———————————————————————-Page10910-1810/10/\100/頁/JCOPY及することはなかった.円錐角膜やエクタジアに対しての効果が確認されて以降,少しずつ普及し,フェムトセカンドレーザーの出現により,多くの屈折矯正手術施設にて導入されはじめている.IntacsRは従来からのモデルで,素材はPMMA(ポリメチルメタクリレート)であり,2つのセグメントの内径(オプティカルゾーン)は6.8mmである.2006年より進行性の円錐角膜およびエクタジアに対して使用するIntacsRSKが開発された.PMMAの断面形状を改良し,セグメントの内径は6.0mmであるため,より強い角膜の扁平化が期待できる(表1).角膜のK値がおおむね55D以上であれば,IntacsRSKを使用するケースが多いが,事前に角膜のはじめに円錐角膜は基本的に,両眼性・進行性・非炎症性であり,角膜曲率の縮小と角膜の菲薄化を特徴とする疾患である.軽度から中等度の進行例までは,ハードコンタクトレンズ(HCL)の装用によって対応することが可能であるが,高度の進行例ではHCLの装用が困難なばかりでなく,菲薄部のDescemet膜破裂やHCLとの擦過による瘢痕形成により,矯正視力は著しく不良となる.最近までは,進行した円錐角膜に対する外科的な治療としては,角膜移植(Epi-keratoplastyを含む)が唯一の方法であった.ところが,2000年にColinらによって,それまで軽度近視に対する手術に用いられていたICR(intracornealring,IntacsR)(図1)を円錐角膜眼に応用した報告があり,それ以降多くの臨床報告がなされるようになった1,2).本稿では,筆者らの自験例をもとに,手術の方法や結果なども含めて述べてみたい.IICRの種類1.IntacsRおよびIntacsRSK(AdditionTechnology社製)本来,軽度近視に対する視力矯正手術用に開発された.角膜中心部に侵襲を加えないため,LASIK(laserinsitukeratomileusis)やPRK(photorefractivekeratectomy)におけるグレアなどの合併症が少ないことが利点として考えられていたが,マニュアルによる手術操作が煩雑なことと,乱視矯正ができないことなどにより普(33)449Hiroirai2262235C特集●円錐角膜あたらしい眼科27(4):449452,2010円錐角膜に対するICR(IntracornealRing)IntracornealRingsforKeratoconus荒井宏幸*図1ICR術後3カ月の前眼部写真———————————————————————-Page2450あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(34)が約7秒という圧倒的な速さで作製可能である(図2).挿入部位の深さは,角膜中心から6mm部における角膜厚の7580%に設定する.より深い部位に留置するほうが,角膜扁平化に対する効果が大きい.フェムトセカンドレーザーの操作方法は,LASIKにおけるフラップ作製と同様の手順であるため,今回は詳述はしない.瞳孔中心へのセンタリングは,LASIKフラップを作製する際よりも,より正確性が必要であり,この方法にてICRを行う場合には,フェムトセカンドレーザーの操作にも習熟していなければならない.グルーブを作製した後,ICRを挿入して,創を縫合して手術は終了である.筆者らは,疼痛予防のため,保護用のコンタクトレンズをのせている.この方法の注意点は,フェムトセカンドレーザーでは,角膜表面から均一な深さでグルーブを作製するため,ペルーシド角膜変性のような角膜厚が不均一で,最薄点が中心部にない場合には適応にならない.特にセグメントを挿入する角膜中心から6mm部付近に最薄点が存在する場合には,効果的な深さを確保することができない.そうしたケースでは,後述するマニュアルによる方法で行わなければならない.筆者らの経験では,ICR手術適応例の8090%はフェムトセカンドレーザーが使用できるため,今後のICR手術はこの方法が主流になると思われる.三次元解析データをAdditionTechnology社に送れば,適切なセグメントの種類と挿入方向をアドバイスしてもらうことが可能である.2.KerarigR(Mediphacos社製)進行性の円錐角膜に対する角膜扁平化を目的として開発されたICRである.セグメントの長さ,内径の角度にさまざまなバリエーションがある.頻用されるのは,内径が5mmのタイプであり,強力な角膜扁平化効果が期待できる一方,セグメントの留置部位が瞳孔中心に近いため,センタリングや暗所時瞳孔径の判定などを慎重に行わないと,強いグレアを起こす可能性がある.II手術方法筆者らは主としてIntacsRおよびIntacsRSKを使用しているため,以下にその手術方法を述べる.どちらのセグメントも手順は同様である.1.フェムトセカンドレーザーを使用する方法筆者らが使用しているフェムトセカンドレーザーはIntraLase社製iFSRであるが,このレーザーにはあらかじめICRを留置するグルーブ(トンネル状の切開)用のプログラムが組み込まれている.後述するマニュアルによる方法で,約1015分かかっていたグルーブ作製表1IntacsRおよびIntacsRSKの規格IntacsRIntacsRSK材質PMMAPMMAリング内径の角度150°150°断面形状八角形楕円リング外周径8.1mm7.3mmリング内周径6.8mm6.0mmリング直径0.65mm0.65mmリング厚の製作範囲0.210.45mm0.02mm刻み0.21mm,0.250.45mm0.05mm刻み全世界での挿入実績約90,000眼約10,000眼日本国内での挿入実績約500眼約60眼挿入実績はAdditionTecknology社調べ.図2フェムトセカンドレーザーによるICR挿入のためのグルーブ作製の様子青のラインは挿入方向のマーキングである.