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涙点プラグの付着物からの細菌の検出

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1493?1496,2016c涙点プラグの付着物からの細菌の検出柴田元子服部貴明森秀樹嶺崎輝海片平晴己熊倉重人後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野DetectionofBacteriafromPunctalPlugHolesMotokoShibata,TakaakiHattori,HidekiMori,TeruumiMinezaki,HarukiKatahira,ShigetoKumakuraandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity涙点プラグ挿入後ではプラグインサーター挿入口に白色の塊状物をみることがあり,バイオフィルムの形成や細菌による汚染が懸念される.そこで,この塊状物に病原微生物が存在するか否かを検討した.対象は上下左右いずれかの涙点に涙点プラグが挿入された22例(男性2例,女性20例),27眼,32涙点プラグである.プラグが挿入されたままの状態でインサーター挿入口から圧出された塊状物を細菌培養検査に提出した.全22例中,20例(90.9%)25眼(92.6%)29プラグ(90.6%)で細菌もしくは真菌が検出された.検出された36株の内訳は,Corynebacteriumsp.が18株ともっとも多く,Streptococcusa-Hemolyticstreptococciが5株,Staphylococcusaureusが3株,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌が3株,Staphylococcusepidermidisが2株,グラム陰性桿菌が2株,Coagulase-negativestaphylococciが2株,Pseudomonasaeruginosa,Aspergillussp.がそれぞれ1株ずつだった.以上から,一定期間挿入された涙点プラグには高率に細菌が付着していることが確認された.Ithasbeenclinicallyobservedthattheholesofpunctalplugsoftenaccumulatewhitematerial,indicatingbiofilmformationandbacterialinfectionofpunctalplugs.Weherestudiedwhetherwhitematerialfrompunctalplugscontainsmicroorganisms.Weexamined22patients(27eyes,including32punctalplugs).Thematerialcollectedfrompunctalplugswassubjectedtobacterialculture.Amongthe22patients,bacteriaorfungiweredetectedfrom20patients(90.9%)in25eyes(92.6%)and29plugs(90.6%).The36bacteriafoundincluded18ofCorynebacteriumsp.,5ofStreptococcusa-Hemolyticstreptococci,3ofStaphylococcusaureus,3ofnon-fermentinggramnegativerods,2ofStaphylococcusepidermidis,2ofgram-negativerods,2ofCoagulase-negativestaphylococciand1ofPseudomonasaeruginosaandAspergillussp.Itisconcludedthattherearebacteriainpunctalplugsplacedinthepunctumforacertainperiodoftime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1493?1496,2016〕Keywords:涙点プラグ,細菌,感染.punctalplug,bacteria,infection.はじめに涙点プラグは,点眼治療のみでは改善のみられない重症ドライアイ患者に対する安全で有効性の高い治療法として日常診療で使用されている1?5).涙点プラグ挿入の合併症として,プラグの脱落,肉芽形成,涙道内への迷入があり1?8),これらの欠点を補うべく新たな涙点プラグも開発されている.涙点プラグ挿入にはプラグそれぞれ専用のインサーターを使用して挿入するため,涙点プラグにはインサーター用の挿入口が設けられている.涙点プラグ挿入後,しばしばこのインサーター挿入口を中心にデブリスが貯留している症例に遭遇し,涙点プラグに細菌が付着していることが疑われる.しかし,涙点プラグへの細菌付着について検討した報告は少ない9,10).そこで本研究では,涙点プラグのインサーター挿入口から採取した白色塊に対して細菌培養検査を行い,菌の検出率,菌の種類について検討した.I対象対象は上下左右の涙点のいずれかに涙点プラグが挿入され,東京医科大学病院眼科で経過観察を行っていた22例(男性2例,女性20例),27眼,32涙点プラグである.平均年齢は69.0±13.1歳で,疾患の内訳はドライアイ15例,Sjogren症候群7例であった.Foxの診断基準11)によるSjogren症候群の確定例が7例で,涙液減少型ドライアイが15例であった.Sjogren症候群のうち,1例が関節リウマチを合併し,1例が全身性エリテマトーデスを合併していた.また,Sjogren症候群以外のドライアイ症例における全身疾患として,糖尿病が2例,骨髄移植を行っていない白血病が2例,関節リウマチが2例,原発性胆汁性肝硬変が1例であった.涙点プラグが挿入されていた期間は3?123カ月(平均45.5±38.4カ月)であった.プラグの種類はパンクタルプラグR14例,スーパーイーグルR3例,種類不明が5例であった.プラグ挿入後に使用していた点眼薬または眼軟膏は,副腎皮質ステロイドが3例,抗菌薬が5例であった.涙点プラグ挿入術の適応としては,点眼治療によっても症状および角膜上皮障害の改善がみられない患者で,点状表層角膜症の程度がフルオレセイン染色によるAD分類12)でA2D2以上の患者とした.II方法0.4%オキシプロカインを点眼した後に,患者の涙点にプラグが挿入されたままの状態でシャフト部分を鑷子で圧迫し,インサーター挿入口から圧出された白色塊を滅菌綿棒で擦過し,カルチャースワブにて当院微生物検査室に移送した.微生物検査室で血液寒天培地,クロムアガーオリエンテーション寒天培地を用いて直接分離培養を,GAM半流動高層培地で増菌培養を行った.直接分離培養で検出されたすべての分離菌に対するPCG(ペニシリンG),MPIPC(オキサシリン),ABPC(アンピシリン),CEZ(セファゾリン),CTM(セフォチアム),FMOX(フロモキセフ),IPM/CS(イミペネム/シラスタチン),GM(ゲンタシン),ABK(アベカシン),EM(エリスロマイシン),CLDM(クリンダマイシン),MINO(ミノサイクリン),TEIC(テイコプラニン),VCM(バンコマイシン),LVFX(レボフロキサシン),ST(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)のMICを微量液体希釈法で測定した.III結果1.培養結果32の涙点プラグインサーター挿入口に貯留している白色塊を採取し培養したところ,29検体(90.6%)とほぼすべての検体から何らかの細菌が検出された(表1).挿入期間が3カ月の検体で培養結果が陽性であったものもあれば挿入期間が48カ月の検体で培養結果が陰性となったものもあった.挿入期間の平均値(32カ月)で2群に分け培養陽性率を比較すると,32カ月以下で87.5%(16検体中14検体)の陽性率であり,32カ月以上で91.7%(12検体中11検体)の陽性率となった.プラグ挿入の部位では上涙点で87.5%(8検体中7検体),下涙点では90.0%(20検体中18検体)の陽性率であった.また,抗菌薬の使用有無について培養陽性率を検討したところ,抗菌薬使用群では72.7%(11検体中8検体),抗菌薬未使用群では100%(18検体中18検体)であった.さらに,副腎皮質ステロイドの使用有無について培養陽性率を検討したところ,副腎皮質ステロイド使用群では100%(7検体中7検体),副腎皮質ステロイド未使用群では86.4%(22検体中19検体)であった.2.検出菌の内訳細菌が35株,真菌が1株検出された(表2).挿入されていた涙点プラグ別に検出された菌を記載したものを表3に示した.Corynebacteriumsp.が18株ともっとも多く検出され,Streptococcusa-Hemolyticstreptococciが5株,Staphylococcusaureusが3株,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌が3株,Staphylococcusepidermidisが2株,菌種が同定できなかったグラム陰性桿菌が2株,Coagulase-negativestaphylococci,Pseudomonasaeruginosa,Aspergillussp.がそれぞれ1株ずつ検出された.また,薬剤感受性検査の行えた株のうち,7株中4株(57.1%)でレボフロキサシン耐性株がみられた.その内訳は,Staphylococcusepidermidisが2株,StaphylococcusaureusとCoagulase-negativestaphylococciがそれぞれ1株ずつであった(表4).4株のレボフロキサシン耐性株のなかでレボフロキサシン点眼薬を使用していたものは1株だった.また,4株のレボフロキサシン耐性株のなかで副腎皮質ステロイド点眼を使用している症例はなかった.3.臨床所見白色塊から検出された細菌により眼所見が悪化したと考えられた症例は1例のみであり,この症例は眼脂の増加のみで感染性角膜炎の所見や結膜充血など感染性結膜炎の所見はなかった.ほぼすべての症例は涙点プラグに細菌が存在していたにもかかわらず,眼表面に明らかな感染症としての所見は認めなかった.IV考按今回の検討により,涙点プラグのインサーター挿入部には,高率に細菌が存在していることが判明した.これまでも筆者らの結果と同様に,涙点プラグには高率に細菌が存在し,バイオフィルムが形成されていると報告されている9,10).本検討では以前の報告と比較して,涙点プラグ挿入後3カ月から約10年と比較的長期に挿入されていたプラグを対象としている.