《第17回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科29(12):1677.1680,2012c眼科医の立場からみた糖尿病受診中断者の検討田中寧*1田中朗*2宇多重員*3江戸川区眼科医会*1田中眼科*2獨協医科大学越谷病院眼科*3二本松眼科病院DiabetesfromtheOphthalmologist’sPerspectiveYasushiTanaka1),AkiraTanaka2),ShigekazuUda3)andEdogawaWardOphthalmologists’Association1)TanakaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,3)NihonmatsuEyeHospital目的:受診中断の問題点は,患者の中断時期,中断理由が不明なことである.糖尿病医療連携における受診中断者の傾向と対策を検討した.対象:田中眼科で2011年3月現在,糖尿病眼手帳を配布した509人のうち,受診を中断した205人(40.3%)である.結果:中断者は男性(63.9%)が多く,中断理由は不明(79%)が多かった.理由不明者を検討したところ,突然中断,中断歴あり,1回のみ受診の順であった.健康手帳の利用率は中断者31.2%,通院患者50.7%で有意差を認めた(p<0.0001).眼手帳を毎回持参した中断者45.9%,通院患者86.2%で有意差を認めた(p<0.0001).考察:中断者を減らす対策としては眼科医,内科医の連携,患者との共通の認識を構築することが重要である.Purpose:Theproblemwithpatientswhointerrupttreatmentisthatthetimeoftheirleaving,andtheirreasonforleaving,arenotknown.Incollaborationwithdoctorstreatingdiabetes,weconsideredwhypatientsinterrupttheirtreatment,andhowtodealwiththeproblem.Subjects:Of509patientswhohadacurrentdiabeticeyenotebookatTanakaEyeClinicasofMarch2011,205(40.3%)stoppedtreatment.Results:Mostofthosewhostopped(63.9%)aremale,andinmostcasestheirreasonforstoppingwasunknown(79%).Whenweexaminedthereasons,wefoundthatmoststoppedtreatmentabruptly,followedbythosewhohadhadaprevioushistoryofinterruption,andthenbythosewhohadonlyinterruptedtreatmentonce.Thosewhohadahealthbookcomprised31.2%;thoseattendinghospitalregularlycomprised50.7%,asignificantdifference(p<0.0001).Thosewhoalwaysbroughttheireyebookaccountedfor45.9%,andthoseattendinghospitalregularlycomprised86.2%(p<0.0001).Conclusion:Toreducethenumberofpatientswhointerrupttreatment,collaborationbetweenophthalmologistsanddoctorsisnecessary,inordertocreateacommonunderstandingwiththepatient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1677.1680,2012〕Keywords:糖尿病眼手帳,糖尿病網膜症,眼科・内科連携,受診中断.diabeticeyenotebook,diabeticretinopathy,cooperationbetweenophthalmologistandinternist,dropoutofexamination.はじめに田中眼科(以下,当院)では2002年に発行された糖尿病眼手帳(以下,眼科手帳)を当初は網膜症のある患者に配布していた.しかし,糖尿病でも網膜症のない患者が大半を占めるため,2007年からは内科で糖尿病と診断された患者全員に配布した.配布数は増加したがそれに伴い中断者も増加した.時間に追われる日々の診療のなかではなかなか中断者の把握は困難である.よほど記憶に残るような重症の患者や,硝子体手術が必要で大学病院に紹介するようなケース以外は忘れてしまう.眼科手帳や糖尿病健康手帳(以下,健康手帳)の利用状況1.10)を調べていくうちに,かなりの中断患者がいること7)が判明した.