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Spectralis HRA+OCT

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYにはすでに約50%のRGCが喪失していることが示されている1).RGCの約50%が黄斑に存在し,黄斑部の神経節細胞の細胞体と軸索からなるGCLやRNFLの計測が注目されてきたがOCT3000の時代は黄斑の網膜全層厚を自動計測するのが限界であった.スペクトラルドメインOCTになり,黄斑のRNFL,GCL,内網状層(innerplexiformlayer:IPL)の3層を合わせた複合体(ganglioncellcomplex:GCC)の自動計測が可能になった2.4).GCLはその部位のRGCの局所的な喪失をそのまま反映するが,RNFLは喪失部位と健常部位の軸索が合流するため,RGCの局所的な喪失がそのまま反映されない.このようにGCLとRNFLは形態および緑内障性障害の性質が異なるため,GCLとRNFLをそれぞれ明瞭に可視化し,計測することが期待されていた.SpectralisTMにより50枚以上Bスキャンの加算平均を行うと黄斑部のRNFLとGCLの境界が明瞭になる(図1).この方法を用い,筆者らは視野に異常が検出される前から局所的にGCLとRNFLに急峻な菲薄化が生じていることを見いだした.GCL厚は上下に高い対称性を示し,視神経乳頭において明らかな緑内障性変化を認めるが,視野には異常がまだ検出されていない症例:preperimetricglaucoma(PPG)群でGCLは83.8%の症例で局所に急峻な菲薄化を認め,8.1%でびまん性の菲薄化を認めた.GCLの菲薄化は下側の黄斑周辺部(中心窩より1.5.3.0mm部位)において最も顕著であり,この部位でGCL厚が正常の70%以下の症例は81.1%,正常の50%以下はじめに近年光干渉断層計(OCT)の進歩はめざましく,タイムドメインOCTからスペクトラルドメインOCTへと進化し,さらにスペックルノイズの除去(スペックルノイズ低減画像)により網膜各層の構造の境界が明瞭で高精細な画像の取得が可能となり,これまでのOCTでは困難であった緑内障の網膜層構造の早期変化の詳細が明らかになってきた.スペックルノイズとは光が干渉しあうことによって生じる画像のノイズのことで,従来のOCTではこのノイズの影響で画質が不鮮明であった.SpectralisTMHRA+OCT(HeidelbergEngineering社)の特長として眼球運動追尾機能(eyetracking)があり,これにより生理的・病的眼球運動の存在下でも効果的なスペックルノイズ除去と正確なフォローアップ機能を可能にしている.最高100枚の加算平均が可能であり,現在当科緑内障外来では通常50枚のBスキャン加算平均を採用している.I黄斑部解析スペックルノイズ除去により神経節細胞の細胞体と軸索がなす神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)と網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)の各単層が明瞭に観察できるようになった.緑内障は網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)が選択的に喪失する疾患と特徴づけられる.緑内障眼の組織学的検討により,視野異常が検出されるとき(25)777*TadamichiAkagi,MasayukiNukada&NorikoNakano:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学〔別刷請求先〕赤木忠道:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学特集●光干渉断層計(OCT)の緑内障への応用あたらしい眼科28(6):777.783,2011SpectralisHRA+OCTSpectralisHRA+OCT赤木忠道*額田正之*中野紀子*778あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(26)ADBCERNFLGCLIPL図1SpectralisTMHRA+OCTで撮影した正常眼の黄斑垂直水平断層像A:眼底写真.B:黄斑水平断層像.C:黄斑垂直断層像.D:Infrared画像.E:Cの拡大図.ABCDEFG図2Preperimetricglaucomaの黄斑垂直断層像の観察A:眼底写真.B:Redfree眼底写真.C:Humphrey24-2SITAstandardのpatterndeviationmap.D:HRTIIのMoorfieldsregressionanalysis.E,F:黄斑垂直断層像(E:Infrared画像.F:OCTB-scan画像).G:Fの拡大図.下方の傍中心窩の神経節細胞層(GCL)の局所の菲薄化(赤矢印)および上下方の黄斑周辺部にGCLおよびRNFLの局所の菲薄化(黒矢印)を認める.(27)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011779のRNFL,GCLに加えて乳頭周囲網膜神経線維(cpRNFL)のパラメータを併用しての診断が有用であると考えられる.日本人では強度近視の緑内障が多く,20.30歳代の若年発症の緑内障患者も散見されるが,強度近視患者の視神経乳頭は変形が強く初期の緑内障性視神経障害の評価は非常にむずかしい.後部ぶどう腫が強い症例を除くの症例は35.1%であった.RNFLの菲薄化は,GCLの菲薄化部位と一致していたがより軽度であり,IPL厚の菲薄化はほとんど認められなかった.RNFL+GCL+IPL(=GCC)ではGCLと同じく,黄斑周辺部の下側で最も菲薄化が著明であったが,正常の50%以下に菲薄化している症例はなかった(図2).黄斑部での緑内障検出の限界として鼻側の異常は検出できないため,黄斑部ABCDEFGHI図3早期緑内障眼のcpRNFL解析A:眼底写真.B:Redfree眼底写真.C:Humphrey24-2SITAstandardのグレースケール.D:HRTIIのMoorfieldsregressionanalysis.E,F:黄斑垂直断層像(E:Infrared画像,F:OCTB-scan画像).G,H:cpRNFL断層像(G:Infrared画像,H:OCTB-scan画像).I:cpRNFLthicknessmap.耳上側が内部正常値の1%以下になる異常(赤)として検出されている.780あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(28)図4菲薄化のみの網膜神経線維層欠損(NFLD)を有する緑内障眼のOCT各機種での比較A:Infrared画像.B,E:SpectralisTMcpRNFLのスペックルノイズ低減画像.C,F:RTVue-100cpRNFLのシングルスキャン画像.D,G:StratusTMOCTcpRNFLシングルスキャン画像.赤破線枠はNFLDに相当する部分.E.G:B.Dの自動セグメンテーション後の画像.B2.G2:それぞれの赤破線枠の拡大画像.(文献8より)BA図5網膜神経線維層欠損(NFLD)のある症例のスペックルノイズ低減cpRNFL画像A:RNFLが菲薄化しているだけで残存している7症例.B:RNFLがほぼ完全に消失している7症例.赤破線枠はNFLD部位で,右側はその拡大画像.(文献8より)(29)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011781意に向上していることも明らかになった.つまり既報にある従来のStratusTMOCTがNFLDの検出率が低いとされていたのは,菲薄化のみのNFLDが検出できていなかったからであり,スペックルノイズを除去したOCTを用いることによってその検出率は向上する.cpRNFL解析においても加算平均によるスペックルノイズ除去がその診断精度を上げるのに重要であり,その点でSpectralisTMは有利である.III視神経乳頭深部構造解析以前から緑内障性視神経症の発症部位は篩状板であると考えられているが,従来のOCTでは乳頭周囲の強膜や篩状板の形状を十分に描出することが困難であった.撮影中にOCTを被験者に近接させ上下反転画像を取得し加算平均することで,脈絡膜側が高コントラストとなった画像を取得するenhanceddepthimaging(EDI法)9)を用いることで脈絡膜外縁の描出が可能となり,近視眼での脈絡膜菲薄化や中心性漿液性網脈絡膜症での脈絡膜肥厚が報告されている.EDI法により視神経乳頭を撮影することで篩状板や視神経乳頭周囲の強膜内側の描出が可能となる(図6).図7は強度近視症例であるが,黄矢印の高輝度部分に篩状板が描出されている.篩状板内の線状の低輝度部分は篩状板孔と考えられる.また,赤矢印はくも膜下腔が描出されているものと思われ,従来のOCTでは見られなかった深部構造が可視化できるようになった.ただし,視神経乳頭鼻側は血管によるブロックや組織の傾斜のために深部構造が明瞭に描出できないことも多く,現時点での限界である.強度近視眼において図7A-3の耳側強膜にみられるように視神経乳頭深部の変形が著しいことがわかってきており,近視が緑内障リスクファクターの一つであることとの関連性や近視性視神経症と近視眼の緑内障との鑑別の一助となる可能性があるが,これは今後の研究結果に期待されるところである.おわりに高精細なOCT画像取得のためには加算平均は不可欠であり,そのためには高速撮影が必要である.現行のSpectralisによる高精細画像によりGCLの可視化,と強度近視眼でも黄斑部の対称性は保たれていることが多いので,黄斑部のRNFL,GCLの形態変化から強度近視眼緑内障の早期発見が可能になることが期待される.II乳頭周囲網膜神経線維(cpRNFL)解析OCTにより視神経乳頭周囲をサークルスキャンし網膜神経線維層厚を測定するcpRNFL解析は緑内障診断に有用である.図3は早期緑内障眼での結果で,網膜神経線維層欠損(NFLD)の存在する上耳側のcpRNFLの菲薄化を認めている.従来のStratusTMOCTでは,NFLDの形態変化を直接観察することは困難であり,幅の狭いNFLDの検出力は低いことが報告されていた5.7).当科にてNFLDを有する症例に対して,スペックルノイズを除去したSpectralisTM,スペクトラルドメインOCTのシングルスキャン画像であるRTVue-100TM,タイムドメインOCTであるStratusTMOCTのシングルスキャンの3種類を用いて同一症例のcpRNFLを撮影した結果が図4である8).他のOCT2機種と比較してSpectralisTMの画像は網膜層構造が鮮明であり,RNFLのセグメンテーション(網膜の層の線引き)も他のOCTが不正確なのに対し,SpectralisTMでは正確であるのがわかる.図5はさまざまなNFLDを有した緑内障症例におけるSpectralisTMのNFLD断層像である.NFLDといっても,たとえば上段Aの症例のように,OCT上では一見するとRNFLが正常のように見える症例や,RNFLが菲薄化しているだけでRNFLが残存している症例,下段Bの症例群のようにRNFLがほぼ完全に消失している症例など,いろいろなNFLD断層像がある.その内訳は,緑内障がより早期で幅が狭いものほど菲薄化のみのNFLDが増加し,緑内障がより進行していて幅が広いものほど完全欠損を含むNFLDが増加する8).完全欠損を含むNFLDにおいては,従来のStratusTMOCTでもNFLDの検出率は高く他のOCTと比較しても検出率は変わらないのに対し,菲薄化のみのNFLDはStratusTMOCT,RTVue-100が検出率が低く,SpectralisTMでの検出率はその他のOCTと比較して有782あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(30)ABCDE図6正常眼の視神経乳頭の通常OCTとEDIの比較A:眼底写真.B:Redfree眼底写真.C:通常のOCT画像.網膜および硝子体は綺麗に描出されているが,深部構造は部分的に不鮮明である.D:EDI画像.篩状板前面,強膜内側境界が比較的明瞭に描出されている.E:Dの線引き後画像.青:ILM,赤:RPE/BM,緑:強膜内側境界,橙:篩状板とそれにつながる強膜境界.矢印の高輝度部位が篩状板である.Aー1Aー2Aー3Bー1Bー2Bー3図7強度近視眼の視神経乳頭EDI画像A:眼軸長28.0mm.B:眼軸長29.0mm.A.1,B.1:眼底写真.A.2,B.2:Redfree眼底写真.A.3,B.3:EDI画像.黄矢印の高輝度部位が篩状板で,篩状板孔の走行も見える.赤矢印はくも膜下腔と考えられるスペース.あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011783cpRNFL解析の精度向上,視神経乳頭深部構造解析など今までになかった情報が手に入るようになってきた.しかしながら,SpectralisTMは高速であるが50枚の加算平均を行うのに最短でも1.92秒を要するため,現行では高精細画像を三次元撮影することは不可能である.今後さらに高速あるいは長波長のOCTが出現してくれば,臨床的に利用できる情報がますます増えていくことが考えられる.ハードの進歩,ソフトの開発に加え,それら多くの情報を臨床に有用な情報として利用する側の情報収集もさらに重要となるだろう.文献1)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453-464,19892)IshikawaH,SteinDM,WollsteinGetal:Macularsegmentationwithopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci46:2012-2017,20053)TanO,LiG,LuATetal:Mappingofmacularsubstructureswithopticalcoherencetomographyforglaucomadiagnosis.Ophthalmology115:949-956,20084)TanO,ChopraV,LuATetal:DetectionofmacularganglioncelllossinglaucomabyFourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:2305-2314,20095)JeoungJW,ParkKH,KimTWetal:Diagnosticabilityofopticalcoherencetomographywithanormativedatabasetodetectlocalizedretinalnervefiberlayerdefects.Ophthalmology112:2157-2163,20056)KimTW,ParkUC,ParkKHetal:AbilityofStratusOCTtoidentifylocalizedretinalnervefiberlayerdefectsinpatientswithnormalstandardautomatedperimetryresults.InvestOphthalmolVisSci48:1635-1641,20077)JeoungJW,ParkKH:ComparisonofCirrusOCTandStratusOCTontheabilitytodetectlocalizedretinalnervefiberlayerdefectsinpreperimetricglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:938-945,20108)NukadaM,HangaiM,MoriSetal:DetectionoflocalizedretinalnervefiberlayerdefectsinglaucomausingEnhancedSpectral-DomainOpticalCoherenceTomography.Ophthalmology,inpress9)SpaideRF,KoizumiH,PozzoniMC:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol146:496-500,2008(31)

