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日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 6.私の恩師であったJin先生を偲ぶ

2013年6月30日 日曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑥責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑥責任編集浜松医科大学堀田喜裕私の恩師であったJin先生を偲ぶ赤木好男(YoshioAkagi)福井大学名誉教授1972年京都府立医科大学卒業・同大学眼科研修医.1974年同大学大学院入学.1979年同大学眼科助手.1981年留学.1984年同大学眼科講師.1986年再留学.1990年同大学眼科助教授.1993年福井大学眼科教授.2007年日本白内障学会理事長.2011年福井大学名誉教授.現在に至る.私は,1972年(昭和47年)に京都府立医科大学を卒業した.眼科研修医時代に,緑内障線維柱帯切除術で摘出された組織片を光学顕微鏡で観察することを経験した.そのことがきっかけで,さらに本格的な基礎的研究に興味を持った.そこで,2年間の研修医終了後,当時,神経解剖学で大きな業績のあった第一解剖学教室の大学院に入学した.4年間の大学院時代では佐野豊先生に師事した.大学院を終えるころ,米国に留学したい気持ちが徐々に沸き上がってきた.大学院卒業後,再び眼科学教室に戻ったが,この留学の夢を叶えてくれたのが,当時の眼科学教授,糸井素一先生であった.糸井先生のお陰で,1981年9月から,米国国立眼研究所(NationalEyeInstitute:NEI)の桑原登一郎(ToichiroKuwabara:TK)先生の研究室に留学した.出発1カ月前,8月16日の当直の折,病棟から長年の夢が叶った喜びをかみしめ,留学できる夢を膨らませながら,大文字の送り火を見たことは昨日のことのように覚えている.渡米はNewYorkのJohnF.Kennedy空港を経由して,WashingtonDCのNational空港に家族と共に夜9時頃到着した.TK研究室の前任者であり,順天堂大学から留学していた矢島保道先生には,空港まで迎えに来ていただき,その後の米国生活のセットアップに随分助けていただいた.さて,TK研究室で与えられた研究テーマは,隅角の線維柱帯,シュレム管,集合管,房水静脈などの房水流出路を一望できる切片の作製であった.無論,重要なことだとは思ったが,さっぱり興味がわかなかった.仕方がなく,余った時間で,角膜神経の再生過程を電子顕微鏡で観察する仕事をしていた.それを知ったTK先生からは度々叱責された.さらに,他の研究室ま(91)たは日本からTK研究室を訪問してきた日本人研究者にはいつも大変にこやかに対応されていたのに反し,私に向ける視線はいつも厳しいものだった.内弟子はきっちり育てようと考えておられたのか,もしくは何らかの理由で私は嫌われていたのかも知れないが,その落差は私にとって大変辛いものだった.期待に胸を膨らませて留学したのであるが,留学後2,3カ月で「もう帰国したい」といつも考える憂鬱な日々を過ごした.さて,矢島先生は主たる研究以外,同じNEIのPeterKador博士との共同研究でアルドース還元酵素(aldosereductase:AR)の眼における免疫組織化学的研究を行っていた.矢島先生が,その研究を未完成のまま帰国されることとなり,私はその継続をPeterに申し出た.Jin先生がNEI研究部門のトップであることはそのとき初めて知った.Peterの仲介で,私はビル10のJin先生の部屋に呼ばれ,研究室移動の意思を先生から直接再確認された.その年のARVO開けの日に移動日が決まった.その日から私はAR研究を正式に始めた.帰国を毎日考え鬱々とした日々から,急に新しい道が目の前に開けた感じであった.私の研究室移動を決定していただいたJin先生,仲介してくれたPeterはその意味で私の一生の恩人である.NEIではその後,私は3年間にわたりAR研究に従事した.帰国後もARを中心とした研究を続け,Peterとは30年にわたり研究面および個人的交友がある.かくしてAR研究が私のライフワークとなった.当時の米国留学生活が私の人生で最も楽しい時代だったと今でも感じている.当時FMラジオで聞いていた曲は私のiPodに数百曲入っており今でも懐かしく聞いている.あたらしい眼科Vol.30,No.6,20138130910-1810/13/\100/頁/JCOPY 写真1Jin先生1990年頃,来日され,学会で講演された.写真21995年頃のハワイで行われた日米水晶体会議懇親会Jin先生(前列右)Reddy先生(前列左),後(,)列はPeter(左)と筆者.NEIには臨床と基礎部門があった.研究部門では水晶体研究室以外,ぶどう膜炎,分子生物学など多くの研究室があった.Jin先生の主力研究であったAR研究室はPeterが室長の一つだけであった.Jin先生の時代には日本から数十名に及ぶ研究者が,NEIでさまざまな研究に従事してきた.そして,日本へ帰国後多くの研究者が研究を継続した.このことから,Jin先生が日系米国人として,日本人研究者を通して日本の眼科研究の発展に多大な功績があったことに疑いはない.一方,1977年頃,Jin先生は米国の著名な水晶体研究者であったReddy先生,Spector先生たちと水晶体会議(CCRG)を立ち上げられた.約2年後,名城大学教授の岩田修造先生が加わり,US-JapanCCRGへと発展した.それ以来,2年に1回,ハワイで開催され,長年にわたり日米の水晶体研究者の重要な交流の場となった.私自身も米国から,そして帰国後は日本から10回以上参加した.2009年,CCRGは福井大学眼科学教室としてハワイ州コナ市で主催した.近年,CCRGには世界中から水晶体研究者が集うようになった反面,日本からの参加研究者の減少とともにUS-Japanの冠称がなくなったことは残念である.Jin先生が提唱された糖白内障におけるポリオール浸透圧説とはつぎの通りである.糖異常状態では,糖はARの働きによって糖アルコールに還元される.糖アルコールは膜透過性が悪く,しかも代謝されにくいため細胞内に蓄積する.その結果,細胞内浸透圧が上昇し,細胞内に水分が吸引される.つまり細胞の膨化変性が生じ,白内障が形成されるに至る.構造式の異なる多種類814あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013のAR阻害剤(aldosereductaseinhibitor:ARI)が,実験的白内障発症を抑制もしくは治癒させる.この事実が本説を強く支持する証拠の一つである.一時は世界の多くの製薬会社がARI開発に力を注いだが,ARIの一つであるSorbinilの網膜症に対する臨床治験結果において有意な予防効果が認められなかった.この頃から,AR研究は下火となった.水晶体研究を振り返ると,これまで白内障治療効果を持つとされた薬剤のほとんどは,生体における効果については客観性に乏しいのが現状である.動物実験であるにせよ,ARIほど再現性を有しかつ説得力のある治療効果を有する薬剤は白内障研究史上例を見ないことは強調したい.Jin先生とは配下の研究者としてよく一緒に食事に行ったし,またゴルフにも行った.Jin先生は心温かい指導者でした.われわれ下の人間のいうことを良く聞いてくれ,色々と気配りをされるボスであった.自身の講演の際にも,ご自分の手柄にせず,これが誰の研究成果なのか,いつも注釈を加えておられたことは印象深い.世界的なAR研究が一段落したあと,1989年9月ArdenHouse(NW)にて「退官記念学会」を開かれ,NEIを去られた.しばらくはカルフォルニアの大学の研究室にも属し,研究活動も継続され,時々来日され講演もされた.数年後,持病の腰痛が悪化され歩行もままならなくなったのちは,周囲との連絡を完全に絶たれ,自宅で過ごされた.あらためて私の恩人であるJin先生のご冥福をお祈りしたい.また,Peterには心から感謝したい.(92)

