特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1033.1037,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1033.1037,2012Age-RelatedEyeDiseaseStudy2Age-RelatedEyeDiseaseStudy2山城健児*はじめに加齢黄斑変性患者の診療をしていると,よく目薬や飲み薬はないのかという質問を受ける.現時点で治療効果のある点眼薬や内服薬はないため,光線力学的療法やラニビズマブの硝子体注射を勧めることになるが,網膜に滲出性変化を認めない段階の加齢黄斑変性に対しては経過観察を続けるしか選択肢がない.また,大きなドルーゼンをもつ眼は加齢黄斑変性を発症する可能性が高いと考えられているが,その発症を予防できる薬剤も存在しない.特に,片眼に加齢黄斑変性を発症した患者にとっては,僚眼の発症予防は非常に重要な課題である.最近になって,抗酸化作用をもつビタミンやミネラルといったサプリメントによる加齢黄斑変性の進行予防作用を検証する研究が進んできた.IAREDS1990年頃から,抗酸化物質や亜鉛に目の病気の予防効果があるのではないかという研究結果が発表されたために,一般市民のサプリメント使用が急速に広まった.しかし,これらの研究は小規模なもので,その効果を確認するためには大規模な前向き臨床研究が必要であると考えられていた.1986年には米国のNIH(NationalInstituteofHealth)のNEI(NationalEyeInstitute)でこれらのサプリメントの効果を確認するためにAREDS(Age-RelatedEyeDiseaseStudy)が計画され,プロトコールが完成された1992年に登録が始まった.AREDS開始時にはカロテノイドのなかでもキサントフィル類であるルテインとゼアキサンチンの効果についての検証も行うべきであると考えられていたが,当時はまだこれらのサプリメントは製品化されていなかったために,AREDSのプロトコールには含まれず,後述するようにサプリメントとしてはAREDS2でその効果が検証されている.AREDSでは亜鉛および抗酸化物質による加齢黄斑変性の発症・進行予防効果と,抗酸化物質による白内障の進行予防効果が検証された.当初は抗酸化物質としてビタミンCおよびEとカロテノイドのなかでもカロテン類であるb-カロテンが投与されたが,喫煙者ではb-カロテン摂取によって肺癌および心血管病のリスクが上昇するということがわかったため,1996年にはAREDS参加者のうち喫煙者に対して投薬中止またはb-カロテン以外の投薬の継続がなされている.AREDSのおもな結果は2001年にAREDSReportNo.8,No.9として発表されており,抗酸化物質と亜鉛の両方を摂取すると加齢黄斑変性の発症・進行が予防でき,抗酸化物質では白内障の進行は予防できないという結果であった1,2).その後も参加者からアンケートをとることによって普段の食生活を調査し,ルテイン,ゼアキサンチンといったカロテノイドや,ドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサペンタエン酸(EPA)といったオメガ3長鎖不飽和脂肪酸の摂取量を計算して,その摂取量と加齢黄斑変性の発症・進行との間に相関を認めるこ*KenjiYamashiro:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕山城健児:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(7)1033とが証明された.そこで,ルテイン/ゼアキサンチンおよびDHA/EPAによる加齢黄斑変性の発症・進行予防効果や白内障の進行予防効果などを検証するために,AREDS2が2006年に開始された.その結果は2013年に発表される予定である.IIAREDS2AREDS2では約4,000人の参加者を集めて研究が行われている.参加者は50.85歳で,両眼に125μm以上のドルーゼンがあるか,片眼に125μm以上のドルーゼン,僚眼に進行した加齢黄斑変性を認め,5年以上観察研究に協力できる者とされており,ランダムにプラセボ投与群,ルテイン10mgとゼアキサンチン2mg投与群,DHA350mgとEPA650mg投与群,ルテイン10mgとゼアキサンチン2mgとDHA350mgとEPA650mg投与群の4群に分けられている.さらにAREDSで亜鉛,ビタミンC,E,b-カロテンの効果が示されたことをうけて,AREDS2では全参加者にこれらのサプリメントを摂取させている.しかし,b-カロテンについては喫煙者への有害性がわかっているため,一部の参加者にはb-カロテンを含まないサプリメントを摂取させることによって,b-カロテンを除いても効果が十分に保たれるかどうかを確認し,さらに,亜鉛については投与量を半分以下にした群を作ることによって,亜鉛の最適な摂取量を探ろうとしている(表1).AREDS2のおもな研究目的は,中心窩を含む360μm以上の地図状萎縮または脈絡膜新生血管・円盤状瘢痕を呈する加齢黄斑変性への進行がルテイン/ゼアキサンチン,DHA/EPAによって抑制できるかどうかを検証することである.