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角膜形状解析装置を応用した涙液層安定性の解析

2008年12月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS稿のテーマである角膜形状解析装置を応用した方法が考案されるようになった.I従来からの涙液層安定性の評価方法涙液安定性の評価には,フルオレセイン染色を用いる場合と用いない場合があり,用いない場合では,種々の機器を使用した方法が考案されている.1.FluoresceinBUT(FBUT)一般臨床において汎用されている方法である.マイクロピペットを使って一定量のフルオレセイン水溶液を結膜内に点眼して判定する方法が推奨されるが,実際,はじめに涙液層は,水層,油層,ムチン層からなるユニット構造をとっている1).水層は主涙腺と副涙腺(Krause腺,Wolfring腺)から,ムチン層は結膜のgobletcellなどからの可溶型ムチンと角結膜上皮表層に発現する膜貫通型ムチン,油層は主としてマイボーム(Meibom)腺から供給される(図1).角結膜上皮表層では,膜貫通型ムチンと可溶型ムチンによってゲル状の糖衣が形成されることによって,水層の表面張力が低下して角結膜上皮上に広がりやすくなり,また,油層が涙液最表層を覆って水層の蒸発を防ぐことによって,涙液層を安定化させている.すなわち,これら3層と角結膜上皮がそれぞれ健常な状態で存在し,さらに良好なインターラクションを保つことによって,開瞼後も破綻せずに安定した涙液層として維持される.涙液層の安定化には各層が影響を及ぼすため,涙液層安定性の評価には,各層を評価する検査が必要である.たとえば,水層ならSchirmerテスト,油層ならマイボーム腺開口部や圧出物の観察,などである.また,涙液層全体の総合評価は,tearlmbreakuptime(BUT)の測定によって行うが,測定方法としては,フルオレセイン色素を用いたFluoresceinBUT(FBUT)の測定が簡便で,日常臨床で一般に用いられる方法である.しかし,FBUTによる涙液安定性の評価にはいくつかの問題点があり,これらを改善するために,フルオレセインを用いないNon-invasiveBUT(NIBUT)の測定や,本(11)1619Masaikoamaguci7910295特集●ドライアイ最近の考え方あたらしい眼科25(12):16191626,2008角膜形状解析装置を応用した涙液層安定性の解析AnalysisofTearFilmStabilityUsingCornealTopographySystem山口昌彦*マイーム涙・涙層層膜膜ムンムンムン層角膜図1涙液層のシェーマ涙液層は3層からなるユニット構造をとり,角結膜上皮表層との良好なインターラクションを保つことによって,安定化する.———————————————————————-Page21620あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(12)させ,スリットランプで観察しながら,gridpatternの線が滲んで歪んだり太くなったりした時点までの時間を計測する.b.ティアスコープ(Tearscope)キセロスコープの小型版ともいえ,最新版はTear-scopeplusTM(Keeler社)(図3)として製品化されている.アタッチメントによってスリットランプに装着し,角膜上の涙液スペキュラー像を観察する.内筒にgridpatternの描かれたフィルムを装着し,角膜上へ投影さ臨床ではピペット操作はやや手間がかかる.一般的には,フルオレセインペーパーに1滴だけ生理食塩水を滴下し,十分に水滴を振り切り,人工的な涙液量の増加を可能なかぎり防いだ状態で,結膜の耳側に触れて染色する.被検者に数回の瞬目を促した後に,自然に開瞼してもらい,スリットランプのコバルトフィルター励起光を用いて,角膜上のフルオレセイン染色がブレークして黒く抜ける部分が生じるまでの時間を測定する(図2a).時間測定には電子メトロノームなどの使用が推奨され,3回測定して平均値をとる.1回目の測定は,フルオレセイン水溶液の影響を受けて短く計測されることが多いので,必ず3回測定して平均をとるようにする.また,ブルーフリーフィルター(BFF)をスリットランプの観察系に装着すると,通常のコバルトフィルターのみの場合よりもコントラストがつき,より変化をとらえやすくなる(図2b).2.NoninvasiveBUT(NIBUT)フルオレセインによる涙液への影響を除くことができ,より自然な状態の涙液安定性を評価できるが,測定には特別な機器を必要とする.a.キセロスコープ(Xeroscope)2,3)装置は,通常のスリットランプとその対物レンズの先に取り付けられたgridを投影させるためのドームからなる.自然な開瞼状態で,gridpatternを角膜上に投影図3TearscopeplusTM(Keeler社)本機をスリットランプに装着し,角膜上にgridpatternを投影し,パターンの乱れが生じるまでの時間をNIBUTとする.ストップウオッチが付いているので,時間測定に便利である.ab2BUTの測定a:コバルトフィルターを使用.b:ブルー・フリー・フィルター(BFF)を使用.明るい光学系をもつスリットランプとBFFの組み合わせにより,より微細なブレークアップ現象をとらえることが可能になる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081621(13)オグラフィーとPC解析で成り立っている角膜形状解析装置を応用して,刻々と変化する涙液層のブレークアップ現象を1秒ごとにとらえてPC解析し,より客観的で定量性のある涙液安定性の評価方法を目指している.このソフトウェアは,TearStabilityAnalysisSystem(TSAS)と名づけられ,当初,角膜形状解析装置TMS-2N(図5,㈱トーメー・コーポレーション)に搭載されて開発が進められた.その後TSASは,よりオートマチックな測定を目指して,オートアライメント機能の付いたオートレフトポグラファーRT-7000(図6,㈱トーメー・コーポレーション)を搭載機とし,現在市販されせることによってNIBUTを測定する.ストップウオッチが付属しており,時間測定の際に便利である.c.涙液観察装置DR1R涙液油層の干渉色によって涙液の厚みを定性的に判定し,ドライアイのスクリーニングを行う装置であるが,低倍(×12)で観察することによって,角膜ほぼ全面のNIBUTをとらえることが可能である.ブレークアップ像(図4)が出現するまでの時間を測定する4).II角膜形状解析装置の応用涙液層安定性の評価において,FBUTの測定は日常臨床で簡便に行える利点がある.NIBUTの測定は,FBUTよりも客観性をもった検査という位置づけにはなるが,特殊な機器が必要であり,一般臨床で普及するには至っていない.また,FBUTもNIBUTも,評価基準は時間のみであるが,実際の涙液ブレークアップ現象は,角膜の一部で生じる場合もあれば,広範囲で生じる場合もあり,涙液安定性の評価は,時間軸だけではなく,ブレークアップ面積も考慮した解析を行うことによって,さらに定量的になると考えられる.また,時間の計測は,結局,肉眼で行うため,主観的な評価になってしまうのは否めない.そこで,考案されたのが角膜形状解析装置を応用した涙液ブレークアップ現象の解析である.同手法のコンセプトは,gridpatternなどを角膜上に投影して測定するNIBUTの延長線上にあるが,ビデ図6オートレフトポグラファーRT7000(トーメー・コーポレーション)図5角膜形状解析装置TMS2N(トーメー・コーポレーション)図4DR1R(興和)によるNIBUTの測定矢印のようなブレークアップ現象が出現するまでの時間を測定する.———————————————————————-Page41622あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(14)れた.角膜トポグラフィーを10秒間の連続開瞼下で毎秒撮影し,結果を開瞼直後(0秒)から連続開瞼10秒後までの11のトポグラフィック・イメージと総合評価のマップであるBreakupmap(図7)で表示する.Breakるに至っている.1.TMS2NTSASTSASは当初,TMS-2Nを基盤として開発が進めら図7開瞼直後(0秒)から連続開瞼10秒後までの11のトポグラフィック・イメージと総合評価のマップであるBreakupmap(右下およびその拡大図).図8TMSBUT毎秒測定されたトポグラフィック・イメージに明確な変化が生じた秒数をもって表す.この例では6秒となる(赤枠).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081623(15)upmapは,ある一定の屈折度変化のカットオフ値を設定(例;0.5D)し,それぞれの測定点が何秒でカットオフ値を超えて変化したかによって,それぞれの変化が出現した秒数ごとにカラーコード化して表したものである.ちなみに測定点は1リング当たり256点で,合計28リングある.早期に変化する測定点は暖色系,晩期まで変化しない測定点は寒色系で表される.定量的解析のためにいくつかのインデックスが考案されている.毎秒測定されたトポグラフィック・イメージに明確な変化が生じた秒数で表すTMS-BUT5)(図8),TMS自体のインデックスであるsurfaceregulatoryindex(SRI)およびsurfaceasymmetricindex(SAI)の10秒間での変化6)(図9),Breakupmapの各カラーコード面積をヒストグラム化して算出されるBreakupindex(BUI)7)などがある.BUIは,Breakupmapの各カラーコードの面積をヒストグラム化し,そのヒストグラム上の10秒間ブレークアップしなかった面積比率として算出される(図10).正常眼,ドライアイ疑い眼,ドライアイ確定眼(2006年ドライアイ診断基準による)のBreakupmapとBUI値をそれぞれ示した(図11).BUI値は,正常,ドライアイ疑い,ドライアイ確定の順に有意に低下し,10秒間でブレークした面積BreakupmapBUI=51.410秒間でブレークしなかった面積図10BUIの算出方法Breakupmapの各カラーコード面積を加算してヒストグラムを作成し,グラフ全体の長方形の面積から10秒間でブレークした面積を引算し,10秒間ブレークしなかった部分の面積比率を求めてBUIとする.最高値100で,0100の間で推移する.この例では51.4である.図9SRI,SAIの経時的変化11のトポグラフィック・イメージの最後に,SRI,SAIの経時的変化のグラフを示すことができる.この例ではSRI,SAIともに時間がたつにつれて増加しているのがわかる.(文献6より許可を得て転載)———————————————————————-Page61624あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(16)できないことである.オートアライメント機能があれば,検者側の負担はかなり軽減され,より正確な連続撮影が行える.そこで,オートアライメント機能をもったオートレフトポグラファーRT-7000にTSASを組み込むことになった.RT-7000では,TMS-2Nと同様,Breakupmapの表示とBUIの算出が行われる(図13)が,RT-7000では,トポグラフィー表示の際にスムージング機能が働き,わずかな異常は正常化されてしまうため,トポグラフィーを元に算出されるBUIでは感度の低下が危惧された.そこで,トポグラフィー化する前に,マイヤーリング・イメージそのものの経時的な歪みや明暗を画像変化として処理して得られるRing-BUT(RBUT)というインデックスを考案した(図14).RBUTの算出原理を簡単に説明すると,まず,1リング当たり256測定点それぞれにおけるリングイメージの歪みや明暗の変化を波形解析によって定量化し,11リング(直径16mmまでのドーナツ円)×256測定点すべての変化量の合計を1秒ごとに計算し,さらにその秒ごとの変化量の合計を加算してヒストグラムを作成する.このヒストグラム上でのカットオフ値を設定し,その値に達したときの秒数をRBUT(秒)として表す.BUIのドライアイ診断に対する有用性が示唆されている(図12).2.RT7000TSASこのようにTMS-2N-TSASでは種々のインデックスが考案され,ドライアイ診断を含めたさまざまな涙液層安定性の解析に応用されている.しかし,TMS-2Nの弱点は,特許の関係上,オートアライメント機能を搭載正常ドライアイ疑いドライアイ確定92.451.422.2BUI図11正常,ドライアイ疑い,ドライアイ確定のBreakupmapとヒストグラム,およびBUI値順にBUI値が低下している.0102030405060708090BUI正常ドライアイ疑いドライアイ確定p<0.001(Tukey-Kramer法)図122006年ドライアイ診断基準とBUIの相関正常,ドライアイ疑い,ドライアイ確定と有意にBUI値は低下する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081625IIITSASの臨床への応用種々の点眼薬が涙液層に与える影響について,BreakupmapやBUIを用いた検討がなされている.また,RBUTによるドライアイ診断の可能性についても検討されている.1.ヒアルロン酸点眼後の涙液層安定化作用の持続ヒアルロン酸点眼液を正常眼およびドライアイに点眼し,経時的に涙液層の変化をBUIで見てみた.ドライアイでは,ヒアルロン酸の0.1%,0.3%ともに点眼120分後までBUI値は有意な改善を認め,ヒアルロン酸点眼の涙液層安定化作用の持続が確認された(図15a).(17)706050403020100BUI100500BUI点眼前ab15153060120(分)点眼前15153060120(分):0.1ヒアルロン酸:0.3ヒアルロン酸*;p<0.05(vs点眼前)†;p<0.05(vs点眼前):0.1ヒアルロン酸:0.3ヒアルロン酸*;p<0.05(vs点眼前)****††*図15ドライアイおよび正常眼に対する0.1%,0.3%ヒアルロン酸点眼の影響a:ドライアイに対する0.1%,0.3%ヒアルロン酸点眼後120分までのBUI値の推移.点眼前と比較して,120分後までBUI値は有意に上昇している.b:正常眼に対する0.1%,0.3%ヒアルロン酸点眼の影響を経時的にみた場合,0.3%点眼では,1分後にBUI値は有意に低下し,5分後には回復している.図14RT7000TSASのもう一つのインデックスであるRingBUT(RBUT)リングの経時的変化をイメージ化したマップと,RBUT(赤丸)が表示される.上には,リング変化量のヒストグラムも表示されている.図13RT7000TSASのBreakupmapとBUI(赤丸)の表示———————————————————————-Page81626あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008興味深いことに,0.3%ヒアルロン酸点眼を正常眼に行った場合,点眼1分後に有意なBUI値の低下を認め,5分後には回復した(図15b).0.1%の場合にはみられない現象で,ヒアルロン酸含有濃度が上昇すると,一過性に涙液層が不安定化するものと考えられる.これは,0.3%ヒアルロン酸点眼液を実際に使用した場合,ときに霧視の訴えがある事実とリンクしているものと思われる.2.抗緑内障点眼薬の涙液層への影響2種類のタイプ(熱応答型とイオン応答型)のチモロールゲル化剤点眼後8),ブリンゾラミド点眼後,longactingのカルテオロール点眼後,の視力障害(おもに霧視)の出現と涙液層の変化について,BreakupmapやBUIを用いて検討がなされている.これらの点眼直後の霧視出現とBUI値の低下は相関しており,TSASは,点眼薬の涙液層変化への影響を評価するツールとして有用であると考えられる.3.RBUTによるドライアイ診断RT-7000-TSASのインデックスの一つであるRing-BUT(RBUT)は,FBUTおよびSchirmerテストⅠ法値と良好な相関が認められた(それぞれr=0.583,r=0.603,ともにp<0.001).10秒連続開瞼下で測定し,RBUTのカットオフ値を5秒とした場合,2006年ドライアイ診断基準との比較では,感度79.4%,特異度78.6%であった(山口昌彦ほか:第61回日本臨床眼科学会,2007年で発表).おわりに涙液層安定性の評価とは,涙液の水層,油層,ムチン層,そして角結膜上皮表層を総合して評価することにほかならず,ドライアイの評価・診断においてきわめて重要である.それゆえ,第一に,客観的評価であることが望ましく,なおかつ定量的であれば,症例間や治療前後の比較に有用である.TSASは,角膜形状解析装置のソフトウェアであるため,汎用性という面ではやや劣るが,涙液層安定性の評価を時間軸のみでなく,角膜上の広範囲において客観的かつ定量的に行えるという点において,従来の評価法よりもアドバンテージがある.今後,測定時間の短縮や診断精度において,さらに洗練されたシステムになっていくものと期待される.文献1)WolE:AnatomyoftheEyeandOrbit.Ed4,p207-209,BlakistonCo,NY,19542)MengerLS,PandherKS,BronAJ:Non-invasivetearlmbreak-uptime:sensitivityandspecicity.ActaOphthal-mologica64:441-444,19863)FukudaM,WangHF:Dryeyeandclosedeyetears.Cor-nea19(Suppl.1):S44-S48,20004)MaruyamaK,YokoiN,TakamataAetal:Eectofenvi-ronmentalconditionsonteardynamicsinsoftcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci45:2563-2568,20045)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortearlmstabilityanalysisusingvideokeratography.AmJOph-thalmol135:607-612,20036)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.InvestOphthalmolVisSci45:1369-1374,20047)山口昌彦:涙液安定性の評価法にはどのようなものがあるか教えてください.あたらしい眼科23(臨増):115-118,20068)川崎史朗,溝上志朗,山口昌彦ほか:涙液層安定性解析装置によるマレイン酸チモロールゲル化剤点眼後の涙液層への影響の検討.日眼会誌112:539-544,2008(18)

