0910-1810/11/\100/頁/JCOPYられない例でも圧痛がある.炎症がさらに進行すると膿点から自然に自壊排膿し,炎症所見が軽減して治癒に向かう.治療は,皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus:S.aureus)や表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis:S.epidermidis)が起炎菌であることが多いため,セフェム系あるいはニューキノロン系抗菌薬の投与が第一選択となる.発症初期で症状が軽微な場合には抗菌薬の局所投与(点眼あるいは眼軟膏)のみでも有効であるが,眼瞼の腫脹,自発痛・圧痛などの炎症所見が強い場合には,抗菌薬の内服を併用したほうがよい.膿点が認められれば,切開・排膿を行う.これはじめに眼瞼の炎症を「眼瞼炎(blepharitis)」とよぶが,その原因には感染,全身疾患(肝腎疾患,心疾患,甲状腺疾患など),アレルギー体質(アトピーを含む)などがある.今回は,感染に伴う眼瞼炎に絞って述べる.各論に入る前に,眼瞼の正常な構造を理解しておく必要がある(図1).眼瞼の構成組織には,皮膚,皮下結合組織,眼輪筋,上眼瞼挙筋,Muller筋の他,Meibom腺(瞼板腺),Zeis腺(皮脂腺),Moll腺(汗腺)などの分泌腺がある.このうちどの部位に炎症が生じているかによって病態は異なる.I麦粒腫(hordeolm)麦粒腫とは眼瞼の分泌腺に生じた急性化膿性炎症であり,睫毛の毛.に付属するZeis腺またはMoll腺に生じたものを外麦粒腫,Meibom腺に生じたものを内麦粒腫とよぶ.したがって,外麦粒腫は眼瞼の皮膚側に,内麦粒腫は瞼結膜側に認められる.一般に麦粒腫は下眼瞼に比べ上眼瞼に多く,眼瞼の中央よりむしろ一方に偏って生じることが多い.好発年齢は10~20歳代で,50歳代にはあまりみられない.特に性差はない.診断は,眼瞼の急性化膿性炎症,すなわち限局性の発赤と有痛性腫脹から容易に行える.化膿性炎症の進行した例では,外麦粒腫では皮膚側に,内麦粒腫では瞼結膜側に膿点を確認することができる.一般に,膿点が認め(3)311*TomoSuzuki:京都市立病院眼科〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町1-2京都市立病院眼科特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):311.316,2011眼瞼炎Blepharitis鈴木智*図1上眼瞼のシェーマ前頭筋眼瞼皮膚眼瞼縁Moll腺(汗腺)Meibom腺(瞼板腺)Muller筋上眼瞼挙筋瞼結膜瞼板眼窩脂肪眼窩隔膜眼輪筋Zeis腺睫毛312あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(4)ある.乳幼児では,霰粒腫の摘出は全身麻酔下で行わなければむずかしいため,その適応は慎重でなければならない.III眼瞼縁炎(marginalblepharitis)眼瞼縁炎は,便宜的に,睫毛の生えている領域(皮膚粘膜移行部より前方)の炎症を前部眼瞼炎(anteriorblepharitis),Meibom腺領域(皮膚粘膜移行部より後方)の炎症を後部眼瞼炎(posteriorblepharitis)と分類している.原因には,感染性(ブドウ球菌などの細菌性と単純ヘルペスウイルスなどのウイルス性)と非感染性〔脂漏性(seborrheic),酒.性(rosacea)〕がある.1.前部眼瞼炎(anteriorblepharitis)眼瞼縁の睫毛根部におけるブドウ球菌(おもにS.epiderimidis,S.aureus)の感染が原因である.ブドウ球菌のもつ外毒素(dermatonecrotoxin)が原因となって眼瞼皮膚のびらんや潰瘍を生じ,長期化すると睫毛が抜け,睫毛乱生や睫毛禿になることもある.