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蒸発を防ぐドライアイ保護眼鏡

2015年7月31日 金曜日

特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):961~964,2015特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):961~964,2015蒸発を防ぐドライアイ保護眼鏡Moist-ChamberSpectaclesforRetardingTearEvaporation池田佳介*村戸ドール**はじめにわが国のドライアイ推定患者数は約800~2,200万人以上とされており,その数は年々増加している.2006年のドライアイ定義改訂後,定義は「ドライアイは不快感,視覚障害,涙液層の不安定性を有し,眼表面ダメージに至る涙液および眼表面の多因子疾患である」となった.日本のドライアイ診断基準は表1のように具体化しており,症例を確定例,疑い例と分け,さらに検査のカットオフ値も明確となっている1,2).欧米では原因やメカニズムによって疾患を涙液分泌不足型か涙液蒸発亢進型という形で分け,ドライアイの重症度に応じて(表2)治療を段階的に行う考えが普及している(表3).2007年のドライアイ国際ワークショップ報告書ではドライアイのリスクファクターが因果関係の有無によって分類されている1).そのうちドライアイと因果関係の強いものを表4に示す.ドライアイになりやすい要因としては①年齢(高齢者に多い),②性別(女性に多い),③過度のVDT(visualdisplayterminals)作業,④乾燥した環境,⑤コンタクトレンズ装用,⑥喫煙,⑦内服薬(血圧下降薬,抗鬱薬,抗コリン薬,TS-1など,⑧点眼薬(緑内障,防腐剤を含む点眼など),⑨マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD),⑩結膜弛緩症,⑪全身の病気に伴うもの〔Sjogren症候群,移植片対宿主病(graftversushostdisease:GVHD〕,スチーブンス・ジョンソン症候群〔Stevens-Johnson表1ドライアイ診断基準①自覚症状○○○②涙液検査○×○③角結膜上皮検査○○×ドライアイの診断確定疑い疑い表2ドライアイの重症度による分類重症度レベル1レベル2レベル3レベル4違和感・頻度視覚症状結膜の充血結膜上皮障害角膜上皮障害角膜所見MGDの有無涙液層破壊時間Schirmer値軽度・たまになし/軽度なし/軽度なし/軽度なし/軽度なし/軽度なし/軽度さまざまさまざま中程度・慢性気になるなし/軽度軽度~中程度軽度~中程度Debris,TMH↓なし/軽度≦10≦10重症気になる+/.中程度中央部糸状炎よくあり≦5≦5重症いつも+/++重症重症糸状炎~潰瘍角化・消耗乱生即座に乾く≦2*KeisukeIkeda:慶應義塾大学医学部眼科学教室**DogruMurat:慶應義塾大学医学部眼科学教室,東京歯科大市川総合病院眼科〔別刷請求先〕村戸ドール:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(39)961 962あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(40)使用など),②人工涙液点眼,③涙点プラグ挿入,④EyeWarmer使用,⑤加湿機能付き眼鏡装用が有用であると報告されている1,7).坪田らは1994年に坪田式の加湿機能付き眼鏡(図1)は眼周囲の湿度を52%に保つことを報告している8).今回,筆者らは,新型加湿機能付き眼鏡を装用した状態での,乾燥環境暴露前後の涙液機能の変化について検討したので,その概要を述べる.I新型加湿機能付き眼鏡坪田式モイスチャーエイドはサイドフレームに付いているスポンジを濡らすことによって,眼周囲の湿度が上昇させる仕組みであった(図1a,b)8).新型加湿機能付き眼鏡はサイドフレームに約546μlのタンクが設置してあり(図2),その1/3まで水を満syndrome:SJS)など〕があげられる.そのなかで最近注目を浴びているのは環境因子(とくに乾燥環境)とドライアイの関係である1).坪田らは乾燥環境における涙液蒸発量の亢進および瞬き回数の増加を報告している3~6).乾燥に伴う涙液蒸発亢進型ドライアイの治療としては,①患者教育と環境因子について指導(冷房/暖房の眼表面への直撃をさける,飲酒軽減,禁煙,加湿機表3ドライアイ重症度による治療方針レベル1:患者様の生活習慣・職場環境の変更について指導ドライアイの原因になる薬剤の中止人工涙液点眼眼瞼縁のマネジメント(温療法など)レベル2:レベル1の治療は不十分であればプラスで:抗炎症薬点眼薬テトラサイクリン/ミノサイクリン全身投与(マイボーム腺炎の場合)涙点プラグ涙液分泌亢進薬ドライアイ保護用カバーモイスチャーエイドレベル3:レベル2の治療は不十分であればプラスで:血清点眼ボストンスクレラルコンタクトレンズなど涙点焼灼レベル4:レベル3の治療は不十分であればプラスで:抗炎症薬・免疫用製剤の全身投与外科的治療(羊膜移植,眼瞼形成術,唾液腺移植,粘膜移植など)表4ドライアイと因果関係の強いリスクファクター高齢性別(女性に多い)閉経期後のエストロゲン治療抗ヒスタミン剤の使用LASIKおよび屈折矯正手術放射線療法骨髄移植ビタミンA欠乏症C型肝炎アンドロゲンホルモンの低下日常栄養中のw3:w6の比率CL装用乾燥環境図1坪田式モイスチャーエイドの仕組みa:オリジナルモイスチャーエイド.b:人工涙液点眼によってサイドパネルのスポンジを濡し,眼周囲の湿度を向上させる.ab表3ドライアイ重症度による治療方針レベル1:患者様の生活習慣・職場環境の変更について指導ドライアイの原因になる薬剤の中止人工涙液点眼眼瞼縁のマネジメント(温療法など)レベル2:レベル1の治療は不十分であればプラスで:抗炎症薬点眼薬テトラサイクリン/ミノサイクリン全身投与(マイボーム腺炎の場合)涙点プラグ涙液分泌亢進薬ドライアイ保護用カバーモイスチャーエイドレベル3:レベル2の治療は不十分であればプラスで:血清点眼ボストンスクレラルコンタクトレンズなど涙点焼灼レベル4:レベル3の治療は不十分であればプラスで:抗炎症薬・免疫用製剤の全身投与外科的治療(羊膜移植,眼瞼形成術,唾液腺移植,粘膜移植など)表4ドライアイと因果関係の強いリスクファクター高齢性別(女性に多い)閉経期後のエストロゲン治療抗ヒスタミン剤の使用LASIKおよび屈折矯正手術放射線療法骨髄移植ビタミンA欠乏症C型肝炎アンドロゲンホルモンの低下日常栄養中のw3:w6の比率CL装用乾燥環境図1坪田式モイスチャーエイドの仕組みa:オリジナルモイスチャーエイド.b:人工涙液点眼によってサイドパネルのスポンジを濡し,眼周囲の湿度を向上させる.ab 加湿タンクサイドフレーム調節可能なゴムバンドレンズプラスチック製フロントフレーム図2新型モイスチャーエイドの仕組み 964あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(42)20068)TsubotaK,YamadaM,UrayamaK:Spectaclesidepanelsandmoistinsertsforthetreatmentofdry-eyepatients.Cornea13:97-201,1994withallergicconjunctivitis.Ophthalmology102:302-309,19957)MatsumotoY,DogruM,GotoEetal:Efficacyofanewwarmmoistairdeviceontearfunctionsofpatientswithsimplemeibomianglanddysfunction.Cornea25:644-650,

油層に対する治療

2015年7月31日 金曜日

特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):953.960,2015特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):953.960,2015油層に対する治療TreatmentforLipid-LayerInsufficiency戸田郁子*はじめにドライアイの概念と定義,要因に基づく分類,診断基準および治療は,最近の20年で大きく発展した.ドライアイは涙液分泌減少型と涙液蒸発亢進型に大きく分類されるが,後者がドライアイの80%を占めると推測されており,その主原因は閉塞型のマイボーム腺機能不全(meibomianglanddisfunction:MGD)である1).MGDは慢性の疾患で,加齢とともに増加し,継続的な自己ケアが必要である.さまざまな治療によっても難治性のことも少なくない.最近ではドライアイの治療は,原因が涙液のどこにあるかに基づいたターゲット治療,いわゆるtearfilmorientedtherapy(TFOT)が主流となっており,治療の有効性が上がっている.MGDに伴うドライアイも,眼瞼を詳細に観察し的確に診断するとともに,マイボーム腺をターゲットに治療することが重要である.I閉塞型MGDの治療法閉塞型MGDの治療法を表1に示す.閉塞型MGDの治療の基本は,マイボーム腺開口部の閉塞除去と感染防止を目的とした眼瞼縁の洗浄(リッドハイジーン)である2).さらに,油脂の排出を促すマッサージと温熱療法を加えた3者の組み合わせが有効である.さらに,局所や全身の薬物療法や食事療法を組み合わせることによって,眼瞼縁の状態,油脂の正常,ドライアイ症状の改善を図る.表1MGDの治療.瞼縁洗浄(リッドハイジーン).温熱療法,マッサージ.食事,薬物療法.ドライアイ治療(点眼・ドライアイ眼鏡).テトラサイクリン内服.オメガ3脂肪酸摂取.抗炎症・ホルモン療法.就寝前軟膏点入.油性点眼(ヒマシ油).内容物の圧出による脂腺の開口1.リッドハイジーン眼瞼縁のマイボーム腺開口部は,さまざまな原因で閉塞する.角質やアイラインなどの化粧品が開口部に蓄積するほか,マイボーム腺油脂の変性(常在菌や炎症の影響)によって固形化しやすくなる.また,加齢による腺萎縮により分泌低下が加わるといっそう油層不全を加速する.マイボーム腺開口部の詰まりを改善,防止するためには,眼瞼縁の物理的洗浄が有効である.既存の方法は,ジョンソンベビーシャンプー(Johnson&Johnson)を希釈して,綿棒につけて眼瞼縁をこするというものであるが,刺激が強すぎることが問題である.最近,国内で眼瞼専用の洗浄剤「アイシャンプーロング」(メディプロダクト)が発売された(図1).アイシャンプーロングは涙液に近いpHと浸透圧に調整されており,低刺激でしみない.また,ヒアルロン酸などの保湿成分,アラントインなどの抗炎症成分,ビタミンDやフコダイン*IkukoToda:南青山アイクリニック東京〔別刷請求先〕戸田郁子:〒107-0061東京都南区北青山3-3-11ルネ青山ビル4階南青山アイクリニック東京0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(31)953 954あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(32)がみられた.乾燥感などの自覚症状が改善し(図2),角膜のフルオレセイン染色が低下した.また,マイボーム腺開口部の閉塞率が減少した(図3).さらに,使用前後で睫毛の長さを比較したところ,使用後に有意に長くなっていたことから,睫毛の伸張という付加的効果も期待できる(図4).などの睫毛保護伸張成分が配合されている.筆者らはMGDの患者に,アイシャンプーで1日1.2回,歯を磨くように眼瞼洗浄を習慣化してもらうよう指導している.アイシャンプーの使用2カ月前後で,自覚症状,眼瞼所見,涙液所見を比較した結果,その一部に有意な改善クレンジング後クレンジング前図1眼瞼専用洗浄剤「アイシャンプーロング」とその使用例乾燥感病状スコア眼がショボショボする眼がゴロゴロする眼がしみる眼が熱いPre2.21.91.91.80.6Post1.81.11.20.70.201234**********p<0.01**p<0.05図2アイシャンプーロング使用前,使用後2カ月の自覚症状の変化17症状中5症状で有意に改善がみられた.クレンジング後クレンジング前図1眼瞼専用洗浄剤「アイシャンプーロング」とその使用例乾燥感病状スコア眼がショボショボする眼がゴロゴロする眼がしみる眼が熱いPre2.21.91.91.80.6Post1.81.11.20.70.201234**********p<0.01**p<0.05図2アイシャンプーロング使用前,使用後2カ月の自覚症状の変化17症状中5症状で有意に改善がみられた. あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015955(33)2.温熱療法とマッサージマイボーム腺の温度を上げて内容物の脂質をやわらかくし排出しやすくする温熱療法として,ホットタオル,加熱パッド,あるいは赤外線ゴーグルなどがある.現在広く販売されているめぐりズム(花王)という眼周囲用の加熱パッドは使い捨てで,40℃で約10分間のヒーティングとともに,蒸気による保湿が可能である.筆者らは以前,めぐりズムをLASIK後ドライアイ患者に使用する機会があった.LASIK術後3週目より2週間毎日使用した前後で,油層観察装置DR-1(興和)にて角膜前面の油層の厚みを比較したところ,使用後に有意に増加していた(図5).また,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)も有意に増加していた.PrePost3.42.450123456p<0.01図3アイシャンプーロング使用前,使用後2カ月のマイボーム腺閉塞率の変化下眼瞼の15の開口部を圧迫して閉塞を検査した結果,使用後に閉塞率が有意に改善した.アイシャンプー使用前使用2カ月後図4アイシャンプーロング使用前後の睫毛の変化アイシャンプーロングを2カ月間使用すると,睫毛の延長がみられた.050100150200BeforeAfterThicknessofLipidLayerμmp=3.0×10-5図5LASIK後ドライアイ患者における加熱パッド「めぐりズム」の効果使い捨ての瞼の暖めシート(メグリズム)をLASIK後ドライアイの患者に2週間使用した結果,角膜前面の油層の厚みが有意の増加した.PrePost3.42.450123456p<0.01図3アイシャンプーロング使用前,使用後2カ月のマイボーム腺閉塞率の変化下眼瞼の15の開口部を圧迫して閉塞を検査した結果,使用後に閉塞率が有意に改善した.アイシャンプー使用前使用2カ月後図4アイシャンプーロング使用前後の睫毛の変化アイシャンプーロングを2カ月間使用すると,睫毛の延長がみられた.050100150200BeforeAfterThicknessofLipidLayerμmp=3.0×10-5図5LASIK後ドライアイ患者における加熱パッド「めぐりズム」の効果使い捨ての瞼の暖めシート(メグリズム)をLASIK後ドライアイの患者に2週間使用した結果,角膜前面の油層の厚みが有意の増加した. 956あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(34)鑷子で直接眼瞼を挟み圧出する(図6).また,マイボーム腺開口部より直接ブジーを挿入するマスキンプローブは,直接腺間内の閉塞を解除できる(図7)3).しかし,これらの方法は,①強い痛みが伴う,②機械的刺激により炎症を惹起する,③手間がかかる,という欠点がある.II新しいMGD治療法~LipiFlowシステムTearScience社(Morrisville,NC)製のLipiFlowR(以下LipiFlow)は,上記に延べた従来の温熱治療とマッサージ治療の欠点を改良した新しいタイプの閉塞型MGD治療機器である.1.LipiFlowの原理と方法LipiFlowは特殊な使い捨てのPI(patientinterface)によって上下の眼瞼を直接挟みこんで,眼瞼の内側,すなわち結膜側から直接ヒーティングを行う.PI(図8)はeyecupとlidwarmerで構成されている.Lidwarmerは楕円形の強膜レンズに似た形状で,周辺で眼しかし,このような古典的な眼瞼温熱療法は,眼瞼の皮膚面から暖めるため,結膜側に存在するマイボーム腺の温度を上昇させるには効率が悪い.マイボーム腺の内容物の溶解温度は40℃前後と報告されているが,重症閉塞ではさらに高い温度が必要といわれている2).したがって,眼瞼内での熱のロスを考えると外側からの加熱は限界がある.また,患者自身での温熱療法やマッサージは毎日継続して行わないと効果が得られず,治療のコンプライアンスが問題である.3.脂腺の開口と内容物の機械的圧出油脂の閉塞を機械的に開口する方法として,診察中における医師による内容物の圧出がある.マイボーム腺用図6マイボーム腺圧迫専用鑷子図7マスキンプローブLidWarmerEyeCup図8LiliFlowのPI(patientinterface)角膜側のLidWarmerと眼瞼を挟み込みマッサージを行うeyecupより構成されている.図6マイボーム腺圧迫専用鑷子図7マスキンプローブLidWarmerEyeCup図8LiliFlowのPI(patientinterface)角膜側のLidWarmerと眼瞼を挟み込みマッサージを行うeyecupより構成されている. LidWarmerマイボーム腺EyeCupマイボーム腺EyeCupヒーター角膜マッサージ図9PIを眼瞼に装着したシェーマ図10LipiFlow治療中の状態通常は両眼同時に施行する. MeibomianGlandEvaluator(MGE)15個の腺を評価図11マイボーム腺の閉塞度をチェックするmeibomianglandeevaluator(MGE)1回の圧迫で5個の開口部の状態が観察できる.下眼瞼を内側,中央,外側に分けて観察し,油脂が排出されるか否かをみる.図12LipiViewの測定原理鏡面反射の干渉像の色をカラーテーブルと比較し,油層の厚さを決定する. 図13LipiViewの測定画面症状p<0.05腺の閉塞p<0.005625NotSignif.SPEEDscore(max=28)NotSignif.20MGEScore41510500Baseline1Month3MonthsBaseline1Month3Months2油層の厚みμmp<0.005NotSignif.BUT8125p<0.005NotSignif.0Baseline1Month3MonthsBaseline1Month3Months0図14当院で施行したLipiFlowの結果LipiViewICUvaluesTBUT(seconds)100675450225に対し,油層と涙液層の鏡面反射により発生する干渉画像の干渉色を,カラーテーブル内の基準色に比較して油層の厚みを決定する(図12).測定時間17秒間に512フレームの撮影を行い,統計処理後に油層厚みをグラフ化し,測定時間内での油層厚みの平均値と最大最小値,(37)瞬目の状態,解析可能フレーム率などの結果を表示する(図13).油層厚みの平均値(AvICU)が65μm以下だと油層分泌低下を疑い,治療の適応目安としている.これら3つの評価方法の他,細隙灯顕微鏡による眼瞼縁の所見,ドライアイの検査所見(角結膜の染色,BUTあたらしい眼科Vol.32,No.7,2015959 960あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(38)など),マイボグラフィー,涙液スペキュラー,などを参考に治療前後の評価を行う.経過観察は通常,治療後1カ月後とその後3カ月ごとに行っている.3.治療結果2009年に行われた米国での多施設前向き試験(9施設)5)や,その後の追試試験6,7)によって,LipiFlowで治療した患者の約80%が1カ月の経過観察で有意な症状および他覚所見の改善を示し,その効果は半年から1年持続するということが確認されている.これは単回治療によってマイボーム腺の機能改善が数カ月持続するという従来の治療では達成できなかったことであり,画期的であると考えられる.当院では2012年よりLipiFlowシステムを導入した.閉塞型MGD患者20人40眼に使用したところ,症状,腺の閉塞,油層の厚み,BUTのすべてにおいて,治療後1カ月または3カ月で有意な改善がみられていた(図14).まとめ閉塞型MGDは頻度の高い慢性疾患であり,ひとつの治療だけで完全緩解は困難で,表1に示した方法の併用が必要である.一方,最新型治療機器LipiFlowは単回治療で長期の効果が得られるが,やはりその効果を持続させるためには患者自身でのセルフケアの継続が重要である.すなわち,治療後の点眼(ドライアイ点眼,抗炎症薬の点眼,軟膏など),自己によるリッドハイジーン,温熱療法,マッサージ,瞬目の訓練などを患者自身で継続するよう指導することが治療成功の鍵である.文献1)Thedefinitionandclassificationofdryeyedisease:reportoftheDefinitionandClassificationSubcommitteeoftheInternationalDryEyeWorkShop.OculSurf5:75-92,20072)BronAJ,TiffanyJM:Thecontributionofmeibomiandis-easetodryeye.OculSurf2:149-65,20043)MaskinSL:Intraductalmeibomianglandprobingrelievessymptomsofobstructivemeibomianglanddysfunction.Cornea29:1145-1152,20104)天野史郎:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20105)LaneSS,DuBinerHB,EpsteinRJetal:Anewsystem,theLipiFlow,forthetreatmentofmeibomianglanddys-function.Cornea31:396-404,20126)GreinerJV:AsingleLipiFlowRthermalpulsationsystemtreatmentimprovesmeibomianglandfunctionandreduc-esdryeyesymptomsfor9months.CurrEyeRes37:272-278,20127)GreinerJV:Long-term(12-month)improvementinmei-bomianglandfunctionandreduceddryeyesymptomswithasinglethermalpulsationtreatment.ClinExperi-mentOphthalmol41:524-530,2013

