眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人田川義晃36.眼表面の痛みのメカニズム北海道大学大学院医学研究院眼科学教室眼表面における角結膜は,身体のなかでもっとも知覚の鋭敏な組織であり,痛みに対する感受性が高い.近年,通常の痛みだけでなく,慢性の持続する痛みの神経機序が解明されてきた.今後,眼表面の痛みに対する疾患概念の確立と,新しい治療法の開発が必要である.●はじめに眼が痛い,ゴロゴロする,乾くなどの訴えで受診する患者は多い.全身の他の部位と比較して,眼は乾く,ゴロゴロする,重たい,しみるなどの多様な訴えがある.このような眼の自覚症状には,角結膜に分布する三叉神経が関与している.しかし,その詳細は近年になってようやく解明されてきたのが現状である.本稿では,角結膜においてどのようにさまざまな感覚が受容されるか,さらに病的状態ではそれがどう変化するかについて概説する.C●痛みとはそもそも痛みとは何か?国際疼痛学会は,痛みを「実際に何らかの組織損傷が起こった時,あるいは組織損傷が起こりそうな時,あるいはそのような損傷の際に表現されるような,不快な感覚体験および情動体験」と定義している1).この定義に従うと,狭義の眼の痛み以外にも,眼に生じるさまざまな不快感は痛みに含まれる.そこで,本稿では狭義の痛みのみではなく,眼表面における不快な感覚について取りあげる.C●痛みを伝達する神経線維痛みを伝達する神経線維は知覚神経であり,その太さ(伝導速度)によりCACb,Ad,C線維に分類される(表1)2).Ab線維はおもに触圧覚を伝達し,痛みの伝達にはあまり関与していない.ACd線維はおもに局在が比較的明瞭な痛みを伝達する.C線維は局在が不明瞭な痛みを伝達し,内臓痛などはこのCC線維がおもに伝達している.C●痛みを受容するTRPチャネル痛みを伝達する神経はおもにCACd線維とCC線維であ(79)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY表1知覚神経線維の種類と特徴2)線維直径伝導速度機能CAb5~1C2Cμm30~7C0Cm/s触覚・圧覚CAd2~5Cμm12~3C0Cm/s痛覚・温度覚・触覚CC0.4~C1.2Cμm0.5~2Cm/s痛覚・温度覚表2眼表面に発現するTRPチャネル3)るが,その線維の神経終末では痛みはどう受容されるのだろうか?全身の末梢知覚神経にはCtransientCrecep-torpotentialcation(TRP)channelとよばれる侵害受容器が存在する2).侵害受容器とは,組織損傷を起こしうるような侵害刺激を電気信号に変える変換器である.ヒトではC27種類あることが知られているが,眼表面では次のC3種類が重要な役割を果たしている(表2)3).まず,熱や酸刺激に対して反応するCTRPV1は代表的な痛みのレセプターである.乾燥感はCTRPM8とよばれる低温や浸透圧変化に対して反応するレセプターが受容する.TRPA1は多様な化学的刺激に反応し,痛みやしびれを伝達するといわれている.角結膜における知覚神経にも,全身の末梢知覚神経と同様に,これらのCTRPチャネルが発現していることが知られており,眼での多様な感覚を受容している.C●通常の痛みと病的な痛み乾燥した部屋では涙液の蒸発が亢進し,眼表面の気化熱が奪われることで眼表面温度が低下する.その温度低下をCTRPM8が受容し,乾燥感を生じる.あるいは,眼に酸性の液体が入るとCTRPV1が酸刺激を受容し,痛あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C361図1角膜神経(生体共焦点顕微鏡による写真)a:正常者.b:ドライアイ患者.神経密度の低下がみられ,神経が障害されている.みが生じる.これらは通常の生体反応であり,生体における警告信号を正しく伝えているという点で生理的な痛みである.一方で,炎症や神経障害が生じているときにはCTRPチャネルの感作が生じるといわれている.たとえば,プロスタグランジンCE2は,TRPV1が反応する閾値を下げて,通常では反応しない刺激に対してもCTRPV1が反応するようにできる.生体内で炎症が生じると炎症性メディエーターが放出され,TRPチャネルの閾値が下がることで痛みを感じやすくなる.また,帯状疱疹などで神経が障害されると,急性期が過ぎても痛みの閾値が下がったままの状態が持続してしまう.このように神経が障害されることで生じる痛みを,とくに神経障害性疼痛とよぶ2).この神経障害性疼痛では,急性期が過ぎても痛みが持続してしまう.これは,本来の生体における警告信号としての役割を果たすわけではなく,病的な痛みが生じていると考えられる.C●眼表面における病的な痛み眼表面においても病的な痛みは存在するのだろうか?日常臨床ではしばしば病的な痛みを訴えていると思われる患者に遭遇する.LASIK後の症例や三叉神経第C1枝の帯状疱疹後の症例では末梢知覚神経が障害されるため,神経障害性疼痛が引き起こされていると想定される(図1).ドライアイと診断されている患者のなかにも,病的な痛みを抱えていると思われる患者は多い.角結膜上皮障害が少なく,涙液層破壊時間の短縮もないか軽度で,強い自覚症状を訴える症例では,眼表面の末梢神経の興奮が持続する神経障害性疼痛が生じていると考えられる.C●おわりに眼表面の病的な痛みを背景に外来受診される患者は思いのほか多いように感じるが,まだ疾患概念が十分に確立されているとはいいがたい.眼の痛みを訴える患者の神経病態の解明とその治療法の開発は,眼科領域においても今後の大きな課題と考えられる.文献1)日本ペインクリニック学会用語委員会(訳):国際疼痛学会痛み用語C2011年版リスト.20122)丸山一男:痛みの考え方─しくみ・何を・どう効かす─.p22,93,南江堂,20143)BelmonteCC,CNicholsCJJ,CCoxCSMCetCal:TFOSCDEWSCIICpainandsensationreport.OculSurfC15:404-437,C2017C362あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018(80)