OCTの緑内障への応用:未来

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYなった.RNFLは乳頭周囲サークル上のRNFL(cpRNFL)と乳頭周囲および黄斑のRNFLが自動測定可能となった.前者は眼底全体の異常を反映できるglobalindexであり,後者はNFLDを描出できる点に優れる5,6).しかし,GCL厚を自動測定することはできなかった.50%以上のRGCは黄斑部に存在し4,7),黄斑部のRGCは多いところで7層から成りGCLも最も厚い部位で60.70μmもある8).現在,黄斑部のRNFLとGCLと内網状層(IPL)の3層(ganglioncellcomplex:GCC)の厚みを自動計測可能である.しかし,GONにおいてIPL厚はほとんど変化しない8).網膜層境界が不明瞭な原因はスペックルノイズであり,加算平均法によりスペックルノイズを除去するとGCLの境界が明瞭に可視化される(図1).近未来には,黄斑部のGCLとRNFLが自動計測可能となり,RGC喪失に伴う黄斑部の形態変化を詳細に捉えることが可能となる.II初期NFLDの検出:スペックルノイズ除去+三次元先述したようにNFLDの出現は視野異常の検出に6,7年先行するとされる.しかし,OCTのcpRNFL解析は,残念ながら初期変化である細いNFLDの検出感度がきわめて低い9~11).その原因は細いNFLDはGONの初期変化であり,局所的なRGC喪失を反映し急峻な局所の部分的菲薄化であることとNFLDの周囲は菲薄化はあっても軽度であるという特徴を有することにあるはじめに今年のARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)では全演題7,572中Imaging関連の演題数が2,171(28.7%)であった.Imagingは眼科医療を進歩させる研究分野として拡大している.そのなかでも光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が中心を成す.OCTの緑内障への応用はかなり進み,日常診療で用いられるようになってきている.しかし,未来の緑内障への応用を見据えた新しいOCT技術の研究も進んでいる.ここでは,ARVOの最新情報を中心に新しいOCT技術と未来の緑内障診療への応用の意義を考えてみたい.I黄斑神経節細胞層(GCL)厚自動測定神経線維層欠損(NFLD)の出現が視野異常の検出に数年先立つことは以前より知られている1~3).人眼の組織病理学的研究により視野感度が.3dB低下すると52%の神経節細胞(RGC)が喪失することが示されている4).このことから神経節細胞の喪失の結果生じる網膜形態の変化,すなわち「網膜の菲薄化」が緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)の早期診断の標的となる.NFLDは,早期診断の標的として古典的だが今でも有力な所見である.スペクトラルドメインOCT(spectral-domainOCT:SD-OCT)の実用化により,網膜神経線維層(RNFL)と神経節細胞層(GCL)の菲薄化を可視化できるように(17)769*MasanoriHangai:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学〔別刷請求先〕板谷正紀:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学特集●光干渉断層計(OCT)の緑内障への応用あたらしい眼科28(6):769.776,2011OCTの緑内障への応用:未来FuturePerspectiveonOCTTechnologyinGlaucoma板谷正紀*770あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(18)NFLDの周囲は菲薄化はあっても軽度であるという特徴は,cpRNFLのセクター解析に問題を生じる.すなわち,NFLDを含むセクターのなかに菲薄化しているNFLD部位と菲薄化がほとんどないNFLD以外の部位があり,セクター内の平均厚を計算するとNFLDの菲薄化はNFLD以外の部位の厚みにより軽減されセクター平均厚は正常に比べ異常となりにくいのである.一方,黄斑や乳頭周囲に三次元ラスタスキャンを行いRNFL厚マップまたはRNFL厚の正常眼信頼区間に対する確立マップを作成すると比較的細いNFLDのパターンが描出される5,6).NFLDは当然のことながら神経線維走行のパターンに沿って形成される所見であるためNFLDと一目でわかる.このマップ上のNFLD検出は緑内障検出感度が高い5,6).以上から,細いNFLDを検出する理想的な方法は加算平均処理をして,かつ三次元ラスタスキャンを行うことであるが,現在の市販SDOCTでは撮影速度が2桁足りない.後述する実験機の超高速OCTにより可能となるはずである.III偏光OCTによるRNFL厚菲薄化に先行する神経線維量減少の検出偏光(polarization)とはGDx(CarlZeissMeditec)に使われているRNFLの計測技術を言えば親近感が湧く先生もおられよう.GDxは偏光の複屈折性(birefringence)を利用する.通常の組織は光が通過しても分かれることはないが,複屈折性を有する組織は光の通過速度の異なる2つの光波に分かれる(図3).この時間差を測定することで複屈折量が求められる.眼内の複屈折性を有する組織は,神経線維層や強膜など眼内入射光に対して垂直方向に走る線維性の組織である.この原理により神経線維層厚を求めるのがGDxである.神経線維が多いほど複屈折量が多くなる.つまり,複屈折量は,本来は神経線維の量を反映し正確にはRNFL厚ではない.GDxは神経線維厚を測定できないが,内部標準データから複屈折量をRNFL厚に換算している.また,GDxには深さ情報がないため強膜や網膜色素上皮層の複屈折も検出してしまい区別がつかない欠点がある12)(図4).偏光OCTは,複屈折量だけではなく深さ情報(断層情報)も得ることができるため,RNFLの複屈折を強膜(図2).前者の特徴である急峻な局所の部分的菲薄化は,スペックルノイズの多い画像では捉えられない(図2)11).ちょうど,地面に小さな孔が開いていてもボールは孔を飛び越えてまっすぐ転がるようなものである.加算平均によりスペックルノイズを除去すると,この急峻な局所の部分的菲薄化を正確に捉えられる(図2)11).後者のAB図1スペックルノイズと加算平均法A:左端の1枚画像の白枠内の拡大像を右端に示す.無数の黒い斑点がスペックルノイズであり,層境界を覆い隠している.B:加算平均するBスキャン枚数を増やすとより効果的によりスペックルノイズが除去され層構造が明瞭になる.RNFL:retinalnervefiberlayer(網膜神経線維層),GCL:ganglioncelllayer(神経節細胞層),IPL:innerplexiformlayer(内網状層),INL:innernuclearlayer(内顆粒層),OPL:outerplexiformlayer(外網状層),ONL:outernuclearlayer(外顆粒層),ELM:externallimitingmembrane(外境界膜),OS/OS:photoreceptorinner/outersegmentjunction(視細胞内節外節境界部),RPE:retinalpigmentepithelium(網膜色素上皮層).(19)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011771ている.これはRNFL厚の菲薄化よりも,神経線維の減少のほうが早く起きるということである.偏光OCTは,このRNFL厚菲薄化に先んじる神経線維の減少を捉えられる方法としての可能性がある.IVドップラーOCTによる眼底血流による緑内障診断ドップラーOCTは,光学的ドップラー信号を検出し血流を求める技術である.同じ光学的ドップラー信号を検出する技術にレーザー・ドップラー法があるが,ドップラーOCTのアドバンテージは,やはり深さ情報をもつことである.すなわち,網膜と脈絡膜の血流の測り分けができる.ドップラー信号のある部位を三次元表示すると網膜血管や脈絡膜血管の構築が描出される(図5)13,14).2本のスキャン・ビームを用いて血管の走行角度を求めることで血流速度の絶対値が求められるようにや網膜色素上皮層の複屈折と分けて捉えることができる.さらには,神経線維層の断層像に神経線維量の分布を描くことができる.RGCの死に伴う網膜神経線維の喪失は,すぐ神経線維層の菲薄化を生じるのではなくグリオーシスなどの反応を経て菲薄化を生じると考えられretardationRNFLILM図3網膜神経線維層の複屈折性神経線維の走行に平行な光波は速く進み,垂直な光波は遅れる.この時間差(retardation)が網膜神経線維の量を反映する.16枚加算平均1枚SD-OCT1枚TD-OCT16枚加算平均1枚SD-OCT1枚TD-OCT16枚加算平均1枚SD-OCT1枚TD-OCT16枚加算平均1枚SD-OCT1枚TD-OCT図2細いNFLDにおけるスペックルノイズ除去の重要性1枚のOCT断層像では神経線維層欠損(NFLD)における網膜神経線維層の境界が不明瞭である.16枚Bスキャンの加算平均法によりスペックルノイズを除去するとNFLDの描出が向上しNFLD厚を正確に測定できる.SD-OCT:spectral-domainopticalcoherencetomography,TD-OCT:time-domainopticalcoherencetomography.(文献2より)772あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(20)示す.網膜血流がRGCの酸素需要を反映しているからかもしれない.これまでにもレーザー・スペックル法やレーザー・ドップラー法などにより緑内障における視神経乳頭や網膜の血流低下が指摘されてきたが,臨床に実用化されるには至っていない.今後,OCT製品にドッなった.この方法で求めた網膜血流速度がOCTによる形態のパラメータよりも視野障害に強く相関することが報告された15).これは,RNFL厚菲薄化などの形態変化がRGC喪失に遅れるのに対して,網膜血流速度が機能しているRGCの量をダイレクトに反映していることをabcdefg図4GDxと偏光OCTの比較a:GDx-VCCの画像.b,c,d:通常のSD-OCT画像.強度画像ともいう.e,f,g:それぞれb,c,dに対応する偏光OCT画像.偏光OCT画像で偏光が強い(青)のは網膜神経線維層だけではなく強膜と網膜色素上皮層であることがわかる.GDxはこれらを区別できないため,合わせて測定してしまう.その結果,aの画像のように非典型的な不自然な網膜神経線維層が描出される.(文献12より)AB1mm図5ドップラーOCTによる乳頭周囲の網膜血管および脈絡膜血管の描出A:2軸光ビームによるドップラーOCTにより乳頭周囲の毛細血管が描出されている.(文献13より)B:同法に1,020nmの1μm帯SS光源を用いることにより乳頭周囲の脈絡膜血管が描出されている.(文献14より)(21)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011773プラーOCTが搭載されることが予想され,血流が緑内障診断の指標になる可能性がある.VSS.OCTによる篩状板と脈絡膜の解析波長掃引レーザー(sweptsource:SS)を用いるOCT方式をSS-OCTという.Fourier変換して距離情報を算出する点ではSD-OCTと同じであり,SS-OCTもSD-OCTもFourierドメインOCT(Fourier-domainOCT:FD-OCT)と総称される.SD-OCT帯域のすべての波長を眼底に入射し反射光を分光器で個々の波長に分離しFourier変換する(図6).一方,SS-OCTは,波長掃引レーザーから波長が高速に順次切り替えて一つずつ発振され,点検出器で順次検出していく.…………….図6スペクトラルドメインOCTとスウェプトソースOCTの原理の比較00.511.522.5深さ(mm)OCT信号強度(対数)840nmSD-OCT1,050nmSS-OCT深さ方向図7深さによるOCT信号の減衰SD-OCTは深さによるOCT信号の減衰が激しいが,SS-OCTはわずかの減衰しかない.7008009001,0001,1001,2001,3001,40043210現行のOCT新しい窓光通信前眼部OCTwww.thorlabs.comWavelength(nm)Absorption(1/cm)図8波長と水への吸収の関係774あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(22)る波長掃引レーザーは,組織透過性が高く水への吸収の谷間である1μm帯域(図8)で作られているため脈絡膜,篩状板,強膜の描出が向上している(図9).そのため,視神経乳頭を撮影するとクロケット管から篩状板まで観察できる(図9).最近,緑内障眼における脈絡膜厚の菲薄化が議論の対象となっている17,18).また,緑内障眼では進行とともに篩状板が薄くなることで知られる19.21).今後,これらSS-OCTのメリットは,さらなる高速化が可能であることと,深さによる感度の減衰がほとんどないことである.撮影速度は,当科のトプコン社のプロトタイプで10,000Hzである.深さによる感度の減衰がほとんどないこと(図7)は,臨床的には非常に有用なことで,硝子体から脈絡までよく見える.また,強度近視眼は弯曲が強く黄斑撮影やcpRNFL撮影における組織画像は撮影画面の上から下までに及ぶ.特に,現在用いられてい…………図91,050nmSS.OCTと840nmSD.OCTの画像の比較篩状板と乳頭周囲強膜の描出が向上しているうえ,硝子体腔のクロケット管もよく見える.684kHz1.37MHz684kHz1.37MHz70°,1,900pixels70°,1,900pixelsAB図10超高速OCTによる広角OCTMode-lockedlaserを用いた超高速SS-OCTによる70°の広角OCT画像.1.37MHzが可能で,70°の範囲の三次元ラスタスキャンを約3秒で撮影できる.A:OCTデータから広角の三次元像と眼底像を構築できる.B:また,そのなかから任意の断面を切り出し観察したり計測できる.(文献16より)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011775視神経乳頭深部の構造解析によりGONの病態の研究が進むことが期待される.VI超高速SS.OCTによる眼底広角OCT極言すれば,GONの早期発見のための究極の方法は,眼底のできるだけ広い範囲でRGCの数を計測することである.残念ながらRGCは反射が弱いため描出がきわめてむずかしく実現していない.次善の策が,RGC喪失を反映するRNFLとGCLの厚みを計測することにある.すなわち,眼底全体の三次元スキャンが理想である.しかし,現行の製品である27,000.53,000Hzの撮影速度では,せいぜい6mm×6mmの黄斑や乳頭周囲など限られた領域の三次元ラスタスキャンしかできない.研究においては,SS-OCTの光源にモードロック・レーザー(mode-lockedlaser)という特殊なレーザーを用いることで,1.37MHz=1,370,000Hz,すなわち,SD-OCTの200倍以上速いSS-OCTが可能であることが発表されている22).それによると70°画角の広角三次元撮影が可能で,そこから眼底写真のような投射画像を作成でき,また見たいところを自在に切り出し測定可能である(図10).また,70°広角OCTは,RNFL厚とGCL厚をHumphrey静的視野の24-2または30-2のテスト点を完全に含むため,完全な視野との対比が可能になる.おわりにこのように概観すると,実は現在を含め従来の緑内障診断機器は,限られた撮影速度やシグナル減衰の限界のなかで,知恵を絞って特に重要な視神経乳頭およびその周囲と黄斑部の形態を捉えてようとしていることがわかる.OCT技術の進歩は,より広い範囲で(global),より局所の初期病変(localandabrupt)を,より確実に(precise)捉える緑内障画像診断を可能にすると予想される.OCTの進歩にはまだまだ目が離せない.文献1)HoytWF,NewmanNM:Theearliestobservabledefectinglaucoma?Lancet1:692-693,19722)SommerA,KatzJ,QuigleyHAetal:Clinicallydetectablenervefiberatrophyprecedestheonsetofglaucomatousfieldloss.ArchOphthalmol109:77-83,19913)TuulonenA,LehtolaJ,AiraksinenPJ:Nervefiberlayerdefectswithnormalvisualfields.Donormalopticdiscandnormalvisualfieldindicateabsenceofglaucomatousabnormality?Ophthalmology100:587-597,19934)Garway-HeathDF,CaprioliJ,FitzkeFWetal:Scalingthehillofvision:Thephysiologicalrelationshipbetweenlightsensitivityandganglioncellnumbers.InvestOphthalmolVisSci41:1774-1782,20005)SakamotoA,HangaiM,NukadaMetal:Three-dimensionalimagingofthemacularretinalnervefiberlayeringlaucomawithspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci51:5062-5070,20106)JeoungJW,ParkKH:ComparisonofCirrusOCTandStratusOCTontheabilitytodetectlocalizedretinalnervefiberlayerdefectsinpreperimetricglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:938-945,20107)CurcioCA,AllenKA:Topographyofganglioncellsinhumanretina.JCompNeurol300:5-25,19908)NakanoN,NukadaM,MoriSetal:Ganglion-cell-layerImaginginPreperimetricGlaucomabySpeckle-noisereducedSpectral-domainOpticalCoherenceTomography.PO137AAO2009,SanFrancisco9)JeoungJW,ParkKH,KimTWetal:Diagnosticabilityofopticalcoherencetomographywithanormativedatabasetodetectlocalizedretinalnervefiberlayerdefects.Ophthalmology112:2157-2163,200510)KimTW,ParkUC,ParkKHetal:AbilityofStratusOCTtoidentifylocalizedretinalnervefiberlayerdefectsinpatientswithnormalstandardautomatedperimetryresults.InvestOphthalmolVisSci48:1635-1641,200711)NukadaM,HangaiM,MoriSetal:DetectionoflocalizedretinalnervefiberlayerdefectsinglaucomausingenhancedSpectral-DomainOpticalCoherenceTomography.Ophthalmology,inpress12)GotzingerE,PircherM,BaumannBetal:Analysisoftheoriginofatypicalscanninglaserpolarimetrypatternsbypolarization-sensitiveopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci49:5366-5372,200813)ZotterS,PircherM,TorzickyTetal:Visualizationofmicrovasculaturebydual-beamphase-resolvedDoppleropticalcoherencetomography.OptExpress19:1217-1227,201114)JaillonF,MakitaS,MinEJetal:Enhancedimagingofchoroidalvasculaturebyhigh-penetrationanddual-velocityopticalcoherenceangiography.BiomedOptExpress2:1147-1158,201115)WangY,FawziAA,VarmaRetal:Pilotstudyofopticalcoherencetomographymeasurementofretinalbloodflowinretinalandopticnervediseases.InvestOphthalmolVisSci52:840-845,201116)KleinT,WieserW,EigenwilligCMetal:Megahertz(23)776あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011OCTforultrawide-fieldretinalimagingwitha1050nmFourierdomainmode-lockedlaser.OptExpress19:3044-3062,201117)MwanzaJC,HochbergJT,BanittMRetal:Lackofassociationbetweenglaucomaandmacularchoroidalthicknessmeasuredwithenhanceddepth-imagingopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:3430-3435,201118)MaulEA,FriedmanDS,ChangDSetal:ChoroidalThicknessMeasuredbySpectralDomainOpticalCoherenceTomographyFactorsAffectingThicknessinGlaucomaPatients.Ophthalmology,inpress19)QuigleyHA,HohmanRM,AddicksEMetal:Morphologicchangesinthelaminacribrosacorrelatedwithneurallossinopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol95:673-691,198320)JonasJB,MardinCY,Schlotzer-SchrehardtUetal:Morphometryofthehumanlaminacribrosasurface.InvestOphthalmolVisSci32:401-405,199121)InoueR,HangaiM,KoteraYetal:Three-dimensionalhigh-speedopticalcoherencetomographyimagingoflaminacribrosainglaucoma.Ophthalmology116:214-222,200922)KleinT,WieserW,EigenwilligCMetal:MegahertzOCTforultrawide-fieldretinalimagingwitha1050nmFourierdomainmode-lockedlaser.OptExpress19:3044-3062,2011(24)

