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眼窩骨折

2024年12月31日 火曜日

眼窩骨折OrbitalFracture奥拓明*I眼窩骨折とは眼窩部は前頭骨,上顎骨,頬骨,口蓋骨,蝶形骨,涙骨,篩骨のC7種類の骨により構成されており,いずれかの骨が骨折を認めると眼窩骨折の診断となる.下壁と内壁の骨は薄く,眼窩下溝鼻側が骨折部位としてはとくに多い.眼窩壁骨折は吹き抜け骨折(blowoutfracture)とCblow-infractureに大別される.Blowoutfractureは外的要因により眼窩内圧が上がって骨折する.Blow-infractureは頬骨骨折などの顔面骨折に伴い骨折する.筋絞扼型骨折では緊急での手術が必要であり,顔面外傷において症状に応じて眼窩壁骨折を鑑別に入れ,見逃さないようにする.問診はまずは受傷した日時,受傷機転,自覚症状などの聴取を行う.受傷機転は,スポーツ,喧嘩,転倒,転落,交通事故などさまざまあるが,眼球打撲時の衝撃の程度は骨折の範囲と関連する.高齢者では転倒による受傷が多く,骨が脆いため骨折範囲が大きくなる傾向がある.一方,若者の場合は,スポーツや喧嘩による受傷が多く,とくに野球のボールによる外傷が多い.CII眼窩骨折の症状眼窩壁骨折の症状には,複視,眼球運動時痛,眼瞼腫脹,悪心・嘔吐,鼻出血などさまざまである.とくに若年者の場合は閉鎖型骨折が生じやすく,強い眼球運動痛や悪心・嘔吐を認めることが多い.また,骨折部位は内壁,下壁,内下壁に分かれ,内壁骨折ではおもに水平方向,下壁骨折ではおもに垂直方向の眼球運動障害を認める.内壁は篩骨蜂巣に支えられており,下壁よりも薄いが折れにくく,骨折部位としては下壁骨折がもっとも多くを占める.下壁骨折では眼窩下神経溝の鼻側で骨折していることが多く,眼窩下神経支配の頬部のしびれを同時に認めることがある.そのため,受傷後,頬部のしびれを認めている場合は積極的に眼窩骨折を疑う.内下壁骨折では,骨折の範囲が広くなることが多く,複視症状はより強くなる.晩期に認める症状としては,眼窩内容積が大きくなることによる眼球陥凹の可能性がある.一方,眼窩壁骨折と同時に頬骨骨折,鼻骨骨折を合併している場合があり,手術時期を逃さないために,これらの骨折を認めた場合は早急に各科へ紹介し,必要に応じて眼窩骨折と同時に整復を行う.また,絶対に見逃してはいけない所見の一つに頭蓋底骨折がある.頭蓋内にCfreeairを認める場合は頭蓋底骨折の可能性があり,脳神経外科にすぐに紹介する.一方,上記以外の眼科的な合併症は,麻痺性散瞳,外傷性黄斑円孔,網膜.離,網膜振盪などさまざまである.術後トラブルを避けるために,眼窩骨折の精査とともに,手術前に視力検査,前眼部検査,眼底検査を行い,見逃さないようにする.*HiroakiOku:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕奥拓明:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(45)C1429左眼右眼耳鼻鼻耳側側側側図1左眼窩下壁骨折症例のHess所見患側(左眼)の基線が上方時,30°枠線より小さく,健側(右眼)が枠線より大きくなる.上方視時に複視を認める.図2左眼窩下壁骨折のCT画像a:冠状断画像.b:矢状断画像.図3眼窩内壁骨折のCT画像a:冠状断画像.b:軸位断画像.図4左眼窩下壁骨折(筋絞扼型骨折)図5左眼窩下壁骨折(脂肪絞扼型骨折)左眼窩内に下直筋の陰影が消失し,左上顎洞内に眼窩内脂肪,左上顎洞内に眼窩脂肪を認める.下直筋の絞扼は認めない.下直筋を認める(missingrectus).図6術後CTa:図C2の症例の術後CT.Cb:図C3の症例の術後CT.脱出組織は眼窩内に返還されており,骨折部位に人工骨が挿入されている.-図7術中所見(骨折の後端の確認と人工骨の挿入)後端の上に人工骨が乗るように整復を行う.人工骨より副鼻腔側に眼窩内組織がないことを確認する.

眼窩炎症性疾患

2024年12月31日 火曜日

眼窩炎症性疾患OrbitalIn.ammatoryDisease朝蔭正樹*臼井嘉彦*はじめに眼窩には眼球以外にも外眼筋,涙腺,脂肪組織などが存在し,それらの組織が炎症の原因となり,さまざまな眼窩炎症性疾患を発症する(表1).眼窩炎症性疾患の原因として眼窩蜂窩織炎などの感染性のものと,特発性眼窩炎症などを代表とする非感染性に大別する必要がある.本稿では日常診療で遭遇する機会の高い眼窩炎症性疾患に関する各疾患の診断と治療について解説する.CI眼窩蜂窩織炎眼窩蜂窩織炎は急性涙.炎や副鼻腔炎などの細菌感染による炎症が直接的に眼窩の軟部組織に波及する場合と,他の臓器から血行性に感染が波及する場合がある.CT検査による眼窩内での炎症の広がりを確認することで,副鼻腔など他の隣接臓器の状態を確認する(図1).眼窩蜂窩織炎の重症度評価として,Chandlerの分類があり1),治療方針の参考となる.膿瘍形成をしていればCMRIのCT1強調像で等信号,T2強調像で高信号を示すため,膿瘍が疑われる場合はCMRIの撮像を追加することが望ましい.眼周囲に原因が見あたらない場合は他臓器から血行性に感染が波及している可能性があるため,全身のCCT検査や血液培養を行い,感染源の同定を行わなければならない.起炎菌はブドウ球菌が多いとされるが,小児ではインフルエンザ菌,肺炎球菌が多く,糖尿病などの免疫不全者,高齢者,ステロイドや免疫抑制薬の投与歴のある患表1眼窩炎症性疾患特発性眼窩炎症眼窩蜂窩織炎IgG4関連眼疾患サルコイドーシス反応性リンパ組織過形成Sjogren症候群涙腺炎多発血管炎性肉芽腫症甲状腺眼症外眼筋炎者では緑膿菌による感染の報告もあり,真菌(眼窩真菌症)を含めたさまざまな菌種を念頭に置く必要がある.起炎菌は多岐にわたるため,治療はまず広域の抗菌薬の全身投与を行う.抗菌薬への反応が悪い場合やCChan-dler分類のグループCIII以降に該当する膿瘍の場合は早急に切開排膿を行い,炎症のコントロールを図るとともに起炎菌の同定を試みるほうがよい(図2).CII特発性眼窩炎症特発性眼窩炎症(図3)は眼窩内に原因不明の炎症が生じる病態の総称である.発生部位によって外眼筋炎型・涙腺型・びまん型・眼瞼型・眼窩先端部型に分類され,多くは片側性である.両側性の場合には後述するIgG4関連眼疾患などの全身性疾患を疑い,全身検索を行う必要がある.わが国における眼窩腫瘍の原因としてもっとも多く2),遭遇する機会は多い.腫瘤などが表面から増えるようであれば,可能なかぎり病変を生検し他疾患の除外を行う必要がある.生検が困難であっても血液検査や胸部CX線検査を施行し,可*MasakiAsakage&YoshihikoUsui:東京医科大学臨床医学系眼科学分野〔別刷請求先〕朝蔭正樹:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(41)C1425図1左眼窩蜂窩織炎a:55歳,男性.結膜浮腫を伴う左眼瞼の発赤・腫脹・疼痛で受診.Cb:同患者の眼窩CCT検査では右眼に比べ左眼の眼窩脂肪織濃度は上昇し,眼瞼腫脹を認める.a:6歳,女児.右眼窩蜂窩織炎に対して抗菌薬治療が行われたが改善しないため転院.右眼を中心に前額部から左眼の上眼瞼にかけて腫脹と疼痛あり.Cb:MRIのCT2強調像では前額部から上直筋直上にかけて高信号の腫瘤を認めたため,膿瘍の診断で切開排膿を施行した.a:30歳,女性.左眼の眼球突出の精査目的に紹介受診.甲状腺ホルモンや血清CIgG4は正常であった.Cb:MRIのCT1強調像では左眼の涙腺腫脹を認めた.図4甲状腺眼症a:69歳,女性.甲状腺眼症を契機に甲状腺機能亢進症が判明した.両眼にCdalrymplesignを認める.Cb:眼窩CMRIの脂肪抑制のCT2強調像で両眼の下直筋と内直筋が腫大し高信号を示す.図5IgG4関連眼疾患a:82歳,女性.両眼の眼瞼腫瘤の精査で受診.Cb:眼窩CMRIでは両眼の涙腺腫大を認める.血清CIgG4値は1,170Cmg/dlであり,生検の結果,IgG4関連眼疾患の診断となった.’C

