———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYI現代社会におけるCL関連細菌性角膜 感染症の位置づけ 1. 地域からみた細菌性角膜感染症の最近の傾向細菌性角膜感染症の起因菌には,時代による変遷や地域差が存在する.たとえば,発展途上国では依然グラム陰性菌が多いのに対し,日本,フランス,米国などの先進国ではグラム陰性菌の割合が減少してきている1 4).同じ国内においても,都市部と地方とでは角膜感染症発症の誘因や起因菌の傾向が異なってくる.たとえば,わが国で 2003 年に行われた日本眼感染症学会の主導による感染性角膜炎の全国調査結果5)では,角膜潰瘍患者由来のグラム陰性菌の割合は,平均 39%であったのに対し,筆者らの施設からの東京での検出率は 18%1)と,全国平均に比べ低い傾向にあった.首都で低率という傾向は上述のパリからの報告でも同様で,グラム陰性菌の割合は 17%であった3).先進国で近年,その誘因として最も頻度の高いものが,残念ながらわれわれ人類の文明の利器である CL なのである.よって,それはとりもなおさず CL 人口の多い地域に特有の傾向ともいえる.2. 角膜感染症のなかで重大さを増すCL関連角膜 感染症角膜感染症例全体のなかに占める CL 装用者の割合は,筆者らの施設からの報告1,2)およびパリからの報告3)はじめにわが国のコンタクトレンズ(CL)の歴史は 50 年以上に及び,その間に装用者数は増加の一途を辿り,現在では 1,500 万人以上と,日本の人口の 1 割を超えたといわれている.その背景には,さまざまな種類の素材の開発,および使い捨てレンズをはじめとする装用方法の多様化のほか,各種特殊レンズの登場も相まって,より多くの人々がその恩恵にあずかるようになったことがあげられる.しかし,CL を取り巻く状況を一言でいうならば,「多種多様化」であり,ともすればユーザーのみならず,医療機関側までもが混乱しかねないのが現況といえる.そこには,装用者数の増加,CL の種類や材質の増加,ニーズの多様化,ケア用品・ケア方法の多様化,法律改正に伴った CL 販売方法の変化や診療報酬上の改定,さらにはそれらが複雑に絡み合って生じると考えられる CL による眼合併症,とりわけ,CL 関連角膜感染症の増加といった現実が垣間みられる.そこで,本稿では,I現代社会における CL 関連細菌性角膜感染症の位置づけ,II角膜感染症のリスクファクターとしての CL,IIICL 関連角膜感染症の現状と対策,IV有効な予防法の確立への新たな提言,の 4項目に分け,何故 CL 眼合併症は減らないのか? という疑問も掘り下げて考察してみたい.(35)ツꀀ 1193ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 410 2295ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1129ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1193 1198,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症─細菌感染を中心に─Contact Lens-Related Corneal Infections ─ Bacterial Infections ─土至田宏*———————————————————————- Page 21194あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(36)起因する角膜感染症例(図 1)が増加している6).人間にとって便利なものは世の中に普及するわけであるが,自動車運転と同様,規則を守らなければ人体に危険を及ぼす.それ故,厚生労働省は平成 17 年に改正薬事法を施行し,CL を高度管理医療機器にランク付けしたのは記憶に新しい.2. 角膜生理学からみたリスクファクター角膜上皮は常に外界と接していて,眼では最も異物や病原体に接しやすい場所である.にもかかわらず,健常人で角膜感染症が生じないのは,角膜上皮のバリア機能が強固であることや,涙液中の分泌型 IgA(免疫グロブリンA)やラクトフェリンなどが感染防御の役割を演じているためと考えられている.事実,真菌に汚染されたソフト CL を家兎に装用させても,それだけでは角膜真菌症が発症しなかったという報告がある7).逆にいえば,角膜上皮バリア機能の破綻が感染性角膜炎発症の条件と考えることができ,CL 装用によりそれがひとたび破綻すると,感染が成立してしまう可能性がある.