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琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1244.1248,2023c琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰愛知高明今永直也北村優佳山内遵秀古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CClinicalOutcomesofPediatricTraumaticMacularHoleCasesSeenattheUniversityoftheRyukyusHospitalTakaakiAichi,NaoyaImanaga,YukaKitamura,YukihideYamauchiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰を報告する.対象および方法:対象はC2000.2020年に当科を受診したC18歳以下の外傷性黄斑円孔C17例C17眼(男性C16例,女性C1例,平均年齢C12.5±3.1歳).初診時視力,最終視力,光干渉断層計(OCT)による黄斑円孔の形態を後ろ向きに検討した.結果:自然閉鎖例がC7眼,硝子体手術症例がC10眼で,最終的に全例で円孔閉鎖した.平均ClogMAR視力は初診時C1.06±0.30から最終受診時C0.33±0.33と有意に改善した(p<0.01).初診時からC1カ月時点で最小円孔径や円孔底径が有意に縮小している症例では経過観察が選択されていた(291.6Cμmvs.83.6Cμm,p<0.05,449.1CμmCvs.189.3Cμm,p<0.05).一方,手術症例は初診時から1カ月時点で最小円孔径が有意に拡大していた(363.6CμmCvs.552.9Cμm,p<0.05).結論:円孔径が縮小している症例には経過観察が選択され,縮小を認めない症例には手術が選択されていた.最終的に全例で円孔閉鎖し,視力の改善が得られていた.CPurpose:Toreporttheclinicaloutcomesofpediatrictraumaticmacularhole(MH)casesseenattheUniver-sityCofCtheCRyukyusCHospital.CSubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCobservationalCcaseCseriesCstudyCinvolvedC17eyesof17traumaticMHcases(16malesand1female,18yearsoldoryounger[meanage:12.5±3.1years])CseenCbetweenC2000CandC2020.CInCallCcases,Cbest-correctedCvisualacuity(BCVA)atCbothCinitialCandC.nalCvisitCandCopticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCwereCevaluated.CResults:InCallC17Ceyes,CtheCMHclosed(spontaneousCclo-sure:n=7eyes;closureCpostCvitrectomysurgery:n=10eyes).CMeanBCVA(logMAR)signi.cantlyCimprovedCfrom1.06±0.30atbaselineto0.33±0.33at.nalfollow-up(p<0.01).Inthe7spontaneousMHclosurecases,themeanCMHCminimumCdiameterCandCtheCmeanCMHCbasalCdiameter,Crespectively,CatC1CmonthCwasCsigni.cantlyCdecreasedcomparedwiththoseattheinitialvisit(p<0.05).Inthe10eyesthatunderwentsurgery,themeanMHminimumdiameterat1monthwassigni.cantlyincreasedcomparedwiththatattheinitialvisit(p<0.05).Conclu-sions:InpediatrictraumaticMHcases,theeyeswithdecreasingMHdiametersat1monthaftertheinitialvisittendedCtoChaveCspontaneousCMHCclosure,CwhileCthoseCwithCincreasingCMHCdiametersCtendedCtoCrequireCsurgicalCtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(9):1244.1248,C2023〕Keywords:外傷性黄斑円孔,小児,硝子体手術,光干渉断層計,黄斑円孔径.traumaticmacularhole,pediatric,parsplanavitrectomy,opticalcoherencetomography,macularholediameter.Cはじめに外傷性黄斑円孔は,眼外傷によって黄斑に網膜全層または分層円孔を生じたものである1).特発性黄斑円孔はC60歳以上の女性に多くみられるが,外傷性黄斑円孔は若年者に多く発症し,小児での発症報告も少なくない2,3).小児の外傷性黄斑円孔は成人と同様に,自然閉鎖が認められる場合があり,かつ小児は成人よりも自然閉鎖率が高く1),硝子体手術のリスクが高いため,受傷後しばらくは経過観察されることが多い.一方で,過去の報告では受傷から硝子体手術までの期間が長かった症例は,早期に手術を受けた症例よりも円孔〔別刷請求先〕愛知高明:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:TakaakiAichi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC1244(122)が閉鎖しにくい可能性が指摘されており4),過度の経過観察は恒久的な視機能低下につながる可能性がある.このように,現状では小児の外傷性黄斑円孔の手術時期については適切な手術時期は定まっていない3).また,視力予後についても網膜.離の合併,網膜震盪,脈絡膜破裂,網膜色素上皮の損傷,経過中の網膜下脈絡膜新生血管や線維化など,外傷による網膜の損傷を合併するため,機能的な予後は不明なことが多いことが示唆されている1).今回筆者らは,琉球大学病院(以下,当院)を受診した小児の外傷性黄斑円孔患者における,視力予後と円孔閉鎖にかかわる因子に関して,文献的考察を加え検討したので報告する.CI対象および方法2000.2020年の間に当院において外傷性黄斑円孔と診断され,6カ月以上経過観察可能であったC18歳以下の患者(17例C17眼)を対象とした.対象症例の受傷機転,自然閉鎖あるいは手術までの日数,初診時視力,最終視力,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による黄斑円孔の形態(最小円孔径と円孔底径)について,診療録をもとに後ろ向きに検討した.自然閉鎖例および手術を要した代表症例のCOCT経過を,それぞれ図1,2に示す.本検討はヘルシンキ宣言に則り行い,琉球大学の人を対象とする医学系倫理審査委員会によって承認された.後ろ向き研究のため,研究内容を琉球大学のホームページに掲載し,オプトアウトの機会を提供した.図116歳,男性:ペットボトルで受傷a:初診時のCOCT.最小円孔径はC512Cμm,円孔底径はC522Cμmであった.Cb:初診時からC1カ月後のCOCT.最小円孔径はC192μm,円孔底径はC288Cμmで縮小傾向を認めた.Cc:最終受診時のOCT.受傷C58日後に黄斑円孔は閉鎖したが,網膜萎縮,脈絡膜損傷のため,最終視力は(0.6)であった.図213歳,男性:野球ボールで受傷a:初診時のCOCT.最小円孔径はC362Cμm,円孔底径はC1,580Cμmであった.Cb:初診時からC1カ月後のCOCT.最小円孔径はC551Cμm,円孔底径はC1,080Cμmと拡大傾向を認め,受傷C43日後に硝子体手術を施行し,黄斑部耳側の内境界膜を半周.離し円孔上に被覆した.Cc:術後C1カ月時点でのCOCT.円孔は閉鎖せず,受傷後C78日に再手術を施行し,鼻側の内境界膜を被覆した.Cd:最終受診時のCOCT.術後,黄斑円孔は閉鎖し,最終視力は(0.6)であった.表1全症例の臨床的特徴と転機初診時最終受傷から自受傷から初診時初診時症例年齢性別受傷原因経過然閉鎖まで手術まで最小円孔径円孔底径合併症視力視力の日数の日数(μm)(μm)1C7男野球バットC0.1C1.2経過観察C8C128C408C2C16男ペットボトルC0.04C0.6経過観察C58C512C522網膜振盪/網膜下出血/脈絡膜破裂3C18男交通外傷C0.06C0.2経過観察C38C232C417網膜振盪4C12男サッカーボールC0.2C0.6経過観察C42C247C480網膜振盪5C11男サッカーボールC0.2C0.9経過観察C29C316C480C6C12男野球バットC0.15C0.9経過観察C59C190C246網膜振盪7C11男野球ボールC0.05C0.4経過観察C32C416C991C8C14男野球ボールC0.15C0.3硝子体手術C99C316C917網膜下出血/脈絡膜破裂9C16男野球ボールC0.15C0.8硝子体手術C50C0C1,044脈絡膜破裂10C13男野球ボールC0.1C0.5硝子体手術C94C328C1,153C11C14男サッカーボールC0.03C0.2硝子体手術C106C530C980網膜振盪12C13男野球ボールC0.03C0.6硝子体手術C43C221C4,262網膜振盪/網膜下出血/脈絡膜破裂13C14男野球ボールC0.1C0.7硝子体手術C116C480C993網膜振盪14C14男野球ボールC0.15C0.5硝子体手術C120C664C1,762網膜振盪15C14男野球ボールC0.2C0.6硝子体手術C132C362C1,580網膜振盪/網膜下出血/再手術16C9女野球ボールC0.03C0.6硝子体手術C98C410C1,125C17C5男テニスボールC0.08C0.05硝子体手術C120C325C1,540網膜振盪/脈絡膜破裂II結果全症例の特徴と転機を表1に示す.性別は男性C16例,女性C1例,平均年齢はC12.5C±3.1歳(5.18歳)であった.受傷原因の内訳は野球ボールがC9例,サッカーボールがC3例,野球バットがC2例,テニスボールがC1例とスポーツに関する外傷がC83.3%であった.全症例のうち,円孔が自然閉鎖した症例がC7例で,受傷から円孔閉鎖までの平均期間はC43.0C±27.1日,硝子体手術を施行した症例はC10例で,受傷から手術までの平均期間はC97.8C±31.3日であった.手術後C1例は円孔閉鎖が得られず,再手術により円孔閉鎖し,最終的には全例が円孔閉鎖した.全例における初診時の平均ClogMAR視力はC1.07C±0.06で,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.33C±0.33と有意に改善した(p<0.01).自然閉鎖群の初診時平均ClogMAR視力はC1.02±0.29,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.22C±0.26,手術群の初診時平均ClogMAR視力はC1.08C±0.32,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.40C±0.36であり,両群間で初診時および円孔閉鎖後の視力において有意差はなかった.OCTで測定した最小黄斑円孔径および黄斑円孔底径は,自然閉鎖群では初診時の最小黄斑円孔径はC291.6C±133.7μm,黄斑円孔底径はC449.1C±109.0Cμm.手術群では初診時の最小黄斑円孔径はC363.6C±179.9Cμm,黄斑円孔底径は1,535.6±1,001.6Cμmであり,最小黄斑円孔径では有意差はなかったが,黄斑円孔底径は手術群で有意に大きかった(p<0.01).受傷後C2週間では,自然閉鎖群および手術群ともに,最小黄斑円孔径や黄斑円孔底径の有意な変化は認めなかった.受傷後C1カ月時点で,自然閉鎖群は最小黄斑円孔径C83.6±81.8Cμm,黄斑円孔底径C189.3C±131.8Cμmであり,有意に円孔径は縮小傾向であった(p<0.05)が,手術群では最小黄斑円孔径C552.9C±153.8μm,黄斑円孔底径C1,188.4C±675.0Cμmであり,最小黄斑円孔径が有意に拡大していた(p<0.05).自然閉鎖群と手術群それぞれの最小黄斑円孔径と黄斑円孔底径の経過を図3に示す.CIII考按外傷性黄斑円孔は眼球前方からの瞬間的な外力で眼球が圧排され,黄斑を含む網膜全体が遠心方向に牽引されることで生じると考えられている5).外力による黄斑部の進展によって生じるため,後部硝子体.離が生じていない若年者では,黄斑部網膜に接着した硝子体皮質が黄斑部と一緒に遠心方向に牽引され,外傷性黄斑円孔が生じやすい2,5).また,自然閉鎖の報告も多数あり,どの程度経過観察を行い硝子体手術に踏み切るかは,術者や施設に委ねられているのが現状である.成人を含めた外傷性黄斑円孔の自然閉鎖率は,既報ではabμmp<0.05μmp<0.056001,2005001,00040080030060020040010020000初診時2週4週8週初診時2週4週8週症例1症例2症例3症例4症例1症例2症例3症例4症例5症例6症例7症例5症例6症例7cμmp<0.05dμm9008007006005004003002001004,5004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,0005000初診時2週4週8週0初診時2週4週8週症例8症例9症例10症例11症例12症例8症例9症例10症例11症例12症例13症例14症例15症例16症例17症例13症例14症例15症例16症例17図3自然閉鎖群と硝子体手術群の最小黄斑円孔径と黄斑円孔底径の経過a:自然閉鎖群の最小黄斑円孔径.初診時からC4週で有意に円孔が縮小した.Cb:自然閉鎖群の黄斑円孔底径.初診時からC4週で有意に円孔が縮小した.Cc:硝子体手術群の最小黄斑円孔径.初診時からC4週で有意に円孔が拡大した.Cd:硝子体手術群の黄斑円孔底径.円孔径に有意な変化はなかった.25.0.66.7%2,3,6,7)とかなりばらつきがあるが,小児の外傷性黄斑円孔ではC34.5.50%2,4,6,8)であり,成人とほぼ同等の自然閉鎖率である.筆者らの検討でも,41.2%の症例で自然閉鎖しており,既報と同等の結果であった.受傷から閉鎖までの期間は,既報ではC39.63日程度2,4)であり,本検討でも自然閉鎖群は平均C43日で円孔閉鎖を得られており,自然閉鎖はC2カ月前後に得られることが多い.一方,小児例においては,手術時に全身麻酔を必要とし,人工的な後部硝子体.離作製や水晶体温存での手術など,成人と比較し手術難度が高いことが問題となる.小児の外傷性黄斑円孔では自然閉鎖例が存在する以上,経過観察による円孔閉鎖を期待したくなるが,Millerら4)は受傷後C3カ月を超えた症例は硝子体手術の閉鎖率が低下することを報告している.また,過度の経過観察が弱視を惹起し,恒久的な視機能低下リスクになることが指摘されており2,8),受傷後C2.3カ月時点で円孔閉鎖が得られない場合は,小児であっても硝子体手術に踏み切る必要がある.小児外傷性黄斑円孔における硝子体手術は,成人に対する特発性黄斑円孔と同様に,円孔周囲の内境界膜.離を併用した硝子体手術が標準的な術式である.成人の外傷性黄斑円孔の閉鎖率は初回手術でC90%以上を達成した報告が多いが9,10),以前は小児外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術は,後部硝子体と内境界膜の癒着が成人と比べて強く11),完全な後部硝子体.離を人工的に作製することは困難であり,網膜損傷,視野障害,硝子体出血が生じやすく,年齢が若い患者ほど手術成績が悪いことが指摘されていた5).しかし,近年では,Liuら2)は受傷後平均C13日の手術で,初回手術による閉鎖率はC14/18眼(77.8%),最終的に全例の円孔閉鎖を達成しており,Brennanら8)は受傷後平均C147日で内境界膜.離を併用した硝子体手術を施行し,初回閉鎖率C12/13眼(92.3%)を達成した.本検討でも内境界膜.離を併用した硝子体手術により,初回円孔閉鎖率はC9/10眼(90%),最終円孔閉鎖率はC100%であった.近年は黄斑円孔手術において,巨大円孔や陳旧性黄斑円孔のような難治性の黄斑円孔に,内境界膜翻転を併用した硝子体手術が考案され,円孔閉鎖率の大幅な改善がみられている12).本検討でも難治性症例では内境界膜翻転を併用していた.他にプラスミン併用硝子体手術13)やCbloodCcoating2)などの報告もあり,小児における外傷性黄斑円孔の治療成績も向上している.このことからも自然閉鎖の見込みが低いと考えられる場合は,積極的な硝子体手術を行い円孔の閉鎖を試みる価値があると思われる.一方で,どのような患者が黄斑円孔の自然閉鎖となるかは議論の余地がある.Chenら3)は初診時の円孔径が小さいこと,網膜内.胞がない症例は自然閉鎖する可能性が高いことを報告しているが,Liuら2)は円孔径がC400Cμm以上の症例でも,縮小傾向なら自然閉鎖の可能性があると指摘している.Millerら5)は同様に円孔径が縮小傾向なら自然閉鎖率が高いことを報告しており,初診時の円孔径は自然閉鎖とは関連しないと結論している.筆者らの検討では,初診時の時点では,最小円孔径は自然閉鎖群と手術群で有意差はなかったが,自然閉鎖群は初診時と比べて受診からC1カ月時点での最小黄斑円孔径や黄斑円孔底径が有意に縮小しており,逆に手術群では初診時と比べて受診からC1カ月時点での最小黄斑円孔径が有意に拡大していた.このことは,LiuやCMillerらの指摘と合致する.しかし,初診時と受診からC2週間時点での円孔径では,自然閉鎖群も手術群も円孔径は有意差がなかった点からは,少なくともC1カ月以上の経過観察が妥当と考えられる.しかし,受傷からC1カ月時点で黄斑円孔径が拡大傾向にあるのであれば,手術のリスクとベネフィットや患者の希望を考慮したうえで,手術時期を検討すべきであろう.今回の検討では,視力予後については自然閉鎖群と手術群で有意差はなく,どちらの群も初診時と比べて視力は改善しており,手術群でもC7/10眼(70.0%)で最終小数視力(0.6)以上を達成していた.過去の報告においても手術を要した症例でも術後は初診時より視力が改善し2,4,6,8),自然閉鎖群と視力予後は差がなかった2,6)ことが報告されている.Azevedoら14)は小児外傷性黄斑円孔の視力予後において,早期硝子体手術は安全で効果的な選択であり,手術のリスク/ベネフィット比は経過観察よりも優れていることを指摘した.一方で,外傷性黄斑円孔においては,外傷によるCellipsoidzoneや脈絡膜の損傷,網膜震盪や網膜.離の合併が,視力不良と関連することが知られており2,5),筆者らの検討でも最終小数視力が(0.3)以下の症例は,全例で網膜震盪や脈絡膜損傷を合併していた.解剖学的な黄斑円孔閉鎖が得られたとしても視力不良の患者が存在することは念頭に置くべきである.今回,当院における若年者外傷性黄斑円孔の臨床転帰を呈示した.成人の外傷性黄斑円孔と同じく,小児でも硝子体手術による黄斑円孔閉鎖によりある程度良好な視力が得られる可能性がある.自然閉鎖例もあり手術時期の判断はむずかしいが,硝子体手術による円孔閉鎖で視機能維持が期待できる場合も多数あるため,OCTによる黄斑円孔の形状変化を見逃さず,円孔の拡大があれば硝子体手術に踏み切る必要がある.文献1)Budo.CG,CBhagatCN,CZarbinMA:TraumaticCmacularhole:diagnosis,CnaturalChistory,CandCmanagement.CJCOph-thalmol2019;2019:58378322)LiuCJ,CPengCJ,CZhangCQCetal:Etiologies,Ccharacteristics,Candmanagementofpediatricmacularhole.AmJOphthal-molC210:174-183,C20203)ChenH,ChenW,ZhengKetal:Predictionofspontane-ousCclosureCofCtraumaticCmacularCholeCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.CSciCRepC5:12343,C20154)MillerJB,YonekawaY,EliottDetal:Long-termfollow-upCandCoutcomesCinCtraumaticCmacularCholes.CAmCJCOph-thalmolC160:1255-1258Ce1,C20155)MillerJB,YonekawaY,EliottDetal:Areviewoftrau-maticmacularhole:diagnosisandtreatment.IntOphthal-molClinC53:59-67,C20136)YamashitaCT,CUemaraCA,CUchinoCECetal:SpontaneousCclosureCofCtraumaticCmacularChole.CAmCJCOphthalmolC133:230-235,C20027)ChenCHJ,CJinCY,CShenCLJCetal:TraumaticCmacularCholestudy:amulticentercomparativestudybetweenimmedi-ateCvitrectomyCandCsix-monthCobservationCforCspontane-ousclosure.AnnTranslMedC7:726,C20198)BrennanCN,CReekieCI,CKhawajaCAPCetal:Vitrectomy,CinnerClimitingCmembraneCpeel,CandCgasCtamponadeCinCtheCmanagementCofCtraumaticCpaediatricCmacularholes:aCcaseseriesof13patients.OphthalmologicaC238:119-123,C20179)KuhnF,MorrisR,MesterVetal:Internallimitingmem-braneCremovalCforCtraumaticCmacularCholes.COphthalmicCSurgLasersC32:308-315,C200110)BorC’iCA,CAl-AswadCMA,CSaadCAACetal:ParsCplanaCvit-rectomywithinternallimitingmembranepeelingintrau-maticmacularhole:14%p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発症から2 カ月で自然解除された硝子体黄斑牽引症候群の 1 例

