新型コロナ感染症パンデミックにおけるはじめに第C1報では,今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに際して筆者の涙道診療が様変わりしたことについて報告した.涙洗を含むほぼすべての涙道検査と治療がアエロゾルを発生させる手技(aerosolgeneratingpro-cedure:AGP)であり,これを行うことで無症候患者から医療従事者にCSARS-CoV-2のエアロゾル感染が生じる可能性が危惧されている.筆者はこれに対応したさまざまな対策を講じてC2021年C9月から涙道手術を再開した.第C1報では,筆者が模索したエアロゾル対策や患者管理の方法を記述した.その内容から,パンデミックが始まる前(コロナ前)と始まって以来(コロナ後)で,涙道検査・手術・術後管理の流れ(涙道診療の進め方)が変化した様子が明らかとなった.第C2報では,その変化がコロナ後の涙道手術実績にどう影響を与えたか報告する.CI分析の方法手術記録データベースから患者の属性,涙道手術件数,対象疾患の種類と選択した術式などを調べ,コロナ前後で比較した.対象期間は,コロナ前はC2019年C9月から手術を中断したC2020年C4月C8日までのC7カ月で,コロナ後は手術を再開できたC2020年C9月からC2021年C5月末までのC9カ月である.患者属性は両眼手術でもC1例として調べ,手術件数については両眼のものはC2件と数えた.対象疾患は炎症性涙道疾患と非炎症性涙道疾患に分けた.炎症性涙道疾患には涙小管炎と涙.炎が含まれる.非炎症性涙道疾患にはそれ以外,つまり涙点・涙小管系の閉塞(あるいは狭窄),涙道内視鏡で涙.内の混濁液や鼻涙管粘膜に膿の付着が認められない鼻涙管閉塞(あるいは狭窄),機能性流涙が含まれる.その診断は急性涙.炎のように術前の経過から明らかなものはそれを根拠に,そうでないものは外来のコーンビームCCT涙道造影検査(coneCbeamCcomputedCtomography-dacryocystogra-涙道診療の実践(第2報)鈴木亨**鈴木眼科クリニックphy:CBCT-DCG)と執刀直前の涙洗や涙道内視鏡検査の結果を参考とした.第C1報で述べたように,涙洗と涙道内視鏡検査は外来では施行しておらず,手術室搬入後に施行した.選択した術式の種類は内視鏡手術と非内視鏡手術に分けた.内視鏡手術には,涙.鼻腔吻合術鼻内法(endonasaldacryorhinostomy:EDCR)と下鼻道涙道形成術(inferiorCmeataldacryorhinotomy:IMDR)1),注),涙道内腔再建術(endoscopicClacrimalCductCrecanalization,CorCendoluminarClacrimalCductrecanalization:ELDR)2),注)を含めた.非内視鏡手術には,涙.鼻腔吻合術鼻外法(externaldacryorhinos-tomy:XDCR)とその他の手術(Jonesチューブ再挿入や涙小管形成手術3)などのおもに涙小管病変に対する特殊な手術)を含めた.手術はすべて局所麻酔下に施行した.手術予約はすべて日帰りの予定で行った.注)涙道内腔再建術(ELDR)とは,涙道内腔をもとの状態に再建する涙道内視鏡手術をさす.JavateはCendoscopicClacrimalCductrecanalizationの略として,SundarはCendolu-minalClacrimalCductrecanalizationの略としてこの用語を用いる.日本では涙管チューブ挿入術の保険手術名で知られる.おもな手術操作は内腔を可視化しながら涙道粘膜の穿破・切開・掻把,または涙道内異物(涙石・停留チューブ・プラグなど)の除去など.再建補助目的で涙道チューブを留置することが多いが,涙小管炎など症例によってチューブが必須でない点で日本の保険手術名では矛盾がある.下鼻道涙道形成術(IMDR)とは,下鼻道においてレーザーを用い,骨は削開せずに膜性鼻涙管のみに開窓して再開通する鼻内視鏡手術を示す.通称CDCR下鼻道法ともよばれDCRで保険請求可能であるが,涙.と鼻腔は吻合しない点でCDCRの名称では矛盾がある.〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102北九州市若松区東二島C4-7-1鈴木眼科クリニックC表1手術患者の属性200n=176180160対象期間2019.9.2020.4.82020.9.2021.5.27C140120対象人数151人53人C100男:女43人:108人18人:35人C80n=60平均年齢C71.1±13.1歳C70.1±16.3歳C6040コロナ後で女性比率の減少がみられたが統計的有意差なしC20(p=0.326,Fishertest).C0コロナ前コロナ後図1手術の総数200180160140120100806040200コロナ前コロナ後■炎症性■非炎症性図2非炎症性疾患の比率非炎症性疾患はコロナ前C54%,コロナ後C45%となった(p=0.23,Chi-squaretest)200180160140120100806040200コロナ前コロナ後■非内視鏡手■術内視鏡手術図3内視鏡手術の比率内視鏡手術はコロナ前C71%,コロナ後C20%となった(p<0.0001,Chi-squaretest).CII結果表1に手術患者の属性を記した.両群に性や年齢の差はみられなかった.図1に手術件数の変化を示した.コロナ前C151例C176件からコロナ後はC53例C60件となり,66%の減少となった.図2には非炎症性疾患の占める比率を示した.コロナ前54%からコロナ後C45%に減少したが,統計的には差がなかった(p=0.23,Chi-squaretest).表2に各術式の実績を示したが,とくにCEDCRはコロナ前にC31件あったがコロナ後C1件しか施行できなかった.コロナ前はC176件,コロナ後はC60件となった(66%減少).表2術式別にみた手術件数EDCR:DCR鼻内法,ELDR:涙道内腔再建術,IMDR:下鼻道涙道形成術(通称はCDCR下鼻道法であるが,涙.と鼻腔は吻合しないので矛盾がある),XDCR:DCR鼻外法.IMDRはC0件となった.一方でCXDCRはコロナ前C44件,コロナ後はC45件とほぼ同数であった.結果として,図3に示したように内視鏡手術の占める比率はコロナ前C71%からコロナ後C20%にまで有意に減少した(p<0.0001,CChi-squaretest).また,第C1報で述べたようにコロナ後は涙道診療の進め方が変わった.つまり確定診断に至らないまま手術予約し,手術室で執刀前に涙洗と涙道内視鏡検査を行って診断を確かめ,そのうえで手術を進める方針とした.そのため,執刀直前で診断が覆ることも少なくなかった.それでも事前に術式変更の可能性を患者と十分に話し合っていたので,混乱は少なかった.手術室に搬入後に手術ができないまま帰宅した患者はコロナ後対象期間中にC2例だけであった.1例は,初診時の特徴的な前眼部所見とCCBCT-DCG像で涙小管炎と診断し,ELDR予約としていた患者である.しかし手術室で執刀前に行った涙道内視鏡検査で,涙.炎の合併が明らかになった.このとき,ELDRからCDCRへの変更は想定外で術前同意を得ておらず,そのまま手術中止として退室させた.そして同日中に病状説明し,後日のCDCRで対応した.もうC1例は,CBCT-DCGで涙小管遠位の閉塞と診断し,ELDR予約としていた患者である.しかし手術室では涙小管の閉塞が予想外に硬く,涙道内腔再建が果たせなかった.術前の説明では患者がCDCRを受け入れておらず,そのまま退室させ改めてCDCR以外に治療法がないことを説明した.その結果CDCRの方針を受け入れ,後日のCDCRで治癒した.コロナ前には,手術室に搬入されたものの手術中止,帰宅となったケースは経験がない.ただし,コロナ前は,ELDRは外来で施行しており,閉塞が硬かったり涙.結石が認められたりした場合はすぐに手術中止の判断で帰宅,後日のCDCRとしており,そのようなケースは毎月経験していた.CIII考察手術パフォーマンスは大幅に低下したものの,徹底したエアロゾル管理と涙道手術継続の両立は十分に可能であることがわかった.パンデミック中の手術の基本は不急のものは延期することである.その基本を守りながら症例を選んで手術を再開した.当初は炎症性涙道疾患に対してのみ手術を行った.炎症性涙道疾患は涙小管炎と涙.炎を含み,眼表面全体の炎症を遷延させて角膜潰瘍の原因となるだけでなく,とくに涙.炎については眼表面の菌量は健常眼の数百から数万倍もある4).その炎症が急性化して眼窩に波及したときには失明のリスクもある(石川未奈:急性涙.炎から急激に重篤な視機能障害に至ったC1例.第C8回日本眼形成再建外科学会抄録集p36,2021).