現場発,病院と患者のためのシステム 17.“プロトタイプアプローチ”とは

2013年6月30日 日曜日

連載⑰現場発,病院と患者のためのシステム連載⑰現場発,病院と患者のためのシステム“プロトタイプアプローチ”とはシステムの開発には,ウオータフォール型の開発方式とプロトタイプアプローチと呼ばれる方式とがあります.前者は,仕様を決める上流工程に始まり,プログラムを作り,仕様通りできあがっているかをテストする下流工程まで,上から下へ進めていく方式です.後者は実際に動くプロトタ杉浦和史*はじめに一般的に,システムの開発は現状分析から始まり,BPR(無理無駄を省いた業務プロセスにする作業)をしたのち,仕様を作り,プログラム作ってテストして完成するまでの過程をたどります(図1参照).現状分析上流工程下流工程無理無駄を省いたあるべき姿へ(BPR)仕様作成・修正レビュープログラム作成・修正テスト完成戻る場所が上になるほど、費用・時間を要します.この部分に要する時間を短くし,動く環境で仕様の確認を行い,適宜修正し完成度を高める.イプを作ってテストし,スパイラル状に仕上げていく方式です.ウオータフォール方式は,設計する際の条件が変わらないことを前提としているのに対し,プロトタイプアプローチ方式は,全体構想を立てた後,小さな単位で試行錯誤を繰り返し,変更があればそれを吸収しながら完成度を高めていく方法で,当院の総合予約システムM-Magicはこれで作りました.が,そこで部門間での情報授受の齟齬,機能の過不足が発見されることもあります.これらを反映し,実用性を高め,使い勝手を向上させていきます..プロトタイプを作るタイミング院内業務総合電子化システムHayabusaは,SCD(ScreenCenteredDesign/画面中心設計)Rという考え図1一般的なシステム開発工程R仕様が“ほぼ”決まったら,レビューした後,実際に動くもの(プロトタイプ)を作り,操作し,画面レイアウト,操作性,画面遷移が作業実態に合っているかを関係者でレビューします.当院では,仕様を決めた者はもちろん,現場で作業をしているスタッフも参加します.よく吟味して作ったはずの仕様でも,実務に即して使ってみると,機能の過不足が発見されることが多々あります.また,無理な操作を要求していると指摘されることもあります.年に数回しか起らないことに,手間暇をかけていることが見つかり,BPRの結果,システムの対象から外したこともありました.当院では,必要に応じ,関連する他部門のスタッフもレビューに参加します(89)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY方で,以下の手順で設計しています.①業務内容,作業手順を分析②BPR実施③対応する画面を作る④実際に操作しているように,1操作ずつ画面を遷移させながら,以下のチェックを行う─レイアウト,文字サイズ,線の太さ,色などの見た目の印象はどうか─スム.ズな操作を阻害していないか─機能,情報の抜け漏れはないか─機能,情報の連携を考えているか⑤仕様に反映する⑥④,⑤を繰り返し,完成度を高める⑦プロトタイプを作っても良いくらいのレベルまで*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013811 発展途上実用領域研究領域合格点プロトタイプ作成時期使い勝手/性能/機能7~8割・漏れの吸収・フィッティング(さらなる実態の反映.ただし,BPR済みのこと)ブラッシュアップをしながら次第に完成度を高めていく(スパイラルアプローチ)etcブラッシュアップ期間費用,時間仕上がっているかを確認する⑧プロトタイプを作る⑨仕様通りに動くかを確認する⑩実際に動くことによって発見される問題をプロトタイプへ反映する⑪⑨,⑩を繰り返し,完成度を高める⑫完成以上ですが,⑦は無駄になる部分ができるだけ出ないようにするために必須です.ただし,完璧を目指さず,7,8割の完成度で臨むのがポイントです(図2).完璧な仕様に仕上げるのが理想ですが,①少なからず想定外のことが起きる,②得られる成果に比べ,所要時間が多すぎる,③動いているものでチェックしたほうが早いし確実.と割り切って考えます.経験に照らし,ある程度の完成度に達したと判断したときにプロトタイプを作ります.実際に動く画面を見ながらテストすると,描画ツールで作った画面を紙芝居的に見て,機能,操作性をチェックしたときには発見できなかった問題に気がつくことが多々あります.特に性能(レスポンス)は実際に動くものを見なければわかりません.機能的に満足し,操作感がまずまずでも,操作に対応した反応が遅かったら使い物になりません.見つかった問題点を反映(ブラッシュアップ)し,さらにテストを続けます.これを繰り返し行い,完成度を高め(スパイラルアップ),使えるシステム,効果を実感できるシステムが完成します.何をもって合格とするか…経営戦略(効果,費用,時間,競合他社動向)図2プロトタイプを作るタイミングR.プロトタイプを作るうえでの注意プロトタイプアプローチでは,開発期間内に,いかに頻回にプロトタイプ作成→テスト→反映を繰り返すこと812あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013ができるかがポイントです.それには,“できるだけ早くプロトタイプを作る”ことが求められます.時間を要していてはプロトタイプアプローチの意味がありません.プログラミング能力,センスに優れた技術者が必要です.一方,プログラミングは属人性の高い作業であることは知られています.できるだけ属人性を少なくし,生産性を高めるための開発支援ツール,標準コーディング(プログラムを書くこと)集の整備など,諸施策はありますが,属人性をなくすことはできません.図3は,筆者が某コンピュータベンダでOSの開発を担当していた際に使っていた,プログラムの作成がいかに属人的であるかを示すグラフです.トータルで8倍,個別に見ると27倍もの開きがあることに驚くことでしょう.図3プログラム作成の属人性Rプロトタイプアプローチで臨む際には,この属人性を考慮しなければなりません.極端にいえば,100名の平凡な技術者ではなく,10名のセンスの良い優秀な技術者に任せたい仕事です.石橋を叩き続け,なかなか渡たろうとせず,仕様が完全に仕上がるのを待ってつぎの工程に移ろうとするウオータフォール型開発の信奉者が開発チームのリーダだったりすると,工程遅延を引き起こす原因になりかねません.歴史と伝統を誇る大手ベンダ(システム開発会社)に多い“パラダイムシフトできず,時代に乗り遅れた技術者”が指揮を執ると大幅な工程遅延を引き起こす可能性が高くなります.時代に乗り遅れたという意識がないのでさらに問題を大きくします.発注側は,この点に注意し,場合によっては交代を申し入れることも必要になります.発注者は丸投げではなく,監視しなければなりません.楽そうに見える丸投げは,発注者である医療機関に有形無形の損害をもたらす可能性さえあることを肝に銘じましょう.(90)