そこで受診中断者の傾向と対策を検討した.I対象および方法(表1)当院で眼科手帳を配布し,1年以上経過を追えた509人(2011年3月現在)のうち,受診を中断または中止した205〔別刷請求先〕田中寧:〒133-0051東京都江戸川区北小岩6-11-1田中眼科Reprintrequests:YasushiTanaka,M.D.,TanakaEyeClinic,6-11-1Kitakoiwa,Edogawa-ku,Tokyo133-0051,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(87)1677表1通院患者と中断患者の背景表2通院患者と中断患者の比較通院患者中断患者患者数(人)304205性別男性女性153(50.3%)151(49.7%)131(63.9%)74(36.1%)平均年齢(歳)71.6±10.370.2±12.0かかりつけ医開業医病院228(75.0%)76(25.0%)159(77.6%)46(22.4%)治療食事内服インスリン不明31(10.2%)216(71.0%)57(18.8%)07(3.4%)161(78.5%)32(15.6%)5(2.5%)網膜症NDRSDRPPDRPDR173(60.0%)83(27.3%)29(9.5%)19(6.2%)126(61.5%)42(20.5%)15(7.3%)22(10.7%)NDR:網膜症なし,SDR:単純糖尿病網膜症,PPDR:増殖前糖尿病網膜症,PDR:増殖糖尿病網膜症.人(40.3%)を対象とした.なお,予約再診日より6カ月以上受診しなかった場合を受診中断とした.中断患者の最大の問題点は,いつ中断するかがわからず,理由も不明なことが多い点である.当院では糖尿病台帳を作成し管理している.内容は上段が患者データで,かかりつけ内科医,治療方法,連携方法を記載している.中段は眼科手帳の項目,下段は内科の検査データである.年1回統計を取って利用状況を検討している1.3,7).中断患者205人と通院患者304人を比較検討した.検定にはc2検定を用いた.p<0.05を統計上有意とした.II結果1.性別(表2)中断患者では男性が63.9%と多くみられた(p<0.005).通院患者は男女ともほぼ同数であった.2.年齢別(図1)中断患者では70代,60代が多く,ついで80代であった.通院患者は70代が40%と最も多く,ついで60代,80代の順であった.平均年齢は中断患者70.2歳,通院患者71.6歳とほぼ同等であった.3.かかりつけ医(表2)かかりつけ医は中断患者も退院患者も開業医が多く3/4を占めていた.4.治療方法(表2)中断患者も通院患者も内科治療方法は内服が大半を占め,ついでインスリン療法であった.1678あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012通院患者中断患者p値患者数(人)304205性別男性女性153(50.3%)151(49.7%)131(63.9%)74(36.1%)<0.005平均年齢(歳)71.6±10.370.2±12.0かかりつけ医開業医病院228(75.0%)76(25.0%)159(77.6%)46(22.4%)0.5治療食事内服インスリン不明31(10.2%)216(71.0%)57(18.8%)07(3.4%)161(78.5%)32(15.6%)5(2.5%)<0.001網膜症NDRSDRPPDRPDR173(60.0%)83(27.3%)29(9.5%)19(6.2%)126(61.5%)42(20.5%)15(7.3%)22(10.7%)0.09眼科手帳頻度毎回時々忘れる忘れる不明262(86.2%)27(8.9%)15(4.9%)094(45.9%)29(14.1%)37(18.0%)45(22.0%)<0.0001健康手帳あり眼手帳記入採血票提供書口答なし不明154(50.7%)20(6.6%)91(29.9%)11(3.6%)16(5.3%)12(3.9%)064(31.2%)8(3.9%)44(21.5%)21(10.2%)7(3.4%)34(16.6%)27(13.2%)<0.000180代17.1%70代34.1%30.7%6.3%60代50代205人20代0.3%90代30代1.5%30代0.1%3.9%40代90代6.3%1.0%40代2.6%80代21.4%70代40%60代25%50代9.2%304人中断患者通院患者図1年齢別5.糖尿病網膜症(表2)糖尿病網膜症は,中断患者も通院患者も網膜症なし(NDR),単純糖尿病網膜症(SDR)で8割以上は軽症であった.6.内科との連携手段(表2)日常診療で内科との連携手段は健康手帳や採血票を毎回持参するケースが多い.眼科手帳に直接記載するケースもある.健康手帳を持参するケースは通院患者50.7%に対し,(88)歩行困難引越死亡2.5%205人162人入院転院10.2%5.4%2.9%不明79.0%4回1.9%5回3.7%3回7.4%2回のみ9.3%1回のみ10.5%中断歴あり27.8%突然中断39.5%図2中断理由中断患者31.2%と少なかった(p<0.0001).通院患者ではこの3つの手段で連携している87.2%に対し,中断患者は56.6%であった.データなしが中断患者16.6%と多く認めたのに対し,通院患者は3.6%と少なかった.7.眼科手帳の頻度(表2)眼科手帳を毎回持参するケースは通院患者86.2%に対し,中断患者45.9%と少なかった(p<0.0001).また,忘れるケースは通院患者4.9%に対し,中断患者は18%と多く認めた.8.中断理由(図2)理由不明が79%と最多で,判明した内訳は入院転院10.2%,引越5.4%,死亡2.9%の順であった.理由不明の中断者162人を患者台帳より探し,カルテを検証したところ,定期的に受診していたにもかかわらず突然中断が39.5%と最も多く,ついで中断を繰り返すケースが27.8%であった.