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球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障に対して手術加療を行った1例

2025年6月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科42(6):771.776,2025c球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障に対して手術加療を行った1例村田直矢*1河嶋瑠美*1松下賢治*1岡崎智之*1藤野貴啓*1臼井審一*1西田幸二*1,2*1大阪大学医学部医学系研究科脳神経感覚器外科学講座(眼科学)*2大阪大学先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門CACaseofSurgicalTreatmentforSecondaryAngle-ClosureGlaucomaAssociatedwithMicrospherophakiaNaoyaMurata1),RumiKawashima1),KenjiMatsushita1),TomoyukiOkazaki1),TakahiroFujino1),ShinichiUsui1)CandKohjiNishida1,2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)IntegratedFrontierResearchforMedicalScienceDivision,InstituteforOpenandTransdisciplinaryResearchInitiatives,OsakaUniversityC目的:球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障に対して手術加療を行ったC1例を報告する.症例:24歳,男性.X年C5月に視力低下を自覚し,両眼の高眼圧症を指摘され大阪大学医学部附属病院を受診した.視力は右眼(0.7C×sphC.17.0(cyl.1.50DAx140°),左眼(0.07C×sph.16.5(cyl.2.00Ax55°),眼圧は両眼28mmHgであった.両眼浅前房で,右眼はC75%,左眼はC90%の周辺虹彩前癒着があり,両眼ともに中心に及ぶ進行した緑内障性視野障害を認めた.前眼部光干渉断層計で球状の水晶体を認め,球状水晶体に伴う続発閉塞隅角緑内障と診断した.閉塞隅角眼のため,根本治療として水晶体再建術を施行した.術後C5剤の緑内障点眼で眼圧は下降していたが,左眼の眼圧変動が大きくなり,視野障害の進行もあったため,X+2年C10月に隅角癒着解離術および線維柱帯切開術を追加した.その後の経過は良好である.結論:球状水晶体に続発した閉塞隅角緑内障に水晶体再建術は有効であったが,周辺虹彩前癒着の強い患者などでは追加の緑内障手術が必要になる.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsurgicalCtreatmentCforsecondaryCangle-closureCglaucoma(SACG)associatedCwithmicrospherophakia(MSP)C.CCase:AC24-year-oldCmaleCpresentedCwithCvisionClossCinCbothCeyes.CHisCbest-cor-rectedCvisualCacuitywas(0.7C×sph.17.0)inCtheCrightCeyeand(0.07C×sph.16.5)inCtheCleft.CIntraocularCpressure(IOP)was28CmmHginbotheyes.Hehad75%peripheralanteriorsynechia(PAS)intherighteyeand90%PASinthelefteye,indicatinglate-stageglaucoma.Anteriorsegment-opticalcoherencetomographyshowedasphericallens.CWeCdiagnosedCMSPCandCSACG,CandCperformedClensCaspirationCandCposteriorCchamberCintraocularlens(PCIOL)implantation.Postsurgery,therewassigni.cantIOP.uctuationinhislefteyeandprogressioninthevisual.eld,sogoniosynechialysisandtrabeculotomywasperformed.Postsurgery,IOPstabilized,andtherewasnovisual.eldCprogression.CConclusion:LensCaspirationCandCPCCIOLCimplantationCe.ectivelyCtreatedCSACGCassociatedCwithCMSP,however,additionalglaucomasurgerymayberequiredinsomecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(6):771.776,C2025〕Keywords:球状水晶体,続発閉塞隅角緑内障,水晶体再建術,隅角癒着解離術,線維柱帯切開術.microsphero-phakia,secondaryangleclosureglaucoma,lensaspiration,goniosynechialysis,trabeculotomy.Cはじめに赤道径が小さく,前後径が大きいため,その名のとおり球状球状水晶体は非常にまれな両眼性の先天異常で,水晶体のを呈する1).胎生期の水晶体血管膜の栄養障害により,第二次〔別刷請求先〕河嶋瑠美:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-15大阪大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:RumiKawashima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityHospital,2-15Yamadaoka,Suita-shi,Osaka565-0871,JAPANC図1術前の前眼部写真およびAS-OCT両眼ともに浅前房,閉塞隅角で球状の水晶体を認める.水晶体線維の発達が障害されることが原因で生じると考えられており1),その病因遺伝子としてFBN12),ADAMTS103),CADAMTS173),LTBP24)がこれまで報告されている.球状水晶体はその前後径が大きいため,形状そのものにより浅前房化や隅角の狭小化をきたすが,Zinn小帯が脆弱かつ無緊張であるため,水晶体の前方偏位や亜脱臼といった水晶体位置異常も生じやすい.これらの水晶体因子に伴う瞳孔ブロックや慢性的な隅角癒着による閉塞隅角,先天的な隅角異常などによって緑内障を高率に合併することから,球状水晶体眼では緑内障がもっとも一般的な失明原因である5).今回,球状水晶体に続発した閉塞隅角緑内障と診断し,手術加療を行った症例を経験したので報告する.CI症例患者:24歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記事項なし.家族歴:兄は近視.両親は不詳.現病歴:もともとソフトコンタクトレンズで近視を矯正していたが,X-6年ほど前から両眼の著明な近視進行があった.X年C5月に視力低下を自覚し,近医を受診したところ,両眼の高眼圧症を指摘され,精査加療目的で大阪大学医学部附属病院眼科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼(0.7C×sph.17.0(cyl.1.50DCAx140°),左眼(0.07C×sph.16.5D(cyl.2.00Ax55°)と強度近視であった.眼軸長は右眼C25.04mm,左眼C24.88mmと中等度の長眼軸であり,眼軸長では屈折度数が説明できず,屈折性の強度近視であった.眼圧は右眼C28CmmHg,左眼C28mmHgに上昇しており,両眼ともに浅前房で,Scheimp.ug式角膜形状解析装置(Pentacam,ニコン)で両眼の中心前房深度はC0.96Cmmであった.隅角はCSha.er分類でCgrade1と閉塞隅角であり,右眼はC75%,左眼はC90%の周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)を認めた.前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoher-encetomography:AS-OCT)のCCASIA2(トーメーコーポレーション)では浅前房,閉塞隅角に加えて,水晶体厚(右眼C4.34Cmm,左眼C5.18Cmm)に比して赤道径が小さい球状の水晶体が観察された(図1).眼底検査では両眼の視神経乳頭陥凹は同心円状に拡大し,垂直CC/D比はC0.9になっており,強度近視に特徴的な網脈絡膜の萎縮性変化はみられなかった(図2a).後眼部COCTでは黄斑部全体で網膜神経節細胞複合体の菲薄化がみられた(図2b).波面収差解析では角膜屈折力は正常で,水晶体由来の高次収差を認めた(図2c).角膜内皮細胞密度は右眼C1,842.6個/mmC2,左眼C1,813.1個/Cmm2に減少していた.Goldmann動的視野検査では,湖崎分類で右眼はCIII-a期,左眼はCIII-b期(図2d),Humphrey静的視野検査のC10-2CSITAstandardではCMD値が右眼C.31.8CdB,左眼C.33.5CdBであり,両眼ともに中心に及ぶ進ab右眼左眼右眼左眼d左眼右眼e左眼右眼図2初診時検査所見a:広角眼底写真.両眼の視神経乳頭陥凹が同心円状に拡大している.網脈絡膜の萎縮性変化はみられない.Cb:光干渉断層計.黄斑部全体で網膜神経節細胞複合体が菲薄化している.c:波面収差解析.角膜屈折力は正常で,水晶体由来の高次収差を認める.d:Goldmann動的視野検査湖崎分類で右眼はCIII-a期,左眼はCIII-b期の視野障害を認める.Ce:Humphrey静的視野検査(10-2CSITAStandard).MD値は右眼.31.8dB,左眼C.33.5CdBであり,中心窩閾値は右眼C22dB,左眼C23CdBに低下していた.30眼圧(mmHg)2520151050X年5月X年11月X+1年5月X+1年11月X+2年5月X+2年11月X+3年5月図3術後眼圧経過X年C6月に両眼の水晶体再建術,X+2年C10月に左眼の隅角癒着解離術および線維柱帯切開術を施行した.そののち,両眼圧はC10CmmHg台半ばで推移している.行した緑内障性視野障害を認めた.これにより,中心窩閾値は右眼C22CdB,左眼C23CdBに低下していた(図2e).これらの所見から,両眼の球状水晶体と,それに続発した慢性閉塞隅角緑内障と診断した.なお,血液検査では腎機能を含め異常所見を認めなかったが,心電図検査ではCQT短縮があり,心臓超音波検査で大動脈弁逆流症を認め,なんらかの全身疾患との関連が示唆された.経過:まずC5剤の緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩,ブリモニジン酒石酸塩,ブリンゾラミド,リパスジル塩酸塩水和物)で加療を開始し,両眼眼圧C19mmHgに下降したが,広範囲なCPASを伴う閉塞隅角眼であるため,根本治療としてCX年C6月に両眼の水晶体再建術を施行した.Zinn小帯が脆弱であったため,水晶体.拡張リング(capsularCtensionring:CTR)を併用したうえで眼内レンズを.内に挿入し,手術を終了した.術後経過:術翌日から緑内障点眼を再開し,5剤の点眼(ラタノプロスト,ドルゾラミド,チモロールマレイン酸塩,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩水和物)で両眼とも眼圧C10CmmHg前後に下降した.術後の矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.4)と向上し経過をみていたが,X+2年10月に左眼の眼圧変動が大きくなり,視野障害の進行もあったため,隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)と線維柱帯切開術を追加した.その後もC5剤の緑内障点眼を必要としているが,10CmmHg台半ばの眼圧でコントロールできており(図3),視野障害の進行もなく経過している.また,眼内レンズの動揺をわずかに認めるものの,大きな偏位は生じていない(図4).II考按球状水晶体は,浅前房,強度近視,閉塞隅角緑内障を臨床的な特徴とする非常にまれな先天異常である1).水晶体由来の屈折力により強度近視を呈するが,軸性近視ではないため強度近視眼に特徴的な網脈絡膜の萎縮性変化はみられない.本症例のように若年の強度近視眼で脈絡膜萎縮がなく,浅前房,閉塞隅角の場合は球状水晶体を鑑別にあげる必要がある.散瞳径が大きい場合は細隙灯顕微鏡で水晶体を赤道部まで観察できるが,散瞳不良例などではCAS-OCTが診断の補助に有用である.球状水晶体はCZinn小帯が脆弱であるため,水晶体の前方偏位が生じやすく,44%の症例で水晶体亜脱臼が生じると報告されており6),それにより角膜内皮細胞密度の減少や角膜内皮機能不全を起こすこともある7).本症例もCZinn小帯が脆弱で角膜内皮細胞密度も減少しており,水晶体の前方偏位が繰り返し起こっていた可能性がある.球状水晶体は水晶体の形状や前方偏位,亜脱臼などの水晶体因子に伴う瞳孔ブロックや慢性的な隅角癒着によって隅角閉塞をきたしやすく,球状水晶体の約C50%に閉塞隅角緑内障を合併するとの報告もある5).球状水晶体に伴う閉塞隅角緑内障の発症年齢は若年であることが多く,早期診断が重要である.早期であれば緑内障点眼やレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI),周辺虹彩切除術(peripheralCiridectomy:PI)で加療できることもあるが8),LI後に追加の薬物治療や手術加療を必要としなかった症例はC12.5%であり,慢性的な隅角閉塞や隅角の発達異常を伴う場合はCLIの効果は限定的だとする報告や5),球状水晶体はその赤道径が短いため,LIやCPIによ右眼左眼図4術後約3年(X+3年5月)の前眼部写真およびAS-OCT眼内レンズの傾斜や偏心はなく,前房深度も大きくなっている.表1球状水晶体を合併する全身疾患疾患名眼症状全身症状Weill-Marchesani症候群球状水晶体,水晶体脱臼低身長,短指趾,短肢,関節拘縮,心血管異常Marfan症候群球状水晶体,水晶体脱臼青色強膜,巨大角膜,虹彩低形成高身長,側弯,大動脈瘤,大動脈解離,自然気胸Alport症候群球状水晶体,白内障,円錐水晶体慢性腎炎,難聴平滑筋腫本症例はCWeil-Marchesaniの特徴にもっとも一致する.り硝子体が前房内に脱出してしまうという報告もある9).また,ピロカルピン点眼薬はCZinn小帯をさらに弛緩させ,水晶体の前方移動や瞳孔ブロックを促進してしまうため禁忌となる10).Senthilらによると,球状水晶体に続発した緑内障において,点眼のみで眼圧のコントロールが良好であった症例は18%であり,多くの症例で外科的治療(水晶体摘出術,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術,経強膜毛様体光凝固術,緑内障インプラント挿入術)が必要であった5).水晶体摘出術は異常な水晶体を取り除くことができるため,球状水晶体の手術加療において重要な位置を占めるが7),Raoらは,水晶体摘出術により術後C1年でC69%,5年でC51%の症例が緑内障点眼なしで眼圧コントロールができ,40%が緑内障点眼を,7.7%のみが追加の緑内障手術を必要としたと報告している11).水晶体摘出術のみで眼圧下降しない場合のリスクファクターとして若年,術前の高眼圧,使用している緑内障点眼数,視神経乳頭陥凹拡大の程度があげられた.術前の隅角閉塞の有無は関連がないとされていたが,全周にCPASを生じた球状水晶体に続発した緑内障に対して,水晶体再建術にCGSLを併施して良好な結果が得られた報告もあり9),本症例のようにCPASの程度が強い症例では,初回の水晶体再建術の際にCGSLを併用することで,その後の追加の緑内障手術を避けることができた可能性がある.しかし水晶体再建術の際には,水晶体.が小さく,Zinn小帯が脆弱かつ無緊張なため,CTRを併用しても眼内レンズを.内に挿入することは困難であり,眼内レンズ強膜内固定術が施行されることもある12).本症例も術後に眼内レンズの動揺を認めており,今後は眼内レンズ強膜内固定術が必要になる可能性がある.球状水晶体は孤発性のこともあるが,Weill-Marchesani症候群,Marfan症候群,Alport症候群などの全身疾患に関連して起こることがある(表1)1,3).本症例は身長がC163Ccmと高身長ではなく,腎機能は正常で,心血管異常があることからCWeill-Marchesani症候群の可能性も考えられたが,遺伝子検査は施行しておらず,確定診断には至っていない.CIII結論球状水晶体に続発した閉塞隅角緑内障に水晶体再建術は有効であったが,PASなどの隅角異常が生じている眼では追加の緑内障手術が必要になることもある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChanCRT,CCollinHB:Microspherophakia.CClinExpOptomC85:294-299,C20022)MegarbaneCA,CMustaphaCM,CBleikCJCetal:ExclusionCofCchromosomeC15q21.1CinCautosomal-recessiveCWeill-MarchesanisyndromeinaninbredLebanesefamily.ClinGenetC58:473-478,C20003)MoralesCJ,CAl-SharifCL,CKhalilCDSCetal:HomozygousCmutationsinADAMTS10andADAMTS17causelenticu-larCmyopia,CectopiaClentis,Cglaucoma,Cspherophakia,CandCshortstature.AmJHumGenetC85:558-568,C20094)KumarCA,CDuvvariCMR,CPrabhakaranCVCCetal:AChomo-zygousCmutationCinCLTBP2CcausesCisolatedCmicrosphero-phakia.HumGenetC128:365-371,C20105)SenthilCS,CRaoCHL,CHoangCNTCetal:GlaucomaCinCmicro-spherophakia:presentingCfeaturesCandCtreatmentCout-comes.JGlaucomaC23:262-267,C20146)MuralidharCR,CAnkushCK,CVijayalakshmiCPCetal:VisualCoutcomeCandCincidenceCofCglaucomaCinCpatientsCwithmicrospherophakia.Eye(Lond)C29:350-355,C20157)GuoCH,CWuCX,CCaiCKCetal:Weill-MarchesaniCsyndromeCwithadvancedglaucomaandcornealendothelialdysfunc-tion:aCcaseCreportCandCliteratureCreview.CBMCCOphthal-molC15:3,C20158)GilbertAL,ThanosA,PinedaR:Persistentblurryvisionafteraroutineeyeexamination.JAMAOphthalmolC134:C1065-1066,C20169)KanamoriA,NakamuraM,MatsuiNetal:Goniosynechi-alysiswithlensaspirationandposteriorchamberintraoc-ularClensCimplantationCforCglaucomaCinCspherophakia.CJCataractRefractSurgC30:513-516,C200410)KhokharCS,CPangteyCMS,CSonyCPCetal:Phacoemulsi-.cationinacaseofmicrospherophakia.JCataractRefractSurgC29:845-847,C200311)RaoCDP,CJohnCPJ,CAliCMHCetal:OutcomesCofClensectomyCandriskfactorsforfailureinspherophakiceyeswithsec-ondaryglaucoma.BrJOphthalmolC102:790-795,C201812)YangJ,FanQ,ChenJetal:Thee.cacyoflensremovalplusCIOLCimplantationCforCtheCtreatmentCofCspherophakiaCwithCsecondaryCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC100:1087-1092,C2016C***

