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硝子体手術のワンポイントアドバイス69.角膜移植後の網膜剥離(中級編)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092190910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめに角膜移植の術後合併症には,拒絶反応,graftfailure,角膜感染症,続発緑内障,胞様黄斑浮腫などが報告されているが,裂孔原性網膜離も2~5%に発症するとされており,術後合併症の一つとして留意しておく必要がある.膜移植後の網膜離発症の危険因子角膜移植術後に発症する網膜離の危険因子として,手術時に併施する水晶体切除,前部硝子体切除などがあり,有水晶体眼の角膜移植後に網膜離が生じることはまれとされている.つまり通常の白内障手術と同様の機序で網膜離の発症リスクが高くなり,それに角膜移植術自体の侵襲が加わって眼内炎症が遷延化し,二次的に硝子体の変性収縮を惹起する可能性が考えられる.もちろん強度近視,網膜格子状変性巣を有する症例では発症のリスクが高くなる.角膜移植後の網膜離に対する網膜硝子体手術角膜移植眼の網膜離の手術成績は他の網膜離に比(81)較して一般に不良とされている.その理由として,角膜浮腫や混濁,移植片と宿主角膜の境界部に残存する輪状混濁などのため眼底の視認性が不良となり(図1),裂孔検出率が低いことがあげられる1).もともと視力不良例では自覚症状に乏しく,すでに網膜全離や増殖硝子体網膜症に進行している症例が多いことも復位率が低い原因と考えられる.網膜硝子体手術の施行に際しては,眼底の視認性を十分に確保することが大切である.散瞳不良例に対する瞳孔拡張術,残存水晶体皮質の処理による眼底周辺部の視認性確保などが特に重要であるが,手術眼の屈折状態(強度近視の有無など)や僚眼の眼底から得られる種々の情報(硝子体変性や網膜格子状変性巣の有無)を必ず把握し,どのようなタイプの網膜離が生じているのかを予め予測しておく必要がある.また,網膜硝子体手術時に使用するタンポナーデ物質の角膜内皮障害や術後炎症により惹起される拒絶反応を最小限に抑える必要がある.特に無水晶体眼ではタンポナーデ物質が直接角膜内皮に影響を与えるので拒絶反応が生じやすい(図2).このような拒絶反応のハイリスク例では,術前からステロイドやシクロスポリンの内服を行い,可能なかぎり予防に努める必要がある2).文献1)川崎諭,池田恒彦,西田幸二ほか:全層角膜移植後の網膜離.臨眼52:1723-1727,19982)前田直之,細谷比左志,池田恒彦ほか:ハイリスク角膜移植に対するシクロスポリン内服の効果.臨眼46:1071-1076,1992硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載69角膜移植後の網膜離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科←図1自験例の細隙灯顕微鏡所見角膜移植片と宿主角膜の境界は混濁しており,眼底周辺部の観察が困難であった.→図2術前眼底写真胞状の網膜離が黄斑部に進行している.無水晶体眼で硝子体脱出の既往があるため網膜離の進行は速かった.強膜バックリング手術とガスタンポナーデで復位が得られた.

眼科医のための先端医療98.眼から全身疾患への治療応用について

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092150910-1810/09/\100/頁/JCLS近年,眼科領域でのトピックスの一つに血管新生抑制があります.このコンセプトは昨年(2008)逝去されたChildren’sHospitalBoston,VascularBiologyGroupの故JudahFolkman教授がVPF(vascularper-meabilityfactor)=VEGF(vascularendotheliumgrowthfactor)を抑制することで癌細胞への血液供給を低下させることから癌細胞の発育が抑制され,同時に血管播種も抑制されることがわかり,研究が進められてきたものです.近年,このような全身疾患,特に癌治療で使用されている薬剤が眼科領域の血管新生に応用されています.血管新生とその血管からの漏出現象により視力低下をきたす加齢黄斑変性症へは大腸癌治療薬であるLucentisR(ranibizumab),AvastinR(bevacizumab)が使用され,現在では高い治療効果が期待できる薬剤の一つとして各大学・病院倫理委員会の承認を得て用いられています(LucentisRは近々,黄斑変性症の臨床へ使用できるようになります).また,加齢黄斑変性症に眼科領域の実験で開発されたMacugenR(pegaptanib)は,単独投与と同時に今後PDT(photodynamictherapy)との併用でいっそうの効果が望まれる薬剤としても期待されています.さらに,角膜においても角膜血管新生に対してAvastinRが使用され,いくつかの報告がみられます.角膜における血管新生抑制薬としてAvastinRのほかにVEGF-TRAPが動物実験において高い拒絶反応抑制効果が確認されており,すでに欧米では臨床応用に用いられる一歩手前まできています.この薬剤も元来は癌治療への応用で研究・開発されたものでありますが,やはり眼科領域から全身疾患への治療応用についてはほとんど報告されていません.最近になりようやく血管新生ではありませんが,血管新生に類似したメカニズムであるリンパ管新生にKentucky大学のグループが眼の前房水中にあるリンパ管抑制因子を発見し,リンパ管新生を抑制し癌のリンパ管転移を抑制することへの応用を試みています(ARVO2008).このように治療の分野においては眼から発見された知見が全身に応用されることが少ないことがわかります.眼において発見された現象が他の臓器や組織で確認されることも少ないのが実状です.そこで今回,眼においてその現象が発見され他臓器・組織で応用される可能性のある治療法などについて自検例をもとに述べたいと思います.角膜という無血管・リンパ管組織を実験に使用するのはなぜか?角膜には血管・リンパ管はんなぜ角膜に血管リンパ管ていないかについてはいつかのの組ののをていす角膜にはの血管新生でる角膜皮にから角膜にけてるうにているとというのリンでるとに血管・リンパ管をているというすかののと考えらす角膜傷・・疾患において角膜に血管てるとはの実ですに眼ではるとでんリンパ管てるとかていす角膜に生するリンパ管はにを状なリンパにとてらていすのリンパ管をするとで状のリンパへのをリンパでのを角膜の応るとていすにらリンパをするのとうにをでないうにするですはのうなの状態では無血管・リンパ管でのに血管・リンパ管新生するという角膜組織を用するとで使用する血管・リンパ管新生のをつかです眼は全身疾患をするとの実でのうなをとなけ全身疾患への治療応用を考えるとですとえつにる糖尿病下です糖尿病状態での角膜血管・リンパ管新生についてらは糖尿病下の角膜において血管・リンパ管新生生にいとをのとは全身の・組織にするマの◆シリーズ第98回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊丸山和一(京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学)眼から全身疾患への治療応用について———————————————————————-Page2216あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009が低下しており,血管・リンパ管などの創傷治癒過程に関連する現象が正確に誘導されていないために起こることを突き止めました.マクロファージは元来,炎症期にTNF(腫瘍壊死因子)-aなどの炎症性サイトカインを分泌し炎症部位へのさらなる炎症細胞の浸潤を促進させることや,VEGFを産生し血管・リンパ管を誘導する機能をもっています.しかし,糖尿病の特徴である高血糖環境がその機能を抑制する原因の一つであることが判明しています.特に筆者らは,マクロファージのもつVEGFレセプター-1,-3の発現やマクロファージが産生するであろうVEGF-A,-Cの発現を確認したところ,その発現は高血糖により減少していたことを突き止めました.このため,血管やリンパ管を誘導するサイトカインが存在していたとしても,それを受け取るレセプターがなく存在自体が意味のない細胞が局所に集合することになります.そのため,角膜に縫合をし,炎症を誘導する実験系では血管・リンパ管誘導がⅡ型糖尿病マウスモデルで起こりにくいことがわかりました.糖尿病状態における創傷治癒過程の回復のは角膜けでな皮膚でら皮膚創傷治癒するとからは創傷のマのを回復創傷にリンパ管を組織のをら創傷治癒をるというンを実験は糖尿病マウスのを回のをなでてマへを血糖な下において実験に使用実糖尿病の創傷はているのの創傷治癒過程になのはておらないている創傷治癒過程にをていすのらはのをている創傷治癒過程をからでないかと考え創傷治癒過程には創傷へののでにいをすとで創傷治癒過程回復でるのではないかと考えにのは糖尿病ではにとするとないとらの〔d7〕〔d7〕*p=0.02Saline修復エリア(%)db/dbM?db/dbM?(IL-1b)db/+M?Salinedb/dbM?untreateddb/dbM?IL-1b-treateddb/+M?*図1糖尿病マウスにおける皮膚創傷治癒過程(細胞治療による創傷治癒の促進について)写真は糖尿病マウス背中に傷を作製し,その周囲に細胞・生理食塩水を投与したもの(d7:術後7日目,saline:生理食塩水のみ注入,db/dbMountreated:糖尿病マウスマクロファージを投与,db/dbMoIL-1btreatedMo:糖尿病マウスマクロファージをIL-1b刺激した細胞を投与,db/+Mo:ヘテロマウスマクロファージを投与).グラフは術後7日目の創傷治癒面積(範囲が広いほど傷の治りが速いことを意味する).(文献5より抜粋)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009217究から判明しています.このことより,急性期の炎症とそれに伴う適切な細胞導入を試みました.方法は,先ほど述べた骨髄から採取した何も外からの刺激を入れていないマクロファージをⅡ型糖尿病マウスの皮膚欠損部位に注射したところ,創傷治癒過程が促進し,実際に傷は治癒しましたが,劇的なものではありませんでした.しかし,炎症刺激を加えたマクロファージを投与したところ劇的に創傷治癒過程が促進しました(図1).このことより,糖尿病環境下の創傷治癒過程には外からの急性炎症を誘導することが大事であることが判明しました.この急性炎症の誘導にはサイトカインだけでは不十分で,マクロファージなどの細胞成分が必ず必要であることも付け加えておきます.眼から全身疾患の治療を考えるのうに眼でとを実に全身疾患へ応用すると眼のなら全身疾患の治療にすると考えていすらのンはマリンパ管にするというのンを用治療でとのを考えなをるとをとていす文献1)AmbatiBK,NozakiM,SinghNetal:Cornealavasculari-tyisduetosolubleVEGFreceptor-1.Nature443:993-997,20062)CursiefenC,ChenL,Saint-GeniezMetal:NonvascularVEGFreceptor3expressionbycornealepitheliummain-tainsavascularityandvision.ProcNatlAcadSciUSA103:11405-11410,20063)CursiefenC,CaoJ,ChenLetal:Inhibitionofhemangio-genesisandlymphangiogenesisafternormal-riskcornealtransplantationbyneutralizingVEGFpromotesgraftsur-vival.InvestOphthalmolVisSci45:2666-2673,20044)YamagamiS,DanaMR:Thecriticalroleoflymphnodesincornealalloimmunizationandgraftrejection.InvestOphthalmolVisSci42:1293-1298,20015)MaruyamaK,AsaiJ,IiMetal:Decreasedmacrophagenumberandactivationleadtoreducedlymphaticvesselformationandcontributetoimpaireddiabeticwoundheal-ing.AmJPathol170:1178-1191,20076)MaruyamaK,IiM,CursiefenCetal:Inammation-inducedlymphangiogenesisinthecorneaarisesfromCD11b-positivemacrophages.JClinInvest115:2363-2372,2005(79)「眼から全身疾患への治療応用について」を読んで生のをするにの生ではの「」のをなるかのうにをて生らには生のをてでの生のでるうになの「」にはかておすンにかをていになのにからいな生全の生をとらえるのはてですの生のではからは生のとなるとえス創傷治癒血管新生リンパ管新生なをのとて疾患の病態生をするというえすではす回の丸山和一生ののするとは生全ではんにのな一をて生ののとての病態を生のをるとにうというのです丸山生はマリンパ管にするというンをておす組織応のににするマをととていですて文にておらすのうなな生は全身にするでると眼におけるい全身ののの病態に応用るとのリいと考えすウンスをするのに生をから生生のでにするとにえてでのとて疾患の病態生のをするとでののはすすていでう眼ていはのうなでをリでる実をておをリでると考えす丸山生のをリると考えす山病態山下英俊

