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前眼部光干渉断層計(OCT)を用いて撮影した急性原発閉塞隅角症に対する白内障手術・隅角癒着解離術前後の隅角変化

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(99)10030910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(7):10031006,2008cはじめに白内障手術前後の隅角形状の測定にはこれまで超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)やScheimpugカメラを用いた測定装置によって評価がなされてきた13)が,UBMは接触式のため術直後の測定は感染のリスクがあり,またScheimpugカメラによる撮影では角膜浮腫著明症例では測定困難であると考えられる.近年新しい前眼部測定装置として光干渉断層装置である〔別刷請求先〕前田征宏:〒457-8510名古屋市南区三条1-1-10社会保険中京病院眼科Reprintrequests:MasahiroMaeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SocialInsuranceChukyoHospital,1-1-10Sanjo,Minami-ku,Nagoya457-8510,JAPAN前眼部光干渉断層計(OCT)を用いて撮影した急性原発閉塞隅角症に対する白内障手術・隅角癒着解離術前後の隅角変化前田征宏渡辺三訓市川一夫小島隆司社会保険中京病院眼科ChangesinAnteriorChamberAngleafterCataractExtractionwithorwithoutGoniosynechialysisforAcutePrimaryAngle-Closure:UsingAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyMasahiroMaeda,MitsunoriWatanabe,KazuoIchikawaandTakashiKojimaDepartmentofOphthalmology,SocialInsuranceChukyoHospital目的:急性原発閉塞隅角症であって点眼・点滴で眼圧下降が得られなかった症例に白内障手術を行い,前眼部光干渉断層計(OCT)で隅角形状を撮影したので報告する.症例:70歳,女性.急性原発閉塞隅角症と診断され,当院に紹介された.前医受診時眼圧は右眼32mmHg,左眼53mmHgであった.当院初診時,眼圧は右眼8mmHg,左眼53mmHg,角膜上皮の著明な浮腫を認めた.保存的治療にて眼圧下降が得られなかったため,水晶体再建術および隅角癒着解離術を行った.結果:前眼部OCTによって撮影した右眼の術前隅角角度は7.3°であり,左眼は全周に周辺虹彩前癒着を認めた.術後眼圧は右眼12mmHg,左眼15mmHgであった.術直後の隅角角度は右眼23.1°,左眼23.7°と開大し,両眼とも周辺虹彩前癒着を認めなかった.結論:前眼部OCTは急性原発閉塞隅角症に対する手術前後に非接触で短時間に測定が可能であり,有用な検査機器であると考えられた.Wereportthechangesofanteriorchamberangle(ACA)asmeasuredusingananteriorsegmentopticalcoherencetomography(A-OCT).Cataractextractionwasperformedonapatientwithacuteprimaryangle-clo-sure(APAC)whofailedtolowerintraocularpressure(IOP).Thepatient,a70-year-oldfemalewithAPAC(IOP32mmHgODand53mmHgOS),wasreferredtoourdepartment.OurinitialexaminationsshowedIOPtobe8mmHg(OD)and53mmHg(OS),withcornealendothelialedemaremarkablyprominent(OS).SinceconservativemedicationsfailedtolowerIOP,weperformedcataractsurgeryandgoniosynechialysis.PreoperativeACAofODwas7.3°andperipheralanteriorsynechia(PAS)wasrecognizedtoalllaps.PostoperativeIOPwas12mmHg(OD)and15mmHg(OS).ACAbecamelarger,to23.1°(OD)and23.7°(OS);noPASwasrecognized(OU).A-OCTenablesnon-contactandquickmeasurementofAPAC,andisusefulforclinicalexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):10031006,2008〕Keywords:前眼部光干渉断層計(OCT),急性原発閉塞隅角症,超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,隅角癒着解離術.anteriorsegmentopticalcoherencetomography(OCT),acuteprimaryangle-closure,phacoemulsicationandaspiration+intraocularlensimplantation,goniosynechialysis.———————————————————————-Page21004あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(100)teTMによって撮影したので報告する.I症例患者は70歳,女性.平成19年4月25日に往診医より悪心・嘔吐・頭痛のため,前医救急外来へ転送された.前医初診時所見:中等度散瞳,視力測定不能.眼圧は右眼32mmHg,左眼53mmHgであった.APACと診断され,マンニトールの点滴および2%ピロカルピン頻回点眼にても眼圧下降が得られず,当院紹介となった.当院初診時所見:矯正視力は右眼(0.7×+0.5D(cyl0.25DAx180°),左眼(0.15×+3.5D(cyl2.0DAx90°),眼圧は右眼8mmHg,左眼53mmHg,角膜内皮細胞数は右眼2,260個/mm2で,左眼は測定不能であった.左眼角膜上皮に著明な浮腫を認めた.前房隅角検査では右眼Sheer分類Ⅰ度,左眼は角膜上皮浮腫のため隅角鏡では詳細不明であった.VisanteTM(CarlZeissMeditec)が登場した.VisanteTMの測定原理は従来の820nm光源を用いた後眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)と同様であるが,本装置は1,310nmの近赤外線光源を用いて,資料から反射した測定光と参照光を干渉させて測定を行うため,組織深達性が高く,混濁部分を通過した画像を取得可能であり,解像度は軸方向18μm,横方向60μmで,非接触で測定が可能である4).そのため急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangle-closure:APAC)における角膜浮腫の強い症例でも短時間で非侵襲的かつ高精度に測定できる可能性がある.今回筆者らはAPACにおいて点眼・点滴で眼圧下降が得られなかった1眼に対し,超音波水晶体乳化吸引術(pha-coemulsicationandaspiration:PEA),眼内レンズ挿入術(intraocularlensimplantation:IOL)および隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)を,眼圧下降が得られた1眼に対しPEA+IOLを行い,術前後の隅角形状変化をVisan-図1眼圧下降が得られなかった左眼の前眼部OCT画像高度の浅前房であり,隅角は閉塞している.図2右眼の前眼部OCT画像薬物治療にて隅角は開放しているが,隅角角度は7.3°と狭隅角である.図3左眼眼内レンズ挿入術後の前眼部OCT画像隅角は広く開放した.耳側角膜のラインは角膜切開創である.図4右眼PEA+IOL術後前眼部OCT画像前房深度の増加と,隅角角度の開大を認める.耳側角膜のラインは角膜切開創である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081005(101)しかしながら保存的治療では眼圧下降が得られない場合もあり,その場合PEA+IOL+GSLを選択することは,眼圧下降に有用であると考えられており12,610),患者および家族に対し十分な説明を行い,同意を得たうえで手術が選択されている.白内障がない場合は術後調節力が失われるためその適応は慎重にしなくてはならない.しかし慎重に適応を選択し,患者の理解・同意が得られるのであれば,PEA+IOLに対する十分な経験をもつ術者が行えば,有用な治療方法の一つであると考えられる.白内障手術によって前房深度の増加や隅角角度の開大をきたし,眼圧が下降することが報告されており3),少ない合併症で眼圧コントロールが得られたと報告されている1,6,9,10).APACに対する白内障手術において,GSLの併用は2象限以上にPASが存在する場合に有用であるといわれており2,68),今回も術前にVisanteTMによって隅角形状を撮影し,全周に隅角閉塞を認めた左眼には術中に内視鏡にてPASを確認した後にGSLを行い,PASを認めなかった右眼に対してはPEA+IOLのみを行い,良好な術後経過を得た.今回の手術では浅前房であることと術前の角膜内皮細胞密度が測定できなかったこと,また膨潤した水晶体のため前切開線を周辺に逃がさないために,ビスコートRの注入後にヒーロンRVを用いてsoftshelltechniqueを行った11).角膜内皮障害を認める場合や,本症例のように術前の測定が困難である場合には,Arshino12)により考案されたsoftshelltechniqueを併用することが有効と考えられ,角膜内皮細胞保護効果が報告されている13,14).今回用いたVisanteTMでは角膜上皮浮腫が著明であるにもかかわらず術前の閉塞した隅角形状および手術翌日に開大した隅角形状が測定できた.前眼部OCTVisanteTMは非接触で短時間に撮影できるため,術前および術直後に隅角形状を簡便に測定することができ,検査に伴う患者の苦痛や感染の危険性が低く,手術前後の評価に有用な測定機器であると考えられた.文献1)伊波美佐子,酒井寛,森根百代ほか:琉球大学眼科における最近3年間の急性閉塞隅角緑内障の処置.あたらしい眼科18:907-911,20012)早川和久,石川修作,仲村佳巳ほか:白内障手術と隅角癒着解離術の適応と効果.臨眼60:273-278,20063)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Changesinanteriorchamberanglewidthanddepthafterintraocularlensimplantationineyeswithglaucoma.Ophthalmology107:698-703,20004)神谷和孝:前眼部光干渉断層計(VisanteTM,CarlZeissMeditec社).IOL&RS21:277-280,2007経過1:グリセオールの点滴およびピロカルピン頻回点眼を行うも,左眼の眼圧下降は得られず,角膜の浮腫も改善しなかった.VisanteTMを用いて,患者の隅角形状を撮影し,左眼は全周に隅角閉塞を認めた(図1,2).患者および家族に病態の説明を行い,同意を得たうえで手術を行った.経過2:4月25日左)PEA+GSL施行.ヒアルロン酸ナトリウム(ビスコートRとヒーロンRV)を用いてsoftshelltechniqueを行った.角膜浮腫を認めたため,前切開時の視認性を高める目的に,前染色用0.06%trypanblue溶液(ビジョンブルーTM)にて前染色し前切開を行った.角膜浮腫のため隅角鏡を用いたGSLは困難であった.PEA終了後サイドポートを1時の位置に追加し,内視鏡を挿入し全周にわたり周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が存在することを確認し,上野式極細癒着解離針(イナミ)を用いて,可能な限り内視鏡下で癒着を解離した.角膜の著明な浮腫によって術前の角膜屈折力の計測に影響があると考えたためIOLは挿入しなかった.4月26日左)IOL挿入術を行い,4月27日右)PEA+IOLを行った.術後検査:矯正視力は右眼(1.0×0.25D),左眼(1.0×+0.25D(cyl0.75DAx100°).角膜内皮細胞数は右眼2,500個/mm2,左眼2,666個/mm2であった.隅角角度は右眼は術前7.3°から23.1°と開大し,左眼の隅角も23.7°と開放されていることが確認できた(図3,4).眼圧は右眼12mmHg,左眼15mmHgであった.II考察2006年3月に改訂された緑内障診療ガイドライン(第2版)では,緑内障を緑内障性視神経症と定義し,狭隅角眼で,他の要因がなく,隅角閉塞をきたしながら,緑内障性視神経症を生じていないものを原発閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC)と定義し,緑内障性視神経症を生じているものを原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglauco-ma:PACG)と定義している.またいわゆる緑内障発作寛解後に,視神経症の認められない症例をAPACと分類している.APACにおける治療では,ピロカルピンの頻回点眼,グリセオールやマンニトールなどの点滴を用いて瞳孔ブロックの解除と眼圧下降を行い,その後レーザー虹彩切除術,あるいは観血的虹彩切除術が行われるのが一般的である1,5).近年,白内障が存在する場合においてPEA+IOLおよびGSLもその治療として有効であると報告されている.通常は点眼・点滴で眼圧下降を得た後に行うことが重要であるが,その理由として,眼圧下降前は角膜の浮腫が強く手術時の視認性が低下していること,散瞳不良が多いこと,角膜内皮障害やZinn小帯の脆弱な場合があるため手術の難易度が高いことがあげられる.———————————————————————-Page41006あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(102)mulsicationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,200210)家木良彰,三浦真二,鈴木美都子ほか:急性緑内障発作に対する初回手術としての超音波白内障手術成績.臨眼59:289-293,200511)市川一夫:手術器具前染色ビジョンブルー.IOL&RS21:275-276,200712)ArshinoSA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.JCataractRefractSurg25:167-173,199913)石川哲夫,松本年弘,吉川麻里ほか:ソフトシェル法による白内障手術.あたらしい眼科18:532-534,200114)宮井尊史,宮田和典:角膜内皮細胞の少ない症例の白内障.臨眼58:182-186,20045)永田誠:わが国における原発閉塞隅角緑内障診療についての考察.あたらしい眼科18:753-765,20016)山下美恵,久保田敏昭,森田啓文ほか:急性原発閉塞隅角症の眼圧コントロールに対する超音波水晶体乳化吸引,眼内レンズ挿入術の成績.あたらしい眼科24:673-676,20077)戸栗一郎,松浦敏恵,久保田敏昭ほか:閉塞隅角緑内障に対する超音波水晶体乳化吸引,眼内レンズ挿入術の成績.臨眼56:608-612,20028)TeekhasaeneeC,RitchR:Combinedphacoemulsicationandgoniosynechialysisforuncontrolledchronicangle-clo-sureglaucomaafteracuteangle-closureglaucoma.Oph-thalmology106:669-675,19999)JacobiPC,DietleinTS,LukeCetal:Primaryphacoe-***