上強膜血管怒張と脈絡膜血管拡張とをきたした1例

2025年6月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科42(6):767.770,2025c上強膜血管怒張と脈絡膜血管拡張とをきたした1例根本貴大山本有貴杉澤孝彰五味文兵庫医科大学附属病院眼科CACaseofSpeci.cChoroidalVasodilatationandSuperiorScleralVasodilatationTakahiroNemoto,YukiYamamoto,TakaakiSugisawaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineC目的:上強膜血管怒張と脈絡膜血管拡張を認め,トリアムシノロン後部CTenon.下注射(STTA)で改善したC1例を報告する.症例:74歳,女性.右眼充血を主訴に近医受診.右眼の視力低下,光干渉断層計(OCT)で異常を認め,兵庫医科大学附属病院眼科を紹介受診した.初診時右眼視力(0.9),上強膜血管怒張を認め,OCTで黄斑部網膜下液,脈絡膜皺襞を認めた.眼軸はC22.86Cmmであった.インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenCangiogra-phy:IA)で鼻上側渦静脈につながる脈絡膜血管拡張を認めた.頭部造影CMRIで上眼静脈拡張はみられず,内頸動脈海綿静脈洞瘻は否定された.Bモード超音波検査で右眼後部強膜に軽度肥厚がみられ,後部強膜炎を疑いCSTTAを施行した.上強膜血管怒張,脈絡膜皺襞は改善,右眼視力(1.2)となった.考按:強膜および脈絡膜血管拡張を認めたが,MRIで上眼静脈の拡張は認めず,血流うっ滞の起点は上眼静脈より眼球側と考えた.小眼球でもともと肥厚した強膜に炎症が併発し,一時的な血流うっ滞が起こり,STTAによる消炎で強膜肥厚が改善し,血流うっ滞が解除されたと考える.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCscleralCvasodilatationCandCchoroidalCvasodilatationCassociatedCwithCsubretinalCmacularC.uidCandCaCchoroidalCcrease,CwhichCimprovedCfollowingCaCsub-Tenon’sCcapsuleCtriamcinoloneCacetonide(STTA)injection.CCase:ThisCstudyCinvolvedCaC74-year-oldCfemaleCwhoCinitiallyCpresentedCtoCherCprimaryCcareCphysicianCwithChyperemiaCinCherCrightCeye,CyetCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourCdepartmentCdueCtoCdecreasedCvisualacuity(VA)andabnormalitiesobservedviaopticalcoherencetomography(OCT)C.Uponinitialexamination,herright-eyeVAwas0.9,andsuperiorscleralvasodilatation,subretinalmacular.uid,andachoroidalcreasewereobservedCviaCOCT.CTheCocularCaxisCmeasuredC22.86Cmm,CindicatingCaCsmallCeye.CIndocyanineCgreenCangiographyCrevealeddilatedchoroidalvesselsconnectedtothesuperiornasalvortexvein,andB-modeultrasonographydem-onstratedCmildCthickeningCofCtheCposteriorCscleraCinCtheCrightCeye.CBasedConCthoseC.ndings,CposteriorCscleritisCwasCsuspected,andSTTAwasperformed.Followingtreatment,thesuperiorscleralvasculartonenormalized,thecho-roidalcreaseresolved,thesubretinalmacular.uiddisappeared,andherVAimprovedto1.2.Conclusions:Mag-neticCresonanceCimagingCshowedCnoCdilatationCofCtheCsuperiorCophthalmicCvein,CsuggestingCthatCbloodCstagnationCoriginatedontheocularsideofthevein.Thepatient’sscleralthickeningwasattributedtoin.ammationinthecon-textCofCaCsmallCeye,CwhichCisCanatomicallyCpredisposedCtoCsuchCchanges.CPost-STTA,CtheCscleralCin.ammationCimproved,resolvingthethickeningandrelievingbloodstasis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(6):767.770,C2025〕Keywords:脈絡膜血管拡張,上強膜血管怒張,脈絡膜皺襞,血流うっ滞.choroidalvasodilatation,superiorscler-alvasodilatation,choroidalcreases,congestionofblood.ow.Cはじめに層を栄養する.そののち,集合細静脈によって排出され,渦眼血管の走行は,内頸動脈より眼動脈を分岐し,長後毛様静脈に合流して膨大部から強膜を通って上眼静脈へ流入する体動脈と短後毛様体動脈となりぶどう膜を栄養する.短後毛と報告されている1).筆者らは,上強膜血管怒張と渦静脈に様体動脈は小細動脈に分岐し,脈絡毛細血管板となり網膜外つながる脈絡膜血管拡張がみられた症例を経験した.血流う〔別刷請求先〕根本貴大:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学附属病院眼科Reprintrequests:TakahiroNemoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineHospital,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-shi,Hyogo663-8501,JAPANCっ滞の原因考察に苦慮したため,報告する.CI症例患者:74歳,女性.主訴:右眼充血,視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:X年C2月より両眼の充血と眼脂を自覚し,前医を受診.前医にてレボフロキサシン水和物点眼とフルオロメトロン点眼治療を開始した.3月に改善を認め,ブロムフェナクナトリウム水和物液点眼加療に変更となった.その後も点眼を継続していたが,5月に右眼の眼脂を認めない充血を主訴に再度前医を受診した.右眼の充血再燃と視力低下に加え,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で異常を認めたため,精査目的で兵庫医科大学附属病院眼科を紹介を受診した.前医でのCOCTを図1に示す.脈絡膜皺襞と肥厚,黄斑に網膜下液がみられた.初診時所見:視力は右眼C0.9C×sph+3.00D(cyl.0.75DAx60°,左眼C1.2C×sph+2.25D,眼圧は右眼C18mmHg,左眼C11CmmHg,眼軸長は右眼C22.86Cmm,左眼C23.05Cmm,フ図1前医受診時のOCT黄斑部に網膜下液と脈絡膜皺襞と肥厚を認める.レア値は右眼C19.6Cpc/ms,左眼C9.6Cpc/msであった.右眼は上強膜血管怒張と右下方角膜実質混濁を認めたが,前房内に明らかな細胞はみられなかった.左眼前眼部に異常はなかった(図2a).両眼とも軽度白内障以外は中間透光体に異常はみられなかった.眼底検査では右眼視神経乳頭軽度腫脹とドルーゼンがみられ,左眼はドルーゼン以外はみられなかった.OCTで右眼脈絡膜皺襞と肥厚がみられ,黄斑部にはごく少量の網膜下液(subretinal.uid:SRF)を認めていた.前医でのCOCTと比較すると網膜下液は改善していた(図2b).Bモード超音波検査では右眼後部強膜に軽度肥厚がみられた(図2c).フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では後期に軽度のびまん性過蛍光を認めたが,明らかな蛍光漏出はみられず(図3a,b),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)にて鼻上側渦静脈につながる脈絡膜血管の拡張と蛇行がみられた.(図3c,d)内頸動脈海綿静脈洞瘻鑑別のため頭部造影CMRIを施行したが,上眼静脈の拡張は認めず,眼窩内占拠性病変もみられなかった.(図4).経過:炎症性疾患による血流うっ滞を考え,後部CTenon.下注射(sub-TenonCinjectionCofCtriamcinoloneCaceton-ide:STTA)を施行したところフレア値,強膜血管怒張(図5a),脈絡膜皺襞,SRFは徐々に改善し(図5b),1カ月後には右眼視力C1.2C×sph+1.75(cyl.0.25DCAx70°まで改善した.図2初診時の右眼前眼部写真とOCT,Bモード超音波検査Aa:右眼の強膜全体に上強膜血管怒張を認める.角膜下方に混濁を認める.b:黄斑部にわずかな網膜下液,脈絡膜皺襞と肥厚を認めるが,前医紹介時よりは改善している.c:右眼の後部強膜に肥厚がみられる.図3蛍光眼底造影検査a:FA早期.過蛍光,低蛍光はみられない.Cb:FA後期.軽度のびまん性過蛍光を認めたが,明らかな蛍光漏出は認めなかった.Cc:IA早期.明らかな異常なし.d:IA後期鼻上側渦静脈につながる脈絡膜血管拡張と蛇行を認める.図4MRA上眼静脈の拡張を認めず,眼窩内占拠性病変も認めなかった.CII考按眼血管の走行は,内頸動脈より眼動脈を分岐し,長後毛様体動脈と短後毛様体動脈となりぶどう膜を栄養する.そして,短後毛様体動脈は小細動脈に分岐し,脈絡毛細血管板となり網膜外層を栄養する.その後,集合細静脈によって排出され,渦静脈に合流して膨大部から強膜を通って,上眼静脈へ流入する.本症例では上強膜血管,脈絡膜血管の拡張がみられたが,上眼静脈の拡張はみられず,血流うっ滞は上眼静脈よりも眼球側で起きていたと考えられる.後部強膜炎は鋸状縁部よりも後方で生じる強膜の炎症性反応であり,後部強膜の肥厚を認める.また,多彩な眼底所見を呈し,漿液性網膜.離,視神経乳頭浮腫,黄斑浮腫,網膜や脈絡膜の皺襞などがある2).本症例では,後部強膜炎でみられる蛍光眼底造影でのCleopard-spotpatternや蛍光漏出は図5治療1カ月後の前眼部写真とOCTa:右眼の上強膜血管怒張は改善を認めた.Cb:網膜下液と脈絡膜肥厚は改善を認めたが,脈絡膜皺襞はわずかに残存している.みられなかった.また,疼痛の訴えもなかった.しかし,Bモード超音波検査で軽度の後部強膜の肥厚がみられたことから,後部強膜炎による強膜肥厚が血流うっ滞の要因の鑑別の一つと考えられる.短眼軸の特徴である強膜肥厚による渦静脈血流うっ滞も原因の一つと考察する.強膜厚は眼軸長が増加するにつれて薄くなり,眼軸長が減少するにつれて厚くなると報告されている3).渦静脈は強膜を眼球面に沿うように貫通するため,強膜厚に比例して貫通する経路は長くなり,静脈の血流流出は障害される4).本症例は眼軸長C22.86Cmmであり,渦静脈血流うっ滞の原因として小眼球は一つの要因であった可能性がある.脈絡膜の皺襞が高度ではないことや,疼痛がなかったこと,今回の疾患が後部強膜炎だったとしてもそれほど強い炎症ではなかったことが推察される.Bモードでみられた強膜肥厚も後部強膜炎に伴うものなのか,小眼球ゆえなのかははっきりしない.小眼球による強膜肥厚に後部強膜炎が併発したことで,過度の血流うっ滞が生じた可能性がある.STTAにより後部強膜炎の消炎が得られたことで強膜肥厚が緩和され,血流うっ滞が改善した可能性が考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BrinksJ,VanDijkEHC,MeijerOCetal:Choroidalarte-riovenousanastomoses:ahypothesisforthepathogenesisofCcentralCserousCchorioretinopathyCandCotherCpachycho-roidCdiseaseCspectrumCabnormalities.CActaCOphthalmolC100:946-959,C20222)三浪梨絵子,齋藤航,南場研一ほか:広範な網脈絡膜萎縮を来した後部強膜炎の1例.日眼会誌C110:730-735,C20063)JonasJB,HolbachL,Panda-JonasS:ScleralcrosssectionareaCandCvolumeCandCaxialClength.CPLoSCOneC9:e93551,C20144)SchlatterB,BeckM,FruehBEetal:Evaluationofscler-alCandCcornealCthicknessCinCkeratoconusCpatients.CJCCata-ractRefractSurgC41:1073-1080,C2015***

ステロイドパルス療法著効後に再燃しアダリムマブを導入した急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)-complexの1例