一方,CL の劣化や長時間にわたる CL 装用,CL の連続装用などにより角膜への酸素供給が減少すると,角膜代謝に影響が生じ,嫌気性代謝により乳酸が蓄積し,実質浮腫や内皮細胞への悪影響を及ぼし,角膜上皮細胞へは細胞分裂速度低下をもたらす結果,上皮のバリア機能破綻をきたしうる.最近の研究では低酸素環境下の角膜上皮において,自然免疫の基本的ネットワークとして注目されている Toll-likeツꀀ receptor(TLR)の発現の低下がもたらされ,感染防御機構の破綻につながる可能性も示唆されている8).こうした条件下で,CL の傷,汚れ, tting 不良や固着,ケア用品による障害,涙液分泌減少,涙液層破壊時間(tearツꀀツꀀ lmツꀀ breakツꀀ upツꀀ time)短縮などにより角膜上皮バリアの破綻をもたらされ,さらにレンズのケア不足やケア不十分,手指の洗浄不足,レンズケースの汚染などにより眼表面への病原体の付着が生じるなどの,これらの悪条件が重なることで角膜感染症発症に陥るものと考えられる.ともにそれぞれ 54.5%,50.3%と,いずれも過半数を占めていた.これら 2 都市に共通するのは,ともに先進国の首都であり,オフィスワーカーが多いこと,CL ユーザーが多いことなどがあげられる.特にこの自験例では,CL 装用が 2 位以下の糖尿病,眼手術後,ステロイド投与などを大きく引き離していた.つまり,CL 装用は現在のわが国における角膜感染症発症の最大のリスクファクターといえる.II細菌性角膜感染症発症のリスクファクター としてのCLツꀀ 1. 社会的背景からみたリスクファクター上述のごとく,いまや CL 装用は先進国の角膜感染症のリスクファクターとして最も頻度の高いものになってしまった.その背景には,CL 装用人口の増加や,装用開始年齢の低年齢化,使い捨て CL や頻回交換 CL を手軽に使えるものと誤解しての誤使用やケア不足,ケア不十分などが考えられる.また,アクセサリーとしての度なし CL 装用の増加もその一因に考えられる.その一方で,CL の購入方法にも問題があるケースが多い.医師の処方なしでインターネットなどで購入し,CL 眼障害をひき起こすケースも少なくない.使い捨て CL や頻回交換 CL の登場で減少すると思われてきた CL 眼合併症は,逆に増加傾向にあり,皮肉にも特にこれらの CL に図 1頻回交換型SCL装用者にみられた角膜潰瘍例本例は,シリコーンハイドロゲルレンズを装用していた.高酸素透過性であっても過信できない.角膜擦過培養で表皮ブドウ球菌が検出された.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091195(37)は 3 例全例がカンジダ属で,アカントアメーバは,水道水で洗浄していた従来型 SCL 装用例から 1 株検出された.これら検出病原体を装用レンズ別にみると,真菌がIIICL関連角膜感染症の現状と対策CL 関連角膜感染症の現状を知る際に,角膜感染症全体における最近の傾向も知っておく必要がある.1. 細菌性角膜感染症起因菌の最近の傾向細菌性角膜感染症の 4 大起因菌は,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,緑膿菌,モラクセラといわれてきた9)が,最近ではその傾向が変わってきているようである.筆者らの施設における 1999 年から 2003 年までの感染性角膜潰瘍例 122 例 123 眼からの培養検査結果1)では,上位 4位までは,全 102 株中,表皮ブドウ球菌 29 株(28.4%),黄色ブドウ球菌 14 株(13.7%),コリネバクテリウム 13株(12.7%),セラチア 8 株(7.8%)であった(図 2).反対に,肺炎球菌は 4 株(3.9%)と低率で,モラクセラは検出されなかった.もっとも,モラクセラは培養されにくい菌であるので,それが反映されていない可能性は否定しきれないものの,近年は細菌性角膜感染症の検出菌にも変化が生じている可能性がある.その一因として,CL 装用者における角膜感染症の症例数増加が考えられる.病原体側の変化としては,薬剤耐性の増加や菌交代現象などによる起因菌種の変化などが考えられる.2. CL関連角膜感染症起因菌の最近の傾向1999 年から 2003 年までの 5 年間に角膜感染症と診断した自験例 122 例 123 眼のうち(角膜ヘルペスは除外),CL 装用例は 66 例 67 眼(54.5%)で,過半数を占めた1,2).平均年齢は全体では 45±21(標準偏差)歳であったのに対し,CL 関連角膜感染症は 37±20 歳と若く,男女差は認めなかった.CL 装用人口は女性が多いことを勘案すると,男性で重篤例が多いといえる.装用レンズの内訳は従来型ソフト CL(SCL)が最も多く,ハード CL(HCL),頻回交換型 SCL,1 週間交換型SCL,毎日交換型 SCL と続いた2)(図 3).