《原著》あたらしい眼科30(8):1177.1180,2013c硝子体手術用眼内照明を用いた顕微鏡下強膜内陥術櫻井寿也木下太賀草場喜一郎繪野亜矢子田野良太郎福岡佐知子高岡源真野富也多根記念眼科病院ScleralBucklingProcedurewithTwin27-GaugeIlluminationFibersforRhegmatogenousRetinalDetachmentToshiyaSakurai,TaigaKinoshita,KiichiroKusaba,AyakoEno,RyotaroTano,SachikoFukuoka,GenTakaokaandTomiyaManoTaneMemorialEyeHospital目的:これまで,裂孔原性網膜.離(RRD)に対する強膜内陥術は,顕微鏡と双眼倒像鏡を使い分けて使用する必要があった.そこで,双眼倒像鏡で行っていた裂孔の位置決めと冷凍凝固の工程を顕微鏡下で施行できれば,この手術方法を簡素化し,顕微鏡直視下で裂孔閉鎖を確実に施行できることが考えられる.今回,有水晶体眼内レンズ挿入眼にRRDが生じた症例を経験し,顕微鏡のみで強膜内陥術を行ったので報告する.対象および手術方法:36歳,女性.強度近視のため,1年前に両眼に有水晶体眼内レンズ挿入術を受けていた.1週間前からの右眼視野欠損のため,近医を受診し,RRDの診断を受け当院紹介となる.初診時所見として,前房に虹彩支持型の前房型アルチザンレンズが挿入されていた.眼底所見は上方からのRRDを認めた.VD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.5DAx65°).手術方法は網膜復位を得るため強膜内陥術を選択した.硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア光源を下方強膜に設置し,顕微鏡下でマーキングおよび冷凍凝固を行い,顕微鏡下でのみ強膜内陥術を完遂した.結果:術後,網膜は復位し,術2カ月後にはVD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.75DAx160°)を得た.結論:前房型アルチザンレンズが挿入されたRRDに対する強膜内陥術施行時の硝子体手術用眼内照明を用いた顕微鏡下手術は有用であった.今後,適応の検討は必要であるが,今回の方法は強膜内陥術施行時に積極的に活用する手技の一つになる可能性が示唆された.Purpose:Itiscommonlyacknowledgedthatscleralbucklingprocedure(SBP)forrhegmatogenousretinaldetachment(RRD)requiresbothmicroscopeandbinocularindirectophthalmoscope.Useofthemicroscopealoneformarkingretinalbreaksandperformingcryopexy,however,mightsimplifythesurgeryitselfandefficientlyachievecompletesealingoftears.WereportacaseinwhichSBPwasperformedusingonlyamicroscopeforRRDinaneyecontainingaphakicintraocularlens(IOL).Case:Thepatient,a36-year-oldfemale,hadahistoryofphakicIOLsurgeryinbotheyes1yearbefore.Sheconsultedanophthalmologistbecauseshehadvisualfieldlossinherrighteyefromaweekpreviously.Diagnosedwithretinaldetachment,shewasreferredtoourhospital.Intheinitialobservation,aniris-fixatedArtisananteriorchamberIOLwasinserted.Fundusobservationdisclosedretinaldetachmentatthesuperiorportion.Visualacuity(VA)ofherrighteyewas1.0×sph.0.75D(cyl.0.5DAx65°.SBPwasperformedwithtwin27-gaugechandelierilluminationinsertedattheinferiorsclera.Markingattheposterioroftheretinaltearandcryopexywereconductedunderamicroscopewithchandelierillumination.Results:Retinopexywasobtainedaftersurgery;at2monthsaftersurgery,VAinherrighteyemaintained1.0×sph.0.75D(cyl.0.75DAx160°.Conclusions:SBPperformedusingilluminationfibersunderamicroscopewasefficientfortreatingRRDinaneyecontaininganiris-fixatedArtisananteriorchamberIOL.Althoughitisnecessarytoconsidersuchadaptation,itissuggestedthatthismethodmightbecomeanoptionforproactiveuseinSBP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1177.1180,2013〕Keywords:裂孔原性網膜.