0910-1810/10/\100/頁/JCOPYウム(ATP)製剤などが用いられる.おもな処方例は以下のとおりである.<処方例1>ビタミンB12製剤(メチコバールR500μg)3錠/日分3カリジノゲナーゼ(カルナクリンR25IU)3.6錠/日分3<処方例2>ビタミンB12製剤(メチコバールR500μg)3錠/日分3カリジノゲナーゼ(カルナクリンR25IU)3.6錠/日分3ATP製剤(アデホスコーワ腸溶錠R20mg)6.9錠/日分3カリジノゲナーゼ,ATP製剤の使用は,脳出血直後などの新鮮出血時には禁忌である.また,基礎疾患に糖尿病や高血圧を有する場合は,それに対する治療を並行して行う.自験例1,2)では,血管性眼球運動神経麻痺の約7.8割は発症後4カ月以内に完全に治癒し,9割以上は6カ月後までに完全治癒するので,その時期ぐらいをめどに投薬中止を考慮する.発症後4カ月経っても治癒傾向がみられない場合は,画像診断による器質性疾患の除外を考慮する必要がある.はじめに両眼性複視を生じる疾患は,基本的には眼位の安定を待って,眼位矯正眼鏡の処方(プリズム療法)や斜視手術(手術治療)などの治療を行うが,薬物によって治癒または症状の改善が期待できるものもある.そのなかで,眼科主導で治療を行う可能性がある代表的な疾患に,眼球運動神経麻痺,特発性眼窩炎症,眼窩蜂巣炎,甲状腺眼症,眼筋型重症筋無力症などがあげられる.本稿では,それら薬物による治療の対象となる疾患を概説し,その具体的な治療法について述べる.なお,本稿で記述する薬物には,確立した治療効果のエビデンスがないものの,副作用が少ないなどの理由で,慣習的に使用されているものも含まれていることを申し添えておく.I眼球運動神経麻痺眼球運動神経とは,動眼神経(第III脳神経),滑車神経(第IV脳神経),外転神経(第VI脳神経)の3つを指し,これらの単独または複合麻痺によって複視が生じる.眼球運動神経麻痺のおもな原因は,血管性(神経栄養血管の微小循環障害を意味し,脳幹梗塞などの脳幹部の循環障害は含まない),動脈瘤,外傷,腫瘍,先天性であり,これらを合わせて原因全体の約8割を占める.これらの原因のうち薬物治療の対象となるのは,血管性と外傷である.薬物投与の目的は,神経修復・保護,神経細胞の循環・代謝改善であり,補酵素型ビタミンB12製剤,カリジノゲナーゼ,アデノシン三リン酸二ナトリ(15)875*KazuakiMiyamoto:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕宮本和明:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学特集●物が二重に見えるあたらしい眼科27(7):875.879,2010複視の薬物治療MedicalTherapyforDiplopia宮本和明*876あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(16)MRI(磁気共鳴画像)検査を行う.画像検査上,生検できるような腫瘤を形成している場合は,可能な限り生検を行い,病理組織学的に診断を確定する.薬物治療の目的は消炎であり,ステロイド薬による治療を行うが,治療は必ず,次項で述べる眼窩蜂巣炎を除外してから始める.まず試験的に抗菌薬を投与して,その反応が乏しいと判断されれば,ステロイド治療を開始する.ステロイド薬の初期量は,病状に応じて判断する.プレドニゾロン換算量で1mg/体重1kg/日の経口投与を基本とするが,高度な眼球運動障害を伴っていたり,視神経症状を伴う場合にはステロイドパルス療法を行う3).II特発性眼窩炎症(図1)特発性眼窩炎症とは,局所的および全身的に炎症の原因を特定できない特発性の非特異的な炎症による眼窩部の塊状病変をいい,眼窩偽腫瘍ともよばれる.病変は眼窩部組織のどこにでも生じ得,おもに涙腺,外眼筋,強膜周囲,視神経周囲,眼窩先端部が病変の主座となる.このうち,外眼筋または眼窩先端部に巣中心をもつ場合に複視を生じる.眼窩先端部が病変の主座のものは,Tolosa-Hunt症候群とほぼ同義である.診断には画像検査が重要である.外眼筋の腫脹を容易に検出する手段として,また病変と眼窩骨との関係を知るためにCT(コンピュータ断層撮影)検査を行い,さらに軟部組織の炎症とその広がりを評価するためにabcde図1特発性眼窩炎症(55歳,男性)a,b:初診時の外眼部写真.患眼に眼瞼の発赤・腫脹,球結膜の充血・浮腫がみられる.患眼は上転が著明に障害され,下斜視となっている.c,d:初診時のCT画像.患眼の上直筋前方ほぼ正中に造影効果を伴う軟部腫瘤影がみられ,眼球を上後方から圧排している.e:プレドニゾロン(プレドニンR)1mg/体重1kg/日の内服治療開始2週間後の外眼部写真.患眼の眼瞼・球結膜所見は消失し,眼球運動もほぼ正常となった.