サプリメントサイエンス:脂溶性ビタミン(ビタミンA,ビタミンE)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092110910-1810/09/\100/頁/JCLSビタミンは便宜上,油にとける脂溶性ビタミンと水にとける水溶性ビタミンに分けられる.脂溶性ビタミンは,A,D,E,Kの4種類である.これらのビタミンはそれぞれ生命活動の維持に必要な作用を担っており,そうした作用は「生理作用」または「栄養素作用」とよばれている.ビタミンの生理作用が十分に得られないと,体に欠乏症が生じるが,そうならないために1日に最低必要なビタミン摂取量が「最低必要量」とされている.さらに,この最低必要量に安全性を見積もって2割前後の上乗せをした量が,または飽和量がそのビタミンの「1日所要量」とされている.ところが,最近,1日所要量の3100倍という大量のビタミンを摂取しつづけると,生理作用にとどまらない効果を示すことが期待され,こうしたビタミンの「薬理作用」あるいは「疾病予防作用」が期待されている現状が生まれつつある.しかし,気をつけたいのはビタミンのとりすぎによる過剰症である.本稿では,脂溶性ビタミンのなかでもビタミンAとビタミンEに焦点をあて,解説する.ビタミンA構造式:化学名レチノールとよばれ,構造が少し異なるレチナール,レチノイン酸などの形でも存在しており,これらのビタミンA類縁体をレチノイドと総称している(図1).薬理作用・生理作用:bカロテンが体内で分解・代謝されてビタミンAとなる.ビタミンAは眼球の網膜上にある視細胞のうち,薄明視に重要な桿状体細胞において,桿体オプシンとリジン残基を介して結合し,ロドプシンとなる.ロドプシンは視色素とよばれる一群の物質の一つで,視細胞における光による興奮の情報伝達に重要な作用をしている.さらに,ビタミンAは,皮膚や粘膜などの外界に接する上皮細胞に機能し,生体防御反応を修飾する作用もある.ビタミンAの薬理作用には,発癌抑制作用が最も注目されている.ビタミンAの癌抑制作用は確認されているものの,摂取により過剰症を起こす危険があり,最近ではビタミンAに変わってカロテノイドが注目されている.カロテノイドは自然界には500種類以上が知られている橙色や黄色の色素で,このなかで約30種類は体内でレチノイドに変化するプロビタミンAとしての活性がある.その代表はbカロチンであるが,喫煙者を対象とした臨床試験により肺癌が増加したことで有名になり,bカロテン単剤,あるいはbカロテンを含むビタミン剤は,癌や心血管疾患の予防目的では摂取すべきでないと勧告されている.やはり,bカロテンの摂取は野菜や果実から摂取するのが基(73)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑨監修=坪田一男9.脂溶性ビタミン(ビタミンA,ビタミンE)内藤裕二吉川敏一京都府立医科大学消化器内科学消化器先進医療開発講座脂溶性ビタミンは,A,D,E,Kの4種類である.最近,ビタミンの「薬理作用」あるいは「疾病予防作用」が期待され,特に生活習慣病に対する予防効果が注目されている.動物実験では有用性を示唆する報告も多いが,ヒトを対象とした試験によるエビデンスは十分ではない.ビタミンAとビタミンEについて基礎的事項ならびに最近の話題について解説した9シスレチノイン酸オールトランスレチノール(ビタミンA)オールトランスレチナールオールトランスレチノイン酸CHCHCHCHCH2H13シスレチノイン酸図1代表的なレチノイドの構造式———————————————————————-Page2212あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009本である.1日必要量:単位としては,国際単位(IU)を用い,レチノール0.3μgRE(レチノール当量)を1IUとしている.bカロテンの場合には,生体内におけるレチノールへの変換の収率が質量比で1/2であり,消化吸収率がレチノールの1/3になるため,bカロテン6μgがレチノール1μgに相当する.ビタミンAの1日所要量は成人男性で2,000IU,女性で1,800IUと設定されている.許容上限摂取量は成人で5,000IU.ビタミンAを多く含む食品:ビタミンAは動物性食品からはレチニルエステルとして,植物性食品からはカロテノイド(特にbカロテン)として摂取される.1日に2,000IU(600μgRE)の摂取が必要と考えると,動物性レチノールを300μgと植物性bカロテンを1,800μg摂取することが勧められている.具体的には表1にレチノール300μgREを含む食品を示した.眼科的に必要量:レチノールの血中濃度は通常0.5μg/ml程度であり,0.3μg/mlをきるとビタミンA欠乏症状としての夜盲症に注意が必要である.食事からの摂取以上にサプリメントとしての過剰摂取の必要性はなく,科学的根拠もない.サプリメントとして摂取すべきかのエビデンスレベル:B(血中濃度が低いなどリスクのある人は摂取すべき)ビタミンE構造式:トコフェロール(Tocopherol)の「Tocos」はギリシャ語で“子供を産む”という意味があり,「Phero」は“力を与える”という意味がある.ビタミンE同族体として自然界に存在するものには,トコフェロール4種とトコトリエノール4種の合計8種類がある(74)(図2).これらのビタミンEは,穀物,緑葉植物,海藻類,野菜,植物油,魚類,肉類など自然界に広く分布するも,その生物活性(効力)はそれぞれ異なり,a-トコフェロールを100とすると,b-トコフェロール3050,g-トコフェロール10,d-トコフェロール2以下で,トコトリエノール類は,トコフェロール類に比べ低いことが知られている.薬理作用・生理作用:ビタミンEのおもな生理作用は活性酸素による細胞の酸化障害を抑制する抗酸化作用である.癌,心臓病,脳卒中,動脈硬化,糖尿病,白内障などのさまざまな生活習慣病の発症・進展に活性酸素の関与が明らかとなり,ビタミンEはその酸化を抑制する作用が強く,これら疾病の予防効果が期待され,現在多くの臨床試験が行われている.ビタミンEはその強い抗酸化作用から,酸化ストレスの軽減,酸化LDL(低比重リポ蛋白)の生成抑制,脂質過酸化反応の抑制などにより,動脈硬化の発症・進展に抑制的に作用することが期待されている.さらに,最近では,抗酸化作用によらない,いわゆる“beyondantioxidant”作用についても注目が集まっている2).特にinvitroの検討では多くの知見が集積しているが,ヒトに対するビタミンE投与の介入試験では一致した結果が得られていない.ビタミンE投与量,吸収,代謝,細胞内移行性などを含めたさらなる検討が必要である.しかし,ビタミンEとb-カロテン併用による試験では前立腺癌の発生が有表1ビタミンAの1日推奨量(600μgRE)を動物性とbカロテンで50%ずつ摂取するための基準bカロテン(1,800μg=300μgRE)レチノール(300μg)ニンジン25g鶏レバー23gカボチャ50gあん肝34gホウレンソウ43g卵400gシュンギク40g牛乳800mlブロッコリー220gウナギかば焼き13gトマト330gシシャモ300gビワ220gホタルイカ20g温州ミカン180gノリ4g図2トコフェロールとトコトリエノールa-Tocopherol/TocotrienolCH3CH3CH3b-Tocopherol/TocotrienolCH3HCH3g-Tocopherol/TocotrienolHCH3CH3d-Tocopherol/TocotrienolHHCH3———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009213(75)意に少ないことが明らかとなり1),さらに血清のa-トコフェロールやg-トコフェロールの低値は前立腺癌のリスクファクターであることも明らかとなった2).トコフェロールとは側鎖に二重結合が2個多いトコトリエノールの作用が注目されはじめている(図1).両者の違いは十分には解明されていないが,最も大きな相違点はトコトリエノールは細胞を使用した実験においてきわめて低濃度で種々の作用を示す点である.nMオーダーでの細胞保護作用なども報告されており,種々のシグナル伝達抑制効果から中枢神経領域ではその作用解明が進んでいる3).臨床的には乳癌治療への応用,皮膚疾患治療薬への応用が期待されているが科学的証拠は十分ではない.トコトリエノールはパーム油などに高濃度に含まれており,今後の応用が期待される抗酸化剤であるが,その吸収,代謝,組織分布など十分には解明されていない点も多い.1日必要量:厚生労働省が策定した2005年版の食事摂取基準においては,a-トコフェロールのみの目安量(adequateintake:AI)および上限量(tolerableupperintakelevel:UL)を定めている.目安量は成人男性で9mg/day,女性で8mg/day,上限量は成人男性で800mg/day,女性で600mg/dayとなっている.一般的には成人ではビタミンE欠乏はみられない.ビタミンEは脂溶性ビタミンとしては毒性がきわめて低く,大量に摂取した場合でもその重篤な過剰症は報告されていない.ビタミンEを多く含む食品:植物油やナッツ類に多く含まれるが,1日の目安量8mgを摂取するためには,木綿豆腐56丁,アーモンド22粒,調合サラダ油49g,ホウレンソウ320g,カボチャ1/6個が必要である.健康増進を目的に300mg程度を摂取することは食品からは不可能である.眼科的に必要量:ビタミンEの抗酸化作用を考慮したときに最も期待される眼科疾患は白内障の予防である.最近の45歳以上の女性35,000人を対象とした観察研究では,食事とサプリメントの双方から最もビタミンEを摂取したグループでは白内障発症リスクが14%低かったことが報告されている4).しかし,ビタミンE(600IU)を投与した前向き二重盲検他施設比較試験では,平均9.7年間の臨床試験で有意な有効性は証明できていない5).摂取すべきかのエビデンスレベル:B(閉経後など白内障のリスクの高い人は摂取すべき)おわりに脂溶性ビタミンにはその欠乏症状からその存在が発見された.その後,それらの生活習慣病予防効果に対する有効性を示唆する基礎的検討結果とともに動物実験においてもその作用が確認されてきている.疫学調査では効果を期待する成績もあるが,臨床医学における高いエビデンスレベルでヒトにおける有効性が実証できた脂溶性サプリメントはない.文献1)VirtamoJ,PietinenP,HuttunenJKetal:Incidenceofcancerandmortalityfollowingalpha-tocopherolandbeta-carotenesupplementation:apostinterventionfollow-up.JAMA290:476-485,20032)WeinsteinSJ,WrightME,PietinenPetal:Serumalpha-tocopherolandgamma-tocopherolinrelationtoprostatecancerriskinaprospectivestudy.Incidenceofcancerandmortalityfollowingalpha-tocopherolandbeta-caro-tenesupplementation:apostinterventionfollow-up.JNatlCancerInst97:396-399,20053)SenCK,KhannaS,RoySetal:Molecularbasisofvita-minEaction.Tocotrienolpotentlyinhibitsglutamate-inducedpp60(c-Src)kinaseactivationanddeathofHT4neuronalcells.JBiolChem275:13049-13055,20004)ChristenWG,LiuS,GlynnRJetal:Dietarycarotenoids,vitaminsCandE,andriskofcataractinwomen:apro-spectivestudy.ArchOphthalmol126:102-109,20085)ChristenWG,GlynnRJ,ChewEYetal:VitaminEandage-relatedcataractinarandomizedtrialofwomen.Oph-thalmology115:822-829,2008☆☆☆

