3.7mmHg,14.0±1.5mmHgであった.切り替え後の眼圧下降率は,A群では,切り替え後1カ月,3カ月,6カ月の眼圧下降率は10.5%,8.3%,11.9%であった.B群では0.4%,6.9%,5.9%であった.A群ではすべての時期で切り替え後に眼圧は有意に低かった(pairedt-testp<0.001).2mmHg以上の眼圧下降を有効とした場合,A群の有効率は,1カ月,3カ月,6カ月では45.7%,47.2%,56.3%であった.B群の有効率は,6.8%,26.9%,28.6%であった.結論:ラタノプロスト単剤で15mmHg以上の症例ではトラボプロストへの切り替えは有用である.Purpose:Toassesstheefficacyofswitchingfromlatanoprosttotravoprostinpatientswithocularhypertension,normal-tensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.Caseandmethod:Thisstudyinvolved115eyesof71patientswhohadhadstableintraocularpressure(IOP)forover3monthswithlatanoprostmonotherapy,andwerethenswitchedtotravoprost.WeinvestigatedtheeffectonIOPandcorneaat1,3and6monthsaftertheswitch.Results:MeanIOPbeforeswitching(15.1±3.2mmHg)wassignificantlyreducedto14.0±1.5mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001).InpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(17.7±2.0mmHg)wassignificantlyreducedto15.7±2.1mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001);themeanIOPreductionrateswere10.5%,8.3%and11.9%,andthemeaneffectiverateswere45.7%,47.2%and56.3%at1,3and6monthsafterswitching.InpatientswithIOP<15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(12.6±1.8mmHg)wassignificantlyreducedto12.0±0.7mmHgat6monthsafterswitching(p<0.05);themeanIOPreductionrateswere0.4%,6.9%and5.9%,andthemeaneffectiverateswere6.8%,26.9%and28.6%at1,3and6monthsafterswitching.Keratoepithelialdisorderdecreasedaftertheswitch.Nopatientsshowedseverecomplications.Conclusion:SwitchingfromlatanoprosttotravoprostmaybeeffectiveinpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,orwithcornealdisorders.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):415.418,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,トラボプロスト,眼圧,切り替え.glaucoma,latanoprost,travoprost,intraocularpressure,switching.〔別刷請求先〕南野桂三:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:KeizoMinamino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)415 はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬はPGF2aを基本骨格としたPG誘導体で,その基本骨格を修飾したプロスト系薬剤と,代謝型のプロストン系に大別される.プロスト系PG関連薬は眼圧下降効果が強いことや眼圧変動幅抑制効果をもつこと,また全身的な副作用がないことや1日1回点眼であることから緑内障および高眼圧症の治療の第一選択薬となっている.わが国では現在ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストが臨床使用され,眼圧下降効果や副作用などによって使い分けや切り替えが試みられているがまだ一定した見解はない.海外の報告ではラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストはメタアナリシス解析でも約25.30%の眼圧下降効果を有すること1),ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは眼圧は下降もしくは同等と報告されている2.4).しかし,海外のトラボプロストとわが国ではトラボプロストは防腐剤の違い,すなわち海外では塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC),わが国ではBAC非含有となっているので,海外での眼圧下降効果の結果はBACによって修飾されている可能性がある.さらに緑内障患者の平均眼圧が低いわが国においては海外における臨床研究の結果がそのまま当てはまらないことも考えられるため,切り替え前の眼圧値を考慮して検討することは有用であると思われる.そこで本研究ではラタノプロストからBAC非含有製剤であるトラボプロストへ切り替えて眼圧を測定し,切り替え前眼圧が高い症例と低い症例で違いがあるかどうかを検討した.I対象および方法1.対象参加2施設(関西医科大学付属滝井病院,コープおおさか病院)に平成20年10月1日から平成21年4月30日にかけて初診あるいは通院中の緑内障(開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障)または高眼圧症の症例で,3カ月以上ラタノプロストが単独投与されている71例115眼を対象にした.