したがって,これら疾患は不急の疾患とは言いがたく,手術を延期すべきではない.一方,非炎症性涙道疾患には流涙診療ではありふれた高齢者の涙道狭窄や閉塞が含まれるが,これらは眼の健康障害を生じる証拠がなく,不急の疾患である.裏を返せば,この不急の涙道治療の回復こそが日常涙道診療の復活といえる.今回の分析では,図2でわかるようにコロナ後の非炎症性疾患の比率がコロナ前と有意差ない程度にまで回復した.非炎症性疾患の手術はC2020年末まではほとんどなかったが,その後のC5カ月で回復してきた結果である.この結果は,筆者が日常を取り戻した印象と一致しており大変に興味深い.結論として,第C1報で述べたような徹底したエアロゾル管理の下で手術をすれば,パンデミック中でも医療従事者を守りながら安全に手術が可能であったといえる.ただし,手術室で発生したエアロゾルが次の手術患者に与える影響については不明である.一般に手術室は窓を開放することができないため,バスや飛行機と同様に換気設備の徹底が求められている.しかし,足元が寒く天井付近は温い手術室では手術室全体の換気が設計通りになっているかどうかは不明である.とくに天井カセット式の換気装置を設けた手術室では換気不良リスクがあり,エアロゾル滞留の可能性は考えておかなければならない.手術再開当初は,この点を手術予約時に患者に伝えるようにしていた.その結果,2020年の間はほぼすべての患者がC1例目手術を希望したため,手術はC1日C1件しか施行できなかった.しかしC2021年になると,北九州地区ではコロナ慣れでC2例目の手術を厭わない患者が現れるようになり,1日C2件の手術ができるようになった.そのため現在では,手術室におけるエアロゾル残留の懸念は手術患者に伝えていない.これまで筆者は涙道の内視鏡手術の開発・発展・教育に尽くしてきた.しかし,今回のパンデミックで内視鏡手術の弱さが露呈した結果となった.図3で示したように,従来C70%以上も占めていた内視鏡手術の割合が一気に減少した.この理由と問題点について述べる.まずCELDRについては,筆者自身のC2001年の涙道内視鏡の開発から技術改良を経てもなお,低侵襲と引き換えに再発の問題を解決できていない.したがって,少ない通院で確実に治すことが求められるパンデミック中の医療にはそぐわない.また,コロナ前からときどき経験していたように,手術を始めても完遂できずに中止とする症例がどうしても発生する点も問題である.コロナ前は,ELDRは外来で手間をかけずに簡単に行う治療であったため,中止となっても施設側の損失はない.しかしコロナ後は,第C1報で述べたように大きな経費と努力を重ね厳重なアエロゾル対策の下で行う治療となっている.このため,DCRへの術式変更ならよいが,手術中止では対価が求められず施設側の負担は無視できない.これらの点から,コロナ後はなるべくCDCRで手術予約をするようにしている.次にCEDCRについては,コロナ後の入院撤廃で手術がむずかしくなった.筆者は局所麻酔で鼻内法を施行するが,手術を低侵襲に終わらせるためには全身管理の工夫が必要となる.とくに覚醒下での術中出血コントロール(すなわち血圧のコントロール)はむずかしく,薬剤を使いすぎると術後気分不良のため帰宅に無理のある患者が発生する.実際,対象期間中の早い時期に施行したCEDCRの患者は帰宅することができず,急遽,看護師C1名に当直を命じ入院対応とした.これまでのマスコミ報道をみると,医療機関でクラスターが発生するのは入院施設に限られている.入院では,当直や給食でC1人の患者に対して多数のスタッフが接触し,これが感染拡大リスクとなるのは間違いない.そのリスクコントロールの観点から入院を撤廃したが,この条件で局所麻酔下EDCRを予約するのはむずかしい.最近C20年の麻酔科の進歩をみると,むしろ全麻のほうが日帰りに適している.しかし,涙道手術のガイドラインでは全身麻酔は避けるよう勧められている5,6).その理由は,抜管の際にエアロゾル感染リスクが生じるからである.またCIMDRは涙道手術のなかでもっともエアロゾル発生リスクが高い術式であることが問題となる.下鼻道でレーザーを使用するとき,水を弾く音や組織の焼ける匂いが強く発図4Teartroughincisionの1例右下眼瞼の涙袋の際(teartrough)に一致させて切開を入れ,DCRを施行した(2018年).a:術後C2カ月では,まだ切開線がスジとなって確認できる.Cb:術後C3年では,もう切開線は術者にも見えない.2017年からの経験では肥厚性瘢痕はC1例もない.