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眼瞼下垂に対する挙筋腱膜前転法とMüller筋タッキングの術後ドライアイの比較

2019年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科36(5):694.698,2019c眼瞼下垂に対する挙筋腱膜前転法とMuller筋タッキングの術後ドライアイの比較林憲吾*1~3林孝彦*2,3小久保健一*4小松裕和*5水木信久*3*1横浜桜木町眼科*2横浜南共済病院眼科*3横浜市立大学眼科*4藤沢湘南台病院形成外科*5佐久総合病院地域ケア科CComparisonbetweenDryEyeafterLevatorAponeurosisAdvancementandafterMullerMuscleTuckforCorrectionofPtosisKengoHayashi1.3),TakahikoHayashi2,3),KenichiKokubo4),HirokazuKomatsu5)andNobuhisaMizuki3)1)YokohamaSakuragichoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyousaiHospital,3)COphthalmology,YokohamaCityUniversity,4)DepartmentofPlasticSurgery,FujisawaShounandaiHospital,5)DepartmentofDepartmentofCommunityCare,SakuCentralHospitalC目的:眼瞼下垂に対する挙筋腱膜前転法とCMuller筋タッキングの術後ドライアイについて比較した.対象および方法:2016年C8月.2017年C7月に上記の手術を施行し,3カ月以上の経過観察期間のある中等度以上(marginre.exdistance≦1.5Cmm)の眼瞼下垂症例を診療録から後ろ向きに調査した.術前に角膜上皮障害のある症例は除外した.術後の角膜上皮障害の指標としてフルオレセイン染色スコアで定量した.結果:挙筋腱膜前転法がC129名C235眼瞼,Muller筋タッキングがC106名C208眼瞼であった.術後C1週間,1カ月,3カ月の角膜上皮障害は,挙筋腱膜前転法で58%,32%,16%,Muller筋タッキングでC20%,4%,1%にみられた(いずれも有意差あり).フルオレセイン染色スコアの各時点での平均値は,挙筋腱膜前転法でC0.80,0.40,0.17,Muller筋タッキングでC0.22,0.05,0.01であった(いずれも有意差あり).同様に各時点でのドライアイの自覚症状は,挙筋腱膜前転法でC51%,24%,9%,Muller筋タッキングでC15%,4%,2%にみられた(いずれも有意差あり).結論:眼瞼下垂術後早期の角膜上皮障害およびドライアイの自覚症状は,Muller筋タッキングより挙筋腱膜前転法に有意に多く認められた.CPurpose:TocomparedryeyeafterlevatoraponeurosisadvancementwiththatafterMullermuscletuckforcorrectionCofCptosis.CPatientsandMethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofCpatientsCwhoCunderwentlevatoraponeurosisadvancementorMullermuscletuckforthecorrectionofmoderatetosevereptosis(marginre.exdistanceC.1.5mm)fromOctober2016toJuly2017,withapost-operativefollow-upofC.3months.PatientsCwithCpre-existingCcornealCepithelialCdisordersCwereCexcluded.CPostoperativeCcornealCepithelialCdisordersCwereCassessedCviaC.uoresceinCstainingCscore.CResults:ThisCstudyCincludedC129patients(235eyelids)whoCunder-wentlevatoraponeurosisadvancementand106patients(208eyelids)whounderwentMullermuscletuck.Cornealepithelialdisordersat1week,1monthand3monthspostoperativelywereobservedin58%,32%and16%ofthelevatorCaponeurosisCadvancementCgroup,Cand20%,4%Cand1%CofCtheCMullerCmuscleCtuckCgroup,Crespectively(signi.cantCdi.erencesCatCallpoints).TheCaverageC.uoresceinCstainingCscoresCatCtheCrespectiveCtime-pointsCwereC0.80,C0.40andC0.17inCtheClevatorCaponeurosisCadvancementCgroup,CandC0.22,C0.05andC0.01inCtheCMullerCmuscleCtuckgroup(signi.cantdi.erencesatallpoints).Similarly,subjectivedryeyesymptomsatrespectivetime-pointswerereportedin51%,24%,and9%ofthelevatoraponeurosisadvancementgroup,and15%,4%and2%oftheMullermuscletuckgroup(signi.cantdi.erencesatallpoints).Conclusions:CornealepithelialdisordersanddryeyeCsymptomsCinCtheCearlyCpostoperativeCperiodCwereCsigni.cantlyCmoreCcommonCinCtheClevatorCaponeurosisCadvancementgroupthanintheMullermuscletuckgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(5):694.698,C2019〕Keywords:眼瞼下垂,挙筋腱膜前転法,Muller筋タッキング,ドライアイ.eyelidptosis,levatoraponeurosisadvancement,Mullermuscletuck,dryeye.C〔別刷請求先〕林憲吾:〒231-0066神奈川県横浜市中区日ノ出町C1-200日ノ出サクアスC205横浜桜木町眼科Reprintrequests:KengoHayashi,YokohamaSakuragichoEyeClinic,Hinodesakuasu,C1-200Hinodecho,CNakaku,Yokohamacity,Kanagawa231-0066,JAPANC694(124)図1眼瞼下垂の術式の模式図と術中写真a:挙筋腱膜前転法の模式図(青線が挙筋腱膜).b:挙筋腱膜前転法の術中写真:挙筋腱膜へ通糸.Cc:挙筋腱膜前転法の術中写真:2針で前転固定.Cd:Muller筋タッキングの模式図(赤線がCMuller筋).Ce:Muller筋タッキングの術中写真:Muller筋へ通糸.Cf:Muller筋タッキングの術中写真:2針で前転固定.はじめに眼瞼下垂は,挙筋群の伸展や菲薄化,挙筋群の脂肪変性や欠損などが原因となり生じる.手術方法として,前転する部位別にみると,挙筋腱膜をターゲットとする挙筋腱膜前転法1),Muller筋をターゲットとするCMuller筋タッキング法2),経結膜CMuller筋結膜短縮術3),挙筋腱膜とCMuller筋の両者をターゲットとする挙筋短縮術4),前頭筋の動きを瞼板に連動させる前頭筋吊り上げ術などがある.挙筋短縮術は,挙筋腱膜とCMuller筋の両者を同時に前転する再建術であり,広く普及している術式である5).ただし,Muller筋と瞼結膜との間を.離する必要があるため,手技がやや煩雑であり,術中の出血などが問題となる.挙筋腱膜とCMuller筋の間を.離し,挙筋腱膜のみ前転する挙筋腱膜前転法(図1a~c)と,Muller筋のみタッキングするCMuller筋タッキング(図1d~f),国内で比較的多く行われている術式である.眼瞼下垂術後に一時的にドライアイが発症するあるいは悪化することがあるが,眼瞼下垂手術後のドライアイについての報告は少なく,この二つの術式をドライアイの観点から比較した報告はない.筆者はおもな術式を挙筋腱膜前転法からMuller筋タッキングに切り替えた時期から,術後早期の角膜上皮障害が軽減し,同時に異物感などの自覚症状も減少することを経験した.そこで,同一術者で挙筋腱膜前転法とMuller筋タッキングの術後のドライアイの頻度と程度を後ろ向きに調査した.CI対象および方法本研究は,横浜南共済病院の倫理審査委員会の承認の下,診療録から後ろ向きに調査した.対象は,横浜南共済病院,横浜桜木町眼科で同一術者(KH)によってC2016年C8月.2017年C7月のC1年間で,術前にインフォームド・コンセントを得て挙筋腱膜前転法あるいはCMuller筋タッキングを施行後,3カ月以上の経過観察が可能であった眼瞼下垂の症例である.術前から睫毛内反症やドライアイによる角膜上皮障害のある症例,眼瞼下垂の手術歴のある症例は除外した.軽度の眼瞼下垂の場合,必要となる挙筋群の前転量は少なく,術後のドライアイへの影響が少ないことが予想されるため,一定量の挙筋前転が必要な中等度以上の眼瞼下垂を調査する目的で,術前のCmarginCre.exdistance(MRD:瞳孔中央から上眼瞼縁までの距離)がC1.5Cmm以下の中等度以上の眼瞼下垂で(MRDがC0.1.5Cmmを中等度,0Cmm未満を重度と規定した),術中定量でCMRDがC3Cmm以上と開瞼の改善が得られた症例を対象とした.術中の定量で矯正不足のため,挙筋短縮術へ変更となった症例は除外した.表1SPKの有無の比較術後1週間術後1カ月術後3カ月挙筋腱膜前転法C136C75C38(n=235)(58%)(32%)(16%)#p<0.001#p<0.001#p<0.001Muller筋タッキングC42C9C3(n=208)(20%)(4%)(1%)両群とも経過とともにCSPKは減少するが,全経過を通じて,挙筋腱膜前転法に有意に多く認められた.C#:c2検定術後の角膜上皮障害の評価として,術後C1週間,術後C1カ月,術後C3カ月の点状表層角膜炎(super.cialCpunctateCker-atitis:SPK)をフルオレセイン染色スコア(0.3点)で定量した.MiyataらによるCAD分類6)のCAreaを参考に,0点:点状のフルオレセイン染色を認めない,1点:角膜全体の面積のC1/3以下に点状のフルオレセイン染色を認める,2点:角膜全体の面積のC1/3.2/3に点状のフルオレセイン染色を認める,3点:角膜全体の面積のC2/3以上に点状のフルオレセイン染色を認める,と規定した.術後の自覚症状として,乾燥感,異物感,眼痛などのドライアイの症状の有無について調査した.また,術前および術後のCMRDの推移を調査した.なお,術後C1週間の時点でCSPKを認め,ドライアイの自覚症状がある場合,ヒアルロン酸点眼を使用している.手.術.手.技エピネフリン添加C2%リドカインで皮下の局所麻酔を行い,組織の切開.離はおもに高周波メスを使用した.挙筋腱膜前転法は,眼窩隔膜を切開し,挙筋腱膜前層を露出し,つぎに瞼板前組織(挙筋腱膜後層)を切開し,瞼板から.離し,挙筋腱膜とCMuller筋との間(postCaponeuroticspace)を.離し,下垂の程度に応じてCwhitelineを基準に挙筋腱膜の前転量を調整し,マットレス縫合で瞼板に固定した(図1b,c).Muller筋タッキングは,宮田らの報告(ExtenedCMullerTucking法)7)に準じ,下垂の程度に応じて,10.12Cmm程度のタッキングを施行した(図1e,f).両者とも,瞳孔中央にマーキングし,マーキングの鼻側と耳側で,6-0ナイロン糸を用いてC1針ずつ前転し,瞼板上縁からC2.3Cmm下の部位にC2カ所固定した.術中定量で,座位で開瞼状態を確認し,症例に応じてCMRD=3.4Cmmとなるように調整した.瞼板から.離した瞼板前組織(挙筋腱膜後層)を用いて,internalC.xationsuture(挙筋腱膜と睫毛側の眼輪筋を埋没縫合)あるいはCexternalC.xationsuture(皮膚縫合時に挙筋腱膜にアンカリング縫合)で重瞼線を作製した8).CII結果症例は挙筋腱膜前転法がC129例C235眼瞼,Muller筋タッキングがC106例C208眼瞼であった.平均年齢は挙筋腱膜前転法C66.7C±15.9歳(14.95歳).Muller筋タッキングC70.5C±12.5歳(24.89歳)(p=0.32,Mann-WhitneyU検定)で,2群間に有意差はなかった.術後C1週間,1カ月,3カ月のCSPKは,挙筋腱膜前転法で136眼瞼(58%),75眼瞼(32%),38眼瞼(16%),Muller筋タッキングでC42眼瞼(20%),9眼瞼(4%),3眼瞼(1%)にみられた(いずれもC2群間に有意差あり,p<0.001:Cc2検定)(表1).各時点でのCSPKのフルオレセイン染色スコアは,挙筋腱膜前転法でC0.80C±0.05,0.40C±0.04,0.17C±0.03,Muller筋タッキングでC0.22C±0.03,0.05C±0.02,0.01C±0.01であった(p<0.001,p<0.001,p=0.004:Mann-WhitneyU検定,p<0.001:repeatedmeasureANOVA)(図2).いずれの時点でも,ドライアイの他覚的所見であるCSPKは,挙筋腱膜前転法のほうが有意に多く認められた.各代表例を図3,4に示す.同様に各時点での異物感などドライアイの自覚症状は,挙筋腱膜前転法でC120眼瞼(51%),57眼瞼(24%),20眼瞼(9%),Muller筋タッキングで32眼瞼(15%),8眼瞼(4%),4眼瞼(2%)にみられた(p<0.001,p<0.001,Cp=0.002:Cc2検定)(表2).ドライアイの自覚症状も,挙筋腱膜前転法のほうが有意に多くみられた.術前,術後C1週間,1カ月,3カ月のCMRDの推移については,挙筋腱膜前転法ではC0.54C±0.73Cmm,3.27C±0.85Cmm,C3.58±0.69Cmm,3.68C±0.65Cmmであり,Muller筋タッキングではC0.56C±0.68mm,3.29C±0.67mm,3.42C±0.53mm,3.46C±0.54Cmmであった.術前と術後C1週間の時点では両群間に有意差は認めず,術後C1カ月,術後C3カ月では挙筋腱膜前転法のほうが有意に高いという結果であった.(p<0.001,p<0.001:Mann-WhitneyU検定,p<0.001:repeatedCmea-sureANOVA)(図5)CIII考按眼瞼下垂術後のCSPKの有無とその程度は,Muller筋タッキングと比較して挙筋腱膜前転法に有意に多いという結果であった.異物感などのドライアイの自覚症状の有無においても,挙筋腱膜前転法が有意に多く,SPKの有無と同様の結フルオレセイン染色スコア(点)10.80.60.40.20術前術後1週間術後1カ月術後3カ月観察期間*:Mann-WhitneyUtest#:repeatedmeasureANOVA図2両群のSPKの定量推移(フルオレセイン染色スコア)青線:Apo(挙筋腱膜前転法),赤線:Muller(Muller筋タッキング).術後C1週間(p<0.001),術後C1カ月(p<0.001),術後C3図3挙筋腱膜前転法の症例(72歳,女性)カ月(p=0.004)ともに有意差あり.全経過を通じて有意差ありCa:術前.Cb:術直後.Cc:術後C1週間.Cd:術後C1週間のフルオ(p<0.001,repeatedmeasureANOVA).レセイン染色:SPKが著明である.Ce:術後C1カ月.Cf:術後C1カ月のフルオレセイン染色:SPKが軽減しているが,残存している.表2ドライアイの自覚症状の有無の比較術後1週間術後1カ月術後3カ月挙筋腱膜前転法C120C57C20(n=235)(51%)(24%)(9%)#p<0.001#p<0.001#p=0.002Muller筋タッキングC32C8C4(n=208)(15%)(4%)(2%)両群とも経過とともにドライアイの自覚症状は減少するが,全経過を通じて,挙筋腱膜前転法に有意に多く認められた.C#:c2検定C5bMRD(mm)43210e-1術前術後1週間術後1カ月術後3カ月観察期間*:Mann-WhitneyUtest#:repeatedmeasureANOVA図4Muller筋タッキングの症例(70歳,女性)Ca:術前.Cb:術直後.Cc:術後C1週間.Cd:術後C1週間のフルオレセイン染色:SPKはみられない.Ce:術後C1カ月.Cf:術後C1カ月のフルオレセイン染色:SPKはみられない.図5術前後の開瞼状態MRDの推移青線:Apo(挙筋腱膜前転法),赤線:Muller(Muller筋タッキング).術前と術後C1週間の時点では有意差なし.術後C1カ月(p<0.001),術後C3カ月(p<0.001)ともに有意差あり.全経過を通じて有意差あり(p<0.001,repeatedmeasureANOVA)果であった.とくに有意な差がみられるのは術後C1週間の時点で,挙筋腱膜前転法では過半数の症例でCSPKがみられ,約半数の症例でドライアイの自覚症状が認められた.両者とも,術後経過とともに,SPKは軽減する傾向がみられ,3カ月後には両群間の差は減少した.術後C1週間でCSPKを認める場合,ヒアルロン酸点眼を処方しているため,1カ月以降の改善は点眼の影響も考えられる.眼瞼下垂手術後のドライアイの発生機序として,開瞼幅(涙液分布面積)の増加に伴う涙液の蒸発亢進あるいは閉瞼不全(兎眼)による蒸発亢進型ドライアイ,涙小管ポンプ機能の亢進による涙液減少型ドライアイが考えられる9).開瞼幅の増加について,術前後のCMRDの推移は,術前と術後C1週間の時点では両群に有意差は認めず,術後C1カ月,術後C3カ月では挙筋腱膜前転法のほうが有意に大きいという結果であった.術後C1週間目のCMRDに有意差はないため,術後C1週間の早期CSPKの差は,開瞼幅の増加以外の要因が考えられる.閉瞼不全について,一般的に挙筋機能が悪い症例では前転量が多くなり,術中に閉瞼不全を生じることがある.術中の2Cmm程度の閉瞼不全は,術後の経過とともに軽減する.自験例においては,術中の閉瞼不全は硬く伸展性のない挙筋腱膜を前転する際に多くみられ,柔らかい伸展性のあるCMuller筋のタッキングでは少ない印象があるが,本研究では,閉瞼状態については測定していないため,閉瞼不全について両群を比較することはできない.術中および術後の閉瞼不全については,今後,前向き研究を行いたいと考えている.また,今回の挙筋腱膜前転法は,腱膜の外角(lateralhorn)を切離していないため,硬い腱膜の伸展に制限がかかる状態のまま前転している.そのため,前転量が多く必要な場合,閉瞼不全が残存した可能性がある.中等度以上の下垂に,挙筋腱膜の外角切離を併施した腱膜前転を施行すれば,術後のCSPKが減少する可能性が考えられる.涙液減少型ドライアイについて,Watanabeらは眼瞼下垂術後の涙液貯留量は有意に減少し,とくに術前の涙液量が多い症例ほど減少する傾向があること報告している10).涙液量の減少する原因として,手術により開閉瞼の幅が改善するに伴いCHorner筋の張力増加し,瞬目に伴う上涙小管のポンプ機能が亢進する可能性が報告されている11).本研究では,術前のCMRDと,術後C1週間のCMRDは,両群に有意な差はなく,両群とも開瞼は改善しているため,涙小管のポンプ機能は両群とも同様に亢進していることが予想される.眼瞼下垂術後早期のCSPKおよびドライアイの自覚症状は,Muller筋タッキングより挙筋腱膜前転法に有意に多く認められた.眼瞼下垂手術に際しては,術前後のドライアイを考慮する必要がある.文献1)AndersonRL,DixonRL:Aponeuroticptosissurgery.ArchOphthalmolC97:1123-1128,C19792)宮田信之,金原久治,岡田栄一ほか:COC2レーザーを使用したMuller筋タッキング法による眼瞼下垂手術.臨眼C60:2037-2040,C20063)PuttermanAM,UristMJ:Mullermuscle-conjuctivaresec-tion;techniquefortreatmentofblepharoptosis.ArchOph-thalmolC93:619-623,C19754)OlderrJJ:UpperlidblepharoplastyandptosisrepairusingaCtranscutaneousCapproach.COphthalCPlastCReconstrCSurgC10:146-149,C19945)NomaK,TakahashiY,LeibovitchIetal:Transcutaneousblepharoptosissurgery:simultaneousadvancementofthelevatorCaponeurosisCandCMuller’smuscle(LevatorCresec-tion).OpenOphthalmolJC4:71-75,C20106)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmeth-odCforsuper.cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOph-thalmolC121:1537-1539,C20037)宮田信之:COC2レーザーを使用したCMuller筋牽引縫縮眼瞼下垂手術(ExtendedCMullerTucking法).臨眼C70:689-693,C20168)McCurdyJAJr,JamSM:CosmeticSurgeryoftheAsianFace2nded.p8-41,ThiemePublishingGroup,20059)横井則彦:眼表面からみた眼瞼下垂手術の術前・術後対策.あたらしい眼科32:499-506,C201510)WatanabeCA,CSelvaCD,CKakizakiCHCetal:Long-termCtearCvolumeCchangesCafterCblepharoptosisCsurgeryCandCblepha-roplasty.InvestOphthalmolVisSciC56:54-58,C201411)柿崎裕彦:眼瞼から見た流涙症.眼科手術C22:155-159,C2009C***

