特集●角膜診療MinimumRequirementsあたらしい眼科31(3):307.312,2014特集●角膜診療MinimumRequirementsあたらしい眼科31(3):307.312,2014細隙灯顕微鏡の使い方と角膜診療の手順HowtoUseaSlitLampMicroscopeforOcularSurfaceExamination鈴木智*はじめに日常診療において,細隙灯顕微鏡(以下,スリットランプ)を用いた検査は不可欠である.スリットランプを用いることで,前眼部.中間透光体.眼底まで診察が可能である.スリットランプを用いた観察において,的確に,かつ見落としなく所見を捉えることができれば,「眼表面において何が起こっているのか」を把握し,「何が原因となっているのか」を推測し,「どのように治療すればいいのか」を決定することができる.しかしながら,ただ漫然とスリットランプを覗いているだけでは所見を捉えきることはできない.所見が捉えられなければ,原因はわからないし,治療も上手くいかず,慢性化すればますます所見が複雑になる,といった悪循環に陥ることもある.そこで,本稿では基本的なスリットランプの使い方について解説し,角膜診療を行う際に眼瞼を含めた眼表面およびの所見を確実に捉える手順について述べたい.Iスリットランプの使い方と手順1.Step0診察は患者が診察室に入室して来たときに始まっている.スリットランプで角膜を観察する以前に,肉眼で患者の眼部.顔面.前頭部に異常がないかをまず確認しておく必要がある(図1a,b).ついで,問診をしている際に眼表面の異常に伴う症状ab図1蜂窩織炎疑いで紹介された症例a:上眼瞼の発赤・腫脹が著しい.b:肉眼で,右前額部.前頭部の発赤が明らかである.眼部帯状疱疹であった.があるかを確認する.すなわち,「眼が痛い」,「かゆい」,「ごろごろする」,「涙が出る」,「眼が開きにくい」,「目やにが出る」,「眼が赤い」,「まぶしい」,「かすんで見にくい」等々.2.Step1スリットランプによる眼表面の診察は,最初から角膜の病変部位を強拡大・スリット光で観察するのではなく(図2a),必ず弱拡大で拡散光を用いてスタートする.スリットランプの光源の前にスリガラスのフィルターをセットすることにより,照射光を散乱させる(拡散光をつくる)ことができる(図2b).*TomoSuzuki:京都市立病院眼科〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町1番地の2京都市立病院眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(3)307abab図2角膜周辺部の細胞浸潤を強拡大・スリット光で観察した場合(a)とその同一症例を弱拡大・拡散光で観察した場合(b)涙液に混在する化粧品の粉角膜実質混濁角膜上皮下混濁角膜表層血管侵入図3スリット光による涙液層の観察スリット光で最初に切り出せる切片は涙液層である.ここでは,涙液に化粧品の粉が混在していることが捉えられる.こうすることで,眼表面の炎症(球結膜充血)の程度を捉え,眼瞼と眼表面の異常とその位置関係が大まかに把握できる.特に眼瞼や眼瞼結膜の観察はスリット光では詳細な観察が困難であり所見を見落としやすいので,拡散光を用いる観察をルーチン化する必要がある.また,患者の訴えが片眼のみである場合,最初に僚眼から診察をスタートすると患眼の異常を捉えやすい.308あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014図4スリット光による角膜の観察スリット光による観察で角膜混濁が角膜のどの層に存在するかを捉えることができる.また,侵入している血管が角膜内のどの層かを捉えることもできる.3.Step2眼表面を診察する際,スリット光を用いて異常がどの部位に,角膜であればどのような深さで存在しているかを確認する.すなわち,スリット光を斜め方向から眼表面に照射してできた光学切片を生体顕微鏡で観察する,いわゆる「直接観察法」を行うのである.スリット光で観察できる一番手前の層は涙液である.涙液メニスカスの確認,および涙液の厚みや異物の混在(4)図5角膜に細胞浸潤をほとんど伴わない潰瘍×25倍.スリット光で観察すると,潰瘍底の厚みは角膜厚の1/4くらいしかないことがわかる.図6図2と同一症例のフルオレセイン染色所見拡散光で観察した際の細胞浸潤に一致した染色所見の他に点状染色も認められる.ab図7角膜輪部に浮腫と上皮下浸潤を認める症例(a)とその同一症例のフルオレセイン染色所見(b)フルオレセイン染色では角膜輪部の浮腫に一致して樹枝状病変を認める.単純ヘルペスウィルスによる結膜炎であった.などの確認が可能である(図3).ついで,角膜の観察は,スリット光の当て方(幅や明るさ)を変化させ,ピントの位置を徐々に奥へと進めていくことで,角膜の異常が,上皮(あるいは上皮下)Bowman膜,実質(浅層か深層か),Descemet膜,内(,)皮のどこに異常があるのかを的確に捉えることができる(図4).また,角膜の厚みを捉えることもできる(図5).さらに,熟練すれば,鏡面法により角膜内皮細胞の大きさを,徹照法により角膜内皮面や上皮面の微細な異常を把握することができる.前房では,前房内の炎症細胞の有無や温流の状態を捉(5)えることができる.スリット光を短くすることで(1.2mm)前房内のフレアを捉えることも可能である.