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日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 4.Jin H. Kinoshita先生の思い出

2013年4月30日 火曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ④責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ④責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生の思い出望月學(ManabuMochizuki)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野1973年九州大学医学部卒.1973年東京大学眼科研修医.1974年東京大学助手.1979年東京大学講師.1981.1984年NEIResearchAssociate(日本学術振興会-NEI交換留学プログラム).1987年東京大学助教授.1990年久留米大学眼科教授.1998年東京医科歯科大学眼科教授.現在に至る.Kinoshita先生に初めてお会いしてから30年以上の歳月が過ぎました.私がNationalEyeInstitute(NEI)と日本学術振興会との交換留学プログラムでNEIに留学した時のことです.1981年10月半ば,雨の降りしきる夜のワシントン・ダラス国際空港に妻と1歳半の娘を連れて着いた私は,これからの留学生活を思い,期待よりも不安でいっぱいでした.そもそも,今夜から泊まるアパートも住所は届いているが,果たしてタクシーが安全に連れていってくれるのか?…….そんな不安を抱いて私たちが到着ゲートを出ると,ソフト帽にトレンチコート姿の紳士が,“AreyouDr.Mochizuki?IamJinKinoshita”と穏やかな笑顔で声を掛けてくれました.何と,NEIのScientificDirectorのKinoshita先生ご自身が迎えに来てくださったのです.そのときの驚きと感激は生涯忘れることができません.驚きはそれだけではありませんでした.先生が用意してくださったアパートに着くと,パンパース(ディスポのおしめ)と赤ちゃん用の入浴盥が用意され,冷蔵庫にはミルクと私たちの数日分の食べ物まで入っていました.幼い娘連れなので,Kay奥様がわざわざ用意してくださったのです.さらに,先生はご自宅から私たちの夕食にと,マグロの刺身,チキンの照り焼き,温かいご飯を持ってきてくださいました.あまりの細やかで温かい心遣いに,私たちはただただ驚き,感激するだけでした.翌日から私が車を購入するまで,毎朝,先生が研究所までピックアップしてくださり,Kay奥様は家内をベセスダのスーパーやモールへ買い物に連れて行ってくださいました.このように,先生ご夫妻のおかげで,私た(91)写真1Kinoshita先生ご夫妻,長女,家内.ロックビルのアパート(1982年).ちは大変に順調で素晴らしい留学生活のスタートができたのです.その後も,感謝祭やクリスマスなどのたびにご自宅へ招いてくださり,娘はすっかりご夫妻になついて“Jinおじちゃん,Kayおばちゃん”とお二人の後をついて回っていました.ご自宅でのパーティーでは先生自らが食事のサーヴをされ,時にはご自身で料理もされました.先生ご夫妻をアパートにお招きすると,“Manabu,whatdidyoucook?”と,悪戯っぽい目でいつもお尋ねになり,そのお陰で私も30歳半ばで初めて料理をすることになり,その時に習い覚えたパイ料理やキルシュは今もわが家の人気メニューです.留学中に生まれた次女は,ご夫妻から奥様の名前をmiddlenameに付けていただき,今もわが家ではKayと呼ばれています.私は先生の研究分野とは違うので,先生に直接の研究指導を受ける機会はありませんでした.しかし,研究室あたらしい眼科Vol.30,No.4,20135190910-1810/13/\100/頁/JCOPY 写真2Kinoshita先生追悼会のCD写真集の表紙は同じ建物にあったので,毎日のように先生が研究室に足を運び配下の研究者と熱心に話されている姿をお見かけしました.「いくつになっても,研究室にいる時が一番楽しい」という先生の言葉と,誰にでも公平に接しておられた姿が,今も印象深く思い出されます.3年間の留学を終えて帰国した後も,フロリダでのARVOに家族を連れて行くたびにベセスダの先生ご夫妻を訪ね,また,先生が来日して東京に滞在される時には家族でお会いし,時には拙宅にもお招きして娘たちの成長を見ていただきました.先生がNEIを退職されサンフランシスコに移られてからも,何度も家族でご夫妻を訪ねました.しかし,先生のリウマチが大変に悪化した頃からご夫妻の消息が届かなくなり,そのうちにKay奥様の訃報を聞くことになりました.NEIなどに尋ねても,どなたも先生の消息がわからない状態が長く●★続きました.そんな中,家内が,以前にサンフランシスコで先生から紹介していただいた親類の方(先生の弟の奥様)から先生の消息を教えていただき,その方の案内で家内がサンフランシスコ郊外の病院に先生をお見舞いして,ようやく先生の近況がわかりました.そして,2010年6月半ばに,家族4人でサンホゼ郊外のケアハウスに移られた先生を訪れることができました.先生は重度のリウマチのために全く動けない状態でしたが,お元気だった頃そのままの笑顔で私たち一人ひとりに声をかけられ,私たちの近況にも耳を傾けられ,娘たちの成長した姿を殊のほか喜ばれていた姿が今も心に強く残っています.それからわずか2カ月後の8月26日に,その親類の方からわが家に先生の訃報が届きました.そして,先生とご親交のあった方々,日眼事務局,NEIに先生ご逝去の悲報をお届けすることになりました.翌年のARVOで,PeterKador教授(ネブラスカ大学)の呼びかけによりKinoshita先生を偲ぶMemorialSymposiumが開かれました.多くの友人と親類の方々が集い,先生を追悼するスピーチがなされ,若き頃の先生や思い出の写真の数々が披露され,その時に集めた写真はCDアルバム(写真2)にされて参加者に配られました.Kinoshita先生は比類なき優れた科学者であり,多くの人々にとってかけがえのない指導者であり心許せる大切な友人でした.そして,私たちにとっては父とも祖父とも云える優しい存在でした.先生から教わったことは数多くありますが,なかでも人に公平(fair)に接することの大切さを先生の生き方を通して教えていただいたように思います.●★520あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(92)

