‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

ゾレドロン酸水和物静注後に生じた急性前部ぶどう膜炎の1例

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):273.275,2013cゾレドロン酸水和物静注後に生じた急性前部ぶどう膜炎の1例西岡木綿子*1,2中尾新太郎*1,2川野庸一*3石橋達朗*2*1国家公務員共済組合連合会千早病院眼科*2九州大学大学院医学研究院眼科学分野*3福岡歯科大学総合医学講座眼科学分野ACaseofAcuteAnteriorUveitisFollowingTreatmentwithZoledronicAcidYukoNishioka1,2),ShintaroNakao1,2),Yoh-IchiKawano3)andTatsuroIshibashi2)1)DepartmentofOphthalmology,ChihayaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3)SectionofOphthalmology,DepartmentofGeneralMedicine,FukuokaDentalCollege目的:ビスホスホネート製剤であるゾレドロン酸水和物投与後に発症した急性前部ぶどう膜炎の症例報告.症例:71歳,女性.51歳時に乳癌を発症し,右乳癌切除術後に抗癌薬治療を行っていた.多発性の骨転移に対して,ゾレドロン酸水和物の点滴投与が行われた.点滴投与日からの右眼の充血,流涙,眼痛と視力低下を主訴に千早病院眼科を受診した.矯正視力は右眼0.2,左眼1.2で,眼圧は右眼8mmHg,左眼9mmHgであった.右眼に結膜充血,フィブリンを伴った強い前房内炎症や虹彩後癒着を認めたが,眼底には変化はみられなかった.左眼に炎症所見はみられなかった.全身検査にて他のぶどう膜炎の原因となりうる所見はなかった.副腎皮質ステロイド薬の点眼で2週間後にはぶどう膜炎は軽快し視力も改善し,結膜充血は3カ月後に消退した.結論:ビスホスホネート製剤投与後にぶどう膜炎や結膜炎が発症することがある.Purpose:Toreportacaseofanterioruveitisaftertheinfusionofbisphosphonates(zoledronicacid).Case:A71-year-oldfemale,diagnosedwithrightbreastcancerin1990,wastreatedwithmodifiedradicalmastectomyandadjuvantchemotherapy.Bonemetastaseswerediagnosed.Shewasadmittedwithpain,visualloss,andhyperemiainherrighteyeafterthefirstadministrationofzoledronicacid.Initialvisualacuitywas0.2righteyeand1.2left;intraocularpressurewas8mmHgrighteyeand9mmHgleft.Therighteyeshowedciliaryinjection,moderateamountofcellswithfibrinexudatesinanteriorchamberandposteriorsynechia.Therewasnoevidenceofvitreousinvolvementandnoretinalabnormality.Thepatientwastreatedwithtopicalprednisoloneandrecoveredslowlyover3months.Conclusion:Zoledronicacidmaycauseanterioruveitisandconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):273.275,2013〕Keywords:ビスホスホネート,ぶどう膜炎,結膜炎.bisphosphonates,uveitis,conjunctivitis.はじめにビスホスホネート製剤は従来骨粗鬆症の治療薬として頻用されているが,その一つであるゾレドロン酸水和物は骨粗鬆症以外に,悪性腫瘍による高カルシウム血症,多発性骨髄腫や固形癌骨転移の骨病変治療の注射製剤としてわが国でも用いられるようになっている1).注射製剤の場合,副作用として投与直後から3日以内の発熱,筋肉痛,頭痛,関節痛,インフルエンザ様症状,また,顎骨壊死や顎骨骨髄炎の発生頻度が内服より高まることなどが注目されているが,欧米ではさらに結膜炎,ぶどう膜炎,強膜炎,眼窩炎症の発症が多く報告されている2.6).わが国での眼関連の副作用の報告はまれであるが,筆者らはゾレドロン酸水和物(ゾメタR)投与後にぶどう膜炎を発症した症例を経験したので報告する.I症例患者:71歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛,流涙.既往歴:51歳時に右乳癌切除術施行.52歳時,食道粘膜〔別刷請求先〕西岡木綿子:〒813-8501福岡市東区千早2丁目30番1号千早病院眼科Reprintrequests:YukoNishioka,M.D.,DepartmentofOpthalmology,ChihayaHospital,2-30-1Chihaya,Fukuoka813-8501,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(139)273 abab図1初診時右眼の前眼部所見a:結膜充血と角膜裏面沈着物があった.b:Descemet膜皺襞,前房中には細胞とフィブリンの析出,虹彩後癒着を認めた.下腫瘍.56歳時,縦隔腫瘍.63歳時に乳癌の骨転移を認めたため放射線治療・抗癌薬治療開始.現病歴:2011年9月21日に多発骨転移に対して千早病院(以下,当院)外科でゾレドロン酸水和物(ゾメタR)4mgの静脈注射を行い,注射後に38℃の発熱を認めた.また,同日から右眼充血,眼痛,流涙を自覚していた.同年9月28日,1週間前からの右眼の症状を主訴に当院眼科を受診した.初診時所見:視力は右眼0.2(矯正不能),左眼0.2(1.2×+3.00D(cyl.1.25DAx140°),眼圧は右眼8mmHg,左眼9mmHgで,両眼とも白内障は軽度であった.右眼は結膜の充血が著明で,角膜には角膜裏面沈着物と中等度のDescemet膜皺襞があった.前房中には細胞(2+)の炎症反応とフィブリンの析出,虹彩後癒着を認めた(図1).網脈絡膜の炎症や硝子体混濁はなかった.左眼に異常はみられなかった.血液生化学検査では,白血球数4,340/μl,CRP(C反応性274あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013蛋白)0.01(0.0.2)mg/dlと炎症反応はみられなかった.ACE(アンギオテンシン変換酵素)22.7(7.7.29.4)IU/L,抗核抗体・抗SS-A抗体・抗SS-B抗体・抗RNP(ribonucleoprotein)抗体・抗Sm抗体は陰性で,Ig(免疫グロブリン)G1,388(870.1,700)mg/dl,IgA161(110.410)mg/dl,IgM130(46.210)mg/dlと正常範囲内であった.ウイルス抗体価はVZV(水痘帯状ヘルペスウイルス)が既感染パターンで,HSV(単純ヘルペスウイルス)やHTLV(ヒトTリンパ球向性ウイルス)-Iは陰性であった.HLA(ヒト白血球抗原)はA2,A24(9),B46,B52(5),DR8であった.経過:ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロンR0.1%)点眼,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩合剤(ミドリンRP)点眼を開始した.翌日には,虹彩後癒着は解除され炎症も軽減していた.初診から1週間目には右眼視力0.4(1.0×+2.50D)と視力の改善がみられた.点眼回数を漸減し,2週間目には,眼内に炎症所見はみられなかった.しかし,結膜の充血のみが継続していたためベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロンンR0.1%)点眼と,レボフロキサシン水和物(クラビットR)点眼に変更し経過観察した.3カ月後には,結膜の充血も軽快した.ゾレドロン酸水和物が原因によるぶどう膜炎が疑われたため,以後の本剤の投与は中止された.初診から12カ月後の現在まで,眼症状の再発はない.II考按眼に関するビスホスホネート製剤の副作用はわが国ではほとんど報告されていないが,欧米では1990年頃から報告があり7),視力低下,霧視,眼痛,結膜充血,結膜炎,ぶどう膜炎,強膜炎,視神経浮腫など多様である2.6).本症例は注射用製剤のゾレドロン酸水和物(ゾメタR)を投与後に発熱し,同日,眼症状が出現している.ぶどう膜炎の原因を特定できるような検査所見や眼外症状はみられなかったため,ゾレドロン酸水和物(ゾメタR)によりぶどう膜炎を発症したと診断した.また,内眼炎症状が軽快した後約3カ月間持続した結膜充血も過去の報告から本薬剤の影響を否定できないと考えた.ぶどう膜炎や眼窩炎症の発症のメカニズムははっきりしていない.体内に入ったビスホスホネートのおよそ50%はそのまま腎臓から排出されるが,残りは,骨組織に親和性をもち骨表面に沈着する.破骨細胞が骨を破壊するときに細胞内に取り込まれ,取り込まれたビスホスホネートが破骨細胞のアポトーシスを誘導し,破骨細胞の寿命を縮めて骨病変の進行や症状の発現を抑えるといわれている.Dicuonzoらは,ゾレドロン酸水和物(ゾメタR)を投与した18名の患者の血中TNF(腫瘍壊死因子)-a,IFN(インターフェロン)-gと(140) IL(インターロイキン)-6の経時的変化を測定し,TNF-aは投与1日目と2日目,IL-6は投与1日目に上昇し,しかも,投与後に発熱があった群となかった群では,発熱があった群が優位に上昇していたと報告している8).ビスホスホネートはヒトのgdT細胞の活性化を起こすことが報告されていて9),本症例では,ぶどう膜炎発症時にCRPの上昇はなかったが静注後に発熱がみられたため,やはり自然免疫系の細胞への作用が,早期の眼および眼周囲の炎症反応をひき起こしたと考えられた.ビスホスホネート製剤には,経口製剤と注射用製剤があり,経口製剤では胃の不調や食道の炎症,びらんなどの上部消化器症状がおもな副作用で,内服後30分から60分間座っていることで予防できる.一方,注射用製剤では,発熱,筋肉痛,頭痛,関節痛や,インフルエンザ様の症状など従来の内服製剤では頻度的にあまり問題にならなかった全身的な副作用が増加することが知られている.これはビスホスホネート製剤が経口投与では腸管からの吸収が悪いのに対して静注剤では早期に効能を発揮することに起因することと考えられる.ビスホスホネート製剤は,構造の違いで3世代に分けられる.第一世代は側鎖に窒素を含まず,第二世代は側鎖に窒素を含むが,環状構造を有しない.第三世代は側鎖に窒素を含み環状構造を有する.近年注目されているビスホスホネート関連顎骨壊死は窒素含有注射剤での頻度が高いといわれている1).Fredericらは,2003年に,ビスホスホネート製剤の世代ごとの眼に関する副作用をまとめ,第一世代では視力低下や結膜炎,第二世代では視力低下,ぶどう膜炎,結膜炎や強膜炎,第三世代では結膜炎や強膜炎がみられたと報告している10).本症例に使用されたのは第三世代のビスホスホネート製剤で,現在臨床応用されているビスホスホネート製剤のなかでは強力なハイドロキシアパタイト親和性と破骨細胞活性抑制作用をもち,比較的副作用が少ないといわれているが,2012年にPetersonらはゾレドロン酸水和物の静注後に発症した眼窩炎症の1例とビスホスホネート製剤投与後に眼に副作用の出現した14症例の特徴をまとめて報告している11).報告では,ゾレドロン酸水和物の静注12時間後に左眼痛と側頭部痛を認め,左上下眼瞼の腫脹,結膜浮腫を示し,ステロイド薬の全身投与でようやく消炎が得られている.14症例のうち10症例が片眼性であり,発症時期もゾレドロン酸水和物の静注後3日以内がほとんどであったが,内服製剤では,投与3週間目に発症した症例もあった.ビスホスホネート製剤はステロイド性骨粗鬆症に対しての第一選択として推奨されている.一般的にプレドニゾロン換算5mg/日以上,3カ月以上の使用は骨折リスクが上昇するとして骨粗鬆症の治療対象である.眼疾患の原田病やサルコイドーシスなどでもステロイド薬の長期投与が必要なこともあり,ビスホスホネート製剤の副作用でぶどう膜炎,強膜炎,眼窩炎症が起こる可能性があること,特に静注製剤において投与後早期の発症がありうることを眼科医として認識しておくことが大切と考えられた.文献1)折茂肇:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版,ライフサイエンス出版,20112)WooTC,JosephDJ,WilkinsonR:SeriousocularcomplicationsofZoledronate.ClinOncol18:545-546,20063)KilickapS,OzdamarY,AltundagMKetal:Acasereport:zoledronicacid-inducedanterioruveitis.MedOncol25:238-240,20084)PhillipsPM,NewmanSA:Orbitalinflammatorydiseaseafterintravenousinfusionofzoledronatefortreatmentofmetastaticrenalcellcarcinoma.ArchOphthalmol126:137-139,20085)FrenchDD,MargoCE:Postmarketingsurveillanceofuveitisandscleritiswithbisphosphonatesamonganationalveterancohort.Retina28:889-893,20086)McKagueM,JorgensonD,BuxtonKA:Ocularsideeffectsofbisphosphonates.Acasereportandliteracturereview.CanFamPhysician56:1015-1017,20107)SirisES:Bisphosphonatesandiritis.Lancet341:436437,19938)DicuonzoG,VincenziB,SantiniDetal:FeverafterzoledronicacidadministrationisduetoincreaseinTNF-aandIL-6.JInterferonCytokineRes23:649-654,20039)KuzmannV,BauerE,WilheimM:Gamma/deltaT-cellstimulationbypamidronate.NEnglJMed340:737-738,199910)FrederickW,FrederickT:Bisphosphonatesandocularinflammation.NEnglJMed348:1187-1188,200311)PetersonJD,BedrossianEHJr:Bisphosphonate-associatedorbitalinflammation─acasereportandreview.Orbit31:119-123,2012***(141)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013275

