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屈折矯正手術:改良型クロスリンキング

2017年5月31日 水曜日

監修=木下茂●連載204大橋裕一坪田一男204.改良型クロスリンキング愛新覚羅維東京大学医学部附属病院眼科角膜クロスリンキングは,円錐角膜をはじめとする進行性角膜拡張疾患の進行抑制のための治療法として,すでに有効性と安全性が確立されている.近年,標準法の欠点を改善させた高速法や経上皮法といった改良型クロスリンキングも開発され,手術時間の短縮,術中および術後合併症の軽減,適応症例の拡大なども期待できるようになった.●はじめに角膜クロスリンキング(cornealcrosslinking:CXL)は2003年にWollensak,Seilerらにより開発された治療法で1),長波長紫外線(ultravioletA:UVA)に対するリボフラビンの感受性を利用し,角膜実質コラーゲンの架橋を強め,剛性を高める方法である.現在まで世界中で20万眼以上施術されており,円錐角膜,レーシック後角膜拡張症,ペルーシド角膜辺縁変性などの進行性角膜拡張疾患の進行を抑制するための治療法として,有効性と安全性が確立されてきた.近年,標準法の欠点を改善させた改良型CXLも開発され,CXLの新たな可能性が期待されている.今回,改良型CXLを中心に,術式,治療成績および位置づけについて述べる.●CXLの原理370nmのUVAで励起された光感受性物質であるリボフラビンが,酸素分子との反応により活性酸素の一種である一重項酸素を産生し,角膜実質コラーゲン線維の架橋結合を増加させる.その結果,角膜全体の強度が高まる(図1).●CXLの標準法Wollensakらが提案したドレスデン法は標準法として広く使われており,手順は以下の通りである.・角膜上皮.離・等張性0.1%リボフラビン点眼液を30分間点眼・角膜厚を測定400μm以上:等張性リボフラビン点眼液を継続点眼400μm未満:低張性リボフラビン点眼液を400μm以上になるまで頻回点眼・UVAを3mW/cm2の照射強度で30分間照射・保護用コンタクトレンズを装着,抗菌薬を点眼(75)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY●改良型CXL標準法の短所として1時間以上に及ぶ手術時間の長さと,角膜上皮掻爬に伴う疼痛,易感染性,角膜ヘイズなどの合併症があげられ,前者を改善させるために高速CXL,後者を改善させるために経上皮CXLが開発された.1.高速CXL(acceleratedCXL)高速法は「光化学反応の反応量は光の照射強度と照射時間の積,すなわち総エネルギー量が一定であれば同等の効果が得られる」というBunsen-Roscoeの法則に基づく高出力を用いる短時間照射の方法である.豚眼実験の結果,CXLでは45mW/cm2以下の照射強度までならBunsen-Roscoeの法則に従うと考えられる.現在,複数のメーカーから高速法にも対応可能な第二世代のデバイスが発売され,最短2分40秒の照射時間で施術が可能となった.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017677DeliveryElectrodeCounterElectrode(-)(+)図2イオン導入法の原理角膜表面にdeliveryelectrodeとして陰性電極,体表の他の部位にgroundelectrodeとして陽性電極を置き,弱い電流をかけることによって陰性荷電のリボフラビン分子を角膜実質深層へ浸透させる.2.経上皮CXL(transepithelialCXL:TE.CXL,epithelium.onCXL:Epi.onCXL)経上皮法は2010年に報告された手法である.角膜上皮.離の代わりに,角膜上皮のバリアを破壊し薬剤の浸透性を上げるケミカルエンハンサーを添加した強化リボフラビンを用い,リボフラビンを実質内に浸透させる.角膜上皮を.がないことからEpi-onCXLともよばれ,それに対して角膜上皮を.ぐ従来法はEpi-o.CXLとよばれる.角膜上皮.離を行わないため,リボフラビンの浸透性がEpi-o.CXLの半分程度になる.近年,角膜実質へのリボフラビンの浸透性をさらに上げるために,イオン導入法(iontophoresis-assistedCXL)も開発された.リボフラビンは水溶性の小分子で生理的PH下では陰性に荷電するため,イオン導入に適していると考えられる.角膜表面に陰性電極,他の部位(前額部など)に陽性電極を置き,弱い電流をかけてリボフラビン分子を角膜実質深層へ浸透させる(図2).●CXLの治療成績標準法の治療成績はこれまで無作為比較化試験(ran-domizedclinicaltrial:RCT)を含む多くのスタディで検討されており,最長10年にわたり有効かつ安全な治療であることが証明された.角膜屈折値は安定化のみならず,有意な改善も報告されている.ただし,術後2~6週に角膜実質中層に現れるヘイズ,およびまれにみられる角膜実質瘢痕,無菌性角膜浸潤,感染性角膜炎などの合併症に注意する必要がある.高速CXLの治療成績については,標準法とほぼ同様であるとする報告が多いが2),やや弱いと示唆する文献もある.その理由として酸素接触時間の減少に伴う治療効果の減弱が考えられ,40%程度の照射時間の延長や,パルス照射による酸素接触時間の増加を図る手法も検討されている.678あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017経上皮CXLの臨床成績は報告によってさまざまである.Epi-onとEpi-o.を比較した3年間のRCTでは,術後1年では両群間で有意差があるものの,ともに有意な改善,術後3年ではEpi-o.群は進行なし,Epi-on群は角膜最大屈折力の進行を認めた.一方,別の2年間のRCTでは両群間で有意差があるものの,ともに術前より有意な改善を認めた3).イオン導入法に関して,術後1年では標準法とほぼ同等な効果を認めた報告がある.まだ歴史が浅い経上皮法の長期成績については,さらなる検証が必要である.筆者らは高速法と経上皮法を併用したacceleratedtransepithelialCXLの術後1年成績を報告した4).術中・術後の合併症はなく,角膜最大屈折力・平均屈折力と矯正視力の有意な改善,裸眼視力の安定化を認め,既報の標準法の治療成績に匹敵するものであった.●改良型CXLの位置づけ高速CXLは手術時間を大幅に短縮させ,術者と患者の負担を軽減できる.治療成績も標準法とほぼ同様と考えられるが,高出力ができる第二世代のデバイスが必要となる.経上皮CXLでは標準法と比較して効果がやや弱いが,術後合併症および疼痛が少なく,視力が良好な初期症例や小児への応用が期待できる.また,角膜上皮厚を含めうるため適応は380μm以上と広がり,進行症例でも適応になる場合がある.●おわりにCXLの登場により,円錐角膜をはじめとする進行性角膜拡張疾患の治療概念に大きなパラダイムシフトが生まれた.早期発見と進行予防を推進することで確実に患者のQOLの維持ならびに向上をめざせる時代になってきた.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,20032)KanellopoulosAJ:Longtermresultsofaprospectiverandomizedbilateraleyecomparisontrialofhigher.uence,shorterdurationultravioletAradiation,andribo.avincollagencrosslinkingforprogressivekeratoco-nus.ClinOphthalmol6:97-101,20123)RushSW,RushRB:Epithelium-o.versustransepithelialcornealcollagencrosslinkingforprogressivecornealecta-sia:arandomisedandcontrolledtrial.BrJOphthalmolJul7Epub,20164)AixinjueluoW,UsuiT,MiyaiTetal:Acceleratedtran-sepithelialcornealcrosslinkingforprogressivekeratoco-nus:aprospectivestudyof12months.BrJOphthalmolJan5Epub,2017(76)

