特集●角膜診療MinimumRequirementsあたらしい眼科31(3):313.318,2014特集●角膜診療MinimumRequirementsあたらしい眼科31(3):313.318,2014SPKをみたらSuperficialPunctateKeratopathy(SPK)田聖花*はじめに日常診療においてSPK(superficialpunctatekeratopathy,点状表層角膜症)は非常に身近な角膜障害の一つであり,外来を1日行ってSPKをみないことはまずない.SPKにはさまざまな表情があり,原因は多岐にわたる.本稿では多彩なパターンのSPKを呈示し,診断のコツについて述べる.SPKは生じている場所によって,かなりの確率で診断がつくことが多い.I上方のSPK1.異物突発的な異物感や疼痛があれば,異物によるSPKであることが多い.そしてその多くは上眼瞼に存在する.異物感を訴え,かつ上方にSPKを認める場合は,必ず上眼瞼を翻転して診察する.瞬目によって上下方向の擦過傷を呈することもある.結膜結石は,瞼結膜から表出すると大きさにかかわらず,異物感とSPKの原因となる.点眼麻酔を行って27G針で簡単に取ることができる.原発性と流行性角結膜炎後などの続発性の場合があり,繰り返すことが多い.上眼瞼に多いが,下眼瞼にできたものでもSPKを引き起こすことがある(図1,2).飛入・混入による異物も臨床の場でしばしば遭遇する.鉄粉の頻度が高いが,洗顔料に含まれるスクラブ粒子や虫などの場合もある.重瞼術の縫合糸露出によるものも散見される.2.炎症性のもの瞼結膜の炎症が強いと,炎症性サイトカインなどによる攻撃によって,接触する角膜上皮に障害が出ることがある.a.アトピー性角結膜炎アトピー性角結膜炎で上眼瞼の乳頭増殖など炎症性変化が強い場合,角膜上皮障害を生じることがある.シールド潰瘍がよく知られているが,それほど重症でない場合は落屑状のSPK(図3)を呈することもある.ヒアルロン酸などドライアイに準じた点眼治療だけでは改善せず,ステロイド点眼やタクロリムス点眼など免疫抑制薬が必要である.b.流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)EKCによる角膜障害としては角膜上皮下混濁がよく知られているが,SPKも高い頻度でみられ(図4),重症例では上皮欠損を生じることもある.EKCが疑われる場合,院内感染を恐れて細隙灯顕微鏡による診察を行わない場合もあるようだが,上皮障害を伴う場合は疼痛が強く,ステロイド点眼の力価を上げるなど抗炎症治療を強めたほうがいいこともあり,なるべく細隙灯顕微鏡下でフルオレセイン染色を行って診察を行うべきである.*SeikaDen:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕田聖花:〒272-8513千葉県市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(9)313図1下眼瞼にできた結膜結石図3アトピー性角結膜炎でみられた落屑状のSPK3.ドライアイ関連疾患a.上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)SLKは上方の球結膜と角膜に上皮障害を生じる原因不明の眼表面疾患である(図5).異物感,眼不快感を訴え,中高年の女性に多い.眼瞼と眼表面との摩擦が悪化要因と考えられており,涙液減少型ドライアイを合併すると,上皮障害は強くなる.SLKの上皮障害は図5のごとく特徴的で,上方角膜にSPKを認めれば,隣接する球結膜にも上皮障害がないか下方視させるなどして確認する.球結膜の上皮障害は,リサミングリーン染色を行うとより明瞭になる(図6).しばしば上皮障害部位は充血し,結膜上皮の角化傾向によってやや白っぽく鈍い314あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014図2図1の結膜結石によって生じたSPK図4流行性角結膜炎でみられた角膜上皮障害反射を呈する.診断はたやすいが治療に難渋することが多い.標準的なドライアイ点眼や保護用ソフトコンタクトレンズ装用に加えて,角化し上皮障害を認める部分の結膜切除が行われることもある1).II中央のSPK1.