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注視麻痺の臨床

2018年3月31日 土曜日

注視麻痺の臨床GazePalsy工藤洋祐*城倉健*はじめに眼球運動には,衝動性眼球運動(saccade),追従眼球運動(smoothpursuit),前庭眼反射(vestibulo-ocularre.ex:VOR),視運動性反射(optokineticre.ex:OKR),輻湊開散運動(convergence/divergence),固視(.xation)などの複数のシステムが関与する.注視麻痺は,通常いずれかの方向のsaccadeが障害された状態をさす.SaccadeとともにsmoothpursuitやVORなどの他の眼球運動システムが同時に障害されている場合もある.ISaccadeの神経機構視標により誘導される通常のsaccadeでは,前頭眼野や頭頂眼野からの信号が,網膜から視標の方向や距離に関する情報を受け取る上丘を介して脳幹のburstneuronを駆動し,最終的に動眼神経核などに存在する外眼筋へのmotoneuronを興奮させて眼球を動かす.Burstneuronはsaccadeのgeneratorであり,眼球の急速な動きの基になる高頻度発射(パルス)を発生させる.水平性saccadeのburstneuronは橋の外転神経核近傍の傍正中橋網様体(paramedianpontinereticularformation:PPRF)に,垂直性(+回旋性)saccadeのburstneuronは中脳の動眼神経核吻側の内側縦束吻側間質核(rostralinterstitialnucleusofmediallongitudi-nalfasciculus:riMLF)にそれぞれ存在する.さらにsaccadeには,小脳虫部VI,VII葉といったoculomotorvermisや,室頂核(fastigialnucleus)も,側副経路として深くかかわる.Saccadeには,視標に向かって急速に移動した眼球をその位置に留めておく機構も含まれている.眼球を移動した位置に留めておくためには,移動した距離に応じて,つまりパルス発射に応じてmotoneuronが持続的発射(ステップ)を継続する必要がある.これに用いられるのが,パルス発射を積分して位置信号に変換する神経積分器である.水平運動の神経積分器は舌下神経前位核(nucleusprepositushypoglossi:NPH),内側前庭神経核(medialvestibularnucleus:MVN),小脳片葉(.occulus)などが担っており,垂直運動の神経積分器は中脳のCajal間質核(interstitialnucleusofCajal:INC)などが担っていると考えられている.注視麻痺はこうしたsaccadeの神経機構の一部が障害されると生じる1,2).II水平性注視麻痺の臨床的特徴水平性注視麻痺は,前述したsaccadeの神経機構がテント上で障害される場合もテント下で障害される場合もある.テント上病変による注視麻痺は急性期血管障害で出現することが多く,通常は病変と反対側(健側)向きの注視が障害される(図1).実際には中大脳動脈閉塞や視床ないし被殻の出血が多いが,前頭眼野やその下降路が経由する内包膝部などに生じた小さな梗塞で出現した例も*YosukeKudo&*KenJohkura:横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科〔別刷請求先〕工藤洋祐:〒235-0012神奈川県横浜市磯子区滝頭1-2-1横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(23)305図1テント上病変による注視麻痺FEF=前頭眼野,III=動眼神経核,PPRF=傍正中橋網様体,VI=外転神経核.abPPRFsignalsVestibularsignals図2PPRF障害による注視麻痺と外転神経核障害による注視麻痺III=動眼神経核,MLF=内側縦束,PPRF=傍正中橋網様体,VI=外転神経核,VN=前庭神経核.■MLF障害:核間眼筋麻痺■MLF+PPRF/Ⅵ核障害:one-and-a-halfsyndrome(OHS)健側眼の外転のみ可能図3核間眼筋麻痺とone.and.a.half症候群III=動眼神経核,MLF=内側縦束,PPRF=傍正中橋網様体,VI=外転神経核.ParalyticpontineexotropiaNon-paralyticpontineexotropia図4麻痺性橋性外斜視から非麻痺性橋性外斜視に移行した左橋被蓋傍正中部の微小梗塞の75歳女性例の眼球運動写真とMRI拡散強調画像PPRFsignalsVestibularsignals図5麻痺性橋性外斜視の機序IIII=動眼神経核,MLF=内側縦束,PPRF=傍正中橋網様体,VI=外転神経核,VN=前庭神経核.WEMINO症候群(41歳,男性,橋被蓋部梗塞)(MLF障害がきわめて強く,PPRF障害がまったくない)WEBINO症候群(75歳,男性,橋被蓋部梗塞)(両側性のMLF障害)図6WEMINO症候群とWEBINO症候群IRcSO図7riMLFからの興奮性の線維連絡赤矢印は上転方向の線維連絡を示し,青矢印は下転方向の線維連絡を示す.また,下段の薄い矢印は各外眼筋が眼球に作用する力の向きを示す.CriMLF=内側縦束吻側間質核,IR=下直筋,cSR=反対側の上直筋,IO=下斜筋,IV=滑車神経核,CcSO=反対側の上斜筋.図8a視床中脳の悪性リンパ腫(69歳,男性)の眼球運動障害の経過治療前は両側眼瞼下垂とCVORを用いても下転しない下方注視麻痺を認める(動眼神経核を含む障害)(a).ステロイド治療C5日後には眼瞼下垂が消失し,VORを用いると下転が可能な下方注視麻痺となり(Cb),8日後には下方注視麻痺も消失した(Cc).riMLFPAGSTTRNN3MLSNN4CCNPPRFIRSRIOMR治療後図8b視床中脳の悪性リンパ腫(69歳,男性)の障害範囲のシェーマriMLF=内側縦束吻側間質核,N3=動眼神経核,CCN=centralcaudalnucleus,N4=滑車神経核,PPRF=傍正中橋網様体,N6=外転神経核,PAG=中脳水道周囲灰白質,STT=脊髄視床路,RN=赤核,ML=内側毛帯,SN=黒質,IR=下直筋亜核,CSR=上直筋亜核,IO=下斜筋亜核,MR=内直筋亜核.C–

神経原性眼球運動障害-末梢脳神経障害と核間眼筋麻痺-

2018年3月31日 土曜日

神経原性眼球運動障害─末梢脳神経障害と核間眼筋麻痺─OcularMotorNervePalsyandInternuclearOphthalmoplegia植木智志*はじめに本稿では,核下性障害としての末梢脳神経のうち眼球運動にかかわる動眼神経,滑車神経,外転神経のそれぞれ単独の障害,およびそれらの複合障害,さらに,核間眼筋麻痺について,とくにこれらの症例を最初に診察する医師に有用であると考えられる知識を,できるかぎりわかりやすく述べる.CI末梢脳神経障害動眼神経・滑車神経・外転神経の末梢脳神経障害(眼運動神経麻痺)の診断で重要な知識は,診察方法・解剖・原因疾患に関する知識であるが,本稿ではこれらについて一律に述べるのではなく,とくに重要な知識を強調して述べる.単眼の眼球運動制限のうち,動眼神経・滑車神経・外転神経の支配筋に従った眼球運動制限では,これらの末梢脳神経障害を強く疑う.CII動眼神経麻痺動眼神経の支配筋は上直筋,下直筋,内直筋,下斜筋,上眼瞼挙筋,瞳孔括約筋であり,動眼神経麻痺ではこれらの支配筋の障害に伴い,上転制限,下転制限,内転制限,眼瞼下垂,瞳孔散大がみられるが,これらのうち,瞳孔散大の有無の確認がきわめて重要である.動眼神経の脳幹内神経線維束での配置では,瞳孔線維が上内側を通ることがわかっている1).動眼神経麻痺を引き起こす脳動脈瘤の好発部位は内頸動脈後交通動脈分岐部であり,この部位の動脈瘤は動眼神経の上内側を圧迫する(図1).したがって,瞳孔散大を呈する動眼神経麻痺では脳動脈瘤を強く疑い,緊急に頭部画像検査のオーダーなどを行わなければならない.例外もあるが,脳動脈瘤を疑って対応することが重要である.初診時に瞳孔散大がみられない動眼神経麻痺症例でも,脳動脈瘤が原因である場合は,数日以内に瞳孔散大を呈することが多いとする報告がある2).上記のごとく例外もあるため注意しなければならないが,瞳孔散大のみられない動眼神経麻痺は,末梢循環不全が原因であることが多い.末梢循環不全は動眼神経麻痺のみならず,滑車神経麻痺および外転神経麻痺の原因にもなりうる.微小血管障害とよばれることもあり,糖尿病の既往のある症例にみられることが多い.末梢循環不全が原因の動眼神経麻痺,滑車神経麻痺,外転神経麻痺の特徴は,およそC3カ月で症状・所見の改善がみられることが多いことである.改善がみられたことで,レトロスペクティブに原因が末梢循環不全であったと診断できることもある.動眼神経の解剖学的特徴として,海綿静脈洞前部で動眼神経は上枝と下枝に分かれるため,上枝単独の障害では上転制限と眼瞼下垂のみ,下枝単独の障害では内転制限,下転制限,瞳孔散大のみがみられる可能性がある.*SatoshiUeki:新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター〔別刷請求先〕植木智志:〒951-8585新潟市旭町通C1-757新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(19)C301上小脳動脈図2左滑車神経麻痺のBHTT陽性例患側に頭部傾斜を行わせると患側眼の上転がみられる.図1内頸動脈後交通動脈分岐部と動眼神経の解剖学的位置関係脳幹を下から見上げたようなアングルとなっており,視交叉の腹側面を見ている.内頸動脈後交通動脈分岐部に動脈瘤ができれば,動眼神経の上内側,すなわち瞳孔線維の走行部を圧迫しやすいことがわかる.a右方視左方視輻湊外転神経動眼神経左内直筋へIIIIII右VI外転神経左MLF障害右外直筋へPPRFPPRFVIVI図4左核間眼筋麻痺症例a:右方視時に左眼内転制限がみられる.輻湊は保持されることが多い.Cb:左核間眼筋麻痺の模式図.核上性中枢で計画された水平性眼球運動の信号(この場合は右方視)は右側外転神経核から右側外転神経を伝わる一方で,左側のCMLFを上向し左側動眼神経核に至り左側動眼神経に伝わるが,左CMLF障害のために左側動眼神経核に信号が伝わらない.動眼神経核は中脳に,外転神経核は橋に存在する.b図3外転神経の走行(矢状断)外転神経は解剖学的に橋を出た後に斜台を上向しCDollero管を経由し海綿静脈洞に入る.斜台を上行する部分はクモ膜下腔内にあり,すなわち頭蓋内圧亢進の影響を受けやすい.

