———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS断にも役立つことがある.たとえば,小児の視力低下の原因として重要な先天停在性夜盲の完全型では中等度高度の近視を伴うことが多く,先天網膜分離症では遠視を伴うことが多い.片眼性の急性視力低下の原因として重要なAZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)も近視眼に発症しやすいことが知られている.3.視野検査視野検査から得られる情報は多い.同名半盲などの両眼性の特徴的な視野欠損パターンがあれば中枢疾患が,Bjerrum暗点や弓状暗点があれば緑内障が疑われる.片眼性の中心暗点であれば,球後視神経炎やAZOORを念頭に置いて検査を進めていくことになる.両眼性の求心性視野狭窄であれば無色素性網膜色素変性を疑う.片眼性の水平半盲がみられれば虚血性視神経症を考える.詐盲や心因性視力障害ではらせん状視野,管状視野,求心性視野などがみられる.明らかな視力低下があるのに,視野検査が正常である症例に遭遇したら,中間透光体の疾患を疑って角膜と水晶体を再びチェックする.その結果微細な角膜の不正や水晶体混濁が見つかることがある.4.角膜・水晶体の検査「原因不明の視力低下」を診断するコツは,角膜→水晶体→網膜→視神経→中枢,のように視路を順番にチェックしていくことである.最初は,角膜疾患から疑はじめに明らかな視力低下があるにもかかわらず中間透光体も眼底も正常であるという症例に遭遇することがある.このような症例に対しては,十分な問診と散瞳後の細隙灯顕微鏡検査と眼底検査を行って,その後に種々の検査を追加して診断していくというのが通常の手順である.本稿では,問診と基本的な眼科検査から「原因不明の視力低下」のおおよその病変部位の目安をつけるコツ,さらに具体的に検査結果を読む際の留意点について述べたい.その後,「原因不明の視力低下」となりやすい代表的な疾患について具体的に解説する.I総論─問診と検査─1.まずは十分に問診を原因不明の視力低下例をみたら,その日の一番最後に予約を取り直すなどして,じっくり問診の時間をかけるとよい.その患者の年齢と性別,家族歴や既往歴を聴取して,いつ頃からどのように視力が低下したかを詳細に問診する.視力低下が両眼性か片眼性か,どの部位が見にくいのか,視力低下のほかに症状はないか(複視,視野異常,眼痛や眼球運動痛,光視症,夜盲,昼盲,他の神経症状など)を注意深く聞き出す.患者が小児である場合は,両親に日頃の生活の様子などを詳しく聞くとよい.2.屈折検査屈折検査は弱視性疾患の診断のほかに,網膜疾患の診(27)1577*MineoKondo:名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座〔別刷請求先〕近藤峰生:〒466-8550名古屋市昭和区鶴舞町65名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座特とっても身近な神経眼科あたらしい眼科24(12):15771583,2007原因不明の視力低下への対処AssessmentforUnidentiiedVisualLoss近藤峰生*———————————————————————-Page21578あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(28)思われがちだが,網膜疾患でも黄斑部を含む広範囲な機能低下があれば瞳孔反応は異常になることがあることを知っておく.6.色覚検査色覚検査も診断に有用な情報を与えることがあるので,仮性同色表とパネルD-15しかない施設でも検査するとよい.たとえば,常染色体優性視神経萎縮は青黄異常を示すことが診断の手がかりになることがある(図2).杆体一色覚や錐体ジストロフィも眼底が正常のものがある.これらの診断として色覚検査は重要である.7.蛍光眼底造影検眼鏡的に眼底が正常にみえても,原因不明の視力低下例には必ず蛍光眼底造影を行う.わずかな色素上皮萎縮や血管異常・漏出などが蛍光眼底造影で初めて明らかにされることがある.小児のStargardt病は眼底が正常って開始することが重要で,必ず染色して細隙灯顕微鏡検査を行い,その後に角膜形状解析装置やフォトケラトスコープ(なければプラチド円板)で角膜形状を確認する(図1).ピンホール下やハードコンタクトレンズ(HCL)装着下で視力検査をしてみるのもよい.ごく軽度の水晶体混濁や水晶体の屈折異常がどの程度患者の視力低下の原因となっているかを知ることはむずかしい.レチノメーターは,このような症例の潜在的な視機能(視力)を推定するのに役立つ.