眼軸長の疫学調査AxialLengthDistributioninMajorCohortStudies三宅正裕*中西秀雄*はじめに近視は世界的にも公衆衛生上の問題となっており,近視の疫学調査はこれまでも多数報告されている.これらのうちの多くは屈折値と,屈折値によって定義された近視の頻度に関する調査であり,ここ20年でとくにアジア地域において近視が増加していることが報告されている.強度の近視に関連した網脈絡膜萎縮が失明につながることは知られているが,近視による失明には,屈折値よりもむしろ眼球形状が関連することが指摘されている.長眼軸のような眼球形状異常は通常,近視性屈折異常を伴うため,近視性屈折異常と失明が相関しているというこれまでの知見は正しいが,屈折値は眼球形状以外にも水晶体や角膜の屈折などさまざまなパラメータの影響を受けてある程度代償されることから,屈折値が強くなくとも眼球形状に異常があることもある.逆に,たとえば核白内障の影響により屈折値が強くても眼球形状に異常がないこともある.その観点から,近視による病的状態を考えるうえでは,屈折値もさることながら,眼軸長について検討することが重要である.I成人の眼軸長これまでのおもなpopulation-basedstudyのうち,眼軸長について報告されているものを一覧にした(表1).BlueMountainEyeStudyやBeaverdamEyeStudyなど伝統的なコホートスタディも含まれるが,眼軸長について報告された年は比較的最近であることがわかる.また,現在多数の眼科コホートを擁して積極的に疫学研究を進めているシンガポールは,年齢・性別で層別化した眼軸長を2001年に報告しており(TanjongPagarSurvey),先見性の高さがうかがわれる(なお,当該論文の筆頭著者は若かりし頃のTienYinWong教授である).これまでの報告では,眼軸長は眼球生体特徴(ocularbiometry)の一つとして前房深度,水晶体厚,角膜曲率などのパラメータとセットで報告されることが一般的であるが,その先鞭をつけたのが,この報告であった.どのようなパラメータが眼軸長と同時に報告されているかを表2にまとめた.前房深度と角膜曲率(または角膜屈折力)は,ほとんどのコホートで眼軸長と同時に報告されていることがわかる.これらのパラメータは,眼軸長と同様に眼球の大きさの影響を受けやすいパラメータであることから,眼軸長と同時に報告することで眼球の特徴を表現しようとしているものと思われる.一方で,水晶体厚や硝子体腔厚は,初期の研究では同時に報告されているものの,最近の研究ではあまり報告されていない.初期の研究では水晶体の核硬化度や屈折値も合わせて報告されていることが多いことも勘案すると,研究対象としての眼軸長は,屈折異常を引き起こす要因としての位置づけから,眼球の大きさと関連するパラメータとしての位置づけに変遷していったことが推察される.また,多変量回帰のみを実施した報告を除けば,ほぼすべての報告において年齢・性別による層別化解析が*MasahiroMiyake&*HideoNakanishi:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕三宅正裕:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54第2臨床研究棟8階京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(11)1349表1眼軸長について報告されているおもなPopulation.basedstudy1CTanjongPagarSurveyシンガポールC2001InvestOphthalmolVisSci42:7C3-80,2001C2CMongolianStudyモンゴルC2004InvestOphthalmolVisSci45:7C76-783,2004C3CLosAngelesLatinoEyeStudy米国C2005InvestOphthalmolVisSci46:C4450-4460,2005C4CReykjavikStudyアイスランドC2005ActaOphthalmolScand83:7C34-738,2005C5CMeiktilaEyeStudyミャンマーC2008BrJOphthalmol92:1C591-1594,2008C6CBeaverdamEyeStudy米国C2009CArchOphthalmol127(1):8C8-93,2009C7CLiwanEyeStudy中国C2009InvestOphthalmolVisSci50:C5130-5136,2009C8CEPIC-NorfolkEyeStudy欧州全域C2010BrJOphthalmol94:8C27-830,2010C9CCentralIndiaEyeandMedicalStudyインドC2010Ophthalmology117:1C360-1366,2010C10CBlueMountainsEyeStudyオーストラリアC2010Ophthalmology117:4C17-423,2010C11CSingaporeMalayEyeStudyシンガポールC2010InvestOphthalmolVisSci51:1C03-109,2010C12CSingaporeIndianEyeStudyシンガポールC2011InvestOphthalmolVisSci52:C6636-6642,2011C13CBeijingEyeStudy中国C2012PLoSOne7:eC43172,2012C14CShahroudEyeCohortStudyイランC2012BMCOphthalmology12:5C0,2012表2各コホートで眼軸長と同時に報告されている眼球生体特徴(No.1~14は表C1に対応)C1○○○C○/─C○C○C─年齢・性別C2C○C○C○C─/○C─C○眼軸長左右差年齢・性別C3○○○C─/○C○C○C─年齢・性別C視神経乳頭径・4C○C○C─C○/─C─C─面積年齢・性別身長との単変量回帰C5○○○C○/─C○C○C─年齢・性別C年齢・性別,6○──C○/─C─C─C─身長,教育歴C7○○─C─/○C─C○C─年齢・性別C年齢・性別・身長・体重・教育歴8○─C─C─/─C─C○C─年齢・性別で多変量回帰C各種眼球生体特徴,年齢,性別,9C─C─C─C─/─C─C─C──身長,体重,教育歴,収入等との単変量/多変量回帰C10C○C─C─C─/○C─C○角膜径(WTW)年齢・性別C年齢・性別,年齢・性別・身長・体重・教育11C○C─C─C○/─C─C─C─身長・体重・BMI,歴・近見作業時間・喫煙歴・糖尿教育歴,他多数病の有無で多変量回帰C眼軸長/角膜年齢・性別,12○C─C─C○/─C─C─曲率半径比水晶体硬化度C各種眼球生体特徴,年齢,性別,13C─C─C─C─/─C─C─C──身長,体重,教育歴等との単変量/多変量回帰C年齢・性別・身長・体重・教育歴14C○C○C○C─/─C─C─C─年齢,性別との単変量/多変量回帰表3年齢および性別で層別化した眼軸長分布(No.1~14は表C1に対応)CNo男性女性40~45~50~55~60~65~70~75~80~85~40~45~50~55~60~65~70~75~80~85~C1C23.80±1.20C23.54±1.19C23.37±1.13C23.38±0.85C23.40±1.37C23.01±1.16C22.73±1.03C22.66±0.75C2C23.4±1.3C23.3±0.8C23.5±1.0C23.6±0.9C23.0±1.3C23.1±1.1C23.2±1.1C23.1±1.2C3C23.7±1.0C23.6±0.8C23.6±0.9C23.5±0.9C23.7±0.9C23.2±1.1C23.2±0.9C23.1±1.0C23.1±0.9C22.9±0.9C4C23.89±1.09C23.61±0.96C23.60±1.09C23.26±0.99C23.25±1.03C23.04±0.98C5C23.17±0.79C23.14±1.11C23.06±1.00C23.00±1.01C22.57±0.85C22.51±0.74C22.54±0.88C22.52±0.79C6C24.06±1.06C23.88±1.14C23.83±1.08C23.69±1.25C23.49±1.21C23.37±1.02C7C23.37C23.41C23.31C23.65C22.83C22.87C22.79C22.98C8C23.94±1.14C23.84±1.18C23.72±1.16C23.64±1.11C23.47±1.18C23.34±1.21C23.10±1.05C23.19±1.03C910*C23.88±0.09C23.68±0.05C23.81±0.08C23.63±0.28C23.37±0.12C23.25±0.06C23.08±0.06C23.03±0.1511*C23.88±0.05C23.83±0.05C23.69±0.06C23.58±0.05C23.66±0.06C23.36±0.05C23.12±0.05C23.36±0.03C12C23.71±1.01C23.72±1.07C23.68±1.19C23.36±0.70C23.36±1.12C23.28±1.18C22.99±0.96C23.09±1.2513†C23.25±1.1414†C23.24C23.16C23.16C23.16C23.04眼軸長の単位はmm,平均C±標準偏差で表記.*については平均±標準誤差で表記†については男女合わせた値を男性欄に表記.