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硝子体手術のワンポイントアドバイス 135.眼内レンズ毛様溝逢着術後の網膜剥離(中級編)

2014年8月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載135135眼内レンズ毛様溝縫着術後の網膜.離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに眼内レンズ(以下IOL)毛様溝縫着術については本シリーズ42「眼内レンズ毛様溝縫着術」(初級編)でも記載した.IOL毛様溝縫着術は強膜通糸など手術手技の煩雑さに加えて,硝子体への侵襲が大きくなるため網膜.離の発症率も高い.●IOL眼内レンズ毛様溝縫着術後の網膜.離は難治例が多い筆者らは過去にIOL毛様溝縫着術後の裂孔原性網膜.離の臨床的特徴につき検討した1).毛様溝縫着術より網膜.離発症までの期間は平均81.5日で,網膜.離発症時の前眼部所見は,散瞳不良,IOL偏位(図1),IOL後面のフィブリン析出などが多くみられた.網膜裂孔の発生部位は赤道部が多かったが,通常の無水晶体眼網膜.離にみられる最周辺部裂孔もみられ,前眼部の所見と相まって術前の裂孔検出が困難な症例が多い傾向にあった.また,IOL毛様溝縫着術時の縫合針による網膜の直接傷害が原因と考えられる裂孔もみられた.これは他院の手術例で詳細は不明だが,おそらく極端に低眼圧の状態で無理に強膜通糸を施行したため,誤って対側の網膜を損傷した可能性が高い.加えて,角膜内皮障害も強い症例や増殖性硝子体網膜症に進行している症例(図2)も多く,通常の裂孔原性網膜.離と比較して難治例が多い傾向にあった.●網膜.離に対する術式強膜バックリング手術で治癒できる症例もあるが,通常は硝子体手術を必要とすることが多い.散瞳不良例に対してはアイリスリトラクターによる瞳孔形成を行い,硝子体を可能な限り周辺部まで切除する.IOLの偏位が図1眼内レンズ偏位例眼内レンズが大きく偏位しており,眼内の炎症も高度であった.硝子体手術中の視認性確保のために眼内レンズを摘出した.図2増殖性硝子体網膜症併発例初回の白内障手術で3時間を要した後,網膜.離を発症したため紹介された.硝子体出血を併発しており眼底透見不良.眼底は増殖性硝子体網膜症に進行していた.高度な症例では,強膜弁を開放して毛様溝縫着糸を切断し,IOLを摘出する必要がある.IOL毛様溝縫着術後,長期間経過している症例ではIOLループや縫合糸が周囲組織と癒着しているため,強膜弁下の糸を切断するだけでは摘出できないことが多い.このような場合には,眼内からIOLループ先端を硝子体剪刀で切断するなどの処置が必要である.また,IOLを温存した場合でも,液空気置換時に多くの症例でIOL表面に結露が生じたり,空気が前房内に流入し,眼底像が極端に縮小するなど,視認性の確保に苦慮することも多い.●IOL毛様溝縫着術に関する注意点白内障手術時に後.破損を生じIOL毛様溝縫着術を施行する際には,丁寧な前部硝子体切除を行い,盲目的な操作を避けて,侵襲の少ない術式で行う必要がある.IOL毛様溝縫着術に習熟していない術者は,無理をせず,いったん水晶体切除のみで手術を終え,熟練者に依頼した方が無難である.また,IOL毛様溝縫着術を施行した症例では,網膜.離の早期発見のためにも,術後の厳重な経過観察が重要である.文献1)伊東文,植木麻理,南政宏ほか:眼内レンズ縫着術後の裂孔原性網膜.離.眼科手術16:219-221,2003(95)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411750910-1810/14/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 164.糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術適応を3次元画像解析から考える

2014年8月31日 日曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第164回◆眼科医のための先端医療山下英俊糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術適応を3次元画像解析から考える阿部さち(山形大学医学部眼科学講座)はじめに糖尿病黄斑浮腫形成の機序には種々の原因が複雑に関与し合っていると考えられています.網膜血管内皮細胞の障害やそれに伴う毛細血管瘤からの漏出,網膜色素上皮のポンプ機能の異常,高血圧に伴う網膜血管内静水圧の上昇による黄斑部の浮腫促進,硝子体内への血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)やIL-6などの炎症性サイトカインの貯留,炎症のケミカルメディエーターの貯留による網膜・硝子体細胞の機能の制御異常,黄斑上への膜形成による垂直方向への牽引力などがあります.われわれは,糖尿病黄斑浮腫の患者さんを診た場合,この患者さんの浮腫形成に,今,どの因子がより悪影響を及ぼしているかを見きわめ,それに対処してく必要があります.具体的には,浮腫の原因となるような漏出を認める網膜細血管瘤を検出できれば,それに対して直接光凝固を行います.色素上皮のある部分からの漏出であればその部分に格子状光凝固を行います.増殖網膜症の合併や浮腫遷延を認めた場合には,炎症の機序を考えステロイドや抗VEGF抗体を使った薬物投与を行います.糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術現在の糖尿病黄斑浮腫の治療で最も侵襲的である硝子体手術に関しては,その適応が曖昧であり,その治療の特徴から他の治療で無効な場合に行われる傾向にあるのが現状ではないでしょうか.とくに昨今の欧米では抗VEGF抗体が万能であるかのような風潮もあり,海外では保険診療の体制の観点からも,あまりメジャーな治療ではなくなりつつあります.しかし,糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術は日本で多く行われ,日本の先生方がたくさんのデータを出されてきたという背景があります1.3).実際に日常診療でも効果の持続性があり,一定の効果が得られる治療として,硝子体手術は必要なツールと考えられます.牽引なし牽引あり表面は平滑微細な皺襞あり牽引あり図1糖尿病黄斑浮腫のOCT分類従来の断層像による牽引のある/なしの2群への分類を,セグメンテーション画像を使うことで,牽引のないもののなかから網膜表面に微細な皺襞を要する症例を分類できる.(文献6より改変して引用)(91)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411710910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図2網膜表面に皺襞のある症例における硝子体手術前後のOCT変化内境界膜.離を行うと,網膜浮腫が軽減するだけでなく,網膜表面の微細な皺襞も消失している.(文献6より改変して引用)硝子体手術の適応の検討筆者らは,現状ではやや曖昧な硝子体手術の適応を,客観的で判定しやすい方法で決定できないかと考えました.2010年にDRCR.netが,黄斑部に牽引が検出できる糖尿病黄斑浮腫には硝子体手術が有効であるという報告を出しました4).この報告を受けて,筆者らは糖尿病黄斑浮腫の個々の症例に牽引力が働いているかどうかの検討をOCTを用いて行いました.今回とくに着目したのがスペクトラルドメインOCT(CirrusTMHD-OCT)で得られる3次元のセグメンテーション画像です.筆者らは以前,ポリープ状脈絡膜血管症で色素上皮レベルのセグメンテーション画像を見ると,ポリープ病変と異常血管網のつながりを観察できることを報告しました5).セグメンテーション画像は,元来OCTが網膜や色素上皮,脈絡膜の垂直方向の変化を描出するためのツールであったのに対し,網膜接線方向の病変の水平な広がりもとらえることができるようになりました.糖尿病黄斑浮腫では,とくに内境界膜レベルの画像に変化が現れます.当科で過去に硝子体手術を行った患者さんのOCTを,1172あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014とくに3次元解析画像に着目して検討しました.その結果やはり多かったのは,断層像のみで見ても黄斑上膜や肥厚した後部硝子体膜などが描出され,従来「硝子体牽引が関与している」と考えていた症例でした.そのほかに,黄斑上膜や後部硝子体膜が明らかには検出されない症例群の中に,ILMレベルのセグメンテーション画像で,表面が平滑な症例と微細な皺襞がある症例に分類できました.つまり,従来の断層像では,硝子体牽引がある/なしの2群にしか分類できなかったものが,ILMレベルのセグメンテーション画像に着目することで,3群に分けることができた,ということです(図1).手術治療の効果という観点からは,術後3カ月の時点では3群に明らかな差はなく,3群とも改善を得られました.また,術前・術後のOCTを見比べてみると,ILMレベルのセグメンテーション画像で認めた網膜表面の皺襞は,手術で内境界膜.離を行うと消失することも確認しました.この,手術中に.離した組織を免疫染色すると,硝子体由来のコラーゲンIVは検出されず,内境界膜由来のコラーゲンIIは染色されました.このことから,.離された組織は間違いなく内境界膜であり,ILMレベルのセグメンテーション画像で検出された皺(92) 襞は,内境界膜が形成するものであることが推察されました.この皺襞の消失とともに浮腫が軽減していることから,黄斑浮腫の形成に皺襞が関与しているとも考えられます(図2)6).これまで当科で行った糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術をレトロスペクティブに検討すると,断層像で黄斑上膜や肥厚した後部硝子体膜が検出される場合のほかに,レーザー治療や薬物治療に抵抗性で視力が徐々に低下してきた症例にも多く施行されているというのが実際でした.しかし,硝子体手術という侵襲の大きさから,治療時期を逸してしまい著明な視力低下に至った場合には予後が不良との報告もあります7).さいごに近年の小切開硝子体手術などの技術の進歩により硝子体手術の適応はどんどん広がってきています.この眼科手術のめざましい発展は,これまで誠実に一人ひとりの患者さんと向き合って手術を行ってこられた先生方の経験と探究心に基づくものです.簡潔で安全にできるからといってむやみに手術を行ったり,流行の方法に流れてしまったりして,一人ひとりの患者さんに合った適正な治療を行う努力を怠ってはならないと考えます.今回の糖尿病黄斑浮腫における3次元画像解析の検討が,硝子体手術の適応の適正化だけでなく,レーザー治療や薬物治療など他の治療も含めた糖尿病黄斑浮腫治療の適正化につながるように,さらに検討を重ねたいと思います.文献1)TheDiabeticRetinopathyClinialResearchNetwork(DRCR.net)etal:Three-yearfollow-upofaramdomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol127:245-251,20092)DiabeticRetinopathyClinicalResearchnetwork(DRCR.net):Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromtlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077,20103)KumagaiK,FurukawaM,OginoNetal:Long-termfollow-upofvitrectomyfordiffusenontractionaldiabeticmacularedema.Retina29:464-472,20094)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetworkWritingCommitteeonbehalfoftheDRCR.net:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093,20105)AbeS,YamamotoT,YamashitaHetal:Three-dimensionalfeaturesofpolypoidalchoroidalvasculopathyobservedbyFourier-domainopticalcoherencetomography.OphthalmicSurgLasersImaging9:1-6,20106)AbeS,YamamotoT,KashiwagiYetal:Three-dimensionalimagingoftheinnerlimitingmembranefoldingonthevitreomacularinterfaceindiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol57:553-562,20137)YamamotoT,TakeuchiS,SatoYetal:Long-termfollow-upresultsofparsplanavitrectomyfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol51:285-291,2007■「糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術適応を3次元画像解析から考える」を読んで■OCTが眼科臨床に導入されて10年以上が経過しま今回のアプローチは,その限界を克服するための優れした.当初は,疾患の分類・病態の解明など研究目的た方法です.網膜皺壁は2次元画像上では,網膜表面で使用されましたが,最近はむしろ個々の症例の診断のわずかな乱れとしか映りませんが,3次元画像に再治療へと,その使用は大きく広がっています.構築すると変化が明らかになります.それだけではな網膜領域についてもそのことはいえます.OCTにく,影響を及ぼす領域も如実に描出されます.それらより,糖尿病黄斑症の病型・病態にもさまざまなものを検討することで,硝子体手術が効果的な症例とそうがあることが報告されましたが,そのデータを用いるでないものを選別しようというのが今回の試みであことで,予後予測についての診断精度が格段に向上しり,その目的を達成しています.ました.たとえば,OCT画像上の網膜外層IS/OS阿部先生が述べられているように,硝子体手術が有lineの存在が視力予後を占う上で重要であることがわ効であれば,頻回の眼内注射に比べて,患者負担は大かったことなどは,その好例です.幅に減少します.しかも,糖尿病黄斑症に対する硝子しかし,個々の症例においては,このことが当ては体治療は,わが国が世界をリードしてきたのです.たまらない場合も多くあります.とくに,硝子体手術のだし,硝子体手術はどの症例にも有効なわけではありような網膜の3次元構造に介入する治療の効果をみるません.大規模臨床研究のような幅広い症例を対象と場合,2次元画像上の解析だけでは限界があります.した治験ではその有効性は表れにくく,眼内注射を凌(93)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141173 駕する治療成績は得られていません.しかし,今回の療”という考え方が推奨されていますが,その意味か方法で糖尿病黄斑症の中から硝子体手術が有効な症例らも3次元OCT画像を用いた硝子体手術適応の選択を選別することができれば,硝子体手術の真の有効性はきわめて今日的な方法であるといえます.が明らかになるのではないでしょうか.最近は,患者鹿児島大学眼科坂本泰二ごとに最適な治療法を選択する“テーラーメード医1174あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(94)

