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新しい治療と検査シリーズ 192.生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:角膜真菌症

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,200912170910-1810/09/\100/頁/JCOPY新しい治療と検査シリーズ(59) バックグラウンド1960 年代後半に,生体内の角膜の細胞の形態を直接観察するための方法として,生体共焦点顕微鏡検査(in vivo confocal microscopy)が開発された1).観察対象を円板状に並んだ多数のピンホール光で走査するタンデムスキャン式で始まった生体共焦点顕微鏡は,その後,スリット光で走査するスリットスキャン式となり,画像の解像度を向上させた.最近では,レーザー光で走査するレーザースキャン式が登場し,その解像度はさらに向上することとなった.近年,角膜真菌症に対するレーザー生体共焦点顕微鏡検査の応用の報告がなされている2,3). 新しい検査法レーザースキャン式生体共焦点顕微鏡(Heidelberg Retina Tomograph IIR:HRTツꀀ IIR)は,角膜観察用アタッチメント(Rostockツꀀ Corneaツꀀ ModuleR:RCMR)を 装着することにより,角膜全層を観察することが可能となる.今回は,角膜感染症,特に角膜真菌症に対して,その診断を目的とした検査を行った.〔症例〕66 歳,女性で,農作業中に左眼に木片が入った後,前医を受診した.前医では,左眼真菌性角膜潰瘍との診断にて,0.2%フルコナゾール点眼治療を 2 週間行われるも改善が認められず,当院を紹介となった.初診時,左眼の鼻側角膜に,角膜上皮欠損を伴う辺縁不整な角膜浸潤を認めた(図1).そこで,まず,上記のレーザー生体共焦点顕微鏡にて,角膜潰瘍部を観察したところ,直線的な糸状構造物が角膜実質内に多数認められた(図2).糸状真菌の菌体の存在を疑わせる所見であると考えられた.つぎに,角膜潰瘍部を擦過して,塗抹染色と培養検査を行った.塗抹染色では,明らかな菌体を検出することはできなかったが,Sabouraud 培地にて,糸状真菌が培養され,Paecilomyces lilacinus と同定さ192.生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:角膜真菌症プレゼンテーション:松本幸裕慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:近間泰一郎山口大学大学院医学系研究科眼科学図 1真菌性角膜潰瘍の前眼部写真左眼の鼻側には,角膜上皮欠損と実質の菲薄化を伴う辺縁不整な角膜浸潤を認め,充血,角膜浮腫,角膜潰瘍部への血管侵入,前房内炎症を伴っていた.ツꀀ 2角膜潰瘍部における生体共焦点顕微鏡検査角膜実質内に直線的な糸状構造物が多数交叉している画像が得られた.角膜神経,実質細胞,樹状細胞とも形態学的に異なるもので,糸状真菌の存在を疑わせるものである.———————————————————————- Page 21218あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009れた.薬剤感受性試験にて,フルコナゾールに耐性(最小発育阻止濃度:MIC にて,>64 μg/ml)を示したものの,ボリコナゾールに感受性(MIC にて,1 μg/ml)を示した.1%ボリコナゾール点眼にて,角膜潰瘍は徐々に改善傾向となり,矯正視力も治療前(0.06)から治療後(1.2)となった. 使用方法まず,HRTツꀀ IIRに,RCMRを装着する.被検者の対象眼に,局所麻酔薬の点眼(0.4%ツꀀ oxybuprocaine)を行う.RCMRの対物レンズに,Comfortツꀀ gelRをつけた後,polymethyl methacrylate(PMMA)製の Tomo-CapRを装着する.角膜深度をゼロに設定し,Tomo-CapRの前面にも Comfort gelRをつけた後,被検者の顎を顎台に載せる.Tomo-CapRをゆっくり押し進め,開瞼された対象眼の角膜に接触させる.焦点面調整リングを手動で回すことにより,焦点面を Tomo-CapR前面より深くしていくことができる.それにより,任意の深さの組織の観察が可能となる.水平断の組織の画像は,リアルタイムでコンピュータのモニター画面に表示されるが,その記録開始は,フットスイッチにて操作することができる.検査時間は 5~10 分程度である. 本方法の利点生体共焦点顕微鏡の利点は,その瞬間に,非侵襲的に,生体内組織の形態を捉えることができるところである.しかも,角膜内組織は透明であるために,その全層(上皮から内皮まで)を細胞レベルで観察することが可能である.今回の検討の結果,この検査が角膜真菌症の補助診断として有用であると考えられた.角膜感染症においては,微生物学的検査として,塗抹染色や培養検査などが行われるが,特に起因菌が検出されなかったときに,この検査が早期診断に役立つと考えられる.また,非侵襲的な検査であり,くり返し検査が可能であることより,治療効果の評価にも有用であると考えられる.ツꀀツꀀツꀀツꀀ 1) Petran M, Hadravski M, Egger MD et al:Tandem-scanning re ected-light microscope. J Opt Soc Am 58:661-664, 1968 2) Babu K, Murthy KR:Combined fungal and Acanthamoeba keratitis:diagnosis by in vivo confocal microscopy. Eye 21:271-272, 2007 3) Brasnu E, Bourcier T, Dupas B et al:In vivo confocal microscopyツꀀ inツꀀ fungalツꀀ keratitis.ツꀀ Brツꀀ Jツꀀ Ophthalmol 91:588-591, 2007(60)る.今回紹介されている糸状菌による角膜真菌症の場合にはその特異的な形態により診断の一助になる.一方で,アカントアメーバではシストの大きさが好中球などの血球細胞と類似し,細菌では観察系の倍率の問題で形態把握が困難であるので,診断の補助的な情報に留めるべきである.すなわち,感染症を疑う場合には塗抹検鏡および培養を行い,臨床所見などとともに総合的に診断することが重要である.生体共焦点顕微鏡は,角結膜などの生体組織を細胞レベルで非侵襲的にかつ経時的に観察できる.このことは,感染症などの病的状態で浸潤細胞あるいは角膜上皮細胞や実質細胞などといった組織固有細胞の変化をとらえることができるのみならず,治療効果の判定においても有用性を発揮する.しかしながら,病原体の同定に関しては注意が必要である.本検査は,あくまでも形態学的観察であるので異常な構造物をみた際には,その形状や大きさの判定に注意を払う必要があ 本方法に対するコメント ☆ ☆ ☆

眼感染アレルギー:Posner-Schlossman症候群

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.9,200912150910-1810/09/\100/頁/JCOPYPosner-Schlossman症候群は,アメリカの眼科医PosnerとSchlossmanが,1948年に虹彩毛様体炎症を伴う眼圧上昇の反復発作を片眼にきたす症例を報告1)したことから命名された症候群で,別名glaucomatocy-cliticcrisisともよばれる.自覚症状は軽微で,霧視,光輪視,眼の違和感などを生じるが,充血や眼痛などの症状は少ない.ほとんどの症例は片眼発症で,同一眼にくり返し発症するとされるが,時期を違えて両眼に発症することもある.発作的に虹彩網様体炎を生じ,眼圧が高度に上昇することが特徴で,炎症は不定期に再発する.発作時の眼圧は40mmHg以上,ときに60mmHg以上となることもある.検眼鏡的には,前房に軽度の炎症細胞と,数個の色素沈着を伴わない小型中型の円形,少数の角膜後面沈着物が角膜中央から下方にかけて認められる(図1).この角膜後面沈着物は眼圧上昇にやや遅れて(多くは数日後に)出現し,しばらくの間持続するため,受診時に眼圧が正常化していた場合などにも発作の既往を示す証拠となる.著しい眼圧上昇に比して,角膜浮腫や前房炎症はごく軽微であることが多い.隅角所見では,周辺虹彩前癒着や結節はみられず,経過中に虹彩後癒着を起こすこともないが,瞳孔は検眼と比べやや散大気味で,虹彩異色を呈することがある.また,眼底には炎症所見を認めない.発作の持続は数時間数週間とされている.また,緩解期には患眼の眼圧は僚眼に比べむしろ低くなっていることが多い.ほとんどのケースは,年齢2050歳であるとされ,比較的若年者に好発し,性別は男性にやや多いとされる.フィンランドでの内因性ぶどう膜炎1,122例の集計2)によれば,人口10万人当りの年間発生率は0.4,有病率は1.9であり,Posner-Schlossman症候群は特発性急性前部ぶどう膜炎,眼サルコイドーシスに続いて3位にランクされている.眼圧上昇は線維柱帯の炎症によって生じると考えられているが,本疾患の原因はいまだ完全には明らかにされていない.アレルギーやストレスを原因とする仮説や,異型発達緑内障,サイトメガロウイルス3)や単純ヘルペスウイルス4)の感染との関連などが提案されてきたが,いずれも未確定である.発作中の前房水中にプロスタグランジンが増加するという報告5)もあり,高眼圧は線維柱帯の炎症に続発した流出抵抗増大によるとみなされるが,房水産生上昇を示唆する動物実験成績もあって一義的説明はできていない.前述のように原因が未確定の疾患であるため,診断は特徴的な臨床所見による.隅角検査で患眼の隅角線維柱帯の色素は健眼より薄いことが多く(図2a,b),本疾患(57)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修=木下茂大橋裕一21.PosnerSchlossman症候群藤本武園田康平九州大学大学院医学研究院眼科Posner-Schlossman症候群は,軽度の虹彩毛様体炎を伴う眼圧上昇発作を片眼にくり返す疾患で,従来は視神経,視野に影響を及ぼさない良性の疾患とされてきたが,遷延化すると視神経乳頭に障害が起こり,視野欠損をきたすこともある.眼圧コントロールが不良な場合の薬物療法,手術時期の検討に注意が必要である.図1色素沈着を伴わない,小~中型の角膜後面沈着物———————————————————————-Page21216あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009の確定診断に役立つ.Posner-Schlossman症候群に似た片眼性の前眼部炎症,眼圧上昇を示すものとしては,ヘルペス(HSV,VZV)虹彩毛様体炎,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎などが鑑別除外すべき疾患となる.ぶどう膜炎以外に,原発開放隅角緑内障も鑑別の対象となる.療方発作自体は治療の有無にかかわらず自然緩解するた(58)め,発作時には副腎皮質ステロイド薬局所投与による炎症の抑制と,緑内障点眼による眼圧下降が主体となる.眼圧上昇が著しい場合には炭酸脱水酵素阻害薬の内服も併用する.薬物療法によく反応し,眼圧は通常数日で下降する.一過性の経過をたどることが多く,自然軽快も期待できるので長期の治療は必要ない.また,前述のように虹彩癒着が生じることはないため,瞳孔管理のために散瞳薬を使用する必要はない.従来,本疾患は視神経乳頭の変化や視野障害をきたさないと考えられてきたが,遷延化すると,視神経乳頭に障害が起こり,視野欠損をきたすこともある6).眼圧が十分に下降しない症例では濾過手術も行われる.また,本症に開放隅角緑内障を併発するという報告もある.ステロイドの予防的長期投与は避け,本症が眼圧コントロール不良になった際にはステロイド緑内障の合併も視野に入れて治療薬の選択,投与期間に十分な注意が必要となる.文献1)PosnerA,SchlossmanA:Syndromeofunilateralrecur-rentattacksofglaucomawithcyclitissymptoms.ArdhOphthalmol39:517-535,19482)Paivonsalo-HietanenT,TuominenJ,Vaahtoranta-Leh-tonenHetal:IncidenceandprevalenceofdierentuveitisentitiesinFinland.ActaOphthalmolScand75:76-81,19973)Bloch-MichelE,DussaixE,CerquetiPetal:PossibleroleofcytomegalovirusinfectionintheetiologyofthePosner-Schlossmansyndrome.IntOphthalmol11:95-96,19874)YamamotoS,Paven-LangstonD,TadaRetal:PossibleroleofherpessimplexvirusintheoriginofPosner-Schlossmansyndrome.AmJOphthalmol119:796-798,19955)MasudaK,IzawaY,MishimaS:Prostaglandinsandglau-comatocycliticcrisis.JpnJOphthalmol19:368-375,19756)JapA,SivakumarM,CheeSP:IsPosnerSchlossmansyndromebenignOphthalmology108:913-918,2001☆☆☆2隅角所見患眼(a)の隅角は開放しており,結節や周辺虹彩前癒着はみられない.僚眼(b)と比べ色素は薄い.

