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長期間経過観察を行った遅発性中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィと考えられた1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(121) 15610910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1561 1565,2009cはじめに中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ(central areolar choroi-dal dystrophy:CACD)は比較的まれな黄斑ジストロフィである.一般に,常染色体優性や常染色体劣性の遺伝形式を示す疾患であるが,孤発例もあるとされている1 8).病巣部の脈絡膜毛細血管板,ついで色素上皮(RPE)から障害が始まるとされ,黄斑部の RPE と脈絡膜毛細血管板の萎縮をきたすものの,病変部の脈絡膜中大血管は障害されないことが特徴とされる4,7).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)で,境界明瞭な低蛍光や虫食い状の低蛍光がみられる.また,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)の window defectと IA 後期の低蛍光の範囲を比較すると,同じ程度のものとFA より IA のほうが大きいものがあるとされる7).一般に30 歳代に発症するとされている4,8)が,遅発性の CACD もあ〔別刷請求先〕奥野高司:〒569-8686 高槻市大学町 2-7大阪医科大学眼科学教室Reprint requests:Takashi Okuno, M.D., Department of Ophthalmology, Osaka Medical College, 2-7 Daigaku-machi, Takatsuki, Osaka 569-8686, JAPAN長期間経過観察を行った遅発性中心性輪紋状脈絡膜 ジストロフィと考えられた 1 例奥野高司*1,2奥英弘*2佐藤文平*2,3菅澤淳*2池田恒彦*2*1 香里ヶ丘有恵会病院眼科*2 大阪医科大学眼科学教室*3 大阪回生病院眼科Features after a Long Period in Late-Onset Central Areolar Choroidal DystrophyTakashi Okuno1,2), Hidehiro Oku2), Bumpei Sato2,3), Jun Sugasawa2) and Tsunehiko Ikeda2)1)Department of Ophthalmology, Korigaoka-Yukeikai Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Osaka Medical College, 3)Department of Ophthalmology, Osaka Kaisei Hospital萎縮型加齢黄斑変性(AMD)に類似した遅発性の中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ(CACD)と考えられる 1 例につき長期間の経過観察を行ったので,その特徴と経過について報告する.症例:63 歳,男性.左眼視力低下のため大阪医科大学附属病院に紹介受診し,当初は萎縮型 AMD と診断されていたが,10 年以上の長期間にわたり経過観察を行ったところ,疾患の進行に伴い,左右差があるものの両眼に境界明瞭な網脈絡膜萎縮をきたした.高齢発症のCACD は比較的まれな疾患であり,萎縮型 AMD と鑑別が困難な場合がある.しかし,ドルーゼンがないこと,脈絡膜の大血管が温存されていること,インドシアニングリーン蛍光眼底造影とフルオレセイン蛍光眼底造影にて,脈絡膜毛細血管に虫食い状の障害があり,その範囲は網膜色素上皮の障害より先行していること,さらに眼球電図や網膜電図が軽度障害されていることなどより本症例は遅発性の CACD と考えられた.We report clinical features and progression in a case of late-onset central areolar choroidal dystrophy(CACD), which is similar to a dry type age-related macular degeneration(AMD)with geographic atrophy. The patient, a 63-year-old male, was referred to our hospital for visual disturbance in his left eye. The rst diagnosis was dry type AMD. However, after more than 10 years’ follow-up, well-demarcated chorio-retinal atrophy appeared in both eyes. Late-onset CACD is rare disease, and in some cases is di cult to clearly di erentiate from dry type AMD with geographic atrophy. However, the patient’s fundus showed relatively preserved choroidal large vessels with-out drusen. Indocyanine green angiography and uorescein angiography disclosed moth-eaten pattern atrophy in choroidal capillary vessels, the damaged area being larger than that of damaged retinal pigment epithelium. Addi-tionally, the electroretinogram and electrooculogram revealed mild attenuation. We therefore made a diagnosis of late-onset CACD.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1561 1565, 2009〕Key words:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ,萎縮型加齢黄斑変性,地図状萎縮,長期経過.central areolar choroidal dystrophy, dry type age-related macular degeneration, geographic atrophy, long period follow-up.———————————————————————- Page 21562あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(122)るとされている9).一方,萎縮型の加齢黄斑変性(AMD)は,ドルーゼンが兆候となり,RPE,Bruch 膜,脈絡膜毛細血管が障害される疾患である10).今回,60 歳代に発症し,片眼の萎縮型 AMD と考えられたが,10 年以上の長期間にわたり経過観察を行ったところ,両眼に CACD と考えられる眼底所見が出現し,遅発性の CACD と考えられた 1 例を経験した.今回,その臨床的特徴と経過について報告する.I症例呈示患者:63 歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.現病歴:平成 7 年 8 月末頃に左眼視力障害に気づいたため近医を受診し,左眼眼底の異常精査のため平成 7 年 8 月 31日に大阪医科大学附属病院眼科(以下,当院)を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼 1.0,左眼 0.3(0.4×cyl 0.75 D Ax90°),眼圧は左右眼とも 13 mmHg であった.左眼の黄斑部に RPE の萎縮があり(図 1-A),FA では両眼の黄斑部に顆粒状の window defect がみられた(図 1-B).ドルーゼンはなかったが,萎縮型 AMD と考え,近医にて経過観察した.経過:左眼視力は次第に低下し,平成 12 年 12 月 14 日の当院再受診時,視力は右眼 1.0,左眼 0.02(n.c.),眼圧は右眼 13 mmHg,左眼 11 mmHg であった.右眼黄斑部にも軽度に顆粒状の RPE の萎縮がみられた.左眼黄斑中央の萎縮は癒合し,円盤状の萎縮巣となっていた.両眼ともドルーゼンはなかった.FA では右眼は平成 7 年と同様に顆粒状にwindow defect がみられた.左眼は前回に比べ病変部位は拡大,癒合し,円盤状の萎縮部は FA の初期に充盈欠損,後期に組織染があり,その周辺部に window defect がみられた(図 1-C).IA で両眼とも脈絡膜大血管は温存されていた(図1-D).左眼の IA の背景蛍光に虫食い状の低蛍光があった(図 1-D).FA での左眼の window defect の領域に比べ IA後期の低蛍光は耳側に大きく,より広い範囲であった(図1-D). 眼 球 電 図(EOG)で は Arden 比 が 右 眼 1.43, 左 眼1.42 と当院の正常値下限の 1.8 以下に減弱していた(図2-A).網膜電図(ERG)は正常範囲内であった(右眼,a 波:486 μV,b 波 569 μV,左眼,a 波:431 μV,b 波 547 μV).以上より,CACD の可能性も考え経過観察した.平成 16 年7 月 14 日には,視力は右眼 1.0,左眼 0.07(n.c.),眼圧は左右眼とも 10 mmHg であった.右眼の RPE の萎縮は癒合し,左眼の RPE の萎縮も進行した(図 1-E).平成 17 年 7 月 7日 に は, 視 力 は 右 眼 1.0, 左 眼 0.06(n.c.), 眼 圧 は 右 眼9 mmHg,左眼 10 mmHg であった.FA では眼底所見に一致して病巣の拡大を認めた.右眼は平成 12 年に比べ病巣部が癒合し,左眼に比べると小さいものの,左眼と同様に初期には境界明瞭な円盤状の充盈欠損がみられ,後期には境界明瞭な円盤状の組織染を伴う過蛍光がみられた(図 1-F).IAでは平成 12 年と同様に,両眼とも脈絡膜大血管は温存されていた.平成 19 年 11 月 22 日には,視力は右眼 0.5p(0.5×sph+0.25 D(cyl 0.5 D Ax120°), 左 眼 0.05(0.06×cyl 1.25 D Ax75°),眼圧は右眼 10 mmHg,左眼 12 mmHg であった.両眼 RPE の萎縮がさらに進行し,右眼も円盤状の境界明瞭な萎縮部を認めた(図 1-G).最大の刺激光量(30 cd sec/m2)で 測 定 し た bright ash ERG は, 右 眼 は a 波:370 μV,b 波 450 μV, 左 眼 は a 波:285 μV,b 波 355 μVとやや減弱しており,他の刺激方法による ERG とともに,右眼に比べ左眼の振幅減弱を認めた(図 2-B).II考按CACD と鑑別を要する疾患として,錐体ジストロフィやStargardt 病があげられる11,12).脈絡膜血管萎縮を伴う錐体ジストロフィとは検眼鏡的に鑑別が困難な場合もあるが,錐体 ERG の反応があり,他の杆体系や混合 ERG と同程度の障害であったことより鑑別できた.後極部に病変が限局している Stargardt 病の I 型との鑑別が検眼鏡的には困難な場合があり,特に,初診時の右眼のように比較的初期の CACDでは検眼鏡所見のみによる鑑別はできないと思われるが,蛍光眼底造影で dark choroid がないことより鑑別できた.しかし,今回の症例は高齢発症であり,孤発例のため,萎縮型AMD による地図状脈絡膜萎縮を除外することは困難であった.しかし,ドルーゼンがないこと,疾患の進行に伴い他の部位にびまん性の脈絡膜萎縮がほとんどないにもかかわらず境界明瞭な網脈絡膜萎縮をきたしていること,脈絡膜の大血管を温存した状態で萎縮が進んでいること,IA と FA にて,脈絡膜毛細血管に虫食い状の障害があり,その範囲は網膜色素上皮の障害より先行していること,EOG が軽度障害されていること,ERG が錐体系のみならず杆体系や混合反応も軽度障害されていることなどより,CACD と診断した.近年,CACD の病因となる遺伝子変異が次々に明らかになっている9,13 17).CACD の原因遺伝子についての最初の報告は,ペリフェリン・RDS 遺伝子の 172 番目のアミノ酸残基であるアルギニンがトリプトファンやグルタミンへの置換(Arg172Trp,Arg172Gln)であり13),その後,CACD の原因 遺 伝 子 と し て ペ リ フ ェ リ ン・RDS 遺 伝 子 の 142 番 目,172 番目,195 番目のアミノ酸残基であるアルギニンの変異が報告されている14,16,17).近年では,常染色体優性遺伝形式の CACD の原因遺伝子としてペリフェリン・RDS 遺伝子は代表的なものとなっており,日本人家系でもコドン 172 や195 の変異をもつ家系が報告されている14,17).本症例のよう———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091563(123)図 1眼底写真および蛍光眼底写真A,B:平成7年8月31日〔A:眼底写真,B:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)〕,C,D:平成12年12月14日〔C: F A( 上段:初期,下段:後期),D:インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)(上段:初期,下段:後期),E:平成16年7月14日の眼底写真,F:平成 17 年 7 月 7 日の FA(上段:初期,下段:後期),G:平成 19 年 11 月 22 日の眼底写真.平成 7 年には右眼の病変は不明瞭で,左眼に RPE の萎縮があり,FA で window defect に伴う顆粒状の過蛍光があるのみであった(A,B).平成 12 年には左眼の病巣部は癒合した.IA では新生血管は認められず,脈絡膜の大血管は比較的温存され,脈絡膜毛細血管に虫食い状の障害があり,その範囲は網膜色素上皮の障害より先行していた(C,D).平成 16 年には右眼にも RPE の萎縮があり,左眼は境界明瞭な円盤状の萎縮巣を示した(E).平成 17 年からは左眼と同様に,比較的小さいものの右眼にも境界明瞭な円盤状の萎縮を認めた(F,G).AEGCDFB———————————————————————- Page 41564あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(124)な遅発性の CACD の原因遺伝子としては 307 番目のペリフェリン・RDS 遺伝子フレイムシフトが報告されている9).今回の症例でもこれらの遺伝子変異が確認できればより正確な診断をつけることが可能と考えられるが,遺伝子検査を行っても,視力改善の見込みのある治療を受けることができないことから,遺伝子検査の同意を得ることができなかった.図 2電気生理学的検査結果A:眼球電図(EOG),B:網膜電図(ERG).EOG の Arden 比は減弱していた(A).最大の光量による ERG は軽度減弱していた(B).また,すべての ERG で右眼に比べ左眼の振幅が減弱していた(B).右眼左眼52035(分)右眼暗順応15分明順応15分左眼900800700600500A?V200msec正常症例200?VScotopic 3.0 ERG(Standard ?ash)RLRLRLRLRLScotopic 30.0 ERG(Bright ?ash)Scotopic 0.01 ERGPhotopic 3.0 ERGPhotopic 3.0 ?icker200msec200?V40msec200?V20msec100?V20msec100?VB———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091565(125)一方,AMD は多因子疾患であるが,ABCA4 遺伝子との関連が報告されている18).しかし,日本人家系においては否定的な報告もあり19),他に関連する遺伝子がある可能性も考えられる.今回の症例のように CACD と AMD との鑑別が困難な場合もあることから考えると,それぞれの関連遺伝子が近傍にある可能性も考えられる.Krill20)による CACD の病期分類によると,I 期は傍中心窩の RPE にわずかな変化があり,II 期は中心窩を取り囲むように輪状の RPE のまだらな変化があり,III 期は脈絡膜血管板の萎縮を伴うものの,中心窩病変はなく,IV 期は III 期の所見に中心窩病変を伴うものとしている.