———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSII光干渉断層計(OCT)の原理光は波の性質を有するため,眼内へ入った光は眼底の各層で反射して返ってくるが,層の深さにより反射する時間がずれ,層により反射の強さが異なるため,時間の遅れと異なる光強度という形で反射光は眼底形態の情報を含む.つまり,眼底反射光には,時間のずれと反射強度が異なるという組織の性質が反映されているのである.これを読み取れば,眼底の断層像が構築できる.直接読み取ることは,現時点の技術では不可能であるため,光のコヒーレンス(可干渉性)という波の性質に着目し反射波の時間的遅れを検出し画像化している.すなわち,撮影光をビームスプリッターで半分に分け,片方は参照ミラーに反射させる.眼底反射光と参照ミラーから反射する光を干渉させると,「ビームスプリッター」と「眼底のある点A」の距離と「ビームスプリッター」と「参照ミラー」の距離が同じ場合,光波は振幅が大きくなるため,これだけを検出すれば,点Aの距離とその反射強度がわかる(図1).そして,この点A(Aスキャン)を深さ方向にずらしてスキャンしていくと,眼底の各深さにおける反射強度の分布が描き出せる.これを横方向へくり返す(Bスキャン)と断層像になる(図1).IIIタイムドメインとフーリエドメインタイムドメインOCTは,上記したAスキャンを深さはじめに近年,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の製品が7社から発売され(国内認可4社,1社申請中),われわれユーザーにとって選択肢が増えたことはたいへん良いことではあるが,どれが自分の目的に合うかわからず購入に際して迷われることが多いようである.本稿では,OCTの購入を考える際に役に立つであろうと思われるOCTの基礎的な知識を順序だてて述べる.各論にて諸先生方が述べられる内容の理解にも役立てていただきたい.OCTの進化の歴史はいかに速く,いかに良い画像を得るかという歴史であり,では一体どのような進化が今日の製品群に込められているかという観点から書き進める.I光干渉断層計概観1990年に山形大学の丹野らがOCTの原理を提案し,1991年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のFujimo-toらがOCTの画像化に成功し,5年後の1996年(国内では1997年)にHumphrey社(現在CarlZeissMed-itec社)から最初の眼底用商用モデルOCT2000が発売された.最初に開発されたのはタイムドメイン(time-domain)という検出方式をとったが,OCTが市場に出て10年目に至り,フーリエドメイン(Fourier-domain)とよばれる異なる検出技術の一つであるスペクトラルドメイン(spectral-domain)方式を用いた新しいOCT製品群の登場に至った.(3)579::606850754特集●新しい光干渉断層計(OCT)バイヤーガイドあたらしい眼科25(5):579587,2008論:OCTの基礎BasicKnowledgeofOpticalCoherenceTomography板谷正紀*———————————————————————-Page2580あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(4)強度の情報を計算で求めてしまう(図2).よって,スペクトラルドメインOCTは,深さ方向の機械的走査が不要となるため,高速になる.各スペクトラルドメインOCT製品はAスキャン速度が1755kHzであり,400HzのタイムドメインOCTよりも43138倍高速に撮影可能となり,信号感度(シグナル/ノイズ比)も数十倍高くなる.なお,フーリエドメインOCTは,波長固定光源と分光器を用いてフーリエ空間で検出するスペクトラルドメ方向へ機械的に走査することで,光波の干渉を実空間(時間領域)で行う方法である.CarlZeissMeditec社のOCT2000,OCT3000,マイクロトモグラフィー社のEGスキャナー,ニデック社のOCT-OphthalmoscopeC7は,すべてタイムドメインOCTであった.これに対し,フーリエドメインOCTは,光波の干渉をフーリエ空間(周波数領域または波長領域)で行う.すなわち,1回のAスキャンに含まれる波長を分光器を用いフーリエ変換によりスペクトル分解して,一気に深さと反射図2スペクトラルドメインOCTの原理参照光と測定光でズレがある部分の干渉光は波長が変化しているので,スペクトル分解することでこれらを分離してそれぞれ検出することができる.CCDCCDの読み出し速度=Aスキャン速度フーリエ変換測定光光源光源参照ミラー分光器光源光源CCD参照光用のミラーを移動⇒AスキャンBスキャン参照光ミラーの位置干渉光強度参照ミラー測定光参照光図1OCTの原理参照光と光路長が一致すると振幅が増大し,CCDに捉えられる.