またPSFアナライザーは,生体眼の光学特性を他覚的に測定して患者の見え方をシミュレーションすることができるので便利である.5.瞳孔反応瞳孔の大きさを測定し,その後ペンライトを用いて対光反応,RAPD(相対性求心性瞳孔障害)を検査する.一般的に対光反応の異常は視神経疾患に特異的であると図1視力低下の原因が角膜の不正乱視であった1例フォトケラトスコープで左眼の角膜に不正乱視がみつかり(上),その原因はmap-dot-nger-print状角膜ジストロフィに伴う再発性角膜上皮びらん(下)であることがわかった.図2常染色体優性視神経萎縮の1例(11歳,女児)この症例では乳頭の色調はそれほど蒼白ではなかった(上).視力は0.4.色覚検査では青黄異常が検出され(左下),OCTで網膜神経線維層の全体的な減少があることがわかり(右下),本症と診断された.REFERENCECAPTAITANDETANPROTANパネルD-15OCTによる網膜神経線維層マップ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071579(29)の各層の異常を詳細に調べたあとに,具体的な網膜の厚みを定量的に評価する.さらに網膜神経線維層もチェックすることで視神経疾患の有無も評価できる.紛らわしい緑内障の例にも有用である.9.電気生理学的検査眼底が正常である網膜疾患は意外に多く,診断には網膜電図が有用である.先天停在性夜盲(完全型・不全型)は通常の網膜電図(ERG)装置で診断できる.眼底が正常な錐体ジストロフィや杆体一色覚などは,杆体応答と錐体応答を分離した装置が必要である.OccultmaculardystrophyやAZOORの診断には,局所のERG応答が記録できる装置(多局所ERG,黄斑部局所ERG)が診断に役立つ.視覚誘発電位(VEP)は,網膜疾患が否定された後に視神経の機能低下があるかどうかを評価するのに有用である.特にパターンVEPは視神経炎の診断と評価に優れている.10.CT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)など視神経疾患や頭蓋内疾患は絶対に見逃してはならないものが多い.注意深く画像診断の結果を評価して,必要であれば専門家(放射線科,神経内科,脳外科,耳鼻科)にコンサルトする.視神経炎を疑ったら脂肪抑制条件(STIR法)でMRIを行い,T2強調画像で冠状断の評価を行う.11.遺伝子検査診断が困難な遺伝性の網膜疾患や視神経疾患では遺伝子検査が決定的となることがある.視神経疾患では,Leber病や常染色体優性視神経萎縮の診断に有用である.網膜疾患では,単一遺伝子疾患(先天網膜分離症,眼底白点症,卵黄状黄斑ジストロフィ,Stargardt病など)で非典型的な症例の診断には遺伝子検査がよい.12.一般の全身検査全身疾患に伴うものを鑑別するために,一般的な血液検査,感染症検査に加え,胸部X線検査や心電図などに近いものがあり,蛍光眼底造影のdarkchoroidで初めて診断されることがある(図3).内頸動脈狭窄や眼動脈狭窄などが原因となって起こる虚血性眼症も初期の診断に苦慮することがあるが,造影時間が著しく遅延することでこれらの疾患を疑うことができる.視神経疾患にみられる視神経乳頭付近の微細な血管異常を検出するのにも有用である.8.光干渉断層計(OCT)近年のOCTは網膜・硝子体と視神経線維層の形態異常を検出する能力に非常に優れており,原因不明の視力低下には必ず施行すべきである.網膜の断層像で黄斑部図3Stargardt病の初期(10歳,女児)の眼底(上)とフルオレセイン蛍光眼底造影の結果(下)眼底はほとんど正常にみえるが,フルオレセイン蛍光眼底造影では黄斑萎縮とdarkchoroidが明らかである.視力は両眼0.6であり,ずっと心因性の視力障害といわれていた.———————————————————————-Page41580あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(30)視力を測定してみるとよい.3.先天停在性夜盲小児の原因不明の視力低下の原因として重要である.完全型と不全型があり,完全型は夜盲と近視があるので診断しやすいが,不全型は視力低下のみの場合が多い.ERGを行わないと診断できない(図4).4.初期のStargart病発症初期のStargart病では眼底が正常に近いものがあり,原因不明の弱視や心因性などと診断されやすい.蛍光眼底造影ではdarkchoroidで診断できる(図3).OCTがあれば黄斑部網膜厚が低下していることで黄斑萎縮があることがわかる.遺伝子診断も役立つ.5.眼底正常の錐体ジストロフィ眼底が正常な錐体ジストロフィは診断がむずかしい.