特殊なデザインのハードコンタクトレンズ3.多段カーブハードコンタクトレンズ─強度円錐角膜攻略法SpeciallyDesignedHardContactLens3.Multi-CurveHardContactLens─SevereKeratoconus糸井素純*I多段カーブハードコンタクトレンズ(HCL)の処方イメージ強度円錐角膜に対して多段カーブHCLを処方するイメージは,自分の頭のサイズに合った着心地の良い帽子をかぶるイメージである.決して,きつくなく,圧迫をせず,かといって,風で簡単に飛んで行ってしまうようなことがない,そのようなイメージのコンタクトレンズ(CL)である.II多段カーブHCLのレンズデザイン強度円錐角膜では中央部と周辺部の角膜曲率半径が大きく異なり,球面HCLではレンズが不安定,あるいは,装用感が悪化し,眼痛を生じ,処方が困難となることがある.そのような場合,円錐角膜用多段カーブHCLを用いると処方可能となることがある.円錐角膜用多段カーブHCLは,一般にオプティカルゾーンを5~6mmと狭くし,周辺部に複数の異なる球面カーブを設計したレンズデザインのHCLである(図1).円錐角膜の角膜形状は,円錐に相応する中心部ではスティープで,周辺部に向かうに従って徐々にフラットになり,周辺部の角膜カーブは,ほぼ正常角膜と変わらない.円錐角膜に用いる多段カーブHCLはオプティカルゾーンに相当するベースカーブ(BC)が最もスティープで,周辺部カーブが複数存在し,周辺に行くに従っ第2周辺カーブて,カーブがよりフラットになるように設計されており,このようなレンズを用いることにより,円錐角膜の角膜形状の変化に合わせてHCLを処方することが可能となる1).日本ではRoseK,RoseK2(日本コンタクトレンズ),メニコンE-1(メニコン),KCレンズ(シード),Mカーブ(サンコンタクトレンズ)などが円錐角膜用多段カーブHCLとして販売されている.ただし,多段カーブHCLといっても,レンズの種類ごとにレンズデザインは異なり,同一眼に同一BCのものを処方しても,レンズの種類(レンズデザイン)が異なれば,レンズフィッティングはまったく異なる(図2~4).同一眼であっても,多段カーブHCLの種類ごとに適切なBCは異なり,種類ごとに適切なBCを選択していく必要がある2).*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(37)1381III多段カーブHCLのメリットとデメリット多くの円錐角膜では,球面HCLをパラレルフィッティング,3点接触法,あるいは,2点接触法で処方することにより,日常生活を送るのに十分なCL矯正視力を得ることができる.しかし強度円錐角膜では,球面HCLの装用により,レンズがずれたり,はずれたり,HCL後面による円錐頂点部の角膜上皮障害やレンズエッジによる圧迫が生じ,装用感が悪化して,装用時間を十分に確保できなくなることがある.そのような場合,多段カーブHCLの良い適応になる.多段カーブHCLの装用により,レンズのフィッティングが安定し,HCL後面と円錐頂点部の過度のこすれ,レンズエッジによる圧迫を軽減することができる1).自覚症状も改善し,結果として装用時間も延長する.当院では円錐角膜眼の14%に多段カーブHCLを処方している(図5).決してすべての円錐角膜眼に多段カーブHCLを処方しているわけではない.多段カーブHCLにもデメリットがある.一番大きなデメリットはCL矯正視力が球面HCLよりも劣ることである.処方時だけではなく,処方後の経時的なCL矯正視力の低下にも注意が必要である.筆者は角膜後面に対するオルソケラトロジー効果が球面HCL(図6)よりも劣ることが矯正視力効果の弱い原因ではないかと考えている.もう一つは価格である.球面HCLよりも明らかに高価であり,患者の経済的負担は大きい.筆者は球面HCLの処方,あるいは,装用がむずかしい症例に対して多段カーブHCLを処方して0.1%n=4,821眼14.0%レンズのタイプ■:球面HCL■:多段HCL■:SCL85.9%図5道玄坂糸井眼科医院における円錐角膜眼に対するCL処方(平成16年4月~平成24年5月)85.9%を球面HCL,14.0%を多段カーブHCLが占めている.1382あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(38)いる.IV多段カーブHCLの処方方法のコツ前述したように多段カーブHCLのデザインはメーカーによって大きく異なり,一律に処方方法を述べることはできない.レンズメーカーのパンフレットにはケラトメータ値を利用した処方方法が記載されていることが多いが,多段カーブHCLが適応となる円錐角膜ではケラトメータが測定不可能であることが多い.つまりケラトメータ値を利用できない.そのため実際のフルオレセインパターンの評価が非常に重要となる.多段カーブHCLは円錐角膜の角膜形状に近いレンズデザインであり,原則としてパラレルフィッティングに近い3点接触法を目指して処方をする(図7).