眼瞼縁炎に伴って生じる慢性結膜炎や点状表層角膜症(SPK)は,ブドウ球菌そのものが結膜上皮や角膜上皮に感染して生じるものではなく,外毒素に対する上皮の反応である1).そのため,角膜の病変部を擦過し培養してもブドウ球菌を検出することはないが,眼瞼縁や結膜.の培養によって検出できる.ブドウ球菌の感染は,高齢者,糖尿病患者,アトピー性皮膚炎患者などに好発し,これらの患者では治療に抵抗して慢性の経過をとることが多い.ブドウ球菌性眼瞼炎では,一般に眼瞼縁の皮膚表面に堅くてもろいフィブリン様の膜様物を生じ,睫毛の生育とともにそれが持ち上げられcollaretteとよばれる特徴的な所見を呈する(squamoustype)(図3).ときに,睫毛根部に堅い痂皮を生じ,鑷子などでその痂皮を.がすと毛根部に小さい潰瘍が認められることもある(ulcerativetype).結膜の変化はあまり多くはないが,球結膜充血や軽度の乳頭増殖を伴った慢性結膜炎を認めることがある.角膜の合併症として,外毒素による角膜下方1/3を中心としたSPK(図4),免疫反応によるカタル性角膜浸潤や角膜フリクテンなどが認められることもある.慢性炎症が持続すると,後部眼瞼炎を合併することによって疼痛の軽減・早期回復が得られる.しかし,排膿時の腫脹部の無理な圧迫は炎症を周囲に波及させる危険があり避けるべきである.高齢者で再発をくり返す場合には糖尿病が背景にあることがある.乳幼児では,化膿性炎症が急速に周囲に波及し,眼窩蜂巣炎に進展する場合もあるので注意深く経過観察を行う必要がある.II霰粒腫(chalazion)霰粒腫とは,Meibom腺(ときにZeis腺)の梗塞によって生じる瞼板内の無痛性非細菌性の慢性肉芽腫性炎症である.梗塞が続くとMeibom腺は隣接する組織を巻き込んで肉芽を形成し,その周りを線維性組織からなる皮膜が取り囲んで腫瘤を形成する.霰粒腫は,思春期から中年にかけて広くみられ,特に性差はない.典型的には,眼瞼の無痛性の硬結として触診されるが,大きいものは外見からもわかる.経過中,細菌感染による急性化膿性炎症を生じることがあり,急性霰粒腫ともよばれる(図2).急性霰粒腫は内麦粒腫との鑑別が困難であるが,治療は同様である.急性霰粒腫は化膿性炎症の消退後,硬結を残すのに対し,内麦粒腫は硬結を残すことはなく治癒するため,後になって鑑別しうる.霰粒腫は放置しても自然消退することは少なく,治療の原則は外科的な摘出である.大きな霰粒腫が放置されると角膜の不整乱視を生じることがあり,注意が必要で図2急性霰粒腫(5)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011313連して,角膜にSPK,炎症細胞浸潤,血管侵入などを生じる病態を「Meibom腺炎角結膜上皮症」とよぶ2).その病型は,角膜上の結節病変を特徴とする「フリクテン型(図5)」と,結節性病変は認めずSPKが主体である「非フリクテン型(図6)」の2つに大別できる.どちらの病型も,Meibom腺炎の重症度と角膜上皮障害の重症度は相関する.フリクテン型は,圧倒的に若年女性に多く,特に思春期ごろに発症して再発をくり返す.乳幼児に発症することもあるが,高齢者に認められることはまれである.かつては,結核菌やブドウ球菌に対するアレルギーなどと考えられてきたが,実際には患者からこれらの病原体を検出することはまれである.患者のMeibom腺脂質の培養結果3)および動物モデルの実験4)から,フリクテン型の原因はPropiobacteriumacnesによる遅延型アレルギー反応(DTH)の可能性が高いと考えられている.フリクテン発症以前に,幼少時より麦粒腫や霰粒腫の既往歴がある症例が多く,遺伝的素因の関与も推測される3).一方,非フリクテン型も,若年女性に多い印象ではあるが,性別や年齢に一定の傾向があることはいまだ報告されていない.Meibom腺脂質の細菌培養では,おもな検出菌が20~40歳代ではP.acnesであるのに対して,70歳代ではブドウ球菌である(高橋順子ほか:第41回日本眼感染症学会で発表,2004)ことから,非フリクテンがある.