眼球運動障害疾患の画像解析

2018年3月31日 土曜日

眼球運動障害疾患の画像解析DiagnosticImagingofOcularMotilityDisorders橋本雅人*はじめに眼球運動障害は大きく分けて外眼筋の異常,脳神経の異常,神経筋接合部の異常で起こるが,その鑑別にCT,MRIによる画像検査は欠かせない.外眼筋の異常を疑う場合は眼窩内を,脳神経異常を疑う場合は頭蓋内精査を画像で行う必要がある.さらに頭部の場合,スクリーニング的なおおまかな撮影法では病変を見逃してしまう可能性もあるため,注意深い撮り方と読影が求められる.本稿では眼球運動障害を呈する疾患におけるCT,MRIの画像所見について紹介する.I眼窩内における眼球運動障害疾患の画像解析1.甲状腺眼症無痛性の眼球運動障害で,外眼筋の伸展障害が特徴である.画像では外眼筋の筋腹が肥大し,腱は比較的保たれるという特徴を有する(図1a).頻度としては下直筋,内直筋,上直筋の順に高く,外直筋,上斜筋,下斜筋は稀である.甲状腺眼症の活動性が高い時期に撮影すると,MRIにおけるT2強調画像またはSTIR(shortTIinversionrecovery)で外眼筋が高信号を示す.また,図1甲状腺眼症のCT所見a:水平断.左内直筋の筋腹の肥大()を認める.b:冠状断:両側の上下直筋,内直筋の肥大がみられ,両下直筋周囲脂肪のdensityが上昇している().*MasatoHashimoto:中村記念病院眼科〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8570札幌市中央区南1条西14丁目中村記念病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)293図2眼窩筋炎のCT所見a:左内直筋の肥大がみられ,筋付着部周囲()まで腫れている.b:右上斜筋腱および鼻側強膜の肥厚()が認められる.図3IgG4関連眼疾患のCT所見a:左上直筋および涙腺の肥大がみられる.b:ステロイドの全身投与後,肥大は著明に減少した.図4眼窩三叉神経鞘腫のMRI所見,矢状断a:T1強調画像.b:T2強調画像.c:造影T1脂肪抑制併用.上直筋の直上にT1で低信号,T2で高信号,造影効果のある楕円形の腫瘍がみられ,上転制限をきたしていた.図5骨膜下膿瘍のCT所見右眼窩外上方に腫瘤陰影があり,眼窩脂肪との間に骨膜で仕切られた境界線がみられ(),鍋蓋用陰影を呈している.図6慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)のCT所見両側の外眼筋が萎縮のため菲薄化している.図7動眼神経麻痺の頭蓋内MRI所見a:内頸動脈・後交通動脈分岐部脳動脈瘤のMRA.Cb:aの症例における反転CHeavy2強調画像,冠状断.くも膜下腔を走行する正常な右動眼神経()が描出されているが,左動眼神経は脳動脈瘤に巻き込まれ描出されていない.Cc:海綿静脈洞内髄膜腫.造影CT1強調画像,冠状断において造影効果を有する腫瘍性病変が左海綿静脈洞に認められる.Cd:左動眼神経鞘腫.高速グラジエントエコー法であるCCISS冠状断において海綿静脈洞硬膜内の左動眼神経の腫大()を認める.右動眼神経()は正常である.Ce:乳癌の右海綿静脈洞内転移.造影CT1冠状断では,海綿静脈洞後部の右動眼神経()が左動眼神経()に比べて腫大し造影されている.図8上斜筋ミオキミアのMRI所見a:反転CHeavyT2強調画像.左滑車神経()が,中脳背側で血管()と接している.Cb:MRAと反転HeavyT2強調画像との融合三次元画像.黄色が滑車神経,赤色が上小脳動脈.図9外転神経麻痺のMRI所見a:脳底動脈瘤.T2強調画像では低信号を示す巨大脳底動脈瘤がみられ,右外転神経麻痺の原因であった.Cb:斜台部髄膜腫.CISS水平断において左椎体骨斜台部に腫瘤がみられ(),進行性左外転神経麻痺の原因であった.は健常な右外転神経である.c:Duane症候群.CISS傾斜水平断において,右外転神経は描出されているが(),左側の外転神経は描出されない.C図10頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)のMR所見a:MRAの元画像であるCSPGRでは,右上眼静脈()の拡張した異常高信号(動脈血が高信号を示すので異常所見とみなす)および海綿静脈洞から下錐体静脈洞への異常高信号()がみられ,前方および後方流出型のCCCFと診断した.術前のMRA(Cb)でみられた右海綿静脈洞部の動脈血漏れが術後のCMRA(Cc)では消失している.図11左側方注視麻痺のMRI所見図12上方注視麻痺と輻湊後退眼振を認めた症例のMRI所見拡散強調画像において橋背側部やや左側にピンポイントで高信拡散強調画像において,左視床に高信号を示す梗塞所見()号を示す所見を認め,急性期微小脳梗塞と診断した().左を認め,左CriMLF障害と考えた.PPRFの障害と考えた.図13進行性核上性麻痺(PSP)のMRI所見T1強調画像,矢状断ではハミングバード徴候()を示している.’

眼球運動障害の検査と診断

2018年3月31日 土曜日

眼球運動障害の検査と診断ExaminationandDiagnosisofOcularMotilityDisorders清澤源弘*小町祐子*はじめに後天的に発症する眼球運動障害の原因・病巣は,本特集の各項に示されるように多岐にわたる.検査を通じて正しい所見をとらえることが,的確な診断および迅速な治療につながる.以下にその概要を述べる.I受診から診断までのながれ1.3)1.問診や病歴による推定眼球運動障害をきたすと多くの場合,患者は両眼性の複視を自覚し外来を受診する.とくに,末梢神経障害による複視は,むき眼位や視距離によって性状が変化することが多く,複視を軽減するための代償頭位異常を示していることもある.発症時期の確認や発症から受診までの症状の変化の有無に加え,複視の性状を確認することが重要である(表1).一方,外傷後や脳血管障害後,全身疾患などを抱えた患者が神経内科,脳神経外科,内分泌内科など他科からの依頼で受診することもある.中枢性や自己免疫疾患による眼球運動障害では,不随意な異常眼球運動や両眼性の注視麻痺などの所見がみられ,複視を訴えないこともある.いずれにしろ,眼球運動障害をきたす責任病巣と病巣部位による特徴を知り,適切な問診と,それに基づいた検査によって的確に所見をとらえることで診断への道筋を立てやすくなる.2.眼球運動障害の所見をとる眼球運動障害ではさまざまな眼位の異常をきたす.問診で得られた情報をもとに,まずは視診で定性的な眼位・眼球運動検査を行う.必要に応じて機器を用いることにより,水平・垂直・回旋偏位といった眼位異常の性状をとらえ,障害筋,障害部位の同定と,障害の程度を把握する.3.原因(病巣)検索のための検査(血液学的検査と画像診断)視診や機器で得られた所見により推定された病因を鑑別・確定するために,血液学的検査や頭部の画像をオーダーする.II眼位・眼球運動の基本的検査神経眼科における眼球運動の評価は,一般眼科における眼球運動評価とも神経内科における眼球運動の評価とも少し異なった,特徴的な評価法や記載方法が用いられてきた.ここでは,肉眼的な評価方法と簡単な機材を用いた評価方法の概要を述べる.1.眼位の観察眼球運動障害により眼位の異常をきたす.正面眼位が正位で複視がなくても各方向へのむき眼位で眼位異常がみられ,複視を訴えることがある.光視標や調節視標を用いて正面を固視させたときの眼位を確認する.光視標*MotohiroKiyosawa&*YukoKomachi:清澤眼科医院〔別刷請求先〕清澤源弘:〒136-0075東京都江東区新砂3-3-53アルカナール南砂2階清澤眼科医院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)285表1問診および観察すべき症状の内容発症からの期間発症の状況突然血管性(神経麻痺など),外傷徐々腫瘍,筋の肥厚・拘縮,炎症複視の性状(視距離)近方/近方輻湊・開散の異常,水平筋の異常(視方向)各むき眼位末梢神経障害,機械的運動障害など全方向全外眼筋麻痺など(虚像の位置)水平/上下/回旋末梢神経障害,機械的運動障害,斜偏視など(変動)日内変動などMG,甲状腺眼症など頭位異常まわし/傾斜/顎の上下末梢神経障害,MG,機械的運動障害など眼瞼下垂/開大(後退)動眼神経麻痺,全外眼筋麻痺,甲状腺眼症など眼球突出度突出甲状腺眼症など障害眼両眼性/片眼性核上性/核・核下性神経障害疼痛あり眼窩筋炎,海綿静脈洞瘻など既往歴脳血管障害・全身疾患・神経障害(核上/核・核下),MG,筋の肥厚/拘縮,外傷など機械的運動障害などその他内服薬,遺伝など進行性外眼筋麻痺などその他:解剖学的な眼球運動経路における病巣部位により鑑別すべき診断は多岐にわたる.EOM右眼左眼(SR)(IO)(IO)(SR)0000000(LR)0(MR)(MR)(LR)00(IR)(SO)(SO)(IR)00図1眼球運動記載法患者と対面したままの位置で表記する.0..4の5段階で制限の程度を表記する.上直筋・下斜筋上斜筋・下直筋上直筋上斜筋図2Parks3steptest左眼上斜筋単独麻痺の例.Step1(正面視)左上斜視(右下斜視):右上転筋または左下転筋の障害Step2(側方視)右方視で左上斜視(右下斜視):右上直筋(外転位で上転が主作用)または左上斜筋(内転位で上転が主作用)Step3(頭部傾斜:回旋作用)左傾斜で左上転:内方回旋できず拮抗筋である下斜筋の過動により上転――=図3人形の目現象の検査前庭動眼反射を利用した検査.固視をさせたまま他動的に頭部を動かす.陽性なら末梢神経障害は否定される.図49方向むき眼位図6ヘスチャート検査の様子暗室または半暗室で行う.図59方向むき眼位撮影の様子左眼右眼耳側鼻側鼻側耳側左眼緑レンズ右眼緑レンズ図7aヘスチャート左滑車神経麻痺左眼の内下方むき運動に制限がみられる.左眼右眼耳側耳側左眼緑レンズ右眼緑レンズ図7bヘスチャート右外転神経麻痺右の外転に制限がみられる.右眼(SR)(IO)-4-4左眼(IO)(SR)000-300(LR)(MR)(MR)(LR)-3-100(IR)(SO)(SO)(IR)a:正常をグレード0,まったく動かないものを.4として記載する.左眼右眼耳鼻鼻耳側側側側左眼緑レンズ右眼緑レンズb:右眼の上転・内転・下転の制限が明らかで,麻痺側(右)の中央の四角が小さい.視診の記録とヘスチャートは左右眼の表記が逆になることに留意する.図8右動眼神経麻痺の眼球運動表2外眼筋麻痺血液検査項目図9万能計による眼球突出度計測眼窩外縁に万能計を押し当てて両眼の値を記載する.

序説:眼球運動障害の診断・治療

2018年3月31日 土曜日

眼球運動障害の診断・治療DiagnosisandTreatmentofOcularMotilityDisorders吉冨健志*園田康平**眼球運動障害患者は,両眼性の複視を自覚して最初に眼科を受診します.しかし,他の眼科疾患とは異なり,その原因が眼球周辺以外の場所に起因することが多く,さまざまな全身的な原因疾患の診断を適切に行う必要があります.時には命にかかわる疾患が見つかることもあり,注意が必要です.さらに診断にはCT,MRIによる画像検査が必要となってくるなど,他の眼科疾患とは異なる視点での診断が必要になってきます.一般的に,初診の患者さんには最初に眼球運動障害の基本的な検査を行っていると思います.受診時に診察室で患者さんに行う基本的な検査の流れは,臨床家にとって非常に重要なものです.眼球運動の異常や対光反応の異常を確認することが基本になります.そして,水平・垂直・回旋偏位といった眼位異常の性状を正確にとらえ,眼球運動異常を正確に把握することによって障害筋,障害部位を同定して次の検査に進むわけです.その際に重要な検査として診断に欠かせないCT,MRIなどによる画像検査については,どのような病変があるかを予想して,どのような場所にどのような条件でCT,MRI検査を行うべきかを決定することが非常に重要です.病変が眼窩内か頭蓋内か,MRIの撮影条件についても検査を予約するときに決めておかなければいけない重要な要素です.眼球運動障害の原因には,さまざまなものがあります.基本的な病変はいわゆる「麻痺性」といわれる末梢脳神経障害で,動眼神経,滑車神経,外転神経障害は眼球運動障害の基本ですが,それぞれの障害でさまざまな疾患を考慮しなければなりません.頭蓋内でも血管障害や腫瘍をはじめ,さまざまな疾患を考える必要があります.さらに眼球運動障害には中枢性の疾患もあり,それを理解するには衝動性や追従眼球運動,輻湊開散運動などが関与する中枢のシステムを理解することが必要です.注視麻痺はいずれかの方向の衝動性眼球運動が障害された状態ですが,傍正中橋網様体(paramedianpontinereticularformation:PPRF)や内側縦束(mediallongitudinalfasciculus:MLF)吻側間質核が重要な役割を果たしています.この眼球運動のメカニズムを理解しないと,中枢のどこに障害があるのか理解できません.最終的には神経内科や脳神経外科に紹介することになりますが,眼球運動障害のみが症状の場合は最初に眼科受診される患者さんが多いので,早期発見のためには眼科医の役割は重要です.眼科で内頸動脈・後交通動脈分岐部動脈瘤のような頭蓋内の致死的疾患の発見に至ることも多々あります.*TakeshiYoshitomi:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座**KoheiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)283