現場発,病院と患者のためのシステム 15.注意力散漫,慣れの危険をシステムで防げるか

2013年4月30日 火曜日

連載⑮現場発,病院と患者のためのシステム連載⑮現場発,病院と患者のためのシステム紙と鉛筆,人間の判断力,注意力に頼っていた注意力散漫,慣れの危険をシステムで防げるか従来の作業をITで代替えすると,作業負荷,ヒヤリハット,インシデント,アクシデントを軽減杉浦和史*することができるのではないかと期待します.それは,電源さえ供給されれば,疲れることなく,注意力が散漫になることもなく,決められた機能はじめに操作中,意図しないボタンを押してしまい,それまでの作業が飛んでしまった経験を持つ方は多いと思います.生身の人間には,機械のように,長時間にわたって一定の作業品質を保つことは難しいことです.疲労からくる注意力低下,慣れからくる思い込みの操作ミスは残念ながらあります.を発揮できるからでしょう.一方,決められた処理を自動的にこなすだけではなく,メッセージという形で,医師,看護師などの操作者に判断を委ねることもあります.ここに,疲れや注意力不足などによる操作ミスが入り込むスキがあります.慣れもその危険因子の一つといえます.クラビットR,タリビッドRなど,ニューキノロン系薬剤は眼科で処方されるポピュラーな薬剤ですが,この薬剤が適当ではない患者さんもいます.この確認を医師や看護師の注意力や記憶に頼らず,システムでカバーすることができれば,トラブルを防ぐことができます.システムは,問診,あるいは看護記録情報を参照し,アレMicrosoftOfficeWord業務改革の前に意識改革.docは変更されています。保存しますか?はい(Y)いいえ(N)キャンセル図1注意喚起メッセージ例ルギー症状が出たことがある,気分が悪くなったことがあるなどの記録があれば,瞬時,確実にこれを発見し,警告メッセージを表示して注意を喚起することができます..慣れによるミス株価と購入数を間違えて大損害を出したシステムがありました.システムはあらかじめ決められたチェックルールに従い,異常な値として警告メッセージを出したにもかかわらず!稼働当初は,表示されるメッセージを見て,内容を確認してから操作していたものが,慣れるに従い,「いつものメッセージか!」として漫然と操作してしまったことが一因でした.重要な警告であったこのメッセージが,その他の軽度の警告メッセージと同じレベルと思い込んでしまったのはなぜでしょう.慣れによって緊張感が薄まったことが,原因の一つと考えられますが,システムを作る側で有効な対策が採れます.それは,判断の重みを考慮したレベル分けと,そのレベルに応じた表示方法にすることです.ことの軽重を問わず,同じ重みでメッセージを出(89)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYしてしまうと,メッセージの多さに辟易して「またか」と思われてしまいます.その結果,メッセージの内容をよく見ないで応答し,ミスを誘発してしまいます.私たちも,保存操作を忘れていると,図1のようなメッセージが表示されることを経験します.一定時間毎に自動バックアップしてくれる機能もありますが,“いいえ”を選択してファイルを失うことがあります.メッセージが表示された場合には,慌てずに表示された内容を読み,表示理由を理解し,間違えのない操作をするという基本動作を身につけることが必要です.このメッセージに対する応答のデフォルト(あらかじめ設定してある選択肢)は,“はい”になっています.これはフェールセーフ(被害を最小限に留める)の考えですが,既存の資料を流用して別の文書を作る場合には,逆効果になることがあります.同じ名前のまま上書されるので,既存文書のオリジナルがなくなってしまい*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013517 病棟Pad注射.点滴フローレビュー.xls病棟Pad注射.点滴フロー.xls2013/02/2810:232013/02/2810:22誤って上書きしてオリジナルを壊してしまわないよう、作業前に名前を変えて別ファイルとして使います。このファイル(仕様)を開き、検討を行い、その結果を反映するので、このファイルに追加変更削除が発生します。誤って上書きしてオリジナルを壊してしまわないよう、作業前に名前を変えて別ファイルとして使います。このファイル(仕様)を開き、検討を行い、その結果を反映するので、このファイルに追加変更削除が発生します。図2作業前にリネームし,オリジナルを保証キャンセルこの操作によって、あなたのPCから検出されたファイルは完全に削除されます。本当にこの操作を実行しますか?OK図3確認の文面ます.流用する場合には,最初にリネーム(ファイル名を変える)してから作業することを勧めます.当院は,図2に示す手順をルールにしています.応答によって,ファイルが削除され,再現できない場合,図3のようなメッセージが表示される場合があります.マンネリになっていると,このようなシビアな判断を求めているにもかかわらず“OK”を選択してファイルを失うことがあります.システム化が浸透する今,どのような場合にメッセージが表示されるのかを理解してから応答する習慣の醸成は必須です.ファイルの拡張子が“.exe”で示されるモジュールを開くときに表示されるメッセージは,ウイルス感染の危険を注意しているものなので,特に必要です..システムで工夫できる点メッセージをよく読んで応答するクセを醸成しつつですが,システムを設計する側の工夫で,操作ミスをある程度減らすことができます.工夫すべきなのはどこでしょう.例えば,医療過誤が予想される場合に表示する警告メッセージは,①字の大きさを変える,②色を付ける,③点滅させる,④警告音を変える,などという方法が考えられます.これも慣れてしまえば同じだと考える人がいますが,そうではないでしょう.なぜ?被害が予想される組み合わせをチェックするロジックに引っ掛かる事態が,“慣518あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013れてしまうほど頻繁に起きるとは考えにくい”からです.もし,頻繁に起きるなら,仕事の仕方というか業務内容,作業手順に問題があると考えるべきで,システムとは別に,改革改善点として解決することを勧めます.当院開発中の院内総合電子化システムHayabusaでは,当該患者の問診情報,看護記録情報,検査履歴を参照し,処方が適当か,必要な検査をしているか否か,その結果はどうかをチェックします.このことにより,医師,看護師の注意力に頼らず,また過去の検査記録を捜す手間もいらずに,ミスのない処方が可能です.システムで処理しているので見落とすことはなく,医療過誤防止の点でも有力な方法になります.緑内障の疾患を持つ患者さんに,bブロッカー剤を処方することがありますが,心疾患,喘息の患者に処方することは避けるのが一般的です.この処方可否を判断するため,bブロッカー剤適用可否検査が必要です.Hayabusaでは,ミケランRなど,bブロッカー剤に属する薬剤を処方する際,図4に示すロジックでチェックし,属人性を廃し,ミスがないようにしています.bブロッカー剤可否判定処置オーダ同種の他の薬剤処方bブロッカー剤処方未実施実施済みn年以上n年未満不可可bブロッカー剤処方処理bブロッカー剤使用可否判定何時実施使用可否図4属人性を廃したシステムによるチェック以上,“注意力散漫,慣れの危険をシステムで防げるか”について述べてきましたが,答えは可能です.しかし,条件があります.業務を整理整頓して分析し,無理無駄を廃し,流れを整えておくことです.それを踏まえてシステムに必要な機能,画面遷移,操作性を決めます.これは,平均値で作らざるを得ないパッケージには不可能なことで,当院が自主開発に踏み切った理由の一つです.(90)

