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ロービジョンケアとしてのデジタルデバイス活用

2018年5月31日 木曜日

ロービジョンケアとしてのデジタルデバイス活用UsefulnessofDigitalDevicesinLowVisonCare三宅琢*下田百里奈**I背景ここ数年,従来型のロービジョンエイドとしてのルーペや単眼鏡などに加え,新しいロービジョンエイドとして,ICT(informationandcommunicationtechnology)端末などのデジタルデバイスの活用が進んでいる1).アップル社製のiOS端末(iPad,iPhoneなど)などには,全盲を含む視覚障害者が使用する際の補助機能であるアクセシビリティ機能が初期設定の中に存在している.ICT端末は情報の入手や発信,コミュニケーション手段として広く一般家庭に普及し,インフラストラクチャーとして定着した.大容量のデータ通信に対応したインターネット環境の整備に伴い,今後ICT端末はロービジョンケアを考えるうえでも重要なツールとなる可能性をもつ.学校教育の現場ではすでにこれらのICT端末は視覚障害児童に加えて,読み書き障害等の学習障害児童学習支援ツールとして実践されている2).さまざまな就学上の困難さを抱える児童への導入が始まり,ICT端末は教育現場での情報保障(身体的なハンディキャップにより情報を収集することができない者に対し,代替手段を用いた情報提供)を行ううえでの,実践的な合理的配慮(就学上の困難さを軽減するための環境調整の配慮)のツールとなりつつある.また,日本の障害者雇用は,障害者雇用促進法による積極的差別是正策としての障害者雇用率制度と,その法的なインセンティブとしての納付金制度によって,1970年代から推進されてきた.国連障害者権利条約の批准もあり,2013年に障害者雇用促進法が改正され,雇用率制度に加えて障害のある労働者への不当な差別的取り扱いの禁止と合理1的配慮の提供の義務化が行われることになった.それに伴い,就労環境においても合理的配慮のツールとして,ICT端末への期待が高まっている.これらの背景を踏まえて本稿では視覚障害者の代表的な五つのニーズ(見る,読む,移動,情報入手・発信,コミュニケーション)を軸に,ICT端末を中心としたデジタルデバイスがロービジョンエイドとして機能する具体例をあげ,導入意義について簡単に解説する.II見る1.個別性の高さによる閲覧意欲の低下防止iPadに代表されるタブレット端末では,端末背面のカメラなどの解像度の向上に伴い,デジタルルーペや単眼鏡のように利用することが可能になった.また,タッチパネル式の端末では,画面を指で触れることにより表示画像を任意の倍率に拡大・縮小できる.これらのデジタルデバイスは一般に普及した機器であるため,無償の体験版を含む安価なアプリケーションソフトウェア(以下,アプリ)も多数存在する.視覚特性に合わせて個別に色調やコントラスト感度を調整可能な安価な拡大鏡アプリも存在し,視覚障害者が利用するこ*TakuMiyake:東京医科大学眼科学教室**YurinaShimoda〔別刷請求先〕三宅琢:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(61)625図1拡大読書器アプリを用いてレシートを拡大して閲覧している様子アプリ名「明るく大きく」(販売元:KazunoriAsada).ab図2紙幣識別アプリにて紙幣(a),色識別アプリにて色(b)を読み上げている様子a:アプリ名「NantMobileマネーリーダー」(販売元:IPPLEXHoldingsCorporation)b:アプリ名「ColorSay-世界をカラーで聞こう!」(販売元,:WhiteMartenUG(haftungsbeschraenkt).abc図3文章構造の最適化図表の閲覧モード(a)では自由に拡大率を変更し,書き込み等を行うことが可能である.読字モード(b)では使用者に最適化なフォントも選択可能であり,文章の再構成表示が可能である.また閲覧モード(c)では任意の文章の音声読み上げも可能である.(販売元:KAGAEDUCATIONALMARKETINGCO.,LTD.).図4眼鏡型音声読み上げ読書器メガネに装備された小型カメラでメニューを撮影し,インターネットを経由してデジタルテキスト化,音声変換を行うことが可能なデバイスで読み上げている様子.眼鏡型音声読み上げ読書器「OTONGLASS」(販売元:株式会社OTONGLASS).図5スマートフォン用の移動支援アプリの例端末の長辺方向の方角を音声で案内するアプリや画像情報に依存することなく音声のみで歩行ルート案内を行うスマートフォン用アプリ.コンパスiOS標準アプリ「ViaOptaNav」(販売元:NovartisPharmaceuticalsCorporation).図6移動支援ロボットテクノロジーで身体機能をシェアする遠隔の移動支援ロボットBODYSHARINGROBOT“NIN_NIN”(開発中)図7発話解析・認識インターフェース(Siri)Siriに「Siriは何ができる?」と質問することで,最新の機能一覧と話し方例を確認することが可能である.図8レクリエーションへの活用タッチペンを使用して趣味のボーリングを体験する90代の施設入居者の様子.アプリ名「POCKETBOWLING」(販売元:DumaduGamesPvtLtd).図9操作練習用アプリiOS端末本体にアプリをダウンロードすることで,ボイスオーバー機能による操作を実機において学ぶことが可能である.アプリ名「視覚障害者向け使い方教室foriPhone」(販売元:ソフトバンク).図10障害者雇用マニュアル『コミック版1障害者雇用マニュアル視覚障害者と働く』(2013年3月).視覚障害に関する基礎知識,就労支援機器や支援制度の活用例,職場での具体的な支援方法などを盛り込みながら,雇入れと職場定着に必要な雇用管理の手法などについて,コミック形式で事例を紹介するマニュアル.

