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眼科専門医志向者“初心”表明

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811230910-1810/08/\100/頁/JCLS私は初め,手術のできる医師になりたいと考えていました.知識だけでなく,技術も磨きたいと考えていたからです.また一方で,治療により効果が如実に現れ,患者様の喜ぶ姿をみることができる科に進みたいとも考えていました.学生時代に将来進む道を考えた結果,私にとってのそれは,眼科でした.学生時代から眼科の講義や実習がとても楽しく,眼科に出会ってからは他の科に進むことが考えられなくなりました.そんな興味をもつことができる科で一生懸命知識や技術を勉強し,そのことで患者様の喜ぶ姿を見ることができれば自分の仕事に対しての遣り甲斐にも直結し,これ以上幸せなことはないと思ったからでした.また眼科のスペシャリティの高さも魅力的だと思います.眼底は他の科では絶対にみることができません.そしてスペシャリティが高いにもかかわらず,ほとんどの人々がたとえ眼科疾患にはならなくとも,近視や遠視,老眼,白内障など一生のうちになんらかの眼の不都合を訴えるため,眼科は人々の生活には欠かせない科であり,価値を見出しながら一生携わっていける科であると思います.現段階では,眼科研修が4月から始まったばかりで,将来具体的にどの分野にどのような形で進んでいくかはわかりませんが,これから多くの経験を積み,眼科医として進むことができるかとても楽しみです.眼科のなかでも専門分野を見つけて一人でも多くの患者様に喜んでいただける医師になることが将来の目標です.◎今回は神戸大学附属病院で研修中の本岡先生にご登場いただきました.「見える」「見えない」という如実な治療効果と多くの患者さんの喜ぶ姿に触れることができるのは眼科ならではです.しかし今の卒後研修制度では,自ら決めて眼科を選択しなければその経験ができません.すべての医学生が経験するポリクリ(学生実習)で直に患者さんに接し,その治療効果と喜ぶ姿に触れる機会を作れば,眼科の魅力に気づく人がより増えると思います.(加藤)☆本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.追って詳細を連絡させていただきます.Email:hashi@medical-aoi.co.jp(77)眼科専門医者“初心”表明●シリーズ⑧多くの患者様に喜んでいただけるようになりたい!本岡麻由(MayuMotooka)神戸大学医学部附属病院1980年兵庫県生まれ.香川大学医学部卒業.初期研修1年目に神戸朝日病院での内科研修を経て,現在2年目に神戸大学附属病院で研修中.(本岡)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.連載8回目の今回はこの先生に登場していただきます!▲眼科病棟で先生方と

私が思うこと12.グーグリネス社会と眼科

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081121私が思うことシリーズ⑫(75)私は大学卒業後10年間余り大学に勤務していました.網膜離を専門にしていた関係で,網膜色素上皮の下液吸収に興味を惹かれ,摘出した網膜色素上皮を利用して生理学的な実験をしていました.研究も軌道にのり,学位を頂戴し,留学を果たしたころ,「このまま研究を続けていいものか?」という疑問が湧いてきました.というのも,アメリカで眼科の基礎的な研究をしているのはおもにPhDで,特に私の分野の研究仲間は大抵生理学教室のPhDでした.医学部を出たMDは研究もそこそこに臨床に専念しているのが普通だったのです.帰国後,民間病院を経て開業したのは留学先での印象が大きく影響しています.開業して早くも15年目に入りました.白内障手術,LASIK(laserinsitukeratomileusis)から硝子体手術に至るまで多くの手術症例に恵まれ,また,多くの優秀な職員,若い先生方に助けられて,眼科医として充実した毎日を過ごしています.一般社会なら引退も近い年齢になってしまいましたが,体力と気力の続く限り手術を続けていきたいと思っています.私は最近,日ごろ思いついたことをブログに書き連ねることにしています.私のブログ,Eye-Surgeon’sEyeはグーグルで検索していただければすぐ出てきますので,それをご覧いただければ私が何を考えているのかすぐにわかってしまいます(図1).先日,2008年の初めごろ,ブログの質問欄から学術講演を依頼されたことがありました.ブログに書いていることが面白いからと講演を依頼されました.このとき,依頼主はブログの著者が誰かはわからなかったそうです.これもネット社会ならではの出来事ではないでしょうか.ブログを通じて質問されたり,見学に来られたり,若い先生方との交流が進むのは楽しいものです.私が開業した頃から見ても,世の中はネットを中心に目まぐるしく変化しています.最近のネット社会が眼科,あるいは医療にどんな影響を与えているかをちょっと考えてみましょう.14年前にはインターネットがありませんでした.普及しだしたばかりの携帯電話を握り締めて,開業の場所探しや器械の交渉をしていたことが思い出されます.阪神大震災の後くらいから本格的なネット社会到来と騒がれ,メールやホームページがあたりまえのこととなってきました.しかし,ホームページを作ってはみたものの,当時はそれほど役に立たず閲覧者も少なかったよう0910-1810/08/\100/頁/JCLS坪井俊児(ShunjiTsuboi)医療法人聖明会坪井眼科1950年大阪生まれ.趣味はピアノ演奏,日本古代史研究,韓国ドラマ鑑賞など.移り気な性分のせいでライフワークとよべるものはない.フィジカルとメンタルの両面で向上を続けることを「一応」の目標としている.もちろんピアノ演奏のことである.(坪井)グーグリネス社会と眼科図1筆者のブログ“EyeSurgeon?sEye”の一例———————————————————————-Page21122あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008に思います.ところが検索エンジンのグーグルが登場して事情は一変しました.グーグル以降のネット社会をWeb2.0とよぶ人もいますが,私はグーグルに敬意を表してグーグリネス(グーグルらしい)社会とよぶことにします.グーグリネス社会で何が変わったか?一言でいえば,個人が情報の受け渡しをできるようになったということでしょう.政府機関や大学などが情報を独占し,それを小出しにしつつ社会を操作するということがだんだんできにくくなってきました.世の中情報ほど大切なものはありません.古代,暦法により民衆を支配した時代から,連綿とその手法は生きてきました.グーグリネス社会でそこに風穴が開くとすれば,想像もつかない変化が待っているのかもしれません.ここでは卑近な例としてわが国における医療法第69条(旧)の広告規制をあげます.医師は診療科名やベッドの有無,診療時間など決められたことしか広告できないという規制のことです.この規制は公式見解として,誇大広告から患者を守るために設けられているとされていますが,実際のところ,医師以外の新聞記者や評論家など,医学を本格的に学んだことも実際の医療現場に身を置いたこともない人の意見のみがクローズアップされてしまい,医療や医療制度にとって大きなマイナスになっていると思います.しかしネット上では医師であろうが誰であろうが何を書いてもよい.医師の発言のみ封じるということは技術的にも不可能です.グーグリネス社会では広告媒体としてもインターネットは既存のマスコミに肩を並べつつあり,いずれ凌駕するともいわれています.医師に対する広告規制は有名無実となりつつあります.このような現状を踏まえ,新しい医療法では広告規制が大幅に緩和されつつあります(現行医療法第6条の5).最近,私のところの診療所を初めて受診される患者さんの受診動機を調べたことがあります.その結果,ホームページをご覧になってからこられた患者さんの割合が増えてきています(図2).LASIKのみならず比較的年齢層の高い白内障でも同じような傾向があります.特に,ホームページを見て医療内容について質問される方が増えてきました.先日も,片眼白内障で近視の方に対して,白内障手術と同時に健眼のLASIKをお薦めしたところ,「白内障手術の際には多焦点IOL(眼内レンズ)を入れてください」と希望されました.そしてなんと,「屈折型ではなく回折型のレンズを入れてください.私は近くを重視したいから.」といわれたのには驚きました.必ずしも回折型が近方重視とは限りませんが,ご本人さんの強い希望がありましたので回折型の発売を待って手術を行い,結果的にすごく喜んでいただきました.グーグリネス社会では患者さんの意識や知識レベルが驚くほど進んできます.グーグルでは「邪悪であってはいけない.(中略)もし100人の平均的な人たちに尋ねれば,どちらが正しいか,ほとんどみんな一致すると思うよ.」(梅田望夫:ウェブ時代5つの定理,文藝春秋刊)という倫理が支配しています.それを実現するには,世の中の一人ひとりが自分の得意分野をネット配信することが大切になってくると思います.そしてそれが医師-患者間に応用されたとき,理想の医療が実現するとまでは言いませんが,今よりも随分風通しがよくなることだけは確かでしょう.坪井俊児(つぼい・しゅんじ)1975年大阪大学医学部卒業大阪大学病院研修医(外科,眼科)1977年近畿大学医学部眼科助手1979年大阪大学医学部眼科助手1984年ミネソタ大学眼科研究フェロー1987年大阪大学医学部眼科助手復職1988年(医)きっこう会多根記念眼科病院部長1994年坪井眼科開業2002年より近畿大学医学部眼科非常勤講師.医学博士.ブログhttp://eyesurgeon.exblog.jp/ホームページhttp://www.tsuboi-eye.co.jp/(76)2坪井眼科のホームページ