2025年6月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科42(6):760.766,2025cステロイドパルス療法著効後に再燃しアダリムマブを導入した急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)-complexの1例田内睦大西尾侑祐堀純子日本医科大学多摩永山病院眼科ACaseofAcuteZonalOccultOuterRetinopathy(AZOOR)-ComplexthatRelapsedafterSteroidPulseTherapywasE.ectiveandAdalimumabStartedMutsuhiroTauchi,YusukeNishioandJunkoHoriCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolTamaNagayamaHospitalC目的:急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)には確立した治療法が存在しない.今回,ステロイドパルス療法が著効したが再燃を繰り返し,アダリムマブ(ADA)を導入したCAZOOR-complexのC1例を報告する.症例:33歳,女性.左眼の暗点を自覚し当科を紹介受診.AZOOR診断基準を満たし左眼視力C0.15でありステロイドパルス療法を施行した.視力や視野障害は著明に改善したがプレドニゾロン(PSL)内服終了C1カ月後に僚眼にCAZOOR発症した.PSL増量とシクロスポリン併用により改善するもCPSL漸減時にC2度再燃しCADAを導入した.導入後C6カ月の時点で再燃なく経過している.考按:本症例は複数の自己抗体が陽性で網膜血管炎も呈しており,自己免疫疾患の存在が示唆され,ステロイドやCADA加療が奏功した可能性が考えられた.結論:自己免疫背景のあるCAZOOR-complexに対しステロイドパルス療法やCADAが有効であった.CPurpose:Todate,thereisnostandardtreatmentforacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR).Herein,wereportacaseofAZOOR-complexthatrespondedtosteroidpulsetherapy,butrelapsedandwassuccessfullytreatedCwithadalimumab(ADA).CCase:AC33-year-oldCfemaleCwasCreferredCforCtreatmentCofCaCdarkCspotCinCherClefteye,andwasdiagnosedwithAZOOR.Hervisualacuitywas0.15,andsteroidpulsetherapyimprovedhercon-dition.However,symptomsreappearedinherrighteyeafterstoppingprednisolone(PSL)administration.PSLandcyclosporineimprovedthecondition,butrelapsesoccurredtwiceduringthetapering-o.ofPSL.ADAwasintro-duced,andtherewerenorelapsesfor6-monthspostinitiatingtreatment.Thepatienttestedpositiveforautoanti-bodiesandhadretinalvasculitis,suggestinganautoimmunedisorder,whichmayhavecontributedtothesuccessofthesteroidandADAtreatment.Conclusion:SteroidpulseandADAweree.ectiveinacaseofAZOOR-com-plexwithasuspectedautoimmunebackground.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(6):760.766,C2025〕Keywords:急性帯状潜在性網膜外層症,ステロイドパルス療法,シクロスポリン,アダリムマブ(ADA),点状脈絡膜内層症.acutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR),steroidpulsetherapy,cyclosporine,adalimumab,punc-tateinnerchoroidopathy(PIC).Cはじめに急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterreti-nopathy:AZOOR)はC1992年にCGassによって提唱された疾患概念1)で,網膜外層に主病変が存在し,おもに若年女性に急激な視力低下や視野欠損で発症する.類縁疾患を含めたより大きな疾患概念としてCAZOOR-complexとよぶこともある.現在でも確立された治療法が存在しない.今回筆者らは,自己免疫性背景や視神経炎を併発した可能性も考えられたCAZOOR-complexに対して,ステロイドパルス療法が著効したが再燃を繰り返し,アダリムマブ(ADA)を導入した1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕田内睦大:〒206-8512東京都多摩市永山C1-7-1日本医科大学多摩永山病院眼科Reprintrequests:MutsuhiroTauchi:DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolTamaNagayamaHospital,1-7-1Nagayama,Tama-shi,Tokyo206-8512,JAPANC760(118)I症例患者:33歳,女性.主訴:左眼の視野障害.現病歴:X年C6月に左眼の中心から上方の暗点を自覚し,前医大学病院を受診した.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で網膜外層の障害と,多局所網膜電図(electroretinogram:ERG)で振幅低下を認め,AZOORが疑われ,精査加療目的に日本医科大学多摩永山病院眼科に紹介受診となった.既往:両眼とも有水晶体後房型眼内レンズ(ICL)挿入術後,ほか特記なし.初診時使用薬剤:なし.〔初診時所見〕視力:右眼=0.9×ICL(1.2C×cyl.1.50DAx140°),左眼=0.09×ICL(0.15C×sph.1.50D(cyl.1.50DCAx25°).眼圧:右眼C16mmHg,左眼C13mmHg.眼軸長(Aモード):右眼C27.01mm,左眼C28.11mm.中心CFlicker値(criticalCfusionfrequency:CFF)(赤):右眼C33Hz,左眼C26Hz.前眼部:両眼浅前房,両眼CICL挿入眼.相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillaryCele-fect:RAPD):左眼で陽性,前房内細胞(ACcell):grade0/0.中間透光体:前部硝子体内細胞(A-vitcell)C./..硝子体混濁(OCV):grade0/0(NEI/SUN).眼底:左眼アーケード血管内に白色斑の点在あり(図1b,f).OCT:左眼でCellipsoidzone(EZ)の欠損あり,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)レベルにドーム状の隆起あり(図1d,e).眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF):眼底の白色斑と一致する位置に低蛍光あり(図1g).フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA):早期相(図1i,j)から両眼網膜周辺部にびまん性血管漏出を認め,後期相(図1h,k,l)でCFAFの低蛍光部と一致したCwindowdefectを認めた.逆転現象は認めなかった.Goldmann動的視野計(以下,GP)(図2a):左眼の中心から鼻上側に絶対暗点を認めた.多局所CERG(図2c):GPの暗点に一致した振幅低下を認めた.血液検査:血清補体価CC3,C4の軽度低下(C374Cmg/dl,CC49.7Cmg/dl),抗核抗体(160倍)と複数の自己抗体(抗カルジオリピン抗体C23.9CU/ml,抗CTPO抗体C18.6CIU/ml)の陽性を認めたが,自己免疫疾患の診断には至らなかった.髄液所見,頭部眼窩造影MRI:正常.日本眼科学会のCAZOOR診療ガイドラインによる診断基準2)は表1のとおりであり,これら①.⑤の主要項目を満たしたものがCAZOOR確定例とされる.本症例ではこれらの項目を満たしておりCAZOORと診断した.また,0.15までの視力低下に加えて,CFF低下,RAPD陽性,中心暗点も認めており,視神経炎併発の可能性も考えられ,ステロイドパルス療法施行の方針とした.ステロイドパルス療法はメチルプレドニゾロン(PSL)1,000CmgをC3日間,後療法は体重当たりC1mgでCPSL内服C50mgから開始し,1週間ごとに10Cmg,30Cmg以下はC2週間ごとにC5Cmg,10Cmg以下はC2週間ごとにC2.5Cmgの漸減スケジュールとした.ステロイドパルス療法施行C3日間で左眼矯正視力はC0.6まで改善し,CFF値も正常値となった.内服後療法を継続し,ステロイドパルス療法開始からC9日後には左眼視力はC1.0まで回復し,GP(図3a)および多局所CERGの所見も改善した.約C4カ月でCPSL内服は終了となったが,そのC1カ月後(初診からC5カ月)に右眼の暗点を自覚し,視力がC0.5まで低下した.GPで右眼中心やや上方の暗点と多局所CERGで暗点に一致する振幅低下を認め,右眼CAZOORと診断した(図4).矯正視力はC0.5と保たれていたため,PSL30Cmgから内服加療を開始とした.PSL30CmgからC2週間ごとにC5Cmg,15Cmg以下はC2週間ごとにC2.5Cmgと,より緩徐に漸減し,治療強化として漸減の過程でシクロスポリン(CysA)を併用とした.CysAはC125Cmgから開始し採血トラフ値に応じて量を調整し,PSL15Cmg以降はCCysA175Cmgの投与であった.PSL内服再開C3カ月後(初診からC8カ月)には右眼矯正視力C1.2まで改善し,GPや多局所CERGなどの所見も改善した.しかし,内服再開C5カ月(初診からC10カ月)にCPSL2Cmgとなったところで,右眼に再燃が確認された.PSLC25mgに増量しCCysA175Cmg併用のうえ,前回同様のスケジュールでCPSL漸減開始とし,自覚,視力,視野はすぐに改善した.PSL10Cmg以下はC1カ月ごとにC2Cmg,5Cmg以下はC1カ月ごとにC1Cmgとさらに緩徐なスケジュールで漸減とし,約C6カ月(初診からC16カ月)でCPSL3Cmgとなりそのまま維持とした.4カ月(初診からC20カ月)ほど経過したところで両眼に再燃を認めた(図3e,f).過去C2度ともCPSL終了後C1カ月以内,もしくは終了する手前で再燃を認めており,PSL25Cmgに増量し,CysA175Cmgを継続するとともにCADAを導入とした.導入後C6カ月経過の現時点でCPSLはC2Cmgまで減量しているが,再燃なく経過している.CII考案AZOORはC20.50代(平均C36歳)の近視眼の健康女性に好発し,おもな症状は急激な視力低下や視野欠損である.原因は不明であり,炎症や循環障害などさまざまな病態が考えられている.60%が片眼で発症し,76%では最終的には両眼性になる.60.92%は近視眼であり,とくにC.6D以上の図1初診時の眼底,OCT,FAF,FAa,b,f:眼底写真.左眼アーケード血管内に白色斑が点在する(.).c~e:OCT画像.c:右眼.Cd,e:左眼.左眼CEZの欠損,不明瞭化を認め(C.),RPEレベルにドーム状の隆起がみられる(.).g:FAF像.眼底の白色斑と一致する位置に低蛍光を認める(.).h:FA後期相.FAFの低蛍光部と一致したCwindowdefectがみられる(.).i,j:FA早期相から両眼網膜周辺部にびまん性血管漏出を認める.Ck,l:FA後期相.図2初診時のGoldmann動的視野計検査(GP)と多局所網膜電図(ERG)a:左眼のCGP.中心から鼻上側にかけて絶対暗点を認めた.Cb:右眼のCGP.Cc:左眼の多局所CERG.暗点に一致する部位の多局所CERGの振幅は低下していた.d:aの一部拡大.Ce:右眼の多局所ERG.Cf:bの一部拡大.ef強度近視がC46%を占める.約C28%で自己免疫疾患の合併が報告されており,多いものは橋本病(12%)や多発性硬化症(8%)である1,2).AZOORには患者背景,症状,検査所見が類似した,同じスペクトラム上にあると考えられている類縁疾患が存在する.点状脈絡膜内層症(punctateCinnerchoroidopathy:PIC),多発消失性白点症候群(multipleCevanescentCwhiteCdotsyndrome:MEWDS),急性黄斑神経網膜症(acutemacularneuroretinopathy:AMN),多巣性脈絡膜炎(multi-focalchoroiditis:MFC),急性特発性盲点拡大(acuteCidio-pathicCblindspotCenlargement:AIBSE),急性輪状網膜外層症(acuteCannularCouterretinopathy:AAOR)があげられ,これらの類縁疾患を含めたより大きな疾患概念としてAZOOR-complexとよぶこともある2,3).類縁疾患のうちPICは,30代の女性に好発する原因不明の網脈絡膜炎であり,眼底後極部を中心に網膜色素上皮層あるいは脈絡膜内層レベルに複数の白.黄色斑がみられ,OCTではCRPEレベル(121)表1わが国のガイドラインによるAZOOR診断基準以下の主要項目①-⑤を満たすものをCAZOOR確定例とする.①急激に発症する視野欠損あるいは視力低下.片眼性が多いが,両眼性もありうる.②眼底検査およびCFAでは,視野欠損を説明できる明らかな異常が認められない.ただし,軽度の異常(網脈絡膜の色調異常や軽い乳頭発赤など)はありうる.③OCTにて,視野欠損部位に一致して網膜外層の構造異常EZの欠損あるいは不鮮明化とCinterdigitationCzone(IZ)の消失)がみられる.ただしCAZOORの軽症例や回復期では,IZのみ異常になることもある.④全視野CERGにおいて振幅低下,あるいは多局所CERGにおいて視野欠損部位に一致した振幅低下がみられる.⑤先天性/遺伝性網膜疾患,網膜血管性疾患やその他の網膜疾患,癌関連網膜症/自己免疫網膜症,ぶどう膜炎,外傷性網脈絡膜疾患,視神経疾患/中枢性疾患が除外できる.(文献C2より引用)あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025C763図3治療開始後の両眼Goldmann動的視野計検査(GP)a,c,e:左眼.Cb,d,f:右眼.Ca,b:ステロイドパルス開始C9日後.PSL50Cmg時.左眼の絶対暗点が縮小し,矯正視力はC1.0に改善した.Cc,d:ステロイドパルス開始後C45日.PSL25Cmg時.暗点はさらに縮小した.Ce,f:初診から約C20カ月後,両眼再燃時.PSL3Cmg+CysA175Cmg時.ADAを追加した.のドーム状隆起病変と,それに伴うCEZの異常が確認されるAZOOR-complexのうち,とくにCPICがもっとも近い疾患のが特徴である4.6).本症例ではCAZOORの診断基準を満たであったと考えられた.AZOOR-complexの治療法は確立すが,眼底とCOCT所見がCPICの特徴に類似しており,された方法はないが,病因として自己免疫や炎症の関与が推図4右眼発症時のGoldmann動的視野計検査(GP)と多局所網膜電図(ERG)初診からC5カ月時点で,右眼の暗点と視力低下の自覚があった.Ca:GPで右眼中心やや上方の暗点を認めた.Cb:aを一部拡大したもの.c,d:多局所CERGで暗点に一致する振幅低下を認め,右眼CAZOORと診断した.定されていることからステロイドにより加療されることがあり,ステロイドパルス療法が奏功した報告もある7,8).また数は少ないものの,免疫抑制薬9)やCTNF-a阻害薬10,11)を使用した報告もある.Neriらは橋本病の既往のあるCAZOOR患者でステロイドに反応不良である例にアダリムマブを使用したところ著効した例を報告している11).再燃率に関してGassらはC31%1),斎藤らはC18%12)と報告している.斎藤らの再燃例C7例のうちC6例は全身ステロイド加療を受けており,そのC6例のうちC4例はCPSLをC15Cmg/日以下に減量した際に再燃しており,発症から再燃までの期間の中央値はC6.5カ月(3.52カ月)であった.2例でアザチオプリンが併用された.本症例ではC33歳,女性の急激な視野と視力障害であり,片眼から始まり両眼で再燃した.ICL挿入眼でありもともとの正確な屈折は不明であるが,長眼軸眼であり中等度以上の近視であったと想定される.また,診断はついていないが,複数の自己抗体陽性や眼底の網膜血管炎所見を認めており,なんらかの自己免疫疾患の存在が疑われた.AZOOR-com-plexに対するステロイドの有効性は確立していないが,本症例では初診時の左眼視力の大幅な低下に加えて,中心暗点の出現,CFFの低下,RAPD陽性を認め,視神経炎の併発を示唆する所見もあり,治療としてステロイドパルス療法を選択し著効した.また,右眼の所見出現時やその後の再燃の際に,いずれもCPSLの減量に伴い症状が出現し,再度増量すると速やかに所見が改善しており,ステロイド依存性に症状が変動している傾向がみられた.本症例の自己免疫的背景がステロイドの奏功に寄与している可能性が示唆された.現在は再燃に対してCCysAやCADAの併用も開始しており,自己免疫学的背景を持つ本患者において奏功することを期待する.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GassJD:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CDondersLecture:TheCNetherlandsCOphthalmologicalCSociety,CMaastricht,CHolland,CJuneC19,C1992.CJCClinCNeuroophthal-molC13:79-97,C19932)近藤峰生,飯田知弘,園田康平ほか;厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班:AZOORの診断ガイドライン作成ワーキンググループ.急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断ガイドライン.日眼会誌123:443-449,C20193)GassCJD,CAgarwalCA,CScottCIUCetal:AcuteCzonalCoccultCouterretinopathy:aClong-termCfollow-upCstudy.CAmJOphthalmolC134:329-339,C20024)StandardizationCofCUveitisNomenclature(SUN)WorkingGroup:Classi.cationCcriteriaCforCpunctateCinnerCchoroidi-tis.AmJOphthalmolC228:275-280,C20215)SinghCRB,CPerepelkinaCT,CTestiCICetal:Imaging-basedassessmentCofchoriocapillaris:ACcomprehensiveCreview.CSeminOphthalmol38:405-426,C20236)ThongborisuthCT,CSongCA,CLobo-ChanAM:PunctateCInnerCChoroiditis.CAdvCOphthalmolCOptomC9:345-357,C20247)ChenCSN,CYangCCH,CYangCM:SystemicCcorticosteroidsCtherapyCinCtheCmanagementCofCacuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.JOphthalmolC2015:793026,C20158)KitakawaT,HayashiT,TakashinaHetal:ImprovementofCcentralCvisualCfunctionCfollowingCsteroidCpulseCtherapyCinCacuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CDocCOphthalmolC124:249-254,C20129)GuijarroCA,CMunozCN,CAlejandreCNCetal:LongCtermCfol-low-upCandCe.ectCofCimmunosuppressionCinCacuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CEurCJCOphthalmolC32:NP118-NP122,C202010)NeriCP,CRicciCF,CGiovanniniCACetal:SuccessfulCtreatmentCofCanCoverlappingCchoriocapillaritisCbetweenCmultifocalCchoroiditisCandCacuteCzonalCoccultCouterCretinopathy(AZOOR)withadalimumab(HumiraTM)C.IntOphthalmolC34:359-364.C201411)MerleCDA,CWolframCL,CNasyrovCECetal:ACcaseCofCAZOORunderimmunomodulatorytreatment.RetinCasesBriefRep:doi:10.1097/ICB.0000000000001643,C2024COnlineaheadofprint12)SaitoCS,CSaitoCW,CSaitoCMCetal:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathyCinJapaneseCpatients:clinicalCfeatures,CvisualCfunction,CandCfactorsCa.ectingCvisualCfunction.CPLoSCOneC10:e0125133,C2015***