緑内障:新しい静的視野経過観察プログラム

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.9,200912130910-1810/09/\100/頁/JCOPY緑内障における視野検査の重要な役割に視野の進行評価がある.経過中に有意な視野進行が確認された場合,薬物療法の追加,観血的手術など眼圧下降療法をそれまでより厳重に行うなどの対応が必要となる.自動静的視野計を用いた視野進行判定には,視野を時系列に直線回帰解析を行うトレンド解析,ならびに基準視野と観察時の視野を比較し進行判定するイベント解析が広く用いられている.しかしながら,どの手法にも長所短所があり,一つの手法ですべてを完全に網羅できる標準的な視野進行評価法はいまだ確立されていない.近年,新しい視野解析方法としてHumphrey視野計のGuidedProgressionAnalysis(GPA2),Octopus視野計のEye-SuitePerimetryが発表された.そのなかでも,新たに導入された2つの新しいトレンド解析法についてその特徴をみていきたい.GuidedProgressionAnalysis(GPA2)今回新しく開発されたGPA2では,VisualFieldIndex(VFI)とよばれる新しい視野指標が導入されている1).これは,臨床上最も重要な,そして構造的にもより多くの網膜神経節細胞により構成されている視野中心部に重みづけを置いた新しい視機能の指標で,正常で100%,視野消失で0%となるように設計されている.GPA2では,このVFIを患者の実年齢を横軸にとったグラフであらわし,患者の実際の生命予後を含めたより実践的な評価が可能となっている(図1,2).さらに新しい試みとして,数年先のVFIを予測することも可能となっている.統計学的でのいわゆる外挿予測は,その精度の面で,あくまで参考データとなるが,患者とともに長期的な立場にたった治療方針のよい参考材料となる.(55)●連載111緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也111.新しい静的視野経過観察プログラム松本長太近畿大学医学部眼科視野進行判定の代表的な手法に,時系列に直線回帰解析を行うトレンド解析がある.近年,Humphrey視野計のGPA2では,中心視野に重みづけを置いた新しい視野指標VisualFieldIndexが導入された.またOcto-pus視野計のEyeSuitePerimetryでは,クラスタ解析が導入された.これら新しいトレンド解析法は,緑内障患者のqualityofvisionにより重点を置いた視野進行評価法として期待される.35歳-0.8%/yearVFI:92%73歳-3.2%/yearVFI:55%図135歳,男性:狭義原発開放隅角緑内障VFI92%で視野進行は0.8%/yearと緩徐である.図273歳,男性:狭義原発開放隅角緑内障VFI55%で視野進行は3.2%/yearと速い.5年後の進行予測ではVFIが40%を切っている.———————————————————————-Page21214あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009EyeSuitePerimetry従来のMDなどの視野指標を用いたトレンド解析では,視野を全体として一つの数値でとらえるため,暗点の進行など局所的な変化を評価することができない.特徴的なパターンを呈する緑内障性視野障害は,網膜神経線維走行パターンに基づいており,視神経乳頭から広がるセクターとよばれる同時に障害されやすい範囲(クラスタ)が存在する.HAAG-STREIT社のEyeSuitePerimetryでは,Octopus視野計で用いられている測定プログラムGの測定点を11個のクラスタに分類し,それぞれ個々のクラスタにおける視野進行をトレンド解析で評価している(図3).クラスタに分けることにより,局所の視野進行をより正確にとらえることが可能とな(56)り,臨床上特に重要となる固視点近傍の情報など,個々の症例のqualityofvision(QOV)を考慮した評価が可能となっている.さらにPolargraphとよばれる視野測定結果を網膜神経線維走行パターンに基づき,視神経乳頭周囲に再配置し,乳頭所見と視野所見の対応をより明確にする解析手法も新たに導入されており2),Polartrendでは実際の乳頭所見と対応をとりながら視野進行評価が可能となっている(図4).おわりに日常診療において,個々の緑内障患者の視野進行を的確に把握するためには,従来の画一的なMDslopeのみによる評価では不十分である.視野としてどの部位の進行が速いのか,それが患者のQOVにどのように影響するのか,さらに年齢などの背景を考慮して,今後どのような治療戦略をたてるべきかなど,視野検査で得られた情報をより詳細にしかも明確に応用する必要がある.これら新しいトレンド解析法は,特に個々の緑内障患者のQOV評価により重点を置いた実践的な視野進行評価法として今後期待される.文献1)BengtssonB,HeijlA:Avisualeldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,20082)七部史,有村英子,松本長太ほか:緑内障における新しい視野解析プログラムPolarGraphの使用経験.あたらしい眼科26:1269-1274,2009図3aEyeSuitePerimetryにおけるクラスタ配置図図3b51歳,男性:正常眼圧緑内障固視点近傍のクラスタで視野進行が認められる.??????????????????????????Polartrend(2002~2006)PolargraphCOgrayscale図455歳,女性:狭義原発開放隅角緑内障2002年の視野では,Polargraphにて2時方向に,眼底と対応する感度低下が確認されている.2006年の視野では2002年に認めていた6時の乳頭出血に対応した部位に新たに感度低下が出現している.Polartrendでは4年間の経過中に悪化した部位が赤で表現されている.

屈折矯正手術:術前・術後の角膜形状解析

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,200912110910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀ 今回は,屈折矯正手術の適応検査のうちの角膜形状検査について記載する.角膜形状異常疾患である円錐角膜,円錐角膜疑い,ペルーシド角膜変性を除外し,ker-atectasia を予防することが大切である.角膜形状解析において,局所的急峻化を認めるもの,角膜屈折力が瞳孔領内や頂点と周辺部の差の大きいもの,上下差など非対称性のあるもの,角膜強主経線の曲線化を認めれば円錐角膜,円錐角膜疑い,そしてペルーシド角膜変性を疑い,同時に左右眼の対称性を確認する(図1). 後屈折矯正手術後の屈折誤差の原因としては,①レーザー照射自体が低矯正の場合,②眼軸長の延長や水晶体の核硬化のため,近視が進行する場合,③術後の創傷治癒で regression を生じる場合,および④ keratectasiaの 4 つが考えられる.これらの 4 つを鑑別するためには,術後の経過が安定した時期,たとえば 1 カ月後と,定期診察のときに,角膜前面と後面の形状を測定できる機種で角膜形状解析を行い,経時的変化を確認することが大切である.たとえば,スリットスキャン式角膜形状解析装置のオーブスキャン(キヤノン社製)の elevation map で,定期診察時と安定した時期の結果を差し引いた di erence map と,術後数年経ったころと,安定した時期の map を引いた map を表示し,中央部の前方偏位量を求めるとよい(図2,3).① 低矯正:術後の屈折誤差は安定していて,角膜形状でも経時的な変化は認められない.この場合は,残存角膜厚が十分であれば追加照射が可能である.② 近視の進行:術後の角膜形状には,経時的な変化を認めない.近視の原因が白内障であれば水晶体再建術を考慮する.眼軸の延長なら進行が止まるまで待つ.③ Regression:これは,創傷治癒によって近視化する場合で,角膜実質が瘢痕化する場合と,上皮の厚みが(53)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載112監修=木下茂大橋裕一坪田一男112.ツꀀツꀀ 術前・術後の角膜形状解析島袋幹子友紘会総合病院眼科屈折矯正手術の適応判断で大切な角膜形状検査をみるポイント,術後の屈折誤差の原因である①レーザー照射自体が低矯正の場合,②近視が進行する場合,③ regression を生じる場合,および④ keratectasia の 4 つの鑑別点についてを述べる.図 1円錐角膜疑いのTMS 4(トーメー社製)画像スリットで異常を認めなかった LASIK(laserツꀀ inツꀀ situツꀀ keratomileusis)希望の 2 症例である.いずれの症例も円錐角膜自動診断プログラムで 0%であるが,どちらの症例も角膜屈折力に上下差があり非対称なことから,円錐角膜疑いと診断し,屈折矯正手術の適応から除外した.———————————————————————- Page 21212あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009増加する場合がある.角膜形状解析で後面には変化がないが,前面の屈折力が増加する.強度近視の場合,術後3 カ月以上にわたり進行することがあり1),屈折値が安定してから追加照射を考慮する(図3).④ Keratectasia:過剰照射ないしは,円錐角膜,円錐角膜疑い,またはペルーシド角膜変性に気づかず屈折矯正手術を施行した場合に生じる.レーザーによる角膜実質切除により,角膜が菲薄化したため実質の強度が保てなくなり,眼圧で実質が前方偏位する状態をさす.角膜形状解析において前面,後面ともに前方偏位する.文献 1) Perez-Santonja JJ, Ayala MJ, Sakla HF et al:Retreat-ment after laser in situ keratomileusis. Ophthalmology 106:21-28, 1999(54)☆ ☆ ☆図 2LASIK術後で経過が順調な症例LASIK 術後で経過が順調な症例のオーブスキャンの画像である.向かって左画像が術後 3 年目と術後 1 カ月目の,向かって右画像が術後 6 カ月と術後 1 カ月目の角膜前面の elevation の di erenceツꀀ map である.角膜中央のelevation の色彩が,両方の画像とも緑色で,経時的変化がないことがわかる.角膜後面にも変化を認めなかった.図 3術後8年目にregressionを生じた症例これらは,LASIK 術後に regression を生じた症例のオーブスキャンにおける,角膜前面の elevationツꀀ のdi erence map である.向かって左画像が術後 3 カ月目から 1 カ月目を,向かって右画像が 8 年目から 1 カ月目を引いた左眼の di erenceツꀀ map である.経時的にみると,角膜中央部が水色から緑色に変化しており,角膜前面の中央部がやや前方突出していることがわかる.角膜後面には変化がなかった.以下のように自覚的屈折値もやや近視化していた.術後 3 カ月目 VS=1.0(1.5×cyl 0.5 Dツꀀ Ax90° ),術後 8 年目ツꀀ VS=0.7(1.5×sph 0.5 D(cyl-0.5 D Ax90°).