硝子体手術のワンポイントアドバイス63.Stickler症候群に伴う網膜剥離(上級編)

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811190910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに若年者の硝子体に高度の液化変性を認める症例は,網膜硝子体ジストロフィを考える必要がある.おもな網膜硝子体ジストロフィとしては家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR),Goldmann-Favre病,Wagner病,Slickler症候群などがある.いずれも肥厚したベール状の硝子体膜や周辺部の網膜血管の形成不全,白線化などを伴うことが多い.これらの網膜硝子体ジストロフィではしばしば難治性網膜離をきたし,進行も速いことが多い.Stickler症候群の全身および眼合併症Stickler症侯群は,眼および全身の結合組織に異常をきたす常染色体優性遺伝疾患で,2型プロコラーゲン遺伝子の突然変異が原因とされている.軟骨や硝子体ゲルには2型コラーゲンが豊富に発現しているために,特徴ある関節症状や眼症状をきたす.頻度は約1万人に1人程度である.全身症状としては感音性難聴,口蓋裂,下顎低形成,骨端異形性,関節炎に類似した変性が認められる.眼所見としては,重篤で進行性の近視,硝子体の液化変性,硝子体索状物(図1),網膜裂孔,網膜離(図2)があげられる.本症侯群では約50%に裂孔原性網膜離が発症するといわれている.(73)Stickler症候群に伴う網膜離の特徴Stickler症候群に伴う網膜離は,裂孔への硝子体牽引が高度であり,通常の強膜バックリング手術では復位困難な症例が多い.硝子体手術を施行する場合も,赤道部よりやや後極側から周辺にかけて肥厚した硝子体膜が面状に網膜と強固に癒着しており,硝子体カッターの吸引や硝子体鑷子による牽引だけでは人工的後部硝子体離作製が困難であることが多い.筆者は双手法を用いて赤道部までは人工的後部硝子体離を作製し(図3),さらにその周辺側の残存硝子体に対しては輪状締結術を行う方針としている.また,Stickler症候群では,しばしば精神発達遅滞を合併しているため,網膜離の発見が遅れ,より重症化してしまうことが多い.若年者の網膜硝子体ジストロフィの経過観察時には,このような点も十分に考慮に入れたうえで,定期的な眼底検査を施行することが重要である.文献1)曽和万紀子,植木麻理,堂島りつ子ほか:網膜離をきたしたStickler症候群の2例.臨眼59:1125-1129,2005硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載63Stickler症候群に伴う網膜離(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1自験例の左眼眼底写真網膜離は認めないが,下方に硝子体索状物を認めた.←図2自験例の右眼眼底写真下方に裂孔を認め,2象限に及ぶ網膜離と肥厚した後部硝子体膜を認めた.→図3右眼硝子体手術中所見面状の強固な網膜硝子体癒着を認めたため,双手法で人工的後部硝子体離を作製した.

眼科医のための先端医療92.新生血管を網膜内に誘導するには?