ラタノプロスト点眼薬へのb 遮断点眼薬および炭酸脱水酵素阻害点眼薬追加の長期効果

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(95)9990910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(7):9991001,2008cはじめにラタノプロストは,プロスタグランジンF2a誘導体で,良好な眼圧下降効果を有し,全身性副作用の報告が少ないことからも1,2),緑内障点眼薬の第一選択として用いられることが多くなっているが,ラタノプロストのみでは十分な眼圧下降が得られない症例も存在し,2剤目の薬剤の併用が必要となることがある.以前筆者らは,ラタノプロスト単独使用例に対し,0.5%チモロール,ブリンゾラミドを追加投与した症例において,投与後2カ月で検討した結果,チモロール追加群・ブリンゾラミド追加群で有意な眼圧下降を示し,両群間で眼圧下降幅・下降率については有意差を認めなかったと報告した3).しかしこれは2カ月間と比較的短期間での解析〔別刷請求先〕佐藤志乃:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1香川大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ShinoSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,1750-1Ikenobe,Miki,Kita,Kagawa761-0793,JAPANラタノプロスト点眼薬へのb遮断点眼薬および炭酸脱水酵素阻害点眼薬追加の長期効果佐藤志乃廣岡一行高岸麻衣溝手雅宣馬場哲也白神史雄香川大学医学部眼科学講座Long-TermAdditiveIntraocularPressure-loweringEectofTimololorBrinzolamidewithLatanoprostShinoSato,KazuyukiHirooka,MaiTakagishi,MasanoriMizote,TetsuyaBabaandFumioShiragaDepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine原発開放隅角緑内障におけるラタノプロスト点眼への0.5%チモロールあるいはブリンゾラミド追加の長期効果についてレトロスペクティブに検討した.対象は原発開放隅角緑内障で,3カ月以上ラタノプロスト単独点眼加療を受けている患者のうち,2剤目として0.5%チモロールを追加した10例,ブリンゾラミドを追加した17例で,追加投与前と投与後2カ月ごとに12カ月までの眼圧を比較検討した.12カ月間継続投与できたのは,チモロール追加群7例,ブリンゾラミド追加群11例であった.眼圧はチモロール追加群で投与4カ月後に最も大きな眼圧下降を示したが,その後効果は減弱した.ブリンゾラミド追加群では12カ月にわたって眼圧下降効果がみられた.無効による中止はチモロール追加群0例,ブリンゾラミド追加群4例(c2検定,p=0.26),副作用による中止はチモロール追加群3例,ブリンゾラミド追加群2例(c2検定,p>0.99)であった.Weretrospectivelystudiedthelong-termadditiveintraocularpressure(IOP)-loweringeectoftimololorbrinzolamideusedadjunctivelywithlatanoprost.Weevaluated27eyesof27patientswithprimaryopen-angleglaucomawhohadbeentreatedwithlatanoprostaloneformorethanthreemonths.Eachpatientreceivedadjunc-tivetreatmentwitheithertimolol(n=10)orbrinzolamide(n=17).IOPwasmeasuredatthebaselineandat2,4,6,8,10and12monthsafteradditiontolatanoprost.In7ofthe10patientstreatedadjunctivelywithtimololand11ofthe17patientstreatedadjunctivelywithbrinzolamide,IOPwaswellcontrolledfor12months.Long-termdriftinIOPwasseenineyestreatedadjunctivelywithtimolol,whereasbrinzolamideloweredIOPfromthelatanoprostbaselinefor12months.Nopatientstreatedadjunctivelywithtimolol,and4patientstreatedadjunctivelywithbrin-zolamide,discontinuedtreatmentbecauseofinsucientecacy(p=0.26).Threepatientstreatedadjunctivelywithtimololand2patientstreatedadjunctivelywithbrinzolamidediscontinuedtreatmentbecauseofmedicationintoler-ance(p>0.99).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):9991001,2008〕Keywords:原発開放隅角緑内障,ラタノプロスト,チモロール,ブリンゾラミド,眼圧,長期効果.primaryopen-angleglaucoma,latanoprost,timolol,brinzolamide,intraocularpressure,long-termeect.———————————————————————-Page21000あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(96)降率についてはStudentのpairedt検定およびunpairedt検定を,無効症例・副作用の出現率についてはc2検定を用い,危険率5%を有意水準とした.II結果12カ月間継続投与でき,解析の対象となった症例はチモロール追加群7例,ブリンゾラミド追加群11例であった.両群の性別,年齢,ベースライン眼圧には,いずれも両群間で有意差はみられなかった(表1).ベースライン眼圧と比較してブリンゾラミド追加群では,2,4,8,10カ月後で有意な眼圧下降がみられ,1年間効果が持続した.一方,チモロール追加群では,4カ月後に眼圧下降効果が最大となり,その後は効果の減弱がみられた(図1).眼圧下降幅には,両群間で有意差はみられなかった(図2).眼圧下降率では,追加後2カ月目にブリンゾラミド追加群で有意に大きかったものの,それ以降は差を認めなかった(図3).であり,長期間での両群の眼圧下降効果を検討した報告はない.そこで今回,追加投与後1年間の効果について比較検討した.I対象および方法1.対象香川大学医学部附属病院眼科外来に通院中の原発開放隅角緑内障で,3カ月以上ラタノプロストを単独で使用している症例のうち,眼圧コントロールが不十分な症例に対し,0.5%チモロールを追加した10例と,ブリンゾラミドを追加した17例を対象とした.ぶどう膜炎,強膜炎,角膜疾患の合併例,1年以内に内眼手術およびレーザー治療の既往があるもの,炭酸脱水酵素阻害薬,副腎皮質ステロイド薬を投与されているものは除外した.2.方法ラタノプロストを3カ月以上投与した症例のうち,眼圧下降が不十分な症例に対してチモロール,またはブリンゾラミドを追加投与し,12カ月間の眼圧の経過について検討した.追加投与前の眼圧をベースライン眼圧とし,ベースライン,その後2カ月ごとに12カ月までの眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.測定時刻は午前912時までとした.検討項目は眼圧,眼圧下降幅,眼圧下降率,無効症例・副作用の出現率とし,統計学的解析は眼圧,眼圧下降幅,眼圧下図1眼圧の経過眼圧経過表1患者背景チモロール追加群ブリンゾラミド追加群p値性別(男/女)5/24/70.33*年齢(歳)62.4±10.564.21±11.50.75**ベースライン眼圧(mmHg)17.5±4.518.9±3.80.45***c2検定.**対応のないt検定.図2眼圧下降幅012345672468:ブリンゾラミド追加群:チモロール追加群眼圧下降幅(mmHg)期間(月)10120510152025302412:ブリンゾラミド追加群:チモロール追加群眼圧下降率(%)期間(月)**:p<0.056810図3眼圧下降率———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081001(97)経過観察中,ブリンゾラミド追加群において無効であった症例が4例あった.これらは追加投与後2カ月目,4カ月目の時点での眼圧がベースライン時と比較し不変もしくは上昇したものであり,無効症例はベースライン眼圧が1415mmHgと低い症例であった.単剤投与の場合と同様,治療開始前眼圧の低い症例については,眼圧下降が得られにくいものと思われる.一方,チモロール追加群では無効症例はなく,眼圧下降に対する感受性については本剤のほうが高いことが推測された.今回の結果から,ブリンゾラミドおよびチモロールは,ラタノプロスト単剤使用時よりもさらなる眼圧下降を示したが,長期的にみるとその眼圧下降効果に異なった傾向がみられた.臨床においては,両点眼薬のそれぞれの傾向を考慮したうえでの選択・投与が必要と思われる.文献1)WillisAM,DiehltKA,RobbinTE:Advancesintopicalglaucomatherapy.VeteOphthalmol5:9-17,20022)WaldockA,SnapeJ,GrahamCM:Eectofglaucomamedicationsonthecardiorespiratoryandintraocularpres-surestatusofnewlydiagnosedglaucomapatients.BrJOphthalmol84:710-713,20003)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20054)緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20065)O’ConnorDJ,MartoneJ,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20026)MarchWF,OchsnerKI,TheBrinzolamideLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyandecacyofbrinzolamide1%(Azopt)inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol129:136-143,20007)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20068)BogerWP:Shortterm“Escape”andLongterm“Drift.”Thedissipationeectofthebetaadrenergicblockingagents.SurvOphthalmol28(Supple1):235-240,1983今回の経過観察中に中止となった症例については,無効による中止がチモロール追加群0例(0%),ブリンゾラミド追加群4例(23.5%)で,両群間で有意差はなかったものの,ブリンゾラミド追加群で多い傾向にあった(p=0.26).副作用による中止は,チモロール追加群で3例(30.0%)あり,原因として息切れ・動悸,角膜上皮障害,眼瞼炎があげられ,ブリンゾラミド追加群では2例(11.8%)で,原因は充血,眼瞼炎であった(p>0.99).III考按現在,国内においても多数の緑内障治療薬が認可されているが,薬物治療の原則は必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ることであり,それぞれの薬理効果,副作用を考慮したうえでの選択が必要である4).併用療法においては異なった薬理作用の薬剤の併用が望ましく,ぶどう膜強膜流出を促進するラタノプロストを第一選択薬として使用した場合,房水産生抑制効果のあるb遮断薬または炭酸脱水酵素阻害薬の併用は効果が期待できる.実際,ラタノプロストへの併用薬として,炭酸脱水酵素阻害薬の一つであるドルゾラミド,もしくはb遮断薬を用いた場合に有意な眼圧下降効果が得られることが報告されている5).筆者らが追加薬剤としてチモロールとブリンゾラミドを選択し,追加投与2カ月で検討した報告では,両群ともにラタノプロスト単剤投与時よりもさらなる眼圧下降が得られ,かつ両群間で眼圧下降幅・下降率に有意差を認めなかった3).しかし,今回12カ月の長期投与ではブリンゾラミド追加群については12カ月間の長期にわたり効果が持続したが,チモロール追加群については効果の減弱がみられた.Marchらは,ブリンゾラミドの単剤投与における長期効果の検討で,18カ月間にわたって有意な眼圧下降効果が持続したと報告しており6),緒方らは,ラタノプロストへのブリンゾラミド追加投与による眼圧下降効果は1年以上減弱することなく持続したと報告している7)が,今回の検討でも同様に,ブリンゾラミド追加群では12カ月間の長期にわたり効果が持続した.一方,以前からチモロールの長期間投与において効果が減弱する症例があること,他剤への併用薬として用いた場合にもその傾向が多くみられることが報告されている8)が,筆者らの結果においてもチモロール追加群において効果の減弱がみられた.***