長期的に挿入されていても,以前の報告と比較して細菌の検出率,検出された菌の種類に大きな差はなかった.さらに,このように高率に涙点プラグから細菌が検出されていても,眼表面への感染を認めた症例はほとんど存在しなかった.涙点プラグには高率に細菌が存在するが,これらの菌が眼表面へ影響する可能性は少ないことが示唆された.検出された菌は,Corynebacteriumsp.が約半数と最も多く,Streptococcusa-Hemolyticstreptococci,Staphylococcusaureusと続いていた.Corynebacteriumsp.は以前の筆者らの報告でも白内障手術前患者の結膜?内に多く存在する常在菌として検出されており13),結膜?に存在していたCorynebacteriumsp.が直接涙点プラグに付着したと考えられる.一方,ドライアイ患者の結膜?内の細菌分布を検討した報告では,表皮ブドウ球菌が最も多く検出され,Corynebacteriumsp.は2%程度と低い検出率であることが報告されている14).結膜?の常在菌の分布と涙点プラグに付着した細菌の分布とに関連性があるか否かについては今後の検討が必要である.薬剤感受性試験を行うことのできた細菌のうち,約半数がレボフロキサシンに耐性であった.また,耐性菌が検出された患者のうち1例はレボフロキサシン点眼を使用していた.ドライアイ患者の結膜?内にはレボフロキサシン耐性菌が多く検出されるとの報告もあり14),涙点プラグ挿入後の抗菌薬点眼が薬剤耐性と関連性があるとは一概にいえないものの,安易に長期にわたって抗菌薬を投与することは避けるべきであろう.挿入された涙点プラグに高率に細菌が付着していたことが,涙点プラグを定期的に交換する必要性を示唆しているのか否かについては議論の余地がある.長期間涙点プラグが挿入されていても,感染性角膜炎などの重篤な眼表面の感染症を発症しておらず,眼表面には大きな影響を与えていない可能性もある.しかし,涙点プラグの約90%に細菌が付着している結果は無視できない事実であり,少なくとも涙点プラグ挿入後の定期的な経過観察は重要であり,眼脂の増加や涙点プラグの汚染状態によっては涙点プラグの交換を考慮すべきであると考えられる.文献1)FreemanJM:Thepunctalplug:evaluationofanewtreatmentforthedryeye.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol79:874-879,19752)WillisRM,FolbergR,KrachmerJHetal:Thetreatmentofaqueous-deficientdryeyewithrernovablepunctalplugs.Aclinicalandimpression-cytologicstudy.Ophthalmology94:514-518,19873)GilbardJP,RossiSR,AzarDTetal:EffectofpunctalocclusionbyFreemansiliconepluginsertionontearosmolarityindryeyedisorders.CLAOJ15:216-218,19894)太田啓雄,広瀬浩士,粟屋忍ほか:涙点栓子挿入による乏涙症の治療成績.臨眼48:628-629,19945)MurubeJ,MurubeE:Treatmentofdryeyebyblockingthelacrimalcanaliculi.SurvOphthalmol40:463-480,19966)小嶋健太郎,横井則彦,中村葉ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,20027)那須直子,横井則彦,西井正和ほか:新しい涙点プラグ(スーパーフレックスプラグ⑧)と従来のプラグの脱落率と合併症の検討.日眼会誌112:601-606,20088)薗村有紀子,横井則彦,小室青ほか:スーパーイーグル⑧プラグにおける脱落率と合併症の検討.日眼会誌117:126-131,20139)YokoiN,OkadaK,SugitaJetal:Acuteconjunctivitisassociatedwithbiofilmformationonapunctalplug.JpnJOphthalmol44:559-560,200010)SugitaJ,YokoiN,FullwoodNJetal:Thedetectionofbacteriaandbacterialbiofilmsinpunctalplugholes.Cornea20:362-365,200111)FoxRI,RobinsonCA,CurdJGetal:Sjogren’ssyndrome.Proposedcriteriaforclassification.ArthritisRheum29:577-584,198612)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199413)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜?内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,200114)HoriY,MaedaN,SakamotoMetal:Bacteriologicprofileoftheconjunctivainthepatientswithdryeye.AmJOphthalmol146:729-734,2008〔別刷請求先〕熊倉重人:〒113-0024東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科医局Reprintrequests:ShigetoKumakuraM.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity.6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo113-0024,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(107)1493表1プラグ数,患者数,眼数における培養陽性数と培養陽性率培養陽性数培養陽性率プラグ数29/3290.60%患者数20/2290.90%眼数25/2792.60%表2検出された細菌の種類と検出率検出された細菌no(%)Corynebacteriumsp.18(50)Streptococcusa-Hemolyticstreptococci5(13.4)Staphylococcusaureus3(8.3)non-fermentinggram-negativerod3(8.3)Staphylococcusepidermidis2(3.0)gram-negativerod2(3.0)coagulase-negativestaphylococci(CNS)2(3.0)Pseudomonasaeruginosa1(2.8)Aspergillussp.1(2.8)1494あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(108)表3全症例のまとめ症例年齢(歳)性別プラグ挿入部位プラグ挿入期間(カ月)培養結果182女UR3Staphylococcusepidermidis2UL72女UL7(-)2LL72女LL7(-)3UL85男UL15Corynebacteriumsp.3LL85男LL15Corynebacteriumsp.475女LR16StaphylococcusaureusCorynebacteriumsp.574男LR18Corynebacteriumsp.6LL58女LL19non-fermentinggram-negativerodStreptococcusa-Hemolyticstreptococci6UL58女UL19non-fermentinggram-negativerod6UR58女UR19Staphylococcusaureus775女LL19Corynebacteriumsp.876女LL20Corynebacteriumsp.982女LR20Corynebacteriumsp.1079女LR20Corynebacteriumsp.1173女UR23Corynebacteriumsp.1245女LR30Corynebacteriumsp.1381女LL32StaphylococcusepidermidisStreptococcusa-Hemolyticstreptococci14LL60女LL40Streptococcusa-Hemolyticstreptococcigram-negativerod14LR60女LR39gram-negativerod1536女LL48(-)1663女LR54PseudomonasaeruginosaStreptococcusa-Hemolyticstreptococci1760女LL60Corynebacteriumsp.18LL67女LL71Corynebacteriumsp.18UR67女UR22Corynebacteriumsp.18LR67女LR60Corynebacteriumsp.Streptococcusa-Hemolyticstreptococci19UL71女UL89Corynebacteriumsp.19UR71女LR89Corynebacteriumsp.2087女UL98Coagulase-negativestaphylococciCorynebacteriumsp.Aspergillussp.2154女LR122Staphylococcusaureus22UL63女UL123Corynebacteriumsp.22LL63女LL123Corynebacteriumsp.22LL63女LL123Corynebacteriumsp.U:上涙点,L:下涙点,R:右眼,L:左眼.表4レボフロキサシン耐性であった株のまとめ症例培養結果使用していた点眼薬1Staphylococcusepidermidisレボフロキサシンレバミピド13Staphylococcusepidermidisヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウム20Coagulase-negativestaphylococci生理食塩水21Staphylococcusaureus人工涙液ヒアルロン酸ナトリウム(109)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201614951496あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(110)