角膜にSPKを認める場合には,ドライアイ(おもに瞼裂部を中心に角膜のみならず結膜にも点状染色が認められる),アトピー性角結膜炎(角膜下方に点状染色を認めるが,眼瞼にアトピー性皮膚炎を認める)などと鑑別が必要である.なお,若年者(特に女性)の角膜下方のSPKでは,睫毛根部のcollaretteなどは認めずMeibom腺炎を伴っている場合が多く,Meibom腺炎角結膜上皮症の一病型と考えられる2).ブドウ球菌性眼瞼縁炎は,正しい治療を行うことで比較的早く症状を軽快させることができる.治療は,瞼縁の清拭に加え,ブドウ球菌に感受性のある抗菌薬の投与が中心となる.具体的には,オフロキサシン(タリビッドR)眼軟膏が有効であり,点眼ではガチフロキサシン(ガチフロR)などの第四世代のニューキノロンが有効なことが多い.ブドウ球菌は耐性を獲得しやすく,慢性化すると治療が困難となることも多いので,瞼縁の菌培養を行い感受性を調べたうえで抗菌薬を投与し,濫用しないよう注意が必要である.2.後部眼瞼炎(posteriorblepharitis)後部眼瞼炎はMeibom腺炎と同義である.細菌感染に伴うMeibom腺そのものの炎症(Meibom腺炎)に関図3前部眼瞼炎(ブドウ球菌性眼瞼炎)睫毛根部にcollaretteを認める.慢性炎症により球結膜の充血とMeibom腺機能不全を合併している.図4前部眼瞼炎(ブドウ球菌性眼瞼炎)ブドウ球菌の外毒素により角膜下方1/3にSPKを生じることがある.314あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(6)型の起因菌も年齢によって変化している可能性が推測される.フリクテン型の重症例(図7)とヘルペスウイルスによる壊死性角膜炎(図8)は,ともに角膜実質内に細胞浸潤や血管侵入が認められるが,壊死性角膜炎では通常Meibom腺炎は認められず高齢者に多いことなどから鑑別できる.細菌増殖によるMeibom腺炎が角膜上皮障害の原因であるため,その治療が基本となる.P.acnesに対して,初期は殺菌的に作用するセフェム系抗菌薬,その後静菌的に作用するクラリスロマイシンの内服投与で図5Meibom腺炎角結膜上皮症(フリクテン型)Meibom腺炎および角膜下方の炎症細胞浸潤,表層血管侵入,球結膜充血を認める.ab図6Meibom腺炎角結膜上皮症(非フリクテン型)a:Meibom腺炎および角膜上方からの表層血管侵入を認める.b:フルオレセイン染色で角膜上方のSPKを認める.図7Meibom腺炎角結膜上皮症(フリクテン型)の重症例角膜に大きな結節性細胞浸潤とそれに向かう表層血管侵入,眼瞼縁全体に及ぶMeibom腺炎を認める.図8ヘルペス性壊死性角膜炎角膜内に高度の炎症細胞浸潤と角膜表層および実質内の血管侵入,球結膜の充血を認める.(7)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011315られる.アトピー性皮膚炎に合併することもある.眼瞼およびその周囲に,臍窩を伴った小水疱が散在する.皮診は片眼の上下眼瞼に広がることが多い(図9)が,水痘帯状疱疹ウイルスによる眼瞼ヘルペスと異なり,顔面の正中線を越えて両眼瞼に皮診が認められることもある.感冒様の前駆症状に続いて,発熱や耳前リンパ節の腫脹,圧痛を伴う.通常,皮疹は約1週間で瘢痕を残さず自然治癒に向かう.2.水痘帯状疱疹ウイルス初感染は水痘の形をとり,その後ウイルスが三叉神経節に潜伏し,後に帯状疱疹の形で発症する.したがって,小児にはまれで,50歳以上に多く,特に高齢者,糖尿病患者,免疫能の低下した患者などに発症する.初感染は両眼性で上下眼瞼に認められるが,眼部帯状疱疹は,正中線で境された片側の眼瞼,前頭部,鼻部に紅斑と皮膚の疼痛が先行する(図10).