ポリープ状脈絡膜血管症PolypoidalChoroidalVasculopathy(PCV)井上麻衣子*はじめにポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascu-lopathy:PCV)は,1980年代始めにCYannuzziによって初めて提唱された疾患概念である.PCVはインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyanineCgreenCangi-ography:ICGA)により描出される脈絡膜の異常血管網とその先端に生じるポリープ状病巣を特徴とする.しかしながら,PCVが加齢黄斑変性(age-relatedCmacu-larCdegeneration:AMD)の特殊型なのか,AMDとは異なる疾患であるのかは明確にはなっていない.近年,イメージング機器の進歩により,脈絡膜がより詳細に観察可能となり,脈絡膜疾患の疾患概念が大きく変わってきている.本稿ではCPCVにおいて,疫学や治療データを紹介し,さらにはイメージング機器を用いた最新の疾患概念について解説する.CI疫学PCVの診断のゴールドスタンダードはCICGAであるため,疫学研究においてCPCVの有病率のC50歳以上の調査は困難であったが,BeijingEyeStudyでは光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)を診断基準に用いてC0.5%と報告している1).日本ではCPCVはAMDの特殊型として扱っているが,PCVはCAMDの約半数(54.7%)を占めるとされている2).また,PCVは白色人種よりも黒色人種やアジア人に多いとされていたが,欧米ではCICGAを行わない施設も多いために実際は白色人種にもCPCVは多いという意見もある3).性別に関しては,日本では男性が多いが,欧米ではその逆で女性が多い.これは日本での男性での喫煙率の高さに関連するといわれている4).また,PCVの発症年齢はAMDより若く,ドルーゼンを伴わない症例も多いため,PCVとCAMDの遺伝背景が基本的に似ているといわれる一方で5),PCVとCAMDの疾患概念そのものが異なるのではないかという議論も長らくある.CIIPachychoroidspectrumとしてのPCV最近では新たな検査機器の登場によりCPCVの疾患概念が変わりつつある.OCTにてポリープならびに異常血管網はCBruch膜と網膜色素上皮の間に局在する(dou-blelayersign)とされ,PCVはタイプC1新生血管(網膜色素上皮より下に新生血管が局在する)の特殊型と考えられるようになった6).また,ICGAにて,脈絡膜血管透過性亢進所見(造影中後期にみられる多巣性の脈絡膜内の蛍光漏出所見)をもつ割合がCAMDよりCPCVで有意に高いということが報告された7).脈絡膜血管透過性亢進のもつ意味は明らかではないが,脈絡膜肥厚に関連するといわれており,また中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioret-inopathy:CSC)の特徴的所見でもあることからも8),PCVとCCSCには共通の病態があることが示唆されている(図1).さらに,enhanced-depthCimagingCOCTが登場する*MaikoInoue:横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科〔別刷請求先〕井上麻衣子:〒232-0024横浜市南区浦舟町C4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(13)C1651図1中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)(a)とポリープ状脈絡膜血管症(PCV)(b)のインドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)(上),OCT(下)所見両者ともCICGAにて脈絡膜透過性亢進所見()を認める.C中心性漿液性タイプ1新生血管脈絡網膜症ポリープ状脈絡膜血管症PachychoroidpigmentPachychoroidepitheliopathyneovasculopathy経年図2Freundらが提唱するpachychoroidspectrumの流れ図3PolypoidalCNV症例a:カラー眼底写真.滲出性変化に伴う硬性白斑ならびに出血を認める.b:OCT所見.脈絡膜新生血管(CNV)ならびに網膜浮腫を認める.脈絡膜は薄い.Cc:FA所見.CNVに一致した蛍光漏出を認める.d:ICGA所見.CNVの先端部に複数のポリープ状病巣を認める().図4PolypoidalCNV症例a:カラー眼底写真.Cb:早期CICGA所見.タイプC1新生血管の先端部に多数のポリープを認める.Cc:OCT所見.ポリープ状病巣(.)を網膜色素上皮とCBruch膜の間に認める.Cd:Cross-sectionalCOCTA所見.ポリープ内にフローを認める().正常血管()と同輝度であり,血流変化であることがわかる.Ce:後期CICGA所見.タイプC1新生血管を示すプラークを認める.Cf:EnCfaceCOCTA所見.ポリープは検出できない(C.).タイプC1新生血管が観察できる().g:EnCfaceCOCTAに対応するセグメンテーションライン.(文献C14より許可を得て転載)1654あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(16)C図5ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の2症例a,b:EnfaceOCTA所見.