1 ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入眼における屈折誤差と視力:3 ピースとの比較

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):269.272,2013c1ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入眼における屈折誤差と視力:3ピースとの比較宮田和典片岡康志本坊正人尾方美由紀南慶一郎宮田眼科病院RefractiveErrorandVisualAcuityofEyeswithOne-pieceDiffractiveMultifocalIntraocularLenses:ComparisonwithThree-pieceKazunoriMiyata,YasushiKataoka,NaotoHonbou,MiyukiOgataandKeiichiroMinamiMiyataEyeHospital1ピース回折型多焦点眼内レンズ(IOL)の術後1カ月の臨床成績を,同プラットフォームを有する3ピースIOLと比較した.対象は,1ピース多焦点IOLZMB00(AMO)を挿入した12例23眼(平均年齢63.1±10.1歳,1ピース群)と,3ピース多焦点IOLZMA00(AMO)を挿入した16例23眼(平均年齢58.7±15.7歳,3ピース群).術後1カ月までの,裸眼遠方視力,矯正遠方視力,裸眼近方視力,遠方矯正下近方視力,および屈折誤差を比較検討した.また,眼軸長,および角膜屈折力の屈折誤差への影響も検討した.IOL度数ずれによる裸眼近方視力と屈折誤差以外は,両群に差はなかった.3ピース群でみられた眼軸長と角膜屈折力による屈折誤差の変動は1ピース群ではなかった.度数決定では注意を要するが,ZMB00により良好な裸眼遠近視力が得られると考えられた.Clinicaloutcomesofthe1-piecediffractivemultifocalintraocularlens(IOL)at1monthpostoperativelywerecomparedwiththoseofthe3-pieceversionwiththesameplatform.Receivingthe1-piecemultifocalIOLZMB00were23eyesof12patients(1-piecegroup);receivingthe3-pieceIOLZMA00were23eyesof16patients(3-piecegroup).Uncorrecteddistance,best-correcteddistance,uncorrectednear,anddistance-correctednearvisualacuities,aswellasrefractionerrorfortheimplantedIOLuntil1monthpostoperatively,werecompared.Influencesofaxiallengthandkeratometryonrefractionerrorwerealsoexamined.Differencewasnotedonlyforuncorrectednearvisualacuityandrefractionerror.Associationwithaxiallengthorkeratometrywasobservedinthe3-piecegroup,whereasnotinthe1-piecegroup.Withcarefulconsiderationinpowercalculation,ZMB00providedfavorableuncorrecteddistanceandnearvisualacuities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):269.272,2013〕Keywords:多焦点眼内レンズ,1ピース,3ピース,屈折誤差.multifocalintraocularlens,1-piece,3-piece,refractionerror.はじめに白内障術後に良好な裸眼視力を得るためには,術後の屈折誤差と乱視をできるだけ小さくすることが必要である.光学式による眼軸長測定と第三世代以降の眼内レンズ(IOL)度数計算法を用いることで,ほとんどの症例では,正確なIOL度数決定を容易かつ正確に行え,術後の屈折誤差は十分小さくなった.一方,乱視に対しては,手術で惹起される乱視を最小限に抑えることが重要となる.そのため,小切開から挿入可能な1ピース形状のIOLがより望ましいことは明らかである.3ピース形状の非球面IOLZA9003(AMO)と,同一プラットフォームの1ピース形状IOLZCB00(AMO)の術後早期成績の検討では,ZA9003は,眼軸長,角膜曲率による屈折誤差が変動したが,ZCB00は変動がなく,良好に.内固定されていると示唆された1).しかし,1ピースのZCB00ではA定数(理論値)による遠視化がみられた.最新の回折型多焦点IOLを挿入することで,良好な裸眼〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(135)269 遠近視力を得ることは可能である2,3)が,多焦点IOLのメリットを享受するには,より高レベルの屈折誤差と乱視の管理が必要で4),特に,術後角膜乱視は,1.0Dを超えると裸眼視力が顕著に低下すると報告されている5).そのため,多焦点IOLの1ピース化は,医原性乱視を抑える意味で単焦点IOL以上に重要である.よって,同じプラットフォームの単焦点IOLでみられた問題点と,その影響を確認することは重要である.今回,1ピース回折型多焦点IOLの術後1カ月の臨床成績を,3ピース多焦点IOLと比較検討した.I対象および方法対象は,2011年10月から2012年6月に宮田眼科病院にて白内障手術を受け,1ピース回折型多焦点IOLZMB00(AMO)を挿入した12例23眼(1ピース群)である.対照群は,2009年8月から2011年4月に3ピース回折型多焦点IOLZMA00(AMO)を挿入した16例23眼(3ピース群)である.この後ろ向きの検討は,宮田眼科病院の倫理審査委員会の承認を得たのち,ヘルシンキ宣言に沿って実施された.患者の背景は表1に示す.両群間に有意差はなかった.1ピース群は,2.4mm幅の強角膜1面切開より水晶体を超音波乳化吸引し,水晶体.にZMB00を専用インジェクターで挿入した.3ピース群は,2.75mm幅の強角膜3面切開,あるいは,強角膜1面切開により白内障除去術,同様に,インジェクターで水晶体.に挿入した.全例,単一術者により,切開以外は同一の術式で行った.術中合併症はなかった.IOL度数は,眼軸長を光干渉式IOLマスター(Zeiss)と超音波式で,角膜屈折力をオートケラトメータARK-700(NIDEK)で測定し,A定数(理論値:ZMB00は118.8,ZMA00は119.1)を用いて,正視狙いでSRK/T式で求めた.術後1日,1週,1カ月の視力,屈折誤差を比較検討した.視力は,裸眼遠方視力(uncorrecteddistancevisualacuity:UDVA)と矯正遠方視力(correcteddistancevisualacuity:CDVA),および,30cmにおける裸眼近方視力(uncorrectednearvisualacuity:UNVA)と遠方矯正下近方視力(distancecorrectednearvisualacuity:DCNVA)を測定した.視力は,小数視力をlogarithmicminimumangleofresolution(logMAR)視力に変換して評価した.屈折誤差は,挿入IOL度数での予想術後屈折値と自覚等価球面度数との差とした.さらに,1ピースIOLにおける.内固定位置の安定性と術後屈折との関係を調べるため,眼軸長(超音波式),または角膜屈折力と術後1カ月の屈折誤差との関係も評価した.両群間の視力はMann-WhitneyのU検定で,それ以外は対応のないt検定で評価した.眼軸長と角膜屈折力の影響は,回帰分析を行い,相関の有無を調べた.p<0.05を統計学的に有意差ありとした.結果は,平均±標準偏差で表記する.II結果術後1日,1週,1カ月の遠方視力(UDVAとCDVA),近方視力(UNVAとDCNVA)を図1,2に示す.UDVAおよびCDVAは,術後1日から1カ月において両群間に差はなかった.近方視力では,1ピース群のUNVAは,術後1日(平均小数視力:0.48,以下同様),1週(0.69),1カ月(0.79)と,3ピース群(それぞれ,0.73,0.87,0.90)に比較して有意に低かった(p=0.012,0.019,0.025).DCNVAでは,術後1日は1ピース群(平均小数視力:0.73)が3ピース群(0.92)より有意に低かった(p=0.02)が,1週後は両群間に差はなかった.術後1カ月の等価球面度数は,1ピース群が0.33±0.22D,3ピース群が0.19±0.48Dで群間差はなく,角膜乱視はそれぞれ1.17±0.60D,0.80±0.45Dと1ピース群が有意に大きかった(p=0.04).1ピース群の屈折誤差は,術後1日で0.52±0.46D,1週で0.38±0.36D,1カ月で0.43±0.27Dと,3ピース群の屈折誤差が術後1日で0.13±0.52D,1週で0.09±0.40D,1カ月で.0.01±0.47Dに対して,各観察時で有意に遠視化した(p=0.009,0.012,0.001)(図3).眼軸長,および,角膜屈折力の屈折誤差への影響を図4に示す.1ピース群では,眼軸長,角膜屈折力に対して有意な相関関係はみられなかったが,3ピース群では,眼軸長が短くなる(p=0.0013,r2=0.357),または角膜屈折力が大きくなる(p<0.0075,r2=0.262)と有意に近視化する傾向を示した.表11ピースと3ピースの回折型多焦点IOLを挿入した対象の背景1ピース群(IOL:ZMB00)年齢(歳)63.1±10.1眼軸長(超音波式)(mm)24.17±1.28(22.1.26.6)術前前房深度(mm)3.28±0.41(2.31.4.09)術前角膜乱視度数(D)0.96±0.52(0.25.2.50)術前暗所瞳孔径(mm)5.75±0.78挿入IOL度数(D)18.4±3.9(10.5.24.5)平均±標準偏差(範囲).p値:対応のないt検定.3ピース群(IOL:ZMA00)58.7±15.723.94±1.61(21.5.27.9)3.16±0.48(1.98.4.21)0.71±0.46(0.00.2.25)5.33±0.9919.2±4.8(7.5.25.0)p値0.420.590.350.090.130.54270あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(136) :1ピース群:3ピース群:1ピース群:3ピース群0.80.80.8:1ピース群:3ピース群LogMAR視力:1ピース群:3ピース群p=0.012p=0.019p=0.0250.60.60.6:1ピース群:3ピース群p=0.020LogMAR視0.40.40.40.20.20.20.00.00.0-0.2-0.2-0.2-0.2-0.41D1W1M-0.41D1W1M-0.41D1W1M-0.41D1W1M図1裸眼遠方視力(左)と矯正遠方視力(右)図2裸眼近方視力(左)と遠方矯正下近方視力(右)p:両群間に有意差あり(Mann-Whitney検定).1.0p=0.009p=0.012p=0.001:1ピース群:3ピース群2.01.5y=-0.1505x+6.6641r2=0.262●:1ピース群○:3ピース群1.0y=0.1731x-4.1319r2=0.35650.50.51.51.0屈折誤差(D)屈折誤差(D)0.50.00.00.0-0.5-0.5-1.0-1.0-1.5-0.51D1W1M図3屈折誤差p:両群間に有意差あり(対応のないt検定).III考按本比較では,1ピース群の術後遠方視力は,屈折誤差が遠視化していたが,3ピース群と同様に良好であった.また,3ピース群でみられた眼軸長と角膜屈折力による屈折誤差の変動はなかった.同一のアクリル素材,非球面光学,および,支持部形状をもつ単焦点IOLにおける1ピースと3ピースの比較でも,遠方視力は同等であり,1ピースIOLにおける遠視化,3ピースIOLにおける角膜屈折力と眼軸長の影響が,同様に報告されている1).3ピース群はUNVAが有意に良好であったが,その要因として,自覚屈折値と角膜乱視が考えられる.術後の角膜乱視は1ピース群のほうが有意に大きかったが,多焦点IOLにおける角膜乱視の影響は近方視力より遠方視力のほうが大きい5)ことと,裸眼遠方視力に差はないことから,角膜乱視の影響は少ないと考えられる.一方,自覚屈折値は,有意差はないものの1ピース群(0.33±0.22D)は3ピース群より大きく,遠視化していた.このことから,屈折誤差が主たる要因と考えられた.1ピース群の屈折誤差は遠視化していた.1ピース単焦点IOLでも同様で,A定数の検討が指摘されている1).1ピー-2.0202224262830-1.5404550眼軸長(mm)角膜屈折力(D)図4眼軸長(左)と角膜屈折力(右)の屈折誤差への影響3ピース群はともに有意な相関を示した(回帰直線は実線)が,1ピース群は相関はなかった.スIOLのA定数(理論値)は118.8であるが,IOLマスターのULIBでは119.7に更新されている.症例数が十分ではないが,本検討症例に対して屈折誤差がゼロとなるA定数を求めると119.35となった.多焦点IOLにおける遠視化は,裸眼近方視力の低下をもたらすため6,7),1段階小さい度数の選択,SRK/T以外の度数計算法の使用,A定数の修正などの対応を行うことが必要である.3ピース群の屈折誤差は,眼軸長と角膜屈折力と相関を示した.変動は単焦点IOLの結果より小さいが,軸性近視眼では遠視化,屈折性近視では近視化することが示唆される1,8).ZMA00使用時には,SRK/Tのみで度数計算するのではなく,他のIOL度数計算により確認することが必要と考える.1ピースのZMB00では,眼軸長と角膜屈折力による変動がないことから,ZCB00と同様に,良好な術後の.内固定が得られていると示唆された.文献1)宮田和典,片岡康志,松永次郎ほか:1ピース非球面眼内レンズZCB00の早期臨床成績.あたらしい眼科29:14151418,2012(137)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013271 2)片岡康志,大谷伸一郎,加賀谷文絵ほか:回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の視機能に対する検討.眼科手術23:277-281,20103)AgrestaB,KnorzMC,KohnenTetal:Distanceandnearvisualacuityimprovementafterimplantationofmultifocalintraocularlensesincataractpatientswithpresbyopia:asystematicreview.JRefractSurg28:426-435,4)deVriesNE,WebersCA,TouwslagerWRetal:Dissatisfactionafterimplantationofmultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg37:859-865,20115)HayashiK,ManabeS,YoshidaMetal:Effectofastigmatismonvisualacuityineyeswithadiffractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg36:1323-1329,20106)MuftuogluO,PrasherP,ChuCetal:Laserinsitukeratomileusisforresidualrefractiveerrorsafterapodizeddiffractivemultifocalintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg35:1063-1071,20097)LeeES,LeeSY,JeongSYetal:EffectofpostoperativerefractiveerroronvisualacuityandpatientsatisfactionafterimplantationoftheArraymultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg31:1960-1965,20058)NawaY,UedaT,NakatsukaMetal:Accommodationobtainedper1.0mmforwardmovementofaposteriorchamberintraocularlens.JCataractRefractSurg29:2069-2072,2003***272あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(138)