他にもAREDSで発表されてきた内容(表2)と同様の内容がルテイン/ゼアキサンチン,DHA/EPAについても検討される予定である(表3).AREDS2の結果は2013年に発表される予定であり,眼科臨床医としてはその結果を正しく理解する必要がある.まず初めに注目すべきなのは,ルテイン/ゼアキサンチンだけで加齢黄斑変性の発症・進行が予防できるのか,DHA/EPAだけで加齢黄斑変性の発症・進行が予防できるのか,加齢黄斑変性の発症・進行を予防するためにはルテイン/ゼアキサンチンとDHA/EPAの両方を摂取する必要があるのか,あるいはこれらのサプリメントでは加齢黄斑変性の発症・進行は予防できないのかという点である.これらの結果とAREDSの結果で示されたビタミンC,Eおよびb-カロテンと亜鉛とを合わせて,加齢黄斑変性発症リスクの高い患者には正しいサプリメントの組み合わせを指導しなければいけない.特に,AREDS2では抗酸化物質としてb-カロテンも必須なのか,ビタミンC,Eだけで十分なのかということも判明するはずである.b-カロテンは喫煙者には摂取させないほうがよいということがわかっているため,AREDS2の結果に従って,喫煙者にはビタミンC,Eのみを勧めて,非喫煙者にはビタミンC,Eとb-カロ表1AREDSおよびAREDS2のサプリメント摂取内容AREDS1.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)+亜鉛(80mg)2.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)3.亜鉛(80mg)4.プラセボAREDS21.ルテイン(10mg)+ゼアキサンチン(2mg)+DHA(350mg)+EPA(650mg)2.ルテイン(10mg)+ゼアキサンチン(2mg)3.DHA(350mg)+EPA(650mg)4.プラセボ上記の1.4に追加して全参加者に以下の1.4のサプリメントを追加1.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)+亜鉛(80mg)2.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)+亜鉛(25mg)3.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+亜鉛(80mg)4.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+亜鉛(25mg)亜鉛(実際に投与するのは酸化亜鉛)を投与する場合には銅を補うために2mgの酸化第二銅も投与.1034あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(8)表2AREDSReportの内容AREDSReportNo.1.ControlledClinicalTrials20:573-600,1999研究のデザインの説明AREDSReportNo.2.JNutr130:1516S-1519S,2000研究の解説AREDSReportNo.3.Ophthalmology107:2224-2232,2000ARM/AMDのグレードと患者の背景因子との相関AREDSReportNo.4.AmJOphthalmol131:167-175,2001白内障のグレード分類方法の信頼性確認AREDSReportNo.5.Ophthalmology108:1400-1408,2001白内障のグレードと患者の背景因子との相関AREDSReportNo.6.AmJOphthalmol132:668-681,2001ARM/AMDのグレード分類方法の信頼性確認AREDSReportNo.7.JNutr132:697-702,2002亜鉛投与による血中亜鉛濃度上昇の確認AREDSReportNo.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,2001抗酸化物質と亜鉛によるARM/AMD進行予防効果の証明AREDSReportNo.9.ArchOphthalmol119:1439-1452,2001抗酸化物質による白内障進行予防効果の否定AREDSReportNo.10.ArchOphthalmol121:211-217,200339-itemNEI-VFQの信頼性確認AREDSReportNo.11.ArchOphthalmol121:1621-1624,2003全米でのARM/AMD患者数予想,予防効果予想AREDSReportNo.12.Neurology63:1705-1707,2004抗酸化物質と亜鉛による認知能力への効果の否定AREDSReportNo.13.ArchOphthalmol122:716-726,2004ARM/AMDおよび白内障の死亡への影響の証明AREDSReportNo.14.ArchOphthalmol123:1207-1214,2005ARM/AMDの進行程度と25-itemNEI-VFQの変化との相関の証明AREDSReportNo.15.OphthalmicEpidemiol12:271-277,2005電話で行う認知能力判定の信頼性確認AREDSReportNo.16.ArchOphthalmol124:537-543,2006ARM/AMDの程度と認知能力との相関の証明AREDSReportNo.17.ArchOphthalmol123:1484-1498,2005ARM/AMDの9段階重症度スケールAREDSReportNo.18.ArchOphthalmol123:1570-1574,2005ARM/AMDの簡易重症度スケールAREDSReportNo.19.Ophthalmology112:533-539,2005ARM/AMDの進行と患者の背景因子との相関AREDSReportNo.20.ArchOphthalmol125:671-679,2007食事内容(特にオメガ3長鎖不飽和脂肪酸摂取)とARM/AMDのグレードとの相関の証明AREDSReportNo.21.Ophthalmology113:1264-1270,2006併用マルチビタミン剤による白内障進行抑制効果の証明AREDSReportNo.22.ArchOphthalmol125:1225-1232,2007食事内容(特にルテイン,ゼアキサンチン)とARM/AMDのグレードとの相関の証明AREDSReportNo.23.ArchOphthalmol126:1274-1279,2008食事内容(特にオメガ3長鎖不飽和脂肪酸摂取)によるARM/AMDの進行予防効果の証明AREDSReportNo.24.AmJOphthalmol145:504-508,200810年間の白内障進行の観察AREDSReportNo.25.Ophthalmology116:297-303,2009白内障手術によるARM/AMD進行リスク上昇の否定AREDSReportNo.26.ArchOphthalmol127:1168-1174,2009GA進行の観察AREDSReportNo.27.Ophthalmology116:2093-2100,2009AMDの有無にかかわらず白内障手術で視力は改善するAREDSReportNo.28.Ophthalmology117:489-499,2010drusenoidPEDからcentralGA,NV-AMDへの進行の観察AREDSReportNo.29.NotyetpublishedスタチンとARM/AMDとの相関AREDSReportNo.30.AmJClinNutr90:1601-1607,2009食事内容(特にオメガ3長鎖不飽和脂肪酸摂取)によるARM/AMDの進行予防効果の証明AREDSReportNo.31.Ophthalmology117:2112-2119,2010スリットランプで行う簡易白内障グレード分類方法の信頼性確認AREDSReportNo.32.Ophthalmology118:2113-2119,2011白内障の進行と患者の背景因子との相関AREDSReportNo.33.Notyetpublished10年間の白内障の発症率ARM:加齢性黄斑症,AMD:加齢黄斑変性,NEI-VFQ:NationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.テンを摂取させるべきなのか,喫煙の有無にかかわらずビタミンC,Eのみを勧めれば良いのかを判断しなければいけない.つぎに注目すべき点は,すでに加齢黄斑変性が発症した眼に対しても視力改善効果が期待できるのかどうかという点である.AREDS2では進行した加齢黄斑変性眼に対してルテイン/ゼアキサンチン,DHA/EPAに視力改善効果があるかどうかも検討される予定であり,もし視力改善が得られるようであれば,予防目的のサプリメ表3AREDS2の研究予定内容ルテイン/ゼアキサンチンおよびDHA/EPAの効果1.AdvancedAMDへの進行2.視力低下・改善3.白内障の進行4.認知能力5.心血管病の発症および死亡AREDSのARM/AMDのグレード分類方法の信頼性再確認b-カロテンを除外したときのAMDの進行予防効果および視力低下への影響亜鉛の摂取量を減らしたときのAMDの進行予防効果および視力低下への影響(9)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121035ント摂取だけでなく,活動性のある加齢黄斑変性に対してもサプリメントを使用したほうが良いということになるかもしれない.さらに,AREDS2では活動性のある加齢黄斑変性に対して治療を行う際に検査されたフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)と網膜光干渉断層計(OCT)の結果も検証されることになっている.実際にどの程度の検証がなされるのかはまだ不明であるが,結果しだいではAREDS2のあとにさらに研究を進めて,活動性のある加齢黄斑変性に対してサプリメントがFAやOCTによる検査結果にあらわれるほどに網膜滲出性変化に影響を与えるのか,滲出性変化には影響は与えずに,網膜の機能の維持・改善に効果があるのかを検討していく必要が出てくるかもしれない.AREDSおよびAREDS2の結果は加齢黄斑変性患者のサプリメント使用に大きな影響を与える可能性があるが,サプリメントの効果の大きさについても考慮しておく必要がある.AREDSでのオッズ比はおよそ0.7程度である.