眼内レンズ:アクリル眼内レンズの歪み

2017年5月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋366.アクリル眼内レンズの歪み中村充利中村眼科眼内レンズ(IOL)挿入眼のIOLの位置異常は乱視をきたし,著しい場合,視力低下やコントラスト感度低下を起こし得る.最近,筆者らはアクリルIOL挿入眼にコマ収差,トレフォイル収差などからなる複雑な眼球内部高次収差が発生した症例に対し,Nd:YAGレーザーによる前.切開で治療できることがあることを報告1)した.●はじめに最近の白内障手術では,手術を受けた患者の大半は高い満足を感じ,技術進歩の恩恵を受けられるようになっている.しかし,ときに時間とともに手術を受けた眼の満足度が低下し,たとえ視力があまり変わらなくても,見えにくさ,ぼやけた感じなどの不満を訴えることがある.筆者らは,術後視力低下は認めず,眼球高次収差が増大して見え方の質の低下が認められ,連続円形切.(continuouscurvelinearcapsulorhexis:CCC)と前.に原因があると考えられる症例に対してNd:YAGレーザーによる前.切開術を施行し,その後に眼球高次収差と自覚症状の改善を認めた.●症例(79歳,男性)他院で20年前に球面アクリル眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術を施行.手術記録には合併症の記載はなく,2015年にものが二重に見えるとのことで当院を受診した.視力はR.V.=0.3(1.0×.1.25D),L.V.=0.6(1.0×.0.75D)と良好,オートレフケラトメーターで強い乱視は認めず,Hessコージメーターも正常であ図1症例のNd:YAGレーザー切開前の前眼部写真12時の前.縁が確認できず,その位置ではIOLのオプティクス端まで前.に覆われず,3-9時より下方の前.はIOLのオプティクスを覆っていた.(73)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYった.細隙灯顕微鏡でIOLの傾斜や偏位の明らかな位置異常はみられなかったが,散瞳後の細隙灯顕微鏡で左眼の12時の前.縁が確認できず,その位置ではIOLのオプティクス端まで全体前.に覆われず,下方の前.はIOLのオプティクスを覆っている状態にあった(図1).波面収差測定器(KR-1W,TOPCON)マルチマップで眼球高次収差が大きく,rootmeansquare(RMS)(4mm)0.757と高い異常値を示した(図2).3時-9時方向の前.収縮によるIOLの歪みと6時部を中心とした後極方向の収縮によるIOLの傾きの影響と判断し,Nd:YAGレーザーによる前.切開を施行した(図3).術後すぐに眼球高次収差がRMS(4mm)0.210と著明に減少し(図4),自覚症状も改善しL.V.=0.9(1.0×.0.5D)であった.眼球高次収差のコンポーネント解析ではRMSの減少,コマ収差と眼球トレフォイルの改善,正常化を認めた(図2,4).Hartmann像の抜けた部分は,後.混濁による光の不透過と散乱の影響と考えられ,切開により透過するHartmann像はNd:YAGレーザー切開前後で大きな変化はなかった.CCC後,水晶体前.は物理的収縮を起こし,その後,図2症例の眼球高次収差のコンポーネント解析高次収差のコンポーネント解析ではRMS(4mm)0.757と高い異常値を示し,強いコマ収差と眼球トレフォイル,乱視を認めた.Hartmann像は下方に後.混濁部に一致して一部抜けた部分を認めた.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017675図3症例のNd:YAGレーザー切開後の前眼部写真IOLの上方のオプティクスは前.に覆われず,下方のオプティクスが前.に覆われている部分のみの前.収縮によってIOLに対し不均一な圧力が加わり,光学的歪みが生じたものと判断し,Nd:YAGレーザーによる前.切開術を施行した.前.下に線維組織が形成され,中心に向かっていく前.収縮が起こり,前.収縮は通常では術後数カ月後には停止すると考えられている2).ぶどう膜炎,糖尿病,原発性閉塞隅角緑内障,網膜色素変性症,偽落屑症候群などを伴う眼ではケミカルメディエーターの影響などで強い収縮が持続し,著しい場合は視力低下やコントラスト感度低下をきたすことも報告されている3).アクリルは高温に熱すると柔らかくなり,冷やすと固くなる熱可塑性プラスチックである.アクリル眼内レンズは室温では比較的剛性が高い状態にあるが,眼内では体温近くに温度が上昇し,室温時より剛性がかなり低下している.そこに,前.後.収縮によりIOLに強い圧力が加わると,アクリルIOL挿入例ではレンズの光学的歪み(高次収差の発生)が生じる可能性が考えられる.IOL眼に起こり得る眼球高次収差の増大1)はIOLのグリスニング4)などとともに,アクリルIOL眼の術後合併症の一つとして留意しておく必要がある.図4症例のNd:YAGレーザー切開後の眼球高次収差のコンポーネント解析Nd:YAGレーザーによる前.切開術後に眼球高次収差はRMS(4mm)0.210と著明に減少し,コンポーネント解析ではコマ収差と眼球トレフォイル,乱視の減少を認めた.Hartmann像の抜けた部分はNd:YAG前と比較してわずかな変化しかなかった.●おわりに視力は視機能評価法の一つで,同じ値でも視力の質は高次収差が高いと低く,視力がよくても見えにくいことがあり得る.IOL挿入眼では,術後アクリルIOLの歪みが原因で眼球高次収差が発生し,Nd:YAGレーザーでの前.切開で改善できることがある.文献1)中村充利:白内障術後の水晶体.の収縮によりアクリル眼内レンズに眼球内部高次収差が発症した症例に対するNd-YAGによる前.切開.臨床眼科71:623-629,20172)HansenSO,CrandallAS,OlsonRJ:Progressiveconstric-tionoftheanteriorcapsularopeningfollowingintactcap-sulorhexis.JCataractRefractSurg19:77-82,19933)HayashiH,HayashiK,NakaoFetal:Anteriorcapsulecontractionandintraocularlensdislocationineyeswithpseudoexfoliationsyndrome.BrJOphthalmol82:1429-1432,19984)大鹿哲郎:アクリルソフト眼内レンズ術後2年の臨床評価.臨床眼科48:1463-1468,1994

