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治療的角膜切除術後に遷延性角膜上皮欠損とカルシウム塩沈着をきたした眼類天疱瘡の1例

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):541.545,2013c治療的角膜切除術後に遷延性角膜上皮欠損とカルシウム塩沈着をきたした眼類天疱瘡の1例羽田奈央加藤直子石川聖竹内大防衛医科大学校眼科学講座ACaseofOcularCicatricalPemphigoidwithPersistentCornealEpithelialDefectandCalcareousDegenerationafterPhototherapeuticKeratectomyNaoHada,NaokoKato,ShoIshikawaandMasaruTakeuchiDepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege眼類天疱瘡に伴う角膜混濁に対して治療的角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK)を行ったところ,術後に遷延性上皮欠損とカルシウム塩沈着を生じた1例を経験した.症例は70歳の女性で,右眼の角膜混濁と重度のドライアイ,白内障のため当科を紹介された.初診時,両眼結膜.の短縮を認めた.ドライアイに対し涙点プラグを挿入し,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼処方にて角膜上皮障害が改善したため,右眼角膜混濁に対してPTKを施行したところ,術後に遷延性角膜上皮欠損となった.ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼,0.5%レボフロキサシン点眼,自己血清点眼を処方したが改善せず,持続閉瞼を行ったところ上皮欠損部にカルシウム塩沈着が発生した.遷延性上皮欠損は低下した角膜上皮幹細胞機能がPTK術後の点眼液の細胞毒性により阻害されたことから,カルシウム塩沈着はベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼により発生したと考えられた.A70year-oldfemalepatientwithseveredryeye,superficialcornealstromalopacityandcataractwasintroducedtoourinstitute.Shewasdiagnosedwithocularcicatricalpemphigoidduetoseveredryeyeandsymblepharononbothconjunctiva.Sinceocularsurfaceconditionwasimprovedbyprescribingartificialteareyedropsandpunctualplugocclusion,photorefractivekeratectomy(PTK)wasperformedforthesuperficialstromalopacityonherrighteye.AfterPTK,hercorneaexhibitedpersistentepithelialdefectfor2months,despitetheprescriptionofautologousserumeyedrops.Whenweinstructedeyelidclosurebyeyepatchat2monthsaftersurgery,thecorneadevelopeddensewhitedepositsonthesuperficialstromaintheareaofepithelialdefect.Thedepositscouldbecalcareousdegenerationdevelopedthroughtopicaluseofphosphate-containingbetamethasoneeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):541.545,2013〕Keywords:遷延性角膜上皮欠損,眼類天疱瘡,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼,カルシウム塩沈着.persistentcornealepithelialdefect,ocularcicatricalpemphigoid,steroid-phosphateeyedrop,calcareousdegeneration.はじめに眼類天疱瘡(ocularcicatricalpemphigoid:OCP)は,粘膜上皮基底膜に対する自己抗体産生によるII型アレルギー反応から,角膜上皮の瘢痕化をきたす疾患である1.3).今回,筆者らは,眼類天疱瘡由来と考えられた角膜表層混濁に対して治療的角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK)を行ったところ,遷延性角膜上皮欠損を生じ,さらに点眼液の影響によると思われる角膜実質へのカルシウム塩沈着を続発した症例を経験したので報告する.I症例患者:70歳,女性.主訴:視力低下.既往歴:糖尿病,高血圧.既往歴:特になし.現病歴:2年前より近医にて右眼角膜混濁,白内障を指摘〔別刷請求先〕羽田奈央:〒359-8513所沢市並木3-2防衛医科大学校眼科学講座Reprintrequests:NaoHada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalDefenceMedicalCollege,3-2Namiki,Tokorozawa,Saitama359-8513,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)541 され点眼治療を受けていた.しかし,徐々に視力が低下したため,平成24年4月27日に当科紹介受診となった.受診時所見:視力は右眼0.02(矯正不能),左眼0.09(矯正不能),眼圧は右眼16mmHg,左眼14mmHgであった.右眼角膜には帯状角膜変性と実質浅層に続く境界不明瞭な淡い混濁がみられた(図1).右眼は角膜全域に中等度の密度で点状表層角膜炎がみられ,左眼は下方に中等度の点状表層角膜炎がみられた.両眼とも下方結膜.がやや短縮し,軽度の瞼球癒着がみられた(図1).その他,眼瞼結膜には異常所見を認めなかった.涙液破綻時間は両眼とも1秒と短縮し,涙液三角は両眼で低下していた.Schirmerテスト(第Ⅰ法)は右眼1mm,左眼2mmであった.両眼瞼ともグレード3のマイボーム腺梗塞がみられた.前房深度はやや浅めで,虹彩の瞳孔縁には水晶体偽落屑物質が付着しており,中等度の加齢白内障がみられた.眼底は,糖尿病網膜症に対して汎網膜光凝固が施されており,両眼とも新福田分類AII(P)であった.ドライアイに対し両眼の上下涙点に涙点プラグ(スーパーフレックスプラグR,EagleVision,Inc.)を挿入し,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレインR点眼液0.1%)を処方し,両眼に各5回点眼指示したところ,5月18日の再診時には角膜上皮の点状表層角膜炎はほぼ治癒していた.そこで,角膜混濁を除去するために6月2日に右眼にPTKを施行した.エキシマレーザーを用いて直径6.0mmにトランジションゾーン1.5mmを加えて角膜上皮を.離し,さらに連続して角膜実質を切除した.切除深度は合計127.8μmであった.術後は治療用ソフトコンタクトレンズを挿入し,0.3%ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレインRミニ0.3%)を6回,0.5%レボフロキサシン(クラビットR点眼液0.5%)と0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロンR点眼,点耳,点鼻薬0.1%)を各4回右眼に点眼するよう指示した.PTK施行6日後に再診したとき,.離した上皮はほとんど再生していなかった.治療用ソフトコンタクトレンズ装用を続け,さらに6月8日より20%自己血清点眼を処方し2時間ごとに点眼するように指示したところ,上方から角膜上皮が再生し始めた.しかし,下方は手術時の上皮.離縁から図1初診時前眼部写真左上:角膜中央部の上皮下に帯状角膜変性がみられ,境界不明瞭な淡い混濁が実質浅層まで連続していた.右上:フルオレセインによる生体染色で角膜全域に中等度の点状表層角膜炎がみられた.下:下眼瞼結膜は短縮し,軽度の瞼球癒着がみられた(矢印).542あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(114) まったく上皮が再生しない状態が続いた(図2).7月9日より眼帯による終日閉瞼を行ったところ,7月20日来院時に右眼の上皮欠損部の角膜実質浅層に白色の沈着物が出現していた.沈着物は角膜実質浅層の上皮欠損部にあり,やや硬く,表面は不正であった(図3).さらに,翌週には沈着物が増加していた.0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを点眼していたことより,沈着物はカルシウム図2PTK施行6日後の前眼部所見PTKの際に.離した角膜上皮は,上方がやや再生し始めているが,下方はまったく再生せず,角膜びらんが残存していた.塩である可能性が高いと考え,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを0.1%フルオロメトロン(フルメトロンR点眼液0.1%)に変更し,漸減中止した.さらに点眼液中の防腐剤などの添加物による上皮再生遅延の可能性も考慮し,7月27日より0.1%ヒアルロン酸ナトリウムも中止し,プレドニゾロン(プレドニンR)10mgを内服開始し再び経過観察としたところ,白色沈着物の表面に角膜上皮が再生し始めた.さらに,0.5%レボフロキサシン,0.3%ヒアルロン酸ナトリウムも中止し自己血清点眼のみとし,9月3日角膜上皮欠損は完全に閉鎖した.II考察本症例は,原因不明の角膜帯状変性と浅層実質の混濁があり,重度ドライアイ,結膜.の短縮,瞼球癒着がみられたことから眼類天疱瘡が病態の基盤にあったと考えられる.角膜混濁に対してPTKを施行し,通常の術後点眼を行ったところ,上皮再生遅延がみられ,さらに2カ月間に及ぶ0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムの点眼が関与してカルシウム沈着が生じたと考えられる.