レセプトデータベースを用いたレバミピド懸濁点眼液による涙囊炎・涙道閉塞関連事象の発生状況に関する検討

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1489?1492,2016cレセプトデータベースを用いたレバミピド懸濁点眼液による涙?炎・涙道閉塞関連事象の発生状況に関する検討古田英司*1柴崎佳幸*2福田泰彦*1坪田一男*3大橋裕一*4木下茂*5*1大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部*2大塚製薬株式会社医薬品事業部メディカル・アフェアーズ部*3慶應義塾大学医学部眼科学教室*4愛媛大学*5京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学RetrospectiveAnalysisofaHealth-InsuranceClaimsDatabasetoInvestigatethePrevalenceofDacryocystitisandDacryostenosisRelatedCasesanditsCorrelationwithRebamipideinOphthalmicSuspensionsAdministeredtoDry-EyePatientsEijiFuruta1),YoshiyukiShibasaki2),YasuhikoFukuta1),KazuoTsubota3),YuichiOhashi4)andShigeruKinoshita5)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofMedicalAffairs,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,4)EhimeUniversity,5)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:筆者らはレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の投薬下において涙道閉塞,涙?炎などが認められた症例について報告したが,本稿では,同薬についてレセプトデータベースを用いて,新たに検討を行ったので報告する.方法:レセプトデータベースより取得したデータに基づいて,ドライアイ患者における処方点眼薬を,含有成分別に分類し,処方点眼薬ごとに涙?炎,涙道閉塞の新規発生患者の例数および割合を算出した.結果:レバミピド懸濁点眼液を処方された患者における各関連事象の新規発生割合は,涙?炎0.079%,涙道閉塞0.315%であった.なお,処方点眼薬の含有成分による発生傾向の違いは認められなかった.結論:本検討手法は,データベースの特性を十分に配慮しつつも,同薬における,より実臨床に即した各事象の発生状況を把握する一つの手段として有効であると考えられた.Purpose:Wepreviouslyreportedaretrospectivereviewofpatientswhodevelopeddacryocystitisanddacryostenosisasadverseeventswhileundergoingtheadministrationofrebamipideophthalmicsuspension.Inthispresentstudy,weretrospectivelyanalyzedtheprevalenceofdacryocystitisanddacryostenosisinrelationtorebamipideophthalmicsuspensionuseintheclinicalsettingviatheuseofahealth-insuranceclaimsdatabase.Methods:Weretrospectivelyanalyzedahealth-insuranceclaimsdatabasetoinvestigatetheprevalenceofdacryocystitisanddacryostenosisinpatientswhowereadministeredophthalmicsolutionsforthetreatmentofdryeye.Thosesolutionswerethenclassifiedinrelationtotheirrespectivecomponents.Results:Theprevalenceratesofdacryocystitisanddacryostenosisindry-eyepatientswhounderwentrebamipideadministrationwere0.079%and0.315%,respectively.Nocorrelationwasfoundbetweentheprevalenceofdacryocystitisanddacryostenosisandthetypeofophthalmicsolutioncomponentadministered.Conclusions:Althoughlimitationsdidexistinregardtotheinterpretationofthedatabase,thefindingsofthisstudyrevealednocorrelationbetweentheprevalenceofdacryocystitisanddacryostenosisdevelopmentandtheadministrationofrebamipideophthalmicsuspensionforthetreatmentofdryeyeintheclinicalsetting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1489?1492,2016〕Keywords:レバミピド,点眼液,レセプトデータベース,涙?炎,涙道閉塞.rebamipide,ophthalmicsolution,health-insuranceclaimsdatabase,dacryocystitis,dacryostenosis.はじめにレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD0.2%,大塚製薬)は,白色を呈した水性懸濁点眼液である.おもな副作用としては,苦味,眼刺激感,眼?痒,霧視などが認められている1?3).また,2015年3月における同薬の添付文書改訂の際には,重大な副作用の項に涙道閉塞(0.1?5%未満),涙?炎(頻度不明)が追記された1).そこで筆者らは,同薬の使用による涙?炎,涙道閉塞などの発生要因を明らかにするため,大塚製薬に集積された症例,ならびに患者から採取された異物の成分分析結果について検討を行ったが,副作用の発症要因の特定には至らなかった4).そこで,筆者らは,大塚製薬に集積された症例情報ではなく,薬剤処方実態などの解析に利用されているレセプトデータベース5)を用いて,ドライアイ患者における涙?炎,涙道閉塞の発生状況を処方点眼薬の含有成分別に分類し,検討を行ったので報告する.I対象および方法日本医療データセンター(JMDC)が管理・提供しているレセプトデータベースについて,同社が提供しているWebツールであるJDM-ファーマコヴィジランスを用いて解析を行った.本データベースには,2016年2月1日時点で2,914,429人の被保険者および被扶養者が登録されていた.分析に使用したデータの抽出対象期間は,データ解析を行った時点で抽出可能であった直近1年間(2014年9月?2015年8月)とした.対象者は,ドライアイの傷病名をもつ患者群を対象とした.新規発生事象は,対象期間中(処方月?2015年8月)のレセプトに新たに記載された傷病名のうち,処方月直前の過去6カ月間に記載されていない事象と定義した.また,各薬剤の処方状況においても,対象期間中に処方された薬剤のうち,処方月直前の過去6カ月間には処方されていないものとした.対象事象は,涙?炎関連,涙道閉塞関連とし,各カテゴリーに該当するICD10コードを選定し(表1),前述の条件を満たした薬剤が処方されている患者群を対象に新規発生事象の発現例数および割合を算出した.対象薬剤は,レバミピド,フルオロメトロン(A),オキシブプロカイン塩酸塩,ネオスチグミンメチル硫酸塩・無機塩類配合,精製ヒアルロン酸ナトリウム(A),精製ヒアルロン酸ナトリウム(B),精製ヒアルロン酸ナトリウム(C),人工涙液,ジクアホソルナトリウム,精製ヒアルロン酸ナトリウム(D),フルオロメトロン(B),レボフロキサシン水和物である.また,レバミピドとその他の薬剤とにおける発生割合の比較にはc2検定を用いた.本研究では,有意水準はとくには設定せず,p値は参考値として示した.対象薬剤については,異なった含有成分であるポリビニルアルコール含有点眼薬,ホウ酸・ホウ砂含有点眼薬,ポリビニルアルコール,ホウ酸・ホウ砂非含有点眼薬の3種類の点眼薬処方について,処方患者数が多かった4剤を比較した.II結果レバミピド懸濁点眼液の適応症であるドライアイを対象に,各薬剤の処方月以降に発生した新規発生事象のうち,涙?炎関連,涙道閉塞関連に該当する事象をもつ患者数(対象総数は,レバミピド3,804名,フルオロメトロン(A)2,028名,オキシブプロカイン塩酸塩633名,ネオスチグミンメチル硫酸塩・無機塩類配合587名,精製ヒアルロン酸ナトリウム(A)5,795名,精製ヒアルロン酸ナトリウム(B)5,740名,精製ヒアルロン酸ナトリウム(C)2,423名,人工涙液2,310名,ジクアホソルナトリウム10,776名,精製ヒアルロン酸ナトリウム(D)8,596名,フルオロメトロン(B)3,523名,レボフロキサシン水和物3,286名)について表2に示した.レバミピド懸濁点眼液における各事象の発生患者数とその割合は,涙?炎関連事象3名,0.079%,涙道閉塞関連事象12名,0.315%であった.また,レバミピド懸濁点眼液の患者群における各事象の発生割合の比較を表2に示した.各事象は,含有成分である,ポリビニルアルコールやホウ酸・ホウ砂の有無にかかわらず,一定の割合で発生していることが認められた.III考按大塚製薬では,レバミピド懸濁点眼液の使用患者における涙?炎,涙道閉塞などの副作用報告を受け,その発生要因や採取された異物に残留する成分に関する検討結果の報告4),ならびに検討の継続を行っているが,いまだ発生要因を特定するには至っていない.しかしながら,同薬の使用により認められた涙?炎,涙道閉塞などには,重篤と判断された事象も存在することから,より実臨床に沿ったリスク最小化ならびに適正使用の推進を図る必要性があると考えている.その一環として,外部のデータベースであり,また,これまでに薬剤処方実態などの解析に使用されているJMDC提供のレセプトデータベースを用いて,ドライアイ患者に対するレバミピド懸濁点眼液の処方実態,ならびに点眼薬の含有成分の涙?炎,涙道閉塞発生に対する影響について検討を行った.レバミピド懸濁点眼液処方患者において,表1に定義された涙?炎,涙道閉塞などの関連事象の発生割合については,表2のとおりであり,レバミピド懸濁点眼液における各事象の発生割合が有意に高いと結論づけることはできなかった.対象患者における併用薬剤やその他の要因による影響については,本解析手法で考慮することは不可能であった.また,複数の併用薬を同時期に処方されている場合や複数の事象が認められている患者が重複して集計された発生割合となっているが,以前の報告4,6)における発症頻度とおおむね同等の範囲に入っていると考えられた.点眼液の含有成分の配合変化について,杉本ら4)は,レバミピド懸濁点眼液使用患者から採取された異物の成分分析結果などを示した.本検討においても,点眼薬の含有成分による影響について検討を試みた.しかしながら,レバミピド懸濁点眼液を含むポリビニルアルコール含有製剤,また同薬との配合変化の懸念が示唆されているホウ酸・ホウ砂含有製剤,ならびにポリビニルアルコールとホウ酸・ホウ砂の両方を含まない非含有製剤のいずれにおいても,製剤の含有成分に依存する発生傾向などを見出すには至らなかった.また,該当する患者がいない事象も存在した.なお,レボフロキサシン水和物の使用者に涙?炎,涙道閉塞が有意に多くみられるのは先行する疾病の存在を疑わせるが,オキシブプロカイン塩酸塩の使用者にも多くみられることについては原因の推定は困難であった.本稿で示した結果はレセプト情報に起因するものであるため,レセプトに記載される傷病名と報告副作用名とが必ずしも一致しない点や,処方理由,処方薬との因果関係の有無,重篤性,処方薬へのアドヒアランスについて明確にできない点など,情報源の性質による限界があることを理解しておく必要がある.また,データベースから抽出可能な項目が限られているため,交絡を調整する解析も十分になされていない.しかしながら,本手法は,大塚製薬に集積される症例情報に加え,実臨床の場における処方患者数や注目する傷病の発生傾向を把握する一つの手段として有効であると考えられる.なお,涙?炎,涙道閉塞などの発生要因は明らかでないものの,懸濁性点眼液を他の水溶性点眼液と併用する場合は,水溶性点眼液を先に点眼し,5分間以上の間隔をあけて点眼することが推奨されている7).したがって,レバミピド懸濁点眼液においても,重篤な患者の発生を抑えるため,他の点眼薬と併用する場合には,添付文書で注意喚起されているように,5分間以上の間隔をあけて,水溶性点眼液の後に点眼するなどの適正使用が望まれる.本稿は大塚製薬により実施された解析結果に基づいて執筆した.開示すべきCOIは木下茂(試験研究費・技術指導料・講演料),坪田一男(試験研究費・技術指導料・講演料),大橋裕一(技術指導料・講演料)である.文献1)大塚製薬株式会社:ムコスタR点眼液UD2%製品添付文書(2015年3月改訂,第4版)2)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,20133)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Amulticenter,open-label,52-weekstudyof2%rebamipide(OPC-12759)ophthalmicsuspensioninpatientswithdryeye.AmJOphthalmol157:576-583,20144)杉本夕奈,福田泰彦,坪田一男ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙?炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討,あたらしい眼科32:1741-1747,20155)株式会社日本医療データセンター(JMDC)6)増成彰,安田守良,曽我綾華ほか:ドライアイに対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の有効性と安全性─製造販売後調査結果.あたらしい眼科33:443-449,20167)大谷道輝:点眼剤の「実践編」.JJNスペシャル80:170-176,2007〔別刷請求先〕古田英司:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通3-2-27大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:EijiFuruta,Ph.D.,PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-2-27Ote-dori,Chuo-ku,Osaka540-0021,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(103)表1検討対象事象*[]はICD10コード涙?炎関連事象[H043]涙?炎,[H043]急性涙?炎,[H044]慢性涙?炎涙道閉塞関連事象[H045]涙点閉塞症,[H045]涙小管狭窄,[H045]涙小管閉塞症,[H045]鼻涙管狭窄症,[H045]鼻涙管閉鎖症,[H045]涙道狭窄,[H045]涙道閉塞症1490あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(104)表2ドライアイ患者における処方点眼薬ごとの新規発生事象割合ポリビニルアルコール含有点眼薬レバミピド(n=3,804)実患者数(%)p値a)フルオロメトロン(A)(n=2,028)実患者数(%)p値a)オキシブプロカイン塩酸塩(n=633)実患者数(%)p値a)ネオスチグミンメチル硫酸塩・無機塩類配合(n=587)実患者数(%)p値a)涙?炎関連3(0.079)?1(0.049)0.68143(0.474)0.01230(0)0.4961涙道閉塞関連12(0.315)?7(0.345)0.849629(4.581)<0.00010(0)0.1730ホウ酸・ホウ砂含有点眼薬精製ヒアルロン酸ナトリウム(A)(n=5,795)実患者数(%)p値a)精製ヒアルロン酸ナトリウム(B)(n=5,470)実患者数(%)p値a)精製ヒアルロン酸ナトリウム(C)(n=2423)実患者数(%)p値a)人工涙液(n=2,310)実患者数(%)p値a)涙?炎関連0(0)0.03255(0.091)0.83962(0.083)0.96020(0)0.1770涙道閉塞関連13(0.224)0.391514(0.256)0.59393(0.124)0.13264(0.173)0.2910ポリビニルアルコール,ホウ酸・ホウ砂非含有点眼薬ジクアホソルナトリウム(n=10,776)実患者数(%)p値a)精製ヒアルロン酸ナトリウム(D)(n=8,596)実患者数(%)p値a)フルオロメトロン(B)(n=3523)実患者数(%)p値a)レボフロキサシン水和物(n=3,286)実患者数(%)p値a)涙?炎関連7(0.065)0.77826(0.070)0.86285(0.142)0.414112(0.365)0.0089涙道閉塞関連32(0.297)0.858125(0.291)0.816717(0.483)0.255126(0.791)0.0062a)c2検定,p値は参考値として示した.(105)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201614911492あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(106)

My boom 57.