眼内レンズ:アクアレース

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,200912090910-1810/09/\100/頁/JCOPYアクアレース(AquaLaseR,アルコン社)は超音波を用いず,代わりに水流の力で水晶体の核を破砕する新しい水晶体核乳化吸引装置である.超音波を用いないことにより,振動による創口の熱障害,角膜内皮細胞障害などが少ない,あるいは に対する安全性がある.しかし,硬度の高い核での乳化吸引が困難であるという欠点がある.少量の水が短時間に勢いよく噴出するパルス波によって水晶体核を乳化吸引する.水を噴出させるために,アクアレースのハンドピース内で水を一旦沸騰させ,その沸騰した勢いでハンドピースの先端から水流が噴出する(図1).沸騰した水は,ハンドピースの先端から噴出する際には,約 57℃に温度が下がっている.水としては balanced salt solution(BSS)が用いられる.この,BSS は AquaLaseR Solution(図2)との名称であり,In nitiTM System の中にねじ込み式で装着する(図3).前房の灌流液である BSS plus は,BSS にオキシグルタチオンが添加されており,眼内組織の保護に効(51)果があるが,アクアレースの水流としては,このオキシグルタチオンがハンドピース内の細い管に詰まるため用いることはできない.水流は 4 μl の少量の水が毎秒最大 75 回のパルス波として噴出する.パルス波はチップ内の上方内面から下方内面に向かって一旦噴出した後に,チップ外に噴出される.チップ外に噴出されたパルス波は急速に減衰し破砕茨木信博自治医科大学眼科眼内レンズセミナー 監修/大鹿哲郎277.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀア ク ア レ ー スアクアレースは,超音波を用いずに,水流の力で水晶体核の乳化吸引を行うことができる.硬い核には乳化吸引ができないが,超音波振動による摩擦熱が発生しないこと,破 の危険が少ないことなどの眼組織に対して,やさしい手術が可能な器械である.図 1 アクアレースのハンドピースの先端 水流が噴出している.図 3 AquaLaseR SolutionをIn nitiTMに装着したところ図 2AquaLaseR Solution———————————————————————- Page 2能力を失う(図4).超音波のように振動がチップで生じないことより,眼内の挿入部位での摩擦熱が発生しないため,強角膜創口部に対する熱傷が生じない.さらに,前述のごとく,チップから噴出されたパルス波は,急速にその破砕力を減弱することから,後 破損の危険性が低い.図5は,豚眼の後 にパルス波を噴射した際のものであるが,後 がパルス波で伸展はするが破 には至らなかった.図6は実際の白内障手術の際の前・後 研摩の際に後 を誤吸引した際のもので,後 の皺が認められるが,破 には至らなかった.アクアレースは,硬い核にはまったく破砕吸引ができないため,超音波に完全に取って代わる白内障手術ではない.また,乳化吸引もしっかりと核片をイリゲーション・アスピレーションのポジションで保持したうえでないと,効率よく乳化できない.核片の保持ができていない状態で,パルス波を発振すると,核片が弾き飛ばされ,乳化吸引ができなくなる.しかし, や他の眼内組織に対する障害が非常に少ない手術が可能で,核保持や乳化吸引の効率の悪いところを十分理解し,その対応をとりさえすれば,非常に安全な術式であるといえる.特に,破 の危険が超音波と比べものにならないぐらい少ないことから,白内障手術の初心者に対する教育の過程に用いるにも有用性があると思われる術式である.内小管ノズル図 4アクアレース・ハンドピースの構造ハンドピース内で沸騰した BSS が内小管を通って,先端まで達し,ノズル内上方から下方に向かって水流が噴出する.図 5豚眼の後 にアクアレースのパルス波を当てたところ後 (矢尻)の伸展(矢印)は認められるが,破 しない.図 6白内障手術時の後 吸引後 に皺形成が認められるが,破 はない.

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法(メニコン・ティニュー)

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,200912070910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ティニューという名前は,continue を語源としているという.製造元の(株)メニコンが接頭辞としてついたときに「メニコンティニュー」となり,continuous vision=連続視をイメージさせるという戦略らしい.この 30 日連続装用可能な酸素透過性ハードコンタクトレンズ(HCL)(RGPL)は,シロキサニルスチレンを主成分としたメニコン Z と同じ世界で最も酸素透過性の高い RGPL 素材を用い,レンズ形状は長期連続装用に特化したデザインへとブラッシュアップされている.筆者がこのメニコン・ティニューを選択するときは,第一に continuousツꀀ vision を望む患者への処方である.シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ(SCL)が登場した現在でも,涙液交換やレンズの固着を考えたとき,本レンズの連続装用における優位性が突(49)出していることに異論をはさむ読者はいないだろう.第二は角膜直乱視の症例への処方である.「3 時-9 時ステイニング」の誘因として,よく角膜上の 3 時-9 時の位置における涙液が HCL によって奪われることにフォーカスが当てられるが,そこに角膜直乱視へのメカニカルストレスの要素が隠れているケースも思いのほか多い.エッジリフトが高く,実質的にベベル幅が広い 30 日連続装用に特化したティニューのレンズデザインは角膜乱視にも使いやすいのだ. ィニューのフィッティング同一の症例に同一規格のメニコン・ティニューとメニコンZ をフィットさせたときのフルオレセインパターンを図1a,bに示した.弱主経線が水平方向にある軽度の角膜直乱視で,比較的標準的な角膜形状の症例といえる.内面カーブはほとんど変わらないように見えるが,佐野研二あすみが丘佐野眼科コンタクトレンズセミナー 監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純 私のコンタクトレンズ選択法303.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀメニコン・ティニューツꀀ b 図 1メニコン・ティニュー(a)とメニコンZ(b)a: メニコン・ティニュー.フルオレセインパターンを見るとメニコンZ に比べてエッジリフトが高く,ベベル幅が広く見える.30 日連続装用に特化したデザインとのことであるが,角膜乱視にも使いやすい.b: メニコンZ.ベベル幅が狭いと評判の Z のデザイン.実際には狭いわけではなくエッジリフトが小さい.その分,角膜上でレンズはよく安定する.図 2 メニコン・ティニュー(a)とメニコンZ(b)のエッジ断面a: メニコン・ティニュー.メニコンZ に比べて意外にもエッジは鋭いが,十分にリフトアップしていて処方がしやすい.b: メニコンZ.メニコン・ティニューに比べてエッジは丸くまとめられているが,エッジリフトが小さく,ベベル幅は小さく見える. (メニコン社提供)———————————————————————- Page 21208あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(00)フルオレセインパターンから見るベベル幅はティニューのほうが広く見える.メーカーから提供していただいたティニューと Z のレンズ周辺部断面写真を図2a,bに示した.ティニューのエッジ断面は Z に比べて意外にも鋭いが,十分にリフトアップしていて処方がしやすい.フィッティングはフルオレセインパターン,レンズの動きともに筆者の大好きな RGPL である「サンコンタクトレンズ社のマイルド II のベベルタイプ 2」の感じに近いと思う.メニコンZ のエッジ断面は,ティニューに比べてエッジが丸くまとめられており,エッジリフトが小さく一見ベベル幅は小さく見えるが,よく見ると両者ともベベル幅はほとんど同じこともわかる.図3は両者のデザイン図を重ねたものを示した.ティニューのほうが大きくエッジリフトがとられており,その分エッジは鋭い.ティニューはエッジリフトが高く設定されているため cornealツꀀ warpage(角膜へのレンズ圧痕)は作りにくいが,処方するときにはスティープにならないよう,フルオレセインパターンでエッジが必ず浮いていることを確認するべきであろう. ティニューとZ」2つの連続装用RGPL素材が同じ 2 つの連続装用 RGPL であるが,30 日連続装用を想定してデザインし直されたティニューが登場した現在,Z の存在意義はあるのであろうか.筆者の回答はイエスである.角膜形状が標準的な場合は Z のほうがレンズの動きが安定するのである.起座位でレンズの動きを観察すると,Z が真下に「すとーん」と落ちてくるのに対し,ティニューのほうが少し左右に「ふらふら」揺れて落ちてくる.誰もみたことのない就寝時レム睡眠のとき,ティニューのほうが角膜上を固着することなく十分動いているだろうことは想像に難くないが,終日装用で角膜乱視が大きくない場合には Z で十分であるということである.逆にいえば,30 日連続装用をしなくても角膜乱視が強く,エッジの当たりを弱くしたいようなむずかしいケースにはティニューを一度試してみるとよいかと思う.図 3メニコン・ティニューとメニコンZのベベルデザイン赤線がティニュー.青線が Z.ティニューのほうが大きくエッジリフトしているのがわかる. (メニコン社提供)