新しい治療と検査シリーズ 219.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術

2014年8月31日 日曜日

新しい治療と検査シリーズ219.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術プレゼンテーション:ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院コメント:清水公也北里大学医学部眼科学教室.バックグラウンド白内障へのレーザー導入は,20年以上前のピコセカンドYAGレーザーに始まる.2005年にはフェムトセカンドレーザーの水晶体照射への安全性が報告された1).その後,フェムトセンドレーザーによるlaserinsitukeratomileusis(LASIK),角膜リング,角膜移植における角膜への照射が普及した.白内障手術へは,2008年に最初の症例が行われ2),その後,アメリカ食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)をはじめ,各国で承認を得て,手術件数は増え続けている.日本においても2012年から一部の施設で導入されている3)..新しい手術法白内障手術における角膜切開,水晶体前.切開,水晶体核分割をレーザーで行うが,混濁した水晶体を吸引し,眼内レンズを角膜切開創から挿入するという基本概念は変わらない.しかし,従来の白内障手術は,術者が手術顕微鏡を通して観察している角膜や水晶体に,手の感覚で切開を加えていくのに比べ,レーザー手術は,その場でレーザーと一体化されている前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて角膜や水晶体を測定し,正確な位置に予定のデザインでレーザー照射していく.この際,今までの手動による操作では不可能だった多彩な切開パターンが可能となる.具体的には,前.へは中心を合わせ,規定の直径で正円形の照射を行っているが,今後,眼内レンズの開発によって楕円形や複雑な形状でも前.切開ができる.水晶体内照射は,今までの水晶体核4分割が基本になっているが,このような直線の分割のみならず,円形,さらにグリッド状の細かい分割ができる.これにより,超音波乳化吸引時間が短縮される.角膜切開は,2面,3面切開が可能で,切開の深さ,トンネルの長さを設定できる.乱視(89)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1レーザー照射右側がOCT測定画面,左側が実際のレーザー照射画面である.左画面は,すでに前.,水晶体核内,角膜照射が終了しているところである.矯正の角膜切開も可能である..手術方法現在,臨床使用されているフェムトセカンドレーザーは4種類あるが,ここでは,筆者が用いているLenSxR(アルコン社)での手術方法を述べる.なお本レーザーは2014年6月現在,承認申請中である.まず,患者が仰臥位の状態で,角膜上にPatientInterface(PI)をのせ,吸引固定し,OCT測定を行う.測定結果に基づき,前.,水晶体内,角膜への照射位置を確認する(図1).各組織へのレーザー照射は,あらかじめ設定したエネルギー,スポットサイズ,スポット間隔で行い,照射時間は約30秒である.レーザーは,照射時に発生する気泡が照射を妨げないよう前.,水晶体内,最後に角膜照射となる.レーザー照射が終了したら,PIをはずし,顕微鏡下で水晶体吸引,眼内レンズ挿入を行う(図2).あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141169 abcabc図2手術顕微鏡下前.(a),水晶体(b),角膜(c)へのレーザー照射部位が観察される..本方法の良い点顕微鏡下で観察しながら術者の手でコントロールするマニュアル方式から,OCTで測定された角膜や水晶体組織にミクロン単位で3次元のデザインにそってレーザー照射するという,非常に精度が高く,再現性のある切開が可能であることである.現在の眼内レンズでそこまで要求されるかという点では,多焦点やトーリックといった高機能レンズを理想的な位置に固定できる利点が報告されている.今後,眼内レンズは調節機能を求め,さらに進化していくことが予想され,その際,水晶体切開にレーザーが必須になるかもしれない.また,現在は超音波乳化吸引術との組み合わせであるが,今後,レーザーのみで白内障手術を完成する方向に進むことは間違いないと思われる.文献1)KruegerRR,KuszakJ,LubatschowskiHetal:Firstsafetystudyoffemtosecondlaserphotodisruptioninanimallenses:tissuemorphologyandcatracttogenesis.JCataractRefractSurg31:2386-2394,20052)NagyA,TakacsA,FildornTetal:Initialclinicalevalutationofanintraocularfemtosecondlaserincataractsurgery.JRefractSurg25:1053-1060,20093)ビッセン宮島弘子:フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術.日本の眼科84:1381-1382,2013.コメント.私自身,新しい手術器械や手術方法は,どちらかとらかでないことと,難症例と考えられている小瞳孔やいえば大変好きなほうである.もし,PEAを用いず,過熟白内障,硬い核においては,レーザーが有効でな1mm以下の切開にて白内障手術および眼内レンズ挿いことである.2つ目は,機器自体や消耗品およびラ入が可能になるならば,フェムトセカンドレーザーにンニングコストが高価であり,医療費抑制という時代よる白内障手術は素晴らしいことに間違いないし,私の流れに反すると考える.適応が限定され手術時間もも始めていたと思う.しかし,現時点では,以下の2長くなり,患者・医者の両者に利益がなく,唯一利益つの理由によって,フェムトセカンドレーザー白内障を得るのは企業だけである.以上の理由により,現時手術に躊躇している.点においてフェムトセカンドレーザーを用いた白内障1つ目は,フェムトセカンドレーザーを用いても矯手術は,時期尚早と考える.正精度など,術後成績の向上が期待できるか否かが明☆☆☆1170あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(90)

私の緑内障薬チョイス 15.塩化ベンザルコニウム過敏症に対する緑内障点眼

2014年8月31日 日曜日

連載⑮私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑮私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也15.塩化ベンザルコニウム過敏症に杉崎顕史JCHO東京新宿メディカルセンター眼科対する緑内障点眼日常臨床で塩化ベンザルコニウムによる過敏症をもつ緑内障患者に出会うことがしばしばある.以前は抗緑内障点眼薬の選択肢としてプロスタグランジン関連薬ではトラバタンズRしか選べなかったが,近年ではタプロスRミニやラタノプロストの後発薬で塩化ベンザルコニウム非含有のものが発売されるなど,選択肢は広がっている.症例患者は両眼のかゆみ,充血を主訴に近医眼科を受診し,ドライアイと診断.同時に眼底検査にて左眼視神経乳頭所見から緑内障を疑われ当科紹介受診となった.Humphrey視野計にて左眼乳頭所見に一致する視野障害を認め,無治療時眼圧両眼とも14.15mmHgの正常眼圧緑内障と診断した.充血およびかゆみについてはアレルギー性結膜炎と判断し,塩酸オロパタジン点眼,クロモグリク酸ナトリウム点眼を処方するも,かゆみが増悪し,防腐剤フリーのクロモグリク酸ナトリウム点眼にて症状が改善したことから,塩化ベンザルコニウム(BAK)過敏症と診断した.このため抗緑内障点眼薬としてBAKを含有していないトラバタンズRを処方したものの,刺激感や点眼後のかゆみなどの不調を訴えたため,ちょうど新規採用となったタプロスRミニ点眼に切り替え,現在のところ点眼後の不調の訴えもなく,左眼眼圧10mmHg程度で安定している.塩化ベンザルコニウムフリーの点眼現在,国内で販売されている点眼薬にはBAKが多く用いられており,近年種類が増えている抗緑内障点眼薬に関しても,BAKフリー点眼の選択肢は限られる.ジェネリック製剤を除くBAKフリーの抗緑内障点眼を表1に示す.このほか,ラタノプロスト,ウノプロストン,チモロール,カルテオロール,ニプラジロールについては,ジェネリック製剤で容器の工夫で防腐剤を不要としているものや,防腐剤としてBAK以外のものを用いているものもある.本症例のようにBAKに過敏性がある症例の場合,緑内障に対する第一選択薬としてプロスタグランジン関連薬としては4年ほど前まではトラバタンズR以外に選択肢がなかった.トラバタンズRにはラタノプロストと比較し,充血や上眼瞼溝深化などの眼局所の副作用が強く認められるとの報告がある1.3).また,トラバタンズRはpHが他のものに比べ低く(表2),酸性度が強いため点眼時の刺激感が強く,「しみて使いづらい」と患者がさし心地に関して訴えることがあり,その場合,以前はチモプトールRXEを処方していたが,現在はBAKフリーのジェネリック製剤のラタノプロスト点眼液とタプロスRミニが使えるようになっている.BAKは防腐剤としての効果のほかに,可溶化剤や薬剤透過性の亢進効果も有しているといわれており,ラタノプロストのジェネリック製剤については,長期の使用表1BAKを含有しない抗緑内障先発点眼薬とその防腐剤点眼薬トラバタンズRチモプトールRXEデュオトラバRアイファガンRサンピロRクロロブタノール防腐剤SoFZiaR臭化ベンゾデシニウムポリクォッド亜塩素酸ナトリウムパラオキシ安息香酸プロピルパラオキシ安息香酸メチル本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).(87)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411670910-1810/14/\100/頁/JCOPY 表2プロスタグランジン関連薬のpH値点眼薬ラタノプロストトラボプロストタフルプロストビマトプロストpH6.5.6.95.75.7.6.36.9.7.5表3BAKフリープロスタグランジン関連薬の薬価点眼薬トラバタンズRラタノプロスト(BAKフリー)タプロスRミニ薬価1,007.6円/ml512.570.8円/ml96.9円/個効果の報告がほとんどないこともあり,筆者の個人的な考えとしては積極的には使いづらい.そのため本症例のような場合は,以前であればBAKフリーのラタノプロストのジェネリック製剤を処方していたが,最近はタプロスRミニを処方するようにしている.タプロスRミニはラタノプロストに比べると酸性度が強いが,トラバタンズRほどではなく,今までの筆者の経験ではさし心地で大きな不満を訴えられていない.早期の緑内障では自覚症状に乏しいため,点眼のさし心地は治療や通院の継続率に及ぼす影響は少なくないと考えられる.コストに関してBAKフリーのプロスタグランジン関連薬の薬価を表3に示す.タプロスRミニについては1日1本使用なので30日で2,907円になる.他の点眼薬は1本2.5mlであり,1本あたりにするとトラバタンズRが2,519円,ラタノプロストが1,280円.1,427円となる.片眼点眼の場合2.5ml1本で1カ月足りることが多く,1回使いきりのタプロスRミニは割高になってしまうが,両眼点眼の場合は2.5mlが1本では足りず1.5本から患者によっては2本程度必要なこともあり,そのような患者の場合はジェネリック製剤と比較してもコスト面で大きな不利にはならない.また,タプロスRミニは残っている本数を聞くことで,点眼忘れの割合が把握しやすいことも利点と考える.●点眼の追加本症例では1剤で良好な眼圧下降が得られているが,今後,視野障害の進行などが認められ点眼追加をする場合を考える.選択肢としては炭酸脱水酵素阻害薬が使えないため,最近まではb遮断薬のチモプトールRXEを追加するか,プロスタグランジン製剤の配合剤であるデュオトラバRに切り替えていたが,a2作動薬であるアイファガンRは防腐剤に亜塩素酸ナトリウムを用いており,本症例のような場合でも使用しうる.おわりに緑内障では長期にわたり点眼を続ける必要があり,添加物による眼表面障害も普段の外来診療で経験することは少なくない.BAKを含有しない点眼の選択肢も徐々に増えており,本症例のようなBAK過敏症のみならず,その他の症例に対しても点眼薬の添加物もある程度考慮に入れた薬剤選択をしていきたい.文献1)LiN,ChenXM,ZhouYetal:Travopostcomparedwithotherprostaglandinanaloguesortimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension:meta-analysisofrandomizedcontrolledtrials.ClinExperimentOphthalmol34:755-764,20062)InoueK,ShiokawaM,WakakuraMetal:Deepeningoftheuppereyelidsulcuscausedby5typesofprostaglandinanalogs.JGlaucoma22:626-631,20133)MaruyamaK,ShiratoS,TsuchisakaA:IncidenceofdeepeninoftheuppereyelidsulcusaftertopicaluseoftravoprostophthalmicsolutioninJapanese.JGlaucoma23:160-163,20141168あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(88)