(17)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010877る加療がすすめられる.他に,眼瞼の発赤・腫脹・圧痛,結膜充血,眼球突出がみられ,全身的に体温と血中白血球数の上昇がみられる.原因は,隣接する眼窩周囲皮膚,副鼻腔,涙道,歯牙疾患から波及した二次感染が最も多く,画像検査にて眼窩部および眼窩周囲の状態を精査し,原因検索に努める.病歴不明の眼窩内異物が原因のこともあり,また骨の状態を把握するため,まずCT検査を行い,並行して培養検査による起炎菌の同定を行う.治療は薬物治療が基本であり,起炎菌が同定されるまでは,幅広いスペクトルをもつ抗菌薬の投与を行う.起炎菌は,黄色ブドウ球菌や肺炎球菌などのグラム陽性菌が多いので,まず広範囲ペニシリン系製剤と第一世代セフェム系製剤の併用静注を行う.投与は症状の改善をみながら4.7日間行い,眼球運動障害などの機能回復が得られれば,同一系統薬物の内服治療への変更を検討する.効果判定は治療開始後3日目に行い,症状の軽快がみられなければ,投与薬物の変更または追加を行うか,前項で述べた特発性眼窩炎症も考える.起炎菌が同定されれば,より感受性の強い薬物に適宜変更する.<処方例1>アンピシリン(ビクシリンR)1g/回を4回/日点滴静注,4.7日間+セファゾリン(セファメジンaR)1g/回を2回/日点滴静注,4.7日間<処方例2:副鼻腔疾患が関与しており,嫌気性菌感染が疑われる場合>クリンダマイシン(ダラシンSR)600mg/回を2回/日点滴静注,4.7日間膿瘍を形成している場合(特に骨膜下膿瘍)や副鼻腔炎,眼窩内異物などが原因である場合は,薬物治療のみでは不十分であるので,切開排膿などの外科的治療を考慮する.IV甲状腺眼症(図2)甲状腺眼症は,おもにBasedow病にみられる眼病変であるが,必ずしも甲状腺機能異常と並行しない臓器特<処方例1:ステロイド薬内服治療>プレドニゾロン(プレドニンR)1mg/体重1kg/日内服,1週間↓臨床症状と血沈,CRP値を指標にして1週間ごとに10mgずつ漸減↓プレドニゾロン(プレドニンR)30mg/日となった時点で1.2週間ごとに5mgずつ漸減↓プレドニゾロン(プレドニンR)20mg/日となった時点で2.4週間ごとに5mgずつ漸減<処方例2:ステロイドパルス療法>メチルプレドニゾロン(ソル・メドロールR)1g/日点滴静注,3.5日間↓プレドニゾロン(プレドニンR)30mg/日内服,2.3週間↓以後,処方例1と同様の方法で漸減病状が高度でない場合,患者が高齢であったり,外来での通院治療を強く希望するなど,患者の状態を考慮して,ステロイド薬の初期量を少なめから開始してもよい.<処方例3>プレドニゾロン(プレドニンR)30mg/日内服,1.2週間↓十分消炎効果が出たと判断されれば,1.2週間ごとに5mgずつ漸減↓以後,処方例1と同様の方法で漸減ステロイド薬に対する反応が悪かったり,再発をくり返したりする難治症例には,アザチオプリン(イムランR),シクロホスファミド(エンドキサンR),シクロスポリン(サンディミュンR,ネオーラルR),メトトレキサート(メソトレキセートR)などの免疫抑制薬を併用する.III眼窩蜂巣炎眼窩蜂巣炎とは,眼瞼および眼窩内の軟部組織への感染による化膿性炎症疾患である.複視を訴える場合は,外眼筋麻痺による眼球運動障害が原因で,病変が眼窩隔膜よりも深部に存在することを意味するため,入院によ878あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(18)以後漸減する.以下に処方例を示す.<処方例>メチルプレドニゾロン(ソル・メドロールR)1g/日点滴静注を3日間,その後4日間休薬これを1クールとして,3クール施行↓プレドニゾロン(プレドニンR)30mg/日内服,2週間↓以後,漸減パルス療法は,外眼筋腫大の軽減には有効であるが,それが原因で生じた複視に対しては効果が限定的で,斜視手術などの薬物以外の治療を考慮しなければならないことが多い5).V重症筋無力症重症筋無力症は,運動神経終末にある神経筋接合部の後シナプス膜に存在するアセチルコリン受容体に対する自己抗体により,神経筋伝達が障害され筋力低下が生じる自己免疫疾患である.全身の筋肉のなかで特に眼筋が障害されやすく,患者の約7割が眼症状(眼瞼下垂,複視,斜視)で発症し,ほとんどの症例で全経過中に眼症状を呈する.複視は,外眼筋の筋力低下による眼球運動障害が原因で生じる.眼症状の特徴は,筋肉を使うほど症状が悪化し(易疲労性),休息により改善すること,夕方にかけて症状が増悪すること(日内変動),日によって症状が変動すること(日間変動)である.診断は,血中の抗アセチルコリン受容体抗体の陽性所見,テンシロンテスト(抗コリンエステラーゼ薬の静注により症状改善),筋電図検査(反復神経刺激試験で振幅の漸減現象)などで行う.筋力低下が眼筋のみにみられる眼筋型と筋力低下が全身に生じる全身型に分類さ異的自己免疫疾患である.