眼科医にすすめる100冊の本-7月の推薦図書-

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.7,20089910910-1810/08/\100/頁/JCLSシステムバイオロジーという言葉は,著者である北野宏明氏が,1996年に出版した『システムバイオロジー─生命をシステムとして理解する』(日経BP企画)のなかで初めて使っています.生理現象を理解するには,遺伝子や蛋白質を理解することは必須ですが,それらがどのように相互作用し,そのネットワークが,どのような動作原理で挙動するのかがわからなければ,その生命現象の理解は困難です.従来の分子生物学者の重鎮なら「ものを出せ」と言います.しかし,システム理解の本質は,「もの」がどう構成され,どのように「こと」が起きているかの理解にあります.分子生物学が,ある意味で「ものの科学」であるのに対して,システム生物学は「ことの科学」であるということができます.「場」の研究を長年行っている,清水博先生も「もの」ではなく「こと」という言い方をよくされます.清水先生は,ものについてどれだけ知っても,「こと」について理解できるわけではない.今ここで起こっている「こと」を知るためには,従来のものごとを理解する方法ではむずかしいと言われます.北野氏もまた,「もの」から「こと」がどう生じているかについて理解する必要があるといいます.アプローチは違いますが「もの」が何らかの作用・機能・状態・関係を起こしていくプロセスを理解するという意味では,近いものを感じます.さて本書では,生命をシステムで考える新しい思考の枠組みとして,ロバストネス“Robustness”をテーマにあげています.生物の存在する環境は常に変動しますから,このような変動に対応できる能力は,その生存と繁栄にとってきわめて重要な特徴であるといえます.ここで興味深いのは,この機能は,個別の分子や遺伝子の機能ではなく,それらが,特定のシステムを形成した結果として現れる機能だという点です.ロバストネスとは「システムが,いろいろな擾乱(じょうらん)に対してその機能を維持する能力」と考えます.ロバストネスは単に生物だけに備わったシステムではなく,たとえば飛行機にも備わっています.飛行機の場合,「どういうふうに飛びたいか」という入力があります.それに対して,フラップやラダーなどのフライト・コントロール・サーフェースとエンジン出力が調整され,「飛行経路」という結果が出てきます.しかし,それに擾乱という不測事態が加わるときに,飛行経路維持という機能のロバストネスを確保するためには,このずれを修正する必要があります.この修正は,基本的にはフィードバック制御によって行われます.このフィードバック制御には,ネガティブ・フィードバックとポジティブ・フィードバックがあり,本書ではこのことについて詳しく述べられています.また,フィードバックだけではなく,フィードフォワードについても述べられています.飛行機の場合,飛行経路の維持のために「システムの状態」と「望まれる状態」との差を,入力にフィードバックして,その差を修正する手法が取られます.つまり,ネガティブ・フィードバックとは,上に行ったら,下に行く.下に行ったら,上に行く,という具合に誤差の方向に対して反対方向(=負)に制御することからついた名前です.このネガティブ・フィードバックは,エアコンの温度調整にも使われています.もちろん,飛行機ではもう少し複雑なネガティブ・フィードバック制御が行われています.一方,ポジティブ・フィードバックは,出力が正のフィードバックを受けるので,システムの状態は一方向にどんどん偏っていきます.たとえば,生物でも同様で,炎症が起こると,それを他の免疫細胞に知らせるシグナルが出されます.そして,これを受け(87)■7月の推薦図書■したたかな生命進化・生存のカギを握るロバストネスとはなにか北野宏明+竹内薫著(ダイヤモンド社)シリーズ─83◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン———————————————————————-Page2992あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008取った免疫細胞がその場所にきて,さらに炎症は拡大し,さらに大きなシグナルが出され,さらに免疫細胞が集まり……というフィードバックが起こるのです.この場合,炎症をひき起こした原因が除去されるタイミングで,このポジティブ・フィードバックを強力に抑えるシグナルが出され,炎症は治まっていきます.また,システム制御の方法には,フィードバック以外にも,フィードフォワード制御も用いられています.たとえば,できるだけ雨に濡れないという状態を目標にした場合,フィードバック制御では,雨に濡れ始めたら屋内に入るという制御が想定されます.これに対して,フィードフォワード制御では,雨雲が出てきたら屋内に入るという制御をすることが,一つの設定として成り立ちます.フィードバック制御では,少し雨に濡れてしまいますが,フィードフォワードでは,事前に屋内に移動するという制御によって,雨に濡れないということが可能になります.このようにして,フィードフォワードでは,列車の運転手が地震の際に,微弱振動を検出して,大きな揺れがくる前に列車を止めることで,事故を回避することもできます.さて,本書が興味深いのは,生物に関わらず,飛行機や私たちをとりまく全てのシステムは同じように「ロバストネス」をもち,それを向上させようとしている点にあります.本書は,システムバイオロジーの観点から,ロバストネスの概念に始まり,ロバストネスの進化に至っています.本書のなかではロバストネスと癌の関係についても深く洞察しています.特に興味深いのは,癌もそれ自体がロバストネスを有しており,現代の癌治療に対して,癌にもロバストネスのシステムが働いているという点にあります.最近の傾向として,科学に関する書籍は経営やITのシステム構築などに新しい視点と解釈を与えているように思います.そのなかでも本書は秀作だと思います.☆☆☆(88)

眼科専門医志向者“初心”表明

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.7,20089890910-1810/08/\100/頁/JCLS「眼科?眼科には進まないな,まずあり得ない.」これはポリクリで眼科をローテートしたときに,医学部6年生の私自身が口にした言葉です.当時の眼科のイメージは,QOL(quolityoflife)重視の人が選ぶ科,女性が多い,手術は細かくてダイナミックさに欠ける,といったもので,自分が進む科という認識はゼロでした.そんな私が眼科医になる決意をした場所はブラジル・アマゾンでした.国際医学研究会という学生団体に所属していたおかげで,医学部6年生の夏にブラジルを中心とした南米に約2カ月間の医療研修に行かせてもらい,貴重な体験を数多くさせてもらいました.現地の原住民の村を訪ねたり,アマゾン川流域の無医村地域をまわる巡回診療船に同乗したりといった活動のなかで,私は現地の世話人のなかに眼科医がいるという単純な理由でアマゾン川流域の翼状片の罹患率調査を行いました.調査といってもアンケートと肉眼での簡単な診察を行うだけのものでしたが,そのなかで一番驚いたのは,行く先々の村で眼科医が来たという噂を聞きつけてたくさんの村人が相談のために集まり,行列ができたことです.相談の内容は多岐にわたり,「眼が外を向いているのが気になっているが手術で治せるか?」「小さいころから片眼が見えないのだが見えるようになるか?」「老眼鏡くれ!」「何でも良いから点眼薬よこせ!」などなど.当時,医者は人の生死に関わる職業であるから生死に関わらない科の医者の身分は低い,という偏見が私にはあり,無医村に眼科医が行っても役に立たないに違いないと確信していた私にとって,この体験は非常に新鮮でした.そのときの「見えるって意外と大事かも」という素直な感動が,進むはずのなかった眼科の道へと私を進ませることになったのでした.あれから4年の月日が経ち,今では患者さんの眼と向き合い続ける忙しい毎日ですが,ふとした瞬間に,アマゾンに行っていなかったら何科の医者になってたんだろうなあ,などと思ったりしています.◎今回は慶應義塾大学の伴先生にご登場いただきました.自分も小さな頃は医師といったら生死を左右する職業だと思っていたのですが,眼科に出会って眼科医でなくてはならないというspecialityの高さに惚れました!「見える」を左右する眼科医は本当に魅力的だと思います.(加藤)☆本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.追って詳細を連絡させていただきます.Email:hashi@medical-aoi.co.jp(85)眼科医向者“初心”表明●シリーズ⑦眼科医の原点はアマゾンにあり!伴紀充(NorimitsuBan)慶應義塾大学医学部眼科学教室平成17年3月慶應義塾大学医学部卒業.学生時代はアメリカンフットボールに打ち込んでおり,眼科は自分とは一生無縁な科だと思っていた.北海道北見赤十字病院で2年間の臨床研修の後,平成19年4月より現職.(伴)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.連載7回目の今回はこの先生に登場していただきます!アマゾン川流域での眼科調査の様子