離,強膜内陥術,シャンデリア照明.rhegmatogenousretinaldetachiment,scleralbacklingprocegure,chandelierillumination.〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院Reprintrequests:ToshiyaSakurai,M.D.,TaneMemorialEyeHospital,1-1-39Sakaigawa,Nishi-ku,Osaka550-0024,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(133)1177はじめに近年,硝子体手術機器の発達に伴い,特に顕微鏡をはじめとする観察系の進歩にはめざましいものがある1,2).これまで裂孔原性網膜.離(RRD)に対する強膜内陥術は術中に顕微鏡と双眼倒像鏡を使い分けて使用する必要があった.したがってこの手技は煩雑で,双眼倒像鏡を用いた眼底検査の熟練を要する.そこでこれまで双眼倒像鏡で行っていた裂孔の位置決めと冷凍凝固の工程を顕微鏡下でできることになれば,この手術方法を簡素化し,顕微鏡直視下での裂孔閉鎖を確実に施行しうることが考えられる.今回,有水晶体眼内レンズ挿入眼にRRDが生じた症例を経験し,術中に双眼倒像鏡を使用せず顕微鏡のみで強膜内陥術を行ったので報告する.I症例患者:36歳,女性.既往歴:強度近視のため,平成22年10月ごろに,両眼の有水晶体眼内レンズ挿入術を受けていた.現病歴:平成23年12月3日約1週間前からの右眼視野欠損のため近医を受診し,RRDの診断を受け,当院紹介となる.初診時所見:視力はVD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.5DAx65°),VS=(1.0×sph.0.25D),眼圧はRT=15mmHg,LT=17mmHg.前房に虹彩支持型の前房型アルチザンレンズが挿入されていた(図1).右眼眼底所見は上方2時方向格子状変性後極側に小さな弁状裂孔による胞状の網膜.離を認めた..離の範囲は上方アーケード血管近くまで認めたが,黄斑部に.離は及んでいなかった(図2).治療方法の選択は網膜を復位させ,可能ならば前房型アルチザンレンズと水晶体を温存すること,屈折度数の大幅な変化がないことが求められる.硝子体手術を施行すると術中視図1虹彩支持型の前房型アルチザンレンズ図2初診時眼底写真図3硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明図4顕微鏡下網膜冷凍凝固の様子1178あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(134)認性の問題や,術後白内障の進行などの点から硝子体手術ではなく強膜内陥術を選択した.通常の強膜内陥術では虹彩支持型有水晶体眼内レンズのため散瞳もやや不十分であり,周辺部眼底検査が問題となる.この点を解決するため,今回,双眼倒像鏡で行う裂孔の位置決めと冷凍凝固を顕微鏡下で行う方法を試みた.眼底観察用の光源は硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明を用い,硝子体手術用レンズを通して裂孔の位置を観察する方法を考案した.経過:翌日にRRDに対し今回,考案した強膜内陥術を施行した.手術方法は球後麻酔の後,結膜切開,4直筋に牽引糸を付け,硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明を裂孔の反対側である下方(6時)に輪部から4mmの強膜に装着(図3).双眼倒像鏡を使用せず,顕微鏡下にて裂孔の位置決め,冷凍凝固を行った(図4).一旦,眼内照明を抜去し,刺入部は8-0バイクリル糸で仮縫合を行った.5-0ダクロン糸による強膜マットレス縫合を設置.マットレス縫合は上直筋,外直筋付着部を周辺側とし,幅約8mmで通糸した.その後,経強膜的に網膜下液を排液し,シリコーンタイヤ(#220)を仮縫合した.再度眼内照明を設置し,顕微鏡下で裂孔と強膜内陥の位置を確認した後,本結紮し,結膜を8-0吸収糸で縫合し手術を終了した.II結果術後経過は翌日には網膜下液は吸収され,裂孔の閉鎖を認めた.術2カ月後の視力と屈折値はVD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.75DAx160°)と屈折度数に関しては術前と大きな変化はなかった.術後9カ月,網膜.離の再発および合併症は認めていない.III考察これまで強膜内陥術を施行する際には双眼倒像鏡を用いるのが通常であった.しかし,この方法は顕微鏡との併用で手術手技も煩雑であり,双眼倒像鏡を普段から使用し熟練する必要がある.裂孔原性網膜.離に対する治療方法として,特に最近の硝子体手術の発展に伴い,主たる治療方法が硝子体手術に移行しており3.7),強膜内陥術は限られた症例に対する治療法となっている.