写真:コリネバクテリウムによる結膜炎,角膜炎

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,200912050910-1810/09/\100/頁/JCOPY(47)写真セミナー 監修/島﨑潤横井則彦304.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀコリネバクテリウムによる結膜炎,角膜炎生クリーム状の白色沈着物周 の細胞浸潤は ない毛様充血は認めない図 1コリネバクテリウムによる角膜炎①糖尿病既往歴をもつ患者.数週間前から角膜表面に白い沈着物ができたと来院.スリット所見では生クリーム状の白色沈着物を認める.毛様充血は認めず,また周辺の細胞浸潤も著明でない.病変部を掻爬して鏡検したところ,グラム陽性桿菌を多数認め,培養にてコリネバクテリウムと同定された.図 3コリネバクテリウムによる角膜炎②軽度充血を伴う白色沈着物を主訴に来院.スリット所見では,沈着物は硬くカルシウム様であるが,周辺に軽い細胞浸潤を認める.採取して鏡検したところ,グラム陽性桿菌を認め,コリネバクテリウムが検出された.図 2図1のシェーマ図 4図3の症例のスメアにて観察されたグラム陽性桿菌佐ツꀀツꀀ る出田眼科病院———————————————————————- Page 21206あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(00)グラム陽性桿菌であるコリネバクテリウムは,非常に病原性の弱い菌として知られている.たとえ検出されても病原性のない常在菌として臨床現場に報告しない検査室も多い.ところが,実は角膜炎,結膜炎,強膜炎,外眼角炎などを生じることが報告されている1 6).また,近年結膜 の常在菌としてニューキノロン耐性のコリネバクテリウムが増加していることが注目されており,その遺伝子解析も進んでいる.これには,ニューキノロンの多用も関与していると推測されている.ちなみに,外来の細菌性結膜炎患者 10 人に第三世代のニューキノロンを 2 週間点眼してもらった結果,表1のようにコリネバクテリウムが残存した.日本人の結膜 常在菌ではコリネバクテリウムの種のなかで C.ツꀀ macginleyi が多く,GyrA 遺伝子に Ser83Arg,Asp87Ala 変異が認められるという7).コリネバクテリウムによる前眼部感染症は,いくつかの臨床所見のパターンを示す.たとえば,①ニューキノロン点眼使用中にもかかわらず,眼脂の増強を認める結膜炎,外眼角炎.②瘡蓋状あるいは生クリーム状に角膜上を覆う白色病変を呈する角膜炎.図1および図3は軽度の炎症を伴う白色沈着物を呈したコリネバクテリウム角膜炎の患者である.③その他,まれではあるが,強膜炎様,ブドウ球菌アレルギー様,さらに輪状膿瘍を呈する報告もある3 5).いずれもその病原性の弱さから,激烈な炎症所見は示さない.コリネバクテリウムによる前眼部感染症を疑えば,スメアでグラム陽性桿菌(図4)を探すとともに,検査室にコリネバクテリウム疑いであることを伝え,菌の同定を依頼する.確定すれば,ニューキノロン投与を中止のうえ,エリスロマイシン,ミノサイクリン,セフェムの抗生物質にて加療すれば,速やかに治癒する.文献 1) Joussen AM, Funke G, Joussen F et al:Corynebacterium macginleyi:a conjunctiva speci c pathogen. Br J Ophthal-mol 84:1420-1422, 2000 2) 鹿島佳代子,百瀬隆行,石引美貴ほか:角膜移植片に起こったコリネバクテリウム感染症の 1 例.あたらしい眼科 13:1587-1590,1996 3) 柿丸晶子,川口亜佐子,三原悦子ほか:レボフロキサシン耐性コリネバクテリウム縫合糸感染の 1 例.あたらしい眼科 21:801-804, 2004 4) Caronia R, Liebmann J, Speaker M et al:Corynebacterium scleritis. Am J Ophthalmol 117:405-406, 1994 5) 岸本里栄子,田川義継,大野重昭:多剤耐性の Corynebac-terium species が検出された角膜潰瘍の 1 例.臨眼 58:1341-1344, 2004 6) 泉研一,秦野寛,伊藤典彦ほか.長期局所免疫抑制に起因すると考えられたコリネバクテリウムによる両眼性外眼角炎の一例.眼紀 57:205-208, 2006 7) Eguchi H, Kuwahara T, Miyamoto T et al:High-levelツꀀ uoroquinolone resistance in ophthalmic clinical isolates belonging to the species Corynebacterium macginleyi. J Clin Microbiol 46:527-532, 2008表 1 結膜炎患者に対する第三世代ニューキノロン投与前後の培養結果年齢・性別初診時培養NQ 点眼投与 1 週後64 歳・女性肺炎球菌コリネバクテリウム( )55 歳・女性肺炎球菌( )77 歳・女性緑膿菌( )54 歳・男性非溶血レンサ球菌コリネバクテリウムコリネバクテリウム79 歳・女性アシネトバクターコリネバクテリウムコリネバクテリウム86 歳・男性シトロバクター( )60 歳・女性黄色ブドウ球菌( )74 歳・女性肺炎球菌・表皮ブドウ球菌コリネバクテリウムコリネバクテリウム77 歳・女性レンサ球菌コリネバクテリウムa溶血レンサ球菌76 歳・女性コリネバクテリウムコリネバクテリウム77 歳・女性レンサ球菌・表皮ブドウ球菌コリネバクテリウム( )NQ:ニューキノロン.

コンタクトレンズ関連角膜感染症-アカントアメーバ角膜炎-

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY的新しい疾患である.長年まれな疾患として扱われてきたが,米国 Willsツꀀ Eyeツꀀ Hospital にて 2004 年以降急激に患者数が増加している3)など AK の増加傾向が明らかになっているのが実態であろう.II症例調査から考える日本コンタクトレンズ学会および日本眼感染症学会主導で CL 関連角膜感染症全国調査が行われた.この結果の詳細については別項を参照していただきたいが,その概略について簡単に触れたい.本調査はコンタクトレンはじめに昨今,アカントアメーバ角膜炎(AK)症例数の増加が叫ばれている.コンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症のなかでも最も治療に抵抗するものであり,また重篤な視機能の低下を招く可能性の高いものとして注目すべき疾患である.本稿では,AK の臨床所見,治療方針とともに発症に至るバックグラウンドとしてのコンタクトレンズケアについても言及したい.Iアカントアメーバとは土壌,沼地や池などの淡水,プールの水など自然界に広く生息する自由生活性(free living)のアメーバである.われわれの生活環境においては室内の埃,公園などの砂場,地下水,洗面周りにも存在しうるものである.栄養体(trophozoite)とシスト(cyst)の 2 つの形態をとりうる.シストは耐乾性・耐熱性・耐薬品性をもち,AK が治療に抵抗性である理由の一つと考えられている.栄養体は体長 20 40 μm,シストはやや小さく直径 10 20 μm である.シストは角膜上皮細胞の細胞核とよく似た大きさであり,鑑別に留意すべきである.臨床検体を NN 寒天培地に大腸菌の死菌を塗布したもので培養を行うと,偽足を出しながら移動する栄養体を観察することができる(図 1).アカントアメーバが角膜炎をひき起こすことについては 1974 年に Naginton ら1)によって,またわが国では1988 年石橋ら2)によってはじめて報告されている比較(41)ツꀀ 1199ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 790 0826ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1199 1203,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症 ─アカントアメーバ角膜炎─Contact Lens-Related Corneal Infections ─ Acantamoeba Keratitis ─宇野敏彦*図 1アカントアメーバ栄養体NN 寒天培地に大腸菌の死菌を塗布したもので角膜擦過物を培養.大腸菌を貪食しながら図中の左から右へ移動している様子が観察された.———————————————————————- Page 21200あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(42)ているものと考えられる.IIIアカントアメーバの同定角膜上皮を 離除去したものを直接検鏡と分離培養を併用してアメーバの同定を行う.染色法としてパーカーインク KOH 法・グラム染色・ギムザ染色・ファンギフローラ染色などがあげられる.AK 症例の角膜擦過物には比較的健常な角膜上皮細胞が多数存在し,そのなかに“埋もれた”アメーバを発見する必要がある.角膜擦過物のスライドガラス上に厚く塗抹されている場合,グラム染色などではアメーバが染色された角膜上皮にまぎれてしまう恐れがある.特にアメーバシストと上皮細胞核はサイズが似通っているため鑑別に注意する必要がある.パーカーインク KOH 法は角膜上皮をいわば溶解させてアメーバを観察する方法である5).きわめて有用な方法であるが,本法に適したパーカーインクの入手が困難になっているのは残念である.ファンギフローラ染色は観察に蛍光顕微鏡が必要であるが,角膜上皮内に潜んだアメーバも染色され,アメーバを見つけやすい方法と思われる.最近筆者らはシート状に 離した角膜上皮全層をなるべく損傷しないように凍結ブロックに包埋し,ズ装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療をした症例を対象としたものである.平成 19 年 4 月から 1 年間の中間報告4)では男性 129 例,女性 104 例,合計 233例が集積された.年齢は 9 90 歳(平均 28 歳)であった.角膜擦過物の塗抹検鏡にて 40 例,分離培養では 32例でアカントアメーバが確認されている.これは緑膿菌などのグラム陰性桿菌の検出頻度とほぼ同程度であった.入院加療が必要と判断された重篤な CL 関連角膜感染症では,アカントアメーバが最も頻度の高い原因微生物であるという事実には驚愕させられる.本調査対象のなかで頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)などレンズケアを行った後再装用をする SCLの装用者は 173 例(CL の種類が把握されている 216 例の 80.0%)であった.このほかにカラー CL 装用者が 11例みられていた.CL の洗浄については毎日に加え週 4 6 回行っているものを含めても 107 例であり,レンズケアを必要とされるユーザーの数を大幅に下回っていることが確認できた.