前眼部OCTの緑内障への応用:現在

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYOCTとして,VisanteTMOCT(CarlZeissMeditec)が開発され,臨床に用いられてきた.近年Fourierドメイン方式の一つであるスウェプトソース方式前眼部OCTとしてSS-1000CASIA(TOMEYCORPORATION)が開発され,より高速,高解像の解析が可能になっただけでなく,1スキャンでの撮影画像の増加により,前眼部三次元解析も可能となっている(図1,2).II前眼部OCTによる隅角解析前眼部OCTの緑内障診療への応用としては,おもに,疑いを含む原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC),原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureI前眼部OCTとは光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)とは,近赤外光の干渉現象を利用したイメージング技術であり,それにより組織の断層像が得られる.従来の後眼部用OCTが840nmの波長帯域を使用しているのに対し,前眼部OCTでは1,310nmと,より長波長光を使用している.前眼部解析では後眼部(網膜)解析に比べ,より高い組織深達度が必要とされる.波長1,310nm光は眼底まで光が届きにくいため,840nm光に比べ約10倍の光パワーを照射可能なため,より高い組織深達度が得られる.初めにタイムドメイン方式の前眼部(11)763*KoichiMishima:東京逓信病院眼科〔別刷請求先〕三嶋弘一:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科特集●光干渉断層計(OCT)の緑内障への応用あたらしい眼科28(6):763.768,2011前眼部OCTの緑内障への応用:現在ClinicalUseofAnteriorSegmentOCTinGlaucoma三嶋弘一*VisanteTMOCT(CarlZeissMeditec)SS-1000CASIA(TOMEYCORPORATION)図1前眼部OCT製品764あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(12)ロックにより,後房から前房への房水交通が遮断されることによる虹彩の膨隆による隅角狭細化,②虹彩が散瞳することのみで隅角の狭細化が起こるプラトー虹彩メカニズム(plateauirismechanism),③水晶体の膨化や亜脱臼による浅前房化,隅角の狭小化をきたす水晶体起因性メカニズム(lensinducedmechanism)の3つのメカニズムがあり,症例により主要なメカニズムが異なる.このマルチメカニズムの分解に関して,前眼部画像解析は威力を発揮する.なぜならば,それぞれのメカニズムにおいて,特徴的な前眼部形態がみられるからである.たとえば,瞳孔ブロックでは虹彩形状が前方(角膜側)に向かって凸な形状を示す(図4b).一方,プラトー虹彩では虹彩は平坦でありながら,暗所下での散瞳に伴い,隅角の狭小化,閉塞をきたす(図4c).水晶体起因glaucoma:PACG)を含む狭隅角眼における隅角解析が中心になっている.古典的には隅角解析には,隅角鏡を用いた直接観察が主要な検査であり,その重要性は今も変わっていない.しかし,狭隅角眼においての隅角閉塞は生理的条件では暗所下での散瞳時により起こりやすいと考えられるのに対し,隅角鏡検査では観察光を必要とし,物理的に暗所下での隅角の状態を解析できないという問題点があった.1990年代初頭に開発された超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)は事実上初めての前眼部断層構造解析装置であり,高周波超音波を用いることで,隅角解析が可能な断層像を得ることができるようになった.UBMの臨床応用により,PAC,PACGなどにおける隅角閉塞メカニズムに関する有用な知見が得られている.すなわち,隅角閉塞はマルチメカニズムによって起こると理解されている.図3に示すとおり,①瞳孔ブ図2SS.1000CASIAによる前眼部三次元表示abc図4前眼部OCTによる前眼部水平断(暗所)a:広隅角眼の水平断.b:瞳孔ブロックが優位な狭隅角眼の水平断.c:Plateauirismechanismが優位な狭隅角眼の水平断.瞳孔ブロックPlateauirismechanismLensinducedmechanism図3隅角閉塞のマルチメカニズム(13)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011765III前眼部OCTの利点一方,前眼部OCTのUBMに対する利点としては,以下のものがあげられる.1.非接触での検査が可能UBMがアイカップによる接触を必要とするのに対し,前眼部OCTは非接触にて検査が可能である.UBM検査ではときにアイカップによる圧迫の影響が前眼部断層像に現れることがあり,隅角解析に影響が出ることがある.このような場合,同一部位でのUBM画像と前眼部OCT画像を比較してみることで,圧迫の影響の有無を推し量ることもできる.しかし,非接触で測定することで逆に前眼部OCTでは特に上下方向の隅角断層像の測定がむずかしい場合がある.そのような場合に検者による開瞼補助を行う場合,圧迫を加えないように行う必要があるが,機械本体がUBMに比較しても大きく,むずかしい場合がある.2.高速,高解像の画像取得が可能表1に前眼部OCTの代表的な性能をUBMと比較した.前眼部OCTでは撮影自体が速いだけでなく,UBMのように仰臥位への移行やアイカップの装着などの撮影前準備の時間も短縮されるため,測定準備から完了までの時間も短縮できる.性メカニズムでは,水晶体厚の顕著な増加,水晶体位置の偏位がみられる.これらの解析に対する前眼部OCTとUBMに共通する利点としては,以下のものがあげられる.1.暗所下での前眼部断層解析が可能である前述したとおり,測定に光を必要としないため,暗所下における自然散瞳状態での測定が可能であり,隅角閉塞が最も起こりやすいと考えられる条件下での前眼部断層像を得ることができる.当然ながら,明所下での測定も可能であるため,散瞳,縮瞳条件での画像の比較も可能である.2.各種パラメータなどの計測による定量的解析が可能隅角鏡検査では,ある程度の熟練により再現性を高めることは可能であるものの,検査者の主観による隅角開大度などの評価が限界であり,客観的評価が理論的に不可能であるが,前眼部画像解析では得られた断層像から,AOD(angleopeningdistance)500,750,ARA(anglerecessarea),TISA(trabecularirisspacearea),隅角角度などのパラメータの測定が可能であり,各種条件下での比較や,経時的変化を客観的に定量化されたデータによって解析可能である.表1前眼部OCTの性能UBMAS-OCTTOMEYUD-6010VisanteTMOCTSS-1000CASIAメカニズムBモード超音波タイムドメインOCTスウェプトソースOCT(FourierドメインOCT)光(音)源40mHz超音波スーパールミネッセントダイオード:中心波長1,310nm高速スキャニングレーザー:中心波長1,310nm分解能(軸方向)50μm18μm8μm分解能(横方向)50μm60μm30μmスキャンスピード10枚/sec2,000A-scans/sec30,000A-scans/sec横方向スキャン範囲9mm16mm×1,2,4line(s)16mm×16mm深さ範囲6mm6mm6mm測定方法接触必要(アイカップ)仰臥位非接触座位非接触座位(文献1より改変)766あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(14)4.広範囲の隅角解析が可能2,3項と関連して,SS-1000CASIAでは約2秒で128枚の断層像を放射状に取得することで,画像に問題また,分解能においてもUBMでは軸方向にて50μmであるのに対し,タイムドメイン方式のVisanteTMOCTでは18μm,スウェプトソース方式のSS-1000CASIAでは8μmと大幅に向上している.図5は,SS-1000CASIAでの高解像度モードであるAngleHDモードによる隅角画像であるが,ぶどう膜強膜境界が明瞭に判別できるだけでなく,Schlemm管と思われる管腔構造も確認できる.3.広い撮影範囲UBMでは横方向スキャン範囲が9mmであるのに対し,前眼部OCTでは16mmと広く,両端隅角を含む前眼部断層像が得られる.これにより,前房面積や容積などの定量的解析が容易になると思われる.図6aCASIAによるITC解析(1)(図説明は次頁の図6b参照)図5SS.1000CASIAAngleHDモードでの隅角像ぶどう膜強膜境界が描出されている(白矢印).Schlemm管と思われる構造も認められる(黒矢印).(15)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011767にはおもに上下方向にて隅角閉塞が認められているのがわかる(図6b).従来,UBMでは動画形式でサーチし,任意の画像をフリーズして取得する方式のため,網羅的な隅角の解析がむずかしく,1象限につき代表的な1画像を取得し,解析する方法が一般的と考えられるが,このようにスウェプトソース方式前眼部OCTを用いることで,より広範囲の隅角閉塞の解析が可能となる可能性がある.IV前眼部OCTの欠点1.組織深達度の限界:毛様体の評価が困難後眼部OCTに比べると高い組織深達度をもつ前眼部OCTも,光を用いたイメージング技術であるため,超音波診断装置であるUBMと比較すると,組織深達度では劣る.隅角解析において具体的に問題となるのは,毛がなければほぼ全周の隅角の解析が可能であり,三次元での画像再構成も可能である.図2はCASIAにより撮影された画像を三次元再構成し,かつ隅角鏡と同様なアングルからの観察となるgonioscopicviewとよばれるモードであり,任意の位置からの観察像を得ることができる.ITC(iridotrabecularcontact)解析ツールでは,128枚の各画像において強膜岬(SS)と角膜内皮面と虹彩点の接触点をプロットすることで,強膜岬を超えて閉塞している隅角部分を虹彩線維柱帯接触部(ITC)としてチャート方式に表示可能であり,その閉塞部位の割合をITCindexとして,全周および各象限に分け数値化することが可能である.図6は具体例であるが,明所下での縮瞳時には隅角閉塞はみられないものの(図6a),暗所下での自然散瞳時図6bCASIAによるITC解析(2)左下にチャート形式で虹彩線維柱帯接触(ITC)境界(緑線),および接触領域(水色)が表示されている.右中段にITCの割合が表示される.明所下ではITCは少ないのに対し(a),暗所下では上下方向において増えている(b).768あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(16)において補正後の画像を用いているが,SS-1000CASIAでは,最初の画像は補正前の画像であり,また三次元解析の画像では現時点では屈折補正がかけられないことに注意が必要である.V前眼部OCTの現在,そして未来前眼部OCTは特にスウェプトソース方式のものが実用化されるに伴い,より高速,高解像となり,利便性が高まっただけでなく,さまざまな解析への応用が期待される.例として,紹介したように高解像モードではこれまでは同定困難であったSchlemm管などの隅角の微細組織構造が観察できる可能性があり,その他の構造も含め,生理的,病的状態による変化など今後の解析が期待される.しかし,飛躍的に増えた情報量をどう処理していくかという問題点も残る.ITC解析は画像解析装置による隅角閉塞領域の検出という今後有望なツールとなりうるが,現時点では手動解析の部分が多く,実際の臨床上で用いるのはむずかしい.約2秒でほぼ全周隅角の画像を取得可能となったが,その膨大な画像情報をどのように解析し,臨床上で有効に活用するかという点に関しては,今後のさらなる研究,開発が必要と考えられる.前眼部OCTのみによって隅角診断が完結することはありえない.基本となる隅角鏡検査やUBMなどと組み合わせた診療を行うことが重要である.文献1)三嶋弘一:前眼部OCTによる隅角検査の長所短所を教えてください.あたらしい眼科27(臨増):163-167,20102)RadhakrishmanS,GoldsmithJ,SmithSD:Comparisonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20053)DadaT,SihotaR,GuptaVetal:Comparisonofanteriorsegmentopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyforassessmentoftheanteriorsegment.JCataractRefractSurg33:837-840,20074)WangD,PekmezciM,BashmanRPetal:Comparisonofdifferentmodesinopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyinanteriorchamberangleassessment.JGlaucoma18:472-478,2009様体がほとんど描出不可能なことである.前述したプラトー虹彩では,定義上では平坦な虹彩のほかに毛様体の前方付着,毛様溝の不在などの所見が含まれているが,前眼部OCTではその評価ができず,この点においてはUBMは絶対的な利点をもつ.2.上下方向隅角の解析が困難前眼部OCTは両端隅角を含む画像が取得できる利点を有するが,当然,遮閉されなければという条件がつく.狭隅角眼では瞼裂も狭い症例が多く,特に上下方向隅角の撮影は困難な場合が多い.開瞼補助を行っても撮影できないこともあるだけでなく,その場合,圧迫しないよう注意が必要である.3.UBMでのパラメータの相関前眼部OCTとUBMでの数値的解析を比較した報告では,中心角膜厚,中心前房深度,隅角角度などのパラメータにおいて良好な相関を示しているとの報告もあるが,一方で前眼部OCTの異なる撮影モードではUBMでのパラメータと有意差を認めるものもあったとの報告もあり,今後の検討を要する2,3).4.機能的隅角閉塞と器質的隅角閉塞の区別が困難原則的に前眼部OCTを含む前眼部画像解析装置では,隅角閉塞を認めたとしてもそれは画像上にて隅角部が接触していることを示しているだけなので,その部位が器質的に癒着している器質的隅角閉塞(synechialangleclosure)なのかあるいは,癒着はなく接触し閉塞している機能的隅角閉塞(appositionalangleclosure)なのかの区別は困難である.前述したITCとは上記2つの状態を含んだ概念としたものである.5.正確な屈折補正が必須光を用いたイメージングであるため,正確な屈折補正がかかっていることを確認し,さらに補正後の画像を見る必要がある.補正が不正確であるとそれにより,画像は極端にゆがみ,組織位置情報が誤ったものになり,特に数値的な解析には注意が必要である.VisanteTMOCTではその屈折補正ラインを示す画像を含むすべての画像