新ドライアイ世界診断基準

2008年12月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSアイの定義が決まった.この定義をもとに日本でもドライアイ研究会からドライアイの定義が発表されていた.世界のドライアイの定義には“眼が疲れるなどの自覚症状が必須”であったにもかかわらず,日本のドライアイの定義には“自覚症状の有無は問わない”とあり,ここに大きな隔たりがあった.これはStevens-Johnson症候群などの重症ドライアイにおいては眼表面が皮膚のようになってしまい,痛みも症状もなくなってしまうので,もし自覚症状を必須とすると,これら最重症のドライアイが定義からもれてしまうので整合性がとれないという意見があったためである.このワークショップの報告書は,ドライアイの分野において10年以上,確たるリソースとして利用されたが,その間に,基礎と臨床研究の双方において情報が急増したことで,再度前述のプロセスを行う必要が生じた.坪田一男教授の提案とMichaelA.Lemp教授の支持により,そうしたタスクを実行するために,ドライアイ専門家による国際委員会を募集するという構想が提起され,2001年に予備会議が開かれた.参加者の選択は,ピアレビューによる出版物の経験,過去のドライアイ会議への参加レベル(NEI/業界のワークショップを含む),同分野の著名な専門家との協力に基づいて行われた.タスクの大きさはすぐに明らかになり,そのタスクの規模の大きいことからTearFilm&OcularSurfaceSociety(涙液と眼表面に関する臨床学会)(TFOS)に連携協力が要請された.TFOSの代表であるDavidA.はじめにわが国のドライアイ推定患者数は約800万人,アメリカでは1,000万人以上とされており,その数は年々増加している.このような状況にあるにもかかわらず,以前はドライアイの定義や診断基準が曖昧なため,不定愁訴とともに点状表層角膜炎を認めればドライアイである,というような漠然とした診断をし,人工涙液を処方するという治療が行われていたように思える.ドライアイは,一般的でありながら十分に認知されていない臨床状態であり,その病因と管理は,臨床医にとっても研究者にとってもむずかしいものとなっている.しかし,この疾患については,疫学,病原論,臨床徴候,ならびに考えられる治療法の分野において,この10年間で理解が進んでいる.I世界ドライアイワークショップの経緯1)19941995年,NationalEyeInstitute(NEI,米国国立眼科研究所)が支援者となり,業界が支持したワークショップに,ドライアイに関心のある科学者,臨床医,研究者が集まり,ドライアイの定義および特徴の明確化,ならびにドライアイ疾患に関する臨床研究の実施および臨床試験の実施について,信頼できるパラメータの提示を行った.そして1995年の世界ドライアイワークショップ(DEWS)にワシントンのMichaelA.Lemp教授を中心に,日本からは坪田一男教授と,当時ボストンに留学していた戸田郁子医師も参加して世界のドライ(3)1611ド152新35特集●ドライアイ最近の考え方あたらしい眼科25(12):16111617,2008新ドライアイ世界診断基準TheNewInternationalDryEyeDiagnosticCriteria村戸ドール*———————————————————————-Page21612あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(4)IIドライアイの定義1)ドライアイとは,“さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視力障害を伴う”と定義される(2005年日本ドライアイ研究会).当時の世界の定義は“ドライアイは涙液の量的,質的異常,蒸発亢進,眼表面上皮障害ならびに自覚症状を有する疾患である”という定義になっていた.今回の新しい世界ドライアイワークショップの委員会は,ドライアイにおける涙液の高浸透圧性と眼表面の炎症の役割,ならびに視覚機能に対するドライアイの影響に関する新しい知識に照らし,この定義は改正可能であるという点で合意した.まず,2つの定義が作成され,ワークショップのメンバーに提示された.これらの「全般的」で「実務的な」定義は,ある程度重複するため,2007年の最終報告書では,これらのバージョンを組み合わせて,下記の定義を作成した:“ドライアイは,不快感,視覚障害,涙液層の不安定性を有し,眼表面ダメージに至る涙液および眼表面の多因子疾患である.ドライアイでは,涙液層の浸透圧が上昇し,眼表面に炎症が起こる.”IIIドライアイ疾患の分類1)Aqueous-decient(涙液欠乏性)ドライアイとevapo-rative(蒸発性)ドライアイの区別は,定義から除外されたが,原因・病理論的分類では維持されている.分科委員会により作成された病因・病理学的分類は,NEI/業界ワークショップ報告書で提示された分類の更新バージョンであり,ドライアイ疾患に関するより新しい知識を反映している(図1).図1の左側のボックスは,ドライアイを発症する個人リスクに対する環境の影響を示している.Environment(環境)という用語は,個人間の生理学的差(内部環境),ならびに各個人が遭遇する周囲条件(外部環境)を含む言葉として広く使用されている.内部環境とは,ドライアイのリスクに影響を与える各個人に特異的な生理学的条件を指す.たとえば,正常な人では,自然瞬目率が低い,あるいは行動学的または生理学的理由で瞬目率が低下することがある.瞬目率が低Sullivan,PhDは,TFOSの組織的・管理的サポートを担当し,DEWSを推進するために,国際企業から幅広い資金援助を確保した.DEWSの取り組みは,イギリス・オクスフォード大学眼科学教室のAnthonyJ.Bron教授が議長となり,許容できるエビデンスのレベルおよびそのエビデンスを裏付ける文書化の方法を決めるガイドラインを提案した運営委員会によって指揮された.第1段階として,コミュニケーション・業界連絡委員会に加え,つぎの分科委員会の結成が行われた.すなわち,定義と分類;疫学;診断;調査;臨床試験,ならびに管理と治療.科学分野の分科委員会には,ドライアイの諸相に関する最新かつエビデンスに基づいた情報の特定,ならびに文書による十分な裏づけと参考文献がある概念的な形式においてデータを要約する責任が与えられた.分科委員会の議長たちは,各作業委員会について目標を設定し,業務の調整に責任を負うことになった.第2段階では,3日間の会議が開かれ,その際にグループ全体に対して委員会の報告が行われ,公開討論会における議論では,すべての参加者に意見の発表や,報告書への追加提案が促された.最終段階として,報告書を審査し,提示された情報とコンセプトの発表内容および相互参照を調整する目的で,執筆チームが結成された.審査および検討のプロセスは,数年間かけて行われた.参加者全員が閲覧を行ったり,意見を述べたりできるように,報告書はインターネットのウェブサイトに掲載され,受理されたコメントは,評価と対応を求めて分科委員会の議長に提出された.報告書案は,最終審査と承認のため,運営委員会に提出された.参加者は全員,財源の内容と利害の衝突を開示するよう求められ,その情報はウェブサイト(www.tearlm.org)に掲載され,同報告書の巻末で発表された.TheOcularSurfaceの特別号で発表された報告書に加え,TFOSのウェブサイトではDEWSの結果を拡大版として電子形式で閲覧できるようになった(www.tearlm.org).各章は,ドライアイの理解に関する話題に対応しており,これらを組み合わせた発行により,臨床医,疫学研究者,基礎・臨床科学者,および製薬業界関係者にとって有用なものになると考えられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081613(5)イアイの重要なリスク因子であり,早期卵巣機能不全の女性は,涙液の生成が影響を受けていないにもかかわらず,ドライアイの症状と徴候に悩まされることになる.涙腺からの涙液分泌は,いくつかの全身薬により減少するが,こうした影響は,内部環境の障害とみなされる.加齢により,涙液量および流量の減少,浸透圧の亢進,涙液層の安定性の低下,マイボーム腺脂質の組成の変化など,ドライアイにかかりやすくなる生理学的変化が生じる.外部環境には,ドライアイ発症のリスク因子になりうる職業的および外的環境が含まれる.異なる地理的位置,あるいは空調,飛行機旅行などの人工的な環境により作られる特殊な状況下で生じる相対湿度が低い条件下では,眼からの水分蒸発量が増加する.同様に,強風に曝露した場合にも蒸発量が増加するが,この機序は,ドライアイの新しい実験モデルの一部に取り入れられてい下すると,瞬目間隔,および瞬目と瞬目の間の蒸発損失時間が延長する.ドライアイの原因論において,性ホルモンの役割を裏付けるエビデンスが多数存在し,一般的に,アンドロゲン濃度が低く,エストロゲン濃度が高いことがドライアイのリスク因子になるとされる.生物学的に活性なアンドロゲンは,涙腺およびマイボーム腺の機能を促進する.アンドロゲン欠乏症はドライアイと関連しており,局所的あるいは全身的なアンドロゲン治療により予防できると考えられる.ドライアイは,前立腺癌治療で抗アンドロゲン剤に曝露する患者に起こり,また,完全アンドロゲン不応症候群の女性では,マイボーム腺および杯細胞の機能障害のエビデンスとともに,ドライアイの徴候と症状に進行がみられる.マイボーム腺機能不全(MGD)に伴う「非自己免疫性」ドライアイでは,アンドロゲンプールの著しい枯渇が報告されている.また,女性および閉経後のエストロゲン療法もドラ図1ドライアイの原因疾患による分類(TheOcularSurface,Vol.5,No.2,2007より)Aqueous-decientDYEYESjgrenSyndromeDryEyePrimaryEectoftheEnvironmentleutereurLowblinkratebehavior,VTU,microscopyWidelidaperturegaepositionAgingLowandrogenpoolSystemicDrugs:antihistamines,beta-blockers,antispasmodics,diuretics,andsomepsychotropicdrugsleutereurLowrelativehumidityHighwindvelocityOccupationalenvironmentSecondaryNon-SjgrenDryEyeLacrimalDeciencyLacrimalGlandDuctObstructioneeBlockSystemicDrugsDrugActionAccutaneLowBlinkateDisordersofLidApertureMeibomianOilDeciencyVitaminA-DeciencyTopicalDrugsPreservativesontactLensWearOcularSurfaceDiseaseeg,AllergyEtrinsicIntrinsicEvaporative———————————————————————-Page41614あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(6)る水分喪失,そして潤滑液の喪失と表面の炎症による症状の原因になることがあげられる.ドライアイの特徴を長期的に誘発,増幅,変化させうるドライアイ・プロセスの中心として,特定の中心的機序が予見できる.それらは,tearhyperosmolarity(涙液の高浸透圧性)とtearlminstability(涙液の不安定性)である.涙液の高浸透圧性は,眼表面の炎症,損傷,症状を誘発する中心的メカニズム,ならびにドライアイにおける代償的イベントの開始とみなされている.涙液の高浸透圧性は,涙の流量が少ない場合に,露出した眼表面からの水分蒸発の結果として,または過剰な蒸発の結果として,あるいはこれらのイベントの組み合わせとして生じる.ドライアイの中心的なメカニズムとして浸透圧説は欧米では好まれているようであるが臨床上,涙液の浸透圧を簡便に測定できる器具が普及していないため,他国では浸透圧説はいまだにドライアイの診断過程に利用されていない.ドライアイの一部のタイプでは,以前の涙液の高浸透圧性とは無関係に,涙液層の不安定性が最初のイベントになることがある.早期涙液層の破壊という形での明らかな涙液層の不安定性がドライアイの要素として容認されるのに対し,より微妙な涙液層の不安定性も,眼表面のストレスに反応したドライアイ合併症の誘因と考えられる.涙液層の不安定性が,瞬目間隔内で生じる涙液層破壊の場合,露出表面の局所的乾燥および高る.職業的因子が瞬目率の低下の原因になると考えられるが,これはビデオディスプレイ端末を使って働く人のドライアイリスクの代表的なものである.瞬目率の低下,上方注視に伴うものも含めた眼瞼幅の増加に伴うその他の活動が,ドライアイ症状の発生リスクになることが報告されている.1995年のワークショップ1で示されたように,ドライアイのおもな種類は,現在もaqueous-decientdryeye(涙液欠乏性ドライアイ:ADDE)とevaporativedryeye(蒸発性ドライアイ:EDE)となっている.ADDEのカテゴリは,おもに涙腺からの分泌不足を指しており,このアプローチは維持されている.ただし,結膜からの水分分泌不全もaqueous-deciencyに寄与することを認識すべきである.EDE分類は,眼瞼および眼表面の内因性の状態,ならびに外因性の影響から生じる状態それぞれに依存する原因を区別できるよう,下位分類されてきた.ドライアイは,これらのクラスのいずれかとして発生すると考えられるが,それらは相互排他的ではない.主要な下位グループで発生した疾患が,別の主要な機序によってドライアイを誘発するイベントと共存したり,それを誘発する可能性があると考えられている.これは,ドライアイの重症度を増幅する相互反応の悪循環の一部である.その例として,どのタイプのドライアイにおいても杯細胞の喪失が起こり,これがつぎに,涙液層の安定性喪失,表面の損傷および蒸発によ表1ドライアイの重症度による分類重症度レベルレベル1レベル2レベル3レベル4違和感・頻度軽度・たまに中程度・慢性重症重症視覚症状なし/軽度気になる気になるいつも結膜の充血なし/軽度なし/軽度+/+/++結膜上皮障害なし/軽度軽度中程度中程度重症角膜上皮障害なし/軽度軽度中程度中央部重症角膜所見なし/軽度Debris,TMH↓糸状炎糸状炎潰瘍MGDの有無なし/軽度なし/軽度よくあり角化・消耗乱性涙液層破壊時間さまざま≦10≦5即座に乾くSchirmer値さまざま≦10≦5≦2MGD:マイボーム腺機能不全,Debris:涙液中の老廃物,TMH:涙液メニスカス高.(TheOcularSurface,Vol.5,No.2,2007より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081615(7)類を採用することには,大きな臨床的有用性があると考えた(表1).本委員会はドライアイ重症度による治療方針についても提案している(表2).IVわが国では2006年よりDEWSの方向性もかなり固まってきたことでその流れを参考にしながら日本ドライアイ研究会の協力のもとでわが国の新しい定義と基準も見直して作成することになった.2006年度より日本のドライアイの定義は“ドライアイとはさまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視覚障害を伴う”という“自覚症状ならびに視覚障害”の概念が含まれるものに変わった.ここ10年間ドライアイの不定愁訴が中心となる新しいタイプのドライアイ(コンピュータ作業によるものなど)が非常に多くなってきているといわれている.DEWSで日本におけるドライアイの頻度に関する疫学調査や研究が非常に少ないことや大規模の疫学調査がほとんどなされていないことが指摘されている.新ドライアイ定義に自覚症状が含まれたことで疫学調査もアンケートのみによって行うことが十分可能となり,ドライアイの頻度やドライアイにおけるリスクファクターをより容易に評価できるようにもなったと思われる.わが国におけるドライアイ診断基準は以下のようである2)(表3).①自覚症状ドライアイ症状の根拠は完全に解明されていないが,ドライアイの原因論,機序,ドライアイ治療の反応の検討から推測できる.症状の発生は,眼表面における侵害受容を促進する感覚神経の活性化を示唆している.候補として,瞬目間の涙液層破壊,涙液量の減少による眼瞼と眼球の剪断応力,および/または眼表面でのムチン発現の低下,眼表面の炎症メディエーターの存在,ならびに侵害受容感覚神経の過敏性など,涙液および眼表面の浸透圧性,表面上皮の損傷,グリコカリックスと杯細胞ムチンの異常が誘発されると考えられる.結果的に,後者は,イベントの悪循環の一部として,涙液層不安定性を悪化させる.眼表面のムチンの異常が涙液層の不安定性の原因になっている臨床結果の2つの例として,眼球乾燥症とアレルギー性眼疾患がある.ビタミンA欠乏症における初期の涙液安定性喪失は,眼表面におけるムチン発現の減少と杯細胞の喪失が原因である.季節性アレルギー性結膜炎やvernalkeratoconjunctivitisでは,眼の表面におけるムチン発現の異常は,初期にはアレルゲン曝露への反応として炎症性メディエーターの放出を誘発する,IgE-媒介1型過敏症の機序が原因となっている.その他の例として,局所薬,特に眼表面での炎症性細胞マーカーの発現を促進し,上皮細胞の損傷,アポトーシスによる細胞死,杯細胞密度の低下を誘発する防腐剤使用点眼薬などの保存料の作用が含まれる.今回のDEWSの定義・分類委員会は重症度に基づく疾患の分表2ドライアイ重症度による治療方針レベル1:患者の生活習慣・職場環境の変更について指導ドライアイの原因になる薬剤の中止人工涙液点眼眼瞼縁のマネジメント(温罨法など)レベル2:レベル1の治療は不十分であればプラスで:抗炎症剤点眼薬テトラサイクリン/ミノサイクリン全身投与(マイボーム腺炎の場合)涙点プラグ涙液分泌亢進剤ドライアイ保護用カバーモイスチャーエイドレベル3:レベル2の治療は不十分であればプラスで:血清点眼ボストンスクレラルコンタクトレンズなど涙点焼灼レベル4:レベル3の治療は不十分であればプラスで:抗炎症剤・免疫用製剤の全身投与外科的治療(羊膜移植,眼瞼形成術,唾液腺移植,粘膜移植など)(TheOcularSurface,Vol.5,No.2,2007より)表3ドライアイの診断基準①自覚症状○○○②涙液検査○×○③角結膜上皮検査○○×ドライアイの診断確定疑い疑い———————————————————————-Page61616あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(8)研究会は世界ドライアイ診断基準の制定に合わせ,2006年に日本での定義・診断基準を改訂.診断基準に「自覚症状を有すること」を加えた.これらの診断基準の妥当性を検証するために,2つのスタディが2006年から2年間実施された.米国でのスタディとの比較・評価がしやすいように,米国での大規模疫学調査で用いた質問票で行われた.一つは日本初の大規模な自覚症状の起きる疫学調査で,大企業に勤めるVDT作業者4,393人を対象に実施された.その結果,4時間以上のVDT作業や,コンタクトレンズ使用がリスクファクターであることが判明した.また,対象症例の多くには重症のドライアイの自覚症状があることも確認された3).もう一つは若者におけるドライアイの自覚症状についてはあまりわかっていないため,世界初の「日本人高校生におけるドライアイの出現頻度」をテーマに,3,433人を対象に調べた.その結果,重症ドライアイの自覚症状を有するものは男子が20%,女子が24.4%と頻度が高かった.その大きな理由として,コンタクトレンズ使用がリスクファクターであることがわかった4).この2つのスタディで,ドライアイの起きる自覚症状が問題になっているということは一応,評価できたのではないかと思われる.日本でも自覚症状を評価できるわが国ならではの適切な問診票を試案・作成することは今後の課題である.今回のDEWSレポートと並行して,日本においてドライアイ研究会では独自のドライアイの定義と診断基準の見直しが進められ,発表された〔島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準2)〕.これらの診断基準が本当に正しいかどうかについては,横井則彦先生と村戸ドールが中心になって現在前向き試験を遂行中である.細かいところでは日本とDEWSの定義や診断基準に違いがある(日本の定義には炎症という概念が含まれていないなど)が,ほぼDEWSの報告書の内容は日本においても認められるべきものと考えられており,2007年DEWSのレポートをTFOSといっしょにドライアイ研究会として発刊することになった.謝辞:今回の世界ドライアイワークショップの活動に際してのドライアイ研究会世話人の先生方のご協力に心から感謝申し上げ高浸透圧性が含まれる.ドライアイの確定診断には,自覚症状を有することが必須である.自覚症状としては,異物感などの慢性眼不快感のほか,視力障害も含まれる.自覚症状はあるが,涙液異常,角結膜上皮障害のいずれかを有しないものは,現在の検査で検出しえない異常がある可能性を考え,ドライアイ疑い例と考えるのが適当である.②涙液検査SchirmerⅠ法で5mm以下,または涙膜破壊時間(BUT)が5秒以下の場合に涙液異常と判断する.Schir-mer試験は点眼麻酔を使用せずに,自由瞬目状態で行うことを基本とする.BUT測定は,患者に自発的に開眼させた状態で行い,角膜全体のどこかに涙膜破壊が生じるまでの時間を正確に測定し,3回の平均値で判定することが望ましい.③角結膜上皮検査フルオレセイン染色検査では,鼻側・耳側球結膜,および角膜をそれぞれ3点満点でスコア化し(全体で9点満点),3点以上を陽性とする.ローズベンガルもしくはリサミングリーン染色試験も同様に,鼻側・耳側球結膜,および角膜をそれぞれ3点満点でスコア化し(全体で9点満点),3点以上を陽性とする.いずれかの試験で陽性の場合に角結膜上皮障害ありと判定する.日本のドライアイ診断基準は表3のように具体化しており,症例を確定例,疑い例と分け,さらに検査のカットオフ値も明確となっている.欧米では上述したように原因やメカニズムによって疾患をADDEかEDEという形で分け,重症度に応じて治療を段階的に行う考えが普及している.おわりに今回のDEWS報告書では,ドライアイの診断方法や臨床試験の進め方,疫学調査の方法など幅広く網羅されており,臨床医や疫学研究者,製薬業界関係者にとっても有用で力になるものであると思われる.日本での応用に関してはドライアイ研究会としてさらに検討を重ねて固めていく必要があるが,一応,ドライアイの定義と分類に関しては世界との統一性が得られたと思われる.同———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081617ます.木下茂先生,大橋裕一先生,島﨑潤先生,下村嘉一先生,高村悦子先生,田川義継先生,濱野孝先生,横井則彦先生,渡辺仁先生,本当にありがとうございました.文献1)世界ドライアイワークショップ2007年報告書:ドライアイ疾患の定義および分類.TheOcularSurface5:12-28,20072)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20073)UchinoM,SchaumbergDA,DogruMetal:PrevalenceofdryeyediseaseamongJapanesevisualdisplayterminalusers.Ophthalmology.2008Aug15.[Epubaheadofprint]4)UchinoM,DogruM,UchinoYetal:JapanMinistryofHealthStudyonprevalenceofdryeyediseaseamongJapanesehighschoolstudents.AmJOphthalmol.2008Aug22.[Epubaheadofprint](9)お申方法:おとりつけの書,また,その便のない場合は直あてご注文ください.メディカル葵出版あたらしい眼科Vol.26月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術Vol.22(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他毎号の【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他社〒1130033東京都文京区本郷2395片岡ビル5F振替00100569315電話(03)38110544://www.medical-aoi.co.jp