抗VEGF治療:抗VEGF薬の薬物動態

2014年8月31日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二7.抗VEGF薬の薬物動態澤田智子滋賀医科大学眼科学講座現在の網膜疾患の治療では抗VEGF薬は欠かすことができない薬剤であり,その薬物動態を知ることは重要である.今回,それぞれの薬剤の主に半減期について,従来の報告,当教室で行った実験の結果を述べる.現在,網膜疾患の治療として,抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬の硝子体内投与が広く行われている.現在,日本で眼科疾患に認可されている抗VEGF薬は3剤で,ペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)である.ベバシズマブ(アバスチンR)は適用外使用となる.4つの薬剤の特徴,半減期を表1に示す1).また,アバスチンを除いた3つの薬剤の適用疾患別の投与方法を表2に示す.解離定数,結合するVEGF,硝子体内での半減期を考えると,アフリベルセプトが最もVEGFを抑えるのに効果的かと思われる.しかし一方,血清中の半減期はラニビズマブが最も短く,全身への影響は少ないように思える.ただし実際の臨床では,薬物のこれらの特徴がそのまま臨床効果に反映される症例もあれば,そうではない症例もあるという印象をもっている.当教室では,三宅らが,カニクイザルの硝子体内にベバシズマブ(1.25mg)を投与し,前房水のベバシズマブ濃度を測定し,ベバシズマブの眼内の半減期は2.8±0.6日であったと報告した(図1)2).また,当教室の柿木らは,カニクイザルに硝子体切除術,水晶体切除術を行い,その術眼の硝子体内にベバシズマブ(1.25mg)を投与し,前房水のベバシズマブ濃度を測定した.その結果,無硝子眼でのベバシズマブの眼内での半減期は1.5±0.6日と短くなることがわかり,硝子体手術後の症例へ抗VEGF薬を投与する際には,そのことも考慮して投与間隔を決めたほうがよいと思われた(図2)3).表1現在使用されている抗VEGF薬の主な構造と薬物動態学的特徴(文献1より引用・改変)ペガプタニブ(マクジェンR)ラニビズマブ(ルセンティスR)ベバシズマブ(アバスチンR)アフリベルセプト(アイリーアR)ヒト化モノクローナルヒト化モノクローナ構造PEG化アプタマー抗体のFab断片ル抗体融合糖蛋白質分子量(kDa)5048149115VEGF165に対するKd(解離定数)(pM)5046-19258-1100.5VEGF-A標的となるVEGFVEGF165VEGF-AVEGF-AVEGF-BPlGF投与量0.3mg(0.09ml)0.5mg(0.05ml)1.25mg(0.05ml)2mg(0.05ml)硝子体内の2.6.2.88(ウサギ)4.32.6.61(ウサギ)3.9(サル)3.3.2(サル)3.1(サル)4.5.4.7(ウサギ)半減期(日)7.1(ヒト)6.7.10(ヒト)ヒト血清中の半減期(日)100.252118解離定数(Kd)は薬のレセプターへの結合のしやすさを表し,その値が小さいほど受容体への親和性は高いことを示す.(85)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411650910-1810/14/\100/頁/JCOPY 表2各薬剤の投与方法ペガプタニブ(マクジェンR)ラニビズマブ(ルセンティスR)アフリベルセプト(アイリーアR)加齢黄斑変性6週間ごとに投与1カ月ごとに1回,連続3カ月間(導入期)投与し,その後の維持期においては症状に応じて投与1カ月ごとに1回,連続3カ月間(導入期)投与し,その後の維持期においては通常2カ月毎に1回投与網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫投与開始後,視力が安定するまでは,1カ月に1回投与が望ましい病的近視における脈絡膜新生血管疾患の活動性が認められた場合に投与することが望ましい糖尿病黄斑浮腫投与開始後,視力が安定するまでは,1カ月に1回投与が望ましい網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫投与開始後,視力が安定するまでは,1カ月に1回投与が望ましい1000010001001010.1100000072w4wTimeBevacizumabconcentration(ng/ml)6w8winjectedeyeuninjectedeyeserum4wTime1000010001001010.1100000BevacizumabconcentrationinAqueousHumorandSerum(ng/mL)VitrectomizedeyesSerum1D3D1W2W6W8W図1前房水,血清内のベバシズマブ濃度カニクイザルの硝子体内にベバシズマブを投与し,その後に前房水,血清ベバシズマブ濃度を測定した.(文献2より引用)文献1)StewartMW:Pharmacokinetics,pharmacodynamicsandpre-clinicalcharacteristicsofophthalmicdrugsthatbindVEGF.ExpertRevClinPharmacol7:167-180,20142)MiyakeT,SawadaO,KakinokiMetal:Pharmacokineticsofbevacizumabanditseffectonvascularendothelialgrowthfactorafterintravitrealinjectionofbevacizumab図2無硝子体眼における前房水,血清内のベバシズマブ濃度カニクイザルの眼に硝子体手術を行い,ベバシズマブの硝子体内投与を施行,その後に前房水,血清のベバシズマブ濃度を測定した.(文献3より引用)inmacaqueeyes.InvestOphthalmolVisSci51:16061608,20103)KakinokiM,SawadaO,SawadaTetal:EffectofvitrectomyonaqueousVEGFconcentrationandpharmacokineticsofbevacizumabinmacaquemonkeys.InvestOphthalmolVisSci53:5877-5880,2012☆☆☆1166あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(86)

緑内障:RTVue®-100

2014年8月31日 日曜日

●連載170緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也170.RTVueR.100北善幸杏林大学医学部眼科学教室RTVueR-100の神経節細胞複合体(GCC)厚測定は緑内障診断や経過観察に有用である.ただし,強度近視眼の解析をする場合,GCC厚だけでなく,globallossvolumeやfocallossvolumeも緑内障がないにもかかわらず陽性の結果(偽陽性)になることが多々あるので,注意が必要である.●はじめにRTVueR-100(Optovue社)はスペクトラルドメイン方式のOCT(SD-OCT)であり,深さ方向の分解能は5μm,スキャン速度は26,000Aスキャン/秒である.緑内障の診断や経過観察には視神経乳頭(opticnervehead:ONH)および神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)スキャンプログラムが有用である.また,眼圧値の評価の際に考慮する必要がある角膜厚の測定も可能である.GCCスキャンプログラムは,他社のSD-OCTに先駆けてRTVueR-100に搭載されたGCC厚を選択的に測定できるプログラムである.RTVueR100は2014年4月よりRTVueXRにモデルチェンジし,それに伴いスキャン速度が70,000Aスキャン/秒となり,固視微動の影響が軽減し,画質が向上すると思われる.信頼性のある解析をするには良い画像を撮る必要があり,屈折異常の強い眼や,白内障などの中間透光体混濁例,固視不良例,縮瞳例などはOCT画像が悪くなる.RTVueR-100では画質はシグナル強度(signalstrengthindex:SSI)で表示され,50以上が推奨されている.a図1GCCプログラムの解析結果の信頼性SSI(a)は52.7と良好であり,Bスキャン(緑矢印)にもセグメンテーションエラーがないので,信頼性が高い解析結果のように思える.しかし,このBスキャンは黄矢印のものであり,赤矢印の垂直スキャンを確認するとセグメンテーションエラー(b)が生じているため再検査が必要である.●GCCスキャンプログラム黄斑部の網膜全層厚,GCC厚(網膜神経線維層+神経節細胞層+内網状層),網膜外層厚を自動で測定するプログラムである.測定範囲は黄斑部7×7mmで(視野の約20°の範囲),測定範囲の中心は中心窩ではなく耳側に少しずらした部分である.また,globallossvolume(GLV)とfocallossvolume(FLV)というオリジナルのパラメ.タも表示される.GLVはHumphrey視野計でいうmeandeviationのようなもので,GCCマップ上の全体的なGCCの損失を表示している.FLVは視野計でいうpatternstandarddeviationのようなもので,部分的なGCCの損失を表示している.●解析結果の判定まず,SSIが良好かどうか確認する.SSIが50以下の画像は使用できないわけではないが,セグメンテーションエラーが増加するので注意が必要である.セグメンテーションエラーの有無は,プリントアウトされた結果からでは1本の垂直スキャンしか確認できないため,RTVueR-100本体から他の垂直スキャンを確認する必b52.7(83)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411630910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図229歳,女性,正常眼圧緑内障(屈折9D)b左眼眼底写真(a)では視神経乳頭陥凹拡大と神経線維層欠損(赤矢印)がある.強度近視眼は眼底写真からは神経線維層欠損がわかりにくいが,GCCプログラム(b)では神経線維層欠損に一致した下側GCC厚の減少がある.正常眼の平均GCC厚は94.05μm,網膜外層厚は169.05μm,GCC厚/網膜外層厚比は55.7%と報告されている2).本症例のGCC厚は上側93.07μm,下側84.42μm,網膜外層厚は上側162.18μm,下側156.34μmである.GCC厚/網膜外層厚比は上側57.4%,下側54.0%であり,下側は上側および正常眼と比較して軽度減少している.aba図329歳,女性,正常眼(屈折-9.5D)左眼眼底写真(a)とGCCプログラムの解析結果を示す(b).図2と同様にGCC厚が薄いことが示されている.平均GCC厚は86.20μm,平均網膜外層厚は150.73μm,GCC厚/網膜外層厚比は57.2%である.比のパラメータは正常眼と比較して減少しておらず,この症例のGCC厚が薄いのは緑内障による変化ではなく,強度近視のため,もともと薄いと考えられる.要がある(図1).セグメンテーションエラーを認めた場合,再検査が必要になる.再検査を施行してもセグメンテーションエラーが消失しない場合は,マニュアルでセグメンテーションエラーの訂正ができる.GCC厚は全体の平均と上側および下側の平均しか表示されないが,正常眼データーベースから年齢をマッチングさせ,GCC厚を比較し,正常範囲が緑,95%予測区域から外れた範囲が黄色,99%予測区域から外れる範囲が赤色で表示されるため,異常部位が判明する.緑内障眼ではGCC厚が減少するが,視神経乳頭所見に一致した所見であるかどうか確認する必要がある.強度近視眼では豹紋状眼底のため神経線維層欠損がわかりにくいことがあるが,GCCプログラムを使用すると判断しやすい(図2).ただし,強度近視眼の解析を行うと緑内障がないにもかかわらず,しばしばGCC厚(FLV,GLVも同様に)が異常を示す結果となる1).これは強度近視眼では正視眼と比較してGCC厚が薄いにもかかわらず,RTVueR100の正常眼データーベースには強度近視眼がほとんど含まれていないため,解析を行うと緑内障を伴わない強1164あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014度近視眼を異常と判断してしまうことがある.そのため,強度近視眼の解析結果には注意が必要である(図3).この対策として,RTVueR-100はGCC厚の測定と同時に網膜外層厚も測定しているので,網膜外層厚を参考にするとよい.これは正常眼ではGCC厚と網膜外層厚は正の相関関係があり1,2),また,網膜外層厚は緑内障に罹患してもあまり変化しないため2),網膜外層厚が薄い症例はもともとGCC厚が薄いと考えられる.網膜外層厚を考慮したパラメ.タであるGCC厚/網膜外層厚比は緑内障診断に有用である2).文献1)KitaY,KitaR,TakeyamaAetal:Theeffectofhighmyopiaonglaucomadiagnosticparametersasmeasuredbyopticalcoherencetomography.ClinExperimentOphthalmol2014,DOI:10.1111/ceo.123182)KitaY,KitaR,TakeyamaAetal:Relationshipbetweenmacularganglioncellcomplexthicknessandmacularouterretinalthickness:aspectral-domainopticalcoherencetomographystudy.ClinExperimentOphthalmol41:674-682,2013(84)