杯細胞増加とムチン産生作用をもつムコスタ点眼液

2015年7月31日 金曜日

特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):943.951,2015特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):943.951,2015杯細胞増加とムチン産生作用をもつムコスタ点眼液FacilitationofIncreasedGobletCellsandMucinProductionbyRebamipideOphthalmicSolution横井則彦*木下茂**はじめにレバミピド[化学式:C19H15ClN2O4,分子量:370.79]は,胃炎や胃潰瘍の経口治療薬(ムコスタR)として,1990年の発売以来,長年,広く各科で使用されてきた薬物であり,ムチン産生促進作用,粘膜修復作用をもつ.そして近年,レバミピドは,ドライアイ治療薬(ムチン産生促進剤,ムコスタR点眼液UD2%,以下ムコスタ点眼液)として処方されるようになり,そのユニークな薬理作用がドライアイ治療を拡大しただけでなく,ドライアイの病態の考え方や診断にまで大きな影響を及ぼしている.本稿では,ドライアイの病態の考え方,治療,診断の新しい方向に即して,筆者の考えを交えながら,ムコスタ点眼液の現状について述べる.Iドライアイのコア・メカニズムの新しい考え方健常眼に対してドライアイに特徴的な他覚所見は,フルオレセイン破壊時間(いわゆるbreakuptimeoftearfilm:BUT)が短いことであり,これは,涙液層の安定性の低下を意味する.そして,涙液層の安定性の低下は,涙液層の破壊,ひいては上皮障害を導き,一方,上皮障害は上皮の水濡れ性低下を介して涙液層の破壊を導きうるため,涙液層の安定性の低下は,ドライアイの眼表面の悪循環(コア・メカニズム)を表現する(図1)1.4)また,涙液層の安定性の低下は,フルオレセインで可視化でき,眼乾燥感,視機能異常,眼精疲労といったドライアイの眼症状をうまく説明する.以上の理由で,わが国のドライアイの診療において,「涙液層の安定性低下」のメカニズムは非常に重視されている.一方,眼瞼結膜上皮と眼球表面上皮は,瞬目時に相互作用(涙液を介して摩擦を及ぼし合う)を有し,涙液に異常があると摩擦が増強しうる.つまり,涙液や上皮に異常のあるドライアイにおいては,「瞬目時の摩擦亢進」はもう1つの悪循環を表現し(図1)1.3),「涙液層の安定性低下」が開瞼時のドライアイのコア・メカニズムといえるのに対し,「摩擦亢進」は,瞬目時のドライアイのコア・メカニズムといえ,上流の原因.コア・メカニズム.症状からなるドライアイの階層構造に,両メカニズムを組み入れることにより,ドライアイがよりいっそう明確になるとともに,ドライアイの多彩な眼表面の表現や自覚症状が理解しやすくなる(図2)3).そして,「涙液層の安定性の低下」のメカニズムが大きく関与するドライアイとして,BUT短縮型ドライアイ(図3a)を,両メカニズムが同様に関与するドライアイとして,重症涙液減少型ドライアイ(図3b)をあげることができる.IIドライアイ治療の新しい考え方2.4)―TFOT(眼表面の層別治療)―わが国においては,2010年12月,2012年1月にそれぞれ,ムチン/水分分泌促進剤[ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,以下ジクアス点眼液)],ムコスタ点眼液がドライアイ治療薬として登場*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(21)943 表層上皮障害悪循環知覚神経眼瞼上皮の水濡れ性低下目が乾く,物が見えにくい,目が疲れる症状目がゴロゴロする,痛い症状+涙液層の安定性低下炎症悪循環瞬目時の摩擦亢進涙液層表層上皮表層上皮障害悪循環知覚神経眼瞼上皮の水濡れ性低下目が乾く,物が見えにくい,目が疲れる症状目がゴロゴロする,痛い症状+涙液層の安定性低下炎症悪循環瞬目時の摩擦亢進涙液層表層上皮図1ドライアイのコア・メカニズムドライアイにおいては,開瞼時の涙液層の安定性の低下,瞬目時の摩擦亢進の2つが最も重要なコア・メカニズムといえ,これらが上皮障害あるいは炎症を生じて知覚神経を刺激し,さまざまな症状が引き起こされる.(文献1より引用改変)内因性・外因性のさまざまなリスクファクター自覚症状(眼不快感・視機能異常)眼瞼結膜上皮障害(Lidwiperepitheliopathy)眼球表面上皮障害涙液(油層を欠く)悪循環ドライアイの眼表面の表現角膜上皮障害油層開瞼時の涙液層の安定性低下瞬目時の摩擦亢進悪循環涙液層の破壊液層図2ドライアイの階層構造開瞼時の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進のコア・メカニズムを階層構造として組み入れることによりドライアイが理解しやすくなる.(文献2,3より引用改変) あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015945(23)wiper(LW)と名付けられた10,11),この領域と角膜表面との摩擦が亢進すると,LWの上皮障害(lid-wiperepi-theliopathy:LWE)や,それと対面する角膜上皮障害,ひいては悪循環が形成され,慢性の眼不快感の原因となる.一方,LWから後方の眼瞼結膜とそれと対面する角結膜との間には,Kessingspaceとよばれる間隙が存在し11),瞬目時の摩擦が回避されている(図4).重症の涙液減少においても,眼瞼結膜や上方の角結膜に必ずしも上皮障害が生じていないことから,涙液がほとんど存在しない状況においてもKessingspaceは虚脱することなく確保されていると考えられる(図4左列a,c).一方,上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)や加齢に伴う上方の結膜弛緩(図3b)では,強膜し,日本発,世界初のドライアイ治療の考え方である,眼表面の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)が生まれた.これは,涙液層と上皮からなる眼表面に対して,その不足成分を補充することで,涙液層の安定性を最大限に高め,ドライアイのコア・メカニズムの1つである「涙液層の安定性低下」を治療しようとするドライアイの眼局所治療の革新的な考え方である.涙液層の安定性には,涙液層からは,油層および液層の水分と分泌型ムチンが,上皮層からは膜型ムチンが大きく関与すると考えられるため,これらの異常は,涙液層の安定性低下を引き起こす要因となる.(油分),水分,分泌型ムチン,膜型ムチンを補充しうるジクアス点眼液,分泌型ムチン,膜型ムチンを補充しうるムコスタ点眼液は,52週間の長期試験に基づけば,BUTをそれぞれ約2秒5)と約1.25秒6)延長し,涙液層の安定性の改善効果が得られている.そして,このことが,臨床試験5,6),実臨床におけるドライアイの他覚所見,自覚症状の改善7.9)につながっていると考えられる.IIIドライアイ診断の新しい考え方―TFOD(眼表面の層別診断)―TFOTを活用するためには,眼表面に不足する成分を看破できるドライアイの診断法,すなわちTFOD(tearfilmorienteddiagnosis:眼表面の層別診断)が必要であり,筆者らは,涙液層のブレイクパターンに基づくTFODを開発した2).詳細は,他2)に譲るが,ブレイクパターンとして,水分量の絶対的不足によるareabreak,膜型ムチンの不足が推定されるspotbreakやdimplebreak,水分量の相対的不足によるlinebreak,水分の蒸発亢進によるrandombreakが区別され,本分類により,ドライアイの分類,眼表面の不足成分の看破,TFOTの選択肢が判定できるため,TFOTに最大活用できる方法である.IV隠れたドライアイのコア・メカニズム―瞬目時の摩擦亢進―先に述べたように,ドライアイコア・メカニズムの一つに「瞬目時の摩擦亢進」がある.瞬目時に眼球表面と摩擦を生じる眼瞼結膜部位は,Korbらによってlidab図3BUT短縮型ドライアイ(a)と重症涙液減少型ドライアイ(b)BUT短縮型ドライアイでは涙液層の安定性低下のメカニズムがおもに働き,重症涙液減少型ドライアイでは開瞼時の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進の両方のメカニズムがともに働きうる(眼瞼に隠れた結膜に強い上皮障害が見られることに注目).ブルーフリーフィルター下での観察.ab図3BUT短縮型ドライアイ(a)と重症涙液減少型ドライアイ(b)BUT短縮型ドライアイでは涙液層の安定性低下のメカニズムがおもに働き,重症涙液減少型ドライアイでは開瞼時の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進の両方のメカニズムがともに働きうる(眼瞼に隠れた結膜に強い上皮障害が見られることに注目).ブルーフリーフィルター下での観察. 946あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(24)まだない.それはこの領域の研究の歴史がまだ浅いことにもよるが,これが瞬目という動的関係に基づく眼瞼背後に隠れた悪循環であること,および上皮障害を生じる前のサブクリニカルな異常の検出方法が存在しないことによると考えられる.そのため,現在までのところ,異物感や痛みといった摩擦の亢進を想定させる症状を頼りに診断を進めるしかない.そして,このメカニズムの手がかりとして,LWE,SLK,糸状角膜炎,結膜弛緩症といった疾患群,重症涙液減少眼の球結膜の上皮障害,球結膜のコイル状の血管異常(cork-screwsign)(図5)などがある.より乖離した弛緩結膜がKessingspaceを占めることで,摩擦の亢進が生じることがある.しかし,一般には角膜との摩擦亢進の鍵を握る眼瞼結膜部位はLWに他ならない.以上のような瞬目時の摩擦亢進に基づく角結膜上皮障害は,Cherによってblink-relatedmicrotrau-ma(BRMT)と名付けられ12),LWEもこの一部として捉えることができる.V瞬目時の摩擦亢進の診断「瞬目時の摩擦亢進」のコア・メカニズムに対しては,TFODやTFOTに相当する診断や治療のコンセプトがabc角膜Lidwiper上眼瞼KessingspaceLidwiperと摩擦を生じる角膜部位d図4LidwiperおよびKessingspaceの模式図(d)および重症涙液減少眼における眼表面の上皮障害重症涙液減少眼では,上・下眼瞼のlidwiperに高度の上皮障害(lid-wiperepitheliopathy)がみられるが,Kessingspaceに相当する上方の眼瞼結膜と上方の角膜には一般に上皮障害がみられない.a,c:リサミングリーン染色所見,b:フルオレセイン染色所見,ブルーフリーフィルター下での観察.(b:文献2より引用改変)abc角膜Lidwiper上眼瞼KessingspaceLidwiperと摩擦を生じる角膜部位d図4LidwiperおよびKessingspaceの模式図(d)および重症涙液減少眼における眼表面の上皮障害重症涙液減少眼では,上・下眼瞼のlidwiperに高度の上皮障害(lid-wiperepitheliopathy)がみられるが,Kessingspaceに相当する上方の眼瞼結膜と上方の角膜には一般に上皮障害がみられない.a,c:リサミングリーン染色所見,b:フルオレセイン染色所見,ブルーフリーフィルター下での観察.(b:文献2より引用改変) あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015947(25)によるのかもしれない.VII抗摩擦点眼液としてのムコスタ点眼液ムコスタ点眼液は,その第II相臨床試験22)において,乾燥感,羞明,霧視,異物感,眼痛の症状で,プラセボと比較し,有意な効果が認められたが,第III相臨床試験23)においては,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(6回/日)に比べて,点眼回数が4回と少なかったにもかかわらず,異物感,眼痛で有意に効果が大きかったことは注目に値する.ここに,乾燥感,羞明,霧視といった症状が涙液層の安定性低下のメカニズムで説明しうるのに対し,異物感,眼痛(眼痛の一部は,涙液層の安定性低下に関係している可能性もある)が,瞬目時の摩擦亢進のメカニズムで説明しやすいことを考えると,ムコスタ点眼液は,すでに臨床試験の段階で瞬目時の摩擦亢進に効果があることを示していたと思われる.しかも,第II,III相の対象が,Schirmer試験5mm/5分以下の,瞬目時の摩擦が増強しやすい涙液減少型ドライアイであったことを考えると,さらにその効果は興味深く思える.また,その後,瞬目時の摩擦亢進を第一のメカニズムとする糸状角膜炎32)やLWEやSLKにおいて従来の点眼液では効果の乏しい例でムコスタ点眼液の効果が報告されている25.27)ことから,ドライアイ治療におけるムコスタ点眼液の「抗摩擦点眼液」としての役割は大きいと筆者は考えている(図6).しかし,なぜ,ムコスタ点眼液が「瞬目時の摩擦亢VIムコスタ点眼液のヒト角結膜上皮細胞に対する作用マウス,ラット,家兎といった動物の眼表面上皮に対する非臨床試験の結果を受けて,レバミピド,ムコスタ点眼液のヒトの眼表面上皮に対する薬理作用,薬効についても,近年,新知見が増えてきている.たとえば,角膜上皮細胞に対する膜型ムチンの発現促進作用13),抗炎症作用14,15),バリア機能保護作用14,15)が報告され,結膜上皮細胞に対しても,杯細胞の増加作用16),抗炎症作用17)などの報告がみられる.一方,動物のドライアイモデルにおける眼表面ムチンおよび角膜上皮障害の改善18.20),抗炎症作用21),第II相22),第III相23),長期試験6)の臨床試験の結果を受けて,発売後も,ドライアイ8,9),アレルギー性結膜疾患24),瞬目時の摩擦亢進に関連した疾患群25.27)への効果を示す報告が増えてきている.しかし,胃潰瘍に対するレバミピドの使用歴のなかで,その奏効メカニズムが未だ明確ではないのと同様,ムコスタ点眼薬がなぜドライアイあるいはそれに関連するメカニズムに有効なのかは,未だ明らかではない.その効果は,ドライアイに関係するさまざまなメカニズム,すなわち先に述べた,涙液層の安定性低下や瞬目時の摩擦亢進といったドライアイのコア・メカニズム1.4)以外に,眼表面炎症28),酸化ストレス29)といったさまざまなドライアイの病態に奏効しうる薬理作用6,8,9,13.25,27,30,31)図5摩擦の亢進に関係する血管異常眼瞼と瞬目時の摩擦亢進を生じている結膜領域には,しばしばcork-screwsignとよばれる血管の走行異常がみられ(a),結膜弛緩症でよくみられる(b).その部には,本症例のように上皮障害を伴うこともある.ab図5摩擦の亢進に関係する血管異常眼瞼と瞬目時の摩擦亢進を生じている結膜領域には,しばしばcork-screwsignとよばれる血管の走行異常がみられ(a),結膜弛緩症でよくみられる(b).その部には,本症例のように上皮障害を伴うこともある.ab 948あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(26)眼瞼の速度(v)涙液の厚み(t)涙液の粘度(h)眼瞼の速度(v)×涙液の粘度(h)涙液の厚み(t)S=図7涙液が介在する状況での眼瞼と眼球表面の間の摩擦力(S=剪断応力)の式瞬目時の摩擦(剪断応力)は,涙液の存在下においては,涙液の厚み,瞬目時の眼瞼の速度,涙液の粘度からなる式よって決まり,早い瞬目,涙液の粘度の上昇,涙液減少により,摩擦力は増強する.abcd図6糸状角膜炎およびLid.wiperepitheliopathy(LWE)に対するムコスタ点眼液の効果ムコスタ点眼液により人工涙液の頻回点眼では効果のなかった糸状角膜炎および下方のLWEは消失した.a,b:点眼前,c,d:点眼3カ月後,a,c:フルオレセイン染色(ブルーフリーフィルター下での観察),b,d:リサミングリーン染色.眼瞼の速度(v)涙液の厚み(t)涙液の粘度(h)眼瞼の速度(v)×涙液の粘度(h)涙液の厚み(t)S=図7涙液が介在する状況での眼瞼と眼球表面の間の摩擦力(S=剪断応力)の式瞬目時の摩擦(剪断応力)は,涙液の存在下においては,涙液の厚み,瞬目時の眼瞼の速度,涙液の粘度からなる式よって決まり,早い瞬目,涙液の粘度の上昇,涙液減少により,摩擦力は増強する.abcd図6糸状角膜炎およびLid.wiperepitheliopathy(LWE)に対するムコスタ点眼液の効果ムコスタ点眼液により人工涙液の頻回点眼では効果のなかった糸状角膜炎および下方のLWEは消失した.a,b:点眼前,c,d:点眼3カ月後,a,c:フルオレセイン染色(ブルーフリーフィルター下での観察),b,d:リサミングリーン染色. 眼瞼涙液角膜/球結膜高図8ストライベック曲線と瞬目時の摩擦相対運動する2面間の潤滑状態(摩擦)を説明するために1902年Stribeckによって提唱された関係図.上段には,眼瞼─涙液─角膜および球結膜の関係図を加えた.上段左図は,lid-wiperepitheliopathy(LWE)の状態が想定され,LWEが修復され,分泌型ムチンが涙液中に加わることで,潤滑状態は境界潤滑から混合潤滑にシフトし,大きな摩擦の軽減が得られることがわかかる.このグラフの横軸の速度は眼瞼の速度,潤滑油の粘度は涙液の粘度,荷重は眼瞼圧と言い変えられるため,涙液中のムチンの増加は,眼瞼と眼球表面の間に十分な涙液が存在する流体潤滑の状態では,摩擦が増強することに注意する.0荷重摩擦係数(μ)境界潤滑混合潤滑流体潤滑(速度)×(潤滑油の粘度)図9Sjogren症候群に伴う涙液減少眼の結膜上皮障害に対するムコスタ点眼液の効果人工涙液の頻回点眼(上段)やジクアホソルナトリウムの1年の点眼(中段)では,効果が得られなかったが,ムコスタ点眼液の1カ月点眼後(下段)には著明な改善がみられ,結膜上皮障害はほぼ消失した.(27)あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015949 950あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(28)進」のメカニズムの救世主となっているのであろうか.その答えはまだない.角膜が涙液層の安定性低下のメカニズムが大きく関与する組織であるのに対して,結膜は広い範囲で眼瞼に隠れ,LWで仕切られ,かつ,その中に粘液である涙液を満たしたコンパートメントを形成していることから,ムコスタが効果的な消化管粘膜と構造的に何らかの類似点があるのかも知れない.瞬目時の摩擦が閉瞼時に鼻下側方向へ作用し12),その方向に杯細胞が多いこと33)や,瞬目時の摩擦の鍵となる部位であるLWに,杯細胞がcryptを形成しながら密に分布していること11),加えて杯細胞をムコスタ点眼液が増やしうること16),ムチンが潤滑剤としての働きをもつことを考えると,ムコスタ点眼液による杯細胞の増加と瞬目時の摩擦の軽減との間には,何らかの関係があるように思える.しかし,瞬目時の摩擦力(剪断応力)は,涙液の存在下においては,涙液の厚み,瞬目時の眼瞼の速度,涙液の粘度からなる式よって決まり(図7),早い瞬目,涙液の粘度の上昇,涙液減少により摩擦力は増強する.したがって,ムチンの産生を促進し,涙液の粘度を増加しうるムコスタ点眼液の効果は,この摩擦の関係式では説明できない.しかし,ストライベック曲線(図8)に基づけば,LWと角膜は密に接しているため,両者の間には境界潤滑が関係しやすく,とくにLWEが生じているような状況では,粘膜表面の潤滑性や涙液の粘性の増加が,境界潤滑から混合潤滑へのシフトを生むことで,大きな摩擦の軽減を生む可能性が十分に考えられる.つまり,ムコスタ点眼液は,とくにLW部での粘膜障害改善作用20),杯細胞増加による分泌型ムチン増加作用16),および膜型ムチン増加作用13)により摩擦軽減を促しているのではないかと考えられる.おわりにムコスタ点眼液の登場で,瞬目時の摩擦亢進というドライアイの隠れたコア・メカニズムの重要性が明らかになってきたように思える.非臨床では,さまざまな薬理作用が報告されている本薬剤であるが,いざ臨床での効果となるとその顕著な効果をうまく説明するのがむずかしい例(図9)もあり,まだまだ興味の尽きない薬剤である.眼表面は胃粘膜に比べてアプローチのしやすい領域である.この深い謎の解答が眼表面から見出され,さらにこの点眼液の活用の道が大きく広がることを望む次第である.文献1)横井則彦:眼表面からみた眼瞼下垂手術の術前・術後対策.あたらしい眼科32:499-506,20152)横井則彦:ドライアイの治療方針:TFOT.あたらしい眼科32:9-16,20153)横井則彦:ドライアイ治療のフロンティアTFOT(TearFilmOrientedTherapy).MedicalScienceDigest40:112-115,20144)横井則彦:ドライアイの新しい治療戦略─眼表面の層別治療─.日本の眼科83:1318-1322,20125)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,20126)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKelat:Amulticenter,open-label,52-weekstudyof2%rebamipide(OPC-12759)ophthalmicsuspensioninpatientswithdryeye.AmJOphthalmol157:576-583,20147)YamaguchiM,NishijimaT,ShimazakiJetal:Clinicalusefulnessofdiquafosolforreal-worlddryeyepatients:aprospective,open-label,non-interventional,observationalstudy.AdvTher31:1169-1181,20148)KohS,InoueY,SugimotoTetal:Effectofrebamipideophthalmicsuspensiononopticalqualityintheshortbreak-uptimetypeofdryeye.Cornea32:1219-1223,20139)ArimotoA,KitagawaK,MitaNetal:Effectofrebamip-ideophthalmicsuspensiononsignsandsymptomsofkera-toconjunctivitissiccainSjogrensyndromepatientswithorwithoutpunctalocclusions.Cornea33:806-811,201410)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepithe-liopathyanddry-eyesymptomsincontactlenswearers.CLAOJ28:211-216,200211)KnopN,KorbDR,BlackieCAetal:Thelidwipercon-tainsgobletcellsandgobletcellcryptsforocularsurfacelubricationduringtheblink.Cornea31:668-679,201212)CherI:Blink-relatedmicrotrauma:whentheocularsur-faceharmsitself.ClinExpOphthalmol31:183-190,200313)ItohS,ItohK,ShinoharaH:Regulationofhumancornealepithelialmucinsbyrebamipide.CurrEyeRes39:144-141,201414)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:Rebamipideincreas-esbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepi-thelialcells.BrJOphthalmol97:912-916,201315)KimuraK,MoritaY,OritaTetal:ProtectionofhumancornealepithelialcellsfromTNF-a-induceddisruptionofbarrierfunctionbyrebamipide.InvestOphthalmolVisSci 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ムチンと水分を供給するジクアス点眼薬