「なみだの日」の調査でわかったこと ─ドライアイ未発見者をへらすために─

2019年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科36(5):689.693,2019c「なみだの日」の調査でわかったこと─ドライアイ未発見者をへらすために─山西竜太郎*1内野美樹*1川島素子*1内野裕一*1横井則彦*2坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2京都府立医科大学眼科学教室CMinimizingUndiagnosedDryEyeinJapanRyutaroYamanishi1),MikiUchino1),MotokoKawashima1),YuichiUchino1),NorihikoYokoi2)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:インターネット調査「目に関するアンケート」からドライアイ未発見者を検討する.対象および方法:対象は同調査に参加したC1,030名(男性C729名,女性C301名).ドライアイ診断歴の有無,ドライアイ自覚症状の程度,CvisualCdisplayterminal(VDT)作業時間などを解析した.結果:155名(男性C83名,女性C72名)が過去にドライアイの診断歴ありと回答した.ドライアイの診断歴なしと回答した参加者のうち,「目が乾く」「目が疲れる」が頻繁であったものを「ドライアイ未発見群」と定義したところ,116名(男性C62名,女性C54名)が該当し,VDT作業時間がC8時間以上の群ではC19.9%で,1.3時間の群(6.5%),4.7時間の群(9.7%)より有意に高かった(p<0.01).結論:長時間CVDT作業者ではドライアイ未発見者の割合が高く,ドライアイ啓発活動が重要と考えられる.CToevaluatetheprevalenceinJapanofundiagnoseddryeyeamongthegeneralpublic.TheJapaneseDryEyeSocietyChasCdesignatedCJulyC3CasCNamidaCnoHi(TearsDay)C.CTheCSocietyCcarriedCoutCaCWebCSurveyConCdryCeyedisease(DED)C.CACtotalCofC1,030participants(males:729,females:301)responded;155responders(males:83,females:72)hadapasthistoryofDEDdiagnosis.Wede.nedtheundiagnosedDEDgroupasthosewhofrequent-lycomplainedofDED-relatedsymptomssuchasdrynessandirritation,buthadneverbeendiagnosedashavingDED.TheundiagnosedDEDgroupcomprised116individuals(males:62,females:54)C.Longerdurationofvisualdisplayterminal(VDT)useCcorrelatedCwithChigherCprevalenceCofCundiagnosedCDED.CCliniciansCshouldCthereforeCenhanceeducationalactivitiesrelatingtoDEDandVDTuse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(5):689.693,C2019〕Keywords:ドライアイ,なみだの日,VDT.dryeyedisease,TearsDay,visualdisplayterminal.はじめにドライアイとは,涙の乾きなどの涙の異常により,目の表面の健康が損なわれる疾患である.ドライアイ研究会は2016年にドライアイの定義を「ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」と定めた1).スマートフォンの長時間利用や,コンタクトレンズ装用者の増加などによってドライアイ患者は増加の一途をたどっており,横井らの報告によると,わが国におけるドライアイの患者数はC2,000万人以上ともいわれている2).2016年にドライアイ研究会は,7月C3日を「なみだの日」と制定した.「なみだの日」は目の健康と視力に大切な役割をもつ「涙」の重要性と正しい知識を社会に伝える啓発の日と位置づけられ,その活動の三つの柱として①涙を知ること,②セルフチェックの実施,③眼科での検査の推奨をあげている.2017年にはスマートフォンアプリを用いたドライアイのスクリーニングの有用性を調査し3),2018年はインターネット調査を通して市民の涙の意識調査を実施した.厚生労働省がC2003年に実施した「技術革新と労働に関する実態調査」ではCvisualCdisplayterminal(VDT)作業者の〔別刷請求先〕山西竜太郎:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RyutaroYamanishi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC診断歴欠損1名ドライアイ自覚症状「目が乾く」「目が疲れる」ありなしドライアイ診断あり群ドライアイ未発見群ドライアイなし群155名116名758名図1ドライアイ診断・自覚症状による分類回答者をドライアイ診断歴と自覚症状の有無で分類した.うち,身体的な疲労,症状を感じている人の割合はC78.0%で,そのうち「目の疲れ・痛みがある」とする割合がC91.6%となっている4).10年前に実施されたCVDT作業に携わっているオフィスワーカーらが対象となったドライアイの有病調査では,ドライアイを自覚する人の割合はCVDT作業者全体のうちC32.3%であったにもかかわらず,ドライアイと診断されている人は13.0%にとどまっていた5).以上より,VDT作業者のなかにはドライアイの症状があるにもかかわらず,眼科受診をしていない人が多いと考えられる.ドライアイはCqualityoflife(QOL)だけでなく,労働作業効率に影響を与えるとされている6).そのため,VDT作業者へのドライアイ啓発活動は重要と考えられる.筆者らは「なみだの日」の発表に向けて実施したインターネット調査をもとに,ドライアイ症状を有するが,未診断となっている対象者について検討を行った.CI対象および方法筆者らは「なみだの日」の啓蒙活動の一環として行ったインターネット調査「目に関するアンケート」(実施期間C2018年C4月C24.25日)を実施した.調査会社(株式会社マクロミル)の登録モニター約C120万人にアンケートを周知し,事前調査にてCVDT作業者C5,000名を無作為に抽出した.対象年齢はC20.69歳とし,先着C1,030名(男性C729名,女性301名)の回答を採用した.回答採用者にはC60円分のポイントが進呈された.ドライアイの診断歴は「あなたはドライアイと診断された事がありますか?」との問いに,はい,と回答したものを診断歴あり,と定義した.ドライアイの自覚症状は世界的に用いられているドライアイの診断に広く用いられている「目が乾く」「目が疲れる」という二つの質問について,「時々あった」「よくあった」「いつもあった」を選択した場合に,自覚症状あり,とした7).ありなしドライアイ未診断者のなかで,上記項目で自覚症状ありとした回答者をドライアイ未発見群として定義した.また,ドライアイなし群は,ドライアイ未診断者のなかで,ドライアイ未発見群の定義を満たさなかった回答者と定義した.VDT作業時間は,業務でCVDT機器をC1日当たりで使用する時間と定義した.その時間が,1日当たりC1.3時間をライトユーザー,4.7時間をミドルユーザー,8時間以上をヘビーユーザーとそれぞれ分類した.コンタクトレンズ使用状況は,ソフトレンズ,ハードレンズいずれかを使用したことがある回答者を使用あり,いずれも使用したことがない回答者を使用なし,とした.ドライアイが日常生活やCQOLに与える影響はCDryCEye-relatedCQuality-of-LifeScore(DEQS)の質問票を用いて,その程度を評価した8).そのほかの質問項目として,性別,年齢,居住地域,未既婚,子供の有無,世帯・個人年収および職業について回答を得た.統計処理は統計ソフトCSPSSver25(SPSS,Chicago)を使用し,有意水準(両側)5%とした.p値はC0.05未満を有意差ありとした.CII結果回答者はC1,030名(平均年齢:46.8C±0.34歳)で,男性が729名(平均年齢:49.61C±0.37歳),女性がC301名(平均年齢:40.18歳C±0.59歳)で,男性の年齢が有意に高かった(p<0.01).ドライアイ診断歴および自覚症状の有無について図1にまとめた.ドライアイの診断を受けたことがあるのはC155名で内訳は,男性C83名(11.4%),女性C72名(23.9%)であった.男性が女性に比べて有意に高かった項目として既婚の割合,子供ありの割合があった.女性が有意に高かった項目として前述のドライアイ診断歴ありの者の割合とコンタクトレンズ装用者の割合,そしてCDEQSがあった(表1).ドライアイ未発見群はC116名(13.3%)で,男性C62名(53.4%),女性C54名(46.6%),ドライアイなし群はC758名(86.7%)で,男性C583名(76.9%),女性C175名(23.1%)であった.ドライアイ未発見群はドライアイなし群と比較して,女性の割合,コンタクトレンズ装用者の割合,DEQSが有意に高く,年齢は有意に低かった(表2).VDT作業時間の群間比較を示した(表3).ライトユーザーはC120名で,男性C92名(76.7%),女性C28名(23.3%),ミドルユーザーはC425名で男性C309名(72.7%),女性C116名(27.3%),ヘビーユーザーはC419名で男性C285名(68.0%),女性C134名(32.0%)であった.このうち,ドライアイ未発見者はライトユーザーでC7名(6.5%),ミドルユーザーでC36名(9.7%),ヘビーユーザーでC69名(19.9%)と群間で有意差があり,VDT作業時間が表1インターネット調査の回答者・男女の比較表2ドライアイ未発見群とドライアイなし群の比較男性女性ドライアイドライアイ(n=729)(n=301)p値未発見群なし群p値年齢(歳)C49.6±0.4C40.2±0.6<0.01(n=116)(n=758)既婚502(68.9%)111(36.9%)<0.01年齢(歳)C41.8±0.9C47.8±0.4<0.01子供あり436(59.8%)86(28.6%)<0.01女性54(46.6%)175(23.1%)<0.01ドライアイ診断率83(11.4%)72(23.9%)<0.01既婚62(53.4%)462(60.9%)C0.13ドライアイ罹患期間C0.23子供あり55(47.4%)399(52.6%)C0.321年以下18(23.7%)12(16.7%)VDT作業時間(hr/日)C7.7±0.2C6.6±0.1<0.012.4年18(23.7%)12(16.7%)CDEQSC22.4±1.2C8.8±0.3<0.015.8年10(13.2%)21(29.2%)コンタクトレンズ装用者41(35.3%)163(21.5%)<0.018年以上30(39.4%)27(37.5%)喫煙22(19.0%)185(24.4%)C0.24ドライアイ治療期間(年)C7.4±0.8C7.5±0.7C0.93DEQS:DryEye-relatedQuality-of-LifeScore.点眼頻度(回/日)C3.9±0.2C3.7±0.2C0.39年齢,性別,DEQS,コンタクトレンズ装用者割合に有意差をVDT作業時間(hr/日)C6.7±0.1C7.1±0.15C0.02認めた.CDEQSC10.7±0.4C14.7±0.7<0.01コンタクトレンズ装用者121(16.6%)145(48.2%)<0.01VDT:visualCdisplayterminal,DEQS:DryCEye-relatedQuality-of-LifeScore.年齢,ドライアイ診断率,DEQS,コンタクトレンズ装用者割合のほか既婚者の割合,子供ありの割合にも有意差を認めた.表3VDT作業時間ごとの比較VDTライトユーザーVDTミドルユーザーVDTヘビーユーザー1.3時間4.7時間8時間以上p値Cn=120Cn=425Cn=419C年齢(歳)C50.2±1.08C48.1±0.52C44.8±0.51<0.01女性28(23.3%)116(27.3%)134(32.0%)C0.12既婚75(62.5%)264(62.1%)236(56.3%)C0.18子供あり73(60.8%)223(52.5%)191(45.6%)C0.01ドライアイ診断率13(10.8%)55(12.9%)72(17.2%)C0.10ドライアイ罹患期間C0.701年以下2(16.7%)9(16.7%)15(21.7%)2.4年2(16.7%)12(22.2%)14(20.3%)5.8年4(33.3%)7(13.0%)10(14.5%)8年以上4(33.3%)26(48.1%)30(43.5%)ドライアイ未発見者7(6.5%)36(9.7%)69(19.9%)<0.01CDEQSC8.7±0.9C10.4±0.5C14.3±0.6<0.01コンタクトレンズ装用者26(21.7%)100(23.5%)129(30.8%)C0.03CVDT:visulaldisplayterminal,DEQS:DryEye-relatedQuality-of-LifeScore.VDT作業時間が長い群ほどドライアイ未発見者の割合が増加している.DEQSはCVDT作業時間が長い群ほど有意に高い.表4DryEye.relatedQuality.of.LifeとVDT作業時間との関連単回帰分析重回帰分析BのC95%信頼区間BのC95%信頼区間非標準化標準化非標準化標準化係数CB(下限上限)係数Cbp値係数CB(下限上限)係数Cbp値年齢C.0.07(.0.13C.0.01)C.0.07C0.03C0.04(.0.030.11)C0.04C0.31性別C4.00(2.505.49)C0.16<0.01C4.12(2.455.78)C0.17<0.01VDT作業時間C0.84(0.591.09)C0.21<0.01C0.81(0.561.07)C0.20<0.01VDT:visualdisplayterminal.単回帰分析と重回帰分析の結果を示す.年齢と性別を調節し,VDT作業時間にて重回帰分析を行っても,VDT作業時間とCDEQSは有意な関連を示した.長いほど,未発見者の割合が高かった(p<0.01).また,DEQSも同様にライトユーザーでC8.7C±0.9,ミドルユーザーでC10.4C±0.5,ヘビーユーザーでC14.3C±0.6と,有意差を認めた(p<0.01).さらに,コンタクトレンズ装用者はライトユーザーでC26名(21.7%),ミドルユーザーでC100名(23.5%),ヘビーユーザーでC129名(30.8%)であり,VDT作業時間が長い群ほど有意にコンタクトレンズ装用の割合が高かった(p=0.03).つぎにCDEQSと年齢,性別,VDT作業時間との関連について回帰分析を行った(表4).単回帰分析では,性別とCVDT作業時間はCDEQSと有意な関連を認めた(性別標準化係数Cb=0.16,p<0.01;VDT作業時間Cb=0.21,p<0.01).さらに年齢と性別を調節し,VDT作業時間にて重回帰分析を行っても,VDT作業時間とCDEQSは有意な関連を示した(性別Cb=0.17,p<0.01;VDT作業時間Cb=0.20,Cp<0.01).CIII考按ドライアイ未発見者の割合はC1,030名中C116名(13.3%)であり,眼乾燥感や疲労感などの自覚症状がありながら,眼科通院をしていない回答者の割合がC10%を超えていた.さらに,VDTヘビーユーザーの約C20%はドライアイ未発見者であった.これまでCVDT作業者におけるドライアイ有病率の報告はあったが,ドライアイ未発見者に焦点をあてた報告はなく,本研究がドライアイ未発見者について報告した初めてのものとなる.以前,Uchinoらは,4時間以上のCVDT使用により,ドライアイ発症のリスクがC1.7倍,さらにコンタクトレンズ使用によって眼の乾燥や違和感といった重度のドライアイ症状を自覚するリスクがC3.9倍に上昇すると報告している5).今回の筆者らの調査では年齢や性別での調整を行ったうえで,DEQSはCVDT作業時間が長い群ほど有意に高いという結果を得た.同様に女性のほうが男性よりCDEQSが有意に高かった.これは男女間の遺伝要因や性ホルモンの差異が原因で,女性はドライアイ症状に対してより敏感となり,日常生活への影響が大きいという既報と矛盾しない9).今回,筆者らの調査において,VDT作業時間が長いほうがドライアイの自覚症状が強いことが証明された.既報と同様にCVDT時間が長いほど,自覚症状が強まったものと考えられる.自覚症状が強まった原因としては,VDTの作業では瞬目回数がC1分間にC5回と通常時と比較して比べてC1/3.1/4まで低下し10),瞬目減少によって角膜上の涙の貯留が変化して涙液層の異常を引き起こすとされており11),瞬目回数減少との関連が推察される.Yamadaらは,ドライアイが労働生産性に及ぼす影響について報告している.ドライアイを有することで労働効率が一人当たり,ドライアイの診断を受けたことがある群ではC5.7%,ドライアイの症状を有するが未診断の群ではC6.1%低下した.同様に,労働生産性低下によって,年間C1人当たり前者でC65,000円,後者でC85,000円程度の損失が生じていた.他方で,仮にドライアイ未治療者のC10%が治療によって改善すれば,750億円からC1,250億円ほどの経済利益が見込めると算出している12).Uchinoらは,ドライアイと確定診断された群では労働生産性がC4.8%低下すると報告している13).VDT作業時間が長い人は,ドライアイがもたらす労働生産性低下によって勤務が長時間となり,受診する機会が失われている可能性もありうる.よってドライアイ未発見者への受診喚起は,QOL向上だけでなく,労働生産性の観点からも,望ましいと考えられる.総務省のC2017年版情報通信白書によると,インターネット利用などを含めたメディアの利用時間は年々増加してきている14).スマートフォンなどの普及,インターネット回線の整備によって,業務以外でもCVDT機器を使用する時間が伸びてきていると考えられ,今後は業務以外でのCVDT使用状況を含めた検討が必要になると思われる.本研究は,インターネット調査で先着順に回答を収集したため,年齢や性別の調整ができず偏りがでてしまった.眼に興味のある人が積極的に参加したという,選択バイアスがかかった可能性がある.今後の研究では年齢および性別の調整を図りながらデータを収集し,より正確な研究の発展を進めたい.最後に,2018年の「なみだの日」の発表に向けて実施したインターネット調査において,長時間のCVDT作業者でドライアイ未発見者の割合が高いことがわかった.引き続き「なみだの日」などの活動を通して市民への涙の重要性を啓発していくだけではなく,VDT作業者に対して,より重点的なアプローチが必要であると考えられる.文献1)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科C34:C309-313,C20172)横井則彦,加藤弘明:ドライアイ診療のパラダイムシフト眼表面の層別診断・層別治療.京府医大誌C122:549-558,C20133)UchinoM,KawashimaM,UchinoYetal:TheevaluationofCdryCeyeCmobileCappsCforCscreeningCofCdryCeyeCdiseaseCandCeducationalCtearCeventCinCJapan.COculCSurfC16:430-435,C20184)厚生労働省:平成C15年技術革新と労働に関する実態調査結果の概況.20045)UchinoCM,CSchaumbergCDA,CDogruCMCetal:PrevalenceCofCdryCeyeCdiseaseCamongCJapaneseCvisualCdisplayCterminalusers.OphthalmologyC115:1982-1988,C20186)McDonaldCM,CPatelCDA,CKeithCMSCetal:EconomicCandChumanisticCburdenCofCdryCeyeCdiseaseCinCEurope,CNorthCAmerica,CandAsia:ACsystematicCliteratureCreview.COculCSurf14:144-167,C20167)SchaumbergCDA,CSullivanCDA,CBuringCJECetal:Preva-lenceofdryeyesyndromeamongUSwomen.AmJOph-thalmolC136:318-326,C20138)SakaneCY,CYamaguchiCM,CYokoiCNCetal:DevelopmentCandCvalidationCofCtheCDryCEye-RelatedCQuality-of-LifeCScoreCquestionnaire.CJAMACOphthalmolC131:1331-1338,C20139)SchaumbergCDA,CUchinoCM,CChristenCWGCetal:PatientCreporteddi.erencesindryeyediseasebetweenmenandwomen:impact,Cmanagement,CandCpatientCsatisfaction.CPLoSOneC8:e76121,C201310)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayter-minals.NEnglJMedC328:584,C199311)YokoiCN,CUchinoCM,CUchinoCYCetal:ImportanceCofCtearC.lmCinstabilityCinCdryCeyeCdiseaseCinCo.ceCworkersCusingCvisualdisplayterminals:theOsakastudy.AmJOphthal-molC159:748-754,C201512)YamadaCM,CMizunoCY,CShigeyasuC:ImpactCofCdryCeyeConCworkCproductivity.CClinicoeconCOutcomesCResC4:307-312,C201213)UchinoM,UchinoY,DogruMetal:Dryeyediseaseandworkproductivitylossinvisualdisplayusers:theOsakastudy.AmJOphthalmolC157:294-300,C201414)総務省:平成C29年版情報通信白書(PDF版).2017***