羞明,視力低下,色覚異常の症状があり,ERGで錐体応答の減弱があれば錐体ジストロフィと診断できる.羞明を聞き出すことがポイントである.6.Occultmaculardystrophy眼底の正常な遺伝性黄斑ジストロフィである.視力は両眼性にゆっくりと低下する.発症は中年以降が多いが小児例もある.通常の全視野ERGが正常で,黄斑部局所ERGや多局所ERGが異常になることで診断できる(図5).OCTでは中心窩の厚みが正常よりもわずかにが診断に役立つことがある.梅毒,結核,サルコイドーシスなどのような全身疾患に伴う視神経症が原因不明の視神経萎縮とされていることがある.まれではあるが亜急性の両眼性の視力低下の原因が腫瘍関連網膜症であり,全身MRIで腫瘍がみつかることがある.II各論以下に,特に注意すべきと考えられる「原因不明の視力低下」の疾患をあげ,簡単な解説を加えた.もちろんこれらのほかにも「原因不明の視力低下」をきたす疾患は多くあるので,あくまで参考としていただきたい.1.軽度の角膜不正原因不明の視力低下を疑って網膜・視神経・中枢の検査を行った末,結局最後は角膜疾患であったという事例は少なくない.特に注意すべきは,初期の円錐角膜,再発性角膜上皮びらん,EKC(流行性角結膜炎)後の角膜上皮下混濁,マイボーム腺炎に伴う角膜上皮症などの微細な角膜不正を生じる疾患である.必ず染色して細隙灯顕微鏡検査を行い,さらに角膜形状解析装置やフォトケラトスコープ(なければプラチド円板)で角膜形状を確認する.ピンホールやHCLで視力が向上するかどうかをみるのも重要である(図1).2.軽度の水晶体混濁や水晶体性屈折異常散瞳下で細隙灯顕微鏡検査を行い,軽度の水晶体混濁や水晶体性屈折異常が疑われたら,レチノスコープで縞図4先天停在性夜盲の完全型と不全型の臨床的特徴とERG波形ともにERG波形は陰性型となるが,不全型では律動様小波が残る(赤の矢印).完全型不全型夜盲屈折矯正視力眼底ERGなし遠視-近視0.3~1.0正常あり強度近視0.3~1.0近視性変化———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071581(31)低下していることが多い.7.AZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)AZOORは,眼底が正常でありながら急性の片眼性視力低下をきたす疾患として重要である.発症は近視を有する若年女性に多く,急激な視野欠損を訴える.同時に光視症を伴うことも多い.診断は,ERGや多局所ERGを記録して,網膜性の視野異常であることを証明することである.球後視神経炎との鑑別が重要である.8.網膜血行不全(虚血性眼症を含む)内頸動脈,眼動脈などに狭窄があり,眼球への血流が低灌流となることによる眼病変である.虹彩ルベオーシスがみられるようになれば診断は容易だが,その前段階では原因不明の視力低下とされやすい.眼底検査で網膜動脈の狭細化がみられ,フルオレセイン蛍光眼底造影で腕動脈循環時間が遅延していることで本疾患を疑う.ERGの振幅も著しく減弱する.確定診断は脳血管造影であるが,頸部エコー,眼動脈カラードップラ検査も有用である.9.腫瘍関連網膜症腫瘍に関連する自己抗体が網膜に反応して起こる網膜変性である.腫瘍の発見よりも眼症状が先行すると「原因不明の視力低下」となる(図6).初期は輪状の視野狭窄と夜盲が主症状で,徐々に進行する.初期の眼底は正図5Occultmaculardystrophy眼底とフルオレセイン蛍光眼底造影(上)は正常であるが,多局所ERGで黄斑部の振幅が低下している(下).多局所ERG図6腫瘍随伴網膜症の1例輪状の視野欠損(上)と夜盲を強く訴えて来院した.全身検査の結果,腎臓の周囲に腫瘍がみつかった(脂肪肉腫,下).腹部MRI右眼左眼———————————————————————-Page61582あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007時に左右差がある症例や中年以降の発症もまれにあり,そのような症例が「原因不明の視力低下」になりやすい(図7).急性期には乳頭周囲の血管拡張がみられるが,明らかでないこともある.確定診断は遺伝子診断で,ミトコンドリアDNAの11778変異,3460変異,14484変異をチェックすることで日本人は90%以上検出できる.12.球後視神経炎眼底が正常で急性の視力低下と中心暗点をみたらまず考えなければいけない疾患である.2050歳の女性に多い傾向があり,片眼性が多いが両眼性もありうる.視力低下以外の症状としては球後痛,眼球運動痛が重要で,必ず問診する.RAPDを検出し,MRIで眼窩脂肪を抑制した条件(STIR法)の冠状断でT2強調画像をチェックする.