Trabectome® を用いた線維柱帯切開術の短期成績

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):265.268,2013cTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績石田暁*1,2庄司信行*3森田哲也*2高郁嘉*4春木崇宏*2笠原正行*2清水公也*2*1海老名総合病院眼科*2北里大学医学部眼科学教室*3北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*4社会保険相模野病院眼科Short-periodSurgicalOutcomeofTrabeculotomybyTrabectomeRAkiraIshida1,2),NobuyukiShoji3),TetsuyaMorita2),AyakaKo4),TakahiroHaruki2),MasayukiKasahara2)KimiyaShimizu2)and1)DepartmentofOphthalmology,EbinaGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversity,SchoolofMedicine,3)DepartmentofRehabilitation,OrthopicsandVisualScienceCourse,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthSciences,4)DepartmentofOphthalmology,SocialInsuranceSagaminoHospitalTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績を報告する.対象は2010年12月より2011年7月までに北里大学病院眼科にて手術を行った34例40眼.年齢は19.85歳(平均63.6歳),術前眼圧は19.64mmHg(平均31.9mmHg),術後の観察期間は1カ月.8カ月(平均4.4カ月)であった.白内障同時手術は13例16眼であった.病型は原発開放隅角緑内障14例16眼,落屑緑内障9例10眼,ステロイド緑内障3例5眼,ぶどう膜炎続発緑内障3例4眼,術後続発緑内障2例2眼,発達緑内障2例2眼,高眼圧症1例1眼であった.術後3カ月の眼圧は16.2±3.8mmHgと有意に下降し(p<0.01),眼圧下降率は43%であった.薬剤スコアは術前平均4.8±1.9点から術後3カ月で3.1±1.1点と減少した(p<0.01).線維柱帯切除術の追加手術を要したのは3眼(7.5%)であった.低眼圧,感染症はみられなかった.TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術は10台後半の眼圧を目指した開放隅角緑内障に対する手術として期待できる.Wereporttheshort-periodsurgicaloutcomeoftrabeculotomyusingtheTrabectomeRforopenangleglaucoma.Thisstudycomprised40eyesof34glaucomapatientswhounderwentsurgeryattheDepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversity,betweenDecember2010andJuly2011,including16casesofTrabectomeRphacoemulsificationsurgery.Patientmeanagewas63.6years±17.9(19.85years)withmeanfollow-upof4.4±1.9months(1.8months).Preoperativemeanintraocularpressure(IOP)of31.9±11.2mmHgsignificantlydecreasedto16.2±3.8mmHg(p<0.01)witha43%decreaserateat3monthspostoperatively.Themedicationscoredecreasedfrom4.8±1.9to3.1±1.1at3months(p<0.01).Anteriorchamberirrigationwasrequiredin4eyes(10%)duetohemorrhage;3eyes(7.5%)requiredadditionaltrabeculectomy.Therewasnohypotonyorinfection.TrabeculotomywiththeTrabectomeRcanbeeffectivefortreatingopenangleglaucomawiththeaimofachievinggoodIOPcontrolinthehighteens.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):265.268,2013〕Keywords:TrabectomeR,線維柱帯切開術,手術成績,開放隅角緑内障.TrabectomeR,trabeculotomy,surgicaloutcome,openangleglaucoma.はじめに年9月には厚生労働省より認可がおり日本でも使用できるよ開放隅角緑内障に対する流出路再建術である線維柱帯切開うになった.TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の特徴術を眼内からのアプローチによって行う,TrabectomeRととしては,結膜が温存できるため線維柱帯切除術などの追加いう器具を用いた手術が米国では2004年から始まり,2010手術に影響を与えないこと,角膜小切開創から施行できるこ〔別刷請求先〕石田暁:〒243-0433海老名市河原口1320海老名総合病院眼科Reprintrequests:AkiraIshida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EbinaGeneralHospital,1320Kawaraguchi,Ebina,Kanagawa243-0433,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(131)265 と,手術時間が約10.15分ほどで短く,重篤な術後合併症が少ないことがあげられ,低侵襲および手技が比較的容易な手術といわれている1.3).今回筆者らは,TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績について報告する.I対象および方法対象は2010年12月から2011年7月までの間に北里大学病院眼科(以下,当院)でTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術を行った34例40眼である.内訳は男性24例29眼,女性10例11眼であった.平均年齢は63.6±17.9歳(平均±標準偏差)(19.85歳),平均経過観察期間は4.4±1.9カ月(1カ月.8カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)14例16眼,落屑緑内障9例10眼,ステロイド緑内障3例5眼,ぶどう膜炎続発緑内障3例4眼,術後続発緑内障2例2眼,発達緑内障2例2眼,高眼圧症(ocularhypertension:OH)1例1眼であった.全例が点眼,内服にても目標眼圧の得られない症例で,TrabectomeR手術研究会で定められている患者選定基準に従い,隅角はShaffer分類2.4度であり,鼻側に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)がないことを確認した.TrabectomeRの装置は灌流と吸引の制御装置と電気焼灼装置,そこに接続されたディスポーザブルのハンドピースからなり,ハンドピースの先端のフットプレートをSchlemm管に挿入し,先端の電極から発生するプラズマによって線維柱帯を電気焼灼する.ハンドピースの先端は19.5ゲージで1.7mmの角膜切開からの手術が可能となっている.術式は全例角膜耳側切開で,TrabectomeR単独では1.7mm,白内障手術併用では2.8mmの切開幅で手術を施行した.有水晶体眼でのTrabectomeR単独が8例10眼,偽水晶体眼でのTrabectomeR単独が13例14眼,白内障手術併用が13例16眼であった.眼圧値と眼圧下降率,薬剤スコアについて術前後で比較し,手術の合併症についても検討した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した.薬剤スコアは緑内障点眼薬を1点,配合点眼薬を2点,アセタゾラミド250mg内服は1錠1点とした.抗緑内障薬は原則として術後も継続し,眼圧下降の程度に応じて適宜漸減した.また,PASの形成を予防するために2%塩酸ピロカルピンを追加し,術後のPAS形成の程度をみながら漸減,中止した.2%塩酸ピロカルピンは1点として薬剤スコアに加えた.なお,眼圧と薬剤スコアの検定に関してはDunnett法を用い,術式別の眼圧と薬剤スコアの検定に関してはScheffe法を用いて統計学的検討を行い,有意水準5%未満を有意差ありとした.II結果術前後の眼圧経過と眼圧下降率を表1および図1に示す.術前眼圧は31.9±11.2mmHg,術後眼圧・眼圧下降率は術後1カ月で15.9±5.1mmHg・46%(n=39),術後3カ月では16.2±3.8mmHg・43%(n=32),術後6カ月では17.4±5.7mmHg・37%(n=18)であった.術前と比較し術後各時点で有意に眼圧下降した(p<0.01).薬剤スコアを図2に示す.薬剤スコアは,術前平均4.8±1.9点から術後7日までは一次的に上昇を認めるものの,術表1術後眼圧経過眼圧(mmHg)下降率(Mean±SD)(Mean±SD)症例数術前術後1日術後1週術後2週術後1カ月術後3カ月術後6カ月31.9±11.2(19.64)16.9±9.0*(7.58)18.8±9.9*18.3±7.7*(10.56)(9.42)15.9±5.1*(10.36)16.2±3.8*(11.27)17.4±5.7*(12.31)4044±30%4036±41%4040±20%3946±19%3943±24%3237±33%18*p<0.01:Dunnett法.(Mean±SD)()内は症例数術後日数図1術後眼圧経過(Mean±SD)()内は症例数*p<0.01:Dunnett法4.8±1.9(40)5.7±1.9(40)5.1±2.0(40)4.5±1.6(39)4.1±1.4(39)3.1±1.1*(32)2.9±1.6*(18)薬剤スコア(点)9876543210術前1週2週1カ月3カ月6カ月1日術後日数図2薬剤スコア*p<0.01:Dunnett法1日706050403020100術前1週2週1カ月3カ月6カ月16.9±9.0*(40)18.3±7.7*(39)15.9±5.1*(39)16.2±3.8*(32)17.4±5.7*(18)18.8±9.9*(40)眼圧(mmHg)31.9±11.2(40)266あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(132) 表2手術合併症・逆流性出血40眼(100%)・術後1日前房出血34眼(85.0%)・周辺虹彩前癒着9眼(22.5%)・創口離開1眼(2.5%)・角膜上皮障害2眼(5.0%)・遷延性眼圧上昇(術後3カ月眼圧>21mmHg)3眼(9.4%)・追加手術(前房洗浄)4眼(10.0%)・追加手術(線維柱帯切除術)3眼(7.5%)・一過性眼圧上昇3眼(7.5%)(術後3日までに術前眼圧より5mmHg以上上昇)・低眼圧0眼(0%)・感染症0眼(0%)後1カ月で4.1±1.4点(n=39),術後3カ月で3.1±1.1点(n=32),術後6カ月で2.9±1.6点(n=18)と減少した.術前と比較し,術後3カ月,術後6カ月で有意に減少した(p<0.01).手術合併症を表2に示す.合併症では,術中の逆流性出血は全症例で生じ,術翌日の前房出血は34眼(85.0%)にみられたが,ほとんどの症例は1週間以内に吸収された.遷延性の前房出血のため前房洗浄を要したのは4眼(10.0%)であった.眼圧下降不良のため線維柱帯切除術の追加手術を要したのは3眼(7.5%)であり,1眼は前房洗浄を施行するも高眼圧が持続したPOAGの症例で,他の2眼はPOAGとOHの症例で,切開部に広範囲のPAS形成が認められた.そのため,切開部の広い範囲にPASが形成されると,これが眼圧上昇の一因になるのではないかと考えて,顕著な眼圧上昇がみられる前に処置を施行した眼は9眼(22.5%)であった.内訳はレーザーでの切離が8眼,前房洗浄の際に隅角癒着解離術を併用したのが1眼であった.術後3カ月で眼圧が21mmHgより高い,遷延性の眼圧上昇は32眼中3眼(9.4%)であった.角膜上皮障害は2眼(5.0%)でみられたが,術後4日目以内には軽快した.創口離開は白内障手術併用例で1眼(2.5%)あり,術当日の眼圧が0mmHgで創口からの漏出と考えられたが,経過観察で翌日に眼圧は回復した.低眼圧,感染症はみられなかった.術式別の検討も行い,白内障手術併用群と,TrabectomeR単独で偽水晶体群・有水晶体群に分けて比較した.術後眼圧では,術前および術後3カ月までは3群間に有意差は認められなかった.6カ月の時点では,白内障手術併用群が22.2±7.7mmHg(n=6)で,TrabectomeR単独で偽水晶体眼群13.7±1.7mmHg(n=7)と比べ有意に高い(p<0.05)結果であった.ただし,白内障手術併用群の6カ月時点の眼圧には,追加手術の適応だが希望せず約半年間通院を自己中断していた1例2眼が含まれている.術式別の薬剤スコアでは,術前・術後とも有意差は認めなかった.(133)III考按日本においては開放隅角緑内障に対し,濾過手術として線維柱帯切除術,流出路再建術として線維柱帯切開術が症例に応じて使い分けられている.一方,米国や西欧諸国においては,成人の開放隅角緑内障に対する手術は線維柱帯切除術が標準術式とされている.線維柱帯切開術や隅角切開術はおもに小児の発達緑内障に対し行われている.線維柱帯切除術は良好な眼圧下降を得られるが,濾過胞のトラブルなど重篤な合併症を伴う可能性がある.こうしたなか,成人の開放隅角緑内障に対する流出路再建術としてTrabectomeRが2004年に米国のFDA(食品・医薬品局)で承認され,TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術が始められた.2010年9月には厚生労働省に承認され,日本でもTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術が行われている.TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術が従来の線維柱帯切開術と比べて有利な点は,結膜が温存できるため線維柱帯切除術やインプラントなどの追加手術が施行できることである.低眼圧,脈絡膜出血,濾過胞炎や眼内炎などの感染症といった重篤な合併症は少なく,しかもTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術で眼圧下降が不十分であったり,長期経過で視野悪化がみられた場合には,結膜瘢痕化の問題なく線維柱帯切除術などが施行できる.また,角膜小切開創から施行でき,手術時間も約10.15分ほどと短いため,侵襲が少なく手技が比較的容易な手術といえる1.4).眼圧・眼圧下降率は,当院では術前眼圧は31.9±11.2mmHg,術後3カ月で16.2±3.8mmHg・43%(n=32),術後6カ月で17.4±5.7mmHg・37%(n=18)であった.日本では,渡邉が術前眼圧は25.9±9.2mmHg(n=24),術後3カ月で16.7±3.0mmHg・28.3%(n=19),術後6カ月で17.7±2.4mmHg・21.4%(n=20),術後12カ月で16.3±4.0mmHg・29.2%(n=22)と報告している4).海外では,Mincklerらが術前眼圧は23.8±7.7mmHg(n=1,127),術後24カ月で16.5±4.0mmHg・39%(n=50)と報告している5).Mosaedらは,最終の眼圧が21mmHg未満で,術後3カ月で術前眼圧より20%低下し,追加の緑内障手術を要さなかった場合を成功と定義し,TrabectomeR手術単独538例で成功率64.9%,成功例での術前眼圧は26.3±7.7mmHg,術後12カ月で16.6±4.0mmHg・31%,白内障手術併用290例で成功率86.9%,成功例での術前眼圧は20.2±6.0mmHg,術後12カ月で15.6±3.7mmHg・18%と報告している6).これら過去の報告では,1年以上の経過で眼圧下降率は18.39%と報告によりやや幅があるが,眼圧値は16mmHg前後に落ち着くことが多いようである.当院の結果は術後3カ月,6カ月までは眼圧16.18mmHgとやや高めであるが,眼圧下降率は40%前後と良好で,日本の渡邉の報告4)と術あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013267 後6カ月まではほぼ同様の眼圧値であった.おおむね,過去の報告と同様の結果と思われる.薬剤スコアは,術前平均4.8±1.9点から術後7日までは一次的に上昇を認めるものの,術後1カ月で4.1±1.4点(n=39),術後3カ月で3.1±1.1点(n=32),術後6カ月で2.9±1.6点(n=18)と減少した.渡邉は術前平均3.5点から術後6カ月で2.2点と報告している4).Mincklerらは術前平均2.8点から術後24カ月で1.2点と報告している5).MosaedらはTrabectomeR単独で術前平均2.88±1.30点から術後12カ月で2.09±1.35点,白内障手術併用で術前平均2.54±1.07点から術後12カ月で1.69±1.33点と報告している6).当院では術前平均4.8点と過去の報告よりやや高めであった.当院では手術決定から手術日までの間,一時的にアセタゾラミド内服を処方することが多く65%の症例で内服しており,このため術前薬剤スコアが高めとなったのではないかと考えられる.過去の報告ではいずれも術後に薬剤スコアが減少しており,当院でも同様に減少していた.当院では術後6カ月で2.9点と過去の報告よりやや高めであったが,平均して2剤中止することが可能であった.点眼薬を中止する時期に関しては,術後眼圧の経過と炎症の程度や隅角のPASの程度をみながらになるが,隅角の所見と眼圧下降の程度は個々の症例によっても異なり,点眼を中止しても眼圧上昇しないかの判断はむずかしく,今後も検討していく必要がある.当院での合併症は,過去の報告と同様の傾向であった.逆流性出血とそれによる前房出血が高頻度に認められるものの,1.2週間以内に消失する.線維柱帯切除術の追加手術は当院では7.5%,過去の報告では2.7.8.3%,術後3日までの一過性眼圧上昇は当院では7.5%,過去の報告では5.4.16.7%であった4.7).脈絡膜出血,低眼圧の持続や感染症など重篤な合併症は報告がない.他に,過去の報告では頻度の明確な記載がないが,当院では術後に処置を要したPAS形成が22.5%,遷延性の前房出血のための前房洗浄が10.0%あった.重篤な合併症が少ないことは当院も過去の報告も共通していた.PASは,術後の隅角の広さにも関係すると思われるが,術中に生じた線維柱帯組織の遺残物(いわゆるデブリス)や吸収の遅かった出血,フィブリンなどのために形成されたと推測される.線維柱帯切開術の術後に生じるPASと同様の機序で形成されることが考えられるが,線維柱帯切開術の術後に生じたPASは必ずしも眼圧上昇をもたらすとは限らないといわれており,今回のTrabectomeRにおいてもPASの影響はよくわかっていない.筆者らは,切開部位に広範囲に生じたPASが房水流出の妨げになる可能性を考えてレーザーによる癒着の解除や前房洗浄時に癒着解離術を行ったが,この処置が適切であったかどうかは判断がむずかしい.実際に9眼中3眼は処置後に眼圧が下降したが,変わらない場合も多く,2眼は逆に上昇した.PASの形成と眼圧上昇の関連,そしてこれに対して処置が必要か否かについては今後の検討が必要である.白内障手術により眼圧下降することは知られており,過去の報告においても白内障手術を併用すると成功率が高いという報告がある6).このため,白内障手術併用群と,TrabectomeR単独で偽水晶体群・有水晶体群に分けて比較した.当院の結果では,予想に反し術後6カ月時点の眼圧は白内障手術併用群がTrabectomeR単独で偽水晶体眼群と比べ有意に高い結果であった.しかし,対象症例も少数で,白内障手術併用群には追加手術を拒否して通院を自己中断し眼圧上昇を放置していた1例2眼が含まれており,単純には比較できないと考えられる.薬剤スコアでは有意差は認めなかったが,TrabectomeR単独で有水晶体眼群でやや高く,水晶体を残すと術後の使用点眼数がやや多くなっていた.当院の現時点での結果は,今後長期観察で傾向が変わってくる可能性があると考えられる.筆者らはTrabectomeRを用いて線維柱帯切開術を行い,良好な眼圧下降を得た.術後眼圧は16.18mmHgであり,10台後半の眼圧を目指した開放隅角緑内障に対する手術として今後期待できると思われる.今回の検討は短期成績であり,今後の長期観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)前田征宏,渡辺三訓,市川一夫:TrabectomeTM.IOL&RS24:309-312,20102)渡邉三訓:TrabectomeR,Ex-PRESSRの臨床的評価.臨眼63(増刊):308-309,20093)FrancisBA,SeeRF,RaoNAetal:Abinternotrabeculectomy:developmentofanoveldevice(Trabectome)andsurgeryforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:68-73,20064)渡邉三訓:トラベクトーム(TrabectomeTM)手術装置.眼科手術24:317-321,20115)MincklerD,MosaedS,DustinLetal:Trabectome(trabeculectomy-internalapproach):additionalexperienceandextendedfollow-up.TransAmOphthalmolSoc106:149159,20086)MosaedS,RheeDJ,FilippopoulosTetal:Trabectomeoutcomesinadultopen-angleglaucomapatients:oneyearfollow-up.ClinSurgOphthalmol28:5-9,20107)MincklerDS,BaerveldtG,AlfaroMRetal:ClinicalresultswiththeTrabectomefortreatmentofopen-angleglaucoma.Ophthalmology112:962-967,2005268あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(134)

ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):261.264,2013cドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え経験早川真弘澤田有阿部早苗渡部広史石川誠藤原聡之吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座EfficacyofSwitchingtoFixedCombinationofDorzolamide-TimololMasahiroHayakawa,YuSawada,SanaeAbe,HiroshiWatabe,MakotoIshikawa,ToshiyukiFujiwaraandTakeshiYoshitomiDepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:多剤併用療法中の緑内障点眼をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた経験の報告.対象および方法:原発開放隅角緑内障16例16眼において,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤とチモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の2剤併用を,PG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合と,PG製剤,CAI,チモロールの3剤併用をPG製剤とドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合の眼圧変化を調べた.結果:2剤併用からの切り替えでは有意な眼圧下降が得られ,3剤併用からの切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧上昇するものがみられた.結論:ドルゾラミド/チモロール合剤は,成分単剤点眼でさらなる眼圧下降が必要な場合,単剤併用にてアドヒアランスの向上が目的の場合のいずれの切り替えにおいても有用であるが,アドヒアランスが良好な症例では切り替えによって眼圧下降効果の減弱が起こる可能性がある.Purpose:Toreportanexperienceofswitchingtothefixedcombinationofdorzolamide-timolol(FCDT)fromconcomitantuseofitscomponentsmedications.SubjectsandMethods:Insubjectscomprising16eyesof16casesofprimaryopenangleglaucoma,theintraocularpressure(IOP)-loweringeffectofFCDTwasevaluatedintwogroups:onewasusing2medications:prostaglandin(PG)andtimololorcarbonicanhydraseinhibitors(CAI),andswitchedtoPGandFCDT;theotherwasusing3medicationsofPG,CAI,andtimolol,andswitchedtoPGandFCDT.Results:Whentheswitchwasfrom2medications,IOPwassignificantlylowered.Whentheswitchwasfrom3medications,IOPdidnotstatisticallychanged,althoughitelevatedinsomecases.Therewasnodifferenceinsafetyaspectbetweenbeforeandafterswitching.Conclusion:SinceIOPmayelevateafterswitching,stayingwiththecurrentregimencouldbeanoptionwhenadherenceisgoodwiththreemedications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):261.264,2013〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液,切り替え試験,アドヒアランス,眼圧下降効果,安全性.fixedcombinationofdorzolamide-timolol,switchtest,adherence,intraocularpressureloweringeffect,safety.はじめに緑内障診療では目標眼圧を達成するために多剤併用を必要とすることがあるが,患者負担の増大によるアドヒアランスの低下が懸念され1),配合剤はその解決策の一つとして注目されている2).ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(以下,ドルゾラミド/チモロール合剤)は,欧米では1998年に承認されており,10年以上の使用経験からその有効性と安全性についてすでに多数の報告がある3).わが国でも2010年よりドルゾラミド/チモロール合剤が使用可能となった.今回筆者らは,原発開放隅角緑内障で多剤併用療法を受けている症例において,ドルゾラミド/チモロール合剤へ点眼を切り替えた症例を複数経験し,その眼圧〔別刷請求先〕澤田有:〒010-8543秋田市本道1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:YuSawada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(127)261 下降効果と安全性について若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,秋田大学附属病院で多剤併用療法を受けている原発開放隅角緑内障患者16例16眼で,その内訳は,男性9例9眼,女性7例7眼である.平均年齢は63.6±11.6歳で,狭義原発開放隅角緑内障は7例7眼,正常眼圧緑内障は9例9眼であった.ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えは休薬期間を設けずに行われ,切り替え前の治療によりつぎの2通りに分けられた.一つは,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤と,0.5%チモロールまたは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)(ドルゾラミドまたはブリンゾラミド)の2剤を併用していて,さらなる眼圧下降が必要な場合である(切り替えA).もう一つは,すでにPG製剤,CAI,チモロールの3剤を併用しているが,アドヒアランス向上の目的でCAIとチモロールをドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合である(切り替えB).対象数は,切り替えAが9例9眼,切り替えBが7例7眼であった.PG製剤の内訳はラタノプロスト5例,トラボプロスト5例,タフルプロスト4例,ビマトプロスト2例であり,切り替え前後でPG製剤の変更はなかった.これらの2つの場合について,切り替え4週後,12週後の眼圧をGoldmann圧平眼圧計で測定し,切り替え前の眼圧と比較した.また,点眼の副作用について,角膜上皮障害と結膜充血の程度を調べ,これらを切り替え前後で比較した.角膜上皮障害の程度はびまん性表層角膜炎の重症度A-D(area-density)分類に基づいて評価した4).角膜上皮障害の判定は,点眼麻酔の前にフルオレセインペーパーを生理食塩水で湿らせ点入し,判定した.結膜充血の程度は,結膜の血管が容易に観察できる(.),結膜に限局した発赤が認められる(1+),結膜に鮮赤色が認められる(2+),結膜に明らかな充血が認められる(3+)を基準として評価した.統計解析は,評価方法が同じ対象に対して4週,12週後に眼圧を調べる反復性測定なため,二元配置分散分析を用い,切り替え後の眼圧変化が有意かどうか調べた.II結果各症例について,切り替え前,切り替え4週後,12週後の眼圧と,角膜上皮障害,結膜充血の程度を表にて提示し表1切り替えA(PG+b.blockerまたはCAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後女性男性女性男性男性男性女性女性女性765071766650714646TaBTaDBTTaBToBTaDLTToBToT22161514141517149201818182018141415181413151516201716000000000000A1D1A1D1A1D1000A1D1A1D1A1D100000001+0001+000000000000000000000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,Ta:タフルプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.表2切り替えB(PG+b.blocker+CAIからの切り替え)性別年齢(歳)切り替え前点眼眼圧(mmHg)角膜上皮障害結膜充血PGb-blockerCAI切替前4週後12週後切替日4週後12週後切替日4週後12週後男性男性男性男性男性男性男性69487375506961LTDLTDBTBLTDToTDLTDToTD201618211418151817131420181821151521161722000000000A1D1000000000000000000001+1+000001+1+000〔PG〕L:ラタノプロスト,To:トラボプロスト,B:ビマトプロスト.〔b-blocker〕T:チモロール.〔CAI〕D:ドルゾラミド,B:ブリンゾラミド,PG:プロスタグランジン製剤,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.262あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(128) た.表1は切り替えA,表2は切り替えBの結果である.平均眼圧の変化は,切り替えAでは切り替え前17.6±2.1mmHgから切り替え4週後15.8±2.2mmHg,12週後15.0±2.7mmHgで,切り替え後の眼圧下降は有意であった(p=0.0197).切り替え後の時期でみると,4週後に眼圧下降傾向がみられ,12週後には有意な変化となった(p=0.0230).切り替えBでは,切り替え前の眼圧は16.1±2.5mmHg,切り替え4週後15.9±1.9mmHg,12週後18.4±3.0mmHgで,切り替え前後で眼圧に有意な変化はみられなかった(p=0.0961)が,個々の症例をみると,切り替え後に眼圧が上昇したものがみられた(表2).副作用は,切り替え前に軽度の角膜上皮障害がみられたものがあったが,切り替え後もその程度は同等であった.充血は,切り替えAでCAIを点眼していた症例において,切り替え後チモロールが加わることで充血が軽減したものがあった.III考按今回のドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験では,チモロールまたはCAIの単剤をドルゾラミド/チモロール合剤に切り替えた場合は眼圧が有意に下降していた.チモロールとCAIの単剤併用を合剤に切り替えた場合は,切り替え後に有意な眼圧変化はみられなかったが,症例のなかには眼圧が上昇したものがみられた.角膜上皮障害と結膜充血の程度は切り替え前後でほぼ同等であった.緑内障の治療において,眼圧下降は唯一エビデンスが示されている治療法であり5),目標眼圧を達成するために多剤併用が必要となる場合も多い.薬剤の数が増えて点眼方法が複雑になるとアドヒアランスの低下が問題となる1)が,配合剤はこれを解決する手段となることが期待されている2).配合剤に期待される利点は,点眼方法の単純化(点眼回数の減少や,点眼に要する時間の短縮),あとに点眼した薬剤による先に点眼した薬剤の洗い流しの回避,点眼薬に含まれる防腐剤による角膜上皮障害の軽減,患者の経済的負担の軽減などで,これらが改善することにより患者の利便性が増し,アドヒアランスが向上することが期待される.わが国では2010年にドルゾラミド/チモロール合剤,ラタノプロスト/チモロール合剤,トラボプロスト/チモロール合剤が相ついで発売された.ドルゾラミド/チモロール合剤は欧米では10年以上前から使用されており,その治療成績についてはすでに多数の報告がある3).チモロールまたはドルゾラミドの単剤とドルゾラミド/チモロール合剤の眼圧下降効果を比較した報告では,合剤は成分単剤と比較して有意に眼圧を下降させたという8).また,ドルゾラミド/チモロール合剤1日2回点眼と,チモロール1日2回とドルゾラミド1日3回点眼の単剤併用の効果を比(129)較した無作為化コントロール研究では,合剤と単剤併用の眼圧下降効果および安全性は,3カ月の点眼にてほぼ同等であったという3).単剤併用から合剤に休薬期間なしに切り替えた,より実際の診療に近い設定で施行された研究でも,1年の経過観察期間で,合剤の眼圧下降効果は単剤併用と同等であったという3).一方,切り替え試験のなかには,切り替え後に眼圧は有意に下降したという報告もあり6.8),その原因として点眼方法の単純化による患者のアドヒアランスの向上があげられている.今回の筆者らの経験では,単剤からの切り替えでは有意な眼圧下降がみられた.チモロールとCAIの単剤併用からドルゾラミド/チモロール合剤への切り替えでは平均眼圧に有意な変化はみられなかったが,個々の症例のなかには切り替え後に眼圧が上昇したものがあった.これは,合剤に切り替えたことで単剤併用時よりも点眼回数が減って,3剤を確実に点眼していた場合には眼圧下降効果の減弱が起こる可能性があることを示唆している.このため,アドヒアランスが良く,3剤併用で眼圧下降が良好な場合には,合剤に切り替えずにそのままの治療を継続することも選択肢の一つであると思われる.また,角膜への影響については,ドルゾラミド/チモロール合剤はpHが5.5.5.8と酸性で点眼時に刺激感があり,チモロールによる涙液分泌低下の影響も加わって,角膜上皮障害を起こしやすいことが考えられる.今回の経験では角膜上皮障害を生じた症例は少なかったが,切り替え前から緑内障薬を多剤併用していたことを考え合わせると,実際はもっと高い頻度で障害が生じていた可能性がある.このことから,角膜上皮障害の判定方法について再度検討する必要があると思われた.以上,ドルゾラミド/チモロール合剤への切り替え経験について報告した.今回の経験では症例数が少なかったため,今後は症例数を増やし,同剤の効果をさらに検証していく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GreenbergRN:Overviewofpatientcompliancewithmedicationdosing:Aliteraturereview.ClinTher6:592-599,19842)KaisermanI,KaisermanN,NakarSetal:Theeffectofcombinationpharmacotherapyontheprescriptiontrendsofglaucomamedications.Glaucoma14:157-160,20053)StrohmaierK,SnyderE,DuBinerHetal:Theefficacyandsafetyofthedorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantadministrationofitscomponents.Ophあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013263 thalmology105:1936-1944,19984)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)SchulzerM,TheNormalTensionGlaucomaStudyGroup:Intraocularpressurereductioninnormal-tensionglaucomapatients.Ophthalmology99:1468-1470,19926)ChoudhriS,WandM,ShieldsMB:Acomparisonofdorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantdrugs.AmJOphthalmol130:832-833,20007)GugletaK,OrgulS,FlammerJ:ExperiencewithCosopt,thefixedcombinationoftimololanddorzolamide,afterswitchfromfreecombinationoftimololanddorzolamide,inSwissophthalmologists’offices.CurrMedResOpin19:330-335,20038)BacharachJ,DelgadoMF,IwachAG:Comparisonoftheefficacyofthefixed-combinationtimolol/dorzolamideversusconcomitantadministrationoftimololanddorzolamide.JOculPharmacolTher19:93-96,2003***264あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(130)