これにより各点の距離と反射光強度が求められる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008581(5)2.XY面分解能(lateralresolution)XY面分解能は,眼球をカメラと見なしたときの開口数(numericalaperture:NA)で決まる.眼では瞳孔径がNAにあたる.これは眼底カメラと同じことである.NAが大きいほどXY面分解能は高くなる.すなわち,瞳孔径が大きいほど,また光ビーム径が大きいほど,NAは大きくなる.すなわち,瞳孔径を大きくすれば(解剖学的に限界はあるが),XY面分解能は高くなることになる.しかし,実際には,瞳孔径が1.52mmを超えると,眼光学系の収差(aberration)の影響が強くなり,網膜面上に小さな集光スポット(結像)を形成することができないため,XY面分解能は制限を受けることになる.このように角膜や水晶体の収差が眼底OCTのXY面分解能を不良にする最大の攪乱因子であり,実際に従来のOCT診断装置のXY面分解能は20μm程度であった.これは,SD-OCTになっても変わらない.すなわち,現状では,どのメーカーのSD-OCTもXY面分解能は大差ない.参考までに,研究レベルでは,この眼光学の収差を光学的に解消する補償光学(adaptiveoptics:AO)の研究が進み,その成果がOCTに適用され,XY面分解能が著しく向上したAO-OCTが報告されている.理論的には2.2μmまで向上することが可能とされる.XY面分解能の向上は,AOなしでは線として描出される視細胞内節外節境界部(IS/OS)や外境界膜が,AOを適用すると波線,すなわち視細胞ごとの終端としての点の並びとして描出されることが示された.現在では,視細胞1インOCTと光源の発信波長を高速に変化させることにより光波の干渉を同じくフーリエ空間で行う方式である波長走査型OCT(sweptsourceOCT:SS-OCT)とがあるが,近年製品化されたのはすべてスペクトラルドメインOCTのほうである.IVOCTのBスキャン画像の質を決める因子1.深さ分解能(Z方向分解能)(axialresolution)OCTによる画像の分解能(resolution)は,深さ分解能(axialresolution)とXY面分解能(lateralresolu-tion)に分けられる(図3).眼底に入る光に平行な方向の分解能が深さ分解能である.この方向をZ方向ともいうためZ方向分解能ともいう.一方,眼底に入る光に垂直な面がXY面である.単にOCTの分解能をいうとき深さ分解能を指す場合が多い.OCTの深さ分解能は光源によって決まる.すなわち,光源の波長帯域が広ければ広いほど深さ分解能は高くなる.波長帯域とは,どれだけ広い範囲の波長を含んでいるかということである.OCTの発展の歴史は,深さ分解能の向上の歴史でもあった.OCT3000が用いたスーパールミネッセント・ダイオード(superluminescentdiode:SLD)は,波長幅が約20nm(ナノメートル)であり,それに応じて深さ分解能は約10μmであった.研究レベルでは,2001年,マサチューセッツ工科大学のFujimotoと英国Cardi大学のDrexlerは100nm以上の広い波長帯域をもつフェムト秒レーザー(チタン・サファイアレーザー:titanium-sapphirelaser)を光源として使用し,深さ分解能3μmの超高分解能OCT(ultrahighresolutionOCT:UHR-OCT)を実現し,外境界膜,視細胞内節外節境界部など網膜の微細な層構造が光学顕微鏡組織像に近い高精細さで描出することに成功したと報告した.近年,実用化されたスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainOCT:SD-OCT)の製品は,50nm前後のSLDを使用しているため深さ分解能はメーカー公表値で57μmであり,どのメーカーも大差ないことになる.しかし,ポーランドのOPTOPOL社は,通常のSD-OCTCOPERNICUSに加え,深さ分解能を3μmにしたSD-OCTを開発した.図3眼底における深さ分解能(Z)とXY分解能———————————————————————-Page4582あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(6)を待たずしてもすでにOCT2000で描出されていたことになる.