造血幹細胞移植後の新規ドライアイ発症例に近視化を伴った3症例

2019年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科36(5):684.688,2019c造血幹細胞移植後の新規ドライアイ発症例に近視化を伴った3症例伊藤賀一小川葉子清水映輔鈴木孝典西條裕美子内野美樹栗原俊英坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CThreeCasesofDevelopingMyopiainNewlyDevelopedDryEyeDiseaseafterHematopoieticStemCellTransplantationYoshikazuIto,YokoOgawa,EisukeShimizu,TakanoriSuzuki,YumikoSaijo,MikiUchino,ToshihideKuriharaandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC移植片対宿主病(GVHD)によるドライアイ(DE)発症に伴い近視化を伴うC3症例を経験したので報告する.症例1はC32歳,男性.Fanconi貧血(先天性再生不良性貧血)に対し非血縁者骨髄移植を行った.移植前の自覚的視力検査による等価球面度数(SE)は右眼.2.75Dと左眼.3.00Dであった.移植後C4カ月時CGVHDによるCDEを発症し,同時期のCSEは右眼.2.75Dと左眼.4.50Dで左眼の近視化を認めた.移植後C7カ月時のCSEは右眼.3.00Dと左眼C.4.625Dで時期の差があるが両眼の近視化を認めた.症例C2はC34歳,女性.急性リンパ性白血病に対し非血縁骨髄移植を行った.移植前の自覚的視力検査によるCSEは右眼+3.375Dと左眼+0.50D.移植後C13カ月時にCGVHDによるDEを発症し,同時期のCSEは右眼+2.50Dと左眼C0.00Dと両眼の近視化を認めた.症例C3はC40歳,女性.急性骨髄性白血病に対し血縁末梢血幹細胞移植を行った.移植前の自覚的視力検査のCSEは右眼.1.50Dと左眼C0.00D.移植後9カ月時にCDEを発症し,同時期のCSEは右眼.1.50Dと左眼.0.625Dで左眼の近視化を認めた.他覚的検査では移植前後のSEの差が右眼1.125D,左眼C1.75Dと両眼の近視化を認めた.3症例ともに白内障は認めず,眼底に異常は認められなかった.炎症性疾患であるCGVHDによるCDE発症時期に,近視化するC3症例を認めた.GVHDと近視化との関連に関する因子について今後さらなる検討が必要である.CIn.ammatoryCdisease,CincludingCautoimmuneCdiseaseCandCallergicCconjunctivitis,CisConeCofCtheCriskCfactorsCforCdevelopingmyopia.Wereport3casesofdevelopingmyopiaalongwithnewonsetofdryeyeafterhematopoieticstemCcellCtransplantation.CCaseC1.CAC32-year-oldCmaleCunderwentCunrelatedCboneCmarrowtransplantation(BMT)CforFanconianemia.Sphericalequivalent(SE)wasC.2.75DrighteyeandC.3.00DlefteyebeforeBMT.Hedevel-opeddryeyerelatedtochronicgraft-versus-hostdisease(GVHD),withmouthinvolvement,4monthsafterBMT.SECchangedCtoC.2.75DCrightCeyeCandC.4.50DCleftCeyeCatConsetCofCGVHD-relatedCdryCeye.CThreeCmonthsCafterConset,CSEChadCincreasedCtoCmyopiaCofC.3.00DCrightCeyeCandC.4.625DCleftCeye.CCaseC2.CAC34-year-oldCfemaleCunderwentunrelatedBMTforacutelymphocyticleukemia.SEwas+3.375Drighteyeand+0.50DlefteyebeforeBMT.CSheCdevelopedCdryCeyeCrelatedCtoCchronicGVHD(cGVHD)13monthsCafterCBMT.CSECchangedCto+2.50DCrightCeyeCandC0.00DCleftCeyeCatConset.CCaseC3.CAC40-year-oldCfemaleCunderwentCunrelatedCperipheralCbloodCstemCcelltransplantation(PBSCT).SEwasC.1.50Drighteyeand0.00Dlefteyebeforetransplantation.ShedevelopedcGVHD-relateddryeye9monthsafterPBSCT.SEofherlefteyechangedC.0.625Datonset.Objectivemeasure-mentofrefractionandmyopicchangeinbotheyeswereobserved9monthsafterPBSCT.The3casesexhibitednoCcataractCorCfundusCabnormalCchangesCatCtheConsetCofCdryCeye.CTheseCcasesCsuggestCthatCcGVHD-relatedCin.ammationorcornealmorphologicalchangesduetodryeyein.uencerefractivechangesindevelopingmyopia.〔別刷請求先〕伊藤賀一:〒210-0013神奈川県川崎市川崎区新川通C12-1川崎市立川崎病院〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YoshikazuIto,M.D.,DepartmentofOphthalmologyKeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC684(114)(114)C684AdditionalCexaminationCwithCgreaterCnumbersCofCpatientsCwillCbeCrequiredCtoCcon.rmCtheCrelationshipCbetweenCGVHDandmyopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(5):684.688,2019〕Keywords:造血幹細胞移植,慢性移植片対宿主病,ドライアイ,近視,炎症.hematopoieticstemcelltransplan-tation,chronicgraft-versus-hostdisease,drydyedisease,myopia,in.ammation,Cはじめに近年,近視は世界的に増加傾向にあり,その対策は社会的な重要課題となっている1).近視に至る原因は現在のところ正確には解明されておらず,遺伝的な要因に,環境的な要因が加わって近視化が進んでいくものと考えられている.近年,近視化の要因の一つとして,systemicClupusCery-thematosus,リウマチを含む自己免疫疾患2,3)やアレルギー性結膜炎などのアレルギー性疾患の炎症性疾患が報告されている4,5).片眼性の近視化に伴う片眼性の毛様体炎の報告もある6).しかし,近視化と炎症との関連についての報告は少なく,その詳細な病態機序に関しても情報が限られている.移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease:GVHD)は造血幹細胞移植後に生じる免疫反応異常によって生じる急性および慢性炎症による合併症である7).GVHDによる眼合併症のなかでもっとも多い疾患がドライアイであり,レシピエントの約半数が発症することが知られている8).造血幹細胞移植後,平均半年後にCGVHDに伴うドライアイが発症するとされる.また,そのなかの約半数は急速に重症化することが多い8).GVHDにおける病態はドナーの免疫担当細胞と,レシピエントの組織との高度な慢性炎症による免疫応答異常が病態の中心となる9).筆者らの施設では,造血幹細胞移植前から経時的に眼所見の経過を診察し移植後の合併症であるCGVHDによるドライアイの発症に遭遇する機会が多い.今回,筆者らは造血幹細胞移植後の新規ドライアイ発症時期に近視化を伴ったC3症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕32歳,男性.2014年C5月,Fanconi貧血に対し非血縁者骨髄移植を行った.造血幹細胞移植前所見:矯正視力は,右眼=(1.2C×sph.2.25D(cyl.1.00DAx5°),左眼=(1.2C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx25°).等価球面度数は,右眼.2.75Dと左眼.3.00Dであった.移植後4カ月時にGVHDによるドライアイを発症し,等価球面度数は,右眼C.2.75Dと左眼C.4.50Dと左眼の近視化を認めた.ドライアイの所見は自覚症状として眼異物感と霧視が出現し,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreakuptime:BUT)はC5/5秒,フルオレセイン染色スコアはC0/0点,リサミングリーン染色スコアC1/1点であった.さらにドライアイ発症からC3カ月後の,移植後C7カ月時の等価球面度数は,右眼がC.3.00Dと左眼C.4.625Dと両眼の近視化を認めた.全身的には皮膚,口腔のCGVHDを併発していた.〔症例2〕34歳,女性.2015年C2月,急性リンパ性白血病に対し非血縁骨髄移植を行った.移植前の矯正視力は右眼=(1.0C×sph+4.00D(cyl.1.25DAx180°),左眼=(1.2C×S+0.50D°).等価球面度数は,右眼+3.375Dと左眼+0.50D.移植後C13カ月時にドライアイを発症した.ドライアイの所見は,自覚症状として,眼掻痒感および眼乾燥感があり,Schirmer値はC6/6mm,BUT右眼=5/3秒,フルオレセイン染色スコアC1/3点であった.同時期の等価球面度数は,右眼+2.50Dと左眼+0.00Dと両眼の近視化を認めた.全身的には皮膚のGVHDを併発していた.〔症例3〕40歳,女性.2015年C7月,急性骨髄性白血病に対し血縁者末梢血幹細胞移植を行った.移植前の矯正視力は,右眼=(1.2C×sph.1.00D(cyl.1.00DAx100°),左眼=1.2(n.c.).等価球面度数は,右眼C.1.50Dと左眼C0.00D.移植後9カ月時にドライアイを発症した(図1).ドライアイの所見は自覚症状として,ドライアイの発症前に眼脂が先行し,その後,眼乾燥感と眼羞明感が認められた.Schirmer値はC1/2Cmm,BUTは2/2秒,フルオレセイン染色スコアはC5/7点であった.ドライアイ発症時の等価球面度数は右眼.1.50D,左眼C.0.625Dと左眼の近視化を認めた.全身的には肺のCGVHDを併発していた.他覚的検査では造血幹細胞移植前後の等価球面度数の差が右眼C1.125D左眼C1.75Dと両眼の近視化を認めた.3症例の臨床的背景を表1に示す.経過中に眼圧,前眼部,中間透光体に異常はなかった.3症例については他覚的視力検査,自覚的視力検査の両方で,またはどちらか一方で近視化を認めた(図2).CII考按これまでに,造血幹細胞移植前後の屈折度の変化に関する報告は認められない.今回,筆者らは,造血幹細胞移植後の免疫性ドライアイの発症とほぼ同時期に,または遅れて近視化を認めたC3症例を経験した.自覚的,他覚的屈折度の変化両者を考慮するとC3例ともに両眼に近視化を認めた.表13症例の臨床的背景と経過症例症例C1症例C2症例C3年齢32歳34歳40歳性別男性女性女性原疾患Fanconi貧血急性リンパ性白血病急性骨髄性白血病移植方法非血縁骨髄移植非血縁骨髄移植血縁者末梢血幹細胞移植移植前CSE(自覚)C.2.75D/.3.00D+3.375/+0.50DC.1.50D/0.00D発症時CSE(自覚)C.3.00D/.4.625D+2.50D/0.00DC.1.50D/.0.625D移植前CSE(他覚)C.5.00D/.6.125D+3.625D/+0.25DC.1.75D/.0.75D発症時CSE(他覚)C.4.875D/.6.75D+2.50D/0.00DC.2.875D/.2.50Dドライアイ発症時期4カ月13カ月9カ月近視進行時期(自覚)左眼4カ月(DEと同時期)右眼7カ月両眼1C3カ月(DEと同時期)左眼9カ月(DEと同時期)近視進行度(自覚)右眼C0.25,左眼C1.625右眼C0.875,左眼C0.50左眼C0.625近視進行度(他覚)左眼C0.625右眼C1.125,左眼C0.25右眼C1.125,左眼C1.75水晶体透明透明透明眼底異常なし異常なし異常なし全身CGVHD皮膚,口腔皮膚肺SE:等価球面度数,DE:ドライアイ,GVHD:移植片対宿主病.図1症例3におけるGVHDによるドライアイ発症時の所見a:フルオレセイン染色角膜所見.涙液層が早期に破綻し,角膜中央から下方にびまん性の高度な上皮障害を認める.b:ドライアイ発症早期から瞼結膜上皮に線維化所見を認める.造血幹細胞移植後の合併症の一つにCGVHDがあり,移植片のドナーリンパ球や抗原提示細胞とレシピエントにおける組織および免疫担当細胞との間の反応により制御不能で高度な免疫応答が惹起される10).眼,口腔,肺,消化管,肝臓,皮膚が標的臓器となる.造血幹細胞移植後に生じるCGVHDによる合併症のなかで,眼科領域でもっとも頻度が高いのがドライアイであるが,その他にマイボーム腺機能不全,虹彩炎,白内障,網膜出血が認められる8).移植後のドライアイの発症時期には標的臓器の免疫状態が急速に変化すると考えられる.これまでにヒト,マウスの涙腺,結膜への多数の免疫担当細胞の浸潤が報告されている11,12).病的線維化と異常な修復過程により病的に変化した細胞外器質が涙腺および結膜に沈着することが報告されている11,12).近年,近視マウスモデルでの近視の病態メカニズムの解明が進められている.近視マウスモデルでは近視に伴う,炎症関連分子CnuclearCfactorCkB(NF-kB),interleukin(IL)C-6,CtumorCnecrosisfactor(TNF)C-aの上昇が報告されている2).これらの分子はCGVHDにおける涙液,マウス涙腺,全身CGVHD標的臓器での発現の上昇が報告されている9,13,14).GVHDによる高度な急性および慢性炎症は近視化(D)症例1(D)症例2(D)症例3--2.52移植前7カ月3.54移植前13カ月0.51移植前9カ月---3.5342.53-0.502-4.51.5-1--5.550.51--1.52-6-6.50-2.5-7-0.5-3右眼(自覚)左眼(自覚)右眼(自覚)左眼(自覚)右眼(自覚)左眼(自覚)右眼(他覚)左眼(他覚)右眼(他覚)左眼(他覚)右眼(他覚)左眼(他覚)図23症例の移植前後における自覚的,他覚的屈性度の変化自覚的視力検査での等価球面度数の変化(青),他覚的視力検査での等価球面度数の変化(赤).3症例ともに他覚的検査,自覚的検査両方で,またはどちらか一方で,近視化を認める.直線(右眼),点線(左眼).に影響を与える可能性があると考えられる.GVHDの異常な免疫応答による炎症のおもな部位としての涙腺,結膜の隣接組織である強膜への炎症の波及がある可能性が考えられる.とくに症例C1は両眼性でドライアイの発症時期に一致して2D以上の屈折変化をきたしたことは興味深い.症例C2,症例C3は片眼性であるが,ドライアイの発症時期とほぼ同じ時期に近視化を認めた症例がC1例,約C1年後の近視化を検出したC1例を経験したことは意義深い(図3).発症後に継続している慢性炎症の結果として近視化に影響を与えることも報告されており,GVHDによる慢性炎症が近視化に与える可能性は否定できない.近年,造血幹細胞移植件数は世界的に年間C60,000例,わが国でもC5,000例以上が行われ15),新規ドライアイ症例は2,500例を超える.晩期合併症の対策が向上し,長期生存者が増加しているなか15),ドライアイの発症に伴う屈折度の変化の詳細を検討することは喫緊の課題と考えられ,また近視と慢性炎症のメカニズムの一つを検討するうえでも意義深いと考えられる.今回の症例の近視化の要因として,慢性炎症に伴う眼軸の延長,ドライアイによる角膜形状の変化,水晶体の前方移動,水晶体の核硬化があげられる.今回の症例は全例C40歳以下であり,水晶体核硬化は認められなかった.中間透光体,眼底にも全例病的変化は認められなかった.GVHDによるドライアイは慢性炎症が病態の中心的役割を担うため,ドライアイの発症に伴い,または遅れて近視化に影響を与えた可能性は否定できない.当科では造血幹細胞移植前から移植症例を診察し,移植前後とドライアイの発症前後の屈折度の変化との関連性を調べることが可能であった.今後,ドラ骨髄移植ドライアイ発症症例14M7M左眼近視化右眼近視化(自他覚)骨髄移植ドライアイ発症症例213M両眼近視化(自他覚)末梢血管細胞移植ドライアイ発症症例39M左眼近視化(自覚)両眼近視化(他覚)図33症例のドライアイ発症と近視化の時期の関係ドライアイの発症とほぼ同時期に近視化が進む症例(症例C2,3)と発症後に時期をずらして近視化が進む症例(症例C1)が認められた.また,両眼同時に近視化が進む症例(症例C2)と時期をずらして片眼ずつ近視化が進む症例(症例C1)が認められた.C.:造血幹細胞移植時,.:ドライアイ発症時,.:自覚的視力検査で近視化が進んだ時期.イアイの発症と屈折度の変化の関連性を多数例で調べることは意義深いと考えられる.一方で,ドライアイの発症と同時か発症から近視化した期間が比較的短いことから眼炎症とは別の要因が関与したことも考えられる.とくにドライアイの発症に伴う角膜形状の変化が要因となった可能性も否定できない.今後,多数例での検討が必須と考えられ,現在症例数を増やして研究を進めている.移植前とドライアイ発症後の眼軸長の変化,角膜形状解析,波面収差の変化,涙液中の炎症メディエーターの解析,さらに基礎研究における分子レベルでの病態解明などが今後の検討課題と思われる.謝辞:稿を終えるにあたり,医療法人湖崎会湖崎眼科前田直之先生によるご助言とご示唆に深謝いたします.利益相反:坪田一男:ジェイアエヌ【F】,参天製薬【F】,興和【F】,大塚製薬【F】,ロート【F】,富士ゼロックス【F】,アールテック・ウエノ【F】,坪田ラボ【F】,オフテスクス【F】,わかさ生活【F】,ファイザー【F】,日本アルコン【F】,QDレーザ【F】,坪田ラボ【R】,花王【R】,Thea,Thea社【R】,【P】小川葉子:参天製薬【F】,キッセイ薬品【F】,【P】内野美樹:参天製薬【F】,ノバルティス【F】,千寿【F】,アルコン【F】栗原俊英:富士ゼロックス【F】,興和【F】,坪田ラボ【F】,参天製薬【F】,ロート製薬【F】,レストアビジョン【I】,坪田ラボ【I】,【P】文献1)ToriiCH,CKuriharaCT,CSekoCYCetal:VioletClightCexposureCcanbeapreventivestrategyagainstmyopiaprogression.EBioMedicineC15:210-219,C20172)LinCHJ,CWeiCCC,CChangCCYCetal:RoleCofCchronicCin.am-mationinmyopiaprogression:Clinicalevidenceandexperi-mentalCvalidation.EBioMedicineC10:269-281,C20163)FledeliusCH,CZakCM,CPedersenFK:RefractionCinCjuvenileCchronicarthritis:along-termfollow-upstudy,withempha-sisConmyopia.ActaOphthalmolScandC79:237-239,C20014)HerbortCCP,CPapadiaCM,CNeriP:MyopiaCandCin.amma-tion.JOphthalmicVisResC6:270-283,C20115)WeiCC,KungYJ,ChenCSetal:Allergicconjunctivitis-inducedCretinalCin.ammationCpromotesCmyopiaCprogres-sion.EBioMedicineC28:274-286,C20186)IjazU,HabibA,RathoreHS:Ararepresentationofcycli-tisCinducedCmyopia.CJCCollCPhysiciansCSurgCPakC28:S56-S57,C20187)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C20138)OgawaY:OkamotoS,WakuiMetal:Dryeyeafterhae-matopoieticCstemCcellCtransplantation.CBrCJCOphthalmolC83:1125-1130,C19999)FerraraCJL,CLevineCJE,CReddyCPCetal:Graft-versus-hostCdisease.LancetC373:1550-1561,C200910)OgawaCY,CMorikawaCS,COkanoCHCetal:MHC-compatibleCboneCmarrowCstromal/stemCcellsCtriggerC.brosisCbyCacti-vatingChostCTCcellsCinCaCsclerodermaCmouseCmodel.CElifeC5:e09394,C201611)HerretesS,RossDB,Du.ortSetal:RecruitmentofdonorTCcellsCtoCtheCeyesCduringCocularCGVHDCinCrecipientsCofCMHC-matchedCallogeneicChematopoieticCstemCcellCtrans-plants.InvestOphthalmolVisSciC56:2348-2357,C201512)OgawaY,ShimmuraS,KawakitaTetal:Epithelialmes-enchymalCtransitionCinChumanCocularCchronicCgraft-ver-sus-hostdisease.AmJPatholC175:2372-2381,C200913)OgawaY,HeH,MukaiSetal:Heavychain-hyaluronan/CpentraxinC3fromCamnioticCmembraneCsuppressesCi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BUT短縮タイプのドライアイ患者に対するムコスタ点眼液UD2%の有効性と安全性:実臨床下での解析結果

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1529.1535,2018cBUT短縮タイプのドライアイ患者に対するムコスタ点眼液UD2%の有効性と安全性:実臨床下での解析結果安田守良*1増成彰*1曽我綾華*1坪田一男*2大橋裕一*3木下茂*4*1大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3愛媛大学*4京都府立医科大学感覚器未来医療学CE.icacyandSafetyofRebamipideEyeDropsinPatientswithDryEyeSyndromeofShortBUTType.ResultsofRealWorldSettingsMoriyoshiYasuda1),AkiraMasunari1),AyakaSoga1),KazuoTsubota2),YuichiOhashi3)andShigeruKinoshita4)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.Ltd,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)EhimeUniversity,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC2016年に新しいドライアイ診断基準が公表されたことから,角結膜上皮障害のない涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮タイプのドライアイ患者に対するレバミピド点眼液の有効性と安全性を,実臨床下で実施した製造販売後調査を用いて検討した.登録患者からCBUT5秒以下の患者を選択し,さらに生体染色スコアにより分類したところ,角結膜上皮障害なしまたは軽度のドライアイ患者がC291名,明らかな角結膜上皮障害をもつ患者がC411名であった.これらC2群の患者についてレバミピド点眼液の有効性を比較したところ,点眼前の角結膜上皮障害の程度にかかわらず,BUTの改善,自覚症状の改善が認められた.さらにコンタクトレンズ装用患者,ドライアイの原因が眼手術であった患者のサブグループでもCBUT,自覚症状の改善が認められた.以上の結果より,BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度のドライアイ患者に対するレバミピド点眼液の実臨床下の有効性,安全性を確認した.CInresponsetopublicationofthenewDiagnosticCriteriaforDryEye,weinvestigatedthee.icacyandsafetyofrebamipideophthalmicsuspensioninpatientswithshortBUTandnoormildcorneal/conjunctivalepithelialdis-ordersusingtheresultsofpost-marketingsurveillanceconductedinJapan.AmongallenrolledpatientswithBUTof5secondsorless,411(44.9%)hadcorneal/conjunctivaldisorderand291Cdidnot.Thee.ectivenessofrebamip-ideregardingBUTanddryeyesymptomswerecomparablebetweenthetwogroups.Moreover,inasubgroupofpatientswithcontactlenses,dryeyecausedbyophthalmicsurgeryalsohadsigni.cantimprovementinBUTandtheseverityof.vesubjectivesymptoms.Theseresultsdemonstratedthee.icacyandsafetyinclinicalpracticeofrebamipideophthalmicsuspensionindryeyepatientswithnoormildcorneal/conjunctivaldisorders.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1529.1535,2018〕Keywords:ドライアイ,レバミピド,コンタクトレンズ,眼手術.dryeye,rebamipide,contactlens,ophthalmicsurgery.Cはじめにレバミピド点眼液(商品名:ムコスタ点眼液CUD2%,大塚製薬)はムチン産生促進作用をもつ薬剤で,ヒアルロン酸点眼液との比較試験でその有効性と安全性が証明され,2012年にドライアイに対する治療薬として発売された1).また,最近では抗炎症作用をもつことも報告されている2).さらに,筆者らは実臨床における有効性と安全性の結果をC916名の患者が参加した製造販売後調査の結果としてすでに公表してきた3).ドライアイの診断基準は,2006年に公表された「ドライ〔別刷請求先〕安田守良:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通C3-2-27大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:MoriyoshiYasuda,Ph.D.,OtsukaPharmaceuticalCo.Ltd.3-2-27,Otedori,Chuo-kuOsaka540-0021,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(81)C1529アイ診断基準」においては自覚症状,涙液異常,角結膜上皮障害の三つが併存していることとされていた4).レバミピド点眼液の第CIII相臨床試験はその診断基準を加味し,角膜上皮障害の指標として生体染色スコアC4以上(15点満点)を対象患者として実施し,その結果を用いてレバミピド点眼液は承認されている.しかし,2016年の「ドライアイ診断基準」の改訂により角結膜上皮障害は必須ではなくなり,涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮タイプのドライアイ患者も含むと定義された5).そこでレバミピド点眼液で治療を行った製造販売後調査結果を見直したところ,916例全例がなんらかの自覚症状を有しており,BUT5秒超の患者はわずかC36名(3.9%)であった.したがって,ほぼ全例が新しい「ドライアイ診断基準」に該当することが判明した.さらにCBUT5秒以下の患者群を明らかな角結膜上皮障害が認められる患者と,角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者に分類したところ,前者はC44.9%(411/916名),後者はC31.8%(291/916名)であった.角結膜上皮障害がないまたは軽度なドライアイ患者は第CIII相臨床試験では除外されていた患者群であったことから,これら患者に対するレバミピド点眼液の有効性と安全性を解析することにした.また,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用はドライアイのリスクファクターであることが知られている.レバミピド点眼液は防腐剤を含まない製剤であり,CL装用者にも広く使用されている.また,眼手術もドライアイのリスクファクターであるとされている.そこでCCL装用者とドライアイの原因が眼手術と報告されていた患者のサブグループ解析も実施したので報告する.CI対象および方法2016年に報告した製造販売後調査3)と同一のデータを新たに解析した.すなわち,合計C916名の製造販売後データを用いて,BUTがC5秒以下(2016年の診断基準によるドライアイ)とC5秒超または不明のC2群に分け,5秒以下の患者群をさらに生体染色スコアがC0,C1,2の患者群とC3以上の患者群のC2群に分け,患者背景を比較した.このときC3以上とした理由はC2006年の「ドライアイ診断基準」を参考にした.患者背景の比較には連続変数はCt検定,カテゴリー変数ではFisherの直接確率法を用いた.また,BUTの推移について投与開始からC52週までの平均値の推移を集計解析した.ドライアイの自覚症状としては調査したC5項目(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)それぞれについて(0:症状なし,1:弱い症状あり,2:中くらいの症状あり,3:強い症状あり,4:非常に強い症状あり)のC5段階で患者からの聞き取りにより評価した.これらのスコアの推移を生体染色スコア2以下の患者群とC3以上の患者群で投与開始からC52週までその平均値を集計した.なお,各自覚症状の解析では,投与開始時にスコアがC1以上である患者を解析対象とした.また,生体染色スコアC2以下の患者群からCCL装用者,ドライアイの原因が眼手術と報告されていた患者を抽出してサブグループとした.BUT,各自覚症状の投与開始時からの推移については,症例数が少ないことから最終観察時と比較して投与前後のスコアを比較した.上記すべての解析で,開始時と投与後の比較には対応のあるCt検定を行った.CII結果データを収集した全体C916名中CBUT5秒以下(2016年診断基準によるドライアイ)はC708名,5秒超または不明は208名であった.BUT5秒以下の患者群をさらに生体染色スコアで分類したところ,スコアC2以下はC291名(全体の31.8%),スコアC3以上はC411名(全体のC44.9%),であった(図1).C1.患.者.背.景BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者群と,BUT短縮かつ明らかな角結膜上皮障害をもつ患者について患者背景を比較した.その結果,角結膜上皮障害なしまたは軽度の患者群では,医師が判定した重症度において軽度の患者が多く(64%vs.24%,p<0.0001),BUTが長かった(2.9秒vs.2.7秒,p=0.0078).また,合併症としてはアレルギー性結膜炎の割合が高く(15.5%Cvs.8.3%,p=0.0035),Sjogren症候群の割合が低かった(1.7%vs.8.8%,p<0.0001)(表1).レバミピド点眼液投与前の自覚症状をもつ患者割合と自覚症状スコアの平均値では,染色スコアC2以下の患者群では,調査したC5項目の自覚症状すべてで症状のある割合が低かった(表2a).また,染色スコアC2以下の患者群では,異物感,乾燥感のスコアの平均値が低かった(表2b).C2.BUT・自覚症状の推移角結膜上皮障害の程度別にC2群に分類した患者群について,レバミピド点眼液投与後のCBUTの推移を示した(図2).角結膜障害なしまたは軽度な患者群で,開始時のCBUTはC3.0C±1.3秒であった.4週後にはC4.0C±2.1秒と有意な増加を示し(p<0.001),52週までのすべての観察時点で開始時と比べて有意な増加を示した.最終観察時点の平均値はC4.3C±2.2秒であった.角結膜障害が明らかな患者群(スコアC3以上)では,開始時C2.7C±1.3秒,4週後C3.9C±2.0秒と有意な改善を示し(p<0.001),52週までのすべての観察時点で開始時と比べて有意な増加を示した.最終観察時点の平均値はC4.5C±2.2秒であった.どちらの患者群でも開始時に比べてC4週後以降は有意な改善を示し,レバミピド点眼液の有効性が確認できた.患者ごとに投与前と最終評価時を比較すると,角結膜障害なしまたは軽度の患者群でCBUT改善C55%,変化なし34%,悪化C11%,角結膜障害が明らかな患者群でCBUT改善76%,変化なしC21%,悪化C3.7%であった.図3に角結膜上図1症例構成表1患者背景の比較全体Cn=916BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)(n=291)BUT短縮かつ角結膜上皮障害(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)(n=411)p値性別:女性の割合(%)C83.8C83.9C86.6C0.32861)年齢:平均値(年)C63±16C62±17C63±16C0.66412)重症度(医師判定)軽度(%)中等度(%)重症(%)C41C51C8C64C34C2C24C64C11<C0.0001***C1)BUT(秒)C3.0±1.6C2.9±1.3C2.7±1.3C0.0078**2)染色スコアの平均値C3.1±2.3C0.98±0.82C4.67±1.64<C0.0001***C2)ドライアイの原因環境因子(%)合併症(%)眼手術(%)コンタクトレンズ(%)薬剤(%)その他(%)C44.5C12.2C9.2C5.6C3.3C36.7C46.7C11.0C10.7C7.9C3.1C32.7C47.5C13.4C7.5C4.9C2.9C36.5C0.87821)C0.35541)C0.17701)C0.11091)C1.00001)C0.29741)合併症白内障(%)緑内障(%)アレルギー性結膜炎(%)結膜炎(%)Sjogren症候群(%)C17.4C12.0C11.6C5.8C5.8C15.8C8.3C15.5C7.9C1.7C16.3C10.2C8.3C6.8C8.8C0.91711)C0.43171)C0.0035**1)C0.65841)<C0.0001***C1)コンタクトレンズあり(%)C6.9C9.3C6.6C0.19611)前治療薬ヒアルロン酸(%)ジクアホソルCNa点眼(%)ステロイド(%)人工涙液(%)C12.4C13.2C4.7C1.3C11.7C16.2C4.8C1.4C13.9C13.1C3.9C1.2C0.42611)C0.27621)C0.57411)C1.00001)1)Fisherの正確検定,2)t検定.表2a投与前自覚症状の比較BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)p値異物感75.4%(C211/280名)89.4%(C361/404名)<C0.00011)乾燥感77.8%(C217/279名)90.6%(C366/404名)<C0.00011)羞明25.2%(69/274名)54.7%(C217/397名)<C0.00011)眼痛45.0%(C125/278名)60.8%(C245/403名)<C0.00011)霧視25.0%(69/276名)54.0%(C216/400名)<C0.00011)1)Fisherの正確検定.表2b投与前自覚症状のスコアの比較BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)p値異物感C1.78±0.86(C211名)C2.10±0.95(C361名)<C0.00012)乾燥感C1.91±0.91(C217名)C2.22±0.97(C366名)C0.00022)羞明C1.65±0.84(69名)C1.80±0.87(C217名)C0.21122)眼痛C1.70±0.90(C125名)C1.85±0.94(C245名)C0.13392)霧視C1.59±0.79(69名)C1.63±0.91(C216名)C0.74202)2)t検定.BUT5秒以下かつ染色スコア2以下BUT5秒以下かつ染色スコア3以上9.08.07.06.05.04.03.02.01.0BUT(秒)スコアC2以下Cn=291C146C93102C75C58C51C68C44C47C37C32C31C44249スコアC3以上Cn=411C176133138119C72C79C91C80C80C66C71C66C64325図2BUTの推移(染色スコア別)皮障害の程度別にC2群に分類した患者群について,レバミピ時と最終観察時点で比較した.24名でCBUTの投与前後の比ド点眼液投与後の自覚症状の平均値の推移を示した.すべて較が可能であった.BUTは開始時C2.9C±1.1秒からC4.0C±1.8の自覚症状について角結膜上皮障害の程度にかかわらず有意秒へ有意な改善が認められた(p<0.01).また,自覚症状C5な改善が認められた.項目について開始時と最終観察時のスコアを比較したとこC3.CL装用者の結果ろ,すべての自覚症状で開始時と比べて有意な改善が認めらBUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者C291れた(すべてp<0.01)(図4).名のうちCCL装用者C27名を抽出し,BUT,自覚症状を開始異物感乾燥感羞明染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上2.52.52.50.50.50.50.00.00.0スコアスコア2.02.02.0スコア1.51.51.51.01.01.0開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852眼痛霧視染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上2.52.50.50.50.00.02.02.0スコアスコア1.51.51.01.0開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852図3自覚症状の推移(生体染色スコア別)BUT(n=24)自覚症状■投与前■最終観察時■投与前■最終観察時6.03.53.05.02.54.0BUT(秒)2.0スコア3.01.52.01.01.00.50.00.010)=n(霧視16)=n(眼痛11)=n(羞明22)=n(21)乾燥感=(n異物感図4コンタクトレンズ装用者のBUTと自覚症状の投与前と最終観察時の比較4.眼手術既往患者の結果秒からC3.4C±1.6秒へ改善傾向が認められたが,統計学的有BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者C291意差はなかった(Cp=0.0761).自覚症状C5項目についても開名のうち眼手術がドライアイの原因であった患者C31名を抽始時と最終観察時のスコアを比較した結果,異物感,乾燥出し,BCUT,自覚症状を開始時と最終観察時点で比較した.感,眼痛は投与開始時に比べて有意な改善を示した(いずれ24名で投与前後のCBUTが比較可能であり,開始時C2.9C±1.4もp<0C.01).一方で,羞明,霧視ではスコアの改善傾向は4.02.05.02.5BUT(秒)3.01.52.01.01.00.50.00.0図5ドライアイの原因が眼手術であった患者のBUTと自覚症状の投与前と最終観察時の比較表3おもな副作用発現率副作用名BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)味覚異常9.6%(C28/291名)9.5%(C39/411名)霧視3.8%(C11/291名)2.9%(C12/411名)アレルギー性結膜炎0.7%(2/291名)0.7%(3/411名)眼脂0.7%(2/291名)0.0%(0/411名)眼痛0.7%(2/291名)0.7%(3/411名)眼そう痒症0.7%(2/291名)0.2%(1/411名)MedDRA/Jversion20.0で集計.認められたものの有意ではなかった(図5).C5.副作用表3にC0.5%以上報告された副作用を発現率順に示した.もっとも多く報告された副作用は本剤の物性である苦味に起因すると考えられる味覚異常であり,染色スコアC2以下の患者,3以上の患者でそれぞれC9.6%,9.5%であった.次に多く報告された事象は霧視であり,それぞれC3.8%,2.9%であった.なお,副作用の霧視はドライアイの症状としての霧視とは区別して評価した.これらの発現率は製造販売後調査データ全体(916名)の発現率,味覚異常C9.3%(85/916名),霧視C3.2%(29/916名)とほぼ同じであり,差異は認められなかった.CIII考察2016年に新しい「ドライアイ診断基準」が公表されたことから,レバミピド点眼液の製造販売後調査結果を再解析したところ,916例の全例がなんらかの自覚症状を有していた.そしてCBUT5秒超であった患者割合はわずかC3.9%であり,ほとんどの患者がCBUT5秒以下の患者であったと推測された.すなわち,このC916名ほぼ全員が,新しい「ドライアイ診断基準」ではドライアイと確定診断されると考えられる.レバミピド点眼液の承認申請に用いた第CIII相試験では,フルオレセイン染色スコアがC4以上(15点満点)の患者を対象としていた.そのため,角結膜上皮障害がないまたは染色スコアが低い患者に対するレバミピド点眼の有効性・安全性は確認されていなかった.今回,製造販売後調査データから,BUT短縮例のうち,角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者と明らかに角結膜上皮障害がある患者の患者背景,有効性を比較した.患者背景の比較から角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者では医師判定の重症度が低く,アレルギー性結膜炎の割合が高いという特徴が見いだされた.これは戸田らの報告と一致していた6).有効性の指標としてCBUTの改善を比較したところ,角結膜上皮障害の程度にかかわらずレバミピド点眼液の効果を確認することができた.同様にC5項目の自覚症状についても二つの患者群でともに改善を確認することができた.これらの結果から,レバミピド点眼液は角結膜上皮障害の程度にかかわらず有効性を示すと考えられた.サブグループとしてCCL装用患者の解析も実施した.レバミピド点眼液は防腐剤を含まないユニットドーズ点眼薬であり,防腐剤による眼表面上皮への細胞損傷の可能性が無視できる.今回,筆者らはCCL装用患者でCBUT,自覚症状の改善を確認することができた.CL装用者に対するレバミピド点眼液の有効性については人工涙液との比較でコントラスト感度,BUT,結膜上皮障害スコアが有意に改善することを浅野らが報告している7).今回は比較対象薬がない検討ではあるが,さまざまな治療薬が使用されている実臨床下で開始時と比較してレバミピド点眼液の有効性が示されたことには意義があると考えられる.また,サブグループとして眼手術がドライアイの原因である患者の解析を行ったところ,自覚症状のうち乾燥感,異物感,眼痛で投与後に有意な改善を示した.BUTおよび羞明,霧視という自覚症状では有意傾向を示すものの統計学的有意差が認められなかった.今後,手術の種類や時期などについて詳細に解析,検討する必要がある.なお,副作用の発現状況においても染色スコアC2以下の患者群と染色スコアC3以上の患者群で発現率に大きな違いは認められなかった.副作用のうち味覚異常(苦味)は本剤が鼻涙管を経由して鼻咽頭へ流れ込むこと,霧視は本剤が懸濁製剤であることに起因すると考えられるが,いずれも一過性の事象である.以上,実臨床データを用いた解析から,BUT短縮かつ角結膜上皮障害がなしまたは軽度なドライアイ患者に対しても,レバミピド点眼液の有効性と安全性が示されていることを確認した.謝辞:本報告にあたり,調査にご協力いただいた先生方に厚くお礼申し上げます.また,統計解析を実施していただきましたエイツーヘルスケア株式会社竹田眞様に感謝いたします.文献1)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:ArandomizedmulticenterCphaseC3studyCcomparing2%Crebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreat-mentofdryeye.OphthalmologyC120:1158-1165,C20132)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:Rebamipideincreas-esCbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmolC97:912-916,C20133)増成彰,安田守良,曽我綾華ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタ点眼液CUD2%)の有効性と安全性―製造販売後調査結果─,あたらしい眼科33:101-107,C20164)島崎潤;ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準,あたらしい眼科24:181-184,C20075)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか;ドライアイ研究会:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科34:309-313,C20176)TodaCI,CShimazakiCJ,CTsubotaK:DryCeyeCwithConlyCde-creasedCtearCbreak-upCtimeCisCsometimesCassociatedCwithCallergicconjunctivitis.OphthalmologyC102:302-309,C19957)浅野宏規,平岡孝浩,大鹿哲郎:コンタクトレンズ装用眼におけるレバミピド点眼の安全性と有効性.眼臨紀8:155-157,C2015C***

