———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811090910-1810/08/\100/頁/JCLSルテインおよびゼアキサンチンは,カロテノイドとよばれる天然色素の一種である.カロテノイドは天然に存在する色素で,化学式C40H56の基本構造をもつ化合物の誘導体である(図1).炭素と水素のみで構成されるものをカロテン,それ以外をキサントフィルという.ルテイン,ゼアキサンチンはキサントフィルである.約40種類のヒトの体内に存在するカロテノイドのうち,ルテインとゼアキサンチンのみが選択的に黄斑部に取り込まれる.ルテインとゼアキサンチンはヒト体内では合成できない.ルテインを摂取すれば一定量がゼアキサンチンに転化されるため,ルテインの摂取は黄斑色素の補給に効果的である.また,ルテインとゼアキサンチンは,ほうれん草やケールといった緑黄色野菜に多く含まれる1)(図1)ことが知られている.ルテインは,エネルギーが大きく毒性の高い青色光(440nm付近)に近い446nmに最も高い光吸収能をもち2),光刺激に対するフィルター機能をもつ.さらに,カロテノイドであり二重結合を多く含むため,一重項酸素を消去する能力が高い.視細胞外節にも多く存在するルテインは抗酸化物質として働き,外節を貪食する網膜色素上皮細胞を保護している可能性がある.近年,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)患者では黄斑色素光学密度(macularpigmentopticaldensity:MPOD)が低下していることが報告され,病態との関連が考えられている3).EyeDiseaseCase-ControlStudy(EDCCS,1986~1990)によれば,食事によりルテイン/ゼアキサンチン6mg/日を摂取することはAMDのリスクを43%軽減させ,これがAMDの予防と最も相関があると報告された4).ただし,一般的な食事で摂取される量は1日約1.7mgにすぎない.LuteinAntioxidantSupplementationTrial(LAST,1999~2001・前向き無作為二重盲検プラセボ対照試験)では,2施設でdryAMD患者90名に対し調査され,ルテイン単独投与群およびルテインに抗酸化ビタミンとミネラルを併用した群でMPODの増加,コントラスト感度の増加,視力の改善が認められると報告された5).また,現在米国で進行中のAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)2では,約100の施設で55~80歳の(63)サプリメントサイエンスセミナー●連載③監修=坪田一男3.ルテイン(Lutein)永井香奈子小澤洋子慶應義塾大学医学部眼科ルテインは,青色光に対するフィルター効果に加え,強い抗酸化作用を有する.最近では抗炎症効果をもつことも明らかとなり,加齢黄斑変性(AMD)など,炎症が関与する病態を抑制するサプリメントとして期待されている.すでに大規模調査AREDS2では,ルテイン投与によるAMD進行の抑制効果の検討が始まっている.表1AgeRelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)現在進行中NEI(NationalEyeInstitute)が実施する無作為化臨床試験AREDSカテゴリ-3(中~大型ドルーゼン群)およびカテゴリ-4(対側眼が進行期AMD群)にあたる被検者を対象投与群①プラセボ②ルテイン/ゼアキサンチン③w-3脂肪酸(EPA/DHA)*④②+③*EPA:エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid),DHA:ドコサヘキサエン酸(docosahexsaenoicacid).C40H56O2HOOH食物ケール(生)ほうれん草(生)ロメインタス(生)ロコリー(生)とうもこし(でたもの)(生)オン(生)トマト(生)39.512.22.31.71.00.30.10.1mg/100g図1ルテインの構造式と食物中のルテイン含有量———————————————————————-Page21110あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008AMD患者4,000人を募集し,ルテイン/ゼアキサンチンおよびオメガ(w)3多価不飽和脂肪酸(polyunsatu-ratedfattyacid:PUFA)投与のAMD進行に対する影響を検討中である(表1).最近筆者らは,マウス脈絡膜新生血管(CNV)モデルを用いた研究により,抗酸化剤ルテインが,nuclearfactor(NF)-kBの活性化抑制を介し,vascularendo-thelialgrowthfactor(VEGF),白血球走化因子,接着分子といった炎症関連分子の発現を抑制し,CNVの誘導を抑制することを明らかにした6)(図2,3).この結果は,ルテインがAMDに対して抗炎症作用,抗血管新生作用を有する可能性を示唆し,AREDS2の意義を生物学的に支持する知見となった.さらに,別の実験から網膜神経細胞内でも抗酸化作用を有することが示唆され(佐々木・小沢ら,論文投稿中),ルテインは視機能保護に有用であると考えられる.AMDは,炎症病態が継続するなかで,VEGFの発現が誘導されることが発症の一因とされる.ルテインのような抗酸化作用をもつ機能性食品因子により,この先行する炎症を抑制し,病態の進行を予防することが次世代の治療戦略として有望視されている.文献1)SommerburgO,KeunenJE,BirdACetal:Fruitsandvegetablesthataresourcesforluteinandzeaxanthin:the(64)macularpigmentinhumaneyes.BrJOphthalmol82:907-910,19982)SnodderlyDM,AuranJD,DeloriFC:Themacularpig-ment.II.Spatialdistributioninprimateretinas.InvestOphthalmolVisSci25:674-685,19843)TrieschmannM,BeattyS,NolanJM:Changesinmacularpigmentopticaldensityandserumconcentrationsofitsconstituentcarotenoidsfollowingsupplementalluteinandzeaxanthin:theLUNAstudy.ExpEyeRes84:718-728,20074)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:Dietarycarote-noids,vitaminsA,C,andE,andadvancedage-relatedmaculardegeneration.EyeDiseaseCase-ControlStudyGroup.JAMA272:1413-1420,19945)RicherS,StilesW,StatkuteLetal:Double-masked,pla-cebo-controlled,randomizedtrialofluteinandantioxidantsupplementationintheinterventionofatrophicage-relat-edmaculardegeneration:theVeteransLASTstudy(LuteinAntioxidantSupplementationTrial).Optometry75:216-230,20046)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Macularpig-mentluteinisantiinammatoryinpreventingchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol27:2555-2562,20072ルテインによる実験的脈絡膜新生血管の抑制機序ルテイン()ルテイン()(×10-13m3)**p<0.001**p<0.001図3ルテインによる脈絡膜新生血管の抑制(マウスレーザー誘導脈絡膜新生血管モデル)(文献6より改変)☆☆☆