甲状腺眼症における複視は,病期としては中期から後期にかけてみられ,そのメカニズムは,外眼筋の炎症性腫大と線維化による拘縮が原因の外眼筋伸展障害である.甲状腺眼症の複視に対する薬物治療は,外眼筋炎症の鎮静化が目的であり,ステロイド薬の全身投与が行われるが,この治療は外眼筋炎症の活動性の高い時期に行う必要があり,炎症が慢性化した時期に行うのはあまり意味がない.その評価にはMRI検査が有用で,必ず冠状断撮影を行い,外眼筋の腫大の程度を評価するとともに,T2強調画像またはSTIR(shortT1inversionrecovery)画像で,外眼筋内の高信号領域の有無を確認する.外眼筋の高信号は高い活動性を意味することが多く,他に臨床経過と血液所見から総合的に判断し,治療に踏み切る.治療はステロイドパルス療法を行い,メチルプレドニゾロン(ソル・メドロールR)を1日当たり1gの点滴静注を3日間,その後4日間休薬を1クールとして,これを最低3クール行うことが一般的である4).パルス療法終了後,プレドニゾロン(プレドニンR)を1日当たり30mgの経口投与とし,abc図2甲状腺眼症(75歳,女性)a,b:初診時の外眼部写真.左眼球結膜に充血がみられ,上斜視となっている.左眼は下転が著明に障害されている.c:初診時のMRI画像(冠状断,STIR).左眼外眼筋に著明な腫大と高信号変化がみられる.(19)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010879<処方例2:ステロイド薬>プレドニゾロン(プレドニンR)20.40mg/日内服↓以後,ゆっくり漸減おわりに複視をきたす疾患のうち,薬物治療を眼科主導で行う代表的な疾患について述べた.使用薬物には,ステロイド薬や免疫抑制薬など,高い治療効果をもつ反面,多様な副作用を併わせ持つものもあり,糖尿病や感染症などの基礎疾患を有する患者への使用には十分に注意する必要がある.一般に眼科医は,その使用に慣れていないことが多いので,不安なときは躊躇することなく,他科専門医と密に連携を取って治療に当たるべきである.文献1)AkagiT,MiyamotoK,KashiiSetal:Causeandprognosisofneurologicallyisolatedthird,fourth,orsixthcranialnervedysfunctionincasesofoculomotorpalsy.JpnJOphthalmol52:32-35,20082)宮本和明:眼球運動神経麻痺.眼科52:789-796,20103)JacobsD,GalettaS:Diagnosisandmanagementoforbitalpseudotumor.CurrOpinOphthalmol13:347-351,20024)BartalenaL,BaldeschiL,DickinsonAetal:ConsensusstatementoftheEuropeanGrouponGraves’orbitopathy(EUGOGO)onmanagementofGO.EurJEndocrinol158:273-285,20085)三村治:甲状腺眼症.日眼会誌113:1015-1030,20096)MeriggioliMN,SandersDB:Autoimmunemyastheniagravis:emergingclinicalandbiologicalheterogeneity.LancetNeurol8:475-490,2009れ,このうち眼科主導で治療する可能性があるのは眼筋型筋無力症である.眼筋型筋無力症の治療には,まず抗コリンエステラーゼ薬の投与を行う.投与の目的は,神経終末から放出されるアセチルコリンの分解を抑制し,シナプス間のアセチルコリン濃度を高めることによる筋収縮力の増強である.抗コリンエステラーゼ薬による治療は根治療法ではなく,あくまでも対症療法である.通常,ピリドスチグミン臭化物(メスチノンR60mg)を1錠/日または2錠/日から開始し,効果と副作用の発現をみながら3錠/日程度まで増量する.作用時間の長いアンベノニウム塩化物(マイテラーゼR)やジスチグミン臭化物(ウブレチドR)を使用することもあるが,コリン作動性クリーゼに十分注意する必要がある.抗コリンエステラーゼ薬の投与で改善がみられない場合は,免疫抑制効果を期待してステロイド治療を行う6).眼筋型筋無力症に対するステロイド治療は,7.9割の症例で有効とされる.中等量のステロイド薬で開始し,再燃に注意してゆっくりと減量する.重症例や全身型に対するステロイド治療では,初期に急激な増悪がみられることがあるので,治療は神経内科医に委ねるか,必ず神経内科医と緊密な連携を取りながら行う.<処方例1:抗コリンエステラーゼ薬>ピリドスチグミン臭化物(メスチノンR60mg)1錠/日分1または2錠/日分2↓副作用がみられなければピリドスチグミン臭化物(メスチノンR60mg)3錠/日分3