眼感染アレルギー:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌メカニズム

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092090910-1810/09/\100/頁/JCLSメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は,角膜潰瘍,眼内炎,眼窩蜂窩織炎などの起炎菌となるが,セフェム系以外にもアミノグリコシドやフルオロキノロンを含めた多くの薬剤に耐性であるため,治療に苦慮することがある.また,近年では病院内だけでなく市中にもMRSAが蔓延傾向にあり,米国ではUSA300という市中獲得型MRSAによる眼感染症が問題となっている1).色ブドウ球菌の鼻腔キャリアそもそもMRSAを含めた黄色ブドウ球菌はヒトの常在菌であり,鼻前庭,腋窩,会陰部などから分離されるが,そのなかでも鼻前庭が主たる常在部位と考えられている2).常在菌とはいっても,黄色ブドウ球菌はすべてのヒトに等しく常在しうるわけではない.健常者の鼻前庭の保菌についてはおおよそではあるが,20%がper-sistentcarrier(長期にわたり保菌しているもの),30%がintermittentcarrier(一時的に保菌しているもの),50%がnon-carrierといわれている.「鼻の保菌のしやすさ」は,このように一律ではないために宿主側の因子,菌側の因子,環境などの条件が組み合わさって決定されると考えられている.現在のところ,鼻粘膜の分泌物の性状の違い,宿主の免疫状態,細菌干渉(bacterialinterference)などの要因が報告されているが,黄色ブドウ球菌の保菌を決定づける因子の解明についてはさらなる研究が必要である.部と鼻腔の保菌の性眼科においては,Stevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などの瘢痕性角結膜疾患において,MRSAの保菌が患者の長期予後に大きな影響を与えうる.過去に京都府立医科大学附属病院眼科で分離されたMRSAの多くはこのような瘢痕性角結膜疾患からであった(図1).これらの患者から分離されたMRSAについてパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)による解析を行ったところ,同一患者の眼部から2年以上長期にわたって分離されたMRSAや,同一患者の鼻前庭と眼部から分離された(71)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑭監修=木下茂大橋裕一14.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌メカニズム星最智町田病院メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含めた黄色ブドウ球菌は,ヒトの常在菌であるが,ときとして眼感染症の起炎菌となる.黄色ブドウ球菌は鼻前庭に長期保菌していることが多く,眼部保菌の供給源となる可能性がある.易感染者で鼻腔MRSAキャリアに対して眼部手術を行う際は,術後感染症に注意が必要である.図1角膜潰瘍をくり返すStevensJohnson症候群の症例鼻前庭と結膜からMRSAが分離されている.ab2MRSA保菌患者のPFGEバンディングパターンa:Stevens-Johnson症候群.2001~2003年にかけて両眼からMRSAを分離.b:Stevens-Johnson症候群.2002~2003年にかけて眼部と鼻前庭からMRSAを分離.R:右眼,L:左眼,N:鼻前庭.———————————————————————-Page2210あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009MRSAは,それぞれ同一であることがわかった(図2).このことは,瘢痕性角結膜疾患などの易感染性宿主がいったん保菌すると完全に除菌することは困難であること,そして鼻前庭のpersistentcarrierは術後感染のリスクとなりえることを示している.Smallcolonyvariants黄色ブドウ球菌は宿主細胞に侵入して自らの代謝活性を抑え,いわば冬眠したような状態で長期間生存できることが知られている.このようなsubpopulationをsmallcolonyvariants(SCVs)とよぶ3).SCVsでいることで宿主の免疫から逃れ,なおかつアミノグリコシドなどの細胞内移行性の乏しい抗菌薬やセフェム系などの細胞壁合成を阻害する抗菌薬に耐性を示すことができると考えられている.瘢痕性角結膜疾患で,MRSA感染症の再発をくり返し経験することがあるが,これは眼表面のどこかにSCVsが存在しているからなのかもしれない.(72)まとめ健常人のおよそ20%は黄色ブドウ球菌キャリアであり,これは宿主と病原体の相互因子によって決定される.いまだ謎の多い保菌メカニズムを解明することで,ワクチンや新規薬物などによる新たな除菌方法が確立されれば,MRSA感染症を今以上にコントロールすることができるであろう.文献1)RutarT,ChambersHF,CrawfordJBetal:OphthalmicmanifestationofinfectionscausedbytheUSA300cloneofcommunity-associatedmethicillin-resistantStaphylococcusaureus.Ophthalmology113:1455-1462,20062)WertheimHF,MellesDC,VosMCetal:TheroleofnasalcarriageinStaphylococcusaureusinfection.LancetInfectDis5:751-762,20053)ProctorRA,KahlB,vonEiCetal:Staphylococcalsmallcolonyvariantshavenovelmechanismsforantibioticresistance.ClinInfectDis27(Suppl1):S68-S74,1998