眼精疲労に対する抑肝散加陳皮半夏の臨床効果 ─ CFF による検討─

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):271.274,2018c眼精疲労に対する抑肝散加陳皮半夏の臨床効果─CFFによる検討─星合繁ほしあい眼科CEvaluatingClinicalE.ectsofYokukansankachimpihangeagainstEyestrain,UsingCFFShigeruHoshiaiCHoshiaiEyeClinicストレス社会の現代では眼精疲労の要因に心因的要因の関与が推察される.しかし,眼科での睡眠薬などの処方は患者への心理負担が懸念される.そこで神経症や不眠症に適応のある漢方薬を用い,眼精疲労に対する有用性を客観的評価法で検討した.精神神経症状を伴う眼精疲労患者に抑肝散加陳皮半夏を投与し,アンケート調査(眼症状・身体症状)およびCcritical.ickerfrequency(CFF)の測定を実施した.CFF値が正常下限以下(26.34CHz)の場合を対象とした.その結果,投与前と投与後C2.3週および投与後C4.6週を比較すると,投与後C4.6週の自覚症状(眼の疲労,首や肩のこり)およびCCFF値が有意に改善した.なお,本剤に起因する副作用は認められなかった.CPsychogenicfactorsarepresumedtorepresentaclassofcausativefactorsinvolvedineyestraininpeopleliv-ingCinCaChigh-stressCsociety.CHowever,CpsychologicalCburdenConCpatientsCalsoCrelatesCtoCtheCprescriptionCofCsleepCdrugssuchashypnoticdrugsprescribedbyophthalmologists.Inthisstudy,usingobjectivemethodsweevaluatedYokukansankachimpihange(Kampo)C,CprescribedCforCneurosisCandCinsomnia,CforCtheCtreatmentCofCeyestrain.CYoku-kansankachimpihangeCwasCadministeredCtoCpatientsCwithCeyestrainCassociatedCwithCneuropsychiatricCsymptoms;questionnaireCsurvey(eye/physicalCsymptoms)andCcriticalC.ickerCfrequency(CFF)measurementCwereCalsoCcon-ducted.Astoresults,scoresforsymptoms,eyestrainandsti.shoulder/neckweresigni.cantlydecreasedafter4-6weeksCofCadministration.CEyesCbelowCnormalCCFFCvalues(26-34CHz)recoveredCandCwereCsigni.cantlyCincreasedCafter4-6weeksadministration.Noadversee.ectsattributabletoYokukansankachimpihangewereobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):271.274,C2018〕Keywords:眼精疲労,抑肝散加陳皮半夏,CFF,精神神経症状.eyestrain,Yokukansankachimpihange,CFF,neuropsychiatricsymptoms.Cはじめにパソコンやスマートフォンの普及により眼精疲労は増加傾向にある.「平成C20年技術革新と労働に関する実態調査」(厚生労働省)によれば,労働者の約C7割が「眼の疲れ,痛み」などの身体的疲労症状を自覚していた.眼精疲労にはさまざまな要因があるが,自律神経系が乱れやすいストレス社会では心因的要因も推察される.しかし,眼科での抗不安薬や睡眠薬などの処方は,かえって患者に不安を与えかねない.そこで漢方薬の抑肝散加陳皮半夏に着目し,客観的指標を用いて有用性を検討した.CI対象および方法対象はC2014年C3月.2016年C6月に当院を受診した眼精疲労患者のうち,問診でイライラや不眠などの軽度な精神神経症状が確認され,調査に同意の得られたC24例.平均年齢C65.7±11.8歳,眼精疲労の分類は,調節性C11例,筋性C7例,神経性・混合性C13例(重複あり)である.遠方視,近方視に対して,生活に合わせた眼鏡による屈折矯正を行っている.抑肝散加陳皮半夏(KB-83クラシエ抑肝散加陳皮半夏エキス細粒R:以下,YKCH)1日C7.5Cg(分2)を原則C4週間〔別刷請求先〕星合繁:〒336-0967埼玉県さいたま市緑区美園C6-9-10ほしあい眼科Reprintrequests:ShigeruHoshiai,HoshiaiEyeClinic,6-9-10,Misono,Midori-ku,Saitama-shi,Saitama-ken336-0967,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(111)C271以上服用とし,内服のビタミンCBC12,レバミピド,アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物製剤,向精神薬および調査薬剤以外の漢方製剤は併用を禁止した.YKCH投与前,投与後2.3週および4.6週のタイミングで視力検査・アンケート調査・中心フリッカー(criticalC.ickerCfrequency:CFF)検査を行った.自覚症状は,眼症状(疲労,違和感,かすみ,乾燥,眼痛,充血,痙攣)および身体症状(首や肩のこり,頭痛,イライラ,不安,不眠,疲労感,めまい)の各症状に対してC4段階評価(3:とてもそのように感じる,2:少し感じる,1:ほぼない,0:まったくない)のアンケート調査を実施し,眼精疲労の客観的指標としてはCCFF値を測定した.今回の患者背景にCCFFへ影響する器質的疾患はなく,CFF値が要精査にあたる正常下限以下(26.34CHz)1)の場合を対象とした.CCFF検査高速点滅の場合,光は点滅光には見えないが,点滅速度が遅くなるにつれて光の点滅が判定できる.点滅を感じはじめたときの周波数がCCFF値であり,1秒間での点滅回数を表す.CFFは網膜神経節細胞から一次視覚野へのニューロンのインパルス伝達を反映すると考えられており2),疲労の蓄積とともに低下する.CFFを指標に眼精疲労の臨床研究が報告されている2,3).検査機はハンディフリッカCHF-II(ナイツ製)を使用,3色発光ダイオード(LED)の光源により降下法で左右眼を測定した.統計解析に関して,自覚症状はCFriedmanCtest後にCBon-ferroni/Dunn法,CFFはCrepeatedCmeasureCANOVA後にBonferroni/Dunn法を行い,有意水準は5%とした.CII結果1.患.者.背.景登録24例中13例(脱落6例,データ欠損3例,CFF正常C4例)を除外し,解析対象はCCFF異常C11例(18眼)とした(表1).またC11例中C2例にアンケート不備があり,自覚症状の解析対象はC9例とした.C2.自覚症状の推移症状スコアの推移を示す(図1).投与前と比較し投与後C4.6週にて「眼の疲労」および「首や肩のこり」のスコアが有意に低下した.C3.CFF値の推移CFF値の推移を示す(図2).18眼内C7眼が正常範囲内に改善した.CFF値(平均C±SD)は投与前C30.9C±2.6Hz,投与後C2.3週C32.2C±3.0CHz,投与後4.6週C33.1C±3.6CHzと推移し,投与前と比較し投与後4.6週で有意差が認められた.C4.安全性調査期間中,本剤に起因すると思われる副作用はみられなかった.CIII考按VDT作業者の眼精疲労は,不安状態や抑うつ状態を随伴する場合が多いとの報告がある4).YKCHは小児の夜泣きや疳の虫のために創薬された抑肝散に陳皮と半夏を加えた漢方薬である(表2).釣藤鈎や陳皮にはC5-HT神経系やグルタ表1患者背景性別男性C1例,女性C10例年齢C68.5±12.9歳(C42.C82歳)眼精疲労分類※調節性C5例,筋性C3例,神経性・混合性C6例視力-裸眼右眼C0.6C±0.4(C0.15.C1.2),左眼C0.8C±0.3(C0.1.C1.2)既往歴あり10例C※,なしC1例(白内障術後C5例,眼内レンズ挿入眼C2例,網膜裂孔C1例,網膜前膜の処置C1例,ドライアイC1例,糖尿病C1例,高血圧C1例)罹病期間C14.5±12.4カ月(2.3C8カ月)視力矯正あり(眼鏡)C10例,なしC1例VDT作業ありC6例,なしC4例,不明C1例治療歴あり(頓用含む)C6例C※,なしC5例(シアノコバラミン点眼液C5例,精製ヒアルロン酸CNa点眼液C2例,メコバラミン錠1例)併用薬あり(頓用含む)C10例C※,なしC1例(シアノメコバラミン点眼液C6例,精製ヒアルロン酸CNa点眼液C3例,モキシフロキサシン塩酸塩点眼液C2例,フルオロメトロン懸濁点眼液C1例,ブリモニジン酒石酸塩点眼液C1例,リパスジル塩酸塩水和物点眼液C1例)※重複あり.VDT作業とはCTVゲーム・パソコン・携帯電話などの連続操作(1時間以上)とした.272あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018(112)*眼の症状3210*3210ミン酸神経系の作用が報告されている5,6).イライラして怒りっぽい,眠れないなどの症状が処方目標であり,神経が高ぶる患者に用いられ,神経症および不眠症の適応症をもつ.アトピー性皮膚炎,めまい,眼瞼痙攣など精神的ストレスの関与が示唆される疾患でも有用性が報告されている.CFF値の低下は疲労研究領域では,一般に精神疲労の発現や大脳中枢の覚醒レベルの低下とも関係するといわれている.釣藤鈎はグルタミン酸および一酸化窒素供与体により誘導される神経細胞死への保護作用(inCvitro)7),陳皮はラット由来大脳皮質神経細胞にて神経毒性(ACb蛋白)で誘発される神経突起の萎縮や細胞生存率減少に対する抑制8)が報告されている.YKCHは神経保護作用により神経の信号伝達機能を改善し,疲労を回復させるのかもしれない.神経の疲労回復には一定の時間を要すると考えられることから,YKCHは少なくともC4.6週の継続投与が必要と考える.一方,自覚症状は,症例数が少ないものの「眼の疲労」および「首や肩のこり」で改善がみられ,血流障害の緩和が示唆された.不安や緊張は頭頸部領域での血流低下を引き起こすことが考えられる.不眠症や軽い精神症状の症例を対象に課題遂行時の脳酸素代謝の変化を検討した報告では,YKCH群表2抑肝散加陳皮半夏の処方構成抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)抑肝散釣藤鈎C3.0Cg柴胡C2.0Cg川.C3.0Cg陳皮3C.0Cg当帰C3.0Cg半夏5C.0Cg茯苓C4.0Cg白朮C4.0Cg甘草C1.5Cg本薬C1日量(7.5Cg)中,上記の混合生薬より抽出した抑肝散加陳皮半夏エキス粉末C5,000Cmgを含有する.は非投与群に比べて脳血流量が有意に高値を示した9).釣藤鈎には血管弛緩作用があり,抑肝散はウサギの短後毛様動脈血流量を増加し眼圧低下作用を示す報告がある10).これらのことから,YKCHは頭頸部領域での血流改善作用により,首や肩のこりを緩和し,眼精疲労を改善する可能性が示唆される.眼科の診察では精神神経症状を自発的に訴える患者は少ない.しかし,ストレスの多い現代では,眼精疲労の要因にイライラや睡眠障害などが潜在することもまれではない.C(113)あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018C273Hz454035302520151050投与前2~3週4~6週n=18,Bon.eroni/Dunn,**p<0.01図2CFF値CFF値の正常範囲(35CHz以上)をグレーの部分で示す.正常下限以下(26.34CHz)であったC18眼に対して抑肝散加陳皮半夏を投与した結果,CFF値が回復し,投与前と比較して投与後4.6週で有意差が認められた.投薬の心理負担をかけず症状を改善しうるCYKCHは,治療選択薬の一つとして有用ではないかと考える.文献1)岩崎常人:特集眼精疲労を科学する2.眼精疲労の測定方法と評価─CFFとCAA-1─.眼科51:387-395,C20092)OzawaCY,CKawashimaCM,CInoueCSCetCal:BilberryCextractCsupplementationCforCpreventingCeyeCfatigueCinCvideoCdis-playterminalworkers.JNutrHealthAging19:548-554,C20153)太田勝次,笛木慎一郎,鈴木直子ほか:西洋漢方融合型サプリメントの眼精疲労への影響.新薬と臨牀C62:146-157,C20134)端詰勝敬,坪井康次:心身症と眼精疲労.あたらしい眼科C14:1313-1317,C19975)五十嵐康:抑肝散の作用メカニズムの解明.GeriatrMed46:255-261,C20086)伊東彩,範本文哲:生薬陳皮の薬理作用─抗不安作用に関して─.Phil漢方46:26-28,C20147)ShimadaCY,CGotoCH,CTerasawaCK:ChotosanCandCcerebroC-vascularCdisorders:ClinicalCandCexperimentalCstudies.CJTraditionMedC23:117-131,C20068)渡部晋平,範本文哲:生薬陳皮の薬理作用―神経保護作用を中心に―.Phil漢方41:28-29,C20139)藤田日奈,吉田桃子,与茂田敏ほか:ランダム化比較オープン試験による抑肝散加陳皮半夏の認知機能に関する臨床的検討.精神科23:130-138,C201310)山田利津子:抑肝散内服後の家兎短後毛様動脈の血流動態の検討.漢方と最新治療20:175-178,C2011C***274あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018(114)