生することから,大量のエアロゾルが周囲に拡散していることは間違いない.また,従来から手術適応が狭いこと,IMDRのよい適応ではCEDCRでも手術しやすいことなどの理由で,この術式選択は少なかった.今後,この手術の再開予定はない.以上述べたさまざまな見地から,涙道の内視鏡手術はむずかしくなった.逆にCXDCRの利点が浮き彫りになった.涙.炎のみならず,機能性流涙症から再建不能の硬い涙小管閉塞まですべての涙道疾患に対応が可能で,全身管理が簡単なので入院の必要がない.手術成績が他のどの術式よりも高く,世界中で普及していることから考えても涙道手術の標準術式といえる.涙道チューブを使用しなければ通院も抜糸までで十分であり,なるべく受診を控えたいというコロナ後の医療ニーズにもよく適合する.唯一の欠点であった切開瘢痕の問題も,teartroughincisionの発展で大幅に改善された7)(図4).筆者はC2017年からこの切開法を取り入れており,それまで毎年増加していたCEDCR症例割合は徐々に減少に転じていた.コロナ後は一気にCXDCRが涙道手術の中心となった.おわりに涙道診療の進め方が変化したことで,術式選択も大きく変わった.筆者自身のアイデンティティーでもあった涙道の内視鏡手術が後退したことは大変に残念である.リスクを気にせず内視鏡手術に邁進する道も可能であったかもしれないが,筆者は術者である前に医療施設管理者であるので,職場衛生管理の責務を負っている.パンデミックが終息するまではこの点を第一に考え,現在の涙道診療の進め方を守るつもりである.今回のパンデミックもすでに出口が見える時期にあり,そう遠くない将来また内視鏡手術に安心して取り組むことができるはずである.筆者はそれまでの期間,むしろこの時期しかできないことに専念したい.すなわち,外来でのCT検査から考えた診断を手術室で答え合わせをする面白さ,あるいは執刀直前に涙道内視鏡で見た涙道の状態がすぐにその場で開けて確認できる感動,これらを楽しむ気持ちでパンデミックの終息を待ちたいと考えている.文献1)SasakiCT,CNagataCY,CSugiyamaK:NasolacrimalCductCobstructionCclassi.edCbyCdacryoendoscopyCandCtreatedCwithCinferiorCmeataldacryorhinotomy:PartCII.CinferiorCmeatalCdacryorhinotomy.CAmJOphthalmolC140:1070-1074,C20052)JavateRM,PamintuanFG,CruzRTJr:E.cacyofendo-scopicClacrimalCductCrecanalizationCusingCmicroendoscope.COphthalmicPlastReconstrSurgC26:330-333,C20103)鈴木亨:涙小管閉塞症の顕微鏡下手術における術式選択.眼科手術24:231-236,C20114)OwjiCN,CZareifardA:NormalizationCofCconjunctivalC.oraCafterCdacryocystorhinostomy.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC25:136-138,C20095)HegdeCR,CSundarG:GuidelinesCforCtheCoculoplasticCandCophthalmicCtraumaCsurgeonCduringCtheCCOVID-19era:CAnCAPOTSC&CAPSOPRSCDocument.CAPOTS&APSOPRSC2020.4.176)AliMJ:COVID-19pandemicandlacrimalpractice:mul-tiprongedCresumptionCstrategiesCandCgettingCbackConCourCfeet.IJOC68:1292-1299,C20217)BrettCWD,CMichaelCSM,CRonCWPCetal:TearCtroughCinci-sionCforexternalCdacryocystorhinostomy.OphthalmicPlastReconstrSurgC31:278-281,C2015***