タブレット型PCの眼科領域での応用 13.デジタルロービジョンエイドとしての全盲患者への活用-その3-

2013年6月30日 日曜日

シリーズ⑬シリーズ⑬タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第13章デジタルロービジョンエイドとしての全盲患者への活用─その3─■全盲患者におけるスマートフォン活用セミナーの意義本章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc.)”とタブレット型PCである“iPadminiR(米国AppleInc.)”,“iPodtouch(米国AppleInc.)”のiOSバージョン6.1.3です.この章では全盲者向けのスマートフォン体験セミナーを通して学んだ注意点や気づきを,実際のセミナーの進行に合わせて紹介していきます.■私のロービジョンエイド活用法『全盲者向け活用セミナー編』①セミナー準備これまで私は弱視者を中心とした視覚障害者や医療従事者に対して,タブレット型のPCやスマートフォンのロービジョンエイドとしての活用セミナーを行ってきました.しかし,全盲者を対象とした体験セミナーを行う機会は多くはありませんでした.その理由は,全盲者と弱視者では端末操作の指導方法が大きく異なり,両者を同時に指導することは非常に難しいためです.第11章で述べたように,タブレット型PCやスマートフォンはアクセシビリティ機能の一つであるvoiceover機能(音声補助機能)を起動することで,全盲の患者でも情報端末機器として操作ができます.Voiceoverによる操作ではおもに音声フィードバックによって端末を操作することになります.そのため全盲者向けのセミナーは少人数制として,すべての参加者が実機を操作しながら学べる環境を準備することが重要です.また,同時に複数の参加者がvoiceover操作を行うため,音声のフィードバックを各自が正確に聞き取れるように,イヤ(87)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYホンを準備した状態で説明を受けることが望まれます.②本体説明最初に電源の入っていない端末を手に取り端末本体の構造的な特徴を理解してもらい,参加者に物理的なボタンの配置と機能を実際に触って確認してもらいます.タッチパネル式の端末ではすべての液晶画面がタッチ認識の対象となるため,不用意な液晶画面への接触は誤操作の原因となります.しかし,全盲患者にとって凹凸の存在しない端末の前面における,タッチ操作に反応する液晶画面の範囲を把握することは難しいです.そのため厚紙などで作製した端末の立体模型を用いて,触覚的にその構造を認識してもらい,誤操作を生じにくい端末の把持法を指導する必要性があります(図1).次に,同様に端末の立体模型を用いて,本体液晶画面に映し出される構成要素やアイコンの配置を触覚的に理解してもらいます.最初から実機を操作するのではなく,まず物理的な構造の把握と立体模型による液晶画面の構成イメージを構築したうえで,実際の端末実機による操作手順指導へと進みます.実機を操作するまでに触図1立体模型に触れてアイコンの配置と液晶画面の範囲を認識している様子あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013809 図2片耳にイヤホンを装着して操作練習を行っている様子図2片耳にイヤホンを装着して操作練習を行っている様子覚を通して構造や画面構成を理解することで,実際の操作説明の際のイメージを想定するのが比較的容易となります.③操作説明Voiceoverを用いた具体的な操作方法の詳細に関しては第11章で述べましたが,voiceoverによる実機操作では,さまざまな操作アクションを音声によるフィードバックを通して確認することが可能です.参加者が各自イヤホンからの音声フィードバックを受けながら操作説明の指導を受けることで,より実践的な手技を習得することが可能となります(図2).Voiceover機能起動時の操作法には1本指での操作に加え,複数の指を使ったさまざまな応用操作が実装されています.全盲の患者が快適に端末を操作するためには,1本の指での操作に加え,複数の指を用いたさまざまな応用操作を習得することがとても重要です.しかし,患者のなかには指の動きが不自由な方もいるため,スマートフォンなどの対角4inchの液晶端末を利用した場合,端末の横幅が5.8cmと狭く複数の指を用いた操作が困難な場合があります.このような症例に対しては7.9inchの小型タブレット型PCを利用すると,タッチ認識可能な液晶画面の横幅が13.4cmと広く,最適な操作環境を提供できます.タブレットのサイズの多様化に伴い,これまで導入の難しかった全盲の患者に対して図3参加者の手のひらに1本指の操作の感覚を触覚を通して指導している様子も適応は確実に拡大しつつあるといえます.また,第11章でも述べましたが,初めてタッチパネル式の端末を操作する参加者には本人の手のひらに操作する指を誘導して,タッチパネル方式の操作に特異的なタッチの強さや動きの感覚を理解することで,不用意に力が入るなどの誤操作を予防することが可能です(図3).本章では全盲の患者たちに,タッチパネル式の端末を指導する際の手順と注意点について簡単に紹介しました.実際の全盲患者における端末指導では,触覚と聴覚による情報を適切に伝えることが最も重要であることに気づかされます.私は自身の活動を続けることでそのような気づきを中心に,正しいアクセシビリティ機能の活用法を広めることがとても重要であると考えています.全盲の方を含む,より多く視覚障害者がタブレット型PCやスマートフォンを日々の生活に活用することで,すべての視覚障害者の目に希望の光を戻し彼らの明るい明日が作られると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆810あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 121.Pheripheral exdative hemorrhagic chorioretinopathyに対する硝子体手術(初級~上級編)

2013年6月30日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載121患である.121Pheripheralexdativehem●硝子体手術のポイントorrhagicchorioretinopathy網膜下出血が黄斑部に及んでいなければ,通常単純硝に対する硝子体手術子体切除のみで良好な術後視力が得られる(図1.4).ただし,網膜下血腫の部分は出血が器質化して視野欠損(初級.上級編)池田恒彦が残存する.黄斑部を含む広範な出血性網膜.離をきた大阪医科大学眼科している場合には,筆者は耳側に意図的巨大裂孔を作製して網膜を翻転し,網膜下血腫および脈絡膜新生血管周●Pheripherledtiehhgicchorio-囲の増殖組織を除去している.血腫除去後は液体パーフretinopathy(a)に起(x)因(a)す(v)る硝(e)子(m)体(o)出(r)血(a)ルオロカーボンで網膜を伸展し,眼内光凝固施行後に液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを置換すPheripheralexdativehemorrhagicchorioretinopathyる3).しかし,血腫が網膜色素上皮下に生じていること(PEHCR)は1980年にAnnesleyによって報告されたも多く,術後に色素上皮が広範に欠損してしまう可能性加齢黄斑変性の類縁疾患で,高齢者の黄斑外に出血性網が高い.膜色素上皮下血腫や網膜下血腫を生じ,しばしば硝子体出血に進展する1).加齢黄斑変性と違って,通常は片眼文献性のことが多い.網膜下出血量が多いと蛍光眼底撮影を1)AnnesleyWHJr:Peripheralexudativehemorrhagiccho施行しても周辺部の脈絡膜新生血管が確認できないことrioretinopathy.TransAmOphthalmolSoc78:321-364,1980も多いが,出血の吸収後などに検出できることもある2).2)吉田直樹,石龍鉄樹,丸子一朗ほか:ポリープ状病巣が確脈絡膜新生血管が黄斑外に存在するため,発症してもし認できたperipheralexudativehemorrhagicchorioretinopaばしば患者の自覚症状が少なく,硝子体出血をきたしてthy(PEHCR)の1例.眼科54:441-446,20123)高山圭,佐藤孝樹,石崎英介ほか:出血性網膜.離をき初めて眼科を受診するケースも多い.高齢者の原因不明たしたperipheralexudativehemorrhagicchorioretinopaの硝子体出血の鑑別診断の一つとして知っておくべき疾thyの1例.臨眼64:1573-1577,2010←図1硝子体手術直後の眼底写真術前は硝子体出血のため眼底透見不能であった.黄斑部に網膜下出血は及んでおらず,単純硝子体切除術のみで良好な視力が得られた.鼻側.上方にかけては黄色調の器質化した網膜下血腫を認める.→図2硝子体手術6カ月後の眼底写真網膜下血腫は徐々に吸収したが,視野欠損は残存した.←図3硝子体手術6カ月後のフルオレセイン蛍光眼底写真視神経乳頭の上鼻側にfibrovascularPED(網膜色素上皮.離)のような所見を認める.脈絡膜新生血管は明確には検出されなかった.→図4硝子体手術6カ月後のインドシアニングリーン蛍光眼底写真鼻側の中間周辺部に脈絡膜新生血管を疑わせる所見を認めるが,判然としなかった.(85)あたらしい眼科Vol.30,No.6,20138070910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 150.血管成熟化の分子機構:血管とグリア細胞(アストロサイト)

