———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS下葉の2葉に胸膜によってそれぞれが分かれる.肺門は肺動脈およびその分枝,上葉肺静脈,主気管支およびリンパ節で構成される.しかし実際X線で撮影されたフィルムでは,気管支の内腔は空気で占められているため,またリンパ節は通常では小さいため陰影には影響を与えない.縦隔陰影の大部分をなすのは心臓および大血管である.つぎに読影に必要な基本的事項であるが,陰影の濃淡は4つに分けて考えられる.その内訳は,カルシウム・水・脂肪・空気(ガス)からなる.この順番でX線吸収率が悪く,吸収率が悪いほうが写真では暗く写る(透過性が高い).このような濃度の違いは物質の原子番号と密度の違いによるものである.それぞれの濃度の代表例であるが,カルシウム濃度には,骨・石灰化・金属,水濃度には血管・筋肉・実質臓器,脂肪濃度には脂肪(皮下・筋肉間),空気濃度には肺・気管支内腔があげられる.陰影の濃淡は上記の4つとともに対象物の厚さ,コントラストによって分けられる.水濃度については診断時,特にコントラストが重要になる.このコントラストに関連する重要なサインとしてシルエットサインがある.これは水濃度のものと水濃度のものが相接している場合,それらの辺縁は不鮮明かまたは認められない.本来鮮明であるはずの辺縁が不鮮明になっていることをシルエットサイン陽性という.縦隔内に存在する大動脈などの辺縁部は正常でもシルエットサイン陽性になるので,サルコイドーシスの縦隔リンパ節の拡張は胸部Xはじめにご存じのとおり,胸部X線,胸部CT(コンピュータ断層撮影),クオンティフェロン(quantiferon)はぶどう膜炎の検査においては欠かせない検査である.特にサルコイドーシスや結核・肺癌などの疾患においては,その画像所見や検査所見が診断補助の大部分を占め,その有用性は高い.胸部X線写真や胸部CTは,現在では多くの病院で放射線科ドクターが写真を読影してくれるため,眼科医が直接写真を読影する機会はほとんどない.しかし,最低限度の知識を有することにより,眼科医でも日常診察においてある程度の緊急性の判断や患者への説明をすることが可能となる.今回筆者に与えられたテーマである胸部X線・胸部CT・クオンティフェロンについて,以下に述べていきたいと思う.I胸部X線検査について胸部X線検査は,おおまかにいえば,胸部にある臓器・組織に異常がないかを確認する検査である.胸部X線正面像では,X線吸収の比較的小さい肺と反対に大きい心臓,大血管および横隔膜などの領域が含まれる.異常を判断するには,まず基本的な解剖と正常像を理解しないといけない1).特に眼科医に必要な胸部X線撮影の基礎知識は結核などの病変が発生する肺野と腫瘍やリンパ節腫脹,あるいは肺血管の拡張が発生する肺門部や縦隔部の正常像である.肺は右肺と左肺に縦隔を隔てて分かれ,さらに右肺は上・中・下葉の3葉に,左肺は上・(31)150162841465特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):15011504,2008胸部X線・胸部CT・クオンティフェロン検査ChestX-Ray,ChestComputedTomographyandQuantiferonTest丸山和一*———————————————————————-Page21502あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(32)若年者発症が増え,気をつけておく疾患である.結核の陰影は小さな円形陰影で内部に石灰化を示すことが多い.ときにsatellitelesionとよばれる主病巣周囲に小結節を伴うことがある.病変は肺尖部と左肺の肺門部周辺に好発する.活動性の判定は胸部X線だけでは判断しにくいが,空洞を形成する結節は活動性が高い症例が多い.以上の2つの疾患は胸部X線検査では確定診断することはできできないが,比較的読影できやすく,内科医への紹介時にどのような検査が必要かを提案することができる.眼科から内科疾患の疑いを提起することで,疾患の早期発見・治療に貢献することが可能である.II胸部CT検査について胸部疾患の診断において,胸部CTは胸部単純X線撮影で異常所見が発見された場合や,臨床的に異常を疑う症例に対して施行する.現在胸部CTは肺縦隔疾患の診断には必要不可欠なものである.CT写真ではCT値の違いにより,組織や病変を画像化する.CT機種により異なるが,原則的には緻密骨を1,000,水を0,空気を1,000として計算されるが,人体の軟部組織は2070前後に分布し,石灰化病巣は100以上のCT値で示される.脂肪組織は30から100前後のCT値を示すので,これを覚えておけばどのような組織に病変が類似するかを判断できる.通常のCTスキャンはスライス厚が710mm程度のX線を利用し描写する.