緑膿菌角膜炎における臨床所見の検討 ―新しい代表的所見としてのブラシ状混濁の提言―

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):255.259,2013c緑膿菌角膜炎における臨床所見の検討―新しい代表的所見としてのブラシ状混濁の提言―佐々木香る*1稲田紀子*2熊谷直樹*1出田隆一*1庄司純*2澤充*2*1出田眼科病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野ClinicalCharacteristicsofInfectiousKeratitisCausedbyPseudomonasaeruginosa─ProposalofBrush-likeOpacityasNewRepresentativeAppearance─KaoruAraki-Sasaki1),NorikoInada2),NaokiKumagai1),RyuichiIdeta1),JunShoji2)andMitsuruSawa2)1)IdetaEyeHospital,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine目的:緑膿菌角膜炎でみられる臨床所見の出現頻度,発症から各臨床所見出現までの日数(発症後日数)を調査し,相互関係を検討すること.対象および方法:対象は,緑膿菌角膜炎32例33眼.代表的所見,潰瘍の形状,その他の所見の出現頻度を算出し,発症後日数との関係をロジスティック回帰解析した.結果:各所見の出現頻度は,輪状膿瘍13眼(39.4%),スリガラス状浸潤31眼(93.9%),前房蓄膿10眼(30.3%),ブラシ状混濁14眼(42.4%)であった.潰瘍の形状は小円形9眼(27.3%),円形.不整形24眼(72.7%)であった.平均発症後日数は,小円形潰瘍1.7日,スリガラス状浸潤1.9日,ブラシ状混濁2.4日,円形.不整形潰瘍2.7日,前房蓄膿2.9日,輪状膿瘍3.4日であった.発症後3日以上の症例で輪状膿瘍の出現頻度が有意に高かった(p=0.007,オッズ比9.00).結論:緑膿菌角膜炎は,代表的所見を示さない症例も多いが,一定の傾向をもって変化すると考えられた.ブラシ状混濁は今後注目に値する所見である.Thepurposeofthisstudywastorevealtheincidenceofclinicalcharacteristicsin33eyeswithinfectiouskeratitiscausedbyPseudomonasaeruginosaandanalyzetherelationshipsbetweenincidenceanddurationfromonset,usinglogisticanalysis.Ringabscesswasrecognizedin39.4%,diffuseinfiltrationin93.9%,hypopyonin30.3%andbrush-likeopacityin42.4%.Ulcerformwasdividedintotwotypes:smallround(27.3%)androundorirregular(72.7%).Thesmallroundulcerappearedat1.7daysafteronset,onaverage.Diffuseinfiltration(1.9days),brush-likeopacity(2.4days),roundorirregularulcer(2.7days),hypopyon(2.9days)andringabscess(3.4days)subsequentlyappeared.Thefrequencyofringabscesswashigherincasesthatlastedmorethan3days(p=0.007,oddsrate:9.00).Inconclusion,theclinicalappearanceofPseudomonaskeratitischangeswiththetimecourse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):255.259,2013〕Keywords:緑膿菌,輪状膿瘍,感染性角膜炎,ブラシ状混濁,前房蓄膿,臨床所見.Pseudomonasaeruginosa,ringabscess,infectiouskeratitis,brush-likeopacity,hypopyon,clinicalcharacteristics.はじめに緑膿菌角膜炎の代表的臨床所見として,「輪状膿瘍,スリガラス状浸潤,前房蓄膿」の3所見が同時期に観察されることがよく知られている1,2).このうち,輪状膿瘍は緑膿菌の産生するエラスターゼと好中球とが反応する場所と報告されている3).スリガラス状浸潤は緑膿菌の内毒素であるLPS(リポ多糖)に対する反応として,角膜実質層間に沿って遊走してきた好中球の遊走とそれに伴う実質障害,さらには内皮障害や角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫とされている4).また,前房蓄膿は,フィブリンを多く含み流動性が乏しく,Behcet病でみられる好中球による前房蓄膿とは異なる性状を示すことが特徴である5,6).しかし,日常診療では,これらの代表的所見以外の臨床所見を含む緑膿菌角膜炎例にも遭遇する.たとえば,小円形の浸潤病巣や,棘状あるいはブラシ状とよばれる角膜潰瘍辺縁部にみられる針状の混濁または刷毛で掃いたような混濁(以下,ブラシ状)などが非代表的臨〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市中央区西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,M.D.,Ph.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-tojincyo,Chuo-ku,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(121)255 床所見としてあげられる.また,逆に代表的臨床所見とされる輪状膿瘍や前房蓄膿がみられない場合もある.これらを踏まえて,今回,緑膿菌角膜炎と確定診断された症例において,臨床所見の出現頻度,発症から臨床所見出現までの日数(発症後日数),および患者背景の調査と相互関係について検討した.I対象および方法本研究は,日本大学医学部附属板橋病院および出田眼科病院における臨床研究審査委員会の承認を得たうえで施行した.1.対象対象は日本大学医学部附属板橋病院眼科,出田眼科病院において平成21年1月から平成23年12月までの約3年間に,角膜擦過物の細菌分離培養検査により確定診断した緑膿菌角膜炎32例33眼である.緑膿菌角膜炎の誘因は,32眼が何らかの種類のソフトコンタクトレンズ装用であり,1眼が外傷であった.2.方法緑膿菌角膜炎の臨床所見は,初診時に細隙灯顕微鏡検査により得られた所見について検討した.臨床所見は,代表的所見として「輪状膿瘍」「スリガラス状浸潤」および「輪状膿瘍」,潰瘍の形状として「小円形潰瘍」および「円形.不整形潰瘍」,その他の所見として「ブラシ状混濁」に分け,初診時における出現頻度を検討した.潰瘍は直径3mm未満のものを小円形,3mm以上のものを円形.不整形とした.また,自覚症状出現から初診日までの日数を発症後日数として検討した.3.統計学的解析各臨床所見の出現と有意に関係がある背景因子を選ぶために,年齢,性別,発症後日数との関係をロジスティック回帰解析で検討した.なお,年齢は,40歳未満と40歳以上,発症後日数は2日以内と3日以上との2値変数とした.p<0.05の危険率を有意として判定した.II結果1.代表症例a.代表症例128歳,男性.2週間頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(以下,2W-FRSCL)を装用したまま就寝し,充血,疼痛を感じ,2日目に受診した.初診時の前眼部写真および所見を図1に示す.潰瘍の形状は小円形で,輪状膿瘍や前房蓄膿は認めず,局所的なスリガラス状浸潤がみられた.なお,ブラシ状混濁はなかった.b.代表症例215歳,男性.2W-FRSCL装用中に眼痛が出現.2日目に256あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013代表的所見潰瘍の形状その他の所見輪状膿瘍(.)小円形ブラシ状混濁(.)スリガラス状浸潤(局所+)前房蓄膿(.)図1代表症例1の前眼部写真(28歳,男性)代表的所見潰瘍の形状その他の所見輪状膿瘍(.)不整形ブラシ状混濁(+)スリガラス状浸潤(局所+)前房蓄膿(.)図2代表症例2の前眼部写真(15歳,男性)矢印で示したブラシ状混濁を認める.受診した.初診時の前眼部写真および所見を図2に示す.潰瘍の形状は不整形で,輪状膿瘍がみられ,前房蓄膿はみられず,局所的なスリガラス状浸潤がみられた.病変周辺に棘状のブラシ状混濁がみられた.(122) (%)図4代表的所見およびブラシ状混濁の出現頻度の比較前房蓄膿ブラシ状混濁全体スリガラス状浸潤局所輪状混濁円型/不整形角膜潰瘍小円型0123456発症後日数(日)図5各臨床所見のみられた平均発症後日数スリガラス状浸潤(局所・全体)前房蓄膿輪状膿瘍12345(発症後日数)0ブラシ状混濁小円形潰瘍不整形潰瘍図6代表的所見の平均発症後日数からみたブラシ状混濁の出現時期見の平均発症後日数を時系列で示す.3.臨床所見出現の背景因子の検討輪状膿瘍を呈する所見の危険因子を検討したところ,発症後3日以上経過した症例に有意に多くみられた(p=0.007,オッズ比9.00).スリガラス状混濁は,有意差はないが,発症後3日以上経過した症例でやや多い傾向にあった(p=0.033).さらに,発症後3日以上の症例に限って,輪状膿瘍の出現頻度が高い因子を検討したところ,前房蓄膿がみられないこと(p=0.005),40歳未満であること(p=0.024),円形.不整形潰瘍がみられること(p=0.019)が有意な因子であった.また,ブラシ状混濁がない(p=0.050)傾向があったが,有意ではなかった.あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013257代表的所見潰瘍の形状その他の所見輪状膿瘍(+)不整形ブラシ状混濁(+)スリガラス状浸潤(全体+)前房蓄膿(.)図3代表症例3の前眼部写真(29歳,男性)矢印で示した大きなブラシ状混濁を認める.c.代表症例329歳,男性.1日使い捨てソフトコンタクトレンズを自己判断で3日間使用した後,眼痛を自覚し,3日目に受診した.初診時の前眼部所見は,不整形の潰瘍に輪状膿瘍と角膜全体にわたるスリガラス状浸潤を認めた.前房蓄膿はなかったが,ブラシ状混濁がみられた(図3).2.臨床所見の出現頻度および発症後日数今回,対象となった症例は,男性20例,女性12例,33眼,平均年齢は31.5歳(レンジ:16.86歳)であり,自覚症状出現から受診までの平均発症後日数は2.4日(レンジ:0.7日)であった.その内訳は0日2眼,1日4眼,2日14眼,3日10眼,4日0眼,5日,6日,7日はそれぞれ1眼ずつであった.臨床所見の出現頻度は,輪状膿瘍13眼(39.4%),角膜全体にわたるスリガラス状浸潤19眼(57.6%),局所的なスリガラス状浸潤は12眼(36.4%),前房蓄膿10眼(30.3%)で,一方,ブラシ状混濁は14眼(42.4%)でみられた.潰瘍の形状は小円形9眼(27.3%)および円形.不整形24眼(72.7%)であった.各代表的所見とブラシ状混濁の出現頻度の比較を図4に示した.各々の所見がみられた平均発症後日数は,小円形潰瘍1.7日,スリガラス状浸潤1.9日,ブラシ状混濁2.4日,円形.不整形潰瘍2.7日,前房蓄膿2.9日,輪状膿瘍3.4日であった.図5は各臨床所見の平均発症後日数を標準偏差とともに表わしたものである.また,図6にブラシ状混濁と各臨床所(123)020406080100輪状膿瘍スリガラス状混濁前房蓄膿ブラシ状混濁 つぎに,ブラシ状混濁を呈する所見の危険因子を検討したが,年齢・性別・輪状膿瘍・潰瘍の形状・スリガラス状浸潤・前房蓄膿のいずれの項目とも有意な関係はみられなかった.逆に,ブラシ状混濁を呈さない所見の危険因子としては,「発症後3日以上経過しており,男性であること」(p=0.047)があげられた.III考按今回の検討から,緑膿菌角膜炎は初診時にはいわゆる代表的所見を示さない症例が多く,特にブラシ状混濁は輪状膿瘍や前房蓄膿と同程度にみられ,注目すべき所見であることがわかった.ブラシ状混濁は,いくつかの論文ですでに指摘されている所見であり2,7.9),真菌でみられるhyphatelesionとの鑑別が必要な所見ではあるが,緑膿菌角膜炎でみられる特徴的な角膜浸潤病巣とされている.その本態は病巣辺縁の細胞浸潤あるいは実質細胞の反応などと推測されている.今回の検討により,その出現頻度が非常に高いものであることが確認され,今後注目すべき所見と考えられた.このブラシ状混濁の平均出現日数は,小円形潰瘍と円形.不整形潰瘍の平均出現日数の間であり,スリガラス状浸潤より遅く,前房蓄膿や輪状膿瘍より早い日数であった.症例数が限られており,それぞれの平均発症日数は僅差であることから断言はできないが,緑膿菌が定着して感染が成立した後,輪状混濁や前房蓄膿といった生体防御の免疫機構が著しくなる前にブラシ状混濁が出現する可能性がある.すなわち,病巣辺縁の菌の増殖とそれに対する細胞浸潤あるいは周辺実質細胞の反応という考えを支持する結果と考えられた.一方,輪状膿瘍や前房蓄膿は緑膿菌角膜炎の代表所見と認識されていながら,その出現頻度は意外と低いことが明らかとなった.緑膿菌角膜炎の臨床所見を検討し,分類を提唱した中島らも,初診時の所見としては輪状膿瘍よりも円形膿瘍のほうが多いことを指摘している2).平均受診日数が2.4日と比較的早期に受診する例が多く,一昔前と違ってMIC(最小発育阻止濃度)の低い広域抗菌薬の使用が容易であるため,最終像を呈する前に受診し,回復に向かった症例が多いと考えられる.したがって「輪状膿瘍,スリガラス状浸潤,前房蓄膿」の3つの代表所見が同時期にみられるのはあくまでも最終像であり,そのまま診断基準には該当しないと考えられ,臨床診断において注意が必要であることが示唆された.潰瘍の形状については,小円形が円形.不整形よりも早期に出現する傾向から,臨床所見が時間経過とともに一定の傾向で進行することが示唆された.近年,ソフトコンタクトレンズ装用患者において,ブドウ球菌による角膜炎に類似した小円形の緑膿菌角膜炎が指摘されており10),株による差,時間経過,患者自身の個体差,局所における酸素分圧の影響な258あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013どが考えられているが,今回の結果からは,感染成立後の早期の所見である可能性が示唆された.各検討項目のロジスティック回帰解析の結果からは,輪状膿瘍は発症3日以上が有意な危険因子であることが判明した.輪状膿瘍は緑膿菌の産生するエラスターゼと感染により角膜輪部から遊走する好中球が出会って反応することが本態と報告されている3).播種された菌量にもよるが,一般的な臨床症例において,感染成立後,輪状膿瘍を呈するに十分な免疫反応を惹起するためには,3日以上の日数が必要であることが示唆された.前房蓄膿に関しても,平均発症日数は3日弱であり,有意差はみられなかったが同様の経過と考えられた.さらに,輪状膿瘍は,前房蓄膿やブラシ状混濁を伴わない症例に多くみられる傾向にあった.ブラシ状に伸展していく菌に対して好中球が多量に浸潤して,輪状膿瘍を形成することでブラシ状所見をマスクした可能性や,輪状膿瘍により菌と免疫反応の均衡がとれ,前房の反応を生じなかった可能性が推測される.極早期の緑膿菌角膜炎では,輪状膿瘍や前房蓄膿は形成されず,加えて,緑膿菌の株によってエラスターゼの産生能は異なっており,輪状膿瘍が出現しない症例もあると考えられる.したがって,患者背景から緑膿菌角膜炎が疑われるが,輪状膿瘍や前房蓄膿がみられない症例においては,ブラシ状混濁を探すことが一つの診断補助になると考えられた.本検討においては,できるだけ個人による臨床所見の取り方に偏りがないように配慮して,角膜を専門とする医師3人で症例の所見を確認した.しかし,それでもなお,ブラシ状混濁の有無については,ややわかりにくい症例が存在し,今後も症例数を増やして検討することが必要であると考えられた.ブラシ状混濁の意義についても,モデルを用いた実験的検討や共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察が必要である.緑膿菌角膜炎は,菌体そのものの活動性以外に,外毒素による炎症反応を強く惹起する.臨床所見を詳細に解析し,どのような病態であるかを推測することは,早期発見のみならず,再燃の危険なく消炎を図るための有用な情報と考えられた.本稿の要旨は第49回日本眼感染症学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)堀眞輔:コンタクトレンズ診療における感染性角膜炎の診断と眼科臨床検査.日コレ誌53:219-223,20112)伊豆野美帆,亀井裕子,松原正男:コンタクトレンズ装用者に発症した緑膿菌角膜潰瘍3例の検討.日コレ誌52:270-273,20103)IjiriY,MatsumotoK,KamataRetal:Suppressionof(124) polymorphonuclearleucocytechemotaxisbyPseudomonasaeruginosaelastaseinvitro:astudyofthemechanismsandthecorrelationwithringabscessinpseudomonalkeratitis.IntJExpPathol75:441-451,19944)VanHornDL,DavisSD,HyndiukRAetal:ExperimentalPseudomonaskeratitisintherabbit:bacteriologic,clinical,andmicroscopicobservations.InvestOphthalmolVisSci20:213-221,19815)後藤浩:【眼内炎症診療のこれから】診察前眼部.眼科プラクティス16,p24-29,文光堂,20076)杉田直:【眼感染症の謎を解く】臨床所見から推理する!前房蓄膿.眼科プラクティス28,p48-50,文光堂,20097)宇野敏彦:CLケア教室(第36回)CL装用者の角膜浸潤.日コレ誌52:285-287,20108)熊谷聡子,崎元丹,稲田紀子ほか:コンタクトレンズ関連角膜潰瘍の1例.眼科51:923-926,20099)中島基宏,稲田紀子,庄司純ほか:コンタクトレンズ装用者に発症した緑膿菌角膜炎23例の臨床所見の検討.眼科53:1029-1035,201110)細谷友雅,神野早苗,榊原智子ほか:コンタクトレンズ関連緑膿菌感染へのステロイド投与の影響.眼科54:173179,2012***(125)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013259

