レーザー周辺虹彩切開術とレーザー隅角形成術LaserPeripheralIridotomyandLaserGonioplasty澤田明*はじめに最近の眼科学における診断学の進歩には目をみはるものがある.緑内障領域では,隅角近傍に関しては超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)や前眼部光干渉断層計(anteriorsegment-opticalcoherencetomography:AS-OCT),視神経乳頭やその周辺部に関しては後眼部OCTなどを駆使することによって,ある程度の診断に導くことは可能となってきている.そのうえ,昨今の人工知能(arti?cialintelligence:AI)ブームの到来である.こうした時代の流れの中,診断よりも直接的な技術習得に若い先生方の興味が向けられるのは至極当然のことといえる.本稿では,緑内障領域で一般に使用されるレーザー周辺虹彩切開術とレーザー隅角形成術のテクニカルな部分に焦点をあてて述べる.Iレーザー周辺虹彩切開術1.適応症例一般的には,急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangleclosure:APAC)/慢性原発閉塞隅角症(chronicprimaryangleclosure:CPAC)および疑い(primaryangleclosuresuspect:PACS)において適応となる.他には膨隆虹彩(irisbombe)などを生じる可能性がある続発閉塞隅角緑内障や色素緑内障なども適応となる.レーザー周辺虹彩切開術(laserperipheraliridotomy:LPI,図1)の目的は,すべての症例において前房-後房間の圧較差をなくすことにある.2.使用レンズアルゴンレーザー照射には,Abrahamレンズ,Wiseレンズなどを用いる.YAGレーザーによる照射にはYAGレーザー用レンズを用いる.3.レーザー前処置(APAC症例を除く症例)レーザー照射1時間前にアプラクロニジンを点眼し,その後2%ピロカルピンを5分ごとに4回点眼する.まず細隙灯顕微鏡検査にて,虹彩の全体的な非薄化が得られているか確認する.レーザー照射部位を決定することは,きわめて重要なステップである.可能なかぎりレーザー照射が少なくできる部位を選択するべきであり,虹彩小窩のある虹彩厚の薄い部位を慎重に観察する.老人環など角膜混濁が存在する部位は避けるべきである.また,上眼瞼で覆われる箇所を選択するほうがよく,個人的には10~11時あるいは1~2時の部位を選択するようにしている.12時の部位はレーザー照射中にレンズに気泡が入ることが多いので避けたほうがよい.4.LPI手順2005年の『あたらしい眼科』9月号の特集を参考に,表1に各大学におけるLPI設定条件を示した1~5).大学ごとに設定条件が異なっているが,アルゴンレーザーにて第一および第二段階を行い,YAGレーザーで第三段◆AkiraSawada:岐阜大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤田明:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学医学部眼科学教室(0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(29)143図1レーザー周辺虹彩切開術後a:11時の虹彩周辺部にレーザー孔を認める.b:同部位の高倍率写真.表1さまざまな施設のLPI設定条件施設アルゴンレーザーYAGレーザー第一段階第二段階新潟大学サイズ時間出力照射数200μm0.2sec200mW5~6発50μm0.05sec1,000mW20~30発出力照射数1.0~1.5mJ1~3発山形大学サイズ時間出力照射数500μm0.2sec200mW4~6発50μm0.02sec1,000mW30~50発出力照射数3.0~5.0mJ1~2発琉球大学サイズ時間出力照射数50μm0.1sec600~700mW4~8発出力照射数2.0mJ2~10発愛媛大学サイズ時間出力照射数500μm0.3sec100mW3~5発50μm0.02sec1,000mW20~40発出力照射数2.0~3.0mJ1~3発岐阜大学サイズ時間出力照射数200μm0.2sec200mW10発50μm0.02sec900~1,000mW50発出力照射数1.5mJ1~3発(文献1~5より改変引用)階を施行するところが多いようである.第一段階では,レーザーのサイズを比較的大きめに設定し,虹彩穿孔部位周辺を十分にさらに非薄化させる.第二段階では,逆にサイズを小さくしピンポイントでの虹彩穿孔を達成する.第三段階においては,虹彩穿孔部位をYAGレーザーにて拡大する(図2).第一段階第二段階第三段階虹彩を非薄化させる(ある程度重ねうってもよい).全体的に虹彩が非薄化した領域(灰色)の1点を穿孔させる.図2レーザー周辺虹彩切開術の施行手順虹彩穿孔部位(黒色)を目がけて,YAGレーザーを照射する.a.第一段階筆者は,第1段階はスポットサイズ200μm,出力200mW,時間0.2secの条件下において,やや多めだが10発照射している.第一段階における注意すべき最大のポイントは,あまり照射範囲を拡大しないことである.確実なLPI孔を得るためには,この過程はもっとも重要と考えている.b.第二段階十分虹彩がさらに非薄化したところで,第二段階に移行する.条件としては,サイズ50μm,出力900~1,000mW,時間0.02secとしている.第二段階において注意すべきポイントは,照射数をできるだけ少なくすることである.