●連載245監修=山本哲也福地健郎245.緑内障手術MIGSの動向庄司信行北里大学医学部眼科学教室海外で提唱されているCMIGSという用語は,低侵襲(minimallyinvasive)という意味だけでなく,極小切開(micro-incisional)緑内障手術という意味で用いられることもあり,必ずしもCMIGS=安全,とはならない可能性もある.各術式の効果と合併症を理解して適応を正しく判断すべきである.今後は各種CMIGSの比較試験も必要となるだろう.●線維柱帯を切開するMIGSわが国で最初に認められたCMIGSはCtrabectomeで,2010年のことである.1.7Cmmの角膜小切開創から器具を挿入し,隅角鏡で確認しながら線維柱帯を凝固・切開する術式である(図1).結膜切開や強膜弁の作製は必要ない.灌流と吸引を備えているため術中の視認性がよい.術後はC16CmmHg程度に眼圧は下降し,点眼はC1剤程度減らせる1).ただし,専用の機器が必要で,他の術式に比べて導入コストは高い.ハンドピースもディスポーザブルである.また,製造元のCNeoMedix社が2019年に権利を他社に委譲したため,ハンドピースの供給は継続されているものの,機器本体の新規購入に関してはやや不透明である.眼内から線維柱帯を切開する器具として,KahookCdualblade(KDB)や谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック(マイクロフック)もよく用いられている.KDBはフットプレートの両脇がC2枚の刃になっていて,線維柱帯を帯状に切除できるように設計されたディスポーザブル製品である.マイクロフックはシンスキー・フックの先端を斜めに切り落としたような形状で,KDBよりも先端は小さい(図2).直だけでなく曲がり(右と左)のC3種類があり,リユースなのでコストパフォーマンスは非常に高い.フックを使い分けると180°以上の切開が可能である.白内障手術との同時施行でC16.4CmmHgからC11.8CmmHgに下降したと報告されている2).これら三つの術式の比較は未だないが,trabectomeとCKDBを含めたレビュー3)では,眼圧下降率は前者が24.0%,後者がC25.1%と報告されている.わが国ではtrabectomeとマイクロフックの比較試験が現在進行中である.(93)●線維柱帯に器具を留置するMIGSわが国ではC2016年にCiStentCtrabecularCmicrobypassCstentsystemが導入された(図3).全長はC1Cmmで,生体に留置するステントとしては現時点で最小のチタン製デバイスである.L字型をしており,長径部分をCSch-lemm管内に留置し,短径部分の開口部を前房内に露出することで,房水をCSchlmm管内に導く.白内障手術時にC1個のCiStentのみ留置するという制限がある.2019年C10月に第二世代のCiStentとして,形状の異なるCiStentinjectが認可された.全長C0.3Cmmの弾丸様の形状で,インサーターには最初からC2個セットされており,場所を変えてCSchlemm管内に垂直に打ち込む.白内障手術時に片眼にCtrabectome,僚眼にCiStentCinjectを行った比較試験4)では,両眼とも有意な眼圧下降が得られたが,両群間に有意差はなかったと報告されている.初代のCiStentは白内障単独手術との比較であったのに対し,injectは他のCMIGSとの比較も行われ,眼圧をより下げる効果が期待されている.なお,injectはつばの部分まで埋まり込む事例があったため,日本で販売されるものはつばの部分が少し広いCiStentinjectWというタイプになる(図4).一方,Schlemm管内に留置して拡張するデバイスもいくつか開発され,HydrusmicrostentがC2018年C8月にCFDAの認可を受けた.弾性に富み,生体適合性が高く心疾患の治療に用いられているCNitinolという素材で作られている.長さはC8Cmm程度で緩く弯曲しており,範囲にしてC3時間分のCSchlemm管を拡張できるサイズである.いずれわが国への導入も検討されるだろう.C●脈絡膜腔への房水流出をめざすMIGS外傷や手術後の脈絡膜.離によって生じる低眼圧症に注目して考案された術式で,前房から脈絡膜腔に挿入するCCyPassが注目されていた.しかし,多施設で行われあたらしい眼科Vol.37,No.11,2020C14250910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1Trabectome手術の術中写真Trabectomeを前房内に刺入し,線維柱帯を切開したところ.逆流性出血はほとんどみられない.図3iStentの第一世代インサーターの先端にCiStentが装着されている.たCCOMPASSCstudy5)で有意な眼圧下降が得られたものの,角膜内皮の減少が認められたため,企業が自主的に撤退した.内皮への影響がクリアできなければ,同様のコンセプトのデバイスの導入はむずかしいだろう.C●結膜下への濾過を目的としたMIGSこの術式は,minimallyinvasiveというよりもCmicro-incisionalと考えるべきもので,デバイスを用いて前房と結膜下に交通を作る術式である.XENやCPRESERF-LOという名称で知られていて,わが国でも申請に向けて準備が始まっている.従来の線維柱帯切除術における強膜弁の作製や強膜窓の作製,強膜弁や結膜の縫合などの大部分が省略できることは大きな魅力ではあるが,海外ではマイトマイシンCCを併用し濾過胞も形成されるので,当然,過剰濾過や濾過胞関連感染症のリスクが考えられる.導入に際しては,まずは従来の濾過手術に習熟した術者が行い,成績や合併症をしっかり調査する必要があるだろう.C1426あたらしい眼科Vol.37,No.11,2020図2マイクロフックによる線維柱帯切開術逆流性出血を減らすために眼粘弾剤で前房を形成しておく必要がある.図4iStentinjectWiStentの第二世代CiStentinjectは,インサーターを線維柱帯に垂直に押し当ててCSchlemm管内に打ち込む.インサーターには最初からC2個のCinjectが装着されている.これまでの海外の報告で,つばの部分まで埋まり込む症例が散見されたため,日本での発売はつばの広いCiStentinjectWというタイプとなった.文献1)KonoY,KasaharaM,HirasawaKetal:Long-termclini-calCresultsCofCtrabectomeCsurgeryCinCpatientsCwithCopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol,doi:C10.1007/s00417-020-04897-0.COnlineCaheadCofCprint2)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaE:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:Reportofaninitialcaseseries.JpnCJOphthalmolC61:457-464,C20173)GillmannCK,CMansouriK:MinimallyCinvasiveCglaucomasurgery:WhereCisCtheCevidence?CAsiaCPacCJCOphthalmol(Phila)9:203-214,C20204)GonnermannJ,BertelmannE,PahlitzschMetal:Contra-lateralCeyeCcomparisonCstudyCinCMICSC&MIGS:Trabec-tomeRCvs.CiStentCinjectR.GraefesCArchCClinCExpCOphthal-molC255:359-365,C20175)ReissG,Cli.ordB,VoldSetal:Safetyande.ectivenessofCyPasssupraciliarymicro-stentinprimaryopen-angleglaucoma:5-yearresultsfromtheCOMPASSXTStudy.CAmJOphthalmolC208:219-225,C2019(94)