LASIK 術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼液の長期における有効性

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):249.253,2013cLASIK術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼液の長期における有効性増田綾美森洋斉子島良平丸山葉子南慶一郎宮田和典宮田眼科病院EfficacyofLong-TermTreatmentwithDiquafosolSodiumforDryEyeDuetoLaserInSituKeratomileusisAyamiMasuda,YosaiMori,RyoheiNejima,YoukoMaruyama,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital目的:Laserinsitukeratomileusis(LASIK)後の遷延化したドライアイ患者に対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(以下,DQS)の長期効果を検討すること.対象および方法:対象は,LASIK後1年以上ドライアイが遷延し,DQSを追加した9例18眼.検討項目は涙液分泌量,涙液層破壊時間(BUT),点状表層角膜症(SPK),結膜上皮障害(リサミングリーン染色スコア)とし,点眼開始前,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月で評価した.また,ドライアイの自覚症状14項目を開始前と開始後12カ月で比較した.結果:涙液分泌量は,点眼開始前後で有意な変化を認めなかった.BUTは開始後1カ月から12カ月まで継続して有意に増加し,SPKも開始後1週から12カ月まで継続して有意な改善を認めた.結膜上皮障害は,開始後6カ月から12カ月まで継続して有意に改善した.自覚症状は,11項目のうち3項目が有意に改善していた.結論:DQSは,LASIK術後のドライアイに対して長期にわたり有用であった.Toevaluatetheefficacyoflong-termtreatmentwithdiquafosoltetrasodium3%solutionforchronicdryeyeafterlaserinsitukeratomileusis(LASIK),weconductedaprospectiveclinicalstudycomprising18eyes(9patients)towhichdiquafosoltetrasodium3%solutionwasadditionallyinstilled.Tearsecretin,tearfilmbreakuptime(BUT),superficialpunctatekeratitis(SPK),andconjunctivitissiccawereexaminedbeforeandat1weekand1,3,6,9and12monthsaftertreatment.Aquestionnairesurveyregarding14symptomswasalsoassessedbeforetreatmentandat12monthsafter.Followingdiquafosoltreatment,tearsecretindidnotchange,thoughBUTsignificantlyincreasedafter1,3,6,9and12months.SPKimprovedatallevaluationpoints.Lissaminegreenscoreimprovedafter6,9and12months.Ofthe14itemsonthesymptomsquestionnaire,3improved.Diquafosoltetrasodiumwaslong-termeffectiveinimprovingocularsurfacedisorderanddryeyesymptomsafterLASIK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):249.253,2013〕Keywords:LASIK,ドライアイ,ジクアホソルナトリウム.LASIK,dryeye,diquafosoltetrasodium.はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,世界で初めて報告されてから20年が経過した.術後長期の安全性が確立されている1)が,半数以上にドライアイを生じることが知られている2,3).LASIKは,フラップ作製時に角膜知覚神経を切除・切断するため,術後に三叉神経-中間神経-涙腺神経を通じて涙腺に反射性の涙液分泌を促す自己修復システム(Reflexloop-涙腺システム)が十分に機能できない3,4).通常,LASIK後のドライアイは一過性であり,術後3.6カ月程度で術前レベルまで改善するとされている5.7).一方で,共焦点顕微鏡の観察では,切断された角膜知覚神経の再生に3年もの期間を要するとの報告もあり8),LASIK後のドライアイが改善せず,遷延する症例も少なくない9).2010年,ドライアイの治療薬として,3%ジクアホソルナ〔別刷請求先〕増田綾美:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:AyamiMasuda,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(115)249 トリウム点眼液(以下,DQS)が使用可能となった.従来の人工涙液やヒアルロン酸ナトリウムによる点眼は水分補給や保水を目的とした治療である.一方,DQSは,涙液分泌に加えてムチン分泌も促すことで涙液層を安定化させ,角結膜上皮障害を改善する新しい作用機序の薬剤である.Tauberらの報告によると,ドライアイ患者へのDQS投与群で,涙液分泌量,角結膜染色および自覚症状が,人工涙液投与群に比べ有意に改善したと報告している10).また,わが国では,ドライアイ患者において,角膜染色スコア,結膜染色スコア,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)がDQSの短期および長期投与で有意な改善が認められたとの報告がある11,12).しかし,これまでLASIK後のドライアイ患者における有効性についてはまだ評価されていない.今回,1年以上遷延したLASIK後のドライアイ症例にDQSを使用し,その有効性を検討したのでここに報告する.I対象および方法対象は,1999年10月から2009年7月の間に宮田眼科病院でLASIKを受け,術後ドライアイに対して人工涙液および0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼治療を行い,1年以上経過しても改善が得られなかった9例18眼(全例女性).年齢は43.6±14.2(平均値±標準偏差)(29.54)歳.LASIK後期間,および人工涙液や0.1%ヒアルロン酸ナトリウムによる点眼加療後期間は3.4±2.7(1.8.11.7)年であった.全例,2006年ドライアイ診断基準を満たしていた13).宮田眼科病院の倫理委員会の承認のもと,十分説明を行ったうえで,すべての対象患者から同意を得た.人工涙液およびヒアルロン酸ナトリウム点眼はそのまま継続とし,DQS(ジクアスR,参天製薬)点眼を1日6回追加した.検討項目は,涙液分泌量,BUT,点状表層角膜症(superficialpunctuatekeratopathy:SPK),結膜上皮障害である.涙液分泌量は,Schirmer試験第Ⅰ法変法を用いた.BUTは,ストップウォッチにて3回測定し,その平均値を算出した.SPKは,フルオレセインで染色された角膜の面積(area)と密度(density)(各0.3点)の組み合わせで評価するAD分12カ月で比較検討した.各検査項目の統計解析は,点眼開始前を基準とし,涙液分泌量と自覚症状はWilcoxonの符号付順位和検定を行い,BUT,SPKおよび結膜上皮障害の変化はKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合はSteel-Dwass検定で多重比較検定を行った.いずれも有意水準は両側5%とした.II結果涙液分泌量は,点眼開始前6.7±4.7mmが,開始後1カ月,3カ月,9カ月,12カ月で,それぞれ5.9±1.5,6.1±3.0,6.8±4.2,6.2±3.2であり,有意な変化は認められなかった.BUTは,点眼開始前3.1±0.8秒であったが,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月で,それぞれ4.4±1.5秒,4.9±1.7秒,4.7±1.2秒,4.5±1.3秒,5.9±2.8秒,6.5±3.8秒であり,投与後1カ月から12カ月まで継続して点眼開始前より有意に延長した(開始後1カ月と6カ月はそれぞれp=0.01,p=0.03,それ以外の期間はp<0.01)(図1).SPKはAD分類のスコア(A+D)にて,開始前3.6±0.7であったが,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,1210********BUT(秒)864開始前1W1M3M6M9M12M経過期間20図1涙液層破壊時間(BUT)の変化開始前と比較し,開始後1カ月から12カ月まで継続して有意に延長した.*p<0.05,**p<0.01Steel-Dwasstest.5***********フルオレセイン染色スコア類14)を用い,その合計スコアで評価した(0.6点).結膜上皮障害はリサミングリーン染色を行い,鼻側,耳側球結膜をそれぞれ3象限に分けて15)(各0.3点),その合計で評価した(0.18点).評価時期は点眼開始前,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月および12カ月とした.さらに,自覚症状である眼の疲れ,乾燥感,眼がゴロゴロショボショボす43210る,眼が重い,痛い,痒い,不快感,かすみ,光がまぶし投与前1W1M3M6M9M12Mい,眼脂,流涙,充血,読書や運転時に症状が悪化する,乾経過期間燥した場所で症状が悪化する,の14項目16,17)についてそれ図2SPK(フルオレセイン染色スコア:AD分類)の変化ぞれ5段階評価(1点:まったくない,3点:時々ある,5開始前と比較し,開始後1週から12カ月まで継続して有意に点:常にある)のアンケートを行った.点眼開始前と開始後軽減した.*p<0.05,**p<0.01Steel-Dwasstest.250あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(116) 12カ月でそれぞれ2.6±0.7,2.4±0.8,2.1±0.9,2.1±1.1,1.7±1.0,1.6±1.1であり,投与後1週間から12カ月まで継続して有意な改善を認めた(開始後1週間はp=0.02,それ以外の期間はp<0.01)(図2).その内訳は,開始前A1D2:10眼,A1D2:6眼,A2D3:2眼であったが,開始後12カ月では,A0D0:5眼,A1D1:10眼,A1D2:3眼となった.結膜上皮障害は,開始前4.4±2.5が,開始後1週,1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月でそれぞれ2.9±2.5,2.9±2.7,2.5±2.2,1.7±1.6,1.5±1.9,1.3±1.8であり,点眼開始後6カ月から12カ月まで有意な改善を認めた(開始後6カ月と9カ月はそれぞれp=0.01,p=0.02,12カ月はp<0.01)(図3).86自覚症状は,14項目のうち,眼が乾いた感じ,眼がショボショボゴロゴロする,眼の不快感の3項目で有意な改善が認められた(各p<0.05)(図4).なお,観察期間において,点眼の副作用は認められなかった.III考按今回の検討により,DQSは,人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼で改善が得られなかったLASIK後のドライアイ遷延例において,BUTは点眼開始後1カ月から12カ月まで継続して有意な延長を認めた.SPKは開始後1週から12カ月まで継続して,結膜上皮障害は点眼開始後6カ月から12カ月まで継続して有意な改善を認めた.LASIK後のドライアイはBUTの短縮が特徴的であるが,BUTの短縮は眼表面のムチンの発現の低下が要因の一つと考えられる18).ドライアイ治療に汎用されているヒアルロンリサミングリーン染色スコア経過期間****酸では,ムチンが障害されたドライアイ患者への効果は不十4分な可能性が指摘されている19).Yungらは,人工涙液で改2善を認めないLASIK後のドライアイ患者に対し,涙点プラグが有効であるとしている20).しかし,涙点プラグは挿入時に疼痛を伴ううえ,術後感染や脱落,肉芽形成や涙道内の迷入などの合併症がある21,22).今回の検討で,DQS投与後で0開始前1W1M3M6M9M12Mは涙液分泌量の増加はみられなかったが,BUTの有意な延図3結膜上皮障害(リサミングリーン染色スコア)の変化開始前と比較し,開始後6カ月から12カ月まで継続して有意に長が認められた.DQSは結膜上皮の杯細胞のP2Y2受容体改善した.*p<0.05,**p<0.01Steel-Dwasstest.に作用し,分泌型ムチンであるMAC5ACの分泌を促進す54図4DQS投与前後での各自覚症状の比較開始前(■)と比較し,開始後12カ月(■)で「眼が乾いた感じ」「眼がゴロゴロ,ショボショボする」,「眼の不快感」の3項目が有意に改善した.*p<0.05Wilcoxonsigned-ranktest.(,)眼が疲れる***自覚症状のスコア3210乾燥で悪化運転で悪化眼が赤い涙が出る目やにが出る光がまぶしいかすんで見える眼の不快感眼が痒い眼が痛い眼が重いショボショボ眼がゴロゴロ眼が乾いた感じ(117)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013251 るとされる23).今回の検討においても,DQSにより分泌型ムチンが増加することで涙液層が安定化し,BUTが延長したと考えられる.SPKにおいても,DQS投与後で有意な改善を認めた.SPKの投与後12カ月の改善率をみると,A1D2は90%で,A2D2とA2D3では100%であった.内訳は,A1D210眼のうち4眼がA1D1,5眼がA0D0と改善,1眼が不変であった.A2D2では6眼すべてがA1D1となり,A2D3では2眼ともA1D2と改善を認めた.DQSは,SPKの改善は軽度から中等度において特に有効であったが,A2D3のような重度の症例では,A1D2と改善はみられたものの,SPKは中等度残存していた.角膜上皮障害が重度の場合,膜型や分泌型ムチンの発現が著明に低下しているため,DQSでの治療では,涙液層の安定化をはかるには不十分と考えられる.このような重度のSPK症例には点眼治療だけでなく,涙点プラグなどの外科処置を考慮する必要があるかもしれない.今回の検討で,角膜上皮障害は点眼開始後1週,BUTは点眼開始後1カ月,結膜上皮障害は点眼開始後6カ月までに有意に改善し,その効果は12カ月まで持続していた.山口ら12)は,DQS投与後52週にわたり角結膜上皮障害の有意な減少とBUTの有意な延長を認め,その効果は長期投与においても持続することを報告している.本検討においても,投与後1年にわたり角結膜上皮障害とBUTの経時的な改善がみられた.角膜上皮障害とBUTの改善は,点眼治療後早期で認めたが,結膜上皮障害の改善は,点眼開始後6カ月であり,角膜と比較すると改善の遅延がみられた.結膜上皮障害は,従来の点眼や涙点プラグなど,ドライアイ治療において,角膜上皮障害と比較して残存する傾向がある13).しかし,山口らの報告12)では,角膜上皮障害とBUTだけでなく,結膜上皮障害も点眼開始後1カ月までには有意な改善を認めている.本検討では統計学的有意差は認めなかったが,点眼後1週間から改善傾向であった.今回は18眼の検討であるため,さらに症例数を蓄積することで,より早期から有意な改善がみられる可能性が考えられた.自覚症状において,眼が乾いた感じ,眼がショボショボゴロゴロする,眼の不快感の3項目で改善がみられた.これらは涙液層の安定性や角結膜上皮障害と関連すると考えられる.BUTと自覚症状の合計スコアの相関を検討したところ,BUTが延長するほど,また,角結膜上皮染色スコアが減少するほど自覚症状が改善する傾向がみられた(p<0.01,それぞれr=.0.31,0.28,0.25Spearman’scorrelationcoefficient).DQSによる涙液層の安定化により,ドライアイの悪循環が解消され,BUTの延長と角結膜上皮障害の軽減を促すことで,自覚症状の改善につながったと考えられる.DQSはLASIK後の遷延するドライアイに対し,短期的だけでなく,経時的に改善させる点眼薬であると考えられる.LASIK後にドライアイを認める症例や,術前からドライアイを認める症例では,術後早期からDQSを投与することも有用である可能性が示唆される.文献1)宮井尊史,宮田和典,大鹿哲郎ほか:Wavefront-GuidedLaserInSituKeratomileusisの臨床評価.IOL&RS19:189-193,20052)TodaI,Asano-KatoN,Komai-HoriYetal:Dryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol132:1-7,20013)AlbietzJM,LentonLM,McLennanSG:Chronicdryeyeandregressionafterlaserinsitukeratomileusisformyopia.JCataractRefractSurg30:675-684,20044)StevenE,WilsonSE:Laserinsitukeratomileusisinducedneurotrophicepitheliopathy.Ophthalmology108:1082-1087,20015)AmbrosioRJr,TervoT,WilsonSEetal:LASIK-associateddryeyeandneurotrophicepitheliopathy:pathophysiologyandstrategiesforpreventionandtreatment.JRefractSurg24:396-407,20086)NejimaR,MiyataK,TanabeTetal:Cornealbarrierfunction,tearfilmstability,andcornealsensationafterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol139:64-71,20057)LinnaTU,VesaluomaMH,Perez-SantonjaJJetal:EffectofmyopicLASIKoncornealsensitivityandmorphologyofsubbasalnerves.InvestOphthalmolVisSci41:393397,20008)PatelSV,McLarenJW,KittlesonKMetal:Subbasalnervedensityandcornealsensitivityafterlaserinsitukeratomileusis:femtosecondlaservsmechanicalmicrokeratome.ArchOphthalmol128:1413-1419,20109)KonomiK,ChenLL,TarkoRSetal:PreoperativecharacteristicsandapotentialmechanismofchronicdryeyeafterLASIK.InvestOphthalmolVisSci49:168-174,200810)TauberJ,DavittWF,BokoskyJEetal:Double-masked,placebo-controlledsafetyandefficacytrialofdiquafosoltetrasodium(INS365)ophthalmicsolutionforthetreatmentofdryeye.Cornea23:784-792,200411)三原研一,中村泰介:ドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼液3%の有効性の検討.臨眼66:1191-1194,201212)山口昌彦,坪田一男,大橋裕一ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,201213)島﨑潤,ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,200714)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200315)PerryHD,SolomonR,DonnenfeldEDetal:EvaluationofTopicalCyclosporinefortheTreatmentofDryEyeDisease.ArchOphthalmol126:1046-1050,2008252あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(118) 16)SchiffmanRM,ChristiansonMD,JacobsenGetal:ReliabilityandvalidityoftheOcularSurfaceDiseaseIndex.ArchOphthalmol118:615-621,200017)DoughertyBE,NicholsJJ,NicholsKK:RaschanalysisoftheOcularSurfaceDiseaseIndex(OSDI).InvestOphthalmolVisSci52:8630-8635,201118)CorralesRM,NarayananS,FernandezIetal:Ocularmucingeneexpressionlevelsasbiomarkersforthediagnosisofdryeyesyndrome.InvestOphthalmolVisSci52:8363-8369,201119)ShimmuraS,OnoM,TsubotaKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,199520)YungYH,TodaI,TsubotaKetal:Punctalplugsfortreatmentofpost-LASIKdryeye.JpnJOphthalmol56:208-213,201221)小嶋健太郎,横井則彦,木下茂ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,200222)FayetB,AssoulineM,RenardGetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa:Aclinicalandhistopathologicreport.Ophthalmology108:405-409,200123)七條優子,坂元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,2011***(119)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013253