序説:ドライアイ 最近の考え方

2008年12月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSライアイの研究,臨床の流れをくみとっていただければ幸いである.もう一点,ドライアイの新たな診断基準に加えられた概念に“炎症”の重要性がある.いまだに日本においてはドライアイの原因は乾燥によるものと考えられているが,欧米では炎症が大きな要因と考えられるようになってきている.欧米の考え方には製薬会社主導のやや行きすぎの面も懸念されるところではあるが,炎症の関与は事実であり,着目すべきポイントである.炎症の関与はSjogren症候群に限らずにSjogren症候群以外のドライアイでも認められている.従来,炎症細胞を検出するには病理組織学的なアプローチが必要だったが,最近のコンフォーカルマイクロスコープの進歩により,生体において炎症細胞の評価が可能となってきた.この領域の最近の進歩について,慶應義塾大学の松本幸裕先生に論じていただいた.近年,筆者らはVDT作業に伴うドライアイは涙液の乾燥ばかりでなく,涙腺の機能不全も含んでいるという概念を提唱しているが,この概念には神経の関与が欠かせない.そこで土至田宏先生に,神経切断モデルから見えてきた涙腺機能の正常化メカニズムについて論じていただいた.また,筆者らはドライアイの発症メカニズムに,炎症ばかりでなく活性酸素が関与していると仮説をたてている.ドラドライアイは,目の表面が乾燥することで疲れ目や目の違和感などの不定愁訴を招く疾患であり,視力の低下とは無関係と考えられてきた.しかし最近の研究から,視機能にも影響を与えることがわかってきた.2003年から2007年の5年間,TearFilmandOcularSurfaceSociety(TFOS)が中心となって開かれたドライアイの新しい診断基準に対する世界ドライアイワークショップ(DEWS)においても世界的な合意を得て,“視機能の低下”がドライアイの重要な一面であることが定義として加えられた.これにより現代人のドライアイによる健康被害はさらに大きな注目を集めるようになってきている.ドライアイにおける視機能の低下は,通常の視力検査では測定できず,実用視力などのように時間的なファクターを取り入れて,より日常的な状況に即した測定が必要となる.すなわちドライアイ患者は,目を開けた瞬間には1.0以上の視力が得られるが,コンピュータや運転など日常作業によって目をあけていると涙液層が破壊されて視機能に影響が出てくる.これは涙液層の不安定化に基づく高次収差の増大からくるものと考えられている.このドライアイの新しい診断基準と涙液層の不安定化による高次収差の増大については,今回は村戸ドール先生と山口昌彦先生に執筆をお願いした.まずは新しいド(1)1609●序説あたらしい眼科25(12):16091610,2008ドライアイ最近の考え方NewConceptsinDryEye坪田一男*横井則彦**———————————————————————-Page21610あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(2)ドライアイにとってマイボーム腺機能不全(MGD)は大きなリスクファクターであり,涙液量の増大ばかりでなく炎症をひき起こし,まばたきのたびに摩擦によるストレスを増大させる.最近はマイボーム腺を簡便に観察できる方法も開発され,注目されている分野である.この問題について,東京歯科大学眼科の田聖花先生,および伊藤医院・東京大学の有田玲子先生と東京大学の天野史郎先生にレビューをお願いした.ドライアイは今日,現代病としてさらに患者数も増大し,超高齢社会,視覚情報化社会を本格的に迎えつつある日本にとっては避けて通れない疾患であり,社会的な問題といえる.幸い日本にはドライアイを専門とする医師や研究者が多数おり,その研究レベルも世界一といえる.的確な診断と安全で効果的な治療法の普及,そして両者のさらなる進歩が望まれるところである.イアイは加齢に伴い増加する一面をもっているが,加齢による多くの疾患メカニズムに活性酸素が関与することは周知のとおりである.三段論法を用いればドライアイにも活性酸素が関与する可能性が高いことになる.実際に,ドライアイのモデルマウスにおいて活性酸素が関与することが証明されており,この分野について樋口明弘先生と坪田が執筆した.現在,さまざまなドライアイの治療法が開発されつつあるが,そのなかで大きなウエートを占めるのが涙点の閉鎖だ.涙点の閉鎖は通常は涙点プラグによって行われ,これにより涙液の貯留が増大するためにドライアイの多くの問題が解決する.しかし涙点の形や肉芽によるプラグの脱落,あるいは挿入ができなくなることもあり,臨床では大きな治療のポイントとなる.この点について,西井正和先生と横井が涙点を閉鎖する考え方と具体的な方法について詳しく述べた.最後に取り上げたのは,マイボーム腺の問題だ.

0.0015% DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(125)15950910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15951602,2008cはじめにDE-085(一般名:タフルプロスト)は参天製薬株式会社(参天製薬)および旭硝子株式会社で創製された図1の構造式をもつプロスタグランジン(PG)系眼圧下降薬である1).DE-085は,その活性代謝物であるタフルプロストカルボン酸体の各種プロスタノイド受容体に対する結合活性をinvitroで検討した結果,プロスタノイドFP受容体に対する高い親和性を有することを確認した2).また,正常眼圧サルを対象とした点眼試験で,眼圧下降作用を有することを確認した2).DE-085点眼液は,室温で安定な薬剤である.〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島4-2-78大阪厚生年金病院眼科Reprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,4-2-78Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験桑山泰明*1米虫節夫*2*1大阪厚生年金病院眼科*2近畿大学農学部PhaseIIIConirmatoryStudyof0.0015%DE-085(Taluprost)OphthalmicSolutionasComparedto0.005%LatanoprostOphthalmicSolutioninPatientswithOpen-AngleGlaucomaorOcularHypertensionYasuakiKuwayama1)andSadaoKomemushi2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,2)SchoolofAgriculture,KinkiUniversity原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者125例を対象に0.0015%タフルプロスト点眼液(DE-085群)の有効性および安全性について,0.005%ラタノプロスト点眼液(ラタノプロスト群)を対照とした多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験を実施した.治療期4週の眼圧は治療期0週に比べて,DE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で6.2±2.5mmHg下降した.治療期4週の治療期0週からの眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間は,非劣性基準の上限を超えず,DE-085群はラタノプロスト群と同等(非劣性)であることが検証された.副作用発現率は,DE-085群で40.0%,ラタノプロスト群で48.1%であった.DE-085は,ラタノプロストと同様に原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者に対して,臨床的に有用性の高い薬剤である.Tocomparetheecacyandsafetyof0.0015%tauprostophthalmicsolution(DE-085group)tothatoflatanoprostophthalmicsolution(latanoprostgroup)inprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhyperten-sion(OH)inarandomized,single-masked,parallel-groupandmulticenterstudy,125patientswithPOAGorOHwereassignedtoeitheraDE-085grouporalatanoprostgroup.Inbothgroupsthedrugwasinstilledfor4weeks.Meanintraocularpressure(IOP)reductionfrombaselinewas6.6±2.5mmHgintheDE-085groupand6.2±2.5mmHginthelatanoprostgroup.The95%condenceintervalofbetween-groupdierenceinIOPchangesat4weeksoftreatmentwaswithinthenon-inferioritymargin.TheIOP-loweringeectofDE-085fortheprimaryendpointwassimilartothatoflatanoprost.Atotalof40.0%ofpatientsintheDE-085groupand48.1%inthelatanoprostgroupreportedadversereactions.TheseresultsindicatethatbothDE-085andlatanoprostareclinical-lyusefulinthetreatmentofPOAGandOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15951602,2008〕Keywords:原発開放隅角緑内障,タフルプロスト,DE-085,プロスタグランジン誘導体,臨床試験.primaryopen-angleglaucoma(POAG),tauprost,DE-085,prostaglandinanalogue,clinicalstudy.———————————————————————-Page21596あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(126)第Ⅰ相試験では,日本人および非日本人の健康成人男性を対象に,0.005%までの認容性が確認された.第Ⅱ相試験(用量反応試験)では,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象として,プラセボ点眼液を対照に0.0003,0.0015および0.0025%DE-085点眼液(1日1回,1回1滴,4週間点眼)の眼圧下降作用の用量反応性および安全性を多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験により検討した.その結果,0.0003,0.0015および0.0025%DE-085点眼液はプラセボ点眼液に比して有意な眼圧下降作用がみられ,眼圧下降作用に用量依存性がみられた.また,0.0003および0.0015%DE-085点眼液は安全性に問題はなかったが,0.0025%は副作用による中止例がみられ,安全性と効果のバランスから0.0015%が至適用量として選定された.今回,DE-085点眼液の第Ⅲ相試験,すなわちラタノプロスト点眼液(キサラタンR)を対照薬として臨床的非劣性および安全性を検証することを目的に,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象として行われた多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験の結果を報告する.本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および試験方法1.実施医療機関および試験責任医師本試験は,平成16年5月16日から平成17年5月6日の間に全国30医療機関において,各々の試験責任医師(表1)のもとに実施された.試験実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.2.対象対象は,両眼性の原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者であり,選択基準は年齢20歳以上の性別を問わない外来患者で,観察期終了時(治療期0週)の眼圧が少なくとも片眼で22mmHg以上,かつ両眼とも35mmHg未満の症例とした(表2).除外基準は表2に示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.HOHOCO2CH(CH3)2OFF図1タフルプロストの構造式表1試験実施医療機関一覧医療機関名試験責任医師名*北海道大学病院眼科陳進輝弘前大学医学部附属病院眼科大黒浩秋田大学医学部附属病院眼科吉冨健志新潟大学医歯学総合病院眼科白柏基宏自治医科大学附属病院眼科原岳,水流忠彦山梨大学医学部附属病院眼科柏木賢治筑波大学附属病院眼科大鹿哲郎東京厚生年金病院眼科藤野雄次郎東邦大学医療センター大森病院眼科杤久保哲男順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科平塚義宗北里大学病院眼科庄司信行岐阜大学医学部附属病院眼科山本哲也小牧市民病院眼科冨田直樹西尾市民病院眼科松崎園子京都府立医科大学附属病院眼科森和彦大阪大学医学部附属病院眼科大鳥安正関西医科大学附属病院眼科南部裕之大阪医科大学附属病院眼科杉山哲也神戸大学医学部附属病院眼科中村誠広島大学病院眼科三嶋弘山口大学医学部附属病院眼科相良健香川大学医学部附属病院眼科馬場哲也徳島大学病院感覚・皮膚・運動機能科塩田洋愛媛大学医学部附属病院眼科大橋裕一研英会林眼科病院林研産業医科大学病院眼科廣瀬直文,久保田敏昭佐賀大学医学部附属病院眼科小林博熊本大学医学部附属病院眼科有村和枝,古賀貴久熊本市立熊本市民病院眼科宮川真一慶明会宮崎中央眼科病院大浦福市*試験期間中の試験責任医師をすべて記載した.(順不同)表2選択基準および除外基準1)選択基準(1)20歳以上である(2)性別は問わない(3)入院・外来の別:外来(4)治療期0週の眼圧が少なくとも片眼で22mmHg以上であり,両眼とも35mmHg未満である2)除外基準(1)同意取得前3カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー治療を含む)の既往を有する(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)虹彩炎の既往を有する(4)試験期間中に使用する予定の薬剤および本剤の類薬に対し,薬物アレルギーの既往を有する(5)心,肝,腎,血液疾患,その他の中等度以上の合併症をもち,薬効評価上不適当と考えられる(6)コンタクトレンズの装用が必要である(7)血液検査・尿検査で臨床的に問題がある(8)試験責任医師・分担医師が本試験の対象として不適格と判断する———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081597(127)3.試験方法a.試験薬剤被験薬であるDE-085点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mg含有する無色澄明の水性点眼液であり,対照薬は1ml中にラタノプロストを0.05mg含有する無色澄明の水性点眼液である.被験薬は参天製薬にて充されたもの,対照薬はファイザー株式会社にて充されたものを使用した.両薬剤は容器の外観が異なることから単盲検法とし,試験薬の包装は1本ずつを両群同一の小箱に収め,小箱の状態においては外観上識別不能にした.試験薬の割り付けは,試験薬割付責任者(米虫節夫)が置換ブロック法による無作為化により行った.キーコードは,開鍵時まで試験薬割付責任者が保管していた.b.試験デザイン・投与方法本試験は,多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,観察期(前治療薬のwashout期間)を設け,抗緑内障薬の投与を受けていた被験者については,その薬剤の投与を中止しwashoutした.Washout期間は,交感神経a遮断薬,b遮断薬,ab遮断薬,プロスタグランジン系点眼薬では4週間以上,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経作動薬,副交感神経作動薬では2週間以上に設定した.観察期終了後,登録センターへ症例登録し,治療期に移行した.被験者は0.0015%DE-085点眼液投与群(DE-085群)と0.005%ラタノプロスト点眼液投与群(ラタノプロスト群)のいずれかに無作為に割り付けられ,両群とも1日1回,1回1滴の点眼を朝10時(±1時間)に4週間行った.治療期には2週および4週に,表3のごとく検査,観察を行った.4.観察項目a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼,眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査し記載した.b.自覚症状・点眼遵守状況痒感,刺激感,流涙,羞明感,異物感,眼痛などの自覚症状や点眼遵守状況については,試験期間中の来院時に問診し,その程度を記載した.c.眼圧測定治療期0週,2週および4週の眼圧を午前911時の間に測定し記載した.測定にはGoldmann圧平眼圧計を用いた.d.眼科検査角膜,前房,水晶体,結膜,眼瞼などの他覚所見は,試験期間中の来院時に細隙灯顕微鏡などを用いて観察し,その所見を「」から「3+」の4段階に程度分類し記載した.たとえば,球結膜の充血については,「:球結膜の血管が容易に観察できる.毛様充血もみられない」,「+:球結膜に限局した発赤がみられる」,「2+:球結膜に鮮赤色がみられる」,「3+:球結膜に明らかな充血がみられる」の基準に従い判定した.視力検査は,試験開始時および試験終了時に実施した.e.血圧・脈拍数,臨床検査血圧・脈拍数,血液学的検査,血液生化学検査および尿検査は,試験開始時および試験終了時に実施した.f.有害事象試験期間中に観察された自覚症状の発現・悪化および試験責任医師・分担医師が医学的に有害と判断した他覚所見の発現・悪化を有害事象(あらゆる医療上の好ましくない,あるいは意図しない疾病または徴候:被験者にとって有害・不快な症状・所見)とし,すべて収集し記載した.5.評価項目a.有効性の評価有効性評価眼は,治療期0週の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.主要評価項目は,治療期4週(中止時を含む)における治療期0週からの眼圧変化値とした.また,副次的評価項目は,治療期2週の治療期0週からの眼圧変化値,および治療期2週・4週の治療期0週からの眼圧変化率とした.b.安全性の評価副作用および眼科検査結果,血圧・脈拍数,臨床検査値をもとに安全性を評価した.6.解析方法a.解析対象集団本試験の統計解析には下記の3つのデータセットを用いた.①試験実施計画書に適合した対象集団:PerProtocolSet(PPS)選択基準を満たし,除外基準に抵触しない被験者であ表3検査・観察項目観察期治療期観察期開始時0週2週4週被験者背景●点眼遵守状況●●自覚症状●●●●眼圧測定●●●●眼科検査●●●血圧・脈拍数測定●●臨床(血液・尿)検査●●有害事象●●●———————————————————————-Page41598あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(128)り,治療期間を通じて点眼状況が75%以上で,治療期終了時の眼圧が測定されたすべての症例.②最大の解析対象集団:FullAnalysisSet(FAS)無作為化された被験者のうち,治療期の眼圧が測定されたすべての症例.③安全性評価のための対象集団:SafetyAnalysisSet(SaAS)試験薬を1回でも点眼した症例.有効性はおもにPPSを用い,安全性はSaASを用いて解析を行った.b.データの取り扱い検査前日の点眼を適切に実施していない場合は,当該検査日の眼圧データをPPSおよびFASから除外した.c.解析方法非劣性の検証は,主要評価項目である治療期4週の眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間を算出し,その上限が2mmHgを超えなければDE-085群の眼圧下降作用はラタノプロスト群に劣らないこととした.DE-085群とラタノプロスト群の副作用・臨床検査値異常変動の発現率の群間比較には,Fisherの直接確率法を用いた.眼科検査,血圧・脈拍数,臨床検査の変動は,DE-085群とラタノプロスト群それぞれの群内で,対応のあるt検定またはWilcoxon1標本検定を用いて比較した.有意水準は,両側5%とした.解析ソフトはStatisticalAnaly-sisSystemversion8.02(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.II試験成績1.被験者の構成被験者の構成を図2に示す.本試験には,125例が参加し,観察期中および症例登録時までに「選択基準を満たさない」,「除外基準に抵触する」,「有害事象(アレルギー性結膜炎)の発現」および「同意の撤回」などの理由で16例が中止した.登録症例は109例で,全例治療期に移行した.内訳は,DE-085群55例,ラタノプロスト群54例であった.うち4例(DE-085群4例)が試験の継続が不可能な有害事象の発現により試験を中止したため,投与完了例はDE-085群51例,ラタノプロスト群54例の計105例であった.2.被験者背景PPSは97例であり,DE-085群は46例,ラタノプロスト群は51例であった.PPSにおける被験者背景を表4に示す.性別,年齢,診断名,外来・入院,眼以外の合併症,緑内障前治療薬,治療期0週時眼圧に関して,両群間に偏りはみられなかった.眼の合併症の有無について両群間に偏りがみられた(p<0.15).3.有効性PPSにおける両群の眼圧実測値の推移を図3および表5に,眼圧変化値および眼圧変化率の推移を表6に,群間比較の結果を表7に示した.眼圧は両群とも治療期2週および4週において治療期0週と比べ有意な下降を示した(p<0.001).主要評価項目である治療期4週における治療期0週からの眼圧変化値は,DE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で6.2±2.5mmHgであった.眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間は1.420.60mmHgであり,非劣性検証の上限とした2mmHgを超えず,DE-085群の眼圧下降作用はラタノプロスト群に劣らないものと判断できた.副次的評価項目である治療期2週の治療期0週からの眼圧変化値は,DE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で5.9±2.3mmHgであった.治療期2週の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間についても,1.600.33mmHgであった.試験薬投与前の被験者背景において,眼の合併症の有無にDE-085群とラタノプロスト群に偏りがみられたので,各群を合併症の有無によって細分化し,眼圧変化値を比較したが,両群間に偏りはみられなかった.また,FASにおいても同様に解析を行ったが,FASにおける結果はPPSの結果と同様であった.以上のことから,DE-085群の眼圧下降作用は,ラタノプロスト群と同等であることが検証された.治療期4週の眼圧下降率が,20%以上あるいは30%以上であった症例の割合を図4に示した.30%以上の眼圧下降が得られた症例は,DE-085群で39.1%,ラタノプロスト群で31.4%であった.また,20%以上の眼圧下降が得られた症例はDE-085群で80.4%,ラタノプロスト群で70.6%であった.なお,いずれの割合においても両群間に有意差は認められなかった.観察期中止脱例16例治療期開始例109例(症例登録)同意取得症例125例観察期終了例109例ラタノプロスト54例DE-08555例完了例51例中止例4例完了例54例中止例0例図2被験者の構成———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081599(129)4.安全性a.有害事象SaASは,DE-085群55例,ラタノプロスト群54例,計109例であった.治療期に発現した有害事象および副作用発現率を表8に示す.有害事象は,DE-085群の47.3%,ラタノプロスト群の57.4%にみられ,そのうち,試験薬との因果関係が否定できない有害事象と判断された副作用は,DE-085群の40.0%,ラタノプロスト群の48.1%であった(表8,9).両群間の有害事象および副作用発現率に有意差はみられなかった(p=0.340およびp=0.443).すべての有害事象名は,医薬品規制用語集(MedDRA/JV8.1)に準じて分類した.DE-085群のおもな副作用は,結膜充血・眼充血(16.4%および10.9%,計27.3%),眼痒症(9.1%),眼刺激(7.3表4被験者背景分類DE-085ラタノプロストp値検定症例数4651性別男性女性28(60.9)18(39.1)27(52.9)24(47.1)0.539(a)年齢(歳)202930394049505960697079802(4.3)3(6.5)5(10.9)9(19.6)15(32.6)10(21.7)2(4.3)1(2.0)4(7.8)6(11.8)15(29.4)12(23.5)9(17.6)4(7.8)0.734(b)64(非高齢者)65(高齢者)29(63.0)17(37.0)34(66.7)17(33.3)0.832(a)最小最大平均値±標準偏差228459.0±13.9228659.0±14.20.983(c)診断名原発開放隅角緑内障高眼圧症18(39.1)28(60.9)25(49.0)26(51.0)0.414(a)外来・入院外来入院46(100)0(0)51(100)0(0)眼の合併症なしあり13(28.3)33(71.7)22(43.1)29(56.9)0.144(a)眼以外の合併症なしあり12(26.1)34(73.9)19(37.3)32(62.7)0.280(a)緑内障前治療薬なしあり18(39.1)28(60.9)21(41.2)30(58.8)1.000(a)治療期0週時眼圧(評価眼)(mmHg)最小最大平均値±標準偏差223123.8±2.3223423.7±2.30.904(c)(a):Fisher直接確率法,(b):Wilcoxonの2標本検定,(c):t検定.表5眼圧実測値の推移DE-085ラタノプロスト治療期0週23.8±2.3(46)23.7±2.3(51)治療期2週17.2±2.6(45)17.7±2.8(50)治療期4週17.2±2.8(46)17.5±2.7(51)平均値±標準偏差(例数),単位mmHg.30252015100週2週治療期4週眼圧(mmHg)********:DE-085:ラタノプロスト平均値±標準偏差**:p<0.01検定:対応のある?検定(0週との比較)図3眼圧実測値の推移———————————————————————-Page61600あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(130)%)であった.ラタノプロスト群のおもな副作用は,眼刺激(18.5%),結膜充血・眼充血(13.0%および5.6%,計18.6%),眼痒症(11.1%)であった.副作用の程度は,DE-085群の2例(3.6%)で中等度であったが,それ以外は両群ともすべて軽度であった.この中等度の副作用は紅斑および眼瞼紅斑であり,いずれの例も試験中止に至った.また,試験中止に至った症例は,この2例を含めてDE-085群の4例(7.3%)にみられ,ラタノプロスト群ではみられなかった.他の試験中止例2例のうち1例は軽度の副作用発現例であり,試験継続に問題ない程度と判断されたが,被験者の希望により中止した.他の1例は試験薬との因果関係が否定された有害事象により中止した.いずれの症例も試験中止後,臨床的に問題ない程度に回復した.眼以外の副作用は,DE-085群に下痢,紅斑,頭痛が各1例(各1.8%),ラタノプロスト群に好酸球数増加が1例(1.9%)みられた.80.470.631.40102030405060708090症例割合(%)39.1眼圧下降率30%以上眼圧下降率20%以上DE-085ラタノプロストDE-085ラタノプロスト図4治療期4週に眼圧下降率20%以上および30%以上であった症例の割合表6眼圧変化値および眼圧変化率の推移眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)DE-085ラタノプロストDE-085ラタノプロスト治療期2週6.6±2.5**(45)5.9±2.3**(50)27.5±9.5**(45)25.9±9.7**(50)治療期4週6.6±2.5**(46)6.2±2.5**(51)27.6±9.6**(46)25.9±9.7**(51)平均値±標準偏差(例数).検定:対応のあるt検定(0週との比較)**:p<0.01.表7眼圧変化値の群間比較DE-085ラタノプロスト平均値の差(DE-085ラタノプロスト)平均値の差の95%信頼区間治療期2週6.6±2.5(45)5.9±2.3(50)0.641.600.33治療期4週6.6±2.5(46)6.2±2.5(51)0.411.420.60平均値±標準偏差(例数),単位mmHg.表8治療期にみられた有害事象発現例数および発現率DE-085ラタノプロスト検定※SaAS例数5554有害事象発現例数(%)26(47.3)31(57.4)p=0.340副作用発現例数(%)22(40.0)26(48.1)p=0.443※Fisherの直接確率法.表9副作用一覧DE-085ラタノプロストSaAS例数5522(40.0)5426(48.1)副作用発現例数(%)眼角膜上皮障害眼痒症眼の異常感眼の異物感眼刺激5(9.1)1(1.8)1(1.8)4(7.3)2(3.7)6(11.1)2(3.7)4(7.4)10(18.5)眼脂眼充血*眼精疲労眼痛眼瞼紅斑1(1.8)6(10.9)1(1.8)2(3.6)3(5.5)1(1.9)3(5.6)2(3.7)1(1.9)眼瞼浮腫結膜充血*結膜出血結膜浮腫点状角膜炎1(1.8)9(16.4)1(1.8)2(3.6)7(13.0)1(1.9)霧視羞明2(3.6)2(3.7)眼以外下痢好酸球数増加紅斑頭痛1(1.8)1(1.8)1(1.8)1(1.9)*眼充血:自覚症状のみ確認された事象,():%結膜充血:他覚所見にて確認された事象.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081601b.眼科検査細隙灯顕微鏡検査所見の球結膜充血において,DE-085群およびラタノプロスト群の両群で治療期0週と比べ有意な変動がみられた.他の所見に問題となる変動はみられなかった.矯正視力も各群において観察期からの有意な変動はみられなかった.球結膜充血スコアの推移を図5に示す.両群とも来院時のスコアは「」から「+」の間で推移し,「2+」以上を示した症例はみられなかった.点眼後のスコアは,両群ともに治療期2週よりも4週のほうがやや低く,程度も両群に差はみられなかった.c.臨床検査DE-085群では,臨床検査値のいずれの検査項目においても,観察期に比して有意な変動はみられなかった.ラタノプロスト群では,白血球数,好酸球比,アルブミン,カリウムに観察期からの有意な変動がみられたが,変動幅は小さく臨床的に問題となるものではなかった.個々の症例で検討すると臨床検査値異常変動は,DE-085群の10.9%,ラタノプロスト群の11.1%の症例にみられた.そのうち,試験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動は,DE-085群の1.8%,ラタノプロスト群の11.1%の症例にみられた.DE-085群の1例は好酸球上昇であり,ラタノプロスト群の6例は,それぞれ単球上昇,LDH(乳酸脱水素酵素)上昇,好酸球上昇および尿糖上昇,好酸球上昇,g-GTP上昇および尿蛋白上昇,尿白血球上昇であった.これらは,いずれも他の症状を伴わず,試験終了後に臨床的に問題ない程度に回復した.d.血圧・脈拍数拡張期血圧,収縮期血圧および脈拍数のいずれも,各群において観察期からの有意な変動はみられなかった.III考察緑内障,特に原発開放隅角緑内障(広義)の治療においては,薬物治療などによる眼圧下降が第一選択である3).眼圧下降薬としての第一選択薬は,優れた眼圧下降作用からマレイン酸チモロールなどのb遮断薬が長らく主役の地位を占めており,緑内障点眼薬の臨床試験において対照薬として使用されることが多かった.しかし,近年プロスタグランジン(PG)関連薬の登場に伴い,その強力で持続的な眼圧下降作用により第一選択薬として使用される機会が増えている.現在わが国で発売されているPG関連眼圧下降薬には,イソプロピルウノプロストン(レスキュラR),ラタノプロスト,トラボプロスト(トラバタンズR)がある.そのなかでもラタノプロストは1999年からわが国にて発売され,最もよく使用されている薬剤であるので,本試験では対照薬をラタノプロスト点眼液と選定し,第Ⅲ相試験を実施することとした.本試験は,DE-085点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象としラタノプロスト点眼液を対照とした多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験である.両群の治療期4週の眼圧変化値はDE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で6.2±2.5mmHgと,治療期0週と比べて有意に下降した(p<0.001).眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間は1.420.60mmHgであり,非劣性検証の上限とした2mmHgを超えなかった.したがって,DE-085点眼液の眼圧下降作用がラタノプロスト点眼液に劣らないと結論できる.ラタノプロスト点眼液の第Ⅲ相試験において,ラタノプロスト点眼液の眼圧下降作用は点眼12週後に6.2mmHgを示した4).この値は,今回の試験結果におけるラタノプロスト群の眼圧下降作用と同等であることから,本試験で得られた眼圧下降値は過去の臨床試験結果と大きな差はなく,DE-085点眼液の眼圧下降作用はラタノプロスト点眼液と同等であると考えられる.また,眼圧変化率も治療期2週および4週において治療期0週と比べ両群とも有意な下降を示した(p<0.001).治療期4週における眼圧変化率は,DE-085群で27.6±9.6%,ラタノプロスト群で25.9±9.7%であった.日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン3)には,無治療時眼圧から20%の眼圧下降,30%の眼圧下降というように,無治療時眼圧からの眼圧下降率を目標として設定することが推奨されている.本試験において,眼圧下降率が20%以上,30%以上であった症例の各群の割合は,それぞれDE-085群で80.4%,39.1%,ラタノプロスト群で70.6%,31.4%であり,両群間に有意差はなかったが,いずれもDE-085群に高い数値であった.目標眼圧に1剤投与のみで達成できる例が多いこと(131)2.01.51.00.50.0充血スコア0週2週治療期4週:DE-085:ラタノプロスト平均値±標準偏差図5球結膜充血スコアの推移———————————————————————-Page81602あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008は,コンプライアンスの点からも重要であると考えられる.安全性については,両群ともに試験期間を通じて,重篤な有害事象はみられなかった.眼以外の全身的副作用には,下痢,紅斑,頭痛,好酸球数増加がみられたが,いずれも1例ずつの発現であり特徴的な事象はなかった.眼における局所的副作用には,DE-085群では,40.0%に副作用がみられ,高頻度にみられた副作用は,結膜充血・眼充血(計27.3%),眼痒症(9.1%),眼刺激(7.3%)であった.ラタノプロスト群では,48.1%に副作用がみられ,高頻度にみられた副作用は,眼刺激(18.5%),結膜充血・眼充血(計18.5%),眼痒症(11.1%)であり,DE-085群と大きな差はなかった.ラタノプロスト点眼液の第Ⅲ相試験4,5)では,25.3%に副作用がみられ,高頻度にみられた副作用は,結膜充血(14.9%),眼局所刺激症状(眼痛,眼局所の違和感,痒感など)(11.5%)であった.本試験とラタノプロスト点眼液の第Ⅲ相試験におけるラタノプロスト点眼液の副作用発現率では,本試験のほうがより高かったが,副作用の種類に大きな差はないと考えられた.本試験では中止に至った副作用発現例は,DE-085群の3例にみられたが,いずれの症例も試験中止により回復した.それ以外の副作用はすべて軽度であり,両群に大きな差はないと考えられた.細隙灯顕微鏡検査所見では,DE-085群およびラタノプロスト群において,球結膜充血スコアに治療期0週と比べ有意な変動がみられたが,点眼後のスコアは両群ともに治療期2週よりも4週のほうがやや低く,程度も両群に大きな差はみられなかった.その他の細隙灯顕微鏡検査所見,臨床検査値,収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数,矯正視力については,両群とも,臨床的な問題はみられなかった.試験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動は,DE-085群の1.8%,ラタノプロスト群の11.1%にみられたが,いずれも他の症状を伴わず,試験薬点眼終了後に臨床的に問題ない程度に回復した.これらのことから,DE-085群およびラタノプロスト群の副作用発現率は同程度であり,両群に発現する副作用も結膜充血・眼充血,眼刺激,眼痒症が特徴的に発現し,程度も大きく違わないことから,安全性においても両群に大きな差はないと考えられた.以上より,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者において,DE-085点眼液の眼圧下降作用はラタノプロスト点眼液と同等(非劣性)であり,安全性についても明確な差はみられなかったことから,DE-085点眼液は,ラタノプロスト点眼液と同様に緑内障治療の第一選択薬となりうる有用性の高い薬剤である.文献1)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:Newuoropro-staglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20032)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:Pharmacologi-calcharacteristicsofAFP-168(tauprost),anewpros-tanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20043)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20064)三嶋弘,増田寛次郎,新家眞ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とするPhXA41点眼液の臨床第Ⅲ相試験─0.5%マレイン酸チモロールとの多施設二重盲検試験─.眼臨90:607-615,19965)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglauco-maandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOph-thalmol114:929-932,1996(132)***