2015年7月31日 金曜日

特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):935~942,2015特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):935~942,2015ムチンと水分を供給するジクアス点眼薬3%DiquafosolOphthalmicSolutionPromotesMucinandTearFluid山口昌彦*大橋裕一**はじめにわが国のドライアイ診断基準1)では,「ドライアイとは,さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されている.つまり,ドライアイは,乾燥感や異物感などの原因になるばかりでなく,かすむ,まぶしいなどの視機能異常を伴うことがあり,qualityoflife(QOL)を脅かしかねない疾患であるといえる.昨今,生活様式や社会構造の変化は著しく,パソコンやスマートフォンなどvisualdisplayterminal(VDT)にかかわる時間の増加,密閉した空間での空調設備による低湿度化,コンタクトレンズユーザーの増加,高齢化社会の到来など,ドライアイの発症に影響する環境因子は増加傾向にあり,実際,ドライアイの罹患率は上昇している2).このようにドライアイという疾患が非常に注目されるようになってきたなかで,2010年12月にジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,参天製薬,以下ジクアス点眼薬)が上市され,ドライアイ治療に大きな進歩をもたらしている.本稿では,ジクアスの薬理作用とその有効性,安全性について,これまでの報告をもとにレビューする.Iジクアス点眼薬の薬理作用(図1)ジクアホソルナトリウムはP2Y2受容体アゴニスト作用を有するジヌクレオチド誘導体で3),市販のジクアス点眼薬は,1ml中にジクアホソルナトリウムを30mg含有する無色澄明の水性点眼液である.剤型は5mlボトルで,pHは7.2~7.8,浸透圧比は1.0~1.1,有効点眼回数は1日6回である(図2).1.分泌型ムチン分泌促進作用P2Y2受容体アゴニストであるアデノシン三リン酸(adenosinetriphosphate:ATP)やウリジン三リン酸(uridinetriphosphate:UTP)は,ヒト結膜組織からのムチン分泌を促進することが知られており4),UTPと同程度のP2Y受容体アゴニストであるジクアホソルナトリウムも正常ウサギ5)や正常ラット6)の結膜組織から糖蛋白の分泌を促進することが報告されている.眼表面に分泌されているムチンの大部分は結膜杯細胞から分泌されるMUC5ACであり,豊富なシステイン残基をもつ4つのドメインと大量の糖鎖と結合するtandemrepeatからなる糖蛋白である.糖鎖はコア蛋白に結合してブラシ状の構造を形成し,その一つひとつがジスルフィド結合で重合しているため,MUC5ACの粘性は非常に高く,眼表面の涙液保持に重要な役割を担っていると考えられている7).実際,ドライアイを有するSjogren症候群では結膜上皮でのMUC5ACの発現が低下して涙液安定性の低下を招く可能性が指摘され8),眼表面におけるMUC5ACの維持がドライアイの治療には重要であると考えられる.ジクアホソルナトリウムは,ウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌を濃度依存的に促進し9),その分泌は結*MasahikoYamaguchi:愛媛県立中央病院眼科**YuichiOhashi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野〔別刷請求先〕山口昌彦:〒790-0024愛媛県松山市春日町83愛媛県立中央病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(13)935 結膜上皮細胞H2OH2OCl-Ca2+Ca2+Ca2+ClチャネルジクアホソルナトリウムP2Y2lP3PLCGlP3小胞体小胞体ジクアホソルナトリウムP2Y2lP3PLCGCa2+lP3胚細胞ムチンマイボーム腺脂質分泌促進結膜上皮細胞からの水分分泌促進結膜杯細胞からのムチン分泌促進膜結合型ムチンの発現促進油層水層分泌型ムチン膜結合型ムチン上皮細胞結膜上皮細胞H2OH2OCl-Ca2+Ca2+Ca2+ClチャネルジクアホソルナトリウムP2Y2lP3PLCGlP3小胞体小胞体ジクアホソルナトリウムP2Y2lP3PLCGCa2+lP3胚細胞ムチンマイボーム腺脂質分泌促進結膜上皮細胞からの水分分泌促進結膜杯細胞からのムチン分泌促進膜結合型ムチンの発現促進油層水層分泌型ムチン膜結合型ムチン上皮細胞図1ジクアス点眼薬の薬理作用ジクアス点眼薬(アデノシン三リン酸,ATP)が結膜上皮細胞あるいは結膜杯細胞表面のP2Y2受容体を刺激すると,G蛋白(G)を介してホスホリパーゼC(PLC)によるイノシトール三リン酸(IP3)産生が刺激され,それが細胞内小胞体からのカルシウムイオン(Ca2+)放出を誘導して細胞内Ca2+濃度が上昇する.結膜上皮細胞では,細胞内Ca2+の上昇がカルシウム依存型クロライドチャネル(Clチャネル)を開口させ,Cl.が涙液側へ移動した結果生じる浸透圧差によって細胞内の水(H2O)が涙液側へ移動し,水分分泌が促進される.杯細胞においても同様の機序によって細胞内Ca2+の上昇が起こり,ムチンの分泌が亢進すると考えられている.(参天製薬株式会社製品情報概要から引用改変)膜細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇とともに起こMUC1612),MUC2013)の存在が知られており,親水性り10),正常ヒトにおいてもジクアホソルナトリウム点眼の糖鎖による保水作用12),非接着分子機能による閉瞼時後に涙液中のムチン様物質濃度が上昇することが報告さの眼瞼結膜上皮と角膜上皮の癒着防止作用12),さらにれている11).実際には,ドライアイ罹患眼にジクアス点galectin3とともに糖衣(glycocalax)を形成して眼表面眼薬を投与した場合,どの程度のムチン分泌能が存在すバリア形成14)などが知られている.るのかは,今後の研究に委ねなければならないが,実験SV40不死化ヒト角膜上皮細胞に100μMジクアホソ的,臨床的にジクアス点眼薬に分泌型ムチンの分泌促進ルナトリウムで処理を行い,膜結合型ムチン遺伝子作用があるのは明らかである.(MUC1,4,16)の発現をRT-PCR法により検討した結果15)では,いずれの遺伝子発現量も,添加3時間後に2.膜結合型ムチン発現促進作用一過性に上昇し,その後定常レベルまで減少した.この眼表面の膜結合型ムチンとしては,MUC1,MUC4,上昇は無処置群よりも有意であり,さらに濃度依存的で936あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(14) あったことから,ジクアホソルナトリウムは,角膜上皮細胞において膜型ムチンの遺伝子発現を促進されることが明らかになった.なお,このinvitroの実験で用いられたジクアホソルナトリウムの濃度(100μM)は,invivoでは0.88~8.8%に相当する.3.水分分泌促進作用ジクアホソルナトリウムを正常ウサギに点眼すると,Schirmer試験Ⅰ法値が有意に上昇することから,ジクアホソル点眼には涙液分泌促進作用があることが報告されている16).また,正常ウサギにおいて,ジクアホソル点眼15分後に涙液分泌が最大となり,その作用は用量依存的であることがわかった17).また,ジクアホソル点眼液が結膜上皮細胞のP2Y2受容体に作用し,細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を介してクロライド(Cl)チャネルを開くことによって,結膜上皮細胞から眼表面への水移動を促進することが示された.また,この涙液の分泌は涙腺に依存していない可能性も示唆された17).臨床的には,ヒト正常者の涙液貯留量について涙液メニスコメトリー法を用いた涙液メニスカス曲率半径測定により比較した報告がある18).ジクアホソル点眼群は人工涙液点眼群よりも点眼後30分まで有意に涙液メニスカス曲率半径を増加させることが示され,ジクアス点眼右眼ジクアス切替前ジクアス切替3週間後薬の涙液分泌促進作用が確認されている.ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%)構造ジヌクレオチド誘導体・P2Y2受容体アゴニストおもな薬理作用◎分泌型ムチン分泌促進(結膜杯細胞)◎水分分泌促進(結膜上皮細胞)○膜結合型ムチン発現亢進△マイボーム腺機能改善(エビデンスの高い順に◎,○,△)剤型,特性5mlボトル無色透明水性点眼液pH:7.2~7.8浸透圧比:1.0~1.11日4~6回点眼おもな副作用眼刺激感,粘液眼脂図2ジクアス点眼薬左眼図3涙液減少型ドライアイに対するジクアス点眼薬の効果70歳,女性.Sjogren症候群.人工涙液点眼薬および0.1%ヒアルロン酸点眼薬をそれぞれ両眼に6回/日点眼していたが,乾燥感スコア4(いつもある)であった.平均BUTは左右とも1秒,角結膜上皮障害スコア(9点満点)は右眼6点,左眼5点であった.ジクアス点眼薬を両眼6回/日に切り替えて3週間後,平均BUTは左右とも1秒と変化なかったが,角結膜上皮障害スコアは右眼3点,左眼3点に減少し,乾燥感スコア2(ときどきある)まで軽快した.(15)あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015937 938あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(16)涙液メニスカス高)が6カ月間に渡り有意に改善し,Schirmer試験Ⅰ法値は有意ではないものの改善傾向がみられた26).b.BUT短縮型(図4)BUTは極端に短縮しているが,角結膜上皮障害は軽微で強いドライアイ症状を訴えるタイプのドライアイが臨床上問題になっている27,28).0.1%ヒアルロン酸点眼薬(防腐剤無添加)で改善しなかったBUT短縮型ドライアイ30例にジクアス点眼薬を1日6回点眼で3カ月間継続投与したところ,BUTおよびVASで測定した自覚症状の有意な改善を認めた29).また,ほぼ同じクライテリアのBUT短縮型ドライアイに対してジクアス点眼薬を1日6回点眼で継続したところ,BUTの有意な改善とともに実用視力および眼球高次収差30),角膜後方散乱31)が有意に改善するとし,ジクアス点眼薬の涙液安定性低下に伴う視機能異常への改善効果が示唆されている.c.LASIK後LASIK術後の角膜知覚低下が原因となり,一過性のドライアイが発症することが知られている.LASIK術後1週間および1カ月後の時点で,ジクアス点眼薬と0.3%ヒアルロン酸点眼を併用した群が0.3%ヒアルロン酸点眼またはジクアス点眼薬単独群よりも,遠見,近見ともに裸眼視力および1カ月後の遠見実用視力が有意に改善し,自覚症状は1週間後で併用群において有意な改善が認められた32).また,人工涙液点眼やヒアルロン酸点眼が投与されているものの,遷延(12カ月以上)しているLASIK術後ドライアイに対して,12週間ジクアス点眼薬を投与したところ,矯正視力および涙液分泌能には変化がなかったが,BUT,角結膜上皮障害および自覚症状(眼疲労感,乾燥感,異物感,眼不快感,読書困難,乾燥空間での不快感)が有意に改善した33).d.コンタクトレンズ関連近年,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)ユーザーの増加に伴い,SCL装用者のドライアイ患者が急増している.ドライアイ症状を訴えるSCL常用者に対して,0.3%ヒアルロン酸点眼を3カ月以上投与したが症状が改善せず,ジクアス点眼薬を追加して4週間観察したところ,BUT,角膜上皮障害,自覚症状4.マイボーム腺機能への作用P2Y2受容体はサル19)やラット20)のマイボーム腺組織にも存在することが確認されている.臨床的には,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfanction:MGD)に対するジクアス点眼薬の有効性が報告されてはいる21).ジクアホソルがマイボーム腺脂質の分泌機構にどのように関与しているか,今後の研究が待たれる.IIジクアス点眼薬の有効性1.治験の結果第II相試験におけるプラセボ点眼との比較では,1%および3%ジクアホソル点眼,1日6回,4週間投与において,角膜上皮障害(フルオレセイン染色),角結膜上皮障害(ローズベンガル染色),自覚症状が有意に改善した22).第III相試験における0.1%ヒアルロン酸点眼との比較では,3%ジクアホソル点眼,1日6回,4週間投与において,角膜上皮障害(フルオレセイン染色),角結膜上皮障害(ローズベンガル染色),自覚症状が有意に改善した23).また,同試験において,角膜中央の上皮障害の改善率を比較した場合,3%ジクアホソル点眼は0.1%ヒアルロン酸点眼よりも有意に改善を認めた.角膜中央の上皮障害は,視機能に影響を及ぼすことが報告24)されており,ドライアイによる視機能異常をジクアス点眼薬が改善する効果が期待されている.実際,角膜中央に点状表層角膜症を有する涙液減少型ドライアイに対してジクアス点眼薬を4週間投与したところ,波面センサーにより測定される眼球高次収差が有意に改善することも報告されている25).2.各種ドライアイにおける有効性a.涙液減少型(図2)涙液液層(水分+分泌型ムチン)の減少が本態である涙液減少型ドライアイ(Sjogren症候群を含む)においては,水分分泌および分泌型ムチン分泌促進作用を有するジクアス点眼薬が理論的に有効である可能性が高い.涙液減少型ドライアイ15例(Sjogren症候群13例を含む)にジクアス点眼液を1日6回点眼で6カ月間継続投与したところ,自覚症状(乾燥感,異物感および合計スコア)および他覚所見(BUT,角結膜上皮障害スコア, 右眼左眼ジクアス切替前ジクアス切替6カ月後図4BUT短縮型ドライアイに対するジクアス点眼薬の効果49歳,女性.主訴は異物感(DEQSサマリースコア:51.7点),平均BUTは左右とも0秒でスポットブレークを示し,角結膜上皮障害は認められなかった.両眼に人工涙液点眼薬を5~10回/日,0.1%ヒアルロン酸点眼薬を4~6回/日を行っていたが改善しないため,ジクアス点眼薬両眼6回/日に切り替えて経過をみたところ,切り替え1カ月目から自覚的に改善しはじめ,その後も点眼コンプライアンスは良好のまま,切り替え6カ月目において,平均BUTは右眼2.0秒,左眼3.3秒に延長し,DEQSサマリースコア:35.0点に改善した.※DEQS:DryEye-RelatedQuality-of-LifeScorequestionnaire.ドライアイ症状を目の症状6項目と日常生活に関する9項目について,それぞれの症状の頻度と程度を0~4点でスコア化し,サマリースコア(0:もっともよい~100:もっとも悪い)として算出することができる.(SakaneY,etal:JAMAOphthalmol131:1331-1338,2013) 右眼左眼ジクアス投与前ジクアスムコスタ併用6カ月後図5上輪部角結膜炎(SLK)に対するジクアス点眼薬の効果31歳,女性.主訴は異物感,ムコスタ点眼液と0.1%ベタメタゾン点眼薬を投与されていたが,SLKのgrade(1~3)は右眼3,左眼2,平均BUTは両眼とも1.0秒であった.ムコスタ点眼液を中止してジクアス点眼薬に切り替えたところ,切り替え後2カ月目までは改善していたが,3カ月目から再び悪化してきたため,ムコスタ点眼液を併用したところ,SLKは改善し始め,併用6カ月後の時点では,平均BUTは両眼とも5秒以上に延長し,SLKは消失した. あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015941(19)感,まぶたが重い,眼痛,かすみ,眼疲労感,眼不快感および合計スコア)が全経過中を通して有意に改善する一方,眼脂と流涙には有意な改善はなかった36).実臨床における多数例での検討では,ドライアイ患者3,196例に対して,ジクアス点眼薬を1日4~6回で2カ月間投与した場合,BUT,角結膜上皮障害,自覚症状(合計スコア)が投与1~2カ月後で有意に改善し,治療パターン(ジクアス点眼薬単独,ヒアルロン酸点眼薬にジクアス点眼薬を追加,ヒアルロン酸点眼薬からジクアス点眼薬への切替など)にかかわらず有効であり,ジクアス点眼薬を使用した76%の症例において自覚的な改善が得られた37).IIIジクアス点眼薬の安全性これまでの報告をまとめて安全性について検討したところ,655例中155例(23.7%)において何らかの副作用が認められた38).おもなものは,眼刺激感(6.7%),眼脂(4.7%),充血(3.7%),眼痛(2.7%),眼.痒感(2.4%),異物感(2.1%),眼不快感(1.1%)であった.重篤な副作用はなく,点眼の継続は可能であり,点眼継続中あるいは研究期間中または終了後に消失した.とくに眼刺激感と眼痛については,52%で点眼初日または翌日に発現するが,点眼を継続した状態でも47%は7日以内,79%は28日以内に消失した.また,最近公表(2015年6月)された使用成績調査(期間:2011年1月~2013年6月)によると,解析対象症例3,810例(観察期間:2カ月間)中202例(6.32%)に副作用が認められ,おもなものは,眼脂(0.94%),眼刺激感(0.94%),眼痛(0.69%),流涙増加(0.63%),眼瞼炎(0.59%),眼.痒感(0.44%),異物感(0.38%)であり,副作用出現までの日数(中央値)は,眼脂:30.5日,眼刺激感・眼痛:8.5日,流涙増加:22.0日であった.実臨床における副作用出現頻度は,前述の研究ベースの出現頻度よりも下回った結果となっているが,この理由としては,実臨床での点眼回数のばらつき,種々の併用薬使用などさまざまな要因が考えられる.おわりにジクアス点眼薬の薬理作用,有効性,安全性について述べた.P2Y2受容体アゴニストである本剤は,基礎研究では,水分分泌作用,分泌型ムチン分泌作用,膜結合型ムチン発現作用に対するエビデンスがあり,また,臨床研究では,基礎研究でのエビデンスをもとに,さまざまなタイプのドライアイへの有効性,安全性が明らかにされつつある.欧米では,ドライアイのコアメカニズムに炎症が関与しているとの説が有力であるが,わが国では,ドライアイに対する数々の臨床知見から,涙液層安定性の低下こそがドライアイのコアメカニズムである,との考え方が確立されつつある39).最近では,このコアメカニズムである涙液層の安定性を改善させる治療概念TFOT(TearFilmOrientedTherapy),いわゆる涙液層別治療が提唱され40),ジクアス点眼薬もTFOTにおける重要な構成要員となっている.ドライアイの病態に則した薬理作用をもつジクアス点眼薬はドライアイ治療に大きな進歩をもたらせた.そして,今後未知なる薬理作用が解明されることによって,新たな治療応用の可能性がさらに期待できる点眼薬であると考えられる.文献1)島崎潤ほか(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)UchinoMetal:PrevalenceofdryeyediseaseamongJapanesevisualdisplayterminalusers.Ophthalmology115:1982-1988,20083)PendergastW,YerxaBR,DouglassJG3rdetal:SynthesisandP2Yreceptoractivityofaseriesofuridinedinucleo-side5’-polyphosphates.BioorgMedChemLett11:157-160,20014)JumblattJE,JumblattMM:RegulationofocularmucinsecretionbyP2Y2nucleotidereceptorsinrabbitandhumanconjunctiva.ExpEyeRes67:341-346,19985)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365sup-presseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20026)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y2agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,20017)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1647-1633,19978)ArguesoP,BalaramM,Spurr-MichaudSetal:DecreasedlevelsofthegobletcellmucinMUC5ACintearsofpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthal-molVisSci43:1004-1011,2002 942あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(20)9)七條優子,阪元明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,201110)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,201111)ShigeyasuC1,HiranoS,AkuneYetal:Diquafosoltetra-sodiumincreasestheconcentrationofmucin-likesub-stancesintearsofhealthyhumansubjects.CurrEyeRes13:1-6,201412)GovindarajanB,GipsonIK:Membrane-tetheredmucinshavemultiplefunctionsontheocularsurface.ExpEyeRes90:655-663,201013)WoodwardAM,ArguesoP:ExpressionanalysisofthetransmembranemucinMUC20inhumancornealandcon-junctivalepithelia.InvestOphthalmolVisSci55:6132-6138,201414)ArguesoP,Guzman-AranguezAna,MantelliFetal:Associationofcellsurfacemucinswithgalectin-3contrib-utestotheocularsurfaceepithelialbarrier.JBiolChem284:23037-23045,200915)七條優子:培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429;201116)YerxaBR,DouglassJG,ElenaPPetal:PotencyanddurationofactionofsyntheticP2Y2receptoragonistsonSchirmerscoresinrabbits.AdvExpMedBiol506:261-265,200217)七條優子:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,201118)YokoiN,KatoH,KinoshitaS:Facilitationoftearfluidsecretionby3%diquafosolophthalmicsolutioninnormalhumaneyes.AmJOphthalmol157:85-92,201419)CowlenMS,ZhangVZ,WarnockLetal:LocalizationofocularP2Y2receptorgeneexpressionbyinsituhybrid-ization.ExpEyeRes77:77-84,200320)TaniokaH,KurikiY,SakamotoAetal:ExpressionoftheP2Y.receptorontheratocularsurfaceduringa1-yearrearingperiod.JpnJOphthalmol58:515-521,201421)AritaRetal:Topicaldiquafosolforpatientswithobstructivemeibomianglanddysfunction.BrJOphthal-mol97:725-729,201322)MatsumotoY,OhashiY,WatanabeHetal:Efficacyandsafetyofdiquafosolophthalmicsolutioninpatientswithdryeyesyndrome:aJapanesephase2clinicaltrial.Oph-thalmology119:1954-1960,201223)TakamuraE,TsubotaK,WatanabeHetal:Aran-domised,double-maskedcomparisonstudyofdiquafosolversussodiumhyaluronateophthalmicsolutionsindryeyepatients.BrJOphthalmol96:1310-1315,201224)KohS,MaedaN,HiroharaYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginpatientswithdryeye.InvestOphthalmolVisSci49:133-138,200825)KohS,MaedaN,IkedaCetal:Effectofdiquafosoloph-thalmicsolutionontheopticalqualityoftheeyesinpatientswithaqueous-deficientdryeye.ActaOphthalmol92:e671-e675,201426)KohS,IkedaC,TakaiYetal:Long-termresultsoftreatmentwithdiquafosolophthalmicsolutionforaqueous-deficientdryeye.JpnJOphthalmol57:440-446,201327)TodaI,FujishimaH,TsubotaK:Ocularfatigueisthemajorsymptomofdryeye.ActaOphthalmol(Copenh)71:347-352,199328)山本雄士,横井則彦,東原尚代ほか:Tearfilmbreakuptime(BUT)短縮型ドライアイの臨床的特徴.日眼会誌116:1137-1143,201229)Shimazaki-DenS,IsedaH,DogruMetal:EffectsofdiquafosolsodiumeyedropsontearfilmstabilityinshortBUTtypeofdryeye.Cornea32:1120-1125,201330)KaidoM,UchinoM,KojimaTetal:Effectsofdiquafosoltetrasodiumadministrationonvisualfunctioninshortbreak-uptimedryeye.JOculPharmacolTher29:595-603,201331)KobashiH,KamiyaK,IgarashiAetal:IntraocularScat-teringafterInstillationofDiquafosolOphthalmicSolution.OptomVisSci[Epubaheadofprint,201432)TodaI,IdeT,FukumotoTetal:Combinationtherapywithdiquafosoltetrasodiumandsodiumhyaluronateinpatientswithdryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol157:616-622,201433)MoriY,NejimaR,MasudaAetal:Effectofdiquafosoltetrasodiumeyedropforpersistentdryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.Cornea33:659-662,201434)渡邊潔:頻回交換または使い捨てソフトコンタクトレンズ装用者にみられるドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.3%精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果と安全性の検討.日コレ会誌56:121-125,201435)MiyakeG,OtaI,MiyakeKetal:Effectsoftopicaldiqua-fosolpretreatmentonintraoperativecornealwetting.JCataractRefractSurg40:1682-1688,201436)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,201237)YamaguchiM,NishijimaT,ShimazakiJetal:Clinicalusefulnessofdiquafosolforreal-worlddryeyepatients:aprospective,open-label,non-interventional,observationalstudy.AdvTher3:1169-1181,201438)NakamuraM,ImanakaT,SakamotoA:Diquafosoloph-thalmicsolutionfordryeyetreatment.AdvTher29:579-589,201239)横井則彦,坪田一男:ドライアイの本質に迫る─炎症仮説から涙液安定性仮説へドライアイのコアメカニズム涙液安定性仮説の考え方.あたらしい眼科29:291-297,201240)横井則彦:ドライアイの新しい治療戦略眼表面の層別治療.日本の眼科83:1318-1322,2012