DCR鼻内法における吻合部の処理法の検討 ─涙囊の切開・切除との比較─

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):267.270,2018cDCR鼻内法における吻合部の処理法の検討─涙.の切開・切除との比較─伊藤和彦佐橋一浩廣瀬浩士独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター眼科CStudyofAnastomosisMethodinEndonasalDCR─ComparisonofLacrimalSacIncision,Excision─KazuhikoIto,KazuhiroSahashiandHiroshiHiroseCDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationNagoyaMedicalCenter目的:涙.鼻腔吻合術鼻内法(endonasal-dacryocystorhinostomy:En-DCR)における涙.粘膜の展開・処理法の違いによる術後成績について検討を行う.対象および方法:2015年C6月.2016年C2月に名古屋医療センター眼科でEn-DCRを連続して施行した患者C68人(男性:女性=18:50)を対象とした.クレセントナイフによるCH状またはコ状涙.切開した患側C38側をグループCI,鉗子による涙.切除を施行した患側C50側をグループCIIとして,涙液メニスカス髙(tearmeniscusheight:TMH),左右,麻酔,術後の涙管通水検査,平均手術時間,中鼻甲介処理率を比較検討した.結果:涙管通水検査では,グループCIは陽性率C94%,陰性率C6%であった.グループCIIは涙管通水検査での陽性率C89%,陰性率C11%であった.両者に有意差は認められなかった(p=0.14PearsonC’sCc2検定).結論:涙.粘膜の展開法として,切開法,切除法で術後成績には有意差はなく,侵襲の少ないナイフによる切開法がより安全と考えられた.CPurpose:Toevaluateoutcomesofendonasal-dacryocystorhinostomy(En-DCR)withtwomethodsoflacrimalsacCexpansion.CSubjectsandmethod:WeCstudiedC88CsidesCofC68Cpatients(male:female=18:50)withClacrimalCpassageobstructionwhohadundergoneEn-DCRbetweenJune2015andFebruary2016.Theyweredividedintotwogroupsbasedondi.erenceinlacrimalsacexpansionmethod.GroupIhad38sidestreatedwithlacrimalsacincisionCbyCCrescentCknife;groupCIIChadC50CsidesCtreatedCwithClacrimalCsacCremovalCbyCforceps.CTearCmeniscusCheight,ClacrimalCirrigationCtest,CaverageCsurgeryCtimeCandCmiddleCturbinateCprocessingCrateCwereCcompared.CResult:Lacrimalirrigationtestshowednosigni.cantdi.erencesbetweenthegroups(positiverate94%ingroupICandC89%CinCgroupCII,Cp=0.14CPearson’sCc2test)C.CConclusions:ThoughCthereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCbetweenthetwogroups,lacrimalsacremovalbytheincisionmethodwasconsideredlessinvasiveandsafer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):267.270,C2018〕Keywords:DCR鼻内法,涙.切開法,涙.切除法.endonasal-dacryocystorhinostomy,lacrimalsacincision,lac-rimalsacexcision.Cはじめに涙.鼻腔吻合術は,鼻外法がC1904年にCTotiにより最初に報告された1).その後,さまざまな試行錯誤を経たうえで改良され,以後,細い術式の違いはあるが高い成功率を達成し,現在の方法に至っている.一方,鼻内法(En-DCR)はC1893年にCCaldwellにより報告された2)が,術後成績の不安定さから,鼻外法が支持されてきた歴史がある.最近では,鼻内視鏡,骨窓作製の機器などの改良3),発達4)により手術手技も向上し,鼻外法4)に劣らない術後成績が報告されている.ただし,鼻外法と異なり,骨窓作製後,涙.粘膜や,鼻粘膜を縫合しないため,吻合部の周囲の骨が露出しやすく,ま〔別刷請求先〕伊藤和彦:〒460-0001愛知県名古屋市中区三の丸C4-1-1独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター眼科Reprintrequests:KazuhikoIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationNagoyaMedicalCenter,4-1-1Sannomaru,Naka-ku,Nagoya,Aichi460-0001,JAPAN表1TMHHighCMiddleCLowグループCI2側(5%)5側(13%)31側(81%)グループCII2側(4%)2側(4%)43側(86%)Cp=0.32,PearsonのCc2検定.表3麻酔全身麻酔局所麻酔グループCI32側(84%)6側(16%)グループCII43側(86%)7側(14%)Cp=0.81,PearsonのCc2検定.表5中鼻甲介処理率一部切除切除なしグループCI22側(58%)16側(42%)グループCII35側(70%)15側(30%)Cp=0.24,PearsonのCc2検定.た,シリコーンスポンジなどのステントも挿入しない場合が多く,その場合,肉芽が形成され,骨窓が再閉塞する可能性がある5).また,狭鼻腔の症例では,骨窓を覆った鼻粘膜の増殖と鼻中隔との癒着による再閉塞が起こることが危倶される.そこで今回筆者らは,名古屋医療センター眼科(以下,当院)で施行したCEn-DCRでの涙.粘膜の処理法の違いにより,術後成績にどのような変化が生じるかについて比較検討を行った.CI対象および方法2015年6月.2016年2月まで,当院でEn-DCRを連続して施行したC67人(男性:女性=16:51)を対象とした.平均年齢はC68.1C±16.2歳で,男性の平均年齢はC61.4C±23.1歳,女性の平均年齢はC68.6C±15.4歳であった.術後の経過観察期間はC4.12カ月であった.吻合部の涙.粘膜の処理法については,クレセントナイフによるCH状,またはコ状に涙.切開したC38側をグループCI,鉗子により切除を行ったC50側をグループCIIとした.涙液メニスカス髙(tearmenis-cusheight:TMH),手術側,麻酔法,術後の涙管通水検査,平均手術時間,中鼻甲介の処理率について比較検討を行った.統計学的処理はCPearsonのCc2検定で行った.手術は,原則的に全身麻酔で行い,骨窓を総涙小管部まで広げ,涙.の内総涙点を確認した.緊急性の高い急性涙.炎例,全身状態に影響が出やすいC80歳以上の高齢者には,局所麻酔下で手術を行った.両術式とも圧迫止血で止まらない表2左右右左グループCI16側(42%)22側(58%)グループCII29側(58%)21側(42%)Cp=0.14,PearsonのCc2検定.表4涙管通水通水あり通水なし不明グループCI34側(90%)2側(5%)2側(5%)グループCII47側(94%)3側(6%)Cp=0.14,PearsonのCc2検定.通水なし:チューブ抜去後C1カ月の所見.ときは高周波電気メスにて止血した.術後,すべての症例で2カ月間はステントを留置した.チューブ抜去後C1カ月の時点でCTMHの観察,涙管通水検査を行い評価した.TMHは,0,1mm以下をClow,0.2.0.3Cmmをmiddle,0.4Cmm以上をChighと定義して評価した.CII結果TMHは,グループCIはChigh2側(5%),middle5側(13%),low31側(81%)で,グループCIIではChigh2側(4%),middle2側(4%),low43側(86%)で,両群間で有意差を認めなかった(p値=0.32)(表1).左右では,グループCIは,右C16側(42%)左C22側(58%),グループCIIでは,右C29側(58%),左C21側(42%)であった.両群間で有意差を認めなかった(p値=0.14)(表2).麻酔法は,グループCIでは全身麻酔C32側(84%),局所麻酔C6側(16%),グループCIIで全身麻酔C43側(86%),局所麻酔C7側(14%)で,両群間に有意差を認めなかった(p値=0.81)(表3).涙管通水検査では,グループCIは通水ありC36側(95%),通水なしC2側(5%)であった.グループCIIでは,通水ありC47側(94%),通水なしC3側(6%)で,両群間に有意差を認めなかった(p値=0.14)(表4).平均手術時間はグループCIではC25.6分,グループCIIでは22.4分であった.両群間で有意差を認めなかった(p値=0.09Mann-Whitney’sU検定).中鼻甲介の処理については,グループCIでは,中鼻甲介の一部切除例がC22側(58%),切除しないものがC16側(42%),グループCIIでは中鼻甲介の一部切除例がC35側(70%),切除しないものがC15側(30%)で,両群間に有意差を認めなかった(p値=0.24)(表5).III結論・考按涙.鼻腔吻合術は,涙道閉塞症に対する最終的な治療法であるが,手術法については,鼻外法,鼻内法のそれぞれの利点,欠点があり,症例に応じて慎重に選択する必要がある.当院では,以前は全例に鼻外法を施行していたが,鼻内視鏡を導入するとともに,鼻粘膜の処理,骨窓作製における手術機器の進歩により鼻内法に移行している.それらの術後成績には有意差は認められなかったが,両者ともに再閉塞する症例もあり,その原因について理解を深めることがより高い成功率を導く鍵となる.今回,En-DCRについて,涙.粘膜の展開の処理法に重点を置き,術後成績を検討したが,鼻内法術後の再閉塞例に対する再手術では,吻合部と中鼻甲介や鼻中隔との癒着もみられ,鼻外法とは異なる機序で発生する可能性も示唆された5).筆者らが行っているCEn-DCRの手技のおもな手順は,①上顎骨前頭突起と涙骨接合部での骨窓の作製,②涙.の露出とライトガイドによる内総涙点から涙.閉塞部位までの確認,③涙.の切開,もしくは切除,④ステントの留置である.これまでもCDCRの手術手技については多くの方法が報告されている6.9)が,手術手技の細かい操作については,各国,施設間で異なるところもあり,内眼手術のようには標準化されていない.吻合部の骨窓作製時,骨が露出することにより術後の肉芽腫の発生が懸念されることは以前より知られているが,最近では,骨の露出を避けるために涙.粘膜と鼻粘膜を縫合したり6),涙.粘膜を切除せず,大きく展開し,鼻粘膜との融合を期待する術式も報告されている9).ただし,鼻内での粘膜同士の縫合はむずかしく熟練を要すること,涙.粘膜の展開のみでは癒着により再閉塞する可能性も否定できない.鼻内法に関して,当初は涙.粘膜を切除していたが,この場合,骨の露出は避けられず,また,涙.からの出血もあり,できれば粘膜を切除せず,鼻外法のように縫合できればと考えていた.実際,鼻内での縫合を試みたが,時間もかかり,完成度の高い縫合がむずかしいため,縫合を行わず,涙.を大きく切開して鼻粘膜との融合を期待する方法を行うことにした.ただし,涙.の切開だけでどの程度の成功率が得られるか疑問もあったため,涙.粘膜の展開の処理法,すなわち切開法(グループCI),切除法(グループCII)に分けて,チューブ抜去後C1カ月のCTMH,涙管通水の有無を術後成績として比較検討を行った.グループCIの切開法は,涙.を露出させた後C23CGライトガイドを閉塞部位まで挿入し,ライトガイドの光源を頼りにして涙.をテント状に緊張させ,閉塞部位下端から内総涙までを切開する.切開部位の両端には涙.の長軸方向と垂直に鼻中隔切除中鼻甲介切開左鼻腔図1涙.切除・切開切れ込みを入れ,できるだけ涙.内腔を露出させる.今回は,涙.の切開はC2.3Cmm幅のクレセントナイフを使用して行ったが,連続した切開は容易ではあるものの,内総涙点側の涙.粘膜まで切開してしまい,眼窩隔膜を傷つけることで脂肪脱出の危険性もあるため,鼻内視鏡で確実に視認して行う必要がある.グループCIIの切除法は北村氏篩骨洞鉗子を使用し,グループCIの切開法同様,涙.にライトガイドでテント状になるよう緊張をかけ,閉塞部下端から内総涙点まで切除する.骨窓に面した涙.粘膜を切除するため,涙.内部の視認は容易であるが,鼻内での繊細な操作が困難なため,粘膜の損傷や出血の懸念があり,また,出血時,涙.の確認が困難になることもあり,圧迫止血を行いながら,涙.を過剰に切除してしまう可能性がある.その場合,骨窓部の骨が露出することで肉芽の発生も危惧されため,涙.粘膜の処理には細心の注意が必要である.今回の涙.の切開法と切除法の処理の検討において,TMH,涙道通水,平均手術時間に有意な差はみられなかった.粘膜を切除する場合,鉗子手技の習得に修練が必要であるが,切開法では,硬性鏡下での視認が得られれば,クレセントナイフを使用することで切開は容易になる.術後成績に有意差がなければ,これらの切開法,切除法の利点,欠点を考慮すると,出血などの合併症が少なく,手技的により簡便な切開法がよいと考えた.ただし,狭鼻腔や中鼻甲介の解剖学的個体差で,クレセントナイフの操作がむずかしい場合や,涙.が小さく眼窩隔壁まで切開が及びそうな症例には,切除法も選択の余地に入れるべきである.また,今回の検討では有意差はみられなかったが,長期的な経過観察ができておらず,今後,さらに継続的な経過観察や総合的な検討が必要である.本稿の要旨は第C5回日本涙道・涙液学会(2016)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TotiA:NuovometodoconservatoredicuraradicaledellesoppurazioniCcronicheCdelCsaccoClacrimale(dacriocistorino-stomia).ClinModerna(Firenze)C10:385-387,C19042)CaldwellCGW:TwoCnewCoperationCforCobstructionCofCtheCnasalductwithpreservationofcanaliculi,andaninciden-talCdescriptionCofCaCnewClacrimalCprobe.CNewCYorkCMJC57:581-582,C18393)高野俊之:超音波手術器「ソノペットCTMCUST-2001」の骨窓作製時における使用経験.あたらしい眼科C30:1294-1297,C20134)廣瀬浩士:涙道疾患の手術的治療.現代医学C51:491-498,C20045)栗原秀行:涙.鼻腔吻合術の術中トラブルと対処.臨眼C51:1708-1710,C19976)鶴丸修士,鈴木亨:慢性涙.炎─涙.鼻腔吻合術鼻内法.あたらしい眼科32:1655-1663,C20157)鈴木亨:涙.鼻腔吻合術鼻内法における最近の術式とラーニンクカーブ.眼科手術24:167-175,C20118)松山浩子,宮崎千歌:涙.鼻腔吻合術鼻内法の手術成績.眼科手術24:495-498,C20119)宮崎千歌:涙道領域─最近の話題─涙.鼻腔吻合術鼻内法.あたらしい眼科30:897-901,C2013***

黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ初回およびPRN投与の短期治療成績

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):263.266,2018c黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ初回およびPRN投与の短期治療成績寺内稜*1,2小川俊平*1,2中野匡*1*1東京慈恵会医科大学附属病院眼科*2厚木市立病院眼科CShort-termClinicalOutcomesofInitialandProReNataCIntravitrealRanibizumabInjectionforMacularEdemaSecondarytoBranchRetinalVeinOcclusionCRyoTerauchi1,2)C,ShumpeiOgawa1,2)CandTadashiNakano1)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,AtsugiCityHospital対象および方法:対象は網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対してラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)を施行し,6カ月間経過観察できたC26例C26眼(平均C69.3C±10.6歳).最高矯正視力(best-correct-edCvisualCacuity:BCVA)と中心窩網膜厚(fovealCretinalCthickness:FRT)の経過,IVRの投与回数,視力改善に影響を与える因子について後ろ向きに検討した.初回導入後はCFRT350Cμm以上を基準としてCprorenata投与を行った.結果:投与前と投与後C6カ月のCBCVA(logMAR)はC0.36からC0.22へ,FRTはC587.3CμmからC336.4Cμmへと有意に改善し,平均投与回数はC1.7C±0.6回であった.投与前視力が悪い症例ほど大きな視力改善が得られた.結論:FRT350Cμm以上の再投与基準は,投与回数を抑制しCBCVAおよびCFRTを有意に改善させる.CMethods:WeretrospectivelyreviewedtheclinicalchartsofpatientswhounderwentIVRforMEsecondarytoCBRVO.CAllCpatientsCwereCtreatedCwithC1+PRNCregimenCoverC6Cmonths.CTheCmainCcriterionCforCPRNCinjectionwasCfovealCretinalCthickness(FRT)>350Cμm.CBest-correctedCvisualCacuity(BCVA)andCFRTCwereCmeasuredCatCpre-injection,and1,3and6monthsafterinitialinjection.WeevaluatedfactorspredictingBCVAimprovementin6CmonthsCusingCmultipleCregressionCanalysis.CResults:InCtheC26CeyesCofC26CpatientsCincludedCinCthisCstudy,CtheCmeannumberofinjectionswas1.7±0.6.BCVAinlogarithmicminimumangleofresolutionchangedsigni.cantly,from0.36atpre-injectionto0.22at6months.FRTalsoreducedsigni.cantly,from587.3Cμmto336.4Cμm.Therewassigni.cantnegativecorrelationbetweenpre-injectionBCVAandBCVAimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):263.266,C2018〕Keywords:網膜静脈分枝閉塞症,黄斑浮腫,ラニビズマブ,PRN.branchretinalveinocclusion,macularedema,ranibizumab,prorenata.Cはじめに近年,網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinCocclu-sion:BRVO)に伴う黄斑浮腫(macularCedema:ME)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)薬硝子体内注射の有効性が示され1),最適な投与プロトコルが模索されている.BRVOに伴うCMEはC4.5カ月でC18%,7.5カ月でC41%が自然軽快することが知られており2),これまでに報告されてきた毎月投与1),導入期C3回+proCreCnata(3+PRN)投与3)あるいはCtreatCandCextend(TAE)法4)では過剰投与の可能性がある.現在は投与回数を抑えたC1+PRN投与が有効な投与プロトコルと考えられ広く臨床の場で行われているが,その治療効果の検討は十分とはいえない.筆者らの施設では,ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealCranibizumab:IVR)のC1+PRN投与を選択し,再投与基準を中心窩網膜厚(fovealCretinalCthickness:FRT)350Cμm以上として治療を行ってきた.今回,その治療結果を後ろ向きに検討したので報告する.〔別刷請求先〕寺内稜:〒105-8471東京都港区西新橋C3-19-18東京慈恵会医科大学附属病院眼科Reprintrequests:RyoTerauchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,3-19-18Nishishinbashi,Minato-ku,Tokyo105-8471,JAPAN表1症例の投与前背景0.6対象26眼年齢C69.3±10.6歳性別(女/男)17/9名(65.4/34.6%)発症から投与までの期間C6.99±8.69カ月投与前視力(logMAR)C0.36±0.23中心窩網膜厚C587.3±280.0Cμm黄斑部出血14眼(53.8%)0漿液性網膜.離9眼(34.6%)図1BCVA(最高矯正視力)の投与前後の推移I対象投与後C6カ月のCBCVAは,投与前と比較して有意に改善した.平均値C±標準偏差.p=0.021,厚木市立病院眼科において,2014年C3月.2015年C12月Wilcoxonの順位和検定(投与前と比較).CにCBRVOに伴うCMEに対してCIVRを実施した連続症例のうち,除外基準1)軽度白内障を除く他の眼疾患の合併,2)初700Pre1M3M6M回CIVR前のCBRVOに対する硝子体手術,他の抗CVEGF薬硝子体内注射,Tenon.下ステロイド注射もしくは網膜光凝固の既往,に該当する症例を除いたC26例C26眼を対象とした(表1).CII方法0視力障害をきたす黄斑部を含むCMEを認め,光干渉断層Pre1M3M6M計(opticalCcoherentCtomography:OCT.CCirrusC3000,CCarlZeiss)でCFRTがC250μm以上の症例に対して初回CIVR(0.5Cmg/0.05Cml)を実施した.以降はCPRN投与を行い,再投与基準は視力にかかわらずCMEの残存もしくは再発のためにFRTが350Cμm以上の場合とした.必要に応じて蛍光眼底造影検査を実施し,5乳頭径大以上の網膜無灌流領域を認めたC11例(42.3%)で局所網膜光凝固を行った.MEに対する閾値下凝固を行った症例はなかった.治療効果を検討するため,初回CIVR前,投与後C1,3,6カ月の時点で視力検査による最高矯正視力(bestCcorrectedvisualCacuity:BCVA)と,OCT画像検査によるCFRTの測定を行った.FRTはセグメンテーションエラーを回避するために,OCT検査により得られた中心窩を含む網膜断層写真をCOCT上で確認選別し,断層像で決定した中心窩の硝子体網膜界面と,網膜色素上皮層の垂線の交点までの最大の距離をCFRTとした.BCVAとCFRTの投与前後の比較にはCWilcoxonの順位和検定を用いた.少数視力はClogMAR(logarithmicCminimumangleCofCresolution)視力に換算して解析を行った.治療効果に影響を与える因子を検討するため,目的変数をC6カ月間の視力改善幅(投与後C6カ月CBCVAC.投与前CBCVA),説明変数を年齢,性別,発症から投与までの期間,黄斑部出血の有無,投与前BCVA,投与前FRT,漿液性網膜.離(serousretinalCdetachment:SRD)の有無,光凝固実施の有無,6カ月間の投与回数,として重回帰分析を行った.変数選択に図2FRT(中心窩網膜厚)の投与前後の推移投与後C6カ月のCFRTは,投与前と比較して有意に減少した.平均値±標準偏差.p<0.001,Wilcoxonの順位和検定(投与前と比較).Cはステップワイズ法を用いた.統計解析には,RCver.C3.2.1.(RCFoundationCforCStatisticalCComputing,CVienna,CAus-tria,C2014)を用い,p<0.05を有意差ありとした.本研究は厚木市立病院倫理委員会の承認(H28-06)を得て,ヘルシンキ宣言を尊守し実施された.CIII結果6カ月間の平均投与回数はC1.7C±0.6回であった.投与回数がC1回の症例はC26眼中C11眼(42.3%),2回はC13眼(50.0%),3回はC2眼(7.7%)であった.IVRに伴う重篤な全身および局所合併症は認めなかった.治療開始後C6カ月間のBCVAとCFRTの推移を示す(図1,2).BCVAは投与前C0.36C±0.23(平均C±標準偏差),投与後C6カ月C0.22C±0.22であり有意に改善した(p=0.021).logMAR0.2以上の変化を有意とした場合,投与後C6カ月の時点でC26眼中C9眼(34.6%)に視力の改善が認められ,不変であった症例はC16眼(61.5%),悪化した症例はC1眼(3.8%)であった.FRTは投与前C587.3C±279.6μm,投与後C6カ月はC336.4C±196.5μmと有意に減少した(p<0.001).視力改善に影響を及ぼす因子の検討では,ステップワイズ年齢黄斑部出血C投与前CBCVAC投与前CFRTC表2説明変数間の相関係数(r)年齢黄斑部出血投与前CBCVA投与前CFRT1.000C─C─C─.0.0241.000C─C─.0.134C.0.096C1.000C─.0.4330.098C0.366C1.000表3各説明変数の標準偏回帰係数(b)0.8bp値年齢C0.0048C0.209黄斑部出血C.0.0937C0.198投与前CBCVAC.0.4707C0.011投与前CFRTC.0.0003C0.023法により四つの説明変数(年齢,黄斑部出血,投与前CBCVA,視力改善幅(6カ月-投与前)0投与前CFRT)が選択された.説明変数間の相関係数はいずれも中等度以下であり(表2),多重共線性の問題はないと考えられた.また,自由度調整済決定係数CrC2はC0.54であった.標準偏回帰係数Cb(表3)から,投与前CBCVA(Cb=.0.47,Cp=0.011)が視力改善幅に強く影響すると考えられ,投与前視力が悪い症例ほど大きな視力改善が得られていた.単回帰分析でも投与前CBCVAと視力改善幅には有意な負の相関が認められた(r=.0.61,Cp=0.001,図3).CIV考按これまでのCBRVOに対する抗CVEGF薬のCPRN投与の報告において,再投与基準はCFRT250μm以上5),もしくは300Cμm以上6)に設定される場合が多かったが,筆者らは過剰投与のリスクを減らしながら治療効果が十分に得られる最適な投与プロトコルを模索するため,再投与基準はCFRT350μm以上に設定した.結果として,投与前と比較して投与後6カ月のCBCVAおよびCFRTはいずれも有意に改善した.坂西らはCFRT300Cμm以上を再投与基準としてC1+PRN投与を実施し,6カ月後7),12カ月後8)のCBCVAおよびCFRTは有意に改善したと報告している.平均投与回数を比較すると,本研究ではC6カ月間でC1.7回であったのに対し,坂西ら7)はC1.9回であり,本研究の投与回数のほうがわずかに少ない傾向にあった(表4).少ない投与回数は,注射に伴う合併症,患者の費用負担,医療経済などさまざまな面で利点があると考えられる.しかしながら,本研究のCBCVAとCFRTの改善幅は,坂西らのC6カ月後の結果と比較して同等もしくはわずかに小さい傾向にあり,6カ月間の投与回数の差が影響している可能性は否定できない.本研究はC6カ月間の短期治療成績を検討しており,FRT再投与基準が視力予後に与える影響については,より長期の-0.800.20.40.60.81投与前BCVA図3投与前BCVAと6カ月間の視力改善幅の関係投与前CBCVAと視力改善幅は有意な負の相関を示した(r=.0.605,Cp=0.001).視力改善幅は,正の値は視力悪化,負の値は視力改善を表す.経過観察が必要となる.また,本研究は対象がC26眼と少数であり,今後症例数を増やした検証も必要である.視力改善に影響する因子について重回帰分析を用いて検討した結果,投与C6カ月後の視力改善幅にもっとも影響を与える因子は投与前視力であり,投与前視力が悪いほど投与後に大きな視力改善が得られた.これまでにも投与前視力と視力改善が負の相関を示すという報告は存在し9),視力不良例に対しても抗CVEGF療法は有効な治療法であることが期待されている.しかしながら,本研究では投与前視力がClogMAR視力C1.0より大きな症例はなく,視力不良例についての検討は十分とはいえない.同様にCBRVOに関する大規模臨床試験であるCBRAVOCstudy1)においても,logMAR視力C1.3より大きい症例は対象から除外されており,今後は視力不良例に対する抗CVEGF療法の治療効果についてのさらなる検討が望まれる.結論として,1+PRN投与はC6カ月後のBCVAおよびFRTを改善させ,FRT350Cμm以上の再投与基準は投与回数を抑制し十分な治療効果を維持した.謝辞:本論文作成にあたり草稿をご校閲いただいた東京慈恵会医科大学の酒井勉,神野英生,堀口浩史先生,臨床評価をしていただいた吉嶺松洋,岸田桃子先生に深謝いたします.表4BRVOに対するIVRの短期治療成績を検討した本研究と既報の比較眼再投与基準(Cμm)平均投与回数(回)BCVA改善幅(logMAR)FRT改善幅(Cμm)坂西ら(2C016)C32C≧300C1.9±0.8C.0.18C.273本研究C26C≧350C1.7±0.6C.0.14C.251文献1)CampochiaroCPA,CHeierCJS,CFeinerCLCetCal:RanibizumabCforCmacularCedemaCfollowingCbranchCretinalCveinCocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1102-1112,C20102)RogersCSL,CMcIntoshCRL,CLimCLCetCal:NaturalChistoryCofbranchretinalveinocclusion:anevidence-basedsystem-aticreview.OphthalmologyC117:1094-1101,C20103)MiwaCY,CMuraokaCY,COsakaCRCetCal:RanibizumabCformacularCedemaCafterCbranchCretinalCveinCocclusion:oneCinitialCinjectionCversusCthreeCmonthlyCinjections.CRetinaC37:702-709,C20174)RushCRB,CSimunovicCMP,CAragonCAVC2ndCetCal:Treat-and-extendCintravitrealCbevacizumabCforCbranchCretinalCveinCocclusion.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC45:212-216,C20145)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:RanibizumC-abformacularedemafollowingcentralretinalveinocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1124-1133,C20106)CampochiaroCPA,CWyko.CCC,CSingerCMCetCal:MonthlyCversusCas-neededCranibizumabCinjectionsCinCpatientsCwithretinalCveinCocclusion:theCSHORECstudy.COphthalmologyC121:2432-2442,C20147)坂西良仁,大内亜由美,伊藤玲ほか:網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射のC6カ月間治療成績.日眼会誌120:28-34,C20168)SakanishiCY,CLeeCA,CUsui-OuchiCACetCal:Twelve-monthCoutcomesCinCpatientsCwithCretinalCveinCocclusionCtreatedCwithClow-frequencyCintravitrealCranibizumab.CClinCOph-thalmolC10:1161-1165,C20169)WaiCKM,CKhanCM,CSrivastavaCSCetCal:ImpactCofCinitialCvisualCacuityConCanti-VEGFCtreatmentCoutcomesCinCpatientsCwithCmacularCoedemaCsecondaryCtoCretinalCveinCocclusionsCinCroutineCclinicalCpractice.CBrCJCOphthalmolC101:574-579,C201710)CampochiaroPA,ClarkWL,BoyerDSetal:Intravitreala.iberceptCforCmacularCedemaCfollowingCbranchCretinalveinCocclusion:theC24-weekCresultsCofCtheCVIBRANTCstudy.OphthalmologyC122:538-544,C2015***

