———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSIコントラスト感度Landolt環を用いた視力検査では視標と背景の白黒のコントラスト比は1.0に設定され,視標と背景の境界は明瞭である.しかし日常で目にするものはLandolt環のように視標と背景との輪郭が明瞭なものは少なく,コントラストは低く,輪郭が不明瞭なものがほとんどである.したがって日常生活の視機能を再現するためには「コントラストが低い,輪郭のはっきりしないもの」を見分ける能力を評価する必要がある.そのような見え方を数値化するために,本来通信工学で用いられていた周波数分析の考え方を眼科検査に応用したものが「コントラスト感度」である.コントラスト感度は通常の視力検査では検出できない形態覚を検査するものである.コントラスト感度測定機器には数種類あり,視標として正弦波,文字,Landolt環などが用いられている.1.レーザー光凝固とコントラスト感度MacularPhotocoagulationStudyGroupは206眼をレーザー光凝固群と無治療群に無作為に分け,24カ月後のコントラスト感度を比較したところレーザー光凝固群で有意に良好であったと報告している3).2.光線力学的療法とコントラスト感度TreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)Studyでは光線力はじめに加齢黄斑変性に対する治療はここ数年で大きく変化している.中心窩脈絡膜新生血管に対する光線力学的療法,抗血管内皮増殖因子薬の硝子体内注射で視力維持,改善が期待できるようになったことは,今まで有効な治療法がなかったことを考えると画期的である.しかしqualityoflife(QOL)の観点からみると光線力学的療法や抗血管内皮増殖因子薬によって視力の維持,改善が得られても患者が望む良好なqualityofvision(QOV)には程遠く,むずかしい疾患であることを実感する.近年,医療分野でもQOLの向上が目標となり,眼科治療でもよりよいQOVが追求されるようになってきた.QOLと関連する視機能は視力以外にコントラスト感度,読書成績があげられ,コントラスト感度が低い,読書成績が不良な患者の日常生活は制限され,QOLは低い1,2).また,QOLとの関連は報告されていないが,QOLとの関連が予測される視機能評価には網膜感度を含む中心視野の状態,固視の位置,固視の安定性がある.これまで治療成績はおもに視力のみによって判定されており,視力以外の視機能を評価したものは少ない.今後はQOLと関連し,日常生活を反映する視機能の評価が必要になってくると考えられる.本稿では,これまでに報告された加齢黄斑変性の治療成績と視機能,特に自覚的検査との関連についてまとめてみる.(53)1241M10183091813特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):12411244,2008加齢黄斑変性治療成績の視機能評価VisualFunctionafterTreatmentinAge-RelatedMacularDegeneration藤田京子*湯澤美都子*———————————————————————-Page21242あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(54)網膜感度を測定し,3カ月後に絶対暗点の大きさが有意に縮小し,6カ月後には有意に網膜感度も改善したと報告している7).これらの結果から,光線力学的療法もbevacizumab硝子体内投与も有用な治療法といえる.中心窩が絶対暗点になると固視点は中心窩外に移動する.絶対暗点が大きく固視が周辺に移動するほど,読書成績が低下すると報告されている8).そこで,やがて絶対暗点になる線維瘢痕組織をより小さくする治療が必要であり,脈絡膜新生血管の発育が速い場合には治療を急がなければならない.一方,FujiiらはSLOmicrope-rimetryを用いて加齢黄斑変性の中心視野の網膜感度,固視の位置,固視の安定性と病巣構成成分の関連について検討し,CNVのタイプと固視には関連がみられ,occultCNVでは比較的良好な固視の安定が持続する傾向があると報告した9).中心視野の状態と脈絡膜新生血管のタイプとの関連を明らかにすることは,治療のタイミングを決める参考になると思われる.III必要と考えられる視機能評価1.変視加齢黄斑変性のおもな訴えの一つに「変視」がある.治療により視力が良好に維持できたとしても,ゆがみが残り,患者の不満は解消されないケースを多数経験する.ゆがみが日常生活にどの程度支障をきたすかを調べた報告はないが,不快な感覚だけでなく,実際にゆがむことで読書が妨げられる症例も経験する.変視症の検査の方法としてAmslerchart,M-chartがある.Amslerchartは全部で7表から構成され,基本図は20°×20°の範囲に1°刻みの升目からなっている(図1).30cm矯正下で検査表の中心を固視してもらい,「固視点が見えるか」「線がゆがんで見えるか」「見えない部分はあるか」などを問い,記録用紙に記載してもらう.Amslerchartは簡便でゆがみを鋭敏に捉えることができるが,ゆがみの程度を定量できないことが難点である.M-chartは19種類の点線からなる表で,変視量を定量化できる(図2).30cm矯正下で,まず直線を見てもらいゆがみがないか見る.ゆがみがあれば細かい点線から順に提示し,ゆがみを自覚されなくなったときの点線の視角が変視量になる.学的療法24カ月後のコントラスト感度を調べた.Pre-dominantlyclassicCNV(choroidalneovascularization)に対する治療群ではコントラスト感度は維持できたが,プラセボ群では低下した,また,minimallyclassicCNVでは治療群とプラセボ群で視力低下の割合に有意差がみられなかったが,コントラスト感度は有意に治療群で低下の割合が低かったと報告した4).これらの結果は,光線力学的療法はコントラスト感度を維持するのに有用な治療法であることを示している.コントラスト感度測定は形態覚を知るうえで有用であるが,一般的に広く行われている検査ではないのでなじみもうすく,結果の解釈が判然としないのが実状であろう.また,患者は高齢であり,加齢や白内障の程度がコントラスト感度に影響を及ぼすことも無視できない.測定条件など煩雑な点も多いが,大切な検査であることには違いないので,治療の判定にはルーチンで取り入れたい検査である.II中心視野測定Scanninglaserophthalmoscope(SLO)microperime-tryやmicroperimeter-1(MP-1)は眼底を観察しながら任意の部の網膜感度を測定することができ,合わせて固視の状態も把握できる点で,中心固視がむずかしい加齢黄斑変性患者の検査に適する.