水分を補給する人工涙液,ヒアルロン酸点眼

2015年7月31日 金曜日

特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):931.934,2015特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):931.934,2015水分を補給する人工涙液,ヒアルロン酸点眼TearSupplementation:ArtificialTearsandHyaluronateEyeDrops堀裕一*村松理奈**はじめに近年,ドライアイの治療薬の選択肢が増えて,それまで,人工涙液やヒアルロン酸点眼のみでは不十分であった患者に対して治癒またはその症状を上手にコントロールすることが可能となった.また,それによって涙点プラグ挿入を必要とする患者も明らかに減少している.その理由としては,近年,わが国発であり,その作用に特徴のあるドライアイ点眼薬,ジクアホソルナトリウム点眼やレバミピド点眼液が上市されたことにより,ドライアイに対して,「眼表面の層別治療」(tearfilmorientedtherapy:TFOT)が可能になったことがあげられる.これら新しい点眼液はムチン発現増加作用や水分分泌増加作用,抗炎症作用といったこれまでにはない薬理作用をもっており,従来の治療(水分の補給)以外の面でドライアイの治療を担っている.しかしながら,眼表面に涙液量が少ないと,いくらムチン増加や抗炎症を図っても有効な効果が期待できない.また,ジクアホソルナトリウム点眼やレバミピド点眼などの新しいドライアイ点眼は,差し心地(刺激感)や剤型面などの点からもまだ完全な治療薬とはいえず,依然として人工涙液やヒアルロン酸点眼の需要は十分に存在する.Iドライアイのコア・メカニズムと治療ドライアイはさまざまな原因で,涙液と角結膜上皮が障害され,悪循環をきたすことで,その症状を悪化させていくが,最近,ドライアイのコア・メカニズムが少しずつ明らかになっている.ドライアイは「涙液層の安定性の低下」と「瞬目時の摩擦亢進」の2つのコア・メカニズムがあり,それぞれ自覚症状と対応している1).たとえばドライアイ症状のなかで,眼の乾き(乾燥感)や眼の疲れ(視機能異常)といった自覚症状は「涙液層の安定性の低下」に関連し,異物感や眼痛といった自覚症状は「瞬目時の摩擦亢進」と関連すると考えられている(図1).つまり,日常臨床においてドライアイ患者を前にしたときに,患者の「一番困っている症状」を聞き出して,それが乾燥感や視機能異常と関連する症状(目が乾く,目が疲れる)ならば,「涙液層の安定性」を上げる治療がよく,異物感や眼痛(目がごろごろする,痛い)ならば「瞬目時の摩擦」を下げる治療を行うのがよいとされている.この項で取り上げる人工涙液やヒアルロン酸点眼は,どちらかといえば「涙液層の安定性」を改善させる治療であると考える.II眼表面の層別治療(TFOT)での人工涙液,ヒアルロン酸点眼の位置づけ眼表面の層別治療(TFOT,図2)の考えは,ジクアホソルナトリウム点眼やレバミピド点眼といった水分補充以外の点眼薬が,わが国において上市されたために生まれた治療概念である.その点でいうと,人工涙液やヒアルロン酸点眼は「古い治療」とも考えられるが,現在でもわが国のドライアイ治療薬のなかでは,ヒアルロン*YuichiHori:東邦大学医療センター大森病院眼科**RinaMuramatsu:東邦大学医療センター佐倉病院眼科〔別刷請求先〕堀裕一:〒143-8541東京都大田区大森西6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(9)931 ドライアイ症状の主原因異物感瞬目摩擦の亢進涙液層の不安定化乾燥感目の疲れ図1ドライアイのコア・メカニズムと自覚症状患者の「一番困っている症状」が乾燥感や視機能異常と関連する症状ならば「涙液層の安定性」を上げる治療がよく,異物感や眼痛ならば「瞬目時の摩擦」を下げる治療を行う.表1人工涙液の役割○液層における水分の補充○眼表面の炎症性物質の希釈,洗浄○上皮やデブリスといった残渣の洗浄→「涙液層の安定性」を向上させる酸点眼が多数を占めており,その使いやすさや長年使用している安心感といった観点から広く用いられている.1.人工涙液人工涙液には,塩化ナトリウムや塩化カリウムといった成分が含まれており,涙液と同程度のpH(6.8)や浸透圧(約300mOsm)に調整されている.液層の水分の補充としての役割のほかに,ドライアイによって生じた眼表面の炎症性物質の希釈,デブリスなどの洗浄の役割がある(表1).わが国で使用される代表的な人工涙液として,ソフトサンティアRと人工涙液マイティアR点眼液がある(表2).処方回数であるが,人工涙液が点眼後十分に眼表面の涙液量を増加させるのは数分程度であり,5分すると元に戻ってしまう.自験例であるが,正常者における点眼前後の涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:932あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015治療対象眼局所治療油層液層水分分泌型ムチン膜型ムチン上皮細胞(杯細胞)自己血清(レパミピド)ステロイドレパミピド**人口涙液,涙点プラグヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウム温罨法,眼瞼清拭少量眼軟膏,ある種のOTCジクアホソルナトリウム*ジクアホソルナトリウムレパミピドジクアホソルナトリウムレパミピド上皮眼表面炎症*ジクアホソルナトリウムは,脂質分泌や水分分泌を介した油層伸展促進により涙液油層機能を高める可能性がある**レパミピドは抗炎症作用によりドライアイの眼表面炎症を抑える可能性がある図2眼表面の層別治療(TFOT)(ドライアイ研究会ホームページより)表2代表的な人工涙液ソフトサンティアR人工涙液マイティアR点眼液メーカー参天製薬千寿製薬成分塩化ナトリウム塩化カリウム塩化ナトリウム塩化カリウム炭酸ナトリウムなど防腐剤なし塩化ベンザルコニウム販売OTC医薬品医療用医薬品容量5ml5mlTMH)をソフトサンティアR,ジクアホソルナトリウム点眼,レバミピド点眼で比較したところ,点眼前と比べて,ジクアホソルナトリウム点眼が点眼後30分まで,レバミピド点眼が点眼後5分まで有意にTMHが上昇したのに対し,ソフトサンティアRは,点眼後1分だけにTMHの増加がみられたのみで,あとはベースラインに戻っていた(図3).つまり,人工涙液は回数が少ないと水分補充効果は不十分といえる.しかしながら,点眼回数が多すぎると涙液層を洗い流すことでむしろ涙液層を不安定化させてしまうこととなりドライアイを悪化させる要因ともなるため,点眼回数は多くても10回までがよいと考える.2.ヒアルロン酸点眼(精製ヒアルロン酸ナトリウム)ヒアルロン酸は,グリコサミノグリカンの一種であり,N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の2種類(10) あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015933(11)国においてドライアイ治療薬の第一選択薬として長年確固たる地位を築いてきた.ヒアルロン酸点眼には,0.1%と0.3%の2種類があり,それぞれ防腐剤を含む5mlの点眼瓶のものと,0.4mlのシングルユースの使い捨てタイプ(ヒアレインミニR0.1,0.3)のものがある.シングルユースタイプは,Sjogren症候群または皮膚粘膜眼症候群(Stevens-John-son症候群)に伴う角結膜上皮障害に対して保険適用との糖が交互に連結した構造をとっている.きわめて高分子(分子量100万以上)であり,保水性をもつ.このため,眼表面の水分を保持してその滞留性を高める効果がある.さらにヒアルロン酸は,角膜上皮細胞の進展を促進する作用を有し,創傷治癒促進にも有効である.ヒアルロン酸点眼は1日6回投与とされており,プラセボに対してドライアイの角膜上皮障害を有意に改善させると報告されている2).このため,ヒアルロン酸点眼はわが表3代表的なヒアルロン酸点眼商品名メーカー規格・容量ヒアレインヒアレインミニ参天製薬0.1%,0.3%(5ml)0.1%,0.3%(0.4ml)ティアバランスティアバランスミニムス千寿製薬0.1%,0.3%(5ml)0.3%(0.4ml)ヒアールヒアールミニキョーリンメディオ0.1%(5ml)0.3%(0.4ml)ヒアロンサンヒアロンサンミニ東亜薬品0.1%,0.3%(5ml)0.3%(0.4ml)アイケアアイケアミニテイカ製薬0.1%,0.3%(5ml)0.3%(0.4ml)ヒアルロン酸ナトリウムPFヒアルロン酸ナトリウムミニ日本点眼薬研究所0.1%,(5ml)0.3%(0.4ml)点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後点眼15分後点眼30分後点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後点眼15分後点眼30分後00.050.10.150.20.250.30.35ジクアスソフトサンティア00.050.10.150.20.250.3ムコスタソフトサンティア*********######*p<0.05点眼前と比較##p<0.05点眼間で比較涙液メニスカス高(TMH)涙液メニスカス高(TMH)点眼後の涙液量(正常者)図3各種ドライアイ点眼前後での涙液メニスカス高(TMH)の比較正常者に各種ドライアイ点眼液(ジクアホソルナトリウム点眼(ジクアス)vsソフトサンティアR,レバミピド点眼(ムコスタ)vsソフトサンティアR)を点眼し,点眼後30分までのTMHを点眼前および各点眼間で比較した(n=10).ジクアスは点眼後30分までTMHの上昇がみられたが,ムコスタは点眼後5分まで,ソフトサンティアRは点眼後1分しか有意なTMHの上昇はみられなかった(p<0.05,Tukey’stest).表3代表的なヒアルロン酸点眼商品名メーカー規格・容量ヒアレインヒアレインミニ参天製薬0.1%,0.3%(5ml)0.1%,0.3%(0.4ml)ティアバランスティアバランスミニムス千寿製薬0.1%,0.3%(5ml)0.3%(0.4ml)ヒアールヒアールミニキョーリンメディオ0.1%(5ml)0.3%(0.4ml)ヒアロンサンヒアロンサンミニ東亜薬品0.1%,0.3%(5ml)0.3%(0.4ml)アイケアアイケアミニテイカ製薬0.1%,0.3%(5ml)0.3%(0.4ml)ヒアルロン酸ナトリウムPFヒアルロン酸ナトリウムミニ日本点眼薬研究所0.1%,(5ml)0.3%(0.4ml)点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後点眼15分後点眼30分後点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後点眼15分後点眼30分後00.050.10.150.20.250.30.35ジクアスソフトサンティア00.050.10.150.20.250.3ムコスタソフトサンティア*********######*p<0.05点眼前と比較##p<0.05点眼間で比較涙液メニスカス高(TMH)涙液メニスカス高(TMH)点眼後の涙液量(正常者)図3各種ドライアイ点眼前後での涙液メニスカス高(TMH)の比較正常者に各種ドライアイ点眼液(ジクアホソルナトリウム点眼(ジクアス)vsソフトサンティアR,レバミピド点眼(ムコスタ)vsソフトサンティアR)を点眼し,点眼後30分までのTMHを点眼前および各点眼間で比較した(n=10).ジクアスは点眼後30分までTMHの上昇がみられたが,ムコスタは点眼後5分まで,ソフトサンティアRは点眼後1分しか有意なTMHの上昇はみられなかった(p<0.05,Tukey’stest). 図4Linebreak角膜下方に縦線状に涙液層の破壊がみられる.軽度.中等度の涙液減少のサインである.