コンタクトレンズ:紫外線が眼に及ぼす影響

2017年5月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一80604020031.紫外線が眼に及ぼす影響●はじめに紫外線による健康への影響のうち,日焼け,シミ,しわ,皮膚癌など,皮膚への影響については一般の認知度もきわめて高いのに対して,眼への影響についての認知度はいまだに低く,十分な紫外線対策が普及していないのが現状である.本稿では,紫外線による眼疾患および有効な眼部紫外線対策について解説する.●紫外線よる眼疾患紫外線による眼疾患は急性障害と慢性障害に分けられる.急性障害には紫外線性角膜炎(電気性眼炎,雪眼炎)がある.短時間に大量の紫外線を浴びた場合,被曝後6~12時間で発症する.結膜充血,角膜上皮障害を生じ,重症例では上皮.離を伴うため,強い眼痛をきたす.通常は24時間以内に自然治癒するが,このような高度の被曝を繰り返すことで次に述べる慢性障害の発症リスクは高くなる.慢性障害としては瞼裂斑,翼状片,白内障などがある.瞼裂斑は加齢に伴う結膜の変性疾患であり,病変部に(%)100佐々木洋金沢医科大学眼科学講座は日光弾力線維症と同様の類弾性線維変性がみられる.中高齢者では高頻度にみられるが,紫外線被曝がその発症リスクを高めることは明らかであり,紫外線が要因の一つであると考えられている.筆者らが石川県在住の日本人とアフリカの赤道部に位置するタンザニアの小中学生および高校生を対象に行った調査では,初期瞼裂斑の有病率はタンザニア人で著しく高かった.日本人でも眼部被曝量の多い小児で有病率が著明に高いことがわかった(図1).瞼裂斑そのものは視機能低下に直接関与することは少ないが,過去の紫外線被曝の指標として有用であるといえる.翼状片は紫外線との関連がもっとも強い疾患である.慢性の紫外線曝露により,角膜上皮細胞に上皮間葉系移行を生じ発症すると考えられている.物理的な刺激も要因であるとの考えもあるが,天空紫外線量が赤道部地域の約8分の1であるアイスランドでの50歳以上の一般住民における有病率は0.2%であり,紫外線を浴びないかぎり発症することはほとんどないと考えてよい.一方,紫外線の強い熱帯・亜熱帯地域住民や屋外労働者の図1瞼裂斑有所見率(日本人1,047名,タンザニア人227名)(71)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176730910-1810/17/\100/頁/JCOPY有病率は高く,中国海南島在住の農民における有病率(50歳以上)は71.7%であり,慢性的に紫外線を浴び続けると高頻度に発症する疾患であると考えてよい.翼状片は鼻側に発症することが多いが,その要因としてCoroneoらが提唱したperipherallightfocusingがある1).耳側あるいは耳側上方から入射した紫外線は耳側角膜で屈折し,前房内を通過し,鼻側輪部に集光する.集光部の紫外線強度は耳側の約20倍であり,そのため鼻側に翼状片は好発すると考えられている.白内障については,1980年代以降の疫学調査において眼部被曝量と皮質白内障には有意な関連があることが多数報告されている2).核白内障と紫外線の関連については否定的な研究結果が多かったが,近年,紫外線レベルが高い熱帯・亜熱帯地域における核白内障の有病率が著しく高いことが報告されている.動物実験でも慢性のUV-A曝露によりモルモットで核白内障を生じたことが報告されおり,高度の紫外線被曝は核白内障の要因である可能性がある.●眼の紫外線対策眼の紫外線対策アイテムとしては帽子,眼鏡,サングラス,紫外線カット機能付きのコンタクトレンズがある.帽子はつばが7cm以上のものが推奨されているが,帽子のみでの眼部紫外線カット率は50%程度であり,単独使用での効果は十分とはいえない.現在市販されている眼鏡レンズのほとんどは紫外線カット機能がついており,眼鏡は紫外線対策アイテムとしてきわめて有用である.サングラスとの効果の違いはフレームの形状であり,レンズの色は紫外線カット効果とは無関係である.レンズが大きく,テンプルの太いもの,ゴーグルタイプのものが,レンズを通さずに眼に入射する紫外線を効率よくカットする.レンズの色が濃いサングラスは可視光透過率が低く,瞳孔径が拡大するため,不適切な形状のサングラスを使用すると水晶体への紫外線被曝量が増え,白内障発症リスクが逆に増加する可能性がある.紫外線カット機能のあるコンタクトレンズのうち,角膜輪部までをカバーするソフトコンタクトレンズはきわめて有用である.直達紫外線に加え,peripherallightfocus-ingにより鼻側輪部および水晶体赤道部に入射する紫外線を確実にカットするためである.コンタクトレンズの種類により紫外線カット率が大きく異なる点については注意が必要であるが,もっともカット率が高いものではUV-Bを99%,UV-Aを96%カットするため,瞼裂斑以外の眼疾患予防には単独使用で十分な効果が期待できる.小児期からの眼部紫外線対策は重要であり,とくに屋外でのスポーツをする場合はコンタクトレンズの装用を指導すべきと考える.●おわりに眼への紫外線被曝による影響は,日焼けのような自覚しやすい急性障害が出にくいため,被曝したという認識に乏しく,視機能低下を生じる翼状片や白内障の発症は40代以降になるため,紫外線被曝とそれらの疾患を関連づけて捉えにくい.しかし,紫外線被曝が眼疾患の要因となることは確実である.眼部紫外線被曝の影響に対する啓発と,有用性が証明されている紫外線対策アイテムの適正使用の普及が望まれる.文献1)CoroneoMT,Muller-StolzenburgNW,HoA:Peripherallightfocusingbytheanterioreyeandtheophthalmohelio-ses.OphthalmicSurg22:705-711,19912)TaylorHR,WestSK,RosenthalFSetal:E.ectofultravi-oletradiationoncataractformation.NEnglJMed319:1429-1433,1988ZS981

写真:レバミピド点眼が奏功した結膜リンパ嚢胞の合併が考えられる結膜弛緩症

2017年5月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦小林加寿子396.レバミピド点眼が奏効した結膜リンパ京都市立病院眼科,京都府立医科大学眼科.胞の合併が考えられる結膜弛緩症横井則彦京都府立医科大学眼科図2図1のシェーマ①隆起性病変②異所性メニスカス図1リンパ.胞の合併症が考えられる結膜弛緩症下方結膜の両側に結膜弛緩に類似した隆起性病変と,それに隣接して異所性メニスカスが明瞭に形成されているのがわかる.図3図1の症例の前眼部OCT所見(鼻下側球結膜)水平断で,結膜下に低反射の空隙を認め,その病変が結膜表面の隆起の原因となっていることがわかり,結膜リンパ.胞と考えられた.図4図1の症例のレバミピド点眼治療後レバミピド点眼1カ月半後には,下方結膜の両側の隆起が消失し,異所性メニスカスの形成も改善した.(69)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176710910-1810/17/\100/頁/JCOPY結膜リンパ.胞は,結膜リンパ管拡張症と同様に結膜のリンパ管が拡張し,.胞状の外観を呈する病変である.発症メカニズムは現時点では不明であり,特発性,加齢,炎症,外傷後,リンパ管循環障害などが考えられている.結膜リンパ管拡張症は,結膜弛緩症の約90%に合併するとされ1),数珠状の透明な結膜の隆起として観察され,比較的可動性があり,中のリンパ液はしばしば黄色調に見える.リンパ管に血液が流入し内部に出血したものは,出血性リンパ管拡張症として区別される2).一方,結膜リンパ.胞は,急性のアレルギー炎症で見られる結膜浮腫に類似し,効果なくステロイド点眼で治療されていることもある.結膜弛緩症と同様,結膜リンパ.胞においても,隆起性病変が下方のメニスカスにおいて涙液の流れを遮断したり,隆起性病変に隣接して異所性メニスカスのために涙液層の破壊を招いたり,隆起性病変と眼瞼結膜との間で瞬目時の摩擦が亢進したりすることがある.つまり,結膜リンパ.胞は,ドライアイのメカニズムである「涙液層の安定性低下」と「瞬目時の摩擦亢進」の両方のメカニズムを介して,さまざまなドライアイ症状を生じうる.結膜リンパ.胞は,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で結膜下に低反射の.胞状構造として認められる.症例は69歳,女性で,1年前より左眼に流涙症状を自覚し,前医にて結膜浮腫と診断されステロイド点眼で治療されてきたが,症状および所見の改善がなく,当科に紹介されて受診した.初診時,下方結膜に浮腫状隆起を認め(図1,2),細隙灯顕微鏡および前眼部OCT所見(図3)から,結膜リンパ.胞を伴う結膜弛緩症と診断した.隆起性病変に隣接した異所性メニスカス形成による涙液層破壊時間の異常も認めたため,レバミピド点眼4回/日を開始し,無効な場合を考慮して,3カ月後に手術を予定した.しかし,点眼開始より1カ月半後には,隆起性病変は著明に改善し(図4),自覚症状も改善したため,手術は中止となった.その後レバミピド点眼を継続しているが,再発することなく,経過は良好である.結膜リンパ.胞が大きな場合,ドライアイと同様のメカニズムが働くため,涙液層破壊時間の異常を伴っていれば,ドライアイの治療を基本とし,症状の改善が乏しい場合は外科的治療が必要となる.今回,なぜレバミピド点眼が結膜下の病変の改善に奏効したか,その機序は不明であるが,レバミピドの抗摩擦作用3)が瞬目時の摩擦軽減に働き,摩擦の悪循環が排除されることで,結膜下の病変を自然消退に導いたのではないかと考えている.文献1)WatanabeA,YokoiN,KinoshitaSetal:Clinicopathologicstudyofconjunctivochalasis.Cornea23:294-298,20042)岩部利津子,横井則彦:写真セミナー321.出血性結膜リンパ管拡張症.あたらしい眼科28:233-234,20113)横井則彦,木下茂:杯細胞増加とムチン産生作用をもつムコスタ点眼液.あたらしい眼科32:943-951,2015