類天疱瘡は皮膚ないし粘膜の基底膜部を侵す難治性の自己免疫疾患で,水疱性類天疱瘡と瘢痕性類天疱瘡とに大別される.水疱性類天疱瘡は,表皮真皮境界部の基底膜部に対する自己抗体により表皮細胞基質間接着障害をきたす疾患で,皮図3PTK施行50日後の前眼部所見左上,右上:PTK後50日経過しても,角膜上皮びらんは下方で治癒していない.角膜上皮欠損部に一致して実質浅層に白色の沈着物がみられた.下:前眼部OCTでは,角膜実質の浅層に沈着物を確認できる(矢印).(115)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013543 膚に表皮下水疱が形成される.一方,瘢痕性類天疱瘡は粘膜上皮の基底膜部に対する自己抗体により,主として粘膜に上皮下水疱を形成する疾患である4).眼類天疱瘡は,主として瘢痕性類天疱瘡に属し5),初期は片眼性の間欠性,非特異的慢性結膜炎で発症し,結膜上皮下に線状の線維形成が生じる1,6,7).無治療で放置すると,炎症が増悪し,線維形成の増大,円蓋部の短縮,瞼球癒着が生じる6,7).また,角膜上皮障害,実質混濁,血管新生などの角膜合併症が生じ,有効な治療を行わないと角膜潰瘍の穿孔や,角化を伴った眼瞼癒着が生じることもある8,9).角膜と結膜の境界にある輪部には,角膜上皮幹細胞が存在し,角膜上皮の再生と修復との維持に重要な役割を担っていると考えられる8).化学傷や熱傷などで角膜輪部が大きく損傷されると輪部機能不全となり,角膜の正常な上皮化が妨げられる8).輪部機能不全はStevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡の重症例で角膜上皮幹細胞が減少した場合にも生じることが知られている8,10).本症例は,初診時にすでに重度のドライアイ症状と角膜混濁,結膜.短縮がみられ,眼類天疱瘡が強く疑われたことから,PTK後に角膜上皮再生が著しく遅延した原因は,眼類天疱瘡に続発する輪部機能の低下に由来したと考えられる8,11).眼類天疱瘡やStevens-Johnson症候群のような眼表面の炎症疾患で角膜上皮幹細胞疲弊を起こす可能性のある疾患に対してPTKを行うことの是非については議論のあるところであろう.日本眼科学会の定める「エキシマレーザー照射におけるガイドライン」では,活動性の外眼部炎症,創傷治癒に影響を与える可能性の高い全身あるいは免疫不全疾患はエキシマレーザー屈折矯正手術の禁忌に分類されており,乾性角結膜炎は実施に慎重を要するといわれている.これらを考え合わせると,本症例がPTKの良い適応であったとはいえない.しかし,視機能の低下が著しく,外科的な治療を行わずに視機能を回復させることが不可能と判断したので,術前にドライアイの治療と十分な消炎を行い眼表面の状態を改善させてからPTKを施行した12).しかし,検眼鏡的には眼表面の炎症は鎮静化したと思われたが,実際のPTK後には遷延性上皮欠損に陥る結果となった.遷延性角膜上皮欠損の治療としては,ソフトコンタクトレンズ装着,ヒアルロン酸ナトリウム製剤の点眼,涙点閉鎖,自己血清点眼処方などが行われる.涙点閉鎖は,涙点プラグの挿入や涙点を焼灼することにより涙液を結膜.に貯留させて眼表面の水濡れ性を改善させる治療であり,重度のドライアイに対し有効である13,14).自己血清点眼薬は,表皮成長因子やビタミン類,フィブロネクチンなどの角結膜上皮再生を促す因子を含み涙の成分に比較的類似しているため重度ドライアイの治療に使用され,その有効性はこれまで複数報告されている6,7).本症例の角膜上皮再生遅延に対しては,上記544あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013のすべての治療を行ったが奏効せず,最終的には市販されている点眼薬をすべて中止することによってようやく治癒に至った.これは,本症例の角膜輪部機能が著しく低下していたため,点眼液中に含まれる防腐剤のみならず点眼液の有効成分や溶媒中に含まれる添加物などにより,上皮再生が阻害されたためと考えられる.さらに,上皮欠損部の実質表層に生じた白色の沈着物は,カルシウム塩と考えられる.角膜へのカルシウム塩沈着は,通常は帯状角膜変性の形で角膜上皮基底膜からBowman層にかけて生じる.しかしまれに,全身的な代謝異常や変性疾患の際など,より深層の実質にカルシウム沈着が生じることがある.深層の実質へのカルシウム沈着は,涙液中のカルシウム濃度が高まっているところに,リン酸を含むステロイド点眼液を投与することによりカルシウムリン酸塩が生じ,角膜実質細胞の代謝異常で,産生されたグリコサミノグリカンの働きにより細胞内または細胞周囲に結合すると考えられており,外傷後やStevens-Johnson症候群に伴う慢性角結膜炎,遷延性角膜上皮欠損,移植片対宿主病,外科手術後などに発症することがある11,15,16).本例でも,PTK施行前より重度のドライアイに対して涙点プラグを使用しており,涙液中のカルシウム濃度が上がっていた可能性があり,遷延性角膜上皮欠損が存在したところに消炎のため0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムの点眼を行っており,これらの点眼液の濃度も高まっていた可能性がある.そこへ持続閉瞼による涙液pHの変化などがきっかけとなり,角膜実質にカルシウム塩の沈着が起きたと推測される.さらに,レボフロキサシンを継続して使用していたことより,ニューキノロン点眼液の結晶沈着であった可能性も考えられる.本症例のように白内障による高度の視力低下と角膜実質混濁を伴う眼類天疱瘡患者の視機能を回復させるには,角膜混濁除去と白内障手術が必須である.白内障手術の安全性を上げるためにも,先に角膜混濁を除去し術視野を確保したうえでの白内障手術は意義があると考えられる.そのためには,眼類天疱瘡を合併していることにより術後に上皮再生遅延を生じる可能性があったとしても,混濁を均一に切除できるPTKは有用と考えられる17).しかし,十分なインフォームド・コンセントと,術後に遷延性上皮欠損が発生してしまった場合には,自己血清点眼処方や羊膜移植などの処置を早めに行う準備が必要と思われる.また,角膜上皮再生遅延を生じた場合には,漫然とした抗生物質や消炎薬の投与は行わず,早期に漸減中止することも検討したほうが良いと思われる.特に,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼時には,涙液のpHなどの眼表面環境の変化により角膜実質にカルシウム塩沈着を生じることもあり,注意を要する.(116) 文献1)GazalaJR:Ocularpemphigus.AmJOphthalmol48:355362,19592)MondinoBJ,BrownSI:Ocularcicatricialpemphignoid.Ophthalmology88:95-100,19813)FosterCS,AhmedAR:Intravenousimmunogloblintherapyforocularcicatricalpemphigoidapreliminarystudy.Ophthalmology106:2136-2143,19994)LinhartRW:Treatmentofcalcareousfilmofthecornea.AmJOphthalmol35:1497-1498,19525)藤原憲治,近藤照敏,湖崎淳ほか:帯状角膜変性に対するエチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA-Na2)塗布療法.臨眼49:301-305,19956)原英徳,福田昌彦,三島弘ほか:遷延性角膜上皮欠損に対し血清点眼が有効であった眼類天疱瘡の1例.眼紀47:1329-1332,19967)横山真介,佐々木香る,斉藤禎子ほか:眼類天疱瘡の急性期臨床所見としての膜様物質とそのムチン発現.あたらしい眼科28:119-122,20118)後藤英樹:角膜ステムセル障害.あたらしい眼科15:365366,19989)AhmedM,ZeinGK:Ocularcicatricalpemphigoid:Pathogenesis,diagnosisandtreatment.ProgrRetinEyeRes23:579-592,200410)KoizumiN,KinoshitaS:Ocularsurfacerecontruction,aminoticmembrane,andcultivatedepithelialcellsfromthelimbus.BrJOphthalmol87:1437-1439,200311)Scholtzer-SchrehardtU,ZagorskiZ,LeonardMHetal:Cornealstromalcalcificationaftertopicalsteroid-phosphatetherapy.ArchOphthalmol117:1414-1418,199912)エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン.日眼会誌113:741-742,200913)濱野孝:涙点プラグ(涙道閉鎖).眼科プラクティス3,オキュラーサーフェスのすべて,p96-99,文光堂,200514)渡辺仁:涙点閉鎖の方法.眼科プラクティス3,オキュラーサーフェスのすべて,p100-101,文光堂,200515)Peris-MartinezC,MenezoJL,Diaz-LlopisMetal:Multilayeramnioticmembranetransplantationinsevereoculargraftversushostdisease.EurJOphthalmol11:183-186,200116)LakeD,TarnnA,AyliffeW:Deepcornealcalsificationassociatedwithpreservative-freeeyedropsandpersistentdefects.Cornea27:292-296,200817)PreschelN,HardtenDR:Managementofcoincidentcornealdiseaseandcataract.CurrOpinOphthalmol10:59-65,1999***(117)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013545