2013年6月30日 日曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第150回◆眼科医のための先端医療山下英俊血管成熟化の分子機構:血管とグリア細胞(アストロサイト)崎元晋(大阪大学大学院医学系研究科眼科学)はじめに血管が安定化していることは生理的な体液循環にとって必要ですが,さまざまな病態の抑制にも重要です.血管の構造破綻により,透過性亢進による網膜浮腫・血管閉塞による虚血状態が起こり,これらは糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など多くの網膜疾患の病態に影響します.血管内皮増殖因子(VEGF)は,内皮細胞の増殖や移動,血管の管腔形成に関連しますが,過剰なVEGFのみで形成された血管は,糖尿病網膜症での新生血管に代表されるように構造的に非常に不安定で容易に漏出を起こし,破綻します.血管成熟化とは?アペリンによる血管成熟化メカニズム生理的な状態や発生の段階でもVEGFは分泌されますが,正常の血管が形成される際に内皮細胞を裏打ちするのが,周皮細胞(ペリサイト)やアストロサイトです(図1).血管内皮細胞がVEGFによって刺激を受けるとG蛋白受容体であるAPJ受容体が発現します.さらアストロサイト(グリア細胞)タイトジャンクション血管内皮細胞基底膜周皮細胞(ペリサイト)血管内腔図1血管の構造網膜などの中枢神経系の毛細血管では,血管内皮細胞を周皮細胞(ペリサイト)やアストロサイトが裏打ちし,安定した血管構造をとる.(83)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYにTie2受容体の活性化が起こると,APJの結合因子である13アミノ酸からなるペプチドであるアペリンの発現が誘導され,血管内皮細胞でアペリンの発現上昇,さらにアペリンによる受容体APJの活性化によって血管の安定化が起こることが明らかにされました(図2)1).血管とアストロサイトそもそも網膜の生理的な血管新生(血管の発生)には,アストロサイトが必須であることが知られています.グリア細胞の一種であるアストロサイトはVEGFやマトリクスを供給し網膜血管新生を促進させます2).もともと未熟なアストロサイトはVEGFを強く発現し,血管新生を促進させますが,形成された血管自身によってアアンジオポエチン1Tie2受容体血管安定化APJ受容体アペリンVEカドヘリン発現上昇血管内皮細胞血管内皮細胞図2アペリン.APJシグナル血管内皮細胞では,アンジオポエチン1がTie2受容体を活性化し,アペリンが発現しAPJ受容体を活性化する.それによりVEカドヘリンの発現が上昇し,内皮細胞間の結合が増強し,血管が安定化する.VEGF↑VEGF↓LIFによる過剰な分化作用血管新生の抑制アペリンAPJ未分化なアストロサイト血管内皮細胞分化したアストロサイト図3アペリン.APJシグナルによるアストロサイトの成熟化のメカニズムアペリン/APJシグナルによって内皮細胞からLIFが分泌され,アストロサイトの成熟化が起こる.未分化なアストロサイトはVEGFを強く発現するが,分化することによってVEGFの発現が下がり,過剰な血管新生が起きないように調節される.あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013805 ストロサイトは成熟化し,VEGFは低下,それ以上の過剰な血管新生が起きないように調節をします.そのプロセスでは,血管内皮細胞で血管成熟化シグナルであるアペリン/APJシグナルが活性化し,内皮細胞から白血病阻止化因子(LIF)が分泌されます.LIFによってアストロサイトの成熟化が促進すると,VEGFの低下が起こり血管の安定化が起こることがわかりました(図3)3).おわりに血管成熟化シグナルであるアペリン/APJシグナルがLIFを介してアストロサイトの成熟化を促し,VEGFの低下を起こすことがわかりました.つまり血管の成熟化にかかわる因子が血管内皮細胞のみでのシグナル伝達で完結することなく,周囲の細胞を分化させることによって血管自身の安定化を起こすことが示されたのです.病的な血管新生に未熟なグリア細胞がどれほどかかわっているかは現時点では不明ですが,切除された糖尿病網膜症の線維血管増殖膜ではアペリン/APJシグナルの発現が報告され4),活性化したグリア細胞は血管新生を誘導することがヒト糖尿病網膜症の剖検例で明らかとなっています.今後の疾患モデルでの解析が進むことが期待されます.文献1)KidoyaH,UenoM,YamadaYetal:Spatialandtemporalroleoftheapelin/APJsysteminthecalibersizeregulationofbloodvesselsduringangiogenesis.EMBOJ27:522-534,20082)UemuraA,KusuharaS,WiegandSJetal:Tlxactsasaproangiogenicswitchbyregulatingextracellularassemblyoffibronectinmatricesinretinalastrocytes.JClinInvest116:369-377,20063)SakimotoS,KidoyaH,NaitoHetal:Aroleforendothelialcellsinpromotingthematurationofastrocytesthroughtheapelin/APJsysteminmice.Development139:13271335,20124)TaoY,LuQ,JiangYRetal:Apelininplasmaandvitreousandinfibrovascularretinalmembranesofpatientswithproliferativediabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci51:4237-4242,2010■「血管成熟化の分子機構:血管とグリア細胞(アストロサイト)」を読んで■今回は大阪大学の崎元晋先生による血管新生の成分化させることによって血管自身の安定化を起こす分熟メカニズムについての解説です.眼科領域では糖尿子メカニズムです.臨床的にも,新生血管の「activi病網膜症などの網膜虚血に伴う網膜硝子体血管新生,ty」(出血しやすい,漏出が盛んであるなど)が低下血管新生緑内障にかかわる血管新生の分子メカニズムし,成熟化する過程では新生血管の周囲に線維性の増の研究が進展し,血管内皮増殖因子(VEGF)や炎症殖膜が形成されることを経験します.この増殖膜を電性サイトカインなど多くの因子が関与することが明ら子顕微鏡や組織化学的に観察するとグリア系の細胞のかになってきました.その成果につなげる血管新生の関与が報告されています.成熟については臨床的にはわれわれは経験します.すこのようにきわめて説得力があります.血管成熟化なわち,糖尿病網膜症にしても加齢黄斑変性にしてものメカニズムが明らかになると,今後の眼科医の治療光凝固などの治療をしつつ経過をみていますと出血,の幅が広がるのではないかと大いに期待されます.ま血管からの漏出などが減少し,いわば落ち着いていくたVEGFがこの成熟化の過程でどのような役割を果た過程を経験します.この血管の安定化過程を分子レベしているのかも大変興味深いところです.眼局所に高ルで解明することは治療の新しい分子標的を見出すこ濃度に存在すると血管新生がさらに進行していくと考とにもつながります.えますが,低下してほかのサイトカインと移り変わっ崎元先生の示されたモデル,すなわち,血管成熟化ていく際にある程度のクロストークがもしあれば,抗シグナルアペリン/APJシグナルが白血病阻止化因子VEGF薬でどこまでVEGF濃度を低下させるのがい(LIF)を介してアストロサイト(神経膠細胞)の成熟いかという議論をエビデンスをもって行えることにも化を促し,VEGFの低下を起こすというメカニズムなります.新しい展開が眼科医療,特に網膜硝子体疾は,血管の成熟化にかかわる因子が血管内皮細胞のみ患の分子病態と治療を変えていくことが期待されます.でのシグナル伝達で完結することなく,周囲の細胞を山形大学医学部眼科山下英俊806あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(84)