タブレット型PCの眼科領域での応用 11.デジタルロービジョンエイドとしての全盲患者への活用-その1-

2013年4月30日 火曜日

シリーズ⑪シリーズ⑪タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第11章デジタルロービジョンエイドとしての全盲患者への活用─その1─■全盲患者におけるスマートフォンのロービジョンエイドとして活用本章では,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc.)”,ポータブルマルチプレイヤーのiPodtouchR(米国AppleInc.)のiOSバージョン6.1.2について,具体的な操作法や導入の意義について患者の言葉とともに紹介していきます.■私のロービジョンエイド活用法「音声補助機能による操作編」本章では,前章での「見きわめの問診」において液晶画面の大きさによる視認性の向上を認めない患者に対しての,4インチデバイスの活用法について説明していきます.タブレット型PCやスマートフォンはアクセシビリティ機能の一つであるvoiceover機能(音声補助機能)を起動することで,全盲の患者でも情報端末機器として活用することが可能です.Voiceover機能の起動中は通常の操作系とは操作方法が変化して,レイアウト情報の把握と項目の選択操作という大きく2つの操作系へと操作方法が変化します.①レイアウト操作:レイアウト情報に関する操作法これは液晶画面上を1本の指でなぞるように移動する操作法で,指の下にあるアイコンの名称および操作方法をデバイスが音声で読み上げるため,患者は頭の中に画面を構成するレイアウトに関するロケーションマップを構築することができます.画面を構成するアイコンの位置関係を把握した後,つぎの“プログラム操作”を導入することで,患者はアプリの選択や起動の操作法がより快適に行うことが可能となります.4インチのデバイスは,液晶画面が小さく9.7インチや7.9インチのタブ(87)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYレット型PCと比較して画面上のアイコンの構成要素が少なく,操作を視機能に依存しない患者にとっては構成要素の配置の把握や検出が比較的容易なため,全盲患者における第一選択のデバイスサイズとなります.②プログラム操作:プログラムの起動,選択操作法プログラム操作では,デバイスの液晶画面を左右にフリック(擦る)することで最後に選択された項目を順行または逆行性に移動することが可能です.また,任意の項目が読み上げられた後に画面のいずれかの部位を二度タップすることで,各選択項目が実行されるようになります.このように音声読み上げパソコンに類似した操作系に操作方法が変化することで,各アプリケーション(アプリ)のアイコンを視覚的に認識する必要はなくなり,全盲の患者でも任意のアプリの起動や操作が可能となります.実際に4インチデバイスをエイドとして活用している患者の言葉は,以下のようなものがあります.『胸ポケットに入れて操作できるから,両手が自由なのでとても安心です』4インチのデバイスでは胸ポケットに入れて,イヤフォンと併用することで生地の上から操作することも可能なため,両手の自由を確保できます(図1).■私のロービジョンエイド活用法「全盲患者への導入編」導入する際には実際に患者にまず,voiceover機能を起動して,“レイアウト操作”の意義を理解させて頭の中にロケーションマップを構築してもらいます.その後患者の手を介助して,指で手掌をスワイプする感覚を触覚的に理解してもらったうえで“プログラム操作”を体あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013515 図1胸ポケットに入れた4インチデバイスを生地越しに操作している験してもらうことにしています(図2).全盲の患者では操作説明に触覚などを利用することがより効果的です.実際の導入後の生活の変化についての質問では,つぎのような声を聞きます.『外出時に,持ち運んでいた荷物が半分以下になりました』『忘れ物をしないのは何より安心です』『ネットニュースを気軽に聞けるので,社会とのつながりを感じます』全盲の患者にとって4インチのデジタルロービジョンエイドを導入することの意義は,エイドの統合による安心感の確立です.4インチのデバイスを胸ポケットに入れているだけで多くのエイドはアプリとして,単一のデバイス内に統合して持ち運ぶことが可能であり,エイドが統合されることで必要な充電器などのグッズも減少します.また,全盲の患者は液晶の画面を表示する必要がないため,通常のデバイス使用時より長時間駆動するため利用しやすいといえます.タブレット型PCと同様にスマートフォンは極めて汎用性の高い一般機器であるため,外出中に充電をする機会を得ることは比較的容易であることも患者に安心感を与えます.全盲の患者にとっての4インチマルチメディアデバイスの導入は,電源や充電の制限および多くのエイドを持ち歩くことから解放図2自身の手掌を指でスワイプして,スワイプ操作を触覚で体験させるされることともいえます.これまでに紹介してきたようにタブレット型PCやスマートフォンなどを導入することで,すべてのロービジョンエイドの代用になるわけではありません.しかし,私は4インチデバイスをエイドとして導入することで,QOL(qualityoflife)が向上した症例を多数経験しています.全盲の患者のQOLを低下させる原因は,目的別にエイドを持ち分けることや充電などの管理の煩雑さやエイドの持ち忘れによる不安からくる外出意欲の低下,そして情報社会へのアクセス手段を確立できないことの不便さに起因するものが多いためです.本章で紹介したようなvoiceover機能による操作法やその意義を正しく説明することで,一人でも多くの視覚障害者の目に希望の光を戻せると思います.正しい“導入指導”を広めることが視覚障害者の明日を作ると私は信じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆516あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 119.新旧網膜剥離の合併例に対する硝子体手術(初級編)

2013年4月30日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載119119新旧網膜.離の合併例に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに境界線(demarcationline)は,網膜.離の12.18%にみられ,進行が緩徐な網膜.離の辺縁にみられることが多い.境界線部位では色素上皮の増殖により感覚網膜と色素上皮の間に強固な癒着を形成する.通常,境界線形成までに3カ月以上を要するとされており,硝子体液化が少なく,裂孔が小さい扁平な網膜.離にみられる.自覚症状が軽微なため,患者がそのまま放置しているところに,急性後部硝子体.離によって生じた弁状裂孔に起因する胞状の網膜.離が合併することがまれにある(図1).●新旧網膜.離合併例の診断のポイント通常,境界線部位の色素沈着は光凝固のような癒着を形成しているので,新しい網膜.離が陳旧性網膜.離とは別の部位に生じた場合,.離範囲が境界線の影響をうけることがある.つまり,新鮮な網膜.離は境界線を超えることができないため,裂孔と網膜.離範囲の関係が理論的には合わない現象が生じうる.新鮮な網膜.離の原因裂孔を検出する際には,上記のようなことを念頭に入れたうえで,眼底検査を行う必要がある.●新旧網膜.離合併例に対する硝子体手術の注意点新旧の網膜.離が境界線を挟んで存在し,この2つの網膜下腔には交通がないことが多い.よって,硝子体切除後に内部排液を施行する際には,各々の網膜.離に対して2カ所での内部排液が必要となる.また,通常は陳旧性網膜.離のほうが網膜下液が粘稠であるため,眼内灌流液下でまず陳旧性網膜.離のほうの網膜下液をできるだけ吸引除去したうえで,気圧伸展網膜復位術を施行する必要がある.新旧網膜.離の裂孔が赤道部より周辺側に存在する症例では,強膜バックリング手術でも十分復位が可能であるが,この際にも2カ所での網膜下液排除を余儀なくされることが多い.しかし,周辺部で網膜下腔が連続している症例では,1カ所の排液で両方の網膜下液が排除できることもある.図1右眼の術前眼底写真上方の弁状裂孔に起因する新鮮な胞状網膜.離と耳側の萎縮性円孔に起因する陳旧性網膜.離が合併している.図2術中所見陳旧性網膜.離の網膜下液は粘稠なので,気圧伸展網膜復位の前に,まずこちらのほうの内部排液を十分に施行しておく必要がある.図3右眼の硝子体手術後の眼底写真網膜が復位しており,陳旧性網膜.離の境界線がよくわかる.(85)あたらしい眼科Vol.30,No.4,20135130910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 148.視野の新しい統計学的解析方法