2023年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(3):415.419,2023c発症から2カ月で自然解除された硝子体黄斑牽引症候群の1例髙岡秀輔日榮良介井田洋輔日景史人大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座CACaseofVitreomacularTractionSyndromethatSpontaneouslyImprovedatTwoMonthsPostOnsetShusukeTakaoka,RyosukeHiei,YosukeIda,FumihitoHikageandHiroshiOhguroCDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,SapporoMedicalUniversityC症例はC63歳,女性.1カ月前からの左眼の歪視および視力低下を自覚し眼科を受診.初診時,視力は右眼(1.5),左眼(0.6),両眼に軽度の白内障,左眼の黄斑部に硝子体黄斑牽引症候群による網膜牽引を認めた.左眼の硝子体黄斑牽引症候群に伴う視力低下と診断され,初診からC1カ月後に硝子体手術予定となった.しかし,手術前日の診察時に左眼の視力改善,自覚症状消失,左黄斑部の網膜牽引が改善していた.そのため手術は中止となった.硝子体黄斑牽引症候群は長期に牽引が持続することで不可逆的な視力低下をきたす可能性があるため手術適応であるが,本症例では発症からC2カ月の経過中に自然解除が生じ,視力低下や変視の自覚症状が完全に消失した.硝子体黄斑牽引症候群は数カ月程度の期間であれば後遺症なく自然解除される可能性があるため,手術の直前まで病状を確認することが重要であると思われた.CPurpose:ToCreportCtheCcaseCofCvitreomaculartraction(VMT)syndromeCthatCspontaneouslyCimprovedCatC2Cmonthspostonset.Casereport:A63-year-oldfemalepresentedwiththecomplaintofdistortedvisioninherlefteyefor1month.Uponexamination,opticalcoherencetomography(OCT)revealedVMTinherlefteye,andcata-ractswereobservedinbotheyes.Shewasdiagnosedwithdecreasedvisualacuity(VA)duetoVMTsyndromeinherlefteyeandwasscheduledtoundergosurgeryinourhospital.However,onthedaybeforesurgery,theVAinherCleftCeyeCwasCimproved,CtheCsubjectiveCsymptomsCdisappeared,CandCtheCmacularCtractionCimageCimprovedConCOCT.Thus,thesurgerywascanceled.Conclusion:AlthoughVMTsyndromeisanindicationforsurgery,sponta-neousresolutionmaybeobservedduringfollow-up.Thus,incaseswherespontaneousresolutionislikelytooccur,observingthe.ndingsbyOCTuntiljustbeforesurgeryisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(3):415.419,C2023〕Keywords:硝子体黄斑牽引症候群,硝子体黄斑癒着,硝子体手術,自然解除.vitreomaculartractionsyndrome,vitreomacularadhesion,parsplanavitrectomy,spontaneousresolution.Cはじめに硝子体黄斑牽引症候群(vitreomaculartraction:VMT)は特発性黄斑円孔,黄斑前膜とともに網膜と硝子体の境界面を病変の場とする網膜硝子体界面症候群の一つである1,2).眼球の内腔は硝子体とよばれる透明なゲル状の組織で満たされているが,硝子体は加齢によりゲルが液化,収縮し眼底から.離する.これが後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)である.PVDの進行が黄斑近傍で停止すると,後部硝子体ポケットの後壁にある薄い硝子体皮質が黄斑部を前後方向に牽引する.この慢性的な牽引により黄斑.離や.胞様黄斑浮腫が生じ,変視や視力低下をきたすのがVMTである2.4).VMTの治療は硝子体手術が第一選択であり,過去の多くの研究では,高い割合での術後の視力改善が報告されている1.5).VMTのなかでも網膜と硝子体の接着面積が広い場合は自然経過で黄斑円孔が生じたり,手術のタイミングが遅〔別刷請求先〕髙岡秀輔:〒060-8543札幌市中央区南C1条西C16丁目C291番地札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShusukeTakaoka,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,SapporoMedicalUniversity,16-291Nishi,Minami1Jo,Chuo-Ku,Sapporo060-8543,JAPANCれることで.胞様黄斑浮腫が黄斑円孔に至る場合もあることが報告されている5).一方で,網膜と硝子体の接着面積が狭いものでは症状の変化が少なかったり,自然解除に至る場合もあるため6),自然解除が期待される場合は手術をせずに経過観察するのが望ましいと考えられる.しかし,経過観察期間に関して一定の見解はない.今回筆者らは,VMTで手術を予定していたが,発症から2カ月後に自然解除が起こり,視力低下および変視の自覚症状が完全に消失した患者を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.主訴:左眼の歪視および視力低下.既往歴:とくになし.現病歴:1カ月前からの左眼の歪視および視力低下を主訴にC2021年C3月(X日)に近医眼科を受診した.近医受診時,矯正視力は右眼0.5(1.5C×sph+2.75D(cyl.0.75DCAx90°),左眼C0.3(0.6C×sph+2.50D(cyl.1.00DAx70°),眼圧は右眼C14mmHg,左眼C15mmHgであった.両眼にCnuclearCsclerosisgrade1.1.5の白内障を認め,光干渉断層計(opti-calCcoherencetomography:OCT)では左眼の黄斑部にVMTによる網膜牽引を認めた(図1).そのほかに眼底所見では明らかな網膜.離,出血を認めなかった.左眼の矯正視力の低下,OCTでCVMTによる網膜牽引が認められ,黄斑部に.胞様黄斑浮腫や線維化,慢性的な網膜.離,網膜.離がなく,硝子体手術による視力改善,歪視の軽減が期待できると判断したため,硝子体手術目的でC1カ月後に当院に紹介となった.経過:当院初診時(X+33日),矯正視力は右眼C0.8(1.25C×sph+2.75D(cyl.1.25DCAx100°),左眼C0.8(1.25C×sph+2.00D(cyl.1.00DCAx75°)と前医受診時と比較して左眼視力改善を認め,患者の自覚症状も消失していた.OCTでは左眼黄斑部にごくわずかな.胞性変化を認めたが,後部硝子体による黄斑部の牽引は認めなかった(図2).眼底検査でも病的所見を認めなかったため,手術は不要となった.当院初診時からC17日後(X+50日)に撮像されたCOCTでは.胞性変化は消失しており(図3),その後も左眼の視力は良好に推移している.CII考按網膜硝子体界面症候群は,網膜と硝子体の境界面に発生する疾患の総称であり,VMTの他に硝子体黄斑癒着(vitreo-macularadhesion:VMA),黄斑円孔(macularhole:MH),黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM),黄斑偽円孔(macularpseudohole:PH),分層黄斑円孔(lamellarCmacularhole:LMH)を含む6).これら網膜硝子体界面症候群のなかでもCVMAとCVMTの定義は曖昧で,明確な診断基準が示されていなかったことから,過去の論文のなかには両病名を混同して用いている論文も散見される.しかし,2013年にCInternationalCVitreomacularCTractionCStudy(IVTS)GroupによってCOCT所見に基づいたCVMAとVMTの疾患の定義が定められた6).それによれば,VMAとCVMTはともに後部硝子体が網膜面から不完全に.離し,後部硝子体が黄斑部との接着を保った状態,すなわち傍中心窩の後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)が起こった状態(perifovealPVD)であるとされている.この黄斑部の接着により黄斑部の構造に変化がきたしたものがVMT,きたしていないものがCVMAと定義される.VMAとCVMTの鑑別は治療方針の決定に重要である.その理由は,VMAは正常な加齢変化として起こるCPVDの一段階であるので,VMTやCMHへの進行,ERMの形成がなければ基本的に治療を必要とせず,経過観察で問題ない7).それに対して,VMTに対しては黄斑部への硝子体牽引を解除する目的で硝子体手術が行われる7).しかし,硝子体手術の明確な適応基準は定まっておらず,施設や術者によって異なるのが現状である.したがって,VMTに対しては黄斑構造の変化をCOCTで観察しつつ,視力や患者の自覚症状を考慮して手術の時期を決定する必要がある.本症例の場合は,図1に示すようにCOCT上で黄斑部に後部硝子体による牽引が生じ,構造の変化をきたしていたことからCVMTと診断し,矯正視力の低下および患者の歪視の自覚症状が強かったため,発症早期から手術を予定することとなった.VMTに対する硝子体手術の効果に関して,術前のCOCT所見で.胞様黄斑浮腫や線維化,慢性的な網膜.離,網膜.離が生じている症例では視力改善効果が制限される8)とされており,これらの変化が生じる前の手術が望ましい.本症例の場合も黄斑部の牽引は認めるものの,これら黄斑浮腫や繊維化などの変化は生じておらず,手術により視力向上,自覚症状の改善が期待できると考えられた.実際,自然軽快後には自覚症状は消失した.VMTの自然解除はこれまでにも報告されている,Hikichiら6)は,VMTのC53眼中C6眼(11%)で経過中に自然解除が起こり,診断から解除までの中央値はC15カ月であったことを報告している.そのほかにもCOCTを用いたCVMTの自然解除の報告はあり9.14),VMT患者のうち一定の割合で経過中に自然解除が生じることは間違いない(表1).そうすると,VMT患者のうちどのような場合に自然解除が起こりやすいかが問題となるが,IVTSGroupは硝子体と黄斑網膜の接着部の直径がC1,500Cμm以下のものをCfocal,1,500Cμmより広いものをCbroadと定義し,focalのほうが自然解除されやすいこと,broadのCVMTでは硝子体の接着が強く,黄斑部の肥厚,網膜分離,.胞様黄斑浮腫,網膜血管漏出をきたab図1前医初診時(X日)のOCT画像a:黄斑部が後部硝子体に牽引されている(N:鼻側,T:耳側,S:上側,I:下側).b:黄斑部を拡大し,網膜と硝子体の接着部分を測定したところC87Cμmであった.図2当院初診時(X+33日)のOCT画像図3当院初診時から17日後(X+50日)のOCT画像前医初診時のCOCTと比較すると黄斑部にごくわずかな.胞性変.胞性変化は消失し,黄斑浮腫も認めない.化を認めるものの,後部硝子体による黄斑部の牽引が解除されている.しやすく,視力低下や変視症,小視症を起こしやすいことを報告しており,牽引の自然解除は直径と負の関係にあると述報告した6).また,Theodossiadisら10)は,接着部の直径がべている.本症例の初診時のCOCTで黄斑表面と硝子体の接400Cμm以上の患者は有意に自然解除の可能性が低かったと着部の直径はC87CμmとC400Cμmよりはるかに小さく,IVTS表1OCTを用いた硝子体黄斑牽引症候群の自然解除に関する既報報告者Odrobinaら9)Theodossiadisら10)Codenottiら11)Almeidaら12)症例数19眼46眼26眼61眼フォローの平均期間C8±4.4カ月記載なしC12.9±4.8カ月自然解除のない例はC10.0C±6.6カ月自然解除例はC13.7C±11.4カ月自然解除率47.37%26.09%23.01%34.43%自然解除までの平均期間記載なしC8.75±6.06カ月C7.3±3.1カ月記載なし網膜内層障害のみの例や自然解除に関する記載記載なし記載なし記載なし抗CVEGF薬硝子体内注射の既往例では自然解除しやすい手術選択黄斑円孔への移行記載なし7眼が手術施行11眼が手術施行記載なし報告者Stalmansら13)Erreraら14)症例数203眼183眼フォローの平均期間10.9カ月(中央値C6.9カ月)C17.4±12.1カ月自然解除率22.66%19.67%自然解除までの平均期間記載なしC15±14カ月自然解除に関する記載自然解除例のC69.6%は180日以内に解除記載なし手術選択黄斑円孔への移行52眼が手術施行視力はC35.7%が改善,1C4.3%が低下11眼が黄斑円孔へ移行15眼が手術施行し視力改善23眼が黄斑円孔へ移行し視力悪化Groupの分類ではCfocalに分類された(図1).そのため,本症例はもともと黄斑と後部硝子体の接着が自然解除されやすいケースであったと思われる.過去の報告ではCVMTの自然解除までの期間は表1に示すようにC7.3カ月.15カ月であり,本症例と比較すると比較的長かった.これは過去の自然解除が起こった症例のなかには視機能障害が残存したもの,回復したものが混在しているためと考えられた.さらに表1に示すように,VMTの自然経過を観察した報告では,手術後も視力が改善しなかったものや,黄斑円孔に移行したものも少なくない.これらはCVMT発症から手術に至るまでの期間が術後の視機能障害残存に影響を及ぼすことを示唆している.また,VMTの術後視力回復は解除時の黄斑部障害の程度に依存する8)とされており,症状が出現してから手術までの期間が短いほど術後視力の改善が良いことも報告されている15)ため,自然解除を待つべきか早期に手術するべきか判断がむずかしい場合も多い.TheodossiadisらはCVMT発症から自然解除するまでに平均でC8.75C±6.06カ月かかり,VMT解除後の視機能はCVMT出現前よりも悪化していたことを報告した10).本症例では初診時より歪視が強く,手術を予定していたが,手術直前にCVMTが改善,後遺症を残さずに治癒した.本症例の場合,初診時のCOCTで後部硝子体と黄斑部の接着部の直径が小さく,自然解除の可能性が高かったことが示唆された.このような後部硝子体膜と黄斑部の接着の小さい症例は自然解除が期待できる.これらのことから,VMTの手術時期,および手術適応に関しては統一した見解は示されておらず,個々の症例に対して術者が判断してC418あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023いる.本症例ではCM-CHARTSによる変視の評価やコントラスト感度の測定は行っていない.そのため,より精密に検査を行うと,本症例でも発症前と自然解除後で視機能に差が出ている可能性がある.しかし一般的な視力検査およびCOCTでは自然解除後に異常所見を認めず,自覚症状の訴えもなくなった.本症例の経験と,前述のCTheodossiadisの報告から,発症からC2カ月間は経過観察しても自覚症状が残存することなく改善すると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)McDonaldHR,JohnsonRN,SchatzH:SurgicalresultsintheCvitreomacularCtractionCsyndrome.COphthalmologyC101:1397-1402,C19942)MassinCP,CErginayCA,CHaouchineCBCetal:ResultsCofCsur-geryofvitreomaculartractionsyndrome.JFrOphthalmolC20:539-547,C19973)RouhetteH,GastaudP:Idiopathicvitreomaculartractionsyndrome.CVitrectomyCresults.CJCFrCOphthalmolC24:496-504,C20014)KoernerCF,CGarwegJ:VitrectomyCforCmacularCpuckerCandCvitreomacularCtractionCsyndrome.CDocCOphthalmolC97:449-458,C19995)WitkinCAJ,CPatronCME,CCastroCLCCetal:AnatomicCandCvisualCoutcomesCofCvitrectomyCforCvitreomacularCtraction(136)syndrome.COphthalmicCSurgCLasersCImagC41:425-431,C20106)HikichiT,YoshidaA,TrempeCL:Courseofvitreomacu-larCtractionCsyndrome.CAmCJCOphthalmolC119:55-61,C19957)DukerCJS,CKaiserCPK,CBinderCSCetal:TheCInternationalCVitreomacularCTractionCStudyCGroupCclassi.cationCofCvit-reomacularCadhesion,Ctraction,CandCmacularChole.COphthal-mologyC120:2611-2619,C20138)MelbergCNS,CWilliamsCDF,CBallesCMWCetal:VitrectomyCforvitreomaculartractionsyndromewithmaculardetach-ment.RetinaC15:192-197,C19959)OdrobinaCD,CMichalewskaCZ,CMichalewskiCJCetal:Long-termCevaluationCofCvitreomacularCtractionCdisorderCinCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CRetinaC31:324-331,C201110)TheodossiadisGP,GrigoropoulosVG,TheodoropoulouSetal:Spontaneousresolutionofvitreomaculartractiondem-onstratedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC157:842-851,C201411)CodenottiCM,CIulianoCL,CFogliatoCGCetal:ACnovelCspec-tral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCmodelCtoCesti-matechangesinvitreomaculartractionsyndrome.GraefesArchClinandExpOphthalmolC252:1729-1735,C201412)AlmeidaDR,ChinEK,RahimKetal:Factorsassociatedwithspontaneousreleaseofvitreomaculartraction.RetinaC35:492-497,C201513)StalmansP:ACretrospectiveCcohortCstudyCinCpatientsCwithCtractionalCdiseasesCofCtheCvitreomacularCinterface(ReCoVit).GraefesArchClinExpOphthalmolC254:617-628,C201614)ErreraMH,LiyanageSE,PetrouPetal:AstudyofthenaturalChistoryCofCvitreomacularCtractionCsyndromeCbyCOCT.OphthalmologyC125:701-707,C201815)SonmezCK,CCaponeCACJr,CTreseCMTCetal:VitreomacularCtractionsyndrome:impactofanatomicalcon.gurationonanatomicalCandCvisualCoutcomes.CRetinaC28:1207-1214,C2008C***