インターフェロンとリバビリンの併用療法中に網膜中心静脈閉塞症を発症した1例

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page11592あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(00)原著あたらしい眼科25(11):15921594,2008cはじめにインターフェロン(IFN)はウイルス性肝炎や各種の腫瘍など多くの疾患の治療に利用されている.これはINFの抗ウイルス作用や抗腫瘍作用によるものである.しかし使用例が増えるにつれ種々の副作用が報告されており,全身的には発熱や倦怠感,食欲不振,白血球の減少,抑うつなどが報告されている1).眼合併症としてはIFN網膜症があり,網膜表層の出血や軟性白斑の出現が特徴的である.このほか網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の発症も報告されている2,3).最近ではC型慢性肝炎に対してペグインターフェロンa-2b(PEGIFN)と抗ウイルス薬であるリバビリン(ribavirin)の併用療法が認可されたが,この併用療法を行った際の眼合併症としてCRVOの発症が報告されている3).今回IFN・リバビリン併用療法中にCRVOを発症した症例で網膜無灌流域が8カ月後まで残存した症例を1例経験したので報告する.I症例60歳の男性が2005年10月初めから倦怠感,腰痛,食欲低下を訴え手稲渓仁会病院(以下,当院)消化器科を受診した.GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)95U/l,GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)151U/l,gGTP(gグルタミル・トランスペプチダーゼ)485U/l,HBs(B型肝炎表面)抗原陰性,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体陽性でC型肝炎と診断された.2006年1月中旬から当院消化器科でPEGIFN週1回10mg,リバビリン〔別刷請求先〕坂口貴鋭:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野Reprintrequests:TakatoshiSakaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita15-Nishi7,Kita-ku,Sapporo-shi,Hokkaido060-8638,JAPANインターフェロンとリバビリンの併用療法中に網膜中心静脈閉塞症を発症した1例坂口貴鋭*1横井匡彦*1勝田聡*1高橋光生*1佐藤克俊*1北明大洲*1加瀬学*1大野重昭*2*1手稲渓仁会病院眼科*2北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野ACaseofCentralRetinalVeinOcclusionduringInterferonandRivabirinTreatmentTakatoshiSakaguchi1),MasahikoYokoi1),SatoshiKatsuta1),MitsuoTakahashi1),KatsutoshiSato1),HirokuniKitamei1),ManabuKase1)andShigeakiOhno2)1)DepartmentofOphthalmology,TeinekeijinkaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicineインターフェロン・リバビリン併用療法中の60歳の男性に発症した網膜中心静脈閉塞症を経験した.フルオレセイン蛍光眼底造影で黄斑部付近の網膜動脈や毛細血管の灌流障害が疑われた.このため併用療法を中止した.8カ月後に視力や視野は改善しなかったが,網膜出血や黄斑浮腫,軟性白斑は消失した.一部に無灌流域が残存していた.Wereporta60-year-oldmalewithcentralretinalveinocclusion(CRVO)inhisrighteyeduringinterferon(IFN)andrivabirintreatment.Fluoresceinangiography(FA)revealedthatretinalarteriolesorcapillariesaroundthemaculawereocculuded.Thetreatmentwasthereforeimmediatelyterminated.Eightmonthslater,visualacu-ityandvisualeldwerenotimproved,butretinalhemorrhage,macularedemaandwhitepatcheshaddisappeared,exceptforsomeoccludedvessels.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15921594,2008〕Keywords:インターフェロン,リバビリン,網膜中心静脈閉塞症.interferon,rivabirin,centralretinalveinocclusion.1592(122)0910-1810/08/\100/頁/JCLS———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081593(123)800mg/日投与によるIFN・リバビリン併用療法を開始した.治療開始時の検査ではGOT115U/l,GPT172U/l,gGTP356U/l,白血球数5,630/μl,赤血球数526×104/μl,血小板数13.7×104/μlであり,糖尿病,高血圧,腎疾患はみられなかった.治療開始2週後に突然右眼に視蒙感が生じ,その約1週間後に眼科を初診した.視力は右眼0.01(矯正不能),左眼1.2(矯正不能)で,眼圧は右眼7.9mmHg,左眼13.8mmHgであった.白内障がみられたほかは前眼部,中間透光体には特記すべき異常はみられなかった.眼底検査では右眼に網膜静脈の拡張と蛇行,火炎状や点状,しみ状の網膜出血がみられた(図1a).乳頭周囲には多数の軟性白斑があったほか,黄斑周囲および乳頭黄斑束を含む領域の網膜が淡く白濁,腫脹していた.このほか両眼の視神経乳頭で陥凹が拡大〔C/D(陥凹乳頭比)=0.8〕し篩板孔が観察された.蛍光眼底造影検査(FA)では腕網膜循環時間が28秒と延長しており,網膜静脈に灌流遅延がみられ造影後期には色素漏出があった.視神経乳頭周囲にみられた軟性白斑に一致して造影剤の流入遅延があったほか,淡く白濁していた黄斑部周囲には限局的な無灌流領域と流入遅延領域が混在していた(図2a,b).光干渉断層計(OCT)では右眼の中心窩網膜厚は333μmと肥厚し漿液性網膜離があったほか,黄斑部周囲に高輝度反射の領域がみられた(図3a).静的視野検査では左眼の下方に弓状暗点がみられ,右眼は中心10°以内と下方領域の感度低下が著明であった(図4).右眼は相対性瞳孔求心路障害(RAPD)が陽性であった.白血球数は2,630/μl,赤血球数は480×104/μl,血小板数は6.2×104/μl,HCV核酸量は発症前後の2週間に4,500KIU/mlから2,300KIU/mlへと低下していた.以上より右眼のCRVOと両眼の正常眼圧緑内図1初診時および8カ月後の右眼眼底a:初診時.網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,火炎状網膜出血がみられ,黄斑部周囲の網膜に淡い白濁がみられる.視神経陥凹拡大(C/D=0.8)もみられた.b:8カ月後.網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,網膜出血は消失したが,nerveberbundledefect様の色調がある.abacbd2初診時および8カ月後の右眼FAa,b:初診時のFA.流入遅延,無灌流領域がみられる.網膜血管透過性亢進もみられた.a:50秒後,b:10分後.c,d:8カ月後のFA.黄斑部周囲は低蛍光であり,限局的な無灌流領域がある.c:50秒後,d:9分後.ab3初診時および3カ月後の右眼黄斑部OCT所見a:初診時.中心窩網膜厚は333μmであり,網膜内層に高輝度反射がある.b:3カ月後.中心窩網膜厚は136μmである.図4初診時の静的視野検査所見右眼は中心10°以内と下方の感度低下,左眼は下方の弓状暗点がみられる.左眼右眼———————————————————————-Page31594あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(124)障(NTG)と診断した.CRVOの発生はIFN・リバビリン併用療法の副作用の可能性が疑われたので同療法を中止のうえ,NTGに対し眼圧下降薬を両眼に開始し経過を観察した.3カ月後の眼底検査では網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,出血などが減少し,OCTでは中心窩網膜厚が136μmと改善していた(図3b).初診から8カ月後には右眼視力は0.04(矯正不能)と少し改善し,眼底所見では網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,出血などは消失していた.しかし視神経乳頭の耳下側にはnerveberbundledefect(NFLD)様の色調がみられた(図1b).FAでは右腕網膜循環時間はまだ延長していた.右黄斑部周囲は低蛍光であり,限局的に無灌流域がみられた(図2c,d).静的視野は,初診時に比較して右眼の上方の感度は改善していたが,下方に著明な感度低下が残っていた.右眼のRAPDは陽性のままであった.II考按今回筆者らはIFN・リバビリン併用療法中に比較的重症なCRVOを発症した症例を経験した.今回の症例はCRVO発症前から両眼にNTGがあったと考えられた.緑内障はCRVO発生の危険因子という報告もあることから4),緑内障がCRVO発症に関与した可能性はある.しかし本症例ではIFN・リバビリン併用療法開始後に発症したことから,同併用療法がCRVOを発症した誘因の一つであったことが推測される.本症例では初診時のFAで無灌流領域が10乳頭径以内であったため非虚血型CRVOと考えられる5).しかし黄斑部周囲にみられた淡い白濁領域には,FAで流入遅延と無灌流領域が混在しており,OCTでも高輝度反射がみられて中心窩網膜厚が肥厚していたこと,9カ月後のFAでも黄斑周囲は低蛍光であったことから,中心窩毛細血管床閉塞があったことが推測された.IFN網膜症の発症機序としては,血小板減少や貧血6),遊出した肝炎ウイルスに対する免疫反応の結果形成された免疫複合体の血管壁への沈着7),IFNによる血管攣縮もしくは白血球塞栓の形成8)などがあげられており,網膜動脈や毛細血管の閉塞病変もひき起こす可能性が高いと考えられる.発症時の血液検査をみると赤血球数480×104/μl,血小板数は6.2×104/μlと低下していたが,この値からは貧血や血小板減少を本例の病態を惹起した原因として積極的に支持することはできない.発症時にHCV核酸量の急激な減少がみられた点は免疫複合体の沈着の可能性を推測させるが,その後の経過中に眼底所見が改善を呈していた時期にも一過性のHCV核酸量の減少がみられたことから発症の原因としては考えにくい.さらに発症時に白血球数の低下がみられ併用療法中止後には5,000/μl以上へと改善していたことから,IFNが白血球に影響を及ぼしていたと推測され,白血球塞栓の形成が今回の症例の原因である可能性が高いと考えられた.しかしながら,本例では単に網膜中心静脈閉塞のみが起こったのではなく,IFN・リバビリン併用療法の結果,末梢の網膜動脈や毛細血管の灌流障害も発生していたことから,複数の病因が関与してひき起こされたと推測された.このために8カ月後に眼底所見は改善したが,視力や視野は改善しなかったものと考えられた.現在IFN・リバビリン併用療法はC型慢性肝炎の患者に広く行われているが,過去の報告ではIFN単独投与に比べ網膜症発症のリスクが高い可能性が示唆されている.IFN網膜症の発症機序は諸説さまざまであり,今後も検討が必要である.IFN・リバビリン併用療法時には事前の眼科受診は重要と考えられた.本併用療法はときに重症の合併症を生じ視力予後不良となる症例があるため,事前に患者によく説明のうえ,インフォームド・コンセントを得る必要があることが示唆された.文献1)三宅和彦:インターフェロン療法─副作用とその対策.肝胆膵43:915-922,20012)中島理幾,大木隆太郎,米谷新ほか:C型慢性肝炎のインターフェロン治療に合併する網膜症とその背景因子.臨眼58:1445-1448,20043)井口俊太郎,鈴木聡志,谷口重雄ほか:新しいリバビリンとシクロスポリン併用インターフェロン療法とインターフェロン網膜症.眼臨98:851-853,20045)野崎実穂,小椋祐一郎:網膜中心静脈閉塞症の治療戦略:放射状視神経切開術(2)─視力予後からの評価.あたらしい眼科22:37-43,20014)大沼郁子:網膜静脈分枝閉塞症・網膜中心静脈閉塞症の疫学─危険因子などを中心に.あたらしい眼科22:9-11,20056)池辺徹,中塚和夫,後藤正雄ほか:インターフェロン投与中に視力障害をきたした1例.眼紀41:2291-2296,19907)宮本和久,須田秩史,本倉雅信ほか:インターフェロンa投与中にみられた網膜血管障害の検討.あたらしい眼科10:497-500,19938)中柄千明,梅津秀夫,柳川俊博ほか:インターフェロン網膜症と免疫複合体.あたらしい眼科18:817-820,2001***