したがって,今回の症例では,平成 7 年の初診時の右眼が I 期,左眼が II期,平成 12 年には右眼が II 期,左眼 IV 期,平成 19 年には右眼が III 期と考えられた.このように,両眼とも眼底の障害は次第に悪化しているにもかかわらず,左眼の矯正視力は,平成 7 年の初診時の(0.4)が平成 12 年には 0.02 まで低下した後,0.06 0.07 に改善している.平成 12 年には左眼黄斑部の網脈絡膜障害が悪化したため急激に視力が低下したものの,その後,萎縮部以外での偏心固視が確立したため,視力が改善したものと考えられる.今回の症例では平成 12 年より平成 19 年の ERG の反応が小さく,平成 19 年の ERG は比較的進行程度の強い左眼の反応が減弱していた.CACD の大家族例での検討では,病期の進行に伴い ERG,EOG や視力が障害されており21),萎縮型 AMD での検討でも,ドルーゼンのみの場合に比べ地図状萎縮では ERG が障害されており14),平成 12 年と平成 19年は ERG 装置が異なるため直接の比較はできないが,今回の症例でも病状の進行に伴い ERG が減弱したと考えられる.一方,左眼の ERG は病状が右眼より進行しているため,右眼の ERG より減弱したものと考えられる.一般に高齢発症の CACD は比較的まれな疾患であり,萎縮型 AMD と鑑別が困難な場合がある.しかし,本症例をまとめると,ドルーゼンがないこと,脈絡膜の大血管が温存されていること,左眼の IA の背景蛍光に虫食い状の低蛍光があったこと,FA での左眼の window defect の領域に比べIA 後期の低蛍光は耳側に大きく,より広い範囲であったこと,さらに EOG や ERG が軽度障害されていることなどより,本症例はまれな遅発性の CACD と考えられた.文献 1) Nettleship E:Central areolar choroidal dystrophy. Trans Ophthalmol Soc UK 4:165-166, 1884 2) Carr RE:Central areolar choroidal dystrophy. Arch Oph-thalmol 73:32-35, 1965 3) Noble KG:Central areolar choroidal dystrophy. Am J Ophthalmol 84:310-318, 1977 4) 湯沢美都子,若菜恵一,松井瑞夫:中心性輪紋状脈絡膜萎縮症の病像の検討.臨眼 37:453-459, 1983 5) 内海隆,井村尚樹,菅澤淳ほか:1 家系にみられたCentral Areolar Choroidal Atrophy における諸種視機能の検討.眼紀 34:2035-2041, 1983 6) 大久保裕史,谷野洸:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの 1 例.臨眼 41:383-386, 1987 7) 平田乃里子,湯沢美都子,川村昭之:中心性輪紋状脈絡膜萎縮症のインドシアニングリーン蛍光眼底造影.臨眼 50:815-819, 1996 8) 奥野高司,奥英弘,菅澤淳ほか:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィの親子例.日眼会誌 112:688-694, 2008 9) Keilhauer CN, Meigen T, Stohr H et al:Late-onset cen-tral areolar choroidal dystrophy caused by a heterozygous frame-shift mutation a ecting codon 307 of the peripher-in/RDS gene. Ophthalmic Genet 27:139-144, 2006 10) 竹田宗泰:萎縮型加齢黄斑変性.NEW MOOK 眼科 9:43-53, 2005 11) 和田千穂里,清水暢夫:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの 1 症例.眼臨 87:584-588, 1993 12) 岡本史樹,木内貴博,武井一夫ほか:中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの長期観察例.臨眼 50:1621-1624, 1996 13) Wroblewski JJ, Wells JA 3rd, Eckstein A et al:Macular dystrophy associated with mutations at codon 172 in the human retinal degeneration slow gene. Ophthalmology 101:12-22, 1994 14) Nakazawa M, Wada Y, Tamai M:Macular dystrophy associated with monogenic Arg172Trp mutation of the peripherin/RDS gene in a Japanese family. Retina 15:518-523, 1995 15) Hoyng CB, Heutink P, Testers L et al:Autosomal domi-nant central areolar choroidal dystrophy caused by a mutation in codon 142 in the peripherin/RDS gene. Am J Ophthalmol 121:23-29, 1996 16) Piguet B, Heon E, Munier FL et al:Full characterization of the maculopathy associated with an Arg-172-Trp mutation in the RDS/peripherin gene. Ophthalmic Genet 17:175-186, 1996 17) Yanagihashi S, Nakazawa M, Kurotaki J et al:Autosomal dominant central areolar choroidal dystrophy and a novel Arg195Leu mutation in the peripherin/RDS gene. Arch Ophthalmol 121:1458-1461, 2003 18) Allikmets R:Further evidence for an association of ABCR alleles with age-related macular degeneration. The International ABCR Screening Consortium. Am J Hum Genet 67:487-491, 2000 19) Fuse N, Miyazawa A, Mengkegale M et al:Polymor-phisms in complement factor H and Hemicentin-1 genes in a Japanese population with dry-type age-related macu-lar degeneration. Am J Ophthalmol 142:1074-1076, 2006 20) Krill AE:Hereditary Retinal and Choroidal Disease. p939-961, Harper and Row, 1977 21) Lotery AJ, Silvestri G, Collins AD:Electrophysiology ndings in a large family with central areolar choroidal dystrophy. Doc Ophthalmol 97:103-119, 1998-1999

経瞳孔温熱療法が著効したvon Hipple-Lindau 病による網膜毛細血管腫の1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(117) 15570910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1557 1560,2009cはじめに網膜毛細血管腫の治療の第一選択は流入血管に対する光凝固であり,光凝固の適応にならない症例に対しては,冷凍凝固,ジアテルミー凝固,硝子体手術が選択されてきた1).経瞳孔温熱療法(transpupillary thermotherapy:TTT)は1992 年に脈絡膜悪性黒色腫に対する保存的治療法としてOosterhuisら2)が報告した.その後,脈絡膜新生血管に対し適応が拡大し,さらに 1999 年には脈絡膜血管腫に対するTTT の有効性が報告3,4)されたが,その後,筆者らの調べる限りでは 7 例が報告されているにすぎない1,5 7).今回,von Hipple-Lindau 病に伴う網膜毛細血管腫の 1 例を経験し,レーザー光凝固や網膜冷凍凝固に抵抗性を示したものの TTTが著効を示したので報告する.〔別刷請求先〕木本龍太:〒260-8677 千葉市中央区亥鼻 1-8-1千葉大学大学院医学研究院眼科学Reprint requests:Ryuta Kimoto, M.D., Department of Ophthalmology and Visual Science, Chiba University Graduate School of Medicine, 1-8-1 Inohana, Chuo-ku, Chiba-shi, Chiba 206-8677, JAPAN経瞳孔温熱療法が著効した von Hipple-Lindau 病による 網膜毛細血管腫の 1 例木本龍太新井みゆき山本修一千葉大学大学院医学研究院眼科学A Case of Retinal Capillary Hemangioma with von Hipple-Lindau Disease Successfully Treated by Transpupillary ThermotherapyRyuta Kimoto, Miyuki Arai and Shuichi YamamotoDepartment of Ophthalmology and Visual Science, Chiba University Graduate School of Medicinevon Hipple-Lindau 病の網膜毛細血管腫に経瞳孔温熱療法(transpupillary thermotherapy:TTT)が著効した症例を経験した.症例は 33 歳,男性で,14 歳時に von Hipple-Lindau 病と診断されている.視力低下を主訴に当科受診.初診時,右眼矯正視力 0.4,右眼眼底の下耳側周辺部に 5 乳頭径大の網膜毛細血管腫を認めた.冷凍凝固,レーザー光凝固を施行したが血管腫は縮小せず,滲出性網膜 離は眼底全体に拡大した.しかし TTT を施行したところ,滲出性変化は著しく軽減し網膜 離も消失した.その後 2 回の TTT の追加により,血管腫は大幅に縮小し滲出性変化もほぼ完全に消失した.3 回目の TTT から 3 カ月後,冷凍凝固瘢痕内の裂孔による網膜全 離が生じ,硝子体手術を行った.術後 2 カ月後の時点で,網膜はシリコーンオイル下で復位しており,血管腫の再燃はみられていない.本症例では,冷凍凝固,流入血管に対する光凝固に抵抗性を示したが,TTT が有用であった.冷凍凝固瘢痕内の裂孔から網膜 離をきたしたことから,大きな網膜血管腫では冷凍凝固の適応を慎重に考慮すべきであろう.A 33-year-old male who had been diagnosed with von Hippel-Lindau disease noticed visual acuity loss in his right eye;visual acuity in the eye was 0.4. Funduscopic examination revealed a retinal capillary hemangioma(RCH)5 disc-diameters in size in the inferonasal periphery of the eye. After unsuccessful treatments with cry-oretinopexy and laser photocoagulation, transpupillary thermotherapy(TTT)was performed. After TTT, serous retinal changes diminished and retinal detachment disappeared. After the second TTT the RCH became very small and serous changes were almost absorbed. Three months after the third TTT, the right eye developed total retinal detachment due to a retinal tear at a scar lesion from the previous cryoretinopexy, and pars plana vitrecto-my was performed. Two months after that surgery the retina was reattached under silicone oil;RCH has not recurred.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1557 1560, 2009〕Key words:経瞳孔温熱療法,網膜毛細血管腫,網膜冷凍凝固,網膜 離.transpupillary thermotherapy, retinal capillary hemangioma, cryoretinopexy, retinal detachment.———————————————————————- Page 21558あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(118)I症例患者は 33 歳,男性で,右眼視力低下を主訴に 2007 年 9月千葉大学病院眼科を受診した.13 歳時に頭痛を契機に,頭部 X 線 CT(コンピュータ断層撮影)で後頭蓋窩に多発性腫瘍を指摘され von Hipple-Lindau 病と診断された.14 歳時に右小脳半球の実質性腫瘍を摘出し,放射線照射が施行された.さらに 21 歳時に小脳半球の 胞性腫瘍,小脳正中部の実質性腫瘍を全摘出,22 歳時には両側腎腫瘍を摘出した.今回,2007 年 7 月頃から右眼視力低下を自覚していた.家族歴では父が両側腎腫瘍で他界している.当科初診時,視力は右眼 0.06(0.4× 2.25 D(cyl 1.75 D Ax90°),左眼 0.06(1.0× 5.00 D(cyl 0.75 D Ax155°)であった.両眼とも角膜は透明で,前房中に細胞微塵は認めないものの,右眼に虹彩後癒着がみられた.右眼硝子体は areが高度であり,右眼眼底には視神経乳頭の発赤腫脹,下耳側周辺部に拡張・蛇行した血管を伴った 5 乳頭径大の網膜毛細血管腫,その周囲に網膜下出血と滲出斑がみられた.左眼眼底には視神経乳頭の発赤腫脹,下耳側周辺部に 2 カ所に 1 乳頭径大の網膜毛細血管腫がみられた.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,両眼の血管腫に一致して造影早期から過 1初診時右眼眼底写真視神経乳頭の発赤腫脹,下耳側周辺部に,拡張・蛇行した血管を伴った 5 乳頭径大の網膜毛細血管腫,その周囲に網膜下出血と滲出斑がみられた. 3TTT 3回施行後の右眼眼底写真(2008年6月24日)網膜毛細血管腫は右眼下方最周辺に残存するも著しく縮小し,滲出性変化もほぼ完全に消失していた. 2初診時フルオレセイン蛍光眼底造影(右眼)血管腫に一致して造影早期から過蛍光がみられ,後期には旺盛な蛍光漏出を認めた. 42008年6月20日の右眼眼底写真右眼網膜はほぼ全 離となっている.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091559(119)蛍光がみられ,後期には旺盛な蛍光漏出を呈した.右眼の血管腫は 5 乳頭径大と大きく滲出性変化も強いため,光凝固は困難と判断し,2007 年 10 月に経強膜的に網膜冷凍凝固を施行した.冷凍凝固は,腫瘍本体とその周囲が白色に軽度変色するまで施行した.また,冷凍凝固 3 日後,流入血管に対し光凝固(yellow,200 μm,240 mW,0.2 sec,310 shots)を施行した.しかしその後 2 週間を経過しても,右眼の血管腫は縮小せず,乳頭上には増殖性変化が出現し,滲出性網膜 離は眼底全体に拡大して,右眼視力は 0.02 に低下した.