異常血管網が伸びていき,その先端部にポリープがある(緑線と赤線のクロス部分).c,d:OCT所見.2症例共に異常血管網の下にCpachychoroidを認める.また,異常血管網は網膜色素上皮とCBruch膜の間に局在している.(文献C14より許可を得て転載)Cab図6加齢黄斑変性(AMD)とポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の画像所見a:AMD,b:PCB.両者ともCOCTにて急峻な網膜色素上皮の隆起()を認めるが,PCVではCICGAにてポリープ状病巣を認めるのが鑑別のポイントとなる.図7ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)症例(63歳,男性)a:カラー眼底写真.視力(1.0).網膜下出血を認める.b:FA所見.出血によるブロックを認める.Cc:ICGA所見.ポリープ状病巣を認める.d:OCT所見.漿液性網膜.離とCPEDを認める.C図8網膜細動脈瘤症例(70歳,女性)a:カラー眼底写真.視力(0.06).黄斑部に広範な網膜下出血を認める.Cb:広角CICGA所見.出血によるブロックと,ポリープに類似する過蛍光な病変を認める.Cc:OCT所見.網膜下出血を認めるが,RPEのラインは保たれている.Cd:ICGAの拡大所見.動脈瘤であることが確認できる.状病巣が網膜色素上皮を押し上げることで網膜色素上皮が急峻な立ち上がりを示す隆起性高反射として認められる.しかしながら,AMDでも,OCTにて急峻な立ち上がりを認める場合はあるので,検眼鏡的所見・OCT・ICGAを用いて総合的に判断することが望ましい(図6).CSCもCpachychoroidCspectrumに含まれ,脈絡膜が厚く,ICGAにて脈絡膜血管透過性亢進所見を有することからCPCVの鑑別疾患となるが,PCVはCICGAでポリープ状病巣を認めるため,比較的容易に鑑別できる.また,PCVはまれに大きな網膜下出血を生じて視力低下をきたすことがある.その場合にCICGAにても蛍光遮断でポリープが造影されず,網膜細動脈瘤破裂と鑑別が困難な場合があるが,網膜細動脈瘤破裂は高齢者の女性に多いのに対して,PCVは比較的若年者の男性に多いという違いがある.さらにはCOCT所見が鑑別に有効である.網膜細動脈瘤破裂は内境界膜下出血や網膜下出血を呈するが,網膜色素上皮は保たれているのに対してCPCVは網膜色素上皮の変化がみられるのが大きな違いである(図7,8).CV自然経過PCVの予後はさまざまな経過をたどることが知られている.UyamaらはCPCVの自然経過について報告したが,平均C39.9カ月で約半数が経過良好であったが,残りの半数は出血や滲出性変化より,最終的には萎縮や硝子体出血を生じ視力低下をきたしたと述べている15).ShoらはCAMDとCPCVの臨床所見を比較して,発症から最初の受診までの期間がCPCVは長く,病変の進行がゆっくりであり,視力もよい傾向にあると報告している16).したがって,AMDと比較するとCPCVは視力良好な症例が多いものの,長期でみていくと視力低下をきたし得る疾患であると考えられる.中にはポリープが自然退縮することもあるが,発症期間が長くなるにつれて病変サイズも大きくなっていくため,視力低下をきたす前に治療にあたることが望ましい.CVI治療成績日本眼科学会によるCPCVの治療指針では,病変が中心窩を含まない場合はレーザー光凝固術を,中心窩に病変があり,視力C0.5以下は光線力学的療法(photody-namicCtherapy:PDT),抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthCfactor:VEGF)薬硝子体注射,またはそれらの併用療法が推奨されており,視力C0.6以上は抗CVEGF薬単独治療を考慮するとされている17).GomiらはCPCVとCAMDにおいてCPDTのC1年での治療成績を比較しているが,15文字以上の視力改善がAMDではC6%であったのに対し,PCVはC25%で改善が得られたと述べている18).また,EVERESTCstudyにおけるCPDTのポリープの閉塞率はC6カ月の経過で約C70%と高いことで知られている19).最近では,PDTがPCVに有効である理由は,高いポリープ閉塞率のみではなく,脈絡膜への影響も関与していると考えられているようになってきた.MarukoらはCPCVに対するCPDT治療後の脈絡膜厚を計測し,PDT施行後C2日後に脈絡膜厚は増加し,その後ベースラインより大きく減少することを述べた20).脈絡膜厚の減少による脈絡膜血管透過性亢進の減少や,脈絡膜静水圧の減少が,滲出性変化の減少に有効である可能性が示唆される.しかしながら,PDT単独治療の問題点としては再発や新たなポリープの出現などにより長期的な観点では視力が低下するということであった.近年は抗CVEGF薬の登場により,PCVに対してより多くの治療選択肢が可能となった.EVERESTstudyでは,ラニビズマブ(ルセンティスCR)単独療法は,PDTまたは抗CVEGF薬併用CPDT療法と比較してポリープの閉塞率は低いものの,視力の改善度は同等であったと報告している19).さらに,アフリベルセプト(アイリーアR)はCPDTとほぼ同等のポリープ閉塞率が得られるとされており,抗CVEGF薬単独治療での良好な治療成績が報告されている21,22).また,Koizumiらは,アイリーアR投与後のCPCVの脈絡膜厚について検討し,PDTと同等の脈絡膜厚の減少率が得られ,さらに脈絡膜厚の減少は視力と相関があったと報告した23).しかしながら,PDTと同様にポリープの残存や新たなポリープの出現で継続的な治療が必要となったり,抗CVEGF薬の効果が低くなり滲出性変化が出現してくる症例もあるため,その場合はCPDTとの併用療法への切り替えも検討したほうがよいかもしれない(図9).