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811150910-1810/08/\100/頁/JCLS網膜新生血管の伸長方向網膜網膜にる新生血管は網膜に向子にて伸長する網膜内の血は向にん子血網膜のるに「」て網膜による図すに血管新生をする新のんにすすてす血管新生はにするストスでるをる分血をする「」新生血管を血網膜内に誘導を本的にするで新の能です方で生には新生血管網膜のを伸長新血をするてす生網膜血網膜では新生血管伸長する方向ので?本では生網膜の新のをに新生血管を網膜内に誘導するで細胞分子メカニズムにてす網膜アストロサイトによる細胞外マトリックスの足場形成生のマス網膜には血管に網膜細胞のるにて状にるてす網膜に新生血管を誘導する細胞は内のアストロサイトを網膜内にす網膜にアストロサイトは血管内皮子を分するにロクによる細胞外マトリックスを形成新生血管の内皮細胞するの足場をすのよにアストロサイトは網膜に新生血管を誘導するにに細胞でアストロサイトすでに構築ットクをて網膜の血管網形成す生新生マスでは状に新生血管伸長てすの網膜には血管てに分てんのアストロサイトではにて内の誘導る明子をックアトマスの網膜アストロサイトではロク子のするにロクの細胞外る細胞外マトリックス形成んのアストロサイトはをけてるに新生血管網膜内に伸長するですの新生血管伸長するの足場を形成するにはによる細胞外マトリックスの制御でるすにに成マスでは網膜アストロサイトにけるのはのにはのック制御てるす網膜網膜のアストロサイトにての細胞外マトリックスの形成てるのにてはのるです内皮細胞糸状仮足の形成を制御するシグナル分子生マス網膜では新生血管のにする内皮細胞にての糸状仮足形成のをするサて新生血管の伸長方向てす網膜アストロサイト分するにはのアイムす細胞外マトリックスにするよトではよ形成するにて内皮細胞の糸状仮足伸長すアイムの生は的スイシグによるルでの制御にてによるのによてをけてるてすトではのよにマトリックスメイをアイムに生るのに生る網膜の外に向て伸長する糸状仮足るよにす方◆シリーズ第92回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊植村明嘉(神戸市立医療センター中央市民病院眼科)新生血管を網膜内に誘導するには?———————————————————————-Page21116あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008神経発生において軸索誘導を制御するシグナル分子群が,血管新生では内皮細胞糸状仮足の伸長を阻害する因子として働くことがわかってきました.網膜血管発生ではこれまでにNetrin-UNC5Bシグナルの関与が報告されています6)が,このほかにもいくつかのシグナル分子が状況に応じて使い分けられ,不適切な方向に伸長する糸状仮足を退縮させていることが予想されています.こうしたシグナル分子たちが,虚血性網膜症における新生血管ではどのように作用しているのかについては,今のところまったくわかっていません.機能的網膜血管の再構築に向けて細胞外マトリックスシグナル分子を血網膜にける新生血管のを生のにするで網膜内に新生血管を誘導て機能的血管網を再構築するは能るで生網膜血網膜のにをに新生るにす文献1)UemuraA,KusuharaS,KatsutaHetal:Angiogenesisinthemouseretina:amodelsystemforexperimentalmanipulation.ExpCellRes312:676-683,20062)UemuraA,KusuharaS,WiegandSJetal:Tlxactsasapro-angiogenicswitchbyregulatingextracellularassem-blyofbronectinmatricesinretinalastrocytes.JClinInvest116:369-377,20063)GerhardtH,GoldingM,FruttigerMetal:VEGFguidesangiogenicsproutingutilizingendothelialtipcelllopodia.JCellBiol161:1163-1177,20034)RuhrbergC,GerharderH,GoldingMetal:Spatiallyrestrictedpatterningcuesprovidedbyheparin-bindingVEGF-Acontrolbloodvesselbranchingmorphogenesis.GenesDev16:2684-2698,20025)LeeS,JilaniSM,NikolovaGVetal:ProcessingofVEGF-Abymatrixmetalloproteinasesregulatesbioavailabilityandvascularpatterningintumors.JCellBiol169:681-691,20056)LuX,leNobleF,YuanLetal:ThenetrinreceptorUNC5Bmediatesguidanceeventscontrollingmorphogen-esisofthevascularsystem.Nature432:179-186,2004(70)「新生血管を網膜内に誘導するには?」を読んででよるのはのに血管てす血のですにのに血管てすにて網膜をはて内の形成に血管てすのにては血管新生に子でるのを明す長にて的てのてのは血管内皮子でるてを制するでんの血管新生を的で制でるでは能で網膜にするはの生てるす血管新生のには血管新生を明するはをにけるではて本はよのですては生にける網膜新生血管誘導の新てすに生網膜の細胞外マトリクスをする血管新生てのにるのメカニズムはすてすには明でで図1網膜新生血管の伸長方向を制御するメカニズムアストロサイトが形成する細胞外マトリックスは,血管内皮細胞が接着・遊走するための足場を提供すると同時に,VEGF164および188による濃度勾配の形成にも寄与する.マトリックス結合ドメインをもたないVEGF120は拡散して血管径を増大させる.Netrinなど糸状仮足の形成を阻害するシグナル分子は,新生血管が誤った方向に伸長するのを是正していると考えられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081117(71)ていました.植村明嘉先生たちは,ついにそのメカニズムを解明されましたが,それはTlxやGFAP(glialbrillaryacidicprotein)といった比較的単純な原理原則に帰着するものでした.複雑にみえる生命現象も,実は単純な原理原則の組み合わせにすぎないことをこのことは教えてくれます.血管新生治療は,現在臨床に大きなインパクトを与えていますが,研究者はつぎの大きな峰を目指しています.たぶんそれは,網膜新生であり機能的血管の再構築でしょう.治療という観点からいえば,これらの研究はまだ揺籃期にすぎませんが,そのなかから必ず決定的因子が発見されるでしょう.植村先生たちの研究は,そのために大きな貢献をすると思われる重要なものです.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