継続通院困難な糖尿病黄斑症患者に対して硝子体手術と 黄斑部への外科的介入が奏効した1 例

2023年1月31日 火曜日

《第27回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科40(1):95.100,2023c継続通院困難な糖尿病黄斑症患者に対して硝子体手術と黄斑部への外科的介入が奏効した1例岩根友佳子*1今井尚徳*1,2曽谷育之*1山田裕子*1大石麻利子*2中村誠*1*1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学*2真星病院眼科CACaseofDiabeticMaculopathySuccessfullyTreatedwithParsPlanaVitrectomywithCystotomyandSubretinalHardExudateExtractionfromanIntentionalMacularHoleYukakoIwane1),HisanoriImai1,2)C,YasuyukiSotani1),HirokoYamada1),MarikoOishi2)andMakotoNakamura1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery-Related,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MahoshiHospitalC糖尿病黄斑浮腫診療においては,治療抵抗例のみならず,継続的な通院加療が困難な患者をいかに治療するかも重要な課題である.今回筆者らは,両眼に発症した糖尿病黄斑症に対して,硝子体手術および黄斑部への外科的介入が奏効したC1例を報告する.患者は,精神発達遅滞のあるC55歳,女性.両眼ともに糖尿病黄斑症による矯正視力低下を認め,右眼(0.15),左眼(0.8)であった.右眼は中心窩下硬性白斑,左眼は.胞様黄斑浮腫が顕著であった.精神発達遅滞のため,継続的な通院加療が困難と判断し,全身麻酔下で,両眼ともに硝子体手術を施行した.右眼は中心窩下硬性白斑除去,左眼は.胞様腔内壁切開術を併用した.術C6カ月後,両眼ともに黄斑症の再燃はなく,矯正視力は右眼(0.7),左眼(0.8)と改善維持された.抗CVEGF治療を中心とした継続的な通院加療が困難な症例に対しては,患者の状況に合わせて治療を工夫することが重要である.CPurpose:Inthetreatmentofdiabeticmaculopathy(DM)C,thespeci.cmethodsappliedtotreatnotonlytreat-ment-resistantcases,butalsocasesinwhichundergoingcontinuousoutpatienttreatmentisdi.cult,isanimpor-tantissue.HerewereportacaseofDMsuccessfullytreatedwithvitrectomywithcystotomyandsubfovealhardexudateextractionfromanintentionalmacularhole.Casereport:A55-year-oldfemalewithmentalretardationpresentedCafterCbecomingCawareCofCdecreasedCvisualCacuity.CUponCexamination,CherCbest-correctedCdecimalCvisualacuity(BCVA)was0.15ODand0.8OSduetosubfovealhardexudateinherrighteyeandcystoidmacularede-mainherlefteye.Duetomentalretardation,shehaddi.cultyundergoingcontinuousoutpatienttreatment.Thus,weperformedvitrectomywiththeremovalofsubfovealhardexudateinherrighteyeandwithcystotomyinherlefteye.Overthe6-monthfollow-upperiodpostsurgery,therehasbeennorecurrenceofDMinbotheyesandherBCVAhasbeenimprovedandwellmaintainedat0.7ODand0.8OS.Conclusion:The.ndingsinthisstudyrevealCthatCwhenCtreatingCpatientsCwithCDM,CitCisCimportantCtoCselectCtheCproperCtreatmentCbasedConCtheCback-groundofthepatient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(1):95.100,2023〕Keywords:糖尿病黄斑症,中心窩硬性白斑,中心窩下硬性白斑除去術,硝子体手術,.胞様腔内壁切開術.dia-beticmaculopathy,subfovealhardexudates,subfovealhardexudateextraction,vitrectomy,cystotomy.Cはじめにと硬性白斑が黄斑部に沈着し,著明な視力低下をきたすこと糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)は,糖がある2).尿病網膜症による視力障害の原因の主要な病態の一つであ近年は抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthる1).糖尿病網膜症の病期にかかわらず発症し,慢性化するfactor:VEGF)治療を中心とした網膜光凝固,ステロイド〔別刷請求先〕今井尚徳:〒650-0017兵庫県神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科医局Reprintrequests:HisanoriImai,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-2Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0017,JAPANC眼局所注入,そして硝子体手術を組み合わせた集学的治療によって,多くの場合,治療可能となった3).しかし,一部に抗CVEGF治療に抵抗するCDMEが存在することが報告されている4).また,抗CVEGF治療は,定期的な通院が必要であるため,経済的負担,身体的負担が大きく,そのために治療継続することが困難な患者が存在することも問題となっている.近年,抗CVEGF治療を中心とした集学的治療に抵抗する難治CDMEおよび中心窩下硬性白斑に対して,計画的Cbal-ancedsaltsolution(BSS)注入術5),.胞様腔内壁切開術6,7),.胞様腔内フィブリノーゲン摘出術8),そして意図的黄斑円孔からの中心窩下硬性白斑除去術9,10)などの新しい手術術式が開発され,良好な成績が報告11)されている.今回筆者らは,精神発達遅滞のため継続した通院加療が困難な患者に対して,硝子体手術に上記の新規外科治療を組み合わせて加療施行し,良好な結果を得た経験を報告する.CI症例患者:55歳,女性.現病歴:両眼に発症した糖尿病網膜症に対して,前医にて経過観察されていた.しかし,糖尿病黄斑症に伴う視力低下が進行したため,加療目的に神戸大学医学部附属病院紹介初診となった.既往歴:2型糖尿病(HbA1c7.2%),精神発達遅滞(グループホーム入所中).家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.05(0.15C×.0.25D(cyl.1.00DCA×105°),).°90×1.00DA.cyl(0.25D×.左眼0.3(0.8眼圧は右眼C11mmHg,左眼C11mmHg.細隙灯所見として前眼部は特記すべき異常所見はなし.水晶体にCEmery分類GradeI程度の白内障を認めた.眼底所見として右眼に汎網膜光凝固後の網脈絡膜瘢痕.広範囲の中心窩下硬性白斑沈着を認めた(図1a).左眼に汎網膜光凝固後の網脈絡膜瘢痕..胞様黄斑浮腫を認めた(図1b).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)所見として右眼に中心窩下の硬性白斑沈着による高輝度像を認めた.外境界膜ライン,ellipsoidCzoneは途絶していた(図1c).左眼に.胞様腔内が高輝度に描出される.胞様黄斑浮腫を認めた.外境界膜ラインは連続しているものの,ellip-soidzoneは途絶していた(図1d).経過:眼底所見上,糖尿病網膜症に続発する糖尿病黄斑症と,右眼は硬性白斑の網膜下沈着,左眼は.胞様黄斑浮腫を認めた.OCT所見上,両眼ともに網膜外層障害が著明であった.無治療で放置した場合,視力低下は免れない状況であり,視力改善は困難ではあるものの視機能維持目的に治療を導入する必要があると考えられた.定期的な抗CVEGF治療および毛細血管瘤直接光凝固が適応と考えられたが,既往歴として精神発達遅滞があり,制御困難な体動などによる合併症が懸念されるため,局所麻酔下に行われる抗CVEGF治療を含む継続した通院加療は困難な状況であった.患者および家族と相談し,全身麻酔下に手術を施行した.患者背景を考慮し両眼同時手術とした.右眼については,術後体位保持に対する患者の理解度および家族のサポートは十分と判断し,意図的黄斑円孔からの硬性白斑除去を施行した.術式の詳細は後述する.術後,右眼網膜下硬性白斑は著明に減少し,経過中も徐々に減少した(図2a,c).左眼黄斑浮腫は術直後から消失し,経過観察期間中は再発なく維持された(図2b,d).術後C6カ月時点での矯正視力は,右眼(0.7),左眼(0.8)である.CII術式両眼ともに,通常の広角観察システム(Resight;CarlCZeissMeditec)を用いたC27ゲージ経毛様体扁平部硝子体手術および白内障手術を施行した.手術器械はコンステレーションビジョンシステム(Alcon社)を使用した.トリアムシノロンアセトニド(マキュエイド)を用いて硝子体を可視化して郭清したのち,汎網膜光凝固の追加および毛細血管瘤直接光凝固をそれぞれ施行した.術終了時にトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-A)Tenon.下注入(40Cmg)を施行した.右眼は,上記施行後,術前の眼底所見およびCOCT所見から同定した中心窩位置を,拡大レンズ(ディスポCtype5d,HOYA)下に,内境界膜鑷子(グリスハーバーCDSP,Alcon社)で把持し意図的黄斑円孔を作製した.同部位から眼内灌流液(BSSPLUS,Alcon社)の水流を吹き付け,中心窩下硬性白斑を可及的に除去した.術終了時に,内境界膜翻転法およびC20%CSFC6ガスの硝子体内充.を施行した(図3).左眼は上記施行後,内境界膜.離を施行した.その後,内境界膜鑷子を用いて.胞様腔内壁を把持して切開し,.胞様腔内滲出液を硝子体腔に誘導した(図4).CIII考按多くのCDMEが,抗CVEGF治療を中心とした集学的治療によって治療可能となった3).しかし,これらの治療に抵抗する難治CDMEをいかに治療するか,またこれらの治療を受ける機会を得られない患者をいかに治療するかは,現在の課題の一つであり,それらに対する新規治療の開発や治療指針の策定が渇望される現状である.近年,難治CDMEおよび糖尿病黄斑症に対する外科治療の有用性が報告されている5.14).Toshimaらは,抗CVEGF治図1初診時眼底写真と光干渉断層計画像(水平断)a:汎網膜光凝固後の網脈絡膜瘢痕と広範囲の中心窩下硬性白斑沈着を認めた.Cb:汎網膜光凝固後の網脈絡膜瘢痕,網膜下硬性白斑,.胞様黄斑浮腫を認めた.Cc:中心窩下の硬性白斑沈着に一致した高輝度像を認めた(△).外境界膜ライン,ellipsoidzoneは途絶していた.Cd:.胞様腔内が高輝度に描出される.胞様黄斑浮腫を認めた(*).外境界膜ラインは健常であるものの,ellip-soidzoneは途絶していた.cd図2術後6カ月時点での眼底写真と光干渉断層計画像(水平断)a:網膜下硬性白斑は著明に減少した.Cb:網膜下硬性白斑は著明に減少し.胞様黄斑浮腫は消失した.c:中心窩下の硬性白斑沈着による高輝度像は消失した.外境界膜ライン,ellipsoidzoneは途絶したままである.Cd:.胞様黄斑浮腫は消失した.外境界膜ラインは保たれているが,ellip-soidzoneは途絶したままである.図3右眼手術画像a:トリアムシノロンアセトニドを用いて硝子体を可視化して郭清した(Resight下画像).b:内境界膜(.)を下方のC2象限をC2乳頭径の範囲で.離し,上方は翻転用に.離せずに温存した(拡大レンズ下画像).c:汎網膜光凝固の追加および毛細血管瘤に対する直接光凝固を施行した(Resight下画像).d:血管走行より中心窩位置(.)を同定し,内境界膜鑷子で把持し意図的黄斑円孔を作製した(拡大レンズ下画像).Ce:同部位(.)からCBSSを網膜下の硬性白斑に吹き付け,中心窩下硬性白斑を可及的に除去した(Resight下画像).f:術終了時に,内境界膜(.)を中心窩(.)上方より翻転し,20%CSFC6ガスの硝子体内充.を施行した(拡大レンズ下画像).療に抵抗する難治CDME14眼に対して,計画的網膜下CBSS注入術を施行し,6カ月の経過観察期間にて,中心窩網膜厚そして矯正視力ともに有意に改善した結果を報告している5).また,筆者らは,抗CVEGF治療を中心とした集学的治療に抵抗する難治CDME30眼に対して,.胞様腔内壁切開術および.胞様腔内フィブリノーゲン摘出術を施行し,12カ月の経過観察期間にて,中心網膜厚そして矯正視力ともに有意に改善した結果を報告した7).さらに,中心窩下硬性白斑沈着に対する硝子体手術は,1999年にCTakagiらによって初めて報告され12),その有用性が多く追試されている13,14).Avciらは,11眼を対象としてC3年間の長期経過において,全例で黄斑下硬性白斑は完全に消失し,手術施行群では,無治療群と比較して,有意に矯正視力を維持できることを報告している13).これらの結果は,DMEおよび糖尿病黄斑症が難治化した場合には,従来の治療のみにこだわることなく,これらの新規外科治療をも組み合わせて工夫することで,患者の視機能を温存しうる可能性を示している.今回筆者らは,難治化はしていないものの,抗CVEGF治療を中心とした集学的治療を十分に受ける機会を得られない患者に対して,硝子体切除,内境界膜.離,網膜光凝固,および術終了時のトリアムシノロンCTenon.下注入に加え,上記の新規外科治療も組み合わせて施行することで,良好な結果を得た.本症例のように,継続した通院加療が困難で治療機会を十分に得られない場合は,通常の治療指針にこだわることなく,一期的に施行可能な治療をすべて施行することも選択肢として考慮する必要があると考える.とくに,上記の新規外科治療は,難治CDMEのみならず,抗CVEGF治療を中心とした通常の治療を受ける機会を得られない患者にも有効である可能性があり,今後検討が必要である.本症例の右眼においては,意図的黄斑円孔を作製し,中心窩下硬性白斑を除去する工夫を取り入れた.2020年にKumagaiらによって,38CG針を用いて網膜下にCBSSを注入し,意図的に黄斑円孔を作製し,そこからCBSSを網膜下硬性白斑に吹き付けることで硬性白斑を除去し,有意な矯正視力改善が得られることが報告されている9).Takagiらによって報告された従来の術式は,中心窩耳側に意図的網膜裂孔を作製する必要があるため,傍中心暗点の出現に対する懸念は解決されていない15).さらに網膜下へ鉗子を挿入し硬性白斑自体を把持し摘出するため,操作中に網膜に障害を加える可能性があり,難度は高い.Kumagaiらによって報告された図4左眼手術画像a:トリアムシノロンアセトニドを用いて硝子体を可視化して郭清した(Resight下画像).b:汎網膜光凝固の追加および毛細血管瘤に対する直接光凝固を施行した(Resight下画像).c:内境界膜(.)を中心窩(.)からC2乳頭径の範囲で.離した(拡大レンズ下画像).d:内境界膜鑷子を用いて,中心窩(.)にて.胞様腔内壁(.)を把持して切開した(拡大レンズ下画像).図5術後6カ月時点でのGoldmann視野検査a:左眼,中心暗点の発生はなく,傍中心の比較暗点を認めるのみであった.Cb:右眼,中心暗点の発生はなく,傍中心の比較暗点を認めるのみであった.意図的黄斑円孔からの中心窩下硬性白斑除去は,傍中心暗点が出現しない点で従来の術式と比較し利点がある可能性がある9).本症例では,中心窩下硬性白斑が分厚く,BSS注入にて黄斑円孔が発生するか不明であったため,直接網膜を把持し意図的黄斑円孔を作製したが,傍中心暗点の発生はなく(図5),矯正視力は改善した.このように,中心窩に意図的黄斑円孔を作製する本法は,BSSを注入する方法および中心窩を直接把持する方法のいずれにおいても,傍中心暗点の発生を予防できる点で利点が大きい可能性がある.一方で,意図的黄斑円孔を作製した際には,黄斑円孔が開存してしまう懸念がある.筆者らは,黄斑円孔の開存を予防するために内境界膜翻転法を併用し,良好な円孔閉鎖を得た.Kumagaiらの報告では内境界膜翻転を併用せず,全例で円孔閉鎖を得ており9),今後は,本法を施行する際に内境界膜翻転を行うべきか,多数例での検討が必要と考える.CIV結論継続通院治療が困難なCDMEに対して,硝子体手術および意図的黄斑円孔からの中心窩下硬性白斑除去術,.胞様腔内壁切開術を併用し,良好な結果を得た症例を経験した.抗VEGF治療が全盛の現在においても,それが叶わない場合には,通常の治療指針にこだわらず,患者の状況に合わせて,治療を工夫することが重要である.文献1)DasCA,CMcGuireCPG,CRangasamyS:DiabeticCmacularedema:pathophysiologyCandCnovelCtherapeuticCtargets.COphthalmologyC122:1375-1394,C20152)SigurdssonCR,CBeggIS:OrganisedCmacularCplaquesCinCexudativeCdiabeticCmaculopathy.CBrCJCOphthalmolC64:C392-397,C19803)瓶井資弘,石垣泰,島田朗ほか:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌C124:955-981,C20204)WellsCJA,CGlassmanCAR,CAyalaCARCetal:A.ibercept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema.NEnglJMedC372q:1193-1203,C20155)ToshimaCS,CMorizaneCY,CKimuraCSCetal:PlannedCfovealCdetachmenttechniquefortheresolutionofdiabeticmacu-larCedemaCresistantCtoCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactortherapy.RetinaC39:S162-S168,C20196)TachiCN,CHashimotoCY,COginoN:CystotomyCforCdiabeticCcystoidCmacularCedema.CDocCOphthalmolC97:459-463,C19997)ImaiH,TetsumotoA,YamadaHetal:Long-terme.ectofcystotomywithorwithoutthe.brinogenclotremovalforrefractorycystoidmacularedemasecondarytodiabet-icretinopathy.RetinaC41:844-851,C20218)ImaiH,OtsukaK,TetsumotoAetal:E.ectivenessofenblocCremovalCofCfibrinogen-richCcomponentCofCcystoidClesionforthetreatmentofcystoidmacularedema.RetinaC40:154-159,C20209)KumagaiK,OginoN,FukamiMetal:RemovaloffovealhardCexudatesCbyCsubretinalCbalancedCsaltCsolutionCinjec-tionCusingC38-gaugeCneedleCinCdiabeticCpatients.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC258:1893-1899,C202010)井坂太一,岡本芳史,岡本史樹ほか:意図的黄斑円孔を介した糖尿病性黄斑下硬性白斑除去術.眼臨紀C13:526-529,C202011)IwaneCY,CImaiCH,CYamadaCHCetal:RemovalCofCsubfovealCmassiveChardCexudatesCthroughCanCintentionalCmacularCholeCinCpatientsCwithCdiabeticmaculopathy:aCreportCofCthreecases.CaseRepOphthalmolC13:649-656,C202212)TakagiH,OtaniA,KiryuJetal:NewsurgicalapproachforCremovingCmassiveCfovealChardCexudatesCinCdiabeticCmacularedema.OphthalmologyC106:249-257,C199913)AvciCR,CInanCUU,CKaderliB:Long-termCresultsCofCexci-sionCofCplaque-likeCfovealChardCexudatesCinCpatientsCwithCchronicCdiabeticCmacularCoedema.Eye(Lond)22:1099-1104,C200814)NaitoT,MatsushitaS,SatoHetal:Resultsofsubmacu-larsurgerytoremovediabeticsubmacularhardexudates.JMedInvestC55:211-215,C200815)竹内忍:(田野保雄,大路正人編),後極部意図的裂孔作成の功罪.眼科プラクティス30,p158-159,文光堂,C2009C***

良好な視力経過をたどったStaphylococcus lugdunensis による白内障術後眼内炎の1 例

2022年5月31日 火曜日

《第57回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科39(5):644.648,2022c良好な視力経過をたどったCStaphylococcuslugdunensisによる白内障術後眼内炎のC1例佐藤慧一竹内正樹石戸みづほ岩山直樹岡﨑信也山田教弘水木信久横浜市立大学大学院医学研究科眼科学教室CARareCaseofEndoophthalmitisCausedbyStaphylococcuslugdunensisCafterCataractSurgeryCKeiichiSato,MasakiTakeuchi,MiduhoIshido,NaokiIwayama,ShinyaOkazaki,NorihiroYamadaandNobuhisaMizukiCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicineC目的:硝子体検体からCStaphylococcusClugdunensis(S.lugdunensis)が培養された良好な視力経過をたどった白内障術後眼内炎のC1例を報告する.症例:64歳,女性.左眼白内障手術施行後C8日目に霧視を自覚し前医を受診し,当院紹介となった.左眼矯正視力はC20Ccm手動弁まで低下しており,前房蓄膿と硝子体混濁を認め,左眼白内障術後眼内炎と診断した.霧視出現の翌日に眼内レンズ抜去と硝子体切除術を施行し,術後に硝子体検体からCS.lugudunensisが培養された.培養されたCS.lugudunensisはセフタジジムとバンコマイシンに感受性を示し,レボフロキサシンに中間耐性を示した.術後経過は良好であり,左眼矯正視力は(1.2)まで改善した.結語:眼内炎の起因菌として,S.lugu-dunensisも考慮する必要がある.早期の硝子体手術と抗菌薬の硝子体注射により眼内炎の予後は良好となりうる.CPurpose:ToreportararecaseofendophthalmitispostcataractsurgerycausedbyStaphylococcuslugdunen-sis(S.lugdunensis)inCwhichCaCgoodCvisualCoutcomeCwasCobtained.CCaseCreport:AC64-year-oldCfemaleCpresentedCwithCblurredCvisionCinCherCleftCeyeC8CdaysCafterCundergoingCphacoemulsi.cationCandCaspirationCcataractCsurgeryCwithCintraocularlens(IOL)implantation.CUponCexamination,Cvisualacuity(VA)inCthatCeyeCwasChandCmotionCatC20Ccm,andhypopyonandvitreousopacitywereobserved.Shewassubsequentlydiagnosedaspostoperativeendo-phthalmitis,andparsplanavitrectomy(PPV)andIOLexplantationwereimmediatelyperformedthefollowingday.ACcultureCtestCofCanCobtainedCvitreousChumorCspecimenCshowedCpositiveCforCS.lugdunensis,CwithCsusceptibilityCtoCceftazidimeandvancomycin,yetnotlevo.oxacin.Posttreatment,thebest-correctedVAinherlefteyeimprovedtoC20/16.CConclusion:Inthisrarecase,agoodvisualoutcomewasobtainedviaearlyPPVcombinedwithintravit-realantibioticadministration,andcliniciansshouldbestrictlyawarethatendophthalmitiscausedbyS.lugdunensisCcanoccurpostcataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):644.648,C2022〕Keywords:Staphylococcuslugdunensis,白内障手術,術後眼内炎,硝子体手術.Staphylococcuslugdunensis,cat-aractsurgrery,endopthalmitis,postoperativeendophthalmitis,parsplanavitrectomy.Cはじめに術後眼内炎は白内障手術の重大な合併症である.起炎菌としては,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS)が半数を占め,とくにCStaphylococcusepidermidisが多い.StaphylococcusClugdunensis(S.lug-dunensis)はCCNSに含まれる皮膚常在菌の一つであり,軟部組織感染や菌血症,心内膜炎などの原因菌として近年報告されているが1.3),眼内炎の起因菌としての報告はまだ少ない.抗血管内皮増殖因子薬硝子体内注射後の眼内炎は犬塚らの報告がわが国でもされているが4),白内障術後眼内炎の起因菌となった症例はわが国ではまだ報告がない.今回,StaphylococcusClugdunensisによる白内障術後眼内〔別刷請求先〕佐藤慧一:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:KeiichiSato,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPANC644(94)図1初診時所見a:前眼部写真.前房蓄膿と前房内フィブリン析出を認める.Cb:超音波断層検査像.硝子体混濁を認める.明らかな網膜.離は認めない.炎を生じ,良好な経過をたどったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:64歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:左眼白内障,右眼眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼.その他特記事項なし.糖尿病罹患歴なし.現病歴:左眼白内障の進行により近医にて左超音波乳化吸引術とCIOL挿入術を施行された.術後点眼として,モキシフロキサシンC4回,ベタメタゾンC4回,ブロムフェナクC2回の点眼が行われていた.手術C8日後,外来診察にてCVS=(1.0)であり,診察上感染兆候はみられなかったが,同日帰宅後に左眼霧視を自覚した.手術C9日後,起床時から左眼視力低下を自覚し,近医受診し,同日横浜市立大学附属病院(以下,当院)紹介受診となった.当院受診時所見:視力は左眼C20Ccm手動弁であり矯正不能であった.眼圧は左眼C11CmmHg,右眼C17CmmHgであった.左眼前眼部には前房蓄膿に加え,多数の炎症細胞とフィブリン析出,虹彩癒着を認めた.左眼CIOLは.内固定されており,左眼底は透見不可能であった.右眼は特記すべき異常はみられなかった.Bモード断層超音波検査では左眼の硝子体混濁を認め,明らかな網膜.離はみられなかった(図1).以上の病歴と所見より白内障術後感染性眼内炎と診断した.同日硝子体手術およびCIOL摘出術を施行し,術中の灌流液にバンコマイシン(VCM)10Cmg/500Cmlおよびセフタジジム(CAZ)20Cmg/500Cmlを混注した.術中所見では濃厚な硝子体混濁と,網膜の全象限に網膜出血と浸潤病巣が観図2術中眼底写真硝子体混濁に加え,網膜に出血と浸潤病巣が観察される.察された.網膜.離はみられなかった(図2).経過:術直後からセフトリアキソン(CTRX)1Cg/日の点滴を開始した.また,当院では硝子体手術後術後に追加治療としての硝子体内注射を行っており,術後C2日目とC5日目にCVCM2.0Cmg/0.2CmlとCCAZ4.0Cmg/0.2Cmlの連続した硝子体注射を行った.点眼としてガチフロキサシン(GFLX)6回,ベタメタゾンC6回,ブロムフェナクC2回を開始した.術後翌日から前房蓄膿は消失した.術後C6日目,術中の硝子体検体からCS.lugdunensisが培養され,眼底透見も改善傾向であった.本症例で培養されたCS.lugdunensisの薬剤感受性結果は,CAZとCVCMに感受性を示し,レボフロキサシ表1薬剤感受性試験結果ン(CLVFX)に中間耐性を示していた(表1).感受性確認後,薬剤MIC(Cμg/ml)判定CCTRXの点滴からセファレキシン(CCEX)C750Cmg/日内服へPCGC≦0.06CSC抗菌薬を変更し,退院とした.CGFLX点眼は術後感染予防目ABPCC≦1CSC的に退院後も継続した.術後C16日目には,CVS=(C0.5C×IOLCMPIPCC0.5CSC×sph+5.50D(cyl.0.75DAx5°)まで改善し,前眼部は炎CEZCCMZC≦1C≦4CSCSC症細胞を軽度認め,眼底には線状硝子体混濁がわずかに残るIPM/CSC≦1CSCが,網膜色調は良好であり,白斑や変性巣はみられなかっSBT/ABC≦2CSCた.術後C1カ月後にはCVS=(C1.0C×IOL×sph+5.00(cylCGMC≦1CSC.0.50DAx165°)の視力が得られた.術後C2カ月で点眼をABKCEMC≦1C≦0.25CNACSC終了した.術後C5カ月の時点で硝子体混濁は消失し,CIOL二CLDMC≦0.25CSC次挿入を施行した.術後C11カ月の時点でCVS=(C1.2C×IOL×MINOC≦1CSCsph.1.50(cyl.0.50)の最終視力が得られ,経過は非常にCAZC1CSC良好であった.CLVFXC2CICVCMC0.5CSCII考按TEICC≦1CSCDAPC≦0.25CSCS.lugdunensisは皮膚常在菌であり,CNSの一つである.STC≦0.5CSC皮膚感染症に加え,脳膿瘍,膿胸,軟部膿瘍,心内膜炎,FOMCRFPC≦4C≦0.5CSCSC敗血症,腹膜炎,人工関節周囲感染の原因菌としても知られLZDC1CSCている.他のCCNSに比べ病原性が高く,皮膚感染症や整形MUPC≦256CS外科疾患の領域ではCStaphylococcusaureus(CS.aureus)と臨PCG:ベンジルペニシリン,ABPC:アンピシリン,MPIPC:オ床上同等に扱われている2,3).キサシリン,CEZ:セファゾリン,CMZ:セフメタゾール,IPM/S.lugdunensisに起因する白内障術後眼内炎のこれまでのCS:イミペネム/シラスタチン,SBT/AB:スルバクタム/アンピ報告ではCLVFXに対して感受性をもつ株が培養されているシリン,GM:ゲンタマイシン,ABK:硫酸アルベカシン,EM:が5,6),本症例では感受性をもたなかった.エリスロマイシン,CLDM:クリンダマイシン,MINO:ミノサイクリン,CAZ:セフタジジム,LVFX:レボフロキサシン,2007年のChiquetらの報告では,白内障術後のS.VCM:塩酸バンコマイシン,TEIC:テイコプラニン,DAP:ダlugdunensis眼内炎C5例のうち,4例について硝子体切除術プトマイシン,ST:スルファメトキサゾール・トリメトプリム合を施行し,3例については術後網膜.離を発症し最終矯正視剤,FOM:ホスホマイシン,RFP:リファンピシン,LZD:リネゾリド,MUP:ムピロシン.力は手動弁以下であり,網膜.離を発症しなかった残りC1例CX-8日X日X+1日X+1カ月X+2カ月X+5カ月PEA+IOL挿入発症初診S.lugdunensis検出PPV+IOL摘出IOL二次挿入VCM+CAZ(I.V.)CTRX(div)CEX(p.o.)GFLX(点眼)矯正視力1.00.1図3治療経過PEA:水晶体乳化吸引術,IOL:眼内レンズ,PPV:経毛様体扁平部硝子体手術,VCM(I.V.):バンコマイシン硝子体注射(2.0Cmg/0.2Cml),CAZ(I.V.):セフタジジム硝子体内注射(4.0Cmg/0.2Cml),CTRX(div):セフトリアキソン経静脈投与(1Cg/日),CEX(p.o.):セファレキシン内服(750Cmg/日),GFLX(点眼):ガチフロキサシン点眼(6回/日).表2Staphylococcuslugdunensisによる白内障術後眼内炎の報告報古者発症から発症から受診時最終年齢術後受診まで手術まで治療合併症(報告年)の日数の日数矯正視力矯正視力827日2日5日硝子体手術Cm.m.C0.5特記なしCChiquetら(C2007)C8478696日5日12日不明不明不明C7日4日N/A硝子体手術C硝子体手術C硝子体注射Cs.L(+)Cs.l.(+)C0.2Cm.m.s.1.(.)1.0術後網膜.離C術後網膜.離C特記なしC647日不明5日硝子体手術Cm.m.Cn.d.術後網膜.離6810日不明CN/A硝子体注射Cn.d.C0.7特記なしGaroonらC757日1日CN/A硝子体注射Cn.d.C0.5特記なし(2018)C7321日不明2週間硝子体手術Cn.d.C0.2特記なし本症例(2021)C648日1日1日硝子体手術Cm.m.C1.0特記なしN/A:手術未施行につき該当なし,m.m.:手動弁,n.d.:指数弁,s.I.:光覚弁.は最終矯正視力はC0.5であった.いずれも受診時の視力は手動弁以下であり,発症から手術までの期間はC4.7日であった.1例については受診時矯正視力がC0.2と良好であり,硝子体注射による治療で最終矯正視力C1.0が得られている5).またCGaroonらの報告では白内障術後のCS.lugdunensis眼内炎C3例のうち,硝子体手術を施行した症例はC1例で,発症から手術まではC2週間が経過しており,最終矯正視力はC0.2であった.残りC2例は硝子体内注射で治療が行われ,最終矯正視力はそれぞれC0.7とC0.5であった(表2).Garoonらは硝子体手術には術後網膜.離のリスクが伴い,硝子体手術を施行しなかった症例に比べて視力予後が悪いとして,S.lugdu-nensis眼内炎に対する硝子体手術治療については懐疑的な提言をしていた6).しかし,本症例では矯正視力が手動弁からC1.0まで回復した.本症例では発症C1日以内と早期に手術治療を行ったことが過去の症例と異なっており,発症後早期に手術加療を行った場合は高い治療効果が期待できる可能性があると考える(表2).また,網膜全象限に浸潤病巣が出現していたが,網膜.離は生じておらず,網膜.離が生じる前に硝子体手術を完了できたことも治療効果につながった可能性がある.今回の症例では前房蓄膿が生じていたが,前述したCChi-quetらとCGaroonらのC8例の報告においても,Chiquetらの硝子体注射のみで治療を行ったC1例を除き,すべての症例で前房蓄膿を合併していた5,6).また,Cornutらの報告でもS.lugudunensis白内障術後眼内炎における前房蓄膿はその他のCCNS術後眼内炎による前房蓄膿に比べ丈が高いことが報告されている7).他科領域でもCS.lugdunensisによる人工関節周囲感染症は高率で膿瘍を合併することが知られており2),眼内炎の際に前房蓄膿の合併が多いことはCS.lugdu-nensis眼内炎の特徴の一つであると考えられる.先に述べた白内障術後眼内炎の報告において,発症から手(97)術まで数日以上経過している原因として,EndophtalmitisVitrectomyCStudy(EVS)の影響が考えられる.EVSでは1990.1995年にかけて白内障術後眼内炎に対する硝子体手術の治療効果を検討し,光覚弁まで低下している患者に対しては硝子体茎離断術の利益が考えられるが,手動弁以上の視力がある症例には必ずしも硝子体茎離断術は必要でないと提言している8).2013年のCEuropeanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveSurgeon(ESCRS)のガイドラインでは,まず前房穿刺を行い,初期治療としてはクラリスロマイシンの経口投与が提言されている.硝子体手術は前房水の培養とCPCRで感染が確認された場合に検討し,その際抗菌薬の硝子体注射と併用することが提言されている.また,手術の際も初回はCIOL摘出を行わず,後.切開を伴う硝子体切除に留めるとされている9).当院においては術後眼内炎発症時は早期に初期治療として硝子体切除術と硝子体検体の培養検査を施行し,その後数回の硝子体注射を施行している.IOL摘出術については必ずしも視力予後に寄与しないという報告もあるが10),今回は施行した.S.lugdunensis感染症は組織破壊性が高く,とくに心内膜炎の起因菌としてはCS.aureusと比べても死亡率が高いため,積極的な手術治療の必要性が論じられている11,12).S.lugdu-nensisに起因する心内膜炎のみならず,眼内炎についても,早期の手術治療の必要性について論じる余地があると考える結果であった.今回はわが国でこれまで報告のなかったCS.lugdunensisによる白内障術後眼内炎を経験した.S.lugdunensisは発症早期に硝子体手術を行い,硝子体培養によって適切な抗菌薬を選択することが予後につながると考えられた.あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C647C文献1)FrankKL,PozoJLD,PatelR:FromclinicalmicrobiologytoCinfectionpathogenesis:HowCdaringCtoCbeCdi.erentCworksforStaphylococcuslugdunensis.,ClinMicrobiolRev21:111-133,C20082)Lourtet-HascoeJ,Bicart-SeeA,FeliceMPetal:Staphy-lococcusClugdunensis,CaCseriousCpathogenCinCperiprostheticjointinfections:comparisontoStaphylococcusCaureusCandCStaphylococcusCepidermidis,IntCJCInfectCDisC51:56-61,C20163)桜井博毅,堀越裕歩:小児のCStaphylococcuslugdunensisによる市中感染症と院内感染症の臨床像と細菌学的検討,小児感染免疫31:21-26,C20194)犬塚将之,石澤聡子,小澤憲司ほか:StaphylococcusClug-dunensisによる抗血管内皮増殖因子薬硝子体内投与後眼内炎のC1例.眼科61:1535-1540,C20195)ChiquetCC,CPechinotCA,CCreuzot-GarcherCCCetal:AcuteCpostoperativeCendophthalmitisCcausedCbyCStaphylococcusClugdunensis.JClinMicrobiolC45:1673-1678,C20076)GaroonCRB,CMillerCD,CFlynnCHWJr:Acute-onsetCendo-phthalmitisCcausedCbyCStaphylococcusClugdunensis.AmJOphthalmolCaseRepC9:28-30,C20187)CornutCPL,CThuretCG,CCreuzot-GarcherCCCetal:RelationC-shipCbetweenCbaselineCclinicalCdataCandCmicrobiologicCspectrumCinC100CpatientsCwithCacuteCpostcataractCendo-phthalmitis.RetinaC32:549-557,C20128)EndophthalmitisCVitrectomyCStudyGroup:ResultsCofCtheCEndophthalmitisVitrectomyStudy.ArandomizedtrialofimmediateCvitrectomyCandCofCintravenousCantibioticsCforCtheCtreatmentCofCpostoperativeCbacterialCendophthalmitis.CArchOphthalmolC113:1479-1496,C19959)BarryCP,CCordovesCL,CGardnerS:ESCRSCguidelinesCforCpreventionCandCtreatmentCofCendophthalmitisCfollowingCcataractsurgery:Data,CdilemmasCandCconclusions.Cwww.Cescrs.org/endophthalmitis/guidelines/ENGLISH.pdf,201310)望月司,佐野公彦,折原唯史:硝子体手術を施行した白内障術後急性眼内炎の起炎菌と手術成績の推移.日眼会誌C121:749-754,C201711)KyawCH,CRajuCF,CShaikhAZ:StaphylococcusClugdunensisCendocarditisCandCcerebrovascularaccident:ACsystemicCreviewCofCriskCfactorsCandCclinicalCoutcome.CCureusC10:Ce2469,C201812)AngueraI,DelRioA,MiroJMetal:Staphylococcuslug-dunensisCinfectiveendocarditis:descriptionCofC10CcasesCandCanalysisCofCnativeCvalve,CprostheticCvalve,CandCpace-makerleadendocarditisclinicalpro.les.Heart(Britshcar-diacsociety)91:e10,C2005***

