提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療2.ハードコンタクトレンズは必要か糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科■はじめに過去C15年の間に,わが国のコンタクトレンズ処方におけるハードコンタクトレンズ(HCL)が占める割合は激減した1).そのため,以前と比較して,HCLの処方経験を積みにくくなっている.HCL処方が減った要因として,レンズ素材やデザインの進歩に伴って,乱視用レンズなどを含めたソフトコンタクトレンズ(SCL)の性能が向上し,SCLの適応が拡大していることがあげられる.HCL処方枚数の減少と並行してCSCL処方量は爆発的に増加しており,HCLはCSCLにとって代わられようとしている(図1)1).しかし,HCLはCSCLでは得がたいメリットを有しており,適応をみきわめることができれば有用な選択肢となる.本項ではCHCLのメリット・デメリットを解説する.C■メリットその1:優れた光学性HCLは素材内に水分をほとんど含まないため,屈折面が安定し光学面精度が高くなる.そのためCHCLは光学性に優れており,SCLに比較してクリアな視界を得ることができる.HCLの高い光学面精度は,不正乱視や強度乱視を有さない患者にも有用であり,HCLはSCLに比較して良好なコントラスト感度を得ることができる.実際に,HCL装用者がCSCLに変更した際に,視力は変わらないにもかかわらず「なんとなく見づらい」という愁訴が出ることは多い.また,コンタクトレンズ初装用となる患者に処方する際に,HCLとCSCLの見え方の差からCHCLを選択する場合は少なくない.光学性に優れた屈折矯正手法として,見え方にこだわりの強い患者に対してはCHCLも選択肢の一つとして考えたい.C■メリットその2:乱視矯正HCLは剛性が高く,角膜上で形状が保たれるため,角膜乱視を矯正することが可能である.乱視矯正には乱視用CSCLも有効な選択肢となるが,その矯正範囲には(67)視覚再生機能外科学道玄坂糸井眼科%5045403530252015105020032004200520062007200820092010201120122013201420152016年レンズの種類別CLの処方割合図1日本におけるコンタクトレンズの種類別の処方割合ハードコンタクトレンズ(HCL)は減少傾向を示す一方,1日使い捨て型ソフトコンタクトレンズ(SCL)は増加傾向にある.(文献C1より改変引用)限界がある.そのため,-3.0Dを超える近視性乱視や,斜乱視,遠視性乱視,角膜不正乱視では,十分な矯正効果が得られないため,HCLがよい適応となる.とくに角膜形状異常に伴う角膜不正乱視は,眼鏡やCSCLでの矯正が困難であり,非外科的治療としてCHCLが第一選択となる(図2).C■メリットその3:高い安全性HCLはCSCLに比較して安全性が高い.その理由としては,角膜低酸素の危険性が低いこと,レンズ下に迷入した異物の排除が容易なこと以外に,レンズに異物が付着しにくいことがあげられる.重症角膜感染症のおもな原因である緑膿菌・アカントアメーバは,SCLに比較してCHCLに付着しにくい2.3).わが国で行われた感染性角膜炎全国サーベイランスと重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査の結果では,1日使い捨て(終日装用)SCLがそれぞれC19例(7.5%)とC26例(7.4%),2週間交換型CSCLがそれぞれC43例(16.9%)とC196例(56.0%)を占めた一方で,HCLはC13例(5.1%)とC17例(4.9%)を占めたのみで,HCLは重症角膜感染症が比較的生じにくい可能性が示唆された4.5).HCLであっても過信は禁物であり,安全に使用するには適切なレンあたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C13590910-1810/22/\100/頁/JCOPYHCL涙液角膜裸眼(不正乱視)HCL装用時図2ハードコンタクトレンズ(HCL)の光学性HCLを装用することで光学第一面が整った球面となり,外から来た光がきれいに屈折し,網膜に正しく結像するようになる.ズケアが必須だが,SCLよりは安全といえる.また,角膜低酸素の危険性が低いことから,強度近視などのレンズが分厚くなる患者もCHCLがよい適応となる.C■デメリットその1:初期装用感の不良HCLはCSCLに比較して装用開始初期における異物感が生じやすく,HCLが敬遠される一因となっている.装用初期の異物感は,HCLの上下運動に伴う角膜との摩擦が原因と考えられており,角膜知覚が鋭敏な若年者,直径の小さなCHCLの装用者でとくに強い.この異物感は,一定時間の装用を毎日継続できれば,装用開始後約C2週間程度で大幅に改善する場合がほとんどである.しかし,一部にはこの異物感が継続し,HCLの装用中止に至ることもある.そのため,機会装用者や異物感が持続する装用者についてはCHCLはよい適応とならず,SCLや眼鏡による矯正を検討したい.C■デメリットその2:環境による制限HCLは外気・作業などの装用環境によって装用が大きく制限されるというデメリットがある.まず,レンズ下に異物が入りやすいCHCLは埃や強風などの環境には適していない.また,HCLを自ら操作できない状況が続く長距離運転手などの職業は,レンズが偏位した際に直すことができないため,HCLは適さない.格闘技やサッカーなどの接触を伴うスポーツではCHCLが脱落する危険性が高く,SCLがよりよい適応と考えられる.一方,精度の高い視力を必要とする弓道や射撃などのスポーツでは,光学性の差からCHCLが有利となる場合もあり,「スポーツ=SCL」ではないことに注意したい.C■おわりに一般にコンタクトレンズの適応には絶対的なものはなく,状況に応じた柔軟な判断が必要である.しかし,HCLのメリット・デメリットは上述のように比較的明確であり,患者の職業や生活,ニーズをしっかりと聴き取ることができれば,その適応をみきわめるのは決してむずかしくない.適応をしっかりと理解し適切な処方を行うことで,HCLの唯一無二のメリットを活用した,満足度の高いコンタクトレンズ診療を行いたい.文献1)ItoiM,ItoiM,EftonNetal:Trendsincontactlenspre-scribingCinJapan(2003-2016)C.CContCLensCAnteriorCEyeC41:369-376,C20182)RenDH,YamamotoK,LadagePMetal:Adaptivee.ectsof30-nightwearofhyper-O2CtransmissiblecontactlensesonCbacterialCbindingCandCcornealepithelium:AC1-yearCclinicaltrial.Ophthalmology109:27-39,C20023)SealCDV,CBennettCES,CMcFadyenCAKCetal:Di.erentialCadherenceCofCAcanthamoebaCtoCcontactlenses:e.ectsCofCmaterialcharacteristics.OptomVisSciC72:23-28,C19954)感染性角膜炎全国サーベイランススタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,C20065)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,C2011