眼球全体の拡大眼球の縦方向の拡大図1眼軸長伸長がみられる場合の2つのパターン新生児C1,163人のうち,生後C5~17日にCMRIを撮像し,T2強調画像が良好に描出できた正期産児C173人を対象とし,出生児のC3D眼球形状や眼軸長とC3年後の屈折・眼軸長との相関を調べた1).新生児の眼軸長は右眼C17.06±0.78Cmm,左眼C17.48C±0.87Cmmで,3年後には右眼C21.73C±0.69mm,左眼C21.74C±0.68mmになったと報告されている.また,もともと眼軸長が長い,眼球が大きい,眼球形状が長軸方向に楕円形といった眼球ほど,3年間での眼軸長伸長が有意に少ないことが報告されている.3年間での眼軸伸長はC4.47C±0.97Cmmで,3年後の等価球面度数はC0.91C±0.80Dだったという.C2.3.6歳の眼軸長に関する研究2012年に中国の八つの幼稚園を対象に実施された横断研究CShenzhenKindergartenEyeStudy2)では,対象となったC3~6歳の幼稚園児C1,764人のうち,71.1%であるC1,133人が同意し,調節麻痺下屈折検査が施行できたC1,127人が研究に参加した.平均眼軸長は,3歳児C22.19C±0.65Cmm,4歳児C22.27C±0.68Cmm,5歳児C22.51C±0.68Cmm,6歳児C22.63C±0.63mmであったが,角膜曲率半径の平均値はC3~6歳児に統計学的な有意差はみられなかった.前房深度はC3歳児のC3.26C±0.25mmからC6歳児のC3.37C±0.24mmまで年齢が上がるごとに増加し,同様に,等価球面度数はC3歳児のC1.49C±0.64DからC6歳児のC1.23C±0.85Dまで,年齢が上がるごとに減少した.C3.6.12歳の眼軸長に関する研究CorrectionofMyopiaEvaluationTrial(COMET)は,四つのセンターの合計C469人の近視(C-1.25D~C-4.5D)の小児をリクルートして単焦点眼鏡と累進焦点眼鏡の近視抑制効果を比較した前向きランダム化比較試験である3).当該コホートではベースラインからC14年間の追跡がなされており,本論文ではそのデータが報告されている.ベースラインでは平均C9.3C±1.3歳で眼軸長C24.14C±0.72Cmm(等価球面度数C-2.38±0.81D)であったものが,平均C24.1C±1.3歳時点でC25.4C±1.01Cmm(等価球面度数-5.17±2.02D)となっている.4.6.14歳の眼軸長に関する研究CollaborativeCLongitudinalCEvaluationCofCEthnicityandCRefractiveCError(CLEERE)Study4)は,小児の近視発症に影響を与える因子を解明するために,OrindaLongitudinalStudyofMyopia(OLSM)の拡張として新たにリクルート施設を増やして行われた研究である.1995年からC2003年の間に,6~14歳の子供C4,292人が登録され,フォローされた.このうち,フォロー期間中に遠視から近視に変わったC605人(近視化群)と,期間中ずっと正視であったC374人(正視群)が本論文の解析対象となっている.これによると,いずれの群も初期の眼軸長はC22.7Cmm程度であったところ,正視群では年間C0.10Cmm程度のほぼ一律の眼軸長伸長であったのに対して,近視化群ではC0.23Cmm程度の眼軸長伸長を認めていた.C5.11.15歳の眼軸長に関する研究SydneyMyopiaStudy5)では,ランダムに選ばれたシドニーのC21の中学校で調査を行い,75.3%にあたる2,353人をリクルートした研究である.年齢幅はC11.1~14.4歳(平均C12.7歳)で,平均眼軸長は全体でC23.38C±0.85Cmmであった.また,人種別にみた場合,白人系はC23.23±0.75Cmm,東アジア系はC23.86C±1.07Cmm,南アジア系はC23.65C±0.94mm,中東系はC23.39C±0.70と,白人に比してその他の人種は眼軸長が有意に長かった.体格については記載がないが,白人のC4.6%に対してアジア人ではC30%以上に近視がみられており,これが眼軸長の長さと関係していると考えられる.おわりに眼軸長について種々の報告をまとめた.単なる眼軸長の数値だけでは眼球そのものが大きいのかそれとも近視が強いのかを判別することはできず,十分でない.とくに人種を越えての議論をするのであれば,眼軸長のみならず,他の眼球生体特徴とのバランスを適切に評価することが重要であろう.手法としては,身長で補正するという方法もあれば,近年は眼軸長/角膜曲率半径比というパラメータも用いられている.いずれにせよ異常長眼軸眼は異常屈折眼よりも失明に至る近視性黄斑症を有す(15)Cあたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C1353-