中心暗点の大きさと固視の安定性は加齢黄斑変性の読書成績に影響することから,治療によって固視の状態を含む中心視野がどのように改善するかはQOLの観点からも重要である.Schmidt-Erfurthらは光線力学的療法前後の中心視野をSLOmicroperimetryで評価し,絶対暗点の大きさが,光線力学的療法群では施行前が2.5mm2,24カ月後が7.3mmであったのに対し,プラセボ群ではそれぞれ2.7mm,31.5mmと有意に拡大したと報告した5).Yodoiらは中心窩下のポリープ状脈絡膜血管症に対し光線力学的療法を行い,その前,1,3,6カ月後で中心10°の視野における網膜感度を測定した結果,光線力学的療法後1カ月では網膜感度は有意に改善し,それに伴い,自覚症状の改善も得られたが,3カ月,6カ月後では有意な改善はみられなかったとしている6).またPragerらはbevacizumab硝子体内投与前後の中心視野———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081243(55)成績は視力,視野検査から推測できず,直接文章を読んでもらうことで評価する.日本で市販されている読書評価用チャートにMNREAD-Jがある(図3).MNREAD-Jは30cmの視距離の場合,一番大きな文字サイズが1.3logMARで,以降0.1logMARずつ文字サイズが小さくなるようにデザインされている.一つの文章は30文字で3行に構成されている.測定は各文章を患者に音読してもらい,読み時間と誤読文字数から読書速度を算変視の評価は重要であるが,既存の検査表では固視目標が小さいため,視力が悪く固視が不安定な症例では検査結果の信頼性が低い.今後,検査装置の工夫が必要と考える.2.読書成績加齢黄斑変性で読書成績が損なわれ,読書困難がQOLに関連することの例は枚挙にいとまがない.読書図1アムスラーチャート図2Mチャート線の中央にある固視点を注視してもらい,線の歪みの有無を確認していく.図3MNREADJ———————————————————————-Page41244あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(56)文献1)BansbackN,Czoski-MurrayC,CarltonJetal:Determi-nantsofhealthrelatedqualityoflifeandhealthstateutili-tyinpatientswithage-relatedmaculardegeneration:theassociationofcontrastsensitivityandvisualacuity.QualLifeRes16:533-543,20072)MitchellJ,WolsohnJS,WoodcockAetal:PsychometricevaluationoftheMacDQOLindividualizedmeasureoftheimpactofmaculardegenerationonqualityoflife.HealthQualLifeOutcomes3:25,20053)MacularPhotocoagulationStudyGroup:Laserphotocoag-ulationofsubfovealrecurrentneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration.Resultsofarandomizedclinicaltrial.ArchOphthalmol109:1232-1241,19914)RubinGS,BresslerNM;TreatmentofAge-RelatedMac-ularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Eectsofverteporntherapyoncontrastonsensitivity:Resultsfromthetreatmentofage-relatedmaculardegenerationwithphotodynamictherapy(TAP)investigation-TAPreportNo4.Retina22:536-544,20025)Schmidt-ErfurthUM,ElsnerH,TeraiNetal:Eectsofverteporntherapyoncentralvisualeldfunction.Oph-thalmology111:931-939,20046)YodoiY,TsujikawaA,KamedaTetal:Centralretinalsensitivitymeasuredwiththemicroperimeter1afterphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopa-thy.AmJOphthalmol143:984-994,20077)PragerF,MichelsS,SimaderCetal:Changesinretinalsensitivityinpatientswithneovascularage-relatedmacu-lardegenerationaftersystemicbevacizumab(avastin)therapy.Retina28:682-688,20088)ErgunE,MaarN,RadnerWetal:Scotomasizeandreadingspeedinpatientswithsubfovealoccultchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology110:65-69,20039)FujiiGY,JuanED,HumayunMSetal:Characteristicsofvisuallossbyscanninglaserophthalmoscopemicroperim-etryineyeswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol136:1067-1078,2003出する.文字サイズと読書速度との関係から最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力の3つのパラメータを数値化できることより治療前後の変化を客観的に捉えることができる(図4).おわりに光線力学的療法ができる以前は加齢黄斑変性の中心窩下新生血管を有する症例に対して視力を維持するために有用な治療はなかった.現在では光線力学的療法によって視力維持は可能になった.近未来には抗血管内皮増殖因子薬硝子体内注射,あるいは光線力学的療法との併用によって視力改善が得られるようになると期待される.患者にとって必要なのはQOLと関連する視機能の改善が得られる治療であろう.そのためには視機能の多面的な評価が必要である.図4読書評価によって得られる文字サイズと読書速度の関係読書評価により最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力の3つの視標が得られる.小←文字サイズ→大速読↑↓書速度遅●●●●●(文字/分)(logMAR)臨界文字サイズ最大読書速度●読書視力