しかし,円錐角膜といっても,角膜形状は千差万別であり,場合によっては2点接触法で処方することもある.フルオレセインパターンで処方するレンズのBCを決定していくが,最初に選択したトライアルレンズのBCはあくまで目安であり,スティープ,あるいは,フラットであれば,2回目のトライアルレンズはBCを0.3~0.5mm変更する.自分が目標としているフルオレセインパターンに近づけば,あとは微調整して,処方するレンズの規格(BC,レンズ(39)図7円錐角膜眼の多段カーブHCLによるフルオレセインパターン3点接触法だが,弱主経線方向は,パラレルフィッティングに近い.径,リフトデザイン)を決定する.理想的なレンズフィッティングを目指すためには,トライアルレンズの変更は少なくとも2~3回行うことになる.CL矯正視力が不良な場合は,多少フラットなフィッティングで処方すると視力が向上することがある.V既存の多段カーブHCLを処方した症例1.症例1:26歳,男性T.I.両眼ともに重度の円錐角膜(図8)で,多くの病院を受診したが,処方されたHCLは両眼ともにすべてずれたり,はずれたりしてしまった.眼鏡では良好な矯正視力が得られず,単独では外出が困難な状況であった.多くの病院で角膜移植術を薦められたが,本人,家族ともに手術を受けたくないということであった.VD=0.15(n.c.),VS=0.01(0.04).当院にて4段カーブHCL(右眼5.10/.29.25/9.0,左眼4.90/.32.25/9.0)を処方した結果,軽度のスティープフィッティングであったが,右眼(0.9p),左眼(0.8p)のCL矯正視力が得られ,単独での外出も可能となり,運動もできるようになった(図9).2.症例2:65歳,女性H.K.両眼ともに顕著な角膜上皮過形成を伴う円錐角膜(図あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131383図8重度の円錐角膜眼:プラチドリング像球面HCLではレンズの安定性が不良で装用不可能であった.10)で,大学病院を複数受診したが,処方されたHCLすべてにおいて装用すると眼痛が出現するという理由のために1日4時間以上の装用ができなかった.当院にて4段カーブHCL(右眼6.00/.10.25/9.0,左眼6.40/.7.75/9.0)を両眼ともにPBS(8.5/.0.5/14.21日使い捨てSCL)で処方した結果,1日8時間の装用が可能となった(図11)3).1384あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図10顕著な角膜上皮過形成を合併した円錐角膜眼HCL単独では眼痛が出現するため1日4時間以上の装用ができなかった.VIカスタムデザインの多段カーブHCL既製の多段カーブHCLはオプティカルゾーン,BC,周辺カーブが多くの円錐角膜眼で対応ができるように各メーカーが考えて設計しているが,角膜形状は千差万別である.一つのデザインが無理でも,大概,複数のデザインの多段カーブHCLを用いることで対応が可能となる.しかし,強度円錐角膜で非常にまれではあるが,ど(40)の種類の多段カーブHCLを用いても,安定性が悪く,処方が困難なことがある.そのようなケースでは,オプティカルゾーンの大きさ,BC,周辺カーブの数と,それぞれの幅・カーブを,処方者が決定してメーカーにオーダーすることにより,カスタムデザインの多段カーブHCLの処方が可能となる.現在,多くの国内メーカーが所有しているHCL切削器は4段カーブまで可能である.1.前眼部OCT(光干渉断層計)CASIAを利用したカスタムデザインa.前眼部OCTCASIA前眼部OCTCASIAのcorneamodeでは,直径10.2mmと非常に広い範囲の角膜前面の形状を正確に把握することができる.まず32経線方向の角膜前面の高さ(sagittaldepth)データを平均し,オーダーするレンズデザインに応じて,中央(0.0mm)から周辺(5.1mm)までの間の必要な位置での高さデータを算出する.b.TLT(tearlayerthickness)の設定角膜前面の高さデータのままカスタムデザインの多段カーブHCLを作製すると,帽子でいえば,あまりにも頭の形にぴったりとした帽子となり,動きがないものとなってしまう.HCLでは瞬目に伴うレンズの動きによるレンズ下の涙液交換が必要であり,そのために,レンズ後面と角膜前面の間に適正な涙液層を意図的に設けなくてはならない.これがTLT(tearlayerthickness)である.TLTを設けるためには,4段カーブHCLであれば,オプティカルゾーンの直径,第1周辺カーブから第3周辺カーブの幅をまず決定する.そして中央部,オプティカルゾーンと第1周辺カーブの接合部,第1周辺カーブと第2周辺カーブの接合部,第2周辺カーブと第3周辺カーブ(ベベル)の接合部,エッジ部分におけるTLT(予定する涙液層の平均の高さ)を決定する.c.レンズ後面のデザインの決定平均化された角膜前面の高さデータとそれぞれの位置でのTLTが決定すれば,自動的にBC,第1~第3周辺カーブが決定される.