後期臨床研修医日記 21.大阪市立大学

2013年2月28日 木曜日

●シリーズ後期臨床研修医日記大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学米田茉莉子吉本公美子米本千穂(執筆順)大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学では,前期研究医として,現在5名が働いています.白木邦彦教授をはじめ,教育熱心な先生方のもと,日々一人前の眼科医になるべく,学んでいます.今回は,外来・病棟・手術の面から,私たちの日々の仕事をご紹介します.外来編私たちは,外来で処置係や再診係,造影検査,レーザー治療などを行っています.処置係では,初診で来られた患者さんの予診を取り,上級医の先生の診察に必要な検査を決めます.早く検査に回ってもらうために必要な情報を得て,いかに早く予診室から出て行っていただくかが勝負です.また,OCT,超音波検査(Amode,Bmode,UBM)や結膜下注射などの処置も行います.初診の患者さんが多い日や,処置に時間がかかると,予診室に戻った頃には,上級医の先生自ら,予診を取ってくださっている姿が…….大変申し訳ない気持ちでいっぱいです.医学部5回生の学生さんが実習で予診を見学に来るのですが,余裕がある時は,彼らに検査の説明をし,予診を取らせてあげます.ただ余裕のないときは,彼らに構った分,上級医の先生にご迷惑がかかるため,忙しそうな背中を見せて医者の仕事というものを学んでもらっています.白木教授のご専門が黄斑疾患であるため,造影検査は,FA検査とIA検査の両方が必要な患者さんが,山ほど来られます.眼底カメラが2台,自発蛍光用の眼底カメラ,HRAが1台ずつ,これらを駆使して,同時進行で何人もの患者さんを撮影していきます.テンポ良く,どの機械も稼働していない時間がないように,効率良く撮影します.当初,つぎにどの機械の前に患者さんを座らせれば良いのか,つぎにHRAを使うのはどの患者さんなのか,混乱してはテンポを乱し,怒られていました.特に木曜日の午前は,15人前後の患者さんのFA・IA検査を同時施行するため,緊張感に満ちた雰囲気に包まれています.▲ORTさんとの合同勉強会にて下段左から3番目より,筆者の米田,米本,吉本.上段左から5番目が,講師の山本先生.(109)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132430910-1810/13/\100/頁/JCOPY 〈プロフィール〉(50音順)吉本公美子(よしもとくみこ)平成21年大阪市立大学医学部卒業.ベルランド総合病院で初期臨床研修.平成23年4月より大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学前期研究医.米田茉莉子(よねだまりこ)平成21年大阪市立大学医学部卒業.大阪警察病院で初期臨床研修.平成23年4月より大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学前期研究医.米本千穂(よねもとちほ)平成21年金沢医科大学卒業.大阪市立大学医学部附属病院で初期臨床研修.平成23年4月より大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学前期研究医.レーザー治療は,眼球が動かず,白内障がなく,とても打ちやすい患者さんにあたるとすごく上手になった気分にひたれます.ですが,1発打つごとに疼痛にもだえる硝子体出血がある増殖糖尿病網膜症の患者さんなどにあたると,長い勝負となります.レーザーの必要性も高く,パワーを落とすこともできず,赤でしか入らず,疼痛に対して応援しかできません.一勝負終わった後には,ぐったりした気分になり,上級医の先生のように素早く打てるように精進することが必要と痛感します.(米田茉莉子)病棟編大阪市立大学病院の眼科病棟は,病院の12階にあり昼間は天王寺動物園が見下ろせ,夜にはイルミネーションに輝く通天閣を間近に見ることができる都会のど真ん中にあります.そんな眼科病棟はだいたい40床程度で,日々さまざまな患者さんが入院されてこられます.特に身体はいたって健康な患者さんが大半を占めているので,時折談話室はものすごい盛り上がりをみせています.眼科の入院期間は短いことが多いので1週間おきくらいに病棟や各部屋の雰囲気は変わっていきます.気の合う患者さん同士が相部屋になった時や,阪神ファンが談話室前のテレビに集まって野球中継を見ている時などはびっくりして振り返ってしまうほどの歓声が聞こえ,まるで学生の合宿所のような雰囲気です.女子部屋で同年代の患者さんが集まったときにはガールズトークに花が咲くようで,時には『○○先生かっこいい』とか,『いや○○先生のほうがかっこいいわよぉー』といった女子高生のような244あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013会話もあるとか.私たちが病棟で仕事をするのはもっぱら朝と夕方の時間帯です.診察室は4診あり,3診が通常診察を行うもの,あとの1診が感染疾患を扱うものです.そのほかにレーザー室,視力検査などを行うことのできる検査室があります.朝一の時間帯などは,診察室の前に術後の患者さんたちが並び,診察室はとても賑やかになります.朝の混み合う時間帯を過ぎると私たち医師はそれぞれ外来,手術へと仕事の場を移すので,それからの病棟は主に看護師さんたちが患者さんたちとかかわる時間帯へと変わります.術直後や自己点眼が困難な患者さんには,看護師さんたちが時間ごとに部屋を回りながらきっちりと点眼管理を行っていきます.私たちがクラビットR点眼1日4回などの指示を出していてもきっちり点眼液が眼の中に入っていなければ意味がありません.なかにはとっても点眼が下手な患者さんもおられるようで,1回につき何滴も落としているのにまったく眼の中に点眼液が入っていないこともあります.けれど,本人はいたって真面目にきっちりとされている!と思っていらっしゃるようで…….看護師さんたちには,そういった私たちが見ていない患者さんの素の状態をみて看護をしてくださるのでとても助かっています.看護師さんはじめ,私たちが使ってぐちゃぐちゃにした診察室をきれいに掃除して整理整頓してくださるエイドさん,お掃除の方など,いろんなスタッフに日々支えてもらいながら,眼科病棟はまわっていっているんだなぁーと思い,感謝しながら明日からもがんばろうと思います.(吉本公美子)手術編大阪市立大学での手術についてご紹介します.手術日は木曜日以外の平日で,火曜日のみ外来手術も行っています.内容的には白内障手術,硝子体手術,斜視手術,緑内障手術が主です.外来手術では,当大学で年間最も手術件数の多い,ルセンティスRやアバスチンRの硝子体内注射を行っています.眼底疾患を主な専門としていることから,年間2,000~2,500件程度の硝子体注射を施行しており,眼内炎防御のため,前例クリーンルームでの処置で行っています.1件目の手術は朝8時50分からです.全身麻酔の手術の場合は8時30分からです.1件目から手術が入っ(110) ている場合は,病棟で必要のある患者さん(術後など)の診察を済ませ,手術室へ向かいます.まず,顕微鏡・モニター・機械類などの準備をします.準備忘れがないか頭の中で確認しますが,あわてていると何か忘れたりするもので,清潔になってしまってから看護師さんにすいませんとお願いすることも…….その前の朝の病棟診察にて患者さんに何か問題が生じていたりすると準備忘れが出やすいような……,いつも冷静に正確にと心がけていますがまだまだだなと実感させられます.入局2年目の私にとっては,どの症例も勉強になるものばかりです.特に白内障手術は執刀もさせていただいているので,上の先生の見事な手術には眼が釘付けになります.参考書からだけでは学べない実際の手技を見て,盗めるところはないかと必死です.手術助手時は次に執刀医がどうしたいかを常に考え,少しでもスムーズに手術が進むように心がけていますが,逆に足を引っ張っているのではないかと不安にもなります.顕微鏡から見える世界は本当に興味深い世界で,やはり手術は楽しいなと感じています.1日の手術は緊急手術がなければ,だいたい17時ごろには終わります.緊急手術がある場合は予定の後に入るので,夜遅くなることもありますが(だいたい21~22時ごろ),不思議と遅くても苦には感じません.いつも日々の仕事に追われ,手術のみに関して考えることはなかったのですが,この原稿を書いてみて,やはり私は眼科手術という空間が好きだなぁと実感させられました.まあ,他の部門の原稿担当だったら,その部分が好きと感じていたと思うのですが…….結局,いつも感じていることは診察技術や手術手技など,日々の少しの成長がすごく励みになるということです.こんな感じで,眼科入局2年目の私は飽きることなく,2cmちょっととすごく小さな世界と格闘し,毎日楽しく頑張っています.(米本千穂)指導医からのメッセージて,医者は初期の研修が大事とは良くいわれます.教育というものを考える立場になり,個性を尊重するのか,はたまた和を大事にするのか,本当に難しいと実感させられています.指導を行いながら私自身もそれが刺激になり,追いつかれないように,負けないように自分を高めていければと思っています.これからも一緒に自分の目指す理想の眼科医に向かって,精進していきましょう.(大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学・講師山本学)2011年4月に3名の先生に入局していただき,早1年半が過ぎました.眼科医不足が叫ばれるなか,当科もご多聞にもれず,2012年は新入局員0という厳しい状況です.今年は1人でも多くの先生に来てもらいたいところですが,そのような環境のなかで,この3人の先生は病棟に外来に手術にと,良く頑張ってくれていると思います.私もまだまだ人を指導するような年齢ではないと思いつつも,気付けば眼科医歴10年を数え,後輩もそれなりに増えました.眼科も含め☆☆☆(111)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013245

My boom 13.

2013年2月28日 木曜日

監修=大橋裕一連載⑬MyboomMyboom第13回「西村知久」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑬MyboomMyboom第13回「西村知久」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介西村知久(にしむら・ともひさ)美川眼科医院私は,平成4年に佐賀医科大学(現佐賀大学医学部)を卒業して,同大学眼科に入局いたしました.その後,日本赤十字社和歌山医療センターで当時部長を務めておられた田中康裕先生(現日本眼科医会理事)のご指導を受けましたが,そのときの兄弟子が前回の小堀朗先生です.大学院では,病理学教室で角膜再生の研究を行いました.その後は,大学や関連病院で硝子体手術の研鑽を積み,平成20年より現在の美川眼科医院(佐賀市)に勤務しています.臨床のmyboom1;「眼科内視鏡」平成11年頃より本格的に硝子体手術を始めましたが,そのときに眼科内視鏡を使い始めました.平成22年からは宮崎市の鳥井秀雄先生が設立された眼科内視鏡研究会に北九州市の冨士本一志先生らとともに参加させていただき,ファイバーテック社とともに眼科内視鏡の開発や内視鏡のパラメータ設定などを行っています.昨年,内視鏡本体とモニターの間に設置する新しい画像解析装置(iSBOARD)が発売され,25ゲージ硝子体手術などのMIVS(小切開硝子体手術)でも快適に内視鏡を使用することができるようになりました.過去に内視鏡を使ったことのある先生も,まだ内視鏡を使ったことのない先生もぜひ試していただきたいと思います.眼科内視鏡研究会のホームページ(www.soert.com)は「眼科内視鏡」で検索してもらうと見つかります.ホームページトップでサンプル画像を閲覧できますが,会員になると内視鏡硝子体手術の基本操作やさまざまな内視鏡手術の(107)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY動画が閲覧できます.また,不定期ですが眼科内視鏡ウエットラボを行い,眼科内視鏡の普及に努めています.臨床のmyboom2;「電子カルテ」現在勤務している美川眼科医院は,平成21年に入院設備のある新医院を建設しましたが,その1年前より準備を進めて,新医院開院と同時に電子カルテの導入を行いました.当院の電子カルテはニデック社のNAVISCLを使用しています.看護部門,検査部門,受付・クラーク部門に分けて必要な要望をまとめて,定期的にニデック社と会議を行っています.当初は入院ベッド管理の機能や検査に必要なテンプレートがなかったりしましたが,追加や改善を行ってもらい,現在は多くの問題が解決されています.今後も人為的なミスを予防して,スピーディーかつ正確な診療を行うために,電子カルテのシステムを進化させていきたいと考えています.また,この電子カルテに連結した統計分析システムも使用しています.このシステムにより,患者さんの待ち時間の解析や医師別の診療行為の集計を行うことができ,さらに効率のよい診療を行えるように対策を行っています.臨床のmyboom3;「トーリックIOL」当院ではわたくし以外にも,美川優子医師,樋田太郎医師が白内障手術を行っています.同じ大学出身で同じような環境で手術のトレーニングを受けたので,手術の方法がほとんど同じです.そのため,交代でマーキングができることもあり,早期よりトーリック眼内レンズ(IOL)を導入しています.当院ではトーリックカリキュレータで該当する患者さんには基本的にトーリック眼内レンズを使用しており,約3割の使用頻度となっています.当院での手術成績については,学会やセミナーなどで発表を行っていますが,同じタイプの非球面レンズと比べて,裸眼視力のみならず矯正視力も向上する結果となっており,高齢者においても有効なレンズであることあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013241 〔写真1〕「鍋島」の杜氏飯盛直喜さんとが確認されています.プライベートのmyboom;「マチとムラを繋ぐ運動」眼科の先輩に誘われて,5年前より「マチとムラを繋ぐ運動(グリーンツーリズム)」というイベントに家族で参加しています.このイベントは佐賀県鹿島市にある富久千代(ふくちよ)酒造の社長で杜氏の飯盛直喜(いいもりなおき)さんが始められたもので(写真1),マチに住む子供達にムラでいろいろな体験をしてもらおうという活動です.年に4回開催されており,まず6月には酒米の田植えと干潟遊び(写真2),7月にはクワガタなどの虫取りや魚釣りなどの川遊びを行います.9月には自分達で植えた酒米の稲刈りと野菜を収穫し(写真3),みんなでバーベキューを楽しみます.翌年2月には精米した酒米を日本酒に仕込む作業を体験させてもらいます.そして,5月になると1年間の活動で出来上がった日本酒が1本もらえるという,大人にも子供にも魅力的なイベントです.毎年参加することで子供達の成長を感じることができ,普段は教えられないことを体験させることができます.興味がある方は富久千代酒造のホームページ(www.nabeshima-saga.com)をご覧ください.富久千代酒造が造っている日本酒は「鍋島」という銘柄で発売されていますが,最近は東京などの遠方からも「鍋島」ファンがこのイベントに参加されるようになりました.また,この「鍋島」は数年前から雑誌に取り上げられたり,さまざまな品評会で賞を取ったりすることが多くなっていました.InternationalWineChallenge(IWC)という世界最大級のワイン品評会がありますが,2007年からは日本酒の品評会が新設され,国外最大級の日本酒品評会となっています.昨年は,そのIWCの242あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013〔写真2〕鹿島市の干潟公園でのガタ遊び〔写真3〕家族や眼科の後輩達と稲刈り日本酒部門のすべてのカテゴリーのなかの1番である“ChampionSake”にこの「鍋島・大吟醸」が選ばれました.この賞は「鍋島」を愛する僕たちだけでなく,佐賀県全体にとっても大きな話題となりました.ただ一つ残念なことは,大好きな「鍋島」が世界的に有名になってしまい,入手がちょっとむずかしくなったことです.年末には今年の新酒を飲ませていただきましたが,なかなかの出来栄えで今年も楽しい年になりそうです.次回のプレゼンターは福岡県の坂本英久先生(さかもとひでひさ眼科)です.同世代で5年前よりNextGenerationWorkshopという九州若手硝子体研究会で一緒に活動してきました.たいへん手術が上手でセクシーな先生です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(108)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 2.研究生活の思い出