さらにこすり洗いなど日常の CL ケアが不足していること,定期検査を受けていないことなど,CL ユーザーの杜撰な実態も浮き彫りになっており,アカントアメーバ角膜炎発症のバックグラウンドになっ図 2ファンギフローラ染色所見a:蛍光所見,b:対比染色所見(矢印はaの矢印に相当する).蛍光所見と対比染色所見を見比べることにより,アメーバの上皮内での形態を明瞭に観察することが可能である.ab———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091201(43)V臨床所見1. 初期特徴的な所見として,角膜上皮および上皮下混濁・放射状角膜神経炎・偽樹枝状角膜炎があげられる.角膜上皮および上皮下混濁は初期の症例のほとんどでみられるものである.中央部角膜の淡い表層性の小浸潤であり,多発していることが多い.ちょうど流行性角結膜炎の後にみられる表在性点状角膜炎と酷似している(図 3).放射状角膜神経炎は AK に最も特徴的なもので10 15 μm の凍結切片作製ののちファンギフローラ染色を行う方法を考案した6).やや煩雑なプロセスではあるが,角膜上皮内でのアメーバの状態を自然な形で明瞭に観察できること,連続切片を作製することにより見落としが少なくなること,上皮内の栄養体の観察も可能なことが利点としてあげられる.ファンギフローラ染色は対比染色としてヘマトキシリン染色が行われる.蛍光顕微鏡での所見と対比染色での染色像を比較することにより異物による偽陽性を避けることができる(図 2).分離培養は大腸菌(あらかじめ熱処理を行った死菌)などを塗布した NN 寒天培地などを使用する.培養開始数日後にアメーバが観察される.最初はアメーバ栄養体が盛んに大腸菌を貪食しながら遊走する様子がみられ,その後培養条件の悪化とともにシスト化したものが観察できる.なお,詳細については成書を参照されたい.IVAKの病態・病期感染性角膜炎ガイドライン7)に AK について詳細な記載がある.本項ではこれに準じて解説を試みたい.AK は本来外傷を契機として発症するものである.しかし現状では AK 症例のほとんどが CL 装用者である.CL およびそのケースは緑膿菌など,環境に存在する細菌に汚染されやすいが,普遍的に存在しうるアカントアメーバも手指などを介して CL ケースに混入すると考えられる.アカントアメーバは細菌を「栄養源」として増殖する.CL ケアが杜撰であると CL 自体に大量のアカントアメーバが付着し感染源となる.CL 装用による機械的刺激などによる角膜上皮障害が起こるとそこからアメーバが侵入し感染が成立する.AK の進行はきわめて緩徐である.感染の成立した中央部角膜から周辺部へと拡大するが輪部まで到達することは基本的にない.角膜深層への進展はさらに時間を要する.AK では経過とともに特徴的臨床所見を呈する.石橋ら8)は“初期-移行期-完成期”,続いて塩田ら9)は“初期-成長期-完成期-消退期-瘢痕期”の病期分類を提唱している.本項では臨床的に接する機会の多いものとして初期と完成期について述べることとする.図 3角膜上皮および上皮下混濁中央部角膜に散在性の上皮 上皮下混濁(浸潤)を認める.本症例は比較的細く明瞭な放射状角膜神経炎もみられる.図 4放射状角膜神経炎11 時方向はやや太い数珠状の神経炎が認められる(5 時方向の周辺部角膜にも存在).———————————————————————- Page 41202あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(44)る11).自験例においても輪状浸潤はインテンシブな治療にもかかわらず輪状膿瘍に移行し,輪部からの強い血管侵入,隅角閉塞をきたすものが認められた.移行期(成長期)で取り上げられている“リング状浸潤(輪状潰瘍)”は短期間で円板状となるとされている12)が,完成期における輪状浸潤(膿瘍)との鑑別は今後の課題と思われる.VI治療方針AK の診断が得られれば病期にかかわらず最大限の治療を行っていく必要がある.アカントアメーバに対して即効性のある薬剤はないと考え,物理的な病巣除去も躊躇なく行っていく必要がある.点眼加療の中心はクロルヘキシジンなどの消毒薬である.ヒビテンRなどの商品名で術野の消毒などで汎用され多種類存在するが,そのなかでも 0.02%(あるいは0.05%)で結膜 の洗浄の適応をもったものが使用可能である.このほか PHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)も使用可能である.これはコンタクトレンズ消毒目的で多目的用剤(MPS)にも低濃度ながら含まれているものである.0.02%程度に調整して使用する.アゾール系の薬剤も自家調整のうえ,眼局所に対して使用する.教科書的にはフルコナゾール(原液をそのまま使用)・ミコナゾール(生理食塩水などで 10 倍希釈しある.輪部から角膜中央部まで連続的につながるものもあるが,多くは輪部に長さ 2 3 mm 程度,線状あるいは数珠状の浸潤である(図 4).周辺部ということもあり,意識的に探さないと見落としがちな所見でもある.偽樹枝状角膜炎は点眼薬毒性による上皮障害でみられるものとよく似ている(図 5).アカントアメーバから放出される物質が角膜上皮細胞に障害を与えるという報 告10)があるが,アポトーシスその他の機序で角膜上皮の脱落が亢進し,中央部に向かう“上皮の流れ”とともに偽樹枝状角膜炎としての所見が現れる.帯状ヘルペスによる偽樹枝状角膜炎とは起こっている機序がまったく異なっていることに留意すべきである.2. 完成期輪状浸潤と円板状浸潤がある.両者とも角膜中央を中心とした横長楕円の形態をとり,実質内に浸潤と浮腫を伴っている(図 6).浸潤直上の上皮は部分的あるいは全面的に欠損していることが多い.完成期の実質浸潤をよく観察すると小さな顆粒状の浸潤が多数集合したようにみえる.角膜ヘルペスでも円板状角膜炎という類似した所見があるが,ここでは角膜実質内の浸潤は均一であり,鑑別の重要なポイントであろう.完成期における輪状浸潤は予後不良と考えられてい 図 5偽樹枝状角膜炎点状表層角膜症とともに中央部角膜を横に走る偽樹枝状角膜炎を認める.本症例のように,点眼薬毒性による上皮障害と鑑別が困難なものも存在する.図 6円板状浸潤中央部角膜に浮腫と浸潤を認める.顆粒状の小浸潤が多数集合しているようにみえる.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091203(45)いとされているが,無血管の角膜への移行性には不明な点が多い.完成期で角膜実質から前房に炎症の主座がある場合,角膜内への血管侵入があるなど,症例に応じて全身投与を考慮していくべきであろう.文献 1) Nagintonツꀀ J,ツꀀ Watsonツꀀ PG,ツꀀ Playfairツꀀ TJツꀀ etツꀀ al:Amoebicツꀀ infec-tion of the eye. Lancet 2:1537-1540, 1974 2) 石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮ほか:Acanthamoeba keratitis の 1 例.日眼会誌 92:963-972, 1988 3) Thebpatiphat N, Hammersmith KM, Rocha FN et al:Acanthamoeba keratitis:a parasite on the rize. Cornea 26:701-706, 2007 4) 福田昌彦,コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査委員会:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科 80:693-698, 2009 5) 石橋康久:パーカーインク染色.眼感染症の謎を解く.眼科プラクティス 28:230-231, 2009 6) 白石敦:凍結切片法.眼感染症の謎を解く.眼科プラクティス 28:232, 2009 7) 井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌 111:769-809, 2007 8) 石橋康久,木村幸子:アカントアメーバ角膜炎の臨床所見─初期から完成期まで─.日本の眼科 62:893-896, 1991 9) 塩田洋,矢野雅彦,鎌田泰夫ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過の病期分類.臨眼 48:1149-1154, 1994 10) Hurtツꀀ M,ツꀀ Neelamツꀀ S,ツꀀ Niederkornツꀀ Jツꀀ etツꀀ al:Pathogenicツꀀ Acan-thamoeba spp secrete a mannose-induced cytolytic pro-tein that correlates with the ability to cause disease. Infect Immun 71:6243-6255, 2003 11) Porツꀀ YM,ツꀀ Mehtaツꀀ JS,ツꀀ Chuaツꀀ JLツꀀ etツꀀ al:Acanthamoebaツꀀ kerati-tisツꀀ associatedツꀀ withツꀀ contactツꀀ lensツꀀ wearツꀀ inツꀀ Singapore.ツꀀ Amツꀀ J Ophthalmol 148:7-12.e2, 2009 12) 太刀川貴子,石橋康久,高沢朗子ほか:初期から完成期に至るまで経過観察できたアカントアメーバ角膜炎の 1 例.眼紀 46:1035-1040, 1995て用いる)が取り上げられてきたが,フルコナゾールがホスフルコナゾールに切り替えとなったり,ミコナゾールの採用中止など,個々の医療施設の事情もあり,現在ではボリコナゾールが主体となっている.ボリコナゾールは 1%で調整して眼局所に使用するという報告があり汎用されているが,眼刺激感は強く濃度について再検討が必要と思われる.このほか市販されている抗真菌薬であるピマリシンも有効と考えられている.点眼製剤は眼瞼炎などの副作用が強いので眼軟膏製剤を 1 日 5 回を目安に使用するとよい.なお,当然のことながら AK に対して公的に承認された治療薬およびその投与方法は存在しない.各施設の倫理委員会の承認を受ける,インフォームド・コンセントを取るなど適切な対応が必要である.AK において特に初期は角膜上皮内にアメーバが存在しており,角膜上皮 離はきわめて有効な治療法である.アメーバの存在する病的な上皮は基底膜との接着は緩く,簡単に がれることが多い.上皮 離の範囲は病的な上皮を含めて十分広くとったほうが望ましい. 離後の上皮の修復は比較的速やかである.上皮欠損が修復すると上皮内の浸潤が再び増加してくる.これは再度の擦過を行うサインとなる.重症症例では角膜実質への薬剤移行性を高める目的もあり週 2 回程度上皮 離を行う必要がある.一方,比較的軽症のものでは診断目的を含めた 1 回の上皮 離で治癒させることも不可能ではなく,柔軟な対応が必要と思われる.抗真菌薬の全身投与は議論のあるところである.イトラコナゾール,ミコナゾールは元来眼部への移行性が低い.ボリコナゾールは眼部(網膜など)への移行性が良