ただ,スペックルノイズがあるが故に,これら微細な構造が隠されていたということである.加算平均処理とはいかなる方法であろうか?画像を重ね合わせ,重ね合わせた枚数で割ると実体は元と変わ個1個の構造を描出できるまでに進んだ.いずれ,現在のSD-OCT製品にも実用化される可能性がある.3.スペックルノイズ(specklenoise)深さ分解能が向上すると網膜の層構造の描出が向上することはよく知られるようになったが,深さ分解能に匹敵してBスキャンの解像力に関係する重要な因子にスペックルノイズがあることはまだ一般には知られていない.OCTの画像が,ブツブツとしたノイズの多い画像であることはお気づきのことと思う.スペックルノイズは,レーザー光で物体を照明すると出現する斑点模様のことである(図4).レーザー光がコヒーレント光であるために生じる独特の現象であり,Rodenstock社のscan-ninglaserophthalmolsope(SLD)に認められたブツブツのノイズもスペックルノイズである.OCTは,スペックルノイズに埋もれている画像なのである.OCTにおけるスペックルノイズの影響の大きさ,言い換えるとスペックルノイズを除去するといかに画像が良くなるか,を最初に示したのが,2005年のSanderらの報告である1).粗いOCT2000の画像を9枚加算平均(multi-pleB-scanaveraging)してスペックルノイズを取り除くとSD-OCT並の画像に変身することが示された(図5).この画像では,IS/OSのみならず外境界膜に相当する高反射ラインもきれいに描出されている.これの意味するところは,IS/OSや外境界膜は,何もSD-OCT図4スペックルノイズ図5加算平均処理(multipleB-scanaveraging)によるスペックルノイズ除去効果(文献1より)A:OCT2000による1枚の断層像.B,C:OCT2000の断層像を9枚加算平均処理し,スペックルノイズを除去した画像.疑似カラー(B),グレースケール(C).図6スペックルノイズを減らすための加算平均法(multipleB-scanaveraging)を説明する模式図スペックルノイズは重ね合わせる枚数で除した強さに弱まる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008583(7)ンOCTの高速性が重要となってくる.当科の坂本らは,スペクトラルドメインOCTを用いると,実際の臨床現場で,さまざまな眼底疾患に対し,高確率に加算平均によるスペックルノイズ除去が可能であることを示した2).スペックルノイズがあってもIS/OSや外境界膜などの微細な構造が可視化されるSD-OCTにおいてスペックルノイズが除去されると一体どのような画像が得られらないが,虚像であるノイズはランダムであるため,重ね合わせた枚数で除した分だけノイズシグナルは希釈される(図6).しかし,実際には,スペックルノイズを取り除くには,まったく同じ部位でBスキャンを何枚も撮影することが必要であり,撮影速度の遅いタイムドメインOCTでは困難であった.ここで,スペクトラルドメイ図7スペクトラルドメインOCT画像において加算平均法でスペックルノイズを取り除く効果の実例(文献2より)PDT(光線力学的療法)後のポリープ状脈絡膜血管症.Bruch膜が明瞭に可視化され,線維化した脈絡膜新生血管(*)がBruch膜内に存在することがわかる.網膜色素上皮上で波打つ視細胞層が描出される.NFL:網膜神経線維層,RPE/BM:網膜色素上皮層/Bruch膜,OPL:外網状層,ONL:外顆粒層,IS/OS:視細胞内節外節境界部.図8加算平均法の失敗例A:4枚スキャンのうち1枚の撮影のみ眼が動いたため重ね合わせがうまくいかず,亡霊のような画像(矢印)がかぶっている.B:糖尿病網膜症の同一眼における加算平均法の失敗と成功例.———————————————————————-Page6584あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(8)ることにもなった.ヒトの眼が,健常な状態でも常に動いていることは,特にXY方向や回旋方向において知られていたし,日常臨床で経験することであった.HeidelbergEngineering社のHRT2では,XY方向の固視微動追尾機構(eyetrackingsystem)が装備され,診断における固視微動の問題を解決していた.SD-OCTによりBスキャン画像がリアルタイムに観察可能になると,Z方向(光の入射方向)にも高速に微動していることが可視化された.