マイクログリア普段私たちは,網膜硝子体疾患の診察をするときには視細胞やCMuller細胞の存在を,緑内障診療をするときには網膜神経節細胞の存在を意識していると思います.ですが,マイクログリアの存在を意識しながら診療を行っている先生はまだ少ないのではないかと思います.筆者は加齢黄斑変性での出血病変やドルーゼンなどの沈着物,緑内障での乳頭出血などを診たときには,それら網膜内の異物を貪食除去するために遊走してくるマイクログリアの存在を強く意識し,過剰炎症に伴う細胞死が生じることを予測しています.当コラムではマイクログリアに対する現状の理解や,未来の可能性に対して述べます.マイクログリアの起源と役割マイクログリアは胎生期に卵黄.より胎児体内に侵入したprimitiveCmacrophageが起源とされています.血管の生成に伴いCprimitiveCmacrophageは血流に入り,硝子体より網膜内へ侵入します(residentmicroglia:在住マイクログリア)1).マイクログリアのように組織内を監視する貪食細胞を“在住マクロファージ”とよびます.似て非なる細胞にマクロファージがあります.マクロファージは血流をモノサイトとして移動しており,組織での感染や炎症を感知するとマクロファージへと形質転換し組織内へと侵入してきます(健康な網膜は血液網膜関門が存在していますので,マクロファージは侵入してこないと考えられます).異物や老廃物を貪食したマクロファージは速やかに抗原提示を行い,自身は死滅していく短寿命な細胞です.一方,マイクログリアは網膜内に長く生存し続け,自身で自己増殖を繰り返し,生涯にわたり網膜内を監視し続けるClongClivingcellです.健康な網膜においてマイクログリアは神経保護,抗炎症因子を産生しながら網膜内を監視し,障害を受けた細胞や老廃物を適切に貪食除去することで,網膜内での発癌や自己免疫の発生を抑制する働きがあるとされています.マイクログリアは痛図1Merk遺伝子欠損により網膜変性を発症し,ケモカインレセプターであるCx3cr1にGFPを,Ccr2にRFPを発現しているMertk-.-Cx3cr1GFP.+Ccr2RFP.+マウスの網膜フラットマウント像a:網膜変性発症前の網膜フラットマウント.放射状に突起を進展した休止状態のマイクログリアを認め,Cx3cr1単陽性であることがわかる.Cb:網膜変性重症期の網膜フラットマウント.Cx3cr1陽性マイクログリアはアメーバ状に形質変換している.活性化マイクログリアの所見である.同時にCCcr2陽性の細胞が侵入してきており,血液網膜関門破綻により網膜内へ侵入してきたモノサイト由来のマクロファージであると考えられる.(文献C3より転載)神野英生東京慈恵会医科大学眼科学講座みの伝達など,炎症細胞として以外の機能を有しているようで,現在世界中で盛んに研究が行われています.マイクログリアと網膜疾患の関与マイクログリアとさまざまな網膜疾患の関連性が基礎実験やヒト剖検眼により示唆されています.たとえば,網膜色素変性における視細胞死の促進にマイクログリア由来の炎症が関与していると推察されます.その機序については不明な点がまだまだ多いのですが,筆者らは「①視細胞が遺伝的要因に伴い障害を受ける,②障害を受けた視細胞をマイクログリアや網膜色素上皮細胞が貪食除去する際に,過剰な炎症状態が網膜内に生じる,③炎症に伴い細胞死のシグナルが視細胞において誘導され,二次的に視細胞死の加速が生じる,④死滅した視細胞をさらにマイクログリアが貪食し,炎症に伴う細胞死のサイクルが活性化され,やがて広範囲な視細胞死を伴う網膜菲薄化が生じる」と提唱しました2).マイクログリア由来の炎症をうまくコントロールすることが未来の視細胞保護治療へと結びつくと考えられます.また将来,iPS細胞由来視細胞移植などが始まった場合には,移植細胞生着のためにマイクログリア由来の炎症をどのようにコントロールするのかが治療成績に大きく影響すると予想されます.文献1)JinCN,CGaoCL,CFanCXCetal:FriendCorCfoe?CResidentCmicrogliaCvsCboneCmarrow-derivedCmicrogliaCandCtheirCrolesintheretinaldegeneration.MolNeurobiolC54:4094-4112,C20172)KohnoCH,CChenCY,CKevanyCBMCetal:PhotoreceptorCpro-teinsCinitiateCmicroglialCactivationCviaCToll-likeCreceptorC4CinCretinalCdegenerationCmediatedCbyCall-trans-retinal.CJBiolChem288:15326-15341,C20133)KohnoCH,CKosoCH,COkanoCKCetal:ExpressionCpatternCofCCcr2CandCCx3cr1CinCinheritedCretinalCdegeneration.CJNeuroin.ammation12:188,C2015緑:Cx3cr1-GFP赤:Ccr2-RFP(89)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C14310910-1810/19/\100/頁/JCOPY