再生医療とロービジョンケア

2018年5月31日 木曜日

再生医療とロービジョンケアRegenerativeMedicineandLowVisionCare栗本康夫*はじめに視覚の経路は外界の光を眼表面から取り込んで網膜に達するまでの光路と網膜から視覚中枢に至る視路に分けることができるが,眼科領域における再生医療の現状は両者で大きな隔たりがある.光路を構成する角膜と水晶体では,眼以外の臓器と比べても再生医療の実用が早くから進んでいる.角膜については,献眼による角膜移植が20世紀前半に海外で開始され,わが国でも1958年に「角膜移植に関する法律」が発布し,その後の法律改定を経て,標準医療として定着してすでに久しい.さらに,他家移植に伴う免疫拒絶などのリスクやドナー不足を克服するために,自家組織幹細胞や代替細胞による細胞治療も開発され,すでに臨床実施されている1).水晶体に関しては,白内障で混濁した水晶体の摘出は紀元前にまで遡ることができる.現在では摘出された水晶体に代わって眼鏡やコンタクトレンズなどによる屈折の補正が行われている.水晶体を代替する眼内レンズの移植は20世紀の半ばに初めて臨床で実施され2),人工臓器による水晶体再生医療が確立した.その後,術式はめざましい進歩を遂げ,今日,眼内レンズを利用した水晶体再建術はあらゆる外科手術のなかでももっとも成功している治療といっても過言ではないほどの普及をみている.このように角膜や水晶体の再生医療は実臨床に定着してすでに久しいのに対して,視路を構成する網膜および視神経についてはまったく事情が異なる.百年ほど前,神経科学界の巨人であるカハール(Cajal)が「哺乳類の中枢神経系においては,いったん発達が終われば軸索や樹状突起の成長と再生の泉は枯れてしまって元に戻らない.成熟した脳では神経の経路は固定されていて変更不能である.あらゆるものは死ぬことはあっても再生することはない」3)と記載して以来,成熟した哺乳類の中枢神経はひとたび細胞死や軸索の切断をきたすと再生することはないとドグマの如くに信じられてきた.眼科領域においても,中枢神経系に属する網膜および視神経は,疾病や外傷により神経細胞がひとたび変性に陥れば再生することはないと信じられ,再生医療は夢の話であった.しかしながら,近年の基礎医学領域での研究の長足の進歩により,網膜の再生医療が実現しようとしている.そして,近い将来には実臨床に広く普及してゆくことが期待される網膜再生医療は,ロービジョンケア領域にも大きな変革をもたらすことになる可能性がある.本稿では,網膜再生医療の現状を紹介したうえで,ロービジョンケアが果たすと予測される新たな役割について述べる.I網膜と再生医療ヒトの体では,皮膚や血球をはじめ多くの組織において,外傷や疾病によって失われた細胞は再生によって補われる.細胞の再生能力は組織の種類によって大きく異*YasuoKurimoto:神戸市立神戸アイセンター病院〔別刷請求先〕栗本康夫:〒650-0047兵庫県神戸市中央区港島南町2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(53)617なり,神経細胞であっても末梢神経は条件がよければ再生することは以前から知られている.しかし,ひとたび成熟した哺乳類の中枢神経系は神経細胞が傷害を受けて脱落・変性しても再生することはない3)と長きにわたって信じられており,実際の医療現場においても,中枢神経は再生しないというのが常識であった.眼科領域でも,中枢神経系に属する網膜疾患の治療は神経細胞の変性をいかに防ぐかに尽きていたとはいえ,ひとたび失われた網膜機能は再生しないという前提のもとに治療もロービジョンケアも行われてきた.しかし,近年の幹細胞研究の進歩により哺乳類の成体でも中枢神経組織幹細胞や神経新生があることが明らかとなり,この常識は覆されつつある.さらに多分化能と自己複製能を有する胚性幹(embryC-onicCstem:ES)細胞や人工多能性幹(inducedCpluripo-tentCstem:iPS)細胞などの多能性幹細胞が樹立され,未分化な幹細胞からあらゆる網膜細胞を人工的に誘導することも可能となった4,5).眼科領域においても,かつては夢の治療として現実味に乏しかった網膜の再生医療が現実のものになろうとしている.幹細胞による再生医療は,大きく分けて内在性幹細胞の賦活,組織幹細胞もしくは前駆細胞の移植,幹細胞より誘導した体細胞の移植の三つのストラテジーが考えられるが,前者二つについては生体内での神経系細胞の分化や脱分化,あるいは増殖を制御する知識が不十分で技術も確立していないので,実臨床への応用にはなお課題が多く,医療安全上のリスクを抱えている.現状は,幹細胞から治療対象となる網膜細胞を分化させて移植するストラテジーによる臨床応用が進行している.CII網膜再生医療のターゲット網膜は,内側に位置する神経網膜とその外側を裏打ちする網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithelium:RPE)に大別される.どちらも神経上皮に由来するが,RPEは神経細胞ではなく,隣接する視細胞の外節の貪食処理,視物質のリサイクルなどにより視細胞の生理的活動を支えると同時に,血流の豊富な脈絡膜と神経網膜の間を隔て,血液・網膜柵を構成している.細胞移植による網膜の再生を考える場合,神経網膜においては移植細胞がホスト網膜の神経ネットワークと有機的な結合をすることが機能再建に必須である.神経ネットワークがより複雑化する中枢側,すなわち網膜内層にいくほどホスト神経ネットワークとの有機的な結合を得ることがむずかしく,末梢側の網膜外層のほうが容易であると考えられる.したがって,細胞治療による網膜再生治療は外層から着手されるのが自然な流れである.一方,網膜最外層に位置するCRPEは,ホストの神経回路網に組み込まれる必要がなく,移植されたCRPEがホスト組織と生理的に接着してCRPE固有の機能を発揮してくれれば治療の目的を達する.網膜再生医療のターゲットとしてCRPEが最初に選ばれるのは必然であり,加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegeneration:AMD)などCRPEの劣化に起因する網膜疾患が最初の治療対象となる.RPEの再生医療の次には,同様の方法論をもって神経網膜の外層側から順次,治療開発が進んでいくであろう.CIII網膜色素上皮の再生医療AMDは,生理的には細胞新生ないし更新が起こらないCRPEが加齢により疲弊・劣化することが発症の背景にあり,加齢に加えて喫煙などの環境因子や遺伝的背景も発症リスクとして知られている.AMDは脈絡膜新生血管(choroidalCneovascularization:CNV)が関与する滲出型と,CNVの関与がなくCRPEが萎縮し引き続いて視細胞も変性していく萎縮型の二型に分けられる.わが国では滲出型の頻度が高く6),視機能の障害は萎縮型よりも滲出型のほうが急速かつ深刻である.萎縮型のCAMDには今のところ有効な治療法がないが,滲出型CAMDに対しては,近年,光線力学療法や抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)治療などのCCNVを選択的に抑制する治療法が導入され,現在では抗CVEGF療法が滲出型CAMDに対する第一選択治療として定着している7).抗CVEGF治療の導入により,滲出型CAMDの予後は以前に比べて大きく改善したが,AMD発症の背景にあるCRPEの劣化を治療しているわけではなく,長期的な予後には限界がある.また,抗CVEGF薬への反応には個体差があり,618あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(54)ES細胞iPS細胞大量の細胞リプログラを準備可能ミング本人の受精卵内部体細胞細胞塊多能性幹細胞.倫理的問題網膜神経細胞.免疫学的問題網膜細胞移植患者網膜色素上皮細胞図1多能性幹細胞による細胞治療多分化能と自己複製能を有するCES細胞を用いると細胞治療に必要な大量の体細胞を比較的容易に得ることができる.ただし,ES細胞には受精卵を破壊するという倫理的問題と他家移植ゆえの免疫学的問題がつきまとう(左側).これに対し,iPS細胞(右側)はCES細胞と同等の能力を有しながら,倫理的問題と免疫学的問題を回避できる.図2自家iPS細胞由来RPEシート移植治療の流れ患者より直径C4Cmmの皮膚小片を採取し線維芽細胞を培養.線維芽細胞よりCiPS細胞を樹立し,さらにCRPEへの分化を誘導.現在,iPS細胞の樹立には核外プラスミドを用いるため細胞のゲノムは変更されず,格段に安全性が増している.RPEは細胞シート状に培養し,患者の黄斑部網膜下に本人のCiPS細胞由来のCRPE細胞シートを移植する.図3HLAマッチドナーによる他家iPS細胞治療HLAの主要C6座が日本人に頻度の高いハプロタイプ(HLA-A*24:02,C*12:02,B*52:01,DRB1*15:02,DQB1*06:01,DPB1*09:01)のホモ接合体ドナーを選び,iPS細胞をバンク化.この方法をとると,1人のドナーからのCiPS細胞で,日本人口の約C17%の患者をカバーすることができる.Cajalの呪縛から,今まさに解き放たれようとしているのである.CV網膜の再生医療とロービジョンケア従来,成人の中途視覚障害に対するロービジョンケアとは,著しく障害された視機能が医学生理学的に回復を見込めない患者に対して行われるケアであり,基本的には患者の生理学的視機能はよくても現状維持,しばしば低下していくことを念頭におかねばならなかった.ところが,神経網膜の再生医療が施行されれば,これまでは生理学的視機能の回復が見込めなかった患者でも,治療により視機能の改善が期待できる.残された視機能あるいは視機能以外の能力をいかに活用して生活機能を向上させるかがロービジョンケアであったのが,残された生理的視機能そのものが再び発達の途上に乗り,向上していく可能性があるわけである.これはロービジョンケアのパラダイムチェンジといえるかもしれないし,新たな視能訓練分野の創成につながるかもしれない.ただし,網膜の再生医療としてはまず初めに普及していくと思われるCRPEの移植治療では,傷害された視細胞など網膜の神経細胞そのものを再生するわけではないので,治療開始時点に較べての大幅な視機能の回復は期待できない.したがって,この治療法においてロービジョンケアの果たす役割は,加齢黄斑変性において視機能が大幅に低下した後に病状が安定した患者に行われてきたこれまでのロービジョンケアと基本的に変わりはない.しかし,RPEの次の治療として期待されている視細胞など神経網膜の再生治療においては事情が異なる.視機能の改善を得るためには,移植された視細胞などの網膜神経細胞がホスト網膜の神経細胞と有機的な神経回路網を構築することが必須であり,そのためには移植細胞とホスト細胞に双方向的な神経突起・樹状突起やシナプスの形成や伸長,あるいはシナプスの伝達効率の強化などの可塑的変化が起こらなければならない.こうした移植神経細胞とホスト神経細胞との間でのネットワークの構築は,移植細胞の生着に伴う自然経過でもある程度起こることが,iPS細胞から誘導した視細胞移植の動物実験結果からも推定できる.しかしながら,移植細胞に対して積極的に視覚刺激を与えることにより,神経突起の伸長やシナプスの形成および伝達効率の強化などが促進されるであろうことが推測できる.移植細胞とホスト細胞の間で有機的な神経ネットワークの構築を促進し,生理的視機能の獲得および向上を得るためには,視能訓練的なケアが有用であることが推測できる.実際にどのようなトレーニングが必要であり,どの程度の有用性があるのかは,実際の治療が始まってみなければわからないことも多く今後の検討課題であるが,網膜再生治療が臨床に入って来れば,ロービジョンケアは新たな役割を担うことが期待される.文献1)NishidaCK,CYamatoCM,CHayashidaCKCetCal:CornealCrecon-structionCwithCtissue-engineeredCcellCsheetsCcomposedCofCautologousoralmu-cosalepithelium.NEnglJMedC351:C1187-1196,C20042)RidleyCH:Intra-ocularCacrylicClensesCafterCcataractCextraction.CLancet19:118-121,19523)RamonCyCCajalCSR(1913.14)EstudiosCsobreClaCdegener-acionCdelCsistemaCnervioso.CMoya.[translratedCbyCMayCRM,CCajal’sCDegenerationCandCRegenerationCofCtheCNer-vousCSystem.CDeFelipeCJ,CJonesCEG(eds)C,COxfordCUniver-sityPress,NewYork,1991.]4)EirakuCM,CTakataCN,CIshibashiCHCetCal:Self-organizingCoptic-cupCmorphogenesisCinCthree-dimensionalCculture.CNatureC472:51-56,C20115)HayashiCR,CIshikawaCY,CSasamotoCYCetCal:Co-ordinatedCoculardevelopmentfromhumaniPScellsandrecoveryofcornealfunction.NatureC531:376-380,C20166)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinade.nedJapanesepopulationtheHisayamastudy.Ophthal-mologyC116:2135-2140,C20097)高橋寛二,小椋祐一郎,石橋達郎ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1156,C20128)AlgvereCPV,CGourasCP,CDafgardCKoppCE:Long-termCout-comeofRPEallograftsinnon-immunosuppressedpatientswithAMD.EurJOphthalmolC9:217-230,C19999)vanCZeeburgCEJ,CMaaijweeCKJ,CMissottenCTOCetCal:ACfreeCretinalCpigmentCepithelium-choroidCgraftCinCpatientswithexudativeage-relatedmaculardegeneration:resultsupto7years.AmJOphthalmol153:120-127,C201210)TakahashiK,YamanakaS:InductionofpluripotentstemcellsCfromCmouseCembryonicCandCadultC.broblastCculturesCbyde.nedfactors.CCellC126:663-676,C200611)MandaiCM,CWatanabeCA,CKurimotoCYCetCal:AutologousCinducedstem-cell-derivedretinalcellsformaculardegen-622あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(58)