新しい治療と検査シリーズ183.加齢黄斑変性に対するステロイド併用光線力学的療法

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811110910-1810/08/\100/頁/JCLSPDT後における炎症反応と血管新生のどちらにも対抗できるものであり,合目的的であるといえる.実際の治療方法TA投与はTA20mgまたは40mgの後部Tenon下注射を行う方法と,TA4mgまたは25mgの硝子体内注射を行う方法が報告されている.海外では硝子体内注射の報告が多いが,わが国では安全性と副作用の点から,Tenon下注射20mgを行う方法が広く用いられている.薬剤の投与時期にはPDT前投与,同時投与,後投与などさまざまな議論があり,確定された時期はないが,まずTAのTenon下注射を行っておいて,一定の間隔(たとえば7日)後にPDTを行う方法(PPP:Pharmacology-Pause-Photodynamictherapy,Yan-nuzzi)は,理論的には良い方法であり,筆者らもこの方法を用いている.本方法の良い点(表1)TAは徐放性薬剤であり,一度投与すると数週~数カ月の間,投与した局所での濃度が高まった状態を維持できるとされている.TAをPDTよりも前に投与することによって,術前にあらかじめ網膜浮腫,網膜離などの滲出の軽減が得られ,術後の視機能の回復には好都合である.胞様黄斑浮腫(CME)がみられる場合,ベルテポルフィンが胞様腔に貯留し,PDTの際に感覚網膜を障害する可能性が指摘されている(Yannuzzi).新しい治療と検査シリーズ(65)バックグラウンド加齢黄斑変性に対する光線力学的療法(PDT)は一般的治療法となり,わが国では約80%の視力維持率を得ることが可能になったが,視力改善率は20~30%と限界があり,PDTを行っても再燃・悪化する症例がある.PDTの効果を高め,よりよい視力改善を得るため,また,より少ない治療回数で脈絡膜新生血管(CNV)を退縮させ安定化させる手段が期待されている.新しい治療法これらの目的を達成するため,薬物によってPDTの効果を高める薬物併用PDTが種々の薬剤とPDTの組み合わせで試みられている.併用が検討されている薬物はステロイド薬,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬である.ステロイド薬としてはトリアムシノロン・アセトニド(TA),anecortaveacetae(未認可)があるが,実際使用されているのはTAである.ステロイド薬は抗血管新生作用,抗浮腫作用,抗炎症作用,抗線維化作用を併せもつとされ,抗血管新生作用の作用機序として,細胞外基質メタロプロテナーゼやVEGFの発現抑制,基底膜分解の抑制,細胞内接着因子(ICAM)-1の発現抑制,エンドスタチンの発現増強,抗浮腫効果の作用機序として細胞膜安定化作用,血液網膜関門の安定化,抗炎症作用の作用機序として単球,白血球,マクロファージの遊走と活性化の阻害,炎症性サイトカインの局所集積の抑制効果が考えられている.一方,PDT後には,一過性に網膜離,網膜浮腫など滲出が増加することが知られており,白血球浸潤の増加および炎症性サイトカインの発現増加,網膜色素上皮細胞やマクロファージからのVEGF発現の一時的増強が起こることも知られている.以上のことから,ステロイド薬をPDTに併用することは,加齢黄斑変性の過程自体による血管新生と183.加齢黄斑変性に対するステロイド併用光線力学的療法プレゼンテーション:髙橋寛二関西医科大学枚方病院眼科コメント:湯澤美都子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野表1期待されるステロイド併用PDTの利点作用機序の点から臨床的効果の点から1.抗炎症作用2.抗血管新生作用3.抗浮腫作用4.抗線維化作用1.より良好な視力回復2.より強いCNV縮小3.治療回数の減少4.PDTの副作用抑制5.PDT抵抗例への対処———————————————————————-Page21112あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008TA前投与によってCMEをあらかじめ軽減できれば,PDT時の感覚網膜の障害が抑制される可能性があり,PDTの副作用抑制という点でも有用であると考えられる.TA投与による炎症性および血管新生性サイトカインの発現抑制によって,PDT後の新生血管の再増殖抑制や抗線維化作用が発揮された場合,術後視機能の良好な回復と治療回数の減少につながる可能性が高い.トリアムシノロン併用PDTの臨床報告は2003年のSpaideの報告に始まり,多数の報告があるが,Ariasら(2006年)のpredominantlyclassicCNVに対するPDT単独療法との前向きランダム化試験では12カ月後の平均視力,病変サイズの縮小,中心窩厚においてTA併用群が有意に良好な効果を示し,TA併用群で治療回数が有意に少なかったと報告している.ただし,欧米と異なり(66)(PEDPDT前VD0.5FAIAPEDRAP病巣bumpsign網膜出血液性色素上皮離RAP病巣(網膜血管と合)hotspot胞様黄斑浮腫(CME)CTPEDの光PEDの過光12カ月後VD0.7FAIAPEDCME消失CT図1網膜血管腫状増殖(RAP)に対するTA併用PDT有効例(治療前)眼底所見,画像診断からYannuzzi分類stageIIのPEDを伴うRAPと診断した.初回PDTの1週間前にトリアムシノロン20mgのTenon下注射を併用した.右眼視力0.5.図2図1の症例のTA併用PDT12カ月後1回の治療でRAP病巣と網膜出血,色素上皮離,胞様浮腫は消失し,右眼視力は0.7に改善し,12カ月維持された.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081113(67)わが国では,PDT単独療法で十分な治療効果が得られるポリープ状脈絡膜血管症が多いため,TA併用PDTの使用は加齢黄斑変性でPDTに抵抗する例や網膜血管腫状増殖などの難治例に限定される傾向があることも事実である.1)SpaideRF,SorensonJ,MarananL:Combinedphotody-namictherapywithvertepornandintravitrealtriamcino-loneacetonideforchoroidalneovascularization.Ophthal-mology110:1517-1525,20032)KaiserPK:Verteporntherapyincombinationwithtri-amcinolone:publishedstudiesinvestigatingapotentialsynergisticeect.CurrMedResOpin21:705-713,20053)AriasL,Garcia-ArumiJ,RamonJMetal:Photodynamictherapywithintravitrealtriamcinoloneinpredomimantlyclassicchoroidalneovascularization,one-yearresultsofarandomizedstudy.Ophthalmology113:2243-2250,20064)LeeYA,HoTC,ChenMSetal:Photodynamictherapycombinedwithposteriorsubtenontriamcinoloneacetonideinjectioninthetreatmentofchoroidalneovascularization.Eye:1-7,2008後ベバシズマブ投与群では中心窩の網膜厚の減少と視力の改善が得られたのに対し,トリアムシノロン併用PDTでは同様に網膜厚は減少するものの,視力の改善はみられていない.トリアムシノロンは網膜色素上皮に対して毒性をもつと報告されている.抗VEGF作用はベバシズマブやラニビズマブのほうがトリアムシノロンより強く,これらの抗VEGF薬併用PDTでは視力改善が得られたという報告もある.今後はPDT抵抗性の加齢黄斑変性や網膜血管腫状増殖に対しては,トリアムシノロン併用PDTよりはこれらの抗血管新生薬の単独投与あるいはPDTとの併用療法が主流になると考えられる.加齢黄斑変性の中心窩下脈絡膜新生血管(CNV)に対して,抗炎症作用と抗血管新生作用を有するステロイド薬を,それとは作用機序の異なる光線力学的療法(PDT)前に投与することは理にかなっている.理由は髙橋寛二先生が記載されたとおりであるが,PDT後に生じる照射野に一致した脈絡膜毛細血管板の虚血が血管内皮増殖因子(VEGF)の発現,ひいてはCNVの再発を増加させると考えられている点に対しても,VEGFの発現を抑制できるステロイドはPDTの回数を減少させるうえに有用であると考えられる.しかし,トリアムシノロンの硝子体内投与併用PDTとベバシズマブ(アバスチンR)の硝子体内投与の結果を比較したWeigertらの報告を読むと,6カ月本方法に対するコメント☆☆☆

サプリメントサイエンス:ルテイン(Lutein)

