特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1045.1049,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1045.1049,2012網膜色素変性症におけるサプリメントと保護的治療薬SupplementationandProtectiveTreatmentforRetinitisPigmentosa万代道子*はじめに伴性染色体劣性(5.15%)とさまざまであり,原因と網膜色素変性症は杆体視細胞がアポトーシスに陥り変なる遺伝子も,細胞骨格や構造にかかわる遺伝子,光情性していく疾患群の総称であり,世界中で3,000人から報伝達関連遺伝子,細胞間シグナルや接着,シナプス関4,000人に1人の割合で患者がいるとされている.その連因子,細胞内シグナリング,RNAスプライシングに原因遺伝子としてはこれまでに40以上の遺伝子がすで関わる遺伝子など実にさまざまである.これまでに報告に報告されており,その原因遺伝子によって,遺伝形式されている原因遺伝子を表1にまとめた.病態,進行のは常染色体優性(30.40%),常染色体劣性(50.60%),速度なども当然疾患の原因となる遺伝子によってそれぞ表1網膜色素変性の原因遺伝子蛋白質の機能遺伝子名遺伝形式光伝達関連RHO(ロドプシン)dominant,recessivePDE6A,PDE6B,CNGA1,CNGB1,SAG(アレスチン)recessive細胞骨格,構造関連蛋白質RDS(ペリフェリン)dominant,digenicROM1digenicFSCNdominantTULP1,CRB1recessiveRP1dominant,recessiveシグナル伝達,細胞間,シナプス関連SEMA4AdominantCDH23,PCDH15,USH1C,USH2A,USH3A,MASS1recessiveRP2X-linkedビタミンA代謝関連ABCA4,RLBP1,PDE65,LRAT,RGRrecessiveRNAスプライシング因子PRPF31,PRPF8,PRPF3,RP9dominant細胞内移動MYO7A,USH1G,BBS1,BBS2,ARL6,BBS4,BBS5,MKKS,BBS7,recessiveTTC8,PTHB1RPGRX-linkedpH調整CA4dominant貪食能MERTKrecessiveその他CERKL,BBS10recessiveIMPDH1dominant*MichikoMandai:理化学研究所網膜再生医療研究チーム〔別刷請求先〕万代道子:〒650-0047神戸市中央区港島南町2-2-3理化学研究所網膜再生医療研究チーム0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(19)1045れに異なる.しかし,実際の患者で原因遺伝子の特定できる症例は,網羅的なスクリーニング遺伝子診断を行っても,わが国で全体の3.4割とされる1).杆体細胞変性に伴う症状としては夜盲,視野狭窄の進行と,末期には錐体細胞の二次的進行による視力障害もみられる.ただ,その進行は一般に10年単位といったものであり,また,錐体細胞の集中する中心視野だけ残存し,視力は比較的良好に保たれている期間は進行例においても比較的長く,よって少しでも進行を遅らせることができれば,という意味で保護効果を目的としたいわゆるサプリメント治療に対するニーズは非常に強い.これまでに医学的にその有効性が報告されたものを含めて,昨今網膜色素変性のサプリメント,保護的治療薬として注目されてきたものとしては,以下のようなものをあげることができる.I現時点で入手可能なもの1.ビタミンA/b-カロテン2.DHA(ドコサヘキサエン酸)3.ニルバジピン(カルシウムブロッカー,高血圧治療薬)4.ルテイン,ゼアキサンチン(カルテノイド)5.アセタゾラミド,ドルゾラミド,ブリンドゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)6.その他の治療II医師の処方薬などで,現在臨床研究など行われているもの1.イソプロピルウノプロストン2.バルプロ酸3.PEDF(pigmentepithelium-derivedfactor)4.CNTF(ciliaryneurotrophicfactor)III網膜色素変性の患者は注意を要する薬やサプリメントアキュテイン,バイアグラ,ビタミンE以下,それぞれの項目について説明する.1046あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012I現時点で入手可能なもの1.ビタミンA1993年に行われた米国の大規模疫学的研究によると,ビタミンAの連日摂取で(15,000U/日)4.6年の経過観察により,錐体ERG(網膜電図)反応の低下の進行を有意に遅らせることができ,またもともとのERG反応の良好な群でより効果は顕著であったとされている2).視力や視野変化についても進行を遅らせる可能性は示唆されているものの,これらの指標の悪化は元来ゆっくりであると同時に変動もあるため,より長期にわたる経過観察期間でないと判定はむずかしいと思われる.また,b-カロテンは必ずしも安定してビタミンAに変換されないので,代用にはならない.また,ビタミンA摂取の副作用については,49歳以上の男性および閉経後の女性では骨折リスクがわずかに上昇することが報告されており,また,高濃度の摂取は胎児奇形のリスクを伴うので,妊婦は避けるべきである.また,服用する場合は,年に一度,肝臓の酵素,ビタミンAの量の検査が勧められている.2.DHA(ドコサヘキサエン酸)DHA(omega-3polyunsaturatedfattyacids)は網膜では視細胞外節の主たる多価不飽和脂肪酸であり,抗酸化物質である.食事ではサバ,イワシなどの青魚に多く含まれていることが知られている.DHAとビタミンAを同時に摂取した網膜色素変性の患者では最初の2年では視力,視野変化の進行を遅らせる効果がみられたが,4年間でビタミンAのみを摂取した患者と比較すると,DHAの追加による効果はみられなかった3,4).しかし,患者赤血球中のDHAの濃度と錐体ERGの振幅には関連性があるなど,DHAの効果を示唆するエビデンスもいくらかみられる.