眼球形状の経年変化Age-RelatedChangesinEyeballShape山下高明*はじめに屈折は角膜屈折力,水晶体屈折力,眼軸長のC3要素で決まる.角膜形状と眼軸長によるピントのズレを補正するように変化する水晶体を除くと,角膜形状と眼軸長,すなわち眼球形状の個人差によって近視・遠視・乱視のような屈折の個人差が生じることになる.眼球形状の個人差がどの時点でどんな原因によって決まるかという視点から考えると,新たな検討すべき屈折異常の要因が浮かび上がってくる.今回は緑内障専門医の立場から眼球形状の経年変化について考察する.CI遺伝と胎内での眼球形状変化本稿では詳しく述べないが,顔かたちの個人差に遺伝の影響が大きいように,眼球形状に対しても遺伝は大きな要因であることは間違いない1).一方で,胎内での眼球発生の個人差についての報告はほとんどなく,胎内の眼球形状を低侵襲で簡便に測定できる機器の開発が待たれる.現時点では,遺伝子と発生の結果としての出生時の眼球形状から,胎内での眼球形状の変化を推察することになる.妊娠週数C32.40週で出生した新生児の眼軸長,前房深度,硝子体長を比較すると,週数が長くなるにつれて,それぞれ週あたりC0.14mm,0.028mm,0.11.mm大きくなったが,水晶体厚は有意な変化を認めなかった2).妊娠週数C32週以降の胎内では前眼部,後眼部ともに眼球全体が急速に大きくなっていると推察される.II乳児期出生時の眼軸長には個人差があり,平均では約C16.mmと報告されている3).成人では正視の眼軸長はC24.mm程度なので,眼軸長としてはC1.5倍,眼球容積としてはC1.5のC3乗で約C3倍に拡大することになる.妊娠後期に引き続いて乳幼児期も眼球は前眼部も後眼部も急速に大きくなる(図1,proportionalCenlargement).角膜曲率半径が大きくなることで角膜屈折力は低下するが,眼軸長が長くなるため相殺されて屈折の変化は少ない.眼軸長としてはC2歳までに約C22.mmまで大きくなるが,個人差も大きくなりC20.mm以下の眼やC25.mm以上の眼も出てくる4).2歳ごろまでの眼球拡大に関してもっとも影響を与えると考えられているのは,眼圧と角強膜伸展性である.小児緑内障では病的な眼圧上昇によって,角膜径の含め眼球全体が大きくなり牛眼と呼ばれる状態になる.正常眼でも判で押したようにすべての眼の眼圧と眼球壁伸展性が一緒ということはありえず,個人差がある.角強膜伸展性が大きく,眼圧が高い眼では眼球全体が大きくなり,逆に角強膜伸展性が小さく,眼圧が低い眼では眼球全体が小さくなる.未熟児と満期産児を比較すると未熟児のほうが眼圧が高く(13.25Cvs12.22.mmHg),角膜厚も厚い(524.720Cvs489.650.μm)5).つまり眼圧と角強膜伸展性の間でバランスがとれるまで,眼圧によって眼球が拡大していくと考えられる.ただし,正確な眼内圧(真の眼圧)を測定することは,成*TakehiroYamashita:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学〔別刷請求先〕山下高明:〒890-8520鹿児島市桜ケ丘C8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)C1467眼圧,強膜伸展性栄養強膜硬化核白内障前眼部・後眼部ともに拡大主に赤道部が拡大ProportionalenlargementExcessiveenlargement眼球拡大停止または持続後眼部局所が拡大Focalenlargement眼球拡大が大きく持続する場合後部ぶどう腫・病的近視図1眼球形状の経年変化時期によって影響する要因が変化する.学童期に眼球の伸びる方向図2卵型眼球での成長期の眼底変化眼球赤道部が伸びると眼底写真では矢印のように黄斑に向かって伸びることになる.視神経乳頭耳側ではコーヌスが拡大し,上下ではアーケード血管が黄斑方向にシフトし,鼻側では神経線維が視神経乳頭に乗り上げてくる.く,平均身長がほとんど変化していないインドとバングラディッシュでは若年世代ほど近視頻度が増加する傾向はない.逆に老年世代ほど近視頻度が増加しているが,これは低栄養で加齢が早くなり,核性近視が増加したことが原因とされている13).先進国では現在のC90歳代と比較するとC60歳以下は,身長は高く,スタイルはよく,顔は立体的になっているのに,眼球形状だけ変化しないということはありえない.日本の久米島疫学調査でも世代が若いほど身長が高く,眼軸長が長い傾向があった13).現代の日本人小学生を対象にした研究では,食事が日本的よりも西洋的なほうがCbodyCmassindexが大きく,眼軸長が長かったことから14),小児期の栄養状態が身長だけでなく,眼軸長にも影響しているといえる.CIV学童期赤道部の眼球壁が伸びていく要素が大きい眼では,眼底に大きな変化が生じてくる.