私の緑内障薬チョイス 1.ザラカム®とデュオトラバ®

2013年6月30日 日曜日

連載①私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載①私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也1.ザラカムRとデュオトラバR稲谷大福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学ザラカムRとデュオトラバRの長所は,1つの点眼ボトルで1日1回点眼なので,プロスタグランジン関連薬単剤処方の症例から,切り替えても点眼回数が変わらない点である.プロスタグランジン関連薬単剤で治療されている正常眼圧緑内障患者の眼圧を下げたいときに処方することをお勧めする.点眼回数で有利なザラカムRとデュオトラバR国内で販売されているプロスタグランジン関連薬とb遮断薬との配合剤は,ザラカムRとデュオトラバRの2種類である.ザラカムRは,ラタノプロストとチモロールとの配合剤で,デュオトラバRは,トラボプロストとチモロールとの配合剤である(図1).この2つの配合剤の一番の魅力は,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の2剤が含まれているのに,1日1回しか点眼しなくてすむことである.プロスタグランジン関連薬を点眼している正常眼圧緑内障患者に対して,さらに眼圧を下降させるには,b遮断薬を追加するのが最も多い治療選択肢であるが,チモロールを追加した場合,これまでの1本1日1回点眼から,2本1日3回点眼に増えてしまうのは患者にとってかなりの負担増になる(表1).チモロールの代わりに,点眼液に粘性を持たせ持続時間を長くした1日1回点眼のb遮断薬を処方したとしても,2本1日2回点眼でやはりプロスタグランジン関連薬1本1日1回点眼よりは毎日の点眼は面倒になってしまう.2種類のボトルの残量を管理することも煩雑性が増えてしまうかもしれない.眼科医の立場からも,診察の最後に次回の診察予約を取って,診察日の間隔を気図1ザラカムRとデュオトラバRザラカムRはキサラタンR,デュオトラバRはトラバタンズRにボトルが大変似ている.これなら,患者も点眼変更の抵抗感も少ないだろう.表1プロスタグランジン関連薬とb遮断薬併用療法の点眼ボトル数と用法比較点眼薬名プロスタグランジン関連薬とチモロールプロスタグランジン関連薬と長持続作用b遮断薬ザラカムRデュオトラバR点眼ボトル数221点眼回数/日321本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).(81)あたらしい眼科Vol.30,No.6,20138030910-1810/13/\100/頁/JCOPY 表2プロスタグランジン関連薬,チモロールおよびその配合剤のpH点眼薬ラタノプロストトラボプロストチモロールザラカムRデュオトラバRpH6.5.6.95.76.5.7.55.8.6.26.5.7.0にしながら,2本の目薬の残量を患者にたずね,点眼薬の名前を覚えていない患者からはフタの色や袋の色から類推して処方するのは面倒なことであると,読者の先生方も普段の診療経験でお気づきであろう.ザラカムRとデュオトラバRなら,次回は3カ月後だから3本で足りますか?という感じで診療もスムーズである.眼圧下降とお勧めな症例プロスタグランジン関連薬を単剤で点眼している患者に,ザラカムRかデュオトラバRへ切り替えた場合,b遮断薬が含まれている分だけ,さらに眼圧下降が期待できる.ただし,せいぜいb遮断薬の眼圧下降の分しか期待できないから,異常に高眼圧な緑内障患者に対して,プロスタグランジン関連薬からザラカムRやデュオトラバRに切り替えても,あまり大きな眼圧下降は得られないと筆者は考えている.ザラカムRとデュオトラバRがぴったりな緑内障病型は,正常眼圧緑内障の患者で,プロスタグランジン関連薬を点眼し,眼圧が15.20mmHgぐらいで推移している症例に対して,今のアドヒアランスのままで,もう少し眼圧を下げたい患者にぴったりだと思う.このような症例では,長期にわたって点眼薬を続ける必要があるので,点眼回数や本数が少ないことはアドヒアランスの向上につながるし,たとえ1mmHgの眼圧の変化しかなくても何年にもわたるとボディブローのように効いてくる.おそらく,眼科の診療で通院している緑内障患者のタイプで,最も多いタイプがこのような正常眼圧緑内障患者ではないだろうか?外来で最も多いタイプの症例がザラカムR,デュオトラバRで,処方がすっきりしていると,眼科医にとっても外来診察がずいぶん楽になるはずである.ザラカムRかデュオトラバRか?ザラカムRとデュオトラバRをどのように使い分けるかについてであるが,ラタノプロストから切り替える患者にはザラカムR,トラボプロストから切り替える患者にはデュオトラバRにしている.点眼時間は,ザラカムRが夜1回,デュオトラバRは朝1回と指示している.ただし,ラタノプロストからザラカムRに切り替えた場合に,「新しい点眼薬はしみますね,痛いです」という差し心地に関する訴えが患者から出ることがある.これは,ザラカムRのpHがラタノプロストよりも酸性であることに起因していると思われる(表2).この場合は,デュオトラバRに変更することがあるが,ザラカムRよりもデュオトラバRのほうが日中に充血が目立つことは説明している.患者にも眼科医にも使い勝手のよい点眼薬なので,是非活用していただきたい.●804あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(82)