小児のロービジョン外来症例集

2018年5月31日 木曜日

小児のロービジョン外来症例集PediatricLowVisionClinicCaseReport稲垣理佐子*はじめに小児は発達の過程にあり,なかでも視覚を通じた経験は発達にとってとくに重要である.逆に言えば重篤な視覚障害は小児の発達に悪影響を及ぼし,二次的な発達の遅れにつながる可能性がある.一人一人の視覚障害児に適した教育の機会を与えるためには,医療現場と教育現場の連携が必要である.そのために全国で視覚障害児のために早期からの院内療育相談が行われており,当院でも2005年から視力や視野に重篤な障害があると思われる0~2歳未満の小児に対しては院内学級の一室に視覚特別支援校の教員を招いて超早期療育相談を行っている1)(図1).2歳以上の小児には,眼科外来で視覚特別支援校の教員に必要に応じて同席してもらいながら教育相談を行っている.病院内で療育(教育)相談を行うことによって,養育者,教育者,医療者に信頼関係が構築される.養育者の不安が軽減されるとともに,視覚特別支援校へ気軽に相談に行ける雰囲気をつくることができる.重篤な視覚障害をもつと思われる小児および養育者に対して,このように早い段階で医療側からアプローチすることは視覚障害児の発育に重要な役割を果たすと考えている.当院での療育相談は今年で13年となり,45症例が相談に参加した.これらを振り返り,具体的な小児のロービジョンケアについて述べる.図1院内での超早期療育相談さまざまな玩具で反応を見ながら,子育て方法について相談.I当院での小児へのロービジョンケア45名の疾患の内訳を(表1)に示す.このうち,聴覚障害を合併しているものは2名,知的障害・発達遅滞を合併しているものは20名であった.低年齢の視覚障害児の多くは,先天性のために自身の視覚障害を自覚していないか,自覚があったとしても表現力が未熟のため詳細に説明ができない.また,知的障害を伴う小児も多い.そのため視機能を知るためには小児の行動観察が中心となる.たとえば,「暗いところを怖がる」「暗い所へ行きたがらない」「暗いところでは動きが緩慢になる」などの養育者からの訴えや聞き取りが*RisakoInagaki:浜松医科大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕稲垣理佐子:〒431-3192静岡県浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学医学部附属病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(47)611表1疾患名と人数図2卓上型拡大鏡手に持たずに使用できる.図4ロービジョン用の定規白黒反転で目盛りの数字が大きく書かれてある.図3書見台近接視する時に姿勢を楽に保つことができる.図5単眼鏡片手で操作ができ,遠くのものを拡大して見ることができる.図6スケッチブックの一ページ小児の行動特徴とその対処方法が描かれている.図8単眼鏡と拡大鏡を離さない小児図7手作りの絵本手で触ってわかるように工夫が施してある.=======

成人のロービジョン外来症例集

2018年5月31日 木曜日

成人のロービジョン外来症例集CaseReportsofAdultLowVisionPatients青島明子*はじめにロービジョン外来では,この疾患だったらこれをやればよいという決まりごとはなく,個々の患者のニーズを聞き出し,個別に対応していくことが必要である.そのため,いかにその患者のニーズを聞き出すかが重要である.たとえば,字を読みたいというニーズがあれば,近用眼鏡の処方(ハイパワープラスレンズも含めて)を考え,眼鏡で対応できなければ拡大鏡,拡大読書器といった順に試していく.また,「まぶしい」「光って見えにくい」「白んで見える」という言葉を聞けば,遮光眼鏡を試すといった大まかな道筋はある.しかしながら,「何か困っていることはありますか?」と大雑把に聞いても,本人自身が何に困っているかわからない場合も多い.そのため,当院では,ロービジョン外来の初診時に図1のような問診票を用いている.この問診票を用いることにより,自分の眼の病気についてどのように主治医から説明を聞き,どの程度理解しているか確認することができる.また,決められた時間のなかで,効率よく必要なことを聞き出すことができる.そして,趣味など聞き出し,それをきっかけにしていろいろな話をしていく中で,ニーズを聞き出すこともできる.以下に当院でのロービジョン外来で,実際に行った症例を紹介する.I症例症例1:86歳,女性.加齢黄斑変性半年前より,眼鏡をかけても見えにくいため近医を受診し,加齢黄斑変性と診断された.硝子体注射を施行されている.新聞の字が読みにくいとの訴えがあり,ロービジョン外来受診を薦められた.ロービジョン外来1回目問診アンケートより抜粋(表1)視力:右眼0.2(0.3×sph+0.50D(cyl.1.50DAx90°),左眼0.01(n.c.).視野(図2).遠近両用眼鏡を持っており,度数は,遠用:右眼(sph+0.50D(cyl.1.00DAx90°),左眼(sph+0.500D(cyl.1.00DAx90°)で近用に+2.00D加入されている.新聞の字が読みたいとのことで,レンズを使って拡大することを考えた.拡大の方法としては,大きく分けて,①ハイパワープラスレンズ(単に通常の検眼レンズのプラス度数の強いもの(通常は+5D以上))②拡大鏡,③拡大読書器がある.まず,この症例の必要な拡大率を考える.必要な拡大率=臨界文字サイズ/読みたいものの文字サイズ1)※臨界文字サイズ:最大読書速度が出せる最小の文字サイズ,つまりその人がスラスラ読める文字の一番小さいもの.簡単に説明するとその人がスラスラと読める大きさまで文字を拡大してあげればよい.ただし,大きすぎると見える範囲が小さくなってかえって読みにくくなるので,スラスラ読める範囲で一番小さな文字のサイズまで*AkikoAoshima:青島眼科,浜松医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕青島明子:〒438-0078静岡県磐田市中泉1363-4青島眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(39)603図1問診票表1問診票より抜粋=症例1症例2症例3右眼左眼図2症例の視野図3簡易的にどの文字の大きさが読めるか作成したもの数字は文字サイズ(フォント).=図4当院で作製した見え方の確認表「す(中心)」を見てもらい(見ているつもり),どの文字が見えるか確認する.その答えを聞き,「す」を見るためにはどの文字を見たらよいか説明し,確認する.==図5日常生活の工夫図6白杖通常,外来で選定することはないが知識として知っておくとよい.a:折りたたみ式(①②),伸縮式(③④),直杖(⑤),T字杖(⑥)の4種類がある.伸縮式はシンボルとしての用途が中心であり,T字杖はバランス機能や下肢に障害がある場合に用い体重を支えることができる.b:先端部もいろいろな形がある.用途によって選ぶ.図7遮光眼鏡羞明の軽減を目的として,可視光のうちの一部の透過を抑制するものであって,分光透過率が公表されているもの.(左)東海光学CCP400の色を示す.これを前掛け式眼鏡の枠に入れてトライアルを行う.(真ん中)症例2で試したCCP400SAとFR.(右)Viewnal.眼鏡の上からかけることができる.横からの光もカットできる.レンズの色はFL.図8介助法患者が家族や支援者の肘のあたりを持ち,半歩後ろを歩く方法を「手引き」または「ガイドヘルプ」という4).患者の主体性が尊重される.スピードが速ければ手を離せばよく,また階段をあがる際には腕の角度が変わるため段差があることを確認できる.