悪性眼窩腫瘍

2024年12月31日 火曜日

悪性眼窩腫瘍MalignantOrbitalTumor中島勇魚*辻英貴*はじめに悪性眼窩腫瘍はまれな疾患群であり臨床で遭遇する機会は少ないが,視機能や生命予後に重大な影響を与え,その診断と治療には高度な専門知識と技術が要求される.眼窩は複雑な解剖学的構造をもち,眼球,外眼筋,神経,血管,涙腺など多様な組織が狭いスペースに密集しているため,ひとたび腫瘍が発生するとその影響は広範囲に及ぶ.悪性眼窩腫瘍には,眼窩から発生する原発性腫瘍に加え,眼瞼や結膜などの眼部や副鼻腔,中枢神経系から眼窩に浸潤する浸潤性眼窩腫瘍,他の臓器の悪性腫瘍からの転移性眼窩腫瘍も含まれる.原発性悪性眼窩腫瘍は上皮性腫瘍とリンパ増殖性腫瘍に大別され,前者の代表は腺様.胞癌,後者の代表は悪性リンパ腫である.浸潤性眼窩腫瘍は,周囲組織の癌が眼窩に直接浸潤することで発生し,初期は症状を自覚しづらいため,しばしば進行した段階で発見される.転移性眼窩腫瘍は乳癌をはじめとして肺癌,前立腺癌,腎細胞癌などが眼窩に転移し,全身転移を伴うことが多い.これらの腫瘍の管理には,全身的な治療と眼窩への局所的治療を組み合わせる必要性や,腫瘍の性質や進行度に応じた多角的な治療戦略が求められ,個々の患者に応じて最適化されたアプローチが必要である.また,他科と連携した治療が必要な疾患も多く,眼科医も診断および治療に関する知識を備えておく必要がある.本稿では,悪性眼窩腫瘍の疫学,診断,治療について解説する.I疫学良悪性含めた眼窩腫瘍の診断年齢については,10歳未満と50.60歳代付近の二峰性であることが知られている.その中で悪性眼窩腫瘍は比較的高齢者に多く,60歳未満で良性腫瘍,60歳以上で悪性腫瘍の頻度が高いとする報告もある1).悪性眼窩腫瘍は全眼窩腫瘍においては20.30%を占め,その中でもっとも頻度が高いのは悪性リンパ腫である2).悪性リンパ腫としては低悪性度であるMALTリンパ腫(extranodalmarginalzonelymphomaofmucosa-associatedlymphoidtissuetype)が60%以上を占め,悪性度の高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(di.uselargeB-celllymphoma:DLBCL)が次に多い2,3).上皮性悪性腫瘍の代表は腺様.胞癌で40.50歳前後の壮年期にも発症のピークがあり4),若年者でも必ず鑑別疾患として念頭に置くべきである.II診断悪性眼窩腫瘍の診断はまず病歴の聴取が重要である.症状としては眼球突出,視力低下,眼球運動障害,眼痛,眼瞼腫脹などを訴えることが多く,これらの症状の出現順序や進行速度,疼痛の有無は,腫瘍の性質や進行度を示す重要な手がかりとなる.たとえば悪性リンパ腫においては,進行速度によりある程度の悪性度を予測することも可能である.低悪性度であるMALTリンパ腫*IsanaNakajima&HidekiTsuji:がん研究会有明病院眼科〔別刷請求先〕中島勇魚:〒135-8550東京都江東区有明3-8-31がん研究会有明病院眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(33)1417はその多くが月単位での緩徐な増大であるが,悪性度の高いDLBCLは週単位で増大して著しい眼瞼腫脹や視神経障害を生じる.このため可及的速やかに生検を行わなくてはならないケースにしばしば遭遇する.また,上皮性腫瘍においても多型腺腫のような良性腫瘍では腫瘤自覚後初診までの期間は1年以上の場合が多く,症状が10カ月未満の際には悪性腫瘍の疑いが高まるとする報告もある5).また,疼痛を伴う場合は神経浸潤が疑われ,腺様.胞癌や進行した扁平上皮癌などで痛みを訴える場合がある.涙腺部上皮性悪性腫瘍40例中39例において疼痛を認めるとする報告もあり6),炎症を伴わない疼痛のある患者は注意を要する.眼窩腫瘍の発生には免疫抑制状態,慢性炎症性疾患,特定のウイルス感染が関与するものや,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎などの自己免疫性疾患に合併するものもあり,既往や内服薬などの確認も重要である.血液検査においては,可溶性IL-2受容体は悪性リンパ腫のマーカーとして知られ,活動性の高い悪性リンパ腫において上昇を認める.また,血清IgG4値は悪性リンパ腫と似た臨床像を呈するIgG4関連眼疾患との鑑別に有用である.眼窩蜂窩織炎などの感染性疾患では血算や血液分画で白血球や好中球,C反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)が異常値を示すため参考となる.画像診断においては,MRIは腫瘍の性状や境界,腫瘍と視神経や外眼筋との位置関係を把握するのに有用で,眼窩腫瘍の鑑別において重要な検査である.ガドリニウム造影を用いると腫瘍の血流や浸潤パターンを評価できるので,喘息や腎機能低下がない限りは,原則として造影MRIを施行する.CT検査は骨構造の評価にとくに優れており,腺様.胞癌などの骨浸潤が疑われる場合や石灰化の把握には,CTが重要な役割を果たす.また,CTは撮像時間も短く,緊急の検査としても用いやすい.画像の読影においてもっとも需要なポイントは,腫瘍が周囲組織と境界をもった一塊のものか,境界が不明瞭なびまん性のものかを見分けることである.境界が明瞭な一塊の腫瘍であれば,上皮性の腫瘍では多型腺腫や腺様.胞癌,肉腫,血管奇形の中では海綿状血管腫,神経系の腫瘍では神経鞘腫,孤立性線維性腫瘍(solitary.broustumor),.胞では類皮.胞(デルモイド)などが鑑別にあがる.このような腫瘍は比較的硬い「塊」として眼窩内で増大するため,眼球を強く偏位させ複視を訴えることが多い.眼底所見として,眼窩後方から眼球を圧迫して眼底に網膜皺襞を生じることや,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で脈絡膜にwavingを認める場合もある.上皮性である多型腺腫や腺様.胞癌は腫瘤内に低信号と高信号部が混在することが多く,ガドリニウム造影にてより所見が明確になる(図1,2).CTにて骨浸潤や骨破壊がある場合は腺様.胞癌や,良性である多型腺腫が悪性化した多型腺腫源癌なども考える.多型腺腫や多型腺腫源癌では生検や全摘出時の被膜損傷により腫瘍が散布され,その後多発する腫瘍として再発し難治になることや,デルモイドのような.胞であっても,内容物の流出により強い炎症を起こすことや,.胞壁が残存すると再発を生じる場合がある.そのため境界明瞭なこれらの腫瘍では一期的な全摘出による生検(excisionalbiopsy)による診断的治療をめざすことが望まれる.一方でびまん性腫瘤を生じている場合は,良性のリンパ増殖であるIgG4関連疾患や悪性リンパ腫が鑑別にあがる.リンパ増殖疾患はMRIにおいてT1強調で低信号,T2強調で低.中信号で比較的均一な造影効果を示す(図3).リンパ増殖性の腫瘍の特徴としては,眼窩内の隙間を埋めるような,いわゆる鋳型を流し込んだような「molding」とよばれるびまん性増殖を生じることが特徴である(図4).悪性度が高く増大が急激なDLBCLでもやはりmoldingがみられ(図5),周囲の骨破壊を生じることはまれである.リンパ増殖疾患においては必ずしも全摘出する必要はなく,まずは可能な限りの部分生検(incisionalbiopsy)により診断し,組織診断および全身精査に応じた治療を行う.手術時の所見としては,若干の赤みを伴うポロポロとした腫瘍を認めた場合は悪性リンパ腫を疑う.また,悪性リンパ腫の診断は通常の病理検査だけでは限界があり,ホルマリンに浸漬する前の生標本を用いたフローサイトメトリーやIgH遺伝子再構成の提出がきわめて重要である.転移性腫瘍もびまん性の形状をとる場合が多く,この場合も組織診断が必1418あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024(34)図1眼窩部に認めた多型腺腫源癌a,b:MRI.水平断CT1強調(Ca)およびCT2強調(Cb).円形で境界明瞭な腫瘤が確認できる.c,d:ガドリニウム造影画像,水平断(Cc)および矢状断(Cd).被膜に包まれ内部は高信号と低信号が入り混じる像であり,上皮性の腫瘍と考えられた.矢状断では頭蓋底の骨の菲薄化があり,脳神経外科による開頭手術により切除を行った.図2腺様.胞癌a,b:MRI水平断CT1強調(Ca)およびCT2強調(Cb).c:ガドリニウム造影画像.水平断(Cc)および冠状断(Cd).円形に増大する腫瘍を認め,内部は一部Ccysticであり,高信号と低信号領域が混在している.眼窩骨の骨切りを併用した前方アプローチでの亜全摘手術により腺様.胞癌の診断であり,重粒子線治療を行ったところ,治療後C2年で血管新生緑内障により失明したが,6年間再発を認めていない.図3MALTリンパ腫のMRI所見a~c:MRI.水平断CT1強調(Ca)およびCT2強調(Cb).c:ガドリニウム造影画像.T1低信号,T2低-中信号であり,比較的均一な造影効果を認める.Cd:本症例は生検後,低線量放射線治療(4CGy)にて治療を行った.腫瘍は消失し以降C5年再発を認めていない.図4MALTリンパ腫のMRI所見―moldinga,b:MRI.T2強調(Ca)およびガドリニウム造影画像(Cb).眼球突出を主訴に受診し,眼球後部に腫瘍を認める.眼球の形状は保たれており,眼窩の隙間を埋めるような腫瘍増殖(molding)を認める.Cc,d:MRI.T1強調(c)およびガドリニウム造影画像(Cd).上直筋付近に腫瘍を認め,moldingを認める.図5眼窩に生じたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫a:右眼の著しい眼瞼腫脹,下垂を認める.本症例は初診時からすでに光覚弁であった.b:眼瞼を他動的に開瞼すると,著しい結膜浮腫を認めた.Cc,d:MRI.水平断CT1強調(Cc)およびCT2強調(Cd).e:ガドリニウム造影画像.T1低信号,T2低.中信号であり,比較的均一な造影効果を認め,リンパ増殖性疾患の特徴と一致する.Cf:臨床所見および腫瘍増大は急激であるが,矢状断では眼窩の隙間を埋めていくようなCmoldingの所見を認める.本症例の眼窩腫瘍は後方に位置し前方アプローチでの生検が困難であり,副鼻腔にも腫瘍を認めたため(C.),腫瘍耳鼻咽喉科に依頼し準緊急で副鼻腔より腫瘍生検を施行した.図6転移性乳癌MRI水平断CT1強調(Ca),ガドリニウム造影画像水平断(Cb)および冠状断(Cc).非造影ではわかりづらいが,造影にて眼球を取り囲むような腫瘍が確認できる.本症例はC30代,女性であり,リンパ増殖疾患を鑑別に生検を行ったところ,腺癌の病理所見であり,全身精査により乳癌が判明した.化学療法を開始したところ眼窩病変は縮小を認めた.–