抗VEGF治療:Reduced Fluence光線力学的療法と抗VEGF薬

2013年6月30日 日曜日

●連載⑬抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二3.ReducedFluence光線力学的療法と山下彩奈香川大学医学部眼科学講座抗VEGF薬中心窩を含む滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療は,基本的に2011年に加齢黄斑変性治療指針作成ワーキンググループが作成した治療アルゴリズムに則って行われる.筆者らの施設では,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を低照射エネルギーPDT(reducedfluencePDT)で行っており,その治療成績と抗VEGF薬単独療法,併用療法との比較について述べる.加齢黄斑変性(AMD)の治療選択中心窩を含む滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療は,基本的に2011年に加齢黄斑変性治療指針作成ワーキンググループが作成した治療アルゴリズム1)に則って行い,典型AMDは抗VEGF薬,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)は光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)あるいは抗VEGF薬またはPDT+抗VEGF薬併用療法,網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)はPDT+抗VEGF薬併用療法を選択する(図1).筆者らの施設では,PDTを単独療法でも併用療法でも基本的に低照射エネルギーPDT(reducedfluencePDT:RFPDT)で行っている.RFPDTの方法であるが,筆者らは,倍率1倍のコンタクトレンズ使用の設定で,実際は倍率1.44倍のレンズを使用することによって,光照射エネルギー量を通常の50J/cm2から25J/cm2に減らすことで実施している.その他,施設によっては照射時間を減らす方法,投与するベルテポルフィンを減量する方法で行われることもあるが効果の差は不明である.典型AMDに対する治療ANCHORstudy2)において,ルセンティス群で平均11.3文字の視力改善,PDT群で平均9.5文字の視力低下が報告され,国内におけるPDTガイドライン3)でも典型AMDに比べるとPCVのほうが治療成績が良いとされているように,典型AMDは抗VEGF薬療法による治療が効果的である.当科において,RFPDT施行にて12カ月経過観察で(79)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1加齢黄斑変性の治療指針(文献1より改変)中心窩を含む滲出型加齢黄斑変性(AMD)抗VEGF薬PDTあるいは抗VEGF薬または併用療法規定の間隔で経過観察(最高矯正視力,眼底検査,OCT)/維持期の追加治療PDT+抗VEGF薬併用療法典型AMDPCVRAPきた典型AMD症例15眼の治療後12カ月の視力不変・改善(logMAR0.3以上を変化とした場合)は80%で,平均logMAR視力の有意な改善は認めず,標準PDTと視力成績は変わらなかった.典型AMDの場合,2型脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を認める症例では,特に抗VEGF薬ではCNV縮小の効果が得られやすいが,PDTの場合,CNVが縮小することなく閉塞・瘢痕化するため,視力成績に差が出ると考えられる.PCVに対する治療PCVを対象にPDT単独群,ラニビズマブ単独群,両者併用群の比較をアジア5カ国で行ったEVERESTstudyでは,治療6カ月後のポリープ完全退縮の割合は,併用群(77.8%),PDT単独群(71.4%)で,ラニビズマブ単独群(28.6%)と比較して有意に高かったが,ベーあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013801 スラインからの最高矯正視力の変化量は各群間に有意差はなかったと報告された4).PDT単独療法については,PDTガイドラインでもPCVの治療成績が良いとされているが3),網膜下出血の合併症(4.5%)が報告されるなど,視力低下のリスクがあるため,視力良好例には適用しにくいとされている.しかし,当科において,PCV症例38眼に対するRFPDT単独療法の治療成績を2年間追跡した結果,平均logMAR視力は治療前0.43が治療後1年で0.28(p<0.0001),治療後2年で0.29(p=0.001)と改善しており,logMAR0.3以上の改善・不変の割合は36眼(95%)であり,さらに,治療前小数視力0.6以上の視力良好例13眼についても,治療後1年で有意に視力は改善し,治療後2年でも維持され,視力に影響する重篤な治療後出血もなかった5).また,EVERESTstudyに準じて行ったラニビズマブ併用RFPDTの1年成績は,平均logMAR視力は治療前0.49,治療後12カ月0.39とこちらも有意に改善(p=0.01),logMAR0.3以上の改善・不変の割合は35眼(92%)であったが,RFPDT単独療法とラニビズマブ併用RFPDTの1年成績を比較したところ〔治療前における年齢,最大直径(greatestlineardimension:GLD),logMAR視力,フルオレセイン蛍光造影(fluoresceinangiography:FA)による病変タイプは両群間に有意差なし),1年の経過観察期間では両者の治療成績に有意差はなかった(図2).抗VEGF薬単独療法は,視力改善・維持に有用であるものの,ポリープ閉塞率はPDTに比べて劣るという報告が多い.しかしながら,治療後の視力低下をきたすリスクが低いことから,視力良好例などでは良い適用となる.RAPに対する治療RAPには少ない治療回数で高い治療効果を得るため,視力良好例を除き,PDT+抗VEGF薬併用療法が推奨されている.当科ではラニビズマブ硝子体注射(IVR)+RFPDTの併用療法を行っており,19眼(stageII:13眼,stageIII:3眼)の1年成績は,平均logMAR視0.80.60.40.20-0.2-0.4-0.6単独群logMAR視力変化量p=0.441併用群両群間の治療前~12カ月後の視力変化量に有意差なし(Mann-Whitney検定)図2単独療法群,併用療法群の治療前~治療後12カ月のlogMAR視力変化量の比較力は治療前0.85が治療後1年で0.70(p=0.0012)と改善しており,logMAR0.3以上の改善・不変の割合は17眼(89%)であり,12カ月で要した治療回数は,初回治療を含めてRFPDTが1.3回,IVRが2.7回であった.文献1)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性治療指針作成ワーキンググループ:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,20122)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORstudygroup:Ranibizumabversusverteporfinforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1432-1444,20063)TanoY,OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585,e6,20084)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTstudy:efficacyandsafetyofverteporfinphtodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizumabmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina32:1453-1464,20125)YamashitaA,ShiragaF,ShiragamiCetal:Two-yearresultsofreduced-fluencephotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol155:96-102,2013☆☆☆802あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(80)

緑内障:強度近視と緑内障

2013年6月30日 日曜日

●連載156緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也156.強度近視と緑内障生野恭司大阪大学大学院医学研究科眼科学眼圧感受性が亢進する強度近視は,緑内障の危険因子である.原因として,角膜形状の変化や,篩状板支持組織の菲薄・脆弱化が考えられているが,いまだ明らかではない.強度近視は,乳頭形状の個人差が大きく,診断に困難を伴う.中心視野障害をきたしやすいので,臨床家として,常に意識しておくべきである.開放隅角緑内障の危険因子として,近視が注目されている.わが国を含む東アジアは,近視の人口が多い.独特の乳頭所見をもつ強度近視は,緑内障の診断が困難である(図1).強度近視のポイントを以下に述べる.●強度近視における緑内障の頻度最近のBeijingEyeStudy1)では,.6ジオプトリー図1強度近視眼における正常眼圧緑内障の1例乳頭が傾斜し,乳頭陥凹に出血が疑われる.典型的な緑内障としての診断はむずかしい.表1BeijingEyeStudyにおける屈折値と緑内障頻度ならびに眼圧値の関連屈折値緑内障の頻度(%)平均眼圧(mmHg)Highmyopia(<.8D)8.219.1Markedmyopia(<.6to.8D)9.820.4Moderatemyopia(<.4to.6D)5.017.0Lowmyopia(<.0.5to.3D)3.224.6Emmetropia(.0.5to<+2D)1.719.2(文献1より抜粋)(77)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY以上の強度近視は,正視よりも緑内障のリスクが高く,オッズ比7.5である.興味深いことに,弱度や中等度近視より,強度近視で急速にリスクが上昇し,それらは眼圧値に依存しない(表1).ちなみに多治見スタディの緑内障リスクは,弱度近視の場合,オッズ比1.9,中等度近視以上の場合,オッズ比2.6である2).これは臨床家として覚えておくべき数字であろう.●強度近視眼における緑内障の特徴強度近視では視野障害の進行形式に特徴があり,中心付近の視野障害をきたすことがある(図2).緑内障症例を強度近視眼と非強度近視眼に分けた場合,強度近視眼図2図1で示した症例の視野検査中心を含む上方の視野が著しく障害されている.あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013799 のほうが有意に若く,また乳頭黄斑線維束に近い神経線維が障害されやすい3).特に,上側の神経線維束障害に伴う耳下側の傍中心暗点をきたしやすく,注意が必要である.近視眼における特異的な進行形式は,眼圧以外の何らかの因子の関与を示唆するものである.●強度近視における緑内障の危険因子以下に述べるような要因が想定されているが,これらが複雑に作用して,緑内障を発症・進行させていると考えられる.1.角膜形状変化に伴う眼圧の過小評価近視になると,角膜が平坦化して,角膜厚が減少する傾向がある4).圧平眼圧計の場合,眼圧が過小評価する可能性があり,このために強度近視では,見かけより眼圧が高い可能性がある.ただ,前述のような特異的進行様式をもつ場合,眼圧が単独因子として作用しているとは考えにくい.2.脈絡膜の菲薄化と視神経乳頭への循環障害篩状板の血流の一部は脈絡膜を経由するが,強度近視では,脈絡膜が菲薄する.強度近視眼の正常眼圧緑内障では,対照群と比較して,乳頭周囲の脈絡膜厚が減少している5).また,近視型乳頭の血流をレーザースペックル血流計で測定すると,MD(標準偏差)値や網膜神経線維層厚と有意に相関する6).これらから,近視の緑内障には,視神経の血液循環が関与している可能性が高い.3.視神経乳頭の偏位と内部形状変化眼球伸展に伴い,視神経やその周囲に大きな形態の変化を生じる.視神経が通常のように強膜に対して垂直に貫通するのではなく,強膜内を斜行する(obliqueinsertion)ようになる.この現象は,乳頭周囲萎縮の拡大,乳頭の傾斜や回旋などの変化を通してみられるが,視神経に生体力学的変化をもたらし,眼圧からの応力ベクトルを変えている可能性がある.また,篩状板厚の減少や支持組織である強膜厚の減少,くも膜下腔の硝子体側への偏位などは篩状板における眼圧感受性を高めるとされる.最も注目されている分野であるが,非常に多岐にわたるため,別の機会に詳説する.おわりに強度近視と緑内障の関連が,最近ようやく注目され始めたのは,画像診断法,特に光干渉断層計の進歩による.現在,世界中の研究グループが,近視における緑内障のメカニズム解明に力を注いでいる.次回は,光干渉断層計を用いた近視眼での乳頭形状変化について,解説する.文献1)XuL,WangY,WangSetal:HighmyopiaandglaucomasusceptibilitytheBeijingEyeStudy.Ophthalmology114:216-220,20072)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal;TajimiStudyGroup:Riskfactorsforopen-angleglaucomainaJapanesepopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20063)KimuraY,HangaiM,MorookaSetal:Retinalnervefiberlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglaucoma.InvestOphthalmolVisSci53:6472-6478,20124)ChangSW,TsaiIL,HuFRetal:Thecorneainyoungmyopicadults.BrJOphthalmol85:916-920,20015)UsuiS,IkunoY,MikiAetal:Evaluationofthechoroidalthicknessusinghigh-penetrationopticalcoherencetomographywithlongwavelengthinhighlymyopicnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol153:10-16,20126)YokoyamaY,AizawaN,ChibaNetal:Significantcorrelationsbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisualfielddefectsandnervefiberlayerlossinglaucomapatientswithmyopicglaucomatousdisk.ClinOphthalmol5:1721-1727,2011☆☆☆800あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(78)