原発性Sjögren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):395.398,2018c原発性Sjogren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例上月直之小川葉子山根みお内野美樹西條裕美子坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CACaseofPrimarySjogren’sSyndromewithOcularCicatricialPemphigoid-likeCicatrizingConjunctivitisNaoyukiKozuki,YokoOgawa,MioYamane,MikiUchino,YumikoSaijoandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineSjogren症候群(SS)は涙腺・唾液腺のリンパ球浸潤を特徴としドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である.筆者らは,長期加療をしているCSSに眼類天疱瘡(OCP)様の高度な結膜線維化を併発しているまれなC1例を経験したので報告する.症例はC81歳,女性.49歳時に原発性CSSの診断を受けた.診断時より甲状腺機能低下症を認めた.55歳当科受診時,SSに特徴的な角膜所見に加え,瞼球癒着,眼瞼結膜線維化,広範囲な睫毛乱生症を認め,繰り返し睫毛抜去術を必要とした.レーザー共焦点顕微鏡像は角膜上皮下神経の吻合,枝分かれの異常形態を認め,SSとCOCPに認められる所見を呈していた.SS症例に結膜線維化が合併することはまれであり,本症例は慢性甲状腺炎による異常な免疫応答を契機として,OCP様の高度な結膜線維化所見を併発した可能性が考えられた.Sjogren’ssyndrome(SS)ischaracterizedbydryeyeanddrymouthwithlymphocyticin.ltrationintolacrimalglandsCandCsalivaryCglands.CCicatricialCchangesConCtheCocularCsurfaceCrarelyCoccurCinCSSCpatients.CWeCreportCtheCrarecaseofan81-year-oldfemaleSSpatientwithcicatricialchangesontheocularsurface.Shehadsu.eredfromchronicthyroiditisatthediagnosisofSSin1985.Clinical.ndingsoftheocularsurfaceandteardynamicsrevealeddryeyediseaseaccompaniedbysymblepharon,severetarsalconjunctival.brosisandextensivetrichiasisinbotheyes.InvivoCconfocalimagesrevealedabnormalanastomosisofnervevessels,tortuosity,branchesandanincreaseinthenumberofsubbasalin.ammatorycellsinthecornea,similartoocularcicatricialpemphigoidandSSimages.Conclusion:OurcasesuggestedthatpatientswithSSaccompaniedbyautoimmunethyroiditismaydevelopseveredryeyediseasewithcicatrizingconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):395.398,C2018〕Keywords:シェーグレン症候群,眼類天疱瘡,ドライアイ,慢性甲状腺炎,結膜線維化.Sjogren’ssyndrome,oc-ularcicatricialpemphigoid,dryeyedisease,chronicthyroiditis,cicatrizingconjunctivitis.CはじめにSjogren症候群(SjogrenC’sCsyndrome:SS)は,涙腺と唾液腺にリンパ球浸潤が生じ,ドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である1).好発年齢は中高年であり,男女比はC1:17と女性に圧倒的に多い2).SSの病態には多因子が関与すると考えられ,これまでに遺伝的素因,Epstein-Barr(EB)ウイルスなどの微生物感染,環境要因,免疫異常による組織障害の原因が考えられている3).全身的に他の膠原病の合併症のない原発性CSSと,全身性エリテマトーデス,強皮症,関節リウマチなどを合併する二次性CSSに分類される.原発性CSSは涙腺唾液腺内に病変がとどまる腺症状と,それ以外の臓器に病変が認められる腺外症状がある.典型的なCSSでは通常,高度な結膜線維化はきたさない点で他の重症ドライアイの亜型である眼類天疱瘡(ocularcica-tricialCpemphigoid:OCP),Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病と臨床像の違いがある4).OCPは中高年に好発する粘膜上皮基底膜に対する自己抗体による慢性炎症性眼疾患である.眼表面の線維化が慢性的に進行することにより,瞼球癒着,結膜.短縮などをきたし〔別刷請求先〕上月直之:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:NaoyukiKozuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN重症ドライアイをきたす.角膜輪部疲弊により角膜への結膜侵入と結膜杯細胞の減少または消失を認める.手術や感染の際に急性増悪することもある5).今回,筆者らは,SSによる重症ドライアイ症例の眼表面にCOCP様の結膜線維化所見を呈したまれなC1例を経験したので報告する.CI症例症例はC81歳,女性.1985年C49歳時に原発性CSSを発症した.既往歴として高血圧,骨粗鬆症,慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症を認めた.当科初診よりC1年前には手,胸部,首周囲の皮膚に湿疹が出現したことがあるが内服はしていなかった.SSによるドライアイ,ドライマウスに対し当科と内科にて通院,加療を行うためC1989年に当科受診となった.初診時眼所見はCSchirmer値C5Cmm/5Cmin,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点,フルオレセイン染色スコアC9点中C3点,左眼に糸状角膜炎を認めた.SSによるドライアイにはまれな結膜線維化,瞼球癒着,広範囲な睫毛乱生症を認め,OCPに類似した所見を認めた(図1).口唇生検C1Cfocus/C4Cmm2であり,耳下腺腫脹を認めた.経過観察中の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中C7点からC9点,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点からC8点,涙液層破壊時間(tear.lmbreakuptime:TFBUT)8秒からC2秒に悪化を認め,ドライアイに進行性の悪化を認めた.1991年C7月に反射性涙液分泌,基礎的涙液分泌ともにC0Cmmとなり眼表面障害の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中8点,ローズベンガル染色スコアC9点中C9点,涙液動態の所見は,BUTC2秒,反射性涙液分泌C0Cmmとなり重症化を認めた.2017年C6月自覚症状のCocularCsurfaceCdiseaseCindex(OSDI)はC40.9ポイント,IgGは常にC1,500以上と高値を推移して現在に至っている.SS重症度について,ヨーロッパリウマチ学会の疾患活動性基準であるCEULARCSjogrenC’sSyndromeDiseaseActivitiyIndex(ESSDAI)はC5点以上で活動性が高いとする.本症例はリンパ節腫脹,腺症状,関節症状,生物学的所見よりCESSDAIはC9点であった.採血結果として補体CC3はC84Cmg/dl,補体CC4はC17Cmg/dlで正常範囲内,抗CANA抗体C640倍,リウマチ因子C23CIU/ml,抗SSA抗体C1,200CU/ml,抗CSSB抗体C100CU/mlと高値,IgGはC1,700Cmg/dlを超えることもあり高値を示した.IgGサブクラスのCIgG4はC41Cmg/dlと正常範囲内であった.抗セントロメア抗体はC13であった.甲状腺機能低下症に対し,レ図1結膜線維化を伴う原発性Sjogren症候群によるドライアイ症例の眼瞼所見a,b:眼瞼内反症による粘膜皮膚移行部の前方移動.結膜.短縮(Ca:★).マイボーム腺開口部の位置異常(b:△).Marxlineの著明な前方移動.Cc,d:上眼瞼結膜の線維化(Cc:.).下眼瞼の瞼球癒着(Cd).Cabc図2本症例のレーザー共焦点顕微鏡角膜所見(原発性Sjogren症候群と慢性甲状腺炎の罹病期間32年)Ca,b:側副路吻合形成(Ca:☆)角膜神経の異常走行,枝分かれ(Cb:△)を認める.Cc:ごく少数のリンパ球(Cc:.)および樹状細胞様細胞(Cc:▲)を認める.Cボチロキシンナトリウムを内服中であり,遊離CT3はC3.0Cpg/ml,遊離CT4はC1.5Cng/dl,甲状腺刺激ホルモンC2.61CμIU/mlと正常範囲内であった.これまでに報告されているCSSおよびCOCPの角膜所見と類似するか否かを確認するため,生体共焦点レーザー顕微鏡検査(inCvivoCconfocalCmicroscopyCassessment:IVCM)を行った(倫理委員会承認番号C20130013).両眼ともに,角膜神経の走行異常,神経分岐の異常,側副路の形成とごく少数の炎症細胞と樹状細胞の角膜内浸潤を認めた(図2).IVCM施行時,フルオレセイン染色スコアC2点,リサミングリーン染色スコアC0点,BUT2秒,マイボーム腺スコアC63点,軽度の充血を認め,Schirmer値C3Cmmであった.投与点眼薬はラタノプロスト点眼(1回/日両眼)およびC0.1%ヒアルロン酸点眼(5回/日両眼)であるが,視野に異常がなくラタノプロスト投与は中止となった.CII考按一般的にCOCP症例では抗CSSA抗体,抗CSSB抗体は陰性であるが,本症例は抗CSSA抗体陽性,抗CSSB抗体陽性,リウマチ因子陰性,抗CANA抗体C640倍であり,眼所見CSchirm-er値,フルオレセイン染色像とあわせて,1999年厚生省改訂CSSの診断基準によりCSSの確定診断に至っている2).OCPの結膜瘢痕化は手術や感染症を契機として急性憎悪することがあるとされる.本症例はCSSの診断後,当院へ受診するC1年前に,内服とは関係なく手,胸部,首の皮膚に湿疹が出現したことがある.本症例は慢性甲状腺炎が基礎疾患にあり,甲状腺機能低下症が存在した.結膜線維化の原因として,湿疹の原因となった何らかの感染症,または慢性甲状腺炎としての甲状腺機能低下による免疫応答異常の要因が重なり,OCP類似の結膜線維化に至った可能性がある.甲状腺機能低下と他の臓器の線維化に関する報告では,肝臓の線維化との関連が示唆されている7).また,甲状腺機能低下症を伴う場合,特発性肺線維症を合併する頻度が高いことが報告され,甲状腺機能低下が肺線維症の予後予測因子とされている8).甲状腺機能低下と臓器線維化に関連性が示唆され,本症例の結膜線維化,高度な瞼球癒着と広範囲な睫毛乱生症に至った可能性がある.本症例はC2016年より緑内障初期の疑いがあり,一時,ラタノプロスト点眼薬を使用していたが,諸検査後,緑内障は否定的で点眼を中止していること,結膜線維化は診断当時から存在していたことから,緑内障点眼薬による偽類天疱瘡は否定的である.肺癌に対する放射線治療に関しても,治療以前にCOCP様の所見が出現していたことから,放射線治療は原因として否定的である.近年,新しい疾患概念としてCIgG4関連疾患が報告されているが,その一亜型として甲状腺機能低下症が注目されている.甲状腺CIgG4関連疾患には高度の炎症と特徴的な線維化が生じることが報告されている9).本症例では最近の血清IgG値が高値であるが,IgG4値は正常であり,IgG4関連疾患は否定的と思われる.本症例の角膜,輪部のCIVCMについて検討した.SSでは発症初期より角膜の神経に変化を認め,SSの診断として有用であることが報告されている.OCPのCIVCMについては,Longらにより角膜実質細胞の活性化と樹状細胞の浸潤が報告されている10).また,小澤らは,OCP患者の角膜神経およびその周辺領域の所見についてC2症例の報告をし,IVCM角膜神経所見では走行異常と神経周囲への樹状様細胞浸潤を認め,慢性炎症により神経形態に変化をきたすこと,神経周囲にも炎症があることを報告している11).本症例においても角膜神経の走行異常と神経細胞数の増加,および異常な神経の吻合を多数認め,IVCM像からもCSSとCOCPに報告されている特徴的所見を併せもっていた.結膜瘢痕化の所見はCOCPに類似しているが,確定診断には結膜生検を行い,基底膜への免疫グロブリンの沈着を確認する必要がある.本症例においては,SSと慢性甲状腺炎の併発がCOCP様の高度な結膜線維化所見の原因の一つとして考えられる.本症例では,SSと慢性甲状腺炎が併発したことにより,背景にある自己免疫疾患としての異常な免疫応答の修復機構が働き,OCPに認められるような免疫性線維化をきたしたことが考えられた.SS症例の診療に際し,病像は長期にわたるため重症化に常に注意を払うこと,また他の疾患を併発することにより典型像と異なる所見を呈する場合があることを念頭におく必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SarauxA,PersJO,Devauchelle-PensecV:TreatmentofprimarySjogrensyndrome.NatRevRheumatolC12:456-471,C20162)TsuboiCH,CHagiwaraCS,CAsashimaCHCetCal:ComparisonCofCperformanceofthe2016ACR-EULARclassi.cationcrite-riaforprimarySjogren’ssyndromewithothersetsofcri-teriaCinCJapaneseCpatients.CAnnCRheumCDisC76:1980-1985,C20173)FoxRI:Sjogren’ssyndrome.LancetC366:321-331,C20054)BronAJ,dePaivaCS,ChauhanSKetal:TFOSDEWSIIpathophysiologyreport.OculSurfC15:438-510,C20175)AhmedCM,CZeinCG,CKhawajaCFCetCal:OcularCcicatricialpemphigoid:pathogenesis,CdiagnosisCandCtreatment.CProgCRetinEyeResC23:579-592,C20046)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:Meibomianglanddys-functioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmolo-gyC105:1485-1488,C19987)KimD,KimW,JooSKetal:Subclinicalhypothyroidismandlow-normalthyroidfunctionareassociatedwithnon-alcoholicCsteatohepatitisCandC.brosis.CClinCGastroenterolCHepatolC16:123-131,C20188)OldhamCJM,CKumarCD,CLeeCCCetCal:ThyroidCdiseaseCisCprevalentandpredictssurvivalinpatientswithidiopathicpulmonary.brosis.ChestC148:692-700,C20159)RaessCPW,CHabashiCA,CElCRassiCetCal:OverlappingCMor-phologicandImmunohistochemicalFeaturesofHashimotoThyroiditisCandCIgG4-RelatedCThyroidCDisease.CEndocrCPatholC26:170-177,C201510)LongCQ,CZuoCYG,CYangCXCetCal:ClinicalCfeaturesCandCinvivoCconfocalCmicroscopyCassessmentCinC12CpatientsCwithCocularCcicatricialCpemphigoid.CIntCJCOphthalmolC9:730-737,C201611)小澤信博,小川葉子,西條裕美子ほか:眼類天疱瘡C2症例における角膜神経の病的変化生体レーザー共焦点顕微鏡による観察.あたらしい眼科C34:560-562,C2017***