重症アトピー性角結膜炎にMRSA角膜炎を合併した1例

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):535.540,2013c重症アトピー性角結膜炎にMRSA角膜炎を合併した1例谷口紫*1深川和己*1,2藤島浩*1,3佐竹良之*4松本幸裕*1坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2両国眼科クリニック*3鶴見大学歯学部眼科*4東京歯科大学市川総合病院眼科ACaseofSevereAtopicKeratoconjunctivitisComplicatedwithMRSAKeratitisYukariYaguchi1),KazumiFukagawa1,2),HiroshiFujishima1,3),YoshiyukiSatake4),YukihiroMatsumoto1)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)RyogokuEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,TsurumiUniversityDentalHospital,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeIchikawaGeneralHospitalアトピー性角結膜炎(atopickeratoconjunctivitis:AKC)にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)角膜炎を合併し,抗菌薬点眼とステロイド内服薬を併用することにより治療に奏効した症例を経験したので報告する.症例は42歳,男性.右眼の充血と眼脂を主訴に受診し,AKCの診断で治療を開始した.1カ月後,シールド潰瘍と浸潤病巣が出現し,細菌分離培養検査の結果より,AKCにMRSA角膜炎を合併したものと診断した.抗MRSA薬,抗アレルギー薬,免疫抑制薬とステロイド薬の点眼,免疫抑制薬とステロイド薬の内服,および外科的に結膜乳頭切除とプラーク除去を行い,結膜乳頭増殖と角膜潰瘍は縮小した.しかし,その4カ月後,抗MRSA点眼薬の自己中断を契機にMRSA角膜炎が再発した.免疫抑制点眼薬とステロイド点眼薬を中止し,抗MRSA点眼薬を再開したところ,その2週後,MRSAによる角膜感染巣は縮小したが,アレルギー炎症によるシールド潰瘍が増悪した.抗アレルギー薬と免疫抑制薬の点眼,結膜乳頭切除に,ステロイド内服薬を追加したところ,その4週後には角膜の完全な上皮化を得ることができた.感染性角膜炎を合併したAKCの治療において,抗菌薬の局所投与とステロイド薬の全身投与の併用が有効である可能性がある.Wereportacaseofatopickeratoconjunctivitis(AKC)complicatedwithmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)keratitisthatwastreatedwithtopicalantibioticsandoralsteroids.Thepatient,a42-year-oldmalewithinjectionanddischargeinhisrighteye,wasdiagnosedwithAKC.After1month,shieldulcerwithinfiltrationappearedinthecornea,andMRSAwasculture-proven.Thepatientwasthenadministeredtopicalanti-MRSAagents,anti-allergy,immunosuppressantandsteroids,aswellasoralimmunosuppressantandsteroids.Inaddition,surgicalmanagementwasperformed,includingconjunctivalpapillaexcisionandcornealplaqueremoval.Aftercessationofthetopicalanti-MRSAagents4monthslater,conjunctivalpapillaandcornealulcerdiminished,thoughMRSAkeratitisworsened.Topicalimmunosuppressantandtopicalsteroidswerediscontinued,buttopicalanti-MRSAagentswereresumed.MRSAkeratitisimproved,however,thecornealshieldulcerwithallergicinflammationworsened2weekslater.Topicalanti-allergy,immunosuppressant,oralsteroids,andconjunctivalpapillaexcisionreducedinflammation;completecornealepithelializationoccurred4weekslater.ThecombinationoftopicalantibioticsandoralsteroidsmaybeanoptioninthetreatmentofsevereAKCwithinfectiouskeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):535.540,2013〕Keywords:アトピー性角結膜炎,シールド潰瘍,MRSA角膜炎.atopickeratoconjunctivitis,shieldulcer,MRSAkeratitis.はじめに的に,AKCの症状は10代後半から20代初期頃に出現し,アトピー性角結膜炎(atopickeratoconjunctivitis:AKC)症状のピークを30代から50代に迎えるといわれている2).は,1952年にHoganら1)によって,アトピー性皮膚炎患者重症のAKCでは,春季カタル(vernalkeratoconjunctiviに起こる慢性の角結膜炎として定義された疾患である.一般tis:VKC)類似の結膜増殖性変化や,角膜上皮のバリア機〔別刷請求先〕谷口紫:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YukariYaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(107)535 A1E1CA2BD1D2E2図1本症例の右眼の臨床経過を示す前眼部写真A:初診時には,眼瞼結膜のビロード状乳頭増殖(A.1)と点状表層角膜症(A.2)を認めた.B:5週後には,角膜シールド潰瘍と潰瘍底の浸潤巣を認めた.C:25週後には,2mm径の角膜浸潤巣を認め,MRSA角膜炎の再発と考えられた.D:27週後には,眼瞼結膜の結膜乳頭増殖の増悪(D.1)とシールド潰瘍の増悪(D.2)を認め,アレルギー炎症の増悪と考えられた.E:現在,眼瞼結膜の線維性瘢痕(E.1)と角膜中央には角膜片雲(E.2)を認める.536あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(108)能障害による角膜びらんやシールド潰瘍,角膜プラークなどの角膜病変を伴うことがあり3),さらに角膜上皮欠損が遷延した例では,感染性角膜炎,眼球穿孔などの恒久的な視力障害をきたす合併症が報告されている4,5).感染性角膜炎を発症した際には,ステロイド点眼薬や免疫抑制点眼薬をただちに中止し,感染症に対する治療を優先するべき6)と考えられてきた.しかし,実際は,感染症が軽快しても旺盛なアレルギー炎症のために角膜上皮化が得られず,治療に難渋することがある5).今回,感染性角膜炎を合併した重症AKCに対し,局所投与で抗菌薬,抗アレルギー薬,免疫抑制薬の点眼,結膜乳頭切除に加え,全身投与でステロイド薬の内服を行った結果,速やかに角膜の上皮化が得られ,寛解に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:42歳,男性.主訴:右眼の眼脂,充血.既往歴:アトピー性皮膚炎,気管支喘息.現病歴:平成21年7月20日より,右眼の充血と眼脂が出現し,近医を受診した.アレルギー性結膜炎の診断にて,0.05%フマル酸ケトチフェン(ザジテンR)点眼と0.1%フルオロメトロン(フルメトロンR)点眼を処方されるも改善な く,その後も症状の増悪を認めたため,8月3日に,精査加療目的にて慶應義塾大学病院(以下,当院)を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.2(矯正不能),左眼0.3(1.2×.3.75D(cyl.2.00DAx10°)であり,眼圧は右眼14mmHgであった.前眼部所見は右眼上眼瞼結膜にビロード状乳頭増殖(図1A-1),眼球結膜に著明な充血,角膜に点状表層角膜症(図1A-2)を認めた.また,顔面にはアトピー性皮膚炎による皮疹を認めた.右眼のAKCと診断し,フルメトロンR点眼,0.1%塩酸オロパタジン(パタノールR)点眼,0.5%レボフロキサシン(クラビットR)点眼による治療を開始した.臨床経過(図2):8月11日受診時には,右眼角膜上皮欠損を認めた.4日前より単純ヘルペスウイルスによる皮疹が右顔面皮膚に出現していたことから,右眼ヘルペス性角膜炎を疑い,フルメトロンR点眼を中止のうえ,3%アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏1日5回を開始した.しかし,角膜上皮欠損部は拡大傾向にあり改善を認めなかった.9月8日より右眼痛が出現し,9月11日の再受診時には,右眼角ゾビラックスR眼軟膏パタノールR点眼リザベンR点眼0.1%フルメトロンR点眼サンベタゾンR点眼パピロックミニR点眼タリムスR点眼クラビットR点眼ハベカシンR点眼バンコマイシンR点眼プレドニンR錠内服4回4回3回3回3回5回4回4回1時間毎5回30分毎1時間毎1時間毎5回2回5回4回5回ネオーラルR内服400mg/日バンコマイシンR散内服250mg/日2g/日膜にシールド潰瘍と潰瘍底に角膜浸潤巣(図1B)を認めた.角膜浮腫のため,前房内の炎症細胞の有無は判別できなかったが,明らかな前房蓄膿やフィブリン析出の所見はみられなかった.眼脂および角膜擦過物の細菌分離培養検査の結果,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)が同定されたため,AKCとMRSA角膜炎の合併と診断し,薬剤感受性検査の結果(表1A)から自家調整の0.5%硫酸アルベカシン(ハベカシンR注)を1時間ごとの頻回点眼,同時に0.1%ベタメタゾン(サンベタゾンR)点眼を1日3回,0.1%シクロスポリン(パピロックRミニ)点眼を1日3回として治療を開始した.10月初旬よりステロイド点眼に起因する眼圧上昇をきたしたため,サンベタゾンR点眼を中止し,10月22日より0.1%タクロリムス(タリムスR)点眼1日3回を追加した.しかし,上眼瞼結膜の乳頭の増殖性変化は強く,角膜上皮欠損の状態が遷延化していたため,11月19日に,右眼結膜乳頭切除術を施行した.ところが,翌週には結膜乳頭の再増殖を認めたため,11月26日よりシクロスポリン(ネオーラルR)内服400mg/日を開始した.その後も,強い結膜乳頭10mg5mg20mg10mg5mg乳頭切除術プラーク切除乳頭切除術外科的治療8/39/1110/2211/1911/2612/171/262/162/233/234/132009年2010年初診時図2本症例の治療経過AKCの治療中にMRSA角膜炎の再発が生じたため,ステロイド薬および免疫抑制薬を中止し感染症の治療に重点を置いたところ,感染病巣は縮小する一方でアレルギー炎症の増悪を認めた.ステロイド薬の内服を開始したところ,治癒を認めた.(109)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013537 表1検出されたMRSAの薬剤感受性検査の結果A.平成21年9月11日右眼B.平成21年12月17日右眼眼脂および角膜擦過物角膜プラークPCGRIPM/CRMPIPCRMEPMRABPCRVCMSCEZRABKSCTXRGMRCPRRCAMRCFPMRLVFXSFMOXRLZDSPCGRIPM/CRMPIPCRMEPMRABPCRVCMSCEZRABKSCTXRGMRCPRRCAMSCFPMRLVFXSFMOXRLZDSPCG:benzylpenicillin,MPIPC:oxacillin,ABPC:ampicillin,CEZ:cefazolin,CTX:cefotaxime,CPR:cefpirome,CFPM:cefepime,FMOX:flomoxef,IPM/C:imipenem/cilastatin,MEPM:meropenem,VCM:vancomycin,ABK:arbekacin,GM:gentamycin,CAM:clarithromycin,LVFX:levofloxacin,LZD:linezolid.R:耐性,S:感受性増殖とプラークを伴う角膜上皮欠損の状態が持続したため,12月17日より,プレドニゾロン(プレドニンR錠)内服10mg/日を追加した.また,シールド潰瘍上に堆積したプラークの除去を行った.除去したプラークの細菌分離培養検査の結果は,MRSA陽性であり,薬剤感受性検査の結果から(表1B),ハベカシンR点眼を継続とした.その後,徐々に結膜乳頭増殖と角膜上皮欠損は,縮小していった.ところが,平成22年1月20日頃より,右眼の視力低下を自覚し,1月26日に当院を受診した.細隙灯顕微鏡検査にて,以前に認めた角膜浸潤巣の部位とは異なる部位に,2.0mm径の角膜浸潤巣(図1C)を認めた.問診にて,受診の2週間前よりハベカシンR点眼を自己中断していたことが判明した.MRSA角膜炎の再発と判断し,ステロイド薬と免疫抑制薬をすべて中止し,塩酸バンコマイシン(塩酸バンコマイシンR散)内服2g/日,ハベカシンR点眼を30分ごとの頻回点眼として,1月30日から自家調整した0.5%塩酸バンコマイシン(塩酸バンコマイシンR注)点眼を1時間ごとの頻回点眼として開始した.2月9日,角膜浸潤巣は縮小傾向を認めたが,その一方で,アレルギー炎症により結膜乳頭増殖とシールド潰瘍は増悪傾向を示したため,タリムスR点眼1日2回を再開し,2月16日には結膜乳頭切除術を施行した.結膜乳頭増殖はやや縮小傾向を認めたが,角膜シールド潰瘍に改善はみられなかった(図1D-1,D-2).2月23日より,プレドニンR錠内服20mg/日を再開したところ,1週間後にはシールド潰瘍の著明な縮小を認めた.1週間ごとにプレドニンR錠内服10mg/日,プレドニンR錠内服5mg/日と漸減し,3月23日には角膜の完全な上皮化が得られた.プレド538あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013ニンR錠内服中に角膜感染症の増悪や耐糖能異常などの全身的副作用は認めなかった.4月13日には,ハベカシンR点眼およびバンコマイシンR点眼を中止した.現在,平成24年10月30日の時点で,右眼の矯正視力は(0.1)であり,眼瞼の結膜乳頭増殖は消失し,線維化瘢痕を呈している(図1E-1).