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811090910-1810/08/\100/頁/JCLSルテインおよびゼアキサンチンは,カロテノイドとよばれる天然色素の一種である.カロテノイドは天然に存在する色素で,化学式C40H56の基本構造をもつ化合物の誘導体である(図1).炭素と水素のみで構成されるものをカロテン,それ以外をキサントフィルという.ルテイン,ゼアキサンチンはキサントフィルである.約40種類のヒトの体内に存在するカロテノイドのうち,ルテインとゼアキサンチンのみが選択的に黄斑部に取り込まれる.ルテインとゼアキサンチンはヒト体内では合成できない.ルテインを摂取すれば一定量がゼアキサンチンに転化されるため,ルテインの摂取は黄斑色素の補給に効果的である.また,ルテインとゼアキサンチンは,ほうれん草やケールといった緑黄色野菜に多く含まれる1)(図1)ことが知られている.ルテインは,エネルギーが大きく毒性の高い青色光(440nm付近)に近い446nmに最も高い光吸収能をもち2),光刺激に対するフィルター機能をもつ.さらに,カロテノイドであり二重結合を多く含むため,一重項酸素を消去する能力が高い.視細胞外節にも多く存在するルテインは抗酸化物質として働き,外節を貪食する網膜色素上皮細胞を保護している可能性がある.近年,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)患者では黄斑色素光学密度(macularpigmentopticaldensity:MPOD)が低下していることが報告され,病態との関連が考えられている3).EyeDiseaseCase-ControlStudy(EDCCS,1986~1990)によれば,食事によりルテイン/ゼアキサンチン6mg/日を摂取することはAMDのリスクを43%軽減させ,これがAMDの予防と最も相関があると報告された4).ただし,一般的な食事で摂取される量は1日約1.7mgにすぎない.LuteinAntioxidantSupplementationTrial(LAST,1999~2001・前向き無作為二重盲検プラセボ対照試験)では,2施設でdryAMD患者90名に対し調査され,ルテイン単独投与群およびルテインに抗酸化ビタミンとミネラルを併用した群でMPODの増加,コントラスト感度の増加,視力の改善が認められると報告された5).また,現在米国で進行中のAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)2では,約100の施設で55~80歳の(63)サプリメントサイエンスセミナー●連載③監修=坪田一男3.ルテイン(Lutein)永井香奈子小澤洋子慶應義塾大学医学部眼科ルテインは,青色光に対するフィルター効果に加え,強い抗酸化作用を有する.最近では抗炎症効果をもつことも明らかとなり,加齢黄斑変性(AMD)など,炎症が関与する病態を抑制するサプリメントとして期待されている.すでに大規模調査AREDS2では,ルテイン投与によるAMD進行の抑制効果の検討が始まっている.表1AgeRelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)現在進行中NEI(NationalEyeInstitute)が実施する無作為化臨床試験AREDSカテゴリ-3(中~大型ドルーゼン群)およびカテゴリ-4(対側眼が進行期AMD群)にあたる被検者を対象投与群①プラセボ②ルテイン/ゼアキサンチン③w-3脂肪酸(EPA/DHA)*④②+③*EPA:エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid),DHA:ドコサヘキサエン酸(docosahexsaenoicacid).C40H56O2HOOH食物ケール(生)ほうれん草(生)ロメインタス(生)ロコリー(生)とうもこし(でたもの)(生)オン(生)トマト(生)39.512.22.31.71.00.30.10.1mg/100g図1ルテインの構造式と食物中のルテイン含有量———————————————————————-Page21110あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008AMD患者4,000人を募集し,ルテイン/ゼアキサンチンおよびオメガ(w)3多価不飽和脂肪酸(polyunsatu-ratedfattyacid:PUFA)投与のAMD進行に対する影響を検討中である(表1).最近筆者らは,マウス脈絡膜新生血管(CNV)モデルを用いた研究により,抗酸化剤ルテインが,nuclearfactor(NF)-kBの活性化抑制を介し,vascularendo-thelialgrowthfactor(VEGF),白血球走化因子,接着分子といった炎症関連分子の発現を抑制し,CNVの誘導を抑制することを明らかにした6)(図2,3).この結果は,ルテインがAMDに対して抗炎症作用,抗血管新生作用を有する可能性を示唆し,AREDS2の意義を生物学的に支持する知見となった.さらに,別の実験から網膜神経細胞内でも抗酸化作用を有することが示唆され(佐々木・小沢ら,論文投稿中),ルテインは視機能保護に有用であると考えられる.AMDは,炎症病態が継続するなかで,VEGFの発現が誘導されることが発症の一因とされる.ルテインのような抗酸化作用をもつ機能性食品因子により,この先行する炎症を抑制し,病態の進行を予防することが次世代の治療戦略として有望視されている.文献1)SommerburgO,KeunenJE,BirdACetal:Fruitsandvegetablesthataresourcesforluteinandzeaxanthin:the(64)macularpigmentinhumaneyes.BrJOphthalmol82:907-910,19982)SnodderlyDM,AuranJD,DeloriFC:Themacularpig-ment.II.Spatialdistributioninprimateretinas.InvestOphthalmolVisSci25:674-685,19843)TrieschmannM,BeattyS,NolanJM:Changesinmacularpigmentopticaldensityandserumconcentrationsofitsconstituentcarotenoidsfollowingsupplementalluteinandzeaxanthin:theLUNAstudy.ExpEyeRes84:718-728,20074)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:Dietarycarote-noids,vitaminsA,C,andE,andadvancedage-relatedmaculardegeneration.EyeDiseaseCase-ControlStudyGroup.JAMA272:1413-1420,19945)RicherS,StilesW,StatkuteLetal:Double-masked,pla-cebo-controlled,randomizedtrialofluteinandantioxidantsupplementationintheinterventionofatrophicage-relat-edmaculardegeneration:theVeteransLASTstudy(LuteinAntioxidantSupplementationTrial).Optometry75:216-230,20046)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Macularpig-mentluteinisantiinammatoryinpreventingchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol27:2555-2562,20072ルテインによる実験的脈絡膜新生血管の抑制機序ルテイン()ルテイン()(×10-13m3)**p<0.001**p<0.001図3ルテインによる脈絡膜新生血管の抑制(マウスレーザー誘導脈絡膜新生血管モデル)(文献6より改変)☆☆☆