緑内障:早発型発達緑内障(原発先天緑内障)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092070910-1810/09/\100/頁/JCLS早発型発達緑内障は以前では原発先天緑内障(prima-rycongenitalglaucoma)として分類されていたものであり,眼圧上昇の原因が隅角および線維柱帯の発達異常に限局した病型である1).房水流出路の発達異常が高度であればあるほど早期に発症することから,わが国の緑内障ガイドライン第2版で遅発型発達緑内障とは区別して定義された2).これら以外に,他の先天異常を伴う発達緑内障が定義されている.発症頻度は人種および地域により大きく異なり,石川らの報告3)では,わが国における先天緑内障(原発および続発を含めて)の発症頻度は3.4万人に1人で,そのなかで原発先天緑内障(早発型発達緑内障)は約60%であった.男児に多く,両眼性であることが多い.欧米では5,000人から22,000人に1人,中近東では2,500人に1人,スロバキアのジプシーではその発症頻度は高く1,250人に1人とされ,地域により発症頻度が異なる4).早発型発達緑内障の遺伝子異常としては,特にチトクロムP4501B1(CYP1B1)遺伝子の変異が発症に関与する5)とされており,大半が散在性である.受診の契機となる症状としては角膜混濁,角膜径拡大,流涙,羞明や瞬目回数が多いことなどである.診断や治療が遅れると恒久的な視機能障害を残すことになりかねないので,乳児や幼児の診察の際にはこれらの症状に特に注意を払う必要がある.覚醒下で行える検査は限られるが,まずは手持ち細隙灯顕微鏡,眼底検査,角膜径の測定を行い,角膜の浮腫と混濁,角膜径拡大,異常に深い前房,視神経乳頭陥凹の拡大と左右差の有無などに注意して観察する.眼圧は点眼麻酔下にPerkins圧平眼圧計,トノペンR,Schiotz眼圧計や近年発売されたi-careRなどのうち,なるべく複数を用いて測定するが,開瞼器をかけたときや蹄泣しているときは高値となりやすいため,隅角検査などと併せて睡眠下もしくは全身麻酔下に行わなくてはならない場合が多い.そして,これらの所見を総合的に検討して診断する必要がある.治療においては基本的には手術が必要であり,診断がつき次第なるべく早期に手術に踏みきる.術式としては隅角切開術もしくは線維柱帯切開術の選択となる.前者は角膜混濁が存在すると困難であり,後者は隅角の形成異常が強いとSchlemm管の同定が困難な場合があるため豊富な手術経験を必要とする.手術が奏効して十分な眼圧下降を得ることができれば,術前に存在した角膜混濁はすみやかに改善することが多い.再手術を考慮するのは,術後に高眼圧(特に20mmHg以上),角膜径や視神経乳頭陥凹のさらなる拡大や,手術前から存在していた角膜混濁が改善しないなどの所見を認め,薬物療法を行っても眼圧コントロールが困難な場合である.筆者らの施設では3回までは前述の術式を行い,無効な場合には濾過手術を選択しているが,術後管理においては成人の症例よりもさらに濾過胞感染に注意が必要である.また,他には毛様体破壊術やインプラント手術を行った報告6)があるが,重症例では視機能的な予後は厳しいといわざるをえない.術後管理においては長期にわたる眼圧測定のみならず,適切な視機能評価や弱視の予防と治療を行うことが肝要で,必要に応じて屈折矯正や視能訓練を行う.〔症例〕生後2カ月,男児.初診時主訴:右眼角膜混濁.既往歴:なし,正常分娩.家族歴:なし.現病歴:右眼が白いことに親が気付いて近医眼科を受診し,右眼角膜混濁,両眼角膜径拡大,両眼高眼圧を指摘されて三重大学眼科に紹介された.(69)●連載104緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也104.早発型発達緑内障(原発先天緑内障)福永崇樹宇治幸隆三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学隅角形成異常に基づく緑内障は緑内障ガイドライン第2版で発達緑内障と定義され,発症時期により早発型と遅発型に分類されている.早発型発達緑内障は比較的まれな疾患であるが,早期に適切な治療が行われなければ重篤な視機能障害を一生涯にわたって残す可能性が高いため,臨床上重要な疾患である.———————————————————————-Page2208あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009初診時所見:角膜横径は両眼13mmで,右眼に角膜混濁を認めた(図1).眼圧は右眼38mmHg,左眼33mmHgであった.経過:初診日より入院のうえ,翌日に両眼の線維柱帯切開術を施行した.術後眼圧は両眼ともに10mmHgから17mmHgで推移し,眼圧コントロールは良好であった.右眼の角膜混濁は術翌日から著明に改善したが,瞳孔領下方に線状の混濁(Haab’sstriae)が残存した.文献1)澤口昭一,中村優子:発達緑内障.あたらしい眼科22(別巻):53-57,2005(70)2)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌107:125-157,20033)石川伸子,白土城照,安達京ほか:先天緑内障全国調査結果(1993年度).あたらしい眼科13:601-604,19964)川瀬和秀:緑内障と遺伝子.あたらしい眼科22(別巻):53-57,20055)StoilovI,AkarsuAN,SarfaraziM:IdenticationofthreedierenttruncatingmutationsincytochromeP4501B1(CYP1B1)astheprincipalcauseofprimarycongenitalglaucoma[Buphthalmos]infamilieslinkedtotheGCL3Alocusonchromosome2p21.HumMolGenet6:641-647,19976)TanimotoSA,BrandtJD:Optionsinpediatricglaucomaafteranglesurgeryhasfailed.CurrOpinOphthalmol17:132-137,2006☆☆☆図1初診時の前眼部所見両眼ともに角膜横径13mmで,右眼には角膜混濁を認めた.右眼左眼

屈折矯正手術:カスタムLASIKにおける術中注意点

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092050910-1810/09/\100/頁/JCLSカスタムLASIK(laserinsitukeratomileusis)とはwavefront-guidedLASIK(WFGLASIK)やtopography-guidedLASIKを含み,手術手技は従来のLASIKと基本的には同様である.角膜フラップ作製後,角膜実質に,球面度数と乱視度数矯正に加え,術前に測定された全眼球または角膜前面の高次収差を打ち消すような切除プロフィールを作製してエキシマレーザーを照射するLASIKを意味する.わが国においてはカスタムLASIKのなかでもWFGLASIKが広く一般に普及している.術前球面度数,乱視度数,全眼球または角膜前面の高次収差測定,照射プロファイル作製に当たっては,複数回の測定にて測定値に変動がないことを確認する.ときに機械近視や調節により,術前波面収差測定ごとにその値が大きく変動する患者もいる(図1,2).そのような場合はシクロペントラート塩酸塩(サイプレジンR)点眼下の屈折度数を参考にしつつ,いずれの波面収差測定結果を採用するか決定しなければならない.また,矯正球面度数をノモグラムを活用して調整することも必要になる.WFGLASIKにおけるさらなる術中留意点を以下に記載する.射位置合わせ1.中心合わせ術前の高次収差を補正するには,波面収差測定中心とエキシマレーザー照射中心を厳密に一致させることが求められ,その許容誤差は約0.5mmといわれている1).中心合わせには角膜輪部と瞳孔縁を測定時と照射時にマッチングさせることにより照射中心を求めている.瞳孔中心は照明条件により最大(67)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載105監修=木下茂大橋裕一坪田一男105.カスタムLASIKにおける術中注意点江口秀一郎江口眼科病院カスタムLASIK(laserinsitukeratomileusis)を行う場合は,術前波面収差測定結果に変動がないことを確認するとともに,術中,エキシマレーザー照射時に照射プロファイルと患眼の中心合わせ,回旋補正を厳密に行うことが必要である.瞳孔縁や角膜輪部,虹彩紋理を指標として用いるアラインメント補正システムの適切な運用が良好な手術結果を得るために必要不可欠である.図2術前波面収差測定結果(2回目;初回と比べ,機械近視減少により屈折度数,収差分布が大きく異なっている)図1術前波面収差測定結果(初回)———————————————————————-Page2206あたらしい眼科Vol.26,No.2,20090.7mmほど中心ズレが生ずるため2),角膜輪部の認証がその補正のために重要である.結膜色素沈着や虹彩色素量の違いにより輪部が正しく認識されない場合もあるため,波面収差測定装置やレーザー手術装置にて自動的に認証される瞳孔縁や角膜輪部が正しい位置にあるか否かを器械オペレーターが常に注視する必要がある.術中の眼球運動や頭位変換に伴う照射位置ズレを補正するために,赤外線カメラを用いて,瞳孔領とのコントラスト差の大きい虹彩縁をリアルタイムに追尾してゆく能動的追尾装置はカスタムLASIKを行うためには必須である.2.回旋補正乱視と同様に,波面収差も収差の軸を有するので,眼球回旋偏位の補正も必要である.術中の眼球回旋偏位補正が適切に行われないと,手術に伴う高次収差の補正が不十分になったり,逆に増加させてしまう場合もある.術前,座位にて測定された波面収差結果と手術時に臥位を取った場合,眼球回旋偏位は平均2.8°,最大9.5°に及ぶ3).この回旋偏位を補正するために従来,いくつかの手法が取られてきた.最も原始的な方法としては,角膜輪部3時,9時の位置にピオクタニンペンなどで座位にてマークを付け,手術時にエキシマレーザー下の臥位にて術者が顕微鏡下にて角膜輪部の標識を用いて水平位を決定する方法である.少し洗練された方法として,角膜輪部に付けられたマークを術前に波面収差測定装置で読み取り,手術時にエキシマレーザー装置に輪部のマークを認識させ,手動で回旋補正を行う方式である.最新の装置では虹彩紋理を認識することにより回旋の補正を行うことが可能になった4).術前に波面収差測定装置にて波面収差と虹彩紋理の配置を同時に読み取り,エキシマレーザー照射前に臥位にて患者虹彩紋理を再度読み取り,紋理の配置を一致させることにより座位-臥位における眼球回旋補正を自動的に行うことが可能になった.しかし,現在用いられている装置は座位-臥位のいわば静的な回旋補正を行う装置であり,術中のわずかな眼球回旋を即時,連続して補正することはできない.また,回旋は補正可能でも眼球全体の水平面からの傾斜,つまり,k角(瞳孔中心線と視軸の角度)の大きな患者へ,その傾斜の補正を行うことはできず,エキシマレーザーが目標とする角膜実質面に垂直に照射されているかを補正できないところに現在のシステムの限界がある.術前に良好な虹彩紋理の測定ができていたにもかかわらず,術中に虹彩紋理認識システムが上手く作動しない場合がある.そのような場合は波面収差測定装置で測定した瞳孔径とエキシマレーザー手術装置の照明下での瞳孔径が大きく異なり虹彩紋理認証ができない場合や,外部照明光が映り込んでいる場合があり(図3),手術室やレーザー手術装置の照明を暗くし,手術室天井照明を消す,術眼の結膜の貯留水,血液を除去するなどの対策を採ることで虹彩紋理認識システムの稼働率を上げることができる.文献1)McCormickGJ,PorterJ,CoxJGetal:Higher-orderaberrationsineyeswithirregularcorneasafterlaserrefractivesurgery.Ophthalmology112:1699-1709,20052)YangY,ThompsonK,BurnsSA:Pupillocationundermesopic,photopic,andpharmacologicallydilatedcondi-tions.InvestOphthalmolVisSci43:2508-2512,20023)ChernyakDA:Cyclotortionaleyemotioncuringbetweenwavefrontmeasurementandrefractivesurgery.JCataractRefractSurg30:633-638,20044)ChernyakDA:Iris-basedcyclotorsionalimagealignmentmethodforwavefrontregistration.IEEETransBiomedEng52:2032-2040,2005(68)☆☆☆部屋の照明光源の映り込みドレープ陰影の映り込み図3虹彩紋理認識システム運用時の術中赤外線カメラ所見室内照明光やドレープ端の角膜への映り込みを認める.