角膜上皮障害は認めていないものの,角膜中央には実質混濁が残存している(図1E-2).0.5%トラニラスト(リザベンR)点眼,タリムスR点眼にて,炎症は再燃することなく寛解状態を保っている.II考按重症AKCでは,I型アレルギーとIV型アレルギーの両方が関与しているとされる.I型アレルギーは,IgE(免疫グロブリンE)を介して肥満細胞が脱顆粒することにより組織障害に至る反応であるが,ヒスタミンの放出後まもなく起きる即時相と,好中球や好酸球の結膜浸潤により誘導される遅発相に分けられる.IV型アレルギーは,ヘルパーT細胞や細胞障害性T細胞が関与するアレルギー反応である.I型アレルギーにおける抗原特異的IgEの産生や,遅発相を誘導する好酸球の結膜浸潤においても,2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)が関与している.抗アレルギー薬のみでは症状の改善しない中等症から重症のAKCに対しては,ステロイド点眼薬や免疫抑制点眼薬の併用が治療の選択肢としてあげられる7).しかし,これらの薬剤に共通する副作用として眼感染症がある.免疫抑制薬は,おもにT細胞に作用しサイトカイン産生を抑制するため,細胞性免疫が強く抑制される8).ステロイド薬ではマクロファージ,T細胞の双方に作用し,液性免疫と細胞性免疫の両方が抑制され,コラーゲン生成抑制による創傷治癒遅延もきたす9).したがって,これらの薬剤の投与中は,感染性角結膜炎の発症に十分注意が必要であり,予防的に抗菌薬を投与することも考慮される6).これまで,VKCやAKCの治療中に感染性角膜炎を伴った症例の報告4,5,10.16)が散見され,細菌感染の他にヘルペスウイルス13,14)や真菌の感染15,16)によるものも報告されている.感染性角膜炎を発症する前の治療では,ステロイド点眼薬もしくは免疫抑制点眼薬を使用していた症例4,10.12,14.16)がほとんどである一方で,それらを使用していない症例5,10)や,本症例と同様に抗菌薬点眼を自己中断した後に発症した報告10)もあった.VKCやAKCに合併した細菌性角膜炎のうち,起因菌が同定された報告についてまとめたものを表2に示す.同定菌はStaphylococcusaureusやStreptococcusviridansなどのグラム陽性球菌が最も多いが,本症例で同定されたMRSAのような耐性菌の報告はなかった.VKCに対するシクロスポリン点眼液0.1%の全例調査報告17)によると,既往にアトピー性皮膚炎があるVKCでは,シクロスポリン点眼液を使用中の副作用として眼感染症のリスクが,アトピ(110) 表2VKCとAKCに合併した細菌性角膜炎における同定菌報告者診断同定菌Kerrら10)VKCStaphylococcusaureusStreptococcuspneumoniaeStreptococcuspyogenesVKCStaphylococcusaureusStreptococcusviridansVKCStaphylococcusaureusVKCStaphylococcusaureusStreptococcusviridansCameronら11)VKCStaphylococcusaureusVKCStaphylococcusaureusVKCa-hemolyticStreptococcusVKCStaphylococcusepidermidisStreptococcussanguisVKCa-hemolyticStreptococcusStaphylococcusepidermidisGedikら12)VKCStaphylococcusaureusLabbeら5)AKCStreptococcussanguisVKC:vernalkeratoconjunctivitis(春季カタル).AKC:atopickeratoconjunctivitis(アトピー性角結膜炎).ー性皮膚炎がない症例と比べて2倍に上昇するという.もともと,アトピー性皮膚炎を有する患者では,皮膚のバリア機能が低下しているため,単純ヘルペスやブドウ球菌感染による皮疹を眼瞼に認めることが多く,結膜.に黄色ブドウ球菌やMRSAを常在菌として保菌している率が高いこと18)が知られている.このことからも,アトピー性皮膚炎を既往にもつAKCでは,眼球表面に病原体を曝露する機会が多く,眼感染症の合併症が多くなると考えられる.Jainら15)は,ステロイド点眼薬の投与中は一見角膜感染症がないように思えても,プラーク下で浸潤巣が存在し,培養検査にて感染が証明された症例を報告しており,抗炎症治療により感染所見がマスクされうることに留意するべきであると述べている.一般的に,感染性角膜炎は早急に治療しないと視力予後に影響を及ぼすことが多いため,感染症に対する治療を優先するべきと考えられている.まず,角膜感染症を増悪させるステロイド点眼薬や免疫抑制点眼薬を中止したうえで起因菌の同定を試み,菌が同定された場合には,その感受性に合った抗菌薬点眼の投与を開始する.奏効する抗菌薬点眼が投与されている場合のみ,ステロイド点眼薬の再開が可能であるが,実際は起因菌を同定できない症例も多く,ステロイド点眼薬の併用はむずかしい.本症例では,最初に感染性角膜炎を発症した時点でMRSAが同定されたため,抗MRSA点眼薬を開始し,さらにステロイド点眼薬の併用を行った.一時は,角膜上皮欠損が縮小し軽快傾向を認め,この時点では(111)治療は奏効していた.しかし,その後,抗MRSA点眼薬の自己中断を契機に,感染性角膜炎が再発したため,ステロイド薬の点眼および内服,免疫抑制薬の点眼をすべて中止し,抗MRSA薬による感染症治療に重点を置いた.ところが,感染性角膜炎は改善する一方で,アレルギー炎症が増悪しシールド潰瘍が拡大する結果を招いた.つまり,本症例のような重症のAKCに伴う感染性角膜炎は,通常の感染性角膜炎とは異なり,感染症に対する治療だけでは角膜の上皮化を得られない場合があると考えられる.近年の研究19.21)により,結膜のアレルギー炎症と角膜障害の関係が明らかとなった.アレルギー性結膜疾患においては,結膜に浸潤したTh2細胞から分泌されるインターロイキン(IL)-4やIL-13などのサイトカインの濃度が,涙液中で上昇している.上皮によるバリアがない角膜障害眼では,角膜実質の線維芽細胞がこれらのサイトカインにさらされ,eotaxinなどのケモカインを産生する.Eotaxinは好酸球に特異性が高いため,好酸球は角膜側へと誘導され浸潤する.さらに好酸球からプロテインキナーゼが分泌され,角膜上皮の治癒機構は阻害される.このような悪循環が存在するため,線維芽細胞のケモカイン産生を抑制させ,バリア機能を果たす角膜上皮の再生を促すことが,重症のアレルギー性結膜疾患の治療戦略として有効である可能性が示唆されている.以前より,アトピー性眼瞼炎の増悪とAKCの重症化に関連がみられることが指摘されており22),本症例のように全身投与でステロイド薬内服による抗炎症治療を行うことは,局所のステロイド薬使用に比較して角膜の易感染状態への影響が少なく,アトピー性皮膚炎と結膜炎を同時に治療できるため,安全かつ効果的な方法と考えられる.一方,ステロイド薬の内服では,満月様顔貌,糖尿病,月経異常,体重増加,消化性潰瘍,内服終了後に皮膚炎が増悪するリバウンドなどの副作用が出現する可能性がある.したがって,ステロイド薬の全身投与の際には,アレルギー炎症の鎮静後は慎重に漸減・離脱を図り,過剰投与・長期投与にならぬよう留意する必要がある.さらに本症例に関していえば,まずMRSAによる感染性角膜炎を治癒させるために,薬剤感受性検査の結果からハベカシンR点眼薬を選択したが,この薬剤の特性として角膜上皮障害が強いことが指摘されている23).必要な感染症の治療でさえ,長期間の継続でさらに角膜上皮の治癒を遅らせる可能性があることも留意すべきである.本症例では,抗MRSA点眼薬の自己中断を契機に,MRSA角膜炎が再発した.また,免疫抑制点眼薬や結膜乳頭切除術などの積極的治療にもかかわらず,増悪や寛解を繰り返していたことから,アレルギー炎症が強かったという他に,患者の点眼アドヒアランスが低下していた可能性も考えあたらしい眼科Vol.30,No.4,2013539 られる.その背景には,アレルギー炎症と感染症の併発という複雑な病態があり,これに対し多数の点眼薬が長期にわたり処方されていたことが,さらに治療に対するアドヒアランスを低下させるという悪循環を招いた可能性がある.AKCのような慢性アレルギー疾患は,時期によって症状の増悪や寛解を繰り返すうえ,本症例のように局所治療による免疫抑制の結果,角膜感染症を発症することがある.そのため,診療にあたる医師は適切な治療を選択し,さらに,患者が点眼の指示を遵守できているかを常に念頭に置いて診療にあたる必要がある.重症AKCの治療中に感染性角膜炎を発症した際は,視力予後を悪化させないために可及的速やかに感染症とアレルギー炎症の両方を治療する必要がある.今回,ステロイド内服薬の併用は,このような症例における治療法として有効である可能性が示唆された.本症例では,プレドニゾロンを20mg/日,10mg/日,5mg/日でそれぞれ1週間投与したのち中止し,その後,炎症の再燃は認めなかったが,最適とされる用量・投与期間について指針がないのが現状であり,今後はさらに症例数を重ねての検討が必要であると考えられる.本論文の要旨は,角膜カンファランス2011(第35回日本角膜学会総会・第27回日本角膜移植学会)(2011,東京)にて発表した.文献1)HoganMJ:Atopickeratoconjunctivitis.TransAmOphthalmolSoc50:265-281,19522)DonshikPC:Allergicconjunctivitis.IntOphthalmolClin28:294-302,19883)FukudaK,YamadaN,NishidaT:Casereportofrestorationofthecornealepitheliuminapatientwithatopickeratoconjunctivitisresultinginameliorationofocularallergicinflammation.AllergologyInternational59:309-312,20104)FosterCS,CalongeM:Atopickeratoconjunctivitis.Ophthalmology97:992-1000,19905)LabbeA,DupasB,BensoussanLetal:Bilateralinfectiousulcerassociatedwithatopickeratoconjunctivitis.Cornea25:248-250,20066)高村悦子:ステロイド点眼の使い方:コツと落とし穴.アレルギー58:613-619,20097)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:831-870,20108)庄司純:抗アレルギー薬(免疫抑制薬を中心に).眼科51:133-141,20099)柏木賢治:ステロイド点眼薬の眼科的副作用.あたらしい眼科25:437-442,200810)KerrN,SternGA:Bacterialkeratitisassociatedwithvernalkeratoconjunctivitis.Cornea11:355-359,199211)CameronJA:Shieldulcerandplaquesofthecorneainvernalkeratoconjunctivitis.Ophthalmology102:985-993,199512)GedikS,AkovaYA,GurS:Secondarybacterialkeratitisassociatedwithshieldulcercausedbyvernalconjunctivitis.Cornea25:974-976,200613)InoueY:Ocularinfectionsinpatientswithatopicdermatitis.IntOphthalmolClin42:55-69,200214)EbiharaN,OhashiY,UchioEetal:Alargeprospectiveobservationalstudyofnovelcyclosporine0.1%aqueousophthalmicsolutioninthetreatmentofsevereallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher25:365-371,200915)JainV,MhatreK,NairAGetal:Aspergilluskeratitisinvernalshieldulcer-acasereportandreview.IntOphthalmol30:614-644,201016)SridharMS,GopinathanU,RaoGN:Fungalkeratitisassociatedwithvernalkeratoconjunctivitis.Cornea22:80-81,200317)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:春季カタルに対するシクロスポリン点眼液0.1%の全例調査.日眼会誌115:508-515,201118)NakataK,InoueY,HaradaJetal:AhighincidenceofStaphylococcusaureuscolonizationintheexternaleyesofpatientswithatopicdermatitis.Ophthalmology107:21672171,200019)FukagawaK,NakajimaT,TsubotaKetal:Presenceofeotaxinintearsofpatientswithatopickeratoconjunctivitiswithseverecornealdamage.JAllergyClinImmunol103:1220-1221,199920)FukagawaK,NakajimaT,SaitoHetal:IL-4induceseotaxinproductionincornealkeratocytesbutnotinepithelialcells.IntArchAllegyImmunol121:144-150,200021)FukagawaK,OkadaN,FujishimaHetal:Cornealandconjunctivalfibroblastsaremajorsourcesofeosinophilrecrutingchemokines.AllergolInt58:499-508,200922)高村悦子,野村圭子,中川尚:アトピー性皮膚炎患者の角結膜病変.眼紀48:1382-1386,199723)SotozonoC,InagakiK,FujitaAetal:Methicilin-resistantStaphylococcusaureusandmethicillin-resistantStaphylococcusepidermidisinfectionsinthecornea.Cornea21:94-101,2002***540あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(112)