コンタクトレンズ関連角膜感染症-細菌感染を中心に-

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYI現代社会におけるCL関連細菌性角膜 感染症の位置づけ 1. 地域からみた細菌性角膜感染症の最近の傾向細菌性角膜感染症の起因菌には,時代による変遷や地域差が存在する.たとえば,発展途上国では依然グラム陰性菌が多いのに対し,日本,フランス,米国などの先進国ではグラム陰性菌の割合が減少してきている1 4).同じ国内においても,都市部と地方とでは角膜感染症発症の誘因や起因菌の傾向が異なってくる.たとえば,わが国で 2003 年に行われた日本眼感染症学会の主導による感染性角膜炎の全国調査結果5)では,角膜潰瘍患者由来のグラム陰性菌の割合は,平均 39%であったのに対し,筆者らの施設からの東京での検出率は 18%1)と,全国平均に比べ低い傾向にあった.首都で低率という傾向は上述のパリからの報告でも同様で,グラム陰性菌の割合は 17%であった3).先進国で近年,その誘因として最も頻度の高いものが,残念ながらわれわれ人類の文明の利器である CL なのである.よって,それはとりもなおさず CL 人口の多い地域に特有の傾向ともいえる.2. 角膜感染症のなかで重大さを増すCL関連角膜 感染症角膜感染症例全体のなかに占める CL 装用者の割合は,筆者らの施設からの報告1,2)およびパリからの報告3)はじめにわが国のコンタクトレンズ(CL)の歴史は 50 年以上に及び,その間に装用者数は増加の一途を辿り,現在では 1,500 万人以上と,日本の人口の 1 割を超えたといわれている.その背景には,さまざまな種類の素材の開発,および使い捨てレンズをはじめとする装用方法の多様化のほか,各種特殊レンズの登場も相まって,より多くの人々がその恩恵にあずかるようになったことがあげられる.しかし,CL を取り巻く状況を一言でいうならば,「多種多様化」であり,ともすればユーザーのみならず,医療機関側までもが混乱しかねないのが現況といえる.そこには,装用者数の増加,CL の種類や材質の増加,ニーズの多様化,ケア用品・ケア方法の多様化,法律改正に伴った CL 販売方法の変化や診療報酬上の改定,さらにはそれらが複雑に絡み合って生じると考えられる CL による眼合併症,とりわけ,CL 関連角膜感染症の増加といった現実が垣間みられる.そこで,本稿では,I現代社会における CL 関連細菌性角膜感染症の位置づけ,II角膜感染症のリスクファクターとしての CL,IIICL 関連角膜感染症の現状と対策,IV有効な予防法の確立への新たな提言,の 4項目に分け,何故 CL 眼合併症は減らないのか? という疑問も掘り下げて考察してみたい.(35)ツꀀ 1193ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 410 2295ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1129ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1193 1198,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症─細菌感染を中心に─Contact Lens-Related Corneal Infections ─ Bacterial Infections ─土至田宏*———————————————————————- Page 21194あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(36)起因する角膜感染症例(図 1)が増加している6).人間にとって便利なものは世の中に普及するわけであるが,自動車運転と同様,規則を守らなければ人体に危険を及ぼす.それ故,厚生労働省は平成 17 年に改正薬事法を施行し,CL を高度管理医療機器にランク付けしたのは記憶に新しい.2. 角膜生理学からみたリスクファクター角膜上皮は常に外界と接していて,眼では最も異物や病原体に接しやすい場所である.にもかかわらず,健常人で角膜感染症が生じないのは,角膜上皮のバリア機能が強固であることや,涙液中の分泌型 IgA(免疫グロブリンA)やラクトフェリンなどが感染防御の役割を演じているためと考えられている.事実,真菌に汚染されたソフト CL を家兎に装用させても,それだけでは角膜真菌症が発症しなかったという報告がある7).逆にいえば,角膜上皮バリア機能の破綻が感染性角膜炎発症の条件と考えることができ,CL 装用によりそれがひとたび破綻すると,感染が成立してしまう可能性がある.一方,CL の劣化や長時間にわたる CL 装用,CL の連続装用などにより角膜への酸素供給が減少すると,角膜代謝に影響が生じ,嫌気性代謝により乳酸が蓄積し,実質浮腫や内皮細胞への悪影響を及ぼし,角膜上皮細胞へは細胞分裂速度低下をもたらす結果,上皮のバリア機能破綻をきたしうる.最近の研究では低酸素環境下の角膜上皮において,自然免疫の基本的ネットワークとして注目されている Toll-likeツꀀ receptor(TLR)の発現の低下がもたらされ,感染防御機構の破綻につながる可能性も示唆されている8).こうした条件下で,CL の傷,汚れ, tting 不良や固着,ケア用品による障害,涙液分泌減少,涙液層破壊時間(tearツꀀツꀀ lmツꀀ breakツꀀ upツꀀ time)短縮などにより角膜上皮バリアの破綻をもたらされ,さらにレンズのケア不足やケア不十分,手指の洗浄不足,レンズケースの汚染などにより眼表面への病原体の付着が生じるなどの,これらの悪条件が重なることで角膜感染症発症に陥るものと考えられる.ともにそれぞれ 54.5%,50.3%と,いずれも過半数を占めていた.これら 2 都市に共通するのは,ともに先進国の首都であり,オフィスワーカーが多いこと,CL ユーザーが多いことなどがあげられる.特にこの自験例では,CL 装用が 2 位以下の糖尿病,眼手術後,ステロイド投与などを大きく引き離していた.つまり,CL 装用は現在のわが国における角膜感染症発症の最大のリスクファクターといえる.II細菌性角膜感染症発症のリスクファクター としてのCLツꀀ 1. 社会的背景からみたリスクファクター上述のごとく,いまや CL 装用は先進国の角膜感染症のリスクファクターとして最も頻度の高いものになってしまった.その背景には,CL 装用人口の増加や,装用開始年齢の低年齢化,使い捨て CL や頻回交換 CL を手軽に使えるものと誤解しての誤使用やケア不足,ケア不十分などが考えられる.また,アクセサリーとしての度なし CL 装用の増加もその一因に考えられる.その一方で,CL の購入方法にも問題があるケースが多い.医師の処方なしでインターネットなどで購入し,CL 眼障害をひき起こすケースも少なくない.使い捨て CL や頻回交換 CL の登場で減少すると思われてきた CL 眼合併症は,逆に増加傾向にあり,皮肉にも特にこれらの CL に図 1頻回交換型SCL装用者にみられた角膜潰瘍例本例は,シリコーンハイドロゲルレンズを装用していた.高酸素透過性であっても過信できない.角膜擦過培養で表皮ブドウ球菌が検出された.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091195(37)は 3 例全例がカンジダ属で,アカントアメーバは,水道水で洗浄していた従来型 SCL 装用例から 1 株検出された.これら検出病原体を装用レンズ別にみると,真菌がIIICL関連角膜感染症の現状と対策CL 関連角膜感染症の現状を知る際に,角膜感染症全体における最近の傾向も知っておく必要がある.1. 細菌性角膜感染症起因菌の最近の傾向細菌性角膜感染症の 4 大起因菌は,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,緑膿菌,モラクセラといわれてきた9)が,最近ではその傾向が変わってきているようである.筆者らの施設における 1999 年から 2003 年までの感染性角膜潰瘍例 122 例 123 眼からの培養検査結果1)では,上位 4位までは,全 102 株中,表皮ブドウ球菌 29 株(28.4%),黄色ブドウ球菌 14 株(13.7%),コリネバクテリウム 13株(12.7%),セラチア 8 株(7.8%)であった(図 2).反対に,肺炎球菌は 4 株(3.9%)と低率で,モラクセラは検出されなかった.もっとも,モラクセラは培養されにくい菌であるので,それが反映されていない可能性は否定しきれないものの,近年は細菌性角膜感染症の検出菌にも変化が生じている可能性がある.その一因として,CL 装用者における角膜感染症の症例数増加が考えられる.病原体側の変化としては,薬剤耐性の増加や菌交代現象などによる起因菌種の変化などが考えられる.2. CL関連角膜感染症起因菌の最近の傾向1999 年から 2003 年までの 5 年間に角膜感染症と診断した自験例 122 例 123 眼のうち(角膜ヘルペスは除外),CL 装用例は 66 例 67 眼(54.5%)で,過半数を占めた1,2).平均年齢は全体では 45±21(標準偏差)歳であったのに対し,CL 関連角膜感染症は 37±20 歳と若く,男女差は認めなかった.CL 装用人口は女性が多いことを勘案すると,男性で重篤例が多いといえる.装用レンズの内訳は従来型ソフト CL(SCL)が最も多く,ハード CL(HCL),頻回交換型 SCL,1 週間交換型SCL,毎日交換型 SCL と続いた2)(図 3).検出病原体のうち,最も多くみられたのはグラム陽性菌で 3/4 以上を占め,うち表皮ブドウ球菌が最も多く,黄色ブドウ球菌,コリネバクテリウム属の順に続いた(図 4).ついで,グラム陰性菌が 2 割弱を占め,セラチア属,アシネトバクター属,緑膿菌が検出された.真菌従来型SCL 25(37.3 )HCL 19(28.4 )頻回交換型SCL 17(25.4 )1週間交換型SCL 3(4.5 )毎日交換型SCL 3(4.5 )図 3CL関連角膜感染症例の装用CLの種類ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ うツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ントツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ?????????????属(2株)青:グラム陽性菌赤:グラム陰性菌黄:真菌黒:アカントアメーバその他のCNS (29株)その他のグラム陽性菌(9株)その他のグラム陰性菌(3株)図 2角膜感染症例から検出された病原体ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 性菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 性菌ツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀ ントツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ントツꀀ ーツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ の のツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 図 4CL関連角膜感染症例から検出された病原体———————————————————————- Page 41196あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(38)低下していた1)ことから,検体採取は抗菌薬投与前に行うべきである.IVより有効な予防法確立への提言これほどまでに医学の進んだ現代において,何故 CL関連眼合併症は減らないのか? と疑問に思う医療人は,筆者だけではないと思われる.