また,ビタミンA摂取をしている患者を対象として,サプリメントでなくとも日常的にDHAを多く摂取している(≧0.2g/日)患者群と低摂取2g>)を比較すると,4.6年の比較で,高摂取群.群(0で有意に視力の低下の進行が遅いという報告もされている5).このことから,サプリメントとして摂取することの意義は不明ではあるが,日常食生活のなかでDHAを(20)無理なく摂取することは望ましいといえよう.3.ニルバジピン(カルシウムブロッカー,高血圧治療薬)高血圧の治療によく使われるカルシウムブロッカーという種類の薬のなかで,ニルバジピンという薬は網膜に到達しやすく,rdマウスという非常に進行の速い網膜変性モデルにおいて,網膜の変性を抑えるという動物実験が報告されている6).しかし,その後も動物モデルに関しても一貫しない報告がなされるなど7)薬効について十分にサポートするデータは少なく,またヒトでの効果はデータがなく不明状態である.4.ルテイン,ゼアキサンチン(カルテノイド)ルテインとゼアキサンチンは黄斑部に局在する色素で,もともと体内で作ることはできない.食べ物から摂取され,経口摂取により黄斑色素が増えることが知られている.ルテインは,黄斑部視細胞を酸化ストレスによる障害から守ってくれると考えられている.米国のスタディで,ビタミンA(15,000IU/日)サプリメント投与患者におけるルテインサプリメント(12mg/日)の追加効果については,4年の経過観察で,特に有意な進行抑制はみられていない8).しかし,血中ルテイン濃度の高い患者や黄斑色素濃度の増加量の高かった患者においては,より視野変化の進行が遅かったとも報告されており,その効果については必ずしも否定的なものではないように思われる.5.アセタゾラミド,ドルゾラミド,ブリンゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)網膜色素変性の初期から中期に,黄斑浮腫により視力が低下することがある.こういった浮腫に対して,炭酸脱水酵素阻害薬であるダイアモックスRの内服が有効であることが以前より報告されている9).有効例ではほぼ1カ月以内に効果がみられ,浮腫の軽減がみられる.しかし,8週以上の投与で再び浮腫の再発してくる症例も報告されており,必ずしも効果は持続的ではない10).最近では同様の薬理効果をもつ点眼薬(トルソプトR,エイゾプトR)でも浮腫改善効果があることが報告されて(21)いる11).低カリウム血症など全身的副作用を考えれば,点眼での投与も有用であるが,やはり再発もみられるようである.また,これらの治療はすべての黄斑浮腫に効果があるわけではなく,むしろ有効例は2,3割程度である.6.その他の治療アダプチノールについては,ヘレニエンという物質が成分で暗順応を一時的に改善するとされているが,この成分に関する報告は1963年以降ないので効果については不明である.また,ルテインと同様カロテノイドの一種である.その他のサプリメントとして,アスコルビン酸(ビタミンC),患者の一般的興味としてブルーベリー,といったものもあるが,いずれも網膜色素変性に効果的かどうかは,証明されたものではない.II数年内に可能なもの(医師の処方薬などで,現在臨床研究などが行われているもの)1.イソプロピルウノプロストンプロスタグランジンF2a誘導体であり緑内障の点眼薬の一つとして用いられているが,薬理作用としては,Maxi-Kchannel活性化作用が明らかになり,エンドセリンによって収縮した細胞の弛緩作用や神経細胞保護作用が報告されている.また,ラットの光障害モデルと,同じくラットのロドプシン遺伝子改変網膜変性モデルにおいて,ウノプロストン投与による網膜保護効果が報告されている.網膜色素変性に対しては現在多施設での治験が行われており,視野の維持に有効であるといった経過が報告されている.2.バルプロ酸バルプロ酸は従来抗てんかん薬として長く処方されてきた内服薬であり,最近ではhistonedeacetylaseの強力な阻害薬としての働きの他,抗炎症作用や神経保護因子の分泌促進作用などさまざまな効果が提唱されている.異常ロドプシン蛋白(P23H)を強制発現させた培養細胞系での異常ロドプシン蛋白の正常なfoldingを助あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121047けるシャペロンとしての小分子のスクリーニングで有効であったことから,Clemsonらが網膜色素変性患者への効果について4カ月の短期投与であるが,13眼についてパイロットスタディを行った12).この結果,視力,視野などで,進行抑制ばかりではなく,一部著しい改善効果がみられ,非常に話題となった.しかしこの報告については以後,有効と判断するには時期尚早といった反論も投稿されており13),科学的根拠の検証とともにしばらく議論は続きそうである.3.PEDFPigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)は,遺伝的網膜変性モデルや光障害モデルなどさまざまな網膜変性動物モデルにおいて眼内投与による有効性が報告されている.現在,わが国でもPEDF遺伝子治療の研究が行われており,厚生労働省に臨床研究の申請がなされている.4.CNTFCiliaryneurotrophicfactor(CNTF)も,網膜変性動物モデルにおいて変性を遅らせることが報告されている.米国ではCNTFを分泌する網膜色素上皮細胞をカプセルに入れて眼内に留置する治療のフェーズ2の臨床試験が,Usher症候群や網膜色素変性を対象に行われている.IIIその他,服用に注意を要する薬(網膜色素変性の患者は注意を要するもの).アキュテイン:にきびの治療に処方される薬剤で,夜盲症,ERGの反応,暗順応を悪化させることが知られている..バイアグラ:男性の性的不全に対する治療薬だが,一過性のERGの変化や視覚の変化を起こすことが知られている.成分のsildenafilはphosphodiestrase5(PDE5)の阻害薬であり,視細胞のPDE6も阻害する.実際バイアグラ使用者には,青い光が見えるといった訴えもみられ,この薬剤が網膜に影響していることを示唆するものであり,何らかの疾患への影響も否定はできない.1048あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012.