涙液全体を保持する涙点プラグ,コラーゲンプラグ

2015年7月31日 金曜日

特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):925.929,2015特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):925.929,2015涙液全体を保持する涙点プラグ,コラーゲンプラグCollagenPunctalPlugs:PunctalPlugsthatRetaintheWholeTear-FluidLayer小島隆司*はじめに涙点プラグはドライアイ治療のなかで重要な位置を占め,歴史も古く適切に使えば非常に有効な治療法である.とくに重症なドライアイにおいてはなくてはならない治療法である.本稿では従来型の涙点プラグおよび液状コラーゲンプラグ治療を,最近の新しいドライアイの治療概念に当てはめて解説し,明日からのドライアイ診療に役立つように実践的な情報を盛り込んだ.I涙点プラグのTFOTにおける位置づけドライアイの診断については,涙液層のどこに異常があるかを評価するtearfilmorienteddiagnosis(TFOD)という考え方がドライアイ研究会によって提唱され,それに基づいた涙液の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)が推奨されている.涙点プラグは涙点を閉鎖することによって,涙液の鼻腔への排出を抑制し涙液を眼表面に保持する.TFODの観点から考えると,涙点プラグ治療は,水層の不足,すなわち涙液分泌減少型がターゲットとなる治療方法である.涙液油層は水層をキャリアとしているため,水層が増すことによって油層が進展しやすくなる.また,水層が増すことによって,眼表面と眼瞼の摩擦が減少し,角結膜上皮が健常化し,膜型ムチン発現の上昇,杯細胞の増加,分泌型ムチンの増加が起こると思われる.涙点プラグは,このように二次的に,ムチン,油層,上皮層などさまざまな涙液層を改善する(図1).II涙点プラグ治療を行う前に必要な検査眼表面にフルオレセイン染色などで傷があり,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)が短縮していて,ドライアイ症状もある,これだけの所見で涙点プラグを挿入すると,患者の満足度が上がらないばかりか,場合によっては不満を訴える患者もある.上述したように涙点プラグは一次的には水層の治療であるという点を念頭に置いて,プラグ治療を考える場合は必ずSchirmer試験I法を行うべきである.ときに点眼麻酔を併用する変法で行われているのをみかけるが,刺激性の涙液分泌を測定できるSchirmer試験I法が望ましい.このSchirmer試験I法で5mm以下であれば涙点プラグ治療の非常に良い適応と考えられる.III涙点プラグ治療を考えるタイミング現在,あたらしいドライアイ点眼薬の登場により,涙点プラグを入れなくても自覚症状が改善できる症例が多くなり,以前よりは挿入の割合は減っていると思われる.点眼薬を使用しても自覚症状,眼表面障害,涙液安定性が改善されず,Schirmer試験I法が5mm以下であれば,治療の適応と思われる.Schirmer試験Ⅰ法が5.10mmも適応と思われるが,場合によっては流涙が起こることをしっかり説明する必要がある.Schirmer試験I法で10mm以上あるときに上下涙点プラグ治療をした場合は,流涙はほぼ必発であることを念頭に置い*TakashiKojima:岐阜赤十字病院眼科〔別刷請求先〕小島隆司:〒502-8511岐阜県岐阜市岩倉町3丁目36番地岐阜赤十字病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(3)925 眼瞼油層水層上皮層角結膜上皮障害の改善涙液の蒸発抑制涙液油層の伸展改善涙液水層の容量↑眼表面と眼瞼の摩擦↓膜型ムチン発現↑分泌型ムチン発現↑涙点プラグ挿入眼瞼油層水層上皮層角結膜上皮障害の改善涙液の蒸発抑制涙液油層の伸展改善涙液水層の容量↑眼表面と眼瞼の摩擦↓膜型ムチン発現↑分泌型ムチン発現↑涙点プラグ挿入図1涙点プラグが各涙液層へ与える影響ab図2代表的な涙点プラグの形状a:パンクタルプラグ(FCI社).b:スーパーイーグルプラグ(EagleVision社) あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015927(5)VI最近登場したマルチサイズ対応の涙点プラグ最近,わが国でもマルチサイズ対応の涙点プラグが2種類使用可能になっている.パンクタルプラグF(FCI社,フランス)とイーグルプラグOne(EagleVision社,米国)である(図4).筆者の角膜・ドライアイ外来でこれらのプラグを使用する割合は少ないが,プラグをそれほど高頻度に入れない施設で,いろいろなサイズの在庫を置きたくないような場合には重宝するものと考える.マルチサイズ対応といっても,どちらのプラグも0.8mm以上の涙点サイズでは緩くなり,脱落しやすくなるため,0.4.0.7mm程度の小から中程度の涙点サイズが適応と思われる.イーグルプラグOneは先端が軟らかいため,涙点が小さくなってくると挿入がむずかしくなる.また,パンクタルプラグFは涙点に挿入した後,リリースがスムーズにされないときがある.この場合は手前に引き抜こうとせず水平方向にずらすようにすると,うまくリリースされる(海道美奈子:パンクタルプラグFの有効性と挿入のコツ.TOMEYOPHTHAL-MOLOGYNEWS,49:10.11,2013)にはプラグゲージを準備しておくと良い.プラグゲージには,涙点プラグと同形状のものが両端についているタイプ(EagleVision社)と,涙点拡張針様の器具に目盛りがついているもの(大高式,MEテクニカ)がある.涙点拡張針様の器具は涙点が大きめのときには奥まで入れる必要があり,痛みを訴えられるときがあるので,筆者はEagleVision社のものを愛用している.サイズを測定したら,次に挿入であるが,涙点プラグ治療をはじめたばかりの場合は,処置用ベッドで寝かせて顕微鏡下で挿入することを勧める.これは患者が後ろに引いてしまうのを防げることと,スリットランプ下で行うよりも涙点にアクセスしやすいからである.一般的に下方の涙点には比較的挿入しやすいが,上方は挿入しにくい.上涙点は必ず翻転して涙点に緊張がかかるように図のように眼瞼を引っ張り挿入することがポイントである(図3).挿入時にプラグのつばの部分が,涙点部を通過して中に入ってしまうことがあるが,その場合も慌てずゆっくり引き抜き,片方の手に有鈎鑷子を持ち,引っ張り上げると迷入するのを防げる.ab図4マルチサイズ対応の涙点プラグa:パンクタルプラグF.b:イーグルプラグOne図3上涙点プラグの挿入方法必ず上眼瞼を翻転し矢印方向へ眼瞼を引っ張り,涙点周囲に緊張をかけて挿入すると挿入しやすい.図3上涙点プラグの挿入方法必ず上眼瞼を翻転し矢印方向へ眼瞼を引っ張り,涙点周囲に緊張をかけて挿入すると挿入しやすい.にはプラグゲージを準備しておくと良い.プラグゲージには,涙点プラグと同形状のものが両端についているタイプ(EagleVision社)と,涙点拡張針様の器具に目盛りがついているもの(大高式,MEテクニカ)がある.涙点拡張針様の器具は涙点が大きめのときには奥まで入れる必要があり,痛みを訴えられるときがあるので,筆者はEagleVision社のものを愛用している.サイズを測定したら,次に挿入であるが,涙点プラグ治療をはじめたばかりの場合は,処置用ベッドで寝かせて顕微鏡下で挿入することを勧める.これは患者が後ろに引いてしまうのを防げることと,スリットランプ下で行うよりも涙点にアクセスしやすいからである.一般的に下方の涙点には比較的挿入しやすいが,上方は挿入しにくい.上涙点は必ず翻転して涙点に緊張がかかるように図のように眼瞼を引っ張り挿入することがポイントである(図3).挿入時にプラグのつばの部分が,涙点部を通過して中に入ってしまうことがあるが,その場合も慌てずゆっくり引き抜き,片方の手に有鈎鑷子を持ち,引っ張り上げると迷入するのを防げる.(5)ab図4マルチサイズ対応の涙点プラグa:パンクタルプラグF.b:イーグルプラグOneVI最近登場したマルチサイズ対応の涙点プラグ最近,わが国でもマルチサイズ対応の涙点プラグが2種類使用可能になっている.パンクタルプラグF(FCI社,フランス)とイーグルプラグOne(EagleVision社,米国)である(図4).筆者の角膜・ドライアイ外来でこれらのプラグを使用する割合は少ないが,プラグをそれほど高頻度に入れない施設で,いろいろなサイズの在庫を置きたくないような場合には重宝するものと考える.マルチサイズ対応といっても,どちらのプラグも0.8mm以上の涙点サイズでは緩くなり,脱落しやすくなるため,0.4.0.7mm程度の小から中程度の涙点サイズが適応と思われる.イーグルプラグOneは先端が軟らかいため,涙点が小さくなってくると挿入がむずかしくなる.また,パンクタルプラグFは涙点に挿入した後,リリースがスムーズにされないときがある.この場合は手前に引き抜こうとせず水平方向にずらすようにすると,うまくリリースされる(海道美奈子:パンクタルプラグFの有効性と挿入のコツ.TOMEYOPHTHALMOLOGYNEWS,49:10.11,2013)あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015927 abab液状コラーゲンコラーゲンゲル37℃に加温図5液状涙点プラグキープティア(高研)の外観(a)および加温による変化(b).VII固形涙点プラグのメリット,デメリット固形涙点プラグのメリットは,継続的な涙点閉鎖による安定した涙液の保持にあると思われる.後述する液状涙点プラグと比較したメリットであると思われる.涙点プラグの開発の歴史は,脱落率の改善と肉芽発生率の低下をめざしてきた.しかし,脱落率と肉芽発生率は相反する傾向があり,脱落しにくいプラグほど涙小管への影響が強く肉芽ができやすいという特徴がある.一例としてパンクタルプラグは脱落率が低い一方,長期留置すると太鼓巻き型の肉芽を生じることがある.このような場合は涙点プラグの摘出が必要になる.涙点プラグの適応を間違えていなければ,肉芽ができても涙点が閉鎖されていれば,天然のプラグのようなもので大きな問題はないが,中途半端に開通していると涙点の閉鎖効果が得られず,新しい涙点プラグも入らず困ることになる.このような場合は涙点閉鎖術(涙点焼灼)が必要になる.VIIIコラーゲン涙点プラグ従来までコラーゲンプラグはコラーゲンロッドといわれるように固形状で,棒状のプラグを鑷子で涙点に挿入していたが,挿入しにくく,また完全な涙小管閉塞が得られるか確証がなかった.これを克服したのがわが国で928あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015開発された液状プラグキープティア(高研)である(図5).これは3%アテロコラーゲンを成分とする液状涙点プラグである.キープティアは注入後に体温で温められ白色のゲルとなり涙点,涙小管閉鎖を起こすとされている.治療の有効性は濱野らによって報告されている1).IXコラーゲン涙点プラグの使用方法従来型の涙点プラグともっとも異なる点は製品が温度の上昇によってゲル化するため,冷蔵庫保管が必要な点である.対象となる患者があれば,キープティアの箱を冷蔵庫から出し,シリンジをプラスチックの容器から出して15分ほど室温に置いてから注入用の27ゲージ鈍針を装着し注入する.1本300μlで2涙点分である.シリンジに半分の量の場所に目印がつけてあり,そこまでが1涙点分である.挿入手技は通水検査などと同じで容易である.前述した従来型のプラグと同様,処置ベッドで行うと患者が動きにくく行いやすいが,スリット下で行うことも可能である.挿入途中で片方の涙点からキープティアの流出があったり,挿入している涙点から逆流がある場合は,すでに涙小管を満たしていると考えて1涙点分注入していなくてもその時点で注入をやめる.注入は基本的に上下涙点に対して行う.注入後はキープティアの流出をさけるために閉瞼させホットアイマスクを装着して15分ほど待つ.筆者はこのゲル化時間が非(6) あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015929(7)時間とともに分解,流出してしまうために効果が一時的であることである.筆者らの印象では効果は1.2カ月ほどと考えている.このため,重症ドライアイを合併するSjogren症候群患者や移植片対宿主病(graftversushostdisease:GVHD)患者などには不向きである.一方,一時的な効果のプラグと考えて,冬場のドライアイの悪化に対して一時的に使用し,レーシックなどレーザー屈折矯正手術術後ドライアイに対して使用するなどの方法がよいと思われる.また,コンタクトレンズ装用の際にドライアイ症状を訴える患者もよい適応である2).越智らはSchirmer試験が6mm以上の患者では自覚症状,涙液貯留量,角結膜染色スコアが改善したが5mm以下では改善しなかったと報告している3).このことよりキープティアは軽度ドライアイに向くプラグであることがわかる.また,固形プラグには少し心理的に抵抗があって躊躇しているが,涙点プラグの効果があるかどうか試したいというような患者にとってもよいプラグではないかと思われる.文献1)濱野孝,林邦彦,宮田和典ほか:アテロコラーゲンによる涙同閉鎖─涙液減少症69例における臨床試験.臨眼58:2289-2294,20042)濱野孝:ドライアイとコンタクトレンズ,特集コンタクトレンズ診療.眼科51:1765-1769,20093)越智理恵,白石敦,原祐子ほか:アテロコラーゲン液状プラグ(キープティア)の治療効果とその適応.臨眼65:301-306,20114)KojimaT,MatsumotoY,IbrahimOMetal:Evaluationofathermosensitiveatelocollagenpunctalplugtreatmentfordryeyedisease.AmJOphthalmol157:311-317,2014常に大切だと考えており,できるだけ瞬きをさせず,処置ベッドの上で安静にさせている.その後,眼表面や眼周囲に余ってあふれた白く固まったコラーゲンゲルを取り除く.キープティアを使用していると,思いのほか効果が短時間でなくなってしまう患者に遭遇する.また,注入直後にもかかわらず涙液メニスカスが十分高くならない場合にも遭遇したため,筆者らはアテロコラーゲンが完全にゲル化するまでに流出してしまう可能性があると考えた.そこでキープティアをあらかじめ温めて(ゲル化させて)注入する方法を報告し,この方法を用いると通常の方法よりも持続効果が長続きし,患者の自覚症状スコアもより改善することを示した(プレヒーティング法)4).ただし,このキープティアに用いられているアテロコラーゲンは37℃付近でゲル化が始まり,それより温度が高くなり39℃を超えるとゲルの三次元構造が今度は崩壊し始めて,また液状になってしまう.この変化は不可逆性であり,プレヒーティングは温度が高くなりすぎると逆効果になってしまうので,行う際は十分注意が必要である.筆者は冷蔵庫から取り出したキープティアをシリンジのまま清潔な袋に入れて胸ポケットに15分ほど入れて温めている.Xコラーゲン涙点プラグのメリット,デメリット液状涙点プラグによる治療の最大のメリットは肉芽形成,異物感がまったくない点である.また,サイズ選択も必要ないため,さまざまなサイズを用意しておく必要がなく,開業医の先生にとっても使いやすいと思われる.一方,欠点としては,コラーゲンはその性質ゆえに

序説:TFOT(眼表面の層別治療)の考え方

2015年7月31日 金曜日

●序説あたらしい眼科32(7):923.924,2015●序説あたらしい眼科32(7):923.924,2015TFOT(眼表面の層別治療)の考え方TheConceptofTear-FilmOrientedTherapy坪田一男*木下茂**ドライアイ研究会では,ドライアイ治療の考え方として「TFOT(眼表面の層別治療)」という概念を提唱している.これは,眼表面および涙液層をしっかりと角結膜上皮,ムチン層,水層,油層と層別に考えることで病態の理解を深め,治療方針を決めていくというものである.従来のドライアイはSjogren症候群に代表されるような涙腺の機能障害による水層の障害が主だった.しかしながら最近の疫学研究によって,水層を反映すると考えられるShirmerテストは正常であるにもかかわらず,マイボーム腺機能不全による油層の異常やムチン層の低下によって涙液の安定性が低下する,いわゆるBUT短縮タイプのドライアイ(sBUTドライアイ)がドライアイの多くを占めることがわかってきた.sBUTドライアイは日本から提唱された疾患概念であり,当初はなかなか世界の研究者の間で認められなかったが,最近はかなり認知されるようになってきた.sBUTドライアイではSchirmerテストは正常なことが多く,角結膜障害もほとんどない.それにもかかわらず症状は強く,Sjogren症候群など重症ドライアイと同じレベルの辛さを訴えるのが特徴である.この病態の詳細はまだ解明されていないが,角膜神経の知覚過敏などのメカニズムが考えられている.今回の特集では,日本のトップレベルのドライアイ研究者に,TFOTの考えに従って層別に治療法を解説していただいた.涙液全体を保持する涙点プラグについては小島隆司先生(岐阜赤十字病院)に適応と使用方法を詳しく概説いただいた.現在わが国で使えるドライアイ点眼液は,おもに水層とムチン層をターゲットにしている.これら現在主流となっているヒアルロン酸点眼,ジクアス点眼,ムコスタ点眼については堀裕一先生・村松理奈先生(東邦大学),山口昌彦先生(愛媛県立中央病院)・大橋裕一先生(愛媛大学),横井則彦先生・木下茂(京都府立医科大学)にそれぞれ詳しい解説をお願いした.日本は水層とムチン層の改善によりドライアイ治療が劇的に進歩し,世界でもっともドライアイ治療が進んだ国となっている.しかし,油層についての保険治療薬はいまだに存在しない.そこでリッドハイジーンなど基本的な治療を含む,現在可能な治療法について戸田郁子先生(南青山アイクリニック)に解説をお願いした.また,油層の機能である涙液の蒸発を減少させる意味で,近年広く使われるようになり,エビデンスも出てきている保護用眼鏡について,池田圭介先生・村戸ドール先生(慶應義塾大学)に解説をお願いした.日本ではあまり注目されていないが,欧米ではド*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室**ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学講座0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(1)923 924あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(2)ライアイの定義に“炎症”が含まれており,炎症はドライアイの病態の重要なファクターといえる.Sjogren症候群やGVHDによる重症ドライアイに炎症が大きくかかわっていることはよく知られているが,自己免疫疾患と関連しないドライアイでも炎症が関係するというデータも出てきている.この分野の世界的な第一人者である小川葉子先生(慶應義塾大学)に考え方と実際の治療への応用について解説をお願いした.また,まったく新しいアプローチとして,「ライフスタイルへの介入」についても今回とりあげた.ドライアイのリスクファクターは多岐にわたり,女性であること,加齢,オメガ3の摂取,喫煙などなど,ライフスタイルとのかかわりあいも多い.そこで近年,ライフスタイルへの介入によって根本的にドライアイを治すという概念が提唱されつつある.この新しい考え方について長年にわたって研究を続けている川島素子先生(慶應義塾大学)に,基本的な考え方から解説をお願いした.現在,糖尿病や高血圧などの生活習慣病は,ライフスタイルの改善によって病状をかなりコントロールできると考えられている.ドライアイも,1日中コンピューター作業を座って行うなどライフスタイルとの関係が深いことから,ドライアイへのまったく新しいアプローチとして注目される.以上のように,現在のドライアイ治療は数年前に比べても飛躍的に進歩しており,その選択肢も多くなってきている.一方,ドライアイ患者数は激増していると考えられており,さらに安全で有効な治療法の開発が望まれる.