2013年4月30日 火曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第148回◆眼科医のための先端医療山下英俊視野の新しい統計学的解析方法村田博史間山千尋(東京大学医学部附属病院眼科)視野の重要性緑内障性視神経症の評価において,近年のOCT(opticalcoherencetomography)の発展と普及はめざましく,すでにOCTは緑内障の診療に必須のツールといっても過言ではありません.眼底観察や写真ではわかりにくい視神経線維層の菲薄化を検出し,従来の視野検査で異常を認めない段階で,OCTによる異常が明らかに認められるような症例はめずらしくなく,preperimetricglaucomaという用語も定着しつつあります.視野検査を待たなくても緑内障の診断ができ,その進行についてもOCTにより評価することが可能であれば,患者に対する検査の負担も少なく,より客観的な評価が可能になります.しかし,OCTなどの画像検査で評価できる網膜の構造的変化は,視野の感度で評価される機能と強く相関はしますが,あくまで別のものです.患者のQOL(qualityoflife)に直結する視機能を評価する方法としては,視野検査に代わりうる検査は現在まだ存在しません.リスクの高い緑内障手術を検討するのは,視機能が低下してQOLが大きく損なわれるのを防ぐためであり,網膜が薄くなっているから,という説明ではまだ抵抗があるでしょう.緑内障の診断においてOCTの有用性は明らかですが,ひとたび診断された緑内障の管理においては,視野検査はもっとも重要な検査の一つと考えられます.視野障害の統計学的解析Humphrey視野計ではSITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)プログラムが一般的となり,近年MD(meandeviation)値に代わるものとしてVFI(visualfieldindex)というあらたな指標が導入されるなどの発展がありました.しかし,患者の協力と医療者側(81)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYの労力も必要としてようやく得ることができた,長期間に繰り返し行われた視野検査の結果を,現在われわれが臨床で使っている方法で十分に利用できているのでしょうか.患者のQOLは,視野全体のMD値と相関するのはある意味当然ですので,検査点ごとのより詳細な検討が必要なのではないでしょうか.MDslopeによって進行を評価する方法の信頼性は高いですが,各点ごとの変化を詳細に見ようとしても変動が大きく解釈が難しいことがあります.視野障害の進行の評価は,緑内障の診療や研究の多くの場面においてもっとも重要なプロセスの一つになりますが,その解析方法は単純な直線回帰だけで十分なのでしょうか.視野検査結果を評価する際には,機械的な計測とは異なるいくつかの問題がでてきます.たとえば,検査点どうしの感度に強い相関があること,結果自体に感覚応答のばらつき,被検者のコンディションによる生理的変動など,避けられない誤差と経時的な変動があることを考慮しなければなりません.視野の予測における問題点従来の単回帰を用いて視野障害の進行を予測する場合,単回帰のoverfittingが問題となります.すなわち,単回帰では得られたデータに過度に適合した直線が得られ,それを用いて未来の視野を予測しようとすると誤差が非常に大きくなることがあります.進行予測はできるだけ短期間に少ない検査回数で行いたいのですが,この傾向は特に視野の測定回数が少ないときに顕著となります.また,測定点ごとに単回帰を行う場合,感度の空間的相関と進行速度の空間的相関,およびこの2者の相関は通常無視されています.たとえば,すでにある視野障害に隣接する測定点は今後悪化してくる可能性が高いなど,感度と視野障害の進行の間にも相関があると考えられますし,絶対暗点となった部分はそれ以上進行しないことは自明です.単回帰を行う場合,誤差が正規分布をすること以外に仮定をおかないため,眼科医が経験を踏まえて進行を予測する際に前提となっている,これらの考え方が反映されていません.ベイズ線形回帰を用いた予測モデル筆者らのグループでは従来の問題点を克服するため,ベイズ(Bayes)線形回帰を用いたモデルによる視野障あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013509 0510152025rootmeansquarederror単回帰Bayes線形回帰123456789図1ベイズ線形回帰と単回帰による予測誤差の比較ベイズ(Bayes)線形回帰と単回帰を用い,最初のn回の視野から10回目の視野を予測した場合の予測誤差を示す.横軸はn,縦軸は予測誤差(平均±標準偏差).nが小さいと単回帰による予測誤差はかなり大きくなるが,ベイズ線形回帰による誤差は小さい.害の進行予測を試みています.一例として,東京大学附属病院で視野検査をした2,764例4,924眼の学習データと,10回以上視野検査を行った505例856眼の検証データを利用して,感度と視野障害の進行に対し混合正規分布注1)を仮定し,誤差には混合Wishart分布注2),各個人の測定結果のばらつきには混合Gamma分布注3)を仮定,モデルのハイパーパラメータ注4)の推定にはExpectation-Maximizationalgorithm注5)を用い,期待値の計算は解析的にできないためmeanfieldapproximation注6)を用いて推定する方法を用いて,最初のn回の視野結果から予測した10回目の視野の予測精度を検討したところ,たった1回の視野からこの方法で予測した場合の誤差は,6回分の視野から従来の単回帰を適用した場合と同等であることがわかりました(図1).視野の統計学的解析の意義視野検査の結果からより多くの情報を得て患者の将来の視野を正確に予測することができれば,視野検査の臨床的意義はさらに高まり,緑内障診療と研究の発展につながると考えられます.現在,筆者らは,従来の視野検査の結果からより正確に視野の進行を予測するモデルや患者のQOLをより詳細に推定するモデル1),さらには視野計や検査プログラム自体の改良までを考え取り組んでいます.注1:混合正規分布─複数の正規分布の線形和として定義される,基本的な混合分布.注2:混合Wishart分布─複数のWishart分布の線形和として定義される分布.注3:混合Gamma分布─複数のGamma分布の線形和として定義される分布.注4:ハイパーパラメータ―ベイズ法において事前確率を制御する目的で設定されるパラメータで,学習データから推定される.注5:Expectation-Maximizationalgorithm─確率モデルのパラメータを最尤法に基づいて推定する手法の一つ.EMアルゴリズム.注6:Meanfieldapproximation─平均場近似.元々は分子場近似(Molecularfieldapproximation)とよばれ統計力学の手法であったが,確率的ネットワークに対する決定論的な近似の方法として最適化問題や学習の問題に広く適用されている.文献1)MurataH,HirasawaH,AoyamaYetal:Identifyingareasofthevisualfieldimportantforqualityoflifeinpatientswithglaucoma.PLoSOne8(3):e58695,2013■「視野の新しい統計学的解析方法」を読んで■オペレーションズリサーチ(OR)の根拠を他人に説明するためのツールです.ゲーム理論眼科診療への登場や金融工学などもORの応用として誕生したものであオペレーションズリサーチ(operationsresearch:り,ORは政府,軍隊など,さまざまな組織において,OR)というと,本文に関係ないように感じられるか意思決定のための数学的技術として使用されていまもしれませんが,今回の内容がいかに画期的であるかす.わかりやすくいえば,勘や経験に基づいて判断さをこの言葉を用いて説明します.れていた方針について,現象を徹底的に統計的,数学ORの定義は,複雑な現象分析などにおける判断の的解析を行うことで,科学的根拠に基づく方針にする510あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(82) ための学問です.的に数学を重視しますし,数学者を大切にします.先このORがきわめて有効に働いた例としてしばしば般,教室の山下高明先生が英国留学し大きな成果をああげられるのが,第2次世界大戦中の英国本土防衛作げて帰国しましたが,研究室のみならず病院中に数学戦です.英国はドイツの猛攻にさらされて一時は降伏者があふれていて驚いたと話してくれました.寸前に陥りました.たとえば,物資輸送船舶をドイツORを施行するには,現象を数理的に評価することのUボートに徹底的に沈められた際には,打つ手なが必要です.従来,眼科診察内容を数理的に表すことしという状態でしたが,国中の数学者を集めて事象解は不可能でしたが,OCT,視野など,各事象が数理析したところ,大きな船団に少数の船舶と護衛船を付的に表現可能になると,ORも可能になります.そうけて輸送をすると損耗率を減らせるという結論が導きなれば,治療を決定するのは,経験や勘ではなくOR出され,危機を脱することができました.また,爆撃による方針になるでしょう.この論文は,今後は眼科機の装甲,爆撃機の色,潜水艦攻撃法など,現象を統を理解するためには,数学を理解しないといけない時計的に解析することで最適の方針が導き出され,勝利代が確実に来るということを示した意味で,画期的なが得られたのです.この方法は,現在は軍事のみなら仕事であるといえます.ず上記のように,さまざまな分野に広く応用されてい鹿児島大学医学部眼科坂本泰二ます.この歴史的経験のためでしょうか,英国は伝統☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013511