屈折矯正手術:有水晶体眼内レンズ術後の屈折変化

2014年8月31日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載171大橋裕一坪田一男171.有水晶体眼内レンズ術後の鳥居秀成慶應義塾大学医学部眼科学教室屈折変化有水晶体眼内レンズは,前房型と後房型の2種類に大別される.前房型はさらに虹彩支持型,隅角支持型の2つに分けられる.どのタイプも術後屈折は長期的に安定しており,屈折変化はほとんど考慮しなくてもいい程度の,非常に良好な結果がえられる.●はじめにLASIKなどの角膜屈折矯正手術後の近視の戻りはしばしば臨床上経験されることであるが,有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:pIOL)挿入術後で近視の戻りが臨床上問題となることは少ないと思われる.pIOLは主に中等度.強度近視の屈折矯正手術に用いられ1,2),屈折矯正手術という性格上,近視の戻りは患者の満足度の低下にもつながるため,術後の屈折変化の特性を把握しておくことは非常に重要なことである.pIOLは前房型と後房型に分けられ,前房型はさらに虹彩支持型,隅角支持型の2つに分けられる.本稿では過去の報告をもとに,pIOL術後の屈折変化を虹彩支持型,隅角支持型,後房型に分けて解説する.●虹彩支持型pIOL術後の屈折変化筆者らは,強度近視眼で術前の眼軸長をマッチングさせて術後3年間の屈折変化を,虹彩支持型pIOL(Artisan/Artiflex,Ophtec社)を挿入したpIOL群46例66眼(平均年齢35.0歳)と,LASIKを施行したLASIK群38例67眼(平均年齢33.8歳)で後方視的に比較し報告した3).pIOL術後3年間〔術後3年の平均等価球面値(SE).術後1カ月の平均SE〕の屈折の変化は,pIOL群は.0.12±0.47(平均±標準偏差)Dで,LASIK群は.0.82±0.69DとLASIK群の方が有意(p<0.001)に近視化し,pIOL群の屈折は術後3年間でほとんど変化を認めなかった(図1,表1).また,ArtisanR術後の長期経過(10年)の報告4)でも,49例89眼(平均年齢38.4歳)の術後9年間(術後10年の平均SE.術後1年の平均SE)の屈折変化は0.00Dで,表1有水晶体眼内レンズ挿入術後の屈折変化の過去の報告のまとめ著者雑誌発行年症例数平均年齢術前平均SE術後1年間あたりの屈折値の変化(平均値)経過観察期間(術後屈折値変化の算出期間)有水晶体眼内レンズとそのタイプ研究のタイプToriietalOptomVisSci2014(文献3)46例66眼35.0歳.10.80D.0.04D/Y3年間(3Y-1M)虹彩支持型Artisan,Artiflex後ろ向きTahzibetalOphthalmology2007(文献4)49例89眼38.4歳.10.36D0.00D/Y9年間(10Y-1Y)虹彩支持型Artisan後ろ向きYangetalIntJOphthalmol2012(文献5)13例25眼33.2歳.12.08D.0.01D/Y1年間(1Y-1M)隅角支持型AcrySofphakicangle-supportedIOL前向きRosmanetalJRefSurg2011(文献6)52眼32.4歳.12.84D.0.02D/Y10年間(10Y-3M)隅角支持型ZB5M後ろ向きTorunetalJCataractRefractSurg2013(文献7)29例53眼34.6歳.12.17D.0.04D/Y平均86カ月(5Y-3M)後房型Phakicrefractivelens(PRL)後ろ向きAlfonsoetalJCataractRefractSurg2011(文献8)111例188眼33.5歳.11.17D.0.13D/Y5年間(5Y-1M)後房型Implantablecollammerlens(ICLV4)後ろ向きSE:等価球面値,Y:年,M:月(81)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411610910-1810/14/\100/頁/JCOPY Preop1M3M6M1Y2Y3Y2-12-10-8-6-4-20pIOLLASIK††††**p=0.008†p<0.001SE(D)n=66n=67-14図1虹彩支持型pIOL(Artisan.Artiflex)とLASIK術後の屈折変化術後3年間(術後3年の平均等価球面値SE.術後1カ月の平均SE)の屈折変化は,pIOL群は.0.12±0.47(平均±標準偏差)Dで,LASIK群は.0.82±0.69Dで,有意(p<0.001)にLASIK群のほうが術後の近視の戻りは大きかった.(文献3より引用)10年後の時点で目標度数の±1.0D以内は68.8%,矯正視力0.5以上が93.3%,裸眼視力0.5以上が82.0%であり,屈折・視力は安定していると報告されていた.●隅角支持型pIOL術後の屈折変化AcrySofphakicangle-supportedIOL(Alcon社)術後の屈折変化をYangらが報告5)しており,13例25眼(平均年齢33.2歳)の術後1年間(術後1年の平均SE.術後1カ月の平均SE)の屈折変化は.0.01Dであった(表1).また,ZB5M(Domilens社)術後の屈折変化をRosmanらが報告6)しており,52眼(平均年齢32.4歳)の術後10年間(術後10年の平均SE.術後3カ月の平均SE)の屈折変化は.0.19Dであった(表1).●後房型pIOL術後の屈折変化Phakicrefractivelens(PRL,CarlZeissMeditec社)術後の屈折変化をTorunらが報告7)しており,29例53眼(平均年齢34.6歳)の術後5年間(術後5年の平均SE.術後3カ月の平均SE)の屈折変化は.0.21Dであった(表1).Implantablecollammerlens(ICLV4,STAAR社)術後の屈折変化をAlfonsoらが報告8)しており,111例188眼(平均年齢33.5歳)の術後5年間(術後5年の平均SE.術後1カ月の平均SE)の屈折変化は.0.65Dであった(表1).●まとめ以上の報告を術後1年間あたりの屈折変化としてまとめると表1のようになり,多少の差はあるものの,どのタイプのpIOLも,術後屈折の変化は中.長期的にほとんどないことがわかる.筆者らは術前の眼軸長が長いほど,術後の近視の戻りの程度も大きくなることを報告しており3),また個人差もあるため,pIOL挿入術後の全症例に対し屈折の安定を保証するものではないが,年齢や術前屈折値が表の値程度であれば,pIOLはどのタイプでも術後の屈折変化は安定しているということができる.文献1)DickHB,BudoC,MalecazeFetal:FoldableArtiflexphakicintraocularlensforthecorrectionofmyopia:twoyearfollow-upresultsofaprospectiveEuropeanmulticenterstudy.Ophthalmology116:671-677,20092)HuangD,SchallhornSC,SugarAetal:Phakicintraocularlensimplantationforthecorrectionofmyopia:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology116:2244-2258,20093)ToriiH,NegishiK,WatanabeKetal:MyopicregressionafterphakicintraocularlensimplantationandLASIK.OptomVisSci91:231-239,20144)TahzibNG,NuijtsRM,WuWYetal:Long-termstudyofArtisanphakicintraocularlensimplantationforthecorrectionofmoderatetohighmyopia:ten-yearfollow-upresults.Ophthalmology114:1133-1142,20075)YangRB,ZhaoSZ:AcrySofphakicangle-supportedintraocularlensforthecorrectionofhightoextremelyhighmyopia:one-yearfollow-upresults.IntJOphthalmol5:360-365,20126)RosmanM,AlioJL,OrtizDetal:RefractivestabilityofLASIKwiththeVisx20/20excimerlaservsZB5mphakiciolimplantationinpatientswithhighmyopia(>.10.00d):a10-yearretrospectivestudy.JRefractSurg27:279-286,20117)TorunN,BertelmannE,KlamannMKetal:Posteriorchamberphakicintraocularlenstocorrectmyopia:Long-termfollow-up.JCataractRefractSurg39:10231028,20138)AlfonsoJF,BaamondeB,Fernandez-VegaLetal:Posteriorchambercollagencopolymerphakicintraocularlensestocorrectmyopia:five-yearfollow-up.JCataractRefractSurg37:873-880,20111162あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(82)

コンタクトレンズ:患者適応

2014年8月31日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一3.患者適応●はじめにコンタクトレンズ(CL)が広く普及しておよそ50年が経過した.この間に素材,デザイン,ケア用品はより安全で快適なものに改良され,CL装用者は1,500万人,国民の8人に1人となり,幅広い年齢層のさまざまな屈折疾患を有する者にとって,なくてはならない屈折矯正手段の一つとなった.しかし,CLがどんなに進歩しても角膜に直接触れる異物であることは変わらないので,間違った使い方をすれば眼障害が発症する.CL眼障害は軽微なものから視力障害に至る重篤なものまで,装用者の増加とともに増えている.CL眼障害を発症させないためには,処方する際に患者適応を見きわめ,新規処方以後も継続して定期検査を行って適切なCL装用となるよう管理することが重要である.●適応疾患屈折異常(とくに強度の近視・遠視・乱視・老視や無水晶体眼・不同視)・円錐角膜などに処方する.かつては乱視があるとハードコンタクトレンズ(HCL)を,老視年齢になるとCLをやめて眼鏡のみの生活や,CLの上に老眼鏡をかけるようにすすめていた.しかし,現在では乱視用・老視用ともに優れたソフトコンタクトレンズ(SCL)・HCLが普及して,快適な矯正視力が得られるようになっている.●適応条件眼鏡を所持していない患者にCLだけを導入すると,無理をして装用するために眼障害をきたしやすい.必ず適切な眼鏡を所持していることを確認し,所持していなければ眼鏡を先に処方する.また,CL矯正にて良好な視力を得ることができることも必要条件である.●適応年齢他の手段では良好な視力矯正が困難で,CLによってのみ良好な視力が得られる,あるいは視機能の発達が期(79)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY松久充子さくら眼科待できる場合は,年齢を問わずCL処方は可能である.先天白内障術後無水晶体眼へのSCLは最年少への処方例であり,白内障術後無水晶体眼に連続装用SCLを処方して,外来にて定期的なCL管理をする例が最高齢者への処方例であろう.しかし,眼鏡で視力矯正が可能であっても,運動・仕事・整容上の理由でCLを併用したいという希望者がほとんどである.この場合の適応は適切な管理ができる年齢,原則として中学生以上から80代半ばまでと考える(未成年者には保護者の同伴による同意を求める).まれに小学生でもバレエの発表会のようなオケージョナルユーズの希望では,保護者同席で装用指導をしてから処方する.保護者がCL装用の手伝いをすることはよいが,自分でCLをはずすことができなければ処方しない.●禁忌・度数:カラーCLを除き,±0.75D未満の屈折異常ではCLは不要である.・前眼部炎症疾患や免疫不全を有するもの:重症アレルギー性結膜炎,巨大乳頭結膜炎,感染性眼疾患,繰り返す炎症性眼疾患を有する場合,CLは処方しない.・アレルギー性結膜炎:すべての症例で眼瞼を翻転して瞼結膜を観察する.アレルギー性結膜炎が発症していれば処方は中止する.軽度の濾胞があって自覚症状がない場合(図1)は,掻痒・充血・白色粘性眼脂(図2)・CLが上方にずれやすいなどの症状が出現した場合は装用を中止して受診するように指導する.CL装用時にはアレルギー反応が誘発されやすい.また,蛋白質などの汚れが付着したCL,固めのSCLやフィッティングの合っていないCLなどによる機械的刺激によって巨大乳頭結膜炎(図3)が発症する.ケア用品(とくに多目的溶剤)によってアレルギー性結膜炎や角膜炎が発症する場合もある.このため,アレルギー性結膜炎体質があれば,1日使い捨てCLが望ましい.頻回交換SCLやHCLでは,レンズケアの徹底と,自覚症状によって装用時間の短縮あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141159 1160あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(00)や中止を判断できる者にのみ処方する.従来型SCLは酸素透過性が低く,長期装用による汚れによってさまざまな眼障害が発症しやすいので原則として処方しない.・ドライアイ:CLは適切な量の涙液が適切に交換される結膜.に浮かんでいる存在である.涙液量の不足やCL下の涙液交換が不十分であれば,必ず角膜障害が発症する.さらに,CLを装用することはドライアイを誘発する.したがって,重度ドライアイ(図4)へのCL処方は禁忌である.また,睡眠導入剤や抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬などの服薬中にはドライアイ状態になることがあるので注意を要する.軽度のドライアイの場合(図5)は,人口涙液点眼,ヒアルロン酸点眼,ジクアソルナトリウム点眼,レバミピド点眼などを併用しながら,原則として1日使い捨てSCL(なるべくシリコーンハイドロゲル素材)を処方する.・CL不耐症:CLを装用するだけで疼痛や異物感が強くて我慢でない人には処方しない.また,ドライアイにもかかわらずCL装用を無理に継続していると,CL不耐性の状態になることがある.速やかにCLを中止する.・CL装用に適さない環境にいる人:乾燥する環境にいる人や,ゴミやほこりの入りやすい仕事の人には処方しない.・神経質な性格の人,CLに興味がない人,CLを適切に取り扱えない,または管理できない人:CL装用期間や時間を守れない,あるいは不適切なケアが原因でCL障害を繰り返す人には,CLを処方しない.●おわりにCLは優れた屈折矯正機器であるが,適応や使用方法を誤ると重症の眼障害を発症し視力障害に至る.医師は処方する際や定期検査のたびに啓発をすることと,定期検査では小さな異常も見逃さない観察眼をもつことが大切である.ZS933図4CL禁忌のドライアイ図5治療しながらCL装用可能のこともあるドライアイ図1軽度のアレルギー性結膜炎自覚症状はないが軽度の充血と結膜濾胞がみられる.図2白色粘性眼脂図3巨大乳頭結膜炎

