———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS稿のテーマである角膜形状解析装置を応用した方法が考案されるようになった.I従来からの涙液層安定性の評価方法涙液安定性の評価には,フルオレセイン染色を用いる場合と用いない場合があり,用いない場合では,種々の機器を使用した方法が考案されている.1.FluoresceinBUT(FBUT)一般臨床において汎用されている方法である.マイクロピペットを使って一定量のフルオレセイン水溶液を結膜内に点眼して判定する方法が推奨されるが,実際,はじめに涙液層は,水層,油層,ムチン層からなるユニット構造をとっている1).水層は主涙腺と副涙腺(Krause腺,Wolfring腺)から,ムチン層は結膜のgobletcellなどからの可溶型ムチンと角結膜上皮表層に発現する膜貫通型ムチン,油層は主としてマイボーム(Meibom)腺から供給される(図1).角結膜上皮表層では,膜貫通型ムチンと可溶型ムチンによってゲル状の糖衣が形成されることによって,水層の表面張力が低下して角結膜上皮上に広がりやすくなり,また,油層が涙液最表層を覆って水層の蒸発を防ぐことによって,涙液層を安定化させている.すなわち,これら3層と角結膜上皮がそれぞれ健常な状態で存在し,さらに良好なインターラクションを保つことによって,開瞼後も破綻せずに安定した涙液層として維持される.涙液層の安定化には各層が影響を及ぼすため,涙液層安定性の評価には,各層を評価する検査が必要である.たとえば,水層ならSchirmerテスト,油層ならマイボーム腺開口部や圧出物の観察,などである.また,涙液層全体の総合評価は,tearlmbreakuptime(BUT)の測定によって行うが,測定方法としては,フルオレセイン色素を用いたFluoresceinBUT(FBUT)の測定が簡便で,日常臨床で一般に用いられる方法である.しかし,FBUTによる涙液安定性の評価にはいくつかの問題点があり,これらを改善するために,フルオレセインを用いないNon-invasiveBUT(NIBUT)の測定や,本(11)1619Masaikoamaguci7910295特集●ドライアイ最近の考え方あたらしい眼科25(12):16191626,2008角膜形状解析装置を応用した涙液層安定性の解析AnalysisofTearFilmStabilityUsingCornealTopographySystem山口昌彦*マイーム涙・涙層層膜膜ムンムンムン層角膜図1涙液層のシェーマ涙液層は3層からなるユニット構造をとり,角結膜上皮表層との良好なインターラクションを保つことによって,安定化する.———————————————————————-Page21620あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(12)させ,スリットランプで観察しながら,gridpatternの線が滲んで歪んだり太くなったりした時点までの時間を計測する.b.ティアスコープ(Tearscope)キセロスコープの小型版ともいえ,最新版はTear-scopeplusTM(Keeler社)(図3)として製品化されている.アタッチメントによってスリットランプに装着し,角膜上の涙液スペキュラー像を観察する.内筒にgridpatternの描かれたフィルムを装着し,角膜上へ投影さ臨床ではピペット操作はやや手間がかかる.一般的には,フルオレセインペーパーに1滴だけ生理食塩水を滴下し,十分に水滴を振り切り,人工的な涙液量の増加を可能なかぎり防いだ状態で,結膜の耳側に触れて染色する.被検者に数回の瞬目を促した後に,自然に開瞼してもらい,スリットランプのコバルトフィルター励起光を用いて,角膜上のフルオレセイン染色がブレークして黒く抜ける部分が生じるまでの時間を測定する(図2a).時間測定には電子メトロノームなどの使用が推奨され,3回測定して平均値をとる.1回目の測定は,フルオレセイン水溶液の影響を受けて短く計測されることが多いので,必ず3回測定して平均をとるようにする.また,ブルーフリーフィルター(BFF)をスリットランプの観察系に装着すると,通常のコバルトフィルターのみの場合よりもコントラストがつき,より変化をとらえやすくなる(図2b).2.NoninvasiveBUT(NIBUT)フルオレセインによる涙液への影響を除くことができ,より自然な状態の涙液安定性を評価できるが,測定には特別な機器を必要とする.a.キセロスコープ(Xeroscope)2,3)装置は,通常のスリットランプとその対物レンズの先に取り付けられたgridを投影させるためのドームからなる.