白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる 増殖糖尿病網膜症の1 例

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):491.495,2022c白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる増殖糖尿病網膜症の1例延藤綾香*1,2小林崇俊*2河本良輔*2大須賀翔*2佐藤孝樹*2喜田照代*2池田恒彦*3*1北摂総合病院眼科*2大阪医科薬科大学眼科学教室*3大阪回生病院眼科CACaseofProliferativeDiabeticRetinopathyinwhichLeukemiaTreatmentPossiblyA.ectedthePrognosisofVitrectomyAyakaNobuto1,2)C,TakatoshiKobayashi2),RyosukeKomoto2),SyoOsuka2),TakakiSato2),TeruyoKida2)andTsunehikoIkeda3)1)DepartmentofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaKaiseiHospitalC目的:白血病を合併した糖尿病網膜症は増悪しやすいことが報告されている.今回,白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)のC1例を経験したので報告する.症例:47歳,男性.左眼視力低下で初診.左眼は虹彩炎と硝子体出血で眼底透見不良.右眼はCPDRによる眼底出血と線維血管性増殖膜,Roth斑を認めた.内科で糖尿病,慢性骨髄性白血病(chronicmyeloidleukemia:CML)と診断された.左眼は牽引性網膜.離を認め,化学療法開始後早期のCCML寛解前に経毛様体扁平部硝子体切除(parsCplanavitrectomy:PPV)を施行した.術中増殖膜と出血の処理に苦慮し,術後に再出血を認めたため再手術を施行したが前眼球癆となった.右眼は汎網膜光凝固術を施行し,CMLの寛解後,硝子体出血と牽引性網膜.離に対しCPPVを施行した.術後経過は良好で矯正視力はC0.7に改善した.結論:CMLを合併したCPDRに対するCPPV施行の際は,CMLに対する内科的治療による全身状態改善のうえで手術を施行したほうが良好な手術成績が期待できる可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCproliferativeCdiabeticretinopathy(PDR)inCwhichCleukemiaCtreatmentCpossiblyCa.ectedtheprognosisofvitrectomy.CaseReport:A47-year-oldmalepresentedwiththeprimarycomplaintofvisuallossinhislefteye.Uponexamination,hislefteyehadiritisinwhichthefunduswasnotvisibleduetovitre-oushemorrhage.Hisrighteyehadretinalhemorrhage,.brovascularmembrane,andRothspots.Hewasdiagnosedwithdiabetesandchronicmyeloidleukemia(CML)C.Parsplanavitrectomy(PPV)wasperformedpreCMLremis-sionCdueCtoCtractionalCretinaldetachment(TRD)inChisCleftCeye.CDueCtoCintraoperativeCdi.cultyCinCtreatingCtheC.brovascularmembraneandhemorrhage,postoperativere-bleedingoccurred,soreoperationwasperformed.How-ever,CphthisisCbulbiCoccurred.CPPVCwasCperformedCinChisCrightCeyeCafterCpanretinalCphotocoagulationCandCCMLCremissionCdueCtoCvitreousChemorrhageCandCTRD,CandCtheCvisualCacuityCultimatelyCrecoveredCtoC0.7CpostCsurgery.CConclusion:InCPDRCcasesCcomplicatedCwithCCML,CitCmayCbeCpossibleCtoCobtainCbetterCsurgicalCoutcomesCifCPPVCsurgeryisperformedpostCMLremission.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):491.495,C2022〕Keywords:慢性骨髄性白血病,増殖糖尿病網膜症,寛解,硝子体手術,硝子体出血.chronicmyeloidleukemia,proliferativediabeticretinopathy,remission,vitrectomy,vitreoushemorrhage.C〔別刷請求先〕延藤綾香:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:AyakaNobuto,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANCはじめに糖尿病と白血病はともに網膜出血や軟性白斑,漿液性網膜.離などの眼病変を生じる疾患であり,それぞれの眼病変に関する報告は多数みられる1).しかし,糖尿病網膜症(dia-beticretinopathy:DR)に白血病を合併した増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に関しての報告は少なく,内科的治療と硝子体手術の関係や,手術後の視力予後についてはあまり明らかになっていない.今回筆者らは,白血病治療の状況が硝子体手術の予後に影響したと考えられるCPDRのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:47歳,男性.初診:2016年C4月.主訴:両眼のかすみ,左眼視力低下.既往歴:2型糖尿病(未加療),慢性骨髄性白血病(chronicmyeloidleukemia:CML),橋本病,高尿酸血症.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2014年の会社検診で高血糖を指摘されていたものの放置していた.2016年C3月下旬に両眼のかすみと左眼視力低下を自覚し,近医を受診したところ,左眼硝子体出血と右眼の散在性の網膜内出血,Roth斑様所見を認めた.典型的なCDRの所見ではなかったため内科受診を指示され,4月上旬に大阪医科薬科大学附属病院(以下,当院)血液内科での採血でCCMLが疑われ,HbA1c11.7%とコントロール不良のC2型糖尿病も認めた.4月中旬の近医眼科再診時に左眼視力が指数弁まで低下しており,左眼眼圧C38CmmHgと高値で血管新生緑内障を認めたため,4月下旬に当院眼科(以下,当科)紹介受診した.初診時採血結果:白血球数C156.4C×103/μl,赤血球数C454C×104/μl,ヘモグロビン量C11.9Cg/dl,血小板数C470C×103/μl,白血球分画は芽球C2.0%,前骨髄球C1.0%,骨髄球C26.5%,後骨髄球C3.5%,桿状核好中球C32.5%,分葉核好中球17.0%,単球C0.5%,好酸球C2.5%,好塩基球C9.5%,リンパ球C5.0%であり,白血球の著明な増多と幼若化,血小板の増加を認めた.また,HbA1c11.7%と高値でクレアチニン0.75Cmg/dl,血中尿素窒素C9Cmg/dl,eGFR91Cml/min/1.73Cm2と腎機能障害は認めなかった.初診時眼所見:視力はCVD=0.06(0.2C×sph.7.00D(cylC.1.00DAx180°),VS=30Ccm/m.m(n.c.)で,眼圧は右眼15CmmHg,左眼C33CmmHgであった.前眼部は右眼に軽度白内障を認め,左眼は軽度白内障に加えて虹彩炎,虹彩新生血管を認めた(図1).眼底はCDRには非典型的なCRoth斑を伴う散在性の眼底出血を認め,左眼は硝子体出血により透見不良であったが,増殖性変化を認めた(図2).また,術前超音波検査CBモードでは,左眼に後部硝子体腔の出血と下方に扁平な牽引性網膜.離を疑う像を認め(図3),術前蛍光造影(fluoresceinangiography:FA)では,左眼は硝子体出血のため撮影できなかったが,右眼は上鼻側・下鼻側を中心に新生血管を認め,網膜全体に無灌流領域も認めた(図4).経過:翌日に血液内科でCCMLの確定診断となり,内科治療が開始された.当科初診時は白血病のコントロールは不良であったため,まず左眼の血管新生緑内障に対して抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬治療施行予定としたが,本人の費用負担困難のため消炎目的にステロイド結膜下注射を施行した.徐々に消炎し眼圧下降も認めたが,左眼硝子体出血は残存していたため,5月に経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanaCvitrectomy:PPV)および白内障手術を施行した.術中は増殖膜の範囲が広く,とくに鼻側は癒着が強固で,双手法での膜処理中に多数の医原性裂孔を生じた.また,術中の出血が易凝血性でその処理にも苦慮した.術中網膜.離が胞状に拡大したため,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展し,人工的後部硝子体.離作製および増殖膜処理を続行したが,赤道部から周辺側は硝子体が残存した.気圧伸展網膜復位術後に裂孔周囲と後極を除く網膜全体に汎網膜光凝固を施行し,最後にシリコーンオイルタンポナーデを行い,手術を終了した.術後は眼圧上昇を認め,計C4回の前房穿刺を施行したが,眼圧コントロール不良であり,大量の前房出血もきたしていたため,6月にC2度目の左眼CPPVを施行した.まず前房洗浄とシリコーンオイル抜去を行い,眼内レンズは下方に脱臼していたため摘出した.眼底は網膜前面に厚い黄色調の凝血塊を広範囲に認めたが,癒着が強固であったため双手法でも完全に除去することは困難であり,周辺部の人工的後部硝子体.離作製も不完全なまま,最後にシリコーンオイルを再注入し手術を終了した.しかし,その後もシリコーンオイル下で出血が持続し,前房出血と角膜染血症のため眼底透見不能となった.3回目の手術も考慮したが,患者がこれ以上の手術治療を希望しなかったため,経過観察とした.その後左眼は前眼球癆の状態となった.右眼は計C3回の網膜光凝固術を施行(合計C1,000発照射)し経過をみていたが,7月に硝子体出血を認めた.内科治療に関してはC7月時点でCCMLは寛解となり,糖尿病もCHbA1c5.7%とコントロール良好となっていた.血液検査結果は白血球数C5.64C×103/μl,赤血球数C474C×104/μl,ヘモグロビン量C12.3Cg/dl,血小板数C191C×103/μl,白血球分画は芽球0%,前骨髄球C0%,骨髄球C0%,後骨髄球C0%,桿状核好中球C0%,分葉核好中球C67.5%,単球C8.0%,好酸球C0.5%,好塩基球C0.5%,リンパ球C23.5%であり,左眼初回手術時よりも改善していた.右眼硝子体出血は改善を認めなかったため,PPVを施行した.左眼同様に線維血管性増殖膜を広範囲に認め,左眼同様鼻側を中心に後部硝子体は未.離かつ癒図1初診時前眼部写真a:右眼.軽度白内障を認める.明らかな炎症初見は認めない.Cb:左眼.軽度白内障,虹彩炎を認める.Cc:左眼虹彩.虹彩新生血管を認める.Cab図2初診時眼底写真a:右眼.糖尿病網膜症には非典型的なCRoth斑を伴う散在性の眼底出血(△)を認める.Cb:左眼.硝子体出血により透見不良であるが,増殖性変化を認める.図3左眼術前超音波検査Bモード硝子体出血,網膜.離を疑う像を認める.図4右眼術前蛍光造影写真上鼻側・下鼻側を中心に新生血管を認め,網膜全体に無灌流領域を認める.b図5右眼術後画像a:眼底写真.汎網膜光凝固術を施行し,再出血は認めなかった.Cb,c:網膜光干渉断層写真.術後経過良好であり,矯正視力はC0.7まで改善した.着が強固であったため,双手法で慎重に膜処理を行った.術中の出血は左眼のように易凝血性ではなく,比較的処理しやすく,術中医原性裂孔も形成しなかった.人工的後部硝子体.離作製は周辺部までほぼ完遂でき,汎網膜光凝固を追加し,タンポナーデなしで手術を終了した.その後の経過も良好で,右眼矯正視力はC0.7に改善した(図5).II考按白血病における眼病変は,白血病細胞の直接浸潤によるもの,貧血,血小板減少,白血球増多などの造血障害によるもの,中枢神経白血病に二次的に生じるもの,に大別される.白血病細胞の直接浸潤による眼病変としては,網膜浸潤による大小さまざまな網膜腫瘤2)や,脈絡膜への浸潤による二次的な網膜色素上皮障害の結果生じた漿液性網膜.離3,4)や,血管周囲への浸潤による静脈周囲の白鞘化5)などがみられることがある.そのほか造血障害により網膜出血,Roth斑,軟性白斑,網膜血管の拡張・蛇行,毛細血管瘤,新生血管,網膜静脈閉塞症,硝子体出血などが2,3,6)生じることがあり,中枢神経白血病により二次的に乳頭浮腫や視神経萎縮などの視神経症が生じることもある5).また,前眼部病変としては,結膜充血や虹彩実質の菲薄化,虹彩異色,虹彩腫脹,偽前房蓄膿など多彩な病変をきたすことがある7).治療は内科的な白血病治療が主体であり,眼病変は全身状態と相関することも多いことから,治療や再発の指標となることが多いとされている8).DRと白血病の合併に関しては,DRに白血病が合併した場合,網膜症が増悪しやすいことが報告されている1,9.11).ChawlaらはCCMLを合併したC6例を報告し,3例は糖尿病発症時にCCMLの診断がついていたが,3例はCPDRの診断後にCCMLが判明したとしている.そして,6例C12眼ともにCPDRに進行し,うちC4眼が血管新生緑内障を併発し予後不良であったとしている1).Figueiredoらは糖尿病とCCMLを合併したC55歳,男性が,良好な血糖コントロールにもかかわらず,中等度の非CPDRから急速に両眼のCPDRおよび血管新生緑内障に進行したと報告している9).Melbergらはインスリン依存性の糖尿病をC9年間患っていたC16歳,女性が,急性リンパ性白血病を併発した後,6カ月という短期間に重度のCPDRへと進行し,失明に至ったと報告している10).網膜症増悪の原因としては,糖尿病,白血病ともに微小血管障害を生じるため,合併した場合に血管閉塞が増悪し,さらに貧血による組織の低酸素状態が関連すると考えられている.したがって,糖尿病の血糖コントロールに見合わないDRの急速な進行を認めた場合には,採血などによる全身精査を行い,白血病を伴う場合には,内科・眼科双方からの迅速かつ積極的な治療介入が視力の維持に重要となる.今回の症例では,コントロール不良の糖尿病に加えてCMLを合併し,明らかな貧血は認めなかったものの,PDR,白血病性網膜症の双方により重症の増殖性変化が生じたと考えられた.左眼は化学療法開始後早期のCCML寛解前に二度のCPPVを施行したが,増殖性変化が強く,術中の医原性裂孔形成や出血の処理に苦慮した結果,複数回の再手術を要し,最終的に前眼球癆となった.一方,右眼は眼底透見可能であったため,PPV前に汎網膜光凝固術を施行することができ,さらにCCMLと糖尿病の内科的コントロールを行った後に硝子体手術を行い,術後矯正視力がC0.7まで改善した.Raynorらはコントロール不良の糖尿病に加えて,CMLを合併したC61歳,男性が,わずかC1年の間に単純網膜症からCPDRへと急激に進行したが,光凝固治療に加えて,白血病に対する化学療法が,全身状態の改善とともに網膜症の進行抑制にも奏効した可能性を報告している11).これらのことより,初診時の網膜症重症度の左右差や,右眼では術前に汎網膜光凝固術を施行できたことも視力予後が良好となった一因と考えられる.CMLを合併したCPDRに対して硝子体手術を施行する際には,内科的治療により血液検査所見および全身状態を改善させたうえで手術を施行したほうが,良好な手術成績が期待できる可能性が示唆された.文献1)ChawlaCR,CKumarCS,CKumawatCDCetal:ChronicCmyeloidCleukaemiaacceleratesproliferativeretinopathyinpatientswithCco-existentdiabetes:ACriskCfactorCnotCtoCbeCignored.EurJOphthalmolC31:226-233,C20192)原雄将,嘉村由美,及川亜希ほか:両眼視力低下を契機に診断された小児慢性骨髄性白血病のC1例.日眼会誌C114:459-463,C20103)渡辺美江,西岡木綿子,川野庸一ほか:漿液性網膜.離を初発症状とした急性骨髄性白血病のC1例.あたらしい眼科C14:1567-1570,C19974)KincaidCMC,CGreenWR:OcularCandCorbitalCinvolvementCinleukemia.SurvOphthalmolC27:211-232,C19835)柳英愛,高橋明宏,加藤和男ほか:慢性骨髄性白血病に伴う網膜症のC1例.眼臨82:735-757,C19886)大越貴志子,草野良明,山口達夫ほか:血液疾患における眼底所見について.臨眼43:239-243,C19907)若山美紀,稲富勉:白血病細胞による虹彩浸潤病巣.あたらしい眼科22:337-338,C20058)木村和博,園田康平:内科医のための眼科の知識.日本臨床内科医会会誌26:242-245,C20119)FigueiredoCLM,CRothwellCRT,CMeiraD:ChronicCmyeloidCleukemiaCdiagnosedCinCaCpatientCwithCuncontrolledCprolif-erativeCdiabeticCretinopathy.CRetinCCasesCBriefCRepC9:C210-213,C201510)MelbergCNS,CGrandCMG,CRupD:TheCimpactCofCacuteClymphocyticCleukemiaConCdiabeticCretinopathy.CJCPediatrCHematolOncolC17:81-84,C199511)RaynorCMK,CCloverCA,CLu.AJ:LeukaemiaCmanifestingCasCuncontrollableCproliferativeCretinopathyCinCaCdiabetic.Eye(Lond)C14:400-401,C2000***

毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術後に 発症した網膜剝離に対してシリコーンオイル注入を行った1 例

2021年10月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(10):1216.1220,2021c毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術後に発症した網膜.離に対してシリコーンオイル注入を行った1例雲井美帆*1松田理*1松岡孝典*1橘依里*1辻野知栄子*1大鳥安正*1木内良明*2*1独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CACaseofSiliconeOilInjectionforRetinalDetachmentthatOccurredPostParsPlanaBaerveldtImplantSurgeryMihoKumoi1),SatoshiMatsuda1),TakanoriMatsuoka1),EriTachibana1),ChiekoTsujino1),YasumasaOtori1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciencesC目的:バルベルト緑内障インプラント手術後に発症した網膜.離に対してシリコーンオイル注入が有用であった例を報告する.症例報告:53歳,女性.1999年(35歳時)に糖尿病網膜症による硝子体出血,血管新生緑内障を発症し,両眼に複数回の硝子体手術,線維柱帯切除術を施行された.右眼眼圧コントロールが不良のため,2013年にバルベルト緑内障インプラント手術(毛様体扁平部挿入型)を施行された.2017年C6月右眼の視力が急激に低下し,大阪医療センター眼科を受診した.右眼の視力はC50Ccm手動弁,眼圧C5CmmHgで黄斑まで及ぶ網膜.離を認め,硝子体茎離断術,シリコーンオイル注入を行った.術後,網膜は復位しており眼圧はC15CmmHg以下で推移している.術後C2年半まで再.離や眼圧上昇,シリコーンオイル漏出の合併症なく経過している.結論:バルベルト挿入眼にもシリコーンオイル注入が可能であったが,眼圧上昇やシリコーンオイル漏出の可能性があり,注意深い経過観察が必要である.CPurpose:ToreportacaseofsiliconeoilinjectionforretinaldetachmentthatoccurredpostBaerveldtGlauco-maImplant(BGI)(Johnson&JohnsonVision)surgery.Casereport:A53-year-oldAsianfemalepresentedwiththecomplaintofseverevisonlossinherrighteye.In2013,shehadundergoneparsplanBGIsurgeryinherrighteyeduetopoorcontrolofintraocularpressure(IOP).In2017,retinaldetachmentwasoccurredinherrighteye,andCparsplanaCvitrectomy(PPV)andCsiliconeCoilCinjectionCwasCperformed.CResults:ForC2.5-yearsCpostoperative,CtheIOPinherrighteyehasremainedunder15CmmHg,withnoapparentleakageorrecurrenceofretinaldetach-ment.Conclusion:PPVcombinedwithsiliconeoilinjectionwasfoundusefulforretinaldetachmentthatoccurredinaneyepostBGIsurgery,however,strictfollow-upisrequiredinsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(10):1216.1220,C2021〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,網膜.離,増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,シリコーンオイル.Baer-veldtCglaucomaCimplant,CretinalCdetachment,CproliferativeCdiabeticCretinopathy,CparsCplanaCvitrectomy,CsiliconeCoil.Cはじめに続発緑内障,血管新生緑内障,角膜移植後などで線維柱帯切除術が困難な症例や,線維柱帯切除術による眼圧下降が不十分な難治性緑内障,結膜瘢痕が強い症例ではチューブシャント手術が必要となる.チューブシャント手術は,チューブからプレートへ房水を漏出させ,プレート周囲の線維性の被膜により濾過胞を形成し眼圧を下降させる.チューブの留置位置により前房型,毛様体扁平部型があり,術者,症例により使い分けられている1).わが国で使用可能なロングチューブシャントにはバルブのあるもの(アーメド緑内障バルブ),〔別刷請求先〕雲井美帆:〒540-0006大阪府大阪市中央区法円坂C2-1-14独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科Reprintrequests:MihoKumoi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2-1-14Hoenzaka,ChuoKu,OsakaCity,Osaka540-0006,JAPANC1216(84)バルブのないバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)がある.硝子体手術の既往がある場合には毛様体扁平部型を使用する例が増加しているが2),それに伴いチューブシャント手術後の網膜硝子体疾患の合併症例も増加している3).なかでも網膜.離はC6%と報告されている4).難治網膜.離に対してはシリコーンオイル(siliconeoil:SO)注入が必要になる可能性があるが,チューブへのCSOの迷入,眼圧上昇などの危惧があり5)世界でも報告は少なく,わが国ではCBGI留置眼へのCSO注入の報告は確認できなかった.今回毛様体扁平部挿入型CBGI手術後に網膜.離を合併し,SO注入をした症例を経験したので報告する.CI症例53歳,女性.1999年(35歳時)に糖尿病網膜症による両眼の硝子体出血,血管新生緑内障を発症した.右眼はC1999年C4月に初回の線維柱帯切除術,6月に硝子体茎離断術,白内障同時手術を施行された.眼圧コントロール不良のため,その後線維柱帯切除術・濾過胞再建術を合計C8回行われ,2013年C1月にCBGIを用いたチューブシャント手術(毛様体扁平部挿入型)を下耳側に施行された.左眼も複数回の硝子体手術,線維柱体切除術を施行されたがC2002年に失明状態となった.2017年C6月,右眼の急激な視力低下を自覚し大阪医療センター眼科受診した.視力低下時の右眼視力はC50Ccm手動弁,左眼は光覚弁で眼圧は右眼C5CmmHg,左眼C25CmmHgであった.右眼の結膜は全周が瘢痕化しており下耳側にCBGIが留置されていた.前眼部に帯状角膜変性があり透見性が不良であったが,下方網膜に裂孔を原因とする網膜.離を認めた.角膜内皮細胞密度は右眼C518個/mm2であった.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)でも黄斑部にまで及ぶ網膜.離があり(図1a),硝子体手術を施行した.術中所見(図2)結膜は非常に癒着が強い状態であった.結膜を切開しCBGIを露出すると,房水の漏出が確認された.BGIのチューブをC6-0バイオソルブで結紮し,輪部から13Cmmの位置に輪状締結術(#240)を施行した.BGI部分では後方のプレートの上から留置した.その後硝子体茎離断術(parsplanaCvitrectomy:PPV)を行った.BGIのチューブ先端は硝子体腔内にあり,周囲に網膜.離や増殖膜はなかCb図1黄斑部光干渉断層計所見a:.離時,b:術後C3カ月.図2術中所見a:全周に結膜瘢痕があった.b:下耳側にCBGIのチューブを確認した.被膜に覆われており,切開により房水の漏出があった.c:輪状締結術を行った.d:全体に増殖膜があり,下方にC6カ所の裂孔があった.Cab図3動的視野検査所見a:手術C6カ月前,b:術後C1カ月.硝子体手術前後で,V-4イソプターに著明な変化はなかった.眼圧(mmHg)1412108642000.511.5術後日数(年)図4術後眼圧経過術後C2年半まで眼圧はC15CmmHg以下で経過している.22.53った.網膜は後極から周辺部にかけて増殖膜が強く張っており下方に牽引性の裂孔をC6カ所確認した.可能なかぎり増殖膜を除去し,牽引が除去できない部位は網膜切開を追加した.最後にCSOを注入して終了した.経過:術翌日,SOの割合はC9割程度であった.術後眼圧はC10CmmHg程度で推移した.術後C1カ月後の動的視野検査では網膜.離発症のC6カ月前の視野検査と比較すると,黄斑部の.離のため視野の感度低下はあるがCV-4イソプターでは著明な変化はなかった(図3).術後C3カ月の時点で黄斑部の網膜は復位していた(図1b).術後C2年半経過時にも眼圧は緑内障点眼なしでC15CmmHg以下で経過している(図4).周辺部の増殖組織は完全な除去が困難であり,SO抜去によって眼球癆になる可能性があるため,SOは抜去せずに経過を観察している.帯状角膜変性の増強はあるが,右眼視力は0.01(0.01C×sph+1.5D(cyl.1.5DAx180°),であった.細隙灯顕微鏡検査で確認できるようなCSOの漏出はないが,硝子体腔のCSOはC7割程度に減少していた.CII考按近年,難治性緑内障に対しチューブシャント手術が行われる症例が増加してきており6),毛様体扁平部に留置されたBGI手術後に発症する網膜.離はC6%4),その他のチューブシャント手術も含めたものではC3%との報告がある7).チューブシャントによって房水柵機能が破綻され眼内に増殖因子が分泌されるため4),糖尿病網膜症が落ち着いていない状況でCBGIを挿入すると網膜症が悪化する可能性があると報告されている7).本症例はCBGI手術後C4年C5カ月で牽引性網膜.離を発症しており,増殖糖尿病網膜症の悪化やCBGI留置が網膜.離の原因になった可能性がある.糖尿病網膜症や血管新生緑内障の患者にチューブシャント手術を行う場合はとくに増殖膜の形成や網膜.離に注意する必要がある.チューブシャント手術後の網膜.離については,硝子体手術が有効であるとの報告があり,Benzらによると,初回からCPPVを施行したものでは全例術後再.離は起こらなかったとしている8).それに対してCPPVを行わずに網膜復位術や気体網膜復位術を行ったC3例では全例再.離を起こしPPVが必要になった8).治療についてはCPPVを選択し,網膜復位が困難な例ではCSO注入も検討する必要がある.本症例では周辺部に増殖膜による牽引性網膜.離を発症しており,すべての増殖膜除去が困難であったため輪状締結とPPV,SO注入を行ったが,術後C2年半まで再.離なく経過している.チューブシャント手術眼へのCSO注入ではオイルの漏出が問題となる.チューブにCSOが閉塞し眼圧が上昇するとさら漏出を起こしやすくなるため,チューブシャント手術後でSOの漏出によって再手術が必要になった例が今までにも報告されている.FribergらはCBGI(無水晶体眼,前房型,上方)でチューブからのCSOの漏出と眼圧上昇のためオイル抜去が必要になった症例を報告している9).Chanらは上方のBGI留置後に増殖糖尿病網膜症・網膜.離を発症し,SO注入を行ったC5カ月後の漏出を経験しているが,その際下方にチューブを移動させ再漏出を防いだと報告している10).SOは房水より比重が軽いため,チューブからの漏出を予防するにはCSOとの接触を減少させる下方へのチューブ設置が有利と思われる.本症例では下耳側の毛様体扁平部挿入型CBGI留置眼にCSOがC9割程度注入された.現在術後C2年半経過しており,SOはC70%程度に減少している.SOの減少は睡眠中などの臥位での漏出が疑われるが,チューブが下方に留置されていることから比較的脱出しにくくなっていると考えられる.結膜下にCSOが漏出している可能性はあるが,眼圧上昇や再.離,漏出による眼球運動障害,結膜腫脹はなく,検眼鏡的に確認できるようなCSOの貯留所見はない.しかしながら,Moralesら11),Nazemiら12)は下方に留置されたチューブ眼でも,シリコーン漏出や閉塞による眼圧上昇のため再手術が必要になった例を報告しており,今後も注意深い経過観察が必要と思われる.場合によっては毛様体の光凝固やマイクロパルスなどチューブシャント手術以外の眼圧下降方法も検討が必要である7).BGI硝子体腔留置術後の網膜.離に対してCSOを使用した硝子体手術は有効な選択肢であるが,長期予後については不明であるため,術後のCSO減少や眼圧上昇については注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)千原悦夫:チューブシャント手術の適応とチューブの選択.緑内障チューブシャント手術のすべて,メジカルビュー社,p16-19,20132)GandhamCSB,CCostaCVP,CKatzCLJCetal:AqueousCtube-shuntCimplantationCandCparsCplanaCvitrectomyCinCeyesCwithCrefractoryCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC116:189-195,C19933)LuttrullCJK,CAveryCRL,CBaerveldtCGCetal:InitialCexperi-enceCwithCpneumaticallyCstentedCbaerveldtCimplantCmodi.edforparsplanainsertionforcomplicatedglaucoma.OphthalmologyC107:143-150,C20004)SidotiCPA,CMosnyCAY,CRitterbandCDCCetal:ParsCplanaCtubeCinsertionCofCglaucomaCdrainageCimplantsCandCpene-tratingCkeratoplastyCinCpatientsCwithCcoexistingCglaucomaCandcornealdisease.OphthalmologyC108:1050-1058,C20015)NguyenCQH,CLloydCMA,CHeuerCDKCetal:IncidenceCandCmanagementCofCglaucomaCafterCintravitrealCsiliconeCoilCinjectionforcomplicatedretinaldetachments.Ophthalmol-ogyC99:1520-1526,C19926)ChenCPP,CYamamotoCT,CSawadaCACetal:UseCofCanti-.brosisCagentsCandCglaucomaCdrainageCdevicesCinCtheCAmericanCandCJapaneseCGlaucomaCSocieties.CJCGlaucomaC6:192-196,C19977)LawSK,KalenakJW,ConnorTBJretal:Retinalcompli-cationsCafterCaqueousCshuntCsurgicalCproceduresCforCglau-coma.ArchOphthalmolC114:1473-1480,C19968)BenzCMS,CScottCIU,CFlynnCHWCJrCetal:RetinalCdetach-mentCinCpatientsCwithCaCpreexistingCglaucomaCdrainagedevice:anatomic,CvisualCacuity,CandCintraocularCpressureCoutcomes.RetinaC22:283-287,C20029)FribergCTR,CFanousMM:MigrationCofCintravitrealCsili-coneoilthroughaBaerveldttubeintothesubconjunctivalspace.SeminOphthalmolC19:107-108,C200410)ChanCCK,CTarasewiczCDG,CLinSG:SubconjunctivalCmigrationCofCsiliconeCoilthroughCaCBaerveldtCparsCplanaCglaucomaimplant.BrJOphthalmolC89:240-241,C200511)MoralesJ,ShamiM,CraenenGetal:Siliconeoilegress-ingCthroughCanCinferiorlyCimplantedCahmedCvalve.CArchCOphthalmolC120:831-832,C200212)NazemiPP,ChongLP,VarmaRetal:Migrationofintra-ocularsiliconeoilintothesubconjunctivalspaceandorbitthroughCanCAhmedCglaucomaCvalve.CAmCJCOphthalmolC132:929-931,C2001***

残存水晶体囊が再発性硝子体出血の原因と思われた1例

2020年1月31日 金曜日

《第24回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科37(1):89?93,2020?残存水晶体?が再発性硝子体出血の原因と思われた1例西野智之山本学河野剛也本田茂大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学RecurrentVitreousHemorrhageduetoaContractionofResidualLensCapsuleTomoyukiNishino,ManabuYamamoto,TakeyaKohnoandShigeruHondaDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine再発性硝子体出血(VH)の一因が白内障手術後に残存した水晶体?の収縮と思われた増殖糖尿病網膜症(PDR)の1例を報告する.症例は57歳,男性.他院で右眼外傷性白内障のため15歳時に水晶体?外摘出術,34歳時に眼内レンズ(IOL)縫着術,また両眼ともPDRに対し汎網膜光凝固術の既往がある.右眼の再発性VHのため大阪市立大学附属病院眼科を受診.初診時右眼視力は(0.15),IOLの耳下側偏位と水晶体?の残存がみられた.経過中にVHの再発を繰り返したため,初診時より3カ月後に右眼硝子体手術を施行した.初回手術後もVHは再発・消退を繰り返し,初回手術より1年後に前房出血を伴い視力は手動弁に低下,眼圧も58mmHgと上昇したため,硝子体手術を再施行し,残存水晶体?の切除を行った.術後右眼視力は(0.2)と改善,眼圧も10mmHgと低下し,VHの再発はなく,IOL偏位も不変であった.今回の症例では,残存水晶体?が初回手術を契機に線維化・収縮を生じ,再発性VHの増悪を引き起こしたと考えた.Wereportacaseofproliferativediabeticretinopathy(PDR)withrecurrentvitreoushemorrhage(VH)likelyduetoacontractionoftheresiduallenscapsuleaftercataractsurgery.A57-year-oldmalepresentedwiththepri-marycomplaintofrecurrentVHinhisrighteye.Hehadpreviouslyundergoneanextracapsularcataractextrac-tionfortraumaticcataractinhisrighteyeatage15,followedbytranssclerallysuturedintraocularlensimplanta-tionatage34andsubsequentpanretinalphotocoagulationforbilateralPDR.SincetheVHrecurredfrequently,weperformedvitrectomyonhisrighteyeat3-monthsaftertheinitialexamination.Postsurgery,theVHrelapsedandoccasionallydisappeared,yetat1-yearpostoperative,severehyphemaoccurredandintraocularpressure(IOP)increasedto58mmHg.Thus,weonce-againperformedvitrectomyandremovedaresiduallenscapsule.Afterthesecondoperation,theIOPinthepatient’srighteyedecreasedto10mmHgandnorecurrenceofVHwasobserved.Inthispresentcase,wetheorizethatthecontractionoftheresiduallenscapsuleresultedintheexacer-bationoftherecurrentVH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(1):89?93,2020〕Keywords:糖尿病網膜症,硝子体手術,水晶体?収縮,前部硝子体線維血管増殖.diabeticretinopathy,vitrecto-my,capsularcontractionsyndrome,anteriorhyaloidal?brovascularproliferation.はじめに増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)は,糖尿病の晩期眼合併症であり,世界的にも重篤な視力低下の原因の一つとされる1,2).その増殖期の特徴としては,硝子体出血(vitreoushemorrhage:VH)や牽引性網膜?離(tractionalretinaldetachment:TRD),虹彩血管新生を引き起こし,進行すると神経網膜を障害し失明に至る.進行したPDRに対する唯一の治療法は硝子体手術であるが,再手術を必要とする割合は低くない.再手術の原因としてはVH,TRD,血管新生緑内障,前部硝子体線維血管増殖(ante-riorhyaloidal?brovascularproliferation:AHFVP)によるとされる3,4).また,近年の白内障手術後の合併症として,水晶体?が原因で引き起こされる水晶体?収縮(capsularcontractionsyn-drome:CCS)がある5?11).CCSに伴う合併症として,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の偏位や毛様体?離の報告〔別刷請求先〕山本学:〒545-8585大阪市阿倍野区旭町1-4-3大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学Reprintrequests:ManabuYamamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-4-3Asahi-machi,Abeno-ku,Osaka545-8585,JAPANも見受けられる.今回は,再発・遷延性VHの原因が過去のIOL縫着術時に残した水晶体?の収縮によるものであったPDRの症例を報告する.I症例患者:52歳,男性.既往歴:糖尿病罹病期間20年,腎不全により透析導入,脳梗塞.眼科既往歴:16歳時に右眼外傷性白内障に対して水晶体?外摘出術,34歳時に右眼IOL縫着術を施行.この頃より両眼糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)を認め,右眼VHのため前医で汎網膜光凝固術の治療歴あり.家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:前医で両眼のDR,右眼のVHに対し治療が行われていたが,2016年よりVHは再発・消退を繰り返すようになったため,精査加療目的に2017年3月に大阪市立大学附属病院眼科を紹介受診となった.図1初診時眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼ともに汎網膜光凝固瘢痕を密に認めた.図2初回手術時の術中所見と術後翌日の前眼部写真手術中,眼底に増殖膜や網膜新生血管は認めなかった(a).内境界膜?離を施行し(b),眼内レーザーを追加施行し終了した(c).残存水晶体?はIOLの固定の悪化を招く可能性を考え温存した(d).初診時所見:右眼視力=0.15(矯正不能),左眼視力=0.6(0.8×sph?2.25D(cyl?0.50DAx100°),右眼眼圧=17mmHg,左眼眼圧=19mmHgであった.右眼前眼部はIOLの耳下側偏位と残存水晶体?を認め,左眼は異常を認めなかった.当科初診時には右眼VHは認めなかった.眼底は両眼とも全周に光凝固瘢痕を認めた(図1).経過:初診時より2週間後に右眼はVHを再発し,視力低下を自覚したが,その1週間後には消退し,視力はVD=(0.15×sph?0.5D)と回復していた.さらに2カ月後に右眼VHが再発し,視力は10cm/指数弁(矯正不能)まで低下していた.このため,初診より3カ月後に硝子体手術を施行した.手術は27Gコンステレーション?ビジョンシステム(アルコン社)を使用した.術中,眼底に増殖膜や明らかな網膜新生血管は認めなかった.残存水晶体?はIOL縫着の偏位もあり,固定の悪化を招く可能性を考え温存した(図2).術後,右眼VHの再発なく,右眼視力も0.1(矯正不能)まで改善した.しかし,術後19日目に右眼VHが再発し,右眼眼圧30mmHgと上昇を認めた.ドルゾラミド塩酸塩およびチモロールマレイン酸塩液を処方し経過をみたところ,術後26日目に眼圧は正常化し,術後2カ月でVHは吸収された.術後4カ月で右眼VHは再発し,右眼視力1m/手動弁(矯正不能),右眼眼圧32mmHgと視力低下および眼圧上昇がみられた.ビマトプロスト点眼液,リパスジル塩酸塩水和物点眼液を追加処方した.術後5カ月でVHは吸収され,眼圧も15mmHgと低下した.この数カ月の間に,残存水晶体?縁は直線化し瞳孔の中央部への移動を認めていた(図3).術後10カ月で右眼の前房出血を伴うVHの再発がみられ,眼圧は58mmHgに上昇した.このため,前房洗浄術と硝子体手術を施行した.術中,収縮した残存水晶体?の付着部を中心に血塊を認めたため,水晶体?を硝子体カッターで切除・除去した.IOLの偏位は不変であった(図4).眼底には明らかな増殖性変化は認めなかった.2回目の硝子体手術以降,VHはみられず,IOLの偏位の悪化もみられなかった.a図3初診時と初回手術5カ月後の前眼部写真初診時(a)にみられた残存水晶体?縁は瞳孔縁に沿って弯曲していたが,初回手術5カ月後(b)には直線化し,瞳孔中央へ偏位している.下(a'およびb')はその模式図を表す.bcd図4再手術直前の前眼部写真と再手術時の術中所見術前,前房内に多量の出血を認める(a).硝子体手術にて残存水晶体?を切除・除去した(b).残存水晶体?の付着部位には多量の出血塊を認めた(c).眼内レーザーを追加施行し手術終了とした.図5再手術1カ月後(初回手術11カ月後)のフルオレセイン蛍光眼底造影a:右眼,b:左眼.両眼とも無血管野や網膜血管新生はみられず,汎網膜光凝固瘢痕も密に認めた.再手術より1カ月後(初回手術より11カ月後)の右眼視力は(0.15)と改善した.また,確認のために行ったフルオレセイン蛍光眼底造影では両眼ともに無血管野や網膜新生血管を認めなかった(図5).II考按PDRが進行しVHを発症する機序としては,おもに網膜血管の虚血により網膜や虹彩毛様体に血管新生が生じることによる1).血管新生の予防にはレーザー光凝固や,最近では抗血管内皮増殖因子薬(抗VEGF薬)が有効とされる.しかしながら,VHを発症した場合,遷延することが多く,その治療には硝子体手術が有効とされる.硝子体手術後に再発を繰り返すVHの原因としては,残存増殖膜の存在,TRD,隅角新生血管が主であるが,AHFVPを形成しているものもある3,4).また,今回の症例では残存水晶体?はIOLの前面にあり,水晶体?が膨隆したことによって,虹彩との物理的接触が起こり,出血を増悪させた可能性も否定はできない.一方,白内障手術後に水晶体?が原因で引き起こされるCCSは,従来連続前?切開を施行した白内障手術後に起こるとされ,そのリスク因子として,加齢,強度近視,落屑症候群,ぶどう膜炎,網膜色素変性,硝子体手術の既往,糖尿病の関連がいわれている6?11).組織学的検討では,水晶体上皮細胞の変性により起こるとされる.今回の症例でも,水晶体上皮細胞は水晶体?に残存しており,CCSと同様の機序で線維化を伴う変性が起こり?収縮を引き起こしていたと思われる.糖尿病の既往があり,硝子体手術を施行していることも,CCSを発症する高リスクであった可能性がある.今回の症例を総合すると,初回および再手術時に,増殖膜やTRD,隅角新生血管は認めなかったこと,初回手術後に残存水晶体?の収縮がみられ,その後高眼圧を伴うVHを再発したこと,残存水晶体?を切除することでVHの再発がみられなくなったことより,以下の考察を行った.つまり,20年近く以前のIOL縫着術の際に残した残存水晶体?が徐々に収縮し,(手術顕微鏡では検出困難であった毛様体新生血管が牽引されて)再発性VHが生じた.初回の硝子体手術をきっかけとして?収縮や膨隆が誘発され,さらに高眼圧を伴うVHを引き起こし,再手術における水晶体?の除去によって牽引が解除され,状態が治まったものと考えた.本症例はPDRの管理において,白内障手術後の水晶体?の収縮にも注意を払う必要性を示唆するものと思われる.文献1)CheungN,MitchellP,WongTY:Diabeticretinopathy.Lancet376:124-136,20102)SivaprasadS,GuptaB,Crosby-NwaobiRetal:Preva-lenceofdiabeticretinopathyinvariousethnicgroups:aworldwideperspective.SurvOphthalmol57:347-370,20123)YorstonD,WickhamL,BensonSetal:Predictiveclinicalfeaturesandoutcomesofvitrectomyforproliferativedia-beticretinopathy.BrJOphthalmol92:365-368,20084)LewisH,AbramsGW,WiliamsGA:Anteriorhyaloidal?brovascularproliferationafterdiabeticretinoathy.AmJOphthalmol104:607-615,19875)AssiaEI,AppleDJ,BardenAetal:Anexperimentalstudycomparingvariousanteriorcapsulectomytechniques.ArchOphthalmol109:642-647,19916)HayashiH,HayashiK,NakaoFetal:Anteriorcapsulecontractionandintraocularlensdislocationineyeswithpseudoexfoliationsyndrome.BrJOphthalmol82:1429-1432,19987)DavisonJA:Capsulecontractionsyndrome.JCataractRefractSurg19:582-589,19938)SudhirRR,RaoSK:Capsulorhexisphimosisinretinitispigmentosadespitecapsulartensionringimplantation.JCataractRefractSurg27:1691-1694,20019)MatsudaH,KatoS,HayashiYetal:Anteriorcapsularcontractionaftercataractsurgeryinvitrectomizedeyes.AmJOphthalmol132:108-109,200110)KatoS,OshikaT,NumagaJetal:Anteriorcapsularcon-tractionaftercataractsurgeryineyesofdiabeticpatients.BrJOphthalmol85:21-23,200111)HayashiY,KatoS,FukushimaHetal:Relationshipbetweenanteriorcapsulecontractionandposteriorcap-suleopaci?cationaftercataractsurgeryinpatientswithdiabetesmellitus.JCataractRefractSurg30:1517-1520,2004◆**

糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術

2019年1月31日 木曜日

《第23回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(1):97.101,2019c糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術佐藤孝樹河本良輔福本雅格小林崇俊喜田照代池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CVitreousSurgeryforDiabeticMacularEdemaTakakiSato,RyousukeKoumoto,MasanoriFukumoto,TakatoshiKobayashi,TeruyoKidaandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)における糖尿病黄斑浮腫(DME)の硝子体手術(PPV)成績について,術前のChyperre.ectivefoci(以下,foci)の有無で検討した.対象および方法:当科においてCDMEに対して初回PPVを施行しC3カ月以上経過観察可能であったC23例C28眼を後ろ向きに検討した.男性C11例,女性C12例.平均C63.7歳.術前の外境界膜(ELM)周囲にCfociのある群C15眼(+)群と,ない群C13眼(C.)群のC2群に分けて,術前,術C1カ月後,術C3カ月後における,視力,網膜厚を比較検討した.結果:全症例において,網膜厚,視力ともに術前に比べて,術C1カ月後,術C3カ月後で有意に改善した.術前において(-)群は(+)群より有意に視力良好であったが,術前と比較して術C3カ月後には両群とも有意に視力が改善していた.結論:Fociの有無に関係なく,DMEに対するCPPVでは術C3カ月後には視力および網膜厚は有意に改善した.Fociを認める場合でも,視力は不良であるが,PPVは視力改善に有効であることが示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcorrelationCbetweenCparsplanaCvitrectomy(PPV)outcomeCandCpreoperativeChyperre.ectivefoci(foci)inpatientswhounderwentPPVfordiabeticmacularedema(DME)C.Method:Weretro-spectivelyreviewed28eyesof23patients(11males,12females)whohadundergoneinitialPPVforDMEatOsa-kaCMedicalCCollegeCHospitalCduringCaCperiodCexceedingC3months.CAverageCageCwasC63.7years;15eyesChadCfociaroundexternallimitingmembrane(ELM)beforesurgery((+)group)C,and13didnot((-)group)C.Forthesetwogroups,CvisualCacuityCandCfovealCthicknessCwereCcomparedCbeforeCandCafterCsurgery.CResults:InCallCcases,CfovealCthicknessCandCvisualCacuityCimprovedCsigni.cantlyCinC1monthCandC3months,CcomparedCtoCbaseline.CThereCwasCaCsigni.cantCdi.erenceCinCbaselineCvisualCacuityCbetweenCtheC2groups.CVisualCacuityCwasCsigni.cantlyCimprovedCinCbothgroupsafter3monthspostoperatively,comparedtobaseline.Conclusions:Regardlessofpresence/absenceoffoci,CvisualCacuityCandCretinalCthicknessCwereCsigni.cantlyCimprovedCatC3monthsCpostoperativelyCforCDME.CWhenCfociexistaroundELM,althoughthevisualacuityispoor,itissuggestedthatPPVise.ectiveforrestoringvisualacuityinDMEpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):97.101,2019〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,hyperre.ectivefoci,硝子体手術.diabeticmacularedema,hyperre.ectivefoci,parsplanavitrectomy.Cはじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療は,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体注射が行われることが主流となっているが,反応不能例などに対しては硝子体手術が適応となる.また,治療の効果判定として,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が使用されることが多い.現在,OCT所見としてChyperre.ectivefoci(以下,foci)と視力予後の関連が注目されている.fociは硬性白斑(hardexudate:HE)の前駆体としての可能性が考えられており1),DMEの硝子体手術(parsplanaCvitrectomy:PPV)後,中心窩にCHEが集積する症例を時に経験する.今回,大阪医科大学附属病院眼科(以下,当科)におけるCDMEに対するPPV成績と術前のCfociの関与について検討した.〔別刷請求先〕佐藤孝樹:〒569-8686高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakakiSato,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC図1Foci群代表症例全層にCfociを認め,外境界膜(ELM)周囲にCfociを認める(.).表1患者背景foci(+)群(C15眼)foci(C.)群(C13眼)年齢C64.1±7.7歳C63.2±7.8歳男女比8:77:6浮腫の形態びまん13眼5眼.胞状2眼8眼網膜.離あり1眼3眼白内障手術併用6眼9眼手術時CTA併用硝子体注射7眼STTA1眼硝子体注射3眼ERMあり3眼3眼CPVD不完全4眼5眼なし7眼5眼完全1眼0眼I対象および方法当科において,2014年C1月.2016年C12月に,DMEに対して,初回CPPVを施行し,3カ月以上経過観察が可能であった,23例C28眼について後ろ向きに検討した.男性C11例,女性C12例.平均C63.7C±7.6歳.3カ月以内に抗CVEGF薬(アフリベルセプト,ラニビズマブ)硝子体注射やトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)Tenon.下注射(subTenonTA:STTA),網膜光凝固など他の治療を施行されたものを除外した.PPVはシャンデリア照明併用4ポートC25CGシステムで施行.有水晶体眼(14例C15眼)には白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)を併用した.術前の外境界膜(externalClimitingCmem-brane:ELM)周囲にCfociのある群C15眼〔foci(+)群〕(図1)と,ない群C13眼〔foci(C.)群〕のC2群に分けて,術前,術C1カ月,術C3カ月におけるClogMAR視力および網膜厚を比較検討した.p<0.05を有意な変化とした.CII結果全症例におけるClogMAR視力の平均値は,術前C0.744C±0.350,1カ月後C0.635C±0.339,3カ月後C0.572C±0.363で,術前と比較して,1カ月後(p<0.001),3カ月後(p<0.001)ともに有意に視力改善を認めた.網膜厚は術前C607C±220μm,1カ月後C441C±174μm,3カ月後C462C±159μmで,1カ月後(p=0.002),3カ月後(p=0.002)とも術前と比較して有意に減少していた.症例の詳細を表1に示す.foci(+)群は,黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)を認めたものがC3眼,後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)を認めたものがC1眼,PVD未.離がC7眼,PVD不完全なものがC4眼.白内障手術併用がC6眼,PPV時にCTA併用したものがC8眼(うち硝子体注射C7眼,Tenon.下注射C1眼)であった.一方,foci(C.)群は,ERMを認めたものが3眼,PVD未.離がC5眼,PVD不完全なものがC5眼.白内障手術併用がC9眼,PPV終了時にCTA併用したものがC3眼(いずれも硝子体注射)であった.術後にCHEが黄斑に集積した症例は認めなかった.foci(+)群とCfoci(C.)群の比較では,logMAR視力においてCfoci(+)群は術前C0.932C±0.340,1カ月後C0.777C±0.374,3カ月後C0.745C±0.401と,術前と比較して,1カ月後(p<0.001),3カ月後(p=0.018)で有意に視力改善がみられた.foci(C.)群は術前C0.527C±0.218,1カ月後C0.470C±0.203,3カ月後C0.372C±0.169で,術前と比較してC1カ月後(p=0.20)では有意差を認めなかったが,3カ月後(p=0.008)には有意に視力改善がみられた(図2).術前のC2群間の比較において,foci(C.)群はCfoci(+)群より有意(p<0.05)に視力良好であった(図3).網膜厚は,foci(+)群は術前C614C±259Cμm,1カ月後C405C±175Cμm,3カ月後C475C±173Cμmと,術前と比較してC1カ月後(p=0.004)には有意に網膜厚の減少を認めたが,3カ月後(p=0.11)には有意差を認めなかった.foci(C.)群は術前C599C±175μm,1カ月後C483C±170μm,3カ月後C453C±146μmと,術前と比較してC1カ月後(p=0.11)には有意差を認めなかったが,3カ月後(p=0.04)には有意に網膜厚の減少を認めた(図4).2群間で術前の網膜厚に有意差(p>0.05)は認めなかった.また,術終了時にCTAを併用した症例は,foci(+)群で硝子体注射C7眼,STTA1眼,foci(C.)群で硝子体注射C3眼であった.視力は,TA(+)群は,術前C0.757C±0.324,1カ月後C0.626C±0.318,3カ月後C0.589C±0.341,TA(C.)群は,術前C0.768C±0.401,1カ月後C0.653C±0.399,3カ月後C0.603C±0.416と両群とも術前と比較して,1カ月後,3カ月後ともに有意に視力の改善を認めた.網膜厚は,TA(+)群は,C1.4*1.211.510.50-0.5-1術前1カ月後p値3カ月後p値foci(+)0.9310.777<0.0010.7450.018foci(-)0.5270.470.200.3730.008全体0.7440.635<0.0010.572<0.001900800700foci(-)-0.4-0.60foci(+)foci(-)0.8logMAR視力6000.65000.44000.23000200-0.2100(Studentt-test)図3術前2群比較2群間において術前視力に有意差を認めるが,網膜厚に有意差は認めなかった.C9001,000900800図4網膜厚図5TAの有無による網膜厚全症例において,網膜厚は術前に比べて,1カ月後,3カ月後とTA(+)群の術C1カ月後,TA(C.)群の術C3カ月後において,有意に減少を認め,foci(+)群の術C1カ月後,foci(C.)群の術C3術前より有意に網膜厚の減少を認めた.カ月後において術前より有意に網膜厚の減少を認めた.網膜厚(μm)800700網膜厚(μm)700600600500500400300術前foci(+)614foci(-)599全体6071カ月後p値4050.0044830.114410.024003カ月後p値3004750.11術前4530.04TA(+)7014620.02TA(-)5051カ月後p値4320.014390.223カ月後p値5050.124100.07術前C701C±275Cμm,1カ月後C432C±152Cμm,3カ月後C505C±187μm,TA(C.)群は,術前C505C±130μm,1カ月後439C±205Cμm,3カ月後C410C±138Cμmと,TA(+)群のC1カ月後,TA(C.)群のC3カ月後において,術前より有意に網膜厚の減少を認めた(図5).CIII考按Fociは,OCTで描出される粒子状の病変である.Fociは,漏出した脂質や,蛋白質,炎症性細胞などから形成される物質であり,HEの前駆体といわれている2,3).Bolzらは,無治療の糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DMR)12例のOCT画像において,すべての症例で網膜全層にわたってfociを認め,fociはCDMEにおける早期のバリアの破綻によりリポ蛋白あるいは蛋白質が血管外漏出して析出したものではないかとしている1).Davoudiらは,238例の検討で,HEのある全症例でCfociを認めたが,fociを認める症例のうち57%のみにCHEを認めたとし,fociは総コレステロール値およびCLDLコレステロール値と高い相関を認めたとしている4).また,Ujiらは,網膜.離を伴わないCDMEにおいて,fociの外層への集積は視力低下に影響する因子であるとしている5).現在,DME治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体注射である.抗CVEGF薬硝子体注射とCfociの関係について,Frammeらは,51例の検討で,すべてのCDME症例にCfociを認め,抗CVEGF薬治療で全症例においてCfociは減少し,治療前のfoci量はCHbA1c値と正の相関を示したとしている6).また,Kangらは,97眼の検討で,抗CVEGF薬治療後にCfociは減少を認め,多変量回帰分析において,.胞状およびびまん性浮腫群では治療前視力および外層のCfoci量と最終視力に,漿液性網膜.離群では内層および外層のCfoci量と最終視力に相関があったとしている.つまり,治療前の外層のCfoci量によって最終視力が推察できるのではないかとしている7).しかし,ERMや,PVD未.離など網膜硝子体界面の異常を認める場合は,抗CVEGF薬の効果が不十分となることがある.Ophirらは,PPVを必要としたCDMEについて後ろ向き研究を行い,PVDが不完全な症例がC44眼中C23眼(52.2%),そのうちC20眼(87.0%)にCERMを認めたとしている8).本検討において,PVDを完全に認め,網膜硝子体界面の異常を認めなかった症例はC1例のみで,ERMがC6眼〔foci(+)群C3眼,foci(C.)群C3眼〕,PVD未.離がC12眼〔foci(+)群C7眼,foci(C.)群C5眼〕,PVD不完全がC9眼〔foci(+)群4眼,foci(C.)群C5眼〕だった.また,Kaiserらは,網膜硝子体界面の異常を認めるCDMEについての検討で,9眼のうちC8眼で網膜下液を認め,牽引により網膜下液を生じやすいのではないかとしている9).本検討においては,28眼中C4眼〔foci(+)群C1眼,foci(C.)群C3眼〕のみで網膜下液を認め,網膜硝子体界面異常症例のなかでも牽引の強いものにのみ網膜下液を認めた.Nishijimaらは,DMEに対するCPPV症例について,外層のCfociの有無で比較検討を行ったところ,視力は術前に有意差がなく,3カ月後,6カ月後でCfoci(C.)群では有意に改善がみられるものの,foci(+)群では改善がみられなかったとしている.また,網膜厚は全期間においてC2群間に有意差がなかったとしている10).今回の筆者らの検討では,術前よりCfociの有無で視力に有意差を認めており,foci(+)群で有意に視力不良であった.経過については,foci(+)群ではC1カ月後,3カ月後に有意に視力の改善がみられ,網膜厚はC1カ月後には有意に改善しているものの,3カ月後には有意差はなくなり増悪傾向を認めた.foci(C.)群においては術前と比較して,1カ月後に視力および網膜厚に有意差を認めず,3カ月後には視力および網膜厚ともに有意に改善を認めた.foci(+)群のほうが手術が有効であるかのような結果となった理由としては,PPV終了時にCTA併用された症例がCfoci(+)群に多かったことがあげられる.そのため,foci(+)群のほうが速やかに術後浮腫および視力が改善したと考えられる.しかし,foci(+)群において,網膜厚はC3カ月後において有意差はなくなり増悪傾向を認めた.それは,術C3カ月経過しCTAの効果が減弱したため浮腫が悪化したことによると考えられる.Nishijimaらの報告においては,術終了時には全例CSTTAが施行され,3カ月以降にも追加薬物療法が行われている.今回,TA(+)症例で,3カ月後に浮腫の悪化傾向を認めるものの視力は維持されており,浮腫も早期改善することから,PPV時にCTA併用することは有用であると考えられた.6カ月後,1年後の長期経過について検討を行いたかったが,経過良好例ついては転院により情報が乏しく,今回は検討が不可能であった.以上をまとめると,今回の検討では,foci(+)群の術前視力が有意に悪い状態であったことから,PPVに踏み切るタイミングが少し遅かった可能性が考えられる.DMEに対する治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体注射であるが,fociの外層への沈着は視力予後不良の因子と考えられるため,抗VEGF薬の反応不良例は速やかにCPPVを検討してもよいのではないかと考えられた.また,fociの有無に関係なくPPVにより視力の改善がみられたことから,とくに網膜硝子体界面の異常を認める症例はCPPVのよい適応であると考えられ,術終了時のCTA投与は早期浮腫改善のために有用であると思われた.本要旨は,第C23回日本糖尿病眼学会で報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BolzCM,CSchmidt-ErfurthCU,CDeakCGCetal;DiabeticCReti-nopathyCResearchCGroupVienna:OpticalCcoherenceCtomo-graphicChyperre.ectivefoci:aCmorphologicCsignCofClipidCextravasationCinCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyC116:914-920,C20092)DeBenedettoU,SacconiR,PierroLetal:Opticalcoher-enceCtomographicChyperre.ectiveCfociCinCearlyCstagesCofCdiabeticretinopathy.RetinaC35:449-453,C20153)CusickCM,CChewCEY,CChanCCCCetal:HistopathologyCandCregressionofretinalhardexudatesindiabeticretinopathyafterreductionofelevatedserumlipidlevels.Ophthalmol-ogyC110:2126-2133,C20034)DavoudiCS,CPapavasileiouCE,CRoohipoorCRCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCcharacteristicsCofCmacularCedemaCandhardexudatesandtheirassociationwithlipidserumlevelsintype2diabetes.RetinaC36:1622-1629,C20165)UjiA,MurakamiT,NishijimaKetal:Associationbetweenhyperre.ectiveCfociCinCtheCouterCretina,CstatusCofCphotore-ceptorlayer,andvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmolC153:710-717,C20126)FrammeCC,CSchweizerCP,CImeschCMCetal:BehaviorCofCSD-OCT-detectedChyperre.ectiveCfociCinCtheCretinaCofCanti-VEGF-treatedpatientswithdiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSciC53:5814-5818,C20127)KangCJW,CChungCH,CChanCKimH:CorrelationCofCopticalCcoherenceCtomographicChyperre.ectiveCfociCwithCvisualCoutcomesindi.erentpatternsofdiabeticmacularedema.RetinaC36:1630-1639,C20168)OphirA,MartinezMR:Epiretinalmembranesandincom-pleteCposteriorCvitreousCdetachmentCinCdiabeticCmacularCedema,CdetectedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:6414-6420,C20119)KaiserPK,RiemannCD,SearsJEetal:MaculartractiondetachmentCandCdiabeticCmacularCedemaCassociatedCwithCposteriorhyaloidaltraction.AmJOphthalmolC131:44-49,C200110)NishijimaCK,CMurakamiCT,CHirashimaCTCetal:Hyperre-.ectiveCfociCinCouterCretinaCpredictiveCofCphotoreceptorCdamageandpoorvisionaftervitrectomyfordiabeticmac-ularedema.RetinaC34:732-740,C2014***