緑内障のロービジョンケア

2018年5月31日 木曜日

緑内障のロービジョンケアLowVisionCareinGlaucoma平澤裕代*はじめに40歳以上の日本人の20人に1人が緑内障を発症しており,そのうち9割の患者は発症に気づいていなかったこと,その多くが正常範囲内にとどまる正常眼圧緑内障であったことが示された多治見スタディ1)の発表から14年がたつ.眼圧測定のみでは緑内障のスクリーニングにならないこと,緑内障の自覚の乏しさから発見されずに潜伏している緑内障患者が多いことから,多治見スタディ以降,視野異常の有無を検出する自己チェック法の普及活動や40歳を過ぎたら眼科受診を,といった啓発活動が盛んになったのは,幸運な転換点であった.緑内障は放置すれば失明につながる進行性かつ非可逆性の視神経障害疾患であり,早期発見・早期管理が基本であることは言うまでもない.しかし,早期発見できた幸運な患者ばかりではないのもまた現実である.また,有効な治療法は眼圧を下げることしかなく,それも視野障害の進行を「緩める」に過ぎないことから,最終的に視覚障害に至る患者数は少なくない.実際,日本における中途視覚障害の原因として,2004年に糖尿病網膜症を抜いて緑内障が1位になった2).その後2014年の報告においても緑内障は1位を保っている3).かつて,眼科医にとってのロービジョンケアは失明告知後に福祉へつなぐだけのことであったといわれる.最近は,残存する視機能を最大限活用させる手段を探し,指導することで生活の質(qualityoflife:QOL)を上げることへと変化してきた.ロービジョンケアは,視機能障害が存在し,その障害を患者自身が自覚しているときからはじまる.緑内障のように緩やかに進行し続ける疾患の場合,ロービジョンケアが必要になる時期は個々の症例によって異なり,一律の基準があるわけではない.したがって,眼科医は,緑内障患者がどのような視機能障害の自覚をもつのか,どういった場面で不自由さを感じるのか,すなわち緑内障患者のQOLについて日常診療においても意識しておく必要がある.われわれが緑内障患者の日常診療においてQOLを意識しなくてはいけない理由はそれだけではない.緑内障治療の最終目標はQOLの維持である.眼科医は患者のQOL維持を目標に,患者の眼圧コントロールと視野障害の安定化をめざして眼圧下降治療を行っている.しかし,眼科医が一般診療のなかで実際にQOL維持を目標に治療方針を決定する具体的な手法はあるだろうか?治療の最終目標はQOLの維持であると誰もが知りながら,そのQOLに対しては,ただ漠然と遠巻きに眺めているのが現状ではなかろうか.本稿では眼科医が緑内障患者のQOLについて知り,QOLを保つ支援として何ができるか考える.さらに遠巻きに眺めがちなQOLについての臨床的評価をいかに日常診療に取り込むかという取り組みについて紹介する.*HiroyoHirasawa:東都文京病院眼科〔別刷請求先〕平澤裕代:〒113-0034東京都文京区湯島3-5-7東都文京病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(31)595患者のQOLを保つ支援─眼科医ができること─1.緑内障がとのようにQOLを障害するかへの理解2.生涯にわたりQOLを守るための努力3.QOLを損なった患者の支援図1日常診療で意識すべき3カ条=図2緑内障患者と読書図3緑内障患者と外出図4外出時に重要な視野図5緑内障患者と食事図6医療もQOLを低下させる維持!」という厳しい眼圧コントロールのことをさすのではない.残存視野が十分であればあるほどCQOLが保たれるのは間違いないが,手術のみならず点眼治療でさえCQOLを低下させることがわかっている16).QOLを保つという観点に立ち,十分な治療であるよう,かつ過剰な医療にならないようバランスをとりつつ加療を続けることが大切である(図6).C3.QOLを損なった患者への支援前述したように視機能障害の自覚が生じた時点から患者のCQOLの向上をサポートするケアがロービジョンケアの一つであるというのならば,緑内障患者におけるロービジョンケアは対象者を限定する必要はないはずである.緑内障患者のCQOL低下は比較的早期から始まっていることはよく知られており,QOLを損なった患者への支援は,比較的早期の緑内障患者に対しても行われるのがよい.補装具の紹介や選定といった専門的なことでなくとも,たとえば定期的に行う視野検査のあとに患者とともに有効視野の位置を確認し,日常生活に支障がないかたずねるといったことから,ロービジョンケアは始められる.CIIQOLの臨床的評価―日常診療へ取り込む試み―従来,QOLの評価法としては紙ベースのアンケート調査が主流である.代表的な調査票としてはCVFQ-25や鷲見のCQualityCofCLife調査票14)などがある.鷲見のQualityofLife調査票は日本人の文化・生活習慣を加味して作成された日本人向けの調査票である.いずれも紙ベースの調査票に自己記入方式もしくは面接形式で質問項目に回答し,その結果をCQOLの数値結果として解釈するものである.各回答項目に応じて点数を合計する単純加算方式よりも,項目応答理論をベースとしたCRaschモデルによって算出されたスコアのほうが視野障害によりよく比例するといわれている18).近年のCQOL調査研究では,より実態に近い数値が算出されるCRaschモデルベースのものが主流である.RaschモデルによるQOL評価のメリットは,QOLの数値的評価の精度向上のみならず,QOL質問項目がもつ「問題の難易度」まで数値的に評価されるところにある.したがって,その質問項目がどの程度のCQOL保持者に適しているかの客観的評価が可能になり,ひいてはその調査票自体が,調査の手段として適切なのかどうかの評価が可能である.近年,多数のCQOL調査票が同プロセスを経て,適切な調査票であるかどうかの再評価を受けている.より客観的な定量的なCQOL評価の試みが進む一方で,実際には患者にアンケート調査を行うというのは,調査につきそう人手,アンケート調査にかかる時間,そこから得られる結果の価値を考えると,残念ながら現段階では,治療方針を検討する際に勘案するほどには有用ではない.というのも,質問数が少なければ,QOLがほとんど障害されていない症例からCQOLが高度に障害されている症例まで同一の質問票で網羅することは到底困難であるし,したがって経時的変化を評価することも困難となる.実際鷲見のCQualityCofCLife調査票はある程度QOLが低下した症例に適した質問項目が大部分であり,QOLの低下が少ない症例に適した質問項目はほとんどなかったことが報告されており19),幅広いCQOLの程度を評価できる質問票の確立には,それなりの質問数が必要である.一方で質問数が膨大になれば,回答に要する時間も長く,何よりも患者の負担が多くなる.QOL評価をもっと簡便に臨床評価に取り入れ,将来的には視野や眼圧や網膜神経線維層厚と同様に数値化したCQOLを治療方針の検討要因として取り入れるにはどうしたらよいのだろうか?最近検討され始めている手法の一つであるコンピューター適応型テスト(computC-er-adaptiveCtesting:CAT)はその解決の一助になる(図7).この手法を用いることによってCQOLに関する質問項目を多数プールしておき,回答結果に応じて次に提示する問題が回答者のCQOLレベルに応じて提示されるようになる.これにより,質問数をC75%減じることができ,おおよそC10問程度の質問でCQOLスコアを精度よく推測できるものである20).紙ベースではなく,コンピューターベースで行うのが適切で,将来的にはハンディーなタブレットに表示させてCQOL調査を行うことで,待ち時間の間に簡便に検査ができ,なおかつ時系列なデータも取得できると思われる.表示する文字の大きさも変更が容易であり,視機能が悪い患者にも使いやす600あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(36)図7QOL評価の今後の展望’’C-