眼感染アレルギー:眼の自然治癒力

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811070910-1810/08/\100/頁/JCLS眼は元来炎症が起きにくいところである.とはいっても…なかなかピンとこないと思う.私たち眼科医は,日頃その限度を超えて(例外的に?)病気になった眼ばかりを見るので,かえってその自己防御機構に気づきにくいからである.眼が外部刺激に対して炎症が起きにくいのには訳がある.怪我の跡が瘢痕化したりケロイドになっても,背中の皮膚なら問題ないかも知れないが,眼では大問題である.たとえ治っても,視覚にとって最も大事な「視路の透明性」,「網膜の高次神経機能」が維持できなければ失明である.したがって眼はそもそも,(限度内の異物刺激や感染であれば)必要以上の炎症を起こさず二次的な組織破壊を回避するようにできている.これは免疫・炎症システムのなかで実は特別なことで,欧米人は「眼の免疫特権(immuneprivilege)」などという言い方をする.Immuneprivilegeは,「通常の炎症反応が起こってはかえってそれに伴う組織障害・機能障害が問題になるような臓器で,その機能を守るためにそもそも生体が備えるしくみ」とまとめることができる1).このしくみのおかげで,ちょっとした怪我なら,私たちの眼は何事もなかったかのようにきれいに治る.「眼は気づかない自然治癒力をもっている」という訳である.房関連免疫偏位について眼のimmuneprivilegeは,単純に解剖学的血液・眼バリアによる受動的なものだけではなく,いくつかの要因により能動的に形成されている.なかでもanteriorchamberassociatedimmunedeviation(前房関連免疫偏位,ACAID)といわれる眼固有の免疫トレランス誘導機構はこれまで多くの研究者によって詳しく研究されてきた1).前房内に何らかの要因で異物抗原が入ると,まず眼局所抗原提示細胞(マクロファージ)によって末梢リンパ臓器(脾臓)に運ばれる.眼由来マクロファージは,脾臓で炎症抑制性の抗原特異的サプレッサーT細胞(善玉細胞)を優先的に誘導するため,眼内の異物抗原に対して過剰な炎症を起こすことなく眼の透明性が保たれる.いわば全身レベルで眼炎症をコンロトールしており,角膜移植の成功率が他臓器移植に比べて高いのもこのためといわれている1).房だけでなく硝子体にも防御機構がある前述の眼immuneprivilegeの観点から考えると,眼球に関連した免疫偏位は特に前房にはこだわらないと考えるのが自然である.Jiangらはアロ抗原を用いた実験系で,硝子体腔による免疫偏位の存在を報告した2).筆者らは可溶性抗原においても同様の免疫偏位が誘導されることを確認し,これを硝子体腔関連免疫偏位(vitre-ouscavityassociatedimmunedeviation:VCAID)と命名した3).VCAIDの実験は,マウス硝子体腔に可溶性抗原(卵白アルブミン:OVA)を入れた後,7日後に皮下にアジュバンドとともに注射し,強制的にOVA特異的な免疫反応を惹起する.さらに7日後,invitroでOVAにあらかじめ曝露させた抗原提示細胞を耳朶に注射する.細胞性免疫が活性化されると耳朶の厚さが増加するので,耳介厚を指標として細胞性免疫の活動性を定量化できる.前房だけでなく,硝子体内に可溶性抗原が曝露されても,その抗原に対する細胞性免疫が特異的に抑制された4).(61)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑧監修=木下茂大橋裕一8.眼の自然治癒力園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学眼はそもそも限度内の外部刺激に対し,必要以上の炎症を起こさない.このしくみの一部として「眼球関連免疫偏位,eyeassociatedimmunedeviation(EyeAID)」がある.これは眼球内の異物に対する過剰な炎症反応を抑える,代表的眼の恒常性維持機構である.EyeAIDのメカニズムをよく知りそして上手に利用することで,眼炎症管理がやりやすくなると考えられる.———————————————————————-Page21108あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008VCAID成立におけるヒアロサイトの役割ACAIDにおいては,抗原を前房内で認識する抗原提示細胞が重要である.硝子体腔での抗原提示細胞の候補としては,①全身循環をしている血管内のマクロファージなど,②硝子体内に固有に存在する細胞,③それ以外の細胞が考えられる.そこで,greenuorescentpro-tein(GFP)骨髄キメラマウスに抗原を投与した際の,硝子体の細胞の動向を調べた3).このキメラマウスは,骨髄細胞がすべてGFPトランスジェニックマウス由来であるため,蛍光顕微鏡下で容易に同定できる.抗原を硝子体内に投与しても,強い炎症がなければ,流血中から骨髄由来細胞が新たに硝子体内に入ることはなかった.また,網膜色素上皮細胞や網膜のグリア細胞が硝子体内に流入していく所見もない.このことから,硝子体内の抗原認識は硝子体内の固有の細胞により行われている可能性が高いことになる.硝子体内の固有の細胞は広義のヒアロサイトであり,ヒアロサイトの重要な機能の一つとしてVCAIDにおける抗原認識および抗原提示があるのではないかと考えている.わりに:眼球関連免疫偏位(EyeAID)の概念この分野の研究はACAIDが始まりであった.しかし,眼球に関連した免疫偏位は特に前房にこだわらない(62)と考えるべきである.硝子体腔をはじめ,前房から最も離れた部位である網膜下に抗原を注入しても,同様の全身免疫偏位を誘導できる4).ACAIDに始まった研究は今や前房から硝子体腔,そして眼球全体に拡大されつつあり,今後はむしろ「眼球関連免疫偏位,eyeassociat-edimmunedeviation(EyeAID)」というように考えるべきであろう.角膜移植拒絶反応,内眼手術後炎症,ぶどう膜炎,さらに将来予想される幹細胞移植後の炎症反応等々,EyeAIDのメカニズムをよく知りそして上手に利用することで,将来眼炎症管理がやりやすくなると考えられる.文献1)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.NatRevImmunol3:879-889,20032)JiangLQ,JorqueraM,StreileinJW:Subretinalspaceandvitreouscavityasimmunologicallyprivilegedsitesforreti-nalallografts.InvestOphthalmolVisSci34:3347-3354,19933)SonodaKH,SakamotoT,QiaoHetal:Theanalysisofsystemictoleranceelicitedbyantigeninoculationintothevitreouscavity:vitreouscavity-associatedimmunedevia-tion.Immunology116:390-399,20054)WenkelH,StreileinJW:Analysisofimmunedeviationelicitedbyantigensinjectedintothesubretinalspace.InvestOphthalmolVisSci39:1823-1834,1998☆☆☆

緑内障:トラベクレクトミー術中の確実な房水漏出発見法

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811050910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめにトラベクレクトミー後の房水漏出は,浅前房や脈絡膜離の誘因になるばかりか,感染性眼内炎のリスクも高めるため,忌むべき合併症の一つといえる.本合併症は術直後から晩期に至るいずれの時期にも発生しうるが,術後早期の漏出は,術中に誤ってつくってしまったボタンホールや結膜の縫合不全に起因するところが大きい.したがって,術中は結膜を大切に扱うことが重要で,万一,房水漏出を認めた場合はその場で確実に修復しておく必要がある.最近はほぼ全例でマイトマイシンCを併用していることもあり,手術から時間が経過してからの修復は困難なことが多い.来の術中房水漏出発見法の点トラベクレクトミー終了時には,サイドポートからBSS(balancedsaltsolution)を注入し,濾過胞の膨れ具合(濾過機能)を確認するとともに房水漏出がないかをチェックする.従来はマイクロスポンジ(MQA)を用いて漏出の有無を確認していたが,ある程度以上の漏出量があれば検出可能であるものの,漏れが少ないとこれを見逃してしまうおそれがあった.また,きわめて菲薄化した結膜の場合,房水漏出があることはわかっても漏出点の同定にまでは至らぬことがあり,その結果,無用な縫合をくり返すことで事態を余計に悪化させてしまうことすらあった.さらに修復した後にも,漏出が確実に止まったかどうかの判断に自信をもてないことが多かった.そのような経験から,筆者らはインドシアニングリーン(ICG)を用いて術野を染色することで,トラベクレクトミー術中の房水漏出を簡便かつ容易に検出する方法を考案した1).ICG溶液を用いた術中房水漏出の確認法ジアグノグリーンR(第一製薬)1バイアル(25mg)と付属の溶解液(蒸留水;10ml)を混合して0.25%ICG(59)●連載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄98.トラベクレクトミー術中の確実な房水漏出発見法木内貴博筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻眼科学トラベクレクトミー術中に房水漏出をきたした場合,ある程度以上の漏出量があれば漏出部位の発見にそれほど困難を伴わないが,結膜が菲薄である場合や漏出点が小さい場合は容易に同定できないことがある.今回,インドシアニングリーン溶液を用いた,トラベクレクトミー術中の確実な房水漏出発見法を紹介する.図1ボタンホールからの房水漏出a:結膜がきわめて菲薄な症例に輪部基底トラベクレクトミーを行った.術終了時,どこからか房水漏出があることはわかったものの,部位の同定は困難であった.ICG溶液を滴下することにより漏出点は明瞭に描出された(黒矢印).b:丸針付き10-0ナイロン糸を用いて修復を行い,漏出は完全に停止した(黒矢印).ab———————————————————————-Page21106あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008溶液を準備する.トラベクレクトミー完了時に,この溶液を濾過胞および結膜創にまんべんなく滴下すると,房水漏出部位ではICG溶液がただちに希釈されるため,小さな漏出点であってもこれを明瞭に検出することができる(図1a).漏出点が確実に同定できれば修復はきわめて容易である.通常は縫合を追加して修復することが多いが,この操作の後にも本法を行って漏出の停止を確認する(図1b).まだ漏出があるようなら適宜縫合を追加する.滴下したICG溶液は最後に生理食塩水で洗い流す.輪部基底の場合は期せずしてつくってしまったボタンホール(図1a)と結膜縫合部(図2)からの漏出が多く,円蓋部基底(図3)の場合は子午線方向の減張切開部からの漏出が多い.術野の余分な水分はあらかじめよくふき取っておくこと,何度かくり返して確認すること,組織の表面に凹凸がある場合凸の部分の溶液はすぐに流れてしまうので比較的多めに滴下すること,などが漏出を見逃さないコツである.後早期の房水漏出頻度は減ったかトラベクレクトミー後早期には約半数で何らかの術後合併症が生じ,そのうちの6分の1を房水漏出が占めていたとする報告2)や,早期の房水漏出は輪部基底結膜弁で24%,円蓋部基底結膜弁で65%の症例にみられ,そのほとんどが術後4日以内の発生であったとする報告3)(60)がある.施設により頻度などに差はあるものの,術後早期の房水漏出は術中の結膜操作に起因するところが大きいと考えられる.筆者らの施設では本法を2004年から導入し,これまで数百例の症例に対して施行してきた.その結果,術中の房水漏出はごく軽微なものも含めて約10%に認められることが判明し,このなかには染色しなければ漏出を見逃していたであろう例も数多く含まれていた.発見された房水漏出に対しては,必要に応じて縫合の追加などを行って修復しているが,本法導入前は数%程度に認められていた術後早期の房水漏出が,導入後は現在に至るまで(結膜組織の瘢痕収縮に伴って8日目で房水漏出をきたした1例を除き)皆無である.文献1)OkazakiT,KiuchiT,KawanaK,OshikaT:Indocyaninegreenstainingfacilitatesdetectionofblebleakageduringtrabeculectomy.JGlaucoma16:257-259,20072)EdmundsB,ThompsonJR,SalmonJFetal:Thenationalsurveyoftrabeculectomy.III.Earlyandlatecomplication.Eye16:297-303,20023)HendersonHW,EzraE,MurdochIE:Earlypostoperativetrabeculectomyleakage:incidence,timecourse,severity,andimpactonsurgicaloutcome.BrJOphthalmol88:626-629,2004☆☆☆図2結膜創からの房水漏出輪部基底トラベクレクトミーにおける結膜創連続縫合部からの房水漏出(白矢印).漏出点に対しマットレス縫合を行い漏出は停止した.図3円蓋部基底トラベクレクトミーにおける漏出の確認当科では輪部に対して平行なblocksuture(白矢印)を設置しているので輪部からの漏れはまず起こらない.子午線方向に減張切開を行った場合は,切開部からピンポイントの漏出をみることがある.その際は縫合を追加したり,減張切開をまたぐよう子午線blocksutureを設置したりする.