後期臨床研修医日記 22.金沢大学医薬保健学域医学類視覚科学

2013年4月30日 火曜日

●シリーズ後期臨床研修医日記金沢大学医薬保健学域医学類視覚科学山崎奈津子金沢大学医薬保健学域医学類視覚科学教室では,現在6名の後期研修医〔後期研修医3年目4名(うち2名は関連病院勤務),1年目2名〕が毎日忙しく,楽しく(?)働いています.そんななかで,私の1週間を徒然なるままに書いて,日々の仕事をご紹介します.月曜日杉山和久先生の教授回診から1週間が始まります.約20人の患者さんが教授回診にでてきます.テレビ画面に映るスリット像をみんなで囲みます.緑内障患者さんの診察で杉山教授の「いいブレブですね」が聞けたり聞けなかったりします.その後外勤に出発です.金沢大学眼科は北陸3県にまたがって関連病院があります.月曜日は富山県の黒部市民病院です.金沢からは1時間半の長距離ドライブです.晴れた日には途中,とても美しい立山連峰を見ることができ,ドライブの疲労感が少し癒されます.黒部市民病院は,富山県東部の中核病院の1つなのでさまざまな症例を診ることができます(剣岳から滑落された方もいました!).診療が終わると,また大学に戻り,入院患者さんの指示や手術のムンテラをします.後期研修医1年目では月曜日の午後に杉山能子先生のご指導の下,斜視手術の執刀をします.火曜日火曜日は手術日です.当院眼科は3部屋並列(恵まれている!……が忙しい)で白内障手術,硝子体手術,緑内障手術,角膜移植,眼瞼・眼窩手術などが行われ,さまざまな手術の助手に入ります.また,メディカルレチナ外来も並行して行われており,造影検査やアバスチンR(ベバシズマブ)などの処置も行っています.午後は斜視・弱視外来もあり,後期研修医1年目には順番にローテーションして学ばせていただきます.▲新医局の医員室手前から近澤先生,小澤先生,濱岡先生,山崎,清水先生.(95)あたらしい眼科Vol.30,No.4,20135230910-1810/13/\100/頁/JCOPY 〈プロフィール〉山崎奈津子(やまざきなつこ)獨協医科大学卒業,石川県立中央病院,金沢大学付属病院で初期臨床研修,平成22年4月より金沢大学医薬保健学域医学類視覚科学教室後期研修医.水曜日教授回診の後は,各専門外来の日です.外来前では患者さんが待合室の椅子からあふれて待っています.水曜日は教授回診患者さんの眼圧をゴールドマン眼圧計で手際よく測り,予診をとりまくります.正直なところ目が回るくらい忙しいです.若干,みんな殺気立っています(笑).後期研修医1年目はローテーションで教授診察の陪席につきます.水曜日の教授診には川口先生も陪席されるのでとても賑やかで楽しく,また非常に緑内障診察の勉強になります.午後は隔週で角膜外来をしています.ドライアイ,TS-1角膜症,Stevens-Johnson症候群の慢性期の患者さんなど,さまざまな症例を診察しています.わからないことがあれば,小林先生や横川先生に相談しています.たまに患者さんのカルテを開くと小林先生から「軟膏を追加してみましょう」などのコメントが入っていたりすることもあり,陰ながら見守ってくださっていると思うと心強いです.木曜日木曜日も火曜日と同様に手術とメディカルレチナ外来の日です.予診の合間に手術に入ったり,手術の合間に造影検査をしたり慌ただしい一日を過ごします.午後は翌日の手術患者さんの指示やムンテラをします.また,木曜日は医局会が開かれ,抄読会,学会や集談会への発表の予行が行われます.金曜日金曜日は各専門外来と手術が並列で行われます.木曜日と同様に予診の合間に手術に入ったり,手術の合間に予診をとったりと金曜日も相変わらず忙しいです.自分で白内障手術の執刀をすることもあります.まだまだ思っているようにできませんが,指導医から的確な指導を受け,徐々に上達していると思います.また,緑内障発作や角膜潰瘍,網膜.離などの緊急入▲教授外来左から杉山教授,山崎,川口先生.院,手術もあり,手術出しまで1時間ない!?ということもあり,てんやわんやになりながら急いで準備することもあります.土曜日土曜日の午前中は外勤です.外勤前に病棟回診を済ませ,その後外勤に向かいます.外勤先では,大学病院では経験することが少ないと思われる一般疾患を診ることができ勉強になります.また,月に1,2回は土日の日当直があります.当院では土日入院で眼圧の日内変動検査を行っております.3時間毎に眼圧を測るのは,正直面倒だな(汗)と思うこともありますが,眼圧の日内変動が大きく,この検査で手術適応が決まったりすることもあるので非常に慎重になります.▲発表する山崎524あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(96) このように1週間が信じられないくらいあっという間に過ぎていきます.昨年の3月に医局が新棟に移動し,ピカピカの医局で快適に過ごしております(すでにデスクは書類,論文,教科書とお菓子で埋もれ気味ですが……).一日の仕事が終わると,医局でそれぞれが担当している患者さんについて相談したり,わからないことを一緒に調べたり,全然仕事と関係のない話で盛り上がったり,時にはグチったり(笑)と忙しいなかでも和気あいあいと楽しく勤務に励んでおります.当院では緑内障,網膜硝子体,角膜,メディカルレチナ,斜視・弱視,眼瞼・眼窩,神経眼科の各専門外来があり,入院・手術も偏りなく症例が当てられるためさまざまな症例を経験することができ,非常に充実した毎日をすごしています.また,学会発表などの機会にも恵まれ,指導を受けることができます.このように後期研修を行ううえでとても恵まれている環境にあると思います.これからも日々の仕事に励み,一人前の眼科医を目指していきたいと思います.(山崎奈津子)指導医からのメッセージ山崎先生が初期臨床研修の際には,小児外科医への道を考えていたようでした.しかし,当院眼科での短い研修期間中に眼科の魅力に気付き,我々と一緒に眼科医への道を歩むようになってくれたことは,当時の臨床研修医指導の担当をしていた私としては,大変に喜ばしいことでした.現在も順調に研修を続け,今では,隔週ではありますが,角膜外来も担当してもらえるまでに成長しました.飲み会の幹事など,医局の(重要な!)雑用においても,持ち前の社交性をふんだんに発揮して頑張っているようです.来年は4人の新人が後期臨床研修として入局してくる予定なので,これからは後輩の指導という役割も加わり,大忙しの日々になるでしょう.さらに幅広い眼科臨床を学び,無理はしない程度に,充実した後期臨床研修を送って欲しいと考えています.白内障をマスターしたら,次は角膜移植かな?(金沢大学附属病院眼科臨床准教授小林顕)☆☆☆(97)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013525

My boom 15.

2013年4月30日 火曜日

監修=大橋裕一連載⑮MyboomMyboom第15回「鈴間潔」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑮MyboomMyboom第15回「鈴間潔」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介鈴間潔(すずま・きよし)長崎大学大学院医歯薬総合研究科医療科学専攻展開医療科学講座眼科・視覚科学私は,京都大学卒業,日本赤十字社和歌山医療センター,ボストン留学,京都大学病院,静岡県立総合病院を経て,2008年より長崎大学勤務.静岡時代は富士川の大アマゴ,駿河湾の巨大ヒラメと格闘していました.Myboom①―Mac再び私が眼科に入局したころパソコンはMacが流行していました.研修医の時,初めて日本語論文を書いたのは白黒モニターのPowerBookでしたし,大学院に進学してからもPowerBook5300c→PowerBookG3とMacユーザーでした.当時のMacは恐怖のクラッシュ(急にフリーズする)が日常茶飯事に発生し,徹夜で作った論文や学会発表のスライドを一瞬にして失う経験は誰もがしていたと思います.今のようにフリーズしても自動保存ファイルが残っているということはなかったのです.大学院に入って最初に覚えたのが.データのsaveは頻繁に行うこと.そうしないと大変な目にあうよ.でした.そのころのMacOSは不安定でパソコン本体も故障しやすく,私のPowerBook5300cは買った当日に故障しました.そのようなこともあり,また私が大学院生の頃はちょうどWindows95が登場してきたころで,周囲のパソコンがMacから徐々にWindowsに置き換わっていました.大学院4回生の秋にボストン留学が決まり,向こうのラボのパソコンがすべてWindowsマシ(93)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYンだったので思い切ってWindowsマシンであるThinkPad(IBM:今はパソコン事業から撤退していますが)に買い替えました.そのころのWindowsはWindows95.98の時代でしたが,Macと比較するとクラッシュの頻度も低く安定しているな.という印象でした.留学中は研究室や実験機器も全部WindowsマシンだったのでWindowsを使い続け,帰国してからはソニーのVAIOでWindowsXP→VISTA→7を経て,長崎へ来てからは手術動画を編集することが多くなりパソコンも処理能力の高いVAIOZなどを愛用していました.風向きが変わってきたのは2008年7月にiPhoneが登場してからです.ちょうど私が長崎へ移ったのと時期が重なりますが,その後のAppleの快進撃はみなさまご存知のとおりです.私は以前のMacの悪いイメージが払拭できなかったのでWindowsを使い続けましたが,最近のWindowsVISTAの失敗やクラウドサービスへの対応の悪さなど徐々にWindowsへの不満が高まっていました.自分自身もiPhone4でiPhoneユーザーとなり,データの同期や写真の整理がMacと同期するほうが圧倒的にやりやすいということを知り,少しずつMacへの抵抗がなくなっていきました.そして,ついに今年からメインマシンをMacBookProへ変更したのです.Myboom②―3D手術動画記録静岡時代から硝子体手術動画をより美しく記録することに執念を燃やして取り組んでいました.百聞は一見にしかず,やはりきれいな動画は説得力が違います.CCDカメラの能力を最大限に発揮できる条件を見つけるのが第一です.最近は3D対応の家庭用テレビの普及により手軽に3D映像を再生できるようになりましたので,レジデントのためにルキナ社のシステムを使用してあたらしい眼科Vol.30,No.4,2013521 〔写真1〕増殖糖尿病網膜症の硝子体手術時のワンシーン中央の増殖膜が立ち上がっているのがおわかりいただけますでしょうか.3D手術記録システムを構築しました.3D記録・再生方式はいくつかの方法があるのですが記録方式はデュアルストリーム方式を採用しました.これは左右の動画を別々にフルハイビジョン(1920×1080)で記録する方法なので情報量としてはフルハイビジョンの2倍となり非常に高品質の録画方法となります.ちなみに写真1は3D画像です.平行法(右眼で右の写真,左眼で左の写真を見る方法)でご覧ください.顔の前の正中に縦についたてを置いて右眼で右,左眼で左の写真しか見えないようにするともっと簡単に3Dで見ることができます.デュアルストリーム方式の場合,それぞれ片方の動画はそのままで2D動画として使用できるので学会発表などに使用するのも楽です.また,その後の加工によりサイドバイサイドなどほとんどの再生方法に対応可能となっています.さて,上記の3D記録システムはWindows7で構築したのですが結構大がかりなシステムでした.ところが最近Blackmagic社から発売されたBlackmagicUltra-Studio3Dを使うとMacで非常にコンパクトなシステムで同じことができてしまうのです(写真2).動画記録の形式もQuicktimeプロレスHQというWindowsより高品質な形式で録画できてしまいます.これが私がMacに乗り換えた最大の理由だったのです.〔写真2〕コンパクトな3D動画記録システム左がMacBookpro15インチRetinaディスプレイモデル.右の平たい銀色の箱のようなものがBlackmagicUltraStudio3D.次回のプレゼンターは福井大学の高村佳弘先生です.糖尿病眼合併症のプロフェッショナルの先生です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.522あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(94)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 4.Jin H. Kinoshita先生の思い出