眼窩腫瘍全摘出

2024年12月31日 火曜日

眼窩腫瘍全摘出CompleteExcisionofOrbitalTumors米田亜規子*はじめに眼窩腫瘍に対する治療は腫瘍の種類により異なり,手術摘出が根治治療となる疾患のほかに,ステロイドや抗癌剤などの薬物治療や放射線治療が第一選択となる疾患もある.治療方針の決定の際は,症状や臨床経過,眼科検査に加え,CTやMRIの画像所見から鑑別疾患を絞っていくが,確定診断には腫瘍生検あるいは腫瘍摘出のいずれかによる病理組織学的診断が必要となる.各種検査所見から全摘出が必要な疾患と判断した場合は,CTやMRIを正確かつ詳細に読み込み,腫瘍までのアプローチ法を詳細に計画する.本稿では,腫瘍全摘出術を選択する各疾患の特徴と腫瘍までのアプローチ方法の選択,術中操作のポイント,そして術後の注意点について述べる.Iどのような疾患で全摘出を選択するか腫瘍の全摘出が治療の第一選択となる疾患には,以下のような腫瘍がある.血管奇形(海綿状血管腫),多形腺腫,類皮.腫や,そのほかの.胞性疾患などが腫瘍全摘出のよい適応であり,これらはいずれも周囲組織との境界が明瞭な良性腫瘍である.また,孤立性線維性腫瘍(solitary.broustumor)も腫瘍摘出が治療の第一選択となるが,血流豊富な腫瘍であり,術中出血に注意が必要である.一方,悪性リンパ腫などのリンパ増殖性疾患,またIgG4関連眼疾患やサルコイドーシスのような炎症性疾患,そのほか腺様.胞癌,眼窩内腺癌などを疑う場合には,全摘出術ではなく腫瘍生検をまず計画し,病理検査による確定診断を行ってから治療方針を決定する.1.血管奇形〔海綿状血管腫(cavernoushemangio-ma)〕静脈の形態をとる異常血管が拡張子腫瘤形成したもので,眼窩内腫瘍では悪性リンパ腫や眼窩内炎症についで頻度の高い疾患である.比較的柔らかい腫瘍で,MRI検査のダイナミック造影において濃染遅延を認める(図1a).2.多形腺腫(pleomorphicadenoma)眼窩ではおもに涙腺部に生じ,ときに腫瘍に接する眼窩骨に圧排変形を生じる.腫瘍は比較的硬く,MRIで隣接する眼球にも圧排変形を認めることがある(図1b).長期経過において悪性化を認める場合がある.3.類皮.腫(dermoidcyst)生下時や幼少期から生じ,緩徐な増大傾向を認める.発生の段階で眼窩骨の縫合部に外胚葉成分が迷入することで生じるとされている.おもに前頭骨頬骨縫合部に生じるが,前頭骨上顎骨縫合部に認める場合もある.骨縫合部の外側(側頭筋側)に生じる場合と眼窩内側*AkikoYoneda:聖隷浜松病院眼形成眼窩外科〔別刷請求先〕米田亜規子:〒430-8558静岡県浜松市中央区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(23)1407図1全摘術の適応となる眼窩腫瘍a~e:MRI(ガドリニウム造影T1強調像).c:CT(軟部条件).腫瘍により造影パターンや発生部位に特徴がある.a:海綿状血管腫(血管奇形):造影MRIで濃染遅延を認める.b:多形腺腫:眼窩内ではおもに涙腺部に生じ,ときに隣接する眼窩骨に圧排性変化を認める.c:類皮.腫:おもに前頭骨頬骨縫合部に生じる.d:孤立性線維性腫瘍:眼窩内のさまざまな部位に生じる.血流豊富でときに.owvoidを認める.e:神経鞘腫:腫瘍は由来となる神経に沿って生じる.眼窩内では三叉神経に生じることが多い.眼瞼腫脹,眼球突出視野障害網膜皺襞(Mariotte盲点の拡大を認めた症例)図2眼窩腫瘍により認める症状眼瞼腫脹や眼球突出,視力/視野障害,眼球運動障害のほか,腫瘍による眼球圧迫により眼底検査において網膜皺襞を認める場合もある.視神経と腫瘍の位置関係をみる1視神経より上方2視神経より下方3先端部まで及ぶもの外側/中央:Wright切開睫毛下切開前頭側頭開頭内側:Lynch切開経涙.アプローチ外上方アプローチ外下方アプローチ図3経眼窩(経皮膚)アプローチの選択方法経眼窩アプローチにおいて,どこから眼窩内に進入するかを選択する際には,まず眼窩内における腫瘍と視神経との位置関係をみる.腫瘍が視神経より上方あるいは外側に位置する場合は重瞼線切開やWright切開,眉毛下切開などを選択し,視神経より鼻側に位置する場合はLynch切開,視神経より下方に位置する場合は睫毛下切開を選択する.腫瘍が眼窩内の比較的深い部位(眼球赤道部より後方)や筋円錐内に存在する場合,あるいは腫瘍のサイズが大きい場合は,必要に応じて眼窩縁骨切りの併用(骨切りアプローチ)や経涙.アプローチを選択する.下段は骨切りアプローチを行った症例のCT所見および術中所見(surgeon’sview).ac図4経涙.アプローチ(surgeon’sview)皮膚切開は睫毛下切開およびCLynch切開で行い(Ca),涙.を一度切断し(Cb),眼窩内下方から腫瘍にアプローチする方法で,腫瘍摘出後に再度涙.を吻合する(Cc).経涙.アプローチでは,眼窩内側骨切りを行わずとも,腫瘍摘出に十分な広い術野が得られる.(文献C2より引用)図5眼瞼領域のおもな皮膚切開の位置経皮膚アプローチのおもな皮膚切開には,重瞼線切開,睫毛下切開,Wright切開,Lynch切開などがある.図6眼瞼部の自然皺襞とaestheticunit皮膚切開の際は,自然皺襞やCaestheticunitに加えて,産毛の有無や毛流れの方向も細かく観察してデザインを決めると,手術創の瘢痕が目立ちにくくなる.(aは引用文献C3より,bはC4より引用)図7経副鼻腔アプローチ腫瘍が眼窩下方(上顎洞に近い),内方(篩骨洞に近い),上方(前頭洞に近い)など,眼窩骨を介して副鼻腔付近に位置する場合に用いる(.は各位置に存在する腫瘍へ副鼻腔側からアプローチする方向をさす).副鼻腔から発生した続発性眼窩腫瘍などに同術式を用いる.図8経頭蓋アプローチ(冠状切開)腫瘍が眼窩先端部に位置し,視神経を下方に圧排している場合,あるいは経眼窩アプローチでは摘出が困難な場合に用いる(.は各位置に存在する腫瘍へ副鼻腔側からアプローチする方向をさす).脳神経外科医の協力のもとで,皮膚は冠状切開を行い,前頭側頭開頭で上方から眼窩へ進入する.表1眼窩腫瘍摘出術のおもなアプローチ方法アプローチ方法眼窩への進入方向デザインメリットデメリット①経皮上方,外側重瞼線切開Wright切開眉毛下切開術野が広い皮膚に手術痕が残る皮下出血,眼瞼腫脹下方睫毛下切開1.経眼窩内側Lynch切開上方結膜円蓋部切開皮膚に手術痕が残らない術野が狭い結膜下出血瞼球癒着による眼球運動障害②経結膜下方,外側Cswingingeyelid内側涙丘切開上方(前頭洞)前頭洞切開皮膚に手術痕が残らない術野が狭い術後耳鼻科管理が必要副鼻腔の発育不良では困難鼻出血2.経副鼻腔下方(上顎洞)歯肉粘膜切開上顎洞切開上方(前頭洞)下方(上顎洞)内側(篩骨洞)鼻内視鏡下鼻粘膜切開3.経頭蓋上方(頭蓋底)冠状切開術野が広く見やすい皮膚の手術痕は毛髪で隠れる手術侵襲が大きい術後CICU管理が必要頭蓋内出血や髄液漏のリスク(参考文献C1より引用)図9術中所見(腫瘍と周囲組織の.離)左眼窩下方に生じた眼窩腫瘍に対する全摘出術の術中所見(surgeon’sview).周囲の脂肪組織を脳ベラで優しくよけながら,腫瘍と周囲組織との間にベンシーツを挿入し.離を進めていく