後期臨床研修医日記6.愛媛大学医学部眼科学教室

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.7,20089870910-1810/08/\100/頁/JCLSい症例を診る機会も多く,非常に勉強になります.夕方からはクリニカルカンファレンスがあり,入院患者さんから興味深い症例を選んでプレゼンテーションを行います.治療に難渋している症例などでは,各専門の先生からさまざまなアドバイスをいただける貴重な場となっています.(篠崎友治)水曜日水曜は手術日です.おもに自分の担当患者さんの手術助手を務めますが,後期研修医2年目からは,自分の外来にきた白内障や翼状片の患者さんの手術を行うこともあります.自分の手術がある日は,DVDや本で何度も復習して手術に臨みます.思い通りに上手くできず,悔しい思いをすることが多いですが,それでも最後まで完投すると嬉しくて,ついつい口元が緩んでしまいます.指導医の先生方は,あまりの危なっかしさに気が気でないと思いますが,それでも辛抱強く優しく教えてくださり,頭の下がる思いです.落ち込むことも多いですが,いつか自分でも納得のいく手術ができる日を目指して頑張っていきます.木曜日木曜は網膜外来の日です.患者さんの数も多く,眼底(83)愛媛大学医学部眼科学教室では,この4月に5人の後期研修医が入局し,現在8名の後期研修医が働いています.大橋裕一教授をはじめ,各専門分野の先生方から指導を受け,多忙ながらも充実した研修生活を送っています.今回はそんな私たちの1週間を紹介させていただきます.月曜日月曜は手術日ですが,私は午前中外来で診療をしています.後期研修医2年目から週1回自分の外来をもたせてもらっているからです.多くは専門性の低い疾患が回ってきますが,ときに診断に困ることもあり,隣で診察している上級医の先生に助けを求めつつ,外来をこなしていきます.外来患者さんが多い日は午後にずれ込んでしまい,慌てて午後からの自分の担当患者さんの手術助手に入ることも度々です.夕方には各専門グループごとに病棟で回診を行い,治療方針を決定していきます.1日のスケジュールが終了したかと思うと,実は水曜日手術予定の患者さん達が入院してきているのに,まだ何も検査しておらず….患者さんと暗い消灯後の外来に降りて行き,検査をして,やっと1日が終了したこともありました.火曜日火曜は大橋教授を中心とした角膜外来の日です.まず午前8時よりearlybirdと名づけられた角膜の勉強会で1日が始まります.ここでは角膜の症例が提示されたり,抄読会や大学院生の先生が研究内容を発表したりします.聞きなれない用語や,むずかしい内容に眠気を誘われながら,必死に頭を働かせます.それが終わると,つぎは外来がスタートします.当院は角膜を専門とする先生が多く,8診を使っての外来となります.私は診察の横に付いて勉強したり,検査や問診などを行っています.特に教授の外来では,他院から紹介されてきた珍し後期臨床研修医日記●シリーズ⑥愛媛大学医学部眼科学教室篠崎友治坂根由梨野田恵理子▲病棟にて(向かって左から篠崎・坂根・野田)———————————————————————-Page2988あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(84)り,術者の先生とムンテラを行ったりします.いかにわかりやすく患者さんに説明するかなど学べて,非常に参考になります.土・日曜日休日は後期研修医,前期研修医各1人ずつが当番でローテーションを組み,その日のオンコールの上級医と計3人で病棟患者の回診を行います.自分の担当以外の患者さんを診察したり,平日は慌ただしく聞きのがしたことを遠慮なく聞くチャンスでもあり,和気藹々としています.休日連絡のあった緊急入院や時間外外来については,上級医とともに対応します.外傷,網膜離など,さまざまな眼科救急の診療を学び,実践します.手術になる症例では,直介として手術に参加することで,手術操作の流れを再確認し,大変勉強になります.土曜日は,月1回関連病院で外来を行うこともあります.眼科診療には,所見をいかに見逃さないか,変化を読み取るかというように,自分の眼が頼りです.明日からの仕事に備えて,日曜日の夜は眼をしっかり休めるようにしています.(野田恵理子)写真や蛍光眼底撮影などの検査も多いため,非常に忙しい日となっています.しかし,ほとんどの患者さんが散瞳しているため,眼底の診察を練習するチャンスが多い日でもあります.眼底写真やOCT(光干渉断層計)を撮影しながら,自分なりに診断や所見を考えていくと良い勉強になります.夕方近くなって,ようやく休憩できると思ったら,月曜日と同じく,各専門グループの回診が始まります.終了後は医局でカンファレンスがあり,月に数回眼底写真を見ながら網膜疾患の勉強会を行ったり,緑内障の勉強会を行ったりしています.(坂根由梨)金曜日金曜は午前8時30分より総回診があります.回診に間に合うよう,自分の担当患者さんの診察を済ませ,プレゼンテーションに臨みます.なお,興味深い症例,治療に苦慮している症例については,次週のカンファランスで発表します.回診終了後は,外来で検査や診察に付きます.午後からは,次週の手術予定患者の入院日でもあるため,おもに入院した患者さんの術前検査を行った?プロフィール(50音順)?坂根由梨(さかねゆり)平成16年愛媛大学医学部卒業,愛媛県立中央病院と愛媛大学付属病院にて初期臨床研修,平成18年4月より愛媛大学医学部眼科学教室前期専攻医.篠崎友治(しのざきともはる)平成16年杏林大学医学部卒業,愛媛大学付属病院と愛媛県立中央病院にて初期臨床研修,平成18年4月より愛媛大学医学部眼科学教室前期専攻医.野田恵理子(のだえりこ)平成17年浜松医科大学卒業,愛媛大学付属病院にて初期臨床研修,平成19年4月より愛媛大学医学部眼科学教室前期専攻医.指導医からのメッセージ後期研修医の先生たちは,すでに2年間各科で研修を積んでおり,患者さんへの応対などは安心して見ていられます.ただ眼科研修の開始段階で,眼科経験がほとんどゼロの人から最長6カ月のプレ研修を終えている人まで多少レベルに違いがあります.(これは,研修医自身の問題ではなく現在の制度の問題であることは言うまでもありません.)日記のなかにも書かれていますが,眼科は「自分の目で見てナンボ」の世界で,スリットなどで所見をとることができるか否かは重要な問題です.一例一例をしっかり診ることで,診察技術はみるみるアップし,研修初期のわずかなレベルの差などまったく問題になりません.臨床や学会発表にどっぷりの研修医生活ですが,まさに「鉄は熱いうちに打て」です.いろいろな先輩に打たれながら,一流の眼科医へと逞しく成長していってください.愛媛大学医学部眼科学教室・医局長山口昌彦▲今年は5名が入局しました

硝子体手術のワンポイントアドバイス62.高度の網膜壊死をきたした桐沢型ぶどう膜炎に対する硝子体手術(上級編)

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.7,20089850910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに桐沢型ぶどう膜炎は急性網膜壊死ともよばれ,網膜血管閉塞,滲出斑,網膜壊死,硝子体混濁,網膜離を特徴的な臨床所見とし,単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で生じる.治療としては,アシクロビルの静脈内注射や眼内注入などの薬物療法に加えて,硝子体混濁および網膜離に対する硝子体手術がある.最近は網膜離発症前あるいは発症後早期に硝子体手術を施行し良好な手術成績を得たとする報告が多いが,高度の網膜壊死をきたし,網膜全離や増殖硝子体網膜症に至った症例の手術成績は依然不良である1).高度の網膜壊死をきたした桐沢型ぶどう膜炎に対する硝子体手術桐沢型ぶどう膜炎の進行例では,いわゆるぼろ雑巾様の多発裂孔を伴う網膜全離に至ることが多い(図1a,b).本疾患では周辺の網膜壊死部の網膜硝子体癒着が(81)非常に強固なので人工的後部硝子体離作製時には,双手法が必要となる.筆者はシャンデリア照明あるいは顕微鏡同軸照明下で助手に強膜を圧迫させ,可能な限り人工的後部硝子体離作製を行った後,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固(あるいは経強膜冷凍凝固),周辺部輪状締結術,シリコーンオイルタンポナーデを行っている.周辺部に多量の硝子体が残存すると,それが基盤となって著明な前部増殖組織を形成し,房水産生低下をきたすので,可能な限り周辺部硝子体を切除するようにしている.タンポナーデ物質としては,ガスでも可能だが,術後に炎症が遷延して増殖性変化を惹起することが多い(図2a,b)ので,シリコーンオイルのほうが有用と考えている.期診断の重要性桐沢型ぶどう膜炎は,特徴的な臨床所見や前房水のpolymerasechainreaction(PCR)などで早期診断は比較的容易であるが,原因不明のぶどう膜炎と診断され,ステロイドを漫然と長期間投与され,高度の網膜壊死を伴う重症の網膜離に進行してしまう症例が,現実に存在する.本疾患に対する早期診断の重要性を最後に強調したい.文献1)水谷泰之,今村裕,南政宏ほか:高度な網膜壊死をきたした桐沢型ブドウ膜炎に対して硝子体手術を施行した1例.眼紀54:440-443,2003硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載62高度の網膜壊死をきたした桐沢型ぶどう膜炎に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科aa1高度の網膜壊死をきたした桐沢型ぶどう膜炎の眼底写真a:後極部.網膜全離を認める.b:周辺部.ぼろ雑巾様の多発裂孔を認める.図2術後の眼底写真a:後極部.ガスタンポナーデで網膜を復位させたが,術後炎症が遷延し,黄斑上膜をきたした.b:周辺部.網膜壊死部に冷凍凝固と輪状締結を施行した.