心因性視覚障害に発達緑内障を合併した1例

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(117)15870910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15871591,2008cはじめに学童児の原因不明の視機能障害は,心因性視覚障害の診断で経過観察されていることが少なくなく,器質的疾患が潜在あるいは発症しても,その非特異的な視野異常ゆえ,その発見が遅れたり,見逃されたりする場合がある1).今回筆者らは,心因性視力低下および高眼圧の診断で経過観察されていた11歳児に対し,眼科学的検査を行い,発達緑内障が合併していることをつきとめた.さらに眼圧下降目的に線維柱帯切開術を施行したところ,視力および視野の改善が得られ,まれな1症例と思われたので報告する.I症例患者:11歳,男児.主訴:両眼視力低下.既往歴:なし.家族歴:いとこに心因性視力低下.〔別刷請求先〕竹森智章:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目291番地札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TomoakiTakemori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,S-1W1-16,Chuo-ku,Sapporo060-8543,JAPAN心因性視覚障害に発達緑内障を合併した1例竹森智章*1片井麻貴*2田中祥恵*1大黒幾代*1大黒浩*1*1札幌医科大学医学部眼科学講座*2札幌逓信病院眼科ACaseofPsychogenicVisualDisturbanceComplicatingDevelopmentalGlaucomaTomoakiTakemori1),MakiKatai2),SachieTanaka1),IkuyoOhguro1)andHiroshiOhguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoTeishinHospital症例は11歳,男児.両心因性視力低下,高眼圧の精査目的に札幌医科大学附属病院眼科を紹介受診.初診時視力は右眼0.02(0.25×3.0D),左眼0.04(0.32×2.5D),眼圧は右眼26mmHg,左眼26mmHgであった.隅角所見は,虹彩の高位付着と多数の虹彩突起を認めた.眼底所見は,両眼とも視神経乳頭陥凹拡大あり,緑内障性変化が考えられた.静的視野検査で両眼に著明な求心性視野狭窄を認め,緑内障性変化は不明であったが,以前にも動的視野検査にて求心性視野狭窄があることから,心因性視覚障害も有しているものと思われた.両眼に対し線維柱帯切開術を行ったところ,視力,眼圧に加えて視野も改善がみられた.本症例は緑内障と心因性視力障害が合併し,緑内障の発見が遅れた可能性がある.よって,心因性視覚障害が疑われた場合にも,くり返し隅角検査や眼底検査,眼圧検査などを行い,緑内障の有無を検索することが必要と思われた.本症例が緑内障手術を契機に視力,視野が改善した詳細な機序については不明であり,今後も経過をみていきたいと考えている.An11-yearoldmalewasreferredtoourhospitalcomplainingofbothvisualdisturbanceandocularhyperten-sion.VisualacuitywasVD=0.02(0.25×3.0D),VS=0.04(0.32×2.5D).Intraocularpressurewas26mmHginbotheyes.Gonioscopydisclosedhighinsertionoftheirisandmanyirisprocessesinbotheyes,buttherewasnoperipheralanteriorsynechia.Funduscamerashowedenlargedcuppingoftheopticnerveheadinbotheyes,indi-catingglaucomatouschange.Furthermore,staticperimetryrevealedconcentriccontractioninbotheyes,indicatingpsychogenicvisualdisturbance.Weperformedtrabeculotomyinbotheyes,afterwhichvisualacuity,intraocularpressureandvisualeldimproved,whichsuggestedthatthepatienthadalsodevelopmentalglaucoma.Althoughitisrareforapatienttohavebothglaucomaandpsychogenicvisualdisturbance,sinceglaucomamaybediscoveredlateritisnecessarytorepeatedlyperformgonioscopy,funduscopy,andtonometry,soastodeterminewhetherthepatienthasglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15871591,2008〕Keywords:心因性視覚障害,発達緑内障,求心性視野狭窄,トラベクロトミー.psychogenicvisualdisturbance,developmentalglaucoma,concentriccontraction,trabeculotomy.———————————————————————-Page21588あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(118)現病歴:2004年5月(9歳時),学校健診の際に視力低下を指摘され近医初診.視力右眼0.1(1.2×1.0D),左眼0.1(1.2×1.25D)で眼鏡処方.2005年4月(10歳時),再度学校健診の際に視力低下を指摘され前医再診.視力右眼0.02(0.06),左眼0.03(0.2)と矯正視力の低下を認め,眼圧右眼21mmHg,左眼21mmHgとやや高値であった.また,動的視野検査(図1)で右眼に著明な求心性視野狭窄,左眼にはイソプター全体の軽度の沈下が認められたため,心因性視覚障害の診断で経過観察していたところ,7月に右眼0.05(0.1),左眼0.1(1.2)と矯正視力改善するも,2006年11月(11歳時),視力右眼0.04(0.1),左眼0.04(0.1)と再び低下,眼圧も右眼24.7mmHg,左眼22.0mmHgと高値となったため,精査加療目的で2007年1月札幌医科大学附属病院(以下,当院)眼科外来を紹介受診となった.初診時所見:瞳孔は正円同大,対光反応迅速,左右差を認めなかった.視力;右眼0.02(0.25×3.0D),左眼0.04(0.32×2.5D).眼圧;右眼26mmHg,左眼26mmHg.隅角所見;虹彩の高位付着と多数の虹彩突起を認めた.前眼部,中間透光体;異常所見なし.眼底所見(図2);両眼とも乳頭径(DD)と乳頭中心から中心窩までの距離(DM)の比(DM/DD)は2.5で正常範囲であった.右眼の陥凹乳頭比(C/D比)は0.8で,上耳側にリムのnotchを認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.左眼はC/D比は0.7で,上方リムの狭細化を認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.黄斑部および周辺網膜に異常はなかった.静的視野検査(図3,当院初診時施行);両眼に著明な求図1前医で施行の動的視野検査(2005年5月)右眼に著明な求心性視野狭窄を認めた.また,左眼も軽度の求心性視野狭窄を認める.右左右左図2初診時の眼底所見両眼ともDM/DD比は2.5で正常範囲であった.右眼のC/D比は0.8で,上耳側にリムのnotchを認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.左眼はC/D比は0.7で,上方リムの狭細化を認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081589(119)心性視野狭窄を認めた.経過:2007年1月29日に当院眼科に入院.隅角所見,視神経乳頭所見,および高眼圧が続いていることから,以前より発達緑内障があるものと考えられた.さらに,視力の動揺がみられること,今回の視野検査で乳頭所見から想定される以上の著しい求心性の視野狭窄が認められることから,心因性視覚障害も合併していると考えられた.そこで,眼圧下降目的に1月31日,全身麻酔下にて両トラベクロトミーを施行した.手術は下耳側より行い,二重強膜弁を作製し,内方弁は後に切除するという定型的なもので,特に合併症はなか図4眼圧推移1月31日手術施行前は両眼とも20mmHg台の高眼圧であったが,施行後は1517mmHgで推移している.1月31日トラベクロトミー05101520253011月1月19日1月29日2月1日2月28日4月4日5月9日6月22日7月18日眼圧(mmHg)右眼眼圧左眼眼圧図3初診時当院で施行の静的視野検査両眼に著明な求心性視野狭窄を認めた.1月31日トラベクロトミー矯正視力00.20.40.60.811.21.42007/1/172007/1/312007/2/142007/2/282007/3/142007/3/282007/4/112007/4/252007/5/92007/5/232007/6/62007/6/202007/7/42007/7/182007/8/12007/8/152007/8/292007/9/12:右眼:左眼図5矯正視力の経過術後早期は測定ごとにばらつきがみられたが,4月頃改善傾向となり,9月には右眼1.25,左眼1.0まで回復している.図6平成19年6月22日施行の動的視野検査内部イソプターでnasalstepを示しており,緑内障性の変化があることをうかがわせるが,視野は両眼とも著明に改善している.———————————————————————-Page41590あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(120)った.手術施行前は両眼とも20mmHg台の高眼圧であったが,施行後は1517mmHgで推移した(図4).また,矯正視力も徐々に改善し,術後半年以上経過した9月には右眼1.25,左眼1.0であった(図5).さらに,2007年6月22日施行の動的視野検査において,右眼下耳側内部イソプターのわずかな低下を認めたほかに異常なく,両眼とも著明な改善がみられた(図6).II考按心因性視覚障害に発達緑内障を合併した症例を経験した.心因性視覚障害は,近年小児によくみられ,このなかでも視力障害が最も多いが,視野障害,色覚異常なども検査を行うと合併していることも多い1).発症は614歳の小中学校学齢期に集中し,女子が男子の34倍を占めている2).本疾患に明らかな心因を見出せることはまれで,あっても思春期によくみられる学校や家庭などの身近な問題であり,普遍的一般的で何ら特有のものではない.一方で,同胞間の葛藤や母子関係などに心因との関連を見出すことも多いとの報告もある3).一般に心因性視覚障害では,裸眼視力の大部分(75%)が0.20.7にあり矯正不能で,ほとんど(95%以上)が両眼性である.Goldmann視野検査においては,約半数が正常であるが,らせん状視野・求心狭窄・不規則反応が約半数にみられる4).また,SPP(標準色覚検査表)-Ⅱ検査で約半数に色覚のメカニズムからは説明しえない異常がみられる5).治療法としては箱庭療法に代表される芸術療法,行動療法,精神療法などがあげられおり6),予後はGoldmann視野検査所見ならびにSPP-Ⅱ所見に異常がみられた場合に視力上昇が遅れることが多いが,ほとんどが16歳までに視力を回復し,いわば学童期にみられる特異的な疾患とされている7).今回の症例は視力右眼0.02(0.25),左眼0.04(0.32)と両眼に強い視力低下および両眼の著しい求心性視野狭窄を認め,黄斑に器質的変化を認めなかったことにより心因性視覚障害と診断された.さらに,眼圧推移,隅角検査,視神経乳頭所見より発達緑内障が合併していると考えられたが,視野は非特異的であったため,緑内障の発見が遅れた可能性がある.また,本症例はトラベクロトミー施行により良好な眼圧コントロールが得られたばかりか,以降の経過において矯正視力,視野の改善もみられたことは非常に興味深い点である.もし緑内障が進行していれば視野所見は改善しないはずであり,当初の視野障害は心因性の要素も関連していると考えられた.問題点としては,視野障害のうち,何%が発達緑内障の影響で,何%が心因性視覚障害の影響なのかを定量的に測定できないこと,および前医のGoldmann視野検査と当院のGoldmann視野検査の施行者が当然ながら異なるため,アプローチの方法により得られる結果が異なっていたかもしれないという点がある.実際,他院より著明な両求心性視野狭窄にて紹介された小児の症例に対し,以下の方法によってGoldmann視野検査を行ったところ,両眼とも正常視野が得られたとの報告もある8).その方法とは,1.検者は患児に対して毅然とした態度で接する,2.測定前に30cmのところに示される視標を識別する検査であると説明する,3.両眼性であれば,低視力のほうから測定する,4.視認可能な最小の視標(可能ならⅠ/1)からⅤ/4のイソプターへと逆順に測定する,5.視標を切り替える際に,患児に視標が見やすくなることを伝える,というものである.したがって,図2のような著明な求心性視野狭窄が,はたしてどこまで正確に測定されたものであるかというところに議論の余地は残る.ただし,図6に示すように,視野が改善した後も内部イソプターでnasalstepを示しており,緑内障性の変化があったことをうかがわせる.まとめとしては,当院受診時,心因性視覚障害と発達緑内障を合併していた可能性が非常に高いと考えられ,海外の文献においても心因性視覚障害の原因,もしくは同時期の発症として発達緑内障を取り上げている文献は調べる限りにおいてなく911),非常にまれな症例であると考えられた.しかし,経過および大学初診時の所見から考えるに,発達緑内障が元々あり,それに心因性視覚障害を合併したという可能性も否定できない.特に小児においては,実際に器質的な疾患があるが,その症状を自分でうまく形容しづらいがために,その転換反応として心因性視覚障害が現れた可能性もあるからである.本症例では明らかな心因は発見できなかったが,手術を契機に視覚障害が改善しており,早期の発達緑内障が手術により進行が抑えられ,治療がうまくいったということが心身の安定にもつながったのではないかと考える.本例は11歳という就学児童であり,今後心因性視覚障害の再発もありうると思われるので,注意して経過をみていくつもりである.本症例のように,心因性視覚障害が疑われた場合でも,くり返し隅角検査や眼底検査,眼圧検査などを行い,緑内障の有無の検索をすることが必要と考えられた.本論文の要旨は第18回日本緑内障学会にて発表した.文献1)小口芳久:心因性視力障害.日眼会誌104:61-67,20022)横山尚洋:心因性視覚障害の病態と治療方針─精神医学の立場から─.眼臨92:669-673,19983)大辻順子,内海隆:心因性視覚障害児の治療経験およびその母子関係.眼臨89:750-754,19954)大辻順子,内海隆:心因性視覚障害児の病態と治療方針─母子関係に注目して─.眼臨92:658-664,1998———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081591(121)5)山出新一,黄野桃世:エゴグラムから見た心因性視覚障害.眼臨89:247-253,19956)松村香代子,中田記久子,児嶋加代ほか:心因性視力障害児の治療.眼臨94:626-630,20007)内海隆:小児の心因性視覚障害の病態と治療.神経眼科21:417-422,20048)山本節:小児の視野検査.あたらしい眼科19:1297-1301,20029)CatalanoRA,SimonJW,KrohelGBetal:Functionalvisuallossinchildren.Ophthalmology93:385-390,198610)BrodskyMC,BakerRS,HamedLM:Transient,unex-plained,andpsychogenicvisuallossinchildren.Pediatric-Neuro-Ophthalmology,p164-200,Springer-Verlag,NewYork,199611)BainKE,BeattyS,LloydC:Non-organicvisuallossinchildren.Eye14:770-772,2000***