そこで 11 月 2 日,810 nmの半導体レーザー(IRIDEX社)を用いて,TTT(照射径3 mm,出力 800 mW,照射時間 60 sec,2 回)を行った.TTT の 2 週間後には,血管腫の大きさはほぼ不変ながらも,滲出性変化は著しく改善し網膜 離も消失,視力は 0.2 に改善した.しかし血管腫の活動性は依然として高いため,初回 TTT から 2 週間後と 3 カ月後に TTT を追加した.その後,網膜毛細血管腫は右眼下方最周辺に残存するもかなり縮小し,滲出性変化もほぼ完全に消失していた.しかし 2008 年 6 月の再診時には右眼視力は 0.05 に低下しており,右眼網膜はほぼ全 離の状態となっていた.FA では血管腫の活動性は沈静化していたため,裂孔原性網膜 離を疑い,7 月 7 日,白内障手術と硝子体手術を行った.術中,耳下側の冷凍凝固瘢痕内に網膜裂孔が同定された.赤道部輪状締結とシリコーンオイルタンポナーデを併用して網膜復位を得た.硝子体手術の 2 カ月後の段階で,網膜はシリコーンオイル下で復位しており,網膜血管腫の再燃はみられていない.II考按今回経験した症例は,von Hipple-Lindau 病に伴う網膜毛細血管腫であり,網膜冷凍凝固や光凝固に抵抗性を示し,TTT を 3 回行うことで血管腫の沈静化を得た.しかし後に,冷凍凝固の瘢痕部分に網膜裂孔が生じ,網膜 離をきたしたものである.網膜毛細血管腫に対する TTT は報告が少なく,照射条件は現時点では確立していない.Parmar ら5)は視神経乳頭周囲の血管腫に対し,TTT を 350 500 mW,60 72 sec で複数回照射している.これは,筆者らの報告も含めた近年の報告に比べて出力が低いが,血管腫が乳頭近くにあり,視神経への影響をより考慮したためだと考えられる.Mochizuki ら6)は赤道部の 1.5 2 乳頭径大の 2 症例に対し,TTT を400 500 mW,60 360 sec で複数回照射しており,照射時間と回数で凝固反応を調節している.田邊ら1)の報告では,滲出性網膜 離を伴う周辺部の 0.5 2 乳頭径大の血管腫に対し,700 1,000 mW,一定時間(60 sec),単発照射しており,照射時間と回数は一定にし,出力を徐々に強くすることで凝固反応を調節している.今回の症例では滲出性網膜 離を伴う周辺部の 5 乳頭径大の血管腫に対し,800 mW,60 72 sec の条件で複数回照射した.この条件は閾値下凝固よりも凝固といえる条件である.通常の光凝固と異なる点は,TTT は長波長であり組織深達性が良いという点にあり,大きな血管腫に対する治療として有効であると考える.今回の症例を含めいずれの報告でも血管腫の沈静化には成功しており,TTT の有効性が明らかであるが,今後さらに症例数を重ねて TTT の照射条件を検討していく必要があると思われる.また今回の症例では,TTT と網膜冷凍凝固を施行した部位の瘢痕内に裂孔を生じ裂孔原性網膜 離に至った.血管腫の大きさが 5 乳頭径大と大きな場合には,冷凍凝固による瘢痕もより広範囲となり,そこに裂孔を生じる危険性も自ずと高くなると考えられる.網膜毛細血管腫に対して TTT が施行できない場合,網膜冷凍凝固を選択するのもやむをえないが,大きな血管腫では冷凍凝固の適応を慎重に考慮すべきであろう.また,まれではあるが TTT 後に裂孔原性網膜 離が生じたという報告もある8).今後 TTT と裂孔原性網膜 離の関係についても検討が必要である.文献 1) 田邊ひな子,石田政弘,竹内忍:経瞳孔温熱療法が奏効した網膜血管腫の 2 例.日眼会誌 110:525-531, 2006 2) Oosterhuis JA, Journee-de Kover HG, Keunen JE:Trans-pupillary thermotherapy. Arch Ophthalmol 116:157-162, 1998図 5硝子体手術後の右眼眼底写真(2008年10月3日)網膜はシリコーンオイル下で復位しており,血管腫の再燃もみられない.———————————————————————- Page 41560あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(120) 3) Othmane IS, Shields CL, Shields JA et al:Circumscribed choroidal hemangioma managed by transpupillary thermo-therapy. Arch Ophthalmol 117:136-137, 1999 4) Rapizzi E, Grizzard WS, Capone A Jr:Transpupillary thermotherapy in the management of circumscribed chor-oidal hemangioma. Am J Ophthalmol 127:481-482, 1999 5) Parmar DN, Mireskandari K, McHugh D:Transpupillary thermotherapy for retinal capillary hemangioma in von Hippel-Lindau disease. Ophthalmic Surg Lasers 31:334-336, 2000 6) Mochizuki Y, Noda Y, Enaida H et al:Retinal capillary hemangioma managed by transpupillary thermotherapy. Retina 24:981-984, 2004 7) 野田佳宏,江内田寛,望月泰敬ほか:Retinal Capillary Hemangioma に対する TTT 治療.眼科手術 18:47-51, 2005 8) Mashayekhi A, Shields CL, Lee SC et al:Retinal break and rhegmatogenous retinal detachment after transpupil-lary thermotherapy as primary or adjunct treatment of choroidal melanoma. Retina 28:274-281, 2008***

初診時眼底に異常を認めなかった網膜中心動脈閉塞症の1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(113) 15530910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1553 1555,2009cはじめに網膜中心動脈閉塞症(central retinal artery occlusion:CRAO)は,網膜中心動脈が閉塞し,急激で重篤な視力障害をきたす疾患である.この疾患は,高齢者では動脈硬化,糖尿病が多くみられ,若年者では全身性の血管炎や血液疾患などの特殊な基礎疾患が存在する1).通常の CRAO であれば眼底所見として桜実紅斑という特徴的な所見を示すことにより診断は容易である.不完全なCRAO の場合でも,軽度の網膜混濁と散在する軟性白斑が認められるとされる2,3).しかし,桜実紅斑を呈していない場合は,診断は決して容易ではない.今回,筆者らは初診時眼底に桜実紅斑がみられず,CRAO の確定診断が遅れた症例を経験したので報告する.I症例患者:70 歳,男性.初診日:2005 年 10 月 20 日.主訴:急激な右眼視力低下.〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒663-8501 西宮市武庫川町 1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprint requests:Norio Okamoto, M.D., Department of Ophthalmology, Hyogo College of Medicine, 1-1 Mukogawa-cho, Nishinomiya-city, Hyogo 663-8501, JAPAN初診時眼底に異常を認めなかった網膜中心動脈閉塞症の 1 例岡本紀夫大野新一郎大出健太鈴木克彦三村治兵庫医科大学眼科学教室A Case of Central Retinal Artery Occlusion with Normal Fundus Appearance on First ExaminationNorio Okamoto, Shinichirou Oono, Kenta Oode, Katsuhiko Suzuki and Osamu MimuraDepartment of Ophthalmology, Hyogo College of Medicine背景:初診時に桜実紅斑を呈しなかった網膜中心動脈閉塞症を経験したので報告する.症例:70 歳,男性.主訴は右眼の視力低下.視力は初診時指数弁で,対光反応は消失していた.眼底検査では特に異常を認めなかった.夜間であり,全身合併症を複数有していたため,翌朝に内科医と相談のうえで精査,加療をすることになった.しかし,11時間後の翌朝に再診したときには明らかな桜実紅斑を呈する網膜中心動脈閉塞症であった.結論:明らかな桜実紅斑がある場合は診断が容易であるが,網膜中心動脈閉塞症の極早期にはこの所見を呈しない可能性がある.さらに,急激な視力低下をきたし,かつ,既往歴に動脈硬化や糖尿病,心疾患などを有する場合は,たとえ眼底検査で桜実紅斑がなくても網膜中心動脈閉塞症を疑うべきであることが示唆された.Background:We report a case of central retinal artery occlusion(CRAO)in which no cherry red spot was observed at initial examination. Case:The patient, a 70-year-old male, complained mainly of poor vision in his right eye. At the initial examination, on the basis of nger counting it was found that the eye had lost reaction to light. Fundus examination did not show any speci c abnormalities. Because it was night and the patient had multi-ple systemic complications, we decided to examine him closely and provide treatment on the following morning, after consulting with an internal medicine specialist. However, when we examined the patient again 11 hours after his initial visit, a clear cherry red spot was visible as part of CRAO. Conclusion:It is easy to diagnose CRAO when a clear cherry red spot is evident, but some cases may not present with this symptom at a very early stage of the condition. It is suggested that when sudden visual degradation occurs and multiple systemic complications are present in the medical history, CRAO should be suspected, even if no cherry red spot is evident during fundus examination.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1553 1555, 2009〕Key words:網膜中心動脈閉塞症,極早期.central retinal artery occlusion, very early stage.———————————————————————- Page 21554あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(114)現病歴:2005 年 10 月 13 日頃より右眼の眼鏡が合わないことを自覚していたが,顎を上げることにより見えていたので放置していた.しかし,2005 年 10 月 20 日昼頃より顎を上げても右眼が見えにくくなり,20 時半頃入浴中にさらに急激かつ高度な右眼の視力低下を自覚したため,兵庫医科大学病院眼科を 21 時 50 分に受診した.既往歴:ぶどう膜炎(1998 年),高血圧症,完全房室ブロック,右頸動脈狭窄(73%),拡張型心筋症,ペースメーカー.家族歴:特記すべきことなし.初 診 時 所 見: 視 力 は 右 眼 指 数 弁, 左 眼 0.2(1.0×sph+2.00 D)で,右眼の直接対光反射は消失していた.眼圧は右眼16 mmHg,左眼 15 mmHg.限界フリッカ値は右眼測定不能,左眼 41 46 H zであった.細隙灯顕微鏡所見で両眼とも水晶体の軽度の混濁がみられた.眼底検査では網膜血管に異常を認めず,視神経乳頭の色調も正常であった(図 1).高齢であり後部虚血性視神経症の発症などを疑ったが,夜間であり重篤な全身疾患があるので CT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)などの検査を行うにあたって内科医の許可が必要と考え,翌日に再診させ精査することになった.経過:翌日の 10 月 21 日午前 10 時の視力は右眼眼前手動弁,左眼(1.0×sph+2.00 D)であった.眼底検査で右眼は網膜静脈の蛇行・拡張を認め,桜実紅斑を呈していた(図2).左眼は軽度の網膜動脈硬化症を認めるのみであった.蛍光眼底検査で腕網膜循環時間は 40 秒と遅延していた(図 3).右眼の CRAO と診断し,ただちに入院のうえ,ウロキナーゼの点滴加療を行うため内科医に相談したところ右頸動脈狭窄,拡張型心筋症に対してパナルジンR 200 m g/日とドルナーR 60 μg/日内服中であると指摘されたので予定していた線溶療法を中止した.そこで眼球マッサージと星状神経節ブロックの治療を考え,ペインクリニック科に星状神経節ブロックを依頼したところ,パナルジンR, ドルナーRの内服があるので施行できないとのことであったので,最終的に眼球マッサージのみを実施した.10 月 28 日に脳外科で頸部を再度精査したところ内頸動脈狭窄率が 80%であったため頸部手術が必要であるとの連絡があった.10 月 31 日に退院となり,そのときの視力は眼前手動弁のままであった.11 月 4日の再診時の右眼視力は 0.01(矯正不能),12 月 1 日の再診時は 0.02(矯正不能),この翌日に内頸動脈狭窄に対してステント術が行われる予定であったが心疾患のため中止となった.2007 年 3 月 25 日再診時の右眼視力は 0.03(矯正不能)図 110月20日の右眼眼底写真桜実紅斑はみられない.網膜血管,視神経に異常を認めない.図 210月21日の右眼眼底写真網膜静脈の蛇行・拡張と桜実紅斑を認める.図 310月21日の右眼蛍光眼底写真40 秒以上経って造影が開始されている.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091555(115)であった.2009 年 2 月 23 日に心不全にて永眠された.II考按CRAO のは動脈硬化を基盤として発症する疾患である1).代表的な基礎疾患をあげると,高血圧,糖尿病,高脂血症,虚血性心疾患,脳血管障害などがある.本症例は高血圧症,完全房室ブロック,右頸動脈狭窄(73%),拡張型心筋症があり,CRAO のハイリスクの患者であった.眼底検査で桜実紅斑があれば診断は容易であるが,不完全型 CRAO ではまだらな網膜白濁を認める3).最近では高度近 視 眼 に CRAO を 発 症 し た 症例4)や,脈絡膜萎縮眼にCRAO を発症した症例では明らかな桜実紅斑を呈しないことが報告されている5).渡辺は CRAO の極早期には桜実紅斑を呈しないと報告している6).本症例は近視ではないことと,臨床経過から初診時の眼底所見で異常がないことから極早期の CRAO と診断した.また,後部虚血性視神経症が先行して発症し,その後 CRAO をきたした可能性は動脈系が異なることから可能性としてはきわめて低いと考えた.初診時の 10 月 20 日の時点で CRAO での確定診断を行うには蛍光眼底検査が有用であったと考えられるが,高度の全身合併症があり,受診が夜間であったため蛍光眼底検査を施行できなかった.眼底に変化がみられなくとも蛍光眼底検査を施行していれば腕網膜循環時間は遅延していた可能性がある.