眼科医のための先端医療91.感染症の新たな診断法の展開-PCR(Polymerase Chain Reaction)を用いた迅速診断-

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.7,20089830910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに眼感染症,特に細菌性眼感染症は他の臓器の感染症とは異なり,検体量の少なさから塗抹や培養での菌の検出が困難である場合が多いといえます.陽性率は各施設や検査機関によっても異なるため,同じ感染症であっても菌が判明する場合と判明しない場合に分けられてしまいます.すなわち,取り扱いも含め,菌の判別に経験を必要とします.そのなかでも特に検体量が少なく,迅速に菌を特定しなくてはいけない眼感染症に感染性眼内炎があげられます.前房水や硝子体からの培養陽性率が低い点,塗抹標本を判定することが困難である点から,治療を開始したくても的確な抗生物質を利用することができません.菌による毒素とその炎症によって網膜が短時間で著しく破壊されるため,いかに菌の曝露を最小限にとどめるかが予後を良くするための問題点です.これら感染症を専門としている眼科医以外は診察での経験数も限られているため診断・治療に苦慮する可能性があり,治療開始が遅れると失明の危険性が高い疾患です.山形県における眼内炎の現状本眼で)ししたでに山形病にた感染性眼内炎は眼原お感染に内性性後性感染性にし性症での原後後とでののにい検したとは体でで性はんでした病有病は体ででしたでのは内性で診でででのにるでした感染性診でとにした内性で後でた症ではに検出いした後ででたは内性で性で後性で感染性ででしたとし内性眼内炎にし後性眼内炎後はでたとにいとの診いとに後なるのではないといのな状においのために迅速なの検出でるとはでなにたのでるとでなでのの検出はにと現状ではにはるためににないは本眼た眼内炎ロ)にじにたおに用いるはマイでのでしいるとはとんな本でとるの出たとし検体のな診の性めいのをめるとでんたの出るではをしなでをるととん性でたとはにでをとになのになしとなん新しい検査法()はなにたるる診断に用い感染性眼内炎においはでに性性をるのし)ししはクをいめるのでのにるのでしたたにに用いるでおんでした内ではに)にとマイクロアレイを用いた病原体検出い(図1).これはガラス基盤上に固定化された多種類のDNAプローブに対して,蛍光標識させた検体DNAを反応させ得られた画像を自動検出器で取り込んで解析処理するものであり,一度に眼感染症に特徴的な菌をターゲットとして多種の病原体遺伝子を網羅的に調べることができます.しかも,比較的短時間(6~8時間)で菌のスクリーニングができます.菌の検出が困難である症例や,混合感染を起こしている症例に対して,(79)◆シリーズ第91回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊田邉智子(山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野)感染症の新たな診断法の展開─PCR(PolymeraseChainReaction)を用いた迅速診断─———————————————————————-Page2984あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008この検査法は画期的であり,診断の補助につながります.ただし,感度が高い点と,定量ができないため,起因菌であるか否かの判断は臨床所見と,従来の塗抹・培養を平行させ考えていく必要があります.眼内炎におけるPCRの有効性と今後の展望眼内はといるためのないは眼内炎におい検出たでる性にの眼内炎におい用たになをるとになるとを用し検査においにる開に用いでののる性る症る性めい文献1)田邉智子,山本禎子,上領勝ほか:感染性眼内炎の予後に関しての検討.第60回日本臨床眼科学会抄録,p103,20062)薄井紀夫:初期治療プロトコール白内障術後急性細菌性眼内炎─初期治療プロトコール─抜粋.眼科プラクティス1,術後眼内炎,p29-33,文光堂,20053)PeymanGA,LeePJ,SealDV:Moleculardiagnosisofendophthalmitis:EndophthalmitisDiagnosisandManage-ment.p47-66,Taylor&Francis,LondonandNewYork,20044)鈴木崇,井上幸次:DNAマイクロアレイによる感染症診断.あたらしい眼科21:1499-1500,20045)鈴木崇:遺伝子医学を日常診療へ─遺伝子学的アプローチを用いた眼感染症診断.日本の眼科77:147-148,2004(80)感染症の新たな診断法の開─PCR(PolymeraseChainReaction)を用いた迅速診断─」を読んで■のは感染症とのいのといは有で新をたは感染症でたとはいたにるロのなはのをめしたしのをしししたとは文にのるはじでしになると状状のたのなののにの感染症はしたのではのは感染症はしといをいししではんに感染性眼内炎でといをるとは感染症にしいになのとはいになのでるし感染症とのいは今後でと感のなにるにはでるけになを田智子本文でいるに感染性眼内炎にしたとし現の法ではに炎をでんのためをにしいのをしをいクをを用いるいししの法では性をに出といいな用ので感染症とのいといはしん今たを用いたマイクロアレイ法は感染性眼内炎の炎を迅速にるとでの法はなを迅速にでるけでなをるとで性のを感染症のでるので感染症とのいといなめいるとい眼坂本泰二1:一つのPCR反応に複数のプライマー対を同時に使用し複数の遺伝子領域を同時にする.同時検出による迅速性なうえになンプルの有利用ができる.2:平上に多種類のDNA断を高度であらかじめスットしておき,発現している全遺伝子を蛍光標識した後に反応させる.3:反応したDNAの種類とその蛍光強度の強によって細胞内遺伝子の発現状況を調べる.検体採取DNA抽出MultiplexPCRDNAマイクロアレイ自動検出器解析??菌DNA増幅※1※2※3図1MultiplexPCRとDNAマイクロアレイを用いた病原体検出(文献4,5より改変)