多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(111)15810910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15811585,2008cはじめに眼圧下降は緑内障治療として現在のところ唯一根拠が明確に示された治療法である14).EBM(evidence-basedmedi-cine)に沿った治療が広く求められ,緑内障診療ガイドライン5)にもその治療方針が明記された.筆者らは,まず緑内障診断の確定,病型分類,治療開始,治療の効果判定,治療法〔別刷請求先〕中井義幸:〒225-0002横浜市青葉区美しが丘2-14-7眼科中井医院Reprintrequests:YoshiyukiNakai,M.D.,Ph.D.,NakaiEyeCenter,2-14-7Utsukushi-gaoka,Aoba-ku,Yokohama225-0002,JAPAN多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─中井義幸*1井上賢治*2森山涼*2若倉雅登*2井上治郎*2富田剛司*3*1眼科中井医院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院第2眼科CurrentStatusofGlaucomaTherapyatPrivatePracticesandaPrivateOphthalmologyHospitalYoshiyukiNakai1),KenjiInoue2),RyoMoriyama2),MasatoWakakura2),JiroInouye2)andGojiTomita3)1)NakaiEyeCenter,2)InouyeEyeHospital,3)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversity,MedicalCenterOhashiHospital緑内障患者の治療に関する実態を本研究の趣旨に賛同した施設で調査し,検討した.本研究の趣旨に賛同した22施設あるいは井上眼科病院に,平成19年3月12日から19日の間に外来受診した緑内障,高眼圧症患者1,935例1,935眼(男性768例,女性1,167例)を対象とした.受診患者の緑内障病型,手術既往歴,使用薬剤を調査した.緑内障病型は,正常眼圧緑内障47.4%,(狭義)原発開放隅角緑内障34.4%,原発閉塞隅角緑内障7.2%,続発緑内障6.1%,高眼圧症3.7%であった.手術既往歴は,なし1,772例,線維柱帯切除術122例,線維柱帯切開術11例であった.使用薬剤数は,なし11.9%,1剤44.7%,2剤27.5%,3剤12.1%,4剤3.3%,5剤0.4%,6剤0.05%であった.使用薬剤は,ラタノプロスト1,125例,イオン応答ゲル化チモロール240例,カルテオロール209例,チモロール205例,ブリンゾラミド195例,ドルゾラミド184例などであった.単剤使用例(865例)では,ラタノプロスト47.6%,カルテオロール9.7%,チモロール7.3%,イオン応答ゲル化チモロール7.1%,ニプラジロール6.2%,b遮断薬後発品6.0%,ウノプロストン5.8%であった.2剤使用例(532例)では,ラタノプロスト+b遮断点眼薬54.5%,ラタノプロスト+炭酸脱水酵素阻害薬15.6%であった.今回調査した施設では正常眼圧緑内障患者が多く,薬剤は2剤までの使用が多く,ラタノプロストが最も多く使用されていた.Weinvestigatedthecurrentstatusofglaucomatherapyatprivatepracticesandaprivateophthalmichospital.Includedinthisstudywere1,935patientswithglaucomaandocularhypertensionwhovisited22privatepracticesandInouyeEyeHospitalduringtheweekofMar12,2007.Ofthesepatients,47.7%hadnormal-tensionglaucoma,34.4%hadprimaryopen-angleglaucomaand7.2%hadprimaryangle-closureglaucoma.Medicaltherapyonlywasreceivedby1,772patients;122patientsunderwenttrabeculectomyand11patientsunderwenttrabeculoto-my.Onedrugalonewasprescribedin44.7%ofcases,2drugsin27.5%,3in12.1%,4in3.3%,5in0.4%and6in0.05%.Latanoprostwasmostoftenprescribed(1,125cases);beta-blockingagentwasprescribedthesecondmostoften(654cases).Topicalcarbonicanhydraseinhibitoryagentwasprescribedin379cases.Latanoprostandbeta-blockingagentwereusedincombinationin54.5%ofcases.Useoftopicalcarbonicanhydraseinhibitorasanadjuncttolatanoprostwasseenin15.6%ofcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15811585,2008〕Keywords:眼科診療所,眼科専門病院,緑内障治療薬,治療の実際.privatepractice,ophthalmichospital,glau-comamedication,currentstatus.———————————————————————-Page21582あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(112)の見直しといった,第一段階として現状の把握と,その対策が必要であると考えている.日本の緑内障の疫学調査として多治見スタディの報告がある6).また過去に,国立大学病院や,公的中核病院での緑内障治療の実態に関する報告がなされた7,8).しかしながら,眼科医療の前線である一般医院などにおいての緑内障全般ならびに高眼圧症に対する治療の実態は,これまで報告されていない.そこで今回筆者らは,私立の眼科診療所ならびに眼科専門病院での緑内障治療の実態につき調査した.I対象および方法研究の趣旨に賛同した23施設(図1)において,平成19年3月12日から同19日までの調査期間内に,外来を受診した緑内障および高眼圧症を対象とし,片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合は右眼を調査対象眼とした.緑内障の診断,管理は,緑内障診療ガイドライン8)に則り,各施設の判断で行った.これらの各施設にあらかじめ調査票を送付して,診療録から最終診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤,手術既往を調査し,すべての調査票を(医)済安堂井上眼科病院医局に設置した集計センターにて回収し集計を行った.II結果対象の内訳は,1,935例1,935眼(男性768例,女性1,167例),年齢は66.8±13.5歳(平均±標準偏差,9102歳)であった.病型の内訳を図2に示す.正常眼圧緑内障918例(47.4%)で,(狭義)原発開放隅角緑内障665例(34.4%),続発緑内障119例(6.1%),原発閉塞隅角緑内障139例(7.2%),高眼圧症は72例(3.7%)であった.緑内障手術は163例(8.4%)で行われていた.術式は線維図1参加施設じ井おの井上お原は中中井おおお山の山田正常眼圧緑内障原発閉塞隅角緑内障7.2%高眼圧症3.7%その他1.1%原発開放隅角緑内障34.4%続発緑内障6.1%47.4%図2病型の内訳———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081583(113)柱帯切除術が122例(74.8%),線維柱帯切開術が11例(6.7%),線維柱帯切除術と線維柱帯切開術の両方の手術が1例(0.6%)であった.何らかの眼圧下降手術を行ってあるものの,術式不明であったものが25例(15.3%)であった.手術施行の有無が不明であったものが5例(3.1%)あった.緑内障および高眼圧症に対する薬剤数は,1剤が865例(44.7%),2剤が532例(27.5%),3剤が235例(12.1%),4剤が64例(3.3%),5剤が8例(0.4%),6剤が1例(0.05%)であった(図3).正常眼圧緑内障で経過観察中の症例,高眼圧症で緑内障視神経症を認めず,視野が正常であるため,経過観察のみ行っている症例,すでに濾過手術などの眼圧下降手術を施行してある症例などで,無投薬であったものが230例(11.9%)であった.使用薬剤の内訳は,ラタノプロストが圧倒的に多く,1,125例で使用されていた(表1).すべてのb遮断薬ならびにab遮断薬は合わせて931例に使用されていた.炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬はブリンゾラミド195例,ドルゾラミド184例で使用されていた.炭酸脱水酵素阻害薬の内服薬は47例で使用されていた.単剤のみ使用している症例の使用薬剤は,ラタノプロスト412例(47.6%),ゲル化剤を含めたチモロール125例(14.4%),カルテオロール84例(9.7%),ニプラジロール54例(6.2%)などであった(図4).2剤併用例の組み合わせは,ラタノプロスト+b遮断薬が最も多く290例(54.5%),b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬は103例(19.4%),ラタノプロスト+炭酸脱水酵素阻害薬は83例(15.6%)であった(図5).III考按平成18年10月に緑内障診療ガイドライン(第2版)が発表された8).ガイドラインに明確に示されているように,緑内障性視神経症の有無の判定,そして病型診断,あらゆるベースライン値の取得が,緑内障診療の基本である.それらの基本データを踏まえ,治療の必要性の有無を判断し,適切な管理がなされなければならない.治療が必要となった場合,表1使用薬剤の内訳プロスタグランジン関連薬イソプロピルウノプロストン95眼ラタノプロスト1,125眼b遮断薬(ab遮断薬含む)チモロール205眼1,076眼チモロールゲル化剤240眼チモロール熱応答型ゲル化剤91眼カルテオロール230眼ベタキソロール36眼レボブノロール30眼ニプラジロール124眼後発品120眼炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド184眼ブリンゾラミド195眼アセタゾラミド47眼a1遮断薬ブナゾシン162眼交感神経遮断薬ジピベフリン40眼副交感神経刺激薬ピロカルピン28眼9.7%ラタノプロスト47.6%ウノプロストン5.8%その他10.3%b遮断薬後発品6.0%ニプラジロール6.2%チモロールゲル化製剤7.1%チモロール7.3%カルテオロール(n=865)図4使用薬物の内訳(単剤使用時)1剤44.72剤27.53剤12.14剤3.35剤0.46剤0.05なし11.9(n=1,935)図3使用薬剤数+炭酸脱水酵素阻害薬10.5%ラタノプロスト+b遮断薬54.5%ラタノプロストを含まない組み合わせ19.4%ラタノプロスト+その他(n=532)図52剤併用の内訳———————————————————————-Page41584あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(114)原疾患のあるものはまず原疾患の治療が優先されるべきである.原発性であるならば,唯一有効性が確認されている治療である,眼圧下降を行う必要がある.今回の研究は,個人眼科医院ならびに眼科専門病院における緑内障診療の実態に迫るのが目的であった.診療内容につき調査すべき項目は非常に多岐にわたるため,特に薬物治療に主眼を置いて調査を行った.病型診断,治療目標については緑内障診療ガイドラインに沿って行い,その詳細は各施設の判断に任せた.病型は広義の原発開放隅角緑内障が約80%を占めた.正常眼圧緑内障は47.4%,狭義の原発開放隅角緑内障は34.4%であった.原疾患にかかわらず,手術既往の有無,眼圧下降薬の使用状況のみに的を絞り,その治療内容を調査した.眼圧下降薬を選択する際,第一選択薬は,強力な眼圧下降作用のあるプロスタグランジン関連製剤が使用されることが近年多くなっている.古くより使用されていたb遮断薬は,呼吸器系,循環器系に対する影響が無視できず制約があるため使いづらい面がある.今回の調査でもこのことを反映している結果が得られた.第一選択薬のみで十分な眼圧下降が得られない場合,他剤に変更するなどして,それでもなお眼圧下降が不十分であればもう1剤追加をする.プロスタグランジン関連薬がすでに使用されている場合は,全身状態が許せばb遮断薬を,b遮断薬がすでに使用されている場合はプロスタグランジン関連薬を追加するのが効果的であるとされている9,10).今回の調査結果では,12剤までを使用し治療されている症例が実に72.2%を占めた.その組み合わせはプロスタグランジン関連薬+b遮断薬が最も多く,ついでb遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬,そしてプロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬となった.これは上述したような組み合わせの「ガイドライン」に沿った治療法が一般的に浸透していることを示していると考えられる.3剤以上使用している例は15.9%にみられた.3剤以上を使用する場合コンプライアンスの低下が問題となる.このため,できるかぎり2剤までの使用で目標眼圧を達成することが望ましいわけで,その組み合わせが重要となる.調査対象の平均年齢が66.8歳で,治療を必要とする患者の大半が高齢者であることを考慮すると,少ない薬剤数,点眼回数による治療が望ましく,個人眼科医院,眼科専門病院でも治療の原則が実践されていると理解できる.過去に,石澤らが手術既往のない,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,偽落屑緑内障に対する大学病院における薬物治療の実態を報告した7).この報告ではラタノプロストとb遮断薬の使用頻度が高く,薬物数は3剤までが多かった.一方,清水らは大学病院およびその関連病院における薬物治療の実態を,手術既往のない症例で,1)正常眼圧緑内障,2)原発開放隅角緑内障,3)その他の緑内障の3つの群に分けて調査した8).すべての群において,プロスタグランジン関連薬が第一選択であった.薬物数は正常眼圧緑内障群ではすべてで,他の2群でも約90%は3剤までであった.これらの報告と今回の調査を比較すると,プロスタグランジン関連薬の使用が最も多く,3剤までの使用が多いという点で同様であった.一方,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬の使用も一般的になりつつある.炭酸脱水酵素阻害薬は単剤での使用は眼圧下降効果がやや劣るため単剤では使用しづらい913).しかしながら,眼局所ならびに全身に対する副作用が少ないことから,併用療法には有利であると期待される1113).今回の調査でも,2剤併用療法でプロスタグランジン関連薬に加えるまたはb遮断薬に加えて使用される傾向が確認できた.緑内障は高齢者に対する治療が多く,今後わが国においても合剤の使用が認められるならば,治療のコンプライアンス向上ならびにさらに多様な併用療法の実行に結びつくと考えられる.今回の調査では手術既往のない症例が大多数を占めたのは,入院施設を持たない診療所による管理の特徴の表れといえよう.薬物のみでの治療が可能であれば一般医院・眼科専門病院における緑内障管理が可能となり,患者のQOL(qualityoflife)の向上にもつながると考えられる.本論文の要旨は第18回日本緑内障学会にて発表した.謝辞:本調査に参加し,診療録の調査,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に,深く感謝します.文献1)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencon-trolofintraocularpressureandvisualelddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20002)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal,fortheCIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollabora-tiveInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthal-mology108:1943-1953,20013)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal,andtheOcularHypertensionTreatmentStudyGroup:TheOcu-larHypertensionTreatmentStudy.Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglau-coma.ArchOphthalmol120:701-713,20024)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20025)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20066)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal,fortheTajimiStudyGroupandJapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081585(115)7)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20068)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20069)SchwartzK,BudenzD:Currentmanagementofglauco-ma.CurrOpinOphthalmol15:119-126,200410)白土城照:緑内障の薬物療法他剤併用の考え方.眼科診療プラクティス70(緑内障の薬物治療):2-6,200111)MichaudJ-E,FrirenB,TheInternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzol-amide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:235-243,200112)MarchWF,OchsnerKI,TheBrinzolamideLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyandecacyofbrinzolamide1.0%(AzoptTM)inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol129:136-143,200013)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressureloweringeectofbrinzolamide1.0%asadjunctivethera-pytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglaucomaorocularhypertension:anuncontrolled,open-labelstudy.CurrMedResOpin21:503-508,2005***