写真:Retained Descemet’s membrane

2014年8月31日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦363.RetainedDescemet’smembrane宮腰晃央富山大学大学院医学薬学研究部(医学)眼科学講座図2図1のシェーマ①RetainedDescemet’smembrane.②角膜打ち抜き時に一部前房内に穿孔しており,孔形成.図1全層角膜移植後のRetainedDescemet’smembrane(術後1年)残存Descemet膜の混濁を認めるが,孔により前房水の交通は保たれており,グラフト角膜は透明である.図3RetainedDescemet’smembraneの前眼部OCT(術翌日)術翌日のスリットではグラフト浮腫のため残存しているDescemet膜(矢頭)が不明瞭だが,前眼部OCTでははっきりとわかる.図4RetainedDescemet’smembraneの前眼部OCT(術後1年)前眼部OCTで残存Descemet膜の混濁が明瞭にわかる.孔により前房水の交通は保たれており,残存Descemet膜とグラフトの接触はない.(77)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411570910-1810/14/\100/頁/JCOPY RetainedDescemet’smembrane(DM)は全層角膜移植の際に,ホスト角膜の打ち抜きが不十分だと生じる合併症の一つである.角膜浮腫やDescemet膜が肥厚しているような角膜実質炎で生じやすいとされている1).【症例】70歳,女性.【現病歴】2006年10月に左眼のアルゴンレーザー虹彩切開術後水疱性角膜症に対して全層角膜移植術を施行した.術後経過は良好だったが,2011年秋頃より水疱性角膜症が再発してきたため,2012年7月に再度全層角膜移植術目的で入院となった.術前は,視力が(0.01),中心角膜厚は1,048μm,角膜内皮細胞密度は測定不能だった.術中所見は,前回のホスト.グラフト接合部の一部にメスで切開を入れ,そこから鈍的に前回のグラフトを.離していった.新しいグラフトを置き,通常通り端々縫合8針と連続縫合を行い,術終了とした.術翌日の診察でグラフト後方に膜様物を認めたため,前眼部OCTで確認したところ,retainedDMと判明した.RetainedDMは術後約3カ月で混濁しはじめ,その原因はretainedDMに残っている実質内での線維芽細胞の活性化によるものと考えられている2).移植したグラフト内皮細胞数も減少してくるが,その原因はretainedDMの接触による障害のほかに,前房水の流れや栄養拡散の制限も考えられている3).治療は,YAGレーザーによる膜切開が施行しやすいが,比較的低出力でもgraftfailureに至ったケースが報告されており4),注意を要する.ほかには硝子体カッターを用いた膜切開があるが,安全性に関しての比較検討はない.予防が重要になるが,当科ではこの症例以降,グラフトの仮縫合を終えた後,術中前眼部OCTを用いて確実にDescemet膜も除去されていることを確認することにしている.今回の症例では,術後1年の時点で視力が(0.2),中心角膜厚が527μm,角膜内皮細胞密度が1,080/mm2であり,retainedDMの混濁を認めるものの,本人希望により経過観察となっている.文献1)JohnJ,PurcellJr:Intraoperativecomplicationsofpenetratingkeratoplasty.Cornea2:1367-1372,20112)ThyagaraijanS,MearzaAA,FalconMG:InadvertentretentionofDescemetmembraneinpenetratingkeratoplasty.Cornea25:748-749,20063)WaringGO,BourneWM,EdelhanserHFetal:Thecornealendothelium:normalandpathologicstructureandfunction.Ophthalmology89:531-590,19824)KremerI,DreznikA,TesslerGetal:CornealgraftfailurefollowingNd:YAGlasermenbranotomyforinadvertentretainedDescemet’smembraneafterpenetratingkeratoplasty.OphthalmicSurgLasersImaging43:e94-e98,20121158