最近の調査によると何らかの CL 眼合併症経験の頻度は 10%との報告があり11),単純計算から年間約 150 万人と推定されるが,これは実に,警察庁発表の交通事故発生状況における年間の交通事故者数の約 100 万人よりも多い数字である.交通事故の原因は,認知科学者のノーマンによるエラーの分類12)によれば,ついうっかり交差点に進入したり,一瞬のわき見やうとうとしていた,注意力散漫や無意識の状態などで生じる「ヒューマンエラー」によるものと,スピード違反や飲酒運転など,違反者が違反とわかっていて事故を起こす「ルール違反」とに分けられる.この分類を CL 眼合併症の原因にあてはめると,「ヒューマンエラー」には,ついうっかり期日が過ぎていた,ついうっかりつけたまま寝てしまった,左右の入れ間違いなどが該当し,「ルール違反」には,洗浄を怠った,もったいないと思い故意に過装用したり,使い捨てレンズを再使用するといった事例が該当する13).ヒューマンエラーは,厳密には単なるうっかりミスのことではなく,人間の本来もっている特性が人間を取り巻く広義の環境とうまく合致していないために,結果として誘発されたものと定義されている14,15).そのエラーを誘発する原因を,人間の特性や心理学的側面をも省みて調査し,その防止策を見出すべきものとある.すなわち,エラーを犯さないようにシステム改善の余地があるものをいう.ここで,CL 眼合併症が減少すると期待されて登場した,使い捨て SCL や頻回交換型 SCL を例にあげるが,これらは皮肉にも実際にはその装用者で眼合併症が増加している6).その原因として,ヒューマンエラーやルール違反によるものが多いと考えられる.最近の筆者らの教室におけるレンズ装用中止に至った症例の検討では,装用者の絶対数が最も多かった毎日交換型 SCL よりも頻回交換型 SCL のほうが約 2 倍頻度が高く,角膜潰瘍ソフトレンズの連続装用と 1 週間交換型,すなわち,両者とも連続装用の SCL のみで検出されている点が目につくことから,連続装用はリスクファクターと思われた(図 5).3. 最近の傾向を踏まえたうえでの治療戦略のための指標前項で示した自験例における視力予後を,生体から得られた角膜擦過物または眼脂培養の結果を参考に治療を行えた群と,培養結果が陰性であった群とで比較したところ,培養陽性群のほうが視力予後が良好であった2).日常臨床の場で困ることの多い角膜擦過培養結果が陰性であった場合,CL またはレンズ保存液からの検出菌をターゲットに治療を行ったほうが視力改善傾向を認めたことから,レンズ自体やレンズ保存液の培養結果は大いに参考にすべきと思われる.これまで述べてきたように,場所,時代ともに起因菌の変遷が生じうるものであるため,画一的な治療はそぐわないと思われ,起因菌に応じた個別の治療が重要と考える.そのための鉄則は,はじめに角膜所見や経緯などから起因菌を推定し,ついで同定した菌に対して抗菌作用のある抗菌薬を用いて治療を行うことである10).また,検体採取時に抗菌薬既投与であった群と未投与群との間での病原体検出率の比較では,未投与群では検出率が 2/3 であったのに対し,既投与群では約半数にまで青:グラム陽性菌赤:グラム陰性菌黄:真菌黒:アカントアメーバ連続装用SCL従来型SCLHCL(数字は検出株数)1週間交換型頻回交換型SCL毎日交換型SCLは未検出411811133341図 5装用レンズ別検出病原体———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091197(39)わざるを得ない18)とも言える.2)に関しては,たとえば SCL のケアにおいて,1 液ですべてこなせるのがうたい文句の MPS(多目的溶剤)がそれに該当しそうに思われるが,消毒効果が高いほど細胞毒性が強く,細胞毒性が弱いものほど消毒効果が弱い,といったジレンマがあり,完璧ではない.このあたりは企業による開発努力に期待すべきところであろう.近年,レンズケア剤とレンズ,眼表面との相互作用や相性の問題も指摘されており,各個人に合ったケア剤を見つけたらそれを使い続けるのがポイントといえる.つぎに重要なのは,被害が起きた際の拡大防止策であり,これには,3)エラーの早期発見・修正と,4)被害を最小とするために備えることとある17).これらを CL装用の場におきかえると,異常時の早期受診と定期検査,およびそのための患者教育が該当する13).ルール違反にあたる事項はこれとは別に,厳禁であることを再教育すべきと思われる.以上をまとめると,角膜感染症を含めた眼合併症発症防止のために目指すべきものとして,1: もっとわかりやすく,ヒューマンエラーの落とし穴の入り込む余地がないシステム構築を,メーカー・行政に要望し,2: どんなミスが生じているかそのためのデータを集発症率も頻回交換型 SCL のほうが高率であった(データ未発表).これら両レンズの最大の違いは,レンズケアの必要性の有無である.レンズケアの必要なレンズ装用の各手順において,入り込む余地のある失敗は各ステップで非常に多い(図 6)13).一方,ケアの不要な毎日交換型の場合,失敗の入り込む余地は図 6 の網掛け部分のみとなり,かなり低減される.また,コールド消毒時のこすり洗いの有無による頻回交換型レンズ装用者の眼合併症発生率の比較では,こすり洗いをしない群のほうが高率に角膜障害を生じていた16)ことから, レンズケアの際にこすり洗いを忘れないことが重要であるといえる.反対に,こすり洗いを忘れたり,不十分であると角膜障害発生率が増加すると思われる.これらから,レンズケアができない,あるいはうまくいかない装用者には,迷わず毎日交換型を勧めるべき,という提言が可能である.その裏づけとして,「医療におけるヒューマンエラー」の著者,河野龍太郎氏がヒューマンエラー防止策として提唱する 4 項17)が,CL の領域にもそのまま該当すると思われる.まずはじめに,1)作業の数を減らすこと(究極はやめてしまうこと),2)各作業でのエラー発生確率を低減することとある.1)に関しては,すでに毎日交換型レンズで達成していると思われるが,それでもエラーやルール違反をくり返す者に対しては,CL 禁忌といツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 離ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ tツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 図 6 CL装用の各手順において入り込む余地のある失敗〔文献 13 の図 2 を改変〕網掛け部分は,毎日交換 SCL でも起こりうるヒューマンエラー.———————————————————————- Page 61198あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(40)gins J, Traux D, Eye Infections, Blindness and Myopia. p101-118,ツꀀ Nova Science Publishers, USA, 2009 5) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972, 2006 6) 土至田宏,本田理峰,岩竹彰ほか:入院を要したコンタクトレンズ関連感染性角膜潰瘍例の最近の傾向.臨眼 63(9)(印刷中) 7) 大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌 48:60-67, 2006 8) 石橋康久,松本雄二郎,河野恵子ほか:角膜真菌症発症におけるコンタクトレンズの関与.第 1 報健常角膜の場合.日コレ誌 29:294-297, 1987 9) 秦野寛:「起因菌は何か」の考え方.あたらしい眼科 19:979, 984, 2002 10) 日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌 111:769-809, 2007 11) 医療対策部:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成 13 年度).日本の眼科 73:1381-1384, 2002 12) ノーマンツꀀ DA(野島久雄訳):第 5 章ツꀀ 誤るは人の常.誰のためのデザイン?認知科学者のデザイン原論,p169-228, 新曜社,1990.(原書:Norman DA:The Psychology of Everyday Thing. Basic Books Inc., New York, 1988) 13) 土至田宏:ヒューマンエラーとレンズケア.日コレ誌 50:210-214, 2008 14) 河野龍太郎:3.ツꀀ これまでの考え方とエラー発生のメカニズム.医療におけるヒューマンエラー,p22-27,医学書院,2004 15) 芳賀繁:2.ツꀀ ヒューマンエラーのメカニズム.大山正,丸山康則編,ヒューマンエラーの科学,p23-46,麗澤大学出版会,2004 16) 村上晶,土至田宏:使い捨てソフトコンタクトレンズ使用者のレンズ取り扱い状況.日コレ誌 47:189-192, 2005 17) 河野龍太郎:7.ツꀀ ヒューマンエラー対策の戦略と戦術.医療におけるヒューマンエラー,p61-87,医学書院,2004 18) 佐渡一茂:コンタクトレンズの種類と適応.眼科診療プラクティス 94,はじめてのコンタクトレンズ診療,p24-27,文光堂,2003め(これはすでに日本コンタクトレンズ学会感染性角膜炎全国調査として昨年から着手されており,結果に期待できると考える),3: ヒューマンエラー・ルール違反防止のための患者教育,定期検査の施行や,CL に関わるすべての施設・行政による患者教育の,3 つに分けてのエラー防止策が必要と思われる.これらのすべてを分けて行わないと,いつまでもエラーをおかした人間だけが問題視され,有効なエラー防止策やシステム改善が検討されずに終わってしまう恐れがあることを,この分野においても提言したい.おわりにCL 関連角膜感染症は,その原因,起因菌,頻度,社会的背景のいずれもが,時の流れとともに移り変わりつつある.その動向,ならびに解決策を常に注視することは,日々の臨床の現場において,目の前の患者に対して最善策を講じるために重要であると考える.本稿がその一助になれば幸いである.本稿の内容の一部は,第 45 回日本眼感染症学会総会(2008 年,福岡)において,2007 年度日本眼感染症学会学術奨励賞(三井賞)受賞講演「わが国におけるコンタクトレンズ関連感染性角膜潰瘍の動向」として発表した.文献 1) Toshida H, Inoue N, Kogure N et al:Trends in microbial keratitis in Japan. Eye Contact Lens 33:70-73, 2007 2) Inoue N, Toshida H, Mamada N et al:Contact lens-induced infectious keratitis in Japan. Eye Contact Lens 33:65-69, 2007 3) Bourcier T, Thomas F, Borderie V et al:Bacterial kerati-tis:predisposing factors, clinical and microbiological review of 300 cases. Br J Ophthalmol 87:834-838, 2003 4) Toshidaツꀀ H,ツꀀ Sutoツꀀ C:Ocularツꀀ bacterialツꀀ infections.ツꀀ Eds.ツꀀ Hig-