顔面神経麻痺形成術によって角膜混濁に対する角膜移植が施行できた1例

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(107)15770910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15771579,2008cはじめに顔面神経麻痺による兎眼は,眼輪筋機能低下に伴う閉瞼機能不全と下眼瞼の下垂および外反によって発症する.眼科医による兎眼に対する治療はおもに点眼や眼軟膏などの内科的治療であるが,角膜表面の障害は慢性的に残存し,乾燥感や異物感の治療に難渋することも多い.眼輪筋麻痺によるlidwiping機能の破綻は角膜のバリア機能の減弱・喪失を意味し,慢性的な角膜上皮障害と角膜感染をひき起こすことがある1).角膜白斑は慢性兎眼性角膜炎のみでも発症することがあるが,特に角膜感染例では感染が消退した後でも重篤な視力障害が残存する.このような角膜白斑に対し角膜移植を施行するにあたっては眼表面が良好な状態であることが望ましいが,眼表面と眼瞼は密接にかかわっているため,開閉瞼を含めた眼瞼機能が正常であることが必要とされる.今回筆者らは,顔面神経麻痺と兎眼に伴った感染性角膜炎後の角膜混濁に対し,lidloading法と下眼瞼形成術を施行す〔別刷請求先〕鹿嶋友敬:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科Reprintrequests:TomoyukiKashima,M.D.,DepartmentofOculoplasticandOrbitalSurgery,SeireiHamamatsuHospital,2-12-12Sumiyoshi,Naka-ku,Hamamatsu-shi430-8558,JAPAN顔面神経麻痺形成術によって角膜混濁に対する角膜移植が施行できた1例鹿嶋友敬*1嘉鳥信忠*1柳田和夫*2*1聖隷浜松病院眼形成眼窩外科*2やなぎだ眼科医院ACaseofKeratoplastyfollowingEyelidReconstructionforFacialNervePalsyTomoyukiKashima1),NobutadaKatori1)andKazuoYanagida2)1)DepartmentofOculoplasticandOrbitalSurgery,SeireiHamamatsuHospital,2)YanagidaEyeClinic緒言:兎眼による角膜混濁などの視力障害には角膜移植が適応となるが,兎眼の改善が必要である.筆者らは顔面神経麻痺再建術で兎眼の改善が得られたため角膜移植が施行できた症例を報告する.症例:53歳,女性.18歳時に左顔面神経麻痺による兎眼を発症.2年前に角膜潰瘍を発症し視力は光覚弁となった.角膜移植には兎眼の改善が必要であることから顔面神経麻痺再建術を施行した.上眼瞼はgoldplateを瞼板に縫着し眼瞼挙筋腱膜で被覆した.下眼瞼は耳介軟骨を採取し,内眼角靱帯と眼窩外側縁より後方の骨膜に縫着,挙上させた.結果:術翌日より閉瞼可能となり,整容的にも満足が得られた.3カ月後に角膜移植と白内障手術を施行し矯正視力(1.0)に改善した.考按:顔面神経麻痺による兎眼患者に対して手術を施行することで角膜障害のリスク自体を低下させることができた可能性がある.眼科医こそ眼表面の改善のために再建術を考慮すべきと考えられた.Lagophthalmoscausesvisualimpairment,followedbyinfection.Wereportapatientwithlagophthalmoswhorecoveredfollowingeyelidreconstruction.Shewasabletoundergocornealkeratoplastyafterresolutionofthelagophthalmos.Thepatient,a53-year-oldfemale,presentedwitha35-yearhistoryofleftfacialpalsy.Visualacu-itywaslightperception,asaresultofcornealinfection.Wetransplantedgoldplatetothetarsusoftheuppereye-lid;earcartilage,anchoredtothemedialcanthaltendonandperiosteumofthelateralrim,wasusedtoxandliftthelowereyelid.Thepatientwasabletoclosetheeyeonthefollowingday.Cosmeticsatisfactionwasachieved.Keratoplastyandcataractsurgerywerethenperformed,afterwhichthecorrectedvisualacuityimprovedto20/20.Thereconstructionoflagophthalmosdecreasestheriskofcornealdamage.Thepresentcasesuggeststhatsurgicalreconstructionoflagophthalmosisrecommended,inordertoprotecttheocularsurface.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15771579,2008〕Keywords:顔面神経麻痺,兎眼,角膜移植,再建術,lidloading法.facialnervepalsy,lagophthalmos,kerato-plasty,reconstruction,lidloadingmethod.———————————————————————-Page21578あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(108)ることで兎眼の改善が得られたため,角膜移植を施行し良好な視力回復が得られた症例を報告する.I症例症例は53歳,女性.18歳時に脳腫瘍手術を施行され,その後左顔面神経麻痺による兎眼を発症した.兎眼性角膜炎に対し点眼や軟膏点入による加療を行っていたが,2年前に真菌性角膜潰瘍を発症した.角膜潰瘍は抗真菌薬で軽快したが,角膜混濁が残存し視力障害をきたした.兎眼があり角膜移植は適応外であったため,兎眼の改善とその後の角膜移植を目的に聖隷浜松病院眼形成眼窩外科を紹介受診となった.初診時,左眼矯正視力は光覚弁であった.顔面神経本幹の完全麻痺による眉毛下垂,上眼瞼皮膚弛緩を認めた.強閉瞼で閉瞼不全と下眼瞼下垂および外反のため,角膜中央部で4mmの兎眼を呈し,通常の瞬目では強度の閉瞼不全を起こしていた.細隙灯顕微鏡所見では,角膜全体に及ぶ新生血管侵入と実質混濁,乾燥による強度の結膜充血がみられた(図1).術前に重りを上眼瞼に貼布し,十分な開閉瞼機能の獲得に最適な重量と思われた1.4gのgoldplateを選択した.手術は全身麻酔下で施行した(図2).上眼瞼は重瞼線に沿って25mm幅で皮膚切開ののち,眼輪筋と瞼板前面のleva-toraponeurosisを切開し瞼板に到達した.そこから尾側に瞼板とaponeurosisの間を離,頭側にMuller筋とlevatoraponeurosisの間を離しgoldplate移植のための空間を作製した.Goldplateは眼瞼の形状に合わせて弯曲させた.これを瞼板に7-0ナイロン糸で縫着し,levatoraponeurosisでその前方を被覆した.睫毛内反の予防のため睫毛側皮下と瞼板を縫着した.下眼瞼の下垂・外反には,睫毛下2mmで25mmの幅で皮膚切開し瞼板まで到達した後lowereyelidretractorsを露出し,瞼板との境界で切離し,そのまま下方へ結膜から離した.耳介軟骨の一部を30×5mmで採取し,内側はmedialcanthaltendonに,外側は眼窩外側縁より2mm後方の骨膜に5-0ナイロン糸で縫着した.瞼板と耳介軟骨,lowereyelidretractorsと耳介軟骨を7-0ナイロン糸で固定した.最後に皮膚を縫合した.II結果術翌日からgoldplateによって上眼瞼が容易に降下し,下眼瞼下垂も矯正されたため,強閉瞼せずとも平常の瞬目でも完全閉瞼が得られ,兎眼は消失した.これらに伴い術1カ月図2手術所見(上:頭側,右:耳側)左上:上眼瞼切開の後,Muller筋と挙筋腱膜を離.右上:aponeurosisの後方にgoldplateを移植する.左下:耳介軟骨採取.右下:耳介軟骨をmedialcanthaltendonと眼窩外壁骨膜へ縫着.図1初診時写真上:開瞼時.左側眉毛下垂,下眼瞼下垂および外反症による下方強膜露出とそれらに伴う兎眼性充血を認める.下:閉瞼時.強く閉瞼するが,5mmの兎眼が存在する.右:前眼部.角膜全体に全層性角膜混濁と角膜輪部の新生血管がみられる.図3顔面神経麻痺形成術後写真上:開瞼時.下眼瞼下垂は修正されており下方強膜は露出していない.Goldplateは目立たない.下:閉瞼時.軽い閉瞼でも兎眼0mmへ改善した.Goldplateが軽度浮き上がる.右:前眼部.角膜移植+白内障手術後.移植角膜の透明性は保たれている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081579(109)後には下方強膜の露出や結膜充血は改善された.Marginreexdistanceは3mmであり,goldplateの移植に伴う開瞼障害はなかった.また,goldplateは閉瞼時には上眼瞼の皮下にその輪郭が軽度浮き上がるが,開瞼時にはlevatoraponeurosisの運動ベクトルと同様に後上方の眼窩内に引き込まれるため外見上問題とならなかった.兎眼形成手術3カ月後に角膜移植術と白内障手術を施行し,最終的に左眼矯正視力(1.0)と大幅に改善した.下眼瞼下垂や結膜充血のため醜形となっていたが,手術によって改善されたため整容的にも満足が得られた(図3).頻回の内科的治療は不要となったが,就寝時にはgoldplateの重力がかからず兎眼が残存しているため,就寝前の眼軟膏は継続している.III考按顔面神経麻痺に伴う兎眼症例に対し,形成術を施行し,完全な閉瞼を得,後に角膜移植を施行し良好な視力を得ることができた.兎眼に対する治療には,点眼や眼軟膏を用いられることが多いが,これらは姑息的加療である.本症例のように完全麻痺の患者の場合,眼瞼形態の異常は重篤となり,眼表面の正常化は困難であることが多い.よって,顔面神経麻痺による兎眼患者に対しては,良好な視機能を維持するために兎眼矯正が選択されるべきであると思われた.本症例は18歳時の手術から33年間慢性的な角膜障害が存在するものの,その程度は軽度であった.しかしその後重篤な角膜障害を発症した.原因として,慢性的な角膜炎に加え,加齢による涙液・油脂分泌低下および眼輪筋の痙性低下や弾性線維などの支持組織の退行性変化による下眼瞼の下垂の増悪が考えられた.よって,手術を早期に施行することによって角膜障害発症のリスク自体も低下させることができた可能性があると思われた.顔面神経麻痺では眼輪筋および前頭筋の麻痺によって眉毛下垂や上眼瞼皮膚余剰,下眼瞼外反が起こる.その一方でlevatoraponeurosisやMuller筋は神経支配が異なるため正常である.顔面神経麻痺に対する再建術は眼瞼周囲の構造を吊り上げるのと同時に,goldplateの重量で閉瞼させるlidloadingという一見矛盾した術式であるが,眼瞼挙上が正常であればgoldplate1.4gの重量は眼瞼下垂を起こすような重さではなく,機能の回復を目指した理にかなった術式である.Goldplate移植の術後合併症としてgoldplateが露出すること2)や,乱視成分が増加することが知られている3).これはgoldplateの形状が眼表面と微細な差があるためであると考えられる.今回の症例では角膜移植を施行しており乱視についての検討はしていないがgoldplateの露出はなく,goldplateを眼表面の形状に合わせて曲げることでこれらの合併症を回避できると考えた.顔面神経麻痺による兎眼に対してはgoldplate移植29),platinumchain移植9),耳介軟骨移植10)やlateraltarsalstrip11)など多くの報告がある.しかしその多くは形成外科による整容面,開閉瞼機能面での報告であり眼科からの報告はわずかである4,5,10).眼表面の診察を行う眼科外来で内科的治療が行われていることも多く経験するが,角膜びらんや結膜充血などの前眼部所見やバリア機能の改善のためにも眼科医が率先して早期より兎眼形成術を選択すべきと思われた.本論文の要旨は第32回角膜カンファランスで報告した.文献1)KakizakiH,ZakoM,MitoHetal:Filamentarykeratitisimprovedbyblepharoptosissurgery:twocases.ActaOphthalmolScand81:669-671,20032)ChoiHY,HongSE,LewJM:Long-termcomparisonofanewlydesignedgoldimplantwiththeconventionalimplantinfacialnerveparalysis.PlastReconstrSurg104:1624-1634,19993)SalehGM,MavrikakisI,deSousaJLetal:Cornealastig-matismwithuppereyelidgoldweightimplantationusingthecombinedhighpretarsalandlevatorxationtech-nique.OphthalPlastReconstrSurg23:381-383,20074)太根伸浩:麻痺性兎眼症の静的再建における長期間の検討GoldWeightImplantによるLidLoading法について.眼臨101:990-996,20075)渡辺彰英,嘉鳥信忠:オキュラーサーフェスを考慮した眼瞼へのアプローチ─オキュラーサーフェスを考慮した眼瞼の形態的・機能的再建.眼科手術20:339-345,20076)AggarwalE,NaikMN,HonavarSG:Eectivenessofthegoldweighttrialprocedureinpredictingtheidealweightforlidloadinginfacialpalsy:aprospectivestudy.AmJOphthalmol143:009-1012,20077)TerzisJK,KyereSA:Experiencewiththegoldweightandpalpebralspringinthemanagementofparalyticlago-phthalmos.PlastReconstrSurg121:806-815,20088)SeiSR,SullivanJH,FreemanLNetal:Pretarsalxationofgoldweightsinfacialnervepalsy.OphthalPlastRecon-strSurg5:104-109,19899)BerghausA,NeumannK,SchromT:Theplatinumchain:anewupper-lidimplantforfacialpalsy.ArchFacialPlastSurg5:166-170,2003.10)丸山直樹,渡辺彰英,嘉鳥信忠ほか:耳介軟骨を用いた下眼瞼の形態的,機能的再建.あたらしい眼科24:943-946,200711)ChangL,OlverJ:Ausefulaugmentedlateraltarsalstriptarsorrhaphyforparalyticectropion.Ophthalmology113:84-91,2006***

ラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(103)15730910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15731576,2008cはじめにブリンゾラミド点眼薬は,懸濁性点眼液で緑内障および高眼圧症の治療薬として1日2回点眼で使用する炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)で,わが国では2002年に承認された.眼圧下降のメカニズムは,炭酸脱水酵素(carbonicanhydrase:CA)のアイソザイムII型に対する選択的な阻害作用によって房水産生を抑制することである1).ラタノプロスト点眼薬はその強力な眼圧下降作用により近年緑内障治療の第一選択薬となっている.しかし,眼圧下降が不十分な症例では他の点眼薬の追加投与が必要となる.眼圧下降の機序を考慮すると,房水産生を抑制するb遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害薬点眼薬があげられる.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の報告はある26)が,投与期間が8週間3カ月間と短期間の報告が多く25),1年間以上の長期間の報告は少ない6).さらに原発開放隅角緑内障(広義)や高眼圧症に対する報告は多い36)が,正常眼圧緑内障に対する報告は少なく7),投与期間も3カ月間と短い.今回,ラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障(広義)患者に,ブリンゾラミド点眼薬を12カ月間追加投与した際の眼圧下降と視野維持効果,副作用を検討した.さらに,緑内障の病型〔原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障〕による眼圧下降効果の違いを検討した.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法井上賢治*1小尾明子*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEectandSafetyofBrinzolamideAddedtoLatanoprostKenjiInoue1),AkikoKoh1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障22例22眼に1%ブリンゾラミドを追加投与し,12カ月間の眼圧下降効果および副作用を検討した.ブリンゾラミド追加投与前の眼圧は17.0±2.2mmHg,投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで投与前に比べ有意に眼圧が下降した(p<0.0001).Humphrey視野計のmeandeviation(MD)値は,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時(10.6±6.7dB)と同等であった.副作用は20.8%で出現し,霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬は,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.Overaperiodof12months,weevaluatedthesafetyandhypotensiveeectof1%brinzolamidetherapyaddedtolatanoprostin22eyesof22cases.Glaucomatypesexaminedcomprisedprimaryopen-angleglaucomain9eyesandnormal-tensionglaucomain13eyes.Inalleyes,thebaselineintraocularpressure(IOP)averaged17.0±2.2mmHg;IOPafter1monthoftreatmentaveraged15.0±2.6mmHg,after3months14.8±2.4mmHg,after6months14.8±2.2andafter12months14.8±1.7mmHg(p<0.0001).TheHumphreyvisualeldtestmeandevia-tionat12monthsaftertreatmentwassimilartothatbeforetreatment.Theoccurrenceofadverseeventsin5cases(20.8%)shouldbenoted.Inconclusion,thesendingsshowthatbrinzolamideissafeandeectiveforopen-angleglaucomaasanadditionaltherapytolatanoprostfor12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15731576,2008〕Keywords:ラタノプロスト点眼薬,ブリンゾラミド点眼薬,原発開放隅角緑内障,眼圧,視野.latanoprost,brinzolamide,primaryopen-angleglaucoma,intraocularpressure,visualeld.———————————————————————-Page21574あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(104)I対象および方法2003年3月から2006年6月の間に井上眼科病院に通院中の原発開放隅角緑内障(広義)患者で,ラタノプロスト点眼薬を単剤で2カ月間以上使用(平均使用期間26.7±20.8カ月,264カ月)(平均±標準偏差)しているが,緑内障病期に応じた目標眼圧に到達していない症例に対して,1%ブリンゾラミド点眼薬を追加投与し,12カ月間以上の経過観察ができた22例22眼(男性7例,女性15例)を対象とした.年齢は66.5±9.5歳(4782歳)であった.緑内障の病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)9例,正常眼圧緑内障13例であった.点眼薬追加投与前の眼圧(追加投与1カ月前と追加投与時の平均)は17.0±2.2mmHg(1321.5mmHg),Humph-rey視野中心30-2SITA-STANDARDプログラムのmeandeviation(MD)値は9.7±6.7dB(23.60.9dB)であった.Humphrey視野は追加投与前3カ月以内に行った検査での値を用いた.固視不良が20%を超える,あるいは偽陽性や偽陰性が30%を超える症例は除外した.ブリンゾラミド点眼は1日2回で,原則として朝夕12時間ごとの点眼とした.アセタゾラミド内服中の症例,白内障以外の内眼手術やレーザー手術の既往例は除外した.白内障手術既往例(5例)は術後3カ月以内の症例は除外した.眼圧は,原則として1カ月ごと12カ月間にわたりGold-mann圧平眼圧計で同一の検者が測定した.患者ごとにほぼ同一の時間に毎月来院してもらい,眼圧を測定した.全症例(22例),原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例),正常眼圧緑内障症例(13例)に分けて,ベースライン(ブリンゾラミド点眼追加投与時と投与1カ月前の平均)とブリンゾラミド点眼薬追加投与1,3,6,12カ月後の眼圧をANOVA(analy-sisofvariance)およびBonferroni/Dunnet法で比較した.投与12カ月後の眼圧とベースラインとの差から眼圧下降率を算出した.Humphrey自動視野計のプログラム中心30-2SITA-STANDARDを,追加投与前と投与6,12カ月後に行い,そのMD値をANOVAで比較した.両眼投与例では右眼を,片眼投与例では患眼を解析眼とした.有意水準は,p<0.05とした.各検査は趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は,全症例(22例)ではベースライン17.0±2.2mmHg,追加投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1a).病型別では,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では,ベースライン18.7±1.8mmHg,追加投与1カ月後16.8±1.9mmHg,3カ月後16.4±2.4mmHg,6カ月後15.8±1.9mmHg,12カ月後15.6±1.4mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1b).正常眼圧緑内障症例(13例)では,ベースライン15.8±1.5mmHg,追加投与1カ月後13.8±2.3mmHg,3カ月後13.6±1.7mmHg,6カ月後14.1±2.2mmHg,12カ月後14.3±1.8mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1c).全症例での投与12カ月後の眼圧下降幅は1.5±1.6mmHg(1.53.5mmHg),眼圧下降率は12.0±10.2%(10.330.0%)で,眼圧下降率10%未満が9例(40.9%),10%以上20%未満が8例(36.4%),20%以上が5例(22.7%)であった.Humphrey視野計のMD値は全症例では,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時追加投与前b.原発開放隅角緑内障(狭義)症例c.正常眼圧緑内障症例a.全症例1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後0101214161820************眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)0101214161820220101214161820図1ブリンゾラミド追加投与前後の眼圧(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法;*p<0.0001)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081575(105)(10.6±6.7dB)と同等であった(p=0.87)(図2).副作用は20.8%(5例/24例)で出現した.その内訳は霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬が中止になったのは,異物感と眼の鈍痛が追加投与1カ月後に出現した各1例であった.これら2症例は眼圧下降効果の解析からは除外した.III考按0.5%チモロール点眼薬やラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による眼圧下降効果が報告されている28).0.5%チモロール点眼薬にブリンゾラミド点眼薬を追加投与した原発開放隅角緑内障および高眼圧症118例では,3カ月間投与で眼圧がベースライン(24.125.5mmHg)から3.65.3mmHg(眼圧下降率14.122.0%)有意に下降した2).ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の眼圧下降効果は,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症に対して多数報告されている36).8週間投与(11例)でベースライン(20.6±2.9mmHg)から2.42.5mmHg(眼圧下降率11.612.1%)3),3カ月間投与(14例)でベースライン(21.1±4.8mmHg)から4.25.2mmHg(眼圧下降率19.924.6%)4),12週間投与(15例)でベースライン(17.8±1.7mmHg)から1.92.0mmHg(眼圧下降率10.711.2%)5),12カ月間投与(10例)でベースライン(19.8±5.3mmHg)から4.05.7mmHg(眼圧下降率18.223.0%)6)それぞれ有意に眼圧が下降した.一方,正常眼圧緑内障に対しては3カ月間投与(20例)で眼圧がベースライン(14.6±1.0mmHg)から1.6mmHg(眼圧下降率10.1%)7)有意に下降した.ラタノプロスト点眼薬あるいはb遮断点眼薬に6カ月間投与(18例)で眼圧がベースライン(16.3±2.5mmHg)から0.91.4mmHg(眼圧下降率5.58.6%)有意に下降した8).今回の12カ月間の追加投与の眼圧下降幅と眼圧下降率は,全症例(22例)では2.2mmHgと12.0%,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では3.1mmHgと16.6%,正常眼圧緑内障症例(13例)では1.5mmHgと9.5%で,過去の報告38)とほぼ同等であった.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による視野の変化についての報告は過去になく,今回の12カ月間投与においては視野が悪化した症例はなかった.しかし,視野に関してはさらに長期的に評価する必要があり,今後も経過観察を続ける予定である.ラタノプロスト点眼薬への追加投与によるブリンゾラミド点眼薬の副作用は,12週間投与では,角膜上皮障害1例(6.3%),顔面紅潮1例(6.3%)で,顔面紅潮症例が投与中止になった5).3カ月間投与では,角膜上皮障害2例(14.3%),結膜充血2例(14.3%),眼脂増加1例(7.1%)で,投与中止となった症例はなかった4).12カ月間投与では,角膜上皮障害2例(11.8%),結膜充血1例(5.9%),頭痛1例(5.9%)で,結膜充血と頭痛の症例が投与中止になった6).0.5%チモロール点眼薬への追加投与では副作用が3カ月間投与で14.7%(17例/116例)出現した2).そのうち1%以上の症例で発現した副作用は,気分不快感2例(1.7%),霧視2例(1.7%),味覚倒錯3例(2.6%)であった.報告により副作用発現の頻度は違うが,これは副作用をどのように定義するかによっても異なるためと思われる.今回は,過去の報告2,4,5)と同様あるいはそれ以上の20.8%に副作用が出現したが,重大な副作用は認められず,ブリンゾラミド点眼薬は比較的安全に使用できると考えられる.ブリンゾラミド点眼薬は,原発開放隅角緑内障(広義)症例に対して,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.ラタノプロスト点眼薬につぐ緑内障治療薬の第二選択薬として期待できる薬剤である.文献1)DeSantisL:Preclinicaloverviewofbrinzolamide.SurvOphthalmol44(Suppl2):S119-S129,20002)MichaudJ-E,FrirenB,TheInternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzol-amide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:235-243,20013)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20054)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressurelowingeectofbrinzolamide1.0%asadjunctivetherapytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglauco-MD値(dB)追加投与前6カ月後12カ月後0.0-2.0-4.0-6.0-8.0-10.0-12.0-14.0-16.0-18.0-20.0図2全症例でのブリンゾラミド追加投与前後のmeandeviation値(ANOVA)———————————————————————-Page41576あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(106)maorocularhypertension:anuncontrolled,open-labelstudy.CurrMedResOpin21:503-508,20055)MiuraK,ItoK,OkawaCetal:Comparisonofocularhypotensiveeectandsafetyofbrinzolamideandtimololaddedtolatanoprost.JGlaucoma17:233-237,20086)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20067)江見和雄:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストとブリンゾラミド併用効果.あたらしい眼科24:1085-1089,20078)新田進人,湯川英一,森下仁子ほか:正常眼圧緑内障に対する1%ブリンゾラミド点眼液と1%ドルゾラミド点眼液の眼圧下降効果.臨眼60:193-196,2006***

