あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413450910-1810/14/\100/頁/JCOPYた合併症がある一定の割合で避けられず,保存強膜は入手困難な施設が大多数であるといった問題点がある.また,挙筋のhinge切開,Muller筋切除や眼瞼全層切開は非常に侵襲の大きな手術であるうえに,後に眼瞼下垂手術など再手術を要する場合は挙上困難となる可能性がある.筆者らは,他院での眼瞼下垂の術後に過矯正により兎眼となった症例に対する上眼瞼延長術を行う際に,眼窩隔膜を翻転することで挙筋を延長する方法を用いた.この症例をきっかけに,顔面神経麻痺による兎眼,眼瞼下垂術後の過矯正,甲状腺眼症による上眼瞼後退に対して,眼窩隔膜翻転法を用いて簡便で安全な上眼瞼延長術を適応してきた4).過去の報告をみると,2002年にLaiらが上眼瞼後退に対する1例を報告している5)..眼窩隔膜翻転法を用いた上眼瞼延長術の実際ここでは顔面神経麻痺による兎眼に対する眼窩隔膜翻転法を用いた上眼瞼延長術の実際を示す.新しい治療と検査シリーズ(97).バックグラウンド上眼瞼延長術は,兎眼や上眼瞼後退に対する手術治療であり,適応疾患としては顔面神経麻痺による麻痺性兎眼,外傷後などの瘢痕性兎眼,眼瞼下垂手術による過矯正の修正,甲状腺眼症による上眼瞼後退などがある.とくに,近年の眼形成手術への関心の高まりとともに,眼瞼下垂の手術が盛んに行われるようになっているが,眼瞼下垂術後に上眼瞼延長術を要する可能性がある状態として,過矯正や兎眼による角膜障害があげられる..眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術これまでに報告されている上眼瞼延長術には,挙筋または挙筋とMuller筋を後転し,糸のみで瞼板と連続させる術式1),ゴアテックスRや保存強膜をスペーサーとして用いる術式2),挙筋のhinge切開による延長術,Muller筋の切除,眼瞼全層切開3)などがある.しかし,ゴアテックスRは異物であるがゆえに感染・露出といっ220.眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術図1眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術①顔面神経麻痺による兎眼.②瞼板の露出.③Muller筋と結膜の.離.④眼窩隔膜を上流で切開.⑤眼窩隔膜の翻転による延長.⑥挙筋およびMuller筋の内側・外側を切開.⑦翻転した眼窩隔膜を瞼板上縁に固定.⑧手術終了時,兎眼改善.①②③④⑤⑥⑦⑧プレゼンテーション:渡辺彰英京都府立医科大学眼科コメント:田邉吉彦社会保険中京病院眼科あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413450910-1810/14/\100/頁/JCOPYた合併症がある一定の割合で避けられず,保存強膜は入手困難な施設が大多数であるといった問題点がある.また,挙筋のhinge切開,Muller筋切除や眼瞼全層切開は非常に侵襲の大きな手術であるうえに,後に眼瞼下垂手術など再手術を要する場合は挙上困難となる可能性がある.筆者らは,他院での眼瞼下垂の術後に過矯正により兎眼となった症例に対する上眼瞼延長術を行う際に,眼窩隔膜を翻転することで挙筋を延長する方法を用いた.この症例をきっかけに,顔面神経麻痺による兎眼,眼瞼下垂術後の過矯正,甲状腺眼症による上眼瞼後退に対して,眼窩隔膜翻転法を用いて簡便で安全な上眼瞼延長術を適応してきた4).過去の報告をみると,2002年にLaiらが上眼瞼後退に対する1例を報告している5)..眼窩隔膜翻転法を用いた上眼瞼延長術の実際ここでは顔面神経麻痺による兎眼に対する眼窩隔膜翻転法を用いた上眼瞼延長術の実際を示す.新しい治療と検査シリーズ(97).バックグラウンド上眼瞼延長術は,兎眼や上眼瞼後退に対する手術治療であり,適応疾患としては顔面神経麻痺による麻痺性兎眼,外傷後などの瘢痕性兎眼,眼瞼下垂手術による過矯正の修正,甲状腺眼症による上眼瞼後退などがある.とくに,近年の眼形成手術への関心の高まりとともに,眼瞼下垂の手術が盛んに行われるようになっているが,眼瞼下垂術後に上眼瞼延長術を要する可能性がある状態として,過矯正や兎眼による角膜障害があげられる..眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術これまでに報告されている上眼瞼延長術には,挙筋または挙筋とMuller筋を後転し,糸のみで瞼板と連続させる術式1),ゴアテックスRや保存強膜をスペーサーとして用いる術式2),挙筋のhinge切開による延長術,Muller筋の切除,眼瞼全層切開3)などがある.