点眼容器の形状と色調が緑内障患者の使用性に与える影響

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):258.262,2018c点眼容器の形状と色調が緑内障患者の使用性に与える影響鎌尾知行*1溝上志朗*2浪口孝治*1篠崎友治*3田坂嘉孝*2,3白石敦*1*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2愛媛大学大学院医学系研究科視機能再生学講座*3南松山病院眼科CIn.uenceofEyedropContainerPropertyandVisibilityonUsabilitybyPatientswithGlaucomaTomoyukiKamao1),ShiroMizoue2),KojiNamiguchi1),TomoharuShinozaki3),YoshitakaTasaka2,3)andAtsushiShiraishi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmologyandRegenerativeMedicine,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,Minami-MatsuyamaHospital目的:緑内障患者が点眼しやすい容器の形状と色調を調査する.対象および方法:対象は,南松山病院に通院中の緑内障患者C100例(男性C49例,女性C51例,平均年齢C64.6±13.5歳).「ルミガンR点眼液C0.03%」容器の旧型と新型で,キャップの大きさ,キャップの開閉操作のしやすさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさについての聞き取り比較調査を行った.つぎに,容器の色調が異なるC3種類の現行型の容器で白色ノズルの視認性を調査した.結果:キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさは新型の評価が高く(p<0.0001),総合的にも新型を好む者が多かった(p<0.0001).ノズルの視認性は,緑色,褐色,灰白色の容器の順に評価が高く,各群間に差を認めた(p<0.0001).結論:点眼容器の形状と色調は,ともに緑内障患者の使用性に影響する.CPurpose:Toinvestigatethein.uenceofeyedropcontainershapeandcolorcombinationonusabilityandvisi-bilityCinCglaucomaCpatients.CSubjectsandMethods:ThisCcaseCseriesCstudyCcomprisedC100CglaucomaCpatients(49malesCandC51Cfemales)atCMinami-MatsuyamaCHospitalCfromCDecemberC2015CtoCMarchC2016.CAllCpatientsCwereCscoredCasCtoCusabilityCofCconventionalCandCcurrentCtypeCLumiganRCeyedropCcontainersCviaCquestionnaires,CrankingCvisibilityamong3di.erentcolorcombinationsofeyedropnozzles.Results:Thecurrenttypewassigni.cantlybet-terastocapsizes,bottlehandling,bottlesqueezingandfeelingofdrippingonedropthantheconventionaltype(p<0.0001).Amongthethreecontainers,colorevaluationswerehighintheorderofgreen>brown>grayish-white(p<0.0001).Conclusion:OurCresultsCsuggestCthatCeyedropCcontainerCusabilityCandCvisibilityCareCa.ectedCbyCcon-tainershapeandcolorcombination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(2):258.262,C2018〕Keywords:点眼容器,緑内障,使用性,視認性.eyedropcontainer,glaucoma,usability,visibility.Cはじめに点眼容器は形状や硬さ,キャップの大きさなどにより持ちやすさ,さしやすさ,開閉操作などの使用性が異なり1),患者は使用性に優れた点眼容器を支持することから2,3),点眼容器の使用性改善により点眼アドヒアランスの向上も期待できる.近年,プロスタグランジン関連薬の一つである「ルミガンR点眼液C0.03%」(以下,ルミガン)の容器が使用性の向上を目的として変更されたが4),実際に緑内障患者の使用性にどのような影響を与えたかに関してはまだ検討されていない.一方,視野障害を有する緑内障患者では,健常者に比べ点眼の際にノズル視認性に劣るため,眼表面への適切な滴下が困難であり5),より視認性の高いノズルを有する点眼容器が〔別刷請求先〕鎌尾知行:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座Reprintrequests:TomoyukiKamao,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN258(98)望ましい.しかしながら,筆者らが調べた限りではこれまで点眼容器の色調の違いがノズルの視認性に与える影響に関する検討もされていない.そこで今回,緑内障性視野障害を有する緑内障患者を対象として,ルミガンの旧型と新型容器(図1a)の使用性に関するインタビュー調査を行った.同様に,ノズル先端と点眼容器の色コントラストが視認性に与える影響について,同一の白色のノズルを有しながら容器の色が異なる,褐色のルミガン新型容器,緑色の「アイファガンCR点眼液C0.1%」(以下,アイファガン)容器,および灰白色容器(以下,コントロール)(図1b)を用いて検討した.CI対象および方法対象はC2015年C12月.2016年C3月に南松山病院眼科を受診した緑内障患者のなかから本研究に同意が得られた満C20歳以上の男女で,片眼もしくは両眼に緑内障性視野障害を認める患者を選択した.なお,過去にルミガンと同形状の点眼容器の使用経験がある者,手指の運動障害により点眼操作が不可能な者は除外した.点眼容器の使用性の調査は,評価者が被験者に開封済みのルミガンの新旧容器を渡し,キャップや容器の把持,開閉操作,点眼操作をさせた後,キャップと容器の使用性に関する5項目について,既報1)に準じて評価させた(表1).最後に継続して使用したい点眼容器を選択させた.ノズルの視認性の調査は,キャップをはずしたルミガン新型,アイファガン,コントロールの三つの点眼容器を被験者に擬似点眼操作をさせ,対象眼に実際に点眼する距離まで容器を近づけたときのノズル先端の視認性を順位づけさせた.評価する容器の順番はアトランダムに割り付けた.対象眼はHumphrey自動視野計のCMD(meanCdeviation)の低値側とした.さらに視認性に関与する因子を調べるため,ノズルと各容器の色差およびコントラスト比を測定した.色差は,ノズルとそれぞれの容器のCL*a*b*表色系を分光測色計(コニカミノルタ製,CM-5)にて測定し,色差(CΔE*ab)を評価した6).コントラスト比は,ノズル(白)とそれぞれの容器(緑色,褐色,灰白色)の輝度を二次元輝度計(コニカミノルタ製CA-2500)にてC3回測定し,輝度の比の平均を算出した.統計解析にはCJMPCR11.2(SASCinstitute,CNorthCCarolina,USA)を用いた.使用性のC5項目はC1.5点で点数化し,各項目についてルミガン旧型と新型でCWilcoxon符号順位検定旧型新型253522142121211717(mm)2123正面側面正面側面a:ルミガンR点眼液C0.03%(ルミガン)旧型と新型容器のキャップと容器写真.新型はキャップが小型化,容器が大型化し,形状が円柱から扁平型に変更された.ルミガン新型アイファガンコントロールb:褐色容器ルミガン新型,緑色容器アイファガンCR点眼液C0.1%(アイファガン),灰白色容器(コントロール)のキャップをはずしノズル側より撮影した写真.図1調査に使用した点眼容器表1使用性のアンケート調査の設問と選択肢小さすぎやや小さいちょうどよいやや大きい大きすぎ1.キャップの大きさ(1点)(3点)(5点)(3点)(1点)開けやすいやや開けやすいふつうやや開けにくい開けにくい2.キャップの開閉操作のしやすさ(5点)(4点)(3点)(2点)(1点)持ちやすいやや持ちやすいふつうやや持ちにくい持ちにくい3.容器の持ちやすさ(5点)(4点)(3点)(2点)(1点)硬すぎやや硬いちょうどよいやや軟らかい軟らかすぎ4.容器の押しやすさ(1点)(3点)(5点)(3点)(1点)出すぎるやや出すぎるちょうどよいやや出にくい出にくい5.1滴量の滴下のしやすさ(1点)(3点)(5点)(3点)(1点)旧型容器がよい6.総合評価新型容器がよいキャップの大きさ,開閉操作のしやすさ,容器の持ちやすさ,押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさのC5項目をルミガン新旧容器それぞれについて,5段階評価させた.最後に総合評価として継続して使用したいと考える点眼容器を選択させた.キャップの大きさ*Wilcoxon符号順位検定1滴量の*キャップの開閉操作*滴下のしやすさ容器の押しやすさ*容器の持ちやすさ*新型4.46±1.023.66±1.114.04±1.074.32±1.144.18±1.14p<0.0001p=0.0927p<0.0001p<0.0001p<0.0001図2使用性の平均スコア灰色五角形が旧型容器,黒線五角形が新型容器のC5項目それぞれの平均スコアのレーダーチャート.キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさは,有意に新型の評価が高かった(*p<0.0001,Wilcoxon符号順位検定)を行った.総合評価はC1変量のCc2検定で解析した.視認性はCSteel-Dwass法による多重比較を行った.有意水準は5%とした.本研究を実施するに際し,事前に愛媛大学医学部附属病院臨床研究審査委員会(1511007)の承認を得た.また,UMIN臨床試験登録に登録したうえで施行した(UMIN000020122).なお,本研究に使用したルミガン新旧型製品およびルミガン新型,アイファガン,コントロールの空き容器は千寿製薬より提供を受け,受託研究として行った.CII結果対象として選択されたのはC100例(男性C49例,女性C51例,平均C64.6C±13.5歳:34.88歳)だった.対象の緑内障罹病期間は平均C7.2C±5.2年:0.5.22年,使用緑内障点眼剤数は平均C1.3C±0.7剤(0.3剤),有水晶体眼C69眼,眼内レンズ挿入眼C31眼,近見視力は平均C0.32C±0.47(0.1.1.0),Hum-phrey自動視野計のCMD値は平均C.12.94±7.70CdB(C.32.07..0.76CdB)であった.白内障による視力低下を認めた症例はなかった.点眼容器の使用性は,キャップの大きさに関しては,ちょうどよいと答えたのは旧型がC39例(39.0%)に対して,新型がC76例(76.0%)であった.キャップの開閉操作のしやすさは,開けやすいと答えたのは旧型がC26例(26.0%)に対して,新型がC32例(32.0%)であった.容器の持ちやすさは,持ちやすいと答えたのは旧型がC13例(13.0%)に対して,新型が42例(42.0%)であった.容器の押しやすさは,ちょうどよいと答えたのは旧型がC19例(19.0%)に対して,新型がC71例(71.0%)であった.1滴量の滴下のしやすさはちょうどよいと答えたのは旧型がC32例(32.0%)に対して,新型が63例(63.0%)であった.キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,1滴量の滴下のしやすさのC4項目については,新型が旧型より有意に使用性が高いという結果であった(Wilcoxon符号順位検定,p<0.0001).2容器それぞれで使用性の評価結果の平均スコアを算出したレーダーチャートを図2に示した.点眼容器の使用性と患者背景の関連を調べるため,使用性のスコアと年齢の相関を検討した.新型はキャップの開閉操作と年齢に正の,旧型はキャップの大きさ,容器の押しやすさ,1滴の落としやすさと年齢に負の相関を認めた(Spearmanの順位相関係数=0.2899,C.0.2068,C.0.3477,C.0.2876,p=0.0034,0.0390,0.0004,0.0037).一方,男女C2群で使用性を比較したが,スコアは有意差を認めなかった.また,継続して使用したいと考える点眼容器については,旧型を選んだのがC21名(21.0%)だったのに対して,新型を選択したのがC79名(79.0%)で,総合的に新型を好む者が多かった(Cc2検定,p<0.0001).つぎに,点眼容器の視認性は,1位に順位付けされたのがルミガン新型C19例(19.0%),アイファガンC69例(69.0%),コントロールC12例(12.0%)であった(図3).2位はルミガ■ルミガン新型■アイファガン■コントロール9080706050403020100例数1位2位3位図3視認性の順位1位はルミガン新型C19例,アイファガンC69例,コントロールC12例.2位はルミガン新型C73例,アイファガンC22例,コントロールC5例,3位はルミガン新型8例,アイファガンC9例,コントロールC83例であった.アイファガン,ルミガン新型,コントロールの順で有意に視認性が優れていた(Steel-Dwass法,p<0.0001).ン新型がC73例(73.0%),3位はコントロールがC83例(83.0%)ともっとも多く,視認性はアイファガン,ルミガン新型,コントロールの順で優れていた(Steel-Dwass法,p<0.0001).近見視力,中心窩閾値の中央値,0.4,34CdBを閾値としてC2群に分けて視認性を検討したが,同様の結果であり,視機能の良否にかかわらずアイファガンの視認性が優れていた.最後に,ノズルとルミガン新型,アイファガン,コントロールのC3つの点眼容器の色差(CΔE*ab)は,それぞれC15.4,21.2,7.1であった.コントラスト比は,それぞれC2.14C±0.09,2.10C±0.24,1.21C±0.06であった(表2).CIII考按ルミガンの新旧容器の使用性の比較では,新型容器のほうが,キャップの大きさ,容器の持ちやすさ,容器の押しやすさ,およびC1滴量の滴下のしやすさのC4項目で,旧型容器よりも優れていた.なお,今回の調査では,使用経験の有無によるバイアスを排除するため,過去に新旧容器の使用経験のない者を対象として選択している.新型容器の大きな改良点としては,容器が円柱型から把持部面積の大きい扁平型になり,キャップが小型化したことがあげられる.とくに,容器の持ちやすさやと押しやすさに関しては,過去の報告でも把持部に十分な高さをもつものや凹みを有しているものが優れるとされており1),今回の把持部面積の大きい扁平型の新型容器が高く評価された結果は矛盾しない.また,キャップの大きさ,容器の押しやすさ,1滴の落としやすさのスコアは,旧型容器では年齢と負の相関を認めたが,新型容器では相関を認めなかった.つまり旧型容器は高齢者ほど使用性が悪いと評価しているが,新型容器は改善されていることが示唆される.表2ノズル先端と容器の色差,コントラスト比色差Cルミガン新型15.4Cアイファガン21.2Cコントロール7.1コントラスト比C2.14±0.09C2.10±0.24C1.21±0.06C一方,キャップの開閉操作については新旧容器間で使用性に差がなかった.円柱型のキャップを有する旧型に対し,新型はC10角形に成形され,把持性を向上させるためにキャップ全体に縦方向のねじれをつけているが,その使用感に差はみられなかった.しかし,新型容器は年齢と使用性に正の相関を認めたため,高齢者においては高評価を得ている.新型容器は旧型容器よりもC1滴量の滴下のしやすさに優れていた.新型容器では,旧型よりも軽いスクイズ力でC1滴目が滴下可能で,2滴目の滴下に要するスクイズ力は旧型よりも大きくなるように設計されていることで4),1滴を点眼しやすく,連続で射出されにくい構造になっている.この容器の物性の改良点が,患者の使用感の向上に寄与したと推測される.今回の調査では約C8割の患者が旧型容器よりも新型容器を支持した.この結果は,形状と物性の両面からの改良が反映された結果と推測されるが,旧型容器を好む患者も約C2割存在した.この結果は,点眼容器の好みには,手指の大きさやスクイズ力の違いなどの身体的要因,あるいは過去にどのような点眼容器をどれくらいの期間使用してきたかなどの経験的要因など,さまざまな因子が影響する可能性が考えられる.白色のノズルの視認性については,もっとも優れていたのは点眼容器が緑色のアイファガンであり,褐色のルミガン新型容器と灰白色のコントロールと続いた.この結果は視機能に影響されなかった.分光測色計を用いた色差の評価でもアイファガン,ルミガン新型容器,コントロールの順番であり,ノズル先端と容器の形状はC3容器ともに同一であることから,ノズルと点眼容器の配色やコントラスト比が視認性に影響を与えたことが示唆された.緑内障患者では色覚やコントラスト感度が低下しているため7,8),ノズルの視認が困難な患者が多く,とくに緑内障点眼薬の容器の設計にあたっては,配色やコントラスト比に留意する必要性が示唆された.以上,今回の結果より,点眼容器の形状や物性の改良以外にも,ノズルと容器の色コントラストを改善することは,患者の使用性の向上と,アドヒアランスの向上につながる可能性が示された.本稿の要旨は第C27回日本緑内障学会にて発表した.文献1)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,C20072)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行ほか:プロスタグランジン点眼容器の使用性の比較.あたらしい眼科C27:1127-1132,C20103)兵頭涼子,林康人,溝上志朗ほか:押し圧力と滴下時間が点眼容器の使用性に与える影響.あたらしい眼科C28:C1050-1054,C20114)大塚忠史:点眼アドヒアランスの向上を指向した医療用点眼容器の開発.人間生活工学12:32-38,C20115)SleathCB,CBlalockCS,CCovertCDCetCal:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtech-nique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C20116)小松原仁:色差式の開発動向.照明学会誌C76:496-499,C19927)BullCO:BemerkungenCuberCdenCFarbensinnCunterCver-schiedenenCphysiologischenCundCpathologischenCVerhalt-nissen.CAlbrechtCvonCGraefesCArchivCfurCOphthalmologieC29:71-116,C18838)CampbellCFW,CGreenCDG:OpticalCandCretinalCfactorsCa.ectingvisualresolution.JPhysiolC181:576-593,C1965***