コンタクトレンズケースの微生物汚染

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYあるグラム陰性桿菌と,保存ケース内のアカントアメーバの存在には何らかの関係があるとも考えられる.したがって,保存ケースの微生物汚染状況は,CL 関連角膜感染症の発症に大きな影響を与える因子といえる.II眼表面から分離される菌とケースから 分離される菌は同一株か? 臨床的には,CL 関連角膜感染症において角膜擦過物・眼脂・結膜 拭い液など眼表面のサンプルから緑膿菌が分離され,同時に保存ケースからも緑膿菌が分離されると,迷うことなくそれら緑膿菌は同一株で,保存ケースから眼表面に持ち込まれたと判断される.しかし,一般的に使用されている簡易同定キットを用いた菌種同定の精度は必ずしも高くなく,診断法の限界を超えると菌種同定はできない.16S rRNA の塩基配列での菌種同定結果は,詳細かつ精度は高いが,それでも同一菌種での複数株が同じ株かどうかは検証できない.したがって前記の情報だけでは,単に眼表面のサンプルと,保存ケースから緑膿菌が分離されたとの情報にすぎず,それら緑膿菌が分子生物学的に同一株とは断言できない.緑膿菌には血清型(serotype)が少なくとも 14 種あり,遺伝子型(genotype)に至ると無数に存在する.土壌・淡水・海水などさまざまな自然環境から分離され,人間の居住空間では,台所・洗面所・風呂場など水場を中心とした湿潤環境から高頻度に分離される.さらに,それら多種多様の環境に適応するために,常に遺伝子変異をくIコンタクトレンズ関連角膜感染症と 保存ケース汚染ツꀀ かつてハードコンタクトレンズ(ハード CL)しかなかった時代も,さまざまな種類の CL・装用方法・ケア用品が利用できる現在も,CL 関連角膜感染症の起炎微生物は緑膿菌を中心としたグラム陰性桿菌である報告が多い.そして,感染症をきたした患者は,終日装用 CLの就寝時装用,ワンデイ CL の数日ないし数週間使用,保存ケース内液の交換をしない不適切なケア,などをしていることが多い.それらの事実は,CL 関連角膜感染症の発症は,レンズの種類にはさほど大きな影響は受けず,どちらかと言えば,装用者の装用・ケア方法の良し悪しに依存することを示唆しているともいえる.緑膿菌を中心としたグラム陰性桿菌は,原則として健常者の眼表面に常在していないため,CL 関連角膜感染症においてそれらの細菌が角膜擦過物や眼脂から分離された場合,CL 装用に伴って眼外から眼表面に持ち込まれているはずである.過半数の健常者にもあてはまることだが,CL 関連角膜感染症の患者の保存ケース内液を培養すると,緑膿菌を筆頭に多種類のグラム陰性桿菌が多量に分離される.したがって,CL 関連角膜感染症の起炎菌は保存ケース汚染菌であると推測される.わが国では,近年アカントアメーバ角膜炎の報告が増加しているが,アカントアメーバはグラム陰性桿菌や真菌を餌としている.まだ不明な点が多いが,保存ケース汚染菌で(29)ツꀀ 1187ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Eツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ スツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ンスツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 0 8503ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 3 18 15ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1187 1192,2009コンタクトレンズケースの微生物汚染Microbial Contamination of Contact Lens Storage Case江口洋*———————————————————————- Page 21188あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(30)色体 DNA を制限酵素で切断し,その切断された DNA断片をアガロースゲル電気泳動により分離・染色することで DNA 断片を観察する方法である.細菌の染色体DNA から得られる DNA 断片は長く,通常の電気泳動では分離が困難であるため,特殊な電場の中で電気泳動り返している.したがって,環境から菌が混入しているのであれば,一つの保存ケースに複数の遺伝子型の緑膿菌が同時に混入している可能性は十分考えられる.人体に常在していない微生物による感染症の場合,感染ルートを明確にすることは,感染制御の観点から重要である.そのためには,まずは人体のサンプルから得られる菌と,それ以外(環境や医療器機)のサンプルから得られる菌の遺伝子型の相同性を検証しなければならない.CL 関連角膜感染症であれば,角膜・眼脂・結膜 拭い液など,眼表面サンプルから分離される細菌と,その装用者の保存ケースから分離される同種菌とが,分子生物学的に同じであることを証明しなければならない.臨床的には,ある菌種の複数株において,幾つかの抗菌薬に対する薬剤感受性のパターンが同じであれば,同一株であると判断されることが多い.しかし実際には,同じ「感受性:susceptible」,「耐性:resistant」にも幅があり,感受性の判定は同じでも最小発育阻止濃度(minimumツꀀ inhibitoryツꀀ concentration:MIC)の値は違うことがよくある.無論その場合は,同種菌であっても遺伝子型は異なることを意味する.前記のとおり,同種菌であれば,株は違えども薬剤感受性のパターンは類似することが多く,現時点で遺伝子型の違いが臨床経過を大きく左右すると考えて薬剤の選択をする必要はない.しかし緑膿菌では,元来持ち合わせている遺伝的要素を消去することなく,新たな遺伝的要素が加わることで,人体を含めた多種多様の環境に適応しているとも考えられている1).幾つかの遺伝子変異が重なった結果,ある種の薬剤に対する感受性が変化する可能性は否定できない.したがって,各種遺伝子タイピングの手法で,株の分子生物学的相同性が検証できる昨今,CL 関連角膜感染症においても,本当に眼表面のサンプルから分離される菌と,保存ケースから分離される菌とが同一株であるかどうか,分子生物学的に検証しておく必要がある.IIIパルスフィールドゲル電気泳動微生物の遺伝子タイピングには幾つかの手法があるが,感染ルートの検索に使用される最も標準的な手法は,パルスフィールドゲル電気泳動(pulsed- eld gel electrophoresis:PFGE)である.PFGE は,細菌の染図 1CL関連緑膿菌性角膜潰瘍2 週間頻回交換ソフト CL を数カ月にわたって使用していた症例.YR123図 2緑膿菌性角膜潰瘍でのPFGEレーン 1(保存ケース),レーン 2(角膜擦過物),レーン 3(眼脂)の泳動パターンは同じである.Y:Yeast chromosome marker,R:Row range PFGE mark-er.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091189(31)め,その根源を強力に殺菌・除菌することで,保存ケースに混入する生菌量を減少させる方法論である.感染症は,起炎微生物の「病原性」と「生菌量」の 2 つの要素で修飾されるため,保存ケース内の生菌量が減少すれば,CL 関連角膜感染症の発症リスクを減らすことができる可能性がある.1)や 2)では,新たな製品開発に時間的・経済的負担が必要だが,3)では保存ケース近傍の除菌で CL 関連角膜感染症を予防できる可能性があり,仮に効果が証明されれば,すぐにでも装用者へ啓発できることでもある.V保存ケース汚染菌の由来「ケース汚染菌の根源を殺菌・除菌するケア方法」の開発には,汚染菌の由来を明確にする必要がある.そもそも,店頭に並んだ新品の保存ケースが,すでに 106 7個のグラム陰性桿菌で汚染されているとは考えにくく,元来ほぼ無菌であったはずの保存ケースが,使用中にどこかからか微生物が混入してくると考えるのが妥当である.多くの装用者が居住空間の水場で CL ケアをしていること,緑膿菌などのグラム陰性桿菌は,居住空間の湿潤環境から高頻度に分離されることを考慮すると,保存ケース近傍の水場に生息している環境菌が混入していると考えられる.健常な CL 装用者のなかで,保存ケースから緑膿菌やSerratia 属を検出した装用者において,その装用者のさまざまな居住空間からも同種菌の分離を試み,それらをPFGE で精査すると,ケース真下や,ケースから半径 1 m 以内(片手で届く範囲)の水場から分離される緑膿菌や Serratia 属と,保存ケースから分離される菌とが同じ遺伝子型であることがわかる.一方で,同じ装用者の居住空間において,ベランダなどの苔が生えているような屋外の湿潤環境から分離される緑膿菌とは遺伝子型が違うことも判明した(図 3,4).その他,CL ケア時に使用する水道の蛇口と,装用者の手指からも分離を試みた.保存ケースから分離された株と同じ遺伝子型の株は,一部の装用者で保存ケースを触った直後の手指から分離された以外は,検出されていない.当然のように思える結果だが,PFGE で精査してはじめて,保存ケース汚染菌の由来は室内の水場,特にケースを置いている真を行う.比較する複数の細菌において遺伝子の塩基配列が同じであれば,すべて同じ DNA 断片が生じるため,その泳動パターンは同じになる.逆に塩基配列が異なれば,異なる長さの DNA 断片が生じるため,異なった泳動パターンを示す.院内感染や食中毒などの感染源や感染経路の特定には必須の検査であり,他科領域では古くから比較的よく使用されている遺伝子タイピングの手法である2,3).CL 関連緑膿菌性角膜潰瘍(図 1)において,眼表面のサンプルから分離された緑膿菌と,保存ケースから分離された緑膿菌とを PFGE で精査すると,それらの遺伝子型が一致することが確認できる(図 2).これまで当然と考えられながらも,分子生物学な検討は十分になされていなかったため,報告4)は少ないが,重要なデータである.以上のデータから,CL 関連角膜感染症の起炎菌は保存ケース汚染菌と同一株であるといえる.仮に,眼表面のサンプルから微生物がまったく分離されなかった場合,保存ケース内液を培養して分離される微生物をターゲットに治療すればよいという考え方の根拠になる.IV感染制御保存ケース汚染菌が角膜に感染していることが明らかならば,CL 関連角膜感染症の発症のリスクを減らす方法論として,感染制御の観点からつぎの 3 点をテーマとして設定することができる.すなわち,1)保存ケース汚染菌をこれまで以上に殺菌・静菌できる多目的溶剤の開発,2)菌がより付着しにくい素材の CL の開発,3)汚染菌の根源を殺菌・除菌するケア方法の開発,である.1),2)は,いわば「保存ケースは汚染される」ことを前提とした発想といえる.しかし,1)で「より殺菌・静菌できる多目的溶剤」とは,「より眼表面への毒性が強い」ことを意味し,実際の開発には障害が多い.2)に関しては,近年のソフト CL ではシリコーンハイドロゲル製の CL が徐々に普及してきているが,シリコーンハイドロゲル製 CL では菌の付着を助長し感染の危険が高いとの報告5)もある.世界的にみて,より菌が付着しにくい CL 素材の開発へは向かっていないようである.一方 3)では,「保存ケースをいかに汚染しないか」という発想を元に,保存ケース汚染菌の根源を突き止———————————————————————- Page 41190あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(32)下の環境,あるいはケースから半径 1 m 以内の水場に生息するグラム陰性桿菌であると,断言できる.VI保存ケース内生菌量「ケース汚染菌の根源を殺菌・除菌するケア方法」で保存ケース汚染菌の混入を阻止できるかどうか,仮にある程度阻止できても,極微量でも混入した菌が数カ月の間にケース内で異常に増殖していないかどうか,を検証するため,保存ケースに 106 CFU/ml 以上の生菌量が確認された装用者において,ケース近傍のアルコール綿での除菌を数カ月にわたって施行した.施行前後での保存ケース内生菌量の変化を検討すると,多くの装用者で生菌量は劇的に減少し(図 5),保存ケース近傍の除菌で保存ケース汚染菌の混入が阻止できることが判明した.よって,新たな多目的溶剤や新たな素材の CL の開発も重要であるが,「保存ケース近傍の除菌」はすぐにでも患者へ指導することができるため,ケア方法の一つとして啓発すべきと思われる.しかし,ソフト CL のケア方法の中心が,煮沸消毒から 2 段階中和方式のコールド消M123Y図 3 健常者から分離されたSerratia marcescensのPFGEレーン 1 と 2(保存ケース),レーン 3(ケース真下の環境サンプル)の泳動パターンは同じである.M:lambda ladder,Y:Yeast chromosome marker.MM12345図 4別の健常者から分離された緑膿菌のPFGEレーン 1(保存ケース),レーン 2 と 3(ケース真下),レーン 4(ケースから 1 m 以内の水場),レーン 5(屋外の水場).同じ緑膿菌だが,屋外の水場から分離された株のみ泳動パターンが違う.①②③④前(×105希釈100??)後(原液100??)図 5保存ケース内生菌量①②は普通寒天培地,③④は MaConkey 寒天培地.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091191(33)ーバの存在する保存ケースと,アカントアメーバが存在しない保存ケースで菌の検出状況に差がないか,あるいは,健常者の保存ケースと細菌性角膜感染症例の保存ケースでの菌の検出状況に差がないか,DNA クローンライブラリー解析を施行すれば,CL 関連角膜感染症に関する新たな知見が得られる可能性がある.毒,そして多目的溶剤へと,より簡便な方法に変遷したことを考慮すると,これまでのケアに加えて,わずかでも新たな作業が加わることに順応できない装用者が多いと考えられる.保存ケースへの環境菌混入を防ぐための,殺菌・除菌ができる小さくて軽量のケース付属品などの開発にも目を向け,装用者にとってはこれまで同様の簡便なケアで,かつ感染症のリスクを減らすことのできる製品を模索すべきと思われる.そのような製品を使用した場合と,使用しない場合とで,保存ケース汚染状況を検証してみることも重要である.VII今後の課題保存ケース汚染菌が環境菌であると判明すると,つぎに問題となるのは,眼科医にとってはなじみの薄い環境菌の把握である.当然,眼表面サンプルから分離される菌種とはまったく違う,聞き慣れない細菌群(真菌やアメーバも含まれる)を対象としている.それにもまして,土壌などの環境菌の 99%は培養不可能菌といわれており6),眼科の日常診療で施行している培養テクニックで,すべての環境菌を把握することなど,到底不可能である.培養というバイアスをかけることなく,菌群集を把握する手法として,DNA クローンライブラリー解析(図6)が確立されており,土壌・汚水・腸内フローラなど,複数種の環境菌を多量に含んでいると思われるサンプルの DNA クローンライブラリー解析では,培養不可能菌群の存在が明らかとなっている.CL 保存ケースにも,これまでわれわれの知り得なかった微生物が混入している可能性が十分に考えられ,それらが既存の培養可能であったさまざまな菌とどのように関係しているのかは,今後の重要な検討課題と思われる.たとえば,「CL 装用に伴った Serratia による角膜潰瘍」と考えていた症例が,実際はこれまで培養不可能であった別種の菌が主たる起炎菌であり,Serratia はその菌にいつも付随しているだけであったが,人類のもつ培養テクニックではSerratia のみが分離されていた,などという事態を想像することもできる.アカントアメーバ角膜炎症例の保存ケースに,特異的,あるいは高頻度に存在する培養不可能な環境菌がいるかもしれない.健常者でアカントアメツꀀ 菌群集サンプルDNA抽出通常の培養DNA混合物 PCR16S rDNA混合物クローニング大腸菌形質転換菌の培養シークエンス系統解析???????????B08A02A03C05D11???????????????B12D06コロニーをピックアップし簡易同定または16S rDNAをPCR増幅後シークエンス図 6DNAクローンライブラリー解析培養というバイアスによって,培養不可能菌は淘汰されるが,菌群集から直接 DNA を抽出し大腸菌へクローニングすれば,培養不可能菌の存在が明らかになる.PCR:polymeraseツꀀ chain reaction.———————————————————————- Page 61192あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(34) 4) de Melo GB, Aggio FB, Ho ing-Lima AL et al:Pulsed- eldツꀀ gelツꀀ electrophoresisツꀀ inツꀀ theツꀀ identi cationツꀀ ofツꀀ theツꀀ origin of bacterial keratitis caused by Pseudomonas aeruginosa. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 245:1053-1054, 2007 5) Kodjikian L, Casoli-Bergeron E, Malet F et al:Bacterial adhesion to conventional hydrogel and new silicone-hydrogel contact lens materials. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 246:267-273, 2008 6) Amann RI, Ludwig W, Schleifer KH:Phylogenetic identi cation and in situ detection of indivisual microbial cells without cultivation. Microbiol Rev 1:143-169, 1995文献 1) Mathee K, Narasimhan G, Valdes C et al:Dynamic of Pseudomonas aeruginosa genome evolution. Proc Natl Acad Sci USA 105:3100-3105, 2008 2) Miranda G, Kelly C, Solorzano F et al:Use of pulsed- eld gel electrophoresis typing to study an outbreak of infec-tion due to Serratia marcescens in a neonatal intensive care unit. J Clin Microbiol 34:3138-3141, 1996 3) Srinivasanツꀀ A,ツꀀ Wolfendenツꀀ LL,ツꀀ Songツꀀ Xツꀀ etツꀀ al:Anツꀀ outbreak of Pseudomons aeruginosa infection associated withツꀀ exible bronchoscopes. N Engl J Med 348:214-220, 2003