屈折矯正手術:顆粒状角膜ジストロフィII型(アベリノ角膜ジストロフィ)と屈折矯正術

2013年6月30日 日曜日

●連載157屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─157.顆粒状角膜ジストロフィII型(アベリノ角膜ジストロフィ)と屈折矯正術監修=木下茂大橋裕一坪田一男加藤浩晃稗田牧京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学顆粒状角膜ジストロフィII型(アベリノ角膜ジストロフィ)の治療としてはPTK(phototherapeutickeratectomy)が行われる.PTKでは上皮下浅層の淡い混濁を除去することで視力改善を得ることができる.顆粒状角膜ジストロフィII型の症例にLASIK(laserinsitukeratomileusis)を行うと,術後に層間混濁を起こし視機能低下につながるため禁忌であり,注意深い術前診察や家族歴の問診が大切である.顆粒状角膜ジストロフィという疾患名は1890年にGroenouwにより初めて記述された1).Groenouwは実質型の角膜ジストロフィのうち,常染色体優性遺伝を示すものをGroenouwI型(現在の顆粒状角膜ジストロフィI型),常染色体劣性遺伝形式を示すその他のものをGroenouwII型(現在の斑状角膜ジストロフィ)と分類した.1988年にFolbergらは同一角膜内に顆粒状の角膜混濁と格子状角膜ジストロフィのようなアミロイドの沈着を認め,常染色体優性遺伝形式をとり,混濁が徐々に増強することによって高齢期に視力低下をきたしうる疾患を報告した2).これが現在の顆粒状角膜ジストロフィII型(アベリノ角膜ジストロフィ)である(図1).この疾患はイタリアのアベリノ地方出身者に多いことからアベリノ角膜ジストロフィと呼称されるようになった.従来,角膜ジストロフィは混濁部位や形状などの臨床像や病理学的所見により診断されてきたが,1997年にMunierらが遺伝子的な解明を行い,TGFBI(transforminggrowthfactorbeta-inducedgene)遺伝子異常により顆粒状角膜ジストロフィI型,顆粒状角膜ジストロフィII型(アベリノ角膜ジストロフィ),Reis-Bucker角膜ジストロフィ,格子状角膜ジストロフィの4つのタイプの角膜ジストロフィの発症を報告した3).それまでわが国では顆粒状の混濁がある角膜ジストロフィの多くを顆粒状角膜ジストロフィI型と診断していたが,これは間違いであり,555番目のアミノ酸であるアルギニンがトリプトファンに変異(Arg555Trp)する顆粒状角膜ジストロフィI型ではなく,124番目のアミノ酸がアルギニンからヒスチジンに変異(Arg124His)している顆粒状角膜ジストロフィII型であるということが判明した.わが国では顆粒状角膜ジストロフィII型が圧倒的に多く認められる.顆粒状角膜ジストロフィII型は10歳代で発症して,細隙灯顕微鏡所見としては角膜上皮下から実質中層に灰白色の輪状や顆粒状の小混濁に加えて,実質浅層から中層に白色の針状混濁がみられる.針状混濁はアミロイドの沈着であり,通常では50歳以降に明らかとなってくる.症状として初期は無症状であるが,病気の進行とともに混濁の大きさや数が増えていき,上皮下浅層に淡い混濁が生じると視力低下をきたす.このような特徴をもつヘテロ接合体が大部分であるが,まれにみられるホモ接合体では幼少期から両眼に強い混濁を認め著明な視力障害をきたす.視力低下が生じれば,外科的治療として角膜表層切除←図1顆粒状角膜ジストロフィII型(アベリノ角膜ジストロフィ)→図2顆粒状角膜ジストロフィII型(アベリノ角膜ジストロフィ)へのPTK術後(75)あたらしい眼科Vol.30,No.6,20137970910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図3顆粒状角膜ジストロフィII型による図4残存ベッド+フラップ裏面への図5残存ベッド+フラップ裏面へのLASIK術後の層間混濁PTK術後1カ月PTK術後1年半LASIKフラップの層間にびまん性の混濁がみられる.術,エキシマレーザー治療的角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK),表層角膜移植術が混濁の程度や初発・再発の別により選択される.PTKでは上皮下浅層の淡い混濁を除去することで視力改善を得ることができるとされている(図2).当院の脇舛は1998年8月.2006年3月までに顆粒状角膜ジストロフィII型にPTKを行い,6カ月以上経過が観察できた207眼に対して,.0.29±0.30logMAR,小数視力換算で約0.51±0.50の視力改善を認めたことを報告している4).再発性の顆粒状角膜ジストロフィII型に対する治療としてはマイトマイシンCを併用したPTKを行うと,再発を予防または遅延させる効果が報告されている.近年,屈折矯正手術としてLASIK(laserinsitukeratomileusis)の手術件数が増えているが,2002年にWanらは顆粒状角膜ジストロフィII型の症例にLASIKが施行されて,術後にフラップの層間混濁が生じて視力低下をきたした症例を報告した5).以降,同様の報告がいくつも他施設からされている.今回,他院にてLASIKを施術され,顆粒状角膜ジストロフィII型によると考えられるLASIKフラップ層間の混濁が生じ視機能の低下を認め,当院にて加療した症例を報告する.〔症例〕56歳,男性で,1997年(41歳時)に某近視矯正クリニックにて両眼にLASIKを施行された.術後5年程度は視力良好であったが,次第に視力低下が進行して近医を受診,両眼のフラップ下混濁の診断で2011年2月紹介受診となった.初診時には両眼ともフラップ下に層間混濁を認め(図3),視力はVD=0.04(0.1×sph.4.25D(cyl.1.75DAx30°),VS=0.3(0.7×sph.3.25D(cyl.0.50DAx40°)であった.遺伝子検査にてTGFBI遺伝子にArg124His変異を認め,顆798あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013粒状角膜ジストロフィII型を確定診断した.2011年4月1日に右眼PTKを施行.手術の方法としてはLASIKのエンハンスと同様に上方ヒンジのフラップをリフトして,ベッドを50μm,フラップ裏面を10μmエキシマレーザーにより切除を行った.その後0.02%マイトマイシンCを2分留置したのち生理食塩水200mlにて洗浄を行い,ソフトコンタクトレンズを装用して手術を終了した.術後にはびまん性のフラップ層間混濁は少なくなっていた(図4)が,右眼は白内障も認められていたので,2011年8月25日,右眼)PEA+IOLを施行した.現在,LASIK層間混濁の再発の所見もみられず,視力はVD=0.4(0.7×sph.1.00D)と良好に経過している(図5).顆粒状角膜ジストロフィII型を発症している症例にはLASIKを行うと術後に層間混濁を起こし,視機能低下につながるため禁忌と考えられる.顆粒状角膜ジストロフィII型はLASIKを施行する年齢では術前に混濁がみられるので,注意深い術前診察,および家族歴などの問診が大切である.文献1)GroenouwA:KnotchenformigeHornhauttrubungen(nodulicorneae).ArchAugenheilkunde21:281-289,18902)FolbergR,AlfonsoE,CroxattoJOetal:Clinicallyatypicalgranularcornealdystrophywithpathologicfeaturesoflattice-likeamyloiddeposits.Astudyofthesefamilies.Ophthalmology95:46-51,19883)MunierFL,KorvatskaE,DjemaiAetal:Kerato-epithelinmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.NatGenet15:247-251,19974)脇舛耕一:帯状角膜変性に対するPhototherapeuticKerate-ctomyの術後成績.IOL&RS21:604-605,20075)WanXH,LeeHC,StultingRDetal:ExacerbationofAvellinocornealdystrophyafterlaserinsitukeratomileusis.Cornea21:223-226,2002(76)

