眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋372.眼内レンズ挿入後晩期における保坂文雄岩見沢市立総合病院眼科前後房への無機塩析出眼内レンズ(IOL)挿入後晩期に,レンズ光学面にカルシウム塩が沈着した報告が散見されるが,そのほとんどが親水性アクリル素材であり,レンズ本体に固着した析出である.今回,疎水性アクリルCIOL挿入後C20年を経て,IOL周囲の前後房に多量の無機塩粒子が析出したC1例を経験した.●はじめにかつて販売された数種類の親水性アクリル眼内レンズ(intraocularClens:IOL)では,挿入後晩期になってIOLにカルシウム塩が沈着して混濁し,IOL摘出交換を余儀なくされた事例が散発した1,2).現在,国内では親水性アクリルCIOLが使われなくなり,IOL関連石灰沈着の問題は解決したかに認識されている.しかし今回,白内障手術後C20年を経て,疎水性アクリルCIOL周囲を中心として前後房に多量の白色粒子が析出したC1例を経験した.C●症例78歳,女性.4カ月前からの右眼霧視を主訴に近医眼科を受診し,右眼内の白色粒子析出を指摘され紹介.両眼CIOLで,右眼はC20年前に疎水性アクリルCIOL(AlconCMA30BA+20.5D),左眼はC16年前にシリコン図1IOL表面の無機塩析出疎水性アクリルCIOL前面に無機塩粒子がスノーバンク様に析出している.粒子は脆く薄い線維性膜上に付着しており,IOL自体の混濁はない.(91)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYIOL(AllaganCSI40NB+20.0D)が挿入されていた.全身疾患には糖尿病と高血圧があった.矯正視力両眼C1.0と良好であるが,右眼はコントラスト視力低下がみられた.細隙灯顕微鏡検査で右眼の前後房に白色粒子析出を認めた.とくにCIOL前面はスノーバンク様の粒子堆積を呈したが,IOL自体の混濁はなかった(図1).粒子は角膜後面沈着ともなり(図2),虹彩前面,隅角にも少量の付着があった.前房Ccell+,.areC.であった.眼底は異常なく,星状硝子体症もなかった.血液検査は血糖値上昇を除き異常はなかった.右眼の前後房洗浄術を行い,この粒子を洗浄回収したが,術後約C3カ月の経過でIOL前面に再び粒子が析出し(図3),その後は約C1年間の経過で粒子の増加なく視力も維持された.回収したサンプルは高性能薄層クロマトグラフィにより脂質成分を,ポリアクリルアミド電気泳動により蛋白質成分を分析したが,ほとんど検出されなかった.溶解試験では,水酸化ナトリウムで溶解しない沈殿がC0.5N塩酸および図2無機塩粒子の角膜後面沈着析出した無機塩粒子が角膜後面に沈着している.あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017C1575ab図3無機塩粒子の再析出a:前後房洗浄直後.析出した無機塩粒子は洗浄された.Cb:前後房洗浄C3カ月後.無機塩粒子が再析出した.0.1Mクエン酸で溶解し,中和により再結晶化した(表1).したがって,白色粒子は無機塩と判明,既報に照らし,リン酸カルシウムと推察された1~4).C●考按NeuhannらはCIOL石灰化を,①原発性石灰化:親水性アクリル素材に特有の問題があるもの,②二次性石灰化:患者関連要因によるもの,③偽石灰化:カルシウム塩沈着ではないものに分類した2).大半は原発性石灰化に属し,IOL素材は親水性アクリルのみで石灰化部位はIOL表面あるいは表面下のレンズマテリアル内である.一方,二次性石灰化例は全身あるいは眼疾患,眼処置・手術といった患者個々の要因で起こり,IOL素材を問わないが,疎水性アクリルCIOLでの報告はほとんどないC1~4).本症例は,親水性アクリルではなく,移植C20年後経って亜急性発症していることから,二次性石灰化と判断された.IOL石灰化例は高頻度に糖尿病を合併しているが,糖尿病では血液-房水関門が破綻し,房水カルシウム濃度が上昇することがあり,前眼部炎症は房水のアルカリ化など無機塩析出を助長する条件となりうる.本例では糖尿病とわずかながら前房炎症があり,発症に関与した疑いがある.本例のように多量の無機塩粒子が表1採取した白色粒子の成分分析の結果脂質高性能薄層クロマトグラフィほとんど検出なし蛋白質ポリアクリルアミド電気泳動ほとんど検出なし無機塩塩酸/クエン酸溶解試験無機塩CIOL表面上に付着し,前後房にも堆積している症例の報告は調べた限りC2例(いずれも糖尿病)で,1例は副甲状腺機能亢進症で血中リン酸濃度が上昇したことが原因とされ,カルシウム塩は前房とCIOL後面を中心にみられ3),もうC1例はCpolymethylCmethacrylateCIOL挿入眼で,本例に酷似した粒子分布を“雪嵐様”と称している4).本例は疎水性アクリルCIOL挿入後晩期前後房に無機塩析出した初めての報告である.房水には常にカルシウムとリン酸が存在しているが,精巧な生理機序によりその結晶化が防がれている.IOL眼ではその機構が破綻して,前後房に無機塩粒子が析出することがあると留意したい.文献1)WernerL:Causesofintraocularlensopaci.cationordis-coloration.JCCataractRefractSurgC33:713-726,C20072)NeuhannCIM,CKleinmannCG,CAppleCDJ:ACnewCclassi.ca-tionCofCcalci.cationCofCintraocularClenses.COphthalmologyC115:73-79,C20083)EomCY,CHanCJY,CKangCSYCetCal:CalciumChydroxyapatiteCcrystalsCinCtheCanteriorCchamberCofCtheCeyeCinCaCpatientCwithCrenalChyperparathyroidism.CCorneaC32:1502-1504,C20134)DriverCTH,CLiCHJ,CSharmaCACetCal:Late-onset,Csnow-storm-likeCappearanceCofCcalciumCdepositsCcoatingCaCpoly(methylmethacrylate)posteriorchamberintraocularlens.JCataractRefractSurgC42:931-935,C2016