眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋448.後.から後方に突出する多数の三原研一みはら眼科小突起を認めた白内障加治優一松本眼科大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科水晶体後.から硝子体腔(後方)に向かう多数の小突起を有する症例を経験した.両眼性であり,手術自体は問題なく終了した.前眼部光干渉断層計により,術前および術後に小突起の存在が可視化された.手術時に採取した前.の病理検査では,水晶体上皮細胞がいくつかの層をなして,周囲にマトリックスの沈着を生じている所見が認められた.本症例の本態は不明だが,水晶体.基底膜のなんらかの異常とともに水晶体上皮細胞の一部が変性し,大量のマトリックスが分泌されて沈着物として出現したものと考えられる.●はじめに水晶体の混濁にはさまざまな形があり,混濁が生じる場所も前.下から核,皮質,後.下まで幅広い.病理学的にも多彩な形態や組織学的変化が報告されている1,2).しかし,水晶体の混濁・変化はほとんどが水晶体の内側に生じるものであり,外側に生じる変化としては前.のsplitting(真性落屑)やCdeposition(偽落屑,Vossiusringなど)が記載されているものの2),後.の外側に生じる変化は,筆者らの知る限りこれまでに報告がない.今回筆者らは,両眼の後.から後方(硝子体腔)に向かって多数の小突起が生じていた症例を経験した.C●症例患者はC80歳の男性で,2~3年前よりの視力障害を訴えて初診.眼科受診歴はなかった.初診時の視力は右眼C0.05(0.6C×.4.0D),左眼C0.15(0.4C×.7.0D),眼圧は両眼ともC11mmHgであった.両眼の水晶体にⅢ度の核硬化と後.付近に紡錘状混濁を認め(図1),前眼部COCTでは後.から硝子体腔に向かう突起状の構造物を認めた(図2).角膜内皮細胞は正常右眼左眼図1術前の細隙灯顕微鏡写真両眼に核硬化と,後.周辺の紡錘状混濁を認めた.で,眼底には豹紋状眼底以外に異常はなかった.C●経過両眼にトーリック眼内レンズを用いた白内障手術を行った.手術はとくに問題なく終了し,術中に前.あるいは後.に異常を感じることはなかった.術後矯正視力は両眼とも(1.0)に改善し,術後炎症も通常範囲内であった.術後の前眼部写真では,後.から硝子体腔側(後方)に向かう小突起物を多数認めたが(図3),それ以外に前眼部の異常はみられなかった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)でも,両眼に後.から後方に向かう混濁した小突起物が多数観察された(図4).C●病理所見右眼の手術時に採取した前.の病理所見を示す(図5).水晶体上皮細胞がいくつかの層をなして,周囲にマトリックスの沈着を生じているところがあった.水晶体上皮細胞の核は形が乱れ,細胞に変性が生じていると思図2術前の左眼前眼部OCT後.から硝子体腔に向かう小突起が存在する.(57)あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024C10990910-1810/24/\100/頁/JCOPY右眼左眼図3術後の細隙灯顕微鏡写真両眼に,後.から後方に突出する多数の小突起が観察される.図5前.の病理所見右眼の手術時に採取した前.の病理所見.*:正常な単層の水晶体上皮細胞.←:異常なマトリックス沈着を伴う水晶体上皮細胞.われた.水晶体.自体には特記すべき異常はみられなかった.手術時に後.を採取することはできなかったものの,前.における水晶体上皮とマトリックスの異常な沈着が,後.にみられた多数の小突起と間連しているものと考えられた.C●考按水晶体の加齢変化として,表面側および核側が凹凸不整になること,また水晶体上皮細胞が膨化して変性することが知られている.しかし,細胞の集積やマトリックスの異常沈着は報告されていない.先天無虹彩では,水図4術後の右眼前眼部OCT後.から硝子体腔側に向かう小突起が認められる.晶体上皮の変性,壊死,重層化,異常増殖などが知られており,また落屑症候群では水晶体上皮の膨化,壊死,変性,異常増殖に加えて,水晶体上皮細胞と基底膜の間に異常な蛋白質が蓄積することが報告されている3,4).本例の染色像からは,部分的には落屑症候群のような基底膜の異常がバックグラウンドにあることが想像される.しかし,本例では落屑物質がまったく認められないこと,異常な蛋白質の沈着が水晶体上皮細胞と基底膜の間ではなく,水晶体上皮細胞の基底膜側と核側の両方に及んでいること,異常なマトリックスが沈着している場所が数カ所にとどまることなどが,これまでの報告と大きく異なる.以上より,本症例では,基底膜の異常ととともに水晶体上皮細胞の一部が変性し,大量のマトリックスが分泌されて沈着物として出現したものと考えられる.文献1)EagleRCJr,SpencerWH:Lens.In:Ophthalmicpatholo-gy.CAnCatlasCandCtextbook,C4thCed,Cp371-437,CWBCSaun-dersCompany,Philadelphia,19962)Yano.CM,CSassaniJW:Lens.In:OcularCpathology,C8thCed,p380-406,Elsevier,20203)SorkouCKN,CManthouCME,CMeditskouCSCetal:ExfoliationC.brilsCwithinCtheCbasementCmembraneCofCanteriorClenscapsule:ACtransmissionCelectronCmicroscopyCstudy.CCurrCEyeRes44:882-886,C20194)RitchR:OcularC.ndingsCinCexfoliationCsyndrome.CJCGlau-comaC27:S67-S71,C2018