余剰照射は将来的な水疱性角膜症の原因となりえるため,決して連射はしない.虹彩穿孔が生じると茶褐色の色素が前房中に湧出する現象が観察できる.YAGレーザーが装備されていない施設もあると思われるが,そうした場合は,レーザー孔の拡大をアルゴンレーザーのみで施行する必要がある.c.第三段階アルゴンレーザーで虹彩穿孔が得られたのち,YAGレーザーで穿孔部位の拡大を試みる.レーザー孔が再閉塞しない大きさは,直径200μmとされている.出力1.5mJ,1照射のパルス数1での条件下で1~数発照射している.第三段階において注意すべきポイントは,最初の照射をいかに効率よくレーザー孔拡大が得られる部位に照射できるかということである.時に虹彩からの出血が生じる場合があるが,その際は無理に続行しない.5.LPI施行後施行直後はアプラクロニジン,0.1%ベタメタゾン(消炎目的),トロピカミド配合薬(フェニレフリン含有)(虹彩後癒着予防)を点眼し,ステロイドの点眼のみは数日間使用する.術後眼圧は少なくとも施行後1,2時間は測定し,一過性眼圧上昇を認めた場合には,D-マンニトール点滴などで随時対処する.6.APAC症例APAC症例は必ず角膜上皮浮腫を伴っているため,1~2%ピロカルピン点眼やD-マンニトール点滴あるいはアセタゾラミド側注を行い,レーザー処置前にできるかぎりの眼圧下降を得ることが必要である.眼圧下降が得られれば,角膜上皮浮腫の軽減により,前房の透見性が上昇する.薬物処置後に,瞳孔がほぼ正円に縮瞳していれば,相対的瞳孔ブロックはまず解除されていると考えてよく,いったん眼圧下降は得られる.一方,薬物処置後も瞳孔不整がある症例では周辺虹彩前癒着(peripher-alanteriorsynechia:PAS)が少なくとも部分的には生じてしまっていると考えたほうがよい.薬物処置前には,ほとんどの症例でスペキュラマイクロスコープが撮影できないが,角膜上皮浮腫が軽減すれば撮影可能となる症例が多い.角膜内皮細胞の減少が著しい場合や滴状角膜を認める場合には,LPIは施行せず,図3レーザー隅角形成術後周辺虹彩切除術を考慮したほうがよい.また,薬物治療にもかかわらず前房の透見性が不良な場合も,無理にLPIを選択するべきではない.APACにLPIを施行する場合は,基本的には前述した慢性症例と同様であるが,1)可能なかぎり前房深度が保たれている(角膜後面と虹彩前面が離れている)箇所に施行する.2)あまり虹彩周辺部に施行すると透見性が十分に得ることがむずかしいため,やや中心部寄りに施行したほうがよい.3)レーザー処置後には,トロピカミド配合薬を投与しない.IIレーザー隅角形成術1.適応症例レーザー隅角形成術(lasergonioplasty:LGP,図3)は,プラトー虹彩(図4)に適応される場合が多い.ほかには,レーザー線維柱帯形成術を施行する前処置としてのPACを伴う原発開放隅角緑内障(広義)症例,隅角癒着解離術後(術後癒着防止目的)などに施行される場合もある.また,APAC症例に有効であったとする報告もある.2.使用レンズAbrahamレンズ,Wiseレンズ,Goldmann三面鏡など.図4プラトー虹彩の超音波生体顕微鏡写真3.レーザー前処置LPI施行時と同様である.4.LGP手順条件は成書により異なるが,アルゴンレーザーにてサイズ500μm,時間0.2sec,出力200mWとしている.半周25発を目安に,全周で50発施行している.筆者は1列に照射しているが,2列に施行してもよい.熱凝固のため術後凝固斑が拡大するので,1~2個分間隔を空けて虹彩周辺部に照射する.出力に関しては最初200mWから始めるが,虹彩の凝固状態をみて変更する.実際照射してみると虹彩面が収縮するが,軽く収縮をきたす程度がよい.過剰な凝固は必要ではなく,その場合は出力を低めに再設定する.5.LGP施行後LPI施行時とほぼ同様であり,施行直後はアプラクロニジン,0.1%ベタメタゾン(消炎目的)を点眼し,ステロイドの点眼のみは数日間使用する.術後眼圧は少なくとも施行後1,2時間は測定し,一過性眼圧上昇を認めた場合には随時対処する.おわりに本稿を参考に若い先生方にテャレンジしていただけると幸いなことだが,本当に重要なことはそれぞれの治療に適応する症例か否かということである.実際,閉塞隅角緑内障は診断を誤りやすい疾患であり,岐阜大学への紹介患者でも開放隅角緑内障との診断がなされている紹介状も少なくない.隅角検査は診療単価も低く,かつ骨の折れる検査であることは確かであるが,患者に不利益を与えることがないように確実な診断を基に治療を施行するよう心がけてもらいたい.文献1)福島淳志,上田潤,福地健郎:緑内障専門病院で行っている閉塞隅角緑内障のレーザー治療.新潟大学における実際.あたらしい眼科22:1211-1212,20052)澤田明:緑内障専門病院で行っている閉塞隅角緑内障のレーザー治療.岐阜大学における実際.あたらしい眼科22:1213,20053)菅野誠:緑内障専門病院で行っている閉塞隅角緑内障のレーザー治療.山形大学における実際.あたらしい眼科22:1214-1215,20054)上門千時,石川修作,仲村佳巳ほか:緑内障専門病院で行っている閉塞隅角緑内障のレーザー治療.琉球大学における実際.あたらしい眼科22:1216,20055)溝上志朗:緑内障専門病院で行っている閉塞隅角緑内障のレーザー治療.愛媛大学における実際.あたらしい眼科22:1217,20056)日本眼科学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第4版).日眼会誌122:5-53,20187)北澤克明監,白土城照,新家眞,山本哲也編:緑内障.医学書院,2004