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010451(35)よる.さらにICRを挿入することにより,円錐角膜の進行を予防する効果も期待されている.ICRにより角膜自体の強度を増し,突出を押さえるためである.この結果,角膜移植を回避できるか,時間的な猶予を得ることができる3).IV手術結果筆者らが行った症例を呈示する.図3のような円錐角膜に対して,ICRを行い術後1カ月のトポグラフィが図4のごとくである.角膜中央部は扁平化し,角膜乱視も軽減している.この症例では,球面ソフトコンタクトレ2.マニュアルによる方法点眼麻酔後,専用のマーカーにてマーキングを行う.挿入部の角膜厚を測定し,3分の2の厚さにダイアモンドメスのマイクロゲージをセットする.切開後,吸引をかけて角膜を硬化させた後,専用の器具にてグルーブを作製する.マニュアルの場合,グルーブは角膜実質の層間を裂くように作ることができるため,角膜中心から6mm部の厚さが不均一な場合でも,それぞれの位置で同じ3分の2の深さを保つことが可能である.セグメント挿入後,切開創を縫合し手術を終了する.慣れてくると,約2025分程度の手術時間である.III手術目的および適応現在は明確な適応はない.基本的にICR手術を行う際に,目的には2種類あり,①裸眼視力の向上も期待するもの,②HCL装用が可能になることを期待するもの,に分けられる.1.裸眼視力の向上目的の場合LASIK希望にて来院された患者のなかで,角膜形状解析にて円錐角膜が疑われた場合に,第2の選択肢として行われることがほとんどである.しかし,本来ICRの近視矯正限界は4.0D程度であること,乱視矯正の効果はないことなどが,適応範囲を狭くしている.2.HCL装用を目的とする場合中等度以上の進行例で,HCLにより円錐頂点部が擦過され,コンタクトレンズ装用が困難な場合に行う.最も良好なケースは,toricSCL(ソフトコンタクトレンズ)にて矯正が可能になることもあるが,術前にそれを予測するのはむずかしい.多くの場合,残余角膜乱視のためにHCL装用が必要になる.術後には円錐角膜用HCLや多段階ベースカーブのHCLによって,良好なフィッティングを得られるケースが多い.手術適応としての絶対的な基準は,挿入部の角膜厚が400μm以上あることである.最近はOrbscanRやPen-tacumRのように角膜周辺部の厚さ分布を計測できる機器もあり,この点での適応決定は比較的容易である.相対的な基準としては,ICR手術に何を期待しているかに図3自験例の術前トポグラフィ下方に特徴的な急峻部を認める.図4図3の症例の術後1カ月のトポグラフィ瞳孔領は扁平化しており,下方の急峻部は消失している.———————————————————————-Page4452あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(36)において,今後の研究の結果を待たねばならない点も多くあるが,角膜強度の増加による進行予防と角膜中央部の扁平化によるコンタクトレンズ装用の容易化という大きなメリットがあることも事実である.この点はLASIK後のエクタジアにも応用されている.また,さらに進んで,ICR挿入により眼鏡矯正視力が良好になれば,phakicIOL(有水晶体眼内レンズ)を挿入して日常生活に十分な裸眼視力を得る可能性もあり,実際に筆者らの施設では,ICR手術を受けた患者の50%以上がphakicIOLを希望する.さらに,最近では角膜コラーゲンのクロスリンキング法が確立されつつあり,進行した円錐角膜やエクタジアに対して,ICRと組み合わせて行うことによって,より安定した術後経過が得られるという報告もされている4).屈折矯正手術を行う者にとって,円錐角膜やエクタジアは避けて通れないものであって,ICRは外科的なアプローチの一つとして必要な手技であると思われる.文献1)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoco-nuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20002)SiganosCS,KymionisGD,KartakisNetal:ManagementofkeratoconuswithIntacs.AmJOphthalmol135:64-70,20033)HellstedtT,MakelaJ,UusitaloRetal:Treatingkerato-conuswithintacscornealringsegments.JRefractSurg21:236-246,20054)CoskunsevenE,JankovMR2nd,HafeziFetal:Eectoftreatmentsequenceincombinedintrastromalcornealringsandcornealcollagencrosslinkingforkeratoconus.JCataractRefractSurg35:2084-2091,2009ンズの装用が可能になり,満足度も良好であった.この症例に対しては,図1と同様に左右対称にICRを挿入したが,下方の突出がさらに進んでいるケースでは,上下もしくは弱主経線方向に挿入する場合もある(図5).V考按と今後の展望円錐角膜およびその類似疾患に対しては,エキシマレーザーは禁忌である.HCL装用にて問題がなければよいが,コンタクトレンズ不耐などによって矯正視力が不良な場合,何らかの外科的な手段があれば,角膜移植を選択する前に試してみる価値は十分にあると思われる.現在の角膜移植は非常に安定した手術となったが,感染や拒絶反応などの避けられない合併症も存在する.今回紹介したICRは,術後の視力や角膜形状などの予測性図5突出度に応じて,弱主経線方向に挿入されたICR上下でリングのサイズは異なるものが選択されている.