つぎに,なぜ初診時に桜実紅斑を呈しなかったか,その理由について検討する.Hayreh ら7)はサル 26 眼に対し網膜動脈の血流を 7 分から 113 分間遮断後の眼底所見について報告しており,70 分以上遮断したものではほとんどが重度の網膜白濁をきたしたとしている.しかし,本症例は発症から受診まで約 80 分であったにもかかわらず桜実紅斑を呈していなかった.これは Hayreh らの報告はあくまでも動物実験でありクランプによる完全な血流遮断であるのに対し,ヒトの通常の CRAO であればどこからか血栓,塞栓が飛来し不完全なかたちで網膜動脈を閉塞させている可能性がある.池田ら8)も CRAO では完全閉塞例が少ないことを示唆している.本症例の CRAO の発症原因としては心臓からの血栓の飛来か,頸動脈からの塞栓が考えられた.患者の心臓は拡張型心筋症のため血栓ができやすい環境であり,内頸動脈の狭窄も 80%と高度の狭窄が塞栓源となっている可能性がある.しかし,今回の症例ではどちらが原因であるとは断定できなかった.森本ら9)は,全身合併症の数と視力の改善度との間に相関があると報告している.彼らは 2 つ以上の全身合併症を有する症例は視力予後が不良であると述べている.実際,本症例では循環器系に複数の全身合併症が存在した.石田ら10)は,腕網膜循環時間の著明な延長が認められた症例は初診時視力が不良で,治療にも反応せず,視力予後も不良であったと記載している.本症例の腕網膜循環時間は 40 秒以上と遅延し,右眼視力は最終的に 0.03 に留まった.本症例では複数の全身合併症を有し,網膜の循環不全もあったため,きわめて予後不良であったといえる.本症例は発症して極早期に来院し,眼底は桜実紅斑の所見がみられなかったことから CRAO の確定診断が遅れ,さらに,全身合併症のため積極的な治療の介入ができなかった.今後,このようなハイリスクの症例に遭遇した場合の治療法の検討が必要である.文献 1) 張野正誉:網膜動脈閉塞症.眼科診療プラクティス 85,眼疾患診療ガイド,p38-41,文光堂, 2002 2) Matsuoka Y, Hayasaka S, Yamada K:Incomplete occlu-sion of central retinal artery in a girl with iron de ciency anemia. Ophthalmologica 210:358-360, 1996 3) 上田美子,木村徹,岡本紀夫ほか:視力良好な網膜中心動脈閉塞症の 1 例.眼科 51:443-446, 2009 4) 井上亮,生野恭司,沢美喜ほか:強度近視眼に発症した網膜中心動脈閉塞症の 1 例.眼紀 58:549-552, 2007 5) 松葉真二,岡本紀夫,三村治:桜実紅斑を呈しなかった網膜中心動脈閉塞症の 1 例.眼臨紀 2:140-142, 2009 6) 渡辺博:高齢者に多い眼疾患─診断と治療,予防─.7)-2 網膜動脈閉塞症.Geriat Med 44:1256-1257, 2006 7) Hayreh SS, Weingeist TA:Experimental occlusion of the central artery of the retina. I. Ophthalmoscopic and uo-rescein fundus angiographic studies. Br J Ophthalmol 64:896-912, 1980 8) 池田誠宏,佐藤圭子:新鮮な網膜動脈閉塞症に対する処置.臨眼 45:198-199, 1991 9) 森本健司,福本光樹,吉井大ほか:10 年間に経験した網膜動脈閉塞症の治療経過.眼科 38:825-830, 1996 10) 石田みさ子,沖坂重邦:網膜中心動脈閉塞症の視力予後.眼臨 80:495-498, 1986***

ルベオーシスを合併した内因性真菌性眼内炎に対し両眼の硝子体手術を施行した1症例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(109) 15490910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1549 1552,2009c〔別刷請求先〕 董震宇:〒060-8638 札幌市北区北 15 条西 7 丁目北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座 眼科学分野Reprint requests:Zhenyu Dong, M.D., Department of Ophthalmology, Hokkaido University Graduate School of Medicine, N-15, W-7, Kita-ku, Sapporo 060-8638, JAPANルベオーシスを合併した内因性真菌性眼内炎に対し両眼の硝子体手術を施行した 1 症例董震宇*1,3村松昌裕*1,3中村佳代子*1,3福原淳一*3横井匡彦*2田川義継*3*1 KKR札幌医療センター眼科*2 手稲渓仁会病院眼科 *3 北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野Diferent Vitrectomy Outcomes for Bilateral Rubeotic Endogenous Ophthalmitis in a Patient with Severe CandidemiaZhenyu Dong1,3), Masahiro Muramatsu1,3), Kayoko Nakamura1,3), Junichi Fukuhara3), Masahiko Yokoi2) and Yoshitsugu Tagawa3)1)Department of Ophthalmology, KKR Sapporo Medical Center, 2)Department of Ophthalmology, Teine Keijinkai Hospital, 3)Department of Ophthalmology, Hokkaido University Graduate School of Medicine緒言:S 状結腸切除後にルベオーシスを伴う両眼の真菌性眼内炎を発症し,菌血症改善の前後で硝子体手術を施行した 1 症例を経験したので報告する.症例:63 歳,男性.平成 19 年 7 月腸穿孔のため腸切除術を受けた.術後に腹腔膿瘍を生じ中心静脈留置カテーテルからカンジダが検出されたためフルコナゾール全身投与を開始,8 月上旬ミカファンギンナトリウムに変更されたがb-d-グルカン値は測定限界以上であった.8 月中旬に両眼の視力低下が出現し KKR札幌医療センター眼科初診.矯正視力右眼 0.1,左眼 0.06,線維素析出,虹彩後癒着を伴う前房炎症と隅角血管新生が両眼にみられた.両眼底に類円形白色滲出斑が散在したが硝子体混濁はなかった.初診 2 日後両眼硝子体混濁が出現し左眼は眼底透見困難となったため 6 日後に硝子体手術を行った.術直前に全身投与をボリコナゾールに変更したが術時b-d-グルカンは測定限界値以上のままであった.左眼は術後も消炎せず網膜 離に至ったが全身状態不良のため再手術は行えなかった.右眼はその 1 カ月後に全網膜 離を生じたが,b-d-グルカン値と全身状態が改善した状態で硝子体手術を行い,復位と消炎が得られ視力も改善した.考察:両眼の予後の違いから,真菌性眼内炎の手術適応の決定には従来の眼所見の分類に加え菌血症の状態を考慮する必要があると考えられた.ルベオーシスを伴う症例は進行が速く予後不良の可能性があり,手術時期について慎重な検討を要すると思われる.A 63-year-old male presented with blurred vision after S-colon resection. Subsequent ophthalmologic exami-nation revealed in ammation of anterior chamber with iris rubeosis at his rst visit and vitreous opacity in both eyes 2 days later. Despite severe candidemia, vitrectomy was performed on the left eye because of white retinal lesion and signi cant worsening of vitreous opacity. However, total retinal detachment ultimately occurred, due to strong postoperative in ammation. An additional operation was considered, but consent could not be obtained;sight was eventually lost in the left eye. However, vitrectomy was performed on the right eye after the ameliora-tion of candidemia, even though retinal detachment had been con rmed before the operation. The result was reti-nal restoration and postoperative best-corrected visual acuity of 0.52(converted to the logarithmic minimum angle of resolution). Endogenous fungal ophthalmitis with iris rubeosis can progress rapidly;not only the condition of the eye, but also the general condition, particularly that of candidemia, should be considered prior to vitrectomy.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1549 1552, 2009〕Key words:ルベオーシス,カンジダ血症,内因性眼内炎,硝子体手術.rubeosis, endogenous ophthalmitis, candi-demia, vitrectomy.———————————————————————- Page 21550あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(110)はじめに内因性真菌性眼内炎は消化管術後や,経中心静脈栄養(IVH)の普及により近年増加している1).真菌性眼内炎は従来の病期分類により抗真菌薬の全身投与,眼局所投与がまず行われ,高度の硝子体混濁や網膜 離などをきたした場合にはさらに硝子体手術が行われている2 5).しかし手術の適応を決める際には眼局所の状態が重視され,全身状態,特に真菌感染症そのものの状態にはほとんど言及されていない.また,筆者らの知りうる限り,虹彩ルベオーシスを伴う真菌性眼内炎の報告はない.今回,S 状結腸切除後にルベオーシスを伴う両眼の真菌性眼内炎を発症し,菌血症改善の前に左眼,改善後に右眼の硝子体手術を施行したところ,左右で異なる結果となった 1 例を経験したので報告する.I症例患者:63 歳,男性.主訴:両眼のかすみ.現病歴:2007 年 7 月 4 日原因不明の S 状結腸穿孔に対し近医外科で腸切除と人工肛門増設術を受け,術創離開のため再手術も施行された.その後消化管出血を生じたが,保存的治療で経過した.しかしその後熱発し,7 月 23 日の血液培養から Candida albicans が検出され,抗菌薬(詳細不明)と抗真菌薬フルコナゾールが全身投与された.状態が改善しないため 8 月 9 日に KKR 札幌医療センター(以下,当院)外科 に 転 院 し た. 血 液 検 査 の 結 果 CRP(C 反 応 性 蛋 白)が17.44 m g/dl,b-d-グルカンが測定限界値(300 p g/ml)以上であった.抗真菌薬はフルコナゾールからミカファンギンナトリウムに変更され,当院外科での腹腔ドレナージなどの治療により全身状態は一時的に改善したが,前医の術後で 7 月中旬頃より出現した両眼のかすみが増悪したため,8 月 15日に当院眼科初診となった.既往歴:気管支喘息.プレドニゾロン5 m g/day を内服していたが,外科術後より中止.家族歴:特記事項はなし.初診時所見:視力は右眼 0.1,左眼 0.06(ともに矯正不能),眼圧は両眼とも 10 mmHg,前房内は両眼とも線維素析出,虹彩後癒着と隅角新生血管がみられた.両眼底は網膜に小類円形白色滲出斑が散在したが,網膜出血や硝子体混濁はなかった.経過:臨床経過および眼所見から内因性真菌性眼内炎が疑われ,さらに硝子体混濁が両眼に生じたため,抗真菌薬を眼内移行性がよいとされるボリコナゾールに変更した.しかしb-d-グルカンが依然測定限界値(300 p g/ml)以上であり,硝子体混濁もさらに増強し,8 月 20 日視力は右眼 0.06,左眼光覚弁(ともに矯正不能)に低下した.特に左眼は前房出血および眼底透見困難な硝子体混濁がみられたため,8 月21 日左眼水晶体摘出術(後 切除含む)と硝子体手術を行った.術中所見として,下方網膜に白色滲出斑が多数みられ,菌塊と考えられる小さなやや隆起性の病変が多数散在していた(図 1).後部硝子体 離(PVD)は完成しており,術中に医原性裂孔は生じなかった.しかし高熱など全身状態不良のため全身麻酔は不可とされ,局所麻酔で手術を行ったが,疼痛と安静困難に加えて前房出血,散瞳不良などの視認性不良のため,周辺部硝子体は可及的な切除にとどめた.手術中,抗真菌薬と抗菌薬を灌流液に添加し,手術終了時,両眼硝子体腔内および結膜下にバンコマイシン,セフタジジム,フルコナゾール,アムホテリシン B を注入した.術翌日は前房内線維素析出および前房出血がみられ,硝子体混濁のため眼底が透見不能であった.超音波検査で網膜 離はみられなかった.左眼硝子体サンプルおよび右眼前房水の培養の結果,真菌は陰性であった.その後 IVH 抜去と腹腔ドレナージにより一時全身状態が改善し,8 月 28 日b-d-グルカンが 237 p g/ml,CRP が 5.92 m g/dl と改善傾向がみられたが,視力は右眼 0.04,左眼手動弁(ともに矯正不能)となった.8 月 31 日より抗真菌薬はボリコナゾール内服に変更されたが,嘔吐などの副作用が強く,9 月 4 日より再び点滴に変更された.9 月 7 日視力は右眼 0.01,左眼は手動弁のまま(ともに矯正不能)であったが,超音波検査で左眼後極に限局性の網膜 離が確認され,前房蓄膿もみられた.左眼再手術も検討したが,依然として全身状態不良で全身麻酔が不可であり,再手術の同意も得られなかったため,硝子体腔内にバンコマイシン,セフタジジム,フルコナゾール,アムホテリシン B,ミコナゾールを注入した.同時に右眼にフ図 1術中所見下方網膜に白色滲出斑が多数みられ,また菌塊と考えられる小さな隆起性病変が多数散在していた.後部硝子体 離は完成しており,術中に医原性裂孔は生じなかった.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091551(111)ルコナゾール,ミコナゾールおよびアムホテリシン B を結膜下注射した.この結果,右眼は前房炎症と硝子体混濁および網膜上の白色滲出斑が徐々に軽減した.その後も全身状態不良が続き,9 月 19 日抗真菌薬が全身副作用が少ないとされるイトラコナゾールに変更され,再度IVH が挿入された.9 月 26 日b-d-グルカンは 97.6 p g/mlと下降したが,CRP は 12.44 m g/dl と逆に悪化し,血液培養よりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため,テイコプラニン点滴が併用された.右眼はイトラコナゾール点滴開始以降,視力が矯正 0.02 前後で推移しており,硝子体混濁がやや改善傾向にあったが,9 月 27 日視力が矯正 0.01 に低下し,鼻上側網膜に裂孔と網膜 離がみられた.全身状態が不良などの理由で手術は行わず,MRSAに対してタゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウムを追加,抗真菌薬はイトラコナゾール内服に変更されたが,右眼全網膜 離となり,視力がさらに手動弁に低下した.その後解熱や,嘔吐の軽減など,全身状態が改善し手術の同意が得られたため,10 月 5 日に全身麻酔で右眼水晶体摘出術と硝子体手術を行った.術中所見として PVD は耳側のみであり,線維増殖膜が鼻側および下方網膜に強固に癒着しており,内上方に原因裂孔がみられた.左眼と違い,菌塊と考えられる白色の隆起病変は周辺部網膜に数カ所のみであった.徹底した周辺部硝子体切除と増殖膜処理を行い,術中網膜復位が得られ,術後腹臥位が困難と予想されたためにシリコーンオイルを注入した.術後は外科治療の効果もあり,b-d-グルカンと CRP が漸減し,b-d-グルカンが 11 月 15 日に26.1 pg/ml,CRP が 11 月 7 日に 0.28 mg/dl にそれぞれ改善した.