眼科サマーキャンプ井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学●サマーキャンプ開催にいたる経緯眼科サマーキャンプは,初期臨床研修制度が導入された後,地方に残る医師が減少しているだけでなく,眼科医をめざす人が激減していることを受けて,その減少に歯止めをかけるべく企画されたプロジェクトである.運営の核となったのが,日本眼科啓発会議第三分科会である.この日本眼科啓発会議は日本眼科学会が日本眼科医会と協議し,2008年に立ち上げたものである.これには眼科医療機器協会,日本コンタクトレンズ協会,日本眼内レンズ協会,眼科用剤関連企業からの代表も委員として参加し,眼科医療の社会貢献度の評価,記者発表会を通じての啓発活動,雑誌などのメディアを利用した国民への啓発活動を行ってきた.その中で第三分科会は眼科志望者を啓発するDVD作成などの,学生・研修医リクルート事業を行ってきたが,日本眼科啓発会議が第一期の活動を終了し,第二期に入るにあたって,2011年10月にメンバーを一新し,眼科サマーキャンプの企画・運営に携わることになったのである.私はその第三分科会の委員長としてこの事業に関わることとなった.そして,委員の諸先生方や日本眼科学会常務理事会の大橋裕一,大鹿哲郎,小椋祐一郎3教授の多大のご助言・ご協力を得て,昨年(2012年)8月4.5日に,箱根の芦ノ湖畔の「ザ・プリンス」で「第1回眼科サマーキャンプin箱根」を行うことになったわけである.●第1回眼科サマーキャンプ第1回目は,いきなり多数の参加者で行うことはむずかしいとの判断から100名の定員で募集を行った.最初は応募者が少なかったが,締め切り直前に申し込みがかなりあり,結果的に95名の参加を得て行うことができた(5年・6年次学生33名,初期研修医62名).会の全体のテーマとして,「眼科力(メジカラ)お見せしましょう」というのを設けて,いろいろな体験コーナーや眼科の魅力をアピールするさまざまな講演を行った.当初は,眼科疾患などに関する講義的なものや,眼科手術を受けた有名人による講演などの案もあったが,(103)時間的な制約と,後者については,その有名人目当てに眼科に関心のない人がきて,結局実効があがらないのではないかという懸念から見送りとなった.体験コーナーでは参加者を3つのグループに分け,3つの体験コーナーを60分ずつ回ってもらった.検査機器・視覚障害体験コーナーでは後眼部OCT,前眼部OCT,広角眼底カメラで自分の目を撮ってもらい,その画像をUSBに入れたものを全員にプレゼントした.また,視覚障害者がどのような見え方をしているか,視覚障害者シミュレーションレンズをつけて体験してもらった.また,3D手術実見コーナーでは3D映像で硝子体手術・角膜手術などを解説入りでみてもらった.60分で行うにあたってもっともむずかしかったのは,白内障手術体験コーナーだったが,豚眼ではとても時間的に無理と考えられたため,飽浦淳介先生の開発された白内障手術模型眼である「机太郎」を用いて,CCCとIOL挿入のみを行うドライラボと核処理と皮質吸引のみを行うウェットラボに分けて,それぞれ8セットずつ用意し,1人のインストラクターが2人を受け持ち,計16人のインストラクターで32人を教えるという形で行った.「机太郎」は一連の白内障の過程をすべて行わなくても部分練習ができるのが特徴であり,そのおかげで,大きな破綻なく,無事にこの体験コーナーを満喫してもらうことができた.参加者の一番人気もこのコーナーであった.講演については,話がうまい先生方を全国から集めて,いろいろな側面から眼科の重要性を十分にアピールしてもらった.眼科医である自分たちも改めて「眼科はいい」と思わせる魅力ある講演ばかりであった.とくに,高橋政代先生の講演はiPS細胞による再生医療が世界ではじめて現実のものとなるのが眼科であること,しかも日本でそれが実現されるであろうということが参加者に伝わり,「眼科がすごい」ということが強く印象づけられた.懇親会は,若干会場が広いこともあって,最初は少しかたい雰囲気であったが,インストラクターをしてくれた若い先生方のスピーチが乗りのよいものばかりで,そのおかげでフォーマルな感じがなくなって,われわれとあたらしい眼科Vol.30,No.11,201315950910-1810/13/\100/頁/JCOPY参加者に一体感が生まれる感じの盛り上がった懇親会になり,そのまま夜の二次会(グループ・セッション眼科の本音力:メヂカラintimate)につながっていった.サマーキャンプの最初と最後に「ここが知りたい眼科の魅力」というセッションを設けて,眼科トリビアクイズなども行ってリラックスしてもらったが,そのなかでマルチアナライザーで参加した人たちの意見を聞いてみたのだが,なかで印象的であったのは,「あなたが眼科医になることを迷う原因は何ですか?」という問いに対して,最初のマルチアナライザーコーナーでは,「全身が診られないこと(聴診器を捨てること)」48%,「眼科医が余っているとの風聞」13%,「不器用なので手術がマスターできるかどうか心配」10%という結果であったのが,最後のマルチアナライザーコーナーではそれぞれ31%,2%,2%という結果となった.つまり,このサマーキャンプを行うことによって,「眼科医が余っているとの風聞」が誤っていることはかなり理解してもらえ,また白内障手術体験をとおして自分にも手術ができるとの自信をもってもらえることができたようなのだが,問題は,減らせたものの強固になくならない「全身が診られないこと」という項目.これは現在の医学教育が学生のときから初期研修医に至るまで,一貫してgeneralistをめざす教育を受けていることに起因していると思われる.このgeneralist指向を打ち破るのはなかなか容易ではないが,だからこそこのようなサマーキャンプを行わなければならないといえる.