三叉神経第1枝領域では片眼の上眼瞼に,第2枝領域では片眼の下眼瞼に皮診を認める.ときに,第1枝,第2枝領域ともに皮診を認めることもある.鼻背から鼻尖部は三叉神経第1枝(眼神経)の支配領域であり,角膜,虹彩にはこの分枝である鼻毛様体神経が分布しているため,鼻背から鼻尖部に皮疹が存在するときは,角膜炎,結膜炎,強膜炎,虹彩毛様体炎,網膜炎,外眼筋麻痺などの合併症に注意Meibom腺内の細菌叢のバランスを整える.点眼もセフェム系抗菌薬が有用である.ステロイド薬については,初期に眼表面の炎症が強い場合には短期的な投与が必要になる場合がある.眼表面の炎症が改善した時点で治療を終了すると再発しやすい.これは,Meibom腺炎に関連していると考えられる細菌が十分に除菌されていないためと考えられる.Meibom腺炎の改善は,眼表面の炎症の沈静化より少し遅れることに注意しなければならない.重症例および難治例にはMeibom腺内の抗菌薬の濃度を高める目的で感受性のある抗菌薬の点滴を行うことも効果的である5).穿孔例や瘢痕の強い症例については角膜移植を行うが,原則として表層角膜移植を選択すべきである.IV眼瞼ヘルペス(lidherpes)眼瞼ヘルペスは,その原因によって単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)によるものと水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)によるものに分類される.1.単純ヘルペスウイルス初感染は大部分が乳幼児に起こり,そのほとんどは不顕性感染であるが,1~10%が顕性化して初感染像を呈する.したがって乳幼児に多いが,まれに成人にも認め図9眼瞼ヘルペス(HSV)上下眼瞼縁を中心に小水疱が散在している.図10眼部帯状疱疹右眼瞼の発赤,腫脹と右前頭部の発赤を認める.ヘルペス特有の水疱は目立たないが,眼窩蜂巣炎などと見誤らないようにしたい.316あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(8)ラックスR眼軟膏(1日5回)の塗布とともに,混合感染の予防のために抗菌薬の眼軟膏(1日3回)を併用する.特に帯状疱疹の場合は,皮膚科と連携して入院のうえアシクロビルの点滴静注を行い,早期にウイルス量を減少させる必要がある.効果的な治療が施されなければ,眼瞼に瘢痕を残し閉瞼不全,遷延性角膜上皮欠損の原因となりうる(図11)ため注意が必要である.文献1)ThygesonP:Complicationsofstaphylococcicblepharitis.AmJOphthalmol68:446-449,19692)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20003)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkeratitisassociatedwithmeibomitisinyoungpatients.AmJOphthalmol140:77-82,20054)SuzukiT,SanoY,SasakiOetal:OcularsurfaceinflammationinducedbyPropionibacteriumacnes.Cornea21:812-817,20025)鈴木智,横井則彦,木下茂ほか:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科15:1143-1145,1998しなければならない.臍窩を伴った小水疱は膿疱となり,やがて破れてびらん・小潰瘍となるが,次第に痂皮を形成し,軽度の瘢痕を残して治癒することが多い.眼瞼ヘルペスについては,HSV,VZVともに,ゾビ図11眼部帯状疱疹後の上眼瞼の瘢痕初期に入院+点滴加療ができず,ヘルペスによる皮疹は軽快したものの眼瞼~前額部にかけての炎症性瘢痕が残り,閉瞼不全と角膜上皮障害が持続した.