後極部OCTの緑内障への応用:現在

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0910-1810/11/\100/頁/JCOPY比較することが可能である(図1).網膜神経節細胞層そのものを分離して測定することはむずかしいことから,一般にはその上下の網膜神経線維層と内網状層を合わせて黄斑部周囲GCC厚として測定する3).多数の画像を加算処理しノイズを除去,網膜各層の分離能を上げることによって黄斑部周囲の網膜神経節細胞層のみの厚さを検出する方法が示されており,GCCよりさらに敏感に形態変化を検出できる可能性がある.III何が可能か?1.極早期から早期の治療・管理が変わる!?a.診断緑内障診断の基本は視神経乳頭陥凹と乳頭周囲NFLの観察である.しかし,この診断はあくまでも主観的で定性的である.OCTの所見が加わることによって,この診断を“ある程度”客観的,定量的なものにすることができる.HRT,GDxはすでに同様の目的で使用されてきたが,OCTの普及がより一般的なものとした.乳頭の形状,豹紋状眼底など網膜の状態によっては眼底の観察による乳頭陥凹やNFL評価がむずかしいことも多い.このような場合にもOCT所見が診断を補助してくれる可能性がある.b.進行判定図2にいずれも正常眼圧の3症例を示した.これまでは視野障害が検出されてからようやく進行の判定が可能であった(図2A).今後は少なくともOCTで異常所見I緑内障眼の機能変化と形態変化の相関形態変化から現在の機能変化を推測し,さらに将来の機能変化を予測するためには,少なくとも形態変化と機能変化が相関する必要がある.Hoodら1)は静的視野検査の上下弓状領域のセクターに対する光干渉断層計(OCT)で測定された乳頭周囲網膜神経線維層(nervefiberlayer:NFL)厚との相関を検討した.その結果によると,デシベル表示の視野感度とNFL厚は相関し,視野障害が軽度な時期にはNFLの変化が大きく,逆に視野障害が重度な時期ではNFLの変化は少ない.同様な研究はおもに乳頭解析装置であるHRT(HeidelbergRetinaTomography,HeidelbergEngineering,Heidelberg,Deutschland)やNFL解析装置であるGDx(CarlZeissMeditec,Inc.,Dublin,CA)でも行われ,類似の結果が示されている.つまり,いわゆる極早期の機能変化(=視野変化)が検出される以前から,障害が軽度な早期では形態変化が機能変化よりも敏感である可能性がある.ただし,経時的な機能的進行と形態的進行は必ずしも一致しない2)との報告が多く,進行判定という意味での相関に関しては,さらに検討の必要がある.IIOCTで観察・測定される後極部の変化現時点のOCT装置では,一般に視神経乳頭陥凹,NFL厚,黄斑部周囲網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚を測定し,正常コントロールと(3)755*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●光干渉断層計(OCT)の緑内障への応用あたらしい眼科28(6):755.761,2011後極部OCTの緑内障への応用:現在CurrentApplicationofOCTforFundusExaminationinGlaucomatousEyes福地健郎*756あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(4)NerveHeadMap(NHM)GanglionCellMap(MM7)3-DOpticDisc.DataCaptured:9,510Ascans(pixels).Time:370msec.Areacovered:4mmdiametercircleProvides.CupArea.RimArea.RNFLMap.DataCaptured:14,810Ascans(pixels).Time:570msec.Areacovered:7x7mmProvides.Ganglioncellcomplexassessmentinmacula.Innerrenathicknessis:.NFL.Ganglioncellbody.Dendrites.DataCaptured:51,712Ascans(pixels).Time:2seconds.Areacovered:4x4X2mmProvides.3Dmap.ComprehensiveassessmentTSNITgraphABC図1後眼部OCTの緑内障への応用OCTによって,A:乳頭周囲の網膜神経線維層(NFL)厚,B:黄斑周囲の網膜神経節細胞複合体(GCC),C:乳頭陥凹,の観察と量的評価が可能である(図はOptovue社RTVue-100).ARLLBC図2後眼部OCTの緑内障への応用:極早期から早期の治療管理が変わる(1)これまでは視野障害が検出されるまで臨床的な進行および進行速度判定はむずかしかった(A).OCTによって視野障害検出以前の,神経線維層厚に異常所見が検出された時期(B)から進行判定が可能になることが期待される(C).(5)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011757断に重要な意味をもつことは少ないと考えられる.しかし,部位別にみた機能と形態の相関という意味で考えると,さまざまな重要な所見を含んでいることが多く,治療方針の決定や予後の予測などに利用できる可能性がある.a.部位別に視野と形態の相関を確認図4のNTG例では,視野欠損は両眼とも上半視野に限局している.OCT所見では両眼ともNFLの変化は下半弓状領域,GCCの変化は下半領域に限局している.つまり,視野所見と形態の所見がまったく一致している.一方,図5の原発開放隅角緑内障(POAG)例では視野欠損は左眼では上下視野にみられるものの,右眼では上半視野に限局している.それに対してOCT所見は両眼とも上下に広範な領域でNFL,GCCの菲薄化が検出が検出された時点から可能となることが期待される(図2B).さらにNFL厚が正常範囲と表示されたとしてもNFL厚は数値で記載され,くり返し測定することによって経時変化を捉えることができる可能性がある(図2C).特に若年の症例では視野障害検出以前に進行の有無を判定できれば,その情報を治療に生かし,より安全な予後を確保するのに有用である可能性がある.図3は正常眼圧緑内障(NTG)の1例である.約2年のOCTによる観察で下半GCCの急速な菲薄化が検出された.中心30°の静的視野検査の結果では変動はあるが明らかな変化がみられない.早期の症例では視野変化と別に進行を検出する可能性がある.2.中期以降では?一般に中期以降の緑内障例においてはOCT所見が診RRSignificanceMapsSITA30-2SITA10-21069686766656BaseFollowUp1FollowUp2FollowUp3p>5%WithinNormalP<5%BorderlineP<1%OutsideNormalAveGCCSupGCCInfGCCAve.GCC(…Sup.GCC(mm)Inf.GCC(mm)FLV(%)GLV(%)85.7892.1279.427.28013.44483.7093.4473.958.50515.90480.7394.0067.4610.90317.26375.9087.5164.3111.74521.659-9.87-4.62-15.114.4658.215GCCParametersBaselineFollowUp1FollowUp2FollowUp3ChangeTNTNTNTN図3後眼部OCTの緑内障への応用:極早期から早期の治療管理が変わる(2)症例は48歳,男性,NTG.右眼の上方傍中心にのみ暗点を検出する.約2年間,GCCを経時的に観察したところ,下方黄斑周囲のGCCが急速に菲薄化していた.すでに2剤使用中であったため,b遮断剤を配合剤に切り替え3剤併用とした.758あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(6)菲薄化,視野では鼻側上半視野欠損を示し,いかにも緑内障のパターンに一致する.・OCTのNFL厚は網膜神経線維以外の要素も含む:図7は続発緑内障の1例である.約1年後の測定でNFL厚がより厚い.TSNITマップでも正常範囲をオーバーしている.本症例はぶどう膜炎に伴う眼圧上昇の症例で,1年後の測定時には乳頭浮腫を示していた.おそらく糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などの網膜厚に影響を与えるような他の網膜,視神経疾患を伴っていた場合には,正確な判定は不可能と考えるべきかもしれない.2.測定原理に関わる問題・PPA(peripapillaryatrophy)上では正確な判定ができない.・血管の走行部はNFLが薄い.・散瞳:一般にOCTの画像取得には散瞳は不要である.される.つまり,視野所見と形態所見が一致しない.b.視野変化と予後の予測,治療・管理への反映図4の症例では,上半NFLとGCCは現時点でほぼ正常範囲に保たれている.また,乳頭黄斑領域のNFLもよく保たれている.つまり,この症例に関してOCT所見は自覚的視機能により関わる視力と下半視野に関しては現時点では楽観的であると評価できる.一方,図5の症例は視野所見以上に視神経障害は重篤であり,視力を含めて予後は決して楽観できないと評価する必要がある.この症例ではより厳重な経過観察と,より積極的な治療を要すると考えるべきである.IV現時点における限界と問題1.病態に関わる問題・鑑別診断はできない:図6は両眼乳頭コロボーマの1例である.OCTでは両眼の耳側下方に向かうNFLのABExamDate:2010/07/05,SSI=49.5ExamDate:2010/07/05,SSI=60.9ExamDate:2010/07/05,SSI=72.5ExamDate:2010/07/05,SSI=50.0ODGCCSignificanceGCCSignificanceOpticNerveHeadMapOSOpticNerveHeadMap…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………図4後眼部OCTの緑内障への応用:視野と眼底の相同性の確認(1)74歳,女性,NTG.視野は両眼とも上半視野欠損のみ(A)で,OCTによるNFLとGCCの判定では視野欠損の領域のみに限局して異常が検出された(B).自覚的視機能により重要な視力と下半視野の予後は楽観的と考えることができる.(7)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011759ときに無散瞳では測定が不可でも,散瞳して再検査するとNFL厚を測定できることがある.・白内障:進行した症例ではOCT光の通過が妨げられ網膜が薄く測定される.3.データ処理に関わる問題・正常データは20歳以上.・屈折で±6D以内.・グリッドの分割:グリッド分割の方法によって結果判定が変わる.たとえば2分割,4分割では特異度が上がるが感度が下がる.逆に32分割では感度は上がるが特異度や再現性が低下する.12.16分割程度が適当と考えられている.・グリッド境界部:狭細な網膜神経線維層欠損(NFLD)がグリッドの境界部にまたがった場合には,両側のグリッドで平均され検出されにくい(図8).・TSNIT表示のスムージング:NFL厚の測定データにABFOVEA:37DBFOVEA:31DBExamDate:2009/07/29,SSI=42.2ExamDate:2009/07/29,SSI=65.3ExamDate:2009/07/29,SSI=62.7ExamDate:2009/07/29,SSI=46.5ODGCCSignificanceGCCSignificanceOpticNerveHeadMapOpticNerveHeadMapOS図5後眼部OCTの緑内障への応用:視野と眼底の相同性の確認(2)52歳,女性,POAG.視野欠損は現在のところ左眼傍中心を除くとおもに上半視野に限局している(A).OCTで観察すると耳側のNFLは全体に菲薄化し,黄斑周囲のGCCの菲薄化も顕著である(B).左眼の中心窩閾値は31dBと低下していた.視力を含む視機能予後は楽観できないと考えるべきで,より積極的な治療を要する.LR図6後眼部OCTの緑内障への応用:限界と問題点(1)OCTの結果では鑑別はできない.この症例は乳頭コロボーマの1例である.OCTでは両眼耳側下方に明瞭なNFL欠損を検出し,視野検査ではそれに相当する上鼻側の欠損が検出される.OCTと視野所見だけでは典型的な緑内障を疑わせる.760あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(8)要であることを忘れてはならない.眼底所見と視野所見を互いに比較し,という昔ながらの方法は緑内障診療の基本である.基本を磨くこと,上記に述べたような限界や問題点を理解することによって,検査で得られた所見の中から正確なデータを読み取り,的確に診療に生かすことが勧められる.また,ここまで述べた内容は多分に今後への期待が含まれる.期待が現実か否か,今後,検証していく必要がある.文献1)HoodDC,KardonRH:Aframeworkforcomparingstructuralandfunctionalmeasuresofglaucomatousdamage.ProgRetEyeRes26:688-710,2007はノイズが含まれ,また血管走行部のNFLは薄い.測定結果をすべてTSNITに表現してしまうと細かい波状となってしまい実用には向かない.実際の表示に際してはスムージングという操作が施されている.スムージングが過少では測定結果の判定がむずかしく,逆に過剰では狭細なNFLDなどの詳細な結果が検出されない可能性がある.V基本は自ら眼底を読む能力,OCT所見はあくまでも補助OCTは緑内障診療に有用である.しかし,OCTなどの機器による判定はあくまでも補助であって,自ら眼底所見を読む能力を身に着けることが緑内障診断に最も重GCCSignificanceOpticNerveHeadMapGCCSignificanceOpticNerveHeadMapExamDate:2009/08/11,SSI=58.4ExamDate:2010/09/27,SSI=29.9ABC図7後眼部OCTの緑内障への応用:限界と問題点(2)OCTで検出されたNFLは視神経線維数を直接反映しているとは限らない.B・CはAの約1年後に観察した結果である.NFLはより肥厚し,gridおよびTSNITでは正常範囲をオーバーしていた(B,C).この症例はぶどう膜炎に伴う緑内障の症例で,炎症発作時に乳頭浮腫を伴い,同時に乳頭周囲NFLも肥厚したものと考えられた.あたらしい眼科Vol.28,No.6,20117612)WollsteinG,SchumanJS,PriceLLetal:Opticalcoherencetomographylongitudinalevaluationofretinalnervefiberlayerthicknessinglaucoma.ArchOphthalmol123:464-470,20053)TanO,ChopraV,LuATetal:DetectionofmacularganglioncelllossinglaucomabyFourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:2305-2314,2009(9)ABCD….図8後眼部OCTの緑内障への応用:限界と問題点(3)Grid,TSNITでは狭細なNFLDが検出されないことがある.この例では下耳側に幅広のNFLD(※)を,上耳側に狭細なNFLD(☆)を伴っており,視野検査では相当する部位に欠損が認められた(B).12分割のgrid表示では上耳側NFLDはgridの境界にあり検出されていない(C).

序説:OCTの緑内障への応用

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY層厚,黄斑部神経節細胞複合体層厚,視神経乳頭形状などがある.さらに確立マッピングを行うと神経線維層欠損が見えてくる.これが診断に有用な方法であることがわかってきている.つぎに,確率的アプローチとともに,OCTは眼底の形の異常を直接観察することの重要性にも気がつかせてくれる.cpRNFL(乳頭周囲網膜神経線維層)厚の波形や黄斑部神経節細胞複合体層厚マップを観察すること,断層像を観察し上下の対称性に着目し異常を発見すること,あるいは黄斑前膜などの厚みに影響を与える緑内障以外の因子を捉えること,などである.単に,各機種の診断プログラムの確率的解析の結果を鵜呑みにするのではなく,OCTが映し出す眼底の形態異常を眼を皿のようにして探し,視神経乳頭所見と視野異常との対比を行い,自らが能動的に緑内障の機能的形態的異常を捉えようとする姿勢こそが重要であろう.われわれが日常診療において視神経乳頭と神経線維層を「緑内障なのだろうか?」と疑いながら,しみじみ観察するのと同じように,OCTが捉える眼底の形の異常をしみじみ観察すれば,もうOCTは使用者の血(知)となり肉となる.医師は病気を「診る」存在であり,OCTは緑内障を形態的側面から診るために有用なツールになることは間違いない.緑内障ほど眼の形を追究してきた疾患分野はない.緑内障の本質は視野機能障害である.しかし,視野異常はさまざまな疾患で生じること,および緑内障による視野異常の出現に眼底の形態異常の出現が数年先行することなどの理由により,眼底の視神経乳頭の形状および神経線維層とその緑内障性変化の把握は緑内障診断の本丸である.立体観察やステレオ撮影により正確に視神経乳頭の緑内障性変化を認識する訓練が重視されてきた.一方で,組織病理学による観察により,緑内障は選択的に神経節細胞が死んでいく疾患であり,その結果として神経節細胞の軸索から成る網膜神経線維が減少し,臨床で観察される視神経乳頭のリムの菲薄化と陥凹の拡大と視野異常が生じることが理解されてきた.しかし,神経節細胞の喪失という緑内障性機能障害を生じる本質的病態と臨床における緑内障の定義そのものである視神経乳頭の緑内障性変化の間には長らくギャップがあった.光干渉断層計(OCT)はこのギャップを部分的ではあるが埋めつつある.OCTにより緑内障病態の本質である神経節細胞の喪失の結果生じる眼底の形の異常がどこまで捉えられるか?一つには,各機種は正常眼データベースから確率的に予想される層厚異常の検出による自動診断補助機能をもつ.測定対象は,網膜神経線維(1)753*MasanoriHangai:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学**TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野●序説あたらしい眼科28(6):753.754,2011OCTの緑内障への応用UseofOpticalCoherenceTomography(OCT)forGlaucomaDiagnosisandManagement板谷正紀*山本哲也**754あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(2)本特集では,わが国の緑内障画像診断の気鋭の先生方に,OCTを緑内障へ応用する観点から網羅的に解説をいただいた.概論では,OCTを緑内障へ応用するときの考え方と注意点を解説いただき,各論ではスペクトラルドメインOCTの各機種の特徴を明らかにしつつ緑内障への応用の仕方を解説いただいた.まず,概論として,・福地健郎先生には,「後極部OCTの緑内障への応用:現在」と題して,OCTで何が可能になるかを極早期から早期,中期以降に分けて論述いただくとともに,現時点の限界と問題点を詳細かつ具体的にまとめていただいた.・三嶋弘一先生には,「前眼部OCTの緑内障への応用:現在」と題して,前眼部OCTの長所と短所を,特に原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障の診断を中心に,隅角鏡による隅角検査および超音波生体顕微鏡(UBM)と比較しながら詳細かつ網羅的に解説いただいた.・自分(板谷)は,「後極部OCTの緑内障への応用:未来」と題して,今年のARVOの見聞を中心に,研究分野における新しいOCT技術の紹介とその緑内障への応用について解説した.続いて,各論として後眼部用OCTの各機種の特性を論述いただいた.・赤木忠道先生・額田正之先生・中野紀子先生には,HeidelbergEngineering社Spectralisの黄斑神経節細胞層の観察,神経線維層欠損の断層所見,EDI(enhanceddepthimaging)法による視神経乳頭深部の観察について解説いただいた.・川瀬和秀先生にはCarlZeissMeditec社Cirrusの他機種との比較,各測定プログラムの特徴,GuidedProgressionAnalysis(GPA),および解析表示の進化について詳細に解説いただいた.・富所敦男先生には,OCTによる視神経乳頭解析,cpRNFL解析,黄斑部解析の各診断指標の有用性と問題点を詳述いただき,トプコン社3DOCTのこの3つの解析プログラムの特徴を解説いただいた.・北善幸先生には,Optovue社RTVue-100のONHプログラムとOptovue社がパイオニアであるGCCプログラムのそれぞれの特徴と併用の有用性について,具体例を示しながら解説いただいた.・大久保真司先生には,ニデック社RS-3000の緑内障診断における各診断プログラムおよびフォローアップ機能について,なかでも9×9mmの三次元ワイドスキャンの有用性について解説いただいた.各機種には多少の差はあるが,緑内障による眼底の形の異常を確率的アプローチおよび観察により明らかにするという方法論は共通している.この特集が,今後先生方がOCTを緑内障診療へ応用されるときの一助となれば幸いである.