屈折矯正手術:ニデックEC-5000CXⅢと収差計

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811030910-1810/08/\100/頁/JCLSC-000CⅢEC-5000CXⅢは平成19年12月に日本で初めて厚生労働省の認可を受けたカスタム照射対応のエキシマレーザー装置である(図1).EC-5000CXⅢは,EC-5000の特徴である矩形のビームを重ね合わせて照射するスリットスキャン方式に,マルチポイント照射方式を付加してカスタム照射に対応している(図2).マルチポイント照射は3次以上の高次不正乱視の切除のみを行い,S面とC面はこれまでどおりのスリットスキャン方式で行うため,最初期型のEC-5000でもマルチポイント照射装置の追加によりカスタム照射に対応でき,従来型レーザー装置の発展性を確保していることが大きな特徴である.CXⅢにはCXⅡで採用された200Hzアイトラッキングシステムが改良されて装備されている.ハイスピードCCD(charge-coupled-device)カメラにより瞳孔をモニターし,1秒間に200回の頻度で瞳孔中心を自動的に検出する.アイトラッキングはレーザーアームを移動する方式で,追従性が当初は疑問視されていたが,実際には実用上の問題はなく,0.5mm以上の眼球移動によってレーザー照射が停止するセーフティストップ機構も装備されている.今回,CXⅢに搭載されるに当たって,X方向とY方向の制御が独立して行われるようになったため,トラッキング精度はCXⅡより向上している.瞳孔中心から任意の位置に照射中心を変位させる機能をもつため,照射中心を瞳孔中心に設定するだけではなく,OPD-Scanの測定中心である角膜輝点を中心として照射することが可能である.術中の眼球の回旋に伴う軸ずれを検出する回旋誤差検出機能(onlinetorsionerrordetection,以下onlineTED)が装備されている.カスタム照射では軸ずれは不正乱視矯正の精度を大きく左右することから回旋誤差の検出と補正は非常に重要である.術前にOPD-Scanで得られた虹彩画像と実際の虹彩画像を比較して,レー(57)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男99.ニデックEC5000CXⅢと収差計木村格岡本茂樹岡本眼科EC-5000CXⅢはマルチポイント照射によるカスタム切除への対応,オートアライメントをもつ200Hzアイトラッキング機能,術中の回旋誤射検出機能をもつエキシマレーザー照射装置で,波面収差計であるOPD-Scanとファイナルフィットプログラムにより連携し,wavefrontおよびトポグラフィ連携カスタム照射に対応している.1EC5000CXⅢの特徴スリットスキャン方式/200Hzアイトラッキング(オートアライメント)/回旋誤差検出機能(onlineTED)/ファイナルフィットプログラム(inalit)によるOPD-Scanとの連動/multipointablation/トポグラフィ連携カスタム照射(CATz)/wavefront連携カスタム照射(OPDCAT).図2マルチポイント照射の原理それぞれにシャッターを備えた6連のアパーチャーにより1mm径のガウシアンビームによるフライングスポット方式で,不正乱視成分の切除のみを行う.———————————————————————-Page21104あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008ザー照射中も回旋を確認することができ,大きな軸ずれが手術中に起こった場合には,レーザー照射を一時中止して補正することが可能である.さらに近い将来には,術中の回旋に応じてレーザー照射軸を変化させて追従させる回旋誤差補正機能(torsionerrorcorrection)が搭載される予定である.面収差計(OPD-Scan)OPD-Scanはビデオケラトスコープ,波面収差計,オートレフラクトメータ,回転誤差検出機能に使用する虹彩画像の取得などの機能をもち,屈折矯正手術に必要な眼屈折系の情報を総合的に取得することができる(図3).角膜形状測定はプラチド方式を採用したビデオケラトスコープとして上下方向に19リング,水平方向に23リングをもち,角膜上0.5~11mmをカバーしている.屈折力の測定は,検影法により行う.これは赤外線スリット光を瞳孔から眼内に照射し,網膜からの反射光をフォトダイオードアレイを回転させながら1,440点の屈折力を測定し,6mm径の屈折力分布をカラーコードマップ(OPDマップ)として表示する.OPDマップからZernike多項式により波面収差を算出しwavefrontマップを得る.波面収差計としては,主流であるHartmann-Shack方式ではなく,検影法によって測定した眼屈折力誤差分布から,眼のもつ収差成分の種類と大きさを定量することが特徴である.OPD-Scanでは各収差成分を単独でカラーコードマップをして抽出し,さらに,たとえば術前術後などの2つのマップのdierentialmapを作成することも可能である.ファイナルフィットプログラム(inalit)OPD-Scanで得られた角膜形状,全屈折度数をもとに手術結果をシミュレーションし,CXⅢによる照射データを作成するファイナルフィットプログラム(inalit)を搭載している.これにより矯正領域,ノモグラム選択,矯正量,切除形状,不正乱視矯正量の設定が簡単にできる.CXⅢの切除形状は球面切除である従来照射,移行部の照射領域を最適化して球面収差の増加を減らしたoptimizedaspherictreatmentzone(OATz),トポグラフィと連携して角膜前面の不正乱視を除去するcus-tomizedaspherictreatmentzone(CATz),および波面収差を計測し全眼球の不正乱視を除去するOPDCATの4種類から選択できる.OATzは矯正領域と非矯正領域の間(トランジションゾーン)を非球面切除により最適化し,急峻な屈折度数の変化により生じる,いわゆるレッドリングを外側に追いやり,有効光学径を大きくする切除方法で,球面収差の低減に効果がある.CATzはトポグラフィと連携したカスタム照射による切除形式でOATzによって照射した後にマルチポイント照射によって角膜表面の不正乱視成分を除去する.屈折矯正手術後の角膜不正乱視の矯正,特に偏心照射の治療に効果が期待されている.OPDCATはOPD-Scanで検出した眼球全体の高次収差をマルチポイント照射を用いて除去するwavefrontカスタム照射である.文献1)KermaniO,SchmiedtK,OberheideUetal:Topographic-andwavefront-guidedcustomizedablationswiththeNIDEK-EC5000CXⅡinLASIKformyopia.JRefractSurg22:754-763,20062)PopM,BainsHS:ClinicaloutcomesofCATzversusOPDCAT.JRefractSurg20(5Suppl):S636-639,20053)TelandroAP:Pseudo-accommodativecornea.Anewcon-ceptforcorrectionofpresbyopia.JRefractSurg20(5Suppl):S714-717,20044)TelandroAP,SteileJ3rd:Presbyopia:PerspectiveontherealityofpseudoaccommodationwithLASIK.Oph-thalmolClinNorthAm19:45-69,2006(58)図3OPDScanの特徴オートレフラクトメータ,ケラトメータ/波面収差計測/角膜形状解析と自動診断機能/回旋検出用の虹彩画像の取得/検影法により6mm瞳孔で1,440点の屈折力をダイオードアレイが回転しながら測定し,屈折力誤差マップ(OPDマップ)を作成/OPDマップからZernike多項式により波面収差(wavefrontマップ)を作成する.