2016年10月31日 月曜日

連載Myboom監修=大橋裕一第57回「村田敏規」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.自己紹介村田敏規(むらた・としのり)信州大学眼科教授(1986年九州大学卒)「まじめか!」といわれそうですが,1988年に研修医を終えて大学院生となった日からずっと,私のmyboomはVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)です.約30年前の話ですから,眼科のresearchmeetingでVEGFを熱く語っても反応は薄く,大学院でお世話になった実験病理の基礎研究者の間でも,まったく注目されていない成長因子でした.大学院生の間で研究テーマは奪い合いでしたから,眼科から来た大学院生の村田はVEGFを研究テーマに選んだと,少しだけ馬鹿にされていたかもしれません.しかし,VEGFとの恋に落ちた私には,すべてはどうでもよいことでした.全くめだたなかったVEGF当時の病理学教室は,1年間はまったく解剖と外科病理診断しか許されず(眼科でいう視力検査と眼圧測定を1年間毎日やるような状況),研究するのは2年生からで,自分のために働くことを,大学院生皆で晩飯を食ったあとの時間で許されるようになりました.結婚して子供がいる大学院生もいましたが,当時はだれも家に帰らず,皆で大学で出前を取って晩飯を済ませてから寝るまでが研究の時間でした.今でも私よりも年上の基礎の先生は,そういった生活が研究者の生活だと思っておられますから,若い先生達が誰も大学院生になることは希望しないのは必然かもしれません.当時眼科では,角膜上皮の再生に期待されていたEGF(epidermalgrowthfactor)と,線維化を誘導することで黄斑円孔を閉鎖させることが期待されるTGFb(transforminggrowthfactorb)が注目されていました.基礎の分野では,どんな細胞でも(血管内皮細胞を含む)劇的に増殖能をあげるFGF(fibroblastgrowthfactor),動脈硬化の世界で凝集した血小板が放出するとして有名になったPDGF(plateletderivedgrowthfactor)に隠れて,VEGFは人口に膾炙することのない成長因子でした.VEGFと私の30年―100%他力本願なtranslationalresearchの完成当時,VEGFが怪しい物質と評価されたのには理由があり,アイソフォームが多数存在するためか,westernblottingで決定されるVEGFの分子量は報告によってまちまちで,実際に存在するのかどうかさえ疑われていました.しかし1989年,私が大学院2年生になった年には,クローニング技術の進歩により,アイソフォームの存在と,他のグループから報告されていたVPF(vascularpermeabilityfactor)と同じ物質であることが報告され,私の愛はさらに燃え上がりました.VPF自体は,白色マウスに青い色素を静脈注射した後で,VPFを皮下注射すると,皮下注射部位の皮膚が青く染まる(血管からの青色の色素の漏出が増加する)ことを売りにして論文発表された,何の役に立つのかわからない物質でした.しかし,眼科経験2年の私にでも,血管新生(増殖糖尿病網膜症)と透過性亢進(黄斑浮腫)の両者を促進し,しかも虚血(蛍光眼底造影でいえば無灌流領域)で産生が亢進する物質は,糖尿病網膜症の病因であると確信できました.VEGFと眼疾患の論文は,なかなかacceptに至りませんでした仮説はいつの時代にも山ほど存在しますから,私が1991年に投稿した「VEGFは糖尿病黄斑浮腫の病因である」という論文は,1995年に『OphthalmicResearch』に採用になるまで7本の雑誌にrejectになり,私自身は周囲の理解を得ることに苦労しました.しかし,VEGFがGenentechという米国初のバイオベンチャーと呼ばれた会社の研究者であるナポレオンフェラーラという,英雄と高級車を並べたようなお名前の先生(現在はUCSDの教授)により発見されたこともあり,Harvard大学眼科との共同研究であっという間に論文が量産され,阻害薬として製品化されたのが,今世界中で広く使われているルセンティスです.基礎研究から製品化のtranslationalresearchの過程で,私は直接的にその(経済的)恩恵になにもあずかってはおりませんが,VEGFの基礎研究から抗VEGFが臨床応用される過程を体験できたことは,他力本願とはいえ,私にとっては紛れもなくtranslationalresearchの完成でした.その過程で,1996年にLosAngelesの(84)DohenyEyeInstituteのRyan教授の研究室で研究させていただきました2年間は本当に充実した日々でした(写真1).LosAngeles留学中に前述のVEGFが糖尿病黄斑浮腫の原因であると書いた論文が,JuvenileDiabetesResearchFoundationの賞をいただき,その結果Harvard大学のFolkman研究室(血管新生という概念とことばを作られたパイオニア,何回もノーベル賞候補になられたが急逝された)の中のAdamis研究室(抗VEGF薬Macugenを開発)で働かせていただいたことは,やりがいという意味で最高の経験でした.TV番組の「しくじり先生,俺みたいになるな」的に言わせていただくと幾つかの反省点があります.VEGFを愛することだけで満足し,それを仕事に残すことに努力が足りませんでした.1)加齢黄斑変性で黄斑下から抜去した脈絡膜血管新生の組織でVEGFを免疫染色して,脈絡膜血管新生にもVEGFが関与することを,やはり1990年代に何回か論文投稿しましたがacceptに至りませんでした.あの論文(達)をどこかに通しておけば,私は加齢黄斑変性の専門家になれていたかもしれません.糖尿病網膜症ほどの興味を持っていなかったので,通るまで出し直す努力を怠りました.2)とくにHarvard大学に移ってからは,直接的に抗VEGF薬の開発にかかわる研究室に所属したにもかかわらず,研究者に徹し,薬の開発にかかわっているという自覚がありませんでした.当時は,特許とか商品化などを考える習慣が,日本の田舎で育った私にはまったくなく,もっと権利の主張を,せめて論文の著者にきちんと加えてもらうことを,強行に主張しておくべきであったと思います.3)眼科診療を根底から変えるような仕事を,『Nature』『Science』に載るような仕事が自分にできるかもしれないという野望をまったく持たずに,研究者としての賞味期限を過ぎてしまいました.これからの若い先生方には本気で世界と戦っていただきたいと思います.次号は大分大学眼科教授の久保田敏昭教授が担当されます.久保田教授は私の大学の先輩で,緑内障,とくに電子顕微鏡による隅角構造に造詣が深い先生です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(83)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201614690910-1810/16/\100/頁/JCOPY写真1信州大学医学部の学生に留学を勧めるときに使っている写真上:DohenyEyeInstituteのRyan教授(故人)と当時のブッシュ米国大統領.Ryan教授はブッシュ政権で医療政策のアドバイザーを務めておられた.下:Ryan教授と留学中の私.留学すればそんな偉い人と写真が撮れることを強調し,さらにこの2枚のスライドを交互に映写すると,Ryan教授がいつも一定の顔の角度で写真に写られるため,ブッシュ大統領と私の姿が重なり,サブリミナル効果を期待できる.(84)