Sjögren症候群の涙腺における免疫グロブリンの特徴的局在を示した1例

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):575.579,2017cSjogren症候群の涙腺における免疫グロブリンの特徴的局在を示した1例園部秀樹*1小川葉子*1向井慎*1山根みお*1亀山香織*2坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2慶應義塾大学医学部病理診断部ACaseofCharacteristicImmunoglobulinLocalizationintheLacrimalGlandinSjogren’sSyndromeHidekiSonobe1),YokoOgawa1),ShinMukai1),MioYamane1),KaoriKameyama2)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DivisionofDiagnosticPathology,KeioUniversityHospital目的:Sjogren症候群は涙腺・唾液腺のリンパ球浸潤を特徴としドライアイ,ドライマウスをきたす多様な自己抗体の出現が知られている自己免疫疾患である.筆者らは,Sjogren症候群の涙腺小葉および導管周囲に過剰な免疫グロブリンの蓄積を示した1例を経験したので報告する.症例:症例は51歳,女性.41歳時より重症ドライアイを認めた.Sjogren症候群の治療方針の決定のため涙腺生検を施行した残余検体についての病理組織,免疫組織学的検討にて,涙腺にはB細胞および過剰な活性化形質細胞と抗体の間質への蓄積が認められた.結論:罹病歴の長いSjogren症候群による重症ドライアイ症例の涙腺局所では,過剰な抗体産生と蓄積がドライアイに関与していることが示唆された.Purpose:Sjogren’ssyndrome(SS)ischaracterizedbylymphocyticin.ltrationintolacrimalandsalivaryglands,leadingtodryeyeanddrymouth.PeripheralbloodinSSpatientsisreportedtocontainawiderangeofautoantibodies.Weexamineda51-year-oldfemalewhowasalong-termsu.ererofsevereSSdryeye,andhadaGreenspanscoreof4.Ourpathologicalandimmunohistochemicalinvestigationintolacrimalglandsrevealed(1)in.ltrationofalargenumberofBcellsandplasmacellsand(2)excessiveaccumulationofantibodies.Conclusion:Ourcasesuggeststhatinpatientswithalong-standinghistoryofSS,antibodiesareproducedand/oraccumulatedlocallyandabnormallyinlacrimalglands,andmayberelatedtodryeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):575.579,2017〕Keywords:Sjogren症候群,涙腺,ドライアイ,自己抗体,抗体産生.Sjogren’ssyndrome,lacrimalgland,dryeye,auto-antibodies,antibodyproduction.はじめにSjogren症候群は,涙腺と唾液腺にリンパ球浸潤が生じ,ドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である1).好発年齢は中高年であり,男女比は1:14と女性に圧倒的に多い.Sjogren症候群の病態には多因子が関与すると考えられ,これまでに遺伝的素因2),EBウイルスなどの微生物感染3),環境要因,免疫異常による組織障害の原因が考えられている.さらにこれまでにSSA,SSB,a-フォドリン,b-フォドリンなどの自己抗原が同定されている.全身的に他の膠原病の合併症のない原発性Sjogren症候群と,全身性エリテマトーデス,強皮症,関節リウマチなどを合併する二次性Sjogren症候群に分類される.今回,筆者らは,診断のための涙腺生検組織において,Sjogren症候群の涙腺小葉および導管周囲に過剰な免疫グロブリンの特徴的な蓄積を示した1例を経験したので報告する.I症例症例は51歳,女性.原発性Sjogren症候群によるドライ〔別刷請求先〕園部秀樹:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HidekiSonobe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANアイ,ドライマウスに対して前医でマイティアとヒアレインのみで治療していたが,症状増悪し,当科紹介受診となった.初診時,自覚症状として眼乾燥感が高度であり,眼表面障害の所見はフルオレセイン染色スコア9点満点中9点,ローズベンガル染色スコア9点満点中7点(それぞれ両眼の平均値),涙液動態の所見は,涙液層破壊時間(BUT)2秒,Schirmer試験0mm(それぞれ両眼の平均値)であった.左涙腺生検前後の所見はフルオレセイン9点満点中7点から9点満点中6.5点,ローズベンガル9点満点中6点から9点満点中2.5点,BUT2秒から2秒であり,ドライアイに悪化は認められなかった.Sjogren症候群の診断と治療方針決定のために得られた組織について残余部分を使用し,透過型電子顕微鏡による超微形態を含めた病理組織学的検討と免疫染色を施行した(倫理表1本研究で用いた抗体抗体クローン名会社名陽性細胞CD452B11+PD7/26DAKO汎白血球細胞CD20L26DAKOB細胞Vs38cVs38cDAKO形質細胞IgAPolyDAKO免疫グロブリンIgMPolyDAKO免疫グロブリンl鎖N10/2DAKO遊離軽鎖k鎖PolyDAKO遊離軽鎖CD45ROUCHL-1DAKOメモリーT細胞CD41F6ニチレイヘルパーT細胞CD8C8/144Bニチレイ細胞障害性T細胞※IgA,IgM,k鎖:ポリクローナル抗体.a:HEb:白血球(CD45)576あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017委員会承認番号20090277).ヘマトキシリン・エオジン染色所見に加えてCD45,CD4,CD8,CD20,IgG,IgA,IgM,l鎖,k鎖について連続切片を用いて免疫組織学的に検討した(表1).免疫染色の方法は,脱パラフィン,エタノール系列で脱水後,2%過酸化水素で室温にて,内因性パーオキシダーゼを除去した.その後リン酸緩衝液生理食塩水(phosphatebu.eredsaline:PBS)で洗浄後,一次抗体をオーバーナイト4℃反応させ洗浄後,PBSで洗浄後二次抗体を45分反応させた(EnVision1;Dakopatts,Glostrup,Denmark).一次抗体は3,3’ジアミノベンチジン4塩酸塩(3,3’-diaminobenzi-dinetetrahydrochlorideDAB)にて発色反応を行った.核染色はヘマトキシリンを用いて1秒間行った.すべての反応は湿潤箱内で行った.CD45RO,CD20膜抗原(表1)の抗原賦活化は電子レンジを用いて10分間施行した.電子顕微鏡用検体は2.5%グルタールアルデヒドにて固定後,4酸化オスミウムで後固定しエタノール系列で脱水後,エポン包埋を行った.超薄切片を作製後,クエン酸鉛と酢酸ウラニルを用いて二重染色を行い,透過型電子顕微鏡(model1200EXII;JEOL,Tokyo,Japan)で観察した.涙腺組織のヘマトキシリン・エオジン染色所見では涙腺小葉内間質と主導管周囲に同心円状の線維化と著しいリンパ球,および形質細胞を中心として慢性炎症性細胞浸潤を認めた(図1a左).導管周囲に50個以上の単核球浸潤を認める病巣を1フォーカスとするGreenspan分類4)で3フォーカス以上を認め,グレード4に相当する最重症の所見を認めた(図1a右).主導管周囲にも同心円状の線維化と形質細胞を中心とした慢性炎症性細胞浸潤を認めた(図1a右).涙腺腺図1Sjogren症候群涙腺組織における炎症性細胞の局在涙腺組織の小葉(左)および涙腺中等度の導管周囲の連続切片(右).上段はヘマトキシリン・エオジン染色,下段は汎白血球マーカーCD45.茶色に発色している細胞は3,3’ジアミノベンチジン4塩酸塩(DAB)染色陽性細胞を示す.*:炎症性細胞浸潤部位,.:小葉内腺房,D:導管,Scalebar=100μm.a:B細胞系列b:lgAc:lgMd:l鎖e:k鎖図2Sjogren症候群涙腺組織における各B細胞系列細胞の局在(免疫染色組織像と電子顕微鏡所見)a:B細胞系列(B細胞,形質細胞,形質細胞の電子顕微鏡所見a.右電子顕微鏡所見Scalebar=2μmD:導管,.:粗面小胞体,Aci:腺房,Scalebar=100μm.b.e:涙腺組織の小葉および導管周囲の連続切片(図1と同一部位の連続切片)に加えてリンパ濾胞.形質細胞から分泌されるIgA,IgM,形質細胞から産生される抗体のl鎖,k鎖.茶色に発色している細胞は3,3’ジアミノベンチジン4塩酸塩)..(DAB)染色陽性細胞を示す.房の萎縮や脱落が認められた(図1a).図1aのそれぞれの部位の連続切片における免疫組織像では,小葉内(図1b左)と導管周囲(図1b右)にCD45陽性細胞の浸潤を認め,その連続切片における小葉内(左列,右列)および導管周囲(中央列)にきわめて高度なB細胞(図2a左),および形質細胞浸潤(図2a中央)を認め,同一症例の涙腺組織における透過型電子顕微鏡像では車軸状の核をもつ形質細胞に粗面小胞体が著明に発達していた(図2a右電子顕微鏡像).同一部位の連続切片における形質細胞から産生されるIgA(図2b),IgG,IgM(図2c),および形質細胞から産生される抗体のl鎖(図2d),k鎖(図2e)の高度な陽性染色像を認めた.CD45陽性細胞(図1b)の涙腺における分布を調べると,T細胞系列(図3a~c)には陽性像が乏しいのに対して,B細胞系列(図2a~e)には高度の炎症性細胞浸潤を認めた.B細胞系列分子の陽性像はCD45陽性細胞の分布にほぼ一致していた(図1b左,図2a,b,c,e左).II考按Sjogren症候群の涙腺病態にはT細胞が主要な役割をはたすという報告と,B細胞が主体とされる報告がありさまざまである.病態初期にはT細胞が関与し5),遷延化した症例にはB細胞が関与すると報告されている6,7).本症例は罹病歴が長く,臨床像はSjogren症候群に特徴的な重症ドライアイを呈し,病理像は汎白血球マーカーであるCD45陽性細胞(図1b)に対して,B細胞系列陽性細胞(CD20,Vs38c)(図2a~e)とT細胞系列陽性細胞(CD45RO,CD4,)を比較すると,B細胞系列陽性細胞の染色c~3a図)(8DC像ときわめて類似していることから,本症例の涙腺に浸潤すa:メモリーT細胞(CD45RO)b:ヘルパーT細胞(CD4)c:細胞障害性T細胞(CD8)図3Sjogren症候群涙腺組織におけるT細胞系列細胞の局在(免疫染色組織像)涙腺組織の小葉(左)および導管周囲(右)の連続切片(図1,2と同一部位の連続切片).メモリーT細胞,ヘルパーT細胞,細胞障害性T細胞の所見を示す.茶色に発色している細胞は3,3’ジアミノベンチジン4塩酸塩(DAB)染色陽性細胞を示す.Scalebar=100μm.る炎症細胞はB細胞および形質細胞が主体であることが判明した(図2).本症例の免疫染色所見および電子顕微鏡所見より,成熟形質細胞が過剰に集積しており,小胞体が著明に拡張していることから,涙腺局所において多量の抗体が産生されていると考えられた.これらの所見は,導管周囲に比して小葉内に著明に確認された.このことから,T細胞と相互作用によりB細胞が活性化し形質細胞へと成熟し,過剰な抗体産生がなされたと推察できる.また,間質での形質細胞の著明な増加には,細胞が適切にアポトーシスに陥ることができないアポトーシスの異常が関与している可能性も考えられた.末梢血血清では抗SSA抗体,抗SSB抗体,抗アセチルコリン作動性M3ムスカリン受容体抗体などが報告されている8).涙腺間質においてB細胞から形質細胞浸潤が優位であることは,最近の抗CD20抗体による生物学製剤投与によってSjogren症候群の改善が認められる報告があることからも裏付けられる9).今後,他疾患涙腺との対比が必要であり,1例のみの所見であるが本症例に認められた所見は,Sjogren症候群による涙腺局所での過剰な抗体産生と異常な抗体による組織障害が推察される.本所見は,Sjogren症候群のドライアイにおける病態の一部を示唆する所見であると考えられた.このような涙腺局所の障害により,涙液中に分泌される分泌型IgAやラクトフェリン,リゾチームなどの蛋白にも量的な異常だけでなく,質的な異常も生じている可能性も考えられた.今後の検討課題としたい.文献1)MoutsopoulosHM:Sjogren’ssyndrome:autoimmuneepithelitis.ClinImmunolImmunopathol72:162-165,19942)KangHI,FeiHM,SaioIetal:ComparisonofHLAclassIIgenesinCaucasoid,Chinese,andJapanesepatientswithprimarySjogren’ssyndrome.JImmunol150:3615-3623,19933)FoxRI,PearsonG,VaughanJH.:DetectionofEpstein-Barrvirus-associatedantigensandDNAinsalivaryglandbiopsiesfrompatientswithSjogren’ssyndrome.JImmu-nol137:3162-3168,19864)GreenspanJS,DanielsTE,TalalNetal:Thehistopathol-ogyofSjogren’ssyndromeinlabialsalivaryglandbiop-sies.OralSurgOralMedOralPathol37:217-229,19745)SinghN,CohenPL:TheTcellinSjogren’ssyndrome:forcemajeure,notspectateur.JAutoimmun39:229-233,20126)SerorR,RavaudP,BowmanSJetal:EULARSjogren’syndromediseaseactivityindex:developmentofconsen-ssussystemicdiseaseactivityindexforprimarySjogren’s8)坪井洋人,浅島弘充,住田孝之ほか:シェーグレン症候群:syndrome.AnnRheumDis69:1103-1109,2010抗M3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体抗体.分子7)GottenbergJE,CinquettiG,LarrocheCetal:E.cacyofリウマチ治療6:41-44,2013rituximabinsystemicmanifestationsofprimarySjogren’s9)坪井洋人,浅島弘充,高橋広行ほか:シェーグレン症候群:syndrome:resulsin78patientsoftheAutoImmuneandRA以外の膠原病に対する生物学的製剤治療の可能性:炎Rituximabregistry.AnnRheumDis72:1026-1031,2013症と免疫23:159-169,2015***

ドライアイ症例に対する白内障周術期におけるムコスタ®点眼液UD2%の効果

2016年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科33(9):1363?1368,2016cドライアイ症例に対する白内障周術期におけるムコスタR点眼液UD2%の効果井上康*1越智進太郎*1高静花*2*1井上眼科*2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室Effectsof2%RebamipideOphthalmicSuspensiononPerioperativePeriodofCataractSurgeryinDryEyePatientsYasushiInoue1),ShintaroOchi1)andShizukaKoh2)1)InoueEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:ドライアイ(DE)症例に対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%:大塚製薬,以下レバミピド)の白内障周術期における投与の有効性を評価した.方法:2014年12月17日?2015年6月17日に両眼の白内障手術目的で井上眼科を受診した症例のうち,2006年DE診断基準においてDE確定およびDE疑いと診断され,術後8週まで経過観察できた男性4名8眼,女性26名52眼,計30名60眼(72.1±7.3歳)を対象とした.術前4週の時点で無作為に片眼にレバミピド(REBA群),他眼にソフトサンティア(AT群)を割り付け,1日4回の点眼を開始した.点眼は術後8週まで継続し,DE自覚症状評価,SchirmertestI法,BUT,角結膜フルオレセイン染色スコア,光干渉断層計によるTMH,角膜高次収差の連続測定の結果を比較した.結果:REBA群ではAT群に比べ,角結膜フルオレセイン染色スコアが術前2週および術後4?8週にかけて有意に減少し,BUTは術前2週以降延長していた.角膜高次収差の連続測定の結果から算出したFluctuationIndexおよびStabilityIndexはそれぞれ術前2週から術後6週まで,手術当日から術後6週までの間REBA群ではAT群に比べ有意に低下していた(p<0.05).結論:DE症例に対する白内障周術期におけるレバミピドの投与により早期の涙液層の安定化が得られた.Purpose:Toevaluatetheeffectsof2%Rebamipideophthalmicsuspension(rebamipide)ontheperioperativeperiodofcataractsurgeryindryeyepatients.Method:Enrolledwere60eyesof30dryeyepatientswhohadundergonecataractsurgeryinbotheyesbetweenDecember17,2014andJune17,2015andbeenfollowedupfor8weeks(8w)aftersurgery.Artificialtearswererandomlyappliedtooneeye(ATgroup)and2%rebamipideophthalmicsuspensiontothefelloweye(REBAgroup)at4weeksbeforecataractsurgery(?4W).Eachgroupwasinstructedtostarttheophthalmicsuspensions4timesadayfrom?4wto8w.Subjectivesymptomassessment,SchirmertestI,tearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceinstainingscore,tearmeniscusheightobtainedbyopticalcoherencetomographyandserialcornealhigh-orderaberration(HOAs)wereexaminedat?4w,?2w,dayofsurgery(0w),2w,4w,6wand8w.Twoquantitativeindices,thefluctuationindex(FI)andthestabilityindex(SI)oftotalHOAs,wereusedtoindicatesequentialchangeinHOAsovertime.Result:BUTat?2w,0w,2w,4w,6wand8wwereextended,fluoresceinstainingscoreat?2w,4w,6wand8wweredecreased,FIat?2w,0w,2w,4wand6wweredecreasedandSIat0w,2w,4wand6wweredecreasedsignificantlyintheREBAgroup,comparedwiththeATgroup(p<0.05).Conclusion:Rebamipidewaseffectiveduringtheperioperativeperiodofcataractsurgeryindryeyepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(9):1363?1368,2016〕Keywords:レバミピド懸濁点眼液,白内障手術,ドライアイ.rebamipideophthalmicsuspension,cataractsurgery,dryeye.〔別刷請求先〕井上康:〒706-0011岡山県玉野市宇野1-14-31井上眼科Reprintrequests:YasushiInoueM.D.,InoueEyeClinic,1-14-31Uno,TamanoCity,Okayama706-0011,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(121)1363はじめに近年,白内障手術は小切開化などさまざまな改良により術後早期から良好な視力が得られるようになるとともに,トーリック眼内レンズなどの導入により屈折矯正手術としての完成度も高まってきている.しかし,手術中の強制開瞼,眼内灌流液の滴下,顕微鏡光,局所麻酔および消毒液などによる角結膜,涙液層への障害は,角膜知覚低下,眼表面のムチン,ゴブレット細胞の減少を通して角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の短縮を引き起こす術後ドライアイとして報告されている1?3).臨床現場において術後経過が良好であるにもかかわらず,異物感,乾燥感や霧視を訴える症例を経験することは少なくない.現在国内のドライアイ症例数は800?2,000万人と考えられており,白内障手術において良好な結果を得るためには術前にドライアイの診断を適確に行うこと,ドライアイと診断された場合には周術期のドライアイ治療を効率的に行うことが欠かせないと考えられる.ドライアイの治療薬であるレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%:大塚製薬,以下レバミピド)は角結膜ムチン産生促進,角結膜上皮障害改善,ゴブレット細胞数増加作用などを有することが報告されており4?8),白内障周術期におけるドライアイ治療薬としても有効である可能性がある.今回,白内障周術期のドライアイ症例に対してレバミピドを使用し,人工涙液使用眼との比較からレバミピドの有効性について検討を行った.I対象および方法本研究は眼科康誠会倫理審査委員会にて前向き無作為化比較試験として承認を受け,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則および「臨床研究に関する倫理指針(平成20年7月改正,厚生労働省告示)」を遵守して実施された.対象は2014年12月17日?2015年6月17日まで間の井上眼科における両眼白内障手術予定症例の内,第1眼の手術より4週前(?4w)の時点で,2006年ドライアイ診断基準9)におけるドライアイ確定およびドライアイ疑いに該当し,文書による同意を得ることができた41名82眼(男性5名10眼,女性36名72眼,年齢72.5±8.1歳)である.除外基準はドライアイ,結膜弛緩症以外の前眼部疾患(眼瞼炎,兎眼,眼瞼痙攣および虹彩炎を含む),コンタクトレンズ装用,涙点プラグを挿入中もしくは本研究参加前3カ月以内の涙点プラグ装用,本研究開始前12カ月以内の眼科的手術歴とし,マーキングによる眼表面への影響を排除するためにトーリック眼内レンズ挿入予定眼も除外基準に含めた.対象症例には?4wの時点で無作為に割り付けられた片眼にレバミピドを(レバミピド群),他眼には人工涙液(ソフトサンティアR:参天製薬,AT群)を?4wから術後8週(8w)まで1回1滴,1日4回点眼した.臨床評価は?4w,?2w,手術当日の手術前(0週),術後2週(2w),術後4週(4w),術後6週(6w),術後8週(8w)に行った.評価項目はドライアイ自覚症状(異物感,眼痛,乾燥感,霧視,羞明,疲労,流涙)をVisualAnalogueScaleにて評価,BUT,角結膜フルオレセイン染色スコア(9点満点),SchirmertestI法,前眼部アダプタを装着した後眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography,RS-3000,NIDEK)による下方の涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH),波面センサー(Wave-FrontAnalyzer,KR-1W:TOPCON)による高次収差の10秒間連続撮影とした.波面センサーによる高次収差測定は白内障の影響を除外するため測定直径4mmの角膜高次収差を評価した.測定された10秒間の高次収差の変化からFluctuationIndex(FI),StabilityIndex(SI)を求めた10).今回の研究では,レバミピドは特徴的な白色懸濁性点眼液であるため二重盲検化は行えなかった.検者の主観を排除するためBUTの測定は左右の点眼薬を確認する前に行った.また,第三者機関による登録データの監査,モニタリングにより透明性を確保した.統計解析はJMPバージョン10.0.2(SASInstitute,Cary,NorthCarolina,USA)で行い,群間比較はpairedt-test,群内比較はKruskal-Wallis,多重比較はSteelを用い,有意水準p<0.05で検定した.白内障手術は全症例ともオキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシールR点眼液0.4%:参天製薬,以下ベノキシール)とリドカイン塩酸塩(キシロカインR点眼液4%:アストラゼネカ)による点眼麻酔下で施行し,第1眼手術の2週間後に第2眼の手術を施行した.切開創は2.2mm耳側強角膜とし,前例とも無縫合で終了した.眼内レンズは1例2眼にSN60WF(ALCON),29例58眼にZCB00V(AMO)を使用した.全症例とも術前3日前より術当日までガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液0.3%:千寿製薬)を,術後はレボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液1.5%:参天製薬)を術後4週まで1回1滴,1日4回使用した.ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液(ブロナックR点眼液0.1%:千寿製薬)は術翌日より術後8週まで1回1滴,1日2回併用した.II結果対象症例のうち,本人の希望により8例,コンプライアンス不良により2例,点眼による苦味のために1例が中止・脱落となったため,30名60眼(男性4名8眼,女性26名52眼,年齢72.1±7.3歳)について解析を行った.本研究中に苦味以外の有害事象は認めなかった.?4wの時点でのBUT,角結膜フルオレセイン染色スコア,SchirmertestI法,TMH,高次収差変化のパターン,1364あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(122)FI,SI,ドライアイ自覚症状はレバミピド群とAT群の間に有意差を認めなかった(表1).BUTは全症例で5秒以下,SchirmertestI法は5mm以上が60眼中56眼,10mm以上が60眼中30眼であった.白内障手術における術中合併症はなく,眼内レンズは全症例で?内に固定され,手術時間,術後矯正視力には両群間の有意差を認めなかった.レバミピド群ではAT群に比べ,BUTが?2wから8wまで有意に延長し,角結膜フルオレセイン染色スコアが?2wおよび4wから8wまで有意に減少していた(p<0.05).群内比較ではAT群はBUT,角結膜フルオレセイン染色スコアともにすべての時点において有意差はなかったが,レバミピド群では?4wと比較して,BUTは手術当日から8wにおいて延長し,角結膜フルオレセイン染色スコアは0w,4w,8wで有意な減少を認めた(p<0.05,図1).SchirmertestI法とTMHは両群間に有意差はなく,群内比較でも両群ともにすべての時点で有意差を認めなかった(図2).波面センサーによる角膜全高次収差の10秒間連続測定の経時変化を図3に示す.AT群では全経過を通してBUT短縮型の特徴である開瞼後徐々に高次収差が増加する「のこぎり型」を示していたのに対し,レバミピド群では?4wでは「のこぎり型」を示していたが,それ以外では高次収差の変化が少ない「安定型」を示していた10).レバミピド群ではAT群に比べ,FIは?2w,0w,2wから6wまで,SIは0wから6wまで有意に低下していた(p<0.05).群内比較では,AT群ではFI,SIともにすべての時点において有意差はなかったが,レバミピド群では?4wに比べFIが?2wで,SIは?2wから8wまで有意に低下していた(p<0.05,図4).ドライアイの自覚症状評価は?4wと各測定点でのスコアの差から行った.すべての測定点において両群間に有意差を認めなかったが,眼痛や乾燥感の項目ではレバミピド群がAT群より改善している傾向が認められた.(図5)III考察LASIK(laser-assistedinsitukeratomileusis)では広範囲にわたり角膜知覚神経が切断されるために角膜知覚が低下し,涙液の反射分泌が減少することによりドライアイを発症することが広く知られている11).また,術中術後に使用する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液の鎮痛作用も角膜知覚低下の原因となる可能性がある12).ただし,今回の結果ではAT群とレバミピド群ともに?4wから8wまでの間涙液の反射性分泌を反映するとされているSchirmertestI法,TMHには変化が認められず,涙液の反射分泌の減少を惹起するほどの角膜知覚の低下は生じていなかったと考えられる.NSAIDsなどに防腐剤として配合されているベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride)の細胞毒性による角結膜表面のmicrovilli(微絨毛,微ひだ)への障害はmicrovilli先端の膜結合型ムチンの減少につながる13).また,強制開瞼に伴う乾燥と頻回に行われる眼内灌流液の滴下によっても膜結合型ムチンおよび分泌型ムチンが減少すると考えられる14).レバミピドには前述のように角結膜ムチン産生促進,角結膜上皮障害改善,ゴブレット細胞数増加作用があり4?8),BUT延長および涙液層の安定による高次収差の改善が報告されている15).今回の検討においても,レバミピド群ではBUTの延長,角結膜フルオレセイン染色スコアの改善,高次収差変化パターンの「安定型」への移行,FIおよびSIの低下が?2wから認められ,白内障手術の施行前に涙液層の安定化が得られていたと考えられる.一方,AT群ではBUT,角結膜フルオレセイン染色スコア,高次収差変化のパターン,FI,SIには全経過を通じて有意な変化はなく,ドライアイの改善および増悪ともに認められなかった.今回対象となった症例の約半数はBUT短縮型ドライアイであり,涙液量が正常範囲に保たれていたこと,人工涙液や抗菌薬点眼による水分量の増加により増悪が生じなかったのではないかと考えられる.術後矯正視力については両群間に有意な差はなく,自覚症状評価においても同様に有意差は認められなかったが,レバミピドにより涙液層の安定化が得られることが確認できた.今後,実用視力16)などで時間軸を考慮した視力評価を行い,視機能に対する効果を検証する必要がある.本研究は大塚製薬株式会社から助成を受けて行われた.文献1)OhT,JungY,ChangDetal:Changesinthetearfilmandocularsurfaceaftercataractsurgery.JpnJOphthalmol56:113-118,20122)KasetsuwanN,SatitpitakulV,ChangulTetal:Incidenceandpatternofdryeyeaftercataractsurgery.PLoSOne8:e78657,20133)ChoYK,KimMS:Dryeyeaftercataractsurgeryandassociatedintraoperativeriskfactors.KoreanJOphthalmol23:65-73,20094)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20125)UrashimaH,TakejiY,OkamotoTetal:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20126)RiosJD,ShatosM,UrashimaHetal:OPC-12759increasesproliferationofculturedratconjunctivalgobletcells.Cornea25:573-581,20067)RiosJD,ShatosMA,UrashimaHetal:EffectofOPC-12759onEGFreceptoractivation,p44/p42MAPKactivity,andsecretioninconjunctivalgobletcells.ExpEyeRes86:629-636,20088)OhguchiT,KojimaT,IbrahimOMetal:Theeffectsof2%rebamipideophthalmicsolutiononthetearfunctionsandocularsurfaceofthesuperoxidedismutase-1(sod1)knockoutmice.InvestOphthalmolVisSci54:7793-7802,20139)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,200710)KohS,MaedaN,HiroharaYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginnormalsubjects.InvestOphthalmolVisSci47:3318-3324,200611)LiM,ZhaoJ,ShenYetal:ComparisonofdryeyeandcornealsensitivitybetweensmallincisionlenticuleextractionandfemtosecondLASIKformyopia.PLoSOne8:e77797,201312)DonnenfeldED,HollandEJ,StewartRHetal:Bromfenacophthalmicsolution0.09%(Xibrom)forpostoperativeocularpainandinflammation.Ophthalmology114:1653-1662,200713)高橋信夫:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198714)中島英夫,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,201215)KohS,InoueY,SugimotoTetal:Effectofrebamipideophthalmicsuspensiononopticalqualityintheshortbreak-uptimetypeofdryeye.Cornea32:1219-1223,201316)KaidoM,IshidaR,MuratDetal:Therelationoffunctionalvisualacuitymeasurementmethodologytotearfunctionsandocularsurfacestatus.JpnJOphthalmol55:451-459,20111364あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(122)表1術後8週まで経過観察できた症例の背景(123)あたらしい眼科Vol.33,No.9,20161365図1Tearfilmbreakuptime(BUT)と角結膜フルオレセイン染色スコアの経時変化グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)図2SchirmertestI法と下方涙液メニスカス高(TMH)の経時変化グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)図3角膜全高次収差の10秒間連続測定の経時変化平均値の変化を示す.1366あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(124)図4FluctuationIndexとStabilityIndexの経時変化グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)図5自覚症状の経時変化?4wと各測定点でのスコアの差を求め,+:改善,?:増悪とした.グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)(125)あたらしい眼科Vol.33,No.9,201613671368あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(126)