眼窩腫瘍生検の適応と術式

2024年12月31日 火曜日

眼窩腫瘍生検の適応と術式IndicationsandProceduresofOrbitalTumorBiopsy高比良雅之*はじめに眼窩腫瘍やその類縁疾患(炎症性疾患で占拠病変がみられる場合など)の診察においては,まずはその時点での治療介入が必要かどうかを判断する必要がある.そのためには視力・視野や眼球運動などの視機能検査と,MRIやCTなどの画像診断が必須である.たとえば,視機能に影響しないような眼窩深部の小さい海綿状血管腫ではまずは経過観察の方針でよいし,一方で重篤な視力低下をきたしている腫瘍性病変では早急な診断と治療を要する.眼窩腫瘍の治療については,1)生検を行ったうえで次の治療を考えるべき病態,2)生検は行わずに最初から腫瘍の全摘出を予定すべき病態,3)生検や腫瘍摘出などの手術を行わずに治療を始める病態,4)経過観察とすべき病態,といった選択肢に分けられる(表1).本稿では,これら治療の選択について概説し,ついで眼窩腫瘍の生検の術式について解説する.I眼窩腫瘍の治療の選択1.生検を行う病態眼窩腫瘍とその類縁疾患のうち,まず生検を行ってから次の治療を考える病態には,MRI(あるいはCT)でその病変の領域が不鮮明で一期的な手術による全摘出が望めないような疾患や,全摘出手術よりも放射線治療やステロイドなどの薬剤による治療が望ましいと考えられる疾患があげられる.その代表的な疾患のひとつはリンパ腫を含むリンパ増殖性疾患である.また,眼窩骨の破表1代表的な眼窩腫瘍と治療方針1)生検を行ったうえで次の治療を考える①リンパ腫(MALTリンパ腫,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫など)②良性のリンパ増殖性疾患(IgG4関連疾患,反応性リンパ過形成など)③眼窩の原発性上皮性悪性腫瘍(腺様.胞癌,多形腺腫源癌など)④転移性腫瘍(乳癌などの眼窩転移)2)生検は行わずに最初から腫瘍の全摘出を予定する涙腺多形腺腫,海綿状血管腫,神経鞘腫など3)生検や腫瘍摘出などの手術を行わずに治療を始める特発性眼窩炎症,眼窩深部の良性腫瘍(視神経鞘髄膜腫など)4)経過観察とする視機能に影響のない良性腫瘍(小さい海綿状血管腫など)壊像を伴う所見などから上皮性悪性腫瘍(carcinoma)が疑われる場合には,まずは生検で確定診断を得てから,その後の眼窩内容除去術や放射線照射などの治療方針を決めることが多い.a.リンパ腫わが国において眼窩に発症する悪性腫瘍でもっとも頻度の高いのはリンパ腫であり,なかでもB細胞由来のmucosaassociatedlymphoidtissue(MALT)リンパ腫(図1a,b)がもっとも多く,ついでびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(di.uselargeB-celllymphoma:DLBCL)(図1c,d)や濾胞性リンパ腫(follicularlymphoma)がみられる.そのほかのB細胞由来のリンパ腫(マントル細胞リンパ腫など)や,T細胞由来のリンパ腫はまれで*MasayukiTakahira:金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室〔別刷請求先〕高比良雅之:〒920-8641石川県金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(15)1399図1リンパ腫a:70代,男性のMALTリンパ腫.左内眼角部皮下から眼球後方にかけて腫瘤がみられた().b:aと同一症例の術中写真(surgeon’sview).左内眼角上方の皮膚を切開し,病変部の生検を行った.c:50代,女性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫.両眼の球後,筋円錐内に腫瘍がみられた().d:cと同一症例の術中写真(surgeon’sview).右眼の鼻側球結膜を切開し,内直筋を付着部で一端はずして,生検鉗子()で腫瘍の一部を切除した.図2IgG4関連疾患a:50代,女性のCIgG4関連涙腺炎.CTにて両涙腺腫大がみられた().b:aと同一症例の術中写真(sur-geon’sview).右上眼瞼耳側の皮膚切開(重瞼線切開)により涙腺の内容物の生検を行った.Cc:70代,男性のCIgG4関連眼疾患.MRIで右眼瞼皮下から眼窩にかけて腫瘤がみられた().d:cと同一症例の術中写真(surgeon’sview).右下眼瞼皮膚の鼻側の睫毛下を切開して,腫瘤の生検を行った.図3眼窩の上皮性悪性腫瘍a:50代,男性の腺様.胞癌.CTにて左涙腺に骨破壊を伴う腫瘍がみられた().b:aの腫瘍の病理像.腺様.胞癌と診断された.Cc:60代,男性の多形腺腫源癌.MRIで右涙腺に眼窩骨破壊を伴う腫瘍がみられた().d:cの腫瘍の病理像.多形腺腫源癌と診断された.~~図4転移性腫瘍a:40代,女性にみられた乳癌の眼窩転移().b:60代,男性にみられた肝細胞癌の眼窩転移.MRIで右涙腺に眼窩骨破壊を伴う腫瘍がみられた().c:bと同一症例の術中写真(surgeonC’sview).眉毛下切開で生検を行った.d:病理で肝細胞癌の転移が疑われ,原発巣である肝細胞癌が発覚した.図5生検はしないで全摘出術を行った眼窩腫瘍a:80代,男性にみられた右涙腺多形腺腫().b:50代,女性にみられた左眼窩筋円錐内の海綿状血管腫().c:50代,女性にみられた右眼窩上方の神経鞘腫().d:70代,女性にみられた右眼窩のCsolitary.broustumor().図6手術を行っていない眼窩腫瘍a:30代,女性にみられた左視神経髄膜腫().左眼視力が徐々に低下したので放射線照射を行った.Cb:50代,女性にみられた左眼窩筋円錐内の海綿状血管腫().10年以上大きさは変わらず,視力低下・視野障害もないので経過観察としている.図7眼窩手術における切開線の例(左眼).眉毛下切開線(図C4c参照),.重瞼線切開線(図C2b参照),C.下眼瞼睫毛下切開線(図C2d参照),.内眼角切開線(図C1b参照),.結膜切開線(図C1d参照).上眼窩切痕(×)を通る三叉神経第C2枝に留意する.

眼窩疾患の画像検査

2024年12月31日 火曜日

眼窩疾患の画像検査DiagnosticImagingforOrbitalDisease橋本雅人*はじめに眼窩疾患は,病変が細隙灯顕微鏡や眼底検査,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)などによって発見できるものではないため,診断にはCT,MRI検査が不可欠である.ただし,撮影条件や撮影法が不適切であると,病変を見逃してしまう可能性がある.その理由として,眼窩は骨で囲まれた円錐型の小さなスペースであり,その中は脂肪が充満し,そこに視神経,外眼筋,涙腺などの眼付属器が密集していること,さらに眼窩周囲が空気で充満された副鼻腔であるため,磁場が不均一になりやすい環境であることが,より一層画像検査をむずかしくしている要素でもある.本稿では眼窩部画像検査に最適なCT,MRIの撮影条件,オーダー法などについて解説する.ICTとMRI,どちらを選択するか眼窩部画像検査にはCTとMRIという二つの検査法があるが,どちらを選択するかは患者によって変わってくる.CTはMRIに比べて解像度が劣る反面,骨折や骨破壊などの骨変化をみるには有用な検査である(図1).とくに外傷による眼窩底骨折や視神経管骨折を疑った場合は,軟部組織で撮る条件のほかに骨条件(bonewindow)での撮影を併用することが望ましい.一方,MRIは高分解能で解像度がよいため,眼窩内の詳細な構造の描出には,CTよりも優れていることはいうまでもない.しかし,MRIは撮像時間がCTに比べて長いこと,撮影禁忌例があること,緊急時にすぐ対応しにくいなどの短所もあるため,状況に応じた選択をすることが大切である.IIMRIの障害陰影(アーチファクト)眼窩部撮影時,とくにMRIで明確な画像を撮影するコツとして,障害陰影(以下,アーチファクト)をいかに防ぐかがあげられる.もっとも多いアーチファクトは,動きで起こるブレ(motionartifact)である.頭部MRI撮影ではmotionartifactを防ぐためにコイルと頭部の隙間にクッションを入れて頭が動くのを防いだり,検査前に十分な説明を患者にしたりする.眼窩部MRI撮影ではそれに加え,眼球を動かさないよう指示することが大切である.そのため,寝台上の患者の正面に,固視できるようなマーキングをするなどの工夫をするとよい.その他のアーチファクトとしては,共鳴周波数の違いにより生じる化学シフトアーチファクト(図2a)や,信号強度が大きく異なる部位で撮像画素数が少ないと出現する打ち切りアーチファクト(truncationartifact)などがある.眼窩部MRI画像でよくみるtruncationarti-factとしては,shorttauinversionrecovery(STIR)法で眼窩内視神経を冠状断で撮影する場合に,MRIの画素数や画素の形状さらに磁場方向によって一つまたは二つの円形高信号が視神経内に出現することがあり(図2b),網膜中心動脈や網膜中心静脈として読影してしまうことがあるので注意を要する.*MasatoHashimoto:医仁会中村記念病院眼科〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8570札幌市中央区南1条西14丁目291-190医仁会中村記念病院眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(9)1393図1単純CTによる眼窩骨変化a:眼窩悪性リンパ腫.右涙腺部に腫瘍を認め,辺縁の眼窩骨の破壊(bonedestruction)がみられる().Cb:涙腺多形性腺腫.左涙腺腫瘍の辺縁が平滑で隣接する骨の菲薄化(boneerosion)がみられる().図2MRIのアーチファクトa:化学シフトアーチファクトにより,脈絡膜腫瘍と硝子体の境界が高信号()を示している.Cb:打ち切りアーチファクトによって,二つの円形高信号が視神経内に認められる().abc図3孤立性線維性腫瘍(solitary.broustumor)のMRI所見筋円錐内にCT1強調画像で低信号(Ca),T2強調画像で低信号(Cb)を示し著明な造影効果(Cc)を示した.腫瘍は視神経を圧排し,矯正視力は半年間でC1.0からC0.1まで低下した.図4特徴的な画像所見を有する眼窩部腫瘍a:視神経鞘髄膜腫.造影CMRI水平断において視神経鞘が造影されCtram-trucksign()を示している.Cb:出血性リンパ管腫:T2強調画像水平断において,筋円錐内に高信号を示す多房性の腫瘤陰影であり,腫瘍内に一部液面形成()を認める.Cc:海綿状血管腫:造影CMRIにおいて筋円錘内に円形の腫瘤が認められ,造影開始から緩徐に造影されている(左から造影C1分後,5分後,10分後,15分後).図5眼窩炎症性疾患のSTIR所見a:特発性眼窩炎症.眼窩内脂肪の不均一な高信号()を認める.Cb:甲状腺眼症.上直筋の著明な肥大と高信号()を認める.c:球後視神経炎.眼窩先端部における視神経の高信号()を認める.表1STIR法が有用な眼窩疾患視神経炎:アクアポリンC4抗体陽性視神経炎MOG抗体陽性視神経炎典型的視神経炎視神経周囲炎動脈炎性虚血性視神経症甲状腺眼症特発性眼窩炎症表2中村記念病院で行っている眼窩部撮影プロトコール眼窩部CCTの場合水平断はCReid-baseline(RBline)で撮る冠状断は必須であるスライス厚はC2Cmm位がよい条件設定は腹部撮影の条件とほぼ同じでよい骨折疑いのときは骨条件(bonewindow)も併用する眼窩部CMRIの場合水平断はCRBlineで撮り,冠状断は必須であるスライス厚はC2.5CmmがよいSTIR冠状断T1またはCT2強調画像水平断造影時は脂肪抑制法を併用する図7外眼筋の形態異常を示すCT所見a:慢性進行性外眼筋麻痺.両側内直筋,外直筋の著明な萎縮を認める.b:Saggingeye症候群:両側外直筋―上直筋間の開大()および外直筋の下方偏位を認める.c:甲状腺眼症:両側内,上,下直筋の肥厚を認める.