2013年4月30日 火曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ④責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ④責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生の思い出望月學(ManabuMochizuki)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野1973年九州大学医学部卒.1973年東京大学眼科研修医.1974年東京大学助手.1979年東京大学講師.1981.1984年NEIResearchAssociate(日本学術振興会-NEI交換留学プログラム).1987年東京大学助教授.1990年久留米大学眼科教授.1998年東京医科歯科大学眼科教授.現在に至る.Kinoshita先生に初めてお会いしてから30年以上の歳月が過ぎました.私がNationalEyeInstitute(NEI)と日本学術振興会との交換留学プログラムでNEIに留学した時のことです.1981年10月半ば,雨の降りしきる夜のワシントン・ダラス国際空港に妻と1歳半の娘を連れて着いた私は,これからの留学生活を思い,期待よりも不安でいっぱいでした.そもそも,今夜から泊まるアパートも住所は届いているが,果たしてタクシーが安全に連れていってくれるのか?…….そんな不安を抱いて私たちが到着ゲートを出ると,ソフト帽にトレンチコート姿の紳士が,“AreyouDr.Mochizuki?IamJinKinoshita”と穏やかな笑顔で声を掛けてくれました.何と,NEIのScientificDirectorのKinoshita先生ご自身が迎えに来てくださったのです.そのときの驚きと感激は生涯忘れることができません.驚きはそれだけではありませんでした.先生が用意してくださったアパートに着くと,パンパース(ディスポのおしめ)と赤ちゃん用の入浴盥が用意され,冷蔵庫にはミルクと私たちの数日分の食べ物まで入っていました.幼い娘連れなので,Kay奥様がわざわざ用意してくださったのです.さらに,先生はご自宅から私たちの夕食にと,マグロの刺身,チキンの照り焼き,温かいご飯を持ってきてくださいました.あまりの細やかで温かい心遣いに,私たちはただただ驚き,感激するだけでした.翌日から私が車を購入するまで,毎朝,先生が研究所までピックアップしてくださり,Kay奥様は家内をベセスダのスーパーやモールへ買い物に連れて行ってくださいました.このように,先生ご夫妻のおかげで,私た(91)写真1Kinoshita先生ご夫妻,長女,家内.ロックビルのアパート(1982年).ちは大変に順調で素晴らしい留学生活のスタートができたのです.その後も,感謝祭やクリスマスなどのたびにご自宅へ招いてくださり,娘はすっかりご夫妻になついて“Jinおじちゃん,Kayおばちゃん”とお二人の後をついて回っていました.ご自宅でのパーティーでは先生自らが食事のサーヴをされ,時にはご自身で料理もされました.先生ご夫妻をアパートにお招きすると,“Manabu,whatdidyoucook?”と,悪戯っぽい目でいつもお尋ねになり,そのお陰で私も30歳半ばで初めて料理をすることになり,その時に習い覚えたパイ料理やキルシュは今もわが家の人気メニューです.留学中に生まれた次女は,ご夫妻から奥様の名前をmiddlenameに付けていただき,今もわが家ではKayと呼ばれています.私は先生の研究分野とは違うので,先生に直接の研究指導を受ける機会はありませんでした.しかし,研究室あたらしい眼科Vol.30,No.4,20135190910-1810/13/\100/頁/JCOPY 写真2Kinoshita先生追悼会のCD写真集の表紙は同じ建物にあったので,毎日のように先生が研究室に足を運び配下の研究者と熱心に話されている姿をお見かけしました.「いくつになっても,研究室にいる時が一番楽しい」という先生の言葉と,誰にでも公平に接しておられた姿が,今も印象深く思い出されます.3年間の留学を終えて帰国した後も,フロリダでのARVOに家族を連れて行くたびにベセスダの先生ご夫妻を訪ね,また,先生が来日して東京に滞在される時には家族でお会いし,時には拙宅にもお招きして娘たちの成長を見ていただきました.先生がNEIを退職されサンフランシスコに移られてからも,何度も家族でご夫妻を訪ねました.しかし,先生のリウマチが大変に悪化した頃からご夫妻の消息が届かなくなり,そのうちにKay奥様の訃報を聞くことになりました.NEIなどに尋ねても,どなたも先生の消息がわからない状態が長く●★続きました.そんな中,家内が,以前にサンフランシスコで先生から紹介していただいた親類の方(先生の弟の奥様)から先生の消息を教えていただき,その方の案内で家内がサンフランシスコ郊外の病院に先生をお見舞いして,ようやく先生の近況がわかりました.そして,2010年6月半ばに,家族4人でサンホゼ郊外のケアハウスに移られた先生を訪れることができました.先生は重度のリウマチのために全く動けない状態でしたが,お元気だった頃そのままの笑顔で私たち一人ひとりに声をかけられ,私たちの近況にも耳を傾けられ,娘たちの成長した姿を殊のほか喜ばれていた姿が今も心に強く残っています.それからわずか2カ月後の8月26日に,その親類の方からわが家に先生の訃報が届きました.そして,先生とご親交のあった方々,日眼事務局,NEIに先生ご逝去の悲報をお届けすることになりました.翌年のARVOで,PeterKador教授(ネブラスカ大学)の呼びかけによりKinoshita先生を偲ぶMemorialSymposiumが開かれました.多くの友人と親類の方々が集い,先生を追悼するスピーチがなされ,若き頃の先生や思い出の写真の数々が披露され,その時に集めた写真はCDアルバム(写真2)にされて参加者に配られました.Kinoshita先生は比類なき優れた科学者であり,多くの人々にとってかけがえのない指導者であり心許せる大切な友人でした.そして,私たちにとっては父とも祖父とも云える優しい存在でした.先生から教わったことは数多くありますが,なかでも人に公平(fair)に接することの大切さを先生の生き方を通して教えていただいたように思います.●★520あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(92)

現場発,病院と患者のためのシステム 15.注意力散漫,慣れの危険をシステムで防げるか

2013年4月30日 火曜日

連載⑮現場発,病院と患者のためのシステム連載⑮現場発,病院と患者のためのシステム紙と鉛筆,人間の判断力,注意力に頼っていた注意力散漫,慣れの危険をシステムで防げるか従来の作業をITで代替えすると,作業負荷,ヒヤリハット,インシデント,アクシデントを軽減杉浦和史*することができるのではないかと期待します.それは,電源さえ供給されれば,疲れることなく,注意力が散漫になることもなく,決められた機能はじめに操作中,意図しないボタンを押してしまい,それまでの作業が飛んでしまった経験を持つ方は多いと思います.生身の人間には,機械のように,長時間にわたって一定の作業品質を保つことは難しいことです.疲労からくる注意力低下,慣れからくる思い込みの操作ミスは残念ながらあります.を発揮できるからでしょう.一方,決められた処理を自動的にこなすだけではなく,メッセージという形で,医師,看護師などの操作者に判断を委ねることもあります.ここに,疲れや注意力不足などによる操作ミスが入り込むスキがあります.慣れもその危険因子の一つといえます.クラビットR,タリビッドRなど,ニューキノロン系薬剤は眼科で処方されるポピュラーな薬剤ですが,この薬剤が適当ではない患者さんもいます.この確認を医師や看護師の注意力や記憶に頼らず,システムでカバーすることができれば,トラブルを防ぐことができます.システムは,問診,あるいは看護記録情報を参照し,アレMicrosoftOfficeWord業務改革の前に意識改革.docは変更されています。保存しますか?はい(Y)いいえ(N)キャンセル図1注意喚起メッセージ例ルギー症状が出たことがある,気分が悪くなったことがあるなどの記録があれば,瞬時,確実にこれを発見し,警告メッセージを表示して注意を喚起することができます..慣れによるミス株価と購入数を間違えて大損害を出したシステムがありました.システムはあらかじめ決められたチェックルールに従い,異常な値として警告メッセージを出したにもかかわらず!稼働当初は,表示されるメッセージを見て,内容を確認してから操作していたものが,慣れるに従い,「いつものメッセージか!」として漫然と操作してしまったことが一因でした.重要な警告であったこのメッセージが,その他の軽度の警告メッセージと同じレベルと思い込んでしまったのはなぜでしょう.慣れによって緊張感が薄まったことが,原因の一つと考えられますが,システムを作る側で有効な対策が採れます.それは,判断の重みを考慮したレベル分けと,そのレベルに応じた表示方法にすることです.ことの軽重を問わず,同じ重みでメッセージを出(89)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYしてしまうと,メッセージの多さに辟易して「またか」と思われてしまいます.その結果,メッセージの内容をよく見ないで応答し,ミスを誘発してしまいます.私たちも,保存操作を忘れていると,図1のようなメッセージが表示されることを経験します.一定時間毎に自動バックアップしてくれる機能もありますが,“いいえ”を選択してファイルを失うことがあります.メッセージが表示された場合には,慌てずに表示された内容を読み,表示理由を理解し,間違えのない操作をするという基本動作を身につけることが必要です.このメッセージに対する応答のデフォルト(あらかじめ設定してある選択肢)は,“はい”になっています.これはフェールセーフ(被害を最小限に留める)の考えですが,既存の資料を流用して別の文書を作る場合には,逆効果になることがあります.同じ名前のまま上書されるので,既存文書のオリジナルがなくなってしまい*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013517 病棟Pad注射.点滴フローレビュー.xls病棟Pad注射.点滴フロー.xls2013/02/2810:232013/02/2810:22誤って上書きしてオリジナルを壊してしまわないよう、作業前に名前を変えて別ファイルとして使います。このファイル(仕様)を開き、検討を行い、その結果を反映するので、このファイルに追加変更削除が発生します。誤って上書きしてオリジナルを壊してしまわないよう、作業前に名前を変えて別ファイルとして使います。このファイル(仕様)を開き、検討を行い、その結果を反映するので、このファイルに追加変更削除が発生します。図2作業前にリネームし,オリジナルを保証キャンセルこの操作によって、あなたのPCから検出されたファイルは完全に削除されます。本当にこの操作を実行しますか?OK図3確認の文面ます.流用する場合には,最初にリネーム(ファイル名を変える)してから作業することを勧めます.当院は,図2に示す手順をルールにしています.応答によって,ファイルが削除され,再現できない場合,図3のようなメッセージが表示される場合があります.マンネリになっていると,このようなシビアな判断を求めているにもかかわらず“OK”を選択してファイルを失うことがあります.システム化が浸透する今,どのような場合にメッセージが表示されるのかを理解してから応答する習慣の醸成は必須です.ファイルの拡張子が“.exe”で示されるモジュールを開くときに表示されるメッセージは,ウイルス感染の危険を注意しているものなので,特に必要です..システムで工夫できる点メッセージをよく読んで応答するクセを醸成しつつですが,システムを設計する側の工夫で,操作ミスをある程度減らすことができます.工夫すべきなのはどこでしょう.例えば,医療過誤が予想される場合に表示する警告メッセージは,①字の大きさを変える,②色を付ける,③点滅させる,④警告音を変える,などという方法が考えられます.これも慣れてしまえば同じだと考える人がいますが,そうではないでしょう.なぜ?被害が予想される組み合わせをチェックするロジックに引っ掛かる事態が,“慣518あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013れてしまうほど頻繁に起きるとは考えにくい”からです.もし,頻繁に起きるなら,仕事の仕方というか業務内容,作業手順に問題があると考えるべきで,システムとは別に,改革改善点として解決することを勧めます.当院開発中の院内総合電子化システムHayabusaでは,当該患者の問診情報,看護記録情報,検査履歴を参照し,処方が適当か,必要な検査をしているか否か,その結果はどうかをチェックします.このことにより,医師,看護師の注意力に頼らず,また過去の検査記録を捜す手間もいらずに,ミスのない処方が可能です.システムで処理しているので見落とすことはなく,医療過誤防止の点でも有力な方法になります.緑内障の疾患を持つ患者さんに,bブロッカー剤を処方することがありますが,心疾患,喘息の患者に処方することは避けるのが一般的です.この処方可否を判断するため,bブロッカー剤適用可否検査が必要です.Hayabusaでは,ミケランRなど,bブロッカー剤に属する薬剤を処方する際,図4に示すロジックでチェックし,属人性を廃し,ミスがないようにしています.bブロッカー剤可否判定処置オーダ同種の他の薬剤処方bブロッカー剤処方未実施実施済みn年以上n年未満不可可bブロッカー剤処方処理bブロッカー剤使用可否判定何時実施使用可否図4属人性を廃したシステムによるチェック以上,“注意力散漫,慣れの危険をシステムで防げるか”について述べてきましたが,答えは可能です.しかし,条件があります.業務を整理整頓して分析し,無理無駄を廃し,流れを整えておくことです.それを踏まえてシステムに必要な機能,画面遷移,操作性を決めます.これは,平均値で作らざるを得ないパッケージには不可能なことで,当院が自主開発に踏み切った理由の一つです.(90)