長期間再発を繰り返した眼窩血腫の1例

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):913.917,2015c長期間再発を繰り返した眼窩血腫の1例石田暁*1,2西本浩之*1,2池田哲也*2廣田暢夫*3清水公也*2*1横須賀市立うわまち病院眼科*2北里大学医学部眼科学教室*3横須賀市立うわまち病院脳神経外科ACaseofLong-TermRecurrentOrbitalHemorrhageAkiraIshida1,2),HiroyukiNishimoto1,2),TetsuyaIkeda2),NobuoHirota3)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofOphthalmology,YokosukaGeneralHospitalUwamachi,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversity,SchoolofMedicine,3)DepartmentofNeurosurgery,YokosukaGeneralHospitalUwamachi眼窩血腫は突然の眼球突出で発症する.原因は直接の外傷によるものが多いが,その他に血液疾患,血管形成異常,頭蓋内静脈圧の上昇などが報告されている.予後は一般に良好であり,経過観察で自然吸収され治癒することが多いが,視力低下を残す症例も存在する.症例は65歳,女性.1歳時に転倒して眉間部を机にぶつけ,数日後に右眼球突出を発症し,1カ月で軽快した.その後35歳まで,数年ごとに誘因なく突然の右眼球突出の発作を繰り返した.眼窩血腫と診断され,保存治療で軽快し,精査でも原因不明であった.35歳以降の発症はなかった.今回,起床時に右眼球突出を自覚した.嘔気・嘔吐,眼窩痛,眼球運動時痛を伴った.MRIで内直筋内に発生した眼窩血腫と診断した.発症時,軽快時の2度の血管造影検査では異常を認めなかった.保存治療で視力障害を残さず軽快した.基礎疾患のない健常な女性で,64年の長期間再発を繰り返した眼窩血腫の1例を経験した.A65-year-oldfemalepresentedwithrecurrentorbitalhemorrhagethathadoccurrednumeroustimesoverthepast64years.Attheageof1yearthepatientreportedlyhitthemiddleofherforeheadonadesk,andproptosisoccurredinherrighteyeafewdayslater.Withconservativetreatment,theproptosiswasrelievedwithin1month.Fromthatage,anduntilshewas35yearsold,shehadexperiencedrepeatedsuddenproptosisinherrighteyeeveryfewyearsandwassubsequentlydiagnosedasorbitalhemorrhageinthateye.However,thecausewasunclearandshehadnotexperiencedproptosisinthateyesincethattime.Atthepatient’smostrecentvisit,sheagainpresentedwithright-eyeproptosis,pain,diplopia,nausea,andvomiting.Uponexamination,magneticresonanceimagingrevealedorbitalhemorrhageinhermedialrectusmuscle,andorbitalangiographyshowednovascularanomaly.However,shehadnounderlyingdisease.Thepatientwassubsequentlyconservativelytreatedandtheorbitalhemorrhageunderwentspontaneousregression45dayslaterwithnovisualloss.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):913.917,2015〕Keywords:眼窩血腫,再発,眼球突出,眼窩疾患.orbitalhemorrhage,recurrence,proptosis,orbitaldisease.はじめに眼窩血腫は,眼窩部の外傷によって生じることが多いが,一部の患者では外傷なく発症する.突然の眼球突出で発症し,痛み,複視を伴う比較的まれな疾患である.外傷以外の眼窩血腫の原因としては血液疾患,血管形成異常(vascularmalformations),頭蓋内静脈圧の上昇などが報告されている.予後は一般に良好であり,経過観察で自然吸収され治癒することが多いが,まれに視力低下を残す症例も存在する.今回,基礎疾患のない女性で,長期間再発を繰り返した眼窩血腫の1例を経験したので報告する.I症例患者:65歳,女性.主訴:右眼球突出.既往歴:1950年,1歳時に転倒して眉間部を机にぶつけた.数日後,右眼球突出と嘔気・嘔吐が出現し,1カ月程度で自然に軽快した.以後,2.5年ごとに誘因なく突然の右眼球突出を繰り返した.嘔気,眼球運動時痛を伴い,数日後,眼窩部に皮下出血が出る頃には嘔気,眼球運動時痛は軽快し,1カ月程度で右眼球突出は自然に軽快するというエピ〔別刷請求先〕石田暁:〒238-8567神奈川県横須賀市上町2-36横須賀市立うわまち病院眼科Reprintrequests:AkiraIshida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokosukaGeneralHospitalUwamachi,2-36Uwamachi,Yokosuka,Kanagawa238-8567,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(149)913 abソードを繰り返していた.発症時は近医にて内服薬で保存的に治療されていた.1984年,35歳時に最終の発症.この際に他院で血管造影を施行するが,原因不明であった.以後,再発はなかった.その他,既往なし.身長164cm,体重54kgと普通体型.現病歴:2014年10月,起床時に右眼球突出を自覚した.嘔気・嘔吐,眼窩痛,眼球運動時痛を伴った.発症6日目,近医を受診.内頸静脈・海綿静脈洞瘻疑いで発症7日目,当院脳神経外科へ紹介.発症8日目,当科へ診察依頼となった.初診時所見:視力は右眼0.2(0.4×.0.5D(cyl.2.50DAx175°),左眼1.0(1.2×+0.25D(cyl.1.0DAx135°)であった.眼位は外斜視で,右眼の眼球運動は全方向制限を認め,とくに内転は不良であった(図1a).左眼の眼球運動制限はなく,対光反射は両眼迅速かつ完全で左右差はなかった.瞳孔異常・左右差はなく,相対的入力瞳孔反射異常(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)はなかった.右側の眼瞼腫脹,右眼球結膜浮腫,右眼球突出を認め,Hertel眼球突出計で右眼21mm,左眼14mmであった.眼圧は右眼9mmHg,左眼9mmHgであった.角膜上皮障害はなく,前房内に炎症は認めず,両眼に軽度の白内障を認めた.眼底は視神経乳頭の腫脹や発赤は認めず,左右差はみられなかった.黄斑部に異常はなく,網膜皺襞も認めなかった.血液生化学検査では,血液凝固機能は正常で,血球異常や914あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015図19方向眼位写真a:初診時.右眼球突出,結膜浮腫を認める.右眼の眼球運動は全方向制限を認め,特に内転は不良である.b:発症30日目.右眼の眼球運動は改善.内転は軽度の不良,下転・上転・外転は正常である.炎症反応,糖尿病は認めなかった.初診時(発症7日目)のcomputedtomography(CT)で右眼窩内に高吸収領域を認め,骨破壊像はなかった(図2).同日のmagneticresonanceimaging(MRI)で病変部は内直筋付近にあり,T1強調・T2強調画像とも低信号であった(図3a).発症8日目に血管造影検査を施行したが血管異常は認めなかった.眼窩血腫がもっとも疑われたが,眼窩リンパ腫なども鑑別診断として考えられた.視力低下については,病変による圧迫性視神経症や黄斑部の障害も疑われたが,対光反射正常,眼底正常などの所見から可能性は低いと考えた.右眼は左眼に比べて乱視が強く,病変による眼球の圧迫・前眼部の浮腫により不正乱視(高次収差)が生じたための視力障害をもっとも疑った.浮腫軽減のため0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロンR)点眼1日4回,フラジオマイシン硫酸塩・メチルプレドニゾロン眼軟膏(ネオメドロールREE軟膏)1日2回を開始した.ベタメタゾン(リンデロンR)4mg静脈注射を3日間投与とした.経過:翌日(発症9日目)再診.視力は改善し,右眼0.8(1.2×.0.75D(cyl.0.75DAx5°)と乱視が大きく改善していた.限界フリッカ値はredで右眼37Hz,左眼41Hzであった.Humphrey静的視野計で暗点は認めなかった.発症11日目,右眼球突出は改善傾向を示した.右眼の眼球運動は全方向改善傾向で,内転・下転は不良,上転・外転は正常であった.Hertel眼球突出計で右眼19mm,左眼(150) 14mmであった.造影MRIで病変は造影されず,周囲に造影効果の強い内直筋線維を認め,内直筋内の血腫と確定診断した(図3b).前回のMRIと比較して病変部は縮小していた.発症18日目,右眼の眼球運動は改善傾向で,内転不良,下転・上転・外転は正常であった.Hertel眼球突出計で右眼16mm,左眼13mmと改善傾向であった.発症21日目,血管造影検査を再度施行し,異常認めず.翌日退院となった.発症30日目,視力は右眼(1.2×.0.50D),左眼(1.2×(cyl.0.75DAx115°)で,右眼の眼球運動はさらに改善し,内転は軽度の不良,下転・上転・外転は正常であった(図1b).左方視での複視は残存していた.Hertel眼球突出計で右眼15mm,左眼13mmであった.発症45日目,単純MRI検査で血腫はさらに縮小を認めた(図3c).外来にて経過観察中であるが,発症3カ月後の現在まで再発はない.図2初診時(発症7日目)CT画像右眼窩内に高吸収領域(←)を認める.骨破壊像はない.abc図3MRI画像a:初診時(発症7日目)単純MRI.病変部は内直筋付近にありT1強調・T2強調画像とも低信号である.STIR:shortTIinversionrecoveryは脂肪抑制法.b:4日後(発症11日目)造影MRI.病変は造影されず,周囲に造影効果の強い内直筋線維を認め,内直筋内の血腫と診断した.病変部は縮小傾向である.SPIR:spectralpre-saturationwithinversionrecoveryは脂肪抑制法.c:発症45日目単純MRI.血腫はさらに縮小した.T1強調で低信号,T2強調画像では高信号化した.(151)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015915 II考按McNab1)によると1890年代から,眼窩血腫と推測される報告は散見されるが,画像診断がなかった時代には確定診断・局在診断が困難であった.その後,1970年代にCT,1980年代にMRIが登場し,普及に伴い詳細な報告がなされるようになり,発症年齢は新生児.高齢者と幅広く症例報告がある.症状は有痛性の眼球突出で,複視・眼球運動障害を生じ,ときに嘔気・嘔吐を伴う.片眼が多いが一部に両眼発症の報告もあり,「突然発症」がもっとも特徴的な診断のポイントで,徐々に発症することは少ない1).予後は一般に良好であり経過観察で自然吸収され治癒することが多いが,まれに不可逆的な視力低下を残す症例も存在する1).Krohelら2)は高齢者ほど視力障害をきたしやすいと報告している.血腫による圧迫性視神経症での視力低下がときにみられ,わが国でも中村ら3)が眼窩先端部症候群をきたし視力低下を残した症例を報告している.発症時に視力低下をきたしたものの保存治療で改善がみられた症例4),手術治療を行って視力の回復を得た症例5)の報告もあり,個々の症例ごとに判断を要するが,重篤な視力低下や眼窩先端部の神経障害を伴う眼窩血腫は,不可逆的な変化をきたす前に手術治療を考慮する必要がある.今回の症例では,初診時に矯正視力0.4と低下を認め,ステロイドの点眼・軟膏・全身投与を行い,翌日には矯正視力1.2と改善した.乱視が初診時右眼0.2(0.4×.0.5D(cyl.2.50DAx175°)から翌日は右眼0.8(1.2×.0.75D(cyl.0.75DAx5°)と大きく改善し,さらに発症30日目には自覚・他覚とも乱視は0になっていた.視力低下は眼窩血腫により眼球の圧迫・前眼部の浮腫が起こり,一過性に軸性乱視とともに不正乱視(高次収差)が生じたことがおもな原因と考えられた.視力低下の原因は他にも黄斑部や視神経の障害などが考えられるが,検眼鏡で黄斑部に異常はなく,眼球後方からの圧迫により生じる網脈絡膜の皺襞や循環障害の所見はみられなかった.また,RAPDや視神経乳頭の異常はなく,画像上globetenting6)は認めず,視神経症の所見もなかった.Globetentingは急性,亜急性の眼球突出で生じる,視神経の牽引障害や循環障害による視力低下を引き起こす,緊急の眼窩減圧が必要な病態であり,画像上,眼球後極の作る角度が120°以下(通常は150°以上である)になると視力予後が急激に悪くなる.また,翌日のHumphrey静的視野計でも,暗点は認めなかった.眼窩血腫へのステロイド治療については,血腫周囲の浮腫軽減目的に全身投与を施行し,保存治療で視力が改善した報告がある4,7).また,今回の症例では,眼窩部の腫脹の割に発赤・熱感がみられず,血液検査で白血球数,C-reactiveprotein(CRP)は正常範囲であり,発熱もなく,感染症は否定的と考えられ,ステロイド投与を施行した.916あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015McNab1)は非外傷性眼窩血腫を解剖的に①びまん性,②局在性(シスト),③骨膜下,④外眼筋関連,⑤眼窩底のインプラント関連,の5つに分類している.また,臨床病理的に①血管形成異常(vascularmalformations),②頭蓋内静脈圧の上昇,③血液疾患,④感染,⑤炎症,⑥新生物,⑦その他,に分類しており,特発性は非常にまれであると述べている.今回の症例は,解剖的に外眼筋関連のタイプに分類される.外眼筋関連の眼窩血腫は,外眼筋内または筋膜内に血腫が存在するもので,McNab1)によると1993.2012年に25例27眼の報告がある.血腫の大きさと急性発症であることから,外眼筋の動脈枝などからの出血と推測されている.特徴は,朝,起床時に発症することが多く,高齢者(平均年齢68歳)に多い.発症部位は下直筋に多く(52%),内直筋は5眼の報告がある.基礎疾患は高血圧が5例,抗凝固薬内服が3例,高コレステロール血症が2例,白血病,心房細動,自己免疫性肝炎,慢性閉塞性気道疾患,甲状腺機能低下症,僧帽弁閉鎖不全が各1例ずつある.治療は,手術が1例,穿刺吸引が1例あるが,病理で出血源が同定された症例はない.他は保存的に治療され,全例で視力低下を残すことはなかった1).再発はまれで,白血病の患者で7カ月間に3回生じた報告8)が1例のみある.今回の症例は,高齢者で起床時に発症し,保存治療で視力低下を残さず,外眼筋関連のタイプの眼窩血腫としておおむね典型的な経過である.しかし,明らかな基礎疾患もなく1.65歳まで長期にわたり多数の再発を繰り返しており,まれな症例と考えられる.発症原因は,病歴から64年前の外傷後の組織癒着などの変化が考えられる.また,1歳時という発症年齢からは先天的な血管形成異常も否定できない.しかし,これまでの血管造影やMRIの精査では,多数の再発を繰り返す原因となるような異常は検出できなかった.今後も慎重に経過観察していく予定である.今回,基礎疾患のない健常な女性で,幼少時の外傷後,誘因なく再発を繰り返す内直筋内の眼窩血腫の1例を経験した.精査で出血の原因となるような異常は検出できなかったが,保存治療で視力障害を残さず軽快した.64年の長期間,再発を繰り返した点が特徴的であった.文献1)McNabAA:Nontraumaticorbitalhemorrhage.SurvOphthalmol59:166-184,20142)KrohelGB,WrightJE:Orbitalhemorrhage.AmJOphthalmol88:254-258,19793)中村靖,橋本雅人,大谷地裕明ほか:眼窩血腫の3例.神経眼科10:269-273,19934)中嶋順子,石村博美,岩見達也ほか:自然発症した眼窩内血腫の1症例.臨眼53:1347-1350,19995)高橋寛二,宇山昌延,泉春暁ほか:自然発症した小児眼(152) 窩血腫の1例.日眼会誌92:182-187,198820026)柿崎裕彦:眼球突出.眼紀56:703-709,20058)ThuenteDD,NeelyDE:Spontaneousmedialrectushem7)平野佳男,松永紀子,玉井一司ほか:急激な視力低下をきorrhageinapatientwithacutemyelogenousleukemia.Jたした貧血による眼窩内血腫の1例.臨眼56:1089-1093,AAPOS6:257-258,2002***(153)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015917

糖尿病黄斑浮腫に対する防腐剤無添加トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射による無菌性眼内炎