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対する抗VEGF薬と光線力学的療法の併用療法

2013年4月30日 火曜日

●連載⑪抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二1.加齢黄斑変性に対する抗VEGF薬植谷留佳名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学と光線力学的療法の併用療法加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療の要となるのは抗VEGF薬の硝子体内注射であるが,視機能の改善・維持のためには頻回投与が必要であり,これが近年社会問題となっている.抗VEGF薬に光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を併用することで,必要な抗VEGF薬の投与回数を減らし,患者・医療者双方の負担を軽減することができる.光線力学的療法からみた抗VEGF薬の利点PDT前後に黄斑部局所網膜電図を施行し,黄斑部の網膜機能の変化を検討している.PDT単独群では1週間光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)は,後に一過性の悪化がみられたのに対し(図3A),bevaci選択的に脈絡膜新生血管(choroidalneovascularizazumab(アバスチンR)硝子体内注射(IVB)併用PDT群tion:CNV)を閉塞させるといわれている.しかし,照では1週間後の悪化は抑えられ,さらに3カ月後には改射領域に一致した脈絡膜循環障害がみられたり(図1),善がみられたと報告している(図3B).PDT後に上昇中心性漿液性脈絡網膜症に対しても,脈絡膜厚を減少さするVEGFを,抗VEGF薬で抑制することが,PDTせ,漿液性網膜.離の消失効果がある(図2)ことから,後の網膜機能障害の軽減に関係していると考えられる.PDTはCNVだけでなく,既存の脈絡膜にも影響を及抗VEGF薬からみたPDTの利点ぼすと考えられる.Schmidtら1)は,PDTを施行すると脈絡膜毛細血管板の閉塞が起こり,脈絡膜が虚血におポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascuちいることで,脈絡膜血管の内皮細胞がVEGFを産生lopathy:PCV)を対象としたEVERESTスタディ3)ですると報告している.Ishikawaら2)は,加齢黄斑変性は,ranibizumab(ルセンティスR)硝子体内注射(IVR)(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する単独群よりも,IVR併用PDT群のほうがポリープ状病図1PCVに対するPDT前後のインドシアニングリーン蛍光眼底造影写真とOCT画像PDT後に滲出性変化が消失し,ポリープ状病巣の閉塞もみられたが,脈絡膜循環障害がみられた.PDT前PDT3カ月後(79)あたらしい眼科Vol.30,No.4,20135070910-1810/13/\100/頁/JCOPY PDT前μVμV2.72.72.22.21.71.71.21.20.70.70.2ベースライン***a波b波**1週1カ月3カ月0.2ベースライン**a波b波1週1カ月3カ月図3AMDに対するPDT前後の黄斑部局所網膜電図の振幅A:PDT単独群.B:Bevacizumab(アバスチンR)硝子体内注射併用PDT群.*p<0.05,**p<0.01(Wilcoxonsigned-ranktest).巣の完全閉塞率が有意に高く(28.6%vs77.8%),滲出性変化の消失率が高く,必要なIVRの回数が少なかった.この結果より,PCVを治療する際に,PDTをIVRに併用することで,必要なIVRの回数が減らせることが示唆された.PCVが日本人に多い疫学的背景を考慮すると,日本では,PDTは患者・医療者双方の負担軽減に大きな役割を果たしているといえる.抗VEGF薬併用PDTの適応抗VEGF薬併用PDTは,抗VEGF薬,PDT双方の欠点を補い合う,実際の医療現場に則した,より現実的な治療プロトコールである.しかし,必ずしもすべての病変タイプに抗VEGF薬併用PDTが良いとは限らない.PredominantlyclassicCNVに対するIVR単独療法は,occultCNVと比較し,効果(CNV収縮,随伴する浮腫・出血・滲出の軽減)が速やかに表れることが多く4),筆者はpredominantlyclassicCNVにIVR単独療法を,それ以外の典型AMD,PCVにはIVR併用PDT療法を行っている.近年AMDに対する新たな抗VEGF薬としてaflibercept(アイリーアR)が厚生労働省の認可を受けたが,afliberceptにPDTを併用するほうが良いかどうかは,今後の臨床データから慎重に判断508あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013PDT1年後図2中心性漿液性脈絡網膜症に対するPDT前後のOCT画像PDT後に漿液性網膜.離の消失と脈絡膜厚の減少がみられた.すべきと考える.抗VEGF薬の硝子体内注射とPDTの間隔Sawaら5)は,典型AMDとPCVを対象に,IVB翌日にPDTを行った群(GroupD1)と,IVB7日後にPDTを行った群(GroupD7)を比較し,治療開始3カ月後と1年後の視力改善効果はGroupD7のほうがGroupD1より大きく,1年間のIVBの回数はGroupD1で2.2±1.4回,GroupD7で1.4±0.6回であったと報告している.IVB併用PDTを行う際にはIVBとPDTの間隔は1日よりも7日のほうが良い可能性がある.しかし,IVB併用PDTの結果をそのまま他の抗VEGF薬にあてはめることはできず,それぞれの抗VEGF薬とPDTの最適な投与間隔を知るためには,各々の薬剤で比較試験を行う必要がある.文献1)Schmidt-ErfurthU,Schlotzer-SchrehardU,CursiefenCetal:Influenceofphotodynamictherapyonexpressionofvascularendothelialgrowthfactor(VEGF),VEGFreceptor3,andpigmentepithelium-derivedfactor.InvestOphthalmolVisSci44:4473-4480,20032)IshikawaK,NishiharaH,OzawaS:Focalmacularelectroretinogramsafterphotodynamictherapycombinedwithintravitrealbevacizumab.GraefesArchClinExpOphthalmol249:273-280,20113)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTstudy:efficacyandsafetyofverteporfinphotodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizumabmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina32:1453-1464,20124)鈴木三保子,五味文:典型加齢黄斑変性と抗VEGF薬.あたらしい眼科29:101-102,20125)SawaM,IwataE,IshikawaKetal:Comparisonofdifferenttreatmentintervalsbetweenbevacizumabinjectionandphotodynamictherapyincombinedtherapyforage-relatedmaculardegeneration.JpnJOphthalmol56:470475,2012(80)