右眼術後は速やかな消炎が得られ,視力は 11 月 15日に右眼 0.04(0.3)まで上昇した.左眼は全網膜 離で視力が光覚弁のままであった.その後イトラコナゾール内服で経過 を み て い た が, 右 眼 真 菌 性 眼 内 炎 の 再 発 は な か っ た.2008 年に入り,右眼に黄斑浮腫を伴う黄斑前膜が出現し,視力が再び低下したため,5 月 9 日に硝子体手術および眼内レンズ挿入術を行い,シリコーンオイルと黄斑前膜を除去した.II考按今回の症例は前医で抗真菌薬の投与が開始されていたこともあり,硝子体や前房水からは菌が検出されず,カテーテル,ドレーンの先端や,腹水,腹腔膿瘍の培養からも真菌血症の原因菌を検出することができなかった.しかし,前医での血液培養より Candida albicans が検出されたこと,血液検査でb-d-グルカンが測定限界値以上の高値を示していたこと,臨床経過と典型的な眼所見などから,内因性真菌性眼内炎と診断した.真菌性眼内炎に対する病気分類はいくつか提案されており,一般的に眼底透見困難となるような高度の硝子体混濁を生じた場合は,抗真菌薬の全身投与に加え硝子体手術による治療が必要とされている2 5).硝子体手術により抗真菌薬の硝子体腔への移行が促進されるだけでなく,硝子体中や網膜上の菌塊を直接除去することにより,治療効果を高めることができる6,7).本症例も左眼は眼底透見不能な硝子体混濁がみられた時点で,右眼は全網膜 離が生じた後でそれぞれ硝子体手術を行ったが,術前の眼底の状態は左眼が右眼より良好であったにもかかわらず,術後成績は左眼のほうが不良であった.左眼の手術時はb-d-グルカンが測定限界値以上で,眼局所以外の感染巣がはっきりせず,抗真菌薬全身投与下でも菌血症自体が沈静化していなかった.また手術中は高熱,手術操作に伴う強い疼痛,視認性不良,さらに呼吸苦により,手術を短時間にとどめざるをえず,最周辺部までの徹底した硝子体の郭清ができなかった.その結果,手術侵襲による網膜血管透過性が亢進し,抗真菌薬の全身投与下でも液体に置き換わった硝子体腔へ,残存硝子体ゲルや網膜血液柵が破綻した血管から真菌の進入が容易になり,術中および術後の抗真菌薬の硝子体腔内への注入と全身投与にもかかわらず術後の強い炎症と全網膜 離につながったと考えられる.それに対して右眼は真菌血症に加え MRSA 菌血症がある状態で,かつ網膜 離発生後の手術ではあったが,手術時b-d-グルカンが 84.2 p g/ml と真菌血症の状態が左眼の手術時よりもかなり改善した状態であった.さらに,全身麻酔で手術を行ったため,徹底した硝子体および線維増殖膜の処理ができた.その結果,術前の状態が不良であったが,治療成績が良好であったと考えられた.両眼とも眼科初診時にすでに隅角新生血管がみられ,このときは硝子体混濁はなかったものの,すでに真菌の毛様体への浸潤による強い炎症の存在および速い進行を示唆していたと考えられる.しかし,本症例は全身状態および菌血症の状態がきわめて不良であったため,早期に硝子体手術を行っても結果は同様であったと推測される.今回の症例では,真菌性眼内炎が確認されるまではフルコナゾール,ついでミカファンギンナトリウムの全身投与が行われたが,眼局所以外に全身の明らかな深在性真菌感染巣は不明であったため,より強力かつ眼内移行性がよいとされるボリコナゾールに変更した.確かに IVH 抜去やドレーン抜去などの外科処置もあり,ボリコナゾール変更後はb-d-グルカン値が低下し,右眼硝子体混濁の軽減もみられた.しかし,ボリコナゾールは嘔吐などの強い消化管症状をひき起こし,全身状態が悪化したため長期投与を行えず,やむをえずイトラコナゾールに変更され,IVH も再挿入された.イトラコナゾール変更後も硝子体混濁が徐々に改善したが,網膜上の線維増殖膜形成と PVD が引き続き進行し右眼網膜 離を生じたと考えられた.本症例の経過から,ルベオーシスを伴う真菌性眼内炎は進———————————————————————- Page 41552あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(112)行が速く予後不良の可能性があり,より短い期間での慎重な経過観察が必要である.また,硝子体手術を検討する際は,眼局所の所見に加え,b-d-グルカン値,CRP 値など菌血症と全身の状態も十分に考慮すべきである.菌血症が改善していない状態で硝子体手術を行っても,本症例の左眼のように良好な結果が得られない可能性があり,逆に本症例の右眼のように眼局所の状態が悪化していても,ある程度菌血症などの全身状態が安定した状態で手術を行ったほうが良好な結果が得られる可能性がある.どの時期に手術をすべきかに関しては,さらに多数例を集めた報告が必要であり,全身状態に注意し患者への十分な説明のうえで,より慎重に検討すべきであると考えられた.文献 1) 石橋康久,本村幸子,渡辺亮子:本邦における内因性真菌性眼内炎─ 1986 年末までの報告例の集計.日眼会誌 92:952-958, 1988 2) 石橋康久:内因性真菌性眼内炎の病気分類の提案.臨眼 47:845-849, 1993 3) 宇山昌延:眼内炎(2)真菌性眼内炎.ぶどう膜炎,p198-202,医学書院, 1999 4) 草野良明,大越貴志子,佐久間敦之ほか:真菌性眼内炎の起因菌におけるフルコナゾール耐性の Candida 属の増加.臨眼 54:836-840, 2000 5) 大西克尚:真菌性眼内炎.眼科診療プラクティス 47,感染性ぶどう膜炎の病因診断と治療(臼井正彦編),p32-35,文光堂, 1999 6) Zhang YQ, Wang WJ:Treatment outcomes after pars plana vitrectomy for endogenous endophthalmitis. Retina 25:746-750, 2005 7) Chakrabarti A, Shivaprakash MR, Singh R et al:Fungal endophthalmitis:fourteen years’ experience from a cen-ter in India. Retina 28:1400-1407, 2008***

回折型多焦点眼内レンズ挿入後に網膜硝子体疾患治療を要した4例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(103) 15430910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1543 1547,2009cはじめに白内障手術は眼科手術のなかで最も件数が多く,近年,眼内レンズ(IOL)の光学系に非球面,着色,多焦点機能1)が加わったものが普及している.なかでも,遠方と近方の 2 カ所に焦点が合うようにデザインされた多焦点 IOL は 2008 年に先進医療として認められ2),いずれ保険適用となれば,症例数の増加が予想される.多焦点 IOL そのものが,網膜硝子体疾患の発症に関与することは考えにくいが,挿入例が増えれば,術後経過観察中に網膜硝子体疾患を発症する例が出てくることは避けられない.遠方と近方の 2 カ所に入射光を配分する回折型多焦点 IOL 挿入眼においては,単焦点 IOL と光学デザインが異なるため,詳細な眼科検査や治療への影響が危惧されている.筆者らは回折型多焦点 IOL 挿入眼に硝子体手術を行い,硝子体の可視化に用いたトリアムシノロン〔別刷請求先〕吉野真未:〒101-0061 東京都千代田区三崎町 2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprint requests:Mami Yoshino, M.D., Department of Ophthalmology, Tokyo Dental College Suidobashi Hospital, 2-9-18 Misaki-cho, Chiyoda-ku, Tokyo 101-0061, JAPAN回折型多焦点眼内レンズ挿入後に網膜硝子体疾患 治療を要した 4 例吉野真未*1ビッセン宮島弘子*1鈴木高佳*1川村亮介*2井上真*1,3*1 東京歯科大学水道橋病院眼科*2 慶應義塾大学医学部眼科学教室*3 杏林大学アイセンターFour Cases Requiring Treatment for Vitreoretinal Disorders after Difractive Multifocal Intraocular Lens ImplantationMami Yoshino1), Hiroko Bissen-Miyajima1), Takayoshi Suzuki1), Ryosuke Kawamura2) and Makoto Inoue1,3)1)Department of Ophthalmology, Tokyo Dental College Suidobashi Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Keio University School of Medicine, 3)Kyorin Eye Center, Kyorin University School of Medicine目的:回折型多焦点眼内レンズ(IOL)挿入後に網膜硝子体疾患を発症し,治療を要した症例を検討した.対象:回折型多焦点 IOL が挿入された 341 眼中,術後に良好な視力が得られたものの網膜硝子体疾患を発症した 4 眼(1.2%)で,裂孔原性網膜 離,黄斑前膜,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症が 1 眼ずつであった.治療前後の検査所見,術中所見,視力を検討した.結果:倒像鏡眼底検査は単焦点 IOL 挿入眼同様に問題なく,光干渉断層計のモニター画像で 3 眼中 3 眼に水平ノイズが観察された.硝子体手術を要した 2 眼にトリアムシノロン粒子のゴースト像が観察されたが,手術は問題なかった.トリアムシノロンの Tenon 下投与を 2 眼に,ベバシズマブ硝子体内投与を 1眼に行い,視力は改善した.結論:回折型多焦点 IOL 挿入後の網膜硝子体疾患は,一部の検査や術中所見で IOL の光学特性が出ることを理解していれば安全に治療が行えると思われた.We retrospectively evaluated cases that required treatment for vitreoretinal diseases following di ractive mul-tifocal intraocular lens(IOL)implantation. Of 341 consecutive eyes, 4 developed vitreoretinal diseases:one case each of retinal detachment, epiretinal membrane, central retinal vein occlusion and branch retinal vein occlusion. Vitrectomy was performed in 2 eyes and ghost images were observed in both those eyes. Spectral-domain optical coherence tomography was performed in 3 eyes and horizontal noise was observed in all 3 eyes. Subtenon injection of triamcinolone was performed in 2 eyes and intravitreal injection of bevacizumab in 1 eye. Visual acuity improved in all cases. When the eye develops vitreoretinal disease after di ractive multifocal IOL implantation, examination and treatment can be performed safely in consideration of the optical design, which may a ect visibili-ty to the examiner or evaluation by digital equipment.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1543 1547, 2009〕Key words:回折型多焦点眼内レンズ,眼内レンズ,網膜硝子体疾患,硝子体手術.di ractive multifocal intraocu-lar lens, intraocular lens, vitreoretinal disease, vitrectomy.———————————————————————- Page 21544あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(104)粒子が硝子体内でゴースト像を呈すること3),回折型多焦点IOL 挿入眼では,Carl Zeiss Meditec 社製スペクトラルドメイン光干渉断層計(opitcal coherence tomography:OCT)に内蔵された眼底モニター画像である LSO(line scanning ophthalmoscope)画像で,波面状の水平ノイズが観察されることを報告した4).今回,回折型多焦点 IOL 挿入例で網膜硝子体疾患を発症し,治療を要した症例の網膜硝子体の検査や治療への影響を総合的に検討した.I対象および方法対象は,東京歯科大学水道橋病院において,2005 年 6 月から 2008 年 8 月までに白内障手術時に回折型多焦点 IOL が挿入された 341 眼である.挿入された回折型多焦点 IOL は,AMO 社製テクニスマルチフォーカル ZM900,アルコン社製 ReSTORR SA60D3 で,厚生労働省承認前の使用にあたっては,大学倫理委員会の承認を得て,多焦点 IOL を希望する患者に十分な説明の後,同意を得たうえで挿入を行った.また,適応については,術前に視力に影響する眼疾患を合併していない白内障例とした.341 眼について,IOL 挿入後に網膜硝子体疾患を発症した例を後ろ向き調査したところ,4 眼に発症し治療を要していた.これらの症例の眼底所見,蛍光眼底所見,OCT 所見(Carl Zeiss Meditec 社製 Spec-tral-domain OCT, Cirrus HD-OCT, OCT4000),および硝子体手術を要した例における術中所見,治療後の視力予後を検討した.II結果多焦点 IOL 挿入術後の網膜硝子体疾患の発症率は 1.2%(341 眼中 4 眼)で,いずれの症例も,術中合併症はなく,術後に良好な視力が得られた後に網膜硝子体疾患を発症した.4 例の疾患の内訳は,裂孔原性網膜 離,黄斑前膜,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症がそれぞれ 1 眼ずつで,各症例の年齢,性別,使用した多焦点 IOL,発症までの期間,経過観察期間を表 1 に示す.白内障術前,多焦点 IOL 挿入後,網膜硝子体疾患発症時,治療後の視力の変化を表 2 に示す.全例,多焦点 IOL 挿入後良好な視力が得られていたが,網膜硝子体疾患の発症とともに視力が著明に低下,治療後視力は改善し,自覚的な満足度が得られている.近方視力も同様に網膜硝子体疾患治療後,ほぼ多焦点 IOL 挿入後の視力まで回復している.つぎに,術前後の検査所見であるが,倒像鏡による眼底検査,OCT 画像,LSO 画像,蛍光眼底造影所見を表 3 にまと表 1各症例における網膜疾患症例1234年齢56 歳70 歳79 歳54 歳性別男性女性男性女性左右眼左左右左使用した多焦点 IOLZM900ZM900SA60D3SA60D3IOL 度数+15.0 D+21.0 D+20.5 D+17.5 D網膜硝子体疾患網膜 離黄斑前膜網膜中心静脈閉塞網膜中心静脈分枝閉塞発症までの期間1週24 カ月2 カ月6 カ月治療後観察期間26 カ月14 カ月12 カ月8 カ月表 2各症例における視力の変化症例1234遠方視力裸眼(矯正)術前0.04(0.5)0.6(0.6)0.5(0.7)0.3(04)IOL 挿入後最高0.5(1.0)0.8(1.0)1.2(1.2)1.2(1.5)網膜疾患発症時手動弁0.4(0.5)0.3(0.3)0.5(0.5)治療後1.0(1.2)0.8(0.8)0.8(0.8)1.2(1.5)近方視力裸眼(矯正)IOL 挿入後最高未施行0.5(0.7)0.7(1.0)0.9(1.0)治療後未施行0.4(0.7)0.7(0.7)0.7(0.8)表 3各症例における検査所見症例1234眼底検査問題なし問題なし問題なし問題なしOCT 画像未施行問題なし問題なし問題なしLSO 画像未施行水平ノイズ水平ノイズ水平ノイズ蛍光眼底造影未施行問題なし未施行未施行 OCT:optical coherence tomography,LSO:line scanning ophthalmoscope.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091545(105)める.