網膜の血管腫瘍性病変

2017年5月31日 水曜日

網膜の血管腫瘍性病変VascularTumorsoftheRetina川上摂子*後藤浩*はじめに網膜の血管腫瘍性病変には,網膜血管芽腫(毛細血管腫),海綿状血管腫,蔓(つる)状血管腫,血管増殖性腫瘍などがある.I網膜血管芽腫〔retinahemangioblastoma,(毛細血管腫:capillaryhemangioma)〕眼底の周辺部や視神経乳頭上に赤みを帯びた桃色の腫瘤として認められる良性の腫瘍で,網膜からの流入血管と流出血管を有し,これらが拡張しているものが網膜血管芽腫である.網膜血管芽腫は,孤発例またはvonHippel-Lindau(VHL)病の一部として発生する.VHL病は,染色体3番短腕25-26領域にあるVHL腫瘍抑制遺伝子の異常が原因であるとされ,常染色体優性遺伝である.頻度は36,000人に1人とされ,わが国では200家系,600~1,000名の症例数が推定されている.網膜血管芽腫のほかに,小脳や脊髄の血管芽腫,褐色細胞腫,腎細胞癌などさまざまな腫瘍が発生する1~3).VHL全患者のうち網膜血管芽腫の合併は28%にみられ1),わが国の全国調査では34%であった4).網膜血管芽腫の初診時平均年齢は,VHL病でない場合は36歳であるのに対し,VHL病に伴う場合では18歳と比較的若年で5),網膜血管芽腫の初診時に孤発例であったとしても,10歳未満の45%では後にVHL病と診断される6).とくに網膜血管芽腫が多発性の場合や若年発症例,家族歴のある場合には,VHL病関連病変精査のためCTやMRIなどによる検討とともに,脳神経外科など他科との連携が重要である.検眼的には,眼底の周辺部や視神経乳頭上に赤みを帯びた桃色の腫瘤として観察される.滲出性変化や腫瘍による網膜の牽引や硝子体出血を伴うことがあり,視機能障害の原因となることがある.網膜の浮腫や硬性白斑などの滲出性変化は,周辺部に存在する腫瘍の周囲のみならず,離れた黄斑部に生じることもある.フルオレセイン蛍光眼底造影では造影早期から腫瘍に一致して過蛍光を呈し,流入動脈,腫瘍内,流出静脈と描出され,後期には腫瘍から旺盛な血管漏出が認められる.病理組織学的には,毛細血管と泡状の空胞を伴った間質細胞からなる7).間質の細胞にみられるVHL遺伝子にヘテロ結合性の消失がみられ,腫瘍抑制の不活性化に関与していることが知られている.その産生物であるpVHLが欠損すると血管内皮増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)がアップレギュレートされ,血管新生が引き起こされると推測されている8~10).治療は腫瘍径や所在,併発症によっても異なる.網膜光凝固や冷凍凝固が有効な場合が多いが11),その他にも経瞳孔温熱療法12),放射線外照射ないし小線源放射線治療13,14)が用いられることもある.流入血管の結索や15)近年では抗VEGF療法や光線力学療法,あるいは両者,の併用の報告がある16~19).ただし,抗VEGF療法単独では視機能および形態学的な改善に乏しく,網膜血管芽腫に対する光線力学療法の反応も一定しないようである*SetsukoKawakami&*HiroshiGoto:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕川上摂子:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(63)665図1右眼網膜血管増殖性腫瘍(38歳,男性)a:カラー眼底写真.右眼下耳側周辺部腫瘤がみられる.近傍に網膜出血を生じている.b:フルオレセイン蛍光眼底造影.FA(早期).わずかな拡張を呈する流入および流出血管と,腫瘍内部の血管が描出されている.c:FA(中期).腫瘍部は組織染による過蛍光を呈し,腫瘍およびその周囲には血管透過性亢進に伴う色素の漏出がみられる.図2右眼網膜血管増殖性腫瘍(13歳,男性)カラー眼底写真.右眼上側に腫瘤がみられ,その周囲から連続して黄斑部に滲出性変化や,硬性白斑(星芒状白斑)がみられる.図3左眼網膜血管増殖性腫瘍(38歳,男性)カラー眼底写真.左眼下耳側に腫瘤がみられる.黄斑部に網膜前膜を併発している.能が低下する症例もある.腫瘤の状態や併発症の程度により経過はさまざまで,無症候性のものは自然経過で不変のことが多く,なかには縮小していくものもある.活動性を伴う症例に対しては,まずは腫瘍本体に対し網膜光凝固や経強膜的に冷凍凝固を行うことが多い22,23,26,27).難治例では小線源ないしプラーク放射線治療が行われることもある26,28~30).また,近年では光線力学療法や抗VEGF療法が用いられることもある31~33).網膜前膜や硝子体出血,網膜.離を伴う症例では硝子体手術が適応になる34).その一方で,網膜前膜を伴う網膜血管増殖性腫瘍では,冷凍凝固を行った後に63%で前膜が自然に網膜表面からはずれて自然軽快したとの報告もある35).とくに腫瘍径6mm以下の症例では良好な結果を得ていることから,硝子体手術の適応は慎重に判断する必要がある35).文献1)MaherER,YatesJR,HarriesRetal:ClinicalfeaturesandnaturalhistoryofvonHippel-Lindaudisease.QJMed77:1151-1163,19902)LonserRR,GlennGM,WaltherMetal:vonHippel-Lindaudisease.Lancet361:2059-2067,20033)vonHippel-Lindau病の病態調査と診断治療系確立の研究班(研究代表者執印太郎)VonHippel-Lindau病.平成21年度概要より.難病情報センターホームページhttp://www.nanbyou.or.jp/4)松下恵理子,福島敦樹,石田晋ほか:vonHippel-Lindau(VHL)病における網膜血管腫発症の全国疫学調査結果.あたらしい眼科28:1773-1775,20115)SinghAD,NouriM,ShieldsCLetal:Retinalcapillaryhemangioma:acomparisonofsporadiccasesandcasesassociatedwithvonHippel-Lindaudisease.Ophthalmology108:1907-1911,20016)SinghAD,ShieldsJA,ShieldsCL:Solitaryretinalcapil-laryhemangioma.hereditary(vonHippel-Lindaudisease)ornonhereditary?ArchOphthalmol119:232-234,20017)ChewEY,SchachatAP:CapillaryhemangioblastomaoftheretinaandvonHippel-Lindaudisease.Retina,5thed.RyanSJ,ed.2156-2163ElsevierSaunsersPhiladelphia,20128)ChanCC,VortmeyerAO,ChewEYetal:VHLgenedeletionandenhancedVEGFgeneexpressiondetectedinthestromalcellsofretinalangioma.ArchOphthalmol117:625-630,19999)SiemeisterG,WeindelK,MohrsKetal:Reversionofderegulatedexpressionofvascularendothelialgrowthfac-torinhumanrenalcarcinomacellsbyvonHippel-Lindautumorsuppressorprotein.CancerRes56:2299-2301,199610)IliopoulosO,LevyAP,JiangCetal:Negativeregulationofhypoxia-induciblegenesbythevonHippel-Lindaupro-tein.ProcNatlAcadSciUSA93:10595-10599,199611)SinghAD,NouriM,ShieldsCLetal:Treatmentofreti-nalcapillaryhemangioma.Ophthalmology109:1799-1806,200212)KimH,YiJH,KwonHJetal:Therapeuticoutcomesofretinalhemangioblastomas.Retina34:2479-2486,201413)RajaD,BenzMS,MurrayTGetal:Salvageexternalbeamradiotherapyofretinalcapillaryhemangiomassec-ondarytovonHippel-Lindaudisease:visualandanatomicoutcomes.Ophthalmology111:150-153,200414)KreuselKM,BornfeldN,LommatzschAetal:Rutheni-um-106brachytherapyforperipheralretinalcapillaryhemangioma.Ophthalmology105:1386-1392,199815)FarahME,UnoF,Hol.ng-LimaALetal:TransretinalfeedervesselligatureinvonHippel-Lindaudisease.EurJOphthalmol11:386-388,200116)WongWT,LiangKJ,HammelKetal:Intravitrealranibi-zumabtherapyforretinalcapillaryhemangioblastomarelatedtovonHippel-Lindaudisease.Ophthalmolgy115:1957-1964,200817)HussainRN,JmorF,DamatoBetal:Vertepor.nphoto-dynamictherapyforthetreatmentofsporadicretinalcap-illaryhaemangioblastoma.PhotodiagnosisPhotodynTher12:555-560,201518)SlimE,AntounJ,KourieHRetal:Intravitrealbevaci-zumabforretinalcapillaryhemangioblastoma:Acaseseriesandliteraturereview.CanJOphthalmol49:450-457,201419)MennelS,MeyerCH,CallizoJ:Combinedintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactor(Avastin)andpho-todynamictherapytotreatretinaljuxtapapillarycapillaryhaemangioma.ActaOphthalmol88:610-613,201020)GaudricA,KrivosicV,DuguidGetal:Vitreoretinalsur-geryforsevereretinalcapillaryhemangiomasinvonHip-pel-Lindaudisease.Ophthalmology118:142-149,201121)ArcherDB,DeutmanA,ErnestJTetal:Arteriovenouscommunicationsoftheretina.AmJOphthalmol75:224-241,197322)ShieldsJA,DeckerWL,SanbornGEetal:Presumedacquiredretinalhemangiomas.Ophthalmology90:1292-1300,198323)ShieldsCL,ShieldsJA,BarrettJetal:Vasoproliferativetumorsoftheocularfundus.Classi.cationandclinicalmanifestationsin103patients.ArchOphthalmol113:615-623,199524)ShieldsCL,KalikiS,Al-DahmashSetal:Retinalvasop-roliferativetumors.Comparativeclinicalfeaturesofprima-ryvssecondarytumorsin334cases.JAMAOphthalmol131:328-334,2013668あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017(66)