2013年2月28日 木曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ②責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ②責任編集浜松医科大学堀田喜裕研究生活の思い出濱井保名(YasunaHamai)濱井眼科院長1971年弘前大学医学部大学院修了,同眼科助手.1972年留学.1974年帰国.1975年弘前大学医学部眼科講師.1976年山形大学医学部眼科助教授.1991年山形大学退職,濱井眼科開院.1996.2005年日本眼科医会理事.1998.2009年山形県眼科医会会長.1998.2000年山形県アイバンク理事長.2004.2009年東北眼科医会連合会会長.2010年濱井眼科院長,現在に至る.先日,浜松医科大学眼科堀田喜裕教授からJinH.Kinoshita先生を偲んで,先生にお世話になった人々の思い出の記憶を『あたらしい眼科』誌に載せたいという電話をいただいたとき,急に40年前のアメリカ合衆国での生活のことが頭に浮かんできました.楽しかったこと,辛かったことなど一生の思い出として体にしみつきときどき脳裏をかすめます.Dr.DavidG.Cogan(以下,Cogan先生),Dr.JinH.Kinoshita(以下,Kinoshita先生),Dr.ToichiroKuwabara(以下,Kuwabara先生),Dr.HenryN.Fukui(以下,Fukui先生)の各先生方には個人的にも非常にお世話になりました.なかでもKinoshita先生,Kuwabara先生には特別の思い出があります.●JinH.Kinoshita先生との出会い★Kinoshita先生に初めてお会いしたのは,40数年前に東京で生化学の国際学会が開催されたときでした.先生はガラクトース白内障の成因についての研究をなされており,その頃ガラクトースに興味を持たれていたと思います.私は弘前大学の生化学教室の大学院生で眼科は副科目として選択していましたが,生化学が主で血液型物質の型による違いでガラクトースの配列と成分比が異なることなどの研究をしていました.それでガラクトースに関係した研究に目を留めてくださったものと思います.ガラクトースが縁でKinoshita先生の研究室にResearchFellowとして招かれることになりました.それ以来HarvardのHoweLaboratory,NIH(NationalInstitutesofHealth)のNEI(NationalEyeInstitute),また帰国してもKinoshita先生が亡くなられるまで40(105)年以上も長いお付き合いをさせてもらいました.渡米の話は直接Kinoshita先生との話し合いでしたのですぐに決まったのですが,私が大学院を修了していないので,学生では給料が年棒6,000ドル(当時は1ドル300円),大学院を修了してドクターの資格を得れば12,000ドルとのことで修了まで1年間待ってもらうことにしました.この間にアメリカ合衆国ではHoweLaboratoryのメンバーが,NIHに転勤になったり色々なことがあったようです.渡米してまず驚いたことはアメリカ合衆国はとてつもなく広く豊かな国で,この国と戦争をした日本は馬鹿なことをしたものだと思ったのが第一印象でした.ボストンに着いて住居が決まるまで家族はCogan先生の自宅に居候することになり,居候の間,家さがしやアメリカ合衆国での生活に慣れるまでFukui先生にお世話になりました.●所属と仕事が決まるまで★最初に行った先は,HarvardのHoweLaboratoryの生化学部門でした.丁度その頃1970.1972年にかけてNIHにNEIが設立されたすぐの頃で,Kinoshita先生をはじめKuwabara先生など主だったHoweLaboratoryの先生方はNIHに移動してしまった後でした.また,NEIの生化学部門には樺沢泉先生,尾羽澤大先生,三国郁夫先生らが来られていて生化学部門の人員は満杯ということでした.実験室でぶらぶらしているときに,HoweLaboratoryの主任教授のCogan先生に呼ばれ,生化学は定員が一杯だから何かできないかと言われ,このまま日本に帰されたら大変だと思い,電子顕微鏡と組あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132390910-1810/13/\100/頁/JCOPY 織化学ができることをアピールしてみました.数日後Laboのランチョンタイムのセミナーで組織化学の話をするように言われました.自分にとってはアメリカ合衆国に残れるかどうかの試験のようなものでした.セミナーでは弘前に居た時,日本眼科学会雑誌に発表し,JJOに掲載された(HistologicalStudiesonArteriolarSclerosisintheHumanRetina:TheLocalizationofAcidMucopolySaccharidesinCentralRetinalArteryandOtherArteries.JpnJOphthalmol15:140,1971),網膜血管の酸性ムコ多糖の局在についての組織化学的話をしました.発表の結果は合格でした.病理組織部門で人員が足りないので,Kinoshita先生の生化学部門の一員としてKuwabara先生のところにトレードに出されることが決まり,やっとアメリカ合衆国に留まることができました.その時,Kinoshita先生からHoweLaboratoryのAnnualReportに以下のような紹介をいただき,米国人のDonovanJ.Pihlajaと共にメンバーの一人として迎えてもらうことができました.「Dr.Kawabata’sdepartureleftabiggapintheLaboratory’sfunctionsinexperimentalpathologyandelectronmicroscopy.Fortunately,however,wehavebeenabletosecuretheappointmentofDr.Pihlajaand,mostrecently,ofDr.YasunaHamai,bothofwhombringunusualtalentstothisimportantareaoftheLaboratory’sresearches.Dr.HamaihailsfromJapan,wherehisinterestshaverelatedtohistochemistryandultrastructureoftheeye.」Kinoshita先生は,時々NIHからHoweLaboratoryに来られていました.その時は必ず実験室に寄られ,私の標本を見ていかれます.そして,いつもCogan先生にも見せるようにと,私のことを気づかってくれていました.●研究生活で嬉しかったこと★2年近く住んだボストンを離れ,VisitingScientistの資格でNIHに移ることになり,白内障の研究に熱が入るようになりました.その当時,マウスのような小さい動物の水晶体でも全体を切片にすることは非常に困難でした.Kuwabara先生は何時も「水晶体の標本作りはオリエンテーションをきちんと決めて,小さい切片にしてエポンを十分浸透させることだ」と言っておられまし240あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013写真先天性白内障マウス水晶体のエポン切片(トルイジンブルー染色)た.自分なりに色々工夫して,組織をエポンの入った注射器に入れシリンダーで圧力を加え,樹脂が十分浸透するようにしてみました.その結果,水晶体全体の切片を作ることが可能になりました(写真).その時,クワバラ・クワバラと怖れられていたKuwabara先生に「Wholelensの切片が作れるのは僕と君ぐらいのものだ」と誉められたのが何よりの自慢です.また,Kuwabara先生は日本人の研究者に何時でも,「Whydon’tyoucomeup,eattogether!」と昼のランチョンセミナーに3階のミーティングルームに来て食事をしながら話をしろと言って,日本人が外国人と親しくなるように気くばりをしてくれていました.Wholelensの切片はKinoshita先生にも気に入ってもらえて,学会でNIHのPRのポスター・セッションに2回出してもらえました.実験はどんどんはかどりARVOに2回・AAOに1回発表し,Paperは,HamaiY,FukuiHN,KuwabaraT:Morphologyofhereditarymousecataract.ExpEyeRes18:537.1974HamaiY,KuwabaraT:EearycytologicchangesofFrasercataract:Anelectronmicroscopicstudy.InvestOphthalmol14:517.1975に発表することができ,アメリカ合衆国では充実した研究生活を過ごさせてもらいました.改めて,Kinoshita先生に感謝申し上げます.(106)

現場発,病院と患者のためのシステム 13.門前の小僧と和尚

2013年2月28日 木曜日

連載⑬現場発,病院と患者のためのシステム連載⑬現場発,病院と患者のためのシステム私たちは,公私を問わず,日常的にインターネットやパソコンを使い,電子ブック,スマートフォンも意識することなく使っています.テレビ,新聞の宣伝,広告では必ずホームページのアドレスが表示され,ラジオでは,記憶する間もないのに平気でアドレスをしゃべります.このよう門前の小僧と和尚杉浦和史*かなり前のことですが,パソコン少年という言葉がありました.ここでは“門前の小僧”と表現することにします.“読書百遍,意自ずから通ず”という言葉はありますが,門前の小僧がいくらお経を唱えても和尚にはなれません.同様に,パソコンの使い方やインターネットの利用方法がわかり,使える程度の小僧には,業務を分析し利用者の状況にあったシステムを考え,効果的な運用まで作り上げることはできません.新米の大工がノコギリやカンナを使えるようになっても,顧客の要望に沿った家が建てられないのと同じといえばわかりやすいでしょう.しかし,鮮やかな手つきでパソコンを操作し,カタカナ語を話す小僧にシステムができるのではないかと期待したり,錯覚するのは,本人だけではなく,不勉強な周囲も同様です.なかには,知らないことを悟られないよう,小僧をおだてる和尚もいるから,始末に負えません.な状況においては,好むと好まざるとにかかわらず,関心を持たざるを得ません.関心を持つだけではなく,積極的に利用しないと損かもしれません.一方,十分理解せず,安易に先走ることは危険です.今,クラウドがブームで猫も杓子も話題にしています.しかし,この考え方はGEが70年代にmark1として実現している昔からあるもので,当時の説明資料にも雲(クラウド)の絵が描かれていました.歴史をふり返り,本質を知り,冷静に判断すれば,それほどのことでもないことがわかります.意味はわからないけれど,お経を唱えることができる門前の小僧と,本質(教義)を理解している和尚のお経の違いも同じようなものだと思います.ところで,知っている知らないとは,何についてでしょう?システムを作るための技術的な実現手段のことではないでしょうか.医師を含む医療従事者は,ITを職業としている専門家ではなく,実現手段の技術,方法論まで習得する必然性はありません.解説書を何冊か読み,ひな形を見て試行錯誤しながら理解すれば,簡単なプログラムを作れるとは思います.しかし,その延長線上ではシステムは作れないと理解したほうが無難です.全体構想なく,必要になった都度作ったプログラムはその中で閉じています.これらを集めても,機能,情報がストレスなく相互に連携し合うシステムにはなりません.履き物には,革靴,運動靴,サンダル,下駄など,いろいろあり,用途に応じ適宜使い分けます.これを履き物というくくりで纏めてしまうと,浴衣に革靴,スーツに下駄のような,妙な組み合わせになってしまうかもしれません.実際には,着物と履き物の場合は見た目ですぐわかり,このようなことはありませんが,見た(103)目にはわからず機能名で判断するシステムではこのような懸念はあります.和尚は,小僧がその場の問題解決のために作ったプログラムの中身を知らず,機能名を見ただけで寄せ集め,システムができると思ってはいけないのです.タッチタイピングでキーボードが打てたり,鮮やかな手つきでExcelを操作してきれいなグラフを作るのと,システムを作ることとは次元が違うし,難易度の広さと深さが違うことを理解する必要があります.これに気がつけばITを恐れることはありません.自分で何でもできればそれに越したことはありませんが,これだけ専門分化している世の中,すべてに通じることは不可能に近いでしょう.例えば物理学.ニュートンが活躍していた時代の物理学と今のそれとは,領域の広さと深さにおいて格段の差があります.当時の物理学者は一人で多方面に業績を残していますが,今の物理学者に*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132370910-1810/13/\100/頁/JCOPY 分野専門的深さ守備範囲を広げる専門性を高める図1分野を広げ,専門性を高めるそれを求めるのは酷でしょう.なぜなら今の物理学は,ちょっと挙げただけでも,地球物理,宇宙物理,物性物理,生物物理,今問題になっている原子物理,など枚挙にいとまがありません.この専門分化したそれぞれの分野で一流の業績を上げるのは至難の業,すべての専門家にはなれないでしょう.ITも同様です.多岐に亘るという点では最右翼ではないでしょうか.パソコンが使えたり,インターネットでいろいろ調べられるぐらいではITの専門家とはいえませんが,どうもこの分野だけは,ちょっと使えると,スゴイということになるようです.もちろん,余裕があれば,周辺の知識を広め,深めることは結構なことです.できれば,分野を横に取り,専門性を縦に取ったときに,逆三角形のような形になれば理想的です(図1).ITに限ったことではありませんが,小僧と和尚の違いは,ある専門分野において系統だって知識を蓄積し,多くの経験を経て醸成される有形無形のノウハウと見識があるかないかであり,付け焼き刃の薄っぺらなHowtoではありません.新しいことにアレルギーがない若者の小僧に対し,何事も億劫になりがちな中高年の和尚は負けてしまいそうですが,若者にはない実体験に基づいた知識,経験があります.あることをやり遂げるために必要となる知識,技術を持ち合わせない場合には,それを専門とする者とアライアンスを組むことで解決すべきです.生兵法の付け焼き刃で臨むことは避けましょう.かえって危険です.一方,過去の経験にあぐらをかき,伸びようとする芽を和尚の地位を脅かす者として遠ざけようとすることは,本末転倒であることはいうまでもありません.向上心と好奇心,これを失わなければ和尚は小僧に負けることはないし,ブームに迎合したり,理解できずにガッカリすることもありません.以上の話,実は日本公認会計士協会のセミナーで講演した内容を元に書いたものです.協会からの依頼は,中高年の会計士と若い会計士がいて,ITに通じているか否かで見えざる溝があり,この解消のための話をして欲しいというものでした.これを医療機関,医療従事者に当てはめるとどうなるでしょう.コマンドを諳んじ,鮮やかな手つきで操作する医師,一本指でおそるおそる触る医師などいろいろですが,肝心なのは中身.知識,経験,見識,評価眼であることは,会計士の世界と同じです.会計士は会社の病状(経営状況)を,医師は患者の病状を観察し,的確な診断と治療,指導をするのが本質であり,小手先のITHowtoではありません.☆☆☆238あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(104)