固視微動の問題は,タイムドメインOCTでは,1枚のBスキャン画像の波打つ歪みとして認められた.OCT3000には,アラインメント機能(alignment)があり,網膜色素上皮の高さを揃え直線化することで,歪みを解消していた.より問題となるのは,黄斑部網膜厚や視神経周囲網膜神経線維厚を計測するときに,スキャンラインが歪む,あるいはサークルスキャンや放射スキャンにおける中心(中心窩や乳頭中心)がずれる,といった問題が生じ(図9),計測値が同じ日に同じ検者が検査しても数値が異なるリスクがあることである.ましてや,経過観察において,撮影日が異なる,検者が異なる場合,そのリスクは大きい.そして,固視の不良な患者ほどこのリスクは高まる.緑内障など緩やかな変化を捉えるには,このリスクは致命的となりうる.スペクトラルドメインOCTで高速化し,1枚のBスキャン画像の歪みは解消され,OCT3000と同じスキャンプロトコーるのであろうか?実例は,坂本らの報告に示されているが,たとえば中心性漿液性脈絡網膜症やポリープ状脈絡膜血管症においてはBruch膜分離によるBruch膜外層が明瞭に可視化される(図7).Optovue社のRTvue-100,トプコン社の3DOCT-1000,HeidelbergEngineering社のHRA-OCTSpec-tralisは,加算平均処理を導入しているので注目されたい.ここで,加算平均処理においてもう一つ問題になるのは,後述する固視微動である.SD-OCTの撮影速度をもってしても固視の悪い患者では,同一部位でBスキャンを得ることがむずかしく,加算平均処理を行うと,かえってぼやけた画像になってしまう(図8).HRA-OCTSpectralisは3次元的に固視微動を追尾して撮影するeyetrackingシステムを導入し固視微動の問題を解決し,加算平均処理の成功率を向上させた.100枚重ねることも可能となった.これにより,SD-OCTのスペックルノイズフリーの画像を見ることが可能になり,実に驚くべき病変の情報が描出されるに至っている.他社もeyetrackingシステムを導入したところも現れており,スペックルノイズの観点から各製品を見ることはきわめて重要と考える.4.Aスキャン数(densityofA-scan)Aスキャンが並んでBスキャンが構成される.Aスキャンの数はBスキャンの画質を決める.理論上,11μm間隔でAスキャンすると理想的なpixelspacing(1ピクセル当たりに相当する距離)が実現される.しかし,それより密にAスキャンを行うと隣同士のノイズが打ち消し合う効果が生まれ,Bスキャンの画質は向上する.SD-OCTは,高速であるため,2,048本,4,096本など高密度のAスキャンを短時間で行うことで容易に画質の高いBスキャンを実現することができる.多くの製品では,このhighdensescanを採用しており,この観点でも各製品を見られたい.5.固視微動(eyemovement)スペクトラルドメインOCTの登場は,固視微動を可視化し,固視微動の問題の大きさをクローズアップさせ図9固視微動によるスキャンラインの歪みやスキャン中心(中心窩や乳頭中心)のずれ———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008585(9)の眼底用OCT製品は,すべて800890nmに中心波長をもつSLD光源を用いているため,どの製品もほぼ同等の深達力である.スペクトラルドメインOCTの場合は,レファランスを硝子体側に置くか脈絡膜側に置くかで,多少脈絡膜など深部の鮮明さが異なる.Bruch膜内病変や篩状板を観察するには,脈絡膜側に置いたほうが良い.Optovue社のRTvue-100は,この切り替えができるが,多くは硝子体側に置いている.一方,前眼部型OCTが用いる光源の中心波長は1,300nmである.一般に,波長が長くなるほど光の組織透過性は高くなるが,逆に水における光の吸収が高くなる.1,300nmは,硝子体による吸収で減衰するため眼底には使用できないが,強膜や虹彩を透過し,その後面までを描出できるため,前眼部型OCTに最適な中心波長と考えられている.Vソフトウェア1.疾患解析ソフトウェアスペクトラルドメインOCTは,深さ分解能や撮影速度ではほぼ同様である.上記したように,スペックルノイズや固視微動などの攪乱因子をいかに扱うか,あるいは操作性で製品の個性が決まってきている.もう一つ製品を選ぶにあたって重要なのが,疾患解析ソフトウェアの優秀さである.しかし,残念ながら,まだ疾患解析ソフトウェアを開発中の製品が多い.各社,正常人データを採取し,内部正常データを確立し,独自のスキャンプログラムや解析プログラムを開発している.Optovue社のRTvue-100は,すでに黄斑および視神経乳頭の解析ソフトウェアが完備し,一歩先んじている.