検出病原体のうち,最も多くみられたのはグラム陽性菌で 3/4 以上を占め,うち表皮ブドウ球菌が最も多く,黄色ブドウ球菌,コリネバクテリウム属の順に続いた(図 4).ついで,グラム陰性菌が 2 割弱を占め,セラチア属,アシネトバクター属,緑膿菌が検出された.真菌従来型SCL 25(37.3 )HCL 19(28.4 )頻回交換型SCL 17(25.4 )1週間交換型SCL 3(4.5 )毎日交換型SCL 3(4.5 )図 3CL関連角膜感染症例の装用CLの種類ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ うツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ントツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ?????????????属(2株)青:グラム陽性菌赤:グラム陰性菌黄:真菌黒:アカントアメーバその他のCNS (29株)その他のグラム陽性菌(9株)その他のグラム陰性菌(3株)図 2角膜感染症例から検出された病原体ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 性菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 性菌ツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀ ントツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ントツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ の のツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 図 4CL関連角膜感染症例から検出された病原体———————————————————————- Page 41196あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(38)低下していた1)ことから,検体採取は抗菌薬投与前に行うべきである.IVより有効な予防法確立への提言これほどまでに医学の進んだ現代において,何故 CL関連眼合併症は減らないのか? と疑問に思う医療人は,筆者だけではないと思われる.最近の調査によると何らかの CL 眼合併症経験の頻度は 10%との報告があり11),単純計算から年間約 150 万人と推定されるが,これは実に,警察庁発表の交通事故発生状況における年間の交通事故者数の約 100 万人よりも多い数字である.交通事故の原因は,認知科学者のノーマンによるエラーの分類12)によれば,ついうっかり交差点に進入したり,一瞬のわき見やうとうとしていた,注意力散漫や無意識の状態などで生じる「ヒューマンエラー」によるものと,スピード違反や飲酒運転など,違反者が違反とわかっていて事故を起こす「ルール違反」とに分けられる.この分類を CL 眼合併症の原因にあてはめると,「ヒューマンエラー」には,ついうっかり期日が過ぎていた,ついうっかりつけたまま寝てしまった,左右の入れ間違いなどが該当し,「ルール違反」には,洗浄を怠った,もったいないと思い故意に過装用したり,使い捨てレンズを再使用するといった事例が該当する13).ヒューマンエラーは,厳密には単なるうっかりミスのことではなく,人間の本来もっている特性が人間を取り巻く広義の環境とうまく合致していないために,結果として誘発されたものと定義されている14,15).そのエラーを誘発する原因を,人間の特性や心理学的側面をも省みて調査し,その防止策を見出すべきものとある.すなわち,エラーを犯さないようにシステム改善の余地があるものをいう.ここで,CL 眼合併症が減少すると期待されて登場した,使い捨て SCL や頻回交換型 SCL を例にあげるが,これらは皮肉にも実際にはその装用者で眼合併症が増加している6).その原因として,ヒューマンエラーやルール違反によるものが多いと考えられる.最近の筆者らの教室におけるレンズ装用中止に至った症例の検討では,装用者の絶対数が最も多かった毎日交換型 SCL よりも頻回交換型 SCL のほうが約 2 倍頻度が高く,角膜潰瘍ソフトレンズの連続装用と 1 週間交換型,すなわち,両者とも連続装用の SCL のみで検出されている点が目につくことから,連続装用はリスクファクターと思われた(図 5).3. 最近の傾向を踏まえたうえでの治療戦略のための指標前項で示した自験例における視力予後を,生体から得られた角膜擦過物または眼脂培養の結果を参考に治療を行えた群と,培養結果が陰性であった群とで比較したところ,培養陽性群のほうが視力予後が良好であった2).