病的近視の網膜血管変化

2017年5月31日 水曜日

病的近視の網膜血管変化RetinalVascularChangesinEyeswithPathologicMyopia森山無価*はじめに病的近視眼では眼軸延長および後部ぶどう腫形成という特殊な形状変化に伴って,後極部では後部ぶどう腫形成などによる眼球の機械的伸展および牽引によって,周辺部ではおもに眼球赤道部の伸展によって,網膜血管系の変化が生じる.網膜血管の観察にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceineangiography:FA)が有用であるが,近年では広角眼底撮影機器の進歩により周辺部網膜のFAも可能となった.本稿では病的近視眼の網膜血管変化について広角FAの所見を交えて述べる.I病的近視とは病的近視の定義は国際的には未だ確立されていない.わが国では所らの厚生省網脈絡膜萎縮症研究班の「.8.0Dを超える近視」という定義が一般的に用いられている1).病的近視の本質は眼軸延長や後部ぶどう腫形成という眼球形状変化であり(図1)2),そのために眼底後極部や眼底周辺部にさまざまな網膜変化が生じる.II眼底後極部における網膜血管の変化1.動静脈交叉部での網膜血管の折れ曲がり病的近視眼では網膜動静脈交叉部位において網膜静脈が折れ曲がっている所見がみられる(図2).Hayashiらは強度近視眼の7割以上に認められたと報告している3).この現象は機械的伸展時に動静脈交叉部は固定が強く,その結果,血管壁が脆弱な網膜静脈が牽引されることによって生じると推察されている.また,網膜血管の折れ曲がりを有する症例では,他の網膜変化(網膜微小皺壁,網膜分離,網膜上膜)を合併することも多い.2.網膜毛細血管瘤病的近視眼では,明らかな血流異常がないにもかかわらず網膜毛細血管瘤が生じることがある(図3).Hayashiらによると強度近視眼の2割に認められ,長眼軸眼や後部ぶどう腫を有する症例に多くみられると報告されている3).前述の網膜血管の折れ曲がりを合併することも多く,動静脈交叉部での血流うっ滞が関与していると推察されている.III眼底周辺部における網膜血管の変化1.毛細血管拡張,毛細血管瘤病的近視眼では網膜最周辺部の毛細血管拡張や毛細血管瘤がみられることがある.これらの所見は正視眼でも認められるが,病的近視眼ではより明瞭に認められ,あたかも唐草文のような造影所見となる(図4).拡張した毛細血管野毛細血管瘤からは色素漏出が認められることもある(図5).Kanekoらによると毛細血管拡張は8割,毛細血管瘤は約3割に認められ,眼軸長延長による網膜周辺部の菲薄化が要因となっていると推察されている4).*MukaMoriyama:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕森山無価:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(59)661図1眼球の3DMRIを鼻側から観察した像a:正視眼.眼球はほぼ球状を呈している.b:病的近視眼.眼球後部に突出した後部ぶどう腫を認め,眼球赤道部も伸展している.図2眼底後極部における網膜血管変化64歳,女性.眼軸長29.2mm.動静脈交叉部()で静脈の折れ曲がりが認められる.(文献1より転載)図3後極部にみられる毛細血管瘤52歳,男性.眼軸長30.9mm.乳頭黄斑間に毛細血管瘤が複数認められる().また,動静脈交叉部での血管の折れ曲がりも認められる.(文献1より転載)図5網膜最周辺部にみられる毛細血管拡張,毛細血管瘤②48歳,女性,眼軸長30.5mm.毛細血管瘤(),拡張した毛細血管()からの色素漏出が認められる.(文献2より転載)図7網膜最周辺部無血管領域②b73歳,女性.眼軸長32.5mm.無血管領域は拡大し,網膜全周広範囲に及んでいる.図6網膜最周辺部無血管領域①59歳,男性.眼軸長33.0mm.a:広角写真.b:耳側部分の拡大.周辺部の網膜血管は途絶し,さらに周辺側は無血管領域となっている.途絶部位の後極側には毛細血管拡張が認められる.黄色矢印は網膜裂孔に対する光凝固班.(文献2より転載)