眼内レンズ:Toxic Anterior Segment Syndrome(TASS)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092030910-1810/09/\100/頁/JCLSToxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)は,白内障手術などanteriorsegmentの手術後,1248時間以内に前眼部に限局して発症する急性非感染性の炎症性疾患である1,2).ステロイドまたは非ステロイド抗炎症薬により軽快するが,組織損傷が大きい場合は角膜移植や緑内障手術などさらなる治療が必要となる.TASSは,1992年Monsonらによって提唱され3),TASSのなかで角膜内皮障害に限局した症例を,toxicendothelialcelldestructionsyndrome(TECDS)とよぶ場合もある4,5).TASSの臨床像2)典型的なTASSは,重度な前房内炎症(フィブリン形成,しばしば前房蓄膿となる)と角膜輪部から輪部に至るびまん性の角膜浮腫を特徴とする.フィブリン形成は虹彩表面や眼内レンズ(IOL)の表面にもみられ,びまん性の角膜浮腫は広範囲にわたる角膜内皮細胞の損傷を意味する.TASSにより不可逆性の虹彩損傷が生じると不整な瞳孔や散瞳不良,さらに線維柱帯が損傷される.病初期の眼圧は下降するが,不可逆性に線維柱帯が損傷すると高眼圧,続発緑内障となる.菌性術後眼内炎との鑑別TASSはしばしば,霧視や充血,眼痛をきたすため,細菌性術後眼内炎との鑑別が困難である.おもな鑑別点は,①TASSの発症は24時間以内が多く,細菌性術後眼内炎の多くは37日後に発症する,②TASSの炎症はつねに前房に限局し,点眼ないしは経口のステロイド薬にて改善を示す(細菌性術後眼内炎は硝子体混濁をきたす),③細菌性術後眼内炎は,眼瞼腫脹,結膜浮腫,眼脂,充血などの感染所見が強い(TASSは強くない),④TASSは房水や硝子体液培養が陰性,があげられる.(65)TASSを疑った場合,細菌性術後眼内炎の可能性も念頭におき,ステロイド薬に対する反応や加療に伴う46時間ごとの所見の変化などから鑑別を試みる.TASSの実態と原因TASSの発症はまれであるが,症例数の多い病院やクリニックにおいて連続発症することが多い(単発例はTASSであっても認知されていないだけかもしれない).TASSの原因と疑われているものを表1に示す.TASSが疑われた2症例筆者らは,合併症なく終了した白内障手術の術翌日より前房内炎症および高度の角膜内皮障害を発症した2症例を経験した6).症例は同日に連続施行された5症例の2例(4例目,5例目)であり,2症例ともに,術翌日より中等度の前房内炎症,高眼圧,高度の角膜浮腫を認めた(図1,2).ステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬の点眼,ステロイド薬の点滴により前房内炎症は軽快す小早川信一郎*1大井彩*1,2*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2川崎社会保険病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎270.ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)について述べた.経過によっては,角膜移植や緑内障手術が必要となる場合があり,注意を要する.TASSが疑われたならば,術者は手術システムの再構築に取り組む責務がある.表1TASSの原因灌流液や手術用剤不適切なpHや浸透圧の製品散瞳薬,抗菌薬,粘弾性物質などに含まれる防腐剤や添加剤薬剤投与濃度の間違い不適切な(純度の低い)インドシアニングリーンやトリパンブルー手術器具(用具)残留洗浄液,消毒薬,蛋白除去剤など細菌が産生したリポポリサッカライド(LPS)や外毒素,内毒素付着金属(銅や鉄)変成した粘弾性物質手袋のパウダー眼内レンズ研磨剤,清浄剤,滅菌剤など術後要因眼軟膏(文献2より改変)———————————————————————-Page2るも,著しい角膜内皮細胞数の減少を認め(2,777→669細胞/mm2,2,793細胞/mm2→測定不能),1例は水疱性角膜症を発症し,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)が施行された.最終視力は0.8および0.5(DSAEK施行眼)であった.原因として,手術侵襲や術中の薬剤流入(麻酔薬,抗菌薬など)は否定的であり,TASSが疑われた.TASSの発症が疑われた同手術室では,手術器材の滅菌や洗浄過程の見直し,手術用剤の調剤方法の再確認,発症当日使用していた灌流液などと同一ロットの製品調査が行われた.この2症例以降,TASSと疑われる症例の発症はみられていない.もしTASSが疑われたならば,術者は手術システムの再構築に取り組む責務がある.文献1)TheASCRSandtheASORN(AmericanSocietyofOph-thalmicRegisteredNurses):Recommendedpracticesforcleaningandsterilizingintraocularsurgicalinstruments.TASSguidelines.JCataractRefractSurg33:1095-1100,20072)MamalisN,EdelhauserHF,DawsonDGetal:Toxicante-riorsegmentsyndrome.JCataractRefractSurg32:324-333,20063)MonsonMC,MamalisN,OlsonRJ:Toxicanteriorseg-mentinammationfollowingcataractsurgery.JCataractRefractSurg18:184-189,19924)LiuH,RoutleyI,TeichmannKD:Toxicendothelialcelldestructionfromintraocularbenzalkoniumchloride.JCata-ractRefractSurg27:1746-1750,20015)幸野敬子,土坂寿行,前田利根ほか:フタラール消毒薬(ディスオーパR)による白内障手術後の水疱性角膜症.臨眼59:1705-1709,20056)大井彩,小早川信一郎,松本直ほか:ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)が疑われた2症例.IOL&RS(inpress)図1白内障手術(眼内レンズ挿入併施)終了時合併症なく終了した.図2図1と同一症例の術3週間後高度の角膜内皮障害を認めた.