培養ヒト結膜上皮細胞における高浸透圧ストレス負荷に対するカテキンの抑制効果

2016年6月30日 木曜日

《第35回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科33(6):867.873,2016c培養ヒト結膜上皮細胞における高浸透圧ストレス負荷に対するカテキンの抑制効果木崎順一郎*1,2宇高結子*1佐々木晶子*1辻まゆみ*1友寄英士*1,2當重明子*1,2岩井信市*1,3小口勝司*1*1昭和大学医学部薬理学講座医科薬理学部門*2昭和大学医学部眼科学講座*3昭和大学薬学部社会健康薬学講座医薬品評価薬学部門Anti-inflammatoryEffectsofEGCGorEGCG3MeagainstHyperosmotic-inducedInflammationinHumanConjunctivalEpitheliumCellsJunichiroKizaki1,2),YukoUdaka1),AkikoSasaki1),MayumiTsuji1),EijiTomoyori1,2),AkikoToju1,2),ShinichiIwai1,3)andKatsujiOguchi1)1)DepartmentofPharmacology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofResearchandDevelopmentforInnovativeMedicalNeeds,Health,ShowaUniversitySchoolofPharmacyドライアイは,涙液層の浸透圧上昇と,これに伴う眼表面の炎症がおもな病態と考えられている.近年,茶カテキン,とくに(-)-EpigallocatechinGallate(EGCG)および,(-)-Epigallocatechin3-(3”-O-Methyl)Gallate(EGCG3”Me)の高い生理活性が報告されている.本研究では,培養ヒト結膜上皮細胞株を用い,培養液にスクロースを添加することで高浸透圧ストレス負荷を施し,アポトーシス解析,MAPK(ERK,JNK,p38MAPK)リン酸化能およびIL-6生成量を測定し,さらにEGCG,EGCG3”Meを前処置による抑制効果を検討した.その結果,高浸透圧ストレス負荷により,アポトーシス細胞の割合,JNK,p38MAPKリン酸化能およびIL-6生成量が有意に増加した.これに対し,EGCG3”MeはIL-6生成量とp38MAPK活性の上昇を有意に抑制したが,EGCGではIL-6生成の抑制は認めなかった.以上より高浸透圧ストレス誘発性炎症に対し,EGCG3”Meはp38MAPKリン酸化を抑制することで,IL-6生成を抑え,抗炎症作用を示すものと考えた.Osmoticpressureoftearsindryeyepatientsisusuallyhigherthaninnormalpersons.Itisassociatedwithincreasedosmolarityofthetearfilmandinflammationoftheocularsurface.Inaddition,teacatechinssuchas(-)-EpigallocatechinGallate(EGCG)and(-)-Epigallocatechin3-(3”-O-Methyl)Gallate(EGCG3Me)havemultiplebiologicalactions,includinganti-allergy,anti-inflammatoryandanti-canceractivity.Inthisstudy,weexaminedwhetherEGCGandEGCG3Meattenuatethehyperosmosis-inducedinflammationinhumanconjunctivalepitheliumcells(HCEcells).HCEcellswereexposedtohyperosmoticmedium(423mOsm,i.e.,123mMsucroseinmedium),andthenexaminedastotherateofapoptosis,IL-6levelsandactivityofMAPKs(ERK,JNKandp38MAPK).EGCG3MesignificantlysuppressedtheincreaseinIL-6levelandelevationofphosphorylatedp38MAPK.EGCG3MeinductionofinflammationmorepotentthanEGCGwasalsoindicated.TheseresultssuggestthatEGCG3Memightbeuseableasatherapeuticapproachindryeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):867.873,2016〕Keywords:結膜,ドライアイ,炎症,高浸透圧,カテキン.conjunctiva,dryeye,inflammatory,hyperosmolarity,catechin.〔別刷請求先〕木崎順一郎:〒142-8555東京都品川区旗の台1丁目5-8昭和大学医学部薬理学講座医科薬理学部門Reprintrequests:JunichiroKizaki,M.D.,DepartmentofPharmacology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,1-5-8Hatanodai,Shinagawa,Tokyo142-8555,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(107)867 はじめに近年,生活環境の変化(高齢化,コンタクトレンズ装用者の増加,エアコン普及,パソコン,スマートフォン,ゲームなどのデジタル機器(visualdisplayterminals:VDT)の長時間使用などにより,ドライアイの有病率が増えている.とくにオフィスワーカーの約6割がドライアイもしくはその疑いがあり,QOLの低下や作業効率の低下などにつながるという報告もあり1),いわば現代病の一つといっても過言ではない.ドライアイの発症のメカニズムとして,眼表面の浸透圧の上昇が指摘されている.涙液の産生低下,あるいは蒸発亢進による涙液量の減少により眼表面の浸透圧が上昇すると炎症反応が起こり,結膜傷害,ゴブレット細胞の減少を引き起こし,涙液層の不安定化などにつながる.その結果,さらに涙液が減少するなどの悪循環を起こすこと2)が示されている.米国では,とくにこの考え方が強く,ドライアイの診断において眼表面の浸透圧上昇を重視しており,治療の中心は抗炎症薬投与になっている3).近年,日本緑茶に豊富に含まれるポリフェノール(greenteapolyphenol)のうち,カテキン類には,抗酸化作用,抗腫瘍作用,抗転移作用,血圧抑制作用,動脈硬化抑制作用,脂質代謝改善作用,抗菌作用,抗ウイルス作用,抗う蝕作用,抗アレルギー作用といった多様な生理作用を有することが報告されている.とくに,(-)-Epigallocatechingallate(EGCG)は,茶特有のポリフェノール成分で4),上記作用が強力に出ることが多数報告されている.いわゆる緑茶の代表的な品種「やぶきた」には,カテキン類が10.20%の割合で含まれており,その約半分をこのEGCGが占めるとされている.一方,EGCGの3つの水酸基のうちortho位をメチル化した(-)-Epigallocatechin3-(3”-O-Methyl)gallate(EGCG3”Me)の強い生理活性が最近注目されている.これは「べにふうき」「べにふじ」「べにほまれ」などの品種の茶葉に多く含まれ,「やぶきた」には含まれていない.EGCG3”Meは高い抗酸化活性を持ち,とくに抗アレルギー作用はEGCGの約2.5倍との報告がある.そこで今回,筆者らは,培養ヒト結膜上皮(humanconjunctivalepithelium:HCE)細胞を用いて,眼表面のドライアイ病態を想定した高浸透圧ストレス負荷状態における炎症誘発経路を明らかにするとともに,これに対するEGCGとEGCG3”Meの抗炎症作用およびその有用性を比較検討した.なお,今回使用した細胞株は,ヒト子宮頸癌由来上皮細胞(HeLa細胞)の混入が疑われているが,株化したヒト結膜上皮細胞の代用がないため,HCE細胞とHeLa細胞の比較検討を行った.I材料および方法1.細胞培養ヒト眼球由来結膜上皮細胞株(Clone-1-5c-4:HCE細胞)をDSファーマメディカル(大阪)より購入,細胞は2mMGlutamine+10%FetalBovineSerum(FBS)含有Medium199(Sigma-AldrichCo.,MO,USA)培地中,5%CO2,37℃にて培養した.ヒト子宮頸癌由来上皮細胞(ATCCCCL2.2:HeLa細胞)は,FBS含有E-MEMmedium培地中,5%CO2,37℃にて培養した.2.高浸透圧ストレスFBS非含有medium(289mOsm/L)に123mMのスクロース(和光純薬工業,大阪)を添加し,Hyperosmoticmedium(423mOsm/L)を調整し5),培養液をこれに置換することで,高浸透圧ストレス負荷(Hyper)群とした.対照として,スクロース非添加群をコントロール(Cont)群とした.3.使用薬物カテキン類はそれぞれEGCGを和光純薬工業から,EGCG3”Meを長良サイエンス(岐阜)から購入した.Mitogen-activatedproteinkinaseinhibitor(MAPKi)は,p38MAPKinhibitor(p38i)としてSB203585,extracellularsignal-regulatedkinase(ERK)inhibitor(ERKi)としてPD98059をSigma-AldrichCo.(MO,USA)から購入,c-JunN-terminalkinase(JNK)inhibitor(JNKi)としてSP600125を和光純薬工業(東京)から購入した.4.実験プロトコール細胞を測定項目に応じて適切な濃度に調整して播種し,24時間培養後,Cont群には高浸透圧ストレス負荷の1時間前に,p38i1μM,JNKi10μM,ERKi10μM,EGCG5,10,20μM,およびEGCG3”Me5,10,20μMを添加した.その1時間後,Hyper群は培養液を高浸透圧ストレスmediumに置換し,ただちに,各MAPKiおよびカテキン類をCont群と同じ濃度で添加した.両群ともその状態で培養を続け,各時点のサンプルを実験に供した.5.高浸透圧負荷後のアポトーシス細胞の経時的解析HCE細胞を3×105cells/mLに調整し6穴プレートに播種し,先に示した条件で24時間培養後,高浸透圧負荷を行った.その後1,3,6,15,24時間時点で抽出し,MuseRCellAnalyzer(MerckMillipore,Germany)にて,MuseTMAnnexinVandDeadCellKit(EMDMilliporeCorporation,USA)を用いて,アポトーシス細胞の表面に提示されたホスファチジルセリン(PS)とアネキシンV-PEが結合する割合から,アポトーシス細胞の割合を検出した.6.高浸透圧負荷後のIL.6生成量の経時的変化測定HCE細胞を3×105cells/mLに調整し6穴プレートに播種868あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(108) し,24時間培養後,高浸透圧負荷を行った.その後1,3,6,15,24時間時点の上清をサンプルとし,Enzyme-LinkedImmunoSorbentAssay(ELISA法)にてHRP標識抗リン酸化IL-6抗体と発色試薬を用いてIL-6を検出し,HumansIL-6InstantELISA(eBioscience,AffymetrixInc,CA,USA)を用いて,マイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した.7.高浸透圧負荷1時間後のMAPK(ERK,JNK,p38MAPK)リン酸化能測定HCE細胞,HeLa細胞を1×105cells/mLに調整し,96穴プレートに播種し,24時間培養した.その後,各MAPKiおよび,HCE細胞については5,10,20μMEGCG,EGCG3”Meを,HeLa細胞については10μMEGCG,EGCG3”Meを添加し,その1時間後,高浸透圧ストレス負荷を行い,1時間後のMAPKリン酸化能を測定した.細胞は,HRP標識抗リン酸化各MAPK抗体と発色基質を用いてリン酸化各MAPKをそれぞれ検出し〔RayBioRCell-Basedp38(Thr180/Tyr182)ELISAkit,RayBioRCell-basedJNK(Thr183/Tyr185)ELISAkit,RayBioRCell-BasedERK(Thr180/Tyr182)ELISAkit(以上,RayBiotech,Inc.,GA,USA)〕を用いてマイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した.8.EGCG,EGCG3”Me添加による高浸透圧負荷24時間後のIL.6生成量の測定HCE細胞,HeLa細胞を3×105cells/mLに調整し6穴プレートに播種し,24時間培養後,EGCG(5,10,20μM),EGCG3”Me(5,10,20μM)およびp38i(1μM),JNKi(10μM),ERKi(10μM)を添加し,その1時間後,高浸透圧ストレス負荷を行い,24時間後のIL-6生成量をHumansIL-6InstantELISA(eBioscience,Inc.,CA,USA)を用いて,マイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した.9.67kDaLaminineReceptor(67LR)の免疫細胞染色HCE細胞を3×105cells/mLに調整し,ChamberSlideTMで24時間培養後,EGCG(10μM),EGCG3”Me(10μM)を添加し,その1時間後に浸透圧負荷を行った.負荷後1時間で細胞をホルマリン固定し,ENVISION染色システムを用い,一次抗体〔Anti-67kDaLamininReceptor抗体MLuC5(ab3099);Abcam,UK〕,を2時間反応させ,その後,二次抗体とパーオキシダーゼが結合しているデキストランポリマー試薬を反応させて,核や細胞質の染色を行った.10.統計処理実験結果は平均±標準偏差(n=3.12)で示した.HCE細胞,HeLa細胞におけるHyper群でのパラメーターはt検定を用いてCont群と比較検討した.また,HCE細胞における高浸透圧ストレス負荷後のMAPKリン酸化能,IL-6生成量(109)に対するカテキン類の抑制効果についてはANOVA-Bonferroni多重比較検定を用いてHyper群と比較検討し,p<0.05以下を有意とした.II結果1.高浸透圧ストレス負荷によるアポトーシス細胞の経時的変化図1AにHCE細胞に高浸透圧ストレス負荷を施した後の1,3,5,15,24時間後のアポトーシス細胞の経時的変化を,AnnexinVを用いてアポトーシス細胞の割合(%)で示した.Hyper群は高浸透圧ストレス負荷後,アポトーシス細胞の割合が経時的に上昇し,6時間以降,Cont群と比べ有意な増加を認めた(n=6,p<0.01).図1BにHCE細胞とHeLa細胞の高浸透圧ストレス負荷24時間後のアポトーシス細胞の割合(%)を示した.HeLa細胞においても,高浸透圧ストレス負荷によりアポトーシス細胞の割合は有意に上昇した(n=3,p<0.01).2.高浸透圧ストレス負荷によるIL.6生成量の経時的変化図2AにHCE細胞に高浸透圧ストレス負荷1,3,6,15,24時間後のIL-6生成量の経時的変化を示した.Hyper群は高浸透圧ストレス負荷により,IL-6生成量が経時的に上昇し,15時間以降,Cont群と比べ有意に上昇した(n=6,p<0.01).図2BにHCE細胞とHeLa細胞の高浸透圧ストレス負荷24時間後のIL-6生成量を示した.HeLa細胞もHyper群はCont群に比べ有意な増加を認めたが,その生成量はHCE細胞に比べ明らかに低値を示した.3.HCE細胞における高浸透圧ストレス負荷によるERK,JNKおよびp38MAPKリン酸化能とカテキン類の抑制効果図3にHCE細胞における高浸透圧ストレス負荷1時間後のERK(A),JNK(B),p38MAPK(C)のリン酸化能を示した.高浸透圧ストレス負荷によるERKリン酸化能の変化は認められなかった(n=6).高浸透圧ストレス負荷後1時間での,JNKおよびp38MAPKのリン酸化能はCont群と比較し有意に上昇した.JNKリン酸化能の上昇に対し,EGCGはいずれの濃度においても有意な抑制を示した(n=12,p<0.01).一方,p38MAPKリン酸化能の上昇に対しては,EGCG3”Meで濃度依存的に有意な抑制を示した(n=6,p<0.01,0.05)が,EGCGは5μMで有意な抑制効果を示した(n=6,p<0.05)が,10,20μMでは変化は認められなかった.一方,HeLa細胞においては,高浸透圧ストレス負荷による,ERK,JNK,p38MAPKのリン酸化能に有意差は認めなかった.(ERK:Cont群1.525±0.058,Hyper群1.590±0.055;n=6.JNK:Cont群1.472±0.075,Hyper群1.556±あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016869 ABA2(%)1.8(%)#$1001001.690****901.4Phosphop38/totalp38ratioPhosphoJNK/totalJNKratioPhosphoERK/totalERKratio**80RateofApoptoticcells1.210.80.60.40.270605040303020200(μM)1010001361524Incubationtime(hours)HCEcellsHeLacellsBContHyper21.81.61.4図1高浸透圧ストレス負荷後のアポトーシス細胞の割合HCE細胞またはHeLa細胞における高浸透圧ストレス負荷後のアポトーシス細胞の割合を,MuseTMCellAnalyzerにてAnnexinVを用いて測定した.A:HCE細胞に対する高浸透圧ストレス負荷後1,3,6,15,24時間後のアポトーシス細胞の経時的変化.平均±標準偏差,n=6,*p<0.05,**p<0.01vsCont(t検定).B:高浸透圧ストレス負荷24時間後のHCE細胞とHeLa細胞におけるアポトーシス細胞の比較.平均±標準偏差,n=3,#p<0.01,$p<0.01vsCont(t検定).AB**1.2******1**0.80.60.40.20(μM)(pg/mL)(pg/mL)C24504501.81.61.41.2**1**0.8****0.60.40.2400(24h)(24h)(24h)(24h)400$#350****350300300IL-6levels2502502002001501501001005050000(1361524μM)Incubationtime(hours)HyperContHCEcellsHeLacells図2高浸透圧ストレス負荷後のIL.6生成量HCE細胞またはHeLa細胞における高浸透圧ストレス負荷後のIL-6生成量を,ELISA法を用いて測定した.A:HCE細胞に対する高浸透圧ストレス負荷後のIL-6生成量の1,3,6,15,24時間後の経時的変化.平均±標準偏差,n=6.*p<0.05,**p<0.01vsCont(t検定).B:高浸透圧ストレス負荷後24時間のHCE細胞とHeLa細胞におけるIL-6生成量の比較.平均±標準偏差,n=3,#p<0.01,$p<0.01vsCont(t検定)870あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016図3高浸透圧負荷1時間後のMAPK(ERK,JNK,p38MAPK)リン酸化能とカテキン類による抑制効果HCE細胞にMAPKi,EGCG(5,10,20μM),EGCG3Me(5,10,20μM)を添加し,1時間後に高浸透圧ストレスを負荷した.その後1時間インキュベートし,各MAPKのリン酸化能をELISA法にて測定した.結果は,全MAPKに対するリン酸化されたMAPKの割合で示した.A:ERKリン酸化能,B:JNKリン酸化能,C:p38MAPKリン酸化能.平均±標準偏差,n=6.12,*p<0.05,**p<0.01vsHyper(ANOVA-Bonferroni多重比較検定).(110) 0350400450(pg/mL)**********(ContHyperp38i(1)(10)EGCG(5)(10)(20)(5)(10)(20)0350400450(pg/mL)**********(ContHyperp38i(1)(10)EGCG(5)(10)(20)(5)(10)(20)IL-6levels300250200150図4高浸透圧負荷後24時間後のIL.6生成量に対するカテキン類の抑制効果100HCE細胞にJNKi,p38MAPKi,EGCG(5,10,20μM),50EGCG3Me(5,10,20μM)を添加し,1時間後に高浸透圧ストレスを負荷した.その後24時間インキュベートし,培養液の上清を用い,ELISA法にてIL-6生成量を測定した.平均±標準偏差,n=6.*p<0.05,**p<0.01vsHyper(ANOVA-Bonferroni多重比較検定).μM)ContHyperEGCGEGCG3”Me図5高浸透圧ストレス負荷後1時間の67LRに対する免疫細胞染色HCE細胞に,EGCG(10μM)またはEGCG3Me(10μM)を添加し,1時間後に高浸透圧ストレスを負荷した.その後1時間インキュベートし,細胞をホルマリン固定後,ENVISION染色システムを用い,一次抗体として抗67LR抗体を2時間反応させた後,二次抗体とペルオキシダーゼが結合しているデキストランポリマー試薬を1時間反応させて,核や細胞質の染色を行った(×200).(111)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016871 0.080;n=6.p38MAPK:Cont群0.529±0.060,Hyper群0.529±0.014;n=6).4.HCE細胞における高浸透圧ストレス負荷24時間後のIL.6生成に対するカテキン類の抑制効果図4にHCE細胞における高浸透圧ストレス負荷24時間後のIL-6生成量に対するEGCG,EGCG3”Meの抑制効果を示した.高浸透圧ストレス負荷後24時間で,Cont群と比べIL-6生成量は有意に上昇した(n=12,p<0.01).これに対しEGCG3”MeでIL-6生成量は濃度依存的に抑制され,20μMで有意な抑制効果を認めた(n=6,p<0.01).一方,EGCGでは抑制効果は認められなかった.5.高浸透圧ストレス負荷による67LR発現誘導の免疫細胞染色図5にEGCGまたはEGCG3”Meを添加したHCE細胞における高浸透圧ストレス負荷1時間後の67LRの免疫細胞染色を示す.67LRは,カテキンの受容体として見出されている膜蛋白で6),EGCGで67LRの明らかな発現誘導が確認された.一方,EGCG3”Meではcontrolと比べ変化は認められなかった.III考按ドライアイ患者においては,涙液浸透圧とドライアイの重症度が相関するといわれている.米国でのドライアイ診断基準にあたるDryEyeWorkShop(DEWS)Reportによると,涙液浸透圧の正常カットオフ値は316mOsm/Lとされている2,7).ドライアイ患者における涙液浸透圧は平均326.9±22.1mOsm/Lであり,健常人の平均302±9.7mOsm/Lに比べかなり高く7),涙液中に炎症性サイトカインが増加するという報告がある8,9).角膜細胞を用いて塩化ナトリウムまたはスクロースを添加した培養液(350.600mOsm/L)を用いて高浸透圧ストレス負荷を施した報告が散見され,とくに450mOsm/L以上の高浸透圧負荷により,炎症性サイトカインの著明な上昇を認めたなどの報告10,11)がある.そこで今回,HCE細胞に高浸透ストレス負荷(423mOsm/L)を行った結果,アポトーシスの割合と,炎症性サイトカイン(IL-6)の生成量の経時的増加が確認され,炎症が惹起されていることが確認された.今回,データは示していないが,TNF-a,IL-1bも同様に測定した結果,TNF-a生成量は有意差はなく,IL-1bは検出限界以下であった.細胞外からの種々刺激により活性化され,核へのシグナル伝達を媒介するMAPKリン酸化能を測定した結果,高浸透圧ストレス負荷1時間でJNKとp38MAPKリン酸化能の有意な上昇が確認されたが,ERKでは変化が認められなかった.MAPKのなかでもとくに,JNK,p38MAPKは,UV,ROS(reactiveoxygenspecies),高浸透圧,熱ショックなどの物理化学的ストレスなどによって活性化されるストレス応答キナーゼで,アポト872あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016ーシス誘導などに深く関与している.今回の高浸透圧ストレス負荷により,HCE細胞ではJNK,p38MAPKの活性化およびIL-6生成量の明らかな増加が確認されたが,HeLa細胞においてはいずれも認めなかった.このことから,このストレスはHCE細胞に由来するものと判断し,カテキン類による抑制効果を検討した.近年,カテキン類を代表とする茶葉成分に関する研究報告が散見される.緑茶に含まれるEGCGは茶特有のポリフェノール成分で,他の植物には見出されていない4).最近,新規カテキンのEGCG3”Meが見出された.日本緑茶の「べにふうき」「べにふじ」といった品種に多く含まれており,いわゆる代表的な品種である「やぶきた」にはまったく含まれていない.先にも述べたが,緑茶カテキンには多彩な生理機能が解明されており,なかでも,抗腫瘍作用や抗アレルギー作用は,EGCGが多種の細胞の細胞膜表面に局在している67kDalamininereceptor(67LR)に結合することで活性を示すことが報告されている6).EGCGは67LRを介した癌細胞における細胞増殖抑制作用のほか,ヒト好塩基球細胞株におけるヒスタミン放出抑制作用やIgE受容体発現低下作用などが報告されている12).今回のHCE細胞に対する高浸透圧ストレス負荷では,JNK,p38MAPKを介してIL-6を生成することで,炎症が惹起されていることが示唆された.この炎症に対する,EGCGまたはEGCG3”Meの抑制効果について検討した結果,JNKリン酸化能はEGCGで,p38MAPKリン酸化能はEGCG3”Meで抑制されることが示唆された.また,IL-6生成量はEGCG3”Meで濃度依存的に抑制されたのに対し,EGCGでは変化がないか高濃度では逆に増加する結果となった.これまでに,腫瘍細胞に対するEGCGの抗腫瘍効果なども報告されており12,13),高濃度のEGCGによる細胞障害作用が現れたものと考えられる.EGCGおよびEGCG3”Meを添加し,高浸透圧ストレス負荷1時間後,67LRの免疫細胞化学染色を行った結果,EGCG3”MeよりもEGCGで強い発現誘導が確認された.このことから,EGCGはおもに67LRへの結合を介してシグナル伝達されているのに対し,EGCG3”Meには67LRとは別の経路が関与していることが示唆された.すなわち,EGCG3”MeはEGCGに比べ脂溶性が高いことから,膜を直接透過する可能性が考えられる.以上のことから,それぞれ異なった細胞内シグナル伝達経路を介して抗炎症作用を示し,その作用はEGCGよりもEGCG3”Meのほうがより効果的である可能性が示唆された.Leeら14)は,0.1%EGCG溶液の点眼により角膜上皮障害が改善したと報告している.さらに,EGCGやEGCG3”Meは飲用後,血中への移行も確認されている.すなわち,毛細血管が豊富である結膜に移行し,眼表面の抗炎症作用を示す(112) 可能性は高い.市販のペットボトル入りべにふうき緑茶を,約200ml飲用したときの摂取量とAUC(areaunderthebloodconcentration-timecurve)の割合で比較すると,移行の割合はEGCG3”MeのほうがEGCGに比べて6.5倍高いことが示されている15).また,アレルギー性鼻炎患者を対象としたヒト介入試験において,EGCG3”Me摂取により眼の痒みや流涙を含む花粉症症状の明らかな軽減作用がみられたと報告されており,その際のEGCG3”Me摂取量は34mg/dayとされている16).これは市販のペットボトル1.5本分(約750ml)の飲用に相当する.涙液浸透圧と血漿浸透圧に強い相関があり,飲水自体に涙液浸透圧を下げるとの報告17,18)があることから,日常的に茶を飲用する習慣がある日本人にはドライアイによる高浸透圧ストレス誘発炎症に対しても,抗炎症効果が期待できるかもしれない.以上のことから,べにふうき緑茶飲用がドライアイ治療に有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)UchinoM,YokoiN,UchinoYetal:Prevalenceofdryeyediseaseanditsriskfactorsinvisualdisplayterminalusers:theOsakastudy.AmJOphthalmol156:759-766,20132)MichaelAL,GaryNF:Thedefinitionandclassificationofdryeyedisease.OculSurf5:75-92,20073)SternME,PflugfelderSC:Inflammationindryeye.OculSurf2:124-130,20044)山本(前田)万里:抗アレルギー効果のある茶葉成分.日本補完代替医療学雑誌3:53-60,20065)CavetME,HarringtonKL,VollmerTRetal:Antiinflammatoryandanti-oxidativeeffectsofthegreenteapolyphenolepigallocatechingallateinhumancornealepithelialcells.MolVis17:533-542,20116)TachibanaH,KogaK,FujimuraYetal:AreceptorforgreenteapolyphenolEGCG.NatStructMolBiol11:380381,20047)TomlinsonA,KhanalS,DiaperCetal:Tearfilmosmolarity-determinationofareferentfordryeyediagnosis.InvestOphthalmolVisSci47:4309-4315,20068)NaKS,MokJW,KimJYetal:Correlationsbetweentearcytokines,chemokines,andsolublereceptorsandclinicalseverityofdryeyedisease.InvestOphthalmolVisSci53:5443-5450,20129)BoehmN,RiechardtAI,WiegandMetal:Proinflammatorycytokineprofilingoftearsfromdryeyepatientsbymeansofantibodymicroarrays.InvestOphthalmolVisSci52:7725-7730,201110)LuoL,LiDQ,CorralesRMetal:Hyperosmolarsalineisaproinflammatorystressonthemouseocularsurface.EyeContactLens31:186-193,200511)LiDQ,ChenZ,SongXJetal:StimulationofmatrixmetalloproteinasesbyhyperosmolarityviaaJNKpathwayinhumancornealepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci45:4302-4311,200412)立花宏文:緑茶カテキンの受容体とシグナリング.生化学81:290-294,200913)SuzukiY,MiyoshiN,IsemuraM:Health-promotingeffectsofgreentea.ProcJpnAcadSerBPhysBiolSci88:88-101,201214)LeeHS,ChauhanSK,OkanoboAetal:Therapeuticefficacyoftopicalepigallocatechingallate(EGCG)inmurinedryeye.Cornea30:1465-1472,201115)Maeda-YamamotoM,EmaK,ShibuichiI:Invitroandinvivoanti-allergiceffectsof‘benifuuki’greenteacontainingO-methylatedcatechinandgingerextractenhancement.Cytotechnology55:135-142,200716)安江正明,大竹康之,永井寛ほか:「べにふうき」緑茶の抗アレルギー作用並びに安全性評価:軽症から中等症の通年性アレルギー性鼻炎患者,並びに健常者を対象として.日本食品新素材研究会誌8:65-80,200517)WalshNP,FortesMB,Raymond-BarkerPetal:Iswhole-bodyhydrationanimportantconsiderationindryeye?InvestOphthalmolVisSci53:6622-6627,201218)FortesMB,DimentBC,DiFeliceUetal:Tearfluidosmolarityasapotentialmarkerofhydrationstatus.MedSciSportsExerc43:1590-1597,2011***(113)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016873