網膜血管疾患のOCT angiography

2017年5月31日 水曜日

網膜血管疾患のOCTangiographyOCTAngiographyofRetinalVascularDiseases石羽澤明弘*はじめに網膜の血管病変を詳細に捉えるうえで,造影検査,とくにフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)はゴールドスタンダードであることに異論はない.しかし,毛細血管レベルの微細な構造を描出することは困難であり,また二次元の画像であるため,層別の評価ができない.近年,身近な診療機器となった光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて,血管組織内のOCT信号の強度変化や位相変化をもとに,血流の三次元画像を表示する“OCTangiography”と総称される技術が考案され,神経組織に埋もれる微小血管構造の画像化が可能となってきた.OCTangiographyでは,網膜の毛細血管を表層,深層に分けて詳細に解析できることが大きな特長であり,病態の新たな側面に迫ることができる可能性を秘めている.また,非侵襲検査であるため,来院ごとの撮影が可能であり,毛細血管床や異常血管の形態的変化を受診のたびに把握できる.さらに,当初は画角の狭さが問題であったが,近年は高解像度を保ちつつ広画角化が進んできている.本稿ではOCTangiographyでみる網膜血管の基本と,とくに深層血管障害の病態を解説のうえ,代表的網膜血管疾患における広角読影画像を提示し,読影ポイントについて解説する.IOCTangiographyでみる網膜表層血管と深層血管OCTangiographyでは,おもに血流内の赤血球に相当する眼底内の動きのある部分を血流(.owsignal)として検出し,血管として描出される(motioncontrast).さらに,OCTは三次元で撮影されており(3Dscan),ここから網膜各層を自動セグメンテーションして切り出し,正面から見たように“enface”表示する.これらによるenfaceOCTangiographyでは,.owsignalを元に構築された血管構造を,任意の層(slab)で表示することが可能となる.このような原理を元に,swept-source(SS)OCTAngio(DRIOCTTriton,Topcon)で得られた正常眼の黄斑部OCTangiography(3×3mm)の表層slabと深層slabを表1に示す.一般に表層slabには,おもに神経線維層と神経節細胞層を栄養する表層毛細血管網が描出され,深層slabには内顆粒層を挟むように存在する深層毛細血管網が描出される.一方,この表層,深層slabのセグメンテーションについて,最近Spaideらは,正常眼においても,機種によるセグメンテーション範囲の違いが,中心窩無血管帯(fovealavascularzone:FAZ)の描出などにおける機種間の差異を生んでいることに言及した1).また,とくに中心窩付近では,セグメンテーションが正確ではないため,深層血管が表層slabにも映っており,完全に分離できていないことを剖検眼と比較して報告した*AkihiroIshibazawa:旭川医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕石羽澤明弘:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1-1-1旭川医科大学眼科学講座0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(49)651表1黄斑部3mm×3mmのSSOCTAngio(DRIOCTTriton,Topcon)デフォルトslabSuper.cial(表層)Deep(深層)OCTAngiography(3.mm×3.mm)Bscan(水平断)でのセグメンテーションセグメンテーション上限ILM下2.6.μmIPL/INL下15.6.μmセグメンテーション下限IPL/INL下15.6.μmIPL/INL下70.2.μmEnfaceで表示される全厚症例により異なる54.6μmILM:内境界膜,IPL/INL:内網状層と内顆粒層の境界.中心窩神経節細胞層内網状層内顆粒層ヘンレ線維図1黄斑部組織切片とOCTangiographyのセグメンテーションの対応上段:正常眼の黄斑部組織切片.神経節細胞層にあるが表層血管,内顆粒層の内外境界にあるが深層血管を示す.下段a:通常のOCTangiographyでの表層(黄)と深層(青)のセグメンテーション(赤点は血管).b:組織的対応に基づいた理想的なセグメンテーション.bでは深層と分類される血管の一部が,aでは表層に紛れてしまっていることがわかる.(文献1より許可を得て改変)abcd図2OCTangiographyから推測される表層―深層毛細血管網の関係性a:表層毛細血管網.赤は動脈の分枝,青は静脈の分枝.b:深層毛細血管網.渦状構造の毛細血管(緑,)が同定される.c:bにaを重ねた画像.d:cに基づいた表層─深層血管の関係性の模式図.表層から入った血流が,深層で多角形の小葉を形成し,渦状に収束して,表層静脈へ流入する経路を辿っているとも考えられる.(文献2より許可を得て改変)a.黄斑浮腫ありb.1カ月後(浮腫寛解)c.2カ月後(浮腫再発)IVR×2d.6カ月後(浮腫再発)OCTangiography(表層)OCTB-scan(表層のsegmentation)OCTangiography(深層)OCTB-scan(深層のsegmentation)図3再発を繰り返す糖尿病黄斑浮腫眼のOCTangiography(79歳,男性,左眼)ラニビズマブ硝子体内投与(IVR)により浮腫は改善するが,頻回の再発をきたしている黄斑浮腫眼.表1の正常眼と比較し,表層・深層ともに明らかな血管密度の低下を認めるが(a),深層には.胞による.owvoidも混在している.一方,IVR後の浮腫寛解時(b)でも深層血管密度は低いままである.浮腫再発時(c)には深層血管密度が低い部位に.胞が再燃している.6カ月経過後(d)も,同様の再発の傾向がみられる.図43×3mmと12×12mmのSSOCTangiography(Triton)の比較a:増殖糖尿病網膜症における黄斑部3×3mm(320×320pixel)のOCTangiography.黄斑部の詳細な変化は捉えられるが,本疾患における網膜の灌流状態を評価するうえでは不十分な画角である.b:12×12mm(512×512pixel,試験的設定)で撮影した広角OCTangiography.視神経乳頭部の著明な新生血管()のみならず,血管アーケード外の無灌流領域()や新生血管()が明瞭に描出されている.図5増殖糖尿病網膜症(PDR)のパノラマSSOCTan-giography(Triton,9×9mmの5枚から合成)49歳,男性,PDR眼で汎網膜光凝固施行後のパノラマ画像.広範囲な無灌流領域を比較的周辺部まで鮮明に描出できている.点線で囲った部分は図6にクローズアップする.図6汎網膜光凝固(PRP)前後の新生血管(NVE)の形態変化と網膜内最小血管異常(IRMA)a:PRP施行前の9×9mmSSOCTangiography.黄色丸で囲んだ部位にNVEを認め,微小血管が増殖した領域がある.b:aの緑点線部のOCTB-scan.網膜上の硝子体皮質付着部位に赤い.owsignal()があり,NVEであると確認できる.c:PRP施行後の9×9mmSSOCTangiography.黄色丸のNVEにおける微小血管は減少しており,剪定されたループ構造となっている.d:cの青点線部のOCTB-scan.cの矢頭の血管に相当する.owsignalは網膜内にあり(),これはIRMAであるとわかる.図7網膜中心動脈閉塞症(CRAO)の広角SSOCTangiography(9×9mm)52歳,女性,CRAO発症2カ月後.中大血管は描出されているが,毛細血管の描出は不良である.B-scanでは網膜内層の白濁浮腫(高反射化)は改善しつつあり,菲薄化してきている.緑点線部のB-scan青点線部のB-scan図8網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)の広角SSOCTangiography(9×9mm)上耳側に閉塞領域を認め,表層から深層に連続して拡張蛇行を伴う側副血行路も明瞭に描出されている.深層slabにおいて,健常部(青点線部)のB-scanの深層のセグメンテーションは内顆粒層を含んでいるが,緑点線部のB-scanでは,閉塞領域(.)部位の菲薄化を認めており,深層のセグメンテーションが外層にずれ込んでいるため,解釈に注意が必要である.網膜全層slabでは,より造影検査に近い描出である.図9網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の広角SSOCTangiography(9×9mm)78歳,男性,CRVO発症2年後.青線部のB-scanが下段.視神経乳頭周囲に拡張蛇行した血管を認めるが,.owsignalは網膜内にあるためNVDではなく,側副血行路と判断できる.-