眼内レンズ:眼内レンズ裏の粘弾性物質除去

2013年6月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎322.眼内レンズ裏の粘弾性物質除去松浦一貴野島病院眼科最も多く行われている粘弾性物質(OVD)洗浄法はタッピングである.タッピングを行わなかった場合,.内のOVDはまったく除去されなかった.少なくともタッピングは必須の洗浄法であるが,高硝子体圧眼ではタッピングはもちろん,I/A(irrigation/aspiration)チップを眼内レンズ裏に挿入した場合においてすらOVDの完全な洗浄,除去はむずかしい.術中に眼内レンズ(IOL)裏に粘弾性物質(OVD)とともに取り残された細菌が眼内炎の原因になりうるため,このエリアの洗浄は重要である.昨年の筆者らの調査では,OVD除去の際にI/A(irrigation/aspiration)チップをIOL裏に挿入する術者は25%,IOLタッピングを行う術者が50%,どちらも行っていない術者が25%であった1).それぞれの手技におけるIOL裏の灌流動態を視覚的に検証するために,水晶体除去しIOL挿入した摘出豚眼にミルクで着色されたOVDを注入し,I/Aチップを用いて洗浄する実験を行った2).硝子体圧の調整を行わない場合:前房内でI/Aチップを動かさない場合には,前房内のOVDのみが除去され,IOL裏のOVDは残存した(図1a,b).I/Aチップをわずかに動かしIOLをタッピングすることで,IOL裏のOVDは一つながりの鎖として効果的に除去された(図1c,d,e).高硝子体圧眼(22mmHg):前房内でI/Aチップを動かさない場合には,低眼圧眼と同様にIOL裏のOVDは残存した(図2a,b).しかし,高硝子体圧眼ではIOLタッピングを行っても,水晶体.はIOL後面に密着しIOL裏に水流が回らないためOVDはまったく除去されなかった(図2c).I/AチップをIOL裏に挿入した場合においても,挿入側と反対側に三日月状のOVDが残存した(図2d).この場合,I/AチップをIOL裏に挿入しながらIOLを回転させるか,少なくとも2.3方向のIOL裏にI/Aチップを挿入することですべてのOVDの洗浄が可能であった(図2e).実際の臨床で最も多く行われているOVD洗浄法は,タッピングである.タッピングを行わなかった場合,.内のOVDはまったく除去されなかったことから,少なedcba図1硝子体圧の調整を行わない場合摘出豚眼の眼圧はほぼ0mmHgである.(文献2より)edcba図2高硝子体圧眼眼圧を22mmHgに調整した.(文献2より)(73)あたらしい眼科Vol.30,No.6,20137950910-1810/13/\100/頁/JCOPY ab図3術終了時の手術顕微鏡写真後.の皺はループの先端と先端を結ぶ.(文献2より)くともタッピングは必須の洗浄法であると考える.しかし,高硝子体圧眼ではタッピングはもちろん,I/AチップをIOL裏に挿入した場合においてすらOVDの完全な洗浄,除去がむずかしいことが確認された.術中にしばしばみられる後.の皺(図3)は,IOLのループの先端同士を結んでいる.IOL裏と後.とはスペースが存在するイメージ(図4a)で捉えられていることが多いが,実際にはほとんどの症例で術終了時には後.はふくらみを失いIOLと密着している(図4b).そのためここにシールされたOVDの中に細菌が存在した場合,房水側に排出されない.さらに,前房内の点眼も届かない隔離されたエリアとなる.すなわち,IOL裏は術中に洗浄,そして(必要ならば)投薬されるべきエリアであると考えている.図4IOLの断面図(文献2より)完全な水晶体.内の洗浄のためには,IOLを回転しながら2.3方向のIOL裏にI/Aチップを挿入する手技が必要とされるが,前房形成の不良な眼や高硝子体圧眼にコンスタントにこの手技を実践することは熟練者でもむずかしい.タッピングを徹底している術者もIOL裏にI/Aチップを挿入している術者も洗浄による効果を過信せず,その他の予防法と総合的に考えていく必要がある.文献1)松浦一貴,魚谷瞳,井上幸次:白内障周術期の抗菌薬投与法の現状.鳥取,島根.IOL&RS26:436-440,20122)松浦一貴,三好輝行,吉田博則ほか:水晶体.と眼内レンズは密着している.IOL&RS27:63-66,2013