末梢眼球運動神経麻痺(Fisher症候群を含む)Third,FourthandSixthPeripheralNerveParesisandMillerFisherSyndrome中馬秀樹*I外転神経麻痺1.決め手になる症状・所見病側の外転制限のみがみられる(図1).軽症例では眼位で判断する.麻痺側で内斜視角度が増大する非共同性の内斜視となる.2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患甲状腺眼症:牽引試験(forcedductiontest:FDT)で抵抗がある.重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.(詳細は「重症筋無力症」の項を参照のこと)Duane症候群:先天性の外転神経麻痺で外転制限に内転時のウインク(眼球陥凹による)が特徴である.先天的な外転神経核の大細胞群の欠損または形成不全が原因とされる.筆者は,成人では内転時のウインクがわかりにくくなる印象をもっている.根治療法はなく,斜視,faceturnがあれば斜視手術の適応になる.内斜視(共同性・非麻痺性):両眼開放で側方視させると,右方視では左眼,左方視では右眼でみるため,右方視では右眼の,左方視では左眼の外転制限のようにみえる.しかし,片眼遮蔽すれば,それぞれ最後まで外転する.また,眼位ずれが共同性である.近見けいれん:近見反射とは,輻湊,縮瞳,調節からなる.したがって,近見けいれんでは必ず縮瞳を合併する.片眼遮蔽すると縮瞳状態から次第に改善し,散瞳してくる.両眼での眼球運動では外転制限を示すが,片眼での眼球運動では外転できる.調節緊張はわかりにくいが,レチノスコープを用いるとわかりやすい.若い女性に多く,ヒステリーが原因のことが多い.一方,器質性疾患が原因のこともあるので,頭蓋内病変検索も必要である.治療は調節麻痺薬点眼で,経過観察となる.眼窩腫瘍,眼窩吹き抜け骨折:FDTで抵抗があり,CT,MRIで明らかになる.3.よくみられる混合麻痺Horner症候群の合併:外転神経麻痺眼の瞳孔が対側に比べて小さく,対光反射は正常である.アプラクロニジン点眼30分後に対側に比べて大きくなる.海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.中耳炎の合併:Gradenigo症候群.耳鼻咽喉科で加療する.両眼性の乳頭腫脹を合併:頭蓋内圧亢進を疑う.起床時に強い頭痛や吐き気など,ほかの症状の合併に注意し,とくに頭蓋内圧の亢進では,頭痛より強い肩こりと表現されることもある.頭部MRIをとり,加えて静脈洞血栓症が原因のことがあるので,磁気共鳴血管撮影(MRA),磁気共鳴静脈造影(MRV)も同時にとる.異常があれば脳外科へ紹介する.仮に画像診断が異常なくても,髄液圧の測定,性状の検索をすべきである.画像診断に異常なく,髄液圧が亢進しており,性状に異常なければ,特発性頭蓋内圧亢進*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野(1)(31)15090910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1典型的な右眼外転神経麻痺の眼球運動右眼の外転制限のみがみられる.なし.・瞭眼の眼球運動に異常なし.・両眼ともに,以下が正常.視力対座法視野検査瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)なし眼瞼(下垂なし)外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)角膜,顔面知覚眼輪筋力,顔面筋力眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし.・経過中にほかの異常が出現してこない.・6カ月以内に改善する.6.非虚血性単独外転神経麻痺で行うべき検査(必要に応じて選択)・頭部MRI:外転神経の走行に沿って・血液検査:すべての患者に基本的な検査:血算,電解質,肝機能,血糖,赤沈,CRP抗核抗体ACE(angiotensinconvertingenzyme)自己抗体:ANCA抗体,リウマチ因子,抗GQ1b抗体ビタミンB1胸部単純,CT脳脊髄液検査(MRIで異常ないことを確認後)これが以下の異常を検出する唯一の方法頭蓋内圧亢進非典型的な髄膜炎(白血病,リンパ腫,癌性髄膜炎,真菌感染,サルコイドーシス,結核)検査項目髄液圧(openingpressure)生化(蛋白,グルコース,オリゴクローナルバンド,myelinbasicprotein,)微生物および細胞診(鏡検,細胞数,培養)7.治療または紹介のタイミング各病態に応じて紹介する.