強度近視網膜分離症の硝子体手術成績と自然経過

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1459~1464,2017強度近視網膜分離症の硝子体手術成績と自然経過岩崎将典木下貴正宮本寛知今泉寛子市立札幌病院眼科CSurgicalOutcomeandNaturalCourseofRetinoschisisinHighlyMyopicEyesMasanoriIwasaki,TakamasaKinoshita,HirotomoMiyamotoandHirokoImaizumiCDepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital強度近視網膜分離症C20例C23眼について,内境界膜(ILM).離併用C25ゲージ(G)硝子体手術を行ったCPPV群(16眼)と未施行の経過観察群(7眼)に分けて,レトロスペクティブに治療成績を比較検討した.PPV群はベースライン小数視力C0.28であったが,最終視力C0.39となり有意に改善した(p=0.035).経過観察群ではベースライン小数視力C0.46が最終視力C0.43と有意な変化はみられなかった.最終受診時の中心窩網膜厚はCPPV群C143.1C.m,経過観察群460.3C.mとCPPV群のほうが有意に小さかった(p=0.0003).ILM完全.離を施行したC11眼中C3眼に術後黄斑円孔網膜.離が発症したが,中心窩CILMを残す術式(FSIP)を施行したC5眼には術後全層円孔が生じなかった.強度近視網膜分離症に対しCILM.離を併用した硝子体手術が視力や中心窩網膜厚の改善に有用であった.中心窩が菲薄化している症例ではCFSIPで術後全層円孔を予防する必要がある.Westudied23eyesof20patientswithmyopicretinoschisis(RS)C.Vitrectomywithinternallimitingmembrane(ILM)peelingCwasCperformedCinC16Ceyes;7CeyesCwereConlyCobserved.CTheCmeanCdecimalCbest-correctedCvisualacuity(BCVA)intheoperatedgroupsigni.cantlyimprovedfrom0.28(baseline)to0.39(.nalvisit;p=0.035)C,buttheCmeanCBCVACinCtheCnon-operatedCgroupCdidCnotCchangeCsigni.cantlyCduringCfollow-up.CTheCcentralCretinalthickness(CRT)intheoperatedgroupwassigni.cantlysmallerthanthatinthenon-operatedgroupat.nalvisit(143.1C.mand460.3C.m,respectively,p=0.0003)C.Macularholeretinaldetachmentdevelopedin3ofthe11eyesthatunderwentcompleteILMpeelingaftersurgery.Nomacularcomplicationsdevelopedin5eyesthatunderwentfovea-sparingILMpeeling(FSIP)C.TheseresultssuggestthatvitrectomywithILMpeelingimprovesvisualacuityandCRTineyeswithRS,andthatFSIPshouldbeperformedtopreventmacularcomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(10):1459~1464,C2017〕Keywords:網膜分離症,強度近視,黄斑円孔網膜.離,硝子体手術,自然経過.retinoschisis,highmyopia,mac-ularholeretinaldetachment,vitrectomy,naturalcourse.Cはじめに強度近視網膜分離症はC1958年にCPhillipsらによって黄斑円孔のない後極部網膜.離として初めて報告された1).その後,光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)の開発によりその詳細な病態が報告されており2,3),強度近視眼における視力障害のおもな原因の一つとされている4).OCTでは網膜分離は網膜内層と外層が裂けた状態として認められるが,時間の経過とともに中心窩.離(fovealdetach-ment:FD),そして黄斑円孔網膜.離(macularholereti.naldetachment:MHRD)へと進行することが報告された5).治療法としては硝子体手術が広く行われており,内境界膜(internalClimitingCmembrane:ILM).離を併施することで網膜の伸展性が改善し,網膜の復位が得られるとの報告6)や,中心窩再.離が起きず最終視力も有意に改善したとの報告7,8)もあり,網膜分離症に対する有効性が示されている.さらに最近では,中心窩のCILMは.離せず,その周りをドーナツ状に.離する方法(foveaCsparingCILMCpeeling:FSIP)を行うことで術後全層円孔を予防する方法9)も報告されている.一方,自然経過において視力やCOCT所見があまり変化しないとの報告9)もあるため,一定の見解が得られて〔別刷請求先〕岩崎将典:〒060-8604北海道札幌市中央区北C11条西C13丁目C1-1市立札幌病院眼科Reprintrequests:MasanoriIwasaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,1-1Nishi13-Chome,Kita11Jo,Chuo-ku,SapporoHokkaido060-8604,JAPANいない.今回筆者らは市立札幌病院眼科を受診した強度近視網膜分離症例について,ILM.離を併用した硝子体手術を行ったCPPV群と,手術が行われなかった経過観察群とに分けて比較検討した.CI対象および方法2010年C4月~2016年C3月のC6年間に市立札幌病院眼科においてCOCTで強度近視網膜分離症と診断されC6カ月以上の自然経過を追えたC6例C7眼,および術後C6カ月以上の経過観察が可能であったC14例C16眼の計C20例C23眼を対象とした.強度近視の定義は,近視研究会がC2016年に示した等価球面値が-6.0D以上,または眼軸長C26.0Cmm以上に従った.視力に影響のある角膜混濁,弱視,中心窩を含む斑状網脈絡膜萎縮,黄斑円孔のある例は除外した.全症例の臨床経過を表1と表2に示す.男性C3例C5眼,女性C17例C18眼と女性が多く,平均年齢はC71.0C±8.9歳(54~83歳),平均観察期間はC30.2カ月(8~72カ月),ベースライン平均眼圧はC15.8C±2.5CmmHg(10~20mmHg)であった.有水晶体眼C18眼の平均等価球面屈折値はC-14.8±4.5D(C-5.9~C-22.3D)であった.眼軸長を測定したC18眼の平均眼軸長はC29.1C±1.5Cmm(26.6~30.8Cmm)であった.網膜分離以外の黄斑部併発病変は,網膜前膜C14眼(60.9%),分層円孔C10眼(43.5%),中心窩.離C8眼(34.8%)であった.経過中に硝子体手術を施行したCPPV群がC14例C16眼,手術を施行せず自然経過をみた経過観察群がC6例C7眼であった.これらの症例に対し視力測定や後極部のCOCT撮影をベースライン,3,C6,C12カ月後と最終受診時に施行した.また中心窩を通るCOCT水平断におけるCILMから網膜色素上皮の内縁までの距離を中心窩網膜厚(centralCretinalCthick.ness:CRT)と定義し,マニュアルキャリパー機能を用いて測定した.硝子体手術は全例C25ゲージシステムにより実施した.黄斑部の網膜前膜や硝子体皮質を除去し,全例でトリアムシノロンアセトニドもしくはブリリアントブルーCG(brilliantblueCG:BBG)を用いたCILM.離を併用した.ILM.離はILMを中心窩に残さない完全.離がC11眼,中心窩部分のILMを残す術式(FSIP)がC5眼であった.初回手術時にガスタンポナーデはC9眼に行った.内訳は空気がC2眼,20%CSFC6がC6眼,12%CSFC6がC1眼であった.有水晶体眼のC11眼には水晶体超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を併施した.これらの症例を,硝子体手術を施行したCPPV群と施行しなかった経過観察群に分けて,視力やCCRT,OCT所見に着目しレトロスペクティブに分析検討した.小数視力はすべてlogMAR値に換算して統計解析を行った.p<0.05を有意とした.CII結果両群間においてベースラインの視力,眼圧,性別,年齢,有水晶体眼の等価球面屈折値に統計学的な有意差は認めなかった(p≧0.05,FisherC’sCexactCtest,CMann-WhitneyCUCtest).視力について,PPV群ではベースラインの平均ClogMARは0.56(小数視力C0.28)であったが,最終C0.41(0.39)となり有意に改善した(p=0.035,Wilcoxonsigned-ranktest).一方,経過観察群ではベースラインの平均ClogMARはC0.33(0.46)であり,最終C0.36(0.43)と有意差はなかった(表3).また,ベースラインと最終視力を比較してClogMAR0.2以上の変化を改善もしくは悪化と定義した場合,表4に示すようにPPV群のほうが,最終視力が良好な傾向があった(p=0.067,Mann-WhitneyUtest).それぞれの群のCCRTの推移を図1に示す.ベースラインの平均CRTはPPV群518.9.m,経過観察群C335.1.mとPPV群のほうが大きい傾向がみられた(p=0.06,Mann-Whit.neyCUCtest).PPV群では術後C3カ月以降,有意にCCRTが減少した(p<0.01,WilcoxonCsigned-rankCtest).一方,経過観察群では有意なCCRTの変化はみられなかった.最終CRTはCPPV群C143.1C.m,経過観察群C460.3C.mとCPPV群のほうが有意に小さかった(p=0.0003,Mann-WhitneyCUtest).PPV群において全例で術中合併症は認めなかった.術後合併症はCMHRDをC3眼(18.8%)に認め,すべて初回手術後2週間以内に発症した.これらC3眼は術前からCFDを併発していた(図2).このうちのC1眼(6.3%)はCCC3F8ガスタンポナーデを用いた再手術で網膜は復位し,黄斑円孔は閉鎖した.残りのC2眼はシリコーンオイルタンポナーデを用いた再手術を施行し,約C1年後にシリコーンオイルを抜去した.このうちC1眼はシリコーンオイル除去時に黄斑プロンベ縫着を併施した.これらC2眼はともに網膜の復位を得たが,黄斑円孔は残存した.FSIPを施行したC5眼について,術後C6カ月までの経過の1眼に網膜分離の残存を認めているが,残りC4眼はすべて網膜分離が消失し黄斑円孔も発生しなかった.ベースラインの平均小数視力はC0.46であったが,最終C0.69と改善した.ベースラインの平均CCRTはC528.8C.mであったが,最終C149.0.mと有意に減少した(p=0.04,CWilcoxonCsigned-rankCtest).FSIPを施行した代表症例を図3に示す.術前は網膜分離と大きなCFDを認めていた.FSIPを併用した硝子体手術を施行し20%SFC6ガス置換とした.術後C2週間で網膜分離やFDは消失し術後C12カ月まで網膜分離の再燃なく最終視力(1.0)であった.最終COCT所見は,PPV群ではC15眼(93.8%)で網膜分離は消失し,1眼(6.3%)で網膜分離が残存した.網膜分離消表1PPV群の臨床経過ベースラインフォローアップC分離等価球面眼軸CRT観察最終最終C消失No.性別年齢視力屈折値長C(.m)COCT期間ILM.離ガス術後合併症出現時期・内容・手術視力CRT最終COCT期間(.m)(月)C1CMC78C0.6CIOLC30.8C1281CRSFDERMC15CFSIP20%CSFC6なしC1.0C85RS(-)MH(-)C0.5C2CMC78C0.6CIOLC30.5C166RS分層円孔C15CFSIP20%CSFC6なしC0.5C112RS(-)MH(-)C7C3CFC71C0.4C-17.9C30.3C399RS分層円孔ERMC17CFSIP12%CSFC6なしC0.9C250CRSC4CFC66C0.2CIOLC27.3C505RS分層円孔C10CFSIP20%CSFC6なしC0.6C178RS(-)MH(-)C10C5CFC74C0.7CIOLC28.2C293CRSFDERMC16CFSIPCAIRなしC0.6C120RS(-)MH(-)C16C6CFC83C0.1C-10.3C27.8C699CRSFDC29完全.離なしなしC0.09C188RS(-)MH(-)C6C2Cw後CMHRDPPV2+C3F812%7CFC67C0.15C-5.9C28.7C1014RSFD分層円孔ERMC18完全.離なし1M後CMHRDPPV3+SO0.09CMHC2C11M後CPPV4+SO抜去+黄斑プロンベC8CFC66C0.15CIOLC28.7C368CRSERMC29完全.離CAIRなしC0.15C80RS(-)MH(-)C7C2w後CMHRDでCPPV2+SO9CFC70C0.1C-22.3C30.7C475CRSFDC72完全.離20%CSFC612M後CPPV3+SO抜去C0.1CMHC23C10FC760.5C-10.5C30.4C377RS分層円孔ERMC12完全.離なしなしC1.0C169RS(-)MH(-)C5C11FC790.2C-10.9C26.6C529CRSC25完全.離なしなしC0.6C124RS(-)MH(-)C8C12FC790.2C-13.4C27.4C433CRSC25完全.離なしなしC0.5C116RS(-)MH(-)C14C13CFC790.1C-11.1C26.6C421RSFD分層円孔C50完全.離20%CSFC6なしC0.2C92RS(-)MH(-)C8C14FC560.6C-17.6C30.8C411RS分層円孔ERMC31完全.離20%CSFC6なしC0.4C122RS(-)MH(-)C11C15FC650.4C-14.4C29.5C310RS分層円孔ERMC8完全.離なしなしC1.0C184RS(-)MH(-)C7C16MC540.6C-19.5C29.9C621CRSFDERMC12完全.離なし2w後CMHRD+RS0.7C183RS(-)MH(-)C11100%CCC3F8硝子体注射C平均値C71.3C0.28C-14.0C29.0C518.9C24.0C0.39C143.1C9.0M:male,男性,F:female,女性,IOL:intraocularlens眼内レンズ挿入眼.RS:retinoschisis網膜分離,ERM:epiretinalmembrane網膜前膜,FD:fovealdetachment網膜.離,MH:macularhole黄斑円孔,MHRD:macularholeretinaldetachment黄斑円孔網膜.離,SO:siliconeoilシリコーンオイル,FSIP:foveasparingILMpeeling.表2経過観察群の臨床経過ベースラインフォローアップCNo.性別年齢視力等価球面屈折値眼軸CCRT(C.m)COCT観察期間最終視力最終CCRT(C.m)最終COCTC17C18C19C20C21C22C23CFCFCFCFCMCMCFC82C60C69C54C78C78C67C0.4C0.6C0.4C0.4C0.3C0.8C0.5C-13.0C-21.8-19.0-11.3-14.0-17.0-17.429.6C未測定C未測定C未測定C未測定C未測定C未測定C268C487302413409191276CRSCRS分層円孔ERMCRS分層円孔ERMCRSERMCRSFDERMCRSERMCRSC32C60C24C70C44C44C37C0.5C0.4C0.4C0.8C0.15C0.5C0.6C429C520349511369734310CRSCRS分層円孔ERMCRS分層円孔ERMCRSERMCRSFDERMCRS分層円孔CERMCVMTSCRSC7C69.7C0.46C-16.2C29.6C335.1C44.4C0.43C460.3M:male男性,F:female女性.RS:retinoschisis網膜分離,ERM:epiretinalCmembrane網膜前膜,FD:fovealCdetachment網膜.離,VMTS:vitreomacularCtrac.tionsyndrome.表3ベースラインと最終受診時の平均視力ベースライン最終受診時p値平均観察期間(月)平均ClogMAR0.560.410.035*PPV群(n=16)小数視力(範囲)C0.28(0.1~0.7)C0.39(0.09~1.0)C24.0平均ClogMAR0.330.36経過観察群(n=7)小数視力(範囲)C0.46(0.3~0.8)C0.43(0.15~0.8)C0.675C44.4*CPPV群の最終視力はベースラインと比較して有意に改善した.Wilcoxonsigned-ranktest,p<0.05.表4ベースラインと最終受診時の視力変化改善不変悪化PPV群(n=16)8眼(50.0%)C7眼(43.8%)C1眼(6.3%)Cp=0.067*経過観察群(n=7)C1眼(14.3%)C4眼(57.1%)C2眼(28.6%)ベースラインと比較しClogMAR0.2以上の変化を改善,もしくは悪化と定義した.*CPPV群のほうが視力予後良好な傾向があった.Mann-WhitneyUtest.失までに要した期間は平均C9.0カ月であった.また,2眼(11.8%)で黄斑円孔が残存した.一方,経過観察群ではC7眼中C7眼(100%)がC2年以上経過した後にも網膜分離が残存していた.CIII考按強度近視網膜分離症はしばしば緩徐な経過をたどるが,平均C31.2カ月でC68.9%が視力低下したとの報告5)や,平均15.7カ月の観察期間でC28.5%が視力低下や変視にて手術を必要としたとの報告11)もある.また,自然経過において網膜分離が改善することは少なく,徐々に網膜分離は広範囲に広がり分離の程度も悪化してゆく.その後しばしばCMHRDに進行し,その予後はきわめて不良となる10,12,13).本症例においても経過観察群のうちC2眼(28.6%)はベースラインと比較した最終視力のClogMARはC0.2以上の悪化をきたしていた.これに対し,PPV群において悪化はC1眼(6.3%)のみで,8眼(50.0%)が最終的にClogMARC0.2以上の改善を得た(表4).また,表3に示したようにCPPV群は最終視力も有意に改善した.このように強度近視網膜分離症においてCILM.離を併用した硝子体手術を行うことは視力の改善に有用と思われる.また,網膜分離に対しては経過観察群の全例で平均C44.4カ月後も最終的に網膜分離は残存し,CRTはベースラインのC355.1C.mから最終C460.3C.mとなり,悪化傾向がみられた(p=0.063).一方,PPV群のC15眼(93.8%)で網膜分離は消失しCCRTはベースラインC518.9.mが術後C3カ月で194.4C.mまで有意に改善し,最終的にC143.1C.mとなった.さらに,最終CCRTは経過観察群に比べCPPV群で有意に小さかった(p=0.0003).以上から,ILM.離を併用した硝子体手術は網膜分離を消失,改善させることに有効であり,網平均CRT(.m)PPV群経過観察群500600■400★★300★★200★★1000ベースライン3M6M12M最終n=23n=18*n=21*n=17*n=21*図1中心窩網膜厚(CRT)の推移■ベースラインCCRTはCPPV群のほうが経過観察群より大きい傾向がみられた.p=0.06,Mann-WhitneyUtest.★CPPV群のCCRTはベースラインと比較してC3カ月以降有意に低下した.p<0.01,Wilcoxonsigned-ranktest.★★最終CCRTはCPPV群のほうが経過観察群より有意に小さかった.p=0.0003,Mann-WhitneyUtest.*術後に黄斑円孔が残存したC2眼は除外した.C図3FSIPを施行した代表症例(症例CNo1)上:術前OCT.大きな中心窩.離(★)と網膜分離を認める.中:術後C2週のCOCT.PPV+FSIP+20%CSFC6置換を施行し術後2週で復位した.下:術後C12カ月のCOCT.網膜分離の再燃もなく視力(1.0)であった.C膜分離が持続することによる視力低下を防止することができると考えられた.ただし,硝子体手術には合併症があり,FDがある症例では,とくに術後にCMHRDになる可能性が高いとされてい図2術後にMHRDを生じた3例の術前OCTa:症例CNo9.シリコーンオイル使用するも最終的にCMHが残存した症例.Cb:症例CNo16.CC3F8使用によりCMHは閉鎖した.Cc:症例CNo7.2度CMHRDをきたし黄斑プロンベを施行.最終的に網膜は復位し,MHは残存.★:中心窩.離(FD)を認め中心窩は菲薄化している.このような症例には中心窩のCILMを残す術式(FSIP)が望ましい.Cる14).今回の症例でも術前からCFDを認めていたC7眼中C3眼に術後CMHRDが発生し,これらはすべてCILMを完全.離した症例であった.このうちC2眼は最終的に黄斑円孔が残存した.これら黄斑円孔が残存したC2眼は最終視力も不良であった(表1).このようにCFDに伴い,中心窩の網膜が菲薄化している症例においては,完全なCILM.離は術後に全層円孔を生じる危険性がある.ShimadaらはCFDを併発した強度近視網膜分離症C15眼に対しCFSIPを行うことで術後全層円孔が発生しなかったと報告している9).HoらもC12例の強度近視網膜分離症(うちC7例はCFD併発)にCFSIPを施行した結果,術後全層円孔がC1例もなく,視力低下もなかったと報告している15).今回の検討においても,FSIPを施行した5眼(うちC2眼はCFD併発)は術後全層円孔がみられず,最終視力も全例で(0.5)以上であった.以上から,FDを伴う症例においてはCFSIPを施行することが望ましいと思われた.強度近視網膜分離症に対してCILM.離を併用した硝子体手術を施行し,黄斑形態の改善や,視力およびCCRTの有意な改善を得た.したがって,本術式は強度近視網膜分離症の治療に有用であると思われた.しかしながら,FDを伴い中心窩が菲薄化している症例ではCFSIPによって術後全層円孔を予防する必要がある.本研究は後ろ向き検討であり,症例数も少ないため,今後のさらなる検討が必要と思われる.文献1)PillipsCCI:RetinalCdetachmentCatCtheCposteriorCpole.CBrJOphthalmolC42:749-753,C19582)TakanoCM,CKishiCS:FovealCretinoschisisCandCretinalCdetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaph-yloma.AmJOphthalmolC128:472-476,C19993)BenhamouN,MassinP,HaouchineBetal:MacularretiC-noschisisCinChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC133:C794-800,C20024)GohilCR,CSivaprasadCS,CHanCLTCetCal:MyopicCfoveoschi-sis:aclinicalreview.EyeC29:593-601,C20155)GaucherCD,CHaouchineCB,CTadayoniCRCetCal:Long-termfollow-upofhighmyopicfoveoschisis:naturalcourseandsurgicaloutcome.AmJOphthalmolC143:455-462,C20076)IkunoCY,CSayanagiCK,COhjiCM:VitrectomyCandCinternalClimitingCmembraneCpeelingCforCmyopicCfoveoschisis.CAmJOphthalmolC137:719-724,C20047)TaniuchiS,HirakataA,ItohYetal:VitrectomywithorwithoutinternallimitingmembranepeelingforeachstageofCmyopicCtractionCmaculopathy.CRetinaC33:2018-2025,C20138)IkunoCY,CSayanagiCK,CSogaCKCetCal:FovealCanatomicalCstatusCandCsurgicalCresultsCinCvitrectomyCforCmyopicCfoveoschisis.JpnJOphthalmolC52:269-276,C20089)ShimadaCN,CSugamotoCY,COgawaCMCetCal:FoveaCsparingCinternalClimitingCmembraneCpeelingCforCmyopicCtractionCmaculopathy.AmJOphthalmolC154:693-701,C201210)ShimadaN,TanakaY,TokoroTetal:NaturalcourseofmyopicCtractionCmaculopathyCandCfactorsCassociatedCwithCprogressionCorCresolution.CAmCJCOphthalmolC156:948.957,C201311)AmandaR,IgunasiJ,XavierMetal:NaturalcourseandsurgicalCmanagementCofChighCmyopicCfoveoschisis.COph.thalmologicaC231:45-50,C201412)島田典明,大野京子:強度近視網膜分離症アップデート.眼科C56:499-504,C201413)廣田和成:強度近視網膜分離症の手術適応.眼科C56:C1433-1437,C201414)HirakataA,HidaT:Vitrectomyformyopicposteriorret.inoschisisCorCfovealCdetachment.CJpnCJCOphthalmolC50:C53-61,C200615)HoCT,CYangCM,CHuangCJCetCal:Long-termCoutcomeCofCfoveolarCinternalClimitingCmembraneCnonpeelingCforCmyo.pictractionmaculopathy.RetinaC34:1833-1840,C2014***