DSAEKの際に前房内増殖組織と虹彩の全周切除を行ったAxenfeld-Rieger症候群の1例

2025年6月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科42(6):755.759,2025cDSAEKの際に前房内増殖組織と虹彩の全周切除を行ったAxenfeld-Rieger症候群の1例安達永里子横川英明小林顕森奈津子杉山和久金沢大学眼科学教室CACaseofAxenfeld-RiegerSyndromeTreatedwithDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyCombinedwithTotalIridectomyErikoAdachi,HideakiYokogawa,AkiraKobayashi,NatsukoMoriandKazuhisaSugiyamaCDepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScienceC目的:前房の構造異常,とくに虹彩異常や虹彩前癒着があると角膜内皮移植が困難となる.今回は,高度の前房内増殖組織と虹彩異常があったため,Descemet膜.離角膜内皮移植術(DSAEK)の際に前房内増殖組織と虹彩を全周切除したCAxenfeld-Rieger症候群のC1例を報告する.症例:58歳,女性.Axenfeld-Rieger症候群と小角膜であり,白内障,線維柱帯切除術,DSAEK,毛様溝チューブシャントの既往があった.水疱性角膜症と高度の前房内増殖組織と虹彩欠損と前癒着を認め,視力は手動弁であった.本症例に対して,毛様体の傷害や出血に注意して前房内増殖組織と虹彩を全周切除して,DSAEKを行ったところ角膜の透明化が得られ,術後視力(0.1)と改善した.結論:前房内炎症の予防や虹彩異常のために,虹彩の温存が困難な場合には,DSAEKの際に前房内増殖組織と虹彩の全周切除を行うことも選択肢となりうる.CStructuralabnormalitiesoftheanteriorchamber,especiallyirisabnormalitiesandanteriorsynechia,makecor-nealCendothelialCtransplantationCdi.cult.CHerein,CweCreportCaCcaseCofAxenfeld-RiegerCsyndrome(ARS)treatedCwithDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)combinedwithtotaliridectomy.Thisstudyinvolveda58-year-oldfemalepatientwithARSandmicrocorneawhohadahistoryofcataractsurgery,trabecu-lectomy,DSAEK,andciliarysulcustubeshuntimplantation.Bullouskeratopathy,severeanteriorchamberprolifer-ativetissueirisdefects,andanteriorsynechiawerenoted.Visualacuitywashandmotion.Forthispatient,DSAEKwasCperformedCwithCtotalCremovalCofCtheCanteriorCchamberCproliferativeCtissueCandCiris,CtakingCcareCnotCtoCinjureCtheCciliaryCbody,CwhichCresultedCinCcornealCtransparencyCandCimprovedCherCpostoperativeCvisualacuity(0.1)C.CTheC.ndingsinthisstudyrevealedthattotalremovaloftheanteriorchamberproliferativetissueandtotaliridectomyatthetimeofDSAEKmaybeanoptioniftheirisretentionisdi.cultduetosevereanteriorchamberproliferativetissueandirisabnormalities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(6):755.759,C2025〕Keywords:角膜内皮移植,前房内増殖組織,虹彩前癒着,虹彩全周切除,Axenfeld-Rieger症候群.Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)C,anteriorchamberproliferativetissue,anteriorsynechia,to-taliridectomy,Axenfeld-Riegersyndrome.Cはじめに近年,水疱性角膜症に対する選択的層状移植として角膜内皮移植が第一選択として広く行われている1).角膜内皮移植の代表的な術式としては,Descemet膜.離角膜内皮移植術(Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)やCDescemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmem-braneCendothelialkeratoplasty:DMEK)があげられる.全層角膜移植に比較して,DSAEK/DMEKは縫合糸感染のリスクが低い,外傷に強い,早期に良好な視力が得られる,拒絶反応のリスクが低いなどのメリットがある.DSAEK/〔別刷請求先〕安達永里子:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:ErikoAdachi,DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa-city,Ishikawa920-8641,JAPANCc図1術前所見a:左眼は小角膜であり,結膜充血,角膜浮腫および混濁を認めた.Cb:角膜深層に血管侵入を認めた.Cc:前眼部COCTにて角膜の著明な肥厚と全周のCPAS,前房内増殖組織を認めた.Cd:前眼部COCTの角膜厚マップで,中心角膜厚はC955Cμmであった.DMEKでは,内皮グラフトを前房に挿入し,前房に空気を留置することにより,グラフトを角膜後面に接着させる術式である.そのため,周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)など虹彩水晶体隔壁の構造異常があった場合は,グラフトを挿入および接着させるスペースがない,空気泡を前房に維持できないなど,DSAEK/DMEKの施行が困難となる2,3).今回は,前房内を満たす増殖組織とCPASがあったため,DSAEKの際に前房内増殖組織と虹彩の全周切除を施行したAxenfeld-Rieger症候群のC1症例を報告する.CI症例患者:58歳,女性.主訴:左眼視力低下.現病歴:Axenfeld-Rieger症候群と小角膜が指摘されている.右眼はC1992,1994,1996年に他院にて手術をC3回受けたが失明(詳細不明).前医にはC2020年より通院しており,左眼はC2020年C10月に白内障手術,11月に線維柱帯切除術が施行された.2021年C2月に左眼前房内硝子体手術(詳細不明)を受けて以降に左眼水疱性角膜症を生じ視力が低下したため,金沢大学眼科学教室(以下,当科)を紹介され,2021年4月に当科にて左眼DSAEKを受けて左眼視力(0.04)に改善した.以降は前医に通院継続していたが,2021年C11月に左眼緑内障チューブシャント手術(毛様体溝挿入)を受けて以降,再度の視力低下があり,左眼CDSAEK後に内皮機能不全にてC2022年C1月に再度当科紹介受診となった.全身既往歴:特記すべき事項なし.家族歴:母が緑内障.Axenfeld-Rieger症候群の家族歴は問診上なし.初診時所見:視力は右眼光覚なし,左眼C10cm/手動弁(矯正不能)であった.左眼眼圧はC9CmmHg,角膜内皮細胞密度は測定不能であった.細隙灯顕微鏡にて左眼に結膜充血,角膜浮腫および混濁を認め,角膜の横径はC10.0Cmmと小角膜であった(図1a).角膜深層の血管侵入を認め,前房内の透見性は不良であった(図1b).眼内レンズ挿入眼であり,鼻上側にフラットなろ過胞,耳下側には緑内障チューブを認めた.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)にて角膜の著明な肥厚と全周のCPAS,前房内増殖組織を認め(図1c),中心角膜厚はC955Cμmであった(図1d).眼底は透見不能であったが,超音波検査にて網膜.離は認め図2術中所見眼内剪刀を用いて二手法でスパイラルに増殖組織と虹彩の全切除を行った.毛様体の傷害と出血に注意して施行した.なかった.経過:2022年C3月に左眼CDSAEK+増殖組織と虹彩の全周切除を施行した.前回のCDSAEK移植片を.離したのち,移植片のスペース確保および術後の内皮減少や拒絶反応抑制を目的に,毛様体の傷害や出血に注意して前房内増殖組織と虹彩を全周切除した(図2).虹彩切除の際に少量の出血を認め,出血時には灌流圧を上げることで止血を行った.虹彩は鑷子での把持や牽引に対して容易に断裂し脆弱であった.その後,直径C7.0CmmのCDSAEKグラフトをCNS-EndoInserterで前房に挿入して,空気で角膜後面に接合させた.摘出した過去のCDSAEK移植片の病理組織において,炎症細胞の浸潤が認められた(図3).術後は左眼にレボフロキサシン点眼1日C5回,0.1%ベタメタゾン点眼C1日C5回,1%アトロピン点眼C1日C2回,ブロムフェナク点眼C1日C2回を行った.術後2週間後には左眼の視力はC0.06(矯正不能)まで改善し,眼圧はC7.6CmmHgであった.角膜は透明化が得られ,前房内や硝子体内に出血は認めなかった(図4a).術後の前眼部OCTにて,角膜の肥厚は術前より改善し,中心角膜厚は707Cμmであった(図4b).術後C2週間で退院した後は前医に通院した.前医におけるC2022年C5月の前眼部COCTでは中心角膜厚はさらに改善し,632Cμm(図4c)であった.2023年C2月の角膜内皮細胞密度はC1,146/mmC2,2024年C11月の左眼視力はC0.06(0.1)と保たれていた.CII考按今回,高度の虹彩前癒着と前房内増殖組織を伴ったCAxen-feld-Rieger症候群の水疱性角膜症(DSAEK後内皮機能不全)に対して,増殖組織と虹彩を全周切除してCDSAEKを行い,角膜の透明化が得られ,短期的に良好な結果が得られ図3切除した過去のDSAEK移植片の病理標本内皮は認めない.実質には全体的に軽度の線維化(.)を認め,小血管拡張(.),炎症細胞浸潤があり,小型リンパ球(C▲)や少数の好酸球(C△)をみる.好中球の浸潤は目立たず,標本内に菌塊,肉芽腫,封入体,多核巨細胞,異型細胞は明らかではなかった.た.Axenfeld-Rieger症候群は,神経堤細胞に由来する先天的な発達異常から前眼部異常をきたす疾患である4,5).後部胎生環(posteriorCembryotoxon)や虹彩,隅角,角膜に異常をきたし,発達緑内障をしばしば伴う.顔貌,歯の異常など全身異常も伴い,常染色体顕性遺伝疾患であることが多い.虹彩の発生異常のために,虹彩は脆弱である.本症例においては,虹彩が脆弱であることや小角膜であることに加え,全周のCPASと前房内増殖組織があったため,瞳孔形成などで虹彩を温存することは困難と考えて虹彩の全周切除を行うことを選択した.本症例のようにCPASや欠損,前房内増殖組織があると,グラフトを挿入する十分なスペースがなく,さらに前房への空気留置がむずかしくなる.Chaurasiaらは,著しいCPASを伴った虹彩角膜内皮症候群(iridocornealCendothelialCsyn-drome:ICE症候群)のC3例に対する虹彩の亜全切除とDSAEKの同時手術を行い,平均経過観察期間C53カ月まで角膜の透明化が得られ,眼圧コントロールが得られたと報告している3).また,Chaurasiaらは虹彩を根部まで切除するメリットとして,①グラフト挿入と空気タンポナーデが可能になること,②CSchwalbe線を越えて隅角や虹彩面上に増殖した上皮細胞様の異常内皮細胞を除去できること,③残存した張りのない虹彩によるCPASを防止できることをあげている3).Ngらは,緑内障発作後に前房内に増殖組織が生じた症例に対して,全層角膜移植と白内障手術と虹彩の亜全切除とCCustomFlex人工虹彩移植(日本未承認)を行った症例を報告しており,前房に増殖膜ができる機序として,眼内炎症によるフィブリン,内皮細胞の筋線維芽細胞様への形質転d図4術後所見a:角膜は透明化が得られ,前房内や硝子体内に出血を認めなかった.耳下側に毛様溝からの緑内障チューブを認める.b:術C2週間後の前眼部COCTの角膜厚マップ.Cc:bと同日の前眼部COTC画像(3切片).d:術C2カ月後の角膜厚マップ.換,水晶体上皮細胞の増殖,あるいは外傷等による上皮迷入などをあげている6).本症例では,前回のCDSAEK後に機能不全を生じた理由としてCPASの影響があると考え,移植片のスペース確保が必要であったことに加え,術後の前房内増殖組織の抑制および移植片の生存期間の延長の可能性を期待し,虹彩全周切除を施行した.虹彩の全周切除に伴う術中合併症として出血があげられる.本症例では,出血しないように眼内剪刀を用いてスパイラルに切除を行い,毛様体を傷害しないように気をつけた.また,出血を認めた場合には灌流圧を上げることにより止血した.術後合併症として,残存した虹彩根部組織によって線維柱帯が閉塞することによる眼圧上昇が懸念される.今回の症例では毛様溝チューブシャントがすでに存在していたため,術後の眼圧上昇が回避できたと考えられた.術後無虹彩となることによりグレアが生じる懸念もあったが,今回はグレアの訴えはなかった.また,虹彩の全象限を切除することにより,術後の前房サイトカイン上昇や,術後の角膜内皮細胞の減少のしやすさが懸念されるため7),今後は長期的な角膜内皮細胞減少に留意し経過観察する必要がある.虹彩欠損やCPASを伴う症例に対するCDSAEK/DMEKの際には,症例に応じて術式を選択する必要がある.虹彩欠損やCPASが軽度である場合やぶどう膜炎症例では,虹彩に触らずにCDSAEK/DMEKを行ったほうがよいと考えられる.また,虹彩を温存し,瞳孔形成(縫合)で整復することで前房と後房との隔壁を再建してから,DSAEK/DMEKをする方法も選択肢となる8).近年CFDAに承認されたCCustomFlex人工虹彩移植(日本未承認)で虹彩を再建してからCDMEKを行う方法も報告されている9).インドのCJoshiとCVadda-valliはCICE症候群のCPASに対して,DMEKと隅角癒着解離術(GSL)の同時手術を提案している10).全周CGSLを行い,マイクロ鑷子やマイクロ剪刀を用いて角膜周辺部や虹彩上の異常内皮細胞シートと虹彩表層を切除することで,DMEKグラフトを展開するスペースを作り,術後にCPASを再発しにくくすることができるとしている10).したがって,今回のように高度の前房内増殖組織と虹彩異常のために虹彩の温存が困難な場合に限って,DSAEKの際に前房内増殖組織と虹彩の全周切除を行うことも選択肢となりうる.長期的な角膜内皮細胞減少に留意しながら経過観察する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WooCJH,CAngCM,CHtoonCHMCetal:DescemetCmembraneCendothelialCkeratoplastyCversusCDescemetCstrippingCauto-matedCendothelialCkeratoplastyCandCpenetratingCkerato-plasty.AmJOphthalmolC207:288-303,C20192)FengCMT,CPriceCFWCJr,CPriceMO:ComplexCendothelialCkeratoplasty.In:Cornea(MannisCMJ,CHollandCEJeds)C,Cp1403-1409,ElsevierMosby,Philadelphia,20223)ChaurasiaCS,CSenthilCS,CChoudhariN:OutcomesCofCDes-cemetCstrippingCendothelialCkeratoplastyCcombinedCwithCneartotaliridectomyiniridocornealendothelialsyndrome.BMJCaseRepC14:e240988,C20214)MaCY,CWuCX,CNiCSCetal:TheCdiagnosisCandCphacoe-mulsi.cationCinCcombinationCwithCintraocularClensCimplan-tationCforCanCAxenfeld-RiegerCsyndromeCpatientCwithCsmallcornea:aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC20:148,C20205)Sei.CM,CWalterMA:Axenfeld-RiegerCsyndrome.CClinCGenetC93:1123-1130,C20186)NgJy,SrinivasanS,RobertsF:Fibrousproliferationintoanteriorsegmentafteracuteangle-closureglaucoma.Cor-neaC34:103-106,C20157)IshiiCN,CYamaguchiCT,CYazuCHCetal:FactorsCassociatedCwithgraftsurvivalandendothelialcelldensityafterDes-cemet’sCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty.CSciCRepC6:25276,C20168)NarangCP,CAgarwalCA,CDuaCHSCetal:GluedCintrascleralC.xationofintraocularlenswithpupilloplastyandpre-des-cemetCendothelialkeratoplasty:aCtripleCprocedure.CCor-neaC34:1627-1631,C20159)AngCM,CTanD:AnteriorCsegmentCreconstructionCwithCarti.cialCirisCandCDescemetCmembraneCendothelialCkerato-plasty:aCstagedCsurgicalCapproach.CBrCJCOphthalmolC106:908-913,C202210)JoshiVP,VaddavalliPK:Descemetmembraneendotheli-alCkeratoplastyCandCgoniosynechialysisCinCiridocornealCendothelialsyndrome:surgicalCperspectiveCandClong-termoutcomes.CorneaC41:1418-1425,C2022***