日常臨床の場で困ることの多い角膜擦過培養結果が陰性であった場合,CL またはレンズ保存液からの検出菌をターゲットに治療を行ったほうが視力改善傾向を認めたことから,レンズ自体やレンズ保存液の培養結果は大いに参考にすべきと思われる.これまで述べてきたように,場所,時代ともに起因菌の変遷が生じうるものであるため,画一的な治療はそぐわないと思われ,起因菌に応じた個別の治療が重要と考える.そのための鉄則は,はじめに角膜所見や経緯などから起因菌を推定し,ついで同定した菌に対して抗菌作用のある抗菌薬を用いて治療を行うことである10).また,検体採取時に抗菌薬既投与であった群と未投与群との間での病原体検出率の比較では,未投与群では検出率が 2/3 であったのに対し,既投与群では約半数にまで青:グラム陽性菌赤:グラム陰性菌黄:真菌黒:アカントアメーバ連続装用SCL従来型SCLHCL(数字は検出株数)1週間交換型頻回交換型SCL毎日交換型SCLは未検出411811133341図 5装用レンズ別検出病原体———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091197(39)わざるを得ない18)とも言える.2)に関しては,たとえば SCL のケアにおいて,1 液ですべてこなせるのがうたい文句の MPS(多目的溶剤)がそれに該当しそうに思われるが,消毒効果が高いほど細胞毒性が強く,細胞毒性が弱いものほど消毒効果が弱い,といったジレンマがあり,完璧ではない.このあたりは企業による開発努力に期待すべきところであろう.近年,レンズケア剤とレンズ,眼表面との相互作用や相性の問題も指摘されており,各個人に合ったケア剤を見つけたらそれを使い続けるのがポイントといえる.つぎに重要なのは,被害が起きた際の拡大防止策であり,これには,3)エラーの早期発見・修正と,4)被害を最小とするために備えることとある17).これらを CL装用の場におきかえると,異常時の早期受診と定期検査,およびそのための患者教育が該当する13).ルール違反にあたる事項はこれとは別に,厳禁であることを再教育すべきと思われる.以上をまとめると,角膜感染症を含めた眼合併症発症防止のために目指すべきものとして,1: もっとわかりやすく,ヒューマンエラーの落とし穴の入り込む余地がないシステム構築を,メーカー・行政に要望し,2: どんなミスが生じているかそのためのデータを集発症率も頻回交換型 SCL のほうが高率であった(データ未発表).これら両レンズの最大の違いは,レンズケアの必要性の有無である.レンズケアの必要なレンズ装用の各手順において,入り込む余地のある失敗は各ステップで非常に多い(図 6)13).一方,ケアの不要な毎日交換型の場合,失敗の入り込む余地は図 6 の網掛け部分のみとなり,かなり低減される.また,コールド消毒時のこすり洗いの有無による頻回交換型レンズ装用者の眼合併症発生率の比較では,こすり洗いをしない群のほうが高率に角膜障害を生じていた16)ことから, レンズケアの際にこすり洗いを忘れないことが重要であるといえる.反対に,こすり洗いを忘れたり,不十分であると角膜障害発生率が増加すると思われる.これらから,レンズケアができない,あるいはうまくいかない装用者には,迷わず毎日交換型を勧めるべき,という提言が可能である.その裏づけとして,「医療におけるヒューマンエラー」の著者,河野龍太郎氏がヒューマンエラー防止策として提唱する 4 項17)が,CL の領域にもそのまま該当すると思われる.まずはじめに,1)作業の数を減らすこと(究極はやめてしまうこと),2)各作業でのエラー発生確率を低減することとある.1)に関しては,すでに毎日交換型レンズで達成していると思われるが,それでもエラーやルール違反をくり返す者に対しては,CL 禁忌といツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 離ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ tツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 図 6 CL装用の各手順において入り込む余地のある失敗〔文献 13 の図 2 を改変〕網掛け部分は,毎日交換 SCL でも起こりうるヒューマンエラー.