男性29例46眼,女性42例69眼,平均年齢65.3歳(29.89歳)病型別では,高眼圧症9眼,原発開放隅角緑内障52眼,正(,)常眼圧緑内障54眼であった.本研究は前向き研究であり,共同設置の倫理委員会において承認されたプロトコールに同意が得られた症例をエントリーした.続発緑内障,閉塞隅角緑内障,切り替え前6カ月内に眼外傷や手術既往のあるものは除外症例とした.2.方法眼圧の測定にはGoldmann圧平眼圧計を用いた.ラタノプロストからトラボプロストに切り替え前に3回眼圧測定し,washout期間を設けずにラタノプロストからトラボプロストに切り替え,1カ月後,3カ月後,6カ月後に各1回416あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012眼圧測定した.切り替え前3回の平均値が15mmHg以上をA群,15mmHg未満をB群とし,切り替え前の眼圧値によって眼圧下降効果の違いがあるかをpaired-ttestで統計学的に検討した.切り替え前後の受診はできうる限り,同一時間帯とした.角膜病変は,フルオレセイン染色後,コバルトブルーフィルターを用いて細隙灯顕微鏡で観察した.角膜病変は点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)をArea-Density(AD)分類5)を用いて評価し,pairedt-testで統計学的に検討した.II結果全症例の115眼の切り替え前の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え1カ月後(90眼)では14.2±3.1mmHg,切り替え3カ月後(105眼)では13.9±3.7mmHg,切り替え6カ月後(90眼)では14.0±1.5mmHgであった.A群の59眼の切り替え前の平均眼圧は17.7±2.0mmHg,切り替え1カ月後(46眼)では15.8±2.8mmHg,切り替え3カ月後(53眼)では16.2±3.1mmHg,切り替え6カ月後(48眼)では15.7±2.1mmHgであった.切り替え後のどの時点においても,切り替え前後の眼圧値を比較して統計学的に有意差がみられた.B群の56眼の切り替え前の平均眼圧は12.6±1.8mmHg,切り替え1カ月後(44眼)では12.6±2.5mmHg,切り替え3カ月後(52眼)では11.6±2.7mmHg,切り替え6カ月後(42眼)では12.0±0.7mmHgであった.切り替え1カ月後の眼圧値は,切り替え前の眼圧値と有意差はなかったが,3カ月後と6カ月後では統計学的に有意差がみられた(図1).投与前眼圧からの眼圧下降率は,全症例では1カ月,3カ月,6カ月で6.4%,7.8%,9.6%であった.A群では10.5%,8.3%,11.9%,B群では0.4%,6.9%,5.9%であった(図2).切り替え後の眼圧値が切り替え前の眼圧値より2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化とし眼圧(mmHg)2018***********:全体(n=115)16:A群(n=59)14:B群(n=56)12():眼数108切り替え前1カ月3カ月6カ月図1ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後の眼圧*p<0.001,**p<0.01,***p<0.05pairedt-test.(128) 10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%1カ月全体3カ月(n=115)6カ月■:全体26.766.66.7():眼数0102030405060708090100(%)6.828.626.956.347.245.743.337.181.854.763.539.545.352.146.754.32.210.08.616.79.611.44.27.5眼圧下降率(%)1カ月(n=115)(n=59):有効A群■:A群3カ月■:不変(n=59)■:悪化6カ月:B群1カ月(n=56)B群3カ月():眼数(n=56)6カ月図3ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後1カ月3カ月6カ月の有効率と悪化率図2ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化,の眼圧下降率2mmHg未満の変化は不変とした.3後のトラフ時刻でトラボプロストのほうがラタノプロストよ2.5切り替え前(n=66)*り眼圧下降効果が大きいとする報告8)があり,本研究の対象2*p<0.01症例の多くが午後に受診しているためトラフ時刻に近い時刻1.5トータルスコアpairedt-testで測定したことや,臨床研究に参加することでアドヒアラン1():眼数スが改善したことなども影響する可能性があり,これらの因0.5子が複合したと推察される.0-0.5図4ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後のAD分類のトータルスコアた場合の有効率と悪化率を検討した.有効率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では26.7%,37.1%,43.3%,A群では45.7%,47.2%,56.3%,B群では6.8%,26.9%,28.6%であった.悪化率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では6.7%,8.6%,10.0%,A群では2.2%,7.5%,4.2%,B群では11.4%,9.6%,16.7%であった(図3).角膜病変は,切り替え前のSPKありが69%であったが,切り替え後(最終観察時)では48%であった.AD分類のトータルスコアによる検討では,切り替え前が1.62であったが,切り替え後では1.06と減少し,統計学的に有意差がみられた(図4).なお,全症例の経過観察中に充血や角膜病変によるトラボプロスト中止,または点眼変更例はなかった.III考察今回の筆者らの結果では,対象症例全体の平均眼圧値はラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に有意に下降し,最終眼圧下降率は9.6%で有効率は43.3%であった.これはトラボプロストがラタノプロストよりFP受容体の親和性が高いこと6)やFP受容体のアゴニスト活性が高いこと7)などが主な原因として考えられる.さらに点眼24時間(129)わが国におけるラタノプロスト単独投与からトラボプロストへの切り替え後の眼圧下降効果についてはすでに幾つかの報告がある9.12).