また,1回だけ受診して中断するケースも10.5%,2回のみ受診9.3%と多く認めた.III中断対策と試み受診中断対策の問題点は中断時期と中断理由の把握が困難な点である.眼科手帳と健康手帳から患者名簿を作り,中断患者を探し出しカルテを見返す手間がかかる.2008年4月に中断患者31人の内科かかりつけ医に手紙で連絡をとったところ,6人が再受診し,12人は転院,引越,死亡などの中断理由が判明した.13人(41.9%)は不明であったが,熱意ある内科医との連携は大切であると実感した.IV考察当院では患者初診時に内科かかりつけ医と既存の診療情報提供書を用いて医療連携を取り,日常の診療には眼科手帳や健康手帳を利用して最新のデータを内科,眼科,患者が共有することを心掛けている1,4).網膜症の悪化や,白内障手術,硝子体手術の際は情報提供(89)書を患者に持たせている.2008年に江戸川区眼科医会でアンケート調査を行ったところ,眼科手帳の利用率は44.8%であった2).全国レベル60.5%5)より下回ったが,利用している眼科医の満足度は良いものであった.当院通院患者の健康手帳の利用率は2007年46.4%,2008年45.1%と横ばいであった1,2).採血票を患者に渡すケースが27.2%から42.5%へ増えた.正確な情報が伝達することは良いが,紛失しやすく多くなると嵩張る10).手間がかかっても健康手帳に記入していただきたい.今回の結果で判明した中断者数の205人(40.3%)は,印象として思っていた中断率よりも多かった.眼科手帳の配布する範囲を網膜症のある患者に限定すれば中断率は低下するが,内科で糖尿病と診断がついていれば,全例に配布し連携を取ることのほうが重要と考えた.理由不明の内訳で最も多かったのは突然の中断であった.患者の90代の占める割合が多いことから高齢者や合併症の悪化,付き添い者の問題など示唆されるが,年齢別の比較や平均年齢から高齢化は今後も進み大きな問題となろう.日常診察でのきめ細かい情報収集が必要である.当院では往診などの対策を試みている.対策が立てられそうなのは中断歴のある患者である.日常診察の際に眼科手帳をチェックすることで予想がつく.受診間隔が不規則であったり,手帳をよく忘れる場合は要注意である.再診したときには,中断したことを責めるのではなく継続することの大切さを伝える.内科にはある程度通院していることがわかれば,情報提供書を用いて定期的に眼科受診を促してもらうように内科医に伝える.中断患者の特徴として健康手帳や眼科手帳の利用率が悪いことが判明した.かかりつけ医として内科医,眼科医が手帳をチェックすることにより受診状況を把握し,改善するように指導することは可能である.1,2回の受診で中断するケースもまだ多く,網膜症がないと伝えることで安心して受診しなくなったと予想される.当院の通院患者の意識調査3)での,眼科受診のきっかけは,アンケート結果で内科医よりの紹介が45.2%と最も多く,飛蚊症や眼症状などの自覚症状は19.9%であった.しかし,カルテから検証した実際の結果では,自覚症状による受診が41.8%で,内科医の紹介34.2%より多かった.これは患者の印象としては,内科医より眼科受診を指示されたほうが強く残るのではないかと考えられる.眼科受診の必要性を内科受診時にぜひ伝えていただきたい.今後は高齢化や病状悪化による受診中断者の増加が予想される.家族の協力があれば往診することで経過をみることは可能であるが,独居老人の増加に伴う中断者の対策は困難であたらしい眼科Vol.29,No.12,20121679ある.今まではかかりつけ医として患者のかかりやすい環境作りを目指してきたが,今後は患者の環境に合わせた医療体制が求められる.看護師,栄養士,介護スタッフの協力が必要なときが来ている.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)田中寧,田中朗,宇多重員ほか:眼科医の立場から病診連携の為の糖尿病眼手帳及び健康手帳の利用状況について.江戸川医学会誌25:42-45,20072)田中寧,田中朗,宇多重員ほか:眼科医の立場から見た糖尿病眼手帳の利用状況について.江戸川医学会誌26:16-19,20083)田中寧,田中朗,宇多重員ほか:患者側からみた糖尿病眼手帳の意識調査.江戸川医学会誌27:24-26,20094)大野敦:内科・眼科の連携.眼科プラクティス7,糖尿病眼合併症の診療指針,p214-219,文光堂,20075)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20106)堀貞夫:糖尿病網膜症の治療戦略.日眼会誌114:202215,20107)田中寧,田中朗,宇多重員ほか:糖尿病眼科手帳からみた受診中断者の検討.江戸川医学会誌28:20-23,20118)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,20119)堀貞夫:糖尿病網膜症における内科眼科医療連携:放置・中断対策.DiabetesFrontier22:406-410,201110)小林博:糖尿病患者の糖尿病健康手帳およびデータシートの持参率:病識の向上と内科-眼科間連携.あたらしい眼科28:1354-1360,2011***1680あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(90)