下方で施行した眼外法線維柱帯切開術(上方角膜切開白内障手術併施)の左右眼成績比較

2025年6月30日 月曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(6):748.754,2025c下方で施行した眼外法線維柱帯切開術(上方角膜切開白内障手術併施)の左右眼成績比較柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CComparisonofRightandLeftEyeSurgicalOutcomesofTrabeculotomyPerformedInferiorlyCombinedwithCataractSurgeryMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:下方で施行した眼外法線維柱帯切開術(上方角膜切開白内障手術併施)の術後C5年成績を,緑内障病型別に切開部位(耳下側と鼻下側)で比較する.対象と方法:永田眼科において2017.2018年に原発開放隅角緑内障(POAG),2016.2018年に落屑緑内障(EXG)に対し下方象限(右眼耳下側,左眼鼻下側)で線維柱帯切開術,上方角膜切開で白内障同時手術を施行し,6カ月以上経過観察可能だったCPOAG205眼(右眼C102眼,左眼C103眼),EXG103眼(右眼52眼,左眼C51眼)を対象とした.線維柱帯切開術はすべての症例でCSchlemm管外壁開放術と深層強膜弁切除術を併用した.診療録から後ろ向きに眼圧,緑内障点眼数,15CmmHg以下C5年生存率,併発症を左右眼で病型別に比較検討した.結果:POAG,EXGとも術後有意な眼圧下降と緑内障点眼数減少を認め,左右眼で有意差はなかった.15mmHg以下C5年生存率は,POAGで右眼左眼それぞれC59.5%,55.6%,EXGでそれぞれC45.1%,52.6%であり,左右眼で有意差はなかった.術後一過性高眼圧,前房出血,追加緑内障手術率についてもCPOAG,EXGそれぞれにおいて左右眼比較で有意差はなかった.結論:下方で施行した眼外法線維柱帯切開術(上方角膜切開白内障手術併施)において,POAG,EXGとも耳下側と鼻下側切開で術後C5年成績に差はなかった.CPurpose:ToCevaluateCandCcompareCtheC5-year-postoperativeCoutcomesCoftrabeculotomy(LOT)withCphacoe-mulsi.cationCperformedCinferiorlyCbetweenCtheCdi.erentCincisionsite(inferiorCtemporalCandCinferiorCnasalincision)byCglaucomaCtype.SubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsofCpatientswithCprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG,Cn=205eyes[102CrightCeyes,C103Clefteyes])andCexfoliationCglaucoma(EXG,Cn=103eyes[52CrightCeyes,C51Clefteyes])whoCunderwentCinferiorLOT(inferiorCtemporalCincisionCinCrightCeyeCand/orCinferi-orCnasalCincisionCinClefteye)withCphacoemulsi.cationCatCNagataCEyeCClinicCbetweenCJanuaryC2017CandCDecember2018(POAGcases)andJanuary2016CandDecember2018(EXGcases),CandwhoCcouldbeCobservedforCmoreCthanC6-monthsCpostoperative.CAllCpatientsCunderwentCLOTCcombinedCwithCsinusotomyCandCdeepCsclerectomy.CIntraocularCpressure(IOP),CtheCnumberCofCglaucomaCmedicationsCused,CsurgicalCsuccess(de.nedCasCanCIOPCofC.15CmmHgCwithCorCwithoutCglaucomamedications),CandCpostoperativecomplicationsCwasCinvestigatedCandCcomparedCbetweentherightCandCleftCeyes.CResults:AtC5-yearsCpostoperative,CtheCmeanCIOPCandCtheCnumberCofCglaucomaCmedicationsCusedCinCtheCPOAGCandCEXGCgroupsCwereCsigni.cantlyCreduced,CwithCnoCsigni.cantCdi.erenceCbetweenCtheCrightCandCleftCeyesCinCeachCgroup,CandCtheCsurgicalCsuccessCrate(i.e.,CIOPC.15CmmHg)inCtheCrightCandCleftCeyes,Crespectively,Cwas59.5%Cand55.6%CinthePOAGCgroupCand45.1%Cand52.6%CintheEXGCgroup,CandCtherewasCnoCsigni.cantCdi.erencebetweentheCrightCandCleftCeyesCinCeachCgroup.CInCtheCfrequenciesCofCpostoperativeChyphema,CtransientCIOPCspikes,CandCaddi-tionalCglaucomaCsurgeryCperformedCthroughoutCthe5-year-postoperativefollow-upCperiod,CtherewasCnoCsigni.cantCdi.erencebetweenrightCandCleftCeyesCineachCgroup.CConclusion:OurC.ndingsCrevealedCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCtheC5-year-postoperativeCoutcomesCbetweenCinferiorCtemporalCandCinferiorCnasalCincisionCofCinferiorCLOTCwithCphacoemulsi.cationCforCPOAGCandCEXG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(6):748.754,C2025〕〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic.1147Kitayamada,Horai,Nara-shi,Nara631-0844,JAPANC748(106)(106)C748Keywords:下方trabeculotomy,左右眼比較,眼圧,5年成績.trabeculotomyperformedinferiorly,comparisonofrightandlefteye,intraocularpressure,.ve-yearoutcomes.Cはじめに線維柱帯切開術(trabeculotomy:LOT)は,傍CSchlemm管内皮網組織を切開し房水流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的房水流出路再建術である.とくに眼外法LOTについては,これまで白内障との同時手術を含め多数の長期成績1.6)が示され,サイヌソトミー(sinusotomy:SIN)と深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)の併用による術後一過性高眼圧の減少と眼圧下降増強効果が報告されているC2.6).しかし,眼外法CLOTは線維柱帯切除術と比較して眼圧下降効果が劣るため,将来的な線維柱帯切除術追加の可能性を考え,上方結膜温存目的に,筆者らの施設(永田眼科,以下,当院)ではすべて下方象限で施行している.強膜弁作製のやりやすさから,両眼ともC8時方向に強膜弁を作製し,右眼は耳下側,左眼は鼻下側の線維柱帯をC120°切開している.房水はCSchlemm管から集合管を通り,集合管が互いに吻合した深部強膜内静脈叢から吻合のない房水静脈に流れ,上強膜静脈へと排出される.房水静脈はC3.6本で鼻下側に多く分布するといわれ,上強膜静脈への流れが明らかな症例ほど低侵襲緑内障手術後の眼圧下降効果が高いことが報告されている7.9).しかし,下方象限施行の眼外法CLOTにおいて,房水静脈が多いとされる鼻下側での線維柱帯切開の有無が術後成績に影響するかどうかの検討はなされていない.今回は下方象限で施行した眼外法CLOTの術後成績を左右眼で比較し,耳下側切開(右眼)と鼻下側切開(左眼)で術後成績に違いが生じるかどうかを,緑内障病型別に診療録から後ろ向きに検討した.CI対象および方法対象は,当院において原発開放隅角緑内障(primaryopenangleCglaucoma:POAG)もしくは落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)に対し,下方象限でCLOT+SIN+DSを施行し,上方角膜切開で白内障同時手術(以下,LOT+SIN+DSトリプル)を施行した連続症例のうち,緑内障手術既往眼を除き,6カ月以上術後経過観察が可能であった患者とした.POAGは緑内障点眼開始前眼圧がC20CmmmHgを超えるもの,もしくは治療中眼圧がC20CmmHgを超えるものとした.当院では,下方CLOTにおいて右眼は耳下側,左眼は鼻下側の線維柱帯を切開しているため,右眼を耳下側切開眼,左眼を鼻下側切開眼とした.病型別対象症例数は,POAGでは2017年C1月.2018年C12月に手術を施行した連続症例C205眼(右眼102眼,左眼103眼),EXGでは2016年1月.2018年C12月に手術を施行した連続症例C103眼(右眼C52眼,左眼C51眼)である.診療録から後ろ向きに,術前と術後C5年までの眼圧,緑内障点眼数,術後併発症,追加手術介入の有無を調査し,眼圧と緑内障点眼数の経過,目標眼圧をC15mmHgとしたC5年生存率,併発症と追加手術率について病型別に右眼(耳下側切開眼)と左眼(鼻下側切開眼)で比較検討した.CLOT+SIN+DSの術式は既報5)に準じ,すべての症例でLOTを下方象限で施行しCSINとCDSを併用,白内障手術は上方角膜切開で施行した.検討項目を以下に示す.手術前の眼圧と緑内障点眼数,術後1,3,6,12,18,24,30,36,42,48,54,60カ月の眼圧と緑内障点眼数から眼圧経過と薬剤スコア経過,目標眼圧をC15CmmHgとしたC5年生存率,術後併発症,追加緑内障手術数について検討した.緑内障点眼数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤と計算し,合計点数を薬剤スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障点眼薬の有無にかかわらず術後C3カ月以降C2回連続する観察時点で目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,年齢,術前眼圧,術前薬剤スコア,術前Cmeandeviation(MD)値の比較にはCt検定を用い,男女比,術後併発症と追加手術介入の頻度比較にはC|2検定もしくはFisherの直接確率計算法を用いた.左右眼それぞれの眼圧と薬剤スコアの推移にはCone-wayCanalysisCofCvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較による検定を行い,左右眼の比較にはCtwo-wayANOVAによる検定を行った.生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し,生存率を算出した.左右眼の生存率比較にはCLog-rank検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.本研究は臨床研究法を遵守しヘルシンキ宣言に則り行われ,診療録を用いた侵襲を伴わない後ろ向き研究のためインフォームド・コンセントはオプトアウトによって取得され,永田眼科倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号C2024-002).CII結果表1にCPOAG205眼の患者背景を示す.右眼C102眼・左眼C103眼の平均年齢,男女比,術前平均眼圧,術前平均薬剤スコア,術前CHumphrey視野C30-2の平均CmeanCdevia-tion(MD)値に左右眼で有意差はなかった.術後処置として前房洗浄を施行した患者の割合,術後C30CmmHgを超える一表1POAG205眼の患者背景右眼左眼pC眼数102眼103眼年齢(歳)C73.8±7.5(5C0.C91)C73.3±7.9(5C0.C91)C0.74*男:女46:5C644:5C9C0.73+術前平均眼圧(mmHg)C17.9±5.1(1C1.C54)C17.7±3.4(1C0.C28)C0.74*術前平均薬剤スコアC2.7±1.2(1.5)C2.8±1.2(0.6)C0.55*MD値(3C0C.2)(dB)C.12.1±7.4.15.7±7.70.84*(.33.82.C.0.77)C(.31.17.C.3.93)C術後処置前房洗浄1眼前房洗浄2眼C0.56+術後高眼圧(>3C0mmHg)16眼16眼C0.98+前房出血(>3mm)2眼1眼C0.56+追加緑内障手術LET4眼LET5眼0.53+Express1眼CS-LOT1眼CLET:trabeculectomyS-LOT:360°Csuturetrabeculotomy*:t-test,+:chi-squaretest(mean±SD)(range)眼圧(mmHg)30252015+1050136121824303642485460観察期間(月)(mean±SD)眼数右眼102102102102999591878280757267左眼103103103103999287858281736761図1POAG205眼の眼圧経過右眼,左眼とも術後すべての観察期間で有意に下降し(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest),右眼と左眼の眼圧経過に有意差はなかった(+p=0.18,two-wayANOVA).過性高眼圧とC3Cmmを超える前房出血の割合,追加緑内障手術の割合に左右眼で有意差はなかった.図1にCPOAGの眼圧経過を示す.右眼の平均眼圧はC17.7C±3.4CmmHg(平均C±標準偏差)からC5年後C14.4C±3.3mmHg,左眼はC17.9C±5.1CmmHgからC5年後C14.4C±2.8CmmHgとなり,左右眼ともすべての観察期間で有意に下降した(p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest).左右眼で眼圧経過に有意差はなかった(p=0.18,two-wayANOVA).図2にCPOAGの薬剤スコア経過を示す.右眼の平均スコ0.2,左眼はC±標準誤差)から5年後2.0C±1(平均C.0±アは2.8C2.7±0.1からC5年後C1.9C±0.2となり,左右眼ともすべての観察期間で有意に下降した(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).左右眼でスコア経過に有意差はなかった(p=0.10,two-wayANOVA).図3にCKaplan-Meier生命表解析を用い,目標眼圧をC15mmHgとした生存曲線を示す.POAGにおいて右眼のC15mmHg以下C5年生存率はC59.5%,左眼はC55.6%であり左右眼で有意差はなかった(p=0.68,Log-ranktest).表2にCEXG103眼の患者背景を示す.右眼C52眼・左眼51眼の平均年齢,男女比,術前平均眼圧,術前平均薬剤スコア,術前CHumphrey視野C30-2の平均CMD値に左右眼で有意差はなかった.術後処置として前房洗浄を施行した症例薬剤スコア3.532.521.510.50+pre136121824303642485460観察期間(月)(mean±SD)眼数右眼102102102102999591878280757267左眼103103103103999287858281736761図2POAG205眼の薬剤スコア経過右眼,左眼ともすべての観察期間で有意に下降し(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest),右眼と左眼のスコア経過に有意差はなかった(+p=0.10,two-wayANOVA).10080生存率(%)59.5%6055.6%40200図3POAG205眼の15mmHg以下5年生存率0102030405060生存期間(月)右眼のC15CmmHg以下C5年生存率はC59.5%,左眼はC55.6%であり,右眼と左眼に有意差はなかった(p=0.68,Log-ranktest).の割合,術後C30CmmHgを超える一過性高眼圧の割合,追加緑内障手術の割合に左右眼で有意差はなかった.図4にCEXGの眼圧経過を示す.右眼の平均眼圧はC21.9C±6.1mmHgからC5年後C15.3C±4.3mmHg,左眼はC21.4C±5.8mmHgから5年後14.4C±3.6CmmHgとなり,左右眼ともすべての観察期間で有意に下降した(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).左右眼で眼圧経過に有意差はなかった(p=0.10,two-wayANOVA).図5にCEXGの薬剤スコア経過を示す.右眼の平均スコアはC2.9C±0.2からC5年後C1.5C±0.3,左眼はC2.9C±0.2から5年後1.5±0.3となり,左右眼ともすべての観察期間で有意に下降した(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).左右眼でスコア経過に有意差はなかった(p=0.18,two-wayANOVA).図6にCKaplan-Meier生命表解析を用い,目標眼圧をC15mmHgとした生存曲線を示す.EXGにおいて右眼のC15mmHg以下C5年生存率はC45.1%,左眼はC52.6%であり,左右眼で有意差はなかった(p=0.86,Log-ranktest).CIII考按下方象限で施行したCLOT+SIN+DSトリプルの術後C5年表2EXG103眼の患者背景右眼左眼pC眼数52眼51眼年齢(歳)C76.2±6.6(5C2.C91)C76.0±6.9(5C1.C90)C0.86*男:女31:2C132:1C9C0.74+術前平均眼圧(mmHg)C21.4±5.8(1C3.C52)C21.9±6.1(1C1.C51)C0.64*術前平均薬剤スコアC2.8±1.3(0.6)C2.9±1.4(0.6)C0.95*MD値(3C0C.2)(dB)C.9.5±8.3.12.1±8.80.134*(.31.88.C0.54)C(.29.8.C0.94)C術後処置前房洗浄1眼0.31+(硝子体出血→硝子体手術)C術後高眼圧(>3C0mmHg)11眼13眼C0.60+追加緑内障手術LET5眼LET6眼C0.72+LET:trabeculectomy*:t-test,+:chi-squaretest(mean±SD)(range)眼圧(mmHg)30252015+1050136121824303642485460観察期間(月)(mean±SD)眼数右眼52525252514843403834312822左眼51515151484745444036342920図4EXG103眼の眼圧経過右眼,左眼ともすべての観察期間で有意に下降し(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest),右眼と左眼の眼圧経過に有意差はなかった(+p=0.10,two-wayANOVA).成績を右眼(耳下側切開)と左眼(鼻下側切開)で病型別に比較した.眼圧,薬剤スコアにおいて,POAG,EXGとも術後有意な減少を認め,左右眼で有意差はなかった.15mmHg以下C5年生存率は,POAGで右眼左眼それぞれC59.5%,55.6%,EXGでそれぞれC45.1%,52.6%であり,左右眼で有意差はなかった.POAG,EXGとも術C5年成績は既報4.6)と同等であった.術後一過性高眼圧,前房出血,追加緑内障手術率についてもCPOAG,EXGそれぞれの左右眼比較で有意差はなかった.鼻下側CLOTと耳下側CLOTの術後5年成績を病型別に評価し,差がなかったことが示された.LOTにおける切開部位別の術後成績比較はこれまでにも報告がある.今回の研究と同様の眼外法CLOTにおいては,5年以上の長期成績において上方象限と下方象限におけるLOTの術後成績は同等であったと報告されている5,6).Satoら10)はC180°CsutureCtrabeculotomyCabinternoにおいて上方切開と下方切開でC12カ月成績に差はなかったと報告している.今回の研究においても鼻下側切開と耳下側切開で術後成績に差はなく,既報5,6,10)の結果と合わせて,房水静脈の分布が多いとされる鼻下側切開の有無は術後成績に影響しない可能性が考えられた.房水はCSchlemm管から集合管を通り,房水静脈に流れ上強膜静脈へと排出される.Schlemm管は360°にわたって存在するが,房水はCSchlemm管内を円周方向に均一に流れず,集合管付近で流出量が多いことが報告11,12)されている.また,Schlemm管とつながる集合管は不均等ながら全周に分布しているが,房水静脈の分布には偏りがあり,鼻下側に多く分布するといわれている7,8,12).LOTは房水流出路におけるもっとも流出抵抗が高い傍CSchlemm管結合組織を切開し,房右眼(52眼)3.5薬剤スコア32.521.510.50+pre136121824303642485460観察期間(月)(mean±SD)眼数右眼52525252514843403834312822左眼51515151484745444036342920図5EXG103眼の薬剤スコア経過右眼,左眼ともすべての観察期間で有意に下降し(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest),右眼と左眼のスコア経過に有意差はなかった(+p=0.18,two-wayANOVA).10080生存率(%)6052.6%45.1%40200図6EXG103眼の15mmHg以下5年生存率0102030405060生存期間(月)右眼のC15CmmHg以下C5年生存率はC45.1%,左眼はC52.6%であり左右眼で有意差はなかった(p=0.86,Log-ranktest).水流出抵抗を下げることが目的の手術である.つまり,Sch-lemm管以降の房水流出抵抗が存在する場合には効果が期待できず,Schlemm管以降の形態学的特徴・異常により手術の効果が左右されると考えられる.この点において,低侵襲緑内障手術の術中所見から,上強膜静脈への流れが明らかな患者ほど眼圧下降効果が高いことが報告7.9)され,房水静脈の分布が多く上強膜静脈への流出が期待できる鼻下側に,線維柱帯小切開もしくはデバイス留置をすることは合理的であると考えられる.しかし,LOT切開部位による成績の差はなかったとする既報5,6,10)の結果を含め,今回の研究でも鼻下側と耳下側切開で成績は同等であったことから,LOTにおける広い幅での線維柱帯切開は,房水静脈が多いとされる鼻下側切開の有無にかかわらず房水の集合管への流出に効果的であり,切開部位は術後成績に影響しない可能性が考えられた.本研究にはいくつかの限界がある.今回の研究の手術方法はCLOT+SIN+DSであり,すべての症例でCSINとCDSの併用効果が加味されている.SINとCDSには術後一過性高眼圧の減少と眼圧下降増強効果2.6)があり,SINからのわずかなろ過の可能性やCDSによるぶどう膜強膜流出路へ流出増加の可能性13,14)があることから,SINとCDSの効果により術後経過眼圧が低く,そのため有意差が出なかった可能性は否定できない.さらに,LOTでは眼圧下降効果の点で白内障同時手術による相加効果があることが知られており15,16),今回の研究においても白内障同時手術により術後眼圧が低く,その結果として有意差がなかった可能性は否定できない.また,本研究は後ろ向き研究であり,その性質上,結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.今後,前向き研究や多施設研究での検討が必要であり,本研究の解釈には限界がある.結論として,POAG,EXGに対し下方象限で施行したCLOT+SIN+DSトリプルの術後成績を病型別に左右眼で比較し,POAG,EXGとも線維柱帯切開部位すなわち耳下側,鼻下側切開で術後成績に差はなかった.文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19932)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,C19963)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,C20024)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科26:821-824,C20095)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨床眼科67:1685-1691,C20136)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成績.日眼会誌C116:740-750,C20127)FellmanCRL,CFeuerCWJ,CGroverDS:EpiscleralCvenousC.uidwavescorrelatewithtrabectomeoutcomes.Ophthal-mologyC122:2385-2391,C20158)FellmanRL,GroverDS:Episcleralvenous.uidwavesinthelivinghumaneyeadjacenttomicroinvasiveglaucomasurgery(MIGS)supportsClaboratoryresearch:out.owCisClimitedCcircumferentially,CconservedCdistally,CandCfavoredCinferonasally.JGlaucomaC28:139-145,C20199)BostanCC,CHarasymowyczP:EpiscleralCvenousout.ow:CaCpotentialCoutcomeCmarkerCforCistentCsurgery.CJCGlauco-maC26:1114-1119,C201710)SatoT,KawajiT:12-monthrandomisedtrialof360°Cand180°CSchlemm’scanalincisionsinsuturetrabeculotomyabinternoCforCopen-angleCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC105:C1094-1098,C202111)HannCCR,CBentleyCMD,CVercnockeCACetal:ImagingCtheCaqueoushumorout.owpathwayinhumaneyesbythree-dimensionalmicro-computedtomography(3D-micro-CT)C.ExpEyeResC92:104-111,C201112)HannCCR,CFautschMP:PreferentialC.uidC.owCinCtheChumanCtrabecularCmeshworkCnearCcollectorCchannels.CInvestOphthalmolVisSciC50:1692-1697,C200913)MarchiniCG,CMarra.aCM,CBruneliCCCetal:UltrasoundCbio-microscopyCandCintraocular-pressure-loweringCmecha-nismsCofCdeepCsclerectomyCwithCreticulatedChyaluronicCacidimplant.JCataractRefractSurgeC27:507-517,C200114)StegmannCR,CPienaarCA,CMillerD:ViscocanalostomyCforCopen-angleglaucomainblackAfricanpatients.JCataractRefractSurgC25:316-322,C199915)TaniharaCH,CHonjoCM,CInataniCMCetal:TrabeculotomyCcombinedwithphacoemulsi.cationandimplantationofanintraocularClensCforCtheCtreatmentCofCprimaryCopen-angleCglaucomaandcoexistingcataract.OphthalmicSurgLasersC28:810-817,C199716)TanitoM,OhiraA,ChiharaE:Surgicaloutcomesofcom-binedCtrabeculotomyCandCcataractCsurgery.CJCGlaucomaC10:302-308,C2001***