つまり,亜鉛およびビタミンC,Eとb-カロテンを摂取することによって,加齢黄斑変性を発症するはずだった人の3割程度で発症を抑制することができて,7割程度の人はサプリメントの使用にもかかわらず加齢黄斑変性を発症するということになる.AREDS2ではこれらのサプリメントに加えてルテイン/ゼアキサンチンとDHA/EPAの効果も検証されるため,どういった組み合わせでどの程度の効果が期待できるのかにも注目すべきだろう.IIIAREDS2の問題点AREDSおよびAREDS2はそれぞれ4,000人規模の研究で,その再現性を確認する研究がむずかしいという問題がある.最近アメリカから発表された研究では,14,236人を対象にビタミンCまたはビタミンEを摂取させて8年間の加齢黄斑変性発症率を調べることによって,ビタミンCとビタミンEには加齢黄斑変性発症を予防する効果がないことが示されている3).ビタミンEについては1990年代後半にオーストラリアで1,193人を対象に行われた研究でも,米国で39,876人を対象に行われた研究でも加齢黄斑変性の発症予防効果がないことが示されている.また,b-カロテンについては,1036あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121990年頃にフィンランドで29,000人を対象に行われた研究と米国で22,071人を対象にした研究が,加齢黄斑変性の発症予防効果がないことを示している.ルテイン/ゼアキサンチンについては,イタリアで行われた研究が加齢黄斑変性患者の視機能維持に効果があることを報告しているが,オーストラリアで行われたブルーマウンテンスタディや以前米国で行われた研究ではルテイン/ゼアキサンチンには加齢黄斑変性の発症を抑制する効果はないことが示されている.一方,DHA/EPAについては,オランダや米国で行われた研究で加齢黄斑変性の発症を予防できるということが証明されている.AREDS,AREDS2の報告だけを頼りにするのではなく,他の研究結果にも目を配り,サプリメントの効果を正しく判断する必要があるだろう.日本人の加齢黄斑変性は男性に多く,ポリープ状脈絡膜血管症が多く,網膜血管腫様増殖が少ないという特徴があり,これらの特徴は欧米人の加齢黄斑変性とは大きく異なるものである4).さらに加齢黄斑変性の発症に遺伝子的な背景が関与していることはよく知られているが,欧米人と日本人ではその遺伝子変異の割合や影響の強さが異なることも知られており5),欧米人におけるサプリメント研究の結果をそのまま日本人に活用できるかどうかも検証する必要がある.欧米人でその効果が示されつつあるDHA/EPAは青魚に多く含まれており,欧米人と比べると日本人の青魚の消費量はかなり多いはずである.AREDS2で使用されるサプリメントに含まれるDHA/EPAの量は,アジやサンマの1/3.1尾に含まれる程度の量であることを考えると,やはり日本人でのAREDS,AREDS2の追試は必須であろう.おわりに加齢黄斑変性患者のなかには硝子体注射はこわいので,内服薬のみで治療をうけたいという希望をもつ患者がいる.サプリメントによってどの程度の発症予防効果があり,すでに発症してしまった加齢黄斑変性に対してどの程度の治療効果や視力改善効果があるのか,その効果はラニビズマブ硝子体注射や光線力学的療法と比較してどの程度のものであるのかを正確に伝えたうえで,正(10)しい治療方針を選択したい.文献1)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:14171436,20012)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandEandbetacaroteneforage-relatedcataractandvisionloss:AREDSreportno.9.ArchOphthalmol119:1439-1452,20013)ChristenWG,GlynnRJ,SessoHDetal:VitaminsEandCandmedicalrecord-confirmedage-relatedmaculardegenerationinarandomizedtrialofmalephysicians.Ophthalmology,2012,inpress4)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20075)HayashiH,YamashiroK,GotohNetal:CFHandARMS2variationsinage-relatedmaculardegeneration,polypoidalchoroidalvasculopathy,andretinalangiomatousproliferation.InvestOphthalmolVisSci51:5914-5919,2010(11)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121037