杏林アイセンターのロービジョン外来

2018年5月31日 木曜日

杏林アイセンターのロービジョン外来LowVisionClinicatKyorinEyeCenter平形明人*はじめにロービジョンケアの重要性は眼科診療ではかなり浸透してきている.しかし,対象となる病態や患者背景は多様であり,眼底疾患だけでも,発生異常による先天性視力障害,腫瘍や遺伝性網脈絡膜疾患による中途失明,血管閉塞や黄斑変性などによる高齢者の視力障害などさまざまである.その中には,全身疾患を合併している患者も少なくない.また,施設によりロービジョンケアの実施方法や担当者の職種は異なる.診療形態,たとえば患者の日常生活に密接にかかわる開業医,多数の難病疾患を紹介され高度な治療後の後遺症に対処する病院,高度医療の実施と若い医師や医療者を教育指導している大学病院,再生医療などの最先端治療をしながら難病患者に対応する高度医療機関など,それぞれの環境でロービジョンケアの方法には各々の特徴がある.本稿では,わが国で最初にアイセンターの名前を冠して活動を始めた杏林大学附属病院眼科(以下,当科)で,どのようにロービジョン外来が誕生してロービジョンケアを実施しているのかを振り返った.I杏林大学附属病院ロービジョン外来の誕生杏林大学附属病院は,1999年に眼科部門にアイセンターの名前を冠したが,そのアイセンター構想を杏林学園に提出したのは1994年に遡る.当時の藤原隆明教授,樋田哲夫助教授と筆者の名前で作成した提案書のなかで,「高齢化社会に向うわが国において,生活の質(QOL)維持のために視覚医療がますます重要になる」ことを強調した.その提案書は,元日本眼科学会理事長であった植村恭夫先生が厚生省(当時)に提出した国立感覚器センター設立企画書を参考にして作られた.そのアイセンター構想の大きな柱の一つがロービジョンケアであった.その背景には,米国でロービジョンケアを学修した視能訓練士(ORT)の守田好江が約2年前から当科に勤務していたことが大きかった.守田が低視力患者に拡大鏡などの視機能補助具の使い方を日常の外来中に指導し,その有用性を医師も実感していた.守田は,もともと慶應義塾大学の植村恭夫先生の下で小児眼科,つまり斜視弱視と屈折矯正の基本を徹底的に仕込まれたORTであるが,米国に留学してロービジョンケアを学び,杏林大学にORTとして赴任した.そして,人手のないなかでORT業務の合間に少しずつロービジョンケアを行いながら,教室の眼科医たちにそのコンセプトを浸透させた.その後,守田が再び米国に戻ることになった際に,守田の推薦でORTの田中(石垣)恵津子が赴任した.田中は大学院時代に東京女子医科大学の小田浩一教授のもとで視機能評価法などを研究し,ORTとして新しく開発した視機能評価法を生かして低視力者に貢献することを切望していた.田中の患者への献身的な対応を見ながら,網膜硝子体手術症例をはじめとする難病疾患の患者の治療前後のロービジョンケアの意義を多くのスタッフが認識するようになった.そして,医師が低視力者の診察をしながら,ロービジョンケ*AkitoHirakata:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕平形明人:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(23)587アを開始させる時期などについて日常診療で常に意識するようになった.その後,ORTの西脇友紀も田中の姿勢に感化されロービジョンケア業務に加わった.つまり,杏林大学のロービジョンケアの概念はアイセンター構想を考える際に意識されたが,実際の普及は,屈折矯正に習熟したORTが,低視力者の生活拡大に少しでも自分の能力を発揮したいという情熱によるものが大きかった.そして,ロービジョングッズの整備が進み,その有用性を実感した医師がORTと共にさらに設備を充実させ,患者のニーズに合わせて日常診療のなかで自然にロービジョンケアが取り入れられるようになった.1999年の杏林大学附属病院の新外来棟建設に伴って杏林アイセンターが設立された.それを機に,田中,西脇をORTの基本業務からはずしロービジョン外来に専念してもらい,小田教授をロービジョンケアリサーチ主任として非常勤講師に迎えた.以後,彼らのロービジョンケアに関する学会発表や論文報告の数も医師のそれを凌ぐものになった.その後,田中,西脇が非常勤になり,ORTの新井千賀子と歩行訓練士の尾形真樹がロービジョンケア業務を受け継いで活動範囲はさらに広がり,外部から見学者や研修者が多く訪れ,アイセンターにはなくてはならない外来に充実した.新井は視能訓練士協会理事として大学外でもロービジョン活動の普及に尽力している.IIMachemer教授の影響樋田教授と筆者は慶應義塾大学の植村先生門下の研修時代に小児眼科,つまり視機能矯正の重要性を教えられていたが,その後Duke大学に留学し硝子体手術の父といわれるRobertMachemer教授にご指導をいただき,ロービジョンケアが難病の手術を行う施設において重要であることを実感した.Machemer先生は現在の硝子体手術の原形を開発した歴史に残る指導者であるが,研修医に毎週定期的に時間を設けて自分の経験をふまえたresidentlectureを行っていた.そのなかで,「本当の医者は,自分の手術の上達に満足するのではなく,手術を受けた患者がどのように生活を拡大するかに心を配らなければいけない.そのために,手術後の屈折矯正を基本とする視覚環境のケアに眼科医は関心をもたなければいけない」という教育をされていた.そして,DukeEyeCenterでのロービジョンケアの基本は「きちんとした屈折矯正である」ことを強調していた.当時,硝子体手術を対象とする患者は術後も低視力者が多く,硝子体手術を開発したMachemer先生が硝子体手術の意義を追究するなかで自然にロービジョンケアの重要性を意識されたのではないかと推測される.IIIロービジョンケアの手順ロービジョン外来を受診する契機は,当科の主治医からの依頼,外部施設や他科からの紹介などさまざまであるが,外来あるいは病棟の担当医が必ず病態を把握し,ロービジョン外来について患者に説明して,患者自身の了解のもとに受診させるのが基本となっている.なかには治療法がなくてほぼ失明状態の方,社会資源の情報獲得を目的とする方,視力が良好でも視野障害が重篤で日常生活に支障をきたしている方など,患者の症状や要求はさまざまである.進行した増殖糖尿病網膜症例のなかには,硝子体手術を施行してもかなり視機能予後に制限があることを術前から予測できる患者もいる.そのうち,患者がロービジョンケアの内容を理解できれば,手術前からロービジョンケアを開始することが早期の社会復帰に有用な場合もある.当科のロービジョンケア対象疾患と受診者のニーズに関して,20歳未満と20歳以上に区分して図1~4に示す1.3).ロービジョンケアの基本的な手順は,主治医による病態把握と客観的な視機能検査の結果のもとに,主治医による説明と患者からのロービジョン外来受診の同意を得たのち,ロービジョン外来で患者の要望聴取とQOL評価を行い4,5),ロービジョンケアを計画し実施する(図5).そして,定期的に経過観察する.ロービジョンケアの担当者がORTであっても,基本的には担当医がいて,ロービジョンケアの導入時期やその効果の判定を担当医師とケアの担当者が連携して経過観察している(図6).客観的な低視力検査のなかには,視力や視野検査などの通常の検査のほかに,患者のニーズによっては読書チャート(MNREAD-J,JK)を利用した読書テストを施行し,読書速度と文字サイズを検討する(図7)6).これは拡大鏡などの選定や使用法の指導に非常に有用であ588あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(24)図1受診者の疾患と視覚障害以外の障害の合併率図2成人受診者の疾患(20歳以上,n=253)(20歳未満,n=62)(2010年のロービジョン外来統計から)(2010年のロービジョン外来統計から)2回目以降ケア終了時図5ロービジョンケアの手順図6ロービジョン外来の介入状況a.読書チャート(MNREAD-J,JK)b.読書速度と文字サイズの関係(黄色線が読書速度の結果)図7読書テストに用いる読書チャート(a)と読書速度結果(b)図8日常生活活動の工夫の指導低視力者にとって爪切りがむずかしいこともあり,爪ヤスリの頻回使用は有用(a).現金の支払い時のコイン整理にコインの大きさに対応した財布の利用を指導(b).ボタンに凸状にシールを貼り付けることは低視力者に有用で,iphone画面の触覚サインは便利(c).ロービジョンケアが企画する余暇活動は,患者の情報交換ばかりでなく意欲亢進にも有用であり,化粧教室や料理教室(d)なども実施した.図9症例13歳時に眼位異常と眼振の精査で受診した.22歳時の右眼(a)と左眼広角眼底写真(b).両眼に広範囲の網脈絡膜コロボーマがみられる.両眼視力は0.03.受診時から成長に応じたロービジョンケアを実施した.5歳時にコンピューター操作によるマウスポインターを活発に利用することを習得し,読書などの学習が効率よく行われるようになった(c).図10症例268歳時に視野異常による読書困難を主訴に受診.両眼に輪紋状脈絡膜硬化症を認め(a:右眼眼底,b:左眼眼底),右眼視力0.7,左眼視力1.0であった.ドーナツ状の絶対暗点を認め,将来の視野異常の進行の可能性を説明し,拡大読書器で周辺視野を利用した読書訓練を施行した.その後,拡大読書器で新聞などの読書が可能となり,83歳の現在,両眼とも黄斑変性は進行し(c,d),視力は0.08に低下したが読書能力を維持している.図11症例360歳の男性.視力障害で受診した.糖尿病治療歴はなく,右眼は数年前に失明,左眼に重篤な増殖糖尿病網膜症を認めた(a).左眼視力は0.07.硝子体手術の計画とともに内科治療と看護師,栄養士およびロービジョン担当者によるロービジョンケアを同時に開始した.硝子体手術後3カ月で視力0.1に改善(b)したが,中心視野異常があること(c)を説明した.残存視機能を利用した生活活動の注意を指導したところ,両親の介護を含む生活活動範囲の拡大が可能となり,糖尿病コントロールも良好となった.