オプティカルゾーン6mm,BC5.50mm,第1周辺カーブ6.23mm(幅0.6mm),第2周辺カーブ7.12mm(幅0.4mm),第3周辺カーブ8.90(41)mm(幅0.5.mm)といった具合に決定される.d.レンズ度数決定決定されたレンズのBCに最も近い既製の多段カーブHCLのトライアルレンズを使用して,矯正視力検査を行い,オーダーするレンズの度数を決定する.この場合,トライアルレンズと実際にオーダーするレンズのデザインが大きく異なると,実際にオーダーしたレンズでは視力が出にくいことがある.この場合は,出来上がったレンズを一定期間使用して,ある程度なじんでから,再度矯正視力検査とフィッティング検査を実施し,最終的なレンズ規格を決定する.e.レンズ規格の記載方法海外ではカスタムオーダーの多段カーブHCLの処方は一般的である.筆者は海外の方法に準じて,下記のように記載している.〔4段カーブHCLの記載例〕BC(OZ:opticalzone)/第1周辺カーブ/第2周辺カーブ/第3周辺カーブ/レンズ度数/レンズ径〔5.50.mm(6mm)/6.23mm(0.6mm)/7.12mm(0.4mm)/8.90mm(0.5.mm)/.25.0D/9.0mm〕なお海外ではBC,各周辺カーブの値は,mmの表示ではなく,屈折力(D)の値に変換(337.5/カーブ値mm)して,表示することが多い.f.カスタムデザインの多段カーブHCLを処方した症例20歳,男性.4年前に当院を受診し,両円錐角膜(図12)の診断で,右眼4.70/.30.00/9.0サンコンiカーブ(4段カーブHCL),左眼7.40/.8.0/9.4typeサンコンマイルドIを処方した.当時のHCL矯正視力は右眼0.5,左眼1.0pであった.その後,本人の判断でHCLを装用せず,その結果として,円錐角膜が進行し,視力低下を自覚したため,再度,HCL処方を希望して当院を受診した.再診時の角膜形状は図13である.初診時に比べて円錐角膜の進行が確認できる.右眼は既存の多段カーブHCLのトライアルレンズを装着したが,最もスティープなトライアルレンズでも,安定したフィッティングが得られず,前眼部OCTCASIAを利用した直径10mmのカスタムデザインの4段カーブHCLを作製した.左眼も球面HCLでは,トライアルレンズでさえ,すぐにはずれてしまうため,多段カーブHCLのあたらしい眼科Vol.30,No.10,20131385図12初診時の角膜形状(症例は図13と同一)(instantaneousradius像)右は重度,左は中等度の円錐角膜.右眼に対しては既存の4段カーブHCL,左眼は球面HCLを処方した.図13再診時の角膜形状(初診から4年後,症例は図12と同一)(instantaneousradius像)初診時に比べて円錐角膜の進行が確認できる.初診時に処方したHCLはほとんど装用していなかった.→図14既存のHCLではレンズの安定が得られなかった重度の円錐角膜眼カスタムオーダーした多段カーブHCL〔4.60mm(6mm)/5.95mm(1.0mm)/7.20mm(0.5mm)/9.35mm(0.5.mm)/.30.0D/10.0mm〕によるフルオレセインパターン.適応と判断し,既存の4段カーブHCL(4.80/.28.0/9.0サンコンiカーブ)をオーダーした.レンズが非常に脱落しやすい症例であったために,右眼のカスタムデザインのTLTの設定は,中央部,オプティカルゾーンと第1周辺カーブ,第1周辺カーブと第2周辺カーブの境の部分のTLTの設定をゼロと設定し,第2周辺カー1386あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(42)ブと第3周辺カーブ(ベベルカーブ)の境で13μm,エッジ部分で100μmと設定した.各カーブの大きさはオプティカルゾーンを6mm,第1周辺カーブを1mm,第2,3周辺カーブを0.5.mmとした.カスタムオーダーした多段カーブHCLの規格4.60mm(6mm)/5.95mm(1.0mm)/7.20mm(0.5mm)/9.35.mm(0.5.mm)/.30.0D/10.0mm上記のHCLにより,右眼はほぼ理想的なフィッティング(図14)を得ることができ,現在は週7日の1日平均15時間の装用ができるようになった.最終受診時のHCL矯正視力は右眼0.5,左眼0.4であった.本人に角膜移植術の希望はなく,左眼は既存の多段カーブHCLで処方可能であったが,右眼は既存の球面HCLや多段カーブHCLでは処方が不可能であった重度の円錐角膜の症例であった.文献1)糸井素純:多段階カーブハードコンタクトレンズ.あたらしい眼科19:411-417,20022)糸井素純:コンタクトレンズセミナー.私のコンタクトレンズ選択法.ローズK/ローズK2(日本コンタクトレンズ).あたらしい眼科27:1081-1082,20103)佐野研二:円錐角膜に対するディスポーザブルSCLとHCLの組み合わせ処方.眼科36:1613-1620,1994(43)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131387