疾患の種類により施行した検査内容が異なるが,眼底撮影画像は単焦点 IOL 挿入眼と差がなく,診断に影響を及ぼす問題はなかった(図 1, 2).ただし,LSO 画像においては,施行した 3 例全例に波面状の水平ノイズが認められた(図 1d,f).多焦点 IOL 挿入眼の硝子体手術への影響は,手術を要した症例 1,2 で,硝子体手術用コンタクトレンズを用いた手術顕微鏡下では,網膜血管,黄斑前膜のコントラストが単焦点 IOL 挿入眼に比べてやや低下して観察された(図 3a).硝子体を観察するためにトリアムシノロン粒子(ケナコルトR,ブリストルマイヤーズ,東京)を硝子体腔に注入したところ,硝子体腔内に浮遊するトリアムシノロン粒子は,消えたり現れたりして見え,粒子そのものがだぶった像として観察された(図 3b).同様に眼内器具も顕微鏡の焦点の合わせ具合にacdefb図 1症例3の眼底写真とOCT所見網膜中心静脈閉塞症発症時の眼底写真(a)と OCT 画像(c)では多発する網膜出血と著明な黄斑浮腫がみられる.治療 7 カ月後の眼底写真(b)と OCT 画像(e)では網膜出血も減少し黄斑浮腫も軽快した.OCT でのモニター画像(LSO)(d,f)では波状の水平ノイズ(矢印)が認められるが,OCT 画像では認められない.———————————————————————- Page 41546あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(106)より滲んで見えたが,手術操作は問題なく行えた.III考按回折型多焦点 IOL は,その利点を生かすために,網膜感度が良好で,中心窩機能が保たれていることが好ましいため,白内障手術前の検査で,視力に影響を及ぼす可能性がある眼底疾患が存在すれば適応としないのが一般的である.症例 1 は,術後早期に網膜 離を発症しているが,術前検査では眼底に異常所見は観察されなかったため多焦点 IOL の適応とし,術 1 週後に硝子体出血を伴う急激な視力低下をきたし,この時点で裂孔原性網膜 離を発症した可能性が高いと考えている.白内障手術の年齢層から,多焦点 IOL 挿入後に加齢性変化による網膜硝子体疾患を発症する可能性は十分考慮すべきである.その際問題になるのが,良好な裸眼視力を目的として挿入された症例における視力予後,光学デザインによる診断への影響,手術を要する例での手術の難易度で図 2症例4の眼底写真とOCT所見網膜中心静脈閉塞症増悪時の眼底写真(a)と OCT 画像(c)では多発する網膜出血と黄斑浮腫がみられる.治療 4 カ月後の眼底写真(b)と OCT 画像(d)では網膜出血も減少し黄斑浮腫も軽快した.acbd図 3症例1の術中写真網膜血管,黄斑前膜のコントラストがやや低下し(a),トリアムシノロン粒子はだぶった像(b)として観察されたが,手術は問題なく施行できた.ab———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091547(107)ある.まず,視力予後については,疾患や重篤度によって異なるが,今回の 4 症例では,多焦点 IOL 挿入後裸眼視力 0.5 以上,矯正視力 1.0 以上と良好であった.しかしながら,網膜硝子体疾患により視力は著明に低下し,治療を要した.4 例とも疾患が異なり治療法も異なるが,全例視力は改善した.多焦点 IOL は先進医療として認められ,術前後の検査は保険適用だが,手術費が自費のため,術後の見え方に対する患者の期待度は高い.網膜硝子体疾患を併発した場合,単焦点IOL 挿入後に比べ,治癒後に視力がある程度回復しても,高価な手術費を支払った結果として不満をいだく可能性があり,今後,症例数が増えるにつれ,十分な術前説明の必要性が認識されるべきである.つぎに,検査所見についてであるが,回折デザインによる影響が危惧されている.回折型多焦点 IOL 挿入眼の自覚的な見え方に不満をもつ例が検討されており5,6),代表的な見え方の表現に,回折リングが見える,waxy vision,ゴースト像がある.同様の問題が検査に出るかどうかであるが,倒像鏡による眼底検査,眼底写真,蛍光眼底造影といったある位置に焦点を合わせる条件では,単焦点 IOL 挿入例と差がなく施行でき,診断への影響はなかった.近年,網膜診断に用いる OCT 画像について,筆者らは,回折型多焦点 IOL 挿入後の網膜硝子体疾患のない例において,Cirrus HD-OCT の LSO 画像で水平ノイズがみられるが,OCT 画像そのものには水平ノイズに相当する像はみられず,また,SLO でも水平ノイズに相当する像がみられないことを報告した4).今回の回折型多焦点 IOL 挿入後の網膜硝子体疾患例でも,測定した全例に同様の水平ノイズがみられ,この機序としては,LSO が完全な共焦点方式ではなく,画像検出を短波長のスリット照明と横方向に移動するスリット状の検出装置(linear detector)で行うため,一方向のみの水平ノイズが検出され,一方,完全な共焦点方式であるSLO ではピンホール状の検出装置を用いているため,水平ノイズが除去されていたと推測している.今後,新しい診断装置が開発されると,回折型多焦点 IOL 挿入眼において単焦点 IOL 挿入眼でみられない微細な影響が出る可能性はあるが,診断を左右するような状況が出ることは考えにくい.硝子体手術中所見として,すでに症例 1 のケナコルト粒子のゴースト像を報告した3)が,症例 2 でも同様の所見が観察され,回折型多焦点 IOL 挿入眼における特徴的な見え方と考えられた.今後,網膜硝子体手術が必要な症例では,術者がこの現象を把握しておくことが必要と思われた.術者の自覚的判断になるが,多焦点 IOL を通しての網膜所見は,レンズ特有の収差のなかでの手術となり,単焦点 IOL を通してよりコントラストが弱く感じられる.収差については,IOL 以外に顕微鏡や硝子体手術用コンタクトレンズの影響もあり,さらに検討が必要だが,IOL 収差への対応策として,欧米で硝子体手術における使用率が高い広角観察システムは,多焦点 IOL の収差の影響を受けにくいため,今後,硝子体手術時の有用性について評価が望まれる.検査所見で,回折型多焦点 IOL 挿入後の自覚的な見え方で問題になる回折リング像や waxy vision の影響がなかったことを述べたが,硝子体手術中に焦点をずらすと,回折リングが視野に広がり,全体がゆらゆらした,英語の表現で waxy vision を想像させる映像が確認された.この現象は,焦点を合わせる場所によって変化し消えるので,手術操作に影響はないが,患者の見え方を理解するうえで興味深い所見である.以上,回折型多焦点 IOL 挿入後に網膜硝子体疾患の治療を要した 4 例で,検査および治療において IOL の光学デザインによる特徴的な所見が認められたが,治療は安全に行われ,良好な視力回復が得られた.今後,多焦点 IOL 挿入例数が増えるに伴い眼底疾患発症率が増えることが予想されるが,眼底検査や手術時に単焦点 IOL との違いを理解しておくことが必要と思われた.文献 1) ビッセン宮島弘子:視機能を考えた眼内レンズ選択法.IOL&RS 20:209-212, 2006 2) ビッセン宮島弘子:眼科と医療問題多焦点眼内レンズと評価療養.IOL&RS 22:384-385, 2008 3) Kawamura R, Inoue M, Shinoda K et al:Intraoperative ndings during vitreous surgery after implantation of di ractive multifocal intraocular lens. J Cataract Refract Surg 34:1048-1049, 2008 4) Inoue M, Bissen-Miyajima H, Yoshino M et al:Wavy horizontal artifacts on optical coherence tomography line-scanning images caused by di ractive multifocal intraocu-lar lenses. J Cataract Refract Surg 35:1239-1243, 2009 5) Woodward MA, Randleman JB, Stulting RD:Dissatisfac-tion after multifocal intraocular lens implantation. J Cata-ract Refract Surg 35:992-997, 2009 6) Castillo-Gomez A, Carmona-Gonzalez D, Martinez-de-la-Casa JM et al:Evaluation of image quality after implan-tation of 2 di ractive multifocal intraocular lens models. J Cataract Refract Surg 35:1244-1250, 2009***

Epipolis Laser In Situ Keratomileusis(Epi-LASIK)の臨床成績

2009年11月30日 月曜日

上眼瞼に発生したSteatocystoma Simplex の1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(91) 15310910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1531 1534,2009cはじめにSteatocystoma は毛包脂腺系から発生する皮下腫瘍であり,steatocystoma multiplex と steatocystoma simplex の 2種類の形態がある1).Steatocystoma multiplex と steatocys-toma simplex は病理組織学的には同一であるが,常染色体優性遺伝形式をとり,腫瘍が多発する場合を steatocystoma multiplex,遺伝傾向がなく,腫瘍が単発である場合を ste-atocystoma simplex とそれぞれ呼称する1).Steatocystoma simplex は,steatocystoma multiplex の単発型として,Brownstein によって 1982 年に初めて報告された1).発生頻度,好発年齢や性差などは明らかではないが,Brownstein が 10 年間で合計 30 症例を経験していること1),また,現在まで悪性転化に関する症例報告はないため,まれな良性皮下腫瘍として扱われている2 5).臨床所見は,弾性硬の皮下腫瘍であり,油性ないしはクリーム状の内容物を有するため,臨床症状から epidermal cyst と診断されることが多い1 5).Steatocystoma simplex の好発部位は顔面であり1),特に前額部に多く認められる1,3,5).しかし,現在まで眼瞼に発生した steatocystoma simplex の報告は 2 例のみであり6,7),わ〔別刷請求先〕木下慎介:〒509-9293 岐阜県中津川市坂下 722-1国民健康保険 坂下病院眼科Reprint requests:Shinsuke Kinoshita, M.D., Department of Ophthalmology, Sakashita Hospital, 722-1 Sakashita, Nakatsugawa-shi, Gifu 509-9293, JAPAN上眼瞼に発生した Steatocystoma Simplex の 1 例木下慎介*1新里越史*1雑喉正泰*2岩城正佳*2*1 国民健康保険 坂下病院眼科*2 愛知医科大学眼科学講座A Case of Steatocystoma Simplex in the Upper EyelidShinsuke Kinoshita1), Etsushi Shinzato1), Masahiro Zako2) and Masayoshi Iwaki2)1)Department of Ophthalmology, Sakashita Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Aichi Medical UniversitySteatocystoma simplex はまれな良性皮下腫瘍である.好発部位は顔面であるが,現在まで眼瞼に発生した報告は2 例のみである.今回,筆者らは眼瞼に発生した steatocystoma simplex の 1 例を経験した.症例は 55 歳,男性で,主訴は右上眼瞼に腫瘤を触知することであった.皮膚側からの視診では右上眼瞼に病変は認めず,触診で病変の触知が可能であった.上眼瞼を翻転すると眼瞼結膜側に境界明瞭な隆起性病変を認めた.霰粒腫を疑い摘出術を行ったが,術中に薄い被膜を認めたため,被膜を全摘出した.病理組織診断の結果は,steatocystoma であった.眼瞼に生じた ste-atocystoma simplex の臨床所見は,霰粒腫に類似していた.そのため,霰粒腫の治療を行う場合は,steatocystoma simplex の可能性も考慮する必要がある.Steatocystoma simplex, a rare subcutaneous benign tumor, commonly a ects the face, though 2 cases of its occurrence in the eyelid have been reported. We experienced a case of steatocystoma simplex in the upper eyelid. The patient, a 55-year-old male, complained of a palpable lump in his right upper eyelid, but the lump could not be detected on ocular inspection. When we everted the upper eyelid, however, we observed a well-demarcated tumor in the palpebral conjunctiva, which we diagnosed as a chalazion and surgically removed. During the opera-tion we discovered that the tumor was encapsulated, so complete decapsulation was performed. Histopathological evaluation of the tumor led to the diagnosis of a steatocystoma. Since the clinical characteristics of patients with steatocystoma simplex mimic those of patients with chalazion, in cases of suspected chalazion it is advisable to include steatocystoma simplex in the di erential diagnosis, so as ensure a correct diagnosis and, consequently, an appropriate treatment plan.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1531 1534, 2009〕Key words:steatocystoma simplex, 眼 瞼, 眼 瞼 結 膜, 霰 粒 腫,steatocystoma.steatocystoma simplex, eyelid, palpebral conjunctiva, chalazion, steatocystoma.———————————————————————- Page 21532あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(92)が国における症例報告はない.そこで今回,筆者らは,眼瞼に発生した steatocystoma simplex の 1 例を経験したので報告する.I症例患者:55 歳,男性.主訴:右上眼瞼の違和感.既往歴:50 歳,高血圧症.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成 19 年 9 月頃より,右上眼瞼に違和感を自覚していた.同年 10 月頃に右上眼瞼に腫瘤を触知することを自覚したため愛知医科大学病院眼科を受診した.初 診 時 所 見: 視 力 は 右 眼 0.2(0.8×+1.5 D(cyl 0.75 D Ax0°),左眼 1.0(1.2×+1.25 D(cyl 0.25 D Ax55°)で,眼圧は右眼 11 mmHg,左眼 13 mmHgであった.両眼ともに前眼部,中間透光体,眼底に異常は認められなかった.眼瞼部所見:眼瞼皮膚側からの視診では,右上眼瞼に病変は認められなかったが,触診で眼瞼の中央付近に弾性硬の病変が確認できた.