眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人57.ProstaglandinAssociated坂田礼相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学Periorbitopathy(PAP)緑内障点眼薬のなかでもっとも強力な眼圧下降効果を得られるのはプロスタグランジンFP受容体作動薬である.この点眼薬が原因で起こる眼周囲の変化をprostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)とよぶが,その一つである上眼瞼溝深化は,眼瞼および眼窩の脂肪組織の体積減少が関連しており,FP受容体を介した脂肪生成の抑制効果によることが示されている.●プロスタグランジンFP受容体作動薬の眼局所副作用プロスタグランジンFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)は,おもにぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進させることで眼圧を下降させ,単剤では緑内障点眼薬のなかでもっとも強力な眼圧下降作用を有する.したがって,現在緑内障診療における薬物治療の第一選択薬はFP作動薬となっている1).FP作動薬の全身的副作用は皆無であるが,眼局所の副作用として,結膜充血,睫毛伸長,虹彩や眼瞼皮膚の色素沈着,そしてprostaglandinassociatedperiorbitop-athy(PAP)があげられる.昨年から使用可能になったプロスタグランジンEP2作動薬であるオミデネパグイソプロピルでは,結膜充血を除き,このような副作用の発現はないとされている.●ProstaglandinassociatedperiorbitopathyPAPでとくに目立つのは上眼瞼溝深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES,図1)であり,その他,眼窩脂肪萎縮(眼球陥入),眼瞼下垂,皮膚の退縮といった所見が認められる.PAPの所見は点眼を中止すれば改善することが多い.これらは,眼瞼および眼窩の脂肪組織の体積変化が関連していると考えられており,それぞれ組織学的に,あるいは眼窩MRIで検証されている.また,脂肪の減少はFP受容体を介した脂肪生成の抑制効果によることが証明されている.●Invitroにおける筆者らの検討3T3-L1(マウスに由来する脂肪前駆細胞株であり,脂肪細胞の研究にもっともよく使われている細胞)を用いて,成熟脂肪細胞への分化を促進した.分化の経過中(0日目,2日目,7日目)に,ラタノプロスト酸(LAT-A),トラボプロスト酸(TRA-A),タフルプロスト酸(TAF-A),ビマトプロスト酸(BIM-A),ビマトプロスト(BIM),ウノプロストン(UNO),プロスタグラン(95)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY6カ月後図1PAPの臨床的所見a:両眼にFP作動薬の点眼を開始.b:その半年後.両眼とも上眼瞼溝が深化()したことがわかる.ジンF2a(PGF2a)をそれぞれ培養液に添加した.オイルレッドO染色(細胞内脂肪滴検出に優れた生体染色試薬)を使用して,10日目の細胞内脂質を検討した2).同様の実験をFP受容体ノックアウトおよび野生型マウスからの脂肪細胞を用いて行った.脂肪生成はLAT-A,TRA-A,TAF-A,BIM-AとPGF2aで有意に抑制され(それぞれ100nM:0日目,2日目の添加),7日目の添加でもLAT-A,BIM-AとPGF2a(同濃度)で抑制を認めた(図2,3).また,LAT-A,TRA-A,TAF-A,BIM-AとPGF2aは細胞株への効果と同様に野生型マウスの脂肪生成を有意に抑制したが,FP受容体ノックアウトマウスでの脂肪生成は抑制しなかった(図4).●実臨床へのPAPの影響実臨床ではPAPにより眼圧測定が困難な症例にしばしば遭遇するようになった.Goldman眼圧計による眼圧測定では上眼瞼をつまんで持ち上げる必要があるが,あたらしい眼科Vol.36,No.12,20191571コントロールラタノプロスト酸トラボプロスト酸ビマトプロストビマトプロスト酸ウノプロストンプロスタグランジンF2a正常細胞0コントラタノトラボタフルビマトビマトウノプPGF2a140ロールプロスプロスプロスプロストプロスロストント酸ト酸ト酸ト酸120図3コントロールと比較したオイルレッドO染色の割合図2の染色に基づき,コントロールの染色を100としたときの他の主剤の染色割合を示す.*はコントロールと比較して有意な変化を示す.図2と同様に,各FP作動薬で脂肪生成が抑制されていることが確認できる.(文献2より転載)DUESがひどく,眼瞼皮膚も薄くて伸展性がない場合には,正確な測定がむずかしい.また,DUESを認める場合には濾過手術の成績が悪いという報告も出ている3).まとめると,FP作動薬で整容的な面のみならず,緑内障診療への影響が出ている場合には,PAPが起こらない他の薬剤に切り替えたり,場合によっては手術も考慮すべきである.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第4版).日眼会誌122:5-53,20182)TaketaniY,YamagishiR,FujishiroTetal:ActivationoftheprostanoidFPreceptorinhibitsadipogenesisleading1572あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019図23T3.L1細胞培養におけるオイルレッドO染色赤く染色されているのが脂肪細胞である.0日目に3T3-L1細胞に各主剤を添加し,10日目に観察した所見である.ラタノプロスト酸,トラボプロスト酸,タフルプロスト酸,ビマトプロスト酸では染色されている細胞が少ない.つまり脂肪生成が抑制されていることを意味する(正常細胞は3T3-L1細胞ではないため,そもそも脂肪細胞が生成されずに染色されない).(文献2より転載)タフルプロスト酸コントロールを100とした時の染色割合140140120100野生型染色割合ノックアウトマウス染色割合120100806040200プロスプロスプロスプロストプロスロストント酸ト酸ト酸ト酸100806040200ラタノプロスト酸トラボプロスト酸タフルプロスト酸ビマトプロストビマトプロスト酸ウノプロストンPGF2a図4FP受容体ノックアウトマウスと野生型マウスにおけるオイルレッドO染色の割合各FP受容体作動薬の添加で野生型マウスにおいては脂肪生成が有意に抑制された.一方で,FP受容体ノックアウトマウスでは脂肪生成が抑制されなかった.このことから脂肪生成の抑制にはFP受容体を介した機序が関与していることがわかる.(文献2より転載)todeepeningoftheuppereyelidsulcusinprostaglandin-associatedperiorbitopathy.InvestOphthalmolVisSci55:1269-1276,20143)MikiT,NaitoT,FujiwaraMetal:E.ectsofpre-surgicaladministrationofprostaglandinanalogsontheoutcomeoftrabeculectomy.PLoSOne12:e0181550,2017(96)