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092030910-1810/09/\100/頁/JCLSToxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)は,白内障手術などanteriorsegmentの手術後,1248時間以内に前眼部に限局して発症する急性非感染性の炎症性疾患である1,2).ステロイドまたは非ステロイド抗炎症薬により軽快するが,組織損傷が大きい場合は角膜移植や緑内障手術などさらなる治療が必要となる.TASSは,1992年Monsonらによって提唱され3),TASSのなかで角膜内皮障害に限局した症例を,toxicendothelialcelldestructionsyndrome(TECDS)とよぶ場合もある4,5).TASSの臨床像2)典型的なTASSは,重度な前房内炎症(フィブリン形成,しばしば前房蓄膿となる)と角膜輪部から輪部に至るびまん性の角膜浮腫を特徴とする.フィブリン形成は虹彩表面や眼内レンズ(IOL)の表面にもみられ,びまん性の角膜浮腫は広範囲にわたる角膜内皮細胞の損傷を意味する.TASSにより不可逆性の虹彩損傷が生じると不整な瞳孔や散瞳不良,さらに線維柱帯が損傷される.病初期の眼圧は下降するが,不可逆性に線維柱帯が損傷すると高眼圧,続発緑内障となる.菌性術後眼内炎との鑑別TASSはしばしば,霧視や充血,眼痛をきたすため,細菌性術後眼内炎との鑑別が困難である.おもな鑑別点は,①TASSの発症は24時間以内が多く,細菌性術後眼内炎の多くは37日後に発症する,②TASSの炎症はつねに前房に限局し,点眼ないしは経口のステロイド薬にて改善を示す(細菌性術後眼内炎は硝子体混濁をきたす),③細菌性術後眼内炎は,眼瞼腫脹,結膜浮腫,眼脂,充血などの感染所見が強い(TASSは強くない),④TASSは房水や硝子体液培養が陰性,があげられる.(65)TASSを疑った場合,細菌性術後眼内炎の可能性も念頭におき,ステロイド薬に対する反応や加療に伴う46時間ごとの所見の変化などから鑑別を試みる.TASSの実態と原因TASSの発症はまれであるが,症例数の多い病院やクリニックにおいて連続発症することが多い(単発例はTASSであっても認知されていないだけかもしれない).TASSの原因と疑われているものを表1に示す.TASSが疑われた2症例筆者らは,合併症なく終了した白内障手術の術翌日より前房内炎症および高度の角膜内皮障害を発症した2症例を経験した6).症例は同日に連続施行された5症例の2例(4例目,5例目)であり,2症例ともに,術翌日より中等度の前房内炎症,高眼圧,高度の角膜浮腫を認めた(図1,2).ステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬の点眼,ステロイド薬の点滴により前房内炎症は軽快す小早川信一郎*1大井彩*1,2*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2川崎社会保険病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎270.ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)について述べた.経過によっては,角膜移植や緑内障手術が必要となる場合があり,注意を要する.TASSが疑われたならば,術者は手術システムの再構築に取り組む責務がある.表1TASSの原因灌流液や手術用剤不適切なpHや浸透圧の製品散瞳薬,抗菌薬,粘弾性物質などに含まれる防腐剤や添加剤薬剤投与濃度の間違い不適切な(純度の低い)インドシアニングリーンやトリパンブルー手術器具(用具)残留洗浄液,消毒薬,蛋白除去剤など細菌が産生したリポポリサッカライド(LPS)や外毒素,内毒素付着金属(銅や鉄)変成した粘弾性物質手袋のパウダー眼内レンズ研磨剤,清浄剤,滅菌剤など術後要因眼軟膏(文献2より改変)———————————————————————-Page2るも,著しい角膜内皮細胞数の減少を認め(2,777→669細胞/mm2,2,793細胞/mm2→測定不能),1例は水疱性角膜症を発症し,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)が施行された.最終視力は0.8および0.5(DSAEK施行眼)であった.原因として,手術侵襲や術中の薬剤流入(麻酔薬,抗菌薬など)は否定的であり,TASSが疑われた.TASSの発症が疑われた同手術室では,手術器材の滅菌や洗浄過程の見直し,手術用剤の調剤方法の再確認,発症当日使用していた灌流液などと同一ロットの製品調査が行われた.この2症例以降,TASSと疑われる症例の発症はみられていない.もしTASSが疑われたならば,術者は手術システムの再構築に取り組む責務がある.文献1)TheASCRSandtheASORN(AmericanSocietyofOph-thalmicRegisteredNurses):Recommendedpracticesforcleaningandsterilizingintraocularsurgicalinstruments.TASSguidelines.JCataractRefractSurg33:1095-1100,20072)MamalisN,EdelhauserHF,DawsonDGetal:Toxicante-riorsegmentsyndrome.JCataractRefractSurg32:324-333,20063)MonsonMC,MamalisN,OlsonRJ:Toxicanteriorseg-mentinammationfollowingcataractsurgery.JCataractRefractSurg18:184-189,19924)LiuH,RoutleyI,TeichmannKD:Toxicendothelialcelldestructionfromintraocularbenzalkoniumchloride.JCata-ractRefractSurg27:1746-1750,20015)幸野敬子,土坂寿行,前田利根ほか:フタラール消毒薬(ディスオーパR)による白内障手術後の水疱性角膜症.臨眼59:1705-1709,20056)大井彩,小早川信一郎,松本直ほか:ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)が疑われた2症例.IOL&RS(inpress)図1白内障手術(眼内レンズ挿入併施)終了時合併症なく終了した.図2図1と同一症例の術3週間後高度の角膜内皮障害を認めた.

コンタクトレンズ:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(6)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092010910-1810/09/\100/頁/JCLSシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤の相性その21.実際の使用レンズによるMPSの角膜ステイニングAndraskoのstaininggrid,筆者の日本版ステイニンググリッドは新品レンズを用いた試験である.実際の使用状況ではコンタクトレンズに付着した蛋白質,脂質,涙液成分などの汚れも角膜ステイニングの発生に影響を与える.それらの影響について検討するため,角膜ステイニングの発生を実際の装用サイクルに基づいて使用したレンズで評価1)をし,新品レンズの結果と比較した(表1).アキュビューオアシスとO2オプティクスに関しては,ともにオプティフリープラスとエピカコールドの角膜ステイニングの発生率に有意な差はなく,レニューマルチプラスはこれら2種類のMPS(マルチパーパスソリュウション)と比べ,その程度が有意に高かった.つまり,アキュビューオアシスとO2オプティクスについては,新品レンズの結果と実際の装用サイクルでの結果の傾向が一致しており,新品レンズで得られる結果で,実際の使用における角膜ステイニングのリスクを評価できることがわかった.一方,アキュビューアドバンスについては,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)を含むMPSとの組み合わせにおいて,角膜ステイニングの発生率が新品レンズよりも有意に軽度であった.つまり,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの種類によって,新品レン(63)糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純表1シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとMPSの相性―新品レンズと使用1週間後の比較―アキュビューアドバンスアキュビューオアシスO2オプティクス新品レンズ使用1週間後新品レンズ使用1週間後新品レンズ使用1週間後オプティフリープラス0.5±0.51.1±1.52.0±1.31.2±0.61.5±1.11.2±0.6エピカゴールド3.2±1.21.1±0.81.7±1.21.1±1.01.9±1.51.5±1.5レニューマルチプラス6.6±1.73.1±2.33.4±1.53.1±2.06.1±1.94.5±2.4**p<0.01Mann-WhitneyのU検定.図1PHMBを含むMPSとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの組み合わせで発症した角膜浸潤装用開始8日目.図2PHMBを含むMPSとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの組み合わせで発症した角膜上皮障害装用開始8日目.****———————————————————————-Page2202あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(00)ズの結果と実際の使用における角膜ステイニングの発生に差が生じるものがある.2.角膜ステイニングの臨床的な意義MPSによる角膜ステイニングは,実際の使用サイクルに基づいた試験でも発生しており,日々,発生と消失をくり返している.角膜上皮が障害されたとき,角膜上皮バリア機能は低下する2).正常眼であっても,その結膜に常在菌は存在しており3),角膜ステイニングにより,角膜上皮バリア機能が低下した場合,角膜感染症のリスクは上がる.MPSの角膜ステイニングがある場合,角膜浸潤などの角膜炎の発生頻度が高くなるとの報告4)や,MPSそのものが角膜上皮バリア機能を低下させる可能性を示唆した報告5)もある.前述した臨床試験でも,実際の使用サイクルに基づいたレンズを使用した症例で,PHMBを含む消毒剤とシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの組み合わせで角膜浸潤やSEALs(superiorepithelialarcuatelesions)など角膜上皮障害を認めた.したがって,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを安全に処方するためには,コンタクトレンズと消毒剤の相性を考慮して,より安全性の高い消毒剤の選択が望まれる.また,どの組み合わせで処方を行っても,常に角膜ステイニングの発生を念頭に入れ,眼感染症や角膜炎のリスクも考慮し,注意深く観察しなくてはならない.文献1)糸井素純:マルチパーパスソリューションとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの組み合わせで発生する角膜ステイニングの評価.あたらしい眼科26:93-99,20092)横井則彦,清水章代,西田幸二ほか:新しいフルオロフォトメーターによる角膜上皮バリアー機能の定量的評価.あたらしい眼科10:1357-1363,19933)金井淳,井川誠一郎:我が国のコンタクトレンズ装用による角膜感染症.日コレ誌40:1-6,19984)CarntN,JalbertI,StrettonSetal:Solutiontoxicityinsoftcontactlensdailywearisassociatedwithcornealinammation.OptomVisSci84:309-315,20075)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Eectsofmulti-purposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,2008