40歳未満の視覚障害者の原因疾患

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(141)743《原著》あたらしい眼科28(5):743.746,2011cはじめに新規視覚障害認定者の原因疾患に関する全国調査の結果が最近発表され,緑内障が原因疾患の第1位であったと報告された1,2).また,筆者らは平成16年から平成21年にかけて三重県にて新規視覚障害認定者の全例調査を行ったところ,視覚障害者の原因疾患上位4位までは前述の全国調査と同じ結果であった3).これらの調査結果から高齢化社会の到来などによると考えられる緑内障や加齢黄斑変性を原因とした視覚障害者の増加が明らかとなったが,一方,壮年期以前の視覚障害者を対象とした報告は少ない.さて厚生労働省は,5年に一度,身体障害児・者実態調査の結果を公表しており,直近の報告は平成18年度のものである.このなかで18歳未満の身体障害児についての調査結果が報告されているが,調査方法が対象者本人による調査票記入によることなどから原因疾患についての詳細な分類は行われていない.筆者らは,前述の報告3)で三重県における調査結果として40歳未満の視覚障害者は,視覚障害者全体の6.6%を占めており(原因疾患の第1位は網膜色素変性で40歳未満の対象者の19.5%),さらに15歳以下の者は,全体の1.7%(原因疾患の第1位は未熟児網膜症で15歳以下の対象者の34.8%)であったと報告したが,今回はその詳細について検討したの〔別刷請求先〕生杉謙吾:〒514-8507津市江戸橋2丁目174番地三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学Reprintrequests:KengoIkesugi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-city514-8507,JAPAN40歳未満の視覚障害者の原因疾患生杉謙吾*1,2佐宗幹夫*1宇治幸隆*1*1三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学*2名張市立病院眼科CausesofVisualImpairmentinThoseBelow40YearsofAgeKengoIkesugi1,2),MikioSasoh1)andYukitakaUji1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NabariCityHospital今回筆者らは,40歳未満の視覚障害者を対象にその原因疾患について調査した.対象者は2004年4月から2009年3月の間に三重県において身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害者と認定された1,322名のうち,認定時の年齢が40歳未満であった87名である.対象者の身体障害者診断書・意見書を基に年齢・性別・原因疾患・認定等級などを調べた.結果,18歳未満の視覚障害児は23名,18歳以上40歳未満の視覚障害者は64名であった.原因疾患のなかで最も多かったのは,18歳未満では未熟児網膜症(23.4%),18歳以上40歳未満では網膜色素変性(34.8%),40歳未満の対象者全体では網膜色素変性(19.5%)であった.認定等級1級および2級の重度視覚障害者は,対象者全体の62.0%であった.Thepurposeofthisstudywastodeterminethecausesofvisualimpairmentinthosebelow40yearsofage.ThestudywasconductedbetweenApril2004andMarch2009inMiePrefecture.Enrolledwere1,322visuallydisabledpersons,asdefinedbytheActonWelfareofPhysicallyDisabledPersons.Ofthe87individualswhowereunder40yearsofage,23wereunder18yearsofageand64werebetween18and39yearsofage.Wereviewedage,sex,causeofvisualimpairmentanddegreeofdisability.Inthoseunder18,themajorcauseofvisualimpairmentwasretinopathyofprematurity(23.4%);inthosebetween18and39,themajorcausewasretinitispigmentosa(34.8%).Themajorcauseofvisualimpairmentinthoseundertheageof40wasretinitispigmentosa(19.5%).Severelyvisuallydisabledpersonswithdisabilityofdegree1or2comprised62%ofallsubjects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):743.746,2011〕Keywords:疫学,視覚障害,網膜色素変性,未熟児網膜症.epidemiology,visualimpairment,retinitispigmentosa,retinopathyofprematurity.744あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(142)で改めて報告する.I対象および方法調査期間は2004年4月から2009年3月まで(平成16年度.20年度)の5年間で,対象者は三重県において身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害の認定をうけた1,322名のうち,認定時の年齢が40歳未満であった87名(男性58名・女性29名,全体の6.6%)である(図1).対象者は調査期間内に新規に視覚障害者として認定された者のみであり再認定者(継続認定者)は対象外としている.各診療担当医より提出された身体障害者診断書・意見書を基に年齢・原因疾患・認定等級などを調査した.原因疾患の項目に複数の疾患が記載されている場合は,主となっていると考えられるものを原因疾患とした.また,障害等級については最終的に認定された等級であり,提出された視覚障害者診断書・意見書に不備がある例などでは三重県障害者相談支援センターから提出医への再確認が行われている.調査はヘルシンキ宣言の倫理規定に基づき,プライバシー保護に最大限配慮された.個人名・生年月日・住所などは完全にマスクされた連結不可能匿名化済の資料が三重県障害者相談支援センターから提供され,本調査が行われている.II結果三重県における2004年4月から2009年3月(平成16年度から平成20年度)までの身体障害者福祉法に基づく40歳未満の新規視覚障害認定者数は,前述のとおり87名である.調査期間の5年間に認定された87名の年齢別分布を図2に示す.1~9歳が20名(23.0%),10.19歳が6名(6.9%),20~29歳が20名(23.0%),30~39歳が41名(47.1%)であった.特に未成年者(視覚障害児)である18歳未満は23名(26.4%)であった.表1に40歳未満の新規視覚障害認定者の原因疾患を示す.40歳未満の対象者全体では,網膜色素変性が原因疾患として最も多く17名(19.5%),以下,視神経萎縮12名(13.8%),糖尿病網膜症11名(12.6%)などとなった.対象者を18歳未満と18歳以上で分けると,18歳未満では上位から表140歳未満の視覚障害認定者の原因疾患順位全体(1~39歳:対象者87名)18歳未満(1~17歳:対象者23名)18歳以上(18~39歳:対象者64名)1網膜色素変性(17名・19.5%)未熟児網膜症(8名・34.8%)網膜色素変性(15名・23.4%)2視神経萎縮(12名・13.8%)視神経萎縮(3名・13.0%)糖尿病網膜症(11名・17.2%)3糖尿病網膜症(11名・12.6%)小眼球(2名・8.7%)視神経萎縮(9名・14.1%)4未熟児網膜症(10名・11.5%)脈絡網膜萎縮(2名・8.7%)脳卒中・脳腫瘍(7名・10.9%)5脳卒中・脳腫瘍(7名・8.0%)網膜色素変性(2名・8.7%)緑内障(5名・7.8%)対象者全体および年齢層別に上位5疾患を示した.40歳未満(6.6%)40~49歳(4.2%)50~59歳(13.3%)60~69歳70~79歳(18.9%)(27.5%)80~89歳(24.2%)90歳以上(5.3%)図1三重県における視覚障害認定者の年齢分布(文献3より改変)1~9歳(23.0%)10~19歳20~29歳(6.9%)(23.0%)30~39歳(47.1%)18歳未満(26.4%)図240歳未満の視覚障害認定者の年齢分布認定等級(級)31.013530252015105031.0213.8310.4410.453.46(%)図340歳未満の視覚障害認定者の認定等級別分布(143)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011745未熟児網膜症8名(34.8%),視神経萎縮3名(13.0%),小眼球・脈絡網膜萎縮・網膜色素変性がそれぞれ,2名(8.7%)であった.また,18歳以上では,上位より網膜色素変性15名(23.4%),糖尿病網膜症11名(17.2%),視神経萎縮9名(14.1%)などとなった.図3に40歳未満の新規視覚障害認定者の認定等級別分布を示す.1級および2級の該当者である重度視覚障害者が全体の62.0%(1級,2級それぞれ31.0%)を占めていた.III考察視覚障害者の原因疾患やその背景に関する疫学調査の結果は今までにいくつか報告されているが,40歳または50歳以上を対象者としているものが多く,いわゆる壮年期以前や若年者を対象に詳細な検討を行った報告は少ない4.7).前述の中江らの報告1,2)は,全国を6ブロックに分け1ブロックから1県または1政令指定都市を抽出したサンプル調査として行われ,現在のところ視覚障害認定者についての調査としては最も大きな規模で行われたものであるが,この全国調査も対象者は18歳以上となっている.さて,筆者らの今回の調査では,40歳未満の視覚障害者は全年齢層の6.6%,特に15歳以下の視覚障害児は,全体の1.7%と少数であった3).これは,山本らの報告4)での15歳以下の小児の視覚障害者は全体の1.3%であったという結果と似た数字であり,視覚障害者全体に占める壮年期以前の者,特に乳幼児や若年者の割合は大変少ない.調査対象者が少ないため,まとまった調査がむずかしく過去に若年者を対象とした同様の報告が少ないのではないかと考えられる.視覚障害の原因疾患についてであるが,本報告における18歳未満と,山本らの報告4)における15歳以下の視覚障害児の原因疾患第一位は,いずれも未熟児網膜症であった.全国の盲学校在籍者の失明原因として,未熟児網膜症の占める割合は1970年から1996年にかけて,1%から13%へと著しい増加がみられる8)と報告されており,今回の筆者らの調査結果でも,特に視覚障害児の原因疾患として未熟児網膜症の占める割合が多かった.また原因疾患の第二位以下は視神経萎縮,小眼球,脈絡網膜萎縮,網膜色素変性などとなったが,いずれも対象者は少なく未熟児網膜症以外の原因疾患としては,まとまった傾向がみられなかった.一方,40歳未満の対象者全体および18歳以上40歳未満の群では網膜色素変性が原因疾患として最も多い結果となった.前述の中江らの報告1)によると,18歳以上60歳未満の視覚障害者の主原因の第一位も同様に網膜色素変性であった.本疾患はいまだに明確な治療法がない遺伝性疾患であるが,近年の遺伝子分野の研究の進歩とともに何らかの治療方法の開発が期待されており,今回の調査結果より改めて若年から中年層の視覚障害者の原因疾患として重要であると考えられた.さて厚生労働省は,5年に一度,身体障害児・者実態調査結果を発表しているが,最近では,平成20年3月に平成18年7月現在の調査結果を発表している.平成18年身体障害児・者実態調査結果(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/108-1.html)によると,特に18歳未満の身体障害児のうち視覚障害のある者の原因疾患は,「網脈絡膜・視神経系疾患」が38.8%で最も多く,以下「脳性まひ」と「その他の脳神経疾患」が6.1%であり,「その他」が24.5%,「不明・不詳」が24.4%という結果であった.視覚障害に特化した調査でないことや調査方法が原則,調査対象者本人による調査票への記入によることなどから,今回の筆者らの調査とは異なった結果になっていると思われる.一方,筆者らの調査結果は身体障害者意見書の提出によるものである.申請漏れや医療機関を受診していない対象者が一定数いると考えられ,結果,本来の視覚障害者の背景とは異なっている可能性がある点にも注意を要する.視覚障害者の障害者手帳取得率については,過去の報告では30.54%と報告され,一般に年代が高くなるほど取得率が低下することが知られている9.11).一方,小児については正確な視力測定ができなかったり成長過程であることが考慮され,障害固定の判定が困難な例が少なくない.また先天性疾患などの場合,眼科への通院や手帳の取得を望まない保護者もいて,小児の手帳取得率に影響している可能性がある.壮年期以前,特に小児の手帳取得率についての詳細な報告は過去にないため今後の検討課題と考える.また手帳取得率は原因疾患によっても異なる特徴があり,糖尿病網膜症や網膜色素変性では70%を超えるのに対し,緑内障や黄斑変性では40%台であったと報告されている9).40歳未満の視覚障害者の認定等級については,1,2級の認定者が全体の62.0%と半数以上を占めていたが,これは筆者らが以前報告した視覚障害者全体(1.98歳)では1,2級の対象者は全体の48.9%であったことと比較すると,40歳未満の視覚障害認定者では特に重症の視覚障害者が多い結果となった.前述のように若年者や特に発育中の小児では疾患の障害固定が困難なことなどが考えられ,結果として等級の低い認定者が少なくなった可能性があると考えられる.今回筆者らは,40歳未満の視覚障害者についての背景調査を行ったが,前述のように厚生労働省の視覚障害児・者実態調査以外に,最近,若年者の視覚障害者に関する疫学調査の報告はほとんどなく,今回の報告は特に視覚障害児の実態の一端を理解するためにも貴重な調査結果であると考えられる.文献1)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:長寿社会と眼疾患746あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(144)─最近の視覚障害原因の疫学調査から.GeriatricMedicine44:1221-1224,20062)中江公裕,増田寛次郎,石橋達朗:日本人の視覚障害の原因─15年前との比較.医学のあゆみ225:691-693,20083)生杉謙吾,築留英之,八木達哉ほか:最近5年間の三重県における新規視覚障害認定者の原因疾患.日眼会誌114:505-511,20104)山本節:身体障害者手帳の視覚障害児.眼臨96:43-45,20025)松本順子,馬嶋昭生:身体障害者更生相談所での視覚障害者の分析.臨眼46:1368-1372,19926)OshimaY,IshibashiT,MurataTetal:PrevalenceofagerelatedmaculopathyinarepresentativeJapanesepopulation:theHisayamastudy.BrJOphthalmol85:1153-1157,20017)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1354-1362,20068)中島章:VISION2020と小児の失明予防.日本の眼科78:1319-1323,20079)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科17:1315-1318,200010)堀田一樹,佐生亜希子:視覚障害による身体障害者手帳取得の現況と課題.日本の眼科74:1021-1023,200311)藤田昭子,斉藤久実子,安藤伸朗ほか:新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳(視覚)取得状況.臨眼53:725-728,1999***