図2のように赤道部が伸びる場合に眼底写真では黄斑に向かって伸びることになる.このような卵形の眼の成長期の眼底写真変化は,図2の同一眼のC9歳時とC14歳時を見比べるとわかる.視神経乳頭およびその周辺の変化が大きいことがわかる.視神経はほとんど動かないため,眼球壁が進展するにしたがって,視神経乳頭が傾斜し,視神経乳頭の上下ではアーケード血管が黄斑側へシフトし15),耳側ではコーヌスが大きくなり,鼻側では神経線維が乗り上げて隆起してくる16).図2の光干渉断層計の横断面では,耳側のコーヌスが拡大し,鼻側の神経線維の乗り上げ(乳頭周囲神経線維隆起)が高くなっているのがわかる.これらの個人差は,緑内障の視野障害パターンや正常眼データベースと比較する光干渉断層計の緑内障診断に影響してくる17).CV成人成長期が終わると眼球の成長も止まる眼が多いが,一部の眼では成人になっても眼軸長が伸び続ける.それは強度近視眼だけではなく,遠視眼でも起こる.病的近視が含まれない開放隅角緑内障C125眼で約C5年間の眼軸伸長を測定したところ平均C0.035Cmm伸びており,予想に反して最初の時点での眼軸長が短いほど,眼軸長の伸びが大きい傾向がみられた18).このことから成人してから眼軸長が伸びる眼は,眼軸長に限らず,眼球伸長が止まる要素が完全に働かなった眼であると考えられる.現在のところなぜ眼球の成長が止まったり,止まらなかったりするのかはわかっていないが,眼球壁の硬化が影響しているのではないかと筆者は考えている.おわりに緑内障研究で,バイオメカニクスの重要性に気づき,さまざまな仮説を立てて研究してきたが,眼球形状の個人差とは顔かたちの個人差に似ており,単純ではない.今回は経年変化という時間軸で要因を述べたが,地域差,世代間の差も考慮する必要がある.時間軸の要因も人によって長く続く場合もあれば,強い場合もあり,それを統計学で仕分けていく必要がある.眼球形状の個人差の研究はまだ始まったばかりであり,本稿をみた先生方が眼球形状のたくさんの謎に興味をもって,少しでも解明されることを願っている.文献1)SpaideCRF,COhno-MatsuiCK,CYannuzziLA:PathologicCmyopia.CSpringer.C20142)YangCJ,CWangCQ,CLiCCCetal:TheCdevelopmentCofCocularCbiometricCparametersCinCprematureCinfantsCwithoutCreti-nopathyCofCprematurity.CCurrCEyeCRes.CEpubCaheadCofCprint,C20203)Axer-SiegelCR,CHerscoviciCZ,CDavidsonCSCetal:EarlyCstructuralCstatusCofCtheCeyesCofChealthyCtermCneonatesCconceivedCbyCinCvitroCfertilizationCorCconceivedCnaturally.CInvestOphthalmolVisSci48:5454-5458,C20074)LinCH,CLinCD,CChenCJCetal:DistributionCofCaxialClengthCbeforeCcataractCsurgeryCinCchineseCpediatricCpatients.CSciCRepC29:23862,C20165)UvaCMG,CReibaldiCM,CLongoCACetal:IntraocularCpressureCandCcentralCcornealCthicknessCinCprematureCandCfull-termCnewborns.CJAAPOSC15:367-369,C20116)GroverCS,CZhouCZ,CHajiCSCetal:IntraocularCpressureCinCprematureClowCbirthCweightCinfants.CJPediatrOphthalmolStrabismusC53:300-304,C20167)LiCSM,CIribarrenCR,CLiCHCetal:IntraocularCpressureCandCmyopiaCprogressionCinCChinesechildren:theCAnyangCChildhoodCEyeCStudy.CBrJCOphthalmolC103:349-354,C20198)MayCA:Non-vascularCsmoothCmuscleCcellsCinCtheChumanchoroid:distribution,CdevelopmentCandCfurtherC1470あたらしい眼科Vol.C37,No.C12,2020(6)’C-