しかし,ゴアテックスRは異物であるがゆえに感染・露出といっ220.眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術図1眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術①顔面神経麻痺による兎眼.②瞼板の露出.③Muller筋と結膜の.離.④眼窩隔膜を上流で切開.⑤眼窩隔膜の翻転による延長.⑥挙筋およびMuller筋の内側・外側を切開.⑦翻転した眼窩隔膜を瞼板上縁に固定.⑧手術終了時,兎眼改善.①②③④⑤⑥⑦⑧プレゼンテーション:渡辺彰英京都府立医科大学眼科コメント:田邉吉彦社会保険中京病院眼科図1①に示すように兎眼のある症例である.重瞼切開から眼輪筋を上下に.離した後,瞼板を露出する(図1②).つぎに挙筋およびMuller筋を瞼板および結膜から.離し(図1③),眼窩隔膜を上方レベルで切開する(図1④).つぎに眼窩隔膜を翻転し,挙筋およびMuller筋の延長を図る(図1⑤).挙筋およびMuller筋の内側と外側を切開して後転しやすくする(図1⑥).翻転した眼窩隔膜の先端を瞼板上縁に固定し,術中定量で兎眼の改善を確認した後,瞼板への固定を追加する(図1⑦).本症例では翻転した眼窩隔膜のみで十分な延長効果が得られ,兎眼は改善した(図1⑧)..本方法の利点眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術は,感染や露出といった可能性のある異物を必要とせず,保存強膜のような入手の手間もない.また,挙筋切開や眼瞼全層切開,Muller筋切除による方法と比較して侵襲が少ないうえ,簡便である.ただし,個人の解剖学的問題(眼窩隔膜が非常に薄い)や術後の瘢痕などで本方法が困難な症例もありうるため,本方法はすべての上眼瞼延長術に適応となるわけではないことを理解したうえで手術に臨む必要がある.文献1)MouritsMP,SasimIV:AsingletechniquetocorrectvariousdegreeofupperlidretractioninpatientswithGraves’orbitopathy.BrJOphthalmol83:81-84,19992)MouritsMP,KoornneefL:LidlengtheningbysclerainterpositionforeyelidretractioninGraves’ophthalmopathy.BrJOphthalmol75:344-347,19913)HintschichC,HaritoglouC:Fullthicknesseyelidtranssection(blepharotomy)foruppereyelidlengtheninginlidretractionassociatedwithGraves’disease.BrJOphthalmol89:413-416,20054)WatanabeA,ShamsPN,KatoriNetal:Turn-overorbitalseptalflapandlevatorrecessionforupper-eyelidretractionsecondarytothyroideyedisease.Eye27:1174-1179,20135)LaiCS,LinTM,TsaiCCetal:Anewtechniqueforlevatorlengtheningtotreatuppereyelidretraction:theorbitalseptalflap.AestheticPlastSurg26:31-34,2002.「眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術」へのコメント.上眼瞼後退症の矯正には,スペーサーを使う方法と家組織に勝る素材はない.ただ,従来使われてきた自挙筋自体に操作を加える方法があり,後者には,さら家組織は大腿広筋膜,硬口蓋粘膜などであり,いずれに自家組織を使う場合と人工物や同種移植材を利用すも採取に余計な手術が必要である.しかし,眼窩隔膜る場合がある.各々に利点や欠点があるが,挙筋自体であればextrasurgeryはほとんど必要ない.これはに操作を加える方法は過矯正になった場合,また挙筋大きな利点である.ただし,眼窩隔膜の支持力は大腿に手を加えねばならないが,スペーサーなら,挿入し広筋膜,硬口蓋粘膜に比べ弱いので定量性が問題であたスペーサーを適当に切除すれば良いので比較的簡単ろう.今後,症例を積み重ねて,眼窩隔膜である程度に矯正できる.つぎにスペーサーに関していえば,自の定量性が確立されれば非常に有力な方法となる.☆☆☆1346あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(98)