眼内レンズ:クリスタリン白内障

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.8,200811010910-1810/08/\100/頁/JCLS(55)和田裕靖吉田紳一郎吉田眼科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎264.クリスタリン白内障クリスタリン白内障は,水晶体線維に成長したコレステロール結晶で,きらきら光る赤,青,黄色の呈色は結晶の反射や干渉によってできた構造色である.図1スリット幅8mm観察軸に対して60°画角10°図3画角16°撮影深度が浅くなりピント合わせがむずかしい図2フラッシュ光でさらに干渉され,きれいな色が出ない図4徹照法による撮影→図6EAS1000徹照モード←図5EAS1000スリットモード———————————————————————-Page2クリスタリン白内障は飯沼ら1)が老人性白内障水晶体の核部や皮質部にクリスマスツリーの飾りを連想させるきらきら光る結晶様物質を発見し命名したものである.おもに筋緊張性ジストロフィやテタニー白内障でみられることが多い.それらは単独で呈色するものもあれば,いくつか集団をなして呈色しているものもある.この結晶様物質の化学的組成に関してLieberman-Schultz法を含めた数種の組織化学的な証明法を行い,コレステロールとコレステロールエステルであることが示された2,3).コレステロールの大部分は遊離型である4).クリスタリン白内障は光学顕微鏡レベルの観察において,規則正しい水晶体線維構造の消失および間隙に菱形状に存在する結晶を認めるとされている2,3).走査型電子顕微鏡レベルの観察において,直径0.2μmほどの輝度の高い結晶様構造が水晶体の無構造となった部分に沈着していると報告されている5).以上よりクリスタリン白内障は通常の規則正しい水晶体線維の走行が乱れ,その部位にコレステロールの結晶が入り込み,水晶体各部に赤,青,黄色などを呈色する結晶様物質を観察することができると考えられた6).今回は臨床でフォトスリットカメラ(図1~4)と前眼部解析装置(ニデック社EAS-1000)(図5,6)を用いたクリスタリン白内障(有色白内障)における撮影について紹介する.通常スリット照明による局所観察では,観察軸に対して45~60°程度でスリット幅を2~4mm程度と狭くして水晶体の断面を観察し,逆に角度を小さく(30°程度)して幅を8mm以上広げて全体像の把握や水晶体表面や皮質白内障の混濁部位の観察をするが,クリスタリン白内障では,皮質のツリー状の像を撮影するためには,角度を60°程度広くとり,幅も8mm以上に広げ撮影する.しかし,幅を広げることにより,赤,青,黄色のきれいな色が消えてしまう.これは,結晶膜の光の反射,干渉によりできる色(構造色)のためさらに反射,干渉を受けて色が消え白いツリー(図2)になってしまう(強いフラッシュ光や背景光も同様).そこで,スリット光源の角度だけでなく撮影角度も左右に振り角度をつけフラッシュ光,背景光を抑えることによりきれいな色と立体感を表現できる.また,徹照法(図4)では,ツリーの枝と混濁部位の程度を観察することができる.前眼部画像解析装置(ニデック社EAS-1000)(図5,6)では,Scheimpugカメラにより4方向の角度で混濁散乱部位と散乱面積を解析し,混濁面積のわりにクリスタリン白内障は視力やコントラスト感度が悪いことが推測される.また,徹照モードでは赤外光撮影でグレイスケールに表現されるため,フォトスリット撮影より鮮明なツリーの幹や枝が撮影解析できる.文献1)飯沼厳,山中守:Christbaumschmuck-cataractの1例.眼科10:392-393,19682)丸子順子:Christbaumschmuck-cataractの水晶体内コレステリンの組織化学的証明.眼紀26:1509-1512,19753)藤原久子,山本覚次:Christbaumschmuck-cataractについて.日眼会誌83:370-379,19794)魚谷純,松戸武夫,猪川嗣朗:クリスマスツリー飾様白内障1例の組織学所見及びコレステロールについて.眼臨74:39-44,19805)原田敬志,近藤俊,水野計彦:クリスマスツリー飾り様白内障における走査電顕所見.眼臨79:1187-1191,19856)小早川信一郎:有色白内障における呈色原因の検討.東邦医会会誌38:968-973,1992