特に緑内障解析プログラムは,スペクトラルドメインOCTだから可能になる新しい考え方に基づいたものを採用しており,期待される.CarlZeissMeditech社のCirrusやトプコン社の3DOCT-1000は,正常データを確立し,OCT3000と同等のことはできるようになったが,それ以上の新しい解析ソフトウェアは,今後出てくると思われる.現時点では,比較がむずかしい.2.セグメンテーションまだ聞き慣れない言葉であるが,OCT2000より用いルを用いる範囲では,上記したリスクは解消された.しかしながら,3次元撮影が可能になったことで,ここに新たな固視微動の問題が生じている.すなわち,どのメーカーの製品でも,3次元撮影に2秒程度あるいはそれ以上の時間がかかるため,固視微動による3次元像の歪みが生じる.また,中心窩を中心にして3次元スキャンを行った場合,2秒の間に中心がずれたり,スキャン予定範囲をはみ出したりする.すなわち,OCT3000において2次元のBスキャンで起こったのと同じ問題が,スペクトラルドメインOCTでは3次元において起きる.真に3次元を生かすためには,固視微動の問題を解決する必要があり,それには2つの方法がある.一つは,スキャン速度をさらに10倍高速化すること.二つめは,眼球運動を追いかけて(追尾して)スキャンも移動しながら行うこと(eyetracking).現時点で,撮影速度を10倍にする技術の実用化はすぐにはできないため,製品レベルで行われているのは,eyetrackingのほうである.最初にeyetrackingを行ったのは,HeidelbergEngineering社のHRA-OCTSpectralisで,同時撮影するSLO画像のパターンからX,Y,Zの3方向にeyetrackingを行っている.続いて最近トプコン社がX,Y2方向のeyetrackingを搭載した.Eyetrackingにより同一部位を撮影できると,眼球が動いても予定どおりの範囲をスキャンでき,中心もぶれないため,常にほぼ同じ計測値が期待できる.Spec-tralisには,フォローアップ機能が付いており,撮影日や検者が異なっても,毎回初回検査と同じ部位を自動的にスキャンしてくれる.将来的に,eyetrackingなしの検査データは信頼性が低く,治験などでは使用できないということになるかもしれない.Eyetrackingにより,同一部位が撮影可能になると,先述した加算平均によるスペックルノイズ除去の成功率が著しく高まることもくり返しておく.6.深達力(penetration)眼球組織のどの深さまでを明瞭に撮影できるかが深達力である.これは神経網膜の病変や色素上皮の状態や眼軸長や中間透光体など患者側の条件にも左右されるが,OCT側では,光源の中心波長により決まる.これまで———————————————————————-Page8586あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(10)(IS/OS)の前縁までを網膜厚として計測していたため実際には外節分だけ短く計測していた(図10の①).Optovue社のRTvue-100も当初IS/OSの前縁までを網膜厚として計測していたが,最新のバージョンでは網膜色素上皮の後縁(図10の③)へ変更になった.CarlZeissMeditech社のCirrusやトプコン社の3DOCT-1000は網膜色素上皮の前縁までを網膜厚として計測する.理想的には,網膜色素上皮の前縁まで(図10の②)が本当の神経網膜と考えられるが,実際には網膜色素上皮とIS/OSに挟まれているもう1本の高反射ラインがセグメンテーションエラーの原因となりやすい.高分解能になったが故の悩みでもある.妥協策として,厚みにばらつきの少ないと考えられる網膜色素上皮層を含む網膜色素上皮の後縁(③)の採用が増えそうである.セグメンテーションが高度化すれば,網膜色素上皮の前縁(図10の②)に回帰する可能性もある.ここも注目してられてきた画像処理用語であり,「画像の注目する部分を抽出する」という意味である.網膜の前縁と網膜色素上皮前縁をセグメンテーションすると神経網膜の厚みが計測できるわけである.セグメンテーションにおける問題は,エラーである.OCT3000でセグメンテーションエラーが調べられているが,4292%もの画像にエラーが生じているとされる(表1).セグメンテーションエラーは,網膜厚や網膜神経線維厚の自動計測において重大な問題になる.スペクトラルドメインOCTになり,深さ分解能が高くなり,鮮明な画像になったことで,セグメンテーションエラーが減ることが期待されるが,まだデータはない.