眼窩の解剖

2024年12月31日 火曜日

眼窩の解剖OrbitalAnatomy清水英幸*はじめに多くの眼科医は眼内の解剖に関する知識を十分に有している.しかし,眼球を取り囲む眼窩の解剖については,眼窩疾患に携わる機会が少ないため理解が不十分であることがある.眼窩骨折や眼窩内腫瘍の手術に関与する際はもちろん,これらの手術を行わない眼科医にとっても,眼窩疾患の発生しやすい部位やそれに関連する症状を理解するためには,眼窩内の解剖についての知識が不可欠である.本稿では,眼窩骨,眼窩の血管,神経など,眼窩の解剖について解説するとともに,眼窩疾患の好発部位,手術中に注意するべき部位などを示した.CI眼窩骨眼窩は,頬骨,前頭骨,口蓋骨,上顎骨,蝶形骨,涙骨,篩骨の七つの骨から構成されている(図1).上壁と外壁は厚い骨で形成されており,眼球をバンパーのように保護する役割を果たしている.一方,内壁と下壁は非常に薄い骨である.そのため骨折が起こりやすく,骨折により眼窩内組織が副鼻腔に脱出することで眼窩内圧の上昇を防ぎ,眼球の損傷を軽減する緩衝機能をもつと考えられている.眼窩の入り口は四角形であり奥に進むにつれて狭くなり,ピラミッド状の形状を呈する.容積は約C30.mlである.C1.上壁大部分は前頭骨で構成されている.眼窩の先端部分は(正面から)蝶形骨小翼前頭骨眼窩上孔前篩骨孔篩骨涙骨涙.窩口蓋骨眼窩突起上顎骨蝶形骨の小翼によって形成され,視神経管が存在する.外側前方の前頭骨と頬骨の縫合線の直上には涙腺窩があり,ここに涙腺が位置している.上眼窩縁の中央やや内側には眼窩上切痕があり,ここを通過するのは前頭神経の終枝である眼窩上神経と眼窩上動脈である.内側前方には滑車があり,その上方には滑車上神経が通っている.C2.外壁頬骨と蝶形骨の大翼から構成されている.この構造の内壁と外壁はほぼC45°の角度を形成している.上壁との接点には上眼窩裂が存在し,ここを通過するのは動眼神経,外転神経,鼻毛様体神経,滑車神経,涙腺神経,前頭神経などの重要な神経である.下壁との境界は下眼窩図1眼窩骨*HideyukiShimizu:名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学教室〔別刷請求先〕清水英幸:〒466-8550名古屋市昭和区鶴舞町C65名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学教室C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(3)C1387内直筋図2左眼窩脂肪のコンパートメント上斜筋滑車上直筋上斜筋内直筋総腱輪視神経外直筋下直筋下斜筋図3左眼窩の外眼筋(矢状断)図4右眼窩の動脈図5左眼窩の静脈図7左毛様体神経節の神経支配-

序説:これで盤石! 眼窩疾患の診かた

2024年12月31日 火曜日

これで盤石!眼窩疾患の診かたNowStandingonSolidGround!HowtoDiagnosisOrbitalDiseases渡辺彰英*外園千恵*多くの眼科医にとって,眼窩疾患はなじみが薄い疾患であろう.眼窩腫瘍や眼窩骨折などの患者は一般病院の勤務医であっても年間に数例も経験しないと思われる.しかし,いざ眼窩疾患の患者が目の前に現れたときに,一体どのように検査を進め,どのような治療方針を立てるのか,またはどの専門施設に紹介すればよいのかといったことを知らなければ,患者への説明にさえ苦慮する事態になってしまう.本特集は,「これで盤石!眼窩疾患の診かた」のタイトルのもと,眼窩の解剖・画像検査,主たる眼窩疾患からその治療法に至るまで,各分野のスペシャリストの先生方に執筆していただいた.眼窩疾患は,他の眼科疾患と異なり,「目に見えない部位」であることが最大の特徴である.眼球突出や陥凹,眼球運動障害,眼球偏位などを認めれば,眼窩疾患を疑うことができるが,眼窩内を直接観察することはできない.そのため眼窩疾患を疑ったらどのような検査を行い,どのように診断をつけていくのかを理解しておくことが重要である.したがって眼窩の解剖と画像検査の知識は,眼窩疾患の診かたを習得するうえで基本となるものである.眼窩腫瘍や眼窩骨折,甲状腺眼症などを疑った際に,どの画像検査をどのようにオーダーするべきか,それぞれの眼窩疾患の画像上の特徴,鑑別疾患にはどのようなものがあるかを,眼窩の解剖学的知識をもとに診断できるようになりたいものである.眼窩腫瘍ではときに悪性腫瘍を経験する.悪性腫瘍や炎症性疾患を疑った際の手術の基本は生検であり,その病理組織診断に応じて次のステップへ進む必要がある.実際に全摘出手術はできなくとも,生検を行えるようになるだけで,より早く患者を救うことができる.画像検査で推測した腫瘍の種類と実際の病理組織診断の結果が一致したときには,マニアックであるが他の眼科疾患では得られない喜びがある.眼窩骨折および甲状腺眼症においても画像診断が重要である.筋絞扼閉鎖型骨折であることをCTで確認すれば緊急手術の適応であり,甲状腺眼症では外眼筋などの眼窩炎症の程度把握が治療方針を決定する.「目に見えない」部位であるがゆえに,眼窩疾患は画像検査に基づいた疾患ごとの診かたが重要である.本特集が眼科臨床医にとって眼窩疾患診療の一助になれば幸いである.*AkihideWatanabe&ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)1385