緑内障:Overhanging blebに対する濾過胞再建

2013年4月30日 火曜日

●連載154緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也154.Overhangingblebに対する栂野哲哉新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野眼科学濾過胞再建Overhangingblebは濾過手術後に生じる晩期合併症の一つである.進行した場合には視機能や患者の日常生活に影響を及ぼす可能性があり修復を必要とする.ここでは多くの場合で有効な単純切除について解説する.●Overhangingblebの形成トラベクレクトミー(trabeculectomy,線維柱帯切除)は既存の房水流出経路を変更し,結膜下へと房水を導く術式である.理想的な濾過胞は円蓋部に向かってびまん性に広がる有血管性なものとされるが,最終的な濾過胞の形態は多岐にわたる.機能性の濾過胞が長期間にわたって維持された場合,時として濾過胞の一部が結膜角膜境界部を越え透明角膜内に侵入してくる場合がある.これはoverhangingblebあるいはencroachingblebとよばれる1).今のところ明確な発症メカニズムは明らかにされていないが,輪部組織になんらかの異常が存在し,そこへ上眼瞼による圧力が加わりBowman膜と角膜上皮との間に房水が入り込むためと考えられている.結膜切開法(輪部基底,円蓋基底),マイトマイシン使用の有無にかかわらず生じうる合併症である.●Overhangingblebの視機能への影響Overhangingblebを生じると視力障害をきたすことがある.濾過胞が瞳孔領まで達した場合には当然視力障害を生じるが,そこまで至らずとも角膜不整乱視の増加や正常涙液層の破壊から視機能障害を起こすことがある.また,物理的な刺激による異物感を訴えることもあり,これらの際は治療が必要となる.●Overhangingblebに対する外科的濾過胞再建非観血的な治療としてYAGあるいはアルゴンレーザーを使用した報告がある2,3)が,術後の房水漏出や,複数回の試行が必要となることが報告されている.そのため当科では確実に効果が得られる単純切除を行っている.角膜上に侵入した部位はBowman膜上に存在するため,翼状片手術と同様にスパーテルなどで容易に角膜か(77)らの.離が可能である.根元の処理は,通常は輪部に沿って切除しても問題とならない4).同部位は層状あるいは多房性となっており,濾過胞本体となんらかの結合組織で隔てられている場合が多いためである.術前に超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)や前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)などで内部の情報を得ておくことが有用である5).断端からの漏出があっても軽度であれば上皮の進展に伴い自然に閉鎖するが,多ければ丸針で濾過胞壁を角膜に縫合するとよい.●自験例60歳,男性,POAG(原発開放隅角緑内障).17年前に当科で非穿孔トラベクレクトミー施行された後,近医で経過観察されていた.その後徐々にoverhangingblebを生じ,角膜乱視の増強による視力障害をきたしたため再び当科紹介となった.受診時右眼の視力は0.1(0.5×sph.6.00D(cyl.2.75DAx120°)であり,濾過胞は上耳側の結膜から角膜瞳孔領付近に達し,無血管性で壁の薄いものであったが漏出はみられなかった(図1).角膜トポグラフィーにて不正乱視を認めた(図2a).また,AS-OCTにより濾過胞内部に不均一な結合組織が存在していることが明らかとなった(図3).手術ではTenon.下麻酔の後,overhangingblebの切除に先立ち,ブレブナイフ(カイインダストリー)を使用して濾過胞壁の開放を行った.角膜に進展した部位をスパーテルで角膜表面より.離したのち,輪部に沿って切除した.断端は漏出を認めたため丸針の10-0ナイロンで縫合を行った.術翌日には既に房水の漏出は止まっており,切除部位の角膜びらんも数日で上皮に覆われた.術後4カ月の時点で再発の徴候はなく,視力は0.09(0.9×sph.8.0D(cyl.1.0DAx135°)と改善し,眼圧レベルは術前と比べて変化はなかった(図4).角膜トポグラあたらしい眼科Vol.30,No.4,20135050910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図1術前前眼部写真無血管性の濾過胞が輪部を越え,瞳孔領近くまで達している.図3術前AS.OCT(SL-OCTTM,HeidelbergEngineeringGmbH,ドイツ)Overhangingbleb(矢頭)の内部に層状の結合組織が存在し,輪部付近には本来の濾過胞壁(矢印)と思われる隔壁を認める.C:角膜,I:虹彩.フィー上も不正乱視の改善をみた(図2b).Overhangingblebは遭遇する頻度は少ないものの,古くより知られているトラベクレクトミー後の合併症である.これよって生じる異物感や視力障害は患者の日常生活に悪影響をもたらすと考えられ,なんらかの修復を行う必要がある.角膜に突出した部位は菲薄化している場合が多いため,外科的切除には慎重になりがちである.しかし,本来の濾過胞壁は輪部付近に存在し,これを損傷せずに切除できれば術後の漏出を心配する必要はない.もし,AS-OCTや超音波生体顕微鏡を使用することができるようならば,あらかじめ内部構造を把握しておくことが可能であり,より安全に切除することができる.506あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013ab図2角膜トポグラフィーa:術前,上耳側に不正乱視と涙液層の破綻を認める.b:術後,不正乱視は改善している.図4最終受診時前眼部写真再発はなく,角膜上皮の混濁も軽度である.現在もなお緑内障に対する手術療法としてトラベクレクトミーが主流であることは変わらず,overhangingblebに対する適切な処置法についても熟知している必要がある.文献1)ScheieHG,GuehlJJ:Surgicalmanagementofoverhangingblebsafterfilteringprocedures.ArchOphthalmol97:325-326,19792)FinkAJ,Boys-SmithJW,BrearR:Managementoflargefilteringblebswiththeargonlaser.AmJOphthalmol101:695-699,19863)LynchMG,RoeschM,BrownRH:Remodelingfilteringblebswiththeneodymium:YAGlaser.Ophthalmology103:1700-1705,19964)AnisS,RitchR:Suturelessrevisionofoverhangingfilteringblebs.ArchOphthalmol124:1317-1320,20065)PrataTS,DeMoraesCGV,PalmieroP-Metal:Slitlamp-adaptedopticalcoherencetomographyforassessmentofanoverhangingfilteringbleb.ActaOphthalmol88:910-911,2010(78)