ドライアイ中央にびまん性にSPKを認める場合,耳側・鼻側の球結膜上皮障害の有無が原因の鑑別に有用である.球結膜上皮障害を伴う場合,涙液減少型ドライアイを疑う(図7).フルオレセイン染色で観察される涙液メニスカスの低さも,診断の一助となる.特に中高年の女性ではSjogren症候群を疑って,診断基準に基づいて血清中の(10)図5上輪部角結膜炎における角結膜上皮障害図7Sjogren症候群の角結膜上皮障害球結膜にも上皮障害を認める.SS-AおよびSS-B抗体価の検査や,耳鼻科あるいは口腔外科に唾液腺機能をチェックしてもらう.糖尿病角膜症でも角膜の比較的中央にSPKが散在することが多い.2.薬剤障害性角膜上皮障害球結膜上皮障害がみられないときは,薬剤障害性上皮障害を強く疑う(図8).日常臨床では点眼薬による外因性のことが多く,市販の点眼薬の乱用,b-ブロッカーの眼圧下降薬,非ステロイド系抗炎症薬などが原因となることが多い.ただし,ヒアルロン酸点眼薬をはじめど(11)図6図5のリサミングリーン染色所見結膜上皮障害がより明瞭になる.図8ジクロフェナク点眼薬によると思われる薬剤障害性角膜上皮障害結膜上皮障害を認めないのが特徴である.んな点眼薬によっても生じる可能性があり,特に防腐剤として塩化ベンザルコニウムが含まれている点眼には注意する.臓器癌に対する経口抗癌薬の一つであるテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(商品名TS-1)内服による内因性の場合もある(図9).涙液中に含まれるTS-1が眼表面を攻撃すると考えられており,角膜上皮障害のほかに,涙点閉鎖やマイボーム腺機能不全も生じる2,3).涙点閉鎖によって涙液中のTS-1の濃度はさらに濃くなり,上皮障害の悪循環が形成される.治療は休薬しかないが,重症例では不可逆性の上皮障害となることもあり,該当科の主治医との連携が重要である.薬剤障害性角膜上皮障害ではSPKが集簇してひび割あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014315図9TS.1R内服による角膜上皮障害図11膠様滴状角膜ジストロフィでみられる角膜上皮障害れ状(あるいはcrackline状)を呈することがあり,ヘルペスウイルスによる樹枝状角膜炎との鑑別を要する.樹枝状角膜炎の場合は潰瘍部以外の角膜は障害されていないことが多く鑑別は比較的容易だが,特に,ドライアイとの鑑別には球結膜上皮障害の存在が,薬剤障害性との鑑別には問診がそれぞれ有用である.3.変性症いくつかの角膜変性症では角膜上皮障害を生じる.a.Meesmann角膜ジストロフィMeesmann角膜ジストロフィはKeratin3あるいはKeratin12遺伝子の変異による角膜上皮変性症で,常316あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014図10Meesman角膜ジストロフィの角膜所見角膜上皮内に微少な.疱形成を生じる.図12格子状角膜ジストロフィ1型でみられる角膜上皮障害偽樹枝状を呈することがある.染色体優性遺伝の遺伝形式をとる(図10).幼少時より上皮内に微少なcystが形成され,成年になってcyst形成が広がると異物感や羞明の原因となる.SPKとしばしば間違われるが,細隙灯顕微鏡の倍率を上げてよく観察すると,その違いがよくわかる.疼痛が強い場合は保護用ソフトコンタクトレンズの装用やエキシマレーザーによる治療的角膜表層切除(phototherapeutickeratectomy:PTK)が行われる.b.膠様滴状角膜ジストロフィ(gelatinousdrop.likecornealdystrophy:GDLD)膠様滴状角膜ジストロフィはTACSTD2遺伝子の変異による角膜上皮変性症で,常染色体劣性遺伝の遺伝形(12)図13軽度涙液減少型ドライアイでみられる下方のSPK涙液メニスカスも低い.図15瞬目不全でみられるSPK式をとる.欧米人では非常にまれである.典型例では,幼少時より角膜表面に乳白色の突起物が生じ,進行するにつれてびまん性に広がり,視力も比較的早期から障害され,弱視例も多い.病理学的には突起物は角膜上皮のバリア機能の破綻により上皮下にアミロイドの沈着を生じたものである.表層角膜移植を行っても再発が多く,難治性である.