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):909.912,2015c糖尿病黄斑浮腫に対する防腐剤無添加トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射による無菌性眼内炎布目貴康杉本昌彦松原央小林真希坂本里恵小澤摩記近藤峰生三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室ACaseofSterileEndophthalmitisInducedbyPreservative-FreeTriamcinoloneAcetonideforDiabeticMacularEdemaTakayasuNunome,MasahikoSugimoto,HisashiMatsubara,MakiKobayashi,SatoeSakamoto,MakiKozawaandMineoKondoDepartmentofOphthalmology,MieUniversity,GraduateSchoolofMedicine目的:トリアムシノロン硝子体内注射(intravitrealtriamcinoloneacetonide:IVTA)は糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対する有効な治療法の一つである.副作用の一つとして無菌性眼内炎(sterileendophthalmitis:SE)が知られているが,防腐剤無添加のTA製剤(マキュエイドR,わかもと製薬)を用いたIVTAによる発症報告はない.今回,筆者らはわが国で初めての,本剤のIVTAによるSEを経験したので報告する.症例:60歳,男性.右眼のDMEに対しTATenon.下注射や抗血管内皮増殖因子製剤硝子体内注射を行ったが反応しなかった.続けて施行したIVTAによりDMEは改善し,右眼の矯正視力は0.2から0.3となったが,再発を繰り返し,IVTAを複数回行っていた.2014年10月に,DMEの再発に対し3回目のIVTAを施行した.IVTA5日後の再診時に硝子体混濁を認め,右眼の矯正視力も0.06に低下した.眼痛や前房の炎症性変化は認めないものの硝子体混濁の改善傾向がないため,眼内炎と診断し,硝子体手術を施行した.術中,硝子体混濁は認めたものの網膜の感染性変化は乏しかった.また,術中採取した前房水・硝子体液の培養は陰性であり,IVTA後のSEと診断した.術後,矯正視力は0.4に改善し,感染徴候も認めずDMEも改善している.結論:防腐剤無添加のTA製剤を用いることでIVTA後のSEの頻度は減少するが,防腐剤以外の原因で生じることもあり,注意が必要である.Purpose:Intravitrealtriamcinoloneacetonide(IVTA)isaneffectivetreatmentfordiabeticmacularedema(DME).However,sterileendophthalmitis(SE)isknowntobeacomplicationassociatedwiththistreatment.MaQaidR(MaQ;WakamotoPharmaceutical,Tokyo,Japan)isanewpreservative-freetriamcinoloneacetonide,andtherearenoreportstodatedescribingSEarisingfromtheuseofMaQ.Inthisstudy,wereportacaseofSEthatresultedfromtheuseofMaQ.CaseReport:A60-year-oldmalepatientwithDMEhadshownresistancetovarioustherapies.HewaseffectivelytreatedwithIVTAandhisvisualacuity(VA)improved.However,the3rdIVTAtreatmentresultedinvitreousopacitywithvisiondeteriorationto0.06diopters(D)after5days.Thoughnoobviousinflamationwasseen,wediagnosedhimasendophthalmitisandperformedavitrectomy.Duringsurgery,noinfectiouschangeswereseenandabacterialculturewasnegative,resultinginafinaldiagnosisofSE.Thepatient’sVAimprovedto0.4DwithabsorptionoftheDME.Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowtheimportanceofperformingdetailedexaminationsinordertocorrectlydiagnoseSE,theonsetofwhichmightbereducedbytheuseofpreservative-freetriamcinoloneacetonide.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):909.912,2015〕Keywords:トリアムシノロンアセトニド,糖尿病黄斑浮腫,防腐剤無添加,無菌性眼内炎.triamcinoloneacetonide,diabeticmacularedema,preservativefree,sterileendophthalmitis.〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:MasahikoSugimoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu,Mie514-8507,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(145)909 はじめにステロイド製剤の一つであるトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)は難水溶性の薬剤で,古くから整形外科領域で用いられてきた.眼科疾患への応用も広がり,とくに黄斑浮腫に対する投与(intravitrealtriamcinoloneacetonide:IVTA)や硝子体手術時の可視化目的に使用されている1,2).国内では長年,ケナコルトR(BristolMyersSquibb社)が用いられてきたが,2010年にマキュエイドR(わかもと製薬)が市販された.本剤は眼科使用のみに特化していることと,剤型が粉末で防腐剤無添加のTA(preservativefreetriamcinoloneacetonide:PFTA)であるため無菌性眼内炎(sterileendophthalmitis:SE)の危険性が低下するという利点があり3),国内での本剤によるSEの発症報告はこれまでにない.安全性が担保されたことから,現在国内では,ほぼ本剤のみがIVTAに用いられている.今回筆者らは本剤のIVTAによって生じたSEを経験した.本症例はわが国で初めての症例であり,ここに報告する.I症例患者:60歳,男性.主訴:右眼視力障害.現病歴:2013年4月,両眼の糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)加療目的で当科受診した(図1a).初診時の右眼の矯正視力は0.2であり,ケナコルトRTenon.下注射や抗血管内皮増殖因子(vascularendotheliumgrowthfactor:VEGF)製剤の硝子体内注射を施行したが改善しなかった.2013年10月にマキュエイドRを用いた右)IVTAを施行したところ,DMEは著明に改善し,矯正視力も0.3となった(図1b).以後,再発していたがマキュエイドRの追加投与で寛解していた.今回右)DMEが再発し(図2a),矯正視力も0.2に低下した.2014年10月に3回目のIVTAを施行した.IVTAはオペガードMAR(千寿製薬)に溶解し40mg/mlに調整したTA0.1ml(4mg)を,減菌下に角膜輪部4mmの部位から27G針を用いて,硝子体注射して行った.施行後翌日の診察ではとくに炎症などの異常を認めなかったが,施行5日後の受診時に視力低下を伴う硝子体混濁を認めた.IVTA後の眼内炎と診断し,加療目的に当科入院となった.既往歴:糖尿病.加療前所見:矯正視力は右眼0.06,左眼0.2.眼圧は右眼14mmHg,左眼20mmHg.前眼部所見は右眼の結膜充血や前房蓄膿,細胞浮遊は認めなかった.眼脂や眼痛も認めなかった.左眼の異常は認めなかった(図2b).中間透光体・眼底所見は両眼に軽度白内障を認めた.右眼の硝子体混濁を認め,硝子体中のTA周囲でとくに混濁は強かった(図2c矢910あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015印).左眼の異常は認めなかった.経過:臨床所見からSEが疑われたが,感染性眼内炎の可能性も否定できなかったため,入院同日に超音波乳化吸引術+硝子体切除術を施行した.硝子体中には残存するTA周囲に強い混濁を認めた.しかし,眼底には感染性眼内炎に特徴的な白斑や出血,血管の白鞘化などは認めず,網膜色調も良好であった.また,術中に前房水・硝子体液・眼内灌流液を採取し培養検査を行ったが,いずれも菌は陰性であった.術後眼内炎の再燃はみられず,前眼部は清明であった(図3a).以上から,IVTAに伴うSEと診断した.術後,硝子体混濁は消失し,DMEも軽快した(図3b,c).術後2カ月で右眼の矯正視力は0.4と改善している.II考按近年,DMEの治療に薬剤の硝子体注射が広く用いられている.抗VEGF製剤とTA製剤はその代表であり,DMEに対する成績は偽水晶体眼に限っては両者の効果はほぼ同等であるとされている4).硝子体手術時の硝子体の可視化目的にもTAは用いられており安全な術中操作が可能となっている5).しかし,硝子体可視化目的の使用に比し,IVTAは白内障や眼圧上昇などの副作用面から抗VEGF製剤ほどは用いられていない.筆者らの施設でも,IVTAはDMEに対する第一選択となってはいない.しかし,全身合併症のため抗VEGF製剤の使用を控えざるをえない症例や,抗VEGF製剤やTAのTenon.下注射に反応しない症例,そして硝子体手術が施行できない症例などに対してIVTAは有効な選択肢の一つとなっている3).とくに偽水晶体眼は白内障発症の危険がないため,IVTAの良い適応である.国内外でこれまで使用されていたTA製剤であるケナコルトRは剤型が懸濁液であるため,防腐剤が添加されている.IVTAでは低頻度ながらもSEを生じることが知られており6,7),この添加防腐剤が原因の一つとして考えられている.MaiaらはIVTAによるSEの発症頻度を防腐剤の有無で比較している.防腐剤含有TAでの発症頻度は7.3%であるが,PFTAでは1.2%と統計学的に有意な発症頻度の低下を認め,防腐剤の有無でSEの発症頻度に差を認めている7).このため,マキュエイドRが入手できなかった2010年までは,防腐剤を除去してから使用することがわが国でも推奨されていた.わが国での多施設共同研究でもSEの発生頻度は1.6%であり,前述の報告と差異はないようであった8).防腐剤の除去法としてはフィルターによる方式が推奨されていたが9),煩雑であり防腐剤の完全除去は困難であった.この欠点を補うPFTAであるマキュエイドRが国内で市販され,SE発症の危険が少ない安全な薬剤であることが期待されていた.現に市販後4年間,IVTA後のSEの報告がなかったことは如実にこれを反映している.しかし,前述のように頻(146) aab図1初診時までの加療経過当院初診時,右眼の矯正視力は0.2であり,光干渉断層計が示すような黄斑浮腫を認めた(a).IVTAを行ったところ,浮腫は速やかに吸収し,矯正視力も0.3に改善した(b).abc図2加療前の所見IVTA前,浮腫の再発を認め,右眼の矯正視力は0.2であった(a).IVTAの5日後,前眼部所見に明らかな異常は認めなかったが(b),硝子体の混濁を認め眼底透見性は低下した(c)..:混濁塊.abc図3加療後の所見硝子体手術後2カ月の所見を示す.前眼部は清明であり(a),硝子体混濁も消失し,透見性は改善した(b).トリアムシノロンアセトニド粒子の残存を認める(.).光干渉断層計に示すように黄斑浮腫も消失した(c).度が下がるもののPFTAでもSEは生じうること,また,直接接触が細胞に与える影響について報告している.TA粒硝子体切除後に本剤が眼内に残存した場合にSEを発症した子の細胞への直接接触は炎症性サイトカインの増加を誘発症例が報告されていること(マキュエイド硝子体内注用し,細胞への障害が生じることを明らかにした.彼らはこれ40mg添付文書,わかもと株式会社,2014.4改訂第4版)なを「Particle-inducedendophthalmitis」と名づけた10).Inどから防腐剤以外のSEの発症原因があることも示唆されてvivoの条件下と異なり,生体でどのような変化が生じていいる.Otsukaらは細胞をTAとともに培養し,TA粒子のるかはいまだ不明であるが,このようにIVTA後のSE発症(147)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015911 には防腐剤以外の因子があることを念頭に,IVTAは注意深く行われなければならない.加療に当たり,SEと感染性眼内炎の鑑別が本例でも問題となった.SEの臨床所見としては,結膜充血や疼痛を伴わない前房混濁であり,感染性のものと異なり,さらさらした性状の前房蓄膿として知られている11).視力低下は著明で,これらの所見は24時間以内に生じることが多いとされている.本例はIVTA翌日の炎症所見や前房混濁を認めないものの,外眼部所見が清明であったことや硝子体混濁を主体とした強い視力低下を示したことから,加療開始前にすでにSEが強く疑われた.両者の大きな差異は,SEがとくに加療を行わなくても自然治癒することであり,本例においても経過観察が可能であったかもしれない.しかし,感染性眼内炎の初期像をみていた可能性はやはり否定できず,前述の所見も翌日以降に増悪していたかもしれない.感染性眼内炎の予後は治療開始時期に依存するため,硝子体手術の安全性が向上している現在において,本例のように即日の手術加療を行うことは視機能維持に直結する.以上から,過剰加療の側面があるものの,本例では手術加療を行った.感染による網膜白斑や血管白鞘化といった著明な変化もなく,術中採取した検体の培養結果も陰性であったことからSEと確定診断し,経過良好である.加えてDMEに対する加療選択肢の一つである硝子体手術を行ったため,結果としてDMEの消失と視機能改善を得ることができた.以上,PFTAであるマキュエイドRによるわが国で初めてのSE症例を報告した.防腐剤が無添加になったことによりSE発症頻度は減少し,有用なDMEに対する加療選択肢であるIVTAは行いやすくなっている.しかし依然,SEがIVTAにより生じうることを念頭に置いて加療する必要があると考えられる.文献1)JonasJB,KreissigI,SofkerAetal:Intravitrealinjectionoftriamcinolonefordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol121:57-61,20032)PeymanGA,CheemaR,ConwayMDetal:Triamcinoloneacetonideasanaidtovisualizationofthevitreousandtheposteriorhyaloidduringparsplanavitrectomy.Retina20:554-555,20003)杉本昌彦,松原央,古田基靖ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド製剤(マキュエイドR)の硝子体内注射の効果.あたらしい眼科30:703-706,20134)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork,ElmanMJ,AielloLP,BeckRWetal:Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077,20105)YamakiriK,SakamotoT,NodaYetal:Reducedincidenceofintraoperativecomplicationsinamulticentercontrolledclinicaltrialoftriamcinoloneinvitrectomy.Ophthalmology114:289-296,20076)MoshfeghiDM,KaiserPK,BakriSJetal:Presumedsterileendophthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.OphthalmicSurgLasersImaging36:24-29,20057)MaiaM,FarahME,BelfortRNetal:Effectsofintravitrealtriamcinoloneacetonideinjectionwithandwithoutpreservative.BrJOphthalmol91:1122-1124,20078)坂本泰二,石橋達朗,小椋祐一郞ほか:日本網膜硝子体学会トリアムシノロン調査グループトリアムシノロンによる無菌性眼内炎調査.日眼会誌115:523-528,20119)NishimuraA,KobayashiA,SegawaYetal:Isolatingtriamcinoloneacetonideparticlesforintravitrealusewithaporousmembranefilter.Retina23:777-779,200310)OtsukaH,KawanoH,SonodaSetal:Particle-inducedendophthalmitis:possiblemechanismsofsterileendophthalmitisafterintravitrealtriamcinolone.InvestOphthalmolVisSci54:1758-1766,201311)坂本泰二:粒子誘発性眼内炎:無菌性眼内炎の新しい病因.臨眼67:1249-1253,2013***912あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(148)