タブレット型PCの眼科領域での応用 11.デジタルロービジョンエイドとしての全盲患者への活用-その1-

2013年4月30日 火曜日

シリーズ⑪シリーズ⑪タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第11章デジタルロービジョンエイドとしての全盲患者への活用─その1─■全盲患者におけるスマートフォンのロービジョンエイドとして活用本章では,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc.)”,ポータブルマルチプレイヤーのiPodtouchR(米国AppleInc.)のiOSバージョン6.1.2について,具体的な操作法や導入の意義について患者の言葉とともに紹介していきます.■私のロービジョンエイド活用法「音声補助機能による操作編」本章では,前章での「見きわめの問診」において液晶画面の大きさによる視認性の向上を認めない患者に対しての,4インチデバイスの活用法について説明していきます.タブレット型PCやスマートフォンはアクセシビリティ機能の一つであるvoiceover機能(音声補助機能)を起動することで,全盲の患者でも情報端末機器として活用することが可能です.Voiceover機能の起動中は通常の操作系とは操作方法が変化して,レイアウト情報の把握と項目の選択操作という大きく2つの操作系へと操作方法が変化します.①レイアウト操作:レイアウト情報に関する操作法これは液晶画面上を1本の指でなぞるように移動する操作法で,指の下にあるアイコンの名称および操作方法をデバイスが音声で読み上げるため,患者は頭の中に画面を構成するレイアウトに関するロケーションマップを構築することができます.画面を構成するアイコンの位置関係を把握した後,つぎの“プログラム操作”を導入することで,患者はアプリの選択や起動の操作法がより快適に行うことが可能となります.4インチのデバイスは,液晶画面が小さく9.7インチや7.9インチのタブ(87)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYレット型PCと比較して画面上のアイコンの構成要素が少なく,操作を視機能に依存しない患者にとっては構成要素の配置の把握や検出が比較的容易なため,全盲患者における第一選択のデバイスサイズとなります.②プログラム操作:プログラムの起動,選択操作法プログラム操作では,デバイスの液晶画面を左右にフリック(擦る)することで最後に選択された項目を順行または逆行性に移動することが可能です.また,任意の項目が読み上げられた後に画面のいずれかの部位を二度タップすることで,各選択項目が実行されるようになります.このように音声読み上げパソコンに類似した操作系に操作方法が変化することで,各アプリケーション(アプリ)のアイコンを視覚的に認識する必要はなくなり,全盲の患者でも任意のアプリの起動や操作が可能となります.実際に4インチデバイスをエイドとして活用している患者の言葉は,以下のようなものがあります.『胸ポケットに入れて操作できるから,両手が自由なのでとても安心です』4インチのデバイスでは胸ポケットに入れて,イヤフォンと併用することで生地の上から操作することも可能なため,両手の自由を確保できます(図1).■私のロービジョンエイド活用法「全盲患者への導入編」導入する際には実際に患者にまず,voiceover機能を起動して,“レイアウト操作”の意義を理解させて頭の中にロケーションマップを構築してもらいます.その後患者の手を介助して,指で手掌をスワイプする感覚を触覚的に理解してもらったうえで“プログラム操作”を体あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013515 図1胸ポケットに入れた4インチデバイスを生地越しに操作している験してもらうことにしています(図2).全盲の患者では操作説明に触覚などを利用することがより効果的です.実際の導入後の生活の変化についての質問では,つぎのような声を聞きます.『外出時に,持ち運んでいた荷物が半分以下になりました』『忘れ物をしないのは何より安心です』『ネットニュースを気軽に聞けるので,社会とのつながりを感じます』全盲の患者にとって4インチのデジタルロービジョンエイドを導入することの意義は,エイドの統合による安心感の確立です.4インチのデバイスを胸ポケットに入れているだけで多くのエイドはアプリとして,単一のデバイス内に統合して持ち運ぶことが可能であり,エイドが統合されることで必要な充電器などのグッズも減少します.また,全盲の患者は液晶の画面を表示する必要がないため,通常のデバイス使用時より長時間駆動するため利用しやすいといえます.タブレット型PCと同様にスマートフォンは極めて汎用性の高い一般機器であるため,外出中に充電をする機会を得ることは比較的容易であることも患者に安心感を与えます.全盲の患者にとっての4インチマルチメディアデバイスの導入は,電源や充電の制限および多くのエイドを持ち歩くことから解放図2自身の手掌を指でスワイプして,スワイプ操作を触覚で体験させるされることともいえます.これまでに紹介してきたようにタブレット型PCやスマートフォンなどを導入することで,すべてのロービジョンエイドの代用になるわけではありません.しかし,私は4インチデバイスをエイドとして導入することで,QOL(qualityoflife)が向上した症例を多数経験しています.全盲の患者のQOLを低下させる原因は,目的別にエイドを持ち分けることや充電などの管理の煩雑さやエイドの持ち忘れによる不安からくる外出意欲の低下,そして情報社会へのアクセス手段を確立できないことの不便さに起因するものが多いためです.本章で紹介したようなvoiceover機能による操作法やその意義を正しく説明することで,一人でも多くの視覚障害者の目に希望の光を戻せると思います.正しい“導入指導”を広めることが視覚障害者の明日を作ると私は信じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆516あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 119.新旧網膜剥離の合併例に対する硝子体手術(初級編)

2013年4月30日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載119119新旧網膜.離の合併例に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに境界線(demarcationline)は,網膜.離の12.18%にみられ,進行が緩徐な網膜.離の辺縁にみられることが多い.境界線部位では色素上皮の増殖により感覚網膜と色素上皮の間に強固な癒着を形成する.通常,境界線形成までに3カ月以上を要するとされており,硝子体液化が少なく,裂孔が小さい扁平な網膜.離にみられる.自覚症状が軽微なため,患者がそのまま放置しているところに,急性後部硝子体.離によって生じた弁状裂孔に起因する胞状の網膜.離が合併することがまれにある(図1).●新旧網膜.離合併例の診断のポイント通常,境界線部位の色素沈着は光凝固のような癒着を形成しているので,新しい網膜.離が陳旧性網膜.離とは別の部位に生じた場合,.離範囲が境界線の影響をうけることがある.つまり,新鮮な網膜.離は境界線を超えることができないため,裂孔と網膜.離範囲の関係が理論的には合わない現象が生じうる.新鮮な網膜.離の原因裂孔を検出する際には,上記のようなことを念頭に入れたうえで,眼底検査を行う必要がある.●新旧網膜.離合併例に対する硝子体手術の注意点新旧の網膜.離が境界線を挟んで存在し,この2つの網膜下腔には交通がないことが多い.よって,硝子体切除後に内部排液を施行する際には,各々の網膜.離に対して2カ所での内部排液が必要となる.また,通常は陳旧性網膜.離のほうが網膜下液が粘稠であるため,眼内灌流液下でまず陳旧性網膜.離のほうの網膜下液をできるだけ吸引除去したうえで,気圧伸展網膜復位術を施行する必要がある.新旧網膜.離の裂孔が赤道部より周辺側に存在する症例では,強膜バックリング手術でも十分復位が可能であるが,この際にも2カ所での網膜下液排除を余儀なくされることが多い.しかし,周辺部で網膜下腔が連続している症例では,1カ所の排液で両方の網膜下液が排除できることもある.図1右眼の術前眼底写真上方の弁状裂孔に起因する新鮮な胞状網膜.離と耳側の萎縮性円孔に起因する陳旧性網膜.離が合併している.図2術中所見陳旧性網膜.離の網膜下液は粘稠なので,気圧伸展網膜復位の前に,まずこちらのほうの内部排液を十分に施行しておく必要がある.図3右眼の硝子体手術後の眼底写真網膜が復位しており,陳旧性網膜.離の境界線がよくわかる.(85)あたらしい眼科Vol.30,No.4,20135130910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 148.視野の新しい統計学的解析方法