「未来のより良い緑内障診療」を目指して-研究の面白さに感動し夢を追った半生の軌跡-

2014年8月31日 日曜日

あたらしい眼科31(8):1137.1155,2014c総説第24回日本緑内障学会須田記念講演「未来のより良い緑内障診療」を目指して─研究の面白さに感動し夢を追った半生の軌跡─TowardBetterGlaucomaPracticeinFuture杉山和久*はじめに筆者は研修医2年目に緑内障研究をスタートして以来,緑内障の病態,眼圧,薬物治療,神経保護,レーザー治療,手術など緑内障のほぼすべての分野において,臨床的に重要と思われる諸問題を抽出し,科学的アプローチにより問題点の本態を解明し,解決策を模索してきた.これは,日常診療で遭遇する臨床的問題点を科学的手法によって解決する形で研究し,その成果を臨床に還元して「未来のより良い緑内障」を目指すという基本的理念に基づいた研究である.この研究手法は,岐阜大学時代の恩師である北澤克明先生(岐阜大学名誉教授)から受け継いだものである.本稿では,若き日に研究の面白さに感動し,「未来のより良い緑内障診療」を目指して仲間とともに夢を追った,筆者の27年間の研究の軌跡を概観したい.Iレーザー虹彩切開術後の合併症とその解決策筆者が最初に北澤教授(当時)よりいただいた研究テーマは,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)後の合併症を克服するための研究であった.1.LI後の一過性の眼圧上昇家兎眼にYAGレーザーを虹彩に照射すると,一過性の眼圧上昇を再現することができた.しかも,照射エネルギーの出力に応じて眼圧が上昇し,その後,同様に照射エネルギー依存性に眼圧下降が認められる二相性の眼圧変動が観察された1).一方,この眼圧の二相性変動が,Camurasらの家兎眼へのプロスタグランジン(PG)E2眼実験の結果2)(図1A)と酷似していたことから,レーザー照射後の前房水のPGE2濃度を測定したところ,照射眼ではPGE2濃度がコントロール眼に比べ有意に上昇した1).しかし,レーザー照射前にインドメタシンを腹腔内投与すると,PGE2濃度の上昇は完全に抑制された.また,照射眼における眼圧も上昇,下降が有意に抑制された1)(図1B).これらのことからLI後の眼圧の二相性変動は内因性のPGが関与することが明らかとなった1)(学位論文).一方,1980年代に米国アルコン社で開発された交感神経a2アゴニストであるアプラクロニジン点眼により,家兎眼でLI後の眼圧上昇を抑制するが,前房中のPG濃度の上昇はまったく抑制しないことが判明した3).また,アプラクロニジンは眼圧下降作用のみならず,房水蛋白濃度の上昇を抑制することから,血液房水柵の恒常性を維持することにより眼圧上昇を抑制すると考えられた3).さらに,岐阜大学での原発閉塞隅角緑内障患者のパイロットスタディによって,クロニジンやアプラクロニジンはLI後の眼圧上昇を抑制することが判明した4,5).筆者は1989年に日本でのアプラクロニジンの第Ⅰ相試験を担当した.その後,多施設臨床試験を経て1999年に臨床に導入され,現在では安全にLIが施行されるに至っている.2.水疱性角膜症アルゴンレーザー虹彩切開術(argonlaseriridotomy:ALI)では,施行後に長期間を経て水疱性角膜症が生じることがある.わが国において全層角膜移植に至った水疱性角膜症のうち,約30%はALI後に発症したも*KazuhisaSugiyama:金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科)〔別刷請求先〕杉山和久:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(57)1137 (A)TOPICAL(B)TOPICAL(rinsed)(C)INTRAVITREAL302010302010Hours0304020103040201025μgE2in50μl25μgE2in5μl10μgE2in10μlIOP(mmHg)30252015I.P.LaserIrradiatedA.Placebo*****************Control1030IOP(mmHg)252015105I.P.LaserB.Indomethacin-10124624Time(h)4872(A)TOPICAL(B)TOPICAL(rinsed)(C)INTRAVITREAL302010302010Hours0304020103040201025μgE2in50μl25μgE2in5μl10μgE2in10μlIOP(mmHg)図1A家兎眼へのプロスタグランジン(PG)E2点眼と硝子体投与一過性の眼圧上昇とそれに続く持続性の眼圧下降(2相性眼圧変動)を認める.(文献2より許可を得て掲載)のであり,諸外国と比較して日本での発症率は高いことが報告されている6).また,その治療法である全層角膜移植には拒絶反応のリスクや眼球の脆弱化による穿孔性眼外傷7),縫合不全による感染症の発症などさまざまな問題点がある.そこで,1998年にオランダのGerritMelles(RotterdamEyeHospital)がposteriorlamellarkeratoplastyとして開発し8),2000年の米国眼科学会(AAO)でMarkTerry(DeversEyeInstitute)がdeeplamellarendothelialkeratoplasty9)として報告した角膜内皮移植を日本に導入すべきと考えた.筆者と教室の小林はこの手術手技を両人から学ぶため,2003年にオランダのロッテルダムと米国のポートランドに手術見学とウエットラボに出向いた.それをさらに改良したDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)を小林が日本で最も早い時期に実施するとともに,Descemet膜を.離しない術式(nDSAEK)に改良した10).その後の水疱性角膜症への臨床応用では,nDSAEKは内皮細胞数が術後12カ月においても2,000以上あり術後6カ月と有意差はなく,また視力の回復も速く,術後1138あたらしい眼科Vol.31,No.8,20143025201510I.P.LaserIrradiatedA.Placebo****************ControlIOP(mmHg)30252015105-*B.IndomethacinTime(h)101246244872I.P.Laser図1Bインドメタシン腹腔内投与とレーザー照射後の2相性眼圧変動の抑制プラセボを腹腔内投与群(A)では,PG点眼に酷似した一過性の眼圧上昇とそれに続く持続性の眼圧下降(2相性眼圧変動)を認める.インドメタシン腹腔内投与群(B)では,眼圧上昇,下降ともに抑制された.(文献1より許可を得て掲載)1年の平均視力が0.84と優れた成績を示している11).図2にALI後水疱性角膜症患者に対するnDSAEKの代表症例を示す.これによりALI後の水疱性角膜症の合併症は克服されたと思う.II緑内障の病態と進行のメカニズムつぎに筆者が興味を抱いたのが,緑内障にしばしば生じる乳頭出血のメカニズムと臨床的意義であった.1.Activesite仮説従来までは視野進行と乳頭出血(dischemorrhage:DH)との関連は見解の分かれる論点であった.しかし,2000年に石田らが岐阜大学眼科の長期データを解析して,DHが視野進行の危険因子であることを報告し12),そして2001年にCollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroupによる大規模でprospectiveな臨床試験からDHが視野進行の危険因子であることが確認され13)(図3),広く一般的に認識されるようになった.筆者自身の研究としては,岐阜大学時代に走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)の(58) 術前術後225日0.1(1.0×-3.0Dcyl-0.75DAx180)(0.3)nDSAEK施行術後:前眼部OCT術前術後225日0.1(1.0×-3.0Dcyl-0.75DAx180)(0.3)nDSAEK施行術後:前眼部OCT図2アルゴンレーザー虹彩切開術後水疱性角膜症への角膜内皮移植(DSAEK)DSAEKの術前後の全眼部写真と術後の全眼部OCT所見を供覧する.全眼部OCTでホスト角膜厚が497μm,グラフト厚が131μmであった.ABPercentPercent100100EstimatedprobabilityofVF60hemorrhagesNohemorrhagesPointwisedefintionwithoutDHN=38withDHN=32p=0.0008(Logranktest)0.49±0.090.09±0.088060402080non-progression402000246810Follow-upperiod(years)120123456Time(years)図3乳頭出血の有無と視野が進行しない確率(無治療のNTG患者での生命表解析)A:岐阜大学眼科での後ろ向き試験.(文献12より許可を得て掲載)B:CollaborativeNTGStudyGroupの前向き試験.(文献13より許可を得て掲載)観察から,DHの約80%が視神経線維層欠損(retinalnervefiberlayerdefect:NFLD)の境界線近傍に生じることを報告した14,15).そしてDHがNFLDの境界線上に出現するもの(タイプ1),NFLDの境界線に接してNFLD側に出現するもの(タイプ2),そしてNFLDの境界線に接して健常側に出現するもの(タイプ3)の3つに分類した14)(図4).また,金沢大学に赴任してからも,教室の新田らとDH後にNFLDがDH発症部位の方向に拡大することを報告した16).新田はこのNFLDの拡大パターンに関して,無赤色光でNFLDの角度を測定する手法(図5A)を用いて,(59)NFLDの角度と視野のMD(meandeviation)とは有意に相関することを明らかにした(日眼会誌最優秀論文賞)17)(図5B).また,患者背景,フォローアップ期間,ベースライン時眼圧などには有意差はないが,DHのある群ではDHのない群と比較してMDスロープとNFLD角度/年が有意に大きいことから,DHのある群では視野進行の速度が速いとともに,NFLDの角度の拡大速度も速いことが判明した16,17).DHはNFLD拡大の過程で生じ,拡大速度が速いほど生じやすく,繰り返して生じると考えられる.また,DHはNFLDの境界線近傍に生じ14.16),DH側にあたらしい眼科Vol.31,No.8,20141139 Type1NFLD境界線上にDH出現21/51(41.2%)Type2NFLD境界線に接し,NFLD側にDH出現12/51(23.5%)Type3NFLD境界線に接し,健常網膜側にDH出現18/51(35.3%)DHとNFLDの位置関係Type1NFLD境界線上にDH出現21/51(41.2%)Type2NFLD境界線に接し,NFLD側にDH出現12/51(23.5%)Type3NFLD境界線に接し,健常網膜側にDH出現18/51(35.3%)DHとNFLDの位置関係MD(dB)図4乳頭出血(DH)は網膜神経線維層欠損(NFLD)の境界線に出現DHの約80%はNFLDの境界線近傍に出現し,DHとNFLDの位置関係は3つのタイプに分類される.AB50-5-10-15-20-25-30NFLD角度(度)図5A眼底写真によるNFLD角度の測定乳頭中心と黄斑の中点を求め,乳頭を軸に円を描き,この円がNFLDと交差する2点と乳頭中心がなす角度をNFLD角度と定義.図5BNFLD角度と視野MD値の相関NFLD角度と視野MD値の間に有意の負の相関を認める.(Pearson相関関係,Y=0.386.0.147X,r=.0.761,p<0.0001).(文献17より許可を得て掲載)NFLDは拡大することから16,17),視神経乳頭の篩状板のにおいては,乳頭rimや網膜神経線維の消失とともに,障害部位とrimnotchに続くNFLDの境界線が緑内障それを栄養する毛細血管網も退行変性して消失するもの進行の活動部位(activesite)と考えられる.Quigleyらと考えられる.したがって,緑内障進行の過程で篩状板は,緑内障の進行において消失する神経組織量に比例しの変形とともに拡大する乳頭のrimnotchとそれに続くて周囲の血管組織も消失することを報告した18).また,NFLDの境界線(activesite)でrim組織と網膜神経線正常サル眼19)に比較して実験緑内障サル眼においても,維の消失とそれに伴う神経線維周囲の毛細血管網の破綻視神経乳頭の毛細血管網(radialperipapillarycapillar変性が起こり,その過程で2次的に乳頭出血を生じるとies)は粗となり(unpublisheddata)(図6),緑内障進行筆者らは推定している(activesite仮説)(図7).1140あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(60)020406080100120140 図6A実験緑内障サル眼の視神経乳頭の血図6B正常サル眼の視神経乳頭の血管鋳型管鋳型標本標本(対側眼)乳頭の微小血管の消失により,粗な毛細血管視神経乳頭表層の毛細血管網は放射状にきれ網になっている.いに配列している.NFLDCapillarynetworkDisruptionofcapillarynetworkNFLDの境界線根元の篩状板での軸索障害が緑内障進行のActivesiteDHは緑内障進行の過程で,軸索障害近傍の乳頭周囲毛細血管網の破綻によって生じる図7緑内障進行と乳頭出血のActivesite仮説視神経乳頭の篩状板の障害によりrimnotchとそれに続く網膜神経線維層欠損の境界線が,緑内障視神経障害進行の最も活動性の高いactivesiteであり,緑内障進行の過程でこの境界線でrim組織と網膜神経線維の消失とそれに伴う神経線維周囲の毛細血管の退行変性が起こり,その過程で2次的に乳頭出血を生じるとする仮説.2.MON.GON仮説近視と緑内障との関連は近年のホットな話題である.筆者らのグループは経過観察中の多数例の原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)(広義)から強度近視群を抽出し,非近視群と強度近視群の視野(61)進行について比較検討した.その結果,10年以上の経過観察期間において,非近視群では強度近視群よりも視野障害進行の確率およびDHの頻度が高いことが明らかとなった(unpublisheddata).また,乳頭周囲の網膜脈絡膜萎縮(parapapillaryあたらしい眼科Vol.31,No.8,20141141 症例:62歳男性RV=0.02(1.0×-10D)図8コーヌスのOCT所見(PPAgzone)コーヌスのOCT所見はBruch膜のない強膜と網膜神経線維層のみが存在している所見で,組織学的にはJonasらによって提唱されたPPAのzonegに相当すると考えられる.MONGONPPA緑内障性視神経症近視緑内障緑内障性変化が強いコーヌス乳頭傾斜近視性視神経症近視性変化が強い速<視神経症の進行速度>遅多い<乳頭出血の頻度>少ない図9近視緑内障のMON.GON仮説近視性視神経症(MON)と緑内障性視神経症(GON)の2つの視神経症が存在し,その重なり合いのところが近視緑内障の病態と考える仮説.atrophy:PPA)はzonea,bに分けられるが,zonebが緑内障の進行に関係することが報告されている20).一方,コーヌスとはBruch膜のない強膜と網膜神経線維層のみが存在している所見である(図8).近年,Jonasら21)によって提唱されたPPAのzonegがいわゆるコーヌスにあたると推測している.そこで,先ほどと同じ症例群をPPA群とコーヌス群とに分けて,10年間以上の経過観察結果を検討した.ただし,PPAとコーヌスの両方が観察された症例は除外した.その結果,PPA1142あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014群ではコーヌス群と比較して視野障害が進行する確率が高く,また,有意にDHの出現が多くみられた.このような結果から,視神経症については緑内障性視神経症と近視性視神経症の2つが存在し,その重なり合いのところが近視性緑内障の病態と推察し,MONGON仮説を提唱した.MONは“myopicopticneuropathy”,GONは“glaucomatousopticneuropathy”で,GONが強ければ神経症の進行速度は速く,DHの頻度も高く,またPPAがみられる.一方,MONの性格が強いと視野の進行速度は遅くDHの頻度も少なく,コーヌスや乳頭傾斜がみられるとする仮説である(図9).3.構造と機能の同時評価筆者らは眼底像対応視野計(AP-7000)とスペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)を組み合わせることによりOCT対応眼底像視野計を実用化すれば,緑内障の詳細な構造的な変化と視野変化の関係を同時に評価できると考え,OCT対応眼底視野計を開発し臨床応用を開始した.図10にOCT対応眼底対応視野検査の結果を示す.眼底像対応視野計(AP-7000)にOCT黄斑マップで6×6mmの範囲の網膜神経線維層+網膜神経節細胞層+内網状層(GCC)の厚みのデビエーションマップを貼り付けてある.