未治療滲出型加齢黄斑変性に対するファリシマブの導入期治療成績

2024年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(11):1372.1377,2024c未治療滲出型加齢黄斑変性に対するファリシマブの導入期治療成績切石達範永井由巳植村太智中山弘基大中誠之木村元貴髙橋寛二関西医科大学眼科学教室CShort-TermOutcomesofIntravitrealFaricimabforTreatment-NaiveNeovascularAge-RelatedMacularDegenerationTatsunoriKiriishi,YoshimiNagai,TaichiUemura,HirokiNakayama,MasayukiOhnaka,MotokiKimuraandKanjiTakahashiCDepartmentofOphthalmologyofKansaiMedicalUniversityHospitalC目的:未治療滲出型加齢黄斑変性(nAMD)に対するファリシマブの治療成績について検討する.方法:関西医科大学附属病院でC2022年C7月.2023年C1月にファリシマブによる治療を開始した未治療CnAMD症例のうち,ファリシマブをC3回またはC4回,1カ月ごとに投与する導入期治療を行い,治療後C1カ月まで経過を観察できたC45例C45眼を対象に,ファリシマブ投与時と導入期治療後C1カ月のClogMAR視力および中心網膜厚(CRT),中心脈絡膜厚(CCT)を計測し,その変化を後ろ向きに検討した.結果:症例は45例45眼(男性25例25眼,女性20例20眼)で全体の平均年齢はC76.6歳,病型の内訳はCtype1MNVがC15眼(33.3%),type1とCtype2MNVの合併例がC5眼(11.1%),type3MNVがC4眼(8.9%),PCVがC21眼(46.7%)であった.導入期治療においてCdryになるまでの投与回数の中央値はC1(1.4)回で,1回投与後がC24眼C53.3%,2回投与後がC14眼C31.1%,3回投与後がC3眼C6.7%,4回投与後がC1眼C2.2%,導入期治療後も滲出性変化が消退しなかった症例はC3眼C6.7%で,92.3%で導入期治療により滲出性変化を抑制できた.logMAR視力,CRT,CCTは治療前および導入治療後で,0.38±0.37CμmおよびC0.38±0.43Cμm,321.1±131.3CμmおよびC185.8±93.0Cμm,215.9±120.5CμmおよびC189.8±113.8Cμmであった.有害事象としてC2眼(4.4%)に網膜色素上皮裂孔を認めた.結論:ファリシマブは未治療CnAMDに対する導入期治療の選択肢の一つとして考慮してもよい薬剤である.CPurpose:ToCevaluateCtheCtreatmentCoutcomesCofCfaricimabCforCuntreatedCnAMD.CSubjectsandMethods:Inthisretrospectivestudy,weexaminedthemedicalrecordsof45treatment-naivenAMDpatients(n=45eyes)inwhomCtreatmentCwithCfaricimabCwasCinitiatedCatCKansaiCMedicalCUniversityCHospitalCfromCJulyC2022CtoCJanuaryC2023.CAllCpatientsCreceivedC3CorC4CmonthlyCinjectionsCofCfaricimabCasCtheCinductionCphase,CandCwereCobservedCforC1-monthposttreatment.LogMARvisualacuity(VA),centralretinalthickness(CRT),andcentralchoroidalthick-ness(CCT)weremeasuredatthetimeofadministrationandat1monthaftertheinductionphase.Changeswereexaminedfortheentirecohort,andseparatelyforcaseswithtype1macularneovascularization(MNV),combinedtype1andtype2MNV,type3MNV,andpolypoidalchoroidalvasculopathy.Results:Posttreatment,therewasnoCchangeCofClogMARCVA,CyetCbothCCRTCandCCCTCimproved.CAsCforCadverseCevents,CretinalCpigmentCepithelialCtearsCwereCobservedCinC2Ceyes.CConclusion:FaricimabCmayCbeCconsideredCaCsuccessfulCandCusefulCtherapeuticCoptionforcasesoftreatment-naivenAMD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(11):1372.1377,C2024〕Keywords:滲出型加齢黄斑変性,ファリシマブ,導入期治療,治療成績,有害事象.neovascularage-relatedmaculardegeneration,faricimab,inductionphasetreatment,treatmentresult,adverseevent.C〔別刷請求先〕切石達範:〒573-1191大阪府枚方市新町C2-5-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:TatsunoriKiriishi,DepartmentofophthalmologyofKansaiMedicalUniversityHospital.2-5-1Shinmachi,Hirakata,Osaka573-1197,JAPANC1372(102)I緒言と目的新生血管を伴う滲出型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)は,黄斑部新生血管(macularneovascularization:MNV)からの出血や滲出液により網膜構造の不整を引き起こし視機能を低下させる疾患である.その標準的な治療は,抗血管内皮増殖因子(vas-cularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射により滲出性変化を抑制することである.現在までにいくつかの薬剤が上梓されているが,2022年C3月にファリシマブが新たに承認された.ファリシマブはこれまでの薬剤とは異なり,抗CVEGF-A抗体と抗Cangiopoietin-2(Ang-2)抗体を有する眼科初のバイスペシフィック抗体である.VEGF-A阻害による血管新生および血管漏出の抑制と,Ang-2阻害による血管壁の安定化および抗炎症作用により,nAMDの病態抑制が期待されている.また,Fc領域が改変されているため,胎児性CFc受容体,免疫細胞のCFc受容体と結合せず,全身曝露量の低下や炎症誘発の抑制が期待されている1).実臨床において未治療CnAMDに対して行われた第CIII相臨床試験であるCTENAYA試験(NCT0382328)およびCLUCERNE試験(NCT0382330)でも,投与開始後C48週間の時点でC16週間の投与間隔で滲出性変化を抑制できていた症例の割合はそれぞれC46%とC45%,12週間隔とC16週間隔を合わせた割合はそれぞれC80%とC78%となっており,8週間間隔でアフリベルセプトを投与した場合と比較して最高矯正視力が非劣性であることが示されている2).しかし,上梓されて間もないことから,その臨床的な治療成績についてはまだ不明な点が多い.今回筆者らは,実臨床においてファリシマブを使用した短期的な治療成績を報告する.CII対象と方法対象症例は,関西医科大学附属病院眼科黄斑外来を受診し未治療CnAMDと診断され,2022年C7月.2023年C1月にファリシマブによる治療を開始した患者のうち,ファリシマブを3回またはC4回,1カ月ごとに投与する導入期治療を行い,治療後C1カ月まで経過を観察できたC45例C45眼を対象とした.診断は細隙灯顕微鏡検査,フルオレセイン蛍光造影(トプコンCTRC-50DX),インドシアニングリーン蛍光造影および光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT,Heidelberg社スペクトラリスCHRA+OCT)にて行った.検討項目は,logMAR視力,中心網膜厚(centralCretinalthickness:CRT),中心脈絡膜厚(centralCfovealCchoroidalthickness:CCT),滲出性所見〔網膜内液(intraretinal.uid:IRF),網膜下液(subretinal.uid:SRF)〕の変化,滲出性所見消失までの投与回数および合併症とした.CRTとCCCTはスペクトラリス機器に内蔵されているキャリパーを用いてCBスキャン画像上で計測した.CRTの測定は,中心窩における内境界膜から網膜色素上皮の表層までで行い,IRFやCSRFも含めた.CCTの測定は,Bruch膜から脈絡膜と強膜の境界部までとした.測定は筆者および共著者(M.O)のC2人で行った.導入期の投与回数は,2回目の投与までに滲出性変化が消失した状態(dry)になった症例ではC3回,それ以外ではC4回の投与を行った.Dryになるまでのファリシマブの投与回数と,logMAR視力,CRT,CCTに関して,全体およびCtype1MNV/type1+2MNVとポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)に分類し,統計学的検討を行った.統計はCMicrosoftCO.ceCHomeCandCBusinessPremiumに付属するCExcel(バージョンC2311)を用いてCWilcoxonの符号順位検定にて検討し,p値がC0.05未満の場合を有意差ありとした.また,有害事象については後ろ向きに検討を行った.CIII結果対象症例C45例C45眼の内訳は,男性C25例C25眼,女性C20例C20眼,平均年齢はC76.4歳であった.また,nAMDの病型別の内訳は,typeC1MNVがC15眼(33.3%),typeC1CMNVにtype2MNVを合併したものが5眼(11.1%),type3MNVがC4例C8.9%,PCVがC21眼(46.7%)であった.ファリシマブ投与C1回後にCdryになった症例はC24眼(53.3%),2回後が14眼(31.1%),3回後が3眼(6.7%),4回後がC1眼(2.2%)であり,導入期治療で最終的にC42眼(93.3%)においてCdryが得られた.4回投与後にもCdryが得られなかった症例はC3眼(6.7%)であった.logMAR視力の変化(図1)は,全体(45眼)では投与前がC0.38C±0.37,投与後がC0.38C±0.43であり,有意差は認めなかった(p=0.61).