ロービジョン外来を作ろう

2018年5月31日 木曜日

ロービジョン外来を作ろうLet’sStartLowVisionClinic田辺直彦*はじめに筆者は2年間の初期臨床研修を終え,2009年から眼科医の道を歩き始めた.忙しい大学病院での診療では治療だけで精一杯で,難治疾患や治療後も視力不良の患者たちが,その後どのような経過をたどっているかまで頭はまわっていなかった.転機は一人の先天性黄斑変性疾患の患者から就労相談を受け,何とかすると安請け合いしてしまい困っていたときに,日本ロービジョン学会,視覚リハビリテーション協会の先輩方にアドバイスをもらったことである.手術もできず,特効薬もなく治療がむずかしくても,眼科医として患者に対してまだできることがあり,向き合うべきであると強く感じた.今までの筆者の眼科診療には,患者に残された機能を活用するリハビリテーションの概念,ロービジョンケアの概念がまったく抜けていたことも強く思い知らされた.2013年から地域の開業医となった.当時,山梨県でロービジョン外来を標榜していた医療機関は1施設だけだった.若輩者の自分がロービジョン外来を立ち上げるなんて大丈夫だろうかとの思いもあったが,さまざまな方の助言をもらいながら6年目を迎えることができた.今回は,筆者の考えるゼロからロービジョン外来を始めるにあたってのポイントを,エビデンスなしで紹介する.I最初になにをしたかロービジョン外来を作ると意気込んでみたものの,最初は何から着手していいのかわからなかった.現在であれば,各地域のロービジョン関連施設を記載したスマートサイト(図1)の作成の機運が各地域で高まっているので,まずはスマートサイトがあるかどうかを地域の眼科医師会などに確認して,掲載されている近隣の施設へ実際に見学相談に行ってみるとよい.当時はそのようなものはなかったので,日本眼科医会のホームページにあるロービジョンケア施設のリンクを参照したところ,拡大読書器,遮光眼鏡,単眼鏡,ルーペの説明が並んでいたので,まずはそれから揃えてみることにした.今ふり返ると,単眼鏡は無理して最初から揃えなくてもよかったかなと思っている.理由は自分一人では単眼鏡を患者に指導する時間がなかったからである.外来開設当初,時間を取って単眼鏡の指導説明を行う常勤の視能訓練士がいなかった当院では,最初のうちは出番がほとんどなかった.現在は,「駅の時刻表が見づらい」「テレビが見づらい」「遠くの人の顔がわかりづらい」という患者に,「こんなのもありますよ,どうですか?」と薦め,見える体験をして,その後のロービジョンケアに興味をもってもらうのに重宝している.ルーペはたくさん揃えたいのだが,資金には限りがある1).当院ではルーペ購入前に貸し出しをして実際に自宅で使えるかをチェックしてから購入してもらっているが,5年間で一番使用頻度が高かったのはエッシェンバッハ製のワイドライトルーペLEDライト付非球面携帯虫眼鏡3.5倍と4倍角型(図2)であった.*NaohikoTanabe:田辺眼科〔別刷請求先〕田辺直彦:〒400-0117山梨県甲斐市西八幡693-1田辺眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(17)581図1スマートサイト図2ルーペ図3Viewnal(東海光学)の写真図5白黒反転プリント図4タイポスコープ図7白黒反転パソコン,白黒反転iPhone図6用具のカタログいる.また,針灸按摩の指導をする理療科の講師のなかには視覚障害当事者もおり,視覚障害者の患者会などにも参加し,地域の実情に詳しい方もいる.一度盲学校のオープンキャンパスなどに出席し連携を取れるようにしておくと,教員の信頼や協力も得やすいと思う.教育分野と医療分野の連携は個人情報保護の問題もあり,スムーズであるとはまだ言いがたいが,まめに学校の行事に顔を出して信頼を得てゆくとよいと思う.IV地域障害者職業センター,NPO法人タートルの会ロービジョン外来を行っていると,就労の継続や復職,離職に関して相談を受けることがあり,いつも苦慮している.ロービジョン学会に出席した際に,この問題について職業カウンセラーに相談したところ,各都道府県には「独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構地域障害者職業センター」http://www.jeed.or.jpという組織があることを紹介され,そちらの職業カウンセラーが相談にのってくれることになった.当院の場合は職業カウンセラーが病院まで来てくれるので,患者と職業カウンセラーと医師の3者面談で状況整理を行い,復職,就労継続へ至ったケースがあった.中途視覚障害者の復職を考える会である「NPO法人タートルの会」にも相談を何度も受け付けてもらっている.V視覚障害者用補装具適合判定医師研修会,日本ロービジョン学会,視覚リハビリテーション協会ロービジョン外来の費用を捻出するためや,病院事務に医療行為であることを説明するためには,ロービジョン検査判断料を算定する必要がある.そのためには眼科医が常勤であり,埼玉県所沢にある国立障害者リハビリテーションセンターで行われる視覚障害者用補装具適合判定医師研修会(通称,国リハ医師研)6)を受講する必要がある.大変勉強にもなり,全国に知り合いもでき,困ったときに相談ができるので大変助かっている.ぜひ参加することをお薦めする.日本ロービジョン学会や視覚リハビリテーション協会(http://www.jarvi.org)主催の視覚障害リハビリテーション研究発表大会に参加すると,いろいろな知識を得られる.筆者の場合は偶然参加したことで,現在外来を手伝ってくれている視能訓練士と出会えたり,歩行訓練士を紹介してもらったりしており,機会があれば学会に参加することをお薦めする.VI歩行訓練士歩行訓練士(視覚障害者歩行訓練指導員)は公的な資格ではないが,専門の機関で教育を受けて,視覚障害者に対する安全な移動の指導や白杖の使用方法の指導,日常生活でのアドバイスなどを多岐にわたり担当している力強い存在だが,医療機関に常勤者がいることはまれで,会ったことのない眼科の先生も多いと思う.筆者もロービジョン外来開設当初,山梨には歩行訓練士が一人もおらず,困っているとロービジョン学会や視覚リハビリテーション大会で愚痴をこぼしたら,人づてで愛知県から来ていただき,助けてもらったことがあった.日本歩行訓練士会や視覚リハビリテーション協会に問い合わせると,近隣の地域で活動している歩行訓練士の情報を教えてくれると思う.患者を医療機関から福祉施設へ紹介すると,もう治らないと医療機関から見捨てられた感じがし,心理的な抵抗があり,福祉施設へなかなか相談に行けない患者もいる.当院では歩行訓練士に依頼して,患者との面談や歩行訓練,日常生活へのアドバイスなどの導入のため病院に来てもらっている.このようにして外来通院の際に面談を行うことで,福祉施設の担当者と顔の見える関係になり,心理的な抵抗が弱まり,さまざまな福祉サービスを受けやすくなり,より快適に医療機関にも通い続けられるようになった例もある.当院では一度もないが,万が一,歩行訓練や白杖指導の際に病院内で事故が起こった場合に備えて賠償責任保険に加入している.通常,医師は何らかの賠償責任保険に加入していることが多いので,保険会社に医師の指示による歩行訓練中の事故に対する保険の適応に関して問い合わせておくと,安心して歩行訓練にあたれる.VII視能訓練士,看護師患者が現在困っていること(ニーズ)を聞き取り,整584あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(20)図9暗所視支援眼鏡図8シミュレーション眼鏡