二次元から三次元を作り出す脳と眼 5.Random Dot Stereogram

2016年10月31日 月曜日

連載⑤二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科はじめにRandomDotStereogram(RDS)は片眼では白黒の点の集合にしか見えないが,両眼視すると立体が浮き上がる立体視画像である.1960年Julesz(ユレシュ)により発表された1).当時,立体視は「左右眼から届いた情報をもとに脳がまず形の情報処理を行い,その形を左右で照らし合わせて視差を検出することにより成立する」と考えられていた.RDSはそれをくつがえす発明だった.単眼の手がかりを持たない立体視検査連載①で紹介したTitmusStereoTestは,眼科でも(81)っとも一般的な立体視検査である.患者が両眼での立体感覚をもつか,斜視や弱視の治療前後で立体視が改善するかを判定でき,小児にも使える簡便な検査だが,偽陽性の問題がある.視差のある図形を凸として認識できなくても視差のない図形と区別できたり,左右眼ですばやく交代視することで視差のある図形を見つけたりする偽陽性例の判定がむずかしいのである.TitmusStereoTestでは単眼の手がかりを100%排除できない.*単眼のみで得られる視覚情報のうち,立体感や奥行き感覚の把握に有用なものを単眼の手がかり(monocularcue)とよぶ.1960年ユレシュは単眼の手がかりをもたない立体視検査を発表した.RDSである.コンピューターを使って画面の構成点1点1点について黒か白かを無作為に決定して2枚の同じ画像を作る.どちらか片方の画像の一部を鼻側にずらし,交差性視差をつける(図1b).ここでは左側の画像の中央正方形部を鼻側にずらしている.両眼で見ると視差をつけた部分が浮き出して見える(図1c).単眼では白黒の点が見えるだけで形の情報はなく,見る人の先入観の影響を受けない(図1a).立体視に新しい考え方をもたらしたRDSRDSの発表は当時画期的なものだった.それまで,両眼で見るとは,左右の眼から別々に届いた網膜像から,どんな形や色をした像かを脳がとらえ,そのあとで両方の像を照らし合わせて統合すると考えられていたからである.言いかえると,形の情報処理が終わってから,左右像の照合と視差の検出など,立体視情報の処理に移るとされていたのだ.TitmusStereoTestであれば,左右の網膜に映るハエの情報が脳に届き,その形がとらえられ,2個のハエがほぼ同じ形で同じ色の同質図形であるから,それらを重ね合わせて視差検出を行い,視差のある部分が浮き上がるという具合に.RDSは,2枚の画像の中に形や色など具体的な手がかりがなくても,両眼網膜の対応点1点1点に映る情報のみから,脳が視差を検出して立体感覚を作ることを示している2).外来で見かけるRandotPreschoolStereoacuityTestはその一つである(図2).偏光眼鏡をかけて右頁の絵を見ると,左頁で示すような図形が異なる配列で浮かびあがり,相当する図形を選ぶようになっている.800秒から40秒までの視差の検査が可能である.偏光眼鏡をかけるとEの文字が浮かび上がるRandomDotETestもある.赤と緑の点で構成され,赤緑眼鏡をかけて見るTNOStereoTestもrandomdotの原理を使っている.赤レンズ下では緑レンズ下よりコントラスト低下が大きく,左右のコントラストの差を生じるので,片眼弱視など左右差のある患者では影響を受けやすい(連載①参照).これらは静止画を用いた静的立体視検査である.静的立体視と動的立体視画像の一部につける視差の量を経時的に増やしていくことで徐々に浮き上がる,あるいは引っ込むような動きのある立体視刺激を作ることもできる.これをdynamicRDSとよぶ.動的な視覚刺激を用いるのでこちらは動的立体視検査とされる(表1).内斜視があり,静的立体視検査では立体視(?)とされる患者の中に動的立体視検査では(+)の例があると報告されている3,4)※註.静的,動的視覚刺激に対する反応の違いは,視覚情報処理の二つの経路の存在を示唆しているが,この大きな課題についてはこれからしっかり説明していきたい.※註)dynamicRDSでは視差が量的に変化するだけでなく,刺激が網膜上を動く速度や方向に両眼間で差が生じる.そのためRDSの刺激方法によっては,患者が検出しているのは視差ではなく両眼間の速度差であると考えられる.厳密な意味での立体視と区別して奥行き運動知覚motion-in-depthperceptionという言葉を使う論文もある4).文献1)JuleszB:Binoculardepthperceptionofcomputer-generatedpatterns.BellSystTechJ39:1125-1162,19602)藤田一郎:第6章二つの目で見る.「見る」とはどういうことか─脳と心の関係をさぐる,p156-199,化学同人,20073)FujikadoT,HosohataJ,OhmiGetal:Useofdynamicandcoloredstereogramtomeasurestereopsisinstrabismicpatients.JpnJOphthalmol42:101-107,19984)MaedaM,SatoM,OhmuraTetal:Binoculardepthfrom-motionininfantileandlate-onsetesotropiapatientswithpoorstereopsis.InvestOphthalmolVisSci40:3031-3036,1999図1RandomDotStereogramの原理片眼ずつではこのように見える.左側の画像の中央の正方形部を鼻側にずらして交差性視差をつけている(黄矢印).ずらしてできた空白部は白か黒でうめる(0’1’部分).左右眼の像を融像させると中央正方形部が浮き上がって見える.(81)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161467図2RandotPreschoolStereoacuityTest表1RDSの種類RDSの種類検出できる能力静止画のRDS静的立体視(staticstereopsis)静的奥行き感覚(staticdepthperception)動画のRDS(dynamicRDS)動的立体視(motionstereopsis)奥行き運動知覚(motion-in-depthperception)1468あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(82)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 161.膠原病に合併したサイトメガロウイルス網膜炎に対する硝子体手術(中級編)

2016年10月31日 月曜日

●連載161硝子体手術のワンポイントアドバイス161膠原病に合併したサイトメガロウイルス網膜炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎は,後天性免疫不全症候群(AIDS),悪性腫瘍,臓器移植後などの免疫抑制状態の患者に発症することが多いが,近年,膠原病や血液疾患を有する患者の発症例が増加している.筆者らは全身性エリテマトーデス(SLE)患者に,両眼性のCMV網膜炎を併発し,裂孔原性網膜?離をきたしたため硝子体手術を施行した1例を経験し報告したことがある1).●症例提示29歳,女性.22歳時に膠原病内科でSLEと診断され,デキサメタゾン,タクロリムスなどの免疫抑制薬を内服投与されていた.検査の結果CMV腸炎と診断され,SLEに対する加療と並行してガンシクロビルが点滴投与された.その後,左眼の上方視野欠損を自覚したため,眼科受診となった.左眼は下方2象限に網膜?離が生じており,下方周辺部の血管が閉塞して網膜は菲薄化し壊死性裂孔を形成していた.壊死部周囲の網膜には黄白色顆粒状滲出斑を認めた(図1).右眼も網膜周辺部に黄白色顆粒状滲出斑を認めたが,網膜裂孔は形成されていなかった.全身状態の改善を待って左眼の硝子体手術を施行した.水晶体切除後に硝子体切除を行ったが,後部硝子体は未?離で,下方のCMV網膜炎部位は網膜硝子体癒着が強固で,双手法にて人工的後部硝子体?離を作製した(図2).その後,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,周辺部輪状締結術,シリコーンオイル(SiO)タンポナーデを施行し手術を終了した.術中採取した硝子体液からPCRにてCMV-DNAが検出された.術後再増殖膜が生じたため(図3),SiO抜去と増殖膜処理,眼内レンズの二次挿入を行った.その後,右眼にも網膜?離が生じたため,硝子体切除術を施行した.最終的に両眼で網膜復位が得られたが,矯正視力は右眼(0.8),左眼(0.15)となっている.●膠原病に合併するCMV網膜炎に対する治療上の注意点CMV網膜炎の特徴は一般に血管に沿った顆粒状滲出斑と出血であるが,初期にはSLEなどの網膜症との鑑別が困難な場合もある.CMV網膜炎の診断には前房水を用いたPCRが有用であり,CMV網膜炎が判明した場合,抗ウイルス薬の全身投与を開始する.網膜炎がいったん鎮静化しても,網膜外層は壊死性変化を生じ,網膜が菲薄化することが多い.また,炎症が鎮静化したのちに網膜と硝子体の癒着が強くなり,後部硝子体?離の進行に伴い裂孔原性網膜?離に進行すると硝子体手術が必要となる.本症例でも病変部位の人工的後部硝子体?離作製が困難であった.本症例のようにステロイドと免疫抑制薬を長期間投与されている膠原病患者では,日和見感染症であるCMV感染に対してのハイリスク症例という認識をもち,自覚症状に変化が生じた時点で早期に眼科精査を施行すべきである.文献1)HazeM,KobayashiT,KakuraiKetal:Bilateralcytomegalovirusretinitisinapatientwithsystemiclupuserythematosus.CaseRepOphthalmolinpress(79)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2左眼の術中所見下方は網膜硝子体癒着が強固で,双手法にて人工的後部硝子体?離を作製した.図3左眼の初回硝子体手術後の眼底写真シリコーンオイル下で再増殖をきたしたあたらしい眼科Vol.33,No.10,201614650910-1810/16/\100/頁/JCOPY