手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績

2016年2月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(2):313.318,2016c手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績高橋光生*1勝田聡*1横井匡彦*2加瀬諭*3加瀬学*1*1手稲渓仁会病院眼科*2手稲よこい眼科*3北海道大学大学院医学研究科眼科学分野TherapeuticOutcomeofEyeglobeRupturebyBluntInjuryatTeineKeijinkaiHospitalMitsuoTakahashi1),SatoshiKatsuta1),MasahikoYokoi2),SatoruKase3)andManabuKase1)1)DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,2)TeineYokoiEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:鈍的外傷による眼球破裂の臨床像,治療方法,視力予後の報告.対象および方法:手稲渓仁会病院眼科で加療した鈍的外傷による眼球破裂33例34眼について,患者背景,白内障手術既往との関連,治療方法と成績,予後不良例の特徴などにつき,診療録からretrospectiveに調査した.結果:原因は転倒がもっとも多く,女性では発症年齢が男性よりも高かった.白内障手術の既往を有した16眼(47%)のうち,14眼で破裂創が切開創に一致しており,網膜.離の合併は切開創が一致しない1眼のみで認めた.ほぼ半数の症例で初回の縫合術の際に硝子体手術を併用したが,二次的に硝子体手術を追加した症例と経過や予後に明らかな差異はなく,手術回数は少なかった.視力の平均logMAR値は初診時2.51から最終1.43に改善した.11眼(36%)に網膜.離を認め,最終的に4眼で復位を得られなかったが,これらはすべて白内障手術の既往がなく,初診時の視力が光覚なしであった.結論:眼球破裂においては,術前の視力や白内障手術既往の有無が治療方針や予後の参考となる.また,初回から硝子体手術を併用する有用性が示唆された.Weretrospectivelyinvestigatedpatients’backgrounds,includinghistoryofcataractsurgery,locationofruptureandvisionprognosis,fromthemedicalrecordsof34eyesof33patientswhohadsufferedeyegloberupturebybluntinjuryandwereimmediatelytreatedatTeineKeijinkaiHospital.Patientagewashigherinfemalesthaninmales.In14ofthe16eyeswithexperienceofcataractsurgery,therupturewoundswerelocatedclosetothepreviouslyincisedline;however,theyshowednoretinaldetachmentexceptinonecase.Inabout50%oftherupturepatients,vitrectomywasdoneinthefirstoperation,aswellassuturingofrupturedwounds.FinallogMARvisualacuityimprovedto1.43from2.51initially.Retinaldetachmentoccurredin11eyes(36%),4ofwhichshowednoresolutionofretinaldetachment,all4havingexperiencednocataractsurgeryandpreoperativelyexhibitingnolightperception.Thisstudysuggestedthatvitrectomyismoreusefulinthefirstoperation,inadditiontomanagementofrupturedwounds.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):313.318,2016〕Keywords:鈍的外傷,眼球破裂,網膜.離,白内障手術,硝子体手術.bluntinjury,eyegloberupture,retinaldetachment,cataractsurgery,vitreoussurgery.はじめに鈍的外傷による眼球破裂は患者背景や臨床像が非常に多彩であり,眼組織の脱出や網膜.離を複雑に伴う難治性疾患である.治療の進歩にもかかわらず視力予後はいまだに不良であり,高齢者に長期の入院生活や体位制限,複数回の手術を要したにもかかわらず,最終的に光覚を保存できないこともある.また,硝子体手術の時期に関しては,術者や施設により見解が異なる.すべての症例に良好な視機能を残すことは困難であるが,術前に得られた問診や診察所見から予後を推測することがで〔別刷請求先〕高橋光生:〒006-0811札幌市手稲区前田1条12丁目手稲渓仁会病院眼科Reprintrequests:MitsuoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,Maeda1-12,Teine-ku,Sapporo-shi,Hokkaido006-0811,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(153)313 きれば,個々の症例に応じた治療計画を立て,患者の心身の負担を軽減させることが可能である.今回,一地方に位置する手稲渓仁会病院(以下,当院)において眼球破裂34眼の治療を経験した.今後の治療に役立てるため,患者背景や手術既往,術前の所見,治療方針が,視力予後とどのように関連したのかを調査したので報告する.I対象および方法2004年4月.2013年3月の10年間に,鈍的外傷による眼球破裂で当院を受診した連続症例33例34眼について,患者の性別や年齢,受傷原因,治療方法,最終視力,白内障手術既往の有無による臨床像や予後の相違,初回の術式による治療成績の相違,視力予後不良例の特徴について,診療録からretrospectiveに調査した.視力を統計学的に解析する目的で小数視力を対数変換したが,大半が指数弁以下であったため,Schulze-Bonselら1)の報告に基づき,光覚なしはlogMAR値2.9,光覚弁は同2.8,手動弁は同2.3,指数弁は同1.85として計算した.II結果全症例の概要を表1に示した.性別および年齢(図1)は,男性が15例15眼で24.87歳(平均59.1±17.7歳),女性が18例19眼で56.96歳(平均77.4±9.0歳),合計33例34眼で24.96歳(平均69.1±16.5歳)であった.受傷眼の左右の別は右眼が7眼,左眼が27眼.観察期間は14日.7.5年(平均24.7カ月)であった.受傷原因(図2)は転倒18眼,打撲14眼(庭仕事4眼,労働災害4眼,スポーツ2眼,表1全症例の概要年齢白内障手術の網膜.離症例性別(歳)左右受傷の原因既往他の既往脱出した組織・物質の有無初診時視力1女79左打撲(棒)+(ECCE)虹彩,眼内レンズ.手動弁2女74左転倒+(ECCE)虹彩,硝子体.光覚なし3男70左転倒+(ICCE)角膜混濁虹彩?手動弁4男51左打撲(石).硝子体+指数弁5男87左転倒+(PEA)虹彩,眼内レンズ.手動弁6男51右打撲(金具).虹彩,硝子体+光覚なし7女74左打撲(木).虹彩,水晶体,硝子体.光覚弁8男40左転倒.硝子体+光覚弁9女74左転倒+(PEA)虹彩.手動弁10女77左転倒+(ECCE?)虹彩,硝子体.指数弁11男57左打撲(金具).なし.0.0112男87左転倒.虹彩,水晶体,脈絡膜+光覚弁13女70左転倒+(ECCE)角膜混濁,緑内障虹彩,脈絡膜,眼内レンズ+0.01〃〃〃右転倒+(ECCE)角膜混濁,緑内障なし.光覚なし14男43左打撲(殴打).虹彩,硝子体+光覚弁15女69左転倒.角膜混濁,緑内障なし?光覚なし16女81左打撲(棒)+(ICCE)虹彩.光覚弁17女56左打撲(玩具).虹彩,水晶体,硝子体.光覚弁18女82左転倒+(術式不明)虹彩.光覚弁19男43右打撲(バール).虹彩,硝子体.手動弁20女86左転倒+(術式不明)虹彩.光覚弁21女89左転倒+(術式不明)虹彩.手動弁22女96左転倒+(術式不明)角膜混濁虹彩?測定不能23男63左打撲(ゴルフボール).脈絡膜+光覚なし24女69右打撲(木).虹彩.手動弁25男24左交通事故.なし+光覚弁26女69左転倒.虹彩,水晶体.手動弁27男69右打撲(ドア)+(PEA)虹彩.0.0728女84右転倒+(術式不明)虹彩.手動弁29女85左転倒.虹彩+手動弁30男60左打撲(ルアー).水晶体,硝子体+光覚なし31男85右打撲(落雪).硝子体,網脈絡膜+光覚なし32女80左交通事故.虹彩.光覚弁33男56左転倒+(術式不明)虹彩,眼内レンズ.光覚弁ECCE:白内障.外摘出術,ICCE:白内障.内摘出術,PEA:水晶体乳化吸引術,PVR:増殖硝子体網膜症.314あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(154) ドア,落雪,玩具,殴打が各1眼),交通事故2眼であった.当院受診から初回手術までの期間は,同日21眼,翌日6眼,2.5日後7眼であり,平均0.85日であった.当院受診から1日以内に約80%の症例で初回手術を施行できた.手術回数は1.6回であり,平均1.88回であった.初回手術において,破裂創の縫合に加えて硝子体手術を併用(以下,一期的手術)した18眼の平均手術回数は1.67回であった.初回手術は破裂創の縫合のみで二次的に硝子体手術を計画(以下,二期的手術)した症例が16眼あったが,年齢や既往疾患などを理由に追加手術を希望しなかったり,硝子体出血が吸収されて追加手術が不要となった症例が8眼あった.実際に二期的手術にて治療した8眼の平均手術回数は3.25回であった.硝子体手術においては,硝子体出血や網膜.離などの症状に応じて適宜必要な処置(ガスやシリコーンオイル注入など)を施した.初回手術の34眼の麻酔方法の内訳は,局所麻酔が23眼,全身麻酔が11眼であった.34眼中16眼に白内障手術の既往があり,そのうち14眼(88%)は白内障手術の切開創と受傷による破裂創が一致していた.角膜混濁により眼底検査が不能であった2眼を除き,検査が可能であった12眼では網膜.離は認めなかった.切開創と破裂創が一致しなかった2眼では1眼が網膜.離であった.白内障手術の既往がない18眼では,眼球の上方2象限に破裂創が集中しており,下方半周において破裂したのは2眼のみであった(図3).角膜混濁により眼底検査が不能であった1眼を除く17眼のうち,10眼(59%)に網膜.離を認めた.結局,眼底検査が可能であった31眼中11眼に網膜.離を認めた(36%)が,この11眼の内訳は白内障手術の既往初回術式手術回数観察期間(月)最終視力転帰縫合+硝子体手術10.70.3経過良好縫合+硝子体手術10.70.15経過良好縫合10.7光覚弁元々視力不良につき追加治療を希望せず縫合+硝子体手術2691.2網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術10.7手動弁認知症.希望で治療終了縫合+硝子体手術10.5光覚なし顔面骨折治療あり受傷12日後に受診.復位せず縫合3240.6経過良好縫合6900.2PVRとなりオイル注入.復位しオイル抜去.経過良好縫合+硝子体手術21.5手動弁角膜染血にて視力不良縫合120.07硝子体出血吸収され硝子体手術不要.経過良好縫合1901.2硝子体出血吸収され硝子体手術不要.経過良好縫合+硝子体手術3180.3網膜は復位.経過良好縫合2120.01経過良好.元々角膜混濁で視力不良縫合220.01経過良好.元々角膜混濁で視力不良縫合4340.1PVRとなりオイル注入.復位しオイル抜去.経過良好縫合10.5光覚なし元々視力不良につき追加治療を希望せず縫合460.04経過良好縫合390.6経過良好縫合278手動弁経過良好.視神経萎縮にて視力不良縫合1200.01経過良好.角膜障害で視力不良縫合1670.01水疱性角膜症にて視力不良縫合1150.06認知症につき追加治療を希望せず縫合111測定不能認知症,高齢,心疾患につき追加治療を希望せず縫合+硝子体手術258光覚なし受傷7日後に受診.復位せず眼球萎縮縫合+硝子体手術2601.0経過良好縫合+硝子体手術5330.15網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術144手動弁統合失調症.角膜混濁で視力不良縫合+硝子体手術1171.2経過良好縫合+硝子体手術130.7経過良好縫合+硝子体手術1240.06網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術143光覚弁復位せず.難治につき治療終了縫合+硝子体手術11.5光覚なし網膜が著明に脱出し復位せず.難治につき治療終了縫合+硝子体手術22光覚弁受傷20日後に受診.角膜混濁で視力不良.縫合+硝子体手術230.3経過良好(155)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016315 年齢(歳20代30代40代50代60代70代80代90代■:男性:女性024681012症例数(例)図1年齢分布と性別上直筋外直筋内直筋下直筋図3破裂創の中心部の分布×印は破裂創の中心部を示す.のあった14眼中1眼(6.7%)と既往のなかった17眼中10眼(59%)であり,Fisherの正確確率検定にて有意差があった(表2,p=0.007).視力測定が可能であった33眼の平均logMAR値は初診時2.51から最終1.43に有意に改善していた(paired-t検定,p<0.001).白内障手術の既往の有無と,最終視力との関連について調べた.角膜混濁や緑内障の既往があり,元々視力が不良であると推測された4症例5眼(症例3,13,15,22)を除外した29眼を対象とした.白内障手術の既往がある群12眼の初診時の平均logMAR値は2.38であり,最終の平均logMAR値は1.21であった.既往がない群17眼の初診時の平均logMAR値は2.60であり,最終の平均logMAR値は1.35であった.初診時視力,最終視力,および視力改善(初診時と最終の差)の3項目のt-検定で2群間に有意差はなかった(表3,それぞれp=0.18,p=0.72,p=0.84).また,初回の術式と最終視力との関連について調べた.同様に眼科既往のない29眼において,一期的手術群18眼では初診時の平均logMAR値は2.49であり,最終の平均316あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016転倒53%打撲41%交通事故6%図2受傷原因の内訳表2白内障手術既往と網膜.離の関連白内障手術既往+.網膜.離+.110137白内障手術既往のある症例では網膜.離の併発が有意に少なかった.(p=0.007)表3白内障手術既往の有無と視力の関連白内障手術既往p値有無初診時視力2.38±0.482.60±0.340.18最終視力1.21±0.821.35±1.160.72視力改善1.18±0.771.25±1.050.84白内障手術の既往の有無による2群間で,初診時視力,最終視力,視力改善に有意差はなかった.logMAR値は1.41であった.二期的手術群11眼中,実際に硝子体手術を施行した6眼では初診時の平均logMAR値は2.8であり,最終の平均logMAR値は0.97であった.初診時視力,最終視力,および視力改善(初診時と最終の差)の3項目のt-検定で2群間に有意差はなかった(それぞれp=0.12,p=0.41,p=0.12).網膜.離を認めた11眼中,4眼で復位を得られなかった.いずれも初診時の視力が光覚なしで受傷原因は打撲(ルアー,ゴルフボール,落雪,金具)であり,白内障手術の既往がなく破裂創から網膜や脈絡膜が脱出していた.4眼中3眼は術中に視機能の保存は困難と判断されたため,手術は1回のみで治療を終了した.経過観察中,感染性眼内炎や交感性眼炎の発症は認めなかった.III考察鈍的外傷による眼球破裂は,平均発症年齢が50.60歳代(156) で男性に多く,転倒が主要な原因であるとする報告が多い2.4).また,一般的に男性の場合,若年者では肉体労働やスポーツ,暴力が原因となりやすいことが特徴であるといわれる.今回の結果は上述の報告と比較して,男性の発症平均年齢が女性よりも低く,転倒に多くみられたことは一致したが,性別で男性よりもやや女性に多く,全体の平均年齢もより高齢であった.その差異として当院の立地条件が関与したと思われる.僻地在住の高齢者や認知症患者が転倒により発症した例が多く,スポーツや暴力による発症者は2例と少数であった.右眼よりも左眼に多く発症していたが,眼球破裂に関する過去の報告で左右の発症比率にとくに言及しているものはなく,外傷性網膜.離5)やスポーツ眼外傷6)では右眼により多く発症している報告もあり,明らかな要因は不明であった.眼科手術の既往を有する眼球破裂症例では,破裂創が手術の切開創に一致しやすいことが報告されている7,8)が,今回の筆者らの検討結果も同様であった.受傷の瞬間には反射的な閉瞼によりベル現象で眼球が上転し,外力により眼球が前後方向に短縮すると同時に,これと直交する方向では眼球がもっとも伸展する.結果として,上方では角膜輪部から上直筋付着部の範囲が強く伸展するが,白内障手術の強角膜創はちょうどこの位置に作製されるため,離開しやすいと推測されている.下方では赤道部後方の強膜が伸展するが,上方の伸展部位に比べると強膜は厚いため,今回の結果でも下方に破裂創が形成される例が少なかったと考えられる.白内障の術創は,坂本ら9)は4年5カ月後,立脇ら3)は10年後でも離開したと報告しているが,当院の結果では最長21年後でも離開していた.Simonsenら10)は摘出眼球を用いた実験において,白内障手術の輪部付近における術創の抗張力は術後4年で最大となるが非手術眼の64%であったとしており,今回の結果はその報告を立証していた.眼球破裂はほとんどの症例で著明な結膜下出血を伴うため,術前には破裂創の有無や部位が不明であることが多いが,白内障手術の既往がある症例においては手術の切開創が破裂創となっていることを想定して手術を開始することができる.この場合,破裂創が眼球の後方深部に及ぶことはほとんどなく,夜間の緊急手術で助手を確保できない場合であっても,術者一人で執刀することが可能である.また,今回の検討では,白内障手術の既往がある症例では既往がない症例と比較して,網膜.離を併発する率が有意に低かった.白内障手術の術創は角膜輪部付近に輪部に平行に作製されるため,外力により術創が離開・拡大しても,網膜への直接的な影響は虹彩や眼内レンズに比べて解剖学的に小さい.白内障手術の既往がある場合は,より軽微な外力で術創が離開して眼球破裂に至っている可能性があるが,結果として圧の変動や眼球壁の変形が軽減されることで網膜.離の(157)発症が抑制されていると推測される.白内障手術の既往の有無と視力予後については意見が分かれており,坂東ら11)は線維柱帯切除術や全層角膜移植術も含めての検討であるが手術既往のない症例に比べて最終視力は有意に低いと報告し,立脇ら3)は逆に比較的良いと報告している.筆者らの検討結果では,手術既往の有無により網膜.離の併発率に有意差があるにもかかわらず最終視力には有意差がなく,一見矛盾する結果となった.これは早期に硝子体手術を施行することで黄斑部の復位を得ていた可能性のほかに,白内障手術の既往のない群に網膜.離を併発せず視力が著明に改善した症例が多く含まれていたことが影響したと考えられる.最終的に4眼で網膜の復位を得られなかった.いずれも白内障手術の既往がなく初診時の視力が光覚なしであり,破裂創は長大で輪部に垂直な例が多く,網膜や脈絡膜が脱出していた.4眼中2眼は受傷後1週間以上経過してから受診していた.これらは過去の報告2.4)で指摘された予後不良因子の多くと合致した.また,4眼ともに受傷原因は打撲であり,転倒では認めなかった.転倒の場合,眼球への外力はおもに患者の身長と体重に起因する位置エネルギーと歩行時では運動エネルギーの総和となり,これはおよそ一定と考えられるが,たとえばスポーツや落下物による打撲の場合では,より大きなエネルギーが眼球に加わる症例があるためと推測された.手術方法が一期的か二期的かについては明確な指針はなく,それぞれに長所があるが,以前と比べて一期的に手術を施行する報告が増えた印象がある9,12).一期的手術の長所としては,①網膜.離併発の際の早期復位,②眼内の増殖性変化の防止,③感染性眼内炎の防止があげられ,二期的手術の長所としては,①角膜の透明性回復による視認性の向上,②網脈絡膜血管の怒張の軽減,③出血の溶解,④後部硝子体.離の進行があげられるが,筆者は一期的手術がより有用と考える.二期的手術の群では,患者や家族が年齢などを理由に治療を途中で断念し,硝子体手術を施行できないまま退院となった症例(症例3,15,21,22)が多くみられた.手術回数の軽減や入院期間の短縮が期待できる一期的手術を施行していれば,途中で治療を終了させることなく,より良い視力を得られていた可能性があった.近年の硝子体手術が小切開で低侵襲に進歩したことを考えると,眼内の状態を早期に把握する診断学的な観点からも,初回の硝子体手術は高齢者においても有益な操作と思われる.さらに一期的手術の群で初回手術時に硝子体手術が技術的に不可能であった症例はなく,また結果的に予後を悪化させたと思われる症例もなかった.眼内照明機器の進歩により多少角膜の透明性が不良であっても硝子体手術が可能となったこと,高齢者では最初から後部硝子体.離が完成している例が多いこと,もっとも難治あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016317 性と思われる増殖硝子体網膜症や感染性眼内炎の発症を避ける意味などからも,とくに高齢者では積極的に一期的手術を選択する意義があると考えられた.なお,今回の調査において一期的手術と二期的手術の2群間で視力に有意差はなかったが,症例数が少なく観察期間が短い症例もあり,統計学的に結論を出すにはさらなる症例数の蓄積と検討が必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Schulze-BonselK,FeltgenN,BurauHetal:Visualacuities“handmotion”and“countingfingers”canbequantifiedwiththeFreiburgVisualAcuityTest.InvestOphthalmolVisSci47:1236-1240,20062)樋口暁子,喜多美穂里,有澤章子ほか:鈍的外傷による眼球破裂の検討.臨眼56:1121-1125,20023)立脇祐子,前野貴俊,南政宏ほか:眼球破裂症例の予後に関連する術前因子の検討.臨眼60:989-993,20064)尾崎弘明,ファン・ジェーン,梅田尚靖ほか:外傷性眼球破裂の治療成績.臨眼61:1045-1048,20075)中西秀雄,喜多美穂里,大津弥生ほか:外傷に伴う網膜.離の臨床像と手術成績の検討.臨眼60:959-965,20066)笠置裕子:最近4年間におけるスポーツ眼外傷の統計的観察.東女医大誌51:868-869,19817)高山玲子,中山登茂子,妹尾正ほか:眼科手術後の外傷による眼球破裂症例の検討.眼科手術11:283-286,19988)相馬利香,森田啓文,久保田敏昭ほか:高齢者における鈍的眼外傷の検討.臨眼63:93-97,20099)坂本英久,馬場恵子,小野英樹ほか:眼内レンズ挿入術後の眼球破裂に対し一期的に硝子体手術を行った2症例.臨眼57:49-54,200310)SimonsenAH,AndereassenTT,BendixK:Thehealingstrengthofcornealwoundsinthehumaneye.ExpEyeRes35:287-292,198211)坂東誠,後藤憲仁,青瀬雅資ほか:眼外傷症例の視力予後不良因子の検討.臨眼67:947-952,201312)西出忠之,早川夏貴,加藤徹朗ほか:眼球破裂眼の術後視力に対する術前因子の重回帰分析.臨眼65:1455-1458,2011***318あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(158)