2013年4月30日 火曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第148回◆眼科医のための先端医療山下英俊視野の新しい統計学的解析方法村田博史間山千尋(東京大学医学部附属病院眼科)視野の重要性緑内障性視神経症の評価において,近年のOCT(opticalcoherencetomography)の発展と普及はめざましく,すでにOCTは緑内障の診療に必須のツールといっても過言ではありません.眼底観察や写真ではわかりにくい視神経線維層の菲薄化を検出し,従来の視野検査で異常を認めない段階で,OCTによる異常が明らかに認められるような症例はめずらしくなく,preperimetricglaucomaという用語も定着しつつあります.視野検査を待たなくても緑内障の診断ができ,その進行についてもOCTにより評価することが可能であれば,患者に対する検査の負担も少なく,より客観的な評価が可能になります.しかし,OCTなどの画像検査で評価できる網膜の構造的変化は,視野の感度で評価される機能と強く相関はしますが,あくまで別のものです.患者のQOL(qualityoflife)に直結する視機能を評価する方法としては,視野検査に代わりうる検査は現在まだ存在しません.リスクの高い緑内障手術を検討するのは,視機能が低下してQOLが大きく損なわれるのを防ぐためであり,網膜が薄くなっているから,という説明ではまだ抵抗があるでしょう.緑内障の診断においてOCTの有用性は明らかですが,ひとたび診断された緑内障の管理においては,視野検査はもっとも重要な検査の一つと考えられます.視野障害の統計学的解析Humphrey視野計ではSITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)プログラムが一般的となり,近年MD(meandeviation)値に代わるものとしてVFI(visualfieldindex)というあらたな指標が導入されるなどの発展がありました.しかし,患者の協力と医療者側(81)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYの労力も必要としてようやく得ることができた,長期間に繰り返し行われた視野検査の結果を,現在われわれが臨床で使っている方法で十分に利用できているのでしょうか.患者のQOLは,視野全体のMD値と相関するのはある意味当然ですので,検査点ごとのより詳細な検討が必要なのではないでしょうか.MDslopeによって進行を評価する方法の信頼性は高いですが,各点ごとの変化を詳細に見ようとしても変動が大きく解釈が難しいことがあります.視野障害の進行の評価は,緑内障の診療や研究の多くの場面においてもっとも重要なプロセスの一つになりますが,その解析方法は単純な直線回帰だけで十分なのでしょうか.視野検査結果を評価する際には,機械的な計測とは異なるいくつかの問題がでてきます.たとえば,検査点どうしの感度に強い相関があること,結果自体に感覚応答のばらつき,被検者のコンディションによる生理的変動など,避けられない誤差と経時的な変動があることを考慮しなければなりません.視野の予測における問題点従来の単回帰を用いて視野障害の進行を予測する場合,単回帰のoverfittingが問題となります.すなわち,単回帰では得られたデータに過度に適合した直線が得られ,それを用いて未来の視野を予測しようとすると誤差が非常に大きくなることがあります.進行予測はできるだけ短期間に少ない検査回数で行いたいのですが,この傾向は特に視野の測定回数が少ないときに顕著となります.また,測定点ごとに単回帰を行う場合,感度の空間的相関と進行速度の空間的相関,およびこの2者の相関は通常無視されています.たとえば,すでにある視野障害に隣接する測定点は今後悪化してくる可能性が高いなど,感度と視野障害の進行の間にも相関があると考えられますし,絶対暗点となった部分はそれ以上進行しないことは自明です.単回帰を行う場合,誤差が正規分布をすること以外に仮定をおかないため,眼科医が経験を踏まえて進行を予測する際に前提となっている,これらの考え方が反映されていません.ベイズ線形回帰を用いた予測モデル筆者らのグループでは従来の問題点を克服するため,ベイズ(Bayes)線形回帰を用いたモデルによる視野障あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013509 0510152025rootmeansquarederror単回帰Bayes線形回帰123456789図1ベイズ線形回帰と単回帰による予測誤差の比較ベイズ(Bayes)線形回帰と単回帰を用い,最初のn回の視野から10回目の視野を予測した場合の予測誤差を示す.横軸はn,縦軸は予測誤差(平均±標準偏差).nが小さいと単回帰による予測誤差はかなり大きくなるが,ベイズ線形回帰による誤差は小さい.害の進行予測を試みています.一例として,東京大学附属病院で視野検査をした2,764例4,924眼の学習データと,10回以上視野検査を行った505例856眼の検証データを利用して,感度と視野障害の進行に対し混合正規分布注1)を仮定し,誤差には混合Wishart分布注2),各個人の測定結果のばらつきには混合Gamma分布注3)を仮定,モデルのハイパーパラメータ注4)の推定にはExpectation-Maximizationalgorithm注5)を用い,期待値の計算は解析的にできないためmeanfieldapproximation注6)を用いて推定する方法を用いて,最初のn回の視野結果から予測した10回目の視野の予測精度を検討したところ,たった1回の視野からこの方法で予測した場合の誤差は,6回分の視野から従来の単回帰を適用した場合と同等であることがわかりました(図1).視野の統計学的解析の意義視野検査の結果からより多くの情報を得て患者の将来の視野を正確に予測することができれば,視野検査の臨床的意義はさらに高まり,緑内障診療と研究の発展につながると考えられます.現在,筆者らは,従来の視野検査の結果からより正確に視野の進行を予測するモデルや患者のQOLをより詳細に推定するモデル1),さらには視野計や検査プログラム自体の改良までを考え取り組んでいます.注1:混合正規分布─複数の正規分布の線形和として定義される,基本的な混合分布.注2:混合Wishart分布─複数のWishart分布の線形和として定義される分布.注3:混合Gamma分布─複数のGamma分布の線形和として定義される分布.注4:ハイパーパラメータ―ベイズ法において事前確率を制御する目的で設定されるパラメータで,学習データから推定される.注5:Expectation-Maximizationalgorithm─確率モデルのパラメータを最尤法に基づいて推定する手法の一つ.EMアルゴリズム.注6:Meanfieldapproximation─平均場近似.元々は分子場近似(Molecularfieldapproximation)とよばれ統計力学の手法であったが,確率的ネットワークに対する決定論的な近似の方法として最適化問題や学習の問題に広く適用されている.文献1)MurataH,HirasawaH,AoyamaYetal:Identifyingareasofthevisualfieldimportantforqualityoflifeinpatientswithglaucoma.PLoSOne8(3):e58695,2013■「視野の新しい統計学的解析方法」を読んで■オペレーションズリサーチ(OR)の根拠を他人に説明するためのツールです.ゲーム理論眼科診療への登場や金融工学などもORの応用として誕生したものであオペレーションズリサーチ(operationsresearch:り,ORは政府,軍隊など,さまざまな組織において,OR)というと,本文に関係ないように感じられるか意思決定のための数学的技術として使用されていまもしれませんが,今回の内容がいかに画期的であるかす.わかりやすくいえば,勘や経験に基づいて判断さをこの言葉を用いて説明します.れていた方針について,現象を徹底的に統計的,数学ORの定義は,複雑な現象分析などにおける判断の的解析を行うことで,科学的根拠に基づく方針にする510あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(82) ための学問です.的に数学を重視しますし,数学者を大切にします.先このORがきわめて有効に働いた例としてしばしば般,教室の山下高明先生が英国留学し大きな成果をああげられるのが,第2次世界大戦中の英国本土防衛作げて帰国しましたが,研究室のみならず病院中に数学戦です.英国はドイツの猛攻にさらされて一時は降伏者があふれていて驚いたと話してくれました.寸前に陥りました.たとえば,物資輸送船舶をドイツORを施行するには,現象を数理的に評価することのUボートに徹底的に沈められた際には,打つ手なが必要です.従来,眼科診察内容を数理的に表すことしという状態でしたが,国中の数学者を集めて事象解は不可能でしたが,OCT,視野など,各事象が数理析したところ,大きな船団に少数の船舶と護衛船を付的に表現可能になると,ORも可能になります.そうけて輸送をすると損耗率を減らせるという結論が導きなれば,治療を決定するのは,経験や勘ではなくOR出され,危機を脱することができました.また,爆撃による方針になるでしょう.この論文は,今後は眼科機の装甲,爆撃機の色,潜水艦攻撃法など,現象を統を理解するためには,数学を理解しないといけない時計的に解析することで最適の方針が導き出され,勝利代が確実に来るということを示した意味で,画期的なが得られたのです.この方法は,現在は軍事のみなら仕事であるといえます.ず上記のように,さまざまな分野に広く応用されてい鹿児島大学医学部眼科坂本泰二ます.この歴史的経験のためでしょうか,英国は伝統☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013511

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対する抗VEGF薬と光線力学的療法の併用療法

2013年4月30日 火曜日

●連載⑪抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二1.加齢黄斑変性に対する抗VEGF薬植谷留佳名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学と光線力学的療法の併用療法加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療の要となるのは抗VEGF薬の硝子体内注射であるが,視機能の改善・維持のためには頻回投与が必要であり,これが近年社会問題となっている.抗VEGF薬に光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を併用することで,必要な抗VEGF薬の投与回数を減らし,患者・医療者双方の負担を軽減することができる.光線力学的療法からみた抗VEGF薬の利点PDT前後に黄斑部局所網膜電図を施行し,黄斑部の網膜機能の変化を検討している.PDT単独群では1週間光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)は,後に一過性の悪化がみられたのに対し(図3A),bevaci選択的に脈絡膜新生血管(choroidalneovascularizazumab(アバスチンR)硝子体内注射(IVB)併用PDT群tion:CNV)を閉塞させるといわれている.しかし,照では1週間後の悪化は抑えられ,さらに3カ月後には改射領域に一致した脈絡膜循環障害がみられたり(図1),善がみられたと報告している(図3B).PDT後に上昇中心性漿液性脈絡網膜症に対しても,脈絡膜厚を減少さするVEGFを,抗VEGF薬で抑制することが,PDTせ,漿液性網膜.離の消失効果がある(図2)ことから,後の網膜機能障害の軽減に関係していると考えられる.PDTはCNVだけでなく,既存の脈絡膜にも影響を及抗VEGF薬からみたPDTの利点ぼすと考えられる.Schmidtら1)は,PDTを施行すると脈絡膜毛細血管板の閉塞が起こり,脈絡膜が虚血におポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascuちいることで,脈絡膜血管の内皮細胞がVEGFを産生lopathy:PCV)を対象としたEVERESTスタディ3)ですると報告している.Ishikawaら2)は,加齢黄斑変性は,ranibizumab(ルセンティスR)硝子体内注射(IVR)(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する単独群よりも,IVR併用PDT群のほうがポリープ状病図1PCVに対するPDT前後のインドシアニングリーン蛍光眼底造影写真とOCT画像PDT後に滲出性変化が消失し,ポリープ状病巣の閉塞もみられたが,脈絡膜循環障害がみられた.PDT前PDT3カ月後(79)あたらしい眼科Vol.30,No.4,20135070910-1810/13/\100/頁/JCOPY PDT前μVμV2.72.72.22.21.71.71.21.20.70.70.2ベースライン***a波b波**1週1カ月3カ月0.2ベースライン**a波b波1週1カ月3カ月図3AMDに対するPDT前後の黄斑部局所網膜電図の振幅A:PDT単独群.B:Bevacizumab(アバスチンR)硝子体内注射併用PDT群.*p<0.05,**p<0.01(Wilcoxonsigned-ranktest).巣の完全閉塞率が有意に高く(28.6%vs77.8%),滲出性変化の消失率が高く,必要なIVRの回数が少なかった.この結果より,PCVを治療する際に,PDTをIVRに併用することで,必要なIVRの回数が減らせることが示唆された.PCVが日本人に多い疫学的背景を考慮すると,日本では,PDTは患者・医療者双方の負担軽減に大きな役割を果たしているといえる.抗VEGF薬併用PDTの適応抗VEGF薬併用PDTは,抗VEGF薬,PDT双方の欠点を補い合う,実際の医療現場に則した,より現実的な治療プロトコールである.しかし,必ずしもすべての病変タイプに抗VEGF薬併用PDTが良いとは限らない.PredominantlyclassicCNVに対するIVR単独療法は,occultCNVと比較し,効果(CNV収縮,随伴する浮腫・出血・滲出の軽減)が速やかに表れることが多く4),筆者はpredominantlyclassicCNVにIVR単独療法を,それ以外の典型AMD,PCVにはIVR併用PDT療法を行っている.近年AMDに対する新たな抗VEGF薬としてaflibercept(アイリーアR)が厚生労働省の認可を受けたが,afliberceptにPDTを併用するほうが良いかどうかは,今後の臨床データから慎重に判断508あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013PDT1年後図2中心性漿液性脈絡網膜症に対するPDT前後のOCT画像PDT後に漿液性網膜.離の消失と脈絡膜厚の減少がみられた.すべきと考える.抗VEGF薬の硝子体内注射とPDTの間隔Sawaら5)は,典型AMDとPCVを対象に,IVB翌日にPDTを行った群(GroupD1)と,IVB7日後にPDTを行った群(GroupD7)を比較し,治療開始3カ月後と1年後の視力改善効果はGroupD7のほうがGroupD1より大きく,1年間のIVBの回数はGroupD1で2.2±1.4回,GroupD7で1.4±0.6回であったと報告している.IVB併用PDTを行う際にはIVBとPDTの間隔は1日よりも7日のほうが良い可能性がある.しかし,IVB併用PDTの結果をそのまま他の抗VEGF薬にあてはめることはできず,それぞれの抗VEGF薬とPDTの最適な投与間隔を知るためには,各々の薬剤で比較試験を行う必要がある.文献1)Schmidt-ErfurthU,Schlotzer-SchrehardU,CursiefenCetal:Influenceofphotodynamictherapyonexpressionofvascularendothelialgrowthfactor(VEGF),VEGFreceptor3,andpigmentepithelium-derivedfactor.InvestOphthalmolVisSci44:4473-4480,20032)IshikawaK,NishiharaH,OzawaS:Focalmacularelectroretinogramsafterphotodynamictherapycombinedwithintravitrealbevacizumab.GraefesArchClinExpOphthalmol249:273-280,20113)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTstudy:efficacyandsafetyofverteporfinphotodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizumabmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina32:1453-1464,20124)鈴木三保子,五味文:典型加齢黄斑変性と抗VEGF薬.あたらしい眼科29:101-102,20125)SawaM,IwataE,IshikawaKetal:Comparisonofdifferenttreatmentintervalsbetweenbevacizumabinjectionandphotodynamictherapyincombinedtherapyforage-relatedmaculardegeneration.JpnJOphthalmol56:470475,2012(80)