双眼倒像鏡を用いた強膜内陥術は必ず習得すべき手術手技であることは言うまでもないが,その施行機会そのものが減少している傾向にある.すなわち,顕微鏡単独で網膜.離手術を施行する機会が増えている現状がある.今回の特殊な症例に対し,強膜内陥術を施行する際に硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明を利用し双眼倒像鏡を用いず,顕微鏡単独での強膜内陥術手技を試みた.この方法の利点は,1)網膜硝子体手術可能な装備であれば新たな器具は必要としない,2)顕微鏡単独の方法のため(135)従来の双眼倒像鏡併用方法に比べ術式が簡便である,3)顕微鏡広角観察システムを用いればさらに簡便になる可能性がある,4)硝子体手術に慣れた術者への強膜内陥術の教育などが考えられる.特に,若年者の格子状変性に伴った萎縮円孔による網膜.離など強膜内陥術の適応例は存在し,強膜内陥術の手術手技は,網膜硝子体術者では必ず習得すべき手術手技である.日常診療の場から双眼倒像鏡に慣れ親しむことにより,術中の双眼倒像鏡使用への抵抗はないが,今回の手技であれば,顕微鏡手術による硝子体手術を習得できた術者にとっては利用しやすい手技となっている.したがって,強膜内陥術の教育という点でも,今回の手技は術者だけでなく,指導医がアシスタントを行う場合,裂孔の位置決めや冷凍凝固の手技を顕微鏡下で確認しあえることは大変有用なことと考えられる.問題点としては,今回の顕微鏡下での強膜圧迫は接触型プリズムレンズを使用したことで,通常の双眼倒像鏡や広角観察システムを使用する場合に比べ,網膜周辺部観察にはより強い強膜内陥が要求される.さらに眼底観察の範囲が狭く,裂孔の同定や発見がしにくいことも考えられる.一度設置された眼内照明も,冷凍凝固後の強膜への操作,強膜通糸,網膜下液の排液,バックル材料の設置の際には一旦除去し,眼底観察の際に再設置しなければならないなど,手技の煩雑さや感染の懸念など問題点もある.今回の症例の場合,実際には,まず,双眼倒像鏡での観察を行ったが,前房型アルチザンレンズが挿入されていることで詳細な眼底観察が困難であった.広角観察システムも用いたが,開瞼器,広角観察用前置レンズ,冷凍凝固プローブの位置関係や不慣れな操作に問題があり,眼底観察時間の超過で角膜乾燥による視認性の低下をきたしたために,接触型プリズムレンズを最終的に使用した.今後は,広角観察システムを用い,開瞼器をより大きく開瞼できるものへの変更や角膜リングを設置し角膜乾燥予防に努めるなどの工夫を凝らすことで,より視認性,視野の点で接触型プリズムレンズよりも有用ではないかと考えられる.眼内照明の必要性については,顕微鏡照明では,まず光源から網膜,つぎに網膜からの反射光と前房型アルチザンレンズを光が往復2回通過することになる.けれども,眼内照明の場合には眼内からの光による片方向のみであることから眼内照明を用いることでより正確な観察が可能ではないかと推測した.眼内照明の種類の選択は,今回の症例では網膜.離の範囲から,トロッカーに挿入するシャンデリア照明ではなくツインシャンデリアを用いたが,結果的には,一連の網膜.離に対する強膜への操作や,眼球コントロールを考えると,トロッカータイプのほうが優れていた可能性は否定できない.最後に,あくまで一般的な強膜内陥術の適応症例には,双眼倒像鏡を用いた手術が行われるべきであるが,今回のようあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131179な症例に対する強膜内陥術施行時には,眼内照明を用いた顕微鏡下手術は有用であった.今後,広角観察システムの活用により,術者の経験や適応の検討は必要であるが,強膜内陥術施行時に積極的に活用する手技の一つになる可能性が示唆された.本論文の要旨は第82回九州眼科学会にて発表した.文献1)GeorgeAW:27-Gaugetwinlightchandelierilluminationsystemforbimanualtransconjunctivalvitrectomy.Retina28:518-519,20082)井上さつき,中野紀子,堀井崇弘ほか:ワイドビューイングシステムを用いた裂孔原性網膜.離の手術成績.臨眼63:1135-1138,20093)樋田哲夫,荻野誠周(編):特集裂孔原生網膜.離─硝子体手術vs.強膜バックリング.眼科手術12:273-303,19994)河野眞一郎:術式の選択.眼科診療プラクティス69,裂孔原性網膜.離(丸尾敏夫ほか編),p30-33,文光堂,20015)AhmadiehH,MoradianS,FaghihiHetal:Anatomicandvisualoutcomesofscleralbucklingversusprimaryvitrectomyinpseudophakicandaphakicretinaldetachment:six-monthfollow-upresultsofasingleoperation─reportno.1.Ophthalmology112:1421-1429,20056)荻野誠周:裂孔原性網膜.離の硝子体手術成績─強膜バックリング法との比較.眼臨82:964-966,19887)大島佑介,恵美和幸,本倉雅信ほか:裂孔原性網膜.離に対する一次的硝子体手術の適応と手術成績.日眼会誌102:389-394,1998***1180あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(136)