斜視と弱視のABC:弱視と間違いやすい眼疾患

2016年10月31日 月曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保2.弱視と間違いやすい眼疾患須藤希実子成田記念病院眼科弱視と診断されていた症例が,眼底検査やERG検査によって器質的疾患とわかることがあり,鑑別が重要である.たとえば,若年網膜分離症,先天停止性夜盲,錐体ジストロフィ,網膜色素変性症,黄斑低形成,視神経低形成,家族性滲出性硝子体網膜症があげられる.はじめに視力低下で受診した小児を弱視と診断する際に,眼底検査によって器質的疾患でないことを鑑別することは非常に重要である.本稿では弱視と間違いやすい眼疾患のなかで,とくに網膜疾患に焦点を絞って鑑別する.検査と診断問診では家族が気づいた小児の様子,出生時の状況,既往歴,家族歴を聴取する.両眼性か片眼性か,羞明や夜盲,眼振の有無をチェックし,屈折検査,視力検査,眼位検査を行う.その後,前眼部検査,眼底検査を行い,疑わしい器質的疾患によっては視野検査,色覚検査,調節麻痺薬点眼下での屈折検査,網膜電図(electroretinogram:ERG)検査,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),蛍光眼底造影などの検査を進めていく.小児であるため,侵襲のある検査は全身麻酔下で行う必要がある.若年網膜分離症一般的に男子の両眼性にみられ,中等度の遠視のことが多く,斜視や眼振を合併することがある.視力は0.2~0.4程度である.眼底所見としては車軸状の中心窩分離(図1a)はほぼ必発であり,周辺の網膜分離は約半数にみられる.強い白色閃光刺激によるERGで陰性型を示す.OCTは比較的容易に行うことが可能で,中心窩の網膜分離が診断の決め手となる(図1b).進行は緩徐であるが,網膜?離や硝子体出血,緑内障を合併することがある1,2).先天停止性夜盲先天性,非進行性の網膜疾患で,特記する眼底異常がなく,しばしば斜視を合併するため診断がむずかしい2).三宅ら3)によってERGの波形から杆体機能が消失した完全型と,杆体機能が残存している不全型に分類された.両型ともに視力は0.1~0.5程度であり,完全型には強度から中等度の近視が多いのに対し,不全型には近視から遠視まで幅広く分布している.夜盲という診断にもかかわらず,完全型では約1/3の症例が夜盲を自覚するのみで,不全型では夜盲の自覚は少ない.錐体ジストロフィ錐体系の網膜機能が進行性に障害される先天性疾患である.視力低下,羞明,色覚異常,眼振などを主訴に受診することが多く,視力は徐々に低下し,最終的には0.1かそれ以下になる.視野は中心暗点などを示すが,周辺視野はほぼ正常である.眼底異常がないものもあるが,典型的には標的黄斑症を示し,蛍光眼底造影では輪状のwindowdefectによる過蛍光を認める.錐体系ERG(coneと30Hzflicker)で振幅が低下あるいは消失する2).網膜色素変性症10~20歳代で夜盲を発症し,30歳代から視野狭窄が進行し,50歳以降社会的な失明に至ることが多い.眼底は網膜血管,とくに動脈の狭細化,視神経乳頭のろう様萎縮がみられる.小児期には夜盲や特徴的な骨小体様色素集積がみられず,診断が困難である.ERGは消失型が多い.日本での遺伝形式は常染色体優性遺伝16.9%,常染色体劣性遺伝25.2%,X連鎖性遺伝1.6%,孤発例56.3%である4).黄斑低形成黄斑部と中心窩の形成が不全な先天異常である.通常は両眼性で眼振を伴う.低形成の程度によっては視力は比較的良好で,検眼鏡での診断が困難なことがある.本症単独の場合もあるが,白皮症や先天無虹彩に合併することもある.眼皮膚白皮症では,皮膚の色が正常なことがあるため,狭義の先天眼振との鑑別には黄斑低形成の有無が重要となる.OCTでの異常所見と視力に関係がみられる5).本症単独例では視力は0.1~0.3程度であるが,色覚は正常で周辺視野,ERGなどの視機能は比較的良好である.視神経低形成視神経乳頭が小さい先天異常で,乳頭黄斑部間距離/乳頭径比(disc-maculadistancetodiscdiameterratio:DM/DD)が3.2以上(正常2.1~3.2)であれば小さいと判断される.弱視,斜視,眼振で発見されることが多い.視力は正常なものから光覚弁までさまざまであり,両眼性,片眼性のどちらもある.ERGは正常,視覚誘発電位で異常をきたす.また,黄斑低形成,小角膜,先天無虹彩などの眼発生異常と合併する例がみられ,全身合併症としては透明中隔欠損を合併し,知的障害や内分泌障害となることがある(視神経中隔異形成)ので,頭部MRIを行う必要がある.家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR)網膜血管が未熟な状態で発育を停止したことにより,未熟児網膜症に類似した眼底所見を呈する.典型例は常染色体優性遺伝を示し,両眼性である.無症候性に徐々に進行し,眼底検査や裂孔原性網膜?離で発見されることが多く,視力障害の程度はさまざまである.乳幼児にみられる活動期FEVRは急速に進行し,牽引乳頭や鎌状網膜?離,硝子体出血を合併することが多い.瘢痕期FEVRは周辺部変性型,牽引乳頭型,鎌状?離型に分かれる.蛍光眼底造影で網膜血管異常を把握する.おわりに小児が視力低下で受診し屈折異常がある場合,弱視と診断する前に眼底検査で網膜疾患が見つかることは珍しくない.器質的疾患の可能性を念頭において眼底検査やERG検査,OCT検査などを行うことが重要である.一方,器質的疾患が見つかった場合でも,屈折異常によって視力発達が妨げられる可能性があるため,眼鏡による屈折矯正は重要である.文献1)堀田喜裕:弱視と間違いやすい眼疾患検査のコツa.分子遺伝学的検査.すぐに役立つ眼科診療の知識?両眼視(大月洋編),p70-73,金原出版,20072)近藤峰生:弱視と間違えやすい網膜疾患.眼科44:717-728,20023)三宅養三:新しい疾患概念の確立?先天停止性夜盲の完全型と不全型?.日眼会誌106:737-756,20024)HayakawaM,FujikiK,KanaiAetal:MulticentergeneticstudyofretinitispigmentosainJapan:II.Prevalenceofautosomalrecessiveretinitispigmentosa.JpnJOphthalmol41:7-11,19975)ThomasMG,KumarA,MohammadSetal:Structuralgradingoffovealhypoplasiausingspectral-domainopticalcoherencetomography:Apredictorofvisualacuity?Ophthalmology118:1653-1660,2011図1若年網膜分離症a:眼底写真.車軸状の中心窩分離を認める.b:OCT写真.神経線維層で感覚網膜が内層と外層に分離している.(77)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161463(78)

眼瞼・結膜:上輪部角結膜炎(SLK)

2016年10月31日 月曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人19.上輪部角結膜炎(SLK)山田昌和杏林大学医学部眼科学教室上輪部角結膜炎は,上方の結膜弛緩症である.弛緩した球結膜に瞬目時の機械的刺激が加わって上方球結膜の病変を生じる.保存的治療はドライアイ治療薬で涙液の潤滑油作用を増強し,ステロイド薬で消炎を図るのが基本であり,難治例では結膜手術が推奨される.●SLKとは上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)は,1963年Theodoreにより報告された疾患である1).中高年の女性に多く,片眼または両眼の異物感,灼熱感を主徴とする.細隙灯顕微鏡では一見すると角結膜に病変がないようにみえるが,下方視させて上方の球結膜をみると充血や肥厚が観察され,この部分はリサミングリーンやフルオレセインで染色される(図1).病因は長い間不明であり,ホルモン異常説,ビタミンA欠乏説,アレルギーや自己免疫説などさまざまな説が提唱され,さまざまな治療法が試みられてきた.そのなかで以前から有力視されていたのは,SLKは眼瞼結膜と球結膜との機械的摩擦で生じるとする説であり,10年ほど前にYokoiら2)とTsengら3)の2つのグループからSLKの病態には上方球結膜の弛緩,結膜と強膜の接着不良が関係していることが報告され,病態の理解が進んだ.SLKは,上方の弛緩した球結膜に瞬目時の機械的刺激が加わって生じる.球結膜と眼瞼結膜の摩擦による障害が球結膜側に表現されたものがSLKであり,眼瞼結膜側ではlidwiperepitheliopathy(LWE)となる.実際にSLKの症例ではLWEを合併することが少なくない.摩擦が亢進する原因として,球結膜弛緩以外に涙液量減少や涙液の質の異常,瞬目異常(眼瞼痙攣や瞬目過多など),眼瞼の形状・位置異常などさまざまな要素が重なり合って臨床的にSLKとして表れるようになる.SLKが甲状腺機能亢進症や眼瞼下垂術後に生じやすいのも眼瞼の形状・位置の問題と解釈すると理解しやすい.●SLKの保存的治療SLKの治療として人工涙液やヒアルロン酸,ステロイド薬,ビタミンA点眼液などさまざまな種類の点眼治療や涙点プラグ,治療用コンタクトレンズ,硝酸銀塗布などの処置が試みられてきた.これらの治療法はSLKの病態・概念からは,①潤滑油を加える治療,②摩擦によって生じる続発性炎症の抑制,③瞬目時の摩擦を軽減する処置,の3つに分けることができる.①潤滑油を加える治療としては,液層成分の補充として人工涙液,ヒアルロン酸の点眼があり,涙液量の増加としては涙点プラグがある.SLKでは上下涙点にプラグを挿入すると流涙をきたすことが多いので,まず上涙点だけにプラグ挿入を試すとよい.ジクアホソルやレバミピドといったドライアイ治療薬は涙液中の分泌型ムチン増加を通じて摩擦軽減効果が期待でき,SLKの治療に有効という報告がみられる.②摩擦によって生じる続発性炎症の抑制にはステロイド薬の点眼が相当し,レバミピドも抗炎症効果が期待できる.③瞬目時の摩擦を軽減する処置には治療用コンタクトレンズと硝酸銀塗布があげられる.硝酸銀塗布はわが国ではまず施行されないが,化学傷によって球結膜の短縮や癒着形成を促すものと推測される.●SLKの手術治療SLKは上方の結膜弛緩症という概念に基づいた手術的治療の有効性も報告されている.余剰の結膜を除去する目的で弓状の結膜切除術を行う術式や,結膜と強膜の接着を強化する目的で結膜切除と羊膜移植術を行う術式などが提唱されている2,3).筆者らは簡便で侵襲の少ない術式として,球結膜を伸展するために結膜強膜縫着を行う方法を行っている4).弛緩した上方球結膜をスパーテルで結膜円蓋部方向に圧排,伸展させた状態で,輪部から8~10mmの位置で10-0ナイロン糸を結膜から強膜に4~5針程度縫着する.充血や上皮障害のある部位にはまったく触らないが,術後には速やかな消炎と上皮障害の改善を得ることができる.SLKでは手術治療は第一選択ではないが,薬物治療,保存的治療に反応しない症例では積極的に試みてよいと考えている.文献1)TheodoreFH:Superiorlimbickeratoconjunctivitis.EyeEarNoseThroatMon42:25-28,19632)YokoiN,KomuroA,MaruyamaKetal:Newsurgicaltreatmentforsuperiorlimbickeratoconjunctivitisanditsassociationwithconjunctivochalasis.AmJOphthalmol135:303-308,20033)KheirkhahA,CasasV,EsquenaziSetal:Newsurgicalapproachforsuperiorconjunctivochalasis.Cornea26:685-691,20074)YamadaM,HatouS,MochizukiH:Conjunctivalfixationsuturesforrefractorysuperiorlimbickeratoconjunctivitis.BrJOphthalmol93:1570-1571,2009図1上輪部角結膜炎上方球結膜の充血と肥厚がみられ(a),同部位はフルオレセインで密に染色される(b).(75)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161461図2図1の症例の結膜強膜縫着術後上方球結膜の炎症所見は消失し(a),フルオレセイン染色も陰性となった(b).1462あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(76)