右上眼瞼を翻転すると眼瞼結膜側に境界明瞭な隆起性病変を認めた(図 1).臨床検査所見:血液検査で異常は認められなかった.治療経過:臨床経過,臨床所見より霰粒腫を疑い,局所麻酔下に経皮的摘出術を行った.腫瘍直上で皮膚切開を行い,眼輪筋を圧排し瞼板前面を露出したところ,病変と一致する部分に瞼板の隆起を認めた.瞼板隆起部の切開を行ったところ,黄色クリーム状の内容物が認められた.鋭匙で内容物の郭清後,同部分を観察すると虚脱した薄い被膜を認めた.そのため,霰粒腫ではなく何らかの貯留 腫であると判断し,被膜を周囲組織から丁寧に 離し全摘出した.眼瞼結膜側は,眼瞼結膜と被膜の 離は困難であったため,眼瞼結膜を含めて摘出した.病理組織診断:上皮で裏打ちされた 胞状構造とその周囲に脂腺が認められたため,steatocystoma と診断された(図2).術後経過:眼瞼以外に腫瘍を認めない単発型であり,家族歴もないことから,steatocystoma simplex と診断した.術後 30 日で再発はなく,被膜と一塊に切除した眼瞼結膜の瘢痕は軽微である(図 3).また,眼瞼結膜側の瘢痕による眼表面の違和感や角膜上皮障害は認めていない.II考察本症例における steatocystoma simplex の術中所見は,瞼板内に生じた被膜を有する腫瘍であり,腫瘍の内容物は黄色クリーム状であった.この被膜は steatocystoma simplex の 腫壁であるが,他の症例報告6,7)においても 腫壁は瞼板と強固に癒着しており,本症例の術中所見と同様の所見である(表 1).そのため,瞼板と強固に癒着している 腫壁が,図 1初診時所見右上眼瞼結膜に球状の隆起性病変を認める.図 2病理組織学所見ケラトヒアリン顆粒をもたない上皮成分の 腫壁(矢頭)と脂腺(矢印)を認める.bar=100 μm.図 3術後所見眼瞼結膜の瘢痕は軽微である.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091533(93)眼瞼に発生する steatocystoma simplex の特徴的な所見であると考えられる.その一方で,本症例では,視診と触診,術中所見を含め,霰粒腫と類似する所見が多く,術中に 腫壁を発見できなければ霰粒腫との鑑別は非常に困難であったと考えられる.また,他の症例報告おいても術前の臨床診断は霰粒腫であった6,7)ことを考慮すると,霰粒腫の臨床診断で手術を行う際は,術中に 腫壁の有無を注意深く観察することが重要であると考えられる.Steatocystoma simplex は貯留 腫であるため, 腫壁の全 摘 出 が 根 治 的 治 療 で ある1 5). こ れ は,steatocystoma simplex に限らず,貯留 腫は摘出の際に 腫壁を取り残すと,残存した 腫壁から貯留 腫が再発するためである8). 腫壁を残存させないためには, 腫壁を損傷することなく一塊に摘出することが望ましいが,本症例では瞼板前面の所見が霰粒腫と類似しており,霰粒腫の手術方法9)に準じて瞼板前面を切開したため,腫瘍を一塊として摘出することは不可能であった.しかし,貯留 腫の摘出術のなかには,あえて 腫壁の切除または切開を行い,内容物を脱出させた後に 腫壁を摘出する術式がある10).本症例では 腫壁を損傷したが,同様の術式を用いることで, 腫壁を全摘出することが可能であった.したがって,霰粒腫の臨床診断で手術を行い, 腫壁を損傷した場合であっても,術式を変更することで, 腫壁の全摘出は可能であると考えられる.Steatocystoma simplex と鑑別が必要になる疾患は,epi-dermal cyst と subcutaneous dermoid cyst である1 5).しかし,epidermal cyst と subcutaneous dermoid cyst はともに貯留 腫であるため,治療は 腫壁を含めた全摘出であ り8),steatocystoma simplex と臨床的に鑑別する意義は少ないと考えられる.また,subcutaneous dermoid cyst は生下時から存在することが多いため11),問診で鑑別することが可能であると考えられる.病理組織学的には,steatocysto-ma はケラトヒアリン顆粒をもたない上皮成分の 腫壁に脂腺を有する貯留 腫である1).そのため,同じ貯留 腫であってもケラトヒアリン顆粒を有し, 腫壁に脂腺をもたないepidermal cyst や脂腺以外の皮膚付属器をもつ subcutane-ous dermoid cyst との鑑別は容易である12).本症例における病理組織像は典型的な steatocystoma であり,epidermal cyst や subcutaneous dermoid cyst との鑑別は容易であり,また,上皮成分を含む 腫壁が確認できたため,脂肪肉芽腫である霰粒腫9)との鑑別も容易であった.Steatocystoma simplex は,毛包脂腺系の毛包脂腺導管開口部から毛隆起部までの部分である毛包峡部から発生するとされている13).しかし,瞼板内には睫毛根は存在せず14),また,瞼板内の脂腺であるマイボーム腺は,睫毛と連絡のない独立脂腺であるため15),瞼板内には毛包脂腺系は存在しない.そのため,本症例における steatocystoma simplex は,睫毛重生で生じるように16),マイボーム腺の形質変化によって,瞼板内に形成された毛包脂線系から発生したと考えられる.一方,本症例以外にも,マイボーム腺と同様の独立脂腺であり,毛包脂腺系が存在しない口腔内にも steatocystoma simplex が発生している17)ことを考慮すると,実際は steato-cystoma simplex の発生に毛包の関与はなく,脂腺のみが関与している可能性も否定できない.しかし,どちらの場合であっても steatocystoma simplex の発生には脂腺が強く関与していると考えられる.したがって,steatocystoma sim-plex の発生起源は毛包峡部のような部分ではなく,脂腺導管開口部など脂腺が存在する部位であると考えられる.眼瞼に生じた steatocystoma simplex の臨床所見は,霰粒腫に類似していた.そのため,霰粒腫の臨床診断で手術を行う場合は,steatocystoma simplex の可能性も念頭において,術中の注意深い観察が必要である.文献 1) Brownstein MH:Steatocystoma simplex. Arch Dermatol 118:409-411, 1982 2) Nakamura S, Nakayama K, Hoshi K et al:A case of Ste-atocystoma simplex on the head. J Dermatol 15:347-348, 1988表 1眼瞼に発生したsteatocystoma simplexの報告例報告者年齢(歳)性別部位臨床診断治療内容術中所見Tirakunwichcha et al6)47女性左上眼瞼霰粒腫脂腺系の腫瘍摘出術瞼板と挙筋腱膜に強固に癒着摘出後,瞼板にボタンホール形成あり黄色クリーム状の内容物Procianoy et al7)68女性右上眼瞼霰粒腫脂腺 腫切除生検瞼板に強固に癒着霰粒腫に類似術中に灰色の油性内容物の流出自験例55男性右上眼瞼霰粒腫摘出術瞼板に強固に癒着黄色クリーム状の内容物眼瞼結膜を含めて切除———————————————————————- Page 41534あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(94) 3) Saravanan K, Akthar S:Interesting Case:steatocystoma simplex of the forehead. Br J Oral Maxillofac Surg 45:196, 2007 4) 山本聡,相原道子,中嶋弘:Steatocystoma simplex の1 例.皮膚 38:434-436, 1996 5) 寺内雅美,中束和彦,中村潔:Steatocystoma simplex の2 症例.形成外科 47:529-532, 2004 6) Tirakunwichcha S, Vaivanijkul J:Steatocystoma simplex of the eyelid. Ophthal Plast Reconstr Surg 25:49-50, 2009 7) Procianoy F, Golbert MD, Duro KM et al:Steatocystoma simplex of the eyelid. Ophthal Plast Reconstr Surg 25:147-148, 2009 8) Zuber TJ:Minimal excision technique for epidermoid(sebaceous)cysts. Am Fam Physician 65:1409-1412, 2002 9) Shields JA, Shields CL:Chalazion. Atlas of Eyelid and Conjunctival Tumors 2nd ed. p208-211, Lippincott Wil-liams & Wilkins, Philadelphia, 2008 10) Kanekura T, Kawamura K, Nishi M et al:A case of ste-atocystoma multiplex with prominent cysts on the scalp treated successfully using a simple surgical technique. J Dermatol 22:438-440, 1995 11) Koreen IV, Kahana A, Gausas RE et al:Tarsal dermoid cyst:Clinical presentation and treatment. Ophthal Plast Reconstr Surg 25:146-147, 2009 12) Jenkins JK, Morgan MB:Dermal cysts a dermatopatho-logical perspective and histological reappraisal. J Cutan Pathol 34:815-829, 2007 13) 幸田弘: 腫について.皮膚臨床 31:115-129, 1989 14) 木下慎介,柿崎裕彦,雑喉正泰ほか:大部分の睫毛根は瞼板に付着しているため,睫毛乱生手術において瞼板前組織を完全切除すべきである.眼紀 57:10-13, 2006 15) Nelson BR, Hamlet KR, Gillard M et al:Sebaceous carci-noma. J Am Dermatol 33:1-15, 1995 16) Monshizadeh R, Cohen L, Golkar L et al:Perforating folli-cular hybrid cyst of the tarsus. J Am Acad Dermatol 48:33-34, 2003 17) Olsen DB, Mosto RS, Langrotteria LB:Steatocystoma simplex in the oral cavity;A previously undescribed con-dition. Oral Surg Oral MED Oral Pathol 66:605-607, 1988***

眼科医にすすめる100冊の本-11月の推薦図書-

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.11,200915230910-1810/09/\100/頁/JCOPY自分のバリューは“ごきげんに生きる”.だから“ごきげん”という現象にはとても興味がある.今はアンチエイジング医学をなんとかサイエンスにしたいと考え,眼科医療との関連を模索しているが,将来はごきげんと眼科をサイエンスとして結び付けられたらいいなあと思っている.ごきげんを科学的に研究している例は少ない.哲学や個人的な理論の本はあっても,サイエンスとしてごきげんや幸せを扱っているものはなかなか少ないのである.特に日本語の本は少ない.そこでどうしても英語の本になってしまって苦労する.今回読んだ『Authen-ticHappiness』は,ちょうど日本語訳が出たところなので(うーん,ちょっと待っていれば楽に日本語で読めたのに!)皆様にぜひ紹介したい.生物学的に考えたとき,今まで発達してきているものは生存に有利であったから残っているという大前提をとることができる.眼や手や足などは生存に有利であったからこそほとんどすべての動物で発達している.人間において頭脳もそのひとつ.論理的な解析,思考能力,記憶力が生存に貢献した.感情もそうだ.感情というものがあってはじめて人間は高度な協力関係を築けるようになってきたと言われる.今他の人がどのように思っているのか,と推測して行動を変化させていくことが大きく人類の可能性を開いたという理論である.では“ごきげん”“しあわせ”という感情も人類の生存に貢献したのだろうか?著者のマーティン・セリグマン先生は米国フィラデルフィアの精神科医.彼はまさに“プラスの感情”が大きく人類の生存に貢献しているという立場から研究を進めている.もともと精神科医は心の病気を対象に研究しているので,どちらかというとマイナスになっている状態,病的な状態を研究する.セリグマン先生のように正常なおかつ,ごきげんなんていう状態を研究している先生は少ない.これは眼科でも同じことだ.眼の病気の専門家,眼の病気を研究している研究者は多いが,眼が見えることがどんなに生存に貢献しているかをサイエンスとして研究しているリサーチャーは少ない.最近は日本眼科医会の三宅謙作先生が“日本における視覚障害の社会的コスト”(日本眼科医会研究班報告20062008:日本における視覚障害の社会的コスト.日本の眼科80(6):付録,2009)でまとめられたように,“目が見えないことがどんな社会的コストを作ってしまうのか”というバリューベースドメディシンの立場から研究も始まっていて嬉しい限りだが,まだまだ少ないのが現状だ.さらには見えることがどのくらいごきげん,すなわちプラスに働くかという研究は,これからの学問となると思っている.さて,では幸せはどのように生存にプラスに働くのか?ごきげんだと細かいことが気にならなくなるので,ちょっとリスクがあっても何か新しいことを始めることができる.気にやまないので精神疾患になる確率も低い.血圧や血糖値も良好である可能性が高い.本の中で紹介されている面白い研究を紹介しよう.尼僧さんが若いときに書いた日記が大量に見つかったところから研究が始まる.この日記に書かれているポジティブワード(楽しい,うれしい,感謝する,おいしい,体調がいい,きれいなどなど)とネガティブワード(悲しい,調子が悪い,まずい,体調が悪い,嫌いなどなど)を規定してその数をそれぞれの尼さんで計算する.プラスからマイナスを引いた分がその尼さんのごきげん度と規定するのだ.そしてその後70年経ったときの健康状態を見てみると,なんとごきげん度の高かった尼さんのほうが2.5倍も生存率が高かったのである.これはアンチエイジング医学の立場からも興味深い.ごきげんでいるほうが長(83)■11月の推薦図書■AuthenticHappinessMartinE.P.Seligman著邦題名:世界でひとつだけの幸せ―ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人/小林裕子訳(アスペクト)シリーズ─91◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科———————————————————————-Page21524あたらしい眼科Vol.26,No.11,2009生きできそうなのである.セリグマン先生は科学者だけあって,大変公平だ.もしごきげんが生存に役立つとしてその感情が残っているなら,“悲観的”であるという感情も人類の生存に貢献したのではないかと仮定している.悲観的であれば,細かいことに気をつける,大きな事故を起こさない,細菌感染になりにくい(手をよく洗うとか)などなど,確かにプラスも存在する.こう考えるとごきげんでいるだけじゃなくて,悲しいとか寂しいという感情もとっても大切なことがわかってくる.ごきげんはプラス,不きげんはマイナスという単純なストーリーではなさそうだ.また,最近の研究では,ごきげんから不きげんを引いた分(尼さん研究で使われたが)をその人のごきげん度とするのも単純すぎると言う.年をとってくると,不きげんも減る代わりにごきげんも減ってしまって,トータルの動きが減ってきてしまうことが考えられている(図1).この理論では,ごきげんと不きげんのゆらぎこそが人生だ!ということになる.まだまだこの“幸せの科学”(どこかで聞いたことがありそうな名前ですが)は始まったばかり.これから大きく発展する分野だと思うんだけど,イントロダクションとしては大変よくまとまっている本だった.まずは一読をお奨めしたい.(84)☆☆☆図1ごきげんと不きげんのゆらぎ年をとるとこの振幅が減ってくるので,単純にごきげんから不きげんを引き算した値だけで人生を評価することはできない.ゆらぎの振幅が大きいことも重要かもしれないのだ.