眼表面の炎症所見の重症度の判定にも重要なのが前房の観察である.4.Step3フルオレセイン染色を用いて,眼表面上皮の異常の部位や重症度を確認する.以前はブルーフィルターを用いて行う観察が主流であり,角膜障害を確認することは可能であったが,球結膜障害の観察はその自発蛍光と強い反射のため困難であった.現在はブルーフリーフィルタあたらしい眼科Vol.31,No.3,2014309abab図8図2と同一症例の上眼瞼縁例(a)と上眼結膜(b)a:マイボーム腺開口部の閉塞,開口部周囲の発赤・腫脹を認める.b:眼瞼を翻転することで,マイボーム腺に沿った炎症の有無やその範囲を捉えることができる.図102,4,8,10時の角膜輪部にフリクテンを認めた症例図9図2と同一症例角膜の病変とその延長線上のマイボーム腺炎が対応していることが明らかである.つまり,この症例では,角膜の病変を治療するにはマイボーム腺の治療も同時に行わなければならない.ーを用いることで,球結膜からの自発蛍光を抑制し,角膜のみならず球結膜の異常も詳細に観察できるようになってきた.そのため,フルオレセイン染色によって角膜上皮障害の重症度判定が可能であるだけでなく(図6),球結膜の異常を捉えることも可能である(図7a,b).5.Step4眼瞼縁(特に睫毛根部やマイボーム腺開口部)の詳細な観察と,眼瞼を翻転して眼瞼結膜側からマイボーム腺310あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014を含めた炎症所見の有無を確認しておくことが重要である(図8a,b).6.Step5最後にもう一度,眼表面の病変部と眼瞼の病変との関連について確認する(図9).なお,Step0.5のいずれにおいても際立った異常がないにもかかわらず,不正乱視が存在すると考えられる場合(たとえば,円錐角膜疑いや屈折矯正術後),角膜形状解析を念頭において検査を進める.II眼表面と眼瞼縁眼表面の病変と眼瞼,特に眼瞼縁の病変は密接に関連(6)abab図113~4時の上皮下細胞浸潤(a)と2時の上皮下細胞浸潤(b)aは,角膜輪部に平行な透明帯(lucidinterval)を認めることから感染アレルギーによるものと推測できる(カタル性角膜潰瘍).bは,浸潤巣が円形で,スリット光で観察すると上皮下細胞浸潤は円形に拡大していく傾向が捉えられることから感染症であることが推測できる(CNS感染症).a,bともに眼瞼縁に存在するブドウ球菌が原因となっている可能性を推測し,治療する.abc図12霰粒腫(a)とマイボーム腺梗塞(b),および脂腺癌(c)している.特に,眼瞼縁が角膜と接触する,2時,4時,8時,10時の位置の角膜に異常を認めたら,眼瞼縁の異常を確認することは必須である.図10は,まさにこの4カ所の角膜輪部にフリクテンを認めた症例である.図11のように,角膜の4時(a),2時(b)に上皮下細胞浸潤を認める場合でも,aは,角膜輪部に平行な透明帯(lucidinterval)を認めることから感染アレルギーによるものと推測できるのに対し,bは,浸潤が円形でスリット光による観察では上皮下細胞浸潤は放射状に拡大していく様子が捉えられることから感染症であることが推測できる.a,bともに眼瞼縁に存在するブドウ球菌が原因となっている可能性を推測し治療を行う.感染アレルギーと考えれば抗菌薬とともに低濃度ステロイドを併用し,感染と考えればまずは抗菌薬中心の治療を行う,という具合に治療方針は少し異なるが,重要なこと(7)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014311①⑥①⑥②③⑤④図13眼瞼および眼表面の観察の手順①弱拡大・拡散光で観察をスタート〔眼表面の炎症の程度,角膜病変の部位,眼瞼(縁)の炎症の有無などの確認〕.②角膜病変の深さ,程度をスリット光で観察.③フルオレセイン染色で角膜病変の位置,重症度の確認.④眼瞼(縁),特にマイボーム腺開口部周囲の観察.⑤眼瞼結膜を翻転して炎症の部位,広がり,程度を確認.⑥角膜病変と眼瞼縁の異常(この場合はマイボーム腺炎)の関連を確認.は眼瞼縁に存在するブドウ球菌をきっちりと減菌するた能性も考え,注意深い観察が必要である.めに抗菌薬中心の治療を行うことである.図13にスリットランプを用いた眼表面の観察の手順図2のような症例は,図8のように所見を捉えれば,をまとめた.眼表面の異常は,近接しているマイボーム角膜病変はマイボーム腺炎と密接に関連していると考え腺を含めた眼瞼縁の異常と密接に関連していることが多られる.すなわち,マイボーム腺内で増殖しているであく,本稿が日常診療の一助となれば幸いである.ろうと考えられる細菌をターゲットとした抗菌薬治療を行うことが,角膜病変の治療につながるという考え方が文献重要である.このように治療すれば再発を免れることも1)眞鍋禮三,木下茂,大橋裕一(編集):角膜クリニック(初できる.版),医学書院,1990また,眼瞼縁の隆起性病変をみた場合,若年者であれ2)木下茂,外園千恵,小泉範子(編集):スリット所見で診る角膜疾患80,メディカルビュー,2008ば霰粒腫(図12a)やマイボーム腺梗塞(図12b)が原因であることが多いが,高齢者では脂腺癌(図12c)の可312あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(8)