非典型例では発症初期にはごく小さな上皮の凹凸として観察されることがあり,難治性のSPKと診断されることがある(図11).c.格子状角膜ジストロフィ(latticecornealdystrophy)格子状角膜ジストロフィは1型,2型,3型の3つのタイプが報告されているが,1型では角膜上皮障害を生(13)図14高度の結膜弛緩症高度の結膜弛緩症では異所性涙液メニスカスの隣接部に角膜上皮障害を生じることがある.じることがある.1型はTGF(変換成長因子)-b1の変異による変性症で,常染色体優性遺伝の遺伝形式をとる.角膜実質浅層に線状の混濁を生じ,再発性角膜びらんを繰り返す.日常臨床では偽樹枝状に集簇したSPKを呈することもあり,角膜ヘルペスなどとの鑑別を要する(図12).保護用ソフトコンタクトレンズなど再発性角膜びらんに準じた治療を行うが,PTKを行う場合もある.点眼や涙点プラグなど標準的なドライアイ治療に抵抗するSPK(様の所見)の場合はこのような変性症の可能性があり,遺伝子検査を検討する.III下方のSPK角膜下方の軽度のSPKは日常臨床で頻繁にみられる.中央のSPKに比べると疼痛などの強い自覚症状に乏しいかわりに,慢性眼不快感の原因となっていることもあり,見過ごさないことで患者のqualityoflifeを上げることができる.1.ドライアイ軽度の涙液減少型ドライアイでは,角膜下方から涙液層の破綻が生じ,SPKの好発部位となる(図13).涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)も5秒以下に短縮していることが多い.加齢とともに涙液分泌量あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014317は低下するため,中高年の下方のSPKの主要原因となる.結膜弛緩症があり結膜が角膜下方に接触していると,異所性メニスカスが角膜上に形成され,角膜下方のSPKの原因となることがある(図14)4).難治性の下方の上皮障害では強い瞬目によって顕在化する結膜弛緩症の場合があり,中高年の下方のSPKをみたときには細隙灯顕微鏡での診察時に強制瞬目をさせる習慣をもつとよい.2.兎眼,瞬目不全特発性や脳外科手術後合併症などの顔面神経麻痺によって兎眼となった場合,露出した下方角膜にSPKが遷延する.このような兎眼は診断が容易であるが,一見健常眼にみえても就寝時のみ兎眼(閉瞼不全)となっている例もある.また,日常的に瞬目が浅い瞬目不全も下方のSPKを生じる(図15).若年者にもみられ,女性に多い印象である.細隙灯顕微鏡下での瞬目を動画に記録し,スロー再生できれば診断しやすい.あるいは,フルオレセイン染色を行うと,瞬目不全例では瞬目による涙液層の広がりが角膜下方でみられないことがわかる.過剰な眼瞼下垂術後にも瞬目不全をきたすことがある.文献1)YokoiN,KomuroA,MaruyamaKetal:Newsurgicaltreatmentforsuperiorlimbickeratoconjunctivitisanditsassociationwithconjunctivochalasis.AmJOphthalmol135:303-308,20032)EsmaeliB,GolioD,LubeckiLetal:Canalicularandnasolacrimalductblockage:anocularsideeffectassociatedwiththeantineoplasticdrugS-1.AmJOphthalmol140:325-327,20053)MatsumotoY,DogruM,SatoEAetal:S-1inducesmeibomianglanddysfunction.Ophthalmology117:1275.e4-e7,2010.doi:10.1016/j.ophtha.2010.01.0484)YokoiN,KomuroA,NishiiMetal:Clinicalimpactofconjunctivochalasisontheocularsurface.Cornea24(8Suppl):S24-S31,2005318あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(14)