自然な開瞼状態で,gridpatternを角膜上に投影図3TearscopeplusTM(Keeler社)本機をスリットランプに装着し,角膜上にgridpatternを投影し,パターンの乱れが生じるまでの時間をNIBUTとする.ストップウオッチが付いているので,時間測定に便利である.ab2BUTの測定a:コバルトフィルターを使用.b:ブルー・フリー・フィルター(BFF)を使用.明るい光学系をもつスリットランプとBFFの組み合わせにより,より微細なブレークアップ現象をとらえることが可能になる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081621(13)オグラフィーとPC解析で成り立っている角膜形状解析装置を応用して,刻々と変化する涙液層のブレークアップ現象を1秒ごとにとらえてPC解析し,より客観的で定量性のある涙液安定性の評価方法を目指している.このソフトウェアは,TearStabilityAnalysisSystem(TSAS)と名づけられ,当初,角膜形状解析装置TMS-2N(図5,㈱トーメー・コーポレーション)に搭載されて開発が進められた.その後TSASは,よりオートマチックな測定を目指して,オートアライメント機能の付いたオートレフトポグラファーRT-7000(図6,㈱トーメー・コーポレーション)を搭載機とし,現在市販されせることによってNIBUTを測定する.ストップウオッチが付属しており,時間測定の際に便利である.c.涙液観察装置DR1R涙液油層の干渉色によって涙液の厚みを定性的に判定し,ドライアイのスクリーニングを行う装置であるが,低倍(×12)で観察することによって,角膜ほぼ全面のNIBUTをとらえることが可能である.ブレークアップ像(図4)が出現するまでの時間を測定する4).II角膜形状解析装置の応用涙液層安定性の評価において,FBUTの測定は日常臨床で簡便に行える利点がある.NIBUTの測定は,FBUTよりも客観性をもった検査という位置づけにはなるが,特殊な機器が必要であり,一般臨床で普及するには至っていない.また,FBUTもNIBUTも,評価基準は時間のみであるが,実際の涙液ブレークアップ現象は,角膜の一部で生じる場合もあれば,広範囲で生じる場合もあり,涙液安定性の評価は,時間軸だけではなく,ブレークアップ面積も考慮した解析を行うことによって,さらに定量的になると考えられる.また,時間の計測は,結局,肉眼で行うため,主観的な評価になってしまうのは否めない.そこで,考案されたのが角膜形状解析装置を応用した涙液ブレークアップ現象の解析である.同手法のコンセプトは,gridpatternなどを角膜上に投影して測定するNIBUTの延長線上にあるが,ビデ図6オートレフトポグラファーRT7000(トーメー・コーポレーション)図5角膜形状解析装置TMS2N(トーメー・コーポレーション)図4DR1R(興和)によるNIBUTの測定矢印のようなブレークアップ現象が出現するまでの時間を測定する.———————————————————————-Page41622あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(14)れた.角膜トポグラフィーを10秒間の連続開瞼下で毎秒撮影し,結果を開瞼直後(0秒)から連続開瞼10秒後までの11のトポグラフィック・イメージと総合評価のマップであるBreakupmap(図7)で表示する.Breakるに至っている.1.TMS2NTSASTSASは当初,TMS-2Nを基盤として開発が進めら図7開瞼直後(0秒)から連続開瞼10秒後までの11のトポグラフィック・イメージと総合評価のマップであるBreakupmap(右下およびその拡大図).図8TMSBUT毎秒測定されたトポグラフィック・イメージに明確な変化が生じた秒数をもって表す.この例では6秒となる(赤枠).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081623(15)upmapは,ある一定の屈折度変化のカットオフ値を設定(例;0.5D)し,それぞれの測定点が何秒でカットオフ値を超えて変化したかによって,それぞれの変化が出現した秒数ごとにカラーコード化して表したものである.ちなみに測定点は1リング当たり256点で,合計28リングある.早期に変化する測定点は暖色系,晩期まで変化しない測定点は寒色系で表される.定量的解析のためにいくつかのインデックスが考案されている.毎秒測定されたトポグラフィック・イメージに明確な変化が生じた秒数で表すTMS-BUT5)(図8),TMS自体のインデックスであるsurfaceregulatoryindex(SRI)およびsurfaceasymmetricindex(SAI)の10秒間での変化6)(図9),Breakupmapの各カラーコード面積をヒストグラム化して算出されるBreakupindex(BUI)7)などがある.BUIは,Breakupmapの各カラーコードの面積をヒストグラム化し,そのヒストグラム上の10秒間ブレークアップしなかった面積比率として算出される(図10).