後期臨床研修医日記 11.大阪医科大学附属病院眼科

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.11,200915190910-1810/09/\100/頁/JCOPY火曜日今日は手術日です.当院では週2回,3列で終日手術をしています.慌しいなかでもいろいろな手術を見られるのはやはり楽しいです.集中力がつづかないことも多いのですが….先日は池田恒彦教授の,網膜に意図的巨大裂孔を作製して翻転させて大量の網膜下血腫を除去する手術を助手として見ることができ,そのダイナミックさに驚きました.私たちレジデントは入局後半年たつと外来をはじめますが,外来に白内障や外来手術適応の患者さんがいらっしゃると,指導医の先生にお願いしてついてもらい自分で執刀します.そんな手術のある日は朝からひたすらそわそわしています.初めは部分的に指導医と交代しながらの執刀ですが,最近は席を代わらずに手術を終えられることも多くなってきました.毎度肩に力が入っているようで,終わったあとはぐったり…どっしり構えて寛容に執刀を続けさせてくださる指導医の先生方の心中を思うと,頭が下がるばかりです.いつもありがとうございます!!(吉田朋代)(79)大阪医科大学附属病院では現在6人のレジデント(後期研修医)が働いています.今回はわたしたち2年目レジデント3人の普段の1週間をご紹介します.月曜日今日は外来の日.週の初日ですが,私にとっては一番忙しい日です.月曜日は来院患者さんの数が多く,外来開始時にはすでにかなりの数の方が待合室で待っておられます.その視線を感じつつ横を通り過ぎて,診察開始.白内障,結膜炎,糖尿病網膜症,複視などさまざまな患者さんがさまざまな主訴で来られます.網膜光凝固や通水などの処置がある日もあります.対応に困る症例の場合は,専門外来の先生方が17診で診察されているので,コンサルトできる環境にあり,どきどきしながらカルテを持っていくことも多くあります.その場でコンサルトできなくても,毎回カルテチェックを受けることになっており,外来終了後に担当の先生とその日のカルテをすべて見直して検討しています.後期研修の1年目の10月から始まった外来ももうすぐ1年,はじめは患者さんが入室されるだけで緊張していましたが,徐々に慣れ,1年間でちょっとは成長したかなあと感じています.なんとか外来を終え,少し休憩したら明日の手術を控えた新入院の患者さんの診察のため病棟へ上がります.診察を終えるころ,18時から病棟でFAカンファレンスが始まります.網膜専門の先生方とレジデントで今週入院予定のPDT(光線力学的療法)を行う患者さんの造影所見を一緒に読んでいきます.少人数で聞きやすい雰囲気のカンファレンスなので,受け持ちの患者さんで気になる症例があればこの機会に検討することもあります.(家氏哉子)後期臨床研修医日記●シリーズ⑪大阪医科大学附属病院眼科家氏哉子吉田朋代中矢絵里▲華の3人トリオ(左から吉田・中矢・家氏)信頼できる仲間がいて楽しいです.———————————————————————-Page21520あたらしい眼科Vol.26,No.11,2009(80)断層計),造影検査,IOL(眼内レンズ)検査などを行います.午後からは黄斑外来が行われているので,検査の数も増えてきますが,できるだけスムーズに検査が終われるようレジデントで協力して行っていきます.18時から月2回程度オープンカンファレンスが始まります.学外から講師の先生を招待しての特別講演や,学会や集談会の予演会が行われます.月曜日のFAカンファレンスと違い,講堂を借りて学内の医局員は全員参加します.前回の特別講演は前眼部再建についての講演でしたが,学外からの参加者やOBの先生方も多く参加され,エキシマレーザーなど当院ではあまり触れることのない治療法の話題もあり,質疑も盛り上がりました.(家氏哉子)金曜日金曜日は手術の日です.入院患者さんの診察をすませた後に8時には手術室へ向かいます.機械をセッティングし,それぞれの手術で必要な器具を出していきます.白内障手術はもちろんのこと,硝子体手術,緑内障手術,角膜移植などさまざまな手術が行われているため,それぞれに必要な器具を出していかなければいけません.おもに担当患者さんの手術に助手としてつきます.助手として,今日は結構スムーズに介助できたと感じるときもあれば,なかなかうまくいかず反省するときもあります.白内障手術などでは実際にやらせていただける場面もあるのですが,やはり豚眼で練習しているときとは違いドキドキします.手術の日は一日中手術室にこもりっぱなしですが,さまざまな手術を見ることができ,とても勉強になります.手術の終了時間が遅くなったときは,教授が医局に夜食を用意してくださっており,心もお腹も満たされます.こうして大忙しの手術日も終わります.(中矢絵里)水曜日今日は外勤の日です.朝7時頃にいったん大学へ行き,入院患者さんの診察をします.7時45分頃から朝食の時間となるため,部屋番号なども考慮しながら効率よく診察していかなければなりません.8時過ぎに大学を出て,外勤先へ向かいます.外勤先では自分しかいないという緊張感でやはりドキドキします.ずっと通院している人でも自分にとっては初めての患者さんだったりするので,分厚いカルテをめくって今までの経過を把握するのに一苦労です.何事もなく外来が終了するとホッと胸をなでおろしますが,あの診断は正しかったのだろうかと悶々としながら大学へ戻ることもしばしばです.大学へ戻ると外来の検査に入り,夕方からは新入院の患者さんの診察などをします.水曜日は週一度,新しい豚眼が研究室へ送られてくる日なので,各自時間ができたら豚眼を使って白内障手術の練習をします.教室では私たちレジデントの手術練習用に専用のウェットラボの実習室を常置していただいており,とても恵まれた環境だと思います.水曜日,大学に残っているレジデントは交代で外来のシュライバーにもつかせていただき,珍しい疾患に遭遇することもしばしばです.教授はメールでその日の疾患についての解説や参考文献を必ず送ってくださいます.メールは,忙しいレジデントが自分の好きな時間に勉強できるようにという教授のご配慮です.毎日たくさんのメールを送ってくださり,本当に勉強になります.(中矢絵里)木曜日今日は比較的ゆっくりできる日です.朝は外来でオーダーされる眼底写真やOCT(光干渉?プロフィール?家氏哉子(いえうじかなこ)神戸大学医学部卒業,県立尼崎病院にて初期研修,平成20年4月より大阪医大眼科レジデント.吉田朋代(よしだともよ)山口大学医学部卒業,姫路医療センターにて初期研修,平成20年4月より大阪医大眼科レジデント.中矢絵里(なかやえり)大阪医科大学卒業,本学にて初期研修,平成20年4月より大阪医大眼科レジデント.▲ウェットラボ専用スペース毎週練習できる常設の部屋があります.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.11,20091521(81)おわりに日々ささいなことでも落ち込み,励まし合い,笑ったり泣いたりと忙しい私たちですが,みんなで助け合いながらがんばっています.眼科医として初めての職場である当院での経験は,きっと後々大切な思い出になるのだろうと思います.指導医からのメッセージ最近のレジデントはとってもまじめで一生懸命で本当に感心します.仕事が遅くなって疲れたので帰ろうと思って研究室を出たら,特設ウェットラボ室の電気がついたままになっているのでそっと覗いてみると,豚眼で練習しているレジデントをみつけました.「努力は人を裏切らない」…その先生は私が付いた白内障手術で初めてのCCCを見事成功させました.たまたまではなく同期の先生もみんな最初から上手でびっくりです.池田恒彦教授のアイデアで無線を使った手術指導や自宅でも勉強できるようメールで配信するなど教育には相当に力を入れているつもりですが,それによく応えて頑張ってくれています.家族や家庭を大事にして健康であって初めてよい仕事ができますので焦らず,そして時期が熟せば大いに羽ばたいてほしいものです.眼球は小さいですが眼科学には未知の分野,治せない病気が山のようにあります.現在のやる気と才能で上級医師を追い越す勢いで自分の得意分野をきわめていってほしいと思います.大阪医科大学眼科・講師清水一弘☆☆☆お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内あたらしい眼科Vol.27月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術Vol.23(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他毎号の【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒1130033東京都文京区本郷2395片岡ビル5F振替00100569315電話(03)38110544http://www.medical-aoi.co.jp

私が思うこと 19.バランス

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.11,20091517私が思うことシリーズ⑲(77)眼科医になってから十数年経ちますが,振り返ってみると,入局3年目に大学院に入学し,海老原伸行先生(現順天堂大学眼科先任准教授)と中尾篤人先生(現山梨大学医学部免疫学教授)に指導を仰ぎ,臨床の視点から基礎医学を考えることを教わりました.それから私自身眼科を学ぶにおいて臨床医学と基礎医学の「バランス」を常に考えるようになりました.医学の進歩には基礎医学と臨床医学が相互に補完することが重要であるということに異論は少ないと思いますが,特にEBM(evidence-basedmedicine)に沿った治療が求められる今,そのEBMを理解するうえで,私は基礎医学も大事であると思っています.私はそれら2つをバランスよく学ぶ機会を与えてもらってきましたが,実際は診療から基礎,基礎から臨床という考えは,臨床中心になるとなかなかできなくなり,バランス性を失いかけていたのが実情でした.そんななかボシュロムの助成金をいただき2007年10月よりMassachusettsEarandEyeInrma-ry(MEEI)のDr.RezaDanaのラボに留学しています.ボストンといってもMLBのRedSoxしか知らず,期待より不安を感じながら異国の地に到着したことを覚えています.MEEIはハーバード大学医学部の附属機関でボストンの中心にあり,隣には同じく教育病院として有名なMassachusettsGeneralHospital(MGH)があります.このボストン一帯はハーバード大学以外に,マサチューセッツ工科大学,ボストン大学,タフツ大学などを有する学術都市でもあり,学者・研究者・学生などが世界各地から集まってきています.さて,眼科においても日本からこれまでも数多くの先生方が留学されており,各分野で専門的に基礎研究されている人もいれば,臨床研究されている人もいて,私もいろいろな先生方と知り合う機会がありました.ただ,先生方と仕事の話をしても漠然としか理解できないことが多く,仕事内容を発表できる場所を設けたらいいのではないかと思うようになりました.そこで,2008年12月に愛媛大学の鈴木崇先生と私とで,ボストン眼科勉強会を立ち上げました.現在行っている研究や日本で行っていた臨床など,テーマはフリーで,それぞれ担当の先生に発表していただいています.分野もそれぞれ異なっているため,議論によって,新しい知識や新鮮な意見に遭遇できることも期待して会を始めました.第1回は,私が「角膜移植と内皮細胞」のテーマで発表いたしました.そして2回目以降は,帰国前の先生方を中心に発表していただき,現在まで7回の勉強会を行うことができました.ボストンでは,数多くの学会が開かれており,第6回では,鈴木先生の計らいにより,山形大学医学部器官病態統御学講座,血液・循環分子病態学分野の一瀬白帯教授をお招きして講演していただきました.0910-1810/09/\100/頁/JCOPY舟木俊成(ToshinariFunaki)順天堂大学医学部眼科学教室1972年湘南生まれ.1998年順天堂大学医学部卒業後,同眼科学教室入局.2004年同大学大学院卒業後,順天堂大学伊豆長岡病院,本院を経て現在ハーバード大学眼科に留学中.専門は角膜内皮細胞で,分子生物学的アプローチを中心に研究しています.趣味はスポーツ観戦で,ボストンに来てからはMLB,NFL,NBA,NHLと趣味の範囲を広げています.1年を通してスポーツが見られ,充実した日々を送っています.バランス▲第1回ボストン眼科勉強会(筆者前列一番右端)———————————————————————-Page21518あたらしい眼科Vol.26,No.11,2009これまでの勉強会でのテーマは,第2回関山英一先生(京都府立医科大学)「Bruch膜の再建の可能性AMD新予防法の確立を目指して」第3回中井慶先生(大阪大学)「樹状細胞と血管新生の関与」第4回萩原章先生(千葉大学)「MEEIにおける小児網膜疾患の現状」第5回鈴木崇先生(愛媛大学)「Nomore眼内炎」第6回「特別講演」一瀬白帯教授(山形大学)第7回喜多岳志先生(九州大学)「増殖糖尿病網膜症における増殖膜収縮のメカニズムの解明および薬剤による制御の可能性」と,どの発表も目を見張る実験成果や,新開発の装置を利用した臨床研究であり,各先生方の研究への思い入れが非常に伝わる内容でした.このように毎月ないしは2カ月に1回,このような勉強会を開くことでさまざまな知識を得ること,違った視点で物事を考えることそして議論することで,先生方と非常に価値のある時間を共有できているのではないかと思っています.また,勉強会の後の飲み会での話しは日々の生活から共同研究まで多岐にわたり,親睦を深めるのに良い機会となっています.留学は研究中心の生活であり,臨床の視点が遠ざかる可能性があると思っていましたが,これまでの勉強会を通してさまざまな先生方と話すことによって,臨床医学の問題点や疑問点を明確に理解することができ,また,よりバランス性を確かにする時間にもなってくれたと思います.そしていかにその重要性を伝えるか,またそこから新しいアイデアが生まれることによって医学の発展に続くと感じています.本稿をお読みの先生方で,これからボストンに学会などでお立ち寄りの際には,ぜひ講演していただけると幸いです.私はもうすぐ帰国しますが,このように振り返ってみますと,留学という限られたなかで勉強会の開催を立ち上げることでさまざまな先生方と親しくできたことを本当に嬉しく思います.最後になりますが,今後もボストン眼科勉強会の益々の発展を祈っております.舟木俊成(ふなき・としなり)1998年順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科臨床研修医1999年佐久市立国保浅間総合病院眼科2000年順天堂大学大学院医学研究科外科系眼科学専攻課程入学順天堂大学医学部眼科学講座勤務2004年順天堂大学大学院医学研究科外科系眼科学専攻課程卒業順天堂伊豆長岡病院眼科助手2005年順天堂大学医学部眼科学講座助手2006年順天堂大学医学部眼科学講座臨床講師2007年順天堂大学医学部眼科学講座准教授ハーバード大学眼科留学現在に至る(78)▲一瀬白帯教授を囲んでの親睦会☆☆☆