●第2回眼科サマーキャンプ第1回は,幸い満足度98%と参加者に大変好評で,予算をオーバーしたという問題点があるものの,まずは成功といってよい手応えがあった.これを受けて,第2回も行う運びとなったが,箱根が関東圏以外の人には遠いこと,会場として使用した「ザ・プリンス」は予算がかかること,参加者の人数を増やすにはもっと大きな会場を必要とすることなどから,会場を変更する必要が生じてきた.そこで第2回の会場の候補地として千葉県木更津市のかずさアカデミアパークが浮かびあがった.千葉県木更津市は,羽田空港から直接アクアラインを使って対岸へわたればよいので,渋滞さえなければ1時間ほどで着くことができ,箱根よりもはるかに近い.しかも,施設自体は驚くほど立派で,併設されたホテルもオークラで,箱根の会場とそれほど遜色がない.周りに1596あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013何もないのが欠点だが,逆に参加した人は行くところがないので,サマーキャンプに専念できる.かくして,「第2回眼科サマーキャンプin木更津」を今年(2013年)の7月27.28日に開催する運びとなった.ただ木更津には箱根のような場所としての魅力がない.そこで,「in木更津」と名をうたず,ポスターにも開催地として小さく書くにとどめることにした.募集人数だが,昨年は100名で行ったが,もっと人数を増やさないと,眼科医増加にはつながらない.しかし,一挙に増やすと,うまく運営できなくなり,かえって評判を落とす可能性もある.そこで第2回は150名で募集することとした.ところが募集がはじまると,かなり早い段階で150名を超えてしまい,最終的には180名を超える応募があり,サマーキャンプの認知度があがっていることが実感された.予定通り150名でとるか,あるいは応募してきた人をすべて受け入れるか,いろいろ議論があったが,会場のキャパシティとして可能であったことから,希望者はすべて受け入れることとなった.その後キャンセルなどもあって,結果的に171名の参加を得て行うことができた(5年・6年次学生60名,初期研修医111名).プログラムとしては人数が増えた分,体験コーナーの時間がどうしても長くなるため,1日目はすべて体験コーナーとし,2日目に講演をすべて集める形で行った.体験コーナーは45名で4グループという配分になったため,とくに人気の高い白内障手術については,ドライラボとウェットラボをそれぞれ1時間ずつとする形をとった.しかし,1人のインストラクターに5名がつくかたちとなるため,1人あたりの時間配分が10分と短く,たとえばウェットラボでの核割りが貫徹できない人も散見されたようである.検査機器体験コーナーは昨年の3つに加えてスキャンパターンレーザーが追加され,どうしても1人あたりの時間が短くなるきらいがあるものの,大きな混乱もなく施行することができた.もう1つのコーナーは3D手術実見と視覚障害体験とビジョンバン視察の3つを組み合わせた.被災地の眼科診療のために作られた日本版ビジョンバンには,最新のOCTまで搭載されており,被災地でこんなに高度な医療ができる体制を眼科がもっていることに対する驚きの声が参加者から聞かれた.講演は昨年のメンバーと少し組み替えて行った.昨年(104)図1第2回眼科サマーキャンプ白内障手術体験コーナー図2第2回眼科サマーキャンプ全体写真同様,いずれ劣らぬすばらしい内容であったが,昨年に比べて,研究にやや話の重点が行きがちなところがあり,「ワークライフバランス」を求めて眼科を考えている人には,「眼科が進みすぎていて,自分にはついていけない」との感想をもった人がいた可能性もある.「眼科がすばらしい」というのをアピールするのと「眼科は自分に合っている」と思わせるのとの間にはギャップがあるところが,勧誘のむずしいところだと感じた.懇親会は,人数が増えたこともあって,広い会場を埋め尽くすような感じで,大変な賑わいであったが,夜の二次会は昨年のような大きな場所がとれなかったために,場所がいくつかに分かれてしまったことと,参加者に比べてインストラクターの人数が少なかったことが重なり,場所によっては参加者だけになってしまう状況が生じてしまった.今後改善を要する課題だろう.マルチアナライザーコーナー「ここが知りたい眼科の魅力」では,参加者の反応が昨年に増してよかった.1日目の「眼科は第1志望ですか」という質問に対して「はい」と答えたのが53%と昨年の75%と比べて少なく,今年は,眼科とすでに心に定めている人だけでなく,まだ迷っている人を広く集めることができていると考えられた.ただ,2日目に「第一志望は眼科に決定しましたか?」という質問に対して「はい」と答えたのが55%であり,2日間の努力の末,2%しか上がらなかったのは少し残念であった.また,「あなたが眼科医になることを迷う原因は何ですか?」という問いで「不器用なので手術がマスターできるかどうか心配」8%が,2日目の最後も依然として8%という結果となった.これは今回,白内障手術コーナーの1人あたりの時間が少なかったことと関係しているのではないかと思われ,次回へ向けての課題といえる.2年目ということで,1つ印象的であったのはインストラクターのなかに,昨年の参加者の人がいたことで,サマーキャンプ参加経験者が,サマーキャンプインストラクターの主たる戦力になる日がくれば,非常によい循環が生じるのではないかと思われる.来年も引き続き,サマーキャンプを行う予定であるが,眼科医の人数を増やすことは,日本の眼科の発展の根幹にかかわることなので,気をひきしめて取り組んでいきたい.先生方にもぜひこのサマーキャンプのことをよく知っていただき,周りの学生・初期研修医に参加を勧めていただきたいと思う.☆☆☆(105)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131597