角膜移植後に外傷により創口離開した症例の検討

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):253.257,2018c角膜移植後に外傷により創口離開した症例の検討小野喬*1森洋斉*1子島良平*1安楽陽子*1天野史郎*2宮田和典*1*1宮田眼科病院*2井上眼科病院CInvestigationofTraumaticWoundDehiscenceafterCornealTransplantationTakashiOno1),YosaiMori1),RyoheiNejima1),YokoAnraku1),ShiroAmano2)andKazunoriMiyata1)1)MiyataEyeHospital,2)InouyeEyeHospital目的:角膜移植術後の外傷による創口離開の状況を検討すること.対象および方法:平成10年4月.平成28年3月に宮田眼科病院で角膜移植術を行った症例を対象とした.診療録より後ろ向きに,術式,外傷までの期間,眼鏡での矯正視力(logMAR),保護眼鏡の使用について検討した.また,矯正視力がC2以下の視力良好群とC2より大きい視力不良群で,受傷前の矯正視力,年齢,抜糸,家族構成,保護眼鏡の有無,受傷時刻をリスクファクターとして比較した.結果:494例C630眼が対象となり,外傷による創口離開はC33例C33眼(5.2%)で認め,全例が全層角膜移植術であった.外傷までの期間はC7.1C±4.1年,矯正視力(logMAR)は受傷前がC0.73C±0.76,最終観察時がC1.98C±0.93と有意に低下した(p<0.01).保護眼鏡はC18.2%で使用していた.視力良好群と視力不良群の間で各検討項目に差はなかった.結論:角膜移植術後の外傷による創口離開は術後長期にわたり発生し,視力低下を生じる.CPurpose:Toidentifythesituationoftraumaticwounddehiscenceaftercornealtransplantation.Patientsandmethod:PatientswhounderwentcornealtransplantationfromApril1998toMarch2016atMiyataEyeHospitalwereCincluded.CFromCtheCmedicalCrecords,CweCretrospectivelyCreviewedCtypeCofCcornealCtransplantation,CdurationsinceCsurgery,CbestCspectacle-correctedCvisualCacuity(BCVA)(logMAR)andCuseCofCprotectiveCglasses.CFurther-more,wecomparedBCVAbeforeinjury,age,sutureremoval,familialstructure,useofprotectiveglassesandtimeofinjuryasriskfactorsbetweenpatientswhose.nalBCVAwastwoorless(betterBCVAgroup)andmorethantwo(worseBCVAgroup)C.CResults:Sixhundredandthirtyeyesof494patientswereincluded.TraumaticwounddehiscencesCwereCobservedCinC33CeyesCofC33Cpatients(5.2%);allCcasesCwereCpenetratingCkeratoplasty.CDurationCsinceCsurgeryCwasC7.1±4.1Cyears.CBCVACbeforeCtraumaCwasC0.73±0.76,Csigni.cantlyCdecreasingCtoC1.98±0.93Cat.nalobservation(p<0.01).Usersofprotectiveeyeglassescomprised18.2%.Therewasnodi.erenceineachout-comebetweenbetterandworseBCVAgroups.Conclusion:Traumaticwounddehiscenceoccursforalongtimeafteroperationandcausesdecreaseofvisualacuity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):253.257,C2018〕Keywords:全層角膜移植術,角膜内皮移植術,深層層状角膜移植術,外傷,創口離開.penetratingkeratoplasty,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty,deeplamellarkeratoplasty,trauma,wounddehiscence.Cはじめに重篤な角膜混濁を呈する疾患に対し,全層角膜移植術(pen-etratingCkeratoplasty:PKP),角膜内皮移植術(DescemetC’sstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty:DSAEK)などの角膜移植法が広く普及し,その長期成績が報告されている1.4).角膜移植術後の外傷は術後早期から発生する合併症の一つであり,手術創の離開を生じ,重篤な視機能障害につながる可能性がある5.11).創口離開の原因として,角膜への血管侵入が生じにくいため術後の強度が術前まで戻らない点,ステロイド点眼薬の頻回使用,術後早期より視力が出ることで患者の活動度が上がり不注意による外傷が増える点,などが指摘されてきた9).外傷の原因は,患者本人による因子や環境因子などの複数の要素が考えられるが,いくつかの要因に関しては事前の患者や家族への啓発により予防できる〔別刷請求先〕小野喬:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:TakashiOno,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kuraharacho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(93)C253可能性が高い.したがって,外傷により創口離開した症例を解析することは,その予防策につながるため,移植角膜の透明治癒率の向上に寄与すると考えられる.わが国において角膜移植後の創口離開症例を解析し,予防策を考察している報告は少なく12.14),患者のCactivitiesCofCdailyCliving(ADL)や保護眼鏡の使用などについて統計学的に検討した報告はない.今回筆者らは,角膜移植術後の外傷による創口離開の発生状況と,その原因について調査し,外傷の予防法について検討した.CI対象および方法本研究は,宮田眼科病院(以下,当院)の倫理委員会の承認を得て行った.平成C10年C4月.平成C28年C3月に,当院で角膜移植術〔PKP,DSAEKおよび深層層状角膜移植術(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)〕を行った症例を対象とし,角膜移植術後に外傷により創口離開を認めた症例を,診療録から後ろ向きに検討した.保存角膜を移植した治療的CPKP,術後に一度も透明治癒が得られなかったprimarygraftfailure,診療録による追跡が困難であった症例は除外した.複数回の角膜移植を行った症例は,全手術を対象とした.受傷時の年齢,性別,術式,縫合糸の抜糸の有無,外傷までの期間,角膜移植の原疾患,受傷前および最終観察時の眼鏡での矯正視力,家族構成,受傷時刻,受傷原因,ADLの状況,保護眼鏡の使用の有無について調査した.受傷時刻は,朝(4時.11時),昼(11時.17時),夜(17時.4時)に分類した.また,TheCOcularCTraumaCClassi.-cationGroupによる分類を参考にして15),創口離開による外傷の程度を,GradeC1:創口離開のみ,GradeC2:水晶体もしくは眼内レンズか硝子体の脱出,GradeC3:網膜の脱出に分類した.診療録のみで情報が不十分な場合は,患者本人または家族にアンケートを用いて調査を行った.また,視力予後のリスクファクターについて,最終観察時の矯正視力(logMAR)がC2以下の群(視力良好群)と,2より大きい群(視力不良群)に分けて検討した.検討項目は,受傷前の矯正視力(logMAR)(2以下,2より大きい),年齢(65歳以上,65歳未満),抜糸の有無,家族構成(独居,2人暮らし以上),保護眼鏡の有無,受傷時刻(日中,夜間)と比の比較にはCc2検定,受傷前後の矯正視力にはCWilcoxonsigned-rankCtest,矯正視力の割合の変化にはCMcNemar検定,受傷時刻と重症度にはCKruskal-Wallis検定,外傷症例と非外傷症例の年齢,保護眼鏡と年齢の比較にはCWelchC’sCttest,リスクファクターについてはCFischerの直接検定を用いた.5%を有意水準として用いた.CII結果対象となった症例は全C494例C630眼であった.平均C69.5C±14.8歳,男性C196例,女性C298例であり,術式による内訳は,PKPが409例517眼,DSAEKが97例105眼,DALKがC8例C8眼であった.角膜移植の原疾患は,角膜白斑がC222眼,水疱性角膜症がC248眼,再移植がC82眼,円錐角膜がC38眼,角膜潰瘍がC23眼,角膜変性症がC10眼,角膜穿孔がC7眼であった.外傷による創口離開を認めた症例はC33例C33眼(5.2%)であった.外傷眼C33例の背景因子を表1に示す.全症例がPKPであり,術式と外傷発生数の間に統計学的な有意差を認めた(p=0.022).外傷症例と非外傷症例で,男女比に差はなく(p=0.74),年齢にも差はなかった(p=0.79).受傷時の年齢分布をみると,70歳代が多かった(図1).また,角膜移植の原疾患は角膜白斑と水疱性角膜症が主であり,原疾患別の発生率では角膜穿孔後の創口離開発生率がC28.6%と高かった(表2).受傷前の矯正視力(logMAR)はC0.73C±0.76,最終観察時はC1.98C±0.93であり,有意な低下が認められた(p<0.01).光覚弁以下の症例は,外傷前には認めなかったが最終観察時はC5眼であった.矯正視力(logMAR)1以上の割合は,受傷前がC36.4%,最終観察時はC81.8%であり有意に増加していた(p<0.01).家族構成は,独居がC7眼(21.2%),2人がC12眼(36.4%)3人以上がC14眼(42.4%)であった.外傷の受傷時刻の分布,を表3に示す.独居者C7眼のうちC6眼は朝に受傷していた.141210表1外傷により創口離開した症例の背景因子受傷時年齢(歳)C76.2±9.8(52.97)051~6061~7071~8081~9091~100男:女(人)14:19受傷時年齢(歳)術式全例CPKP図1受傷時年齢の分布抜糸の有無(眼)25:8受傷時年齢はC50.90歳代まで幅広く,71.80歳が多か外傷までの期間(年)C7.1±4.1(0.13年)った.C眼数(眼)した.8統計学的手法として,術式,外傷症例と非外傷症例の男女642表2原疾患別の創口離開発生率原疾患別の創口離開眼数(眼)年齢(歳)発生率(%)角膜白斑15(45.5%)C78.3±7.1C6.8水疱性角膜症13(39.4%)C75.5±9.6C5.2角膜穿孔2(6.1%)C77.2±9.0C28.6角膜変性症1(3.0%)C97C10.0円錐角膜1(3.0%)C52C2.6角膜潰瘍1(3.0%)C70C4.3表4外傷の重症度と矯正視力Grade眼数(眼)最終観察時の矯正視力C1C13C1.66±0.94C2C18C2.11±0.90C3C2C2.9受傷時刻と年齢の間に明らかな相関はなかった(p=0.062).