糖尿病網膜症に対するサージカルアプローチ

2017年5月31日 水曜日

糖尿病網膜症に対するサージカルアプローチSurgicalApproachforDiabeticRetinopathy井上真*はじめに糖尿病網膜症への治療はここ十数年でめざましく進歩している.その理由の一つとして診断技術の向上があげられる.従来は蛍光眼底検査で無血管野や網膜新生血管を評価していたが,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が登場して黄斑牽引や黄斑浮腫の早期発見が可能になり,一般的な検査として定着するようになった.手術適応を決める有用なツールとなっている.OCTangiographyは網膜血管を画像化することで,蛍光色素を用いなくても蛍光眼底検査のように網膜無血管野や網膜新生血管が検出できるようになった.OCTangiographyでは血管からの漏出は検出することができないが,網膜厚のマッピングを併用することで蛍光漏出がありそうな部分を推測できる.本稿では硝子体手術の手術機器や周辺機器の進歩が糖尿病黄斑浮腫や増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)にどのような変革をもたらしたかを検討する.I硝子体手術の適応糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術は1992年にLewisら1)が肥厚した後部硝子体皮質がある黄斑浮腫での有効な硝子体手術の成績を最初に報告してから始まった.肥厚した後部硝子体皮質がある黄斑浮腫は黄斑前膜の増殖性変化が起こす牽引性網膜.離であると現在では考えられているが,その報告から,肥厚した後部硝子体皮質がない糖尿病黄斑浮腫に対しても硝子体手術の適応が広がった2~4).その後に後部硝子体.離のない黄斑浮腫に広がり,後部硝子体.離があっても有効であることが報告された.一方で糖尿病黄斑浮腫に対しては抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬を用いた大規模研究の結果を受け,薬物療法が第一選択となっている.糖尿病黄斑浮腫に黄斑前膜を合併した場合には抗VEGF薬に抵抗性であることがあり,この場合は硝子体手術が推奨されている.これは黄斑前膜があると不完全硝子体.離であることが多く,何らかの硝子体牽引を伴うためとされている.糖尿病黄斑浮腫への硝子体手術は,後部硝子体.離を起こすだけではなく内境界膜.離を併用することが多い.それは硝子体.離を起こした後でも内境界膜上に細胞成分が残存し,後に収縮することで黄斑浮腫が再発することがあり,その予防と考えられている.視力向上に有用かどうかのエビデンスはないが,多くの術者がブリリアントブルーG(brilliantblueG:BBG)などの色素を用いて内境界膜.離を併用している.PDRには硝子体手術の適応となる.PDRに対する以前の硝子体手術の適応は,6カ月以上継続した硝子体出血と黄斑.離を合併した牽引性網膜.離であった.しかし,黄斑.離が生じてから6カ月以上経過すると黄斑網膜が萎縮して視力回復が期待できなくなることから,早期に手術を行うようになってきた.そこで現在では1カ月以上継続する硝子体出血,黄斑.離になりそうな牽引性網膜.離(切迫黄斑牽引),進行性の線維血管増殖に*MakotoInoue:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕井上真:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(43)645図1シャンデリア照明下での双手法増殖膜処理a:27Gのツインシャンデリア照明()を設置している.b:シャンデリア照明下で鑷子と剪刀による双手法で増殖膜処理を行っている.a250mmHg500mmHg650mmHgb流量小流量大図2硝子体カッターの海図による吸引圧と吸引流量MIVSカッターでは吸引圧が高い割に吸引量が少なく,cカッター開口部でのみの吸引切除効果が増強している.図3増殖膜の癒着による術式の選択20Gカッター(a)と比べてMIVSカッター(b)は増殖膜の下にカッターを挿入しやすい.網膜にべったり癒着した増殖組織(c)はMIVSカッターでも限界があり27Gカッターを用いるか双手法を用いる.図4無治療増殖糖尿病網膜症56歳,男性の症例で視力は右眼(1.0),左眼(0.5).初診時の広角眼底画像(a,b)とOCT画像(c,d,垂直断)で,右眼には網膜新生血管,左眼に牽引性網膜.離がみられる.右眼にはパターンスキャンレーザーで汎網膜光凝固を行い,左眼には硝子体手術を行った.術1カ月後の広角眼底写真(e,f)とOCT画像(g,h)では,右眼は黄斑浮腫もなく,左眼の網膜下液が減少している.図5図4と同一症例の27G硝子体手術所見a:広角観察システム下で周辺部から後部硝子体.離を作製している.b:後極レンズに切り替え視神経乳頭周囲の増殖膜を切断している.c:視神経乳頭上の線維血管膜を除去している.d:血管アーケード上方の増殖膜を27G硝子体カッターで分断している.e:硝子体カッターで増殖膜を小さく切除している.f:増殖膜の下には裂孔()があり,広角観察システム下で網膜下液を吸引している.–

糖尿病黄斑浮腫に対するメディカルアプローチに関する最近の話題

2017年5月31日 水曜日

糖尿病黄斑浮腫に対するメディカルアプローチに関する最近の話題RecentTopicsonNon-SurgicalOptionsforTreatmentofDiabeticMacularEdema野田航介*はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は,とくにII型糖尿病患者における視力低下の主要な原因である.糖尿病患者における視機能保持はそのADLの自立,内服薬やインスリンの自己管理にも直結することから糖尿病そのものの治療にも影響を及ぼすため,DMEの治療は内科領域においても近年重要視されている.しかしながら,その治療アプローチは抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)製剤やステロイド製剤による薬物療法,網膜光凝固,手術療法など複数存在するため,その最適化については議論すべき点が山積している.同時に,各治療法においてもさまざまな進展があり,その情報についての整理が困難になっている現状もある.本稿では,DME治療における手術療法以外の薬物療法や光凝固治療に関して,最近の知見も含めて紹介する.IDMEの病態と治療方針の概要本症は,糖尿病網膜症によって黄斑部に生じる細胞外液貯留がそのおもな病態と考えられる(図1).その要因は複数存在するが1),おもには硝子体や黄斑上膜などによる機械的な牽引と網膜血管の透過性亢進に伴う浸出性変化によるところが大きい.機械的な牽引が主因の場合は手術療法が有効であり,他稿に詳しいので参照されたい.一方,血管透過性亢進に由来する浮腫は,バリア機能不全となった網膜血管からのびまん性の漏出(びまん性浮腫)と,毛細血管瘤などからの局所的な漏出(局所性浮腫)とによって形成されるため,それぞれ薬物治療による漏出抑制と光凝固による毛細血管瘤凝固(直接光凝固)がおもな治療対応となる.その場合,どちらかのみということはまずないため,ほぼ全症例で薬物療法と光凝固の併用が必要となると考えられる.また,びまん性浮腫に対しては格子状光凝固(閾値下光凝固)も近年注目されている.IIDMEのメディカル1.抗VEGF製剤VEGFはそのアミノ酸配列の相同性からVEGFファミリーとよばれる分子群を形成している.哺乳類におけるVEGFファミリーはVEGF-AからDおよび胎盤増殖因子(placentalgrowthfactor:PlGF)から構成されている2).1994年にVEGF-A3)が,その後にファミリー分子PlGFも糖尿病網膜症およびDME患者の眼内で増加することが明らかとされ4),少なくともこの2つのVEGFファミリー分子は本疾患の病態に重要な役割を演じていると考えられている.VEGFに対する生物学的製剤として最初に承認されたのはベバシズマブ(アバスチンR)だが,同剤は抗癌剤であってわが国ではDMEに対する保険適用はなされていない.2017年3月現在,DMEに対してわが国でその使用が認可されている抗VEGF製剤は,ラニビズ*KousukeNoda:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕野田航介:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(37)639糖尿病糖尿病黄斑浮腫糖負荷慢性炎症酸化ストレス図1糖尿病黄斑浮腫の病態生理糖尿病網膜症および黄斑浮腫の病態には,高血糖による直接的な血管障害以外にも,慢性炎症や酸化ストレスなどの関与が知られている.細胞外液貯留図2抗VEGF製剤3剤を比較した臨床試験結果糖尿病黄斑浮腫患者660名を対象とした抗VEGF製剤3剤による視力改善効果が比較され,2年経過した時点ではアフリベルセプトとラニビズマブ間に差は認められないと報告された.(Ophthalmology123:1351-1359,2016より転載)図3Navigatedlasersystem(Navilas)a:外観.b:糖尿病黄斑浮腫に対するNavilasを用いた直接光凝固.図4PASCALSynthesisa:外観.b:PASCALSynthesisのコンソールパネル.図5透析導入後に糖尿病黄斑浮腫が消失した症例54歳,女性.a,b:紹介受診時の右眼底およびOCT所見.軽度の漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫.c:抗VEGF製剤硝子体投与後が3回施行され,後部硝子体.離が生じるも糖尿病黄斑浮腫は残存.この後,腎不全に対する治療のために眼科外来への受診が中断.d,e:1年6カ月後に再受診した際の右眼底およびOCT所見.網膜出血や硬性白斑は消失し,OCTでも浮腫は消失.当科最終受診後は眼科では加療されていなかった.網膜外層障害のため,視力は(0.1).DMEの病態には眼局所の病態よりも腎機能異常による血漿成分の変化の関与が大きい症例があることを示している.また,ある種の糖尿病薬がDMEの発症と関係しているとする報告もある22,23).われわれ眼科医は血液検査の値や内科で使用されている糖尿病薬なども確認したうえで,DME治療にあたる必要がある.おわりに以上,DME治療における手術療法以外の薬物療法や光凝固治療に関する最近の情報についてまとめた.文献1)志村雅彦:Therapeutics糖尿病網膜症治療のコツ.糖尿病黄斑浮腫の治療のコツ.眼科グラフィック2:614-620,20132)EllisLM,HicklinDJ:VEGF-targetedtherapy:mecha-nismsofanti-tumouractivity.NaturereviewsCancer8:579-591,20083)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendotheli-algrowthfactorinocular.uidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19944)AndoR,NodaK,NambaSetal:Aqueoushumourlevelsofplacentalgrowthfactorindiabeticretinopathy.Actaophthalmologica92:e245-e246,20145)DiabeticRetinopathyClinicalResearchN,WellsJA,Glass-manARetal:A.ibercept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema.NEnglJMed372:1193-1203,20156)WellsJA,GlassmanAR,AyalaARetal:A.ibercept,bev-acizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema:Two-yearresultsfromacomparativee.ectivenessran-domizedclinicaltrial.Ophthalmology123:1351-1359,20167)StoneTW,ed:ASRS2015preferencesandtrendsmem-bershipsurvey.Chicago:AmericanSocietyofRetinaSpe-cialists;20158)TornambeP,Re:Wellsetal:A.ibercept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema:Two-yearresultsfromacomparativee.ectivenessrandomizedclini-caltrial(Ophthalmology2016;123:1351-1358).Oph-thalmology124:e25-e26,20179)SophieR,LuN,CampochiaroPA:Predictorsoffunctionalandanatomicoutcomesinpatientswithdiabeticmacularedematreatedwithranibizumab.Ophthalmology122:1395-1401,201510)DomalpallyA,IpMS,EhrlichJS:E.ectsofintravitrealranibizumabonretinalhardexudateindiabeticmacularedema:.ndingsfromtheRIDEandRISEphaseIIIclini-caltrials.Ophthalmology122:779-786,201511)IpMS,DomalpallyA,SunJKetal:Long-terme.ectsoftherapywithranibizumabondiabeticretinopathyseverityandbaselineriskfactorsforworseningretinopathy.Oph-thalmology122:367-374,201512)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gy121:2247-2254,201413)Bromberg-WhiteJL,GlazerL,DownerRetal:Identi.cationofVEGF-independentcytokinesinprolifera-tivediabeticretinopathyvitreous.InvestOphthalmolVisSci54:6472-6480,201314)CardilloJA,MeloLAJr,CostaRAetal:Comparisonofintravitrealversusposteriorsub-Tenon’scapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidefordi.usediabeticmacularedema.Ophthalmology112:1557-1563,200515)TakamuraY,TomomatsuT,MatsumuraTetal:Thee.ectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,201416)LieglR,LangerJ,SeidenstickerFetal:Comparativeevaluationofcombinednavigatedlaserphotocoagulationandintravitrealranibizumabinthetreatmentofdiabeticmacularedema.PLoSOne9:e113981,201417)大越貴志子:低侵襲レーザーの適応と限界.日本の眼科86:1255-1262,201518)AjoyMohanVK,NithyanandamS,IdicullaJ:Microalbu-minuriaandlowhemoglobinasriskfactorsfortheoccur-renceandincreasingseverityofdiabeticretinopathy.IndianJOphthalmol59:207-210,201119)CiardellaAP:Partialresolutionofdiabeticmacularoede-maaftersystemictreatmentwithfurosemide.BrJOph-thalmol88:224-1225,200420)KahtaniES:Diabeticglomerulosclerosiscanbethepatho-genesisofrefractorydiabeticmacularedema.ClinOph-thalmol9:929-933,201521)石羽澤明弘,長岡泰司,横田陽匡ほか:腎移植または血液透析導入を契機に糖尿病黄斑浮腫が改善した5症例.あたらしい眼科32:279-285,201522)星川有子,大越貴志子:ビオグリタゾン塩酸塩製剤塩酸塩製剤の糖尿病黄斑浮腫に対する短期的影響の検討.日眼会誌117:357-363,201323)IdrisI,WarrenG,DonnellyR:Associationbetweenthia-zolidinedionetreatmentandriskofmacularedemaamongpatientswithtype2diabetes.ArchInternMed172:1005-1011,2012644あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017(42)