大阪大学病院での近視性中心窩分離症における中心窩形態の特徴

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(137)739《原著》あたらしい眼科28(5):739.741,2011cはじめに中心窩分離症(myopicfoveoschisis:MF)は中高年女性に好発し,強度近視に伴う後極部の非裂孔原性網膜分離,.離を主徴とする疾患で,最初Phillipsらによって1953年,黄斑円孔のない近視性後極部網膜.離として報告された1).その後光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の発達によって,より詳細な観察が可能となり2),今では多くの形態的なサブタイプがあることが報告されている.Benhamouらは中心窩分離症の中心窩形態として,中心窩.離型(fovealdetachment),分層円孔型(lamellarhole),そして.胞型(cystic)の3種があると報告した3).中心窩分離に対して硝子体手術が有効であることはすでに報告されている4.7)が,筆者らは手術成績を基に視細胞が網膜色素上皮より.離している中心窩.離型(fovealdetachment)とまだ.離していない網膜分離型(retinoschisis)の2つに分類し,前者のほうが硝子体手術による視力改善が大きく,より手術に適するのではないかと考察した8).中心窩分離の成因として,硝子体牽引,黄斑前膜の形成,内境界膜や網膜血管の非伸展性や後部ぶどう腫の形成が考えられている9,10).また,放置すると黄斑円孔を形成したり網〔別刷請求先〕十河薫:〒665-0832宝塚市向月町15-9宝塚第一病院眼科Reprintrequests:KaoriSoga,M.D.,DepartmentofOphthalmology,Takarazuka-DaiichiHospital,15-9Kozuki-cho,Takarazuka,Hyogo665-0832,JAPAN大阪大学病院での近視性中心窩分離症における中心窩形態の特徴十河薫佐柳香織生野恭司大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室FovealAnatomicalProfileofMyopicFoveoschisisinHighMyopiaClinicofOsakaUniversityHospitalKaoriSoga,KaoriSayanagiandYasushiIkunoDepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine強度近視に続発する中心窩分離症症例の形態的特徴を検討した.対象は2000年から2005年の間に大阪大学病院強度近視外来を受診している強度近視に続発した中心窩分離症症例52例63眼である.強度近視の定義は等価球面屈折値が.8ジオプトリー以上または眼軸長26mm以上とした.症例の内訳は男性8例10眼,女性44例53眼で,どの年齢層でも女性が多かった.平均年齢は62.1歳で,60歳代が最も多かった.平均眼軸長は28.9mmであった.両眼性は11例,片眼性は41例で,形態分類の内訳は中心窩.離型が34眼(65%)で最も多く,続いて分層円孔型20眼(38%),.胞型9眼(17%)であった.視力は中心窩.離型が最も悪く,続いて分層円孔型,.胞型の順であったが,眼軸長については3者で大きな差はみられなかった.外来受診する中心窩分離症の多くは60歳代の女性かつ,中心窩.離型が多い.ThefovealanatomicalprofileofmyopicfoveoschisiswasinvestigatedatthehighmyopiaclinicofOsakaUniversityHospitalbetween2000and2005.Subjectscomprised63eyesof52patients(8male,44female;meanage,62.1years;meanaxiallength,28.9mm).Theconditionwasbilateralin11patientsandunilateralin41patients.Ofthe63eyes,18(28%)werefovealdetachmenttype,29(46%)wereretinoschisistypeand16(25%)weremacularholetype.Visualacuitywasworstinmacularholetype,althoughtheaxiallengthwassimilar.About80%ofmacularholeandfovealdetachmenttypeeyesunderwentvitrectomy,ascomparedto50%ofretinoschisistypeeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):739.741,2011〕Keywords:強度近視,中心窩分離症,硝子体手術,光干渉断層計.highmyopia,myopicfoveoschisis,vitrectomy,opticalcoherencetomography.740あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(138)膜.離に至る11)ことから,それ以前に予防的に硝子体手術が盛んに行われている.黄斑円孔を併発していない場合,手術予後はおおむね良好であるが,黄斑円孔を併発してしまった場合,閉鎖率が低いことから,手術成績は著しく悪い12).中心窩分離症は網膜分離から中心窩.離を併発し,最終的に中心窩が菲薄化して黄斑円孔になると考えられているが,これらの事情から黄斑円孔になるまでに手術を行うのが理想とされている9).中心窩分離症はこのように強度近視にとって大きな脅威であるが,頻度が低いことから疾患の詳細な情報は得られていない.本稿では,大阪大学病院(以下,当院)強度近視外来を受診した中心窩分離症症例を分析しその傾向を検討した.I対象および方法対象は2000年から2005年の間に当院強度近視外来を初診で受診している強度近視に続発した中心窩分離症症例52例63眼である.すでに他院で手術や光線力学的療法など加療をされているもの,脈絡膜新生血管など他の黄斑疾病を合併しているもの,そして極度の網脈絡膜萎縮をきたしている症例は除外した.強度近視の定義は等価球面屈折値が.8ジオプトリー以上または眼軸長26mm以上とした.これら症例の視力や症例の状態を後ろ向きに診療録やOCTイメージを調査,検討した.中心窩分離症は,中心窩のOCTイメージの状態からBenhamouの分類に従い,以下のように分類した.中心窩.離をきたしているもの(fovealdetachment:FD),分層円孔となっているもの(lamellarhole:LH),.胞様変化をきたしているもの(cystic:CT)とした.また,血管アーケードを超えるような網膜.離および明らかな黄斑前膜症例は除外した.II結果症例の内訳は男性8例10眼,女性44例53眼であった.平均年齢は62.1歳で,平均眼軸長は28.9mmであった.年齢別にみると40歳代は6例(12%),50歳代は13例(25%),60歳代は22例(42%),70歳代は11例(21%)であった.両眼性は11例,片眼性は41例で,形態分類の内訳は中心窩.離型が34眼(65%)で最も多く,続いて分層円孔型20眼(38%),.胞型9眼(17%)であった.また,初診時すでに黄斑円孔を併発していたものが26眼(50%)あった.年代別の男女構成を図1に示す.40歳代を除き男性の割合は10.20%であった.これは年齢にかかわらず,症例のほとんどを女性が占めるということである.つぎにFD,LH,およびCTの各タイプ別における視力の分布を図2に示した.FDが最も悪く,0.1未満の症例が40%前後と最も多くを占め,また0.4以上の症例が20%前後と3タイプのなかで最も少なかった.最も良好であったのはCTタイプで,ほとんどの症例が0.4以上の視力を有していた.LHタイプはFDとCTの中間のような視力分布であった.つぎに眼軸長が測定可能であった29眼について,タイプTotaln=5270~n=1160~69n=2250~59n=1340~49n=60%20%40%60%80%100%■:男性■:女性図1年齢別にみた男女の比率Totaln=29CTn=3LHn=10FDn=16■:28mm未満■:28mm以上30mm未満■:30mm以上0%20%40%60%80%100%図3FD(中心窩分離型),LH(分層円孔型)およびCT(.胞型)の眼軸長分布Totaln=63CTn=9LHn=20FDn=34■:0.1未満■:0.1~0.3■:0.4以上0%20%40%60%80%100%図2FD(中心窩分離型),LH(分層円孔型)およびCT(.胞型)の矯正視力分布Totaln=63CTn=9LHn=20FDn=34■:手術施行例■:手術非施行例0%20%40%60%80%100%図4FD(中心窩分離型),LH(分層円孔型)およびCT(.胞型)の手術施行例.非施行例の割合(139)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011741別にその分布を調査した(図3).FD,LHタイプともに眼軸長28mm未満の症例が50%程度,30mmを超える症例が30%程度でその分布は非常に類似していた.CTは唯一30mm以上の症例がなかったが,今回は3症例の検討であった.手術の施行と非施行の割合を調査したところ,FDが最も手術されている割合が高く約70%の症例に手術が施行されていた(図4).一方でLHとCTには40.50%前後にしか手術は施行されていなかった.III考按今回は当院強度近視外来を受診中の中心窩分離症症例の特に中心窩の形態を検討した.今までに病院ベースで中心窩分離のプロファイルを調査した統計はなく,そのため詳細な比較検討はむずかしいが,FD,LH,CTの3群に分類した場合,Benhamouら3)はCTが10眼,LHが6眼そして,FDが6眼と報告している.今回は少しこれらと異なるが,当院でみられる中心窩分離のほとんどがFDであった.FDは,視力改善という点では,中心窩分離のなかでも最も硝子体手術に適するとされており,このように手術が必要とされるサブタイプであるFDが多く来院することは眼科医として肝に銘じておくべきである.中心窩分離症を放置した場合,2,3年のうちに約半数が黄斑円孔や網膜.離を発症するとされている11).強度近視における黄斑円孔は,特に網膜分離を伴った場合,予後が悪いため12),黄斑円孔が生じる前に硝子体手術を行い,その予防的措置を行うことが重要である.特にFDでは,網膜.離のために,中心窩が薄くなっており,経過観察中に黄斑円孔発症の可能性が高いと考えられる.したがって外来診療においては,このように黄斑円孔のリスクの高い患者が多く診療に訪れることを知っておくべきであろう.今回の調査では中心窩分離の症例は40歳代から70歳代に分布していた.中心窩分離は後部ぶどう腫の発症に従って生じるとされていることから,ある程度近視が進行して後部ぶどう腫が形成される年齢に達していることが必須であると考えられる.どの年齢においても女性が優位であったが,40歳代のみやや男性が多い傾向があった.近視も一般に女性が多いとされている.しかしながら,この場合40歳代が6例と少ないため,40歳代だけ比率が異なるか否かの判断は注意を要すると考えられる.FDで視力が一番不良であったのは,網膜.離に伴う視細胞の障害が最も顕著であるからと考えられる.LH,CTともに視力の低下している症例はあったが,FDほどの低下はみられなかった.中心窩分離においては,分離でも網膜障害が生じるが,視力という面ではやはり,中心窩視細胞の.離の有無が大きく関係するものと考えられる.実際筆者らの検討でも,中心窩.離がある症例のほうが,ない症例よりも視力が悪い8).また,硝子体手術においても,中心窩.離がある症例のほうが,ない症例よりも視力の回復が良好であることが報告されており8),治療では視細胞の救済が非常に重要であることを示唆するものである.これと関連して,手術された症例の割合はFDが最も高かった.これはFDが最も手術的に回復することが可能であること,視力不良の症例が多くを占め,手術を勧めやすいことが考えられる.最後にこれはあくまで病院における後ろ向き検討であるので,必ずしも疫学ベースでの結果と異なる可能性がある.特に視力が良好な間は,中心窩分離症例はなかなか病院を受診しないことも考えられる.本格的な疫学調査に関しては,今後の検討が待たれるところである.文献1)PhillipsCI:Retinaldetachmentattheposteriorpole.BrJOphthalmol42:749-753,19582)TakanoM,KishiS:Fovealretinoschisisandretinaldetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaphyloma.AmJOphthalmol128:472-476,19993)BenhamouN,MassinP,HaouchineBetal:Macularretinoschisisinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol133:794-800,20024)石川太,荻野誠周,沖田和久ほか:高度近視眼の黄斑円孔を伴わない黄斑.離に対する硝子体手術.あたらしい眼科18:953-956,20015)KobayashiH,KishiS:Vitreoussurgeryforhighlymyopiceyeswithfovealdetachmentandretinoschisis.Ophthalmology110:1702-1707,20036)IkunoY,SayanagiK,OhjiMetal:Vitrectomyandinternallimitingmembranepeelingformyopicfoveoschisis.AmJOphthalmol137:719-724,20047)HirakataA,HidaT:Vitrectomyformyopicposteriorretinoschisisorfovealdetachment.JpnJOphthalmol50:53-61,20068)IkunoY,SayanagiK,SogaKetal:Fovealanatomicalstatusandsurgicalresultsinvitrectomyformyopicfoveoschisis.JpnJOphthalmol52:269-276,20089)生野恭司:強度近視眼に続発した中心窩分離症の病因と治療.日眼会誌110:855-863,200610)BabaT,Ohno-MatsuiK,FutagamiSetal:Prevalenceandcharacteristicsoffovealretinaldetachmentwithoutmacularholeinhighmyopia.AmJOphthalmol135:338-342,200311)GaucherD,HaouchineB,TadayoniRetal:Long-termfollow-upofhighmyopicfoveoschisis:naturalcourseandsurgicaloutcome.AmJOphthalmol143:455-462,200712)IkunoY,TanoY:Vitrectomyformacularholesassociatedwithmyopicfoveoschisis.AmJOphthalmol141:774-776,2006

分娩時に発症した両眼性のValsalva 網膜症の1例

2011年5月31日 火曜日

734(13あ2)たらしい眼科Vol.28,No.5,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(5):734.737,2011cはじめにValsalva網膜症は1972年にDuaneらが報告した疾患で,咳・嘔吐・いきみに代表されるValsalva手技による急激な静脈圧の上昇を誘因として発症する突発性の出血性網膜症である1~7).後極や視神経乳頭周囲の内境界膜下出血あるいは網膜前出血が主体となる1~4)が,硝子体出血4)や網膜内出血・網膜下出血5,6)が認められることもある.発症の原因として嘔吐・重いものを持ち上げる・歯科におけるインプラント手術6)など,さまざまなものがこれまで報告されている.今回筆者らは経腟分娩直後に両眼性に発症したValsalva網膜症の1例を経験したのでここに報告する.〔別刷請求先〕高木健一:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:KenichiTakaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPAN分娩時に発症した両眼性のValsalva網膜症の1例高木健一*1今木裕幸*1貴福香織*1園田康平*2上野暁史*3蜂須賀正紘*4藤田恭之*4石橋達朗*1*1九州大学大学院医学研究院眼科学分野*2山口大学大学院医学研究科眼科学*3大島眼科病院*4九州大学大学院医学研究院生殖発達医学専攻生殖常態病態学講座生殖病態生理学ACaseofBilateralValsalvaRetinopathyCausedduringVaginalDeliveryKenichiTakaki1),HiroyukiImaki1),KaoriKifuku1),KouheiSonoda2),AkifumiUeno3),MasahiroHachisuka4),YasuyukiFujita4)andTatsurouIshibashi1)1)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,YamaguchiUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)OhshimaEyeHospital,4)DepartmentofGynecologyandObstetrics,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine症例は37歳,女性.妊娠41週1日で子宮内胎児死亡の診断後,経腟分娩施行した.分娩直後より両眼の視野異常を自覚し翌日当科紹介受診,両眼底に内境界膜下・網膜下出血を認めValsalva網膜症の診断に至った.発症後5日目,両眼にNd:YAGレーザーによる内境界膜切開術を施行した.右眼黄斑部に網膜下出血が及んでいたため,発症後7日目に硝子体切除術および液-空気置換術を施行した.両眼ともに出血は吸収され,視力は改善傾向であった.本症例が重症化した原因として貧血による網膜細小血管壁の脆弱性の存在や子宮内胎児死亡による凝固線溶系の異常亢進から惹起された凝固因子の欠乏が考えられている.Valsalva網膜症は保存的に経過観察されたりNd:YAGレーザーによる内境界膜切開のみで加療されたりすることの多い疾患だが,本症例のように重症化し早期の硝子体手術を要する場合もあると考えられた.WereportacaseofbilateralValsalvaretinopathycausedbystrainingduringvaginaldelivery.Thepatient,a37-year-oldfemale,tookvaginaldeliveryforintrauterinefetaldeath.Immediatelyafterdelivery,shecomplainedaboutbilateralvisualfieldloss.Fundusexaminationshowedbilateralsubmembrenousandsubretinalhemorrhagethroughoutthepostpole.Initially,shewastreatedbybilateralmembranotomywithneodymium-YAGlaser,andexaminedastothesubretinalhemorrhage.Shethenunderwentvitrectomyandfluid-airexchangeintherighteye,thesubretinalhemorrhagebeingonthemacula.Hervisualactuivitygraduallyimprovedpostopratively.Increasedretinalvesselpermeabilitycausedbyanemia,andcoagulationandfibrinolyticsystemactivitycausedbyintrauterinefetaldeathhadworsenedhercondition.ThiscasedemonstratesthepossibleeffectivenessofvitrectomyinsuchaseverecaseofValsalvaretinopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):734.737,2011〕Keywords:Valsalva網膜症,分娩,硝子体手術,内境界膜下出血,網膜下出血.Valsalvaretinopathy,delivery,vitrectomy,submembranoushemorrhage,subretinalhemorrhage.(133)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011735I症例患者:37歳,女性.主訴:両眼視野異常.既往歴:特記事項なし.現病歴:妊娠経過良好で,妊娠糖尿病・妊娠高血圧症の合併も認めなかった.2007年12月18日(妊娠41週1日)陣痛発来するも胎児心拍認められず,子宮内胎児死亡の診断に至った.同日九州大学病院周産母子センターへ入院し,経腟分娩施行した.分娩直後より両眼視野異常を自覚し,改善傾向ないため12月19日九州大学病院眼科(以下,当科)初診となった.分娩前所見(2007年12月18日):赤血球4.08×106/μl,ヘモグロビン12.7g/dl,血小板13.9万/μl,プロトロンビン時間11.6sec,PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)0.99,APTT(活性化部分トロンボプラスチン)時間34.9sec,フィブリノーゲン344mg/dl(正常値150~400),AT(アンチトロンビン)-III活性76%(正常値80~120),血清フィブリン分解産物(fibrindegradationproducts:FDP)33.4μg/ml(正常値0~5.0),トロンビンアンチトロンビン複合体80.0ng/ml以上(正常値0~3.0),D-ダイマー9.6μg/ml(正常値0~0.5).分娩時所見:分娩中血圧170/100mmHg程度で推移し,分娩後100/65mmHg程度へ低下.分娩中の出血は1,340mlで弛緩出血が遷延した.初診時検査所見:視力は右眼0.03(0.04×sph+11.0D(cyl.1.5DAx180°),左眼0.02(0.03×sph+10.0D(cyl.1.0DAx180°),眼圧は右眼5mmHg,左眼8mmHg,両眼ともにRL図1初診時眼底所見R:右眼,L:左眼,両眼ともにニボーを伴う大量の内境界膜下出血を認め,網膜下出血,網膜出血を認める.複数の軟性白斑を認め,動脈は白線化している.図2a右眼YAGレーザー内境界膜切開術後眼底所見内境界膜下出血が減少したことで,黄斑部に網膜下出血が及んでいることが確認された.図2b右眼硝子体手術後(術後19日目)眼底所見出血は著明に吸収され,黄斑直下の網膜下出血が移動した.736あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(134)前眼部中間透光体に著変なく,両眼底にニボーを形成する内境界膜下出血および網膜下出血が認められた(図1).両眼とも後部硝子体.離は認められなかった.採血にて赤血球2.39×106/μl,ヘモグロビン7.4g/dlと貧血が認められた.経過:分娩直後に発症したという病歴,ニボーを形成する特徴的な内境界膜下出血がみられたことからValsalva網膜症の診断に至った.2007年12月23日(発症後5日目)両眼にNd:YAGレーザーによる内境界膜切開術を施行した.左眼は内境界膜下出血が拡散し,黄斑部が透見可能となった.右眼は内境界膜下出血の拡散後黄斑部に網膜下出血が及んでいた(図2a)ため,2007年12月25日(発症後7日目)組織プラスミノーゲン活性化因子(tissueplasminogenactivator:t-PA)を硝子体腔内投与後(クリアクターR4,000単位/200μlを200μl術前6時間に投与),硝子体切除術+液-空気置換術を施行し,網膜下出血を黄斑直下より移動させた.これら処置・手術後に出血は両眼ともに吸収され(図2b,図3),視力も術後徐々に改善傾向を示した.2009年11月時点で右眼視力(0.9),左眼視力(0.8)である.II考按本症例は,Valsalva網膜症のなかでも両眼性に大量に出血した重症例である.Valsalva網膜症は,咳や嘔吐などのValsalva手技による急激な胸腔内圧・腹腔内圧の上昇が惹起する急激な静脈圧の上昇を誘因として発生する網膜毛細血管の破綻による比較的まれな出血性網膜症である1~7).黄斑部に出血が存在せず比較的視力が良好な症例もある4)が,黄斑部に出血が及んだ場合は急激な視力低下をきたす1~3,5~7).誘因となるValsalva手技は,嘔吐1)・重いものを持ち上げる2)・歯科におけるインプラント手術6)などさまざまなものが報告されている.周産期における発症はわが国では他に松本が悪阻による嘔吐を誘因とした例を報告している7).本症例においては病歴から分娩時の怒責が発症の起点と考えられている.Valsalva網膜症は内境界膜下出血が主体となることが多い2,3,7)ため,保存的経過観察1,4,7),あるいは黄斑部に出血が及んでいる場合にNd:YAGレーザーによる内境界膜切開術で加療することが多い2).また,内境界膜下出血が遷延化した場合などで硝子体手術を施行されることもある3).いずれの場合も視力予後はおおむね良好で,出血前の視力とほぼ同等まで回復することが多いとされている1~7).子宮内胎児死亡は死亡胎児由来の組織トロンボプラスチンが母体血中に侵入することで凝固異常をひき起こすことがある8).本症例でもFDPやトロンビンアンチトロンビン複合体の上昇など凝固線溶系の亢進が認められ,凝固因子が消費性に欠乏した状況であった.本症例ではさらに分娩後に弛緩出血が遷延したことにより貧血も発症しており,網膜細小血管壁の脆弱性が存在していた9)と考えられる.こうした凝固因子欠乏および網膜細小血管壁の脆弱性により,本症例はこれまでの報告にあるValsalva網膜症の症例よりも易出血性を呈しており,両眼に大量の出血をきたすという重篤な結果を招いたと思われる.本症例は両眼の内境界膜下出血に対してNd:YAGレーザーによる内境界膜切開術でドレナージを行ったところ,右眼黄斑部に網膜下出血が確認され,視力予後が悪いことが予想された.このため右眼に対してt-PA併用下の硝子体切除術および液-空気置換術を施行し,良好な視力温存を得ていRL図3治療後約17カ月目,2009年07月22日の眼底所見R:右眼,L:左眼,出血はほぼ吸収された.黄斑部付近に変性を認める.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011737る.前述のとおりValsalva網膜症は通常視力予後の良好な疾患であるが,本症例の場合は早期の硝子体手術による黄斑部網膜下出血の移動を行わなかった場合,良好な視力温存はむずかしかったと思われる.本症例の経過から子宮内胎児死亡および分娩後の貧血はValsalva網膜症が重症化しやすい要素であること,Valsalva網膜症にも早期の硝子体手術が必要な例があることが考えられた.文献1)DuaneTD:Valsalvahemorrhagicretinopathy.TransAmOphthalmolSoc70:298-313,19722)KhanMT,SaeedMU,ShehzadMSetal:Nd:YAGlasertreatmentforValsalvapremacularhemorrhages:6monthfollowup:alternativemanagementoptionsforpreretinalpremacularhemorrhagesinValsalvaretinopathy.IntOphthalmol28:325-327,20083)大原真紀,本合幹,池田恒彦:Valsalva洞刺激によると考えられる網膜前出血に硝子体手術を施行した1例.あたらしい眼科19:1633-1636,20024)雑賀司珠也,宮本香,田村学ほか:Valsalvamaneuverによると考えられる網膜前および硝子体出血の1例.臨眼45:1789-1791,19915)HoLY,AbdelghaniWM:Valsalvaretinopathyassociatedwiththechokinggame.SeminOphthalmol22:63-65,20076)KreokerK,WedrichA,SchranzR:Intraocularhemorrhageassociatedwithdentalimplantsurgery.AmJOphthalmol122:745-746,19967)松本行弘:妊娠期における眼合併症としてのValsalva網膜症.眼臨101:666-670,20078)山本樹生:産科疾患の診断・治療・管理異常妊娠子宮内胎児死亡.日産婦誌59:N-670-N-671,20079)野村菜穂子,前田朝子,河本道次ほか:貧血に両眼性網膜出血を合併した1症例について.眼紀41:355-359,1990***