サプリメントサイエンス:AREDS解説

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.7,20089810910-1810/08/\100/頁/JCLS近年,滲出型加齢黄斑変性(wetage-relatedmacu-lardegeneration:wetAMD)に対する治療法として光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)や,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を成長させる血管内皮増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)を阻害する抗VEGF療法が確立した.これらの治療を受けたAMD患者の視力予後は確かに自然経過に比して良好である.しかし,重度の障害を受けた網膜神経細胞の機能回復は困難であることから,より良い視機能の確保を目指して早期の介入による発症予防にも関心が集まっている.AMDの危険因子として年齢,性別(女性,ただし日本では男性),人種(白人),喫煙,肥満(bodymassindex:BMI高値),高脂肪食,遺伝子多型(APOE,CFH,CFB,C2,ABCA4,ABCE),抗酸化物質摂取不良,光曝露があげられる.このなかでも年齢と喫煙は多数の疫学調査からAMDとの関連が最も強い因子として認められている.また,食事との関連は,サプリメントを用いたAMDの発症コントロールを考えるうえで重要な情報である.AMDと酸化ストレス抗酸化サプリメントによるAMD発症の抑制が論じられるようになったのは,網膜が活性酸素により傷害を受けやすい状態にあることがわかってきたことも背景の一つである.網膜は光刺激につねに曝されており,酸素と光が同時に存在することで活性酸素の産生が促進されている.このメカニズムとして近年ではA2Eとよばれる蛍光物質の関与が示唆されている.A2Eは,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)の加齢変化として注目されているリポフスチンの主要な構成成分である.視細胞外節に存在する視物質ロドプシンは光を吸収するとオプシンとall-trans-レチナールに分解される.RPE細胞はall-trans-レチナールが含まれる脱落した視細胞外節を貪食し,ロドプシンの構成成分である11-cis-レチナールを再生する.この生理的なロドプシンの代謝は視サイクル(visualcycle)とよばれる.この過程でall-trans-レチナールとリン脂質が反応することによりA2Eが生合成される.加齢とともにRPEの機能が低下すると貪食した視細胞外節を消化しきれず残渣としてリポフスチンが蓄積する.リポフスチンの主成分A2Eは光刺激(特にエネルギーの高い青色光)依存性に高度に酸化され,多量の活性酸素を発生させると考えられている.AMDに対するサプリメントのエビデンス1.AREDS米国国立眼研究所(NationalEyeInstitute:NEI)主導で行われたAREDS(Age-RelatedEyeDiseaseStudy,19921998)は11施設で延べ3,640人を対象に調査が行われた1).年齢は5580歳で平均69歳であった.参加者は無作為に4つのグループに分けられた.1)抗酸化ビタミン(ビタミンC500mg,ビタミンE400IU,bカロテン15mg)2)亜鉛80mg3)抗酸化ビタミン+亜鉛4)プラセボ亜鉛投与群には銅欠乏性貧血を防ぐために銅2mgが加えられた.またAREDSが開始した2年後に,喫煙者のbカロテン摂取による肺癌のリスクが有意に上昇することが明らかになったため,AREDS参加者で抗酸化ビタミンが投与されていた人のうち喫煙者は治験中止となった.評価はおもに眼底写真と視力検査によって行われた.結果は検査眼に中型(63125μm),または大型(77)サプリメントサイエンスセミナー●連載②監修=坪田一男2.AREDS解説栗原俊英*1,3石田晋*2,3*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2同医学部稲井田記念抗加齢眼科学講座*3同総合医科学研究センター網膜細胞生物学研究室加齢黄斑変性の発症要因に酸化ストレスが関与することは,黄斑が光刺激に曝露されていることや食習慣との関連を調査した疫学研究から示唆されていた.AREDSでは,抗酸化ビタミンと微量ミネラルの摂取が加齢黄斑変性の発症リスクを低下させることが実証された.現在,黄斑色素ルテインとオメガ3不飽和脂肪酸の効果を検証するためAREDS2が進行中である.———————————————————————-Page2982あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(125μm以上)のドルーゼンが存在するか,片眼にAMDが存在する場合に,検査眼のwetAMDへの進行率が抗酸化剤+亜鉛投与群でプラセボ群と比較して5年間で25%減少するというものであった(図1).2.AREDS2AREDSの良好な結果を受けてNEIはさらなる詳細な検討を開始した.AREDS2とよばれるこの新しいスタディは,黄斑に存在するカロテノイドであるルテイン/ゼアキサンチン,およびオメガ3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedfattyacid:PUFA)であるドコサヘキサエン酸(docosahexsaenoicacid:DHA)/エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)のAMD進行に対する影響を検討するものである.AREDS2は約100施設で5580歳のAMD患者4,000人を募集し,つぎの4群に分けて解析する予定である.1)ルテイン/ゼアキサンチン(10mg/2mg)2)DHA/EPA(350mg/650mg)3)ルテイン/ゼアキサンチン+DHA/EPA4)プラセボルテインおよびその光学異性体ゼアキサンチンはカロテノイドとよばれる天然色素の一種である.カロテノイドは天然に存在する色素で,化学式C40H56の基本構造をもつ化合物の誘導体である.カロテノイドは二重結合(78)を多く含むため,一重項酸素を消去する能力が高い.炭素と水素のみで構成されるものをカロテン,それ以外をキサントフィルという.ルテインとゼアキサンチンはキサントフィルであり,ほうれん草やケールといった緑黄色野菜に多く含まれ,ヒト体内では合成できない.約40種類のヒト体内に存在するカロテノイドのうちルテインとゼアキサンチンのみが選択的に黄斑部に取り込まれる.「黄斑」たる所以である.一方,PUFAは化学構造に基づいてオメガ3系とオメガ6系のおもに2つのグループに分類され,これらは動物の体内で合成することができない.オメガ3という表記は,その脂肪酸の最初の二重結合炭素が分子のメチル末端から数えて3つ目であることを意味する.EPAとDHAは代表的なオメガ3PUFAであり,魚の脂肪に多く含まれる.黄斑色素ルテイン/ゼアキサンチンやオメガ3不飽和脂肪酸DHA/EPAがAREDS2のサプリメントとして使用される妥当性について,疫学的2)ならびに生物学的根拠3,4)が報告されているが,次号以降に掲載の各論の解説に譲る.おわりにサプリメントのAMDに対する効果は,その生物学的な背景から大規模な疫学調査に至るまで科学的に検証されつつある.AREDSの結果は,抗酸化ビタミンと微量ミネラルの組み合わせが有効であることを示す画期的なデータであったが,さらに,オメガ3PUFAやルテインについてAREDS2の調査結果が待たれるところである.