まずは始めようクイックロービジョンケア

2018年5月31日 木曜日

まずは始めようクイックロービジョンケアLet’sStartwithQuickLowVisionCare!清水朋美*はじめに平成24年度にロービジョン検査判断料が診療報酬化されてから,ロービジョンケアに取り組む眼科が全国的に増えてきた.ロービジョン検査判断料は,視覚の身体障害者手帳該当患者に対し,患者の保有視機能を評価し,それに応じた適切な視覚補助具の選定と,生活訓練・職業訓練を行っている施設などとの連携を含め,療養上の指導管理を行った場合に限り,月に1回250点算定できる1)(表1).ただし,国立障害者リハビリテーションセンターで開催される視覚障害者用補装具適合判定医師研修会(以下,国リハ視覚医師研修会)を受講修了した医師が常勤で1名以上勤務していることが施設基準となっている.ロービジョン検査判断料の新設以降,視覚障害者用補装具適合判定医師研修会の受講申込者数は右肩上がりに増加し,平成29年度第1回の研修会でついに歴代修了生は1,000人を突破した.筆者は今の職場に赴任してちょうど10年目だが,ロービジョン患者の診療機会はこれまでになく増え,研修会にも同じ期間携わってきた.筆者にとっては,眼科でのロービジョンケアのあり方について自分なりに考える機会を頂戴してきたように思う.その結果が,これからの眼科にぜひ定着させたい「クイックロービジョンケア」である.I本格的なロービジョンケアだけがロービジョンケアではないロービジョン検査判断料が導入される前からロービ表1ロービジョン検査判断料の算定基準ジョンケアに取り組む眼科は存在していたが,その数は非常に少なかった.その最大の理由は,医療とは異なった福祉の仕事というイメージが強いうえ,医学部時代を含め,眼科教育のなかにロービジョンケアや視覚障害に関する内容が含まれてこなかったことも一因ではないかと推測する.いまでこそロービジョンケアを学生講義のなかに含めている医学部もあるが,まだすべてではない.医学部の学生のうち,将来的に眼科医になる者はごく一部だが,仮に他の診療科の医師になっても,あるいは臨床医にならなくても,ロービジョンケアや視覚障害に関する知識は必ず役立つ.従来から行われている眼科のロービジョンケアは,眼科医の診察にはじまり,患者のニーズ聞き取り,情報提供,必要な視覚補助具や社会資源の活用,さらに状況によっては福祉や教育と連携を取りながら就労,就学のケアを行うといった流れである.これこそがまさに本格的なロービジョンケアで,医療では,眼科医,視能訓練士,看護師などがかかわり,眼科医はチームリーダーと*TomomiShimizu:国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部〔別刷請求先〕清水朋美:〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(9)573=図1視野異常の架空例左右眼ともに下方に暗点あり.abc図2タイポスコープとサインガイドa:タイポスコープ.黒い用紙をくり抜いた部分に該当箇所をあわせて使用するとコントラストが付き,読み書きがしやすい.Cb:同意書.各種同意書はコントラストが弱く,ロービジョン患者にとって署名するのも困難である.Cc:サインガイド.署名する場所にサインガイドをあてることでコントラストが高まり,ロービジョン患者は署名しやすくなる.外来や病棟に常備しておくと便利である.図3ロービジョン患者の心理反応いろんなアドバイスをもっとも受け入れやすいのは,「受容」の時期であるが,必ずしも一方通行で心理反応が経過するわけではない.途中のステージでも,ロービジョンケアによって,早く「受容」に至ることもある.C表2ロービジョン患者に役立つおもな情報http://www.nenkin.go.jp/http://www.syougai-nenkin.or.jp/https://www.shakaihokenroumushi.jp/Cconsult/tabid/217/Default.aspxwww.nittento.or.jp/Cbac図4身近なものでの工夫a:輪ゴム.同じようなものが複数あるときに,触ってわかるように輪ゴムを巻きつけておくと識別しやすい.b:電化製品.電化製品にはボタンが多いが凹凸が弱く,ロービジョン患者にとって識別が困難である.Cc:立体シール.黄色の〇内のように,よく使用するボタンに立体シールを貼ることで,ロービジョン患者は触ってわかるため識別しやすくなる.図5クイックロービジョンケアと本格的なロービジョンケアこれからのロービジョンケアは,視機能の程度によって「クイックロービジョンケア」と「本格的なロービジョンケア」に分類されていくだろう.再生医療が本格化すると,視機能低下の程度が重いロービジョン患者がより軽いロービジョン患者となり,「クイックロービジョンケア」のニーズが高まることが予想される.-