外傷の原因は,打撲がC24眼(72.7%),転倒がC7眼(21.2%)その他がC2眼(6.1%)であった.受傷時のCADLの状況は,,杖使用がC14眼(42.4%),車椅子使用がC3眼(9.1%),自力歩行がC16眼(48.5%)であった.受傷時に保護眼鏡を使用していた例はC6眼(18.2%)であり,10眼(30.3%)は使用していたか不明であった.外傷の程度は,Grade1がC13眼,Grade2がC18眼,Grade3がC2眼であり,各CGradeでの矯正視力は表4のとおりであった.重症度が高いほど矯正視力は悪い傾向にあり,Grade1とC3の間に有意差を認めた(p=0.042).リスクファクターについては,視力良好群と視力不良群の間で各検討項目に有意差はなかった(表5).CIII考按本検討では,角膜移植症例のC5.2%に外傷による創口離開を生じた.移植後の外傷の発生率はC1.28.5.8%と報告されており7,16),本検討での発生率は既報に合致していたが,とくにわが国においては川島らがC1.8%と報告しており13),本検討はやや高い割合であった.川島らの報告での平均年齢はC62.5±18.8歳であり13),本検討は平均年齢がC76.2歳と高いことが,外傷の発生率の差に影響を与えた可能性がある.また,施設や地域によって発生率には差があり,手術後長期間経過してからも受傷するリスクがあるため,観察期間が発生率に影響すると考えられる.外傷により創口離開が生じる頻度は低くなく,角膜移植後に長期にわたり予防策が必要である点を,患者および家族に周知しておく必要があると考えられた.表3外傷の受傷時刻眼数(眼)年齢(歳)朝(4時.1C1時)昼(1C1時.1C7時)夜(1C7時.4時)不明14(C42.4%)C7(2C1.2%)C10(C30.3%)C2(6C.1%)C80.4±8.174.6±5.170.7±12.480.0±8.5表5視力良好群と視力不良群におけるリスクファクターの比較視力視力良好群不良群p値眼数C17C16C─受傷前の矯正視力(logMAR)(2以下:2より大きい)17:014:2C0.23年齢(6C5歳以上:6C5歳未満)14:316:0C0.12抜糸(あり:なし)11:614:2C0.13家族構成(独居:2人暮らし以上)2:1C55:1C1C0.17保護眼鏡(あり:なし)2:94:8C0.37受傷時刻(日中:夜間)10:711:3C0.22C角膜移植後の外傷は,50.90歳代にかけて生じたが,おもにC70歳代に多く認められた.受傷時の平均年齢はC16.6.75.4歳と報告により大きな差がみられる10,12).若年で角膜移植術を受ける原因の一つとして円錐角膜があげられ,円錐角膜に対する角膜移植後は外傷を受けやすいという報告がある10).今回の検討では円錐角膜の症例はC1眼のみであり,この点が平均年齢に影響を与えた可能性がある.若年の男性は活動性が高く眼外傷を受けやすいが10),高齢者ではCADLの低下に伴い転倒しやすく,眼外傷のリスクは高齢者にも十分にあることが示唆された.本検討では,外傷を生じた症例はすべてCPKPであった.角膜移植後は,十分な縫合を行っても組織学的に創部は脆弱である16.18).DSAEKは縫合部が小さく角膜に与える構造変化が少なく19),PKPと比較して外力に強い点が今回の結果につながった可能性が考えられた.また,PKPとCDALKでは術後に角膜のChysteresisに差があると報告されており,生体力学的にCDALK術後のほうが強度が高い可能性がある20,21).本結果でもCDALK術後に創口離開は認めず,hys-teresisの差が寄与していたかもしれない.しかし,DALKの症例はC8眼と少なく,今後さらに症例数を増やした形での検討が必要である.本検討では,抜糸を行った症例がC33眼中C25眼(75.8%)であった.PKP後の抜糸は,創口離開,感染,拒絶反応,駆血性出血のリスクとなることが指摘されている22).縫合糸によって移植片接合部の強度は保たれており5),抜糸によって脆弱化する可能性がある.しかし,本検討は外傷を受けて創口離開を生じた症例のみを検討したため,縫合糸による外傷時の創口離開への影響を解析することができず,今後のさらなる検討が必要であると考えられた.今回の検討における角膜移植術から外傷による創口離開までの期間は,平均C7.1C±4.1年であった.全層角膜移植術後,1年間は外傷のリスクが高いという報告があるが16),術後C33年での受傷例もあり8),本検討の結果からも術後長期間にわたり外傷のリスクが続くと考えられた.日常生活を送るうえで,運動時などのリスクの高い活動のみならず,低リスクと考えられる生活動作においても外傷は生じうる22).既報では術後C6カ月までは保護眼鏡が推奨されており16),術後早期の外傷予防については,保護眼鏡を薦めることが重要と考えられる.しかし,長期間安定していた場合でも,保護眼鏡装用の自己中断や高齢化に伴うCADLの低下により,受傷しやすくなる可能性がある.術後長期にわたって,外来での経過観察中に外傷予防の啓発を行うことが必要である.既報では,円錐角膜に対するCPKP症例で,外傷が多いことが示されている9,10,17).一方,わが国での外傷例は,角膜白斑や水疱性角膜症が多い13).本検討も同様に,角膜白斑と水疱性角膜症の症例が多く認められた.また,本検討は単独施設における研究であり,角膜白斑と水疱性角膜症に対するPKPが多く行われたことが今回の結果に影響している可能性が高い.また,角膜移植の原疾患と外傷の発生には関係がないという報告もある23).しかし,本検討では角膜穿孔に対する角膜移植後の症例で,28.6%に外傷による創口離開を生じていた.角膜穿孔の原因として外傷があげられ,そのような既往のある患者は再び外傷を生じやすい可能性が示唆された.本検討では角膜穿孔の症例が少なく,原疾患ごとの外傷の発生率とその予後については対象数を増やしたさらなる検討や,メタアナリシスなどの解析が必要と考えられる.最終観察時の矯正視力は,矯正視力(logMAR)1以上の割合がC81.8%と受傷前よりも低下しており,光覚弁以下の症例もC5眼認められた.既報においても,外傷による創口離開後の視力は悪いと報告されており7,13,23),本検討も同様の傾向がみられた.また,外傷の重症度をCGradeに分けて分類した結果,GradeC1では最終観察時の矯正視力がC1.66C±0.94であるのに対してCGrade3はC2.9であり,重症になるほど視力が低下する傾向が認められた.創口離開の視力予後のリスクファクターとして,水晶体13),大きな離開範囲,網膜.離などの後眼部の合併症5,17)などが報告されている.創口離開が生じた場合,治癒過程で創口近くに新生血管が進入すると,再移植の際に拒絶反応が起こりやすく,予後が悪くなる可能性が考えられた.PKPの再移植例は初回例と比較して移植片不全となりやすいことも24)本結果に関与しているかもしれない.今回のCGrade分類は離開範囲の程度とは異なり,外傷による組織破壊の程度で分類した方法であり,本方法が視力予後予測の一助となる可能性が示された.一方で,本検討では受傷前の矯正視力,年齢,抜糸の有無,家族構成,保護眼鏡の有無,受傷時刻はいずれも視力予後のリスクファクターではなかった.とくに保護眼鏡の使用は,眼の外傷を予防するうえでは重要と考えられたが予想と異なる結果となった.この原因として,保護眼鏡が眼外傷を予防することは可能だが,受傷した場合の視機能維持には働かない可能性,また本研究は対象となる眼数が少なく統計学的な検出力が低かったことなどが考えられた.独居の患者はC7眼(21.2%)であり,受傷時刻は夜から朝が多かった.家族など同居者がいても,夜間は目が行き届かない場合があると考えられた.既報では,術直後や抜糸後は24時間常に,また術後C6カ月までは日中に,保護眼鏡の使用が推奨されている16).しかし,退院後の患者は就寝前後に保護眼鏡をはずしている可能性がある.角膜移植後で視力が低下している症例では,夜間にいっそう高いリスクが懸念されるため,退院後の外来診療において生活状況を把握することが重要である.本人だけでなく家族にも,外傷のリスクについて十分に説明し,保護眼鏡や環境整備などの積極的な支援が必要と考えられた.外傷を起こした症例のうち,約半数が杖や車椅子を使用していた.角膜移植時の平均年齢は高く,加齢に伴ってCADLが低下した症例も少なくない.手術時には若年であっても,外傷による創口離開が起こる時期は長期にわたるため,ADLが下がるリスクは常にあると考えられる.外傷発生の予防策として,代表的なものは注意喚起と保護眼鏡の使用である16.18).当院でも保護眼鏡を術後に推奨しているが,実際に保護眼鏡を使用していたのはC18.2%のみであり,保護眼鏡は十分に普及していないと考えられた.本検討では保護眼鏡の有無について視力良好群と視力不良群で明らかな差は認めなかったが,今後はさらに非外傷眼についても保護眼鏡の使用について調査し,その効果について解析することが必要である.角膜移植術後の外傷による創口離開は視力低下の原因の一つである.術後早期だけでなく,長期的に外傷のリスクがあることを家族や本人に伝え,保護眼鏡などの予防策をとることが重要である.文献1)IngJJ,IngHH,NelsonLRetal:Ten-yearpostoperativeresultsCofCpenetratingCkeratoplasty.COphthalmologyC105:C1855-1865,C19982)PatelCSV,CHodgeCDO,CBourneCWM:CornealCendotheliumCandCpostoperativeCoutcomesC15CyearsCafterCpenetratingCkeratoplasty.AmJOphthalmolC139:311-319,C20053)PriceCMO,CFairchildCKM,CPriceCDACetCal:Descemet’sCstrippingendothelialkeratoplasty.ve-yeargraftsurvivalandCendothelialCcellCloss.COphthalmologyC118:725-729,C2011C4)LiJY,TerryMA,GosheJetal:Three-yearvisualacuityoutcomesafterDescemet’sstrippingautomatedendotheli-alkeratoplasty.OphthalmologyC119:1126-1129,C20125)MeyerJJ,McGheeCN:Incidence,severityandoutcomesoftraumaticwounddehiscencefollowingpenetratinganddeepCanteriorClamellarCkeratoplasty.CBrCJCOphthalmolC100:1412-1415,C20166)TsengCSH,CLinCSC,CChenCFK:TraumaticCwoundCdehis-cenceafterpenetratingkeratoplasty:clinicalfeaturesandoutcomein21cases.CorneaC18:553-558,C1999,7)AgrawalV,WaghM,KrishnamacharyMetal:Trauma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