ドライアイに対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタ®点眼液UD2%) の有効性と安全性─製造販売後調査結果─

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):443.449,2016cドライアイに対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の有効性と安全性─製造販売後調査結果─増成彰*1安田守良*1曽我綾華*1板東孝介*1福田泰彦*1木下茂*2*1大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部*2京都府立医科大学感覚器未来医療学EffectivenessandSafetyofRebamipideOphthalmicSuspension(MucostaROphthalmicSuspensionUD2%)inPatientswithDryEyeSyndrome─ResultsofPost-MarketingSurveillance─AkiraMasunari1),MoriyoshiYasuda1),AyakaSoga1),KosukeBando1),YasuhikoFukuda1)andShigeruKinoshita2)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineドライアイ治療薬「ムコスタR点眼液UD2%」の使用実態下における観察期間1年の特定使用成績調査を実施し,916例の有効性と安全性の結果をまとめた.その結果,生体染色スコアは投与開始時3.1±2.3点から4週目に1.8±1.8点への改善が認められた(p<0.001).涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT)では開始時3.0±1.6秒から4週目に4.0±2.1秒への改善が認められた(p<0.001).自覚症状(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)のいずれのスコアについても,開始時に比べて有意な改善が認められた(p<0.001).安全性の指標とした副作用の発現率は14.6%であり,おもな副作用は本剤の物性に起因すると思われる味覚異常をはじめ,霧視,アレルギー性結膜炎,結膜炎,眼瞼炎,眼痛などであった.最終観察時点の評価判定は有効85.7%,無効4.9%であった.以上よりレバミピド懸濁点眼液の実臨床下における有効性と安全性が確認された.Weconductedaone-yearpost-marketingsurveillancestudytoinvestigatetheeffectivenessandsafetyofMucostaROphthalmicSuspensionUD2%forpatientswithdryeyesyndrome.Wereportthefinalresultfrom916patients.Asaneffectivenessmeasurement,fluoresceincornealstainingscorewasimprovedfrom3.1±2.3atbaselineto1.8±1.8atweek-4.Andtearfilmbreak-uptimewasimprovedfrom3.0±1.6secondsatbaselineto4.0±2.1secondsatweek-4.Dryeye-relatedocularsymptoms,suchasforeignbodysensation,dryness,photophobia,eyepain,andvisionblurred,werealsoimproved.Aprevalenceofadversedrugreactionwas14.6%.Frequentlyreportedeventsweredysgeusiaduetocharacteristicsofrebamipide,visionblurred,conjunctivitisallergic,conjunctivitis,blepharitis,eyepain.Intheoverallimprovementrating,85.7%waseffectiveand4.9%wasineffective.Theresultsindicatetheeffectivenessandsafetyofrebamipideophthalmicsuspensionwereconfirmedintherealworldsettings.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):443.449,2016〕Keywords:レバミピド,ドライアイ,製造販売後調査,有効性,安全性.rebamipide,dryeye,post-marketingsurveillance,effectiveness,safety.はじめにレバミピドは胃粘膜の保護・修復作用を有し,1990年に胃潰瘍の治療薬として発売された薬剤である.その後,レバミピドが眼表面においても粘膜機能を改善すること1),ドライアイに対し臨床的に有効であることが確認され2,3),2012年1月にレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,以下,本剤)はドライアイ治療薬として発売された.筆者らは全国の眼科専門医の協力により,本剤の長期使用時の使用実態下における有効性および安全性を検討する目的で特定使用成績調査(調査期間:2012年8月.2015年1月)を実施〔別刷請求先〕増成彰:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通3-2-27大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:AkiraMasunari,PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-2-27,Otedori,Chuo-ku,Osaka-shi,Osaka540-0021,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(113)443 した.本稿では,本特定使用成績調査の解析結果から有効性と安全性について報告する.I対象および方法1.調査方法本調査は治療内容に介入しないプロスペクティブな観察研究であり,日本全国の眼科を標榜する医療機関と事前に契約を交わして実施した.対象患者はドライアイと診断された患者とし,過去に本剤の使用経験がある患者は除外した.目標症例を1,000例とした.症例登録は中央登録方式とした.観察期間は1年間とし,観察期間中の情報を調査担当医師が調査票に記入した.なお,観察中に投与中止した場合はその時点で観察終了とし,調査票を記入することとした.本調査にあたっては,「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令:平成16年12月20日厚生労働省令第171号(GPSP省令)」を遵守した.なお,本調査は観察的研究であることから患者への説明と同意,医療機関における倫理委員会による審査は必須とはしなかった.2.調査項目調査項目として以下の情報を収集した.患者背景:性別,年齢,コンタクトレンズの使用状況,対象眼の重症度,罹病期間,ドライアイの原因,合併症など.投与状況:投与期間,中止理由,1日点眼回数など.有効性評価のための調査項目:以下の情報を収集した.投与開始時および観察期間中に実施された生体染色スコア(フルオレセイン,リサミングリーン,ローズベンガル),涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT),Schirmerテストの結果,自覚症状5項目スコア.生体染色スコアは耳側球結膜,角膜,鼻側球結膜における染色の程度をそれぞれ3点,合算9点満点で判定した.また,自覚症状5項目(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)について(0:症状なし,1:弱い症状あり,2:中くらいの症状あり,3:強い症状あり,4:非常に強い症状あり)の5段階のスコアで患者からの聞き取りにより評価した.以上の結果を総合的に判断し,有効,無効,判定不能の3分類で担当医師が効果判定を行った.安全性評価のための調査項目:本剤投与開始後の有害事象(臨床検査値の異常変動を含む)を収集した.3.解析方法有効性評価として,生体染色スコア,BUT,自覚症状5項目スコアについて,投与開始時および投与後の数値の推移を検討した.また,投与開始時重症度別の評価として,開始時の生体染色スコアによって「0.3点:軽症」「4.6点:中等症」「7.9点:重症」の3群に分け,「開始時染色スコア別」にて各評価項目の数値の推移を検討した.なお,Schirmer444あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016テストについては,本剤投与後に実施された症例数が少なかったため十分な評価ができなかった.安全性評価として,本剤投与後に発現した副作用(本剤との因果関係が否定できないと判断された有害事象)について集計し,発現率を算出した.有効性の解析は平均値と標準偏差を算出し,対応のあるt-検定を実施して投与開始時との比較を行った.自覚症状の解析では,投与開始時に症状がある患者のみを解析対象とした.すべての解析で欠測値の補完はしなかった.副作用の集計には「ICH国際医薬用語集日本語版」(MedDRA/J:MedicalDictionaryforRegulatoryActivities/J,version17.1)の基本語を使用した.統計解析はシミックPMS株式会社,エイツーヘルスケア株式会社でSASを用いて実施した.II結果1.解析対象患者全国の159施設より1,073人が登録され,158施設より1,068例の調査票を回収した.そのうち一度も診察がなかった151例と本剤が投与されなかった1例を除外した916例を安全性・有効性解析対象とした.2.患者背景表1に患者背景を示す.年齢の平均値は63±16歳であった.医師判定に基づく投与開始時のドライアイ重症度は軽症41.4%,中等症50.9%と,軽症から中等症が大半を占めた.投与開始時の生体染色スコアは9点満点中3点以下(0点を含む)の低スコアが59.1%であった.一方,投与開始時BUTが5秒以下の異常値を示す患者は,不明を除く744例中708例(95.2%)と大半であった.投与開始時Schirmerテストでは5mm超と5mm以下の割合はほぼ同じであった.ドライアイの原因別では乾燥などの環境因子が44.5%ともっとも多かった.3.投与状況表2に投与状況を示す.添付文書通りの1日4回投与が93.2%であった.12カ月(360日)を超えて投与された症例は337例(36.8%)であった.観察期間の中央値は294日,平均値は243±155日であった.本剤投与中に一度でも併用された薬剤を集計したところ,ヒアルロン酸点眼がもっとも多く約半数の患者(51.2%)で併用されていた.また,中止理由を複数選択可で調査した結果,「来院せず」がもっとも多く240例,「患者または家族の希望」が95例,「有害事象発現」が77例の順であった.4.有効性a.生体染色スコア図1に生体染色スコアの推移を示す.投与開始時に3.1±2.3点であったスコアは4週目に1.8±1.8点と有意に改善し(p<0.001),そのスコアは52週目には1.3±1.4点(p<(114) 表1患者背景(n=916)表2投与状況(n=916)項目分類n(%)性別男性148(16.2%)女性768(83.8%)<209(1.0%)年齢(歳)Mean63±1620.2931(3.4%)30.3952(5.7%)Min3Median66Max9740.4987(9.5%)50.59135(14.7%)60.69223(24.3%)≧70379(41.4%)ドライアイ重症度(医師判定)軽症379(41.4%)中等症466(50.9%)重症71(7.8%)生体染色スコア0120(13.1%)(フルオレセイン882例,ローズベンガル1例,リサミングリーン2例,フルオレセイン+1.3421(46.0%)4.6279(30.5%)7.966(7.2%)リサミングリーン1例)不明30(3.3%)>536(3.9%)BUT(秒)>1,≦5592(64.6%)≦1116(12.7%)不明172(18.8%)>5146(15.9%)Schirmerテスト>2,≦589(9.7%)(mm)≦253(5.8%)不明628(68.6%)1年未満85(9.3%)2年未満43(4.7%)罹病期間(年)3年未満31(3.4%)3年以上135(14.7%)不明622(67.9%)環境因子408(44.5%)合併症112(12.2%)ドライアイの原因眼手術84(9.2%)コンタクトレンズ51(5.6%)薬剤30(3.3%)その他336(36.7%)白内障159(17.4%)緑内障110(12.0%)合併症アレルギー性結膜炎106(11.6%)結膜炎53(5.8%)Sjogren症候群51(5.8%)Stevens-Johnson症候群0(0.0%)コンタクトレンズなし843(92.0%)あり63(6.9%)コンタクトレンズのタイプソフト44*(4.8%)ハード19*(2.1%)ソフト・ハード不明1(0.1%)前治療薬(本剤投与前のドライアイ治療薬)ヒアルロン酸点眼114(12.4%)ジクアホソルナトリウム点眼121(13.2%)ステロイド点眼43(4.7%)人工涙液12(1.3%)*ソフト+ハード1例を含む.項目分類n(%)4回未満58(6.3%)1日投与回数4回854(93.2%)4回超3(0.3%)不明1(0.1%)≦30100(10.9%)観察期間(日)Mean243±155Min2Median294Max61231.6089(9.7%)61.120119(13.0%)121.240111(12.1%)241.360159(17.4%)≧361337(36.8%)不明1(0.1%)ヒアルロン酸点眼469(51.2%)併用薬ステロイド点眼163(17.8%)ジクアホソルナトリウム点眼101(11.0%)人工涙液75(8.2%)来院せず240患者または家族の希望95中止理由(複数選択可)有害事象発現77効果不十分17転院7病態悪化3その他250.001)と効果が継続していた.「開始時染色スコア別」の推移を検討した結果,投与開始時のスコアにかかわらず有意に生体染色スコアの改善が認められた(図2).b.BUT図3にBUTの推移を示す.投与開始時3.0±1.6秒,4週目には4.0±2.1秒と有意に延長し(p<0.001),その後も52週目に4.5±2.2秒と有意な延長は継続していた(p<0.001).図4に「開始時染色スコア別」のBUTの推移を示す.投与開始時の生体染色スコアにかかわらずBUTは有意に延長した.c.自覚症状スコア(5項目)図5に自覚症状5項目のスコアの推移を示す.異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視それぞれのスコアは,投与開始時2.0±1.0,2.1±1.0,1.8±0.9,1.9±0.9,1.7±0.9と比べて,4週目には1.0±0.9,1.2±0.9,0.9±0.8,0.8±0.9,0.9±0.9とすべての項目で統計学的に有意な自覚症状スコアの改善が認められ,52週目には0.4±0.7,0.6±0.8,0.4±0.6,0.3±0.6,0.5±0.9と改善は継続していた(いずれもp<0.001).図6に「開始時染色スコア別」の自覚症状スコア5項目の合(115)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016445 生体染色スコア生体染色スコア生体染色スコア6543210開始時481216202428323640444852観察時期(week)平均値+SD*p<0.001*************n=88650838939998765432104812317259257262221図1生体染色スコアの推移1620242832観察時期(week)219187182179203*3640444852開始時染色スコア:7~9開始時染色スコア:4~6開始時染色スコア:0~3開始時平均値+SD*p<0.001**************************************開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目開始時染色スコア:7.96635264325193926212521142031開始時染色スコア:4.6279155139131108888783747864626068開始時染色スコア:0.354131822422518415213115312611610210699104図2開始時染色スコア別生体染色スコアの推移(n=886)計点の推移を示す.投与開始時の生体染色スコアにかかわら(85.7%),無効45例(4.9%),判定不能86例(9.4%)であず自覚症状スコアの合計点は有意に低下した.った.d.効果判定5.安全性最終観察時点の担当医師による効果判定は,有効785例安全性解析対象症例916例のうち副作用は14.6%(134例)446あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(116) BUT(秒)BUT(秒)BUT(秒)876543210開始時481216202428323640444852平均値+SD*p<0.001*************観察時期(week)n=744334237256205142142169134137114108106114図3BUTの推移109876543210481216202428323640444852観察時期(week)**開始時染色スコア:7~9開始時染色スコア:4~6開始時染色スコア:0~3開始時平均値+SD*p<0.001***********開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目開始時染色スコア:7.95621131915914161112981212開始時染色スコア:4.6235106818377474855505341433839開始時染色スコア:0.3447206141151112857695716862565460図4開始時染色スコア別BUTの推移(n=738)で認められた.表3に2例以上に発現した副作用の一覧を示例中9.2%(84例)であった.おもなものの発現頻度は味覚す.多く認められた副作用は味覚異常9.3%(85例),霧視異常4.6%(42例),霧視1.2%(11例),眼痛0.6%(5例),3.2%(29例),アレルギー性結膜炎0.7%(6例),結膜炎,眼そう痒症0.4%(4例),眼瞼炎0.3%(3例)の順であった.眼瞼炎,眼痛がそれぞれ0.6%(各5例)などであった.重篤な副作用の報告はなかった.III考察本剤の投与中止に至った副作用は安全性解析対象症例916本剤のドライアイに対する有効性は,製造販売前の治験時(117)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016447 異物感乾燥感羞明眼痛霧視平均値+SD*p<0.001自覚症状スコア48121620242832364044開始時4852*************異物感乾燥感羞明眼痛霧視平均値+SD*p<0.001自覚症状スコア48121620242832364044開始時4852*************3210観察時期(week)開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目異物感724413338343272221237228176194165158154176乾燥感717409321333268220227228167187161151152175羞明371214180179149119134123859580797897眼痛4802732282151891401591541061111019799106霧視367208177177143109129118909484828893図5自覚症状スコア(5項目)の推移(異物感:n=724,乾燥感:n=717,羞明:n=371,眼痛:n=480,霧視:n=367)14開始時染色スコア:7~9開始時染色スコア:4~6開始時染色スコア:0~3481216202428323640開始時平均値+SD*p<0.001***************************************自覚症状スコア合計点121086420444852観察時期(week)開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目開始時染色スコア:7.96132254123183825182320141727開始時染色スコア:4.6259143126125101838178697163615967開始時染色スコア:0.346527720219416713512714210310792989398図6開始時染色スコア別自覚症状スコア合計点の推移(n=785)448あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(118) に複数の二重盲検比較試験により検証されている2,3).しかし,治験ではいくつかの患者登録基準を設定していたこと,併用薬が制限されていたことから,必ずしも臨床現場の実態を反映しているとはかぎらない.実際に,第3相試験では対象患者をフルオレセイン染色スコア4点以上(15点満点)としたことから軽症患者が除外されていたと考えられる.本調査では染色スコア3点以下(9点満点)が59.1%と軽症患者が過半数であり,治験時の患者よりも角膜上皮障害としては軽症の患者に使用されていたと考えられる.一方,投与前のBUTを測定された744人中708人(95.2%)がBUT5秒以下の患者であった.このような患者を対象とした本調査において,生体染色スコア,BUTともに4週目には統計学的に有意に改善し,4週目以降も継続していたことから,本剤は長期に継続することでより大きな効果を得られる可能性があると考えられた.また,調査した自覚症状スコアは5項目すべてについて,投与開始時に比べて投与52週目では統計学的に有意な改善が認められた.以上のことから,治験で確認された本剤の有効性が実際の臨床現場においても確認することができたと考えられる.安全性については,もっとも多く報告された副作用は味覚異常であり,発現率は9.3%であった.これらはいずれも「苦味」の事象名にて報告されており,本剤の有効成分の苦味に由来するものと考えられた.また,次に多かった霧視の発現率は3.2%であり,本剤が懸濁製剤であることに由来すると考えられた.承認前の国内52週間長期投与試験で報告された味覚異常および霧視の副作用発現率は13.6%および3.6%であり4),実臨床においてもほぼ同様の発現状況であった.本剤発売後,本剤の投与により涙道閉塞,涙.炎が発現する可能性が指摘されているが,本調査では涙道閉塞の副作用は報告されず,涙.炎の副作用は1例報告された.涙道閉塞,涙.炎の副作用の発現メカニズムはいまだ明確ではない5).発現率は低いものの,本剤を用いる際にはこれらの副作用に注意して使用する必要があるものと考えられる.本剤の製造販売後調査結果より,さまざまな制限のある治験と同様に,実臨床においても,本剤がドライアイ患者の治療に有効な薬剤であることを確認することができた.なお,本研究では併用薬としてジクアホソルナトリウムが11.0%の患者で併用されていた.ジクアホソルナトリウムは本剤と類似する薬効をもつものの,その薬理作用は異なって表3副作用一覧表(2例以上に発現した副作用)副作用名発現率味覚異常9.3%(85/916)霧視3.2%(29/916)アレルギー性結膜炎0.7%(6/916)結膜炎,眼瞼炎,眼痛0.6%(5/916)眼そう痒症0.4%(4/916)悪心0.3%(3/916)結膜出血,眼脂,眼瞼痛0.2%(2/916)MedDRA/Jver17.1のPTで集計おり,両剤の特徴を考慮した使い分け,あるいは併用が有用であるかどうかは今後の研究課題と考えられる.謝辞:本報告にあたり,調査にご協力いただいた先生方に厚くお礼申し上げます.利益相反:本稿は,大塚製薬株式会社により実施された調査結果に基づいて報告された.本報告に関連し,開示すべきCOIは木下茂(委託研究費,技術指導料,講師謝礼)である.文献1)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20122)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:Arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20123)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,20134)KinoshitaS,AwamuraS,NakamichiNetal:Amulticenter,open-label,52-weekstudyof2%rebamipide(OPC-12759)ophthalmicsuspensioninpatientswithdryeye.AmJOphthalmol157:576-583,20145)杉本夕奈,福田泰彦,坪田一男ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討.あたらしい眼科32:1741-1747,2015***(119)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016449