屈折矯正手術:Implantable collamer lens(ICL)挿入後の瞳孔ブロック

2013年4月30日 火曜日

●連載155屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─155.Implantablecollamerlens(ICL)挿入後の瞳孔ブロック監修=木下茂大橋裕一坪田一男小島隆司名古屋アイクリニック・岐阜赤十字病院眼科術前の虹彩切除が不十分であるとImplantablecollamerlens(ICL)挿入後に瞳孔ブロックを起こすことがある.瞳孔ブロックの鑑別診断としてはレンズサイズが大きすぎることによる隅角閉塞が重要である.治療として虹彩切開もしくは切除を行い,瞳孔ブロックを速やかに解除することが必要である.Implantablecollamerlens(ICL)は,後房の毛様溝に固定される屈折矯正手術用の有水晶体眼内レンズである.手術そのものが角膜強度に影響しないことから,角膜形状異常や角膜厚が薄い症例,高度近視などレーシック(laserinsitukeratomileusis:LASIK)が適応とならない症例を中心に施行されることが多い.わが国では2010年にICLが,2011年にトーリックICLが厚生労働省により認可され,現在屈折矯正手術の一つとして徐々に症例数が増えてきている.ICLは現在のデザインが第4世代で,レンズが水晶体と接触しないように前方にアーチ形状をしている.後房型有水晶体眼内レンズの術後早期の合併症として瞳孔ブロックがある.ICLは瞳孔領域をレンズが完全に塞ぐために,房水のバイパスがない場合には必ず瞳孔ブロックを起こす.このため術前にレーザー虹彩切開術を行い瞳孔ブロックの予防を行うのが一般的である.最近ではレーザーによる角膜内皮障害を懸念して術中に虹彩切除術を行う術者も多い.虹彩切開もしくは虹彩切除が小さすぎると瞳孔ブロックを起こすことがある.通常は手術後48時間以内に起こることがほとんどである.瞳孔ブロックが起きないように虹彩切除をしっかり行っておくことが重要である.小さすぎると穴が開いていても瞳孔ブロックを起こす可能性がある.瞳孔ブロックの診断は比較的容易である.術後早期の眼圧上昇とICLの前方移動が特徴である(図1).急性閉塞隅角緑内障で認められるような典型的なirisbombeは呈さない.これは後房圧が上昇した場合はICL全体が虹彩裏面を押し上げるように前方に移動するためと考えられる.瞳孔ブロックを疑ったら,虹彩切除の部分をレーザーで拡大する,もしくは新たに作製する必要がある.瞳孔ブロックが解除されれば眼圧は速やかに軽快する.(75)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1ICL挿入術後の瞳孔ブロック症例の細隙灯顕微鏡写真水晶体の位置は正常であるが,ICLの位置が前方に移動しておりvault(水晶体前面とICL後面の距離)が著しく高くなっている.術後の瞳孔ブロックを治療するうえで大切なことは早期発見である.手術2時間後に眼圧のチェックと細隙灯顕微鏡にて状態を評価することが重要である.この時点で眼圧上昇,ICLの前方移動が認められれば瞳孔ブロックを疑って治療するべきである.症例によってはこの時点で眼圧が正常の場合もあるので,その後,眼が痛くなったりした場合の早期の対応が取れるように,緊急の連絡先などを患者に指示しておくことも大切である.鑑別診断としては,術後早期に眼圧上昇をきたすような状態が鑑別の対象となりうる.図2に術後早期の眼圧上昇に対する鑑別および治療のためのフローチャートを示す.まず細隙灯顕微鏡で水晶体の位置を確認し,水晶体が前方へ移動しているようであれば悪性緑内障を疑う.しかし,ICL術後の悪性緑内障は筆者自身も経験がなく,非常に稀と思われる.水晶体の位置が正常であれば,つぎにvaultの状態を評価する.Vaultは水晶体前あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013503 水晶体も前方に移動ありなし悪性緑内障highvaultmoderateornormalvault周辺虹彩切開部は開いているか?開いている開いていない粘弾性物質残留による眼圧上昇瞳孔ブロックレンズサイズが大きすぎるために起こる隅角閉塞ダイアモックス内服,前房洗浄治療方法ICL摘出LIもしくはPIを追加図2ICL術後早期の高眼圧の鑑別と治療の流れPI:周辺虹彩切除術,LI:レーザー虹彩切開術.(文献2より改変)水晶体も前方に移動ありなし悪性緑内障highvaultmoderateornormalvault周辺虹彩切開部は開いているか?開いている開いていない粘弾性物質残留による眼圧上昇瞳孔ブロックレンズサイズが大きすぎるために起こる隅角閉塞ダイアモックス内服,前房洗浄治療方法ICL摘出LIもしくはPIを追加図2ICL術後早期の高眼圧の鑑別と治療の流れPI:周辺虹彩切除術,LI:レーザー虹彩切開術.(文献2より改変)面とICL後面の距離である.これが角膜厚みの2倍以内の距離であれば,粘弾性物質による眼圧上昇の可能性が高い.Vaultが非常に高い場合は,瞳孔ブロックもしくはICLが大きすぎる可能性がある.この場合,虹彩切除が適切に行われており,開通が確認できればサイズの問題となる.この場合はICLを摘出する必要がある.虹彩切除が不十分であれば,アルゴンもしくはYAGレーザーを使用して開通させる.虹彩切除が小さ過ぎる場合は拡大する.時に術中に虹彩切除をした症例で,虹彩切除が開いているように見えても虹彩の後葉が残存していて瞳孔ブロックを起こすことがあり,この場合もYAGレーザーで後葉を切開することで速やかに瞳孔ブロックは解除される.ICL術後の瞳孔ブロックは手術を始めたばかりの術者に起こることが多く,その多くは虹彩切開が小さすぎる,周辺部に開けすぎることが原因と考えられる.図3に適切な大きさ,場所の虹彩切開を示すが,このように図3推奨される術前虹彩切開術の場所この症例に示すように縮瞳させた状態であまり周辺になりすぎないように,90°離して2カ所,上方に行うのがよい.万が一のことを考えて保険をかけて2カ所施行することを推奨する.近年,ICLの光学部中央に穴が開いたいわゆるHoleICLがヨーロッパ中心で使用されており,光学的にも従来のICLに比較して損失がないことが示されている1).このHoleICLを用いると術前の虹彩切開術は必要なく,術中のICL後面の粘弾性物質の吸引も行いやすくなることから,より手術が安全になることが期待でき,わが国への導入が待たれる.文献1)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Intraindividualcomparisonofvisualperformanceafterposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralholeimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmol154:486-494,20122)BylsmaSS,ZaltaAH,FoleyEetal:Phakicposteriorchamberintraocularlenspupillaryblock.JCataractRefractSurg28:2222-2228,2002☆☆☆504あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(76)