写真:遷延性角膜上皮欠損

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20091990910-1810/09/\100/頁/JCLS(61)上田真由美京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦297.遷延性角膜上皮欠損図2図1のシェーマ①:結膜充血.②:欠損部周囲角膜上皮のスリガラス様混濁および浮腫.③:欠損部実質の浮腫ならびに細胞浸潤.④:丸みを帯びた角膜上皮欠損.①②③④図3図1のフルオレセイン染色フルオレセイン染色は丸みを帯びた境界明瞭な上皮欠損として観察される.図4図1のスリット写真上皮欠損部は,実質の融解を伴い,浮腫ならびに軽微な細胞浸潤を認める.角膜化学外傷による炎症が角膜上皮欠損の遷延化に影響していると考え,数日のステロイド内服と治療用ソフトコンタクトレンズの装用を行い,4週間後角膜上皮欠損は治癒した.図1角膜化学外傷後の遷延性角膜上皮欠損丸みを帯びた角膜上皮欠損を認める.欠損部周囲の角膜上皮は浮腫を伴い,堤防状となっている.欠損部実質には浮腫ならびに細胞浸潤を認める.3カ月前に,消毒薬誤用による角膜化学外傷の既往があった.———————————————————————-Page2200あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(00)遷延性角膜上皮欠損(persistentepithelialdefect)は,角膜上皮の正常な創傷治癒機序が作用せずに角膜上皮欠損が再被覆されない状態である.通常,角膜上皮欠損は,欠損部周辺上皮細胞の伸展・移動ならびにそれらに連続する上皮細胞の増殖により速やかに修復される.しかし,さまざまな原因疾患により正常な上皮創傷治癒が障害されると角膜上皮欠損が遷延化する.原因疾患としては,角膜化学外傷,点眼薬(b遮断薬,防腐剤)による薬剤毒性,角膜ヘルペス,三叉神経障害,糖尿病などがある.単純な角膜上皮欠損が数日で修復されるのに対して,遷延性角膜上皮欠損では数週から数カ月の治療を要し,治療に反応しない症例では実質融解が進行して穿孔する場合もある.スリットランプでは,単純な角膜上皮欠損とは異なり,欠損部周辺の上皮は分厚く堤防状となりスリガラス様混濁が認められる(図1,2).フルオレセイン染色は丸みを帯びた上皮欠損として観察される(図3).上皮欠損部の実質には,軽微な細胞浸潤ならびに浮腫を認め,角膜実質の融解を伴っている場合も多い(図4,5).治療にあたっては,角膜上皮欠損が遷延化した原因をよく検討したうえで治療方針を考える.遷延化するほど難治になるので速やかな対処が望ましい.遷延性角膜上皮欠損の治療としては,上皮の接着を保護する目的で治療用ソフトコンタクトレンズの装用あるいは眼軟膏点入,瞼板縫合,圧迫眼帯などを行う.加えて,原因疾患に対する治療も必須である.薬剤毒性では,原因と考えられる薬剤を中止し,防腐剤を含まない人工涙液を頻回点眼して毒性と考えられる薬剤をwashoutする.角膜化学外傷後など炎症が上皮欠損の遷延化に関与していると考えられる場合は,数日のステロイド内服(プレドニゾロン10mg)の併用が奏効することもある.感染予防のために抗菌薬の点眼を併用する.文献1)外園千恵:遷延性角膜上皮欠損.眼科診療エッセンス(木下茂,田野保雄編),p26-27,メジカルビュー社,19982)西田輝夫:単純性と遷延性上皮欠損.眼科診療プラクティス7,眼表面疾患の診療(木下茂編),p74-77,文光堂,1993図5薬剤毒性による遷延性角膜上皮欠損丸みを帯びた角膜上皮欠損を認める.欠損部実質は融解が進行し,菲薄化が顕著であった.