大谷ら10),佐藤ら11),徳川ら12)の報告ではそれぞれ0.7mmHg,2.1mmHg,1.8mmHgと切り替え後に有意な眼圧下降が得られ筆者らの結果と同様であった.一方,中原ら9)は切り替え後の眼圧にほぼ変化なく眼圧下降効果に有意差がみられなかったと報告しているが,対象症例からラタノプロストのノンレスポンダーを除外しているため,他とは異なる結果となった可能性が考えられる.A群とB群の2群に分けた検討では,A群では全時点において有意な眼圧下降が得られ,最終眼圧下降率は約11.9%,有効率は約56.3%であった.B群では切り替え後3カ月と6カ月で有意な眼圧下降が得られたが,最終眼圧下降率は約5.9%,有効率は約28.6%でA群のほうが効果的であった.中原ら9)は筆者らと同様に切り替え前眼圧値を15mmHg以上と15mmHg未満の2群についても検討しているが,それにおいても両群とも切り替え前後で有意差はなかったと報告している.ラタノプロストのノンレスポンダーのなかにはトラボプロストが有効な症例があることが報告されており2),ラタノプロストのノンレスポンダーを除外していない本研究では,切り替え前眼圧値が高いA群にラタノプロストのノンレスポンダーまたは効果の不十分な症例が含まれていたことも考えられる.全症例では約1mmHgの眼圧下降,A群では約2mmHgの眼圧下降が得られ,EarlyManifestTrial13)ではベースライン眼圧から1mmHg眼圧が下降すると緑内障進行リスクが10%低下すると報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.3,2012417切り替え後(n=66) いることから,トラボプロストへの切り替えは有効であると考えられる.しかし,B群では最終悪化率が16.7%でラタノプロスト単独で15mmHg未満の症例では眼圧が悪化する症例もあるため注意して行うべきである.わが国ではトラボプロストは防腐剤としてBACを含有せず,sofZiaRというZn(亜鉛)を用いたイオン緩衝系システムを導入しており,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは角膜所見に改善がみられるという報告が多い9.12,14).本研究でも既報と同様にラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に角膜所見の改善がみられた.ヒト結膜由来細胞を用いたinvitro試験において,BAC含有製剤およびBAC単独は明らかな細胞毒性を示し,BAC非含有製剤では細胞毒性は認められなかったという報告もあり15),わが国のトラボプロストのようにBACを含有しない点眼薬は,薬剤の長期使用による角膜障害を減少させるものと思われる.本研究の結果では,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に眼圧が有意に下降して角膜障害も減少したが,対象症例の病型,症例数,経過観察期間の眼圧の季節変動なども考慮して解釈しなければならない.薬剤の効果を比較するためにはランダム割付による群間比較ないしはクロスオーバー試験を二重盲検下で行うことが理想であり,トラボプロスト単独使用からのラタノプロストを含めた他のPG製剤への切り替えも検討する必要があると思われる.現在複数のPG製剤が存在するが,その特長に合わせた使い分けが緑内障治療を行ううえで重要である.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabililtyofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,20043)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20014)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20035)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20036)佐伯忠賜朗,相原一:プロスタグランジン関連薬の特徴─増える選択肢.あたらしい眼科25:755-763,20087)SharifNA,CriderJY,HusainSetal:HumanciliarymusclecellresponsestoFP-classprostaglandinanalogs:phosphoinositidehydrolysis,intracellularCa2+mobilizationandMAPkinaseactivation.JOculPharmacolTher19:437-455,20038)YanDB,BattistaRA,HaidichABetal:Comparisonofmorningversuseveningdosingand24-hpost-doseefficacyoftravoprostcomparedwithlatanoprostinpatientswithopen-angleglaucoma.CurrMedResOpin24:3023-3027,20089)中原久惠,清水聡子,鈴木康之ほか:ラタノプロスト点眼薬からトラボプロスト点眼薬への切り替え効果.臨眼63:1911-1916,200910)大谷伸一郎,湖崎淳,鵜木一彦ほか:日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:687-690,201011)佐藤里奈,野崎実穂,高井祐輔ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切替え効果.臨眼64:1117-1120,201012)徳川英樹,西川憲清,坂東勝美ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの変更による眼圧下降効果の検討.臨眼64:1281-1285,201013)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200314)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200915)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudiesofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,2007***418あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(130)