———————————————————————- Page 61198あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(40)gins J, Traux D, Eye Infections, Blindness and Myopia. p101-118,ツꀀ Nova Science Publishers, USA, 2009 5) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972, 2006 6) 土至田宏,本田理峰,岩竹彰ほか:入院を要したコンタクトレンズ関連感染性角膜潰瘍例の最近の傾向.臨眼 63(9)(印刷中) 7) 大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌 48:60-67, 2006 8) 石橋康久,松本雄二郎,河野恵子ほか:角膜真菌症発症におけるコンタクトレンズの関与.第 1 報健常角膜の場合.日コレ誌 29:294-297, 1987 9) 秦野寛:「起因菌は何か」の考え方.あたらしい眼科 19:979, 984, 2002 10) 日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌 111:769-809, 2007 11) 医療対策部:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成 13 年度).日本の眼科 73:1381-1384, 2002 12) ノーマンツꀀ DA(野島久雄訳):第 5 章ツꀀ 誤るは人の常.誰のためのデザイン?認知科学者のデザイン原論,p169-228, 新曜社,1990.(原書:Norman DA:The Psychology of Everyday Thing. Basic Books Inc., New York, 1988) 13) 土至田宏:ヒューマンエラーとレンズケア.日コレ誌 50:210-214, 2008 14) 河野龍太郎:3.ツꀀ これまでの考え方とエラー発生のメカニズム.医療におけるヒューマンエラー,p22-27,医学書院,2004 15) 芳賀繁:2.ツꀀ ヒューマンエラーのメカニズム.大山正,丸山康則編,ヒューマンエラーの科学,p23-46,麗澤大学出版会,2004 16) 村上晶,土至田宏:使い捨てソフトコンタクトレンズ使用者のレンズ取り扱い状況.日コレ誌 47:189-192, 2005 17) 河野龍太郎:7.ツꀀ ヒューマンエラー対策の戦略と戦術.医療におけるヒューマンエラー,p61-87,医学書院,2004 18) 佐渡一茂:コンタクトレンズの種類と適応.眼科診療プラクティス 94,はじめてのコンタクトレンズ診療,p24-27,文光堂,2003め(これはすでに日本コンタクトレンズ学会感染性角膜炎全国調査として昨年から着手されており,結果に期待できると考える),3: ヒューマンエラー・ルール違反防止のための患者教育,定期検査の施行や,CL に関わるすべての施設・行政による患者教育の,3 つに分けてのエラー防止策が必要と思われる.これらのすべてを分けて行わないと,いつまでもエラーをおかした人間だけが問題視され,有効なエラー防止策やシステム改善が検討されずに終わってしまう恐れがあることを,この分野においても提言したい.おわりにCL 関連角膜感染症は,その原因,起因菌,頻度,社会的背景のいずれもが,時の流れとともに移り変わりつつある.その動向,ならびに解決策を常に注視することは,日々の臨床の現場において,目の前の患者に対して最善策を講じるために重要であると考える.本稿がその一助になれば幸いである.本稿の内容の一部は,第 45 回日本眼感染症学会総会(2008 年,福岡)において,2007 年度日本眼感染症学会学術奨励賞(三井賞)受賞講演「わが国におけるコンタクトレンズ関連感染性角膜潰瘍の動向」として発表した.文献 1) Toshida H, Inoue N, Kogure N et al:Trends in microbial keratitis in Japan. Eye Contact Lens 33:70-73, 2007 2) Inoue N, Toshida H, Mamada N et al:Contact lens-induced infectious keratitis in Japan. Eye Contact Lens 33:65-69, 2007 3) Bourcier T, Thomas F, Borderie V et al:Bacterial kerati-tis:predisposing factors, clinical and microbiological review of 300 cases. Br J Ophthalmol 87:834-838, 2003 4) Toshidaツꀀ H,ツꀀ Sutoツꀀ C:Ocularツꀀ bacterialツꀀ infections.ツꀀ Eds.ツꀀ Hig-