多数例による上方視神経部分低形成と緑内障合併の検討

2025年6月30日 月曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(6):742.747,2025c多数例による上方視神経部分低形成と緑内障合併の検討金森章泰*1,2金森敬子*1*1医療法人社団かなもり眼科クリニック*2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CALarge-ScaleStudyoftheAssociationofSuperiorOpticNerveHypoplasiaandGlaucomaAkiyasuKanamori1,2)andNorikoKanamori1)CKanamoriEyeClinic1),KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery2)目的:上方視神経部分低形成(SSOH)は日本人ではC300人にC1人程度の有病率とされ,まれではない.緑内障発症のリスク因子とされ,ときどき緑内障と誤診されているケースが散見される.目的はCSSOHの臨床像を検討し,緑内障合併例を分類することである.対象と方法:光干渉断層計(OCT)・眼底写真からCSSOHと判断したC130眼について,緑内障の合併の有無や視野検査結果等を検討した.結果:年齢・屈折値・HFA24-2のCMD・眼軸長の平均値は48.1歳,.4.20D,.1.79CdB,25.57Cmであった.緑内障性構造障害の有無について以下のようにグループ分けを行うことができた.SSOHのみ群C40眼,黄斑部にかかる網膜内層構造障害合併群C17眼,前視野緑内障合併群C52眼,緑内障合併群C21眼.そのうちCSSOHによる視野欠損を生じていたのはC9眼,10眼,10眼,11眼であった.結論:SSOHにおいて,前視野緑内障を含む緑内障合併例は多数みられた.黄斑部にかかる上方の網膜神経線維層欠損はCSSOHの広がりによるものか,緑内障性かの判断が困難であった.CPurpose:Superiorsegmentalopticnervehypoplasia(SSONH)hasanestimatedprevalenceofapproximately1CinCeveryC300CJapaneseCpeople,CsoCitCisCnotCaCrareCdisease.CHowever,CSSONHCisCconsideredCaCriskCfactorCforCtheCdevelopmentofglaucomaandisoccasionallymisdiagnosedasglaucoma.ThepurposeofthisstudywastoexaminetheclinicalfeaturesofSSONHandclassifycaseswithglaucoma.PatientsandMethods:Inthisstudy,weexam-inedCtheCpresenceCorCabsenceCofCglaucomaCandCvisualC.eldCtestC.ndingsCofC130CeyesCdiagnosedCasChavingCSSONHCbasedConCopticalCcoherenceCtomographyCandCfundusCimaging.CResults:TheCmeanCpatientCage,CrefractiveCvalue,CHumphreyCFieldCAnalyzerC24-2CmeanCdeviation,CandCaxialClengthCwereC48.1Cyears,C.4.20D,C.1.79dB,CandC25.57Cmm,respectively.The130eyesweregroupedaccordingtothestructuralglaucomatouschangeasfollows:C40eyeswithSSONHonly,17eyeswithganglioncellcomplex(GCC)damageintheuppermacular,52eyeswithpreperimetricglaucoma,and21eyeswithglaucoma.Ofthose,visual.elddefectsduetoSSONHoccurredin9,10,10,and11eyes,respectively.Conclusion:ManycasesofSSONHwerecomplicatedwithglaucoma,includingpre-perimetricCglaucoma,CsoCitCwasCdi.cultCtoCdetermineCwhetherCtheCGCCCdefectsCinCtheCupperCmaculaCwereCdueCtoCthespreadofSSONHorwereglaucomatous.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(6):742.747,C2025〕Keywords:上方視神経部分低形成,緑内障,合併,光干渉断層計.superiorsegmentalopticnervehypoplasia,glaucoma,coexisting,opticalcoherencetomography.Cはじめに上方視神経部分低形成(superiorCsegmentalCopticCnervehypoplasia:SSOH)は視神経乳頭の上方から鼻側にかけての軽度の先天的形成異常とされる.日本人における有病率は,多治見スタディで集積された眼底写真の判読より,0.3%とされている1).さらに,193名の自覚症状のない大学生における研究では,SSOHの頻度はC2.6%(全員CGoldmann視野に異常が確認されている)という報告もある2).日常診療ではよくみかける状態であるにもかかわらず,SSOHの診断基準は明確ではないうえに,SSOHの約半数は視野欠損がないとも報告されており1),その場合はいっそう診断が困難になることもある.SSOHの形態的特徴は,①網膜上方の網〔別刷請求先〕金森章泰:〒673-0892明石市大明石町C1-6-1パピオスあかしC3Fかなもり眼科クリニックReprintrequests:AkiyasuKanamori,M.D.,Ph.D.,KanamoriEyeClinic,1-6-1-3F,Ohakashi-cho,Akashi-city,Hyogo673-0892,CJAPANC742(100)膜神経線維層(retinalCnerveC.berlayer:RNFL)欠損,②乳頭上部の蒼白化,③乳頭上方の強膜のChalo,④乳頭における網膜中心動脈起始部の上方偏位,の四つがあげられているが3),日本人ではこれらの特徴がすべてそろうことは少ないとされている4,5).また,SSOHと緑内障合併例の症例報告に加え,SSOHがあると緑内障の発症率がC5倍になるとされる6).一般的な開放隅角緑内障は急に発症することはなく,その前の病期である視野が正常な前視野緑内障(preperimet-ricglaucoma:PPG)を併発している例はさらに多いと思われる.今回,多数例のCSSOHと緑内障の合併程度から,分類を試みたので報告する.CI対象と方法本研究は診療録から調査した後ろ向き研究である.プロトコールはヘルシンキ宣言に基づいており,兵庫県医師会倫理審査委員会の承認のもと,対象から文書による同意を得て行った.2017年C6月.2023年C12月にかなもり眼科クリニックを受診し,SSOHと診断した患者を対象とした.SSOHの診断は眼底所見および光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT),視野検査によって総合的に行った.OCTは緑内障とCSSOHの鑑別に有用とされる7).OCTはCRetinaScan-DUO(ニデック)を用いた.乳頭マッププログラムにて視神経形状ならびに乳頭周囲網膜神経線維層(circumpap-illaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)厚を測定した.黄斑部解析では,黄斑部網膜内層構造(ganglionCcellCcom-plex:GCC)を計測した.GCCは網膜神経線維層+網膜神経節細胞層+内網状層の厚みからなる複合体厚である.視野はCHumphreyCFieldAnalyzer(HumphreyZeiss社)のCHum-phrey24-2SITA-standardを用いて測定を行った.本研究の選択基準は,矯正視力がC0.7以上,眼軸長がC30mm未満,良好なスキャンが取得されていること,および信頼性のある視野検査の結果が得られていることとした.26mm以上の眼軸長のある眼ではCOCTに内蔵された長眼軸補正プログラムでデータ補正を行った.眼底検査および眼底写真で上方・下方どちらかにでも視神経乳頭リムの狭窄および網膜神経線維層欠損がみられる緑内障性視神経乳頭変化に加え,OCTによる緑内障性構造障害があり,それに一致する視野欠損基準を満たすものを緑内障と診断した.信頼性のある視野検査(固視不良C20%未満,偽陰性C15%未満,偽陽性15%未満)において,視野検査結果が以下のいずれかの基準を満たした場合に緑内障性視野異常と定義した.①パターン偏差確率プロットにおいて,隣接した位置にC3点以上がC5%未満の確率を示し,そのうち少なくとも1点がC1%未満の確率を示した場合,②パターン標準偏差の確率がC5%未満の場合,③緑内障半視野検査が正常範囲外であると示した場合(AndersonとCPatellaの基準に従う)である.PPGは緑内障性構造障害があるものの緑内障性視野障害がないものと定義した.本研究では,角膜および硝子体手術の既往,角膜混濁,臨床的に有意な白内障,網膜疾患(黄斑上膜,黄斑円孔,糖尿病網膜症など),および非緑内障性視神経症の既往がある眼は除外した.CII結果対象患者はC100例C130眼である.患者の年齢は平均C±標準偏差C48.1C±11.9歳,男性41例54眼,女性59例76眼であった.等価球面度数はC.4.20±3.47D,眼軸長はC25.57C±1.70mm,Humphrey視野Cmeaddeviation(MD)値はC.1.79C±3.02CdBであった.SSOHと緑内障との鑑別を考えるにあたり,OCT解析結果をもとに判断すると,臨床上,四つのパターンがあると考えられた(図1,2).①単純な鼻上側のSSOH(SSOH群),②鼻上側のCSSOHによる構造障害に連続した黄斑部にかかるCGCC障害があるもの(+a群),③CSSOH+PPG(+P群),④CSSOH+緑内障(+G群)である.結果は,SSOH群40眼,+a群C17眼,+P群C52眼,+G群C21眼に分類された.表1に各群の背景を示す.年齢や眼軸,角膜厚に群間差はなかったものの,HFAのCMD値は有意に緑内障群で低かった(ANOVA,p<0.01).表2に示すとおり,片眼性のものはC30例あり,SSOH群C14眼,Ca群6眼,+P群10眼,+G群C0眼であった.つぎに,両眼での各群の分布を検討すると,SSOH群がC11例,Ca群3例,+P群17例,+P群6例と74%(=34/50)は多くは両眼とも同じ分類に入り,この分類には両眼性が存在すると思われた.SSOHによる視野欠損の有無により,各群の眼数を検討した(表3).視野欠損あり群はCSSOH群と+a群で比較したところ,視野欠損ありが+a群のほうが有意に多かった(Fisher検定,p=0.013).一方,+a群は低形成程度が強い群と考えると,+a群のほうがよりCSSOH視野欠損を有する症例が多い結果は妥当な結果と思われる.+G群でも+P群に比べCSSOHの視野欠損のある例が多かった(Fisher検定,p=0.009).つぎに,OCTのCdisc解析による視神経乳頭形状について検討した(表4).垂直視神経乳頭陥凹比はC4群で有意な差はなかったが,視神経乳頭面積は有意に+a群が小さかった(ANOVA,p=0.014).CIII考按SSOHに関する報告はいくつか過去にされているが,いずれも数十例までの報告で,100例を越えるような多数例による検討はC1報のみである.Yagasakiらは日本人において,眼底写真でCSSOHと診断したC106眼について報告しており,図1右眼が+a群,左眼がSSOH群の症例d左列:右眼.右列:左眼.Ca,b:眼底写真ではとくに右眼で低形成が著しい.Cc:cpRNFL,GCC解析で両眼とも上側のCcpRNFL減少がみられる.Cd:GCC解析で右眼は上方のGCCの減少がみられる.左眼は網膜神経線維の走行に沿ったCGCCの菲薄化があるようにみえるが,眼底写真で明らかな乳頭陥凹拡大はない.Ce,f:Goldmann視野計では右眼は下半分が大きく欠損している.左眼は楔状の視野欠損が下方にみられる.Cg:Humphrey視野検査(24-2)では右眼のみ下方の視野欠損を認める.左眼は正常視野である.fg図2判別がつきにくい症例(両眼とも+P群とした)左列:右眼.右列:左眼.Ca,b:両眼ともCSSOHの所見があり,視神経乳頭陥凹拡大および神経線維束欠損(↑)もある.Cc:cpRNFL解析では上.鼻側にかけてCcpRNFL減少を両眼ともに認める.下方のcpRNFL減少も認める.Cd:GCC解析では,右眼はCSSOHに連続した上方のCGCC障害に加え,下方に緑内障による神経線維束欠損を認める.+a群の障害もあるが,+P群に分類した.左眼上方は,図中の黒丸で囲んだ部分はSSOHであり,SSOH障害に連続していない図中の白丸で囲んだ部分は緑内障性変化と判断した.Ce,f:Goldmann視野計では,右眼は下方の視野欠損があるが,扇状ではなく,一見,緑内障様である.左眼は上方,および耳下側への扇状の軽度の視野欠損を認める.g:Humphrey視野C24-2では,右眼はCSSOHによる視野欠損を認める.左眼の耳側視野欠損は低形成でよいが,上側の視野欠損は黄斑部GCC下方欠損程度からするとかなり上方であり,緑内障にしては非典型的である.下方の部分低形成も混在すると考える.cdg表14分類の臨床的背景年齢(歳)眼軸(mm)角膜厚(Cμm)HFAMD(dB)SSOHのみ(n=40)C46.0±12.0C25.67±1.74C535.6±32.8C.1.48±2.41+a(n=17)C41.5±11.2C24.68±1.60C528.4±26.1C.1.66±2.88+P(Cn=52)C50.3±11.2C25.60±1.30C531.6±37.4C.0.76±2.82+G(Cn=21)C51.9±11.3C26.02±2.47C506.2±33.9C.5.06±3.51*表2片眼性と両眼性で分けた場合の4分類の眼数片眼性のもの:3C0例両眼性のもの(9通り):5C0例・SSOHのみ:1C4例・両眼CSSOHのみ:1C1例・SSOH+a:6例・SSOHと+a:1例・SSOH+P:1C0例・SSOHと+P:2例・SSOH+G:なし・SSOH+G:1例・両眼+a:3例・+aと+P:1例・+aと+G:3例・両眼+P:1C7例・+Pと+G:5例・両眼+G:6例表4OCTによる視神経乳頭形状解析結果視神経乳頭面積(mmC2)垂直視神経乳頭陥凹比SSOHのみ(n=40)C2.44±0.67C0.52±0.13+a(n=17)C2.05±0.41*C0.44±0.14+P(Cn=52)C2.56±0.70C0.51±0.21+G(Cn=21)C2.52±0.99C0.60±0.14その中で緑内障との合併例はC6例だったとしている8).106眼中COCT検査が行われたのはC35眼のみで,全例では網膜や視神経の詳細な検討はなされていない.本研究では多数例のCSSOHを対象とし,OCT所見を踏まえて緑内障の合併具合を検討し,分類を試みた.本研究では上方から鼻上側にかけて単純にCOCTのCcpRNFLでの菲薄化があるものを単純なSSOH群としたが,これはCSSOHが視神経乳頭鼻上側の局所的な低形成であるという従来の概念に相応する.しかし,スペクトラルドメインCOCTの登場により,黄斑部網膜内層が障害されている症例が多数存在することがわかり,こういった症例をプラスアルファの障害があると認識し,+a群として定義づけた.この群では視野障害が単純なCSSOHより多いことや,視神経乳頭面積が小さい結果を踏まえると,より低形成具合が大きいものと思われる.部分低形成ではない,いわゆる視神経低形成は視力不良例や黄斑形成異常を多く伴うが,36眼の視神経低形成に関する研究では視神経乳*p<0.01表3SSOHの視野欠損の有無と4分類の眼数SSOHの視野異常なし(眼)SSOHの視野異常あり(眼)SSOHのみ(n=40)C31C9+a(n=17)C7C10+P(Cn=52)C42C10+G(Cn=21)C11C9頭面積と視力が有意な相関があると報告され,本研究結果を裏付けるものである9).+a群でみられるCGCC菲薄化が,網膜神経線維層の障害のみか,あるいは網膜神経節細胞の障害を伴うかは本研究で用いたCOCTはこのC2層を分離して解析できないためこれ以上の推測はできないが,層別解析を行うことができるスペクトラリスCOCTなどがあればさらなる解析が可能と思われる.また,四つの分類はC1名の眼科医のみ(AK)で行った.とくに,図2の左眼のような非典型的な症例や微妙な緑内障性構造障害については判定者により判断が変わることもあり得るため,より正確な議論を行うには複数名による判定が望ましいと思われる.SSOHは比較的よくみられ,緑内障が合併しているかどうかで患者への対応が変わる.緑内障があれば,より綿密なフォローが必要であり,その診断は非常に重要である.視神経乳頭下方に緑内障性変化がある場合はCSSOHがあっても診断はつきやすい.しかし,上方にたとえば網膜神経線維束欠損のような緑内障性変化がある場合は,SSOHによる構造的変化が混在すると判別が非常に困難となる.本研究では+a群と+P群に分類したが,図2に示すような症例も多々あり,明確な診断基準を示すことは困難である.SSOHはもともと小乳頭であることや視神経乳頭形状がいびつなことも多く,緑内障性視神経乳頭陥凹拡大の有無での診断もむずかしいと思われる.視野欠損が生じているようであれば参考にできるが,PPGだとそれも不可能である.本研究のような横断的研究では解決しえず,緑内障であれば進行性であるので,判断に迷った際は経過観察が必要となり,今後の縦断的研究も必要と思われる.SSOH以外にも,頻度は少ないが鼻側・下方の視神経部分低形成もある.SSOHは治療の必要ない状態であるにもかかわらず緑内障と間違われることもあり10),緑内障点眼加療をされてしまっているケースも散見される.本研究で多数得られたCOCTのCdisc解析や黄斑部解析の結果を用いて,今後の研究でよりよい診断方法について検討する予定である.利益相反:利益相反公開基準に該当なし1)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiaCfoundCinCTajimiCEyeCHealthCCareCProjectCpar-ticipants.JpnJOphthalmolC48:578-583,C20042)岡野真弓,深井小久子,尾崎峯生:上方視神経低形成の頻度─20歳前後における頻度─神経眼科C24:389-386,C20073)KimCRY,CHoytCWF,CLessellCSCetal:SuperiorCsegmentalCopticChypoplasia.CaCsignCofCmaternalCdiabetes.CArchCOph-thalmolC107:1312-1315,C19894)HashimotoCM,COhtsukaCK,CNakazawaCTCetal:ToplessCopticCdiskCsyndromeCwithoutCmaternalCdiabetesCmellitus.CAmJOphthalmolC128:111-112,C19995)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomogra-phyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthal-molC86:910-914,C20026)LeeHJ,OzakiM,OkanoMetal:Coexistenceanddevel-opmentofanopen-angleglaucomaineyeswithsuperiorsegmentalCopticChypoplasia.CJCGlaucomaC24:207-213,C20157)YamadaCM,COhkuboCS,CHigashideCTCetal:Di.erentiationCbyCimagingCofCsuperiorCsegmentalCopticChypoplasiaCandCnormal-tensionglaucomawithinferiorvisual.elddefectsonly.JpnJOphthalmolC57:25-33,C20138)YagasakiA,SawadaA,ManabeYetal:ClinicalfeaturesofsuperiorCsegmentalCopticChypoplasia:hospital-basedCstudy.JpnJOphthalmolC63:34-39,C20199)Skriapa-MantaCA,CVenkataramanCAP,COlssonCMCetal:CCharacteristicCdeviationsCofCtheCopticCdiscCandCmaculaCinCopticCnerveChypoplasiaCbasedConCOCT.CActaCOphthalmolC102:922-930,C202410)WuCJH,CLinCCW,CLiuCCHCetal:SuperiorCsegmentalCopticCnervehypoplasia:aCreview.CSurvCOphthalmolC67:1467-1475,C2022C***