網膜動脈閉塞症に対する神経保護治療の可能性

2017年5月31日 水曜日

網膜動脈閉塞症に対する神経保護治療の可能性DevelopmentofNeuroprotectiveTreatmentforRetinalArteryOcclusion池田華子*はじめに網膜中心動脈閉塞症に対して,急性期に血栓溶解療法を行ったり,高圧酸素療法を試みたりすることがあるが,視力を改善させる治療法は確立していない.KUS(KyotoUniversitySubstance)剤は,京都大学で開発してきた新規神経保護剤であり,種々の眼疾患モデル動物で網膜細胞保護作用があることが明らかになっている.このKUS剤に関して,基礎実験データおよび現在進行している医師主導治験の概要を踏まえ,網膜動脈閉塞症に対する視力改善治療薬としての可能性について述べる.I網膜動脈閉塞症の病態と治療網膜中心動脈は,内頸動脈の最初の分枝である眼動脈の1分枝である(図1).網膜中心動脈は視神経乳頭の表層ならびに網膜の内層2/3(網膜神経節細胞層,内顆粒層)を灌流している.それより外層の網膜は毛様動脈の分枝である脈絡膜血管から栄養を受けている.報告によって異なるが,15~30%の人では,長後毛様動脈の分枝である毛様網膜動脈が黄斑部網膜を灌流している.網膜中心動脈が枝分かれ前の部分で閉塞すると網膜中心動脈閉塞症に,枝分かれ以降で閉塞すると網膜動脈分枝閉塞症となる.網膜は,全身のなかでもっとも酸素消費量の多い組織の一つであるため,網膜動脈の閉塞により網膜細胞への酸素やグルコースの供給が不足すると,とくに網膜神経図1網膜中心動脈と後局部の動脈節細胞中で神経伝達に必要なATPを始めとするエネルギー産生ができなくなり,瞬時に視機能が低下する.網膜中心動脈閉塞症では,9割の患者では指数弁以下の視力になり,多くの患者では周辺部に光を感じる場所がわずかに存在する程度の極端な視野障害をきたす.2~6時間以上虚血が継続すると,網膜神経節細胞や内顆粒層の神経細胞の細胞死が始まり,それに引き続く神経線維の脱落により,網膜内層は急速に菲薄化し,永続的な視機能障害が残る.血流の再開通は,症例によってその多少に差はあれ,多くの場合,数日以内に自然に起きるとされている.しかし,一定時間虚血が続いた後の再灌流は逆に神経細胞に障害を与えるとされており,再開通後も細胞死が進行する.これら虚血に伴うアポトーシスによる網膜内層細胞の消失は,細胞内ATPの枯渇およびその後に誘導される小胞体ストレスによって惹起される*HanakoOhashiIkeda:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学〔別刷請求先〕池田華子:〒605-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(31)633右眼正常左眼発症直後左眼1カ月後図2網膜中心動脈閉塞症患者のOCT経過表1網膜中心動脈閉塞症に対する従来の治療法1)急性期(通常発症から6時間以内)・血管の再開通を目的とする処置眼球マッサージ,線溶系治療など2)亜急性期(発症から6時間以降)・網膜への酸素・グルコース供給増加を目的とする処置眼圧降下治療,血管拡張治療,高圧酸素療法などFNH2NNNKUS121SO3Na図3新規神経保護剤KUS121の構造2.5DMSOKUS1212.01.51.00.50.0D5102050KUS121(μM)図4KUS剤による細胞保護左:培養細胞であるHeLa細胞を低グルコース下で培養すると,数日で細胞死が起きるが,KUS121を培地に加えておくと,細胞が元気な状態である.右:KUS121は濃度依存的に細胞死を抑制し,生細胞数を増加させる.細胞数図5KUS剤の細胞保護メカニズム網膜神経節細胞数300250200150100500基剤KUS121preDay7Day14preDay7Day14図6虚血再灌流モデルラットにおけるKUS121の保護効果左:虚血再灌流14日後の網膜神経節細胞数.中央:OCT像から計測した網膜内層厚経過.右:網膜電図b波振幅経過.〈網膜中心動脈閉塞〉機能障害図7網膜中心動脈閉塞症の神経保護剤KUS121剤による治療戦略医師主導治験概要・対象疾患:網膜中心動脈閉塞症・発症48時間以内・第Ⅰ/II相オープン試験・硝子体内投与:1日1回3日間・初回投与量KUS12125μg/回(100μl)3例・最大投与量KUS12150μg/回(100μl)6例・平成28年10月~平成30年3月予定図8網膜中心動脈閉塞症に対するKUS121剤の医師主導治験概要