投与回数がC3回の群(41眼)とC4回の群(4眼)に分けた場合では,3回投与群で投与前がC0.38C±0.38,投与後がC0.39C±0.45であり,有意差は認めなかった(p=0.49).4回投与群で投与前がC0.31C±0.11,投与後がC0.20C±0.10であり,有意差は認めなかった(p=1).CRTの変化(図2a)は,全体では投与前がC321.1CμC±131.3μm,投与後がC185.8C±93.0Cμmであり,有意に減少を認めた(p<0.0001).3回投与群で投与前がC321.6C±137.2Cμm,投与後がC183.4C±96.1μmであり,有意に減少を認めた(p<C0.0001).4回投与群で投与前がC316.3C±42.6Cμm,投与後がC208.0±62.3Cμmであり,有意差は認めなかった(p=0.11).CCTの変化(図2b)は,全体では投与前がC215.9C±120.5μm,投与後がC189.8C±113.8Cμmであり,有意に減少を認めた(p<0.0001).3回投与群で投与前がC222.0C±122.6Cμm,logMAR視力0.450.40.350.30.250.20.150.10.050治療前1カ月2カ月3カ月4カ月3回投与群4回投与群(n=41)(n=4)図13回投与群と4回投与群のlogMAR視力の推移a350300250CRT(μm)200150100500治療前1カ月2カ月3カ月4カ月3回投与群4回投与群*p<0.05(n=41)(n=4)**p<0.01b250200150153.8100500CCT(μm)治療前1カ月2カ月3カ月4カ月3回投与群4回投与群(n=41)(n=4)図23回投与群と4回投与群のCRT(a)およびCCT(b)の推移0.60.50.40.30.20.10logMAR視力a350300250200150CRT(nm)100500bCCT(nm)300250200150100500治療前治療後type1MNV/1+2MNV群PCV群*p<0.05(n=20)(n=21)**p<0.01図4病型別のCRT(a)およびCCT(b)の治療前後の推移表1治療前後でlogMAR視力が0.3以上悪化した症例の詳細病型治癒前視力(小数視力)治癒後視力(小数視力)治癒前CCRT[Cμm]治癒後CCRT[Cμm]治癒前CCCT[Cμm]治癒後CCCT[Cμm]dryを得るまでの投与回数備考症例C1CPCVC0.40(0C.4)C1.00(0C.1)C720C447C148C143C3症例C2Ctype1CMNVC0.70(0C.2)C1.30(C0.05)C268C130C152C152C3CRPEtear症例C3Ctype1CMNVC0.30(0C.5)C1.00(0C.1)C643C619C130C123C4CPCVrupture症例C4CPCVC0.52(0C.3)C0.82(C0.15)C279C119C183C159C3CPCVrupture症例C5Ctype1CMNVC0.70(0C.2)C1.00(0C.1)C461C332C71C76C3C投与後がC195.0C±116.3Cμmであり,有意に減少を認めた(p<0.0001).4回投与群で投与前がC153.8C±84.3Cμm,投与後がC139.3C±87.9Cμmであり,有意差は認めなかった(p=0.10).また,病型別の検討としてCtypeC1MNVおよびCtypeC1MNVとCtype2MNV合併症例C20例C20眼と,PCV症例C21例C21眼に分けて検討を行った.logMAR視力の変化(図3)は,typeC1MNVおよびCtypeC1MNVとCtypeC2MNV合併症例で投与前がC0.49C±0.43,投与後がC0.53C±0.42であり,有意差は認めなかった(p=0.05).PCV症例で投与前がC0.27C±0.27,投与後がC0.25C±0.31であり,有意差は認めなかった(p=0.89).CRTの変化(図4a)は,typeC1MNVおよびtypeC1MNVとtypeC2MNV合併症例で投与前が320.3C±134.8μm,投与後がC200.2C±116.8Cμmであり,有意に減少を認めた(p=0.001).PCV症例で投与前がC321.0C±136.3Cμm,投与後がC179.7C±72.5μmであり,有意に減少を認めた(p=0.001).CCTの変化(図4b)は,typeC1MNVおよびtypeC1MNVとCtype2MNV合併症例で投与前がC252.7C±64.9Cμm,投与後がC225.4C±59.9Cμmであり,有意に減少を認めた(p=0.002).PCV症例で投与前がC160.7C±130.2Cμm,投与後がC141.0±129.1Cμmであり,有意に減少を認めた(p=0.0008).また,logMAR視力がC0.3以上変化したものとそれ以外の症例に分けてみると,改善した症例がC5眼(11.1%,3回投与群C3眼,4回投与群C1眼),悪化した症例がC5眼(8.9%,3回投与群C4眼,4回投与群C1眼),それ以外(維持)がC36眼(80.0%,3回投与群C33眼,4回投与群C3眼)であった.有害事象については,RPEtearをC2眼(4.4%)で認めた.眼内炎症および全身的な副作用は認めなかった.IV考察ファリシマブの導入期治療において,本検討ではC93.3%と高率にCdryが得られた.nAMDの治療に関して,抗VEGF薬による導入期治療に対する反応性が良好な症例ではその後の視力予後が良好である可能性が示唆されており3,4),ファリシマブ導入期治療での滲出性所見に対する抑制効果が高いことは視力維持に有効である可能性がある.導入期治療での治療成績は,TENAYA試験およびLUCERNE試験ではCIRFとCSRFの抑制率はアフリベルセプトより優位に高いと報告されているが,以前当院でアフリベルセプトの導入期治療を行い,94%でCdryが得られると報告しており5),今回の結果と同様であったことから,ファリシマブはアフリベルセプトと同等あるいはそれ以上の滲出抑制効果があると推測される.CRTとCCCTに関しては,治療により有意に改善を得られており,これはCTENAYA試験,LUCERNE試験および国内での既報6,7)でも同様の報告がなされている.ただし,本検討では視力に関しては治療前後で有意差はみられなかった.logMAR視力がC0.3以上悪化した症例に関して詳細に検討したところ,5例が該当した(表1).治療前のClogMAR視力の平均はC0.52C±0.18と全体の平均と比較し治療開始前の視力が不良であったが,そのうちC2例は治療開始前にCPCVruptureにて出血を起こした状態であり,またC1例では経過中にCRPEtearを認めた.こうした例では治療にかかわらず網膜およびCRPEの萎縮が進行し,不可逆的に視力が増悪する.国内でファリシマブの導入期治療成績を報告している既報でも,松本ら6)は治療前後のClogMAR視力がC0.33C±0.41からC0.22C±0.36に,向井ら7)はC0.40C±0.42がC0.32C±0.43に有意に改善したと報告しているが,本検討では前述の背景因子が大きく影響している可能性があり,症例数を増やして検討を行うことで視力が改善する結果を得られる可能性は高いと考える.合併症としてCRPEtearをC2例で認めたが,既報と比較しても著明に多い結果ではなかった6,7).発生した症例のCPEDの長径および高さは,1例でC5,644μm/304Cμm,もうC1例はC3,645Cμm/121Cμmであり,tear発生前のCPEDの長径および高さはどちらもとくに際立って大きなものではなく,発生に関しての傾向は不明であった.CRPEtearは,大きなCPEDの静水圧や抗CVEGF薬での治療によりCCNVが線維化および収縮することで起こるとされている8,9).黄斑部に起こると劇的に視力が悪化する合併症であるため,丈の高いCPEDでは発生に注意しリスクを説明したうえで治療する必要がある.CV結語本検討ではClogMAR視力に関して有意差はなかったものの,CRTおよびCCCTについては有意な改善を認めた.nAMDに対する導入期治療において,ファリシマブは選択肢の一つとして考慮してもよい薬剤であるが,今後はさらに多数例での検討を要すると考える.文献1)RegulaCJT,CvonCLundhCP,CFoxtonCRCetal:TargetingCkeyCangiogenicCpathwaysCwithCaCbispeci.cCCrossMAbCopti-mizedCforCneovascularCeyeCdiseases.CEMBOCMolCMedC8:C1265-88,C20162)HeierCJS,CKhananiCAM,CQuezadaCRuizCCCetal:E.cacy,Cdurability,andsafetyofintravitrealfaricimabuptoevery16CweeksCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion(TENAYACandLUCERNE):twoCrandomised,Cdou-ble-masked,CphaseC3,Cnon-inferiorityCtrials.CLancetC399:C729-740,C20223)OhnakaCM,CNagaiCY,CTakahashiCKCetal:ACmodi.edCtreat-and-extendCregimenCofCa.iberceptCforCtreatment-naiveCpatientsCwithCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CGrafesCArchCClinCExpCOphthalmolC255:C657-664,C20174)OhjiM,OkadaAA,SasakiKetal:RelationshipbetweenretinalC.uidCandCvisualCacuityCinCpatientsCwithCexudativeCage-relatedmaculardegenerationtreatedwithintravitre-alCa.iberceptCusingCaCtreat-and-extendregimen:sub-groupCandCpost-hocCanalysesCfromCtheCALTAIRCstudy.CGraefesArchClinExpOphthalmolC259:3637-3647,C20215)永井由巳,大中誠之,木村元貴ほか:滲出型加齢黄斑変性のCtreatment-naive症例に対するアフリベルセプト硝子体内投与の成績.臨眼69:1167-1173,C20156)MatsumotoCH,CHoshinoCJ,CNakamuraCKCetal:Short-termCoutcomesCofCintravitrealCfaricimabCforCtreatment-naiveCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC261:2945-2952,C20237)MukaiCR,CKataokaCK,CTanakaCKCetal:Three-monthCout-comesCofCfaricimabCloadingCtherapyCforCwetCage-relatedCmaculardegenerationinJapan.SciRepC13:8747,C20238)SarrafD,ChanC,RahimyEetal:ProspectiveevaluationofCtheCincidenceCandCriskCfactorsCforCtheCdevelopmentCofCRPEtearsafterhigh-andlow-doseranibizumabtherapy.RetinaC33:1551-1557,C20139)SarrafD,JosephA,RahimyE:Retinalpigmentepithelialtearsintheeraofintravitrealpharmacotherapy:riskfac-tors,pathogenesis,prognosisandtreatment(anAmericanOphthalmologicalCSocietythesis)C.CTransCAmCOphthalmolCSocC112:142-159,C2014***