VITRA 810を用いたマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術の術後短期成績

2025年6月30日 月曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(6):736.741,2025cVITRA810を用いたマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術の術後短期成績半田壮大塚慎一大塚眼科医院CShort-TermOutcomesofMicropulseTransscleralCyclophotocoagulationUsingtheVITRA810SoHandaandShinichiOtsukaCOtsukaEyeClinicC目的:VITRA810を用いたマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(MP-CPC)の術後短期成績を検討する.対象および方法:対象は大塚眼科医院でCMP-CPCを施行した連続症例で,眼圧,点眼スコア,合併症,毛様体脈絡膜解離の有無について後ろ向きに検討した.結果:症例はC25例C27眼(80.8±8.9歳)であった.術前の平均眼圧はC23.2±7.1mmHgで術後C1週間,1カ月,3カ月でC13.0±6.2CmmHg,15.8±7.1CmmHg,15.5±6.5CmmHgとすべての時点で有意に眼圧下降を認めた.点眼スコアは術前C3.4±1.3で,術後C3カ月後も同様であった.術後合併症は瞳孔散大をC5眼(18.5%),前房炎症をC4眼(14.8%),前房出血をC1眼(3.7%),黄斑浮腫をC1眼(3.7%)で認めたが,著明な視力低下や眼球勞などの重篤な合併症は認めなかった.術後に毛様体脈絡膜解離(CE)をC14眼(51.8%)に認めた.CE(+)群はCCE(.)群と比べ術後C1週間,1カ月で有意な眼圧下降を認めた.結論:VITRA810を用いたCMP-CPCは短期では眼圧下降を認め,重篤な合併症は認めなかった.CEを認めた症例は術後早期ではとくに眼圧が下降する可能性が示唆された.CPurpose:Toinvestigatetheshort-termpostoperativeoutcomesofmicropulsetransscleralcyclophotocoagula-tion(MP-TSCPC)usingCtheCVITRA810(QuantelMedical)laserCphotocoagulator.CSubjectsandMethods:ThesubjectswereconsecutivecasesofMP-TSCPCperformedatOtsukaEyeClinic,andaretrospectiveanalysiswasconductedConCintraocularpressure(IOP),CglaucomaCmedicationCscores,CpostoperativeCcomplications,CandCtheCpres-enceorabsenceofciliochoroidale.usion(CE).Results:Thisstudyinvolved25cases(n=27eyes)(averageage:C80.8±8.9years).MeanIOPbeforesurgerywas23.2±7.1CmmHg,whichsigni.cantlydecreasedto13.0±6.2CmmHg,15.8±7.1CmmHg,and15.5±6.5CmmHgat1-week,1-month,and3-monthspostoperative,respectively.Theglauco-mamedicationscorewas3.4±1.3beforesurgeryandremainedthesameat3-monthspostoperative.Postoperativecomplicationsincludedpupildilationin5eyes(18.5%),anteriorchamberin.ammationin4eyes(14.8%),hyphemainC1eye(3.7%),CandCmacularCedemaCinC1eye(3.7%).CHowever,CthereCwereCnoCsigni.cantCcomplicationsCsuchCasCseverevisualimpairmentorphthisisbulbi.Postsurgery,CEwasobservedin14eyes(51.8%).TheCE(+)groupshowedsigni.cantIOPreductioncomparedtotheCE(.)groupatboth1-weekand1-monthpostoperative.Con-clusion:MP-TSCPCCusingCtheCVitraC810CresultedCinCaCshort-termCreductionCinCIOPCwithCnoCsigni.cantCcomplica-tions,andcaseswithCEsuggestedaparticularlynotabledecreaseinIOPearlyaftersurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(6):736.741,C2025〕Keywords:マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術,VITRA810,毛様体脈絡膜解離.micropulsetransscleralcy-clophotocoagulation(MP-CPC),ciliochoroidale.usion.Cはじめにザー照射で,重度の視力低下や眼球勞などの重篤な合併症が従来から行われていた毛様体光凝固術は連続波によるレー問題となり,その適応はおもに難治性緑内障となっていた.〔別刷請求先〕半田壮:〒870-0852大分県大分市田中町C3-12-69大塚眼科医院Reprintrequests:SoHanda,M.D.,Otsukaeyeclinic,3-12-69Tanaka-machi,Oita-shi,Oita870-0852,JAPANC736(94)2015年に米国食品医療品局(FoodCandCDrugCAdministra-tion:FDA)の認可が下りたCIRIDEX社製の半導体レーザー装置CCYCLOG6とそれに接続する経強膜毛様体光凝固術専用プローブであるマイクロパルスCP3プローブCRev1(2017年.),マイクロパルスCP3プローブCRev2(2020年.)がわが国でも使用されている.マイクロパルス波を使用した毛様体光凝固術(micropulseClasercyclophotocoagulation:MP-CPC)でのレーザー照射はC810Cnmの赤外光を用いることで経強膜的に毛様体への治療が可能で,0.5CmsのCONと1.1CmsのCo.がC1サイクル(dutyCcycle=31.3%)として照射するため,組織の温度障害を抑えることで眼球勞などの重篤な合併症が少なく,現在はその適応の幅が広がりつつある1).2024年からCQuntelMedical社製のCVITRA810がわが国で使用可能となった.VITRA810でのCMP-CPCの照射原理は基本的にはCCYCLOG6と変わらないが,VITRA810のプローブには使用時間の制限がなく,先端はCCYCLOG6のCP3プローブCRev2より細いので,瞼裂の狭い症例などにも比較的容易に施行可能である(図1).現時点で,筆者の知る限りCVITRA810を用いたCMP-CPCの報告は少ない.そこで,筆者はCVITRA810を用いたCMP-CPCを施行した症例の術後短期成績と合併症,術後の毛様体付近の形態変化について検討した.CI対象および方法2024年C3月.2024年C7月に大塚眼科医院でC2名の術者によりCVITRA810を用いたCMP-CPCを施行したC27眼を対象とした.症例の内訳は原発開放隅角緑内障がC7眼,落屑緑内障がC17眼,続発緑内障がC2眼,血管新生緑内障がC1眼であった.本研究は診療録から後ろ向きに検討した.緑内障点眼数の評価については単剤をC1点,配合剤をC2点としてその合計を点眼スコアとした.術後C1週間後,1カ月後,3カ月後の各時点での眼圧,点眼スコア,合併症を,術後C1カ月で視力と角膜内皮細胞密度を評価し,術後C1週間とC1カ月で前眼部光干渉断層計(opti-calCcoherencetomography:OCT)のCCASIA2(トーメーコーポレーション)を使用し,3時,6時,9時,12時の毛様体付近の形態的観察を行った.生存率はCKaplan-Meier分析による生存解析を行い,生存定義を眼圧がC6.21CmmHgまたは術前眼圧からC20%以上の眼圧下降,再手術なし(基準①),眼圧がC6.18CmmHgかつ術前眼圧からC20%以上の眼圧下降,再手術なし(基準②)とした.術前に使用した視野計はCHumphrey自動視野計(CarlCZeissMeditec社)のCSwedishCInteractiveCThresholdingCAlgorithm-standard24-2である.角膜内皮細胞密度の計測にはスペキュラマイクロスコープCE530(ニデック)を用いた.統計解析には術後眼圧および点眼スコアの推移にはCpairedt検定を,群間図1Vitra810を用いたMP-CPCの手術画像プローブの先端が従来のものより細いため,狭瞼裂の症例にも比較的容易に施行できる.の比較にはCWilcoxonの順位和検定を,多変量解析にはロジスティック回帰分析を使用し,p<0.05の場合に有意と判定した.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,大塚眼科医院の倫理委員会の承認を得て行った.レーザー照射前にC2%リドカインにてCTenon.下麻酔を施行し,角膜輪部からC3Cmmでマーキング,3時およびC9時と既存のろ過胞やインプラント部を避けて,術者の判断で出力C2000.2500CmWにて各半球最大C80秒照射した.MP-CPC終了後にC10段階のCVisualAnalogueScale(痛みがまったくなかった場合をC0,耐えられない痛みがあった場合はC10)を用いて,スタッフから患者に聞き取りをして術中の疼痛のスコア化を行った.術後最低C1週間はC0.3%ガチフロキサシン水和物をC1日C4回,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムをC1日C4回継続し,主治医の判断で適宜中止とした.MP-CPCの眼圧下降の効果判定目的で術前後の緑内障点眼の変更は原則として行わなかった.CII結果患者の背景を表1に示す.男性がC13例C15眼,女性がC12例C12眼であった.平均年齢はC80.8歳C±8.9歳,眼内レンズ眼がC24眼,有水晶体眼がC3眼,緑内障手術既往回数は平均C1.0±1.0回,術前の平均CMD(meandeviation)値はC.19.3C±9.8CdBであった.矯正視力(logMAR)は術前がC0.4C±0.5,術後C1カ月でC0.4C±0.5と視力低下は認めなかった.術前の角膜内皮細胞密度はC2,052±702Ccells/mm2,術後C1カ月でC2,040±685Ccells/mm2であり,術前と比較すると角膜内皮細胞密度の有意な減少は認めなかった.術前の平均眼圧はC23.2C±7.1CmmHgで,術後C1週間,1カ月,3カ月の各時点の眼圧はそれぞれC13.0C±6.2CmmHg,C15.8±7.1mmHg,15.5C±6.5CmmHgであり,術前の眼圧と比較するとすべての時点で有意に眼圧下降を認めた(p<0.05)(図2).術後C3カ月での眼圧下降率はC33.2%であった.点眼スコアは術前C3.4C±1.3で術後C1週間,1カ月,3カ月はそれぞれC3.3C±1.3,3.3C±1.3,3.4C±1.3と各時点で術前とほぼ同様であった.術後C3カ月の生存率は基準①(眼圧がC6.21CmmHgまたは術前からC20%以上の眼圧下降,再手術なし)でC77.2%,基準②(眼圧がC6.18CmmHgかつ術前からC20%以上の眼圧下降,再手術なし)でC62.9%であった(図3).患者の術中の疼痛アンケート結果はCVisualCAnalogueCScale3.6±3.3であった.表1症例背景症例数25例27眼年齢C80.8±8.9歳性別(男性/女性)15/12眼術前視力(logMAR)C0.4±0.5術前CMD値(2C4-2)C.19.3±9.8CdB術前眼圧C23.2±7.1CmmHg術前点眼スコアC3.4±1.3術前角膜内皮細胞密度C2,052±702Ccells/mm2眼内レンズ眼/有水晶体眼24/3眼緑内障手術既往回数C1.0±1.0回(mmHg)30術後合併症は瞳孔散大(MP-CPC後に瞳孔径がC1Cmm以上散大したもの)をC5眼(18.5%),前房炎症をC4眼(14.8%),前房出血をC1眼(3.7%),黄斑浮腫をC1眼(3.7%)に認めた.眼球勞などの重篤な合併症は認めなかった.術後の毛様体の形態的変化としてC14眼(51.8%)に毛様体脈絡膜解離(ciliochoroidale.usion:CE)(図4)を認めた.CE(+)群の術前の眼圧はC19.7C±4.3mmHg,術後C1週間,1カ月,3カ月はそれぞれC9.4C±2.7CmmHg,11.8C±4.1CmmHg,C14.7±7.3CmmHgと各時点で術前より有意に眼圧下降を認め(p<0.05),眼圧下降率は術後C1週間でC50.9%,1カ月,3カ月でC38.5%,27.7%であった.CE(C.)群の術前の眼圧はC25.2±7.5mmHg,術後C1週間,1カ月,3カ月はそれぞれC16.9±6.0CmmHg,20.1C±7.0CmmHg,16.3C±6.2mmHgと各時点で術前より有意に眼圧下降を認め(p<0.05),眼圧下降率は術後C1週間でC31.8%,1カ月,3カ月でC18.0%,32.2%であった.CE(+)群とCCE(C.)群では術後C1週間とC1カ月の眼圧と眼圧下降率に有意差を認めた(p<0.05)(図5).CEは術後C1カ月で全例消失しており,その後はCCE(+)群の眼圧は上昇傾向であった.CEの有無と性別,年齢,病型,手術既往,術前眼圧,術前視野に統計学的な関連は認めなかった.CIII考按現時点でCVITRA810を用いたCMP-CPCの報告は筆者の知る限り少なく,今回は従来のCYCLOG6を用いたMP-CPCの既報と比較した.全症例での眼圧は術前C23.2C±7.1mmHg,術後C3カ月で2523.220**1515.815.513.01050術前術後1週間術後1カ月術後3カ月n=27n=27n=27n=16観察期間(*p<0.05Pairedt検定)眼圧図2全症例の眼圧経過眼圧は各時点で術前より有意な下降を得られた.(p<0.05pairedt検定)基準①基準②100100生存率(%)80生存率(%)60402020012観察期間(カ月)3Kaplan-Meier曲線012観察期間(カ月)3Kaplan-Meier曲線図3生存曲線Kaplan-Meier分析による生存率.基準①は生存定義を眼圧がC6.21CmmHgまたは術前眼圧からC20%以上の眼圧下降,再手術なし,基準②は眼圧がC6.18CmmHgかつ術前眼圧からC20%以上の眼圧下降,再手術なしとした15.5±6.5CmmHgと有意に低下しており,眼圧下降率はC33.2%であった.CYCLOG6を用いたCMP-CPCの眼圧下降率は30.45%ほどの報告が多くC2.5),本研究も同様の結果であった.本研究の対象のうち一番多かった病型は落屑緑内障(63%)で,術前眼圧がC22.9C±6.9CmmHg,点眼スコアはC3.5C±1.2,MD値はC.18.6±10.6CdBと治療抵抗性のある症例が多かった.落屑緑内障と他の病型の眼圧経過に統計学的な有意差は認めなかった.本研究の生存率は基準①でC72.2%であった.本研究と生存定義が同じ既報2.4)ではC51.4.79.3%の症例がこの基準を満たし,本研究も同様の結果であった.基準②の生存率は62.9%であった.同様の生存定義でCTekeliらは術後C12カ月の生存率をC66.6%と報告している6).本研究は術後C3カ月の生存率であり,今後も経過をみて検討が必要と考える.本研究で術中に感じた患者の疼痛はC10段階でC3.6C±3.3であった.MP-CPCは疼痛を伴う手技であるので,施行前の麻酔は十分に行うべきと考える.球後麻酔やCTenon.下麻酔は術後に一時的な視力低下を生じることがあるので,外来で唯一眼にCMP-CPCを施行する場合は注意が必要である.MP-CPCの疼痛に関する報告は筆者の知る限りなく,他の既報との比較は行えなかった.術後合併症として最多であったのは瞳孔散大C5眼(18.5%)であった.MP-CPCの術後合併症として瞳孔散大の報告が散見される.瞳孔散大の原因として短後毛様体神経の末端枝の損傷が考えられており,ChenらはC3.3%,神谷らはC18.2%,RadhakrishnanらはC11%で瞳孔散大を認め,とくにアジア人(オッズ比:13.07)や有水晶体眼(オッズ比:3.12)図4毛様体脈絡膜解離毛様体脈絡膜解離(ciliochoroidale.usion:CE,.)はC51.8%の症例に認めた.では術後散瞳の頻度が高いと報告している3,7,8).瞳孔散大は徐々に自然軽快するものが多いが,なかには羞明などの理由でピロカルピン点眼を必要とする症例もあるので,MP-CPC施行前に患者に十分な説明が必要と考える.本研究では瞳孔散大による羞明の訴えでピロカルピン点眼を使用した症例は4眼であった.1カ月ほどでピロカルピン点眼を中止し,羞明は改善を認めている.全例で瞳孔径はまだ完全に改善をしていないが,軽快傾向である.術後の前房炎症はもっとも頻度の高い合併症といわれており,数.25%程の報告が多い3,9,10).本研究でもC14.8%に前房炎症を認めており,術後の抗炎症点眼の使用は推奨される.前房出血が生じた症例は,眼内からの線維柱帯切開を施行した既往があり,MP-CPC後に眼圧が低下したために逆流性の出血が生じたと考えられた.黄斑浮腫は決して頻度の高い合併症ではないが,数.5%ほど生じるといわれている10,11).本研究で生じた黄斑浮腫は既往にぶどう膜炎がある症例で,術後に炎症が惹起され黄斑浮腫を生じたと考えられ,トリアムシノロンアセトニド(mmHg)3025.225n=1316.92015109.45n=1420.1n=1316.3眼圧0術前術後1週間術後1カ月術後3カ月観察期間(*p<0.05Wilcoxonの順位和検定)図5CE(+)群とCE(.)群の眼圧経過CE(+)群もCCE(C.)群も各時点で術前より有意な下降を得られた.(p<0.05Cpairedt検定).CE(+)群は術後C1週間,1カ月においてCCE(C.)群より有意に眼圧下降を認めた.(p<0.05Wilcoxonの順位和検定).Tenon.下注射にて速やかに改善した.重度の視力低下や眼球勞などの重篤な合併症は認めなかった.本研究では術後C1週間とC1カ月でCCASIA2を用いて毛様体付近の観察を行った.術後C1週間の時点でCCEをC14眼(51.8%)に認めた.CE(+)群のほうがCCE(C.)群より術後C1週間とC1カ月で有意な眼圧下降を認め,同様に眼圧下降率もCCE(+)群のほうほうが有意に高かった.CEは全例で術後C1カ月には消失し,術後C3カ月ではCCE(+)群の眼圧はやや上昇傾向であった.MP-CPCの眼圧下降機序は,毛様体色素上皮および無色素上皮に閾値以下の細胞損傷を与え,房水産生を抑制する12),毛様体筋収縮に伴うピロカルピン様の効果による線維柱帯経路からの房水排出を促進する13),毛様体扁平部付近の細胞外マトリックスのリモデリングによるぶどう膜強膜経路からの房水排出を促進する14),などの複数の要因が作用していると考えられている.これは仮説の範疇ではあるが,CEがぶどう膜強膜経路からの房水流出増加を示唆している可能性が考えられる.ChansangpetchらはCMP-CPC後に前眼部COCTにてCCE(+)群は,CE(C.)群よりも術後C1カ月で有意に眼圧下降を認めたと本研究同様の報告をしている15).先述の複合的な要素で眼圧が低下した結果からCCEを認めているのか,ぶどう膜強膜経路からの房水排出の増加によりCCEを認めているのか,また,CEによって房水産生の抑制が働きさらなる眼圧下降をしているのかなど,CEの原因や作用などの正確な機序は現状では不明であるが,CE(+)群が有意に眼圧下降していたこと,そしてCEが消失した後に眼圧が上昇傾向であることを踏まえると,CEは術後早期では何かしらの眼圧変動に関与していると考えられる.以上より,VITRA810を使用したCMP-CPCは従来から用いられていたCCYCLOG6のものと,眼圧下降効果や術後合併症はほぼ同等であると考えられる.術後にCCEを認めた症例は術後早期ではより高い眼圧下降効果が期待できる.ただし,本研究は観察期間が短く症例数も少ないため,今後も症例数を増やし長期的に検討する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TanAM,ChockalingamM,AquinoMCetal:Micropulsetransscleraldiodelasercyclophotocoagulationinthetreat-mentCofCrefractoryCglaucoma.CClinCExpCOphthalmolC38:C266-272,C20102)ValleCIT,CBazarraCSP,CTaboasCMFCetal:Medium-termCOutcomesCofCMicropulseCTransscleralCCyclophotocoagula-tioninRefractoryGlaucoma.JCurrGlaucomaPractC16:C91-95,C20223)ChenHS,YehPH,YehCTetal:MicropulsetransscleralcyclophotocoagulationCinCaCTaiwanesepopulation:2-yearCclinicalCoutcomesCandCprognosticCfactors.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC260:1265-1273,C20224)VigCN.CAmeenCS,CBloomCPCetal:MicropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:initialCresultsCusingCaCreducedCenergyprotocolinrefractoryglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC258:1073-1079,C20205)YelenskiyA,GilletteTB,ArosemenaAetal:Patientout-comesCfollowingCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagu-lation:intermediate-termCresults.CJCGlaucomaC27:920-925,C20186)TekeliCO,CKoseHC:OutcomesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCpseudoexfoliationglaucoma,andsecondaryglaucoma.EurJOphthalmolC31:1113-1121,C20217)神谷由紀,神谷隆行,木ノ内玲子ほか:マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術の短期治療成績.あたらしい眼科C40:C1103-1107,C20238)RadhakrishnanS,WanJ,TranBetal:Micropulsecyclo-photocoagulation:aCmulticenterCstudyCofCe.cacy,Csafety,CandCfactorsCassociatedCwithCincreasedCriskCofCcomplica-tions.JGlaucomaC29:1126-1131,C20209)IssiakaCM,CZrikemCK,CMchachiCACetal:MicropulseCdiodeClaserCtherapyCinCrefractoryCglaucoma.CAdvCOphthalmolCPractResC3:23-28,C202210)WilliamsCAL,CMosterCMR,CRahmatnejadCKCetal:ClinicalCe.cacyCandCsafetyCpro.leCofCmicropulseCtransscleralCcycrophotocoagulationinadvancedglaucoma.JGlaucomaC27:445-449,C201811)KeladaM,NormandoEM,CordeiroFMetal:CyclodiodevsCmicropulseCtransscleralClaserCtreatment.Eye(Lond)C38:1477-1484,C202412)DesmettreTJ,MordonSR,BuzawaDMetal:Micropulseandcontinuouswavedioderetinalphotocoagulation:visi-bleCandCsubvisibleClesionCparameters.CBrCJCOphthalmolC90:709-712,C200613)SanchezCFG,CPerirano-BonomiCJC,CGrippoTM:Micro-pulsetransscleralcyclophotocoagulation:ahypothesisfortheCidealCparameters.CMedCHypothesisCDiscovCInnovCOph-tahlmolC7:94-100,C201814)BaracR,VuzitasM,BaltaF:Choroidalthicknessincreaseaftermicropulsetransscleralcyclophotocoagulation.RomJOphthalmolC62:144-148,C201815)ChansangpetchCS,CTaechajongjintanaCN,CRatanawong-phaibulKetal:Ciliochoroidale.usionanditsassociationwithCtheCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralClaserCthera-pyCinglaucomaCpatiants:aCpilotCstudy.CSciCRepC12:C16403,C2022C***