正常眼,ドライアイ疑い眼,ドライアイ確定眼(2006年ドライアイ診断基準による)のBreakupmapとBUI値をそれぞれ示した(図11).BUI値は,正常,ドライアイ疑い,ドライアイ確定の順に有意に低下し,10秒間でブレークした面積BreakupmapBUI=51.410秒間でブレークしなかった面積図10BUIの算出方法Breakupmapの各カラーコード面積を加算してヒストグラムを作成し,グラフ全体の長方形の面積から10秒間でブレークした面積を引算し,10秒間ブレークしなかった部分の面積比率を求めてBUIとする.最高値100で,0100の間で推移する.この例では51.4である.図9SRI,SAIの経時的変化11のトポグラフィック・イメージの最後に,SRI,SAIの経時的変化のグラフを示すことができる.この例ではSRI,SAIともに時間がたつにつれて増加しているのがわかる.(文献6より許可を得て転載)———————————————————————-Page61624あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(16)できないことである.オートアライメント機能があれば,検者側の負担はかなり軽減され,より正確な連続撮影が行える.そこで,オートアライメント機能をもったオートレフトポグラファーRT-7000にTSASを組み込むことになった.RT-7000では,TMS-2Nと同様,Breakupmapの表示とBUIの算出が行われる(図13)が,RT-7000では,トポグラフィー表示の際にスムージング機能が働き,わずかな異常は正常化されてしまうため,トポグラフィーを元に算出されるBUIでは感度の低下が危惧された.そこで,トポグラフィー化する前に,マイヤーリング・イメージそのものの経時的な歪みや明暗を画像変化として処理して得られるRing-BUT(RBUT)というインデックスを考案した(図14).RBUTの算出原理を簡単に説明すると,まず,1リング当たり256測定点それぞれにおけるリングイメージの歪みや明暗の変化を波形解析によって定量化し,11リング(直径16mmまでのドーナツ円)×256測定点すべての変化量の合計を1秒ごとに計算し,さらにその秒ごとの変化量の合計を加算してヒストグラムを作成する.このヒストグラム上でのカットオフ値を設定し,その値に達したときの秒数をRBUT(秒)として表す.BUIのドライアイ診断に対する有用性が示唆されている(図12).2.RT7000TSASこのようにTMS-2N-TSASでは種々のインデックスが考案され,ドライアイ診断を含めたさまざまな涙液層安定性の解析に応用されている.しかし,TMS-2Nの弱点は,特許の関係上,オートアライメント機能を搭載正常ドライアイ疑いドライアイ確定92.451.422.2BUI図11正常,ドライアイ疑い,ドライアイ確定のBreakupmapとヒストグラム,およびBUI値順にBUI値が低下している.0102030405060708090BUI正常ドライアイ疑いドライアイ確定p<0.001(Tukey-Kramer法)図122006年ドライアイ診断基準とBUIの相関正常,ドライアイ疑い,ドライアイ確定と有意にBUI値は低下する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081625IIITSASの臨床への応用種々の点眼薬が涙液層に与える影響について,BreakupmapやBUIを用いた検討がなされている.また,RBUTによるドライアイ診断の可能性についても検討されている.1.ヒアルロン酸点眼後の涙液層安定化作用の持続ヒアルロン酸点眼液を正常眼およびドライアイに点眼し,経時的に涙液層の変化をBUIで見てみた.ドライアイでは,ヒアルロン酸の0.1%,0.3%ともに点眼120分後までBUI値は有意な改善を認め,ヒアルロン酸点眼の涙液層安定化作用の持続が確認された(図15a).(17)706050403020100BUI100500BUI点眼前ab15153060120(分)点眼前15153060120(分):0.1ヒアルロン酸:0.3ヒアルロン酸*;p<0.05(vs点眼前)†;p<0.05(vs点眼前):0.1ヒアルロン酸:0.3ヒアルロン酸*;p<0.05(vs点眼前)****††*図15ドライアイおよび正常眼に対する0.1%,0.3%ヒアルロン酸点眼の影響a:ドライアイに対する0.1%,0.3%ヒアルロン酸点眼後120分までのBUI値の推移.