抗VEGF治療:網膜色素上皮裂孔(RPE tear)発生症例の転帰

2016年10月31日 月曜日

抗VEGF治療セミナー●連載監修=安川力髙橋寛二33.網膜色素上皮裂孔(RPEtear)発生症例の転帰松原央三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学網膜色素上皮裂孔(RPEtear)は,滲出型加齢黄斑変性の治療経過中に遭遇する合併症の一つである.網膜色素上皮?離を伴う滲出型加齢黄斑変性に発生し,RPEtearが中心窩を含むと視力低下を生じ予後が不良になる.本稿ではRPEtear発生症例の予後について解説する.網膜色素上皮裂孔(RPEtear)網膜色素上皮裂孔(retinalpigmentepitheliumtear:RPEtear)は,検眼鏡検査で境界明瞭な三日月状もしくは不整円形で,脈絡膜の透見性が増強した褐色の所見を示し,眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)で明瞭な低蛍光を示す.典型的には脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の対側の網膜色素上皮?離(pigmentepithelialdetachment:PED)断端からCNVに向かってRPE層が収縮し,塊状の隆起とRPE層が欠損した光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)像となる.漿液性網膜?離や網膜下出血を伴うことがあり,とくに網膜下出血が中心窩に及ぶと視力予後が不良となる.広範囲に網膜下出血が存在する症例ではRPE欠損部の特定ができない場合があるが,RPE欠損部や収縮したRPE塊が中心窩にかからない症例では視力予後は良好である(図1).一方,RPE欠損部に中心窩が含まれると視力予後は不良となる.発生直後に中心窩が含まれていなくとも,ゆっくりと拡大する場合や,他の部位からRPEtearが形成される場合があるため,中心窩とRPEtearの位置関係に注意をはらう必要がある.RPEtear発生後経過RPE欠損部は無色素性色素上皮細胞もしくはRPE細胞が増殖することで被覆され,RPE欠損部は経過とともに縮小する.検眼鏡的にやや混濁した白色を呈し,FAFの低蛍光部境界が不明瞭となり,フルオレセイン眼底造影検査での蛍光漏出は次第に減少する.RPE欠損部や収縮して一塊となったRPEが中心窩に及ぶかどうか,脈絡膜新生血管の活動を抑制できるかどうかが長期経過に影響を及ぼす.自然経過では,線維瘢痕形成とCNVからの滲出および中心窩が病変に含まれることにより,視力は次第に低下し不良となると報告されている1).また,RPEtear発生後のCNVの活動性が低い場合には,網膜下液(subretinalfluid:SRF)は早期に吸収され,Bruch膜と網膜が直接接着し視力は維持されるが,CNVの活動性が高くSRFの持続や再燃が起こった場合には,欠損部に厚い線維性瘢痕が形成され視力は低下する2).一方でRPEtear発生後にCNVからの滲出の持続や再燃に対して抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬治療を継続して行った12カ月経過では,50%の症例でRPEtearの面積は縮小もしくは不変であり,治療継続によりRPEtearは安定し視力は維持されたが,抗VEGF治療の反応不良例では視力は低下していた3).RPEtear発生後の抗VEGF治療継続の有効性RPEtear発生後3年以上の経過を後ろ向きに検討した報告では,視力維持改善群ではRPEtear発生後の抗VEGF薬の投与回数が多く(とくに1年目),抗VEGF治療を継続することで滲出性変化が抑制され網膜形態が維持されていた.また,RPEtearの拡大が促進されることはなくRPE欠損部は縮小していた.一方,視力悪化群では,CNVの活動があり,抗VEGF薬の投与が少なく,最終的に線維性瘢痕を形成していた4).また,3年後の視力と総注射回数ならびに注射頻度が相関しており,抗VEGF薬治療継続が視力の安定と網膜形態の改善ならびに線維瘢痕化の抑制に効果的であると報告されている5).経過良好症例(抗VEGF薬治療継続,図2)と経過不良症例(抗VEGF治療継続なし,図3)を示す.RPEtear発生後,OCTにより滲出性変化の有無を注意深く評価し,CNVによる滲出性変化に対して抗VEGF薬治療を積極的に継続することが,視力低下の抑制と網膜形態の維持に重要である.文献1)GutfleischM,HeimesB,SchumacherMetal:Long-termvisualoutcomeofpigmentepithelialtearsinassociationwithanti-VEGFtherapyofpigmentepithelialdetachmentinAMD.Eye(Lond)25:1181-1186,20112)MukaiR,SatoT,KishiS:Repairmechanismofretinalpigmentepithelialtearsinage-relatedmaculardegeneration.RETINA35:473-490,20153)AsaoK,GomiF,SawaMetal:Additionalanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyforeyeswitharetinalpigmentepithelialtearaftertheinitialtherapy.RETINA34:512-518,20144)HeimesB,FareckiMLJr,BartelsSetal:Pigmentepithelialtearandanti-vascukarendothelialgrowthgfactortherapyinexudativeage-relatedmaculardegeneration:clinicalcourseandlong-termprognosis.RETINA36:868-874,20165)SarrafD,JosephA,RahimyEetal:Retinalpigmentepithelialtearsintheeraofintravitrealpharmacotherapy:riskfactors,pathogenesis,prognosisandtreatment(anAmericanOphthalmologicalSocietythesis).TransAmOphthalmicSoc112:142-159,20146)CocoRM,SanabriaMR,HernandezAGetal:Retinalpigmentepitheliumtearsinage-relatedmaculardegenerationtreatedwithantiangiogenicdrugs:acontrolledstudywithlongfollow-up.Ophthalmologica228:78-83,2012図1中心窩をはずれたRPEtear症例の眼底自発蛍光左眼中心窩のやや上方に低蛍光を認める.中心窩を含まない.(73)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161459図2経過良好症例の眼底自発蛍光とOCT2カ月ごとの抗VEGF治療継続により線維瘢痕化は軽度に抑制された.3年後のFAF低蛍光部境界は不明瞭になっている(▲).OCTで中心窩下方は網膜がBruch膜と直接接着している.図3経過不良症例の眼底自発蛍光とOCTRPEtear発生後,追加治療希望がなく,CNVからの滲出が長期間持続した.5年後のFAF低蛍光部位は拡大している(▲).OCTで中心窩下に線維性瘢痕と網膜浮腫が認められる.(74)1460あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016

緑内障:PAP(Prostaglandin Associated Periorbitopathy)について

2016年10月31日 月曜日

●連載196緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也196.PAP(ProstaglandinAssociatedPeriorbitopathy)について中倉俊祐三栄会ツカザキ病院眼科Peplinskiら1)が2004年に上眼瞼溝深化(DUES)を報告して以来,このプロスタグランジン系点眼薬特有の副作用名は日本で十分に認知されてきた.しかしながら当初より上眼瞼のみ生じるわけではなく2),眼周囲全体に及ぶことが報告されており3~5),その副作用の総称をprostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)と呼ぶようになった.まだ日本ではなじみの薄いこのPAPについて紹介する.●PAPに含まれる副作用Prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)はプロスタグランジン(PG)系点眼薬による眼周囲副作用の総称である.まだ正確な定義はないが,現在,以下の8症状がPAPとされている.①eyeilidptosis(眼瞼下垂)②deepeningofuppereyelidsulcus(上眼瞼溝深化:DUES)③involutionofdermatochalasis(皮膚弛緩の巻きこみ)④orbitalfatatrophy(眼窩脂肪の萎縮)⑤mildenophthalmos(軽度の眼球陥凹)⑥flatteningoflowereyelidbags(下眼瞼の平坦化)⑦inferiorscleralshow(下方強膜の可視)⑧tightorbit(狭い眼窩)図1に代表症例を提示する.●PAPの分類PAPをその原因から分類してみた(図2)Tightorbit以外は,その原因を脂肪系(脂肪の萎縮)と筋肉系(筋肉の脆弱化)に分けることができ,tightorbit6)はその最終形と考えられるのではないか.PG薬は脂肪生成を抑制し7),DUESの眼瞼の脂肪は萎縮していることが判明している8).それは上眼瞼だけでなく下眼瞼や眼窩全体の脂肪も萎縮することを意味する.また,PG薬はもともと毛様体平滑筋のコラーゲンを分解し9),その結果ぶどう膜の流出量が増加することで眼圧を下げる機序をもつ.Muller筋も上眼瞼挙筋も同じ平滑筋であり,筋肉繊維の隙間をうめるコラーゲンが減少した場合,筋力は低下し眼瞼下垂になると推測される.下眼瞼牽引腱膜も下眼瞼の豊富な平滑筋に接続しており,その脆弱化は下眼瞼の下垂すなわちinferiorscleralshowになると推測する.逆にeyelidretraction(眼瞼後退)がみられる患者がいるが,原因は今のところ不明である.つい最近報告のあったaudibleblink(瞬目の可聴)10,11)は,副作用名というよりはPAPの状態を表すものと考えられる.●Tightorbitとは?TightorbitはLeeらが2010年に原因のわからない開放隅角緑内障として報告したのが最初である6).彼らの症例の特徴は,奥目でかつ狭瞼裂で,眼球に対して瞼が硬く押しており,眼圧が測定しにくい,外科手術に抵抗するというものであった.全症例がPG系点眼薬を使っていたにもかかわらず,筆者らも査読者もPG系点眼薬の副作用とはまったく思っていない点は興味深いことであるが,その特徴はすべてのPAPを表している.また,tightorbitの患者では眼圧計により値がばらつくことが報告されており,注意を要する12).図3に代表症例を提示する.●PAPに含まれる副作用Prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)はプロスタグランジン(PG)系点眼薬による眼周囲副作用の総称である.まだ正確な定義はないが,現在,以下の8症状がPAPとされている.①eyeilidptosis(眼瞼下垂)②deepeningofuppereyelidsulcus(上眼瞼溝深化:DUES)③involutionofdermatochalasis(皮膚弛緩の巻きこみ)④orbitalfatatrophy(眼窩脂肪の萎縮)⑤mildenophthalmos(軽度の眼球陥凹)⑥flatteningoflowereyelidbags(下眼瞼の平坦化)⑦inferiorscleralshow(下方強膜の可視)⑧tightorbit(狭い眼窩)図1に代表症例を提示する.●PAPへの対処これまでのDUESの報告と同様,PAPもやはりビマトプロストやトラボプロストで強く出現し,ラタノプロストでは比較的その程度は低いことが報告されている3,4).タフルプロストでは今のところ詳細な報告はないがラタノプロストと同等であると推測する.点眼を中止することでDUESなどの脂肪系の副作用に関しては改善を認めることを臨床的にも経験し論文報告もあるが,筋肉系の問題であるeyelidptosisやinferiorscleralshowが改善したという経験はない.今後も新たなPAPが報告される可能性があるが,やはり点眼のしすぎ,こぼしすぎを防ぎ,点眼後の洗顔や拭き取りを徹底することは重要であると考える.文献1)PeplinskiLS,AlbianiSmithK:Deepeningoflidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.OptomVisSci81:574-577,20042)NakakuraS,TabuchiH,KiuchiY:Latanoprosttherapyaftersunkeneyescausedbytravoprostorbimatoprost.OptomVisSci88:1140-1144,20113)KucukevciliogluM,BayerA,UysalYetal:Prostaglandinassociatedperiorbitopathyinpatientsusingbimatoprost,latanoprostandtravoprost.ClinExperimentOphthalmol42:126-131,20144)ShahM,LeeG,LefebvreDRetal:Across-sectionalsurveyoftheassociationbetweenbilateraltopicalprostaglandinanalogueuseandocularadnexalfeatures.PLoSOne2013;8:e616385)TanJ,BerkeS:Latanoprost-inducedprostaglandin-associatedperiorbitopathy.OptomVisSci90:e245-247,20136)LeeGA,RitchR,LiangSYetal:Tightorbitsyndrome:apreviouslyunrecognizedcauseofopen-angleglaucoma.ActaOphthalmol88:120-124,20107)TaketaniY,YamagishiR,FujishiroTetal:ActivationoftheprostanoidFPreceptorinhibitsadipogenesisleadingtodeepeningoftheuppereyelidsulcusinprostaglandinassociatedperiorbitopathy.InvestOphthalmolVisSci55:1269-1276,20148)ParkJ,ChoHK,MoonJI:Changestouppereyelidorbitalfatfromuseoftopicalbimatoprost,travoprost,andlatanoprost.JpnJOphthalmol55:22-27,20119)LindseyJD,KashiwagiK,KashiwagiFetal:Prostaglandinsalterextracellularmatrixadjacenttohumanciliarymusclecellsinvitro.InvestOphthalmolVisSci38:2214-2223,199710)SkorinLJr,DaileyKH:Clickingeyelids:Anewfindingofprostaglandin-associatedperiorbitopathy.OptomVisSci2016Apr6.[Epubaheadofprint]11)FongCS,RajakSN,PirbaiAetal:Audibleblinkinprostaglandin-associatedperiorbitopathy.ClinExperimentOphthalmol2016Feb12.doi:10.1111/ceo.12725.[Epubaheadofprint]12)LeeYK,LeeJY,MoonJIetal:EffectivenessoftheICarereboundtonometerinpatientswithoverestimatedintraocularpressureduetotightorbitsyndrome.JpnJOphthalmol58:496-502,2014図1PAP代表例(患者の同意取得済み)80歳,女性.PG系点眼薬を右眼に約10年投与.左眼は正常眼.平面ではわかりにくいがmildenophthalmos(軽度の眼球陥凹)もみられ,すなわちorbitalfatatrophy(眼窩脂肪の萎縮)もあると思われる.Inferiorscleralshow(下方強膜の可視)はよほどの症例でないとみかけない.?上眼瞼下垂,?上眼瞼溝深化,?皮膚弛緩の巻きこみ,?下眼瞼の平坦化.(71)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161457図3Tightorbit症例(患者の同意取得済み)82歳,男性,原発開放隅角緑内障.10年以上のPG系点眼薬の使用歴あり.両眼の視野進行で紹介された.眼瞼は硬く,奥目で狭瞼裂,Goldmann平圧眼圧計(GAT)で測定しにくい.初診時眼圧(右眼/左眼)は10/14mmHg(非接触型眼圧計),18/28mmHg(GAT),10/16.3mmHg(IcarePro),19/24mmHg(TonopenAVIA)と各眼圧計で測定値がばらばらであった.中心角膜厚は右眼491μm,左眼486μmであった.Tightorbitと思われる.図2PAPの分類(72)