ポリープ状脈絡膜血管症と診断された成人発症Coats病の1例

2024年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(11):1366.1371,2024cポリープ状脈絡膜血管症と診断された成人発症Coats病の1例福山崇哲櫻田庸一菊島渉柏木賢治山梨大学医学部眼科学講座CAdult-OnsetCoats’DiseasePresentingasPolypoidalChoroidalVasculopathy:ACaseReportTakanoriFukuyama,YoichiSakurada,WataruKikushima,KenjiKashiwagiCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashiC目的:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)として治療後,成人発症CCoats病と診断されたC1例を経験したので報告する.症例:71歳,女性.左眼の視力低下と変視症を主訴に近医を受診後,黄斑浮腫と出血を認め,山梨大学医学部附属病院紹介となった.黄斑部に橙赤色隆起病変と硬性白斑,出血を認め,光干渉断層計(OCT)では網膜下高輝度物質(SHRM)と漿液性網膜.離を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査(FA)で蛍光漏出とインドシアニングリーン蛍光造影検査(IA)で同箇所の過蛍光を認めCPCVを疑った.アフリベルセプト硝子体内注射を計C13回行うも,視力改善は認められず,滲出が残存し,再度造影検査と同時撮影のCOCTを行い,網膜血管瘤が確認された.成人発症CCoats病の診断で網膜血管瘤に直接光凝固を行ったが,黄斑萎縮のため視力改善は限定的だった.結論:IAで網膜血管瘤およびポリープ状病巣はいずれも過蛍光で描出されるため,診断時には同時撮影のCOCTを用いて血管瘤の位置を確認することが重要である.CPurpose:Toreportacaseofadult-onsetCoats’diseasethatinitiallypresentedaspolypoidalchoroidalvascu-lopathy(PCV).Case:A71-year-oldfemalewhocomplainedofdecreasedvisualacuity(VA)anddistortedvisioninherlefteyefor1weekwasreferredtoourhospitalfortreatmentofamacularhemorrhageandmacularedema.ExaminationCrevealedCdecreasedCVACinCtheCleftCeye,CandCfundoscopyCshowedChardCexudates,Chemorrhages,CandCorange-redCelevatedClesionsCinCtheCmacula.COpticalCcoherencetomography(OCT)imagingCrevealedCsubretinalChyperre.ectiveCmaterialCandCserousCretinalCdetachment.CFluoresceinCangiographyCandCindocyanineCgreenCfundusangiography(IA)showedChyper.uorescentCleakageCatCtheCsameClocation,CsoCPCVCwasCinitiallyCsuspected.CDespiteCtheadministrationof13intravitrealinjectionsofa.ibercept,therewasnosigni.cantimprovementofVAandsub-retinal.uidexudation.Hence,acontrastscanandsimultaneousOCTimagingwereperformed,andaretinalvascu-larCaneurysmCwasCobserved.CThus,CtheCpatientCwasCthenCdiagnosedCasCaCcaseCofCadult-onsetCCoats’CdiseaseCandCdirectClaserCphotocoagulationsCwereCperformed,CwhichCultimatelyCresultedCinCtheCdisappearanceCofCtheCaneurysm.CHowever,CimprovementCofCVACwasClimitedCdueCtoCtheCmacularCatrophy.CConclusions:SinceCbothCretinalCvascularCaneurysmsCandCpolypoidClesionsCareChyper.uorescentConCIA,CitCisCimportantCtoCdetectCandCcon.rmCtheClocationCofCtheaneurysmbysimultaneouslyperformingOCTimagingwhenmakingadiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(11):1366.1371,C2024〕Keywords:成人発症CCoats病,ポリープ状脈絡膜血管症,網膜血管瘤.adult-onsetCoats’disease,polypoidalchoroidalvasculopathy,retinalaneurysm.Cはじめにを形成し,重症例では滲出性網膜.離に至ることもある疾患Coats病は網膜血管拡張や血管瘤形成を特徴とし,拡張しである.若年男子の片眼に好発するが,成人でも発症しインた血管の透過性亢進による滲出液の沈着が広範囲に硬性白斑ドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyaninegreenangi-〔別刷請求先〕福山崇哲:〒409-3898山梨県中央市下河東C1110山梨大学医学部眼科学講座tfukuyama@yamanashi.ac.jpReprintrequests:TakanoriFukuyama,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashi,1110,Shimokato,Chuo,Yamanashi,409-3898JAPANC1366(96)ography:IA)ではポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)と類似する所見を示すため,診断に難渋することもある1).今回筆者らは初診時にCPCVと診断し,13回抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射を行ったあとにCIA/光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)同時撮影により診断に至った成人発症CCoats病のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:71歳,女性.現病歴:2016年,1週間前から継続する左眼の変視症と図1初診時の左眼眼底所見a:眼底写真.黄斑と視神経乳頭の間に橙赤色隆起病変(C←)と硬性白斑を認める.Cb:OCT画像(DRICOCT-1Atlantis,トプコン).網膜下高輝度物質(C▲)と漿液性網膜.離(C★)を認める.Cc:FA写真.眼底写真の橙赤色隆起病変と同箇所に蛍光漏出を認める.Cd:IA写真.FAの蛍光漏出と一部重なるポリープ状病巣の過蛍光を認める.図2初回注射から1年半後の左眼眼底所見a:旺盛な硬性白斑の沈着を黄斑周囲に認める.b:FA写真.ポリープ状病巣の過蛍光を認める.c:IA写真.FAと同箇所の過蛍光を認める.d:Spectralis(Heidelberg社)によるCOCT.FA/IAの過蛍光箇所の中心に血管瘤を認める(○).視力低下を主訴に近医を受診したところ,黄斑部出血と黄斑であった.眼底写真で黄斑と視神経乳頭の間に橙赤色隆起病浮腫を認めたため翌日に山梨大学医学部附属病院紹介となっ変と硬性白斑を認め(図1a),OCTでは網膜下高輝度物質た.と漿液性網膜.離(図1b),フルオレセイン蛍光造影検査既往歴:非結核性抗酸菌症.(.uoresceinangiography:FA)/IAでは蛍光漏出(図1c)来院時所見:視力は左眼(0.3),右眼は篩骨洞原発悪性リおよびポリープ状病巣の過蛍光を認めた(図1d).ンパ腫による視神経障害により失明,眼圧は左眼C18CmmHg経過:PCVを疑い,アフリベルセプトによる抗CVEGF薬図3直接光凝固後の左眼眼底写真a:直接光凝固後C2カ月後.硬性白斑の消退開始を認める.Cb:直接光凝固後C8カ月後(経過中に白内障手術施行).硬性白斑はほぼ消退している.c:直接光凝固後C2年後.硬性白斑は消失しているが網膜萎縮の残存を認める.光凝固の照射条件(アルゴンレーザー,yellow):1回目,100μm,0.1second,0.1W,10shots,2回目,100Cμm,0.1second,0.1W,9Cshots硝子体内注射をC1年半の間に計C13回行ったが視力はC0.3.0.5で推移し改善を認めず,滲出液は残存し,眼底写真ではCII考按黄斑周囲の輪状白斑の悪化を認めていたため(図2a),再度PCVは滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegen-造影検査および同時撮影のCOCTを行ったところ,PCVにeration:AMD)の一亜型であり,病巣の成分はポリープ状特徴的な異常血管網,OCTでの急峻な網膜色素上皮.離や病巣と異常血管網で構成されている.前者はいわゆる血管瘤Cdoublelayersignなどは認められなかったが,FAとCIAでから網膜下への出血や滲出性変化をきたし,後者は新生血管同部位の過蛍光を認め,OCTで網膜血管瘤が確認された(図と同様と考えられ,網膜色素上皮(retinalCpigmentCepitheli-2b~d).網膜血管瘤を中心とした硬性白斑,輪状滲出斑もum:RPE)萎縮と持続する滲出性変化をきたす.治療には認めており,成人発症CCoats病の診断で網膜血管瘤に対して他の滲出型CAMDの治療同様に抗CVEGF薬硝子体内注射が直接光凝固をC2度行い,血管瘤は消退し(図3),硬性白斑と光線力学的療法との併用療法と並んで第一選択となってい網膜下の滲出液は徐々に改善を認めた(図4)が,黄斑萎縮る.Kokameらの報告では,抗CVEGF薬注射をC4回施行しのため視力改善は(0.5)と限定的だった.ても所見に改善が認められない抗CVEGF薬に抵抗性がある図4直接光凝固前後の左眼眼底OCT画像a:直接光凝固前.血管瘤を認める(○).b:直接光凝固後C2カ月後.血管瘤の消退を認める.c,d:直接光凝cd固後C3年後.網膜下の滲出液の消失を認める.滲出型CAMDのうちC50%はCPCVであった2).また,MentesらはC6回以上注射を施行しても抵抗性がある新生血管を伴うAMDのうちC63.9%はCPCVであったと報告している3).その原因として,PCVに多くみられる脈絡膜血管透過性亢進所見とサイズの大きなポリープ状病巣があげられる.本症例もCIAで大きなChotspot(過蛍光)が認められたため,PCVとの診断を再評価することなく,追加の抗CVEGF薬硝子体内注射を繰り返した可能性が高いと考えられた.PCVは日本CPCV研究会による診断基準では,眼底所見で燈赤色隆起病巣もしくはCIAで特徴的なポリープ状病巣が検出されると確実例となり,現在ではCIAがCPCVの診断のゴールドスタンダードになっているが,他疾患(糖尿病網膜症や静脈閉塞症)の網膜レベルの血管瘤も同様にCIAで過蛍光を呈し類似するため,診断に難渋することもある.PermadiらのCOCTによるCPCVの診断に関するメタ分析では,感度はC0.91,特異度はC0.88と高く,PCVによくみられるCOCT所見である漿液性網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED),subretinalChyperre.ectiveCmaterial(SHRM),doublelayerCsign,急峻CRPEの隆起などの検出にきわめて有効と報告している4).しかし,本症例で最終診断となったCCoats病は網膜血管拡張や血管瘤形成を特徴とし,拡張した血管の透過性亢進による滲出液の沈着が広範囲に硬性白斑を形成し,重症例では滲出性網膜.離に至ることもある疾患である.若年男子の片眼に好発するが,成人でも発症し,IAでCPCVと酷似した過蛍光を網膜レベルの血管瘤により呈する.これら二つの疾患を二次元的な画像で診断するのは困難なため,IAでの眼底写真で認められた所見が網膜層あるいはCRPE下,脈絡膜レベルにあるかを判断する必要がある.共焦点レーザー走査型眼底検査装置CHeidelbergCRetinaAngiograph(HRA)とCspectralCdomainOCTを融合させた三次元画像解析装置であるCSpectralis(Heidelberg社)は,HRA画像とCOCT画像を同時に撮影することが可能で,HRA観察画像の特定部位のCOCT画像を取得することができるため,IAで過蛍光となった部位の血管瘤が網膜レベルに存在するのか,もしくはCRPE下レベルに存在するのかを確認することが可能であった(図2d).網膜血管瘤に対する治療は直接光凝固や冷凍凝固があげられるが,近年は新たに抗CVEGF薬硝子体内注射が補助的な治療法としてあげられている.既報ではC18歳,男性のCoats病患者にC16回のアフリベルセプト注射単独で初診時視力C0.1からC0.8までの改善を認めた例も報告されている5)が,現段階ではこのような抗CVEGF薬硝子体内注射単独に(100)よる治療の症例報告は数が限られており,有用性についてはまだ議論の余地がある.なぜなら,VEGFはCCoats病患者で上昇しているため,抗CVEGF薬により黄斑浮腫の改善,滲出の減少は期待できるが,多くの症例で根本的治療にはならないためである6).本症例でも病変が傍中心窩で,血管瘤のサイズが大きく滲出も旺盛だったため,繰り返しの注射を行ったにもかかわらずCdrymaculaは得られず,顕著な視力改善は認められなかった.しかし,直接光凝固により血管瘤は消退し,網膜萎縮は残存するものの硬性白斑と滲出は時間とともに改善を認めた.Spectralisは本症例のように直接光凝固を行った血管瘤のフォローが必要となる場合にも有用で,フォローアップ時にはベースラインの撮影位置と同じ個所のCOCT画像が得られるため,血管瘤の消退の正確な判断が可能であった.本症例では当初CPCVとして治療が進められたが,成人発症CCoats病ではなくCPCVと診断された理由は以下が考えられた.まずはじめに,本症例ではCPCVの眼底所見に酷似する橙赤色隆起病変ともとらえられる所見とその周囲に硬性白斑が認められたが,治療開始時はCCoats病に特徴的な黄色滲出斑がめだたなかった.RishiやCSmithenらの報告では,成人発症CCoats病患者のそれぞれC94%7)とC100%8)に滲出斑が認められており,滲出斑はC8割以上が周辺部に出現し,傍黄斑部に限局するケースは全体のC3割にも満たないため,本症例のように経過の初期に特徴的所見がめだたず,かつ傍黄斑部に限局していた場合鑑別にあがるのは容易ではなかった.次に,OCTで認められた網膜下高輝度物質については網膜下の出血とフィブリンを含んだ滲出液を想定していたため,PCVの所見に矛盾せず,最終診断となったCCoats病の血管瘤は網膜内に認められるため,この網膜下高輝度物質を血管瘤ととらえるのは否定的だった.加えて,本症例では造影検査でCPCVに特徴的な異常血管網が認められなかったが,HuangらはCIAによるCPCVの異常血管網の検出率はC72%9)と報告しており,異常血管網を認められなかったとしてもPCVの可能性は否定できなかった.結論として,IAは通常CRPE下や脈絡膜レベルの病変を観察する目的で施行するが,出血を伴う網膜細動脈瘤や網膜血管腫状増殖なども過蛍光で描出されるため,同じく過蛍光を呈するCRPE下にあるポリープ状病巣と網膜血管瘤とを二次元的に鑑別することは困難である.よって,過蛍光を示す病変がどのレベルにあるのかを同時撮影のCOCTを用いて確認することが正しい診断と治療法の選択につながる可能性がある.文献1)HiranoCY,CYasukawaCT,CUsuiCYCetal:IndocyanineCgreenCangiography-guidedClaserCphotocoagulationCcombinedCwithCsub-Tenon’sCcapsuleCinjectionCofCtriamcinoloneCace-tonideforidiopathicmaculartelangiectasia.BrJOphthal-molC94:600-605,C20102)KokameGT,deCarloTE,KanekoKNetal:Anti-vasucu-larendothelialgrowthfactorresistanceinexudativemac-ularCdegenerationCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.COphthalmologyRetinaC3:744-752,C20193)MentesCJ,CBarisME:PrevalanceCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCeyesCwithCneovascularCage-relatedCmacu-larCdegenerationCresistanceCtoCintravitrealCanti-VEGFCtreatment.TurkJOphthalmolC52:338-341,C20224)PermadiCAC,CDjatikusumoCA,CAdrionoCGACetal:OpticalCcoherenceCtomographyCinCdiagnosingCpolypoidalCchoroidalvasculopathy:LookingCintoCthefuture:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CIntCJCRetinaCVitreousC8:14,20225)GeorgakopoulosCCD,CTsapardoniCFN,CMakriCOECetal:CTwo-yearCresultsCofCintravitrealCinjectionsCofCa.iberceptCinCCoatsdisease:ACcaseCreport.CRetinCCasesCBriefCRepC16:473-478,C20226)SenCM,CShieldsCCL,CHonavarCSGCetal:Coatsdisease:anCoverviewCofCclassi.cation,Cmanagement,CandCoutcomes.CIndianJOphthalmol67:763-771,C20197)RishiCE,CRishiCP,CAppukuttanCBCetal:Coats’CdiseaseCofCadult-onsetin48eyes.IndianJOphthalmolC64:518-523,C20168)SmithenLM,BrownGC,BruckerAJetal:Coats’diseasediagnosedCinCadulthood.COphthalmologyC112:1072-1078,C20059)HuangCCH,CYehCPT,CHsiehCYTCetal:CharacterizingCbranchingCvascularCnetworkCmorphologyCinCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.Scienti.creportC9:595,C2019***