眼内レンズ:眼内レンズ挿入後の眼内洗浄法

2013年4月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎320.眼内レンズ挿入後の眼内洗浄法宇野敏彦白井病院眼内レンズ(IOL)挿入後の眼内洗浄は術直前の洗眼などによる消毒よりも重要と思われる.従来より指摘されてきたIOL裏面のみならずワンピース型IOLでは複雑な形状のループ周囲の洗浄にも気を配る必要がある.眼内レンズ(IOL)挿入後,すなわち白内障手術(水晶体再建術)の終了直前に前・後房および水晶体.を灌流液で十分洗浄することは眼内炎発症予防の有力な手段である.各自,各施設で独自の洗浄法がなされていると思われるが言及される機会も少なく,いまだ“日陰の存在”である.術前の消毒操作以上に重要と思われる眼内洗浄法について注目してみたい.昨今,単一の素材のワンピース型IOLの使用頻度が増えている.支持部が細いループでなく,太く断面が四角い複雑な形状のものが増えている.これは眼内,特に水晶体赤道部付近の洗浄が難しい形状とも言え,注意すべき点である(図1).これまでは眼内レンズ光学部の裏面の洗浄が重要とされてきたが,ワンピース型IOLのループ周囲にも気を配る必要があるわけである.まず,I/A(灌流/吸引)チップ周囲の水流について再認識してみよう.図2はフルオレセインで染色した灌流(a)(b)図1従来からあるスリーピース型IOL(a)とワンピース型IOL(b)の水晶体.内でのイメージ(断面)ワンピース型IOLの太いループの場合,赤道部付近に閉鎖空間ができ,洗浄する際に“死角”が生じやすい.(73)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY液で流れを可視化したものである.チップの先端方向とスリーブの穴から出ている状況が確認できるが,特定の方向にしか流れていないことに注目したい.眼内を隅々まで洗浄するにはI/Aチップを大きく動かす必要があ図2I/Aチップ先端の灌流液の流れ灌流液にフルオレセインを添加して可視化した.灌流液が流入する方向が限定されていることに注意すべきである.図3IOL裏面の洗浄ワンピース型IOLの裏面にI/Aチップをもぐり込ませて洗浄している.あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013501 図4“Tapping法”スリーピースIOLの左側のエッジをI/Aチップ先端で押さえているところ.チップを左右のIOLエッジ(矢印)に交互におき,後.側に向かってIOLを押し付けながら.内を洗浄する方法.ろう.IOLの裏面の洗浄にはI/AチップをIOL光学部エッジから裏へ回り込ませる方法(図3)が最も直接的で効率がよいと思われる.ただ,この方法は後.の誤吸引や破.に対する恐怖心から,初心者にはややハードルが高いかもしれない.筆者らは以前着色した粘弾性物質を用いた眼内洗浄実験を行ったが,このなかでの検討で“tapping法”が有用であることがわかった(図4).これはIOL光学部の周辺部を左右交互に押し,シーソーのようにIOLを揺らして裏面の粘弾性物質を洗浄除去する方法である.I/Aチップを後.に近づけることなく洗浄が行えるので,初心者でも安心して行うことができる.前述のように,ワンピース型IOLを挿入する場合にはループ周囲の洗浄に気を配る必要がある.この点での検討はほとんどなされていないが,筆者は現在つぎのよ図5IOLを“シェイク”ワンピース型IOLを6時方向に偏位させている.このとき,12時方向(手前)のループは水晶体.赤道部から離れていることに注目.このような動きを繰り返すことによるループ周囲あるいは水晶体.赤道部付近が効率的に洗浄されるものと考えられる.うな方法を試みている.1.IOLを前後左右にシェイク!(図5)ループが付着している方向に沿ってIOL光学部をI/Aチップで左右(前後)に偏位させると,ループが赤道部から離れたり,逆に押し付けられたりという動きになる.この動きのなかで灌流液を循環させれば,より効率的にループ周辺の洗浄が行えると推測できる.2.IOLを回転!IOLを回転させることにより,水晶体.内の赤道部を攪拌洗浄することが可能になると思われる.上記の方法はいずれもI/AチップをIOL光学部の表面にのみ接触させて行うことができ,初心者でも安全であろう.もちろんZinn小帯に多少の負担をかける操作であり,その断裂などが危惧される状況では控えるべきであることはいうまでもない.

写真:ポリープ状脈絡膜血管症(SRD型)

2013年4月30日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦347.ポリープ状脈絡膜血管症(SRD型)山岸哲哉京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学①①①②③④×図2図1のシェーマ①:橙赤色隆起病変.②:漿液性網膜.離.③:網膜色素上皮.離.④:網膜色素上皮萎縮.図1ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)黄斑内に橙赤色隆起病変,漿液性網膜.離,網膜色素上皮.離を認める.明らかな出血性変化は認められない.図3インドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)視神経乳頭近傍から延びる脈絡膜異常血管網(ネットワーク血管)と,その末端に拡張した異常血管(ポリープ状病巣)を認める.ポリープ状病巣は検眼鏡的所見での橙赤色隆起病巣に一致して確認される.網膜色素上皮.離はICGAでは低蛍光に見える.図4光干渉断層計像(OCT)垂直断検眼鏡的所見での橙赤色隆起病巣およびICGAでのポリープ状病巣はOCTでは急峻な網膜色素上皮(RPE)ラインのドーム状前方突出(矢印)を呈する.その内部には中等度反射像があり,ポリープ状病巣の異常血管本体と考えられる.周囲には網膜下液(無反射)を認める.(71)あたらしい眼科Vol.30,No.4,20134990910-1810/13/\100/頁/JCOPY ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvas-culopathy:PCV)は1990年にYannuzziらにより報告された広義の加齢黄斑変性(AMD)の特殊型である1).異常血管は黄斑部もしくは視神経乳頭近傍に存在し,枝状の脈絡膜異常血管網(ネットワーク血管)と終末のポリープ状病巣で構成される.わが国では広義AMDの約半数を占めるとの報告がある2).検眼鏡的所見ではポリープ状病巣は橙赤色隆起病巣として確認される.そのほか,網膜下出血,滲出性網膜.離,出血性・漿液性色素上皮.離が特徴的であり,臨床所見より漿液性網膜.離(SRD)型と血腫型に分類することもある.光干渉断層計(OCT)ではポリープ状病巣は急峻な網膜色素上皮(RPE)のドーム状前方突出(図4)として,脈絡膜異常血管網(ネットワーク血管)はRPE.脈絡膜血管板.Bruch膜の反射2層化所見(doublelayersign)(図5)として捉えられる3).脈絡膜異常血管の検出にはインドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)が有用である(図3).ポリープ状病巣は網状の異常血管の末端に位置する瘤状もしくは「ブドウの房」状に集まった過蛍光病変として描出される.わが国では「検眼鏡的所見での橙赤色隆起病巣」もしくは「ICGAでのポリープ状病巣」がPCV確実例の診断基準とされている4).フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では脈絡膜異常血管はoccultCNV(脈絡膜新生血管)の所見を呈するが,ICGAに比べて確定診断的価値は少ないと考えられる.SRD型ではこれらの所見により中心性漿液性脈絡網膜症と鑑別する必要がある.現在では光線力学的療法(PDT)や抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内注射により治療するが,症例により抗VEGF薬硝子体内注射に治療抵抗性を示す場合もある5).文献1)YannuzziLA,SorensonJ,SpaideRFetal:Idiopathicpolypoidalchoroidalvasculopathy(IPCV).Retina10:1-8,19902)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20073)SatoT,KishiS,WatanabeGetal:Tomographicfeaturesofbranchingvascularnetworksinpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina27:589-594,20074)日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会:ポリープ状脈絡膜血管症の診断基準.日眼会誌109:417-427,20055)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Predictivefactorsofresolvedretinalfluidafterintravitrealranibizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol95:1555-1559,2011図5光干渉断層計像(OCT)水平断ICGAで確認された視神経乳頭近傍の脈絡膜異常血管網はOCTでは網膜色素上皮(RPE)の2層化様所見(doublelayersign)を呈する(矢印).これは正しくは異常血管網により分離したRPEとその下のBruch膜であるとされている.周囲には網膜下液を認める.500あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(00)