スペクトラルドメインOCTにおける問題は,たとえば512×128の3次元スキャンにおいて,128枚ものBスキャンが存在し,セグメンテーションエラーを自分の眼で確認することはほぼ不可能であることである.セグメンテーションに用いるアルゴリズムは,多かれ少なかれ製品により異なり,その精度に注目すべきである.セグメンテーションエラーが多いと,撮影が異なると得られるデータも異なるリスクがある.スペクトラルドメインOCTは,深さ分解能が向上したため,今まで計測対象にならなかった層が自動計測可能になっている.Optovue社のRTvue-100は,黄斑部の「神経線維層+神経節細胞層+内網状層」の厚みを計測可能とし,それぞれ神経節細胞の軸索,細胞体,樹状突起が存在する部位であることから,ganglioncellcomplexとよんでいる.トプコン社の3DOCT-1000は,黄斑部の網膜神経線維層の自動計測を実現している.今後各社追随したり,新しい計測対象が現れることが予想される.しかし,むずかしい計測対象ほどセグメンテーションエラーが多くなることが予想され,留意すべきである.実は,単純な網膜厚の計測に問題がある.網膜厚の定義の問題である.OCT3000は,視細胞内節外節境界部図10複数ある網膜厚の定義①:OCT3000,Optovue社のRTvue-100の前バージョン.②:トプコン社の3DOCT-1000やCarlZeissMeditech社のCirrus.③:RTvue-100の最新のバージョン,HeidelbergEngineering社のHRA-OCTSpectralis,3DOCT-1000変更予定.理想的には,②が本当の神経網膜厚と考えられるが,実際には網膜色素上皮とIS/OSに挟まれているもう1本の高反射ライン(青矢印)がセグメンテーションエラーの原因となる.次善の策として③を採用する機種が増えている.表1OCTの計測エラーの報告例報告エラーの発生率(%)UCSD:Bartsch(2004)42Duke:Ray(2005)43USC:Sadda(2006)92———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008587(11)影),IA(インドシアニングリーン蛍光眼底造影),IR,autouorescence,redfreeのどれとも同時撮影が可能であり,臨床的意義が高い.おわりにSD-OCTという技術は1つであり各製品において共通の技術であるが,そこに画質に関わるさまざまな因子や臨床的なさまざまな観点が,修飾技術として施され,各診断機器としてわれわれの手にはいるところに並んでいる.どの装置が自分にとって本当に役に立つかを判断するにあたり,ここで列挙した基礎知識が少しでも役に立てば幸いである.文献1)SanderB,LarsenM,ThraneLetal:Enhancedopticalcoherencetomographyimagingbymultiplescanaverag-ing.BrJOphthalmol89:207-212,20052)SakamotoA,HangaiM,YoshimuraN:Spectral-domainopticalcoherencetomographywithmultipleB-scanaver-agingforenhancedimagingofretinaldiseases.Ophthal-mology,2007Nov29;[Epubaheadofprint].製品を見ていただきたい.3.レジストレーションこれも,聞き慣れない言葉であるが,画像処理用語であり,「異なる画像間の重ね合わせ」という意味である.OCT画像は,眼底のどの部位を撮影しているかわかることは非常に重要である.OCT3000は,IR(近赤外)画像で眼底をモニターしたが眼底像が不明瞭でどこを撮影しているか不明瞭になることが多い.Optovue社のRTvue-100は,IR画像を踏襲し同じ問題を抱える.トプコン社の3DOCT-1000は,撮影はIR画像で行うが,OCT撮影後にカラー眼底写真を撮影し,血管などを目印に画像的にレジストレーションを行いOCT画像とカラー眼底写真を重ね合わせることができる.カラー眼底写真は歪みがないためメリットであるが,OCTと眼底写真は同時には撮影できないことはデメリットである.CarlZeissMeditech社のCirrusやHeidelbergEngi-neering社のSpectralisは,SLO画像と機械的にレジストレーションするが,OCTとSLOを同時に撮影できる点はメリットである.特に,Spectralisは,HRA2で定評のある高画質の上,FA(フルオレセイン蛍光眼底造