わが国におけるロービジョンケアの歴史

2018年5月31日 木曜日

わが国におけるロービジョンケアの歴史TheHistoryofVisualRehabilitationinJapan安藤伸朗*はじめにわが国のロービジョンケアは,平安時代に始まり長い歴史と独特の経緯を有する.当初は職業訓練や視覚障害をもつ人々を保護する施策が主体であった.次第に障害者自らが自立する機運が高まり,今では人権を尊重する時代と変わってきた.一方で眼科領域では,診断治療学が発達し,視機能を保持することが可能となった.新しい学問技術により失明者にも光を届けることも可能な時代になってきた.さらに最近では人工知能(arti.cialintelligence:AI)が診断治療に取り入れられている.このような状況激変のなかでロービジョンケアをどのようにとらえ,取り組んでいくかを考えるうえで,ロービジョンケアの歴史を知ることは大事なことである.本稿では,まずわが国のロービジョンケアの歴史を掘り下げ,視覚リハビリテーションの領域で先駆的に活躍した眼科医をレビューする.さらには組織として取り組むようになった歴史を振り返り,今後のわれわれ眼科医とロービジョンケアのあり方について論じる.I明治以前(平安から江戸):当道座当道座は,中世から近世にかけて存在した男性盲人の自治的互助組織(特殊コミュニティ)である.始まりは平安時代,仁明天皇の子の人康(さねやす)親王(831~872年)が創始者といわれている.親王は盲目(眼疾による中途失明)で,琵琶の名手であった.朝廷は,当時,盲人に琵琶,管弦,詩歌を教える者に官位を授けたとされている.その後,鎌倉時代には『平家物語』が流行し,盲人が演奏した(平家座頭).室町時代には検校明石覚一が『平家物語』の覚一本を作成し,室町幕府から庇護を受けた.江戸時代には当道座は江戸幕府から公認され,寺社奉行の管理下にあった.官位は最高位の検校から順に,別当,勾当,座頭に区分され,それぞれはさらに細分化され全部で73段階あった.当道座に属する盲人の人数は3,000人(江戸には検校68名,勾当67名,座頭170名,それ以下の者360名)といわれている(推定される当時の視覚障害者数は5万人).しかし,1871年(明治4年),当道座は解体され消滅した.II明治以降全国各地に盲学校が設立された.古河太四郎(ふるかわ・たしろう)は1878年(明治11年),京都盲唖院を設立した.次いで1880年(明治13年),東京に楽善会訓盲唖院が開校,1891年(明治24)には新潟県高田市(現在の上越市)に,眼科医の大森隆碩が私立高田訓矇学校を設立した.各地での盲学校設立には眼科医がかかわってきた.現在では,2007年施行の学校教育法改正により盲学校は聾学校,養護学校とともに,学校種が「特別支援学校」となり,「視覚特別支援学校」の名称の特別支援学校もある.*NoburoAndo:立川綜合病院眼科〔別刷請求先〕安藤伸朗:〒940-8621新潟県長岡市旭岡1-24立川綜合病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)567盲学校以外では,1890年(明治23年),6点式点字の開発(石川倉次),1940年(昭和15年),日本盲人図書館創立(本間一夫),1948年(昭和23年),東京と塩原に光明寮(国立リハビリテーションセンターの前身)開設,1948年(昭和23年),日本盲人会連合発足(初代会長;岩橋武夫),1961年(昭和36年),京都ライトハウス発足(鳥居篤治郎)と続いた.III保護から自立,人権の尊重へ視覚障害に限らず,障害者の世界は大きく変わろうとしている.障害者リハビリテーションと戦争はかかわりが深い.第二次世界大戦により障害者が大量に生まれた.戦勝国では軍隊は残り,治療・リハビリテーションを国策で行うことにより,外傷治療学やリハビリテーション学が発展した.一方,敗戦国では軍隊は解散し,傷痍軍人が街に溢れた.そこで国が障害者の福祉を行い,わが国では,1949年(昭和24年),身体障害者福祉法が成立した.1954年(昭和29年),世界盲人福祉協議会(WorldCouncilforWelfareoftheBlind:WCWB)では「ゆりかごから墓場まで」が謳われ,弱者の保護政策が強調された.1964年,WCWBで「視覚障害者の人間宣言」が示された.曰く,「盲人を援護し庇護することは,盲人のためにかもしれないが,盲人の人権を無視したもの」.視覚障害者の自立が宣言された.さらに2008年,国連総会において「障害者の権利に関する条約」が採択された.これは障害者の人権および基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として,障害者の権利の実現のための措置などについて定める条約である.わが国は平成19年(2007)に条約に署名し,2014年1月に批准書を提出した.これにより,障害者の人権尊重がより明白となった.IV活躍した眼科医1.小柳美三(東北大学初代眼科教授)Vogt-小柳型ぶどう膜炎で有名な小柳美三(こやなぎ・よしぞう)初代東北大学眼科教授が,『日本眼科学会百周年記念誌』に,創生期のロービジョンケア先駆者として紹介されている1).1929年,小柳教授が『日本学校衛生誌』に「弱視教育における特殊教育の必要」を発表し,低視力児の特殊教育の必要性を訴えた.それが功を奏して,1933年,南山尋常小学校(東京麻布)に全国初の弱視学級が開設された.2.順天堂大学眼科(紺山和一,赤松恒彦,中島章)1964年(昭和39年),順天堂大学眼科がわが国初のロービジョン外来(眼科臨床更生相談所)を開設された.ロービジョンケアという概念もないころであり,特筆すべきことである2).中島教授は,当時「眼科医は今迄なにをしてきたのか!」という論文を残している.その内容をかいつまんで紹介する.《昭和39年より眼科臨床更生相談所を開設し,また昭和41年3月より東京都身体障害者巡回診療班に加わり東京都内全域(島部も含め)をめぐり,視力障害者に多く接する機会を得た.その間に感じた2,3の点を記し,反省しつつ眼科臨床医が視覚障害者に遭遇した場合にどのような対応をとればよいかを述べ,将来の構想を述べた.1)眼科医は今迄なにをしてきたのか,2)身障者に対するあつかいの悪い例,3)更生福祉はどのようになされているか,4)眼科医はどうあるべきか,5)眼科医はどうしたらよいか,6)現在までの反省及び今後のあるべき方向……失明した方々を見ていると現在の医療の矛盾を多く感じ,早く,そして少しでも幸福な生活にもどしてあげるのが医療の本質と強く思い,この一文がそのための一石となることを願いつつ書いた.》3)順天堂大学ロービジョンケアの伝統は現在も引き継がれ,村上晶教授は第18回日本ロービジョン学会(2017年5月,岐阜)で,「我が国初の眼科リハビリテーションクリニック」と題して特別講演を行った.3.原田政美(東北大学教育学部視覚欠陥学教室)東京大学眼科(萩原朗教授)で斜視弱視の研究を行568あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(4)っていた原田政美は,萩原教授の退官後の1965年(昭和40年),東北大学教育学部視覚欠陥学教室の初代教授に就任し,視覚支援について本格的に研究を開始した.これは本格的なロービジョンケア学の始まりであった.同教室について原田教授自身が執筆した一文を引用する4).「東北大学教育学部視覚欠陥学教室」〈教室の沿革〉東北大学教育学部教育心理学科には従来から聴覚言語欠陥学講座が設置されているが,昭和40年度,新たに視覚欠陥学講座が設けられ,この結果,本学科は教育心理学関係二講座,欠陥学関係講座二講座,計四講座となった.視覚欠陥学講座は大学院(修士および博士課程)を持った実験講座で,大学院においては聴覚言語欠陥学とともに身心欠陥学を形成している.〈教室の目的〉従来本学部には同じく視覚欠陥学と呼ばれた盲学校教員養成課程があったが,盲教員養成は今後宮城教育大学で行うことになり,本講座は広く視覚欠陥に関する基礎科学的研究を行うことを目的とする.視覚に欠陥のあるものが現代社会によく適応し,各個人の最大限の可能性をもって,社会生活を営めるような知見を提供すべく,医学的,心理学的,教育学的な研究を行う.日本に多発性硬化症が存在することを初めて主張した眼科医,桑島冶三郎も最終的な所属は本教室である.臨床のロービジョンクリニック「眼科臨床更生相談所」(順天堂大学)と,アカデミックにロービジョンケア学をめざした東北大学視覚欠陥学講座は,奇しくもほぼ同時期に始まった.4.国立身体障害者リハビリテーションセンター(現,国立障害者リハビリテーションセンター)(簗島謙次,仲泊聡,清水朋美)1983年,国立身体障害者リハビリテーションセンター病院が設立された.本センターは,障害のある人々の自立した生活と社会参加を支援するため,医療・福祉サービスの提供,新しい技術や機器の開発,国の政策に資する研究,専門職の人材育成,障害に関する国際協力などを実施する国の組織である.視覚障害を担当する歴代部長は,簗島謙次(1989年~),仲泊聡(2008年~),清水朋美(2016年~)である.1991年(平成3年),視覚障害者用補装具適合判定医師研修会(厚生労働省)が開始され,ロービジョンケアを行うことのできる眼科医を,全国に広げている.研修を終えた眼科医は,現在1,000名を超えた.5.日本ロービジョン学会(田淵昭雄,高橋広,加藤聡)2000年(平成12年)4月に創設された.本学会は,わが国における視覚に障害を有する児・者へのハビリテーションと,リハビリテーションに関する学際的な研究および臨床の向上,会員同士および諸外国との交流を目的に設立された.眼科医,視能訓練士,看護師などの医療関係者以外に,教育,福祉,労働,ロービジョン関連機器に携わる企業関係者などさまざまな職種の方々が参加している学際的な学会である.歴代理事長は,田淵昭雄(2000~),高橋広(2010~),加藤聡(2013~)である.学会会員数は,845名でうち眼科医は277名(2018年1月現在)である.6.視覚リハビリテーションに尽力した偉大なサージャン(樋田哲夫,田野保雄)古今東西を問わず,RobertMachemerやCharlesSchepensなど,偉大な眼科サージャンは視覚リハビリテーションにも熱心である.わが国の樋田哲夫,田野保雄もしかりである.現在,日本眼科学会のホームページからも引用できる「感覚器医学ロードマップ感覚器障害の克服と支援を目指す今後10年の基本戦略」(改訂第2版,2008年8月)5)は,田野保雄(当時,大阪大学医学部眼科教授)が委員長であり,樋田哲夫(当時,杏林大学医学部眼科教授)も10人の委員のうちの1人であった.基本戦略4本柱には,疫学研究,眼疾患に対する新しい治療法開発・普及,視力障害者が視力回復もしくは視力の代替手段の提供とともに,ロービジョンケアの重要性が謳われている.具体的には,病態を二つに分け,1.「治る病態」には糖尿病網膜症と緑内障をあげ,早期発見・早期治療,予防治療を重視している.2.「治らない病態」に対して(5)あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018569表1わが国のロービジョンケアの歴史

序説:ロービジョンケアの過去・現在・未来

2018年5月31日 木曜日

ロービジョンケアの過去・現在・未来LowVisionCareinJapan─Past,PresentandFuture安藤伸朗*佐藤美保**平成24年度にロービジョン検査判断料が診療報酬化されると,それまでごく一部の眼科においてのみ行われていた「特殊なサービス」であったロービジョンケアが広く認識されるようになった.今やロービジョン外来は,多くの病院や眼科クリニックに開設され,医師や視能訓練士のロービジョンケアへの意識も高い.20年前には特殊な用語であった生活の質(qualityoflife:QOL)という用語も一般的になり,医師主導の医療から,患者中心の医療が求められるようになった.「視力を回復させる」ことが最大の目標であった眼科医も,「見えづらさをもつ患者とともに歩む」ことが使命となり,やりがいにもなってきた.先天的に低視力の子供が,適切な教育を受けて就労していく姿をみたり,失明のために落胆していた患者が生き生きと暮らす様子を目の当たりにできるのは,ロービジョンケア,いや眼科医の醍醐味であろう.その一方で,ロービジョン外来を行うためには,さまざまな疾患による見えづらさに対する知識をもち,個々の患者ニーズを理解し,さらには関連する団体や組織との連携することなどが必要となってくる.時間がかかるだけではなく,これまで学んできた眼科学の範囲を超えたさまざまな知識が求められるようになったのである.そのため,ロービジョン外来のハードルを高く感じている眼科医もまだまだ多く存在するのが現状である.本特集では,わが国におけるロービジョンケアの歴史を振り返るとともに,現在進行形のロービジョンケア,そして未来のロービジョンケアについて多くの専門家に執筆していただいている.安藤は,わが国における平安時代から現在までのロービジョンケアの歴史について総括し,この分野で活躍した眼科医を語り,今後AI時代に必要な眼科医療の中心は患者を思う気持ちであることを論じた.国立障害者リハビリテーションセンター病院で視覚障害者用補装具適合判定医師研修会の指導をしてこられた清水朋美先生には,多くのスタッフによる本格的なロービジョン外来だけがロービジョンケアではなく,すべての眼科医が診療のなかで行うことができる「クイックロービジョンケア」の必要性を執筆していただいた.田辺眼科の田辺直彦先生には,地域の開業医としてのロービジョン外来の必要性と,自院でのロービジョン外来の開設準備から現在までの経緯を時間軸とともに述べていただいた.まだロービジョンケアに十分になじみのない方には,ぜひここからスタートしていただけたらと思う.*NoburoAndo:立川綜合病院眼科**MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)565