眼底写真+OCT画像は視野(62) 視野に対応させて眼底を上下反転視野に対応させて眼底を上下反転GCC厚トータル偏差図10OCT対応眼底視野検査眼底像対応視野計(AP-7000)にOCT黄斑マップで6×6mmの範囲の網膜神経線維層+網膜神経節細胞層+内網状層(GCC)の厚みのデビエーションマップを貼り付けてある.眼底写真+OCT画像は視野に合わせて上下反転してある.視野のトータル偏差とOCTのGCC厚をpointbypointで同時評価ができきる.に合わせて上下反転してある.下耳側の網膜神経線維層欠損(図では上方)の黄斑部側の境界線付近に約.30dBの感度低下(数字に赤い線)がみられる.また,OCTのGCCマップ画像では,感度低下のみられる網膜神経線維層欠損の黄斑側境界線にGCC層の菲薄化がみられる.緑内障進行のactivesiteと考えられる網膜神経線維層欠損の境界線近傍では,眼底像視野計にて視野感度の低下がみられ,OCTにて網膜内層が菲薄化していた.さらに,教室の大久保らは東大眼科新家,多治見市の岩瀬らと共同で,Humphrey10-2によるすべての視野測定点68点と黄斑部OCTの網膜内層GCC厚との間に,中等度の有意な相関があることを見出した.ただし,黄斑部での視細胞と網膜神経節細胞との位置ずれ(RGCdisplacement)を理論式で位置補正した.このことから,OCT画像から視野欠損の状態をある程度類推することが可能と思われる(Ohkuboetal:InvestOphthalmolVisSci,inpress).III動物実験に夢を託した日々ヒトの眼を用いた研究にはさまざまな面で限界があり,それを補完する意味でマウス,ラット,ウサギなどの小動物を用いて基礎研究を行ってきた.1.血管鋳型標本1990年から1992年に米国DeversEyeInstituteのE.MichaelVanBuskirk教授のもとに留学していた当時,点眼薬の視神経神経乳頭への影響はまだ明らかでなかった.そこで,家兎を全身麻酔下で,血液と同じ粘稠度の樹脂を血圧と同じ圧力で注入することにより,生理的状態に近い血管鋳型標本を作製して検討した22).ウサギに交感神経a1刺激薬フェニレフリンを40日間連続点眼したところ,視神経乳頭への栄養血管であるZinnHaller動脈輪から分枝する細動脈が有意に収縮していることが走査型電子顕微鏡で観察された23)(図11).これは,当時としては初めて点眼薬が後眼部の視神経乳頭部にも影響を及ぼすことを示した報告である.2.PGに代わる眼圧下降薬の検索PG点眼薬に代わる眼圧下降薬として,血管内皮由来の生理活性物質であるエンドセリン(ET)に着目した.もともと血管収縮を起こすことが知られているが,眼圧下降作用についてET-1(ETa,ETb受容体に働く)を家兎眼硝子体に投与すると,用量依存性に一過性の眼圧上昇とそれに続く3日間に及ぶ持続性の眼圧下降が観察された(須田賞論文)24).この2相性眼圧変動は家兎へのPGE2点眼実験によく似た結果2)であったが,眼圧下降期間がET-1のほうが圧倒的に長かった.別の実験で眼(63)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141143 2.5%塩酸フェニレフリンの40日間連続点眼点眼側23.8±2.1%52vessels非点眼側14.1±1.7%52vesselsZinn-Haller動脈輪の分枝の血管収縮率2.5%塩酸フェニレフリンの40日間連続点眼点眼側23.8±2.1%52vessels非点眼側14.1±1.7%52vesselsZinn-Haller動脈輪の分枝の血管収縮率P<0.01図11点眼薬が視神経乳頭部Zinn.Haller動脈輪の血管を収縮させた家兎眼への塩酸フェニレフリンの40日間連続点眼により,点眼側で非点眼側に比べ有意な血管収縮が認められた.(文献23より許可を得て掲載)ab40403535IOP(mmHg)00.5123468244872201510500.512346824487220105******************************30IOP(mmHg)30252515Time(hours)Time(hours)図12Aエンドセリン.1の硝子体投与後の二相性眼圧変動家兎眼にエンドセリン-1の硝子体投与後に一過性の眼圧上昇とそれに続く持続性の眼圧下降を認めた.(文献24より許可を得て掲載)40353025201510○=10-4M◇=10-7M△=10-6M□=10-5M*******************************5IOP(mmHg)012346824487296120144168192216Time(hours)図12BエンドセリンB受容体刺激薬の硝子体投与後の眼圧下降作用家兎眼にエンドセリンB受容体刺激薬の硝子体投与後に1週間に及ぶ持続性の眼圧下降を認めた.(文献26より許可を得て掲載)1144あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(64) 圧作用は房水産生の抑制によることを報告した25).しかし,一過性眼圧上昇と血管収縮という問題が残った.そこで,血管収縮を起こさないETb受容体の選択的刺激剤であるsarfotoxinS6cを家兎眼硝子体に投与すると,用量依存性に持続性の眼圧下降作用を示し,その期間は3日から高濃度では1週間に及び,血管収縮作用は認めなかった26).ETは,PGに代わる長期間作用の夢の眼圧下降薬になることを願っている.3.ラット網膜神経節細胞の生体内観察眼圧下降療法を補完するものとして,薬剤などによる種々の神経保護療法が緑内障関連動物モデルを用いて検討されてきた.これらのモデルにおける視神経傷害の定量法は,従来から網膜の伸展標本や組織切片などによる組織学的手法のみであった.この場合,網膜神経節細胞の傷害程度の比較を傷害前後で行うことはできず,個体間あるいは左右眼で比較せざるをえない.これを解決する唯一の方法は,視神経傷害を生体内で経時的に定量評価する方法である.教室の東出らはラットを用いて網膜神経節細胞の生体内定量的評価法の確立を試みた.眼科臨床に用いられている画像診断装置である走査レーザー検眼鏡(SLO)に着目し,視神経傷害モデルとして頻用される視神経挫滅モデルを用いて網膜神経節細胞の変化を生体内で定量的に評価した(須田賞論文)27).まず,BrownNorwayラットの上丘に蛍光色素DiAを注入して,網膜神経節細胞を逆行染色した.その2カ月後に微A小血管用クリップによって眼窩内で視神経を挫滅した.逆行染色された網膜神経節細胞は,波長488nmのアルゴンレーザーとフルオレセイン蛍光眼底造影用フィルターを使用してSLOによって明瞭に観察できた(図13A).SLOにて蛍光(+)となった細胞数を経時的に計測したところ,視神経挫滅後1週目から有意に減少し,4週目まで減少が進行した(図13B).標識された網膜神経節細胞の死後に蛍光色素を貪食したミクログリアが標識され蛍光(+)となる可能性があり28.30),網膜神経節細胞数の定量にはこれを区別する必要があった.視神経挫滅前のSLO画像を白黒反転し,挫滅後のSLO画像と重ね合わせることによって,新たに生じた蛍光点をミクログリアとして区別しうると考えられた.視神経挫滅後にSLOにおいて新たに生じた蛍光点を差し引いて蛍光(+)の細胞数を定量したところ,網膜伸展標本での網膜神経節細胞数とよく一致した(図13B).4.ラット専用OCTによる網膜神経線維層の定量上述の生体内での網膜神経節細胞の定量27)は,視神経傷害モデル(視神経挫滅,高眼圧など)において有用であるが,実験には多大な時間と労力を要する.一方,臨床の場において光干渉断層計(OCT)は生体内の網膜断層像を撮影でき,緑内障による網膜神経線維層(RNFL)の菲薄化を観察するのに非常に有用であることが知られている.そこで東出,長田らは市販のOCTを改造し,ラット視神経挫滅モデルにおけるRNFLの生B2,500cellcount(/mm2)50002,0001,5001,000totalcellcountbySLORGCcountbySLORGCcountbyretinalflatmountBaseline124Post-crush(weeks)図13Aラット網膜神経節細胞逆行染色後の走査型レーザー検眼鏡(SLO)像逆行染色された網膜神経節細胞は,波長488nmのアルゴンレーザーとフルオレセイン蛍光眼底造影用フィルターを使用してSLOによって明瞭に観察できた.図13B視神経挫滅モデルでの網膜神経節細胞数の経時変化―網膜進展標本との比較SLOにて蛍光(+)となった網膜神経節細胞(RGC)数を経時的に計測したところ,視神経挫滅後1週目から有意に減少し,4週目まで減少が進行した.(文献27より許可を得て掲載)(65)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141145 体内経時的変化を定量的に観察する方法の開発を試みた31).市販のOCT(EGSCANNER,マイクロトモグラフィー社製)の光源を高解像度用SLD(superluminescentdiode)に変更し,光源とラット眼に応じた光学系の改造を行った.ラット眼のRNFLは改造したOCTにて明瞭に観察することが可能であった31).RNFL厚は視神経挫滅1週後では変化はなかったが,2週後より有意に進行性に減少した(p<0.01).対照眼のRNFL厚には実験期間中で変化はみられなかった(図14).OCTと網膜組織切片でのRNFL厚には有意な相関があった(r=0.90,p<0.001)31).このように市販のタイムドメイン******35302520151050挫滅前OCTによるRNFL厚(μm)1週後2週後4週後挫滅眼対照眼図14視神経挫滅モデルでの網膜神経線維層厚の経時変化視神経挫滅後のOCTでの視神経乳頭周囲サークルスキャンでの平均RNFL厚の変化を示す.データは平均±標準偏差を示す(n=9).*p<0.01(repeated-measuresANOVA).**p<0.001(pairedt-test).(文献31より許可を得て掲載)耳側OCTをラット用に改良し,視神経挫滅モデルでRNFLの経時的変化を評価することに成功した.以前,教室の川口らがSLOを用いてラットのRNFL厚を生体内評価,計測し報告している32).しかし,SLOで評価したRNFL厚は組織標本と良い相関を示したが,SLOは網膜断層を撮影しているわけではなく測定値もピントの深さによる相対値でしかなかった.この点からSLOよりOCTのほうがRNFL厚測定に適していた.5.PG点眼薬の神経保護作用前述のエンドセリン(ET)は強力な血管収縮作用をもつ.緑内障患者33.36)および緑内障動物モデル37,38)において,前房水や硝子体液中のET-1濃度上昇が指摘されており,緑内障への関与が考えられている.一方,プロスタグランジン製剤であるtafluprost(TAF)は強力な眼圧下降効果に加え,眼血流改善作用39.43)や神経保護効果44,45)をもつとの報告がある.そこでラットET-1硝子体内投与モデル(強力な血管収縮により網膜の虚血を生じる)において,ラット用スペクトラルドメインOCT31)にて視神経乳頭周囲半径500μmの網膜経時的変化を評価し,TAFの神経保護効果を検討した(図15A,B)46).内顆粒層外網状層外顆粒層網膜色素上皮内網状層視細胞内節/外節接合部外境界膜脈絡膜神経節細胞層網膜内層神経線維層上方鼻側下方耳側耳側上方下方鼻側図15Aラット用のスペクトラルドメインOCTによるラット網膜断層像対照眼ET-1(20pmol)投与眼図15Bラット眼のSD.OCT検査とET.1硝子体内投与のラット網膜のフラットマウントエンドセリン-1(ET-1)の硝子体投与により,網膜のフラットマウントで網膜に障害を認める(黒い部分).1146あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(66) 10週齢Brown-Norwayラットの片眼硝子体にET-1(0.2.200pmol)を投与後,2週後までOCT撮影を行った.つぎにラット片眼にET-1(20pmol)硝子体内投与ピアソンの相関係数r値後,二重盲検にてTAFまたは生理食塩水(生食)の1日1回点眼を4週間行い,投与前,点眼後1,2,4週後にOCT撮影を施行した.最終OCT撮影後,Fluorogold(FG)逆行染色によって網膜神経節細胞(RGC)数を計測した.5pmol以下のET-1投与群では網膜各層厚に有意な変化はみられなかった.20pmol以上投与群では網膜全RGC数Central領域Peripheral領域平均網膜全層厚0.840.710.82網膜神経線維層厚0.790.720.79網膜内層厚0.920.800.901205.0pmol20pmol80control0.2pmol2.0pmol網膜内層厚(μm)層厚,RNFL厚,内層厚に有意な菲薄化がみられた.ET-1投与2週後のOCTによる網膜内層厚と,central領域のRGC数が最も相関した(r=0.92,p<0.001,図16)46).60pmol200pmol網膜全層厚,内層厚およびRNFL厚は,ET-1投与後1,2週後でTAF群が生食群より有意に厚かった.FG逆行染色ではcentral領域にてTAF群が生食群よりも多くのRGC生存が確認された(p=0.03,図17)46).OCTで計測した網膜内層厚はRGC数と最もよく相関し,このモデルでのRGC傷害のinvivo評価の指標として有用であった.ET-1硝子体内投与による網膜障害****40220405001,5002,5003,500網膜神経節細胞数(central領域)(cells/mm2)図16エンドセリン.1のラット眼硝子体投与後の網膜神経節細胞(RGC)数(網膜のフラットマウント)とOCTで計測した網膜各層厚との相関網膜内層厚とcentral領域の網膜神経節細胞数が最も強い正の相関を示した.(文献46より許可を得て掲載)******************RNFL厚(μm)******TAF生食網膜全層(μm)3530210200251902015105180170160150140投与前1週後2週後4週後0投与前1週後2週後4週後3500110****************1週後2週後4週後p<0.05**p<0.01***p<0.001twowayANOVA網膜内層厚(μm)■TAF■生食05001000150020002500Central領域Peripheral領域平均*p=0.032標本t検定RGC数(cells/mm2)30001009080706050投与前*図17ET.1硝子体内投与モデルへのタフルプロスト点眼(4週間)の効果網膜全層,網膜神経線維(RNFL)層,網膜内層,central領域の網膜神経節細胞(RGC)数ともに,タフルプロスト点眼群で有意にエンドセリン-1(ET-1)による障害が抑制された.(文献46より許可を得て掲載)(67)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141147 野生型マウス時計遺伝子ノックアウトマウス201818161614WildtypeLightDarkIOPmmHg12IOPmmHgIOPmmHg14121010868464220LightDarkCry-deficient0036912151821Circadiantime(CT)Circadiantime(CT)(Mean±SEM)2020WildtypeDarkDark181816DarkDarkCry-deficient03691215182116IOPmmHg1414121210108686442020369121518210036912151821Circadiantime(CT)Circadiantime(CT)(Mean±SEM)(Mean±SEM)図18マウス眼圧日内変動と時計遺伝子明暗条件下では野生型マウスは二相性の眼圧変動を示したが,Cry-deficientマウスでは眼圧の有意な変動は起こらなかった.恒暗条件下でも野生型マウスは二相性の眼圧変動を示したが,Crydeficientマウスでは眼圧の有意な変動は起こらなかった.は,TAF点眼により抑制される可能性が示唆された.IV眼圧日内変動を科学する1.眼圧日内変動の遺伝子レベルでの解明に向けてウサギやラット,マウス,ヒヨコ,マーモセットといった動物の眼圧が12時間明暗サイクル下で二相性の変動パターンを示すことが知られており,また,ウサギ,ラットにおいては,それらの眼圧変動パターンが24時間恒暗条件下でも保たれることから,眼圧の日内変動も生体内時計とかかわりがあると考えられている47.51).一方,生体内のさまざまな生理的現象や生物の行動の日内リズムが視交叉上核を中枢とした生体内時計の制御を受けていることがわかっている.その中枢時計の核となる時計遺伝子として,Period遺伝子(Per1,Per2,Per3)やCryptochrome遺伝子(Cry1,Cry2),Clock,Bmal1,CaseinKinase,Dec1,Dec2などがみつかっており,この時計遺伝子は転写と翻訳の促進と抑制のフィードバックループを形成して生体内で時を刻むというメカニズムがわかってきている52,53).Cry1,Cry2遺伝子をダブルノックアウトしたマウス(Cry-deficient(Cry1-/-Cry2-/-)については行動や体温調節といったサーカディアンリズムが完全になくなることがわかっている54.56).筆者らはCry1,Cry2遺伝子をダブルノックアウトしたCry-deficientマウスについて眼圧の日内変動の有無を調べ正常なマウスと比較し,生体内時計による眼圧日内変動の支配を明らかにする研究を行った57).