肺野の結節性病変やびまん性肺疾患などでは,病変の形態を詳細に描出するためにスライス厚を変化させて撮影する.特に小さなリンパ節を描写させるためにはスライス厚2mm以下の薄層CTを利用する.腫瘤性病変が胞性か充実性かの判定,腫瘍性病変の血流の評価・壊死の程度,腫瘍性病変と血管の位置関係の評価,血管浸潤の有無の診断,軟部組織陰影と血管陰影の分離などの多くの目的のために造影剤を使用する.造影剤増強撮影は各部位でその有用性が示されている.特に軟部組織陰影と血管陰影の分離で造影剤を使用するときは,血液中の造影剤の濃度が高く,造影剤の組織・細胞外液への移行が少ない造影剤投与後早期に撮影することが適している.造影剤使用時に注意すること線においては判断しづらく,判断にはCT検査を併用することが多い13).以下にぶどう膜炎と関連が深い疾患の胸部X線所見について述べたいと思う.サルコイドーシスの胸部X線撮影で認められる特徴的な所見は両側肺門・縦隔リンパ節腫大である.先にも述べたが縦隔リンパ節腫大はシルエットサインが陽性となることが多いため,胸部X線写真ではわかりづらいことが多い.このようなリンパ節腫脹は肺門部にある傍気管支に存在するリンパ節が腫脹して起こるために肺門部周辺に認められることが多く(図1),サルコイドーシスの特徴的な所見として知られている.またone-two-threesignとよばれる,右傍気管(左気管も腫大しているがシルエットサイン陽性)と両側肺門部リンパ節腫大もサルコイドーシスの特徴的な所見である.サルコイドーシスは病期が進行すると肺内にも結節が発生し,それが空洞・胞を形成することがある(わが国ではまれ)ので他の検査と組み合わせ診断することが重要である.肺結核は肉芽腫性疾患のなかでよく遭遇する.近年は図1胸部X線写真両側の肺門リンパ節腫脹が認められる.特に右傍食道線の偏位が認められる.おそらく縦隔リンパ節腫大による影響が考えられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081503(33)異なる.しかしCT所見からだけでは確定診断が困難なため,最終的には生検や臨床症状を考慮する.つぎに結核性病変であるが,結核症には初期結核症(04歳が好発)と二次性結核症があり,初期結核症は小児に後発し,CT所見上は肺門縦隔リンパ節腫脹(リンパ節の中心部が低吸収域=乾酪壊死で辺縁が輪状に造影される)を伴う中葉ないし下葉の濃厚性浸潤影が特徴的である(空洞形成は少ない).肺野の結節影は結核であることを強く示唆する(石灰化を認めることがある).胸部X線において異常がない場合も,胸部CTで縦隔リンパ節腫脹が認められることがあるので,臨床所見から疑われるときは胸部CTを施行したほうがよい3).IIIクオンティフェロンについて結核の診断法はこれまではツベルクリン反応(表1)や胸部X線写真,CT検査などであったが,感度がそれほど高くない.ツベルクリン反応はまれであるが,非結核性好酸菌と交差反応を起こし陽性となることがあるため注意が必要である.ツベルクリン反応というのは,結核菌の作る蛋白成分であるPPD(精製蛋白誘導体)を抗原として皮内に注射し,これで免疫記憶を担うリンパ球を刺激して一連のサイトカインという活性物質を放出させる.この放出されたサイトカインの作用で皮膚に硬結を作らせたり,発赤を起こさせたりする.ツベルクリン反応に使用される抗原は,ウシ型結核菌から作製したBCG(BacilleCalmette-Guerin)ワクチンとアミノ酸配列が類似している.そのためBCG接種者においても結核菌感染者と同じようなツベルクリン反応を示してしまい判断に困ることがあった.このようなことから,BCG既接種で結核感染を正確に診断する方法が必要であった.そこで開発されたのがクオンティフェロンである.クオンティフェロンでは結核菌に特異的な2種類の抗原(ESAT-6/CFP-10)を使用する.感染を受けたヒはアレルギー反応であるが,現在は非イオン性造影剤を使用するため,副作用は少ないがそれでも1.53%で悪心・嘔吐や発疹などが認められ,2,000例に1例で治療を有する副作用(アナフィラキシーショック)が起こるので,必ず医師がそばについて検査をすることが重要である.元来腎機能が低下している場合は,検査の必要性を十分に考慮し,施行後脱水症状が起こらないよう輸液などを行い注意する.画像表示についてであるが,CTの多くの情報すべてを1枚の画像にすることは不可能である.このため胸部CT画像を表示するためには通常2つの条件でフィルムに表示することが多い.その一つが縦隔や軟部組織を中心に表示する縦隔条件であり,もう一つは肺野を中心に表示する肺野条件である.縦隔条件では肺野が真っ黒に表示され,病変はわからないが,その点は肺野条件でcoverできる.肺野条件では逆に縦隔は真っ黒に写り縦隔所見はわからないが肺野の病変や肺血管がよく表示される.また他には気管支を詳細に診断するための気管支条件や,骨の異常を検索するための骨条件もある.