(19)あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C1657図9ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対する抗VEGF薬の効果が減弱した症例a:初診時カラー眼底写真.視力(0.8).黄斑部にCPEDを認める.Cb:初診時CFA所見.顆粒状過蛍光を認める.Cc:初診時CICGA所見.ポリープ状病巣を認める.Cd:初診時COCT所見.PEDと漿液性網膜.離を認める.Ce:初回治療後21カ月COCT所見.抗CVEGF薬(アイリーアCR)の固定投与で約C2年間滲出性変化を認めなかった.その後滲出性変化を認め,アイリーアCRを毎月投与しても滲出性変化の改善がみられなくなった.Cf:初回治療後C34カ月カラー写真.PEDを認める.Cg:初回治療後C34カ月CFA所見.顆粒状過蛍光を認める.Ch:初回治療後C34カ月CICGA所見.ポリープが残存している.Ci:初回治療後C34カ月COCT.PEDと漿液性網膜.離を認める.この症例に抗CVEG薬(アイリーアR)+PDT併用療法を施行した.Cj:併用療法施行後C3カ月OCT.PEDと漿液性網膜.離は改善している.視力(0.7)と維持できている.Ca:初診時視力(0.9).出血を伴う灰白色病変を認める.Cb:初診時CFA所見.蛍光漏出所見を認める.Cc:初診時CICGA所見.FAでの蛍光漏出部に一致してポリープ状病巣を認める.Cd:OCT所見.ポリープの隆起上にフィブリンを認め,網膜下液を伴う.e:抗CVEGF薬(ルセンティスCR)+PDT併用療法後C3カ月.視力(0.9)と不変だが,出血と灰白色病変は改善している.Cf:治療後C3カ月CFA所見.治療前の蛍光漏出は改善した.Cg:治療後C3カ月CICGA所見.ポリープ状病巣は消失している.h:治療後C3カ月COCT所見.ポリープの隆起ならびに滲出性変化は改善している.さらなる検討が必要であるが,病変だけでなく脈絡膜をターゲットとする治療法が今後は重要となってくるであろう.おわりにPCVはCAMDの特殊型と考えられてきたが,近年の画像診断の進歩によりCPCVはCpachychoroidCspectrumの一つであり,AMDとは区別するべき概念であるとする考えが提唱されてきている.画像診断の進歩により,脈絡膜が治療効果に大きくかかわることが明らかになってきている.AMDにおけるオーダーメード治療は以前よりいわれているが,今後はCPCVの治療法やマネージメントも個々の脈絡膜の状態によって決められていくようになるのかもしれない.文献1)LiCY,CYouCQS,CWeiCWBCetCal:PolypoidalCchoroidalCvascu-lopathyinadultchinese:theBeijingEyeStudy.Ophthal-mologyC121:2290-2291,C20142)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:ClinicalcharacteristicsofexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCinCJapaneseCpatients.AmJOphthalmol144:15-22,C20073)YadavS,ParryDG,BeareNAetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:acommontypeofneovascularage-relatedmacularCdegenerationCinCCaucasians.CBrJOphthalmol,20174)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinade.nedJapanesepopulationtheHisayamastudy.Ophthal-mologyC116:2135-2140,C20095)FanQ,CheungCMG,ChenLJetal:Sharedgeneticvari-antsforpolypoidalchoroidalvasculopathyandtypicalneo-vascularage-relatedmaculardegenerationinEastAsians.CJHumGenetCAugC24,C20176)FreundKB,ZweifelSA,EngelbertM:Doweneedanewclassi.cationCforCchoroidalCneovascularizationCinCage-relat-edmaculardegeneration?RetinaC30:1333-1349,C20107)SasaharaCM,CTsujikawaCA,CMusashiCKCetCal:PolypoidalCchoroidalCvasculopathyCwithCchoroidalCvascularChyperper-meability.AmJOphthalmol142:601-607,C20068)GuyerDR,YannuzziLA,SlakterJSetal:Digitalindocya-nineCgreenCvideoangiographyCofCcentralCserousCchorioreti-nopathy.ArchOphthalmol112:1057-1062,C19949)ChungSE,KangSW,LeeJHetal:ChoroidalthicknessinpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCandCexudativeCage-relatedCmacularCdegeneration.COphthalmologyC118:840-845,C201110)WarrowCDJ,CHoangCQV,CFreundCKB:PachychoroidCpig-mentepitheliopathy.RetinaC33:1659-1672,C201311)PangCCE,CFreundCKB:PachychoroidCneovasculopathy.CRetinaC35:1-9,C201512)日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会:ポリープ状脈絡膜血管症の診断基準.