ドナー角膜内皮細胞の保存と角膜移植後の角膜内皮細胞

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———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS手術設定,国内アイバンク間でのドナーの広域斡旋,そして国外からのドナー角膜の輸入などが可能になった.なお,ヨーロッパでは常温から34℃での器官培養法とよばれる1カ月以上の長期保存も行われているが,膨大な設備投資の問題と細菌感染のリスクから日本では普及していないため,本稿ではその詳細は省略する.II眼球摘出と全眼球保存ドナーの死亡によって常温に曝された眼球は角膜表面が乾燥する.一方,前房内には眼球組織の代謝産物・壊死組織が出現するため前房水は変性する1).このような死後変化による角膜内皮細胞への影響を避けるためには一刻も早い摘出と強角膜片作製・保存が必要である.ドナーから眼球を摘出した後,まず全眼球保存液で保存のうえ,当該機関まで輸送される.保存は4℃または氷室であり,角膜組織の代謝を低くすることを目的としている.また4℃で保存された眼球において角膜内皮細胞はポンプ機能・バリア機能双方が低下するため角膜は膨潤する.角膜実質に存在するプロテオグリカンを構成するグリコサミノグリカン鎖は,吸水性に富む.角膜実質の膨化を抑制し透明性を維持するために,保存液は実質の吸水圧に相当する高浸透圧を保持する必要がある.そのため,全眼球保存液として代表的なEP-IIRには膠質としてデキストランが添加されている2).角膜内皮細胞の保護に関しては,角膜内皮細胞のポンはじめに角膜移植に用いられるドナー角膜は,ドナーの死亡に伴う死後変化,眼球摘出とその輸送,強角膜片作製と移植までの保存,移植の際の手術侵襲と術後炎症,さらにホスト角膜への細胞遊走や拒絶反応,という実にさまざまなプロセス(=ストレス)に曝されることとなる.より確実な角膜移植を構築するためにさまざまな努力が重ねられたが,その主たる目標の一つはドナー角膜内皮細胞の保護であったといっても過言ではない.そして,ドナー角膜内皮細胞と移植後の角膜内皮細胞の問題は,ドナーが亡くなったそのときから始まり,移植後も持続する角膜内皮細胞の非生理的な減少に関しての時間との争いの問題でもある.本稿では,ドナー角膜内皮細胞と角膜移植後の角膜内皮細胞について既報をまとめながら述べてみたい.I全眼球保存と強角膜片保存角膜保存液が発達していなかった以前は,角膜移植は緊急性の高い手術であり,モイストチェンバーを用いるなどして眼球摘出→強角膜片作製→移植という過程を可及的速やかに行わないといけなかった.現在では全眼球での短期(23日間)保存,強角膜片での中期(数日から2週間以内)保存を可能にした角膜の保存法が構築されている.そのような中期保存が可能になることで,肝炎ウイルスやエイズなどのドナー感染症の検査結果を待つことができるようになっただけでなく,計画性のある(55)193aaa13610301特集●角膜内皮疾患を理解するあたらしい眼科26(2):193197,2009ドナー角膜内皮細胞の保存と角膜移植後の角膜内皮細胞PreservationofDonorCornealEndotheliumandCornealEndothelialCellChangefollowingKeratoplasty元暢*澤充*———————————————————————-Page2194あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(56)らくなる.角膜では,上皮欠損の有無,実質の混濁や浮腫の程度,Descemet膜皺襞の状態,結膜所見,老人環・翼状片の有無などを確認する.前房や虹彩では,前房内浮遊物や虹彩切除・虹彩切開の有無,水晶体では白内障または眼内レンズの状態などを確認する.IV強角膜片保存法内皮面をも保存液と接触させることで保存時間を大幅に延長させたのが強角膜片保存法である.全眼球保存液は眼内灌流液をベースにしているのに対し,強角膜片保存液は細胞培養液を主体としている点で異なる.強角膜片保存液で代表的なOptisolTM-GSは,TC-199,MEM(minimumessentialmedium),Earle’sBSS(balancedsaltsolution)などの培養液を基本溶液とし,緩衝液としてHEPES(N-2-hydroxyethylpiperazine-N¢-2¢-ethanesulfonicacid)が添加されている.さらに,膠質としてコンドロイチン硫酸とデキストランの2種類を添加し351mOsm/kgという高浸透圧を保有しており,角膜の膨潤を防いでいる4).ただし,デキストランについては角膜内皮細胞機能の保持効果はなく,逆に高濃度または長期間の保存によって逆に角膜内皮細胞を障害する可能性がある5).さらにOptisolTMの351mOsm/kgという高浸透圧性については改善を目指す動きもある6,7).OptisolTMにはATP前駆物質を添加することで角膜内皮代謝を保存する効果が期待されている.そして,感染予防のためにゲンタマイシンとストレプトマイシンが添加されている.先述したように,OptisolTMなどの強角膜片保存液の登場により,あらゆる面で余裕をもった角膜移植が可能になった.そしてこのOptisolTMで保存されている間,角膜内皮細胞がどれくらい減少するのかが一つの検討課題である.開発当初のKaufmanの報告では,3カ月間に5%減少したとされるが,Meansらは421日間に9.516%,Nelsonらは2週間で5±5%の減少としておりその報告はまちまちである79).滝川らは,国内アイバンク提供のドナー角膜と海外から輸入したドナー角膜について,その保存期間と期間中の角膜内皮細胞減少にプ作用を休眠させて代謝活動の抑制を図ることで角膜内皮細胞機能の保持が目指される.角膜内皮細胞のポンプ作用とは,角膜実質内の水を前房中へ排出する機能のことをいい,角膜実質内のNa+HCO3を前房内へATP(アデノシン三リン酸)依存性に能動輸送させ,角膜実質内の浸透圧が前房中のそれより低くなることで浸透圧勾配に従って実質内から前房中への水の輸送を行っている.眼内灌流液においてはHCO3が加えられていることで角膜の膨潤を防いでいるが,全眼球保存液ではHCO3のかわりにglucosephosphateRinger液が加えられており,角膜内皮細胞の保護を図っている.なお,このポンプ作用は,先述したように4℃という低温では休止するが,眼球または角膜を室温へ戻すと能動輸送が再開し角膜の膨潤が減る3).これをtemperaturerever-sal現象といい,ドナー角膜評価の際に輸送や保存のために4℃で保存されていた角膜で,実質浮腫が強い例やスペキュラーマイクロスコピーでの透見不良例については,30分から1時間程度室温で戻すと角膜内が透見しやすくなる.ただし,長い時間室温に置くことは感染防止の観点からは望ましくないため,最小限にとどめるべきである.一方,角膜内皮細胞のバリア作用については,内皮細胞間の細胞間隙は23nmであり,一部のみに約3nmのfocaltightjunctionを伴うややルーズな間隙となっており,前述のような角膜実質の高吸水性に伴い,前房水が角膜実質の吸水圧に伴って角膜中に吸水されやすいようになっている.このfocaltightjunctionの維持にはカルシウムイオン(Ca2+)や還元型グルタチオンが重要な役割を果たしている.このバリア作用を保つため,EP-IIRは還元型グルタチオンを含む眼内灌流液であるglutathionebicarbonateRinger(GBR)液を基本組成としている4).IIIドナー角膜の評価ドナー眼球観察用チェンバー(HOYA)または滅菌ガーゼで保持して細隙灯顕微鏡所見を記録していく.チェンバーは,眼球後方から固定することで観察可能としているが,固定をきつくさせてしまうと高眼圧状態となり,上皮や実質の浮腫やDescemet膜の皺襞が把握しづ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009195(57)て2年から5年では術前に比べ約12%と一段と緩やかな減少になる(年換算で7.3%).これらは,ホスト角膜への細胞移動とドナー角膜内皮細胞の安定化の結果と考えられている.そして安定期,術後5年以降は年換算1.3%というとても緩やかなスピードで直線的に減少する.正常角膜での生理的な角膜内皮細胞減少率が年0.40.6%であることから,それに近い減少率であるとしている.上記の減少パターンは,水疱性角膜症や再移植などの場合にはその減少傾向がより強く認められると考えられる.一方で,原疾患が円錐角膜の場合は逆にホスト側からドナー側への角膜内皮細胞の移動があるとされ,減少パターンは少し異なる可能性がある(図2).また,二期的な白内障手術を考慮するのであれば,移植後の減少が一段落する術後2年以降が望ましいと考えることができる.2.拒絶反応が発生すると?山田らは,全層角膜移植後に拒絶反応を発症した延べ93眼を検討し,1回の拒絶反応による角膜内皮細胞減少率は44%であったとしている14).著者らも述べているように,拒絶反応発症後に角膜内皮スペキュラーが測定可能であった例に限っての統計であるため,実際には拒絶反応によってもっと多数の角膜内皮細胞が失われている可能性が高い.上記の木村の報告と合わせると,拒絶反応は,特に通常でも多数の角膜内皮細胞が失われるついて検討を行っている.その結果,強角膜片としての保存時間は,国内アイバンク角膜では平均47.3時間に対して,輸入角膜では平均143.8時間,その期間中の角膜内皮細胞減少率は国内アイバンク角膜で2.6±2.9%,輸入角膜で8.5±7.6%と輸入角膜で角膜内皮細胞が有意に減少していたとしている10).すなわち,海外からの輸入による輸送時間の延長に伴う減少である可能性を示唆しており,移植時期を考慮する際に参考になると考えられる.経験的には,ドナー角膜は眼球摘出前後の変化により角膜上皮も変性・離していることから上皮側からの水分浸入もあるため,1週間以上強角膜片保存液で保存された角膜は膨潤しているケースもあり,OptisolTMは角膜上皮の細胞間結合(tightjunction)を低下させることが報告されている11).Wagonerらは,7日以上保存したドナー角膜の予後について検討し,保存期間が長い期間に及ぶと,移植片生着そのものには関与しないものの有意に移植後の遷延性角膜上皮欠損の可能性が高まることを報告している12).V移植後角膜と角膜内皮細胞1.一般的な角膜内皮細胞減少パターン13)全層角膜移植後の角膜内皮細胞減少については,1997年の木村の報告13)がよく引用される.木村は,自験例と既報とをまとめたうえで,全層角膜移植後の角膜内皮細胞減少パターンをつぎの3期4段階に分類している.すなわち,手術から術後2カ月までの急減期,術後2カ月から術後2年と術後2年から5年までの緩減期,術後5年以降の安定期,である(図1).手術から術後2カ月までの急減期では,わずか2カ月間に術前に比べ約25%の減少がみられる(年換算で減少率は150%).この大幅な減少の原因は,死後変化による角膜内皮細胞の脆弱性をベースに,強角膜片作製,手術侵襲,術後炎症がストレスとして加わるためと考えられている.緩減期では,減少率は緩やかになるものの術後2カ月から2年では術前に比べさらに約28%の減少(年換算で20%)がある.したがって術後2年で移植角膜はその半数以上の角膜内皮細胞を喪失することになる.そし図1全層角膜移植後の内皮細胞減少率のシェーマ(文献13から改変)3,0002,0001,000角膜内皮細胞密度(個/mm2)術後期間150%20%7.3%1.3%5年2年2カ月20年0———————————————————————-Page4196あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(58)図2円錐角膜症例の角膜内皮スペキュラー所見(同一症例)a:術後6カ月.細胞密度2,865個/mm2,変動係数32%.b:術後1年.細胞密度2,178個/mm2,変動係数39%.c:術後4年.細胞密度1,272個/mm2,変動係数43.9%.d:術後6年.細胞密度992個/mm2,変動係数45.1%.e:術後8年.細胞密度865個/mm2,変動係数32.3%.f:術後12年.細胞密度727個/mm2,変動係数45.9%.g:術後15年.細胞密度823個/mm2,変動係数41.9%.(バーはすべて100μm)acegbdf———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009197(59)5)HullDS,GreenK,BowmanK:Dextranuptakeinto,andlossfrom,corneasstoredinintermediate-termpreserva-tive.InvestOphthalmol15:663-666,19766)TachibanaA,SawaM:Developmentofnovelcornealstoragemedium:rstreport.Examinationsofrabbitcor-nea.JpnJOphthalmol46:377-383,20027)NelsonLR,HodgeDO,BourneWM:InvitrocomparisonofChenmediumandOptisol-GSmediumforhumancor-nealstorage.Cornea19:782-787,20008)MeansTL,GeroskiDH,HadleyAetal:ViabilityofhumancornealendotheliumfollowingOptisol-GSstorage.ArchOphthalmol113:805-809,19959)LindstromRL,KaufmanHE,SkelnikDLetal:Optisolcornealstoragemedium.AmJOphthalmol114:345-356,199210)滝川知里,杉田潤太郎,杉田肇子ほか:眼科杉田病院における角膜移植術と強角膜片保存期間中の角膜内皮細胞減少.あたらしい眼科15:1147-1150,199811)SmithTM,PopplewellJ,NakamuraTetal:EcacyandsafetyofgentamicinandstreptomycininOptisol-GS,apreservationmediumfordonorcorneas.Cornea14:49-55,199512)WagonerMD,GonnahEl-S:CornealgraftsurvivalafterprolongedstorageinOptisol-GS.Cornea24:976-979,200513)木村内子:全層角膜移植後の角膜内皮細胞.あたらしい眼科15:1383-1387,199814)山田直之,田中敦子,原田大輔ほか:全層角膜移植後の拒絶反応についての検討.臨眼62:1087-1092,200815)HassanSS,WilhelmusKR:Eye-bankingriskfactorsforfungalendophthalmitiscomparedwithbacterialendoph-thalmitisaftercornealtransplantation.AmJOphthalmol139:685-690,2005術後2カ月までは極力避けねばならないということになり,これらのデータは術後のステロイド点眼などの免疫抑制治療の参考になるものと考えられる.拒絶反応が起こりやすい術後1年間の免疫抑制が重要である.VI感染防止ドナー眼球やドナー角膜の完全な無菌化は不可能であり,角膜移植後の眼内炎発生率は他の眼科手術と比較して高い傾向がある.そのため,少しでもリスクを減らすために全眼球保存液,強角膜片保存液ともに抗菌薬が添加される.ただし,すでにドナー角膜が保菌していた場合はその有効性は低いとされており15),ドナーの死因が敗血症や感染性心内膜炎などの全身性の活動性感染症であった場合は,前房水や強角膜片rimの培養検査を行うなどの注意が必要である.文献1)KlenR,KlenovaV,PazderkaJ:Useoftheanteriorcham-beroftheeyeforselectionandpreservationofcornea.AmJOphthalmol60:879-889,19652)寺田久雄,澤充:手術における眼内灌流液,角膜保存液.角膜疾患の細胞生物学(木下茂編),p122-130,メジカルビュー,19953)横井則彦:角膜内皮細胞へのアプローチ.あたらしい眼科15:1357-1364,19984)立花敦子:角膜の保存法.眼科診療プラクティス88,角膜内皮細胞最近の知見と展望(澤充編),p44-47,文光堂,2002