培養角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現に対するマルチパーパスソリューションの影響

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(97)15670910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15671572,2008cはじめに最近,ソフトコンタクトレンズ(SCL)ユーザーでの細菌性角膜炎の発症が問題になっており1),マルチパーパスソリューション(MPS)の使用との関連性が議論されている2).細菌性角膜炎の原因としては,MPSの不十分な殺菌効力3)やユーザーのコンプライアンスの低さ4)などが想定されるが,MPSの細胞毒性が角膜上皮細胞に及ぼす影響も考慮に入れる必要がある.柳井ら5)は14種類の市販MPSを比較し,主成分が同じポリヘキサメチルビグアニド(PHMB)であっても,添加剤の種類によって細胞毒性や殺菌効力が大きく異なることを報告した.一方,角膜上皮細胞は外傷を受けるなどのストレス状態にさらされると炎症性細胞を誘導するためにサイトカインを分泌することが知られている6).毒性の強いMPSの使用は角膜にストレスを与えると考えられる〔別刷請求先〕今安正樹:〒487-0032愛知県春日井市高森台5-1-10(株)メニコン総合研究所Reprintrequests:MasakiImayasu,Ph.D.,CentralR&DLab.,MeniconCo.,Ltd.,5-1-10Takamoridai,Kasugai-shi,Aichi-ken487-0032,JAPAN培養角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現に対するマルチパーパスソリューションの影響今安正樹*1,3白石敦*2大橋裕一*2島田昌一*3*1(株)メニコン総合研究所*2愛媛大学医学部眼科学教室*3名古屋市立大学医学部第2解剖学講座EectsofMultipurposeSolutionsonCytokineGeneExpressionofCornealEpithelialCellsMasakiImayasu1,3),AtsushiShiraishi2),YuichiOhashi2)andShoichiShimada3)1)CentralR&DLab.,MeniconCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,EhimeUniversity,3)DepartmentofAnatomy,NagoyaCityUniversityMedicalSchool目的:コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション(MPS)の角膜への影響を明確にするため,角膜上皮細胞を市販MPSまたは配合成分で処理したときのサイトカイン遺伝子発現量および産生量を解析する.方法:培養ヒト角膜上皮細胞を用い,7種のMPSまたは配合成分を添加した培養液で3,6,24時間培養した.RNAを抽出し,サイトカイン遺伝子〔インターロイキン(IL)-8,トランスフォーミング増殖因子(TGF)-b2,IL-18,IL-1b,IL-6〕発現量をreal-timepolymerasechainreaction(PCR)法で,培養上清中のサイトカイン産生量を抗体アレイで定量した.結果:ホウ酸を含むMPSではIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-6の発現量が36時間後に増加し,その後減少した.これらのMPSでは24時間後のIL-8産生量も増加した.配合成分のなかでは,ホウ酸のみがサイトカイン遺伝子発現量を増加させた.結論:MPSの配合成分であるホウ酸が炎症性サイトカインの産生に関与している可能性が示された.Inordertoclarifytheeectsofmultipurposesolutions(MPS)onthecornea,weanalyzedthecytokinegeneexpressionandproteinlevelofcornealepithelialcellstreatedwithMPSoringredients.Humancornealepithelialcellswereculturedfor3,6or24hoursinmediumcontainingcommerciallyavailableMPSoringredients.AfterRNAextraction,geneexpressionsofinterleukin(IL)-8,transforminggrowthfactor(TGF)-b2,IL-18,IL-1bandIL-6wereanalyzedbyreal-timepolymerasechainreaction(PCR).Proteinlevelsweredeterminedbyantibodyarray.MPScontainingboricacidcausedup-regulationofIL-8,TGF-b2,IL-18andIL-6after3and6hours,whichthendecreasedat24hours.TheMPSalsopromotedIL-8productionduring24hour-incubation.Oftheingredientstested,onlyboricacidhadsignicanteectsongeneandproteinexpressionsofinammatorycyto-kines.Theseresultsdemonstratethatboricacidmayhavesignicanteectoninammatorycytokineproductionincornealepithelialcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15671572,2008〕Keywords:角膜上皮細胞,サイトカイン,マルチパーパスソリューション,コンタクトレンズ.cornealepithelialcells,cytokine,multipurposesolution,contactlens.———————————————————————-Page21568あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(98)ため,サイトカイン遺伝子の発現量が増加する可能性が想定される.角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現を解析することにより,角膜へのストレスを高感度で定量的に評価できる方法が構築できると思われる.そこで本論文では,ヒト角膜上皮細胞を,種々のMPS製品または配合成分を添加した培養液で培養し,MPSまたは配合成分を添加しない培養液で培養した場合とのサイトカイン遺伝子の発現量の差をreal-timepolymerasechainreac-tion(PCR)法により定量的に解析した.また,蛋白質レベルでの評価のため,培養液中のサイトカイン産生量を抗体アレイで定量した.I実験材料および方法1.実験材料実験に使用したMPSとおもな配合成分を表1に示す.MPS-AからMPS-Gまでの7種類の市販MPSを用いた.主成分の殺菌剤にはPHMB,AlexidineまたはPolyquadが使用されている.このなかでMPS-AとMPS-B以外は緩衝剤としてホウ酸を含む.配合成分単独での実験に使用した成分名,濃度などを表2に示す.MPSに一般的に使用されている界面活性剤,殺菌剤,緩衝剤を実際の配合濃度に近い濃度で使用した.2.実験方法a.培養細胞の準備培養細胞として,SV40ウイルス感染により不死化したヒト角膜上皮細胞(以下,HCET細胞)7)を理化学研究所細胞バンクより購入して使用した.HCET細胞を6cm組織培養用ディシュにコンフルエントになるまで培養した.培養液はDMEM/F12(GIBCO)+5%ウシ胎仔血清(FBS)(GIBCO)を用いた.血清無添加の培養液に各種MPSまたは配合成分を10%添加した試験液を準備し,組織培養用ディシュに4ml添加して37℃,5%CO2で3,6,24時間培養した.b.培養細胞からのRNAの抽出および定量組織培養用ディシュの培養液を捨て,冷PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後,1mlのTRIZOLR試薬(invitrogen)を添加した(氷冷下).セルスクレーパーを用いてディシュ表面に付着している細胞を離させた(氷冷下).20ゲージの注射針を取り付けた2.5mlのシリンジで,TRIZOLR試薬の吸引を20回程度くり返した後,1.5mlのマイクロチューブに回収した.以下,TRIZOLR試薬の取扱説明書に従ってtotalRNAを精製し,30μlのDEPC(diethylpyrocarbonate)処理水に溶解させた.c.逆転写反応およびrealtimereversetranscription(RT)PCRパーソナルスペクトルモニター(AmershamBiosciences,GeneQuantpro)で260nmの吸光度を測定することによりRNA濃度を定量し,サンプル濃度を800ng/μlに調整した.PrimeScriptTMRTreagentsKit(TaKaRa)の取扱説明書に従い,50μlの反応系にてcDNAに変換した.つぎに,SYBRRPremixExTaqTM(TaKaRa)の取扱説明書に従い,25μlの反応系にてreal-timePCRを行った(TaKaRa,表2実験に使用したMPS配合成分配合成分種類濃度製造元HCO界面活性剤1.0%日光ケミカルズTetronic1107界面活性剤1.0%BASFJapanPoloxamer407界面活性剤1.0%BASFJapanAlexidine殺菌剤1ppmTrontoResearchPHMB殺菌剤1ppmアーチケミカルズホウ酸(Boricacid)緩衝剤0.5%日興製薬1.0%表1実験に使用した市販MPSMPS殺菌剤界面活性剤ホウ酸の有無MPS-APHMB*HCO**MPS-BPHMBPoloxamerMPS-CPHMBTetronic+MPS-DAlexidinePoloxamer/Tetronic+MPS-EPolyquadTetronic+MPS-FPolyquadTetronic+MPS-GPHMB不明+*PHMB:polyhexamethylbiguanid.**HCO:PEGhydrogenatedcastoroil.表3RealtimeRTPCRに使用したプライマーペアの塩基配列ヒト遺伝子F/Rプライマー塩基配列b-actinFATTGCCGACAGGATGCAGARGAGTACTTGCGCTCAGGAGGAIL-8FAAGGAACCATCTCACTGTGTGTAAACRATCAGGAAGGCTGCCAAGAGTGF-b2FGGATGCGGCCTATTGCTTTARCATTTCCACCCTAGATCCCTCTTIL-18FGCCACCTGCTGCAGTCTACARATCTGGAAGGTCTGAGGTTCCTTIL-1bFCCTCTGGATGGCGGCARTGCCTGAAGCCCTTGCTGIL-6FAAAAAGGCAAAGAATCTAGATGCAARGTCAGCAGGCTGGCATTTGTFはセンス,Rはアンチセンスを示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081569(99)TP800).サイトカインとしてIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-1b,IL-6の5種類の遺伝子の発現量を解析した.ハウスキーピング遺伝子としては,角膜上皮細胞での発現量が安定なb-actinを選択し(予備実験で確認),b-actin発現量に対する各遺伝子の相対発現量を求めた.さらに,各遺伝子について,MPS(または配合成分)処理群に対するPBS(+)処理群の相対発現量の比を求め,これを指標とした.なお,各サイトカイン遺伝子およびb-actinのreal-timePCR用プライマーはNCBI(NationalCenterforBiotechnologyInformation)の遺伝子データベースよりmRNAの塩基配列を検索し,PrimerExpress(AppliedBio)でプライマーペア候補を検索し,イントロンをはさんだ配列を選択して,SigmaGenosys社に合成を依頼した.プライマーペアの塩基配列を表3に示す.なお,実験は独立して3回くり返し,平均値と標準偏差を求めた.d.抗体アレイによる培養上清のサイトカイン産生量の定量24時間培養した細胞については培養液を回収し,そのままサイトカイン産生量定量に供試した.アレイ基板としてBS-X1324(住友ベークライト)を使用し,抗ヒトIL-8マウスモノクローナル抗体(BIOSORCE),抗ヒトIL-6マウスモノクローナル抗体(ENDOGEN),抗ヒトTGF-b2マウスモノクローナル抗体(RDS)のプロットを住友ベークライトに依頼した.抗体アレイチャンバー(GenTel,12well)に抗体アレイを固定し,培養液を50μl添加して室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,3種類のサイトカインに対するビオチン化抗体混合液〔抗ヒトIL-8ビオチン化抗体(BIO-SOURCE),抗ヒトIL-6ビオチン化抗体(ENDOGEN),抗ヒトTGF-b2ビオチン化抗体(RDS)〕を調整し,50μl添加して室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,Cy5標識ストレプトアビジン(JacksonImmunoResearch)50μlを添加し,室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,乾燥させ,アレイスキャナー(GSILuminocs,ScanArray5000)でCy5蛍光画像を取得した.各プロットの蛍光強度をアレイ用画像処理ソフト(ScanAlyze)で数値化した.各サイトカインの標準液としてヒトIL-8(Acris),ヒトIL-6(Acris),ヒトTGF-b2(Acris)を5,10,20,40,80pg/mlに調整して用いた.なお,実験は独立して3回くり返し,平均値と標準偏差を求めた.II結果a.サイトカイン遺伝子発現に対するMPSの影響MPSで3,6および24時間処理したときの対照〔PBS(+)〕に対するサイトカイン遺伝子発現比を図1a,bおよびcに示す.MPS処理3時間後ではMPS-CGでIL-8が35.030.025.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1aMPSで3時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.25.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1cMPSで24時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.45.040.035.030.025.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1bMPSで6時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.———————————————————————-Page41570あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(100)約1025倍に増加した.TGF-b2およびIL-6も増加した.一方,MPS処理6時間後においても,MPS-CGではIL-8が高いレベルを維持したが,特にMPS-EGが約20倍高い発現量を示した.MPS-EおよびMPS-FではIL-6が約2030倍に増加した.MPS処理24時間後においては,全体的にサイトカイン発現比はかなり回復し,特にMPS-Cではほぼ正常レベルになった.MPS-DGではIL-8は回復したが,IL-18とIL-6が約510倍高いレベルを維持していた.すべての処理時間において,MPS-AおよびBではすべてのサイトカイン遺伝子に関し,発現量の増加は認められなかった.すべてのMPS処理において,IL-1bの発現量増加は認められず,IL-8の発現量増加をもたらしたMPS-CGではむしろ発現量が減少する傾向を示した.b.サイトカイン産生量に対するMPSの影響培養24時間で産生されたサイトカイン(IL-8,TGF-b2およびIL-6)を抗体アレイで定量した結果を図2に示す.対照のPBS(+)でのサイトカイン産生量はIL-8が0.5±0.2pg/ml,TGF-b2が4.3±1.3pg/ml,IL-6が0.3±0.2pg/mlであった.対照と比較してMPS-Aではサイトカイン産生量の増加は認められなかったが,MPS-BおよびCではTGF-b2の増加が認められた.MPS-D,EおよびGでは3種のサイトカインすべてが増加した.MPS-FではIL-8が増加した.全体的にサイトカイン産生量が最も大きく増加したのはMPS-Eであった.c.サイトカイン遺伝子発現に対する配合成分の影響図1で示されたMPSによるサイトカイン遺伝子発現量の増加がMPSのどの配合成分によるかを明確にするため,配合成分単独での遺伝子発現に対する影響を検討した.配合成分処理3時間および24時間後の結果を図3aおよび3bに示す.3時間処理では,配合成分のなかでホウ酸のみがIL-8,TGF-b2,IL-6発現量を増加させ,1%濃度ではそれぞれ約45倍,5倍,15倍となった.24時間後では1%ホウ酸の効果は3時間と比較してかなり回復したが,IL-8およびIL-6はまだ高いレベルを維持しており,IL-18発現量への影響もみられた.1%HCOは0.5%ホウ酸と同程度の効果を示した.d.サイトカイン産生量に対する配合成分の影響配合成分単独で24時間作用させたときのサイトカイン産生量への影響を検討した結果を図4に示す.界面活性剤60.050.040.030.020.010.00.0:IL-8:TGF-b2:IL-6pg/m?MPS-APBS(+)MPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-G図2MPSで24時間処理したHCET細胞のサイトカイン産生量b2:IL-18:IL-1b:IL-6図3a配合成分で3時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.20.015.010.05.00.0Expressionratio1%HCO1%Tetronic1%Poloxamer1ppmAlexidine1ppmPHMB0.5%Boricacid1.0%Boricacid:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図3b配合成分で24時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081571(101)(HCO,TetronicおよびPoloxamer)および殺菌剤(Alexi-dineおよびPHMB)はTGF-b2産生量を有意に増加させた.ホウ酸は濃度依存的にIL-8産生量を増加させ,1%濃度では約70pg/mlにも達した.TGF-b2産生量への影響も認められた.III考按今回,ヒト角膜上皮細胞へのMPS投与で変化する可能性のあるサイトカイン遺伝子としてIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-1b,IL-6を採択した.予備実験においてはその他のサイトカインとしてIL-1a,IFN-g,TNF-aなども検討したが,変化が少なかったため対象から除外した.MPSの影響としては,3時間後にIL-8が,6時間後にIL-8に加えてIL-6が,24時間後にはIL-6とTGF-b2の発現量増加が目立った.IL-8およびIL-6が増加したMPSでは,IL-1bの発現量が減少していた.Xueら8)が報告しているように,IL-1はIL-6やIL-8などの炎症性サイトカインの産生を促進する急性的サイトカインであるため,IL-6・IL-8の増加によるフィードバック制御によって,経時的に発現量が下がったと考えられる.TGF-b2は角膜上皮細胞の増殖,遊走,分化,接着制御など多くの生理作用をもつサイトカインであり,角膜上皮創傷治癒過程において発現量が増加することが知られている9).また,IL-18はマウス角膜に緑膿菌を感染させたときに,24時間後以降に発現量が増加することが知られている10).今回の実験においては,TGF-b2とIL-18は624時間と長時間作用させた場合に発現量が増加しており,外傷や細菌感染などの重篤な障害で初めて発現するサイトカインと考えられる.7種類のMPSを比較すると,MPS-AおよびMPS-Bではサイトカイン遺伝子の変化が認められなかったが,MPS-C,MPS-D,MPS-E,MPS-FおよびMPS-GではIL-8,TGF-b2,IL-6において顕著な発現量増加を示した.前2者のMPSがホウ酸を含まないのに対し,後5者がホウ酸を含むことより,ホウ酸がサイトカイン遺伝子発現に関与した可能性が考えられる.そこで,代表的なMPS配合成分7種類を選択してサイトカインへの影響を検討したところ,ホウ酸のみが顕著な影響を示し,IL-8,IL-6遺伝子発現量を増加させた.また,抗体アレイによるサイトカイン産生量の測定実験においても,ホウ酸を含むMPSおよび0.51.0%のホウ酸が24時間後のサイトカイン産生量を増加させることを確認した.ホウ酸が実使用濃度よりも低い0.1%で細胞毒性を有することは,Santodomingoら11)のV79細胞を用いたコロニー形成阻害試験により報告されている.今回の実験ではサイトカイン遺伝子発現および産生量の増加として細胞毒性が検出されたと考えられる.一方,筆者らは角膜上皮細胞のタイトジャンクション(特にZO-1)に対するMPSの影響を細胞生物学的および電気生理学的手法で検討し,配合成分にホウ酸を含むMPSのみがタイトジャンクションの構造を破壊することを報告している12).サイトカイン遺伝子発現の増加がタイトジャンクションの構造破壊をひき起こすメカニズムの詳細は不明であるが,IL-1やIL-8などの炎症性サイトカインはストレス応答性のMAPK(mitogen-activatedproteinkinase)の活性化をひき起こすことが知られており,MAPKカスケードなどの細胞内シグナル伝達系の活性化を通してタイトジャンクションが破壊されたと考えられる13).角膜上皮最表層細胞のタイトジャンクションは角膜のバリア機能においてきわめて重要な役割を担っているため,その構造破壊は緑膿菌などの病原菌の角膜への侵入を容易にし,細菌性角膜炎感染のリスクを増大させると考えられる1).すなわち,コンタクトレンズ装用とケア用品(特にMPS)使用による細菌性角膜炎発症のリスクをなるべく低くするには,角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現への影響の少ないMPSを選択し,角膜バリア機能をなるべく健全に保つことが重要と考えられる.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)InoueN,ToshidaH,MamadaNetal:Contactlens-inducedkeratitisinJapan.EyeContactLens33:65-69,20073)LevyB,HeilerD,NortonS:ReportontestingfromaninvestigationofFusariumkeratitisincontactlenswear-90.080.070.060.050.040.030.020.010.00.0:IL-8:TGF-b2:IL-6pg/m?1%HCOPBS(+)1%Tetronic1%Poloxamer1ppmAlexidine1ppmPHMB0.5%Boricacid1.0%Boricacid図4配合成分で24時間処理したHCET細胞のサイトカイン産生量———————————————————————-Page61572あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(102)ers,EyeContactLens32:256-261,20064)星合竜太郎,濱田いずみ:レンズケアに対するコンタクトレンズ使用者の意識.日コレ誌49:119-123,20075)柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌49(補遺):S13-S18,20076)外園千恵,今西二郎:サイトカイン.眼科NewInsight5(木下茂編),p154-165,メジカルビュー社,19957)Araki-SasakiK,OhashiY,SasabeTetal:AnSV40-immortalizedhumancornealepithelialcelllineanditscharacterization.InvestOphthalmolVisSci36:614-621,19958)XueML,ZhuH,WillcoxMDP:TheroleofIL-1betaintheregulationofIL-8andIL-6inhumancornealepitheli-alcellsduringPseudomonasaeruginosacolonization.CurrEyeRes23:406-414,20019)山下英俊:トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-b)スーパーファミリーの眼組織における作用.日眼会誌101:927-947,199710)HuangX,McClellanSA,BarrettRPetal:IL-18contrib-utestohostresistanceagainstinfectionwithPseudomo-nasaeruginosathroughinductionofIFN-gammaproduc-tion.JImmunol168:5756-5763,200211)Santodomingo-RubidoJ,MoriO,KawaminamiS:Cyto-toxicityandantimicrobialactivityofsixmultipurposesoftcontactlensdisinfectingsolutions.OphthalPhysiolOpt26:476-482,200612)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Eectsofmulti-purposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,200813)WangY,ZhangJ,YiXetal:ActivationofERK1/2MAPkinasepathwayinducestightjunctiondisruptioninhumancornealepithelialcells.ExpEyeRes78:125-136,2004***