先天性ヘルペスウイルス感染に合併した壊死性網膜炎

2011年5月31日 火曜日

730(12あ8)たらしい眼科Vol.28,No.5,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(5):730.733,2011cはじめに先天性ヘルペス感染症は,分娩時の産道感染が85%を占め,経胎盤感染は5%とまれである.Herpessimplexvirus(HSV)-2による感染が70.85%と多く,HSV-1による感染は15.30%程度である1).典型的なヘルペス感染症の症状で発症せず,小児科においても診断に苦慮することが多いといわれている2,3).今回,新生児集中治療室(NICU)入院中に,角膜炎および壊死性網膜炎を生じ,その眼所見から先天性ヘルペス脳炎の診断に至った,HSV-1の経胎盤感染と診断された極低出生体重児の1例を経験したので報告する.I症例患者:在胎週数30週5日,出生体重1,408g,男児.〔別刷請求先〕内村英子:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室Reprintrequests:EikoUchimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjyuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN先天性ヘルペスウイルス感染に合併した壊死性網膜炎内村英子*1豊口光子*1笠置晶子*1稲用和也*2堀貞夫*1小保内俊雅*3内山温*3楠田聡*3仁志田博司*3*1東京女子医科大学眼科学教室*2総合病院国保旭中央病院眼科*3東京女子医科大学母子総合医療センター新生児部門NecrotizingRetinitisAssociatedwithCongenitalHerpesSimplexVirusInfectionEikoUchimura1),MitsukoToyoguchi1),AkikoKasagi1),KazuyaInamochi2),SadaoHori1),ToshimasaObonai3),AtsushiUchiyama3),SatoshiKusuda3)andHiroshiNishida3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KokuhoAsahiCentralHospital,3)MatemalandPerinatalCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversity壊死性網膜炎様の眼所見を呈し,先天性ヘルペス脳炎の診断に至った極低出生体重児の1例を経験した.症例は在胎週数30週5日,出生体重1,408gの男児であった.生後23日に異常運動と無呼吸発作が出現した.生後26日に精査のため眼科を受診し,両眼の角膜に混濁と浮腫を認め,耳側網膜に黄白色の滲出斑と網脈絡膜萎縮を認めた.壊死性網膜炎を疑い,前房水のポリメラーゼ連鎖反応を施行したが単純ヘルペスウイルス(HSV)と帯状疱疹ウイルスは陰性であった.小児科にて静脈血と髄液中のヘルペス抗体価を検索し,HSV-Ig(免疫グロブリン)Mが検出され先天性ヘルペス脳炎と診断された.母体が妊娠中にHSVに初感染していたことが判明し,胎盤病理の免疫染色からHSV-1が検出され,HSVの経胎盤感染と確定診断された.母親が初感染のため,母親由来のHSV-IgGが存在せず,患児は角膜炎と壊死性網膜炎の眼合併症を発症し,重篤となったと考えられた.Wereportacaseofcongenitalherpesencephalitisinamaleinfantwithverylowbirthweightbasedonocularfindings.Hewasdeliveredvaginallyat30weeksand5daysofgestation,weighing1,408ganddevelopedabnormalmovementandattacksofapnea23daysafterbirth.Onday26,theinitialophthalmologicexaminationrevealedbilateralcornealopacity/edemaandyellowish-whiteexudatessuggestingnecrotizingretinitisinthetemporalfundi.Neitherherpessimplexvirus(HSV)norvaricella-zosterviruswasdetectedinaqueoushumorviapolymerasechainreaction,butHSV-IgMwasdetectedincerebrospinalfluid,leadingtothediagnosisofcongenitalherpesencephalitis.ThemotheracquiredprimaryHSVinfectionduringpregnancy.PathologicexaminationoftheplacentaconfirmedtransplacentaltransmissionofHSV-1.SincecongenitalherpesinfectionrarelyoccursduetotransplacentaltransmissionofHSV-1,theabsenceofmaternallyderivedHSV-IgGmighthavecausedthesubsequentseriousmedicalconsequencesintheinfant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):730.733,2011〕Keywords:壊死性網膜炎,先天性ヘルペス脳炎,単純ヘルペスウイルス.necrotizingretinitis,congenitalherpesencephalitis,herpessimplexvirus.(129)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011731初診:2006年10月3日(生後26日).家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2006年9月6日,在胎30週5日で出生し,Apgarscoreは7/7と正常であった.生後NICUに入院となり,約1週間の人工呼吸管理を施行された.生後10日に,前額部,後頸部,背部に皮疹が出現したが,擦過物の培養にて細菌は検出されず,特に重篤な全身合併症はなかった.生後14日には全身状態が安定したため酸素投与が中止された.生後19日,突然嘔吐が出現し,呼吸状態が不安定となり,生後23日より,ミオクロニー様の異常運動と,無呼吸発作が頻発したため,再び人工呼吸管理となった.生後26日に原因精査および未熟児網膜症のスクリーニング目的で当科初診となった.初診時所見:生後26日の初診時,修正在胎週数34週3日,体重1,380gであった.前眼部に軽度の球結膜充血と両眼にすりガラス状の角膜混濁と角膜浮腫を認めた.中間透光体には白内障はなく,びまん性硝子体混濁がみられた.視神経乳頭は境界不鮮明であり,血管は耳側にわずかに認めるのみで,両眼の耳側網膜の周辺部に黄白色の滲出斑および網脈絡膜萎縮を認めた.眼所見から代謝性疾患やヘルペスウイルスなどの感染が疑われたため,新生児科に全身検索を依頼した.全身検査所見:血液生化学所見は白血球:9,400/μl,赤血球:341万/μl,ヘモグロビン:12.3g/dl,ヘマトクリット:32.3%,血小板:27.7万/μl,総蛋白:5.5g/dl,AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ):26U/l,ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):8U/l,血中尿素窒素:12.8mg/dl,クレアチニン:0.81mg/dl,CRP(C反応性蛋白)<0.3mg/dlであり,感染症を疑わせる異常値は認めなかった.髄液検査にて細胞数,蛋白値の増加を認めたが,髄液と静脈血の微生物培養検査では細菌は検出されなかった.染色体検査では46XYで異常なく,代謝性疾患スクリーニング検査でも異常を認めなかった.頭部エコーにて中大脳動脈領域の大脳白質内に脳質周辺部まで多発する.胞を認め,脳炎が疑われた.脳炎に合併した眼底所見から,ヘルペスウイルス感染症が疑われたため,静脈血のウイルス検査を依頼した.サイトメガロウイルス,トキソプラズマのIg(免疫グロブリン)Mは陰性であったが,HSVのIgMが5.1MI(IgMindex)と陽性であったため,患児はHSVの初感染と診断された.その際,HSV-IgGは22.0GI(IgGindex)であったが,生後48日の静脈血のウイルス検査ではHSVIgGは9.0GIと減少していた.その後,髄液のHSV-IgMも3.3MIと陽性であることが判明し,ヘルペス脳炎と確定診断された(表1).経過:初診時,壊死性網膜炎が考えられたため前房水を採取し,polymerasechainreaction(PCR)によりHSV,varicella-zostervirus(VZV)のPCR-DNAを検索したが結果はすべて陰性であった.前眼部所見と眼底所見を総合的に判断して細菌性角膜炎を疑い,トブラマイシン,レボフロキサシンを両眼に4回/日点眼で治療を開始した.その後,眼脂と角膜擦過物の培養からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため,バンコマイシンを追加した.2週間後には角膜浮腫は改善し,MRSAが陰性化したため,バンコマイシンは中止した.また,角膜混濁を改善させるため,0.1%フルオロメトロン点眼を2回/日から開始した.角膜混濁が改善傾向を認めたため,2週間で0.1%フルオロメトロン点眼を中止した.新生児科に依頼した静脈血と髄液の検査にて,HSVの初感染によるヘルペス脳炎と確定診断された後,網膜炎の進行表1母児の検査所見<児の検査所見>静脈血(生後26日)→(生後48日)髄液(生後48日)・HSV-IgM(+)5.1MI(+)4.6MI・HSV-IgM(+)3.3MI・HSV-IgG(+)22.0GI(+)9.0GI・風疹-IgM(±)1.6MI・CMV-IgM(.)0.2MI・風疹-IgM(+)5.2MI・トキソプラズマIgM(.)0.1COI染色体:46XY異常なし代謝性疾患スクリーニング:異常なし<母の検査所見>24歳,女性,全身疾患なし静脈血(産後26日)→(産後56日)HSV-IgM(±)1.0MI(.)0.6MIHSV-IgG(+)97.0GI(+)390.0GIVZV-IgM(±)1.5MI(±)1.3MIVZV-IgG(+)32.0GI(+)33.0GI風疹IgM(.)0.7MI風疹IgG(+)27.0GI図1左眼前眼部写真(生後69日)角膜の9時-12時に上皮下混濁がみられる(矢印)が,生後26日に比べると角膜炎は改善している.732あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(130)がみられたため,新生児科にて生後62日にアシクロビルの全身投与を開始した.しかし全身状態が重篤で脳炎および眼病変の改善が望めないことから1週間で中止となった.初診より1カ月後,角膜周辺部に上皮下混濁を認めるが,角膜浮腫は初診時(生後26日)に比べると改善した(図1).眼底は,網膜血管が狭細化し広範囲に閉塞しており,視神経の周辺を除いて網脈絡膜の強い萎縮と瘢痕形成を認めた(図2).眼科的には,前房水からHSVは検出されなかったが,眼底所見より周辺部から始まる黄色の滲出斑が,その後色素沈着を伴う瘢痕病巣に変化し,進行性の壊死性網膜炎の臨床像を呈していた.全身ではHSV初感染でありヘルペス脳炎に罹患していたことから,眼底病変はHSVによる壊死性網膜炎が最も考えられる病態であった.母親は24歳の女性で,全身疾患の既往歴はなかった.産後にウイルス検査を施行し,産後26日と56日のペア血清にて,HSV-IgMのみが(±)1.0MIから(.)0.6MIへと変化し,HSV-IgGが(+)97.0GIから(+)390.0GIへと上昇していたことから,母親は妊娠中,出産直前にHSVに初感染していたことが判明した(表1).ヘルペスの感染経路の検索のため,分娩時に保存した胎盤の標本を染色した.病理検査の結果,炎症細胞浸潤を認める部位の胎盤に封入体をもった巨細胞を認め,抗HSV-1の免疫染色にてジアミノベンジジン(DAB)発色で核内に褐色のウイルス顆粒を認めた(図3).この結果より,HSV-1の経胎盤感染による先天性ヘルペス感染と確定診断された.II考察先天性ヘルペス感染症は,子宮内,分娩時,生直後にHSVに感染し,感染源としては母親が最も多いと報告されている.感染経路は分娩時の産道感染が85%を占め,経胎盤感染は5%とまれである1).経胎盤感染は妊娠初期の20週間に多く,流産,死産,先天性奇形につながり1),周産期死亡率は50%である4).HSV-1による感染が15.30%,HSV-2による感染が70.85%であり1),HSV-2による感染が多いとされており,HSV-2の感染のほうが重篤な予後を伴うと報告されている5,6).ただし,患者の約半数にしか典型的な皮膚症状が出現しないため,多くの症例が検死でしか診断されない2,3).本症例は胎盤病理組織所見にて,HSV-1による経胎盤感染と確定診断された.経胎盤感染が病理から確定診断されることはまれであり,HSV-1による感染例がさらに少ないことから,わが国での報告はみられず貴重な先天性ヘルペス感染の症例と考えられる.先天性ヘルペス感染症の臨床所見は,皮膚症状のみの限局型が5.10%,皮膚症状と眼病変の合併が15%,本症例のように脳炎に眼病変もしくは皮膚病変を合併するものが50図2眼底写真(生後69日)左:右眼,右:左眼.両眼とも硝子体混濁にて眼底透見不良だが,網脈絡膜の強い萎縮と瘢痕を認める(矢印).網膜血管は狭細化し閉塞していた.D:視神経乳頭と思われる部位.図3胎盤の病理組織所見左:胎盤の炎症細胞浸潤を認める部位に,封入体をもった巨細胞がみられる(矢印).HE染色.右:巨細胞が,抗HSV-1免疫染色に陽性である(矢印).抗HSV-1免疫染色.(131)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011733%にみられる.HSV感染症の乳児の20%に眼病変があるものと推定されている2,3).眼病変には結膜炎,角膜炎,白内障,網脈絡膜炎などがある.網膜炎は晩期にみられる合併症であることが多い7).先天性ヘルペス感染症の眼所見は,1977年Yanoffらが,HSV-2による眼内炎として最初に報告している.32週の低出生体重児の報告であり,角膜炎,虹彩炎,壊死性網膜炎があり,剖検時の網膜からHSV-2が検出された8).本症例では,角膜炎と壊死性網膜炎を合併しており,Yanoffらの報告と類似した所見を呈し,全身的にHSV以外の感染症が認められないことから,先天性へルペス感染による眼内炎と考えられた.先天性ヘルペス感染症の胎内感染の場合,免疫が未熟であることから,角膜炎と網膜炎の両方を合併し重篤になりやすいと考えられた.本症は脳炎発症前の生後10日に皮膚病変が出現していたが,細菌検査のみ施行しており,皮疹はヘルペス感染が関与していた可能性も考えられる.皮疹出現の約10日後に神経症状が出現し脳炎を発症し,その1週間後の眼底検査では,すでに眼底は壊死性網膜炎に,また一部瘢痕病巣が混在する病態となっていた.皮疹出現から約2.3週の間に網膜病変はかなり進行しており網膜炎の進行が速かったことが推測される.本症例では母体が初感染であったため,患児が出生前に胎内で感染したときに母体由来のHSVIgGが存在せず,患児の免疫もまだ未熟であったことから重篤となったと考えられた.先天性ヘルペス感染症の臨床像は,非典型的な症状で発症することが多く,無症状の母体から感染することもあり,診断に苦慮することが多い.本症例は極低出生体重児であり,採血量が制限されるため検査項目も限られる状況下で,眼所見が診断の手掛かりとなった.本論文の要旨は第42回日本眼炎症学会で発表した.文献1)SauerbreiA,WutzlerP:Herpessimplexandvaricellazostervirusinfectionduringpregnancy:currentconceptsofprevention,diagnosisandtherapy.Part1:Herpessimplexvirusinfections.MedMicrobiolImmunol196:89-94,20072)NahmiasAJ,HaglerW:Ocularmanifestationsofherpessimplexinthenewborn.IntOphthalmolClin12:191-213,19723)NahmiasAJ,VisintineAM,CaldwellDRetal:Eyeinfectionswithherpessimplexvirusinneonates.SurvOphthalmol21:100-105,19764)DesselbergerU:Herpessimplexvirusinfectioninpregnancy:diagnosisandsignificance.Intervirology41:185-190,19985)KriebsJM:Understandingherpessimplexvirus:transmission,diagnosis,andconsiderationsinpregnancymanagement.JMidwiferyWomensHealth53:202-208,20086)MeerbachA,SauerbreiA,MeerbachWetal:Fataloutcomeofherpessimplexvirustype1-inducednecrotichepatitisinaneonate.MedMicrobiolImmunol195:101-105,20067)KurtzJ,AnslowP:Infantileherpessimplexencephalitis:Diagnosticfeaturesanddifferentiationfromnon-accidentalinjury.JInfect46:12-16,20038)YanoffM,AllmanMI,FineBS:Congenitalherpessimplexvirustype2,bilateralendophthalmitis.TransAmOphthalmol75:325-338,1977***