パターンVEPの潜時も視神経機能異常を鋭敏に検出できる.13.虚血性視神経症中高齢者に片眼性・急性の視力低下をきたす疾患とし(32)常に近い.ERGが初期から減弱するので,網膜ジストロフィと間違えやすい.診断は,網膜に対する自己抗体の検索と,全身の腫瘍検索(全身のMRI,Gaシンチ,腫瘍マーカーなど)である.10.常染色体優性視神経萎縮小児の原因不明の視力低下の原因として重要である.視力低下の程度は軽く,進行は非常に緩徐である.視神経乳頭のびまん性萎縮あるいは耳側蒼白が明らかな例では診断が容易であるが,正常に近い乳頭もあるので注意が必要である.常染色体優性遺伝であるが,浸透率は決して高くないので家族歴がないことも珍しくない.色覚検査における青黄異常,OCTにおける視神経線維層のびまん性の減少が診断に役立つ(図2).家系調査と遺伝子検査で確定できる.11.Leber病10代から30代にかけての両眼性の急性視力低下の原因として重要である.80%以上は男性であり,多くの症例は強い中心暗点と0.1以下の視力低下を示す.発症図7高齢であったために診断が遅れたLeber病の症例51歳.最終的に遺伝子診断で確定した(右).再度注意深く観察すると,乳頭周囲の血管拡張がみられる(左).乳頭周囲の微細血管拡張ミトコンドリアDNA11778点変異電気泳動パターン未消化???????消化正常型混在型変異型←300bp(未消化)←255bp(正常型)←131,124bp(変異型)←31bp123←1:未消化DNA(PCR産物)2:正常コントロール(???????消化)3:検体(???????消化)←:変異型バンド<方法>DNA抽出PCR制限酵素処理電気泳動写真撮影判定———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071583況と視力の値が一致しないことで推定できる.診断に役立つ方法はいくつかあり,視力検査ではレンズ度数を打ち消す方法や距離を変えて視力を測る方法などが使われる.視野検査によるらせん状視野,管状視野も診断に役立つ.成人でも心因性の症例はまれではないことを知っておく.おわりに眼底が正常な視力低下の原因疾患の診断のポイントは,まず年齢と性別から絞り込み,続いて急性か慢性か,片眼か両眼かでさらに絞り込み,視力低下以外の症状をしつこく聞き出して見当をつけて,診断に最も効果的な検査をオーダーすることである.自信がないときは,他の分野(眼科内,眼科外ともに)の専門家に相談するとよい.文献1)田野保雄ほか(編):今日の眼疾患治療指針(第2版).医学書院,20072)丸尾敏夫ほか(編):眼科検査法ハンドブック(第3版).医学書院,19993)小口芳久:弱視と誤りやすい眼疾患.眼科MOOK31,視能矯正(久保田伸枝編),金原出版,19874)近藤峰生:弱視と間違えやすい網膜疾患.眼科44:717-728,20025)MiyakeY,HoriguchiM,TomitaNetal:Occultmaculardystrophy.AmJOphthalmol122:644-653,19966)GassJDM:Acutezonaloccultouterretinopathy.Donderslecture─TheNetherlandsOphthalmologicalSociety.JClinNeurolOphthalmol13:79-97,1993て重要である.視神経炎と違って痛みは伴わない.前部虚血性視神経症(AION)は急性期に特徴的な蒼白浮腫がみられるが,後部虚血性視神経症(PION)は急性期の視神経乳頭が正常であるので診断がむずかしい.特徴的といわれる水平半盲はそれほど多くなく,不規則な視野欠損が多い.片眼性であればRAPDがみられる.他の疾患を除外して診断していく.14.感染性・中毒性視神経症原因が視神経にあることがわかっても,具体的な病名がわからないときは感染性や中毒性の視神経症を疑う.感染では梅毒,結核,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)などを,中毒性としてはタバコ,アルコール,シンナー,エタンブトールなどを考える.15.頭蓋内の腫瘍・炎症・血管性病変これらの疾患は見逃すと生命にかかわることもあるので,原因不明の視力低下例には必ず念頭に置く.特に副鼻腔病変による鼻性視神経炎は要注意である.眼窩内や眼球周囲の病巣であれば視力低下以外に眼位,眼球運動なども異常となる.画像検査の診断に自信がなければ必ず専門家(放射線科,耳鼻科,神経内科,脳外科)にコンサルトする.16.心因性視力障害と詐盲心因性視力障害の好発年齢は小学校の中高学年で,女児に多い.眼科検査を一とおり行い,視力低下を説明する器質的疾患がないことを必ず確認する.普段の生活状(33)