眼科疾患から検査されるのは,特にサルコイドーシス・結核が疑われた場合である.サルコイドーシスの特徴は縦隔肺門リンパ節腫大を効率よく描出できる(図2).縦隔リンパ節腫大は単純CTでも描出可能であるが,造影剤を使用したほうが病変を正確に評価することができる.サルコイドーシスのリンパ節腫大は癒合傾向が少なく,悪性リンパ腫のような癒合が強いタイプとは図2胸部CT写真縦隔リンパ節腫大と傍気管リンパ節腫脹を認める.表1ツベルクリン反応の判定基準測定値判定解釈0.35IU/ml以上陽性結核感染を疑う0.1以上0.35IU/ml未満判定保留感染のリスクの度合を考慮0.1IU/ml未満陰性結核感染していない———————————————————————-Page41504あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(34)文献1)安藤正幸,四元秀毅(監修):サルコイドーシスとその他の肉芽腫性疾患.克誠堂出版,20062)伊藤春海:画像診断新しい診断と治療のABC呼吸器3サルコイドーシス,最新医学別冊,最新医学社,20023)NishimuraK,ItohH,KitaichiMetal:Pulmonarysarcoi-dosis;correlationofCTandhistopathologicndings.Radiology189:105-109,19934)BerthetFX,RasmussenPB,RosenkrandsIetal:AMycobacteriumtuberculosisoperonencodingESAT-6andanovellow-molecular-masscultureltrateprotein(CFP-10).Microbiology144:3195-3203,19985)SkjotRL,OettingerT,RosenkrandsIetal:Comparativeevaluationoflow-molecular-massproteinsfromMycobac-teriumtuberculosisidentiesmembersoftheESAT-6familyasimmunodominantT-cellantigens.InfectImmun68:214-220,20006)AndersenP,AndersenAB,SorensenALetal:Recalloflong-livedimmunitytoMycobacteriumtuberculosisinfec-tioninmice.JImmunol154:3359-3372,19957)SorensenAL,NagaiS,HouenGetal:Puricationandcharacterizationofalow-molecular-massT-cellantigensecretedbyMycobacteriumtuberculosis.InfectImmun63:1710-1717,1995トのT細胞に上記の抗原を作用させ,その後24時間に放出されるサイトカイン(インターフェロンg)をELISA法(酵素抗体法)で測定する.これらの抗原はBCGには存在しないので,BCG接種の影響を受けることはなく確実な結核感染診断が可能となる.本検査の感度は89%,特異度は98.2%である47)(表2).方法は血液を5mlヘパリン採血管に採取し,T細胞の活性を低下させないため,室温で血液を搬送する.採血後12時間以内に分注し,抗原刺激(ESAT-6/CFP-10),陰性コントロール(生理食塩水),陽性コントロール(マイトジェン;phytohemagglutinin)溶液を滴下する.混和後,16時間から20時間かけ細胞を培養する.培養した後,血球成分を除去し,血漿成分のみ採取する.その採取した血漿中のインターフェロンgをELISA法にて測定する(図3).得られた測定値でESAT-6抗原またはCFP-10抗原に対する測定値のうちの大きいほうとする.陽性は測定値が0.35IU/mlであるが陽性対照の測定値が基準より低い場合(0.15IU/ml)は,測定値が0.35IU/mlでも判定保留とする.表2ツベルクリン反応とクオンティフェロンの違いツベルクリン反応クオンティフェロン抗原PPDBCGアミノ酸配列と類似(99.95%)ESAT-6/CFP-10BCGには存在しないBCG接種影響あり影響なし特徴結核菌感染でなくとも陽性になる不必要な予防内服より確実な結核感染が可能となるPPD:puriedproteinderivative.BCG:BacilleCalmette-Guerin.ESAT-6:theearlysecretedantigenictarget6kDaprotein.CFP-10:10kDaculturertrateprotein.機:抗原提示細胞:T細胞:インターフェロンg:抗原図3クオンティフェロンの原理(シェーマ)