監修=木下茂●連載204大橋裕一坪田一男204.改良型クロスリンキング愛新覚羅維東京大学医学部附属病院眼科角膜クロスリンキングは,円錐角膜をはじめとする進行性角膜拡張疾患の進行抑制のための治療法として,すでに有効性と安全性が確立されている.近年,標準法の欠点を改善させた高速法や経上皮法といった改良型クロスリンキングも開発され,手術時間の短縮,術中および術後合併症の軽減,適応症例の拡大なども期待できるようになった.●はじめに角膜クロスリンキング(cornealcrosslinking:CXL)は2003年にWollensak,Seilerらにより開発された治療法で1),長波長紫外線(ultravioletA:UVA)に対するリボフラビンの感受性を利用し,角膜実質コラーゲンの架橋を強め,剛性を高める方法である.現在まで世界中で20万眼以上施術されており,円錐角膜,レーシック後角膜拡張症,ペルーシド角膜辺縁変性などの進行性角膜拡張疾患の進行を抑制するための治療法として,有効性と安全性が確立されてきた.近年,標準法の欠点を改善させた改良型CXLも開発され,CXLの新たな可能性が期待されている.今回,改良型CXLを中心に,術式,治療成績および位置づけについて述べる.●CXLの原理370nmのUVAで励起された光感受性物質であるリボフラビンが,酸素分子との反応により活性酸素の一種である一重項酸素を産生し,角膜実質コラーゲン線維の架橋結合を増加させる.その結果,角膜全体の強度が高まる(図1).●CXLの標準法Wollensakらが提案したドレスデン法は標準法として広く使われており,手順は以下の通りである.・角膜上皮.離・等張性0.1%リボフラビン点眼液を30分間点眼・角膜厚を測定400μm以上:等張性リボフラビン点眼液を継続点眼400μm未満:低張性リボフラビン点眼液を400μm以上になるまで頻回点眼・UVAを3mW/cm2の照射強度で30分間照射・保護用コンタクトレンズを装着,抗菌薬を点眼(75)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY●改良型CXL標準法の短所として1時間以上に及ぶ手術時間の長さと,角膜上皮掻爬に伴う疼痛,易感染性,角膜ヘイズなどの合併症があげられ,前者を改善させるために高速CXL,後者を改善させるために経上皮CXLが開発された.1.高速CXL(acceleratedCXL)高速法は「光化学反応の反応量は光の照射強度と照射時間の積,すなわち総エネルギー量が一定であれば同等の効果が得られる」というBunsen-Roscoeの法則に基づく高出力を用いる短時間照射の方法である.豚眼実験の結果,CXLでは45mW/cm2以下の照射強度までならBunsen-Roscoeの法則に従うと考えられる.現在,複数のメーカーから高速法にも対応可能な第二世代のデバイスが発売され,最短2分40秒の照射時間で施術が可能となった.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017677DeliveryElectrodeCounterElectrode(-)(+)図2イオン導入法の原理角膜表面にdeliveryelectrodeとして陰性電極,体表の他の部位にgroundelectrodeとして陽性電極を置き,弱い電流をかけることによって陰性荷電のリボフラビン分子を角膜実質深層へ浸透させる.2.経上皮CXL(transepithelialCXL:TE.CXL,epithelium.onCXL:Epi.onCXL)経上皮法は2010年に報告された手法である.角膜上皮.離の代わりに,角膜上皮のバリアを破壊し薬剤の浸透性を上げるケミカルエンハンサーを添加した強化リボフラビンを用い,リボフラビンを実質内に浸透させる.角膜上皮を.がないことからEpi-onCXLともよばれ,それに対して角膜上皮を.ぐ従来法はEpi-o.CXLとよばれる.角膜上皮.離を行わないため,リボフラビンの浸透性がEpi-o.CXLの半分程度になる.近年,角膜実質へのリボフラビンの浸透性をさらに上げるために,イオン導入法(iontophoresis-assistedCXL)も開発された.リボフラビンは水溶性の小分子で生理的PH下では陰性に荷電するため,イオン導入に適していると考えられる.角膜表面に陰性電極,他の部位(前額部など)に陽性電極を置き,弱い電流をかけてリボフラビン分子を角膜実質深層へ浸透させる(図2).●CXLの治療成績標準法の治療成績はこれまで無作為比較化試験(ran-domizedclinicaltrial:RCT)を含む多くのスタディで検討されており,最長10年にわたり有効かつ安全な治療であることが証明された.角膜屈折値は安定化のみならず,有意な改善も報告されている.ただし,術後2~6週に角膜実質中層に現れるヘイズ,およびまれにみられる角膜実質瘢痕,無菌性角膜浸潤,感染性角膜炎などの合併症に注意する必要がある.高速CXLの治療成績については,標準法とほぼ同様であるとする報告が多いが2),やや弱いと示唆する文献もある.その理由として酸素接触時間の減少に伴う治療効果の減弱が考えられ,40%程度の照射時間の延長や,パルス照射による酸素接触時間の増加を図る手法も検討されている.678あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017経上皮CXLの臨床成績は報告によってさまざまである.Epi-onとEpi-o.を比較した3年間のRCTでは,術後1年では両群間で有意差があるものの,ともに有意な改善,術後3年ではEpi-o.群は進行なし,Epi-on群は角膜最大屈折力の進行を認めた.一方,別の2年間のRCTでは両群間で有意差があるものの,ともに術前より有意な改善を認めた3).イオン導入法に関して,術後1年では標準法とほぼ同等な効果を認めた報告がある.まだ歴史が浅い経上皮法の長期成績については,さらなる検証が必要である.筆者らは高速法と経上皮法を併用したacceleratedtransepithelialCXLの術後1年成績を報告した4).術中・術後の合併症はなく,角膜最大屈折力・平均屈折力と矯正視力の有意な改善,裸眼視力の安定化を認め,既報の標準法の治療成績に匹敵するものであった.●改良型CXLの位置づけ高速CXLは手術時間を大幅に短縮させ,術者と患者の負担を軽減できる.治療成績も標準法とほぼ同様と考えられるが,高出力ができる第二世代のデバイスが必要となる.経上皮CXLでは標準法と比較して効果がやや弱いが,術後合併症および疼痛が少なく,視力が良好な初期症例や小児への応用が期待できる.また,角膜上皮厚を含めうるため適応は380μm以上と広がり,進行症例でも適応になる場合がある.●おわりにCXLの登場により,円錐角膜をはじめとする進行性角膜拡張疾患の治療概念に大きなパラダイムシフトが生まれた.早期発見と進行予防を推進することで確実に患者のQOLの維持ならびに向上をめざせる時代になってきた.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,20032)KanellopoulosAJ:Longtermresultsofaprospectiverandomizedbilateraleyecomparisontrialofhigher.uence,shorterdurationultravioletAradiation,andribo.avincollagencrosslinkingforprogressivekeratoco-nus.ClinOphthalmol6:97-101,20123)RushSW,RushRB:Epithelium-o.versustransepithelialcornealcollagencrosslinkingforprogressivecornealecta-sia:arandomisedandcontrolledtrial.BrJOphthalmolJul7Epub,20164)AixinjueluoW,UsuiT,MiyaiTetal:Acceleratedtran-sepithelialcornealcrosslinkingforprogressivekeratoco-nus:aprospectivestudyof12months.BrJOphthalmolJan5Epub,2017(76)