ビタミンE:ビタミンEには抗酸化作用があり,網膜の変性を抑制する可能性もあるため一日に800IU程度の摂取は奨励されている.しかし,一方で過剰摂取は,網膜色素変性の進行を少し速くする可能性も報告されており,注意を要する.おわりにこれまでに網膜色素変性に対するサプリメントとして多少なりとも眼科医の注意にとまってきたであろうものについてまとめてみた.最初にも述べたが,もともと網膜色素変性は進行が緩徐なうえ,症状にゆらぎもみられるため,実際には長い経過をみなければ,本当にサプリメントが有効であるかどうか判断するのはむずかしいものが多い.患者の日常生活のなかでの摂取に関しては,過剰にならぬよう,無理のない範囲で利用するのが好ましい.また,プロスタグランジン剤やバルプロ酸,その他成長因子といった医師の処方下,あるいは治療として用いられるものについては,現在も臨床研究が進んでおり,有効と判断されたものについては近いうちに臨床現場にも導入されてくるものと思われる.文献1)JinZB,MandaiM,YokotaTetal:Identifyingpathogenicgeneticbackgroundofsimplexormultiplexretinitispigmentosapatients:alargescalemutationscreeningstudy.JMedGenet45:465-472,20082)BersonEL,RosneerB,SandbergMAetal:Arandomizedtrialofvitaminandvitaminsupplementationforretinitispigmentosa.ArchOphthalmol111:761-762,19933)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:ClinicaltrialofdocosahexaenoicacidinpatientswithretinitispigmentosareceivingvitaminAtreatment.ArchOphthalmol122:1297-1305,20044)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:FurtherevaluationofdocosahexaenoicacidinpatientswithretinitispigmentosareceivingvitaminAtreatment:subgroupanalyses.ArchOphthalmol122:1306-1314,20045)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:w-3IntakeandVisualAcuityinPatientsWithRetinitisPigmentosaReceivingVitaminA.ArchOphthalmol,2012Feb13.[Epubaheadofprint]6)FrassonM,SahelJA,FabreMetal:Retinitispigmento(22)sa:rodphotoreceptorrescuebyacalcium-channelblockerintherdmouse.NatMed5:1183-1187,19997)Pearce-KellingSE,AlemanTS,NickleAetal:CalciumchannelblockerD-cis-diltiazemdoesnotslowretinaldegenerationinthePDE6Bmutantrcd1caninemodelofretinitispigmentosa.MolVis7:42-47,20018)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:ClinicaltrialofluteininpatientswithretinitispigmentosareceivingvitaminA.ArchOphthalmol128:403-411,20109)FishmanGA,GilbertLD,FiscellaRGetal:Acetazolamidefortreatmentofchronicmacularedemainretinitispigmentosa.ArchOphthalmol107:1445-1452,198910)ApushkinMA,FishmanGA,GroverSetal:Reboundofcystoidmacularedemawithcontinueduseofacetazolamideinpatientswithretinitispigmentosa.Retina27:1112-1118,200711)GroverS,ApushkinMA,FishmanGA:Topicaldorzolamideforthetreatmentofcystoidmacularedemainpatientswithretinitispigmentosa.AmJOphthalmol141:850-858,200612)ClemsonCM,TzekovR,KrebsMetal:Therapeuticpotentialofvalproicacidforretinitispigmentosa.BrJOphthalmol95:89-93,201113)vanSchooneveldMJ,vandenBornLI,vanGenderenMetal:TheconclusionsofClemsonetalconcerningvalproicacidarepremature.BrJOphthalmol95:153;authorreply153-154,201114)SandbergMA,RosnerB,Weigel-DiFrancoCetal:Lackofscientificrationaleforuseofvalproicacidforretinitispigmentosa.BrJOphthalmol95:744,2011(23)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121049