文献1)AREDSResearchGroup:Arandomized,placebo-con-trolled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20012)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:Dietarycarote-noids,vitaminsA,C,andE,andadvancedage-relatedmaculardegeneration.EyeDiseaseCase-ControlStudyGroup.JAMA272:1413-1420,19943)KotoT,NagaiN,MochimaruHetal:Eicosapentaenoicacidisanti-inammatoryinpreventingchoroidalneovas-cularizationinmice.InvestOphthalmolVisSci48:4328-4334,20074)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Macularpig-mentluteinisantiinammatoryinpreventingchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol27:2555-2562,20070.40.350.30.250.20.150.10.050etAMDへの進行率経過(年)WetAMDへの進行率234567:プラセボ:亜鉛:抗酸化ビタミン:抗酸化ビタミン+亜鉛経過(年)プラセボ抗酸化ビタミン亜鉛抗酸化ビタミン+亜鉛20.1420.1120.1060.09830.1970.1570.1490.13940.2310.1850.1770.16550.2780.2260.2160.20260.3110.2540.2430.22970.3570.2960.2840.287図1AREDSの結果5年間の抗酸化サプリメントの投与でwetAMDへの進行がプラセボ群27.8%に対し,抗酸化ビタミン+亜鉛投与群20.2%で,進行の危険率は25%減少した.(文献1より改変)

眼感染アレルギー:アトピー眼瞼炎の治療

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.7,20089790910-1810/08/\100/頁/JCLS顔面の皮膚は躯幹や四肢に比べて薄く,皮下組織を除いて<表皮・真皮>で約2.0mmである.眼瞼ではさらに薄く0.55mm程度であり,体で最も皮膚の薄い部位に属する.表皮が薄いことより外界からの刺激を受けやすく,アレルゲンの侵入をきたしやすい.また,ステロイド軟膏や免疫抑制薬軟膏の副作用が生じやすい.一方,真皮の結合組織はきわめて粗で多量の基質が存在するため,眼を強くこすったりすると眼瞼浮腫が急激かつ高度に生じる.トピー眼瞼炎アトピー眼瞼炎は軽微,軽度,中等度,重度に分類できる.軽微においては軽い乾燥症状を呈するのみである.軽度では乾燥症状に軽度の紅斑・鱗屑を認める.中等度では中等度までの紅斑・鱗屑に少数の丘疹や掻破痕を認める.重度では,苔癬化を伴う紅斑,丘疹の多発,高度の鱗屑,痂皮の付着,小水疱,びらん,多数の掻破痕,痒疹結節などを認める(図1a).重度の眼瞼炎においては,眼瞼内反または外反,閉瞼障害などが生じる(図1b).また,患者の眼瞼皮膚には黄色ブドウ球菌が高率に定着していることが知られており,眼をこすることにより結膜内に播種され,細菌性結膜炎を起こす.さらに,アトピー眼瞼炎患者は,ヘルペス性眼瞼炎を発症しやすい.眼瞼ヘルペスを発症した場合,両眼性の角膜ヘルペスを合併することが多い.トピー眼瞼炎の初期治療アトピー眼瞼炎の治療の基本は,抗原の除去,スキンケアによる皮膚バリアー機能の維持,痒感の抑制,清潔である.抗原除去のためには,こまめな洗顔が必要である.ぬるま湯や刺激性の少ないアトピー性皮膚炎用の石鹸を使用する.近年,アトピー性皮膚炎患者皮膚においては,皮疹部のみでなく,無疹部においても皮膚のバリアー機能が低下していることが指摘されている.バリアー機能の維持には保湿剤を使用する.保湿剤にはエモリエント効果をもつ眼科用白色ワセリン(プロペトR眼軟膏),モイスチャライザー作用をもつ尿素軟膏(ケラチナミンR軟膏),セラミドを含有したジェル(アピットジェルR)を用いる.保湿剤と非ステロイド系消炎軟膏を併用することもあるが,NSAID系の軟膏は接触皮膚炎を起こすことが多く注意が必要である.膿性滲出液などがみられるときは黄色ブドウ球菌などの二次感染が疑われ,オフロキサシン軟膏(タリビッドR眼軟膏)を併用する.バリアー破壊の最も大きな原因は患者自身の掻破行動なので,患部を冷却したり,第二世代抗ヒスタミン薬の内服を用いる.内服処方時には,インペアード・パフォーマンスに注意をする.アトピー眼瞼炎患者の掻破行動には嗜好的側面も強く,精神的ケアーも重要である.(75)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑦監修=木下茂大橋裕一7.アトピー眼瞼炎の治療海老原伸行順天堂大学医学部眼科アトピー眼瞼炎の治療の基本は皮膚バリアー機能の維持である.バリアー破壊の最大の原因は痒みによる患者自身の眼掻破行動である.ゆえに,痒みを取ることがアトピー眼瞼炎の最大の治療目的になる.止痒・消炎のために保湿剤・ステロイド軟膏・タクロリムス軟膏・第二世代抗ヒスタミン薬内服を効果的に使用する.アトピー眼瞼炎の治療はアトピー眼症の発症・増悪を阻止する.図1重症アトピー眼瞼炎a:高度のびらん・多数の掻破痕・痒疹結節を認める.b:完全に閉瞼ができない.a———————————————————————-Page2980あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008テロイド軟膏の使い方ステロイド軟膏を少量でも漫然と長期間使用すると副作用が生じる.皮膚萎縮・毛細血管拡張・黄色ブドウ球菌による伝染性膿痂疹や,ヘルペスウイルスによるカポジ水痘様発疹症の誘発などである.さらに軟膏が結膜内に入り高眼圧や白内障が誘発される.ステロイド軟膏を使用しているときは必ず眼圧測定をする.眼瞼炎治療には,medium~weakのものを少量・短期間使用する.また,初診時にすでにステロイド軟膏を使用している場合は,急に中止すると急激な悪化(topicalcorticoster-oidwithdrawalsyndrome)を発症することがあるので,徐々に効力の弱いものに漸減していく.ステロイド軟膏とプロペトR眼軟膏を1:1,1:2,1:3と比率を変えて,混合して処方するのもよい.クロリムス軟膏強力な免疫抑制作用をもつタクロリムス軟膏(プロトピックR)が注目されている(図2).タクロリムス軟膏の特徴は,①ステロイドの分子量(300~400)に比較して,分子量(822.05)が大きいため正常皮膚よりは吸収されず,炎症の生じている皮膚のみより吸収される.すなわち,消炎後,皮膚のバリアー機能が回復するとともに吸収率が低下する.ゆえにステロイド軟膏にみられる皮膚萎縮をはじめとする副作用が認められない.②中止してもリバウンド現象を認めない.③0.1%タクロリム(76)ス軟膏はstrongクラスと0.03%タクロリムス軟膏(小児用)はmediumクラスのステロイド軟膏と同等の効果をもつ.④ステロイド軟膏と比較して強い即効性の止痒効果がある.問題点としては,その刺激性のためにびらん・掻破痕がある部位に塗布すると灼熱感が強いことである.特に眼瞼皮膚に使用するときは,なるべく結膜内に入れないこと.角結膜感染症がある場合は使用を控えること.眼科医による細隙灯顕微鏡や眼圧検査を定期的に施行することなどである.おわりに今まで重症のアトピー眼瞼炎の治療は,mediumやweakのステロイド軟膏を少量使用することが主流であった.しかし,タクロリムス軟膏の登場により治療法も変わりつつある.たとえば,びらんの強い症例では,verystrongやstrongestのステロイド軟膏を本当に短期間(2~3日間)使用した後,タクロリムス軟膏に切り替える方法.最初からタクロリムス軟膏を使用し,徐々に保湿剤へ変更していく方法などがある(図3).実際,海外においては,重症のアトピー眼瞼炎に0.1%タクロリムス軟膏を使用し,自覚・他覚所見の著明な改善が報告されている1).タクロリムス軟膏の登場により,アトピー眼瞼炎の治療も変わりつつあり,アトピー眼症の発症率の低下が期待される.文献1)NiveniusE,vanderPloegI,JungKetal:Tacrolimusointmentvssteroidointmentforeyeliddermatitisinpatientswithatopickeratoconjunctivitis.Eye21:968-975,2007びらん,掻破痕,紅斑が軽度中等度びらん,掻破痕,紅斑が高度Verystrongステロイド外用薬タクロリムスタクロリムス保湿剤保湿剤2~3日5~7日7~10日図3タクロリムス軟膏の使用方法図2タクロリムス軟膏による治療a:治療前,b:治療後.0.1%タクロリムス軟膏2回/日,1週間塗布により眼瞼炎が改善された.(東京逓信病院・江藤隆史先生のご厚意による)a