日眼会誌109:417-27,C200513)BalaratnasingamC,LeeWK,KoizumiHetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:adistinctdiseaseormanifestationofmany?RetinaC36:1-8,C201614)InoueCM,CBalaratnasingamCC,CFreundCKB:OpticalCcoher-encetomographyangiographyofpolypoidalchoroidalvas-culopathyCandCpolypoidalCchoroidalCneovascularization.CRetina35:2265-2274,C201515)UyamaCM,CWadaCM,CNagaiCYCetCal:PolypoidalCchoroidalvasculopathy:naturalChistory.CAmCJCOphthalmolC133:C639-648,C200216)ShoCK,CTakahashiCK,CYamadaCHCetCal:PolypoidalCchoroiC-dalCvasculopathy:incidence,CdemographicCfeatures,CandCclinicalCcharacteristics.CArchCOphthalmolC121:1392-1396,C200317)高橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,C201218)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearoutcomesofphotodynamicCtherapyCinCage-relatedCmacularCdegenera-tionCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCJapaneseCpatients.OphthalmologyC115:141-146,C200819)KohCA,CLeeCWK,CChenCLJCetCal:EVERESTCstudy:Ce.cacyCandCsafetyCofCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabCorCaloneCversusCranibi-zumabCmonotherapyCinCpatientsCwithCsymptomaticCmacu-larCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CRetinaC32:1453-1464,C201220)MarukoCI,CIidaCT,CSuganoCYCetCal:SubfovealCretinalCandCchoroidalCthicknessCafterCvertepor.nCphotodynamicCthera-pyCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CAmCJCOphthal-mol151:594-603Ce1,C201121)InoueCM,CArakawaCA,CYamaneCSCetCal:Short-termCe.cacyCofCintravitrealCa.iberceptCinCtreatment-naiveCpatientsCwithCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CRetinaC34:2178-2184,C201422)InoueM,YamaneS,TaokaRetal:A.iberceptforpolyp-oidalCchoroidalCvasculopathy:asCneededCversusC.xedCintervaldosing.RetinaC36:1527-1534,C201623)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Subfovealchoroi-dalCthicknessCduringCa.iberceptCtherapyCforCneovascularage-relatedCmacularCdegeneration:twelve-monthCresults.COphthalmologyC123:617-624,C201624)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetCal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:arandom-izedclinicaltrial.JAMAOphthalmol,inpressC(21)あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C1659