屈折矯正手術:角膜移植後の屈折矯正

2016年10月31日 月曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載197監修=木下茂大橋裕一坪田一男197.角膜移植後の屈折矯正田聖花東京歯科大学市川総合病院眼科角膜移植後の屈折異常は,患者の視機能やQOLを大きく障害する.とくに強い乱視や不同視の例では屈折矯正が重要である.縫合糸がある例では抜糸を行う.ハードコンタクトレンズ不耐症では,乱視矯正角膜切開やcompressionsutureを検討する.有水晶体眼では白内障手術によって改善でき,toricIOLによって乱視の軽減も可能になってきている.中等度までの近視であればLASIKも有用である.●はじめに角膜移植の成績は透明治癒で語られることが多いが,視機能も術後のQOLや満足度に大きく影響する.最近の角膜内皮移植の広がりからもわかるように,より良い術後視機能をめざした術式が選択されるようになってきており,情報伝達の発達により患者側の要求度も高くなっている.それでもなお,角膜移植後の屈折異常は避けられない合併症のひとつであり,さまざまな矯正方法が存在する.矯正目標が球面度数か円柱度数(乱視)か,あるいは両方か,僚眼とのバランスはどうかなどを考えて,矯正法を決定していく.●基本的な屈折矯正法縫合糸の抜糸は基本的な屈折矯正法である.端々縫合眼で局所的な強い乱視が生じている場合は,該当する縫合糸を除去する(選択抜糸).連続縫合では,術後早期に縫合糸をたぐって乱視を調整する1).遠視性乱視になっている場合は,全抜糸により移植片がややスティープになることで近視化が得られることがあるが,逆に乱視が強くなることもあるため,術前のトポグラフィーをよく検討することが重要である.ハードコンタクトレンズ(HCL)は古典的な矯正方法で,乱視矯正効果が強く,強度遠視以外は球面度数の矯正も行える.ただし,視力検査上は良好な視力が得られても,実際に処方に至る例は少ないように思う.コンタクトレンズが初めてという高齢者では,まず無理である.円錐角膜では,もともとHCL不耐症ということも多く,好まれないうえに,裸眼視力獲得への希望も強い.装用希望例で異物感による装用困難があれば,ソフトコンタクトレンズとのピギーバック法でうまくいくことがある.●乱視の矯正法強い乱視の場合は,乱視矯正角膜切開(astigmatickeratotomy:AK)やcompressionsutureが行われる.AKは比較的対称性の強い乱視に有効で,トポグラフィー上の強主径線方向に輪部と平行に角膜実質の減張切開を加えるものである.瞳孔領に近く,かつ切開深度が深いほど矯正効果は強いが,基本的にはマニュアル操作となるため,予測性には不確実性が残る.最近はフェムトセカンドレーザーを用いたAKが行われるようになっているが,切開方法にはまだ議論の余地があるようである2).Compressionsutureは逆に,弱主径線方向に端々縫合を行う方法である.AKもcompressionsutureも,予測した矯正効果を得るためには術中にマイヤー像を確認しながら行うことが必須である.ケラトリングRが一般的だが,筆者の施設では顕微鏡に着脱できるネビアスライトRを用いている(図1).LED赤色光によるマイヤー像を角膜上に投影しながら,手術を行うことができる.●角膜移植後の白内障手術乱視もさることながら,球面度数の異常値も術後の視機能を大きく障害する.角膜移植後の白内障手術は,球面度数を矯正する絶好の機会である.とくに強い遠視や近視のために不同視を生じている例では,適切な眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数を選択することで大きく矯正できる.移植眼ではしばしばK値が安定して測定できないことがあり,IOL度数決定計算式もさまざまなものが報告されている.オートレフケラトメータ以外に前眼部OCTから計測されるK値や,僚眼が健常眼であればそのK値などを参考に,複数の計測結果を用いて狙いから大きくはずれないような度数を選択する.近年,乱視が強い場合はtoricIOLが選択されるようになっている3).●近視と遠視の矯正法近視に対してはLASIKも有効である.乱視が比較的強い例にはwavefront-guidedLASIKやtopographyguidedLASIKの有用性が報告されている4).良好な矯正効果を得るには,他覚的レフラクトメータの値と最高眼鏡矯正視力が得られる屈折値が一致し,それらの円柱度数および強弱主径線がトポグラフィーと一致することが重要である.図2は円錐角膜に対して全層角膜移植を行った若年女性の移植後のトポグラフィーである.全抜糸後でも視力は(0.9×S?6.0D(C?2.00DAx150°)と近視性乱視を示した.裸眼視力改善を目的にtopography-guidedLASIKを行い,1.0(1.0×S+0.75D(C?1.50DAx145°)に改善した.手術後のトポグラフィーと前眼部写真を示す(図3,4).角膜移植後のLASIKでは,照射野は通常移植片サイズより大きいため,ホスト?レシピエント接合部は問題にならない.抜糸が終わっており,接合部に段差がなく,角膜厚と角膜内皮細胞密度が十分あることが条件である.遠視は,残念ながらいい矯正方法がない.移植の際に,適切なドナーサイズを選択する,縫合を強すぎないようにする,白内障同時手術例ではIOLの度数を遠視にならないように(迷ったら近視側へ)選択するなどの対応が重要である.文献1)ShimazakiJ,ShimmuraS,TsubotaK:Intraoperativeversuspostoperativesutureadjustmentafterpenetratingkeratoplasty.Cornea17:590-594,19982)StClairRM,SharmaA,HuangDetal:Developmentofanomogramforfemtosecondlaserastigmatickeratotomyforastigmatismafterkeratoplasty.JCataractRefractSurg42:556-562,20163)WadeM,SteinertRF,GargSetal:Resultsoftoricintraocularlensesforpost-penetratingkeratoplastyastigmatism.Ophthalmology121:771-777,20144)KuryanJ,ChannaP:Refractivesurgeryaftercornealtransplant.CurrOpinOphthalmol21:259-264,2010図1顕微鏡に装着したネビアスライト赤色LEDが角膜上に投影される.(69)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161455図2円錐角膜に対する全層角膜移植後のトポグラフィー強い乱視を認める.図3図2症例に対するLASIK後のトポグラフィー図4図2症例の前眼部矢印がLASIKのフラップマージンである.(70)