点眼前と比較して,120分後までBUI値は有意に上昇している.b:正常眼に対する0.1%,0.3%ヒアルロン酸点眼の影響を経時的にみた場合,0.3%点眼では,1分後にBUI値は有意に低下し,5分後には回復している.図14RT7000TSASのもう一つのインデックスであるRingBUT(RBUT)リングの経時的変化をイメージ化したマップと,RBUT(赤丸)が表示される.上には,リング変化量のヒストグラムも表示されている.図13RT7000TSASのBreakupmapとBUI(赤丸)の表示———————————————————————-Page81626あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008興味深いことに,0.3%ヒアルロン酸点眼を正常眼に行った場合,点眼1分後に有意なBUI値の低下を認め,5分後には回復した(図15b).0.1%の場合にはみられない現象で,ヒアルロン酸含有濃度が上昇すると,一過性に涙液層が不安定化するものと考えられる.これは,0.3%ヒアルロン酸点眼液を実際に使用した場合,ときに霧視の訴えがある事実とリンクしているものと思われる.2.抗緑内障点眼薬の涙液層への影響2種類のタイプ(熱応答型とイオン応答型)のチモロールゲル化剤点眼後8),ブリンゾラミド点眼後,longactingのカルテオロール点眼後,の視力障害(おもに霧視)の出現と涙液層の変化について,BreakupmapやBUIを用いて検討がなされている.これらの点眼直後の霧視出現とBUI値の低下は相関しており,TSASは,点眼薬の涙液層変化への影響を評価するツールとして有用であると考えられる.3.RBUTによるドライアイ診断RT-7000-TSASのインデックスの一つであるRing-BUT(RBUT)は,FBUTおよびSchirmerテストⅠ法値と良好な相関が認められた(それぞれr=0.583,r=0.603,ともにp<0.001).10秒連続開瞼下で測定し,RBUTのカットオフ値を5秒とした場合,2006年ドライアイ診断基準との比較では,感度79.4%,特異度78.6%であった(山口昌彦ほか:第61回日本臨床眼科学会,2007年で発表).おわりに涙液層安定性の評価とは,涙液の水層,油層,ムチン層,そして角結膜上皮表層を総合して評価することにほかならず,ドライアイの評価・診断においてきわめて重要である.それゆえ,第一に,客観的評価であることが望ましく,なおかつ定量的であれば,症例間や治療前後の比較に有用である.TSASは,角膜形状解析装置のソフトウェアであるため,汎用性という面ではやや劣るが,涙液層安定性の評価を時間軸のみでなく,角膜上の広範囲において客観的かつ定量的に行えるという点において,従来の評価法よりもアドバンテージがある.今後,測定時間の短縮や診断精度において,さらに洗練されたシステムになっていくものと期待される.文献1)WolE:AnatomyoftheEyeandOrbit.Ed4,p207-209,BlakistonCo,NY,19542)MengerLS,PandherKS,BronAJ:Non-invasivetearlmbreak-uptime:sensitivityandspecicity.ActaOphthal-mologica64:441-444,19863)FukudaM,WangHF:Dryeyeandclosedeyetears.Cor-nea19(Suppl.1):S44-S48,20004)MaruyamaK,YokoiN,TakamataAetal:Eectofenvi-ronmentalconditionsonteardynamicsinsoftcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci45:2563-2568,20045)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortearlmstabilityanalysisusingvideokeratography.AmJOph-thalmol135:607-612,20036)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.InvestOphthalmolVisSci45:1369-1374,20047)山口昌彦:涙液安定性の評価法にはどのようなものがあるか教えてください.あたらしい眼科23(臨増):115-118,20068)川崎史朗,溝上志朗,山口昌彦ほか:涙液層安定性解析装置によるマレイン酸チモロールゲル化剤点眼後の涙液層への影響の検討.日眼会誌112:539-544,2008(18)