小児の非外傷性の単独外転神経麻痺は神経眼科医へ即刻紹介する.8.その他の予後に影響すること単独麻痺か混合麻痺かの鑑別が重要である.II動眼神経麻痺1.決め手になる症状・所見病側の眼瞼下垂,上転,下転,内転制限がみられる(図2).病側の瞳孔は散瞳し,対光反射が弱化,あるいは消失する.軽症例では眼位で判断する.たとえば右動眼神経麻痺では,右上斜視が上方視では増強し,下方視では左上斜視になる.2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.(詳細は「重症筋無力症」の項参照のこと)3.よくみられる混合麻痺外転神経麻痺の合併;海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.滑車神経麻痺の合併:下転時の内方回旋がみられないことから判断する.海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.三叉神経麻痺の合併:海綿静脈洞病変を考え,MRIをとる.三叉神経第一枝が障害されていれば海綿静脈洞の前部または上眼窩裂の病変,三叉神経第一枝,第二枝が障害されていれば海綿静脈洞の中部から後部の病変を考える.海綿静脈洞後部の病変では三叉神経が三枝とも障害され,視交叉,視索の障害が加わることもある.上記の海綿静脈洞の炎症性疾患は,Tolosa-Hunt症候群が有名であるが,あくまでも他の疾患が除外されて初めて診断できる.RAPDを合併:視神経が障害されていることを示し,眼窩先端部の病変を考え,画像検査を行う.(33)あたらしい眼科Vol.42,No.12,20251511図2典型的な動眼神経麻痺の症例右眼瞳孔散大,対光反射不良,眼瞼下垂,内転,上転,下転制限がみられる.30R/L0R/LΔΔ図3典型的な滑車神経麻痺の症例眼位検査で右滑車神経麻痺の場合,正面視で右上斜視が,左方視で増強,右斜頸で増強する.右眼左眼上直筋:SR下斜筋:IO下斜筋:IO上直筋:SR下直筋:IR上斜筋:SO上斜筋:SO下直筋:IR図4眼球運動の作用方向の図図5右滑車神経麻痺の作用方向の図を用いた診断方法つの筋のうち,数字の大きいほうの斜頸方向(額と顎を結ぶライン,図5赤線)に一致したC1つに丸を付ける(図5赤丸).・最後の一つか麻痺筋である.・Maddoxrodを用いる方法もある.・この方法は,斜視角が小さい,成人の滑車神経麻痺に有用である.・右眼の前にCrodを縦におき,ペンライトを固視させる.・右眼には水平の赤い直線,左眼にはペンライトの光が見える.・赤い線が光より上にあるか,真ん中か,下にあるかを問う.・たとえば,赤い線が光より下に見えれば,右上斜視を意味する.・右眼の前にバープリズムをベースを下にしておく.・光と赤い線の距離が次第に小さくなり,動かなくなるまでプリズムの度数を強める.・真ん中になった度数が正面視での斜視角度で,格子の真ん中に記載する.・以後は同様に左右方視時,左右斜頸時に測定,記録し,同様に麻痺筋を同定する.*両眼性滑車神経麻痺正面視での上下斜視角はほとんどみられず,眼球運動も一見正常にみえる.外方回旋角度がC10°を超えれば両眼性を考える.眼底写真が診断に有用なこともある.右方視では左上斜視,左方視では右上斜視になることがある.右斜頸では右上斜視,左斜頸では左上斜視になることがある.外傷性が多いが,非外傷性であれば画像診断で中脳背側病変を検索する.C2.疑うときに行うべき検査と鑑別しておきたい疾患Skewdeviation:耳石器の異常により生じる上下斜視と斜頸である.滑車神経とCskewdeviationは鑑別が困難なことがあり,滑車神経麻痺型のCskewdeviationもあるのでややこしい.両者の鑑別には,滑動性追従運動,pursuitの障害の有無,眼振の有無,回旋変位の有無が有用である.SkewdeviationではCpursuitの障害があり,眼振があり,回旋変位がない.回旋変位はCdouC-bleMaddoxrodtestなどで判定する.重症筋無力症:テンシロンテストで改善する.詳細は重症筋無力症の項(1501頁)を参照する.C3.よくみられる混合麻痺Horner症候群の合併:中脳病変を考え,MRIをとる.RAPDを合併:中脳病変を考えCMRIをとる.中脳背側には滑車神経核,神経線維束があり,近くを交感神経線維,対光反射求心路が走行する.滑車神経は中脳背側の核をでたあと,膝部で左右交差して反対側へ走行する.滑車神経線維束と交感神経線維が障害されると滑車神経麻痺にCHorner症候群が合併する.滑車神経線維束と対光反射求心路が障害されると滑車神経麻痺に対側または同側のCRAPDが陽性となる.C4.