紫色光ブロック眼内レンズZCB00Vを用いた白内障手術の術後早期成績:視力,屈折度,QOLの検討

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):898.903,2015c《原著》あたらしい眼科32(6):898.903,2015c898(134)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕岡義隆:〒820-0067福岡県飯塚市川津364-2岡眼科ビル1F岡眼科クリニックReprintrequests:YoshitakaOka,M.D.,OkaEyeClinic,1FOkaEyeClinicBldg.,364-2Kawazu,Iizuka,Fukuoka820-0067,JAPAN紫色光ブロック眼内レンズZCB00Vを用いた白内障手術の術後早期成績:視力,屈折度,QOLの検討岡義隆*1貞松良成*2*1岡眼科クリニック*2さだまつ眼科クリニックEarlyClinicalOutcomesofaVioletBlockingIntraocularLensZCB00VPostCataractSurgery:EvaluationofVisualAcuity,Refraction,andQualityofLifeYoshitakaOka1)andYoshinariSadamatsu2)1)OkaEyeClinic,2)SadamatsuEyeClinic目的:紫外線と紫色光をブロックし青色光を透過させる新しい着色眼内レンズ(IOL)であるテクニスオプティブルー(ZCB00V,エイエムオー・ジャパン)について,白内障手術後早期の視力,屈折度,QOL(qualityoflife)における臨床転帰を評価する.対象および方法:32人60眼(年齢73.1±6.0歳)を対象に,ZCB00Vを挿入する白内障手術を実施し,手術1カ月後に裸眼遠方視力,矯正遠方視力,自覚的屈折度,視覚に関連したQOLを評価する多施設前向き研究を行った.QOLの評価はNEIVFQ-25(the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestion-naire)によるアンケート調査により行った.結果:術中合併症の発生はなかった.術前から手術1カ月後にかけ,裸眼遠方視力(logMAR値)は0.58±0.40から0.02±0.16,矯正遠方視力(logMAR値)は0.14±0.24から.0.06±0.06といずれも有意に改善した(ともにp<0.01).等価球面度数は.0.07±2.24Dから.0.39±0.46Dと推移したが,有意な変化ではなかった(p=0.21).手術1カ月後の片眼裸眼遠方視力(logMAR値)は,対象眼数の81.67%(49眼/60眼)で0.0以下,93.33%(56眼/60眼)で0.1以下,そして96.67%(58眼/60眼)で0.3以下であった.片眼矯正遠方視力(logMAR値)は,対象眼数の97.96%(48眼/49眼)で0.0以下,そして100%で0.3以下であった.手術1カ月後のQOLはNEIVFQ-25の12の下位尺度すべてで有意に改善した(いずれもp≦0.01).結論:ZCB00Vは白内障手術後早期の視機能改善において有効性と安全性を備えたIOLである.Purpose:ToevaluateearlyclinicaloutcomesoftheTECNISROptiBlue(ZCB00V;AbbottMedicalOptics,Inc.)intraocularlens(IOL),anew,yellow-tinted,violetlightblockingIOL,postcataractsurgery.Methods:Thestudycomprised60eyesof32patients(meanage:73.1±6.0years)fromtwoeyeclinicsthatunderwentcataractsurgerywithimplantationoftheTECNISROptiBlueIOL.Uncorrecteddistancevisualacuity(UDVA),correcteddistancevisualacuity(CDVA),manifestrefraction,andvision-relatedqualityoflifewereexaminedprospectivelyat1-monthpostoperative.Qualityoflifewasmeasuredwiththe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire(NEIVFQ-25).Results:Nocomplicationsoccurredduringsurgery.ThemeanUDVA(logMAR)valueswere0.58±0.40and0.02±0.16atbeforesurgeryandat1-monthpostoperative,respectively,andthemeanCDVA(logMAR)valuesatthosesameevaluationtime-pointswere0.14±0.24and.0.06±0.06,respectively,thusshowingthatbothUDVAandCDVAweresignificantlyimprovedat1-monthpostoperative(p<0.05).Beforesur-geryandat1-monthpostoperative,themeansphericalequivalentvalueswere.0.07±2.24diopters(D)and.0.39±0.46D,respectively,thusshowingnosignificantchangebetweenbeforeandaftersurgery.At1-monthpost-operative,81.67%(49/60)oftheeyesachievedanUDVAof≦0.0,93.33%(56/60)achievedanUDVAof≦0.1,and96.67%(58/60)achievedanUDVAof≦0.3,and97.96%(48/49)oftheeyesachievedaCDVAof≦0.0and100%achievedaCDVAof≦0.3.TheNEIVFQ-25scoresweresignificantlyimprovedinallofthe12subscalesat1-monthpostoperative(p≦0.01).Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowthesafetyandefficacyoftheTECNISROptiBluevioletblockingIOLwithrespecttoearlypostoperativevisualoutcomesfollowingcataractsur-gery. 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):898.903,2015〕Keywords:眼内レンズ,青色光,裸眼遠方視力,矯正遠方視力,等価球面度数,NEIVFQ-25,QOL.intraocularlens,bluelight,uncorrecteddistancevisualacuity,correcteddistancevisualacuity,sphericalequivalent,NEIVFQ-25,QOL.はじめに白内障手術に使用される眼内レンズ(IOL)は1980年代後半以降,光毒性により網膜損傷を引き起こす紫外線(UV)の透過防止を目的として,レンズ材料成分にUV吸収能をもつ発色団を添加し,UVフィルター機能をもたせたIOLが一般的となっている1,2).これらのIOLでは当初,可視光の全波長領域を透過させる非着色タイプのIOLが普及した2).しかし,短波長可視光が網膜に及ぼす悪影響に関して,動物実験により青色光の光毒性が網膜傷害の原因となることが明らかにされた3).また,疫学的研究により,青色光への曝露が加齢黄斑変性の発症と関連する可能性が示された4).こうしたエビデンスの蓄積を背景に,青色光吸収能を有する発色団の添加によって,UVから青色光までの波長スペクトルに対するフィルター機能をもたせた着色タイプの青色光ブロックIOLが開発され5),近年臨床への普及が進んでいる.青色光ブロックIOLを従来の非着色IOLと比較した術後成績に関しては,視力,コントラスト感度,色覚といった視機能や視覚に関連したQOL(qualityoflife)について,両IOLで同等に良好であったという報告がある6,7).一方で,青色光ブロックIOL挿入眼では非着色IOL挿入眼と比較し,暗所視や薄明視における視機能が低下する可能性が指摘されている2).暗所視では,最大視感度の波長が明所視よりも短波長側にシフトするPurkinje現象により,視覚における青色光の重要度が増すと考えられる8).また,青色光ブロックIOL挿入による青色光遮断に伴い,概日リズム同調に必要な網膜神経節細胞での光受容が妨げられ,体内時計や睡眠に関連した問題を生じる可能性も指摘されている9).こうしたなか,青色光ブロックIOLの臨床的有用性の評価をめぐり,いまだ議論が続いているのが現状である10).2013年から使用可能となった新しい着色IOLのテクニスオプティブルー(ZCB00V,エイエムオー・ジャパン)では,従来の青色光吸収剤ではなく紫色光吸収剤が添加されており,UVから400.440nmの紫色光までの波長スペクトルに対するフィルター機能を備えている.440.500nmの青色光は暗所視下に最大視感度を示す波長の近傍であり,かつ概日リズム同調に必要とされる領域を含むが,ZCB00Vは,この青色光領域に対する分光透過率が従来の青色光ブロックIOLと比べて高い8).このためZCB00Vでは,従来の青色光ブロックIOLに対し指摘される上記のデメリットが改善される可能性がある.(135)本研究は,青色光透過性をもつ紫色光ブロックIOLであるZCB00Vの術後成績についての最初の臨床報告である.ZCB00Vを挿入する白内障手術を行い,手術1カ月後までの視力,屈折度,および視覚に関連したQOLの臨床経過を検討した.I対象および方法1.対象患者研究対象は,2施設の眼科専門クリニック(岡眼科クリニック,福岡;さだまつ眼科クリニック,埼玉)にて,1ピース非球面タイプの紫色光ブロックIOLであるZCB00Vを用いて白内障手術を施行した32人(男性11人,女性21人)60眼である.患者の選択基準はつぎのとおりとした:①年齢21歳以上,②術後の正視を希望,③必要となるIOLの度数が15.26D,④本研究への参加についてインフォームド・コンセントが実施されている,⑤本研究への参加意思があり,術後フォローアップスケジュールに従った受診が可能.また,除外基準をつぎのように定めた:①視力に影響する可能性のある薬剤を全身投与もしくは点眼投与により使用中,②視力もしくは本研究の検討結果に影響を及ぼす可能性がある疾患やその他の病的状態(急性,慢性を問わない)を有する,③術前もしくは術後の診察で水晶体.とZinn小帯の両方もしくはどちらか片方に異常所見があり,それを原因としたIOLの偏位によって術後の視力が影響を受ける可能性がある,④瞳孔の異常(瞳孔無反応,瞳孔強直,瞳孔形態異常,薄明視もしくは暗所視下で瞳孔径4mm以上に拡大しない),⑤散瞳点眼剤へのアレルギーを有する.本研究は各施設の倫理審査委員会による承認を受けており,1964年のヘルシンキ宣言において採択された臨床研究の倫理規範に従って実施された.2.術前・術後臨床評価項目術前臨床評価として,すべての対象患者につぎの項目の一般的な眼科検査を実施した:①裸眼遠方視力,②矯正遠方視力,③自覚的屈折度,④細隙灯顕微鏡検査,⑤生体計測(IOLマスター,カールツァイスメディテック),⑥眼底検査.また,視覚に関連したQOLについて,測定尺度として信頼性・妥当性が確立されているアンケート調査方法であるNEIVFQ-25(The25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire)11)を用いて評価した.NEIVFQ25は25項目から構成され,全体的健康感や視覚,各種の活あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015899 動を行ううえで感じる困難さ,視力低下がもたらす影響をどの程度重大にとらえているかについて,患者への質問によって測定する.視覚に関連した各種の活動に対して感じる困難さについて,「(1)まったく難しくない」「(2)あまり難しくない」「(3)難しい」「(4)とても難しい」「(5)見えにくいのでするのをやめた」「(6)別の理由でするのをやめた/もともとしない」の回答により6段階に評価した(回答(6)は欠損データとして扱った).また,視力低下の影響によるさまざまな役割の制限について尋ねた13項目のうち,5項目については「(1)いつも」.「(5)まったくない」,8項目については「(1)まったくそのとおり」.「(5)ぜんぜんあてはまらない」の回答により,いずれも5段階に評価した.なおNEIVFQ-25は,患者が普段の状態で各種の活動を行うことができるかどうかを尋ねるものであり,患者は眼鏡の使用が許容されるものとして回答する.術後臨床評価として,手術翌日,1週間後,1カ月後の来院時につぎの検査を行った:①裸眼遠方視力,②矯正遠方視力,③自覚的屈折度,④細隙灯顕微鏡検査.また手術1カ月後にNEIVFQ-25を用いて再度,QOLを評価した.3.使用したIOLZCB00Vは,UV・紫色光吸収剤が添加された柔軟で折り畳み可能なアクリル素材からなる1ピース非球面IOLで,光学部直径6.0mm,全長13.0mmである.後.混濁予防のため,光学部はフロスト加工処理され,また後面全周に直角エッジデザインが施されている.紫色光吸収剤によって遮断されるおもな波長域は,網膜損傷を引き起こす可能性のある440nm未満の短波長域8)に限られている.暗所視下の良好な視機能や概日リズム同調のために必要となる440.500nmの青色光領域に対しては,ZCB00Vは従来の青色光ブロックIOLと比べて高い分光透過率を示す8).本レンズは,選択可能な全度数範囲+6.0.+30.0D(0.50D刻み)を通じて分光透過率曲線の形状がほぼ同一となるように設計されている.また,角膜の球面収差を補正することにより術後の眼球全体の球面収差をほぼ0とすることを目的として,レンズ後面は非球面形状となっている.メーカー推奨A定数は118.8である.4.手術手技手術は全例,熟練した術者が局所麻酔下で施行した.岡眼科クリニックでは耳側角膜2.4mm切開,さだまつ眼科クリニックでは耳側経結膜2.4mm切開を行い,CCC(continuouscurvilinearcapsulorhexis)による前.切開に続いて超音波水晶体乳化吸引術を行った後,IOL挿入器アンフォルダーRプラチナ1システム(エイエムオー・ジャパン)を使って水晶体.内にZCB00Vを挿入した.術後管理として全例にステロイド点眼薬投与を行った.5.統計解析統計解析ソフトウェアSPSSversion19.0(IBM)を使用して統計学的検討を行った.各評価項目における経時的変化をみるため,術前後の各評価時点間でWilcoxon順位和検定を用いて比較した.いずれの場合も統計学的有意水準はp<0.05とした.QOLについてのNEIVFQ-25による調査結果を解析するため,米国国立眼病研究所(NEI)の実施要綱に従い,全25項目を構成する12の下位尺度についてのスコア化を行った11).調査時に,視機能が良好なほど高スコアとする採点ルールに従って全25項目のスコア値を記録した後,各項目のスコア値をそれぞれ最低スコア値0.最高スコア値100のスケールに変換した.そして関連性のある項目のスコア値の平均値を求めることで,12の下位尺度のスコア値を算出した.II結果1.患者背景本研究はプロスペクティブな検討として実施され,参加した患者は男性11人(34.4%),女性21人(65.6%),年齢73.1±6.0歳(平均値±SD,範囲:64.83歳),対象とした60眼の内訳は右目29眼(48.3%),左目31眼(51.7%)であった.挿入されたIOLの度数は21.42±3.02D(平均値±SD,中央値:21.00D,範囲:12.50.27.00D)であった.23眼(38.3%)に眼疾患既往があり,23眼(38.3%)に眼底の異常所見がみられた.術前臨床評価時に検出された眼疾患や眼の病的状態は以下のとおりであった:加齢黄斑変性1眼(1.7%),動脈硬化性網膜症1眼(1.7%),糖尿病網膜症4眼(6.7%),緑内障10眼(16.7%),糖尿病網膜症を併存する緑内障2眼(3.3%),黄斑部網膜上膜を併存する緑内障1眼(1.7%),高血圧性網膜症3眼(5.0%),偽落屑緑内障1眼(1.7%).術中合併症の発生はなかった.2.視力と屈折度表1に視力と屈折度の術前.手術1カ月後における経時的推移を示す.片眼裸眼遠方視力(logMAR値,平均値±SD)は術前の0.58±0.40から手術1カ月後に0.02±0.16,片眼矯正遠方視力(logMAR値,平均値±SD)は術前の0.14±0.24から手術1カ月後に.0.06±0.06といずれも有意に改善していた(Wilcoxon順位和検定,いずれもp<0.01;図1).等価球面度数(平均値±SD)は術前の.0.07±2.24Dから手術1カ月後に.0.39±0.46Dと推移したが,有意な変化ではなかった(Wilcoxon順位和検定,p=0.21;図2).手術1カ月後の片眼裸眼遠方視力(logMAR値)が0.0以下であった眼数の割合は81.67%(49眼/60眼),0.1以下は93.33%(56眼/60眼),0.3以下は96.67%(58眼/60眼)であった(図3a).同様に手術1カ月後の片眼矯正遠方視力(logMAR値)が0.0以下,0.1以下の割合はともに97.96%(48(136) あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015901(137)眼/49眼)であり,0.3以下は100%であった(図3b).3.QOL表2にNEIVFQ-25で評価したQOLを術前と手術1カ月後で比較した結果を示す.手術1カ月後に12の下位尺度のすべてにおいてスコア値の有意な改善がみられた(Wilcox-on順位和検定,いずれもp≦0.01).III考察裸眼遠方視力(logMAR値)の平均値±SDは手術1カ月後に0.02±0.16(範囲:.0.08.1.00)まで改善した.この結果から,青色光を透過する紫色光ブロックIOLであるZCB00Vの挿入眼では,視力の良好な予後が期待できることが示された.表1術前後の片眼視力および屈折度の臨床経過術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後術前vs.手術1カ月後の比較†UDVA0.58(0.40)0.52(.0.08.1.70)0.08(0.16)0.00(.0.08.1.00)0.02(0.14)0.00(.0.08.0.82)0.02(0.16)0.00(.0.08.1.00)p<0.01CDVA0.14(0.24)0.10(.0.08.1.30).0.01(0.11).0.08(.0.08.0.52).0.06(0.05).0.08(.0.08.0.15).0.06(0.06).0.08(.0.08.0.22)p<0.01等価球面度数(D).0.07(2.24)+0.25(.6.00.+4.63).0.10(0.35)0.00(.0.75.+0.63).0.08(0.37)0.00(.1.00.+0.75).0.39(0.46).0.50(.2.50.0.00)p=0.21上段に平均値(標準偏差),下段に中央値(範囲)を示す.UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値.†:Wilcoxon順位和検定.図1フォローアップ期間中の片眼裸眼遠方視力と片眼矯正遠方視力の変化UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値(平均値±標準偏差).p値:Wilcoxon順位和検定.logMAR値-0.4-0.200.20.40.60.811.2術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後UDVACDVA0.58±0.400.02±0.16-0.06±0.060.14±0.24術前vs.手術1カ月後:p<0.01術前vs.手術1カ月後:p<0.01図2フォローアップ期間中の等価球面度数の変化平均値±標準偏差.p値:Wilcoxon順位和検定.等価球面度数(D)-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.53.0術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後-0.39±0.46術前vs.手術1カ月後:p=0.21-0.07±2.24図3フォローアップ期間を通じた片眼裸眼遠方視力(a)と片眼矯正遠方視力(b)の分布変化術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合logMAR値■0.0以下■0.1以下■0.3以下100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%abあたらしい眼科Vol.32,No.6,2015901(137)眼/49眼)であり,0.3以下は100%であった(図3b).3.QOL表2にNEIVFQ-25で評価したQOLを術前と手術1カ月後で比較した結果を示す.手術1カ月後に12の下位尺度のすべてにおいてスコア値の有意な改善がみられた(Wilcox-on順位和検定,いずれもp≦0.01).III考察裸眼遠方視力(logMAR値)の平均値±SDは手術1カ月後に0.02±0.16(範囲:.0.08.1.00)まで改善した.この結果から,青色光を透過する紫色光ブロックIOLであるZCB00Vの挿入眼では,視力の良好な予後が期待できることが示された.表1術前後の片眼視力および屈折度の臨床経過術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後術前vs.手術1カ月後の比較†UDVA0.58(0.40)0.52(.0.08.1.70)0.08(0.16)0.00(.0.08.1.00)0.02(0.14)0.00(.0.08.0.82)0.02(0.16)0.00(.0.08.1.00)p<0.01CDVA0.14(0.24)0.10(.0.08.1.30).0.01(0.11).0.08(.0.08.0.52).0.06(0.05).0.08(.0.08.0.15).0.06(0.06).0.08(.0.08.0.22)p<0.01等価球面度数(D).0.07(2.24)+0.25(.6.00.+4.63).0.10(0.35)0.00(.0.75.+0.63).0.08(0.37)0.00(.1.00.+0.75).0.39(0.46).0.50(.2.50.0.00)p=0.21上段に平均値(標準偏差),下段に中央値(範囲)を示す.UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値.†:Wilcoxon順位和検定.図1フォローアップ期間中の片眼裸眼遠方視力と片眼矯正遠方視力の変化UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値(平均値±標準偏差).p値:Wilcoxon順位和検定.logMAR値-0.4-0.200.20.40.60.811.2術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後UDVACDVA0.58±0.400.02±0.16-0.06±0.060.14±0.24術前vs.手術1カ月後:p<0.01術前vs.手術1カ月後:p<0.01図2フォローアップ期間中の等価球面度数の変化平均値±標準偏差.p値:Wilcoxon順位和検定.等価球面度数(D)-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.53.0術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後-0.39±0.46術前vs.手術1カ月後:p=0.21-0.07±2.24図3フォローアップ期間を通じた片眼裸眼遠方視力(a)と片眼矯正遠方視力(b)の分布変化術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合logMAR値■0.0以下■0.1以下■0.3以下100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%ab 表2NEI.VFQ25の12の下位尺度を用いて評価した術前後のQOL変化NEI-VFQ25下位尺度術前手術1カ月後p値†全体的健康感53.13(15.23)50.00(25.00.100.00)64.06(21.94)50.00(25.00.100.00)0.01全体的見え方55.63(17.40)60.00(20.00.80.00)91.25(10.08)100.00(80.00.100.00)<0.01目の痛み83.59(17.52)87.50(37.50.100.00)93.95(9.05)100.00(62.50.100.00)0.01近見視力による行動60.94(24.54)66.67(0.00.100.00)92.47(12.79)100.00(50.00.100.00)<0.01遠見視力による行動65.63(20.60)66.67(25.00.100.00)98.39(3.98)100.00(83.33.100.00)<0.01運転56.88(25.16)50.00(25.00.100.00)96.71(8.17)100.00(75.00.100.00)<0.01周辺視覚70.16(21.81)75.00(25.00.100.00)99.22(4.42)100.00(75.00.100.00)<0.01色覚87.10(12.70)75.00(75.00.100.00)100.00(0.00)100.00(100.00.100.00)<0.01見え方による社会生活機能82.81(17.32)87.50(25.00.100.00)100.00(0.00)100.00(100.00.100.00)<0.01見え方による自立75.78(24.99)75.00(25.00.100.00)99.46(2.99)100.00(83.33.100.00)<0.01見え方による心の健康69.73(23.12)68.75(25.00.100.00)100.00(0.00)100.00(100.00.100.00)<0.01見え方による役割制限76.56(24.75)81.25(25.00.100.00)99.19(2.67)100.00(87.50.100.00)<0.01上段に平均値(標準偏差),下段に中央値(範囲)を示す.†:Wilcoxon順位和検定(術前vs.手術1カ月後の比較).本研究で裸眼遠方視力と矯正遠方視力により評価したZCB00Vの視力予後は,従来タイプの着色IOLである青色光ブロックIOLについて過去に報告された予後評価の結果と同等であった12.15).加えて,非着色タイプの非球面IOLについて過去に報告された結果とも同等,もしくはそれらより良好な結果であった16,17).Baghiらは,TecnisZ9000(AbbottMedicalOpticsInc.USA)とAkreosAO(Bausch&LombInc.USA)の2種類の非球面非着色IOLで視力予後を比較し,各IOL挿入眼の手術3カ月後の裸眼視力(logMAR値)平均値がそれぞれ0.18,0.25であったと報告している16).これに対し,同じ2種類のIOLについてJohanssonらが行った比較検討では,手術10.12週後の裸眼視力(logMAR値)平均値についてTecnisZ9000で0.08,AkreosAOで0.11とより良好な結果が報告されている17).これらの既報の結果との比較から,ZCB00Vは非球面非着色IOLや青色光ブロックIOLと比べ,視力予後が同等,もしくはそれらより良好と考えられる.視力予後に加え,ZCB00Vの挿入が視覚に関連するQOLに及ぼす影響について,NEIVFQ-25を用いたアンケート調査により評価した.NEIVFQ-25は当初,各種の眼疾患に伴う視力低下がさまざまな日常行動に影響を及ぼすことにより,QOLにどう影響するかを測る目的で開発された11).その後の検証により,調査対象者の視力のレベルや健康状態によらず,信頼性・妥当性をもってQOLを評価可能な測定尺度として確立されている18).また近年は,調節型IOLや回折多焦点IOLといった各種のIOLを用いて白内障手術を施行した後のQOLの変化を評価する目的で,NEIVFQ-25が使用されている19,20).本研究では,NEIVFQ-25の12の下位尺度すべてで術後に有意な改善が認められ,そのなかでも平均値増加幅が比較的大きかった下位尺度が「運転」(術前ベースライン値:56.88,増加幅:39.8),「全体的見え方」(同:55.63,同:35.6),「遠見視力による行動」(同:65.63,同:32.8),「近見視力による行動」(同:60.94,同:31.5)であった.Espindleらは青色光ブロックIOLについて,白内障手術前後の視覚に関連したQOLの変化を,NEIVFQ25と同一の12の下位尺度をもち39項目から構成されるNEIVFQ-39を用いて調べた6).その結果,手術120.180日後に「全体的健康感」を除く11の下位尺度すべてでQOL(138) が有意に改善しており,平均値増加幅が比較的大きかった尺度は「運転」(術前ベースライン値:58.37,増加幅:31.17),「全体的見え方」(同:60.04,同:28.59),「近見視力による行動」(同:66.28,同:26.72)「遠見視力による行動」(同:68.89,同:26.17)と本研究の果と共通していた.本研究の観察期間は手術後1カ月間と短いため単純な比較はできないものの,青色光を透過する紫色光ブロックIOLであるZCB00Vは,青色光ブロックIOLと同様に術後の視覚に関連したQOLを改善させると考えられる.結論として,青色光を透過し紫色光.UVを遮断する紫色光ブロックIOLのZCB00Vは,白内障手術後早期の視機能改善において有効性と安全性を備えたIOLであり,従来タイプの青色光ブロックIOLと比較し,遜色ない臨床成績が期待できる.今後の検討課題に関しては,ZCB00Vでは,暗所視において重要度を増す青色光に対し高い分光透過率を示す8)ため,青色光ブロックIOLについて問題視されてきた暗所視でのコントラスト感度低下が起きにくいと予想される.したがって今後,ZCB00V挿入眼におけるコントラスト感度と色覚について検証することが必要と考えられる.また,ZCB00Vでは,患者の視機能低下につながる可能性があるグリスニングやsub-surfacenanoglistening(SSNG)が発生しにくい疎水性アクリル素材が用いられており21),本IOL挿入眼におけるグリスニングやSSNG発生についても検証が必要である.さらに,ZCB00Vの使用によって安定結(,)した長期予後が得られるかに関連して,IOLの.内安定,後.混濁(PCO)の検証も必須である.文献1)MainsterMA:Thespectra,classification,andrationaleofultraviolet-protectiveintraocularlenses.AmJOphthalmol102:727-732,19862)HendersonBA,GrimesKJ:Blue-blockingIOLs:acompletereviewoftheliterature.SurvOphthalmol55:284289,20103)GrimmC,WenzelA,WilliamsTetal:Rhodopsin-mediatedblue-lightdamagetotheratretina:effectofphotoreversalofbleaching.InvestOphthalmolVisSci42:497505,20014)TaylorHR,WestS,MunozBetal:Thelong-termeffectsofvisiblelightontheeye.ArchOphthalmol110:99-104,19925)DavisonJA,PatelAS:Lightnormalizingintraocularlenses.IntOphthalmolClin45:55-106,20056)EspindleD,CrawfordB,MaxwellAetal:Quality-of-lifeimprovementsincataractpatientswithbilateralbluelight-filteringintraocularlenses:clinicaltrial.JCataractRefractSurg31:1952-1959,20057)ZhuXF,ZouHD,YuYFetal:Comparisonofbluelight-filteringIOLsandUVlight-filteringIOLsforcataractsurgery:ameta-analysis.PLoSOne7:e33013,20128)MainsterMA:Violetandbluelightblockingintraocularlenses:photoprotectionversusphotoreception.BrJOphthalmol90:784-792,20069)TurnerPL,MainsterMA:Circadianphotoreception:ageingandtheeye’simportantroleinsystemichealth.BrJOphthalmol92:1439-1444,200810)YangH,AfshariNA:Theyellowintraocularlensandthenaturalageinglens.CurrOpinOphthalmol25:40-43,201411)StelmackJA,StelmackTR,MassotRW:Measuringlow-visionrehabilitationoutcomeswiththeNEIVFQ-25.InvestOphthalmolVisSci43:2859-2868,200212)Kara-JuniorN,EspindolaRF,GomesBAFetal:Effectsofbluelight-filteringintraocularlensesonthemacula,contrastsensitivity,andcolorvisionafteralong-termfollow-up.JCataractRefractSurg37:2115-2119,201113)LeibovitchI,LaiT,PorterNetal:Visualoutcomeswiththeyellowintraocularlens.ActaOphthalmolScand84:95-99,200614)MarshallJ,CionniRJ,DavisonJetal:Clinicalresultsoftheblue-lightfilteringAcrySofNaturalfoldableacrylicintraocularlens.JCataractRefractSurg31:2319-2323,200515)LandersJ,TanTH,YuenJetal:ComparisonofvisualfunctionfollowingimplantationofAcrysofNaturalintraocularlenseswithconventionalintraocularlenses.ClinExperimentOphthalmol35:152-159,200716)BaghiAR,JafarinasabMR,ZiaeiHetal:VisualOutcomesofTwoAsphericPCIOLs:TecnisZ9000versusAkreosAO.JOphthalmicVisRes3:32-36,200817)JohanssonB,SundelinS,Wikberg-MatssonAetal:VisualandopticalperformanceoftheAkreosAdaptAdvancedOpticsandTecnisZ9000intraocularlenses:Swedishmulticenterstudy.JCataractRefractSurg33:1565-1572,200718)HymanLG,KomaroffE,HeijlAetal:Treatmentandvision-relatedqualityoflifeintheearlymanifestglaucomatrial;fortheEarlyManifestGlaucomaTrialGroup.Ophthalmology112:1505-1513,200519)RamonML,PineroDP,Blanes-MompoFJetal:Clinicalandqualityoflifedatacorrelationwithasingle-opticaccommodatingintraocularlens.JOptom6:25-35,201320)AlioJL,Plaza-PucheAB,PineroDPetal:Opticalanalysis,readingperformance,andquality-of-lifeevaluationafterimplantationofadiffractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:27-37,201121)ColinJ,PraudD,TouboulDetal:Incidenceofglisteningswiththelatestgenerationofyellow-tintedhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:1140-1146,2012***(139)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015903