抗VEGF 抗体の硝子体注射における硝子体脱出の頻度

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(125)727《原著》あたらしい眼科28(5):727.729,2011cはじめに硝子体注射は眼科治療法の一つであり,近年特に抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)抗体の硝子体注射の有効性が認知され,今後ますます盛んに行われると考えられる.硝子体注射に伴う重篤な合併症の一つに感染性眼内炎がある.過去の報告によると,硝子体注射症例の0.019~0.052%の頻度で眼内炎が生じたとしている1~4).眼内炎の危険因子の一つとしては,硝子体注射に伴う硝子体脱出を指摘する報告がある5)が,わが国において硝子体脱出の頻度を詳細に調査した報告はない.今回筆者らは,硝子体注射に伴う硝子体脱出の頻度(以下,硝子体脱出率)をプロスペクティブに調査し,さらに患者背景因子との関連について検討したので報告する.I対象および方法対象は当院にて2009年3月から12月の間に加齢黄斑変性に対してranibizumab(0.5mg/0.05ml)の硝子体注射を行った症例である.複数回投与を行っている症例は,症例ごとの何らかの因子が硝子体脱出率に影響する可能性があるため,初回投与のみを対象とした.硝子体手術の既往がある症〔別刷請求先〕大塚斎史:〒780-0935高知市旭町1丁目104番地町田病院Reprintrequests:YoshifumiOhtsuka,M.D.,MachidaHospital,104-1Asahimachi,Kochicity,Kochi780-0935,JAPAN抗VEGF抗体の硝子体注射における硝子体脱出の頻度大塚斎史橋田正継山本恭三星最智卜部公章町田病院FrequencyofVitreousRefluxinIntravitrealInjectionofAnti-VEGFAntibodyYoshifumiOhtsuka,MasatsuguHashida,TakamiYamamoto,SaichiHoshiandKimiakiUrabeMachidaHospital目的:抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)抗体の硝子体注射に伴う硝子体脱出の頻度(以下,硝子体脱出率)を検討した.対象および方法:2009年3月から12月の間にranibizumab(0.5mg/0.05ml)の硝子体注射を行った52症例のうち初回投与のみを対象とした.30ゲージ針で硝子体注射を行い,吸収スポンジを用いて硝子体脱出の有無を確認し硝子体脱出率を検討した.また,硝子体脱出率と患者背景因子(性別,年齢,水晶体の状態,眼圧,屈折値)との関連について解析した.結果:全症例での硝子体脱出率は23.1%であった.有水晶体眼(29眼)の硝子体脱出率は34.5%であり,偽水晶体眼(23眼)の8.7%よりも有意に高かった(p=0.03).結論:硝子体注射後の硝子体脱出率は特に有水晶体眼で高かった.Objectives:Toinvestigatethefrequencyofvitreousrefluxfollowingtheintravitrealinjectionofanti-vascularendothelialgrowthfactor(anti-VEGF).SubjectsandMethods:Fifty-twocasesofpatientswhoreceivedafirstintravitrealinjectionofanti-VEGF(ranibizumab,0.5mg/0.05ml)betweenMarchandDecember2009wereenrolledinthisstudy.Anintravitrealinjectionusinga30-gaugeneedlewasperformedineachpatientandthevitreousrefluxwastheninvestigatedusinganabsorbingsponge.Therelationbetweeneachpatient’sfactorssuchasgender,age,eitherphakicorpseudophakiceye,intraocularpressure,refractiveindex,andthevitreousrefluxratewasthendetermined.Results:Thevitreousrefluxratewasobservedin23.1%ofthetotaleyes.Therewasasignificantdifference(p=0.03)inthevitreousrefluxratebetweenthephakiceyes(29eyes,34.5%)andthepseudophakiceyes(23eyes,8.7%).Conclusion:Thevitreousrefluxrateinphakiceyeswassignificantlyhigherthanthatinpseudophakiceyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):727.729,2011〕Keywords:硝子体注射,硝子体脱出,眼内炎,抗VEGF抗体.intravitrealinjection,vitreousreflux,endophthalmitis,anti-VEGFantibody.728あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(126)例は除外した.硝子体注射は手術顕微鏡下に30ゲージ針を用いて経結膜的に毛様体扁平部から行った.30ゲージ針の刺入方法は,強膜に対して垂直に刺入するだけであり,その他の特別な手技は用いていなかった.抜針後は速やかに綿棒または鑷子で強膜創を圧迫した後,吸収スポンジを用いて刺入部位からの硝子体脱出の有無を確認した.硝子体脱出を認めた場合は,吸収スポンジにて脱出した硝子体を持ち上げながらスプリング剪刀で切除した(図1).術前および術後3日間は0.5%モキシフロキサシン点眼液(ベガモックスR点眼液0.5%)の点眼を行った.検討項目として,全症例における硝子体脱出率を検討した.さらに,硝子体脱出率に影響を与えている因子を検討するため,硝子体脱出率と患者背景因子(性別,年齢,水晶体の状態,眼圧,屈折値)との関連について解析した.水晶体の状態は有水晶体眼と偽水晶体眼とに分類し,眼圧は硝子体注射前にノンコンタクト眼圧計を用いて測定した.屈折値は有水晶体眼では硝子体注射前の値を,偽水晶体眼では白内障手術前の屈折値を使用し,等価球面度数として検討した.偽水晶体眼の症例でカルテ上,以前の屈折値がわからないものは,屈折値に関する検討から省いた.統計学的処理は,性別,水晶体の状態についてはMann-WhitneyUtestを,年齢,眼圧,屈折値についてはFisher’sexacttestを用い,p<0.05を有意と判定した.II結果症例は52例52眼(男性35例35眼,女性17例17眼)で,平均年齢は74.5±9.6歳(47~93歳),眼圧の平均値は12.2±2.9mmHg(9~19mmHg)であった.症例全体の硝子体脱出率は23.1%(52眼中12眼)であった.患者背景因子として屈折値を含めて検討を行ったのは52眼中35眼で,平均の等価球面度数は.0.4±2.0D(+3~.7.75D)であった.硝子体脱出率と患者背景因子との関連を検討したところ,性別(p=0.60),年齢(p=0.92),眼圧(p=1.00),屈折値(p=0.38)であり,いずれも有意な関連は認めなかった.しかしながら,水晶体の状態ごとの硝子体脱出率に関しては,偽水晶体眼では8.7%(23眼中2眼)であるのに対し,有水晶体眼で34.5%(29眼中10眼)と有意に高かった(p=0.03)(図2).加えて,有水晶体群と偽水晶体群で,性別,年齢,眼圧,屈折値を比較すると,表1のような結果となった.2群間の比較で有意差があったのは平均年齢のみで,偽水晶体群では平均年齢が高かった.年齢が交絡因子となっている可能性も否定できないため,年齢と水晶体の状態を説明変数,硝子体脱出の有無を目的変数として多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,年齢〔オッズ比1.1,95%信頼区間(95%CI):0.98~1.23,p=0.09〕,水晶体の状態(オッズ比18.3,95%CI:1.97~169.5,p=0.01)であり,年齢の影響を除いても,有水晶体眼で有意に硝子体脱出率が高かった.なお,今回の調査中に眼内炎や網膜.離などの眼合併症は認めなかった.II考按抗VEGF抗体の硝子体注射に伴う重大な合併症の一つに感染性眼内炎がある.硝子体注射の直後に吸収スポンジなどを用いて刺入部を詳細に観察すると,創口に嵌頓した硝子体を認めることがある.Chenらはこれをvitreouswicksyn表1有水晶体群と偽水晶体群の比較有水晶体群(n=29)偽水晶体群(n=23)p値性別(男:女)18:1117:60.27年齢(歳)69.2±8.481.1±6.4<0.0001眼圧(mmHg)12.2±3.112.2±2.80.96屈折値(D)0.12±2.2.0.79±1.00.10図1硝子体注射直後の硝子体脱出吸収スポンジにて硝子体脱出の有無を確認した(矢印).4035302520151050有水晶体眼偽水晶体眼硝子体脱出率(%)**p=0.03図2水晶体の状態ごとの硝子体脱出率有水晶体眼では,偽水晶体眼と比べ有意に硝子体脱出率が高かった.(127)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011729dromeとよび,硝子体注射後の感染性眼内炎の一因となっている可能性があると指摘している5).これまでの硝子体脱出の頻度に関する報告として,Benzらは38眼に対し0.1mlのトリアムシノロンを27ゲージ針にて硝子体注射したところ,硝子体脱出率が21.1%であったと報告している6).今回の筆者らの検討では硝子体脱出率は23.1%であり,Benzらの報告と比べて硝子体注射をした薬剤の体積が少ないという違いはあるものの,硝子体脱出率は近似した結果となった.このことは,抗VEGF抗体とトリアムシノロンという使用薬剤の相違以外に硝子体脱出のリスク因子が存在し,さらに,筆者らの結果が注射手技の熟練度などの技術的な問題のみで生じた結果ではないことを示唆している.そこで,硝子体脱出率と患者背景との関連を検討したところ,性別,年齢,眼圧,屈折値では有意な相違があるとはいえなかった.しかしながら,水晶体の状態に関しては,有水晶体眼と偽水晶体眼の硝子体脱出率はそれぞれ34.5%,8.7%となり,有水晶体眼で有意に高い結果となった.偽水晶体眼で硝子体脱出率が低下した原因として,白内障手術を契機に眼内の環境が変化したことが推察される.一つの仮説として,水晶体の占めていた容積が眼内レンズとなったことで硝子体腔の体積が相対的に増加し,硝子体注射による圧変動が減少する可能性が考えられるが,詳細は不明である.硝子体注射に伴う硝子体脱出の頻度について,わが国では今回の筆者らの報告以外に調査した報告はなく,発生すること自体に認識が十分でない可能性がある.今後は硝子体注射を行う際,注射直後に吸引スポンジなどを用いて硝子体脱出の有無を注意深く確認することが重要と考えられた.硝子体注射の際に硝子体脱出を生じにくくするための試みは過去に報告がある.Rodriguesらは,強膜に対して30°の角度で針の先端を1.5mm程度強膜半層まで進めて,その後硝子体腔の中心に向かって針を垂直に立てて穿刺するというtunneledscleralincisionによって,硝子体脱出の量が減少したと報告している7).小切開硝子体手術の際に結膜をずらしてカニューラの設置を行うことがある8)が,硝子体注射においても同様の手技で行うことにより,結膜からの硝子体の露出を防ぐことができるかもしれない.今後は,硝子体脱出が起こりにくくするための標準的な硝子体注射手技について検証していく必要がある.筆者らの検討における問題点として,まず,硝子体注射後の眼圧が硝子体脱出率に与える影響を調査していないことがあげられる.硝子体注射の直後に眼圧が上昇することがあり,Benzらの報告ではトリアムシノロン0.1mlの硝子体注射直後の平均眼圧が,硝子体脱出がなかった群では45.9mmHg,硝子体脱出があった群では12.6mmHgであったとしている.抗VEGF抗体の投与量は0.05mlであり,Benzらの報告よりも少量ではあるが,今後は硝子体注射後の眼圧上昇の頻度や硝子体脱出との関連を検討する必要がある.つぎに,今回の検討項目で屈折率では有意な関連がなかったものの,眼軸長を患者背景因子に加えた検討が望ましいと考えられる.また,硝子体脱出の確認方法について,吸収スポンジにて硝子体の検出を行っているが,その手技によるバイアスも考えられ今後の検討を要する.以上,まとめとして,検討では硝子体脱出率は23.1%と比較的高く,有水晶体眼では偽水晶体眼より硝子体脱出率が高かった.硝子体注射を行った直後には,吸引スポンジなどを用いて硝子体脱出の有無を注意深く確認することが重要であり,硝子体脱出を認めた場合は脱出硝子体を適切に処理すべきであると考えられた.文献1)JonasJB,SpandauUH,RenschFetal:Infectiousandnoninfectiousendophthalmitisafterintravitrealbevacizmab.JOculPharmacolTher23:240-242,20072)MasonJO3rd,WhiteMF,FeistRMetal:Incidenceofacuteonsetendophthalmitisfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)injection.Retina28:564-567,20083)PilliS,KotsolisA,SpaideRFetal:Endophthalmitisassociatedwithintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyinjectionsinanofficesetting.AmJOphthalmol145:879-882,20084)FintakDR,ShahGK,BlinderKJetal:Incidenceofendophthalmitisrelatedtointravitrealinjectionofbevacizumabandranibizumab.Retina28:1395-1399,20085)ChenSD,MohammedQ,BowlingBetal:Vitreouswicksyndrome─apotentialcauseofendophthalmitisafterintravitrealinjectionoftriamcinolonethroughtheparsplana.AmJOphthalmol137:1159-1160,20046)BenzMS,AlbiniTA,HolzERetal:Short-termcourseofintraocularpressureafterintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.Ophthalmology113:1174-1178,20067)RodriguesEB,MeyerCH,GrumannAetal:Tunneledscleralincisiontopreventvitrealrefluxafterintravitrealinjection.AmJOphthalmol143:1035-1037,20078)野田徹,寺内直毅:硝子体手術の道具立て.眼科プラクティス17巻,みんなの硝子体手術(田野保雄編),p53-61,文光堂,2007***