緑内障患者における視野障害部位によるアイフレイル自己チェック

2025年6月30日 月曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(6):731.735,2025c緑内障患者における視野障害部位によるアイフレイル自己チェック井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*2富田剛司*1,3石田恭子*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院CSelf-CheckofEyeFrailtybyAreasofVisualFieldImpairmentinGlaucomaPatientsKenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),GojiTomita1,3)CandKyokoIshida3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:緑内障患者の視野障害部位の違いによるアイフレイル状況を検討した.方法:原発開放隅角緑内障患者で両眼に上方のみ(上方群)あるいは上下両方(上下群)に視野障害を有するC141例を対象とした.10項目のアイフレイル自己チェックを施行し,2群で比較した.結果:症例は上方群C108例,上下群C33例だった.チェック数は上方群C3.5C±2.2個,上下群C4.3C±2.3個で同等だった(p=0.07).チェック項目は上方群では「①目が疲れやすくなった」60例,「⑥まぶしく感じやすい」57例,上下群では「⑥まぶしく感じやすい」22例,「⑤眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった」21例が多かった.各項目の発現頻度の比較では,「⑨段差や階段で危ないと感じたことがある」のみが上下群(60.6%)で,上方群(38.9%)より有意に多かった(p<0.05).結論:緑内障患者では下方視野が段差や階段歩行に重要である.CPurpose:Toinvestigateeyefrailtyinglaucomapatientswithdi.erentsitesofvisual.eld(VF)impairment.SubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC141CpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCbilateralCVFCdefectsinupper-areaonly(UpperGroup[UG])orboththeupperandlowerarea(Upper/LowerGroup[ULG])C.A10-itemeyefrailtyself-checkwasadministered,withthe.ndingscomparedbetweenthetwogroups.Results:CTherewere108CUGand33CULGcases.Themeannumberofcheckswas3.5±2.2inUGand4.3±2.3inULG,whichwassimilar(p=0.07)C.COfCtheC108CUGCcases,C60ChadCeasilyCfatiguedCeyesCandC57ChadCsensitivityCtoCglare.COfCtheC33CULGCcases,C22ChadCsensitivityCtoCglareCandC21ChadCpoorCvisionCevenCwithCglasses.CComparingCtheCfrequencyCofCoccurrenceCofCtheCspeci.cCitems,ConlyCfeelingCunsafeConCstepsCandCstairsCwasCsigni.cantlyCmoreCfrequentCinCULG(60.6%)thaninUG(38.9%)(p<0.05)C.Conclusion:InCglaucomaCpatients,CgoodClowerCVFCfunctionCisCimportantCforstepandstairuse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(6):731.735,C2025〕Keywords:アイフレイル,緑内障,視野障害,アイフレイル自己チェック,下方視野.eyefrail,glaucoma,visual.elddisorders,eyefrailchecklist,lowervisual.eld.Cはじめにアイフレイルは日本眼科啓発会議がC2021年に提唱した概念で,「加齢に伴って眼の脆弱性が増加することに,さまざまな外的,内的要因が加わることによって視機能が低下した状態,また,そのリスクが高い状態」と定義されている1).アイフレイルを設定した目的は,時に感じる見にくさや眼の不快感を単に「歳のせい」にせず,自身の視機能における問題点の早期発見を促すこと,また,眼の健康についての意義を広く持続的に向上させることである.そして,アイフレイル啓発用のツールとしてセルフチェックリスト(図1,以下,アイフレイル自己チェック)が作成された2).アイフレイル自己チェックの質問はC10項目で構成されており,二つ以上該当した人はアイフレイルの可能性があると記載されている.各チェック項目の患者別・疾患別の出現頻〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(89)C731図1アイフレイルチェックリスト(文献C2より引用)度については数多くの報告がある3.8).緑内障患者を対象とした報告では,視野障害早期群に比べて後期群でアイフレイル自己チェックの平均チェック数が有意に多かった3).緑内障患者は,視野障害の進行によりCQOL(生活の質)が低下すると考えられる.しかし,視野障害部位によるアイフレイル状況の報告は過去にない.そこで今回は,原発開放隅角緑内障患者のうち以下に示す患者を対象として10項目のアイフレイル自己チェックを施行し,その結果を比較した.CI対象2023年C9月.2024年C5月に井上眼科病院を受診した原発開放隅角緑内障患者で,両眼に上方のみ(以下,上方群),あるいは上下両方(以下,上下群)に視野障害を有するC141例を対象とした.視野障害の有無の判定は,Anderson-Patella9)の基準を用いた.パターン偏差確率プロットで,最周辺部の検査点を除いてCp<5%の点がC3個以上隣接して存在し,かつ,そのうちC1点がCp<1%の場合を視野障害ありとした.視力低下によるアイフレイル自己チェックへの影響を排除するために,悪いほうの眼の矯正視力がC0.7以下の症例は除外し,上方群と上下群の患者背景(年齢,性別,矯正視力,視野障害)を比較した.矯正視力はよいほうの眼(log-MAR)を,視野障害はCHumphrey視野中心C30-2プログラムCSITA-StandardのCMeanDeviation(以下,MD)値のよいほうの眼を用いた.10項目のアイフレイル自己チェックを外来受診時に施行した.上方群・上下群で平均チェック数,チェック数C2個以上の症例割合,各項目のチェック割合について調査・比較した.上方群・上下群の年齢,矯正視力,視野CMD値,平均チェック数の比較はCMann-WhitneyのCU検定を用いて解析した.性別(男女比),チェック数C2個以上の症例の割合,項目ごとのチェック割合の比較はCFisherの直接法を用いて解析した.統計学的検討では有意水準をCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究の趣旨と内容を患者に開示し,患者の同意を文書で得た.CII結果対象症例は上方群C108例,上下群C33例だった.各群の患表1上方群,上下群の患者背景項目上方群C108例上下群C33例Cp年齢(歳)C66.2±12.0(3C7.C88)C66.4±10.3(4C3.C86)C0.985性別(男:女)42:6C616:1C7C0.419よいほうの眼の矯正視力(logMAR)C.0.08±0.05(C0.20.C.0.10)C.0.08±0.05(C0.10.C.0.10)C0.593よいほうの眼の視野MD値(dB)C.5.34±3.49(1C.9.C.14.4)C.11.46±4.43(.2.79.C.20.55)**<C0.0001**p<0.0001(Mann-whitnerのCu検定)表2アイフレイルチェックリストのチェック数上方群上下群チェック数チェックした症例%チェックした症例%C0C76.5%C00.0%C1C1110.2%C412.1%C2C1816.7%C515.2%C3C2220.4%C412.1%C4C1917.6%C515.2%C5C1413.0%C412.1%C6C76.5%C412.1%C7C43.7%C39.1%C8C43.7%C412.1%C9C00.0%C00.0%C10C21.9%C00.0%表3アイフレイルチェックリストの項目別チェック割合上方群上下群項目チェックチェックした症例%した症例%CpC①目が疲れやすくなったC6055.6%C1957.6%>0.999②夕方になると見にくくなることがあるC4945.4%C1957.6%0.337③新聞や本を長時間見ることが少なくなったC5450.0%C1545.5%0.444④食事の時にテーブルを汚すことがあるC109.3%C412.1%0.750⑤眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなったC5349.1%C2163.6%0.250⑥まぶしく感じやすいC5752.8%C2266.7%0.442⑦まばたきしないと見えないことがあるC3633.3%C1236.4%0.840⑧まっすぐの線が波打って見えることがあるC1110.2%C50.0%0.003⑨段差や階段で危ないと感じたことがあるC4238.9%C2060.6%*0.044⑩信号や道路標識を見落としたことがあるC98.3%C618.2%0.206*p<0.05者背景は,年齢,性別,よいほうの眼の矯正視力は同等だっで同等だった(p=0.07)(表2).チェック数C2個以上の症例た(表1).よいほうの眼の視野CMD値は,上方群が上下群には上方群C90例(83.3%)と上下群C29例(87.9%)で同等だっ比べ有意に良好だった(p<0.0001).た(p=0.08).平均チェック数は上方群C3.5C±2.2個と上下群C4.3C±2.3個チェック項目は,上方群では「①目が疲れやすくなった」60例(55.6%),⑥「まぶしく感じやすい」57例(52.8%),「③新聞・本を長時間見ることが少なくなった」54例(50.0%)の順に多かった(表3).上下群では「⑥まぶしく感じやすい」22例(66.7%),「⑤眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった」21例(63.6%),「⑨段差や階段で危ないと感じたことがある」20例(60.6%)の順に多かった.各項目の発現頻度を比較すると「⑨段差や階段で危ないと感じたことがある」のみが上下群(60.6%)で上方群(38.9%)よりも有意に多かった(p<0.05).CIII考按今回のアイフレイル自己チェックでの患者のチェック数は,上方群(よいほうの眼の視野CMD値C.5.34±3.49CdB)でC3.5±2.2個,上下群(よいほうの眼の視野CMD値C.11.46±4.43CdB)でC4.3C±2.3個だった.宮本らの報告3)でのチェック数は,早期視野群(よいほうの眼の視野CMD値C.0.21±1.28dB)でC2.7C±1.7個,後期視野群(よいほうの眼の視野CMD値.5.56±5.03CdB)でC3.8C±2.0個だった.よいほうの眼の視野CMD値が悪化するほどチェック数が増加すると考えられる.同様に,チェック数がC2個以上の患者の割合は今回の上方群C83.3%,上下群C87.9%,宮本ら3)の早期視野群C78.8%,後期視野群C82.8%でほぼ同等の結果だった.緑内障では初期から,また,視野障害が上方のみにあるうちからアイフレイル状況に陥ることが判明した.項目別では,今回の上方群では「①目が疲れやすくなった」(55.6%)が多く,宮本らの報告3)の全症例でも「①目が疲れやすくなった」(59.8%)が最多だった.また,今回は「⑥まぶしく感じやすい」(52.8%),「③新聞や本を長時間見ることが少なくなった」(50.0%)の順に多く,これらの項目は宮本らの報告3)でもそれぞれC42.3%,47.4%と多かった.上下に及ぶ視野障害を有する今回の上下群では,「⑥まぶしく感じやすい」(66.7%),「⑤眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった」(63.6%),「⑨段差や階段で危ないと感じたことがある」(60.6%)の順に多く,宮本らの報告3)でチェックされた項目と比較すると,⑥以外は異なっていた.以上をまとめると,緑内障では初期には眼が疲れやすくなり,まぶしく感じることが多くなる可能性があると考えられる.白内障と羞明には関連があるC.アイフレイル自己チェックの「⑥まぶしく感じやすい」は白内障でも発生しやすいことが判明している8).筆者らが調査した白内障手術前の患者のアイフレイル自己チェックでは「⑥まぶしく感じやすい」がもっとも多く,79.2%(38例/48例)だった8).今回は,白内障を有していても矯正視力がC0.7以下の症例は除外したため,白内障の重症例は対象に含まれていない.しかし,白内障が軽度であっても羞明を感じる人もいるため,以下に白内障の有無による羞明の影響を検討した.今回の対象で片眼でも白内障を有していた症例は,上方群C50.0%(54例/108例),上下群C54.5%(18例/33例)だった.上方群と上下群の症例割合は同等だった(p=0.694).白内障を有していた症例のうち⑥まぶしく感じやすいをチェックした症例は上方群51.9%(28例/54例),上下群C72.2%(13例/18例)で,上方群と上下群の症例割合は同等だった(p=0.173).一方,白内障を有していない症例(水晶体が鮮明あるいは偽水晶体眼)のうち⑥まぶしく感じやすいをチェックした症例は上方群C57.4%(31例/54例),上下群C69.2%(9例/13例)で,上方群と上下群の症例割合は同等だった(p=0.538).そのため「⑥まぶしく感じやすい」は,今回の症例では白内障の有無による上方群と上下群の差に影響は及ぼさなかったと考えた.今回は「⑨段差や階段で危ないと感じたことがある」のみが上下群と上方群でチェックした患者数に差があり,前者が後者に比べて有意にチェックした症例が多かった.この⑨の項目を放置すると転倒につながると考える.Blackらは緑内障患者における転倒の危険因子の解析を行い,下方の視野障害が重篤化するほど転倒リスクが上昇したと報告した10).Yukiらは下方周辺視野障害を有する女性緑内障患者は転倒に伴い怪我をしやすい可能性があると報告した11).また,転倒に至らなくても,転倒恐怖感が出現すると考える.Adachiらは転倒恐怖感発症のリスク要因を検討したところ,下方周辺視野障害を有する緑内障患者のリスクが高かったと報告した12).今回の結果とこれらの報告10.12)から,緑内障患者では,下方視野が段差や階段歩行には重要で,下方視野障害を有する緑内障患者ではとくに転倒に注意が必要である.今回の研究の問題点として,上下群では視力障害を有さず上下に視野障害を有する症例を対象としたため症例数が少なく,上下群と上方群の対象者数が異なった.また,上下群と上方群だけでなく下方群も対象としたほうがより詳細が判明した可能性があるが,今回は実現できなかった.さらにチェック項目の「⑨段差や階段で危ないと感じたことがある」のみで上下群と上方群の間にチェックした患者の割合に有意差があった.段差や階段の歩行には視野だけではなく,筋力や認知能力なども関与していると考えられるが,それらの影響を考慮することはできなかった.おわりに今回は,両眼の上方あるいは上下に視野障害を有する原発開放隅角緑内障症例でアイフレイル自己チェックを施行した.平均チェック数とチェック数C2個以上の症例の割合に差はなかった.しかし,緑内障では初期から,また視野障害が上方のみにあるうちからアイフレイル状況に陥ることがわかった.また,チェック項目の「⑨段差や階段で危ないと感じたことがある」が上下群で上方群よりも有意に多く,下方視野が段差や階段歩行に重要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)辻川明孝:「アイフレイル」対策における眼科医の役割C.日本の眼科92:957-958,C20212)アイフレイル日本眼科啓発会議:アイフレイル啓発公式サイトChttps://www.eye-frail.jp/3)宮本大輝,市村美香,落合峻ほか:広義原発開放隅角緑内障患者に対するアイフレイルチェックリストの有用性の検討.眼科65:571-578,C20234)ItokazuCM,CIshizukaCM,CUchikawaCYCetal:RelationshipCbetweenCeyeCfrailtyCandCphysical,Csocial,CandCpsychologi-cal/cognitiveCweaknessesCamongCcommunity-dwellingColderadultsinJapan.IntJEnvironResPublicHealth19:C13011,C20225)井上賢治,天野史郎,徳田芳浩ほか:初診患者のアイフレイル調査.臨眼77:662-668,C20236)藤嶋さくら,井上賢治,天野史郎ほか:高齢患者のアイフレイル調査.臨眼77:373-378,C20237)山田昌和,平塚義宗,鹿野由利子ほか:Web調査によるアイフレイルチェックリストの検証.日眼会誌C128:466-472,C20248)井上賢治,砂川広海,徳田芳浩ほか:白内障手術によるセルフチェックリストの改善効果.臨眼78:380-385,C20249)AndersonCDR,CPatellaVM:ComparisonCofCtheCnormal,CpreperimetricCglaucoma,CandCglaucomatousCeyesCwithCupper-hemi.elddefectsusingSD-OCT.AutomatedStaticPerimetry2ndedtion,p121-190,Mosby,St.Louis,199910)BlackAA,WoodJM,Lovie-KichinJEetal:Inferior.eldlossCincreasesCrateCofCfallsCinColderCadultsCwithCglaucoma.COptomVisSciC88:1275-1282,C201111)YukiCK,CAsaokaCR,CTubotaCKCetal:InvestigatingCtheCin.uenceCofCvisualCfunctionCandCsystemicCriskCfactorsConCfallsCandCinjuriousCfallsCinCglaucomaCusingCtheCstructuralCequationmodeling.PLosOneC10:e0129316,C201512)AdachiS,YukiK,Awano-TanabeSetal:Factorsassoci-atedwithdevelopingafearoffallinginsubjectswithpri-maryCopen-angleCglaucoma.CBMCCOphthalmolC18:39,C2018C***

基礎研究コラム:97.網膜色素変性と炎症

2025年6月30日 月曜日

網膜色素変性と炎症はじめに遺伝性網膜ジストロフィに関する研究と治療開発は,近年大きな進展を遂げています.これまでに多数の原因遺伝子が同定されており,それに基づく遺伝子治療の実用化も進んでいます.しかし,現在のところ,遺伝子治療の適応となる疾患は限定的であり,多くの患者では有効な治療法が存在しないのが現状です.このような背景の中で,網膜変性に共通する病態に注目し,新たな治療アプローチを模索することが求められています.網膜色素変性と炎症網膜色素変性症(retinitispigmentosa:RP)は遺伝性網膜ジストロフィの代表疾患です.RPには網膜における慢性炎症が関与しており,病態進行における重要な要因と考えられています1).筆者のグループでは,RP患者の末梢血中において炎症性単球が増加していること,さらにCRPモデルマウスの網膜組織において単球由来マクロファージが蓄積しており,錐体細胞を障害することを確認しました(図1).このような炎症性細胞の活性化や蓄積は,RP患者の中心視機能低下に関与している可能性があります.さらに,スタチンのナノ粒子製剤を用いた治療法の可能性について検討を行いました.スタチンは,抗炎症作用をもつ薬剤として知られており,ナノ粒子化により溶解性と抗炎症作用の向上が期待され遺伝子異常RHO,PDE6B,EYS,RP1,etc…杆体細胞死RP共通病態神経炎症・網膜微小環境の変化炎症性単球マクロファージマイクログリア促進錐体細胞死抑制(中心視機能↓)図1網膜色素変性症の免疫細胞動態舩津淳九州大学大学院医学研究院眼科学分野ます.動物モデルを用いた実験の結果,スタチンナノ粒子製剤の静脈内投与によって単球/マクロファージの活性が抑制され,網膜変性の進行が大きく遅延することがわかりました(図2)2).現在,臨床応用に向けてトランスレーショナルリサーチを行っています.今後の展望炎症などの共通病態を標的とした治療法を実現することで,より多くのCRP患者に対して治療を提供できる可能性があります.遺伝子診断の結果に基づき,適応があれば個別化された遺伝子治療を行い,それがむずかしい場合にも共通病態に対する治療を行うことで,RP患者の予後が大きく改善する可能性があります.今後の研究開発の進展により,遺伝性網膜ジストロフィに対してよりアクティブな眼科医療が行える未来を願います.文献1)ZhaoL,ZabelMK,WangXetal:MicroglialphagocytosisofClivingCphotoreceptorsCcontributesCtoCinheritedCretinalCdegeneration.EMBOMolMedC7:1179-1197,C20152)FunatsuCJ,CMurakamiCY,CShimokawaCSCetal:CirculatingCin.ammatoryCmonocytesCopposeCmicrogliaCandCcontributeCtoconecelldeathinretinitispigmentosa.PNASNexus1:Cpgac003,C2022遺伝子異常RHO,PDE6B,EYS,RP1,etc…杆体細胞死RP共通病態神経炎症・網膜微小環境の変化抑制治療炎症性単球マクロファージマイクログリア錐体細胞死↓抑制(中心視機能→)図2網膜色素変性症共通病態に対する治療(83)あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025C7250910-1810/25/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:265.イヌ眼周辺部網膜にみられたblastocyst様構造体(研究編)

2025年6月30日 月曜日

265イヌ眼周辺部網膜にみられたblastocyst様構造体(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに筆者らはヒトにおける網膜周辺部.胞様変性の病態を解明する目的で,同変性が好発するとされるイヌ眼を用いて周辺部網膜の組織学的検討を行った.その結果,網膜の発生分化に関連すると考えられる興味深い所見が得られ,報告したことがある1).C●イヌ眼周辺部網膜におけるblastocyst様構造体3歳齢のビーグル犬の眼球を摘出し,実体顕微鏡下で周辺部網膜の.胞様病変を同定し,同部位の組織切片を作製した.その結果,周辺部網膜には通常の網膜.胞様変性とは異なり,大小C2種類の孤立性.胞が認められた.興味深いことに,小型.胞腔内には細胞質の乏しい球状の小型細胞からなる細胞塊が観察され,大型.胞腔内には多くの崩壊したような細胞がみられた.また,この小型.胞は形態的に卵割腔形成後から着床前の胚形成初期に形成されるblastocyst(胚盤胞)2)に酷似していた.そこで神経幹細胞のマーカーであるネスチン,多能性幹細胞のマーカーであるCOct4,Sox2,Nanog,栄養外胚葉のマーカーであるCCdx2,網膜色素上皮細胞のマーカーであるCRPE65などの抗体を用いて免疫染色を行った.その結果,.胞壁および内部細胞塊にネスチン,Oct4,Nanog,Sox2,Cdx2などの陽性部位がみられた(図1).また,.胞周囲にはCRPE65の陽性の線維芽細胞様の細胞がみられた.C●イヌ眼周辺部網膜孤立.胞とblastocystの類似性以上の結果は,今回認められた小型.胞とCblastocystの類似性を示している.また,小型.胞にネスチンの発現を認め,.胞周囲組織にはCRPE65の陽性所見が認められたことより,この構造体は網膜色素上皮細胞が遊走してニッチを形成し,未分化な網膜細胞が初期化して全能性(totipotency)を獲得して形成された可能性が考えられた.近年,iPS細胞などの多能性幹細胞からCblasto-cyst様構造体を作製したとする報告がみられる3)が,生(81)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1ネスチンの免疫染色結果小型.胞(a)では,おもに.胞腔内の細胞塊と.胞壁が細胞塊に接する部位に染色所見がみられた.一方,大型.胞(b)では染色性が弱く,.胞腔内の細胞は崩壊したような形状を呈していた.(文献C1より引用)図2Oct4の免疫染色結果ネスチン同様,小型.胞腔内の細胞塊と.胞壁が細胞塊に接する部位に強い染色性を認めたが(a),大型.胞では染色性が弱かった(b).(文献C1より引用)図3RPE65の免疫染色結果小型.胞(a)および大型.胞(b)とも,おもに.胞外の硝子体側組織で染色性がみられた.(文献C1より引用)体内でもこのような構造体がみつかったという報告は初めてと思われる.今後,網膜再生医療の進歩に貢献できる可能性が期待できる.文献1)IkedaCT,CJinCD,CTakaiCSCetal:Blastocyst-likeCstructuresCintheperipheralretinaofyoungadultbeagles.CIntJMolSciC25:6045,C20242)WatsonAJ:TheCcellCbiologyCofCblastocystCdevelopment.CMolReprodDevC33:492-504,C19923)KimeC,KiyonariH,OhtsukaSetal:Induced2Cexpres-sionCandCimplantation-competentCblastocyst-likeCcystsCfromCprimedCpluripotentCstemCcells.CStemCCellCRepC13:C485-498,C2019あたらしい眼科Vol.42,No.6,2025723