ケタミンとキシラジンの腹腔内投与による全身麻酔下において,圧トランスデューサとブリッジアンプを介してコンピューターに接続したガラス製のマイクロニードルを対象眼の角膜から前房内に刺入するマイクロニードル法51)にて眼圧測定した.野生型マウスは明暗条件下では,明期眼圧より暗期眼圧が有意に高値となる二相性の眼圧変動を示した57)(図18).この眼圧の日内変動は,恒暗条件下でも保たれていた57)(図18).一方,Cry-deficientマウスにおいては,明暗および恒暗どちらの条件でも有意な眼圧日内変動は認められなかった57)(図18).これらの結果から眼圧の日内変動は時計遺伝子によって発振される中枢時計による制御をうけて生じていることが初めて示された57).1148あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(68) ABCS49G(b1)Del301-303(a2B)Del322-325(a2C)I/I(n=33)I/I(n=78)A/A(n=65)1818meanIOP(mmHg)Dcarriers(n=59)*****meanIOP(mmHg)691215182124161412meanIOP(mmHg)DCarriers(n=14)****691215182124161412GCarriers(n=27)****691215182124TimeTimeTime図19交感神経受容体の遺伝子多型による2日間の平均眼圧日内変動A:a2BのDel301-303では,Insertion/Insertion(I/I)の眼圧の日内変動曲線がDeletion(D)キャリアーより有意に高い.B:a2CのDel322-325では,I/Iの眼圧の日内変動曲線がDキャリアーより有意に低い.C:b1のS49Gでは,A/Aの眼圧の日内変動曲線がGキャリアーより有意に高い.(文献63より許可を得て掲載)2.眼圧日内変動を遺伝子レベルで予測する眼圧は正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)を含むすべての緑内障において最も重要なリスクファクターであるが,眼圧の日内変動幅の大きさも緑内障の進行に関与すると報告されている58,59).しかしながら,眼圧日内変動には個人差が大きく,眼圧日内変動の測定には時間と労力を要する.個々人の眼圧日内変動をある程度予測することができれば,臨床上きわめて有用と思われる.眼圧日内変動は中枢時計により作り出され,交感神経を介して眼圧変動が生じる可能性はある60.62).交感神経受容体には,a1,a2,bが知られており,a1受容体にはa1A,a1B,a1Dが,a2受容体にはa2A,a2B,a2Cが,b受容体にはb1,b2,b3が知られている.そこで,日内眼圧とa,b受容体遺伝子多型との間に関連があるかどうかを,NTG患者において検討した63).無治療の92人のNTG患者を対象とした.両眼の眼圧を2日間,6時から24時まで3時間ごとにGoldmann圧平眼圧計により測定し,より視野障害の進行した眼の眼圧について,2日間の同一時刻の眼圧値を平均し,各時刻の眼圧値とした.NTG患者において,a2B受容体遺伝子のDel301-303,a2CのDel322325,b1のS49Gにおいて,遺伝子型と日内変動の平均,最高,最低眼圧の間に有意な関連が認められた.しかし,眼圧変動幅においては関連がみられなかった.また,眼圧変動曲線の解析から,NTG患者において交感神経受容体遺伝子の多型が日内変動の眼圧レベルに影響を与える可能性が示唆された(図19).交感神経受容体多型により眼圧日内の変動の大きさは予測できないが,眼圧レベルをある程度予測できる可能性がある63).Vテーラーメイド薬物治療現在の第一選択薬としてはプロスタグランジン関連薬が多く用いられているが,予想外に眼圧が下降しない症例をしばしば経験する.Aungら64)とScherer65)により,ラタノプロストにおけるノンレスポンダーの存在が示唆されているが,その原因は明らかではない.近年,薬物治療における治療効果と副作用の個人差が遺伝子の一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)と関連していることが明らかになりつつある.緑内障治療薬としては,b遮断薬であるベタキソロールに対する眼圧下降作用が健常人でb1受容体のSNP,Arg389Glyと関連性があるという報告がある66).また,McCartyらは,b遮断薬に対する眼圧下降作用がb2受容体遺伝子のSNPrs1042714のCCであると有意に大きいと報告している67).マウスでFPレセプター遺伝子をノックアウトすると,ホモ接合体ではラタノプロスト点眼による眼圧下降作用がみられない68)ことから,FPレセプターがラタノプロストの眼圧下降作用に不可欠であることが示唆された.したがって,FPレセプター遺伝子が,ラタノプロスト点眼に対する眼圧下降作用を規定していると考えられる.正常人100人にラタノプロストを片眼に1週間点眼し,前後で日中3回の眼圧測定およびラタノプロストの作用点であるFP受容体の遺伝子多型の検索を行った.FP受容体のプロモータ領域,1stイントロン領域,アミノ酸翻訳領域,アミノ酸非翻訳領域において,10カ所の遺伝子にSNPが認められた.また,平均眼圧下降率と有意に相関するSNPはプロモータ領域にあるrs(69)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141149 3753380であり,平均眼圧下降率によってラタノプロストへの反応性をhighresponder,mediumresponder,lowresponderに分類し,その3群と有意に相関するSNPはrs3753380と1stイントロン領域のrs3766355であることを認めた69).つぎに広義の原発開放隅角緑内障患者および高眼圧症患者82人に対して,片眼にラタノプロスト点眼した後の点眼前後2回ずつ眼圧測定をして眼圧下降率を,無治療の他眼の眼圧変動で補正して算出した.そして,前出のFP受容体のSNPと眼圧下降率との相関を検討したところ,プロモータ領域のrs12093097に有意な相関が認められた.さらに,lowresponderと相関するSNPとしてもrs12093097が有意な因子として検出された70).緑内障治療薬について受容体などのSNPと薬剤の眼圧下降作用の関係が明らかになれば,あらかじめ個人の特定のSNPを調べることにより,その人がどの緑内障治療薬に対して反応する(レスポンダー)のかをあらかじめ予測することができる.これによって,各個人に最適な治療薬を早期に提供する緑内障治療薬のテーラーメード医療が実現する可能性がある.VIより安全確実な濾過手術を目指して1.緑内障濾過手術の問題点わが国では代謝阻害薬であるマイトマイシンC(MMC)の術中結膜下塗布が術後の濾過胞瘢痕化抑制のためにルーチンで使用されている.これによって,トラ5μm厚さ7μmハニカム面平滑面HPFHPF*HPF:Honeycomb-patternedfilm図20ハニカムフィルムとウサギのトラベクレクトミーモデルハニカムの直径は約5μmであり,この特徴的な構造により組織や細胞に容易に接着する.これにより濾過胞の内壁にハニカムフィルムが接着する.1150あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014ベクレクトミーの手術成績が飛躍的に向上した反面,無血管性の脆弱な濾過胞の形成を促進し,濾過胞感染の発生が増加した.最近,日本緑内障学会主導の濾過胞感染症調査の報告では,MMC併用トラベクレクトミー後の濾過胞炎発症率は2.2%/5年であり,房水漏出の既往眼では7.9%/5年であった71).その他,過剰濾過による低眼圧黄斑症,濾過胞の瘢痕化による眼圧の再上昇などの合併症があるが,トラベクレクトミー術後合併症の多くは濾過胞に起因している.2.ハニカムフィルムを用いた実験的緑内障濾過手術トラベクレクトミーによる眼圧下降を長期間にわたって持続させるには,濾過胞瘢痕化の抑制が必要である.このMMCと訣別するための戦略として,創傷治癒反応の結果生じる濾過胞の結膜や強膜弁の癒着を防止する目的で,物理的隔壁を手術中に設置することが考えられてきた.筆者らは,濾過手術における物理的隔壁として理想的な癒着防止フィルムを探し求めていたところ,帝人が開発したハニカムフィルムにゆきあたった.ハニカムフィルムは片面に直径約5μmのハニカム構造を有する,乳酸カプロラクトン共重合体(バイクリル,モノクリルなどの吸収性縫合糸の材料)から構成される無処置群(n=6)MMC群(n=6)HPF群(n=6)HPF群(n=6)無処置群(n=6)HPF群(n=6)MMC群(n=6)HPF群(n=6)HPF群vs無処置群HPF群vsMMC群10080604020010080604020025201510502520151050302520151050302520151050302520151050302520151050DaysaftersurgeryDaysaftersurgeryDaysaftersurgeryDaysaftersurgerysurvivalrate(%)survivalrate(%)IOP(mmHg)IOP(mmHg)AB図21家兎全層濾過手術(ハニカムフィルムとMMCの比較)術後10日から28日までハニカムフィルム眼ではコントロール眼より有意に平均眼圧は低く経過した(*p<0.05).ハニカムフィルム眼とマイトマイシンC(MMC)眼の術後眼圧には有意差はみられなかった.(文献73より許可を得て掲載)(70) ウサギMMC併用全層濾過手術ウサギMMC併用全層濾過手術ハニカムフィルム(HPF)術後1か月濾過胞・結膜上皮細胞のレーザー共焦点顕微鏡像MMCのみMMC+HPF無処置群(n=5)MMCのみ群(n=6)MMC+HPF群(n=6)無血管濾過胞DaysaftersurgeryIOP(mmHg)252015105007142128眼圧の経過図22ハニカムフィルムは,MMC併用の場合,濾過胞壁を保護できるか?マイトマイシンC(MMC)眼では術後有意に低く眼圧が経過したが(p<0.001),MMC非使用のコントロール眼は有意な眼圧下降を認めなかった.MMCのみ群では,無血管濾過胞と結膜上皮細胞の巨大化を認めるが,MMCとハニカムフィルムの併用群では,有血管濾過胞と正常な結膜上皮細胞が観察された.生分解性ポリマーフィルムである72)(帝人社製,図20).膜厚は7μmで,ハニカム構造を有する面は容易に細胞と吸着し,反対に表面平滑な構造を有する面は細胞との吸着を阻害する.本フィルムは約1年かけてゆっくりと生体組織に分解吸収される.筆者らは家兎を用い,本フィルムのハニカム構造を有する面をTenon.と吸着させ,強膜とTenon.の癒着を防止することにより濾過胞を存続させる効果があるかを検討した.教室の奥田,東出ら73)は,家兎12羽を使用し,2グループに分けて両眼に緑内障濾過手術を行った.グループ1では片眼は濾過手術のみ(コントロール),他眼にはハニカムフィルムを置いた濾過手術を行った.グループ2では片眼にハニカムフィルムを置いた濾過手術を,他眼にはMMCを用いた濾過手術を行った.その結果,ハニカムフィルム眼のほうがコントロール眼に比し術後10日目から28日目まで有意に眼圧は低く経過した(p<0.05,図21)73).ハニカムフィルム眼とMMC眼の眼圧経過には有意差はみられなかった(図21)73).また,コントロール眼で5眼,MMC眼では1眼濾過胞が消失した.ハニカムフィルムを使用した全12眼で濾過胞は存続し,ハニカムフィルム眼のほうがコントロール眼に比し有意に濾過胞存続期間は長かった(p<0.05)(特許(71)取得).3.ハニカムフィルムによる無血管性濾過胞形成の抑制効果の検討教室の奥田,東出らはハニカムフィルムがTenon.へ吸着するという特性を生かし,これをMMCと併用した場合に無血管性濾過胞の形成を抑制できるか検討した.また,結膜のより詳細な変化を観察するため実験的緑内障濾過手術後の濾過胞結膜をinvivoconfocalmicroscopy(IVCM)にて観察した74).家兎11羽のうち5羽の片眼に無処置の濾過手術を(コントロール:n=5),6羽の片眼にMMCを用いた濾過手術を行い(MMC眼:n=6),他眼にMMCを用いた濾過手術+ハニカムフィルムによる処置を行った(MMC+HPF眼:n=6).その結果,MMC眼では術後有意に低く眼圧が経過したが(p<0.001),MMC非使用のコントロール眼は有意な眼圧下降を認めなかった(図22)74).無血管性濾過胞の平均面積は術後2,3,4週でMMC+HPF眼のほうがMMC単独眼より有意に小さかった(p=0.034,0.018,0.037)(図22).一方,結膜上皮細胞の平均面積はMMC単独眼で術前に比し術後は大型化した(p<0.001)(図22).また,MMC単独眼ではあたらしい眼科Vol.31,No.8,20141151 房水結膜強膜抗癌剤が徐放される(DDS)結膜側にハニカム膜を設置抗癌剤を含有したフィルムを積層●●房水結膜強膜抗癌剤が徐放される(DDS)結膜側にハニカム膜を設置抗癌剤を含有したフィルムを積層●●図23抗癌剤のドラッグデリバリーシステムとしてハニカムフィルムを利用した濾過手術方法の模式図術後,コントロール眼(p=0.001,p<0.001,術後1,4週)およびMMC+HPF眼に比し大型化した(p=0.004,p<0.001,術後1,4週).また,組織学的所見ではMMC単独眼では著しく菲薄化した結膜上皮および部分的上皮欠損を認めた.MMC+HPF眼ではほぼ正常な結膜上皮が観察され,濾過胞内壁に沿って軽度の線維化を伴い,ハニカムフィルムの部分的な吸着を認めた.このように,ハニカムフィルムを使用することにより,MMCを併用しても濾過胞の形状や機能を損なうことなく結膜上皮障害は抑制され,また無血管性濾過胞の形成を抑制した(特許取得).4.抗癌剤のドラッグデリバリーシステム丈夫な濾過胞を維持しつつ癒着を抑制して眼圧下降を得るため,MMC以外の抗癌剤をハニカムフィルムに積層したドラッグデリバリーシステムの検討もしている(国際特許申請)(図23).ハニカムフィルムからこの抗癌剤は4週間かけて溶出されるが,この抗癌剤の用量依存的に眼圧は下降し,濃度には非依存性にfibrosisを有意に抑制することが判明した.そして,濾過胞の形成については,この抗癌剤が低濃度であれば有血管性濾過胞となることが明らかとなった.この結果から,ハニカムフィルムと抗癌剤を用いたドラッグデリバリーシステムによって安全確実なトラベクレクトミーが期待できる.おわりに研修医のときから27年にわたり,素晴らしい指導者および多くの仲間と一緒に「より良い緑内障診療を目指1152あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014して」夢を追ってきた.新しいことを発見したときの感動と喜び,あるいは目の前の患者を救うための研究が報われたときの喜びは何ものにもかえがたいと思う.そして,今後は金沢大学およびこの緑内障学会会員からより多くの若い研究者,臨床医を育成していくことが私の責務と考えている.謝辞:稿を終えるにあたり,15年の長きにわたり緑内障診療,研究のご指導をいただきました恩師北澤克明先生,名誉ある須田記念講演の機会を与えていただきました第24回日本緑内障学会会長の富田剛司教授,座長の労をおとりいただきました日本緑内障学会理事長(当時)新家眞先生,多大なご支援を賜りました金沢大学眼科同門会の諸先生と金沢大学眼科学教室の諸氏に厚くお礼申し上げます.特に,本教室の東出朋巳,大久保真司,新田耕治,小林顕の諸氏には,本研究の4奉行として,多大な貢献をしていただき深謝します.本研究は文部科学省科学研究費補助金などで行われました.文献1)SugiyamaK,KitazawaY,KawaiKetal:BiphasicintraocularpressureresponsetoQ-switchedNd:YAGlaserirradiationoftheirisandapparentmediatoryroleofprostaglandins.ExpEyeRes51:531-536,19902)CamrasCB,BitoLZ,EakinsKE:Reductionofintraocularpressurebyprostaglandinsappliedtopicallytotheeyesofconsciousrabbits.InvestOphthalmolVisSci16:11251134,19773)SugiyamaK,KitazawaY,KawaiK:ApraclonidineeffectsonocularresponsestoYAGlaserirradiationtotherabbitiris.InvestOphthalmolVisSci31:708-714,19904)KitazawaY,TaniguchiT,SugiyamaK:UseofapraclonidinetoreduceacuteintraocularpressurerisefollowingQ-switchedNd:YAGlaseriridotomy.OphthalmicSurg20:49-52,19895)KitazawaY,SugiyamaK,TaniguchiT:Theprevention(72) 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