眼疲労を訴えるドライアイ患者に対するジクアス点眼液3%の有効性

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):871.875,2015c眼疲労を訴えるドライアイ患者に対するジクアス点眼液3%の有効性吉田紳一郎藤原慎太郎松本佳浩石川功吉田眼科病院EffectofDiquafosolSodiumOphthalmicSolutioninDryEyePatientswithEyeFatigueasthePrimarySubjectiveSymptomShinichiroYoshida,ShintaroFujiwara,YoshihiroMatsumotoandIsaoIshikawaYoshidaEyeHospitalドライアイは,自覚症状として目の疲れを生じる眼表面の慢性疾患である.眼疲労を主訴とするドライアイ患者に対して,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(HA)にジクアホソルナトリウム点眼液(DQS)またはシアノコバラミン点眼液(SCB)を併用したときの,自覚症状および他覚所見の改善効果について比較検討した.角結膜染色スコア,涙液層破壊時間(BUT)および自覚症状について,治療前および治療4週目を比較した.両群とも角結膜上皮障害は治療前に比較して有意に改善したが,DQS併用群のみBUTが有意に延長した.「目の疲れ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごろごろする」「目の痛み」は,両群とも治療前に比較して治療4週後に有意に改善した.「目の乾き」は,DQS併用群がSCB併用群に比較して有意に改善した.以上,DQSとHAの併用は眼疲労感を主訴とするドライアイ患者の治療に有用と考えられた.Dryeyeisachronicdiseaseofthetearfilmandocularsurface,anditsprimarysubjectivesymptomincludeseyefatigue.Weinvestigatedtheeffectsofthecombinationofdiquafosolsodium(DQS)andsodiumhyaluronate(HA)eyedropscomparedtotheeffectsofthecombinationofcyanocobalamin(SBC)eyedropsandHAforthetreatmentofdryeyepatientswitheyefatigue.Theocularsurfacevitalstainingscore,tear-filmbreak-uptime(TBUT),andsubjectivesymptomsscorewerecomparedatbaselineandat4-weeksposttreatment.InboththeDQSandtheSCBtreatmentgroups,thestainingscorewassignificantlyimproved,butonlytheDQStreatmentsignificantlyextendedTBUT.Somesubjectivesymptoms,includingeyefatigue,wereamelioratedinbothtreatmentgroups.TheDQStreatmentsignificantlyimprovedthesensationofdrynessincomparisontoSCB.Thus,thecombinationofDQSandHAwasfoundusefulforthetreatmentofdryeyepatientswitheyefatigue.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):871.875,2015〕Keywords:ドライアイ,ジクアホソルナトリウム点眼液,眼疲労.dryeye,diquafosolsodiumophthalmicsolution,eyefatigue.はじめにドライアイは,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されており1),日常の診療においても,さまざまな不定愁訴をもつドライアイ患者に遭遇する.近年,パソコンやスマートフォンの急速な普及により,われわれはvideodisplayterminal(VDT)作業を行うような環境のなかで生活するようになったが,長時間のVDT作業は目の疲れを誘発する.不定愁訴のなかでも,「目の乾き」を訴える患者以上に「目の疲れ」を訴える患者が多く散見され2),ドライアイと眼疲労感には密接な関係が考えられる.一般的に調節性眼精疲労の治療ではシアノコバラミン点眼液(SCB:サンコバR点眼液0.02%)が用いられているが,眼精疲労でSCBを処方される患者を対象とした調査において,85%以上がドライアイ確定例またはドライアイ疑い例であったとする報告もある3).したがって,眼精疲労の改善もさることながら,同時〔別刷請求先〕吉田紳一郎:〒041-0851北海道函館市本通2丁目31-8吉田眼科病院Reprintrequests:ShinichiroYoshida,M.D.,Ph.D.,YoshidaEyeHospital,2-31-8Hondori,HakodateCity,Hokkaido041-0851,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(107)871 に目の疲れを訴える患者に対しては,原因となるドライアイの適切な診断および治療が非常に重要であり,他覚所見に加えて自覚症状の改善が不可欠な要素となる.2010年12月に発売されたジクアスR点眼液3%(DQS)は,水分およびムチンの分泌を促進することにより,ドライアイの病態形成におけるコアメカニズムである,涙液の不安定化と角結膜上皮障害の間の悪循環を涙液側から改善するドライアイ治療点眼液である4).その結果,ドライアイにより生じた角結膜上皮障害およびさまざまな自覚症状を改善する5,6).今回,眼疲労感を主訴として来院したドライアイ患者に対して,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(HA:ヒアレインR点眼液0.1%)にDQSまたはSCBを併用したときの,自覚症状および他覚所見の改善効果について比較検討した.I対象および方法1.対象2012年7月.2013年9月に吉田眼科病院を受診し,「ドライアイ診断基準」(ドライアイ研究会,2006年)に準じたドライアイの自覚症状があるドライアイ確定例または疑い例で,眼疲労を主訴としたドライアイ患者45例に対して,HA(1日4回点眼)にDQS(1日6回点眼)またはSCB(1日4回点眼)を併用して治療を行った.なお,併用するときの2剤の点眼間隔は5分としたが,順序に関してはとくに指示しなかった.エントリーした45例のうち,治療開始4週後に受診し,データ解析が可能であった39例39眼(男性2例,女性37例)を解析した.なお,解析対象眼はフルオレセイン染色による角結膜上皮染色スコアが高い眼を評価対象眼とし,スコアが両眼同じ場合は右眼を評価対象眼とした.2.方法治療前および治療4週後における自覚症状および他覚所見について,群間比較および群内比較を行った.自覚症状として,目の疲れ,目の乾き,目の不快感,目がゴロゴロする,目の痛み,物がかすんで見える,光をまぶしく感じる,目のかゆみ,目が重たい感じがする,目やにが出る,涙がでる,目が赤くなる,の12項を4段階(0:症状なし,1:少し辛い,2:辛い,3:とても辛い)で評価した.他覚所見としては,フローレス眼検査用試験紙を用いて最少量のフルオレセインを点入後,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)を測定した.また,2006年ドライアイ研究会の診断基準1)に基づき角結膜上皮染色スコア(0.3段階:9点満点)を評価した.3.統計解析BUTの治療前と治療4週後の比較には対応のあるt検定を,また,HAとDQSの併用群(DQS群)およびHAとSCBの併用群(SCB群)の比較は,平均変化量(4週目の値.治療前の値)を用いてt検定を行った.自覚症状スコアおよび角結膜上皮障害スコアの治療前と治療4週後の比較には,Wilcoxon1標本検定を,DQS群とSCB群の比較は,平均変化量を用いてWilcoxon2標本検定を行った.検定の有意水準は両側5%(p<0.05)とした.II結果1.対象および背景因子解析対象39例の背景因子を表1に示す.DQS群およびSCB群の間で,性別,年齢,コンタクトレンズ装用の有無およびVDT作業時間に差は認められなかった.2.有効性および安全性の比較他覚所見において,BUTについてDQS群は,治療前3.8±1.5秒から治療4週後5.7±2.4秒と有意な改善を示したが(p=0.0001),SCB群ではそれぞれ3.8±1.2秒から4.6±1.8秒と有意な改善は認められなかった(p=0.0542)(表2).BUTの変化量に関しては2群間に有意な差はなかった(p=0.0576).角結膜上皮染色スコアは,DQS群およびSCB群ともに治療前に比較して治療4週後に有意な改善を認めた(それぞれp=0.0065およびp=0.0078).変化量について2群間に差はなかった(p=0.5792)(表3).自覚症状スコアの結果を表4に示す.自覚症状の合計スコアは,DQS群,SCB群ともに,治療前に比較して治療4週表1解析対象患者の背景因子HA+DQS群(n=21)HA+SCB群(n=19)p値性別女性男性1921800.4899a年齢(歳)51.3±17.656.2±14.10.3412b有20CL装用無19180.1100aVDT作業時間(時間)4.2±3.03.9±3.50.7808ba:Fisherの直接確立法,b:t検定.872あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(108) 表2BUTの変化の比較治療開始前治療4週間後平均変化量群内比較a)群間比較b)HA+DQS群3.8±1.5(秒)5.7±2.4(秒)1.9±1.8(秒)p=0.0001HA+SCB群3.8±1.2(秒)4.6±1.8(秒)0.9±1.7(秒)p=0.0542p=0.0576値は平均値±SDを示す.a):対応のあるt検定,b):t検定.表3角結膜上皮染色スコアの変化の比較治療開始前治療4週間後平均変化量群内比較a)群間比較b)HA+DQS群2.7±1.11.7±1.4.1.0±1.4p=0.0065p=0.5792HA+SCB群2.7±1.91.8±2.2.0.9±1.3p=0.0078値は平均値±SDを示す.a):Wilcoxonの1標本検定,b):Wilcoxonの2標本検定.表4自覚症状スコアの比較項目群治療前4週後変化量群内比較1)群間比較2)HA+DQS1.4±0.90.4±0.5.1.0±0.9p=0.0001目の疲れHA+SCB1.3±0.80.6±0.6.0.8±0.8p=0.0027p=0.6830HA+DQS2.0±0.90.9±0.9.1.1±1.0p=0.0003目の乾きHA+SCB1.2±0.90.7±0.8.0.4±0.7p=0.0352p=0.0370HA+DQS1.5±0.70.7±0.7.0.9±1.0p=0.0017目の不快感HA+SCB1.4±1.00.6±0.9.0.8±0.9p=0.0039p=0.8942HA+DQS1.1±0.90.6±0.7.0.5±0.9p=0.0278目がゴロゴロするHA+SCB1.3±0.90.4±0.8.0.9±0.6p=0.0001p=0.0662HA+DQS1.1±0.80.3±0.6.0.8±0.9p=0.0020目の痛みHA+SCB1.3±0.80.6±0.7.0.8±0.9p=0.0020p=0.6756HA+DQS0.8±1.00.6±0.8.0.2±0.9p=0.3984物がかすんで見えるHA+SCB0.8±0.90.6±0.9.0.3±0.8p=0.2344p=0.4664HA+DQS0.9±0.80.7±0.9.0.2±0.7p=0.3438光をまぶしく感じるHA+SCB0.8±0.80.4±0.6.0.3±0.6p=0.0625p=0.3546HA+DQS0.3±0.70.4±0.70.1±0.5p=0.6875目のかゆみHA+SCB0.7±0.80.3±0.5.0.4±0.6p=0.0313p=0.0161HA+DQS0.8±0.90.3±0.5.0.5±0.8p=0.0156目が重たい感じがするHA+SCB0.7±0.70.4±0.6.0.3±0.8p=0.1484p=0.7556HA+DQS0.4±0.80.5±0.70.1±0.6p=1.0000目やにが出るHA+SCB0.3±0.50.2±0.4.0.2±0.4p=0.2500p=0.2103HA+DQS0.2±0.50.3±0.60.1±0.7p=1.0000涙が出るHA+SCB0.2±0.40.1±0.3.0.1±0.2p=1.0000p=0.7201HA+DQS0.6±0.90.3±0.7.0.3±0.8p=0.1719目が赤くなるHA+SCB0.7±0.80.3±0.6.0.3±0.6p=0.0625p=0.7610HA+DQS11.2±4.26.0±5.6.5.3±6.2p=0.0009自覚症状合計HA+SCB10.7±5.75.1±5.6.5.7±3.9p=0.0001p=0.8321値は平均値±SDを示す.1):Wilcoxonの1標本検定,2):Wilcoxonの2標本検定.(109)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015873 後有意に改善し(それぞれp=0.0009およびp=0.0001),そドライアイにおいて,涙液の安定性を高めることにより実用の変化量に有意な差はなかった(p=0.8321).各自覚症状を視力および高次収差を改善することが報告されており12,13),見てみると,「目の疲れ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごこの涙液安定性の効果が,目の疲れに関する自覚症状を軽減ろごろする」「目の痛み」に関して,両群とも治療前に比較したものと考えられた.して治療4週後に有意に改善した.また,「目の乾き」に関本研究では,角結膜障害スコアの改善においてSCB群おしては,DQS群がSCB群に比較して有意に改善する効果をよびDQS群ともに治療前に比して有意な改善を認め,両群示した(p=0.0370).さらに,「目が重たい感じがする」は間に顕著な差は認めなかった.この理由として,治療前の角DQS群でのみ治療前に比較して治療4週後に有意に改善し結膜上皮障害スコアの平均が2.7と比較的軽症のドライアイた.一方,「目のかゆみ」に関してはSCB群でのみ治療前に患者がエントリーされていたこと,およびHAが併用薬と比較して有意に改善し,DQS群と比較しても有意差が認めして投与されていたことで,SCB併用群とDQS併用群の間られた(p=0.0161).で上皮障害スコアの改善に顕著な差が認められなかったこと副作用は,試験を通じて認められなかった.が考えられる.そのような条件においてもDQS群ではSCBIII考按群よりもBUTでみられた涙液安定性を高める作用を示す傾向が認められた.このことは,DQSの水分分泌9)およびム本研究では眼疲労感を伴うドライアイに対してDQSはチン分泌作用13)が涙液層の安定化を改善していることを示HAとの併用ではあるが,治療効果が高いことが明らかになすものである.った.自覚症状軽減に効果のあった項目としては「目の疲本研究の限界として,つぎの2点があげられる.DQSのれ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごろごろする」「目の痛水分分泌促進作用は点眼30分まで持続することが報告されみ」といったもので,これらの症状が強いドライアイでは,ており9),他覚所見の診察直前に点眼した患者が含まれる場そうした併用治療は効果が高いということになる.「目の乾合には,その影響が反映される可能性が考えられた.データき」以外の症状では,SCBとの併用でも自覚症状の改善がの標準偏差値をみる限り大きく外れた値はなかったことから有意にみられているが,「目の乾き」についてはDQSとのそのような患者は含まれていないと推測されるが,プロトコ併用のほうが著明に高い効果を示しており,乾きの強い症例ールに規定していないため本研究の限界として否定できないにはHAにDQSを併用する治療に優位性があるといえる.ものである.また,DQS併用群とSCB併用群では点眼回数SCBは調節性眼精疲労患者の反復測定時の調節時間,緊が異なり,その影響が結果に反映されている可能性は考えら張・弛緩運動の改善傾向がみられ,微動調節運動において有れる.本研究では対象がドライアイ患者であるので,点眼回意の改善する作用をもつ点眼液である8).一方,DQSは水分数の多さが治療効果に繋がっていないことを証明することはおよび分泌型ムチンを分泌促進することにより,涙液層を安今後の課題としてあげられる.定にして間接的に目の疲れをはじめとする自覚症状を改善す以上,DQSは眼疲労感を主訴とするドライアイ患者におる.DQSの水分分泌促進作用は点眼後30分継続することがいて,HAとの併用により自覚症状および他覚所見を有意に報告されており9),この効果がSCB群に比較して目の乾き改善し,ドライアイ治療に有用な薬剤と考えられた.を有意に改善する結果に繋がっていると考えられた.DQSはHAに抵抗するドライアイに対しても併用することで改善効果が報告10)されており,SCBにDQSまたはHAの併用利益相反:利益相反公表基準に該当なしを比較するほうが興味深い結果が出たのではないかと予想され,今後の検討課題としたい.文献DQSとHAの併用投与は,涙液層の安定性を高めるとと1)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基もに「目の疲れ」をはじめとする自覚症状を改善した.ドラ準.あたらしい眼科24:181-184,2007イアイでは,通常の視力検査において1.0のような良好な視2)引地泰一,吉田晃敏,福井康夫ほか:厳しい診断基準とゆ力が得られる患者においても,1分間の連続視力を測定するるい診断基準のドライアイについての多施設共同研究.臨実用視力では顕著な視力低下が認められている11).これは,眼48:1621-1625,19943)五十嵐勉,大塚千明,矢口千恵美ほか:シアノコバラミ角膜上の涙液層が不安定な状態で短時間において涙液層が破ンの処方例におけるドライ頻度.眼紀50:601-603,1999綻するために,光学面に不整が生じてピントが合わなくなる4)NakamuraM,ImanakaT,SakamotoA:Diquafosolophためと考えられている.このようにピント調節を常時必要とthalmicsolutionfordryeyetreatment.AdvTher29:する状態の継続は毛様体筋への負荷を大きくするため,「目579-589,20125)TakamuraE,TsubotaK,WatanabeHetal:Aranの疲れ」といった自覚症状を生じると推察される.DQSは874あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(110) domised,double-maskedcomparisonstudyofdiquafosolversussodiumhyaluronateophthalmicsolutionsindryeyepatients.BrJOphthalmol96:1310-1315,20126)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,20127)UchinoM,YokoiN,UchinoYetal:Prevalenceofdryeyediseaseanditsriskfactorsinvisualdisplayterminalusers:theOsakastudy.AmJOphthalmol156:759-766,8)鈴村明弘:VitaminB12点眼剤による眼精疲労患者の調節機能,特にPEAGの動向.眼紀28:340-354,19779)YokoiN,KatoH,KinoshitaS:Facilitationoftearfluidsecretionby3%diquafosolophthalmicsolutioninnormalhumaneyes.AmJOphthalmol157:85-92,201410)KamiyaK,NakanishiM,IshiiRetal:Clinicalevaluationoftheadditiveeffectofdiquafosoltetrasodiumonsodiumhyaluronatemonotherapyinpatientswithdryeyesyndrome:aprospective,randomized,multicenterstudy.Eye26:1363-1368,201211)海道美奈子:ドライアイにおける視機能異常.あたらしい眼科29:309-314,201212)KaidoM,UchinoM,KojimaTetal:Effectsofdiquafosoltetrasodiumadministrationonvisualfunctioninshortbreak-uptimedryeye.JOculPharmacolTher29:595603,201313)KohS,MaedaN,IkedaCetal:Effectofdiquafosolophthalmicsolutionontheopticalqualityoftheeyesinpatientswithaqueous-deficientdryeye.ActaOphthalmol92:e671-675,201414)堀裕一:ドライアイに対する眼表面の層別診断・層別治療-4)ムチン層.眼科55:1251-1256,2013***(111)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015875