緑内障:緑内障進行と特殊視野検査

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.7,20089770910-1810/08/\100/頁/JCLS緑内障の早期検出のため,従来の自動視野計と異なる視標刺激を用いた視野検査法が多数報告されている.網膜内において視覚情報は処理され,網膜神経節細胞レベルですでに伝達される情報が分けられていることから,それぞれの神経節細胞をターゲットにした視覚刺激を用いた視野計が考案されている.網膜神経節細胞は外側膝状体への投射部位の違いからP細胞とM細胞に分けられる.P細胞は「色,高解像度・低コントラスト」の情報を伝達することから,その機能検査に各種の色視野計,high-passresolutionperimetryが開発されている.M細胞は「動き,低解像度・高コントラスト」の情報を伝達することから,フリッカー視野計などが開発されている.また,持続する光刺激に対し持続的に応答するX型の細胞と刺激のOn・O時のみに応答するY型の細胞がある.P細胞はおもにX型であるが,M細胞はX型とY型があり,M-Y細胞の機能検査を目的としたfre-quencydoublingtechnology(FDT)視野計が開発されている.従来の視野計で異常が検出されなくとも,FDT視野計で異常が検出されるなら,その部位に将来,従来の視野計でも異常が生じる可能性が高いこと1)が報告されている.さらに,神経節細胞には光刺激のOn中心の受容野をもつ細胞とO中心の細胞があることから,筆者はO刺激を強調したO視野計2),On刺激を強調したOn視野計3)を報告している.彩飽和度視野計4)色視野計としては黄色背景に青色の刺激光を表示するblueonyellow視野検査が広く行われている.筆者はさらに色情報と明度情報を分けて検査する目的で色彩飽和度視野検査(PCST)を開発した.本検査は5つの明度の異なる無彩色と1つの有彩色を同時に一定時間表示し,有彩色を識別させるものである(図1).PCSTは6色の色相について,別々に閾値を測定する.緑内障患者について,Humphreyeldanalyzer(HFA)自動視野計とPCSTの相関を検討し,3年間経過を観察したところ,つぎの傾向が認められた.・青紫色はPCST上で早期に異常として出るが,HFA上の異常はすぐには出ない.・赤色,緑色はHFA視野上の暗点が出てからPCST上の色覚異常が出る.・紫色の異常があれば,HFA上は現在異常がなくとも3年後に異常が出る率は有意に高い.O視野計2,3)本検査はコンピュータと液晶ディスプレイを用いて,白色背景上に境界不鮮明な黒色(消灯刺激)の視標を急(73)●連載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄97.緑内障進行と特殊視野検査小暮諭こぐれ眼科クリニック/山梨大学医学部眼科緑内障性視野障害の評価に,各種網膜神経節細胞の機能に特化した視野計が開発されており,その有用性が報告されている.開発中の新しい検査として,P細胞系の検査としては色彩飽和度視野計,M細胞系の検査としてはO視野計を紹介する.これらの特殊視野検査は緑内障性視野障害の多角的評価を可能にしている.図1色彩飽和度視野計検査画面同時に表示された6つの視標のなかから1つの有彩色の部位を答える.———————————————————————-Page2978あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008速に表示し,約1秒かけて緩やかに消去するものである(図2).HFA視野上は同じような,視野障害でもO視野,On視野上は異なる欠損を示すこと3)も確認されている(図3,4).(74)殊視野検査の意これらの視野検査は緑内障の早期診断を目的とされることが多い.しかし,中等度緑内障患者の実際の見え方の評価や,今後の進行予測,病型の分類など,多くの可能性を秘めており,今後の研究が期待される.文献1)KogureS,TodaY,TsukaharaS:Predictionoffuturesco-tomaonconventionalautomatedstaticperimetryusingfrequencydoublingtechnologyperimetry.BrJOphthal-mol90:347-352,20062)小暮諭,飯島裕幸,柏木賢治ほか:OFF視野計の開発および緑内障眼における結果.あたらしい眼科20:693-696,20033)小暮諭,飯島裕幸,柏木賢治ほか:緑内障眼におけるFDT視野感度,OFF刺激感度,ON刺激感度の相関.あたらしい眼科23:519-521,20064)KogureS,ChibaT,SaitoSetal:Predictingglaucomatoussensitivitylossusingperimetriccolorsaturationtest.JpnJOphthalmol47:537-542,2003図2O視野検査画面境界不鮮明な黒色(消灯刺激)視標を提示し感度閾値を測定する.O?OnFDTHFA53歳,女性NTG視力1.235dB≦2520151050図3症例1O視野・FDT視野ともに不良であるが,On視野の結果は良好であった.NTG:正常眼内緑内障.(文献3より)O?OnFDTHFA32歳,男性POAG視力1.2MD=-4.22dB35dB≦2520151050図4症例2O視野・On視野ともほぼ同じであるが,FDT視野は不良であった.POAG:原発開放隅角緑内障,MD:平均偏差.(文献3より)☆☆☆