単独滑車神経麻痺の原因成人小児外傷性C40.50%先天性C80%虚血性C20.30%外傷性C10%非代償性炎症性頭蓋内圧亢進*知っておくべきことは,成人では非代償性滑車神経麻痺として,複視を自覚して来院する.生まれつき代償性に首が傾いていることが多く,写真で確認することが有用である.上下の融像域が広いことが特徴で顔面の非対称がみられることもある.C5.虚血性の滑車神経麻痺の特徴以下のすべてをみたす.・40歳以上.・一つ以上の血管病変の危険因子(高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙).・悪性腫瘍,血管炎または自己免疫疾患なし.・急性発症の複視で,起床時に気づく,または起床後に初めて気づく.・複視の型,程度にC1日のうちで変化なし.・眼窩痛,顔面痛,頭痛なし,しびれなし.・耳鳴り,難聴,顔面神経麻痺なし.(37)あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1515・全身神経症状なし.側頭動脈炎の症状なし・正面視で垂直偏位がみられる.・正面視で上斜視眼が,内転時に増加,上斜視側への斜頚で増加する.・正面視で上斜視眼が,以下の眼球運動の特徴を合併する.下斜筋過動症上斜筋のCunderaction・僚眼の眼球運動に異常なし.・両眼ともに,以下が正常.・視力・対座法視野検査・瞳孔(不同なし,迅速な対光反射,RAPDなし)・眼瞼(下垂なし)・外眼部(redeye,眼球突出,浮腫なし)・角膜,顔面知覚・眼輪筋力,顔面筋力・眼球自体(虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経乳頭異常なし)(50歳以上であれば)側頭動脈の怒張なし,圧痛なし.・経過中にほかの異常が出現してこない.・複視がC3カ月以内に軽減しはじめる.C6.治療または紹介のタイミング各病態に応じて紹介する.成人の単独滑車神経麻痺は以下のように管理,治療する.外傷性は最低でもC6カ月は経過観察する.外傷性の経過観察期間や虚血性の回復までの期間,手術加療を希望しない例,斜視角が小さな複視には,Fresnelプリズム膜や眼鏡組み込みプリズムで矯正する.成人では上下複視の改善を目的として,反対側(僚眼)の下直筋後転を行う.両眼性では回旋複視の改善を目的として,下直筋の外方移動術,または原田-伊藤法を行う.小児では病眼の下斜筋後転を基本とする.小児での正面視時の上下斜視については,下斜筋後転と同時に行うよりもC2段階に分けて行うほうが過矯正を防ぐことができる.7.その他の予後に影響すること単独麻痺か混合麻痺かの鑑別が重要である.CIVFisher症候群1.決め手になる症状・所見単相性多発神経症で,失調,腱反射消失,外眼筋麻痺を三徴候とする(図6).外眼筋麻痺はさまざまで,上記のような眼球運動神経麻痺,または複合麻痺を呈する.時折球麻痺を生じるが四肢麻痺は生じない.初期の症状は複視で,続いて失調性歩行になり,数日後に腱反射が消失する.感覚低下がC50%に起こり,近位筋力の低下がC30%にみられる.30%で筋力低下に至り,これらはFisher症候群とCGuillain-Barre症候群のオーバーラップを示唆する.一方で,外眼筋麻痺は,末梢性眼球運動障害なのか,中枢性(脳幹部)眼球運動障害なのか鑑別が困難な場合があり,議論されるところである.中枢性眼球運動障害を支持する意見としては,眼球運動障害が画一的で,上方視が最初に障害され,その後,水平眼球運動,最後に下方視が障害されるというものである.回復は逆の順序で起こり,下方視から改善してくることから,これらの変化がちょうど吻側から尾側へと眼球運動神経核の配列に沿っており,中枢性の機序も考えられるというものである.また,51%に核間麻痺を合併することもその根拠としている.筆者も実際,脳幹部障害を示唆する眼振を合併する症例にしばしば遭遇する.頭部CMRIはしばしば正常であるが,なかには脳幹部が造影される例も報告されている.原因はほとんどの例で胃腸炎などの前駆感染徴候をもつ.この感染は,CampylobacterCjejuniによるものが大多数を占める.ほかには,マイコプラズマやCHIV-1,サイトメガロウイルス,EBウイルス,悪性リンパ腫や,風疹混合ワクチン接種後に起こることもある.C2.疑うときに行うべき検査神経ガングリオシドに特異的な自己抗体,とくにGQ1b抗体がC90%の症例で陽性となる.GQ1b抗体は,脳神経II,III,IV,VIに高濃度でみられ,臨床所見とよく相関している.GQ1b抗体は,CIII,IV,VI脳神経1516あたらしい眼科Vol.42,No.12,2025(38)図6Fisher症候群の眼球運動の歩行時の様子軽度の左眼の外転制限がみられ,失調性歩行のため,継ぎ足歩行ができない.’C-