眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人鈴木智25.マイボーム腺炎角結膜上皮症とは?京都市立病院眼科細菌増殖によるマイボーム腺炎の重症度と眼表面炎症の重症度は相関しており,抗菌薬を用いてマイボーム腺炎を治療することが眼表面炎症の消退につながる.●はじめに(meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:MRKC)とマイボーム腺内の細菌増殖に伴う炎症(マイボーム腺呼称される1,2).その病型は,角膜上の結節性細胞浸潤炎)と関係して,角膜に点状表層角膜症(super.cialを特徴とする「フリクテン型」(図1)と,結節病変は認punctatekeratitis:SPK),結節性細胞浸潤,表層性血めずSPKが主体である「非フリクテン型」(図2)に大管侵入などを生じる病態はマイボーム腺炎角結膜上皮症別される1).いずれの病型も,マイボーム腺炎の重症度図1MRKC(フリクテン型)a:上眼瞼縁のマイボーム腺炎と,角膜下方を中心とした結節性細胞浸潤と表層性血管侵入が著明である.b:フルオレセイン染色では,結節性細胞浸潤の部分に染色が認められる.図2MRKC(非フリクテン型)a:上眼瞼縁のマイボーム腺炎が著明である.角膜に結節性細胞浸潤は認めない.b:フルオレセイン染色では,瞼裂部を中心としたSPKを認める.(65)あたらしい眼科Vol.34,No.4,20175250910-1810/17/\100/頁/JCOPY図3MRKCに対する抗菌薬内服治療後a(図1と同症例),b(図2と同症例)とも,マイボーム腺炎とともに眼表面炎症は消退している.と角結膜上皮障害の重症度は相関する.●MRKCの臨床像フリクテン型は若年女性に圧倒的に多くみられ,ほとんどの症例が両眼性である1~3).思春期に発症して再発を繰り返すことが多い.乳幼児に発症することもあるが,高齢者に認めることはまれである.過去には結核菌やブドウ球菌に対するアレルギーが病因と考えられてきたが,臨床現場で,実際に患者からこられの病原体を検出することはまれである.患者のマイボーム腺脂質(meibum)の培養の結果2)および動物モデルの実験4)から,フリクテン型の原因はP.acnesに対する遅延型アレルギー反応(delayed-typehypersensitivity:DTH)の可能性が高いと考えられている.フリクテン発症以前に,幼少時より霰粒腫の既往歴がある症例が多く,遺伝的素因の関与も推測される2,3).一方,非フリクテン型は,若年者に限らず高齢者にも認められる.若年者では女性の頻度が高いが1~3),高齢者では性差があるとは言いがたい.加齢に伴うマイボーム腺機能の低下や腺内の常在細菌叢の変化などから,非フリクテン型の起因菌は年齢によって変化している可能性が推測される.●MRKCの治療フリクテン型は,結節病変が細菌の菌体抗原に対するDTHの結果であると考えられ,ステロイド薬点眼を中心に用いられることが多い.しかし,角膜所見が軽快した時点で治療を終了すると,容易に再発・増悪を繰り返し,病態が複雑になり,結果として高度の視力低下をきたすことがある.これは,マイボーム腺炎に関連している細菌が十分に除菌されていないためと考えられる.非フリクテン型では,角膜のSPKが主体であり,結節性病変は認めない.マイボーム腺炎の起因菌が十分に除菌されていないためにSPKが遷延していると推測される.しかし,臨床現場ではドライアイによるSPKと誤診されることが多い.この場合,ドライアイに対する点眼薬が処方され,難治例には涙点プラグまで挿入されることもある.両病型とも,眼表面炎症の原因はマイボーム腺炎にあるので,適切な抗菌薬の内服と点眼薬でマイボーム腺炎を治療すれば,眼表面炎症を消退させることが可能である(図3)1~3).マイボーム腺炎の改善は,眼表面炎症の鎮静化より少し遅れることに注意しなければならない.重症例には,腺内の抗菌薬濃度を高める目的で,感受性のある抗菌薬の点滴も効果的である5).フリクテン型の重症例には,初期にステロイド薬の内服併用を,MRKCが軽快した後には,角膜混濁を軽減させるために低濃度ステロイド薬点眼を数カ月継続するのもよい方法である.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20002)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkerati-tisassociatedwithmeibomitisinyoungpatients.AmJOphthalmol140:77-82,20053)SuzukiT,TeramukaiS,KinoshitaS:Meibomianglandsandocularsurfacein.ammation.OculSurf13:133-149,20154)SuzukiT,SanoY,SasakiOetal:Ocularsurfacein.am-mationinducedbyPropionibacteriumacnes.Cornea21:812-817,20025)鈴木智,横井則彦,木下茂:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科15:1143-1145,1998526あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(66)